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24
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2012/12/23(日) 22:49:10 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
凪は都市伝説という存在になっていた。
何処からともなく現れ、何かを探しているような所作を行う。大切な物を探している、と凪はいつも答えていた。
その大切な物が、自分を受け入れてくれる人のことらしい。
特定した誰か、というわけではなく、漠然とした答え。『自分を受け入れてくれる人』を探していたのだ。
凪の言葉に霊介は息を吐いて、
「だったら、もう探す必要ねーだろ」
え? と凪がきょとんとする。
彼女が霊介に視線を向ける。霊介は自分の胸に手を当てて、
「俺がいる。それに、亜澄だっているだろ」
凪は目を大きく見開いた。
自分が探していたものが既に見つかっていたことに驚愕して、ではない。彼がそんなことを言ってくれたことが嬉しくてだ。
今までの人は、自分にそこまで言ってくれる人はいなかった。ぬいぐるみを動かせば気味悪がられるし、好きこのんで近づいてくる人もいなかった。そんな彼女を、たった一日一緒にいただけで受け入れてくれた。凪は嬉しさで表情が綻ぶ。
しかし、凪は顔を俯かせて、
「……でも、私は危険なんだよ。きっと、霊介や亜澄にも迷惑かけちゃうだろうし……」
その凪の言葉に霊介は歌蝶の言っていたことを思い出す。
彼女に限らず『繰々師(くくりし)』は世界を滅ぼせる。凪がいつそんな暴挙に打って出るか分からない。今が安全でも、この先ずっと安全だという保障はどこにもないのだから。
だが、それなら彼女がこの世界を嫌わないような、そんな楽しい思い出ばかりを作ってやればいい。
自分だけじゃ無理でも、亜澄がいたら不可能ではない。それに涼花や明日香にも手伝ってもらおう。歌蝶には二人を近寄らせることを禁じられたが、このまま隠し通せる自信もない。後で下手に言い訳するよりも、今本当のことを言っておいた方がいいだろう。明日香の反応が怖くなりそうだが。
俯いている凪の頭に手を置いて、霊介は優しく語り掛ける。
「お前が危険なんて知ったことかよ。そんなのどうでもいいんだ。お前はずっと俺達の家にいていいんだよ。亜澄もきっと喜ぶ」
「……霊介……」
凪は思わず霊介に抱きつく。
いきなり抱きつかれた霊介は戸惑うものの、安心したような溜息をついて優しく彼女を抱き返す。
そこへ、
「いんやー、そうなるとこっちゃ結構困るんすよー」
明るく、それでいてどこか危険性を孕んだ声が二人の耳に届く。
勢いよく声の方向を振り返る霊介と凪。
そこに立っていたのは一人の少女だ。年は大体十七歳程度。赤い髪と目が特徴的だ。後ろの方で結ばれた、太ももに到達する長さのツインテールがさらに特徴となっている。服装はへそが露出する長さのキャミソールに深緑色の短パン。ニーソにローファーのような靴を履いている。中でも特に違和感を放つのが、腰のベルトに挟まれた短剣だ。
赤髪の少女はくすっと、小悪魔的に笑ってみせ、
「その娘、『繰々師』っすよねー。そちらの男の人に質問です。貴方はその娘の危険度を知っている。イエス? ノー?」
「な、何なんだよお前は! いきなり出てきて! 質問する前に何者か答えやがれ!」
霊介の言葉に少女はきょとんとしたかと思うと、急に冷徹な瞳に変わる。
彼女の声が低い声色になり、
「いいから質問に答えてくださいよー。イエスかノーか言うだけでいいんすよー」
その声に霊介の背筋に寒気が走った。
単純に怖いと思ってしまった。言うと大袈裟だが首元にナイフを突きつけられているような感覚がした。
霊介は『イエス』と答える。少女の返答を待たずして霊介が続ける。
「だが、俺はこいつが危険だと思わない! お前はどう思ってるか知らないけど、こいつは一人で寝るのを怖がるような、ただの普通の女の子なんだよ!」
霊介の言葉に少女は呆れたように嘆息した。
彼女は前髪をかき上げると、
「いや、知らないっすよ。その娘がどうとかじゃなくて、私は世間的に言ってるんです。さっさと退いちゃってくださいよー。じゃないと、私は貴方も殺すっすよー?」
「退くかよ!」
霊介は凪を庇うように、彼女の前に立つ。たとえ、相手がどんな人間でも、霊介は凪を守ると決めたのだ。
25
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2012/12/24(月) 03:06:34 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
7
赤髪の少女は、ベルトに挟んであった短刀を、ゆっくりと引き抜く。
あっさりと凶器を引き抜いた相手に、凪は肩をびくっと大きく揺らす。そんなおびえている凪を見て、霊介は落ち着かせるために言う。
「大丈夫だ。俺が守ってやる」
しかし、実際のところ霊介だって怖いのだ。
今までナイフを持った強盗犯に出くわしたこともなければ、銀行の立てこもり事件の現場に遭遇したことも無い。彼の身体も小刻みに震えている。さっきの声が震えなかったのが奇跡だ。
明らかに怯え、がちがちに固まっている霊介を赤髪の少女は退屈そうに眺めて、
「ありゃりゃ、もしかしてカッコいいこと言っておいて怖いんすか?」
嘲るような少女の問いに霊介は答える余裕も無い。恐怖が頭と身体にこびりついて、それどころではないのだ。
ただ怖くて答えられなかっただけなのだが、それを無視したと思い込んだ少女は、うーと頬を膨らませて不機嫌モードに突入してしまった。
少女は手の中で短刀をいじりながら、霊介と凪を赤い瞳で見つめる。
「ま、怖がっても全然いいっすよ。その方が私もやりやすいし。むしろ、目の前で短刀抜かれて堂々とされても困るっすからね」
んじゃ、と少女は姿勢を低くした。陸上競技のクラウチングスタートのような姿勢だが、そのれよりは少し高い。
腰を下ろし、足は完全に走り出す準備が出来ている。短刀も逆手で持ち、臨戦態勢はばっちりだ。
「始めるっすよ」
言った瞬間、少女がものすごい勢いで突っ込んでくる。その速度がかなり速く、霊介は凪を押し倒すような形で、少女の攻撃から凪と自分の身を守った。
かわされた少女は、おお、と少し楽しげな声をもらした。まさかかわされるとは思ってなかったのだろう。彼女自身も、普通の人間を殺めるのは好まないらしく、相手の身体に短刀が触れる寸前で止めようと思っていたのだが、自分の速度に反応されたことに楽しんでいるようだった。
少女は、くく、と笑って、
「すっごいじゃないですかぁ! 本当に素人ですか? さっきまでがちがちに緊張してたとは思えないんすけど」
それでも、霊介は気を抜けるわけじゃない。
さっきのに反応できたといって、二回目も同じく反応できるか分からない。それに、相手が速度を上げるかもしれない。どっちみち、手抜きは最初の方だけだ。それが一回目だけか、二回目以降も何回か続くのかまでは分からない。
