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係争の異能力者(アビリター)

268ライナー:2012/01/07(土) 22:46:36 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net

 この関西弁を聞くのは久々だった。と言っても、良い思い出があるわけではない。ユニオンに潜り込み、チームメンバーを騙すどころかメンバーの1人「城嶋 煉(じょうじま れん)」を殺した少年なのだ。
「熱也……お前……」
 啓助は、これ以上言葉が出なかった。こんな微妙な関係の人間にどう接すればいいのか、分かるはずもなかった。
「お互いお知り合いだしサー」
「どうせ来ちゃったんだからサー」
 双子は、1人の人間が喋るように軽やかに声を繋ぎ言った。
「「君達で組んで、僕(私)らと戦わない?」」
 その言葉は、恐怖に満ちていた。
「ゲーム感覚で戦闘語ってんじゃねーよ! 絶対にぶっ倒す!!」
 剣の柄を握り締め、気迫のある声で啓助は叫ぶ。
 そんな言葉は怖くない、双子はそう言うように目付きで表現してきた。
「そりゃ、ゲーム感覚だよ」
「だって僕達、ここにランダムに人連れて来て―――」
 そして、双子は同時に言い放つ。
「「ぶっ殺してるんだもん!」」
 これが、外見小学校中学年の双子が言う台詞だろうか。あまりにも血に飢えすぎている。いや、<キルブラック>陣位総司令隊長補佐の双子だから言える台詞なのだろう。
「ま、大体は下っ端スカウトだけど」
「実力のない奴は殺すだけだし」
 この2人の言っている言葉は、家庭内暴力を言動で引っ繰り返す力があるように思えた。何とも、平和を偽ったような瞳をしている。
「にしてもさー、「陣位装(ジェネラルサークル)」の4人打ち破ってくれたよね、ま、来待ちゃんはさっき見て貰った通りだし、赤羽ちゃんも生きてるけどね」
「ナッ……!」
 赤羽はまだ<キルブラック>にいたのか、啓助は正直驚いた。2回も作戦を失敗したくせによく居たものだ、啓助は同時にそう思う。
 それよりも、「陣位装(ジェネラルサークル)」がこれまで戦ってきた赤羽、来待、沙斬、遠尾の4人を差すものだと啓助はすぐに感付いた。
「ま、どれもこれも道具に過ぎないけどね」
 黒明は呟く。
 すると、それを訊いた啓助は自然と青筋が立つのを覚えた。
 赤羽、来待、沙斬、遠尾。どの人物とも、その戦いは苦しいもの。啓助は戦いの常と知りながら、殺したことに後悔もした。
「(なのに、それなのに、ど、道具だと……!)」
 啓助の中で、怒りが込み上げた。
 戦闘にとって、兵などは確かに消耗品に過ぎない。しかし、それを仲間と呼んでやらないのは、絶対に許せることでなかった。死んだ者の事を思えば尚更だ。
「だったら、熱也と組んでテメェらをぶっ倒す!!」
 啓助は思わず声に出していた。
 許し切れていない柿村熱也と組むなんて。しかし、啓助に悔いはなかった。
「辻、ワイは……!」
 熱也は、顔を俯かせながら言う。
「ワイはお前と戦えへん。組んで戦う権利なんて……ないんや」
「んな事ねーよ」
 啓助は、熱也の言葉を引っくるめるように言った。
「お前が煉の代りをやってくれりゃ、それでいい。死んだ奴の事、いつまでも引き摺ってんじゃねーよ! 俺らを繋ぐモンはそんな湿気たモンじゃねえだろーが!!」
 そう、煉の代りを務めてくれればそれで良い。
 これ以上、人を苦しめたくない。だから、熱也の苦しみを捨てて、煉の苦しみを償ってくれればそれで良い。
「戦おうぜ、明るい未来のためにな」
 ベタだ、そう分かりつつも啓助は言った。

 ドーム外。紫色の空の下で、麻衣は呟いていた。
「うーん、アイスどーしよーかなー? やっぱ王道を貫いて、バニラかなー」
 戦う相手そっちのけで、麻衣は思考に耽(ふけ)っている。
「油断をすると、痛い目を見マスよ」
 返事は無い。
「デハ、行きマス」
 やはり返事はない、来る気配すらない。
 流石の来待も呆れを見せて、空手に近い構えが少し緩んだ。
「ッ!」
 その時だった、来待の頭上に畳まれた扇の骨が振り下ろされた。
 来待はそれを機械化した左腕で、扇の骨を受け止める。
 途端、巨大な鈍い金属音が辺りを包んだ。
「ありゃりゃん? 油断は禁物じゃなかったのー?」
 扇の上には、何とも可愛らしい表情を浮かべた神宮寺 麻衣の姿がある。
「………」
 来待のコンピューター頭脳に刻まれた。
 この少女、侮り難し―――

