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《蠱者 マジモン》

50ノートン:2021/09/23(木) 08:20:21
気絶したゴゲット。目を覚ますと、牢獄に幽閉されていた。
「うっ…体中が痛い…サッキ!?」
横を見ると、サッキは倒れ込んでいた。
「大丈夫か!?サッキ!!」

ゴゲットの足には鎖が繋がれており、サッキの側へ寄ることが出来なかった。
「クソ…あの男女の仕業か!」
ゴゲットは集蟲力を使って鎖を破壊しようとするが、能力が使えない。
「何だ…何で能力が使えない!?」

その時、コツコツと足音が近づいて来るのが分かった。誰か来る。ゴゲットは身構えていた。
「久しぶりだな」
現れたのは、第一工場の工場長だった。

51キャプテン:2021/09/26(日) 00:23:14
「坊主達まで虫になっちまうとは…世も末だな。」
その奥から現れた。だらしない声に兄妹が反応する。
「そんな…どうしてここに居るんだよ?『ウシロおじちゃん』。」…

…数十時間前、同地点崖下。
駆除係護衛の元、避難民を車両で第二工場に移送中、ゴゲット達の落ちた崖とマジモンたちに道を阻まれる。護衛、避難民の迂回組と駆除係による囮組に別れる命令が下された。

「クソッ、虫が多すぎる!!早く虫除けを?!」
「ダメだ?!虫除けを撒いたら虫達が迂回組の方に向かっちまう。囮の役目を忘れるな?!」
「だけど…クソが?!」
仲間たちの死体から目を背ける。マジモン達が生き残り2人に襲いかかる瞬間…恰幅の良い男性が両腕装着の電動機から『糸鋸』を射出し、マジモン達を切断した。

「ウシロ…駆除係長!!」

52ノートン:2021/10/02(土) 14:25:16
「工場長!」
ウシロは工場長の名を呼ぶ。
「こいつらの駆除、俺に任せてくれねぇか」

ウシロは鉄格子の前にドカンと座る。
「災難だったな。ゴゲット、サッキ」
「ウシロさん。俺たちは死ぬんですか…?」
「虫になってんのはゴゲット、お前だけだ。サッキは俺が責任持って面倒見る」
「やめて下さいウシロおじちゃん!お兄ちゃんを殺さないで!!」
「俺は駆除係の長だ。情で動く訳にはいかねぇ。すまねぇな、サッキ」
「そんな…」

泣き崩れるサッキ。そして絶望するゴゲット。
その場を後にしたウシロは、別室である人物と会っていた。
「後生の頼みだ。お前しか頼れる奴がいない…2人をもう一度逃してやってくれないか?」

奇妙なピエロの服を着た道化は答える。
「2度目だぜ?ウシロ。このピッキータ様に頼み事とは…。まぁいいぜ、親友の頼みなら断る道理がない」

53キャプテン:2021/10/11(月) 22:29:57
「すまない。あと…ゴゲットの体なんだが、やっぱり同じだったよ…進行しているようだ。」…

…「俺がおねんねした後、何があったんだ?」
ゴゲットがサッキに尋ねた。
「…駆除係が洞穴の外にいることを知ったサガルは、私にお兄さんを担がせ解放し、洞穴の奥へと居なくなりました。多分、私達を駆除係の囮にして後で脱出したんでしょう。」
「成る程、頭の切れる奴だ。」
「その後、私達は捕まり、虫の検査を受けて兄だけ陽性、今に至ります。…お兄さん…私の体って…。」
「…あの虫のロン毛野郎、よく喋る奴だったな。まるで言いふらすよう…に…」
バタンッ!!
「お兄さん?!」
…スピーッスピーッスピーッ。
「この状況で…また寝るんですか?」

54ノートン:2021/10/24(日) 21:54:44
駆除、つまり処刑の日。ゴゲットは目を覚ますと、辺りは荒野。目の前には駆除隊が並んでいた。
「そうか、睡眠薬で眠らされた訳か。今日俺は死ぬ…」

駆除隊の中心には、ウシロがいた。ウシロはゴゲット目掛けて駆除装置を構えていた。
「抵抗するなよゴゲット」
「ウシロさん、何もしませんよ。サッキを…頼みます」

ウシロのGOサイン。駆除隊員が次々と駆除剤を発射。ゴゲットに当たる、その直前の出来事だった。

ドウゥゥゥン!!!
突然の爆破音。次々と地面が爆破し、爆煙がモクモクと辺りを覆う。爆破されたのは地面だけではなく、ゴゲットの牢獄も爆破していた。

「ゲホッゴホッ!!どうなってる!?」
ゴゲットは煙の立ち込める檻の外へ出た。

55キャプテン:2021/10/28(木) 22:04:34
…「…お兄さん」
牢獄の中、サッキが紙切れを眺める。
「『処刑時…ゴゲット助ける』…ですか。私は誰かに助けられてばかりです…(私に虫はついていなかった。下水道でお兄さんは寄生虫を摘んでいた様に見ました。でも…多分あの時お兄さんは…。)」
悔しさからかサッキが奥歯を噛みしめる。
「移動です。」
女性の声、鉄格子が突如開く。制服姿の眼鏡に長髪の女性、そして男たちがサッキを連行する。
「あなた達は…「黙れ!!秘書長、急ぎましょう。」
その声に対し、サッキが微かに震える。
「(秘書…長?!)」

サッキの内ポケットにある下水道で拾った名札。
『第一工場秘書長 アト』…

…同時刻、荒野。
「ゲホッゴホッ!!どうなってる!?」ゴゲットは煙の立ち込める檻の外へ出た。

56ノートン:2021/11/07(日) 22:04:14
煙の中、何者かの手がゴゲットの胸ぐらを掴み、ぐいっと引き寄せられる。
「あんたは…ピッキータ!?」
「黙れ!いいか、俺の言う通りにしろ!今からお前の能力で、お前そっくりの分身を作り出せ!!出来るか?」
「…やってみる」

状況は飲み込めていなくても、ピッキータが助けに来てくれた事だけは理解出来た。ゴゲットは集中し始める。

その頃、煙の外では駆除体の連中が声を荒げていた。
「何が起きている!?」
「隊長!射殺の合図を!!」
「ウシロ隊長!!」
「隊長!!」

駆除隊は皆ウシロの判断を待っていた。
「(…3、2、1…よし、もう撃つぞ。上手くやってる事を願う…ピッキータ、ゴゲット…)撃てぇ!!!!」

駆除隊は銃を構え、ゴゲット目掛けて弾丸を撃ちまくった。

57キャプテン:2021/11/11(木) 20:14:46
「…駆除係長。」
ウシロが倒れた『それ』を抱え、うつむく。
「…あとは俺がやる。お前らは下がってろ。」
駆除係達がウシロの悲壮な姿に対し、申し訳無さそうに第二工場の方へと戻った。ウシロがニヤつく。抱える人型が細かい虫となって散った。…

…第二工場行き食料搬入車内。
「ピッキー、ウシロと知り合いだったのか?!」
「ピッキータだよ!!」
荷台に乗り揺られるゴゲットとピッキータ。
「昔、色々あってね。ウシロが君達兄妹と身寄りの無い子供達を世話していたのをボランティアで手伝ってた事がある。もう覚えて無いだろう。僕も大きくなった君達に気づかなかった。」
「小さい頃(…虫達が現れた後か。)…サッキ。」
「ああ、早くあの子を迎えに行ってあげよう。」

58ノートン:2021/11/21(日) 14:38:40
ガタガタ揺れる荷台。ふとゴゲットが空を見ると、あり得ない光景が広がっていた。
「ピッキータ…何だよあれ!?」
「これは一体…」

空中に浮いているのは、黄金のピラミッド。大きさは戦車位の、そこまで大きくない物体だった。

「布を覆って隠れろ!何なのか分からん…正体不明だ!!」

ピッキータとゴゲットは布で覆い被さり、その場をやり過ごした。ピラミッドは全く違う方向へと進んで行った。

「不気味だ…あれもマジモンの能力なのか?」
ピッキータの言葉に、ゴゲットは反応する。
「なぁ、ピッキータ。何で俺はこんな能力者になったんだ?俺は誰に命を狙われてるんだ?」

