したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

修正作品&試験投下スレ

39光の勇者の不幸(解決編):2007/11/04(日) 00:58:54 ID:M5hvvKqU

そうだったな。

俺には、迷う資格なんて無かったんだ。

アドレーを殺したときから。

なあ、クロード。

俺は、お前のようになりたかったんだ。

純粋で、真っ直ぐで、頑固な。

そんな瞳を持ったお前に。

だが、既に、俺は道を誤った。

俺は地獄に堕ちるだろう。

かまわない。

もう、止まる止まらねぇの次元じゃないんだ。

歩き続けよう。

最後まで。

クロード。

ありがとよ。

気付かせてくれて。


──もう、迷いはしない。

40光の勇者の不幸(解決編):2007/11/04(日) 00:59:41 ID:M5hvvKqU
【E-4/夕方】
【ボーマン・ジーン】[MP残量:80%]
[状態:迷いが解消された気分(良)]
[装備:エンプレシア@SO2]
[道具:調合セット一式+荷物一式*3+エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP+昂魔の鏡@VP]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:もう迷いは無い]
[思考2:自分が確実に殺せると判断した時のみ、行動に移る(ステルスマーダー?)]
[思考3:チサト達とはこの後別れるかどうか、検討中]
[思考4:調合に使える薬草があるかどうか探してみる]
[備考:調合用薬草の内容はマンドレイク、ローズヒップ、アルテミスリーフ、トリカブトがそれぞれ一枚づつ。
      マンドレイクとアルテミスリーフは1/3づつ位消費]
[現在位置:ホテル跡前]

【E−4/夕方】
【チサト・マディソン】[MP残量:70%]
[状態:全身に軽度の筋肉痛(大分回復]
[装備:パラライチェック@SO2・フェイトアーマー@RS]
[道具:七色の飴玉×3@VP・荷物一式]
[行動方針:主催者打倒、首輪をどうにかするために味方を集める]
[思考1:仲間を探す(レオン・プリシス優先)]
[思考2:ボーマンとこの後も行動を共にしたい]
[思考3:クロードが死んだことへの少なからぬショック]
[現在位置:ホテル跡前]

【E−4/夕方】
【ガルヴァドス】[MP残量:100%]
[状態:左ひざに打撲、上半身に無数の打撲、顔面に中程度の火傷(大分回復)]
[装備:なし]
[道具:パラスアテネ@SO2・ガソリン入りペットボトル×2・荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残る?強き者に従う]
[思考1:チサトの言う事に従う]
[思考2:???]
[現在位置:ホテル跡前]
※ ガソリンは合計で4リットルあります。

【E−4/夕方】
【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷(大分回復)、左手の掌に火傷(大分回復)、胸部に浅い切り傷、精神的疲労(軽度)、焦り]
[装備:なし]
[道具:スーパーボール@SO2]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先) ]
[思考1:ホテルでクレスの捜索]
[思考2: クレス・アーチェ・クラース・力のない者を探す]
[思考3:クレス・アーチェ・クラースと子供を除く炎系の技や支給品を持つ者は警戒する]
※ホテル跡にいるのがクレスだと思っています]
[現在位置:ホテル跡前]
[備考:チサト、ガルヴァドス、チェスターはクロードがマーダーで分校に火を放った人物だと思っています]

※クロードの装備・道具は全てボーマンが回収しました。

【クロード・C・ケニー@SO2 死亡】


【残り 35人】

41光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:11:59 ID:8.Og8BXA
上の修正したものを、投下します。

42光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:12:29 ID:8.Og8BXA
(まいったな……)
クロードはため息を吐きながら森の中を歩いていた。
(完璧にチサトさん達に誤解されたよなぁ。あの時はとりあえず撤退したけど、考えてみると状況が悪化してるかもしれない。
チサトさん達はこれから会う人会う人に『クロードはこのゲームにのった』って言うわけだよなぁ。
かといってあの時チサトさん達を追ってたら、最悪死人が出てたかもしれないし………どうしたら良かったんだろ?
……ハハッ泣きたくなって来た)
クロードはチサト達の攻防の後、南東にしばらく走った後、一旦足を休め、これからの事、自分のことを考えていた。
今来た道を戻ったり進んだりの繰り返しで、ある一定の場所からほとんど動かず、ウロウロする状態で、
先ほど起こったことから引き起こされる事象を検討していた。
(今僕にとって一番良い状況は、チサトさん達の誤解が解けることだ。それにはおそらく、第三者を介してが一番だろう。
できればかつての仲間達がいい。欲を言えば、頭が良くて、状況判断が適切で、パーティーでの発言力、信頼度がある人。
そう、ボーマンさんなんかがベスト…)
「クロードか?」
そんな事を考えていたクロードの少し離れた前方に、白衣を着た今クロードが思ったその人、
ボーマン・ジーンが現れた。

クロードの思考は一瞬停止した。

そしてすぐに思考が再起動した。
(え!?え、何で!?何で!?何でボーマンさんがここにいるの!?いや、そんなこと言ってる場合じゃない!
これはチャンスだ、クロード・C・ケニー!!この人に事情を説明して、チサトさん達の誤解を解いてもらえば!!
そうだ、正に最高のタイミングで最適の人選に巡り合えたんだ!珍しく僕は憑いてる!間違った、ついてる!)
「ボーマンさ…」
「それ以上近づくな」
だが、クロードがボーマンに話しかけようとしたのに対し、ボーマンからの返答は、拒絶だった
クロードは一瞬何を言われたが解からなかったが、すぐに気を取り直し、
「ど、どういうことですか?」と訊ねた。
「チサトからお前の事を聞いた」

クロードの目の前が真っ暗になった。

そしてすぐに気を取り戻した。
「ち、違うんです!誤解です!チサトさんは誤解してるんです!」
クロードは誤解を解こうとボーマンに迫った。
ボーマンは近づいてくるクロードに対し一定の距離を保ちながら、言葉を返した。
「だから近づくなと言ってるだろう。安心しろ、チサトから言われた事を全部鵜呑みにしたわけじゃない。
勘違いしてるということもあるからな。だから武器を捨ててあの時何が起こったか説明してみろ。
それ聞いてチサトの話と矛盾した事が無ければ、信用しよう。ただ、お前が嘘をついてると解かった場合、
悪いが殺らせてもらう。それでいいな?」
クロードは心の底から安堵したような顔をして、武器を下に起き、あのとき何があったのか、
事の顛末を話し出した。

43光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:13:16 ID:8.Og8BXA

「なるほどな」
なるほど、そう言うことだったか。確かに今のクロードの説明ならチサトの証言とも合うし、チサトが何故勘違いしたのかも頷ける。
しかし……俺はやはり今になって覚悟が決め切れてない。一番最初にクロードを見かけた時。
襲い掛からずに『声をかける』と言うところまでに留めたのも、あの時は『様子をみるため』と言い訳した。
単に怖かったからだ。
クロードが話すために武器を捨てたとき、見送ったのも、『まずは話を聞いてから』と言う見苦しい言い訳に頼ったためだ。
いや、今ここに来ている理由とて、考えてみれば、チサト達にクロードが一人らしいと言われたから、
よし、三人を相手するよりクロード一人のほうが殺しやすいぞ、と思いここに来た
(勿論チサトの話を確かめる半ば好奇心みたいなものもあったが)。
今から思えばなんて見苦しい言い訳だ。
そして今。一思いにやろうと思えばできるはずなのに、『様子を見る』という言い訳に頼っている。
…なんて、自分は醜いんだろう。
「…解かった。嘘はなさそうだ。信用しよう。これからチサト達のとこに行って、それを言えばいい。
俺も口添えするから十中八九大丈夫だろう。ところで……お前はこのゲームを……どうするか…考えがあるか?」
「ルシファーを倒します」
…ほう、迷わず言ってのけやがった。
「こんなふざけたゲームを行うルシファーを、僕は絶対に許せない。必ず倒して、元いた場所に帰ります!」
「…何か策はあるのか?」
「…ありません。ですが、この島にはまだ仲間がいます。頼りになれる仲間が。皆と一緒なら必ず、必ずルシファーを倒す事ができるはずです!」
…ああ。

思い出した。

この目だ。

俺がクロード達と旅をしようと決意した理由。

大切なニーネを置いてまで、旅をしようと思った理由。

この目だ。

この、クロードの、真っ直ぐな瞳。

これに惹かれた。

この、何者にも染まらず、また、何者にも染まる。

己の意思の堅固さと純粋さを絵に描いたような、この瞳。

これに俺は惹かれた。

と同時に今までの俺の行動がとんでもなく恥ずかしくなってきた。

そうだ、俺は、俺は今まで何を考えていたんだ?

俺が、旅に同行したのは、こんなクロードの様な瞳を持ちたかったからじゃないのか?

この瞳を、傍で見ていたからじゃなかったのか?

俺は、ようやく気づいた。

俺が進む道を


「……………クロード………怪我、してるみたいだな?秘仙丹食うか?」

44光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:15:06 ID:8.Og8BXA

「あ、いただきます」
クロードはボーマンが差し出した"ボーマン曰く秘仙丹"を受け取ろうとした。
その時、クロードの目の前に赤い球の様な物がポウッと浮き出た。

え?

クロードは戸惑った。それはそうだろう。長年の、それも命を共にした仲間が、
エネミーサーチにより"敵"と判断されたのだ。
(な、何で!?ボーマンさんは味方だ!ずっと一緒に旅をしてきた!今だって僕の話を
聞いてくれたし、これからの事を考えてくれた!な、何より、もし、もし万が一、
ボーマンさんがヤル気だったなら、ボーマンさんと会った瞬間エネミーサーチ
が発動しているはずだ!…解からない…解からない……でも、今は)
「どうした?クロード?」
ボーマンがクロードの様子が変なことに気づき、尋ねた。
「あ、何でもありません。大丈夫です。僕には活人剣がありますんで。
秘仙丹は、この先のためにとっておいてください」
クロードは、今の所"様子を見る"に徹した。
「そうか?解かった」
ボーマンはそう言い、秘仙丹をしまった。
(どうしたらいい?エネミーサーチの効力は…多分本当だ。でも……だからと言って、
ボーマンさんを、仲間を疑うなんて……いや、でも最初の時みたいに、この島は、
何が起こるか解からない。警戒だけは…して、損は無いだろう)
クロードは猜疑心と、仲間に疑いを持っている自分に対する自己嫌悪に、気分を悪くした。
そんなクロードの様子を目にし、ボーマンは言った。
「どうしたクロード?本当に大丈夫か?」
その言葉は更にクロードの自己嫌悪を増幅させた。
(う……すいません、ボーマンさん…。でも、でも今は……とりあえず武器を…)
そう思ってクロードは、ボーマンに話すために、地面に置いておいた剣を
そのままにしてあったことに気付いた。
そしてそれをとろうとした。しかし
(……あれ?)

45光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:19:52 ID:8.Og8BXA

剣が、無かった。

すぐ下に置いてあった筈の剣が、無かった。

だが、すぐに見つかった。剣は、クロードから十数メートル離れた草むらにキラリと光るのが見えた。
まるで、邪魔だとばかりに蹴飛ばされたかのように。

「どうした、クロード」

もはや疑問系ですらなく、それでもボーマンはクロードに"尋ねた"。
「……ボ、ボーマンさん?」
クロードは
「あ、あの、ボーマンさんは、このゲームに乗って、ません、よね?」
尋ねた。
「あははははは、オイオイ、クロード、まさか俺が乗ったと思ってんのか?
あ、はははははははは」
ボーマンは笑った。
笑った。
それに釣られてクロードも、笑った。
「あ、あはは、そ、そうですよね?ボーマンさんがそんな…あははははははははは」

「正解だ」

瞬時にクロードは後ろに飛んだ。
しかしボーマンも速かった。
後ろに飛んだクロードに、瞬時間合いを詰め、蹴りを放った。
その蹴りをクロードは手でガードした。
手を通しても伝わる痛みに耐えながらクロードは判断した。
剣が無い徒手格闘技で、しかも見た限り、ナックルを装備しているボーマンに勝つのは無理だ。
一旦退くしかない。
だが…できるだろうか?
そう考えている内にボーマンは再び間合いをつけて来た。
繰り出される拳をクロードは何とか受け流し、再び距離をはかる。
それを見たボーマンは、クロードを追いながら胸ポケットに手を入れる。

46光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:25:13 ID:8.Og8BXA

胸ポケットから破砕弾を取り出し、クロードに投げつける。
瞬時にクロードははるか上空へと脱出した。
"兜割り"である。
上空へ脱出した直後に、破砕弾の爆発音がクロードの耳に聞こえる。
(間一髪だった)
クロードはそう思いながら、上空で体勢を立て直し、ボーマンの位置を把握しようとした。
着地地点で待ち伏せでもされたら、待っているのは死だ。
だが、
(……いない!?)
ボーマンの姿は無かった。
破砕弾の爆発地も、その周辺にも、ボーマンの姿形は無かった。
その直後、空中にいながら背後に気配を感じる。
クロードが気配に気づいたと同時に、首を腕で絞められる。
腕は的確にクロードの頚動脈を締め付ける。
(……し、しまっ…)
クロードは自分の愚かさを呪った。
自分には"兜割り"がある。だが、ボーマンにも"首枷"があった。
読まれていた。
どこまで読まれていたのかは解からない。
もしかしたら最初からかもしれない。
(…何てこった……)
人間は頚動脈を絞められると約6、7秒でおちる。
そんなことを以前どこかで聞いた気がする。
薄れ行く意識の中、クロードはボーマンの顔を見ようとした。
だが、ガッチリ腕に絞められているため、首が回らなかった。
「…ボー……マ…さ……な…何……で…」
蚊が鳴くような声で、クロードはそれだけを言い、また、それだけしか言えず、
意識を失った。


 ゴキン


森で人の首を折ったような、鈍い音が響いた。

47光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:26:19 ID:8.Og8BXA

ボーマンは、かつてクロード"だった"モノを見下ろしていた。

クロード"だった"モノは、首の骨が本来はありえない方向に曲がったまま、ピクリとも動かなかった。

それを見下ろしているボーマンの瞳は、クロードの死体を見ているようで、見ていないようでもあり、
また、果てしなく澄んでいるかのような色なのに、果てしなく濁っているようでもあった。

「皮肉なモンだな」

ボーマンは自嘲めに呟いた。

人を助けたいから医学を学んだ。

人を守りたいから武術を学んだ。

その二つをもって、かつての戦友の命を奪った。

「…迷わず、成仏するんだな」

ボーマンは、ポツリと、呟いた。

 ◆ ◆ ◆

「ん?……おい、戻ってきたようだぞ」
「え?ホント!?」
チェスターが言った通り、ボーマンが森の中からホテル焼け跡前に戻ってきた。

「どうだった!?ボーマン!?」
チサトが聞いた。
「ああ……。お前らの言った通りだったよ。クロードは…俺を見るなり…攻撃してきた…」
「やっぱり!それで、クロードは?」
「ああ……俺は……俺は、自分の身を守る、ためとは言え……クロードを…この手で…殺して……殺してしまっ…」
ボーマンは悲痛な声を出した。本当に、喉が擦り切れそうな声で、呻き、泣いているようだった。
チサトはそれを聞き、クロードが死んだとの悲しみ以上に、ここで自分が励まさなければ、
ボーマンは壊れてしまうのではないかと感じた。
「…そんなのアンタが気にすることじゃあない」
チェスターも、それを察知したのか、ボーマンを励ます言葉を言った。
「……そうよ、ボーマン。クロードのことは……確かに、確かに残念だったけど、クロードも、きっと、
覚悟してやっていたことでしょう?私達が背負って、ルシファーを倒して、生きていかなくてはいけないわ」
チサトもボーマンを擁護した。
「………そうだな」

48光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:27:00 ID:8.Og8BXA

そうだったな。

俺には、迷う資格なんて無かったんだ。

アドレーを殺したときから。

なあ、クロード。

俺は、お前のようになりたかったんだ。

純粋で、真っ直ぐで、頑固な

そんな瞳を持ったお前に

だが、既に、俺は道を誤った

俺は地獄に堕ちるだろう

かまわない

もう、止まる止まらねぇの次元じゃないんだ

歩き続けよう

最後まで

クロード

ありがとよ

気付かせてくれて


──もう、迷いはしない。

49光の勇者の不幸(解決編):2007/11/25(日) 14:36:53 ID:8.Og8BXA
【E-4/夕方】
【ボーマン・ジーン】[MP残量:80%]
[状態:迷いが解消された気分(良)]
[装備:エンプレシア@SO2]
[道具:調合セット一式+荷物一式*3+エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP+昂魔の鏡@VP]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:もう迷いは無い]
[思考2:自分が確実に殺せると判断した時のみ、行動に移る(ステルスマーダー?)]
[思考3:チサト達とはこの後別れるかどうか、検討中]
[思考4:調合に使える薬草があるかどうか探してみる]
[備考:調合用薬草の内容はマンドレイク、ローズヒップ、アルテミスリーフ、トリカブトがそれぞれ一枚づつ。
      マンドレイクとアルテミスリーフは1/3づつ位消費]
[現在位置:ホテル跡前]

【E−4/夕方】
【チサト・マディソン】[MP残量:70%]
[状態:全身に軽度の筋肉痛(大分回復)、仲間の死による精神的疲労]
[装備:パラライチェック@SO2・フェイトアーマー@RS]
[道具:七色の飴玉×3@VP・荷物一式]
[行動方針:主催者打倒、首輪をどうにかするために味方を集める]
[思考1:仲間を探す(レオン・プリシス優先)]
[思考2:ボーマンとこの後も行動を共にしたい]
[思考3:クロードが死んだことへの少なからぬショック]
[現在位置:ホテル跡前]

【E−4/夕方】
【ガルヴァドス】[MP残量:100%]
[状態:左ひざに打撲、上半身に無数の打撲、顔面に中程度の火傷(大分回復)]
[装備:なし]
[道具:パラスアテネ@SO2・ガソリン入りペットボトル×2・荷物一式]
[行動方針:最後まで生き残る?強き者に従う]
[思考1:チサトの言う事に従う]
[思考2:???]
[現在位置:ホテル跡前]
※ ガソリンは合計で4リットルあります。

【E−4/夕方】
【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷(大分回復)、左手の掌に火傷(大分回復)、胸部に浅い切り傷、精神的疲労(軽度)、焦り]
[装備:なし]
[道具:スーパーボール@SO2]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先) ]
[思考1:ホテルでクレスの捜索]
[思考2: クレス・アーチェ・クラース・力のない者を探す]
[思考3:クレス・アーチェ・クラースと子供を除く炎系の技や支給品を持つ者は警戒する]
※ホテル跡にいるのがクレスだと思っています]
[現在位置:ホテル跡前]
[備考:チサト、ガルヴァドス、チェスターはクロードがマーダーで分校に火を放った人物だと思っています]

※クロードの装備・道具は全てボーマンが回収しました。
※2クロードの死体はE−4、E−5、F−4、F−5の丁度中間にあります。

【クロード・C・ケニー@SO2 死亡】


【残り 35人】

50光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:40:42 ID:GnuqT5uU
「ハア…ハア…」
ジャック達から逃げ出したアーチェは、一人森の中を彷徨っていた。
もうどこに向かって進んでいるのかも、どこにいるのかも分からない。
彼女の頭にあるのは仲間に会いたいという一心のみ。
それだけが、今のアーチェを動かしていた。


今どこにいるんだろう?
既に彼女は走っておらず、その歩みは疲労のためか遅い。
さっきまで全力疾走を続けていた為に、彼女の疲労は既に限界の所まで来ていた。
それでも仲間を探し、アーチェは進む。


やがて前方に道が見えてきた。
どこへ通じているか分からないが、ここを進めばどこかの村へ出れるかもしれない。
村に行けばきっと誰かがいるはず。
クレスか、クラースか、チェスターか、すずか、ミン…
ミントの名が浮かんだところでアーチェは気付く。
もうミントはいないという事を。
彼女は死んだ。もう二度と会えない。
放送で知らされた死亡者13人の中に、彼女が含まれていた。
きっと次の放送では、目の前で死んだ夢瑠とネルの名前も呼ばれる。
夢瑠は自分が呼び寄せてしまった男によって殺された。
ネルはその男と戦って致命傷を負い、自分がとどめを刺して…。
ふとその時の光景が思い浮かぶ。
石化しながら、自分を睨み付けてきたネル。冷たい目でこちらを見つめるジャック。
二人の顔が、アーチェの精神を蝕んでいく。
(ごめんなさい…ごめんなさい…)
殺すつもりは無かった。あの薬は確かにエリクシールだと思ったのに。
だがいくら言い訳しても謝っても、ネルを死に追いやったのは事実。
きっとネルは自分を恨み憎んでいる。最後に見せたあの表情こそその証。
罪の意識に思考を奪われているその時、突然アーチェを現実に呼び戻す事が起こった。


『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』

51光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:41:14 ID:GnuqT5uU
え、何?何!?
この声、首輪から?
爆発?首輪が?あたしの?
爆発したら?死ぬの?あたしが?

「いやあああっ!」

突然首輪から伝えられた警告に、アーチェは我を失って混乱する。
とにかく逃げなければと反射的に走り出す。
嫌だ、嫌だ。死にたくない。死にたくない!
『首輪爆破まで後20秒』
首輪からは相変わらず警告が流れる。
アーチェはさらに混乱し、錯乱したかのように走り続けた。
どこでもいい。首輪が爆発しない場所まで、疲労も忘れてひた走る。


ひたすら走った後、アーチェはようやく首輪からの警告が終わっていたと気付く。
いや、実際はもっと前に禁止エリアからは出ていた。
そもそも爆発まで30秒しかないのに、それ以上経過しても爆発しない時点で安全な場所まで移動できていた事になるのだ。
「はは…何やってんのよ…」
そんな事も考えずに走りまくった自分に対して、馬鹿らしくなったアーチェは自虐的に呟く。
同時に再び疲労が身体を襲い、彼女はその場に倒れ込んで意識を失った。



ガサガサ…

(…何の音?)

ガサガサ…

(そういえばあたし、どうしたんだっけ?)

ガサガサ…

(首輪から声が聞こえて…走って逃げて…それから…!)

52光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:42:03 ID:GnuqT5uU
はっとアーチェの意識が覚醒する。疲労で眠り込んでしまったようだ。
辺りは既に暗くなり始めている。
(そっか…あたし…寝ちゃったんだ…)
何て無防備極まりないんだと思いながらも目を覚まそうと頭を振る。
幸か不幸か、眠ったことで多少体力は回復したようだった。
(そういえば…何か音が聞こえたような…)
そんな事を考えた時だった。

ガサガサ…

近くの茂みが動く。
そうだ。この音で自分は起きたんだ。
などと呑気な事を考えている暇は無い。
誰かが近くいるんだ。
「だ、誰よ!」
声を荒げて、音のする方へ叫ぶ。
やがて茂みの中から、その人物が姿を現した。

「君は…」

アーチェははっとする。
金髪で、何となく頼りなさげな外見。
だがどこか意志の強さのような物を感じさせるその雰囲気。
それは、彼女の知るある人物に酷似していた。
会えた。ようやく会えたんだ。心を許しあえる仲間に。


「クレス…!」
「え?」

クレスと呼ばれた青年は目を丸くする。
何を驚いているのかアーチェには分からなかったが、すぐその理由に気付いた。

53光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:43:02 ID:GnuqT5uU
「違う…」

よく見ると違う。
確かに少し似ているが、格好も、声も全然違う。
クレスじゃ、無い。

だったら誰?
この人は誰?

ふと彼の全身を見る。
その手には剣を持ち、身体のあちこちに血が付いていた。
血。
真っ赤な血。

その血が記憶を蘇えらせる。
歓喜の笑みを浮かべながら血の海を作りだした、あの男の。

全身に血を付けたこの男は何?
剣を持って、こっちに近づいてきて。
何をする気?

決まってるじゃないか。


「嫌…」

怯えながらアーチェは後ずさる。
青年は疑問に思ったのか、もう一歩アーチェに近づいた。
「ねえ、君…」

「来ないでっ!」
青年を拒絶するように叫ぶ。
叫ばれた青年は一瞬表情が曇ったかと思うと――

一歩アーチェから離れ、持っていた剣を構えた。


「ひっ……」
剣を向けられたアーチェは震えながら青年を見る。
その眼は双龍の男と同じ、酷く歪んで見えた。

54光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:43:51 ID:GnuqT5uU
「な、何なんだよ…」
悲鳴を上げて走り去った少女ポカンと見つめ、クロードは愚痴る。


ホテル跡からある程度離れたながら、クロードはどうするべきかを考えていた。
時間を確認すると既に正午過ぎ。ルシファーが言っていた定時放送は終わっている。
誰か知り合いが死んでしまったかもしれないという不安がよぎるが、それより自分自身が一番危ない。
放送で発表される禁止エリアを聞き逃してしまった。
加えて、自分自身の状態も決して良好とは言えない。
何よりホテルにいた三人にからは殺人鬼と誤認されている。
彼らに自分を殺人鬼だと広められたら非常に厄介だ。

まずすべき事は二つ。
放送で発表された死亡者、禁止エリアを把握する事。
そしてチサト達の誤解を解くことだ。
(どっちも、他の参加者に会わないと実行できないな)
とにかく誰か、他の参加者に会わなければならない。
だがこの島に来た直後は、何も考えずに参加者と接触してしまったせいで酷い目に遭っている。
先程もあの化け物を攻撃したせで殺人鬼と間違われてしまった。
今度参加者を見つけた時は冷静にいこうと固く心に誓う。

ホテルのように目立つ施設に行けば高確率で誰かに会えるだろう。
そう考えたクロードは、現時点でホテル以外に一番近い建物である分校跡とやらへ行って参加者を捜し、
誰もいなければ平瀬村へと向かうことにした。
誰か殺し合いに乗っていない人物を見つけたら、一緒にホテルへ行って誤解を解いて貰おう。


分校を目指すうちに日が暮れてきた。
早く誰かに会わないと禁止エリアに進入してしまうかもしれない。
それにチサト達がいつまでもホテルにいるとは限らないのだ。

そしてようやく、彼は参加者を発見することが出来た。
森を移動中に、座り込んだピンク色の髪をした少女が目に入ったのだ。
とりあえず茂みに身を隠して様子を伺おうとしたが。

「だ、誰よ!」

どうやら気付かれてしまったらしい。
(気付かれた以上、様子を探るのは難しいな…)
また変に警戒されて殺人鬼と勘違いされてはたまらない。
こっちに声をかけてきたという事は、とりあえず襲う気は無いのだろう。
そう判断し、クロードは少女の前に姿を現すことにした。

「クレス…!」
「え?」
姿を現したと同時に、少女が声をかけてきた。
少し驚くが冷静に考える。自分の名前はクロードだ。クレスでは無い。そんな名前の参加者がいたような気もするが…。
辺りは暗くなってきているし、多分誰かと勘違いしているのだろう。
間違いを訂正して、早く情報交換をしよう。

だが、その少女は人違いに気付いたのか、こちらを見ながらガクガク震えて始めた。
クロードの頬に冷や汗が流れる。
待て待て。
また嫌な予感がしてきた。
OK、落ち着こう。うん、落ち着け僕。
僕は何もしてないぞ。
脅かすような事もしていないし、別に見た目で怖がられるような姿格好もしていない筈だ。
大丈夫大丈夫。何も問題は無い…多分。

55光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:44:25 ID:GnuqT5uU
「ねえ、君…」
「来ないでっ!」

相手をなだめようとすると、今度は拒絶されてしまう。
その時だった。
クロードの視界に、突然赤い光を放つ球体が現れたのは。

(これは…確かエネミー・サーチの警告!?)

説明書によれば、「エネミーサーチは、自分に敵意を持っている人物に反応する」と書かれていた。
周囲には自分と少女以外誰もいない。そしてエネミーサーチが反応しているという事は…。
何てこった。彼女はこちらを殺そうとしているというのか。
(仕方が無い…!)
一歩下がって、クロードはエターナルスフィアを構えた。この怪我でどこまで戦えるか分からないが、ここで死ぬわけにはいかない。
少女は丁度レナと同じ位の歳だろうか。そんな少女と戦うのは心苦しい。
何とか殺さずに済ませたいけど…。

だが、クロードが剣を構えると。
「キャアアアッー!」
少女は突然悲鳴を発して、クロードから逃げていったのだ。


呆気に取られたクロードだったが、気を取り直してすぐに少女を追った。
もうエネミーサーチの反応は出ていない。反応したのは、あの時だけだった。
エネミーサーチの説明を思い出す。

「自分に『敵意』を持っている人物に反応する」

(つまり…反応したからって必ずしも『殺そうとしている』と思っている訳じゃないという事か…?)
もし彼女が、自分を殺人鬼だと思わなくても『敵』と思っていたとしたら…それを『敵意』と解釈されてもおかしくは無い。
(また僕の判断が甘かって言うのかよ!)
しかも剣を構えてしまった。向こうからしてみれば、どう考えたって殺されると思ってしまうだろう。
冗談じゃない。
これ以上殺人鬼に間違えられるのはごめんだ。
どうしようか。
彼女を追いかけて弁解するか、それとも予定通り分校へ行くか?


それにしても、本当についていないと思う。
やることが何から何まで全て裏目に出てしまっている。
自分は殺し合いなんてするつもりは無いのに、何故こうも状況が悪い方向ばかりに向かってしまうんだ。

「全く…ホントこういうのはアシュトンの役目だよな…」
愚痴っても始まらない。
少女を追うべきか追わないべきか、クロードは決断を下した。

56光の勇者の不幸(連鎖編):2007/11/28(水) 12:45:29 ID:GnuqT5uU
【G−4/夕方(まもなく放送)】
【クロード・C・ケニー】[MP残量:70%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、武器を振り回すには難あり)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(チェスターによって殴られ傷が再発)]
[装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP]
[道具:荷物一式、昂魔の鏡@VP]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:ピンク髪の少女(アーチェ)を追って誤解を解くか、すぐに平瀬村分校跡へ向かうか決める]
[思考2:分校跡へ行き、参加者と接触できなければ平瀬村へ向かう]
[思考3:自分の潔白を証明してくれる人か仲間を探す(懐柔できればアーチェでもいい)]
[思考4:思考2で見つけた人と共にホテル跡に戻り、チサト達の誤解を解きたい]
[思考5:第一回放送の内容の把握]
[現在位置:G−4、F−4の境界付近]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:目覚めたのが放送後なので放送内容は把握していません]


【アーチェ・クライン】[MP残量:95%]
[状態:絶望感 罪悪感 重度の疑心暗鬼]
[装備:無し]
[道具:ボーリング球・拡声器]
[行動方針:仲間を探す]
[思考1:クロードから逃げる]
[思考2:チェスターに会いたい]
[思考3:みんなに会いたい]
[現在位置:G−4、F−4の境界付近]

※クロードは怪我の痛み、アーチェは疲労の為二人の走る速度はかなり遅めです。

57 ◆yHjSlOJmms:2007/12/06(木) 01:23:52 ID:NF.Ff0ws
暮れ行く世界。空と大地を染め上げる朱の色は、まるでこの地の惨劇によって流れた血の様な赤だった。

黄昏時の静寂を破る男の声と共に、茜色の空は一瞬にして暗転した。
まるでその者が抱く復讐心を象徴したかの様な漆黒の中に、ルシファーの姿が浮かび上がる。

「フフン…、こんばんは諸君…。この会が始まってようやく半日が経過したわけだが、いかがお過ごしかね?
今回の定時放送には、ちょっとした耳寄りな情報も含めてある。是非耳を傾けて欲しい…。
それではまずは死亡者の名前から発表しよう。
『ヴォックス』
『ノートン』
『メルティーナ』
『ロジャー・S・ハクスリー』
『ビウィグ』
『エイミ』
『シン』
『夢留』
『ネル・ゼルファー』
『アリーシャ』
『ジェストーナ』
『セリーヌ・ジュレス』
『オペラ・ベクトラ』
以上の13名だ。相変わらずのハイペースで嬉しく思うぞ。

続いて禁止エリアの発表だ。
今回も時間の進行に応じて増やしていくので用心するのだな。
19時にH-07、21時にI-07、23時にD-04の三箇所だ。
アレだけ警告しておいたというのに既に何人か足を踏み入れているようだが…全く、愚かな事だ。
さて次の放送は0時。今から6時間後に行おうと思う。それまで精々殺し合ってくれ。
何度も言うがここから出られるのは最後まで生き延びた一人だけなのだからな!



そうそうすっかり忘れていたが、その生き延びた一人には素敵なご褒美を用意してある。
内容はまだ秘密にしておこうか…。だが安心しろ、誰もがきっと気に入ってくれる。
残った36人で張り切って殺し合ってくれたまえ…。フフッ、フハハハハハッ!」
ルシファーの下卑た笑い声が響き渡る中、声の主の姿が次第に消えていく。
真っ暗だった空もいつの間にか元の夕焼け空に戻っていた。
静寂を取り戻した沖木島で狂気の宴はまだまだ続く。
主催者・ルシファーの思惑通りに。
【第2回放送終了】
【19時H-07、21時I-07、23時D-04が禁止エリアになります】

58 ◆yHjSlOJmms:2008/01/14(月) 06:07:34 ID:xSUPrhKQ
一応書いてみたのですが展開にちょっと無理がある気がするので審議して欲しいと思います。

59タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:09:17 ID:xSUPrhKQ
ガルヴァドスの腹の虫が盛大に鳴いたので、少し早いが夕食にする事になったチサトとガルヴァドス。
支給品の食料で済ませようかとも考えたのだが、現在位置は跡と言っても元ホテルだ。
それなりのキッチンを備えているだろうと踏んだチサトは料理の腕を振るう事にした。
キッチンに着いたのはいいが、肝心の食材を蓄えているであろう冷蔵庫が見当たらなかった。
しばし捜し歩いた後、食材備蓄庫なる場所を見つけたチサト達。
食材一種類の量は大した事ない上、賞味期限が怪しい物も目立ったが、種類だけはたくさんある。
「何かリクエストとかある?」
なにを作ろうか迷ったチサトはガルヴァドスに尋ねた。
「何デモ、構わナイ。オ前が食べたい物デイイ」
「そうねぇ、じゃあ、ニンジンが少ないけどカレーにしましょう。キッチンはあっちだから材料運ぶの手伝って」
「心得タ」
ガルヴァドスを引き連れ食料庫を出たチサトの耳にこの場にはいない、だが聞き覚えのある声がはいってきた。
「フフン…、こんばんは諸君…。この会が始まってようやく半日が経過したわけだが、いかがお過ごしかね?―――
どうやらもう2回目の放送みたいだ。
ホテル跡に着いてからはいろいろな出来事があったので、時間の経過に気付かなかった。
何やら耳寄りな情報があると言っているが、そんな事に興味はない。
それよりもかつての仲間達や、さっき別れたチェスターの安否の方が気になった。
「それではまずは死亡者の名前から発表しよう」
そんな彼女の心情を察したわけではないだろうが、最初に死亡者の名前が挙げられるようだ。
(みんな…無事でいてよ!)
仲間達の無事を祈りながらルシファーの声に耳を傾ける。
『ヴォックス』
『ノートン』
『メルティーナ』
『ロジャー・S・ハクスリー』
『ビウィグ』
一人、また一人と読み上げられる犠牲者達。
10人目の名前が呼ばれる。
『アリーシャ』
まだ仲間の名前は呼ばれてはいない。
『ジェストーナ』
11人目。
まだ呼ばれるの?だがこの名前も知らない人物だ。
(このまま誰も呼ばれないで…)
しかし、そんな彼女の願いは叶わなかった。
『セリーヌ・ジュレス』
『オペラ・ベクトラ』
12人目の犠牲者と、13人目の犠牲者に彼女の仲間の名があった。
呆然とした彼女は、抱えていた食材を落としてしまう。
セリーヌとオペラは同じ性別で、かつ年齢が近い事もあり、特に仲が良かった。
そんな二人がネーデ人の同胞ノエルに続き、この地で何者かの凶刃によって倒れたのだ。
チサトはしばらくそのまま立ち尽くしたまま、仲間達のことを考えていた。

60タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:11:30 ID:xSUPrhKQ
いつの間にか放送は終わっていた。
「ドウシタ?」
背後に立っているガルヴァドスが尋ねてきた。
「えっ? ええっと、仲間が呼ばれたからちょっとビックリしちゃって…」
慌てて落とした食材を拾い集める。
「大丈夫カ?」
「えっ?」
意外なガルヴァドスの一言に目を丸くし、振り向くチサト。
「我ラ、ブラッドオークモ同胞の死ヲ嘆くトイウ事はスル。ダカラ、オマエノ今の感情ハ理解デキル」
「フフッ、見た目は怖いけど意外と優しいじゃない?」
チサトの言葉を聞いたガルヴァドスは赤い色の顔をよりいっそう赤くした。
「でも、ほんとに大丈夫よ! それに腹が減ってはってねっ! 晩御飯食べながらこれからの方針を改めて決めましょう!」
本当はまだ、二人の死がチサトの胸を痛めていたが、ガルヴァドスを心配させないようにと明るく振舞った。

キッチンは意外と狭く、かつ少し一人でいたかったからガルヴァドスにはこのホテルのロビーで待つように言った。
やはりと言うべきか、このキッチンには包丁やナイフといった刃物類は存在しなかった。
なんとか棚を漁ってピーラーを見つける。
野菜の皮はこれで剥き、形はしょうがないので砕いたり割いたりして整えた。
淡々と調理を進めながらも、やはり彼女の心を支配していたのは仲間の死という事実。
(くっ、今度は2人…。さっきのクロードはなんとか退ける事ができたけど、まだ私はこの殺し合いを止める為何も出来ていない!
もしかしたらさっき呼ばれた人の中に、逃がしたクロードが手にかけた人物が含まれているかもしれない…。
今度こそ誰であろうと殺し合いに乗っている人間を止めてみせる! それが殺された人達へ、今私が出来る事!)
彼女は改めて決意を固めた。
後はカレーを煮詰めるのと、米が炊けるのを待つだけだ。
(少し気分を変えてこようかしら…。ここで火が使えるって事はお湯も出るわよね?)
外で動き回ったせいか、体に汗とホコリが纏わりついている。
彼女は客室のシャワールームを利用しようと、キッチンを後にした。

浴室に入り身に付けているものを脱ぎさる。
鎧は料理の邪魔になるだろうし、パラライチェックも今すぐ必要になる事は無いだろうと思い、二つともデイパックにしまった。
シャワーを浴びてホコリや汗を洗い流すべく頭と体を洗う。
シャンプーやらボディーソープは備え付けてあったものを使った。
神宮流体術免許皆伝の豪傑である彼女でも女性だ。
そのボディーラインは女性特有の曲線で彩られていた。
ショートカットの髪の下から覗くうなじ。
細くともすらりと引き締まった腕と太腿が彼女の健康美を更に強調していた。
同時に鍛え抜かれた彼女の脚線はえもいわれぬような緊張感をかもしており、まさしくネコ科の野生動物かのごとき美しさを誇っている。
そんな彼女の体の曲線を、泡が撫でるように伝い落ちる。
体の汚れやホコリは洗い流せたものの、彼女の悲しみは洗い流される事はなかった。
むしろ、浴室という閉塞的な空間にいる事で、先程抱いた陰鬱な感情が呼び起こされる。
立ち昇る湯気の中、壁に手をつき項垂れる。
彼女の頬を伝い落ちる液体はシャワーのお湯か、はたまた彼女の涙か…。
一頻りそうしていた後に浴室を出る。
脱衣所の鏡が自分の裸身を映した。鏡に映った自分の顔は、普段の活力に満ちた自分とは遠くかけ離れていた。
(なんて顔をしているのかしら? こんなの、らしくないじゃないか。
そう、今は仲間の死に捕らわれ立ち止まっている場合じゃない! 前へ、前へ進む事が私のすべき事!)
頬を両の手で思いっきりはたき、自らに喝を入れた。
着替えを済まし脱衣所を出る。
(もう、完成している頃かしら?)
調理を再開すべく、再びキッチンの方向へ歩き始めた。

61タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:12:50 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「また13人…か」
チェスターを見送り、しばらく西に進んでいた最中、ボーマンは2回目の放送を聞いた。
予想以上に多い。自分は昼から夕方にかけては誰も手にかけていない。
それなのに13人の死亡者がでたという事は、返り討ちにあったゲームに乗った人物もいるだろうが、自分も含めて6,7人ぐらいは殺し合いに乗っているのではないだろうか?
(現在の生存者は36名。内殺し合いに乗った人数を7人と仮定すると大体5人に1人か…。このまま外で夜を迎えるのはいささか危険かも知れんな)
彼は現在位置から目と鼻の先にあるホテル跡を目指し歩き始めた。
狩る側にとってはそういった場所に集まるだろうと目星を付けやすいだろうが、それでも外で全周囲を警戒しながら一夜を過ごすよりは遥かにましだろう。
それにホテルの部屋ならば、出入り口に破砕弾によるトラップを仕掛けておけば、寝込みを襲われる心配も少ない。
(そういえば、さっきチェスターに渡した破砕弾でストックが切れていたな)
ボーマンは新たに3個の破砕弾と2個の毒気弾、1個の秘仙丹を生成する。
ついでに戦闘時の調合は不可能だと思いつき、戦闘時に補助的な役割を果たしそうなものを作って懐にしまっておいた。
そうこうしているうちにホテル跡が見えてきた。
そして、なぜかそのホテルの一室からはカレーの臭いが漂ってきている。
窓からその部屋の様子を伺うと部屋の中は無人だ。
火がついたガス台の上にはカレールーで満たされた鍋と、その横で米を炊いている鍋があるだけだった。
改めて誰もいない事を確認し、ボーマンは窓から部屋に侵入した。
(誰かがここで料理をしているんだろうな…。どうやら先客がいたらしい。どうする? 殺し合いに乗った人間だと厄介だな…)
だが、彼はその可能性が薄いことに気付く。
(いや、この米とルーの量は明らかに1人で食べる量じゃない。
という事は複数人いるわけか、その場合はアドレーやマリアのように主催者打倒を目指している連中の可能性が高いな…。
このゲームの勝者は1人だけというルールがある以上、殺しに乗った人物は基本的に一人で行動するはずだからな)
鍋の中を覗き込む。
(このカレー、やけにニンジンが少ないな、それに野菜の形が歪だ)
理由はすぐにわかった。まな板には腐ったニンジンとピーラー、それと細かく砕かれた野菜の破片。
包丁などがここにはなかったのだろう、仕方なくこの料理人は叩くなり潰すなりして大きさを調整したと思われる。
そこで彼の中の悪魔がボーマンに囁いた。
(今自分の持っている物にニンジンに酷似しているイイ物があるじゃないか)
「マンドレイク…」
彼は呟くと同時に、デイパックの中からそれを取り出した。
クレスの治療の際1/3使ってしまっているが、コイツ単体ならばかじっただけで人を死に至らしめる事が可能だ。
自分の手を直接汚さずに人を殺せる。
尚も人を直接殺す事に抵抗があった彼には、それがとても魅力的な行為に思えた。
自然と手は動き、マンドレイクの皮をピーラーで剥き始めていた。

62タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:14:14 ID:xSUPrhKQ
マンドレイクの皮を全て剥き終えたその時。
「誰っ!? 両手を上げてこちらにゆっくり振り向き…って、あなた、ボーマンじゃない!」
キッチンに戻ったチサトと鉢合わせてしまった。
ボーマンは焦った。よりにもよって、ここで料理をしていたのが、かつての仲間だったなんて。
「何してたの?」
こちらに歩み寄りながら質問してくるチサト。
「ん? ああ」
あやふやな返事をするボーマン。
(さて、どうしたものか?)
「あれ? これニンジン? 丁度少なくて困ってたの。食料庫にはもう無くってさ」
まな板の上のマンドレイクを覗き込んで、チサトは見事にニンジンと勘違いをしたようだ。
根元に特徴的な二股がある植物だが、その部位はクレス治療の際に使っている。
こうなってしまえば、素人目にはニンジンにしか映らないだろう。
「あ? ああ。丁度ここを通りかかったらカレーの匂いがしてな。失礼して覗いてみたらニンジンが異様に少ないのに気付いてな、丁度支給品に紛れていたから使おうかと思ったんだが…皮を剥き終えた後包丁が無くて、どうしたものかと考えていたんだ」
我ながら苦しい言い訳だな、と思ったがチサトは、
「そう。助かったわ。サイズは見てくれがアレになるけど…」
と言いマンドレイクをへし折る。それでも尚大きな部分は、引き裂いてドバドバッとマンドレイク片を鍋に入れた。
「まぁ、なにより無事でよかったわ。ロビーに同行者を待たしているの。話したいこともあるし、一緒に食べましょう。そっちの鍋運んでくれる?」
少し煮詰めた後に、鍋を抱えてチサトはボーマンを促した。
(まずい事になった…。だがここで断っても怪しまれる。一先ずは同意するしかないな)
「わかった」
動揺を表情に出さないよう、気を遣いながら彼はチサトの後についていった。

63タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:15:14 ID:xSUPrhKQ
ロビーまで連れてこられたボーマンは再び驚く事となる。
今まで見たことのない化け物が、ソファーに腰を掛けていたからだ。
(なんだ? あれは?)
思わず怪訝顔をしてしまっていたのだろう。
そんな彼の顔を見てチサトはガルヴァドスの事をボーマンに紹介した。
「見た目はかなり凶悪な魔物って感じだけどいい奴よ。ガルヴァドスっていうの」
ガルヴァドスと呼ばれた化け物がこちらを見て何やら考え込むような表情をした。
「ガルヴァドス、心配しなくていいわ。彼は私の仲間のボーマンよ。信頼できる人間だわ」
化け物に笑顔で自分の事を説明するチサト。
(おいおい…、こんな簡単に信頼していいのかよ。俺は…既に1人殺している。コイツの信頼を受ける資格なんざ無い)
だが、その信頼が心地よかった。
かつての仲間というだけで、無条件で自分を受け入れてくれたチサトが眩しく見える。
チサト自信ももう少し警戒すべきなのかも知れないが、仲間の死や裏切り(これは彼女の勘違いだが)という出来事が立て続けに起こった中での仲間との再会。
自然と彼女はボーマンを疑うという事はしなかった。
これ以上、仲間達との繋がりが絶たれるのが嫌だったのかもしれない。
「さあ、ご飯にしましょう!」
チサトがそれぞれの皿にカレーライスを盛り始める。
(どうする? このままでいいのか?)
数瞬の迷いの後、
「待て!」
予想以上に声が大きくなってしまった事に驚きながらも続けた。
「飯の前にちょっと…」
「あぁ、いいわよ。いってらっしゃい」
「?」
いきなり訳のわからないことを口走るチサトに困惑する。
「ご飯の前に中座なんて、行き先は一つしかないでしょ?」
(こいつ…、俺が便所に行きたがってると思っているのか?)
一先ずその勘違いに乗ることにする。
「ああ、行って来る」
「戻ってくるまで待っているから早くしてよね?」
ボーマンは彼女の呼びかけに手をひらひらと振り、無言で答えロビーを離れた。

64タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:16:19 ID:xSUPrhKQ
改めて考えをまとめようと洗面台に手をつく。
(このまま、悩み続けていてはならない…。ここでチサトを殺したら俺は二度と戻れない。
今決断するんだ! 俺がこれから取るべき行動を! そして、その決意を二度と曲げるな!)
かつての仲間達の姿。殺されてしまった3人を含めて11人との思い出を蘇らせる。
楽しい事ばかりではなかった、辛く、何度となく死にかけもした。
そんな状況を共に生き抜いた仲間達。
(やはり、あいつらはかけがえのない俺の仲間だ。殺したくなんて、死んで欲しくなんてない。だけど…)
この島に来てからの自分の行動を振り返る。
エクスペルに戻れる可能性が高い方を選び、自分と同じく父親であるアドレーを手にかけた。
その後、今度は脅迫に近かったとはいえ瀕死の人間の命を救った。
人を1人殺したという罪が軽くなった気がしたのは事実だ。
だが今度は、救った人物の親友を名乗る男に、治療薬と偽り破砕弾を渡した。
彼らが上手く再開したら、おそらくクレスと呼ばれた少年は死ぬだろう。
チェスターもその事実に絶望し気が狂うかもしれない。
マリアが彼を放っておくわけもないだろう。
我ながら鬼畜な事をしたものだ。
(そんな俺が今更…)
葛藤をしていた彼の脳裏に、」ニーネとエリスの笑顔がちらついた。
(俺は…、もう一度二人に会いたい! それに…)
エリアルタワーで十賢者との初遭遇後、訳のわからぬまま辿り着いたネーデのセントラルシティ。
そこの市長ナールから告げられた母星エクスペルの崩壊。
それとともに悟ったニーネの死。
(もし、俺がここで死んだらあの時感じた絶望をニーネとエリスに与える事になる。
それだけは絶対にさせるわけにはいかない! そうだ! もう俺は迷わない! 例え誰であってもこの手にかけてやる!)
彼もまた、決意を固める事となった。
(おそらくロビーに戻れば食事になる。何とかマンドレイクを避け二人が口にするのを待つしかないか…)
ボーマンはその決意をより強固な物にするため、仲間殺しをする覚悟を決めた。

洗面台で顔を洗い、気を引き締める。
なんとか自然体な表情を装ってトイレから出ようとした時、ズシィーンと巨大な何かが倒れる音がした。
外からは、なにやら叫び声を上げているチサトの声が聞こえてくる。
ボーマンは意を決してロビーへと向かった。

65タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:16:52 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

チサトは何が起きたかわからなかった。
もう待ちきれない様子だったガルヴァドスに、先に食べていていいわよと声を掛けた矢先の出来事である。
カレーを口にしたガルヴァドスが、白目をむき卒倒したのだ。
(えっ? なになに? そんなに私のカレーがまずかったの?)
いや、だが明らかに様子がおかしい。
いくら口に合わないもの食べてもこうはならないだろう。
(とにかくボーマンを呼ぼう。素人の私よりこういったものには詳しいはずだ)
そう思いトイレの方に振り向いた時、丁度ボーマンが出てきた。
「聞いてよ! カレー食べたらいきなり倒れたの! 食中毒とかでもないと思うけど、お願い! 診てあげて!」
「いや、原因はわかっている」
どこかいつもと違う、冷え冷えとしたボーマンの声。
「マンドレイク毒の症状だ。俺が用意して、お前がカレーに入れた」
「なっ、何を言ってるの?」
「カレーに毒を盛ろうとしたんだ…俺が」
突如として向けられた本気の殺意。
直観的にやばいと悟り、後方に大きく跳び退く。
今までいた場所が爆発で包まれていた。
爆風が頬をなぶり、飛ばされた破片が雨のように降り注ぐ。
立ち昇る爆煙を振り払い、ボーマンが迫る。
鋭い踏み込みと共に、矢の様に鋭い拳が打ち出された。
正面からそれをガードするチサト。
ガードした体勢のまま押し返し、開いた間合いを利用して胴に蹴りを見舞う。
大きく距離が開く二人。
(まさか、彼まで…)
チサトは未だにボーマンが言ってることを理解できなかった。
いや、したくなかった。
だが、彼の口からそれは告げられた。
「俺はニーネとエリスの下に帰るため優勝を狙うことにしたんだ…。恨むなとは言わない。だが、俺の目的の為に…死んでくれ!」
白衣の内ポケットより取り出した丸薬を炸裂させる。
チサトの周囲に毒素を孕んだ霧が生じる。
直接的な殺傷力は乏しいが、長時間吸っていては悪影響が出るだろう。
なによりこのままこの場にとどまれば、更なる丸薬のいい的だ。
裏を掻くためあえて霧の先、ボーマンがいると思われる方向へと突進。
立ち込める毒霧の中でボーマンを捉える。
チサトのこの行動を予期していなかったボーマンは、彼女に先手を許す事となった。
チサトは突進のスピードを活かし拳打、肘打ち、掌打と流れるような連打を放つ。
神宮流体術奥義『昇龍』だ。
ボーマンは防御に徹することで、なんとか痛撃を受けるのを免れた。
攻防によって巻き起こる風で霧が晴れ、正面から視線がぶつかる。

66タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:17:56 ID:xSUPrhKQ
「あなたもなのね? ボーマン…」
ボーマンに向けて呟くチサト。
信じられなかった。信じたくなかった。クロードに続いて彼まで…。
確かに、この二人の目的は理解できる。
だけど、自分達の絆はこんな簡単に断たれてしまう物なのか?
「も? 他にも誰か殺し合いに乗ってるのか?」
「クロードもよ…。直接聞いたわけではないけれど、いきなり襲ってきたわ。
きっとレナを生き残らせる為に、他の人間を皆殺しにするつもりなんだわ」
「そうか…」
クロードの事を聞いたボーマンは、哀しげな表情をした。
彼もクロードがそんな事をするはずがないと思っているに違いない。
その姿を見て、まだボーマンは迷っているのかもしれないと思った。
「考え直すつもりはないの?」
決めたはずだった。殺し合いに乗った者は誰だろうと止めると。
もしここで彼が考えを改めてくれるなら、まだやり直せると思った。
だから、これは彼に対しての最終勧告。
しかし、ボーマンの決意は固かった。
「俺は既に一人殺している…。今更…後戻りなんぞ…できん!」
叫ぶや否やボーマンが一気に間合いを詰め、突きを繰り出してきた。
チサトも素早くこれに応戦。
突きを腕で受け流し、ボーマンの延髄目掛けて回し蹴りを見舞う。
ボーマンも空いてる方の腕でこれをガード。
チサトはそのガードごと脚を振りぬき、間合いを離す。
陣宮流体術は足技主体の流派だ、対してボーマンは拳打主体の格闘スタイル。
当然、懐に入られたらチサトは不利になる。
だが、ボーマンには遠距離攻撃の手段がある。
『気功撃』
拳にオーラを纏わせ打ち出す技。
向かって左にそれを回避。
離しすぎた間合いを詰めようとしたが、こちらの出鼻を挫く様にもう一発飛んできた。
それも左に回避。だがこれはボーマンの誘いだった。
左側には迫る壁と、その近くには朽ちかけた円柱。しまったと思った時には遅かった。
爆発音とともに彼女の頭上に円柱の瓦礫が倒れてきていた。

67タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:19:08 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「済まない…」
巻き上がる粉塵に向かって呟く。
恐らくチサトは、あの瓦礫に押しつぶされて死んだだろう。
だが、見つめる粉塵の中に拳を突き上げたようなシルエットが浮かんできた。
「一日に二回もこれを使うなんてね…」
よく見たらチサトの両腕がおかしな事になっている。
(俺の知らない技? 恐らく肉体強化系の気功の類だろう)
チサトの分析をしていたボーマンの視界から彼女が消えた。
刹那。チサトはボーマンに肉迫していた。
そのまま自分に放たれた膝蹴りをガード。
その蹴りは強力で、ガードの上からでもダメージを受ける程だった。
「くっ!」
思わず苦悶の声を洩らしてしまう。
「一気に決めるわ! 神宮千裂拳!」
ガルヴァドスの巨体おも吹き飛ばす強力な連撃。
ガードを抜かれ、連打を浴びるボーマン。
フィニッシュブローで大きく吹き飛ばされたボーマンは、壁に激突してようやく止まった。
体があちこち痛み、意識が混濁する。
(ここまで、なのか…)
だが彼にも意地がある。仲間を殺してでも帰ることを選んだボーマンは、心に湧いた弱気を振り払った。
(そうだ…。決めたんだろ? なんとしても生きて帰るんだと。なら、死ぬその瞬間まであきらめるものか!)
飛びそうになる意識を、気迫でなんとか繋ぎとめる。
(まだ…戦える! それにチサトのあの技。あの手の強化系の気功ならそんな長時間効果が続くものでもないだろう。
それどころかあれだけの爆発力を発揮する技なら反動も物凄いはずだ…。まだ勝機はある)
壁にすがる様に立ち上がった彼は、一先ず時間を稼ぐべく最後の毒気弾をチサトと自分の間に放った。
再びロビー内が毒気を帯びた霧で満たされる。
チサト自身も先刻この技を使用して持続時間の短さと、反動の大きさは把握している。
見るからに毒々しい色をした霧を無視し、ボーマンに詰め寄る。
(くそっ! 速さまで増してやがんのか?)
先のダメージもあり、満足に動けない彼は防御に徹せざるを得なかった。
回し蹴りが死角から迫る。回避は不可能と判断し、腕を使ってガードする。
だが尚も、彼女の攻撃の勢いは止まらない。
回し蹴りの余勢を活かし、そのまま下段、中段と回し蹴りによるコンビネーションを繋げる。
神宮流奥義『旋風』
容赦なく迫る嵐のような脚技。その一撃一撃は重く、正面から受け止める事も容易ではない。
堪らず攻撃の切れ目に合わせて空中に退避。
しかしチサトの執拗なまでの攻めは続く。後を追う様に跳躍しボーマンに追いすがる。
苦し紛れに放ったボーマンの蹴りを掴むと、その勢いを利用しカウンター目掛けて投げ飛ばす。
「っ!」
あまりの衝撃に肺の中の空気が漏れる。ぼやける視界に捕らえたのは空中より迫り来るチサトの姿。
獲物を狩る猛禽類さながら、降下と共に一撃。
だが、顔面に打ち込まれた拳は、予想していた物よりも遥かに軽かった。
チサトの表情が強張る。どうやら時間切れのようだ。
『気功撃』
ゼロ距離で闘気を纏わせた拳をチサトに叩き込む。
拳の衝撃と、放った闘気の衝撃とで彼女を吹き飛ばす。
(今の一撃、チサトに俺を殺す余力はなさそうだな。俺も満身創痍だがこちらにはこれがある)
最後の一個。切り札として取っておいた破砕弾の感触を白衣の上から確かめた。

68タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:20:25 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(肝心な時に時間切れなんて…)
全身にのしかかる鉛のように重たい疲労感。とてもじゃないが今までのようには動けない。
ボーマンを見る限り、かなりのダメージは見て取れるが、こちらにはもう致命打を入れる余力は無い。
状況は明らかに不利だと培ってきた勘が告げていた。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。ここで彼を止めなければ更なる被害者が出る。
じりじりと距離を詰めてくるボーマン。
(なんとか対抗する手立ては?)
彼女はまだ諦めずに反撃の手段を求めた。周囲を見回すと床に転がるデイパックを捕らえる。
誰の物かはわからないが、もし自分のものならあの中に鎧をしまった筈だ。
紐を掴み、振りまわす事で強力な武器に成り得る。
最後の希望を込めて拾い上げると、ズシリと重い。
迫り来るボーマン目掛け、思いっきり振り上げる。
アゴに強力な一撃を叩き込まれた衝撃にたたらを踏むボーマン。
撒き散らされる内容物。
地図、筆記用具、食料、水、そしてこの鼻を突く臭いは、
(ガソリン?)
確かガルヴァドスの荷物にガソリンがあったはずだ。このデイパックはガルヴァドスの物だったらしい。
それらを頭から被ったボーマンの体は、ガソリン塗れになった。
最後に見せたチサトの足掻きが彼女に勝機をもたらした。
特製の名刺は武器として認識されたらしく『バーニングカーズ』用の名刺は無くなっていた。ただ一枚だけを残して。
その一枚は、クロード達を隠れて取材していた最中に紅水晶の洞窟で落とした物だった。
それがきっかけとなり、彼女も彼らの旅に同行することになった。この名刺が自分とクロード達を引き合わせたのだ。
だから、この一枚だけは例え古くなって武器として機能しなくなってしまっても、肌身離さず持っていた。
その一枚の名刺を取り出す。
名刺に気を送り込み、纏わせた闘気を炎へと変化させる。
前述の通り、古くなったこの名刺の攻撃力は無に等しい。だが彼女が掴んだ勝機を活かすにはこれで十分であった。
「バーニング…」
(自分とクロード達とを繋いでくれたこの名刺で、仲間の命を絶つことになるなんて)
カードを振りかぶるチサトの目が微かに滲む。
(それでも誓ったんだ。この地で散った仲間達に。殺し合いに乗った人間を止めると。
例え相手が誰であっても! その相手が、かつての仲間であろうと!)
決意を胸に、仲間との絆を築いた代物で、その仲間の命を絶つべく名刺を放とうとした。
そう、放とうとしたのだが、
(体が、動かない?)
チサトは困惑を胸に抱きながら、正面で立ち尽くすボーマンを見つめる。
彼の手には、見覚えのある丸薬が乗せられていた。

69タイトルは現在思案中:2008/01/14(月) 06:21:41 ID:xSUPrhKQ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

彼は被った液体がガソリンだと理解していた。
そして、霞む視界の中で炎を纏った名刺を持つチサトの姿を捉えた。
その光景から導き出される結末は一つ。だから今しかないと思った。
ホテルに向かう道中調合しておいた霧状の薬品を散布させる。
その霧を吸った彼女の体はたちまち硬直を始める。
ローズヒップとトリカブトを調合する事で生成される『パラライズミスト』。
霧を吸った者を一時的に麻痺させる代物だ。
あの時ふと思い立った二人の行動が、彼らの明暗を分けた。
麻痺したチサトを見つめる。
(今から俺はコイツを殺す…。忘れるな、この光景を! 心に刻み付けろ、今抱いた感情を! 
俺はこれからこいつの屍の上に立ち、生き続けて行かねばならないのだから!)
懐から破砕弾を取り出すと、チサト目掛けて投げつけた。
思い描いたとおりの軌跡を描き彼女に命中した破砕弾は、チサトの体をバラバラに吹き飛ばした。
爆発によって生じた火の粉が、床を濡らしたガソリンに燃え移る。
ボーマンは自信の身の危険を感じ、その場を退避する。
出掛けに自分の荷物と、側においてあったチサトの荷物を抱えると、外に飛び出した。
(亡骸を弔うぐらいの事はしたかったんだがな…。この状態ではそれもままならないか…。
いや、今の俺にはかつての仲間を弔う資格すら無いんだよな…)
ロビーに上がった火柱は彼女達の遺体を焼き、ホテルの壁にまで浸食し始めた。
ボーマンはその光景をしばらく見つめ続けていた。

どれくらいの間見つめていただろうか。
このままここに居続ける訳にもいかないので、彼は北の方角へと歩き始めた。

【E-04/夜】
【ボーマン・ジーン】[MP残量:40%]
[状態:全身に打身や打撲]
[装備:なし]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉*3@VP、フェイトアーマー@RS、荷物一式*2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:安全な寝床の確保]
[思考3:調合に使える薬草があるかどうか探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:秘仙丹のストックが1個あります]
[備考3:ホテル跡は次回放送までには焼け落ちるでしょう]
[現在位置:ホテル跡周辺。やや北寄り]
【ガルヴァドス 死亡】
【チサト 死亡】
【残り33人】

70 ◆yHjSlOJmms:2008/01/14(月) 06:23:13 ID:xSUPrhKQ
審議の対象は、チサトのパラライチェックが外れているのは都合良すぎないかってところです。
製作時の流れを追っていきますと、

以前から暖めていた案である、マンドレイクを食わせて毒殺と言うネタを使おうと筆を取る。

バトルも書きたかったので、なんとかその様な展開まで持っていく。

勢いに任せてバトルパートを書ききる。

実の所ボーマンを勝たせたかったのに気付いたら、チサトがガソリン被ったボーマンに止めを刺そうとするところまで書いてしまっていた。

これはいかんと攻略本を漁るといい感じの調合アイテムを発見し俺歓喜。

軌道修正して完成。

推敲を済ませ、最終チェック中にチサトの装備品にパラライチェックを発見し俺涙目。

今ここ→一応チサトからパラライチェックを外す展開を書き足す。

なんですがいかがでしょうか?
叩かれるのも覚悟でやってみましたが、ダメっぽかったら当初書いていた通りチサト勝利verを本スレに投下しようと思います。

71名無しのスフィア社社員:2008/01/24(木) 01:25:16 ID:F9iZd7oU
パラライズミストってお香じゃなかったんだっけ?

