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Tohazugatali Medical Review
1667
:
チバQ
:2011/11/19(土) 19:26:35
15年目の真実
あれから15年が経った。先日、退官して弁護士になった元検事を事務所に訪ねた。私に「逮捕するぞ」と言った当時の担当検事である。もちろん、逮捕発言の真意と事件への思いを聞くためだ。今度は丁重にソファに案内された。昔の話を思い出しながら、話題を“あのこと”に向けてみた。
「そんなことあったかなぁ。あなたを取調室に? 逮捕? 違う検事じゃないの? ごめん、覚えてないな」
予想通りの答えだったが、その表情は穏やかで、温厚で実直な語り口は「あの日」とはまるで別人のようだ。
「でもね、あのころは検察の上層部がピリピリしていてね。あまりにも情報がマスコミに漏れすぎる、何とかならんのかとかね」
(えっ? 上層部がピリピリ? では幹部の指示? ま、いいけど…)
ところがもっと驚いたのは、歴代3社長の実刑判決について振り返った元検事の言葉だった。
「まさかの判決だった。実刑とは僕自身予想しなかったこと。絶対執行猶予がつくと思っていたから驚いた。起訴した検事が言うのも変だけど、裁判所が世論を意識した判決だと思う。薬害エイズは、今も何が事件の本質だったのかわからない。3人を断罪しただけで本当にそれでよかったのだろうか。亡くなった患者さんたちは本当に喜んでいるのだろうか」
15年の年月は長い。ミドリ十字では、事件のカギを握るといわれた元専務が立件されないまま死去。一審で実刑判決の現職社長も控訴中に亡くなった。検察庁では担当検事の1人が、そして3社長の弁護人も亡くなった。何よりミドリ十字という会社が消えた。
一方、薬害エイズ事件で正義のヒーローのように登場し、脚光を浴びた菅直人厚相(当時)はその後、民主党政権を実現させ、首相に就任した。
東日本大震災では復興の道筋も作れず、経産省原子力安全・保安院と電力会社との関係を「薬害エイズを生んだ構造と同じ」という自慢話を捨てゼリフに退陣した。
政治はこの事件から何を学んだのだろうか。二度と悲劇を繰り返さない社会に日本は変わったのだろうか−。15年を経てなお、真実を求めて自問し続ける元検事の姿を見て、ふとそんなことを考えた。
(大阪写真報道局長 今村義明)
◆薬害エイズ事件◆
血友病の治療薬として流通していた血液製剤(非加熱)がエイズウイルス(HIV)に汚染されていたことから、昭和50年代から60年前半にかけて血友病患者を中心に約1800人がHIVに感染、400人以上が死亡した。
非加熱製剤の危険性を認識しながら回収を指示せず販売を続けたとして平成8年、業務上過失致死容疑で東京地検が元厚生省エイズ研究班長の元大学副学長と元厚生省課長を、大阪地検がミドリ十字歴代3社長を逮捕、起訴。元副学長は1審無罪の後、認知症により公判停止、元課長は一部有罪が確定した。
3社長は1審で禁錮2年6カ月〜1年2カ月の実刑判決を言い渡され、その後死亡した1人を除く2人の刑が確定した。
ミドリ十字は事件後、別の製薬会社と合併、法人格は消えた。
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