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避難所用SS投下スレ11冊目

1名無しさん:2014/02/18(火) 02:41:49 ID:0ZzKXktk
このスレは
・ゼロ魔キャラが逆召喚される等、微妙に本スレの趣旨と外れてしまう場合。
・エロゲ原作とかエログロだったりする為に本スレに投下しづらい
などの場合に、SSや小ネタを投下する為の掲示板です。

なお、規制で本スレに書き込めない場合は以下に投下してください

【代理用】投下スレ【練習用】6
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1279437349/

【前スレ】
避難所用SS投下スレ10冊目
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/9616/1288025939/
避難所用SS投下スレ9冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1242311197/
避難所用SS投下スレ8冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1223714491/
避難所用SS投下スレ7冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1212839699/
避難所用SS投下スレ6冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1205553774/
避難所用SS投下スレ5冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1196722042/
避難所用SS投下スレ4冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1192896674/
避難所用SS投下スレ3冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1190024934/
避難所用SS投下スレ2冊目
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1186423993/
避難所用SS投下スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1184432868/

253ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/20(日) 23:17:15 ID:EQT.khtE
 危ないところで身を翻して光線をかわした才人に、バルキー星人が飛びかかってくる。
『シャアッ!』
「うおッ!」
 バルキー星人の剣先が才人の頬をかすめ、切れた皮膚から血が垂れた。さすがに、光線の雨から
逃れながらバルキー星人の相手をするのは苦しすぎる。かと言ってゼロに変身している暇はない。
「汚すぎるわ……!」
 憤るルイズたちだが、拘束は緩まないので見ているだけしか出来ない。それがますます悔しかった。
『ハッハー! 今度こそミーの勝ちだぁーッ!』
 光線の猛撃を防ぐことで手一杯な才人の隙を窺い、バルキー星人が剣を振り上げ襲いかかろうとする!
「パムー!」
 だがその瞬間に、小動物が飛びかかってバルキー星人の顔面に張りついた。
『おわぁーッ!? な、何事だぁー! 前が見えねぇーッ!』
「ハネジロー!」
 視界をふさがれて狼狽えるバルキー星人。才人を助けたのはハネジローだった。小さな身体を
活かして、隠れながらついてきていたのだ。
 才人はこの機を逃さず、光線を跳び越えてルイズたちを縛るケーブルを切断して六人を救出した。
同時に懐から出した杖を手渡す。
「ほら、お前たちの杖だ!」
「ありがとう、サイト!」
 タバサも床に打ち捨てられてあった自身の杖を拾い上げ、五人が素早く呪文を唱えて魔法攻撃を
繰り出し、ビームガンを全て破壊した。
『うげぇッ!?』
 ハネジローを振り払ったバルキー星人がこれを目撃してたじろいだ。
 才人はルイズたちとともに得物を向ける。
「さぁ、観念しろバルキー星人!」
 一気に劣勢に転じたバルキー星人だったが、降参はしなかった。
『シーット! まだだッ! まだ最後の切り札が残ってるぜぇーッ!』
 再び煙を発してこの場から消えるバルキー星人。才人が即座に飛びかかったのだが、一歩遅く
逃げられてしまった。
 やむなく才人は、ルイズたちの方へ振り返って言いつけた。
「外でシルフィードが待ってる! それに乗って脱出しろ! 俺はこの船をどうにかする!」
「サイトはどうやって逃げるの!?」
 事情を知らないティファニアとモンモランシーが才人の身を案じた。才人は安心させるように
笑いかける。
「俺なら大丈夫さ。それより早く! バルキー星人が次にどんなことをしてくるか分からねぇ!」
「でも……!」
「サイトを信じてあげて! さぁ、急ぐわよ!」
 ルイズたちがティファニアとモンモランシーの手を引き、ハネジローの先導の下にコンピューター
室から甲板に向かって駆け出していった。
 ルイズたちがこの場から脱すると、才人は素早くウルトラゼロアイを出して、顔面に装着した。
「デュワッ!」
 そしてルイズたちを乗せたシルフィードが飛び立ってバラックシップから離れると、
ウルトラマンゼロがバラックシップを内側から突き破って空に飛び上がった!
「セアァァ―――――ッ!」
 内側から破壊されたバラックシップは爆発の連鎖を起こし、木端微塵に吹っ飛んだ。

254ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/20(日) 23:19:11 ID:EQT.khtE
 バラックシップを破壊したゼロはシルフィードとともに、陸地へと向かって飛んでいった。

 海底ではミラーナイトとグレンファイヤーが、グビラとディプラス相手に激しく戦っていた。
『ミラーナイフ!』
 ミラーナイトがこちらに猛然と泳いで迫ってくるグビラにミラーナイフを繰り出す。
「グビャ――――――――!」
 しかしグビラのドリルは光刃を容易く弾き返した。更にミラーナイトの展開したディフェンス
ミラーをも簡単に突き破って、ミラーナイトを突き飛ばす。
『ぐはッ! 恐ろしい威力だ……!』
 グビラの一番の武器たるドリルの強力さに舌を巻くミラーナイト。グビラはターンして
再びミラーナイトに迫ってきた。
「グビャ――――――――!」
『……!』
 それに対しミラーナイトは、下手に動じずにどっしり腰を構えてグビラを見据える。そして
彼我の距離がギリギリまで縮まったその時、
『はぁぁッ!』
 ジャンプしてグビラの軌道から逃れるとともに、すれ違いざまに鋭いチョップをドリルに
叩きつけた。
 横向きの力が加えられたドリルは根本から綺麗に折られた!
「グビャ――――――――!?」
 グビラはドリルを折られると同時に気力まで折られ、あたふたと慌てるばかりだった。
振り返ったミラーナイトが不敵に告げる。
『ですが、一芸に頼り過ぎましたね』
 そして腕を水平に薙いで、とどめの攻撃を放つ。
『シルバークロス!』
 十字の刃がグビラを貫通し、グビラは海中で爆散して水泡と変わった。
 グレンファイヤーはディプラスの顔面を狙って鉄拳をお見舞いする。
『どおらぁッ!』
「キャア――――――――!」
 パンチはクリーンヒットしたが、細長い身体をゆらゆらとうごめかすディプラスは衝撃を逃がし、
さほど効いている様子を見せなかった。
『くっそー、掴みどころのねぇ奴だぜ!』
「キャア――――――――!」
 更にディプラスは素早くグレンファイヤーの身体に巻きついて、彼をギリギリと締め上げる。
「キャア――――――――!」
『何! くっそ、こんぐらいでこの俺が参るか……!』
 耐えるグレンファイヤーだが、ディプラスはそこに触覚からの電撃光線まで浴びせた。
「キャア――――――――!」
『ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
 この同時攻撃にはタフなグレンファイヤーもたまらず悲鳴を発した。
 ……しかし、それでも彼は立っていた!
『面白れぇ……このまま耐久勝負といこうじゃねぇか! ファイヤァァァ―――――――!!』
 グレンファイヤーは巻きつかれたままファイヤーコアを滾らせ、己の体温を急激に上げていった!
「キャア――――――――!?」
 今度はディプラスの方がたまらなくなって離れようとしたが、細い胴体をグレンファイヤーが
鷲掴みにして逃がさなかった。
『おっとぉ! 掴みどころはちゃんとあったなぁッ!』
 そのままどんどんと加熱するグレンファイヤー。やがて熱がピークに達すると、ディプラスの
耐久が限界に来て、瞬時に爆発を起こした。
『へッ、どんなもんだ!』
 ディプラスを撃破したグレンファイヤーが高々と見得を切った。

255ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/20(日) 23:22:05 ID:EQT.khtE
 高空では、ジャンバードとフライグラーが熾烈なドッグファイトを展開していた。
『ビームエメラルド!』
「クアァ――――――!」
 ジャンバードの銃身から放たれたビームエメラルドと、フライグラーが口から吐き出した
水流波が衝突。相殺され、ジャンバードとフライグラーは羽をぶつけ合ってすれ違う。
『むぅ、やるものだ……!』
 うなるジャンバード。しかし彼の電子頭脳はフライグラーの弱点を見破ったのだった。
「クアァ――――――!」
 反転したフライグラーがジャンバードに再度水流波を繰り出そうとする。……その直前に、
首元のエラが開かれて空気を大量に吸引する。
『今だッ! ジャンミサイル!』
 そのタイミングを狙って、ジャンバードは一発のミサイルを発射。ミサイルは横から回り込んで、
フライグラーのエラに爆撃を加えた。
「クアァ――――――!?」
 フライグラーは水流波を放つために、エラから空気を吸引して水分を蓄える。だがそのエラが
弱点でもあったのだ。
 バランスを崩したフライグラーは地表にまっさかさまに落下していくが、体勢を立て直して
着地に成功した。
 しかしそこに変形したジャンボットが急速に飛びかかってくる!
『ジャンブレード!』
 降下の勢いを乗せたジャンブレードが振り下ろされ、フライグラーの身体を袈裟に切り裂いた。
フライグラーは声もなく爆破される。
 フライグラーを討ち取ったジャンボットはもう一度飛び上がって、砂浜の方向へ飛んでいった。

 ゼロ、ミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボットが順番に波打ち際に着水。すると
それを見計らったかのように、バルキー星人が彼らの面前に出現した。
『やるもんだなぁ、ウルティメイトフォースゼロ! あれだけの用意を、あっさりと打ち破りやがって!』
『バルキー星人、いい加減に観念しな! 俺たちに挑もうなんて十万年早かったんだよ!』
 人指し指を向けて宣告するゼロ。だがバルキー星人は失笑した。
『言ったよな? まだ切り札があるってな! 今からそれを見せてやるぜぇーッ!』
 バルキー星人が指を鳴らすと、海の方から巨大な気配が接近してくるのにゼロたちは気づいて、
咄嗟に振り返った。
『まだ怪獣がいたってのか!』
 戦闘態勢を取り直す四人。そして、海面を破って彼らの前に現れた巨大怪獣の正体とは――。
「グアァ――――――――!」
 青いゴツゴツとした体表に、頭部に三本の鋭い角、背筋には魚類のもののようなヒレ、
そして顔面に爛々と燃えるように輝く真っ赤な眼を持った怪獣。ゼロたちはこの怪獣が
前に現れると、思わず身震いをした。
『な、何だあの怪獣は……!? 尋常じゃねぇ闇の力をその身に宿してるぜ……!』
 四人はバルキー星人が呼び出したのが、ただの怪獣ではないことを察した。野生に生息している
通常の生態の怪獣ではあり得ないような、暗黒の波動を全身から発しているのだ!
『ハーハハハハハハ! サメクジラだと思った? 違うんだなぁこれがーッ!』
 バルキー星人が愉快そうに高笑いした。
『ミーもこの星の海底でこいつを見つけた時はブルっちまったぜ! 何とも濃厚な闇のパワーを
持ってやがるからな! それで確信したねッ! こいつなら、お前たちウルティメイトフォースゼロも
ぶっ倒せるってなぁーッ!』
 バルキー星人が探し出してきた切り札の怪獣――いや、根源破滅海神ガクゾムが、ウルティメイト
フォースゼロに対して殺意を向けてきた。

256ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/20(日) 23:23:38 ID:EQT.khtE
以上です。
ギャグの導入からえらい展開へ。

257名無しさん:2016/11/23(水) 18:39:45 ID:jEuqpAb2
乙です 
前回のことだけど、リアルなタコそのもの(撮影に使ったのは本物)のスダールがルイズたちを襲うって絵的にかなりヤバいですね

258名無しさん:2016/11/23(水) 18:44:05 ID:VvSqxapE
黒岩省吾 「君は知っているか!?
       葛飾北斎の『蛸と海女』に出てくる蛸は実はメスだという事を!!」
(なんでも蛸の吸盤が雌のそれらしい、まあ北斎がその辺知らなかった可能性あるけど)

259名無しさん:2016/11/23(水) 23:26:44 ID:cpvbu0Zk
乙です
バルキーよ、下手に環境をいじったりして伝説2大怪獣が来ても知らんぞ

261ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/28(月) 21:47:01 ID:w9tfUn6g
こんばんは、焼き鮭です。引き続きここに投下します。
開始は21:50からで。

262ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/28(月) 21:50:12 ID:w9tfUn6g
ウルトラマンゼロの使い魔
第百二十六話「輝け!ウルティメイトフォースゼロ」
根源破滅海神ガクゾム
根源破滅飛行魚バイアクヘー
宇宙海人バルキー星人 登場

 異常に暑い日が続き、海に涼を取りにやってきたルイズたち。しかしそれは逆襲を目論む
バルキー星人の罠だった! ルイズたちが人質にされ、才人に海の怪獣軍団が差し向けられたが、
ウルティメイトフォースゼロの力で撃退に成功。ルイズたちも救い出し、残すはバルキー星人
ただ一人かと思われた。
 だがバルキー星人は切り札の怪獣を残していた! しかもただの怪獣ではない。強大な闇の
力を持つ根源破滅海神ガクゾムだ! 暗黒の脅威にどう立ち向かうか、ウルティメイトフォースゼロ!

「グアァ――――――――!」
 海より現れたガクゾムの威容を見上げたルイズたちは、背筋に寒いものが走って一様に震え上がった。
「な、何なのあの怪獣は……! 威圧感が半端じゃないわ……!」
 冷や汗まで垂らしたルイズがそうつぶやいた。彼女たちもまた、生命としての根源的な
本能により、ガクゾムに充満する闇の力に危険を感じ取っているのだった。
 そしてガクゾムの出現とともに、快晴の青空に異常なスピードで暗雲が立ち込め、辺り一帯が
暗黒に覆われていく。
「な、何だこの現象は!?」
「暗くなっただけじゃなく、急に寒くなってきたよ……!」
 突然のことにギーシュがたじろぎ、マリコルヌがブルブル身震いした。暗黒が空を覆うと
ともに、熱がその暗闇に奪われたかのように気温が低下したのだ。
「あの怪獣が、この現象を引き起こしたのか……!?」
 レイナールのひと言に、オンディーヌはますます震え上がった。周囲の環境にまで干渉するとは、
それだけ計り知れないパワーがある証拠。果たしてそんな力を持つあの怪獣に、ウルティメイト
フォースゼロはどう戦うのか。ここから先は、彼らの戦いを見守ることしか出来ない。
「……!」
 オンディーヌが不安を覚える中、ルイズは固唾を呑んでゼロたちの背中を見上げていた。
「グアァ――――――――!」
 ウルティメイトフォースゼロの四人を見据えたガクゾムは、己の両腕を彼らに向けてまっすぐ
伸ばした。
 その腕の先より、怪光弾が発射される!
『うおあぁぁッ!?』
 怪光弾はゼロたちの足元に着弾して凄まじい爆発を引き起こし、四人を纏めて吹っ飛ばした。
『ぐッ……すげぇ威力の攻撃だッ!』
 受け身を取って起き上がったゼロがうめく。
「グアァ――――――――!」
 ガクゾムはそのまま攻め手を緩めず、ゼロを狙って怪光弾を連射する。
『うおおおおッ!』
 光弾の爆発の連続がゼロを襲う!
「ゼロッ!」
 思わず叫ぶルイズたち。ガクゾムの猛攻の前にゼロは反撃に転じる間もなく、ただやられる
ばかりかのように思われたが、しかし、
『はぁッ!』
 そこにミラーナイトが躍り出て、ディフェンスミラーを展開。光弾を防ぎ、ゼロを救った。
 しかしディフェンスミラーも連続する光弾の破壊力の前にひび割れていく。
『くッ、長くは持ちません!』
『それだけで十分だ!』

263ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/28(月) 21:53:16 ID:w9tfUn6g
 ミラーナイトが時間稼ぎをしている間に今度はジャンボットが前に出て、ロケットパンチを飛ばした。
『ジャンナックル!』
 高速で飛んでいったパンチはガクゾムの頭部に炸裂し、ひるませて光弾発射を途切れさせる。
「グアァ――――――――!」
『今度は俺の番だぜ! うらぁぁーッ!』
 隙が出来たところにグレンファイヤーが続き、鉄拳を浴びせた。その衝撃でガクゾムは
後ろによろめいた。
『よぉしッ! てあぁぁッ!』
 更に持ち直したゼロが空高く跳躍し、斜めに急降下してウルトラゼロキックを放った。
その一撃がガクゾムを大きく蹴り飛ばす。
「グアァ――――――――!」
 地面の上に倒れるガクゾム。それでオンディーヌが歓声を上げた。
「おおッ、やった!」
「さすがはウルティメイトフォースゼロだ! あの怪獣相手でも引けを取らない!」
 強い絆で結ばれたチームの連携は抜群で、恐ろしい闇の怪獣の力も押し返していた。
『まだまだ行くぜぇッ!』
 グレンファイヤーが一気に畳みかけようと前に乗り出した。
 がしかし、その瞬間に海面から新たに何かが飛び出してきた!
『んッ!?』
 それはゼロたちほどではないが、人間からしたら十分巨大な平たい魚型の怪獣だった。
そのヒレがハサミ状に変化すると、グレンファイヤーの首を挟み込む。
『ぐえぇぇッ! な、何じゃこりゃあッ!』
 しかも魚型の怪獣は一体だけではなかった。何匹も海から飛び出してくると、グレンファイヤー、
ミラーナイト、ジャンボットの全身に挟みつく。
『みんなッ!』
『うわぁッ!? 何だ、この怪獣は!』
『み、身動きが取れん……!』
 魚型の怪獣はガッチリと三人の身体に噛み込んでいて、動きを大きく阻害する。ゼロは魚怪獣たちが、
ガクゾムの放つ闇の波動に操作されていることに気づいた。
『この魚どもはさしずめ、あの野郎の眷属ってところか……!』
 ゼロの推理した通りであった。名を根源破滅飛行魚バイアクヘー。ガクゾムに指揮される
怪獣であり、ガクゾムの武器でもあるのだ。
「グアァ――――――――!」
 ミラーナイトたちの動きを封じてから、ガクゾムがまたも光弾を撃とうとする。ゼロはそれを
止めるべく、単身ガクゾムに飛びかかっていった。
『さえねぇぜ! せぇぇぇぇいッ!』
「グアァ――――――――!」
 ゼロは宇宙空手の流れるような連撃をお見舞いして、ガクゾムが三人に手出し出来ないように
押し込む。
 だがバイアクヘーはまだまだいた。複数のバイアクヘーが空を飛び回りながらゼロに接近し、
背筋にかすめるように斬撃を食らわせる。
『おわあぁぁッ!』
「グアァ――――――――!」
 思わずのけぞったゼロに、ガクゾムが腕の打撃を浴びせる。今度はゼロがガクゾムとバイアクヘーに
追いつめられる番であった。
「あぁッ! 危ないゼロ!」
 オンディーヌやルイズたちはゼロたちと怪獣の一進一退の戦闘を、ハラハラとした思いで
見守っている。
『くぅッ……!』
 ガクゾムとバイアクヘーの波状攻撃に隙を見出せず、防戦一方のゼロ。そしてガクゾムの
アッパーで宙を舞う。

264ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/28(月) 21:55:26 ID:w9tfUn6g
「グアァ――――――――!」
『ぐはぁッ!』
 だがゼロは吹っ飛ばされて逆さになった姿勢から、ゼロスラッガーを投擲した。
『てぇいッ!』
 ゼロは敵に殴り飛ばされた勢いを逆に利用して攻撃のチャンスに活かしたのだ。しかもスラッガーは
ガクゾムではなく、ミラーナイトたちに纏わりついていたバイアクヘーを切り裂いて三人を自由にした。
『おお、やった! ありがとうゼロ!』
『感謝する!』
『今度は助けられちまったな!』
『へへッ、ざっとこんなもんよ』
 もう同じ手は食らわない。四人は飛んでくるバイアクヘーを片っ端から叩き落とし、近寄ることを
許さなかった。バイアクヘーさえ退ければ、ガクゾムを倒すのは難しいことでもない。
 だが、バイアクヘーの真の能力はここからなのだった!
「グアァ――――――――!」
 ガクゾムが高々と咆哮すると、全てのバイアクヘーはガクゾムの方に集まっていき……
何と、ガクゾムの身体と一体化していった!
『何ッ!?』
「グアァ――――――――!」
 ガクゾムの胸部に、バイアクヘーが変化して出来た装甲が追加され、両腕はカマ状に変化した。
 この姿こそが、ガクゾムの本当の戦闘形態なのである。
「グアァ――――――――!」
 早速両腕のカマから怪光弾を発射するガクゾム。その威力は形態が変化したことに合わせて
向上しており、ディフェンスミラーを一撃で叩き割ってミラーナイトを吹き飛ばす!
『うわぁぁぁぁッ!』
『ミラーナイトッ!』
『こんにゃろぉぉぉーッ!』
 グレンファイヤーとジャンボットが殴り掛かっていくが、ガクゾムが振り回したカマによって
弾き返されてしまった。
『おわあああッ!』
『ぐあぁッ!』
『グレンファイヤー! ジャンボットッ! このッ!』
 ゼロが三人の仇討ちとばかりにワイドゼロショットを発射。
「セアァッ!」
「グアァ――――――――!」
 だがガクゾムの胸部装甲が、ワイドゼロショットを全て吸収した!
『何だとッ!?』
 ガクゾムは光のエネルギーを闇に変え、暗黒光線をゼロに撃ち返す。
『うわああああ――――――――――ッ!』
 あまりに強烈な一撃に、ゼロもまた大きく吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。大きな
ダメージを受けたことで、カラータイマーが点滅する。
「ああッゼロぉッ!」
 ルイズたちの悲鳴がそろった。一方でガクゾムの背後に控えるバルキー星人は、愉快そうに
高笑いを上げる。
『ナ――――ハッハッハッハッハッ! 思った通り、いやそれ以上のパワフルさだぜぇーッ! 
さぁ、ウルティメイトフォースゼロにとどめを刺すんだッ!』
「グアァ――――――――!」
 すっかり気を良くしたバルキー星人が命ずると、ガクゾムはカマに闇のエネルギーを充填し、
「グアァ――――――――!」
 一気に発射した!
 ……ただし、バルキー星人の方にだ!
『なぁぁ――――――――――――――ッ!?』

265ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/28(月) 21:57:40 ID:w9tfUn6g
 完全に予想外のガクゾムの行動にバルキー星人は対応できず、怪光弾をもろに食らってしまった。
そして瞬時に爆散して、消滅してしまう。
『なッ……!?』
 あまりのことに驚愕するゼロたち。ガクゾムは強力すぎて、バルキー星人に制御し切れる
怪獣ではなかったのだ。
「グアァ――――――――!」
 バルキー星人を抹消して、ますます獰猛さを駆り立てるガクゾムの様子に身を強張らせるゼロたち。
『何という凶暴性……! あんなものを野放しにしていては、ハルケギニアは滅茶苦茶に
なってしまいます……!』
『うむ……! 絶対にここで食い止めねばならんな……!』
『やるこたぁ一つだけだッ! シンプルに、ぶっ倒すまでよッ!』
『ああ! みんな行くぜぇッ!』
 立ち上がったゼロたちは戦意を奮い立たせ、改めてガクゾムに挑んでいく。
『おおおおおおおッ!』
 光線技は吸収されてしまうので撃つことは出来ない。そのため四人は敢然と肉弾戦を仕掛けていく。
「グアァ――――――――!」
 しかしガクゾムは単純なパワーも底上げされているのだ。グレンファイヤーの拳でさえ
ガクゾムは揺るがず、カマの振り回しや蹴り上げで四人を片っ端から薙ぎ倒していく。
『ぐわぁぁッ!』
『ぐッ、ジャンミサイル!』
『であぁぁッ!』
 ジャンボットがミサイルを、ゼロがスラッガーを飛ばした。しかしこれらもカマに叩き落とされ、
通用しなかった。
「グアァ――――――――!」
 ガクゾムは両腕を伸ばし、カマの先端から光弾を乱射。ゼロたちを四人纏めて爆発の中に呑み込む。
『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
 四人掛かりでも、強化されたガクゾムの前に追いつめられる。ガクゾムは戦っていく内に
消耗するどころか、どんどんと力を上昇させているようにすら見えた。
 そしてガクゾムが暴れるにつれて、空を覆い隠す暗闇の濃度が上がっていくようだった。
「こ、このままではまずいぞッ! やられてしまうッ!」
「この世は闇に閉ざされてしまうのか……!?」
 オンディーヌは冷や汗で汗だくになっている。周囲を覆う暗闇が、彼らの心をも弱気にさせているのか。
 しかしそこに、ルイズがそんな弱気を吹き飛ばすかのような大声で唱えた。
「いいえ! そんなことにはならないわ!」
 ルイズの表情には、こんな状況になっても消えずに光り輝く希望と、ゼロたちへの固い
信頼が窺えた。
「ゼロたちの光は、どんな暗闇にも負けることはない! それを何度もわたしたちに見せて
くれたじゃない!」
「ルイズの言う通りだわ。ゼロたちはあんな乱暴な奴に屈したりはしないわよ!」
 ルイズの意見にキュルケを始めとして、シエスタ、タバサらが賛同を示した。
 彼女たちは知っているのだ。幾度もの戦いの中から目にしてきた、ゼロたちの本当の意味での強さ。
そしてその強さに信頼を置き、それが希望につながっている。
 ゼロたちを信じるルイズは、彼らに応援の言葉を叫んだ。
「がんばって、ゼロぉぉッ!」
 すると爆炎の中から……ウルティメイトフォースゼロの四人が堂々と立ち上がった! 
そして口々に語る。
『まだまだこんなものでは負けませんよ……!』
『我らを応援する声がある。その期待は裏切らん!』
『いい気になってんじゃねぇぜぇ! こっからが俺たちの底力が発揮する時だッ!』

266ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/28(月) 22:00:12 ID:w9tfUn6g
『闇の化身め。見せてやるぜッ! 俺たちの光をッ!!』
 ゼロが叫ぶと、四人の身体から光が溢れ出始めた。その光は徐々に高まるとともに、四つが
合わさって大きな一つになっていく。
「グアァ――――――――!?」
 これを見たガクゾムは己にとっての危険を感知したのか、先ほどまで以上の勢いで怪光弾を
放って四人を攻撃する。だが彼らの光はガクゾムの攻撃によっても消えることはなかった。
『よぉし、行くぜぇみんなッ!』
『はい!』『うむ!』『おぉッ!』
 ゼロの号令により、四人は同時に地を蹴った。そうして四人が星の如き輝きの巨大な光の
弾丸となって合体する。これぞウルティメイトフォースゼロの力と心、そして光が一つに
なった時に使用することが出来るとっておきの切り札、ウルティメイトフォースゼロアタックだ! 
相乗効果によって増幅された光の威力は、闇の存在に対して計り知れない効果を発揮する!
『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
 合体した四人は流星さながらの勢いで飛んでいき、怪光弾をはねのけてガクゾムに正面から激突した!
「グアァ――――――――!!」
 最大威力の体当たりを食らったガクゾムは、四人の光を吸収することも出来ず、木端微塵に
なって吹っ飛んだ!
「おおおおおッ!」
 あっと驚かされるオンディーヌ。ガクゾムを見事粉砕したゼロたちは元の状態に分かれ、
砂浜の上に着地した。
『やったな……!』
『ええ。見て下さい、空も晴れていきます』
 ミラーナイトの言う通り、ガクゾムの撃破とともに暗黒に包まれていた空に太陽の明かりが戻り、
元の青空が帰ってきた。
 まばゆい日差しを浴びたことで、全ての危険が去ったことを実感したオンディーヌが大歓声を上げた。
「おぉッ! 太陽の光だぁッ!」
「やったぞぉー! ゼロたちの勝利だぁーッ!」
「ありがとう、ウルティメイトフォースゼロ!」
 ゼロたちに向かって大きく手を振るギーシュたち。ルイズ、シエスタ、タバサ、キュルケの
秘密を知る者たちも、ゼロたちを見上げてうなずいた。
 彼らに向かってうなずき返したゼロたちは、まっすぐに空高くに向かって飛び上がり、
この場から引き上げていった。
「……おぉーい! みんなー!」
 そして才人が大きく手を振りながら、波打ち際を走ってルイズたちの元に戻っていった。
振り返ったギーシュが言う。
「あッ、きみ、今戻ってきたのかい! 全く、何というか、きみはいつも間が悪いな! 一番いい
ところにいないのだから」
「ああ、ゼロたちはもう帰ったのか。いやぁ、今度はどんなすごい戦いしたのか見たかったなぁ」
 すっとぼける才人に、ルイズが近寄っていって呼びかけた。

267ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/28(月) 22:02:11 ID:w9tfUn6g
「サイト、ありがとう。また助けてもらっちゃったわね」
 才人はルイズにニッと笑い返した。
「いいってことだよ。何たって、俺はお前の使い魔なんだからな」
 戦いが終わり、才人も戻ったところで、オスマンがホッホッと笑いながら言葉を発した。
「いやはや、全くとんだ慰安旅行になってしもうたが、諸君が無事でひと安心じゃわい。
さて、これで暑さともお別れじゃから、着替えて学院に帰ろうではないか。皆、忘れ物の
ないようにするんじゃぞ」
「分かりました、オールド・オスマン!」
 オスマンの後に続いて宿に戻ろうとするオンディーヌの背中に、キュルケが呼びかける。
「あらあなたたち、何か忘れてるんじゃないかしら?」
「えッ、何か忘れてるって……」
 ギーシュたちは、女子が一様に自分たちに冷たい眼差しを向けていることに気がついた。
「あたしたちを着せ替え人形みたいにして弄んだ罰がうやむやになったままだわ」
「学院に帰ったら、先生たちに掛け合ってあんたたちの奉仕活動の期間を伸ばしてもらうからね! 
オールド・オスマンにも処罰を受けてもらいますよ!」
 モンモランシーが憤然として言いつけた。それでギーシュたちはガビーン! とショックを受ける。
「そ、そんなモンモランシー! 勘弁してくれ! ぼくらはきみたちを助けたじゃあないか!」
「何が助けた、よ! サイト以外は何もしなかったでしょ!?」
「そ、それはなりゆき上そうなっただけだよ! 助けたい気持ちはぼくたちにもちゃんとあったさ!」
「言い訳しないッ!」
「わしは学院長で、しかも老体じゃぞ!? ちょっとは労わってほしいのう……」
「学院長でも老体でも、何をしてもいいことにはなりませんよ! そもそもの元凶はあなた
でしょうが!」
 モンモランシーにきつく叱られ、しょんぼりと肩を落とすオスマンだった。
 才人の方も、ルイズにこう言いつけられる。
「あんたも帰ったら、わたしたちにご奉仕をしてもらおうじゃない。メイドの格好して働いて
もらおうかしら」
「えぇッ!?」
「あッ、それいいですね! ミス・ヴァリエール!」
 シエスタはノリノリで乗っかったが、当の才人はルイズに抗議。
「そりゃあんまりだろ! 俺、お前たちのために命懸けで頑張ったのに!」
「それとこれとは別よ! いい加減すぐ調子に乗る癖、ちゃんと反省して改善しなさい!」
 ルイズにきつく叱りつけられ、負い目のある才人は反論できずにがっくりうなだれた。
その様子にシエスタたちは思わずアハハハとおかしそうに笑う。
 そうして一行は、肩を落とす者と笑う者を交えながら、魔法学院へと帰っていったのであった。

268ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/11/28(月) 22:03:19 ID:w9tfUn6g
以上です。
今回はひたすら戦ってるだけだった。

269名無しさん:2016/11/29(火) 21:24:24 ID:3VjH25UM
おつ

270ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:32:05 ID:p55OrQ4w
どうも、今晩は。無重力巫女さんの人です
特に支障が無ければ、21時35分から77話の投稿を始めたいと思います

271ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:35:03 ID:p55OrQ4w
 
 何処からか吹いてくる、涼しくて当たり心地の良い風が自分の頬と髪を撫でている。
 それを認識していた直後に、ルイズは何時の間にか自分が今まで意識を失い、今になって目覚めた事を理解した。
「ン、―――――ぅん…?」
 閉じていた瞼をゆっくりと上げて、その向こうにあった鳶色の瞳だけをキョロキョロと動かしてみる。
 上、下、右、左…と色んな方向へ動かしていくうちに、自分の身体かうつ伏せになっている事に気が付く。
 そして同時に一つの疑問が生じた。それは、今自分が何処にいるのかという事についてだ。

