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本のブログ(2013年から新規)

1korou:2012/12/31(月) 18:30:01
前の「本」スレッドが
書き込み数1000に近づいて、書き込み不可になる見込みなので
2013年から新規スレッドとします。
(前スレッドの検索が直接使えないのは痛いですが仕方ない)

2korou:2013/01/03(木) 10:54:37
2013年最初の読了本は、横山俊之・熊代正英「岡山の夏目金之助(漱石)」(日本文教出版<岡山文庫>)

当HPのコンテンツ(コラム)に関係する話なので
興味津々かつ若干の不安も覚えつつ読み進めた。
いきなり、最初ページにおいて
無味乾燥な夏目家の事情がぎっちりとした活字で詰め込んであり
やや読みにくさを覚えたものの
そこを乗り切ると、あとはいつもの”楽しい伝記読書”のペースに持ち込むことができ
青空文庫とかWikipediaを参照しながらの至福の時間を過ごすことができた。

前半の漱石岡山逗留部分と、後半の愛弟子湯浅廉孫の部分とが
異なる著者によって書かれたにもかかわらず
意外なほど文章の雰囲気がマッチして
1冊の本として、漱石の内面に深く迫れた好著になっていたのには
感心させられた。
市井の研究者・愛好者と、文学館の研修者との見事な連携プレーのようにも思える。

特に後半の湯浅廉孫との関係は初耳で
山陽新聞社発行の人名辞典にも湯浅のことは書かれていなかったので
今回の読書の大きな収穫である。
全体を通じて漱石の人間味がよく伝わってきて
やはり大きな人物だという印象を新たにした。

というわけで、コラムの内容も大幅に書き換えないといけなくなった。
正月からこりゃ大変だ(苦笑)
本そのものは、やや人を選ぶものの、まあオススメの部類だろう。
国吉康雄のときの本といい、やはり岡山文庫の伝記は侮れない。

3korou:2013/01/06(日) 22:41:25
小林信彦「和菓子屋の息子」(新潮文庫)を読了。

昨年の途中から読み始めて、途中から「これは読み急いではいけない。最上の愉楽として
いざという時のためにとっておくべき本だ」と思い直し、ゆっくりゆっくりと読むことにした本である。
それを、今になって、一気に最後まで読み通したのは
今現在、600ページ級の大著を2冊同時に並行して読んでいるため
当分の間、読み通す喜びに浸れないのではないかという危機感が生じたためである。

もともと、小林さんの本を買って、それを読まないということなど
あり得ない話だった。
ところが、なぜか、この本だけは、買ったのがもう数年前なのに
読み進め始めることができたのは、やっと昨年の途中という不思議なことになっていた。
読み進めてみて、そして、今読み終えてみて
買った直後の「(読み始めることへの)ためらい」は何だったのか
もはや想像することもできない。
これほど愉しい本はなかなかない。
小林信彦ファンなら、即頷いてもらえると思うのだが。

終始、小林さんの感性で、昭和戦前期の東京下町の世界を描いた本であり
その上に、小林さんの少年期の芸能文化への思い出も追記されている。
面白くないはずがない。

やむを得ない事情とはいえ、読み終えてしまった。
明日から、この本を読もうかという気分のとき、どうすればいいのか
途方にくれる思いで居る。
この種の本の代わりは、そうそうあるものではないのだから。

4korou:2013/01/08(火) 22:24:30
川村元気「世界から猫が消えたなら」(マガジンハウス)を読了。

たまたま、日経エンタテインメント2月号で、秋元康との対談を読んだばかりで
あまり期待感もなく、ただ話題提供のためだけに読み始めた。
設定が分かるまでの文章が、いかにも稚拙でげんなりするが
その設定が動き出して、説明の文章が描写の文章に変化していく感じは
思いがけず読ませる雰囲気があった。

しかし、ある程度「型」を踏んでリズムをつけたいところで
この作者は変化球ばかり投げてくる。
そして、途中からは、ややセンチメンタルな地点へ読者を連れ込もう、連れ込もうと
ひたすらライトな文章のまま踏ん張るのである。
この地点へいくのならば、もっと小説独自の文体で引っ張らないと無理である。
もっと自由に、設定を軽やかに展開して、ライトな文章のまま
主人公を意外な未来へと連れていくべきだっただろう。

このままでは、いわゆるリアル系の読者、10代のそれしか、食いついてこないはず。
それがアマゾンで意外と好評なのは
いかに今の日本で軽い文体が抵抗なく好まれているかが分かるのである。

読書をしない人に、ちょっとだけ安っぽいけど感動を与える、というたぐいの本。
読書好きには、ライトな文体なので読み通せるものの、後に何も残らないたぐいの本。

5korou:2013/01/13(日) 22:06:15
岡部伸「消えたヤルタ密約緊急電」(新潮選書)を読了。

詳細な書評は、昨日のmixiの日記で書いた。
とにかく、読み通すのにエネルギーがいった本で
年末年始は、これと(今読書中の)「東京プリズン」という二大分厚書物のせいで
にっちもさっちもいかないのではないかと自業自得の心配までしてしまった。
とりあえず半分は終わった。

上記mixi書評を書いているうちに
これは、ヤルタ密約緊急電の話が凄いというよりも
その当事者であった小野寺信という人物の素晴らしさを知るための本なのだという風に
確信を持つに至った。
これほどのインテリジェンスはなかなかお目にかかれない(日本人スパイとして)
それを知るだけでもこの本の価値はある。

ということで、日本近現代史の愛好者にはオススメ・・・というより
とうにこの本の存在は知っていて、皆満足したに違いない。

6korou:2013/01/13(日) 22:11:26
ビートたけし「間抜けの構造」(新潮新書)を読了。

これは、前記図書と比べて、いかにも薄く、読みやすく、あっという間の読書だった。
野村克也の本と似ていて、同じようなことをいろいろな本に書きまくる癖のある著者だが
時々、野村の本で優れた本があるのにも似ていて
これはこれで、そこそこ面白いと思った。
同工異曲でウンザリというたぐいではない。

すべて自分の知っている分野、十分周知している分野に話をまとめているのが
説得力のある文章になった原因だろう。
その点、漫才、映画、スポーツ、落語、テレビという風に得意分野が多い著者は
こういう著作にぴったりと言える。

ビートたけしが嫌いな人まで巻き込めるか?といえば、どうかなということになる。
あくまでも、著者に興味がある、著者が好きだという人のための本ではあるが
図書館などで見かけたら。借りても決して損ではないというだけのクオリティは持っている。
まあ買って熟読って感じではないので、買うのは惜しいかな、というところ。

7korou:2013/01/18(金) 17:11:19
鈴木直道「やらなきゃゼロ!」(岩波ジュニア新書)を読了。

最初からサクサクと読ませる勢いのある文章で
かつ興味のある内容でもあったので、昨日から一気読みで読了。
石原慎太郎がとても「いい人」で登場してくるのだけが癪にさわるがww
まあ、とてもいい人間関係に巡り合えたなあという感想と
それだけの努力をこの著者はこなしてきていると思った。
思春期での突然の生活困難が、この人を鍛えたのだろう。
鍛えられた中高生時代から、そのまま社会人、勤労学生となり
まさに休むことを知らない昔ながらのモーレツ日本人が完成したということだろうか。
「首長パンチ」の著者とは、また違った異色の行政マン、市長である。

