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おもらし千夜一夜4

1名無しさんのおもらし:2014/03/10(月) 00:57:23
前スレ
おもらし千夜一夜3
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280事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。9:2015/04/17(金) 01:09:41
――ぁ……んっ……。

不意に来た尿意の波に私はつま先を上げ、体育館シューズの中で足の指を握り耐える。
波が引き聞こえないように一息ついたときに再度朝見さんについて考える。
これほどまでに我慢してるのなら『声』が聞こえるものだと思っていたが
朝見さんは仕草から我慢しているようには見える――――もちろん、とても可愛い――――が現実問題として『聞こえない』。
根本的に私と朝見さんの波長が合っていないのならば、まゆと同じように滅多に『聞く』ことが出来ないなんてことは確かにある。
だから、今の私の状態で“『声』が聞こえない”=“尿意を感じていない”は確かに成立しない可能性は十分にある。

だけど……正直それは信じられなかった。
尿意の波長に関しては慣れているわけで……実際、朝見さん以外の同級生すべての我慢した『声』を聞いたことがあるから。
確かに逆を返せば、朝見さんだけ『声』を聞いていないのだから、波長が合っていないとも言えるかもしれないが……ん、えっと……――

――ぅ……だめだ、尿意も強くてよくわからなくなってきた……。

私は小さく深呼吸する。
落ち着くために行った行為だが、意識が内面に向くことで尿意をより強く意識してしまう。
下腹部はパンパンとまでは行かないがずっしりと重く、張ってきているのが触らなくても分かる。
閉じ込められてからまだ10分も経っていないと思うが、状況と寒さがより尿意を加速させているのかもしれない。
そしてそれは朝見さんも多分同じで……。
視線を朝見さんに向けると、その横顔には寒い状況でありながら汗が光り、辛そうに見えた。

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz52553.jpg

「……朝見さん…えっと、大丈夫?」

私はつい尋ねてしまう。
朝見さんはそんな私に一瞬だけ目を向けた後、すぐに自分足元に視線を戻す。

「大丈夫よ……」

朝見さんは立てられた膝の下に手を回して、太腿を抱くようにして弱弱しくそう答える。
全然大丈夫なように見えない……。
だけど、それ以上追求することも出来ず、私はしばらく視線を外す。

「はぁ……はぁ……」

荒い息、身じろぐ音が微かに隣から聞こえてくる。
『声』は聞こえない……私はダメだと分かっていながら再び朝見さんの方に視線を向ける。
目に映るのは、落ち着かない足、不安で辛そうな顔。
感じ取れるすべての動作が尿意を感じている……そう私には見える。――やっぱり…可愛い。

「っ! ……見ないでよ」

朝見さんは、私の視線に気が付き、弱弱しい声色で拒絶する。
当然の事。我慢してる姿なんて見られたくないだろうし、彼女に限れば私の嗜好を知っている――――と思う――――から尚更で……。
私は「……ごめん」と言って一度視線を外すが……だめだ、気になる。

281事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。10:2015/04/17(金) 01:11:21
バドミントンをしている時から感じていたであろう尿意。
ラリー中に時折嘆息していたのは嫌気や気まずさからではなく、尿意への不安からだったのかもしれない。
そしてその尿意は、今や私に隠せないくらい強い尿意になり、朝見さんを攻め続けている……そう思うだけで心臓が早鐘を打つ。
どれくらい限界なのか知りたい。『声』が聞きたい……でも、聞こえない。
そんなもどかしさを感じつつもこの状況のままでいいのか不安を感じる。

――……まゆ全然来ないし…このままじゃ朝見さん…下手したら私まで……。

波が来ていないうちはいいが、可愛いとかなんとか言ってられないくらい私自身、気が抜けなくなってきた。
私は立ち上がりもう一度扉に手を掛けるがやはり開かない。
ほんの少し見えるポールを隙間からどうにかできないかと考えるが、ほんの数ミリの隙間では手や倉庫にあるものではとても通りそうに無い。

――んっ! 波が……。

少し大きな波が私を襲う。
平静を保たないと……そう思うが、どうしても身体が言うことを聞かず強く腿を閉じ合わせ小さく腰を揺する。

「ん……はぁ…」

波を越えて熱い息を吐く。
失敗は無かったけど……多分朝見さんに見られたし、気が付かれた気がする。
その証拠に辛い顔をしながらも朝見さんはこちらを何か言いたげに見てるし……。

顔に血が上り、自身の顔が赤くのなっているのが分かる――恥ずかしい。

「そうよ……皆恥ずかしいのよ……それなのに――」

視線を逸らしながら辛そうに一言一言紡ぐ朝見さん。
言いたいことはわかる。――そんな姿を見て楽しんでいるなんて良くない。

「……分かってるけど…仕方ないじゃない……好きを簡単にやめるなんて出来ない……」

私はそんな恥ずかしがってる姿も含めて、我慢している誰かを見るのが、聞くのが、そして『声』が凄く好きで――譲れないのだから。

「し、仕方ないって――んっ、あぁ、んんっ……」

朝見さんが台詞の途中で下を向き太腿を抱える右手だけを大切な部分へと押し当てる。
私はそんな朝見さんを見てやっぱり鼓動が早くなる。
溢れてしまいそうになって、見られてるって分かっていながら、押さえないと我慢できない。
たとえ、見られてる相手が私みたいな嗜好を持っているって分かっていてもその衝動を抑えられない。
そうしなければ、もっと恥ずかしいことになるかもしれない……そう分かってるから。

――でも……だとしたら、朝見さんは今本当にギリギリで……。

それは凄く私にとって嬉しいことだけど――このままじゃ……。
自分で言うのもなんだけど、こんな嗜好を持った人の前って言うのは辛いと思う。――と言うか、私もどう反応していいのか……。
とりあえず、私は朝見さんに近づき口を開く。

「……もうちょっと我慢できない? えっと、きっとまゆがそろそろ気が付くからっ」

そういって私はしゃがみ、朝見さんの肩に手を――

『――』「っさ、触らないで! っ〜〜」

私の手はすぐに朝見さんに払いのけられた。
同時に何かノイズのような『声』が聞こえたような気がしたが、それはすぐに聞こえなくなった。――近づいた影響?
朝見さんは払うために身体を動かした為か今度は両手で確りと抑え込む。

282事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。11:2015/04/17(金) 01:12:40
「ぁぁ、んっ……ふっ、ぅ……はぁ……」

言葉にならない声を上げて必死に宥めようとして……。
私はどうしていいか分からず、ただその様子に魅入ってしまう。

「んっ! だ、だめぇ……もう、我慢……あぁ」

その声を合図に身体を大きく跳ねさせて呼吸を止める。
時間にして5秒程度。だけど、私にとってはすごく長い時間で、朝見さんにとっては更に長い時間に感じたんじゃないかと思う。

「――んっ、はぁー……はぁー……」

真っ赤になった顔、目は潤ませて深く熱い吐息を何度も吐く。
普段の朝見さんからは想像も出来ない乱れた見っとも無い姿……。

「もうやだ、見ない…で……」

――……朝見さん、本当にもう我慢できないんだ……。

朝見さんの言葉は聞こえた。だけど、私は視線を逸らすことが出来なかった。
手はもう一時も離す事ができないのか、押し当てられたまま。
もしかしたらその手の下には恥ずかしい染みがあるのかもしれないと思ってしまう。

「……もう、我慢できない?」

朝見さんはそれを聞いて身体を震わす。
心配するように言ったがこれは意地悪な質問だ。
朝見さんが凄く可愛くて……反応が見たくて。

「……ねぇ? まゆが来るまで我慢できない?」

――こんなこと言っちゃだめなのに。聞いちゃだめなのに。

「我慢できる……できるから…」

私の問いに答えるようにして、でも自分に強く言い聞かせるように朝見さんは言う。

――でもそれは嘘。我慢できない。見たら分かる。
全身を震わせて、しゃべるのもやっとで、見っとも無く息を荒げて……。
顔に沢山汗を浮き上がらせて、辛い顔で、一瞬たりとも油断できなくて。
凄く……艶っぽくて可愛くて愛おしくて……。

「っ〜〜〜」

朝見さんはまた身体を跳ねさせて声も出せずに力いっぱい抑え込む。
だけど、押さえ込まれた部分のハーフパンツの色が濃く染まっている。

それを見ていると上からポタポタと床に水滴が落ちる。
最初は汗が落ちたのだと思った、だけど視線を上げるとそれは朝見さんの目から溢れた涙で……。
胸が締め付けられる。

――この人を守りたい……。

どこか遠くで同じことを感じたことがある――夏休み前の皐先輩? ……違う、もっと昔……。

283事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。12:2015/04/17(金) 01:13:36
「だめっ……でちゃ…くぅ…あぁ!」<ジュウ…>

くぐもった音が聞こえ必死に抑えて込んでいる手の隙間から溢れだす。
それはすぐに止まり、ハーフパンツを広い範囲に濃く染め上げほんの少しの水溜りを股の間に残す。

「くぅ…はぁ……はぁ……っ、うぅ…」

チビったなんて量ではなく、それは確かにおもらし。
だけど、まだ朝見さんの膀胱にはまだ沢山の出してはいけない恥ずかしいものが詰まっている……。
それでも懸命に…あきらめずに我慢をやめようとしない。

顔は涙と汗で濡れて、髪は額に張り付いて……。

「ぁ……やぁ……んっ〜〜」<ジュ…ジュウゥ……>

また抑えきれない量の熱水が溢れ出し、水溜りを少し大きくする。

「なんで? ……どう…してよっ……あぁぁ……」

少しずつ少しずつ暖かい水溜りの面積を広げていく。

「……朝見…さん……」

「ぁ……」<ジュウゥーー>

私が名前を呟いたのを切欠に、朝見さんは震えた声を漏らして恥ずかしい音を継続的に響かせた。
必死に抑えて身体に力が入ってるのがわかる。だけど、意に反して恥ずかしい音は止まらない

「くぅ……んっ……」

いくら力んでも勢いが弱まるだけで止まらない。

「……っはぁ……はぁ…ぅ……」

乱れた熱い息を吐きながら、広がってゆく水溜りに視線を向けるようにして俯く。

「っ…みないで……もうゆるして……」

朝見さんは私の視線感じて呟く。
次第に恥ずかしい音が止み、代わりに嗚咽が聞こえてくる。
手を伸ばせば届く距離。それなのにどうすることも出来ず、かけるべき言葉もかわからない。

「こんな状況だから仕方がない」そんな言葉はきっと求めてない。
私はただひとこと「……ごめん」と呟き朝見さんの前を離れた。

284事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。13:2015/04/17(金) 01:15:54
――
 ――

「……」
「……」

――気まずい。

扉を背もたれにして私は離れたところで腰を下ろしていた。
結局なにも気の利いたことも言えずに、ちらちらと様子を覗いながら気まずさと尿意に耐えるだけ。

「ねぇ……」

「……は、はいっ」

しばらく声を出さずに泣いていた朝見さんが突然私に声を掛ける。
目の下を赤く腫らして――なんだか凄く艶っぽい……。

「……変態」

ストレートな言葉とじとっとした目が私に突き刺さる。
私は苦笑いをして誤魔化しながら視線を逸らす。

「……うぅ……仕方無いじゃない…朝見さんにだって好きって感情あるでしょ?」

「わ、私は……っ」

朝見さんの動揺した声に目だけで朝見さんの方を見ると真っ赤になって――――もともと真っ赤だったかもしれない――――
目を泳がしていた。

「あ…えっと……ぁ、そういえば雛倉さんはどうして今回成績良かったんですか?」

私の視線に気がつき慌てて話題を換えるようにして言った。よくわからないけど、私の質問が良くなかったらしい。
だけど、その質問はどう答えていいのか難しいところ。
私は悩む。どこまで正直に話すか、気まぐれだと適当に済ませるか……。

……。

「……それは…、ある人に仲直りするにはどうするかアドバイスされて……」

「アドバイス?」

暗い声ではあるが興味を示したらしく尋ね返される。

「……その…まずは仲直りしたい人の順位を越えてって……」

「それって……私のこと?」

私はそう聞かれて顔が熱くなるのを感じながら小さく頷く。

285事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。14:2015/04/17(金) 01:17:04
「あ…えっと……さっ、皐ね…余計なことを……」

朝見さんまで動揺してしまった。
というか皐先輩のことを皐と呼び捨てている……。
昔からの知り合いだと聞いていたけど、思っていた以上にフレンドリーな関係らしい。

――っ! あぁ、そろそろこっちも……。

朝見さんのことで頭がいっぱいで小康状態にあった尿意が、不意に大波として私を襲う。
仕草を抑えきれず身体を震わし、一瞬だけ大切な部分を押さえてしまう。

「あの、私が言うのも変かもしれないけど……大丈夫?」

「ま、まぁ……なんとか…」

――見られた……恥ずかしい。確かにこんな状態を見られるって言うのは相当辛い。

「おーい、あやりーん、呉葉ちゃーんいるー?」

扉の向こう側から声が聞こえる。
私はすぐに振り向き扉を叩きながら答える。

「まゆ! さっさとあけなさいよ!」

「うぉ、あやりんが怒ってらっしゃる! 今あけるからちょっとまって……っと、ほい」

ポールを取りまゆが扉を開ける。

「ごめんごめん、ポールが……あ、……えっと呉葉ちゃん?」

扉を開けてようやく状況を察したらしく――っていうかトイレ!
私は小さく足踏みをしながら言葉を紡ぐ。

「……えっと、まゆそのね……えっと――」
「雛倉さん……いいから行きなさいよ」

――うぅ……。

私の様子を見かねて朝見さんが私を行くように促す。
実際開いたことによる安心感で本当に危なくなってきてるし……。

「ご、ごめん! 終わったら更衣室から着替えとか持ってるくから! まゆ、後お願い!」

私は二人を置いて身体を前屈みにして駆け出す。
手は確り前を抑えて――ぅ…恥ずかしい。

一番近いのは体育館横のトイレ。
駆け込むとあの時のように扉が閉まっている――みたいなこともなく、慌てて個室に飛び込む。

<ジュワ……>

――っ! ダメ、鍵……いいや! 後!

先走りを感じ、鍵をあきらめ和式トイレを跨ぐ。
ハーフパンツと下着両方同時に手を掛けて一気に下ろすと同時にしゃがみ込む。

「はぁ……っ」<ジュイィィーーー>

相変わらずトイレ前とかに弱い私が少し情けなく感じながらも、安堵から声が漏れる。
多分朝見さんの我慢は今の私よりずっと辛かったんだと思う。
そう思うと――やっぱり可愛い。良い物を見せてもらえた。

それに……よくわからないけど、ちゃんと会話できた気もする……。

1分近く続いた恥ずかしい音が止まりほんの少し濡れて気持ち悪い下着を多少なりとも拭いて履きなおす。

「……はぁ…」

――さて……更衣室で制服に着替えて、朝見さんの服を持って――後は一度教室に戻って下着とか入ってるカバンも取りに行かないと。

昼休み終了まであと15分ほど。
お昼を食べる時間がないことを少し惜しみながら私は更衣室の方へ駆け出した。

286事例9「朝見 呉葉」と聞こえない『声』。-EX-:2015/04/17(金) 01:20:03
**********

――失敗したなぁ……。
あやりんに後を頼まれたけど、どうしよう……。

「あんまり……見ないでくれる?」

「ご、ごめん!」

私は呉葉ちゃんに言われてすぐに後ろ向く。
余りの惨状に目を背けるどころか呆然としてしまった。

……。

「本当にごめん私のせいで……」

その惨状の原因を作ってしまったことを謝罪する。

「……もう、いいわよ……わざとしたわけでもないんだし……」

その言葉に冷や汗が流れる。
だけど、……言わなくちゃいけない。

「えっと、凄く言い難いんだけどさ……」

一呼吸おいて続けた。

「その…わざとなの……閉じ込めたの」

「……え?」

「い、意地悪でしたんじゃないんだよ! その……二人には二人で話せる機会が必要だと思って……あーもう! 本当にごめんっ!」

私は振り向き膝をついて頭を下げる。
こういう機会を作ってあげないと、あやりんと呉葉ちゃんの性格的にどうにもならない気がしたからした行為だったけど、完全に裏目に出てしまったかもしれない。

「いや、土下座までしなくても……と言うか貴方もなの…?」

私は頭を下げながら「貴方もなの…?」っと言う言葉が何のことか考えるが……わからない。

「はぁ……お節介焼きばかり……このことについては許さず恨むことにさせてもらうから」

その言葉に返す言葉もなく、頭を下げ続ける。

「だけど……、雛倉さんの事で少し勘違いしていたことがわかったし…一応そのお節介に対してはお礼を言うわ……黒蜜さん、ありがとう」

私は良くわからず頭を上げて目をぱちぱちとさせる。

「……こっち…見ないでくれる?」

おわり

287名無しさんのおもらし:2015/04/17(金) 01:44:20
更新待ってました。
ついに結果がまさかの二人とも同じ順位、朝見とは少し仲が改善したしね。 今まで朝見の声が聞こえないのは波長がかなり合わなかはって事なのかな。

そして久しぶりに声が仕事した。

288名無しさんのおもらし:2015/04/17(金) 15:03:33
ついにきたー
クールな女の子が必死で我慢するのはすごくかわいい

289名無しさんのおもらし:2015/04/18(土) 18:42:35
GJ!
朝見さんメイン来た!

