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印刷・出版雑記

1近藤 貴夫:2008/02/26(火) 14:13:26
私は社会人になってからずっと、印刷業の仕事をしています。
このスレッドでは、これまで意識的に避けてきた、本業の話をしていきます。

3近藤 貴夫:2008/02/26(火) 14:19:26
とりあえず、最近の「印刷通販」について語りたいので、関連サイトを一つ挙げます。
http://www.hp-graphic.jp/

4近藤 貴夫:2008/02/26(火) 19:33:52
私は、もともと文字そのものに毎日触れていたくて印刷業界に入りました。
何か出版する・報道するといった動機とは違います。
本当は、モリサワのようなところでフォント作りでもできれば、というのが一つの夢だった
のですが、それは幼少時代から、文字の創作のために方眼紙に向かっていたからです。

夢といえば、自宅が研究室を持っているような夢とか、膨大な取扱量を誇る書店の夢とか、
子供の頃の夢はそういう方向でした。音楽、特に合唱も大好きだったのですが、皆のために
音楽を届けるという動機が薄かったので、職業にするつもりはあまりありませんでした。
書籍という点では、十分な所蔵スペースのある家屋を自分用に持てているので、その意味で
夢が叶っているといえるかもしれません。そこは、音楽にも、朗誦にも、瞑想にも使える
趣味の空間です。

5近藤 貴夫:2008/02/26(火) 19:50:26
最初の会社で、営業の立場から医学書の動きを見ていましたが、役割分担にも因るでしょうが、
原稿や校正の結果を出版社から引き取って、内容物を確認・記録して、作業オペレーターに
分けて発送して、出来てきたものをまた各出版社のご担当者さんごとに分けて届けて……という
動きに終始し、原稿を読む暇なんてないことにがっかりしました。
それに、業務は早朝から深夜まで分刻みで流れ、いかに土地勘のある東京とはいえ、休憩時間・
睡眠時間の短さに耐えきれませんでした。元々私は、試験前でも徹夜などしない習慣だったの
ですが、平日の平均睡眠時間は4時間未満となり、土曜も出勤で、その日の出来事を反芻さえ
できないのを、非常に苦痛に感じました。
そう、この業界では、週休二日なんて稀なことで、連日長時間勤務に耐えられるのが当たり前の
ようになっているのですから。
私にとっては、寝不足との戦いで、日々とんでもないミスや、場違いの居眠りをしてしまうの
でした。これはもう、会社のためにも自分のためにもならないので、その年のうちに依願退職
しました。

6近藤 貴夫:2008/02/26(火) 22:41:09
その後、別の会社に移り、レタッチという職種――これはオフセット
印刷の一時代を象徴する職種ですが、印刷に縁のある人以外は殆ど
ご存知ないでしょう――に変わりました。
これは、写真や文字を指示通りに組み合わせて、紙面をフィルムに
組み上げていく職種で、写真の色調整などもする、単純作業から職人技
まで使いこなす人たちです。
そういう人たちが、一昔前までは社内に二十数人はいたのですが、今は
職種変更や退社で、誰一人いなくなってしまいました。
私はどちらかというと、十年一日の如く息の長い仕事をしたかったの
ですが、印刷業界を取り巻く情勢は目まぐるしく変わり、というよりも
有体に言えば悪化し、私たちをそっとしておいてはくれませんでした。

8近藤 貴夫:2008/03/02(日) 17:48:41
印刷業は、納期付きの受注生産産業です。「何月何日に配るチラシを何部、
どこそこに納めてください」といった依頼に沿って、日程を組んで作業を
進めていきます。日程については、最初にお客様にも提示して同意して
いただいて契約しますが、原稿をいただけるのが遅れることもあります。
そうすると、忙しい予定の時間がポッカリ空いたり、もともときつい予定
の日に作業が集中して帰れなくなったりします。救急医療や緊急修理に
類する業務ほどではないでしょうけれど、ものすごく予定の立てにくい
商売の一つなのです。
事故や災害や火事や急病まで考えると、本質的にはどこも変わらないかも
しれませんが、仮の予定は二週間先まであっても、本当の予定は当日に
ならないと分かりません。ですから仕事外の約束を入れるにも、歯切れが
悪くなりがちですし、「毎週○曜日は□□する」といった形の習い事や
趣味も、やりづらいのです。
ですから、原稿を遅らせるお客様に腹の立つことも少なくないのですが、
原稿の遅れが必ずしも原稿を取りまとめたり入稿する人のせいではないし、
そういう直接相対するご担当の方のほうもろくに眠れないほどにお忙しい
こともよくある話なので、怒りを露にすることも難しいのです。