かといって、もう衰えるだけの自分には、特に実践すべき教訓もない。
若いうちにこれだけの体験を積んでいる人というのは
ある意味、自分には無意味な存在でもある。

ということで、要約すれば、行政マンになりたい人にオススメ、ぴったりの本である。

8korou:2013/01/21(月) 22:46:44
越谷オサム「陽だまりの彼女」(新潮文庫)を読了。

映画化される原作ということで、とりあえず冒頭だけチェックのつもりで読み始めたが
何かひっかかるものがあって(それと「活字がでかい」のも好印象)
ついつい読み進めていった。
ラスト直前の意外な”オチ”は、たしかに「そう来るか?」という疑問形にならざるを得ないが
しかし、不思議なのは、それもアリだ、とすぐ肯定できる流れが
すでに出来上がっていたことだ。
ストーリーテラーとしての素質を感じる作家である。

細部を批評すれば、いくらでもアラの出る文章である。
序盤の進行も緊迫感に欠け、人物造形なども望むべくもない。
簡単に言ってしまえば、ライトノベルである。
しかし、細部さえ見なければ、それなりにスムーズな文体であり
少なくとも、ライトノベルそのものを読んだときに感じる
何とも言えない居心地の悪さとは無縁だ。
そして、「オチ」によりドラマは反転し
物語に没入できたとしたら、結構、感情の深いところを刺激する描写さえあるのだ。

不思議な読後感をもつ小説。
読み始めと読み終わりとで、これほど違った印象になる小説もなかなかない。
一般的には、オススメできる小説だと信じている。

9korou:2013/01/24(木) 22:08:50
赤坂真理「東京プリズン」(河出書房新社)を読了。

昨年、一度読みかけて断念。
年末に再度挑戦することにして、延々と1か月以上かけて
やっと今日読み終えた。
結論だけを言えば、傑作とは言い難く、ある意味、徒労に終わった読書である。

ただし、著者のこの小説にかける仕掛け、たくらみは、確かに昨年出た小説のなかでも出色であることは認める。
成功すれば、凄い力技、21世紀最大、最高の小説になったに違いないが
やはり、イメージの核となるものが、あまりに私小説すぎて、客観的に伝わってくるものがなかった。
この小説からイメージを取り払えば、天皇と東京裁判とキリスト、日本とアメリカといった大きなテーマについての
討論劇しか残らず
そこでのヒロインのつぶやき、感想、思考、情念は、設定が普通の16歳の女子高校生である以上
ある程度の深みに達するまで、説明の文章が必要になってくる。
その説明が、すでに日本の近現代史をひととおりひもといた者にとっては、実にもどかしく、だるいのだ。
イメージは結晶せず、ドラマは退屈、となると、読み通すのにかなりの苦労が要るわけだ。
途中からは、イメージ部分は飛ばし読みそて、ドラマ部分が熟成していく過程だけを読み通していった。
ところが、最後のディベートに至っても、まだ現代史の入口でウロウロしている有様。
「神」の存在をイメージして、キリストまで話を広げた部分は、そこまでのイメージ部とつながっているようにも思え
おやっと思わせたが、話はそれ以上ふくらまず、ディベート自体が不完全燃焼で終わった。
これでは傑作とは言い難い。
構想は凄いとは思うのだが。

というわけで、これは人を選ぶ小説。
ハマる人には結構ディープな世界を味わえるタッチなので無茶苦茶ハマるのだろうけど
私には無縁な小説だった。

10korou:2013/01/25(金) 15:51:47
ファンキー末吉「平壌6月9日高等中学校・軽音楽部 北朝鮮ロック・プロジェクト」(集英社インターナショナル)を読了。

最初の数ページを読んで、これはイケると直感。
実に面白く、考えさせられ、タメになる本だった。
特に緊張感のある前半部分では、不覚にも(?)涙を禁じ得ない場面すらあった。
ある程度期待はしていたのだが、予想を上回る面白さと感動だった。

もし不満、というかもどかしい思いが残るとすれば
著者のファンキー末吉氏のような行動力は到底持ち得ないだろうなということ。
この人は、この行動力で、これまで中国で生活し、そして北朝鮮にまで渡り
その合間にはチベットまで行ったのだ。
どこへでも行ける勇気と体力、そしていろいろなことを感じ悟っていく知性、感性。
真似のできない人物であればこそ、この本に書いてあることを
本当に文字通り受け取っていいのだろうか、というためらいすら覚える。
しかし、やはり書いてある事実には圧倒される。
北朝鮮の少女たちは輝いている。感情が生で伝わってくる。思春期のうごめきそのままではないか。
これに目をつむることはできない。

万人にオススメの良書である。
読みやすい、面白い、ためになる。
今のところ、今年読んだ本のNo.1である(まだ1月も終わってないんだけど)

11korou:2013/01/27(日) 20:55:21
じん(自然の敵P)「カゲロウデイズ」(KCG文庫)を読了。

全く見当もつかない本なので、興味本位というか、ちょっとだけ読んでみるかという程度のノリで
読み始める・・・意外と面白い!・・・最後まで読めそう・・・読んじゃった、という感じである。
文体は伝統的な小説のそれとは異なり、いわゆるライトノベル風の独特のノリ。
それでいて、3つのエピソードのつなげ方が、伝統的なエンターテインメント小説の王道を踏まえていて
そのアンバランスというか、不思議な調和感が面白い。
適度に不自然なキャラとストーリーが、ライトノベル風の読みやすいけど深みには欠ける文体と妙に調和していて
その調和感のままラクラクと読み進めた結果の、この不思議な調和感にたどりつくという按配。

話そのものに何か心に残るものがあるわけではない。
読まなくたって全然構わない、ある意味どうでもいい小説なのだが
こういうものを読める、読んで楽しめる世の中というのは、実に楽しい良い社会だろう
と思ったりする。
りっしんべんの右側に「亡」くすという字が来たりしたら
ふとこの小説の存在を思い出して、少しだけ笑ってみようか。

分かる人には分かる、意外と通の小説。

12korou:2013/01/27(日) 21:04:35
門田隆将「死の淵を見た男」(PHP研究所)を読了。

門田さん一流の筆による福島原発事故直後の現場の奮闘を描いた迫真のノンフィクション。
読む前から凄そうだという予感はしていたが
冒頭から印象深い人間ドラマの断片が提示され
途中からは読書を中断することが惜しいほど熱中して読み続けることになった。

前半は、かっちりとした構成で、この福島原発事故について
現場・東電・官邸の対応がそれぞれどうであったかが明確に対比された形で記述されている。
ゆえに、「危機管理」というものを考えるときに
特に菅直人首相の対応をどう評価すべきかという点において
格好の生きた教材がそこに提示されている。
著者は、菅を一刀両断で断罪するのだが
ことはそう単純に割り切れるものではあるまい。
少なくとも思考経路の上で、菅には大きなミスはなかった。
首相として当然の思考を行い、決断もリーダーらしく曖昧な部分が微塵もなかったという点で
むしろ褒められてしかるべきかもしれない。
ただ、その思いは、部下に伝わらず、思考の過程は周囲に伝わらず
強烈なまでの責任感は誰にも伝わらなかった。
一人で決断するのが一国の首相の宿命ではあるが
いざそれを実行する際には、ひとりで行動してはいけないのも首相の宿命だろう。
菅にはその部分が決定的に足りなかった。
そこをこの著書では的確に指摘してほしかった。
菅は大馬鹿だ、とだけ書いたところで、何の解決にもならないので。

