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天界の王子-Heavens of Prince-

35竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/10(日) 22:29:48 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 第5話「狂気の再戦」

 デパートの外で合流した魁斗とレナは、顔を見合わせることもなく敵の出現位置へと向かって走っている。
 驚くことに、常人より脚力が優れている魁斗とレナが肩を並べて走っていた。理由は簡単で、レナが足に魔力を集中させているからだ。
 魔力は通常、武器に炎や光を纏わせるもので、それでただの斬撃の威力を強めている。しかし、使い方によっては身体の筋力を上げることも難しいことではない。圧し負けたとはいえ、レナの細い腕でザンザの刀を受け止めたのは、腕の筋力を魔力で増強しているからだ。
 普通に走っては、レナが魁斗より圧倒的に遅い。彼女は自分のせいで魁斗に迷惑をかけないよう、配慮しているのだ。
 魁斗達が着いたのは工場の跡地のような場所だった。建設途中なのか、鉄筋が建物の骨組みのように組まれている。その鉄骨の一本に、二人の人影を見つける。
 その二人の人影を、魁斗は力強く睨みつける。
「随分と悠長に待ってるじゃねぇか。余裕だな、『死を司る人形(デスパペット)』」
 魁斗の言葉に、巨大な刀を背中に携えた男が反応する。
 鉄骨に腰掛けていた男は、その場に立ち上がり、鬱陶しげな口調で言う。
「いちいち組織名で呼んでんじゃねェよ、天子。俺の名前も憶えられてねェのか?」
「そっちこそ、変な呼称を使うんじゃねぇよ」
 二人は睨み合う。
 その光景に、男の傍らにいた桃色の髪を一つに結った少女が呆れたように溜息をついた。
 彼女は一歩前に進み出ると、男を牽制するように手を彼の前に出す。
「君が天子かぁ。もうちょっと大人っぽい人を想像してたけど、違うみたい。まだ子供ね。ちょっと可愛いかも」
 無邪気な笑みを浮かべながら、少女が魁斗を見て言う。
 魁斗は彼女を見つめるが、少女からは特に何の反応もなかった。
 巨大な刀の男が、背中から刀を引き抜いて切っ先を魁斗に向けながら言う。
「第八部隊第一小隊隊長ザンザ・ドルギーニだ。憶えとけ、天子ィ!!」
 ザンザが鉄骨の上から飛び降りて、下にいる魁斗に刀を振るう。
 しかし、彼の攻撃を受け止めたのは魁斗の双刀ではなく、レナの一本の刀だった。特に珍しい部分はない。しいて言えば、刀身がやけに白い。普通の白よりも透明感があるような、純白といった白さだ。
 突如割って入ったレナに、ザンザは不機嫌に顔を歪める。
「……またテメェか。どうやら、本気で死にたいよォだな」
「そうではありません。あなたとの決着が着いていなかった。曖昧なまま終わらせるつもりはなかっただけです」
 言いながらレナとザンザは横の方へと戦場を変えていった。すると、入れ替わりに桃色の髪の少女が鉄骨の上から優雅に地面に降り立つ。
 少女は髪を靡かせながら、笑みを魁斗に向ける。
「第八部隊第二小隊隊長カテリーナ・アルサント。よろしくね、えーっと……」
 何て呼べばいいか分からないらしく、随分無邪気な表情で首を傾げてくる。
 魁斗は二本の刀を構えて、
「切原魁斗だ。よろしく頼むぜ、カテリーナ」
 ふふ、とカテリーナは笑って、
「いいえ、こっちこそよろしくね」

36竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/02/18(月) 18:17:01 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 カテリーナは悠長に右手で刀を持ったまま、空いている左手で前髪をいじっていた。一方の魁斗は二本の刀を構えながら、そんなカテリーナを呆れ気味に見ている。
 どうも相手から戦おうという意志が見受けられない。しかし、ただ余裕ぶっているわけでもない。これは相手なりの挑発だ。待ちくたびれた相手が踏み込んでくるのを待って、返り討ちにする。多少なりとも怒っていると冷静な判断力は欠かれてしまう。
 しかし、相手の思う通りに動かない、と魁斗は決めていた。隙を見せないように、相手の動きに気を張り巡らしている。
 カテリーナは横目で彼を見ながら、称賛していた。
 彼女が称賛したのは安易に突っ込まないこと。戦いの素人である魁斗が相手であるならば、相手の攻撃をかわしつつ隙を突けばいいだけだ。相手の足が速くとも、必ず隙は生まれる。素人であるならば、隙は多いはずだ。
 はあ、とあからさまな溜息をついて、カテリーナは後ろで結っている髪を手櫛で一回梳いた。
「……やーめた。挑発して君の動きを単純にしようと思ったけど、全然引っかからないじゃん」
「はっ、舐めてもらっちゃ困るぜ! 戦いに関しては素人だが、冷静さは欠いちゃいけねぇと思ってるんでな」
 ふぅん、とカテリーナは笑みを浮かべながら楽しそうに頷いた。
 すると二本の切っ先がついた刀を魁斗に向ける。
「まあそういう考えなら別にいいんだけどさ、私強いよ? さすがにザンザには負けるけど、八部隊では結構いい位についてるんだから」
「そーいや、第八部隊第二小隊隊長……とか言ってたな。ザンザも似たようなことを。小隊って何だ?」
 するとカテリーナはきょとんとした表情で、
「そんなことも知らず戦ってたの? まあいいわ。私は優しいお姉さんだから、無知で無能たる君に教えて進ぜよう!」
 カテリーナが刀の切っ先で地面を突付きながら説明を始める。
「私たち『死を司る人形(デスパペット)』は一から十の部隊に分かれている。それぞれの部隊に隊長と副隊長が一人ずついるわ。一つの隊が大体五百人ってとこ。んで、五百人を一人の隊長で纏めるのも大変でしょ? だから、百人を一纏まりにしたのが『小隊』。私は部隊に五人いる小隊のうちの一人。まあザンザもなんだけどね」
「……つまり、お前は上から数えて三番目ってことか?」
 魁斗の問いにカテリーナは少し考えながら、
「んーどうだろうね。八部隊内じゃそうじゃないかなぁ? 小隊隊長同士で戦ったことないから、ぶっちゃけ強いとか分かんないんだよね」
 そうか、と魁斗は獰猛に笑ってみせる。
 まるで楽しんでいるかのように。相手が一番強い奴じゃなくてよかった、と思わせるような笑みだ。
「だったら、お前を倒せば八部隊のほとんどは倒せるってことだよな」
「一対一ならね。ま、まずは私に勝ってから言いなよ」
 言葉と同時、魁斗が地面を思い切り蹴り、刀が届く範囲まで距離を詰めた。
 咄嗟に接近され、カテリーナが何とか反応する。振り下ろされた魁斗の刀を、切っ先が二つの刀で防ぐ。
 鍔迫り合い状態になり、魁斗がカテリーナに告げる。
「上等だ! だったら、今ここでお前を越えてやるよ!」
「威勢と気迫だけは一人前だね。お姉さんもびっくりしちゃうよッ!!」

37たっくん:2013/03/01(金) 11:19:48 HOST:zaq31fa4c87.zaq.ne.jp
>>1
つまらんスレ立てるなよ
失敗ズラ

38ナコード:2013/03/01(金) 20:16:27 HOST:i118-17-185-78.s41.a018.ap.plala.or.jp
 ≫37
 貴方は人の作品にケチをつけられるような方ですか?
 人其々に頑張っているのに、それを侮辱するような行為は犯罪ですよ?

39竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/02(土) 12:41:41 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 刀を何度か交わせ、カテリーナは魁斗と距離を取る。
 距離を取っても魁斗には優れた脚力がある。数メートル離れられても、そんなもの一瞬ともいえる時間で縮められるのだ。それを何度も繰り返しながら、魁斗は思う。
 ――相手は一体何を考えているのか、と。
 距離を取るのも二、三回程度で意味が無いと気付くだろう。回数を数えるのももどかしくなるくらい繰り返しているので、相手もいい加減気付くはずだ。なのに何故相手は距離を取り続けるのか、魁斗には相手の意図が読めなかった。
 一方のカテリーナは笑みを浮かべたまま、立っている。まるで、自分から踏み込む気はないというように。
 魁斗はもう一度強く踏み込み、カテリーナの懐へと飛び込む。刀の届く範囲まで近づき、魁斗は刀を横薙ぎに振るう。しかし、この攻撃もカテリーナの刀に防がれる。
 魁斗は顔をしかめて、
「どういうつもりだ」
「何が?」
 とぼけるような口調で言うカテリーナに、魁斗はふざけんな、と睨みつけながら言い放つ。
 尚もカテリーナの表情には笑みが浮かんでいた。
 ぎりぎり、と鈍く刀同士が軋む音が鳴る。
「さっきから攻撃しようとしねぇじゃねぇか! お前、戦う気があんのか」
「あるよ。だから『剣(つるぎ)』を持ってるし、君の前に立ってるし、何より考えて戦ってる。何も考えずに突っ込んだり攻撃だけするのは、戦いじゃないよ?」
 その言葉に、魁斗の力が僅かに緩んだ。
 その隙を見逃さず、カテリーナは魁斗の刀を払う。後方によろめく、魁斗へと攻撃を放つため、カテリーナは二つの切っ先を備えた刀を空へと向けた。
 すると青かった空が、急に分厚い雲に覆われ、灰色へと変色していった。
「なっ……!?」
 天候が変わるという超常現象、それを目の当たりに魁斗は驚愕していた。
 一方で、鉄筋の上を移り変わりながらザンザと戦っていたレナも、空を見上げこの変化に驚いていた。
 レナははっとした表情で、下にいるカテリーナへと視線を向けると、
「それは『雷叫(らいきょう)』!? どうしてその『剣(つるぎ)』を貴女が?」
「……さっすが天子の養育係。博識だねぇ」
 カテリーナもレナ以上に、『剣(つるぎ)』には詳しい。
 中には自分で使わず保管してあるものもあり、『死を司る人形(デスパペット)』メンバーの三分の一くらいの人間は、彼女から『剣(つるぎ)』をもらっている。そういうことから、カテリーナは『剣の才女(つるぎのさいじょ)』とまで呼ばれている。ちなみにザンザも彼女からもらった『剣(つるぎ)』を使用している。
 肩で刀を担ぐようにしたザンザが呆れたように空を見上げ、
「オイオイ、ガキ相手に本気になったのか」
「まっさか。そんなワケないじゃん。ただ――」
 暗い雲から雷が落ち、それがカテリーナの刀に直撃する。
 しかし雷は刀を破壊することも、カテリーナを傷つけることもなく、彼女の持つ刀に留まり続けている。強力な電撃を纏った刀は、眩い光と激しい音を発している。
 カテリーナが攻撃する態勢に入りながら、
「ちょっと天子くんに、いたーい目に遭ってもらうだけだよ」
 カテリーナが刀を振りかぶる。
 しかし、魁斗の位置まではカテリーナの斬撃は届かない。魁斗は何をしようとしているんだ、という表情でカテリーナを見つめていると、鉄筋の上のレナが叫ぶ。
「カイト様、避けてください!! 『雷叫(らいきょう)』は、刀に電撃を帯びさせて放つ刀ですッ!!」
「……ッ!?」
 レナの声が届くが、僅かに対応が遅れた魁斗には逃げ切れない。たとえ、脚力がいかに高くてもだ。
「遅いよ、天子くん」
 カテリーナが雷の斬撃を飛ばす。
 魁斗が刀を交差させて斬撃を防ごうと試みるが、それも失敗に終わる。
 雷の斬撃はまっすぐ魁斗に向かって飛んでいき、大きな爆煙と爆音を鳴らした。

40竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/03/08(金) 22:09:35 HOST:p4092-ipbfp3303osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 爆煙に包まれる場所を見ながら、カテリーナは退屈そうに嘆息した。
 自分の相棒――ザンザをまぐれであるとはいえ退かせたものだから、彼女自身も切原魁斗という人物に興味を持っていたのだ。
 だが結果はこれだ。
 何のことはない、ただの普通の少年だった。『剣(つるぎ)』の能力を理解せず、油断したが故に攻撃をくらい、十五年という短い命を散らすこととなってしまった。こんなつまらない少年に興味を持っていたのかと思うと、自分で自分が恥ずかしくなってくる。
 彼女は背を向けながらふと思った。
 ――少年の『剣(つるぎ)』の能力は何だったのだろう、と。
 自分が知らないのだから大して珍しいものではないのかもしれない。ザンザも形状は詳しく憶えていなかったし、自分もこの目で見て、見覚えがなかったとすると、そんなにレアなものではなかったのかもしれない。
 まあ今死んだのだから、それも気にする必要は無いか。そう思いながら、カテリーナが『剣(つるぎ)』を元のアクセサリーに戻そうとしたところで、
「カテリーナッ! 奴はまだ終わってねェぞ!」
 ザンザの叫び声で、ばっと後ろを振り返った。
 晴れつつある爆煙の中に、少年の影が視界に飛び込んでくる。二本の刀を持った、黒髪の少年だ。彼の刀には、先ほどまでなかった、眩いほどの光が纏っている。
 カテリーナは、驚愕を露にしながら大きく目を見開いている。
「……うっそ……。『雷叫(らいきょう)』の一撃をくらって、平気だなんて……」
 魁斗は煙の中で、獰猛に笑ってみせる。
 身体は決して無事ではない。口の端から血を流しているし、あちこちに火傷がある。とても無事とはいえない状況だが、彼はカテリーナの攻撃を防いでみせた。
 レナは魁斗の無事を確認すると、目尻に涙を浮かべてしまう。
「……カイト様……」
「……続けようぜ、カテリーナ・アルサント」
 カテリーナは笑う。
 愉しそうに、口の端を吊り上げて笑みを浮かべてみせた。
「いいじゃん、いいじゃん、そうこなくっちゃ! そうじゃないと、全然面白くもないもんね!」

 レナは隙を見せるザンザに斬りかかる。
 それに咄嗟に気付いたザンザが身体を反らして、なんとか攻撃をかわした。体勢を立て直し、レナを睨みつけながら、
「随分と卑怯なマネをするじゃねェか。俺はお前が戦う状態まで待とうと思ってたのによォ」
 レナは刀を前に構えながら、
「随分と余裕のあることをするんですね。その驕りが、敗因にならないように気をつけてください」
 切っ先をザンザに向ける。
 ザンザは引き裂かれた笑みを浮かべて、刀を振りかぶる。
「デカイ口叩くじゃねェか、養育係! その言葉、あとで後悔させてやるよ!」
 言いながら、ザンザは突っ込んでいく。
 それにレナも応じ、ザンザに向かって突っ込んでいく。
 二人の刀が、大きな音を立てながらぶつかり合う。


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