59キャプテン:2021/11/28(日) 21:07:43
ピッキータが考える仕草をする。
「『脳の認識が違う』…そう聞いたな確か。普通の人とは違って『脳が寄生虫を認識できる』。だから『脳が虫を支配できる』…らしいよ。」
…ゴゲットの頭上に『???』が増殖する。

「…もういい!!私は研究者じゃないんだ。奴らが何で私達を狙うのかなんて知らない!!」
「ハァッ…(襲ってきた撃つ奴や液体操る奴…アイツらも俺達と同じなのか?それとも…。)」…

…牢獄前廊下。
拘束されサッキが秘書長と男達に連れてかれる。
「(この秘書長って人、やはり…下水道で襲ってきたアトって人です。眼鏡や髪型、服装で見た目は変えていますが…何とかして逃げ出さないとです!!)」

60ノートン:2021/12/01(水) 22:49:24
「何している?」
「ウシロおじちゃん!?」
サッキが連行される道中、たまたま廊下でウシロと遭遇した。アトが面倒そうな表情でウシロを見る。
「工場長の命令で連行しています」
「何も聞いてないぞ俺は」
「何故あなたに言う必要が?たかが駆除隊長に、話す事はありません」
「くっ…!!」

連行されるサッキの背中を見ながら、ゴゲットの言葉を思い出す。
『サッキを…頼みます』

「わかってらぁゴゲット…俺に任せとけ」

61キャプテン:2021/12/06(月) 21:44:15
「(だが…どうすればいい!!)」
ウシロが苦虫を噛む。
「…この女はマジモンです!!!」
サッキの大声が廊下に反響し全員の動きが止まる。サッキを掴み、秘書長の体がピキピキと音を立て筋肉質になり、カツラと眼鏡が落ち、短髪になり…目はマジモン特有の単色に染まる。

そして手に握った銃弾を離す。
「…蠅叩。」
「伏せろ?!」
轟音と共に銃弾が弾けて消える。ウシロは曲がり角に飛び込み体を丸める。寸分の狂いも無く男達がいっせいに倒れた。
「蟲殺しどもめ!!」
「…ヒッ?!」
サッキが小さな悲鳴を上げる。二人の足元に瞬く間に男達の血が広がった。隠れるウシロが虫狩機から糸鋸を引く。
「(クソッ、サッキの位置が近ぇ。伸ばした糸鋸に巻き込んじまう)…全く、アト秘書長ちゃんまで虫だったとは、世も末だな。」

62ノートン:2021/12/10(金) 20:36:46
「何故お前を殺さなかったか分かるか?ウシロ」
アトがウシロに近寄る。
「知るか…化け物が」
「証人になれ。工場長にこう伝えるのだ。『マジモンの襲来があり死者数名。内、秘書長アトと罪人サッキも襲来に巻き込まれ死亡』とな。」
「お前らマジモンと、グルになれって事かい」

「従っては駄目です!ウシロおじちゃん!」
サッキの叫びに、ウシロが答える。

「当たり前よ。待ってな嬢ちゃん。今助けて…やるからな!」
糸鋸で攻撃するウシロ。しかし…。
それと同時に、アトの弾丸がウシロを貫通していた。

63キャプテン:2021/12/14(火) 20:53:47
「おじ…ちゃん…おじちゃん?!」
サッキが暴れるがアトの腕力に敵わない。そこへ細長い糸鋸がサッキの体を締め付け自身の背後に引っ張り出し、緊急ボタンを押す。隔離壁が閉まった。
「こんな助け方で…すまねぇな、サッキ。」
「ウシロ…大量殺戮者が!!」
中にはアトと出血止まらぬウシロが残された。

アトが右掌を開こうとした瞬間、右手首が切断され吹っ飛ぶ。ウシロがアトの周囲の床、壁、天井に全身装備の大量の糸鋸の細長いギザギザを伸ばし張り巡らす。そしてそれを巻き取る力で全方位を飛び回る。

速さに反応できず、アトの体がウシロの大量の糸鋸によりズタボロに切り裂かれる。
「痛ッ…(ああ、クソが。ガキどもの顔がチラつきやがる…死ぬ前のってやつだなこりゃ。)」

64ノートン:2021/12/26(日) 18:17:26
「開けて!開けてください、おじちゃん!!」
ガンガンと隔離部屋の分厚い壁を叩く。外の状況は分からず…だが、このままではウシロは殺される。それだけが分かっていた。

ゴゲットの安否も分からず、恩人が自分を守り死のうとしている。サッキの心には、何も出来ない自分への反逆の心が目覚めていた。

「何で私は無力なの…もう、守られるだけの存在は嫌だ…ウシロおじちゃんを…助けたい!!!」

サッキの目は、マジモン特有の単色に染まっていった。

65キャプテン:2022/01/01(土) 22:57:20
ウシロの全身装甲から延びる、張り巡らされた細長くしなやかな鉄のギザギザ。それがアトの傷だらけの体を締めつけていた。
「(コイツ自分の体に何をした…硬過ぎる…ムシカリ機でも切断しきれねぇ。)」
アトが切断された右手とは逆の左掌を開く。圧力から解放された弾丸がウシロの体を瞬時に貫通した。
「(ハァ…世も末だねぇ。)」

隔離壁が破壊される。中からアトが現れ、俯き座り込むサッキを見下ろす。
「お前も虫達の仇「テメェは殺します。」
サッキの冷ややかな…熱い殺気の篭った声だった。

66ノートン:2022/01/09(日) 21:15:44
第一工場の一角にある工場長室。数名の駆除隊員がなだれ込む。
「工場長!!2階渡り廊下にて、マジモンが出現!数名の駆除隊員が死傷!!そして…現在ウシロさんが交戦中です」
「何だと!?」
工場長は声を荒げ、立ち上がる。
「目撃者の証人によると、秘書長がマジモンである可能性が…」

秘書長の話しをした途端、隊員が胸から大量の出血をし、死亡。
「ひ…ひえぇぇ!!??」
突然の悲劇に訳もわからず、慌てふためく隊員達。

「ミーンミンミン」

さらに、工場長室から突如鳴り響く、蝉の鳴き声。音量が次第に大きくなり、隊員は鼓膜から血を流し死亡した。

「アトさん、演技はここで終わりということですか?」
工場長の目は、マジモン特有の単色に染まっていた。

67キャプテン:2022/01/17(月) 06:51:13
殴る音…血飛沫…。
サッキが倒れ込む。その単色の目でアトを睨む。
「その目…成る程。今その体から解放してやる。」
アトが残った左腕の拳をサッキの心部に当てる。
「また会おう。」
ズガンッ!!!

サッキの掌とアトの掌の間に、掌サイズのダンゴムシが丸まっている。
「何だ…その虫は?私の弾丸は、どこへ?」
アトの左腕から血が噴き出し、後退りする。
「(あのダンゴムシに弾かれて…左腕を貫いた?!)」
「何なの?…この『可愛い』の。」
サッキがヨタヨタと立ち上がった。

68ノートン:2022/01/29(土) 21:24:14
ゴゲットとサッキ。この2人の決定的な違いは、不意なアクシデントが起きた時の洞察力だろう。
ゴゲットはどちらかと言えば、テンパってしまう事が多い。しかしサッキの場合は鋭い観察眼で、答えを示す。

突如現れた、小さなダンゴムシ。それを再び丸めると、バスケットボールのように地面にダムダムとドリブルし始めた。

「おかしいと思ってたんです。何故兄だけがマジモン化してしまったのか。原因は何だったのか」

ダンゴムシを再びキャッチすると、今度は両手で持ち、思い切り地面に叩き付ける。ダンゴムシは激しく上下に動いた。

「でもこれでしっくり来ました。私もマジモン化していた。そしてこのダンゴムシは、私の能力。あなたを倒して、私は兄と謎を解明する!」

69キャプテン:2022/02/02(水) 17:43:19
サッキが掌サイズのダンゴムシをアトに投げつける。
「当たれ!!」
アトが体を膝から90度そらしてそれを交す。そして残された左手一本で弾き飛ばした。
「遅い、鈍い、とろい、軽い、軟い…そして弱い。」
アトが左拳を向け、開こうとする…バゴシッ?!アトに何かが当たる。ダンゴムシが壁や床、天井を跳ねて飛びまわり、アトにぶつかりまくる。
「どんどん威力が…上がっているのか?!」…

