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本のブログ(2013年から新規)

1korou:2012/12/31(月) 18:30:01
前の「本」スレッドが
書き込み数1000に近づいて、書き込み不可になる見込みなので
2013年から新規スレッドとします。
(前スレッドの検索が直接使えないのは痛いですが仕方ない)

474korou:2019/07/09(火) 17:19:53
井上潤「渋沢栄一(日本史リブレット 人095)」(山川出版社)を読了。

直前まで読んでいた「乱歩と横溝」が2段組みでびっしり300ページ以上ある大著だったので
大きな活字で100ページにも満たないこの本を読み通すのは簡単で
2時間以内で読み終えた。
前半は年代順にきっちり伝記風に書かれていたが
後半は、細かく整理して記述するのが大変だったのか非常に大ざっぱな記述になり
テーマ別に渋沢の仕事を概観した、まあ退屈な文章の羅列となっていた。

それでも、タメになったことを挙げれば
渋沢が備中井原に来た動機が分かり
そこからネット検索して「雨夜譚」の原文にあたることができたこと。
慶喜のために京都での兵力確保のため井原他の一橋領地に赴き
井原では住民が無反応だったところ
いろいろと行動した結果(阪谷朗廬との交流など)
首尾よく落ち着いたことなどが分かった。

それから、さすがにこの人の業績を追いかけることは
今の自分には結構しんどいことも直感できた。
自分としては
できるだけサブカル愛好者でいたいと思う。
渋沢への敬意はもちろん不変ではあるけれど。

475korou:2019/07/11(木) 13:36:06
本庄慧一郎「幻のB級!大都映画がゆく」(集英社新書)をざっと読了。

大都映画関係者が親族にわんさかといる著者が
まさに主観まるだしで、とにかく大都映画の足跡を世に残すべく
ありとあらゆることを書きまくった新書本である。
細部の誤りなどは多々あるが
ここは、こうしたマイナーな扱いを受けている映画会社について
可能な限り叙述を尽くした熱意に敬意を表するのが妥当だろう。

全体として、大都映画の徹底した庶民向けレベルの
映画作りのイメージが伝わってくる。
そして、巻末の人名事典も秀逸。

しかし、河合徳三郎はやはり複雑な人格の持ち主に思え
そういう人物を親族が客観的に描くことには無理がある。
そこの部分に関して、この本には
多くの嘘と虚実がちりばめられている。
さらに歴史認識も古いし、世界観・哲学も浅い。
そのへんは割り引いて読むしかない。
それでも読む価値があるのは
大都映画について他に適当な本がないからである。
さらに大都映画そのものについても
残されたフィルムが僅少であるから
今となっては何も語れないに等しい。

まあまあ面白かった本で、飛ばし読みも相当行った本にもなった。

476korou:2019/07/12(金) 22:16:24
宮田昇「新編 戦後翻訳風雲録」(みすず書房)を読了。

思いのほか読み応えのある良書だった。
いろいろなことを教えて頂いた印象。
小林信彦氏のことも登場し、その部分を興味深く読んだりできた。
翻訳家と一言で言っても
戦後まもなくから活躍した人たちは
あまりにも人間臭く、その体臭具合が実に心地よかった。
セックス好きもいれば、私生活にロックをかけて心の闇を守る人もいる。
例外なく酒好きで、議論好きでかつ熱くなりがち。
あの戦争に、青春の一時期を間違いなく振り回され
その影響から逃れようもなく、でも時代は容赦なく過ぎていく、
財産を守ることに必死な人も多く、おおむね頑固。
ああ、これこそ戦中派の生態ではないのか。
懐かしい感覚に、しばしば活字の向こう側の世界に思いを馳せ
ページをめくる手が止まることしばしだった。

その一方で、相変わらず調べるためにWikiを検索することも多く
驚いたことに
この本はWikiのネタ本として完璧に引用されているのである!
こんなに出典として引用されまくっている本も珍しい。
翻訳家というマイナーな職業ならではの光景だった。

本当にいい本を残してくれたものだと思う。
著者の宮田氏には感謝しかない。

477korou:2019/07/16(火) 18:52:57
中川右介「オリンピアと嘆きの天使」(毎日新聞出版)を読了。

レニ・リーフェンシタールとマルレーネ・ディートリッヒをめぐる物語。
それぞれの最盛期の活躍を、例によって年代別に対比しながら
正確に記述していくスタイルで描いていく中川氏お得意の評伝である。
今回は、隠し味(隠れてはいないが・・・)として
その時代(1920年代後半から1930年代)、その地域(ドイツ周辺)に最も影響を与えた
ナチスドイツとの関わりが細かく触れてあり
読みながら、ヘス、ゲーリンク。ゲッペルスなどの人物概要を確かめながらの
読書となった(おおいにタメになる読書だ!)

リーフェンシュタールには自伝があるのだが
その自伝が、いろいろと問題の多い文献だらけなので
そのあたりを、真実はどの辺かについて探る記述が多くなっている。
いわばメディアリテラシーが鍛えられる読書ともいえる。
それにしても、20世紀前半に活躍した人たちは
遠くない未来に、そうした嘘、虚構の類を検証されることに
思いはいかなかったのか。
優れた知性の持ち主のはずが、あまりにも無警戒に過ぎる。
また、これからの著名人は、政治に関心のないところを
いろいろと突かれることも覚悟しなければならない、ということも
リーフェンシュタールの後半生を知れば痛感する。

全体にディートリッヒよりもリーフェンシュタールの人生のほうが印象的だ。
やはり、防ぐことのできる失敗を、それでいて数多く犯してしまった人生のほうが
印象に残りやすいということか。

なかなか面白い本だった。

478korou:2019/07/17(水) 13:13:34
中川右介「怖いクラシック」(NHK出版新書)を読了。

これは、いわゆる正統派カルチャーの通史のようなものなので
著者の本についてカウンターカルチャー中心に読んできた
今までの流れとは違う種類の読書になる。
(もうカウンター系の本はかなり読み尽くした感がある)

これはこれなりに面白く読めた。
やはり、その音楽を聴いているだけで
その音楽家の生涯の細部に関しては
それほど突っ込んで調べたこともないので
知らない話もかなりあって
その意味で知的刺激を受けた。

とはいえ
さすがに、今更ヴォーン・ウィリアムスなどを聴く気にはならないし
ショスタコーヴィッチの交響曲についても(以前の読書でも好奇心をくすぐられたが)
優先順位はかなり後になる。
まあ、都合のいいところだけ記憶に残ったというところか。
チャイコフスキーとラフマニノフの関係とか
マーラーの生き様などは
大いに参考になった。

で、これで借りた本は全部読み終えたので
(宇都宮徳馬の伝記のみ期待したものと違ったので未読のまま返却)
これから県立図書館に行って
新しい本に挑戦することにしよう。

479korou:2019/07/20(土) 13:30:44
東野圭吾「白夜行」(集英社文庫)を読了。

久々の小説の読書。
県立図書館で偶然現物を見つけて
東野作品が現物、しかも「白夜行」が今そこにあるという珍しさから
思わず借りて帰った。
考えてみれば、かつて読んだにもかかわらず
ストーリーは全く覚えていないわけで
その後、その分厚さから当面の読書から避け続けていたわけである。
そうなると、読むのは、時間がたっぷりある「今でしょ!」(古っ!)

いやあ、長かった。
東野圭吾の定評のある力作だけあって
見事な構成、迫力だったが
前半は探偵役が出てこないので、物語の推進力がいくらか弱く
そのへんが最高傑作とは言えないかなとも思えた。
ただし、全体として、主人公2人の「ノワール」の要素を
過不足なく描き切った筆力には脱帽するほかない。
細部を分析すれば、たしかに不必要なエピソードとか
登場人物の1人だけ唐突に物語から消えてしまうなどのアラはあるのだが
伏線のミスのない回収、意図的な叙述スタイルなど
同様の細部の分析により、もっと魅力的な要素も発見できるわけで
全体として優れた作品というイメージは揺るがない。

こうなると続編を読みたくなるが(幻夜)
貸出中なので予約するしかない。

480korou:2019/07/24(水) 16:16:15
「わが記憶、わが記録(堤清二×辻井喬 オーラルヒストリー)」(御厨貴・橋本寿朗・鷲田清一/編)<中央公論新社>を読了。

以前、新聞連載時に一部を通読していて
面白かった記憶があったので
県立図書館で借りてみた。
通して読んでみて、やはり面白い本だった。

経営者としての堤清二氏の個性がハッキリしていて
これなら「セゾン文化」「パルコ文化」を創造し得ただろうなと納得できる。
さらに人間としての辻井喬氏も、感性が明瞭で
読んでいて曖昧な点は何一つない。
その上、長い活躍期間において
いろいろな著名人との交流が豊富なので
読んでいて単純に面白い。
経営論についてのみ、成功と失敗の両面がある堤氏としては
もう少し明晰に語りたかったに違いない。
そこだけ、やや韜晦気味の口調になったのは残念だったが
話としてなかなか面白く展開できないことも事実なので仕方ないことか。

宮沢喜一はともかく、佐藤栄作との縁も深いのには驚いた。
三島由紀夫との関係も、意外で興味深かった。
全体に知らない世界の話も多く、タメになったのは有り難いが
やはりWikiとの交互読みとなり、やたら時間がかかった。
2段組み300ページ以上という大部でもあり
「白夜行」に続いて、結構な労力となったが
こういう読書は歓迎だ。

481korou:2019/07/29(月) 21:15:14
東野圭吾「幻夜」(集英社文庫)を読了。

予約していたら、案外早く返却されてきたので、すぐに読むことができた。
とりあえず、「白夜行」の続編かどうかについてはあまり下調べせず、普通に読み進める。
(読後にその辺のことを調べたら、ネタバレ満載だったので、事前の下調べはしなくて正解だった)
「白夜行」よりも、コンパクトな時間設定で、登場人物のキャラがきちんと書き分けられていたので
読みやすさは、こちらのほうが格段に上だった。
途中からは、ページをめくる手が止まらなくなった。

続編かどうかについては、断然「続編説」を採る。
そうでないと「幻夜」の面白味は半減する。
白夜行の雪穂のキャラクターを知った上で
幻夜の美冬の行動を読み解けば
(かなりの強烈キャラではあるものの)それほどの違和感には至らない。
というより、美冬の心理描写をあえて略している作者の意図は
そこにあるとしか思えない。
作者は、続編かどうかは想像に任せるとのことで
これはミステリー全体をミステリーする仕掛けなのだろう。
その意味では十分に成功している作品だと言える。

「手紙」「幻夜」「容疑者Xの献身」と連続して出していたこの時期の東野圭吾は
まさに作家としての最盛期だったのだろうと思ってしまう。
少々のキズなどものともせず一気呵成に読者を圧倒してしまう筆力は空前絶後だ。
「白夜行」「幻夜」と読んできて
随分と時間を費やす読書になったが
その価値は十分にある。

482korou:2019/07/30(火) 17:06:00
中川右介「戦争交響楽」(朝日新書)を読了。

第二次世界大戦の直前から戦中にかけての
おもにヨーロッパでのクラシック音楽家たちの行動を
戦争への経過と併行して記述した本である。
この後の時代の同様な話が
「冷戦とクラシック」につながっていくのだが
やはり「冷戦」の時期とは比較にならない厳しい時代であったことが
如実に伝わってくる。
今の平和に日本に生きていると想像もつかない厳しさだ。

そもそも、知らないことのほうが多かった。
それも些細な史実ではなく、基本的な重要な史実について、である。
ナチスとソ連の密約くらいは知っていたが
その後、ソ連が、対独戦の大義を悪用して周辺諸国に攻め入ったこと
あるいは、ドイツがマジノ線回避のため、中立国で何の罪もないベネルクスに攻め入ったこと
同じくドイツがノルウェー確保のため、単に動線確保だけのためにデンマークを占領したこと、等々。
こういうことを知らずして、大きなことは語れないだろう。
近現代の世界史に無知なことを、もっと多くの日本人は意識すべきだ。
逆に、こちらの戦争の歴史も、多分欧米には知られていないだろうということも。

そんなことを思わせた読書だった。
八月を前にして格好の読書となった。

483korou:2019/08/03(土) 11:20:46
海野弘「1914年」(平凡社新書)を読了。

この本が書かれた2014年の時点で
案外1914年の状況、100年前の世界の様子が
現在と酷似しているのではないか、という仮説から
100年前の政治、経済、国際情勢、大衆文化、美術、サイエンスなどの各分野で
一体何が起こっていたのかを概説し
現在の状況との関連を読み解く本だった。
著者の博識が随所に展開され、まさに書かれるべくして書かれた本だといえる。
特に国際情勢の様子を手際よくまとめた前半は秀逸だった。

それに比べて、テーマ別の概説となった後半は
新書という制約も加わって
やや物足りない叙述に終始したように思われる。
そもそも、サイエンスとモダン・アートを並べて概説するという構成は
読者にはキツいはずだ。
その両者について、海野氏の知識についていける読者はそうは居ないはず。
ここで一気に読書のスピードが落ちてしまい
一気呵成に面白く読んだという読後感には乏しくなるわけだ。
やはり、これだけの博覧強記な著者に
新書レベルで概説させるというのは
企画としてムリな話なのである。

ということで
久々に海野氏の本を通読できたという愉しみが
最大のポイントとなった読書となった。

484korou:2019/08/03(土) 17:16:27
和田春樹「日本と朝鮮の一〇〇年史」(平凡社新書)を読了。

21世紀になってからずっと重要なニュースであり続けている
日本と朝鮮半島の関係だが
その割には、その関係の本で読むに値する本がなかなか見つからない。
この本にしても、県立図書館で立ち読みして借りることを決めたが
必ずしも面白そうとか、役に立ちそうとかのメドを立ててのことではなかった。

読後の感想を言えば
少なくとも、何の知識も情報もない場合
この本は良い羅針盤になるだろうということである。
新書サイズであり、かつ近現代に朝鮮半島で起こった史実を
丹念に追跡していった本ではないので
これ一冊で最小限のウンチクさえ語ることは難しいが
大きな事件と、その事件に関する研究の推移が分かるので
この本の次には、こういう方向で読み進めればほぼ間違いないだろう
という確信が得られるのは大きい。
やはり、当事者としていろいろな研究の場面に関わってきたのは著者の強みである。

日本の標準的な傾向から言えば
かなり親朝鮮の立場で書かれている。
戦前・終戦直後の日本人のあり方についての見方は
厳し過ぎるくらいだ。
しかし、こういう視点も必要であることは確かだ。
複眼、これこそ日本と朝鮮半島の問題を考える最大、最強の鍵だろうと思う。