霊介の後ろにいる凪は、地面に赤い液体が滴っているのに気付く。
液体の居場所を辿っていくと、霊介の肩が切りつけられていた。
「……れ、霊介……血……!」
凪に指摘されてようやく気付いたのか、霊介は右肩から血が出てることを確認する。
傷は深くない。出血もそれほど多いわけじゃない。だが、先ほどのかわせていた、と思っていた攻撃もかわせていなかったのだ。相手にそれは気付かれてはいけなかった。
先ほどの攻撃がかわせていないと分かれば、次の攻撃はさっきより速度を上げてくるだろう。そもそも、さっきの攻撃も殺さないよう手加減してたのだ。速度は最低速とでも呼べるほどだろう。
霊介に傷を負わせたことに気付いた赤髪の少女は、
「痛くないんすか? いいんすよ? 別に泣き叫んじゃっても。恥ずかしいことじゃありませんよ。高校生でも、痛かったら泣いちゃいますし」
「これくらいで泣くかよ。つーか、こんな状況じゃ涙も出ねぇし」
私は今でも転んですりむいたら泣きますけどねぇ、と相手はどうでもいいことを話し出した。
彼女が再び先ほどと同じ突撃体勢を取る。霊介は右肩を押さえながら、相手の攻撃のタイミングを見計らっている。
しかし、凪は霊介が傷つけられたことにショックだったらしく、リミッターが解除されようとしていた。
赤髪の少女は再び霊介へと突進する。今度こそ、霊介がかわせない速度で。
―――傷つけられた。霊介を。何で耐えるの。もう耐えなくてもいいよね。目の前の敵を。殺しても―――。凪の頭の中で、相手を潰す理由を、正当化する作業が始まっていた。こうなってしまえば、もう誰も止められなかった。
凪は、呟くように言う。
「―――『ろーたす』起ど―――」
凪の言葉が終わるより早く、霊介と赤髪少女の間に落雷が落とされる。
二人が何事かと考え始めるが、霊介だけはこんなことをする人物を、一人思い浮かべていた。
その人物は簡素なシャツに短パンにブーツ。さらにその上から白衣といった、中と外の服が全く合っていない、身長一五〇センチ前後の現代文教師。
萩原歌蝶が、電撃が走る右腕を前に突き出していた。
26
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2012/12/24(月) 12:08:27 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
突如として戦場にやって来た歌蝶。
さっきまで国語準備室で話していたのに、この人は自分を尾行でもしていたのだろうか、と不安に思ってしまう。
だが、この状況で来てくれたことはありがたい。あの赤髪の女の子の相手を任せようと言うわけではないが、強力な助っ人が来たことには変わらない。
霊介は思わず彼女の名前を叫んでいた。
「蝶ちゃん!」
「―――蝶ちゃん? まさか」
霊介の言葉に赤髪の少女が眉をひそめる。まるで、どこかで名前を聞いたような、といいたそうな表情だ。
歌蝶は腕を組みながら霊介の前まで歩いて行く。
何でここに、と霊介の口が言葉を紡ぐより早く、歌蝶の左腕が霊介の腹に叩き込まれた。身長差のせいか、彼女は腹を殴ったつもりなのだろうが鳩尾にいい具合に入り、霊介は膝をついてその場に崩れる。
鳩尾を手で押さえたまま霊介は呻くように問いかける。
「……何すんだよ……」
「ただのおしおきだ。まったく、何が『「繰々師(くくりし)」とは関係ありません』だ。思い切り関わってるじゃないか」
霊介は言い返せない。
あの場で面倒ごとを避けるために嘘をついたのはたしかだ。しかし、意外だったのは歌蝶があのバレバレの下手な嘘を信じていたということだ。彼女は全面的に生徒を信頼しているのだろうか。その分嘘がバレれば鉄拳制裁が飛んでくるので、容易に嘘はつけない。
歌蝶は崩れている霊介を見て小さく嘆息する。それから、短刀を構えている赤髪の少女へと視線を移し、
「ところであの赤髪ツインテールは誰だ? 君の彼女か? 君が他の女の子と親しくしているのを見て怒り狂って短刀を振り回すとは……随分と厄介なヤンデレじゃないか」
「違うわ! どこの世界に嫉妬して短刀振り回す女がいるんだよ! せめて包丁かナイフだろ!」
それも問題だが、と霊介が付け加える。
赤髪の少女に対して、怯えまくっていた霊介とは対照的に歌蝶は愉しそうな笑みを浮かべていた。やはり実践慣れしているプロは違う。
彼女は大きな欠伸をした後、腕を組み直して、
「来い、女。相手をしてやろう」
強気に告げた。
赤髪の女は構えとく。その様子に歌蝶が目を丸くした。女は歌蝶を睨みつけて質問をする。
「……さっき、蝶ちゃんって呼ばれてたっすよね?」
「納得はしてないよ。ただ言い返しても無駄だろうからそのまま通しているが……おっと君もそのあだ名で呼ぶなよ?」
心配ないっすよ、と赤髪の少女は俯きながら答える。
少女は無意識に短刀を握る力が強くなり、叫ぶように歌蝶に問う。
「電撃を操る白衣の女。―――まさか貴女は、『電撃の司者(でんげきのししゃ)』と呼ばれている、萩原歌蝶っすよね?」
歌蝶はやれやれ、といったような調子で溜息をついた。
蝶ちゃんと呼ばれるのも好きではないし、かといって裏の仕事(こっち)の名前で呼ばれるのも嫌いなようだ。
はあ、と溜息をつきながら、歌蝶は自分の頭に手を当てる。
「それは全盛期の私の名前だ。今はもうその称号は捨てたつもりだったんだが……」
歌蝶は霊介を見る。
彼女ほどの人間になれば霊介の肩が傷つけられているのをすぐに見つけることが出来る。歌蝶は傭兵であり教師でもある。彼女は右手に電撃を迸らせながら、赤髪の少女を睨みつける。
「君が私の生徒を傷つけたのなら、昔の名を冠することも厭わんよ。さて、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな?」
赤髪の少女が歌蝶に気圧され、僅かに身を引く。
歌蝶の目は本気だ。殺すつもりはないだろうが、生徒を傷つけられて心中穏やかでいられるほど温厚な性格ではない。
完全に不利な状況に陥った少女は、くっ、と歯軋りをして、
「どうやらここは退いた方が良さそうですね。『電撃の司者(でんげきのししゃ)』と戦うには、私はまだまだ未熟なので」
「逃げるのか。まあ好きにするがいい」
歌蝶は相手を深追いしない。退いてくれるなら無駄な運動をしなくても済むからだ。
しかし、彼女はただで逃がすつもりはない。次はないぞ、という意味合いを含めた言葉を言い放つ。
「だが君の顔は覚えたぞ」
歌蝶の言葉に戦慄した赤髪の少女が、その場から走り去っていく。
とりあえず危機は去った、と安堵する霊介だったが、この後歌蝶からの尋問が待っているだろうと思うと、本当の意味の安堵は出来なかった。
自我を失いかけていた凪も、はっと目を覚ましていた。
27
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2012/12/24(月) 13:04:43 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
