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朧の光、空の青

1よう魔:2012/11/29(木) 16:50:02 HOST:218.185.141.59.eo.eaccess.ne.jp
 昨日の空はどれくらい青かっただろうか。
 そしていったい、どれくらい、何日、何時間、何分、何秒――経ったのだろうか。
 折られて赤くはれた足がそろそろ限界を訴えている。けれど心は、もっと遠くへ、足を動かそうとする。
 チラチラと視界の端に雪が舞う。
 それは勢いを増して、吹雪に変わっていく。
 
「――、!大丈夫……?」

 ああ、もうそろそろ足だけじゃなく限界かもしれない。だって、そんな人の声の幻聴まで聞こえてきた――

2よう魔:2012/11/30(金) 20:55:38 HOST:218.185.141.59.eo.eaccess.ne.jp
第1話

 この国に存在する魔術は日本に元々あったものと、西洋からやってきたものが混じったものだと、いつか父は語っていた。
 そして我が吉柳家の術は、祓うことに特化した魔術であると。
 そう語った父の厳格な表情を思い出しながら――吉柳亘(きりゅうわたる)は目を覚ます。

 すぐ目の前には刀があった。自分が幼いころからこの部屋に置かれている、御神刀と呼ばれるものらしいが、亘にもよくわからないし、父も母も屋敷の人間も語ろうとはしなかった。
 しかし今の亘にとってこの刀は全く無関係の物ではなかった。

 今日、亘はこの家の当主になる。
 
 なんの宣告もなく、昨日の夜急遽決定されたことだ。
 当然亘は訳が分からないと怒ったし、一度は父親に掴み掛ったが、周りに取り押さえられ、御神刀と対面させるように布団を敷き、そこに亘を一晩おいていったのだ。
 亘は今の今まで魔術の鍛錬なんてしたことはないし、父親の仕事についても全く触れたことはない。ただこの家の生業は、何か特殊なものなのだろう、といううすぼんやりした認識だけ。それを、今更、こんな強引に。

「こんな嫌がらせみたいな場所で寝れるかよ……畜生」

 この部屋に放り出された一晩中、亘は一睡もできなかった。その代り、この家を脱出する方法を考えていた。
 息子に説明の一つもしないで、こんな部屋に閉じ込めるような父親も周りの人間も異常だ――今まででも薄気味悪いとは思っていたが、こうもアレな連中とは、と亘は思った。
 まずはシンプルに正面突破。障子を開けようとしたが、
「……ぐっ……」
 ボンドでくっついたように開かなかった。

3よう魔:2012/12/01(土) 17:26:15 HOST:218.185.141.59.eo.eaccess.ne.jp
 ためしに障子も破れないかと試してみたところ、殴った自分の手の方が激痛にやられることになった。
「いっ……てえええ」
 未だに痛む拳に、もしかして骨にひびでも入っているんじゃないかと思いながら、亘は辺りを見まわす。
 箪笥、押し入れ――道場と聞けばだれもが思い浮かべるような部屋は、とても脱出できる道があるとも思えず、亘は頭をぐしゃぐしゃとかき回す。

 ――まさか、押し入れに秘密の通路がある、とか?
 
 緊張を表情ににじませながら、亘はそろり、と押し入れの扉を開ける。
「……うわっ」
 そこには、雑多な荷物が積まれていた。外からは想像できないほど奥行きがあり、軽く倉庫のようにも見えるつくりである。
 中には当然明かりなどなく、どこまで続いているか分からないような真っ暗闇が続いている。
「……ん?」
 しかしよく目を凝らしてみると、奥に階段の様なものが見受けられた。まさか地上へ脱出できる通路か、と足をこんがらがせながら倉庫内に入ろうとし、
 ガツン、と。
「い゛っ!?」
 またもや体を襲う衝撃と激痛に、後ろを振り向く。今度は背中への攻撃だった。
 その衝撃の主は、
「……刀?」
 御神刀、だった。それはまるで自分を連れて行けとでもいうように、亘の真後ろに転がっている。
「まさか、独りでに刀が動いたっていうのか……?」
 非現実的な現実に、亘はいよいよ自分が訳の分からない世界に放り込まれたという事を実感する。
 この刀は代々この家の当主が携えるものだ、と父親の言葉が脳裏に蘇る。
 
 ――まさかもう俺は当主になっているのか……?
 一夜。すべては一夜で、亘の世界は逆転してしまったのだと。
 亘は半ばやけになりながら、刀を乱暴に掴み取る。
「……ああもう、とりあえずもってきゃいいんだろ!?」
 刀に向かい怒る亘はずいぶん奇妙だが、この刀に対して「刀」という印象はもはや亘のなかにはなかった。
 一時的に携えた「相棒」に納得のいかないながらも、亘は薄暗く埃っぽい倉庫の奥、階段を駆け上って行った。

4よう魔:2012/12/02(日) 17:58:49 HOST:218.185.141.59.eo.eaccess.ne.jp
 上った先は、いつもの平坦な畳の床ではなかった。
 その部屋に一つだけある窓から見える景色は、いつもと変わらない。この部屋だけが異様な異質さを放っていた。
 白、白、白――城で埋め尽くされたその部屋は、まるで無色の監獄のようだと、亘は感じた。
「なんだよ……ここ」

 右手に握られた御神刀を思わず握りしめる。憎らしさしか抱かなかったはずの刀をもしも持っていなかったら、もしかしたら今自分は恐れをなして逃げていたかもしれない――そう思えるほど、今の亘にとってはこの場所は異様だった。
 ――その時。
「おはようございます。瞬さんの息子さん」
「!?」

 父親の名前をいい当てられ、亘は驚きに伏せていた顔を上げる。
 その視線の先には――少女が居た。
 年恰好は亘と同程度だろうか。彼女は制服の上に、黒いマントのようなものを羽織っていた。恐ろしいほどの美人で、滝のように腰へと流れる黒髪と、高価なサファイアのように青く澄んだ印象的な瞳には、亘だけが映し出されている。
「誰だよお前……?」
「申し遅れました。私はここの当主だった、瓜生木涼葉(うりゅうぎすずは)と申します」
「……当主?当主は父さんじゃないのか?」
「あなたのお父様には魔術は扱えませんでした。ただ、この吉柳家は落ちぶれるには惜しすぎます。だから、私が派遣された」

 淡々と涼しい声で語る美貌の少女に、亘は静かな威圧感を感じた。
「それで?君が居ながらなぜ俺は当主になるんだ?」
「正確には、私と一緒に当主になるのです」
「……え?」
「あなたは私の後釜に据えられたに過ぎないのです」


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