485korou:2019/08/07(水) 20:22:33
中川右介「カラヤン帝国興亡史」(幻冬舎新書)を読了。

今までそれほど興味もなかったカラヤンの業績について
せっかく中川さんが熱心に書いていることだしと思い
読んでみた。
すると、カラヤンその人をめぐるいろいろな出来事が面白い上に
レコード会社との専属契約の話などタメになる情報が多く
そうなるとクラシック音楽ファンとしては
ページをめくる手が止まらなくなるわけで
一気に読んでしまった。

EMIがフィルハーモニア管というのは知っていたが(仕掛人レッグも)
デッカがウィーン・フィルで
ドイツ・グラモフォンがベルリン・フィルというのは
今まで全く知らなかった。
カラヤンが引き起こす名声への策略のせいで
時期によってその組み合わせではレコーディングできないという仕掛けになり
なるほどと思わざるを得なかった。

カラヤンの芸術に触れずにカラヤンの生き様のみを書いた本である。
少なくとも、読者はカラヤンの芸術については一通り体験済みという
暗黙の前提がある本ではある。
その前提さえ満たせば、面白く読める本だと思う。

486korou:2019/08/08(木) 10:01:43
山田五郎「知識ゼロからの近代絵画」(幻冬舎)を読了。

美術のウンチクを語りたいという何だかよく分からない欲求にかられて
県立図書館で借りた本。
写真満載で、読むというより眺める本だったが
なんとか全部「眺めて」みた。
読み終えて、というより眺め終えて
思うことは
やはり、絵画の写真に添えられた短い説明書き程度では
なかなか知識が頭に入ってこないとうことである。
全く知らないことについてのみ
少しだけ前進できたような気がするだけで
全体としては
ウンチクを語るにはあまりにも薄すぎる読後感となった。

まあ、これをきっかけとして
他の美術入門書を読み始めるしかない。
それも面白くて、そこそこ記述も深いもので。

487korou:2019/08/08(木) 10:15:43
「私の履歴書 25」を読了。

今回は、岩切章太郎、佐々木更三、進藤武佐ェ門、勅使河原蒼風、東山魁夷、河野一郎という面々。
読んでいて無性に面白いというのが全然なかったのは意外だった。
全体として、人間として武骨すぎて、現代の人間とあまりにも違いすぎて
その違和感のほうが強すぎるというか。

最後の河野一郎の文章は
他が昭和40年の執筆に対して、これのみ昭和32年執筆のものであり
保留になっていたものを
昭和40年死去に伴い、急きょ公開されたものらしい。
前半は、頭が悪いのにそれがどうしたと居直った
というタイプの政治家誕生物語のようで
読んでいてあまり心地よいものではないか
鳩山側近としての動きを記した後半は
生々しい、まさに当事者の手記らしい迫真の描写が続き
一気に読ませるものがあった。
鳩山が出した「4条件」がいつのまにか吉田によって「3条件」になった件は
この記載によって吉田の作為であったことがよく分かるし
松野鶴平の「ズル平」ぶりもうなずけるものがある。
そもそもが、新聞記者として奮闘してやってきたことが
農村の現地に行ってみると
そこには何も反映されていないという実情を知って
政治家へ転身することを決意したというあたりから
この人の真骨頂なのだろう。
佐藤栄作は、はるかにこの人より賢いが
こういう熱情はさらさら無かったと思う。
どっちが首相としてふさわしかったかは
なかなかの難問だとは思うが。

488korou:2019/08/10(土) 17:08:12
高平哲郎「喜劇役者の時代」(ヨシモトブックス)を読了。

同じ著者による「由利徹が行く」の焼直しのような著作らしいが
前著も読んでいないので
アマゾン書評子のように比較もできない(その方は酷評しているが)
初めて読む分には何の支障もなく
面白く読めた。
いかにも昭和戦前からの喜劇人らしく
ハングリーで、人間臭くて、泥臭い人生が描かれている。
戦争中に中国で暗号兵として活躍していた時のエピソードなどは
本当かいなと思うほど痛快無比、波瀾万丈で
その勢いで戦後の演芸界を生き抜いているから
たしかにその気になれば演芸界の中心人物にもなれたかもしれない。
しかし、これほど欲がなく、純粋に喜劇を演じる、脇役もしくは花形で
お客さんを喜ばすことに徹した喜劇人は
他に居なかっただろう。

そんな由利徹の生き方に惚れたのが、あの高倉健だったことが
この本の途中のあたりで描かれている。
これは感動のエピソードがてんこもりだ。
健さんも人間臭い俳優だったのだろう(見かけは謎と神秘ばかりだが)

それに比して、タモリなどの芸には冷淡だ。
辛うじてその一派の高平哲郎には心が通じて
こうして没後20年以上経って、再びその生き様を描いた本が出る。
まだまだ「過去の人」にしてはいけない。この人は。

489korou:2019/08/12(月) 21:50:26
矢野利裕「ジャニーズと日本」(講談社現代新書)を読了。

県立図書館で立ち読みした時点では
いろいろと知らない事実が列記してあるように思われたのだが
実際に読み始めると
著者の独断がひどくて、その論の展開についていけなかった。
ジャニーズの楽曲分析を
ジャニー喜多川の人生、人生観、世界観とクロスさせて
それを既存の音楽ジャンルから正しく組み合わせている本書の構成自体は
新鮮で面白いが
いざ各論で具体的な曲名を示されて論を展開されると
やはり未熟なアイドル楽曲でしかないそれらの曲から
例えばフィラデルフィア・ソウルとか、アシッド・ジャズなどのジャンルを
想起すること自体がお笑い草になってしまうのだ。
そう思っているところに
「ヒップホップ音楽、ラップは誰でもできるのが最大の特徴。黒人の苦悩について
 理解がない人にはできないというのは大きな間違い」とか書かれると
もう白けてしまう。
最後まで読み通すのに根気が要った。
構成の新鮮さだけですべてを我慢するほかなかった。

あまりにジャニーズが好きすぎる人がこういう本を書くとこうなる
という失敗の見本例のような本。

490korou:2019/08/14(水) 17:05:21
牧村憲一・藤井丈司・柴那典「渋谷音楽図鑑」(太田出版)を読了。

いわゆる渋谷系音楽について
今まで全く無知であったのを
1年ほど前に日本のJ-POP史の本を読んで少し理解できたので
今回、もっと本格的に知りたいと思い
県立図書館で借りてみた。
読んでみたら、予想以上に良い本だった。
最終章のあたりでは楽曲分析まであって
今テレビの録画でおもに録っている番組の内容とも重なった。

最近読んだ堤清二の本の内容とも重なり
パルコ文化との関わりもあった。
また、糸井重里など原宿の著名なアパートの話も興味深かった。
そして、本題では、いきなり小室等、六文銭から始まり
早々と大瀧詠一、山下達郎に話がつながり
そこから竹内まりや、大貫妙子を経て、かまやつひろし、細野晴臣などは当然のごとく出現し
最後にフリッパーズ・ギター、小沢・小山田の話で終わる豪華さ。

その豪華さの核心として、渋谷の地形、地名、スポット、その歴史(文化史)の変遷が描かれ
”渋谷系”だけに焦点を当てる短絡さを批判する姿勢も共感が持てた。
源泉として流れる”都市型ポップス”
その未来についても最後に語られているが
星野源の「時代の構造が縦・横ではなく前・後ろ」というニュアンスの言葉も印象深い。

一言でいえば、最近読んだ最良の音楽本だった。

491korou:2019/08/19(月) 11:24:53
中川右介「西洋絵画とクラシック音楽」(青春出版社)を読了。

絵画についてウンチクを語りたい、と以前から書いていたが
その関係で最初に借りた本があまりに薄かったので
今度は中川氏の力に頼ることにして
県立図書館で借りた本。

残念ながら、その目的は十分には達せなかった。
結構、西洋美術史というのは
簡単に俯瞰するには難しいものがあって
その微妙なニュアンスを端的に記述することは
いかに説明上手な中川氏でも難しいと思わせた。
ただし、後半の音楽史については
途中から面白く読めて
このあたりは
自分の持っている両分野への知識量の差が
原因しているように思われた。

全体として
類書にない記述が特徴的で
そのあたりは著者が「まえがき」で書いているとおりである。
自分がこの種の職業で活躍できていたとして
中川氏との共同作業が多かっただろうなという感慨を抱く。

492korou:2019/08/21(水) 18:55:24
「私の履歴書 26」を読了。

佐藤喜一郎,芹沢光治良,船田中,松田恒次という面々で
船田中は既読で記憶が残っていた。

佐藤、船田はともに昔風の威張りんぼで
こんな人たちと交流、あるいは部下として仕えたとしたら
心労は只事ではなかろう。
その点、松田恒次は、田舎の実業家という感じで
キツいリーダーではあるが、読んでいて不快感は少ない。

しかし、なんといっても今回の巻での驚きは
芹沢光冶良氏の文章だ。
明治時代を偲ぶ意味で読み直している今回の「私の履歴書」について
他の方々は、貧しいとはいっても一時的だったり、程度にも限度があったが
芹沢氏の体験した貧しさには強烈なものを感じた。
明治時代にも残っていた極貧の漁村の実情について
具体的かつ衝撃的なものであった。

今回、4月以降4冊通読して既読分がたまったので
一気に廃棄処分したが
芹沢氏のだけは残すことにした。

以降は1冊読み通した直後に廃棄することにする。

493korou:2019/08/29(木) 16:10:00
出野哲也「メジャー・リーグ球団史」(言視舎)を読了。

横書きで626ページに及ぶ大部なMLBの著作であり
出野さん単独でこれを書き上げたという点で
他に並ぶものがない労作と言える。
それだけに読み続けているうちに
細かいところで確認してみたいという欲求を抑えられず
この1か月というもの、ほぼこの本にかかりきりで
やっと本日午後3時過ぎに読み終えることができた。
この本を読み切る労力を例えると
おそらくその労力で新書だと5、6冊は楽に読めただろうが
それでも一度は読んでみる価値は十分にあった。
よく調べ抜いてあって、やはりWikipedisとは違う信頼感があり
知らない事実がてんこもりだった。
あまりに新しく知ることが多かったので
その大半をすでに忘れてしまっているのが本当に残念だが
まあ、こればかりは仕方ない。
もう一度読む気持ちはさすがにない。
なんとなく、この情報はこの本からだったかもしれない、という痕跡さえ
うっすらと記憶できていればそれで十分である。
借りた当初は購入も考えていたが
まあ、これはこれで完読したという記憶だけで満足することとしよう。

494korou:2019/08/31(土) 15:03:04
澁澤秀雄「澁澤榮一 新装版」(時事通信社)を読了。

県立図書館の新刊コーナーで偶然見つけて借りた本。
すでに定評のある伝記として知られるこの本が
新装版として新たに世に出たことは喜ばしいことで
近年テレビドラマなどで知られる機会が多くなったことが
再刊を実現させたのだろうと思われる。

一度読んだような気もしたのだが
どうせ記憶は曖昧だしと思い読み進めた。
前半部分は、つい最近借りた薄い伝記本で読んだばかりで
新鮮味はなかったが
洋行の時期から明治以降のエピソードを綴った後半は
やはり面白くて、一気に読み通すことができた。

(書評は、今回から、ムリに続けずに、簡潔にまとめることにする。
 ということで、これで終わり)

495korou:2019/09/02(月) 21:44:06
田崎健太「電通とFIFA」(光文社新書)を読了。

たまたま書棚で見つけて借りてきた本だが
読み始めると意外なほど面白く、あっという間に読破できた。
電通の歴史も分かるし、FIFAの歴史も概観できるし
ついでに高橋治則の事件も参照できるというスグレモノ。
高度成長時期の日本の経済力を背負った高橋治之と
バブルの時代の象徴となったその弟の治則の物語としても読める。

スポーツビジネスの本としては
かなり昔に読んだ「エージェント」(文春新書)以来のインパクトがあった。
多分こうじゃないかなと思っていたように
やはり歴史は動いていた。
あとは、誰かDAZNのからくりを書いてくれないものか。
他にも、面白そうな本を数冊、この本の記述から発掘できた。
また借りるとするか。

496korou:2019/09/03(火) 17:12:54
難波利三「笑いで天下を取った男 吉本王国のドン」(ちくま文庫)を読了。

吉本興業の創業者吉本せいの弟、林正之助が主人公の小説である。
小説とはいえ、作者から登場する芸人等への直接取材なども行っていて
かなりノンフィクションに近い形になっている。
それでも、同時に借りた「私の履歴書」の中邨秀雄のところも
同時進行で読み進めていたので
中邨氏の記憶違いもあるのかもしれないが
それを割り引いても
やはり小説は小説、都合よく切り取られていると言わざるを得ないだろう。
部分的には、いくら小説でもしてはいけない史実の改ざんまで見られるので
気を付けて読まなければいけない、という点で
厄介な小説でもあった。

林正之助の豪快な生き様、創業者に近い人間だけが持ち得るオーナーシップなどは
こういう小説のほうが分かりやすい。
その点は、読みやすい小説独自の文体もあいまって
一読に値すると思う。

ついでに「私の履歴書 経済人37」(日本経済新聞社)の中邨秀雄の部分について。
この方にしても、現代の感覚で言えばかなり型破りなのだが
部分的には新しいところも見られる。
まあ、芸人のギャラをもろに書いているところは苦笑する他ないが・・・
(以下、芸能・演劇スレへ)

497korou:2019/09/05(木) 15:58:27
本橋信宏「ベストセラー伝説」(新潮新書)を読了。

1960年代から70年代にかけて
著者自身にとっていつまでも記憶に残っているベストセラー、雑誌等について
その黒子たる編集者などに焦点をあてて
ノスタルジーに浸るとともに、出版業界全盛期のエネルギーのようなものを回顧しようという
いわゆる「世代限定本」だった。
著者のノスタルジーが文章の端々に過剰なまでに溢れ出て
どちらかというと、それはこの本の存在価値を軽くしてしまうほうに作用しているのは残念だが
限定された世代にドンピシャの自分にとっては
まずまず面白く読めた。

考えてみれば
1960年代、70年代を、2010年代に関係者をたぐって取り上げようとする試み自体
かなり無謀なことなのだろう。
その年代に決断を下すべき管理者であった人々は
半世紀過ぎてみればすでにその大半は亡くなっている。
その時代に実戦部隊だった青年たちが
何人か生存を確認できるだけという状況だ。
やはり、管理者への直接取材は、引退直後に行うべきで
実戦部隊にしても、せいぜい一世代後速やかに行うべきだろう。
この本は、その意味で、実戦部隊への直接取材に辛うじて間に合った本である。
この作業の次には、やはり片山右介氏のような仕事が必須だろう。
その過程を経て、やっと現代史が歴史の一コマとして定着することになるはずだ。