それにしてもやっぱり文章も別格感あるな

290名無しさんのおもらし:2015/04/19(日) 00:32:14
GJ!!!

291名無しさんのおもらし:2015/04/22(水) 01:10:48
浅見さん髪長いなww
話が大きく展開した感じ、次回が楽しみ

292事例の人:2015/04/26(日) 19:23:45
>>287-291
感想とかありがとう!
>声
『声』……仕事したと言えたのかな?
>次回
平常運転(事例10)か伏線回収(裏)か寄り道(小数点)になります

293事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 1:2015/05/11(月) 20:01:12
『う〜ん可愛いなぁ』

冷水機前でいつもの変態少女が『声』に出して悶えている。
さすがに大きな『声』ではないし、表情自体は崩してはいないわけだけど。

そして、その視線の先は……どうやら篠坂さんの様だ。

……。

仄かな苛立ちと呆れを感じて小さく嘆息する。
私は冷水機から立ち去り更衣室で早々に着替えを済ませ教室へ向かう。
体育で喉は渇いているが私には持参の水筒がある。
わざわざ並んで水を飲むことも無い。

<ゴクゴクゴク>

教室に戻り私は自分の席で水筒のお茶を飲む。

彼女……雛倉 綾菜(ひなくら あやな)は変態的な嗜好を持っている。
他者、特に可愛い子のお小水の我慢姿を見ること。
ただそれだけの変態な女の子ならまだ良かったのだけど、彼女は私と同じテレパシスト。
ただし、私のように特定波長の『声』を聞き取る能力ではなく、彼女の読み取れる波長は可変。
より細かく言えば自身と同波長の『声』を聞き取る能力。
正直言って使い勝手は私と同程度には悪い。
しかし、彼女の嗜好と結びつくと彼女にとっては有益な、他者にとっては非常に迷惑な能力となる。
私には通用しないから、私自身が危惧する必要はないのだけど。
それでも、その嗜好には強い嫌悪感を感じるし止めてもらいたい。

<ゴクゴクゴク>

「はぁ……」

2杯目を飲み干して嘆息する。

294事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 2:2015/05/11(月) 20:02:12
――やっぱり私が、どうにかしてやめさせないと……。

そう思うが、いい方法があるわけでもない。それどころか今は八方塞――――私にとっては……だけど――――な状態。
なんとか会話しようと思うが……なんというか、きつく当たってしまって……。

彼女が入試一位だったと聞いて、私は素直に喜んだ。
昔、私が憧れた何でも出来る彼女のままなのだと、そう思えたから。

なのに……中間テストの結果では二位ですら無かった。
聞いた話によると、一切テスト勉強をしていないとか……そして順位を見てる彼女は全くの無関心。悔しがる素振りなんて微塵も見せなかった。
私だけが彼女に追いつこうと必死に努力して、勉強して、運動だってして……でも、彼女は成績なんて――私なんて見ていなかった。
覚えていなくても良い……だけど、私の存在を感じて欲しかったのに……。

私はそんな彼女に勝手ながら失望し、トップになっても私を相手にしていないことに落胆し、馬鹿にされた気分となって。
……その気持ちは悲しさや寂しさだけでなく、蟠りを残し、いつしか小さな悪感情を私に抱かせた。
それが、私が彼女にきつく当たってしまった最初の理由。

そして、私はこの時の事を本当に後悔した。
一度きつく当たってしまったせいで、普通に話しかけることが難しくなってしまって。
口下手で不器用な私はきつく当たることでしか、彼女と会話する方法がわからなくなってしまった。
最近ではそれが余りに続くため、無視されるようにもなって――さらに私は話し辛くなって……。
悪循環とはこのこと……。

もとより私はコミュニケーションを取る事が苦手で上手く会話できない。
本当はもっと普通に会話できれば……。

――って違う!! はぁ……今は彼女の変態的な嗜好をどうやって矯正するかって話であって……。

<ゴクゴクゴク>

落ち着こうと思って3杯目のお茶を飲み干す。
飲み終わると大きく嘆息した。

295事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 3:2015/05/11(月) 20:03:55
――
 ――

<キーンコーンカーンコーン>

3時限目終了のチャイムが鳴り、数学の授業が終わる。
私は教科書と筆記用具を持って――――次は実験で移動教室――――すぐに人気の無いお手洗いに向かう。
荷物を持ってって言うのは本当ならいやなのだけど、この際仕方がない。
移動教室なので早く人気の無いお手洗いに向かわないと時間が無い。

――あぁ、結構したい……。さっきの休み時間、やっぱり飲みすぎた?

人気の無いお手洗いに向かう理由は、唯単に恥ずかしいから。
普段は水分摂取をある程度控えて、学校でお手洗いを使わないように心がけてはいるが、
我慢できそうに無い日もあるわけで……特に今日は体育のあと飲みすぎたみたいだ。

「呉葉!」

背後からよく知った私を呼ぶ声。
振り返るとその声の主は廊下を小走りで駆け、私の前まで来る。

「何ですか、“先輩”」

「“先輩”って……皐って呼んでって言いましたよね?」

一見笑っているように見える。
けど、良く見ると眉だけ怒っている。
……この人はこの学校の生徒会、会長、宝月 皐子(ほうづき さつきこ)。
面倒なのに捕まってしまった。

「それで……あの話は考えて貰えた?」

「保留って前回話したはずだけど」

可能な限り感情を出さずにそう答えると、皐は不満げな顔で会話を続ける。

「それは聞きましたけど……綾菜さんも誘う計画がありますから……それだけはわかってもらえてますよね?」

私はそれを聞いて目を細めて睨むように皐を見る。

「そんな目で――……はぁ、いい加減素直になって、仲良くしたらいいだけじゃないですか?」『凄く良い目〜』

「簡単に言いうけど……色々あるから」

余計な『声』も聞こえてきたことに少し戸惑いながらも視線を逸らし平静を装う。

「今の綾菜さんも十分良い子ですよ……私は割り切って考えることにしましたし、その上で私は呉葉と綾菜さんの2人に生徒会へ入ってもらいたいわけですから」

本当、簡単に言う……。
私はそんな簡単に割り切れないのに。
でも、私たち2人に拘る皐も、本当に割り切れてるのか甚だ疑問だけど。

私は、大きく嘆息して、再度念を押すように答える。

「とりあえず、今は何度聞いても保留だから」

「……そう、だったらとりあえずは綾菜さんの方を誘う方法を考えます。計画が決まり次第実行しますから。
もし、入ってくれる目処が立ったり、何か進展があればこちらから連絡します。その時に良い返事を期待するとしましょう」

そう言って私の前から立ち去る。相変わらず横暴で、勝手な話。
そっちはそっちで精々頑張ってとしか言えない。
私が答えを出せるのは、私個人の問題が解決してからだ。
目処が立ってもそれに進展が無ければ、保留のままだし、生徒会選挙までに決まらなければ自動的に断るという選択となるだけ。

「はぁー」

私は大きく嘆息して、お手洗いを済ませることが時間的に間に合わなくなったことに肩を落とした。

296事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 4:2015/05/11(月) 20:05:14
――
 ――

実験室に入ると多くの生徒が既に席についていた。
空いてるテーブルは一番奥のほうと手前にある雛倉さんのテーブルの二つだけ。
友達がいないのはクラス中に知れ渡ってることなので、わざわざ、奥へ行って座るのも不自然。
と、いうわけで仕方がなく……本当に仕方なく手前の雛倉さんの隣に座る。

残る数名が教室に来て座ってゆく。

<キーンコーンカーンコーン>

チャイムとほぼ同時に最後に入ってきたのは篠坂さんだった。

「おーい、弥生ちゃーんこっちこっち、もう此処だけだよ空いてる席〜」

「あ、うん」

黒蜜さんがそう言うと、篠坂さんは小走りにこっちに来て座る。

『……とっても可愛い』

隣で雛倉さんの『声』が微かに聞こえる……確かにちょっと可愛かったけど――この変態少女。

私は改めてテーブルのメンバーを見る。
まず、私、その隣に雛倉さん、さらに隣が黒蜜さん。
その正面に座るのが篠坂さんで、私の正面が檜山さん。
一人休みなのでこの5人の班となった。

「あぅ……よく見たらこの班、優秀な人が3人も――」
「そうそう、だからこの班選んだのよ!」

篠坂さんが恐縮そうに言うと、檜山さんが被せるよう本音を言う。
酷い理由で選ばれたものだ。

「私はあやりんや呉葉ちゃんほど優秀でもないよ〜」

黒蜜さんはそう謙遜する。
雛倉さんと同じで、テスト勉強なしで成績上位なのだから、優秀であることには変わりないのだが。

「それでは実験を始めます、指定された器具を各班代表で一人、前まで取りに来てください」

いつの間にか先生が入ってきていて、授業開始の合図と同時に実験道具を取りに来るように指示をした。

297事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 5:2015/05/11(月) 20:06:45
――どうしよう、私の席が一番近いし私が取りに行った方が――

「……私取ってくる」

――良いかな……と思ったが、私がそう決断するより早く雛倉さんが動く。
そして実験器具を一式持ってきて彼女はテーブルに置く。

<ガチャン>

……。

「雛倉さん、もうすこし丁寧に置いてください」

――あぁ……また、私はこういうことを……。

別にそこまで言わなくてもって私自身も思う。
それに、私が早く行かないから雛倉さんが行ってくれた訳で……。

雛倉さんは無表情ながらも、少し気を落とす。
それでも、やっぱり無視……声を聞かせてはくれない。

――はぁ……どう考えても私が悪い。

『授業始まったばかりだけど……やっぱりお手洗い行きたいよ……』

不意に聞こえてきたのは篠坂さんの『声』。
どうしてさっきの時間に済ませなかったのか……。
私のように済ますことが出来ない事情があったのかもしれない。
だけど、そんな『声』を出すと――

『今は朝見さんとかどうでも良くてこっちが大事』

――……どうでもいい? ……。

ちょっと凹む。
私だって我慢してるのに――って、だからってそんな目で見て欲しいとか全然思わないけど……。
結局私は、彼女にとって鬱陶しいだけの人で……。
どうしてこうなってしまったのか。なんで私は……なんで彼女は――

私は心の中で大きく嘆息して、思考を無理やり中断して気持ちを切り替える。
考えても無駄なこと……もう何度も考えたのだから。

『まだ45分もある……あの秒針が45周……気が遠くなるような時間だよぉ』

……始まったばかりだし当然だ。
確り我慢して欲しい。……雛倉さんのこんな『声』なんて聞きたくない。
聞いていたら、また苛立ってしまう……。

298事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 6:2015/05/11(月) 20:08:32
「それでは、実験の説明をします。まず注意事項は――」

先生が実験の説明を始める。

『説明長そう……あ、でも長くても授業終了時間は変わらないし一緒かぁ……』

――篠坂さんも、もっと別の事考えれば、雛倉さんへ届かないのに……。

「――以上です、各班事故の無い様慎重に行ってください」

説明が終わり、各班作業を開始し始めたようで、各所で話し声や器具を設置する音が聞こえてくる。

「はい、シャー芯」

「……まゆ、私にさせるつもり?」

「うん」

私の隣の2人が実験を始めようとしている。
ちなみに実験内容は炭素棒の代わりにシャー芯を使った電気分解。
シャー芯を受け取った雛倉さんは少し嫌そうにしながらも、嘆息をした後作業に入った。
流石に手際が良い……が、一人でするのは流石に大変だ。
黒蜜さんが手伝うのかと思っていたのだが、どうやら丸投げらしい……。

対面に座る二人を見るが、どうも、不思議そうな顔で作業を眺めているところを見るに、全く理解できていない様子。
……仕方が無い。私は雛倉さんの作業を黙ってサポートすることにした。

『早く終わったら、早くお手洗いに……いけないよね……』

そうでしょうね。
と言うか、その様子じゃ実験レポートかけないような気がするけど……。

私は雛倉さんの実験の進行をスムーズに行えるように器具の配置を換えたり、道具を渡したりする。
何をするか分かっていると言葉を交わさなくても、何とかなるものだと、一人で関心していると――

「……あ、ありがと……」

――実験に使う道具を渡した時に、小さい声でお礼を言ってきた……。
いつも私が話しかけても無視するのに……いや、私が悪いのは分かってるけど。
そんなことを思いながら雛倉さんの方に向いていたのだけど、不意にその直線上に居る黒蜜さんの顔が目に止まる。
その顔は…なんと言うか微笑ましいものを見ているような――あ……全く手伝わなかったのはそういう魂胆……。
余計なお世話だ……。

299事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 7:2015/05/11(月) 20:09:27
『結構ヤバイかも……こんなに我慢したの最近じゃなかったな……』

『……抑えたい…檜山さんは実験見てるしバレないかな? ……いいや、もう抑えよう……』

作業を淡々と進めている中、篠坂さんの辛そうな『声』が聞こえてきた。
授業終了まではあと30分もある。

――この子……大丈夫なの?

と、言っても実は私も少し辛くなってきた……あの時皐に邪魔されなければ、こんな思いしなくて済んだのに……。
今更そんなことを考えても仕方が無いのだけど……授業が終わったら、どこか人気の無いお手洗い探さないと。

――次は昼休みだし、利用者の少ないのはやっぱり――

そんなことを思っていると、雛倉さんの実験を行う手が止まっているのに気が付く。
確かに一段落付いたけど、まだそれなりに作業は残っている。
私がどう、声を掛けようか迷っていると、雛倉さんは対面の、篠坂さんと檜山さんに視線を向ける。

「……二人ともちゃんと実験内容理解できてる?」

――あ……雛倉さん……。

「全然理解できないです!」「ご、ごめんなさい」

「……まゆ、あとお願い、私は二人に解説するから」

彼女は2人を気遣って、わざわざ解説するために対面の真ん中の開いている席へ座る。
私は、誰も見ていないだろうけど、少し頬が緩むを感じる。
『声』では変態的でも、皐が言う通り良い子なのだ。

「おお、優しいね〜、実験レポート出せなくて困るのその二人だけなのに」

「っ! 真弓ちゃん意外と黒い子だ!」

「……ぁ」『隣に人来ちゃった……もう流石に抑えられない』

『恥ずかしくて流石に離したみたいだけど……どこまで我慢できるかしら?』

……。
やっぱりただの変態かもしれない。

雛倉さんに代わり、黒蜜さんが実験を進める。
私は真面目に解説をしているように見える変態を眺めながら、実験のサポートを続けた。

300事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 8:2015/05/11(月) 20:10:48
――
 ――

『やだ……本当にヤバイかも……』
『抑えたい、でも……』

『……わぁ、篠坂さん……足震えてるし、手も握り締めて……凄く可愛い』

雛倉さんは、篠坂さんの辛そうな『声』を聞いて、隣でチラチラとその仕草を眺め、嬉しそうな『声』を上げる。……変態。

『……でも私もトイレ……結構切迫した状態になってきたかも……』

だけど、その変態は少し誤算があったようで、自身もそれなりに尿意が高まっているようだった。
彼女のテレパシー能力の制限で相手の波長に合わせるため、いつも彼女自身、我慢しているのだけど、
今回はちょっと飲みすぎたようであり、随分我慢している。

――そういう私も、実は結構危ないんだけど……。

多分尿意の大きさから言えば雛倉さんと同程度くらいだとは思うけど……。
そして、もう一人は私たちと比較する必要が無いくらいに、切羽詰った『声』を上げていた。

『ぅ……やだ、波がっ――お、お手洗い! 早くぅ! お手洗いに行きたいよぉ……』

その『声』を聞いてか、雛倉さんが視線だけで篠坂さんを見る。

『……つ、ついにスカートの前に手が……』

『嘘……今の雛さんに見られた!?』

――雛倉さん……本当にあなた変態なのね。

ここまで酷い場面初めてだ……。
まぁ、ここまで尿意に切羽詰ってる人の『声』を聞くのも学校じゃ稀だけど……。

『もう、だめ……我慢できないのに……でも雛さんに見られるし……』

……。

どうしよう……このままだと篠坂さん、本当に粗相しかねない。
助け舟を出すべき?

