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蝶が舞う時…。 ―永遠―
161
:
燐
:2012/01/30(月) 15:56:21 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
第4章 相思相愛
―――――…
「此処は…何処?」
私はうっすら目を開けると上には天井。
自分の部屋だって事は一瞬で分かった。
身体が異常に熱いって事も分かっていた。
身体全体が熱くて痛くて起き上がれない。
私の額には濡れタオルが置かれていた。
私は右手で首元につけてあるペンダントを握り締める。
憐から貰ったハートのペンダントを握り締めた瞬間、涙が溢れて来た。
憐…私って本当に馬鹿だよね?
無茶ばっかするし…迷惑かけてばっかだよね?
「はぁ…。」
私は天井に向かってため息を吐く。
162
:
燐
:2012/01/30(月) 16:40:22 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
そんな事を思っていると部屋の扉が2回ノックされた。
私は“はい…。”と小さく返事をした。
すると扉が開き、誠のお母さんが洗面器を抱えて部屋に入って来た。
「大丈夫夜那ちゃん?」
誠のお母さんの言葉が私の心の中を温かくする。
「大丈夫だよ…。そう言えば誠は…?」
「誠なら夜那ちゃんの為に下で何か作ってたわね。」
誠のお母さんは笑顔で言いながら私のベッドの傍に腰掛ける。
誠は何作ってるんだろう…。
「とりあえずタオルだけ代えておくわね。熱測りたいけど…身体ダルイでしょ?
起き上がるのもしんどいと思うし…今日はタオルだけ代えておくわ。」
誠のお母さんはそう言うと額のタオルが取り、新しい濡れたタオルを私の額に置く。
初めはひんやりしたけど我慢。我慢。
163
:
燐
:2012/01/30(月) 17:02:53 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
私はペンダントから手を離した。
「ありがとう…お母さん。。」
私は精一杯の気力で誠のお母さんに礼を言った。
声を出せたくても出せない。
熱があるせいなのかな…?
何かドラマとかに良く出てくる悲劇のヒロインみたいな感じだなぁ…。
私って…。
「じゃそろそろ行くわね。他に何か要る物ある?」
誠のお母さんはそう言って地面から立ち上がる。
私は首を左右に振った。
言葉を出す気力すらもない。
声を出すだけで身体が疲れる。
誠のお母さんはそれを確認すると、洗面器を持って部屋を出て行った。
164
:
燐
:2012/01/30(月) 19:26:10 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
部屋に一人残された私は茫然と天井を見上げていた。
身体がベッドにへばり付いているみたいに動けない。
好き…。
そんな言葉が私の頭の中を駆け巡る。
誠に“ずっと前からお前が好きだった…。”って言ってくれた半年以上前のあの日…。
あの時の私は“恋”って言う物が分からなくて思わず断ったんだっけ?
それかその時まだ義理のお母さんの事があったから断ったのかな?
今となってはどっちかも分からない。
今は“幸せ”と“複雑”が両方来る感じで良く分からない。
誠…。
私ね…誠に逢えて良かったよ?
恋も出来たし何より来月からアメリカ行くんだよね?
亮介と誠と三人で…。
何か亮介が行くと朝から晩まで騒いでいそうなイメージがあるんだよね…。
そんな事を考えていると私の部屋の扉が三回ノックされた。
誰だろう。と私の頭の中に疑問が生まれる。
165
:
燐
:2012/01/30(月) 19:55:41 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「夜那。起きてんだろ?」
その声に私は唇を震わせた。
「誠…。」
私は無意識に呟いていた。
そう思うとまた涙が溢れてくるよ…。
扉が開き、誠が鍋らしい物を両手で持ちながら私のベッドの傍まで来る。
「大丈夫か?顔が前よりも真っ赤だぜ?」
誠は鍋を地面に置き、私に語りかけた。
でも私は答える事が出来ない。
本当に喋る気力すらない…。
「てか、お粥作って来たから少しでも食べないか?」
誠にそう言われても私は首を左右に振った。
「そうか。ならテーブルに置いておくから好きな時に食べろよ。」
誠はそう言い残すと、鍋をテーブルに置いて部屋を立ち去ろうとした。
166
:
燐
:2012/01/30(月) 21:05:09 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「嫌……。」
私は重たい身体を必死に起き上がらせて壁に身体を押し付けた。
壁に押し付けた瞬間、額に置いてあったタオルがそっと足元に落ちる。
身体の所々が痛い。
何かもう両足の感覚までも無くなって来ている。
座っていられるのもやっとだった。
「おい夜那…無理すんな。寝てろ。」
誠の言葉に私は強く左右に首を振る。
「…い…や……だ…よ……。」
私は途切れ途切れに言った。
167
:
燐
:2012/01/30(月) 21:58:32 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…喋るのもやっとなのに無理すんな。」
誠は私の隣に座り込んだ。
頭がズキズキ痛む。
足が微かに震えている。
背筋が焼けるように熱い。
「おい夜那…。」
誠はそう言うと私を優しく抱き寄せた。
問い掛けられても私は茫然と俯く。
熱があるせいか…少し意識が朦朧としてくる。
視界が徐々にぼやけて来るのが分かる。
私…無理し過ぎたのかな……?
誠は何も言わずに私の左手をそっと握ってくれた。
「…こんな状況にこんな話すんのも何だけど…アメリカへの滞在期間が4年って事に
決まった。前に一回言ってたっけな…。憶えてねーけど。で、4年後帰って来たら
また此処に2人で住もうって感じだ。それでいいか?」
誠の言葉に私は小さく頷く。
「ま、此処に帰って来るのが4年後だし…物凄く長い期間だけどよ…。
でも最高の思い出が出来ると思うんだ。」
誠は何処か嬉しそうに言った。
168
:
燐
:2012/01/30(月) 22:09:08 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「最高…の…思い出…?」
私は思わず訊く。
「うん。アメリカに知り合い居るし…って言っても純の友達だ。
ま、ソイツと俺は仲が良いし、意気投合してしまったのも事実だし。
ソイツに家を借りる事になってる。それと日本人だから心配すんなよ。」
誠はニコニコ笑顔で言った。
「そう…なんだ…。」
私は俯きながら答える。
169
:
燐
:2012/01/31(火) 11:42:12 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「てか、ちゃんと喋れてんじゃん。」
誠は苦笑しながら言うと、私は黙り込んだ。
「…ひっく…ひっく…。」
私は太ももに大粒の涙が零した。
「…ごめんな。お前を泣かせてやる事しか出来なくて…。」
誠の言葉は儚くて消えてしまいそうな声だった。
「ううん…そんな事ないよ。。」
私は少しだけ笑顔を返す事が出来た。
でもその途端、両手の力が少しずつ抜けていくような気がした。
駄目…このまま倒れてしまいそう…。
そう思った直後だった。
私は瞬時に誠に抱き締められていた。
「ま…。」
「夜那…。」
私が呟く前に誠が呟いた。
誠はまだ私の左手を握り締めたままだった。
「…このまま寝ればいい。お前が寝る前で一緒に居てやるから。」
誠はそう言うと私の額にそっとキスをした。
誠は額から唇を離すと、私をベッドに寝かせた。
「…おやすみ。」
私は静かに呟いて布団を被って眠りについた。
でも私が眠ってる隣で誠が密かに涙を流してたなんて…。
私は知る由もなかった。
170
:
燐
:2012/01/31(火) 14:38:51 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
―――――…
「う〜ん。」
私は背中が冷たい事を悟り、起き上がった。
「また…夢の世界に来たのかな?」
私の視界に映ったのは辺り一面黒の世界。
と言うよりも黒の空間に近かった。
服は水色の水玉ワンピースだった。
足は裸足で、靴下は履いていない。
裸足だとどうしてもあの時の事が頭でフラッシュバックする。
半年以上前のあの日…私はお母さんに反抗したせいで家の地下牢らしい所に
閉じ込められた事。
今となってはその出来事は薄れつつあったのに…また蘇って来る。
「嫌…嫌ぁぁぁぁぁ!!!!!」
私は頭を両手で抱えて大声で泣き叫んだ。
泣き叫んでも誰も助けてくれないって事は分かっている。
でもそうしてる間に過去の出来事が徐々に蘇って来る…。
怖い…怖い…。
171
:
燐
:2012/01/31(火) 16:12:58 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
怖いよ…。
私の心の中は‘絶望’と言う言葉だけが取り残された。
絶望…。
その言葉を口にするだけで目の前が真っ暗になる。
微かに唇が震えて、少し肌寒い。
その時前方から青い光が見えた。
何…?