9近藤 貴夫:2008/03/02(日) 18:04:15
印刷物は、生ものなどに比べて作り置きがきくものですけれども、誰に
でも売れる生産物ではない、というところが、一般の工場生産品の多くと
違います。
殆どの場合、誰かが何かのために、その時に必要な印刷物を作るのです。
あるお店のチラシは、そのお店のその時の商品の宣伝をしているから
価値があるので、他のお店に売れないことはもちろん、そのお店の扱う
商品が変わったり売価が変わるだけで価値を失います。
チラシやフライヤーはちょっと極端かもしれませんが、毎年新製品が
出る家電製品ジャンルに比べても、特定の人に特定の時にしか渡せない
もの、という色彩はより強いと思います。
「○○決定版」と銘打てるような単行本については、また意味合いが
変わりますが、出版社が自社グループでない場合については、そんなに
違わないでしょう。

10近藤 貴夫:2008/03/06(木) 08:50:05
……そういうことを前提にして、印刷通販というものが働く側からどういう
意味を持つか考察したいのですが、なかなか書きすすめる時間がないですね。

11近藤 貴夫:2008/03/06(木) 23:54:22
一つ一つ活字を拾っていた活版印刷の時代は私のごく幼い頃までの話。
子供の頃には、文字組みを写植で出力して台紙に貼り並べるやり方が
普及し、成人するとマッキントッシュで画像等も一緒に組み込むDTPが
始まり、製版に必要な時間は時代とともに減り、自由度は増していき
ました。(不自由になった面もありますが)

そうしたらそれで、労働時間が減るかというとそうではなく、多くの
人によって短時間でできるために単価が下がり、結局、仕事の数を
たくさんこなすことになるので、時間は減らないのです。

技術がどんなに革新しても、労働時間は容易には減らない。
江戸から上方まで十数日かかっていた時代には、話し合いのために
それだけの日数をかけて移動するのも立派な仕事として認められても、
新幹線や飛行機の路線ができると、それを使って頻繁に日帰り出張を
するのが当たり前になります。空いた数日を途中の温泉でのんびり、
というのはあり得ません。テレビ電話で会議ができれば、移動時間が
ないなんて言い訳はできなくなります。自由は自然には増えないのです。

焜炉がガスや電気やIHになり、薪を割ったり柴を刈ったりはしなくて
よくなっても、大人の生活時間は家事以外のやるべきことがどんどん
増えていってしまう。生活に必要な時間は、結局、近代・現代になっても
減ってはいないし、今後も減らなさそうです。

12近藤 貴夫:2008/03/10(月) 00:19:06
さて、「印刷通販」或は「印刷ネット通販」などと呼ばれる業態が、
近年急速に増えています。
これは、WEBサイトで、印刷カテゴリ・サイズ・用紙・頁のあるものは
ページ数・刷り色・納期・部数などを選んで頂いて、印刷物を受注すると
いうものです。
印刷会社が単独あるいはネットワークを組んで、営業担当が出向くことを
最低限に抑え、全国から安定した注文を得ることを目標にするものです。

これには、サイトの企画・立ち上げの初期投資から、維持管理更新の
ランニングコストまで費用は相当かかるので、顧客が集まらなければ赤字
です。しかも、価格競争が非常に激しいので、損益分岐点は結構シビア
です。単独では赤字覚悟で注目を集め、薄利多売で利益を出す仕組みに
なっています。
「全国送料無料」を謳うサイトもありますが、これは全国各地に生産拠点が
あるのでない限り、実際には真似のできることではありません。真似しても
いいですが、負担した送料で赤になります。

13近藤 貴夫:2008/03/10(月) 00:36:50
受注はサイトのプログラムで自動で行われるのが普通です。
その他のWEB通販と同じように、注文画面を進んで確定を押すと、自動で
注文受付のメールが送信されます。

これはWEBでないとできない便利なことですが、工場の日程の詰まり具合を
考えて受注量を調整するということができないので、一度に集中されると
困ることもあり得ます。
ただ歯止めになっているのは、納期の計算が、<入稿が完了し、そのデータ
等に問題がないと確認されてから何日>というスタイルを取っていること
です。<注文から何日>ではありません。
<原稿やデータが揃ってから、○○と△△するのに何日>なので、入稿が
遅れれば、その分納期をずらせる契約なのです。そのチラシの配布日が
何月何日なのかは知ったことではなく、印刷会社側の各工程の最低必要
時間は常に確保されているのです。