「んっ!」『やだやだ! 出ちゃう、先生に……でも恥ずかしい……』

これ以上我慢を続ければきっとここで――

「……すみません、先生。篠坂さんを保健室に連れて行ってあげてもいいでしょうか?」

――え? 雛倉さん?

先生は篠坂さんの真っ赤になった顔を見て、体調不良だと感じたのか納得して、口を開く。

「そうですか……では保健係の人は――」

「……いえ、もうレポートも完成しましたから、私が連れて行きます」

「それじゃあ、お願いします」

先生がそう言うと、雛倉さんは黒蜜さんに「……ごめん授業終わったら私の荷物持って、教室に帰ってて」と言って、教室を出て行く。

301事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 10:2015/05/11(月) 20:12:12
……。
私は……結局何も出来ない。
変態の雛倉さんですら、篠坂さんを心配して助け舟を出して上げれるのに……。
『声』が……助けが聞こえてるのに、私は行動できない。助けられない。
私は、昔と何も変わっていない。
行動力が無くて、馬鹿で、誰も守れなくて……。
昔、私は言った。「――……いつか私も正義の味方になってみたい」って。
でも、私はやっぱり駄目なのかも知れない。

……でも、だからこそ……雛倉さんを矯正しないと……そうしなければ。



いつしか時間が過ぎ去り、授業が終わった。



私はレポートを提出して、お手洗いに向かうために教室を出る。

「ねぇ、呉葉ちゃん」

――うぅ……また、変なタイミングで……。

振り向くと黒蜜さんが少し悲しんでる様な怒っているような表情をしていた。

「なに?」

冷たく、無機質な声で応答する。
もう少し、普通に言えたらいいんだけど……。

「あやりんに強く当たるの、もう少しどうにかならないかな……?
事情があるのかどうか、よくわからないし、強制はしない……けど、あやりんは私の親友だから……。
あやりんも無視しちゃってはいるけど……あれでも結構凹んでると思うの、だから……ね?」

私は何も返せない。
少しだけ下を向いて……何て言えばいいのか思考を巡らすが、やはり返せない。
黒蜜さんは廊下の端に寄り、壁にもたれかかるようにして続けた。

「……呉葉ちゃんとは中学の間ずっと同じクラスだったからさ……悪い人じゃないってことは知ってるから……
2人が仲悪いのはちょっと私辛くてさ……」

しばらく沈黙が続く。

「ごめんね……勝手な事言って……」

黒蜜さんは私の脇を通り、教室の方へ行く。
私は心の中で謝る。本当に謝るべき相手は雛倉さんであることは分かってる。
でも、どうすることも出来ない自分の弱さに、今はただ、後姿を見せる黒蜜さんに心の中で謝ることしか出来なかった。

302事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 10:2015/05/11(月) 20:13:49
――ブルッ

背筋に走る震えが、思いのほか余裕が無いことを告げる。

――っ! い、今は、早くお手洗い行かないと……。

そう思ったが、手に持っていた、教科書と筆記用具……先にこれを片付けてしまおう。
教室に遅れて戻る時に教科書とか持っていると、誰かが詮索しかねない。

教室に戻り引き出しの中に教科書と筆記用具をしまう。
そして、この時間帯でもっとも人気がなさそうなお手洗いの場所へ移動しようと教室をでる。

「あっ!」

「っ……霜澤さん……何の用?」

教室を出たところに最悪のタイミングで接触してきたのは霜澤 鞠亜(しもざわ まりあ)。
新聞部を立ち上げるも、部員が少なすぎて、結局愛好会の域を出れない知人。
ただ、そこそこ優秀な人ではある。
成績も中間テストで10位前後だった気がするし、スポーツも出来る。そして、人間関係も私ほど悪くなく人並み。

「通りかかっただけだけで、ボクは特に用はないけど? まぁ、強いて尋ねるとするなら……その……狼さんの様子はどうって…くらいかな?」

言い初めの方は高圧的な、如何にも彼女らしい態度で話していたが、後半は弱弱しく、声も小さく話す。
変装のため付けられたと思われる似合わない眼鏡を無駄に直しているのを見ていると、彼女も雛倉さんのことを強く気にかけているように思う。

「相変わらずよ……」

私は素っ気無く言葉を返すが、尿意で立ち止まるのも辛く、足踏みしたいのを必死に耐えながら、早く話が終わるのを祈る。
もし、あまりに続くようなら、何か理由をつけて離れないと……。

「そ、そう……分かってると思うけど、変に刺激して記憶が戻ったりしたら許さないから……金髪にも言っといて!」

少し強い口調でそういうと背を向けて離れる。
すぐに話が終わったことに安堵するが、同時に下腹部溜まった恥ずかしい水が主張を強める。

303事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 11:2015/05/11(月) 20:15:16
今日は非常にタイミングの悪い時に声を掛けられる……。
私は急ぎ足で体育館の渡り廊下の隅にある、お手洗いを目指す。
その道中限界に近い尿意に焦りながらも、心の片隅で皐と霜澤さんの雛倉さんに対する姿勢が私を憂鬱にさせる。

皐は新しい雛倉さんを受け入れようとしていて、
霜澤さんは記憶が戻ることを危惧して、関わることを極力避けている。
そして私は、今の雛倉さんを受け入れられず、だからと言って避けることもできずに居る。
心のどこかで、思い出して欲しいと願い、昔のような彼女に戻ってくれると期待している。

――……やっぱり、過去に囚われているのは私だけね……。

「絶対に思い出させちゃダメだから!」……霜澤さんが泣きながら私たちに言ったあの時の言葉が思い出される。
そう、あの言葉は正しい。私の願いも期待も叶うことはない。叶えてはいけない。

……。
私は小さく首を振り、憂鬱な気持ちを振り払う。

体育館の渡り廊下の隅にあるお手洗いを昼休みにわざわざ利用する生徒は滅多といない。
保健室を越えて、渡り廊下へ、そしてお手洗いが見えると、長い髪をマフラーのようにして首に巻きつける。
それは私にとって用を足すための準備のひとつで……普段ならお手洗いに入ってから行っていること。
良く言えば効率的。でも、それは今、私に余裕がない恥ずかしい証拠でもある。

私は周囲を軽く見渡し、誰もいないことを確認してお手洗いへ駆け込む。
息が少し荒いのは走っているからではない。
手がスカートの前を抑えているのは風で捲れあがるからではない。

――んっ……まだ…あとちょっとだから……。

お手洗いに着いたことで安心した身体が尿意の波を起こし、それを心の中で宥める。

いつも通りの修理中の個室と未使用の個室が並ぶ。
私は未使用の個室へ飛び込み、少し乱暴に扉を閉めて鍵をかける。

304事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 12:2015/05/11(月) 20:16:31
髪は先に上げて置いたので大丈夫。
私は用を足そうと下着に手を掛けたとき――

<コツコツコツ>

――お手洗いに走って駆け込んでくる音が聞こえて私は、下着に手を掛けたまま固まる。
……個室に入ってしまった以上、出るところを見られる……それにこのタイミングだと音まで聞かれる。
出来れば他のお手洗いに移動して欲しいが、そうも行かないと思う。

『って、嘘? 個室閉まってる??』

――っ! この『声』って……ひ、雛倉さん?!

<コツコツコツ>

個室前までその足音が近づく。
私はもうすぐしてしまえると思っていたため、急激な尿意が襲ってくる。
個室の中なのに……することが出来ない。もししてしまえば、私の“音”が……。
私は必死になって音を立てずにスカートを捲り上げるようにして下着の上から大切な部分を抑える。

『……嘘でしょ?』「ぁ…んっ!」

――っ!! これって……雛倉さん、凄く切羽詰ってる?

『声』も声も今まで聞いたことが無いくらい焦っている。
早く替わってあげたほうが良い――そんなこと判ってる。
でも、よりによって雛倉さんだなんて……。

……ダメだ、出るわけには行かない。

恥ずかしい音を聞かれるなんて耐えれない。終わった後、どんな顔して出れば……。
そして、今出してしまうと我慢していた分、相当長い時間音がする……たとえ音消しをしても雛倉さんなら聞き取りそうだし
そもそも、1回の音消しでは間に合わず、2回行うことになればそれはそれで恥ずかしく、結局我慢していたことが雛倉さんに判ってしまう。
……それだけでも死にたくなるくらい無理なのに……それに加えて雛倉さんは私の『声』が聞こえなかったという疑問を持つことになる。
つまり私にテレパシストの読み取りに抵抗があることがバレてしまうかも知れない。

『何で、どうして?? もう膀胱パンパンなのに……直ぐ入れると思ってたのに!』

――お願い、雛倉さん……早く別のところへ行って……。

私はそう祈る。
それは、開くことが無いトイレに無駄に待つことになる雛倉さんの事を思って祈っただけじゃない。
個室に入って気が緩んでいる私も長く我慢できる自信がないから。

305事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 13:2015/05/11(月) 20:17:52
「はぁ…はぁ……」

扉一枚隔てた向こう側から小さな息遣いが聞こえる。
とりあえず、雛倉さんは波を越えたのかも知れない。
でも、私は――

「(んっ……)」

左手で声が漏れない様に口を押さえ、右手はスカートのしたから下着を鷲掴みにするようにして耐える。
音を立てるわけに行かず、足踏みも満足に出来ない……。

<コツコツコツ>

それなのに、個室の外からは雛倉さんの足踏みの音が、トイレ内に響き渡る。

『うぅ、これ個室の中の人にも絶対聞こえてる……』

そう『声』が聞こえ、しばらくは音が止むが、またすぐに遠慮がちに音が聞こえてくる。
私はその不快なステップのリズムが、酷く羨ましく感じてしまう。
出来ることなら私も同じようにしたい……でも――出来ない。してはいけない。

小さく身を揺すりながら、音を立てずに何とか我慢を続ける。
でも、数分経った今もなお、外で雛倉さんが我慢を続けている。

『ちょっと…いくらなんでも遅すぎない!?』
『もう、我慢も限界なのに……何してるのよ!』

――それはお互い様ですからっ!

そう思っているなら早く、別のトイレに向かって欲しい。
いくら待たれても、出れないものは出れない。

――それに……早くしてくれないとそろそろ私も我慢が……。

抑え込む手にこれ以上無いくらい力を入れて、何度も抑えなおす。
それでも、溢れてしまいそうになりながらも、これ以上身体を動かし音を出すことも出来ない。

『もしかして、音が聞かれるのが嫌で中で我慢してる? ……いや、『声』が聞こえないしそれは無い?』

――っ!

図星を付かれて動揺する。
その動揺に反応するように膀胱が収縮して波を起こす。

――ぁ…んっ……もうっ限界…! お願い、早くどこか……。

306事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 14:2015/05/11(月) 20:19:35
『っ! ダメ……余計なこと考えてたらまたっ!』
『やだ……本当限界、なんで空かないの!?』

私が急な尿意に動揺して焦っているのと同じように、外でも限界の尿意に抗う雛倉さんの『声』が聞こえる。

「ぁぅ……」『嘘!? やぁダメ…おしっこ、漏れちゃう! うぅ……』

必死の我慢の『声』が口からもあふれ出している……。

――っ……はぁ、ど、どうしよう……このままじゃ雛倉さん…。

出るべきか否か。
雛倉さんの事を思えば、私の能力とか羞恥心とか気にしていられない……。
出てしまうのが絶対に正しい……なのに……。

――やっぱだめ……出れない、出るにしても済ませてからじゃないと私が持たないっ。

それに……やっぱり音を聞かれるのが嫌で、さらに今更して、後でなんて言えばいいのか分からなくて。

「んぁ! ――はぁ、はぁ……」

どうやら雛倉さんは波を乗り切ったのか、外で熱の篭った激しい呼吸音が聞こえた。

でも、今度は私の膀胱の収縮がピークを迎え、恥ずかしい熱水を力一杯押し出そうとしてくる。
荒い呼吸も身動ぎさえ許されない状態での大波。必死になって足を閉じ合わせ、ただただ抑え込む。

だけど――

<ジュ……ジュー>

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz53686.jpg

何度もお預けをされ、個室に入ってからも長時間にわたり我慢し続けてきた大切な部分が限界を迎えた。
そしてその熱い感覚は、どうやっても止めれそうになかった。
視界が涙で霞み、片手で押さえられた口から声が漏れそうになるが、どうにか飲み込む。

『うぅ…ちょっとだけ濡らしちゃった……だめだ、ここから一番近いトイレ……本棟に戻って階段を上れば直ぐだ!』

その直後外から雛倉さんの『声』がして、同時に、足音がトイレの外へ向かうのが判った。

私は、足を開き、口を押さえていたほうの左手でスカートを掴み上げ、和式トイレを跨ぐ。
下着を下ろすことは諦め、すぐにしゃがみ込んで、靴や靴下へ被害を出さないことを優先した。

「はぁ……はぁ……」<ジュウゥーー><ジョロロロ>

下着の中でくぐもった音を出し、あふれ出た熱水は白い陶器の中にある水溜りを打ち、二重に恥ずかしい音を立てる。
そんな音を確かに耳にしながら……ただ、このときは雛倉さんの前で失敗せず済んだことに安堵していた。

307事例2裏「朝見 呉葉」と弱い心。@呉葉 15:2015/05/11(月) 20:20:21
――
 ――

「はぁ……」

恥ずかしい失態を終えた私は下着を洗面所で洗う。
被害が下着だけで済んだことと、雛倉さんが気が付かずに他のトイレに行ってくれたのは不幸中の幸いだけど……やっぱり辛い。
雛倉さんはここで多少の失敗はしたようだけど、大丈夫だっただろうか?
もし間に合っていたなら……理不尽だけど怒りたくなる。

――最低の理由で我慢していた雛倉さんが間に合って、私が間に合わないなんて事……。

だけど、もし間に合っていなかったら……それが良い薬になればいい。
そう思うが――やっぱり原因の一端は私であり……凄く申し訳なく思う。

下着を洗い終え、自身がしてしまった失敗を再度自覚する。

「はぁ……あと少しだったのに」

情けない気持ちと、これを今から履くことになる現実に憂鬱な気持ちになる。

おわり

308「朝見 呉葉」:2015/05/11(月) 20:21:31
★朝見 呉葉(あさみ くれは)
綾菜にきつい態度をとる。
学年一の優等生。

波長限定テレパシスト。綾菜同様受信のみ可能。
非常に大きな主張を持つ波長、その中でも興奮した感情を含むものが受信しやすい。
読み取れるのは表層の『声』のみ。深層意識は全く関係しない。
綾菜と比べると感度は非常に低め。10mも離れればどんな『声』でも聞き取れない。
綾菜同様、聞こえやすさ個人差があり、綾菜や皐子は聞き取りやすい(慣れも含む)。
また、テレパシストによる読み取りを妨害する能力も合わせ持っている。

朝見家は代々テレパシーの能力をある程度受け継いできた家系。
例えば、呉葉の母は直接触れている相手の表層の『声』をすべて聞き取ることが出来る…など。
呉葉のテレパシストによる読み取りを妨害する能力は、非遺伝的な能力。
周囲に波長として漏れ出さないだけであり、触れてさえしまえば、母でも綾菜でも聞き取ることは可能。

膀胱容量は人並みより少し多い程度で最大容量800ml程度。
過去に公園のトイレを利用しようとした際、それを妨害され、それに興奮する『声』を聞いてしまう。
それ以来、そういう類の人に嫌悪感を持っており、同時に、人前でトイレに立つことを非常に恥ずかしいことだと感じている。
そのため、学校ではあまりトイレを使わない。なので比較的我慢しがち。
下校まで我慢出来そうにないと判断したときは、やむ終えず利用者の少ないトイレを使う。

成績最優秀、運動得意。所謂、文武両道。
入試成績2位、1学期の中間テスト、期末テスト、2学期中間テストで学年1位。
綾菜が入試成績トップな事を知り、自身の存在を主張する為にも更に猛勉強して挑むが、綾菜はテスト勉強すらしておらず空回り。
自身が求めていた綾菜と大きくかけ離れた存在であることに気が付き、中間テスト後はもやもやした気持ちからきつく当たってしまう。
その後は綾菜に無視されるようになり、綾菜から自身に向けられる不信感に後悔と遣る瀬無い気持ちを覚える。

