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国際経済学

973とはずがたり:2016/08/28(日) 19:54:19
>>972-973
実際、2012年後半以降の円安局面で輸出数量は全く増えていない(むしろ減った)。輸出数量の増加に寄与できない円安が実体経済に対して、どのような恩恵をもたらすのかは直感的に理解が難しい。この際、決まって「株高経由の資産効果」といった理屈が持ち出されるが、家計部門の金融資産に占める株の割合は1割未満だ。

「株が上がって困る人はいない」のはその通りだが、家計部門は「困りもしないが喜びもしなかった」というのが統計から推測される事実と見受けられる。輸出数量を増やせない通貨安は、残念ながら、輸入物価経由で国内物価を押し上げ、家計部門の実質所得を押し下げるという結果になってしまう。

<円安がもたらした所得移転>

確かに、過去3年間の円安で輸出企業は潤い、税収も伸びたので政府部門にも恩恵はあった。だが、これは、円安発・輸入物価経由の物価高によって家計部門から企業部門への所得移転が進み、その企業部門から政府部門への納税額が増えたという構図にも見える。

もちろん、名目ベースで賃金は上がっており、「儲かっている企業は賃金を上げるべき」という社会規範をアベノミクスが作りつつあるのは良いことだ。そうでなければ賃金の上方硬直性は容易に打破できないだろう。だが、過去3年間で目の当たりにしたのは、その原動力として円安を用いると、実質ベースで海外へ所得が流出してしまうという現実だ。

この点は、一国経済の資源配分を考える上での要である貯蓄・投資(IS)バランスでも確認できる。ISバランスの近況を見ると、企業部門の貯蓄過剰が増加する一方で、家計部門の貯蓄過剰は減少しており、過去3年間における日本の民間部門の蓄えが、企業の増収増益から得られるイメージほど拡大しているわけではないことが分かる。やはり過去3年間の円安が日本のマクロ経済にもたらした現象は、家計から企業へ、そして政府へと国内3部門にまたがる所得移転だったという見方は一考に値する。

<インフレ増税からインフレ減税へ>

公的債務を削減するには財政再建か高成長、それ以外ではインフレによる目減り(いわゆるインフレ課税)しかない。上述の分析を踏まえれば、金融緩和による円安がもたらした成果は「軽度のインフレ課税による財政の改善」という整理も可能かもしれない。

そもそも供給制約の下で財政・金融面から需要刺激を図ろうとすれば、物価上昇によって実質所得が押し下げられ、当初よりもGDPが下振れるというのはマクロ経済学の基本に沿った展開でもあり、想定され得るものだった。

巷では人手不足の長期化を背景として派遣社員の時給上昇が止まらない状況が伝えられている。現状、一般物価が抑制されているのは原油価格が低位安定していることに加え、こうした人件費上昇がまだ企業努力によって吸収されているからだろうか。だが、この状況が続けば、どこかで価格転嫁が起こり、物価は上昇し、実質所得の劣化が想定される。

いずれにせよ、近年の円安がインフレ増税という形で家計部門の実質所得を圧迫したのだとすれば、少なくとも円高はインフレ減税という形で実質所得の押し上げにつながる可能性はあるはずだ。供給制約の下で家計部門の実質所得を防衛するには、理論的には円安よりも円高が望ましい。

むろん、円高を全面肯定するつもりは毛頭ないが、1ドル100円前後のPPPに沿った水準を悲劇のように囃(はや)し立てることが日本経済の実情に即しているとも思えないのである。

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)


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