13korou:2013/01/27(日) 21:12:04
後半になると、叙述が雑になり、事態が具体的にどう変化していったのか、何の説明もなく
なんとなく最悪の事態は避けられて現在に至っている、という感じだけが伝わる曖昧なことになっている。
著者の主眼は、後半になると、俄然、現場の人間の家族をめぐるドラマに集中していて
その限りにおいては、たしかに感動的な文章にはなってはいるが
前半部分の客観的な記述とのアンバランスさは否めない。
ノンフィクションとしては、全体のまとまりに欠け
何よりも「客観的な事実」の説明が欠如しているという
この種の作品では致命的といっていい欠陥を露呈している。

とはいうものの、このドラマは内容が内容だけに
強烈で、読む者を震撼させ、襟を正させる厳粛さを持っている。
構成にそういう不整合さがあるにせよ、この本は
読者に何かを思わせる、何か考えさせる強烈な力を持っている。

その意味で、現代の日本人にとって必読の書ともいえる。
まだフクシマは現在進行形の話なのだから。

14korou:2013/02/06(水) 13:30:03
佐藤大介「オーディション社会 韓国」(新潮新書)を読了。

韓国の生の姿を知りたいと思って読んでみた。
通信社記者らしい現場からの発信記事がほとんどで
抽象的なふくらみはないものの、十分説得力のある文章が続く。
そこから浮かび上がってくるものは
今の日本とほとんど変わらない「生きづらい社会」だった。
日本以上に閉そく感が漂い
一部の階層だけが潤い
大半の民衆は不満と失望、貧しさの予感への恐怖におびえるという社会。
やり直しがきかない、敗者復活のない社会。
日本もある程度そうだが、韓国はもっとそれが社会の空気として徹底していて
一度脱落すると、絶望的になるようだ。
その結果、自殺者の多発、スラム化した高齢者の生活、といった構図も
決して誇張ではないようだ。

日本だけではない、ということに妙な安心感も覚えつつ
世界中でこうした貧富の拡大、閉そく感の充満といった事態をもたらす資本主義というものにつて
改めて懐疑の念を抱く。
マルクスの思想をそのまま官僚制度とそれに乗っかった政治家に任せてしまうと
ソ連崩壊という結末となるが
それ以外のシナリオはないのだろうか。
希望と夢を未来に託して、そんな見果てぬ夢を抱く。
日本を抜き去ったはずの韓国ですらこの有様なのだから。

15korou:2013/02/10(日) 20:52:14
佐々涼子「エンジェルフライト」(集英社)を読了。

評判が良いので(しかも開高健ノンフィクション賞受賞作)、読んでみた。
冒頭にかなり泣かせるエピソードがあり、なかなか読ませるなと思ったが
その後の展開が平板、単調で、ムダな繰り返しの描写が多く、がっかりした。
しかも、最後のほうの説明のための文章は、著者自身もまだ整理できていないことを
むりやり書いてみた感が強く、全然頭に入ってこない。
文章そのものは、とても受賞作にふさわしいとは思えなかった。

ただし、扱っている素材は、人生を考える上で重要で大切なものだ。
そのことについて、少しでも多くのことが知りたいという欲求も生まれて
ほぼ新聞や雑誌を読む感覚で読み進めた。
だから、途中で飛ばし読みもアリで、全文精読できたわけではない。
まあ、それなりの文章だから仕方ない。

著者の言いたいことは分かるし、著者自身への問いかけも納得できる文章になっている。
ただ、肝心の素材への切り込みが、平板で紋切型で
素材である人物の個性に負けている。
やはり、ノンフィクションであるなら
強烈なパーソナリティの裏にあるものをもっと切り込んで描写すべきで
繰り返しの多いムダな説明文はカットすべきだった。

欠点だらけの文章・構成だが、取り上げた素材の良さで
人によっては面白く読める本かもしれない。

16korou:2013/02/16(土) 14:02:49
綾崎隼「蒼空時雨」(メディアワークス文庫)を読了。

ライトノベルと普通の小説の中間的存在であるメディアワークス文庫。
そのイメージ通りの美しい綺麗な感じの恋愛小説だった。
いくらか抵抗を覚える設定、大人の小説読み巧者だと馴染めない表現など
読む人を選ぶ要素も多いが
そこさえ突破できれば、この作品の美点を十二分に堪能できるだろう。

どこがどう違うのか分からないのだが
とにかく作品世界が美しい。
文章も設定もドラマも人物も描写も。
さすがに噂にたがわぬ名作だと思う。

17korou:2013/02/16(土) 20:36:11
綾崎隼「初恋彗星」(メディアワークス文庫)を読了。

「蒼空時雨」の続編にあたる作品だが、前作との関連は薄いので
これ単独でも十分読める。
前作とはやや異なり、説明調の文章が続く書き出しなので
読み進めるのに少し躊躇したのも事実。
少しずつ違和感を高めつつ、なんとなく悲劇の匂いを嗅ぎつける直後の150ページに至り
そこからは文体への不満は消滅した。
そこから先は、いわゆるネタバレだが
ネタバレを読んでいくうちに、この作品の美点が明らかになっていく。
この作品も、最終的には、前作と同じく「いい人」ばかりが出てきて
普通なら鼻持ちならない設定なのに、この作者独特の綺麗な文章が
その欠点を感じさせない、むしろ、そういう「いい人」ずくしの良さを
最大限に感じさせる良さがあるのだが
そういう美点が全開になっていくのである。

そして、今作は前作以上に恋愛の純粋度が高まるばかりで
さすがにこれは恋愛小説が得手でない人には辛い展開かもしれない。
まさに「冬ソナ」の最終シーンのような、ある意味異常な愛の形でもあり
設定からして大体普通でない上に、結末も普通でないのだ。
これは前作以上に人を選ぶ。

セカイ系ともいえる純粋度だが
この種のストーリーを懐かしむことのできる自分のような人間には
堪えられない小説だ。

18korou:2013/02/19(火) 22:41:51
綾崎隼「永遠虹路」(メディアワークス文庫)を読了。
(なお、前回の書き込みの最終行は「こたえられない」で「たえられない」ではないので念のため。って、自分に注意書きする人も珍しいがww)

第3作も一気読みで終了。
最初だけ、妙な感じの恋愛風景だったので戸惑ったが
第二章以降が時間を逆進していく構成ということに気付いた瞬間から
スムーズな読書となった。
アマゾンでの書評でも触れられていたが
これはヒロインの七虹に感情移入できるかどうかがポイントで
ここまで一途に思いつめる主人公の物語だと
感情移入できない場合は、作品世界全部が嘘っぽくなるのも事実である。
しかし、これだけ丁寧に書き込まれた作品で感情移入できないというのも
また信じられない気がする。

メディアワークス文庫などのシリーズ物をいくらか読んでみて
このシリーズが一番安定しているように思う。
すでに3作、それぞれに独特な匂いを漂わせていて甲乙つけがたい出来である。
読みやすさを勘案すれば、史上最強の恋愛小説だと個人的には思っている。

19korou:2013/02/21(木) 16:00:30
小野博「世界は小さな祝祭であふれている」(モ★クシュラ)を読了。

何気なく本文の最初の1ページから読み始め
予想以上に今の自分の気分にフィットするのに驚かされる。
世界へのささやかな絶望感、ささやかだけど確実で否定しようのない絶望感が
最初の章である「東京の記録」に漂っている。
詩的ともいえる感性の確かな文章に続く第二章のアムステルダムでの出来事の描写は
それに対して、いかにも散文的だ。形式が日記なので、一層その感覚が強まる。
第3章では、故郷岡山での出来事がそれに重なる。

最後に「はじめに」を読む。
読み終わった後でこれを読むと
この著者にしては場違いなストレートな社会批評があって
第3章の曖昧な位置づけといい
内容を表すのに適切でない題名といい
本全体としては
演出の仕方を知らない不統一なものになっている。