ファミ通の攻略本にアイテムの説明文載って無いし、うろ覚えなんで自信無いけど(汗

72 ◆yHjSlOJmms:2008/01/24(木) 02:15:18 ID:OJLjMumo
相変わらずの規制中。

こっちに投下します。
>>71微妙ですね…。言われてみればそんな気も…。
一先ずは霧状の薬品って事で行って、やっぱお香だったってなったら修正しますね。

73決断の時:2008/01/24(木) 02:24:15 ID:OJLjMumo
ガルヴァドスの腹の虫が盛大に鳴いたので、二人は少し早いが夕食にする事にした。
支給品の食料で済ませようかとも考えたのだが、現在位置は跡地と言っても元ホテルだ。
それなりのキッチンを備えているだろうと踏んだチサトは料理の腕を振るう事にした。
キッチンに着いたのはいいのだが、肝心の食材を蓄えているであろう冷蔵庫が見当たらない。
しばし捜し歩いた後に、食材備蓄庫なる場所を見つけたチサト達。
食材一種類の量は大した事ない上に、賞味期限が怪しい物も目立ったが、種類だけはたくさんある。
「何か、リクエストとかある?」
何を作ろうか迷ったチサトは、ガルヴァドスに尋ねた。
「何デモ、構わナイ。オ前が食べたい物デイイ」
「そうねぇ、じゃあ、ニンジンが少ないけどカレーにしましょう。キッチンはあっちだから材料運ぶの手伝って」
「心得タ」
ガルヴァドスを引き連れ食料庫を出たチサトの耳に、この場にはいない、だが聞き覚えのある声が入ってきた。
「フフン…、こんばんは諸君…。この会が始まってようやく半日が経過したわけだが、いかがお過ごしかね?―――
どうやらもう2回目の放送みたいだ。
ホテル跡に着いてからいろいろな出来事があったので、時間の経過に気付かなかった。
何やら耳寄りな情報があると言っているが、そんな事に興味はない。
それよりもかつての仲間達や、さっき別れたチェスターの安否の方が気になった。
「それではまずは死亡者の名前から発表しよう」
そんな彼女の心情を察したわけではないだろうが、最初に死亡者の名前が挙げられるようだ。
(みんな…無事でいてよ!)
仲間達の無事を祈りながらルシファーの声に耳を傾ける。
『ヴォックス』
『ノートン』
『メルティーナ』
『ロジャー・S・ハクスリー』
『ビウィグ』
一人、また一人と読み上げられる犠牲者達。
10人目の名前が呼ばれる。
『アリーシャ』
まだ仲間の名前は呼ばれてはいない。
『ジェストーナ』
11人目。
(まだ呼ばれるの?)
この名前も知らない人物だ。
(このまま誰も呼ばれないで…)
しかし、そんな彼女の願いは叶わなかった。
『セリーヌ・ジュレス』
『オペラ・ベクトラ』
12人目の犠牲者と、13人目の犠牲者に彼女の仲間の名があった。
呆然とした彼女は、抱えていた食材を落としてしまう。
セリーヌとオペラは同じ性別で、かつ年齢が近い事もあり、特に仲が良かった。
そんな二人がネーデ人の同胞ノエルに続き、この地で何者かの凶刃によって倒れたのだ。
チサトはしばらくそのまま立ち尽くしたまま、仲間達のことを考えていた。

74決断の時:2008/01/24(木) 02:24:50 ID:OJLjMumo
いつの間にか放送は終わっていた。
「ドウシタ?」
背後に立っているガルヴァドスが尋ねてきた。
「えっ? ええっと、仲間が呼ばれたからちょっとビックリしちゃって…」
慌てて落とした食材を拾い集める。
「大丈夫カ?」
「えっ?」
意外なガルヴァドスの一言に目を丸くし、チサトは振り向いた。
「我ラ、ブラッドオークモ同胞の死ヲ嘆くトイウ事はスル。ダカラ、オマエノ今の感情ハ理解デキル」
「フフッ、見た目は怖いけど、意外と優しいじゃない?」
チサトのそんな言葉を聞いて、ガルヴァドスは赤い色の顔をよりいっそう赤くした。
「でも、ほんとに大丈夫よ! それに腹が減ってはってねっ! 晩御飯食べながらこれからの方針を改めて決めましょう!」
本当はまだ、二人の死がチサトの胸を痛めていたが、ガルヴァドスを心配させないようにと明るく振舞った。

キッチンは意外と狭くかつ、少し一人でいたかったから、ガルヴァドスにはロビーで待つように言った。
やはりと言うべきか、このキッチンには包丁やナイフといった刃物類は存在しなかった。
棚を漁って、なんとかピーラーを見つける。
野菜の皮はこれで剥き、形はしょうがないので砕いたり割いたりして整えた。
淡々と調理を進めながらも、やはり彼女の心を支配していたのは仲間の死という事実。
(くっ、今度は2人…。さっきのクロードはなんとか退ける事ができたけど、まだ私はこの殺し合いを止める為何も出来ていない…。
もしかしたらさっき呼ばれた人の中に、クロードが手にかけた人物が含まれているかもしれない…。
今度こそ誰であろうと殺し合いに乗っている人間を止めてみせる! それが殺された人達へ、今私が出来る事!)
彼女は改めて決意を固めた。
後はカレーを煮詰めるのと、米が炊けるのを待つだけだ。
(少し気分を変えてこようかしら…。ここで火が使えるって事はお湯も出るわよね?)
外で動き回ったせいか、体に汗とホコリが纏わりついている。
彼女は客室のシャワールームを利用しようと、キッチンを後にした。

浴室に入り、身に付けているものを脱ぎ去る。
鎧は料理の邪魔になるだろうし、パラライチェックも今すぐ必要になる事は無いだろうと思い、二つともデイパックにしまった。
シャワーを浴びて、ホコリや汗を洗い流すべく頭と体を洗う。
シャンプーやらボディーソープは備え付けてあったものを使った。
神宮流体術免許皆伝の豪傑である彼女でも女性だ。
そのボディーラインは女性特有の曲線で彩られていた。
ショートカットの髪の下から覗くうなじ。
細くともすらりと引き締まった腕と太腿が、彼女の健康美を更に強調していた。
同時に鍛え抜かれた彼女の脚線は、えもいわれぬような緊張感をかもしており、まさしくネコ科の野生動物のごとき美しさを誇っている。
そんな彼女の体の曲線を、泡が撫でるように伝い落ちる。
体の汚れやホコリは洗い流せたものの、彼女の悲しみは洗い流される事はなかった。
むしろ、浴室という閉塞的な空間にいる事で、先程抱いた陰鬱な感情が呼び起こされる。
立ち昇る湯気の中、壁に手をつき項垂れる。
彼女の頬を伝い落ちる液体はシャワーのお湯か、はたまた彼女の涙か…。
一頻りそうしていた後に浴室を出る。
脱衣所の鏡が自分の裸身を映した。
鏡に映った自分の顔は、普段の活力に満ちた自分とは遠くかけ離れていた。
(なんて顔をしているのかしら? こんなの、らしくないじゃないか。
そう、今は仲間の死に捕らわれ立ち止まっている場合じゃない! 前へ、前へ進む事が私のすべき事!)
頬を両の手で思いっきりはたき、自らに喝を入れた。
着替えを済まし脱衣所を出る。
(もう、完成している頃かしら?)
調理を再開すべく、再びキッチンへ向かった。

75決断の時:2008/01/24(木) 02:25:29 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「また13人…か」
チェスターを見送ったボーマンは、西に進んでいた最中に2回目の放送を聞いた。
予想以上に多い。自分は昼から夕方にかけては、誰も手にかけていない。
それなのに13人の死亡者がでたという事は、返り討ちにあったゲームに乗った人物もいるだろうが、自分も含めて6,7人ぐらいはいるのではないだろうか?
(現在の生存者は俺を除いて35名。内殺し合いに乗った人数を7人と仮定すると大体5人に1人か…。
このまま外で夜を迎えるのは、いささか危険かも知れんな)
彼は安全な場所を確保すべく、現在位置から目と鼻の先にあるホテル跡を目指し歩き始めた。
狩る側にとってはそういった場所に集まるだろうと目星を付けやすいだろう。
それでも、外で全周囲を警戒しながら一夜を過ごすよりは遥かにましだろう。
それにホテルの部屋ならば、出入り口に破砕弾によるトラップを仕掛けておけば、寝込みを襲われる心配も少ない。
(そういえば、さっきチェスターに渡した破砕弾でストックが切れていたな)
ボーマンは新たに3個の破砕弾と2個の毒気弾、1個の秘仙丹を生成した。
ついでに、戦闘時の調合は不可能だと思いつき、戦闘時に補助的な役割を果たしそうな物も作って懐にしまっておく。
そうこうしているうちにホテル跡が見えてきた。
そのホテルの一室からは、なぜかカレーの臭いが漂ってきていた。
不審に思い、窓からその部屋の様子を伺うと部屋の中は無人だ。
火が点いたガス台の上にはカレールーで満たされた鍋と、その横で米を炊いている鍋があるだけだった。
改めて誰もいない事を確認し、ボーマンは窓から部屋に侵入した。
(誰かがここで料理をしているんだろうな…。
どうやら先客がいたらしい。どうする? 殺し合いに乗った人間だと厄介だな…)
だが、彼はその可能性が薄いことに気付く。
(いや、この米とルーの量は明らかに1人で食べる量じゃない。という事は複数人いるわけか…。
その場合はアドレーやマリアのように主催者の打倒を目指している連中の可能性が高いな…。
このゲームの勝者は1人だけというルールがある以上、殺しに乗った人物は基本的に一人で行動するはずだからな)
鍋の中を覗き込む。
(このカレー、やけにニンジンが少ないな、それに野菜の形が歪だ)
理由はすぐにわかった。まな板にはピーラー、それと細かく砕かれた野菜の破片。
包丁等がここにはなかったのだろう、仕方なくこの料理人は叩くなり潰すなりして大きさを調整したと思われる。
そこで彼の中の悪魔がボーマンに囁いた。
(今自分の持っている物にニンジンに酷似しているイイ物があるじゃないか)
「マンドレイク…」
彼は呟くと同時に、デイパックの中からそれを取り出した。
クレスの治療の際1/3使ってしまっているが、コイツ単体ならばかじっただけで人を死に至らしめる事が可能だ。
自分の手を直接汚さずに人を殺せる。
尚も人を直接殺す事に抵抗があった彼には、それがとても魅力的な行為に思えた。
自然と手は動き、マンドレイクの皮をピーラーで剥き始めていた。

76決断の時:2008/01/24(木) 02:26:00 ID:OJLjMumo
マンドレイクの皮を全て剥き終えたその時、
「誰っ!? 両手を上げてこちらにゆっくり振り向き…って、あなた、ボーマンじゃない!」
キッチンに戻ってきた人物――チサトと鉢合わせてしまった。
ボーマンは焦った。よりにもよって、ここで料理をしていたのが、かつての仲間だったなんて。
「何してたの?」
こちらに歩み寄りながら質問してくるチサト。
「ん? ああ」
あやふやな返事をするボーマン。
(さて、どうしたものか?)
「あれ? これニンジン? 丁度少なくて困ってたの。食料庫にはもう無くってさ」
まな板の上のマンドレイクを覗き込んで、チサトは見事にニンジンと勘違いをしたようだ。
根元に特徴的な二股がある植物だが、その部位はクレス治療の際に使っている。
こうなってしまえば、素人目にはニンジンにしか映らないだろう。
「あ? ああ。丁度ここを通りかかったらカレーの匂いがしてな。
失礼して覗いてみたらニンジンが異様に少ないのに気付いてな…。
丁度支給品に紛れていたから使おうかと思ったんだが…皮を剥き終えた後包丁が無くて、どうしたものかと考えていたんだ」
我ながら苦しい言い訳だな、と思ったがチサトは、
「そう。助かったわ。サイズは見てくれがアレになるけど…」
と言いマンドレイクをへし折る。それでも尚大きな部分は、引き裂いてドバドバッとマンドレイク片を鍋に入れた。
「まぁ、なにより無事でよかったわ。ロビーに同行者を待たしているの。
話したいこともあるし、一緒に食べましょう。そっちの鍋運んでくれる?」
少し煮詰めた後に、鍋を抱えてチサトはボーマンを促した。
(まずい事になった…。だがここで断っても怪しまれる。一先ずは同意するしかないな)
「わかった」
動揺を表情に出さないように気を遣いながら、彼はチサトの後についていった。

77決断の時:2008/01/24(木) 02:26:32 ID:OJLjMumo
ロビーまで連れてこられたボーマンは再び驚く事となる。
今まで見たことのない化け物が、ソファーに腰を掛けていたからだ。
(なんだ? あれは?)
思わず怪訝顔をしてしまっていたのだろう。
そんな彼の顔を見て、チサトはガルヴァドスの事をボーマンに紹介した。
「見た目はかなり凶悪な魔物って感じだけどいい奴よ。ガルヴァドスっていうの」
ガルヴァドスと呼ばれた化け物が、こちらを見て何やら考え込むような表情をした。
「ガルヴァドス、心配しなくていいわ。彼はボーマン、私の仲間よ。信頼できる人間だわ」
化け物に笑顔で自分の事を説明するチサト。
(おいおい…、こんな簡単に信頼していいのかよ?)
だが、その信頼が心地よかった。
かつての仲間というだけで、無条件で自分を受け入れてくれたチサトが眩しく見える。
チサト自信も、もう少し警戒すべきなのかも知れないが、仲間の死や裏切り(これは彼女の勘違いだが)という出来事が立て続けに起こった中での仲間との再会。
自然と彼女はボーマンを疑うという事はしなかった。
これ以上、仲間達との繋がりが絶たれるのが嫌だったのかもしれない。
「さあ、ご飯にしましょう!」
チサトがそれぞれの皿にカレーライスを盛り始める。
(どうする? このままでいいのか?)
数瞬の迷いの後、
「待て!」
ボーマンは自分の声が予想以上に大きくなってしまった事に驚きながらも続けた。
「飯の前にちょっと…」
「あぁ、いいわよ。いってらっしゃい」
「?」
いきなり訳のわからないことを口走るチサトに困惑する。
「ご飯の前に中座なんて、行き先は一つしかないでしょ?」
(こいつ…、俺が便所に行きたがってると思っているのか?)
一先ずその勘違いに乗ることにする。
「ああ、行って来る」
「戻ってくるまで待っているから早くしてよね?」
ボーマンは彼女の呼びかけに手をひらひらと振り無言で答え、ロビーを離れた。

78決断の時:2008/01/24(木) 02:27:07 ID:OJLjMumo
改めて考えをまとめようと洗面台に手をつく。
(このまま、悩み続けていてはならない…。ここでチサトを殺したら俺は二度と戻れない。
今決断するんだ! 俺がこれから取るべき行動を! そして、その決意を二度と曲げるな!)
かつての仲間達の姿。殺されてしまった3人を含めて11人との思い出を蘇らせる。
楽しい事ばかりではなかった。辛く、何度となく死にかけもした。
そんな状況を共に生き抜いた仲間達。
(やはり、あいつらはかけがえのない俺の仲間だ。殺したくなんて、死んで欲しくなんてない。だけど…)
この島に来てからの自分の行動を振り返る。
エクスペルに戻れる可能性が高い方を選び、自分と同じく父親であるアドレーを手にかけた。
その後、今度は脅迫に近かったとはいえ瀕死の人間の命を救った。
人を1人殺したという罪が軽くなった気がしたのは事実だ。
だが今度は、救った人物の親友を名乗る男に、治療薬と偽り破砕弾を渡した。
彼らが上手く再開したら、おそらくクレスと呼ばれた少年は死ぬだろう。
チェスターもその事実に絶望し気が狂うかもしれない。
マリアが彼を放っておくわけもないだろう。
我ながら鬼畜な事をしたものだ。
(そんな俺が今更…)
葛藤をしていた彼の脳裏に、ニーネとエリスの笑顔がちらついた。
(俺は…、もう一度二人に会いたい! それに…)
エリアルタワーで十賢者との初遭遇後、訳のわからぬまま辿り着いたネーデのセントラルシティ。
そこの市長ナールから告げられた母星エクスペルの崩壊。
それとともに悟ったニーネの死。
(もし、俺がここで死んだら、あの時感じた絶望をニーネとエリスに与える事になる。
それだけは絶対にさせるわけにはいかない! そうだ! もう俺は迷わない! 例え誰であってもこの手にかけてやる!)
彼もまた、決意を固める事となった。
(おそらくロビーに戻れば食事になる。何とかマンドレイクを避け二人が口にするのを待つしかないか…)
ボーマンはその決意をより強固な物にするため、仲間殺しをする覚悟を決めたのであった。

洗面台で顔を洗い、気を引き締める。
なんとか自然体な表情を装ってトイレから出ようとした時、ズシィーンと巨大な何かが倒れる音がした。
外からは、なにやら叫び声を上げているチサトの声が聞こえてくる。
ボーマンは意を決して、ロビーへと向かった。

79決断の時:2008/01/24(木) 02:27:38 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

チサトは何が起きたかわからなかった。
もう待ちきれない様子だったガルヴァドスに、先に食べていていいわよと声を掛けた矢先の出来事である。
カレーを口にしたガルヴァドスが、白目をむき卒倒したのだ。
(えっ? なになに? そんなに私のカレーがまずかったの?)
いや、だが明らかに様子がおかしい。
いくら口に合わないものを食べても、こうはならないだろう。
(とにかくボーマンを呼ぼう。素人の私よりこういったものには詳しいはずだ)
そう思いトイレの方に振り向いた時、丁度ボーマンが出てきた。
「聞いてよ! カレー食べたらいきなり倒れたの! 食中毒とかでもないと思うけど、お願い! 診てあげて!」
「いや、原因はわかっている」
どこかいつもと違う、冷え冷えとしたボーマンの声。
「マンドレイク毒の症状だ。俺が用意して、お前がカレーに入れた」
「なっ、何を言ってるの?」
「カレーに毒を盛ろうとしたんだ…俺が」
突如として向けられた本気の殺意。
直観的にやばいと悟り、後方に大きく跳び退く。
今までいた場所が爆発で包まれていた。
爆風が頬をなぶり、飛ばされた破片が雨のように降り注ぐ。
立ち昇る爆煙を振り払い、ボーマンが迫る。
鋭い踏み込みと共に、矢の様に鋭い拳が打ち出された。
正面からそれをガードするチサト。
ガードした体勢のまま押し返し、開いた間合いを利用して胴に蹴りを見舞う。
大きく距離が開く二人。
(まさか、彼まで…)
チサトは未だにボーマンが言っている事を理解できなかった。
いや、したくなかった。
だが、それは彼の口から告げられた。
「俺は、ニーネとエリスの下に帰るため優勝を狙うことにしたんだ…。恨むなとは言わない。だが、俺の目的の為に…死んでくれ!」
白衣の内ポケットより取り出した丸薬を炸裂させる。
チサトの周囲に毒素を孕んだ霧が生じる。
直接的な殺傷力は乏しいが、長時間吸っていては悪影響が出るだろう。
なにより、このままこの場にとどまれば、更なる丸薬のいい的だ。
裏を掻くためあえて霧の先、ボーマンがいると思われる方向へと突進する。
立ち込める毒霧の中でボーマンを捉える。
チサトのこの行動を予期していなかったボーマンは、彼女に先手を許す事となった。
チサトは突進のスピードを活かして、拳打、肘打ち、掌打と流れるような連打を放った。
神宮流体術奥義『昇龍』だ。
ボーマンは防御に徹することで、なんとか痛撃を受けるのを免れた。
攻防によって巻き起こる風で霧が晴れ、ボーマンを見つめる。
彼の表情には憂いに似た何かが浮かんでいた。

80決断の時:2008/01/24(木) 02:28:11 ID:OJLjMumo
「あなたもなのね? ボーマン…」
ボーマンに向けて呟くチサト。
信じられなかった…。信じたくなかった…。クロードに続いて彼まで…。
確かに、この二人の目的は理解できる。
だけど、自分達の絆はこんな簡単に断たれてしまう物なのか?
何故彼らは、自分と同じように皆と力を合わせて、ルシファーに立ち向かおうとしないのか?
「も? 他にも誰か殺し合いに乗ってるのか?」
「クロードもよ…。直接聞いたわけではないけれど、いきなり襲ってきたわ。
きっとレナを生き残らせる為に、他の人間を皆殺しにするつもりなんだわ」
「そうか…」
クロードの事を聞いたボーマンは、一瞬だけその表情に哀しみの影をよぎらした。
そんなボーマンの表情の変化を捉えたチサトは、まだボーマンは迷っているのかもしれないと思った。
「考え直すつもりはないの?」
決めたはずだった。殺し合いに乗った者は誰だろうと止めると。
もしここで彼が考えを改めてくれるなら、まだやり直せると思った。
だから、これは彼に対しての最終勧告。
しかし、ボーマンの決意は固かった。
「俺は既に一人殺している…。今更…後戻りなんぞ…できん!」
叫ぶや否やボーマンが一気に間合いを詰め、突きを繰り出してきた。
チサトも素早くこれに応戦。
突きを腕で受け流し、ボーマンの延髄目掛けて回し蹴りを見舞う。
ボーマンも空いてる方の腕でこれをガード。
チサトはそのガードごと脚を振りぬき、間合いを離す。
陣宮流体術は足技主体の流派だ、対してボーマンは拳打主体の格闘スタイル。
当然、懐に入られたらチサトは不利になる。
だが、ボーマンには遠距離攻撃の手段がある。
『気功撃!』
拳にオーラを纏わせ打ち出す技。
向かって左にそれを回避。
離しすぎた間合いを詰めようとしたが、こちらの出鼻を挫く様にもう一発飛んできた。
それも左に回避。だがこれはボーマンの誘いだった。
左側には迫る壁と、その近くには朽ちかけた円柱。
しまったと思った時には遅かった。
爆発音とともに彼女の頭上に円柱の瓦礫が倒れてきていた。

81決断の時:2008/01/24(木) 02:28:56 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「済まない…」
巻き上がる粉塵に向かって呟く。
恐らくチサトは、あの瓦礫に押し潰されて死んだだろう。
だが、見つめる粉塵の中に拳を突き上げたようなシルエットが浮かんできた。
「一日に二回もこれを使うなんてね…」
よく見たらチサトの腕がおかしな事になっている。
(俺の知らない技? 恐らく肉体強化系の気功の類だろう)
チサトの分析をしていたボーマンの視界から彼女が消えた。
刹那。チサトはボーマンに肉迫していた。
そのまま自分に放たれた膝蹴りをなんとかガードする。
その蹴りは強力で、ガードの上からでもダメージを受ける程だった。
「くっ!」
思わず苦悶の声を洩らしてしまう。
「一気に決めるわ! 神宮千裂拳!」
怯んだボーマン目掛け、ガルヴァドスの巨体おも吹き飛ばす強力な連撃を見舞う。
ガードを抜かれ、連打を浴びるボーマン。
フィニッシュブローで大きく吹き飛ばされたボーマンは、壁に激突してようやく止まった。
体があちこち痛み、意識が混濁する。
(ここまで、なのか…)
だが彼にも意地がある。仲間を殺してでも帰ることを選んだボーマンは、心に湧いた弱気を振り払った。
(そうだ…。決めたんだろ? なんとしても生きて帰るんだと。なら、死ぬその瞬間まであきらめるものか!)
飛びそうになる意識を、気迫でなんとか繋ぎとめる。
(まだ…戦える! それにチサトのあの技。あの手の強化系の気功なら、そんな長時間効果が続くものでもないだろう。
それどころかあれだけの爆発力を発揮する技なら反動も物凄いはずだ…。まだ勝機はある)
壁にすがる様に立ち上がった彼は、一先ず時間を稼ぐべく、最後の毒気弾をチサトと自分の間に放った。
再びロビー内が毒気を帯びた霧で満たされる。
チサト自身も先刻この技を使用して持続時間の短さと、反動の大きさは把握している。
見るからに毒々しい色をした霧を無視し、ボーマンに詰め寄る。
(くそっ! 速さまで増してやがんのか?)
先のダメージもあり、満足に動けない彼は防御に徹せざるを得なかった。
回し蹴りが死角から迫る。回避は不可能と判断し、腕を使ってガードする。
だが尚も、彼女の攻撃の勢いは止まらない。
回し蹴りの余勢を活かし、そのまま下段、中段と回し蹴りによるコンビネーションを繋げる。
神宮流奥義『旋風』
容赦なく迫る嵐のような脚技。
その一撃一撃は重く、正面から受け止める事も容易ではない。
堪らず攻撃の切れ目に合わせて空中に退避。
しかし、チサトの執拗なまでの攻めは続く。後を追う様に跳躍しボーマンに追いすがる。
苦し紛れに放ったボーマンの蹴りを掴むと、その勢いを利用しカウンター目掛けて投げ飛ばす。
「っ!」
あまりの衝撃に肺の中の空気が漏れる。ぼやける視界に捕らえたのは空中より迫り来るチサトの姿。
獲物を狩る猛禽類さながら、降下と共に振り下ろされる一撃。
だが、顔面に打ち込まれた拳は、予想していた物よりも遥かに軽かった。
チサトの表情が強張る。どうやら時間切れのようだ。
『気功撃!』
ゼロ距離で闘気を纏わせた拳をチサトに叩き込む。
拳の衝撃と、放った闘気の衝撃とで彼女を吹き飛ばす。
(今の一撃、チサトに俺を殺す余力はなさそうだな。俺も満身創痍だが、こちらにはこれがある)
最後の一個。切り札として取っておいた破砕弾の感触を白衣の上から確かめた。

82決断の時:2008/01/24(木) 02:29:29 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(肝心な時に時間切れなんて…)
全身にのしかかる鉛のように重たい疲労感。とてもじゃないが今までのようには動けない。
ボーマンを見る限り、かなりのダメージは見て取れるが、こちらにはもう致命打を入れる余力は無い。
状況は明らかに不利だと培ってきた勘が告げていた。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。ここで彼を止めなければ更なる被害者が出る。
じりじりと距離を詰めてくるボーマン。
(なんとか対抗する手立ては?)
彼女はまだ諦めずに反撃の手段を求めた。周囲を見回すと床に転がるデイパックを捕らえる。
誰の物かはわからないが、もし自分のものならあの中に鎧をしまった筈だ。
紐を掴み、振りまわす事で強力な武器に成り得る。
最後の希望を込めて拾い上げると、ズシリと重い。
迫り来るボーマン目掛け、思いっきり振り上げる。
アゴに強力な一撃を叩き込まれた衝撃にたたらを踏むボーマン。
その衝撃により、撒き散らされる内容物。
地図、筆記用具、食料、水、そしてこの鼻を突く臭いは、
(ガソリン?)
確かガルヴァドスの荷物にガソリンがあったはずだ。このデイパックはガルヴァドスの物だったらしい。
それらを頭から被ったボーマンの体は、ガソリン塗れになった。
最後に見せたチサトの足掻きが彼女に勝機をもたらした。
特製の名刺は武器として認識されたらしく『バーニングカーズ』用の名刺は無くなっていた。
ただ一枚だけを残して。
その一枚は、クロード達を隠れて取材していた最中に紅水晶の洞窟で落とした物だった。それがきっかけとなり、彼女も彼らの旅に同行することになった。
この名刺が自分とクロード達を引き合わせたのだ。
だから、この一枚だけは例え古くなって武器として機能しなくなってしまっても、肌身離さず持っていた。
その一枚の名刺を取り出す。
名刺に気を送り込み、纏わせた闘気を炎へと変化させる。
前述の通り、古くなったこの名刺の攻撃力は無に等しい。だが彼女が掴んだ勝機を活かすにはこれで十分であった。
「バーニング…」
(自分とクロード達とを繋いでくれたこの名刺で、仲間の命を絶つことになるなんて)
カードを振りかぶるチサトの目が微かに滲む。
(それでも誓ったんだ。この地で散った仲間達に。殺し合いに乗った人間を止めると。
例え相手が誰であっても! その相手が、かつての仲間であろうと!)
決意を胸に、仲間との絆を築いた代物で、その仲間の命を絶つべく名刺を放とうとした。
そう、放とうとしたのだが、
(体が、動かない?)
チサトは困惑を胸に抱きながら、正面で立ち尽くすボーマンを見つめる。
彼の手には、見覚えのある丸薬が乗せられていた。

83決断の時:2008/01/24(木) 02:30:05 ID:OJLjMumo
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

彼は被った液体がガソリンだと理解していた。
そして、霞む視界の中で炎を纏った名刺を持つチサトの姿を捉えた。
その光景から導き出される結末は一つ。だから、今しかないと思った。
ホテルに向かう道中、調合しておいた霧状の薬品を散布させる。
その霧を吸った彼女の体はたちまち硬直を始める。
ローズヒップとトリカブトを調合する事で生成される『パラライズミスト』
霧を吸った者を一時的に麻痺させる代物だ。
ふと思い立った二人の行動が彼らの明暗を分けた。
麻痺したチサトを見つめる。
(今から俺はコイツを殺す…。忘れるな、この光景を! 心に刻み付けろ、今抱いた感情を!
俺はこれからこいつの屍の上に立ち、生き続けて行かねばならないのだから!)
懐から破砕弾を取り出すと、チサト目掛けて投げつけた。
思い描いたとおりの軌跡を描き彼女に命中した破砕弾は、チサトの体をバラバラに吹き飛ばした。
爆発によって生じた火の粉が、床を濡らしたガソリンに燃え移る。
ボーマンは自信の身の危険を感じ、その場を退避する。
出掛けに自分の荷物と、側においてあったチサトの荷物を抱えると、外に飛び出した。
(亡骸を弔うぐらいの事はしたかったんだがな…。この状態ではそれもままならないか…。いや、今の俺にはかつての仲間を弔う資格すら無いんだよな…)
ロビーに上がった火柱は彼女達の遺体を焼き、ホテルの壁にまで浸食し始めた。
ボーマンはその光景をしばらく見つめ続けていた。

どれくらいの間見つめていただろうか。
このままここに居続ける訳にもいかないので、彼は北の方角へと歩き始めた。

84決断の時:2008/01/24(木) 02:30:35 ID:OJLjMumo
【E-04/夜】
【ボーマン・ジーン】[MP残量:40%]
[状態:全身に打身や打撲 ガソリン塗れ(気化するまで火気厳禁)]
[装備:なし]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉*3@VP、フェイトアーマー@RS、パラライチェック@SO2、荷物一式*2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:安全な寝床の確保]
[思考3:調合に使える薬草があるかどうか探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:秘仙丹のストックが1個あります]
[備考3:ホテル跡は次回放送までには焼け落ちるでしょう]
[現在位置:ホテル跡周辺。やや北寄り]
【ガルヴァドス 死亡】
【チサト 死亡】
【残り33人】

85 ◆yHjSlOJmms:2008/01/24(木) 02:32:28 ID:OJLjMumo
投下完了です。

86 ◆Jl03K2DT.Y:2008/02/04(月) 01:23:13 ID:PszzqiYI
本スレの2度目の書き込みトリミスってるしorz
直したんで確認してください。

87第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:24:28 ID:PszzqiYI
「さあ、どういう事か説明してもらおうか!」
ネルはアルベルに銃口を向け強い口調で問いただした。
アルベル自信は別に自分がどう思われようが気にしない性格だったが、殺してもいないのに殺人の容疑をかけられていい気分などしない。
「おい!そこのガキ! 俺はあのまま死体を放置しとくのも哀れだったんで弔ってやろうとしただけだ」
夢留を睨み付け言い放った。
「ほう、あんたがそんなことをするようなやつだったとは思ってもみなかったよ。
私の知っているあんたはこの状況を幸いとして人殺しを楽しむタイプの人間のはずだよ」
尚も銃を向けつつアルベルを睨み付けているネルが割り込んできた。
「俺を見くびるなよ糞虫が!俺は無抵抗な人間を殺したり、弱いものイジメをするような趣味は無いんだよ!それに」
そう言うと左手のガントレットの鉤爪でドアを思いっきり引っ掻いて見せた。
だが、そのドアには傷一つつく事はなかった。
「見た目は愛用の手甲だが鉤爪部分はナマクラもいいとこ、こんなんじゃあ人を殺したくても殺せねぇよ」
そう言ったところでアルベルは自分の無実を証明する名案を閃いた。
「おい!そこのガキ。てめえは俺が女を殺したのを見たって言っていやがったな。
その時の死体は見たか?見てたならわかると思うがあんなに血塗れにするには相当斬れる獲物が無いと無理だ。見てのとおり今の俺はそんな獲物を持ち合わせていない」
「確かに、あの女の人一目で死んでいるとわかるぐらい血だらけだったけど…。あなた武器を隠し持っているんじゃないの?」
「何なら荷物の中身でも見てみるか?ろくなもんが出てこねえけどな」
そう言うと担いでいたバックを腕に抱えた。
「わかった。荷物をそこに置いて向こうの壁まで下がりな。妙な真似したら撃ち抜くからね!悪いけどあんたはこっちで荷物の確認をしてくれるかい?」
夢留は頷き、アルベルも渋々ネルの言われたとおり荷物を置いて壁まで下がった。

88第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:25:03 ID:PszzqiYI
「こっちのバックには特に目立ったものは無いみたい」
そういうと2つ目のバックを探り始めた。
「うわぁ、なにこれ?メイド服?」
夢留はバックからメイド服を広げながら取り出した。
「あんたがメイド好きだったとはね。しかもこれスフレのじゃないか。ロリコンの気まであるのかい?弱い者イジメの趣味は無いかわりにいい趣味してるじゃないか」
先程とはうってかわって軽蔑の眼差しをアルベルに向けた。
「なっ、ちっちげーよ阿呆が!それはそこのガキが俺に向かって投げつけてきた荷物に入ってたんだよ!」
「え〜。私こんなの知らないしぃ〜」
夢留は珍しそうにメイド服を眺めながら言った。
「そっそんなことより武器は出てきたのかよ?」
二人は夢留の方を見たが彼女は首を横に振った。
「どうやらあんたは白みたいだね。」
そう言うとネルは銃を下ろした。

オペラは終止三人のやり取りを見ていた。
あの場に乱入して三人殺すことも考えたが、男と赤毛の女の身のこなしは見ただけで只者ではないとわかるものだったのでその案は実行しなかった。
どうやらこのままバラけることもなさそうだし次のチャンスを伺うことにしよう。
そう思い出口に身を翻したその時。
「そこのあんた!私が気づいていないなんて思っているのかい?両手を挙げてゆっくりこっちに来な!」
部屋の中から女の怒鳴り声が聞こえてきた。
(気づかれた?どうする?姿を見られてはいなそうだけど…。いや、ここはうまく近づくチャンスだわ。)
すばやく考えをまとめオペラは言われた通り両手を挙げながら部屋に入った。

89第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:26:48 ID:PszzqiYI
「あんた、あんなところで何をしてたのさ?」
ネルはオペラに問いただす。
オペラの側からは窓からの光で表情まではうかがい知れなかった。
「この建物を通りかかったときに声が聞こえたから気になって様子を伺ってたのよ」
「じゃあ、何でコソコソと隠れていたのさ?どこから見てたか知らないけど私たちはゲームに乗ったりしてる様子はしてなかったはずだよ」
「突然出てってもあなたたちを驚かすことになりそうだったからよ」
そういうとオペラは前髪をかきあげ額にある第3の目を見せた。
「こんな容姿をしているから特に疑われやすいのよ」
ネルは彼女の言い分に納得すると表情を和らげた。
「そうだったのかい。すまなかったね、いきなり脅かすような真似をしてさ。 こんなことになってるんだ警戒するに越したことないからね」
そう言うと銃口を下げオペラの方に歩み寄った。
オペラとネルの距離が2メートルぐらいになったその時、しばらく黙っていたアルベルが口を開いた。
「待て。その女が危険人物かどうかわかってねぇだろうが」
アルベルはネルを制止するとオペラにたずねた。
「お前はこの殺し合いをどう思ってる?」
「やってられるわけないじゃない。突然分けわかんないところに連れてこられて最後の一人まで殺しあえ?冗談じゃないわ!」
ここに来てからの彼女の行動は今の発言とは正反対だったが本心だった。
何も好き好んでミントを殺したわけではない。ただ愛する人の為そうするしかなかったのだ。
アルベルは尚も探るように問いかける。
「ほう、じゃあまだ人を殺したりしてねぇよな?」
「とっ当然じゃない。襲われたりしないかぎり好き好んで殺したりなんかしないわ。」
真実を言えば自分の立場が危うくなると思いとっさに嘘をついた。
「嘘をつくんじゃねえよ糞虫が!だったら何でてめえの荷物から血の臭いがしやがるんだ!?」
確かにミントを切り捨てた剣はバックの中にあるが、そんな臭いを嗅ぎ分けれるわけがない。
「そっそんなの言い掛かりだわ!」
「いいや、数多の戦場で人を、モンスターを切り捨ててきた俺の鼻がこの臭いを嗅ぎ違えるわけがねえ!その荷物の中身見せてもらうぜ!」
そう言うとアルベルは左手を伸ばしてオペラの荷物を掴もうとした。
その左手は荷物を掴むことは無かった。代わりに彼の左腕に焼けるような痛みが走った。
オペラが飛び退きざまに彼の腕を隠し持っていた剣で切りつけたのだ。
オペラの気配の変化を素早く嗅ぎ取ったアルベルは一瞬早く手を引いていたので手首を切断される事はなかった。
「やっぱり嘘をついていやがったのか、このまま俺たちと同行し隙を見て皆殺しにするつもりだったんだろ?
大方あの道で死んでた女を殺ったのもてめえの仕業だな。そんな太刀筋じゃあ不意打ちじゃなきゃ殺れねえもんな?」
アルベルは切られた左手の傷を舐めながら鋭い殺気を込めた眼光をオペラに向けた。
「アルベルよしな!その剣とてつもない魔力を持ってるよ。
3対1だけどまともにやりあえばこっちもただじゃ済まない。一旦退くよ!」
「はっ!この臆病者が!こんな糞虫潰すのなんざ素手で十分だ。 この糞虫に身の程ってやつを教えてやる!やる気がないならさっさとそのガキ連れて逃げな!」
「アルベルあんたねえ。」
臆病者という言葉にカチンと来たネルは言い返そうとした。
「もしかしてあの人私たちを逃がすための時間を稼ぐつもりかも。」
そんな二人の様子を眺めていた夢留がボソッとつぶやいた。
「なっ、ちっちげーよ!阿呆が!!お前らのためなんかじゃねえ!
足手まといがいても邪魔なだけなんだよ!いいからさっさと逃げろよ!」
思わぬ一言を耳にしてアルベルは少し動揺したように声を上ずらせて返した。
(今度はツンデレかい?忙しいやつだね)
ネルは少し呆れたがこの少女を危険にさらすわけにもいかないのでアルベルの言葉に従うことにした。
「わかった。好きにしな。けど、あんたみたいな奴でもルシファーを倒す大事な戦力なんだ。 こんな所で野垂れ死ぬんじゃないよ」
そう言い残すと夢留と共に窓から外に飛び出した。

90第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:27:29 ID:PszzqiYI
オペラは逃げる二人には目もくれずアルベルをじっと睨み付け剣を青眼に構えた。
対するアルベルは左手足を前に出し半身になりその右手に闘気を込めてオペラを睨みつけている。
(今の俺が出せる技で一番破壊力があるのはこれだ。乱発はできねえ、一撃で決めてやる)
アルベルは一足飛びで仕掛けられる間合いにするべく半歩踏み込んだがオペラも半歩下がった。
(太刀捌きは微妙だったが今の間合いの取り方といい、相手の動きを点で捉える目の動きといいこの女相当修羅場をくぐって来てやがるな)
そう思うと少し楽しくなりニヤリと口元を歪めた。
ルシファーを倒して以来アーリグリフ国内に彼に敵う者もいなくシーハーツとの戦争も終結し闘争に飢えていた。久しぶりのこの空気はやはり彼にとっては心地の良い物らしい。

しばらくお互い相手の間合いのギリギリのところで様子を伺っていた。
アルベルは相手の剣を受ける術を持たないので隙を探していた。
対するオペラは剣術のイロハも知らない素人、下手な小細工はできるはずも無い。
ただ手製のランチャーを振り回していたスイングスピードには自信があった。
相手が仕掛けてきた一瞬の隙に一太刀浴びせるつもりだ。
(この緊張感は心地良いがいい加減飽きたな。仕方ねえ仕掛けるか)
両足に力を込め床を蹴る。一気に間合いをつめオペラの剣がギリギリ届かない位置に着地した。
オペラはその着地の隙を逃さず一歩踏み込みつつ剣を振り上げ一気に振り下ろした。
その剣閃はアルベルの脳天をしっかりと捕らえていた。
「チィ」だがアルベルもその動きを見切り体を右にそらした。
危うく左肩から先が無くなる所ではあったがなんとかこの一撃を回避できた。
相手は隙だらけ、振り下ろした剣で二の太刀を打ち込んでくる気配も無い。
右手に渾身の力を込めオペラの左わき腹に拳を叩き込み同時に練り上げていた闘気を解き放った。
「吼竜破!」
アルベルが叫びと共に放たれた闘気は竜の形を成しオペラに襲い掛かった。
「かはっ」
オペラはそのまま反対側の壁に叩きつけられくぐもった声を上げた。
オペラは剣を杖代わりにして立ち上がろうとしたが、掌打を叩き込まれた左わき腹に激痛が走りそれはかなわなかった。
アルベルは確かな手応えを感じオペラに歩み寄る。
「その様子じゃあもう戦えないだろ、抵抗できない奴に止めを刺すのは主義に反するがてめえみたいな危険人物を生かしておくわけにもいかねぇ。
せめて一思いに殺してやる」
そう言うと再度右手に闘気を込めだした。
オペラは立てひざを突いたまま左手でジャケットのポケットを探った。
不審な動きをしたオペラを見てアルベルは「動くんじゃねえ!」と叫び、とどめの一撃をいれるべく飛び掛ったが遅かった。
オペラは一枚の札を取り出すとそれを掲げた。
オペラの体はまばゆい光に包まれその光がおさまる頃には姿は消えていた。

オペラは気がつくと氷川村すぐ近くの道端にいた。
彼女の窮地を救ったアイテム神速の護符はその手から消えている。
オペラの荷物に入っていた支給品のひとつだった。
(いざという時に使うつもりだったけどこんなにも早い段階で使うことになるなんて。
とにかく傷の手当をしないと、このままじゃあまともにやりあっても返り討ちが関の山だわ)
フラリと立ち上がるとまたもやわき腹に激痛が走り意識が飛びかけた。
剣を地面に突き刺し自身を支え呼吸を整えた。
「まだよ、まだ死ねないの。エルのためにもっと、もっと殺さないと…」
うわごとの様に呟くと沖木島診療所の方へ歩き始めた。

【I-07北部/昼】
【オペラ・べクトラ】[MP残量:100%]
[状態:右肋骨骨折:右わき腹打撲]
[装備:咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP]
[道具:???←本人確認済 +荷物一式*2]
[行動方針:参加者を殺し、エルネストを生き残らせる]
[思考1:怪我の治療をすべく診療所へ行く]
[思考2:誰かと遭遇しても不意打ちが確実に決まる状況で無いならスルー]

91第40話 続・止まらない受難(修正):2008/02/04(月) 01:28:39 ID:PszzqiYI
「ふう」
何とかオペラを退けたアルベルは一息ついた。
のどが渇いたので水を取り出そうとしたが、辺りには荷物が1セットしかなかった。
(あのガキちゃっかり自分の荷物持って行きやがって。)
水を取り出そうとバックに歩み寄るとバックが妙に膨らんでいるのに気づいた。
少し嫌な予感がしたので中身を確認するとそこには
〔こういうの好きなら私いらないからあげるね☆〕と書かれたメモとともにメイド服が出てきた。
「だからこんなもん好きじゃねぇー!!」
メモとメイド服を切り裂こうとしたが、生憎左手首の切り傷が痛んでそれは適わなかった。
メモを丸めて捨てると仕方がないので、かさばらない様にメイド服を綺麗にたたんでバックにいれた。
服をたたんでいる時ふと(俺なにやってんだろorz)と悲しくなった。

【I-07/昼】
【アルベル・ノックス】[MP残量:70%]
[状態:左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘には支障があり)]
[装備:なし]
[道具:メイド服(スフレ4Pver)+荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒す、基本的に単独行動するつもり]
[思考1:武器の調達]
[思考2:しばらく氷川村での散策を続ける]

「ここまで来れば大丈夫そうだね」
ネルはそういうと足を止めた。かなりの距離を走ったがほとんど息を切らせてなかった。
「はぁ、はぁ、ちょっ、ちょっと速すぎですよ〜」
方や夢留はネルに追いついていくのがやっとだった。
立ち止まったネルにようやく追いつくと、膝に手をつき肩で息をした。
普段は訓練された者達と走ることがほとんどなので、夢留が一般人ということをネルはうっかり忘れていた。
「大丈夫かい?あそこの木陰で少し休憩しようか」

二人は木陰に座わり互いの自己紹介を交わした後夢留はたずねた。
「ネルさんはこれからどうするつもりですか?」
「そうだね、私の知り合いにこいつをどうにか出来そうな奴がいるから探すつもりさ」
ネルは首につけられた爆弾を指しながら言った。
「じゃあ、私もついて行っていいですか?私の知り合いも何人かこの島に来てるみたいなんですけど宛てもないし…」
「私はかまわないけど、多分最後にはこの会の主催者との戦いになる。そうなれば最悪の場合返り討ちにあうかもしれないよ?」
「大丈夫ですよ。私こう見えても魔法が使えますから。きっと役に立って見せますよ」
「そうかい。じゃあ改めてよろしく頼むよ夢留」
「はい!」
そういうと二人はかたく握手を交わした。



【H−06/昼】
【ネル・ゼルファー】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔100/100〕@SO2]
[道具:????・????←本人確認済 +荷物一式]
[行動方針:仲間を探す(フェイトら文明人、ブレアを優先)]
[思考1:氷川村は危険かもしれないので平瀬村にて仲間の捜索]

【H−06/昼】
【夢留】[MP残量:100%]
[状態:疲労]
[装備:なし]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ネルについていく]
[思考1:ネルについていく]
[思考2:アルベルって人大丈夫かな?]