8
公園のベンチに霊介と凪は並んで座らされた。二人の目の前には腕を組んで、不機嫌な顔をしている現代文教師、萩原歌蝶だ。
彼女が不機嫌な理由は、霊介が嘘をついたことだろう。それを分かっているのか、霊介は歌蝶から目を逸らしている。座らされた理由が分かっていない凪はきょとんとしている。
歌蝶は心底不機嫌な口調で、
「まったく、教師を騙すとはなんて奴だ。私が通りすがらなかったらどうしていたつもりだ、うん?」
う、と霊介は何も言い返せなくなる。
きっと彼女がいなかったら今頃自分がどうなっていたか分からない。相手の攻撃をずっとかわせていた自信も無いし、そもそも凪をちゃんと守れていたという自信も無い。
それほど、赤髪の少女は危険だということだ。
「……嘘をついたことは、謝っておくよ。ごめん。……つーか、そんなこと言って、本当は尾行してたんじゃ……」
瞬間、歌蝶の表情が一変する。
いたずらがバレた子供のような、そんな表情になりながら凍りついた。
「……何故バレた?」
そのとおりだったのか、と霊介は小さく溜息をつく。
数分前に学校出た相手に追いつくなど、つけていたとしか考えられない。しかし、この教師は目の前で襲われていたにも関わらず、途中からしか助けなかった。ずっと見ていたのなら助けてくれても良かったのに、と言えば甘ったれるな、とか言われそうなので、霊介は言葉を飲み込んだ。
歌蝶は尾行していたのがバレて恥ずかしかったのか、照れ隠しのような口調で、
「ふ、ふん! 君は何かと危なっかしいからな。助けてもらったんだ、感謝してほしいものだ」
ありがとうございます、と霊介は歌蝶に言う。
歌蝶が落ち着きを取り戻し、凪に視線を移した。
「で、その娘が『繰々師(くくりし)』か。名前は?」
聞かれて凪ははっとしたように、
「……あ、ひ……人乃宮凪です」
凪か、と歌蝶が意味深な調子で呟く。
霊介と凪が首を傾げていると、歌蝶は思い出したような感じで、
「そういえばうちの学校の三年生にいたなー、凪という子が。確か文芸部の部長で……」
「いや、蝶ちゃん。今はその情報どうでもいいから」
一応学校の生徒の名前は覚えているようだ。
彼女の担当は一年のはずだが、三年生も覚えているのは流石だと思う。
歌蝶は霊介に視線を戻して、真剣な面持ちで訊ねる。
「さて、澤木。君に聞きたいことがある。返答次第では、彼女をどうするか決めることになる」
言いながら歌蝶は凪に視線を移す。恐らく凪に関係することだ。
霊介は気持ちを引き締めた。彼女をどうするか聞かれたら、守りきると答える。彼はそう決めていた。彼女は腕を組んだまま、霊介に問いかける。
「君は彼女を受け入れるか? 守れるか? もしそれが無理なら、難しいと言うのなら私が彼女を引き取る」
歌蝶の質問は、霊介にとってもいい話だ。
歌蝶は仮にも教育者である。彼女の下の方が凪にとってもいいことだろうし、何よりさっきみたいな襲撃にも対処できるだろう。霊介では、どうすることも出来なかったのだから。
だが、霊介の答えは決まっていた。凪が心配そうな瞳で霊介を見つめながら、服の袖をきゅっと強く握ってくる。彼女なりの離れたくない、という意思表示だ。されるまでもない。霊介は始めからどう答えるか決めていたのだから。
彼は凪を守ると決めていた。だからこそ、
「受け入れるよ。そして守りきる。凪を守るって、決めたんだ。確かに俺は凪より弱いのかもしれないし、蝶ちゃんみたいに戦えない。でも、居場所を作ることは、守ることは出来る。だから……」
ふっと歌蝶は笑う。
彼女はくるりと背を向けながら、
「よく言った。それを確認したかったんだ。君が決めたのなら何も言わない。だが、私は今回のようにいつでも来れるわけじゃない。何かあったら私に連絡しろ。その時は力になってやる」
言いながら歌蝶は去っていった。
凪は霊介の返答が嬉しかったのか、彼に思い切り抱きつく。霊介は彼女の頭を優しく撫でて、
「じゃあ帰るか。あんまり遅いと亜澄も心配するだろうし」
「……うん」
28
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2012/12/25(火) 15:39:14 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
第三章 迷走、のち捜索 -oath to keep-
1
「あーもうっ! やってらんないっすよ!」
暗い夜道を歩きながら、赤髪の少女は電柱を拳でぶん殴る。少女の手にも怪我が残るが、電柱も僅かにひびが入っている。
赤髪の少女の本来の目的は『人乃宮凪を捕獲すること』という、いたって簡単なものだった。しかし、こともあろうか一般の高校生に邪魔されるわ、凄腕傭兵の 『電撃の司者(でんげきのししゃ)』こと萩原歌蝶も乱入してくるわで、踏んだり蹴ったりだ。
今回彼女は、『繰々師(くくりし)』を危険だと判断し、彼女達を捕らえる組織に雇われていた。彼女も凄腕の傭兵であることには違いない。
しかし、相手があの萩原歌蝶であれば話は別だ。彼女の伝説は裏の仕事では知らぬ者はいないに等しい、とまで言われているのだ。
例えば、たった一人でナイフや鉄筋を持った男十数人を蹴散らしたとか、素手で熊とやりあって生き残ったとか、銃弾をはじき返せるとか、指で真剣白刃取りをやってのけたとか、どうも嘘っぽい逸話も紛れ込んでいるが、彼女のお世話になっている人物も少なくない。
国家公認の傭兵だ、という人も少なくはない。
「予想外の想定外の計算ミスです! まさかあの小娘があんな強力な人間との繋がりを持っていたなんて、『電撃の司者(でんげきのししゃ)』さえいなければ、今頃任務も達成できていたはず……!」
「その様子だと、失敗したようだね」
突如、彼女の背後から男の声がした。
身長が一八〇センチを超えるであろう巨体の男だ。顔つきは外国人ぽい顔で、年齢は三十後半程度だろう。男は全身を黒い服で覆っており、手も黒い手袋で隠すほどの徹底振りだ。もうすぐ六月に突入するというのに、この格好は暑くないのだろうか、と首を傾げたくなるほどである。
赤髪の少女は、その男を不愉快そうに睨みつけて、
「わざわざ文句を言いに来たんですか。趣味悪いですよ、アルドルフ=グルタクスさん」
三十後半の男は口の端を吊り上げた。
この男が赤髪の少女を雇った組織の人間、つまりは依頼主となる。しかし、少女の方はこの男が嫌いらしく、会っても悪態しかつかない。
アルドルフはそんな赤髪の少女に歩み寄り、
「そんな悲しいことを言わないでくれ。仕事の調子を窺いに来ただけだ」
「あんま寄らないでもらえます? 気付いてるでしょうけど、私貴方が嫌いなんですよ」
赤髪の少女は冷ややかに言い放つ。
男は僅かにしょんぼりとした態度を見せて、
「えらくはっきりと言う子だ。失敗した理由を訊ねてもいいかな?」
聞かれると、赤髪の少女は口を尖らせながらも答える。
「邪魔が入りました。一般の高校生と『電撃の司者(でんげきのししゃ)』の二人です。高校生で時間食ってる間に大物が来ちゃいましてね」
