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信濃藩家中見聞 其の壱

1太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:05:30
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60044
新連載!戯曲「信濃藩家中見聞」 投稿者:ヨッシー 投稿日:2016年11月17日(木)11時53分20秒

ご好評の会則珍問答につづき、新連載を開始します。「其の壱」より毎日お届しますので乞うご期待!

戯曲「信濃藩家中見聞」

主な登場人物
城代家老:原田函館守種付(はらだはこだてのかみたねつけ)

お側用人:長谷川坂田守重蔵(はせがわさかたのかみしげぞう)

次席家老:正木八百守正直(まさきやおのかみまさなお)

大目付:八尋左衛門尉頼綱(やひろさえもんのじょうよりつな)

老中兼若年寄り:谷川皆行守勃樹(たにがわみないくのかみぼっき)

前大老:秋谷嫌師守栄助(あきやいやしのかみえいすけ)

特別出演(第六天の魔王)

2太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:07:45
戯曲「信濃藩家中見聞」其の壱

重蔵「ご城代!ご城代!」

城代「なんじゃ、騒々しい」

重蔵「大変です、ご城代」

城代「その方はお側用人の長谷川重蔵ではないか」

重蔵「一大事です、ご城代。殿がお倒れになりましてございます。」

城代「なにー、殿がお倒れに!?」

重蔵「はい、昨晩急に容態が悪化されたと奥医師より連絡が入りましてございます」

城代「して殿は今いずこに?」

重蔵「はい、とりあえず御典医の集まるご城下の慶応寮にお運びして集中治療を施している様です」

城代「してご容態は?」

重蔵「はい、かなりのご重篤とお聞きしております。お命にもかかわろうかと」

城代「うーむ、それは一大事じゃ。重蔵、この事は決して城下に漏らすでないぞ!いや、城内にもじゃ!奥医師たちにもしっかりと箝口令を敷いておくのじゃ。よいか!」

重蔵「御意にございまする」

城代「それから、急ぎ老中達を集めるのじゃ。理由は申すでない、筆頭家老のわしの命令だとのみ伝えよ!よいか。」

重蔵「承知仕りました。」

城代(しかし困ったのう、数年後には本城の新築普請も控えておるし、厄介な政所の元重役だった矢野明電の守の問題も残っておるのに、、、困ったのう、、、)

(つづく)

3太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:11:42
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60103
其の弐

どこからともなく、

(おい、ハラダ城代!、聞こえるか?、おい、原田種付の守さんよー!)

城代「な、何奴じゃ!曲者め、姿を見せい!」

(まあまあ、そういきり立ちなさるな。俺はあんたの味方よ)

城代「なに!味方じゃと?」

(そうさね。あんたは第六代の城代だろー?、俺は第六天の代表さ。第六どうし仲良くしようぜ)

城代「よくわからんが、その第六天のなにがしが一体ワシに何の用じゃ」

(絶好のチャンスだよ。いよいよチャンス到来だってーの)

城代「チャンス?何の話じゃ」

(おいおい、自分でわかってるだろうがー。俺に腹の底を隠そうたってそいつは無理だぜ)

城代「一体何を申しておる」

(殿様が倒れたんだろー?)

城代「おぬし何故それを知っておる」

(だからさ、俺には全部お見通しだっつーの。あんたが使える男だと思ったから首の病も悪化するのを止めといてやったんだぜ。あんまりつれなくするもんじゃないよ)

城代「なっ、なんと」

(あんたよー、あの殿様に相当いじられただろー?。家中の面前で罵倒されたり、前大老の秋谷嫌師の守と草履で叩きっこさせられたりさ。あん時ゃ前大老も「あのヤロー本気で叩きやがって」と怒ってたぜ、クスッ。)

城代「おっ、おぬし、、、」

(だからさ、今こそこれまでの憂さを晴らして、天下取るチャンスじゃねーのか。)

城代「・・・・」

(まあいいや、詳しい事は昔から馴染みの「頼」に言っとくから、シッカリやるんだぜ)

城代「「頼」とは、大目付の八尋左衛門頼綱の事か?」

(そうだよ。奴とは七百年前からの付き合いさ。作戦は奴に入れ込んどくよ。じゃ、またな)

城代「おいっ、ちょっと待て、待たぬかー!」

(つづく)

4太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:15:19
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60162
其の参

城代「各々方、突然の招集にさぞや驚かれたと思うが、お家の一大事ゆえ、
これから話すこと心して聞いて下され」

一同(ザワザワ)

城代「一大事とは他でもない殿の御ことでござる。家老方にはかねがねご
心配もなされていた方もあるかと承知仕るが、昨日、殿がついにお倒れに
なられた」

一同「まことでごさるか?」

城代「誠である。奥医師によれば何やら脳の御病であると聞く」

一同「お脳の御病とな」

城代「しかもかなりのご重篤と受け賜る」

一同「・・・・」

城代「そこで万が一の時に備え、集まって頂いた次第である。念のため
お側用人方には箝口令を敷いておいたが、各々方も城の内外に漏れぬよう
ご注意下され。城下の動揺は元より、他藩にでも知れれば、ここぞとばか
り攻めてくるやもしれん」

勃樹「これ以外に存知の者は?」

城代「おお、谷川皆行の守、よい質問である。ご内儀とお二人の若、奥医
師達は当然であるが、その他、お側用人の一部、お籠番衆の一部には知れ
ることとなろう」

栄助「して、万が一の時は如何いたす所存か?」

城代「前大老、貴殿もご存知の通り、かつてより殿は世襲せずと仰せであ
るから、我ら老中の中より次期当代を選出することになるであろう」

勃樹「おお!さようか!!」

城代「皆行の守、如何いたした?、大声をあげて」

勃樹「いっ、いや、なんでもござらん」

城代「ともかくじゃ、今後は全て我ら老中で決めてゆくことになるによって、
殿のご容態も含め、呉々も話が外に漏れぬ様、心して当たってくれ」

一同「御意」

城代「幸い今、悪煎茶なる智慧者達を雇っておる。彼等の智慧を取り入れて、
この窮状を乗り切ろうぞ」

正直「ご城代!」

城代「如何致した、次席家老正木八百の守」

正直「藩民があれだけ慕っておる殿の事ゆえ、果たして隠す事が善策でござ
ろうか?」

城代「貴殿は青いのう。民が知る前に次期体制を整えておくことこそ我が藩
安泰の要諦である。以上でござる」

(つづく)