92名無しのスフィア社社員:2008/02/04(月) 03:08:51 ID:TWshJP1U
確認しました
個人的には喉乾いた、じゃなくて傷の手当の方が良いと思います
あとメイド服は置いておいて手首の治療を先にした方が…
戦闘に支障がある程の傷治療しないでメイド服を畳むのは不自然かな…と

93 ◆90i6FhrsRM:2008/02/25(月) 22:47:06 ID:vt7k7VYw
二回目の放送が終わってから一時間程経過した頃には、プリシスとアリューゼは目的地である氷川村に到着していた。
道中、放送を聞く為に立ち止まることもあったが、それ以外には特に問題も起こらず順調に進んでいる。
強いて問題を挙げるとしたら、二人とも放送で知り合いの名が呼ばれたことにより、口数がちょっとだけ減ったくらいである。

「少しいいか?」
アリューゼは背負っていたデイパックを地面に下ろしながら呟いた。
ランタンを取り出して火を灯す。この手の道具の扱いには慣れているのか、作業は本当に少しで終了した。
「へ〜、見かけによらず器用なんだ。でもさぁ、別に明かりは必要なくない?」
辺りは暗くなってはいるものの、別に彼らは明るい場所から急に暗い場所へ行った訳ではない。既にこの暗さに目が慣れている。
おまけに、今夜の月はとても明るかった。まさに月夜に提灯ならぬ月夜にランタンである。
「ああ、別に夜道を歩く分には必要ないな」
「? じゃあ何で?」
「そうだな……この村を良く観察してみな。普通の村の風景と比べると、何か違和感を感じないか?」
プリシスは言われた通り村を観察すると、確かに何かが違和感を感じた。ただ、その正体までは分からない。
「ヒント、今は夜。ただし暗くなってはいるが、時刻はまだ7時」
このヒントを聞いて、プリシスはやっと違和感の正体に気づいた。
「あっ! 明かりがついてる家が一つもないんだ!」
その答えに満足したのか、アリューゼは僅かながら笑みを零す。
「その通りだ。この島には住人のいない、住人のいない家に明かりなんてつく筈がない。逆に言えば……」
「明かりがある場所には誰かがいるってことね」
アリューゼは頷くと、左手で持っているランタンをプリシスに見せるように少し持ち上げた。
「そうだ。つまりこいつは夜道を歩く為の照明じゃねえ、他の奴らを誘き寄せる為の餌って訳だ」
「う〜ん……でも、それって危なくないの? ゲームに乗った人たちも呼んじゃうじゃない」
「別に構いやしねえよ」
構わないという発言に対し、プリシスは何か言おうとしたが、
「むしろ、本命はアシュトンって奴だ」
アシュトンの名を出されて言葉が詰まる。
「お前、そいつに言いたいことがあるんだろ? 話すチャンスくらいはくれてやる」
「…………」
「ただ、聞く耳を持たなかった場合は容赦はしねえぞ。こっちも仲間を殺されてるんでねえ、そいつを殺す理由はあるんだよ」
プリシスは無言で頷いた。それを確認すると、アリューゼは右手を差し出して声をかける。
「分かったならさっさと動くぞ。取り敢えずお前もランタンを出せ。点けてやるから」
「いいよ、それくらい自分でやるから!」
そう言ってプリシスはランタンを弄り出した。ランタンの明かりは直ぐに点いた。点灯までの時間はアリューゼの時より遥かに早い。
「準備オッケー! さ、早く行こうアリューゼ」
アリューゼは無言で頷き、二人並んで歩きだした。



94 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:51:57 ID:vt7k7VYw


暗い部屋の中で、アルベルはこれからの人生に関わる(かもしれない)問題を前に頭を抱えていた。
その問題の発生源は、同じ部屋にいる猫耳メイドだ。いや、正確には猫耳メイドがいることが問題なのではない。
猫耳メイド【レオン・D・S・ゲーステ】性別♂。アルベルはこのレオンの姿を見て、思わず「可愛い」と思ってしまった。
彼はこのことを、男として踏み込んではいけない領域のように感じていたのだ。
(落ち着け。俺はこんな餓鬼を見て「可愛い」なんて考える奴だったのか? 断じて否ッ!)
……別に、可愛いものを可愛いと思ってはいけないなんてことはないのだけど。
「アルベル」
「うおっ!?」
そんなくだらないことを考えているとき、突然後ろから名前を呼ばれた。振り返った先にいたのは、先ほど寝たはずのディアスであった。
「お前、寝たんじゃなかったのか」
「どうも寝付けなくてな。そんなことより、お前に貸して置く物がある」
ディアスは右の拳を差し出す。その拳をゆっくりと開くと、中には小さなピアスが一つだけあった。
「あん……ピアス?」
「着けてみれば分かる。左耳にな」
アルベルは言われた通りにピアスを身に着ける。すると不思議なことに、視野が広がり感覚が研ぎ澄まされたではないか。
「な、何だ!?」
「魔眼のピアス。見張りには持って来いだろう?」
確かに便利な道具だとアルベルは思った。だが、直ぐに疑問が浮かぶ。
「おい、こんな便利なもんがあるならさっさと出せよ」
ディアスはアルベルに一枚の紙切れを見せる。魔眼のピアスの説明書だ。
「先程も言ったが、寝付けなくてな。荷物整理をしていてたまたまこれを見つけた。……このピアスは俺の物ではない。後で必ず返してくれ」
「成程、お前の物じゃないってんなら仕方ない。分かったからお前はおとなしく寝て……ん?」
会話の途中にも関わらずにアルベルは、魔眼のピアスにより研ぎ澄まされていた感覚のお陰であることに気づき、急いで窓際へ移動する。
窓から外の様子を窺うと、夜の暗がりの中に浮かぶ二つの明かりを見つけた。
「どうした?」
「見てみな、どうやら間抜けがいるようだぜ」
その明かりをディアスも確認するが、彼は怪訝な表情を受けべる。
「……罠じゃないのか?」
「んなもんどっちだって構わねえ。誰かいるってんならやることは一つだろ。丁度剣の試し切りもして置きたかったところだ」
アルベルはピアスを外すと、ディアスに投げ渡した。
「おい、待てアルベル!」
「ここはお前に任せた。話の分かる相手だったらここに連れてくる、そうじゃないなら殺す。これで構わないよな?」
アルベルは返答も聞かなで、玄関を潜り明かりの方へ駈け出した。
ディアスは慌てて後を追いかけてアルベルを引き留める。彼の怪我した左肩に掴みかかって。
「〜〜〜〜ッ!!! てめぇ、何しやがる!」
「悪い、わざとじゃないんだ」
絶対わざとだろ! と言おうとしたが、ディアスの話がそれを遮る。
「相手が誰であれ、ゲームに乗っている者なら思う存分暴れて構わない。それが例えアシュトンだとしてもだ。だが、もしプリシスだったときは少し待って欲しい」
「? 何でだ?」
「お前は、プリシスのことはアシュトンから聞いたのだろう? しかし、俺もお前もプリシス本人には会ってはいない。つまり……」
「つまりあれか、そいつはゲームに乗ってない可能性もあるから様子を見てから攻撃しろってことか?」
「ああ、その通りだ。付け加えるなら、出来るだけ彼女を仲間に引き入れたいという理由もある。彼女の持つ技術は有用だ」
アルベルは少し考えてみた。確かに不確定な情報で動くのは愚の骨頂だ。実際、見た目だけでゲームに乗った者扱いされた彼には特に良く理解できる。
「ちっ、しゃーねえな。だが、そいつが本当にゲームに乗っていた場合は容赦しないからな」
そして、アルベルは駈け出して行った。

95 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:52:47 ID:vt7k7VYw
残されたディアスは、家の中に戻り、荷物の前で腰を下ろす。
(当初の予定とは違ったが、あの男を引き入れて置いて正解だったな)
元々アルベルは自分たちの用心棒として雇ったのだ。他の参加者を見つけてわざわざ接触に向かうなど想定の範囲外だ。
だが、ディアスはそれでも構わないと考えていた。
他の参加者と出来るだけ情報交換をして置きたい。その役目をアルベルがやってくれるなら、その間にレナたちを危険に晒すこともない。
仮に相手がゲームに乗った者だとしても、自分たちから離れた位置で戦ってくれるなら、こちらに被害が及ぶ可能性は低いだろう。
相手のスタンスが分からない内から、自分たちの寝床を話すほどアルベルも馬鹿ではない……と思いたい。
(問題は、俺がどこまでやれるのか……か)
荷物から三本の刃を取り出し、腰に差す。
そうなのだ、一人でレナとレオンの二人を守り切るのが難しいだろう。その為にアルベルを雇ったのだ。
だけど、アルベルを引き留めず敢えて行かせた。なら、自分が弱音を吐くわけにはいかない。二人は何があっても守り切らなければならない。
ディアスは一度大きな溜息を吐くと、魔眼のピアスを身に着けてからソファーに腰を下ろす。
そのとき、ピアスの力で鋭くなった感覚の中で、何か違和感を感じた。
「…………?」
より集中して違和感の正体を探ってみる。答えは直ぐに分かった。周囲に人の気配が三つあったのだ。今この部屋にいるのは、自分を除いて二人。
ではもう一人は誰だ。アルベルが戻って来たのか? と考えたが、この三つ目の気配からは、次第に敵意のようなものが感じられるようになってきた。
そしてこの気配を見つけてから数秒後、これもピアスの力なのか、ディアスの頭にハッキリと警報が鳴り響く。『敵襲』とけたたましく。
次の瞬間、彼の頭上――この家の天井が砕け、巨大な白い光弾が飛び込んで来た。



「ねえアリューゼ。今気づいたんだけどさぁ」
「ん……どうした?」
氷川村で“夜釣り”を始めてから数十分が経過した頃、プリシスが突然声をあげた。ちなみに夜釣りの成果は未だない。
「わざと目立つならさ、てきと〜な家に明かりを点けて、そこで誰かが来るのを待ってた方が楽じゃないの?」
それを聞いたアリューゼは、呆れたような表情を浮かべる。
「確かに楽だけどよ、家に明かりが点いてるってのは流石に怪しすぎるだろ。それじゃあ誰も近寄ってこないぞ」
「何でよ?」
「そりゃあ罠に見えるからに決まってんだろ。こうやって明かりを持ちながら歩くのと違ってな、本当に人がいるのか分からないんだ。多少の面倒は我慢しろ」
返答を聞いたプリシスは、頷きながら溜息を吐いた。
「う〜ん、人を誘き寄せるってのも大変なんだね」
疑問が解決したところで、二人は再び歩き出す。人を探す為に。そして、その目的はあっさり達成されることとなる。
「それで、お前らは人を誘き寄せて何しようってんだ?」
知らない男の声。アリューゼは、直ぐに声のした方にランタンを向ける。その際、プリシスを自分の後ろに下がらせることも忘れない。
ランタンの明かりに照らされたその男は、やたら露出の多い服を着ていた。そして、絵にかいたような悪人面であった。

96 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:53:51 ID:vt7k7VYw
「質問に答えな。何をするつもりなんだ?」
悪人面の男――アルベルは、睨みを利かせながら再度二人に問う。彼の右手は、腰に差している剣の柄に添えられており、直ぐにでも抜刀出来る状態だ。
「何って――アリューゼ?」
「プリシス、お前は下がってろ」
質問に答えようとしたプリシスを、アリューゼは右腕で制した。アルベルは確かに悪人面に見えたが、質問の内容はゲームに乗った者のするものではない。
だが、警戒に越したことはない。それがアリューゼの判断であり、その判断は決して間違いではない。いや、正解と言えるだろう。
しかし、もしここでプリシスが彼の質問に答えていれば、もしアリューゼが彼女の名前を出さなければ、ここから先の出来事は、大きく変わっていたかもしれない。
「プリシス……だと?」
アルベルはその名前を知っていた。彼と対峙した、龍を背負った男の言っていた名前。ディアスが言っていた名前。ゲームに乗った可能性がある者の名前。
先ほどこの二人が話していた「人を誘き寄せる」という言葉により強めていた警戒の度合が、この名前を聞いた途端一気に跳ね上がった。
「成程、龍を付けた阿呆の言ってたことは、強ち間違いではないようだな!」
叫びと共に腰の剣を抜き放つと、そのまま彼独特の構えを執る。
「龍……もしかしてアシュトンのこと!」
「下がってろと言ったはずだッ!」
アリューゼはプリシスに怒鳴りつけた後、鉄パイプを取り出し、臨戦態勢に入った。この男の目的は分からないが、相手剣を抜いた以上当然の行動だ。
「アシュトン? ああ、そんな名前だったな。だが、そんなことはどうでもいい。一応、お前は直ぐに殺すなと言われてるが……どうするべきかなぁ?」
アシュトンを知っている。プリシスは直ぐには殺すなと言われた。彼の言葉から分かったことはこの二つ。
ジャック・ラッセルの証言から、アシュトンの目的が「プリシスの望みを叶える為」ということは分かっている。
このことから、アシュトンがこの男に「プリシスは殺すな」と言われただろうということは、容易に想像できた。
こんなことをアシュトンから言われるような男なのだ、この男もアシュトン同様ゲームに乗っている可能性が極めて高いだろう。何より悪人面だし。
「……殺る気があるのかないのか聞いてるんだよ」
アリューゼは、アルベルを睨みつけたまま構えを解かない。それをアルベルは「殺る気がある」という意思表示と受け取った。
男二人は、睨み合ったまま動こうとしない。二人とも数多くの修羅場を潜って来た兵だ。下手に動ける訳がない。
しかし、少女を一人蚊帳の外にしたまま行われている睨み合いは、本人たちには予想外の出来事で、
アルベルの後方、割と近い場所から発生した光と轟音によってで終わりを迎えた。

97 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:54:29 ID:vt7k7VYw
「――――ッ!!」
先ほどまで自分のいた場所から、未だ彼の仲間がいるはずの場所から聞こえてきた音に、アルベルは一瞬気を取られてしまった。
その一瞬の隙をついて、アリューゼはアルベルに猛進する。
「くッ!」
不意をつかれた形となったアルベルだが、相手に向けて慌てずに剣を振う。
だが、その動きを読んでいたアリューゼは、その巨体に似合わぬ軽やかな動きでアルベルの背後に移動する。彼の世界では『ダーク』と呼ばれる戦闘技術だ。
アルベルは慌てて後ろに振り返るが、既に目の前には、回転を加えられた強烈な裏拳が迫っていた。
「グァッ!」
短い呻きと共に、アルベルの体は右方向へ吹っ飛ばされる。アリューゼは、それを見送る何てことはせずに、追撃を加える為再度突進する。
進路上に赤い靄が掛かっていることに気づかないで。
「ッ! な……んだとぉ!?」
靄に触れた途端、アリューゼに肉体的でなく精神的な負荷が幾度となく襲いかかる。
(ふん……意外と上手くいくもんだな)
アルベルは、吹き飛ばされながら魔掌壁を放っていた。
それも、普段この技に使用する左手ではなく剣を握ったままの右手でだ。これには、上手く使用出来たことに本人も少し驚いているくらいだ。
兎に角追撃は妨害出来た。口の中に溜まった血を吐き捨てながら立ち上がる。吐き出された血には白い固形物、即ち歯も混ざっていた。
(それにしても、一体何があった? あいつらが襲撃されたってのか?)
彼は魔掌壁によって出来た僅かな時間で考える。あの時の轟音は、まず間違いなく自分がいた民家の方から聞こえてきたものだ。
とすると、考えられる中で一番可能性が高いのは、あの民家が何者かに襲撃されるということだ。
(この阿呆共を放って置く訳にはいかないが……用心棒を頼まれている以上、あいつらを助けに行くべきだろうな)
結局彼は、ディアスたちを助けに行くことを選択する。
最悪の場合、この二人に向こうの襲撃者を加えた数を自分一人で相手にすることになるのだが、それこそ望むところだった。
そうと決めたら早速動かなければ。魔掌壁もそろそろ効果がなくなる頃だろう。
アルベルは民家の方へ向かおうとするが、突然飛来して来た光弾が、彼の足下にある土を抉り取った。
「動かないで!」
「……あん?」
完全に蚊帳の外だった少女からの攻撃に驚き、そちらに顔を向けると……先ほどとは別の意味で驚かされた。
少女が自分に向って銃を構えていた。別に銃を向けていたことに驚いたのではない。その銃に見覚えがあったのだ。
(あれは、確かネルが使っていた……)
彼はこの銃を突き付けられたことがあった。つまり目の前で見たことがあるのだ、間違える筈がない。
では、何故その銃をこの少女が持っているのか? その答えは考えるまでもなかった。いや、この銃のお陰で答えに辿り着いたと言える。
アシュトンはこの少女がゲームに乗ったと言っていた。ネルの名前は先の放送で呼ばれている。そして、この少女はネルの獲物を持っているのだ。
そこから導き出される答えは一つ――
「ハハ……成程、お前たちが殺ったのか」
「動かないでって言ったでしょ!?」
プリシスがまた警告を口にするが、アルベルはまるで聞いちゃいない。
魔掌壁から解放されたアリューゼが、プリシスに駆け寄っている姿も目に入ってはいるが、完全に無視だ。
ディアスたちを助けに行こうとしていたことも、今この瞬間は忘れてしまっていた。本人に自覚はないだろうが、今、彼の脳内を満たしているものそれは、
「見逃してやらなくて正解だった……死ねッ! クソ虫ッ!!」
仲間を殺した者への怒り。ただそれだけであった。



98 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:55:00 ID:vt7k7VYw
僅か数秒前までの綺麗に整えられた部屋は、今は瓦礫に覆われて見る影もない。天井には穴が空いており、そこから月明かりが漏れている。
そんな状態の部屋で、ディアスは少年に声をかけながら必死に揺さぶっていた。
「レオン、おいレオン、起きろレオン!」
「ん……あ……」
うめき声が聞こえた。どうやら意識戻ったようだ。
「レオン、俺のことが分かるか?」
「え……ディアス……お兄ちゃん?」
どうやら、寝起きの割には意識もはっきりしているようだ。ディアスは安心して大きく息を吐く。
「ああ、そうだ……立てるかレオン?」
「うん、大丈……あれ?」
左腕を使って立ち上がろうとしたが、上手くいかずに倒れてしまう。ディアスはそれを見て慌てて支える。
「そういえばお兄ちゃんどうして……そうだ、確かルシファーって奴に殺し合えって……」
「残念だがその殺し合いはまだ続いている。詳しく状況を教えてやりたいところだが、今は時間がない」
ディアスは一枚の地図をレオンに手渡す。そこには、丸印が一つとバツ印が六つ記入されていた。
「いいかレオン。今俺たちはこの丸印の場所、つまり氷川村にいる。そして、バツ印は禁止エリアの位置だ。ここまではいいな?」
レオンが頷くのを待ってから、ディアスは話を再開する。
「その内、H-07は既に禁止エリアとなっている。そして、今から約二時間後にI-07が禁止エリアとなる。
 今からお前には、レナを連れてI-07を通過し、I-08へ行ってもらいたい」
「ええ!! ちょっとどういうこと? って言うかレナお姉ちゃんいたの?」
どうやらレオンは、今になって自分の隣にレナが寝かされていることに気づいたらしい。まあこの暗がりではしょうがない。
「だから時間がないと言ったのだ。詳しいことは、レナが起きた後彼女から聞いてくれ」
「レナお姉ちゃんは起こさないの?」
「ああ、今は起こす訳にはいかない。それと、俺もお前たちとは一緒に行けない」
レオンは抗議の声を上げようとするが、ディアスはその行動をさせない。護身刀“竜穿”を引き抜くと、それをレオンの眉間に突き付ける。
「いいから言うことを聞け! 正直に言おう、お前たちは足手纏いだ。俺にはそんな奴を連れ歩く余裕はない」
抗議をしたくても、剣を向けられては出来る筈がない。レオンは、ただ黙ってディアスを見つめることしか出来なかった。
その僅かな沈黙の中、彼はディアスの頭から血が滴り落ちていることに気づく。
「あ……ディアスお兄ちゃん、血が……」
ディアスは、空いた手で血を拭ってから、静かに語り出した。
「言った筈だ、殺し合いはまだ続いていると……今、この周辺にはゲームに乗った奴がいる。
 お前たちには万が一のときにそなえて、そいつが移動できない場所……禁止エリアの向こう側へ移動して欲しい」
「なっ……馬鹿にしないでよ、僕だって戦え「では、だれがレナを守るのだ」……あ」
反射的に隣にいるレナを見る。彼女は未だに目を覚ます気配がない。
「もし俺が敗れたとき、お前はレナを守りながらそいつと戦えるのか?」
「…………」
「それに、お前は俺と違って戦いだけした能がない者ではないのだぞ。お前は戦いのことではなく、その頭脳でこの状況を打開する方法を考えろ。
 俺のような人間は、お前たちのような人間の邪魔となる者を出来る限り排除する。そうするべきではないか?」
それを聞いてレオンはハッとした。そうなのだ、自分の役割は首輪を外してこの殺し合いを終わらせることなのだ。断じて自ら戦いを挑むことではない。
「分かったよ、言う通りにすればいいんでしょ」
ディアスは肯定の言葉を聞くと、二人の出発準備に取り掛かる。レオンにレナを背負わせ、さらに落ちないようにシーツを使って固定する。
デイパックは、嵩張らないよう一つにまとめてから持たせた。取り敢えずこれで準備は終了。
比較的損傷の少なかった窓を開け、そこから外へ出る。
「言われるまでもないとは思うが、制限時間は約二時間だ。辛いとは思うが、頑張ってくれ」
「うん……お兄ちゃんも死なないでね」
「心配するな。さあ、もう行くんだ」
ディアスに促され走り出すレオン。その姿を最後まで見送ることもぜずに、ディアスもまた走り出した。目的は、勿論自分たちを襲撃したものを倒す為。
彼は襲撃された瞬間、自分に支給された三つ目の道具『セフティジュエル』を使用していた。
この道具の効果が説明道理なら、敵は動けずにいる筈だ。レオンを逃がす時間を作れたのもこの道具のお蔭である。
そして、予想道理家の近くで固まっている人物を見つけるが、ディアスはそれを見た瞬間大きな舌打ちをしていた。

99 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:55:32 ID:vt7k7VYw
屋根の一部が崩れ落ちた民家、その前に男が一人立っていた。その男は、半壊した民家を、自分の手で起こした破壊の跡を見上げて渋い表情をしている。
(サザンクロスでさえ……この程度の破壊しか出来ないか)
この男――ガブリエルは、潜伏先が禁止エリアとなった為、新たな潜伏先を探すべくこの村へやって来ていたのだ。
村に到着後直ぐに、ガブリエルは二つの小さな明かりを見つけた。それが何だかは知らないが、積極的に係る気はなかった。
今の彼の状態は酷いものであり、おまけに魔力も残り少なかったからだ。しかし、その明かりの正体くらいは確認しよう考え、暗視機能付き望遠鏡を取り出す。
そして、明かりの方を見ようとしたところ、明かりを見る前にそれとは別の二人組を見つけてしまったのだ。二人組の内、片方は彼もよく知っている相手である。
暫く見ていると、知らない方の男は何処かへ走り去り、知っている方の男は近くの民家に入って行った。勿論彼らはガブリエルに気づいていない。
ガブリエルはこれを好機と考えた。相手の潜伏先が分かっているなら、その家を外から破壊してしまえばいい。運がよければそれだけで相手を殺せるかもしれない。
仮に相手に手傷を負わすことすら失敗しても、瓦礫となった家からは直ぐに出て来れないだろう。つまり、撤退に必要な時間は十分に取れると考えていたのだが、
(今の状況も……上手く行かないものだ)
ガブリエルは、今になって見上げるのを止めて体の向きを変えた。彼は、攻撃後から今にいたるまで一歩も動いていなかったのだ。っていうか、動けなかった。
理由は分からないが、サザンクロスを放った直後から、まるで金縛りにあったように動けなくなってしまったのだ。
そして今、漸く動けるようになったにも関わらず、彼の表情は相変わらず厳しいものだった。
目の前には、自分が先ほど攻撃をした男――ディアスが、その殺気を隠そうともせずに立っていたのだ。
「ガブリエル……貴様だったのか」
「……愚かな。どんな手を使ったかは知らないが、逃げておけばよかったものを」
ディアスは、腰に差した咎人の剣の柄を握るとそれを勢いよく引き抜いた。


【I-06/夕方】
【アルベル・ノックス】[MP残量:90%]
[状態:怒り、左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘に支障あり)、左肩に咬み傷(応急処置済み)、口内出血、左の奥歯が一本欠けている]
[装備:セイクリッドティア@SO2]
[道具:木材×2、荷物一式]
[行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法? 知るか!]
[思考1:まずはこの二人(プリシスとアリューゼ)を殺す]
[思考2:傷を治してもらうまでディアス達の用心棒をする]
[思考3:後方で何が起こっているのか気になる]
[思考4:龍を背負った男(アシュトン)を警戒]
[現在位置:I-06 町中]
※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:不安、アシュトンがゲームに乗った事に対するショック]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔25〕〔25/100〕@SO2]
[道具:ドルメラ工具セット@SO3、????←本人&アリューゼ確認済み、首輪、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを打倒]
[思考1:目の前の男(アルベル)に対処する]
[思考2:氷川村で情報収集]
[思考3:仲間、ヴァルキリーを探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[思考5:どこかで首輪を調べる]
[現在位置:I-06 町中]

【アリューゼ】[MP残量:70%]
[状態:正常]
[装備:鉄パイプ@SO3]
[道具:????←本人&プリシス確認済み、荷物一式]
[行動方針:ゲームの破壊。ルシファーは必ず殺す]
[思考1:目の前の敵(アルベル)を殺す]
[思考2:プリシスを守る]
[思考3:氷川村で情報収集]
[思考4:ジェラードとロウファの仇を討つ。二人を殺した者を知りたい]
[思考5:必要とあらば殺人は厭わない]
[思考6:ヴァルキリーに接触]
[現在位置:I-06 町中]

100 ◆MJv.H0/MJQ:2008/02/25(月) 22:56:08 ID:vt7k7VYw
【ガブリエル(ランティス)】[MP残量:25%]
[状態1:右の二の腕を貫通する大きな傷(右腕使用不可能)、右肩口に浅い切り傷、太腿に軽い切り傷、右太腿に切り傷]
[状態2:左腕をはじめとする全身いたるところの火傷と打撲]
[装備:肢閃刀@SO3、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界]
[道具:セントハルバード@SO3、ボーガン+矢×28@RS、暗視機能付き望遠鏡@現実世界、????×0〜2、荷物一式×4]
[行動方針:フィリアの居ない世界を跡形も無く消しさる]
[思考1:ディアスに対処。ただし無理はしない]
[思考2:参加者が減るまで適当な家に潜伏する。潜伏先に侵入者が現れた場合は排除する]
[思考3:体の傷を癒す]
[現在位置:I-06 町中]

【ディアス・フラック】[MP残量:100%]
[状態:頭部流血]
[装備:咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、護身刀“竜穿”@SO3]
[道具:クォッドスキャナー@SO3、どーじん@SO2、どーじん♀@SO2、ミトラの聖水@VP、荷物一式(照明用ランタンの油は2人分、水は未開封3本)]
[行動方針:ゲームに乗った参加者の始末]
[思考1:ガブリエルはここで確実に仕留める]
[思考2:アルベルと合流。約束を破ったことを謝る]
[思考3:アシュトンとプリシスを警戒]
[現在位置:I-06 町中]
※ディアスの3つ目の支給品はセフティジュエル@SO3でした。
※荷物一式×3はディアス達のいた民家(半壊)に放置されています。

【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%]
[状態:左腕に違和感(時間経過やリハビリ次第で回復可能)]
[装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3]
[道具:幻衣ミラージュ・ローブ、どーじん、魔眼のピアス(左耳用)、小型ドラーバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式×2]
[行動方針:首輪を解除しルシファーを倒す]
[思考1:ディアスに言われた通り移動する]
[思考2:首輪、解析に必要な道具を入手する]
[思考3:信頼できる・できそうな仲間やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む]
[思考4:レナお姉ちゃん重い……]
[備考1:首輪に関する複数の考察をしていますが、いずれも確信が持ててないうえ、ひとつに絞り込めていません]
[備考2:白衣、上着は血塗れの為破棄。自分がメイド服を着ていることに気づいていません]
[備考3:第二回放送は聞き逃しましたが、禁止エリアについては知っています]
[現在位置:I-06 町中]

【レナ・ランフォード】[MP残量:10%]
[状態:精神力枯渇が原因で気絶中]
[装備:無し]
[道具:無し]
[行動方針:仲間と一緒に生きて脱出]
[思考1:?]
[現在位置:I-06 町中]

101もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:34:00 ID:QcFZTHrE


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「う、ううん…」
体が痛い。頭の中が朦朧としている。
だがこうして意識を保っているという事は、僕は無事なのだろうか?
「目が覚めた?」
マリアさんの声がする。
そうか。マリアさん、無事だったのか。
僕もこうして生きているって事は、あの男から逃げることが出来たのか…。

痛む頭を抑えながらクレスは起き上がった。
どうやら森の中のようだ。あの男に襲われた時、最後に力を振り絞って空間翔転移を放ったのは覚えているのだが…。
その後の記憶は全く無い。
既に周囲は暗くなり始めている。随分長い時間気を失っていたようだ。
「マリアさん、大丈夫でしたか?」
近くにいたマリアに話しかける。
「ええ、私は大丈夫。クレス君の方が遙かに重傷よ。自分の体を心配しなさい」
「あ、すいません」
「別に謝る事じゃないんだけど」
マリアはそう言うが、クレスは歯痒い思いだった。
ミントの死に動揺して、マリアを危険な目に合わせて。
結局襲ってきたあの男を倒すことも叶わず、離脱できたのはいいがここまでずっと気を失っていたなんて…。
(情けないな…)
自分は何をやっているのだろう。何がアルベイン流剣術師範代だ。何が時空剣士だ。
女性一人も、愛する人も守れずに。
「クレス君」
俯くクレスにマリアが話しかける。
「あまり自分を責めるのは止めなさい。少なくとも、私は貴方に命を助けられたわ。貴方もまだ生きている以上、出来ることがある筈よ。
今は落ち込んでる暇なんて無いわ。後悔するのはルシファーを倒してからにしなさい」
ピシャリとそう言い切るマリア。
クレスは無意識の内に思わず「は、はい」と返事をしてしまった。
どうもこの人には逆らえない。彼女が自分の母親と同じ名前である事も原因かもしれないが。
「ところで…僕はどの位気を失っていたんですか?もう結構遅い時間のようなんですけど…」
「大体4時間程度かしら?クレス君が目を覚ます少し前に二回目の放送があったから」
「放送が…!?」
クレスの顔に動揺の色が浮かぶ。
また誰か仲間の名前が呼ばれたのではないか。そう考えると気が気でない。
「安心して。クレス君の仲間の名前は呼ばれていないわ」
そんなクレスの心情を察したのか、マリアはそう前置きした。
そしてこれまでの経緯…自分達が転移した後、ボーマンという薬剤師に助けられた事などを話した後、放送内容を語った。

102もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:35:03 ID:QcFZTHrE
「これで26人…もうそんなに…」
確かに死亡者の中にクレスの仲間の名前は無かった。むしろ敵であるジェストーナの名前が呼ばれたのは朗報だ。
人質を取ったりと卑怯な手を使う奴だ、この殺し合いにも乗っていたに違いない。
実際は強敵を倒すために自ら犠牲になったなど思いもしないだろう。
しかしチェスター達が無事なのは良かったが、命を落としてしまった13人の人達の事を考えると手放して喜ぶことはできない。
それに…。
「マリアさん…」
「どうしたの?」
「その…ロジャー君って子とネルさんという人は…」
そう、ロジャーとネル。放送で呼ばれたという彼らはマリアの仲間だったはずだ。
だがマリアには悲しんでいる様子はほとんど無い。
「私の事は心配しなくてもいいわ。それにお互い敵対していた人物も死んだようだし、悪い事ばかりじゃないわよ」
「…」
悲しくないんだろうか?
いや、仲間が死んだのだ。幾らなんでも全く平気という訳では無いだろう。
そこまで冷酷な人とも思えないし、きっと心の中では――。

「もし自分の仲間が命を落としたとしても、それに耐える事ができる?」

マリアと会った時に聞かれた質問を思い出す。
あの時自分は「耐えてみせる」と言った。それなのにこのザマだ。
恐らく耐えているであろうマリアに申し訳が立たない。
あの時自分が言った事を思い出し、クレスは今一度決意を固めた。
ルシファーを倒すまで、絶対に自分は挫けないと。


「それじゃ悪いけど、すぐに移動を開始するわ」
「今からですか?」
「ええ、平瀬村へ向かうわよ。これから夜になって見通しが悪くなるし、いつまでも森の中へいるのは危険だわ」
「分かりました」


こうして二人は歩き出した。
森の中は見通しが悪く危険なため、注意深く辺りを見渡しながら進んでいく。
程なくして、二人は平瀬村まで到達した。

「どこか村内で拠点になりそうな所を探しましょうか」
「そうね。でも村は他の参加者に会える可能性も高いけど、敵も多く集まってくる可能性もあるわ。今まで以上に警戒するつもりでね」
特にクレス君は怪我もしてて武器も無いから特に用心する事」
「大丈夫ですよ。これでも少しは体術もできますし、武器が無くても多少は戦えます」
「そう。でも怪我をしてるのは変わらないのだから無理は禁物よ」
周辺は完全に闇に包まれている。ランタンなどを使えば多少明るくなるが、それではマーダーなどがいたら格好の獲物にされてしまう。
道を歩いていけば迷う事はないし、このままでいるのが得策だろう。
そして歩き始めて数分。

「クレ、ス…?」

103もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:36:33 ID:QcFZTHrE
背後からした少女の声にクレスは振り向く。
そこにいたのは、共に旅をした頼もしい仲間の一人。
底抜けに明るくて、パーティーのムードーメーカーだった少女。
アーチェ・クラインだった。

「アーチェ!無事だ…」
「クレス!クレスゥゥーー!!」

クレスが何かを言おうとする間も無く、アーチェは彼の下へと飛び込んできた。
「ちょ、ちょっと、アーチェ…」
「クレス…あ、あたし…ああ、あたし……!」
狼狽えるクレスだが、アーチェはそれをお構いなしといった風にクレスに抱きついたまま泣きじゃくった。
「…知り合い?」
背後からマリアが聞く。
「は、はい。僕の仲間です。アーチェといって…」
クレスはしどろもどろになりながら答えた。
そしてその最中、立て続けに再会が訪れる。

「クレス!」

聞こえた声の主は、頼もしい親友のものだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

104もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:37:12 ID:QcFZTHrE
『残った36人で張り切って殺し合ってくれたまえ…。フフッ、フハハハハハッ!』
ルシファーがそう言って二回目の放送は終わった。
午前中と同じく13人もの死者が出るなか、自分の知る名前が出なかったのは幸運だ。
だが喜べるわけがない。
犠牲者の中には子供や、戦う力の無い者がいたかもしれない。
そして今こうしている間にも命の危機に瀕している者がいるかもしれないのだ。
現にボーマンの話によると、クレスは怪我が酷いらしい。誰か、殺し合いに乗った奴と戦ったのだろうか?
「あのオッサンの話だと、この辺にいる筈なんだけどな…」
E−2の森までやって来てクレス達の姿を探すが、彼らを発見する事は出来ない。
その内に周囲は暗くなって、数m先も見るのが困難になってきた。
「もしかしたら、もう移動した後なのか?」
有り得ない話ではない。ボーマンは彼らと会ったと言ったがいつ会ったかは言っていない。
もしかしたら怪我も多少回復してどこかへ移動したという可能性も否めない。
チェスターは地図を広げ、もう僅かになった空の明かりを頼りにそれを見る。
「この周辺で移動しやすい箇所っていうと…やっぱ平瀬村だよな」
もし二人が移動済みだとしたら、やはりすぐ近くの村へ向かったと考えるのが妥当だろう。
元々平瀬村へ向かう予定だったのだ。それに運が良ければ昼間会ったルシオという男に再会できるかもしれない。
放送で名前が呼ばれてないのなら、彼もまだ生きている筈だ。


そしてやって来た平瀬村で、チェスターはクレスと再会する事となる。
しかも、彼だけでなく。

「アーチェ…お前も無事だったか!」

もう一人の大事な仲間とも。

105もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:38:09 ID:QcFZTHrE
良かった、本当に良かった。
ダオスを倒してから、一体どれほどこの時を待っていただろう。
ここまで色々な事があったけど。
例え今が殺し合いゲームの真っ直中だったとしても。
みんなに会えただけで、今までボロボロだったあたしの心は安心感に満たされていく。

あたしはこれまでの事を正直にみんなに話した。
最初にジャックに会ったこと。
得体の知れない男に襲われたこと。
ネルさんを誤って石化させてしまったこと。
そして金髪の男に襲われ…ジャックが目の前で死んでしまったこと。
全て話した。
ネルさんを石化させた話をした時、マリアという人の表情が一瞬変わったような気がしたけど、何も言わなかった。

「あの野郎、アーチェまで襲ってたのかよ!」
チェスターが何やら激高している。
こいつの話だとその金髪の男はクロードという名前で、分校で女の子を殺して燃やし、さらにホテルでも人を襲っていたみたい。
そんな奴に襲われて、よくあたしは無事でいられたなあ。

「大丈夫だよアーチェ。ミントの分まで僕達が頑張ってルシファーを倒してやろう」
クレスが励ましてくれる。
ミントが死んじゃって、一番悲しいのはクレスのはずなのに…。

「ネルは私の仲間だった人よ。でも、彼女は助けようとした人を恨むような人間じゃない事は保障するわ。安心しなさい」
やっぱりそうか。ネルさんとマリアは知り合いだったんだ。
彼女を殺しちゃったのはあたしなのに、マリアはあたしを許してくれるのだろうか?
…ううん、許してくれなくてもいい。でもそういう言葉をかけてくれるのが嬉しかった。

106もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:40:42 ID:QcFZTHrE
「おいおいどうしたよ、何かいつものアーチェらしくないじゃねえか」
チェスターが軽口を叩く。
いつもなら速攻で言い返す所だけど、もう体がクタクタで言い返す気力が無い。
とりあえず休みたいなあ。
「はは、アーチェも疲れてるんだろ。ここまでずっと走りっぱなしだったんだから」
クレスがあたしとチェスターの間に入る。こんな光景も久しぶりね。
全く、チェスターも少しはクレスを見習って他人への気配りってのを考えてよね。

「何だ、だらしねえな。…あ、疲れてんなら、これ食うか?」
そう言ってチェスターが何やら薬のような物を取り出す。
「チェスター、それは?」
「秘仙丹だっけな?体力回復の効果があるらしい。ボーマンって薬剤師に会った時貰ったんだが、お前らも知ってんだろ?」
「ボーマンって…確か僕を助けてくれた人ですよね、マリアさん?」
「ええ、そうね。彼が渡した物なら信頼できるわ」
「ホントはクレスに渡そうと思ったんだけどさ…、何かアーチェの方がヤバそうだし。べ、別にお前の為に貰ってきたわけじゃないんだからな」
何故か目を逸らしながら薬を渡してくるチェスター。
全く、こいつホントに素直じゃないんだから。ま、あたしも人の事言えないんだけどさ。
「ま、チェスターがそこまであたしの事を心配してるんなら仕方ないわね。もらっとくわ」
そう言って秘仙丹を受け取る。チェスターは心配なんてしてねーよ!と騒いでいるが放っておこう。
今はあたしも疲れてて、あんまりチェスターの相手をしている余裕がない。
ま、疲れが取れたらあたしだって本気を出してやるわ。
ミントやネルさん、…ジャックの分まで。
あのルシファーって奴をぶっ飛ばして、みんなで元の世界に戻るんだ。

そんな事を考えながら、アーチェはチェスターの渡した『秘仙丹』を飲み込んだ。



どうなってんだよ。
これは体力が回復する薬じゃないのか?
何でだよ…何でだよ!どうなってるんだよ!
どうして、どうしてだ!どうしてこんな事になっちまったんだ!


「あああああああああーーーーーーーーっっっっっっ!」

爆散したアーチェの遺体を前に、チェスターの慟哭が響き渡った。

107もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:41:28 ID:QcFZTHrE
【F-02/夜中】
【クレス・アルベイン】[MP残量:30%]
[状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ15%程度、混乱]
[装備:ポイズンチェック]
[道具:なし]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:一体何が!?]
[思考2:平瀬村へ向かう]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有、混乱]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:状況の把握]
[思考2:平瀬村へ向かう]
[思考3:他の仲間達と合流]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷、左手の掌に火傷、胸部に浅い切り傷、肉体的、精神的疲労(重度)、混乱]
[装備:なし]
[道具:エンプレシア@SO2、スーパーボール@SO2、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考:不明]
[備考:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【アーチェ・クライン 死亡】
【残り31人】

108 ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:43:35 ID:QcFZTHrE
投下終了。
またおにゃのこ殺しちゃってすいません…。
てか自分殺してるの女ばっかだな…そういうつもりは無いのに。

109 ◆Zp1p5F0JNw:2008/03/01(土) 00:53:21 ID:f14iV6Xo
しまった…クレスマリアの状態表がおかしくなってる
>>1068行目以降修正します


「何だ、だらしねえな。…あ、疲れてんなら、これ食うか?」
そう言ってチェスターが何やら薬のような物を取り出す。
「チェスター、それは?」
「秘仙丹だっけな?体力回復の効果があるらしい。ボーマンって薬剤師に会った時貰ったんだが、お前らも知ってんだろ?」
「ボーマンって…確か僕を助けてくれた人ですよね、マリアさん?」
「ええ、そうね。彼が渡した物なら信頼できるわ」
「ホントはクレスに渡そうと思ったんだけどさ…、何かアーチェの方がヤバそうだし。べ、別にお前の為に貰ってきたわけじゃないんだからな」
何故か目を逸らしながら薬を渡してくるチェスター。
全く、こいつホントに素直じゃないんだから。ま、あたしも人の事言えないんだけどさ。
「ま、チェスターがそこまであたしの事を心配してるんなら仕方ないわね。もらっとくわ」
そう言って秘仙丹を受け取る。チェスターは心配なんてしてねーよ!と騒いでいるが放っておこう。
今はあたしも疲れてて、あんまりチェスターの相手をしている余裕がない。
ま、疲れが取れたらあたしだって本気を出してやるわ。
ミントやネルさん、…ジャックの分まで。
あのルシファーって奴をぶっ飛ばして、みんなで元の世界に戻るんだ。

そんな事を考えながら、アーチェはチェスターの渡した『秘仙丹』を飲み込んだ。



どうなってんだよ。
これは体力が回復する薬じゃないのか?
何でだよ…何でだよ!どうなってるんだよ!
どうして、どうしてだ!どうしてこんな事になっちまったんだ!


「あああああああああーーーーーーーーっっっっっっ!」

爆散したアーチェの遺体を前に、チェスターの慟哭が響き渡った。


107 :もしも願いが叶うなら ◆Zp1p5F0JNw:2008/02/29(金) 22:41:28 ID:QcFZTHrE
【F-02/夜中】
【クレス・アルベイン】[MP残量:30%]
[状態:右胸に刺し傷・腹部に刺し傷・背中に袈裟懸けの切り傷(いずれも塞がっています)、HPおよそ15%程度、混乱]
[装備:ポイズンチェック]
[道具:なし]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:一体何が!?]
[思考2:平瀬村を捜索]
[思考3:武器を探す(できれば剣がいい)]
[現在位置:平瀬村内北東部]

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有、混乱]
[装備:サイキックガン:エネルギー残量[100/100]@SO2]
[道具:荷物一式]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:状況の把握]
[思考2:平瀬村の捜索]
[思考3:他の仲間達と合流]
[現在位置:平瀬村内北東部]

110 ◆Zp1p5F0JNw:2008/03/01(土) 00:54:59 ID:f14iV6Xo
文章の方直し忘れてる…orz

「何だ、だらしねえな。…あ、疲れてんなら、これ食うか?」
そう言ってチェスターが何やら薬のような物を取り出す。
「チェスター、それは?」
「秘仙丹だっけな?体力回復の効果があるらしい。ボーマンって薬剤師に会った時貰ったんだが、お前らも知ってんだろ?」
「ボーマンって…確か僕を助けてくれた人ですよね、マリアさん?」
「ええ、そうね。彼が渡した物なら信頼できるわ」
「ホントはクレスに渡そうと思ったんだけどさ…、何かアーチェの方がヤバそうだし。べ、別にお前の為に貰ってきたわけじゃないんだからな」
何故か目を逸らしながら薬を渡してくるチェスター。
全く、こいつホントに素直じゃないんだから。ま、あたしも人の事言えないんだけどさ。
「ま、チェスターがそこまであたしの事を心配してるんなら仕方ないわね。もらっとくわ」
そう言って秘仙丹を受け取る。チェスターは心配なんてしてねーよ!と騒いでいるが放っておこう。
今はあたしも疲れてて、あんまりチェスターの相手をしている余裕がない。
ま、疲れが取れたらあたしだって本気を出してやるわ。
ミントやネルさん、…ジャックの分まで。
あのルシファーって奴をぶっ飛ばして、みんなで元の世界に戻るんだ。

そんな事を考えながら、アーチェはチェスターの渡した『秘仙丹』を飲み込んだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


どうなってんだよ。
これは体力が回復する薬じゃないのか?
何でだよ…何でだよ!どうなってるんだよ!
どうして、どうしてだ!どうしてこんな事になっちまったんだ!


「あああああああああーーーーーーーーっっっっっっ!」

爆散したアーチェの遺体を前に、チェスターの慟哭が響き渡った。

111 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:52:44 ID:7lpnnBgk
ちょっと作ったんですが設定とか用語があってるか怪しいんでこっちに投下します。

112 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:53:44 ID:7lpnnBgk
あれからどれくらいの時間がたっただろうか、レザードが用意したソフィアの術の取得は遅々として進まず、いたずらに時間だけが過ぎていた。
言われたように熱心に転送の術取得に取り組むソフィアだったがそもそも、レザードが扱う術と紋章術の形式が違う。それを一から学ぼうと言うのにはたかが数時間では短すぎた。
する事がなかったので何か情報が仕入れることができるかもしれないと思い精神集中をしてみた。
その中で見た光景はこれから起きる惨劇の一幕だった。


「止まれ! これ以上近付くんじゃねぇ!」
息を切らした男の声が響いてきた。
「いいかっ、もう一度だけ言う! こんな真似はよせ! お前が守ろうとした奴も決してそんな事は望んじゃいない!」
「だまれっ! そんな事はなぁ、俺が一番知ってんだっ! けどな、俺にはもうこの方法しか残されてねぇんだっ!
もう一度、共に同じ時間を生きたい…。その為にはあいつの望まないことだろうとなんだってしてやる!」
「ルー…フ……」
「お前には世話になった…だから、今だけは見逃してやるっ!俺の考えが変わる前に消えろっ!」
2人の声を荒げたやり取りの後にカチャリと金属の止め具を外すような音が聞こえた、
「ク……、てめえ何のつもりだ!?」
「一先ず話をしようじゃねえか! 俺はお前を説得しに来ただけなんだ。
傷つける気なんざサラサラない。だったらこんなもんいらねえじゃねえか!」
ジャリッと一歩踏みしめる音共に鋭い風切音が聞こえてきた。
「っつ!」
「言っただろ! これ以上近づくなってな…。次は外さねぇ…」
「…今ので確信したぜ。その気になってたらお前は間違いなく俺を殺せてた。それが出来ないって事はお前はまだ迷ってる。
迷ってるならそんな事をするんじゃない。アリーシャって奴が、今お前にして欲しい事は自分のためにお前が苦しむ事じゃない。
それにお前がしようとしていることは今のお前のような思いをする奴を作るだけだ。
そんな事してでも守りたい存在がいることは理解できる。けれど、大事な誰かを失う苦しみを知ってるお前が…」
「うるせぇっ! だったらてめぇはわかんのか!? 大事な誰かを…この身を捧げてでも守りたいと思った奴を失った俺の気持ちがっ!」
「わかるさ…。今までだって何人もの仲間を失ってきた。大勢の仲間を助けるために何人かを斬り捨てるような真似だってした。
その都度後悔もしたし苦しい思いもしてきた。残された俺たちができる事は、そいつのやろうとした事を引き継ぐ事だ。だから…ー…ス!
「くっそぉぉぉぉっ!!」
悲痛な叫びの後にドサリと大きな何かが倒れこむ音がした。
「畜生! 何で…何でなんだよ…。俺のことなんか放っておいてくれればこんな事には…」


聞こえてきた死に逝く者達の声はここで途絶えた。

113 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:54:40 ID:7lpnnBgk
(近いな…。もしかしたら止められるかも知れない…。1人が説得しようとしていたようだし。参加者が早くも半数近くになってる現状でルシファーとの決戦での戦力は1人でも多い方がいい)
「少しいいか?」
練習しているソフィアに聞いてみた。
「どうしたんですか?」
熱心に見ていたレザードのテキストから目を離し、レナスの方に視線を向けるソフィア。
「もうすぐこの近くで誰かが殺される。私はそれを止めに行きたいのだが、お前を置いて行く訳にもいかない。すまないが付き合ってくれ」
「また誰かの声が聞こえたんですか?」
「ああ、誰かまではやはりわからなかったが、これ以上参加者が殺されるのは止めたいんだ」
それを聞くや否や身支度を始めるソフィア。レナスも手早く用意をし始めたその時。
「恐れ多くながら進言させていただきますが、無用なリスクは避けるべきかと…」
今まで黙っていたレザードが口を開いた。
「貴様の意見は聞いてなどいない。付いて来るなら勝手だが、来る気がないならここでお別れだ。
貴様のような危険人物を野放しにする事になるが、今のところ害は少なそうだしな」
過去の事があるからだろう、未だにレザードを信用できないレナスは彼に対しての口調は敵意が込められた物になっている。
「やれやれ」
そんな言葉を聞いて肩をすくめるレザード。きつい言葉を投げかけられてもどこか彼の表情が恍惚としているのはやはり彼が変態だからだろうか。
「行きましょうレナスさん。私もこれ以上罪のない人が死ぬのなんてイヤですから」
最早そんな二人のやり取りにはなれたソフィアはレナスを促すとデイパックを背負うと、術の練習をしていた部屋を出た。
部屋に1人残されたレザードも荷物を背負おうと床に手を伸ばした時、彼はソフィアが残した術の残滓を感じた。
(あの女が言っていた紋章術と今この場に残った感覚とでは明らかに術式が違う…。
どちらかというと我々の魔法のそれに近い…。移送方陣の習得には程遠いが、一応成果はあるという事か?
ということはやはり私の仮説どおりに個々の能力は主催に害を及ぼす物だけを使用できないように書き換えられているだけで、追加で何かを習得する事はできる可能性が高いな…。
現状ではこれ以上の事は出来そうにはないが、脱出の為の鍵にはなりうるな…)
実験の成果が僅かながら出たことに確かな手応えを感じつつ、先に出た二人の後を追って観音堂を後にした。

114 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:56:16 ID:7lpnnBgk
(くそっ、いつまで追ってくるつもりだあの野郎)
役場を出てひたすらに西の方角へ走ったルーファスだったが、未だにクリフは声を荒げて自分を追ってくる。
(流石に俺もこれ以上走れない。覚悟を決めて追っ払うしか…)
ルーファスはその身を翻すと共に矢を構え、その矢先をクリフに向け叫んだ。
「止まれ! これ以上近付くんじゃねぇ!」
クリフは言われたとおりにその場に立ち止まるとルーファスに向かって負けじと叫んだ。
「いいかっ、もう一度だけ言う! こんな真似はよせ! お前が守ろうとした奴も決してそんな事は望んじゃいない!」
「だまれっ! そんな事はなぁ、俺が一番知ってんだっ! けどな、俺にはもうこの方法しか残されてねぇんだっ!
もう一度、共に同じ時間を生きたい…。その為にはあいつの望まないことだろうとなんだってしてやる!」
アリーシャと一緒にいた時間は自分の生涯過ごしてきた時間の中ではほんの一瞬にも満たないような期間だ。
しかし、その僅かな時間の中で抱いたこの感情は、それまでのルーファスの人生の中で感じた事のない掛け替えのない物だった。
「ルーファス…」
「お前には世話になった…だから、今だけは見逃してやるっ!俺の考えが変わる前に消えろっ!」
本当は撃てるかどうか自身はなかったが、これ以上クリフに説得を続けられたら自分が折れてしまうのではないかと思ったルーファスは苦し紛れに叫ぶ。
そんなルーファスの姿を見てクリフはその身に付けていたナックルを外し地面に放り捨てた。
「クリフ、てめえ何のつもりだ!?」
「一先ず話をしようじゃねえか! 俺はお前を説得しに来ただけなんだ。
傷つける気なんざサラサラない。だったらこんなもんいらねえじゃねえか!」
和睦を求める者が武器を持ってたら信用なんてしてもらえないという事を言いたいのだろうか。
武器を捨てたクリフだったが放つ気迫に変わりはない。真摯な瞳を真っ直ぐルーファスに向け一歩踏み出す。
気圧されたルーファスが一歩退くと共に手を伝う汗で矢が滑ってしまった。
しっかりとクリフの額目掛けて照準していた弓を反射的に反らしてしまう。
「っつ!」
頬を掠めた矢が彼方へと飛んでいった。
「言っただろ! これ以上近づくなってな…。次は外さねぇ…」
言っている事とやっていることの違いにうんざりしつつも再び矢を番える。
「…今ので確信したぜ。その気になってたらお前は間違いなく俺を殺せてた。それが出来ないって事はお前はまだ迷ってる。
迷ってるならそんな事をするんじゃない。アリーシャって奴が、今お前にして欲しい事は自分のためにお前が苦しむ事じゃない。
それにお前がしようとしていることは今のお前のような思いをする奴を作るだけだ。
そんな事してでも守りたい存在がいることは理解できる。けれど、大事な誰かを失う苦しみを知ってるお前が…」
クリフの言っている事はもっともだ。ルーファス自身も理解はしている。
しかし、クリフの言うとおりにするという事はアリーシャとの再会を諦めねばならないという事。
彼にはその行為がアリーシャの事を忘れる事と同位に思えて仕方がなかった。
クリフの説得を阻むべく声を荒げる。
「うるせぇっ! だったらてめぇはわかんのか!? 大事な誰かを…この身を捧げてでも守りたいと思った奴を失った俺の気持ちがっ!」
きっとこいつにはわからない。俺の気持ちが。もうどうしていいかすらわからないこの苦しみを。
「わかるさ…。今までだって何人もの仲間を失ってきた。大勢の仲間を助けるために何人かを斬り捨てるような真似だってした。
その都度後悔もしたし苦しい思いもしてきた。それはお前の今の苦しみとなんら違いがないはずだぜ。
残された俺たちができる事は、そいつのやろうとした事を引き継ぐ事だ。だから…ルーファス!」
更に一歩前に出てルーファスに手を差し伸べるクリフ。
錯乱状態に陥ったルーファスがとうとう構えた矢をクリフ目掛けて放とうとした。
「待って!」
そんなルーファスを遮るように澄んだ声が響き渡る。

115 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:57:38 ID:7lpnnBgk
その声はクリフ、ルーファス共に知っている人物ソフィアの声だった。
「ソフィア…」
「嬢ちゃん!」
突然現れた少女に目を向ける二人。
「ルーファスさん。辞めてください! 事情はわかります。さっきの放送で呼ばれた人の中にいましたよね?
貴方の大切な人が…。きっとそれでこんな事を…。でもアリーシャさんはこんな事を望んじゃいないはずです」
「うるせぇ! どいつもこいつも似たような事言いやがって! それでもあいつを生き返すためにはこれしかないんだよ!」
構えた矢をソフィアに向けるルーファス。
それを見てレナスはすぐさまにルーファスの前に剣を構えて立ちはだかる。
「言ったはずだ。次に会った時に考えを改めてなかったら刃を向けるとな!
貴様はまだ迷っているようだが、その矢を放った時はわかっているだろうな?」
睨みあうレナスとルーファスの間に更にもう1人割り込んできた。
「ヴァルキュリアよ。ここは私に任せていただけないでしょうか?」
「レザード? どういう風の吹き回しだ?」
「なぁに、主催との決戦に必要な戦力は多い方がいいですからね。それに用は彼が言ってる人物を生き返らせれば良いのでしょう?」
メガネの弦を押し上げかけ直すとレザードはルーファスの方に振り返った。
「なんだ? てめえは?」
ルーファスは突如目の前に躍り出た不審な男に矢を向ける
「お初にお目にかかります。我が名はレザード・ヴァレス。しがない錬金術師です。それと少々の魔術を嗜んでおりまして」
レザードはどこか芝居がかった様子で話し始めた。
「だからなんだってんだよ?」
一時的な錯乱状態から解放されていたルーファスはどこかレザードの話すことに惹きつけられていた。
最早ルーファスの声には敵意は込められていない。
「単刀直入に言いましょう。貴方の願いをかなえる手段を私は知っています」
そんなルーファスの様子を見て満足そうな笑みを浮かべつつ続けるレザード。
「!」
「見た所貴方はミッドガルドの住人ですね? 
ここにいるソフィアと違って私と同じ世界の住人という事は、元の世界に戻れば私の知識が活かせるという事です。
私達の世界では反魂の法という儀式がありまして。他の者の命を捧げる事で望んだ者を復活させる事ができるという術ですが、ご存知ありませんか?
私はその術の詳しいやり方を存じ上げています」
そう、その秘術さえ使えば人の蘇生は叶う。だがそれには代償がある。
「レザード! 貴様! 私がその様な行為を見逃すとでも思っているのか!? そもそもその術に用いる代償とする魂はどうするつもりだ?」
過去に自分もその秘術を用いてエインフェリアを迎えた事があったが、代償とする魂をレザードに集めさせたらろくな事にはならないと思ったレナスは反論した。
「その魂はこの会の主催の物でも構わないのではないでしょうか? どうせ貴方はこのような行いをした主催に対して慈悲はかけないのでしょう?
魂まで滅するのなら、この方が望む人物の蘇生に使った方が有意義だと私は思いますがね」
よもや、レザードの口からこのような言葉が出るとは思っていなかったレナスは口を噤んでしまった。
代わりにルーファスが声を荒げてレザードに問いかける。
「おいっ! 本当にアリーシャを生き返らせることができるのか!?」
今にも掴みかからんばかりの勢いだ。
「今は不可能ですが。ミッドガルドに戻ることが出来れば可能です。だからどうでしょう?武器を納めて我々と共に戦いませんか?
そもそもその方が死んだのは主催が原因ですし、彼を倒す事で貴方の望みも叶う。我々としても戦力は多い方がいい。
それに優勝してその方の蘇生を依頼したところで復活できる可能性は高くありませんしね。
だったら、蘇生方法を知っている私達側についておいた方が賢い選択だと思いますが?」
興奮した様子のルーファスをなだめる様に落ち着いた声色でレザードはルーファスに語りかけた。
それを聞いてとうとうルーファスは武器を取り落とした。
「アリーシャを生き返すことが出来るんだな…」
その目にはうっすらと涙を浮かべている。

116 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 20:58:10 ID:7lpnnBgk
「よかったな…ルーファス!」
そんな彼を見て満足そうな笑みを向け手を差し出すクリフ。
「クリフ…なんて言ったらいいか。アンタの彼女の事なんだが…」
申し訳ないといった様子でルーファスがクリフに言った。
「なっなにを言ってやがる! ミラージュはそんなんじゃねえんだって!
それにあいつならまだしぶとく生きてるぜ! お前の撃った矢は急所には届いてなかった。
っとこうしちゃいれねぇ。お前を追って随分遠くまで来ちまったな。早くあいつを迎えに行かないと」
「ミラージュさんとも会えたんですね? 良かったです!」
よく知る仲間の名を聞いて声を上げて喜ぶソフィア。
クリフやルーファスに続いて他にも知る仲間の無事を確認できたのだ無理もない。
「おう。嬢ちゃんも無事で何よりだ。ルーファスから話を聞いて心配してたんだぜ。
それにあんた達二人がいなけりゃルーファスを説得できなかったかも知れねぇ。
ありがとうな! 俺はクリフ・フィッターってんだ! これからもよろしく頼むわ!」
「私の事はレナスと呼んでくれ。こちらこそよろしく頼む」
「レザード・ヴァレスです。なに当然のことをしたまでです。フフフ…」
明らかに態度がおかしいレザードに懐疑の目を向けるレナスだったが、レザードの表情にはいつもの様な不気味な笑みしか浮かんでいない。
レザードの変貌振りにソフィアも気付き、いつもより1.5倍は距離をとっている。
「さて、どうやら彼もお急ぎのようですし、積もる話は歩きながらにしましょう。どちらまで向かうのでしょうか?」
そんな二人の態度は気にも留めずレザードはクリフに問いかける。
「おう。鎌石村の役場だ。ミラージュの事も心配だし話の続きはレザードが言うとおり歩きながらにしたいな」
「鎌石村なら私達も丁度目的地だ。今から向かえば予定通りの時間に着くかもしれないな。それに上手くいけばブラムスとも合流できる」
「はい! 急ぎましょう! 後ルーファスさん。傷の手当を」
「わりぃな。ソフィア」
意気揚々といった様子で歩き始めた4人を背後から見つめ怪しげな笑みを浮かべるレザード。
(フフフ…。まさかハーフエルフと引き合わせてくれるなんて…。やはり貴方は最高ですよレナス・ヴァルキュリア。
主神オーディンの魂の器であるハーフエルフ。彼の体を使えば私はヴァルキュリアと同格の存在となれる。すなわち、成長する事ができる神へと!
それに私の仮説が正しければ、この場でかけられている能力の変更は個人レベル。彼の体に私の魂を入れることが出来れば今私が使えない術も使用可能。
肉体の能力もオーディンと匹敵するものになり主催を倒す事も可能でしょう。
現在の私1人の力では輪魂の呪を行う事は難しいですが、ブラムスや強力な魔導師の力を使えばあるいは…。
フフフ…、レナス貴方をこの手にすることができる日もそう遠くはないのかもしれませんね)

117 ◆yHjSlOJmms:2008/04/19(土) 21:06:31 ID:7lpnnBgk
以上です。
一先ず反魂の法と輪魂の呪って使い方とかあってますかね?

後微妙にやりたいこととかつかみにくいかと思うんで補足ですが、レザードをVP2の本編ラスボスモードにしたいんですよ。
で、レザード説の制限の話を活かしてレザード本体にかけられてる制限を取っ払おうと思いました。
脱出フラグ使えると思ったんですがどうでしょう?