「………どこよ、ここ?」
 重く閉ざしていた口を開いてそう呟いた彼女の丸くなった目には、異空間としか形容できない世界が広がっていた。
 目に見えるものは全て、自分が横になっている床や天井すらもまるで雪のような白色に包まれた場所。
 今自分の視界に映っている手意外に目立つモノはないうえに色も全て白で統一されている所為かその空間の大きささえ分からない。 ゜
 ここは…?そう思って体を動かそうにも、不思議な事にどんなに手足へ力を入れても立つことはおろか、もがくことすらできない。
 体が動かなければ立ち上がって調べる事も出来ないために、ルイズはその場で悶々とした気持ちを抱える事になってしまう。
「あぁ、もうッ。体が動かないんじゃあここが何処かも分からないわよぉ…たくっ!」
 とりあえずは自由に動く顔に残念そうな表情を浮かべつつ、ルイズはそんな事を言った。
 彼女の残念そうな呟きを聞く者は当然おらず、言葉の全てが空しい独り言として真っ白い空間に消えていく。

 それから少ししてか、ふと何かを思い出したかのような顔をしたルイズがここで目覚める直前の事を思い出した。
 シェフィールドと名乗る女がけしかけてきたキメラ軍団を、霊夢や魔理沙にちぃ姉様の知り合いと言う女性と共に戦っていた最中、
 突如乱入してきた風竜に攫われて他の三人と別れた後に、彼女は風竜に乗っていた人物を見て驚愕していた。

――――――ワルド…ッ!?やっぱり貴方だったのね!
――――――やぁルイズ、見ない間に随分とタフになったじゃないか

 トリステインを裏切り、あまつさえアンリエッタ王女の愛する人を殺した男との再会は酷く強引で傲慢さが見て取れるものであった。
 それに対する怒りを露わにしたルイズの叫びに近い言葉も、その時のワルドには微塵も効きはしなかったようだ。
 無理もない。何せその時の彼は竜の上に跨り、一方のルイズはその竜の手に掴まれている状態だったのだから。
 どんなに迫力のある咆哮を喉から出せる竜でも、檻の中では客寄せの芸にしかならないのと同じである。

――――私を攫ってどうする気?っていうか、さっさと降ろしなさいよ! 
―――――それはできない相談だ。君がいないど彼女゛が僕を目指してやってきてくれないだろうからな

 竜の腕の中でジタバタしながら叫ぶルイズに、ワルドは前だけを見ながらそう言っていた。
 あの男の言う゛彼女゛とは即ち――あのニューカッスル城で、自分に手痛い目を合わせた霊夢の事に違いない。
 少なくとも魔理沙とは面識が無いであろう、プライドが高く負けん気の強いこの男に手痛い目に合わせだ彼女゛といえばあの紅白しか思いつかなかった。
 そんな事を思っていた直後、今まで自分をその手で掴んでいた竜がフッと握る力を緩めたのが分かった。
 え?…っと驚いた時、竜の手から自由になったルイズの体はクルクルと回りながら柔らかい草地へ乱暴に着地した。
 キメラ達との戦いで切られてボロボロになったブラウスに草が貼り付き、地面に触れた傷口が激しく痛む。
 
 地面へ着地して二メイル程回ってから、ようやく彼女の体は止まった。
 ボロボロになったルイズは呻き声を上げた蹲る事しかできず、立ち上がる事さえままならぬ状態であった。
 そんな彼女を尻目に乗っていた風竜から飛び降りたワルドはスタスタと歩きながら、彼女のすぐ傍で立ち止まった。
 足音であの男が近づいてきたと察したルイズはここに至るまで手放さなかった杖を向けようと手を動かそうとする。 
 しかし、そんな彼女のささやかな抵抗は一足先に自分の顔へレイピア型の杖を向けてきたワルドによって止められた。

272ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:37:05 ID:p55OrQ4w


――――無駄だ。所詮学生身分の君じゃあ、元魔法衛士隊の私とでは勝負にならんぞ
――――…っ!そんなのやってみなきゃ…わからない、でしょう…が

 体中がズキズキと痛み続ける中、自分を見下ろす男に彼女は決して屈しなかった。
 少なくとも目の前の男に一発逆転を喰らわせだ彼女゛ならば、同じ事を言っていたに違いない。
 痛む体に鞭を打ち、ワルドの杖などものともせずに立ち上がろうとした直前、彼女の目の前を青白い雲が覆った。
 それがワルドの唱えた『スリープ・クラウド』だと気づこうとしたときには、既に手遅れであった。

―――――大人しくしていろよルイズ?少なくとも、あの紅白が来るまではな

 頭上から聞こえてくるワルドの言葉を最後に、ルイズは深い深い眠りについてしまう。
 魔法による睡魔に抗えるワケもなく、急激に重くなっていく瞼を閉じたところで――――彼女の意識は途切れた。
 
 
 再び目を覚ました時には、こんなワケのわからない空間にいた。
 ここに至るまでの回想を終えたルイズは、眠る前に耳にしたワルドの言葉を聞いて悔しい思いを抱いていた。
 どういう経緯で自分を見つけてたのかは知らないが、アイツがレコン・キスタについているのなら警戒の一つでもしておくべきであったと。
 今更悔やんでも仕方ないと頭の中で思いつつも、心の中では今すぐにでもワルドに一発ブチかましてやりたいという怒りが募っている。
 歯ぎしりしたくて堪らないという表情を浮かべていたルイズであったか、どうしたのかゆっくりとその表情が変わり始めた。
 火に炙られて形が崩れていくチーズのように、凶悪な怒りの表情が神妙そうなモノへと変わっていく。
 その原因は、彼女の目が見ているこの場所――――つまりこうして倒れている空間にあった。
 

「―――――にしたって、何で私はこんな所にいるのかしら?」
 その言葉が示す通り、彼女自身ここがどういう所なのか全く分からなかった。
 ワルドの『スリープ・クラウド』で眠った後でここにいたのだから、普通に考えればここは彼女の夢の中という事になる。
 しかし、どうにもルイズ自身はこの変な空間が自分の夢の中だとは上手く認識できなかった。
 無論根拠はあった。そしてそれをあえて言うのならば―――夢にしては、どうにも意識がハッキリし過ぎているのだ。
 これが夢なら今自分の体は暗い夜の草地の上で倒れているはずなのだが、その実感というものが湧いてこない。
 むしろ今こうして倒れているこの体こそ、自分の本物の体と無意識に思ってしまうのである。
 まるでワルドに眠らされた後、何者かによってこのワケの分からない空間へと転移してしまったかのような…――
「…って、そんな事あるワケないわよね」
 自分の頭の中で浮かび上がってきた疑問に長考しそうになった彼女は、気を紛らわすかのように一人呟いた。 
 あまりにも馬鹿馬鹿しく。人前で言えば十人中十人が指で自分を指して笑い転げる様な考えである。
 というか普段の自分なら今考えていたような゙もしかして…゙な事など、想像もしなかったに違いない。
 第一、そんな事を追及しても現実の自分たちが直面している事態を好転できる筈もないというのに。


「とにかく、何が何でも目を覚まさないと…」
 バカな事を考えるのはやめて現実を直視しよう、そう決めた時であった。
 丁度彼女の顔が向いている方向とは反対から、コツ…コツ…コツ…という妙に硬い響きのある足音が聞こえてきた。

273ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:39:06 ID:p55OrQ4w
 
(………誰?)
 突然耳に入ってきたその音に彼女は頭を動かそうとしたが、残念な事に頭も全く動かない。
 その為後ろからやってくる゙誰がを確認することは叶わず、かといってそこで諦めるルイズではなかった。
(このっ、私の夢なら私が動けって思った時に動きなさいってのッ)
 根性で動かそうとするものの、悲しいかなその分だけ視界が目まぐるしく動き回るだけである。
 そうこうしている内に硬い足音を響かせる゙誰がは、とうとう彼女のすぐ傍にまで近づいてきてしまった。
 一体何が起こるのかと緊張したルイズは動きまわしていた目をピタリと止めて、ジッど誰がの出方を疑う。
 だが、そんな彼女が想像していた様な複数の゛もしかしたら゙とは全く違う事が、彼女の身に起こったのである。


―――――聞こえるかい?遥か遠くの未来に生きる僕たちの子


 それは、ルイズの予想とは全く異なった展開であった。
 突然自分の頭の中に響き渡るかのようにして、若い男性の声が聞こえてきたのである。
「え…こ、声?」
 流石のルイズも突然頭の中に入ってきたその声に驚き、思わず声を上げてしまう。
 声からして二十代の前半か半ばあたりといったところだろうか、まだまだ自分だけの人生を築き始めている頃の若さに満ち溢れている声色だった。 

―――――――僕たちが託したこの世界で、過酷な運命を背負わせてしまった子ども達の内一人よ。…聞こえているかい?

 ルイズ目を丸くして驚いている最中、再びあの男性の声が聞こえてくる。
 女の子であるルイズの耳には心地よい声であったが、こんな優しい声を持つ知り合いなど彼女にはいない。
 これまで聞いたことのないような慈しみと温かさに満ちたソレは、緊張という名の氷に包まれたルイズの心を優しく溶かし始めている。
 何故だか理由は分からなかったものの、その声自体に彼女の心を落ち着かせる鎮静作用があるのだろうか?
 声を入れた耳がほんのりと優しい暖かさに包まれていくが、そんな゜時にルイズは一つの疑問を抱いていた。
 それはこの声の主が、自分に向けて喋っているであろう言葉にあった。
 
 遥か遠くの未来?過去な運命…?
 まるで過去からやってきた自分、ひいてはヴァリエール家の先祖が、自分の事を言っているかのような言い方である。
 名家であるヴァリエールの血を貰いながらも、魔法らしい魔法を一つも使えず渋い十六年間を生きてきたルイズ。
 そんな彼女をなぐさめるかのような謎の声にルイズはハッとした表情を浮かべた。
 私を知っているのか?頭の中へと直接話しかけてくる、この声の主は…。
「あなた、誰なの…?」
 思わず口から言葉が出てしまうが、声の主はそれに答える事無く話し続けてくる。

――――――――君ならば、きっとこれから先の事を全て、受け止められる筈だ
―――――――――楽しいことも、悲しいことも、そして…身を引き裂かれるような辛いことも全て…

274ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:41:04 ID:p55OrQ4w
 
 そこまで言ったところで、今度はすぐ後ろで止まっていたあの足音が再び耳に入ってきた。
 コツ、コツ、コツ…と硬く独特な音がすぐ傍から耳に入ってくるというのは、中々キツイものである
 足音の主はゆっくりと音を立てながら、丁度ルイズを中心にして時計の針と同じ方向に歩いているようだ。
 つまり、このまま後数歩進めば自分の頭の上を歩いて足音の主をようやく視界の端に捉えられるのである。
 謎の声に安堵していたところへ不意打ちを決めるかのような足音に多少は動揺を見せたルイズであったが。喉を鳴らしてその時を待った。
 ……三歩、四歩――――――そして次の五歩目で、上へ向けた彼女の視界に足音の正体が見えそうになった瞬間。
 その足音の正体と思しき人影から漏れ出した眩い閃光が、ルイズの視界を真っ白に染め上げたのである。

 まるで朝起きて閉めていたカーテンを開けた時の様に、突き刺すほどの眩い光に彼女は思わず目を細めてしまう。
「―――ッう!」
 呻き声を上げたルイズは目に痛い程の光を見て、今度は何が起きたのかと困惑し始める。  
 そんな彼女を再び安心させるかのように、またもやあの゙謎の声゙が――――今度は直接耳へと入ってきた。
 鼓膜にまで届くその優しい声色が、その鳶色の瞳を瞼で隠そうとしルイズの目を見開かせる。

「僕は、君みたいな子がこの世に生まれ落ちてくるのを待っていたんだ…
 決して自らの逆境に心から屈することなく、何度絶望しようとも絶対に希望を手放すことなく生きてきた、君を―――――」

 まるで生まれてから今日に至るまで、自分の人生を見守って来たかのような言い方。
 そして、足音の正体から広がる光が見開いたルイズの視界を覆い尽くす直前。その声は一言だけ、彼女にこう告げた。


「水のルビーを嵌め…―――始祖の祈祷書を…――――君ならば…―――制御でき―――る…。
  使い道を、間違え…――――あれは、多くの…人を――――無差別に…―――――――殺…せる」

 まるで音も無く消え去っていくかのように遠ざかり、ノイズ交じりの優しい声が紡ぐ言葉は。
 目の前が真っ白になっていくルイズの耳を通り、頭の中へと深くまるで彫刻刀で彫るかのように刻まれていった。



「――――――…はっ」
 光が途絶えた先にまず見えたのは、頭上の暗い闇夜と地面に生えた雑草たちであった。
 服越しに当たる草地の妙に痛痒い感触が肌を刺激し、草と土で構成された自然の匂いが彼女の鼻孔をくすぐる。
 その草地の上でうつ伏せになっていると気が付いた時、ルイズは自分の目が覚めたのだと理解した。
「夢、だったの?…っう、く!」
 一人呟きながら立ち上がろうとするも、まるで金縛りにあったかのように体が動かない。
 そういえばワルドの『スリープ・クラウド』で眠らされたのだと思い出すと同時に、一つの疑問が湧く。
(ワタシ…どうして目を覚ませたのかしら?)
 『スリープ・クラウド』は通常トライアングル・クラスから唱える事のできる高度な呪文だ。
 スクウェアクラスの『スリープ・クラウド』ならば竜すら眠らせるとも言われているほどである。
 ワルド程の使い手の『スリープ・クラウド』は相当強力であろうし、手を抜くなんて言う間抜けな事はしない筈だ。
 なら何故自分は目を覚ませたのであろうか?ルイズがそれを考えようとしたとき、聞きなれた霊夢とデルフの声が耳に入ってきた。

275ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:43:02 ID:p55OrQ4w
 
「あんたねぇ…そういう事ができるなら最初に言っておいてくれない?全く…受け止めろとか言われた時は気でも狂ったのかと…」
『悪い悪い、何せオレっちを使ってくれるとは思ってなかったんでね』

 軽く怒っている様子の巫女と、軽い気分で謝っているインテリジェンスソードのやり取りを聞いて、思わずそちらの方へ顔を動かそうとする。
 『スリープ・クラウド』の影響か体は依然動かないままだが、幸運にも首と顔は何とか動かせるようになっていた。
 ぎこちない動作で声が聞こえてきた右の方へ動かしてみると、霊夢とデルフがあのワルドと対峙しているのが見えた。
(……あっ、魔理沙!)
 その二人から少し離れた所で魔理沙が倒れているのが見えたが、見た所怪我らしいものは見当たらない。
 ただこんな状況で暢気に倒れているという事は、おそらく自分と同じようにワルドの『スリープ・クラウド』で眠らされたのであろう。
 レイピア型の杖を片手剣と同じ風に構えているワルドと、自分よりやや大きめの剣を両手で構えている霊夢。
 その彼女の左手のルーンが微妙に輝いているのと、デルフの刀身が綺麗になっている事に彼女は気が付いた。
(レイム、それにデルフ…って、アイツあんなに綺麗だったっけ?…それに、レイムの左手のルーンが!)
 見間違える程新品になったうあのお喋りな剣の刃先、『ガンダールヴ』のルーンを光らせる霊夢はワルドに向けている。
 それはまるで、あのニューカッスル城で自分を寸でのところで助けてくれたあの時の彼女の様であった。
 


 輝いている。あの小娘の左手のルーンが眩しい程に俺の目の前で輝いてくれている。
 左のルーン…あの時、倒した筈のお前は何もかもをひっくり返して俺をついでと言わんばかりに倒してくれた。
 あの時お前が剣を振るって遍在を斬り捨てていた時、お前の左手が光っているのをしっかりと見ていた。
 光る左手――――それは即ち。かつてこの地に降臨した始祖ブリミルが従えたという四つの使い魔の内の一人。
 ありとあらゆる武器と兵器を使いこなし、光の如き俊敏さで始祖に迫りし敵を倒していったという゛神の左手゙こと『ガンダールヴ』。
 今、俺の目の前にはその『ガンダールヴ』を引継ぎ、尚且つ俺に負け星を贈ってくれた少女と対峙している。
 
 こんなに嬉しかった事は、俺の人生の全てが変わった゛あの頃゙を経験してから初めての事だ。
 何せこれまで思ってきた疑問の一つが、たった今跡形も無く解消したからだ。
 ――――――…ルイズ、やはり君は…只者ではなかった。


「ほう…その左手のルーン、まさかとは思うがあの伝説の『ガンダールヴ』のルーンとお見受けするが?」
「……!へぇ、良く知ってるじゃないの。性格の悪さに反して勉強はしているようね?」
 両者互いに距離を取った状態を維持しながらも、霊夢の左手のルーンに気付いたワルドが質問をしてきた。
 霊夢はまさかこの男が『ガンダールヴ』の事を知っているとは思わなかったので、ほんの少しだけ眉を動かしてそう返す。
 一方のワルドは相手の反応から自分の予想が当たっていた事を嬉しく思いながらも、冷静を装いつつ話を続けていく。

「まぁな。魔法衛士隊の隊長を務められるぐらいに勉強を積み重ねていると、古い歴史を記した書物をついつい紐解いてしまうんだ。
 大昔にあった国同士の大きな戦の記録や、古代にその名を馳せた戦士たちの伝記…そして始祖ブリミルと共に戦ったという゛神の左手゙の話も…な?」

276ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:45:05 ID:p55OrQ4w
 
 霊夢の左手に注視しながらもワルドは王立図書館でその手の本を漁っていた頃の自分を思い出していく。
 あの頃はただがむしゃらに強くなりたいという思いだけを胸に、埃を被っていた分厚い本たちとの戦いが自分の日課であった。
 しかしどんどん読み進めていき、読破した冊数を重ねていくうちに今の時代では学べぬ様な事を覚える事が出来た。
 その当時天才と呼ばれていた将軍や大臣たちが編み出した兵法や戦術の指南書、後世にて戦神と崇められた戦士たちが自らの生き様を記した伝記。
 元々ハルケギニアの歴史や兵達の活躍を元にした舞台や人形劇が好きだった事もあって、彼はより一層読書の楽しさを知る事となった。
 そして水を吸うかの如くそれ等の知識を吸収していったからこそ、今のワルドという人間がこの世にいるのであった。


 そういった本を片っ端から読み進めていく内に、彼はある一冊の本を手に取ることとなったのである。
 巨大なライブラリーの片隅、掃除が行き届いていない棚に差さっていた埃に覆われたあの赤い背表紙に黄色い文字。
 まるで黴の様に本を覆い隠しているソレを何となく手に取り、埃を払い落とすとどういった本なのかを確認した。
 その時はただ単にその本が読みたかったワケではなく、ただこの一冊だけ忘れ去られているのがどうにも気になっただけであった。
 背表紙についていた埃を手で拭うかのように払い取った後、すぐ近くの窓から漏れる陽光の下にかざした。
 
 ――――『始祖ブリミルの使い魔たち』

 ハルケギニアに住む者達なら言葉を覚え始めた子供でも名前を言える偉大なる聖人、始祖ブリミル。
 六千年前と言う遥か大昔に四つの使い魔たちと共に降臨し、この世界を人々が暮らせる世界に造りあげた神。
 そのブリミルと使い魔たちに関する研究データを掲載した本を、彼はその時手にしたのである。
 最初埃にまみれていたのがこの本だと知ると、彼はこの場に神官や司祭がいなかった事を心から喜んでいた。
 この手の本はその年の終わり、始祖の降誕祭が始まる度に増補改訂版が出る程の歴史ある本だ。
 棚に差されていたのは何年か前に出て既に絶版済みのものであったが、これ自体が一種の聖具みたいな存在なのである。

 つまりこの本を教会や敬虔深いブリミル教徒の前で踏みつけたり、燃やしたりするようなバカは…。
 真っ裸で矢と銃弾と魔法が飛び交う戦場へと突っ込んでいくレベルの、大ばか者だという事だ。
 何はともあれひとまず埃を払い終えたワルドは、この本を入口側の目立つ棚へ差し替える前に読んでみる事にした。
 別に彼自身は敬虔深いブリミル教徒ではなかった故に、この手の本は読んだことが無かった。
 まぁその時は時間に余裕があったし、ヒマつぶしがてらに丁度いいだろうという事で何気なくページを捲っていた。
 しかし、その時偶然にも開いたページに掛かれていた項目は、若かりし頃の彼が持っていた闘争心に火をつけたのである。




「『ガンダールヴ』は左手に大剣を、右手に槍を持って幾多の戦士と怪物たちの魔の手から始祖ブリミルを守り通したという…。
 そう、その書物に記されている通りならば『ガンダールヴ』に敵う者たちは一人もいなかったんだ。―――――――ただの一人もな?」

 杖の先をゆらゆらと揺らすワルドがそこまで言ったところで、今度は霊夢が口を開く。 
「だから私にリベンジしてきたってワケ?わざわざルイズまで攫って…随分な苦労を掛けてくれるわね?泣けてくるわ」
 涙はこれっぽっちも出ないけどね。最後にそう付け加えた彼女はデルフを構えたまま、尚も動こうとはしなかった。
 やろうと思えばやれる程度に横腹を蹴られた時のダメージは回復してはいるものの、それでもまだ本調子で動ける程ではない。
 霊夢個人の意見としてはこちらから攻め入りたいと考えていたが、ワルドもまた同じ考えなのかもしれない。
 両者互いに攻め込んでいきたいという欲求をただひたすらに堪えつつ、じりじりと距離を詰めようとしていた。

277ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:48:06 ID:p55OrQ4w
 ワルドは既にやる気十分な彼女を見ながら、呪文を詠唱して再度戦闘準備に取りかかった。
 訓練のおかげで口を僅かに動かす程度で詠唱できるようになった彼の杖に、風の力が渦を巻いて纏わりついていく。
 やがてその力は青白い光となって杖と同化し、光る刃を持つレイピアへとその姿を変える。
「『エア・ニードル』だ。一応教えておくが杖自体が魔法の渦の中心、先ほどのように吸い込む事はできんぞ」
 青白い光で自らのアゴヒゲを照らすワルドの言葉に、霊夢はデルフへ向けて「本当に?」質問する。
『まぁな、でも安心しなレイム。今のお前さんには『ガンダールヴ』が味方してくれている、だからお前さんの様な剣の素人でも遅れは取らんさ。……多分』
「私としては遅れをとるよりも勝ちに行きたいんだけど?…っていうか、多分って何よ多分って」
 喋れる魔剣のいい加減なフォローに呆れながらも、そんなデルフを構え直した直後―――――ー。
 
「それでは…ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、あらためワルド―――推して参るぞ」
 杖を構えたまま名乗ったワルドが、地面を蹴り飛ばして突っ込んでくると同時に霊夢もまたワルド目がけて突っ込む。
 黒と緑、紅と白の影がほぼ同時に激突する音と共にデルフの刀身と『エア・ニードル』を構成する魔力が火花を散らした。

(レイム…!)
 一方で、ワルドが気づかぬ内に目を覚ましていたルイズは二人の戦いをやや離れた所から眺める立場にいた。
 動きたくても未だにその体は言う事を聞かず、指すらくわえることもできずにどちらかの勝敗を見守る事しかできない。
(折角運よく目覚めたっていうのに、これじゃあ意味が無いじゃないの!)
 意識だけはハッキリしている歯痒さと、助けようにも助けに行けない悔しさを感じたルイズは何としてでも体を動かそうとした。
 まるで見えない腕に抑え込まれているかのような抵抗感に押しとどめられながらも、それを払いのけようと必死に体をもがかせる。
 他人が見れば滑稽に見える光景であったが、やっている本人の表情は真剣そのものかつ必死さが伝わってくる。

(動けッ!動きなさいよ…!今目の前に…ウェールズ様の、姫さまの想い人の仇がいるっていうのに…!)
 敬愛するアンリエッタに罪悪感の一つを抱かせ、その後もレコン・キスタにのうのうと所属していたであろうワルド。
 そして今はソイツに攫われた挙句に霊夢たちを誘き寄せる餌にされて、まんまと利用されてしまっている。
 今体が動くなら霊夢の手助けをしてあの男に痛い目を合わせられるというのに、ワケのわからない金縛りでそれが叶わない。
 体の奥底から、沸々と怒りが湧き上がってくる。沸き立つ熱湯が鍋から勢いよくこぼれ出すかのように。
(このまま何もできずに見てるなんて―――――冗談じゃ…ない、わよッ!!)
 積りに積もってゆく苛立ちと憤怒が彼女の力となり、それを頼りに勢いよく右腕へと力を入れた瞬間。
 杖を握ったまま金縛り状態になったその腕がガクンと震えた直後、不可視の拘束から開放された。
「…!」
 突然拘束から解放された右腕から伝わる衝撃に驚いたルイズは、思わずそちらの方へと視線を向けた。
 残りの手足と体より先に自由になった腕は、ようやっと動けた事を喜んでいるかのように小刻みに震えている。
(まさか、本当に動いたっていうの?)
 未だ半信半疑である彼女が試しに動かしてみると、主の意思に応えて腕はその通りに動く。
 腕の筋肉や骨からはビリビリとした痺れのような不快感が伝わって来るものの、動かすことの支障にはならない。
(一体、どういう事なの…?――――…!)
 先ほどの夢といい、ワルドの『スリープ・クラウド』から目が覚めた事といい、今自分の身に何が起きているのだろうか…?
 そんな疑問を頭の中で浮かばせようとするルイズであったが、動き出した右腕の゙手が握っているモノ゙を見た瞬間、その表情が変わった。

278ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:50:15 ID:p55OrQ4w
 
 ルイズ自身、ワルドが゙ソレ゛を自分の手から離さなかったのは一種の気まぐれだったのかもしれない。
 魔法で眠らせている分大丈夫だと高を括ったのか、それともまもとな魔法が使えない『ゼロ』の自分だから安心だと思ったのだろう。
 だとすれば、彼はこの状況で唯一にして最も重要なミスを犯したと言っても過言ではないだろう。
 彼女本人としては、体の自由を取り戻し次第近くに゙ソレ゛が落ちていないか探す予定であったのだから。
(丁度良いわね…探す手間が省けたわ。けれど、一難去ってまた一難…次ばコレ゙をワルドの方へと向けないと…)
 思わぬところで情けを掛けてくれたワルドに心のこもっていない感謝を送りつつ、ルイズはゆっくりと右腕を動かし始めた。
 ゙ソレ゛を手に持った右腕を動かすたびに、力が抜けるような不快な痺れが片と脊椎を通して脳へと伝わっていく。
 まるで幾つもの羽箒でくすぐられているかのような感覚に、彼女はおもわず手に持っだソレ゛を落としてしまいそうになる。 

(我慢…我慢よルイズ!ほんの数サント、そう数サント程度動かすくらい何よ!?)
 歯を食いしばりながらその不快感に耐える彼女は、ゆっくりと腕を動かしていく。
 その手に持っだソレ゛―――――この十六年間共に生きてきた一振りの杖で、母国の裏切り者へ一矢報いる為に。
   

 一方、密かに反撃を行おうとするルイズを余所にワルドは霊夢とデルフを相手にその腕前を発揮している。
 魔力に包まれた杖で見事な刺突を仕掛けてくる彼と対峙する霊夢は慣れぬ剣を見事に使いこなしてソレを防いでみせる。 
 彼女の胸を貫こうとした杖はデルフの刀身によって軌道を逸らされる一方で、袈裟切りにしようとするその刃を『エア・ニードル』で纏った杖で防ぎきる。
 『ガンダールヴ』の力で剣を巧みに操れる様になっている霊夢は、百戦錬磨の武人であるワルドを相手に互角の勝負を繰り広げていた。

「ほぉ。中々耐えているじゃあないか、面白いッ!」
 ワルドからしてみればギリギリのタイミングで防ぎ、的確に剣を振ってくる霊夢の腕にある種の驚きを抱きながら呟いた。
 彼の目から見てもこの小さな少女には体格的にも不釣り合いだというのに、そのハンデを無視するかのように攻撃してくる。
 見ると左手の甲に刻まれた『ガンダールヴ』のルーンは光り輝いているのを見る分、彼女は今伝説の使い魔と同じ能力が使えているようだ。
「く…このっ!さっさと斬られなさいってのッ」
 対する霊夢は、この世界へ来るまで特に興味の無かった剣をここまで使いこなせている自分を意外だと感じていた。
 あくまで話し相手であったデルフは見た目からして彼女には似つかわしくないし、何より重量もそれなりにある。
 背中に担ぐだけならともかく、鞘を抜いて半霊の庭師みたいな攻撃をしようとしても、録に使いこなせないであろう…普通ならば。
 しかしルイズとの契約で刻まれた『ガンダールヴ』のルーンが霊夢に助力し、その小さな体でデルフを使いこなしている。
 本当なら剣の振り方さえ碌に知らなかった彼女は歴戦の剣士の様にデルフを振るい、ワルドと激しい攻防を繰り返していた。
 先ほど御幣で渡り合った時とは違ってワルドの一挙一動が手に取るように分かり、相手のフェイントを軽々と避けれる程度にまでなっている。
 そして本来ならば相当重いであろう剣のデルフを使ってどこをどう攻撃し、どのように振ればいいのかさえ理解できている。
 トリスタニアの旧市街地で戦った時も、ナイフなんて使ったことも無いというのにあれだけ使いこなせたのだ。
 あながちこのルーンの事は馬鹿にできないと霊夢は改めて感じていた。

 他にも彼女の体に蓄積していて疲労や頭痛の類は、まるで最初から幻だったかのように収まってしまっている。
 それに合わせていつもと比べて体が軽くなった様な気がするうえに、この前ルーンが光った時の様な幻聴みたいな声も聞こえてこない。
 これだけ説明すれは『ガンダールヴ』になって良かったと言えるのだろうが、霊夢自身はあまりそういう気持ちにはなれなかった。
(タダほど怖いモノは無いって良く言うけれども、そもそもこんなルーン自体刻まれちゃうのがアレだし…)
 ワルドと切り結びながらも体力が戻った事でそれなりの余裕を取り戻した彼女は、心の中で軽い愚痴をぼやく。
 しかし今更そんな事を思っても時間が巻き戻るワケでもなく、今のところ使い魔のルーンも自分のサポートに徹してくれている。
 今のところワルドとも上手く渡り合えている。ならば特に邪推する必要は無いと判断したところで、何度目かの鍔迫り合いに持ち込んでしまう。

279ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:51:09 ID:p55OrQ4w
 
 眩い火花を散らして激突し合うデルフの刀身と、魔力を帯びたレイピア型の杖。
 杖そのものが魔法の渦の中心となっている所為で、魔法を吸収する事のできるデルフは『エア・ニードル』を形成する中心を取り込むことは出来ない。
 しかし、普通の剣ならば小さなハリケーンとも言える『エア・ニードル』を防ぐ事はできなかったであろう。
「ふぅ…!流石伝説の『ガンダールヴ』だな、この私を相手に接近戦で渡り合えたヤツは君を含めて四人目だ」
「ご丁寧に、どうも…!」
 顔から汗を垂らすワルドの口から出た賞賛に対し、両手でデルフを構える霊夢はやや怒った表情を礼を述べる。 
 いくら『ガンダールヴ』で剣が使えるようになったと言っても、現状の実力差ではワルドの方に分があった。
 二人を見比べてみると、霊夢がやや必死かつ怒っているのに対しワルドの顔には未だ笑みが浮かんでいる。
 しかしその表情とは裏腹に彼女を睨み付ける目は笑っておらず、杖も片手で構えているだけで両手持ちの霊夢の剣を防いでいた。
 彼は元々、トリステイン王家の近衛を務める魔法衛士隊の隊長にまで上り詰めただけの実力を持っているだけあってその杖捌きは一流だ。
 例え片腕を無くした状況下で戦う事になったしても、相手に勝てる程の厳しく過酷な訓練を乗り越えてきたのだ。