その青い光は徐々に大きくなっていく。
「蝶さん…。」
その青い光の正体は青い蝶だった。
青い蝶は私の目の前まで来ると右に一回転して来た道に戻っていく。
まるで“着いて来て”と言っているみたいだった。
私は無言で蝶の後を追いかけた。
172
:
燐
:2012/01/31(火) 17:41:46 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
蝶さんの後に着いて行くとまた前方に光が見えた。
今度は赤い光。
私はその時ふいに悟った。
きっと誠の赤い蝶なんだろうってそう思った。
すると私の予想通り、赤い光の正体は誠の赤い蝶だった。
赤い蝶の後ろには小さな子供らしい人物が居た。
その子供の腕や足に殴られた痕跡があり、子供の顔は酷く腫れていた。
子供の顔を見ると何処か誠に似ていた。
まさか子供の時の誠なんじゃないかって思ってしまう。
その子供は泣いているのか顔だけ俯いていた。
「大丈夫?」
私は子供の正面でしゃがみ込み、右手でそっと頭を撫でる。
「…お姉ちゃんも一人ぼっちなの?」
その子供は涙声で言った。
173
:
燐
:2012/01/31(火) 17:56:27 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「……。」
私は答えなかった。
と言うか答えたくなかった。
「君は何て名前なの?」
私がそう言うとその子供は‘誠って言う名前だよ’と笑顔で返してくれた。
誠…。
やっぱり幼い時の誠なんだ…。
「誠君って呼んでいい?」
私は笑顔で訊く。
すると誠は小さく頷いてくれた。
「お姉ちゃんはそのまま‘お姉ちゃん’って呼んでいいの?」
誠は言う。
「うん。もちろん。」
私は言った。
174
:
燐
:2012/01/31(火) 22:27:15 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「お姉ちゃんは何歳?」
誠が言った。
「私は17歳だよ。誠君は?」
「俺は10歳。小学4年生なんだ。」
誠はその場に座り込んだ。
「10歳か…。しっかりしてるんだね。」
そう言うと誠は急に黙り込み、右手で左腕にある傷を触わりながら俯いた。
「俺…父さんと母さんに嫌われてるんだ…。父さんと母さんは俺の事なんか要らないみたいでさ…。
俺を何時も苦しめるんだ。毎日毎日身体に傷をつけて行くんだ。俺って死んだ方がいいのかな?」
誠の言葉一つ一つが震えていて私は思わずその場で誠を抱き締めてしまった。
「ごめんね…。誠…。」
私は無意識にそう呼んでいた。
「お姉ちゃん?どうしたの?」
誠は戸惑いながらも私の髪をそっと撫でてくれた。
「ずっと辛かったよね…。ごめんね…。」
私は誠を抱き締めながら何度もその言葉を繰り返していた。
175
:
燐
:2012/01/31(火) 22:37:30 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…お姉ちゃんは優しい人なんだね。一瞬で分かったよ。」
誠が笑顔で言うと、私はそっと小さな誠の身体を離れた。
「えっ…?」
意味が分からなかった。
「何があったのか俺には分からないけど、お姉ちゃんなら信用出来そうな気がする。」
誠は笑顔で言う。
「信用?」
私は訊く。
「うん。お姉ちゃんは俺を必要としてくれてるような気がする。」
176
:
燐
:2012/02/01(水) 14:06:42 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
必要…。
その言葉が私に重く圧し掛かる。
「…必要じゃない人間なんてこの世には居ないよ。人は常に誰かを必要としてるし、
必要とされている。そういうもんじゃないかって思う。」
私は上を見上げて言った。
「じゃお姉ちゃんも誰かに必要とされてるんだね。世界は広いなぁー!」
誠は座りながら背伸びした。
「…うん。」
私は少し間を開けて答えた。
どうしても誠の腕や足を見ると涙が溢れてくる。
「誠君はさ…悲しくないの…?」
私は半泣きになりながら呟く。
「悲しくなんかないよ。いつか俺を助けてくれる人が居るって信じてるから頑張れる。
俺を何時か救ってくれるってそう信じているから―――…。」
信じる…。
「お姉ちゃんは知ってる?信じるって英語で“believe”って言うんだって。」
believe…。
‘信じる’か…。
177
:
燐
:2012/02/01(水) 15:09:43 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「今日はお姉ちゃんの話せてとっても楽しかったよ。また会えるよね?」
誠は笑みを浮かべて言った。
「うん。きっと会える。」
そう言った瞬間、私の視界がぼやけ、地面に倒れ込んだ。
「お姉ちゃん…!?」
誠が叫ぶ。
でも私の意識はそこで途切れた。
178
:
燐
:2012/02/01(水) 15:31:52 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
――――
――――――――…。
「んっ…。」
私が目を覚ますと右手で右目を擦った。
私の右隣で誠が横倒れになって眠っている。
「誠…。」
私は額に置いてあったタオルを取って右手で眠っている誠の前髪をそっと掻き分ける。
誠の前髪はサラサラしてて滑らかだった。
そう言えば足の感覚もちゃんとしてる。
身体もだるくはない。
不思議だった。
「……。」
私は無言で誠の左手を両手で握り締める。
握り締めた途端、目から涙がポタポタと零れて誠の手を静かに濡らしていく――…。
「グスッ…。」
私は黙ってその場で泣き続けた。
179
:
燐
:2012/02/01(水) 16:04:53 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
“何泣いてるの?夜那。”
その言葉に私はハッとした。
憐の声だ…。
姿は見えないけどちゃんと私の事心配してくれてるんだ…。
そう思うだけで元気が出る。
私は首からハートのペンダントを外して改めて手元から見る。
変わらない鈍色の光沢。
「ありがとう…憐。」
私は静かにそう呟き、服のポケットにペンダントをしまった。
「ん…夜那?」
我に返ると誠は凝視した目で私を見つめる。
「ごめん…起こしちゃって…。」
私は握ってた手をすかさず離そうとした。
「離さないで。もう少しこのまま…。」
誠の甘い声が私の脳内を支配する。
「…分かった。」
私はそのまま両手で誠の手を握り返す。
180
:
燐
:2012/02/01(水) 17:48:15 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「お前泣いてる?」
誠は右手で私の目に滲んだ雫を拭き取る。
「…泣いてなんかない。」
私はそう言って誤魔化した。
「ま、いいよ。それと夜那口開けて。」
私はゆっくりとベッドから起き上がった。
口を開けた瞬間、誠の手によって飴が私の口の中に放り込まれた。
「ん?何か酸っぱいような…。レモン?」
私は口の中で飴を転がしながら呟く。
「正解。俺はイチゴ。」
誠は笑顔で言う。
「誠は…私の何処を好きになったの?」
私は唐突に言った。
「何だよいきなり…。何処を好きになったかって?特に理由なんてねーよ。」
誠は私に背を向けて言った。
181
:
燐
:2012/02/01(水) 18:17:07 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「そっか…。」
私は低い声で肩を落としてベッドの淵に座る。
「…冗談だ。本気にしてしまったんなら謝るから!」
誠は起き上がり後ろから私を抱き締める。
「じゃ何処を好きになったのか答えてくれる?」
私は涙目で呟く。
「…素直な所と少し泣き虫な所が好きになった。でも最近になって少し我儘になって来たな。
ま、性格は徐々に変わっていくものだからしょうがない事だしな。」
182
:
燐
:2012/02/01(水) 19:34:56 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「我儘か…。たしかにそうかも。」
私は素直に納得した。
突如、誠の左手が私の左手と重なり合う。
「誠?」
「色々あったよな…この半年間ぐらい。」
誠は言った。
「そうだね…。辛い事は散々あったよね。いっぱい…数え切れないほど…。」
私は半分涙声になっていた。
「そうだな。でも辛い事を乗り越えてこそいい事があるもんだ。」
誠は呟く。
「いい事…。それって…。」
私の鼓動が早くなる。
「俺達が出会った事もいい事。もしかしたら決まってた運命かもしれないな。」
誠は何処か悲しげに言った。
「決まってた運命…。」
‘運命’なんて最初から決まってないんじゃないの?
‘運命’は自分が変えていく‘人生’と同じものなんじゃないの?
そんな事が私の脳内を駆け巡る。
「運命は最初から決まってないよ。自分で変えていくものだよ…。」
私は恐る恐るその言葉を口にした。
「ま、人それぞれの考えがある。夜那がそう思うならその意見を突き通せばいい。」
誠は笑顔で言った。
183
:
燐
:2012/02/01(水) 20:26:12 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
ねぇ…何でそんなに悲しそうな顔をしてるの?
