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ストレンジ
6
:
ドウミ・モンド
:2011/01/26(水) 15:53:07 HOST:nttkyo907138.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
かわいそうに、二人組の髪の毛はすっかりなくなって、真っ赤にやけどした頭皮があらわになっていた。
「うひ、びひゃ、お、覚えてろよ!」
泣きそうな顔をしながら、二人は一目散に逃げ出した。死に物狂いというのはこの二人の為にあるかのような、それはそれはものすごい勢いだった。二人は何もないところにつまずきながら、必死に外に出ると、「魔法使いが暴れだした!!」「こ、殺されるぞぉ!!」と、口々に叫びながらその姿を消した。
宿にいる客達も、それにつられて、皆女将さんの持っている樽に金をいれ、蜘蛛の子を散らすように宿から出て行った。逃げていくお客を見つめる女将さんの顔は、海よりも真っ青である。
少年が亭主を見た。
亭主が硬い愛想笑いを向けながら、少年の目の前に立つと、深々とお辞儀をして宿帳とペンを渡した。
「ぼく、字がかけないんだ」
「そ、それで私めがお書きいたしましょう。お名前の方を伺ってもよろしいでございましょうか?」
冷や汗をかきながら、亭主は宿帳を持ち直す。硬い愛想笑いが更に引きつり、ブルドッグのようになってきた。店の中は恐ろしいくらい静かで、亭主は今にも逃げ出したい衝動に駆られた。
「カイ。僕の名前はカイ」
「は、は、はい、か、カイ様でございますね。お、おい、お前、カイ様にお料理をお作りしろ。い、今すぐに決まっているだろうが!いいか、ぜ、絶対にケチッたもんなんか出すんじゃねえぞ!」
女将さんはまじまじとカイと名乗った少年を見た後、樽を置いて店の奥に消えていった。
7
:
ドウミ・モンド
:2011/01/26(水) 16:44:26 HOST:nttkyo907138.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
「まったく、あの人には困ったもんだよ」
ぶつぶつ言いながら、女将さんは厨房の隅に置いてある薪を数本かき集め、かまどに入れた。
「ただでさえうちの店には、魔道警察の目がきいてるってのにさ」
女将さんは次に、かまどのそばに置いてあるわらの山から、一掴みわらを取るとこれかまどに放り込んだ。そして、エプロンのポケットから『炎虫』とラベルの張ってある小さな小瓶を取り出すと、さかさまにして、赤くきらめく粒を一粒、手のひらに落とす。よくよくみると、それは、テントウムシのような虫だった。小さな足を動かしちょこちょこ女将さんの手の上を這い回る。女将さんはそれを見ていくらか気分が落ち着いてきた。ほっと一息つくと、虫をつまみ上げ、かまどに放り込む。
『虫よ 虫よ 小さな赤い星を見せておくれ 小さな身を焦がして踊っておくれ 小さな奇跡を起こしておくれ』
女将さんが、かまどのぽっかり開いた口に向かってゆっくりとそう呟き、三回丁寧にお辞儀をした。すると、小さな赤い光がポッと姿を現し、やがて、その小さな小さな火の粉はわら全体にいきわたり、大きな炎へと姿を変える。
「そういえば、あの子・・・」
女将さんは、厨房に行く前にちらりと見たのだ。あの少年の青い制服の襟のところに、ほんのぽっちりの点だったが、はっきりと確かに血がついていたのだ。
「恐ろしいもんだ。世の中は、どんどん魔法使い中心になっていく一方だね」
女将さんは何かしら考え込んだ後、『炎虫』の瓶から今度は五匹ほど虫を手のひらにのせた。
「あたしは魔法使いじゃないけどさ、あんた達、あたしの言うことくらい分かるだろう?頼むよ、うちの宿が危ういんだ。こうなったら魔道警察でも何でもいいからさ、誰か人を呼んでおくれよ。あの子、バーキス様の名前を、うちの店に来たと気に入ったけどさ、うちの主人が取り合わなくて。そしたら、あたしらが殺されかねない状況になっちまった。ね、頼むよ、命あっての人生だからさ。こうなったらもう、魔道警察がこようとどうでもいいわけなのよ」
虫たちは女将さんの話を聞くと、羽を広げて手のひらから飛び立った。
8
:
ドウミ・モンド
:2011/01/26(水) 17:05:10 HOST:nttkyo907138.tkyo.nt.ftth.ppp.infoweb.ne.jp
女将さんが、厨房についている唯一の小さな窓を開けてやると、虫たちはそこから風のように飛び出していった。
「早く戻ってきておくれ」
女将さんはいそいそと、調理器具を探し始めた。
バーキスが来たのは、それから少したった後のことである。
彼が宿屋の扉を行儀よく叩くと、中から疲れきった顔をした、宿の亭主が姿を見せた。
バーキスの姿をみると、彼はわっと泣きながらすがりついた。
「た、助けてください、バーキス様!あの忌々しい子供が、私達の宿に居座っているのです!これでは客が寄り付きません!このままでは私の宿がつぶれてしまいます!」
「おやおや、彼を軽くあしらってしまったようだね。可哀想に。しかし、私のほうにも非がある。すまないね、今すぐ彼を連れて行こう」
「ああ、ああ、どうかお願いします!やつはもう三十皿もうちの宿の料理を食ってやがるんです!あの野郎、うちの食料庫を空にするつもりだ!」
バーキスは、わめく亭主の頭をなで自分の体から離すと、宿へと入っていった。
中には、山と詰まれた皿と、その真ん中に少年が座っているだけで、他の客はいなかった。厨房のほうから、女将さんの忙しそうな足音が聞こえる。
バーキスはため息をついた。少年も、彼の姿に気づいたようだ。今食べている、カリカリに揚げた鳥のモモ肉をそこらに放ると、バーキスに嘘っぽい笑顔を向けた。
「や、おじいちゃん。素敵な宿だね、ここは」
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