 それに加えてかつて霊夢に敗れてからというものの、毎日とは言わないが彼女を相手に戦って敗れるという夢を何度か見ている。
 シュヴァリエの称号を持つ彼としては、ハルケギニアでは特別な存在であってもその前に一人の少女である霊夢に負けたという事実は思いの外悔しい経験だった。
 だからこそ彼はその夢でイメージ・トレーニングの様な事をしつつも、あれ以来どのような者が相手でも決して油断してはならぬと心から誓っていた。
 貴族、平民はおろか老若男女や人外であっても、自分に対し敵意を持って攻撃してくるものにはそれ相応の態度でもって返答する。
 スカボロー港やニューカッスル城で味わった苦い経験を無駄にしない為に、ワルドは手を抜くという事をやめたのである。
 
「私自身、剣を使ったのはこれで二度目だけど今度は直に刺してやっても――――良いのよ…ッ!?」
 そう言いながらワルドと正面から剣を押し合っていた霊夢は頃合いを見計らったかのように、スッと後ろへ下がった。
 デルフを構えたままホバー移動で後退した彼女は空いている右手を懐に入れ、そこから四本の針を勢いよく投げ放った。
 しかしワルドはこの事を予知していたかのように焦る事無く杖を構え直すと、素早く呪文を詠唱する。
 すると杖の先から風が発生し、自分目がけて突っ込んできた針は四本とも空しく周囲へと飛び散らせた。
「悪いが今の私相手に小細工は…ムッ」
 針を散らしたワルドが言い終える前に、霊夢は次の一手に打って出ようとしていた。
 今度は左腕の袖から三枚のお札を取り出すと、ワルドが聞いたことの無いような呪文のようなものを唱えてから放ってきたのである。
 針同様真っ直ぐ突っ込んでくると予想した彼は「何度も同じことを…」と言いながら再び『ウインド』の呪文を唱えようとした。
 再び杖の先から風発生し、これまた針と同じようにしてお札もあらぬ方向へと吹き飛んで行った―――筈であった。
 しかし、三枚ともバラバラの方向へと飛んで行ったお札はまるで意思を持っているかのように再びワルドの方へと突っ込んできたのである。
「何だと?面白い、それならば…」
 これには流石のワルドも顔を顰め、三方向から飛んでくるお札を後ろへ下がる事で避けようとした。
 お札はそのまま地面に貼り付くかと思っていたが、そんな彼の期待を裏切って尚もしつこく彼を追尾し続けてくる。
 しかしそうなる事を想定していたワルドは落ち着いた様子で、再び杖に『エア・ニードル』の青白い魔力を纏わせていた。

 直覚な動きでもって迫りくる三枚のお札が、後一メイルで彼の身体に貼り付こうとした直前。
 ワルドは風の針を纏わせた自身の杖で空気を斬り捨てるかのように、力を込めて杖を横薙ぎに振り払った。
「――――…フッ!」
 瞬間、彼の前に立ちはだかるようにして青く力強い気配を纏わせた魔力の線が横一文字を作り出し、
 丁度そこへ突っ込むようにして飛んできたお札は全て、真っ二つに切り裂かれて敢え無くその効力を失った。
 三枚から計六枚になったお札ははらはらと木から落ちていく紅葉の様に地面へ着地し、ただの紙切れとなってしまう。
「成程。斬り合い続けてもマンネリになるしな、丁度良いサプライズになったよ」
「………ッ!中々やるじゃないの」

280ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:53:03 ID:p55OrQ4w
 
 軽口を叩く程の余裕を残しているワルドに、霊夢は思わず舌打ちしてしまう。
 もう一度距離を取る為にと時間稼ぎついでに試してみたのが、やはり簡単にあしらわれてしまったようだ。
『うへぇ、お前さんも運が良いねぇ。奴さんのような腕の立つメイジ何て、そうそういないぜ…って、うぉわ!』
「あんたねぇ!私に向かって言う時は運が悪いって言うでしょうが、普通は!?」
 一閃。正にその言葉が相応しい程に速い杖捌きに霊夢が構えているデルフが無い舌を巻いている。
 その彼を今は武器として使っている霊夢は余計な事まで言う剣を揺らした後、溜め息をついて再びワルドの方へと視線を向けた。
 目の前にいる敵は先程針とお札をお見舞いしたはずだというのに、それで疲れたという様子を見られない。
 最もあの男相手に上手くいくとは思っていなかったが、こうもあしらわれるのを見てしまうと流石の霊夢も顔を顰めてしまう。

「しっかし、アンタもタフよねぇ?ニューカッスル城で散々な目に遭わせてやったっていうのに…」
「貴族っていうのはそんなもんだよ。私みたいな負けず嫌いの方が穏健な者より数が多い、ルイズだってそうだろう?」
 平気な顔をしているワルドに向けてそんな愚痴を漏らすと、彼は口元に笑みを浮かべなからそう言ってきた。
 彼の口から出てきた言葉と例として挙げてきたルイズの名に、「確かにそうね」と彼女も頷いてしまう。

「昔の貴族の事を記した本では、自身の名誉と誇りを掛けて決闘し合ったという記しているが…実際のところは違う。
 自分の女を取られたとか、アイツに肩をぶつけられた…とかで、まぁ大層くだらない理由で相手に決闘を申し込んでいたらしい」

「…あぁ〜、何か私もそんな感じで決闘をしかけられた事もあったわねぇ」
 戦いの最中だというのに、そんな説明をしてくれたワルドの話で霊夢はギーシュの事を思い出してしまう。
 まぁ面白半分で話しかけた自分が原因だったのが…成程、貴族が負けず嫌いと言うこの男の主張もあながち間違っていないらしい。
「だから、アンタもその貴族の負けず嫌いな性格に倣って私にリベンジ仕掛けてきたって事ね?」
「その通りだ。―――――だが、生憎時間が無いのでな。悪いが君との勝負は、そろそろ終わらせることにしよう」
「…時間?……クッ!」
 何やら気になる事を呟いてきたワルドに聞き返そうとした直後、目にもとまらぬ速さでワルドが突っ込んできた。
 一気に距離を詰められつつも、『ガンダールヴ』のサポートのおかげて、間一髪の差で彼の攻撃を防ぐ事ができた。
 しかし今度はさっきとは違い完全に霊夢が押されており、目の前に『エア・ニードル』を纏った杖が迫ってきている。
 ガチガチガチ…とデルフと杖がぶつかり合う音が彼女の耳へひっきりなしに入り、押すことも引くこともできない状況に更なる緊迫感を上乗せしていく。
「ッ、時間が無いって、それ一体どういう意味よ…!?」
「ん?あぁそうか、今口にするまでその事は話題にも出していなかったな。失敬した」
 自分の攻撃を何とか防いだ霊夢の質問に、ワルドは思い出したかのような表情を浮かべながら言った。
 それからすぐに逞しい髭が生えた顎でクイッと上空を指したのを見て、霊夢も自らの視線を頭上へと向けた。

 霊夢にデルフとワルド、それに二人に気付かれぬまま目覚めたルイズと未だ眠り続けている魔理沙。
 計四人と一本が今いるタルブ村にある小高い丘から見上げた夜空に浮かんでいる、神聖アルビオン共和国の艦隊。
 旗艦である『レキシントン号』を含めた幾つもの軍艦が灯している灯りで、彼らの浮遊している空は人口の明りに包まれていた。
「あれが見えるだろう?私がここまで来るのに足として使ったアルビオンの艦隊だ」
「それがッ、どうしたって――――…まさか」
 ワルドの言葉と先ほど聞いた「時間が無い」という言葉で、彼女は思い出した。
 つい二十分ほど前に自分たちにキメラの軍団をけしかけてきていた謎の女、シェフィールドの言葉を。

―――コイツラは明朝と共に隣町へ進撃を開始する事になってるのさ。アルビオン艦隊の前進と共にね。
―――――そうなればトリスタニアまではほぼ一直線、お姫様が逃げようが逃げまいがアンタたちの王都はおしまいってワケさ!

281ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:55:02 ID:p55OrQ4w
 
 奴が運び込んできたであろうキメラ軍団と共に進軍するであろう、アルビオンの艦隊。
 それが今頭上に空中要塞の如く浮遊しており、そして先ほどワルドが口にした言葉が意味する事はたった一つ。
「成程…アンタが吹き飛ばした化け物の仲間と一緒に、あの艦隊も動き出すってワケね!」
「ム、なぜそこまで知ってるんだ?」
「アンタがやってきてルイズを攫う前に、あのシェフィールドって奴がペラペラ喋ってくれたのよ」
「…ふぅん。私の事を裏切り者と言った割には、髄分と口が軽いじゃないか」
 そんな会話を続けていく中で、ワルドに押されている霊夢はゆっくりと自分の態勢を立ち直らせようとしていた。
 さながら身を低くして獲物の傍へと近づくライオンの如く、相手に気づかれぬよう慎重な動きで足の位置を変えていく。
 受けの態勢から押す態勢へと変える為に…ゆっくりと、気取られぬよう靴の裏で地面の草を磨り潰すようにして足を動かす。
 その動きを続ける間にも決して怪しまれぬよう、自分の気持ちなど知らずして口を開くワルドにも対応しなければいけない。

「まぁ今はご立腹であろう彼女に、どう謝るのかは後で考えるとして…どうした?さっきみたいに押し戻したらどうだ?」
「アンタが自分の全体重使って押し付けて、くるから…か弱い少女の私じゃあ…これぐらいが、精一杯よッ」
(何ならもう一回距離を取って良いけど…、はてさてそう上手く行きそうにないわねぇ)
 自分と目を合わせているワルドが足元を見ない事を祈りつつ、霊夢はこの状況を脱した後でどう動こうか考えていた。
 無論その後にも色々と倒すべき目標がいるという事も考慮すれば、この男一人に体力を使い過ぎてしまうのも問題であろう。
(いくらルーンのおかげで体が軽くなって剣も扱えるとようになっても、流石にあの艦隊を一人で相手するのは無理がありそうだし…)
 目の前の男を倒した後の事を考えつつも、足を動かして上手く一転攻勢への布石を整えようとしていた…その時であった。

 アストン伯の屋敷がある森の方から凄まじい爆発音と共に、霊力を纏った青白い光が見えたのは。
 まるで蝋燭の灯りの様についた光と、大量の黒色火薬を用いて岩盤を力技で粉砕するかのような爆発音。
 一度に発生した二つの異常はこの場に居る者たちには直接関係しなかったものの、まるっきり無視する事はできなかったらしい。
「む?何事だ」
 霊夢と睨みあっていたワルドは爆発音と音に目を丸くし、彼女と鍔迫り合いをしている最中にチラリと森の方へ顔を向ける。
 そんな彼と対峙し、逆転の機会を作っていた霊夢も思わず驚いてしまっていたが、彼女だけはワルドには分からないであろゔモノ゙すら感じ取っていた。
「ん、これは…」
 その正体は、さきほど森を照らしたあの青い光から発せられた、荒々しい霊力であった。
 まるで鋸の歯の様に鋭く厳ついその力の波を有無を言わさず受け取るしかない彼女は、瞬時にあの森にいた巫女モドキの事を思い出す。
 ルイズの姉に助けられたと称して風の様に現れ、一時の間共闘し自分と魔理沙の間に立ってキメラたちを防いでくれたあの長い黒髪の巫女モドキ。
 今あの光から放たれる荒々しい霊力は、霊夢が感じる限り間違いなく彼女の物だと理解できた。
(間違いない…この霊力、アイツのだ…!けれどこの量…、一体何があったっていうのよ?)
 まるで内側に溜め続けていた霊力を、自分の体に負荷をかける事を承知で一気に開放したかのような霊力の津波。 
 それをほぼ直で感じ取ってしまった霊夢は、あの巫女モドキの身に何かが起こってしまったのではないかと思ってしまう。
 仮に霊夢が今の量と同じ霊力を溜めに溜めて攻撃の一つとして開放すれば、敵も自分も決してタダでは済まない。
 良くて二、三日は布団から出られないだけで済むが、最悪の場合は霊力を開放した自分の体は…
 

 ―――それは、あまりにも突然であった。
「…ファイアー…――――ボールッ!!」
 森からの爆発音に続くようにして、ルイズの怒号が二人の耳に入ってきたのは。

282ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:57:02 ID:p55OrQ4w
 
 特徴のあるその声に霊夢が最初に、次にワルドが振り返った時点でルイズは既に杖を振り下ろした直後であった。
 辛うじて動く右手に握る杖の先を、時間を掛けてワルドの方へと向けた彼女はようやっと呪文を唱え、力弱く杖を振ったのである。
「ル…――――うわッ!」
 咄嗟に彼女の名を口に出そうとした霊夢は、自分から少し離れた地面が捲れようとしているのに気付いてこれはマズイと判断した。
 これまで彼女の唱えた魔法が爆破する瞬間を何度か見てきた事はあるが、今見ているような現象は目にしたことは無い。
 だからこそ霊夢は危険と判断したのである。今のルイズが起こそうとしている爆発は―――この距離だと巻き添えを喰らうと。
「ルイズ…、ルイズなのか?馬鹿な…何故…!」
 一方のワルドは目を見開き、信じられないモノを見るかのような表情を浮かべて驚愕している。
 何せ自分の『スリープ・クラウド』をマトモに喰らって眠っていたはずだというのに、今彼女は目を覚まして自分と霊夢に杖を向けているのだ。
(まさか失敗…いや!そんな事は断じて……!)
 そして彼もまた、自分から少し離れた地面がその下にある゛何か゛に押し上げられていくのが見えた。
 これはマズイ。そう判断した彼は後ろへ下がるべく霊夢との鍔迫り合いを中断せざるを得ない状況に追い込まれてしまう。
 偶然にも、この時ワルドと似たような事を考えていた彼女もほぼ同時に後ろへ下がり、距離を取ろうとした時―――――――地面が爆発した。

 捲れ、ひび割れた地面の隙間から白い閃光が漏れ出し、ルイズの魔力を込められた爆風が周囲に襲い掛かる。
 爆風は飛び散った大地の欠片を凶器に変えて、その場から離れた二人へ殺到していく。
「グ!このぉ…!」
 ワルドは咄嗟の判断で自身の周囲に『ウインド』を発生させて破片を吹き飛ばそうとする。
 しかし強力な爆発力で飛んでいく破片は風の防壁を超えてワルドの頬や服越しの肌を掠め、赤い掠り傷を作っていく。
 彼は驚いた。自負ではあるが自分の゛風゛で造り上げた防壁ならば、大抵のモノなら吹き飛ばすことができた。
 平民の山賊たちが放ってくる矢や銃弾、組み手相手の同僚や山賊側に属していたメイジの放つ『ファイアー・ボール』など…

 その時の状況で避けるのが困難だと理解した攻撃の多くは、今自分が発動している『ウインド』で防いでいたのである。
 ところがルイズの爆発の力を借りて飛んでくる破片の幾つかは、それを易々と通過して自分を攻撃してくるのだ。
 幾ら彼女の失敗魔法の威力が強くとも、ただの地面の欠片―――それも雑草のついたものが容赦なく通り抜けていく。
 これは自分の魔法に思わぬ゙穴゙が存在するのか?それとも、その破片を失敗魔法で飛ばしたルイズに秘密が…?
 そんな事を考えていたワルドはふと思い出す。彼女は自分の『スリープ・クラウド』で眠ったのにも関わらず、目を覚ましたことに。
 ガンダールヴとなった少女を召喚し、他の有象無象のメイジ達は毛色が違いすぎるかつての許嫁であったルイズ。
(ルイズ、やはり君は特別なのか…?)
 風の防壁を貫いてくる破片に傷つけられたワルドは、反撃の為に呪文を唱え始める。
 今やガンダールヴ以上に危険な存在―――ダークホースと化したルイズを再び黙らせるために。

「うわ、ちょっと…うわわ!」
 一方の霊夢は、辛うじてルイズの飛ばした破片をある程度避ける事に成功はしていた。
 最もスカートやリボンの端っこ等は飛んでくる小さな狂気に掠りに掠りまくってボロボロの切れ端みたいになってしまったが…。
 ワルドとは違いその場に留まらず後ろへ下がり続けていたおかげで、体に直撃を喰らう事は防ぐことができた。
 その彼と対峙していた場所から二メイルほど離れた所で足を止めたところで、左手に持っていたデルフが素っ頓狂な声をあげた。
『お、おいおいこりゃ一体どういう事だ?何で『スリープ・クラウド』で眠ってた娘っ子が起きてんだよ』
 彼の最もな言葉に霊夢は「こっちが知りたいぐらいよ」と返しつつ、再び両手に持って構え直す。
 幸いにもワルドはルイズを睨み付けており、自分には背中を見せている不意打ちには持って来いの状況である。
 どうやら彼女を眠らせた張本人も、これには目を丸くして驚いているようだ。霊夢は良い気味だと内心思っていたが。
「しかも目覚めの爆発攻撃ときたわ。…全く、やるならやるで合図くらい――…ってさっきの叫び声がそうなのかしら?」
 最後の一言が疑問形になったものの、態勢を整え直した霊夢はワルドの背後へキツイ峰打ちでもお見舞いしてやろうかと思った直後。

283ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 21:59:03 ID:p55OrQ4w
 
「う―――『ウインド・ブレイク』…!」
 倒れたままのルイズが再び呪文を唱え終えると、振り上げた杖をワルドの方へ向けて勢いよく下ろした。
 今度はマズイと判断したワルドがバッとその場から飛び退いた瞬間、今度は激しい閃光と共に彼のいた空間が爆発する。
「ルイズ、二度目は無いぞッ!」
 先程とは違い空間だけが爆発した為に攻撃範囲そのものは狭く、余裕で回避したワルドは杖を振り下ろして唱え終えていた『エア・ハンマー』を発動した。
 彼の眼前に空気の塊が現れ、それそのものが巨大な槌となって再び攻撃を行おうとしたルイズの体と激突する。
「!?…キャアッ!!」
 三度目の魔法を唱えようとしたルイズは迫ってくる魔法に成す術も無く、未だ起き上がれぬ小さな体が吹き飛ぶ。
 小さな胸を圧迫する空気の槌は彼女を地上三メイルにまで押し上げた所で消滅し、彼女の体は宙へ放り投げられる。
 このまま弧を描いて面に落ちれば、受け身も取れぬルイズは大けがを負う可能性があった。
「ルイズ!」
 流石の霊夢もマズイと判断し、地面を蹴って勢いよく飛び上がった。
 この距離ならば彼女が地面へ落ちる前に、余裕をもってキャッチできる。

「!――――やはり来たなッ」
 だが、それを予測していたかのようにワルドが不敵な笑みを浮かべて後ろを振り返った。
 無論彼の視線の先にいるのは、地を蹴飛ばしてルイズの下へ飛んで行こうとする霊夢の姿。
 彼女はルイズを助けに前へ出たのだが、ワルドの目から見れば正に『飛んで火にいる夏の虫』でしかない。
 この時を待っていたと言わんばかりに再び杖に『エア・ニードル』を纏わせると、目にも止まらぬ速さの突きを繰り出す。
 人間の体など簡単に穿つ事のできる魔法が眼前に突き出された霊夢は―――焦ることなく、その姿を消した。
 彼女の胴に『エア・二―ドル』が刺さる直前、その体が蜃気楼のように霧散したのである。
「ッ!?…スカボローで見た、瞬間移動か!」
 消えた霊夢を見て咄嗟に思い出したワルドが再びルイズの方へと顔を向けるた時には、
 まるで無から一つの生命体が生まれるようにして出現した霊夢が、丁度自分のところへ落ちてきたルイズをキャッチしていた所であった。

 ワルドの魔法で打ち上げられ、霊夢の瞬間移動で空中キャッチされたルイズは助けてくれた彼女を見て目を丸くする。
 これまでも何回か助けてくれた事はあったが、まさか間にいたワルドを無視してまで来てくれた事に驚いているのだ。
(でも、ワルドにやられて助けに来てくれるなんて…ニューカッスル城の時の事を思い出すわね…―――――…ッ!?)
 自分よりやや太い程度の少女らしい腕に抱えられたままのルイズは場違いな回想を頭の中で浮かべながら、霊夢の方へ顔を向ける。
 それは同時に、彼女の後ろにいたワルドが自分たちに向けてレイピア型の杖を向けている姿をも見る事となった。
 当然のことだが、どうやら相手は待ってくれないらしい。まぁ当然だろうと思うしかないが。
「レイ――――…!」
「全くアンタってヤツは…、援護してくれるのでは良かったけどせめてアイツと距離を取ってから…」
「違う、違うって!アンタ後ろッ、ワルドが…!」
 慌てた様子のルイズの口から出た名前に霊夢はハッとした表情を浮かべ、彼女を抱えて右の方へと飛んだ。
 瞬間、ワルドの放った三本の『エア・カッター』が二人がいた場所を通り過ぎ、地面を抉ってタルブ村の方へと向かっていく。
 まもたやルイズのせいで攻撃を外したワルドは舌打ちしながらも、冷静に杖の先を移動した二人の方へ向ける。
 避けられた事自体はある程度想定済みであったし、何より『エア・カッター』程度の呪文ならばすぐにでも唱えられる。
 それこそ自分の名前を紙に書き込むぐらいに、ワルドにとっては呼吸と同じぐらい造作もない事であった。

284ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:01:04 ID:p55OrQ4w
 
「また来るわ!」
「分かっ、てる…っての!」
 抱えられたままのルイズが注意を促すと、促された霊夢はルイズの重さに堪えながらそう返す。
 自分とほぼ同じ体重の少女を抱えたまま移動するというのは、流石に無理があったと今更ながら分かった。
 それでも今の状況でルイズを降ろすという選択肢など選べるワケは無く、ワルドの攻撃を避けようとする。
 だが相手も今の霊夢が動きにくいと察してか、杖から放ってきた三枚の『エア・カッター』が扇状になって飛んできた。
 今二人のいる位置を中心に広がる空気の刃は、彼女たちを仕留めようと迫ってくる。

 霊夢であるならば多少の無理だけでルイズを抱えたまま避けられるだろうが、その際に隙が生じてしまう。
 目の前の相手は自分がその隙を見逃すはずもないであろうし、結界を張るにもその時間すら無いという八方塞がり。
 即席結界でも近づいてくる『エア・カッター』を辛うじて防げるのだが、どっちにしろワルドには近づかれてしまうだろう。
 ならば今の霊夢が取るべき行動はたったの一つ。左手に握る魔剣デルフリンガーの出番である。
『ッ!レイム、オレっちを前に突き出せ!』
「言われなくても、そうするわよ」
 デルフの言葉に応えるかのように、霊夢はインテリジェンスソードを自分とルイズの前に突き出す。 
 先ほどみたいに魔法を吸収した後、近づいてくるであろうワルドを何とか避けるしかない。
 そこまで考えていた時、その霊夢に抱えられていたルイズが意を決した様な表情を浮かべて右手の杖を振り上げた。
「ルイズ…?」
 彼女の行動に気付いた霊夢が一瞬怪訝な表情を浮かべた瞬間、ルイズはそれを勢いよく振り下ろした。
 ワルドが扇状に広がる『エア・カッター』を出してきてから、唱え始めていた呪文を叫びながら。
「『レビテレーション』ッ!」
 コモン・マジックの一つとして貴族として生まれた子供ならば、年齢一桁の内に習得できるであろう初歩的な呪文。
 幼少期のルイズも習得しよう必死になってと詠唱と共に杖を振り、その度に失敗して母親から叱られていた苦い思い出のある魔法。
 そしてあれから成長した今のルイズは決意に満ちた表情でその呪文を詠唱し、杖を振り下ろしたのである。
 自分と霊夢を切り裂こうという殺意を放って近づいてくる、ワルドの『エア・カッター』に向けて。

 瞬間、二人とワルドの間を遮るようにして何もない空間を飛んでいた『エア・カッター』を中心にして、白く眩い閃光を伴う爆発が起きた。
「うわ―――…っ!」
『ウォッ!眩しッ…』
「むぅ!無駄なあがきを…!」
 あらかじめ爆発を起こすと決めていたルイズ以外の二人とデルフは、あまりにも眩しい閃光に思わず怯んでしまう。 
 耳につんざく爆音に、極極小サイズの宇宙でも作れてしまうような爆発は当然ながら唱えたルイズと霊夢、そしてワルドには当たっていない。
 精々爆発が発生する際に生じる閃光で、ほんの一瞬目くらましできた程度実質的な被害は無く。一見すれば単なる失敗魔法の無駄撃ちかと思ってしまう。
 しかし、ルイズはこの爆発を彼に当てるつもりで唱えていたワケではなかった。―――彼が唱えた魔法に向けていたのである。
 一瞬の閃光の後に爆発の衝撃で地面から土煙が舞い、それも晴れた後に視界が晴れた先にいた二人を見て、ワルドは軽く面喰ってしまう。
 何せ先ほどまで彼女たちに向けて放った『エア・カッター』の姿はどこにも見当たらず、切り裂く筈だった二人も御覧の通り健在。
 これは一体、何が起きたのか?疑問に思った彼はしかし、ほんの二秒程度の時間でその答えを自力で見つけ出した。

 ルイズが唱えた魔法による爆発、その中心地に丁度いた自分の『エア・カッター』の消失。
 よほどの馬鹿であっても、二つの゙過程゙を足してみれば自ずと何が起こったのか理解できるだろう。

285ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:03:03 ID:p55OrQ4w
 
「まさか、私の『エア・カッター』を破壊したというのか…?あの爆発で」
「こうも上手く行くとは思ってなかったけど、案外私の失敗魔法も捨てたモノじゃないわね…」
 信じられないと言いたげな表情を浮かべるワルドの言葉に向けるかのように、霊夢から離れたルイズが感心するかのように口を開く。
 いつも手入れを欠かさないブラウスやマント、母から受け継いだウェーブのピンクブロンドはすっかり汚れてしまっている。
 右手にもった杖と肩に下げている鞄と合わせて見れば、彼女は家を勘当されて一人旅をしている元貴族のお嬢様にも見えてしまう。
 だが、彼女の鳶色の瞳は鋭い眼光を放っており、視線の先にいるワルドをキッと睨み付けている。

 以前のルイズ―――少なくともアルビオンへ行くまでの彼女ならばあの様に睨み付けてくる事はなかった。
 睨み付けてくる彼女の姿を見ながらワルドが一人そう思っていると、ルイズは地面へ向けていた杖をスッと向けてきた。

「これからも、というか今でも普通の魔法を一度でも良いから使ってみたいとは思っているけど…今はこれが丁度良いわ。
 だって、ウェールズ様を殺して、姫さまも泣かしたうえにレイムまで痛めつけてくれたアナタに…たっぷりお礼ができるもの」

 まるで自分の居場所を見つけたかのような物言いに、流石のワルドも余裕を見せるワケにはいかなくなった。
 一体どういう経緯があったかは知らないが…少なくとも今の彼女は、自分が知っているルイズとは少し違うという事である。
 自分の二つ名にコンプレックスを抱き、常に頑張らなければいけないという重しを背負って泣いてばかりいた幼い頃のルイズ…。
 アルビオンへ赴く任務の際に再会した時もあの頃からさほど見た目は変わらず、性格にはほんの少しの変化がついただけであった。
 ところが今はそれに加えて魔法も格も上である筈の自分に杖を向けて、獰猛な目つきでこちらを睨み付けている。
 …いや、その魔法も先ほど『エア・カッター』を失敗魔法の爆発で破壊したのを見れば自分が格上とは言い難かった。
 まるで昨日まで他人にクンクンと鼻を鳴らしていた子犬が、たった一日で獰猛な大人の軍用犬に成長したかのような変わりっぷりだ。

「おーおー、アンタも言うようになってきたじゃないの」
「どこぞのお二人さんが傍にいる所為かしらね?私も大見得切った事が言えるようになってきたわ」
『っていうか、モロに影響受けてるってヤツだな。でも中々格好良かったぜ』
 ワルドに啖呵を切ったのが良かったのか、横にいる霊夢の言葉にルイズがすかさず言い返す。
 そんな光景を第三者の視点から見つめるワルドは、やはりルイズは変わったのだという確信を抱かざるを得なかった。
 なぜ彼女はこうも短い期間であそこまで変われたのだろうか?そこが唯一の疑問ではあったが。

「変わったな、ルイズ。その性格も、魔法も…」
 まるで蛹から孵化した蝶を外界へ放つときの様な寂しさを覚えたワルドは一人呟いた。
 恋愛感情は無かったものの、彼女が幼い頃は許嫁として良く傍にいて面倒を見ていた思い出がある。
 あの頃のルイズを思い出したワルドは、まさか彼女がここまで面白い成長の仕方をするとは思ってもいなかったのである。
 だからこそ一種の寂しさというモノ感じていたのだが、それと同時に゙もう一つの確信゙を得る事となった。

 幼少期はマトモな魔法が一つも使えぬ故に白い目で見られ、魔法学院では゛ゼロのルイズ゙と呼ばれて蔑まれていた彼女。
 そのルイズが伝説の使い魔である『ガンダールヴ』のルーンを刻んだ少女を、自らの使い魔にしたという事実。
 使い魔となった少女はこの世界では見たことも無い戦い方によって、自分は二度も敗北している。
 ルイズの失敗魔法は幼き頃と比べて先鋭化の一途を辿り、とうとう自分の魔法をあの爆発で破壊する事にすら成功した。
 今の彼女をかつて白い目で見、学院で゙ゼロ゙と蔑んでいた魔法学院の生徒たちが見ればどのような反応を見せるのだろうか?
 少なくとも、今の彼女を見てまだ無能や出来損ないと呼ぶ者がいればソイツの目は節穴以下という事なのだろう。

286ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:05:11 ID:p55OrQ4w
 
「ルイズ、やはり君は特別だったんだ…!」
 彼女たちに聞こえない程度の声量でワルドが小さく叫んだ瞬間…―――――――
 どこか心躍るような、ついつい楽しげな気分になってしまう花火の音と共に、彼らの頭上の夜空に虹色の星が幾つも舞った。 


 突然の事に三人ともハッとした表情を浮かべて、思わず頭上の夜空を見上げると俄には信じ難い光景が目に映る。
 地上にいる自分たちを監視するかのように浮遊していた神聖アルビオン共和国が送り込んできた強力な艦隊。
 並大抵の航空戦力では歯が立たないであろうその無敵艦隊の周りで、幾つもの花火が打ち上がり出したのだ。
 パレードや町のイベントなどで使われる色鮮やかなそれ等は、この場においてはあまりにも場違いすぎる程綺麗であった。
「な…は、花火ですって?」
「これは一体何の冗談かしらねェ」
『少なくともオレ達の戦いを盛り上げてくれる…ってワケじゃあ無さそうだな』
 いよいよワルドとの戦いもこれからという時にも関わらず、二人は夜空の打ち上がるソレを見て唖然としてしまう。
 何せここは敵が占領しているとはいえ今は戦場なのである。そんな場所であんな賑やかな花火を打ち上げる事などありえなかった。
 ルイズは目を丸くしてアルビオン艦隊の行動を見上げ、霊夢もまた何を考えているかも分からない敵の艦隊をジト目で見つめている。
 デルフもデルフで敵が何の意図で花火を打ち上げたのか理解できず、曖昧な事を云うしかなかった。
 しかし、そんな彼女たちの態度も目を見開いてアルビオン艦隊の花火を見つめていたワルドの言葉によって一変する事となった。