269ライナー:2012/01/08(日) 00:48:05 HOST:222-151-086-019.jp.fiberbit.net

35、機械は奇怪

 鈍い金属音が、鳴っては消え消えては鳴りの連続だった。
 扇と鉄腕のぶつかり合い。金属音が鳴り響く度に、両者は相手を探るような目をしていた。両者がしているため、それは互いに露顕(ろけん)されていた。
「貴女のデータは、以前雇ったときに調査済みデス。神宮寺麻衣、貴女に勝ち目はありまセン」
 機械が半分体を支配してるからか、来待は妙にトーンの高い男声を発する。
「それじゃー何で打ち合いの時に目をギュってしてるのー?」
 麻衣の口調は、啓助のように来待を苛つかせることはなかったが、調べている訳は持っている武器だろう。雇う前は炎を繰り出す箒、ファイアブロームを持っていたのだから。
「{白青光(ムーンライト)}」
 返事が攻撃で返ってくる。
 来待の左手が青白く光り、槍のように鋭く尖って麻衣を襲った。
 咄嗟に躱す麻衣だが、それは意外にも深く右肩を擦る。
「{白赤光(サンライト)}」
 透かさず来待の右手が赤白く光り、麻衣の避けた方へ突き出された。
 その光は、充分に勢いの付いた麻衣が方向転換できるはずもなく、左肩に突き刺さる。
「イィッ!」
 注射針を撃たれたような痛みが麻衣の肩に残り、来待の右手は扇に叩かれた。
 麻衣の肩に刺し傷はなかった。
「その服……以前とは違いマスね。スペクトラが縫い込んであるとお見受けしマス」
 その言葉に麻衣は少々距離を取り、『風華乱扇(ふうからんせん)』と名の付いた扇を構え直す。構え直すと言っても、その構えはテニスラケットを持つように軽々しく、疲れを全く見せなかった。
「フフーン、すごいでしょー! そうそう、そのスペアリブが縫い込んであるんだよーん!」
「スペアリブは豚肉デスが……ともかく、武器の大きさ故に遠距離、中距離を得意とするようデスが、近距離はまるで話になりまセンね」
 確かに来待の言う通りで、いくら大きめの武器を軽々と使い越なしたとしても、近距離になれば小回りが利かず、そこでの機動力も薄れる。
 相手が距離を詰めてこちらが逃げても、その都度その都度に同じ対応をしなければならない。つまり、距離を取った今でも状況は厳しいと言うことだ。
 荒れた地面を蹴り上げ、麻衣は距離を取る。
 案の定、来待は急接近した。
 麻衣も負けじと、それにシンクロするように後ろへ跳び下がる。それと同時に来待の方へと振り向いた。
 空中で扇は展開され、それは大きく仰がれる。
 『風華乱扇(ふうからんせん)』で生み出された突風は、辺りの空気を引き裂くかのような颯声を奏でて来待に直撃した。しかし、攻撃するどころか、接近スピードも変わっていない。
「ハレ?」
 良く見れば、来待は僅かに宙に浮き、足下で何かが白く光っていた。
 来待はスピードを落とすことなく、槍のような手を突き出す。
「{白青光(ムーンライト)}」
 左手の光は、肩の上を貫くように過ぎた。多少姿勢を落とせば躱せる範囲内。
 振り下ろした扇を素早く畳み、アッパーを繰り出すように振り上げられた。
「ていっ!」
 掛け声と共に振り上げられた扇は、表現した如く、顎に直打する。
 肉と金属の撥音は、大きく来待を放り上げ、失敗した紙飛行機のように地面へ叩き付けられた。
 その隙を利用すべく、麻衣は扇の骨を振り下ろす。

 ―――ギンッ! 鳴り響く金属音。

「にひー! やーるぅー!」
「……!」
 その金属音は、来待の体その物ではなかった。
「やはり、継続して雇えば良かったですね」
 扇の骨を防ぐ物、それは、バスケットボールサイズの『リモートユニット』だった。

270ライナー:2012/01/08(日) 14:45:13 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 気が付けば、そこら中に球体のロボット『リモートユニット』が中を浮いている。
 この時点で多対一、麻衣は圧倒的に不利な状況に立たされた。だが、麻衣の余裕の表情は消えていない。それが持ち前の性格ならなのか、絶対的に勝利を収める自身があるからなのか。来待には知る由もなかった。
 麻衣は機械に力負けして、その反動で後方へと飛ばされる。いや、むしろ麻衣が身を引くために取った行動に見えた。
 飛び退いて麻衣はある程度の距離を取るものの、すぐさま『リモートユニット』が麻衣の懐まで迫る。
 タイマーのような電子音が響き、直線上にレーザーが放たれた。
「ハウッ!」
 瀑声の如きレーザー音が麻衣の身を貫く。防弾に一等優れたスペクトラでも、レーザーは守り切れなかったらしく、白い煙を上げながら麻衣はさらに後方へ飛んだ。
 その間に来待は立ち上がり、地面を蹴り素早く麻衣に接近する。
「実力は少しは上がったようデスが、数が多ければ話にならないデショウ」
 来待の左手が青白く、右手が赤白く光を帯びていった。来待の様子からして、止めと言ったところだろう。
 光を帯びた両手がゆっくりと重なり、両手の色は互いに混じり合い紫に変わった。
「{紫白光(コスモライト)}……!」
 一方、麻衣は飛ばされていたものの意識はあった。しかし、それは終わりの過程を告げる時間と化したのだ。
 宙を飛ばされる麻衣に、合計十二機のユニットが綺麗に滑空しながら迫っていた。
 それは、瞬く間に麻衣の両手足に三つずつ捕らえる。
 行動不能。
 身動きの取れない麻衣に、来待は一気に接近した。
「これで負ければ、僕は壊されマス。その土壇場の力、見せてあげまショウ」
 紫の光が一層強まり、両手は鋭さを増した―――