…荷台でゴゲットが膝を小刻みに動かす。ピッキータがそれを見てため息をついた。
「大丈夫かゴゲット、あんまり心配しても…。」
「サッキは…あいつは冷静に見えて、全部自分でやっちまおうとする所がある。下水道の時だって…ガキの時だって!!そこで無茶しちまうんです。」

70ノートン:2022/02/09(水) 22:54:01
「やっぱり俺…!!」
ゴゲットが荷台から降りようとするが、ピッキータがそれを止めた。
「やめろ、お前が戻ってどうする!」
「でも…サッキが心配なんだ」
「気持ちも分かるが、信じろ!それにウシロさんもいる。あの人がいれば大丈夫だ」

第一工場。サッキの放ったダンゴムシは、一方的にアトを攻撃していた。
「本当なら、あなたの両足をへし折って、倒れた所を頭を潰して終わりにしたい。でもダンゴムシのコントロールが効かない…命拾いしましたねメスゴリラ。」

ボロボロになるアトを見下すサッキ。しかしこの時、アトは残された左腕で能力を発動していた。

71キャプテン:2022/02/11(金) 21:52:14
アトが弾丸を握りしめたまま、つぶやく。
「私が撃った弾丸には高圧力がかけられ、時間により限界突破し、圧力は反転し破裂する。わかるな?」
「撃った…弾丸…?!」
サッキが大急ぎで壁や天井、床を見る。アトが撃った弾の弾痕があちこちに残っている。
「この建物ごと?!早く逃げなければ。」
不意に痛みが走る。アトの拳がサッキの腹部を打つ。近距離で弾丸が左拳ごと破裂し、今までに無い威力で吹き飛ぶ。
「蠅叩…左手ごとくれてやる。」
サッキが血を吐き、腹を両腕で抱え、倒れる。それを見てアトが出口の方へと歩いていく。
「安心して、後で助けてあげるから。」
「(助ける…私を?違う…虫?!)」
アトが姿を消した後。サッキの腹部からダンゴムシが転がり、朦朧として立ち上がる。
「グハッ…この子のお陰で…多少は防げました。ウシロおじちゃん。早く…一緒に外へ逃げなければ。」

72ノートン:2022/02/18(金) 18:32:49
パパパパパパッ!!!と次々と弾丸が破裂。
渡り廊下が、見る見る瓦礫ととなり崩れていく。

「ウシロおじちゃん!どこっ!?」

サッキは腹部を抑えながら、倒れ込むウシロを見つける。ウシロは出血が酷く、顔も青ざめていた。

「ウシロおじちゃん…お願い…立って…私1人じゃ…連れて行けない!!」

ウシロを担ごうとするサッキ。だが、ウシロの体重が重くて運べない。
その間にも、建物は無情にも倒壊。2人は瓦礫の下敷きとなった。

73キャプテン:2022/02/21(月) 22:44:30
瓦礫の山から出てきたのはサッキ、ただ一人だった。巨大化したダンゴムシが瓦礫を払い、縮んで横たわる。全身が傷だらけで痛い。

「そのダンゴムシで瓦礫を…良く助かったな。」
「で、殺すのアトちゃん?」
目の前には両腕の無いアトともう一人、髪の長い華奢な人、サガルだった。サッキのダンゴムシが跳ねる…が、すぐに止まってしまった。
「もう無理だ、諦めて『体の虫』を返せ。」
「大丈夫だよ、痛くしないからね。」
サガルがサッキに近づいた途端、瓦礫の隙間から細長いノコギリが何本もサガルを縛りあげる。
「走り…やがれ…サッキ!!」
その聞き覚えのある声に押されるようにして、サッキはとにかく走った。涙を拭い、サッキは後ろを振り返る事は無かった。
「ウシロ…おじちゃん…グスッ。」

74ノートン:2022/02/24(木) 23:16:31
ゴゲットとピッキータは、第二工場 食料搬入口前に到着していた。
「お前は処刑されたとは言え、犯罪者なんだ。正体がバレないように侵入するぞ」

ゴゲットはピッキータをジロジロと見る。
「バレないようにって…。あんたのその奇抜なピエロの格好…どう見ても目立つぞ」

ピッキータは数秒固まり、そして口を開く。
「閃いたぞ、妙案。ピエロだ」
「はぁ?」
「ゴゲット、お前もピエロになれ。この服装にこのメイク。誰も疑わないだろ?」
「えー嫌だよ恥ずかしい」
「やかましい!!お前はピッキータ劇団…団員のゴゲットだ!」

1時間後…。
第二工場の入り口に、2人のピエロが現れた。

75キャプテン:2022/02/28(月) 22:08:03
第一工場、サガルとアト。
…「逃げられちゃったか。でも…あなたをここで殺せてよかったよ。」
浮遊する液体の中、ウシロがもがく。液体が気化し、衝撃波が起こる。ウシロが動かなくなった。
「液体から気体に戻ると体積が増加するんだ。すると空気が急に押し出されて衝撃波を生む…どう、勉強になった?」
サガルが体の細長い鋸の拘束を力づくで解く。傷と血だらけになりながら。…

…第一工場避難所、サッキ。
「先生!?女の子の急患です。」
「九官鳥?!」
「…先生、殺しますよ。」
「ああ、済まない。だが近くの病院は虫に汚染され閉鎖中、設備が無い。」
「…では。」
「ここでの治療はもう限界だ。急いで患者達を連れて向かってくれ。第二工場附属病院に!!」

76ノートン:2022/03/04(金) 19:39:23
第二工場。2人のピエロは口論をしていた。
「だからぁ!俺はサッキを待つ!サッキと合流するまでここを離れないぞ!」
「何故分からない!?お前と一緒にいるとサッキにも危険が及ぶ。このまま別行動で進むのが正解だ!」

ピッキータは地図を叩き付ける。
「これを見ろ!第2工場から、第5工場まで直接行けるルートがある。第5工場は世界随一のマジモン研究施設が整ってる…。俺の信頼する研究者もいる!ここで調べろ!お前の体を!!」

とどのつまり、サッキを待ちたいゴゲット。そして研究施設へ進みたいピッキータ。2人の意見がぶつかり、揉めていたのだ。

「あんた1人で行けば良いだろ、ピッキータ」
「チッ…ガキが。良いだろう」
ピッキータはコインを出した。
「今からコインを投げる。表ならお前、裏なら俺の意見に従う。どうだ、文句あるか?」

77キャプテン:2022/03/07(月) 20:11:37
「…無いです。」

…数秒後、ピッキータが膝をつく。
「普通『裏』でしょっ?!この流れなら!!」…

…数時間後、第二工場附属病院、サッキ。
「先生、女の子が…目を覚まします?!」
「お嫁様します?!」
「ほんっと、殺しますよ先生。」
医者と看護婦の声。少し間があり、サッキはベッドから上体を起こし、頭を抱え…そして絶叫した。人の口から出た音とは思えない程、かすれっかすれの…。

…「ウシロ…さん?」
第一工場、牢獄崩壊跡。
激しい雨だった。ゴゲットが瓦礫の上に横たわるウシロを必死に揺さぶる。それをピッキータが呆然と見下ろす。…激しい雨だった。誰かの叫び声さえ、かき消してしまうほどに。

78ノートン:2022/03/15(火) 21:01:44
数日後…。

瓦礫と化した第一工場。度重なるマジモンの襲来、更には工場長、秘書長の正体がマジモンだったという最悪の事実。
即時、第一工場は汚染対象となり住民は一斉避難。たった数日で廃墟と化した。

そんな第一工場に、小さな墓が立っていた。墓にはウシロの名が刻まれていた。墓の前に立つ、3人の姿ー。

「ウシロおじちゃん…。私を守ってくれてありがとう」
サッキが涙を流しながら、花を添える。

「俺はサッキを守ってくれとウシロさんに頼んだ。あんたは命をかけて、約束を守ってくれたんだな」
ゴゲットも涙を流す。

「ウシロさんはこれからも見守ってくれてるさ。さぁ、先に進もう」
ピッキータが涙する2人の背中を押す。ウシロの死を乗り越えて、ゴゲット・サッキ・ピッキータは次なる目的地・第5工場へと旅立つ。

79キャプテン:2022/03/22(火) 22:04:23
第2工場→第5工場行き、地下鉄列車内。
「彼らの狙いは…私達の、体の中の『虫』のようです。このままじゃ殺されます。」
列車に揺られながら、サッキが二人に言った。
「虫取りした後、アイツらどうするんだ?」
ゴゲットが言う。ピッキータが口を開いた。
「研究所に行けば何か分かる筈だ。」