498korou:2019/09/09(月) 15:48:02
藤田潔「テレビ快男児」(プレジデント社)を読了。

「電通とFIFA」に出てきた藤田敦のエピソードが
書いてある本だったので借りてきた本。
読んでみると、まさに、いい時代に活躍できた”快男児”だった。
様々な芸能人、文化人をマネージメントしながら
アイデアマンでもあるので、同時に「鉄腕アトム」をアメリカに売り込み
その過程で深夜のTVショーのアイデアにインスパイアされ
「11PM」を考案。
弟と組んで、マスターズの生中継を手掛け
その勢いで音楽、美術の方面でもレベルの高いTV番組を実現。
制約の多い21世紀になっても
そうした良質の文化番組をオファーするTV界でも異色の存在だ。

ある意味、こうした人材を文化芸術の分野でも欲していたかもしれない。
そこにうまくハマり、なおかつ全力で取り組んだ男というところだろう。

いろいろな番組のいろいろな仕掛けが分かり
なかなか面白い本だった。
業界もで有名な人のようなので
これからもこの本をもとにいろいろと語られるだろう。

499korou:2019/09/10(火) 10:14:42
中川博之「歌との出逢い 愛とのめぐり逢い」(備北民報社)を読了。

読む前は、ページ数も200ページ程度と短そうで
出版も地元の新聞社ということで
あまり大した本ではないだろうとたかをくくっていたが
読み始めるにつれ、なかなかのクオリティに驚かされた。
そもそも2段組みにびっしりの200余ページなので
分量は300ページ以上の充実した自伝となっており
さらに、著者の記憶力が素晴らしく
それぞれの年代での記述が具体的でわかりやすく
最初から最後までしっかりと楽しめる著作となっている。

概ね、中川さんの人生といえば
さほどの激しい挫折もなく(最初の朝鮮半島からの脱出は凄惨なものだったが・・・)
大体上手く展開できているように思えた。
その上、生来ともいえる艶福家でもあり
家庭を壊してでも愛人と生きようとするその生き様は
考えてみれば、かなり酷いものといえなくもない。
しかし、読んでいる間、そんな酷さなど微塵も感じさせないところなど
不思議な魅力をもった方であると言わざるを得ないのである。
自分としては羨ましい限りである。

あと、県北で少年時代を過ごしただけの方だけに
岡山への愛が中途半端であることも否めない事実である。
「西川」の読み方を誤ったまま新曲をリリースして失敗した話とか
カラオケの発祥地は名古屋と誤認したりとか
いろいろと思うところはあったが
それでも、新見への愛は感じられたので
それはそれなりの郷土愛なのだろうと思った次第。

500korou:2019/09/11(水) 10:38:52
「私の履歴書 31」を読了。

岩田専太郎、中村白葉、法華津孝太、松前重義という面々。
このところ経済人の伝記に飽きていることは別スレでも書いたばかりだが
このメンバーには純粋な経済人は居なくて
それぞれ個性ある味のある人生を送られた方々ばかりだった。
ゆえに、読んでいて面白く、こうした年長者が活躍していた時代への
ノスタルジーも相まって、興味はより増していった。

岩田さんは、あまりに奔放で芸術家の生きざま過ぎて
読んでも何の参考にもならないとはいえ
それはそれなりに面白く、山口昌男の本との関連もあり参考になった。
中村さんは、当時の年長者としての感情、心の揺れが
ストレートに語られていて
時代を超えて胸を打つものがあった。
法華津さんの人生も、
いろいろな人たちとのつながりが見えて興味深かった。
松前さんのは既読ではあったが、
いろいろと忘れていて今回も新鮮に読めた。
詳しくは自伝を購入済みなので、もう一度読みたい気分でいる。

501korou:2019/09/12(木) 17:34:58
野口悠紀雄「戦後経済史」(日経ビジネス人文庫)を読了。

いつか読みたいと思っていた野口氏による経済史の本。
読み終わり、概ね期待通りの内容で満足はできた。
思ったよりも、具体的な「自分史」の部分が多く
人によってはそこの部分に違和感を覚える人も居るだろうが
アマゾン書評では、まあそのへんは深く追及されていないようだ。
(個人的には大変面白く読めた)

戦後日本の経済成長に「1940年体制」が寄与しているという論には賛同できる。
それは数多くの要因のなかでもかなり大きな部分を占めることは間違いない。
具体的な政策を立案する官僚が戦後も居残ったのだから
どうしてもそうなっていくわけで
この場合は高度に完成した官僚制をすでに持っていた戦前の日本からの
連続性が良い方に作用したということだろう。

ただし、世界全体で自由主義経済が志向され
それに見合ったインフラ、国際政治情勢が加味され
いろいろな意味で「1940年体制」と逆の方向が主流となったとき
日本の劣勢は決定的となっていく。
かといって、どう対処していけばいいのか、それは誰にも分からないほど
今の日本はいろいろな意味でねじ曲がってしまっている。
野口氏にしても、具体的なイメージをここでは提示し得ていない。
とはいえ、これは「経済史」の本なので
「現状への提言」をここに求めても仕方ないのではあるが・・・

502korou:2019/09/22(日) 20:49:08
石井代蔵「大相撲親方列伝」(文春文庫)を読了。

旧職場から持ち帰った(処分済み)本である。
ちょうど大相撲の興行中の時期だったので
興味深く読めた(逆鉾の急死直後で、この本には鶴ヶ嶺の話も出てくる)

親方の話だけかと思いきや、その親方の現役時代の話もてんこもりで
すべての親方を網羅できてはいないものの(当たり前だが)
有力な部屋系統については半分以上語られており
相撲雑学としてこの上ない本だった。
昭和の厳しい時代の力士の生き様が中心なので
こういう世界を平成、令和に継続させていくことは
なかなか大変だろうことは容易に推察される。
ハングリーなモンゴル勢が中心になっていくことは
この本の書かれた平成初期に予言することは可能だっただろう。

直情径行な人が多いだろうことも推察できるが
やはり相撲界の発展のためには
大所高所から時代を読める人が必要で
その意味で、武蔵川ー春日野という流れは貴重だった。
その後、そうした逸材は魁傑、貴乃花くらいしか居ないのが残念で
その2人も、もはや相撲界に居ないというのが
現代の相撲界の悲劇だろう。

まあ、そういうことは抜きにして読む本で
ひたすら面白い本ではあった。

503korou:2019/09/23(月) 21:49:36
「私の履歴書 32」を読了。

植村甲午郎、岡崎嘉平太、谷川徹三、平塚らいてうという面々。
全体に読みにくい感じだった。
いわゆる履歴書という形式にそぐわない文章で
普通のエッセーであればどういうことないのだが
履歴書ということで読み始めるので
最初のうちは違和感が大きいという感じ。

そのなかで、植村氏の文章はオーソドックスで
かつ上流階級っぽい文章で、いい意味で個性が感じられた。
岡崎氏の文章は、ビジネスマン向けのエッセーとしては一流だが
これだけでは岡崎氏の仕事は半分も伝わらないので
自叙伝としては不適当。
谷川氏に至っては、一昔前の学者然とした高尚な文章で
読者が誰であるのかを全く意識していない感があった。
部分的には面白いのだが、難解な箇所が多すぎて(哲学が専門でその関係の文章が多い)
読んでいて疲れてしまう。
平塚氏の文章は、さすがに誤魔化しとか偽善とかの匂いがプンプンと漂って
旧時代の先駆者はさもありなん、という印象が強い。
本人の書いた文章ということだけが取り柄で
実際には、第三者が書いた客観的な事実を補って読む必要を感じた。

というわけで、今回は不作の一冊。

504korou:2019/09/26(木) 22:07:13
西崎伸彦「巨人軍「闇」の深層」 (文春新書)を読了。

2016年発行の新書で、当時から
いろいろなスクープで話題となっていた「文春砲」のその当事者たる敏腕記者が、
巨人軍のいろいろなスキャンダルの取材を通して知ったことを、
「闇」としてまとめた力作である。
やや読みにくい感じがしたのは
その多くが、当時、現在進行形あるいは収拾中の事件であり
まとめにくかったのではないかと推察できる。
とはいえ、これだけの調査をしてちゃんと報道した点において
なかなかの記者魂を感じるのである。

人気のあるスポーツ全般に言えることとして
体質的に反社会的勢力が食い込んでくることはやむを得ない面がある
(人気興行の世界でもそうだが)
ゆえに、重箱の隅をつつくような事実暴露は本来好ましくないのだが
マスコミにもマスコミの事情があるのだろう。
なかなか、この種の割り切れない思いばかりになる事件は
消えそうにもない。
どこかで適当に済ませておいてほしいのだが・・・
そんなことを思った読書だった。

505korou:2019/09/27(金) 17:32:51
鈴木輝一郎「何がなんでもミステリー作家になりたい!」(河出書房新社)を読了。

なかなかの良書だった。
市立図書館で偶然見つけ、ふと立ち読みしてみて
良さそうと思ったその印象のまま読み終えることができた。
途中で、やたらミステリー小説にこだわるなあ、普通の創作じゃダメなのかと思ったのだが
良く見たら書名がそうだった(当たり前の話だ!)

ずっと才能のことを考えていて
やや気弱になっていたのも事実だが
結構、手順を踏んでいけば、夢もあながち夢でないということも
教えてもらった。
何かのきっかけになれば面白い。

506korou:2019/09/28(土) 11:14:31
古橋信孝「ミステリーで読む戦後史」(平凡社新書)を断念。

ミステリーを時代との関連で検証するという前書き部分からして
なかなかのクオリティの本なのだが
残念ながら、紹介する本の梗概を記す部分が多すぎる、
結局、著者の意図に反して
単なるストーリー紹介本になっているので
読むのを途中で止めた。
もう少し紹介する本の点数を絞って
多方面からの考察を加えたほうが
意義ある著作になったと思われる。
やはりミステリーは
その時代の社会情勢だけでは分析しきれないジャンルではないかと
思われるので。

507korou:2019/10/01(火) 11:22:22
山室寛之「プロ野球復興史」(中公新書)を読了。

昭和20年から昭和33年まで
敗戦からの復興の時代から長嶋登場までのNPBの歴史を
プロ野球中心にその概観をまとめた本。
書名に”プロ野球”とあるが、内容はアマ野球も含んでおり
最初のうちは少々アマ野球の記述が多すぎるのではないかと
その分プロ野球の記述が削られているような不満もあったが
読み終わってみると、最終的には気にならない構成にも思えてきた。

著者としては、新規に発掘した資料(鈴木惣太郎とか内村祐之関係のもの)に関する部分が
この本のウリだとあとがきに書いているように見えるが
実際に読んだ感想としては
むしろ、2リーグ分裂の危機以降の詳細な経緯を記した後半部分のほうが
資料的価値があるように思われた。
もちろん大部な資料では既に書き尽くされた事柄ばかりなので
そのあたりは著者としては引用しただけということになるのだろうが
少なくとも新書版という読みやすくかつ手にとりやすい出版の形で
これほど具体的に2リーグ分裂直後の各球団の困窮の様子が記された本は
他にはないように思われるのである。
2リーグ分裂の経緯などは、部分的には新書版でも読めるのだが
その後の各球団の様子については、本書で初めて読んだような気がする。
知らない事実がたくさん載っていて、驚きと知的好奇心の満足の連独だった。

著者の意図しないところで、この本の存在価値は多いにある。
NPBの歴史に興味のある人には必須の本ではないかと思われる。

508korou:2019/10/15(火) 20:34:44
MLBなどスポーツ観戦の期間に入って
集中して読書することは不可能になっている。
鮎川哲也「黒い白鳥」、小林泰三「アリス殺し」なども借りていたのだが
結局、有栖川有栖「マジックミラー」だけ読了。

有栖川有栖なので安心して読み始め
ややスピードが出なかったものの(予想以上にスポーツ観戦が忙しい!)
途中からは一気に読めた。
もともとミステリー小説の書き方のような本を読んで
面白そうだと思い借りた本なので
今となっては
もう少し違う基準で本を選んだほうが良かったのだが
これはこれで有栖川氏の著作として美点の多い作品だったのでOKである。

ミステリー小説の感想を緻密に書くのは難しい。
ストーリーを簡潔に表現できるほどの記憶力はもはや無いし
ミステリーとしてジャンル内で完結している場合
読後感以外に何も残らない。
その何物にも代えがたい読後感こそ
ミステリーを読む醍醐味なのだが。

ということで、今回はこれ以上は書けない。
「第7章 アリバイ講義」が面白く、実際、アリバイ崩しがメインのミステリーになっている・・ということで終わり。

509korou:2019/10/16(水) 21:19:17
井上寿一「機密費外交」(講談社現代新書)を読了。

なかなかマニアックな戦前外交史の本だった。
とはいえ、全体としての印象はどうかと言えば
機密費についての分析は表面的で
史料の残った数年間という期間限定でありながら
その期間内ですら統一した記述が見られないわけで
なかなか読み易そうで実は読み進めにくい本だったことも事実である。

とはいえ(とはいえ、を連発だ)初めて知る事実も多い。
国際連盟脱退の真相は、国連による経済制裁を避けるためということで
軍による熱河作戦を止められない外務省の苦肉の策であったことがよく判る。
また、蒋介石と汪兆銘の関係も
(これは松本重治の本を参照して分かったことだが)今回初めて理解でき
南京政府の親日派の苦悩なども
今や忘れ去られようとしている歴史の一コマだろう。
こうした重要な細部を知っておくことが
あらためて大掴みに歴史を総復習する際に
以前とは違ったニュアンスで史実を理解できることになるわけだ。

その意味では、なかなか有意義な読書だった。
著者には、この本の姉妹編があるようなので
今度はそれを読んでみることにする。

510korou:2019/10/16(水) 21:27:54
筒井清忠「戦前日本のポピュリズム」(中公新書)を読了。

現代日本のポピュリズム、あるいは今海外をも席巻しているポピュリズムについて
過去の歴史から同様な流れを学べるかもしれないと思い
期待半分で読み始めた。
だが、通読した印象として
このベテラン歴史家(70才)のこれまでの研究成果を
そのままポピュリズムという文脈で再整理した感があり
それほどポピュリズムについて新しい知見が得られたわけではない。