 ―――瞬間、巨大な刃音のような轟音が響く。

「……ッ!!」
 来待の言葉が詰まる。
 鉄素材の両手で身体に攻撃しても、刃音や金属音と言った音は絶対響かないはずだ。つまり、直撃したのは麻衣ではない。
「『リモートユニット』ッ……!!」
 怒りを噛み殺すような声と共に、『リモートユニット』の機械破片が飛沫(しぶき)のように飛び散った。
 麻衣の両手が球体の中から顕(あら)わになる。縛られていたはずの両手が。
「エヘヘ〜、すごいでしょー」
 笑みを溢しながら、麻衣は透かさず宙で回転している扇を掴む。
 その扇は薪割りをするかのように両足の『リモートユニット』に振り下ろされた。
 再び散る、機械破片の黒飛沫。
「……ッ!?」
 強張ってゆく、来待の顔。
 その顔をさらに強張らせるように、扇の骨が顔を襲った。
 来待の体は後方へ吹き飛び、大きな崩落音と同時にドームの外壁を崩す。
「じ、磁場の力を……覆すなんて……ありえまセンっ……!」
 外壁の窪みから体を起こし、来待は嘆くように呟いた。
「当たり前だよー?」
 土煙の向こうから、麻衣の声が届く。
「アタシには、機械の心が分かるんだよー!」
 瞬間、来待の目の前から土煙が晴れた。
「ッ!!」
 そこに見えたのは、麻衣が扇を頭上で回転させている姿だった。この構えは―――
「{花乱吹(はなふぶき)}!!」
 放たれた言葉のすぐ後に、天気予報さえも覆す突風が迫る。
 来待は、途端に左手に力を込めた。しかし、先程のように光は帯びてこない。
「クッ……!」
 途絶えた苦悶の声は、激しい突風によって放たれる場所さえも打ち壊した。来待という放たれる場所さえも。
「ウワアアァァッ!!」
 絶叫と共に橙桜(とうおう)を乗せたソニックブームが機械を砕く。そして、凹凸のある機械部品が飛び、赤の液体が渦巻くように空に散った。

 激しい颯声が止み、麻衣は大きめの扇を後ろ腰に仕舞う。
 背伸びの後の第一声は、やはり暢気な物だった。
「チョコバニラミックスにきーめたっ!!」

271ライナー:2012/01/08(日) 15:05:46 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 〜 作 者 通 信 〜
最近は更新率が高まっております、作者通信です(笑)
さて、麻衣さんが敵を倒したところで、次は熱也と啓助がタッグを組んで戦うのですが、もうだいぶラストのラストまで近付きました^^;ヤレヤレですね(汗)
そして、もうすぐ麗華さんの過去が登場しちゃいます。
お嬢様が何故その生活を抜け出したか、自分なりに描写を頑張りたいところです。
そして、キルブラックの次も手強い敵さんが……!!

ではではwww お楽しみに(してくれたら有り難いです;;)

272ライナー:2012/01/08(日) 17:13:21 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 36、炎の両足 氷の両手

「明るい未来のために戦うなんてさー」
「僕達が悪いみたいじゃん」
 1人が喋るタイミングで、双子は言う。
「やってる事は、悪い事に違いねえだろ」
 言いながら、啓助は剣を構えた。
「んじゃ、一つ教えとこうか」
 白闇が懐から白い綱を取り出す。
「キルブラックなんて、ダサイ名前使ってるけど」
 黒明は、掴んでいた黒い綱を肩に担いだ。そして、二人は言った。
「「タダの会社だし」」
 二人は声を揃える、当然の顔で。
 今回ばかりは双子だからではなく、当たり前といったところで息があった、そんな気がした。
 殺戮を繰り返した組織が会社か、啓助がそう問いても双子の顔に「当然」の二文字は消えない。どうやら言っている事は本当らしい。
「ま、何故こんな組織を作り出したかって言うと」
「この時代を生きて行くために、必須な訳だからだよね」
 今、啓助と熱也を挟んで、白闇、黒明が立っている。
 二人有無も言わず、背中合わせになって敵を凝視した。啓助達にとってその行動さえが有無のようなものだった。
「んな会社、いらへん! 辻、遅れてしもうたが、救ってやろうやないか未来!」
 熱也は、何か吹っ切れたように言う。
 そして、黒地に赤いラインが入ったパーカーのポケットに手を入れ、薄手の黒い指先まであるグローブを填め込んだ。その他の容姿は、パーカーの下に灰色のタンクトップを着、赤いキャップを鐔を後ろにして被っている。ズボンはゆったりをしていてかつ、動きやすそうな黄土色のズボン。そして、外見からして何か仕込んでありそうな素材不明(啓助にとってだが)のシューズを身に付けていた。
「っしゃあぁ!! 燃えてきたでぇ!!」
 声を張り上げて、熱也はグローブのメリケンをぶつけ合わせる。
「俺もやってやるぜ!!」
 啓助も同じように声を張り上げた。
 一言ずつ叫びを上げた二人は、何か気合いの入った笑みを溢していた。そして、二人は振り向かずとも、背中を預けられると信じ合ったように見える。
 そして、二人は踏み出す。倒すべき敵に向かって。
「いいよね」
「友情って」
 途端に、啓助が薙ごうとした剣が白闇の強く張った綱に遮られた。
「何ッ!?」
 一方、熱也の方も突き出した拳が黒明の綱に叩き落とされた。
「……! やるやないかいっ!」
 双子は二人に何も返さず、無言で綱を撓らせる。
 鞭声のような音を発し、双子の綱はシンクロしながら大きく鳴り響いた。すると、そこからは輪のような光が生まれ、白闇のものは啓助の両足に、黒明のものは熱也の両手に取り巻いた。
「……ッ!?」
 その光が徐々に消えていき、白色のリングが啓助に、黒色のリングが熱也に現れる。
「クソッ! 足が動かねえ!!」
 白いリングを外そうと、啓助はリングに向かって剣をぶつける。
 しかし、『氷柱牙斬(つららげざん)』と白色リングは澄んだ金属音を奏でただけで、リングには傷一つ付いていない。
「なんやねんこのリング!!」
 熱也の方は、黒いリングを外そうとして、足元の床に叩き付ける。
 しかしこちらも同様で、余韻を残しながら金属音が響くだけだった。
「条件付けって大事だよね」
「これで少しは面白いでしょ?」
 まるで、弱者を徐々にいたぶるいじめっ子ような悪質な行為。しかし、こんな事は言っても通じない、この戦闘には卑怯も何もないのだから。
「チクショー……! 状況的に不利すぎるだろ……!!」
 啓助は、右手に握った剣の刀身に氷を纏わせ、左手には氷の盾を作り出す。―――が、動けない。
 足と足がしっかりリングに束ねられているのだ。
「ハーハハハ! コッチから仕掛けさせて貰うよ」
 白闇が白の綱を龍の如く撓らせ、啓助に向かって振り下ろす。
 白の綱は湿った音を立てて、氷の盾に防がれた。しかし、衝撃を受けた盾は、綱が引かれると同時に真っ二つに割れていることが確認出来た。
「ッ! おいおい……」
 啓助は力の抜けた声を発する。良く見ると、氷の盾が割れたのではない。厚みを帯びた中心部分がそっくりそのまま消失していたのだ。