「お弁当いりやせんか〜!!」
「激辛カレー弁当、3人前お願いします。」
「「…え?!」」
突然の弁当売りに対するサッキの自然な注文にゴゲット、ピッキータは後悔することになる。

80ノートン:2022/03/30(水) 12:30:53
激辛弁当を頬張る3人。美味しそうに食べているのはサッキだけだった。
「か、辛すぎる!何故これを食べて平気なんだ?妹よ」
「知らないです」

そして…到着する第5工場。今までの工場とは違い、エレベーターや道路インフラ等設備が整っており、近代文明が感じられる工場だった。

「凄いな…ここは。まるで近未来SFの世界だ…」
雰囲気に圧倒される最中に、奇妙な老婆が話しかけて来た。背中は90度曲がり、杖を付いていた。
「ココの人ちゃうねえ?」

突然絡まれて驚いた3人だが、サッキが流暢に返答する。
「はい、この辺に住んでないです」
「じゃなくてココ(地面を指差す)」
「ドコ?」
「(地面を指差して)ココ!」
「(???)」
「は〜怖っ」

意味不明な言動を吐き、老婆はそのまま立ち去った。
「怖って…コッチのセリフなんですけど?何よあのババァ」
「幽霊と間違えられたんじゃないか?」

81キャプテン:2022/04/03(日) 22:25:00
キキイイイイッ?!…パタンッ。
突然、ピッキータが車に衝突し、体が横たわる。
「ビッキー?!」
…着いた救急車に乗る3人を見て、老婆が呟く。
「怖いねぇ。」

「彼まで死んだら…道化師でも笑えないです。」
車内でサッキが苦し紛れに言う。突然ガスマスク姿の救急隊員が2人にボンベチューブを向ける。
「動か…ないで。…ボンベ…中身は試作段階の殺虫剤…虫は体の…重要器官に擬態…寄生する…つまり虫が死ねば…2人も。」
ゴゲット達は動けなくなった。…

…研究所内。
「どう?俺のスタントマン顔負けの動き!!救急車を利用し、自然に研究所まで来れただろ?」
ピッキータがピンピンすると…ゴゲットとサッキに蹴られまくった。
「チッ、来たか。ようこそ第五工場研究所に。」
ブカブカの白衣姿の背の低く若い女、隣には救急車に乗っていたガスマスク姿の背の高い男。ゴゲットがハッとした。
「嘘だろ…エマに…マエなのか?!」

82ノートン:2022/04/10(日) 22:48:15
その昔、第一工場では幼馴染でよく遊んでいた4人。
エマとマエは研究者である父親の都合上、この第5工場に移住していた。

「久しぶりじゃないか!エマ!マエ!」
「そうね!また会えて嬉しいわ」
昔話が弾む4人。長話になってきて、痺れを切らしたピッキータ。

「ゴホンッ!えー、盛り上がってる所悪いけど…いいかな?」
「あっ、ゴメンピッキータ」

ゴゲットは真剣な表情になる。
「単刀直入に言う。俺とサッキはマジモンになっちまった」
「えっ!?」
「はぁ!?」
固まるエマとマエ。数秒間の硬直の後、ゴゲットは話を続ける。
「お願いがあるんだ。俺とサッキの体を…元に戻してくれ!」

83キャプテン:2022/04/17(日) 23:27:05
「ならまず、手術台に…内臓を取り出して血を吸い出し骨を抜いてそれからなぁ…」
エマの言葉…

…数分後、エマがピッキータに見張られながら、ゴゲットとサッキの血液検査、レントゲン、虫除け反応をみる。
「俺を調べた時は、脳味噌取ろうとしてたな?」
ピッキータがエマの頭を揺さぶり、言った。

更に数時間後、ゴゲットとサッキとエマが椅子に座り、話し出す。
「やっぱな、寄生蟲は身体の重要器官に擬態して働いている。取り出せば体が死ぬ、移植も不可能。…あとな。虫の寿命は基本、数年ちょっとなんだ。つまり…」
エマが嫌な笑みを浮かべ…言った。
「個人差はあるが、アンタらの寿命も同じ…数年ちょっとって事だ。」

84ノートン:2022/04/24(日) 21:21:17
伝えられる衝撃の事実。
「そんな…」
「ピッキータ…あんたは知ってたのか?」
「ああ。俺の寿命も、恐らくだが持って後3年足らずだろう」

2人とも、言葉が出ない。
サッキの目からは、涙がポロポロと出ていた。そんなサッキを、無言で抱き締めるエマ。

重い口を開くゴゲット。
「ふざけんなよ…何とか…何とかならないのか…?!俺は…俺たちはまだ死にたくないぞ!」

85キャプテン:2022/04/30(土) 23:21:11
「…無い。人間性を喪失したマジモンも同じだ。今までに何十体も解剖してきた成果がコレだ。」
エマの言葉…ふいにサッキが目を大きく見開く。

「あちら側も…同じなのでしょうか?」
「あちら側?」
「私達を襲った人間性のある、アトやサガルって名前のマジモンです。」

サッキがこれまでに得た情報をエマに話す。
「『虫の寿命』…そう言ってたのか。その口振りだと、何か短命を回避する方法を知ってるみたいだな、そいつら。」
「はい。」
エマが考え、ボサボサ頭を掻きむしる。ゴゲットがトンッとサッキの肩に手を置いて言う。
「奴らの誰か1人でも捕らえ、口をわらせる。俺たちの生存はそれにかかってる訳か。」

86ノートン:2022/05/02(月) 21:17:56
「奴らは俺達を狙ってる。わざわざ探さなくても、向こうからやってくる」
「…それじゃハイリスク・ハイリターンだぞ」
ピッキータの言葉に、ゴゲットが反応する。
「ハイリスク?どこが?」
「常に奇襲の危機に晒される事になる。精神面でも負荷は大きい」

マエが手をぱんぱん叩きながら、サッキに第5工場の地図を渡す。
「はいはい、今日はここまで!あんたら疲れてるだろ?もう休みな。別館になるが、旅商人の部屋が空いてる。ここ使いな」
「ありがとうございます。エマ」

ゴゲットは急に、マエと肩を組み始める。
「サッキ、ピッキータ。先行っててくれ!俺はマエ2人きりで話したい事があるんだ」
「…?」

休憩室で2人きりになるゴゲットとマエ。
「相変わらずガスマスクしてんだな、マエ」
「…」
「なぁ、ちょっとそのガスマスク外してくれよ」
「…何故?」
「悪いな…ちょっと疑心暗鬼になってて。確かめたいんだ。お前、本当にマエか?」

87キャプテン:2022/05/08(日) 22:18:55
「アンタが…取れ。」「…えっ?!」「取れ。」
完全に虚をつかれる。マエの顔が間近まで迫る。ゴゲットが焦ってガスマスクを剥がした。『異常に腫れた顔』がそこにはあった。
「…どうしてそんな顔に?!」
「虫に刺されたらしい。昔の記憶は曖昧だ。」
「俺も…思い出せない。その…すまない。」…

…エマが頭を掻く。
「秘書長に工場長ね。成る程、敵は役職持ちが多いわけだ。裏で工場を支配して…嫌な奴らだ。」
サッキが頷く。
「この第五工場にも居るかも。それにしても、ここ研究施設ですよね…エマ。」
ベッドに横たわる複数の患者を見つめる。
「ほとんど病院だ。虫腫れやストレスによる虫の幻視。虫の被害者はここに押し込められ、工場の連中は見ないようにしてる…嫌な奴らさ。」

88ノートン:2022/05/11(水) 00:38:52
話を終え、3人は別館行きのエレベーターに乗る。

エレベーターが閉まろうとした瞬間、扉の隙間からグイッと1人の老婆がねじ込んで入って来た。ピッキータが声をひそめる。
「ちょっ…あのバァさん。入り口で会った…」
「ほっときましょう」

老婆を無視して佇むサッキ。しかし、老婆は再び語りかけてきた。
「ココの人ちゃうねぇ?」

さらに、サッキの服をグイっと引っ張った。
「金を恵んではくれんか?金がないんじゃ」
「ちょっ…離してください!」
サッキは老婆の手を振り払った。よろけた老婆は、奇妙な言動を続ける。

