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青い春(完結してます)
1
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:25:19 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
(もう3年生か、早いな…)
桜の花びらが舞う。
3回目の春を迎えた今日、始業式のため学校へ向かっていた。
生徒数が多いことで有名な学校だったのだが、3年生にもなれば、
なんとなく同じ学年の男子の顔ぶれは分かってくるが、
女子はやっぱり見慣れないやつも多い。
新しい教室に入り、周りを見渡すと里佳(リカ)の姿を見つけた。
(あ、里佳とまた同じクラスか)
里佳とは去年も同じクラスで、よく話していた。
話しやすいやつがいて、少しほっとした。
(誰かと喋ってるな)
里佳と一緒にいるのは、知らないやつだ。
クラス替えの初日にあんなに親しげってことは、元々知り合いなのか。
会話が聞こえてくる。
「茉惟(マイ)ちゃん、同じクラスになれてよかったねー!」
「うん!里佳ちゃんと一緒でよかったよ!」
(茉惟、か…)
ちょっと綺麗な子だと思った。
このとき、俺はまだ知る由もなかった。
この1年間で、自分に大きな影響をもたらす存在になることを――
2
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:26:40 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
教室内でのイベントで重要なものの一つが、席替えだ。
それは大体、月1くらいのペースで行われる。
周りがどんなメンツになるかで、この1ヶ月を楽しく過ごせるかどうかが左右されるのだ。
席替えをする日がやってきた。
全員くじを引き終え、黒板に書かれた番号をもとに一斉にガタガタと机を移動し始める。
ふと隣を見ると、茉惟が近付いてきて止まった。
(…あ、茉惟が隣なのか)
「裕巳(ヒロミ)君、よろしくね」
「あ、ああ、よろしくな」
…この1ヶ月は、楽しく過ごせるかもしれない。
見晴らしのいい最上階の教室から見える青空と、
校庭の周囲に並ぶ木々の新緑とのコントラストが、
やけに鮮やかだった。
3
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:28:51 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
何日か過ぎた頃には徐々に打ち解け、話をするようになった。
「裕巳君って里佳ちゃんと去年も同じクラスだったんだって?私、里佳ちゃんとは小学校も一緒だったんだよ」
「へぇ〜そうなのか。」
始業式で里佳と茉惟が喋っていたのを思い出す。
(ああ、やっぱり元々友達だったんだな)
「里佳ちゃんと仲いいみたいだね?(笑)」
「は?…まぁ確かに話しやすいけど。それで、何が言いたいんだ?」
「何でもな〜い♪」
茉惟は、最初はおとなしい子だと思っていた。
……が
意外とこいつ、よく喋る。
人見知りするみたいだが、慣れてくると饒舌になるのは俺と性格が似ている。
隣同士になったことをきっかけに話をする機会が増え、気付けば口げんかにまで発展するほどになり、
俺からちょっかいを出すことも増えてきた。
こんなにちょっかいを出したくなる女子は、初めてだ。
ちょっかいを出せば、予想通りの反応が返ってくる。
ムカつくときもあるけど、見てて飽きない。
茉惟と話していると面白いし、楽しい。
俺はこのとき、お互いにじゃれ合っている気でいた。
4
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:30:23 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
「茉惟、もうすぐ試験だろ。憎まれ口叩く暇あれば静かに勉強してろよな〜。それとも何だ?余裕か?!」
「うるさいなー。裕巳君こそ、課題を答え見て丸写しするのやめたら?」
試験後には、悪戯心に成績表を奪ってやろうと思った。
もちろん本気で中を見るつもりはないけど。
「成績どうだった?」
「え、なんで教えなきゃいけないのー?!」
「見ーせーろーっ!」
逃げようとする茉惟の制服の襟をぐいっと引っ張ってみた。
「ちょっと!引っ張んないでよ〜〜!」
里佳がそんな様子を見て、
「茉惟ちゃん、顔真っ赤(苦笑)ってか、ほんと二人って仲いいよね〜!」
他のやつまで、「ラブラブだよね〜(笑)」とか言ってからかってくる。
「まさか!そんなわけないよ。いじめられるってことは私、嫌われてるだろうから(苦笑)」
(え……)
茉惟の言葉を聞いて、少しショックを受けた。
なんでこんなにショックなんだ?