私生活が忙しくなったんでとりあえず休みに勢いで作りたい奴の流れだけ作りました。
OKでても本投下は推敲とかもう少しした後になると思います。

意見や指摘をお願いいたします。

118 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:15:50 ID:M1AUfxZY
首輪考察回の試作品を投下します。

119 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:18:39 ID:M1AUfxZY
月光煌めく夜天の下、2人の男が対峙していた。
1人は蒼き孤高の剣士ディアス・フラック。
もう1人はある科学者が己の恨みを乗せて創り出した存在。天使の名を冠した狂信者ガブリエル。
かつて刃を交えた両雄は再びこの地で合間見える事となった。

引き抜いた剣を正眼に構えディアスはガブリエルを睨みつける。
相手の出方を伺いつつ戦略を組み立てていた。
自然と着目するところは相手の体のいたるところに見受けられる切り傷や焼け焦げた衣服。
(ここに来るまでに大規模な戦闘をしたようだな…。こちらとて無理は出来るような状況ではないが付け入る隙はある)
特に接近戦を行う上での重要なファクターである武器を操る右腕の刺し傷と、攻守共に必要になる機動力の要とも言える脚部の裂傷。
(機動力でかく乱して、相手の右側を攻める。あまり褒められた戦い方ではないが相手はあのガブリエルだ。それに…俺はまだ死ねない)
構えた剣の柄を強く握りこみ、弧を描くような動きで相手の右側に回りこむ。
その軌道の先を捉えるべくガブリエルはボーガンの銃口をこちらに向け射抜いてきた。
その矢を自らの振るう剣から発する衝撃波『空破斬』で叩き落す。
放った飛ぶ斬撃は矢をはじき返して尚、その勢いを殺すことなくガブリエルへと直進する。
だがその衝撃波は、更に強力な衝撃波に正面からぶつかるとかき消された。
ガブリエルの放つリング状の力場『ディバインウェーブ』の前にはこの程度の威力はそよ風程度に過ぎない。
周囲の瓦礫をなぎ払いながら徐々に広がる力場がディアスに迫った。
「ちっ」
舌打ちを一つ口から吐きつつ天目掛け跳躍する。
『朱雀衝撃波!』
己が纏う闘気を焔の炎と化し、南方を守護する四神『朱雀』を形作る。
そのまま一気にガブリエルに急降下。
その勢いはさながら水面の獲物を捕らえる猛禽の如き鋭さ。
空中にいる事で回避は出来ないが、たかが矢の1本。自分の身体を捕らえる前に燃え尽きる。
ディアスはそう判断して回避と攻撃の両方を兼ねたこの技を選んだ。
ガブリエルはいつの間にか持ち替えていたハルバードで、鳳凰を打ち抜くべく鋭い突きを放っていた。
キィインと鋭い金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。

120 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:20:14 ID:M1AUfxZY
「くぅっ」
完全に勢いを殺されたディアスの身体が重力に引かれ地に落ちる。
その着地の隙を逃すガブリエルではない。
すぐさま再度『ディバインウェーブ』をディアスに見舞う。
剣を盾に正面から受けるもディアスは吹き飛ばされた。
傷ついていながらも尚その威力は健在で、正面からハンマーで殴られたかの様な衝撃がディアスを襲う。
十数メートル離れた家屋の外壁に叩きつけられ血を吐き、一瞬意識がブラックアウトする。
朦朧とする頭を振り、霞む視界でガブリエルを捕らえると、自分とガブリエルとの間に1本の矢があった。
その矢がディアスの心臓を射抜かんと闇夜を駆ける。
「ぐぁっ」
なんとか身体を反らして急所を避けたが、左肩に深々とそれは突き刺さった。
「そろそろ無駄な抵抗はやめてデリートされたらどうだ? 
そもそも貴様が戦う理由はなんだ? そこまでして守りたいものなど今の貴様には無い筈だが…」
ボーガンに新たな矢を装填しながらガブリエルがディアスに語りかける。
「貴様も私と同じく愛おしい家族を奪われたのだろう…。そう、フィリアがいない世界に存在価値など無い。
貴様もそう思わないか? 父が、母が、妹がいなくなった世界を憎んでいたのではないか?」
ガブリエルはディアスの過去を知っていた。
情報収集等を司る4機の素体によりディアスをはじめ十賢者と戦った12人の過去は調査されていたのだ。
消せない傷跡である血塗られた過去を思い出しディアスの目が大きく見開かれる。
脳裏に過ぎ去りし日の悲劇がフラッシュバックし、次第に彼の瞳が曇っていく。
父が血飛沫を上げて崩れ落ちる姿。血溜まりに沈んでいく母の姿。
薄れ行く意識の中で垣間見た、妹に容赦なく突き立てられる刃の群れと断末魔の叫び。
そんな光景が鮮明に再生される。
彼はこの出来事がきっかけで故郷であるアーリア村を飛び出した。
その頃の彼だったら、このガブリエルの台詞を肯定したであろう。このまま戦意を失っていたであろう。
だが、今の彼はそうする事はなかった。
手にした剣を地面に突き刺し、身体の支えにしながら立ち上がる。
地から引き抜いた剣を平に構え、眼前の敵に射る様な眼光を放つ。
その彼の瞳には先程の暗雲など無かった。

121 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:21:13 ID:M1AUfxZY
構えを取りながらもディアスの口が言葉を紡ぐ。
「確かに俺は惨劇を止めることの出来なかった己の無力さを呪い、
自分だけ生き残ってしまったという後悔の念に押しつぶされた」
そのまま真っ直ぐガブリエルに向かって駆け抜ける。放たれた矢を僅かに身体そらし回避する。
電光石火の速さで間合いを詰め、どんな相手であろうと打ち貫く刺突を打ち込む『疾風突』だ。
ガブリエルは持ち替えた肢閃刀でその一撃を受け止める。
火花が2人の間で散る中ディアスは更に言葉を続けた。
「世界も憎み、力だけをただ闇雲に求め振りかざした。
それでも、俺の心は晴れなかった。一生このままでも良いとさえ思っていたっ」
肉迫したこの間合いでただにらみ合いを続けるような真似はしない。
ディアスは彼の冴える太刀捌きを象徴する剣技『夢幻』を見舞う。
「だが、そんな俺にレナが手を差し伸べてくれた!」
数合の打ち合いの末間合いが開かれた。その間合いを詰めるべく跳躍しながらも彼の言葉は止まらない。
「クロードが傷つける以外の力の使い道を示してくれたっ!」
跳躍と共に一太刀、降下と共にもう一太刀。X字を剣閃で描く『クロスウェイブ』
彼の怒涛の攻めにガブリエルは防戦一方となる。
「皆が共に支え合うという事を教えてくれた!!」
着地と共に沈む身体のバネを利用して続けざまに剣を振り上げる。
軋む身体が悲鳴を上げるがそれでも彼は止まろうとしない。切っ先が大地と空を断つ一撃『朧』を放つ。
盾にしていた肢閃刀が砕け、ガブリエルの身体に一筋の傷跡を刻み込んだ。
「俺はあいつらがここからの脱出に絶望しない限り、騎士となり守り抜くとっ! 剣となり道を切り拓くと誓ったっ!」
吹き飛ばされたガブリエルの身体が受身も取れずに地面に墜落する。
ディアスは振り上げた剣を上段に構え直し闘気を送り込む。
かつての惨劇の記憶から生まれる負の感情により編み出した剣技『ケイオスソード』
だが、いまやその一撃に暗い感情は込められていない。
仲間の道を切り拓くため己が手を汚す事も厭わない。そんな覚悟が込められた一撃だ。
「これが俺の戦う理由だっ!!」
ディアスの叫びと共に放たれた渾身の一撃がガブリエルに直撃した。

122 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:22:01 ID:M1AUfxZY
「ハァ…ハァ…」
息をもつかせぬ連続攻撃。
負ったダメージが身体に残る中で繋げられるような連撃ではなかった。
(手応えは十分。しかしコレで仕留められていなければ…)
無常にもその懸念は現実となる。
1人の男の怨念を宿した狂天使はゆらりと立ち上がった。さながらその姿は紅い幽鬼の様。
「そうか…。それが貴様の理由か。だが、私もこの世の全てを消すまで止まれんのだっ!」
ディアスに負けじと自らの戦う目的と意志を乗せ『ディバインウェーブ』を撃つ。
回避する余力が無かったディアスはまともに食らってしまう。
「がはっ」
叩きつけられた小屋の窓をぶち破り床に転がり落ちる。
そんな彼に容赦なく追撃するガブリエル。
瞬時に詠唱を完成させ、印を切り呪紋を放った。
ディアスの仲間であるセリーヌ・ジュレスを葬った一撃『スターフレア』で小屋ごと吹き飛ばす。
ディアスは降り注ぐ星光と瓦礫に襲われながらもなんとかそれを耐え抜いた。
瓦礫を押し退け立ち上がった彼の心は未だ屈していない。
その証拠に剣を持つその手は力強く握られている。
「しぶとい奴だ…。だが、コレには耐えられまい」
それはガブリエルの最強の一撃『神曲』
彼の奏でる旋律は例えるならディアスへの葬送曲。
(あれを食らったら流石に死ぬな…)
そんな事を考えていたディアスだが、引くことも臆する事もしなかった。
改めて剣を平に構えると月光をその背に浴び、大地を蹴る。
(俺はこのやり方しか知らない!)
距離は20メートル弱。とても『神曲』の発動を阻める距離ではないがそれでも駆け抜ける。
途端に足がもつれその場に倒れこんでしまう。
精神はまだ戦う事を辞めようとしていないが、身体の方が先に参ってしまったのだ。
そんな姿を見て勝利を確信し、笑みを浮かべるガブリエル。
そして、ガブリエルがその力を解放しようとしたその刹那。
小さな一つの影がディアスの前に躍り出た。
その小さな影がディアスを覆うように青白いドーム状の力場を展開する。
ガブリエルの『神曲』がもたらす破壊の光と青白いドームの光がぶつかり合い爆ぜる。
ディアスはこの小さな乱入者を知っていた。
「お前は、プリシスの…」
彼の前に現れたのは、少し前にガブリエルの前から姿を消していた無人君である。
無人君は自らに備えられた機能『バーリア』を展開し、ディアスの事を守ったのであった。
小さな身体に秘めた力を目の当たりにしたディアスは、限界を迎えていた己の身体を奮い立たせる。
(そう…。1人で勝てないのなら、仲間と共に戦えばいいんだ!)
13人目の仲間といえる無人君の作ったチャンスを逃す事などディアスには出来ない。
「おおおおおっ!」
雄叫びを上げ立ち上がると、ガブリエル目掛けて残りの距離を駆け出した。
ガブリエルが懐からカードの様な物を出して掲げていたが、そんなもの構うものか。
全身を矢としてガブリエルに迫り、その手に持つ剣を深々とガブリエルの身体に突き刺す。
勢いはそのままに二つの身体がもつれ合うように大地を転がった。

123 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:23:24 ID:M1AUfxZY
地面に仰向けになって倒れているディアスを覗き込む無人君。
「ありがとう無人君。お前のおかげだ…」
ディアスはそんな小さな友人に感謝の意を伝える。
無人君はコクリと頷くと一つの方向を向いて静止した。
続けてディアスのマントの裾をクイックイッと引っ張り始める。
「そっちに何かあるのか?」
上体を起こし、無人君の見つめる方向に視線を送る。
(そう言えば、あの方向にはアルベルの奴が行ったきりだったな)
呼吸を整える事ができたディアスは立ち上がると、その方向に向かって歩き始めた。
トコトコとそんなディアスを案内するように無人君も小走りを始める。
その歩みの先には彼の製作者プリシスがいる事を無人君はわかっていた。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
ディアスが去ってしばたくたった後、一つの影がムクリと起き上がった。
(まさかこの私があの下賎な魔物の様に、死んだ振りをしてやり過ごす事になろうとは)
身に付けた衣装こそボロボロであるが、その身体からは傷が消えてなくなっていた。
ガブリエルはディアスが突っ込んでくる間際にセリーヌのデイパックより手に入れた『リヴァイバルカード』を使っていたのである。
このアイテムは使った後1回だけ復活を遂げる事が出来るようになる代物であった。
何故セリーヌがこのアイテムをガブリエル戦で使わなかったかというと、
このアイテムの対象者は使用者だけであったことが原因だった。そうなると自分しか復活できない。
アリーシャには手渡す暇など無かったし、ジェストーナも途中まで死んでいたものだと思っていた。
加えて自分が1回だけ蘇生したところで、前衛のいない状況では結果は変わらないと判断していたのであろう。
その結果『リヴァイバルカード』は使われる事無くガブリエルの手に渡ってしまったのだ。
(しかし、この屈辱すぐにでも晴らしてやるぞ…)
放置されていたデイパックを拾い上げ、中からハルバードを引き抜くと一人と一体が向かった方向へ歩き出した。

124 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:24:32 ID:M1AUfxZY
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「見逃してやらなくて正解だった……死ねッ! クソ虫ッ!!」
怒りに燃える瞳でプリシスと呼ばれた少女へと迫る。
そんなアルベルの前にアリューゼが立ちはだかる。
「邪魔だ!」
叫びと共に剣を横薙ぎに払う。
所詮相手の獲物は鉄パイプ。
それもフェイト愛用の鉄パイプみたいにガチガチにカスタマイズされている様な代物でもなさそうである。
だから、この一太刀で相手の胴と腰をお別れさせてやれるはずだった。
しかし、アリューゼも数々の武勲を挙げた戦士である。
アリューゼは鉄パイプの腹でその斬撃を受けようとせず、
相手の剣閃に対して平行に手にした獲物を構えると、僅かに角度をつけた。
アルベルの剣閃は、その鉄パイプの表面を滑り狙いから反れてしまう。
横薙ぎに振るった一撃が反れた今のアルベルは、上体が開き無防備になっていた。
その無防備な所に、身の丈以上の大剣を自在に振るうアリューゼの豪腕が打ち込まれる。
「ぐぅ」
やや前屈みになったアルベルの横っ面に鉄パイプを思いっきり叩き込む。
ぶっ飛ばされたアルベルだったが、すぐさま起き上がり未だに燃え滾っている怒りの炎を二人に向ける。
「そうだったな! 手前もグルだったなっ! だったら纏めて潰してやるよ! クソ虫共っ! 『無限空破斬!』」
ディアスと同じく我流で己の剣技を磨いてきた彼も、剣を振るという基本的な動作を一つの技へと昇華させていた。
一見がむしゃらに剣を振っているようだが、地を疾る剣圧は確実に二人を捉えていた。
アリューゼは鉄パイプで同量同圧の風圧を作り出し衝撃波を相殺させた。
プリシスも身軽にステップを踏み、それらを回避。
どうしても避けられない物はマグナムパンチの文字通り鉄拳で叩き落とす。
このままでは互いに体力を消耗するだけで泥仕合になる。
そうなれば人数において不利な自分が押し切られると判断したアルベルは戦力の温存など考えなかった。
『無限空破斬』を飛ばしながらも右手には次の技のために闘気を込め始めていた。
標的2人が『空破斬』迎撃のために足を止めた瞬間に『吼竜破』を撃ち出す。
彼の闘気が作り出すのは6匹の黒龍。
内の4匹をアリューゼに2匹をプリシスへと嗾ける。
更にアルベルは追撃をかけるべく剣を持ち直し飛び掛かる。
向かう先は同じ戦場を共に戦った仲間の仇プリシス。
2匹の黒龍の対応に追われていたプリシスにアルベルの白刃が迫る。

125 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:25:38 ID:M1AUfxZY
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
牙を剥く4匹の邪龍を潰していたアリューゼの視界にプリシスへと飛び掛かるアルベルの姿が映った。
このままではプリシスがヤバイと判断を下したアリューゼは、
まだ残っていた3匹の黒龍を無視してプリシスの方へと駆け寄る。
1匹が左脇腹に喰らい付いて来たがそれも無視。
2人の間に割り込み自らの身体を盾にする。
「ぐああぁぁっ」
背中を切り裂かれたアリューゼに焼けるような痛みが走り、傷口から鮮血が吹き出した。
「アリューゼっ!」
かばった少女が心配そうな瞳をこちらに投げかけてきた。
身体を両断されなかっただけましだが、かといって軽視できるような負傷でもない。
苦し紛れに振るった鉄パイプはアルベルに当たることなく空を切った。
飛び退いたアルベルが剣を振り、刃先についた血を払う。
「随分とそのガキにご執心だな! このロリコン野郎!」
挑発的な物言いのアルベルには構わずプリシスを自分の背後に下がらせる。
逆転の手は無い事は無いが、この相手に通用するかどうか。
奥義であり自分の切り札『ファイナリティブラスト』
不可避の猛進から放つ斬撃と爆撃の二重奏。
重量級のアリューゼの突進を正面から受け止める事は難しく、どこまでも追いすがる猛追からは誰も逃れられない。
だが今対峙している男はその突進を防ぐ術を持っている。
先程見せたこの世に未練を残した怨霊を障壁とする妙な技。
あれを出されたら奥義が切り札には成り得ない。
しかしこのままでは押し切られるのも時間の問題だ。
(一か八か…仕掛けるか)
腰を落とし、足を踏ん張り闘気を解放する。解き放つ力は暴力的な風を巻き起こし周囲の木の葉をざわめかせた。
そんなアリューゼの闘気に触発されたアルベルはニヤリと口元を歪め剣を構える。
「おもしれぇ! ルシファーの言いなりになるようなクソ虫にしては悪くねえ。来いよ! 叩き潰してやんぜ!」
回避するような無粋な真似をする気など無かった。正面から受け止め相手を粉砕する心積もりだ。
しばしのにらみ合いの後、同時に飛びかかろうとした時。
「待て!」
「「ディアス!?」」
彼を知るアルベルとプリシスが異口同音に新たに現れた人間の名を呼ぶ。

126 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:28:00 ID:M1AUfxZY
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
無人君に連れられた先は戦場となっていた。
この場にいる人間を見渡す。
見知らぬ男とプリシスに、対峙する形でアルベル立っている。
「アルベル。コレはどういうことだ? 相手がプリシスだったら少し待てと言ったはずだ」
今まさに飛び掛からんとしていたアルベルが不機嫌そうにその問いに応えた。
「ああん!? しっかり見極めたぜ。このクソ虫どもは殺し合いに乗っていやがる。
その証拠にネルが使ってた武器をあのガキが持ってやがる。大方殺して奪い取ったんだろうよ」
その答えを聞いて驚いたのはプリシスだった。
ジャックから聞かされていた『セブンスレイ』の持ち主の名前を口にするアルベル。
狂戦士と化したアシュトンと戦い、命を落としたネルの名前がアルベルから出てきたのだから無理もない。
しかも、こっちが殺し合いに乗っているなんて言っている。
「ちょっと待ってよ! 私達はそんなつもりなんて無いよ!」
どうやら互いの勘違いの果てに、脱出を狙う者同士で殺し合いをしていたらしい。
なんとか自分達にかけられた嫌疑を晴らそうと声を荒げる。
「けっ! 旗色が悪くなったら今度は懐柔策か? 本当にどうしよもねえクソ虫だな!
ディアス。こんな奴らの言う事なんざ信用できねえ。殺るぞ」
「待てと言っただろ! よく考えろ。二人でまとまって行動している時点で殺し合いに乗っていない可能性の方が高い。
勝ち抜けるのは1人だけというルールだからな」
「互いに利用しあってんだろ? お前が手を出さねえんなら俺1人でも殺るぜ」
「だったら、ここまでボロボロになってでも手を組んでいる必要性が無いだろうが。
どちらかが戦ってる隙に逃げればいいはずだ。
それをしないという事は互いに協力し合っている証拠に他ならない。そうだな、プリシス?」
「うん! そうだよ。この武器は少し前にネルさんと一緒に戦っていた人から貰ったんだ!
その人達アシュトンと戦って、いっぱい人が死んで…それで私…私…」
涙を浮かべながら次々と言葉を繋いでいくプリシスの頭に、ディアスがポンッと優しく手を乗っける。
「落ち着けプリシス。互いの情報を交換する必要もあるだろう。それにお前に渡したいものがある」
そう言うと無人君を抱き上げプリシスに手渡した。
途端にプリシスの表情が明るくなる。故郷にいる頃から共にいた友人と再会できた事に喜びを隠せない。
「無人君!! ディアスが持っていたの?」
「いや、俺もさっき会ったばっかだ。だが無人君が俺をここまで連れてきてくれた。
とにかくあの家で落ち着こう。行くぞアルベル」
「そだねっ、行こっアリューゼ」
完全に蚊帳の外だった二人を伴って、近くの家屋に入っていった。

127 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:29:26 ID:M1AUfxZY
「そうか…そういう経緯でアシュトンは…」
一通り事情を聞いたディアスは少し憂鬱そうに言葉を漏らした。
「私そんなつもり無かったんだけど、今考えるとやっぱりあの声はアシュトンの声だったと思う。
どうしよう…私の何気ない言葉の所為で関係ない人が何人も…」
シュンと気落ちした様子のプリシスの肩に優しく手を置くアリューゼ。
「あの場合仕方がないだろ。なぜか知らないが姿が見えなかったのだからな」
「んなトチ狂ったクソ虫の事なんざ関係ねえ! それよりもディアス。このガキが持ってる技術がどうとか言っていたが当てになるのか?」
先の戦闘の応急処置を終えたアルベルは、ディアスが出がけにそんな事を言っていた事を思い出して彼に訪ねた。
「あぁ、だがその前に…」
ディアスは荷物から紙とペンを取り出すと文字を書き始めた。
『ルシファーは首輪の爆発条件に自分に逆らおうとした時と言っていた。
現に目の前でルシフェルの首は吹き飛ばされた。ここでも下手な言動をすれば俺達もああなりかねない』
「だったらどうしようも出来ねえじゃねえか!」
アルベルがイラついた様子で叫びながら壁を殴る。
「落ち着け。最後まで聞いてからにしろ。この単細胞」
そんなアルベルの様子を見てアリューゼが彼を咎める。先の戦闘のわだかまりが残っているのかアリューゼの口調は攻撃的だ。
普段のアルベルならここで「表に出ろ」といって食って掛かっただろうが、
流石に現状を把握しているのか、チッと一つ舌打ちをしてドカリと座り込む。
自分に全員の視線が戻ったことを確認して新たな紙を全員に見せる。
『ルシファーがどのような手段で俺たちが逆らったかどうかと判断していると思う?
俺は俺達の言葉を盗み聞くような機械か、姿を記録する装置で監視しているに違いないと踏んでるのだが』
『そんなのありそうもないよ? どんなに技術が進んでいてもそんなものをやたらめったら配置してたら、集まる情報を処理なんて出来ないよ』
とプリシス。
『いや、俺達の監視目的なら最も適切なものが全員に取り付けられているはずだ』
そう書いた紙を掲げてディアスは自分の首輪を指差した。
『これにそれらの機械を備え付ければ参加者全員を監視できるはずだ』
そこでアリューゼが割って入る。
『推論を並べているだけじゃ埒が開かん。調べてみようぜ』
紙と共にネルの遺体から回収した首輪をその場にいる全員に見せた。
『んじゃ、ちょっと待ってて。ぱぱっと調べちゃうからさ』
腕まくりをしながらプリシスは荷物からドルメラ工具セットを取り出すと、首輪の解体を始めた。

128 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:30:58 ID:M1AUfxZY
作業はものの十数分で終わった。
中身から出て来たものは4つだった。
液状爆薬のシリンダー。
そのシリンダーは首輪と同様にリングの型をしており比較的柔軟な素材で出来ていた。
中には2種類の液体。それらを隔てるように薄い隔壁が設けられている。
無理やり首輪を引っ張れば隔壁がひび割れその隙間から2つの液体が混ざり合い化学反応を起こし爆発を起こす。
火薬などでは湿気てしまい不発になるかもしれないという配慮だろう。
そしてそのシリンダーから伸びる8本の回路に接続されているのは小さな紅い宝玉。
それには紋章力のようなものが込められていてどんな役割をしているかわからなかったが、
そこから延びる配線から察するに首輪の制御を司る物に違いない。
8本の線はおそらく製作者が首輪を作るときに間違って起動した場合解除するために設けたコードが1本と、
それに気付いた者を欺くためのダミー用の配線7本。
上手く当たりを切ることができれば爆弾は無力化できるかもしれないが、1/8のギャンブルを命がけでやる気にはなれなかった。
その宝玉からは別の配線が伸び、その先端は送受信機と拾音装置に繋がっていて、ディアスの推測を裏付けた。
科学技術の結晶ともいえる3つの部品マイクと、送受信機と、爆弾。
コレだけ小型で高性能な物をプリシスは留学先の地球でも見たことはなかった。
それらを紋章力による信号で制御。
簡単に述べるとそのような構成をしていた。

129 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:32:42 ID:M1AUfxZY
ばらされた部品を眺め終えたディアスがペンを走らせる。
『どうやら盗聴だけで、盗撮の心配はこの首輪に関しては無さそうだな』
『で? コイツは外せるのか?』
アルベルが殴り書いたような字で疑問をぶつけてきた。
『ん〜、今のままでは無理だね。紋章力に関しては私も専門外だし、どんな信号が送られてるかわからない。
それにまだ私達が気付いていない機能があるかもしれないから下手にいじれない。
紋章についての専門知識を持った人にこの宝石を見てもらって、発せられる信号を解析。
その後はその信号を誤魔化すための装置を横から接続して制御を乗っ取る。
続けて爆弾に繋がった回路全部に解除用の信号を流して切断。
最後に爆薬のシリンダー片側に穴を開けて1種類だけ液体を抜き取る。
その後は首輪を無理やり取っても大丈夫だよ。
でも、今は紋章術の専門家もいないし、回線乗っ取り用の機械も無いからお手上げ』
『機械ならなんでもいいのか?』
ディアスもプリシスに質問をぶつける。門外漢の彼にはこの程度の質問しか出来ない。
『この家にあるような家電製品じゃダメ。もっと高性能な演算処理ができる機械が必要だよ』
『んじゃ、機械だけなら目星はあるじゃねえか。コイツをばらそうぜ』
そう書かれた紙と共に無人君を指差すアルベル。
彼も未開惑星出身者だが、フェイトたちと共に行動していた為、
無人君には高度なCPUが積まれているのは容易に想像できた。
そんな彼に青い金属の塊、即ち無人君が剛速球で投げつけられる。
顔面でその直撃を受けたアルベルはもんどりをうってぶっ飛ばされた。
「ダメ! 無人君は私の大事な友達なんだからそんな事出来ない!」
(言ってる事とやってる事が違うだろうが…)
やれやれといった態度でアリューゼが肩をすくめた。
一つ咳払いをしてディアスが言葉を発する。
「紋章術の専門家なら心当たりがある。急いでいたから合流地点を決めれなかったが、
レオン達にはI-8に向かってもらっている。合流するぞ」
ディアスが促すとプリシスも荷物をまとめ立ち上がる。
それと共にアリューゼも立ち上がった。
「まぁ、あの青髪の女が起きるまでの契約だったしな。ついでにまだ報酬を貰ってねぇ」
アルベルも嫌々と言った様子で彼らの後に続く。

130 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:35:01 ID:M1AUfxZY
ここで先頭を行くデイアスが外の異変に気付いた。
人影が一つ、周囲を探るようにうろついているのだ。
目を凝らしてその人影の正体を探る。
背後のプリシスもその誰かの正体を見極め2人はその人物の名前を口にした。
「「ガブリエルっ!?」」
前の二人が止まる事で後ろがつっかえる。
「どうした?」
アリューゼが身を屈める2人に尋ねた。一応前の2人に習って彼とアルベルも壁際に身を屈める。
「敵だ」
「間違いないのか?」
短く応えたディアスにアリューゼが更に問いかける。
「ああ、あいつには説得も無意味だし、奴はこの島の参加者を皆殺しにするつもりだ。先程確かに倒したはずだが…」
「ならどうする? このままやり過ごすのか? それともぶっ倒して行くのか?」
アルベルの質問を聞きつつ、考えをまとめながらディアスはガブリエルを観察する。
先程奴の身体を貫いた傷や、全身に見受けられた傷跡が無くなっている。
どんな手品を使ったかはわからない。
数の上ではこちらの方が有利だが、全員それぞれ疲弊している。
ガブリエルからダメージが完全に消えているか判断しかねるが、先程と違って奴に全力を出されたら勝算は薄い。
ここは首輪解除のキーパーソンであるプリシスと護衛に誰かをつけて逃げてもらうか。
そうまとめた後に口を開こうとしたとき。プリシスが先に言葉を発した。
「私に手があるんだ。少し時間を稼いでくれないかな?
殺し合いに乗ったガブリエルを放って置くともっとたくさんの人が死んじゃうよ。私達で力を合わせてあいつを倒そうよ!」
(確かにプリシスの言う事にも一理ある…。
先程二手に分かれてしまったからこそ首輪の解析が頓挫してしまったわけだし、まとまって行動していた方が良いかもな)
「わかった俺が前に出よう。おそらく奴は俺を探しているだろうし、俺以外の存在を知らないはずだからな。
アルベル、お前は伏兵として伏せていてくれ。俺がやられそうになるか、プリシスの準備が完了した時に隙を作る役目を担って貰う。
アリューゼ、お前の傷では戦うのも厳しいだろうから、プリシスの護衛と手伝いに専念してくれ。
プリシス、お前は首輪解除の鍵を握っている。
約束してくれ、俺達が時間稼ぎに失敗したり、お前の考えていた手が通用しなかったら撤退してくれ」
ディアスの指示にアルベル、アリューゼは頷くがプリシスだけは抗議の声を上げる。
「そんなっ! 私だけ逃げろって? 冗談でしょ?それに1人だけ前に出るって…」
しかしディアスの真剣な面持ちから、彼にそんなつもりがないのはプリシスにも判っていた。
「奴の『ディバインウェーブ』の前には数で攻める事に余り意味は無い。それに、いいか?
俺の知る限りこいつをどうにかできる人間はお前ぐらいしかいない。
そんなお前が死んだら最悪の場合、最後の一人まで殺し合いを続けるしか手はなくなる。
それだけは避けなければならない。だから…わかってくれ!」
プリシスは目を伏せながらもディアスの言葉に頷いて見せた。
「よし、俺が先に出て奴の注意を引きつける。
アルベル、お前は後ろの窓から出てガブリエルの背後に回れ。
アリューゼ、プリシスを任せた。
プリシス、お前を信じている。だから、お前も俺を信じろ。
必ず時間は稼いで見せるし、俺は死なん!」
そう言うとディアスは扉を蹴破りガブリエルの前に躍り出た。

131 ◆yHjSlOJmms:2008/05/26(月) 23:38:29 ID:M1AUfxZY
続きもあるんですが、首輪考察はここまでなんで区切っておきます。

首輪について:中の構成品は、爆薬、マイク、送受信機、制御用紋章力結晶体(以下結晶体)です。
結晶体は首輪の制御を行う信号をだしており首輪の機能の中枢を担っています。
そこからの信号が途絶えた瞬間に爆弾は爆発する仕組みになっており、仮に術に精通しているものが結晶体の仕組みを暴いたとしても解除できません。
あくまで術師が解析した結果を踏まえて結晶体をハックする装置作らなければ外せないでしょう。
その他に結晶体は首輪の持ち主の生死を判断していますがプリシスはその機能に気付いていません。
また8本の線の内、当たりだけを切断しても、ルシファーの下に配線が切られたという情報が行くのでその場で爆破されるでしょう。

と、話の終わりに備考欄に書くつもりです。
問題が無いかどうかご意見お願いします。

132 ◆Zp1p5F0JNw:2008/09/29(月) 22:39:27 ID:kq8DtZEI
4スレ目>>507からの続きです。

133くそむしテクニック ◆Zp1p5F0JNw:2008/09/29(月) 22:40:10 ID:kq8DtZEI
「それでさ、一応調べたんだけどもうチンプンカンプン。さすがのあたしもお手上げって感じかなー」
プリシスがそう言いながら渡してきたメモ用紙には、首輪の構造に関する情報がびっしりと書き込まれていた。
さすがプリシスだ、と僕は唸る。
「う〜ん…正直僕も自信無いなあ。あんまり期待しないでね?」
消極的な台詞を言いつつも、僕はそのメモ用紙に熱心に目を通していく。こういった会話は勿論、盗聴器を考慮してのものだ。

…死んでしまったのはディアスお兄ちゃんだけじゃなかった。
プリシス達に聞いた放送の内容によれば、セリーヌお姉ちゃんやオペラお姉ちゃんも死んでしまったらしい。
悔しかった。悲しかった。さっきまで泣いてはいたけど、今でもまだ涙が出そうになる。
でも、今はそんな場合じゃない。僕はすぐに泣くのを止めて、首輪の考察を始めた。
僕が役に立てるのはこれ位だ。でも、だからこそこれに全力を注ぐ必要がある。そしてその価値はある!
そう、こういった頭脳労働こそが僕のやるべき事なんだ。
一刻も早く首輪を解除して、これ以上犠牲者が出るのを防がないといけない。

でも、僕の頭にどうしてもひっかかる事がある。
『プリシスは……生き残るために、僕達を皆殺しにするつもりなんだって』
アシュトンお兄ちゃんが言っていたあの言葉が頭から離れない。
勿論、プリシスは僕達を殺そうなんて考える人じゃない。
でも…アシュトンお兄ちゃんだって、どんな事があっても無意味な人殺しをするような人じゃない。
そんな人が、僕に斬りつけてきたのだ。もしも…って事を考えてしまう。

「おい、さっさと頼むぜ。とりあえず次の放送まではここにいるが、そっちが一段落したら移動するからな」
隣りに立つアルベルさんが僕達に言う。
「え?移動するの?」
「ああ。こんだけ暴れても誰も集まって来ねえし、禁止エリアで一部分潰されてるんだ。多分この村にはもう俺達以外の人間はいないだろ」
「確かにそうだろうけど…」
「じゃあ後は頼むぞ。悪いが俺は少し休む。放送のちょっと前に起こしてくれや」

この人は…確かに顔は恐いけど殺し合いにはのっていないらしい。それはレナお姉ちゃんも話してくれたし、何より僕を助けてくれた人だ。
いい人だとは思う。ディアスお兄ちゃんのように、自分の感情を他人に伝えるのが苦手なだけなんだろうと。
分かってる。それは分かっているんだ。だけど…。

プリシス……信じて、いいんだよね?


ったく、やっと落ち着いたぜ。
ここまでほぼ休み無しできたからな…さすが俺も疲れてきたぜ。向こうではガキ二人が首輪をいじってあーだこーだ相談している。
悔しいが、俺にはあーいう頭を使う作業はサッパリだ。
まあガキ共がそれに慣れてるんならそれでいい。俺が無理にそんな作業するこたあねえし、俺は俺の本業である「戦い」に専念すりゃいいんだ。
いわゆる適材適所ってやつだな。
さて、今ん所の問題は…。
部屋の隅で俯きながら座り込んでいるあのレナとかいう女。
ガキ共は立ち直ったようだが、あいつは未だにディアスの死を受け入れられないらしい。ずっと落ち込んだままだ。
俺としてはさっさと腕の治療をしてもらいたい所だが、あの様子じゃ今は出来そうにない。
本来なら無理矢理にでも治療させたいところだが、何故だがそういう気分にならない。
ありゃ、立ち直るのを待つしかねえな。
だが俺にはあいつを立ち直らせる術が分からん。励ませばいいのか?んな事俺にできる訳ねえだろうが。
ここにフェイトやスフレみてーな連中がいればそういう事も期待できたんだが。
ディアスの野郎、厄介な問題残して逝きやがって。
まあ、あいつのお陰で俺が生きているのは確かだ。
それに免じて、当分はガキ共のお守りを引き受けてやらあ。
ただ、首輪を解除するまでだがな。ルシファーと戦う時には、俺は何も気にせず直々にあの野郎をぶっ潰させてもらう。
そん時までは面倒見てやるから感謝しろよ。

ふとアルベルは自分のバックの中身を見る。
咎人の剣。
護身刀竜穿。
鉄パイプ。
この殺し合いでアルベルと会い、そして散っていった者達が使っていた武器。
(こーいうのは柄じゃねえな)
バッグを閉めて再び寝っ転がり、天井を見つめる。
(てめーらの分までルシファーをぶちのめしてやるよ。あの世で指銜えて見てろよ)
そんな事を考えながら、アルベルはゆっくりと目を閉じた。

134くそむしテクニック ◆Zp1p5F0JNw:2008/09/29(月) 22:41:03 ID:kq8DtZEI
【I-06/真夜中】
【アルベル・ノックス】[MP残量:70%]
[状態:睡眠中 左手首に深い切り傷(応急処置済みだが戦闘に支障あり)、左肩に咬み傷(応急処置済み)、左の奥歯が一本欠けている。内臓にダメージ 疲労大]
[装備:セイクリッドティア@SO2]
[道具:木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、????×0〜1、護身刀“竜穿”@SO3、
    鉄パイプ@SO3、????(アリューゼの持ち物、確認済み)、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)]
[行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法…はこのガキ共が何とかするだろ!]
[思考1:放送まで寝て疲れを取る]
[思考2:首輪が解除されるまでプリシス、レオン、レナの用心棒をする]
[思考3:レナを立ち直らせたいが…べ、別に心配だからじゃねえぞ、傷を治して貰わなきゃならねえからだ。文句あっか?]
[思考4:レオン達の首輪解析が一段落したら移動する]
[思考5:龍を背負った男(アシュトン)を警戒]
[現在位置:氷川村内民家]
※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック、仲間と友人の死に対しての深い悲しみ(どちらも立ち直りつつある)]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔0/100〕@SO2]
[道具:ドレメラ工具セット@SO3、????←本人確認済み、解体した首輪の部品(爆薬のみ消費)、無人君制御用端末@SO2?、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを打倒]
[思考1:レオンと一緒に首輪の解析を進める]
[思考2:自分達の仲間、ヴァルキリーを探す]
[思考3:アシュトンを説得したい]
[現在位置:氷川村内民家]

【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:100%]
[状態:左腕にやや違和感(時間経過やリハビリ次第で回復可能)]
[装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3、幻衣ミラージュ・ローブ(ローブが血まみれの為上からメイド服を着用)]
[道具:どーじん、魔眼のピアス(左耳用)、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式]
[行動方針:これ以上の犠牲者を防ぐ為、早急に首輪を解除。その後ルシファーを倒す]
[思考1:レオンと一緒に首輪の解析を進める]
[思考2:首輪、解析に必要な道具を入手する]
[思考3:信頼できる・できそうな仲間やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む]
[思考4:時間があったら左腕のリハビリをしたい]
[思考5:服着替えたい…]
[備考1:首輪に関する複数の考察をしていますが、いずれも確信が持ててないうえ、ひとつに絞り込めていません]
[備考2:第二回放送の内容は把握]
[現在位置:氷川村内民家]

【レナ・ランフォード】[MP残量:30%]
[状態:深い悲しみ、精神的疲労特大]
[装備:無し]
[道具:荷物一式]
[行動方針:………。]
[思考1:ディアス…]
[現在位置:氷川村内民家]

135くそむしテクニック ◆Zp1p5F0JNw:2008/09/29(月) 22:42:12 ID:kq8DtZEI
以上です。お騒がせしてすいませんでした。

136名無しのスフィア社社員:2008/09/29(月) 22:51:38 ID:bd8z6IHw
投下乙!
スレ立て失敗したんで誰かが立てていただけるまで待機状態です

転載する前に1点ほど
レオンの思考の部分で、「レオンと一緒に〜」となってます

137名無しのスフィア社社員:2008/09/29(月) 23:34:20 ID:XDUwBOQ6
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれはルシファーの情報をまとめていたと
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        思ったらいつのまにか投下が来ていた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何をされたのかわからなかった
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    超GJだとかまとめに書くこと増えたとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいスレ立ての失敗も味わったぜ…

超GJなんだぜ!
タイトルとアッールベルは自重しろwww
レオンとプリシスが合流したものの、まだまだ不安材料がいっぱいだなあ
しかしこれで彼らは放送まで行けちゃうんだな
改めてGJでした!
そしてPCからの書き込みが規制されてるため代理投下できなくてすみません……


あと本スレ>>495にあったフェイト・マリア・ソフィアの制限についてどなたかwikiにまとめて下さると助かります
SO3をほとんど知らず、うまく書けそうにないので……

138 ◆O4VWua9pzs:2008/11/01(土) 21:29:11 ID:3vjpar12
Start Up from Prolonged Darkness
の作品全体の誤字脱字の修正と作品に影響のない加筆を加えました

大きな加筆は金龍VSクリフに下記の台詞の追加ぐらいです
「うはははは、楽しいな♪ こんなにも脆弱で、惰弱で、滑稽で、哀れすぎて涙が出てくるよ」
あれほど推敲したのにかなり多かったよスマヌOTZ

139 ◆wKs3a28q6Q:2008/12/04(木) 07:43:32 ID:lmEQykiE
全文を投下するとかなり長くなるので該当箇所のみ修正版を投下させて頂きます
そのためwiki収録が面倒になるので、問題がないようでしたら自分で収録します

140 ◆wKs3a28q6Q:2008/12/04(木) 07:45:10 ID:lmEQykiE
本スレ>>236


「…………」
あれ?
おかしいな……マリアさんの反応が薄い……
今までのギャグと違い、意味は同じだけど異なった単語を引っ掛けたから理解して貰えなかったのかな?
うーん、ギャグは高度すぎてもダメってことか……
よし、今度は分かりやすいようもうちょっとレベルを下げて……
「大切な人の未来を守るためにも、前を未来(見ない)といけませんし」
さあ、笑って下さいマリアさん、僕の渾身のギャグで!
これから辛いことがたくさんあるだろうけど、だからこそ笑わないと!
「…………っ!?」
って、えええええ!?
ちょ、ま、マリアさん!?
何でそんな物騒な物をいきなりこっちに向けるんですか!?
そんな怖い顔をしてないでホラ、スマイル、スマイル……
「荷物を捨てて両手を高く上げなさい」
うわあ、目が本気だあ。
……よく分からないけど、ここは素直に従っておこう。
出会ってまだ1日も経ってないけど、マリアさんは僕の大切な仲間だ。
こんなところで変に揉めたくなんかない。
何であんなに怒っているか分からないけど、とりあえず落ち着いてもらうためにも言う事を聞くのが一番だ。
「は、はい……えっと、これでいいですか?」
荷物を離れた位置に放る。
にも関わらず、依然マリアさんはサイキックガンをこちらに向けて掲げていた。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「……何だ、食わんのか」
放送によりルシオもミカエルも生きていると判明して3時間以上が経過した。
放送後に連絡を取り隠れ家に選んだ民家にルシオを招き入れた俺は、現在居間で食事を取っている。
勿論食べているのは支給された微妙な味のコッペパンだ。
民家にあるもので何かを作って(ミランダに作らせて)もよかったが、毒物の類を混入されては困るからな。
「腹が減っては戦が出来ぬ、とまでは言わんが、戦闘に若干の支障が出る。
 俺やミランダに迷惑をかけぬためにも食える内に食っておけ」
そうとだけ言って、再びパンを口に運ぶ。

141 ◆wKs3a28q6Q:2008/12/04(木) 07:47:54 ID:lmEQykiE
本スレ>>277



「動機はともかく、神を信じる気持ちは――」
「……お話が盛り上がってるところ悪いんだけど、話を情報交換に戻してもいいかしら?」
本当ならゆっくり親睦を深めたいところだが、生憎そうもいかないのだ。
確かにミランダはクレス君と私の傷を少しだけだが癒してくれた。
その事で彼女は敵意がないことをアピールしてくれ、またクレス君もミランダの事を完全に信頼するに至った。
私も、正直言ってミランダの事を『殺し合いには乗っていない』と思い始めている。
戦闘の意思があるならわざわざ治療なんてしないし、デイパックの中身を隠そうとするなんて露骨な真似は避けるだろう。
理論的に考えれば、ミランダは白だ。

だが――ボーマンの存在のせいで、未だに私はミランダの事を疑ってしまう。
ボーマンもクレス君を治療した。
そして、爆発する薬品を薬と偽りチェスター君に持たせた疑いが彼にはある。
つまり、『傷の治療をしてくれる=殺し合いには乗っていない』という図式が成立するとは限らないのだ。
勿論ボーマンの件も所詮は『疑いがある』だけであって、黒だと断言はできていない。
黒だと仮定すると不可解な点が出てきてしまうし、白だと仮定してもやはり納得のいかない部分が出てきてしまう。
それらの疑問を解消してくれそうな要素はいくら記憶を掘り返しても見つからないし、当分ボーマンの白黒をハッキリさせることはできないだろう。
この判断に失敗は許されないのだ。確固たる証拠もなく勘だけでは判断を下せない。
ミランダの件も同様だ。
私達の治療をするというパフォーマンスが何ら意味をなさないとすると、ミランダの評価は『保留』となってしまうのだ。
今のところ、彼女を信頼出来そうだという根拠は治療してくれたことぐらいなのだから。
そのうえ、殺し合いに乗っていると思えるような要素もほとんどないときてる。
せいぜいが意固地になって隠しているデイパックの中身くらいか。
何にせよ、ミランダが乗っているのか否かを断言できる根拠はない。
正直言って非常に厄介な状況である。
何とか彼女が乗っているのか判断出来る材料を見つけないと……

そんなわけで現段階ではまだミランダを信頼できないので、牽制のために常にサイキックガンを手元に置いていた。
更に、万が一牙を剥かれても素早く対処できるよう、つま先を立てた片膝立で座っている。
襲われるとしたらどっかりと腰を下ろし油断しきったクレス君の方だろうが、この距離なら体当たりなりなんなりで初撃を妨害することが可能だ。
うっかりクレス君に当てでもしたら大惨事になるので、サイキックガンを使用するのはミランダの初撃を防いだ後、体勢を立て直してからだ。
……勿論、ミランダにサイキックガンを使わずに済むならそれに越したことはないのだが。

「私達はこの村に来る前に神社で一度襲われているわ。放送を聞いてショックを受けた所を襲ってきたりと油断のならない相手よ。
 話し合う気もないみたいだし、容赦なく襲ってくるから気を付けて。特徴は長い黒髪を束ねた髪で、独特の衣装を着ているわ。
 武器は剣と、それから刃先が飛び出すかわったナイフよ」
ミランダが言い出さなくとも、最初から放送の後までミランダの仲間とは合流しないつもりでいた。
というのも、そのアジトに行く途中で放送が始まる可能性があったからだ。
襲撃の可能性が高い場所で放送を聞く行為が如何に隙だらけなのかは、すでに経験済みである。
その放送でショックを受けようものならば、殺してくれと言わんばかりの状態になってしまうだろう。
次の放送を聞き終え、落ち込んだとしてもキチンと立ち直ってから移動するのがベストだ。
無論、ショックを受けないならそれに越したことはないが。

「……どうかした?」
ミランダの表情が、一瞬だけ強張った気がした。
「いえ……何でもありません」
もしかして、殺し合いに巻き込まれる以前の知り合いか何かと特徴が一致したのだろうか?
その辺の事とデイパックの中身については後々聞き出そうと思っているが、まずはこちらの持つ情報から話していこう。
それで何とかミランダの警戒心を和らげ、出来れば自主的にそれらの情報を提供してもらいたい。
(いい加減首輪の解析を始めないといけないわね……そのためには首輪のサンプルがほしいんだけど……)
少しだけ心が逸る。
上手くいけば――ミランダが殺し合いに乗っていなければ――放送の後に5人のチームが結成できる。
そうすれば戦闘や仲間探しを仲間に任せ、首輪の解析に専念することもできるのだ。
(まだ間に合う。まだこの殺し合いは止められる――!)

142 ◆wKs3a28q6Q:2008/12/04(木) 07:49:59 ID:lmEQykiE
また、本スレで指摘されました『キュア・ブラムス』を『キュア・プラムス』に修正したいと思います
指摘ありがとうございました

143 ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:40:42 ID:AVS1QGx.
遅れてすいません、規制されているのでこちらに投下します

144偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:41:22 ID:AVS1QGx.
「…ん?」
森林を抜け、F-3とF-4の丁度協会付近の街道に出た所にそれはあった。
「これは…デイパックですよね?」
道の真ん中に落ちていたのは、参加者全員に配られていたデイパック。
しかし周辺には持ち主と思われる参加者はおろか、遺体も見当たらない。
「誰かが捨てていったんでしょうか?」
「それにしては妙ですね。中には幾つか道具が入っていますし、多少消費しているとはいえ食料品も入っています。捨てていくなら、中身は全部持っていくと思うのですが」
「う〜ん、そうですよね」
中に入っていたアイテムは拡声器とボーリング玉。
確かに武器とは言えないし使い所には困るアイテムだが、このデイパックがある限りは別に持ち運びには困らない。
何より食料品という貴重な消耗品に手を付けていないのが不自然だ。

「まあ危ない物は入ってないし、取り合えずもらって行きましょうか」
「それなら、それはブレアさんが持っていて下さい。包丁だけでは万全とは言い難いですし、何か役に立つかもしれません」
「そ、そうですね」

自分で持っていこうとは言ったが、正直拡声器やボーリング玉如きが一役に立つとは思えなかった。
それに意味も無く支給品を放置している辺りどうも怪しい。
これは罠であり、荷物を拾っていく参加者を狙うために、食料に毒が仕込んであったりする可能性も考えられる。
適当な毒見役も探さなければ。
そしてデイパックを回収した二人が再び歩き始めた時、三回目の放送が始まった。


「ククク…ご機嫌いかがかな、諸君?
今放送を聞いている者は、このゲームの一日目を無事乗り切ったという事になるな。おめでとう。
二日目も、これまで以上に殺戮に励んで頑張って生き延びて貰いたい。期待しているぞ。
また放送の最後には、一つ朗報を発表してやろう。ありがたく思うがいい。
では、恒例の死亡者の発表から行おう…」

耳障りなルシファーの声は嫌でも耳に入ってくる。
クロードは死亡者の中に知り合いがいない事を祈りながら、放送に耳を傾けた。

だがその祈りは叶うことはなかった。

145偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:41:58 ID:AVS1QGx.
『チサト・マディソン』
助けたかった仲間の名前。
救えなかった。間に合わなかった。とうとう誤解を解く事はできなかった。
アシュトンの名前が呼ばれてないという事から考えるに、彼がホテルに着いた時には全て終わっていたのだろう。
チサトさんは最後まで僕が殺し合いに乗ったと思いながら逝ってしまったんだろうか。
そう思うと悲しかった。

『ジャック・ラッセル』
この島に連れて来られて初めてまともに会話した少年。
ちょっと軽そうな所が目立ったが、悪い奴では無かった。あのまま一緒に行動していれば信頼し合える友人になれたと思う。
目の前で死んでしまったジャックの名前が呼ばれているのだから、今更だけど名前を呼ばれた人は本当に死んでしまったんだろうな。
セリーヌさんやオペラさん、ノエルさんも…。

『アーチェ・クライン』
僕が不用意に剣を抜いてしまったせいで、怯えさせてしまった少女の名。
そうか…彼女も死んでしまったのか。
あの時僕がもっと冷静でいられれば、ジャックもアーチェも死なせずにすんだかもしれない。
ごめん、二人とも…。

『ディアス・フラック』
まさか。まさかディアスまで死んでしまうなんて。
僕なんかよりずっと強いあのディアスが。…いや、ここにはあの十賢者だって連れてこられている。
彼らともし一対一で戦えば、彼とて勝つのは難しいだろう。

『リドリー・ティンバーレイク』
ジャックが探していたという少女。本人は否定していたがどう考えてもジャックの恋人、もしくは想いを寄せている人だった。
直接面識があるわけでは無い。だがジャックが大切にしている人なら、彼の分まで彼女を守りたかった。
せめて天国では、ジャックと二人で幸せに暮らして欲しい。



「クロードさん」
放送終了後、俯いたままのクロードにブレアが問いかける。
「知り合いの方がいらしゃったのですか?」
「ええ、まあ…」
随分と落ち込んだ様子だ。
死亡者の内、確かクロードと元々仲間だったのはチサト・マディソンとディアス・フラックの二人だったはず。
それに加え先程の話を聞くに、アーチェやジャックとも会っている。
結構な数の知り合いの名が呼ばれているのだ。

「でも…」
そう呟いてクロードが立ち上がる。
(レナはまだ生きている)
拳を強く握り締めて、「世界と同じ名を冠する剣」エターナルスフィアを持つ。
(それならディアスの分まで、レナを守ればいい。レナだけじゃない。プリシスやアシュトン達、それに他の人達も…!)
仲間を失った苦しみには耐えられた。立ち止まっている暇は無い。

146偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:42:30 ID:AVS1QGx.
「僕は大丈夫です。ミカエルやガブリエルも倒れたようだし、多少は危険も減ったと思います。
それよりも、早くレザードって奴を倒さなければなりません。急ぎましょう」
言ってクロードは歩き出す。
その様子を見て、ブレアは小さく舌打ちした。

(できるならこの時点でマーダーに誘導してやりたかったけどね…)
『共に戦った仲間』如きでは彼を殺し合いに乗せるには弱かったらしい。
やはりレナのように恋人レベルで無いと難しかったか。
まあ、いい。クロードにはレザードを倒してもらわないと困る。マーダーに仕立てるのはその後でも遅くは無い。
(それにしても、ガウェイン・ロートシルトも死んでしまったようね)
レザードをマーダーだという噂を広めるよう言っておいた男。その後すぐ退場するとは、使えない奴だ。
せめてレザードに重症を与えてから死んでいればいいのだが。



放送後クロードの進む速度はかなり速くなっていた。
ブレアの目から見ても、明らかに焦っているのが分かる。
(もう生き残ってる人は、22人しかいない…!)
ゲーム開始から一日が経ち、参加者は既に半分は愚か1/3にまで減ってしまっている。自身の知り合いだって、十賢者以外にも半分近く死亡した。
このままのペースで殺し合いが続けば、明日にはゲーム完遂という事にもなりかねない。
それだけは何としても避けなければ。
(この状況で、僕ができる事は…)
首輪の解除。主催者の打倒。この島からの脱出。ゲームを打破する為に必要な事項は多い。
プリシスのような機械技術も無いし、レオンのように頭の回転がずば抜けて速い訳では無い。ブレアのように主催者に関する情報も持っていない。
そんな自分に出来る事といえば、殺し合いに乗る者―――マーダーを撃破し、他の参加者を守る事だ。
だからまずは、凶悪なマーダーだというレザードを倒す。
その一心がクロードの足を動かしていた。

147偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:43:07 ID:AVS1QGx.
しかし半日気絶していたとはいえ体中に傷を負い、ここまで移動しっ放しのクロードにも着実に疲労が蓄積されていく。
段々と汗の量は多くなり、歩みも遅くなっていった。
「クロードさん…無理は禁物ですよ」
その様子を見て、ブレアがクロードの肩を叩いた。
「随分と急いでいるようですが、少々疲れているのでは無いですか?」
「そんな、僕は大丈夫ですよ」
疲れているのは事実だが、いても立ってもいられない。
アシュトンとの約束もある。何とか無理を押して鎌石村へ向かおうとするクロードだが。
「クロードさん。レザードという男はかなりの強さを持った男です。戦ったとしても苦戦が予想されます。
ましてベストでは無い状態では勝率はさらに低くなるでしょう。闇雲に向かうよりは、体を休めた方が懸命です」
「………」
言われて見ればその通りではある。
コンディションの悪い状態で戦いに挑むのは愚策もいいところだ。
冒険をしていた時も毒に犯されたりした場合はすかさず回復し、治った後で戦いに挑むよう心がけていた。
だからブレアの言う事が正しいのは分かるのだが…。
「しかし、僕が休んでいる間に、またレザードが誰かを襲うかもしれませんし」
「大丈夫ですよ。今は夜ですし、レザードや他の参加者も動くのは控えるでしょう。その間に私達も体調を整えておくべきです」
「うーん…」
クロードは言葉に詰まる。やはり今の内に少し休んでおくべきか?
確かに今の自分は身体的にも精神的にもベストとは言い難い。こんな状態では自分の本来の力の半分も出せないだろう。
レザードの強さは分からない。だがミカエルやガブリエルが倒されている事を考えると、レザードも十賢者並みに強い可能性もある。
レザード以外にも十賢者クラスの力を持つ奴がいるかもしれない。
最悪、そいつらと一対一で戦わなければならないかもしれない。
そういった事を考えると、やはり少し休んだ方がいい気がしてきた。
森の中で休むのもやや不安だが、エネミーサーチもあるし大丈夫だろう。



道を少し外れて森に入り、周辺の木に比べ一際太い幹の近くに二人は腰を落ち着けた。
「ブレアさんは休まなくても大丈夫なんですか?」
既に幹にもたれかかり寝る体勢に入っていたクロードは、立ったままのブレアを見やる。
「二人共眠るのはさすがに無用心ですからね。私はさほど疲れてはいませんし、周辺を見張っています」
「しかし…」
「何かあったらすぐ起こしますから、心配しないで下さい。このエネミーサーチがあれば気炎もすぐに察知できるでしょうし」
クロードから渡されたエネミーサーチを見せながら、ブレアは笑顔で答えた。
「ですからクロードさんはゆっくり休んで下さい。これからの為にも」
「…分かりました。ではすいませんが、少し休ませてもらいます」
言って、クロードは目を閉じる。余程疲れていたのだろう、数分もしない内に寝息が聞こえてきた。

148偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:43:50 ID:AVS1QGx.
クロードが寝静まった後、ブレアはその周辺の見回りを開始した。
一応しばらくはクロードを駒として残しておきたいし、できる事なら味方も増やしたい。
正直な話、クロード1人でレザードを倒せるとは思っていない。
自分も加われば分からないが、できれば自分は非戦闘員として振舞っていたかった。その方が色々と動きやすい。
(この後はこのまま道を北上して鎌石村へ向かうのが妥当だけど…戦力がやや不安ね)
途中にあるホテルで少しでも戦力を補充できれば良いが。
そんな事を考えながら街道に戻ってみたが、エネミーサーチにも反応は無く、参加者は特に見当たらない。
(異常は無い様ね)
そう言えば、先の放送では支給品を新たに配布するとの発表があった。
場所的には、ここからだとE-2の菅原神社が近い。
(しかしクロードには十分な装備と武器があるし、私には特に武器は不要。あまり行く意味はなさそうだけど…)
だがそれを目当てに参加者が集まってくる可能性もある。行けば駒を増やすチャンスになるかもしれない。
(まあ、頭の片隅に入れておく位は…)
そこでブレアは一時的に思考を中断した。
背後の木々の間から物音がする。

(誰か…来る?)