『電撃の司者(でんげきのししゃ)』という言葉を聞くと、アルドルフは僅かに目つきを鋭くする。彼もその名を知っているようだ。
赤髪の少女は腕を組み、深く溜息をつきながら、
「あの二人が来なけりゃ上手くいってたんすけどねぇ。まったく、面倒ったらありゃしないっすよ」
「次は私も出ようか」
アルドルフの言葉に、赤髪の少女が『は?』と聞き返す。
男は不適な笑みを刻みながら、
「次は私も出るよ。協力して、例の少女を捕らえようじゃないか」
傭兵としての立場的に、依頼主を戦場に来させるわけにはいかなかった。
しかし、また一人でやっても失敗する。せめて、彼女を捕らえる隙さえ作ってくれれば。
そう考えた赤髪の少女はにっと笑って、
「いーでしょー。是非手伝ってくださいよ。成功したら、今までの非礼を謝り、口には出来ないようなえっろぉーいこともさせてあげましょうか?」
「期待せずにしておくよ」
男は呆れたように嘆息しながら、暗い夜道を歩いていった。
29
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2012/12/27(木) 16:57:52 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
2
またこの状況か。
朝目が覚めた霊介を待っていたのは抱きつくような体勢で、自分の上にのしかかっている凪の姿だった。彼女の顔が首のすぐ近くにあり、彼女の吐く息が首元に当たるせいでかなりくすぐったい。首元の妙な感覚に身が震えるのを我慢し、出来るだけゆっくりと彼女を自分の上からどかす。ベッドの上には亜澄が横たわっている。『もう食えねーっすよ、とっつぁん』などという世界観が全く掴めない寝言を言っている。
凪がこちらの家に泊まりに来てから、二回目の朝だ。彼女が『霊介の部屋で寝る』と言ってから当然のように亜澄も自分の部屋ではなく、霊介の部屋で寝るようになった。そのため、毎晩ベッドは女子二人に占領されているし、仕方なく床で寝るも起きたら凪が上に乗っかっているしで、いつもより早く目が覚めてしまう。
現在の時刻は朝の五時前だ。彼が普段起きるより二時間早い。亜澄はいつもこんな時間に起きているらしいが、今は起きる様子が無い。
霊介は大きな欠伸をしてから部屋を出て、トイレに向かいながらいろんなことを考えていた。
凪のこともそうだが、昨日襲ってきた赤髪の女。昨日の出来事の後、家に戻るなり歌蝶からメールで『あの女も恐らく傭兵だ』という情報を送られやっぱりな、と呟いてしまった。彼女自身心の底から凪を捕らえようという感じではなかった。むしろ、割って入った霊介の反応を楽しんでいたように見える。つまり、凪のことが本命であるが、それは誰かに命令されてやったこと、と考えるのが妥当だ。
「……おにーちゃん?」
あれこれ考えていると、不意に後ろから声を掛けられ肩を大きくびくつかせてしまった。
声を掛けたのは紛れもなく亜澄だ。彼女は髪を下ろしており、眠気眼を擦っている。
今起きたところなのだろう。これから今日の弁当と朝ごはんの調理に入るのか、台所へと迷いなく足を踏み入れていった。
いつもこんな早くに起きてご飯の支度をしてくれてる亜澄に感謝しようと、霊介は思ったことを正直に言葉に出す。
「ありがとな、亜澄。いつも朝早くに起きて、弁当や朝ごはんを用意してくれて」
いきなりの言葉に不意を突かれた亜澄が『へ?』と目を丸くする。
その後僅かに赤くなった頬のまま、こちらに視線を一瞬だけ向けると、すぐに調理に取り掛かりながら、
「べ、別に……もう慣れっこさんだし。おにーちゃんが毎日おいしそうに食べてくれるから、私はそれで満足してるよ」
「しっかし、よくこんなに早く起きれるよな。目覚まし一台だけだろ?」
自分の部屋には二台あるよ、と先に言って、
「おにーちゃんこそどうしたの? こんな朝早く起きるなんて。早寝早起きに目覚めた?」
そうじゃないけど、と霊介は否定する。
彼が早寝早起きに目覚めるなど有り得ない。自称『怠惰の象徴』が早寝早起きなどするわけがない。言っていた当の亜澄本人も『まあないよね。あったら「ちへんてんい」さんだもんね』などといっている。ちなみに『ちへんてんい』というのは四字熟語の『天変地異』のことで、彼女は間違って覚えてしまっている。そこのところは、霊介は何も言わないことにした。
すると、霊介は涼花と明日香の会話を思い出して、
「なあ亜澄。お前って学校で結構モテたりするのか?」
「ひうっ!?」
いきなりの質問に変な声を上げる亜澄。さっきので手を包丁で切らなかったのは奇跡だろう。
顔を赤くした亜澄が霊介へと振り返り、
「な、いきなりなんてこと訊くの!? そそ……そんなのおにーちゃんは関係なしさんでしょ!? 驚かさないでよ、馬鹿!」
叫ぶように亜澄が言った。
霊介は悪い、と素直に謝る。亜澄は再び材料を切りながら、
「……モテるってほどじゃないよ。確かに、今まで告白はされたけどさ……」
「マジか!? 何人!?」
食いついてくる兄に戸惑いながらも、亜澄は思い出しながら、
「えっと……中学入ってから、少なくとも五人には……」
「……全部ふったのか?」
「うん。好みじゃないもん」
きっぱりと言い放つ亜澄。
案外涼花と明日香が言っていた『モテるだろうなー』的な言葉は的を射ていたのである。
亜澄はくすくすと笑っている。兄と食事の支度をしながらこんな会話が出来ることを喜んでいるのだろう。彼女は悪戯っぽい口調で、
「何でいきなりそんなこと訊いたわけ? おにーちゃん、まさか私のこと大好き?」
亜澄は霊介の慌てたような口調の『んなわけねーだろ』を期待してたのだが、無自覚鈍感男の霊介は恥ずかしがりもせず、
「ああ、大好きだよ」
素直にそう返す。
返された亜澄がゆでだこのように顔を耳まで真っ赤にして、再び材料をざっくざっくと切っていく。
30
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2012/12/30(日) 20:46:55 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
3
霊介が学校へ向かうと、いつものように涼花と明日香が校門の前で彼を待っていた。
二人は基本的に校門の前で霊介を待っているのだ。どうせなら違う場所で三人一緒に落ち合うのもいいのだが、二人が言うにはこれが楽らしい。ということで、霊介もなんとなく二人の意見に従うことになった。
しかし、その二人にはいつもと違う様子がある。
涼花が新聞を広げている。彼女は本はおろか、新聞でさえもまともに読むような女子ではない。恐らく毎日新聞は見ていてもテレビ欄しかチェックしてないだろうし、政治や経済についてもさほど興味がないはずだ。だが、当の涼花は食い入るように新聞に見入っている。明日香もいつものように腕を組んで、涼花と同じ場所を凝視している。
彼はその光景に首を傾げていた。
一体何を見ているんだろう、と思いながら霊介は軽い挨拶をしながら二人に近づいていった。
彼の損じに気付いた二人も軽い挨拶を返してくる。すると、涼花が今まで見てた記事を霊介にも見えるように広げる。