笑顔で言ってももう騙されないから。
まだ隠してる事があるなら包み隠さず話してよ…。
あの時みたいに…。
そう思った直後、私が握っていたハートのペンダントが音を立てて地面に落ちる。
「憐が…呼んでるの。」
不意に出た私の言葉。
「憐が?アイツは死んだんだぜ?」
「でも時々聞こえるの…。“夜那”ってずっと前だって2回も呼んでくれたんだよ!!」
そう言うと誠は手の力を緩める。
「それは幻聴じゃねーのか?」
誠は冷静な口調で言った。
「幻聴…の訳がないよ。はっきり聞こえた!憐はまだ居るんだよ!この世界に!」
184
:
燐
:2012/02/02(木) 15:15:23 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「憐は死んだんだ!!もうあれから2ヶ月も経ってんだぞ!!」
誠は激しく私の肩を揺する。
「だってさっきだって…“何泣いてるの?夜那”って聴こえた…。
ちゃんと聴こえた…。」
私がそう言うと誠は身体から離れる。
「…憐は私の傍にずっと居るの。2ヶ月前からずっと私の傍に居るんだよ。
姿が見えなくてもちゃんと私の傍に…。」
私は立ち上がって机の方面に向かった。
机にはピンクの携帯が置かれている。
2ヶ月前のあの日から携帯は開いてない。
怖くて開けなかった。
ピンクの携帯のアドレス帳には今も尚憐のアドレスが入っている。
私はその携帯を手にとって画面を見た。
すると新着メールが1件入っていた。
きっと誠だろうと思ってそのメールの中身を見た。
185
:
燐
:2012/02/02(木) 15:51:55 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
差出人は“Yogiri Ren”とローマ字で書かれていた。
憐…!?
私はメールの中身を見て思わず手が震えていた。
メールの中身は中心に一言だけ“Je vons suis attach'e”と書かれていた。
メールを受信した日にちは憐が死んだ翌日のものだった。
“Je vons suis attach'e”とはどう言う意味だろう…。
「ねぇ…誠?」
私がそう呟くと誠は私の耳元でそっと囁く。
「何?」
誠の吐息が耳と首筋にかかる。
「これ…憐から…意味分かる?」
私は携帯の画面を誠に見せる。
「“Je vons suis attach'e”か…。“私は貴方の傍に居ます”とか“ずっと一緒”とかの意味だな。」
誠は呟く。
「私は貴方の傍に居ます…。」
そう思うだけで涙が出てくる。
186
:
燐
:2012/02/02(木) 16:40:08 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「憐…。」
握っていた携帯が地面に落ちる。
憐はちゃんと私の傍に居るんだ…。
そう思っただけで私は全身の力が抜け、私は地面に仰向けになった。
「おい夜那。怠けてんのか?」
誠は私の顔を覗き込んだ。
「怠けてなんかないよ。あ!そうだ。誠に逢って欲しい人が居るの。
私と一緒に着いて来てくれないかな?」
「着いていくって何処にだ。」
誠は怪訝な顔をする。
「夢の世界に行くの。向こうの憐が誠に逢いたいって。」
「でも消滅したんじゃねーのか?」
「詳しい話は後。さ、早く行こっ。」
私は誠に右手を差し出した。
「あぁ。」
誠は私の右手を左手で握る。
187
:
燐
:2012/02/02(木) 17:15:14 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
手を握った瞬間、私の手の甲に青い蝶と赤い蝶が止まる。
「蝶さん…。」
誠は私の手を握ったまま、私の隣で仰向けになる。
「何か久しぶりだな。あっちに行くの。」
誠は嬉しそうに言った。
「私はそうでもない。ずっと前だって向こうの憐に逢って来た。」
「マジかよ。何もされなかったのか?」
誠は躊躇なく言った。
「されてないよ。」
私は平然と答える。
「そうか。ならいいが。」
誠は呟く。
188
:
燐
:2012/02/03(金) 13:48:41 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「と言うか憐は何もしないと思う。私に害を加える事はしないと思うけど…。」
私は背伸びしながら呟いた。
「害…か。もし憐が夜那に何かしたら俺が殺してやる。」
「こ、殺す!?それはさすがに止めてよ…。」
「冗談だ。てか、変な所で本気になるよな。お前って。」
誠は呆れた顔をした。
何か馬鹿にされたような言い方だった。
「じゃ蝶さん。お願いね。」
手の甲に止まっている蝶に話しかけた。
すると話しかけた瞬間、視界がぼやけた。
「…。」
私は無言で目を閉じて、そのまま意識を失った。
189
:
燐
:2012/02/03(金) 16:14:22 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
――――…。
「…な…夜那…!」
何処かで私を呼んでいる声がする。
優しくて何処か寂しい声。
きっとその声は――――…。
「おい夜那!何時まで寝てんだ!!」
誠の怒鳴り声に私は目を覚ました。
「へっ…?」
私は惚けた声を出す。
「やっと起きたな。」
誠は私の身体を抱き抱えて地面から起き上がらせた。
190
:
燐
:2012/02/03(金) 16:53:02 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「着いたんだね。」
私は誠の身体に抱きついたまま、上を見上げた。
「まぁな。それにしても見渡す限り、白の世界だな。」
「そうだね。」
私は誠の身体から離れて前へ一歩ずつ歩き出す。
「おい夜那。」
背後で誠の声がするが、私は振り向かなかった。
「あら誠じゃない。一人で来たの?」
その声に私は振り返る。
振り向くと誠と話してる黒い髪で後姿の人物が居た。
「いや夜那と来たんだ。」
誠の目線が私とぴったり合う。
誠の目線に気がついたのか後姿の人物も振り返る。
「久しぶりね。バカップルの片割れさん。」
振り返った人物は影の私だった。
191
:
燐
:2012/02/03(金) 17:20:38 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「影の私さん…。あの…憐は?」
私は訊く。
「今日は居ないの。それと陽の私にお願いがあるの。」
影の私は顔を真っ赤にして言った。
「こっち来て。それと誠は着いて来ないでね。宜しく。」
影の私はそう言うと私の手を引き、誠から距離を取る。
誠から十分離れた所でようやく影の私が口を開いた。
「お願いしたい事は他でもないの。その…私恋しちゃったみたい…。」
影の私の顔を見ると頬が凄く真っ赤になっていて耳まで真っ赤に染まっていた。
「えっ…。相手の名前は何て言うの?もしかして誠?」
私は声を震わせながら言った。
もし誠だったらどうしよう。
そう思った。
でも影の私は首を左右に振った。
それを確認すると私は安堵のため息を吐いた。
「じゃ…憐?」
そう訊くと影の私は黙り込んだ。
「そう…みたい。。もう気まずくなっちゃって…目を合わせるのが怖くなっちゃって…。
どうすればいいかな?」
「それなら誠に相談してみるのもいいよ。何かと言って仲良しだし。」
私はニコニコ笑顔で言った。
192
:
燐
:2012/02/03(金) 19:25:03 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「そうなの!?なら聞こうかしらね。」
影の私はニヤケ顔で言った。
「じゃ私が聞いてくる。ちょっと待っていて。」
私はそう呟き、誠の所に向かった。
「誠。」
私は誠に問い掛ける。
「ん?何?」
誠は訊く。
「憐の事で聞きたい事があるんだけどさ…。憐ってどう言った女の子が好みなの?」
「!!!!!」
そう訊くと誠は面食らった表情をする。
「どうしたの?」
私は誠の顔を覗き見る。
「てか何だその質問!!」
予想以上の誠の慌てっぷり。
明らかに戸惑っている。
「何でそんなに慌ててるの?」
私は誠に訊く。
「いや…夜那がいきなり変な質問するからな…思わず戸惑っちまった。」
誠は右手で頭を掻きながら言った。
193
:
燐
:2012/02/03(金) 19:39:09 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「ふーん…。で、憐ってどんな女の子が好みか分かる?」
「分かるか!!」
即答で誠は答える。
「そっか…。じゃどんな女の子が好みが予想しよう。私的には大人しくて可愛い子がタイプだと思うんだよね。
誠は?」
「何で予想する方向に向かってんだ?意味分からん…。」
誠は呆れた顔をする。
「さ、早く。」
私は妙にワクワクしながら言った。
「ん?おっ!憐!!」
誠は横に振り向いて言った。
私もそれに続き、横に振り返る。
すると前方から人影が一つ近づいてくるのが見えた。
194
:
燐
:2012/02/03(金) 20:25:26 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「あれ?誠?何で居るの?」
憐は口を尖らせて言った。
「何でって…夜那に呼ばれたから来ただけだ。後、お前に聞きたい事があんだけど。」
「何?」
憐は誠を睨みながら言った。
「お前の好きな好みのタイプを教えて欲しくてな。」
誠がそう言うと憐は‘嫌’と即答で答える。
「でも、夜那だけなら教えてあげるよ。誠には教えたくないからね。」
そう呟くと憐は私の隣に来た。
「お前なぁ…ある意味で腹黒いぞ…。」
「腹黒い?面白い事言うよね。相変わらず。」
憐はクスッと笑いながら言った。
「お前ってさ…笑うと女みてぇー…だな。」
誠は苦笑いしながら言う。