性格は正義感が強く真面目で無口。
正義感が強いのに、コミュ力低いので積極的に問題解決には踏み出せない上
口下手で近寄りがたい空気を纏っており、綾菜に対する態度からも、周囲からは怖い人だと思われている。
綾菜のことを変態趣味持ちな面で嫌っていると同時に、助け舟を出したりする行動には多少好感を持っている。
なので、如何にかして変態趣味から脱して欲しいと思い日々悩んでいる。
ただ、皐子の嗜好に関しても知っているが綾菜ほど気にしていない。
表情を取り繕うのが得意で、表情に反して本音では後悔や苦しんでいることが多い。
緊張や動揺、不安に直面すると喉が乾き、持参のお茶をついつい飲んでしまう割る癖があるが自覚していない。

綾菜の評価は最悪であり、天敵。自身の嗜好まで知られてしまっている油断できない相手。
『声』を聞いたことが無い相手であり、いまいち何を考えているか判らなく、自身に対して非常に厳しく理不尽な対応。
ただ、根は悪い人ではないのは判ってはいるし、仲良くなれるのならなりたいと思っていて、妙に意識してしまう相手でもある。

309名無しさんのおもらし:2015/05/11(月) 21:31:38
丁度覗いたら更新きてた。なるほど事例2の裏ではこんな事があったのか、あの時トイレにいたのはやっぱり朝見だったのか。

310名無しさんのおもらし:2015/05/11(月) 21:57:01
待ってました
事例の人の小説は久々にスレ覗いて以来最近の楽しみになりつつあるよ

311名無しさんのおもらし:2015/05/11(月) 23:39:27
偶然にも朝見と綾菜は見事に行動がシンクロしてる。二人とも下着を下ろさないでしてしまって、その後下着を洗ってる所が。これもしも同じトイレで二人同時に個室から出てきたらバッタリと会ったらどうなるんだろう。

312名無しさんのおもらし:2015/05/13(水) 15:22:02
なんと素晴らしい

313名無しさんのおもらし:2015/05/16(土) 22:56:18
前回で話が一つ区切りを迎えたかと思えばまた大量の伏線でてきたな
こりゃこれからも目が離せませんわ

314事例の人:2015/05/21(木) 19:21:57
>>309-313
感想とかありがとう
>大量の伏線
回収した伏線のがきっと多い……はず

315名無しさんのおもらし:2015/06/07(日) 05:44:36
くノ一つづいてたのか

316名無しさんのおもらし:2015/07/28(火) 15:34:27
素晴らしい

317名無しさんのおもらし:2015/08/25(火) 23:05:57
続きはよ

318名無しさんのおもらし:2015/08/28(金) 13:10:39
長い間出したかったおしっこは思う存分もらしちゃったので
たまるまでしばらくお待ちください(笑)

319名無しさんのおもらし:2015/08/28(金) 22:56:47
最近になってこのシリーズ知ったんだけど、昔の挿絵とか見れなくなってたり
もしよければ渋とかに今までの挿絵まとめとかやってくれたら嬉しいです

320名無しさんのおもらし:2015/08/29(土) 15:30:56
>>12
実質単独スレで他の作品がくることもほぼないし
こういう状態で別物が混じるのもすっきりしないし浮くし
看板作品が止まるとこんな状態だし
前スレの段階で占有率高いことは分かってたし
スレ独立してたほうがいろんな意味でよかったのかもな

321名無しさんのおもらし:2015/08/30(日) 23:37:17
まあ占有率高いのは投稿者の責任じゃないしこのままでいいんじゃね

322名無しさんのおもらし:2015/09/12(土) 03:04:15
なかなか次のおしっこがたまらないね

323名無しさんのおもらし:2015/09/17(木) 10:50:56
あげ

324名無しさんのおもらし:2015/09/17(木) 12:06:41
>>320
そのまとめ、投稿者さんが貼って欲しくないと書いているのだから貼らない方がいいと思う。
まして単独スレというのはもっと不本意なんじゃない?
プレッシャーを掛けないで置くべきだと思うな。

325事例の人:2015/09/19(土) 20:06:37
感想とかありがとう
>>319
気が向けばいつかまとめるかもです
>>320-321>>324
このあたりについては当然思うこともありますが、ごめんなさい、ノーコメントとします

あと先に謝っておきます。挿絵はありますが、そっち系の絵ではないです。なので見る必要ないかもです
後半部分のどこかを描く予定でしたが、しばらく描けない状態に陥ってますので用意できてないです

326事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 1:2015/09/19(土) 20:09:02
<カランカラン>

ボクは始業式の帰り、駅前の喫茶店に入る。
本当はひとみと来るつもりだったけど、何か用事があるとか……。
当然それは嘘だとわかっている。
どうも、夏祭りでのことを気にしてるみたいで、……当然といえば当然――本当に申し訳なく思う。

なので、寄らないって選択肢もあったのだけど、此処のマスターとは知り合いで、今日行くって話を事前にしてしまっていた。
「やっぱり行かない」なんて連絡を入れるのも悪い気がして……結果一人で来てしまった。

「あ……」

――ん? ……っ!

誰かの声に視線を向けると思いも寄らぬ人達がいて、ボクは半歩後ずさり驚く。
そして条件反射でボクは口を開く。

「な、なんであんたらがいるのよ!」

入ってすぐの4人席。そこには銀狼、黒蜜真弓、篠坂弥生の3人がいた。

「いやー、なんでってお茶しに来たんだけど? ――ってあれ? もしかして噂の新聞部部長さん?」

最初にボクの問いに答えたのは、元気が取り柄で有名な黒蜜真弓。
ほぼ初対面のはずの彼女が最初に口を開いた当たり、コミュニケーション力の高さが窺い知れる。

「そ、そうだけど?」

相手のその元気に飲まれないようにボクは不遜な態度で返す。

「なんで最近メガネつけてないの?」

「え? あぁ、それは友達に外した方がいいって言われたから……」

微妙な質問に面を食らいながらも、平静を装い答える。

「それじゃ、今コンタクトなんだ」

「別に目が悪いわけじゃないから、付けてないわよ?」

もともと度の入ったメガネではなかった。
変装のためにと思ってつけていたのと、ちょっと知的に見えるかも知れないと思っていただけ。

327事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 2:2015/09/19(土) 20:10:03
「……ちょ、ちょっとまって!」

銀狼がボクの所に来てテーブルの二人には聞こえないように背を向けて話す。
正直その行動にボクは驚く。

「(……どうして、ここにいるの……)」

「(え、……ど、どうしてって……お茶しに来ただけなんだけど……)」

大体銀狼のグループと同じ理由。それを素っ気無く……っと言ってもそう言う振りをしたかっただけで、実際は可也動揺した態度が……。
銀狼はそれを聞くと小さく嘆息して――――嘆息するとか失礼でしょ……――――続けた。

「(……どうする? 謝る? なにか手伝う?)」

ボクはその言葉に視線をあさっての方向に向ける。

「(……言い難いのはわかるけど……)」

――違う。綾は全然わかってない。

ボクは謝る事が嫌とか言い難いからとか、そんな理由で視線を逸らしたわけじゃない。
……いや、実際そう言うのは苦手ではあるけど。
綾は……銀狼はボクの事を覚えていないはずなのに、どうしてそこまで親切にしてくれるのか……。
誰にでも優しいのか、それとも無意識に昔のように接してしまうのか。
どちらにしても、銀狼の優しさに触れるのは、正直辛かった。

「(いい、一人で何とかする……む、無理そうならフォローしてくれると……まぁ…ちょっとは助かるけど……)」

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz57216.jpg

だけど、ボクの口から出た言葉は甘えた――――ついでに捻くれた――――内容。
その優しさに甘える資格なんてボクには無いはずなのに……。

「(……わかった…余り期待はしないでよ)」

優しく返された言葉。
仄かな温かみを感じながら、同時に胸を締め付けるような息苦しさを覚える。
甘えるどころか、こうしている事自体がいけない事……。
わかってる筈なのに、もっと邪険にして、関わらない方が絶対綾のためなのに……。

328事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 3:2015/09/19(土) 20:11:02
「な、なにしてるんですか二人で……」

その声に視線をテーブルの方へ向けると、少し怒っているような困っているような表情の篠坂弥生がこちらを見ていた。
友達が憎き相手と密談しているのが気に食わないのだと思う。
ボクはその様子を見て、銀狼に席に戻るように促すために、アイコンタクトを取る。

「うぅ……」

今度はそんなやり取りが仲よさそうに見えたのか、より機嫌を損ねる。
篠坂弥生はムッとした顔で、ストローでオレンジジュースを飲む。
失敗した。この子は結構焼餅妬きらしい。
この前の夏祭りの時に銀狼に突っかかりすぎたボクに口を挟んできた事も考えると
余程銀狼の事が大切らしい……。

それともう一つ失敗した。今の銀狼はボクのよく知る綾ではないわけで……アイコンタクトを取ること事態おかしな気がする。

それでも銀狼は意味を直ぐに理解したらしく席に戻る。
それに続くようにボクも“その”テーブルまで行って口を開く。

「えっと……此処いい?」

ボクは空いてる席を指差して、内心緊張しながら篠坂弥生に問い掛ける。

「ど、どうしてですか?」

怒った上目遣い……怒ってるんだけど、なんだか可愛く見えてしまってるけど……本人は気が付いていないだろう。
そして……どう答えるべきか。
素直に言ってしまうほうが無難なのだろうか。

「別にいいじゃん、ちょっと私もこの人の事気になるし」

黒蜜真弓……この人は笑顔ではあるけど、なんと言うかボクに対してほんの少しの敵意を感じる……。
でも、この台詞はボクにとって助け舟となり、篠坂弥生もしぶしぶ了承したようで、
ケーキや飲み物で散らかった空いている席――――つまりボクが座る席――――のテーブル上を片付け始めた。

――優しい気の利く子…なのかも?

“銀狼とつるんでる”“とろとろした子”そしてさっき知った“嫉妬深い子”と言う認識しか持ってなかったが
謝った時、許してくれそうな情報に少し安堵する。

「わ、悪いわね……」

余り言い慣れない言葉。
本当は「ありがとう」とかの方がよかった気がするけど、これで精一杯。

ボクは片付けてもらった席に恐る恐る座る。

329事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 4:2015/09/19(土) 20:12:26
「……とりあえず、何か注文する?」

銀狼がメニューをボクに渡す。

「あ、あたりまえじゃないっ……」

意味もなく高圧的な態度で、メニューを奪い取るように受け取ってしまった。……また失敗した。
銀狼はそれでも気にしてる素振りはなかった――――ボクの性格を知ってかどうか判らないけど――――が、
直ぐ隣の篠坂弥生はきっと内心怒っているんじゃないかと思う。

……それにしても凄く緊張する。
ざっとメニューに目を通すがもともと頼むものは決まってる。そのことすら忘れていた。

ボクは店内を見渡す。
すると、先週から此処で働き始めたと聞いた、見知ったウェイトレスを見つけ手招きをする。

「ご注文は……って鞠亜様でしたか、今日はご友人とお食事ですか?」

「「「様?」」」

「様とかつけるな! いつもの頂戴! マスターに言えばわかるからっ」

「かしこまりました、鞠亜様」

――うざっ! うちのお手伝い辞めたからって調子乗りすぎでしょ!?

……えっと、あれから金髪のとこで仮契約でメイドをさせて、今は水無子のとこで働いているはずだけど……。
水無子も非常に苦労してるに違いない。紹介したのボクだけど恨まないで欲しい。

「あの……様ってなんですか?」

……。

以外なことに尋ねてきたのは篠坂弥生だった。
この中じゃ一番の人見知りだと思っていたし、なにより嫌われてるはずだから……。

そして、余り答えたくない。出来れば「関係ないでしょ!」とか言って適当な話題を出し、はぐらかしたいのだが
相手が相手だけにそう言うわけにも行かない。
これ以上拗れさせては仲直りがより難しくなる。

「……えっと、うち、ちょっとしたお金持ちなのよ……さっきのは以前ボク専属のお手伝いさんとして雇ってた如月って人」

皆、目を丸くさせて驚く。

「だ、誰にも言わないでよ? 家のことなんてボクには関係ないんだからっ」

一応皆ボクの言葉に戸惑いながらも頷き返してくれた。
その様子に安堵して、小さく嘆息する。

330事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 5:2015/09/19(土) 20:13:42
「へー、思ったより仲良くなれそうな気がする……」

黒蜜真弓がそう言った。ボクに視線を向けたまま、ショートケーキを口に運び……興味深くボクを観察している。
ボクに向けられていた敵意も随分と減った気もする。

――別に、誰かに好かれようと思ってるわけじゃないんだけど……。

お金持ちを理由に変に威張らないところが好まれたのか
もしくは黒蜜真弓はただ、変わり者に興味があるのか……。
どちらにせよ、ボクは彼女と仲良くなろうとは思わないし
仲直り――というよりかは、自分のしたことへのケジメとして
篠坂弥生に謝罪したいだけであり、必要以上に二人と絡むつもりはない。

仲良くなってしまえば銀狼と関わることも必然的にこの先増えてしまう。

……。

――だめだ、さっさと謝ろう。

そう考えてボクは口を開ける。

「えっと……この前の事なんだけ――」「お待たせしましたー鞠亜様ー、紅茶とスコーンのセットですよ」

――早いのは結構だけど…タイミング悪い……と言うかワザと何じゃ?

ボクはじとっとした目で如月を見ると、より一層嬉しそうに笑う。――うん、ワザとだ。
とりあえず出された紅茶を一口飲む。

「紅茶……好きなんですか?」

……何故か話題を振ってくる篠坂弥生……。

「あ、うん……日本茶も好きだけど、紅茶の香りはまた違うから……」

「そうなんですか……私はその独特の香りが少し苦手で……ちょっと羨ましいです」

……もしかして、ボクが気にしてるのを知って無理に会話してくれてるんじゃ……。
そう思うと、こんないい子に恥を掻かせてしまったことによる罪悪感がより強くなる。

そして……ついでに――

――ん…なんかトイレに行きたくなってきちゃったし……。

思い返せば今朝済ませてから一度もトイレに行っていない。
極度の緊張と水分を口に含むという行為が意識させるきっかけになったみたいだ。
それに今朝も紅茶を飲んで出てきてしまったので……正直結構溜まっていると思う。

ただ、状況がよくない。
この前おもらしをさせてしまった相手を前にトイレを済ませるために席を立つと言うのはちょっと――ではなく相当気が引ける。

――早く謝ってしまわないと……。

そう思うが、篠坂弥生が気を使って来たことで、言い出すタイミングが掴めなくなってしまっていた。
それに詮索しすぎなのかもしれないが、この気の使い方は
実のところ、ボクにその話題に触れて欲しくないと思ってしている……そんな風にも感じて。

タイミングを掴むため、少し我慢して様子を見よう。
そう思って、ボクはスコーンを口に運んだ。

331事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 6:2015/09/19(土) 20:15:04
――
 ――

店に入ってから40分程度は経っただろうか?
皆で他愛もない話をするだけで、一向に謝るタイミングがない。
いや、ボクが掴めていないだけかもしれない。

そんな中、ボクは机の下で落ち着きなく動かしたくなる足を、動かさないようするために必死だった。
緊張の余り、直ぐに紅茶とスコーンのセットを食べてしまったのがいけなかった。
そして篠坂弥生に進められるがままに次の飲み物まで頼んでしまった。
紅茶には高い利尿作用があると聞いたことがある。飲み慣れて多少耐性が付いているかもしれないが、あれから40分。
唯でさえ朝から飲んだ紅茶が自身の膀胱に溜まり続けていたのに、ここで飲んだ紅茶に追撃されては当然危なくなる。

そして、それでも話は終わらない。

――不味い……そろそろ我慢が本当に辛くなってきた……。もう行っちゃった方がいいかな?