しかし、第1章の「詩情」に完全にマイってしまったので
ほぼ苦労せず全体を読めた。
同じ岡山県人ということで
どこか無意識のうちに共感できるところがあるのかもしれない。

とにかく、地方から出てきて東京がどう見えるか、あるいは
日本から飛び出して比較的平和な外国に暮らすと、どう世界が見えてくるか
ということについて
これほど的確なイメージを伝えてくる本は、そうないだろうと思う。
意外な収穫だった著作。

20korou:2013/02/24(日) 13:53:17
他に書くスレがないので、ここに。

mixiでついつい全く縁のない人の日記を読み
「あしあと」の関係上、ふと、この方が自分のmixiページを訪問したら
どう見えるのだろう、と確かめてみることにした。
日記の類は制約をかけているので見えないが
この掲示板を含むHPのアドレスは見え見えである。
それと、ずいぶん昔に書いた書評がTOPページから見える。

「秘密の花園」とすべきなのか、消すべきなのか。
今これを書いた時点で、結論は出た。
HPのURLは削除しよう。

それから、驚いたのは
かつてのmixi書評を読み直してみて
文章が上手い、ということだ(何だ?この自画自賛ww)
書いているときはすごく疲れた記憶がある。
でもそれだけ頭を使って気を使って書いているのが
そのまま文章のまとまり、冴えなどに表れている。
今、気楽には書いてはいるが、ああいうスッキリと過不足なくまとまった文章が
はたして書けているかどうか。
時として、気楽なはずなのに、その気楽な低い基準すら満たさないヒドい文章を
書いてしまうこともあり
さすがに、そういうのは途中で自分でも気がついて、途中止めにすることになるのだが。

自由作文スレなんてのが必要だろうな。
mixiだと、書くか止めるかの2択になって、後者だと後に何も残らなくなるし。

で、このスレの趣旨に戻れば
今、湊かなえ「望郷」の最初の2つの短編を読んだ。
素晴らしい。これは全部読むぞ。また後日。

21korou:2013/02/27(水) 13:16:15
湊かなえ「望郷」を読了。

短編集で6つの小説が収められている。
最初の2つが、ミステリー味も濃厚で出来も良い。
残り4つは、だんだんと薄味になり、最後の短編などは
湊かなえという名前がなければ、恐らく読むことはなかっただろう。
全体として、瀬戸内海の名もない小さい島に住み着くこと自体が
いろいろな事件、出来事を生むという流れで統一されていて
そのあたりの描き方は上手いというか、実感のこもった描写になっているのだが
そこから先へどの程度作品世界を広げられたかといえば
作品ごとに出来不出来があって一概には言えないところだ。
島に生きる人の小説、というジャンル限定で言えば
これは間違いなく傑作である。
ただし「告白」以来のドロドロした作風が好きな人には
これらの作品は物足りないはずである。

一番最初の「みかんの花」が
一番良かった。
全部このレベルで書き切れれば、相当なものなんだが・・・

○4つかな?

22korou:2013/03/04(月) 22:50:16
三上延「ビブリア古書堂の事件手帖④」(メディアワークス文庫)を読了。

今回は、事前に知らなかったのだが長編だった。
江戸川乱歩を題材にして、単なる題材以上に詳しく切れ込んだ佳作になっている。
この作者は徐々に進化しているように思える。
今回は、ライトノベル風な魅力全開で、読みやすさを損なわないまま
ディープな古書の世界も垣間見せる力技に成功している。
ここまでくると、人によってはラノベ風な甘さを指摘したくもなるだろう。
でも、それはこの本の正当な評価とはならない。
これはこれでいいのである。
世の中には、正しく、間違いのない小説はたくさんあるが
これほど読みやすく、かつ典型的な陳腐さにも陥っていない小説は
滅多にないのだ。

あらためて、今放映中のこの原作のドラマを見ると
どこかで間違っているのがよく分かる。
栞子のキャラは大切にしてほしかったのだが・・・

なかなか的確にこの本の魅力を記述できないのだが
まあ、普通シリーズを読まない自分をしてここまでついて来させるのだから
稀有な小説だろう。
文句なしオススメ(「文学」好きにはムリだろうけど)

23korou:2013/03/14(木) 17:13:46
一橋文哉「マネーの闇」(角川oneテーマ21)を読了。

「闇」シリーズ3部作の最後の著作となる。
前2作は未読なので、これから読むことになるが
お互いに直接の関連はないので、単独で読むことも十分可能である。

とにかく、昭和から平成にかけての"闇情報"満載の本である。
戦前の軍部などの謎の金の流れから
例によって児玉誉士夫、M資金などの話につながり
そこから山口組3代目、その後継ともいえる宅見勝、その同類の石井進などの
ヤクザがからむ金の話。
そして、イトマン事件などを発祥とする地下経済のドロドロとした話。
最後の2つの章は、それまでとはガラリと様相を変え
IT企業が、その近代的な様相とは裏腹の薄汚いマネーゲームをしていた様子が暴露され
さらに、近年の犯罪を引き起こすソフトを使ったPC犯罪に絡む汚い金の動きなど。
驚くことには、その最後の違法ハッカー集団を取り仕切っているのが
宅見一派のなれの果てというべき山口組関係の幹部である、という幕切れだ。
今のヤクザは、PC犯罪にまで噛んでいるのだ。

裏社会の不気味さを好奇心で知りたい向きには
絶好の入門書(というより従来の知識の整理に格好な本か)
そうでない人には、ただひたすら怪しい本に見えるかも。

24korou:2013/03/16(土) 16:41:47
東野圭吾「時生」(講談社文庫)を読了。

前々から読んでみたいとは思っていたが
ついに昨日昼から読み始め
なんとこの500ページ以上ある大部な小説を
ほぼ1日で読み通してしまった。
読み始めると止まらない東野作品でも
これほど一気に読ませる面白さはピカイチではないか。
こういうのを読むと、ここ4,5年の東野作品は
このときほどの迫力を失っていると言わざるを得ない。
最近は、最初のほうだけだが、作品世界に入り込むのに苦労するので。

ただし、作品の底は浅い。
理系作家の限界と言ったら一面的な言い方だろうが
そう言いたくなるような表面的な人間描写しかない。
人は、この作品で描かれているほど、直線的ではないと思う。
もっとぐじゃぐじゃな統一性のない不確かなものであるはずで
文学というものはそこからスタートしているはずなのだが
この頃の東野圭吾は、そういう前提で小説を書き進めていない。
もちろん、これよりもっと前の東野作品でもそれは同じなのだが
この「時生」を書いた頃から、彼はヒューマンなタッチで小説を書き始めているので
同じ浅い描き方でも、余計気になってしまうのである。

さすがに「新参者」あたりになると、もう少し人間描写が深い。
すでにそういう東野作品を知っているので
どうしても現在この作品を読むと、もっとできるのになあ、という思いになるが
この当時は、鮮やかな筆致に惑わされて、これはこれで凄いという評価だったかもしれない。
でも、アマゾンでの絶賛は、今の評価だと思うと
やはり現代の読者は、昔からの文学ファンとは違うと思わざるを得ないのである。
まあ、無条件に面白いことは認めるけどねえ。

25korou:2013/03/23(土) 10:55:51
百田尚樹「永遠の0」(太田出版)を読了。

評判の小説で、年末には映画も公開されるということで
読んでみた。
今まで、2、3度読み始めてみて、そのたびに挫折したのだが
今回は読み通すことができた。
読破した今、なぜ最初に挫折したのか、そして今回なぜ読み通せたのか
理由が分かった気がする。