「女?」
憐の眉がピクッと反応する。
「うん。女。夜那もそう思わね?」
「いや…私は…。」
「もういいよ!!僕はどうせ女っぽい男だよ!!」
憐は泣きながらどっかに行ってしまった。
「アイツ…女だって言われるのがコンプレックスかよ。意外な弱点だな。」
「コンプレックスって何?」
私は訊く。
「ま、簡単に言えば自分自身の一番触れて欲しくない所だ。難しく言えば劣等感ってヤツだ。
俺のコンプレックスはやっぱ昔の過去だな。」
195
:
燐
:2012/02/03(金) 21:36:50 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「コンプレックス…。」
私は俯いて右手を握り締めた。
行かなきゃ…。
憐の所に…。
私の足は無意識に憐が居る方向に進んでいた。
「夜那。何処に行くつもりだ。」
背後で誠が呼ぶ。
「…誠。お願い…私を…憐の所に行かせて!!」
そう言って私は一気に駆け出した。
その様子を見ていた影の私は悲しそうな目で私を見ていた。
「誠は追いかけるの?陽の私を。」
影の私は静かに口を開いた。
「いや…止めとく。アイツの問題に態々俺が首を突っ込む必要がない。
憐の弱点を克服させるつもりだと俺は思う。」
「そうね。きっと夜那なら憐を助けてくれるわ。私はそう信じる。」
影の私は胸元に手を乗せ、目を瞑りながら言った。
196
:
燐
:2012/02/04(土) 13:15:15 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「信じるって鼻っから信じてないくせに良く言うぜ。」
誠は苦笑いで呟く。
「信じてるわよ。アンタこそ信じてないんじゃないの?」
影の私は言った。
「信じてるさ。アイツから全部学んだ事だ。信じる事が何よりも大事だって事を教えてくれたからな。」
「ま、陽の私ならそんな事言いそうね。私は言わないけどね。」
影の私は呆れた顔をする。
「なぁ…本当に影の夜那か?全然夜那に見えないんだが。」
誠は呆然とした表情で言った。
「本当よ。ま、性格が異なるからそう見えないかもね。」
影の私はクスクス笑いながら言った。
「そうかよ。で、お前ってさ憐が好きなのかよ。」
誠がそう言うと影の私は思わず戸惑う。
「そうよ。悪い?」
影の私はそっぽを向く。
「いや別に。てか、憐の何処に惚れたんだよ。アイツのいい所で限られるぞ。」
「何処って…。何処でもいいじゃない。ただ守ってあげたくなるような子だから。
そこら辺かな…。」
影の私は照れながら言った。
197
:
燐
:2012/02/04(土) 13:40:42 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「何照れてんだよ。意外にツンデレキャラだったんだな。」
「ツンデレ…。それ周りから良く言われる言葉だわ。て言うかこんな話してていいのかしら。
陽の私はどうなったのかしら。」
影の私は不貞腐れる表情になりながらも呟く。
「大丈夫だ。夜那ならちゃんとやってくれる。俺が言うよりも十分に強い意志を持っているからな。」
「あら。意外に小心者なのね。ま、いいわ。」
影の私はそう言って前方を見る。
「やっぱ追いかけるわ。心配だし。」
「そう言う事なら私も着いていくわ。此処で黙って一人で居るのも納得がいかないもの。」
影の私はそう言って誠の右手を握る。
「素直に‘私も連れてって’みたいな感じで言えばいいのにな。素直じゃねーな。」
「あら誠も素直じゃないのに良く人の事言えるわね。自分の立場をもっと考えなさいよ。」
影の私は笑いながら言った。
誠はその言葉が頭に来たのか、一気に駆け出した。
「さっさと行くぞ。こんな所で時間食ってる場合じゃねーし。」
誠はそう言って陽の私の居る場所に向かうのだった。
198
:
燐
:2012/02/04(土) 13:41:39 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
※お知らせ※
レスの200は書き込まないでくださいね。
記念すべき200なので…。
では宜しくお願いします。
199
:
燐
:2012/02/04(土) 13:55:53 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
一方、陽の私は影の憐を追いかけていた。
あれからどれぐらい走ったのだろうか。
足がもう棒のように痛くてズキズキしていた。
「はぁ…。はぁ…。」
私は立ち止まって中腰に息を切らしていた。
額から流れる汗が私の足元に雫となって滴り落ちる。
もう体力の限界だった。
元々体力がない私は少し走っただけでも息が切れる。
でも今回は結構走った。
だから息が切れるのは当たり前かもしれない。
「駄目…。こんな所で諦めるもんか。憐の元に追いつくまで私は諦めない。」
私は体勢を立て直して、再び走り出した。
足が痛いけど…諦めない。
諦めないよ…。
そんな事を心の中で言い聞かせながら私は走り続けた。
やがて前方に白い光が見えてきた。
‘出口’
そんな言葉が頭に浮かんだ。
私は力を振り絞ってその光の元へ全力疾走で走りこんだ。
200
:
燐
:2012/02/04(土) 13:57:33 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
200行きました!!!
第4章は長いですが・・・。これからも宜しくお願いします。
関係ない話ですが・・新作の方のタイトルと章の構成が出来上がりました。
また新作の方も宜しくお願いします。
では、引き続き宜しくお願いします!!
201
:
燐
:2012/02/04(土) 14:19:00 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
白い光の正体は白い蝶だった。
穢れの無い純粋な白。
触れたら消えてしまうんじゃないかってぐらいの儚さ。
「白い蝶さん…。」
私は蝶さんに近づくと蝶さんの後ろに地面に蹲っている人影が居た。
「憐…。」
私はその人影に近づき声を掛けた。
「どうして着いて来るんだよ!!」
その人影はゆっくりと顔を上げて言った。
人影の正体は憐で、憐の瞳は涙で滲んでいた。
「心配だからに決まってるよ。ねぇ…戻ろうよ。誠も影の私も心配してるよ。」
そう言うと憐は激しく首を左右に振る。
「嫌。誠は僕を侮辱したんだ。戻りたくない。」
憐は酷く怒っている。
「大丈夫。私も一緒になって謝るから。それならいいでしょ。」
私は笑顔で言った。
202
:
燐
:2012/02/04(土) 19:48:23 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…嘘だ。そんなの嘘だ!!僕は騙されないから!!」
憐は立ち上がって何処から持って来たのか私にナイフを突きつける。
「嘘じゃないよ。本当の事だよ!!」
私は少し強気で言った。
「じゃ証明して見せてよ。それまで僕は信じないから。」
憐は明らかに警戒している。
影の憐がこんなにも挑戦的なのは気のせいだろうか。
「分かった。証明してあげる。でもその代わりちゃんと証明したらちゃんと戻ってくれる?」
私がそう言うと憐は小さく頷き、ナイフを地面に投げ捨てた。
「後、憐って影の私の事どう思ってるの?」
そう訊くと憐は一瞬黙り込んだ。
「どうって…そんなの分からないよ。何でそんな事聞くの?もしかして頼まれたの?」
憐は疑わしい目つきで言った。
「そう言う訳じゃ…。」
「夜那って本当に嘘下手だよね。僕はそんな夜那が好きだよ。
2ヶ月前からね。でもそれは“友達”としての好きだよ。今は影の夜那の方が好きかな。」
203
:
燐
:2012/02/04(土) 20:09:30 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「それって恋愛の方?」
私が訊くと憐は笑顔で頷く。
これって両思いってヤツなんだよね?
「でも恥ずかしくて告れないんだ。だってもし振られたら一生落ち込むし…。」
憐は再び地面に座り込んだ。
「でも告白してみないと分からない物じゃない?告白って最後まで分からない物だと私は思うよ。
私は告白した事なんてないけど…気持ちは分かる。」
私は胸元に手を置いて小さく深呼吸して呟く。
「夜那の場合、誠から告られたんだよね?半年前。影の夜那から聞いたよ。」
憐は笑顔で言った。
「そうなんだ。でも何で影の私がそんな事知ってるの?」
「あれ?言ってなかった?陽と影の関係は対になっているからお互い気持ちは共有し合ってるんだよ。
だから影の夜那が陽の夜那の行動を把握してあるし、過去に夜那が何したか全て記憶してあるよ。
それが影の仕事ってものさ。」
憐が分かりやすく私に説明してくれた。
204
:
燐
:2012/02/04(土) 20:19:52 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「何か奥が深い気がする…。」
私は呆然としながらも呟く。
「そう?ま、細かい事は気にしない事が一番いい事だよ。」
憐がそう言った直後だった。
何処からか私の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。
205
:
燐
:2012/02/04(土) 21:02:35 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「夜那ー!!」
その言葉を聞いた瞬間、私は声のする方向へ振り向いた。
憐は怖いのか立ち上がって私の後ろに隠れる。
やがて前方に二つの人影が現れる。
その内の一つは手を振っていた。
206
:
キルア
:2012/02/05(日) 08:40:58 HOST:proxy10010.docomo.ne.jp
どうも!