273竜野翔太 ◆sz6.BeWto2:2012/01/08(日) 18:09:27 HOST:p4147-ipbfp1503osakakita.osaka.ocn.ne.jp
コメントさせてもらいますね^^

スーパーマイタン勝ちましたねw
しかしチョコバニラミックスとは何と贅沢な……。僕ならチョコにしまs((
そして来待さんがログアウt((
啓助&熱也VS白闇&黒明の戦いもいよいよ始まりましたねw
麗華の過去も楽しみにしております!
まあ最近では白闇ちゃんも気に入ってきたr(( いや、ロリコンではないです((

続きも頑張ってくださいね^^

274ライナー:2012/01/09(月) 13:27:23 HOST:222-151-086-021.jp.fiberbit.net
コメントありがとうございます!

僕はチョコもバニラも好きですが、いつか食べた巨峰アイスが忘れられません(笑)
と言っても、僕もチョコ派ですが(巨峰アイスはいろんな意味で味薄かったですw)
今回は完全的なログアウトですね、来待さん。永遠の休暇をあげm((蹴

結構ダブルスは書きづらくて苦戦しております^^;
でも、何とか頑張りますw

麗華さんは自分でも話作りに苦労しました。ストーリーの資料はあまり使いませんでしたが^^;
白闇ちゃん、結構雑なような気がしたのですが、そう言って貰えると有り難いです!

ありがとうございます! 頑張らせていただきます!

275ライナー:2012/01/09(月) 16:21:20 HOST:222-151-086-021.jp.fiberbit.net

「なーにぃ? そんなに驚いた? 私のこの紐『闇丁紐(あんちょうひも)』って言うの。アビリティの吸収及び放出が可能な訳。ちなみに黒明も『明丁紐(めいちょうひも)』って言う効果の同じ物を持ってるわ。ネーミングが違うだけだけどね」
 アビリティの出し入れが自在と言うことは、先程消された氷も必要な場面で放出されると言うことだろう。こうなると、【マッスル】や【ファスト】のような、人間の力を向上させるアビリティの方が有利と言うことだ。
 にしても、白闇は先程から余裕に満ち溢れ過ぎている。啓助の方を眼中にないと思っているのか、それ以前に遊び道具のような存在でしかないのか。
「なら、これならどうだ! {凍突冷波(とうとつりょうは)}!!」
 啓助は、剣の切っ先を前に向け、刀身を通じて冷気を放った。その冷気は、剣その物を延長したかのように白闇の方へ伸びる。
「だから効かないって」
 白闇は綱サイズの紐を撓らせ、タイミング良く冷気へと重ねた。
 紐と冷気が触れ合うと、吸い込まれるように『闇丁紐(あんちょうひも)』へ消えていく。
「ホラね。……!」
 瞬間、白闇は思わず息を呑む。啓助が倒立前転をしながら接近してきたのだ。
「承知の上だっ!!」
 そう、啓助はすでに相手の武器の効果を知っている。それ故にアビリティを使って冷気に出すのには理由があった。
 ユニオンでの訓練のため、アクション映画などでも良く見る「倒立前転」「バク転」などはある程度訓練されている。しかし、当然ながら通常の走行よりも方向転換としての方が優れるため、スピードには優れない。つまり、僅かなインターバルが必要だったのだ。
 啓助は、回転の勢いを付けたまま刀身を振り下ろす。
「食らえ!」
 瞬間、湿った鍔音のような音が響いた。刀身が、先程の氷の一角に防がれている。
「やるね」
 やはり白闇の表情は余裕。これは想定の範囲内と言うことだろう。
 そして、白闇の反撃が繰り出された。
「火炎、召喚」
 再び撓る白い紐。鞭声が響くと同時にそれは現れた。蜃気楼を呼び出すほどの熱気が、啓助の肌に伝わる。
「グッ!」
 目の前が炎で赤く染まり、身体ごと啓助を吹き飛ばす。
「さて、戦えるかな」