「馬鹿な…!まだ夜明け前だというのに……進軍の合図だとッ!」
「何ですって…?」
 信じられないと言いたげな表情を浮かべる彼の口から出た言葉に、すかさずルイズが反応する。
 霊夢もワルドの言葉に反応してその目を再び鋭く細めて、色鮮やかな光に照らされる艦隊を睨み付けた。
「どういう事よワルド、あれが進軍の合図だなんてッ」
「ウソだと思うか…?と言いたいところだが、あんなに賑やかな花火が合図とは思いもしないだろうな」
「まぁあの艦隊を指揮してる人間の頭がおかしくなった…とかならまだ納得はできそうね」
 今にも自分に掴みかかりたくて堪らないと言いたげに身構えているルイズの言葉に、ワルドはそう答える。
 それに続くようにして霊夢がそう言うと、構えたは杖を降ろさないままアルビオン艦隊の花火の事を軽く説明し出した。

 アルビオン艦隊が、地上戦力として投下したキメラの軍団と共に進軍を開始する際の合図。
 それは式典やおめでたい行事の時に使われる打ち上げ花火で行う事に決めたのは、艦隊司令長官のサー・ジョンストンであった。
 最初の不意打ちが失敗した直後は発狂状態に陥っていた彼であったが、キメラが地上を制圧した後でその態度が一変した。
 喉元過ぎれば何とやらという言葉の通り、危機的状況を脱する事の出来た彼は一気に調子に乗り出した。
 そしてその勢いのまま、トリステイン王国への゙親善訪問゙用に積んでいた花火を進軍の合図に使おうと提案してきたのである。
 当初は彼が搭乗する艦の艦長も何を馬鹿な事を…と思っていたが、結局のところ司令長官という地位を利用してごり押しで決定してしまった。
「これから悪しき王権に染まりきったトリステインを我々の手で浄化する前に、部下たちの景気づけに花火を打ち上げて進軍しようではないか!」
 今やこの場が戦場だという認識の無い司令長官の言葉に、誰もが呆れ果てるしかなかった。

「…で、その結果があの花火って事ね」
「ソイツ、馬鹿なんじゃないの?」
「そう思うだろう?俺だってそう思うし、誰だってそう思う。それが正しい反応だ」
 説明を聞き終えた後、三人ともが呆れたと言いたげな表情と言葉を述べて、遥か上空にある花火大会を見つめる。
 ジョンストンという男が何をどう考えて花火を打ち上げようと考えたかは知らないが、なるほど合図としては良いかもしれないとルイズは思った。

287ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:07:04 ID:p55OrQ4w
 
 トリステイン側に艦隊なり砲兵隊がいればあんなに目立つ的は無いだろうし、是が非でも沈めてやりたいと思うだろう。
 しかし今この町にトリステイン軍はおらず、ここから数時間離れた所にある隣町で陣を張っている。
 艦隊はほぼ無事であったものの、錬度では勝っていてもアルビオンの艦隊に勝てる確率は無いと言っていい。
 悔しいことではあるが、敵の司令長官は勝てる算段があるからこそ有頂天になっているのだ。

 ルイズは今にも歯ぎしりしそうな表情を浮かべている最中、ワルドはじっと彼女の背後―――夜闇に染まる森を見ていた。
 鋭く細めたその瞳は何を見ていたのか突如意味深なため息をついたかと思うと、突然手に持っていた杖を腰に差したのである
 まるで戦いが終わったとでも言いたそうな静かな顔で杖を収めた男に、やる気満々の霊夢がデルフを構え直して口を開く。
「ちょっと、戦いはまだ終わってないわよ」
「生憎邪魔が入ってくるようだ。私としてはもうちょっと戦いたい所だったが…致し方ない」
「邪魔が…入ってくる?―――ッ!」
 ワルドが口にした意味深な言葉を反芻した直後、霊夢は自分たちが背を向けている森の方からあの゙無機質な殺気゙が漂ってくる事に気付いた。
 それも一つや二つではない。距離を取って移動しているようだが今感じ取れるだけでも十二近くはいる。
 どうやらワルドとの戦いに神経を集中させ過ぎていた事と、気配の元どもが安全な距離を保って監視に徹していたので気がつかなかったようだ。
 思わず背後の森へ視線を向けた霊夢の異変に気がついたルイズも、ワルドの言葉にあの森で戦ったキメラ達の事を思い出してしまう。
「邪魔が入るって…こういう事だったのね?」
「その通りだ。どうやら君たちも随分な女に目を付けられたな、しつこい女は中々怖いぞ?」
『話を聞いた限りじゃあ、お前さんも大概だぜ?』
 憎き相手を前に水を差された様なルイズは悔しそうな表情を浮かべて、森の中にいるであろうキメラを睨み付ける。
 一方のワルドもデルフの軽口を流しつつ、ゆっくりと後ろへ下がっていく。
 彼女らとは反対に森の方へ目を向けていた彼は、闇が支配している木々の中でぼんやりと光る幾つもの丸く黄色い光が見え始めていた。

 自分がここを離れるまで奴らが森から出ない事を祈りつつ、彼は静かに後ろへ下がっていく。
 少なくともあの女の事だ。いつ頭の中の癇癪玉が暴発してキメラをけしかけてくるか、分かったものではない。
 ルイズたちを優先して攻撃するのならばまだマシだが、最悪自分すら優先して攻撃されるのは勘弁願いたいところであった。
「君らとは一切邪魔が入らない場所で戦いたい。だから今回の戦いは、次回に持ち越し…という事にしようじゃないか」
「―――…!アンタねぇ…ッ自分から誘っておいて―――――ッ!?」
 霊夢達と五〜六メイルまで下がったワルドの言葉に霊夢が逃がすまいと突っ込もうとした矢先、空から突風が吹いた。
 まるで外が強い暴風雨だというのにドアを開けてしまった時の様な、思わず顔を反らしたくなる程の強い風。
 ルイズも悲鳴を上げて腕で顔をガードすると、それと同時に夜空から一匹の黒い風竜がワルドの傍へと降下してきたのである。

 二人があっと言う間も無くワルドは風竜の背に飛び乗ると、スッと左手を上げて言った。
「一時のさようならだルイズ、それに『ガンダールヴ』のレイム。次に会う時は必ずトドメを刺す」
 まるでこれから暫く会えないであろう友人に一時の別れを告げるかのような微笑みを浮かべ、上げた左手で竜の背を叩いた。
 するとそれを合図にして風竜はワルドを乗せて上昇し、未だ地上にいる少女達に向けて尾を振りながら飛び去っていく。
 ルイズはその風竜に杖を向けようかと思ったが、森の中で光るキメラ達の目に気が付いてその手が止まってしまう。
 一方の霊夢はそんな事お構いなしに、デルフを持ったまま飛び上がろうとしたとき――――左手を照らしていたルーンの光がフッと消えた。
「こいつ…――ッ!…グッ!」
「レイム…!?」
 瞬間、飛び立とうと地面を蹴りかけた彼女は足を止めると地面に両膝をついてしまう。
 ルーンが消えた瞬間、それまで彼女を軽くしてくれていだ何がが消えてしまったかのように、体が重くなったのである。
 正確に言えば――――体が忘れていた自分の重さを思い出した。と言うべきなのかもしれない。
 まるで糸を切られてしまった操り人形の様に唐突に倒れた霊夢を見て、ルイズは彼女の名を呼んで傍へと寄っていく。
 握っていたデルフを力なく草原の上に転がして、空いた両手で地面を押さえつけるようにして倒れてしまいそうになる自分の体を支えている。

288ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:09:04 ID:p55OrQ4w
 
『どうしたレイム!』
「くぅ…ッ、何か…知らないけど、ルーンの光りが消えたら…体が急に…ウゥッ!」
『ルーンの光りが、消えて……?―――!そうだ、思い出した』
 ワルドを追撃しようとした矢先、唐突に苦しみだした彼女を見て流石のデルフも心配そうな声を掛けた。
 それに対し彼女は苦しみつつも、素直に今の状態を報告するとまた何か思い出したのか、インテリジェンスソードは大声を上げる。
 今この場においてはやや場違い感のある程イントネーションが高かったものの、それには構わずルイズが「どういう事なの?」と問いただす。

『『ガンダールヴ』のルーンは、発動中ならお前さんの手助けをしてくれるがあくまでそれは本人の体力次第だ。
 無茶すればする分『ガンダールヴ』として戦える時間は短くなる。元々ダメージが溜まってた体で無茶してたんだしな
 それじゃあお前、ルーンの効果が切れちまうのも早くなっちまう。まぁあのキメラ達と散々戦ってたし、それ以前にここまで来るのにも体力使ってたろ?』

 思い出した事を嬉しそうにしゃべるデルフを、何とか立ち上がる事の出来た霊夢がジト目で睨み付ける。
「アンタねぇ…それは、先に言っておきなさいよ」
『だから言ってるだろ?思い出したって。こうも長生きしてりゃあ忘れちまう事だってあるのさ』
 自分を責める彼女の言葉に開き直ったデルフがそう言うと、霊夢はため息をついてデルフを拾い上げた。
 ズシリ…と左手を通して伝わってくる重さは、さっきまで軽々と振り回していた事がついつい夢の様に感じてしまう。
 ふと左手の甲を一瞥したが、さっきまであんなに煌々と光っていた『ガンダールヴ』ルーンはその輝きを失ってしまっている。
「重いわね。…っていうか、さっきまでアンタみたいに重たいのをあんだけ使いこなせてたのよね…私は」
 自分の体を地上に繋ぎとめるかのような重さと、左手の重さを比べながら呟いた霊夢に向けてデルフが『そりゃそうだよ』と相槌を打つ。

『そりゃ、本来は鍛えられた大の大人が振り回す武器だ。お前さんみたいな娘の為に作られちゃあいねぇよ。
 けれども、お前さんはちゃんと『ガンダールヴ』の力と共鳴して、あのメイジとほぼ互角まで渡り合えたんだぜ?
 そして『ガンダールヴ』の役目は主を命の危機から守る事―――レイム。お前と『ガンダールヴ』はあの時、確かに目的は一緒だったんだ』

 デルフの長ったらしい、それでいて何処か説教くさい言葉を聞いたルイズがハッとした表情を浮かべる。
 次いで彼を持っている霊夢の顔を見遣ると、幻想郷の巫女さんは面倒くさそうな顔をしていた。
「別にそんなんじゃないわよ。…ただ、あのいけ好かない顎鬚男が気に入らなかったってだけよ」
 何より、アイツには色々と手痛い借りを返さなくちゃならなかったしね。
 最後にそう付け加えた彼女の言葉にルイズは一瞬だけムスっとするものの、すぐにその表情が真顔へと変わった。
「まぁ…アンタならそう言うと思ってたわよ。っていうか、借りを返すってのなら私も同じ立場ね」
「そうね。……っと、何やかんやで喋ってたらちょっとヤバくなってきたじゃないの?」
 ルイズの言葉にそう返してから、霊夢はシェフィールドが送り込んできたキメラ達のいる森の方へと歩き出す。
 彼女があっさり踵を返して歩いていく後姿を見て、ルイズは「ワルドを追いかけないの?」と問いかけた。
「アイツは確かにムカつくけど、人間でもない凶暴なコイツらを野放しにしておく事はできないわよ」
 仕方ないと言いたげな彼女は、闇の中で光るキメラ達の目を指さしながらツカツカツカと歩いていく。

 既にワルドを乗せた風竜は夜空の中へと消え去り、艦隊から打ち上がる花火の光にもその影は見えない。
 霊夢本人は何としてでも追いかけて痛めつけないと気が済まなかったのだが、『ガンダールヴ』の能力を使いすぎたせいで残りの体力は少ない。
 それに、ここへきた目的はキメラを意図的に放って人々を手に掛けようとするアルビオン艦隊の退治なのである。
 だからこそ霊夢は悔し涙を飲み込みつつ、次は自分たちを追撃しに来た異形達に矛先を向けることにしたのである。

「さてと、それじゃあまずは――この黒白を叩き起こす事が先決ね」
 森の方へと歩いていた彼女は、ここへ来てから今に至るまでワルドの『スリープ・クラウド』で眠り続けている魔理沙の前で足を止めた。
 あの男の言っていたとおり散々騒音を立てていたというのに、普通の魔法使いは使い慣れた自宅のベッドを眠っているかのように熟睡している。
 黒のトンガリ帽子の下にある寝顔も安らかそのもので、人が散々戦っていた事などお構いなしという雰囲気が伝わっていた。

289ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:11:02 ID:p55OrQ4w
 
『まさか起こす気か?そりゃ、方法は幾つかあるけどよぉ』
「そのまさかよ、私とルイズが身を粉にする思いで戦ってたんだから次はコイツに頑張ってもらうわ」
「でもどうやって起こすのよ?確か『スリープ・クラウド』で眠った人は魔法を使わなきゃ起きないって聞くけど…」
 これからやろうとすることに気付いたらしいデルフの言葉にそう答えていると、背後からルイズが話しかけてきた。
 後ろを振り向いてみると何の気まぐれか、彼女の左手にはワルドとの戦いで最初に蹴り飛ばされた御幣が握られている。
 まるで母の乳を吸う時期から脱した子供が木の棒を握った時のような無造作な持ち方であったが、一応は持ってきてくれたらしい。
「…ほら、コレあんたのでしょ?だから、その…持ってきてあげたわよ」
 そして霊夢の視線が自分の左手に向けられている事に気が付いたルイズは、スッと左手の御幣を差し出してそう言った。
 顔を若干左に反らして口をへの字にする彼女の姿を見て、霊夢は少しだけ目を丸くしつつ素直に受け取る。
 時間にすれはほんの十分程度しか手放していなかったお祓い棒は、しっとりと冷たかった

「………ありがとう、助かったわ」
「お礼なんて、別にいいわよ…それより、早くその黒白を起こしちゃいなさい」
 反らした顔を顰めさせて気恥ずかしい気分を隠そうとするルイズの後ろを姿を見ながら、霊夢もまた「分かってるわよ」と返す。
 左手に握っていたままだったデルフを鞘に戻ししてから、右手に持つ御幣を静かに頭上まで振り上げる。
 その動作と仰向けに倒れて寝ている魔理沙を交互に見て、゙嫌なモノ゙を感じたルイズが彼女に声を掛けた。
「ちょっと待ちなさい。アンタ、それで殴るつもりなんじゃ…」
「そんなんじゃないわよ。ちょっとショックを与えてやるだけよ」
 ショック…?ルイズが首を傾げるなか、霊夢は体に残っている霊力の少しを御幣へと送り込んでいく。
 これから行う事は然程霊力を使うわけでもなく、送り込むという作業はすぐに終了した。

「よっ――…っと!」
 軽い掛け声と共に、霊夢は両手に持った御幣を目をつぶっている魔理沙の顔目がけて振り下ろした。
 そこに殺意は無く振り下ろす時の速さも何かを叩き割るというより、子供が玩具のハンマーで同じ玩具の縫いぐるみを叩くような感じである。
 そんなノリで振り下ろした御幣の紙垂部分が眠り続けている魔理沙の頬に当たった瞬間、紙垂から青い光が迸った。
 薄い銀板で造られたそれ等は霊夢が御幣に送り込んだ霊力を魔理沙の体内へと送り、内側から刺激を与えていく。
 刺激そのものはそれほど痛くはないものの、魔法と同様の力が体中をめぐる衝撃に流石の魔理沙も黙ってはいなかった。
「―――ッ……!?…ッイ、イテッ!な、何だよ!何だ!?」
 紙垂から青い光が迸ったのと同時に目を開き跳ね起きた魔理沙は、小さな悲鳴を上げながら小躍りしている。
 恐らく霊夢の霊力が思ったほど痛かったのだろう。痛そうに顔を歪めて小さく跳ねる姿を見て流石のルイズも顔を顰めてしまう。
「…何したのか全然分からないけど。アンタ、やり過ぎなんじゃないの?」
「別にいいのよ、コイツは丁度良い薬だわ」
「!…お、おい霊夢!お前か犯人はッ」
 会話を聞かれてたのか、跳ねるのをやめた魔理沙が目をキッと鋭くさせて霊夢を睨み付けた。
 もう体に送り込んだ霊力は消滅したのだろう。すっかり目を覚ました普通の魔法使いはその体から敵意を放っている。
 無論、その敵意の向けられている先には面倒くさそうな顔をしている霊夢がいた。

「お前なぁ〜…!いくら知り合いだからって、今のはマジで痛かった………って、あれ?ルイズ?はて…」
 霊夢を指さして怒鳴ろうとしていた彼女はふと、その隣にルイズがいる事に気が付いてキョトンとした表情になった。
 まだ彼女が眠る前はワルドの手の内であったから、ボロボロではあるが平然と立っているルイズに驚くのも無理はないだろう。
「アンタが眠っている間に私と、あと途中からルイズが入ってきてワルドとかいうヒゲオヤジと戦ってたのよ」
『そういうこと。お前さんが不意打ち喰らってグースカ寝てる間に、レイムと娘っ子が尻拭いしてくれったワケさ』
 デルフも加わった霊夢からの説明を聞いて、ようやく理解する事の出来た魔理沙は「マジかよ」と言いたげな顔になる。
 しかしどこか気に入らない事があるのか、やや不満げな表情を浮かべる彼女はもう一度霊夢を指さしながら言った。

290ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:13:05 ID:p55OrQ4w
 
「…まぁ事情は理解したよ。けれどな、だけどな?幾ら何でも起こすためだけにアレはないだろう、アレは!」
「まぁそうよね。もっと他に方法があったでしょうに」
 魔理沙の言う「アレ」とは、正に先ほどの行為なのだろうと察したルイズも思わず彼女意見に同意してしまう。
 確かに『スリープ・クラウド』で眠った者はなかなか起きないと聞くが、あんなに痛がらせる必要があったのだろうか…?
 
「まぁ日頃の行いのツケだと思いなさい。…それに、アンタを起こしたのは手を借りたいからよ。ホラ、後ろ見てみなさい」
「ん?後ろ、……んぅ?―――――わぁお、これまた団体様御一行での登場か」
 悪びれる様子も無い霊夢は後ろを指さすと同時に、後ろを振り向くよう魔理沙に指示をした。
 彼女は知り合いの指が向いている方向に何があるのかと気になったのか、素直に後ろを振り向き、そして理解する。
 何でこの巫女さんが寝ている自分を乱暴に起こしたその理由と、自分がこれから何をされるのかを。
 振り返った視線の先、森の中で妖しく光る丸く黄色い光たちを睨み付けながら、魔理沙はフンと鼻で笑う。
「成程なぁ。つまり私を起こしたのは、お前がするべき化け物退治を私に丸投げするって事か?」
「そう言われるのは癪だけど、言われちゃったら言い返せないわねェ。ちょっとさっきの戦いで力を使い過ぎちゃったから…」
 連戦はちょっとキツイかも…。最後にそう付け加えて、霊夢はため息をつきながら額に手を当てた。
 『ガンダールヴ』が解除された影響で、体に蓄積されていた疲労が戻ってきたせいで万全とは言えない状態である。

 かなり弱ってしまった巫女さんをニヤニヤと見ながら、地面に落ちていた箒を拾った魔理沙がその口を開く。
「こりゃまた珍しいな。妖怪モドキを前にしたお前さんの口からでるセリフとは思えないぜ」
「ソイツらだけじゃないわよ。ホラ、あの空の上のアルビオン艦隊だって最悪相手にしなきゃならないのよ?」
 魔理沙の言葉にそんな横槍を入れてきたのは、空を指さしたルイズであった。
 彼女の言葉に振り返っていた体を戻すと、既に花火を打ち上げ終えたアルビオン艦隊が遥か上空で動きだそうとしている最中だ。
 とはいっても、魔理沙や他の二人が見ても止まっているように見えてしまう程ゆっくりであったが。
「…?私の目には停止しているように見えるんだが」
「そりゃあんだけ大きい艦となると動かすのにも時間が掛かるし、もしもアレを倒すんなら今しかチャンスが無いわ」
 艦隊を指さしながら説明をするルイズの顔は、自分の国の首都を蹂躙しようとする艦隊への敵意が込められている。
 普通に考えても、たった三人の少女だけであの規模の艦隊…それも精鋭と名高いアルビオン空軍の艦隊と戦う事などできない。
 更に今彼女たちがいる地上では自分たちを追跡していたキメラ達が今にも森の中から出てきて、襲い掛かろうとしているのだ。
 物量、力量共に敵側に分がある今の状態では、広江困憊したルイズたちが勝てる可能性はほぼ無いと言っても良い。
 普通の人間ならば、今は戦う時ではないと諦めて戦術的撤退を行っていたであろうが――――彼女たちは違った。

「………魔理沙、アンタはどう思う?」
 ルイズが指さす艦隊を見上げながら、霊夢は隣にいる魔法使いに聞いた。
「そりゃ、お前…アレだよ?こういうのはアレだよな?ああいうデカブツほど『潰しがいがある』ってヤツさ」
 頭に被る帽子の中からミニ八卦炉を取り出しながら、魔理沙は巫女にそう言った。
 その顔にはこれから起こるであろう戦いへの緊張や恐怖という類の感情は、全く浮かんではいなかった。

 笑顔だ。右手に箒、左手にミニ八卦炉を持った普通の魔法使いの顔には笑みが浮かんだいる。
 それも戦い飢えた狂人が浮かべるようなものではなく、ただ純粋にこれから始まる戦い(ステージ)に勝ってみせるという楽しげな笑み。
 命を賭けた戦いだというのに、彼女の顔に浮かぶ笑みからは…ほんの少し難しい゙ハードモード゙で遊んでやろうというチャレンジ精神が見えていた。

「散々ここで化け物どもを放って、好き放題やったんだ。次は私゙たぢが好き放題させてもらう番だぜ」
 最後に一人呟いてから、体を森の方へと向けた魔理沙はミニ八卦炉を構えた。
 その彼女に続くようにしてルイズと霊夢も後ろを振り向き、それぞれ手に持った獲物を構えて見せる。
 ルイズはスッと杖をキメラ達へ向け、霊夢は懐からスペルカードを取り出して臨戦態勢へと移っていく。
 森の中に潜む異形達も準備が整ったか、滲み出る無機質な殺気がいつ敵の攻撃となって森から出てきても可笑しくは無かった。

291ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:16:14 ID:p55OrQ4w
 
「空の大物を沈める前に、まずはコイツラ相手に肩ならしといきますかな?」
 二人と比べて、体力が有り余っている魔理沙がキメラ達に向けて宣戦布告を言い放った瞬間…。
 木立を揺らしながら出てきたキメラ゙ラピッド゙がその銀色の体を輝かせ、手に持った槍を突き出しながら森から飛び出し――――――


――――――空から降ってきた青銅色の゙何がに勢いよく押し潰されて、くたばった。


 窓際に置いていた植木鉢が落ちて、偶然にもその下にいた不幸な人の頭に落ちるかのように、
 その青銅色の゙何がに当たる気など全く無かったキメラは、突撃しようとした矢先に落ちて来だ何がに潰されたのである。
 天文学的確率は言わないレベルではあるが、このキメラの運が底なしに悪かったという他あるまい。

「――――――…っな、なぁ…!?」
 そんな突然の事態に対しも真っ先に反応できたのは、ミニ八卦炉をキメラに向けていた魔理沙であった。
 物凄く鈍い音を立ててキメラに直撃してきたそれに驚き、ついさっきまで浮かべていた笑みは驚愕に変わっている。
「ちょっと…何アレ?」
「何よ?また別の新手でもやってきたワケ?」
『いや〜、仲間を押しつぶす形で降りてくるようなヤツは流石にいないだろ?』
 ルイズと霊夢も彼女に続いてキメラの上に落ちてきたソレに気付き、両者がそれぞれの反応を見せる。
 そこにデルフも加わり、ほんの少しその場が賑やかになろうとした時、魔理沙に次いで声を上げたルイズが何かに気付く。

 キメラの上に落ちてはきた青銅色の゙何か゛は、よくよく見てみれば人の形をしている。
 やや細身ではあるが、物凄い勢いとキメラを押しつぶした事を考えれば相当の重量があるのだろう。
 潰れたキメラの上に倒れ込むような体勢になってはいるが、少なくともルイズの目には彼女が傷一つ負っていないように見える。
 青銅色の体には同じ色の鎧を纏っており、まるで御伽噺に出てくるような戦女神の姿はまさしく………
 
 そこまで観察したところで、ルイズは思い出す。こんな『自分の趣味全開のゴーレム』を作り出せる、一人の知り合いを。
 別段そこまで親しくは無く、かといって赤の他人とも呼べるほど縁は薄くない彼の名前を、ルイズは記憶の中から掘り起こすことができた。
「あれっ…てもしかして……ギーシュのワルキューレ?」
「あらぁ〜?大丈夫だったのねぇルイズ」
 彼の名と、彼がゴーレムに着けている名前を口にした直後――――三人の頭上から女の声が聞こえてきた。
 三人―――少なくともルイズと霊夢は良く耳にし、あまり良い印象を持てない゙微熱゙の二つ名を持つ彼女の甘味のある声が。
 本当ならばこんな所で聞くはずも無く、そして暫く目にすることも無かったであろう彼女の姿を思い出し、ルイズは咄嗟に顔を上げる。
 

 そして彼女は見つけた。自分たちのいる地上より少し離れた上空から此方を見つめる青く幼い風竜と、
 羽根を器用に動かしてその場に留まっている風竜の上にいる、三人の少女と一人の少年の姿を。
 その内の一人、こちらを見下ろすように風竜の背の上で立って凝視している少女は、燃えるような赤い髪を風でなびかせている。
 彼女の髪の色のおかげてある程度離れていてもその姿はヤケに目立ち、そして彼女自身もルイズたちにその存在をアピールしていた。
 ここで出会う事など全く考えていなかったルイズはその髪を見て、目を見開いて驚いた。 

「キュルケ!どうしてアンタがここに…!?」
「こんばんはルイズ。てっきりギーシュのゴーレムで大変な事になってたと思ったけど…」

 とんだサプライズになってくれたわね。最後にそう付け加えて彼女――――キュルケは笑みを浮かべて手を振った。

292ルイズと無重力巫女さん ◆1.UP7LZMOo:2016/11/30(水) 22:18:07 ID:p55OrQ4w
以上で77話の投稿を終わります。
それでは皆さん、また来月末にお会いしましょう。ノシ

293ウルトラ5番目の使い魔 51話 (1/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:23:21 ID:CY9.ftKk
こんばんわ、皆さん。ウルトラ5番目の使い魔、51話できました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。今回ちょっと長いです。

294ウルトラ5番目の使い魔 51話 (1/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:24:56 ID:CY9.ftKk
 第51話
 始祖降臨
 
 根源破滅天使 ゾグ(幻影)
 超空間波動怪獣 クインメザード
 未来怪獣 アラドス 登場!
 
 
 根源的破滅招来体の僕がトリスタニアに張り巡らせた超空間は、ハルケギニアの人間の力では解析も破壊も不可能な代物であった。
 だが、破滅招来体と同格の科学力を持つ者であれば話は別だ。
 別の次元の地球を破滅招来体が襲ったとき、その地球の人間は地球の怪獣たちの力も借りて破滅招来体の侵略を防ぎきった。
 しかし、人類にとってまったく未知の領域からの攻撃を仕掛けてくる破滅招来体との戦いは決して楽なものではなく、防衛組織XIGはその度に綿密な研究解析を行い、対抗する技術を蓄えてきた。
 すなわち、今ハルケギニアで猛威を振るっている破滅招来体の手口も、彼らからしてみれば一度見たものだということだ。
 超空間を張って幻影を投射してくる敵。我夢はそいつに覚えがあった。破滅招来体らしい、人の心に付け入ってくる卑劣な作戦は、何度も送り込まれてきた波動生命体の最後の奴が使っていたものだ。
 当然、対処方法はわかっている。破滅招来体は、この世界では対応策を打たれることはないと高をくくっていたのだろうが、その慢心が命取りだ。
 
 ファイターEXから放たれた一発の特殊ミサイルが超空間に突き刺さる。我夢はこの世界に渡るに当たって、できる限りの準備をしてきた。戦いは油断したほうが負けるということを知るといい。
 
 ミサイルの効果で超空間が破壊され、女性の悲鳴のような叫びが轟いた。超空間を作っていたものが空間を維持できなくなってもだえているのだ。
 超空間の崩壊とともに、天使の姿も実体を維持できなくなって崩壊を始めた。画質の劣化した映像のように巨体の輪郭が乱れ、ついには出現したときと同じ金色の粒子になって崩壊してしまったのだ。
 天使の消滅にロマリアの兵たちから「ああっ、天使さまが!?」という悲鳴が次々にあがる。それはまさに、トリステインの最終防衛ラインが破られる寸前の出来事であった。
 さらに、天使の消えた場所に、入れ替わるようにして怪獣が現れた。いびつに組み上げられた骨格のような胴体に、トカゲの骸骨のような頭部を持ち、腹には人間の顔のような紋様を持つ醜悪な姿。超空間波動怪獣クインメザード、こいつが超空間を作り出して、天使の幻影を投影していたのだ。

295ウルトラ5番目の使い魔 51話 (2/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:26:09 ID:CY9.ftKk
 だが、ファイターEXの放ったミサイルで超空間は破壊され、クインメザードは現実空間へといぶりだされた。人々の間からそのグロテスクな姿に悲鳴が上がり、特にロマリア側は大混乱だ。
 しかし今がチャンスだ! ウルトラマンコスモスは、経緯はわからないが、あの戦闘機が味方で、怪獣の超能力を破ってくれたのたと理解した。
 今はそれで十分。誰かは知らないが、ありがとうとコスモスは心の中で礼を言うと、赤い光をまとい、戦いをつかさどる次なる姿へと転身を遂げた。
『ウルトラマンコスモス・コロナモード』
 邪悪を粉砕する、太陽の輝きのごとき戦いの巨人の姿。コスモスはクインメザードに対して、共存が不可能な邪悪な知性を感じていた。かつて倒した怪獣兵器スコーピスと同じく、意思はあってもそのすべてが悪意で埋め尽くされているような負の生命体、そう生まれたのではなくそう作られたもの、倒す以外に道はない。
 クインメザードは超空間から引きずり出され、特殊ミサイルの影響で女性の悲鳴のような叫びを上げて苦しみながらも、触手から電撃を放ってコスモスを攻撃してきた。
 爆発が起こり、コスモスの周囲に炎が吹き上がる。しかしコスモスはそんな攻撃をものともせず、両手に赤く燃え上がるエネルギーを集中させ、腕をL字に組んで灼熱の必殺光線を放った。
 
『ネイバスター光線!』
 
 超威力のエネルギー流が炸裂し、クインメザードは大爆発とともにあっけなくも四散した。元々からめ手で相手をはめて嬲ることに特化した怪獣だったので、直接的な戦闘力はほとんど割り振られていなかったのだ。
 断末魔の叫びを残し、クインメザードは絶命し、同時に超空間も完全に消滅してトリスタニアは平常に戻った。
 残ったのは、命拾いをして息をつくトリステイン軍と、茫然自失とするロマリアとガリア軍のみ。虚無の魔法が作ったイリュージョンのビジョンで、世界中で見守っていた人々もなにが起こったのかわからないでいる。
 神々しい天使が消えうせ、代わりに醜い怪獣が現れて倒された。なにがどうなっているかを説明できる者などいない、例外はガリアでジョゼフがほくそ笑んでいたくらいだろう。
「さて、どう出る教皇聖下どの? まさかこれで幕引きではあるまい」
 ジョゼフにとってはどちらが勝とうがどうでもいい。しかし、この戦いで生き残ったほうがいずれ自分を殺しに来るのだろうから、見ておく価値はある。なにより、どうせ長くはない命、冥土のみやげは少しでも多く作っておくに越したことはない。
 だが、わずかな例外を除いては、いまやトリスタニアを見つめている数百万の視線は懐疑と困惑の色に染められている。
 なにが正義で、なにが悪なのか? 見守っている人々は信じているものと、信じたいものと、信じたくないものが頭の中で交じり合い、その答えを待つ。