葉を踏みつけるような音が聞こえてくる。
エネミーサーチに反応は無い。敵意が無いのか、まだこちらに気付いていないのか。
すかさず付近の木の影に身を隠し、様子を伺う。

「そっちも気付いているんだろ?出ておいでよ。こっちに敵意は無いよ?」

男の声がする。やがて森の中から、褐色肌の男が姿を現した。
(あれは…確か、ロキという男…)
知略に長け、かつ戦闘力も優れた参加者。性格も掴み所が無く、殺し合いに乗るかどうかは五分五分といったところ。
要注意人物の一角にも挙げられていた。
(どうする…?)
エネミーサーチの反応は未だ無い。少なくとも、こちらを襲う気は無いようだ。
しかし一筋縄ではいかない男だ。敵意は無いにしろ、何かを企んでいるかもしれない。
味方につける事ができれば、対レザードの戦力としては申し分無いのだが。


ブレアがロキの前に姿を現す。
月夜に照らされたロキの笑顔はとてつもなく不気味だった。
…何故なら、その顔面は痛ましい程の傷を負っていたから。
「ああ、ちょっと前に厄介な奴の相手をしてね。命からがら逃げてきたけどこのザマさ」
自嘲気味に笑うロキは、まだ痛むのか顎の辺りを頻りに抑えている。
「それは災難でしたね」
ブレアが返す。
簡単に一言二言会話を交わすが、どうやらロキはゲームには乗らずに主催を倒す事を目標としているようだ。
さて、ここからが問題だ。
この男をいかにして味方に付けるか。
プライドの高そうな男だ。それに、素直に「皆で協力して主催者を倒そう!」と言いそうな性格でも無い。
(そんな男を味方に付けるには…)
やはり『主催者の妹』というカードを使うしかないだろう。
そう名乗れば、脱出を目指す者にとって自分は重要なキーマンになる事ができる。
いくらロキといえど、無視できない存在になるだろう。

149偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:44:45 ID:AVS1QGx.
「なるほど、あのルシファーの妹、ねぇ」
ブレアは、自分がルシファーの妹である事、エターナルスフィアの事などを簡潔に説明した。
聞けば先程フェイト・ラインゴッドと遭遇し、ある程度の話を聞いているとの事。
突拍子も無い話を信じるかが問題だったが、これなら大方の事は信じてもらえるだろうと全て真実を話した。
「でも本当に信じられない話だよねぇ。創造主とかさ」
「それでも、私の話した事は全て本当なんです。どうか信じて下さい」
「ふん、まあフェイトも同じ事を言ってたしね。あまり信じたくはないけどね」
多少は信じてもらえたようだ。
後は情報を提供する代わりに、レザードの討伐を手伝わせなければ。


「ふ〜ん、レザードがね。確かにあいつならゲームに乗るだろうな」
「では、手伝って頂けるのですか?」
ロキは納得した様子だった。これなら味方に付ける事ができるかもしれない。
「でも、返事はNO!」
「な…!?」
腕でバッテンを作って答えるロキ。
「あいにくレザードなんて相手にしてる暇は無いんだよね。悪いけど、今忙しいから」
「忙しいって…」
「そういう訳で、この話は終わり。それじゃーね」
踵を返して背を向けるロキ。
「ま、待って…!」
ブレアは舌打ちする。
こんな展開は想像していなかった。脱出を目指す者なら、自分を仲間にしないという選択しなど存在しないと思っていた。
(くそ、プログラムの分際で、私に逆らって!!)
先程から思考に介入してくるノイズ。それがブレアをたまらなく苛立たせる。
自分も相手も所詮ルシファーの作り物に過ぎない。
それなら作り物同士でも、ルシファーに直接命令を下されている自分のほうが優れているはずなのだ。
何としてもロキを屈服させないと気は済みそうに無い。
(ここまで話したのだから、嫌でも協力してもらうわよ)
バッグからパラライズボルトを取り出しす。
無防備に背後を晒すロキに向かって、ブレアが右手に持ったパラライズボルトを押し当て――

「見え見えなんだよ、バーカ」

150偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:45:21 ID:AVS1QGx.
それは一瞬。まるでブレアが攻撃するのを分かっていたかのようだった。
ブレアがパラライズボルトを押し当てる直前、振り向いたロキがブレアの右腕を掴んでいたのだ。
「なっ…!?」
予想外のロキの行動に僅かだが隙を見せてしまうブレア。僅かに腕の力が緩んだのをロキは見逃さない。
素早くパラライズボルトを奪い取り、ブレアの腹部に押し付けた。
「あああぁっ!」
全身に痺れが走る。手足の自由を奪われたブレアが地面に倒れた。辛うじて口を動かす事だけができた。
「な、何故…」
「少し考えれば分かるさ。お前がゲームに乗ってる事くらいはね」
「なん…だと…?」
倒れ伏すブレアに向かい、ロキは心底楽しそうな笑顔で話を続けた。
「エターナルスフィアだのFD界だのってのは、むかつくけど真実なんだろうね。フェイトも同じ事を言っていたし。
でもおかしいだろ?お前は主催者やFD界の知識や技術を持ちすぎている。実際、前はブレアがフェイトたちを支援したせいで負けたんだろ?
ゲームに乗りそうも無い。むしろゲームを打破するきっかけになる危険性がある」
ブレアからの返事は無いが、ロキは構わず続ける。
「そんな奴を参加者にして何のメリットがある?どう考えてもデメリットしかないんだよ。…『本物』のブレアならね」
ロキがそう言った時、ブレアの表情が明らかに変わった。
「ん?図星かな?まあ少なくともお前は『フェイト達を助けたブレア』とは別人だと思うよ。本物だとしても操られているか…。
そうなればメリットも見えてくる。『フェイト達を助けたブレア』として参加していれば参加者を油断させる事が出来る。
裏で色々やって混乱させたりすれば、争いの火種を撒けるしね。
だから俺は最初から分かってたのさ。お前はゲームに乗っている、ってね」
勝ち誇ったようにブレアを見下ろすロキ。ブレアは怒りの表情で睨み返すが彼は全く動じない。

「えーと持ち物は、何々、パラライズボルト?スタンガンと同じような物か。それと…包丁。こっちには何が入ってるんだ?」
ブレアが落としたバッグを拾い、中身を物色する。
「鉄球と…ん?これは何だ?カクセイキ?なるほどなるほど…声や音を大きくして周辺に流す、ね」
バッグから拡声器を取り出したロキは、「あーテステス」などとマイク部分に向かって囁く。
スピーカーから出た自分の声を聞き、満足そうに頷いた。
「面白そうな物を持ってるじゃないか。使ってみようかな?」
「何をするつもり…?」
「そうだな?『ブレアは偽者だ!ゲームに乗っているぞ!信用するな!』とか叫んでみようか?」
「何ですって…!?」
「そしたらどうなるかな?その辺にいる参加者にはこの声が聞こえるだろうね。そしてお前への警戒心が生まれる…。
そういえば近く仲間がいるんだっけ?そいつに聞こえたらどうなるかな…?
きっと逃げ出して、この事を他の参加者に言うだろうね。そしたらお前はかなり動きにくくなるし、信用も失う…」
「……!」
もう何度目になるか分からない舌打ちをするブレア。
そんな事をされたら、もし他の参加者に聞かれれば非常にまずい事態になる。
もしロキが言うような事を聞かれても全て鵜呑みにする参加者はほとんどいないとは思う。
しかし多かれ少なかれ警戒心を抱かれるだろう。
何より近くにはクロードがいる。せっかく手に入れた駒を失うような事は避けたい。
さらに悪い展開としては、正義に燃える参加者が集まってきて拘束される危険もある。
「く…このクソガキが…!」
思わず感情が言葉が出た。
「ん?クソだって…?空耳かな?主導権を握っている者に対しての言葉とは思えないような単語が聞こた気がするけど…悪いけどもう一回言ってくれないかい?」
それですら余裕で返すロキ。
ブレアの怒りが最高潮に達する。
自分より格下の相手…いや、格下でなければならない相手に主導権を握られているというこの状態。
頭の中がノイズで溢れていくのを必死に押さえ込んだ。

151偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:46:03 ID:AVS1QGx.
「要求は何…?」
「そうだなあ。ルシファーの事もあるけど…取りあえず、お手伝いをしてもらおうかな?」
「手伝い…?」
「そ。お前がレザードを倒そうとしてたみたいに、俺も倒さないといけない奴がいてね」
ロキの頭に、先程の戦闘が浮かぶ。
正体不明のハゲ男…最初は誰だか分からなかったが、最後に喰らった技を見て正体が分かった。
あの息も吐かせないほどの連続攻撃…あれは『ブラッディカリス』――不死王ブラムスの奥義に他ならない。
フェイト達の救援にブラムスが来るのは計算外だった。
ブラムスは本来なら味方に付けておかなければならない人物。しかしあの一件で、向こうからは危険人物と認識されてしまっただろう。
だがロキとしては、ブラムスは何とかして味方に付けておきたい。
自分をフルボッコにした相手と組むのは非常に不本意だが、それを押し殺してでも味方にしておく価値と強さがブラムスにはあるのだ。
(それには、もう一回ブラムスと接触する必要があるからね)
しかし邪魔になるのがフェイト、エルネスト、クラースの三人。
彼からはほぼ確実にゲームに乗っている連中と同等に扱われているだろう。
ブラムスは所詮、話でしか自分がした事を聞いていない。説得は可能だと思う。
フェイトに対しては拷問まがいの事をしようとしたが、お人よしそうだし警戒されながらも説得はできる。
問題は残りの二人だ。あいつらは何があっても自分を信用しようとはしないだろう。
要するに邪魔なので殺しておきたい。
ブラムスから逃げた後、そうする為の作戦を練っていたところでブレアを発見、現在に至る…というわけだ。
ロキの作戦はこうだ。
まずブレアをフェイト達に接触させて、仲間としてパーティーに加えさせる。
主催者の妹な上、『本物のブレア』を知っているフェイトならすんなり仲間に加えるだろう。
そこで不意打ちでクラースとエルネストを殺害。その後で今度は自分が接触すればいい。
「どうだ?簡単だろ?」
協力してくれればブレアの事をバラすような事はしない、とロキは付け加える。
「お前は殺し合いに乗っているんだろ?一応参加者は減るし悪い条件じゃないと思うぞ?勿論、手伝いが済んだ後は自由にしていいさ。俺を殺しにかかってもね」
ロキはあくまで『お手伝い』と言うが、これはほぼ脅迫だった。
事実ロキはそう言いながらも、左手には拡声器、右手にはグーングニルを持ってブレアの眼前に先端を置いている。
「くそ、貴様如きの命令なんて…!」
「あれあれ?そんな事言っていいんですか?使いますよ、拡声器」
「おのれぇぇぇ…!」
青筋が顔に現れる。思えばここまで怒りを抱いたのは生まれて初めてかもしれない。
しかし最初から選択肢は一つしか無かった。
断れば拡声器どころでは無い。目の前の槍が体に突き刺される事だろう。
動けない自分にはどうしようもない。いや、例え動けるようになっても、武器を全て奪われている状態では…。
(おのれ、おのれ、おのれぇぇぇぇぇぇぇあqwせdrftgyふじこlpあshだghhkfd!!!!!!!)

152偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:46:40 ID:AVS1QGx.
「クロードさん、クロードさん」
「ん…むにゃ」
誰かが呼ぶ声がする。意識が朦朧としているが頭を振って無理やり覚醒させ、クロードは目を覚ました。
「少しは疲れ取れましたか?」
「あ、ブレアさん。おはようございま…ん?」
立ち上がったクロードは、ブレアの背後に見慣れない人物がいる事に気付く。
「えっと、後ろの人は?」
「ああ、クロードさんが休んでいる間に出会ったんです。ご心配なく、彼もゲームを止めようとしている方です」
「ロキだ。よろしくね」
「クロード・C・ケニーです。こちらこそよろしく」
ロキと呼ばれた男が手を差し出してくる。クロードもそれに答え、差し出された手を握った。
「早速で申し訳ございませんが…私達はここでクロードさんと別れます」
「ええ?」
思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。
突然別れるなんて一体どういう事だ?しかも今会ったばかりの人間と行ってしまうなんて。
「ど、どうしてまた?」
「実は…先程ロキさんを襲った者がいるらしいのですが…どうも、私の顔見知りらしいのです。私は、その人を止めに行きます」
「だったら僕も」
「いえ。勿論その人も止めなければならないですが、レザードを放っておくわけにもいきません。
ですからクロードさんは、先に鎌石村に向かって下さい。お願いします」
「ブレアの方は俺が案内する。心配ないさ、用が済んだらこっちもすぐ鎌石村へ向かう」
ブレアの表情は真剣そのものだ。
彼女の気持ちは分かる。自分ももし知り合いが殺し合いに乗っていたなら、全て後回しにしてその人を止めに言ってしまうだろう。
ブレアが心配ではあるが、ロキという人も殺し合いには乗っていないようだし、二人なら大丈夫だろう。
こっちは先に村へ向かい、アシュトンらと合流してレザードを倒す為のメンバーを集めておけばいい。
「分かりました。でも気を付けて下さい」
「クロードさんも。お一人で行かせてしまってすいません」

ブレアから返してもらったエネミーサーチを装備すると、クロードは再び走り出した。
アシュトンの誤解を解き、合流する為。
殺し合いに乗っているレザードを倒す為。
知り合いを止めに行くと言う、ブレアやロキと後で合流する為。

それら全てが、偽りであるとも知らず。



「行ったようだね。それじゃこっちも行こうか?」
ロキが言うが、ブレアは答えない。ただ先立って歩き始めただけ。
やれやれと微笑を浮かべその後を歩くロキ。
その手にはパラライズボルトが握られ、ブレアの背中に密着させられていた。

153偽者だとばれたら負けかなと思ってる ◆Zp1p5F0JNw:2009/02/22(日) 21:47:12 ID:AVS1QGx.
【F-04/深夜】
【クロード・C・ケニー】[MP残量:100%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、大分楽になった)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)]
[装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード]
[道具:昂魔の鏡@VP、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:鎌石村へ直行 可能ならばアシュトンとアシュトンの見つけた仲間達に合流する]
[思考2:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考3:レザードを倒す、その為の仲間も集めたい]
[思考4:ブレア、ロキとも鎌石村で合流]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:ブレアによって1回目の放送内容を把握しました]
[備考3:ブレアの持ち物は基本的な物以外は万能包丁だけだと思っています]

[現在位置:街道を北上中]

【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%]
[状態:体にやや痺れ 激しいノイズ、ロキに対する怒り臨界点突破]
[装備:無し]
[道具:荷物一式]
[行動方針:参加者にできる限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい]
[思考1:非常に不本意だがロキに協力 ]
[思考2:レザードがマーダーだと広める ]
[思考3:無差別な殺害はせずに、集団に入り込み内部崩壊や気持ちが揺れてる人間の後押しに重点を置き行動]
[思考4:ロキ殺す。マジでぶっ殺す]
[思考5:レナの死をクロードが知った場合クロードをマーダーに仕立て上げる(その場にいたら)]
[備考1:※ルシオ、ルーファス、クリフの特徴を聞きました。
     名前は聞いていませんが、前持って人物情報を聞かされているので特定しています]
[備考2:フェイト達に会うまでは保身を優先し、誤情報を広めるつもりはありません]
[備考3:クロードの持ち物は基本的な物以外エターナルスフィアとスターガードだけだと思っています]

【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)
顔面に大きな痣&傷多数 顎関節脱臼(やや痛むが何とか修復完了) 神生終了のお知らせ]
[装備:グーングニル3@TOP、パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔90/100〕@SO3、]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル@現実世界、
    万能包丁@SO3、拡声器@現実、ボーリング玉@現実、首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:ブレアを使ってクラース、エルネストを殺害]
[思考2:1を実行後、ブラムスとフェイトを何とかして味方に付ける。出来なかった場合は…?]
[思考3:ブレアは用が済んだら殺しとく]
[思考4:見つけ次第ルシオの殺害]
[思考5:首輪を外す方法を考える]
[思考6:一応ドラゴンオーブを探してみる(有るとは思っていない)]
[思考7:できれば自転車取り返したいなー]
[備考1:顎を直しましたが、後2時間位は長い呪文詠唱などをすると痛みが走るかもしれません]
[備考2:自分をフルボッコにした相手はブラムスと特定しています]
[備考3:レザードは多分殺し合いには乗っていないだろうと予測(マーダーであるブレアが殺したがっているから)]

[現在位置:北部の街道]

154鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:41:15 ID:URy58WHg
ボーマンは立ち上がると懐から作り置きしていた最後の丸薬である『秘仙丹』を取り出すと一口で飲み下した。
(やはり気休め程度にしかならんか…。死に損ないの癖になんて動きをしやがる。
こんな事なら『破砕弾』を作っておくんだった…)
所々悲鳴を上げる体を無視して構えを作るボーマン。
しかし、対峙している死に損ないと称した男の放つ闘気に思わず後ずさりしてしまう。
その時、
『禁止エリアに抵触しています。首輪爆破まで後30秒』
と、首輪から警告が発せられた。
直ぐに一歩前に踏み出すとその警告は鳴り止んだ。
戦闘に入る前に見た地図と現在位置を照らし合わせると、
今自分はD−5エリアの北部に位置しているのだとボーマンは結論付けた。
(随分派手にやりあったもんだ。こんなところまで来るなんてな…。
アシュトン達はどうなった? いや、しばらくは援軍も見込めんか…。どうする? 
このままやりあってもいいが、決定打となる手札が…)
そこでふと思い出した地図に描いた丸印。
その箇所には開始前に殺されたどちらかに渡されるはずだった支給品が置かれる事になっている。
(まだ、放送からそんなに経っていない…。『バーニィシューズ』を履いている今なら一番乗りも可能か? 
仮に先客がいても逃げ延びれるはず。それに何よりこいつが後を追ってきたのならそいつに対応させればいい。これは分のいい賭けだ)
そうまとめるや否や、踵を返し西の方角へ、鎌石村役場のある方向へと駆け出した。

それを見て驚いたのはクリフである。
まだ、どちらも優勢ともいえない戦況でいきなり相手が逃走をしたからだ。
(いったいどこへ? まぁ、いい深追いは禁物か…。ソフィアの嬢ちゃんも気になるし…。
待てよ…。あの野郎が向かった方向は!)
そう、クリフの考えた通りボーマンの逃走先はまさしく鎌石村役場。
そして、そこにはクリフのパートナーであるミラージュがいるはずの場所。
今も尚戦っているはずであるソフィアの事も気にかかるが、重傷を負っていたミラージュの事も気になる。
深手を負っている状態のミラージュではあのオヤジには勝てない。そんな板ばさみの思考の末クリフは
「くそっ、すまねえ嬢ちゃん。直ぐにあの野郎をぶっ飛ばしてミラージュ連れて帰ってくるからよ!」
とソフィアがいる方向に呟くと逃走したボーマンの追跡を開始した。
放送を聞き逃した彼は知る由もなかった、既にそのミラージュはリドリーの手にかかっていて死んでしまっている事を。
だから誰が彼のこの行動を責める事が出来よう、彼は唯大切な者を守る為に駆け出しただけなのだから。

155鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:42:13 ID:URy58WHg
【D−5/深夜】

【クリフ・フィッター】[MP残量:25%]
[状態:疲労大、全身強打、あばら骨を骨折(これらの傷はソフィアによってある程度緩和しています)]
[装備:ミスリルガーター、閃光手榴弾、サイレンスカード×2]
[道具:エターナルソード、メルーファ、バニッシュボム×5、フレイの首輪、荷物一式×3]
[行動方針:首輪を解除してルシファーを倒す]
[思考1:脱出の手段を見つける]
[思考2:仲間を集める(マリア、フェイト優先)]
[思考3:首輪は調べられたら調べる]
[思考4:鎌石村役場に向かいミラージュと共にボーマンを倒してソフィアの元に戻る]
[備考:第3回目の放送を聴いてません]
[現在位置:D−5北西部]

【ボーマン・ジーン】[MP残量:30%]
[状態:全身に打身や打撲 ガソリン塗れ(気化するまで火気厳禁)]
[装備:エンプレシア、フェイトアーマー、バーニィシューズ]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉×2、荷物一式×2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:アシュトン・チェスターを利用し確実に人数を減らしていく]
[思考3:鎌石村役場に行き支給品を獲得する。先客がいた場合はクリフの相手をさせ逃走する]
[思考4:菅原神社に向かいながら安全な寝床および調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[現在位置:D−5北西部]

156鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:44:05 ID:URy58WHg
■□■□■□■□■□■□■□

(どうして…どうしてなんだよ!?)
チェスターは戦いを続けるソフィアとアシュトンの姿を見ながら立ち尽くしていた。
(あの子の仇を取るって、そう決めたのに!)
だが、彼の心がその行為に対して強く歯止めを掛ける。
頭ではアシュトンの戦っている女の子を金髪の少女の仇として認識しているのに、
健気にも戦い続ける少女の姿を見ていると、あの子は殺しちゃいけないと思考とは別の所が叫びを上げる。
だが、チェスターはその叫びの理由がわからず苦悩していた。
きっとそれは自分の中でとても大切なものだったはずなのに、今のチェスターにはどうしても判らない。
(どうして?)
抱いた疑問の答えを得るべく、少女の動きを目で追い続ける。
そうしてチェスターは気付いた。
少女が常に地面に横たわる緑色の髪をした男とアシュトンの間に立って戦っている事に。
少女は守る為の戦いをしているという事に。そして同時に思い出す。自分の抱いた戦う本当の理由を。
(あの子は奪いたいんじゃない。守りたいんだ。
 俺もそうだったじゃないか。アミィみたいに理不尽に奪われる命があるのが嫌で戦おうとしてたんだよな…。
 失われてしまった命は二度と戻らないから、奪わせない為に強くなろうって決めたのに。
 なのに、今の俺はどうだ? 確かにクロードの奴は憎い。
 奪っていったアイツにツケを払わせてやりたい。でも、その為だけに戦おうとしてた…。
 それって、俺が弓をとった理由だったか? 
 確かにダオスと戦ったのは村の皆の、家族の仇を取りたいからだった。
 でもトーティス村があんな事になる前から俺は弓を握ってた。
 じゃあ、一番最初の理由はなんだった?)
己に対して質問をする。その答えは直ぐに返ってきた。
(俺の属する小さな世界を守りたかったからだ。村を、皆を、家族を、親友の背中を守りたかったんだ! 
 だから弓を取ったのに、何で忘れてしまっていたんだろう…。
 今みたいに憎しみを持って戦うだけじゃ、守りたいモノを守る事なんて出来やしない!
 あの女の子みたいに、俺も大切なモノを守りたい。守らなくちゃいけないんだっ。
 それが、俺の戦う本当の理由なんだから!)

157鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:45:25 ID:URy58WHg
■□■□■□■□■□■□■□

ボーマンさんは大男と殴り合いながら北の方向に行ってしまった。
依然と役立たず(チェスター)は同じ位置で立ち尽くしている。
(まぁ、いいか。そろそろあの子の消耗も限界だろうし、かわいそうだけど殺させてもらうよ)
三度目になる少女に対する突撃。だが無策ではない。
今度はデイパックから取り出した『レーザーウェポン』の形状を変化させ得意の小剣二刀流の構えを取り、その剣には紋章力を込めてある。
多少の紋章術なら切り裂いて止めをさせるはずだ。
少女から放たれる氷の矢をギョロに蒸発させ、残りの距離を詰める。
続けて放たれた火球はウルルンが凍らせた。
もうまもなく僕の剣の間合いだ。
目の前の少女は悪あがきをする様に、再度僕に紋章術で呼び出した炎の魔人を嗾けて来た。
「残念だけど、その攻撃はもう見切っているんだ…」
振り下ろされる巨大な剣を受け流し、炎の魔人を十字に切り裂く。
さぁ、もう僕の間合いだ。苦しまない様に一撃でその首を刎ねてあげるよ。
『プロテクション』
尚も悪あがきを続けるこの女の子の張った防御壁を切り裂く。
僕の斬撃は杖の柄の部分で受け止められてしまったが、構わずそのまま力任せに振り抜く。
吹き飛ばされた女の子は後方の木の幹に激突して尻餅をついていた。
頭を打ち付けてしまったのだろうか、頭から血が流れ落ちている。
「抵抗するから苦しむのに…。いい加減死んでくれないかなぁ!」
尚も震える杖をこちらに向ける女の子に引導を渡すべく、両手持ちの剣に形状を変えた『レーザーウェポン』を振り上げた。

158鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:47:11 ID:URy58WHg
■□■□■□■□■□■□■□

「抵抗するから苦しむのに…。いい加減死んでくれないかなぁ!」
そんな風に叫びながら私に迫る龍を背負った剣士の青年。

嫌だ…。死にたくない。

死ぬのは今でも怖い…。

でも、死ぬ事自体が怖いんじゃない…。

今私が死んじゃったら、ルーファスさんの中にいるレナスさんを守る事が出来ない。

その事の方が自分の死よりも恐ろしかった。

(誰か…、私の事はいいから。ルーファスさんとレナスさんだけは守って!)
私の体はまだ、この青年に杖を向けている。
自分の紋章術は彼には通用しない事を承知で、唯々守りたくて杖を向ける。
ソフィアは少し誇らしかった、いつも泣いてばかりいた、守られてばかりいた自分がこうして誰かを守る為に命を賭けて戦っている事に。
(これもルーファスさんが私にくれた勇気のおかげかな…)
ルーファスから受け取った勇気を胸に、ルーファスからもらった魔道の杖をその手に、彼女はまだ抗おうとした。

「これで終わりだね…さようなら」
凍りつく様な視線をソフィアに送るアシュトン。
そうして、無常にも振り下ろされる白刃は

「やめろぉぉぉぉっ!」

少年の慟哭と共に放たれた矢によって弾かれた。

159鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:49:36 ID:URy58WHg
■□■□■□■□■□■□■□

「どういう…事かな?」
放たれた矢の方角、チェスターの立つ方を振り替えり、
抑揚の無い、しかし、溢れんばかりの怒りを込めた言葉を送るアシュトン。
「もうやめろっ! 俺はこの子に死んで欲しくなんかない!」
次の矢を抜き放ち、その矢を構えながらチェスターは叫ぶ。
「意味がわからないな…。さっき見つけた女の子を殺した連中を殺そうって言ったのは君だよね?」
「言ったよ、言ったけど。こんなにも仲間の為に戦っているこの子が、理由もなくあの子をあんな風に殺したなんて思えないんだ! 
 その子は大切な人を守ろうと必死になっている。俺も最初は力を持っていない人達を守りたかったんだ! 
 けど、どんどん殺されちまって、誰も助けられなくて、目の前で死なれて、俺は次第に殺す奴等を恨むようになっちまった! 
 戦う理由が摩り替わっちまってたんだ。
 その子は俺の理想としていた、なろうとした姿なんだ! 
 親友を、クレスを振り切って復讐の為にここまで来ちまったけど…、漸く思い出せた! 
 その子が思い出させてくれた。俺が戦う理由…。力の無い人達を守る為に! 
 だから俺は! この子を守るっ!」
そんな気迫に満ちたチェスターの独白に対し、先程となんら変わる事の無い冷たい表情でアシュトンが切り返す。
「それで…、僕が納得すると思ってる?」
「思わない…。でも頼む。剣を引いてくれ、でないと俺…」
「どうするの?」
「お前を倒してでも止めなくちゃならない…」
一時でも行動を共にした人間に矢を向ける事をしたくないと苦悩の表情を見せるチェスター。
「そう、わかった…」
「えっ?」
このアシュトンの返答を肯定と取ったチェスターが驚きの表情をあげる中
「最初は何かの役に立つかもしれないと生かしておいたけど、もういいや…、今ここで殺そう。
 よく考えたらクロードの事をゲームに乗ってるなんて言いふらしている奴だもんね、生かしておく理由が無いじゃないか…。
 クロードとの約束は守れなくなるけど、決めたよ。君達は、ここで殺す!」
アシュトンはそう呟くとデイパックより大剣『アヴクール』を抜き放った。

160鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:50:59 ID:URy58WHg
【D−5/深夜】
【ソフィア・エスティード】[MP残量:20%]
[状態:疲労、頭部に傷]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング、アクアリング、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:ドラゴンオーブ、ヒールユニット@SO3(ガウェインの支給品)、魔剣グラム、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:レナス@ルーファスを守る]
[思考2:怪我人(クリフとレナス)を介抱する]
[思考3:フェイトを探す]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:自分の知り合いを探す]
[思考6:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[思考7:レザードを警戒]
[現在地:D-5東部]
[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]

【チェスター・バークライト】[MP残量:100%]
[状態:全身に火傷、左手の掌に火傷、胸部に浅い切り傷、肉体的・精神的疲労(重度)、
 クロードに対する憎悪、無力感からくるクレスに対する劣等感]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ@VP(クレアの支給品)、矢×39本、パラライチェック@SO2の紛い物(効果のほどは不明)]
[道具:スーパーボール、チサトのメモ、アーチェのホウキ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:クロードを見つけ出し、絶対に復讐する]
[思考2:リドリーの死の真相をソフィアから聞きだす]
[思考3:ソフィアを守る]
[思考4:今の自分では精神的にも能力的にもただの足手まといなので、クレス達とは出来れば合流したくない]
[備考:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[現在位置:D−5東部]

161鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:51:33 ID:URy58WHg
【アシュトン・アンカース】[MP残量:105%(最大130%)]
[状態:疲労微、体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕にかすり傷(応急処置済み)、右腕打撲]
[装備:アヴクール、ルナタブレット、マジックミスト]
[道具:無稼働銃、イグニートソード、物質透化ユニット、首輪×3、荷物一式×2]
[行動方針:第4回放送頃に鎌石村でクロード・プリシスに再会し、プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる]
[思考1:プリシスのためになると思う事を最優先で行う]
[思考2:ボーマンを利用して首輪を集める]
[思考3:菅原神社に向かう]
[思考4:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい]
[思考5:チェスターとソフィアを殺す]
[備考1:ギョロとウルルンは基本的にアシュトンの意向を尊重しますが、プリシスのためにアシュトンが最終的に死ぬことだけは避けたいと思っています]
[備考2:ギョロとウルルンはアシュトンが何を考えてるのか分からなくなるつつあります。そのためアシュトンとの連携がうまくいかない可能性があります]
[現在位置:D−5東部]

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:30%]
[状態:ルーファスの身体、気絶、疲労大]
[装備:連弓ダブルクロス、矢×27本]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[現在地:D-5東部]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:半日以内にレナスの意識で目を覚まします]

[備考:近くに弾かれたレーザーウェポン@SO3が落ちています]

162鎌石村大乱戦 開幕 〜守りたい者の為に〜:2009/02/23(月) 01:53:18 ID:URy58WHg
投下終了です。
久々にバトルをやりましたけど、他の方みたく濃いバトルの描写はどうすれば出来るのでしょうか? 
一瞬の駆け引きとかをもっと濃厚に書きたかったんですが…。
アドバイスと後、指摘などありましたらお願いいたします。

それと、放送を読んでどうしてもクリフにミラージュの死を知らない状態で役場で遺体とご対面ってシーンを見てみたくなり、ちょっと無理遣り気味ですが行ってもらいました。
チェスターは前話から豹変してリドリーを殺した奴を守ろうってなっちゃってますが、行動方針的には問題ないかなと思ってたりします。
ただ今までの話の流れ的にこの二人の行動はツッコミ所あるかなって感じです。
問題ありの様であれば破棄します。

163名無しのスフィア社社員:2009/02/23(月) 02:17:33 ID:L62OeIDM
一応こっちでも・・・さるさんくらったのでどなたか残りの代理投下お願いします
投下終わらないと感想かけないから困る

164 ◆yHjSlOJmms:2009/02/24(火) 20:57:19 ID:IVMvbV82
修正稿が出来ましたので投下↓

165本スレ31と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:00:27 ID:IVMvbV82
■□■□■□■□■□■□■□

やれやれ…。
あんなに熱くなっちまって、あの様子だと今度はまた駄々をこねて
「この子の仇を討ちたいんだ! 頼む! 力を貸してくれ!」
なんて言うに決まってる。
まったく、俺の身を隠す絶好の場所だと思ってたんだが、どうもうまく行かないみたいだな。
隣を見やると、アシュトンの奴も呆れて物も言えないって感じの表情でチェスターの奴を見てるしな。
さて、どうしたもんか?
わざわざ危険な所にノコノコと出て行く気なんか無いんだけどな。適当に慰めてさっさと菅原神社を目指したい。
正直こんな女の子を、ここまで穴だらけにして殺してしまう様な奴等とは係わり合いになりたくないってのが本音だしな。
改めてこの少女の亡骸を眺めていると、ふと気になる箇所が目に止まった。
この子の手が、手の甲まで血で真っ赤になっている。
溢れる血を押さえようとしたとしても、手の平が血まみれになるだけで、手の甲までそうはならない。
そう、これはまるでこの子が人体を素手で突き破ったとしか思えない血の痕。
こんなか弱そうな少女がそんな真似出来るのか? 
とも思えるが、十賢者の中には子供の容姿をしたサディケルや、ただの爺さんにしか見えないカマエルってのもいたからな。
見た目だけで判断するのも良くないな。
さて、ここで一つ仮説を立ててみよう。
この女の子は実はゲームに乗っていて、誰かを襲撃し、その戦闘の末この様な状態になったのだとしたら…。
戦った相手も無事には済んでいまい。
つまり、そいつらの支給品を奪うチャンスって事だ。
率先して他の参加者から支給品を奪うってのは、殺し合いに乗っていないというポーズをとっている以上今は出来ない。
だが、この子の仇を取ろうって流れなら、ゲームに乗ってるなんてこいつらには思われないだろう。
それに正直手持ちのアイテムはまだ心細い。
仮にこの子を殺した奴等が元気でも、チェスターやアシュトンを囮にして逃げる事も出来る。
リターンとリスクを考えればリターンの方がでかい。
「なぁ、アシュトン、ボーマンさん…」
ほれ来た。だが、それは俺の望んだ流れでもある。
「あぁ、皆まで言うな。俺もこの子を殺した奴等が許せない。仇を取ってやろう」
「ボーマンさん…」
チェスターの奴め、涙が出るほど嬉しいか。
アシュトンの方は俺の答えに更に唖然としちまっているが、
このパーティーでの意見は決まった様なもんだ、こいつも付いて来ざるを得まい。

166本スレ40と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:03:45 ID:IVMvbV82
■□■□■□■□■□■□■□

(今度は同時に!?)
とにかく進行を阻止しなければならない。広範囲の紋章術を選択し、すぐさま発動させる。
『ロックレイン』
迫り来る二人を阻む様に岩の群れによるカーテンを作り出した。
雨霰と降り注ぐ岩石に進軍する足を止め、回避に専念する襲撃者達。
これでしばらくは足止め出来そうだが、このままではいずれ押し切られてしまう。
いくら『フェアリィリング』の効果があるとはいえソフィアの精神力は無尽蔵ではないのだ。
(誰か…誰か助けに来て…!)
つい弱気になり、そんな事を思ってしまうソフィア。
術の効果が切れ、岩石による驟雨から開放された二人が再度こちらに迫り来る。
(くっ、距離を開けないと…)
『アースグレイブ』
砕けた岩石により視界の利かない二人に対し、大地より作り出した巨大な槍を以って弾き飛ばす。
「はぁ…、はぁ…」
ソフィアの精神力は残り僅かになってきていた。
その証拠に彼女の瞳は虚ろになり、あまりの疲労からか肩で息をしている。
(助けを待っているなんて駄目! そうよ。私はルーファスさんと約束したんだから。
絶対に諦めないって。絶対にっ、絶対に二人を守って見せるんだから!)
「今のは痛かったな…。でも、もう満足したよね? いい加減死んじゃえよ!」
龍を背負った方の青年が怒りを露に、双龍のブレスと共に突撃を仕掛けてきた。
回避という選択肢の取れないソフィアは残り僅かとなる精神力を振り絞る。
『ディープフリーズ』
ブレスと自分との間に紋章力によって生成される氷柱を作り出し、炎のブレスを受け止め、氷のブレスを弾いた。
しかし、ソフィアには一息つく間もなかった。
アシュトンは氷柱を切り刻むと、舞い落ちる氷柱の欠片を浴びながらソフィアに斬りかかる。
『プロテクション』
その斬撃をかろうじて受け止めたソフィアだったが、視界に映った光景に思わず叫びを上げてしまう。
「駄目ーーーーっ!!」
そこには、アシュトンに気を取られている隙にクリフへと詰め寄るボーマンの姿があった。

167本スレ42と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:06:59 ID:IVMvbV82
■□■□■□■□■□■□■□

『エンゼルフェザー』
賛美歌の様な詠唱を終えたソフィアが紡いだ紋章術は、最上級の補助効果を誇る天使の抱擁。
クェーサー戦の傷と疲労によって鉛の様に重かった体が軽くなるのを感じる。これならば思う存分戦える。
(先ずはあの足の速いオヤジからだっ)
得意のクロスレンジまで距離を詰め、渾身の右ストレートを放つ。
共に繰り出す拳が正面から激突し、その衝撃から砂煙が立ち上った。
(腕力はそんなに自慢じゃないみたいだな、このまま押し切る)
ぶつけたままの拳を力任せにねじ伏せ隙を作る。
(もらった!)
しかし、そこで異変に気付いた、異常な量の木の葉が自分を中心に渦を作りながら舞っているのだ。
『リーフスラッシュ』
舞い散る木の葉が視界を塞ぎ、その隙を突いてもう一人の敵が背後に立っていた。
「しまった」「もらったよ!」
真一文字に薙がれた剣閃に対処しきれない。腕の一本ぐらいは覚悟するかと思ったその時、
『ライトニングブラスト』
こちらの危機を救うべくソフィアが電撃呪紋を放った。
双龍の男は直撃を受けながらも、まだ痺れの残る体で振り返り、手にする大剣を虚空に奔らせる。
「邪魔ぁ、しないでよっ!」
不思議な輝きを放つ刀身が真空の渦を形成し、巻き起こした剣風が風の刃となりソフィアを襲う。
『リフレクション』
回避は不可能と悟ったのか、直ちに防壁を展開するも、全てを防ぐ事は適わずその身を切刻まれてしまった。
「くっ」
いずれの傷も深いものではなかったが、思わず膝を突いてしまうソフィア。
それを好機と見たのかオヤジの方が疾風の俊足で以って彼女に肉薄する。
余りの速さに防御魔法の展開もままならない。忽ちゼロにした間合いから唸る拳を繰り出そうとしている。
「させるかっ!」
側面より迫り体をひねりつつ、打ち下ろし気味の回し蹴りを見舞う。
振りかぶった腕をガードに回し、こちらの攻撃によるダメージを軽減させると、
更にインパクトの瞬間に飛ばされるよりも先にその方向へステップをいれ、ダメージを抑えやがった。
派手に吹き飛びはしたものの、そのダメージは最小限に留まっている様だ。
(ソフィアへの攻撃を阻めたが、あのオヤジやりやがる…)
「大丈夫かっ? ソフィア」
「はい」
彼女を気遣う言葉を送りながらも合図を送る。

168本スレ46と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:12:22 ID:IVMvbV82
■□■□■□■□■□■□■□

「あいつら中々やりやがるな…」
ぱっと見ただの女の子と満身創痍の男にこれほどの苦戦を強いられるとは思っていなかったボーマンが呟いた。
その呟きに傍らにいるアシュトンが答える。
「チェスターは使い物になりませんしね…」
(まったくだ。これならあの時引き入れないで殺しておくんだったな…)
「どうしますか? あの大男かなりの怪力でしたよ。勝てない事もありませんが…」
「あの金髪は俺がやる。あっちの紋章術師の方はお前がやれ!」
まさか、強そうな方の相手をボーマンが引き受けてくれるとは思わなかったアシュトンは、
一瞬呆けた様な表情をするがすぐさまその申し出に頷いた。
(どう見てもあの大男は死に掛け…。『バーニィシューズ』を履いた俺の動きについて来れるわけがない。
 格闘戦における速力の優位は俺にある。
 それに炎や雷の紋章術を放ってくる女の子の相手をするにしても、ガソリン塗れの俺ではちょっとした被弾が即命取りに繋がるしな)

「来るぞアシュトン!」
猛牛か何かの様な突進を仕掛けてくる大男の一撃を、ボーマンは交差させた両腕のガードで受け止めた。
大半の勢いを殺した後に半身引き、その腕を掴んで投げ飛ばす。
身を翻し着地の体勢に入ったクリフに対して追撃を仕掛けた。
『首枷』
跳躍と共に空中で脳天を下に、拳を突き出して標的であるクリフにダイブ。
『ビーン・バッガー』
対するクリフは急降下をしてくる相手に対して大地を踏みしめ、闘気を込めたアッパーを放つ。
威力は互角、互いの技の衝撃を受け距離が開いた。
その間合いをいち早く詰めたのはボーマンだ。
瞬く間に拳の間合いまで踏み込んだボーマンが連打を仕掛ける。
『桜花連撃』
間断なく打ち込まれる拳と脚による舞にクリフは防戦一方となった。
そのクリフの防御の中を掻い潜り、一瞬だけ開いた胴に天まで打ち貫くかの如き強烈なアッパーが入る。
「がはっ!」
思わず肺から押し出された空気と共に血を吐き出すクリフ。
そのまま突き刺した腕を振り抜き空中に打ち上げるボーマン。
その後も彼の容赦ない攻撃が続く。
打ち上げて回避が出来ないクリフに対して空中回し蹴りを三連打、
それでも止まらない回転の余勢を生かし、軸を横から縦に変えると、そのまま踵落としを空中で決めた。
地面に叩きつけられたクリフに、尚も一気呵成に攻め立てる。
空を打つ拳より放たれる『気功撃』でダメ押しのラッシュを仕掛ける。
クェーサーにより焦土と化した大地がボーマンの技を受け粉塵を巻き上げた。

169ボーマンの状態表と差し替え希望:2009/02/24(火) 21:13:48 ID:IVMvbV82
【ボーマン・ジーン】[MP残量:30%]
[状態:全身に打身や打撲 ガソリン塗れの衣服を着用]
[装備:エンプレシア、フェイトアーマー、バーニィシューズ]
[道具:調合セット一式、七色の飴玉×2、荷物一式×2]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:アシュトン・チェスターを利用し確実に人数を減らしていく]
[思考3:鎌石村役場に行き支給品を獲得する。先客がいた場合はクリフの相手をさせ逃走する]
[思考4:菅原神社に向かいながら安全な寝床および調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:調合用薬草の内容はアルテミスリーフ(2/3)のみになってます]
[備考2:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[備考3:皮膚に付着したガソリンは気化しましたが、衣服の方が完全にガソリンを吸っている為火気厳禁 この状態は着替えるまで続きます]
[現在位置:D−5北西部]

170 ◆yHjSlOJmms:2009/02/24(火) 21:37:49 ID:IVMvbV82
修正は以上です。
>>165は修正ついでに誤字 菅の神社 を 菅原神社に訂正
>>166はサンダーフレアをロックレインに変更とそれに伴う地の文の修正
>>167はバーストタックル周りの文を修正
>>168は今一ボーマンがクリフを引き受けた理由が弱かった気がしたので、
火気厳禁の修正のどさくさに紛れてソフィアと戦いたくないと思わせるよう修正
>>169はいつ気化するかわからないので勝手に体のガソリンは気化した事にして、明確な火気厳禁終了条件を設定
少なくなってきたマーダーに弱点残したままってのもあれかと思ったので

バトルの描写は皆さんにお褒めいただいて嬉しく思います。
ただ、マイお気に入りバトルの71話や103話、104話を目指して書いていたので、これらと比べるとどうしても薄く感じてしまったり…。
◆O4VWua9pzs氏の書いてる作品はクェーサーやアシュトンの様な悪役の暴れている時の禍々しさとか、ネルやクリフの戦っている時の絶望的な感じとか、
ジャック、ルーファスが颯爽と現れた時の盛り上がり方とかをやりたいんですが、どうも自分が書くと平坦な印象が残ってしまいます。
◆Mf/../UJt6氏の書いた104話は読んでるだけで何をやっているのか伝わってくる程描写が細かい。
そこを真似てみたいのですが、語彙力のない自分ではどうしても伝えられる描写に限界があって見劣りしてしまう。

まぁ、愚痴ってもしょうがないし問題点はわかっているので次の機会にリベンジするッス

171 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/22(水) 20:07:52 ID:fWuyGAv6
(全くよ…気付いてみりゃあこんな簡単な事だったとはな)
ボーマンが分身したのを確認して、クリフはピンを抜いて屈みこんだ。
「4」
ボーマンの分身は確かに見ただけでは判別不能だ。
クリフも最初は見分ける事しか考えていなかったが、そもそもそれが誤りだった。
重要な事は「どのボーマンが本物か」ではなく「ボーマンは何処に向かうか」だったのだ。
「3」
分身は発現してから10秒程度で消える事は先程確認してある。そして、当然ボーマン達が向かう場所はクリフの所だ。
つまり、ボーマンは分身したら「10秒以内に」「クリフのところへ」必ず向かってくる。
その事に気付けば対処は全く難しくはない。
「2」
ボーマン達が4体同時にクリフに向かって突進してきた。何故か白衣を広げているが、どうでも良い。
(走って逃げる奴には使えねえがな、走って来る奴には立派に使っていけるんだぜ)
「1」
タイミングはこれ以上無いくらいに良い。
クリフは全力を込めて跳躍し、持っていた缶を手から放した。クリフの居た場所に4人のボーマンが集まってきている。
1人、白衣を広げていたボーマンがクリフを見上げたが、星空を見上げて跳躍していたクリフの視界には入らない。
(なかなか良い月だ。クラウストロのには劣るが悪くねえ。俺の審美眼に認められるってのは自信持っていいぜ、お月さんよ)
だが、ボーマンが上を見上げるのはクリフの予想通り。見なくても分かっていた。
クリフの下方で閃光が発し、爆音が辺りを包んだ。クリフの投げた閃光手榴弾が作動したのだ。
(やれやれ、やかましい合図だぜ。…だが、ジャンプに釣られて俺を見上げたてめえは、まともに喰らっちまっただろ?)
閃光手榴弾の爆発に巻き込まれた者は視覚、聴覚を奪われ、爆音によるショックで身体が数秒間硬直する。
基本的に殺傷能力は無いが、遥か昔の閃光手榴弾であれば、爆心地の側に居る者が軽度の火傷を負う程度には攻撃力が有った。
そして、クリフの使った閃光手榴弾はどう考えても20世紀の骨董品とも言える代物だった。
無論、投げたクリフ本人は両手で耳を塞いでいたが、それでも爆音は手を突き抜けて、聴覚を軽く麻痺させた。
だがそれでも大した問題は無い。後は一撃を叩き込んでケリをつけるだけなのだから。
光が治まった事を確認するとクリフは地上を見下ろした。
直視していないとは言え、閃光に包まれたクリフの目は明順応を起こしている。
月明かり程度の光源では、数メートル下の暗闇の中は全く見えないはずだが、見下ろす先には4人のボーマンの姿が朧気に見えた。
その内の1人が立ち尽くしたまま何故か燃えている。その炎により姿が浮かび上がっているようだ。

『エリアル・レイド!!』

クリフはエリアル・レイドを放った。狙いは燃えているボーマンより若干離れた位置。
まるで獲物を狙う猛禽類のような勢いで急降下し、一瞬で地面に到達する。
地面に到達した瞬間、衝撃音と共にクリフの足元から破壊エネルギーの衝撃波が発生し、ボーマン達に襲い掛かった。
ボーマン達が一体ずつ掻き消されていく。最後に残ったのは立ち尽くしたまま燃えているボーマンだ。
ショック状態が覚めていないボーマンは身を護る事も避ける事も出来ない。
そもそも攻撃されている事にも自分が燃えている事にも気付いていないだろう。
衝撃波に巻き込まれ、ボーマンは炎に焼かれながら数メートル上空に吹っ飛ばされた。
物理法則に従って頭から落下を始め、受け身を取る事すらも許されず
『ゴシャアッ!』と奇妙な音を立てて地面に激突し、そして崩れ落ちた。

172 ◆yHjSlOJmms:2009/04/23(木) 21:52:06 ID:Xsba9H92
どうもここの修正所常連の◆yHjSlOJmmsでございます。
細かい誤字程度ならwikiのを直接修正しようと思ったのですが、
今後に関ってきそうなフラグをぽろっと入れ忘れたんで使わせてもらいます。

173本スレ219と差し替え希望:2009/04/23(木) 21:54:56 ID:Xsba9H92
説明しよう。何故彼らが3人同時にブーッをしてしまったのかを。
想像して欲しい。彼らの目の前で浮かび上がったデッキブラシから回転し、
地面に対して激しいランデブーを試みたこのドジっ子魔法少女(中身はヅラムス)が軸となるデッキブラシと接していた部分は当然尻。
その部分が上に来てしまえば、万物全てが重力の束縛から逃れられる事は適わず。
スカートが捲れ上がり、まぁ、そのなんだ? 
描写するのもおぞましいので端的に書くと魔法少女の岩石の様にゴツイヒップを覆う白地の布がフェイト達3名とファーストコンタクトを果たしたのだ。
それは正にこの世の地獄絵図。
見たくも無いのにその光景を網膜に焼き付けてしまった一行は、某ラピュタ王が『バルス!』と言われた時と同じ心境なのである。

「ぬぬぬぅ、失敗してしまった」
頭をカツラ越しに摩りながらブラムスが立ち上がった。
事前に被っていた波平のカツラのおかげで怪我をする事はなかった様である。
まさか、彼がこのカツラを初めて被る時に懸念していた『鬘が無ければ即死だった』という事態が現実の物になろうとは誰も予想してなかったのではないだろうか。
「(ドジっ子魔法少女がホウキでの飛翔に失敗。「いたたっ、失敗しちゃった」って光景は王道的な萌えシチュだと言うのに、
 中身がブラムスなだけでここまで酷いものになろうとは…)」
「(そんな事はどうでもいい。
 それよりも、お前の下らん魔法少女談義が原因でこの様な事になっているのだからどうにかしろ!)」
「(無茶を言うなっ! 実はコスプレなんてものは必要ないと告げて激昂でもさせてみろ。
 きっと奴は俺の直腸にあの手に握るイチジク浣腸の中身をぶちまけるに違いない)」
と、中年二人は囁くように口論を開始。
そんな二人を横目に見ながらフェイトがブラムスに歩み寄る。
「ちょっとブラムスさん。それを貸してくれませんか?」
ブラムスの手よりデッキブラシを譲り受けたフェイトはおもむろにそれに跨った。
「待つのだフェイト。その様な平服ではそれを使う事は…」
しかし、ブラムスの懸念とは裏腹にスムーズな浮上を遂げるフェイト。
元々バスケットの優秀選手に選ばれる程運動神経も良く、
ファイトシュミレーターでも似た様なモーションのキャラがいた事が幸いしたのか、フェイトは難なくこのデッキブラシを扱う事が出来た。
「なんと! 何故フェイトは着替えもせずに空を飛ぶことが出来るのだ?」
エルネストの魔法少女理論を鵜呑みにしているブラムスは困惑するばかり。
このままでは自分の直腸に決して入れてはならない劇物が浸入する怖れありと見たエルネストがすかさずフォローを入れる。
「そ、その、ブラムス。言い忘れていたのだが、中には衣装を変える事も無くホウキを扱える天才型魔法少女と呼ばれる存在がいるのだ。
 フェイトがまさかそれとは思わなかったなぁー」
どう考えても後付の嘘八百なのだが、その身に纏う衣装同様純真ピュアな心を持つブラムスは彼の言葉を事を信じた。
これにてエルネストは未知のレッドゾーンへチャレンジ(バブルローション直腸注入)をなんとか回避できたのであった。
「何はともあれ、これで僕が鎌石村に行く必要はなくなりましたね。
 少しでも早くソフィアにあって安心させてやりたいんです。お願いします。
 我侭を言っているのは十分承知です。
 でも、僕を観音堂の方のルートに行かせて下さい!」
飛行テストを終えたフェイトが一同に嘆願する。
「わかった。但しそっちのルートはブラムスの知り合いのレナスですら殺してしまった敵がいる可能性が高いんだ。
 だから、ブラムスと一緒に行ってくれ。戦力は高い方がいいだろう?」
(こいつ…一緒に歩きたくないからと不審者王をフェイトに押し付けたな?)
クラースが提案する中オリジンが冷やかな目でクラースを見つめた。
(それは間違っているぞオリジン)
オリジンの呟きをしっかり拾っていたクラースが、オリジンに対し思念のみで会話を開始。
(ブラムスが言っていた事を思い出せ。奴は優勝することが帰還への最善手と判断したら私達を手に掛けると言っていただろう。
 だが、それは私も同じ事だ。今はこうしてフェイト達と協力していた方が帰還出来る可能性が高いと判断しているだけに過ぎない。
 しかし、私が優勝狙いへと考えを変えた時、ブラムスが近くにいたとすれば…)
(不審者王も考えを変えている可能性が高いと?)
(そうだ。正直ミカエルやロキを素手で圧倒できる相手に勝機は極めて薄いだろう。
 そこで、今の内に危険な方に行ってもらい疲弊してもらった方が都合がいい。
 この場合強者同士で潰しあってくれるわけだからな。

174 ◆yHjSlOJmms:2009/04/23(木) 21:56:09 ID:Xsba9H92
後の細かいところ(時間表記など)は直接wikiを編集しときます。

175 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/24(金) 01:25:25 ID:v0MCebd.
一行程度の修正でここ使っていいものか迷いましたが、
せっかくなので使ってみることにします。
タイトルは
「頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ」
これで。

176頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ:2009/04/24(金) 01:26:27 ID:v0MCebd.
本スレ258と差し替え希望

(やべぇ…腕が…)
もう何発かガードしていたら腕が持たなかっただろう、という時、クリフのローキックが繰り出された。
反射的にジャンプして避ける。その瞬間、クリフがバランスを崩し、一瞬の隙が生まれていた。
クリフの隙に反応して、ローキックを避けたジャンプから跳び蹴りを放つ。
蹴りはクリフの顔面にクリーンヒットし、クリフが仰け反った。
(チャンス!)
「おぉぉぉっ!!」
両拳のラッシュを仕掛ける。だが腕の痺れが影響し、拳に100%の力を乗せる事が出来ていない。
(くそっ、この馬鹿力が…)
拳では駄目だと判断し、ドロップキックを決めてクリフを吹っ飛ばした。
ボーマンの足に、クリフの肋骨が折れたような感触が伝わってきた。
追撃するチャンスではあったが、先程『桜花連撃』を決めたシーンがフラッシュバックし、それを思い留まらせる。
クリフは桜花連撃をまともに食らっておきながらも、あれだけ高い跳躍から恐ろしい破壊力の急降下で反撃してきたタフネスだ。
腕に力が入らない今、それだけのタフネスを仕留めきれるとは思えない。
そう判断したボーマンは「距離を取る事」を選択した。距離を取ってまずは腕を回復させたい。そしてもう一つ…
ボーマンはクリフが蹴り倒した樹の場所まで走るとボーマン、倒れた樹、そしてクリフが一直線上になるよう位置取りをし
『旋風掌!』
倒れた樹に向かい旋風掌を撃ち込んだ。
旋風掌は樹に生えている木の葉を大量に巻き込み、軌道上にいるクリフに襲い掛かる。
「……!」
クリフが何か叫んでいたようだが、その声は竜巻に阻まれボーマンには届かなかった。
旋風掌がクリフを飲み込んだ事を確認すると、ボーマンはクリフとは反対方向に全力で逃走した。

100メートル程は走っただろうか。
ようやくクリフから離れる事が出来たボーマンだが、それだけでは事態は何一つ好転しない。
(バーニィシューズが壊れるってのは…ちっ最悪だぜ。これじゃ役場には行けねぇ)
役場での支給品入手はもう望めない。
(…アシュトンの方はもう終わったか?)
アシュトンのところに戻れば戦利品を分けてもらえるだろうか?
合流した時はアイテムの交換を拒否されたが、新たに入手したアイテムならばアシュトンも分けないとは言えないだろう。
(…いや、そういや金髪が「仲間を待たせてる」だとかヌカしてやがったな)
だが、きっとボーマンを見失ったクリフは仲間の所へ戻ろうとする。
同じ目的地に向かうとなると、バーニィシューズが壊れた今ではクリフに追いつかれる可能性も充分に有る。
逆に、クリフが戻るところを尾行する事も考えたが、その場合でも気付かれればやはり戦闘になる。
決定打もバーニィシューズも無い状態では、再び戦闘になった場合はこちらの圧倒的不利は明白。
(ここはやっぱ手持ちのカードで何とかするしかねぇな)
ボーマンは足を止めるとデイバッグからフェイトアーマーのカツラ部分と調合セットを取り出す。
(カツラも着けると徐々に体力が回復する、ねぇ。あまり時間は無いが…腕の痺れぐらい取れんだろ)
そう期待をしてカツラを装着する。
アシュトン達にフェイトアーマーの存在を知られたくなかったから装備していなかったが、今なら問題ない。
(アルテミスリーフが約2/3か…殆ど気休めにしかならんが無いよりマシだな)
これで調合用の薬草は底をついてしまうが仕方ない。
普段だったらニーネが、非常時に備えてボーマンの白衣に薬草をいくつか入れておいてくれるのだが
その薬草はこの島には持ち込めなかったようだ。
「ニーネ…エリス…」
つい妻と娘の事を考えたが、いや、とボーマンは頭を振る。
感傷に浸るのは全てが終わってからで良い。今は作業に集中しなくては。

177頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ:2009/04/24(金) 01:27:16 ID:v0MCebd.
本スレ260と差し替え希望

クリフの知っている物とは形状が異なるが、確かにソレはバーニィシューズの破片だった。
(野郎の動きが鈍ったのはバーニィシューズが壊れただけだったってか。…くそったれが!…そういや良い蹴りしてたじゃねえか!)
つまりボーマンの足にはダメージなんて無いのだ。
冷静に観察していればボーマンにダメージを負ったような素振が無い事に気付いただろう。
だが、目先の「勝機」に目が眩み、判断力が鈍っていたのかもしれない。
その判断ミスのせいでクリフは無駄なダメージを負い、ボーマンを取り逃がす事になってしまった。
「情け…ねえ……だが」
自らの判断ミスを悔やむと、バーニィシューズの欠片を握りつぶし禁止エリア内に放り投げた。
(バーニィシューズはぶっ壊したんだ。それなら奴が役場に着く前に追い…いや、まてよ…野郎はそもそも何が狙いだ?)
そして、謎が1つ解けた事に刺激され、ようやくクリフは現状を冷静に考え始める。
デイバッグからペットボトルを取り出した。うがいをし、水を吐き出す。
吐き出した水には大量の砂と血が混じっていた。
(あの状況で役場に行く?なわけねえだろ。行ってどうする?)
ほぼ互角の戦闘状態からの突然の逃亡。
慌てたクリフはミラージュの身を案じて追いかけた訳だが、そもそものボーマンの目的は何なのか?
少なくとも、役場方面に逃走したからと言って役場に行くとは限らない。むしろ、行く理由など無いはずだ。
(なら…ミラージュがあの野郎に襲われる心配なんかまず無い…か?)
確かに普通に考えればミラージュがボーマンに襲われる可能性は少ない、いや、皆無に等しいだろう。
実際にはボーマンは役場に向かっていたのだが、第3回放送を聞いていないクリフに、ボーマンが役場を目指す理由は考え付かない。
(考えられるとしたら…奴の有利な場所に俺を誘い込む…これか?
いや、あれは誘ってるような走り方じゃねぇ。明らかに振り切る走り方だった…ちっ、分からねえ)
考えてもボーマンの狙いなど分かりそうもない。クリフは頭を掻きむしると一つ舌打ちをし、余計な事を考えるのを止めた。
(…まあ、野郎の目的なんざどうでもいい。今はミラージュを護りに行く。野郎を見つけたらぶちのめす。それだけだ)
ボーマンが役場に行く可能性などは無いはずだが、他の参加者ならば、いつ、どんな理由で役場に行くか分からない。
ならば、自分のやる事はやはりミラージュを護りに行く事。そう結論付けた。
そして「最悪ボーマンを逃がしてもミラージュに危険は無い」という結論はクリフの心を幾分か楽にさせ、余裕を持たせた。
クリフは時計を取り出して時刻を確認する。とっくに深夜0時を回っていた。
(…放送聞き逃しちまってたか…今はもうD−4も禁止エリアになっちまってるな。
放送内容は、後でミラージュに聞くとするか。…ふっ、さっきとは反対だな)
クリフはもう1度うがいをする。口の中の砂は気にならない程度には落とせた。ペットボトルをしまい、辺りを見渡す。
(野郎が戻ってこないとは限らねぇ。一応不意打ちは警戒しとかないとな)
クリフは辺りを警戒しながら、役場を目指して慎重に移動を始めた。


近づいてくる足音を聞き、まだ破砕弾を作り終えていないボーマンは少し焦った。
(あいつ、こっち来んのか!?仲間待たせてんじゃねぇのかよ?
…どうあっても俺を倒すってのか。チッ、まだ途中だってのに…しょうがねぇな)
足音はボーマンより東南側を、ほぼ西に向かって移動しているようだ。
つまり真っ直ぐボーマンに向かってきている訳では無いのだが、のんびりと作業している訳にもいかなくなった。
ボーマンは急ピッチで締めの作業に入る。
通常よりもサイズが小さくなってしまい殺傷能力に不安が残るが、この際贅沢は言ってられない。
(後は丸めてっと…何とか出来たな。…服も脱いどきたかったが…)
ガソリンまみれの服を着ていると破砕弾の飛び火に対してやや不安が残るし、
同じ理由から、自分の技の1つで炎の闘気を使用する「朱雀双爪撃」が撃てない。
それ故、出来れば脱いでおきたかったが、足音の持ち主、つまりクリフの姿が見え始めた。どうやらそんな暇は無いようだ。
ボーマンは広げた荷物を音を立ててデイバッグに突っ込んだ。足音が止まる。ボーマンの気配に気付いたようだ。

「てめえ、居やがんのか?出てきやがれ!」

クリフの怒号が聞こえる。ボーマンの姿まではまだ確認出来てないようだ。
(ああ、出て行ってやろうじゃねぇか!)
ボーマンはフェアリィグラスを飲み干した。

178頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ:2009/04/24(金) 01:28:20 ID:v0MCebd.
本スレ269と差し替え希望