1から全て見ましたけど、とってもクオリティが高い小説でビックリですΣ( ̄□ ̄)!
宜しければ入っても宜しいでしょうか?
>燐様(燐兄貴)
207
:
愛歌
◆EFyjchDnb.
:2012/02/05(日) 08:42:17 HOST:proxy10009.docomo.ne.jp
名前間違えました…ory
正しくは愛歌(ロンド)です!
208
:
燐
:2012/02/05(日) 12:26:05 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
愛歌>>どうぞwどうぞw
兄貴って呼んでくれぇw
209
:
燐
:2012/02/05(日) 12:47:37 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
その影はすぐに誠だって分かった。
誠も私の姿を確認したのか私と数メートルの位置で立ち止まる。
誠の隣には影の私が仲良く誠と手を繋いでいた。
憐は私の背後から二人の様子を伺っていた。
「何で着いてきたの?」
私は冷たく誠を睨みながら言った。
「…心配だからに決まってんだろ!!」
「て言うか誠は憐に謝る事あるんじゃないの?」
私は誠の言葉を遮って指摘する。
「……。」
誠は黙り込んだ。
「憐は怒ってるよ。誠があんな事言ったから。」
私は誠に向かって右手の人差し指を突き刺した。
「憐…すまねぇ。」
誠は謝るが、憐は黙っている。
「感情が籠ってない。ちゃんと感情込めて謝ってよ!!精密なロボットみたいに
謝らないで。」
憐は誠を睨みながら言った。
210
:
燐
:2012/02/05(日) 15:56:24 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…ごめん!!」
誠は憐に向かって深く頭を下げる。
「…いいよ。合格。今度からその事については一切触れないでね。」
憐は冷たく言い放つと、影の私の所へ駆け出した。
「夜那…。」
誠は私にゆっくりと近づき、私の身体を抱き締めた。
「…さっきはあんな言い方してごめん。」
私は謝る。
「夜那にしては上出来だったな。あれも芝居だったりしてな。」
誠は笑いながら言った。
「何で分かったの!?凄い。超能力みたい…。」
「芝居だったのかよ!?ま、普段の夜那ならあんな言い方しねーし。馬鹿でも分かる。」
「私って演技下手なのかな…。見破られるって事は。。」
私は肩を落として地面に座り込む。
「そんな事ねーと思うけど。気のせいじゃね?」
誠は私の頭をポンポンと撫でながら言った。
「そうなのかな。あっ!そう言えばだけど…。あの二人両思いっぽいんだよね。。」
私は二人を一瞥しながら言った。
211
:
燐
:2012/02/05(日) 16:26:34 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「マジかよ。でも絶対吊り合わないと思うぜ?」
誠の“吊り合わない”と言う言葉が心に突き刺さる。
そう言えば義理のお母さんにもそんな事言われたんだよね。
でもそんな言葉はすぐに私の心から消えて行った。
「でも、案外いいカップルになりそうだよ。」
「いや俺は反対だと思うな。だって腹黒とツンデレだぜ?絶対合わねーわ。」
誠はケラケラと笑いながら私の身体を離れる。
「腹黒とツンデレって…憐と影の私の事?」
私は訊く。
「うん。」
誠は頷く。
私はふと視線を二人に移す。
二人は恥ずかしいのかお互い背を向けている。
私はしばらく二人の様子を見守る事にした。
隣に座っている誠は薄く笑いながら二人の様子を見ていた。
「憐…。」
影の私が振り返って静かに呟く。
212
:
燐
:2012/02/05(日) 17:15:53 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「何?」
憐は素っ気なく振り返る。
「あの…その…私ね……ずっと憐が好きだったの!!」
影の私は顔を真っ赤にして言った。
「…僕も好きだよ。夜那の事。」
憐はさらりと言った。
「本当…?」
「うん。本当。」
憐はそう言って影の私の身体を抱き締める。
「嬉しい…。」
「良かったね。二人とも。」
私は横から割り込む。
「うん。」
影の私はとても嬉しそうだった。
213
:
燐
:2012/02/05(日) 20:49:53 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
でも何処かツンデレなのだろうか。
全然普通に見えるのに…。
私の中に一つの“疑問”が生まれた。
と言うかこの場合、“疑惑”に入る?
何か良く分からない…。
「てか、憐痛いわよ。」
影の私は苦しそうに呟く。
「あ…ごめん。」
憐はすぐさまに影の私の身体を離れる。
その時、私の視界が少しずつぼやけてくる。
嗚呼…もうすぐ夢が解けるんだ。
そう思って地面に寝転がる。
「おい夜那。」
誠が私の右肩を揺する。
私はそのまま目を瞑って意識を失った。
214
:
燐
:2012/02/05(日) 21:14:07 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
―――――――…。
「んっ…。あれ?私…。」
私は重い身体をゆっくりと起き上がらせて辺りを見回した。
いつもの光景が目に飛び込んでくる。
良かった…私の部屋だ…。
そう安心しただけで全身の力が抜けた。
私の隣には寝息を立てて眠っている誠が居る。
まだ夢から覚めないのだろうか。
誠の左手の薬指には指輪が嵌められている。
「誠…。」
「何?」
すぐ返事は返ってきて私は驚く。
「お、起きてたの?」
私がそう言うと誠は小さく頷く。
「うん。てか、夜那の寝顔可愛かった。」
誠はニヤニヤしながら言った。
「えっ…。」
私は恥ずかしくなって顔を逸らす。
「ならもっとその顔俺に見せて。」
誠はわざとらしく妖艶に微笑む。
何時もの誠とは明らかに違っていた。
215
:
燐
:2012/02/05(日) 21:35:25 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「どうしたの…?一体…。」
私は地面から立ち上がって一歩ずつ後ろに後ずさりする。
何か嫌な予感がするのは気のせい?
「夜那。」
誠の声に私は立ち止まる。
「何?」
私は顔を正面に戻して俯きながら呟いた。
「お前ってさ…今でも亮介が好きか?」
誠の言葉に私は首を横に振る。
「好きじゃないよ。友達としては好きだけど…。それがどうかしたの?」
「…良かった。本当に…。」
誠は嬉しそうに言う。
「それだけ訊きたかったの?」
私がそう言うと誠は左右に首を振った。
「後もう一つ…。お前にプレゼントがあるんだ。」
216
:
燐
:2012/02/05(日) 22:00:13 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「プレゼント!?何々?」
私はつい嬉しくなって舞い上がってしまった。
「後ろ向いて。」
誠に言われ私は後ろを向く。
「目も瞑っておいて。」
そう言われ目も瞑る。
数分後…。
髪に違和感を感じた私は思わず目を開けてしまった。
「出来たよ。」
誠は私に黄色の手鏡を渡した。
思わず手に取ると、髪が一つに結ばれていた。
ヘアゴムかと思ったがよく見ると赤いリボンで髪は結ばれていた。
「これ…。」
「うん。夜那は髪結んだほうが可愛いかなって思って。気に入った?」
誠はニコニコ笑顔で言った。
「ありがとう…。」
私は嬉しさのあまりその場で泣いてしまった。
「ホント、夜那って泣き虫だな。でも俺はそんな泣き虫な夜那も好きだ。」
誠は私の頭を撫でながら言った。
「ありがとう。とっても嬉しい。」
私は微笑みながら言った。
「で、俺のお願い訊いてくれる?」
誠はそう言うと私の身体を抱き上げて、ベッドに下ろさせた。
「う、ん。何?」
私は戸惑いながら言うと、誠は不意に私の身体をベッドに押し付けた。
身動きが取れない。
「誠…?」
「夜那ってさ…無防備だよな。」
217
:
燐
:2012/02/05(日) 22:15:13 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
不意に出た誠の言葉に私は理解出来なかった。
「誠…。」
私は震えた声で呟く。
「お前さ…分かってねーよな。俺が男だって事。」
突然の事に私は言葉を失う。
「今まで何時もお前に遠慮して来たけどよ…。今日は遠慮しねぇから。」
明らかに何時もの誠とは違っていた。
誠の冷たくて冷酷な瞳に思わず顔を逸らす。
「いや…嫌ぁぁぁぁぁ!!!!!!」
私は声が枯れるほど大声で叫んだ。
その声を訊いて誠のお母さんが部屋に入って来た。
「何をしているの!!」
誠のお母さんの怒鳴り声が部屋中に響き、誠は我に返る。
「母さん…。」
218
:
燐
:2012/02/06(月) 17:51:13 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
誠は無言でベッドから下りる。
私は怖くてその場で震えていた。
「誠!!今夜那ちゃんに何しようとしたの!!」
誠のお母さんの怒鳴り声が部屋中に響く。
「何もしてねーよ。」
誠が冷たくそう呟くとパチンと乾いた音が部屋中に響く。
誠のお母さんが誠に向かって平手打ちされたからだった。
頬を叩かれた誠は無言で俯く。
219
:
燐
:2012/02/06(月) 19:46:44 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「止めてください!!!」
私は大声で叫んだ。
「夜那ちゃん!?」
「誠は何も悪くありません…。どうか責めないでください。。」
私は泣きながら呟く。
「夜那ちゃんがそう言うならいいわ。」
そう言って誠のお母さんは部屋を出て行った。
誠のお母さんが出て行った後、私は安堵のため息を吐いた。
「何で俺を庇った?」
誠の冷たい視線が私に注がれる。
「守りたかったの…。もう誠に辛い思いをさせたくないの…。」
私はベッドから下りて誠の身体に抱きつく。
220
:
燐
:2012/02/07(火) 18:01:20 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「…同情のつもりか?」
誠は冷たい口調で言った。
「…そうかもしれないね。でも見方変えたらそうでもないかもね。」
「謎々みたいだな。」
誠は冷たい口調から朗らかな口調に変わる。
221
:
愛歌
◆EFyjchDnb.