ただし、同時並行で読み進めた「機密費外交」と同様
今まで知っていた史実について
より詳しく、より細部にわたり再復習できたのは収穫だった。
天皇中心主義が政党・財閥の腐敗構造を指摘するマスコミ、世相から
必然的に生まれてきたという指摘は頷けるし
知らず知らずのうちに一定の方向に世論を誘導してしまうマスコミの恐ろしさも
再認識できた。
5・15事件のときの新聞の論調には驚かされるし
近衛首相の人気ぶりも、当時の新聞記事の文章などで
具体的に知ることができて有意義だった。

というわけで
「機密費外交」同様、近代史の理解を深めるには最適の読書ではあった。

511korou:2019/10/17(木) 13:41:55
「私の履歴書 34」を読了。
(貝塚茂樹、杉村春子、竹鶴政孝、堀江薫雄の4氏)

多彩な面々ではあるが、まず杉村春子から。
これほど、本人の告白と客観的な史実とか
食い違っているのも珍しい。
そもそも文学座の分裂騒ぎは、この方の中国共産党びいきから起きたことで
そのことが一行も書かれていないので
読みようによっては、脱退者のわがままだけがピックアップされ
座を取り仕切る者としては被害者の立場だった、ということになりかねない。
しかし、大女優でありながら
これほどワンマンでかつ思想的に偏狭だった人も居ないのではないか。
これこそ自伝の弊害の一つかもしれない。

貝塚茂樹氏の自伝も
何か時代離れしていて、今の時代に読むのがそぐわない感を受けた。
その点、堀江氏の奮闘ぶりは
(全然状況が違ってきている現在の国際金融界ではあるものの)それなりに読み応えがある。
数々の大きな歴史的事業に関わっていて
歴史の裏側をのぞき見する愉しみのようなものか。
竹鶴氏の自伝は、職人の自伝なので、いつの時代であれ面白く読める。
ただ、この方の記述も、いくつか事実を隠して書かれているので
他の資料で補足しておくべきものである。

512korou:2019/10/20(日) 15:19:52
中島大輔「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)を読了。

県立図書館の書棚でずっと見かけていて
いつか借りようと思っていたが
気がつけば10月も下旬になり、もう借りないと、
実際に野球がTV観戦しながら実感をもって読むという時期を逸すると思い
すぐに借りて読むことにした。
予想通りとというか、予想以上に面白い本だった。
きちんと現地取材をして、それも十二分に好奇心をもって取材対象にアクセスするという
基本中の基本を踏まえた取材の結果だけに
その内容は信じるに値すると思われた。

著者があとがきにも書かれているように
中南米野球は意外なほどシステマティックに発展している。
キューバのように、そのシステムが崩れかけていたり
ベネズエラのように、政治・経済の混乱がシステムの存続を脅かせていたり
それぞれに問題も抱えてはいるものの
ひるがえって日本の現状はどうか?
野球人気は安定していて、野球人口も安心はできないものの即致命的とは言えず
そうした状況に前向きな改善など期待すらできないのではないか。
もっとシステムの構築が必要だろう。
アマ・プロ・各年代別の野球関係者が団結できるような組織ができて初めて
今、日本の野球界が何を為すべきなのかがやっと見えてくるような気がする。
この本は、陰画として、日本野球界への提言を含んでいる。
もちろん、中南米の様子自体の面白さも含めて
中南米野球の魅力も十二分に伝えていることも間違いない。

513korou:2019/10/26(土) 14:10:06
読了を断念した図書 ⇒ 井上寿一「戦争調査会」(講談社現代新書)

全部で260ページ程度の新書だが、162ページまで読んで断念した。
前半部分の調査会の発足、頓挫までの経緯部分については読破できたが
後半部分の調査会の示したデータによる戦争原因の分析の部分については
あまりに叙述が主観的で、かつ省略が著しく文意が判読できないので
読むのを止めることにした。
すでにある程度知っている史実について
それを著者の主観で並べ直して、意味不明なほど重要な部分が省かれた文章で
著者なりの論理を構築されても困るのである。

前半部分については
幣原喜重郎の意見、見識については、知るところが多かった。
しかし、他の部分では疑問も多い。
渡辺銕蔵のような特殊な思想の人間を
ことさらにピックアップして取り上げる必要がどこにあったのか不明だし
そもそも、調査会の委員に軍人が必要な理由を
会発足の経緯を記した部分で詳しく書くべきであった。
結局、それが頓挫の最大理由となるのであるから。

というわけで
著者の前作でも薄々感じたことだが
叙述能力不足が著しく読み通すに堪えない著作に思えた。
筒井清忠氏の著作でも同じような傾向を感じており
昭和史、戦前史の著作は
より慎重に選書しないと時間のムダになる可能性が高いかも。

514korou:2019/10/29(火) 15:18:16
中川右介「手塚治虫とトキワ荘」(集英社)を読了。

中川氏の最新作で、一般的にはベストセラーではないので
この時期に県立図書館で借りることができた。
いつもの中川さんの著作のレベルで
見事なまでに完成された「二次史料」となっている。
体裁としては、「江戸川乱歩と横溝正史」にそっくりで
二段組みで400ページ近い構成になっている。

ただし、正直に言って、今回は読み辛かった。
内容がつまらないのではなく
完全に暦年別に記述してあるため
前年の記述の続きが前提になり
記憶力のない自分としては
毎回毎回、前の方のページに戻って
記述を確認する必要があったからだ。
特に、脇役的存在の人物については
しまいにはWikiの力も借りて
何とか文脈を脳内でつなぎ合わせる感じにもなった。

あとは全く不満はない。
戦後から昭和30年代前半までの日本の少年漫画史について
基本的な知識は得られたように思うし
それぞれの漫画家への思いも強くなった。
この時代に描かれたマンガを読む機会があれば
ぜひ読んでみたい。

515korou:2019/11/04(月) 21:05:43
原彬久「戦後政治の証言者たち」(岩波書店)を読了。

副題が「オーラルヒストリーを往く」で
ひょっとして面白い発言がてんこもり?と期待して読み始めたが
結局、著者が多くの政治家にインタビューした時の印象深い出来事の羅列から
戦後政治史を安保改定時を中心に物語る形の本であることが判明。
ある意味”メタ「私の履歴書」”のようでもあり
多くの人名をWikiで再確認するという流れまで
「履歴書」の読書と同じになった。

岸がアイク訪日を断念したのは天皇への配慮であり
同じ思いだった宮中からもそういう懸念が寄せられていたというのは
今回強烈に印象に残った。
岸人脈についても深く知ることができた(川島、椎名、赤城という戦前からのつながりと
戦後の福田赳夫への寵愛から生まれる政権内の不協和音!)
三木武夫などの自民非主流派の動きと、野党の動静が
米大使(マッカーサー)からどう見られていたかということ。
妥協ない理念の対立は議会政治には不向きであり
体制内の見解の相違が実は最も厄介だという史実が明らかになった。

著者の得意分野と思われる社会党の分析もタメになった。
左派、右派の動きがよく分かった。
著者には社会党に関する著書があるようなので
また読んでみたい。

全体としてはマニアックな政治本という印象。

516korou:2019/11/08(金) 10:53:03
加藤陽子「戦争まで」(朝日出版社)を読了。

本当は同じ著者の「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」を借りたつもりだったのだが
読み始めて、違う本だったことに気づいた(何とも間抜けな話!)。
まあ、それでも読むに値する本だろうなと予測して読み続けると
予想通り優れた本だったので良かった。
何よりも「思い込みを排して一次史料にあたってみる」という歴史学習の初歩が
何度も繰り返し示されているのが優れた点である。
その点で、アマゾンなどでこの本を思想的に危険な本だとしてけなしている素人評者たちは
その「危険」の論拠を全く示せていないので、批評として形を成していない。
たしかに、意図的に選ばれた史料というか根拠も見受けられるのだが
それは厳然たる思想を持ち合わせた著者として当然の主張であり
それを「危険」としか評せないのは
単に考察の狭さを露呈しているだけで、この手の文章に付き合うのは時間の無駄である。
何か有意義な批評はないかと低評価ばかり見てみたが
何一つとして意味のある批評は見当たらかった。

結論として、これは優れた本であり、また次の著書を読みたくなった。
やはり、もしこの本にケチをつけるとすれば、詳し過ぎて粗雑な頭では咀嚼し切れないという点にあり
その意味で、同種の本をもう1冊読んで、しっかりと頭に入れたいと思うのである。

517korou:2019/11/18(月) 14:28:11
松沢弘陽ほか編「定本 丸山真男回顧談(上)」(岩波書店)を読了。

上下本だが、内容が濃いので
上巻だけ読了の時点で感想を書く。
とはいえ、あまりに多くの内容があり、とてもまとめきれないので
簡潔に要点だけを書く。

マルクスはヘーゲルの歴史観を受け継いでいるので
「歴史主義」としてくくれる。
それに対してギリシア以来の西欧に根強い思想として
「自然権・自然法思想」というものがあって
その見地からは「歴史主義」は「相対主義」ということになる。
逆に、マルクスの立場からは
歴史上の史実はすべて必然として起こるものとして
それを肯定的に解釈し、いかに正しく認識するべきかという
実証主義の問題となる。
同じ史実を見ても、自然法の思想からは正邪の判断が為されるのと好対照である。
マルクス主義者は、ファシズムについてその必然性を認める余地があった。
よって、戦前の日本の知識人は「転向」して、全体主義に寄与することになる。
自然法を重要視する立場としては
ファシズムについてそこまで肯定的にはなれなくても
当然ということにもなる。

書いてみて、うまくまとまらないが
まあもう少し時間を経て、都合のいいように理解することにしよう。
こういうのは重要な視点だから、とりあえず自らの意見を持っておくこうにする。
次は下巻を借りて読むことにしよう。

518korou:2019/11/18(月) 14:35:03
大下英治「昭和 闇の支配者列伝 上」(朝日文庫)を読了。

著者の得意分野の本のようだ。
特に、この上巻の後半部分は
直接、関係者(稲川聖城など)に取材しているので
なかなか生々しい。

前半の児玉誉士夫、小佐野賢治については
部分的には知っていたが
その全体像を知るに恰好の記載だった。
後半の稲川会関係の記述については
実に多くの人物が登場し
その多くがいわゆるアウトローというのも
独特の面白さだった。

全体に講談調の記述なので
とりあえず概要を知る程度の理解がベターなのだが
それにしても
知らないことばかりの現代史ということで
自分の知的嗜好にピタっとハマった。
まあ、あまり読み過ぎると
精神的にゲロを吐きそうになるゲテモノ人物伝であることも
間違いないのだが。。。

これも下巻を借りて読み続けることにしよう。

519korou:2019/11/29(金) 22:15:55
原彬久「戦後史のなかの日本社会党」(中公新書)を読了。

日本社会党がどのような変遷を経て、戦後間もなく分裂と統合を繰り返し
その後、あの魅力的な江田構想がどうやってつぶされ、なぜ何の魅力もない成田・石橋路線が継続し
そして最終的には、21世紀になる直前に壊滅したのかという一連の史実を知りたいために
1冊でそれらを網羅している貴重な新書として期待して読み始めた。

叙述は下手くそで、本来は簡単なことを
学者独特の韜晦趣味で無意味に読みにくくしている本だった。
よっぽど読むのを止めようかと思ったが
1冊ですべて網羅しているというその1点のみの魅力だけで
何とか読み終えることができた。
確かに、こうして網羅されないと、なかなか指摘されない細かい史実などは
この本を読むことで何とか整理できた。
しかし、叙述の下手さに加えて
なぜ社会党が衰退していったかという本来のテーマについての考察が
あまりに雑で、自らの視点にこだわりすぎていて
本当の戦後政治史の記述として意味を成していないのである。
総評のバックアップこそ社会党の原動力ではなかったのか?
特に80年代以降の労働者運動の低迷が
社会党を衰退させていったのではないか。
そして、土井たか子というシンボルが
一時的にそれを救済したのではなかったか。
そして、その土井さえも北朝鮮との関わりで批判されたのではないのか。
そういった一連の史実が全く語られていない政治史の本というのも信じ難い。
小沢一郎に翻弄される社会党の姿というのは、この本のおかげでよく分かったが
それだけの叙述力があるなら、もっと書けたはずなのでとても残念

520korou:2019/11/30(土) 14:01:18
大瀧詠一「大瀧詠一 Writing&Talking」(白夜書房)を読了。

全908pぎっしりと活字が詰まった大部な本で
図書館で借りてはきたものの全部読み通せるかなと
さすがに不安はよぎったが
なんとか10日ほどで読了できホッとしている。
とりあえず大瀧さんについての最低知識は
仕入れることができたと思う。

ナンセンスソングでは、やっぱり
鈴木やすし「社長さんはいい気持ち」の存在を知ったのは大きい(笑)
こんな歌、今じゃ考えられないし。
また、美空ひばり「ロカビリー剣法」なんて名曲も
この本を読まなければ到底知り得なかったところ。
また、はっぴぃえんどのアルバムについても
1曲ごと解説付きで聴くことができて(youtube時代の恩恵)
かなり理解が深まった。
その後のCM中心の時代、山下&銀次発掘時代、2年間の沈黙、
「ロング・バケイション」のヒット、佐野&杉の発掘時代と続く
大瀧詠一史。
最後のトーク編で鈴木雅之との出会いも分かり
桑原茂一氏の名前まで登場。
田代まさしまでWikiで調べたりしてww
「夢で逢えたら」と「幸せな結末」が最後の大活躍ということになるかな。

まあ、とにかくお腹いっぱい大瀧づくしでした。
これからゆっくりと消化することにします。
それにしても、こんな分厚い本、しばらく読みたくないよ(苦笑)

521korou:2019/12/07(土) 13:56:06
大下英治「昭和 闇の支配者列伝 下」(朝日文庫)を読了。

少し前に上巻を読んで、今回この下巻を読んだわけだが
今回の下巻のほうがはるかに読みどころの多い本だった。
上巻に出てくる人たちは、大物すぎる上に
もう亡くなってから相当の日数が経って直接取材はムリな存在だったので
どうしても伝聞中心の二次著作になってしまうわけだが
下巻のほうは、その点、著者自身が直接取材した相手も多く含まれており
その分、説得力の多い人物描写になっているのである。

それでも、横井英樹あたりは結構著名人だが
総会屋の小川薫、小池隆一、正木龍樹、「国会タイムズ」の五味武、
後藤田正晴、石原慎太郎らと親交があり、町井久之ゆかりのビルの処分に奮闘、
さらにマイケル・ジャクソンとも深い関係にあった朝堂院大覚などになると
そもそも詳しい小伝すら存在しないような人たちなので
たとえばWikiで以上の人たちを検索すると
引用文献は大下氏の著作になるという具合である。
たしかに、総会屋とか業界のフィクサーといった人たちの生態を
これほど生々しく描写した文章にはなかなかお目にかかれない。
朝堂院大覚の最後のあたりは怪しげな文章が目立つが
それでも他では読めない経緯が満載で
かなり面白い読書になった。
上下巻通して読むべき力作だろう。