「…つきまとってやるぞ」

89キャプテン:2022/05/17(火) 18:16:05
同時刻…第五工場研究所緊急病床。
「虫が…虫が身体の中に…イヤイヤイヤァ?!」
患者達が叫び、必死に身体を掻きむしる。そして…目が虫のように『単色』に染まっていく。

『蠱者(マジモン)、発生』

同時刻…エマが緊急回線の受話器を耳に当てる。
「あり得ません。研究所に入る際、殺虫され虫は死にます。虫除け検査も行い、体内に虫を寄生させる事も不可能です。マジモンがどうして…。」
電話口の向こうは混乱していた。
「慌てんな、どこの区画だ?」
「精神科病床です。」
「精神科?!」
「はい。突然、患者達がナースコールを鳴らして『虫が身体の中に』と騒ぎ始めたんです。殺虫が追いつきません。このままでは…。」
「…外の『研究所長』には何も言うな。研究所ごと滅却しかねん。」

90ノートン:2022/05/18(水) 11:19:54
エレベーターがチーンと音を立て、別館へと到着する。
扉が開くと同時に、ゴゲットは老婆を突き飛ばした。
「俺の妹に何してんだババァ」

ゴゲットは老婆に殴りかかろうとする。が、ピッキータとサッキは必死で止めた。
「落ち着けゴゲット!相手は老人だぞ!」
「あ…あぁ…ごめん…」

老婆はゆっくり立ち上がり、ジロっとこちらを睨む。
「我がナメクジプラネット様…奴らに制裁を…制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁制裁…」
「ナメクジプラネット?」

明らかに異常な言動。その時、ピッキータが動く。
「ゴゲット、サッキ。2人とも先に行ってな。俺が対処する」

2人は頷くと、早足でその場を後にする。老婆も追おうとするが、ピッキータが静止する。
「待ちな!バァさん、あんた何者だ?」

ピッキータは両の手を広げる。
「射程範囲だ。返答次第では木っ端微塵にする。さぁ…答えろ!!」

91キャプテン:2022/05/22(日) 22:52:03
老婆が嫌な笑みを浮かべる。エレベーターの扉がシャッターで閉まる。ガスが密室に充満する。
「ゴホッ…虫除け…か(クソ、爆酸の能力が?!)」
ピッキータが咳込む。老婆が鼻口に何かのミニボンベマスクを装着する。

研究区画…
「姉さん下がってて。」
単色目が襲いかかる。マエが袖からチューブを出し、首を締め上げ、先端から蒸気を噴出す。マジモンが苦しみもがく。エマが眉をひそめる。
「殺りきれねぇ…今回の殺虫剤も失敗かクソ!」

研究所別館…
扉が全てシャッターで閉鎖される。ゴゲットとサッキがシャッターを叩く。
「俺たちだけ助かっても…意味ねぇんだよ!!」

92ノートン:2022/05/23(月) 23:02:42
第5工場は世界屈指の近未来型の工場。他の工場と違い、異常事態が発生した場合は、各棟のサイレンが同時に鳴るだけでなく、コンピューターAIが自身で判断。危険区域となった棟は即時、分厚いシャッターが降り厳重にロックされる仕組みとなっていた。

ゴゲットは、分厚いシャッターをドンドンと叩くがビクともしない。
「…集蟲力!」

ゴゲットの体内から、マイクロサイズの蟲がわらわらと沸き始める。蟲はシャッターの隙間に入り込み、シャッター内部の構造を探り始めた。
「このシャッター、何とか破壊出来る隙間が無いか調べる。後は分かるよな?サッキ」

ゴゲットに言われる前から、サッキはダンゴムシを準備していた。

93キャプテン:2022/05/30(月) 17:50:30
サッキの掌でダンゴムシがバスケットボール程の大きさになる。それを両手でおもいっきり地面に叩き付け弾ませる。それが段々と早くなり…
「虫達磨(むしだるま)」
ドスンッ。
いつの間にか、シャッターに穴が空く。中に充満していたガスが一気に抜けた。
「不味い、吸うなサッキ?!」
「お兄さん?!」
「虫除けだ、吸うと能力が使えなくなるぞ。」
中の虫除け煙が一気に換気され、空気が清浄になる。中へと入ると、ボンベマスクの老婆が気絶するピッキータの頭を鷲掴みにしていた。
「ベッキー…ピッキータを離せ?!」
「ポッキー…ピッキータを離してください?!」

94ノートン:2022/06/03(金) 22:05:18
ピッキータは身長170センチ、体重70キロ。70キロの重量物を片手で持ち上げる…これがいかに困難な事か、容易に想像出来るだろう。
目の前にいる老婆の腕は、特に鍛えている訳でもなく、皮と骨、それに少しばかりの肉がある程度の細っそりとした腕。そんなひ弱な腕で、70キロのピッキータを軽々と持ち上げている。

有り得ない現状。だがこの状況が、逆に2人を冷静にしていた。
「…有りえねぇ。このババァ、能力者だ」
「そうですね。まずはピッキータの救出です」
ゴゲットの操る黒い粒子は、ショットガンの形を成す。ジャコンとシリンダーを回転させると、すぐさま発砲。老婆の顔面目掛けて打ち込んだ。

95キャプテン:2022/06/05(日) 21:57:06
ドンッドンドンッドンドンドンドンドンドン!!四方八方からシャッターの扉が激しく叩かれる。
「…遅れてるのかい…サガルの坊や。」
老婆が言葉を毒ついた。…

…研究所外。
「病み上がりなのに…酷いなぁ。」
細身の腕、掌がシャッターに触れる。そこから液体が湧き出し…「浮輪蛟…蒸気と帰せ。」…

…ゴゲット達の背後のシャッターが弾け飛んだ。蒸気の中から人々のような者が流れ込んでくる。
「ゴメンね〜お婆ちゃん、渋滞が酷くてさ!」
サガルが長い髪をなびかせて現れる。

96ノートン:2022/06/10(金) 00:10:33
「ゴゲット!また奴です!!」
サッキはサガルを指差す。
「分かってる…ん?ゴゲット?」
普段はお兄さんと呼ぶサッキ。妙な違和感を感じる。

「お前もこいつみたいに粉々にしてやるぞ!!」
老婆がピッキータの頭部をグシャリと握り潰す。
「ピッキータ…!!??」
グロテスクな頭部が剥き出しになる…が、血が出ていない。

ゴゲットが今まで感じていた違和感…。
老婆の「ココの人ちゃうねぇ?」というセリフ…。
サッキの「ゴゲット!」発言…。
マエの妙なガスマスク…。
そして何より、この第5工場…。

エレベーター?空飛ぶ車?バカな!!この荒廃した世界で、そんな近代文明があるはずが無い!!
ここは…俺は…一体何なんだ!?

場所は変わり、ある青い部屋。壁一面が青。椅子も、机も、何もかもが青。
そんな不気味な部屋の中心で、ゴゲットは眠っていた。
そんなゴゲットの頭を掴み、何やらブツブツと呟く謎の女。
「…マズイな、この男、幻想だと気付き始めている」

彼女の名はナメクジプラネット。プラネット教の教祖であり、幻術を使うマジモンである。

97キャプテン:2022/06/13(月) 20:52:23
…数十分前、半廃墟化した研究所。
「サッキ…伏せろ!!」
『錆びついたシャッター』の爆発に巻き込まれ、ゴゲットがサッキをかばい、覆いかぶさり、意識を失う。サガルが人混みを掻き分けて入ってくる。
「遅いじゃないかサガル。」
「アンタの信者達が邪魔だったんですよ〜。」
サッキが気絶するゴゲットを揺さぶる。
「お兄さん…お兄さん?!」

突如、錆びついた天井扉が開き、煙が撒き散らされる。誰かがそこから下りて現れ、サッキの体を抱え込む。
「ゴホッ…マエ…離してください!!」
「今は引くんだ…サッキ!!」
天井扉からロープが垂らされ、サッキを連れてマエが上へと登り消えた。