 一方、熱也と黒明。
「ふーん、白闇はもうすぐ片が付きそうだな。ま、当たり前か」
 黒明の視線は熱也にあらず、遠くの啓助達の戦闘を見据えていた。
「余所見すんなや!」
 言葉と同時に、束ねられた両手がグローブに炎を纏わせる。その拳は赤い流星を思わせるように黒明に向かった。
 しかし、その拳が来る事を前から予想していたかのように黒明は伏せる。そして、熱也の反応よりも速く、『明丁紐(めいちょうひも)』が熱也の腹部を叩いた。
「ヴグッ……!」
 詰まる苦悶と共に、激しい平手打ちのような音が熱也を数メートル先の壁へと打ち付ける。
「これでやられたって事は、要するにそれ程弱いって事だよね。にしても、君が火を使えるとは知らなかったよ」
 静けた空間に、黒紐の鞭声が響いた。
「斬撃、召喚」
 小さな囁きが放たれると、それが伝わるかのように紐は撓る。
 ザッ!と言う風切音が、突進するように熱也へ向かった。
 その音は姿を捕らえられぬものの、鉄製の床を捲り返して波のように迫る。
 倒れている熱也は一所懸命に立ち上がろうとするが、倒れている体勢が辛く、手が思うように動かせないために中々立ち上がれない。
「ッ!!」
 顔を上げ、前方の斬撃を目の当たりにした。しかし、体が動かない。
「グハアァッ!!」
 驚愕の叫びと共に、赤いキャップが宙を飛ぶ。さらに、熱也の全身に切り込みを入れるように傷が現れ、血液が四方に飛び散った。
 赤いキャップがフリスビーのように宙を舞い、羽毛が舞い降りるようにゆっくりと落ちる。
 そのキャップが落ちた場所は―――

 ―――微かな震えを残した、熱也の倒れる身体だった。

276ライナー:2012/01/14(土) 12:00:52 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 二人の体力は限界に達していた。相手が悪すぎるのだ。アビリティを吸収できてしまうなんて、あまりにも分が悪すぎる。
 啓助は、焼けただれた体を必死に動かしながら、熱也の方へと向かう。
「おい、大丈夫か……!」
 掠れた声が、熱也の身体を起こさせた。だが、傷だらけの体は、今にも倒れそうなくらいの雰囲気を出している。
「大丈夫や。こんなん、根性でどうにでもなるで」
 熱也はそう言うものの、声からしてやはり辛そうだった。
 そんな状況を余所に、白闇と黒明は余裕そうにこちらを見つめている。まるで、虫のようにすぐさま殺せると言っているかのように。
「クッ……!」
 啓助は、悔し紛れに拳を地面に叩き付ける。もう、打開策は無いのか。
 相手の武器は、アビリティ吸収可能な紐。こちらの攻撃パターンで許せる範囲は、啓助がアビリティを使用せずに剣で物理攻撃を繰り出すこと。そして、もう一つは熱也のアビリティ【ファスト】を使用した物理攻撃。どちらにせよ、物理攻撃でなければ効果がない。
 しかし、物理攻撃と言っても、最初に繰り出した攻撃は簡単に防がれてしまった。これも簡単に征くとは限らないだろう。
「(アビリティの使用できる条件は、相手の吸収スピードを超える攻撃をすること―――)」
 そこで、啓助は気が付いた。
 吸収スピードを超えればいいのなら、アビリティを即使用するのではなく、溜めてからの攻撃を仕掛ければいい。だが、啓助に啓助にそれ程のアビリティを放出し、操る力は無い。出来るとしたら氷を全身に纏うくらいだろう。
「!」
 そして啓助は、再び閃く。この期に第六感は冴えているようだった。
 啓助は、この時だけは自分の中途半端な第六感を有り難く思った。最高の打開策を思いついてくれる、第六感を。
「熱也、まだ動けるか」
「当たり前や! この程度でくたばる柿村熱也とちゃうわ!」
 熱也もどうやらまだ動けるようだ。と言っても、長持ちはしなさそうである。つまり、啓助が思いついた「体力の使う」打開策は一発勝負。
「いいか、お前は……」
 啓助は熱也にその打開策を伝える。
 それを聞いた熱也は少し驚いた様子だったが、聞き終わると満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。
「死ぬんやないぞ、辻!」
「あたぼうよ!」
 二人は地面を蹴って、双子の方へと急接近する。
「白闇、3分トーキング終わったみたいだよ?」
「ま、結局格好いい死に方について語ってたのよ」
 双子は軽く構えを作りながら、接近する二人を見据えていた。
 瞬間、啓助の『氷柱牙斬(つららげざん)』が白闇に襲い掛かる。
「勇気って、大事だよね」
 余裕の声が啓助に届いた。
 途端に、『闇丁紐(あんちょうひも)』が素早く振るわれ、大きく刀身が弾かれる。
「でも、その勇気は空回りする無謀に過ぎないの」
 啓助は、その刀身ごと一直線に飛ばされた。しかし、啓助は笑顔を見せる。

 熱也の炎を纏った拳が、俊敏に黒明へと向かう。
「要するに、空気摩擦って事だよね」
 余裕の声が熱也に届いた。
 途端に、『明丁紐(めいちょうひも)』は素早く振るわれ、大きく拳が弾かれる。
「【ファスト】によるスピードで、摩擦熱で燃えやすい素材のグローブと靴。でもそれは、悲しく燃え尽きる灰でしかない」
 熱也は、その拳ごと一直線に飛ばされた。しかし、熱也は啓助と同様、笑顔を見せる。