522korou:2019/12/07(土) 14:03:03
中川右介「巨匠たちのラストコンサート」(文春新書)を読了。

信頼できる中川さんの本で、比較的軽く読めるものを、と思い
借りてきた本だが
読み進めるにつれて
今までほとんど知るところのなかったグレン・グールド、マリア・カラスなどについて
コンパクトにその生涯を知ることができたので
予想外に貴重な読書となった。
特にリパッティの高潔な人生には感銘すら覚えた。

ロストロポーヴィッチの人生も
ソ連という国家に翻弄された気の毒なものだったことを知った。
「あとがき」ですら参考になる。
本当に中川さんのような人が居て助かる、というのが実感。
ユンク君のサイトと中川さんの著作があれば
クラシック音楽を楽しむのに何の支障もないだろう。
吉田秀和、宇野功芳といった人たちについていったかつての日々が
嘘のようだ。
今の方がずっといい。

523korou:2019/12/10(火) 11:39:45
「私の履歴書 35」を読了。
(稲垣平太郎、桑原幹根、菅原通済、永野重雄の4氏)

錚々たるメンバーで
かつ稲垣、菅原両氏については既読であったが
念のため読み直してみると
やはり再読に値するというか
記憶に残っていない部分が相当あって
一度か二度読んだ程度なら
再読するに限ると思い知った次第。

皆、昭和40年代に生存していた”怪物”たちであり
その後の昭和、平成、令和には存在し得ない大物たちである。
特に、今は永野さんの「履歴書」を読了直後ということもあり
永野重雄という人、その一人だけで財界を代表できた時代というものが
懐かしくも羨ましくも感じられてならない。

その反面、前回の杉村春子の例のように
本人の独白だけでは片手落ちになることもあるので
Wikiによる「復習」も欠かせない。
まあ、この面々だと「復習」すればするほど
器の大きさを再認識するしかないことがほとんどであることも
事実なのだが。

「履歴書」を読むペースが若干落ちてきたので
県立図書館から借りた本とのバランスを計算して
読み進めることにする。

524korou:2019/12/10(火) 11:40:43
あっ、巻号が違う(「第36巻」だった!)

525korou:2019/12/15(日) 10:39:31
フレッド・シュルアーズ「イノセント・マン ビリー・ジョエル100時間インタヴューズ」(プレジデント社)を読了。

614ページに及ぶ大部な本だが
活字の段組みは1段18行でシンプルなので
本来なら、サクサク読み進められる(なんといってもビリー・ジョエルだから)はずが
全く整理されていない記述と、なぜか読みにくい翻訳の日本語のせいで
読み通すのに意外なほどエネルギーを要した。
とりあえず、読了したことで
今までは漠然としか知らなかったビリーの生きざまが
ほぼ見通せるようになったのは間違いないが
それにしても読みにくくて困ったという印象が強い。

ユダヤ系でドイツから逃れてきた家族というのは全く知らなかったし
これほど何度も結婚、離婚を繰り返していたというのも意外だった。
もっと普通に実直な人だと勝手に思い込んでいたということもあるが。
また、マネージャーとのお金をめぐる訴訟が
これほど泥沼化していたというのも初耳で
それがビリーの純真な性格からくるものだというのも
興味深かった。
1990年代途中から創作を引退し、以後はライブ活動だけというのも
公然の事実なのだろうけど、自分としては本書により初めて知った。
youtubeでビリーを聴く場合、こういうのは一番重要な事実かもしれないし。

ともあれ、疲れる読書だった。
ただ、知りたいことは、まあまあ知ることはできたかなという感じだ。

526korou:2019/12/25(水) 21:37:33
西本恵「日本野球をつくった男 石本秀一伝」(講談社)を読了。

565ページ以上ある大部な本だが
内容は、あまり文章が流暢でない人が
ひたすら石本秀一という人を讃えたくて書きまくったものなので
活字の大きさ、段組みもないということで
読み易い本ではあった。
とはいえ、講談社のような一流の出版社が出したとは思えないような粗雑な編集で、
文章の無駄な繰り返しとか
時空列を無視した混乱するだけでの叙述が異様なまでに多く
読み易い外見とはうらはらに、読んでいて結構苦痛も覚えた。
さらに、被伝者への敬意をあらゆることから優先させてしまう軽率な叙述で一貫していたので
むしろ、石本秀一への本当の評価はどうだったのか別の媒体で再確認する手間もかかり
なかなか面倒くさい読書になった。
結局、広島商業時代の功績は、当時としては「神」で今現在だとアウト(体罰以上に危険)、
阪神時代は、結果を残したので◎(ただし、選手の心は掴めていなかった)、
その後の金鯱・大洋・西鉄時代は可もナシ不可もナシ、
広島カープ創建時代は完全に◎、
中日のコーチ時代は△(結果は残したが権藤をつぶした罪は大きい、その他の投手もダメにした例が多い。柿本だけ○)、
広島のコーチ時代も△(結果はまあまあ。監督をダメにした罪は大きいし、あまり選手も育たなかった)
ということになるだろう。
以上を全部◎で評価した書いたのがこの本ということになる。

いろいろと調べて新しいことも発掘しているが、それを評価する時点で全部ダメになっている惜しい本。
日本にも本当の野球ジャーナリズムが出てきてほしいものだ、
取材される側の問題もあるので、日本社会全体の課題でもあるけれど。

527korou:2020/01/03(金) 13:58:32
中川右介「国家と音楽家」(七つ森書館)を読了。

旧年中にほとんど読み終えていたのだが
年末年始に読書の時間がなかなか取れず
やっと今日になって読了することができた。

全部で8章あって、それぞれに
国家権力に対峙した音楽家の姿が描写されている。
重いテーマだけに、しっかり書き切った場合
この程度のスペースでは済まないのだが
そこのところは、さすがにうまくまとめられていた。
しかし、本来は
こういう分量で章立てすること自体に無理があるわけで
「国家と音楽家」というテーマについて
深まった何かを提示しているとはいえないのも事実である。

この本の価値は
普段、一般的なクラシック音楽の本で
取り上げられることの少ないミュンシュ、クリュイタンス、コルトー、パデレフスキーなどが
まとまった形で語られているところにあるだろう。
また、トスカニーニ関連の記述の詳しさも
案外珍しいのではないかと思われる。
まさに中川本の面目躍如といったところだ。

528korou:2020/01/07(火) 11:22:22
「世界から見た20世紀の日本」(山川出版社)を読了。

ほとんど写真だけのビジュアル本の体裁だが
読み込んでみると、途中に挿入されている文章が
意外とボリュームがあって、かつ読みごたえもあったので
読後感としては、予想以上に面白かったという印象だ。

写真そのものには
それほど驚くほどのものはなく既視感が強い。
やはり説明の文章が面白い。
冒頭の写真のミニ歴史とか、途中の戦前の銀座の様子とか
なかなか、ありそうで見つからない感じの文章だった。
唯一、保坂正康氏の書いた戦前の日本への国際評価の文章だけは
違和感が残った。
もう少し丁寧に分析できるはずなのだが。

買ってまで読むほどの本ではないが
図書館で借りて読むにはちょうどいい感じの本だった。

529korou:2020/01/14(火) 11:41:28
まず、読了をあきらめた本について。

田中聡「電気は誰のものか 電気の事件史」(晶文社)を
全体の半分ほど読んで断念。
もともと、日本の近代において
電気事業がどのように始まり発展したかについて知りたいと思って
借りてきた本なのだが
内容が、全国各地での電気事業黎明期における個々の事件を取り上げて
その意味を歴史的というよりは「電気」というものへの哲学的な問いかけ、
ひいては文明というものへの問いかけにつながるような記述に終始していて
当初の目的とは違ってきたので
断念せざるを得なかった。
文章そのものも、あまり要領を得たものではなかったのも予想外で
これはアマゾンの書評に騙された感が強い。

530korou:2020/01/14(火) 11:50:01
次に、本日読了した
刑部芳則「古関裕而」(中公新書)について。

この4月からの朝ドラのモデルとなる人物とあって
中公新書には珍しく話題を先取りしたような企画だが
たまたま県立図書館の新刊コーナーに残っていたので(そもそも知名度は未だ低い?)
借りて読んでみた。
大学の先生の本とはいえ、あとがきに記されているように
著者は以前から個人的に好んで聴いていたらしいので
ほぼアカデミックな乾いた叙述は見られず
普通の伝記本として面白く読み進めることができた。

とにかく戦時歌謡とスポーツ物において
他に並ぶものもない第一人者であったこと、
(逆に、それ以外の分野では、第一人者の古賀政男のようには
 ヒット曲連発とはいかなかったこと、しかし昭和20年代には
 それなりに大御所らしい活躍を見せたこと)
それから、昭和30年代以降は
菊田一夫とのコンビでオペラ、ミュージカルの方面で
活躍を続けたこと
(そして、菊田の死去以降は目立った仕事はできなかったこと)(
ということがよく分かった。
逐一youtubeで楽曲を確認できる時代に読めたことも大きかった(実に良い環境になったものだ!)

コンパクトにこの大作曲家のことを知るには最適の本。

531korou:2020/01/22(水) 10:25:17
高平哲郎「スラップスティック選集⑥ ぼくのインタビュー術 入門偏」(ヨシモトブックス)を読了。

要するに、高平さんのこれまでの仕事をまとめたものが”選集”という形で発行され
その仕事のなかでも高平さんの持ち味が発揮された”インタビュー集”について
大部になるため2巻物として、その1巻目に”入門篇”と銘打ったということ。
特にインタビュー術について詳しく語られた本ではなく
初期のインタビューについて、延べ39名分まとめたものである。
2巻物に分散したとはいえ、この本についていえば
440ページに2段ぎっしりと埋まった相当な分量になり
読み通すのに予想以上に時間がかかった。
植木等、堺正章、由利徹といった個人的に関心の深い人たちも多く含まれているのに
読了に時間がかかるというのは、なかなかあり得ない。

ちょっと残念だったのは
2020年にもなると、内容が(特に具体的な作品名とか時代の流行とか)古びてきて
今更そんなこと聞かされてもという感じになってしまうことだ。
いくら昔のほうが濃い時代だったというイメージであっても
所詮、流行は流行でしかなく、あくまでも1970年代だけの話ということにもなる。
今更「ピラニア軍団」について詳しく知ってもねえ、どうしようもないねえ、という感じ。
逆に、鶴田浩二、勝新太郎あたりは、もはやそんなスケールの俳優など皆無なので
インタビューすべてが貴重で、希少価値がある。

ということで、久々に「読み疲れ」した本。
全部面白いとまではいかないが、まあそれだけのエネルギーを費やすのも仕方ない本。
2巻目はちょっと間をあけて読むことにする。

532korou:2020/01/25(土) 10:17:48
中川右介「玉三郎 勘三郎 海老蔵」(文春新書)を読了。

大変な読書だった。
平成の直近の歌舞伎界を知るのが
未知の世界である歌舞伎を知る最初のステップと考えていたが
数多い中川さんの著作の最新作がこれだったので
ちょうど良い機会だと思い借りてみたのだが・・・

とにかく家系図が込み入っていて覚えにくい。
中川さんの叙述もあまりに詳細すぎて、
ついていけない部分をWikiでいちいち確認しながら
読み進めないといけないので
一日に数時間費やして10数ページしか進まない
というような読書だった。
しかし、それだけの労力を払ったかいがあって
この本を読む前と読んだ後では
歌舞伎の家系についての理解は数段深まった。

それと同時に
必ずしも現在の歌舞伎界の将来は明るくないということにも
気付かされた。
やはり勘三郎の死の影響は未だ続いているのだろう。
今後の歌舞伎界についても関心は深まった。
多くの人にとって多分煩雑な感じの著作だと思えるが
自分にとってはタイムリーな本だった。

533korou:2020/01/27(月) 12:50:39
大下英治「平沼赳夫の宣戦布告」(河出書房新社)を読了。

途中、通産相としての政策説明とか、小泉首相の郵政民営化のみの強引な解散選挙への異議とか
長文が挿入されていたが、そこは飛ばし読み、もしくは読まなかった。
2020年の現在となっては、読む必要は全くないと言えよう。
全体として、平沼氏への提灯本という印象は免れ得ず
少なくとも明確な立ち位置は示さないはずの大下氏の著作としては
異例な感じを受けた。
やはり、世代的な共感(平沼・1939年生、大下・1944年生)があったのだろうか?
どちらにせよ、2006年の郵政選挙直前に刊行されたこの本は
その後の国際情勢とか、東日本大震災とかの重要な出来事が含まれていないわけで
個々の政治テーマについて、もはや参考程度に読むしかなく
やはり、この10数年の国の内外の動きは大きかったのだなと
改めて実感させられる。

国政に携わりながら、そのなかで岡山県在住のキーマンとどう関わっていたか
ということについては
こういう本でしか知りようがない。
伊原木一衛、石井正弘という人がどういう軸のなかにいるのか
それを知ることができたのは収穫だった。
そもそもの平沼麒一郎との関係も明確に分かった。
あとは、こういう客観的な事実に絞って
誰かが「村上・亀井グループ」そしてその中での平沼の功績をまとめてほしいと
思うだけである。
この本には、選挙応援のような、今となっては読むに値しない部分も多く含まれているので。

534korou:2020/01/28(火) 16:13:53
読了断念本。
村瀬秀信「止めたバットでツーベース」(双葉社)

NPBエッセイで面白そうに思えたが
だんだんと創作風な雰囲気になり
単なる野球小説を読んでいるような感じになったので
読む意欲を失い断念。
近藤唯之氏のことを書いた最初のエッセイで騙されてしまった。

535korou:2020/01/29(水) 18:40:36
読了断念本。
倉山満「自民党の正体」(PHP)

個性的な政治評論、というかお遊び政治本の体裁だが
やはり今流行りのネトウヨ風、対外強硬論をぶちあげる論調で
これは、借りる際に立ち読みした程度では気が付かないほど巧妙に仕組まれていて
100ページほど読んでみてやっと気づいた。
面白く政治を語る才能は貴重だが
もはや、こんな論調に付き合うヒマはない。
もっと世の中にはしっかりとした政治本があるはずなので
この本の面白さにはなかなか出会えないとはいえ
そういう本を探して読むことにする。