「追うかい?お婆ちゃん?」
「虫除けの煙だ、信者達が使えなくなっちまう。」
床には倒れたピッキータとゴゲットが残された。
「現実と虚構を混ぜ合わせてやるわ。」

98ノートン:2022/06/19(日) 21:17:16
そして現在ー。

ゴゲットとピッキータは捕らえられていた。2人は床に寝そべっており、ナメクジプラネットが幻術をかけ続けていた。その時、元第1工場の工場長、ワッセージが部屋に入る。

「…相変わらず気持ち悪い部屋だな。壁もフローリングも全部青色かよ。このご時世、塗料は貴重なんだ。わきまえろよ」
「黙れワッセージ!工場長みたいな物言いしやがって…ここから出て行け!!」
「ボスから様子を見て来いって言われたんだ。どうだ、抽出できそうか?」
「もうすぐ終わる。あと24時間じゃ」

ここは第8工場。第5工場からかなり離れた距離にある。
ゴゲット達をしつこく狙っていた集団 ”ブラックライフ” の本拠地である。

99キャプテン:2022/06/26(日) 22:30:09
「帰ってきてたか。」
夢心地に…ゴゲットが声の主を見やる…何故だ…確か奴は腕を無くしたはず…。
「アト、『その体』は良さそうかい?」
「プラネット…早く済ませろ。」
「お主こそ働かんかい!!」
「まだ体が無理だ。状況を伝えてくる。」
「ボス、元気そうかい?」
「…。」
「…そうかい。」
アトが去る。ゴゲットの意識が朦朧とする。
「(エマ…マエ…サッキ…無事で…く…れ。)」…

…第5工場、半廃研究所、病室。
生き残った患者達にエマが必死に応急手当てをする。サッキとマエは呼吸を荒くし壁にもたれる。
「施設の虫除けが切れる。中も外も虫だらけで挟まれてる。もうダメだ。」
「姉さん…この廃工場もダメだ、捨てよう。」
「無理だマエ…脱出できない。」

「中も…外も。」
サッキが口をはさむ。外からマジモンが締め切った扉を叩く音が鳴り止まない。
「エマ、マエ…私に考えがあります。『中と外』のマジモンを打つけてみましょう。」

100ノートン:2022/07/10(日) 15:13:54
ブラックライフのアジト、外観は廃れた廃工場。知性の無いマジモンが彷徨いており、一般人は近寄る事も出来ない。そんな悪条件が揃うこの土地の地下に、彼らの本拠地は広がっていた。地下3階の会議室にて、ブラックライフの主戦力が集まろうとしていた。

「定例会議だ」
ワッセージが話し出す。円形の机を取り囲むように、椅子が6つ。ワッセージ、アト、モドリ、サガル、ナメクジプラネット(能力発動中の為欠席)、そしてー。

「プラネットは不在だが、始めようボス」
ボスと呼ばれたマジモンが椅子に座った。

101キャプテン:2022/07/13(水) 20:13:26
「いゃ〜こう暑いと呑まなきゃやってられん!」
ボスと呼ばれた、オジさんの様なダミ声が返事する。

アト「『その姿』…何であなたが?」
サガル「まあいいじゃないかアトちゃん。」
アト「黙れサガル!!」
サガル「…シュ〜ン(小声)。」
モドリ「…。」
ワッセージ「あの『兄妹』と『道化師』、他にも必要だそうですね?」
ボス「ああ、あと『1人』居るハズなんだが…まだ見つかってないんだ。『記憶』も無いしな。まっ、これまで通り、手当たり次第に寄生させていけば、そのうち見つかるだろうさ。時間も無いし…」

「…やれるだけやろうよ…みんな。」…

…第五工場研究所。
エマが監視カメラを見る。
「2人を助けたいのは分かる…だが無茶だ。賭けにすらなっちゃいねぇ。」
サッキが必死になる。
「外と内のマジモン達は発生要因が異なります。互いに目的が違えば攻撃し合う可能性はあると思います。」
マエがため息を吐く。
「前例が無い。何よりこの部屋から出て、封鎖壁まで辿り着き、手動で開く必要がある。…一体誰が…。」
サッキが拳同士を打ちつける。

「やります。言い出しっぺはこの私ですから。」

102ノートン:2022/07/26(火) 12:32:40
サッキはダンゴムシを出現させる。
「いってきます」
そう言うと、サッキは走った。扉付近にいるマジモンをダンゴムシで蹴散らす。その音を聞き付け、溢れかえったマジモンの群れがサッキを襲う。

「負け…ない!!」
ダンゴムシの触覚を掴み、グルグルと振り回す。触覚もある程度伸びた為、まるで鉄球を振り回すかのようだった。

「これ以上、死なせないわ…誰も!!そうでしょ?ウシロおじちゃん…」

103キャプテン:2022/08/01(月) 21:39:44
サッキが歩を進める。ダンゴムシを振り回し、マジモン達を寄せ付けない、だが…。
「数が…多すぎる。」
サッキが遂にマジモン達に押し倒される。
「クッ…最悪…ですね。」
突如、視界にガスマスク姿が写る。それが袖口からチューブを出し、マジモンに向けて蒸気を噴射し、遠ざけていく。
「マエさん?!」
「サッキ、さっさと頼む!!」
…床を『小さくなったダンゴムシ』がマジモン達の足を交わして転がる。そして封鎖壁へと辿り着き当たる。
「跳ねなさい、虫達磨!!!」
サッキが叫ぶ。ダンゴムシが跳ねて封鎖壁の非常スイッチに当たる。壁が天井へと上がり、そこから外のマジモン達がわんさか入る。そして中のマジモン達と争い始める。

「『共喰い』…いや、この場合、『縄張り争い』ですね。」

104ノートン:2022/08/14(日) 13:12:49
ピッキータは捨て子だった。赤子の頃、運良く拾われた先は、名も無い小さなサーカス団。
「…お前の境遇を可哀想とは思わねぇ。働け!わざわざ拾ってやった恩を忘れるな!」
サーカスの団長は、ピッキータに一切の娯楽を教えず、ただひたすらサーカス芸を叩き込んだ。

15歳になったピッキータは、サーカス仲間にある本音を漏らす。
「…辛いと思うかって?全然辛く無いね。俺の芸を見て、お客さんが笑ってくれる。幸せなんだ…人を笑わせるのが」
ピッキータにとって、人を笑わせる事が生き甲斐だった。
「…こんな腐った時代に突然ピエロの格好した奴がいたら、笑えるだろ?だから…」

涙を流しながら、突然夢から覚めるピッキータ。
「…何事じゃ!?なぜ目覚める!!」
「ゴゲットを…サッキを…泣かせる奴は許さねぇ。あいつらは笑っていなきゃダメなんだ」
ピッキータは有無を言わさず手をパァンと叩く。次の瞬間、ナメクジプラネットの顔面が吹き飛んだ。

105キャプテン:2022/08/21(日) 21:46:21
頭を抱え、ピッキータが立ち上がる。ナメクジピラミッドの顔から蒸気が上がる…が…。
「…?!」
ナメクジピラミッドの老体が床を這い、ピッキータの体に背後から肩、腕、脚に絡まり関節を極め、動きを封じる。
「関節技じゃ、動けまい。」
「(爆酸…一発じゃダメか。)タフだな。だが!」
バキッボコッ…パンッ。
ピッキータが自身で肩関節を外し、関節技を無理矢理すり抜け…手を叩く。ナメクジピラミッドの体が吹き飛ぶ。

「関節外し脱出は道化師の十八番だ、爆酸!!」

106ノートン:2022/08/28(日) 21:25:42
下半身は吹き飛び、ほぼ瀕死の状態だった。返り血で赤く染まったピエロは、ナメクジプラネットの髪をグイッと引っ張る。
「他の仲間はどこだ?いるんだろ近くに」
「ゴホッ…会議室に…皆いる…頼む…助けて…くれ」

ピッキータは無情にも老婆を突き飛ばし、トドメの爆酸を放つ。ナメクジプラネットは即死した。そして、幻覚の余波でまだ寝続けるゴゲットを見る。
「ゴゲット…多分これが最後の別れだ。強く…そして、笑って生きてくれ。俺がお前の生きる道になる」

…会議室。ブラックライフの全メンバーが話している最中、扉がガチャッと開く。血で染まったピエロが入ってくる絵面は、まさにホラー映画だった。
「ヒッ…何よアレ!?」
「何だ貴様…!!」

ピッキータは部屋を見渡し、敵の数を確認する。
「1、2、3、4、5匹か。さて、何人道連れにしてやるか」
強く手を叩き、爆酸発動。ピッキータの暴走により、この場からピッキータ含め、計3人の死者が出るのだった…。