しかも、印刷商品はその人が発注した内容だからその人に価値があるので
あり、他の人には転売困難なものですから、納品後、確かに印刷会社側の
作業ミスがあったのでない限り、返品を認めないような規約になっています。
これは、単純に既製製品を売るサイトには認められない仕組みです。
そして、一定額以上は料金先払いのシステムを取ることで、印刷サービスを
提供したのに代金が回収できないリスクを低減させています。

14近藤 貴夫:2008/03/16(日) 16:41:34
「サイトに載っていても自動見積りのできない商品」も厄介ものですが、
サイトにない規格外の商品の見積り依頼が入ったときはもっと厄介です。
その見積りに沿った注文を受けても、システムが対応できないことが
多く、見積り以降もずっと手動進行になりますから。
単純に部数を増やすだけでも、サイト上の表示に反映するのは手間なのに、
サイトに載せていないサイズや紙種や刷色や加工やらの見積りがあると、
サイトに反映できなくなり、対面での発注以上にややこしいことになり
ます。

15近藤 貴夫:2008/03/16(日) 16:53:18
>>12で、ランニングコストについて触れましたが、これには、クレジット
決済代行の費用、SSL(通信のセキュリティ)の費用、電話の専用フリー
ダイヤルの費用、サーバのデータの定期クリーニングやチューニング、
などが関係してきます。
たとえサイトの内容を更新しなくても、置いておくだけでお金がかかるもの
なのです。

そして、実際には、他社との競合や、社内コストの変化などを受けて、
商品の追加や変更、価格の改定、企画やイベントの打ち出しなどを常に
していなくてはなりません。
印刷商品の価格表は、幾つものファクターで価格が決まるため、通常の
通販に比べて非常に複雑なシステムになっています。そして、価格の
数が非常に多く、何千・何万という数の価格欄が並んでいるのが普通です。
個人のサイトや、単純な通販サイトのつもりで考えてはなりません。
これを維持・管理・更新するためには、それ専属の人を用意することが
絶対に必要です。それだけで毎月何十万円とコストがかかることを覚悟
しておくべきでしょう。

それから、検索で当たりやすくするための工夫や、WEB以外での広告に
かかる費用もあります。簡単そうに見えて、結構シビアな業態なのです。

16近藤 貴夫:2008/03/16(日) 23:19:49
印刷通販のシステムにして、電話受付の時間を正規の「定時」よりも広く
設定すると、それが交替要員を確保するほどの受注を得ていない限り、
関係者の毎日残業は確定です。残業している間は、漫然と待つわけには
当然いかず、企画会議や制作作業が続きます。
会社によっては、休日を設けていますが、一部の会社では、365日無休、
24時間電話受付を謳っています。これが今後業界スタンダードになると、
つまり競争の都合上、追随せざるをえなくなると、ネット受注が決して
時短につながらないことが鮮明になるでしょう。
そうでなくても、現場の都合を無視して仕事が入ってきかねない仕組みで
あることを、重々念頭に置いておかなくてはなりません。

それから、同様のサイトは主要なものだけでも全国に既に数十はあります。
まだ参入を試みる会社が出てくるかもしれません。
お客様は、検索して最初に出てくるページをまず見ますから、色々な
検索キーワードで上位にいないことには、話になりません。
WEB受注というと間口が広いように見えますが、限られた種類の検索
サイトで上位にいるところしか選んでもらえない。ということは、逆に
結構間口が狭いということです。

17近藤 貴夫:2008/03/23(日) 10:42:04
上記は、印刷業界側からの視点ですが、印刷通販の利用者の側にも明らかに
利点があります。特に、自分でソフトを使って、印刷用のデータを組むことの
できる人には、便利なシステムです。

第一に、印刷会社の窓口へ出向かなくて済みます。これは「通販」すべての
特徴です。
第二に、原則的に365日24時間、発注が可能です。インターネット通販なら
何でもそうです。
第三に、価格や作業納期が、大部分、交渉なしに前もって示されています。
見積りを出してもらう時間と手間が省け、「自分だけ足元を見られるのでは
ないか」といった心配も無用です。
第四に、入稿(印刷会社に原稿や印刷データを届けること)も、オンラインで
いつでもできます。安くて簡単です。

仮に、編集ソフトを持っていない人でも、最近では、オンラインでかなりの
編集作業ができるシステムが開発され、そのデータをそのまま印刷通販で
注文できるサイトも現れています。
更にもし、デザインやレイアウトのセンスに自信のない人は、サイズや内容に
応じた金額で、デザイン・編集から印刷までをオンラインで外注することも
できるようになってきています。