これは小説ではない。
太平洋戦争に関する雑学、薀蓄そして戦場における基礎知識を
何も知らない世代に分かりやすく解説した小説風歴史本なのである。
「もしドラ」で経営学のイロハを知る、というたぐいの読書に近い。

ただ「もしドラ」に書かれていることは
いわゆる理屈に過ぎないともいえるが
「永遠の0」に書かれていることは
それを今まで知らないでいたことに慚愧の念を抱いてしまうほど強烈な事実である
という大きな違いがある。
それがアマゾンでの絶賛の嵐ということになるのだろう。

特定の人物に関するエピソードの連鎖のような構成であり
それぞれのエピソードは、どれも感動的で、思わず感涙するシーンも多い。
感傷的にならないよううまく演出すれば
素晴らしい映像になること間違いないエピソードばかりである。

普通なら、こんな稚拙な構成で、かつ不自然で共感できない展開の小説は
問題外なのだが
このエピソードの魅力だけで、最終ページまで一気に読ませてしまう。
フィクションとノンフィクションの境目を確信犯のように行き来する独自の世界は
百田氏独特の世界であり、それはそれで凄いものだと思うのだが。

絶賛の嵐となると、やや首をひねらざるを得ない。
こんな感じばかりなので、最初の頃感じた熱い思いも(ボクシング、出光興産などの話)
少し考え直す必要があるかな、と思い始めている。

26korou:2013/04/04(木) 15:31:22
野崎まど「パーフェクトフレンド」(メディアワークス文庫)を読了。

気になる作家ではある。
しかし、これはないだろう、と思われる安易な出来に失望させられた。
いや、完全に失望したわけではない。
序盤から中盤にかけて、ませた小学生女子の描写が軽妙で
思わずクスッと笑ってしまうあたり、さすがだ。
ただ、終盤にかけて、魔法使いを出現させて
ドラマを屈折させていく経過が
いかにも、全体の仕掛け(未読だが多分「2」のために)のために
意図して設けられたフィクションのように見えてしまうのだ。
クライマックスの仕掛けが透けてみえる白々しさ。
このテーマは、ふくらませずにこれだけで完結してもいいのではないか。
「2」でこれまでのテーマが総合的にまとめられるとしたら
キーワードは「天才」なのだろうか?
でも「友情」もテーマだったこの小説、うまくまとめていれば
それなりの佳作だったのに。
というわけで
不完全燃焼のまま読了した。
最終的な評価は、もう少し他の関連作品を読んでからにしよう。
よく考えてみれば、この人には最後までフィクションの世界で引っ張る力がある。
これは、ありそうでなかなか気付かない素質だ。
もうちょっとだけ待ってみて・・・・(以下略)

27korou:2013/04/06(土) 19:01:05
木内一裕「藁の盾」(講談社文庫)を読了。

かなり珍しい読書になった。
以前読んだ「キッド」と違って
文章の冗長さが気になり
それでも120ページほどまで我慢して読み続けたが、ついに限界に達し読書を断念。
一応、来週からの企画本なので、結末だけは知っておこうと思い
そこから一気に最後のほうのページを開いて読んでみると
そこそこ面白い展開が推測される状況になっていることが判明。
そこから徐々に120ページのあたりまで飛ばし読みをして(逆方向飛ばし読み!)
やはり読んでみようかと思い直し、再度読破に挑戦。
こんな読み方だと、飛ばし読みしかないなと思ったのだが
これが意外にも、すぐに熟読モードとなり
そこから後は一気だった。

とはいうものの、やはり「キッド」の完成度にははるかに及ばない。
オススメできる小説ではない。
山田悠介をややレベルアップさせた感じのイメージは「キッド」と共通だが
文章の読みやすさという点では、この小説は山田作品より劣るかもしれない。
映画化されるということで注目度は高いが
もっと優れた作品があるのでちょっと残念な気もする。
「キッド」も映画化に向いた作品なので、それを期待しよう。

28korou:2013/04/11(木) 22:37:42
熊本県庁チームくまモン「くまモンの秘密」(幻冬舎新書)を読了。

軽いノリの新書で、途中からは、内容が薄い箇所もあり読破に難儀したものの
おおむね一気読みに近い感じで読み終えた。
行政の新しいスタイルを描いた著作であると同時に
民間にも通じるアイデアの生かし方全般の指南書にもなっている。
バックボーンに
この本でも触れられている小山薫堂氏の発想があることは間違いない。

こういう本に解説は不要である。
一種の技術書であり、エクセルのマニュアルに解説は要らない。
あとは実行するかどうかだけだが
こういう環境にいる人はかなり限定されよう。
つまり、手本にしたい人が限られている指南書なのである。
それでいて、その内容は具体的かつ濃いもので、かつ第三者的にも面白い。
読むのは容易だが、評価は難しい本ともいえる。

くまモンが好きで読書も好き、という人にはオススメ。

29korou:2013/04/18(木) 16:49:52
村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(文藝春秋)を読了。

視力が弱っている時期に、根を詰めて読破したので結構疲れる読書になった。
とはいうものの、前半の精緻で誠実な描写の連続には圧倒され
さすがに村上春樹だと思い、読み進めていた。

フィンランドに行って、次々と不明な事柄がクリアになっていくにつれて
予定調和のようなものが見えてきた。
そして、本当の意味でのストーリーが、ゆっくりと動き始めたその瞬間
物語は終わる。
不完全燃焼というべきか、いや、これで終わりもアリだろうけど
それだったら、前半と後半の密度の違いは不可解だ。
単なる集中度の違い、創作上のミスだとしたら
ハルキ衰えたり、ということになる。

難しいエンディングを、そのまま未解決に終わらせて読者の想像に任せるのだとしたら
この作品の場合は大失敗と言える。
なぜなら「ノルウェイの森」で、ハルキ氏は同じストーリーをすでに書いているからだ。
初期創作のネガポジの関係にあった「ノルウェイ」を
ああやって鮮やかに描出し
作品としても自律性を確保させた才能は
その後「アンダーグラウンド」「神の子どもたちはみな踊る」で現実を見つめた後
「ノルウェイ」のような設定の"私小説”においても
違う視点を獲得したはずなのだ。
だから、この結末では、不可解なのである。

駄作ではないが、このままでは中途半端な位置に止まる創作、ということになるだろう。
ノーベル賞うんぬんよりも、作家としての誠実さの問題といえるだろう。
このままではいけない、ハルキさん。

30korou:2013/04/21(日) 10:26:16
平田オリザ「演劇のことば」(岩波書店)を読了。

読む予定になかった本だが、偶然手に取ったら面白くて
そのまま最後まで読み通してしまったという読書。
平田オリザという人は、妙に権力側に寄り添ったポーズが鼻につくので
今まで敬遠していたのだが
こうしてその文章に接してみると
付き合いようによっては面白く読めるかな、という印象を持った。

これは「演劇のことば」の本であると同時に
それを日本の明治以降の演劇史という文脈で考察していくというスタイルなので
日本近代演劇史の本としても読めるのである。
いや、むしろ、その方面の入門書として
これほどざっくりと整理できていて、かつ面白く読める読み物としての魅力も備えた著作は
そうないのではないかと思われるほどの出来である。
小山内薫、土方与志、岸田国士といった人たちの業績が
これほどわかりやすく書いてある本が他にあるのだろうか(この分野は読み漁っていないので不明だが)
そして、ちゃっかりと自分の家系についてのエピソードも繰り込んでいて
あとがきによれば計算ずくだそうだが、そのせいで記述が滑らかになっているのも心憎い。

