したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | メール | |

CONTROL-コントロール-

39竜野 翔太 ◆026KW/ll/c:2013/01/19(土) 16:06:38 HOST:p8152-ipbfp4204osakakita.osaka.ocn.ne.jp

 7

 ―――来た!
 廃ビルの屋上から『繰々師(くくりし)』と魔術師の追いかけっこを退屈そうに眺めていた赤髪の傭兵は、楽しそうに口を端を吊り上げて勢いよく立ち上がった。彼女は腰にある短刀の柄に手を当てる。
 ぶっちゃけ今回の件に対しては、自分の力は必要が無いと思っていた。彼女自身はアルドルフが魔術師だと聞かされていなかった。だから彼女は前もってアルドルフから『必要と思った時に加勢してくれ』と言われていた。走るのでさえ普通の人間のスペックを下回っている『繰々師』を相手に、彼女が思う加勢するタイミングは能力を発動された時だ。
 だが、どういうわけか今彼女は能力を使おうとしていない。彼女が錯乱しだしたのを見ると、前に何かトラウマがあったようだ。この調子なら自分の加勢は必要ない、と赤髪の傭兵は思っていた。
 けどもうそれはどうでもいい。
 追い詰めたアルドルフの前に現れた人物を見て、『繰々師』を助けにやって来た人物を見て、魔術師を容赦なくぶん殴った人物を見て、彼女は加勢のタイミングなどどうでも良くなった。彼女にとっては、今は突如やって来た人物に興味がある。
 彼女を楽しませてくれた少年。武器を持っている自分を前に引くこともしなかった少年。彼女はもう一度あの少年に会いたかった。もう一度戦ってみたかった。
 アルドルフが窮地だろうがそうでなかろうがもう歯止めは効かない。
 彼女が屋上から戦場へと降り立とうとした瞬間、
「―――邪魔は無粋というものだ、少女」
 肩に手を置かれると同時、少女のような声が耳に届いた。
 置かれた手は小さく、手袋を着けていた。しかも声は初めて聞くものではなく、幼くも威圧感を感じさせる類のものだった。
 赤髪の傭兵はゆっくりと振り返る。
 そこにいたのはシャツに短パンという動きやすい服装の上から白衣という、何ともミスマッチ過ぎる服装の少女のような人物だった。
 赤髪の傭兵が忌避してしまうほどの人物、『電撃の司者(でんげきのししゃ)』萩原歌蝶。
 彼女の左腕には火傷したような傷跡が残っており、力なくだらんと下がっている。
 歌蝶は落ち着いた口調で、
「何とか間に合ったようだな。しかし澤木(アイツ)、意外と走るの速いな。今度陸上部にでも勧誘してやるか」
「な……なんでここにいるって分かったんすか……?」
 歌蝶はふん、と鼻を鳴らして、
「君のような小娘の考えることなど分かる。目の届く範囲で、依頼者に危険が迫れば手を貸す―――そんなところだろう。私が雇われる仕事の多くは護衛ではなく迎撃だ。依頼者を仲間が守ってる間、依頼者を狙う刺客を私が潰す。それが私の仕事だ。刺客の潜みそうな場所など、ここ付近では数十個もある」
 あとは君が隠れるの下手だから楽に見つけられたがな、と歌蝶は締めくくった。
 それでも、と赤髪の傭兵は歯を食いしばる。
「ここには結界が張ってあった! まさか、それも粉砕したっていうんすか!?」
「粉砕とまではいかなかったよ。さすがに私も現役から退いているのでね。だが人が通れるくらいの隙間は作れた。タイミングよく澤木が来てくれて助かったよ。久しぶりに無茶をしすぎて左手が上手く動かん。ああ、壊した部分の結界は私が直しておいた。さすがに―――」
 歌蝶の全身に眩いほどの黄色の電撃が奔る。
 赤髪の傭兵は小さく悲鳴を上げた。
「一般人を巻き込まない自信はないのでな。生憎、久しぶりで加減の仕方を忘れてしまったようだ」
 勝敗は決した。
 赤髪の傭兵は膝からその場に崩れ落ち、恐怖に身体を震わせている。
 そんな少女を歌蝶は一瞥し、『繰々師』のいる下へと視線を向けた。
「あとは任せたぞ」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板