「クェーサーの事は俺にも良く分からねえ。奴との戦いの途中で気を失っちまって、目が覚めた時は奴はもう居なかった」
レザードは1つ頷き、先を促した。
「だがクェーサーの代わりに…て言うのも変だが、俺が起きた時はソフィアがこいつらと戦ってた。
 このオッサンと、龍を背負った男と、後もう1人、ただ突っ立って見てただけの野郎だが、その3人組だ」
「…ソフィアが戦っていた?彼女1人で、ですか?」
レザードは怪訝な顔をした。ソフィアが戦っているという事が信じられない様子だ。
「他に誰が居るっつーんだ!…あ、いや、そういや何でか知らねえがルーファスの奴が生きてたみたいだ。
 俺が起きた時、側に寝ていやがった。…もしかしたらクェーサーはあいつが何とかしたのかもしれねえ。
 今もルーファスが起きてりゃ良いんだが…」
「…なるほど、大体の状況は理解しました。ソフィアの居場所は金龍と戦っていた場所ですね?」
レザードがそう言い、立ち上がったところを
「そうだ、頼むぜ。…あ、ちょっと待て」
クリフが引き止めた。
「…どうしました?」
「さっきの放送内容教えてくれねえか?聞き逃しちまってよ」
「…申し訳有りませんが、私も聞き逃してしまったのです。今貴方に伺おうと思っていたのですが…」
お前もかよ、とクリフは1つ舌打ちをした。
「…そうか。じゃあもう1つ。お前、回復の呪紋って使えねえか?使えるなら1つ頼みたいんだがな。
 俺はミラージュを助けに行ってやらなきゃならねえんだ」
ミラージュの事はクェーサーに襲われる前の情報交換で話していた。
「…ミラージュ?確か鎌石村役場に待たせているという、貴方とソフィアの仲間でしたね?
 ですが、今、ここから向かわれるおつもりですか?」
レザードは眉をひそめる。おそらく禁止エリアの事が引っかかっているのだろう。
クリフはレザードに、禁止エリアの30秒の時間制限について話した。
「そう言う事でしたか…」
レザードは何やら考え込みそうな雰囲気だ。
「考えんのは後回しにしてくれ。で、回復呪紋は出来るのか?」
レザードは我に返ったような表情を見せたが、クリフと目が合うと微笑みを見せた。
「勿論です。では横になり目を閉じていて下さい」
「…悪いな」
クリフは言われた通り、目を瞑る。レザードが再びクリフの側に屈み込む気配が感じられた。
「少し冷えますが、心配なさらず、そのまま横になっていて下さい」
(冷える?何で冷えるんだ?)
クリフがそう聞こうとしたその時、クリフの身体を冷気が包んだ。
冷気の正体が何なのか、考える間も与えられず、クリフの意識は急速に暗闇に落ちていった。


クリフの話を聞き終えたレザードは、男の消火に使ったのと同じ呪文でクリフを凍結させ、彼のデイバッグの中身を確認した。
だが、目当てのドラゴンオーブは入ってない。やはりレナスが持っているようだ。
(まあ、期待はしていなかったがな。
それにしても、この男正気か?ソフィア1人にヴァルキュリアを任せるとは愚作、愚行にも程がある。
考えたくはないが、これではヴァルキュリアが既に殺されている可能性も高いか…?)
レザードが想定していた状況の中でも、今の状況は限りなく最悪に近い。
最悪なのは当然、レナスが既に殺されている事である。だが、今レナスが(クリフが確認した時点では)生きているとはいえ、
ソフィアが1人でレナスを守っているという状況は、最悪の状況と大して変わらないとレザードには思えた。
そして、レナスをそんな状況に陥らせたクリフに激しい怒りを感じていた。

179頼れる相棒,守るべき妻子,愛しき女神の元へ:2009/04/24(金) 01:29:38 ID:v0MCebd.
本スレ277と差し替え希望

ソフィア殺害の前に、ドラゴンオーブだけは何としても確保しなくてはならない。
脱出する際、ドラゴンオーブが有ればソフィアの能力『コネクション』が不必要だという事は
先程ソフィア達を見捨てた時に結論付けたが、逆に言えばドラゴンオーブが無ければソフィアが必要となってしまうのだ。
もしもドラゴンオーブが破壊されているなりなんなりでこの殺し合いの舞台から消失してしまえば、
レナスと共に脱出するには、不本意ながらソフィアに頼るしか無く、殺す訳にはいかなくなる。
「で、2人が死んじまってる場合は、さっき言ってたみたいに、緑髪の男に預けた道具の回収だけで良いのか?」
「…ええ。とりあえずは」
もしレナス、ソフィアが既に殺されている場合は、先程ボーマンに説明した通り
レナスの道具(ドラゴンオーブ)を回収する事を第一に考え、ボーマンはそれに協力させる。
つまり、レナスが生死、どちらの場合でも、ボーマンには利用価値が有るのだ。
むしろ、ボーマンと手を組んだ最大の理由は、この最悪の状況を想定しての事だった。
逆にクリフを殺したのは、今後の展開(ボーマンと手を組む事、ソフィアを殺す事、ソフィア達が殺されていた場合に
彼女を殺した者と一時協力する事)を考えた上で、ソフィアの仲間であるクリフは邪魔でしかないと判断したからだ。
クリフとソフィアに対してレナスとドラゴンオーブ。天秤にかけるまでも無い。
ドラゴンオーブさえあれば、輪魂の呪が使用出来たのだ。換魂の法も使用出来る可能性は高いはず。
ならばレナスが命を落としていても、再び蘇らせる事が出来るはずなのだ。そうレザードは考えていた。

「とりあえず…ねえ。後からアレコレ追加するのは止めて頂きたいもんだがな」
「ご心配無く。せいぜいクリフの道具分の要求を1つする程度ですよ。
 ところで、取引の話はさておき、情報交換を行いたいのですが宜しいですか?伺いたい事が有るのです」
レザードは今の内にボーマンから第3回放送の内容を聞いておきたかった。
話をしやすいよう、少し走るペースを落としてボーマンと並ぼうとする。
だが、何故かボーマンもペースを落とし、前に出てこようとしない。
レザードは振り返り、ボーマンの顔をチラリと伺う。そして前を向き直し、
(ふん…それで警戒しているつもりか?…まあいい。せいぜい役に立って頂きますよ?)
そう考え、ボーマンを蔑むように微笑んだ。


レザードとボーマンが走り去って数分後、クリフの氷像が解凍し始めた。
完全に凍り付いていた身体が元に戻り始め、徐々にクリフの目が開きだす。
クリフは胸を貫かれていたが、体中が凍結して、いわば仮死状態のようになっていた為、その時点では絶命しなかったのだ。
そして今、その凍結は自然と解除された。
(…終わったのか?)
今、クリフの胸には風穴が開き、両腕は砕け散っている。
だが凍結していた事が彼の痛覚を完全に麻痺させていた為、本来襲いかかるはずの激痛は、彼には感じられていなかった。
クリフは起き上がろうとした。が、身体が全く動かない。
胸の風穴、そして両腕から出血が始まっていた。瞬く間におびただしい程の量の血液が流れ出てくる。
クリフは再び冷気を感じ、急激に目の前が暗くなり始め、意識が薄れていった。
(何だよ、まだ終わってねえのか)
それは先程意識を失った時と同じ様な感覚だったので、クリフはまだ治療中であるものだと思い込む。
だが違った。今クリフが冷気だと感じたもの、それは単に出血多量による体温の低下だった。
出血した血液は地面に染み込むが、すぐに飽和状態となり、土の上に血溜まりを作り始めた。
(とっとと頼むぜ、レザード。ミラージュを待たせてんだからよ…)
心の中でレザードに話しかける。
だが、その場所に居るのはクリフのみだ。他には誰もいない。クリフはその事にも、もう気付けない。

クリフの意識は再び暗黒に落ちていく。

先程との決定的な違いは1つだけ。

彼が目覚める事は、もう二度と、無かったという事だ。

180 ◆cAkzNuGcZQ:2009/04/24(金) 01:44:32 ID:v0MCebd.
以上です。

>>176はボーマンがクリフの肋骨が折れた事に気付くように。
>>177はクリフが現在時刻を確認し、第3回放送を聞いていない事を自覚するように。
>>178はクリフがレザードに放送内容を聞くように。
>>179はレザードがクリフを殺害した理由の説明を追加。

それぞれ、このように修正致しました。

181試験投下 ◆A/Fc0qBU16:2009/04/26(日) 23:37:58 ID:6XwNo62o
本スレでパラライズチェックの件出てたので予約に影響でますかな?って
心配もありで、D-5パートは書き上げ前なんですが方向性これでいいかなと思ったんで
E-4パートのみ試験投下さしてもらいます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時間はそろそろ1時半をすぎた頃だろうか。
ぴゅろろろろと、言葉にするとかなり奇妙な音を立てて1本の空飛ぶデッキブラシが島を西から東へと走っていた。
地上のどこかで血生臭い争いが繰り返されているとは思えないくらいに、島の上空には満点の星がきらきら主張して
いる。そんな空を背景に年頃の青年と魔法少女を乗せて飛ぶブラシはファンシーな雰囲気を演出しているといっても
過言ではない、きっと。

「…ブラムスさん」
「む?」
「…いえ、ナンデモアリマセン」

前置きも無く唐突に向けられたフェイトの言葉に特に何かを思うでもなく、ブラムスは手の中のものへと視線を戻す。
青い髪が揺れる後ろで典型的魔法少女の装束を纏った男が折りたたんだ地図とコンパスとを眺めた。
夜に強い目はらんらんと輝いて月明かり程度で正確に紙面の図を読み取ることができる。
現在位置はおよそ、E-03からE-04の境界を超えるあたり。
フェイトの運動神経が助けとなっているからか、今のところデッキブラシの運行はこれ以上無いくらいには順調であ
る。

「フェイト、E-04に入る。心して飛ばすがよい」
「アイアイサー」

確かに夜空の散歩はこれ以上にないくらい快適だ。
しかし、デッキブラシの現・操舵主の気持ちはまさに壊れかけのチキンハート。
後ろから筋肉隆々の魔法少女@♂が野太い声で時々声を掛けてくるのが更にフェイトのブレイクンハート(byエルネ
スト)を刺激する。
星をかきわけるかのように疾走する夜風がブラムスの神経を高揚させるのか、興に乗った声で青年へと話しかける。

「うむ、この魔法のデッキブラシというものは実に快適なものだな。またがる柄がもう少し太ければ座るにも安定す
るのだが、この速度と空を行くという利便を思えば素晴らしい代物だ。そうは思わぬか、フェイト」
「ハハハ、ソウデスネ」
「どうかしたかフェイト」
「イエナンデモ」

石化でもしながらデッキブラシのバランスを器用に取るフェイトのMPは違う意味で尽きそうだ。
眼下の光景に目をやる。夜目が利くというのはこういう時便利なんだろうなあとか思いつつ、やっぱり話しかけるの
さえMPを多大に消耗しそうなのでほとんど口を開けなかった。
実際ここに来るまでの1時間弱、フェイトとブラムスに会話らしい会話はない。

「この下にはソフィア達はいないようだ。最も禁止区域となる場所を通ろうという豪胆な輩はそういないだろうがな」
「分かりました。急ぎましょう」

182試験投下 ◆A/Fc0qBU16:2009/04/26(日) 23:38:40 ID:6XwNo62o
少しばかりの落胆を隠しつつ、フェイトが前を睨んだ、それと同時にブラムスの赤い目もまた前方を見た。
一拍置いて、突然視界に赤と白を帯びた光の柱が走る。

「何だ!?」
「うぬ?」

それはあまりに一瞬のことで、フェイトとブラムスは確認のために目を凝らしてももう光はどこにも見当たらない。
だが二人揃って同じ色の光柱を目撃している以上、あれが幻でないことだけははっきりしていた。
大きな魔力や呪文の発現か。二人の考えたものはそう違わない。
ヴァルキリーを倒した敵が交戦しているのか。もしかしたらソフィアが襲われているのかもしれない。
1ブロックは離れていたと見える光の出所を睨んだフェイトは、後ろでごくりと息を飲んだ不審者王に首を捻る。
怖いもの見たさで振り返るガラスの心臓状態の青年に、ようやく真面目な会話が降ってきた。

「あれは…もしや」
「ブラムスさん何か心当たりが」

あるんですか、と続くはずだった言葉の続きが風に奪われた。
まずいきなり風の流れが上から下へと変わる。
変に思う間も与えられずにフェイトの背中にずしっと成人3人分くらいの重さが圧し掛かり、ブラムスのうお!?と
かいう間抜けな叫び声が聞こえた。
さて考えよう。
ここは空中。
そして操舵主は重さでバランスを崩した。
多分成人5人分はデッキブラシの定員を軽くオーバー。

「「「「;8お3yb80くぁ4w3vbーーーー!!!」」」」

声にならん悲鳴を上げてフェイトとヅラと、その他正体不明の三人が重力に従って勢いよく落下していく。
その姿を見届けた人間は、多分いない。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
話は落下地点に戻る。
あんだけの突飛良しのない状況にも関わらず、幸運にも落下地点が木の密集地帯だったために5人はほぼ無傷で生き
ていた。
ただし。

「きゃーーきゃーーきゃーーー!?」
「化け物めっその子から離れろ!!」
「…武器を納めないか、そこの男。私はブラムス、彼女の仲間だ」
「彼女のその状態を見て信じられるか不審者王ーーー!!」
「私は不死者王だ」
「いだだ。一体、何が…ぐっ」
(痛い…うるさい…)

183試験投下 ◆A/Fc0qBU16:2009/04/26(日) 23:39:25 ID:6XwNo62o
ブラシに乗ってた青年はいつかのヅラムス失敗例のごとく頭から地面に突っ込んだせいで近くに念願の幼馴染がい
るのに気づいていないし、その上に緑髪の青年がどっかり乗って気絶中なのを誰も察してくれない。
一歩離れた木の間じゃ、変態仮面から斜め135度にかっとんだ進化を遂げたかつての仲間だった代物にパニックに
陥ってるソフィア。
当然勘違いからそれを助けようとしているチェスターと、向かい合ってるブラムスは落下の際に木の枝か何かを
引っ掛けたらしくせっかく着替えた装束は胸元から裾までびりびりに破れてある意味の地獄絵図を撒き散らしてい
る。その頭には相変わらず一本だけの毛が立派に立っており、ここまで来ても傷一つ付かないヅラは本当にアー
ティファクトなのかもしれなくなってきた。

とりあえずはっきりしているのは。
お前らそこからさっさと離れないと禁止区域になっちゃうよ。

※状態表は略

184不協和音修正版:2009/05/07(木) 08:35:23 ID:/n4GHB0Q
そしてパラライチェック。本来ならばアタリアイテムに思えるが、チサトが装備していなかった事が引っかかる。
もしこれが本当に自分の良く知るパラライチェックだとしたら、装備しない理由が特に思い付かないのだ。
もしかすると、このパラライチェックは自分のよく知るソレの劣化版なのかもしれない。
いや、それかもっと想像もつかない別のモノである可能性もある。
しかし、読み終わった後適当な場所に放っておいたままなのか、デイパックには説明書が入っていなかった。
故に、効果を断言できる日は一生来ないと言えるだろう。
そして、これが呪いやトラップの類だという『最悪の可能性』を考慮すると、『装備してみる』という選択肢は消滅する。
単なる紛い物という可能性があるだけで全幅の信頼はおけなくなっているのだ、ならばもう装備する理由はない。
といっても捨てる理由も特にないので、残しておいて何かの交渉の道具にでも使うとするのが一番だろう。

185 ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:42:40 ID:jChTb/WI
ルシオ、洵で仮投下。
リレーする上で繋ぎ易いかどうかが不安なので、その辺を見て頂ければ幸いです。

186君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:44:57 ID:.EQpNDhU
 布に包まれてくすんだ灯は、青年から少し離れた場所にあった。
 道を逸れて草地に踏み出す仲間の足取りと地続きに揺れる光源を頼りにする、目の奥が痛みを訴えている。
 圧迫感に近い、それは寝不足で張った肩から伝わるのか、それとも睫毛さえ抜けかねない涙の塩辛さによるものか。
 たあいもないことを全力で考えて息を抜く。重圧にもたつく胸の内を淡白にすべく、尽力する。
 肉体に起因するのではない息の詰まりを抜いた青年は、脚を踏み出す前に短く双眸を閉じ、
「……く、――ぁ」
 きまりわるげに、閉じた口内にふくらむ欠伸を噛み殺した。
 * * *
 食えるだけマシであった食料を腹に入れて、三時間弱。
 三回目となる放送を聴いた洵の、こなれた胃に割り込んだ思いは紛れもない安堵だった。
『アリューゼ。ヴァルキリー。炎使いはミカエルと名乗っていたな。
 俺にとっての壁となりうる輩が、揃って脱落してくれたというわけか』
 戦闘狂同士の潰し合いか、あるいはゲームに乗らない者に返り討ちにされたか。
 ルシオを除けば戦乙女と最も付き合いの長いらしい傭兵が共闘する様を思い浮かべて、洵はかぶりを振った。
 生存者が半数を切ったためか。変更や追加の加えられた情報の山を前にして、無駄な回顧や想像に頭を使いたくない。
 名簿とともに開いていた地図に書き留めた、一気に増やされた禁止エリアの配置と順番に加えて、褒美の位置。
 風格を演出するためにか、どこかで一線を引いて言を紡いだルシファーの意図は、これ以上無いほどに明瞭である。
 ならば、当面の問題とすべきものは。

「プラチナ、っ、……ヴァルキリー」
 放送から先を考えかけた男が耳にしたのは、当面の問題とすべき青年。
 レナスにとって大切な、裏を返せばレナスに大切にされていたエインフェリアの声だった。
 弾かれたように口にした固有名詞から転じて、低く圧し殺した響きで呼んだレナスの代名詞は、だからこそ
付け足した”感が否めない。さりとて、紡がれた単語の重さにこそ差は見られないのだが――
 名簿にない単語を口にしたことが気の抜かりと言わんばかりであるルシオの様子に、洵は興味を惹かれた。
「言っても詮なき話だろうが、あの戦乙女のことだ。
 少なくとも、力で他人を押し退けるように振る舞うことなどしなかっただろう」
 それがレナスでなく、彼女の姉であるアーリィ・ヴァルキュリアであれば話は別に違いないが。
 ルシオの知らぬ、神と人とを“従属”で繋ぐ戦乙女の影を思い返して、洵は障害が消えたことへの快哉を隠した。
 ただ、彼の。レナスにとり大切なはずの青年がみせる煮え切らない態度は意外だ。
「いや、違う。俺は、……そんなことじゃないんだ」
 言語としての体をなさない、自問自答と変わらない言葉つきは、とても大切な者が喪われた者のそれとは思えない。
 促されて手にした名簿も地図からも情報が欠落している。そのくせ得手であるはずの剣を執らない。動かない。
 妹のために修羅となった自身からは想像できない状態に、レナスのために動くだろうルシオは落ち込まんとしていた。
 それゆえに、洵は練れた鋼の剣をいつでも抜けるよう、さりげない素振りで自身の側に寄せておく。
 収束する彼の意志が、自分に対する害意であれば叩き伏せねばならない――と。

「俺はただ、……誰にも。悲しい思いをさせたくなかっただけなんだ!」

 だが、青年がはっきりとかたちにしたのは自責と、言い訳であった。

187君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:48:57 ID:nwPGaamk
「それで、ひととおりの自己満足が済めば相手を見捨てるか」
 放送までの時間、ミランダを待ちながら聞いたルシオの来歴を持ち出して、洵は鋭く言を放った。
 夢の中で親しい者の名を呼んだという金髪の青年が今も生きているかどうかさえ、ここにいる二人には知りようがない。
 けれど、洵の控えた名簿によれば、彼の相手。“シン”という参加者は、既に殺し合いの場から脱落している。
「それは――」
「理想のほどは立派だが、この場にいる全員を掬い上げられるわけもない。
 俺が、ここに連れて来られる前……最後に見た戦乙女さえ、それを傲慢と断じ、ロキだけを追ったものだ」
 あの振る舞いの根本にあるものがルシオの仇討ちか、自己満足か義務感か悲哀か、洵には量れなかった。
 それでも、事ここに至れば、彼女の底にあったものがいずれであろうとも構いはしない。
 いなくなったものや取りこぼしたものに思いを馳せるのは、一度だけで、ひとつだけでたくさんだ。
「すまないが、今の俺に、お前を気遣う余裕はない」
 お前も心配していた、ミランダを探しに行く。
 ルシオを、彼の美徳であろう人のよさでもって縛りつつ、洵は腰を上げた。
 ここで彼を殺しても問題はないが、今なお戻らないミランダの去就によっては多対一を強いられる可能性もある。
 彼女の警戒のほどや二心の存在する可能性は、短くとも濃密な不在の時間が示していた。
 手札としての神官にも、戦乙女と懇意であった者にも見切りをつけた男は、卓上を飾る薄布をひといきに抜き取り、
夜闇に目立つランタンの灯をぼかして裏口へと向かう。
「待ってくれ!」
 ルシオが重い口を開いたのは、洵が居間を立ち去ろうとしたのと同時だった。
「――何だ」
 一瞥した青年の瞳に、先刻と変わって強い光が宿されるさまを見た男の眉根が寄る。
「洵。今の話が本当なら、いや……そうでなくても。
 彼女は――ヴァルキリーは。生きてなきゃならなかったんだ」
 訥々とした言葉つきを存外に太い響きで吹き払う、彼の頬には迷いと自責が混交していた。

 * * *

 手短にと釘を差したものの――
 ルシオの話を聴き終えた洵は、難しい表情で床に座していた。
 胡座をかき、片手であごをつまんだ彼の傍にあるランタンには、いまだ灯が点いていない。

「ホムンクルスとオーディンの……成長する神の体が、本質的に同じだと?」

 魔術師連中でも荒唐無稽と言うだろう話を彼が切り捨てないのは、ひとえに自身の見聞きしたものゆえだった。
 アーリィによって器を奪われ、精神体を砕かれたレナスを一時封じた器は、まさしくホムンクルスだったのだから。
「ああ。ロキに殺された俺が生き返れたのも、彼女の力さ。
 成長出来る神になったヴァルキリーは、ドラゴンオーブで破壊された人間界も、神界も蘇らせたんだ」
 だから、彼女がいなければ、すべてがどう転ぶか分からない。

「俺達と同じに、死んでヴァルキリーの中に入ったロキが生きていることにも、最初は驚いた。
 けど、お前が“そこ”から来たって言うなら、納得がいくんだ――」
「俺達は別の時間……おそらく、都合の良い時期から集められたか」

 確かに、自分と同じ時期からやって来たというのなら、フレイは腑抜けていたはずだ。
 主神の“滅”を前にしたはずの女神は、凶行を前にしてなお鏡面のごとく落ち着いた気を湛えていた。
 ゆえに、ルシオの仮説に首肯すると同時に、それよりも一歩進んだところで……洵は唸る。

 彼が気にかけるのは神界アスガルド、人間界ミッドガルド、冥界ニブルヘイムや妖精界アルヘイムといった
世界樹ユグドラシルの枝葉ではなく、根からして別の理で成り立つ世界の存在だった。
 見たことの無い道具、“コミュニケーター”とやら。絹や綿、麻ですらない質感の衣類。獅子戦吼や鳳凰天駆、
といった、系統だっていながら異質な、流派剣技の添え物らしからぬ格闘のすべ。
 そして数ある異質の中でも頭が抜けた、移送方陣の比でない速さを有する空間転移術――。

188君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:51:20 ID:yEeCRB.6
 クレスとマリア、二人との戦い以前に殺した男のナイフもだ。あれの有する機構は、神界にさえ存在していない。
 それでも武具のひとつ程度なら、神まで引っ張り込んでゲームを始めたルシファーがどうとでも調達するだろう。
 だが、戦士や魔術師の身につけた技や呪文ばかりは違う。あの血の通い方は、後から付け足せはしない。
 それを見た今なら、あの、“ルシファーを倒した”との言葉にも得心がいこうが――

『ならば、つまり……奴もまた蘇ったのだな。
 如何にしてかは知らんが、時間を渡ることも、俺達に肉を持たせる事も、奴は可能たらしめている』

 それこそが洵の希望を支え、現実味をまとって胸を押し上げた。
 あまりにも今さらな話ではあるが、魂のみの存在となった自分達が、レナスの手によるそれと同じに具現化――
マテリアライズされている時点で、気付くべきであったろうか。
 ルシファーの、物理的な意味にとどまらない強さを。褒美という単語の裏付けを。
 そして、理解している。

「ああ。確かに、由々しき事態だな……」

 ためらいがちに考えを表明する優しい青年が、戦乙女と懇意であろうとなかろうと、利用できる駒に違いないと。
「だが、――今はこのまま放っておいても、ある程度まで人数は減ってくれる」
 だからこそ、彼の外堀を埋めるべく……少し前には言わなかった台詞を、洵は口の端に載せていた。
 本来ならば気色ばむはずのルシオからは、反応がない。それこそが“反応”であると断じて。
「ルシファーとやらは、神界から俺達の魂を実体化した状態で呼び出した、神のごとき輩だ。
 しかし、ヴァルキリーがオーディンと同じく、成長する神となったらしいことはお前の話が証明してくれた。
 彼女が“何処”から来たのかは分からん。だが、奴に……ひいてはロキやラグナロクに対抗出来うる者がいなければ」
 言いかけた剣士はためらうような、あるいは決意を固めたかのような風情で言葉を濁す。
「あの世界に生きる、俺の妹。阿衣に何が起こることか、知れたものではない」
 濁して、今度こそは最後まで言い切った。
「洵。お前、まさか」
 自ら体験した魂の死と、大切な者の死。
 質のちがう喪失を両方体験していた青年は、それゆえに、彼の思うところを察した。

 “貴方の言う“すべて”って、何?”

 すべて。ヴァルキリーが紡いだという言の葉は、数え切れない寄り道や回り道をしたルシオの胸をえぐる。
 そして、洵の指した、すべて。助けてやりたいと思う者に対する感情は、ルシオ自身も抱いていたがために。
「ああ」
 洵の肯定を耳に入れても驚かなかった自身にこそ、青年は衝撃を受けていた。

189君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:55:20 ID:AYN4wIao
「俺は、あの戦乙女に借りがある。感謝してもいる。それは事実だ」
 続く、仲間の言葉。彼が戦乙女といかにして出会ったか、思えば聞いたことがない。
「だが、それ以上に。俺は、阿衣の為ならば、命も誇りも惜しいとは思わん。
 ……それを盲目と糺されようが、立つ世界が違おうが、阿衣を大切に思うことには変わりがない」
「あ――」
 みずから認めたように、盲目にして愚直な洵の想いが、ルシオの心の底にあるものを衝く。
 慕うがままに売られると知った彼女の手を引き、夜を駆けたあの日。自分は、彼のような目をしていただろうか。
「神になり得ない俺達が誰かの命を得たければ、自他の命を失うしかあるまい」
 回顧の生んだ間隙に、“皮肉だがな”と付け足された男の言葉が舞い込み、
 瞬間、銀は朱に変わる。廃虚と化した街で、自分の代わりに置いて逝った少女の姿が脳裡をよぎる。
 だからって、私を置いて逝かないでよ。薄れゆく感覚に、それでも突き刺さった言葉は今も鮮やかだ。
 しかし、彼女ならば。すべてを守れた、彼女であるからこそ。
「――そう、なんだろうな」
 青年は、譲れないものへ迷いを見せない仲間に、決定的な、
 返事をした。

 * * *

 あの放送から、およそ15分。
 その間に、ルシオは一夜も過ごしたような錯覚を受けていた。
 だが、それでも生来のカンの良さや、スラムで磨がざるを得なかった“ネズミ”としての感覚は鈍らない。

「こいつは、冗談じゃないぞ」

 首肯ののちに訪れた濃密な沈黙の後に口を開いたのは、洵。
 今後のために、彼から受け取った名簿と地図の書き込みを控えながら、彼はうめいた。
「気付いたか」
「ああ。まるで、貴族の連中がやるネズミ取り――盗賊を捕まえるための罠みたいだ」
 ささやかな褒美である、見せしめの支給品を配置された島の北東部。
 そして、それを目当てに動こうとする者を迂回させにかかる、禁止エリアの位置と発動時間。
 例えば島の東からC-3――安全な場所にある褒美を目指そうとしても、1時の時点で北を、3時で南を行く選択肢が潰される。
 といって、次の放送までに何とか通過できそうなF-6、G-7を目指せば、その時には襲撃側の恰好の的だ。
 島を分断しようという思惑には、これでは誰もが気付いてしまう。
 だからこそ、この流れには簡単に逆らえない。
「これだけあからさまなら、待ち伏せもやりやすいよな……」
 あのミカエルのように、相手を選ばず戦いを求めた輩でも、陣取るべき場所は分かるはずだ。
 ――つまり、まずもって誰もが、殺し合いの構造から逃げられなくなってしまった。
 それどころか、誰かの死が次の殺しを生む泥沼に落ち込む可能性さえ十分である。
「だが、俺達はそれに乗る必要はない。
 激戦で消耗した後に、残りの者を相手どれる保証もないからな」
 むしろ、地と時の利を得ているからこそと、洵が提案したのは傍観であった。
 ここから北東に位置する神社に配置されたデイパックを回収した直後、この村に戻る。
 そこに、回復の力が使えるミランダが戻っていればよし。いなければ自分達に仇なす対象と判断する。
「クレスと、マリアって奴もか。
 同じような事を考える奴は、どこにでもいるみたいだな」
 ルシファーが生きていると知った青い髪の少女が、生き残りを目指して金髪に赤いバンダナの青年と組んでいた。
 後者の特徴を聞くに、ルシオは陽が落ちる前に会ったチェスターの探し人である青年を思い浮かべてしまう。
 彼のように裏表が無い者の仲間らしく、熟睡出来てしまうほど緊張感の無い人間が人を殺せるとは思わないが、
きっと、それを言えばプラチナが。ヴァルキリーもあの時と同じ言質をもつ台詞を紡ぐだろう。
 愚かしい、くだらない。その言葉のひとつひとつに胸を裂かれたものだが、今は、それほどでもない。
 けれども――
「悪い。ちょっと……すぐに、なんとかするから」
 また置いていかれたら、どうしていいか分からない。
 洵の提案に乗り、自身で思考できようが、やはり。回収しきれない感情は積もりに積もって、ついに堰を切る。
『あの時。ロキに殺される前も、こうだった。俺は、成長が無いな』
 未熟さを露呈して、誰に言い訳をするつもりなのか。結局、それは言葉としての形を無くす。

190君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 18:58:21 ID:.EQpNDhU
「……他に。警戒するのはレザードと、ロキだ。
 ヴァルキリーが死んだって、あいつらは彼女の体や魂をどう、使うか。予想できない」
 強引に涙を拭ったルシオは、洵のそれと同質であろう光を、青い瞳へと宿してみせた。

 * * *

 ひとつだけ、洵に告げなかったことがあった。
 アービトレイター。ルシオ自身は銘すら知らぬ英雄の携えた剣が、歩み始めた腰で重さを主張する。
 詰まった吐息を漏らして青年が思うものは、神々の黄昏、ラグナロクにおける世界の破滅と再生の詳細であった。
 死によって人と繋がる戦乙女。オーディンと同質の力を得て、創造の力を手にしたレナス・ヴァルキュリア。
 彼女は世界の破滅に際してすべての人の魂があげる“声”を聞き取り、再びすべての人々を、世界を創りだした。
 洵に出会い、未来にあるものを知った彼の決意を聴くまでは、さほど意識することもなかったが……。

 “ここで戦っても、結局はアスガルド丘陵で魂の死を迎え、彼女にすべてを創られることになる”

 再生に伴う不可避の運命を知ってしまえば、彼はどれほどの衝撃を受けるだろう?
 自分の魂が再構成されると知ってしまえば、彼はどれほどの恣意を想像するのか?
 己に訪れてしまう行く末を知ってしまえば、彼はどれほどの失望を抱くことか――
 “一緒に、生きましょう”。いくら仲間が彼女の見せた側面を知っていても、こればかりは言えはしない。
 世界を創造した戦乙女、レナス・ヴァルキュリア。あるいは、寒村に生きた少女、プラチナ。
 彼女の愛を受けた人間にして、ロキに処分された後に魂そのものを彼女に作られたルシオは、
 しかし、だからこそ、創造によって孤独となった女神を哀しめなかった。

『プラチナが今の“俺”を創ったとして、一体……何が問題なんだ。
 たったの十四で死んだあいつを、俺はずっと忘れられなかったじゃないか。
 優しかったあいつが勇敢な戦乙女になっても、彼女がプラチナ本人でなくても、変わりはなかったじゃないか!』

 ――銀色だったから。
 下界に遺した少女の台詞がよみがえる。
 そうだ。陽光に透きとおり、埋もれ水のごとく清列に流れた紫の髪に、自分は何よりプラチナを視ていた。
 けれども“彼女を好きだ”ということには、今も、あの頃であろうとも、変わりはない。
 最も大切にしたい感情の発露に変化がないと言うのなら、“いちど創られた自分”に、なんの問題があろう?

 “他人のイメージを重ねるなんて、その人に対する侮辱でしかないのは分かってる”

 すべて忘れてしまいたいとまで口にしたプラチナが、
 その手を引いて人買いの手から救おうとした自分の記憶を思い出し、
 創造した“ルシオ”に、あまりに幼かった、あまりに危うかった恋の一幕を、
 最期に彼女を抱きとめた少年の面影を自分に反映させていたとしても、
 創られた事実を哀しむ権利など、彼にはない。

『最初にそうしたのは、他の誰でもない、俺なんだ』

 プラチナとヴァルキリー。
 ふたりの横顔をひとつに重ねていた青年は、年齢に反して滑らかな曲線を描く頬を月光へさらす。
 だから。あごを引いた口の中に反響した言葉の破片を押し隠しながらも、胸中でなぞり固めた。
『だから、今度はもう、泣いたりしない。
 もう一度拒絶されても、イヤリングみたいな奇跡が起きなくてもいい。
 でも。彼女に置いていかれたくない、一緒に生きたい気持ちだけは……絶対に。俺のものだ』
 ややあって、懊悩を諦観でもって締め出したエインフェリアの双影が距離を縮めた。


 ――何事もなかったかのように、夜風は表情を変えぬまま海へと吹き抜ける。
 草に埋もれかねないほどに小さな花は、その腕に素朴な白さがにじむ花弁をさらわれていった。

191君が呼ぶ 哀しみのシュラオベ(last) ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 19:00:10 ID:AYN4wIao
【E-01/深夜】
【洵】[MP残量:100%]
[状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘にはほとんど支障がない]
[装備:ダマスクスソード@TOP、木刀]
[道具:コミュニケーター@SO3、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:出会った者は殺すが、積極的に獲物を探したりはしない]
[思考2:ルシオを利用。彼と共にE-2に向かい、見せしめのザックを入手する]
[思考3:ミランダとの離別を半ば確信。状況次第で殺害も視野に入れる]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:E-1/平瀬村周辺・北部]

【ルシオ】[MP残量:100%]
[状態:軽い疲労、わずかな眠気、焦燥と不安]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、荷物一式]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:洵と共にE-2へ向かい、見せしめのザックを入手する]
[思考2:レザード、ロキを警戒。レナスの死体の状態を知りたい]
[思考3:レナスを大切に思う自身に対する諦観。現状は積極的な交戦を選ばない]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[現在地:E-1/平瀬村周辺・北部]
[備考]:※コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません。
    ※マリアとクレスを危険人物と認識。名前は知りません。

192 ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 19:01:29 ID:DTqpp/sI
以上で投下を終了します。
既存の話を読ませていただいた上で、洵の参戦時期を決定しました。
Chapter8・Aエンドルートでレナスの復活を見た後、アスガルド丘陵でロキと戦う前を想定しています。
意見や感想、矛盾などがありましたら、忌憚無くお寄せいただけると幸いです。

193 ◆69O5T4KG1c:2009/05/12(火) 19:11:40 ID:DTqpp/sI
っと、推敲漏れ。
>>189の場面転換後は、“放送より三十分ほど”が正しいです。
あれだけ話して15分とかどんだけ早口なんだよ! ……申し訳ないです。

194名無しのスフィア社社員:2009/05/12(火) 23:51:43 ID:coiikjbM
おおお、投下乙です!
こっちで言えばいいんだよな?
問題は全然ないかと思われます。
禁止エリアについてしっかり考察もされてますし、繋ぎやすさの面でも全然問題ないかと。
感想は本投下までとっておきますね!

あと、一点だけあげるとしたら>>186
>付け足した”
とありましたが、冒頭に“が抜けてる気がします。
改めて仮投下乙でした!

195 ◆cAkzNuGcZQ:2009/06/03(水) 19:59:39 ID:JIjIYVmI
一応完成はしたんですが、話全体の流れに不安があるので、まず試験投下させて頂きます。
不自然な展開だったり矛盾があったりしたらご指摘願います。

196Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:00:39 ID:JIjIYVmI
G−5エリアの山道。辺りは暗闇で視界が殆ど利かない。
唯一の自然光源である月明かりは密集している樹々の葉に遮られてしまっている。
稀にその隙間から僅かに射し込む光は、暗闇に目を慣らしたい人間にとってはむしろ逆効果となり、
余計に暗闇を強調しているかのようだった。

レナとプリシスの2人はランタンを点けてこの山道を下っていた。
『夜道に揺れ動く照明は人を寄せ付ける効果が有る』というのは、
この島でのたった半日だけの仲間、アリューゼがプリシスに教えてくれた事だ。
いや別に2人には誰かを呼び寄せるつもりなどは全く無い。
この暗闇の山道を歩くには、灯りを点けなければ余計に危険であり時間を取られてしまう、というだけの事だった。
一応不意打ちには備えてレナが左耳に魔眼のピアスを装着していたが、今のところピアスは何の反応も示さなかった。

「この辺だよね?レナ」
「そうね…」

もうすぐ最初の目標地点である、G−5エリアの三本の道が合流する地点に到着する。
そこには、半日程前にレナとディアスが見つけた2つの死体があるはずだった。
2人が平瀬村に行く事に決まった後、レナはまず最初にこの場所の死体の事を伝えた。
出来る事ならあのような惨殺死体など何度も見たくは無い。見ないで済むならそれに越した事は無いのだが、
この島からの脱出に繋がるかもしれない“首輪の結晶体”を回収するには
平瀬村への通り道にある彼等の死体は非常に都合が良いのだ。泣き言など言っていられなかった。


「あ…あそこかな…」
しばらく早足で進んでいると、左右に別れる道が見えてきた。倒れている2つの人間らしき物体も視界に入ってくる。
死体はレナが昼間見つけた時のままの姿のようで、周辺の荒れ具合も変わっていない。
2人は立ち止まり、レナがプリシスに話しかけた。
「酷い状態だから、覚悟しておいた方が良いわよ。…こんな言い方もあの人達に失礼かもしれないけど。でも…」
「…ねえ、レナ?――」
レナは言葉を続けようとしたが、死体を眺めていたプリシスがそれを遮って質問をしてきた。
その声は、気のせいか若干震えているように聞こえた。
「――ここで死体見つけたのって、お昼頃って言ったよね?」
「え?…そうよ。最初の放送が終わってから…そんなに経ってなかったと思う」
「…その時から、首が斬られてたの?」
聞かれて、レナはプリシスに死体の状態までは話していなかった事を思い出す。
さっきは、ただ2つの死体がここに有る事を伝えただけたった。
「…ええ…酷いわよね…こんな事をするなんて…」
レナは再び見る事になったこの惨状に気が滅入りそうになる。
と同時に、プリシスの事が気になった。彼等に同情して塞ぎ込んだりはしないだろうか。そう思いプリシスの方を振り向いた。
だが、レナの心配など杞憂であるかの様に、何故かプリシスは死体に向かって走り出したではないか。
「プリシス!?」
プリシスは女性の死体の元に駆け寄ると、屈み込んで死体を調べ始めた。
(…首輪を回収するだけじゃないの?)
首輪の回収の為に死体の首を自分達で切断しなくてもいい、という点でも彼等の死体は都合が良かった。
だが今、どうもプリシスは首輪を回収しようとはしていない。何をしているのか、レナには見当がつかなかった。
「どうしたの?プリシス」
声をかけるがプリシスは返事を返す事無く、もう1人の死体も調べ出し、更にランタンをかざして死体周辺を調べ始めた。
視線を地面に落としながらも時折レナの方向を向くプリシスの表情は、真剣そのものだ。
どうやらレナの声は届いていない様子である。
レナは、極力死体が目に入らないようにプリシスに近付き、もう1度声をかけようとした。

197Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:01:39 ID:JIjIYVmI
プリシスはこの2つの死体を見て、瞬時に昼間発見した夢瑠の事を連想していた。
夢瑠は現在地からほんの半エリア程の距離だけ南に離れた地点で殺されていた。
そう、まるで、この男女の死体と同じ様な状態で。
続けて連想される事はプリシスの最も考えたくない事だったが、
『きっと状況が似ているだけで、夢瑠の事とは関係が無いに決まっている』
プリシスは無理矢理にそう思い、それを証明する為に死体を調べ始めた。
(…そんなことないよね?)
放送後に発見された死体。その1、2時間後に夢瑠達に訪れた惨劇。半エリア程度の距離。
(…まさか…だよね…?)
切り裂かれている男女の身体。切り裂かれていた夢瑠の身体。身体に残る傷跡。
(…この人達も…首輪が無い…?)
切断された首。持ち去られている首輪。
だが、調べれば調べる程、考えれば考える程、両方の出来事は関連しているようにしか思えず、
プリシスの考えたくなかった或る1つの答えが導き出される。
すなわち、彼等2人を惨殺したのもアシュトンである、という答えだ。(首輪を持ち去る理由は不明だが)
プリシスもそんな答えは認めたくはなかったが、それ以外の推論をいくら都合良く組み立ててみても、
これだけの状況証拠の前では“アシュトン犯人説”以外の推論など何の説得力も持たなかった。
「…アシュトン…」
無意識に、呟いていた。
(この人達も…あたしのせいで…)
再び遭遇したアシュトンの狂気の足跡。
ネルと夢瑠の事。レオンの腕の事。アシュトンを恨みながら退場してしまったジャックとアーチェの事。そして今の彼等の事。
その足跡は否応なしにそれらの事を思い返させた。
そして思い返す度に、一度は抑え込んだプリシスの自責の念が少しずつ膨らんで大きくなっていく。
(…あたしのせい…それじゃあ…)
だが今のプリシスには、
(あたしがアシュトンを止めなきゃ!)
泣きじゃくっていた先程までの様な自虐的な考えは無かった。
勿論、自分のせいでアシュトンを人殺しにしてしまった事や
アシュトンが死なせてしまった人達への悲しみと贖罪の気持ちは大きい。
しかしその気持ちよりも勝り、そして彼女の自責の念が働きかけたのは
“どうにかしてアシュトンを止めたい”という前向きな、希望に通じる想いだった。

(でも…止めるって言ってもどうしたらいいのかな…?
 いつもだったら…どうしてたっけ?アシュトンが落ち込んでたりしたら…
 あ、ひっぱたいて励ましてたんだ。いつもならそれで立ち直ってくれたんだけど
 今のアシュトンは『いつも』のアシュトンじゃないんだもんね…
 …ひっぱたいたくらいじゃダメだよね…人を…殺しちゃうくらい…だもん。
 こんな残酷に…何人も何人も。…あたしの為に…あたしのせいで…
 でも…あたしの為にやってるんなら…あたしにしか止められないんだよね!        「――ス」
 どうしたらいいのか…まだ分かんないけど…頑張らなきゃ!アシュトンの為にも…)    「――シス…―リシス」

そしてその想いは少しの間、プリシスを思案に暮れさせる事になっていた。
レナが呼び掛けている事にもなかなか気が付けない程に。

198Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:02:21 ID:JIjIYVmI
「プリシス…プリシス」
「……ほぇ?」
何度目かの呼び掛けで、ようやくプリシスの意識はレナの呼び声を認識したようだ。
振り向いたプリシスの目は、まだ今一焦点が合っていなかった。
「…あ、ゴメンゴメン、なぁに?」
「…大丈夫?何か…あったの?」
「え?…あ、ううん!……首輪。そう、この人達の首輪がどこにも無いんだよ!」
プリシスは妙に慌てた様な態度で、微妙にチグハグな返答をした。
何かを誤魔化そうとしている?レナにはそう感じられた。
だが、プリシスの誤魔化そうとしている事も気になるが、『首輪が無い』という指摘も気になった。
「…首輪が?」
あまり直視したくなかったが、レナは死体を確認してみる。確かにどちらの死体にも首輪が無かった。
昼間はどうだったかと思い返すが、駄目だった。覚えていない。
惨殺されている事自体に気を取られ、首輪にまでは気が回っていなかったのだ。
そもそも昼間首輪が無い事に気付いていたら、この場所でわざわざ立ち止まろうとはしなかったが。
「何処かその辺りに落ちてるんじゃない?」
レナもランタンをかざして辺りを見回してみるが、少し見回した程度では周りに何が有るかまでは良く分からない。
辺りの探索をしてみようと考えたところで、
「…ん、無いと思う。多分首輪は犯人が持ってったんだよ」
プリシスがそう言い、立ち上がった。
「犯人…?こんな事をする犯人がどうして?」
自分達のように脱出を目指している者ならともかく、殺し合いに乗った者が首輪を持ち去っていく必要は無いはずだ。
「…そんなの…分かんないよ…」
プリシスは小さく、悲しそうに呟いていた。
だが小声だった為、レナは聞き取る事が出来なかった。
「え?」
「……ん!何でもないよ!さ、行こっ!」
プリシスは平瀬村の方向へ歩き出した。そのあまりにもあっさりとした様子にレナは疑問を抱く。
(…探さないの…?)
首輪は、脱出する為にはおそらく必要な物なのだ。
確かに今死体には首輪は無いのだから、彼等を殺害した犯人、もしくは他の誰かが持っていったと考えるのはまあ良い。
だが、それはあくまでも推測に過ぎないのだから、もう少し周辺を探してみても良いはずだろう。
なのにプリシスはあっさりと彼等の首輪を諦めてしまっている。
プリシスは“首輪は犯人が持っていってしまいここには無い”と『考えている』のではなく『確信している』ようだった。
「プリシス…――」
レナは思った。プリシスはここで何かに気付き、隠そうとしている。
そして、はっきりとは聞き取れなかったが、先程プリシスが考え込んでいた時に呟いていた言葉。
もしかしたら名前を呟いていたのではないか?レナにある予感と不安が芽生える。
プリシスがレナの呼び掛けに振り向いた。
(この人達を殺した犯人はアシュトンなの?)
レナはそう聞こうとした。プリシスがわざわざ誤魔化そうとする事などはそれ以外考えられなかった。
「――ううん…何でもない」
だが、聞くのは躊躇われた。
『彼等を惨殺した犯人はアシュトン』
その答えはレナ自身が聞きたくない事でもあったから。
「……うん!さ、急ご!レオン達より先に戻ろーね!」
まるでゲームでもやっているかのように言い、プリシスは前を向いて歩き出す。
レナも、胸の中に芽生えた暗い不安からは目を逸らす事にして、プリシスに続いて歩き始めた。

199Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:03:22 ID:JIjIYVmI
余談ではあるが、もし今2人がこの周辺で首輪の探索をしていれば、
もしかしたらディメンジョン・スリップを握ったロジャーの死体を見つけ出せたかもしれない。
だが、2人は探索せずにこの場から離れていく。当然、ロジャーには気付きようも無い。
誰かがロジャーを発見する時はいつになるのだろうか?いや、その時は来るのだろうか?
それはまだ、誰にも分からない。


死体の有った場所からしばらく道なりに進んだところで、レナは地図を出して進路上を確認した。
この場所から目的地である平瀬村に入るルートは、現実的に考えて2つ有る。
1つはF−3を通るルート。
こちらは村から出る、または村へ入ろうとする参加者と出会う可能性が有り、比較的危険度の高いルートだ。
もう1つはH−3北西部からG−3の禁止エリアを掠めるように通過してG−2に抜けるルート。
こちらは一見したところは禁止エリアに阻まれているが、首輪の30秒の制限時間のお陰で通り抜ける事は可能だ。
そして、首輪の30秒の制限時間を知らない人物ならあまり近寄る場所ではないだろう。
つまり、他の参加者が通る可能性は低く、安全性は高いと思われる。
レナとプリシスの2人は事前に、
レオンの『エルネストは村に居る可能性が高い』という推理、
アルベルの『出来るだけ安全なルートで進む』という旨の提案から、
安全性の高いルートであるH−3ルートから平瀬村に向かう事を決めていた。

「ねえ、平瀬村に到着する前に少し休憩しない?村に着いたら…何があるか分からないし」
レナが確認していたのは、進路上で休憩を取り易そうな場所だった。
今、レナはプリシスの事を心配していた。
その理由は、先程の死体を調べていた時と、その場所から今ここに来るまでの間の、
沈痛そうに眉根を寄せて思案に沈んでいたプリシスの様子にある。
いつものプリシスだったら何かを悩んでいる時や悲しんでいる時でも、
先程の様な露骨に思案に沈んでいる姿などは周りに見せようとせず、表向きは明るく振舞おうとするのだ。
だが、今のプリシスにはそんな様子があまり見られない。
それはつまり、感情を取り繕う余裕も無いくらいに肉体的、精神的な疲労が大きい、という事だろう。
他の参加者が集まっていると思われる平瀬村に到着してしまえば、
どんなタイミングで、どんな参加者と出会い、どんな事が起こるかは全く予測出来ないのだ。
出来る事なら、そんな危険な場所に今の状態のプリシスをこのまま向かわせるより、
村よりも安全であるはずの進路上で少しでも休ませて疲労を回復させてやりたい。
レナはそのように考えていた。
「大丈夫大丈夫!休むのはレオン達と合流してからにしよ!」
「…でも…」
「それに、今は時間がもったいないじゃん?はやくエルネストを見つけなきゃ!」
「……そう…ね」
だがプリシスを休ませたい気持ちと同時に、『時間が無く、急がなくてはならない』という気持ちもレナの中に存在していた。
状況は刻々と変化する。いつ仲間達が危険と遭遇してもおかしくないのだから、
今はプリシスの言うように、休んでいる暇を惜しんでも仲間達を探す事を優先するべきなのは間違っていない。
いや、むしろ正しいと言えるだろう。
その気持ちも持っていたレナは、今のプリシスの言葉に自分の提案を通せる意見を持ち合わせておらず、
『プリシスを休ませたい気持ち』と『急がなくてはならない気持ち』
自分の中に在るこの2つの相反する気持ちに、無力感にも似たもどかしさをただ感じる事しか出来なかった。
そして、自分が先程のプリシスの様に沈痛そうな表情を浮かべている事には気付いていなかった。

200Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:04:33 ID:JIjIYVmI
一方のプリシスは、レナが休憩を提案した真意を何となくではあるが気付いていた。
プリシスは目の端でレナを捉える。その表情は明らかに暗い。そして微妙に空気が重いように感じられる。
(やっぱり…心配させちゃったかな?)
おそらくレナは、先程から度々上の空になっていた自分を心配してくれてあの様な事を言い出したのだろう。
ただ、心配してくれるのは純粋に嬉しい事ではあるのだが、
『自分を心配して』と言うのは『自分のせいで心配かけてしまった』と言う事でもあるのだから素直に喜んでもいられない。
プリシスはアシュトンの事を考えるのは後回しにして、重くなってしまっている今の空気を何とかしようと考えた。
別に誰かが決めた訳では無いのだが、前の冒険でもパーティの雰囲気を盛り上げるのは彼女の役目だったのだ。
そのムードメーカーが自身のせいで雰囲気を暗くしてしまっては元も子もない。
(そだ!アレがあったっけ)
プリシスは自分の持ち物を思い出した。『アレ』の思い出話ならレナを元気づけられるかもしれない。
「あ、そだ。レナ、良いもの見せてあげる!」
「…良い物?」
ちょっといきなりすぎたかな?と思いながらもプリシスは自分のデイバッグをまさぐり、
「じゃ〜ん!」
1つの道具を取り出した。
「あ…それ」
「そ、『盗賊てぶくろ』だよ!懐かしいでしょ?」

『盗賊てぶくろ』
他人の持つアイテムを一定確率で盗む事が出来る手袋だ。
成功すればどんなに厳重に守っているアイテムでも気付かれずに盗み取れるが、
失敗すると、何処からともなく聞こえてくる『ブブー』というベタな効果音のせいで必ずばれる。


「本当、懐かしいわね。…持ってきてたの?」
「違うよ。これね、あたしの支給品の中に入ってたんだよ」
「へぇ、こんな物まで有るのね。…ふふ、クロードがよくそれ持って街中走り回ってたわよね」
レナはクロードの姿を思い出した。まだクロードとはこの島で再会出来ていない。
クロードは無事なのだろうか。放送では呼ばれてはいないが、誰かに襲われて怪我をしてないだろうか。
そのような事を考え、ほんの少し、不安で胸がチクリと痛んだ。
「な〜に言ってんの。レナもじゃん」
プリシスがニンマリといった感じの笑顔で言う。
「そ、そんなことないわよ」
あまり突っ込まれたくない話に、思わず顔を赤くして叫んでしまった。
「ね?ね?リンガのクロードとエルネスト覚えてる?」
プリシスは話を広げようとする。1つ面白かった話を思い出したのだ。
「あれよね?クロードがエルネストさんの持ってたバトルスーツを狙って、リンガ中つけ回してたのでしょ?」
レナもその話は良く覚えている。
その時のエルネストは自分をつけ回しているクロードに気付いており、
居心地悪そうにリンガの町中をうろうろと移動していたらしい。
「そーそー。そんで何か変な本に影響されてたオペラがさ、
 『エルは渡さないわよ!クロード!』な〜んて変な誤解しててボーマン先生が大笑いしてさ…」
そこまで喋ってから、プリシスはしまった、と思った。
オペラの名前を出した時からレナの表情が段々曇り出したのだ。
「あっ……えと…ゴメン」
「…ううん、平気よ」
再び暗い雰囲気に戻ってしまった。

201Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:05:09 ID:JIjIYVmI
だがプリシスは悪気があって言ったのではない。
この場を少しでも明るくしようとして言ってくれた事なのだ。それはレナにもよく分かっている。
「…ボーマンさんって言ったらクロスよね」
プリシスの『お姉さん』としては、プリシスだけに気を遣わせる訳にはいかない。今度はレナが話を始めた。
「…クロス?」
「ほら、クロスで首輪にオリハルコンつけた犬が居たじゃない?」
それはプリシスも覚えていた。確か、茶色の雑種犬だ。
「あ、あの犬?可愛かったよね〜♪そだ、思い出した!
 ボーマン先生さ、『犬っころの分際でオリハルコンとは生意気だ!』とか言って盗ろうとしてたっけ!」
「そうそう!結局失敗しちゃって。たまたまそばに居たアシュトンと一緒にその犬に追いかけられて、
 みんな『さすがアシュトンはロクな目に…」
プリシスの顔を見て、レナはハッ、と口に手を当てた。
プリシスの笑顔は先程のレナ同様、徐々に悲しげな、力の無い笑みに変わっていく。
今は『アシュトン』は禁句に近い言葉だった。
「あ…ごめんね…」
「……ううん!い〜んだよ。楽しかった事を話してるだけじゃん!」
「…そうよね…」
「…そうだよ…」

楽しかった思い出話。
そう、かつての冒険は辛い事も有ったが、思い返してみれば楽しかった思い出ばかりが蘇る。
いや、辛かった事だって、今になってみれば笑いながら話せているのだ。
きっと10年、20年と経っても、何十年も経ってみんながヨボヨボの老人になっても、
あの冒険は楽しい思い出として心に刻み込まれていたはずなのだ。
…こんな事に巻き込まれさえしなければ。

今の気持ちを素直に表すかの様に沈黙が2人を包み、笑みは無くなった。
並んで歩いていた2人だったが、プリシスの歩みがやや遅れ始めた。

2人はかつての冒険を思い出して、理解した。
あの冒険の思い出は今、痛みと悲しみに包まれているのだ。
決して傷の有った思い出ではない。つい2日前までは、ただ楽しかった思い出だった。
その思い出を、何故今は思い出すとこんなにも心が痛むのだろうか。
理由は分かっている。
この無意味な殺し合いが仲間達だけでなく、彼らとの思い出や絆までをも傷つけているのだ。
では、何故楽しかった思い出を、こんなにも悲しく思い返さなくてはならないのだろうか。
何故レナが、プリシスが、皆がこんな思いをしなくてはならないのだろうか。
その答えは、2人には出せなかった。
((…え?))
代わりに、2人は気付いてしまった。
((もしかして…ずっと…?))
あの冒険を、今までのように楽しく笑って思い出せる日は、もう2度と来ないのだという事を。
どうしたってレナを人質に取ったオペラを思い出してしまうのだから。
何の躊躇いも無くレオンの腕を切断したアシュトンを思い出してしまうのだから。
こんな事で命を散らせてしまった仲間達を思い出してしまうのだから…

202Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:05:48 ID:JIjIYVmI
その事に気付いた2人は、心が抉り取られたかのような、激しい喪失感を感じた。
それは、仲間の死や裏切りで感じてきたものとは全く別の、今までに経験した事の無い喪失感だった。
その喪失感は瞬く間に胸全体に広がり大きな痛みへと変化する。
全く想定していなかった痛みに不意を衝かれた2人は、思わず泣き出したくなった。声を上げて泣いてしまいたい。

(駄目よ!私が泣いたらきっとプリシスも泣き出すもの。
 堪えなきゃ!私はプリシスの『お姉さん』なんだから!)
レナは涙を堪える為、無意識にまばたきを繰り返していた。
自分がしっかりしなくてはプリシスを護る事は出来ないのだから、泣く訳にはいかない。

(だめだめ!…あたしが泣いたらレナも泣いちゃうよ。
 …我慢しなくちゃ……あたしは…ムード…メーカー…だもん…!)
プリシスは盗賊てぶくろを手に装着すると、後ろからレナに近寄り、スッ、と手を動かしてレナを追い抜いた。
「へへ〜」
プリシスは後ろ向きのまま手に持った短剣を掲げ、レナに見せる。
「え…?何それ?…ってちょっと!?プリシス!?」
レナは自分の腰に手を当てる。無い。腰に挿していた短剣が無くなっている。
するとやはりプリシスが持っている短剣は…
「成功〜♪」
プリシスはレナの方を振り向かずに、そのまま走り出した。
「『成功〜♪』じゃないわよ!ちょっと、待ちなさい、プリシス!」

(ゴメンね、レナ…今は待てないんだ…)
プリシスは泣いていた。
プリシスの泣くまいとする想いとは裏腹に、彼女の喉は強張り、胸は熱くなり始め、涙が溢れてくる。どうしても止められない。
せめてムードメーカーとして、泣き顔をレナに見せる訳には行かなかった。見られたくなかった。
だから逃げる。涙が止まるまで、逃げなくてはいけない。レナに心配させない為に。この場を暗くさせない為に。
それがムードメーカーとしての役目なのだから。

(ごめんなさいプリシス…『お姉さん』なのにあなたを慰める事が出来なくて…)
レナはプリシスが泣いているのに気付いていた。
プリシスは気付かれてないと思っているようだが、彼女の声は涙声で上擦っていた。
それにレナも涙を堪える事が出来ているだけで、プリシスと同じ気持ちなのだ。
いくら誤魔化そうとしても分かってしまう。
そして、同じ気持ちである分、この暗く憂鬱な気分を晴らす方法が無い事にも気付いていた。
どうすればこの気分が晴れるのかレナには分からない。つまり、同じ様に落ち込むプリシスを慰める方法も分からなかった。
(だから、この鬼ごっこには付き合ってあげるね。あなたの気が済むまで…)
「プリシス!待ちなさいってばー!」
レナも走り出した。プリシスを追いかけるのだ。
せめて、この悲しい鬼ごっこが終わるまでは何も気付かない振りをして。
自分に出来る事はそれくらいしか思いつかないのだから。

レナの目にも涙がにじむ。レナはそれをこぼさないように空を見上げた。
樹々の隙間からは輝いてる星々が見え、涙を通して見る星の光は、様々な方向に長く伸びて広がっている。
レナにはそれがまるで、自分の代わりに星が涙を流しているように見えていた。

203Sticky Fingers:2009/06/03(水) 20:06:21 ID:JIjIYVmI
【H-04/黎明】
【レナ・ランフォード】[MP残量:40%]
[状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、精神的疲労大]
[装備:護身刀“竜穿”@SO3、魔眼のピアス(左耳)@RS]
[道具:荷物一式]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す]
[思考1:プリシスと共に平瀬村を目指す。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[思考5:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡し、何があったかを話す]

【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック(更に大きく)]
[装備:マグナムパンチ@SO2、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔100/100〕@SO2 盗賊てぶくろ@SO2]
[道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、荷物一式]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す]
[思考1:レナと共に平瀬村を目指す。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考2:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考3:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考4:アシュトンを説得したい]
[備考1:プリシスの支給品は盗賊てぶくろでした]
[備考2:適当なところでレナに護身刀“竜穿”を返しています]

[現在位置:H-04北部〜北西部]

【盗賊てぶくろについて】
・盗賊てぶくろを装備すれば、他人が持つアイテムを盗む事が出来ます。
・盗みを行えるのは、使用者の手が対象者に触れられる距離に居る場合とします。
・盗む事が出来るアイテムは、装備欄か道具欄に表示されている物をランダムで1つとします。基本支給品は対象外とします。
・盗んだアイテムに説明書が残っているならそれも同時に盗みます。
・道具の効力で盗むので、どんなに厳重に守られているアイテムでも成功すれば気付かれる事無く盗めます。
・失敗時には必ずばれます。失敗時の効果音が聞こえてくるかどうかはどちらでも。
・使用者は1人の対象者に1度盗みを試みたら、次の放送までは同じ対象者から盗む事が出来ません。
・成否の確率、成功時に盗めるアイテムは適当に決めて下さい。

204 ◆cAkzNuGcZQ:2009/06/03(水) 20:09:05 ID:JIjIYVmI
以上で投下終了です。
話としては短いのですが、心理描写が上手く書けずに時間を取られてしまいました。
2,3日様子見て、問題点が無さそうでしたら本投下させて頂きます。

205 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:49:22 ID:rW5XtX.Y
当初の予定と若干違いますが投下します。

タイトルはネタバレになるので最後に書きます。

206 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:50:52 ID:rW5XtX.Y
僕はひたすらに道なりに歩みを進め続けていた。その足が目指す先は大切な仲間との再会の場所鎌石村。
ブレアさんとロキと名乗る青年と別れてからしばし歩き続けていた僕は、E−4とF−4の境目で一度その足を止めた。
このまま道なりに北へと進めば目的地には到着できる。
しかしこのままではアシュトンと交わしたもう一つの約束、仲間を集めるという事が達成できない。
特にアシュトンはプリシスとの再会をとても楽しみにしていた。
今からプリシスを探して鎌石村に辿り着く事は不可能かもしれないけれど、せめて僕達にかけられた疑いを晴らしてくれる仲間は集めておきたい。
このまま鎌石村で合流した時に、もしもアシュトンも仲間を集める事が出来ていなかったら、何のために二手に分かれたのかわからなくなってしまう。
それに正直な所、初対面の人がアシュトンの姿を見て警戒しないなんて思えない。
だったら、ここは僕が無理をするしかなさそうだ。
すっかり忘れていたけれど、僕はジャックの使っていた首輪探知機を持っている。
こいつを使って近くに誰かいないか探してみよう。出来れば1人でいる人よりも二人以上纏まっている人達がいいかな。
少なくとも殺し合いに乗っている人間が仲間を作るとは考えにくいしね。
ジャックがこの機械を見せてきた時に行っていた操作を思い出しながらあれこれと弄ってみる。
僕の不用意な発言の所為で死んでしまったと言っても過言ではない彼の事を思うと心が痛む。けれども、ここで立ち止まってはいけない。
まだここには生きている人達がいて、その中には助けを求めている人だっているはずなのだから。
なんとか動作を始めた探知機のモニターの中心点に光点が一つ、少し離れて二つの光点浮かび上がった。
(多分これは僕の首輪の反応だろう。こっちはブレアさん達だろうな。操作は出来そうだけど他には誰も周りにいないな…。
 もっと広域表示とか出来ないのかな? っと。出来た出来た)
装置側面についたボタンを押してみたところ、中心にあった光点のサイズが一回りほど小さくなった代わりに、
北東に五つ光点が纏まっている箇所とそこから少し離れて一つ、南東方向と北西方向に二つの光点が重なっている箇所が表示された。
(鎌石村からそんな離れてなさそうだし、北東の方に向かってみよう。
 それにもしかしたらこの人達は打倒ルシファーを掲げた大集団なのかもしれない。)
探知機をデイパックにしまい五つの光点があった地点へと僕は足を向けた。

207 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:52:58 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「君達はここで殺す!」
そう吼えたアシュトンが大剣を構え一直線にこちらに突っ込んできた。
(クロード? クロードがなんだって? あの口ぶり、アイツはクロードと手を組んでいるのか? 
 それに今の台詞は殺し合いに乗っているって事なのか? 
 くそっ! 訳がわからねぇ。とっ、とにかくアシュトンを無力化しないと!)
湧き出る疑問を振り払い、筒から3本いっぺんに取り出した矢を間髪入れずに2連射する。
アシュトンの機先を制すべく放たれた俺の攻撃は、その長身とは裏腹に軽やかなステップで回避されてしまった。
だが、この程度の攻撃で抑えられる様な生易しい相手ではない事は、こいつの戦いぶりを見ていた俺にだってわかっていた。
撃たずにおいた矢に闘気を送り込み、その矢をアシュトンの足元に向けて打ち出す。
矢が地面に突き刺さると同時に送り込んでおいた気が開放され大地を炸裂させた。
特訓の末に編み出した技のうちの一つ『衝破』だ。
そして、この技の役目は攻撃の他にももう一つある。打ち出した大地の破片でアシュトンの視界を奪う事だ。
この状態なら回避も、迎撃も間に合わないはず。
狙いはアシュトンの右手。武器を持つ事が出来なくなればきっとアシュトンを止められる。
そう思って放った一撃は、大地の破片と破片の僅かな隙間を潜り抜け、狙い通りの軌跡を描いた。
狙いは完璧。確かな手応えを感じた俺だったが、次の瞬間赤い炎が夜闇に瞬いた。
咄嗟にその炎を横っ飛びで回避し、体勢を整え新たな矢を構える。
そこには降り注ぐ破片をその背に受けたアシュトンが立っていた。それも無傷のままだ。
その背中から伸びる紅い龍の口に燻っている炎が見える。
(あの龍の吐いた炎で俺の矢を焼き落としたってのか?)
「へぇ、中々面白い事ができるじゃないか? でも、残念だったね。
 普通の剣士だったら今の攻撃で手傷を負っていたかもしれないけど、
 生憎僕にはこの二人がいるからね。今みたいな攻撃は通用しないよ」
「くそっ」
悪態と共に構えた矢を放つが、アシュトンはその攻撃を切り払った。
「無駄だって言ってるのわからない? さっきみたいに目を眩ましてからの攻撃ならいざ知らず。
 君と僕との実力差じゃ正面からの攻撃なんて当たりっこないよ。だから、おとなしく僕に殺されちゃいなよ!」
今度もさっきと同様にまっすぐに突っ込んでくる。
多分俺の矢を完全に見切っているんだ。確実に捌ききれる自身があるからこその突撃だろう。
(だからって、おいそれと引き下がっていたら、守りたい者なんて何一つ守れやしない。今度こそ、俺は守りきってみせる!)