リトマス試験紙は幣原喜重郎と吉田茂かな。

536korou:2020/02/01(土) 11:35:15
石橋健一郎「昭和の歌舞伎 名優列伝」(淡交社)を読了。

ちょっと前に読んだ「玉三郎 勘三郎 海老蔵」(中川右介著)の
前史に当たる時代の歌舞伎名優列伝になるので
うまいこと頭の中でつながって読めた。
とはいうものの
複雑に入り組んだ歌舞伎名家の流れを把握するためには
小谷野敦「日本の有名一族」とかWikipediaの助けを借りながらの読書となり
270ページ程度の新書でありながら
読破には結構時間がかかった。
もう、これで明治末期から平成の最後あたりまでの名優については
ほぼ把握できた感じである。

石橋氏の叙述は
長年仕事として歌舞伎の調査研究に携わり
自身も幼少期から歌舞伎鑑賞を続けて歌舞伎愛に満ちた方として
冷静かつ蘊蓄に満ちたものだった。
新書サイズの著作として、これほど適切な人選はないように思われた。
自分としては
もはや、その記述の詳細を批評することなど
知識の面において不可能である。
ただ、巻末に「外題一覧」を載せるのであれば
巻頭に「歌舞伎名家系図」を載せたほうが
よっぽど読者に親切だっただろう。
まあ、これは淡交社の編集者の仕事でもあるけれど。

537korou:2020/02/01(土) 11:43:13
辻和子「歌舞伎の解剖図鑑」(エクスナレッジ)を読了。

歌舞伎の名優列伝のついでに借りた本だったが
思ったよりも中身が濃く
もし歌舞伎ファンになるのであれば
購入してもよいかなとさえ思った本だった。
最初のほうは、ビジュアル本独特の読みにくさがあり
ビジュアル部分の小さい活字は読み飛ばしていたが
途中から興味深い箇所が続き
その後に見事な名優家系図が6ページにわたって展開されているのを見て
そのあたりからは詳読モードに突入することになった。
最後の舞踊の紹介あたりは、再度飛ばし読みモードになったが
とりあえず知りたいことを最低限知り得た感じはする。

ビジュアル本は直感的に読みにくそうに見えるので
今まで借りることをなるべく避けていたが
今回借りて読んでみて
本当に知りたいことであれば結構読みがいがあることも発見。
ただし、ビジュアル部分の説明がかなり小さい活字になることが多いので
目の負担も大きいということも知った。

ということで
いろいろな角度でいろいろなことを学べた貴重な一冊。

538korou:2020/02/02(日) 14:04:19
「私の履歴書 39」をほぼ読了。

加藤辨三郎、木川田一隆、喜多六平太、水田三喜男の4名で
このうち喜多六平太については、
内容があまりに能の専門的なものに偏っていて
読み通すのに苦労しそうだったので
読むのを諦めた。

加藤氏と水田氏の文章は
人物に余裕が感じられ
いかにも明治人の余徳が偲ばれるものだった。
その点、木川田氏については
いかにもいろいろな利権の絡む仕事に関わることで
その人間性の貴重な部分を失って居られるようにも思えた。
一般的には木川田氏は、信条の人と思われていたようだが。

あまりに長期にわたって読み続けたので(大部な本を借り過ぎてそっちに労力を取られた)
もはや加藤、木川田両氏の文章の内容については
記憶が定かでない。
まあ、これも仕方ないかと思う。
さらに順番を変えて読んだりした試行錯誤もしたが
やはり順番に読んでいくことにする。

539korou:2020/02/12(水) 14:06:59
半藤一利「世界史のなかの昭和史」(平凡社)を読了。

同じ著者の「昭和史」は随分前に読んだ記憶があるが
その内容はほとんど覚えていない。
読みやすいので、昭和史全体をイメージするには重宝するが
新発見の史実とか新しい知見が書かれているわけではないので
読んだ後しばらくするとその内容を覚えておくことは難しいわけだ。
今回は、その「昭和史」とその次に書かれた「B面昭和史」に続く
世界史との関連で書かれた昭和史ということになるが
それにしても著者はこの著作の時点で90歳に近いわけで
あとがきにも本人が書かれているとおり
文章の背後からはほとばしる知的好奇心とか情熱が失われつつあることは否めない、
最初の方でそういう”緩さ”を感じてしまい
読破しようかどうか迷ったものの
最近、昭和史の通史のようなものを読了していないせいもあって
そういう意味でならと思い、なんとか読了した。
スターリンに関しては、今まで年次ごとの詳細を詳しく知らなかったので
その意味では有効な読書にはなったが
おおむね既知の史実に既知の見解が述べられていた本だった。

やはり、こうしてみると
ドイツの仲介で蒋介石と和平が可能だった時点で
結果として「蒋政権を相手せず」と国の内外に宣言した点が
昭和戦前の不幸な歴史の分岐点だったと思わざるを得ない。
そこで和平が成れば、米国もあそこまで強い態度には出れなかっただろうと思うので。
さらに中国本土で石油採掘が可能になれば
黄金の昭和史になったに違いないのだが・・・

540korou:2020/02/14(金) 09:21:01
山口瞳「追悼 上」(論創社)を読了。

ふと何のせいか判らぬまま
山口瞳の本を読みたくなることが何回かあった。
なので、先日、県立図書館に行ったときに
伝記のコーナーでこの本の背表紙を見て
さらに中をパラパラとめくって良さげな感じであったので
さっそく借りてみた(ついでに全集第一巻の「江分利満氏の優雅な生活」も)

借りる前には想像もできなかったことだが
この本を読了してみて感じたことは
山口瞳という作家は
意外なほどしっかりとした方法論に基づいて
文章をまとめているということだった。
原則は、複数(それも2つ3つでは不十分で、できれば4つ5つ)のエピソードを絡めて
ある一つのテーマについて書いていくという手法。
本文中にもあったが、それは花森安治氏からの教えによるものなのだろう。
アイデアの枯渇を恐れて出し惜しみをしているようではプロではない、
枯渇時にはレベルの低いものを出していいのだという、ある種の迷いの無さ。
それが、山口瞳という作家が書く雑文の面白さを保証しているのだと感じた。
そして、その一面で、デビュー作の作風からはなかなかイメージできない
「無頼派」としての側面も大いに感じた。
そうしたことは、今回読了しなかったけれど「江分利氏・・」のような小説にも共通しているのではないかと。
(そこまで分かった時点で、この本を精読する意義は達成されたので
 著者が精魂傾けて書き綴った梶山季之、向田邦子への「追悼文」は
 あまりに長文なので読むのを一部省略した)

なかなか「通好み」の本だと思う。

541korou:2020/02/18(火) 11:31:45
小谷野敦「日本の有名一族」(幻冬舎新書)を読了。

以前から何度も参照していた本なので
今更読了も何もないのだが
今回、なんとなく最初から最後まで目を通したので
読了報告に追加することにした。

同種の本を数冊所持しているものの
この本でないと参照できない、あるいは同系統であっても一番見やすいという点で
他には代えがたい特色を持っている本であることは
間違いない。

これ以上コメントすることはない。
自分にとって、これは基本図書みたいなものだから。
自分の棺桶に一冊本を入れるとしたら
ハルバースタムの野球の本か、この本のどちらかになるだろう。

542korou:2020/02/18(火) 11:39:18
片山杜秀・山崎浩太郎「平成音楽史」(アルテスパブリッシング)を読了。

指揮者チェックをずっと続けていて
いわゆるカラヤン没後のクラシック音楽界のことについて
自分があまりにも無知であることが気になり始めてきたので(例:ピリオド演奏とか)
こういう本を読むことで
少しは足しになるかなと思い読み始めたのだが
そういう意図以上に得るものが大きい読書となった。
特に、片山さんの思考、言葉には
大いに啓発された。
同世代ということもあり
一言一言の意味について
その言外のニュアンスまで含めて
「わかる、わかる」と頷きたくなることが多かった。
もちろん、ティーレマン、ドゥダメル、クルレンティスなど
重要な人物アイテムについて
知ることができたのも大きかった。

以上まとめて、これほどしっかりとした収穫を感じた読書は
このところなかったので
実に意義ある読書になったと感じている。
片山さんの本をいろいろと読みたくなった。

543korou:2020/02/19(水) 23:01:05
福井幸男「アメリカ大リーグにおけるイノベーションの系譜」(関西学院大学出版会)を読了。

読了といっても、19世紀MLBの記述である第1章と
MLB財務を統計学の理論で分析した最終章は読まなかった。
20世紀と21世紀の今までのMLBを
制度改革の視点で説明したそのほかの部分は全部読んだ。

すでに知っている知識の再整理という感じの読書でもあったが
もちろん知らないことも多くあり
その意味では有意義なのだけれども
記憶力に限界があり
この本で初めて知ったことを列挙せよと言われても
ほぼ何も書くことができない。
まあ趣味としてMLB観戦するにあたって
時々思い出せればいいなという程度である。
野球観戦だからそれでいいと思っている。
時としてこんな読書もある。

544korou:2020/02/24(月) 22:54:53
中川右介「阪神タイガース1985-2003」(ちくま新書)を読了。

昨年10月に刊行され、年末に県立図書館で配架されたが
2か月以上待っても「貸出中」のままで
しかも誰も予約をかけなかったので
予約して読もうと決断し、先週やっと手にした本だ。
あっという間に読み終わることは分かり切っていた。
中川さんの本でNPBの本なのだから。

今回は前回の年代と違ってごく最近なので
知らないことを確かめるといった読書になった。
なぜ、80年代後半から00年代当初まで
あんなにも低迷したのか、ということについて
ある程度の確認はできたように思う。
単純に「弱かった」のだ。
少なくとも90年代のあの1軍メンバーで勝てるわけがない。
その一因はドラフトでの無策ぶりであり
外国人選手獲得のノウハウのなさである。
決してフロントなどのゴタゴタが主要な要因ではないのだ(阪神ファンはそのことを分かっていない)。
星野時代になっても、ドラフトは改善されなかったが
どういうわけか外国人選手の人選は当たった。
その後の安定ぶりも(2位が多い)外国人がまずまず活躍するからで
ドラフトは一向に改善されていない。
ゆえに優勝頻度は低い。
(続く)

545korou:2020/02/24(月) 23:12:56
(中川右介「阪神タイガース1985-2003」(ちくま新書)の書評の続き)

日本人選手に関しては、これはどこのチームでも波があるものだ(決して阪神だけの話ではない)
その波の下方へ向かう時期が90年代に集中しただけで
そこはドラフト入団の新人による刺激と
入念な調査に基づく外国人選手の獲得による戦力維持により
優勝はともかくAクラスの実力を保つことは可能なはずである。
しかし90年代の阪神にはそのどちらもなかった。
80年代後半の没落はいかにも阪神らしく(ああいう感じの低迷は確かに他のチームではなかなかないが)
これは人気球団の宿命で、フロントが無策であればああなる(最近はもう1つの人気球団の巨人のフロントも怪しい?・・・)
90年代の低迷とはちょっと違うニュアンスは感じられる(そこはフロントを嘆くのが妥当かもしれない)

ともかく、2003年の優勝は、金本獲得が大きいと思っていたのだが、そうでないことがこの本で分かった。
アリアスが38HR打って、ウイリアムス、ムーアがあれだけ活躍したのだから
ダメ外国人が常に居た年代とは大違いだ。
あとは井川をエースに育て、今岡、藪を復活させ
かつ野村時代に育った選手をきちんと使いこなした星野の手腕だろうが
その反面で、その年の横浜ベイスターズの対阪神戦でのあまりの弱さにも
助けられた面があるのも事実。
いつも選手全部を使いこなせる監督が居るわけでもないので
今後の阪神は、ドラフトでの選手獲得方針の改善と
MLBとのパイプ強化が鍵になるのではないか。

読後、そんな感想を持った。
アマゾン書評での”事実誤認の酷い本”というのは、例示ナシなので説得力が弱い。
どこが誤認なのかさっぱり分からない。

546korou:2020/03/01(日) 20:37:00
佐藤優・片山杜秀「平成史」(小学館)を読了。

いろいろな期待を込めて読み始めた一冊。
その期待通りの内容でもあったし、やや違う感想も抱いた対談でもあった。
しかし、知的な刺激を大きく受けることは間違いない。
異論があることを承知で、二人とも持論を展開していて
博覧強記であることも加わり
終始読者を圧倒する内容になっている。

平成とは、中間団体が消滅、その世界独自のルールが消滅した時代で
個人が無所属になり、アトム化し、ある意味偶然や運が大きく左右する存在になり
その結果、絶対的存在への帰依、憧れの増大・・・にもかかわらず
すでに「大きな物語」は滅亡しているので(その代表がマルクス思想)
常に不安定な状況にあって、結局刹那主義に流れるという展開。
さらに佐藤氏は、キリスト教などの宗教の解釈を加えて
現代を分析してみせている。

なかなか簡単にはまとめにくい。
平成と言う時代は
割合と簡単な時代ではあったように思うが
それでも30年の長さを簡単にまとめることはできないのは
当たり前かもしれない。
今度は片山氏の「平成精神史」を読むことにしようか。

547korou:2020/03/03(火) 17:44:19
「私の履歴書 40」を読了。

市川忍(丸紅飯田社長)、瀬川美能留、土川元夫、水谷八重子の4名。
細かいところは、読み始めて1か月近く経っている今
あまり思い出せないが
市川、瀬川、土川の3氏の印象は
似たり寄ったりというところか。
まさに昭和30年代からの高度成長時代のリーダーたちで
その教養は大正時代に由来し
昭和戦前期にいろいろな体験を積み重ねて
その経験を十二分に生かした結果
大企業のトップに成り上ったという印象である。
ゆえに、文章の端々に独善と強気が漂い
こういう人の下で働くのはしんどいだろうなと思ったりする。
反省などは1ミリもない人たちであろうから。
水谷八重子については
水谷竹紫についてある程度知れたので良かった。
最近仕入れた歌舞伎役者についての知識が
読んでいてかなり役に立ったので
そのへんも面白い読書体験だった。

そろそろ、面白味のある財界人が居なくなってきたかな、という感じ。

548korou:2020/03/06(金) 17:23:13
広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す 上」(講談社)を読了。

退職したらじっくりと読む予定の本の最有力候補として
この本を読むのを楽しみにしていたが
思った以上に活字が小さくて
読むのに苦労した。
そうして苦労して読んだ割には
得るものが予想以上に少なかったのは大誤算だった。
そもそも叙述の時系列が無茶苦茶で
まだその肩書になるのに10数年かかるのに
もうその肩書の職権を乱用していることになっていたり
名誉職で肩書を増やしただけなのに
その財閥のなかで抜群の発言力があることに決めつけられているわけで
陰謀論としては初歩的ミスの連発と言わざるを得ない。
田中宇さんの文章も時として相当なものだが
広瀬さんのはさらにそれを超越していて荒唐無稽そのものだ。