5太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:30:57
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60211
其の四

重蔵「ご城代、ご城代はおられぬか」

城代「ここじゃ。いったい何事か!もしや殿の身に、、」

重蔵「いえ、なんとか御一命をとりとめてございます」

城代「さようか」

重蔵「お慶びになりませぬので?」

城代「あつ、いや、いや、それは良かった。良かったのう」

重蔵「はい、ただお命はとりとめましたが、、、」

城代「とりとめたが何じゃ」

重蔵「お言葉を発するのが困難な状態でござるります」

城代「なんと、お言葉が発せられぬと申すか」

重蔵「さようで。しかもご高齢のせいもあってか、ご記憶も時に曖昧で、、、」

城代「そっ、それでは何事もご判断ご決断出来得ぬでわないか」

重蔵「勿論、悪い時ばかりではございませんが、しかしやはりあのご状態では、、、」

城代「さようか。すなわち今後のマツリごとには携われぬほど厳しいとな」

重蔵「御意」

城代「うむー、、、」

(チャンスだよ。)

城代「なに?」

(最大のチャンスだってーの)

城代「おのれ、曲者、また出おったかー」

重蔵「ご城代、いったい誰と話されてるので?」

城代「あっ。いや。なんでもない。ご苦労だった。下がってよいぞ」

(生きているが、指示出せない。これほど好都合なことは無いぞ。クックック)

城代「何を申すか」

(だってそうだろう。藩民は殿様が元気だと思っているのだ、オヌシが何をやろうと

殿様の指示だと思ってくれるよー。クックッ)

城代「たっ、確かに。その方が混乱もなく治るが、、、」

(そうよ。知らぬが花っていうだろう)

城代「だがしかし上手くゆくかのー」

(大丈夫さ。彼奴はしぶといからな。今回だって俺を欺くための芝居かと疑ったくら
いさ。だからな、時々リハビリと称して外へ連れ出すのさ。姿さえ見せれば誰も疑う
もんかよ)

城代「りはびり?」

(おっと、すまん。そいつは西洋の言葉だ、気にするな。兎も角だ、詳しい手順は
「頼」にいっとくからシッカリやれよ。「友」の時みたいにしくじるなよ)

城代「友?」

(いや、なんでも無い。気にするな。じゃぁな)

(つづく)

6太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:35:03
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60473
其の五

頼綱「おいっ、皆行の守」

勃樹「これは、八尋左衛門どの。何か?」

頼綱「ちょっと顔を貸さんか。大事な話がある」

勃樹「では、いつもの法務庵に伺いましょう」

法務庵

頼綱「次の当主は貴殿でゆく」

勃樹「なっ、なんと。それは誠ですかな?」

頼綱「誠じや。すでに各所に根回しも済んでおる」

勃樹「して、それはいつの事にて?」

頼綱「そうさな、拙者の計画では新城の完成の頃、完成祝賀と同時がよいと考えておるが」

勃樹「誠ですかー?」

頼綱「しっ。声がでかい」

勃樹「ま、こ、と、で、す。かぁぁぁぁ」

頼綱「なんじゃその訳のわからん嬉しそうな顔は。本当に笑顔の似合わん男だのー」

勃樹「(^◇^)」

頼綱「ただそれには問題が残っておる」

勃樹「なんでござるか?」

頼綱「一つは、由佳の局の件じゃ。オヌシ女房がありながら中々隅に置けんそうじゃないか」

勃樹「な、なんでそれを」

頼綱「たわけ、城内に知らぬ者はおらぬわ」

勃樹「面目至極も、、、」

頼綱「まあ良い。そこでじゃ、次期当主の障りになりかねんそのおなごを遠ざけねばならん」

勃樹「なっ、なるほど、、してどのように」

頼綱「馬喰町に密邸を用意した。兎も角城内から追い出して暫くそこに住まわせるのじゃ。城中には他藩へ嫁いだとかなんとか言っておけばよい」

勃樹「馬喰町に、」

頼綱「金もかかったが中々良い住まいじゃ。あれなら文句は言うまい」

勃樹「その金はいずこから?」

頼綱「忍びの芳典に出させた」

勃樹「忍びのホウテン?」

頼綱「オヌシもよく知っておろう。板橋宿で棺桶商いを営んでる竹林屋を。あれが奴の表の顔じゃ」

勃樹「あー、よく存じております。あの御仁には若いときから何かと世話になり申した」

頼綱「なに、奴もまたオヌシが当主になれば利を得るというもの。気にすることはない」

勃樹「何から何までかたじけない。」

頼綱「なに、我らは三位一体じゃ、ハッハッハッ」

勃樹「ハッハッハッ」

頼綱「たわけ、笑っている場合ではない。もう一つ重大な問題が残っておる」

勃樹「重大な問題とな? してそれは?」

(つづく)

7太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:38:09
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60474
其の六

頼綱「最近、赤門や福沢塾あたりで、塾生たちの放銃な振る舞いが世間を騒がせておるであろう」

勃樹「ええ、存じております。なんでもおなごを酔わした挙句、手籠めにするという卑劣な事件ですな」

頼綱「憶えはないか」

勃樹「は?」

頼綱「憶えはないかと申しておるのじゃ」

勃樹「いったいなんのことで?」

頼綱「み・な・よ・く・い・く」

勃樹「どこへですか?」

頼綱「ええい、まどろっこしい奴じゃのう。三七四九一九じゃ!」

勃樹「三七四、、、、  ああっ!、何故貴殿がそれを、、、」

頼綱「たわけ、当時オヌシと同座した者が全て下呂しておるのじゃ」

勃樹「なんと、あ奴らのいったい誰が?、、、」

頼綱「おぬし、同座の三人を差し置いて独り占めしたそうではないか」

勃樹「・・・・・」

頼綱「そのようなセコイことをするから話が漏れるのじゃ」

勃樹「・・・・」

頼綱「若気の至りとはいえ、居酒屋で知り合うたおなごをかどわかすとはのう、、、まさか赤門の鬼畜の先駆けがお主とは、、、」

勃樹「・・・(そういうアンタだって、契りを結んだ支那飯屋の女給を捨てて、出世のため殿ご推奨の妻を娶ったものの、妻に愛想尽かされ、コキュに。えばったこと言えるものか)」