彼女は新聞記事の一点を指差した。
「ねえねえ、霊介これ見て!」
その記事を見た瞬間、霊介の目が大きく開かれた。
映っていたのは赤髪ツインテールの少女。つい先日凪を襲った傭兵の写真が映っていた。服装は変わっていなかったが、変わった点が一つある。彼女の隣に一人の長身男が立っている。
霊介の表情の変化に気付かずに、涼花は記事を見つめながら、
「何か短刀持ってるんだって。怖いよね」
「しかもこの街、この前私達が都市伝説を探しに行った場所だろ?」
余計怖いな、と明日香が付け加える。
霊介は二人の言葉をもはや聞いていないだろう。彼はわざとらしく作り笑いを浮かべながら、
「悪い、今日蝶ちゃんに出されてた課題提出しないと! 朝のホームルーム前しか受け取らないとか言ってたから!」
じゃあな、と霊介は慌てて駆け出す。
昨日歌蝶に呼び出されていて良かった、とりあえずあの場を抜け出す口実になった。霊介は職員室へと向かって走る。
勢いよく開けながら歌蝶を呼ぶが、一番近くにいた教師が、国語準備室にいるよ、と言ってくれた。
いい加減職員室にいてくれてもいいのだが、彼女はとことん一人でいるのが好きなようだ。
霊介は国語準備室の前に立ち、切らしている呼吸を整えながら部屋のドアを開ける。すると、
「蝶ちゃん!」
「おわっ!?」
丁度部屋から出ようとしていたのか、開けるとすぐに歌蝶の姿が目に入った。
彼女は驚いたように霊介を見つめていたが、息を切らしている彼に気付きことが重大なことだと気付いたようだ。
丁度彼女も話したいことがあったのか、丁度良かった、と呟きながら彼を部屋へと招きいれた。
二人は向かい合うように座る。話を切り出したのは、歌蝶からだった。
「大体来た理由は分かっている。今朝の新聞を見たのか」
「ああ」
涼花から見せてもらったんだけどな、と付け加える。
歌蝶は腕を組む。彼女の机の上にはワイングラスではなく、ぶどうジュースが入った二リットルのペットボトルがそのまま置かれている。ワイングラスがないのが珍しい。
彼女は僅かに考える仕草をした後に、
「……今から言うのはあくまで、私の推測だ。全てを信じるな」
歌蝶の言葉に霊介は頷く。
歌蝶は真剣な声色で、
「では、私の推測を聞いてもらおう」
31
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2013/01/04(金) 20:04:05 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
歌蝶はさながら盗賊のように、ペットボトルに入っているぶどうジュースをそのまま飲んでいる。もしペットボトルの中身が見えなかったら、ただの酒飲みのようにしか見えない。しかし、その仕草も白衣の小柄な女性が行っているので、酒飲みさは微塵も感じさせない。
そのまま手の甲で口を拭い、ペットボトルを机の上にどかっと置く。彼女は霊介を真っ直ぐに見据えて口を開いた。
「私の推測の話だが、昨日のあの女はメールで送ったとおり傭兵。それも雇われた傭兵だ」
それは霊介もなんとなく想像がついていた。
あの女からは、凪の捕獲は優先順位が低そうに見えていた。自分が凪を守るために動いてから、自分と戦うのを楽しそうにしているようにさえ見えていた。だから、彼女はしたくもない仕事を、誰かから雇われてそれを忠実にこなそうとしていたに過ぎない。霊介が考えつくだけあって、歌蝶もその程度のことは考えていたらしい。
だったら誰に雇われたのか、という疑問が浮上する。凪を狙う―――ということは、『繰々師(くくりし)』だから狙われているのか。それともただのロリコンが狙っているのか。後者の方は是が非でも勘弁してほしい。
歌蝶は頬杖をつきながら、
「この前、傭兵仲間の会話を小耳に挟んでな。なんでも、『繰々師』を狙う組織があるそうだ」
「……狙う?」
霊介が歌蝶に聞き返す。
彼女も小耳に挟んだ程度なので、詳しいことは分かっていないらしい。ただ、彼女が聞いた限りでは、強大な力を持つ『繰々師』を捕獲し、力を使わせないようにする、という考えもあるらしい。しかし、その限りではないらしく、解放する代わりに自分の護衛として使ったり、いいように使い回すなどという使い方を目論む者もいるらしい。それは一限りの人間らしいが、『繰々師』を調べるために捕獲するという名目が大きいらしい。
たしかに、霊介も目の前でその力を見ている分、彼女達の力には興味がある。どうやったら人形が動かせるようになるのか、魔法や手品では不可能な芸当だろう。
捕獲の理由はどうあれ、あんな小さい娘がそんな意味不明な組織に狙われているのなら、見過ごすことは出来ない。それに、自分は彼女を守ることを誓ったのだから。霊介が立ち上がろうとしたところで、歌蝶が彼を止めるように言葉を続ける。
「あの女、君と交戦中に『誰かから雇われた』という類の言葉を言っていなかったか?」
霊介が思わず聞き返す。
唐突だったので、質問の意味が分からなかった。彼の記憶が正しければ言ってはいないと思う。状況が状況だったので、あまり相手の言葉を覚えていないのも理由の一つだ。自分が凪を狙っている、的なことは言っていた気がする。
何故そんなことを聞くんだろう、と霊介は首を傾げる。
あの女と遭遇した時なら、歌蝶もいたはずだ(陰に隠れていたが)。状況に直面している霊介より、彼女の言葉は歌蝶の方がよく覚えられているはずだが。
霊介が曖昧に首を振ると、歌蝶はやはりなと呟いた。
「私自身曖昧だったから聞いたのだ。そして、ここからはもっとも可能性ある推測だ」
霊介が身を乗り出して歌蝶の言葉に耳を傾ける。
「あの女は昨日独断で捕獲に動き出した。そう考えると、彼女が一人なのは危ないんじゃないか? 君の妹も学校に行って、今家にいるのは凪だけなのだろう?」
その言葉に霊介は絶句する。
そう、今この瞬間も彼女は赤髪の傭兵に狙われているかもしれないのだ。
32
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2013/01/12(土) 14:34:53 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
霊介は何か嫌な胸騒ぎを感じてズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
自宅の番号に電話をかけてみるが、コール音が鳴るだけで誰かが出る気配は無い。凪が電話の出方を知らない、というのも考えた。だが、ただ受話器をとると言うだけのことが出来ないとはとても思えない。電話が何なのか知らない、という可能性も無いだろう。
舌打ちをして携帯電話をポケットに仕舞いなおす霊介。
歌蝶は凪が電話に出なかったのを悟ったのか、嘆息しながら霊介に声を掛ける。
「……出なかったようだな。だったら、外に出ている可能性が高い」
霊介は凪が外出している、という可能性を考えないようにしてしまっていた。
霊介は凪が探している『自分を受け入れてくれる人物』になると言った。ずっと凪を守ると彼女に誓った。それは歌蝶も聞いていたはずだ。霊介も恥ずかしいながら彼女が聞いている前でそう宣言したのだから。
