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聖典引用 板
1958
:
goro
:2013/01/19(土) 19:56:45 ID:nCo1DokU
>>1951
の続き
二重橋の前に行ってみると、なんと玉座には金色燦たる菊花御紋章のかがやいた天幕が一張張ってあり、且つは正面を除く三方も色幕で雨水が入らぬように囲ってあるではないか。何たることをしてくれたかと、腹も立ったが、さすがにこの大雨では係りの者も張らずにはおけなかったのだろう、と思い直して、別に小言もいわず、そのまま侍従職に急いだ。
雨はいよいよ降りしきるばかりで、一向やむ様子もない。十時頃私は一人で、楠公銅像付近を見廻ってみた。ここは女史の団体、七千名の集合地点に当てられていたので、心配のあまり、見に行った訳だった。見ると雨宿りする蔭もないので、新聞紙或いはふろしきを頭にのせて、立ちながら早昼をたべている。傘を持っているものもいるし、持っていないものもいる。持っていない者は多分きのう家を出て汽車で来た人たちであろう。
侍従職に帰って、陛下に、女子の部隊はいま、かくかくの有様で、陛下のおいでをお待ちしております、ということも申上げたが、十一時半頃になって、あまり雨が降るので心配のあまり、一木宮内大臣と関屋宮内次官とが珍田侍従長の室に来られ、私を呼ばれたので、行ってみると、大臣は私に、この大雨でも分列式をやるのか、と尋ねられる。予定通りやります、と私は答えた。大臣は更に「玉座に天幕は張ってあるだろうね」と念をおされたので、私は今朝不本意ながら天幕の張ってあるのを見てきているので、張ってあります、と答えると、大臣は重ねて、「陛下は天幕の中におはいりになるであろうか」と心配そうに尋ねられる。そこで私は、「たぶん、おはいりにならないと思います」とほんとうのことを答えた。すると大臣は、「それは、よろしくない。きょうは、こんな荒天であるから、ぜひ天幕の中におはいりになるように、これからお願いしてくる。がしかし、防水マントのご用意はしてあるか」とまた問われるので、「それは準備してあります」と私は答えた。
御座所で、陛下との大臣の間に、今日は非常な荒天でございますから、どうか天幕の中で御親閲を願いとう存じます、と申し上げられたが、陛下は常になく、大臣の言葉をお聞き入れにならない。そこで大臣は例を軍隊にとって、一軍の司令官というものは、たとえ部下の兵たちが敵の弾雨の下に立つからといって、司令官自身第一線に立つものではございません。司令官には全軍を指揮する大切な任務がありますので、遙か後方で指揮をとります。陛下は長い間大礼の諸行事でお疲れの際でありますから、きょう青年たちが雨に打たれるからといって、ご自身も雨の中に立たれることは間違っております。
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