頼綱「何か?」

勃樹「あ、いやいや」

頼綱「まあよい、ともかく同座の者どもには口封じをしておいたから安心せい。問題は二十歳の隠居だ」

勃樹「隠居? 二十歳の隠居といえば宿敵大石藩との激戦に功労がありながら、忍び衆や近衛兵に嫌われて城中を追い出された男ですな」

頼綱「さようじゃ。かつて奴は大石藩主の致命的犯罪の証拠をつかみ、ワシのところに持ってきたのじゃが、忍びの芳典に使い道を任せたところ、デタラメなことをしおって、かえってこちらが訴えられるハメに、、、」

勃樹「あーそれで、『極上の大トロ届けたのに、ホーテンが辛子付けにするは、砂糖かけるはで、食えないものにされた』と騒いでおったのですね」

頼綱「そうじゃ。その上、芳典の手の者が隠居の奥をセカンドレイプするようなことまでやりおって。てなわけで、完全にこっちが悪いんじゃが、、、隠居め『武士道に反する所行、殿の教えに反する』などとと騒ぎ立ておって、、、」

勃樹「口を開けば『殿が、殿が』と正義漢ぶって、虫の好かない奴ですわ」

頼綱「その隠居が、どこぞよりそちの次期当主の計画を聞きつけて、反対運動を焚きつけておるのだ。当然、三七四九一九も語られておるようじゃ」

勃樹「あ奴めー」

頼綱「ほっとけば被害はオヌシだけではない。奴め、三位一体で仕掛けた『天鼓』事件や我ら法務庵の裏事情、矢野明電の守との和解裏工作までもかぎつけておるようじゃ」

勃樹「捨て置けませぬな」

頼綱「あ奴は金や権威では動かん厄介な男じゃ。そこでだ、奉行所を動かして何とか入牢せしめ、口を封じようと考えておる」

勃樹「幕府の閣僚や町奉行所の長官らを掌にされている大目付の頼綱さまが動いて下されば鬼に金棒ですな」

頼綱「うむ、同時に評定役にも申しつけて藩外追放の算段も進めておる」

勃樹「さすがは頼綱どの、抜け目はありませぬなー」

(つづく)

8太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:45:17
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60407
其の七

(頼ちゃん、頼ちゃんよー)

頼綱「おっ、その声は、第六天の、」

(どうだい、うまいこと運んでるかい?)

頼綱「拙者にぬかりはないわい。皆行の守にはしっかり焚きつけといたしな」

(そうかい。だが隠居には気を付けな、奴はお前さんの御禁制西洋絵巻を使った銭洗の仕掛けまで見抜いているぜ)

頼綱「なあに、それももう手は打った。絵巻の処理の相手は外国の宮家だ。こんどは幕府の隠密や勘定奉行だって手は出せんわい」

(さすがだねー)

頼綱「それより、、、、」

(なんだい、なにか心配事でもあんのか)

頼綱「うむー、城代の腹がどうも決まらん。まだ迷いがあるようだ」

(なーに心配いらねーよ。俺の方からもくすぐってるからな。もうひと押しさ)

頼綱「城代は事務方あがりだからどうも腰が引けてるところがある。前回の丸衆峠の戦の時も前大老の秋谷を引っ張り出して頼っていたくらいだ。おかげで前大老がまた復権しはじめてるぞ」

(いいじゃねーか。前大老はオヌシや原田城代以上に殿が嫌いだ。だから今度の藩乗っ取り作戦にはもってこいの男だよ)

頼綱「なるほど。確かにな。だが城代の腹をバチッと決めさせる妙手はないのか」

(あるぜ)

頼綱「なんと、早く申せ」

(城代にだな、正木八百の守がご城代の失脚を画策してると入れ込むのよ)

頼綱「それは本当か?」

(馬鹿だのー、真っ正直で真面目しか取り柄のない八百の守にそんな芸当ができるものか)

頼綱「しからばいかに吹き込むのだ?」

(知っての通り八百の守は殿一筋の男だ。同じように奴の家中はそういう輩が多い。最近その連中の一部が現体制に不満を募らせている。殿さまが表に出なくなってからそれが一層大きくなっているだろ)

頼綱「そのことは拙者も聞いてはいるが」

(だろ、だからさ、その連中を焚きつけてんのは実は八百の守だと城代に触れ込むのよ)

頼綱「なるほど」

(しかもこのままでは、殿さまが目を瞑った後に当代に就くのは八百の守だぜ。そうなりゃアンタの皆行の守による傀儡計画も水の泡さ。だからさ、)

頼綱「そうか、一石二鳥ってわけだな」

(やっとわかったかい。こいつを仕掛けりゃ城代の腹はきまるよ)

頼綱「よし、早速進めよう」

(つづく)

9太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:47:29
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60468
其の八

城代「今日集まってもらったのは他でもない。今後の藩運営を如何に進めて行くかを相談するためである」

栄助「殿のご年齢を考えても、殿亡き後を視野に入れた展望でなければならんじゃろう」

頼綱「世間の高齢化以上に、我が藩の高齢化は進んでおるのが実情である。従って、今後は財政も極めて厳しくなるものと覚悟せねばなりません」

勃樹「まして、殿がお隠れになれば藩の求心力は半減すると予想されます。そうなれば大石藩がここぞとばかり攻勢をかけて来るのものと思われまする」

城代「各々方のご意見、一々にごもっともである。そこでこのたび、悪煎茶や大目付殿と内談をいたし、今後の藩の方針を考えた。大目付殿発表いたせ」

頼綱「はっ、では発表いたす。
まず第一に藩律を大きく改正する。これは表向きはともかくも、大石藩との攻防に終止符を打ち、我が藩が大石藩とは全く無関係である事を内外に徹底せしめ、全く独自の路線へ進むためのものである。これによって大石藩の攻撃をかわし、尚且つ無駄な消耗戦を止め、外への拡大よりも内部の固めに徹するための重要な施策である。
第二に、幕府との関係をより緊密にする。これは、幕府の方針に従う姿勢を示すことでそれによって、幕府権力の庇護を受け易くし、その権益を最大限利用するためのものである。
第三に、これも表向きはともかく、これまでの先君三代の拡大路線や天下統一の無謀な夢を捨て、実情に沿って藩を守る事を優先するものとする。そのために、時間をかけて御三君の古い考え方を風化させる施策を順次打って行くものとする。大きくは以上である」