この1年で読書嗜好が変わり
こういう本を受けつけなくなったを痛感する。
時々面白い視点、新鮮な視点があるのだが
それだけのために小さい活字を凝視する労力を使いたくないので
下巻は当分封印する。
ただし、用無し本にするかどうかは
もう少し考えて決めたい。

549korou:2020/03/11(水) 11:14:54
岡留安則「『噂の真相』25年戦記」(集英社新書)を読了。

コロナウイルス騒動の拡大で
県立図書館に行くことすら躊躇されるような時世になったので
ちょうどいい機会だと思い、購入済み未読の本を読む作業を開始。
まずこの本が視界に入ったので、作業第1弾となった。

(・・・と思ったら、たまたまこのスレの前バージョンのスレを振り返る時間があって
 読んでいたら
 何と2004年にこの本を読んで、しかもダイスポさんとそのことで会話しているではないか。
 でも・・・読んでいるはずなのに、何の記憶もないのである。
 しかも、今回この本の半分以上読み進めて、知らないことばかりだなと改めて思い直したばかりのときに
 その書き込みを見つけたわけだから、なかなかの衝撃だ。
 まあ、これ以上その衝撃を詮索したところで何も出てこないので、この件は「やはり記憶は怪しい」で済ませておこう)

改めて読み終わった印象(笑)といえば
権力への警戒感という自分の今のスタンスは
もともとそういうことがメインだった時代をノスタルジーとして感じていた20代の頃の感性を
この雑誌の発見(1992年頃?)で、見失うことなく継続させていったのだろうな、という思い。
今はこういう雑誌はそもそもにおいて理解されないだろうから(どこかでマルクス、共産党の影響もあるし)
休刊はグッドタイミングだったのだと再認識する。
そして、当時でもかなり危機感があった岡留氏の意識を文脈に認めたものの
そこから比べても断然レベル低下している今現在の状況にあって
まだ決定的な秩序崩壊に至っていないことに
不思議な幸福感を覚えた。
まあ、何の根拠もない幸福感なのだけれども。

なかなか複雑な読後感だ。

550korou:2020/03/11(水) 16:56:31
「私の履歴書 41」を読了。

緒方知三郎、小原鉄五郎、椎名悦三郎、久松潜一の4名。

緒方、久松の両名は、専門の世界で著名な学者であり
それぞれの世界での著名人も出てくるので
それなりに面白味もあったが
全体として、狭い世界での勤勉物語という趣だった。
各人物の生没年を確認することで
時期別の人間模様が明確になることが
読んでいて唯一の楽しみだったかもしれない。

小原氏は昔風の偉人だった。
今の時代に、この姿勢、態度で
ここまでリーダーシップを発揮することは難しいだろうが
昭和の途中までなら、これで完璧とも言えるわけで
時代との巡り合わせが非常に良かった例と言えるだろう。
そのおかげで徹底した哲学まで深めていっているので
いくらか現代にも参考になる考えが含まれているように思う。
椎名氏も昔風の官僚、政治家だが
さすがに何をしゃべっていいか、しゃべってはいけないかという点において
現今の政治家とは一味違って慎重かつ冷静だ。
満州への思いも、普通なら氏のような賛美は理解され難いのだが
この時代にここまで踏み込んで書いているのには驚くとともに
本当かもしれないと思わせるリアルさが感じられた。

全体に明治以来の日本が築き上げた遺産を
なんとか先人に恥じないよう継承していこうとする世代の
息苦しさと誠実さと勤勉さを感じ
ふと岩田宙造のようなパイオニア精神の権化のような人を懐かしく思った次第。

551korou:2020/03/14(土) 12:05:16
山川静夫「私のNHK物語」(文春文庫)を読了。

歌舞伎などの古典芸能の大家としても知られる山川氏だけに
最近になってその方面の知識を個人的に蓄えてきたところで
さあ読んでみるかという感じで読み始めたのだが
読み終えた今の感想からいえば
ほぼ古典芸能の細かい話は出なかったなということになる。
もちろん、大阪放送局時代の話として
文楽のことは詳しく書かれていたし
随所に歌舞伎のことは出ていたのだが
それよりも、若い修業時代の頃は
意外なほどの遊び人で無茶し放題の人だったことが分かり
予想外ともいえる破天荒な面白さに目を見張らされた。
皆が知るあの温厚そうな佇まいからは想像もできないことである。
NHKアナについてのイメージが一変するような本だ。
(今はさすがにここまでの豪傑はあまり居ないのだろうけど)

考えてみれば、なんとなくNHKの有名アナになっていたような感じで
思ったほど人気番組というものを持っていなかったような印象を受けた。
「昼のプレゼント」にしても、個人的には感心しなかったし(一般には好評だったように書かれてはいるが)
宮田輝の後を受けて「ふるさとの歌まつり」の後番組をするにはさすがに大変だろうし
あの冴えなかった時代のNHKの歌番組を担当するのは貧乏クジでしかないし
「ウルトラアイ」にしても地味すぎるし
やはり「紅白」の山川でしかないだろう。
でも「紅白」だけであれだけの名声が得られたというのも不思議だ。
やはり分からないことも多く残ったが
どちらにせよ楽しい爆笑本でもあり面白かった。

552korou:2020/03/21(土) 13:40:35
「私の履歴書 42」を読了。

安西正夫、井伏鱒二、屋良朝苗、吉住慈恭一の4名。
この巻は、(安西正夫は除くが)感銘を受ける方々ばかり揃った。
安西氏にしても森矗昶のことをこれだけ詳しく書ける人は他に居ないので(女婿でもあるので)
1巻まるごと(廃棄せず)保存することにした。

井伏さんの文章の確かさには唸らされた。
やはり小説家ともなるとよく人を観察していて
実業家の書く自伝とは一味違う。
個々のエピソードが雑然と続けているだけのようにみえて
実は、大正・昭和戦前期の人間模様が
イメージ豊かに描かれている。
屋良さんについては
沖縄出身者の「履歴書」は初めてだったので
いろいろと印象深く
県立図書館で「沖縄現代史」の本を借りて
知識を補足することにしたほどだ。
吉住さんに至っては、全く知らない分野(長唄)の人だったが
この履歴書の書かれた昭和45年の時点で93歳という高齢で
しかも、芸事なので若い時から第一線で活躍できたこういう方などは
明治の中頃からの様子が具体的に書かれているという
実に貴重なものである。
黒田清隆のエピソードなど、それを1970年の時点で生々しく語れる人が
現存していたのだから仰天だ。
いいものを読ませてもらったという感がある。

553korou:2020/03/26(木) 16:13:56
広瀬隆「億万長者はハリウッドを殺す 下」(講談社)を読了。

コロナウイルス騒動のおかげで
外出もままならず
本来ならもっと先に読むはずだったこの本を
今日読了してしまった。
とはいえ上巻よりは面白かった。
すでにこの著者独特の牽強付会に慣れてきた上に
上巻よりはミステリー仕込みの叙述が多く
そのミステリー自体が自分にとってリアルタイムに近いこともあって
より具体的にイメージすることができたからだ。
相変わらず強引だ(笑)
しかし、マッカーシーの没落、映画人の具体的な活動、ナチスの亡霊、
あるいは原子力をめぐるアメリカ世論など
この本でならでは物の見方というものも知ることができた。
もう少し広瀬節に付き合ってみようか。
次はその後の10数年の世界を読んでみよう。

554korou:2020/03/30(月) 20:59:50
櫻澤誠「沖縄現代史」(中公新書)を読了。

屋良朝苗氏の”履歴書”を読んだ勢いで
県立図書館で沖縄の現代史の本を借りてきたが
なかなか辛い読書だった。
著者が若くてまだ生硬な文章しか書けない人で
例えば要約の部分を示唆しながら
その直後に全然別の事実を詳述したりする初歩的なミスから
そもそもどういう立場でその史実をとらえているのかという
著者の思想面も曖昧で
いろいろなレベルでの読みにくさが混在していた。
さらに自分自身が沖縄現代史について
初歩的な知識すら持ち合わせていないことも
読書のスピードを妨げた。

とはいえ、それなりに収穫もあった。
それこそ初歩的な知識はいくつか知ることができた。
また現代の沖縄独特の捻じれた意見、思想について
その捻じれ具合についてもイメージを持つことができた。
また重要人物の数人についても
その生きざまを参照することができた。

あとは、もう1回、コンパクトなサイズでいいので
もっとこなれた文章で通史を再読したい。

555korou:2020/04/10(金) 10:45:06
広瀬隆「アメリカの経済支配者たち」(集英社新書)を読了。

1985年時点での米国政治経済の支配者層を描いた上下2冊の本を読了し
次は1999年時点での同様な視点によるこの本を読み
さらにこの次には2000年代になった米国の同様な視点の本を読む予定だった。
しかし、この本を読んでいる途中で
どうも読んでいる間の幸福感が感じられなくなり
(これは以前も上下本の上巻を読み終わったときに感じたことでもあるが)
次の本はしばし保留することにしたい。

今回のこの本は
ロスチャイルドも含め、さらにIT長者、マスコミ、金鉱利権者からCIAに至るまで
対象を広げた本である。
その代わり、歴史的な叙述はカットされ
おおむね19世紀以来の大財閥としての振る舞いが概説されている。
その意味では、雑学としてタメになる本ではあるのだが
なにせ対象が広すぎて、もはや何が何だか分からないほど
話がとっちらかり、散漫な印象は拭えない。
もうこれだけの蘊蓄は覚えきれない。
そんな妙な敗北感が読後感としてよぎってくる。
まあ、この種の本は、あまり根を詰めて読まないほうがいいのだろう。

そうでなくても、なんとなく
(目の状態とかコロナウイルスで悶々とした状況のなかで)読書のペースが進まない今現在なので。

556korou:2020/04/15(水) 09:04:04
阿部眞之助「近代政治家評伝」(文春学藝ライブラリー)を読了。

戦前の東京毎日で学芸部長として名を馳せ
戦後はNHK会長となりその職のまま死去した
辛辣な人物批評で知られる著者が
1953年頃に雑誌に連載した人物評をまとめた文庫本。
取り上げられた人物は
山縣有朋、星亨、原敬、伊藤博文、大隈重信、西園寺公望、
加藤高明、犬養毅、大久保利通、板垣退助、桂太郎、東條英機
という12名。
明治から昭和に至るまでの政界における重要人物を取り上げておきながら
誰一人として褒められた人は居ないというくらい
辛辣な評伝となっており
特に伊藤と西園寺はもう少し功績を評価してあげても良かったのではないか
と思えるほどだ。
やはり実際に記者として取材した相手である加藤と犬養に関しては
わずかではあるが情が移っている気配が感じられるが
総体的には敗戦国日本はなぜ生まれたかという
この本が書かれた時期には皆思っていた疑問に答えるべく
そこまでの支配者層に対しての評価は極めて厳しい。

個人的には、原、伊藤、大隈、西園寺、加藤、犬養、大久保は
現代の政治家より遥かに優れていると思う。
逆に山縣、星、板垣、桂、東條などという連中は
いつの時代でも居るような普通の人々ではないかと思っている。
まあ、全体として、明治・大正の政治史を知る意味で
有意義な読書にはなったはず。

557korou:2020/04/20(月) 09:25:32
岡本綺堂「風俗 明治東京物語」(河出文庫)を読了。

明治の政治家の話を読んでいたら
この本のことを思い出し、ついつい読んでしまった。
以前から読んでみたい本ではあったが
以前は読み始めても内容が頭の中に入ってこないことが多く
自分の知識が足りないことを痛感するばかりだった。
それから比べれば
特に歌舞伎あたりの知識が以前より増えたこともあり
今回はまあまあ理解が進んで
最後まで読み進めることができた。

前半は各項目(湯屋、相撲、劇場など)について
そのおおまかな仕組みの説明があって
それがいかに昭和初期(執筆時の時代)と違っているかを
示す叙述であるのに対し
後半は、まさにエッセーそのもので
明治時代の東京の風景が偲ばれる名文となっていた。
おもに後半の叙述に魅了された。
なかなか、ここまで具体的に描写できる方も珍しいのではないか。
昭和初期であってもそうであったように
令和のこの時代では、なかなか貴重な読書となった。

558korou:2020/04/24(金) 12:00:42
「私の履歴書 43」を読了。

宇佐美洵、川口松太郎、三宅正一、茂木啓三郎の4名。
いずれの方の文章も飽きずに読むことができた。
絶対に他では読めないということではないが
今読んでいて良かったという実感はある。

宇佐美氏は環境(加藤高明、池田成彬など)に恵まれ
その環境の中で順調に推移した人生だった。
今思い出しても、他の3名と比べて印象は薄いのは事実。
川口氏の生きざまは、まさに古い世代で
いろいろなことを思い出させてくれた。
昭和というより、明治・大正・昭和戦前の感性だろう。
執筆時の昭和戦後期への嫌悪がにじみ出ているように思えた。
ゆえに関東大震災のところで「履歴書」は終わっている。
三宅正一氏と茂木啓三郎氏については
今まで深くは知らなかった人たちだが
今回読んでみて、昭和初期の労働争議について
いろいろと知ることが多く
その意味では蘊蓄が一気に増えた。

いかにも昭和の履歴書という面々だった。

559korou:2020/04/29(水) 09:19:59
石井妙子「日本の血脈」(文春文庫)を読了。

ずっと県立図書館の文庫の棚で見かけていて
いつか借りようと思っていたのだが
今回借りてみて読んでみて
これだけの内容であればもっと早く読むべきだったと
悔やまれた。
よくあるタイプの列伝が
しっかりとした女性目線で描くことで
こんなにも違った印象になるというお手本のような著作だった。
最初の小泉進次郎の章からして
ユニークな切り口が功を奏していて
典型的な女系家族をこの切り口で描けば
従来の小泉本とは全然違うイメージになるのは当然だった。
さらに香川照之、堤康次郎、小沢一郎、小澤征爾の章に至っては
わずか40ページ足らずの評伝ながら
大部の伝記ですら伝え損ねている重要なファクターを
浮かび上がらせることに成功している。
逆に女性を取り上げた章では(中島みゆき、オノヨーコ、紀子妃、美智子妃)
同性として分かってしまう部分が大きいのか
むしろ2,3代前の人物に焦点が当たり過ぎて(その追跡自体が面白いということもあるが)
ややピンボケという印象を受けた。
とはいえ、どの章も読みごたえがあって
久々に素晴らしい列伝に出会った感がある。