当然このまま行かなければ大変なことに……。
でも待てど暮らせど――――暮らせどは言い過ぎだが――――タイミングが掴めない。
なんて言って席を立てば良いのか、どんな顔でその言葉を言えば良いのか。
そして、篠坂弥生はどんな顔をしてボクの言葉を聞くのか……。

空調管理された店内にいながら額にうっすら汗が浮かんでくる。

「あ…えっと、ちょっとお手洗いに…行ってきますね」

その言葉を発したのはボクではなく、篠坂弥生。
若干言い辛そうにして、顔を赤らめながら席を立つ。
そして思い至る。――そう連れション。
席を立とうとして、腰を小さく浮かす。
同時に膀胱に溜まった熱水が重力に引っ張られるような重い尿意を感じる。

「――」「まりりんちょっといい?」

「ボクも――」そう言葉を紡ぐ寸前に、黒蜜真弓が声を掛けて来た。
仕方がなく、スカートを直す振りをして再び腰を下ろし、そわそわしたくなる身体を必死に宥め、黒蜜真弓の言葉を待つ。

――というか、まりりんって……。
鞠亜の“まり”とあだ名によく使われる“りん”をつけたわけか、銀狼――――つまり“あやりん”――――と同じ方式。

「ごめんね、弥生ちゃんがあれじゃ、謝るのは難しいね……触れないのも優しさだしね」

黒蜜真弓はそう言うと複雑な顔で笑ってみせる。
なんと言うか、此処に来て直ぐと比べるとボクに対する毒気が大分薄れたように感じる。

「それに……良い感じに仲良くなってきてる気がする
まぁ、初めの内はそう言うつもりで話してたわけじゃないと思うけどね」

だけど……謝れないとなると結局トイレに行けない。
いや、篠坂弥生に気を使わないのであれば別にいけないこともない。
彼女も自らトイレにたったわけだし、それほどボクがトイレに行くことを気にする必要は無いはずだ……と思う。

332事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 7:2015/09/19(土) 20:16:03
――でも…もうちょっと…もうちょっとだけ我慢しよう。そうすれば――

……帰ってくれるかもしれない。そんな希望的なことを思ってしまう。
ボクが思っている以上に篠坂弥生が気にしてしまう可能性だってある。
それに……トイレに行けない色んな理由はあるが、実際のところ普通に恥ずかしくもある。
なら帰ってくれるに越したことはない。

椅子に浅く座り、誰も気が付かない程度に震える膝……それに手を置いて震えを沈める。
そんな状態でこんな悠長なこと考えてる場合じゃない……そう思ったが、本当にギリギリまでは我慢してみようと思った。

「お、お待たせしました……」

小さな弱々しい声で、でもどこかすっきりもしている顔で篠坂弥生が用を済ませ帰ってくる。
銀狼達が「おかえり」と言ったのでボクも作り笑いをしながらそれに続く。
その言葉を言ってすぐ背筋に震えを感じた。

――だ、だめだ、もう言わないと間に合わなくなっちゃう……。

自身が思っている以上に、本当は限界なのかも知れないと初めて気が付く。
触らなくても下腹部がパンパンに張って、石みたいに硬くなっているのは想像が付いていた。
だけど、もう少しくらい大丈夫だとも思っていた。
尿意は辛いけど、おもらししちゃいそう、出ちゃいそうとは思っていなかったから。
それは椅子にじっと座り我慢していたことで今まである種の均衡を保っていれただけで
少し前に腰を浮かせてしまった時にそれが崩れ、徐々に排出に向けて身体が準備を始めたのかもしれない。

――っ……こ、この波を越えたら、絶対に言おう。

今すぐ言えなかったのは言って直ぐ席を立てない気がしたから…――いや、それだけじゃない。
口を開くという行為を出来るほど余裕がなかった。意識を少しでも我慢から別のところに移してしまうのが怖かった。

――うぅ……高校生にもなってこんなになるまで我慢して……馬鹿みたい。

つい先日、高校生二人のおもらしを見ておきながらも、そう思わずにはいられなかった。
いや、見ていたからこそ、自身が同じようなことを経験してしまっている今の状況にこの上なく情けなく思っているのかもしれない。

「そんじゃ、そろそろ帰ろっか?」

黒蜜真弓がそう言った。
ボクは波に耐えながらも何とかこの状況を乗り切ったことに安堵した。

「……そうだね……ぁ」

銀狼が同意したあとボクの方に視線を向けたかと思うと、何かに気が付いたのか小さく驚くような声を出した。
我慢してることに気が付かれたのかと思って一瞬どぎまぎしたが、焦点はボクではなくその後ろの方に向けられているみたいだった。
気にはなるが今振り向くと下腹部が捻りで圧迫されるし、庇いながらだとどうしても不自然になる。
それに銀狼は直ぐに何事もなかったように帰るための身支度をし始めた。きっとそんな大したことじゃない。そう思った。
他の皆もカバンなどを持ち席を立つ。

333事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 8:2015/09/19(土) 20:17:14
「あ、ボクは、えっと…マスターにちょっと話しがあるから、残るよ」

皆がボクが席を立たないことに疑念を抱く前に先回りして答える。

「あ、そうなんですね……」
「んじゃ…んー、会計は各自でいいかな?」

篠坂弥生と黒蜜真弓が会計の話を始める。

――ど、どうでもいいから早くっ、早く行って!

「(……ねぇ)」

っ!
二人より先に席を立っていた銀狼が隣まで来ていて
ほんの少し頬を染めてボクを心配そうに見て直ぐに視線を逸らしながら小声で言った。

「(あまり力になれなくてごめん……それと…えっと……な、なんでもない……がんばって)」

初めの謝罪は当然ながらフォローのこと。フォローしようとしてる努力は少なからず感じることは出来たが、実際全くフォローになってなかった。
次の言葉は一瞬何のことかわからなかったが、自身が机の下で無意識ながら“抑えて”しまっていることに気が付きその言葉の意味を理解した。
そして、理解すると同時にボクは顔を真っ赤にしながら手を離した。
会計の話をしてる二人には気が付かれていないけど……“また”銀狼にだけは知られてしまった。

「……二人ともとりあえず行かない?」

「おっけー、そんじゃーね、まりりん」「うん、……えっと、またね? ――でいいのかな?」

そう言うと3人がレジに向かう。ボクは小さく嘆息する。

――ゾクッ……

っ!!?

背筋に電気を通したような激しい震えが走り、尿意が一気に膨れ上がる。
一度大切な部分から離した手を再度滑り込ませ、今度は両手で力の限り宛がう。

――だめぇ……まだ、まだ綾たちがレジのところに……も、もうちょっと――もうちょっとだから……。

尋常ではない強烈な尿意の波に挫けそうになる。
キリキリと軽い痛みすら感じるほどに丸く張った膀胱は、小さく収縮を繰り返し限界を告げている。

――早くぅ、早くしてよぉ……。

睨むように三人に視線を向けていると
ふと、綾が心配そうな顔でこちらに一瞬視線を向けた。
ボクは慌てて視線を逸らす。

<ジュ……>

っ!

だけど、その心の乱れと、本当に少しだけ軽く動かした身体の隙を付いて
全力で抑えているはずの部分が、小さく膨らむようなそんな感覚を指先に感じた直後
ジワァっとした熱い液体がほんの少し溢れ出たのを感じた。

334事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 9:2015/09/19(土) 20:18:36
――っ…う、嘘!? や、今…少しだけっ! ――あぁ!! だ、だめ……これ以上はっ! 

続けて攻め立てる尿意にきつく両目を瞑って歯を食いしばり、大切な部分を内側に何度も押し込むようにして力を入れる。
……なんてはしたない姿……綾が見てる可能性だってあるのに――それでも止められない。そんなことを気にしてる余裕なんてなかった。

そうしてようやく少し落ち着いてきた尿意の隙を付き、ゆっくりと瞼を開けると、レジには綾たちの姿はなかった。

――こ、これでようやく……。

そう思い膀胱を刺激しないようにして椅子の上で身体をゆっくりと回して、席を立つ準備をする。
膀胱の張りを敏感に感じ取れる。本当に限界まで膨らんだそれは何かを抱えているみたいに、重さも感じられた。

もう少し……そう思った……。
だけど、その思いは視線をお手洗いに向けた瞬間に打ち砕かれた。

――せっ、清掃中!?

それを見たとき、少し前に綾の驚いていた顔が脳裏に蘇る。
あれは、トイレの清掃看板を見て驚いた顔?

……。

ボクは下を向き恥ずかしさと尿意に歯を食いしばる。
綾は……気が付いていた?
いつからかは知らないけど、声を掛けて来る前からボクが我慢してることを。
そして、あの“がんばって”という言葉はこれを含めていった言葉。

――どうしよう…どうしよう……本当にもう、我慢が…――

次、大きな波が来たらきっと我慢しきれない。
どの程度しきれないのかはわからないけど……さっき程度済むとは到底思えない。
もしかしたら水溜りを作ってしまい……マスターや従業員や今いる客全員に……。

「鞠亜? えっと……その体勢は――トイレ…ですか?」

335事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 10:2015/09/19(土) 20:19:26
その声にボクは顔を上げる。

「えぇ〜と、その様子だと結構きてますね〜。紅茶のおかわりなんてするからですよ」

笑顔でありながら少し心配した表情でボクに視線を落とすのは如月だった。

「今清掃中ですが、ものの2,3分で終わりますよ、それまで我慢姿でも堪能させて頂きますね」

――っ! な、何を悠長で変態的なことをっ!

いつ決壊してもおかしくないこんな状態だと2,3分どころか1分すら怪しい。
そんな状態を堪能? ……我慢姿だけじゃなくチビってしまってる所も確実に見られてしまう。
仕方がない。既にバレてるわけで……それでも断腸の思いでその恥ずかしい言葉を口にする。

「き、如月ぃ……お願いそんなに持たない! 今すぐに終わるようにっ…ねぇ、お願いだからぁ……」

顔から火が出る思いで限界であることを伝える。

「……えっと、マジですか……んー…もうちょっとじっくり見て居たかったのが本音ですが、本当に無理そうですね。
……貴方には多少なり恩がありますしー…う〜ん、仕方がないです、今度、水無子お嬢様で遊ぶとしましょうか」

そう言うと清掃中のお手洗いの方へ行き、扉を開けて清掃員の人と何やら話しをしている。
ボクはと言うとスカートが捲れ上がっているのに気にする余裕もなく、下着の上から両手で何度も何度も抑えこむ。

――まだっ…なの? 後何秒? どれくらいっ経ったの? いつまで……。

時間の進むスピードが判らない。
そしてまた身体が小さく跳ねる。

――っダメ……来ちゃう…また……如月ぃ…お願い早くぅ!

心音が凄く大きく感じて、
でも次の心音までが恐ろしく長い。

――ダメだ、もう来る、来ちゃう……。

目を瞑り、椅子から下ろされた足はつま先立ちとなり、背中を丸め身体を小さくして“それ”に備える。

336事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 11:2015/09/19(土) 20:20:50
「鞠亜、もう入っても大丈夫ですよ」

不意にかけられたその声と同時に身体が震える。

――あっ! あっ! ……ち、違う! 出していいなんて誰も言ってない! まだダメっ!

そう言い聞かせるが膀胱は大きく波打ち出す。
だめだ、絶対に我慢できない。そう感じた。
だからボクは波を越えることを諦めた。

<ダンッ>

――と、トイレに!

波を越えなくても、漏れ出す前にトイレにさえ辿り着ければいい。
その一身で立ち上がりトイレまで走った。

ほんの10歩ほどで辿り着けるトイレの入り口。
一歩踏み出すごとにその振動が膀胱へ直接響きより大きな尿意を生み出す。
最初の数歩までは失敗せずにいけた。けど――

<ジュ…ジュッ…ジュウ……>

トイレの入り口にたどり着く前に何度も溢れ出し、その量は次第に増え下着を直接抑える手が
次第に濡れ、指の間からポタポタとフローリングに一滴、また一滴と落とす。

外扉までたどり着く。
幸い押すだけで開くタイプの扉なので、肩を使い押し開ける。
その間にも徐々に溢れ出るようにして熱水が下着から染みだしてくる。

慌てて中に入り、次は個室。
清掃を途中で切り上げた床は多少濡れている所がある。
だけどそんなこと関係ない、ボクが今最優先にすることは個室に入ること。
大丈夫、さっきまで清掃していたのだから、閉まっているなんてこと絶対にありえない。
二つある個室の手前の方の便器が見える。

<ジュッ…ジュ……>

――や、だめぇ、出てる、これ以上はっ! あとちょっと、ちょっとだからぁ!

気を緩めたつもりは全くなかったが、身体が勝手に搾り出そうとして、今度は勢いよく噴出する。
すでに保水性の限界を超えている下着では受け止めきれず、手に暖かさが大きく広がり指の隙間や内腿を伝い滴り落ちる。
それでもボクは足を止めることなく個室に飛び込み下着を下ろす余裕もなく便器の蓋を開けて大急ぎで座る。

「はぁ……はぁ……っんあぁ……」<ジュッ…ジュゥ〜〜><シャバシャバ――>

下着の中で出るくぐもった音、それと水面を打つ音が混ざり合う。
下着の中におしっこが渦巻き、気持ち悪く……でも部分的にお風呂にでも入っているかのような気持ちよさを感じながら放尿……いや、おもらしをする。
今更ではあるが、濡れに濡れた下着を指でずらし下着の中でしてしまうという背徳的な行為から目を逸らす。
……認めたくはないが、トイレに大半を間に合わせただけで
下着を履いて――――今はずらしてはいるが――――、且つ入る前から何度も滴り落としてしまっては間違いなくおもらしだった。
どれだけ控えめに表現したところで“チビった”なんて表現ではない。
視線を落とした目の前には、便器の蓋を開けるほんの1,2秒の間に出来たと思われる小さな水溜りもできていた。
それは明らかにトイレの清掃で来た水ではなく、白いタイルを薄い黄色に染めた明らかなボクの――……。
だけど、それを見ても酷くショックを受けるわけではなく、だた、やってしまったと思うだけで……何かを考える心の余裕がまだ――

337事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。@鞠亜 12:2015/09/19(土) 20:22:24
<コンコン>

ドアをノックする音。
ボクは前を見る。

……。

「グッドイブニ〜ング、鞠亜。扉は閉めたほうがいいと思うけど?」

「え……如月…っ〜〜〜〜! や、ダメ! し、しめ、閉めてっ!」

「いや♪」

満面の笑みで個室の扉の前でボクを冷やかす。
慌ててボクは扉に手を伸ばすが腰が浮いてしまい――

<ジョボジョボ>

音を覆い隠すものがなくなったのと、高い位置から落ちることで、その恥ずかしい音は便器の外側へ大きく響く。
ボクは慌てて座りなおす。

「でも、まさか間に合わないとはね……うーん、良い目の保養だわぁ〜♪」

「うぅ……」<ジュゥ〜〜>

完全に開き切ってしまった尿道口を閉じようとするが全く上手くいかない。
途中で止めることが出来ない以上、ボクはこのまま見られながら……。

「まぁ冗談はこれくらいにして、ゆっくり落ち着いてしちゃいなさい、後始末もね……個室の外はやっとくわ」

如月はそう言うと扉を閉めて、どうやってしたのか知らないが外側から鍵を閉めた。
……。

――冗談? 完全に見ておいて冗談って……。

おもらしが続く中、如月の介入により放心状態に戻れるはずもなく多少冷静になってくる。

初めに思ったのは、どうしてあとちょっとを我慢できなかったのか。
出来なかったものは仕様がない……だけど、どうしても後悔を含んだ思いを感じてしまう。

――はぁ……本当、最悪……。

でも、幸いスカートは無事なのだから後始末を確りすれば、見た目の上では至って普通のはずだ。

そして長かった恥ずかしい失敗がようやく終わる。
冷静になってきたとはいえ、頭を手で抱えたくなるくらいに後悔するが、おしっこまみれの手で抱えるわけにも行かない。
個室から出ればまた如月にどんな顔で何を言われるか……。
情けなさと憂鬱な気持ちを吐き出すように、深く大きい嘆息をして後始末をすることにした。

338事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。-EX- 1:2015/09/19(土) 20:24:30
**********

「ありがとうございましたー」

喫茶店にはあまり似合わない明るい挨拶を聞いて私達は外へ出る。

――……うぅ、気になる。

後ろ髪を引かれるとはこのことだろう。
自身の尿意が低い事と、少し離れすぎた事で霜澤さんの『声』が全く聞こえない。
あの切羽詰まり具合だと限界間近と言うよりおもらし間近と言ったところだと思うが、果たして間に合ったのか……。
気がかりなのはトイレが清掃中であったこと。
その状況の類似点とこの喫茶店ということで、当然の事ながら皐先輩の事を思い出す。