正直「しばし待たれい!」

頼綱「八百の守どの、何か?」

正直「何よりまず、殿を先君扱いするとは不謹慎であろう! 殿は未だご存命である!」

頼綱「それは失敬致した、藩の行く末を思うがあまりつい先走ってしもうた。勘弁されよ」

正直「しかも、もしご発表の如きことをなされれば、先二君はもとより、現君が血涙を注いで築き上げてきた思想は根底から崩れてしまう」

城代「だまらっしゃい! 今は思想云々などと悠長なことを語っている時ではない! 貴殿も次席家老なれば、殿お一人のことより藩を守る事を優先すべきではないか!」

正直「いや、真に藩を守るとは一重に御当代の、、、」

城代「ええい、黙らぬか! 聞くところによれば、貴殿は何やら裏で不穏な動きをしいてると言うではないか!」

正直「なんと、決してそのような、、、」

城代「黙れ、黙れ!これにて解散!」

(つづく)

10太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:49:08
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60534
其の九

頼綱「これでご城代の腹も決まったのう」

勃樹「さすが、頼綱どのの思惑通りですな」

頼綱「さて、いよいよ具体的に動かねばならんが、まず藩律改正については、貴殿を中心に進められよ。いかがいたす」

勃樹「はい、取り敢えずは律令方の者に投げてみますが、あの現律令方衆はどうも殿至上主義者が多く、また八百の守に同調する傾向にありますから、あまり当てにはしておりません。まあ、いざとなれば拙者の赤門の先輩衆で学問所にいる二士に命じて作らせますによって、ご心配はご無用かと。彼等は殿絶対主義を鼻から嫌っておりますので好都合かと」

頼綱「さようか。八百の守の方は、次より会議には参加させぬ。また、失脚への道筋も考えておるから安心せい」

勃樹「さすがでござるな。あと、このたび参加の無かったお側用人衆への対策はいかがでござるか?」

頼綱「まだ決めてはおらぬが、まあいざとなれば筆頭御用人の坂田の守をつつくさ。奴は優柔不断の上、鼻薬に滅法弱いからな。どうにでもなろう」

勃樹「なるほど。して、幕府へのご対応は?」

頼綱「永田町下屋敷に居る佐藤金津園の守泡浩(かなづえんのかみ・あわひろ)に任せておる。彼奴は幕臣たちの好きな赤坂・銀座あたりの遊びを心得ておる上、ジジイ転がしの天才じゃ。褒美と軍資金さえ与えておけば、万事上手くやるであろう」

勃樹「ぬかりはござりませぬな。ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ」

頼綱「その変な笑いは止めんか、特にそのエクボは妙に寒気がするわい」

勃樹「・・・・」

(つづく)

11太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:52:38
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60585
其の十

頼綱「どうじゃ、順調に進んでおるか?」

勃樹「それが、懸念した通り律令方がなんだかんだと抵抗をしめしております」

頼綱「なに、殿よりの命令だと、頭からかましてやればよいのだ」

勃樹「はい、さよう申し付けましたところ、ひとたびは怯んだ様子でしたが、その後、なにやらお側用人の坂田の守のところへ確認に出向いたようで、、、、」

頼綱「なんじゃと?坂田の守に?」

勃樹「さよう。しかもその坂田の守、あろうことか『殿はそのようなことは申されておらぬ』と、真っ正直に答えたばかりか、『今は、騒動を起こす時ではないとも仰せられている』などと余計なことまでしゃべったとのこと」

頼綱「ええい、アホの坂田め、相変わらず後先が読めぬ提灯持ちじゃのう。あいわかった。その件は拙者の方に任せておけ、至急手は打っておく。それより、殿はそのようなことを申すほど回復しておるのか?」

勃樹「拙者も直接見聞きしたわけではござらんので実情は測りかねますが、お側衆から漏れ聞く情報ですと、どうも良くなったり悪くなったりを繰り返しているようで、、、体は投薬にてなんとか持ちこたえているようですが、やはりご思考のほうは日に日に衰えを見せているとのこと、、、」

頼綱「さようか、もともと頑強な質ではない上、あの齢だ、既に我らの策謀を覆すほどの力は無いと見る」

勃樹「それならばよいのですが、、、、」

頼綱「時に貴公、最近また居酒屋通いをしておるそうじゃのう」

勃樹「はっ?、へへっ、まあ時には息抜きもしませんと、、、、」

頼綱「息抜きもよいが、酔って余計なことを口走るでないぞ! オヌシが『次の当主は拙者でござるー』などと息巻いていたとの噂が出ておる」

勃樹「ギョギョ!」

頼綱「オヌシと同門で赤門出身の元瓦版屋、薬師丸何某とかいう者と飲んで喋っていたとの報告が入っておる。新城落慶も近いことゆえ、少しは自重いたせ!」

勃樹「申し訳もござらん、、、」

頼綱「まあよい、拙者の方も、今から町奉行所へ出向かねばならぬ。隠居の件をもうひと押しせねば、奉行所の腰が重くてらちが明かん。オヌシも律令方を抑え込むのじゃ、どんな手を使っても構わん」

勃樹「かしこまってござる。では早速に、御免」


頼綱(やはり皆行の守では荷が重いかもしれんな、、、藩内の人気もない上どうも酒に弱い。幸い、城代もやっとこちらの懐に入って来たゆえ、無理して皆行を押し立てる必要も無いかもしれぬ、、、万が一の時は奴に責任を負わせて詰め腹を切らせればよいしな、、、ここはしばらく慌てぬ方が得策かもしれぬ、、、、)

(つづく)

12太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:55:25
http://6027.teacup.com/situation/bbs/60650
其の十一

城代「ほう、なかなか洒落た造りではないか。新城開城もいよいよだのう」

勃樹(ああ、由佳の局が入れてくれた茶がなつかしいなー、、、、)