296ウルトラ5番目の使い魔 51話 (3/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:28:02 ID:CY9.ftKk
 不気味なまでの沈黙と静寂。だがそれは長くてもほんの数十秒であっただろう。なぜなら、誰もが答えを与えてくれるであろうお方の言葉を心待ちにして沈黙していたのだが、この沈黙をチャンスとしてアンリエッタが教皇に対して切り出したのだ。
「教皇、あなたのトリックは破れました。世界中の皆さんも見ましたね! あの天使は、先ほどの怪獣が作り出していた虚構だったのです。皆さん、天使など最初から存在しません。教皇は、天使の威光を笠に着て我々をだまし、世界を破滅に導こうとしているのです。皆さん、今こそ目を覚ましてください」
 先ほどの失敗を繰り返してなるものかと、アンリエッタは先手を打ったのだった。ロマリアの兵たちが動揺している今ならば、こちらの声も向こうに届く。逆に言えば、今しかチャンスはない。
 アンリエッタの言葉に、ロマリア側の動揺が大きくなる。アンリエッタはこれを見て、しめたと思った。ここから一気に突き崩せれば……だが、その一瞬の油断が彼女の未熟さであった。彼女よりもはるかに老獪な教皇は、アンリエッタが追撃の口弾を撃ちだすよりも早く、よく通る声で割り込んできたのだ。
「親愛なるブリミル教徒の皆さん、惑わされてはなりません! すべては、あの女、アンリエッタが仕掛けた大いなる芝居だったのです!」
「なっ!?」
 なにを言い出すのかと、アンリエッタは言葉を失った。だが、マザリーニやカリーヌなどの政争を知る者たちは、教皇の企みをすぐに看破した。まずい、この手口は!
「ブリミル教徒の皆さん、私はおわびせねばなりません。なぜなら今の今まで、私もあの王冠を冠った魔女にだまされていたのです。あれが悪魔の技で天使を作り出して我々をだまし、自ら倒すことで私に濡れ衣を着せようとしたのです。我々はだまされていたのです!」
 なっ! と、アンリエッタや彼女の傍らに控えていたエルオノールらは思った。
 ふざけるな、あの天使はお前たちの策略だったではないか。それを、なんという言い草だ。
 だが、アンリエッタが言葉を失っているのを見てマザリーニが悲鳴のように進言した。
「いけません、女王陛下。すぐに教皇の言を否定するのです!」
「枢機卿!?」
「詐欺師の手口です。どんなことになっても自分の罪を認めず、すべてを他人に押し付けて自分の潔白を主張し続けるのです。否定しないと、罪を認めたことになりますぞ、大衆は声の大きいほうを信じてしまうものなのです!」
「くっ、どこまでも卑劣な!」
 これが仮にも教皇のやることかとアンリエッタは澄んだ瞳に怒りを燃え上がらせた。

297ウルトラ5番目の使い魔 51話 (4/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:28:53 ID:CY9.ftKk
 しかし、有効な手口だというのは認めざるを得ない。迷っていた人々は教皇の言葉を受けて、教皇への支持を取り戻しつつある。相手が不安になったところに救いの道を指し示せば、相手はその言葉に矛盾が混じっているのに気づかずに信じてしまう。詐欺師のやり口は人間の心にアメーバのように浸透してくるのだ。
 アンリエッタは急いで教皇への反論を始めた。
「戯言はやめなさい教皇! あれはどう見ても、あなたたちに都合よく動いていたはず。さんざん天使様を賞賛する言葉を吐いておいて、よくもそんな手のひら返しができますね」
「ああ、悲しいことです。私は神の御前で懺悔せねばなりません。しかし、天使の姿に畏敬の念を抱いてしまうのは私の信仰心からきてしまう行動なのです。私の深い信仰心が罪となるとはなんと恐ろしい。ブリミル教徒の皆さん、我々の信仰心を弄んだ、あの悪魔を許してはなりません」
 必死に食い下がるアンリエッタだったが、舌戦は経験の差がもろに出てしまうものだ。年若いアンリエッタと、海千山千の教皇とでは歴然としていた。
 しかし、アンリエッタはあきらめずに教皇に対抗して人々に訴え続けた。この戦争の意義は勝敗ではない、いずれの大義が真実であるかを世の人に知らしめすことなのだ、そしてそれは自分にしかできないことだ。
”戦いは、トリステインの皆さん、ウルトラマンさんたちのおかげで、ようやくここまでこれました。これで教皇の化けの皮をはぐことさえできれば聖戦は止められる。ルイズ、始祖ブリミル、どうかわたしに力を貸してください!”
 心の中で祈り、アンリエッタはそばに控えたマザリーニの助言も受けつつ教皇の言葉と行動の矛盾を突き続けた。
 舌戦は激烈を極め、人々はそれに耳を傾ける。だが、多くの人々は教皇聖下がアンリエッタを論破するのを期待したであろうのと裏腹に、舌戦は意外な方向へと進んでいった。アンリエッタが押し始めたのだ。
「教皇、先ほどの天使が私の作った偽者と言うのであれば、ロマリアであなたに啓示を授けたというものはいったい何なのですか? それが本物だというのならば、なぜ偽者が暴れているにも関わらず本物は現れないのです? そして、ロマリアに現れた天使もまた偽者だとすれば、あなたは神の啓示など受けていないことになります、違いますか!」
 ヴィットーリオは当初余裕を浮かべていたが、アンリエッタは猛烈な食い下がりで彼を引きずり落としていった。
 もちろん、アンリエッタ自身の言葉のボキャブラリーには限界がある。しかし彼女にはマザリーニやエレオノールらがついて、可能な限りの助言をおこなっていたのだ。マザリーニの理路整然とした論理と、エレオノールの相手を圧迫する口撃力、これらが合わさったときの破壊力はすさまじかった。
 対して、ヴィットーリオに助言できる者はいない。教皇聖下に意見できる者などいるわけがない。
 三人寄れば文殊の知恵という言葉があるが、今のアンリエッタはまさにそれだった。特に、ヴィットーリオは知識量についてはアンリエッタらを上回ったが、弁説や機転は一人分しか持っていない。アンリエッタが助言を元にアプローチをたびたび変えながら攻めてくるのに対して抗しきるのには限界があった。
 ペンは剣より強しと地球の誰かが言った。その意味がここにある。戦場で万の敵を倒すことは難しくとも、言葉は一度に億の民を動かすことができる。
 そしてこれはトリステインではアンリエッタしかできない仕事だ。武勇を誇るカリーヌも、見守るコスモスや上空を旋回するファイターEXからの映像で見守る我夢たちも、これには何も助力することはできない。
 当初はやはり教皇聖下が正しいと思い始めていた人々も、教皇の話の中の矛盾が暴露されるに従って疑いを抱き始めた。この戦いはおかしいという意識が広がり始め、教皇、そしてジュリオの心にも焦りが生まれ始めた。
『聖下、まずいですよ。このままアンリエッタにいいように言わせては』
『わかっています。むう、あの小娘がここまでやるとは、あなどっていました』
 思念で会話しつつ、ヴィットーリオとジュリオは流れがアンリエッタに移りつつあることを認めざるを得なかった。

298ウルトラ5番目の使い魔 51話 (5/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:30:17 ID:CY9.ftKk
 まずい、このままでは全世界の見守る前で聖戦のカラクリを暴露されてしまう。そうなれば、今までの苦労がすべて水の泡だ。
『聖下、ロマリアの兵はまだしもガリアの兵の動揺が大きくなっています。たぶん世界中でも……せめて、イリュージョンのスクリーンだけでも解除されては?』
『いいえだめです。これは、一度発動したら役割を命じた時間が来るまで消えないのです。心配はいりません、まだこちらには切り札があります。ジュリオ、私のそばへ』
 舌戦が一段落し、アンリエッタとヴィットーリオは息継ぎをするように一度押し黙った。
 しかし、沈黙は長くは続かない。この機を逃してはなるまいと、アンリエッタは攻勢を再開した。
「教皇、いい加減に観念するのです。あなたの詭弁は、わたしがすべて打ち砕きます。罪を認め、その正体を現しなさい!」
「アンリエッタ女王陛下殿……私は正直、あなたを見損なっていたようです。確かに私の行動に矛盾があることは認めましょう。ですがそれはハルケギニアに真の平穏をもたらすための、いわば必要悪だったのです。仕方ありません、真に正しいものは動かないという証拠を、ここにお見せしましょう」
 そう言うとヴィットーリオは、ジュリオが傍らに連れてきたドラゴンの背に乗り、ジュリオとともに飛び立った。
 ジュリオの操るドラゴンは速く、あっという間にロマリアの陣地から彼らをトリステインの街を囲む城壁の上へと連れて行った。
 城壁の上はすでにロマリア軍に占拠されており、ここからはどちらの軍からでも教皇の姿を望むことができる。
 そしてヴィットーリオは全軍を見渡すと、杖を掲げて高らかに宣言した。
「皆さん、始祖の残された力のことはご存知でしょう。そう、”虚無”です! アンリエッタ女王がいかに私を糾弾しようとも、虚無の力を持つということは、すなわち始祖に選ばれた者という証拠なのです。先ほど私はイリュージョンの魔法で世界をつなぎました。世界中の皆さん、見ていなさい。皆さんに、虚無のさらなる力をお見せしましょう!」
 虚無? 虚無! 虚無だって!?
 人々の間に動揺が広がるのと同時に、ヴィットーリオは呪文を唱え始めた。誰も聞いたことのないスペルが流れ、メイジたちは膨大な魔法力が集まっていくのを肌で感じ、すぐにそれは平民にもはっきりとわかる激しさで大気を鳴動させ始めた。
「な、なに? 何を始めようというのですか」
 まるで巨大地震の前兆のような地鳴りとともに、トリスタニア全体の大気が揺れている。アンリエッタたちは城の手すりにつかまりながら、これがただの魔法などではないことを悟った。

299ウルトラ5番目の使い魔 51話 (6/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:32:03 ID:CY9.ftKk
「本当に虚無? いけない、何をするのかわからないけれど、このままではトリスタニアが危ないわ。カリン様、教皇を止めてください!」
「御意!」
 なにをするにしたってろくなことであるはずがない。アンリエッタに言われるまでもなく、カリーヌは絶好の射点にわざわざやってきてくれた教皇に魔法の狙いを定めていた。
 しかし、魔法の完成は教皇のほうが一歩だけ早かった。
 
『世界扉』
 
 完成した魔法が発動した瞬間、空に穴が開いた。
 トリスタニアの上空に直径数百メイルに及ぶであろう巨大な黒い穴が開き、それが巨大な引力を発揮してすべてを飲み込み始めたのだ。
「うわぁぁっ! な、なんだ。吸い込まれる!」
 トリステイン軍は竜巻に巻き込まれたような強風に襲われた。猛烈な風が渦巻き、街の家々から屋根やガラスが引き剥がされて砂塵とともに吸い上げられていく。以前オルレアン邸でタバサを飲み込んだ異次元ゲートに似ているが、規模ははるかに大きい。
 勢いはどんどん強くなっていく。このままでは人間が巻き上げられるのもすぐだ。アニエスや、各軍の部隊長たちは必死に叫んだ。
「いかん! 全員なんでもいいから手近なものに掴まれ! できなければすぐ伏せろ!」
 トリステイン軍はもう戦いどころではなかった。彼らの持っている杖や剣さえも巻き上げられていき、街全体からあらゆるものが吸い上げられていく。
 しかし不思議なことに暴風はロマリアの兵たちは吸い込まず、トリステイン軍ばかりを吸い上げていく。そして、ヴィットーリオは唖然とするロマリア軍にゆるやかに語り始めた。
「驚かれましたか? これは私の持つ虚無の魔法『世界扉』です。世界の理を歪め、冥府への扉を開きます。そして不浄なるものをすべて異界へと連れ去ってしまうでしょう。ただ膨大な精神力を使ってしまうため、本来ならばエルフとの聖戦まで温存したかったのですが、聖戦の大義を証明するためには仕方ありません。さあ、神に歯向かった者たちの最期をともに見届けましょう!」
 ヴィットーリオの呼びかけに、ロマリア軍からうめきにも似たどよめきが流れた。
 人知を超えた天変地異にも匹敵する力、これが虚無なのか。これはもはや魔法と呼べる代物ではない。まるで、悪夢の光景だ。

300ウルトラ5番目の使い魔 51話 (7/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:33:00 ID:CY9.ftKk
 本来の世界扉は異世界間のゲートを作り出すだけの魔法だが、根源的破滅招来体の力で強化されたその威力は、地上に開いたブラック・ホールのようにトリスタニアのすべてを吸い込んでいく。
 家が、商店が引き剥がされて舞い上がっていく。人間たちも必死に地面にしがみついているが、体重の軽い者や力の弱い者、傷ついた者は今にも宙に浮き上がりそうである。戦傷者救護所では、野外に寝かされていたけが人たちを魅惑の妖精亭の少女たちが必死に屋内に運び込もうとしていたが、すぐに建物ごと飲み込まれそうだ。
 ならば、魔法を使っている教皇を倒せば。だがそれもだめだった。カリーヌが魔法攻撃を放とうとしても、世界扉の吸引力が勝り、使い魔のラルゲユウスごと引き込まれていく。
「うわあぁぁっ!」
 ラルゲユウスの飛翔力を持ってしてもどうしようもなかった。錐もみ状態ではカリーヌも魔法が使えない。
 カリン様! アンリエッタの悲鳴が響いたとき、コスモスが飛んだ。
「ショワッチ!」
 コスモスは引き込まれかけていたラルゲユウスを掴まえると、そのまま担いで地上に引き戻した。
 だが、世界扉の吸引力はコスモスも引き込もうとしている。カラータイマーの点滅が限界に近いコスモスでは、せめて耐える以外にできることはなかった。
 ファイターEXも影響圏から離脱するのでやっとだ。元素の兄弟は魔法で体を地面に固定して耐えていたが、やがて地面ごと引っぺがされそうな勢いに冷や汗をかき始めていた。
 そして宮殿もまた、トリスタニアごと消滅しようとしていた。尖塔はもぎとられ、煉瓦は舞い上がり、噴水は干上がり、城門が剥ぎ取られていく。
「じ、女王陛下、城内にお入りください!」
「もうどこにいても同じことです。それにわたしは、たとえ死んでもここを離れるわけにはいきません。はっ、ウェールズ様!」
 バルコニーにしがみつくアンリエッタの見上げる前で、アルビオン艦隊も飲み込まれていく。
 もはや、これまでなのかとアンリエッタの目に涙が浮かんだ。トリステインもアルビオンも地上から消え去り、ハルケギニアは教皇の思うがままになってしまう。
 ここまでやったのに、みんな死力を尽くして戦ったのに、最後の勝利は教皇のものなのか。これでは神よ、始祖よ、あんまりではありませんか。

301ウルトラ5番目の使い魔 51話 (8/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:34:17 ID:CY9.ftKk
「ルイズ……ごめんなさい」
 涙が暴風に乗り、闇のかなたへ消えていく。
 崩壊していくトリスタニア。もはや誰にも、どうすることもできない。
 あと数秒もすれば、街だけでなく人間たちも塵のように巻き上げられていくだろう。
 すべてが……消える。そしていずれはハルケギニアも消える。努力も、夢も、希望も、なにもかも。
 それでも最後まで、あきらめない心だけは捨てない。地面に必死に食らいつく銃士隊の中で、ミシェルはそれが才人の教えてくれたことだと信じ、繰り返す。
「負けるもんか、負けるもんか……あきらめない奴にだけ、ウルトラの星は見える。そうだろ? サイト」
 どんな絶望の中でも、自分から希望は捨てない。未来は、奇跡はその先にしかない。ミシェルはそれを信じた、なによりも才人を信じた。
 だが、すべてが消滅しようとしているこの時に、いったいどんな奇跡が起こるというのだろう? もう、誰もなにもできない。間に合わない。
 悪の勝利、すべてが消える。教皇がそれを確信し、勝利の宣言をしようと空を見上げた、まさにそのときだった。
 
 
「待ってたぜ教皇! てめえがもう一度その、世界扉の魔法を使う瞬間をな!」
 
 
 突然、空に開いた世界扉のゲートから声が響いた。
 あの声は、まさか! その声に聞き覚えのあるアニエスやスカロンやエレオノール、そしてミシェルが空のゲートを見上げる。
 さらに、ゲートが突然スパークして不安定に揺らいだ。と、同時に吸引力が消滅し、浮き上がりかけていた人々は再び重力の庇護を受け、なにが起こったのかをいぶかしりながら空を見上げる。

302ウルトラ5番目の使い魔 51話 (9/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:36:26 ID:CY9.ftKk
 しかし、一番衝撃を受けていたのは教皇とジュリオだ。ふたりは、突然制御を失ってしまったゲートを見上げながら焦っていた。
「あの声は!? そんな馬鹿な。聖下、なぜワームホールが」
「わかりません。まるで、ワームホールの先から何かが無理矢理やってこようとしているような。まさか!」
 そのまさかであった。彼らも聞いたあの声は、異次元のかなたへと追放したはずの、彼の声。
 ヴィットーリオの開いたワームホールに無理矢理介入し、流れの反対方向からやってこようとしている何者か。それはワームホールの出口を破壊しながら、稲妻のように現れた。
 
「うわぁぁ、うわおわあぁーっ!?」
「きゃあぁぁーっ!?」
 
 一部の人間には聞きなれた二名の声。それが響いたと同時に、空に開いていたワームホールは激流の直撃を受けた水門のように爆裂し、代わって中から現れた何かが流星のように教皇のいる場所の傍の城壁の上に墜落した。
 何かが墜落した場所で爆発が起こり、巨大な城壁が落ちてきた大きな何かに押しつぶされて粉塵とともに築材が撒き散らされる。
 何が落ちてきた!? この場にいる人間のすべての視線が舞い上げられた粉塵に注がれ、そして風で粉塵が流された後には、巨大なカタツムリのようで、しかしとぼけた顔をした顔をした怪獣が城壁を押しつぶして寝そべっていた。
 それを見ると、コスモスは「そうか、ついにそのときが来たんだな」と、なにかに満足したように消えた。一体コスモスは何を? 変身を解かれたティファニアは不思議に思ったが、コスモスは何も答えてはくれない。
 だが当面の問題は怪獣だ。人々からは、怪獣!? 怪獣だ! という叫び声が次々にあがる。

303ウルトラ5番目の使い魔 51話 (10/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:38:34 ID:CY9.ftKk
 しかし、人々の関心はすぐに怪獣から離れることになった。なぜなら、怪獣の影から複数の人影が這い出してきたかと思ったら、突然がなり声で言い合いを始めたからだ。
 
 
「あだだだ……っ。ち、着地のことまで考えてなかったぜ。って、ここは……おお! トリスタニアじゃねえか! てことは、おれはとうとうハルケギニアに戻ってこれたんだ。よっしゃあ、やったぜえ!」
 
「いてて、よかったねサイトくん。いちかばちかの賭けだったけど、どうやら成功したみたいだね」
 
「はい、みんなあなたのおかげです……って、なんであなたたちまでここにいるんですかぁぁぁぁぁ!」
 
「いや、離れるつもりだったんだけど巻き込まれちゃって、仕方なく、ね。へえ、ここが君の時代かぁ、なるほど、僕らが頑張ったかいはこうなるのか。君も、しみじみすると思わないかい?」
 
「するわきゃないでしょ! なに私まで引きずりこんでくれちゃってるの! さっきサイトに見せちゃった私の別れの涙を返しなさいよ、やっぱりあんたを蛮人と呼ぶのをやめるのをやめるわ、少しは反省しなさいよーっ!」
 
「ぐぼぎゃ!?」
 
 青年と少年と少女が言い争いの末に、青年が少女に殴り飛ばされて派手に吹っ飛んだ。

304ウルトラ5番目の使い魔 51話 (11/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:40:33 ID:CY9.ftKk
 それだけではなく、別の方向からもう一組の男女が現れて。
 
「うう、いったぁ……ほんとに、あんたといるとろくなことがないわ! あれ? ここはもしかして、トリスタニアじゃない! やったあ! とうとう、とうとう帰ってこれたんだわ」
 
「やったなルイズ。うんうん、これもひとえに俺のおかげだな。いや、はっはっはっは」
 
「あっはっはっは……って、ごまかされるわけないでしょうが! 今回ばかりは本気で死ぬかと思ったんだからねーっ!」
 
「どわーっ!」
 
 少女が杖を振るうと爆発が起こり、青年がまともに食らって吹っ飛んだ。
 
 
 なんだなんだ、いったいなんなんだ?
 見守っている人々は訳がわからずに唖然とするしかない。
 だが、彼らの声の中で、明らかに明確に確実に実体のあるものが二人分あった。
 ティファニアにとっては友達の声、ミシェルにとっては愛する人の声。
 カリーヌにとっては娘の声、アンリエッタにとっては親友の声、それは。
 
「サイト!?」
「ルイズ!?」
 
 紛れもない、長いあいだ行方不明になっていた才人とルイズだったのだ。

305ウルトラ5番目の使い魔 51話 (12/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:42:20 ID:CY9.ftKk
 その声が届くと、才人とルイズははっとしてあたりを見回し、互いの姿を見つけるとすぐに駆け寄って手を取り合った。
 
「ルイズ、ほんとにルイズなのか。無事だったんだな、おれ、お前が撃たれて消えていったの見て、飛び込んだんだけど間に合わなくて」
「サイト、やっぱりあんたはわたしを助けようとしてくれてたのね。ありがとう、ずっとサイトに会いたかったんだから。長かった、ほんとに長かったわ」
「お前もいろいろあったんだな。おれも、今日までずっと冒険を続けてきたんだ。何度もくじけそうになったけど、ルイズもきっとがんばってるって思って、がんばれた」
「わたしもよ。サイトと必ずまた会えるって信じてた。ほんとにいろいろあったんだからね」
「ああ、そういやお互いけっこう髪が伸びたな。お前に話したいこと、山ほどあるんだぜ。おれもルイズから土産話をいっぱい聞きたいな。けど、その前に……」
 
 才人とルイズはきっと表情を引き締めると、怪獣の背中から城壁の上にいる教皇を睨み付けた。
「あのニヤけた教皇野郎をブっ飛ばさないとな!」
 びしりと才人に指差され、教皇の肩がわずかに震えた。
 ここにいる才人とルイズは夢でも幻でもそっくりさんでもない。間違いなく、ヴィットーリオが世界扉で異次元に飛ばしたあの二人だ。
 しかし、異次元に追放されてどうして? そればかりはさすがに教皇も想定外で、わずかにうろたえた様子を見せつつ問い返してきた。
「あ、あなたたち、いったいどうやって?」
「へっ、聞きたいか? てめえの魔法で、おれは大昔のハルケギニアに飛ばされてたんだ。けど、親切な人たちに助けられて、この未来怪獣アラドスって奴の力を借りてこの時代に帰ってこれたんだ。わかったかバカヤロウ」
 才人はそう言って、足元で眠そうな目をしている怪獣を見下ろした。
 未来怪獣アラドス。幼体で身長一メートル弱から成体の数十メートルにいたるまで、成長途上によって大きさに差がある怪獣だが、ここにいる個体は二十メートルほどの成長しきっていない若い個体である。特筆すべきはその能力で、彼らは非常に進化した細胞で時間の壁を越えて、自由に過去や未来に行き来することができるのだ。

306ウルトラ5番目の使い魔 51話 (13/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:43:44 ID:CY9.ftKk
 つまり、才人はアラドスを見つけて助力してもらうことで現代へと帰ってきたわけだ。アラドスは高い知能も持ち、今はタイムワープの疲れで眠っているけれど、才人は感謝してもしきれないほどの恩を感じている。
「ただ、未来に行くことはできても、正確にどれだけ時間を越えればいいかはわからなかった。だから、てめえが世界扉で時空に穴を開けたのを目印にさせてもらったってわけだ。ざまあみろ」
「くっ、私の虚無を逆に利用するとは。しかも、その時空間の干渉でミス・ヴァリエールまでも引き寄せるとは、なんと悪運の強い」
「そうね、サイトの悪運の強さはたいしたものよ。けど、わたしだって負けてないわ。わたしはね、どっか別の宇宙に飛ばされて、あっちの星やこっちの星を散々さまようことになったのよ。もう、何度怪獣や宇宙人を相手に大変な目に会ったことか。それでね、どこかの星の沼地でお化けみたいなトンボの群れに追い回されていたら、突然空に開いた穴に吸い込まれて、気がついたらここにいたわ。教皇聖下、乙女の柔肌を日焼けで真っ黒になるまでバカンスさせてくれたお礼はたっぷりさせてもらいますからね」
 そういえばルイズの顔がこんがり小麦色になっているように才人は思ったが、それ以上に赤鬼みたいだと思ってしまった。
 が、それはともかくルイズの魔法力は怒りのおかげでボルテージがどんどん上がっている。今なら、とんでもない大きさのエクスプロージョンでも撃てそうだ。
 しかし、周りの人々にとっては訳のわからないの自乗になっているのは変わらない。教皇聖下、いったいどういうことなのですかという声が次々と響き、ヴィットーリオは焦ってそれに答えようと手を上げた、だがその瞬間。
『エクスプロージョン!』
 ルイズの魔法が炸裂し、ヴィットーリオは至近で起こった爆発に吹き飛ばされかけた。
 そして、帽子を飛ばされ、顔をすすに汚しているヴィットーリオに向かってルイズは猛々しく突きつけた。
「あんたの小細工は通用させないわよ。どうせ、わたしたちを悪魔に仕立て上げて被害者ぶろうとしてたんでしょう。けど、手口がわかれば対処は簡単よ。どんな詭弁も、しゃべらせなかったらいいんだからね!」
 ヒューっと、才人は口笛を吹いた。さすが、ルイズらしい力技の解決法だ。だが、なるほど、どんな詐欺師でも口を利けなければ人を騙しようがないに違いない。
「わ、私を公衆の面前で殺害しようとして、あなたやあなたの家族がどうなると思っているのですか?」
「そういうことは後で考えるわ。少なくとも、わたしの家族は心配されるほど軟弱じゃないから安心しなさい」
 おどしもまったく効果がなかった。まあともかく、武闘派や隠れ武闘派ばかりのヴァリエール一家に喧嘩を売れるところはそうはないだろう。なお、忘れられていたがルイズの父のヴァリエール公爵は自領の軍を率いて国境でゲルマニアに対して睨みを利かせている。どうやら、隙を見せると隣のツェルプストー家が空気を読まずに茶々を入れに来るらしい。
 ルイズが躊躇を見せないことに、ヴィットーリオは思わず後ずさった。逃げようにも、ジュリオの使っていた竜はアラドスの落ちてきたショックで瓦礫に埋もれてしまい、ロマリアの兵隊たちも大半はトリスタニアの奥まで攻め込んでしまっているし、城壁を占領していた者たちもアラドスを恐れて逃げていてしまい、すぐにヴィットーリオを助けに来れる者はいなかった。

307ウルトラ5番目の使い魔 51話 (14/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:46:20 ID:CY9.ftKk
 こうなれば、ヴィットーリオも杖をふるって魔法で対抗するしかない。ルイズもアラドスの背から城壁の上に飛び移り、ふたりの虚無の担い手は杖を向け合う。
『エクスプロージョン!』
『エクスプロージョン』
 互いに長々と詠唱をしている隙はないので、詠唱簡略のエクスプロージョンの撃ち合いが始まった。ルイズとヴィットーリオを狙ってそれぞれ小規模の爆発が起こり、両者は自分に向けられた爆発を回避するために身を躍らせる。
 しかしヴィットーリオは律儀にルイズとの決闘に応じるつもりはなかった。ルイズがヴィットーリオを相手に杖を動かせない死角から、ジュリオが銃を向けてきたのだ。
「今度は一発で心臓を撃ち抜いてあげるよ」
 銃口が正確にルイズを狙う。教皇に意識を集中しているルイズはそれに気づくのが遅れた。
 だが、ジュリオもまたルイズを狙いすぎて死角を作ってしまっていた。ルイズを撃たせてなるものかと、才人が体当たりをかけてきたのだ。
「うおおっっ!」
「うわっ! き、君はぁ!」
「ふざけんなよこの野郎。おれの目の前で二度もルイズを撃たせてたまるかよ。そんでもって、てめえだけはぶん殴ってやるって決めてたんだ!」
 才人のパンチがジュリオの顔面に決まり、ぐらりとジュリオはふらついた。ルイズを狙っていた銃はあらぬ方向を狙って無意味に弾を飛び去らせる。銃さえなくなれば、過去の旅で才人は相当体力をつけてきた。そんじょそこらの奴に負ける気はない。
 しかしジュリオは才人とのタイマンになど付き合ってはいられないと、すぐさま体勢を立て直して剣を抜いてきたのだ。
「て、てめえ」
「あいにくだけど、目的を果たすのを優先させてもらうよ。心配しなくても、君の大切な人たちもすぐに向こうで会えるようにしてあげるさ」
 ジュリオの振り上げた剣が才人を狙ってきらめく。対して才人は丸腰だ。とても剣を持った相手に対抗することはできない。ルイズはそれに気づいていたが、とても今から振り向いてジュリオに魔法をぶつける時間はなかった。
「サイト!」
 ルイズの悲鳴が響く。しかし、ジュリオの剣は才人に届くことはなかった。寸前で乾いた音を立てて、横合いから飛び込んできた別の剣によってさえぎられたのだ。
 ジュリオの剣は止められ、ジュリオは驚愕した表情で割り込んできた剣の持ち主を見た。それは、長剣を小枝のように片手で軽々と持って、不敵な笑みを浮かべる金髪の少女だった。

308ウルトラ5番目の使い魔 51話 (15/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:47:43 ID:CY9.ftKk
「素手の相手に剣を向けるとはいい根性してるね。あんた悪者ね、悪者でしょ? サイト、こいつはわたしがもらうけどいいよね?」
「サーシャさん!」
 その細身に見える体からは信じられない力で、少女はジュリオを剣ごと弾き飛ばした。そして、体を覆っていた砂漠の砂よけのフードつきマントを脱ぎ捨てて、少女はその全身を現した。
 たなびく薄い金糸の髪、無駄なく引き締められた肢体に、揺れるほどよい大きさの果実、そして延びる長い耳。
「エルフ!?」
 人々から驚愕の声が響く。しかしジュリオの視線は、彼女の左手に釘付けになっていた。少女の左手の甲にきらめくルーン、それは。
「ガ、ガンダールヴだと!?」
「あら? ガンダールヴを知ってるの。なら話が早いわね、なんかあなたを見てると妙に胸がムカムカしてくるし、サイトに剣を向けた落とし前はつけさせてもらうわよ!」
 宣言すると、サーシャは俊敏な肉食獣のように地を蹴った。光と見まごうような剣閃が走り、反射的に受け身をとったジュリオの剣にすさまじい衝撃が伝わってくる。
「こ、これは本物だ。だが、いや、そういえばさっきサーシャと。エルフのガンダールヴ、ま、まさか!」
「なにぼさっとしてるの? 私は強いよ!」
 サーシャの舞うような剣戟が相次ぎ、剣技には自信のあったはずのジュリオが受けるしかできない。
 剣同士がぶつかり合う金属音と、輝く火花が人々の目を引き、まるで天使が円舞をしているかのような美しさを人々は感じた。エルフといえば、人間にとっては忌むべき、恐れるべき存在であるはずなのに、目の前のエルフの少女からはそうした恐ろしさはまるで感じられずに、逆にたのもしさと胸がすくような興奮が湧き上がってくる。
 さすが元祖ガンダールヴ! 才人は、全盛期の自分よりはるかに強いサーシャの活躍にしびれて、思わずガッツポーズをとりながら応援した。
 けれども、自分の実力ではかなわないと見たジュリオはまたも卑劣な手に出てきた。彼が右手の手袋を脱ぎ捨てると、彼の右手の甲にルーンが輝いたのだ。
「そいつは、私と同じ!」
「そう、僕も虚無の使い魔なのさ。僕は神の右手ヴィンダールヴ、その力を見せてあげるよ!」
 すると、彼らのいる城壁に向かって方々からドラゴンやグリフォン、マンティコアやヒポグリフなどが集まってきた。戦いの中で主人の騎士を失ったそれぞれの軍の幻獣たちだ、皆が正気を失ったように目を血走らせ、凶暴な叫び声をあげている。
「これが僕の力、あらゆる生き物を自在に操ることができるのさ。いくら君がガンダールヴでも、これだけの数の幻獣を相手にするのは無理だろう?」
 チッ、とサーシャが舌打ちするのと同時に、才人はまずいと思った。いくらサーシャが強くても、十数匹のドラゴンやグリフォンにいっぺんに襲いかかられたらかなうわけがない。