18近藤 貴夫:2008/06/01(日) 05:24:22
>>16
ネット上の裏サイト的な情報・噂によれば、印刷通販大手では、長時間
労働が既に問題になっています。調整弁なしに仕事が入ってきて予定が
組まれ、システムに現場の人間が使われかねないという構図は、労働上の
問題を生み出すもとです。

>>15
コスト上昇にも、まさに今、各社がさらされています。
今日から、製紙大手各社が、この冬より予告されていた通り、原材料の高騰を
理由に、紙の卸値を一斉に引き上げてきます。
また、運送各社も、燃料高騰を理由に、送料を引き上げ始めています。

何万種類〜何百万種類という料金の載った料金表をサイト上で提示している
印刷通販各社は、原価計算をやり直し、間違いのないようにサイトに反映
するという、面倒な作業を、急いで行わなくてはならないのです。

19近藤 貴夫:2008/06/01(日) 18:07:46
私は一般論として、何でも365日24時間化するのは良くないと思っています。

働く者に、長時間労働・不規則勤務を強いると同時に、昼間の労働力が減少
して夜間に分散し、設備を効率の悪い時間帯にまで動かすなど、マイナス
面が社会的に大きいからです。

深夜まで長時間働いたり、不規則な働き方をする人の割合が増えているので、
24時間営業の店がないと生活に困る・質が落ちるという人もまた多く、
それでそういう店が必要なのですが、望むらくは、長時間労働しなくて
済むような、或いは共働きや単身所帯が増えなくて済むような経済環境に
なってほしいものです。

20retu:2008/06/18(水) 22:50:19
インド系雑誌の編集作業を手伝ってくれる仲間及びパート・アルバイトの方を募集しています。勤務日応じ談、お気軽にメールでお問い合わせください。

21近藤 貴夫:2008/06/22(日) 23:14:15
>retu様

私自身は、本業が忙しいので力になれそうにありません。
本業を辞めて賭けられそうな雑誌ならまた話は違いますが……。

22近藤 貴夫:2008/08/21(木) 23:00:02
印刷の通販の運営は、普通のネット通販とはわけが違います。
紙種・サイズ・納期・刷色数・部数・ページ数などに応じたすべての
料金表をあらかじめ掲げておくのには、相当なシステムが要ります。
それに対して様々なオプションの金額・納期を追加して行く方式となると、
尚更です。

先に作っておいたり仕入れておいた商品を売る場合と違い、何十万・
何百万通りの金額を計算して表示するシステムが、本当にコストに
見合っているのか、十分考えておく必要があります。
それに対する、電話やメールでの質問・お問合わせが、結局のところ、
普通の注文の何倍も舞い込むことも計算に入れておかなくてはいけません。
確かにお客様のところに出向く交通費はかかりませんが、対応に必要な
人間的・時間的コストは少なくないのです。

システムに見合う注文をこなすために、電話応対や業務の人員が最低でも
十数人要ります。システム維持のために、企画や開発やWEBデザイン上の
投資、システムハード面の投資も常に必要です。
それでも本当に割に合うのか、というところですね。

よほどの名前(のれん)を持ったところが一気に高度な仕組みを投入する
のでない限り、今からの新規参入は難しいでしょう。
生き残って利益を上げられる企業は、検索して最初のページに出てくる
多くても上位10社以内+特定分野で圧倒的な力を持った企業という形に
なると思われます。そして、既に先行する有力サイトは何十とあります。
小規模や零細の印刷会社がこれから手を出すのは結構無謀だと思います。
ただし、全国でネットワークを作って共同で動かす仕組みに加わる場合は
別かもしれませんが。

23近藤 貴夫:2010/02/28(日) 05:50:36
結局、私のいる企業グループは、「印刷通販」或は「印刷ネット通販」事業から
事実上撤退しました。一部事業のみ小規模で引き続き行いますが、総合受注サイトは
既に閉店しました。
この事業で上位数社に入ってしまわない限り、薄利の仕事が少数入るばかりで、
ランニングコストの方がかさみ、割に合わないからですね。先行各社を追い続ける
だけの体力的余裕(資金面でも人材面でも)がないと判断したのでしょう。

印刷は、サービスの仕組みが複雑で、受注するための、料金決定体系や、注文する
方法、情報を管理する手法などが、それに合わせてネット通販でも複雑になります。
既成の商品の番号を選んで「何個注文」とだけ入れる、一般的な通販サイトに比べて、
大変複雑なシステムやノウハウが必要になりますので、よほどシステム開発方面にも
強い会社でなければ、展開が負担になることが、携わってみて実感されました。


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