 二人の飛び交う身体は、互いに接近し、両足を向こうの両足と合わせた。そして、大きく飛び上がるように、二人は互いを押し退ける。
 それは、先程飛ばされた相手に向かい、急接近していった。
 不意を突き、剣が白闇を切り倒し、炎の拳が黒明を急突いた。
「なっ……!!」
「うそっ……!!」
 双子は紐を一度薙げば、その流れを変えるために僅かなインターバルが必要となる。だが、今のように二人が体勢を立て直せば別だ。機転が利かず、瞬間的に硬直したのと同じ事になる。
 地面には、勢いよく土煙が上がり、その上を啓助と熱也が飛び上がった。
「止めだ」
 宙に舞う啓助に、大きく冷気が纏う。それは急激に啓助に集まり、一つの巨大な氷の塊と化した。
 熱也は大きく飛び上がり、回転して勢いを付ける。そして、その勢いで、氷の塊を双子の真下へ蹴り下ろした。
「氷蹴るのが、なんぼのもんじゃいーッ!!」
 叫びと共に、氷は砲弾の如き速さで土煙を突き抜けた。

「要するに、河童の川流れか……」
「油断大敵って、大事だよね……」
 この二つの言葉は、双子の最後を告げていた。

277ライナー:2012/01/14(土) 14:19:03 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

 〜お知らせ〜

いつも、本作「係争の異能力者(アビリター)」をご愛読の皆様、ありがとうございます。
二作目となった「赤瞳の不良」ですが、行き詰まってしまい、終了することとなりました。
この失敗を反省し、ノート一冊分のアイディアをまとめるまで新作は投稿しないよう心がけます。また、二作目をご愛読くださった皆様には本当に申し訳ありませんでした。
このような責任感の欠片もな自分でありますが、新作が出来た時には、読んで下さりますようお願い申し上げます。

278月峰 夜凪 ◆XkPVI3useA:2012/01/15(日) 11:26:00 HOST:softbank221085012009.bbtec.net
コメントさせて貰いますね。私の小説にコメントして貰ってたのに遅くなってしまい、申し訳ないです;

まず最初に、戦闘の場面がスピード感があって面白かったし、読みやすかったです!
最近戦闘描写が上手い人が沢山いて焦り気味です((

読み始めたばかりのころは、いわゆる乃恵琉くん推しだったのですが、過去編の影響で洋(ヒロシの方も)好きになりました!(勿論乃恵琉くん今でも好きですよ!w
以前にアドバイスを頂きましたが、やっぱりギャップがあるキャラって魅力的ですね^^
ちなみに女性陣だったらマイマイこと麻衣ちゃんが特に好きです!戦うメイドさんってかっこいい←

それにしても、最後の白闇ちゃんと黒明くんの言葉が印象的ですね!二人も好きなのですがやっぱりログアウトしちゃうのかn((

それではこの辺りでノ 続き楽しみにしてます^^

279ライナー:2012/01/15(日) 14:20:13 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net
月峰 夜凪さん≫
コメントありがとうございます!! いえいえ、コメントいただけるだけで嬉しいですし、だいぶ長編なので読むのに時間が掛かりますよね^^;

戦闘シーンは、あまり諄過ぎてはいけないと思ったので、何度も読み直して自分なりに読みやすくしたつもりでした。ですので、面白いと言って貰えるのは本当に嬉しいです(涙)
僕もまだまだ半人前なので、上手いかどうか分かりませんが、戦闘描写も文章の一部。自分の納得のいくものが出来れば、それで良いと自分は考えたりしています(笑)

乃恵琉と洋ですか!? 僕もそのお二方は気に入っています^^
僕は、ギャップに関しては修行中でありますが、分かって頂けて嬉しいです!

双子さんですか。やはり、敵なのでどうしてもログアウトg((

ありがとうございました! 期待に添えるよう頑張っていきます!

280ライナー:2012/01/15(日) 17:00:27 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

 37、一難去ってまた一難

 熱也は、土煙の残る地面に颯爽と着地する。
「おい、辻ー! 大丈夫かー!」
 霧雲のように掛かった土煙に、当てずっぽうに声を上げた。
 すると、その土煙からは影が映し出され、啓助が姿を現す。
「大丈夫なわけねーだろ! コッチは体張って攻撃してんだ、死ぬかと思ったぜ……」
 辺りはゆっくりと土煙が消え、俯せになって倒れた白闇と黒明が現れる。
「クッ……!! 私達が」
「ま、負けるなんて……!」
 双子は、掠れた声を出しながら、息ピッタリで地面に拳を叩き付けていた。
「お前らが何をしているのかは知らねえが、人を傷付けてまですることなら、俺は止める」
 啓助は剣の刀身を鞘に収めながら言う。
「右に同じや」
 啓助に続くように熱也も言った。
「……こうなったら」
「ボス本人に委ねるしか無いね」
 双子の言葉を最後に、双子は土煙に紛れて姿を隠す。そして、土煙が晴れると同時に、その姿は消えていた。
「!?」
 二人は拍子抜けしたように辺りを見回す。しかし、ドーム内には啓助と熱也しか存在していなかった。
 すると、今度は景色が歪み始め、ある時間を境に景色が真っ黒に染まった。黒い景色は暫くして色味を帯び、旅館前の大通りに戻っている。
「戻った……のか」
「いや、ワイにとっては完全にワープ状態なんやけど……」
 それもそのはず、熱也は啓助と共に行動していた訳では無く、別の場所に存在していたのだから。
 にしても、ワープ前とは完全に何か違うものを感じた。