:2012/02/07(火) 20:58:22 HOST:proxyag057.docomo.ne.jp
thank youでーす!(藤●)
どしたらこんな上手い小説かけるん?
>燐兄貴
222
:
燐
:2012/02/08(水) 12:27:53 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
愛歌>>とにかく本をたくさん読む事だなw
一日に2冊ぐらい。
223
:
燐
:2012/02/08(水) 13:03:27 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「結局、俺は夜那にしてあげる事が一つもない。」
誠はポツリと呟く。
「そんな事ない。今まで誠は私の為に尽くして来たじゃない!」
「でもさ…それって夜那の為になったか?役に立ったか?」
誠は冷たく言うと、私は誠の身体を離れて黙り込んだ。
「役に…立ったよ。」
「明らかに動揺してるのが見え見えだぜ?」
誠は鼻で笑いながら言った。
「動揺してるのは誠の方なんじゃないの?」
私は少し強気に言った。
「…そうかもしれないな。俺だって不安で不安でどうしようもねーんだ。」
誠は弱音を吐く。
「私だって不安だよ!!でも…一人じゃ解決出来ないと思うの。たった一人じゃ
きっと何も出来ない!!」
224
:
愛歌
◆EFyjchDnb.
:2012/02/08(水) 14:37:35 HOST:proxyag103.docomo.ne.jp
本…
…私も母に頼んで家にある本全て(大体70くらい)持ってきてもらおうかな!
>燐兄貴
225
:
ピーチ
:2012/02/08(水) 23:10:00 HOST:i118-18-136-9.s11.a046.ap.plala.or.jp
お久〜>w<
最近pc禁止になったりしてあんまり見れなかったけどおもしろい!
226
:
燐
:2012/02/09(木) 08:07:46 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
「何も出来ない…か。たしかに一人じゃ何も出来ないし、何も変わらない。
でもそれは人間一人一人として同じ事だ。でも一人が二人になってみたら
人手が増えて何か変わるかもしれない。」
誠はズボンのポケットに手を突っ込みながら言った。
「誠は…それで何か変わった?」
「ああ。変わったさ。昔の過去に囚われず今を生きよう。って思えたんだ。
それに半年前だって、お前に出会えたから今の俺が在ると思う。
きっとお前に出会ってなかったら今の俺は死んでたかもな。」
誠は少し鼻で笑いながら言った。
「それ…全く私の同じ事言ってない?」
私は少し誠を睨む。
「言ってない言ってない。気のせいだ。」
誠はニコニコ笑顔で言う。
「今誤魔化したでしょ?」
私はすぐさま指摘する。
「誤魔化してないよ。気のせい気のせい。」
「…分かった。その事は聞かなかった事にしておくね。」
私は笑みを浮かべて笑った。
227
:
燐
:2012/02/09(木) 08:17:34 HOST:zaq7a66fd0c.zaq.ne.jp
でもその時の誠の笑顔に違和感を覚えた。
妙な胸騒ぎが頭の中を過る。
いつもと変わらない笑顔だけど何処か違う。
言葉に表すなら“不穏”な笑み。
「どうした夜那?」
誠が横から私の顔を覗き込む。
「ううん。何でもない。」
私はいつもと変わらない笑顔を誠に見せた。
「よし。何か作るか。」
誠は背伸びしながら言った。
「何かって?」
228
:
燐
:2012/02/10(金) 18:36:46 HOST:zaq7a66c464.zaq.ne.jp
「旨いもん。夜那の好きなもんにする。何がいい?」
誠は嬉しそうににんまりした。
「何でもいいよ。油系以外は…。でも焼肉は好きかな。」
私は暢気な声で呟く。
「焼肉!?お前肉なんて食べるのかよ。ほっそりしてんのに…。
肉なんて食べたら太るぞ。」
誠は笑いながら言った。
「うん。だってお肉美味しいんだよ?」
こう見えても私はかなりの肉好きだ。
豚肉と牛肉はもちろんの事、鶏肉、ラム肉も食べられる。
誠が海外から帰って来る2週間前に、家でお肉パーティーをしたからだ。
それ以来、肉好きになってしまった。
「夜那が肉好きだったなんてな。新たな一面発見だな。」
「そう言う誠はお肉食べるの?」
私は首を傾げる。
229
:
燐
:2012/02/10(金) 18:55:11 HOST:zaq7a66c464.zaq.ne.jp
「いや…俺は肉系は食べられないんだ。昔から。母さんも油がのってる
肉は身体に毒とか何とか言うから食べない。」
「…それって自分の身体を気遣ってるって事なんだよね。」
私はポツリと呟いた。
「気遣ってる?何で?」
誠は私の髪を触りながら呟く。
「だって昔からなんでしょ?その時、まだ心臓が悪かったんでしょ?
それって自分が自分の身体を守ろうとしているのと同じだよ。
必死に生きたいって言う気持ちが伝わってくるよ。私にも。」
私は目を瞑って両手を胸元にあてて深呼吸して言った。
誠は黙っている。
「それに生きるって事が全てじゃない。生きたかったら生きればいい。
死にたかったら死ねばいい。それは自分自身が決める事。
人に意見に着いて行くのも自分自身が決める事。他人が決める事じゃない。
全て自分で決める事なんだよ!!」
私の言葉が深く心に響いたのか、私の肩に顔を埋める。
230
:
燐
:2012/02/10(金) 19:12:36 HOST:zaq7a66c464.zaq.ne.jp
「…俺さ…今でも実の両親が憎い…。憎くて憎くてたまらない…。
そーゆう時ってさどうすればいいのか分からないんだ。」
誠は涙声になりながら言った。
「じゃ今から神社に行こう。」
私は何気に言った。
「何で神社なんだよ…。」
誠は呆れながらも笑いながら言った。
「神社に行くときっといい事があるよ。さ、行こっ!」
私ははりきりながら誠の腕を引っ張る。
「このままで行くのかよ。せめてさ何か羽織って行こうぜ。外寒いし。」
誠はそう言うと私の部屋を出て行った。
誠の言うとおり、外は極寒。
冬並みの寒さ。
231
:
燐
:2012/02/10(金) 19:26:24 HOST:zaq7a66c464.zaq.ne.jp
たしかに寒そうだし…。
と言うか今、何時だろう…。
西の空に日が照ってるから、もう夕方なのかな…。
私は不意に思った。
誠に‘神社に行くときっといい事があるよ’なんて言っちゃったけど…。
自分の真意はノープラン。
唐突に出たから、後先の事が心配になってきた。
私…本当に何考えてるんだろ…。
後先の事何も考えないで誠にあんな事言って…。
はぁ……。
このため息は心配?
それとも不安?