208 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:55:13 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

チェスターが訳のわからない事を言って寝返った時は少し驚いたけど、今のやり取りだけでわかった。こいつは僕の敵じゃない。
確かに矢を狙った所に撃つ技術は高いけど、それだけなんだ。
常に正確な狙い故に、攻撃が来るタイミングさえ掴めれば簡単に見切ることが出来る。
チェスターが新たな矢を構えた。僕の間合いまではまだ遠い。
攻撃を阻む事は出来そうにないけれど、チェスターの視線の先を捉えれば彼の狙いは丸わかりだ。
おそらく彼の狙いは僕の右肩。
攻撃の来るタイミングは狙いを定めてから攻撃に移る時の僅かな呼吸の変化。

まだだ…、まだ来ない。
残りの距離を更に詰める。

そして、残りの距離が僕の間合いまで後数歩となった所でチェスターの呼吸が変わった。

来る!

チェスターの指が矢羽を離すと同時に、踏み込んだ左足を軸に体を捻り回転させる。
僕の左肩を掠めた矢が闇の彼方へと消え去るのを横目に剣を振りかぶる。
回転の勢いと共にフルスイングした『アヴクール』の切っ先が二の矢を放とうとしたチェスターの弓を逸らした。
次の攻撃に移れるのは僕の方が早い。振り抜いた剣を両手に持ち直し、叩きつける様に『アヴクール』を振り下ろす。
だけど、この攻撃は地面を叩いてしまった。やはり使い慣れていない武器だと僅かに振りが遅れるみたいだ。
飛び退いて僕の攻撃をかわしたチェスターが反撃の矢を空中で構えている。
(狙いは僕の左足か。紙一重で交わして着地間際を攻撃するか? 
いや、さっきみたいに地面を砕いてくるかもしれない。なら、間合いをいったん離した方が良さそうだ)
チェスターの攻撃と共にバックステップで距離を開ける。
寸前まで僕の左足があった位置を彼の放った矢が貫いていた。
(予測どおりだ。一気に間合いを…。なっ!?)
僕は驚いた。突如として地面に突き刺さる軌道を取っていた矢がホップアップしたからだ。
薄緑色の闘気を纏ったそれは周囲の空気を陽炎のように揺らしながら地を這って僕に迫ってきた。
「頼んだよギョロ!」
「ギャッフ!(わかった!)」
ギョロが放った火炎弾の狙いは寸分違わずチェスターの矢を捕らえていた。
なのに、その炎は矢に当たる寸前に消滅してしまった。突然の出来事に一瞬回避が遅れてしまう。
なんとか直撃は間逃れたけれど、その矢は僕の左腿を掠めていた。
「痛っ」
掠っただけのはずだったのに、僕の腿には切り傷の様な痕が残っている。
(今の攻撃は一体?)

209 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 12:57:15 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(裏をかいた『鷲羽』でも掠り傷程度しか与えられないか…)
矢に纏わせた闘気を真空に変え、風に乗せて矢を放つ攻撃。これも特訓の中で身につけた技だ。
「ちょっと君を侮ってたみたいだ…。本気で行くよ!」
アシュトンから放たれる気迫が一段と増した気がした。
『リーフスラッシュ』
俺の体を中心に木の葉が渦を作って視界を奪い去った。さっきの金髪との戦いで見せたあの技だ。
(どこから来る? 右か? 左か? せめてあいつの位置さえわかれば…。
 『震天』で手当たり次第攻撃を…。駄目だ。そんなに矢の本数に余裕が無い。そうか! あれを使えば!)
「『衝破』」
左右に一回ずつ『衝破』を使い大地を巻き上げる。
続けて俺はデイパックに手を突っ込んで目的の品を引っ張り出した。
(ボーマンさんから譲ってもらったアイテム。こんなところで出番があるなんて…)
「行けーっ」
取り出したそれを思いっきり地面に叩きつける。
地面に出来た凹凸にぶつかった『スーパーボール』が勢いよく跳ね上がり、そして、さっき巻き上げた大地の破片にぶつかりまた跳ねる。
俺の周囲を跳ね回る『スーパーボール』が木の葉の群れの一角にぶつかると地面や欠片とぶつかった時と異なる挙動を示した。

「そこか! 『紅蓮』」
矢を炎の闘気で包んで撃ち出す俺の得意技が触れた木の葉を焼いて直進する。
『スーパーボール』がぶつかった木の葉に『紅蓮』が当たると同時に俺の周囲を舞っていた木の葉が一斉に消えた。
晴れた視界の先には右の肩口に矢を受けたアシュトンの姿があった。
思った以上に距離を詰められている。すぐさまバックステップで距離を開ける。
「こんなおもちゃで…」
肩口に突き刺さった矢を抜きながら忌々しげに呟くアシュトン。
「悪足掻きをっ! 『デッド・トライアングル』」
アシュトンが目の前で突然消え去った。
そして次の瞬間には俺を取り囲むようにアシュトンが、
(3人!?)
まるで三角形を形作るように出現したアシュトン達が同時に剣を大地に突き刺した。
すると、アシュトンを頂点とした三角形の中が高濃度の魔力で満たされる。
「ぐあああぁぁぁぁっ!」
まるで体が焼かれるような衝撃に意識が飛びそうになる。
漸く魔力の渦から解放された俺は両膝を折り、前のめりに崩れ落ちた。
(駄目だ…。力が、入らない…)
しばらくは今の攻撃のショックで動けそうに無い。
「手間取らせないでよっ!」
冷たい視線を俺に投げかけるアシュトンが剣を振りかぶった。
(クソッ、こんな所で…)
剣を振り下ろそうとするアシュトンが急に飛び退いた。
さっきまでアシュトンがいた位置に複数の氷の矢が突き刺さる。
(この魔法はアーチェ? いや…、アーチェは死んだはずだ…、じゃあ誰が?)
氷の矢が放たれた先を辿るとそこには、さっきまでアシュトンと戦っていたあの娘が杖を構えて立っていた。

210 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:01:06 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(どうして? あの子はあの人と戦っているの?)
戸惑う私はしばらく弓を持った子と龍を背負った男の人の戦いを眺めていた。
弓を持って戦うその姿は、私を何度も守ってくれたあの人の姿に少しだけダブって見える。

木の葉が舞い、大地が砕け、炎が闇夜を駆け抜けた。

二人の戦いはなんとか弓を持った男の子が食らいついていっていると言った感じだった。
けれど、状況は突如として一変する。
龍を背負った男の人の姿が消え、次に姿を現した時には3人になっていた。
突き立てた剣と共に地面に陣が描かれ、その中をここからでも判るくらい凄まじい紋章力が満たしていく。
地に伏してしまった男の子に龍を背負った男の人が歩み寄り剣を振り上げた。
(助けなきゃ!)
その光景を目にした時、頭の中を巡る疑問はどこかに吹き飛んで、代わりに私は強くそう思った。
(あの女の子の仇を取りに来たんじゃないの?)とか(何故仲間同士で戦っているの?)
なんて今はどうでもいいんだ。
(あの男の子は私を助けようとしてくれている。それはつまり、また誰かが私を守ろうとして傷つこうとしているという事。
 役立たずの私を守ろうとして傷つこうとしている。もう誰にもそんな事になって欲しくない…。
 だから私は決めたんだ。変わろうって。守られてばかりいる自分を変えようって)
「『アイスニードル』」
龍を背負った男の人目がけ氷の矢を殺到させる。矢は全て回避されてしまったけれど、なんとか男の子の事を守ることが出来た。
(そうよ。もう、守られてばかりじゃないんだから!)
そんな私の行動が癇に障ったのか、イラついた様子でこっちを睨みつけながら龍の青年は呟いた。
「どいつもこいつも邪魔ばかり! チェスターの次は君なんだから、もう少し黙っててよ!」
剣を虚空に奔らせ印を結び、鋭く巨大な氷の槍を作り出して私の方に打ち出してきた。
(『リフレクション』でなんとか弾かないと)
障壁呪紋の詠唱を始めた所で氷の槍は溶解した。
青い髪をした男の子が放った炎の矢が氷の槍を打ち落としていた。
「言っただろ! その娘は俺が守るって!」
大きく飛び退いて距離を開け、男の子はそう叫んだ。
苛立ちをよりいっそう強くした様子で、私とチェスターと呼ばれた男の子に鋭い視線を送る龍を背負った青年。
そんな彼の背負った龍が青年に声をかける。
「ギャフー」
「そうだね、ウルルン。少し頭に血が上りすぎてたみたいだ。その作戦で行こう」
そう呟いて大きな剣をデイパックにしまうと新たに赤い刀身の剣を引き抜いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

そうだ。ウルルンの言う通りだ。別に正面からぶつかる必要は無いじゃないか。
ウルルンはこう言った。
「ギャフー(頭を冷やせアシュトン。持久戦に持ち込めばいずれ抵抗できなくなる)」
そう、僕はこの剣で牽制だけを繰り返していればいいんだ。
何故かと聞かれれば単純な話だ。紋章術使いと弓使い。この二者に共通して言える弱点は攻撃回数に限界がある事だ。
厳密に言うと剣も刃こぼれ等を考えればその範疇ではあるけれど、矢や紋章術と比べればその差はあって無い様な物だ。
ソフィアっていったっけ? 君は後何回紋章術が撃てる?
僕とボーマンさんを相手にしてた時からずっと戦いずくめだよね? そろそろ限界なんじゃないか? 
そして、チェスター。今何本矢を使った? 確かあの子の荷物から取り出した矢は40本だったよね? 
この短時間で結構な本数使ってたみたいだけど、残りの本数で僕を倒すことは出来るのかな?
このまま僕はこの剣から火炎弾を飛ばし続ければいい。
多少疲れるけど紋章剣技を使うのに比べたらこんなの疲労の内に入らない。
必死に、矢で打ち落としたり呪紋で逸らしたりしているけど、そのままでいいのかい?
僕は別に構わないけどね。君達が抵抗できなくなったらゆっくり殺させてもらうよ。
それが一番疲れなくて済むからね。

211 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:03:49 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(クソッ! アシュトンの奴さっきから剣を振って火の玉を飛ばしてくるだけじゃないか!)
火球自体の速度はたいした事は無いから『凍牙』で簡単に打ち落とせる。
間断なく撃ってくるから反撃のチャンスは中々作れないけれど、こんなのただの時間稼ぎにしかならないじゃないか。
またもや飛ばしてきた火の玉を迎撃しようと、矢筒に手を伸ばしたその時、
俺は残りの矢の本数が心許なくなっているのに気付くと同時に、漸くアシュトンの狙いがわかった。
火炎弾を撃ち落さずギリギリまで惹きつけてから横っ飛びでそれをかわす。
(アシュトンの奴こっちの弾切れを狙って? そういやあの娘もずっと戦っていたけどまだ魔法が使える余力は残っているのか?)
さっきまでは火炎弾の合間に反撃の魔法を撃ち込んでいたあの娘が、今はずっと回避に専念している。
(クソッ、このままじゃ追い詰められちまう)

「キャッ!」
女の子が足をもつれさせて体勢を崩してしまった。その隙をアシュトンは見逃す訳も無く火球を放つ。
(間に合え!)
残り少なくなってきた矢を取り出し、火の玉目掛け『凍牙』を放つ。
しかし、焦って照準をした所為か標的から僅かに上に逸れてしまった。
「しまった!」
女の子は咄嗟にデイパックを盾にしてなんとか直撃を間逃れていた。彼女の荷物の中身が辺りに散らばったがどうやら無事みたいだ。
(もうこっちには余力が残されてない。こうなったら一発もらうのを覚悟で、勝負に出るしかない! 
 一撃で決める為の大技…。やっぱりあれしかないか)
特訓を続けて最近編み出した技『大牙』。
送った闘気で矢を巨大化させて放つあの技ならば、あの剣の火炎弾や炎のブレスでも焼き落とされることは無い。
けど、この技は直ぐには撃てない。送り込まなきゃいけない闘気の量の多さ故、どうしてもタメが必要になってしまう。
撃ち落されはしなくても避けられてしまっては意味が無い。
(どうすればアシュトンの足を止める事が出来る? 思い出せ。戦いの中でアシュトンは何回か足を止めていた事があったはずだ
 あの娘が使った炎の魔人の攻撃の時か? 違う。
 あの娘が使った無数の光線魔法の時か? 確かに足は止めていたけれど違う。
 俺にも出来そうな攻撃で足を止めていた事があったんだ)
アシュトンの戦闘の光景を記憶の中から引っ張り出し、該当するシーンを必死に探し出す。
その最中に飛んで来た炎弾を横っ飛びでかわすが、着地の際に地面を砕いた時にできた出っ張りに躓いてしまった。
追撃の火球が迫ってくる。躓いた時の勢いを利用し、そのまま地面を転がりなんとか回避して体を起こす。
その時だ、探していた光景が脳裏にフラッシュバックしてきたのは。
(そうだ! アシュトンは岩の雨を降らす魔法の時や俺の『衝破』の時に足を止めていた! 視界が塞がれていたからか? 
 多分そうだ。下手に動くよりも迎撃に勤めた方が被害が少ないんだ。
 それにアイツには二匹の龍もいる。事迎撃に関しては他の剣士なんかよりも安全に出来るんだ。
 ならば、視界さえ奪えば『大牙』を叩き込むチャンスは作れる!)

女の子の方をチラリと見やる。着ている服は切り傷や擦り傷でボロボロ。その上息が上がってきている。
(もう一刻の猶予もない。ここで勝負に出る!)

212 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:05:29 ID:rW5XtX.Y
矢筒から3本纏めて取り出して構える。
俺の動きに気付いたアシュトンが剣を振り、炎の弾を飛ばしてきた。
しかし、迎撃している余裕なんて無い。肉を切らせて骨を断つ。多少の怪我でアシュトンを止められるならば御の字だ。
「『衝破』」
火炎弾の脇を掠めるように矢を放った。火の玉の影で少しでもアシュトンにこの矢を気付かれるのを遅らせる為だ。
アシュトンの目の前の地面に着弾。砕かれ巻き上げられる大地の欠片。
それと同時に火炎弾が俺に当たった。さっきのアシュトンから受けた魔力攻撃の時に負った傷が響く。
だけど、怯む訳には行かない。炎により与えられる痛みを省みず、俺は降り注ぎ始めた地面に狙いをつけた。
「『豪天』」
一際大きなかけらに突き刺さった矢に眩い雷光が降り注いだ。
「ギャッ!」「ギャッフ!」
これで、アシュトンも二匹の龍も目を潰されたはずだ。
アシュトンは粉塵を受けて目をつぶっているし、その間を守る為に二匹の龍は暗闇に目を凝らしていた。その最中にあの雷。
(今しかない!)
掴んでいた最後の矢を装填し思いっきり弦を引き絞る。
矢に巡らした闘気を質量に変え、矢を次第に巨大なものに変えていく。
その矢のサイズが槍を越え、そして、大地に根を下ろす大樹の様に巨大になった。
「『大牙』!!」
弦を離し、戒めを解かれた巨大な1本の矢が真っ直ぐにアシュトンへと突き進んでいく。
『大牙』をその身に受けたアシュトンは周囲の瓦礫や木々を巻き込みながら吹き飛ばされた。

「どうだ?」
アシュトンが吹っ飛んだ時に巻き上がった土煙と、夜闇の所為でどうなったかわからない。
手加減をする余裕なんてなかった。もしかしたら殺してしまったかもしれない。
でも、この女の子を守る為にはしょうがなかったんだ。
(クソッ、なんでこんな事に…)
そんな事を考えている時だ、炎の中に吹雪の入り混じった空気の渦が煙の向こうから飛んで来たのは。
それを間一髪でかわして矢を抜き煙の先を見据える。

213 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:08:30 ID:rW5XtX.Y
「今のは結構危なかったよ…。後一瞬気付くのに遅れたら僕はこの剣みたいにバラバラになっていたんじゃないかな?」
そう言って煙の向こうからアシュトンが出てきた。その手に握っていた炎を出す剣は刀身を砕かれ柄だけになっていた。
その柄を放り捨て、デイパックから大剣を引き抜く。
「もう面倒だ…。ギョロ、ウルルン。アレをやるよ。バックアップをお願いね」
そう言うとアシュトンは両手で持った大剣を眼前に掲げ凄まじい量の魔力を放ちだした。
まるで嵐の中にいるかの様な風が巻き起こる。さっきの分身攻撃の比じゃない魔力がこの位置からでも感じられる。

撃たせたらヤバイ。
直感がそう告げている。どんな攻撃かわからないが身を隠すような場所も無いこんな所で直撃を受けたら無事じゃあすまない。
「させるか! 『鷲羽』」
この風に流されること無く、また、龍の炎の息に撃ち落される事のない攻撃を選択する。
「「ギャギャッ、ギャフ!」」
すると、アシュトンの背に生えた二匹の龍の内赤い方が大地に火炎の息を当て無数の瓦礫と粉塵を巻き上げ、
もう一方の蒼い方の龍がそれらを凍らせて即席の氷の盾を作り上げ俺の『鷲羽』を弾いた。

「大いなる創造神トライアよ――」
アシュトンが剣を振り上げる。その剣閃を追う様に蒼白い凝縮された魔力が光の筋を残す。
(責めて、この娘だけでも!)
この女の子はずっと守っていた緑色の長髪をした男を覆う様に抱きしめていた。
俺はこの身を盾とする為にアシュトンとこの娘の間に立ち塞がる。

「全ての敵を滅せよ!! 『トライエース』」

一閃
刀身から蒼白い燐光が迸り、極限まで凝縮した魔力が開放される。
大気がぐらりと歪み、周囲の粉塵や瓦礫、更には焦土の中生き残ることが出来た僅かな木々でさえ飛び散らした。

更にもう一閃
巻き起こる爆風。大気が更にいびつに歪み、よじれ、空間そのものが悲鳴をあげた。

そして最後にもう一閃
一際強烈な魔力の奔流。数百匹の魔獣の咆哮に似た大音響と共に空間、果ては重力すら捻じ曲げるかの様な凄まじく圧倒的な力。
その全てが俺たちに牙を剥いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「思った以上に疲れるね…。これもルシファーが言ってた制限って奴なのかな?」
『トライエース』を使った疲労からその場に膝を突くアシュトン。
「ギャフ、フギャ(大丈夫かアシュトン?)」
「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと眩暈がしただけさ。さぁ、早くあの三人の首輪を回収しよう。
そうしたらボーマンさんと合流しようか。まだあの人には使い道がありそうだからね」
「フギャフフギャー(待て、どうやら技の威力も制限されていた様だ)」
ウルルンの言葉を聞いて顔を上げたアシュトンは、ゆっくりと脇腹を押さえながら立ち上がるチェスターの姿を捉えた。
「そうみたいだね…。でも、もう抵抗する力すら残ってはいないだろうからさっさと済ましちゃおう」
(巻き込まれた瓦礫に当たって、穴でも開いちゃったのかな? 
 あんまり運はいい方じゃないみたいだな。少し親近感を感じるよ)
剣を支えにしながら立ち上がると、その剣を引き摺る様にしてチェスターに歩み寄るアシュトン。
「これでまた一歩、プリシスの一番に近づける訳だね…。フフフッ、待っててねプリシス。僕がもっと首輪を集めてあげるから…」
何かに取り憑かれた様な不気味な笑みを浮かべたアシュトンは、確かな足取りでチェスターへと迫った。

214 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:12:50 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(クソッ、視界がぼやける。腕にも力が入らない。結局俺はこのまま誰一人守り抜く事すら出来ずに死んじまうのか…。
 クレス悪い…。あれだけ大口叩いて別れたってのに、アーチェの仇を討つ事も、この娘を守る事も出来なかった…)
思い返せばここ最近の記憶は後悔ばかりだ。
村を守れなかった事。再会したクレス達の足手纏いにしかなれていない事。
ここに来てから起きた分校での出来事。アーチェの死。
そしてこの女の子の事。
(せめてアシュトンだけは止めないと…。俺がこの娘に持ってきちまった災いだからな…。
 くそっ、俺に力があれば…。何でもいい。俺に力をくれ。この娘を守れるだけの力をっ!)
そう俺は願った。神様なんていないって思っている。それでも祈らずにはいられなかった。
心の底からこの女の子を守りたいとそう思った。その思いを遂げる為強く、強く願った。

そして、その願いが何かを起こした。

先程この女の子のデイパックから転がり落ちていた水晶玉が、俺の足元で赤く眩い光を放っている。
(これは…? あの娘の荷物から出てきた…。一体なんだろう?)
俺はそれに思わず手を伸ばした。触れた途端体に何かが流れ込んで来る。
その瞬間。今まで俺の頭の中にあった微かにしかない、
雲の様に掴み所の無い断片的なイメージが、一つ、また一つと、まるで実体を持つかの様に収束していった。
そう、これは特訓の中で浮かんでいた断片的なイメージ。これを習得できればきっとクレス達の助けになれる。
そう感じ、いつも掴もうとしては霞のように消えていってしまっていたその感覚が、今俺の中に確かに一つの形を成して存在していた。

触れていた水晶玉は光を失い、透明な水晶玉に戻っている。
今の現象が俺に何か影響を及ぼしたのかわからない。
わかる事は唯一つ。俺にはまだこの娘を守れる可能性が残されているという事。

矢を構える。
この技に必要なのは送った闘気が拡散しない様に矢に定着させる事。
そして、それを幾重にも重ね合わせ、ただ一点のみを貫く為に研ぎ澄ます。
そう、どんなに強固な鱗に覆われた龍でさえ、その一撃の下に屠る。
そんな意味を込めたこの技の名前は、

「『屠龍』! ぶちぬけぇええええ!!」

解き放たれた赤き必倒の一撃。
俺の想いの全てを乗せた一筋の光がアシュトンに襲い掛かった。

215 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:15:57 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「フギャー!(やばいぞアシュトン! 避けろ!)」
(出来ない。体が重くて思うように動かせない。『トライエース』の反動?
 違う、もう呼吸は整えられてるし、さっきまでこんなに体が重いなんて事は無かった)
ふと、前を見ると女の子と目が合った。その手に持っている杖が輝きを放っている。
(あの娘の紋章術? 重力操作の?)
「ギャース!(チッ、世話の焼ける宿主だ!)」
「フギャー!(全力で行く、踏ん張れよ!)」
ギョロとウルルンが同時に巨大なブレスを真っ直ぐ向かってくる赤い闘気を纏った矢に浴びせる。
それでもチェスターの放った矢は一向に止まる気配を見せない。二人の吐く炎と氷の渦を受けながらも真っ直ぐに迫ってきている。
体は未だにあの女の子の紋章術で動かせない。だから、せめて二人の応援をしようと彼らを見上げた時、僕は自分の目を疑った。
何故かはわからないけど二人の体が透けてきているのだ。
「二人共もう止めるんだ! このままだと君達が魔力を使い果たして消滅してしまうよ!」
こんな事今まで無かったけど、どう考えても今魔力を使い果たそうとしている事が原因なのは明白だ。
「ギャッ(何寝言を言っている)」
「ギャフッ(お前が死んだらどの道俺達も死ぬんだ。無駄口叩いてないで手伝え)」
「駄目だ、あの娘の紋章術の所為で体が動かないし剣も持ち上げられない」

尚も迫り来る赤い闘気を帯びた矢に懸命にブレスを放ち続ける二人。
それでも勢いを少し落とすのが精一杯。確実に僕らの命を奪おうとそれは迫って来ていた。
「ギャギャ(ウルルン)」
「ギャーフ(そうだな…)」
「どうしたのさ? 二人共?」
僕はいつもと違う雰囲気の声を発する二人に急に嫌な感覚を覚えた。
「ギャッギャギャフン(今まで楽しかったぞ。アシュトン)」
「ちょっと!? ウルルン? 何言ってるの?」
「ギャース(このままでは3人纏めてあの世行きだからな。お前だけでも生きろ、アシュトン)」
「ギョロ!? 何勝手な事を言ってるのさ?」
「ギャフフギャフー(なんだかんだ言って俺たちはお前の事が気に入ってるんだ)」
「ギャッギャー(だから、お前にはもっと生きていて欲しい)」
二人が信じられない事を言っている。僕を生かす為に死のうとしている。
止めなくちゃ、そんな事受け入れられるはずが無い。
「待ってよ! また僕を困らせる様な事を言って! お願いだからたまには言う事を聞いてよっ!」
「ギャー(いいか? これを凌ぎきれたら一旦退け。北西の方角から二人。まだ遠いが近づいてきている)」
「ギャッフ(ボーマンが味方を連れて来たとは考えにくい。『トライエース』を撃った疲労状態でこれ以上の戦闘は危険だ)」
もう二人の姿は目を凝らさなければ視認出来ない程に薄くなっている。
「ギョロ! ウルルン! 話を聞けよっ! 僕達はこれからもずっと3人でっ!」
つい語気が荒くなってしまったけど、二人が思い直してくれるならそんな事構わない。

「ギャフー(生きろよ)」
「ギャース(生きろよ)」

そう言い残し二人は更に吐き出すブレスを巨大にさせた。
僕らに迫る矢は漸く止まり、そして纏わせた闘気を拡散させるように巨大な爆発を起こした。

216 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:25:23 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「これで決まって無ければ…」
もう駄目だ、立っているだけで精一杯だ。血と一緒に残された気力も流れ落ちてるみたいだ。
爆煙の先に人影が蹲っているのが見える。
突如として吹いた夜風が煙を晴らしてくれた。
ぼんやりとした視界で捕らえたアシュトンのシルエットに違和感を覚える。
(何かが違う…。いや、それよりも倒せたのか?)
しかし、どうやら俺の願いはさっき叶えて貰った分で受付が終了したらしい。
フラリと立ち上がるその姿が見えた。でもおかしい。さっきより小さく見える。

完全に晴れた視界のおかげで漸くその違和感の正体に気付いた。
背中の龍がいないのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
突然叫び声を上げたアシュトンが続けて、ものすごい形相で俺を睨んできた。
「殺してやる! 次に会った時は必ず殺してやるっ! 二人が受けた苦痛を何倍にして味合わせてから殺してやるからなっ!!」
怨念の様なものを込めながら呟くアシュトンを中心に霧が発生したかと思うと、ややあってから霧が晴れた。
その時にはあいつはこの場から姿を消していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(なんとか追っ払えたみたいだな…)
チェスターが張り詰めていた緊張を解いた瞬間、急に膝がガクリと崩れ落ちた。
前のめりに倒れる彼を受け止めたのは硬い地面の感触ではなく、
何か別のやわらかい、擬音で例えるならフニャンといった感触だった。
「だっ、大丈夫ですか?」
意識を失いかけていたチェスターはその呼びかけで瞼を再び開けた。
その彼の目に飛び込んできたのは
(特盛りっ!)
何が特盛りなのかは敢えて説明するまでも無い。
「ごっ、ごめん! 大丈夫、大丈…」
慌てて飛び退いたものだからまたしてもグラリときてしまう。
再び倒れようとするチェスターを受け止めようとしたソフィアだったが、
散らばった瓦礫に躓いてしまい、チェスターを支えきる事は出来ず二人仲良く転倒してしまった。

「ホントッ、ごめん。もう大丈夫だから゛!」
意図せずソフィアを押し倒すような形になってしまったチェスター。
そんな彼の眼前に広がった光景は童顔巨乳美少女のあられもない姿。
激しい戦闘の末所々破けてしまっているストッキング。
チラリと白い下着が見える様に捲くれ上がったミニスカート。
そして、先ほど彼を受け止めた豊かな胸。
その周囲の布地はアシュトンの『ハリケーンスラッシュ』やら何やらを受けて白い肌や下着が見え隠れしている。
更に、チェスターは健全な17歳男子である。目を逸らそうとしてもどうしてもチラチラとそれらに目が行ってしまう。
そう、彼は将来的には仲間内から『スケベだいまおう』というありがたい称号を賜る身。
そんな彼の男としての悲しい性がそうさせるのであった。

(イカン鼻血が…)
そして、彼は昏倒した。
ただでさえ脇腹に穴が開いて血が足りない状況だというのに、余計なところからも出血してしまったのだから無理も無い。

チェスター・バークライト享年17歳出血多量にて死亡

【チェスター・バークライト死亡】

217 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:28:08 ID:rW5XtX.Y
○●○●○●○●○●○●○●○●

(ここは…?)
俺はやけに眩しい所に寝転がっていた。
起き上がると鼻からツツーっと鼻血が垂れて来るのを感じ取ったので素早く袖で拭った。
(おかしい、さっきまで夜だったのに…。しかもさっきの女の子がいない)

「チェスターさん」
背後から聞き覚えのある声に呼びかけられた。俺は立ち上がって声の主の方に向き直った。
「お久しぶりです。お元気にしてましたか?」
そう言って礼儀正しい一礼と共に優しい笑顔を俺に向けたのは
「ミント? ミントじゃないか!?」
「はい」
そう、目の前にいるのはサラリと流れるような長い金髪と、聖母の様な微笑みを併せ持つ女の子。
どこからどう見てもあのミントだ。

「どうして死んだミントが俺の前に? 待てよ? もしかして、俺死んじまったのか?」
錯乱する俺の質問に首を左右に振るミント。
「いいえ、チェスターさんはまだ生きていますよ。ただ、近くを通りかかるって話を伺ったものですから。一言挨拶を、と思いまして。
 それと、どうしてもあなたに会いたいという人を連れてきました」
そう言ってミントは俺の視界から外れるように横に移動した。
ミントの背後に隠れていた人物が俺の目の前に現れた。
見間違うはずも無い。アイツの姿がそこにはあった。
ピンク色の髪をポニーテールに纏め、その髪と同じ色をした瞳でいつも挑みかかるように睨んできたアイツだ。

「アーチェ!」
アーチェに歩み寄る。話したい事がいっぱいあった。沖木島では再会して直ぐクロードに殺されちまったから。
だけど急に現れるものだから何を話せばいいかわからなくなっちまった。
よく見るとアーチェは俯いて小刻みに震えている。
そうかそうか。俺と会えてお前も嬉しいのか。こういうところはやっぱりかわいいなと思ってしまう。

「アーチェ…」
ズドム!
呼びかけながら一歩踏み出した俺の顔面にアーチェの鉄拳が炸裂した。

2HIT! 3HIT!
「何よ! 何よ! ちょっとあの娘がかわいいからってデレデレしてっ!」

4HIT! 5HIT! 6HIT!
「そんなに大きいのがいいのか!? 大きいのがいいのかぁー!!」

7HIT 8HIT! 9HIT!
「このスケベだいまおう! チェスターなんかーっ!」
訳もわからず連打を浴びた俺はグロッキー状態。頭の周りをヒヨコ達がくるくると回っている。
「巨乳の角に頭をぶつけて死んじゃえー!!」
10HIT!

アーチェのアッパーカットが俺の顎にクリーンヒット。俺はマットの上に沈んだ。
「しばらくこっち来んな! 行こっ! ミント!」
「あっ! 待って下さいアーチェさん。それではチェスターさんごきげんよう。クレスさんとクラースさんにも宜しくお伝え下さい」
(えっ!? ちょっとミント! この扱いは酷くないっすか?)

そうして俺は、この眩しい真っ白な世界の中で暗闇へと落ちていった。

218 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:31:01 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ってか、待てアーチェ! 巨乳に角なんてないぞ!!」
アーチェに向けて手を伸ばした俺の手は擬音にしてフニュンといった感触のモノを掴んだ。

【チェスター・バークライト生存確認】

次第に覚醒していく意識。今俺の右手に掴んでいるモノの正体を知覚するのに2秒程かかった。

どうやら俺はさっき助けた女の子に膝枕されている状態な様だ。
そして、伸ばした手は彼女の豊かな胸を下から持ち上げている様な格好になっていた。

「キャアッ!」「うわぁ、ごめん!」
慌ててその場から飛び退く俺。しまった。また急に動いちまったら。
「って、あれ? 傷が塞がっている」
「あの…、うなされていた様ですけど大丈夫ですか?」
胸を抱きかかえ、ちょっと涙目になりつつ上目遣いで俺に尋ねてきた。

(何だこれは? 反則だろ…)
「いや! もう! ホント大丈夫だから。それよりも君が傷を治してくれたのか?」
「はい。これを使って」
そう言って彼女はなにやら複雑な構造をした金属の塊を俺に見せてきた。
「もうエネルギーが切れちゃったから使えないけど、まだ痛みますか?」
傷はもう痛まない。服を捲くって確認してみたが綺麗に傷が塞がっている。
(どういった原理か判らないけど、きっとミントの法術を貯めこんでおける道具かなんかなんだろう。っとそれよりも)
「なぁ、君に聞きたい事があるんだ」
突然まじめな顔になった俺にこの娘も表情を強張らせる。
「君言ったよね。金髪の女の子を殺したって。アシュトンから君を守ったけど、事と次第によっては君を…」
殺す。そう続けようとしたが、どうしてもその続きは声に出せなかった。
命がけで守った娘だからだろうか。それとも、ずっとそばにいる長髪の男を守りながら戦っていた姿を見た所為だろうか。
不思議とこの娘が理由も無くあんな惨い殺し方をする訳が無いという確信があった。

少女は目を伏せポツポツと言葉を紡いでいく。
「多分あなたが言っている女の子は私達との戦いで負った傷が原因で亡くなったんだと思います。
 でも、そうするしかなかったんです。でなければ私達は皆あの子に殺されていた…」
「ちょっと待ってくれ! あの女の子に? だって君達はそこの男の人と、
 もう一人の金髪の男の人も含めて3人もいるじゃないか! それがあの子一人に?」
「そうだ! クリフさん! あの人はとても強いからきっと大丈夫だとは思うけれど、やっぱり心配。助けに行かなくちゃ」

そう言ってこの女の子は横たわる男を背負おうとして
「キャッ!」
つぶれた。
「おいおい、大丈夫か? 君の体格でそいつをおぶってくなんて無理だ。
 それよりもさっきの続きを聞かせてくれ。納得できたら俺も手を貸すから」

男の下敷きになったこの娘を引っ張り出して、服についたホコリを払ってやった。
別にセクハラ目的とかそんなんじゃないんだからな。勘違いすんなよ。
「すみません。ありがとうございます。それでは続きですけれど…」
こうして彼女は自分達と金髪の少女との間に何があったのかを俺に話してくれた。

219 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:32:44 ID:rW5XtX.Y
【D−5/深夜】
【ソフィア・エスティード】[MP残量:10%]
[状態:疲労中]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング、アクアリング、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:ドラゴンオーブ、魔剣グラム、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:レナス@ルーファスを守る]
[思考2:クリフと合流する]
[思考3:フェイトを探す]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:自分の知り合いを探す]
[思考6:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[思考7:レザードを警戒]
[思考8:チェスターを信頼]

[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]
[備考2:ヒールユニット@SO3を消費しました]

【チェスター・バークライト】[MP残量:50%]
[状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ@VP、矢×15本、パラライチェック@SO2]
[道具:チサトのメモ、アーチェのホウキ、レーザーウェポン@SO3、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:クロードを見つけ出し、絶対に復讐する]
[思考2:このままソフィアについて行く]

[備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[備考2:クレスに対して感じていた劣等感や無力感などはソフィアを守り抜けた事で無くなりました]
[備考3:スーパーボールを消費しました]
[備考4:レーザーウェポンを回収しました]

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:40%]
[状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中]
[装備:連弓ダブルクロス、矢×27本]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:半日以内にレナスの意識で目を覚まします]

[現在位置:D−5東部]

220 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:35:25 ID:rW5XtX.Y
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「一体何が起きたっていうんだ?」
E−4を北東方向に突っ切ろうとしていたクロードが、目的地の確認をしようと探知機にスイッチを入れた時だった。
そこに表示されていたのは六つ集まっていた反応の内二つが北西に移動していた。
そしてそれを追う様にして少し離れた位置にあった光点も移動している。
他の三つの光点は位置を変えていない事から何かあった事は明確であった。
それを確認したのが一時間位前の出来事。

そしてD−5に足を踏み入れたので、再確認の為に探知機を起動したクロードは目的地に更なる変化が訪れている事に気が付いた。
「近くに誰かいる?」
目的地としていた三つの反応があった場所には現在二つしか反応が無かった。
そして、おそらくさっきまでその地点にいたと思われる反応が自分の直ぐ近くにあるのだ。
(何があったのかを聞かなくちゃ)
探知機の反応を頼りに周辺を探すクロード。
「この辺りの筈なんだけれど…。うわっ!」
夜の暗闇の所為で足元にあった何かに躓いてしまった。
やけに重たい感触だったのだが、今のは一体なんだろうと振り向いたクロードは驚いた。
「ちょっ!? 君大丈夫? って、アシュトンじゃないか!? しっかりしろアシュトン!」
アシュトンを助け起こし、肩を揺さぶる。
「うっ、クロード?」
目を開けたアシュトンと目が合った。何故倒れていたのか? とか、平瀬村に向かったんじゃないのか? 等の疑問が浮かんだが、
まず最初にクロードはアシュトンの体の変化について尋ねた。
「アシュトン。ギョロとウルルンはどうした?」
二人の名を呼ばれたアシュトンその身を強張らせる。
「…。あいつらが…」
今までクロードが見たことも無い暗い怒りを秘めた表情のアシュトンが先程の戦いで起きた出来事を語り始めた。

221 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:37:36 ID:rW5XtX.Y
「…」
アシュトンの語った内容を聞き終えたクロードは言葉を失った。
「僕行かなくちゃ…」
フラリと立ち上がったアシュトンを慌ててクロードが止める。
「行かなくちゃってどこに? そんな体でどうするつもりなんだよ?」
「決まってるじゃないか、二人の敵討ちだよ。僕はあいつらが許せないんだよ。僕から大切な友達を奪っていったあいつらが。
 あの時は二人が逃げろって言ったから逃げてきたけどさ、このままだとあいつらがどこかに行ってしまうからね。
 少し休んで疲れも取れたから大丈夫だよ」
「アシュトン、君がどれだけ悲しいのかはよくわかるよ。でもね、敵討ちなんかしてもあの二人は生き返らないんだよ」
(そう、ここで死んでしまった皆も…)
「そんな事はわかってるよ! でもあの二人の為に何かして上げられる事がこれ位しかないんだ!
 だから僕は行くよ。クロードが止めたって無駄だからね」
それを聞いたクロードは少し悲しげな顔をした。
(あの温厚なアシュトンがこんなにも憎しみに囚われてしまうなんて…。
 それにねアシュトン。ギョロとウルルンが命がけで守ろうとした君に対して望む事は、敵討ちとかそんな事じゃなくて、
 二人はなにがあろうと君に生き抜いて欲しいって思っているんじゃないのかな?)
そう口に出そうとしたがクロードはやめておいた。
今の彼にはきっと何を言っても心に届かない。そう判断したのだ。
だから変わりに
「わかった。僕も行くよ。敵討ちを認めることは出来ないけど、そんな危険な連中を野放しにするなんて出来ない」
アシュトンに対して同行を求めた。
こんなにも危うい状態の友人を放っておくなんて事は彼には出来なかったし、
近くにいればアシュトンの無茶を止める事が出来るかもしれないと思ったからだ。
「そう…。じゃあついて来て、こっちだよ」
アシュトンは剣を掴んで虚ろな眼をしながら北の方向へと歩みだした。
クロードも荷物を纏めてアシュトンの後について行く。
これが良くない兆候だとはわかってはいたものの、今のクロードにはどうする事も出来なかった。

222 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:38:31 ID:rW5XtX.Y
【D-5/黎明】
【クロード・C・ケニー】[MP残量:100%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、大分楽になった)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)]
[装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード]
[道具:昂魔の鏡@VP、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:アシュトンと共に行動]
[思考2:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考3:レザードを倒す、その為の仲間も集めたい]
[思考4:ブレア、ロキとも鎌石村で合流]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:アシュトンの説明によりソフィアとチェスターは殺し合いに乗っていると思っています]


【アシュトン・アンカース】[MP残量:60%(最大130%)]
[状態:疲労中、激しい怒り、体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕打撲・ギョロ、ウルルン消滅]
[装備:アヴクール、ルナタブレット、マジックミスト]
[道具:無稼働銃、物質透化ユニット、首輪×3、荷物一式×2]
[行動方針:第4回放送頃に鎌石村でクロード・プリシスに再会し、プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる]
[思考1:チェスターとソフィアを殺してギョロとウルルンの仇を討つ]
[思考2:プリシスのためになると思う事を最優先で行う]
[思考3:ボーマンを利用して首輪を集める]
[思考4:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい]
[備考1:ギョロとウルルンを殺された怒りが原因で一時的に思考1しか考えられなくなっています]
[思考2:イグニートソード@SO3は破損しました]

[現在位置:D−5南西部]

223 ◆yHjSlOJmms:2009/07/05(日) 13:57:14 ID:rW5XtX.Y
以上で終了です。
タイトルは『鎌石村大乱戦 第二幕 〜龍を屠る赤き一撃〜』です。

因みに本来だったらこの後ソフィア達とレザード様ご一行が接触。
なんやかんやで戦闘になりボーマン対レザード、ソフィア、チェスターの構図にして
ボーマンピンチ!ってところで光の勇者様華麗に登場。
クロードの姿を見て復習の炎を滾らすチェスター。
そして更にチェスター、ソフィアを目の敵にしたアシュトンが二人に迫る。
ってな感じの完全な乱戦を作ろうとしたんですが力及ばず…。

本スレにもいらん誤爆してしまうし、最近こんなんばっかや…。

因みに今回のネタの元は本スレで、チェスターはなんで未来編からの参戦なの?ってところからです。
自分はチェスター登場話の書き手ではありませんが、きっとその人はロワ中で成長が見込めるキャラにしようとしたのではないかと考えました。
全員がゲーム終了だと成長イベントは原作で消化済みなキャラだらけになってしまいますしね。
そこで、一話前で精神的成長をみせていたチェスターに今度は実力的に成長してもらうように書いてみましたがどうでしょうか?

後シリアスストーリーしかしてないのにネタキャラ臭がするって言われてたんで、ネタキャラ要素としてスケベだいまおうを原作より引っ張ってきてみました。

それと◆wKs3a28q6Qさんすみません。アシュトンとギョロとウルルンに生じた亀裂のフラグをいっさい活かす事無くへし折ってしまいました。
鎌石村周辺に集まった対主催の戦力のバランスと、マーダーのバランスを整えたかったので、クロードをマーダーサイドにつけようとしたらああするしかありませんでした。

他にもいろいろツッコミどころがあると思われますので宜しくお願いいたします。

224 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:13:13 ID:iOFvMv.U
実はあまり後先考えず、既に書き上げていたりするのですが、

『展開のための展開』はイクナイ(・A・)!