だからこそ、彼には歌蝶が凪が外出しているかもしれない、と言った理由が分からない。
「蝶ちゃんも聞いてただろ? 俺がアイツを守るって言ったのを。それに、今日も学校に行くときにずっと家で留守番しとくって……」
「じゃあ何で電話に出なかった? 見た目中学生程度の娘が電話に出られないとは思わんのだよ」
「それは、寝てるかもしれないし……」
君は馬鹿だな、と歌蝶が言う。
その言葉に霊介が僅かにムッとする。凪のことは明らかに歌蝶より自分のほうが分かっている。歌蝶が一体何を知っていると言うのだろうか。
歌蝶はぶどうジュースを飲みながら、
「君は昨日、あの少女がなんと言ったのか覚えていないのか? 君はあの傭兵小娘の前で『一人で寝るのを怖がるような』と言ったろう? 今家では彼女は一人なんじゃないのか?」
霊介ははっとする。
そういえば今、霊介が凪と亜澄を一緒に寝ているのは、凪が一人でなるのが怖いといったのが原因だ。公園のベンチで見かけた時、あの時は一人で寝ていたが、どちらかというと眠ってしまったという方が合っていると思う。
ということは、彼女が外出しているという可能性が高くなってくる。
じゃあ、
「一体何のために?」
「……多分だが……あの子はお前を危険に晒したくないんだと思う」
歌蝶が思いつめたように言う。
現に凪は自分を守るために霊介が傷ついたのを目の当たりにしている。霊介が大切だと思っているのなら、彼を危険に晒したくないと思うのは当然だと言える。
「だから自ら離れることを望んだ。君を守るためだ、澤木」
くそ、と叫びながら霊介は国語準備室から出て行こうとする。凪を探しに行こうとしているのだ。
歌蝶は止めない。
「私も後で探しに行く。何かあったら連絡しろ。今日は特別に早退扱いにしてやる」
ありがとう蝶ちゃん、と言って霊介は国語準備室を飛び出した。
歌蝶も出る準備を整えている。
一方、街中に出ていた都市伝説『繰々師(くくりし)少女』に、人影が迫っていた。
33
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2013/01/13(日) 22:45:43 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
4
凪は再び街に出ていた。
あまり澤木家に長居は出来ない。このまま自分があそこにいれば大好きな霊介にも亜澄にも迷惑をかけてしまう。また、霊介に怪我をさせてしまうかもしれない。凪にとってはそれだけはどうしても嫌だった。
彼女は自分と一緒にいても死なないような、決して傭兵達が攻めてきても気にしないような人を探しに来ていた。
しかし、凪はこうも思っていた。
―――いっそのこと、自分と同じ『繰々師(くくりし)』でもいいや、と。
そうすれば自分と一緒にいても破滅することは無いし、万が一自分が暴走した時もその人になら止められる。相手が暴走した時も、それは同じだ。
凪は辺りをきょろきょろ三見回して、再び歩こうとした瞬間、
「お嬢さん、少しいいかな?」
声の主は男だった。一八〇センチを超えるほどの巨体であるにも関わらず声は案外優しいもので、髪型をオールバックにした上からシルクハットを被っている外国人の顔つきをした三十代の男性だ。紳士のように黒いスーツを着ており、表情は優しく笑っている。第一印象では間違いなく好印象を与えるであろう、そんな男性だ。
凪は自分かな、と思って首を傾げると、黒スーツの男はこくりと頷いた。その男性とは数メートル離れていたので、凪は大きなウサギのぬいぐるみを抱えながら、その男性に近づいていった。
外国人のような顔つきにも関わらず、その男性は流暢な日本語で話しかけてくる。
「お嬢さん、一人かい? お母さんやお父さんは?」
「……いない。今は私一人」
「いない? 迷子とかじゃなく?」
「うん。生まれた時から一人。……いたのはこの『ろーたす』だけ」
言いながら凪はぎゅっとぬいぐるみを抱き寄せた。
男性はほぅ、と小さく呟く。
男性は続けて言う。
「実は私は都市伝説と言われている君を探していてね、親がいないなら引き取ってあげようと思っていたんだ。私は、親がいない子供を預かる施設の者でね。もしかしたら、君の本当の親が見つかるかもしれないんだ」
こんなことを言ってくる人物なら、前にも何人かいた。
凪はことあるごとに迷子や孤児だと思い込まれてしまうことがある。厳密に言えば孤児であることは変わりないのだが、施設に引き取られるのも嫌だった。そうなれば、受け入れてくれる人を探せないからだ。
凪は今回も男性の誘いを断ろうと、男性に背を向けながら駆け足で離れていく。
「……いい。そんなとこに行く必要がないもの」
「おいおい、何処へ行くんだい?」
男性は楽しそうな口調で言う。
「ここら一帯に人はいない。身を隠そうとしたってダメだよ」
「―――ッ!?」
凪はハッとして辺りを見回す。
確かにそこには自分と相手以外誰もいなかった。東京都の朝八時半頃だ。この時間帯に人一人いないのはどう考えても可笑しすぎる。
何が起こったのか考える前に、凪の足元に火球が落ちる。
「……?」
見ると、黒スーツの男性が手のひらからそれを生み出しているようだった。
男性は警告するように、
「こちらへ来なさい、『繰々師』よ。君達は危険すぎる。私達がちゃんと保護してあげようじゃないか」
優しそうな笑みで言う。だが、今の彼の笑みは優しそうなイメージではなく、恐怖を覚えさせるような。そんな感じに思えた。
34
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2013/01/14(月) 21:13:15 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
人乃宮凪は人一人見当たらない朝の街を疾走していた。
彼女は元々体力に自信がある方ではない。むしろ運動などはもっとも苦手とする分野だ。彼女の走りはとても速いといえるものではないが、追ってきている相手であるアルドルフ=グルタクスから離れるには十分だった。
アルドルフはゆっくりと歩いている。いくら凪が走るのが不得意といえども、歩きと走りでは明らかに差が出来る。アルドルフは火の玉を放ち続けている。しかしそれは凪を狙ってはいない。むしろわざと外している。絶対凪に当たらないように、彼女の足元付近に放っている。
凪は逃げながら思考を働かせる。
まずは街の人間がいなくなったことだ。相手が空間を操れる『繰々師(くくりし)』だと考えたが、その考えはすぐに消し去った。何故なら、『繰々師』の能力は一人につき一つしか与えられない。彼がもし空間を操るというのならば、火を操ることが出来ない。逆もまた然りだ。
ならば彼の正体は一体何なのだろう? 街から人を消す、そして火を自在に操るそんなことが出来るのは―――凪の思考では答えが見つからない。