城代「おい、皆行の守! 聞いておるか! なにを呆けておる。落慶式典の準備は整っておるのか」

勃樹「はっ、はい、着々と」

城代「しかしなんじゃのう、思ったより小じんまりした出来上がりじゃのう」

勃樹「はい、なにせ城地の拡幅が思うに任せませなんだゆえ、、、」

城代「なに、それはいかなる子細じゃ?」

勃樹「拡幅予定地の一角に、どうしても居座って立ち退こうとしない茶屋がございまして、この店主がなんとも剛の者で、いくら金子を積んでも動きませず、、、そのため、その先の藩地ともつながらず、、、、」

城代「なんと、、、オヌシの無体なやり口にへそを曲げたのであろう。詮なきことよ。して、新藩律の方は首尾よく準備できたか?」

勃樹「それが、律令方もひとたびは納得した風でございましたので、安堵しておりましたところ、この期に及んでやはり出来ぬと、にわかに尻を捲りまして、、、はい」

城代「うつけ! それでは落慶に間に合わぬではないか!」

勃樹「はい、どうも、してやられましてございまする」

城代「う〜む!仕方ない、今回は見送るしかないのう、、、」

勃樹「面目なき次第にて、、、、ところで御当代の座代わりの件は如何ように?」

城代「代替わり? ああ例の件か? 頼綱より一応は相談を受けてはおるがのー、見ての通りワシの首の経過も殊のほか良いゆえ、本年は代替わりなど考えておらぬわ」

勃樹「えぇ〜、それじゃ話が〜」

城代「そもそもソチは、二十歳の隠居問題も解決でき得ぬうえ、隠し妾の処理も済んでおらぬではないか。しかも最近では三七四九とか申す過去の悪行まで世間に露見しておると聞く。」

勃樹「そっ、それは、、、、、、」

城代「たわけが! そんなことより、律令方の首をすげ替えてでも、さっさと新藩律を仕上げぬか!」

勃樹「ははあー」

城代「さて、ともかく開城式典は盛大に盛り上げねばならぬな」

頼綱「殿がご不在の今、ご城代を中心に、藩の求心力を保つ為にも、藩民に新城見学をさせて、藩の威光を見せつけてはいかがかと」

城代「それは良い考えじゃ。他には?」

頼綱「はい、いつもの藩訓全員唱和のお導師ですが、拙者の手の者で、声色使いの“亭夫礼劫太”なる者がおりますゆえ、こやつに殿の声色を真似させれば藩民も不審なく喜び唱和するのではないかと?」

城代「それも良いかもしれぬ。早速手配せよ。万事ぬかりなきよう」

頼綱「承知仕ってござる」

(つづく)

13太ちゃん★:2017/03/01(水) 15:58:02
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其の十二

勃樹「只今より、新本城落慶式典を執り行う。各々方、おもてを上げい。ご城代原田函館の守様よりお言葉を賜る」

城代「本城落慶の誠にめでたき今日この時、ご壮健なる殿の膝下にこのように参集いたし、、、、我が藩の繁栄と、、、、共々に、、、、、、、かくかくしかじか、、、」

家臣A「なあおい、この新しいお城だけどよ〜、なんかショぼくねーか?」

家臣B「期待した割になー、なーんか冷めてーんだよなー」

家臣A「どう見ても殿のセンスじゃないよなー」

家臣B「皆行の守と由佳の局の愛の結晶だなんぞという奴がおるらしいぞ」

家臣A「ぷっ〜、そいつは笑えねー冗談だぜ」

家臣B「しっー、壇上の皆行の守に見つかるぞ」

家臣A「平気だよ、あの御仁、最近は巣魔保とかいうカラクリ手帳に夢中で、こっちなんか見ちゃいねー」

家臣B「あの手でいじくってるやつか?」

家臣A「そうそう、なんでも“スキモンごー” とかいうオナゴの姿絵を集める遊びができるらしい」

家臣B「俺も欲しいなー」

家臣A「オヌシの給金ではとても手が届かぬわい」

家臣B「どうでもいいけど相変わらず話が長げーな、ご城代は」

城代「、、、、、、という事で、皆の者、心合わせて藩を厳護いたすように。以上である」

勃樹「ではここで、落慶を祝して皆で藩歌を高らかに唄おうぞ」

場内「オー!」

♪♪ 濁悪の〜、この世ゆく〜、、、、、、、、♪♪

  家臣C「おい、なんかよー、最近、藩歌が似合わねーと思わねーか?」

  家臣D「たしかにの〜、なんとなく空々しい感じがするの〜」

  家臣C「昔は歌うだけで気合が入ったのにな〜」

  家臣D「最近は、なんでも“迎合!迎合!”が合言葉だからのう」

  家臣C「このところ、殿のお顔も見れぬし、何だか不安じゃのう」

♪♪ 草木もなーびーくー ♪♪

こうして、新城落慶の年は、とりあえず静かに暮れていったのである。

(壱の巻 おわり)

14太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:01:54
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弐の巻(平成二十六甲午ノ年)

其の十三

勃樹「頼綱どの、大変なことになり申した」

頼綱「さように慌てていかがいたした」

勃樹「昨年来、律令方へ申し付けていた藩律改正の裏事情の詳細が、覚書となって藩内に流出しております」

頼綱「なんじゃと!」

勃樹「なにやら『律令方報告』とか称されて、当時のやり取り、ご城代や前大老、頼綱どのや拙者の発言が事細かに告発されているとのこと」

頼綱「まっ、まずいではないか!」

勃樹「はい。拙者の、『藩律なんぞ都合よくつくればよいのじゃ』とか、頼綱どのの『一割くらい従えない者が出てもかまわん』などの発言まで記され、更には、我らの改革方針をご制止になった殿のお言葉までが克明に、、、、、」