107キャプテン:2022/09/01(木) 21:04:20
…第五工場廃研究所

マジモン達の死体の山…避難する人々。
「エマ…ゴメンなさい。沢山、人が死んで…。」
「サッキ…『人は死ぬのが当たり前。』だが悲しむ事を忘れるな。ウシロおじちゃんの事も…(私達のことも…。)」
「…えっ。」
エマがサッキの肩を強く叩く。
「兄貴、見つけろよ。はぁ〜…お互い、世話のやける兄弟を持って苦労するな。…あとピエロも。」
「ぷふっ…まったくですね。…あとピエロも。」

エマとマエは人々を誘導し、何処かへ行ってしまった。サッキが必死に辺りを探す。そして見つけた。瓦礫の下に何か蠢く黒い点々…それが遥か遠くまで続いていた。
「集蟲力の虫達の行列…道しるべですか。お兄さん…意外と頭が切れますね…意外と(強調)。」

108ノートン:2022/09/10(土) 20:50:42
爆酸(ばくさん)…手を叩く事が発動条件。あらゆる生命体の体内にある酸素を膨らませる事が出来る。最終的には爆発する。

沸騰した鍋の泡が立つような、ボゴボゴっとした音があちこちから聞こえる。
「何だこれは!?」
初めに叫んだのはワッセージだった。腕の皮膚が異常に膨れ上がり、爆発した。
「ぐおぉぉああ!!!!」
吹き飛ぶ右腕…痛み悶えるワッセージ。彼だけでない。サガルに至っては、心臓が爆破しており即死だった。

「まずは1匹か。狙いが付けられないのが難点だな…次々行くぞ」
ピッキータが追い討ちをかけようとするその時、目の前にボスが現れる。吹き飛んだ脇腹を塞ぎながら、ピッキータの右手を強く握った。

「誰だよお前」
「…ブラックライフのボスをやっている」
「そうかい。名前は?」

109キャプテン:2022/09/11(日) 21:53:27
…その姿は異様だった。『ムカデ』の様な大きな生き物が巻き付き、覆い、喋っている中身は見えなかった。
「言えるわけねぇだろ?全く嫌になっちまう。解るかい坊主?指名手配のアンタらが『工場の係員』や俺達『ブラックライフ』に追い詰められ、『最終工場』まで辿り着く。その辺りでアンタらと俺がぶつかる予定だったってのに…サガルなんて一発かよ!!大幅に予定の繰上げだっ!!全く世も末だよっ!!」
「集蟲力!!」

ボスやマジモン達の体を小さな虫達が埋め尽くす。
「ゴゲット、何で出てきた?!隠れてろ!!」
「動きは封じたぜ、ピッキータ。早く奴を!!」
「クソッ、爆酸!!」
ピッキータが手を叩く。ムカデ達が蜘蛛の子を散らす様に飛び散り逃げる…喋っていた中身は『空っぽ』だった。

110ノートン:2022/09/17(土) 21:19:35
「な…何も無い!?そんな馬鹿な!!」
「何かタネがあるはずだ!何か…」

敵は考える暇を与えてはくれなかった。
「蝉時雨」
ワッセージがミーンミンミンと蝉の鳴き声を発する。ピッキータは、咄嗟にゴゲットを突き飛ばした。
「逃げろ!ゴゲッ…」

ボンッ!!と爆発音がする。ピッキータの左腕が吹き飛び、血が噴き出ていた。
「がぁぁああ!!!!」
「これでもう手は叩けねぇだろ…クソピエロ!!」

怒り狂うワッセージの背後から、アトが飛び出して来る。手を前に出し、技を出す構えを見せる。
「…死ね」

111キャプテン:2022/09/25(日) 21:19:12
ピッキータの景色がスローになる。
「ピエロには…笑えない死に方じゃないか。」
「蠅叩」バンッ…ズドンッ。

「集ゥ〜中ゥ〜力ゥゥゥウウウウウッ」
アトの掌から放たれた弾丸は、ゴゲットの集めた微細な虫達を撃ち抜き…それにより弾道が変化し逸れ…弾丸はピッキータの頬をかすめた。

「ゴゲット…すまない。」
ピッキータのその笑顔は消えた。地面からムカデが現れ、ピッキータの体を覆い、周りを加速、回転する…そして。
「百足競走(むかできょうそう)」
中から血が噴き出す。ムカデが地面に潜り消えると、全身出血のピッキータの姿があらわになり、そのまま倒れた。
「ピッキータアアアアアアアアアアアア?!」
「(何でだ…ただ生きていたいだけなのに。)」

112ノートン:2022/10/05(水) 21:22:15
「あぁ…こんな…何で…チクショウ…テメェらぁぁぁぁああああ!!!!!」
既に虫の息となったピッキータを目前に、ゴゲットは怒り狂う。
「差し違えてでも…皆殺しにしてやる!!」
ゴゲットの殺意が溢れ出す。その時、ピッキータがゴゲットの足をグッと掴む。

「ゴゲット…逃げろ…」
「逃げてばかりはもう嫌だ!俺も戦う」
「…サッキは…あの娘は誰が守ってやるんだ!?」

残った気力を振り絞り、ヨロヨロと立ち上がるピッキータ。残った手で、吹き飛んだ腕の切断面を思い切り叩く。
「爆散」

次の瞬間、ワッセージの首が吹き飛ぶ。即死だった。
「野郎!!まだ技を使えたのか!!」
アトやボスがピッキータに襲いかかる。その刹那、ピッキータは後ろを振り返り、ゴゲットにニコッと笑いかけた。

「笑って生きろ、ゴゲット」

ゴゲット泣きながら手を伸ばす。しかし、数秒後にはピッキータの首は血を撒き散らしながら空中を舞っていた。
「そんな…嫌だぁぁぁぁあ!!!!」

ピッキータが巻き起こした今回の襲撃。死者…ナメクジプラネット、サガル、ワッセージ、そして、ピッキータ。

113キャプテン:2022/10/09(日) 21:51:07
…鉄パイプ製の滑り台や鉄棒…周りには錆びた建物や煙突、機械…そこで遊ぶ子ども達…それを見守るウシロ、ピッキータ…そして…ちゃん…お兄ちゃん…

「お兄さん!!!」
膝枕、サッキが顔を覗かせる。顔に皺を寄せ、ゴゲットが無理矢理に瞼を開き、目を覚ます。…記憶が蘇り、顔が真顔になる。
「ピッキータは?」
「…死にました。」
「そっか…ぷふっはははっ…ははっは…やっぱり笑えねぇよ、ピッキータ…うわぁああああん!!」
子どものように泣き叫び…泣く…泣く。

…二人に朝日がさす。
「ただ生きるのは辞めましょう、お兄さん。」
「ああ、『最終工場』…そうムカデ男が言ってた。…第一工場から続く工場地帯の最後尾。そこに俺達が追われる本当の理由が…ある…かも…多分…。」
「プフッ…本当、しまりませんね、お兄さんは。」
「笑うなよ。」

114ノートン:2022/10/17(月) 20:58:02
崩れ落ちたブラックライフのアジト。
瓦礫を退けながら、アトがボスに話す。
「何故ゴゲットを逃した?」
「まだまだ捕えるチャンスはある。今は立て直しが最優先だ」
ボスは片手でピッキータの首を持ち上げる。
「完全にやられたな、このピエロに」
ボスはピッキータの滴る血を手ですくい、自身の顔に塗り始めた。
「またそれか。辞めろよ気持ち悪い」
「倒した相手の血を顔に塗る。これは俺なりの敬意の表れなんだよ」

その頃ゴゲットは、1人静かにカードを触っていた。
「精神的に参ってますね、お兄ちゃん。落ち込んでる時のクセが出てる」
「大切な仲間が死んだんだ。すぐ前を向けって方が無理だ」

115キャプテン:2022/10/23(日) 22:26:57
「落ち込んでいる時は、カレーです!!」
振り返りざまにサッキが言う!!すかさずゴゲットが逃走し、すかさずサッキが追った!!
「カレーから逃げられませんよ!…お兄さん?」
「サッキ…俺、奴らをズタボロにしたいよ。」
「お兄ちゃ…お兄さん、口が悪いです。でも…私もです。」
「フッ…だな。」
「ええ…ですね。」

…1週間後、第6工場。
地面、壁、に大量の文字が…それが、まるで虫のように蠢く。それに覆われた人間達は意識を失い、倒れていた。蠢く文字達は一人の物言わぬ女の子の持つ開いた本へと這って集い…本の中に入り、閉ざされた。