必死に走っていた凪が、急に虚空の空間にぶつかり、『ひあっ?』という甲高い悲鳴と共に尻餅をついてしまう。凪は鼻を押さえて自分がぶつかった場所へと視線を向けるが、そこには何も無い。高層ビルに囲まれた大きな道が広がるだけだ。
彼女はそこに手を当ててみる。そこには見えない壁が隔たれており、壁の向こう側には行き交う人々の姿が見える。
凪は助けを求めようと見えない壁を叩き、外の人に助けを呼ぶ。だが、絶え間なく叩いても外の人が気付く気配は無い。
「―――無駄だ『繰々師』」
数十メートル離れた位置にアルドルフは立つ。
彼は手のひらに火の玉を生み出したまま、口の端を僅かに吊り上げて言う。
「ここら一体には人払いの結界を張ってある。外の人間にはここに空間が存在していること自体気付かんよ」
「……あなたは、もしかして魔術師?」
まだまだ未熟ではあるがね、と男は自嘲するように言った。
ここら一帯の空間の人を払ったのは、一般人を巻き込まないための配慮だろうか、と凪は考える。
「私は君らを保護する機関なのだよ。大人しくするのなら、私だって君に手出しはしないさ」
「……勝手な、ことを……! 私知ってる。私達『繰々師』を保護するなんて、口先だけだって!」
ほう、と男は声を上げた、
「保護した後は良いように研究に使われるって知ってる! そんなところに、誰が好きこのんで行くもんか!」
「おいおい。勘違いしないでくれたまえ」
男の言葉に凪が眉をひそめる。
男は手のひらの火の玉を消して、
「私達が研究しているのは珍しい能力を持った『繰々師』のみだ。重複するような珍しくない能力の者は、最初の一人を研究に使って二人目以降はちゃんとした生活を送らせているよ」
「……もし、研究の過程で一人目が死んでしまったら?」
凪は僅かに黙り込むと、恐る恐る訊ねる。
するとアルドルフは極めて冷静に答えた、
「その時はその時だ。二人目を使うよ」
凪は歯を食いしばる。
単に許せなかった。人を人とも思ってないような彼らの態度に。自分の知らないところで、自分と同じ『繰々師』がそんな目に遭っていることに。そして、それが当然のことだというような相手の言葉に。
「そんな、外道の元になんて絶対に行かない! 私は自分の居場所は自分で決める! あなた達になんて、死んだってついて行かない!」
瞬間。
凪が叫び終わったと同時に、凪のすぐ横を火の玉が掠めた。火の玉は後方の見えない壁に当たって消滅する。凪は反応するどころか、言葉を発することさえ出来なかった。
何が起きたか分からずに。何が起きたか分かっても、恐怖を植えつけられ言葉が出ない。
凪のぬいぐるみを抱く腕が震え始める。
「君がどう言おうが構わない。足を燃やしても研究は出来る。無理矢理にでも連れて帰るとしよう」
ひっ、と上擦った悲鳴を上げて凪が再び一目散に走り出す。
その凪の後姿を。滑稽とでも思っているような笑みを浮かべながらアルドルフが追う。
そんな二人の鬼ごっこを、廃ビルの屋上から眺めている人物が一人。
赤髪ツインテールの傭兵だ。
彼女は退屈そうに頬杖をつきながら、『繰々師』と魔術師の鬼ごっこを眺めていた。
「―――まったく、何やってんだか。さっさと捕らえればいいのに」
つまらなそうに呟きながら、彼女は―――。
35
:
矢沢ヤハウェ
:2013/01/15(火) 11:12:55 HOST:ntfkok217066.fkok.nt.ftth4.ppp.infoweb.ne.jp
>>1
小説家気取りなんて、痛い奴だなぁ。
36
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2013/01/18(金) 18:55:03 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
5
萩原歌蝶はようやく学校から出た。
実を言うと中々学校側が出してくれなかったのだ。彼女は一応教師である。しかも今日は一時間目から授業があるのだ。しかし、彼女は国語準備室に偶然あったマスクを使用し、あたかも病人のように振る舞いなんとか抜け出したのだ。
彼女は装着したマスクを外し、鞄の中に突っ込む。
彼女は街へと歩きながら意識を集中させる。今彼女が行っているのは魔力の捜索だ。『繰々師(くくりし)』は特殊な能力が備わっているため、身体の中に魔力という力の波動を宿している。人により大小の差はあれど、微弱ながらも感じ取ることは出来る。
そこで、彼女はふと足を止めた。
何かが可笑しいと思ったのだ。人乃宮凪の魔力を感じたまではいい。だが、彼女を中心に半径五キロ程度が薄い魔力に囲まれている。
明らかに人乃宮凪のものではない。
「……結界か?」
歌蝶はそう呟いていた。
彼女の傭兵仲間の中に何人か魔術師がいる。数は多くはなく両手の指で足りるほどだが。魔術師は歌蝶らとは別の方法で力を手に入れた者達だ。魔道書を、あるいは学問を、または先祖の血を引き継いだり、そんな方法で力を手に入れた者が魔術師だ。歌蝶らは自分に特殊な力が宿るように、無理矢理力を開発させた、というやり方である。
成功する確率は、魔術師の方が圧倒的に高い。
歌蝶は低く舌打ちをする。
「新聞のあの男。やはりただの人間じゃなかったか……。にしても魔術師だったとはな。少し甘く見ていた。まさか―――」
歌蝶は走り続け、ある場所で止まると虚空に手を添える。
そこには変わったところは何もなく、同じように街の風景が続いているだけだ。だが、歌蝶の手は虚空で確かに止まっている。
それは、ここに結界が張られている証拠だ。
歌蝶は知る由も無いが、この先の何処かで凪を魔術師の男が追いかけている。
彼女はただ、凪が無事なのを祈るしかない。祈りながら―――、
「……久しぶりに本気を出すか」
左手に黒の皮手袋を装着する。
彼女が手袋を着ける時は、仕事をする時。つまり『電撃の司者(でんげきのししゃ)』になる時だ。
歌蝶は手袋をつけた左手を虚空に、結界に当てる。
それから電撃を奔らせながら、
「―――オイシイところは君にあげるよ、澤木。お姫様を助けるのが王子様の役目だからな」
37
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2013/01/18(金) 23:40:48 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
6
「あっ!」
凪は体力が限界に近づいていたのか、足をもつれさせて転んでしまう。彼女は身体を早く起こして逃げようとするが、体力の消耗がそれを遅れさせる。
彼女は後ろを振り返る。やはり依然としてゆっくりと歩いたままこちらへと近づいてくる人物がいた。
魔術師アルドルフ=グルタクスだ。
彼は獲物を見つけた獣のように、草食動物を狩る時のような瞳で凪を見つめている。
―――捕まったら殺される。
凪の本能がそう叫んでいた。恐らく何人かの『繰々師(くくりし)』は彼らに捕まり研究材料にされているだろう。非人道的な実験の過程で死んでしまった人もいるかもしれない。凪もそんな目に遭うかもしれないのだ。
死ぬのだけは嫌だ。凪はそう思った。もう霊介と亜澄に会えなくなるのは嫌だ。そう、確かに思っていた。