頼綱「なんと! まずいのう、、、、」

勃樹「いかがいたしましょうぞ?」

頼綱「広く出回る前に、即刻その書面が出所不明の偽文書であると藩内に触れ回るのじゃ! 同時にそれを記した者を探し出すのじゃ!」

勃樹「かしこまりましてございます」

頼綱「それとじゃ、ご城代に報告し、前大老にも伝えて我ら四人で緊急対策詮議をせねばならぬ」

勃樹「では、早々に対処いたします」

城中奥座敷

城代「『律令方報告』なる文書、いったいどこまで出まわっておる」

頼綱「どうも我らに不満を持つ者共の手から手へと伝わっているようでござる。先ほどこれを作成したとおぼしき律令方の一人を突き止めました。いかが処分いたしましょうぞ」

城代「そうさな、いきなり城外追放などすれば、かえって開き直って騒ぐやも知れん。それより先ずは閑職に追いやり録を下げて、『これ以上余計なことを申せば録を召し上げ城外追放する』と脅した方が得策じゃ。そ奴も妻子があるじゃろうから怯えて黙るじゃろう。ほとぼりが冷めたころを見計らって追放すればよい」

頼綱「なるほど、では左様に」

城代「うむ。今後異議を唱うる者も同様の処置をせい。さすれば皆口をつぐんで静かになるばずじゃ」

頼綱「心得ましてございます」

栄助「城中ばかりでは片手落ちじゃ。ご城下においても不満分子とおぼしき連中が、我らを四人組などと称して騒いでおると聞く」

城代「しかり。城内は元より、城下もまた徹底的に取り締まらねばならぬ。何か対策はあるか」

頼綱「急遽、取締り隠密同心に、“新鮮組”ならぬ“汚染組”を仕立てまして、その局長に、拙者のところで密かに養っております弓谷助兵衛を当てるつもりでございます」

城代「弓谷とは、かつて複数の女官に手を出して殿の大逆鱗に触れた、あの弓谷か?」

勃樹「ヘヘッ、『あっちもこっちも、もう病気です』って、クスッ」

頼綱「オヌシが言うか?」

勃起「( ̄◇ ̄;)」

頼綱「ともかく、奴は殿より“ケダモノ”呼ばわりされたことを心底恨んでおりますゆえ、殿に心酔する者をことのほか嫌ってございます。よってまさに適任かと」

城代「なるほど、で、弓谷一人で大丈夫か?」

勃樹「いえ、藩内を東城下と西城下に分け、東はこの弓谷を、西には森井なる者に担当させまする」

城代「森井とはあの着服・暴行小僧の森井か。揃いも揃って脛に傷持つ者ばかり揃えたものじゃのう」

勃樹「何を仰せられます、“脛に傷持つ者ほど使い勝手が良い”というのは前大老以来の藩政・治世の極意でござりまする」

栄助 「フッフッフ、貴殿らも漸くわかってきたようだのう」

(つづく)

15太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:03:58
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其の十四

評定所

役人「評定方長官、大馬鹿之輔(おおば・かのすけ)さま、おな〜り〜」

大馬「嫌疑の者“二十歳の隠居”、面を上げい」

隠居「とっくに上げてます」

大馬「むぅ〜。通達した通り、昨年末より、その方を藩外追放すべしとの訴えが出ておるゆえ、本日最後の吟味をいたす」

隠居「お待ちくだされ。その『訴え』とは一部御重役より指示されたものでござろう。藩律によれば、『追放の訴え』は当事者の地元関係者より出される可しとの決まりでござるが、昨年末の最初の通達時にはその地元関係者は、この件を全く存知なかったという事実をつきとめてござる。そしてなにより、その『訴え』なるものに記された拙者への様々な嫌疑の内容については、地元衆が当時知る由もない内容でござる。これはこれ、まさに一部御重役が条条の自科を塞ぎ遮らんが為に不実の濫訴をいたすものでござる」

大馬「だまれ! 勝手にものを申すでない。その方は聞かれた事だけに答えればよい。その方、藩内において派閥をつくり、藩の批判しているとのこと、相違ないか?」

隠居「相違だらけです。我々の集まりは、元々大石藩打倒の情報交換及び、殿の思想を学ぶ場として二十年以前より行われているもの。派閥などというものではござらん。その証拠に、日常は皆それぞれに藩のお役目を全うしております。また、藩の批判などしたこともござらん。ただ、殿の思想に泥を塗る御重役の一部を告発しているのです」

大馬「では、八重の相対なるいかがわしい教えを流布している事についてはどうか」

隠居「八重の相対とは、御先君以来のご指導、即ち『悪は常に内側へ、内側へと入り込む』とのご教訓を、歴史観としてわかり易くまとめたものに過ぎません。当然、現君のお教えにも則るものでございます。もし違うというのであればその理由をお聞かせ願いたい」

大馬「質問は受け付けぬ! 聞かれたことにのみ答えればよいのじゃ!」

評定役A「なにやら“おふ会”とか称す集まりの中心者であるとの嫌疑があるが」

隠居「任意の集まりですから特に中心者などはおりません。しかも拙者にそのような嫌疑があると聞き及び、ここ数年来は参加もしておりません」

評定役B「“みにおふ会”なるものもあると聞く」

隠居「ほんの数人での食事会です。それが何か? 拙者が人に会うことが何か問題か? それとも拙者は一切人に会ってはならぬとでも申されるか」

大馬「うぬう〜」

隠居「だいたいこれなる評定も不公平極まりないではないか。評定役五人中、三人までもが拙者を目の上のたん瘤視する大目付・八尋頼綱殿の息のかかった配下の方々であろう。評定を行う前から、結果は見えているようなもの、、、」

評定役C「それはたまたま、、、、」

隠居「であれば、公平公正なる立場の仁に変えるのが筋ではありませぬか」

評定役A「と、ともかく、貴様は組織内組織を、、」

隠居「貴殿らの言う『組織内組織』とは、分かりやすく言えば、『幹部の堕落や悪事を指摘する人々』『真実を語る人々』ということでござろう。我々は一般藩民の誰にも迷惑をかけたことはない。即ち貴殿らが声高に言う『組織内組織』とは、貴殿ら重役達が自分たちの堕落を隠し、立場を守るための都合のいい枕詞に過ぎないことは明らかでござる」

評定衆「・・・・」

隠居「『組織内組織』がけしからんと言うのであれば、真っ先に処分致すべきところが他にありましょう。言わずと知れた怪文書『天鼓』事件を仕掛け、次期藩主候補を追い落とした忍びの芳典一派及びそこと三位一体を為す者たち。皆行の守殿、大目付殿らこそ、分派活動の本家本元でありませぬか。殿も大衆の面前で、『皆行の守は、己が藩主になろうとして派閥を作っておる。とんでもない!!」と厳しく叱責なされていたではありませぬか」

評定衆「・・・・」

大馬「あー、これにて評定を終了いたす。追って沙汰いたすゆえ、これにて解散!」

(つづく)

16太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:06:27
http://6027.teacup.com/situation/bbs/61015
其の十五

ワンワン、ワンワン、、、、

頼綱(おっ、この犬畜生の声まねは、隠密の弓谷助兵衛か?)