116ノートン:2022/10/30(日) 23:54:51
第五工場跡地ー。
エマが辺りのマジモンに最新の注意を払いながら、少しでも研究施設の物資を持ち帰ろうと捜索していた。

「あのー、すみません。そこのあんた」

エマがハッと後ろを振り返る。そこに居たのは…巨大なクマのぬいぐるみ??が立っていた。
「オイラはプラチナゴリラって言うんだが。あんた、この男を知らないか?」

プラチナゴリラが紙を見せる。そこにはピッキータの写真が写っていた。エマが思考を回転させる。
(ゴゲットが言っていた、例のブラックライフの連中か?しかし、奴らならピッキータが死んだ事は知ってるはず。なら一体…そもそも着ぐるみ?名前はゴリラなのにクマ?信用出来ないな)

「…知らないね。それ以前に、人に物を頼む態度じゃないだろ。着ぐるみ来たまま話すとかさ。顔を見せろよ」
「すまないな、オイラに顔は無いんだ」
「…?」
「知らないなら結構。邪魔したな」

その場を去るプラチナゴリラを、エマは警戒し続けた。そんな彼女の背後、瓦礫の物陰に小さなクマのぬいぐるみが隠れていた。

「あの女、何か隠してるな?オイラの目は誤魔化せないぜ…尾行しとくか」

117キャプテン:2022/11/07(月) 22:04:30
…「ご馳走さん、お代ここ置いとくぜ…。」
ラーメンの汁を飲み干し、のれんをくぐる。
「…って、誰もいやしねぇがな。」
「お兄さん、こちらもダメです。避難したにしても、マジモンの姿も無いというのは奇妙です。出店もそのままです…ラーメン食べてました?」
「…げぷっ。」
ゴゲットから顔を逸らし、サッキが鼻を塞ぐ。
「第5から続くパイプ通路から楽に来られたが、人っ子一人居やしねぇ。まさか…遂に過酷な労働環境に耐えかねてストライキを!!!」
「ですが一人も居なくなる理由にはなりません。」
「…まじめに返された(見え見えの罠…か?)」

第6工場、パイプ街。
巨大な鉄パイプ内側でできた通路街、治安が悪いらしくあちこちの壁面に『落書き』が目立つ。出店が賑い、壁に扉が連なる居住空間。

…だが現在は誰一人として…そこにはいなかった。

118ノートン:2022/11/20(日) 13:49:20
「…どうする?この工場調べるか?明らかに敵の匂いプンプンだけどな」
「何かあったのは間違いないですからね。調べましょう」
「2手に分かれるか?」
「いえ、単独行動は危険です。一緒に行動しましょう」

工場の奥へと進む2人。パイプで出来た、古ぼけた教会が目の前に現れた。
「パイプの教会か…凄いな。どうする?久しぶりに神にでも祈るか?」
「観光に来たんじゃ無いですよ?まぁとりあえず入ってみましょうか。何か手掛かりがあるかもしれないし」

119キャプテン:2022/11/27(日) 15:19:18
「…どうしたサッキ?」
「『文字』が…いいえ、『文字が動く』わけありません。」
「薬物乱用による幻覚症状、現行犯逮捕だな。」
「…それではお兄さんを誤認逮捕で訴えます。」

…パイプでできた異様な教会の中にゴゲットとサッキが入っていく。シャンデリアの明かりに照らされ…老人や若者、少年少女や大人の男女など様々な年代が床に倒れているのが見えた。
「おい、大丈夫かオッサン?アンタ達はパイプ街の住人か?」
「は?何言ってる?ここは…ここは?俺は?」
呆然とする男性。突如、体をさすりながら辺りを見渡し恐怖の形相になる。
「モジ…モジ…イヤだ…何も思い出せない…!!!」
ゴゲットとサッキが顔を見合わせる。
「『記憶障害』でしょうか…そして…。」
「『モジ』って何だ?」

すると男性の全身を『黒い文字』が埋め尽くした。

120ノートン:2022/12/07(水) 16:54:24
「何だ…文字!?」
すぐさま2人は男から離れる。別の場所でも、文字に覆われる男や女がいた。

「次々と文字に襲われてるだと!?ブラックライフの連中が早速出やがったか!」
「とにかく危険です!この建物から逃げますよ!!」

急いで教会から脱出するゴゲットとサッキ。しかし…。
「お兄さん!?その腕…いつのまに!?」

ゴゲットは慌てて自分の腕を見る。右腕に、モゾモゾと文字が蠢いていた。

121キャプテン:2022/12/17(土) 21:26:27
『パイプ街』…『教会』…『ラーメン』…ゴゲットの腕の文字が分裂し、そんな文字が現れる。
「サッキ…ここ、どこだ?何食べたっけ俺?」
「お兄…さん?」
「近づくなサッキ?!この文字は記憶…を…」
ゴゲットの体が増殖する文字に覆われていく。ゴゲットが文字を払ったり、『集蟲力』で攻撃しようとする。だが動く文字は無傷で壁や床、体を平面に蠢くばかりだ。

「…マジモン…本体…を…探さ…。」
ゴゲットが突然、中空を見つめたままボーッとし、瞼を閉じて膝から崩れ落ちた。
「お兄さん!!」
突如、ゴゲットが瞼を開く。
「アンタ…誰だ?」
そしてゴゲットは意識を失った。

122ノートン:2022/12/25(日) 13:29:34
「ちょっと、お兄さん!?」
気を失ったゴゲットを、サッキは揺さぶった。
「毎度毎度!お決まりみたいに!戦いの度に気を失わないで下さいよっ!取り残される私の身にもなりなさいよ!!」
サッキは何度もゴゲットの顔面を叩くが、ゴゲットの意識は戻ってくる事は無かった。

「私1人でやるしか無い!でもどこにいる!?」
サッキはダンゴムシを出現させる。辺りを見渡しても、怪しい人影は見つからなかった。

その間にも、文字はゆっくりと、だが確実にサッキに近づいていた。

123キャプテン:2022/12/29(木) 09:51:03
サッキが虫達磨の球を両手のひら同士で高速に跳ねさせ、撃ち出す。壁の『文字』に当たるが、ヒビ割れた壁を平たく蠢くばかりだ。
「やはり物理はダメですか…とりあえず。」
サッキが地面に虫達磨を何度も跳ねさせ、それを足場に高さを足していき、教会の屋根へと登る。そして虫達磨を投げ、高速であちこちの壁や天井、床へと跳ねまわらせる。
「(マジモンはどこ?…この高さから見渡しても人一人いません。…虫に探索させても人の感触には当たりません。いったい…パイプ街のどこに?)」

ザザザ…

教会をつたい、『文字』が屋根までくる。
「だいたい、なぜ教会で気絶していた人々は、襲われなかったのですか?目を覚ました男性やお兄さんは襲われて…『目を』…?!」

サッキの足元まで大量の『文字』が迫る。

124ノートン:2023/01/04(水) 19:53:49
「私の考えが正しければ…」
サッキは目を閉じる。

5秒、10秒…時間が経過しても、サッキの体に変化は無かった。
「やはりそうですか。敵の文字は目で見ると攻撃してくる!」

弱点の一端を突いたサッキ。しかし、ピンチである状況に変わりは無かった。
「結局敵本体を叩かなければ状況は変わりません…どうにか突き止めなければ…」

125キャプテン:2023/01/16(月) 08:53:21
アンタ…誰だ?…気絶するゴゲットの姿。

サッキが頭を振る。
「(目を閉ざしたせいで、嫌なことを思い出してしまいます。大丈夫です。お兄さんの記憶は元に戻ります…きっと!!)」…

…「(アトお姉ちゃん大丈夫、モドリできるよ。)」パイプが大量に集合し、繋がった空っぽのタンク内。パイプを通り複数の文字が、中央にいる少女、モドリの持つ『本』へと集まる。
「(教会に避難してた…残りの街人達の記憶も奪い終わったかな。後は仲間の虫を寄生させて、マジモンにすればいい。)」

ズガンッ!!…突如、一つのパイプ通路から球状の物体の残像が飛び出し、モドリの持つ本に当たり、落とさせた。

…外では目を瞑ったサッキがパイプの入口を睨む。
「見つけました。大変でしたが、虫達磨にパイプ内を全て探らせましたよ。」


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