隠れた良書、というところか。

31korou:2013/04/21(日) 15:25:30
ペアテ・シロタ・ゴードン「1945年のクリスマス」(柏書房)を読了。

1カ月ほどかけてやっと読了。
面白くなくて時間がかかったというわけではなく
読んでいる途中で、別の読了を急ぐ本が割り込んできたり
高松市との往復で休日の時間を取られたりして
ついつい時間がかかってしまったという次第。
内容は興味深く、伝記としての面白さに満ちていた。

活発な女性らしく、知人・友人・関係者を描く観察眼が鋭く
本人はちょっとした良家の子女なので本来は薄っぺらい感じになりがちなのに
そこのあたりは上手くまとまっていて、読んでいて飽きない。
憲法の改定作業に詰め込まれて苦労するくだりは
さすがに読んでいて細かすぎてくたびれるが
それ以外の箇所は、どこも女性のまっすぐな感性が存分に発揮されていて
ある意味、そうした感性こそが新憲法を生き生きとしたものにしたのではないかと
逆の意味で思ってしまう。

それにしても、憲法の仕事の後、米国に戻って
日本文化、アジア文化を米国で紹介する仕事をするあたりの文章は
なかなか興味深かった。
深読みすれば、いくらでも示唆に富んだ言葉を見つけることができる。

というわけで、これは文句なしの良書でしょう。

32korou:2013/04/21(日) 16:15:58
綿矢りさ「憤死」(河出書房新社)を読了。

2日で3作読了したが、これはページ数が少なく、あっという間に読了できる部類。
綿矢さんらしい細部まで描写に手抜きのない誠実な作品集となっていて
個人的に綿矢作品で初めて挫折した前回の短編集よりも
上出来だと思う。

ただし、一般受けしないのも確か。
ストーリー、アイデアに全力投球という作風でないので
そういう方面に長けた小説を読みこなしてきた人には
この短編集程度のドラマの起伏では、いかにも物足りないだろうと思う。
キャラとか変幻自在のストーリーに慣れてしまうと
綿矢さんの個性的な描写すら見逃してしまう可能性は高い。

綿矢ファンのための短編集だろう。
実のところ、ホラーでも奇妙な味でもなく、この作品集のキモは
いままで若い女性の心理にとどまっていた個性的な描写が
もっと幅広く展開されているところにある。
男性視点の描写、年齢別に整理された描写など。
年長者の描写は、まだ本格的なものではないが、邪魔でもない(「人生ゲーム」の最後のほう)
これで、綿矢さんは、広がりのある作品世界を獲得したように思う。

次回作品が楽しみである。
長編も可能になってきたと思うので、そういうのも読んでみたい。

33korou:2013/04/24(水) 08:42:44
東野圭吾「夢幻花」(PHP研究所)を読了。

このところ、諸事情により読書が忙しいが
これは、ほぼストレスなく夢中で読めた。
そして、ハルキ作品と違って、ストレスがない代わりに
読後の深みも少なく、しかし山田悠介の出来の悪い作品を読んだ後のような
空しさもない。
これはこれで十分なのである。

相変わらず、読者を次へ次へと引っ張る魅力に満ちていた。
この本を途中で断念する人など居ないだろう。
最後まで読んで、この作品が2002年から2004年までの間に雑誌に連載されたものが
元になっているということを知り、驚いた。
結末は2011年3月11日以降でないと書けないはずである。
実にうまく翻案、or書き直し、or書き加えしたものだと思う。

ストーリーとしては
全く違う角度から同じ事件に向かい合った複数の視点が
うまく組み合わされていて、職人技を実感する。
さすがはと思わせる出来だが
10年前の東野さんなら当然かも。
これが本当に最新作なら、最近にない出色の出来だから、次作も期待するのだが
そのあたりが微妙・・・

34korou:2013/04/28(日) 17:33:09
伊坂幸太郎「ガソリン生活」(朝日新聞出版)を読了。

1カ月前から読み始め、決して退屈したわけではないものの
その間別の本を読み急ぐ理由もあって
長期間の読書となってしまった。
それにしても、楽しい、得難い読書の時間だった。
作者にも作品にもありがとうと言いたい稀有な読書体験だった。

車が語り手で、なおかつ内容は人間同士のちょっとしたドラマという設定。
車が擬人化したディズニー映画とは少しニュアンスが違うことを
mixiの書き込みで確認できたのも嬉しい。
アマゾンの書評で、皆楽しそうに書き込みしているのも
見るだけで楽しい。
読書の合間からずっと、街で車を見かけるたびに
どんな会話が繰り広げられているか想像するという
「新しい感性」が「磨かれた」ことも
ものすごく嬉しい。
本を読むという行為がここまで感性を広げ、生活を彩るものであるという可能性を
ここまで知らされたことは、いまだかつてない。

小説技法としても、描写の客観的な確かさとしても
今までの伊坂作品の長所を踏まえつつ
さらに新しい地平を築いたといえる素晴らしい出来である。

今年最高の作品・・・と言い切ってもいいかも。

35korou:2013/04/29(月) 10:58:23
戸部良也「ID野球の父 「尾張メモ」再発見」(べースボール・マガジン社)を読了。

内容は興味深いものだったが、本として全く編集ができていないので
読み進めるのに苦労した(というより、こういう安易な出版企画に腹が立つ思いだった)
何度も何度も同じ記述が繰り返し出てくるのは信じ難いほどだ。
小学生の作文でも、もっと要領よく書けるのではないか。
半分以上読み進めたあたりで、突然、一人称の「僕」が出現するのも唖然とする。
この「僕」は一体誰なのか?とっさに分かるわけもなく
それが著者の戸部氏のことだという素朴な結論に至るまで、少々時間がかかった。
それまでの叙述の流れだと、むしろ
主人公である尾張氏のことを「僕」を書いたと解釈するほうが自然だからだ。

まあ、そんなトンデモ本のような文章の連続とはいえ
書いてある内容が、貴重な尾張メモのことだけに
なんとか我慢して読み続けられるというもの。
もっとも、肝心の試合内容の細かい記述が全くないという、これまた野球ドキュメントとしては
信じ難い本となっているだけに
隔靴掻痒の思いは強い。
なんで、こんな重要なことを、こんなに粗末に書くのか?という怒りさえ湧いてくる。
また誰かが、このテーマで、きちんとまとめることを期待するしかない。

尾張さんの生き様だけはよく分かる本である。
それだけの価値しかないクズ本である。
(本当は、今全盛のMLB派生のサイバーメトリクスと尾張メモの相違を知りたかったのだが・・・)

36korou:2013/04/30(火) 22:20:15
平田オリザ「わかりあえないことから」(講談社現代新書)を読了。

これも、前の平田本読破と同じく、最初のほうの意外なほどの読みやすさで
一気に最後まで読み通してしまった。
本当に、この人の論は分かりやすい。
腑に落ちるし、反対すべき個所もほぼない。

で、読み終わってみて、さらに感じることは
あまりに腑に落ちすぎて、かえって読後に残るものがないという逆説。
何でもいいのだが、すぐに読み取れない「何か」がないと
読後に印象が残らないのも事実。
その点で、この本はずいぶんと損をしているとも思う。

もっとも、ナイーブなコミュニケ−ション論に出会うたびに
いやいや、そうじゃないよ、とこの本の存在を思い出すことも事実。
そういう形で再読で確認を迫ってくる本でもある。

この人の本は話題作に限り全部チェックすることにしよう。
それだけの価値はあるし、逆に主要作を網羅するまでの必要は感じない。
あまりに一貫しているので、エッセンスは同じだと思うので。