309ウルトラ5番目の使い魔 51話 (16/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:48:59 ID:CY9.ftKk
「サーシャさん、変身を!」
「あ、ごめん。さっきのでコスモプラックがどっか行っちゃって、変身できないのよね」
「ええーっ!?」
 最悪だーっ! と、才人は叫んだ。まずい、ここは城壁の上で逃げ場がない。やられる! 
 しかし、宙を飛んで襲い掛かろうとしていた幻獣たちに、さらに上空から別の飛行物体が高速で襲い掛かってきたのだ。
「いっけぇーっ、レーザーバルカン発射ぁ!」
 急角度から降り注いできた光線の乱射が幻獣たちを蹴散らし、さらに音速に近い速度で通り過ぎていったことで幻獣たちは衝撃波に吹っ飛ばされて散り散りになってしまった。
 今のは! 才人は城壁の上を飛び去っていった戦闘機を見上げた。あの機体は、どこかで見たような。いつだったっけ、けっこう前だったように思うけど思い出せない。
 しかし、才人の戸惑いとは裏腹に、その戦闘機、ファイターEXは再度反転して残った幻獣たちをあっという間に蹴散らしてしまった。才人やジュリオは呆然として見送るしかない。
 幻獣たちが全滅すると、ファイターEXは上空で調子に乗ったように宙返りをした。そのコクピットでは、メインAIであるPALが乱暴な操縦をしないでくださいと抗議していたが、パイロット席に座る彼、アスカ・シンは楽しそうに答えた。
「悪い悪い、操縦桿握るのなんて久しぶりだからついうれしくってさ。いい飛行機だな、こいつ。気に入ったぜ」
 彼はこちらの世界にルイズと来てルイズの爆発魔法で吹っ飛ばされた後、空を飛んでいるファイターEXを見て、そのコクピットが無人だと知ると「おーい、そこの戦闘機乗せてくれー」と手を振って頼んだのだった。
 もちろん、乗せるかどうかの判断はPALはしていない。アスカを乗せるのを決めたのは我夢だった。むろん、見ず知らずの人間を乗せるのには藤宮が難色を示したが、我夢はなぜか自信ありげに言った。
「大丈夫、彼は……信頼できる」
 我夢にしては根拠のない発言に藤宮は不思議に思ったが、確かにアスカは見事にファイターEXを操縦した。PALだけでは先ほどの機動は不可能だったろう。
 一方の我夢も、なぜか不思議な確信が頭に浮かんだのを感じていた。本当に不思議だ、彼を見るのは今日が初めてなはずなのに、まるで子供のころからの親友だったように感じた。
 この戦いが終わったら、彼と会ってみよう。我夢は静かにそう思った。
 ファイターEXは、周囲を警戒するようにトリスタニアの空を旋回し続けている。その速度に追いつける幻獣はハルケギニアに存在しない。ただ、カリーヌはその優れた視力でファイターEXのコクピットをわずかに覗き、心臓をわしづかみにされたような衝撃を感じていた。
 そして、嵐のように吹き荒れたアスカの乱入によって危機は去った。さあ、ここから再開だと、サーシャは剣を振りかざしてジュリオに飛び掛った。

310ウルトラ5番目の使い魔 51話 (17/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:50:43 ID:CY9.ftKk
「なにぼさっとしてるの! 卑怯な手を使わないと、女の子ひとりあしらえないのかな?」
「くっ、なめるなっ!」
 それはある意味ジュリオに対して最大の侮辱だったろう。才人は笑い転げたいのを我慢しながらサーシャの応援に戻った。
 だが、その瞬間、爆音を聞き、才人はエクスプロージョンの炎に弾き飛ばされてルイズが転がされるのを見たのだ。
「ルイズ!」
「だ、大丈夫よ」
 思わずルイズに駆け寄り、才人はルイズを助け起こした。ルイズは見たところたいした傷は負っていないようだったが、強がっている言葉に反して杖を握っている腕は痙攣して、相当に疲労が蓄積しているのが察せられた。
 そんなふたりを見下ろしながら、ヴィットーリオは余裕を取り戻した声で悠然と告げた。
「少し焦りましたが、やはりメイジとしての技量では私に一日の長があったようですね。悔しいですか? ですがあなたの言葉を借りれば、懺悔する時間は与えませんよ。今すぐに、始祖の下に送ってあげましょう」
 時間稼ぎはさせまいと、ヴィットーリオは即座にエクスプロージョンの魔法を完成させた。威力は抑えているが、それでも人間二人を粉々にして余りあるだけの魔法力が才人とルイズの眼前に集中する。
 やられる! 対抗の魔法は間に合わないと、ルイズは死を覚悟した。しかし、その瞬間、ふたりの後ろから別の虚無のスペルが放たれた。
『ディスペル!』
 魔法を打ち消す魔法の光がヴィットーリオのエクスプロージョンを瞬時に無力化した。
 馬鹿な! と、ヴィットーリオは驚愕する。そして、才人とルイズの後ろから散歩に行くような暢気な足取りで、小柄な青年が杖を握りながら現れたのだ。
「始祖の下に送る、か。いやあ、残念だけど多分それは無理だと思うよ」
「な、何者です?」
「ただのサイトくんの友達さ。いけないなあ、その魔法は悪いことに使うもんじゃないと聞いてないかい? これなら、まだ荒削りだけどそっちのお嬢ちゃんのほうがはるかにマシだよ。ねえ」
 そう言って、青年は寝かせた金髪の下の瞳をルイズに向けて優しく微笑んだ。
 すると、ルイズは不思議な既視感を覚えた。この人とは初めて会ったはずなのに、なぜかずっと昔から知っているような暖かな懐かしさを感じる。
「君がサイトくんの主人だね。話はいろいろ聞いているよ。なるほど、確かにどこかサーシャに似た雰囲気を感じるね。涙が出そうだよ……けど、どうやらタチの悪いのも生まれてしまったようだね。ここは僕がやるのが筋だろう、サイトくん、彼女を守ってあげなさい」
 彼はそれだけ言うと、再びヴィットーリオに向き合った。

311ウルトラ5番目の使い魔 51話 (18/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:52:26 ID:CY9.ftKk
 すぐさまヴィットーリオの放ったエクスプロージョンの魔法が襲い掛かってくる。だが彼は、即座に呪文を唱えると、なんと相手のエクスプロージョンの収束に自分のエクスプロージョンを当てて暴発させてしまったのだ。
 爆発が爆発で相殺され、爆風があさっての方向へと飛び散っていく。そんなまさかと驚くヴィットーリオに向かって彼は告げた。
「初歩の初歩の初歩、エクスプロージョン。けれど、だからこそ使い勝手はとてもいい。効くかどうかは別にして、望んだすべてのものを爆破できる。ふむ、やったことはなかったけど虚無に虚無をぶつけても効くのか、覚えておこう」
 事も無げに言ってのける彼だったが、それがいかにとんでもないことなのかはルイズがよくわかっていた。虚無を使えるようになってからエクスプロージョンは数え切れないほど撃ってきたが、あんな瞬間に超ピンポイントで当てるような神業はできない。あの青年は、いったいどれほどの虚無の経験を積んできたというのか。
 ルイズは才人に、「あの人はいったい誰なの?」と尋ねようとしたが、それより早く魔法戦は再開された。
 さらに強力なエクスプロージョンにエクスプロージョンがぶつかり、トリスタニアの空に太陽のような光球がいくつも閃いては消える。
 こんな魔法戦、見たことがない。戦いを見守っていた全世界の人々がそう思った。現れては消える、あの光球ひとつだけでも直径数百メイルはあるとんでもない巨大さだ。もしあれがひとつでも戦場で炸裂したら、アルビオンやガリアの大艦隊でも一瞬で消し飛ばされてしまうだろう。
 火のスクウェアメイジが百人、いや千人いたところでこんな光景は作れないに違いない。
 トリスタニアの空に太陽がいくつも現れては消える。アンリエッタやウェールズは、自分たちがヘクサゴンスペルを完成させたとしても到底及ばないと戦慄し、エレオノールやヴァレリーは「こんなの魔法の次元じゃないわ」とつぶやき、ルクシャナは好奇心を塗りつぶすほどの壮絶さに大いなる意思にひたすら祈り、カリーヌさえも唖然として見ている。
 全世界のメイジたちも同様に、一生に二度と拝めないかもしれない壮絶な魔法合戦を見守っている。
 ただ例外は才人で、彼はひとりでサーシャのほうの応援をしていた。
「がんばれーっ、サーシャさん! いけーっ、そこだ、かっこいいーっ」
 同じガンダールヴだった同士で波長が合うのか、才人の応援は熱がこもっていた。
 しかしそれが気に食わないのはルイズだ。あの虚無使いの人は何者なのかと聞こうと思ったら、才人は自分を無視してこのテンション。しかも、せっかく久しぶりに会ったと思ったら、知らない女に熱烈な声援を送っているのも気に入らない。
 そうなると、ガンダールヴとかの問題は思考の地平へ飛び去ってしまい、ルイズの心でメラメラと黒い炎が渦巻いてくる。
「ねぇ、サイト?」
「ん? なんだルイ、ぐえっ!? く、首、首を絞めるなぁぁっ!?」
「ご主人様から目を逸らしてずいぶん楽しそうじゃない。なんなのあの女? あんた、わたしの見てないところでまた新しい女とデレデレしてたんじゃないの?」
 ああ、この嫉妬深さ、これこそがルイズだと才人はしみじみ思ったが酸素を取り上げられてはたまらない。

312ウルトラ5番目の使い魔 51話 (19/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:54:17 ID:CY9.ftKk
「ぐえええ、締まる、締まってるって! 誤解、誤解だルイズ。いくらおれでも人妻に手を出すような趣味はないって!」
「人妻?」
 ルイズの力が緩んだ。なるほど、いくら才人でもそこまで節操なしではないだろう。才人はほっとして、胸いっぱいに空気を取り込んだ。
 だが正直に言ったのがサーシャの逆鱗に触れてしまった。
「ちょっ、誰が人妻よ、誰が!」
「あだぁっ!」
 サーシャが投げた剣の鞘が才人の頭に命中して鈍い音を立てた。才人は目を回し、代わってルイズが抗議の声をあげる。
「ちょっとあなた! 人の使い魔に向かって何してくれるのよ!」
「そいつが人妻だなんて言うからよ。私とあいつは、その……まだ……そんなんじゃないんだからね!」
 ルイズは彼女のその反応に、「あれ? なんかどこかで見たような」という感想を抱いたが、答えに思い当たると何かムカつく気がした。
 しかし、ルイズの願望を裏切るように、青年がヴィットーリオと戦いながらも口を挟んできたのだ。
「おいおいサーシャひどいなあ、君と僕との関係は、もう歴史上の既成事実なんだよ。子孫の前で、それはないんじゃないかな」
「う、うるさいうるさいうるさい! 誰があんたなんかと、あんたの赤ちゃんなんか産んでやるもんですか!」
「そうかい? 僕は君に僕の赤ちゃんを産んでほしいと思うけどなあ。僕と君の子供なら、きっとかわいいだろうなあ。そう思わないかい?」
「う、ううううう、バカバカバカ! もう知らないんだから!」
 青年の軽口に、サーシャは顔を真っ赤にして顔を伏せてしまった。だがそうしてじゃれあいながらも、ふたりともヴィットーリオとジュリオ相手に互角に渡り合っているのだからとんでもない。
 いったい何なのよ、この人たち? ルイズはわけがわからずに目を白黒させていたが、才人がやっと目を覚ましてきたので聞いてみた。
「ちょ、サイト。あのふたり、いったい何者なのよ?」
「んん? ああ、大昔の虚無の使い手と使い魔さ。お前の遠い遠いおじいさんとおばあさんだよ」
「大昔の? そっか、そういえばあなたは過去に行っていたって言ってたわね。けど、ほんとどういう人たちなのよ。あの人外の教皇と互角にやりあえるなんて、そんな虚無の担い手なんて、まるで始祖……えっ?」
 そこまで言いかけて、ルイズははっとして固まってしまった。
 まさか……そんな。しかし才人は、言葉が出ないルイズをニヤニヤ笑いながら見ている。ルイズは全身から血の気が引いていくのを感じた。

313ウルトラ5番目の使い魔 51話 (20/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:56:15 ID:CY9.ftKk
「ま、ままままま、まさか、ほ、ほほほほ本物の、しし、ししししし」
 そのときだった。教皇と青年の魔法の撃ち合いが、ひときわ大きいエクスプロージョン同士の炸裂で終息した。
 空を覆っていた魔法の光芒が消え去り、教皇と青年が十数メイルの距離を置いてにらみ合う。と、同時にジュリオとサーシャの剣戟も終息し、両者はそれぞれの主人の脇に戻った。
 しかし余力はまるで違う。教皇とジュリオが肩で息をしているのに対して、青年とサーシャは汗ひとつかいていない。
 戦いを見守っていた世界中の人々も、あのふたりはいったい何者なんだと息を飲んでいた。教皇聖下が、伝説の系統である虚無の担い手だということはもはや疑いようがない。その教皇聖下を同じ魔法で圧倒できるとは何者か? 同じ魔法? つまり相手も虚無の使い手。しかし、そんなものが存在するのか?
 人々は沈黙し、疑問の答えを待つ。やがて、穏やかに青年が教皇に対して語りかけた。
「もうやめないかい? 君もなかなかの力を持っているようだが、君の使う虚無の系統なら僕はすべて使えると思うよ」
「こ、これほどまでとは。いったい何者なのですか……いや、あなたの顔はどこかで……はっ!」
 そのとき、ヴィットーリオは記憶の中のひとつと目の前の青年の顔が合致して凍りついた。予期せぬ事態の連続と戦闘の興奮で半ば我を失っていたために気がつかなかったが、ロマリア教皇としてブリミル教の内情に関わった知識の中に、たったひとりだけ目の前の青年に該当する人物がいた。
 そういえば、ジュリオが戦っていたエルフの娘はガンダールヴだった。虚無の担い手は過去に複数存在したが、エルフを使い魔にしたのはたったひとりしか存在しない。
「ま、まさか、あなたの名は……」
「ん? そういえばまだ名乗ってはいなかったね。じゃあ遅くなったけど、自己紹介しておこうか」
「ま、待て!」
 ヴィットーリオは狼狽して止めにかかった。
 まずい、それだけはまずい。もし、目の前の青年があの人物だとしたら、ロマリアの、教皇の、権威も威厳も、そのすべてが塵のように吹き飛ぶ。そして、それを納得させられるだけの材料は、すでに全世界の人間たちの目に示されてしまってている。
 しかし、遅かった。青年はヴィットーリオを無視しているようなのんびりした声色で、全世界に対して自分の名を告げたのだ。
 
「僕の名はニダベリールのブリミル。ブリミル・ル・ルミル・ニダベリール」
 
 その瞬間、全ハルケギニアが凍りついた。

314ウルトラ5番目の使い魔 51話 (21/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/03(土) 23:58:37 ID:CY9.ftKk
 え? 今、なんて? ニダベリールの……ブリミル? え? 聞き間違いでなければ、その名前を許されているのは、ハルケギニアの歴史上たったのひとり。
 と、いうことは……つまり。
「し、ししししししし、始祖ブリミル、ご本人ーーーーっ!?」
 沈黙から一転して、全ハルケギニアがひっくり返ったような混沌に陥った。
 始祖ブリミル、その降臨。世界中で老若男女がひれ伏し、アンリエッタは気を失いかけ、カリーヌでさえ腰を抜かしそうになった。
 遠方で見守るギーシュたちもトリスタニアのほうを向いてひざを突き、アニエスやミシェルたちも剣や杖を置き、元素の兄弟もさすがに唖然となった。
 もはや、トリスタニアだけ見ても、トリステイン・ガリア・ロマリアどの軍も等しく平伏して身動きひとつしていない。
 例外はガリアでジョゼフが爆笑していることと、彼らの目の前で才人が調子に乗っていることである。
「わっはっはっはっ! どーだ教皇、てめえがいくら偉くても、ブリミル教でこの人より偉い人はいねーだろ! ざまーみやがれ!」
 胸がすっとなるような快感を才人は味わっていた。まるで悪代官に先の副将軍が印籠をかざしたり、将軍様が「余の顔を見忘れたか?」と言い放ったときのようだ。
 だが、調子に乗る才人をルイズが頭を掴まえて床にこすりつけた。
「いってえ! な、なにすんだよルイズ」
「バカ! 始祖ブリミルの御前なのよ。なんて恐れ多い、あわわわわ」
 ルイズもすっかり混乱してしまって目の焦点がぐるぐるさまよっている。しかしそんなルイズに、ブリミルは少し困ったように言った。
「ねえ君、ルイズくんといったよね。サイトくんも痛がっているし、やめてあげてくれないかな」
「い、いえそんな! 始祖ブリミルに対してそんな恐れ多い!」
「僕はそんなに偉い人間じゃないよ。少なくとも今はね。それに、友達に頭を下げられて愉快な人間なんかいないさ。さ、頭を上げて」
 促されて、ルイズが恐る恐る頭を上げると、そこにはブリミルとサーシャが優しく微笑んでいた。
 だが、優しげな表情を一転させて、ブリミルはヴィットーリオを鋭い視線で睨み付けると言った。

315ウルトラ5番目の使い魔 51話 (22/22) ◆213pT8BiCc:2016/12/04(日) 00:03:34 ID:TzIwyXIc
「さて、僕の名前を使ってさんざん悪いことをしてくれたみたいだね。僕はね、君たち子孫に争ってもらいたくていろんなものを残したんじゃない。僕らの時代に、世界は荒れ果てた。僕らがやったことはすべて、この世界が平和を取り戻し、僕らの子供たちが幸せに暮らせるようになることを願ってのことだ」
「くっ、し、しかし聖地は」
「それだけは詫びねばいけないね。たぶん、死ぬ前の僕はそれだけは心残りだったんだろう。だけど、聖地は人間だけが目指すべき場所じゃない。エルフも、ほかの亜人たちも、この星の生き物すべてにとって重大な意味があるところなんだ。いや、すべての生命が力を合わせなければ聖地には届かない。君のやろうとしていることは、聖地から遠ざかることだ」
「ぐぐ……」
「この場で偽りを認めればよし。だが、もしこれ以上の戦いを望むなら、僕も容赦はしない。君がよりどころとする虚無の、そのすべてを打ち砕いてあげるよ」
 ブリミルのその一言が、教皇にとってのチェック・メイトであった。
 教皇が正義を騙っていた、そのすべての根拠がひっくり返された。最後に残った虚無も、始祖ブリミルという絶対の存在にはかなわない。
 
 もはやこれまで……ヴィットーリオは、連綿と続けてきた計略のすべてが失敗したことを認めた。
「数千年をかけて築き上げてきた我々のプランが、こんな形で崩壊させられるとは……ですが、たとえ我々がここで潰える運命だとしても、我々の後に続く者たちのために道をならしておくことにしましょう!」
 ついに本性を隠すことを止めたヴィットーリオとジュリオの周りにどす黒いオーラが渦巻く。
 来る! ついに根源的破滅招来体と、この世界で最後の決着をつける時が来たのだ。
 あのときの借りを今返すと、才人とルイズは視線を合わせて手を握り合った。
 そして、ファイターEXでもアスカが懐からリーフラッシャーを取り出していた。
 闇に包まれたハルケギニアに再び光を。歴史に残る大戦争の、そのクライマックスが今、始まる。
 
 
 続く

316ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc:2016/12/04(日) 00:08:53 ID:TzIwyXIc
51話はここまでです。
時代劇の王道パターンですが、権力を笠に着る奴をより以上の権力で叩き潰すって、なぜか気持ちいいんですよね。
さて、今回はとうとう主人公ふたりが帰還。しかも最強の助っ人を引き連れてです。コスモスは残念ですがちょっと出番を譲ってあげてください。
では、次回はいよいよロマリア編最終決戦です。今回は遅くなってしまいましたが、最悪でも年内に投稿できるよう頑張ります。

317名無しさん:2016/12/04(日) 13:24:03 ID:8tAQO01.
ここで、「えーい、上さ…もとい始祖ブリミル様がこのような所に居られるはずがない!」
とか言ってくれたら良かったのにw

デーンデーンデー(ry

318名無しさん:2016/12/04(日) 21:57:35 ID:NfHayrSw
そりゃジョゼフさんも予想を遥かに超えた事態が面白すぎて爆笑するわなw

319ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:16:22 ID:nov/m48.
5番目の人乙です。私も投下を始めさせてもらいます。
開始は23:20からで。

320ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:21:07 ID:nov/m48.
ウルトラマンゼロの使い魔
第百二十七話「王立図書館の恐怖」
冷凍怪獣ペギラ 登場

 ――そろそろ夏が近い季節にも関わらず、トリステイン王国領土の平原が一面の銀世界に
なっていた。見渡す限りの大地が氷雪に埋もれており、木や草花には霜が降りている。仮に真冬で
あったとしても、トリステインの気候ではここまでの光景にはならないだろうというほどに
氷で閉ざされていた。
「バアオオオオオオオオ!」
 その犯人は、銀世界の真ん中に立つ一体の巨大生物。腕はヒレ状の翼となっており、足には
水かきが生えている。首はトドかアザラシのような鰭脚類に似ていて、まぶたが常に半開きなのが
おとぼけな印象を受けるが、この状況で一目瞭然だがその実はかなりの力を秘めた冷凍怪獣だ。
名をペギラ。本来は寒冷地にのみ棲息する怪獣なのだが、何らかの事情でトリステインの地に
迷い込んできたのだろう。そして降り立った場所を中心として自分に棲み良い世界に変えてしまった
ばかりか、氷の世界はペギラの冷凍光線によってどんどんと拡大していっている。このままでは
トリステイン全体が凍りついてしまうかもしれない。
 人間は環境への適応能力が優れているという訳ではない。それなのに世界で最も繁栄している
生物になることが出来たのは、高い知能によって環境の方を自分たちの暮らしやすいように変える
能力があるからだ。そこが通常の生物と一線を画すところだが、これを見ると怪獣にも同じ能力が
備わっていると言うことが出来るだろう。しかも怪獣には人間などはるかに超越する戦闘能力まで
ある。このままでは数え切れない人間がペギラによって蹂躙され、ハルケギニアという星が滅茶苦茶に
荒らされてしまうのは誰が見ても明らか。
 しかしそんな惨状を阻止するためにはるか遠くの宇宙から次元の壁を越えてやってきた、
新時代の英雄がいる。
「シェアッ!」
 そう、我らがウルトラマンゼロ! 彼は宇宙空手の構えを取り、これ以上トリステインを
氷に閉ざさせないためにペギラに果敢に立ち向かっていく。
「バアオオオオオオオオ!」
 だがペギラは口から霧状の冷凍光線を、膨大な量で吐き出す。それは俊敏なゼロでも回避
することは不可能であった。
「グゥッ!?」
 冷凍光線によってゼロは途端に苦しみ、身体が徐々に凍りついていく。ウルトラ族は光の種族。
身体の内に計り知れない光のエネルギーを持ってはいるが、それ故に極低温に対する耐性は持たない。
冷凍怪獣は全ウルトラ戦士が苦手とするところなのだ。
 しかもペギラは冷凍光線を発する能力に特化している。まさに相性は最悪だ。如何にゼロでも、
ペギラのもたらす猛吹雪を突破することは出来ないのか?
『――はぁぁぁぁぁッ!』
 そう思われたが、しかし、ゼロは全身から凄まじい熱量を発することで氷を溶かし、冷凍光線を
はねのけた上に、ペギラ本体まで熱波によってひるませた。
『俺たちは!』
『これくらいの寒さじゃあ!』
『参らないぜッ!!』
 ゼロと、このハルケギニアで彼と一体となった地球からの来訪者、才人の声がそろった。
 初めは事故によってゼロと融合し、否応なしに彼とともに戦う羽目になっただけの才人で
あったが、ハルケギニアで様々な戦いと試練を乗り越える内に大きく成長して、今や誰もに
認められる立派な戦士となった。ポール星人がもたらした氷河期も踏破したことのある彼の
精神力は、ペギラの冷凍光線も寄せつけない熱さなのだ。その精神がゼロの力に直結している。
 ゼロと才人、この二人は名実ともにハルケギニアの新たなる英雄であると言えよう。
『お返しだぜ! 俺たちの魂のビッグバン、とくと味わいなぁッ!』
 ゼロは握り締めた拳に真っ赤に燃える炎を宿し、ペギラへとまっすぐ駆けていく。
「セイヤァァァッ!」
 そして決まる灼熱のチョップ、ビッグバンゼロ!

321ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:25:16 ID:nov/m48.
 弾けた熱波が辺り一面に広がり、銀世界を吹き飛ばして氷雪を瞬く間に溶かしていった。
「バアオオオオオオオオ!!」
 熱すぎる一撃をもらったペギラはたまらずに戦意を失い、勢いよく空に飛び上がって黒い煙を
吹かしながら北に向かってまっすぐ飛び去っていった。このまま本来の生息域である、北方の
寒冷地へと去っていくことだろう。そのまま人間と折り合いをつけて生きていくのが、ペギラに
とっても人間にとっても最良の道なのだ。
「ジュワッ!」
 そしてペギラが立ち去っていったことで、ゼロもまた大空に飛び立って帰還していった。
ハルケギニアのほとんどの者が知らないことだが、彼の帰る場所はトリステイン魔法学院。
才人はそこで自分を召喚した少女、ルイズの使い魔として日々の生活を過ごしているのだった。

 ……このゼロの飛び去っていく姿を、ある場所から何者かが、不可思議な能力を以てじっと
観察をしていた。
『あれが、新しく現れた現実世界の英雄、巨躯なる超人、ウルトラマンゼロ。そして……』

 さてペギラを撃退した後、才人はルイズとともにトリスタニアを訪れて、アンリエッタから
ある頼みごとを受けた。
「ここがトリステインの図書館かぁ〜。おっきいな!」
「当たり前でしょ、王立なんだから。すごく価値のある資料も保管されてるのよ。……まぁでも、
わたしもこんなに大きいとは思ってなかったけど」
 日が地平線の向こうに沈みそうな時間帯に、ルイズと才人は雄大で豪奢な造りの建築物の
前にやってきていた。ここはトリステイン王国立図書館。トリステインが保有する様々な種類の
資料がこの建物の中に保管されている。
 才人はアンリエッタからの依頼の内容を、ルイズに確認する。
「それで、この中に夜な夜な幽霊やら人魂やらが出るってことだったよな? でも見間違い
じゃないのか? 幽霊なんて、大体はそんなオチだぜ。まさかシャドウマンがそこらにいる
はずもないだろうし」
「それを確かめるのがわたしたちの仕事でしょうが」
 アンリエッタからの話によると、ここ最近になって図書館で幽霊を目撃したという話が
持ち上がっていると、図書館の司書から報告があったというのだ。貴重な図書を狙う窃盗犯の
仕業かもしれないので、事の真偽と幽霊の正体を早急に調査しなければならない。しかし折悪く、
アンリエッタはある式典に出席するためロマリアに赴かなければならず、その準備で王宮は
忙殺されている状態。それで他に手が空いていて、アンリエッタの信頼がある人員として、
ルイズと才人にお鉢が回ってきたのだった。
「でも幽霊の正体暴きなんて、騎士というより探偵の仕事みたいだよなぁ。まぁ、剣の出番が
ないのならそれに越したことはないんだけどさ」
「俺としてはちょいと残念だがな。出番がねえのは寂しいぜ」
 デルフリンガーが鞘から少しだけ顔(?)を出してぼやいた。
 幽霊の正体はまだ見当もつかないが、誰かが危害を受けたという話はないとのこと。大袈裟な
対応は必要ないだろう、ということでオンディーヌは学院に置いてきて、ルイズとの二人だけが
アンリエッタに騒動の解決を頼まれた。……はずなのだが……。
「それなのに……どうしてタバサはここにいるのかしらね……?」
「シルフィもいるのね!」
「パムー」
 ルイズたちの後ろについているタバサの傍らのシルフィード人間体が手を挙げ、その肩の上の
ハネジローも真似して手を挙げた。才人はタバサにヒソヒソと尋ねかける。
「何でシルフィードは人間の姿なんだ?」
「街中で風竜の姿だと目立つ」
 なるほど、とうなずいている才人をよそに、ルイズはタバサに再度問いかけた。
「タバサ、どうしてあなたがわたしたちと一緒に来てるのかしらね? またサイトの護衛とか
言うつもりじゃないわよね」
 タバサは臆面もなく首肯してみせた。タバサは才人たちが学院からトリスタニアへと出かけるのに
目敏く気づいて、追いかけてきたのだ。シルフィードの速度からは誰も逃れられない。

322ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:28:32 ID:nov/m48.
 ルイズは目くじらを立ててタバサに詰め寄る。
「タバサ、ちょっと出しゃばりすぎじゃないのかしら? 行く先々にわたしたちについて回って。
これじゃあストーカーよ? 涼しい顔してないで、自重ってものを覚えた方がいいんじゃなくて?」
 タバサは涼しい顔で言い返した。
「あなたに指図されることじゃない」
 ピキ、と青筋を立てたルイズが杖を抜こうとするのを才人は慌ててなだめる。
「だぁーッ! こんなとこで喧嘩になるなよ! そ、それより、ここの図書館の司書の人は
まだなのかな? ここで待ち合わせのはずだよな」
「お待たせしました」
 噂をしたら、ちょうど図書館の司書と思しき人物がやってきた。
 才人は王立図書館の司書と言うから年配を想像していたが、それとは裏腹に眼鏡を掛けた
うら若き女性であった。肩の上には丸っこく赤い奇妙なものを乗せている。一見生き物かの
ようだが、よく見れば人工物であった。
「司書のリーヴルと言います。この子は使い魔のガラQです」
「ガラQ! ヨロシク!」
「パム!」
 肩の上のガラQなる赤い真ん丸が短い手をひょっこり上げて挨拶すると、ハネジローが
快活に挨拶を返した。
 ルイズは早速リーヴルという女性に、幽霊騒動の話を持ちかけた。
「リーヴル、図書館に出る幽霊のことなんだけど、それって目撃されたのは夜だけなの?」
「ええ、今のところは」
「分かったわ。それじゃ一旦宿に戻って、夜になってからまた来ましょう」
「よろしくお願いします」
 と頭を下げたリーヴルは……ルイズに鍵の束を手渡した。
「これが図書館の鍵です。では、私はこれで」
 言い残してその場を立ち去ろうとするリーヴルに、タバサも面食らった。
「ち、ちょっと! まさか帰るの!?」
「ええ。もう閉館の時間で、本日の業務も全て終えましたので」
「わたしたちだけで図書館にいろっていうの!?」
「私の仕事は時間内の図書館の管理だけです。他の時間は仕事の範疇外です。時間外の労働に
ついては、国を通して申請して下さい。それでは……」
 淡々と告げられてルイズたちが唖然としている内に、リーヴルはスタスタと帰っていってしまった。
「あ、ちょっと待ちなさいよ! ……行っちゃった」
「い、如何にもお役所仕事って感じの人だったな……」
 苦笑いを浮かべる才人。肩をすくめ、図書館の方へ向き直る。
「仕方ない。今から王宮に行くのも何だし、俺たちだけで見て回ろうぜ」
「はぁ、しょうがないわね……」
 ルイズと才人はそのまま宿の方角へ歩いていくが、タバサはやや怪訝な様子でリーヴルの
去っていった方向を見つめていた。
「お姉さま、どうしたのね? 置いてかれちゃうのね」
 シルフィードが急かすと、タバサはポツリとつぶやいた。
「……司書が夕方には帰るなら、誰が夜中に図書館内で幽霊を目撃したの?」
「あッ、そういえば……」
 シルフィードとハネジローが首をひねったが、答えは出てこなかった。
「うーん、難しいことは分からないのね。それより早く追いかけないと、あの意地悪な桃色髪に
宿から閉め出されるかもしれないのね」
「……」
 タバサはまだリーヴルの去った後に目を向けていたが、シルフィードに手を引かれて、
ルイズたちの背中を追っていった。

