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法学論集

1199名無しさん:2008/06/26(木) 04:09:52
デビッド・ジョンソン ハワイ大教授(社会学)

 日本の裁判員制度が二〇〇九年五月に始まる。占領期以来の刑事司法の大改革の準備
が進んでいるが、ここへ来て、量刑制度を検討する超党派の国会議員のグループによって、
二つの新しい改革が提案された。

 第一の提案は、死刑事件を判断する三人の裁判官と六人の裁判員の一致した意見を要求
するものである。もしこの提案が法律になれば、死刑判決を言い渡すためには九人全員の
意見の一致が必要になる。この提案は、他の事件に適用される「特別な多数決制」と異な
るが、死刑事件には有意義である。なぜなら、刑罰が究極であり、またアメリカにおける
重罪陪審裁判では、全員一致が要求されると評議はより十分に行われるとの調査結果があるからである。

 第二の提案は、現在の死刑と無期との間に存在するギャップを埋めるために仮釈放のない無期刑
(重無期刑)を創設しようとするものである。重無期刑は、代替的な厳罰を提供することで、死刑
判決を減らすことができると期待する人もいる。しかし、この提案は、実際的にも法哲学的にも問
題があると思う。

  まず、日本以外に先進民主国で死刑制度を存置させている唯一の国、アメリカの現実を見てみよう。
死刑制度を存置している三十六州のうち三十五州が重無期刑も採用している。これらの州の多くでは、
死刑廃止論者は重無期刑の導入に賛成した。なぜなら、死刑に代わる厳罰があることは死刑判決の数を
減らすと信じていたからである。しかし結果は、期待したほどではなかった。ほとんどの州では、重
無期刑は死刑判決の数には少しの影響を与えただけで、執行を減らすことにはほとんど影響を与えなかった。
なぜなら、重無期刑で死を避けることができたように見えた被告は、この新しい刑罰がなくても、いずれに
しろ死刑を避けられた人々であったからである。

  同時に、重無期刑の存在は、死刑事件以外の多くの被告の刑を重くしている。過去十年の間、死刑を存置
しているアメリカの州の三分の二以上で重無期刑囚の人口が五十パーセント以上増加し、これら重無期刑率
の高い州では、死刑の利用も高くなっているのである。全米では、死刑囚より重無期刑囚が十倍以上になっている。

  要するに、死刑が存在するアメリカの州では、重無期刑の出現は、死刑への影響はほとんどなかった反面、
死刑事件以外の多くの被告の処罰を厳しくする方向に作用した。哲学者のジョージ・サンタヤナは「過去を記憶
できない者は、それを繰り返す」と言っている。日本の刑事司法にこの金言を当てはめれば、「他人の経験から
学ぼうとしない者は、彼らの過ちを繰り返す」ということになろうか。この意味で、アメリカは、日本にとっ
て良い反面教師となりうるかもしれない。

  アメリカ以外の世界の刑事政策に関する調査は、重無期刑の妥当性への疑問に新たな理由を付け加えてくれる。
イギリスでは、重無期刑が導入されるずっと前に死刑は廃止されたが、死刑のない中で、重無期刑は、量刑を重く
する方向にほとんど作用していない。しかしこれは、日本が今回採ろうとしている道ではない。

  世界で最も人口の多い民主国であるインドでは、重無期刑はなく、「無期」は通常14年から20年の拘束を意味する。
日本よりも死刑と無期の間のギャップは大きいが、インドでは過去10年の間に一人の死刑執行しか行われていない。韓国
では、重無期刑はないが、1997年以降死刑執行は全く行われていない。これらの国の経験は、重無期刑に頼ることなく
死刑をコントロールできることを示唆している。

  重無期刑の導入を思いとどまるべき理由には、これら実際上の理由だけでなく、法哲学上の理由もある。ドイツでは、
連邦憲法裁判所は、囚人が釈放のあらゆる希望を絶たれることは人間の尊厳の侵害であると判断した。フランスとイタリア
でも同様の判断が示されている。ヨーロッパでは、死刑を存置しているのは独裁国ベラルーシだけであるが、ノルウェー、
スペイン、ポルトガル、クロアチア、スロベニアなど多くの国が重無期刑を禁止している。東ヨーロッパの旧独裁国では、
最も凶悪な犯罪者に対しても、15年から20年の範囲での拘禁で十分と考えられている。


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