 ―――人が居ない。

 もうすぐ昼時だというのに、ファミレスや食品専門店が多い大通りには人っ子一人存在していないのだ。これはどういう事なのか。啓助には、まだ〈キルブラック〉が関係しているとしか思えなかった。
「ねー、約束のアイス買ってよー。チョコバニラミックスがいいよー」
 麻衣が後ろから啓助の服の袖を掴み、ユサユサと前後に振る。麻衣が無事だったことに気付き、啓助はひとまず安心した。だが、今はチョコバニラミックスのアイスを買っている場合でない。チョコバニラミックスでなくとも、コンビニに行ったところで店員さえも居ないだろう。
「ちょっと待て、今は街の様子がおかしい。……つか、お前右肩大丈夫か?」
 啓助は振り向き麻衣の姿を確かめるが、その右肩は刺し傷と言うほどではないが、擦り傷のように赤く染まっていた。
「だからー、早くアイス……」
 言い掛けて、麻衣の瞳から電源を切ったように光が失われる。そうかと思うと、啓助の服の袖を掴む握力は弱くなり、前のめりに体を倒した。
「お、おい! 大丈夫か!?」
 一見するだけで全く大丈夫とは言えないが、啓助はそう言って麻衣の体を担ぐように持ち上げる。
「ヘッドホン娘やないか!? どないてこんな所に!?」
 話は後だ。啓助は熱也にそう言うと、辺りを忙しなく見回す。
 今の現状は街に人が全く居ない。居るのは啓助、熱也、麻衣の三人だ。すなわち医者さえもいないという事。つまり麻衣の完全な手当は今のところ望めないということだ。擦り傷だけで気絶したとは、到底思えない。
 完全な手当が出来なければ、次に優先順位が来るものは「安静」だ。とにかく麻衣を一番安静な場所に移動させなければならない。
「熱也、悪いがここ周辺を捜索してくれねえか。誰か一人でもいたら心強い」
 恐らく確率的には0に近いだろうが、調べてみなければ分からない。麻衣は旅館の中で安静にさせて、なるべく医療に関係した人物に見て貰えれば最高だ。
 「おう」という返事と同時に、熱也は持ち前の【ファスト】を活かした捜索を始めた。
「参ったな……」
 そう、参った。今、何処で、何が起きているのかサッパリ見当が付かない。いや、啓助自身考えるのが嫌な程困惑状態に陥っているのかもしれなかった。現在分かっているのは、この街から人が消えていると言う事態だ。
「………」
 不穏な空気が啓助の肌を刺激する。
 これから、何か嫌な事が起きる。そんな予感を過ぎらせていた。

281ライナー:2012/01/21(土) 14:47:31 HOST:222-151-086-008.jp.fiberbit.net

 やけに静まった大通りは、腕時計の秒針の音さえも大きく表現する沈黙だった。
 まるで、水中のような沈黙。
 暫くして、捜索から熱也が戻ってきた。何処まで走っていったのか、少し息が荒い様子だ。
 そして、戻ってきた後の答えはやはり―――
「居らんかった」
 まあ、そうだろうとしか返しようがない答えだった。だが、啓助は何か考えるように間を置いて、そうか、と静かに言う。自分の想定が少し外れたような言い方だ。
 その言葉の後に、熱也は付け足すように言葉を続けた。
「と言っても、直径1キロメートル位を隅々調べたんやけどな」
 確かに街一つと比べたら、直径1キロメートルは小さい範囲内かもしれない。しかし、熱也の捜索時間は約25分。隅々まで調べると言ったら充分過ぎるほどの時間だ。
「ああ、それもう一つ。道路に車が投げ出されるようにあったんやけど、やっぱ人が移動したって言うより消えたっちゅうのが本命らしいな」
 消えた。それなら意図的に誰かが消したか、消すような事態を起こしたに違いはない。人が自分から消えるようなことは出来ないし、存在自体を消すのは無理な話だ。
 行方の真相を深く考え込みそうになって、啓助は思考回路にストッパーを掛けた。深く考える前に、まず麻衣を安静な場所に移さなければならない。
「ハァ……」
 溜息を吐きながら、啓助は貴重品を扱うように麻衣を持ち上げる。状況が状況でなかったら、このお姫様抱っこは批判されていただろう。
 
 現在地、旅館の一室。
 啓助は勝手に旅館の布団を使い、その上に麻衣を寝かせる。
「ヌッ! 何やこの扇子! ゴッツ重いんやけど!!」
 熱也はどうやら、麻衣の武器『風華乱扇(ふうからんせん)』を運ぶのに苦労しているようだ。というか、麻衣は啓助より小さいあの体にどのようにしてあんな扇を振り回す力を持っているのだろうか。腕を掴んでみてもそれ程筋肉があるとは思えないし、年齢としても啓助と同じ16、15歳くらいの外見だ。
 扇を両手にした玄関前の熱也に、啓助は手を貸す。
 二人で両端を持って、玄関の段差を越えたものの、長刀のような扇は重量としてはまあまあ。これほど重く感じるのは長さのせいだろう。二人で運ぶと案外軽かった。
「……ふー、外に調べて行きたいが、怪我人から目を離すわけにも居かねえな」
 額にうっすらと浮かんだ汗を、啓助は服の袖で拭う。
「しゃーないから、ワイがヘッドホン娘の面倒見たるわ。さっきの出来事もそうやけど、〈キルブラック〉が関係しているのは明かや。ワイは結構な切傷負ってもうてるし、一番怪我の少ないお前が行ってくれ」
 俺も相当火傷負ってるんだけどな、と一言言い返し、啓助は麻衣の手当を終えた。
 麻衣の手当を終えた啓助は、今度は自分の手当に方向を変える。
「……今は何が起こるか分からねえ。呉々も気を付けろよ」
 啓助は、自分の腕に包帯を巻きながら熱也に言った。言葉からして、行動に出ることは確かなようだ。
「分かっとるわそんな事! それよりも、ワイがここにワープして来てもうた分、キッチリ解決するんやぞ」
 了解。そんな言葉と僅かな笑みを残して、啓助は旅館を去る。
 必ず戻らなければ。第三番隊B班のメンバーのため、そして、残していった熱也と麻衣のために。