…きっと答えはどちらも同じ。
変わらない。
232
:
燐
:2012/02/10(金) 19:52:38 HOST:zaq7a66c464.zaq.ne.jp
そんな事を思っていると背後から‘夜那’と呼ばれた。
その声に反応して私はすぐ振り返る。
ドアの所でカーキ色のパーカーを着た誠が腕組みしながら立っていた。
誠の首元には去年私がクリスマスにあげたマフラーが巻かれていた。
「お前服1枚で寒くないのかよ。」
誠は不機嫌そうに言う。
「大丈夫だよ。と言うか服1枚じゃないよ。3枚だよ!下着合わせて3枚!」
私は笑みを浮かべて言った。
「…大胆且つ素直だな。夜那は。」
誠はそう言うと私に近づき、私の右手を握り締める。
「そ、そんな事ないよ…。」
私は頬を赤らめて誠に背を向ける。
233
:
燐
:2012/02/10(金) 20:05:19 HOST:zaq7a66c464.zaq.ne.jp
「お前は…俺が好きか?」
誠は弱々しい声で私の耳元で囁く。
「…好きだよ。でも何でそんな事訊くの?」
私は小さく深呼吸をして呟く。
「……。」
誠は黙り込んだ。
「今のは聞かなかった事にするね。さ、神社に行こっ!」
私は誠の腕を引っ張って自分の部屋を後にした。
234
:
燐
:2012/02/10(金) 20:56:09 HOST:zaq7a66c464.zaq.ne.jp
階段を下りてリビングに寄ると、誠のお母さんがソファで寛いでいた。
誠のお母さんは私達の存在に気づいたのか傍まで駆け寄ってきてくれた。
「あら。こんな時間にお出かけ?何処行くの?」
誠のお母さんは微笑みながら言う。
「はい。神社に行って来ようと思います。少し確認したい事があるので。」
私は少し緊張しながら言った。
「そう。でももう夕方よ?明日にしたら?」
「いえ。今から行って来ます。」
235
:
燐
:2012/02/11(土) 16:30:36 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
私は誠のお母さんに軽く頭を下げ、誠の手を引き、玄関に向かった。
「何か強引でごめん…。でもどうしても確認したい事があるの。」
「確認?神社に行って何の確認だよ…。」
誠は納得のいかない顔をしていた。
「少しね。でも大した事じゃないから安心して。」
私は笑顔でスニーカーを履く。
「大した事じゃないからって夜那の事が一番心配だ。
何かあったらどうすんだよ。」
「何かあるって…考えすぎだよ。誠って極度の心配性なんだね。」
私は笑いながら言うが、誠は悲しげな表情をしていた。
「心配するのは当たり前だ!!何かあってからじゃ遅いんだ!!」
誠は真剣な表情で私に言う。
236
:
燐
:2012/02/11(土) 16:43:00 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
でも私は不意に悟った。
明らかに誠には裏がある。
表であんな事を言っていても不意に思ってしまう。
その言葉は私を安心させる為の偽りの言葉なんじゃないかって。
そう思うだけで辻褄が合うような気がする。
そうやって脅えている自分が居た。
237
:
燐
:2012/02/11(土) 18:49:33 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
「…分かりました。」
私は渋々言った。
言い返せないなんて何て情けないんだろ…。
私って何処まで弱い人間なんだろう…。
そんな事を思いながら誠と共に家を飛び出した。
家を飛び出して私と誠は手を繋いで神社に向かった。
神社に向かう途中、私はふと空を見上げていた。
空はほんのり茜色に染まっていた。
茜色と言うより緋色に近かった。
「綺麗…。」
空を見ているだけで悲しい事も全て忘れてしまいそうな気がした。
「…さっきはごめん。」
誠の言葉に私は唾をゴクリと呑み込んだ。
「俺…いつの間にかムキになってて…。本当にごめん!!」
私の手を握っている誠の手が微かに震えていた。
「…もういいよ。そんな事で気にしてたらあっという間に人生終わっちゃうし。
やっぱ今生きている時間を楽しまなきゃね。」
238
:
燐
:2012/02/11(土) 20:13:53 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
私は前方を見ながら言った。
「今…生きてる時間。」
「そう。今生きてる時間を大切に忘れないように自分の心の中に刻み続けるの。
自分が生きた証として。何時までも手に残るようにね。」
私は空を見上げながら言った。
「…失った幸せはもう元には戻らない。」
誠はポツリと呟いた。
「えっ?」
私は訊き返す。
「…何でもない。」
誠は落ち着いた口調で言った。
「あっ!着いたよ。」
私はいつの間にか神社の鳥居の目の前に来ていた。
239
:
燐
:2012/02/11(土) 20:20:26 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
でも誠は何か考えているのか何も返事を返さない。
「誠?」
私が話しかけると、誠は我に返った。
「えっ?あっ…ごめん。聞いてなかった…。」
誠は一瞬狼狽した。
「着いたよ。神社。さ、早く行こっ?」
私が訊くと誠は小さく頷いた。
私は強引に誠の手を引き、神社の境内に足を踏み入れた。
240
:
燐
:2012/02/11(土) 20:27:23 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
第5章 偽りと本心
私と誠は共に境内に足を踏み入れると、人が一人も居なかった。
「がらんどうだね…。」
私がそう言うと誠はやっぱ返事を返してくれなかった。
私と誠は境内の右側にある絵馬堂の所に向かった。
そこには私と誠、二人で書いた絵馬が一番上にかけられていた。
241
:
燐
:2012/02/11(土) 21:12:55 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
そう言えば私…憐の葬式が終わった翌日の夕方に此処に来て誠と一緒に書いたんだっけ?
二人で一緒に此処で将来の事を誓ってさ…。
一緒に絵馬を書いたんだ…。
私は誠の手を握ってた手を離して、一番上にかけてある絵馬を手に取った。
そこにはマジックペンで“これからもずっと一緒に居られますように”と書かれていた。
でも私は分かってしまったんだ。
そう誓い合ったあの頃にはもう戻れないんだ…。って。
分かってしまったんだ。
そう思うだけで涙が溢れてくる。
絵馬に涙の雫が落ちて字が少し滲んだ。
「…夜那。」
背後に居る誠がふと呟く。
私は答えなくなくて何も言わない。
242
:
燐
:2012/02/11(土) 21:29:10 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
「…ごめん。」
その言葉に私は唇を噛み締めた。
何に対してのごめん?
不安?それとも恐怖?
…そう思っても答えは見つからなかった。
「俺…今まで夜那に嘘吐いてた。」
儚いその言葉は私の心に突き刺さる。
「何の嘘?内容を言ってくれなきゃこっちも分からない。」
私は口を尖らせながら言った。
「…数え切れないほどの嘘を今まで吐いて来た。きっと今も…。」
誠の言葉に一瞬言葉を失いかけたが、どうしてか許す気になってしまう。
本当は許せなくて怒っているくせにどうして私は…。
「例えば?」
私は訊く。
243
:
燐
:2012/02/12(日) 14:09:15 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
「…俺の身体の事とか…さ。」
誠は顔を曇らせながら言った。
「…っ。」
私は両手で絵馬を握り締めながらポタポタと絵馬に涙を零して行く。
「…でもまだ確定じゃない。再発するかもしれねーし、しないかもしれない。
有耶無耶でごめん…。」
「でもそんな可能性があるって事でしょ!!何で今の今までそんな事黙ってたの!!」
私は誠に問い詰める。
「言ったら夜那は何かしてくれた?対処してくれた?」
誠の冷たい眼差しが向けられ、私は何も言えなくなってしまった。
つくづく自分が情けなくなった。
「もう半年間ぐらい夜那を見てきたけど夜那にはがっかりした。
夜那は何も知らない方が良かったんだよ。俺の事も過去も何も知らない方が良かったんだ。
俺達…出会わなかった方が良かったのかな。出会ってなかったらこんな事にはならなかったのかもしれないのに…。」
誠は地面に蹲った。
244
:
燐
:2012/02/12(日) 14:26:18 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
「そんな事ない…。誠は私を闇の中から救ってくれた。命の恩人じゃない。
最近の誠は何処か可笑しいのは薄々気づいてたけど…まだ親の呪縛から
抜け出せないのは、誠が抜け出したいってそう思わないからじゃないの!!」
私の声が神社内に響く。
「…そんなんじゃねー!!お前が分からないだけだ!!俺だってな…自分でも分かってるんだよ…。
何言ってんだろうって…。でもそう思っただけでアイツが俺の中に出てくるんだよ。
アイツが出てきてから俺は…自信を失くしてしまったんだろうな…。」
誠は両手で頭を抱えて泣きながら言った。
「アイツって?アイツって誰?」
私は誠に駆け寄って話しかける。
「アイツはアイツだよ!!俺の片割れだ!!」
誠は息を切らして怒鳴り声で言った。
片割れって…亮介の事?
でも亮介と誠は友達なんじゃないの?