(俺は、嫌ってるわけじゃない。むしろ……)
この気持ちに気付くのに、さほど時間を要しなかった。
理由なんて一つしかない。
好きだ
――その後何度か席替えが行われたが、席が近くなることはなかった。
5
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:31:45 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
夏休みも終わり、体育祭シーズンがやってきた。
様々な種目の出場選手を決めたり、応援の練習をしたり、クラスごとの幟を作ったりと、
放課後に居残りで準備をしなければならないが、それがまた楽しい時季でもある。
こんなとき話す機会はいくらでもあるのに、しばらくまともに話していなかったせいか、
俺は恥ずかしくて声をかけられないでいた。
自分の気持ちに気付いてしまったせいもあるかもしれないけど…
そんな中俺は、走り高跳びの予選に出ることになった。
このとき席が近かった里佳に、激励の言葉をもらった。
でも俺はなぜか気分が浮かなかった。
緊張のせいだけではない。
茉惟とあまり話す機会がないからか
茉惟から激励の言葉もないからか
そんな思考に自嘲する。
(…俺、何考えてんだよ……)
6
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:33:26 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
無事に予選を通過し、本選にも出場が決まった。
ふと、観客席内の自分のクラスの方を見ると、里佳と目が合った。
隣に茉惟がいるが、あいつはこっちを全く見ていない。
俺は視力があまりよくないのに、こんなことばっかり目に付くのだ。
何度か視線を送るが、里佳とはやたら目が合うのに、茉惟とは一度も目が合わなかった。
この心のモヤモヤを、俺は高飛びのバーに向けた。
助走の歩幅を段々大きく、スピードも速くし、思い切り地面を蹴って力を込めて飛び越えた。
見事、優勝することができた。
…茉惟は、見ていてくれただろうか
体育祭後、俺は里佳に呼び出されていた。
(わざわざ呼び出すなんて、どうしたんだ?)
「どうした?」
「高飛び優勝おめでとう。かっこよかったよ。」
「え?あぁ、サンキュ」
「あのね、私ずっと裕巳君のこと好きだったんだ。付き合って欲しいんだけど…」
唐突に発せられた言葉に驚き、言葉を失う。
初秋の少しひんやりとした風が、二人の間を吹き抜けていった。
7
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:34:20 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
「えっと…答え、聞かせて欲しいな…」
「あ…悪い。俺は…他に、好きな子がいる」
「…誰?」
「…違う学校だから」
「…そうなんだ」
正直、困惑してしまった。
いいやつだとは思っていたけど、好かれていたなんて気付かなかった。
とっさに「違う学校」だなんて嘘をついてしまったが、
あっさりと納得してくれたのがひっかかる。
(…あ、でも)
最初に茉惟と席が隣になったときに、茉惟が意味深な質問を投げかけたこと。
里佳と頻繁に目が合うようになっていたこと。
今更気付いた俺も、相当鈍いかもしれない。
俺が茉惟だけを見ていたことに、里佳はとっくに気付いていたのだろう。
だとしたら里佳は、俺の気持ちに気付いていながら、告白してくれたのだろうか…
――その後もやはり席が近くなることはない。
寒さが深まっていく一方、二人の関係は深まることなく、
里佳とも茉惟とも話をする機会がますます減ってしまった。
8
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:34:43 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
そして、季節の分かれ目に差し掛かったある日、最後の席替えが行われた。
くじと黒板に書かれた番号の位置を見比べる。
(よっしゃ、一番後ろだ。しかも今いるところからあんまり移動距離ないな)
自分の場所に移動し終えてふと茉惟に目を向けると、
あいつもこっちを向いていたらしく、目が合った。
思わず鼓動が高鳴ってしまう。
机を運びながら段々近付いてくる。
(まさか…)
「「また裕巳君・茉惟、隣?!」」
見事にハモった。
同じことを考えていたのだと思うと、嬉しくなった。
この一言をきっかけに、いつの間にかまた前みたいに話せるようになっていた。
お互いに悪態をつくものの、やっぱり嬉しさを隠せない。
1回会話が始まれば、今までの恥ずかしさなんて一気に消えて、また口げんかにまで発展してしまう。
こんなに一緒にいて楽しいと思えるのは茉惟が初めてだ。
卒業までの1ヵ月が、とても短く感じた。
9
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:35:40 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
卒業式前日。
様々な提出物や書類が全て返却されてくる。
その中には身長・体重など、自分の体の記録が書かれた冊子がある。
女子にとっては、誰にも見せたくないものだろう。
俺は軽い気持ちで、茉惟のものを取り上げてみた。
もちろん、本気で中を見るつもりなんてない。
「ちょ、ちょっと!返して!」
案の定、予想通りの反応が返ってくる。
茉惟の腕が伸びてきた瞬間、自分の腕を上へ持っていき、簡単には取らせないようにする。
怒ったような困ったような、少し紅潮した顔が可愛くて、さらにいじめたくなってしまう。
「返して欲しい?」
と聞きながら、中を開くふりをしてみる。
「だから、やめてってば……!」
じゃれ合いが続くと思いきや、茉惟は後ろを向いてしまう。
(諦めたのか?)