――『声』の大きさからしても皐先輩へ延長戦を持ち掛ける直前くらいには辛そうだったし……。

でも、水分を多く取っていた皐先輩の時とは多少は違う。
いくら喫茶店で飲み物を少し飲んでいたとしても、最大利尿速度には程遠いはず。

「意外にあの人悪い人じゃないんですね……」

不意に弥生ちゃんがそう口にする。

「だね……ちょっと変な子ではあるけど良い人っぽかったね」

隠さずに敵意を向けていたまゆも意外にも高評価。
それと変な子……最初に言ってたメガネの話だろうか。
目が悪くないなら何故つけてたのか……意味不明だ。

「まぁ、とりあえずはお茶会終了、解散だね」『トイレも行きたいしー……電車待ちだったら駅の使おうかな?』

私はまゆの声と珍しい『声』の両方を聞きながら「……そうだね、また明日」と答え自転車に跨る。
私の声に続くように二人も別れの挨拶をして、駅へと足を進めていった。

私が尿意を感じ始めたのは喫茶店に入ってから30分くらいしてからだった。
『声』に意識を傾けると、まさか3人とも我慢しているとは思ってもみなかった。

その中の一人――霜澤さんの『声』は限界がそこそこ近い状態であることにさらに驚いた。
『声』の内容からも必死で取り繕っていたのは判った。
それでもあれほどの『声』でありながら、結果私以外の誰にも気が付かれずに隠し通したのだから大した人なのかもしれない。

弥生ちゃんもトイレの近さが顕著に現れていた。
どうも始業式が終わった時に、知らない間にトイレに寄っていたみたいだったが
トイレに立つ寸前は霜澤さんほどではないにしろそこそこ切羽詰っていたみたいだった。

まゆは……珍しい『声』を聞けただけでも満足と言ったところだろうか。
始業式だったため、トイレに寄るということをしていなかったらしく
まだまだ余裕はあるようだが前の経験からも少し心配しているように感じられた。

――まぁ、前のはまゆが寝てたのもそうだけど、あそこまで追い詰められた原因と言ったら利尿剤なわけだけど。

339事例7.1「霜澤 鞠亜」と喫茶店。-EX- 2:2015/09/19(土) 20:25:48
利尿剤……。
朝見さんが私の飲み物に混ぜた薬。
私の嗜好を止めさせるため、痛い目にあわせることが目的であり、でも行き過ぎた……私にとっては非常に恥ずかしい結果となった。
皐先輩の話を聞くに朝見さんはそれを後悔しているらしい。
霜澤さんも故意ではなかったにしろ弥生ちゃんを辱めたことで落ち込み、悩んでいた。
故意で行った朝見さんもそれ以上に悩み、悔やんだのかもしれない。

私は我慢している姿、その結果は好きだし萌えるし抱きしめたくなるほど可愛く感じるが
やっぱり、相手を貶める行動には蟠りが残る。知り合いや友達ならなおの事。
それにたとえ貶めなくても、助けられたはずの子が公衆の面前で失敗してしまうのは……ちょっと辛い。

――でも『声』を聞くために蟠りが残らない程度には最大限の努力はするけど。

私は自転車を走らせる。
真っ直ぐ家には……帰らない。
今日、既に図書室で勿体無い経験をしたのだから、ここで諦めるわけには行かない。

私は隣のコンビニに入る。
店内には入らず、私は駐車場内の喫茶店に近い場所に自転車を止め、喫茶店の方に意識を集中させる。
此処は喫茶店のトイレにもっとも近い場所。
壁があると少し受信感度は悪くなるが、何とか届くはず。
トイレに入る寸前の霜澤さんの『声』が……。

清掃中だったので、5分程度待つ必要がある。
そう思っていたが――

『や、だめぇ、出てる、これ以上はっ! あとちょっと、ちょっとだからぁ!』

――っ!

『あぁ……――』

直ぐに『声』は聞こえなくなる。

……。

……。

――えっと…少なくとも完全には間に合っていない?

清掃中なのにお願いして入ってきたのだろうか?
そんなになるまで、言い出せずに限界まで我慢して……。
それも以前失敗してしまった弥生ちゃんの前での我慢で。

――霜澤さんって凄く、かわ――

『ふふ、鞠亜、可愛いわぁ……扉開けっ放しで下着履いたままだ何て……』

――っ!?
な、なに今の『声』?

開けっ放し? 下着履いたまま?
そんな状況を見てる人が居る?
そして私のようにそれを可愛いと思ってる誰かが。

――というか、そんな状況なの? 私も見たい、もっと細かく教えて、というか羨ましい! 代わって!

『慌てちゃって……本当、相変わらずかわいいなぁもう♪』

また聞こえる。
恐らく、『相変わらず』と言う言い方や『鞠亜』と呼んだ点からして、如月さんだろうか。

『あーあ、床にもこんなに……そこまで我慢って……本当、可愛い子♪』

……。

……あぁ、本当、羨ましい。
本当今日はなんだか色々と惜しい……。

おわり

340名無しさんのおもらし:2015/09/19(土) 20:51:58
更新待ってましたよ

とうとう鞠亜も漏らしたか、これで大体の登場人物が漏らしたね
シチェも漏らしてるのを間近で見られるのが良すぎる

341名無しさんのおもらし:2015/09/19(土) 23:23:55
いい…いい!

342名無しさんのおもらし:2015/09/21(月) 06:10:45
弥生ちゃん飲み物いっぱい勧めてるけど実はこっそり利尿効果を狙ってたりして

343名無しさんのおもらし:2015/09/21(月) 15:45:59
如月さんの我慢展開も見たい

344名無しさんのおもらし:2015/09/21(月) 22:18:33
>>339
更新お疲れ様です。
相変わらずのハイクオリティ…素晴らしい

345名無しさんのおもらし:2015/09/21(月) 22:30:14
如月さんが羨ましいそこ変わって

346名無しさんのおもらし:2015/11/19(木) 20:44:50
もう冬だね
新作こないのかな

347名無しさんのおもらし:2015/11/21(土) 23:34:23
次回作はよ

348名無しさんのおもらし:2015/11/22(日) 04:11:43
お約束の前触れレス?

349名無しさんのおもらし:2015/12/20(日) 23:13:25
続き全くこないな

できれば!新作お願いします

350名無しさんのおもらし:2015/12/20(日) 23:24:12
続編よりも?

351名無しさんのおもらし:2015/12/21(月) 14:18:33
俺は声シリーズの続きが見たいです

352名無しさんのおもらし:2015/12/21(月) 15:26:35
>>318
>>322

353事例の人:2016/02/03(水) 22:24:59
めっちゃ間空いた
感想とか期待とかありがとう

354事例10「宝月 水無子」と休日。 1:2016/02/03(水) 22:26:59
「っ…みないで……もうゆるして……」

長い黒髪の子はそう言って嗚咽を漏らす。
私は手を伸ばす。だけど届かない。
私は口を開く。だけど声が出ない。

目の前で泣き続けるその子に私は何もしてやれない。

――
 ――
  ――

目を開くと――あぁ、此処は自室だ。

私は上体を起こし目を擦る。

……。
…………。

目を擦っていた手を止める。
同時に顔に血が上るのが分かる。
私はせっかく起こした身体を捻り、うつ伏せになって枕に顔を埋める。

「ぅ〜〜〜」

意味もなく声を出す。
これで三日連続だった。
彼女の――朝見さんの夢を見るのは……。

クラスメイトの夢を見ることはある。だけどそれは本当に稀なこと。
三日連続だなんてこと普通ありえない。
それに、翌々考えれば、連続では無かったが朝見さんの夢を見ることは此処最近以外でも何度かあった。

――……あ〜、なんで私…こんなに意識しちゃってるの?

無意識――ではなく、自覚できるくらいに。
確かに朝見さんは私にとって特別な人だ。
特別……それは私の嗜好を唯一知っている人であり、なぜか『声』が聞こえない人であり
凄く苦手で、天敵で、一緒に居ると気不味くて……だけど――

……。

私は枕の横に手を突き、四つん這いにして身体を再度起こす。
朝見さんは夢にまで出てきて私を振り回す……それが嫌で。
そして、大きく深呼吸して気持ちを切り替える。

355事例10「宝月 水無子」と休日。 2:2016/02/03(水) 22:28:16
今日は休日。
時間は――10時を少し回ったところ。
とりあえずトイレで用を済ませ、洗面所で歯磨きしたり、髪を適当に梳かしたり……。
その後のどの渇きを覚え、冷蔵庫から水出しのお茶を取り出し、大き目のコップに注いで飲み干し、一息。

キッチンから見えるリビングのソファーに母が寝ていて……。
いつもとなんら変わらない平和な休日。

……。

「……出かけようかな」

誰に言うわけでもなく、呟く。
気分がそうさせるだけでなく、卵がなくなってきていたし、他にも買うものがあった気がする。
冷蔵庫からだした水出しのお茶をしまうついでに、何が必要かを頭の中で整理する。
寝ている母を起こさないようにして、身支度をして書置きをテーブルの上に置く。

どこへ買い物に行こう……そんなことを考えながら玄関を出て、エレベーターに乗り込む。
エレベーターがホールに着き扉が開く。
そして自転車に乗るために駐輪場へ――

<♪〜〜>

私の携帯から着信音がなる。
携帯を取り出し確認すると相手は皐先輩だった。
私は応答しながら駐輪場へ向かう。

「……もしもし?」

  「おはようございます、綾菜さん♪」

「……な、なんだか機嫌いいですね……」

私は電話越しでも分かるその態度に少し引いてしまう。
なぜ、皐先輩がご機嫌なのは多分――

  「あ、分かりましたか? そうですね、機嫌いいですよ、仲直り出来た様ですから♪」

――……やっぱりそのこと……誰から聞いたのやら。

私は、自転車の鍵を取り出しながら聞こえないように小さく嘆息する。結局、朝見さん関係のことで振り回されるのかと思うと――
……。

以前の私ならもっと憂鬱な気分にでもなっていた気がするが、今はそんな気分にならないことに気が付く。
もちろん、良い気分になるわけではないのだけど。
やっぱり仲直り――――どう考えても仲直りでは無かった気がするけど……――――というものは大切と言うことだろう。
正直なところ多少は打ち解けられた気がして、私は嬉しいのだと思う。

356事例10「宝月 水無子」と休日。 3:2016/02/03(水) 22:29:04
<カチャン>

  「え? 今の音……自転車ですか? どこか外出ですか?」

私の自転車の鍵を開ける音に目敏く気が付き、問いかけてくる。

「……少し気分転換も兼ねて、買い物しようかと思いまして……」

  「気分転換…ですか? 何か悩み事でもあるなら私が相談に乗らせて頂きますけど?」

気分転換という内容を省いて話せばよかったと今更ながら後悔する。

「……いえ、お気になさらず」

  「あら、残念。私もすこし用事がありますし……生徒会への勧誘も、また後日ゆっくり致しましょう」

それだけ言うと皐先輩は「では、また」と言い残して電話を切った。

――はぁ…生徒会か……。

今のところ入る気など無いが――朝見さんはどうするのだろう?
私と朝見さんとの仲が少し改善されたことで、皐先輩にとって私たち二人を誘いやすくなったのだろうけど
仲良くなったわけではないし、朝見さんがそれだけで生徒会に入るとはとても思えない。
それに、入る気など無い以前に私が生徒会に入るには少し面倒な手続きが必要なはずだし、担任やクラスメイトに少し迷惑をかける。
皐先輩は知ってるはずだけど――いや、どこか変なところで抜けてる人だし気が付かなかったのかもしれない。
……でも、まぁ、そういう微妙な隙が、皐先輩の隠れた魅力なのだけど。

私は自転車に乗り道路に出る。

皐先輩と話したことが切欠で、夏祭りの時の皐先輩の台詞を思い出す。

――「――もう貴方に関わる資格なんてないって……泣きながら言ったんです」――
――「――……呉葉は貴方の事嫌ってなんていませんよ」――

結局のところあの言葉は方便だったのか、事実だったのか。
数日前に涙を流した朝見さんの姿――――夢の中だとほんの少し前だけど――――を見ているだけに
どうにも、方便だったと確信できずに居る。

……。
…………。

「はぁ……」

私は大きく嘆息する。
折角の気分転換が台無しだ……。

357事例10「宝月 水無子」と休日。 4:2016/02/03(水) 22:30:25
――
 ――

懐かしい。
歩きながら私はゆっくりと視線を巡らす。

電車に乗り、買い物に向かった先は、私が以前住んでいた家の近く。
私は見慣れた――でもほんの少し見ない間に細かなところで変わってしまった町並みを楽しみながら道を進みデパートに向かう。
いつもはこっちのデパートには来ないから少し新鮮な感覚も後押しして、穏やかな気分になる。

「綾?」

そんな中、私を呼ぶ昔からよく知る声が聞こえ振り向く。

「やっぱり綾! なに? こんなところまで来て?」

「……椛さん! …あ、おはようございます」

振り向いた先に居たのは椛さんだった。
結局夏祭り以降また話す機会を失っていたのだが……校外ではなぜかそれなりに縁がある。

「……私は買い物。椛さんこそなにか用事?」

「そうそう、こんな時間から生徒会長様の使いよ」

皐先輩の用事というのは椛さんに合うことだったようだ。
それにしても、あんなことがあったのに全く気にしていない態度。
……流石に繕っているとは思うけど、強い人。
私は関心しながら、話を続ける。

「……これから学校となると、お昼はどこかで外食ですか?」

「あ、違う違う、場所はそこの公――あ……」

椛さんは何か失敗した時のような表情で言葉を止めた。
私は怪訝に思いながらも、振り向くと公園があり――だけど視界の下のほうに何か動いたのを感じて視線を落とす。

358事例10「宝月 水無子」と休日。 5:2016/02/03(水) 22:31:10
「ねぇ、貴方ってもしかして銀狼?」

そこには私の胸より少し低いくらいの少女がいた。
髪は私と同じ銀色で、ツーサイドアップに近い髪型。
レースブラウスに長袖のボレロ、そしてフリルの付いたジャンパースカート……
ゴスロリ衣装――いや、クラロリ衣装なのかも知れない…そんな服を着ていた。
お嬢様という言葉が似合うその少女に私は驚き、少しの沈黙を作ってしまう。

「コホンッ、えーと水無子(みなこ)、この人は銀狼じゃなくて、雛倉綾菜って言って私の幼馴染」

その沈黙を空かさず破ったのは椛さんで、その子――水無子と呼ばれた女の子に、私の説明をする。
どうも二人は知り合いらしい。

「知ってるよ名前くらい……“まりあお姉ちゃん”が銀狼って呼んでたから言っただけだし」

――……“まりあお姉ちゃん”?

“まりあ”という比較的珍しい名前を聞いて私が思い浮かべるのは当然一人だけ。
霜澤鞠亜……私を銀狼と呼んでいたという情報から考えるに、この子の言う“まりあお姉ちゃん”とは霜澤さんのことで間違いないと思う。
以前、喫茶店で話した感じだと、あの人も一応裕福な家の生まれだったはずだしなにか接点があるのかも知れない。
「お姉ちゃん」と言う意味合いから、実妹もしくは、妹分という印象を受ける。

――……それにしても、なんで霜澤さんは私の話をこの子に?

「わかったから、とりあえず自己紹介でしょ?」

椛さんがそういうと、少女は少し不満そうな顔をしながらも一歩下がり膝下丈ほどのスカートの裾を片手で軽く持ち上げてほんの少し膝を曲げる。
確かカーテシーといわれるヨーロッパの挨拶。偏見かもしれないけど、いいところのお嬢様の挨拶らしい挨拶。

「はじめまして、宝月 水無子と申します。銀狼さん♪」

どこか嘗められている気がする。
……。

「……貴方も銀髪じゃない」

「っ!! そうだったっ!」

自身の髪の毛を触りながら叫ぶ。気付いてなかったらしい。

359事例10「宝月 水無子」と休日。 6:2016/02/03(水) 22:31:46
――……というか今、宝月って言わなかった?
宝月は皐先輩の苗字と同じ……。

「綾、この子はね会長の親戚の子でね、察しの通りお嬢様……まぁ、会長ほどではないけど、気持ちはお嬢様らしいよ」

「ちょっと、後半の説明がディスってるように聞こえたんだけどっ!?」

水無子ちゃんは椛さんの気配りの無い説明に不服を唱える。
椛さんは面倒くさそうな顔をして「だったら自分でしてよ」と不満を口にしながら宥める。宥めれてないけど。

もしかすると、椛さんが呼ばれた理由はこの水無子ちゃんの面倒……みたいな感じなのだろうか。
流石に理由はあるのだとは思うけど、会長も随分人使いが荒い。

――それにしても、このまま立ち話……っていうのもねぇ……。

私は公園の方へ視線を向ける。
そこにはちょっとした木や遊具のほか、目当てのベンチもいくつかある。

「……ねぇ、立ち話もなんだし、そこの公園で話さない?」

提案してから気が付く。……この公園、なぜだかあまり記憶に残っていない。
昔の家からこの公園まではそれほど距離があるわけではない。
遠目で見る遊具の古さから私が引っ越すことになってから遊具が追加されたとかでリニューアル的なことになっているというわけでも無さそう。
意識して思い出そうとすると確かに此処に公園があった……それは思い出せる。
だけど…それだけ。

――……こんな近所の公園だったのに……私、ここで遊ばなかったのかな?

