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Tohazugatali Medical Review
4897
:
とはずがたり
:2017/07/07(金) 14:41:01
■人類を救った毛皮
このように、人類は何度も氷河期を経験してきたし、そうでない時期にも、寒冷な地域を旅せねばならぬことも多かった。そうした人類にとって、長らく唯一の防寒着であり続けたのが、動物の毛皮であった。
毛皮の利用は、旧石器時代には始まっていたとみられ、洞窟や墳墓に残された当時の絵画もそのことを裏付ける。狩猟生活を営んでいた我々の祖先にとって、毛皮は何より手に入りやすく、優れた防寒着であった。強力な獣の皮をまとうことで、その力を我が身に取り入れようという、霊的な意味合いも強かったことだろう。そして様々な色や模様の動物の毛皮を身にまとうことは、服飾文化の記念すべき第一歩でもあった。
毛皮を採取するには、動物の丈夫な皮膚を切り裂き、余分な肉や脂肪を削り取る必要がある。得られた皮は、柔らかくするために「なめす」加工をすることで初めて、使いやすい「革」となる。いずれの工程も、想像以上に熟練を必要とするし、石器や縫い針など用いる道具の製造も高い技術を要する。毛皮作りは、人類最初の「職人芸」を育む場ともなったであろう。こうして作り出された毛皮の衣服が、人々を寒さから守り、多くの命を守ってきたであろうことは想像に難くない。旅する宿命にある人類にとって、過酷な環境から身を守ってくれる毛皮の存在は、この上なく心強い味方であったのだ。
■コラーゲンの秘密
皮革は柔軟性・保温性に富み、丈夫で軽い。様々な代替材料が現れた今もなお、革製品が人気を集めるのも当然と思える。この秘密は、皮の主成分であるコラーゲンの性質に依るところが大きい。
コラーゲンというと、一般には化粧品など美容関連製品をイメージする方が多いと思う。しかし実際には、我々の体にたくさん含まれるタンパク質の一種だ。コラーゲンは細胞と細胞の隙間を埋め、互いに貼り合わせる役割を持つ。
骨もまた、コラーゲンを重要な成分としている。コラーゲン繊維の間をリン酸カルシウムの結晶が埋めた、鉄筋コンクリートに似た構造であるため、非常に頑丈なのだ。要するに、我々の体を支え、形を保たせているのはコラーゲンであるといっても差し支えない。このため、人体のタンパク質のうち、3分の1はコラーゲンだといわれる。
骨や皮膚に大量に含まれるI型コラーゲン
しかし圧倒的多数派のコラーゲンは、タンパク質としては異端児でもある。タンパク質は、20種あるアミノ酸が一定の配列で長くつながったものだ。しかしただスパゲッティのように長く伸びているのではなく、決まった形に折り畳まって球状になっている。タンパク質は必要な化合物を作り出したり、情報を伝えたりなどそれぞれ機能を持っているが、こうして一定の形に折り畳まっていないと、機能を発揮できない。
しかしコラーゲンは、長く伸びた鎖が3本絡まり合った、三重らせんの長い繊維として存在している。また、多くのタンパク質は細胞内ではたらくが、コラーゲンの仕事場は細胞の外だ。このようなタンパク質は、他に類を見ない。
さらにコラーゲンは、他のタンパク質にはほとんどみられない、奇妙なアミノ酸を持っている。プロリンやリジンというアミノ酸に、ひとつ余計に酸素がくっついたものだ。他の何万種というタンパク質のほとんどが、20種のアミノ酸の組み合わせだけで驚くほど多彩な機能を引き出しているというのに、コラーゲンは全くの掟破りをやってのけている。
わざわざ掟破りをしただけのことはあり、この余分な酸素は重要な役目を演じる。先ほど、コラーゲンは3本の鎖が絡み合った三重らせん構造をとると述べた。プロリンについた余分な酸素は、隣の鎖の水素と「水素結合」という力で結びつき、より合わせられた3本の鎖がほどけぬようにロックをかける役目を負っているのだ。
このロックがかからないと、実に悲惨な運命が待っている。ビタミンCの摂取が不足すると、酸素の取り付けがうまく行なわれなくなり、水素結合のロックがかからなくなる。すると丈夫なコラーゲンができなくなり、全身の血管がもろくなるなどの症状が出る。これが壊血病で、現在ではほとんど見られないが、大航海時代の船乗りたちの間で猛威を振るった。人体を支える重要物質なればこそ、少しの欠陥が生命活動全体に大きなダメージを与えてしまうのだ。
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