下を向いている。
肩を微かに震わせながら、手が顔の前に持っていかれた。
(あ…っ)
気付いたときにはもう遅かった。
その様子を見ていたらしかった里佳が駆け寄ってくる。
「ちょっと裕巳君、やりすぎだよ!泣いちゃったじゃん!」
「ご…ごめん!」
「……っ」
いつもうるさいくらいに口げんかをするのに、今は声も出さずに泣いている。
「ごめんな、やりすぎた。大丈夫か?あと、この中身は本当に見てないから…」
「…もう、やだ……」
「も〜、茉惟ちゃんに土下座しなよね!」
土下座はさすがにしなかったが、何度も謝って、ようやく茉惟は落ち着きを取り戻した。
しまった
やりすぎた
好きな子泣かせるなんて…ガキだ
明日は卒業式だというのに、ひどくヘコんだ気持ちで家路についた。
10
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:36:44 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
そして翌日。
昨日の茉惟の心の中を表しているかのように、卒業式は雨の中厳かに行われた。
式を終え、教室に戻ってきた。
女子で泣いてるやつもいれば、
男子同士でふざけ合っているやつらもいる。
俺と茉惟はいつもどおり隣の席に座っていた。
お互いぎこちないながらも、少し会話はしていた。
写真どのくらい撮ったかとか、他愛もない話だけれど。
それだけでも嬉しくて、自然と頬が緩んでしまう。
茉惟にも笑顔が戻っている。
(よかった…)
担任が教室に入ってきて、席に着く。
話を皆静かに聞いていたが、俺は別のことを考えてしまう。
茉惟に、告白しようか。
ふと、昨日の泣き顔が脳裏によぎってしまう。
今まで散々いじめて、最後の最後に泣かせてしまった俺に、告白する資格なんてあるのか。
(昨日の今日で、いきなり「好きだ」なんて言われても、気持ちなんて伝わるわけねぇよな…)
窓の外の未だ降り止まない雨は、俺の心の中にも似ている気がした。
思考を巡らせている間に、解散のときがきた。
「茉惟、今までありがとう」
「こちらこそ。裕巳君と出会って、貴重な体験ができたよ」
「ああ、じゃあな。高校でも頑張れよ」
「お互いね!」
茉惟は、里佳と一緒に帰っていった。
俺も、里佳も、茉惟も、それぞれ違う高校に進学が決まっていた。
もう、会うことはないだろう。
あいつには、俺なんかよりもっといい男がいる
…これが俺の出した答えなんだ
そう自分に何度も言い聞かせる。
まだ硬い桜の蕾とともに暖かい春を待ち侘びながら、淡い恋心に終止符を打つのだった――
11
:
茉惟
:2013/08/28(水) 14:37:39 HOST:s822208.xgsspn.imtp.tachikawa.spmode.ne.jp
★あとがき★
このストーリーは、限りなく実話に近いフィクションです。
登場人物の名前は全て仮名です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
私は『茉惟』ですが、語り手を『裕巳』で書いています。
なぜ裕巳目線で書けるかというと…
中学卒業して数年後、一時だけ付き合ったことがあるんです。
その時に聞いた話を膨らませて、短編小説っぽくしてみました。
青臭くも甘酸っぱい中学生の恋愛模様から、タイトルの『青い春』(=『青春』を表現したかった)が思い浮かびました♪
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