昔の私は結構アウトドア派だった気したけど……。

「あー……で、でも綾これから買い物でしょ? 付き合せちゃ悪いし――」
「なら一緒に買い物ね!」

椛さんと私の間に入って水無子ちゃんはそう言う。
……自分勝手なところは会長に少し似てるかもしれない。

360事例10「宝月 水無子」と休日。 7:2016/02/03(水) 22:32:46
――
 ――

「……えっと卵と牛乳と――」
「綾ってこんな主婦してたっけ?」

私は椛さんのその言葉に小さな嘆息で返事をする。
母の仕事が今の時間帯になってからは、どうしても家で一人で食べることも多くなった。
雪姉も居ないし……私自身料理は得意ではないが、ある程度は身についてしまった。

――……というか、椛さんのよく知ってる私って小学生の頃の私だし、その頃から主婦してるわけがない。

「こんなに安い卵でいいの? こっちのが悪いなりにもよさそうだけど……」

などとお嬢様が仰っている。庶民の私にはその「悪いなりにもよさそう」と微妙な評価をされた卵が既に贅沢過ぎる。
だけど、そういう発言をしながらも気が付かれないように振舞ってるのは……うん可愛い。

『あー、食品売り場は寒くて余計したくなっちゃう……早くお手洗いに行きたいけど……』

少し前に私が尿意を感じたのと同時に、水無子ちゃんの『声』が聞こえてきた。
どうも『声』の感じからして、会った時くらいから既にある程度の尿意を抱えていたんじゃないかと思う。

『もう……櫻香が美容のためとか言って紅茶沢山いれるから……美味しかったけど』

――……櫻香? この子のお姉さんか誰かかな?

とりあえず、櫻香さんありがとう。おかげで良い『声』が聞けてます。

「他、何か要るものあるの?」

適当に商品を見ている振りをして考え事をしていると、椛さんが尋ねてくる。
私は改めて冷蔵庫の中を思い出しつつ足りないものを考える。

「……えっと、あと買う予定は……とりあえずはタマネギくらいかな?」

「それじゃあ、あっちだね」

『よかった〜、余り時間掛けられると危なかったし……』

……。

「……でも、安かったら買いたい物もあるかもしれないし、とりあえず全部回ろうかなって」

『っ! うぅ……まだ大丈夫なんだからっ』

意地悪なことしちゃったかな?
仕草も少し見え隠れし始めてる気がするし……本当かわいい。

361事例10「宝月 水無子」と休日。 8:2016/02/03(水) 22:33:37
“広告の品”と書かれた実はそれほど安くも無い商品――――一般的に安いのは本日限りとかだしね――――を無視して視線を巡らしつつ、考える。
これからどうするべきか。水無子ちゃんを観察していると結構辛くなってきてるようだけど、まだ自分から言い出さない当たり
高いプライドの持ち主……いや、初対面の私がいるのも言い出しにくい原因かもしれない。

『あぁ、早く終わってくれないかな……結構辛くなってきたよ……』

私が立ち止まると少し不安そうな顔をして、気が付かれない様にほんの少し膝を曲げたり伸ばしたり。
時折片方の足をもう片方の足の後ろに持っていって、さりげなく太腿をすり合わせたり。
歩いている時はまだいいけど、じっとすると言うのは流石に辛そう。

そんな様子を水無子ちゃんと椛さんに気が付かれない様に観察しながら
色々回って、結局タマネギだけを買い物カゴに入れてレジへ向かう。

「あ、ちょっと……用事あるからレジ終わってもここで待っててっ」『これ以上我慢してたら、おしっこってバレちゃう!』

水無子ちゃんは引き止める間もなく走り出し、恐らくトイレへ行ってしまう。
付いて行きたいところだけど、流石に椛さんにレジを押し付けるわけにもいかない。

レジが終わり袋に商品を入れて水無子ちゃんを待つ間、椛さんに謝る。

「……ごめん、買い物に付き合わせるみたいになって」

「え? あー、でも水無子が一緒にって言い出したんだし、責めるならあの子かそれを相手にさせた会長でしょ?」

私はそれを聞いて感じていた疑問を口にする。

「……どうして椛さんがあの子の相手をすることになったの?」

「んーとね、大した理由じゃないんだけど、会長と一緒になって遊んであげた時があって
その時に月に1〜2回くらい遊んであげようか、って言ったら……まぁこんな感じに?」

椛さんらしい理由。
多分、水無子ちゃんのことを妹分のように可愛がっているのだろう。

「お、お待たせっ」『お手洗い清掃中とか最悪!』

――っ!

駆け足で私達のところに戻ってきた水無子ちゃんに私は驚く。
もちろん駆け足だったからではなく、その『声』に。

「おかえり……どうしたのそんな焦って?」

帰ってきた水無子ちゃんがそわそわと落ち着き無い仕草をしているのに椛さんが気が付き声をかける。

「あ、えっと……なんでも……っ」『ど、どうしよう、どこで……』

水無子ちゃんはその問い掛けに動揺しつつも、仕草を抑え、でもよく見れば足を擦り合わせる仕草を残しながら言葉を濁す。
俯いて顔を隠してはいるが、髪の間から見える肌は赤く染まっている様に見える。……うん、最高に可愛い。

相当切迫してきているのにまだ私達に尿意の告白をしてこない。
たしかに……それはそれで可愛いことは可愛いんだけど……私が気を使って聞くべきなのか
それとも、プライドを傷つけないためにも水無子ちゃんから言うのを待つべきなのか。

362事例10「宝月 水無子」と休日。 9:2016/02/03(水) 22:34:22
「あ、もしかしてトイレ混んでたりして出来なかった?」

私が迷っているとあっさり椛さんが核心を突く。
というか、聞き方からして水無子ちゃんがどこへ向かって走っていったのか気が付いていたようだ。

「なっ……うぅ、で、デリカシー無さすぎ!」

――ですよね。

「はいはい、わかったから行って来なよ、待ってるからさ」

「あ、いや……混んでるんじゃなくて…清掃中だったから……」

「じゃあ、頼んで使わせてもらえるか聞いてみる?」

「ちょ! が、我慢できないみたいで恥ずかしいじゃない! それより…えっと……こ、公園っ! さっきの縁公園に行こうよ!」

私、完全に傍観者になってるけど……とりあえずさっきの公園のトイレを目指すみたい。
それと、あの公園には名前があるらしく縁(えにし)公園というらしい。……やっぱり聞き覚えが無い。
そして、デパートのトイレを使わせて貰うのは恥ずかしいようだけど
清掃が終わるまで待つ選択肢は自分の中では無いらしい。
それはつまり「我慢できないみたい」じゃなく清掃が終わるまで「我慢できない」と言うことかもしれない。

「は、早く行こっ!」『こ、公園までなら大丈夫なはず……だよね?』

少し自信が無さそうな『声』が聞こえる。
尿意の上がり方も『声』を聞く限り早そうだし、櫻香さんとやらに貰った紅茶が強く作用してるのかも知れない。
紅茶には利尿作用があるし、それを沢山口にしたなら当然の結果だと言わざる終えない。

私と椛さんは「早く、早くっ」と急かす水無子ちゃんの後を付いていく。
デパートを出て公園までは歩いて15分掛からないくらい。
小走りに走る水無子ちゃんについていくため、私達も足を速める。
これなら11〜2分くらいで到着するだろう。

「……こんなに急がなくちゃ行けなくなるくらい我慢してたんだね、もっと早く言えばいいのに」

先頭を走る水無子ちゃんに聞こえないように世間話のつもり椛さんに話しかける。
それを聞いて椛さんの顔が少し赤くなり、私から視線を逸らすように前を向いてから躊躇いつつ口を開く。

「そ、それ……普通、私に言う?」

その言葉の意味が一瞬分からなかったが、すぐに夏祭りのことだと理解して失言だったと感じ口を押さえる。
同じく尿意を告白せず、しかも間に合わなかったのだから、当然そういう――可愛い反応になる。
椛さんは少しだけ速度上げ、私の前を歩く形になるともとの速度に戻る。

――……気を悪くさせちゃったかな? 恥ずかしいだけならいいけど……。

私はほんの少しの距離を保ち後を追う。

363事例10「宝月 水無子」と休日。 10:2016/02/03(水) 22:35:30
『うぅ、どんどんしたくなって来ちゃう……あぁもう、櫻香のバカァ!』

水無子ちゃんの『声』は次第に大きく、そして焦りを伴うものになっていく。
よく見れば下腹部を庇うようにほんの少し前傾姿勢で
流石に間に合わないほどではないと思うが……椛さんのように急に来るタイプかもしれないし
心配と期待を込めて最後まで見守ろうと思う。

『っ! 見えた……大丈夫、間に合う!』

公園が見えて来たと同時に安心した『声』も聞こえてくる。
私は少し残念に感じながらも、それなりの『声』が聞けたためそこそこ満足していた。
外で、同学年より下――――水無子ちゃんの年齢が良くわからないが、身長で言えば小学高学年と言ったところ?――――の
『声』を聞くというのは、高校生活を送る私にとっては結構稀な体験で、新鮮だった。

水無子ちゃんが公園に入ると同時くらいに、椛さんは歩く速度を下げる。
本当なら私は個室に入る瞬間まで見ていたいところではあるが、私も速度を緩めそのまま椛さんのところに歩み寄る。

「なんとか、間に合いそうだね……」

椛さんのその言葉には安心した気持ちと、ほんの少し複雑な気持ちが感じ取れた。
安心は当然だけど、複雑なのは……多分あの時の自分を重ねて見てしまっていたのかもしれない。
年上の自分が間に合わず、水無子ちゃんが間に合いそうなことに手放しで喜べないのだと思う。
そう思わせてしまったのは多分私の余計な一言が原因。

「……とりあえず、そこのベンチで待ってようか?」

私はそういって公園に足を踏み入れる。
足音で椛さんが付いてきているのも分かる。

『ちょ、な、なんでよぉ!』

――え? ……水無子ちゃん?

気になる『声』が聞こえてくる。焦りと困惑が混じったような『声』。
だけど、椛さんが居る手前、変な反応をするわけにもいかない。
水無子ちゃんが向かった公園の公衆トイレに視線を走らすが中が見えず、状況が分からない。
私も用を済ませるためにトイレに向かうのも手かもしれないが、それをするには買い物袋を椛さんに渡さないといけないわけで。
だけど、ベンチで待っていようと提案してしまったため、ベンチまで移動してそこに荷物を置かないと不自然に思われる可能性がある。

『あぁ、もう、使用禁止ってなによ! もう我慢できないのにっ!』

……状況が飲み込めてきた。
使用禁止の張り紙が個室に張ってあり、使えない。
公衆トイレではありがちな事で、すぐに修理がされないことも多々ある。

364事例10「宝月 水無子」と休日。 11:2016/02/03(水) 22:36:36
とりあえず、ベンチに着き座り荷物を置く。
トイレの中が気になり「私もトイレに」そう椛さんに切り出そうとした時――

「も、椛お姉ちゃん!」

トイレの方から水無子ちゃんがこちらに向かって覚束無い足取りで歩いてくる。
前屈みで、不安そうな顔で、何かを抱え込んでいるようなその様子は
誰がどう見てもまだ済ませていないのは明白で、限界が近いことが感じ取れる。

だけど、その思いもよらぬ事に椛さんは困惑しているみたいで
先に口を開けたのは水無子ちゃんの方だった。

「こ、此処から一番近いトイレってどこ!?」

「え、えっと……駅かな?」

戸惑いながらも椛さんはそう答える。
駅……公園から見える程度の距離で歩けば5分かからないくらい……だけど――

「……そこまで我慢…できる?」

言葉にしてから私は失敗したと思った。
そんな聞き方で、この子が「我慢出来ない」なんて言う筈がない。
我慢していたのを隠していて、それを知られた時恥ずかしそうにしていたこの子には
その「我慢出来ない」と言う言葉はハードルが高すぎる。……私でも言いたくない。
案の定、顔を赤くして涙目で私を睨むようにして言った。

「が、我慢できるに決まってるじゃない!」『わかんないよ、そんなのっ!』

精一杯の強がりを言い、だけど『声』には自信が無くて……。
スカートの裾を握り締めている手を何度も掴みなおす。
本当は前を押さえたくて仕方がない……そんな感じで――凄く可愛い。

「とりあえず、此処のトイレは使えないのね?」

状況がいまいち分かっていない椛さんが確認する。
水無子ちゃんは時間が惜しいとばかりに首を2、3度縦に振り
その後は私達がベンチを立つ前に踵を返し公園の外へ向かい歩き出す。

椛さんは立ち上がり後を追う。
私も買い物袋を持ち直して慌てて立ち上がる。

365事例10「宝月 水無子」と休日。 12:2016/02/03(水) 22:37:59
「はぁ……っ、はぁ……」『あぁ…っ、やだ、我慢……まだ、我慢だから……』

水無子ちゃんは、深く、震えるような息を吐きながらゆっくり歩く。
額にはうっすら汗が浮かんでいる。
もう、正直な『声』を聞かなくても――――聞くけど――――余裕の無いことがわかる。
椛さんもそれを理解して隣まで行き肩を抱くようにして一緒に歩いてあげてる。

『えっと、公園出て…道路渡って…少し歩いて……駅に入っ――っ! き、切符!』

限界まで膨らんだ下腹部をどうにかしたくて、気持ちが急く……
その中でこれからの事をシミュレートして駅のトイレを使用するためには切符が必要なことに気が付く。

「も、椛お姉ちゃん……先に行って、切符買って…っ……来て…」

搾り出すようにして出された声は、少し生意気で強気だった水無子ちゃんとは思えないくらい弱々しい。
何度も御預けされ続けた膀胱がこれ以上溜められないと少女を攻め立てる。
それは、女の子にとって本当に辛くて恥ずかしくて……でも絶対に耐えなければいけないこと。
崩れそうになりながらも、どうにか踏みとどまって、諦めずに耐える。……健気で本当に可愛い姿。

「綾、水無子をお願いっ」

椛さんはそう言うと同時に駅の方へ走って向かう。

――……でも、お願いって言われても……。

私は両手を見る。
小さなカバンと買い物袋が二つ。
さっきまで椛さんがしていたように肩を抱くには荷物が多い。
仮に荷物がなくても、出会って間もない私では馴れ馴れしいのではないかと思う。

水無子ちゃんはゆっくりとした足取りで公園を出る。
私も歩幅をあわせ、後方から見守る形で後を追い、観察する。
なんと言うか、どう接していいのかわからなくてお世辞にも居心地が良いとは言えない。

「はぁ…ふぅ……っ」『はぁ……あぁ、だめぇ、我慢、我慢っ…で、出来るからっ…』

震える息は不規則に乱れている。
『声』は自身を励ますように……だけど、それは現実を認めたくない……そんな風にも聞こえて。

「んっ!」『っ! やぁ……あぁ――』

前を歩く水無子ちゃんは足を止める。
今まで裾を掴んだり、所在なさげに彷徨わせていた手が、スカートの上から大切な部分をこれ以上無いくらいの勢いで押さえ込む。
止めた足はガクガクと震え、肩も震わせて……それは大きな波が来ているのだと私に感じさせるには十分で……。

「ぁ……」『やだ、嘘……』

どうにか聞き取れるくらいの困惑と焦りと恐れを含む声が漏れ
『声』の表現からしてもそれが何を意味するのかわかってしまう。

――……少し、濡らしちゃった?