 数時間後に完全に日が落ちてから、ルイズたち一行は図書館に舞い戻ってきた。正門の鍵を
開け、中に入っていく。
 図書館は点在している仄かな魔法の照明のみが中を照らしており、辺りはかなり薄暗く、
かつしんと静まり返っている。一行の他には誰もいないのだから当たり前ではあるが。

323ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:30:38 ID:nov/m48.
 シルフィードがぶるぶると震えて口を開いた。
「うぅ、何だか不気味な雰囲気なのね。ほんとにお化けが出てきそうなのね」
「あんた、夜中は外で寝てるじゃない。それなのに暗いのが怖いの?」
 突っ込むルイズ。
「お外は夜でも虫の声や風の音がするのね。ここは何の音もない、自然にはない世界だから薄気味悪いのね。
全く、人間ってどうして自分たちの住処から音を無くしちゃうのか、理解に苦しむのね」
「パムー」
 シルフィードがぼやいていると、才人がふと平然としているタバサに尋ねかけた。
「そういえばタバサ、幽霊が出るかもしれないって話なのに、お前怖くないのか? この前は
幽霊嫌いとか言ってなかったっけ」
 するとタバサはギクリと身体を震わせる、珍しい反応を見せた。それに気づいてルイズが
胡乱な目を向けた。
「何よタバサ、あんた幽霊怖いの? ……でもそんな風には見えないわね。まさか、嘘吐いたんじゃ
ないでしょうね。サイトに、何のために?」
 軽く冷や汗を垂らすタバサを見て、何かを察したシルフィードがにんまりした。
「そうなのね! お姉さま、お化けがとってもお嫌いなのね。そういうことだから、勇者さまに
お姉さまを守ってもらいたいのね! さあさあ」
 タバサをぐいぐいと才人に押しやるシルフィード。
「お、おいシルフィード、ちょっと待ってくれよ……!」
 戸惑う才人だが、それ以上にルイズが癇癪を起こした。
「ちょっとぉッ! 何やってるのよあんたたち! 邪魔しに来たんなら帰ってくれる!?」
「落ち着けってルイズ。そんなに怒らなくてもいいだろ。お前は怖くないのか?」
「な、何が怖いもんですか! お化けが怖いなんて、そんな子供っぽいこと……!」
 とのたまうルイズだったが、その時にどこか奥の方でバサッという物音がした。
「きゃあああッ!?」
 その途端にルイズは大きな悲鳴を上げ、才人の片腕に抱きつく。
「ル、ルイズ、今のはどっかで本が落ちただけだよ。怖がることないじゃないか」
「ぷぷぷー。何だ、結局お前も怖いのねー」
 シルフィードに笑われ、ルイズはハッと我に返った。
「こ、怖がってなんかないわよ! サイトが怖がると思って抱き寄せただけなんだからね!」
「へぇー?」
 才人が含み笑いを浮かべて自分に目を向けるので、ルイズはキッとにらみ返した。
「何よサイト。ご主人様が怖がったって言いたいの?」
「いや、そんなことはないけどさ」
「お姉さまは怖いって言ってるのね! 抱き締めてあげるのね!」
 再びタバサをぐいぐい才人に押しやるシルフィード。才人はタバサの控えめながらも柔らかい
感触と肌のぬくもりを感じて赤面した。
「だ、だからシルフィード、ちょっとやめてって……」
「こ、この犬ぅ〜……!」
 するとルイズはメラメラと嫉妬心を燃やして、クルッと背を向けた。
「もういいわよッ! 真面目にやる気がないんだったら、わたし一人で姫さまからの任務を
遂行するわ! 犬はそこでタバサと竜とじゃれ合ってればいいわッ! それじゃあね!!」
 すっかりへそを曲げたルイズは憤然としながら、一人で図書館の奥へと行ってしまった。
「あッ、おいルイズ! 一人で行くな、危ないぞ!」
 慌ててそれを追いかけていく才人。残されたタバサはジロッとシルフィードをにらむと、
杖でその頭を叩いた。
「いたい!」
「おふざけが過ぎる」

324ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:32:19 ID:nov/m48.
「ごめんなさい、お姉さま。シルフィはただ、お姉さまがあの男の子ともっと仲良くできたら
いいなって思っただけなのね。……でもお姉さまだって、割と満更でもなかったような」
 そう言ったら、タバサはポカポカと杖で何回も叩いた。
「いたいいたい!」
「パム〜」
 そんな二人の様子をながめて、ハネジローがやれやれといった感じに首を振った。

「もう、サイトの馬鹿! 知らないッ……!」
 ルイズはぷりぷりしながら書架の間を通り抜けて進んでいく。
「いつまで経っても、ご主人様の気持ちが分からないんだから! すぐ女の子にデレデレして……!」
 不平不満を垂れながら歩いていたら……行く先に、本が六冊床に落ちているのを発見した。
「あら……? さっき落ちたのはこれかしら。でも、どこから落ちたのかしら」
 左右に目を走らせたルイズだが、両隣の書架は綺麗に本が並んでいて、落下の形跡は
見当たらなかった。書架の上にでも積んであったのだろうか?
 ともかく床に落ちたままなのは落ち着かないので、拾って棚に戻そうと本に手を伸ばすと……。
「え……?」
 その六冊の本から、妙な輝きが発せられた。

 才人はルイズの姿を捜しながら、薄暗い図書館の中を彷徨っている。
「おーいルイズー、どこ行ったんだー? くそッ、見失っちまったな……」
 頭をかく才人にデルフリンガーが意見する。
「いくら広くても限度があるだろうさ。外に出たんじゃなけりゃあ、しらみ潰しに捜せば
見つかるだろうよ」
「そうだよな。全く、幽霊より先にルイズを見つけなきゃいけなくなるなんて……」
 ぼやいたその時、奥の方からドサッと何かが倒れる音がした。先ほどの本の音とは違い、
明らかにもっと重いものの響きだった。
「!? 今のは……」
『サイト!』
 ゼロが焦った声を発した。
『ルイズの気配が妙だ! 急に動きがなくなった……! こりゃちょっとまずいかもしれねぇぜ!』
「何だって!? ルイズッ!」
 慌てて音の聞こえた方向に走る才人。そして、ルイズが床に倒れているところを発見する
こととなった。

325ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:32:56 ID:nov/m48.
「ルイズ! 何こんなところで寝てるんだよ!」
「動かさないで!」
 ルイズの身体に触れようとした才人を、同じく異常を察して駆けつけてきたタバサが呼び止めた。
「頭を打ってるかもしれない」
「そ、そうだな。ルイズ、しっかりしろ! ルイズ!」
 才人は手を引いて、ルイズに何度も呼びかける。だが一向に目覚める気配がない。
「ルイズ、どうしたんだよ……?」
 タバサがルイズの容態を診て、眉間に皺を刻んだ。
「完全に気を失っている。落ち着けるところで手当てした方がいい」
「そうか……。じゃあ控え室にルイズを運ぼう。大事じゃなければいんだけど……」
「シルフィード」
「はいなのね!」
 才人とシルフィードで協力してルイズの身体を持ち上げ、気をつけながら控え室まで運んでいった。
「パム! パム!」
 その一方でシルフィードの肩から飛び降りたハネジローが、ルイズの側に落ちていた六冊の本を
妙に警戒して鳴き声を上げた。
「……?」
 それを見たタバサは、本を全て拾い上げて、才人たちを追いかけて控え室に持っていった。

 それからルイズは気つけ薬を飲まされたり魔法を掛けられたりしたのだが、少しも目を
覚ますことがなかった。一体、ルイズの身に何が起きたというのか……。

326ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/04(日) 23:34:29 ID:nov/m48.
ここまで。
そんな訳で迷子の終止符と幾千の交響曲編です。

327ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:18:03 ID:.PhEE1Oo
こんばんは、焼き鮭です。続きの投下を始めます。
開始は21:20からで。

328ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:20:10 ID:.PhEE1Oo
ウルトラマンゼロの使い魔
第百二十八話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その1)」
宇宙恐竜ゼットン
ウラン怪獣ガボラ
エリ巻き恐竜ジラース 登場

 王立図書館の幽霊騒動の解決を頼まれたルイズと才人。しかし、ルイズが突如として意識不明の
状態に陥ってしまう。
 それから一夜明けたにも関わらず、ルイズは一向に目覚めなかった。才人は図書館の控え室にて、
焦燥した様子でウロウロと歩き回る。
「くそッ、ルイズは一体どうしちまったんだ……。いきなり倒れて、目を覚まさないなんて」
「お姉さま、原因分からないの?」
「パムー……」
 シルフィードとハネジローがベッドに寝かされたルイズを見下ろし、タバサに不安げに
目を向けた。しかしタバサは力なく首を振る。
「分からない」
 知識が豊富なタバサでも、ルイズの昏睡の原因は不明であった。思いつく限りの処置を
取ったが、ルイズには全く効果がなかった。
 ゼロが意見する。
『怪獣とか宇宙人とか、そういう類の気配はなかった。……だが、リシュの件もある。何か
未知の力がルイズに働いたのかもしれねぇ』
 やがて、控え室の扉がノックされて一人の女性が入室してきた。
「失礼します」
「リーヴル!」
 王立図書館の司書のリーヴルだ。朝になって出勤してきたようだ。
 彼女はテーブルの上のガラQを置くと、才人たちに振り返って告げた。
「タバサさんの連絡で、おおまかな事情は伺ってます。その件で一つ、お話しが」
「ルイズのこと、何か知ってるのか!?」
 才人の問い返しにうなずいたリーヴルは、自身の目でルイズの容態を確かめてから才人たちに
向き直った。
「間違いありません……。これは、『古き本』の仕業です」
「古き本?」
「お姉さま、知ってる?」
 シルフィードにタバサは否定で答えた。リーヴルが説明を行う。
「この図書館には、数千年前の本が所蔵されています。内容は愚か、文字も読めません。
それら本を総称して『古き本』と呼んでいます」
「でも、その本とルイズに何の関係があるんだ?」
「『古き本』には、絶筆のものもあります。諸事情で、本が未完のままで終わってしまうことです。
そして絶筆された『古き本』には、最後まで完結したいという強い想いから、魔力を持つ例があります。
ルイズさんはそれら本に魔力を吸い取られ、本の中に心を奪われた。そう考えて問題はないでしょう」
 タバサが驚きで目を見開く。
「本が魔力を持つなんて話、聞いたことがない」
「世間では全くといっていいほど知られていない話です。現に、同じ事例は記録にある上では、
千年前に一件のみです」
 再度ルイズに目を向けるリーヴル。
「どうやらルイズさんは、かなり強大な魔力を持っているみたいですね。それを狙われて……」
「強大な魔力? そうか、“虚無”の力か……」
「キョム?」
 つい口から出た才人が、ガラQに聞き返されて我に返った。
「ああ、いや、何でもない! それで、ルイズは治るのか!?」
 リーヴルは真剣な面持ちになって返答した。

329ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:22:48 ID:.PhEE1Oo
「手はあります。ですが、それを決断するのは私ではありません」
「ど、どういうことだ?」
「本が未完で終わっていることに未練を抱いているのなら、完結させればいいのです」
 ですが、とつけ加えるリーヴル。
「『古き本』は作者以外のペンを受けつけません」
「何も書けないんじゃ、完結させられないだろ。どうすればいいんだよ!」
 突っ込む才人に、リーヴルは冷静に返す。
「本の中に入るんです。代々王立図書館の司書を勤めている私の家系には、『古き本』の
魔力を利用してその本の世界に入り込む独自に開発した魔法があります。そうして本の
登場人物となって話を進行させ、完結させるのです」
「本の中に入るってサラッと言うけど、危なくないのね?」
 シルフィードの疑問に首肯するリーヴル。
「危険です。本の中に入った者は、一時的に本の世界が現実となるので、その中で傷つけば
現実の傷として残ります。本の中で死ねば当然、命を落とします。故に滅多なことでは使う
ことの許されていない、禁断の魔法なのです」
「……本を完結させるか死か、その二択って訳か……」
 つぶやいた才人が決心を固めた表情で、リーヴルの顔を見つめた。
「一度に本の中に入れられるのは何人だ?」
「……私の力では、一人が限度です」
「一人か。それじゃあ決まりだな。俺がルイズを助け出す!」
 タバサは心配の視線を才人に向けた。それに気づいた才人は一旦リーヴルから離れて、
タバサに説いた。
「大丈夫だ。俺はゼロと魂が一つになってるから、ゼロも一緒に本の中に入れるはずだ。
ゼロの力があれば、よほどのことがない限り命の危険なんてないよ。心配いらないさ!」
「……ん」
 タバサは力になれないのがもどかしそうであったが、こんな場合に才人を止められないことは
知っているし、彼を信頼してもいる。素直にルイズのことを才人に託した。
「パムー」
 話していたら、ハネジローがパタパタとテーブルの上に六冊の本を一冊ずつ運んできた。
タバサがリーヴルに伝える。
「これらが倒れてたルイズの側に落ちてた」
「この六冊が、ルイズさんの魔力を吸い取った『古き本』のようですね」
 六冊を確かめたリーヴルが眉間に皺を寄せる。
「……厄介ですね。これらは『古き本』の中でも一番力の強いもの。砂漠で発見されてトリステインに
流通したもので、どこで書かれたものかも不明です」
「曰くつきって奴か。どういう内容なんだ? って、読めないのか……」
 何気なく本の一冊を開いた才人が、唖然と固まった。
「いや、俺これ読めるぞ! 日本語……俺の国の文字で書かれてる!」
「そうなのね!?」
 シルフィードたちの驚きの視線が才人に集まった。才人は他の五冊にもざっと目を通す。
「全部そうだ! しかも……全部ウルトラマンの本じゃねぇか!」
 仰天する才人。六冊全部が、ウルトラ戦士の戦いを題材にした作品なのだ。これら六冊も、
自分のように日本からハルケギニアに迷い込んできたものなのだろう。それと日本人の自分が
出会うとは、何という巡り合わせか。
 同時に才人は、若干険しい顔となる。
(となると、ゼロでも簡単にはいかないってことになるな。何せ、本の世界で待ってるのは
怪獣や宇宙人との戦いだ……)
 ウルトラ戦士の戦いが題材ということは当然、本の中で繰り広げられている世界でも怪獣、
宇宙人と戦うことは避けられない。ゼロの力ならばよほどのことは、と思っていたが、まさか
こんなことになろうとは。
 しかしそれならばなおさら自分たちが本の世界に行かなければならない。他の者では、
この六冊の物語を完結させるのはほぼ不可能であろう。改めて決心した才人は、最初に
中に入る本を選択する。
「……よし、これにしよう。最初には、『始まりのウルトラマン』の本が相応しいと思う」

330ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:24:35 ID:.PhEE1Oo
「決まりましたか」
「早速やってくれ。準備はもう出来てる」
 才人から本を受け取ったリーヴルが、本の世界に旅立つ前に忠告した。
「生死以外にもう一点、重要なことを。あまりに物語を改変してしまうと話が破綻し、その本の
世界は閉じてしまい完結できなくなります。要するに、最低でも本来の主役を立て、その人物に
物語を終わらせてもらう必要があります」
「俺が何もかも物語の中の問題を解決しちゃいけないってことだな。分かった」
 ただ怪獣たちを倒すだけでなく、本の中のウルトラマンと共闘する必要があるようだ。
その条件を解決しなければならないとは負担が増加したように思えるが、きっと何とか
なるだろう。同じ正義の心を持つウルトラ戦士なのだ。
 もう一つ、タバサがリーヴルに問いかけた。
「最後に、これだけ聞かせて」
「何でしょうか?」
「……何故千年以上前の貴重な本が、一般の書架に置いてあったの?」
 リーヴルは一瞬言いよどんだ。
「……私にも分かりません。ですが元は幽霊が騒動の発端。もしかしたら、『古き本』自体が
魔力を用いて人の目に留まるように動いたのかもしれません」
「……」
 タバサは若干納得していなさそうだったが、それ以上の追及はしなかった。
 そしてこれから本の中に入る才人に、仲間たちが応援の言葉を寄せる。
「俺も「一人」に数えられてるみてえだから、相棒と一緒に本の中にゃ入れねえ。けど俺が
いなくてもしっかりやれよ! 娘っ子を頼んだぜ!」
「気をつけてなのね! 死んじゃ絶対に駄目なのね!」
「……頑張って」
「パムー!」
 才人は彼らに笑顔で応える。
「ああ! 行ってくるぜ!」
 リーヴルの前に立つと、彼女が才人に魔法を掛ける。才人の視界がぐるぐると回り、目の前の
光景が大きく変化していく……。

   ‐甦れ!ウルトラマン‐

「ピポポポポポ……」
 荒野でにらみ合うウルトラマンとゼットン。ウルトラマンは八つ裂き光輪を投げつけて攻撃する。
「ヘアァッ!」
 しかしゼットンは己の周囲にバリヤーを張り、八つ裂き光輪は粉々に砕け散ってしまう。
「ヘアァァッ!」
 それを見たウルトラマンは肉弾戦に切り替えるが、ゼットンの水平チョップで返り討ちにされた。
「ウアァッ!」
 地面を転がりながらも立ち上がったウルトラマンは、必殺のスペシウム光線を発射!
「シェアッ!」
 だが直撃したスペシウム光線は、ゼットンに吸収されてしまう。
「ウアァッ!?」
 ゼットンは更に吸収したエネルギーによって、腕から光波を発射。ウルトラマンの急所である
カラータイマーに命中してしまう! ウルトラマンのカラータイマーが赤く点滅し出した。
「どうしたウルトラマン!?」
 叫ぶムラマツ。ゼットンは容赦なく光波を撃ち続けてウルトラマンを追撃。
「やめろ! ゼットン!」
「危ないわッ!」
 絶叫するイデと『フジ』。だが致命傷をもらったウルトラマンの身体がよろめき、前のめりに
倒れてしまった。

331ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:27:18 ID:.PhEE1Oo
 仰向けに横たわるウルトラマンを見下ろすゼットン。このままではウルトラマンの命が危ない!
「よし、ウルトラマンの仇討ちだ!」
 ムラマツたち科特隊がゼットンに攻撃開始。しかしスーパーガンの光線はゼットンに全く
通用していない。
「よぉし! イデ隊員の、すごい兵器をお見舞いしてやる!」
 するとイデがスーパーガンの銃口に新兵器スパーク8を接続。強化された光弾がうなりを
立てて飛び、ゼットンに直撃。
 ゼットンは爆炎の中に呑まれ、粉々に吹っ飛んだのだった。
「やったぁッ!」
 ――ゼットンは、イデ隊員の活躍で撃退された。しかし、常に勝利を誇ってきたウルトラマンは、
この戦いで遂に敗北を味わったのである。

 衝撃の事件から一ヶ月が過ぎていた。強敵ゼットンに対する勝利で勢いづいた科学特捜隊は
向かうところ敵なしであったが、一方でウルトラマンはスランプに陥り、怪獣に黒星を重ねていた。
 そんな中、日本各地で怪奇現象が続出。ハヤタは怪獣総攻撃の予兆を感じ取っていたが、
それはウルトラマンと一体である彼にしか感じられないもの。誰かに話すことは、自分が
ウルトラマンであることを告白すること。ハヤタは悩んだ……。
 しかし彼の決心を待たずして、怪獣軍団の尖兵が出現したのだ!

「ゲエエオオオオオオ!」
「ピギャ――――――!」
 緑に覆われた山脈の間を、二体の怪獣が行進している。一体は這いつくばった姿勢、もう一体は
直立した姿勢だが、どちらも首の周りがエリで覆われているという共通点がある。四足歩行の方は
エリが閉じていて首がその中に隠れていた。
 ウラン怪獣ガボラとエリ巻き恐竜ジラースだ! その進行先には人間の町がある。怪獣たちが
町に到達したら大惨事だ!
「くっそー、怪獣どもめ! ここから先には行かせないぜ!」
「みんな、何としても食い止めるんだ!」
 それに立ち向かうのは科特隊。アラシがスパイダーで射撃し、他の面々もムラマツの激励の
下にスーパーガンで応戦する。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ピギャ――――――!」
 しかし彼らの射撃は、ガボラとジラースにほとんど効果を上げていなかった。アラシが
大きく舌打ちする。
「くそぅ、一匹だけなら何とかなるが、二匹同時ってのは苦しいぜ……!」
「イデ隊員、スパーク8は使えないの!?」
 『フジ』がイデに尋ねたが、イデは首を横に振った。
「スパーク8は一発限りしかないんだよ!」
「もうッ! 肝心な時に使えないわね!」
 『フジ』の荒々しい言動に、イデはやや首をすくめた。
「フジ君、何だか気が強くなったんじゃないか? それに心なしか、背も縮んだような……」
「そんなこと言ってる場合じゃないぞ、イデ! 戦いに集中しろ!」
 アラシが叱りつけている一方で、ハヤタは懐の変身アイテム、ベーターカプセルに目を落としたが……。
「……駄目だ。今の俺では、ウルトラマンに変身しても怪獣に勝てない……」
「ハヤタ! 危ないぞッ!」
 ハヤタが力なく首を振っていると、ムラマツが警告を飛ばした。
 我に返って顔を上げたハヤタに、ジラースが光線を吐こうとしていた!
「ピギャ――――――!」
「うわぁぁぁッ!」
「ハヤターッ!!」

332ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:29:38 ID:.PhEE1Oo
 絶叫するアラシ。ハヤタのピンチ!
 その時、『フジ』が空の一画を指差して叫んだ。
「見て! あれ何かしら!」
 空の彼方から、何かが流星のように降ってきている。思わずそれに目を奪われる科特隊。
「セェェェェェアッ!」
 それは巨人だった! 空の彼方から脚を突き出して猛然と地上に迫り、ジラースに飛び蹴りを
ぶちかました。
「ピギャ――――――!」
 ジラースは巨人に蹴り飛ばされて、ハヤタは救われる。ガボラが驚いたように巨人に振り返った。
「な、何だあの巨人は……」
 科特隊の面々も唖然として巨人を見上げた。青と赤のカラーリングの肉体で、頭部には
二つのトサカが生えている。目つきはかなり鋭いが、勇気と優しさが眼差しから見て取れた。
「ハァッ!」
 ガボラに対して空手を思わせる構えを取った巨人の胸元には、丸い発光体が青々と輝いていた。
それを指差すイデ。
「胸にカラータイマーがついてるぞ!」
「じゃああの巨人は、ウルトラマンということか……!?」
 ぽかんと口を開くムラマツ。しかし一番驚いているのはハヤタであった。
「俺以外の、ウルトラマン……!?」
 ウルトラマン以外の『ウルトラマン』は、突っ込んできたガボラにこちらから向かっていく。
素早い蹴り上げがガボラの首に決まり、ガボラは押し返された。
「ゲエエオオオオオオ!」
 ガボラは頭部を覆い隠すヒレを開いて、口から熱線を吐き出した。だがウルトラマンは
側転して回避。
「ピギャ――――――!」
「セアッ!」
 そこに起き上がったジラースが背後から襲い掛かるが、ウルトラマンは機敏に反応して
裏拳を顔面に打ち込んで、振り返りざまの横拳でジラースを返り討ちにした。
 怪獣二体を相手にしてむしろ優勢なウルトラマンの様子に、科特隊の目は思わず釘づけになっていた。
「強い……!」
「ええ、すごい強さですね、キャップ……!」
 ムラマツとアラシは感心しているが、ハヤタは複雑な表情で自分以外のウルトラマンの
戦いぶりを見上げていた。
「テェェェイッ!」
 ウルトラマンはガボラを飛び越えて背後に回り込み、その身体を鷲掴みにして真上に放り投げた。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ハァァァァァッ!」
 ウルトラマンはジャンプして空中でガボラをキャッチし、真っ逆さまに地面に叩きつける
パイルドライバーを決めた。ガボラはこの一撃によって絶命し、地面の上に横たわる。
「ピギャ――――――!」
 ガボラを倒したウルトラマンにジラースが突進していくが、ウルトラマンはそれをいなした上で、
エリマキに手を掛けて引き千切った。
「ピギャ――――――!?」
 首に手を当てて、エリマキがなくなったことに慌てふためくジラース。ウルトラマンは
千切ったエリマキを投げ捨てると、トサカに手を伸ばして……何と取り外した!
「あれ取れるのか!?」
 えぇッ! と驚くアラシとイデ。ウルトラマンは取り外したトサカを逆手に持ち、ジラースに
向かってまっすぐ走っていき……。
「セェアッ!」

333ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:32:18 ID:.PhEE1Oo
 喉元にトサカを走らせて切り裂いた。トサカは刃だったのだ。
 ジラースは口の端からツゥッと血を垂らし、前のめりにばったりと倒れ込んだ。
「シェアッ!」
 圧倒的な実力で立て続けに怪獣二体を撃破したウルトラマンは、両腕を天高く伸ばして
空に飛び上がり、どこかへと飛び去っていく。
 科特隊は突然現れ、風のように去っていくもう一人のウルトラマンの後ろ姿を、呆然と
見送っていた。

 ……ウルトラマンゼロから元の姿に戻った才人は、山の中腹からそんな科特隊の様子を
見下ろしていた。
『とりあえずは危機回避だな。こんなところでウルトラマンに死なれてたら、いきなりアウト
だったぜ』
「ああ。それにしても、本の中とはいえ、あの最初の地球防衛隊、科学特捜隊の人たちと
こうして出会うことになるなんてな……。夢みたいだよ」
 そう、ここか本の世界。才人は『古き本』の一冊目、『甦れ!ウルトラマン』の中に入ったのだ。
そして本文が途切れていた箇所、科特隊の窮地を救ったのであった。
 史実ではウルトラマンはゼットンに敗れた後、やってきたゾフィーとともに光の国に帰った
のだが、この作品は「もしもウルトラマンが帰らず、地球に残っていたら」のifを書いたものの
ようである。
 感慨深げに科特隊のムラマツ、アラシ、イデを順番にながめた才人だが、『フジ』に目を
留めて微妙な笑みをこぼした。
「……けど、その中にルイズが混じってるのが、意識が現実に引き戻されるような感覚がするな」
『正直、あの制服ルイズに似合ってねぇよな』
 そう、科特隊の紅一点、フジ隊員の姿は、ルイズのものに置き換わっているのだった。
それが、ここが現実の世界ではない何よりの証拠である。そして見た限り、ルイズは
すっかり『フジ』の役回りになり切っているようで、周りも別人になっていることに
気づいていないようであった。
『まぁそれは置いといて、こっからこの本を完結させるために頑張らねぇとな。まずは、
本来のウルトラマンに奮起してもらわねぇと』
「ああ。俺たちが怪獣を全部やっつけるってのは駄目だって話だったしな」
 ゼロと相談している才人がふと気配を感じ、顔を上げた。
「……そのご本人が、向こうからいらしたな」
 才人の元に、ウルトラマンことハヤタが歩いてきたのだった。

334ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/10(土) 21:36:12 ID:.PhEE1Oo
今回はここまでです。
迷子の〜編は「本の中の世界」という部分だけ守って、かなり好き勝手します。

335名無しさん:2016/12/11(日) 15:05:28 ID:L98PTnWE
乙です!