37korou:2013/05/05(日) 18:39:41
小林信彦「非常事態の中の愉しみ」(文藝春秋)を読了。

週刊文春の連載「本音を申せば」の2011年バージョン。
まあ、今さら小林さんのエッセイに付け加えることなど何もない。
相変わらず安心して読めるし、内容も雑学として確実に身に付く。
県立図書館で見つけたので借りたまで、でも借りるのは当然、という流れ。

今回は大震災絡みの内容が多く、その点では異色と言える。
ただ、やはり政治ネタは独断が悪い方に作用するので
あまりそういう方向にハマらないでほしいと
一ファンとしては願うが。
かといって、文化人としてそういう内容には全面スルーというのも
こういう年季の入った方にはふさわしくないので
そのへんは難しい加減となる。
映画についての文章は、当代随一だろう。
淀川さん亡き後、こういう方を知り得るとは思いもよらなかった。

38korou:2013/05/12(日) 12:57:46
法条遥「リライト」(早川書房)を読了。

読み始めると、いきなり典型的なタイムリープの描写となり
とりあえず違和感なく、毎度おなじみのタイムトラベルの世界に没入することができた。
しかし、そこからがこの物語の凄いところで
次から次へと謎、謎、謎を繰り出してきて
半分も読まないうちに、謎だらけの感覚に腹一杯になってしまう。
最後50ページを残すあたりまできても
一向にこの不思議で分からない世界の感覚が丸ごと残り
一体、この膨大な伏線を残りわずかなページ数でどう回収するのだろうと
逆に危惧感すら覚えつつ
さすがに途中で止められず、大団円に突入。

最後に登場人物の一人が叫ぶように語った一連の真実については
壮大すぎて、複雑すぎて、その仕掛けを考えた作者の頭脳を想像するあまり
SFの結末ではあり得ない不可思議な笑いさえこみ上げてくるのだった・・・
二宮敦人「アナタライフ」とか小林泰三「酔歩する男」を読んだ直後の印象と近いともいえる。
よく、こんな込み入った話を書いたものだという感動、というよりひたすら感心。
感心というと浅い感情のようだが、そんなものではなく、深い感情からこみ上げてくる”感心”

10年後に死んでいる自分を、わずか5秒で知ることができるのか?
そして携帯を持ち帰れないのだから保彦を救う前提がなくなるのに、そのことの説明がごっそり抜けている不都合。
さすがに、杜撰な読者である自分にも、物語の破たんを見つけることができる。
でも、それは補筆で十分対応可能だから、大きなキズではない。
やはり、この作品に関する限り、タイムパラドックスに本格的に挑戦した作者の姿勢に敬意を払い
素直に、読後の感想を持ち続けるべきだろう。
欠点も多いが(文章がさすがに直線的すぎて、部分的にマンガチックに感じられる・・)
それ以上に見どころの多い作品という評価が妥当。

39korou:2013/05/13(月) 21:21:23
工藤美代子「悪名の棺」(幻冬舎)を読了。

取り上げている人物、時代、背景、どれをとっても
興味が湧く題材である。
実際、それだけを頼りに最後まで読み進めることができたとも言えるが
つまり、そういう感想を真っ先に書きたいほど、詰まらない、くだらない伝記だったということだ。

こういう人物を取り上げながら
愚にもつかないラブレターの文面を延々と10ページ近く引用する神経が分からない。
いや、本当にアホの著者だったら話は早い。
読むのを止めて、違う笹川良一伝を読めばいい話だ。
これはそうではない。
随所に発見も見られ、それなりに史実を解釈する知性もある。
最初のうちは、自分の見解と真反対なので、すらすらといかなかったが
慣れれば、なかなか気持ちいい文章ではあった。
でも、あまりに関係ない、かつくだらないこだわりが多すぎる。
最後のほうで、笹川の最後の愛人を取材して、延々とそのくだりを書いているが
こんなの全部要らない。
全然、笹川の人間性に迫れていない。

というわけで
物凄い玉石混交の伝記である。
笹川について、少し物知りにはなれたが、
それこそ「少し」だけなので
全部読み通すのに費やした時間が惜しい。
もう二度とこの著者の本は読みたくない。

40korou:2013/05/13(月) 21:23:00
あっ、↑の題名が違う。
「悪名の棺 笹川良一伝」でした。

41korou:2013/05/19(日) 14:30:00
中町信「模倣の殺意」(創元推理文庫)を読了。

1971年の江戸川乱歩賞候補作が
40年以上の月日を経て、しかも作者の死去直後というタイミングで
脚光を浴びているのを知り、さっそく読んでみた。
やや文章がぱらぱらと素っ気なく
ミステリーでそこまで求めてはいけないという気もするものの
やはり、もう少しの香気が欲しいなあという不満を覚えつつ読み進める。
半分ほど読んでも、これのどこが傑作ミステリーなのかという懸念は抜けず
それでも、第四章に入る扉ページにエラリー・クイーンばりの挑戦状文言があるのを見て
ひょっとしたらという期待がふくらむ。

第四章の途中でトリックの根幹が見え始めたとき
それは想像してみたがムリだろうというトリックが
実は可能だったということを知る。
そこから後は、動機づけの記述が続き
一見荒唐無稽な構想が、フィクションとしてムリがないことをしらしめていくのである。

犯行の動機になんら深い意味づけがないこういう作風が
松本清張に代表される社会派ミステリー全盛の時代に
評価が低かったのは頷ける。
今は本格派ミステリーを素直に読める時代なので
こういう作品が再評価されるのも頷ける。
さらに、全体にシンプルなトリックなので読後感がすっきりしていることや
作者のミステリーへの情熱がストレートに伝わってくることなどは
この作品の美点といってよいだろう。

文体にはいくらか不満が残るが
全体としては、ミステリーの典型として評価を惜しむことはできない傑作と言える。
再評価は当然かもしれない。

42korou:2013/05/21(火) 21:26:45
「綾瀬はるか『戦争』を聞く」(岩波ジュニア新書)を読了。

文字通り、女優の綾瀬はるかが
ニュース番組のシリーズ企画として
被爆者、戦争体験者のもとを訪ねて
当時の記憶を語ってもらった映像記録を
書籍化した本である。

読んでいて涙が止まらなかった。
もう何度も読んで、あるいは映像で見て聴いて
ある程度知っている事実であるはずなのに
それを体験した人たちが直接語る言葉の重さが
なぜか戦争体験も何もない自分の今の心の奥底にぐぐっと響いて
かつてなくボロボロに涙を流しながら読み進めた。

年令を重ねて、こんな感性の変化が自分に訪れていることには
全く気づかなかった。
そうでなくても、これは良書だと思うが
自分にとっては深い意味を持つ読書となった。

間違いなく自分の中では今年度ベスト1の本である。

43korou:2013/05/26(日) 19:48:29
百田尚樹「モンスター」(幻冬舎文庫)を読了。

女性の容貌について徹底的に書き切った小説で
テーマが明白で疑いようがないので
読み違えなど起こりようもなく
それに加えて百田氏得意のルポ風の文体が功を奏して
実にサクサクと読める小説になっている。

途中、美の女神となったヒロインが
圧倒的な優位で男性を翻弄する描写が続くところがあり
そこだけはやや退屈した。
延々と地の文で美神ぶりを書かれても
想像する余地に乏しく
ここは会話と心理描写で描いてほしかった。
小説のプロではない百田氏の大きな欠点。

そして、ありふれた結末。
これはこれ以外に収めようのないテーマ、流れといえるが
それにしても、予想通りの予定調和なので
そこまでの面白さを思うと、何か残念な気もしてくる。