矛盾している、と自分でも思う。
自分から離れていったくせに、会えなくなるのが嫌だなんて、自分でも分かるくらい可笑しすぎる。矛盾しすぎている。
だから凪は立ち上がる。身体を必死に動かす。今はとりあえず逃げることしか―――、
凪の足元の地面が魔術師の火の球によって破壊され、立ち上がった凪は再び地面に伏す。
「無駄だと言ったはずだ」
魔術師の冷徹な言葉が放たれる。
凪の首は、自然と男に向けられた。男は炎の扱う割には冷たすぎる瞳で凪を見下ろしていた。
「私は君の命があればいいんだよ。そのためには、君の身体を傷つけることも厭わない。今までが自分の力でかわしてきたと思わないことだ」
凪は戦いのために『繰々師』の力を使うことを嫌う。
ぬいぐるみではあるが『ろーたす』も彼女の友達である。傷つけられるのは嫌だ。凪はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。
するとアルドルフは、今気付いたかのように眉を動かした。
「そうか、そうだった。君にはその力があるじゃないか。何故使わない? それを使えば私を撃退できるかもしれないぞ。それとも、それはただの飾りだとでも言うつもりかね?」
凪はふるふると首を横に振る。
アルドルフは口の端を吊り上げて、
「それもそうだな。君の力は世界を壊す力。こんなちっぽけな街一つ簡単に消し去れてしまうからな。使うのを躊躇うのも理解できる」
「……!」
凪はびくっと反応を示す。
自分は世界を滅ぼせるんだ。―――まだ子供の凪には想像もつかないほど大きな話だった。世界を滅ぼせるといっても上手く想像できない。
だが、彼女は思い出す。
自分が幼い頃見た景色を。瓦礫が散乱し、形を維持できている建物が無いほどの荒れ果てた大地を。人も、動物も、生命の確認を出来ないほど何も残っていない大地を。初めて力を使ったことの時を。
「君がいるだけで人が不幸になる。だったら、私達と一緒にいたほうがいいと思わないかい」
凪はうずくまりながら、フラッシュバックした光景を消し去ろうと喚く。嘆く。叫ぶ。
頭を押さえながら、涙を流しながら、彼女はひたすらに声を上げる。
「いやあああああああああああああああああああっ!!」
アルドルフは彼女の泣き声を聞きながらも、非常に手を上げる。
「大丈夫だ。私が君と周りの人間の安全は保障しよう。まずは、君の足を切り落とすかな」
アルドルフが凪の足を切り落とそうと手を振り下ろす。
だが、その手は凪の足を切り落とすことは無い。何故なら―――、
「―――おい、オッサン。なにうちの凪を泣かせてんだよ?」
表情を怒りに染めた少年、澤木霊介がアルドルフの手首を掴み、彼の頬へと拳を叩き込んだからだ。
凪は涙で潤んだ瞳を霊介に向ける。
霊介は凪の方を振り返って、笑みを向けた。
38
:
れあ
:2013/01/19(土) 03:35:39 HOST:<xmp>">http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/comic/3134/1348900885/, 133.242.140.96
とりっぷちゃんねるでえーっす
39
:
竜野 翔太
◆026KW/ll/c
:2013/01/19(土) 16:06:38 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp
7
―――来た!
廃ビルの屋上から『繰々師(くくりし)』と魔術師の追いかけっこを退屈そうに眺めていた赤髪の傭兵は、楽しそうに口を端を吊り上げて勢いよく立ち上がった。彼女は腰にある短刀の柄に手を当てる。
ぶっちゃけ今回の件に対しては、自分の力は必要が無いと思っていた。彼女自身はアルドルフが魔術師だと聞かされていなかった。だから彼女は前もってアルドルフから『必要と思った時に加勢してくれ』と言われていた。走るのでさえ普通の人間のスペックを下回っている『繰々師』を相手に、彼女が思う加勢するタイミングは能力を発動された時だ。
だが、どういうわけか今彼女は能力を使おうとしていない。彼女が錯乱しだしたのを見ると、前に何かトラウマがあったようだ。この調子なら自分の加勢は必要ない、と赤髪の傭兵は思っていた。
けどもうそれはどうでもいい。
追い詰めたアルドルフの前に現れた人物を見て、『繰々師』を助けにやって来た人物を見て、魔術師を容赦なくぶん殴った人物を見て、彼女は加勢のタイミングなどどうでも良くなった。彼女にとっては、今は突如やって来た人物に興味がある。
彼女を楽しませてくれた少年。武器を持っている自分を前に引くこともしなかった少年。彼女はもう一度あの少年に会いたかった。もう一度戦ってみたかった。
アルドルフが窮地だろうがそうでなかろうがもう歯止めは効かない。
彼女が屋上から戦場へと降り立とうとした瞬間、
「―――邪魔は無粋というものだ、少女」
肩に手を置かれると同時、少女のような声が耳に届いた。
置かれた手は小さく、手袋を着けていた。しかも声は初めて聞くものではなく、幼くも威圧感を感じさせる類のものだった。
赤髪の傭兵はゆっくりと振り返る。
そこにいたのはシャツに短パンという動きやすい服装の上から白衣という、何ともミスマッチ過ぎる服装の少女のような人物だった。
赤髪の傭兵が忌避してしまうほどの人物、『電撃の司者(でんげきのししゃ)』萩原歌蝶。
彼女の左腕には火傷したような傷跡が残っており、力なくだらんと下がっている。
歌蝶は落ち着いた口調で、
「何とか間に合ったようだな。しかし澤木(アイツ)、意外と走るの速いな。今度陸上部にでも勧誘してやるか」
「な……なんでここにいるって分かったんすか……?」
歌蝶はふん、と鼻を鳴らして、
「君のような小娘の考えることなど分かる。目の届く範囲で、依頼者に危険が迫れば手を貸す―――そんなところだろう。私が雇われる仕事の多くは護衛ではなく迎撃だ。依頼者を仲間が守ってる間、依頼者を狙う刺客を私が潰す。それが私の仕事だ。刺客の潜みそうな場所など、ここ付近では数十個もある」
あとは君が隠れるの下手だから楽に見つけられたがな、と歌蝶は締めくくった。
それでも、と赤髪の傭兵は歯を食いしばる。
「ここには結界が張ってあった! まさか、それも粉砕したっていうんすか!?」
「粉砕とまではいかなかったよ。さすがに私も現役から退いているのでね。だが人が通れるくらいの隙間は作れた。タイミングよく澤木が来てくれて助かったよ。久しぶりに無茶をしすぎて左手が上手く動かん。ああ、壊した部分の結界は私が直しておいた。さすがに―――」
歌蝶の全身に眩いほどの黄色の電撃が奔る。
赤髪の傭兵は小さく悲鳴を上げた。
「一般人を巻き込まない自信はないのでな。生憎、久しぶりで加減の仕方を忘れてしまったようだ」
勝敗は決した。
赤髪の傭兵は膝からその場に崩れ落ち、恐怖に身体を震わせている。
そんな少女を歌蝶は一瞥し、『繰々師』のいる下へと視線を向けた。
「あとは任せたぞ」
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