336名無しさん:2016/12/11(日) 18:21:00 ID:0v7S8Ny2
スパーク8ごときで倒されるゼットンなんてゼットンじゃない!!乙

337名無しさん:2016/12/16(金) 14:18:15 ID:ckH.TGNc
乙です。
ほかの本がどんなの用意してるかわからないけど、ちょうど向こうにも『太陽の子』がいることだしウルトラマンVS仮面ライダーがあったらうれしいな。

338ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:20:41 ID:6xkvX/Wo
こんばんは、焼き鮭です。今回の投下を行います。
開始は23:23からで。

339ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:23:52 ID:6xkvX/Wo
ウルトラマンゼロの使い魔
第百二十九話「一冊目『甦れ!ウルトラマン』(その2)」
変身怪人ゼットン星人
恐怖の怪獣軍団
友好珍獣ピグモン 登場

 未完のまま筆が途絶え、自身の完結を求めて魔力を得た『古き本』の中に精神を囚われたルイズ。
才人は彼女を救うべく、リーヴルの力を借りて本の世界へと旅立った。――そこは初代ウルトラマンが、
ゼットンに敗れた後も地球に残り続けたifの世界。そこではウルトラマンことハヤタが敗戦のトラウマ
から不調になり、失意にどん底に陥っていた。才人とゼロは、ウルトラマンを立ち上がらせてこの本の
世界を完結に導くことが出来るのだろうか。

 野山を覆う緑の山林の中で、この本の主人公であり本来の『ウルトラマン』であるハヤタと、
現実世界から闖入者たるイレギュラーの『ウルトラマン』のゼロと才人が向かい合った。まずは
ハヤタの方が先に口を開く。
「君が……さっきのウルトラマンだね?」
 才人はうなずいて答える。
「ええ。平賀才人……ウルトラマンゼロと言います。はじめまして、ハヤタさん」
 この本の中では、ハヤタことウルトラマンはゼロのことを存じていないようだ。それも無理の
ないことかもしれない。本がいつ頃執筆されたかは知らないが、地球ではゼロの存在はかなり
最近になってから、惑星ボリスとハマー、怪獣墓場から生還したZAPクルーの報告によって知られた
もの。それ以前に書かれたのならば、たとえ『ウルトラマン』でもゼロのことを認知するのは
不可能。本の世界は、本来は作者の情報がその全てなのだ。
 さて才人が肯定すると、ハヤタは自嘲するように苦笑を浮かべた。
「そうか……。最近科特隊に活躍を奪われがちだったところに、僕以外のウルトラマンが
現れたなら、ますます僕はお払い箱だな」
 才人はそのひと言に若干慌てる。
「お払い箱だなんてこと……! 『この』地球を守ってきたのはあなたじゃないですか」
「そんなことは関係ないさ……。どんな実績を打ち立ててこようとも、現在に怪獣に勝てず、
地球を守れない弱いヒーローなんて誰からも求められないよ。これを機に、僕は引退する
べきなのかもしれない」
 かなり弱々しいことを吐くハヤタ。昨今のスランプがよほど精神に応えているようである。
 すると才人は、語気をやや強めてハヤタに告げた。
「そんな情けないこと、言わないで下さいッ!」
「え……」
 ハヤタの顔をまっすぐ見据え、熱意を込めて説く。
「あなたは地球に現れた、最初のスーパーヒーローだ。世界中の子供たちは、みんなあなたの
勇敢に戦う姿に勇気をもらい、憧れた。俺もその一人です。あなたの存在はたくさんの人に
夢を与えた……いや、与えてるんだ。あなたは不朽のヒーローなんです!」
 この応援のメッセージは、本を完結させるためだけのものではない。才人は本当に、地球を
何度も救ってきたウルトラ戦士の歴史の始まりとなった最初のウルトラマンに、強い憧れの心を
抱いて育った。だからたとえ本の登場人物でも、そのウルトラマンが弱っているのを放っておく
ことは出来ないのだ。
「ヒーローに、別の誰かがいるから必要ないなんてことはありません。今は落ち込んでても、
あなたは偉大な戦士なんだ。どうかもう一度立ち上がって、今までのように俺たちに夢と希望を
与えて下さい!」
「平賀君……」
 果たして才人の気持ちは、ハヤタの心を動かすことが出来たのか。
 その答えが出る前に、ハヤタの流星バッジが着信を知らせた。ハヤタはすぐにアンテナを伸ばした。
「すまない。こちらハヤタ!」
『ハヤタ、今どこにいる! たった今防衛隊から、謎の円盤群が日本上空に侵入したとの
連絡とともに出動要請が入った。直ちに迎撃するぞ! すぐにビートルまで戻れ!』

340ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:25:41 ID:6xkvX/Wo
「了解!」
 ムラマツに応答してアンテナを戻したハヤタが、才人に向き直る。
「悪いが、僕は行かなくてはいけない。話はまた後にしてくれ」
「分かりました。どうか、頑張って下さい!」
 才人の呼びかけに、ハヤタは迷いを顔に浮かべながらも、科特隊式の敬礼で応じて走り
去っていった。
 それから才人は、ゼロの千里眼によって科特隊に先んじて件の円盤群の光景をキャッチした。
『……こいつはゼットン星人の円盤だ!』
「ゼットン星人って言うと、あのゼットンを最初にもたらした……!」
 現在の地球において、ゼットンの名を知らぬ者などいないだろう。当時無敵と思われた
ウルトラマンを完敗せしめ、世界中の人間に衝撃を与えた恐るべき宇宙恐竜。色んな教科書に
その名前が載っている、世界一有名な怪獣だ。
 そのゼットンを最初に侵略兵器として地球に連れてきたのが、『ゼットン』という言葉が
出身星の名前にまでなっているゼットン星人だ。
『ゼットン星人はもう一つ、変身能力による破壊工作が得意だ』
「破壊工作……科特隊が円盤迎撃に出たのなら、基地はがら空きだよな」
『ああ。嫌な予感がするぜ。俺たちは基地の方に向かおう!』
「よっしゃ!」
 ゼロと相談し、才人は科特隊基地へ向かって駆け出した。

 ルイズを通信士として基地に残し、科特隊自慢の万能戦闘機、ジェットビートル二機で
出撃したハヤタたちは、ゼットン星人の円盤群と会敵していた。
「おいでなすったなぁ。円盤発見!」
『直ちに攻撃開始!』
 ムラマツの指示により、ジェットビートルは光線を発射して円盤に攻撃を加える。
 だが光線は円盤をすり抜けてしまう!
「どうなってやがるんだ!?」
 何度攻撃しても結果は同じ。ハヤタはこの円盤のカラクリを見抜いた。
「キャップ、あの円盤は何者かの罠です。多分、立体映像なんです!」
「おい、それじゃ本部は!」
 ビートルは本部の危機を察し、慌てて引き返していった。

 才人が科特隊の基地にたどり着いた時、上の階に行くほど幅が広がっていく独特な建築の
ビルの窓の一つから、黒い煙が立ち上るのを目にすることになった。恐らく作戦室だ。
『まずい! ひと足遅かったか!』
「ルイズは無事なのか!? くそッ!」
 ルイズが犠牲になってしまったら最悪だ。才人は全速力で基地に入り込み、階段を駆け上がって
作戦室にたどり着いた。
 そこでは科学者の男性が、光線銃を用いて科特隊本部のコンピューターを破壊していた。
その足元には、倒れているルイズの姿。
「ルイズッ! こんのやろぉーッ!」
 煙に巻かれる作戦室の中、激昂した才人が踏み込んで、男を殴り飛ばした。男は突然の
攻撃に驚いたか、すぐに作戦室を抜け出して逃げていく。
 才人は先にルイズを介抱して、無事を確認する。
「ルイズ、無事か! ……よかった、息はしてる」
「う、うぅん……」
 才人に抱き起こされたルイズの意識が戻った。
「大丈夫か?」
「大丈夫かって……あなたは誰なの!? ここは科特隊本部よ、子供がどうやって入ったの?」
 お前も子供だろ、と言いかけた才人だが、今のルイズはフジ隊員の役になり切っているのだ。
そんなことを言ってもしょうがない。

341ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:27:20 ID:6xkvX/Wo
「えーっと……俺は風来坊さ。科特隊の危機を察知して、助けに来たんだ」
「風来坊? 助けてくれたのはありがたいけれど、冗談言ってないで避難しなさい。ここは危ないわ」
 ルイズが自力で立つと、ちょうど本部に帰投したハヤタたちが駆け込んできた。
「フジ隊員、どこだ!? ……ややッ、君は誰だ!?」
「君はさっきの……!」
 イデたちは見慣れぬ才人の姿に面食らっていた。ルイズは彼らに告げる。
「この子は誰だか知らないけれど、わたしを助けてくれたの。それより、犯人は岩本博士よ!」
「そうだった、捕まえないと!」
「お、おい君ぃ! 一体何なんだ!?」
 才人が逃げた男を捜しに飛び出していく。その背中を追いかけていくアラシたち。
 男は科特隊基地から外に逃げ出したところだった。それを発見した才人が速度を上げ、
距離を縮めて飛びかかる。
「待てぇー! とおッ!」
 タックルした才人に足を掴まれ、男は前のめりに倒れた。
「この野郎、正体を見せろ!」
 才人の要求に応じるように、男はケムール人に酷似した真の顔を晒して立ち上がった。
これがゼットン星人だ。
 この時にハヤタ、ムラマツ、アラシが才人に追いついてきた。
「はぁッ!? 君、危ない!」
 ムラマツとアラシがゼットン星人から才人をかばい、ハヤタがマルス133をゼットン星人の
顔面に向けて発射。
「グ……グオオ……!」
 その一撃により、ゼットン星人はもがき苦しみながら消滅していった。
 しかし今際の断末魔が、怪獣軍団総攻撃の合図だった!

「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 東京奥多摩の丘陵を突き破り、レッドキングが出現! 驚き逃げ惑う人々に狙いをつけ、
襲い掛かり始める。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
「ギャアアオオオォォウ!」
「ゲエエオオオオオオ!」
 それに続いて有翼怪獣チャンドラー、地底怪獣マグラー、冷凍怪獣ギガスまで出現した。
怪獣たちはレッドキングが総大将となり、人間に牙を剥く!

 怪獣出現の報を受けたムラマツは、部下たちに命令を発する。
「出動準備! 直ちにビートルで現場に向かうぞ!」
「しかしキャップ、この子はどうします?」
 イデが才人を一瞥して尋ねた。
「今は怪獣撃滅の方が最優先だ。すぐに発進だ!」
「了解!」
 ムラマツ、アラシ、イデの順にビートルへ向けて駆けていく科特隊。ハヤタだけは複雑な
眼差しを才人に注いでいたが、前を向いてムラマツたちの後に続いていった。
 彼らを見送った才人は、颯爽とウルトラゼロアイを取り出す。
「行くぜ、ゼロ!」
『ああ! ウルトラマンが再起するまで、俺たちが物語を支えなくっちゃな!』
 戦意を燃やしながら、才人がゼロアイを装着。
「デュワッ!」
 輝く光と化して、ビートルより早く奥多摩の怪獣が暴れる現場へと飛んでいった。

「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 奥多摩では、レッドキングが逃げ遅れた人たちを今にも叩き潰しそうになっていた。
「うわああああッ!」
 彼らの命が危機に晒されているところに、ウルトラマンゼロが到着!

342ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:28:39 ID:6xkvX/Wo
『てぇぇぇぇいッ!』
 上空からの急降下キックがレッドキングに入り、大きく蹴り飛ばした。それにより逃げ遅れた
人たちは間一髪で助かり、避難に成功する。
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 レッドキングの前にチャンドラー、マグラー、ギガスが集まり、登場したゼロと対峙して威嚇する。
『来い、怪獣ども! このウルトラマンゼロが相手になってやるぜ!』
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
「ギャアアオオオォォウ!」
「ゲエエオオオオオオ!」
 ゼロの挑発に応じるように、チャンドラーたちが一斉にゼロに押し寄せてきた。
『はぁッ!』
 対するゼロはまずチャンドラーの突進をいなし、マグラーの頭部にキックを一発入れて
ひるませ、殴り掛かってくるギガスの腕を捕らえてウルトラ投げを決めた。
「ゲエエオオオオオオ!」
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
 投げ飛ばされたギガスに代わってレッドキングがパンチを打ち込んできたが、ゼロは紙一重で
かわし、反撃の掌底で突き飛ばした。
「ギャアアオオオォォウ!」
 そこにマグラーも跳びかかってくるも、すかさず反応したゼロがひらりと身を翻したことで
丘陵に激突した。
 四体もの怪獣相手に敢然と戦うゼロは、頭部のゼロスラッガーを取り外して両手に握る。
『一気に決めてやるぜ!』
 そして突っ込んできたチャンドラーにこちらから踏み込んでいき、刃を閃かせる。
「セェェアッ!」
 逆手持ちのスラッガーの一閃が、チャンドラーの片翼をばっさりと切り落とした。
「ゲエエゴオオオオオオウ!!」
『だぁぁッ!』
 それで留まらず、振り返りざまにゼロスラッガーアタックが叩き込まれた。ズタズタに
切り裂かれたチャンドラーは瞬時に爆散。
「ギャアアオオオォォウ!」
「ゲエエオオオオオオ!」
 一瞬でチャンドラーを撃破したゼロに、マグラーとギガスは動揺して後ずさった。
『さぁて、次はどいつだ!』
 スラッガーを頭部に戻して残る怪獣たちに向き直ったゼロだったが、
『……ぐあッ!?』
 その肩に突然電気ショックが走った。予想外のダメージにゼロもふらつく。
『くッ、今のは……!』
 振り向くと、その方向の空間からヌゥッと新たな怪獣の姿が出現した。
「ゲエエゴオオオオオオウ!」
 透明怪獣ネロンガだ! 今のはネロンガの角から放たれた電撃であった。
『くッ、新手か……!』
 うめくゼロだったが、新たな怪獣の出現はネロンガで終わりではなかった。
「グウウウウウウ……!」
「ウアァァァッ!」
 丘陵の影から怪奇植物グリーンモンス、海獣ゲスラが出現!
「ミ――――イ! ミ――――イ!」
「カァァァァコォォォォォ……!」
 更にミイラ怪獣ドドンゴ、毒ガス怪獣ケムラーも地中から出現した!
『五体も増えやがった!』
『ホントに怪獣軍団じゃねぇか!』

343ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:30:28 ID:6xkvX/Wo
 一気に八対一となり、さしものゼロも動揺を禁じ得なかった。
 しかし怪獣が現れているのはこの場所だけではなかった!

「ガアアアアアアアア!」
 雪山には伝説怪獣ウーが出現!
「ギャオオオオオオオオ!」
 大阪には古代怪獣ゴモラ!
「ピャ――――――オ!」
 国道上には高原竜ヒドラ!
「ギャアアアアアアアア――――――!」
 山岳部には灼熱怪獣ザンボラー!
「パアアアアアアアア!」
 市街地には吸血植物ケロニア!
「キュ――――――ウ!」
「グアアアアッ!」
 更に石油コンビナートを油獣ペスター、沿岸を汐吹き怪獣ガマクジラが襲っていた!

 日本中を襲う怪獣軍団。だがゼロも大勢の怪獣を前に苦戦しており、とても現地に駆けつける
ことは出来なかった。
「グウウウウウウ……!」
 グリーンモンスは花弁の中央からガスを噴出。それは強力な麻酔ガスであり、ゼロの身体をも
痺れさせ苦しめる。
『うッ、ぐッ……!?』
「ウアァァァッ!」
 更にゲスラが体当たりしてきて、その背中に生える毒針がゼロに刺さった。
『ぐわぁぁぁッ!』
「カァァァァコォォォォォ……!」
 その上ケムラーが口から亜硫酸ガスを大量に噴出した。
『うッ、ぐううぅぅぅぅ……!』
 ケムラーの亜硫酸ガスは凄まじい毒性だ。ただでさえ毒を食らい続けているゼロの身体を
破壊していく。カラータイマーがけたたましく鳴り、ゼロの大ピンチを表した。
『こ、こいつはやべぇぜ……!』
 しかし怪獣たちの猛攻に追いつめられているところに、ジェットビートルが駆けつけた。
「あのウルトラマンが危ないわ!」
「攻撃開始!」
 科特隊はビートルからロケット弾を発射し、怪獣たちを上空から狙い撃ち。ゼロへの攻撃を
妨害して援護する。
「ピッギャ――ゴオオオウ!」
「ミ――――イ! ミ――――イ!」
 だがビートルもドドンゴの目から放たれる怪光線に狙われ、危機に陥る。やはりあまりの
数の差に、ゼロたちは苦しい状況が続く。
「ホアーッ! ホアホアーッ!」
 その時、地上に小型の赤い怪獣が現れて、ピョンピョン飛び跳ねることで巨大怪獣たちの
注意を引きつけた。あれはピグモンだ!
『ピグモン! あいつ、まさか俺たちを助けようと……!』
 驚くゼロ。だがあれではピグモンの方が危うい。
 緊急着陸したビートルから飛び出したハヤタとイデが、ピグモンへと急いで走っていく。
「ピグモーン!」
「大丈夫かー!」
 しかしハヤタたちが駆けつける前に、ドドンゴがピグモンを狙って怪光線を放ってしまった!

344ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:31:22 ID:6xkvX/Wo
「ミ――――イ! ミ――――イ!」
 怪光線は崖を砕き、発生した岩雪崩がピグモンの頭上に降りかかる。
「ホアーッ!?」
『!!』
 ゼロの身体が青く輝く。
 岩雪崩がピグモンに襲い掛かり、ピグモンは岩石の下敷きになってしまった。
「ホアーッ!」
「ピグモーンッ!」
「ピグモンッ!」
 ピグモンの元までたどり着いたハヤタが岩の下から引きずり出したが、ピグモンはそのまぶたを
ゆっくりと閉ざしていった……。
「ピグモーン!!」
「くッ……! ちくしょうッ!」
 激昂したイデがスーパーガン片手に怪獣軍団へ立ち向かっていく。
 一方でハヤタは、ベーターカプセルをその手に強く握り締めていた。
「俺は一体、何を……!」
 ハヤタは己の迷いがピグモンの犠牲を招いてしまったことに、激しい後悔を抱いていた。
 そして才人の言葉にも背中を押され、遂に迷いを抱えていたその目に力が戻った!
「おおおッ!」
 駆け出したハヤタがベーターカプセルを掲げ、スイッチを押した!
 百万ワットの輝きが焚かれ、ハヤタは巨躯の超人へと姿を変えたのだ。
「ヘアッ!」
 宙を自在に飛び回りながら怪獣たちを牽制する銀色の流星を見やり、才人が歓喜の声を発した。
『立ち上がってくれたのか……! ウルトラマン!!』
 そう、暴虐なる怪獣軍団の中央に降り立ち、倒れているゼロを守るように大きく胸を張ったのは、
失意の淵から甦った我らがヒーロー、ウルトラマン!

345ウルトラマンゼロの使い魔 ◆5i.kSdufLc:2016/12/18(日) 23:32:09 ID:6xkvX/Wo
以上です。
また一度に大量の怪獣出して。

346ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:31:17 ID:q6J2gu7Y
焼き鮭さん、乙です。
こんにちは、皆さん。ウルトラ5番目の使い魔、52話できました。
投稿を開始しますので、よろしくお願いします。今回またちょっと長いです。

347ウルトラ5番目の使い魔 52話 (1/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:33:53 ID:q6J2gu7Y
 第52話
 ハルケギニアの夜明け
 
 破滅魔人 ゼブブ
 精神寄生獣 ビゾーム
 破滅魔虫 カイザードビシ 登場!
 
 
 異世界ハルケギニア。その精神の根幹を成してきたのは、六千年前にハルケギニアを作ったという聖人・始祖ブリミルの教えを語り継いできたというブリミル教である。
 しかし、六千年という時間は、その原初の精神が残され続けるにはあまりにも長い時であった。
 どんな精密なコピーでも百回、千回と繰り返せばデータが磨耗していくように、ブリミル教の内容も幾星霜の中で変化してきた。
 しかも、本来ならば正しい精神を継承すべきそれに、悪意が潜んでいたことが、後の世に混沌を生むことになる。
「僕は自分の考えを宗教にしてほしいなんて思ったことは一度もないよ」
 才人からブリミル教というものがあることを教えられたとき、ブリミル本人は呆れたように言った。
 自分は他人からあがめられるような立派な人間じゃない。ブリミルは、自分が聖人とされていることに何の喜びも感じず、むしろ自分なんかを聖人に持ち上げた後年の人間に対する嫌悪を表した。
 ならどうして、ブリミル教なんてものが作られたんでしょうか? その才人の問いかけに、ブリミルはこう答えた。
「六千年も経つんだから、一言で言うのは無理だろうけど、少なくとも君の時代のブリミル教の指導者たちの考えはたぶん、まばゆい光が欲しいからだろうね」
「光、っすか?」
「そうさ。光はなくてはならないものだけど、昼間に夜の暗さをみんな忘れてしまうように、明るすぎる光は闇の存在を忘れさせてしまう。そして闇にとっては、明るい光の影でこそ濃く暗くなることができる。おそらくこれで、当たらずとも遠からずってとこじゃないかな」
 才人はロマリアの街で見た光景を思い出した。ブリミル教の威光を笠に着た金持ちの神官と、数え切れないほどの浮浪者たち。しかしきらびやかな神官たちが外国に出向けば、その国の人たちはロマリアは豊かな国だと錯覚するだろう。
 むろん、ブリミル教の存在を全否定するわけではない。礼節やモラルなど、日本人の才人から見ても違和感があまりないくらいにハルケギニアの人々が礼儀正しいのはブリミル教の教えがあるからだろう。
 『神様が見ているから悪いことをしてはいけませんよ』。というのが宗教の基本で、それを否定するつもりはさらさらないが、逆に宗教が悪用されるときには『これをしないと地獄に落ちますよ』と言う奴が出てきて暴走する。それがまさに、聖戦をしないと世界が滅びますよと言っている今だ。
 死人に口なし。開祖がいくら善人でも、その教えを次いで行く者が悪人ならば教えはいくらでも歪められていく。

348ウルトラ5番目の使い魔 52話 (2/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:36:07 ID:q6J2gu7Y
 しかし今、奇跡は起きて始祖は蘇った。過去からやってきた始祖ブリミル本人が相手では、いかに教皇が詭弁を弄したところで勝ち目などない。
 
 今こそ、世界を覆う暗雲とともにブリミル教の虚栄の牙城を滅ぼす時。
 さあ、決戦だ!
 
 追い詰められた教皇とジュリオが紫色の禍々しいオーラに包まれ、人間の姿が掻き消えると人魂のような姿になって空に舞い上がった。
 たちまち、教皇様? 教皇様! 教皇様!? と、人々の叫びがあがる。教皇聖下を信じたい最後の気持ちが声になってあがるが、現実は彼らにとってもっとも残酷な形で顕現した。
 空から舞い戻ってきた紫色の光の中から、右腕が鋭い剣になり、蝿のような頭をした巨大な怪人型の怪獣が姿を現し、地響きを立てて降り立ってきた。それだけではない、並び立つように、人型でありながら顔を持たず、全身が黒色で顔面に当たる部分を黄色く発光させた怪物までもが現れたのだ。
 二体の怪獣は、愕然とする人々の前で不気味な声色で笑い声を放った。しかもその声は歪んではいるがヴィットーリオとジュリオそのもので、これまで必死に教皇聖下を妄信してきた人々も、ついに自分たちが騙されていたことを認めた。
「とうとう本性を表しやがったな」
 才人が吐き捨てた。聖人面してハルケギニアの人々をだまし、自滅に追い込もうとした稀代の詐欺師の本当の姿がこれだというわけだ。
 根源的破滅招来体の遣い、破滅魔人ゼブブ、精神寄生獣ビゾーム。異なる世界でも謀略を駆使して非道の限りを尽くしてきた、悪魔のような怪獣たちだ。
 ペテンをすべて暴かれ、ついに奴らは実力行使に打って出た。もはや策謀によるハルケギニアの滅亡は無理だが、少しでもハルケギニアの人間たちの力を削っておこうという魂胆か。根源的破滅招来体が他にどれだけいるのかは不明だが、ハルケギニアがダメージを負えば負うほど破滅招来体が次に狙ってくるときに易くなるのは間違いない。
 だが、そんなことをさせるわけにはいかない。この星の平和を、これ以上あいつらの好き勝手に乱させるわけにはいかないのだ。
 才人はブリミルとサーシャを振り向いて言った。
「ブリミルさん、サーシャさん、ありがとう。こっからは、おれたちがやります」
「ああ、僕も派手に魔法を使いすぎて少し疲れた。ここから応援してるよ、君たちの力、今度は僕らに見せてくれ」
「頑張りなさいよサイト。あんなニヤけた連中に負けたら承知しないんだからね」
 ブリミルとサーシャにも背中を押され、才人とルイズは無言で目を合わせた。

349ウルトラ5番目の使い魔 52話 (3/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:37:20 ID:q6J2gu7Y
 今なら人々の視線は二体の怪獣に向いている。この一瞬がチャンスだ、才人とルイズは互いの闘志を込めてその手のリングを重ね合わせた。
 
『ウルトラ・ターッチ!』
 
 光がふたりを包み込み、虹色の光芒の中でその姿が銀色の巨人へと変わる。
 時を越え、次元をも隔てられた魂が再びひとつに。ウルトラマンA、ここに降臨!
「テェーイ!」
 拳を握り、二大怪獣の前に構えをとって現れたエースの姿に、トリステインの人々から歓声があふれる。ウルトラマンが来てくれた。特に、遠方からながらも見守っていたギーシュたちや、この場所でもミシェルをはじめとする銃士隊の間で感動が大きい。ロマリア以来、姿を消していたエースがまた帰ってきた。
 だが、一番喜んでいたのは他ならぬ才人とルイズだったろう。長い間会えなかったエースが今ここにいる。
「サイト、ルイズ、よく戻ってきたな。君たちなら、どんな試練も必ず乗り越えて帰ってくると、俺は信じていたぞ」
「北斗さん、おれがだらしなかったばっかりに。けど、そのぶん過去で山ほど冒険してきたんだ、その成果を見せてやるぜ」
「冒険ならわたしだって負けてないわよ。まあ苦労した要因の半分は別のとこだけど……なにげに、初めて名前を呼び捨てにしてくれたわね。その期待を裏切らないためにも、あいつらに借りを返さなきゃね!」
 離れ離れになっていた間、自分たちの絆は切れていたわけではない。むしろ、会えないからこそ、遠いかなたを思い、歩き続けてきた。
 奴らは永遠のかなたへと追放したことで絆を断ち切れたと思ったかもしれないが、”永く遠い”のならば、それは乗り越えられる。それに絆は才人とルイズの間の一条だけではない。いまや、ふたりが持つ絆は数多く、それらを束ねれば永遠の長さなど何ほどのものがあろうか。
 ウルトラマンA、北斗星冶は才人とルイズの魂から、これまでにない生き生きとした力が流れ込んでくるのを感じた。
 これならば、以前と同じ結果になることはない。パワーアップした力を、今こそ見せてやろう。
 しかし、いかにエースが力を増したといっても相手は二体。しかもあのヴィットーリオとジュリオが元である以上、並々ならぬ敵であることは疑いようも無い。
 少なくとも苦戦は必至。しかも悪辣な奴らのことだ、片方がエースを相手取っている隙に片方が人質を取りに出る手段に訴えることも考えられる。なにぶんトリスタニアには人間が多すぎる。人間の盾作戦を取られるとやっかいだ。
 
 ただし、それはエースひとりだけならばの話だ。
 ここには、もう一人のウルトラマンがいる。そう、ルイズとともに旅を続けてきたネオフロンティア世界の勇者、彼もまたウルトラマンとして戦うべき時が来たことを悟っていた。
 ファイターEXのコクピットから地上を見下ろし、アスカはリーフラッシャーを掲げた。

350ウルトラ5番目の使い魔 52話 (4/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:38:27 ID:q6J2gu7Y
「ダイナーッ!」
 新たな輝きと共に、M78星雲出身のウルトラマンとはまた一味違うたくましいスタイルの巨人が現れる。
「デュワッ!」
 銀のボディにレッドとブルーのラインをまとい、胸には金色のダイナテクターを輝かせた光の戦士、ウルトラマンダイナここに参上。
 ウルトラマンがもうひとり! 光の柱の中からその雄姿を現したダイナに、人々がさらに沸きあがる。そして、エースの心の中で、ルイズは驚いている才人に向かって誇らしげに言った。
〔びっくりした? あいつはアスカ、またの名をウルトラマンダイナ。わたしは、あいつと旅をしてきたのよ〕
〔え? ダイナって、学院長やタルブ村の昔話で聞いた、あのウルトラマンかよ! けど、ダイナが現れたのは三十年も昔のことだって〕
〔わかんないわ。けどあんただって、始祖ブリミルを連れてきたじゃない? なんかのはずみで、よその世界で現代のわたしと三十年前のアスカが出会った。それでいいじゃない〕
〔ううん、さっぱりわかんねえけどそんなもんか。けど、伝説のウルトラマンといっしょに旅できたなんて、うらやましいな畜生〕
〔まぁ、そんなに自慢できるような奴じゃないけどね……〕
 うらやましがる才人に対して、ルイズはやや複雑だった。ウルトラマンになる人間にもいろんな種類がいるのは承知していたつもりだったが、旅の最中アスカには振り回されっぱなしだった。旅をしてたくましくなれたとは思うけど、それがアスカのおかげだと思うと癪に障る。
 それでも、ルイズはアスカを信頼していた。才人に輪をかけて無謀、無茶、無鉄砲ではあっても、絶対に引かずにあきらめない心の強さは、理屈を越えた力があるということを何度も見せてくれた。
 強大な悪の前に心が折れそうでも、それでも立ち向かうところから道は開ける。それはスタイルに関わらずに、すべての生き方に当てはまることだろう。
 だからこそ、ダイナが共に戦ってくれるということは何より心強い。ダイナはエースに向かって、俺もやるぜというふうに胸元で拳を握り締めた。
〔君は……〕
〔二対一なんてのはずっけえからな。俺も戦うぜ、よろしくな〕
〔不思議だ、君とは初めて会った気がしない〕
〔奇遇だな、俺もだぜ。へっ、後でパンでもごちそうしてくれよな!〕
〔ああ、食べすぎなんか気にしないくらいガンガン食わせてやるよ!〕
 エース、北斗の胸に不思議な感覚が湧き上がってきた。確かにTACに入る前に自分はパン屋にいた。しかし、なぜ彼は知っていたようにパンを食わせてくれなどと言えたんだ? いや、自分はパン屋をやっていて、何度も彼に食べさせたことがあるような気がする。夕子といっしょに、どこかの港町で?
 いや、それは後でいい。今するべきことは、この世界の災厄を払いのけることだ!

351ウルトラ5番目の使い魔 52話 (5/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:40:19 ID:q6J2gu7Y
「ヘヤアッ!」
「デアッ!」
 闘志を込めて構えるエースとダイナに向かって、ゼブブとビゾームが突っ込んでくる。
 巨体が走る一歩ごとに、響く轟音、舞い上がる敷石、立ち上る砂煙、そして、踏み潰される家々から吹き上がる炎。まるで巨大な山津波にも似たそれを、立ちふさがるウルトラマンという堤防が受け止める。
 激突! エースがゼブブと、ダイナがビゾームと相対し、壮絶な戦いが始まった。
 ゼブブの突き出してきた剣をひらりとかわし、エースのキックが炸裂する。
〔もうお前たちの負けだ。この世界から出て行け!〕
〔あなた方こそ、人間はいずれ美しいこの星も破壊しつくします。今のうちに殺菌しておかねば、どうしてそれがわからないのです〕
〔この星を守るのも滅ぼすのも、この星に生まれた者のするべきことだ。お前たちに好き勝手する権利なんてない!〕
 エースは破滅招来体の独善を許さないと、鋭いチョップやキックを繰り出して攻め立てる。たとえ善意であろうとも、よその家に勝手に上がりこんで掃除をすることを親切とは呼ばない。
 さらにダイナも、ビゾームと激しい格闘戦を繰り広げていた。
〔てめえらが、ハルケギニアをこんなにしやがったんだな。ゆるさねえ、青い空を返しやがれ!〕
 ダイナとビゾームは激しいパンチのラッシュに続いて、キック、チョップを含めた乱打で互いを攻め立てていった。そのパワーとスピードは両者ほぼ互角。どちらも一歩も譲らない。
 やるな! 両者共に、相手が見掛け倒しではないことを認識し、警戒していったん離れた。わずかな間合いを置いて、構えたままじりじりと睨み合う。
 うかつに動いて隙を見せたら一気に攻め立てられる。実力が拮抗する者同士での戦いは、少しのヘマが負けにつながる。逆に言えば、その一瞬をものにできれば優勢に戦える。
 続く睨み合い。だが、それも長くは続かないだろう。戦いを見守る多くの人々の目の中で、カリーヌはそう確信していた。
「フン、かっこうつけて頭を使うな。お前はそんな、気の長い奴じゃないだろう? アスカ」
 短く笑い、カリーヌは思い出とともに、疲れ果てた体に力が戻ってくるのを感じていた。
 そう、遠い昔のタルブ村のあの日もこんなだった。どうしようもないような絶望の中でも、前に進むことはできる。
 ダイナの姿に、半壊した魅惑の妖精亭の前でもレリアが目頭を熱くしている。スカロンやジェシカは、レリアからあれがおじいさんを救ってくれたウルトラマンなのと聞かされて驚き、ついでになぜかパニックに陥っている三人組がいるが、これはどうでもいい。
 そして戦いの流れは、カリーヌの予想したとおりになった。

352ウルトラ5番目の使い魔 52話 (6/19) ◆213pT8BiCc:2016/12/23(金) 09:42:55 ID:q6J2gu7Y
「デヤッ!」
 先に仕掛けたのはダイナだった。強く大地を蹴って走り出し、腕を大きく振りかぶって突進していく。
 むろんこれに黙っているビゾームではない。ダイナの攻めにカウンターで仕掛けようと、ダイナとは逆に下段から腰を落として待ちうけ、ついに両者が激突した。
「ダアッ!」
 上から振り下ろしてくるダイナのパンチに対して、ビゾームは下から打ち上げた。そしてダイナのパンチが当たる前に、ビゾームのパンチがダイナのボディに命中した。
 やった! と、そのときビゾームは思ったであろう。ビゾームのパンチはダイナにクリーンヒットした、これが効かないはずはない。しかしなんということか、ダイナはビゾームの攻撃を受けてもかまわずに、そのままビゾームの顔面を殴り飛ばしたのである。
「デヤアァァッ!」
 上段から勢いに乗ったパンチの威力はものすごく、ビゾームは吹っ飛ばされてもんどりうった。
 なぜだ? 当たったはずなのにとビゾームは困惑した。手ごたえはあったはずなのにと、戸惑いよろめきながら起き上がってきたその視界に映ったのは、腹を押さえながらも拳を握り締めるダイナだったのだ。
〔勝負はな、根性のあるほうが勝つんだよ。いってて〕
 なんとダイナは最初からカウンターを食らうのを承知の上で特攻をかけたのだった。最初からダメージと痛みを覚悟してたからこそ、カウンターを受けてもひるまずに攻撃を続行することができた。虎穴にいらずんば虎子を得ずとは言うが、なんという無茶か。しかし、食らうのを覚悟していたおかげで、同じクリーンヒットでもダイナよりビゾームのほうがダメージは大きい。
”今だ、敵はひるんでいる、追撃しろ”
 戦いを見守っているカリーヌが心の中で命ずる。聞こえずともそれに答え、ダイナはエネルギーを集めると、白く輝く光弾に変えて発射した。
『フラッシュサイクラー!』
 並の怪獣なら粉砕する威力のエネルギー球がビゾームに向かう。
 こいつが当たれば! だがビゾームは右手から赤く光るビーム状の剣を作り出し、フラッシュサイクラーを一太刀で切り払ってしまったのだ。
〔なめないでもらおうか。戦う手段なら、こちらもまだ全部見せてはいないよ〕
〔そうこなくっちゃな。本当の戦いは〕
〔これからだよ!〕
 剣を振りかざして襲い掛かってくるビゾームに対して、ダイナも再び突進していった。


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