245
:
燐
:2012/02/12(日) 15:15:15 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
もし亮介が違うとすれば思い当たる人物は一人しか居なかった。
でもどうしてもその人物は私と深く関わっている気がしてならなかった。
根拠はないけど確かめる術はある。
「…もしかしてその片割れって…影の誠なんじゃないの?」
私が恐る恐る訊くと誠の身体が微かに震え始めた。
「もし誠の言う‘アイツ’が影の方の誠だとすれば全ての辻褄が合う気がする。
今までの出来事も全て“影”と言う存在が握っているだとすれば答えは一つしかない。」
「…真実を全て聞いて俺を解放させる事か?」
誠は地面から立ち上がって呟く。
「うん。私ずっと考えてたの。もしかしたら私達は今まで“影”と言う存在に
誘導されてたのかなって。今解決しなきゃきっとこの先もずっと影の存在に操られたままだと思う。
きっと私達二人なら解決出来る気がする。全ての真実も何もかも。」
私はそう言って誠の目の前に右手を差し出す。
246
:
燐
:2012/02/12(日) 15:38:29 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
「Truthって英語で‘真実’って意味なんだぜ?」
誠は泣き笑いながら言った。
「そうなの!?でも何でいきなりそんな事を?」
「何となくだ。後、自由は‘Liberty'って言うんだぜ?」
誠は嬉しそうに言う。
「‘Liberty'?何かいい響きかも。」
「俺はその二つの言葉を信じて生きてきた。辛い過去があってもその二つの言葉を
信じて、生きて行くって決めたんだ。」
誠は優しく私の右手を握り締める。
「信じるは英語で‘believe'って言うんだよ!!」
私は笑みを浮かべて言った。
247
:
燐
:2012/02/12(日) 15:59:47 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
「それぐらい知ってる。」
「そっか。」
私は言った。
他愛の無い会話だ。
「で、夜那に一つ聞きたい事があるんだけど。」
「ん?何?」
私は訊く。
「お前さ…アメリカ行ったら何するつもりだよ。」
「何するって…観光とか?」
私は呑気に言った。
「観光か…。呑気でいいなお前は。」
誠は呆れた顔をして言った。
「何で駄目なの?」
「駄目とか何も言ってねーけど。俺、アメリカに行ったら短大に行くつもりだ。
ま、三年ぐらいか。」
「短大?それって凄いの?」
短大の意味が分からない私は訊き返す。
「…お前全然分かってねーな。大学に行くって事は人一倍勉強しなきゃ行けねーんだ。
亮介も俺と同じ短大行くみてーだけどよ。お前はどうすんの?」
「どうするって…私には絶対無理だよ…。」
私はつい弱音を吐く。
248
:
燐
:2012/02/12(日) 16:16:34 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
「でも、やってみたい事はちゃんとあるの。内緒だけど。」
私はそう言って左手に持っていた絵馬をまた絵馬堂の一番上にかける。
「やってみたい事?何だそれ。将来の夢的な?」
誠がそう言うと私は小さく頷いた。
「そう言えば誠の将来の夢って何?」
私は訊く。
「俺はギター奏者になりたいんだ。カッコイイしな。」
誠は嬉しそうに言った。
「そう言えばギターしたいって言ってたもんね。ギターかぁ…。
何かいいよね。楽器弾ける人って。憧れるし。」
249
:
燐
:2012/02/12(日) 16:28:55 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
「てかさ、こんな話していいのかよ。辺り暗くなってきてるし。」
誠に言われ私は周りを見回した。
ほんのり空が黒く染まってきている。
「ホントだ。さ、早く家帰ろっ!」
「はいはい。」
誠は呆れ顔で、私と共に神社を後にした。
250
:
燐
:2012/02/12(日) 16:34:11 HOST:zaq3dc00699.zaq.ne.jp
コメします。
レス250行きましたがまだまだ終わりません。
まだ最後の問題が残ってるので・・・それが解決したら完結ですね^^
完結したら、蝶が舞う時…。の番外編があるのでそれを書き始めます。
番外編は長いですね・・・。←自分で言うほどでもないんですが・・。
とりあえずあの3人の話を書こうと思います。(変更アリ)
で、話逸れますが、新作の方のストーリーがちょくちょく出来上がってます。
新作の方も恋愛系なんですが…また切ない感じが加わります。
また2人の男女の物語ですが・・宜しくお願いします。
では、引き続きお楽しみくださいノシ
251
:
燐
:2012/02/13(月) 12:53:02 HOST:zaqdadc2a4d.zaq.ne.jp
神社を後にして家に帰る道を歩いていると誠は私の左頬を右手の人差し指で突いて来た。
「誠?」
私は横目で誠を見ながら呟く。
「…夜那にはたくさん救われたな。」
「えっ?」
私は立ち止まって横に振り向く。
「ん?どうした?」
誠は不思議そうな顔で私を見る。
「えっ…。ううん。何でもない。」
救われた?
そんな自覚が全くない私は少し戸惑った。
救われたより、助けたの方が自覚はあるけど…。
252
:
燐
:2012/02/13(月) 16:56:30 HOST:zaqdadc2a4d.zaq.ne.jp
うーん。
実際の所、どうなんだろう…。
私これまで誠を救う事が出来ただろうか。
何かほとんど中途半端で終わってる気がする…。
うぅ…。
何か物凄く威圧感を感じるよぉ…。
「夜那?」
誠の声に私は我に返る。
「あっごめん…。少し考え事してた。。」
私がそう言うと誠は笑顔で何かを渡してきた。
「これ聴いて見ろ。俺が死なずに済んだのはお前が居たからとこの曲のお陰なんだ。」
誠が差し出して来たのはiPodだった。
ipodを見るのは2回目。
前に見たのが2日前ぐらいだった。
たしかこれで粉雪を聴いたんだっけ?
今日も粉雪なのかな?
「今日も粉雪聴くの?」
私が聴くと誠は首を横に振る。
「今日は違う曲だ。俺に元気を与えてくれた曲だ。」
誠はそう言ってipodについているイヤホンの片方を私の耳につける。
253
:
燐
:2012/02/13(月) 17:21:11 HOST:zaqdadc2a4d.zaq.ne.jp
残ったもう片方のイヤホンは誠自身が耳につける。
数秒後…イヤホンから優しい歌声と音楽が聴こえてきた。
「いい音楽…。」
それしか言葉に出ない。
「だろ?どんなに辛い現実があってもこの曲を聴いてれば頑張れたんだ。
でも最近見つけた曲だけどな。」
誠は嬉しそうでその笑顔も本物だったのかもしれない。
あれ?
どうしてだろう…。
全然悲しくないのに涙が出てくるのは何故?
「これ…何て名前の曲なの?」
私は泣きながら誠に訊く。
「えっとな…いきものがかりの“歩いていこう”って曲だ。
てか、夜那も泣いてんだな。この曲ってさ…何か生きる意味を与えてくれるんだよな…。」
「そうだね。生きる大切さと未来へ進んで行く事を教えてくれてるみたいだよね。
何か道標みたい。」
私は泣き笑いながらまた歩き始めた。
254
:
燐
:2012/02/13(月) 18:13:34 HOST:zaqdadc2a4d.zaq.ne.jp
「道標か。たしかにそうかもな。」
誠は納得したような顔で言った。
「はい。」
私はイヤホンを外して誠に渡す。
「そのまま持っとけ。忘れないように。」
「忘れないように?何を?」
私が訊くと誠は答えてくれなかった。
255
:
燐
:2012/02/13(月) 18:48:23 HOST:zaqdadc2a4d.zaq.ne.jp
聞こえてなかったのかな?
そう思った私は誠に声をかけようとしたが、突如背後から声が聞こえて来た。
「おっ!夜那と誠じゃん!!」
その威勢のいい声に私と誠は振り向いた。
そこには亮介がビニール袋を片手に持って立っていた。
「何だよ亮介…。」
誠は不機嫌そうに言った。
「今、近くのコンビニでアイス買って来た所。美味いぞ!」
亮介は笑顔で言うと、袋からアイスの入った袋をビリッと破り、その場で食べ始める。
256
:
燐
:2012/02/13(月) 20:34:09 HOST:zaqdadc2a4d.zaq.ne.jp
「アイスなんて春に食べるものじゃないと思うよ?」
私はクスクスと笑いながら言った。
「明らかに季節外れだな。」
誠も笑いながら言った。
「お前ら!俺を見物にする気だろ!!」
亮介は口を尖らせて言った。
257
:
う
:2012/02/14(火) 12:53:56 HOST:zaqdadc2281.zaq.ne.jp
うわwww何これwww
へたくそ過ぎwwwwwwwww
258
:
燐
:2012/02/15(水) 07:26:47 HOST:zaqdb739ed3.zaq.ne.jp
257>>
へたくそですが何か?
259
:
名無しさん
:2012/02/15(水) 10:39:29 HOST:zaqdadc2281.zaq.ne.jp
へ
260
:
名無しさん
:2012/02/15(水) 10:39:40 HOST:zaqdadc2281.zaq.ne.jp
た
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