 大通りに出ると、「当然」と言うべきなのだろうが、人が居ない。
 辺りには、霊現象でも見えてしまいそうなカーブミラー、車道のど真ん中に不自然に止められた車。やり尽くされていないゴーストタウンを、啓助は当てずっぽうに走る。ちなみに路上の車は全てアイドリングストップされていないようだ。消えているのだから当たり前なのだが、何となく環境が気になる光景ではある。
 それにしても、走っても走っても人の気配一つ感じない。一体何処までの範囲の人間が消えているのか。しかし、日本全国の人間が消されたという選択肢はない。不自然に路駐された車のラジオが通常に役割を果たしていたからだ。
 すると、人の話し声をキャッチする。
「ん?」
 その話し声は、カーブミラーから少し姿が見える。
 話し声を立てている者の姿は、〈キルブラック〉の下っ端が纏う黒装束を着ていた。

282ライナー:2012/01/29(日) 14:48:43 HOST:222-151-086-012.jp.fiberbit.net

「いやー、白闇様と黒明様の技は凄いね」
 声が聞こえると同時に、啓助はカーブミラーの死角に寄り、耳を澄ませる。
「そうだなー。この周囲の人間を全て異空間に収納とか……俺らには意味不明だよ」
 やはり〈キルブラック〉の者の話らしい。それに、白闇と黒明がまだ動ける状態であったのが、啓助には酷く驚きを呼び起こした。
「ボスが異空間から人々を助け出すような演技をやって、今の時代に必要なアビリターをここに示す。そう言ったことで、会社を引き立てトップクラスの営業会社を作り出す。凄すぎて俺らには判断が付かないな」
 黒装束の話を頭の中で整理しながら、啓助はあの言葉を思い出す。

「「タダの会社だし」」

 白闇と黒明、あの双子が言った言葉だ。どうやら偽りではなかったらしい。
 しかし、会社と言うからには今までも敵も雇われた人間が多数を占めるだろう。すると、〈キルブラック〉のボス堂本はたった一つの会社を引き立てるためだけに、多くの人間を巻き込んでいる。そうだとしたら、一刻も早く堂本を止めなくてはならない。
「〈キルブラック〉の下っ端にしては随分オシャレ脱線した格好してるじゃない」
 突然、後ろから声が掛かる。
「……!」
 唾を呑み、啓助はゆっくりと首を背後へ回した。すると、その目に入ってきたのは――――

「れ、麗華……!!」

 啓助はそう声を漏らし、硬直する。
 そこにいた麗華も同様に衝撃的だったらしく、『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握ったまま立ち尽くしている。
 突如な再開。しかし、これは双方にとって重大なことだった。
 啓助は逃亡者、麗華はユニオン隊員。この身分は、関係図で表すと「敵」という矢印で結ばれているのだ。つまり、今互いが出会うことは戦闘に発展してしまうという事だ。
 思わず、啓助は背にある剣の柄に手を伸ばす。
「辻……アンタ、まさか〈キルブラック〉の一員なわけないわよね?」
 そんなこと一目見れば分かるのだが、今はお互いを信用することは難しい。啓助は〈キルブラック〉の作戦現場にいて、麗華は恐らくそれを止めるために派遣されたのだろうから。
 『白鳥夢掻(しらとりむそう)』を握る麗華の手が、ほんの僅かに力が込められる。
「ああ」
 言葉と同時に『氷柱牙斬(つららげざん)』を鞘から抜き出した。
「(今はお互いやるべき事を優先するしか他ない。こうなったら――――

 ――――戦うしかない。

 そう、選択肢は一つだけ。戦うことしか許されないのだ。
 麗華は今ここでユニオンを裏切り、啓助を助けるようなことをすれば同罪になる。しかし、啓助はそんな迷惑掛けられるはずもなかった。
 たとえ任務を任されても、指名手配犯などと遭遇した場合はそれを優先する。そうして、自分の出来る範囲内のことを実行する。それがユニオンのオキテだった。一見仲間を裏切るような行為に見えるが、それは仲間を信じて任務を任せるという事にも繋がる。そして、多くの仕事をこなさなければいけないプレッシャーでもある。
 そして戦う。

 ――――仲間の元へ帰るため。第三番隊B班のチームルームに再び戻るために。

 そのためには、麗華を戦闘不能に追い込まなければいけない。
 以前の試合による負けがあり、緊張感がさらに増す。
「………」
 啓助は剣を構える。仲間だった者に。
 麗華はナイフを握る。任務を遂行するために。
 戦うことは互いのため、これが神の作り出した越え辛い運命(さだめ)。
 二人は同時に足を踏み出した。
 互いの武器は激しくぶつかり合う。まるで、金属が奏でる交響曲が如く。
「(クソッ……!)」
 そして、啓助は願った。

 ――――交響曲の中断を。

283:2012/02/19(日) 16:33:28 HOST:zaqdb739e54.zaq.ne.jp
コメしますねノシ

全体の4分の一を読み終わりました!!

いや〜ライナーさんの小説はハンパないですよね(*^_^*)

私の小説とは桁違いな上手さです!!

最終回まで読みますから、辞めないでくださいよ!!

こっちはこっちでとても楽しみなんですから!!←


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