おもらしを目前にして、どうしようもない不安に直面している水無子ちゃんとは対照的に
私は、鼓動が早くなるのを感じ、妙な緊張から唾を飲み、喉を鳴らす。

366事例10「宝月 水無子」と休日。 13:2016/02/03(水) 22:38:59
「ふぅ…はぁ……」『もう……そんなに…持たないっ』

何度か小さく息を吐き、波を越えた後のほんの少しの小康期間。
私はまた小さく歩みを進めるのを見ていた。
水無子ちゃんは焦った様子で駅がある、道路の向こう側へ行こうと歩道から道路へ足を出す。
私もそれに続こうとした時――

「っ!」

すぐ近くの路地からエンジン音が聞こえ、それがこちらに曲がってくるのが見えた。
私は咄嗟に買い物袋を手放して、水無子ちゃんの腕を掴み、こちらに引き寄せる。
身長相応の軽い身体は簡単にこちらに倒れるようにして引き寄せられ、赤い車体の車が目の前を通り過ぎた。

私の胸の下辺りに水無子ちゃんの頭が当たる。
それと同時に、手放した買い物袋が地面に落ち、中の卵が割れる音がした。

私は危険な運転をした車を目で追うが、止まることなく走り抜けていった。
横断歩道もなく信号も無かったのだから、こっちに非が無かったと言うわけではないのだけど。

「あっ、やぁ……」『あぁ、でちゃうっ!』

すぐ近くで焦りの声が聞こえる。
私は崩れ落ちそうになる水無子ちゃんの身体を、両手で両肩を掴むようにして支える。
様子を窺うため視線を落とすと、両手はスカートの前を確り抑えていて……
だけど、アスファルトには黒い斑点がいくつもあって……。

【挿絵:http://motenai.orz.hm/up/orz60671.jpg

「はぁ――、んっ、あぁ…」『だめっ、だめ…なのっ!』

スカートの中から落ちた雫がアスファルトに黒い斑点を増やしていく。
焦げ茶色のスカートは押さえ込んだ手を中心に水気を帯び、色濃く染まっていく。
身体が震え、限界ギリギリまで溜め込まれた熱水を意思とは無関係に吐き出そうとして、膀胱を締め上げていく。

でも――

スカートが水気を帯びても必死に押さえ直す少女の手は、溢れ出る熱水を塞き止める事を諦めていなくて……。
その荒く不規則な息遣いは、どうにか踏みとどまろうとしている呼吸で……。
『声』は生理現象を必死に宥め否定していて……。

本当に必死で……。

367事例10「宝月 水無子」と休日。 14:2016/02/03(水) 22:39:48
「はぁ――ふーっ、んっ…はぁ……ぁ…ふぅ……」『うぅ……こんなに――でも……まだ』

小さく何度も震える呼吸をして、なんとか完全な決壊を免れた少女。
だけど、スカートには少しとは言いがたい、コップで水を掛けられたくらいに濡れた痕。
アスファルトに作っていた斑点はいくつかが繋がり、水溜りと言った方がいいほどで。

私はそれを見て口を開く。

「……ご、ごめんね」

限界だったのは確かだけど、手を引いたことが切欠だったのも確かなことで。
仕方が無かったとはいえ、謝らずには居られなかった。

「い、いい……助けて…くれたの、わかってる…し……」

肩で呼吸しながら私を気遣う言葉。
もっと泣いて私を責めてくれても少女を責める者は居ないはずなのに。

水無子ちゃんの顔を髪の間から見ると真っ赤で……
言葉はしっかりしていていくら繕っても、顔にはその失敗の恥ずかしさが出ている……可愛い。

「んっ……はぁ……」『だめ……残りは我慢しなきゃ……』

今度は左右を確認してから、視線を少し落として歩みだそうとする。
黒色のタイツでわかり辛いが雫が伝ったであろう足で。
だけど、私は水無子ちゃんの肩から手を放さず、提案した。

「……ねぇ…、この状態で駅に行くのは…止めて置いた方がいいよ」

その言葉を受けて一歩目を踏み出してから、足を止める。

駅には駅員をはじめ、人が多くいる可能性が高い。
目立つ髪色と服装をしている水無子ちゃんに視線が集まるのは必然。
そうなれば、押さえ込まれたスカートの染みを見られてしまうのは火を見るより明らか。

「で、でも……んっ…駅じゃないと…ま、間に合わない…から………」
『うぅ、ダメ冷えて…おしっこ…おしっこしたいっ…ちゃんと、トイレで……』

トイレで済ませたい。
健気なのか我侭なのか混乱しているのか。
あるいは、その全部なのかも知れない。
失敗の跡を見られるよりも、ちゃんと正しく“したい”。

――……どっちが正しい? 私は、この子の肩から手を放すべき……?

多分正解は無い。
周りから見て失敗済みだと見える状況である今、どちらも正解ではないから。
トイレでないところで済ませることは恥ずかしいことで
失敗した姿を人目に晒すことは恥ずかしいことだから。

368事例10「宝月 水無子」と休日。 15:2016/02/03(水) 22:40:45
「っ! ……う、嘘?」

水無子ちゃんが何かに怯えるような声を出す。
私は、水無子ちゃんの顔を見て、その方向へと視線を向ける。

――……女の子や男の子…水無子ちゃんと同じくらいの学年?

大体の想像はついた。
見知らぬ人ならここまで怯えることもない。
恐らく、顔見知り…最悪クラスメイトや友達と言ったところだろうか。
幸いこちらにはまだ気が付いていない。

私は落としていた買い物袋を拾い――――卵が割れてる……――――
無理やり片手に全ての荷物を持つと、空いた右手だけで肩を抱くようにして、公園の方向に向きなおす。

「あ、ちょっと――」
「……いいから、見つかりたくないでしょ?」

何か言いたそうにしていたが、私の言葉に何も言えず覚束ない足取りではあるが必死に足を前に出す。

「はぁ…っん、ふっ…あぁ……」『んっ…だめ、座り込みたい…我慢……我慢できない……』

一度溢れさせてしまった恥ずかしい熱水がまだ足りないと言う様にして水無子ちゃんを襲う。
だけど、足を止めるわけには行かない。
後ろからはまだ、子供たちがこちらに向かってきている。
私は水無子ちゃんを励ますようにして、肩を抱く手に力を込める。

再び公園に入ると、私は公衆トイレへ向かい歩みを進める。

「っ…やぁ……」『んっ! だ、ダメ……が、まん……さっきあんなに出ちゃったのに…あぁ、もう――』

荒く熱い息を詰まらせ、足が止まりかける。
大きな波が来てるのはわかる……だけど、此処じゃまだ……。

「……もう少し、だから……あの裏手まで何とか……」

私はそう言うが、その欲求がどうしようも無いことはわかっていて……。
水無子ちゃんが一番わかっているはずで……。

<ジュ……ジュウゥ……>

――っ……。

私は仄かに聞こえるくぐもった音に視線を落とす。
その視線の先、水無子ちゃんの足元にまた新たな雫が落ちていることに気が付く。
だけど、それとほぼ同時に、私の手を振り払うようにして水無子ちゃんは公衆トイレに駆け出す。
私はその後を慌てて追う。
水無子ちゃんが駆けていった公園の地面は、ところどころ色が濃くなっている。

『やぁ…だめ……だめなのにっ……』

その『声』と共に水無子ちゃんは公衆トイレの裏手に姿を消す。
正直、「大事な場面なのに出遅れた」などと思ってしまった。
可哀想だとも当然思ってはいるが……どうしようもなく可愛い姿が見たい私に自分で呆れる。

369事例10「宝月 水無子」と休日。 16:2016/02/03(水) 22:42:10
「はっ…ふぅ……やぁんっ……」『ダメ、出ちゃう出ちゃうっ!』

裏手に入って見た光景は、少し予想と違っていた。
我慢も限界の限界で、人目が無くなり隠れられるスペースに入ったのだから
緊張の糸が切れてしまってもおかしくない状況。
なのに、水無子ちゃんは公衆トイレの壁に腰だけを付けて少し前屈みになって必死に前を押さえ込んでいた。

「あぁ、……やぁ、み、見ないで……んっ…はぅ……」『我慢……がまん……お外でなんて…やだぁ……』

見ないでと言われても……視線が外せない。
必死で我慢を続ける……だけど、抑え切れない水圧でポタポタと地面を濡らしていく。
股から直接落ちる雫、足を伝い靴を濡らし足の周りに広がる水溜り、スカートに染み込み切れない恥ずかしい熱水が裾から零れる。
我慢してるはずなのに、止めることが出来ない。
諦めてないのに、結果として諦めているのと何ら変わらない現実。

こちらに向けられる涙で一杯の瞳。
私はようやく視線を外した。

「はぁ……はぁ……」

今までより深く熱い息遣い。
『声』はもう聞こえない。

私は恐る恐る顔を上げて水無子ちゃんに視線を向ける。
水無子ちゃんは私の視線に気が付くとこれ以上赤くなれないくらいに顔を染めてばつが悪そうに視線を逸らした。
そのまま背中を公衆トイレの壁に付けて、ずるずるとしゃがみ込み下を向く。
深い息遣いだけが聞こえる。

――……物凄く可愛――

『ふふ、水無子お嬢様、すごく可愛いわぁー』

――っ!

聞き覚えのある『声』、それも後ろから聞こえ私は振り向く。

「ごめんなさい、雛倉綾菜様……で、よろしかったですよね?」

見覚えのあるニコニコした表情で私に歩み寄る。
それは、いつかの喫茶店で会った如月さんだった。

「な、なんで…櫻香がっ!」

水無子ちゃんの慌てた声に、私は振り向く。
水溜りの上にしゃがみ込んだまま、困惑の表情を上目遣いで向けている……可愛い。

「あら、水無子お嬢様ー? 足元が水浸しですよ?」

「っ!」

ニコニコの表情を全く崩さない如月さんが私の前を通り過ぎ、水無子ちゃんに近づいていく。

「お、お、櫻香が、沢山紅茶を飲ませる…からっ…うぅ」

水無子ちゃんは立ち上がり如月さんの服を掴み泣きながら攻め立てる。
如月さんは適当にあしらいながら頭を撫で撫でしている。

――……というか、如月さんの下の名前が櫻香だったんだ……。

紅茶を沢山飲ませたという人物は如月さんだったということ。
……なんというか物凄く作為的な気がする。

370事例10「宝月 水無子」と休日。 17:2016/02/03(水) 22:43:11
「綾菜さん」

後ろからさらに別の人の声が聞こえて振り向く。

「えっと……こんなことに巻き込んでごめんなさい」

「……皐…先輩」

そこには居心地の悪そうな表情で視線を外している皐先輩がいた。

「先ほど道路で水無子の危ないところを助けて頂いて、本当に助かりました。ありがとうございます」

「……いえ、そんな――」

――って、どこかで見てたってわけですか。

「っ! な、なんで皐お姉様まで!?」

水無子ちゃんが如月さんを盾にして慌てて全身を隠す。
だけど、如月さんは水無子ちゃんの肩を掴んで皐先輩に全身が見えるようにする……何と言う鬼畜メイド。

「ちょ、や、これは…ちが……」

慌てた様子で何か言い訳を探そうとしている……うん、可愛――

『可愛すぎですよ、水無子お嬢様ぁ♪』

……。
なんだか悔しいし、物凄く認めたくないけど、私とこの人凄く似てる。

「言い訳はダメですよ、水無子お嬢様、それにこの前だって家で――」
「わーー、わーわーーー!」

如月さんの言葉を水無子ちゃんが必死に掻き消す。

そして皐先輩も、そんな水無子ちゃんの頭を撫で撫でして適当に乗り切るらしい。
それで、黙って俯いてしまうこの子もこの子だけど……。

「雛倉様、水無子お嬢様が大変お世話になりました。勝手ではありますが、このまま回収しちゃいますので」

――回収って……。

所々この人が楽しんでいるのがよくわかる。
と言うか、楽しんでいるのを隠す気が無いというか……。

「あ……綾菜…お姉ちゃん…………いろいろ、その…ありがとう……」

水無子ちゃんが去り際にそう言ってくれた。
お姉ちゃんと呼ばれることに免疫が無い私は少し妙な……でも悪くない気分になる。

「あの、綾菜さん……大丈夫…ですよね?」

残された皐先輩がよくわからない質問を私に投げかける。
私はどのことを言われているのか考える。
普通に考えれば――道路での事?

――……あれ? 以前にもなんか…なかったっけ?

「あ、いえ、すいません。良いんですこっちの話ですから……では――あ、ご不浄の張り紙外さないと……」

……え?。

「……ちょっと…え、張り紙って?」

「あ……えっとですね、水無子には内緒ですけど、此処のご不浄、使用禁止なんかじゃないんですよ……というか、私達が身を隠していた場所でもありますし
もちろん、櫻香さんにはやり過ぎだって言ったんですけどね。まさかデパートのご不浄までクレーム付けて清掃中にさせるとは……
相変わらず、自身の欲望の為ならなんでもしちゃう人……まぁ、私としても水無子の良い表情は見れましたが――」

……。
紅茶のみならず、最初から最後まで策略だったとは……。

「――では、椛さんによろしくお伝えください」

そう言って皐先輩は如月さん達の後を追いかけていった。

私は大きく嘆息して、駅で待機してるであろう椛さんへ連絡を入れるために携帯を取り出した。

おわり。

371「宝月 水無子」:2016/02/03(水) 22:44:54
★宝月 水無子(ほうづき みなこ)
小5のちょっとお金持ちのお嬢様。
ゴスロリ、クラロリ衣装を好む。

皐子とは親戚関係。鞠亜とはお金持ち同士の友人である。
皐子を「皐お姉様」と慕い、鞠亜を「鞠亜お姉ちゃん」と呼ぶ。
皐子へは憧れを素直に抱いているが、鞠亜へは素直になれないものの尊敬し慕っている。
また、椛とも仲がよく、生意気な態度を取るもののよく懐いている。

膀胱容量は年齢相応よりかは少し大きめ。
櫻香に紅茶を沢山飲まされていることが多いため、トイレ自体は近くなりがち。
飲まされてはいるが紅茶は好き。

成績そこそこ優秀、スポーツ得意。
基本的にはツンデレで少し傲慢な態度を取る。
特に同年代の人とは自分は違うと壁を作り、少し孤立気味。
如月櫻香を専属メイドとして雇っており、色々と扱き使いがちだが
逆に飴と鞭を使い弄ばれている。仲は悪くなく、信頼も厚い。

綾菜の評価では、プライドの高いツンデレお嬢様。
髪色が近いこともあって、お姉ちゃんと言って貰えるのは結構嬉しかったりする。

372「如月 櫻香」:2016/02/03(水) 22:45:48
★如月 櫻香(きさらぎ おうか)
年齢は雛倉 雪や日比野 鈴葉と同い年。

いつもニコニコ、悪戯好きでSなお姉さん。

代々メイドや家政婦の家系である変わった家の生まれ。

基本変態。
皐子のように相手の表情を見て楽しみ、
綾菜のように我慢、おもらし姿を見て楽しむ。
積極的に相手に関わり虐める……優しい顔したドS思考。

メイドとしてのスキルは高く、それなりに頭もいいが
メイドの仕事を優先し高校は行かず、中学でさえほぼ登校していない。
そのため、明るい性格の割りに友達といえる人は多くない。

○主人の変移
中学1年〜高校2年まで:鞠亜
・友達関係が如月の家にバレ、辞めさせられる。
・鞠亜がなるべく如月を傍に置きたいため、仮の主人として皐子を紹介。
高校2年〜高校3年:皐子
・とりあえずの1年契約。
・鞠亜と皐子が新たな正式な主人として水無子を紹介。
高校3年〜現在:水無子
・水無子を溺愛している模様。
・メイドの仕事が休みの日は駅前の喫茶店で働き、鞠亜や皐子とたまに話す。

鞠亜の評価では、大切な友達。だけど時々――ではなく、かなり面倒くさい。
皐子の評価では、変わった人。少し趣味が合い意気投合したりするが、表情が笑ってばっかりで観察対象としてはつまらない。
水無子の評価では、頼れる信頼の置ける人。だけど多々虐められる……悔しい! けどかn――憎めない。
綾菜の評価では、相当な変態。多少の親近感を感じるが出来ることなら余り関わりたくない。

373名無しさんのおもらし:2016/02/03(水) 23:16:02
今年初めての事例の人の更新キター
そして相変わらずの素晴らしい小説だ

374名無しさんのおもらし:2016/02/03(水) 23:47:57
ここで新キャラ二人登場か、櫻香がいい性格してるよ綾菜が我慢してる時に出くわせてやりたいわぁ

375名無しさんのおもらし:2016/02/04(木) 10:52:27
何この素晴らしいメイドさん

376名無しさんのおもらし:2016/02/04(木) 23:12:32
今度はこのメイドさんが失敗するんですね分かります

377名無しさんのおもらし:2016/02/05(金) 08:33:28
>>376
それいいな

378名無しさんのおもらし:2016/02/05(金) 08:56:33
おお、じれーちゃんきてるじゃん

379名無しさんのおもらし:2016/02/06(土) 02:22:22
水無子ちゃんもいいけど恥ずかしがる椛さんの反応がめっちゃかわいい……
そういや感想とは関係ないけど渋の方の小説ってよく読むとここのと同じ世界観だったのね
雪姉と同世代かな


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