最初から200ページくらいまでは抜群に面白く
後半は竜頭蛇尾という感じだが
全体を通じた印象で言えば
決して悪くないというのが正直な感想。
普通、竜頭蛇尾はイマイチである場合が多いのだが
これは不思議。

44korou:2013/05/30(木) 09:57:50
山田悠介「93番目のキミ」(山田悠介)を読了。

相変わらず、小気味よい進行と雑であり得ない幼稚な描写がてんこもりで
ある意味、いかにも山田作品を読んでいる感じがリアルすぎるくらい。

大抵は無理やりな設定での極度のパニック状態が
ジェットコースター風に次々と展開される作風なのだが
「その時までサヨナラ」のような作品が例外的に書かれることがあり
今回はその例外の作風の作品である。

今作は、いつもにも増して、未熟な描写が目立ち
読み進めるべきかどうか迷ったくらいだが
それは、例外的な作風というのが
ハートウォーミングな設定だけに
より常識的な描写が要求されるということで
逆にテキトーな軽い描写が目立ってしまったとも言えるだろう。

ただし、最後の最後で調子良くドラマが展開し
思いがけない読後感に発展するところは
なかなかの新味とも言える。
ふと、にしのあきひろ「ジップ&キャンディ」を連想したが
まさか山田悠介を読んで、こういう読後感になるとは!

山田悠介の不穏な作風が好きな人にはダメだろうし
緻密な描写が必須と考える大人の読者にもダメだろう。
山田悠介という作家を知りたい人が、どうしてもその作品を読まざるを得ない(どんな設定なんだ?)場合
まあオススメしようか、と言う感じかな。

45korou:2013/05/31(金) 13:40:03
本間洋平「家族ゲーム」(集英社文庫)を読了。

今話題のTVドラマの原作。
かつては森田芳光監督の名作であった映画の原作でもあったが
再び脚光を浴びてきた。
もともと、すばる文学賞受賞作ということなので
小説としても評価は高かったということになるが
ずっと「あの映画の原作」という位置づけで
それほど注目されていなかったはずである。
しかし、今回のTVドラマ化の影響で
こうして読むことができた。

うまく1980年代の若者の心情、家族の壊れ方などが描かれていると思う。
1970年代まで辛うじて保たれていた日本の家族の美風が
もう耐え切れなくなって、まさに目の前で壊れていく、というドラマが
生々しい感覚として蘇ってくる。
それでいて文体はとことん乾いている。
視点が「醒めた人生観に染まりつつある優秀な兄」という設定が効果的。
グズな弟、俗物の父親、偽善を装う母親、アウトローな感じの家庭教師、それぞれに
この兄の醒めた視点で描かれ
すべては、ガラス窓の外の風景として、本当は大変なことなのに
実に些細な出来事として扱われている感覚が
今読んでも新しい。

ただし、今の家族小説はもっと丁寧に書きこまれないと成り立たない。
すでに破綻してからかなりの期間が経過し
もはや破綻の様子を独特に描くだけでは訴えるものがない。
その意味では、古い小説とも言える。

46korou:2013/06/01(土) 15:44:19
二宮敦人「ドールハウスの人々」(文芸社文庫)を読了。

「アナタライフ」の不思議な魅力を忘れられないまま
この作家に注目しているのだが
ここ数カ月で作品が多く上梓され
そのなかでも、これは題名だけでそそられる感じがしたのだった・・

読後の感想を書けば
悪くはないが凄くもない、単なる暇つぶしの作品というほかない。
人形を題材にした心理ホラーの作品は数多くあり
この小説は、それら先行作品と同じ味しか出していない。
だから、このテのものを初めてこの小説で読んだとしたら
また違った感想も出るかもしれないが
ある程度読んでいる人にとっては
こんなものか、とガッカリ感の強い作品になってしまうのはやむを得ないところ。

山田悠介っぽい雰囲気だが
山田悠介よりは描写がきちんとしていて、伏線の回収もまずまず。
つまり普通の小説っぽいのだが、それでいてジェットコースター的展開も期待できて
読み続けることへの苦痛度は低い。
人に読書を勧める際、活字への親密度の低い人に対しては
山田悠介→二宮敦人→東野圭吾という流れ(そこに「藁の盾」の木内裕人を挟んでもいいが)が
有効かなと思う。
その流れの中なら、この作品も十分及第点である。

47korou:2013/06/01(土) 16:34:03
小山薫堂「もったいない主義」(幻冬舎新書)を読了。

くまモンの実質の生みの親である小山氏の代表的な著作とあったので
読んでみた。
出だしはそこそこ面白いが、そのうち、これは小山氏の成功体験談オンリーではないかという
不満も出始める(謙虚そうに見えて実は自慢話じゃねえか、成功ばなしなんて聞きたかねえよ、という拒絶反応!)
最終章までたどり着いたとき
この本は実に読みやすいが、成功談ばかりなので中身は薄いなと思ったのも事実。
ただし、最終章で、世の中の企画、施策にはいかにムダが多いかという話になったとき
小山氏の感性は見事に炸裂し、読んでいてスカッとした。
そうなのである。
自身の成功談だけじゃ、客観的によく分からない。
誰もが知っている出来事について、小山流のツッコミがあってこそ
小山さん独自の感性が伝わってくるのである。
この良い流れは、あとがきの一番最後の文章まで続いた。
したがって、読後はまあまあかなという思い。

普通は、断定的なことを書くとしたら
自分自身に関することを書くのがセオリー。
誰もそれについては、書いた人以上に正しく論評できないから(常識的な文章の場合)
しかし、小山さんは独特のセンス、感性の方だから
そういうセオリーに乗っ取って書くべきではなかった。
どんどん他人の企画にツッコミを入れていって、自分ならこうする、という提案を
書き連ねるべきだっただろう。
2兆円の景気刺激策をもっと工夫して行うやり方を
いとも簡単にイメージさせてしまう小山さんという人は
実に得難い人材だなと心底思った。
それだけに、この著作でのスタンスのミスが、返す返すも惜しいのである。

48korou:2013/06/04(火) 09:07:38
古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち」(講談社)を読了。

読み始めてから3カ月近くかけて、やっと読了した。
研究書っぽい体裁ながら、文章は平易でルポ風なので
読みにくくて時間がかかったということではなく
ただ単に、いつでも読み進めることができるという安心感ゆえに
他の気になる本の読書を優先したということの結果にすぎない。

しかし、さすがに3カ月という長期の間には
もう読み進めるのは止めようかと思うこともあった。
それでも読み続けたのは
時々思いがけないところで、この本の引用を発見したりすることがあり
やはり侮れない本だと思ったからである。

全体として、主張の眼目が若い世代の研究者らしく新鮮、斬新であることが魅力である。
ついつい既製の価値観で眺めがちな社会情勢について
それは特定の価値観でしかないはず、若い世代はこんな見方をしているのだから
今までの「若者論」は見当違いだ、ということを
なかなか魅力的な文体で解き明かしている。
その一方で、著者の発見した価値観にも、やはりそれなりの間違った視点が内包されているにもかかわらず
そうした弱点については、思索が深められていない難点が目立つ。
アマゾンでの評価がバラバラなのも、そうした著者の極端なスタンスが原因なのではないかと思われる。

結論を求めてはいけない本である。
あまりにも隙だらけの主張なので。
その一方で、社会を眺める新しい視点を知る本としては、素晴らしく役に立つ本である。
一冊の本にすべてを求めてはいけない、ということを考えると
これはこれなりに優れた必読書と言えるのではないかと思った。


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