560korou:2020/04/29(水) 09:48:00
小林一夫「マンガでわかる楽譜入門」(誠文堂新光社)を読了。

全編マンガで200ページ足らず、しかも初歩的なことばかり書いてある本なので
”読了”の名に値するかどうか怪しいが
まあとにかく全部目を通してみた。
期待していたほどの内容ではなく
まさに入門編という感じである。
本当のところは、
和声のしくみのようなものが直感的に理解できるようになればラッキー
ということを期待して図書館で借りてみたのだが
そういう内容ではなかった。
まあ、こういうこともよくあるので仕方ないところか。

561korou:2020/05/02(土) 20:39:46
大下英治「ふたりの怪物 二階俊博と菅義偉」(MdNコーポレーション)を読了。

現代の政治家についても知っておこうと
県立図書館で借りてみた。
しかし、最近の大下本はダメなものが多い。
この本も、半分以上が二階、菅へのヨイショばかりで
提灯本の類と言われても仕方ないだろう。
そういう部分は読んでいてつまらないので
この本の3分の1近くはスルーして読み進めた。

さすがに二次資料の使い回しはせず
直接、関係の議員などに取材し、それをまとめて書いているのだが
問題は、その記述に何の批判、問題提起もないことだ、
ゆえに、この本のなかでわずかな部分ながら役立つ記載は
事実関係のみになってくる。
したがって、この本で事実関係の記述が出てくると
それをWikiで確認し
さらにキーワードについて追跡検索するという読書になった。
それにしても
限られた範囲での取材だったのに
不祥事で辞任した大臣だとか
現在捜査の手が進んでいる河井議員とか
グレーな人たちばかりになっているのが
いかにも皮肉である。
”怪物”どころか、せいぜい”怪物くん”程度の大物だろう。
まあ民主党末期よりはマシ、という程度か。

562korou:2020/05/05(火) 11:15:58
坪内祐三「昭和の子供だ君たちも」(新潮社)を読了。

最初のほうを読んでみて
期待した内容と違った感じを受けたので
しばらく放置していたが
それから思い直して再読したところ
意外と面白く読み進めることができ
途中からは一気読みとなった。
つまり、何か結論めいたもの、蘊蓄になり得るものを求めると
坪内さんのスタイルだとそれは難しく
読者は自らの読書スタイルを一旦保留して
坪内スタイルに合わせていくことによって
この著者の本はどんどん輝いていくということなのだろう。

書いている内容があらぬ方向に飛びまくり
全然まとめに入らないのが不思議なのだが
同じようなペダンチックな文体の山口昌男の文章とはまた違って
全然蘊蓄の形にならず、どこまでも雑学のレベルに留まるのが
いかにも個性的だ(坪内、山口に交流があるのも面白い)。
自らも雑学をため込んでいる人で、世代論に興味のある人にはタメになる本だが
随分と間口の狭い本で、興味のない人には全然無意味な本にも思える。

まあ自分としてはこれほど面白い本、ユニークな本はないと思ったのだが。
似たものを自分でも書きたくなった。

563korou:2020/05/28(木) 11:19:48
何と23日ぶりの読了。
県立図書館がコロナ関係で休館だったとはいえ
結構間が空いてしまった。
その図書館で借りた本
内田宗治「外国人が見た日本」(中公新書)を読了。

思ったよりも良い本だった。
明治以降の外国人旅行者の動向が
最低限の史料引用により
読みやすく、かつ説得力のある叙述で
書かれていた。
この種の本では出色の出来だと思う。
いろいろと感想が書けると思ったのだが
久々の書評のせいか
これ以上言葉が出てこない。
いい本なのにねえ・・・

564korou:2020/05/29(金) 14:40:01
小島直記「日本策士伝 資本主義をつくった男たち」(中公文庫)を読了。

今まで、小島氏の本をしっかりと読んだことがなかったので
ある意味読破を楽しみにしていたのだが
いざ読んでみると、同じエピソードの反復、意味不明な文脈の文章、
型にはまった人物評などが延々と続くのには閉口した。
一番問題なのは
この種の列伝形式で最もやってはいけないこと、取り上げる人物が
多すぎて叙述が中途半端になる、という素人同然のミスを
平気でやっていることである。
さあ、これからこの人たちはどうなるのかと期待を高めたところで
いきなり全然別の人物伝が始まるという展開だったので
大いに読書意欲が削がれた。
披露されるエピソードの数々は
質量共に現代人教養レベルを遥かに超えているのだが
それをこんな雑な形で並べてしまっては
もったいないことこの上ない。
もしWikiというものがなかったら
到底この本を読破することはムリだったに違いない。
Wikiのせいで、少しは役に立ったこの本だが
もう、この著者の本は読まないことにする。

565korou:2020/06/02(火) 13:56:32
「私の履歴書 44」を読了。

冲中重雄、渋谷天外、土井正治、和田恒輔の4名。
冲中、土井、和田のお三方は、いずれも超真面目人間で
読んでいて息苦しかった。
こんなタイプの上司だと、寿命がいくつあっても足りないだろう。
そのなかで渋谷さんは、対照的なくらい破天荒な人生である。
ただし、当の本人はいたって真摯に生きて居られて
その点では、他の3名と同じと言ってよい。
それにしても
偶然なのか必然なのか
こうした真面目な人たちが多数居られたことが
戦後日本の高度経済成長を支えていったのは
まぎれもない事実である。
そして、その姿勢が
根本的には間違っていなくても
その手法において、今の日本には
それほど重要なものではなくなりつつあることも。
こういう手法からは早く脱して
低成長の時代にふさわしい哲学、手法を定着させる必要があるだろう。
この種の「履歴書」を読むたびにそう感じる。

566korou:2020/06/14(日) 21:48:48
「日本人が知っておきたいアフリカ53か国のすべて」(PHP文庫)を読了。

アフリカについてちょっと知っておきたいと思い
県立図書館で借りた本だが
その目的に沿った非常に良い本だった。
コンパクトで叙述が簡潔で分かりやすい。
税込み700円程度の本でこれだけの知識が得られるのなら
お買い得なので、本屋で購入しようかと思ったりもしている。

それにしても貧しい国、政情不安な国が多い。
欧米諸国はそういう国が生まれる原因を作って
何の謝罪もなく、結果だけを非難しているが
フェアでない。
同じフェアでないのなら
自国中心主義とはいえ中国のやっていることは
案外人類全体のためになるのではないかとさえ思う。
もちろん、世界全体の監視も必要なのだが。
日本もその気になれば結構良い貿易相手になるはずだが
そもそも政情不安を解決できる能力がないので
仕方ない。
中国の後釜をうかがい、おこぼれを頂戴するしかないだろう。
残念ながら。

また熟読してみたいと思う本である(どうせ大半の知識を忘れるので)

567korou:2020/06/15(月) 21:34:16
読了しなかった本について

・宇沢弘文「宇沢弘文傑作論文集全ファイル」(東洋経済新報社)

宇沢先生の論文を集めたものだが、当方の能力不足というか読書意欲減退の季節だったため
十分に読めるレベルのエッセイ風の文章が多かったにもかかわらず、4分の1程度の読了で
終わってしまった。第Ⅰ部「社会的共通資本への軌跡」、第Ⅱ部「『自動車の社会的費用』
を著す」は完読、第Ⅲ部「近代経済学の限界と社会的共通資本」の第10章「勢いづく市場
原理主義への懐疑」の途中まで(144pまで)、他に第Ⅵ部「教育と社会的共通資本」の
第23章・第24章と第25章の途中までを読んだが、もう少し医療関係とかも読みたかった。
また読書意欲が上昇気味のときに読み進めたい。

・「カート・ヴォネガット全短編 2」

創作をそろそろ始めないといけないなあと思い借りた本。しかし、今一つ自分の求めている
ものと違ったのと、むしろ筒井康隆のほうがいいのではと思い出したりして、集中して読む
ことにはならなかった。

568korou:2020/06/19(金) 09:54:11
「私の履歴書 45」を読了。

石井光次郎、石田和外、尾上多賀之丞、小林勇の4名。
多彩なメンバーではあるが、なぜか印象に残る人は特になかった。
大体イメージ通りの人生を歩んでいる感じで
ただ石田氏のウルトラ右翼ぶりには辟易したというところか。
読了に2週間以上かかるので
最初のほうはすでに忘れかけているのが実情で
今までは、それでもページをめくり直して感想を記していたが
今回はそれほどの意欲も起きない。
まあ、こんなものかという程度。
それなりに皆大御所なのだが・・・

569korou:2020/06/24(水) 11:17:10
宮城大蔵「海洋国家 日本の戦後史」(ちくま学芸文庫)を読了。

大変面白かった。夢中で読んだ。
ここ最近、これほど知的興奮を満足させる本に
出合ったことはないと言ってもよい。
おもに戦後の日本外交の話で
しかも対象が対米ではなく対アジアというのが
視点として新鮮だった。
そして、記述が近年公開された史料に立脚した正確なものと推定できるので
安心して読み進めることができるのもポイントが高い。
最終的な論の着地点も、常識的なラインを外さず
単に常識的であるというレベルを超えて
それまでの論旨に沿った必然性を持ったそれであることも
説得力を増すものとなっている。

戦後すぐにネール(&ガンジー)の知名度が高かったのはなぜか。
スカルノ、スハルトのような傑出した政治家が日本ではそれほど著名でないのはなぜか。
周恩来の苦悩についてその真意は何か。
福田赳夫がアジア外交に成功した印象があるのはなぜか。
そうした素朴な疑問はほぼすべてこの本のなかに回答のヒントがある。
そして、英米のアジア外交のズレ、日本の微妙な政治的立ち位置など
本書によって認識を新たにすることは多かった。
著者の着眼点、分析力に感謝あるのみだ。
今年最高の読書になった(あえて断言!)

570korou:2020/06/25(木) 11:57:13
野村克也「私のプロ野球80年史」(小学館)を読了。

野村氏の著作は、あまりに多く出過ぎていて
もはや同じことの繰り返しになっている感じなので
読書意欲が湧かなくなっているのが事実だが
これは「NPB80年史」ということで、あえて手に取ってみた。
しかし、残念ながら、旧世代からの”ぼやき”以上のメッセージは
この本からは感じられなかった。
もう少し”史実”をそのまま記録してほしかったのだが
なぜか野村氏はそういう”単なる記録”を書こうとしない(しないまま亡くなられた)。
実に惜しいことである。
多分、物事をもう少し単純に考えているはずの張本氏の場合
結構、昔(昭和30年代とか)のことをそのまま書いているのと好対照だ。
野球も社会現象なので
旧世代が物申せる分野は限られてくるが
そのことを野村さんほどの教養がある人でさえ
真の意味で分かっていないのが残念である。

久々に野村氏の本を読んで、そういう思いを深くした。
まあ、自分が対戦したなかで一番の速球は山口高志だ、というような
興味深い記述などは面白いのだが。

571korou:2020/07/07(火) 09:38:05
佐々木実「資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界」(講談社)を読了。

県立図書館で予約までして借りた本だ。
読み始めると、ほぼ伝記スタイルなので
これはラッキーと思い、そのまま読み進めたのだが
そのうち経済理論の概略が次々と続く展開となり
ほぼ皆無に等しい自分の近代経済学への知識では
完全理解が難しい読書に急変した。
しかし、著者の優れた文章力に助けられ
また宇沢氏の優れた生きざまに魅了され
なんとか最後のページまでたどり着いたというのが実情である。

厳しい読書だったが得るものもそれに比例して多かったと言える。
新しい知見、知らなかった事実というものがあまりに多いので
ここにそれを要約して書評の形にすることすら、ままならない感じだ。
最後のほうで、丸山真男の「日本にはユートピア思想がない」という言葉から
宇沢は日本では孤独なユートピア思想家だったという著者の見解が書かれていて
それがこの本が著される真の動機ではなかったかと推察された。
liberalismから社会的共通資本の発想に至る宇沢哲学、これこそ
未来の日本が辿るべきユートピア思想なのだろう。
これから順次咀嚼して、自らの思考への刺激とするしかない。
それ以上のことは自分にはムリだろうから。

572korou:2020/07/08(水) 22:55:03
宮城大蔵「現代日本外交史」(中公新書)を読了。

前回の宮城氏の著作が大変面白かっただけに
同じ著者による、こういう通史のような本を読むことは
読む前からワクワクするものがあった。
その期待感、ワクワク感に100%達成感、満足感があったかどうかは
今のところ断言はできないが
少なくとも、同時代史の強みというか、いろいろなことを思い出す契機になったことは
間違いないところである。
いろいろなことを覚えているようで、その実、実際のところは
新聞などの現在進行形のメディアによる情報だけにとどまっていることも多いのが
現代史の基礎認識としてありがちなことで
この本では、その情報の一歩先を丹念に書いてくれているところがありがたいし、
その一歩先の情報源がそれぞれの当事者からのオーラル・ヒストリーの成果でもあることが
あとがきに書いてあるので、とりあえずは
”一次資料による史実の1つ”という位置づけも可能なわけだ。

橋本龍太郎の外交の功罪(肝心なところで肝っ玉が小さい小心者であることが当時の日本の国益を損なっている!)とか
鳩山外交の限界(孤独な夢想家であり過ぎた。そういう人を神輿に上げて、勝手な外交をした岡田外相の真意は謎!)とか
野田首相の苦渋に満ちた尖閣諸島国有化のタイミングとか
なかなか興味深い史実を、この本で初めて知った。
またしても宮城本の面白さを知った思いである。
(それにしても、岡田克也という男は、宇沢弘文氏を民主党から遠ざけ、鳩山外交を堂々と外相の立場で邪魔した。
 ケシカラン男だなあ、ホントに)

573korou:2020/07/15(水) 12:02:01
「世界の覇権企業」(KAWADE夢文庫)を読了。

県立図書館で、あまり中身も見ずにとっさに借りた本だが
読み終わってみると、広瀬隆氏の著作を継いだ形の
中田安彦「世界を動かす人脈」の続編のような本だと思った。
となれば、途中止めにしている広瀬隆「アメリカの保守本流」を参考にしつつ
中田本を読んでも面白いかなと思ったりする。

すでに日本の企業など影も形もなく
もっぱらアメリカと中国の企業が覇を競う世界経済の世界を
いくらかヨーロッパの企業も含めながら
そのビッグ・カンパニーを逐一概説した
コンパクトながらなかなかよくまとまった本である。
上記中田本は2008年刊行だが
そこからも世界は激変していることに気づかされ
21世紀の世界の動きの速さに驚かざるを得ない。

なかなか有益な本だった。
テキトーに選んだ本だが
同じくテキトーに選んだ「経済で読み解く日本史 明治時代」(上念司)が
とんでもない本だったのに比べて
これは”当たり”だった。


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