ワンワン、ワオーン、、、、

頼綱「合言葉を言え! 『あっちも』と言えば?」

助兵衛「『こっちも』!」

頼綱「助兵衛か、よし、入れ」

助兵衛「御免」

頼綱「こんな夜中にいかがいたした?」

助兵衛「はいっ、数日前より巷に“宿坊の瓦版”なる告発文書が出回り始めました」

頼綱「なに? して何者の仕業か?」

助兵衛「それが、あまたの者が入れ替わり立ち代り、おかしな偽名を使って書いているようで、何奴の仕業か判ずるのが困難で、、、」

頼綱「ええい、いまいましいのう。して対策は?」

助兵衛「拙者の手下に申しつけて妨害工作をしてはおりますが、中々の知恵者が多く、ことごとくかわされております」

頼綱「まずいのう、、、」

助兵衛「ただ朗報もございます。隠居一派で交わされていた密書につきまして、それらしき者を何人か脅かしましたところ、寝返る者があり、それらより密書を手に入れてございます」

頼綱「それはでかした! 」

助兵衛「はい、その寝返り者より、一派にくみする者の名前を下呂させまして、今、一人一人締め上げておるところでございます」

頼綱「よし、徹底的にやるのじゃ! 問答無用じゃ! 隠居については、既に評定所より藩外追放を申しつけた。よって、隠居に同調す者も、ことごとく同罪であると申し付けよ!」

助兵衛「ははっ。ところで大目付様、あの合言葉ですが、、、、変えては頂けませぬか」

頼綱「うるさい! お前は黙ってワシの言う通りしていればよいのじゃ! なんなら『もう病気です』まで言わそうか。用が済んだらさっさと去ねよ!」

助兵衛「キャイ〜ン、、、、、」

(つづく)

17太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:09:30
http://6027.teacup.com/situation/bbs/61055
其の十六

頼綱「御免」

重蔵「おや、これは大目付どのではござらぬか。お側用人部屋へ何用でございまするか?」

頼綱「いや、貴殿に話があって参った。内密な話ゆえ、しばし外へご同行願いたいが」

重蔵「左様か、では早速」


頼綱「ところで坂田の守どの、殿のご様子はいかがでござる」

重蔵「あまり芳しい事は聞いておりませぬ。最近は、第三ご嫡男の尊若様がぴったりとお側に付いておられますので、我らお側用人方も直接はお会いでき得ぬ状態で、、、、詳しい事は分かりかねますが」

頼綱「なるほど」

重蔵「して、拙者に話とは?」

頼綱「うむ。殿もご高齢の身、万が一の時は貴殿はいかがいたす所存かと」

重蔵「と申しますると?」

頼綱「殿にもしもの時は、当然、貴殿らお側用人は無用の者となろう。その後の貴殿の立場を案じましてな」

重蔵「・・・・」

頼綱「いやなに、それを機に隠居されるのも一つの道ではあるが」

重蔵「な、なにを申されるか、拙者は、まだこの通り達者でござる。隠居などと、、、」

頼綱「そうでござろう。そこでじゃ、ご城代は、貴殿を次期次席家老にと考えておられる」

重蔵「拙者が次席家老に!」

頼綱「左様」

重蔵「しかし、現次席家老の正木八百の守は、拙者より若く、ご壮健であるが?」

頼綱「いやでござるか?」

重蔵「め、めっそうもござらん! ありがたき事にござる。が、殿にご相談をしなくても?」

頼綱「ご相談可能な状況か?!」

重蔵「た、確かに、、、」

頼綱「ご城代は、貴殿の身を案じてござるのじゃ、貴殿も重臣なれば藩の行く末が心配でござろう」

重蔵「それはもう。して、八百の守は?」

頼綱「この際、時機を見て八百の守には辞職して頂く。ご城代の御方針に何やら不服をお持ちの様なのでな」

重蔵「なんと。もしや先日、若年寄兼総務奉行の梶岡新六郎どのが更迭されたのもその関連で?」

頼綱「左様。梶岡殿は、ご城代に背く律令方をかばい立てした上、八百の守とも通じて、ご城代の追い落としを画策しているとの噂がござったゆえ」

重蔵「そ、そこまでされますか、、、、」

頼綱「そこでご相談でござるが、貴殿も殿の事より藩の行く末を案じて、我らと心一つにして頂きたい。殿もご高齢じゃ、貴殿もかつて『五十四己未の年』の様に振舞っても得るものは無かろう」

重蔵「なるほど」

頼綱「得心致されたか?」

重蔵「万事承知仕った」

頼綱「それは良かった。では、今後は、呉々もその事を念頭に振舞わられよ」

重蔵「いえす、あいどぅー。あ〜りがとさ〜ん」

頼綱「・・・・・」

(つづく)

18太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:11:44
http://6027.teacup.com/situation/bbs/61106
其の十七

城代「皆行の守! 新律令はいかがいたす所存じゃ!」

勃樹「はい、只今も律令方を締め上げて居ります。森中小判鮫太夫(もりなか・こばんさめだゆう)は早々に寝返りましたが、なにせ奴は文書が書けぬゆえ、何の役にも立ちませぬ。一番の問題は、律令方長官の遠藤法華守千恵蔵(えんどう・ほっけのかみ・ちえぞう)でございます。口を開けば『殿のご意思は』『過去との整合性が』と騒ぎたてまする」

城代「うむ。先日も呼び出してあの手この手で脅してみたが、一向にらちが明かん。それどころか、奴め、これまでの経過を文書にしてわしらを突き上げてきおった。しかもじゃ、わしが『命令に従えぬのは分派活動じゃ』と怒鳴りつけたら、奴め、『殿のご意思に背くそちらこそ分派活動でござろう』などと言い放ちおった」

勃樹「ほほう」

城代「何を感心しておるか。昨日は、『質問状』なる文書を持って、坂田の守の所へも出向いたようじゃぞ」

勃樹「大丈夫です、ご城代。坂田の守へは、頼綱さまが根回しをされて、口裏を合わせるようになっております」

城代「知っておるわ。だが、坂田は根がアホな上優柔不断、ちょっと突き上げられると、すぐオタオタしよる」

勃樹「たしかに。では、今のうちに律令方は捨てて、学問所にいる御用学者の二人にやらせるようにいたしましょう」

城代「それがよい。本年は、どうしても新藩律の発表までこぎつけたいからのう。律令方は解体処分にせい! 遠藤の代わりに小判鮫太夫を据えて、体裁だけ整えておけばよい」

勃樹「かしこまってございます」

城代「それがうまくゆけば、来年は第二弾を考えておる。実は、こっちが本命じゃ」

勃樹「本命?」

城代「まあよい。オヌシはさっさと学問所へ飛べ。もし歯向かう者があれば報告いたせ。徹底的に仕置きしてくれようぞ」

勃樹「では、これにて御免。(ご城代はマジだぜいw。昨年とはうって変わって強気だわ。ついに殿を見切ったな。しかも来年は本命? ひよっとしてやっと拙者の時代が到来か? フョッ、フョッ、フョッーのフョー)」

(つづく)

19太ちゃん★:2017/03/01(水) 16:14:11
http://6027.teacup.com/situation/bbs/61160
其の十八

城代(“馬喰町が暴露”か、こりゃおもろい。“法匪の放屁”うける、、、包皮の法匪ってのもいるかもな、ぷっ、、、、)

頼綱「ご城代! ご城代!」

城代「いかがいたした」

頼綱「ご城代、例の“宿坊の瓦版”なるもの、日増しに広がりを見せているばかりか、今や城中家臣の間でも読まれているとのこと。しかも最近、あの『律令方報告』までが紹介され、なにやら“盟流”とかいう恐ろしく足の早い隠密飛脚によって配られているようでござる」

城代「なに、『めいる』とな?! そりゃ滅入るな。」

頼綱「洒落を言ってる場合ではござらん。なんでも“信濃城中の人びと”とか申す者が、『今、再び“五四己未の変”(ごしきびのへん)が起きている! 今が“五四己未の変”だ!』などと吹聴しておるようでござる」

城代「“五四己未の変”とな。それはあの五十四己未の年に、殿を信濃軍御大将の立場から外した事件のことか?」

頼綱「そのようで。あの時は表向き、わが心の師、いや宿敵・崎山禿友(ざきやまはげとも)の謀略や大石藩の絶大な圧力に屈して、藩を守るために致し方なく、殿にご勇退を頂いた事になっておりますが、どうも、当時の裏事情、即ち大石藩の殿への攻撃に便乗して、我ら首脳陣が殿外しに積極的に動いたことが、見抜かれているようでござる」

城代「まずいのう。ともかくじゃ、殿が倒れて折角忘れかけていたであろうに、寝てる子を覚ますような真似をされては元も子もない。なんとしてもその張本人を探し出して口を封じるのだ」

頼綱「それよりも先ず、こちらの体制を整えねばなりません。その“宿坊の瓦版”には、殿の発言があまた引用されておりまする。中には前大老やご城代が土下座させられたり、女や金に弱いことを指摘された発言内容までござる」

城代「そ、そんなことまで、、、」

頼綱「さよう。秋谷前大老が明電の守と結託して瓦版に殿のことを売った件やら、ご城代が逃避先の蝦夷で妾腹に子を産ましたことやらまで、、、、挙げ句には、矢野明電の守が記した『私の愛した信濃藩主』という書き物まで引っ張り出し、小堀遠州作の光亭での殿と明電の守のやり取りまで暴かれています」

城代「なに、明電の守とのやりとりとな? して、殿は明電に一体なにを語っておるのじゃ」

頼綱「殿に辞任を迫った若手裏切り者四人の筆頭が、当時、若くして六家老の一人であったご城代であると暴露しております」

城代「くそー。あの時は殿を外さねば、藩がおとり潰しになる危険があったのじゃ。そうなれば我ら家臣も食っては行けぬと判断したのじゃ」

頼綱「承知してござる。だからこそ、あの頃まだ悪事の露見していなかった“友”さんの悪知恵に乗っかって、それまでまともに作ってなかった『藩律』を正式に制定して、殿を行政権限の無い名誉職に追いやったのでござる」

城代「そうじゃ。当時は、まさか殿がここまで復権するとは予想だにしなかったしのう。しかし、こうなったら、いずれその名誉職も外しておかねばならぬな」

頼綱「御意。されど急いては事を仕損じます。時間をかけ、藩民に気づかせないように、少しずつ進めるのが得策かと」

城代「確かに。何事もまずは新藩律を成功させてからだな。表向き殿を持ち上げる体裁で静かに蚊帳の外に追いやれば、愚かな藩民は気づかぬわ」

頼綱「御意」

城代「だが、そちも注意を怠るでないぞ。あの殿は、そちのことも『いつまで頼を使ってるんだ、いずれ友みたいになるぞ』と言ってたからな」

頼綱「なんと! 拙者のことまでも。ともかく今の内にそのような発言の証拠を、全て隠滅処分いたすのが急務かと。それなくしては、明電の守との和解工作も無駄になりまする」

城代「そうじゃな、即刻、処置いたせ。ワシの方は、祐筆役に申し付けて、今後一切の藩記録には“五四己未の変”に触れぬよう申し付けておく」

頼綱「殿の執筆とされている『新・信濃藩民革命記』の方はいかがいたしましょうぞ、間もなく五十四己未の年に入る頃ですが」

城代「それも己未の年に入らぬよう、できる限り引き延ばして書くように申し付けるわ。幸い、今は既に殿の検閲もされておらぬ。延ばしに延ばし、限界に来たら問題の箇所をスっ飛ばせばよい。こうなれば殿の寿命との根比べじゃ」

頼綱「ですな。では早速に」

(つづく)


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