に引っ掛かりそうな気もしているので試験投下させて頂きます。

225盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:14:03 ID:iOFvMv.U
「那々美……か」

菅原神社の本堂入り口で、洵は同じ倭国出身のエインフェリアの事を思い出した。
倭国最大の国、『海藍(ファイラン)』にある昂后神社の巫女職の継承者だった少女。
初対面の時には、おとなしく真面目で控えめな少女という印象だったが、それは彼女の一面に過ぎない。
夢瑠と2人で行動する時などには一緒になってカシェル辺りに悪戯を仕掛けて楽しんだり、
仲間内の恋愛話に興味を持ったりからかったりという、どこにでもいる少女のような面も有った。
いや、エインフェリアとしての資質以外を見れば、実際どこにでもいるような少女だったのだろう。

この遊戯の開戦の狼煙代わりにされたのはそんな少女だった。
流石にあの時は洵も怒りを覚えたのだが、殺し合いに乗ると決めてからは敢えて思い出そうとはしなかった。
決意が鈍るだとか非情になりきれないだとか、そういった理由からではない。只、無意味だからだ。
それでも神社という特殊な環境に1人で居ると、自然とその巫女の事が脳裏に浮かんでくる。

(お前が生きていたなら、やはりこの遊戯を止めようと行動したのだろうな。
 ……俺にはお前の想いは汲めないが、悪く思うな。お前の分の道具は有効に使わせてもらう)

那々美を思い出したからといって「仇討ち」などの方向に心が動く訳ではない。
だが争い事を好まなかった彼女の事を思い起こさせるこの場所が、少々居心地悪く感じられるのは確かだった。
早いところ探索を終えて本堂を出るとしよう、洵がそう考えた所で、

『……今、何か言ったのか?』

耳の後ろからルシオの声が聞こえてきた。
正確には耳の裏に接着して取り付けた、コミュニケーターに付属されていた『小型イヤホン』だ。
これと衣服に取り付けた『小型マイク』で、2人は今コミュニケーターを手に持たずとも会話が出来るようになっている。
どうやら洵の呟きは伝わってしまったらしい。
「……何でもない。それより俺の方には今の所は見当たらないが、そっちはどうだ?」
『あ、ああ。有ったよ。階段のところに有った。中身はまだ見てないけど』
「分かった。今行く」

先程の放送によると、新たに支給品が置かれるのは「菅原神社入口前」だった。
しかし、この伝え方だと「神社境内の入口」とも「神社本堂の入口」とも受け取れた為、
E−1エリアからだと神社の裏側から敷地内に入る事になる2人は、二手に分かれて探索する事にしたのだ。
何か有った場合にはすぐに駆けつけられるように、コミュニケーターの通信を入れたままにしておいたのだが、
結果的には必要の無い事だったらしい。

洵は通信を切り、本堂の扉を開く。
その時には、那々美の事などは完全に忘れていた。



226盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:15:56 ID:iOFvMv.U
本堂から出てきた洵の姿を見たルシオは、新たに入手したデイパックを持った腕を掲げ、小走りで洵に近づいた。
「それか」
「ああ。中身は今見ておくんだよな?」
2人はその場でざっと中身を確認する。
今までの経験から、パックを開けたら作動するような罠にも警戒したが、何かが起こる事も無かった。
「剣の類は無しか……出来れば木刀以外の物が欲しかったが」
武器が入っているならすぐに取り出そうと考えていたのだが、
その期待は空振りに終わり、出てきたのは道具類ばかりだった。
「仕方ないさ。アイテムが増えただけでも良しとしなくちゃあな」
実入りが有れば良しとする。スリで生計を立てていて身に付いた考え方だ。
「ふん。ルシファーに感謝しろとでも言うのか?」
「そうじゃないけどな……」

パックを閉じると、2人は神社を離れ、E−1へと向かった。
道具の詳しい説明を確認するのは禁止エリアを出て安全圏へと移動してからだ。
ルシオは時計を見て時刻を確認する。充分E−2を抜けられる時間は残っていた。

「……結局誰も居なかったな。人を集める罠だと思ったんだけど……」
ルシオは独り言のように呟いた。
新たに支給品が置かれたのはルシファーの気紛れや、ましてや言葉通りの「褒美」で有る筈も無い。
これを餌として殺し合いを加速させる罠である筈なのだ。
場合によっては自分達同様に支給品を取りに来る他の参加者と一戦交える覚悟はしていたのだが、
実際には神社には誰も居らず、支給品も手付かずのまま。
つまり自分達以外には誰もここには来なかったし、時間的に見て今から誰かが来る可能性も低いと思われる。
これでは菅原神社に置かれた支給品は、本当にただの自分達への褒美にしかならない。
「禁止エリアとなる時間が近い事も有る。他の奴らは、そう言った意味での危険は無い鎌石村の方に流れたのかもしれんな」
「それにしても誰も来ない可能性を考慮しないなんて……ルシファーはそんな甘い奴なのか?
 ……いや、何かおかしい。何かを見落としてる……?」
事が都合よく運びすぎている時は、落とし穴が大口を開いて待ち構えている場合が多い。
そんな貧民街での経験がルシオに警告を発していた。だがその警告が具体的な形を成さない。
「見落とし?」
「ああ。そんな気がする。
 そもそも『褒美』で人を集めるんだったらその場所を禁止エリアにする必要なんか無いんだ。
 禁止エリアにさえならなければ、ここに向かってくる人数だって増えるはずなんだから。
 ……まてよ、禁止エリア?……待ち伏せ……?」

ルシオは考え込む。
今回臨時に増やされた分を合わせて計6つの禁止エリア。
この内の4つは島を縦断するように、いや、縦断する為に配置されたのだろう。
これは島を縦断し、島の東側から出てくる参加者を待ち伏せさせる為。
そしてエリアごとの人口密度を一気に高めて参加者達を遭遇させる為だ。
狙いは明確では有るが、抵抗する事が困難な罠となっている。ここまでは先程の民家で気付いていた。
残る2つの禁止エリアの内のE−2とE−4。
ここが禁止された事で、鎌石村に居る参加者が村から出ていく場合にはE−1、またはE−3を通らざるを得ない。
同時に、もしもD−5に参加者が居るのなら、E−5とF−5以外に道は無くなる。
そう考えると今回の禁止エリアは今までの禁止エリアに比べ、
より参加者の移動経路を限定し、待ち伏せをし易くなるように定められたように見えてくる。
ならばE−2に置かれた支給品はどうなのか?これだけ罠でも何でも無いなどという事があるのだろうか?
菅原神社に支給品が置かれた理由も他と同様なのだとしたら……

227盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:16:44 ID:iOFvMv.U
「……もしかして……そういう事か?」
「何か気付いたのか?」
後方から聞こえてきた呟きに洵が反応を返して振り返ると、ルシオは険しい顔付きで立ち止まっていた。
「……これも『ネズミ取り』だったのかもしれない。
 今まで気付かなかったけど、よくよく考えれば今の俺達は完全にハマってるんだ」
「ハマっている?……どういう事だか説明しろ」
ルシオは辺りを見回しながら口を開いた。
「ああ。走りながら話すよ。とにかくこのエリアを抜けよう。俺の考えが正しかったら敵が近くまで来ているかもしれないんだ」
「……分かった。行くぞ」
洵は走り出す。確かに間も無く禁止エリアになる場所で戦う事などは御免だった。
ルシオも、1度後ろを振り返り誰も居ない事を確認すると、洵に続いて再び走り始めた。

「……今度の禁止エリアはまずこの島を縦断するように配置されてる。
 これには移動経路を制限して参加者同士をぶつけ合わせようとするルシファーの意図が有るのが明白だったな」
「ああ」
「だけど、それは縦断された場所に限った事じゃない。支給品が置かれたこのE−2だって同じ事なんだ。
 こっちも俺達の移動経路を制限して待ち伏せされやすいように考えられてる」
神社での待ち伏せならともかく、移動経路を制限した上での待ち伏せ。それを聞いた洵は眉間に皺を寄せる。
「どういう事だ?」
「良いか。0時に放送を聞いて神社に支給品を取りに行くとする。
 ……俺達が1番だったんだから、俺達を基準で考えるけど、
 到着した時には、禁止エリアになるまで残り1時間をとっくに切ってただろ?」
お前との会話が無ければもっと早くに到着していたがな。洵はそう思いながらも相槌を打った。
「E−2は2時に禁止エリアになる。で、神社はエリアの西側の端に近いんだ。
 多少時間が余ってたとしても、誰だって1番速くエリアを出られる所へ向かいたがる筈さ」
つまり、今彼等が向かっているE−1へと。
「……なるほどな。確かに俺達はE−1への最短距離を走っているが、
 これはルシファーに誘導されての事……奴の思惑通りという訳か」
「多分な。支給品を手に入れてE−1に出たら、その後はもうD−1かF−1に出るしかない。
 他のやる気になってる奴らがこの事に気付いていたら、確実にそこで待ち伏せされてるだろうな」
そういった輩からすれば、洵とルシオはわざわざ新たな支給品を持ち運んで来てくれる『運び屋』であり『獲物』だ。
ミッドガルドでも、例えばアルトリアからヴィルノアへと続く街道では、運び屋が襲われる事など日常茶飯事だった。
バドラック辺りの言葉を借りれば洵とルシオを襲撃するのは『おいしい仕事』となるだろうか。
「最悪の展開を考えると、D−1方向から来る奴、F−1方向から来る奴、
 それと俺達のように支給品を取りに行ってE−2から出てくる奴の3組に囲まれる可能性だってある。
 ……今のところ後ろ(E−2方向)から誰か来る気配は無いけど」
それを聞き、洵は忌々しげに舌を鳴らした。
「傍観を決め込む事にした矢先にこの状況か……とにかくE−1の道路まで出るぞ。
 見通しの良い場所で、まずは新たな道具を確認する。良いな」
今はとりあえず早く禁止エリアから脱出しなくてはならない。
2人はエインフェリアの仲間内でも1、2を争える敏捷さでE−2エリアを駆け抜けていった。



228盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:17:53 ID:iOFvMv.U
道具の確認を終えた洵とルシオは、元居た民家を目指して街道を歩いていた。
出来れば急いで移動したいが、ルシオの読みが正しければこの先には敵が待ち構えている可能性が高いのだ。
街道の周囲には木々や茂みなど、隠れられる箇所も多く存在する。現に洵が最初に殺した男も茂みに潜んでいた。
襲撃者があのような小物なら問題は無い。だが強敵に不意を衝かれれば気付かぬ内に殺されてしまう事も考えられる。
それ故、2人は移動速度よりも周囲の警戒に重点を置き、進んでいた。
朝の経験から洵は、遮蔽物の多い街道よりも見通しの利く海沿いを行こうと提案したのだが、
海沿いで襲われて暗い海に落ちると這い上がれなくなる危険性が有るし、
あまり見通しの利く場所だと逆に大魔法等から狙われやすい。
そうルシオに反論され、已む無く街道を進む事になった。

そうして移動してきた現在地、E−1の南部の街道。
ここで、ミカエル戦以来となる緊張感が洵とルシオを包んだ。道の先に灯りが見えるのだ。
ランタンの灯りかどうかまでは分からないが、あの様な灯りは2人が菅原神社へ向かう時には無かった。
何者かが灯りの辺りに居るのは確実だ。

「ルシオ、どう思う?」
「…………分からない。罠だとしても露骨過ぎる」
「確かにな。アレは避けて海沿いを進むか?」
「……いや、もしかしたらそれが狙いかもしれない。あの灯りは囮で、避けて移動した俺達を暗闇で叩く罠なのかも……」
ルシファーに移動経路を誘導されていたという考えは、ルシオの心に軽い疑心暗鬼をもたらしていた。
「ならば――」
洵は抜刀した。
「――ここで考えていても堂々巡りとなるだけだな。行くぞルシオ。コミュニケーターで会話が出来るようにしておけ」
通信をオンにしろと言う意味だ。
「行くって……正面からか?!」
「そうだ。ここから眺めていて罠かどうか看破出来るはずも無いのだからな。
 他にやりようが無いなら向かうまでだ。罠ならば叩き切れば良いだけの事!」
しばし逡巡する様子を見せていたが、その言葉で心が決まったのだろう。
ルシオは黙って頷き、コミュニケーターを操作すると、自身の腰からアービトレイターを静かに引き抜いた。

2人は同時に攻撃される事を避ける為、左右に若干距離を離して進んだ。
灯りが罠、囮であるなら、襲撃されるのは灯りよりも遥か手前である可能性も有るが、
2人のそのような警戒心をまるで無視するかのように、灯りは何事も起こさず、ただ揺らめくのみだった。
2人がE−1とF−1の境界、二股に分かれている道の手前まで到達したところで、灯りの正体が次第に明確になり始める。
「ルシオ、見えるか?」
「ああ。女……だよな」
灯りの正体はランタンであり、歩み寄るに連れて浮かび上がるのは、それを手に持つ1人の女性の顔だった。
洵もルシオもこの女性に見覚えは無い。
「この女……?」
洵は女の立ち振舞いを見て訝(いぶか)しむ。
堂々と姿を見せて待ち構えている割には、女はあまりにも隙だらけなのだ。
洵がその気になれば、この女に抵抗らしい抵抗もさせる事なく殺せるだろう。

「私に戦う気は有りません。あなた方にその気が無いのでしたら止まって頂けますか?」

女の方から声を掛けてきた。

229盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:18:53 ID:iOFvMv.U
彼女から見れば、洵とルシオの姿まではまだ確認出来ていない筈だが、誰かが近付いてくる気配には気付いていたのだろう。
『ルシオ、俺が止まるまでは止まらなくて良い。周囲を警戒しろ。この女自体が罠かもしれん』
囁くように話しかけるが、マイクとイヤホンのおかげで問題も無く、聞かれる事も無く会話が出来る。
『分かった』
ルシオの返事を確認すると、洵は女に向けて話し掛けた。
「こちらにもやる気は無い。だが貴様の顔がはっきりと確認出来る位置までは進む。良いな!」
方便だった。洵の狙いは自身の最速の技にして奥義でもある『千光刃』の間合いに入る事。今の位置は、それには少し遠い。

「…………でしたら私から行きます。私の顔が確認出来たら声を掛けて下さい。……『洵』さん」

「「なっ?!」」
2人に動揺が走り、足が止まった。代わりに女は洵達に向かってゆっくり歩き出す。
何故この女は姿も見えない洵の事を判別出来たのか。
いや、姿を見られていたとしても、洵はこの女と面識は無い。姿だけで参加者の誰かまで特定出来る筈もない。
『知り合い……じゃないよな?』
ルシオから通信が入った。
『……全く知らん女だ。何者だ?この女……』
ミッドガルドでも神界でも会った事がない。
考えられるとしたら、洵から見たルシオのように未来の人物か、もしくは、
「貴様、ミランダか?」
ミランダが何らかの方法で化けている事くらいだった。
「…………いいえ。ミランダ・ニームではありません。私は……」
「そこで止まれ!顔は確認出来た。……ミランダでは無いのならば何故俺を知っている?」
動揺して声を掛ける事を失念していた。
女性までの距離は10mも無い。彼女の持つランタンの灯りが洵とルシオの顔を照らしている。
向こうからも既に2人の顔は見えている筈だ。

「……それは……私がルシファー・ランドベルドの妹だからです」

「……何?」「……え?」
意外すぎる返答に、洵とルシオは言葉を失った。
と言うのは驚いて、という訳ではない。女の言っている事への理解が追いつかないのだ。
そんな2人の様子に構わず、女は続けた。

「お二人にお願いが有ります。……助けて下さい。今、私はロキに脅されているんです」

「何!?」「何だって!?」
そして今度は驚愕のあまり、言葉を吐き出した。


★  ☆  ★  ☆  ★

230盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:19:57 ID:iOFvMv.U
ロキは、少し離れた場所からブレアの様子を伺っていた。
菅原神社へと向かっていたロキとブレアが何故E−1とF−1の境界付近に居るのか?
簡潔に言えば、それはほぼルシオの考えた通りの理由での『待ち伏せ』であった。
その『待ち伏せ』を思い付き、実行に移したのは無論ブレアではなくロキである。

ブラムス達を追って菅原神社を目指していたロキとブレア。
ロキ1人でなら充分追い付ける予定だったのだが、ブレアの足の遅さが計算外だった。
このまま進んでも、自分達が菅原神社に到着する頃には既にブラムス達は去った後だろう。
それでは神社に向かう意味が全く無い、と考えたロキは、
神社に居るブラムス達には追い付けないとしても、
ブラムス達が神社から平瀬村に向かう所ならば、このペースでもまだ先回り出来るはず。
そう判断し、早々に進路を菅原神社から平瀬村に切り替えていた。

F−1とE−1の境に到着した後は灯りを持たせたブレアを1人で街道に立たせる事にした。
ブラムスのパーティにブレアを潜り込ませるにはロキ自身が姿を見せて待ち伏せる訳にはいかないし、
このようにしてブレアを目立たせれば、ブラムス達でなくとも神社方向から平瀬村に入る者と接触出来る確率は高くなる。
ここで接触するのがブラムス達なら後は作戦通りにブレアに頑張ってもらい、
別の誰かなら情報交換だけ行わせ、その情報次第で行き先を考えれば良い。
もしも接触する人物がブレアに攻撃を仕掛けようとした場合には、ロキが容赦無く魔法を撃ち込むつもりだった。
遠距離から飛び道具で攻撃された場合でも、ロキにはそれを察知して撃ち落とせる自信も有る。
一応ブレアはロキにとって使える駒なのだから、そう簡単に殺させる訳にもいかない。

そしてどのくらい待っただろうか。ようやく他の人物の気配を感じた。
(やっと誰かお出ましか。ブラムスなら話が早いが……違うみたいだな)
ややあって、ブレアに動きが有った。接触した様子だ。
ロキの位置からは声までは聞こえないが、今の所はその誰かがブレアに襲いかかる気配は無いようだ。
それならばロキが動く必要は無い。動くとしたらブレアが情報交換を済ませた後。その情報次第だ。
ロキは、ここでブレアがブラムス達以外の人物と出会った場合には、ブラムス達の移動先をある程度特定する為、
その人物から『菅原神社で支給品を手に入れたかどうか』を聞き出す事を命じていた。
ロキが最後に見たブラムス達の居た場所を考えるに、
第3回放送後にどちらの支給品配置場所にも尤も近い位置に居た参加者は、まずブラムス達だ。
つまり、ブラムス達が支給品を取りに行けば、どちらに行ってもまず間違いなく一番乗り出来るだろう。
その前提で考えると、もしも今ブレアと接触する人物が菅原神社で支給品を入手していたとしたら(Aパターン)
ブラムス達は神社に行かなかったという事になる。つまり鎌石村に向かった可能性が高い。
逆に支給品を入手していなかったのなら(Bパターン)、
ブラムス達が支給品を手に入れている場合と、更に別の誰かが支給品を手に入れている場合とが有るが、
どちらにしてもブラムス達が既に平瀬村の何処かに来ている可能性は生まれる。
Aパターンならともかく、Bパターンの場合はブラムス達がこの場所の近くに居るかもしれないのだ。
ここで派手に動いてロキがブレアと一緒に居る所を見られてしまえば、ブレアが警戒されてロキの作戦は台無しとなる。
出来る事なら、ロキもここでは余計な騒ぎを起こしたくは無かった。

ブレアが接触した人物に近付き始めた。ランタンの灯りがその人物、いや、人物達の姿を照らし出す。
それを見たロキは若干の驚きの後、薄ら笑いを頬に浮かべた。

(あいつルシオ!?名簿の『ルシオ』はやっぱりあいつか。ここであいつを見つけられるとはね。
 さて、こうなると……とりあえずは情報交換が終わるのを待って、その後は……どうしようかな?)


★  ☆  ★  ☆  ★

231盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:20:34 ID:iOFvMv.U
「――貴様の顔がはっきりと確認出来る位置までは進む。良いな!」

(良いわ!とても良い!『声』を出してくれたのだからね!)
ブレアからは姿が見えなかったが、聞こえてきた声のおかげで暗がりから向かってくる参加者の正体を『検索』する事が出来た。
(この声は、レナス・ヴァルキュリアのエインフェリアの1人『洵』ね。
 私の呼び掛けに返事を返してきたのだから、今すぐに私を殺そうとする事は無いでしょうけど……)
とは言え、警戒されているのは事実。
データでは洵の視力は決して悪くなく、この距離でランタンを掲げ上げているブレアの顔が見えないとは考え難い。
おそらくは、自身の攻撃し易い距離まで近付く為の方便だろう。
洵の他にもう1人分の気配も有るし、攻撃をされる事を避ける為にも、この場でのペースは掴まなければならない。
「――私の顔が確認出来たら声を掛けて下さい。……洵さん」
ブレアは彼らに『謎』を1つ提示した。『何故か自分の事が知られている』という『謎』だ。
この殺し合いの状況下で、面識も無い人物の口から自分の情報が出てくれば、こちらが何者かが気になるはずだ。
洵がゲームに乗っているとしても、少なくともいきなりブレアを殺そうとはせず、『謎』の答えを聞き出そうとするだろう。
そうなればしばらくの間はブレアの安全は保証される。
とりあえず、危険な時にはロキがブレアを守る手筈となってはいるが、
ロキなど信用出来る訳がないのだ。自分で打てる手は打っておかなくてはならない。

ブレアが洵の名前を口にした事で、2人は驚愕の声を同時に漏らした。
それを聞いたブレアはすかさずもう1人の声で検索をかけ、その人物を割り出した。
(ルシオ!?この2人はルシオと洵なの!?……ツイてるわ!この2人なら、使える!)
ブレアとしては、ここでブラムスに出会いロキを始末させる事が出来ればベストだったが、
この2人に出会うという状況も悪くない。いや、現状で考えるならブラムス達の次に良いかもしれない。
ブレアはゆっくりと歩き出し、ランタンの灯りで徐々に彼等の身体を照らし出していく。

「――ミランダでは無いのならば何故俺を知っている?」

ブレアの思惑通り、洵が食いついてきた。
ミランダ・ニームと間違われた理由は不明だが、それは取るに足らない事だ。
今重要な事は、これで当面の間はブレアの安全が確保出来たという事。
そして2人の姿だけでなく顔を照らし出せる距離まで近付けた事。
(これでロキもこの2人の顔を確認出来たはず……当然、ロキならルシオを生かしておくはず無いわよね。
 貴方達には悪いけれど、ロキを消耗させる為の道具になってもらうわ!!)

「お二人にお願いが有ります。……助けて下さい。今、私はロキに脅されているんです」

「何!?」「何だって!?」
2人は同時に叫ぶ。
「ロキ!?今あんたロキって言ったのか!?」「ロキに脅されているだと!?奴は近くに居るのか!?」
ルシファーの妹と言う話より、ロキの名前に強い反応を見せて少々取り乱す2人の様子を、
ブレアは心では笑いながらも、表面上は気にも留めないかのように、冷静に言葉を継いだ。
「落ち着いて下さい。ロキは近くに居ますが、今は攻撃を仕掛けてくるような事はありません。まずは私の話を聞いて下さい」



232盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:21:22 ID:iOFvMv.U
“ミッドガルドに対する神界アスガルドのように、神界よりも更に上位に位置する異世界が存在する。
 ルシファーとブレアはその異世界の人間で、そこの人間は簡単にミッドガルドや神界、
 そしてこの島に集められた様々な参加者達の世界に関わる事が出来るし、情報を引き出す事が出来る。
 自分はルシファーに反抗したが為にこの殺戮ゲームの登場人物とされてしまった”

ブレアは名乗った後、まず自分の事や自分が提示した謎の答えをこのように説明した。
ルシオ達からしてみれば、神界の更に上位の世界の存在など荒唐無稽な話で信じ難い事ではあったようだが、
本人以外誰も知り得ないような洵とルシオの過去の話やこの島へ連れて来られた時期、ラグナロクの顛末までブレアが話すと、
不承不承という素振を見せながらも彼女の話を信じたようだった。(ラグナロクの顛末については少々ルシオが口を挟んで来たが)

ブレアの話が一段落すると、やや興奮した面持ちでルシオが口を開いた。
「それじゃあ……あんたもルシファーと同じように死んだ者を甦らせる事が出来るのか!?」
「それは――」
「待て!ルシオ。それは後にしろ」
が、洵が口を挟んできた。
「……貴様が俺達の事を知っている理由は分かった。
 本当にルシファーの妹かどうかは判断しようも無いが、その異世界から送り込まれた人間だという話は信じよう。
 それで、ロキの目的は何だ?何故わざわざ灯りを点けて目立たせて、貴様をここで待たせている?」
ルシオはともかく、洵はどうやらブレアの話の全てを鵜呑みにしている訳では無さそうだ。
だがブレア自身に危害を加えようとしない限りは問題は無い。
「これは私の推測も交えているんですが――」
そう前置きをして、ブレアはこれまでの経緯を簡潔に話し始めた。

“自分はこの殺し合いを止める為に行動していたが、その最中、ブラムスに敗北した直後のロキに捉えられてしまった。
 ロキの目的は、ロキ自身にとって強敵であるブラムスを味方に付ける事。自分を捕らえたのは、その際に利用する為。
 そして、新たに置かれた支給品を取りに行ったと予想されるブラムスを待ち伏せる為に、自分はこの場所に立たされていた。
 ロキは少し離れた場所から自分を監視しており、自分に襲いかかる相手がいたらロキが攻撃を仕掛ける事になっている”

無論、脚色と偽りも交えて。
「この灯りを消せないのも、ロキが私の様子を監視する為なんです。
 お願いです。助けて下さい!ロキは用が済んだら私を殺す……そういう男です。
 この殺し合いを止める為にも、私はまだ死ぬ訳にはいかないんです!」
ブレアはそう訴えかけて2人を見た。

「……ロキは今は襲っては来ないんだな?」
「はい。情報交換が終わり、その内容を確認するまでは手を出さないでしょう。
 それはロキ自身の利益に繋がる事でもあるのですから」
「……ならば、少しルシオと話をする。貴様は離れていろ」

何か言いたそうなルシオを抑えながら、洵は少し下がった。
やはり完全には信用されていないようだが、
どうせすぐにロキに殺される男達なのだから信用などされなくて良い。いや、極端な話、正体がばれても良い。
ブレアも素直に後ろに下がり、2人から距離を取った。
(私を助けたいと考えているのかしら?見捨てたいと考えているのかしら?
 でも、近くにロキが居るのは分かったでしょう?ロキが自分の正体を知るルシオを逃がすと思う?思わないわよね?
 なら、ロキを倒す策を考えなさい!勝てないまでも、ロキを消耗させるのよ。私の為にね!)
ロキと2人を戦い合わせるだけならば、ロキに合図を送ってこの場に出てきてもらえば済む。
だが、ルシオ達には出来る限り善戦してロキを消耗させてもらわなければならないのだ。
もしもロキが2人を瞬殺してしまえば、消耗するどころではない。逆に2人の支給品を手に入れてロキが潤ってしまう。
そうならない為にも、戦い合わせる前に多少なりともロキ対策を考えてもらった方が都合が良かった。
そう、おそらく、今彼等がしているように。


★  ☆  ★  ☆  ★

233盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:22:11 ID:iOFvMv.U
「ルシオ、この女に気を許すな。こいつは何か妙だ」
洵は、先程からブレアを信じている様子を見せるルシオに忠告をした。
ルシファーの妹を名乗る人物ブレア・ランドベルド。洵は彼女に違和感を感じていたのだ。
それはほんの些細な事がきっかけだったのだが、この状況下では、疑惑の種としては申し分の無いものだった。
「…………妙だって?……何が妙なんだ?」
洵の忠告に対するルシオのあっけに取られた様な反応からも、ブレアを疑おうなどとは全く考えていない事が窺える。
おそらくはルシファー以外の異世界の人物に対する期待、優勝せずともヴァルキリーを甦らせる事が出来る可能性が、
無条件でルシオにブレアを信じさせているのだろう。
ここでルシオを切り捨てるならともかく、駒として利用し続けるつもりの洵としては、
脱出の可能性などという期待を持たれるのは良い展開ではない。
洵は内心でルシオの甘さに舌打ちをしながら、自分の感じた違和感を話す事にした。
「何を考えているのかは知らん。
 だがこの女、俺達の姿を見ずに俺達の事を判別出来ていたというのに、その後、ランタンで俺達の姿を照らしたな?
 いくら俺が声をかける事を失念していたからと言ってだ、
 ロキとお前の因縁を知っていたこの女が、ロキにわざわざお前の姿を晒す理由が何処に有る?
 助けを請う人間が、何故助ける側の人間に不利になるような事をする?この女、言動と行動が合っていない」
「それは……たまたま照らしちまっただけかもしれないだろ?」
ルシオは無意識に、だろうが、ブレア側の立場に立って意見を述べていた。
洵は再び、内心で舌を打つ。
「いや、さっきの理路整然とした話し方からしても、この女は馬鹿ではないし、慌てている素振りも無い。
 灯りを近付ければロキに俺達の姿が見える、その程度の事に気付かない筈あるまい。あれは故意にした事だ」
実の所、洵も『たまたま照らしてしまっただけ』という可能性が無いとは考えていない。
だが、今は少々無茶な理屈でも『ブレアが疑わしい』という話を納得させる事が出来ればそれで良いのだ。
「そんな――」
「ルシオ、お前は何を以ってこの女を信用している?」
「え?」
「この場でもしもロキが同じ様な事を言ってきたとしたら、お前は信用するのか?」
「……え?」
一瞬の後、ルシオはハッと息を飲んだ。洵の言わんとする事を理解したようだ。
「この女が異世界の人間であろうと、この島に居る以上は優勝を目指して行動していても何の不思議も無い。
 寧ろ、俺達の事を知っているからこそ、それらしい作り話で騙す事も容易い筈だ。
 本人の言い分だけで信用するなど、愚かにも程がある」
「……いや……だけど…………じゃあ、ロキに脅されてるって話は嘘だって言うのか?」
それについてはブレアと話している時に、洵は既に結論を出していた。
「ロキに関して話した事はおそらく真実だ。脅されている事も、ブラムスを待ち伏せていた事も、俺達に助けを求めた事もな。
 脅されでもしなければ、こいつのようにまるで戦闘能力の感じられない女がこれほど危険な待ち伏せなどする筈が無い。
 脅されているなら、脅しているその誰かの事を偽って伝える必要も無い」

つまり今、洵とルシオの2人にロキという危険が迫ってきている事は確実なのだ。洵はそう判断していた。

234盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:22:47 ID:iOFvMv.U
「……俺達に不利になるような事をして、俺達に助けを求めてる?……そんな事をして何の意味が有るんだよ?」
「さあな。言っただろう。この女が何を考えているのかは知らん。
 今、最も重要なのは、こいつは決して俺達の味方ではないという事だ。
 ルシオ、この女を救おうなどと余計な事を考えるな。さもなければ、ここでまたロキに殺されるぞ!」
ルシオは俯きながら顔を歪めた。その表情が物語る感情が何なのかは分からない。
だが、ルシオが次に顔を上げた時、
「……そう……だな。洵、お前の言う通りだ」
つい今まで見せていた興奮の面持ちは、もう見られなかった。
決して期待を捨て切れてはいないのだろうが、今はこれが限度だろう。

「けど、だったらどうするんだ?逃げるのか?」
「……いや、ロキとはここで決着を着ける」
洵はロキと戦う事を明言した。
「……戦うのか!?」
その言葉を聞いたルシオは、意外そうな表情を浮かべて洵を見た。
つい先程、戦闘での疲弊を避ける為に傍観を選択したのは他ならぬ洵本人だし、彼はブレアを疑ってもいる。
逃げる事を選択するものだとばかり考えていた。

「ああ。ロキがあのブラムスと組もうとしているのなら、それは阻止しなくてはならん。
 奴らに組まれてしまえば俺達に勝機はなくなるからな。ロキはここで殺す!」
確かに他の参加者の疲弊を待つ事が洵の計画ではあったが、この場合はそれに準じて行動する訳にはいかない。
ロキの目的がただ優勝を狙っているだとか、ただ脱出を目指しているだとか言うなら今はまだ戦う必要は無いが、
ロキはブラムスと手を組む為に行動していると言うのだ。
例えここでロキとの戦闘を回避出来たとしても、万が一ブラムスと組まれてしまえば、
ロキは今よりも強大な障害として洵達の前に立ち塞がるだろう。
それではますます勝ち目が無くなってしまう。そうなる前に叩かなくてはならない。

「だけど…………いや、確かにロキを倒すなら今がチャンスかもしれないな。
 あいつがどの時期から来てるのかは分からないけど、ここでは少なくともドラゴンオーブは持っていない筈だ!」
ルシオも洵もこの島に連れて来られた時に、持っていた道具も装備も全てルシファーに没収されていた。
それはロキとて例外では無い筈なのだ。
「そう、その事も有る。ドラゴンオーブの無い今、奴はオーディンを倒せる程の能力は解放出来ない。
 下級神以上の能力を出せないのなら、そしてダメージを負っている今ならば、俺達が手が届かない程の相手ではない!
 ……それからもう1つ、俺達に有利な点が有る」
「もう1つ?」
もったいぶる事も無く、洵は言った。
「ブレアだ。この女は俺達の味方ではないが、ロキの味方でもない。こいつにとってもロキは敵の筈。
 弱点だろうと何だろうと知ってる事は素直に話す筈だ。こいつからロキの情報を聞き出せるだけ聞き出すぞ」



235盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:23:54 ID:iOFvMv.U
ブレアがロキに合図を出した。
詳しい事は洵達は知らないが、今出した合図はこの場にロキを呼び出す為の合図らしい。(合図は他にも数パターン有るらしい)
ブレアが合図を出すとすぐ、彼女のかなり後方から人の気配が感じられた。
その気配に反応した2人は思わず武器を構える。ルシオはアービトレイターを。
洵は、新たに入手した支給品『マジカルカメラ』で複製したアービトレイターとダマスクスソードを。
ロキは2人が剣を構えたのは見えているだろうが、それを警戒してもいない様子で、
まるでペースを変える事無く近付いてくる。やがて、暗がりから無邪気そうに微笑んでいるロキの顔が見え始めた。

「ロキ!!」
ルシオが叫んだ。
「こいつがロキ……」
洵が呟いた。神界に送られた事の無かった洵は、これがロキとの初対面だ。
こんな形で会う事になるとは2日前には想像もしなかったが。
「何でここに……ブレアの仲間って……」
ルシオはブレアをチラリと見た。無論、これは演技だ。
ロキには『ブレアはロキを裏切っていない』と思わせておく方が彼等にも都合が良かった。

「そう、俺だよ。驚いたかい?……それにしても久しぶりだな、ルシオ。元気だったかい?心配してたんだよ?」
「……何を、白々しい事を!」
このロキがルシオ殺害後から来たロキだという事はブレアから聞いている。

「本当さ。お前には色々聞きたい事が有るんだ。安心しな。俺はお前を殺す気は無いよ」

ロキの意外な一言。この場に居る誰1人として、その言葉を信じる者は居なかった。
洵は思わず失笑を漏らす。
「確かに白々しい。誰がそんな言葉を信じる?」
「ん?何だお前?」
ロキが洵を睨み付けた。
「お前は確かレナスの……ふっ、まあ良いや。どうやらお前も俺がルシオを殺した事は聞いてるみたいだな。
 だけどもうそんな事はどうでも良いのさ。フレイとレナスが死んだ今となってはね」
「何?」
「俺がルシオに何をしたかなんてばらされてたらマズイのは彼女達だけさ。
 よく考えたらブラムスは神界の揉め事なんてどうでもいいだろうし、この島に居る他の奴らなんて取るに足らない存在だろ?
 だったらばらされて困る事なんて……おい、何をしてるんだ?」

話の途中だが、ロキはルシオに問いかけた。
ルシオがいつの間にかボールを手に持ち、掲げているのだ。
ルシオはその問いに答えず、一言だけ“ロキ”と呟き、ボールを放り投げた。
すると、ボールは光となり、ロキに向かって飛んでいく。

236盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:24:27 ID:iOFvMv.U
「おいおい、聞く耳持たずか?」
ロキは素早くグーングニルを手に持つと、その光に向かって叩きつけた。
しかし、槍には何の手応えも感じられず、光はまっすぐにロキへと向かい、命中した。
「くっ?!」
命中したがロキには変化は無い。ダメージはおろか、状態異常にかかる訳でも無い。
それも当然だ。今のボールは攻撃用のアイテムでは無いのだから。
ロキは自分の身体を見回し、何かが起こる事も無い様子に気付くと、ルシオを睨みながら言った。
「……今のは何だ?」
ルシオは黙っている。
「答えろッ!俺に何をしたッ!」

今ルシオが投げたボールは、新たに入手した支給品の1つ『アナライズボール』だ。
洵やルシオ達の世界で言えば『スペクタクルズ』と同等の性能を持つ道具で、対象者の状態を調べる事が出来る。
2人にボールからの情報が伝わった。確かにロキは大きなダメージを負っている。魔力は9割以上有るが、
体力は3割程度しか残っていない。ブラムスから受けたダメージはあまり回復していないようだ。
そう言えば、と洵は思い出す。
アスガルド丘陵でロキと戦う事になった時に、ヴァルキリーから聞いていたロキの能力についてだ。
ロキは基本的には魔術師タイプの神族だが、攻撃魔法を好む為か、回復の類の魔法は得意ではないのだと聞いた。
魔力が充分に残っているのに体力を回復させていない今のロキ。それがこの話の裏付けになると言えるだろう。
使えない訳ではないようだが、おそらくは不得手の魔法故、消費する魔力と回復力の量が割に合っていないのかもしれない。
そしてこのロキの状態はブレアの話の裏付けにもなっていた。ならば、迷う事は無い。
2人は左右に散らばり、剣を構え直した。

「……まさか『これが答えだ!』とか言いたいのかい?
 ふんっ、貴様等、見逃してやると言ってるのに……本気で神である俺と戦う気か?
 いや、戦いになると思ってるのか?……思い上がるなよッ!人間ごときがッ!!!」

ロキは怒鳴りつけると同時にグーングニルを振りかざし、構える。瞬間、闘気の波動が周囲に広がった。
「くっ!」「うっ!」「キャアァァ!!」
それを受け、ブレアだけが10m程後方に吹き飛ばされた。ルシオがそれを反射的に目で追った。
「ウスノロ!貴様は邪魔だよ!引っ込んでいろ!」
わざとやった事のようだ。だがこれは洵とルシオにも都合が良い。

『行くぞ、ルシオ!』
『ああ!』

2人は同時にロキに向かって駆け出した。




ルシファーの手によって中断させられていたロキとエインフェリア達の闘い。或いは既に過去の出来事となっていた戦いは、
ルシファーとルシファーの送り込んだプログラムに導かれ、形を変えてこの島で再開されようとしていた。
舞台が変わった事で運命は彼等の変化するのか?それはきっとルシファーにも分からないのだろう。
この沖木島という盤面の上では、ポーンがクィーンよりも必ずしも劣っているとは限らないのだから。

237盤上の出来事 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:24:57 ID:iOFvMv.U
【E-01/黎明】
【洵】[MP残量:100%]
[状態:腹部の打撲、顔に痣、首の打ち身:戦闘にはほとんど支障がない]
[装備:ダマスクスソード@TOP、アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、アナライズボール@RS、木刀、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:ロキを殺す。今はその事だけに集中]
[思考2:基本的にブレアは信用していないが、対ロキに関してのみ信用]
[備考1:ロキの使用できる技はここでブレア、過去にヴァルキリーから聞いて把握している可能性があります]

【ルシオ】[MP残量:100%]
[状態:軽い疲労、焦燥と不安]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:マジカルカメラ(マジカルフィルム付き)@SO2、コミュニケーター@SO3、????×1、荷物一式×2]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:ロキを倒す。今はその事だけに集中]
[思考2:ブレアは信用しない(だが、心では淡い期待を持つ)]
[備考1:コミュニケーターの機能は通信機能しか把握していません。(イヤホン、マイク込みで)]
[備考2:マリアとクレスを危険人物と認識]
[備考3:新たに入手した支給品はアナライズボール×2、マジカルカメラ(マジカルフィルム付き)、????×1です。
     アナライズボールは洵と分け合い、ルシオの分は使用しました。
     マジカルカメラで複製出来ない物、マジカルフィルムの個数は後の書き手さんに一任。
     ????×1は洵、ルシオとも確認済み]
[備考4:ロキの使用できる技はブレアから聞いて把握している可能性があります]

【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%]
[状態:ノイズは治まり気味
    ロキに対する怒りと同時に、ロキを殺せる希望を見つけた事に対する喜びを併せ持つ]
[装備:無し]
[道具:荷物一式]
[行動方針:参加者に出来る限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい]
[思考1:ルシオ、洵を利用しロキを消耗させる。2人は死んでも良い]
[思考2:出来る限りロキの足を引っ張る]
[思考3:その他の事は後で考える]
[備考1:クリフの特徴を聞きました。
     名前は聞いていませんが、前もって人物情報を聞かされているので特定しています]
[備考2:フェイト達に会うまでは保身を優先し、誤情報を広めるつもりはありません]

【ロキ】[MP残量:90%]
[状態:自転車マスターLv4(ドリフトをマスター)
    顔面に大きな痣&傷多数 顎関節脱臼(やや痛むが何とか修復完了)、残り体力30%程度]
[装備:グーングニル3@TOP、パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔50/100〕@SO3]
[道具:10フォル@SO、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、スタンガン、ザイル、ボーリング玉、拡声器@現実世界、万能包丁@SO3、首輪、荷物一式×2]
[行動方針:ゲームの破壊]
[思考1:ルシオ、洵を殺す]
[思考2:ブレアは駒として使えるので、今は簡単に殺させる訳にはいかない]
[思考3:その他の事は後で考える]
[備考1:顎を治しましたが、まだ長い呪文詠唱などをすると痛みが走るかもしれません]
[備考2:自分をフルボッコにした相手はブラムスと特定しています]
[備考3:レザードは多分殺し合いには乗っていないだろうと予測(マーダーであるブレアが殺したがっているから)]

[現在地:E-01南部。道が二股に分かれているところ]


【残り21人+α?】

238 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/02(日) 14:26:35 ID:iOFvMv.U
以上で投下終了です。タイトル元ネタはありません。
相変わらずオリジナル設定満載ですが、大丈夫かな……?

問題になりそうなところは

・コミュニケーターのイヤホンとマイク
・ロキの進路変更が都合良過ぎ
・ロキの体力
・支給品多すぎ
・状態表削り過ぎ

などでしょうか。他にも有りそうな気はしてますが……
洵の状態表の「参戦時期」につきましては、迷いましたが外させて頂きました。
一応今後のテンプレには表記されている事と、他のキャラは状態表に参戦時期が書かれていない事が理由となります。
それも含めまして、問題点、矛盾点、ご指摘、ご感想などありましたら是非。

本当はもう1人使う予定でしたが、それ入れると容量的に中途半端に前後編になりそうだったので断念。
これで追跡表も合わせて34.4K……通った時、前後に分けずに済むと良いな。

239修正 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/04(火) 19:22:43 ID:wMHkUogw
指摘の有った箇所を修正させて頂きます。




「……それは……私がルシファー・ランドベルドの妹だからです」

「……何?」「……え?」
意外すぎる返答に、洵とルシオは言葉を失った。
と言うのは驚いて、という訳ではない。女の言っている事への理解が追いつかないのだ。
そんな2人の様子に構わず、女は続けた。
「お2人にお願いが有ります。……助けて下さい。私は今、貴方達の良く知る人物に脅されているんです」
ルシファーの妹がここで自分達の知り合いに脅されている?洵もルシオも状況が上手く理解出来なかった。
だが、何者かに待ち伏せされている事だけは確実のようだ。一体誰だと言うのか。
「……俺達の良く知る人物だと?」
「はい。私はその男に脅され、ここで待ち伏せする事を強要されています」

今この島で生き残っていて、女を脅して利用するような、自分達の顔見知りの男。
洵もルシオも、瞬時に約2名の顔を思い浮かべた。

「彼は少し離れた場所からこちらの様子を監視しています。
 私程度の声でしたら届かない距離だと思いますが、念の為に出来るだけ声を抑えて頂けますか?」
「……その人物とは?」
洵はそれには素直に従い、声を小さくした。
「それは――」
女はルシオを見て、続けた。
「ルシオさん。特に、貴方が良く知る男です」

わざわざ『ルシオ』を強調するのならば、その男とは――

「ロキ……ロキが……近くに居るのか……?」


★  ☆  ★  ☆  ★

240修正 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/04(火) 19:23:52 ID:wMHkUogw
ロキは気配を消し、ブレアからある程度離れた場所から様子を窺っていた。
菅原神社へと向かっていたロキとブレアが何故E−1とF−1の境界付近に居るのか?
簡潔に言えば、それはほぼルシオの考えた通りの理由での『待ち伏せ』であった。
その『待ち伏せ』を思い付き、実行に移したのは無論ブレアではなくロキである。

ブラムス達を追って菅原神社を目指していたロキとブレア。
ロキ1人でなら充分追い付ける予定だったのだが、ブレアの足の遅さが計算外だった。
このまま進んでも、自分達が菅原神社に到着する頃には既にブラムス達は去った後だろう。
それでは神社に向かう意味が全く無い、と考えたロキは、
神社に居るブラムス達には追い付けないとしても、
ブラムス達が神社から平瀬村に向かう所ならば、このペースでもまだ先回り出来るはず。
そう判断し、早々に進路を菅原神社から平瀬村に切り替えていた。

F−1とE−1の境に到着した後は灯りを持たせたブレアを1人で街道に立たせ、自分は大きく距離を取った。
ブラムスのパーティにブレアを潜り込ませるにはロキ自身が姿を見せて待ち伏せる訳にはいかないし、
あまり近くで様子を窺っていれば、ブラムスに自分の気配を感付かれてしまう恐れも有るだろう。
だから、ロキ自身は大っぴらには動かない。その代わりに、このようにしてブレアを目立たせる事にした。
こうすれば、ブラムス達でなくとも神社方向から平瀬村に入る者と接触出来る確率は高くなる。
ここで接触するのがブラムス達なら後は作戦通りにブレアに頑張ってもらい、
別の誰かなら情報交換だけ行わせ、その情報次第で行き先を考えれば良い。
もしも接触する人物がブレアに攻撃を仕掛けようとした場合には、ロキが容赦無く魔法を撃ち込むつもりだった。
遠距離から飛び道具で攻撃された場合でも、ロキにはそれを察知して撃ち落とせる自信も有る。
一応ブレアはロキにとって使える駒なのだから、そう簡単に殺させる訳にもいかない。

そしてどのくらい待っただろうか。ようやく他の人物の気配を感じた。
(やっと誰かお出ましか。ブラムスなら話が早いが……違うみたいだな)
ややあって、ブレアに動きが有った。接触した様子だ。
ロキの位置からは、はっきりとした言葉までは聞き取れないが、今の所はその誰かがブレアに襲いかかる気配は無いようだ。
それならばロキが動く必要は無い。動くとしたらブレアが情報交換を済ませた後。その情報次第だ。
ロキは、ここでブレアがブラムス達以外の人物と出会った場合には、ブラムス達の移動先をある程度特定する為、
その人物から『菅原神社で支給品を手に入れたかどうか』を聞き出す事を命じていた。
ロキが最後に見たブラムス達の居た場所を考えるに、
第3回放送後にどちらの支給品配置場所にも尤も近い位置に居た参加者は、まずブラムス達だ。
つまり、ブラムス達が支給品を取りに行けば、どちらに行ってもまず間違いなく一番乗り出来るだろう。
その前提で考えると、もしも今ブレアと接触する人物が菅原神社で支給品を入手していたとしたら(Aパターン)
ブラムス達は神社に行かなかったという事になる。つまり鎌石村に向かった可能性が高い。
逆に支給品を入手していなかったのなら(Bパターン)、
ブラムス達が支給品を手に入れている場合と、更に別の誰かが支給品を手に入れている場合とが有るが、
どちらにしてもブラムス達が既に平瀬村の何処かに来ている可能性は生まれる。
Aパターンならともかく、Bパターンの場合はブラムス達がこの場所の近くに居るかもしれないのだ。
ここで派手に動いてロキがブレアと一緒に居る所を見られてしまえば、ブレアが警戒されてロキの作戦は台無しとなる。
出来る事なら、ロキもここでは余計な騒ぎを起こしたくは無かった。

ブレアが接触した人物に近付き始めた。ランタンの灯りがその人物、いや、人物達の姿を照らし出す。
見覚えのある姿に気付いたロキはそのシルエットを凝視した。そして、若干の驚きの後、薄ら笑いを頬に浮かべる。

(あの姿……もしかしたらルシオか!?名簿の『ルシオ』はやっぱりあいつだったか。ここで見つけられるとはね。
 さて、こうなると……とりあえずは情報交換が終わるのを待って、その後は……どうしようかな?)


★  ☆  ★  ☆  ★

241修正 ◆cAkzNuGcZQ:2009/08/04(火) 19:25:34 ID:wMHkUogw
>>229の後半部分をブレアに誘導されて静かに同様するように修正。
>>230での様々な点の変更、修正。
ロキまでの距離がそれなりに開いている事への描写
声が聞こえない→はっきりとは聞こえない程度に変更
誰がいるのか確認できる→姿を見てどうにか判別出来る程度に変更
ブレアが最初に洵とルシオの2人に声のボリュームを下げるように指示

242本スレ>>527状態表修正 ◆Zp1p5F0JNw:2010/02/14(日) 19:19:29 ID:qzqPiIGI
【D-05/黎明】

【アルベル・ノックス】[MP残量:90%]
[状態:左手首に深い切り傷(レナに治癒の紋章術をかけてもらいました。もう少し安静にすれば完全に回復します)、
    左肩に咬み傷(ほぼ回復)、左の奥歯が一本欠けている。疲労小。ヘイスト。ハイテンション]
[装備:セイクリッドティア@SO2]
[道具:木材×2、咎人の剣“神を斬獲せし者”@VP、ゲームボーイ+ス○ースイ○ベーダー@現実世界、????×0〜1、
鉄パイプ@SO3、????(アリューゼの持ち物、確認済み)、荷物一式×7(一つのバックに纏めてます)]
[行動方針:ルシファーの野郎をぶちのめす! 方法…はこのガキ共が何とかするだろ!]
[思考1:取りあえずクロード、アシュトン、デコッパゲ(チェスター)を死なない程度にまとめて叩きのめす]
[思考2:レオンと共に鎌石村へ。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考3:レオンの掲示した物(結晶体*4、死んで間もない人物の結晶体*1、結晶体の起動キー)を探す]
[思考4:エルネストを探す]
[思考5:レオンキュンハァハァ…こんなに可愛いんだし女の可能性も…はっ!俺は一体なにを]
※木材は本体1.5m程の細い物です。耐久力は低く、負荷がかかる技などを使うと折れます。

【レオン・D・S・ゲーステ】[MP残量:20%]
[状態:左腕にやや違和感(だいぶ慣れてきた)、軽く混乱、疲労]
[装備:メイド服(スフレ4Pver)@SO3、幻衣ミラージュ・ローブ(ローブが血まみれの為上からメイド服を着用)]
[道具:どーじん、小型ドライバーセット、ボールペン、裏に考察の書かれた地図、????×2、荷物一式]
[行動方針:これ以上の犠牲者を防ぐ為、早急に首輪を解除。その後ルシファーを倒す]
[思考1:何とかしてこの場を穏便に収める]
[思考2:アシュトンを説得したい]
[思考3:アルベルと共に鎌石村へ。次の、ないしその次の放送までに鷹野神社に戻る]
[思考4:結晶体*4、死んで間もない人の結晶体*1、結晶体の起動キーを探す]
[思考5:死んで間もない人の結晶体を入手したら可能な限り調査する]
[思考6:信頼できる・できそうな仲間(エルネスト優先)やルシファーのことを知っていそうな二人の男女(フェイト、マリア)を探し、協力を頼む]
[備考1:プリシスと首輪解析の作業をして確定した点
① 盗聴器が首輪に付随している事。
② 結晶体が首輪の機能のコントロールを行っている事
③ 首輪の持ち主が死ぬと結晶体の機能が停止する事
まだ確証がもてない考察
① 能力制限について(62話の考察)
② 死んで間もない人間の結晶体が首輪解析に使えるかどうか]

243本スレ>>528状態表修正 ◆Zp1p5F0JNw:2010/02/14(日) 19:20:33 ID:qzqPiIGI
【アシュトン・アンカース】[MP残量:50%(最大130%)]
[状態:疲労中。激しい怒り、焦り。体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕打撲。ギョロ、ウルルン消滅]
[装備:アヴクール@RS、ルナタブレット@SO2、マジックミスト@SO3]
[道具:無稼働銃、物質透化ユニット@SO3、首輪探知機@BR、首輪×3、荷物一式×2]
[行動方針:プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる]
[思考1:この状況を何とかしたい。クロードには自分がマーダーだとは絶対に知られたくない]
[思考2:チェスターとソフィアを殺してギョロとウルルンの仇を討つ]
[思考3:プリシスのためになると思う事を最優先で行う]
[思考4:ボーマンを利用して首輪を集める]
[思考5:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい]

【クロード・C・ケニー】[MP残量:70%]
[状態:右肩に裂傷(応急処置済み、大分楽になった)、背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)、全身に軽い痛み]
[装備:エターナルスフィア、スターガード@SO2、エネミー・サーチ@VP]
[道具:昂魔の鏡@VP、荷物一式×2(水残り僅か)]
[行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す]
[思考1:レオンと謎のヘソ出し男に対処]
[思考2:チェスター、ソフィアの無力化。殺す気は無い]
[思考3:アシュトンと共に行動]
[思考4:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する]
[思考5:レザードを倒す、その為の仲間も集めたい]
[思考6:ブレア、ロキとも鎌石村で合流]
[備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません]
[備考2:チェスターの事は、『ゲームには乗ってないけど危険な人物』として認識しています]


【チェスター・バークライト】[MP残量:40%]
[状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ(矢×9本)@VP、パラライチェック@SO2]
[道具:レーザーウェポン@SO3、アーチェのホウキ@TOP、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考1:いきなり乱入してきたこいつは何者だ!?]
[思考2:クロード!殺してやる!]
[思考3:アシュトンを倒す]
[思考4:平瀬村へ向かい、マリア、クレスと合流。その後鎌石村へ]
[思考5:レザードを警戒]
[備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[備考2:クレスに対して感じていた蟠(わだかま)りは無くなりました]

【ソフィア・エスティード】[MP残量:5%]
[状態:疲労大、ドラゴンオーブを護れなかった事に対するショック]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング@SO2、アクアリング@SO3、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:魔剣グラム@VP、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:アルベルさん!?]
[思考2:アシュトン、クロードを倒す]
[思考3:平瀬村へマリアを探しに行く]
[思考5:マリアと合流後、鎌石村に向かいブラムス、レザードと合流。ただしレザードは警戒。ドラゴンオーブは返してほしい]
[思考6:フェイトを探す]
[思考7:自分の知り合いを探す]
[思考8:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]

【現在位置:D-05南部】

244状態表修正 ◆Zp1p5F0JNw:2010/02/14(日) 19:22:24 ID:qzqPiIGI
修正個所は
・時間表記:早朝→黎明
・レオンのMP残量:80%→20%
・レオンの状態:疲労を追加(ヘイストのかけ続けによるもの)
・チェスターの弓の本数:15本→9本
です。

245 ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:40:51 ID:fPGbHLMI
ゲリラ試験投下いきます。

246大人の嗜み  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:41:55 ID:fPGbHLMI
静けさが、辺りを包んでいた。
警戒心を常に忍ばせている耳に届く音と言えば、この付近に居る5人の人間が立てる微かな物音のみ。
このような自然豊かな未開惑星の民家の庭で、虫の声すら聞こえてこない事には少々の物足りなさと不自然さを感じながらも、
エルネストは束の間の安息に磨り減らしていた精神を委ねていた。

その安息の中でも、ボーマンは余程警戒しているらしい。頻りにレザードを気にする素振りを見せていた。
今の短い会話の中でもそうだった。
露骨に睨みつけるような、そんな下手な真似は流石にしていないが、多々室内に注意を向けている。
分かりきっていた事だが、この島では誰もが平等に落ち着ける場所など存在しないらしい。その一例がこれだろうか。
溜息混じりの煙を燻らせると、エルネストはポケットの中の小さな箱をボーマンへと差し出した。

「どうだ?」
「あん?」

振り返ったボーマンの視線が箱に落ちる。
ワイルドセブン。この住宅で見つけた地球語表記の煙草。

「味もネーミングセンスも今一つだがな。選り好みしている場合でもないし、拝借させてもらった」
「あ〜っと、悪いな、いらねえ」

予想外の返答に、エルネストは思わずボーマンの顔を見下ろした。
ボーマンはエルネスト程のヘビースモーカーではないが、どちらかと言えば煙草好きの部類に入る男だったはずだ。

「やめたのか?」
「ああ。最近な」
「健康を気にするのはオヤジの始まりだぞ」
「ははっ。お前、オヤジじゃないつもりかよ?」

ようやく見せたボーマンの自然な笑顔に、エルネストも釣られて微笑んだ。
根本的な解決とは程遠いが、こうして少しでも気を紛らわせる事で多少のストレス解消になってくれれば。そう思った。

「実はな、子供が産まれたんだ」
「…………ニーネさんに、か?」
「あのなあ。他に誰が居るっつーんだよ。お前さん俺を何だと思ってやがるんだ?」

再会した時から見せていた何処と無くピリピリとした緊張感も、幾分かは和らいでいるようだ。
こんな状況だが、かつての冒険と同じ様な空気に、エルネストは居心地の良さを感じていた。

「ふっ。悪い悪い、他意は無いんだ。
 しかし……ここに来てから色々あったがな、今のが一番驚いた。……おめでとうボーマン」
「ありがとよ」
「そうか。……オヤジじゃなく親父になったってわけか」
「ああ……この俺が親父だぜ。まったく信じられねえよ」

目を細めるボーマン。
視線の向こうには子供の姿が映っているのだろう。これまで見た事もない穏やかな表情をしていた。
エルネストも子供が出来て変わった人間を何人も見てきたが、これは宇宙共通の感覚らしい。

「煙草をやめたのも?」
「赤ん坊にゃ煙草は毒だからな。吸った後の肺に残る空気ってのも悪影響なんだぜ?」

エルネストは、勉強してるな、と微笑みながら煙草の箱をポケットに戻した。
ボーマンもまた、子供の為に、と変わったのなら、おそらく煙草に手を伸ばす事はないだろう。

「男の子か?」
「娘だ。エリスっていうんだ。可愛いだろ?」
「名前だけじゃ何とも言えんさ」
「そこは可愛いって言っとけよ。これだから親の気持ちってのが分からねえ独身貴族様はよ」
「独身貴族……か」

その言葉は、無性にエルネストの心に響いた。
独身。無論それ自体を気にしているのではない。気侭な独身生活は彼の性に合っているし、結婚願望は無いに等しい。
ただ、その言葉から走った一人の女性への思い。この地で失った恋人オペラの事が胸を痛めたのだ。

247大人の嗜み  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:42:39 ID:fPGbHLMI
エルネストはこれまで、女性との付き合いよりも研究を優先する生活を送ってきた。
付き合う女性が出来ても、フィールドワークに出て行けば長期間連絡を取らないのは日常茶飯事。
帰ってくる頃には決まって女性側が音信不通となっていた。
身勝手な考古学者を待っていてくれるような気の長い女性はいなかったし、エルネストもそれで良いと思っていたのだ。

だが、オペラはそれまでのどの女性達とも違った。
彼女はその迸る情熱で、音信不通となった身勝手な考古学者を追いかけてきてくれたのだから。
初めてオペラが旅先の惑星に追いかけてきた時、エルネストは思わず苦笑した。
自分にはこういう女があっているのかもしれない。そう考えてしまって。
いつかは根負けして、一緒に暮らす事になるのだろうか。そう夢想したのも一度や二度ではなかった。
おそらく、そう遠くない未来では、その夢想は現実のものとなっていたはずだったのだ。

今ではそれも、露と消えてしまった幻想に過ぎないのだが。



痛みを表情に出してしまっていたのか、ふと気付けばボーマンがばつの悪そうな顔を向けていた。
エルネストはそれを誤魔化すかのように、深く煙を吸い込み、意識的に吐き出した。
立ち昇る煙草の煙は、彼の視界をやけに刺激し、滲ませていた。

「オペラは、な」
「…………ああ」

感傷が言葉を紡がせようとしたその時――――

「そろそろ、頭は冷えましたか?」

窓を開いたレザードが声をかけてきた。
条件反射で二人の眉間には嫌悪という名の皺が寄せられる。
この男と一緒に居ては頭の冷える事などありはしないのかもしれない。

「出来れば早めに今後の方針を定めておきたいと思うのですがねえ」
「今行く」

室内に戻るレザードを見届け、エルネストは携帯用灰皿に吸殻を投げ入れた。
ボーマンを見ると、その顔からは今までの穏やかさが嘘のように消えてしまっている。レザードが、そうさせているのだろう。
ますます気に入らんな。エルネストは口の中でそう呟き、家内に入ろうとしているボーマンの背中に声をかけた。

「ボーマン」
「あん?」
「今度、会わせろよ。お前の自慢の娘に」

即答は、無い。静けさが再び辺りを包んでいた。
当然といえば当然だ。この島から生きて出られる保証などどこにも無いのだから。
そんな事はエルネストも承知している。だが、敢えて口にした。
ボーマンに、少しでもいつもの気楽なノリを取り戻してもらいたくて。
同時に、自分達は必ず生還するのだと。決して気休めで終わらせるつもりのない誓いを込めて。
振り返りかけていたボーマンは、結局エルネストを見る事なく前を向き直し、言った。

「無理、だな」
「無理? そんな事は無いだろう?」
「いや、無理だ。だってお前……」
「……何だ?」
「ロリコンだろ?」
「っ!」
「そんな奴に娘は会わせられねえな」

ボーマンは小さく笑うと、家内に入っていった。
軽いやり取りとは裏腹に、エルネストの胸にやるせなさを残して。

ボーマンの今の言葉が、妙に気にかかっていた。
『ロリコン』――――の方ではない。それが冗談である事くらいは分かる。
だが、『無理だな』と言ったボーマンの口調。
こちらの言葉は切実な響きを帯びていたように聞こえて。まるで本心から諦めているような、そんな気がしたのだ。
レザードに追い詰められているからなのか、それとは関係無く生還に希望を持てていないのか。理由は分からない。
或いは杞憂に過ぎないのかもしれない。しかし――――

エルネストは無意識に取り出しかけていた煙草の箱から手を放すと、庭を後にした。


☆   ★   ☆   ★   ☆   ★

248大人の嗜み  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:43:14 ID:fPGbHLMI
4人は先程同様にちゃぶ台を囲むように座った。
しかし、先程とは確定的に違う『物』が、台には乗せられている。
誰もが訝しげに、または戸惑いを隠そうともせず、その『物』とそれを置いた人物に視線を往復させていた。

「さっきは熱くなって、すまなかったな」

集められた視線達の望んでいる返答にはなっていない事を知ってか知らずでか、クラースはまずそう口を開いた。

「いや、冷静になってくれれば良いんだけどよ……それ『酒』……だよな?」

ボーマンの問いに、クラースは大きく頷き「ちょっと待て」とだけ答えた。
そして4人分のカップを並べ始めた。

「良いか、諸君。我々はこれから共にルシファーと戦い、奴を倒す仲間だ。
 その仲間同士で先程のようにいがみ合っていては、勝てる戦いですら敗北し、命を落とし兼ねん。
 そうなれば奴を倒す事はおろか、辿り着く事も出来ない。それはここにいる誰もが望まぬ事だろう?」

クラースは一旦言葉を止め、一同を順に眺めた。
その一同はと言えば「ええ」とか「まあ」とか相槌は打つものの、まだまだ困惑の色は消す事が出来ない。

「ならば、いがみ合わなければ良いだけの事だが、残念ながらそれは難しい。
 我々は出会ったばかりで、互いがどのような感性の持ち主なのかも知らないからだ。
 先程の我々の諍いは何故起きた? そう、互いに対する理解が足りない為に起きたのではないかな?
 では、あのような愚かな行為を二度と繰り返さない為に何が必要だろうか。互いを知る事。これしかないだろう。
 我々は何とかして短時間で互いを深く知る必要が有るのだ。その為にはどうすれば良いのか。何をすれば良いのか。
 私は考えた。休憩時間の全てを使い、考え抜いた。そして思い付いたのがこいつという訳だっ!」

クラースは置かれていた『酒』を一度掴むと、タンッ、とちゃぶ台の上に打ち付ける。

「古来より、人というものは親睦を深める為の道具としてこいつを上手く使ってきた。
 つまりだ。我々も偉大なる先人達に習って、互いを深く理解し合う為にもだなぁ。
 まあ簡単に言うならば、とりあえず飲もうじゃないかぁ!」

言い終えると同時に、今度はクラースはちゃぶ台に片足を乗せ、『酒』を勢いよく高く掲げ上げた。
その顔からは、説得力という物をどこかに置き忘れてしまったかのように、だらしなさがとめどなく溢れ出ている。
気のせいか、口元からは光が一筋垂れて…………いや、気のせいだろう。

そして一同はと言えば――――

249大人の嗜み  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:43:47 ID:fPGbHLMI







































「……さて、それでは今後の方針ですが」

250大人の嗜み  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:44:19 ID:fPGbHLMI
永遠とも思えた気まずい膠着を打ち破ってくれたのはレザードだった。
彼の空気を読めない能力がこうもありがたく感じられる時が来ようとは、さしものボーマンも思わない。

「ああ」
「おう」
「ちょ、ちょっと待てっ!」

待ってましたとばかりに直ぐ様相槌を返す二人。
慌てて三人を見下ろすクラース。
おっくうそうに見上げられた視線が、何だか後ろめたさを呼び起こす。

「何か?」
「『何か?』ではない! 何故私の提案を無視するのだ!?」
「私は下戸ですので」
「げ……な、何だって?」

げこ。ゲコ。GEKO。

聞き慣れない言葉に一時混乱するクラース。
『下戸』の事だと気付いたのは十数秒経ってからだった。
彼の辞書にそんな言葉は無いのである。

「それに、そんな場合ではないでしょう?」

心底呆れ果てたようにレザードが言った。
その態度に反発の声を上げようとした時、遮ったのはエルネストだ。

「クラース。今回ばかりは俺もレザードに賛成だ」
「お前まで?! 何を言うんだ?!」
「それは俺の台詞だ。いつ誰が襲ってくるかも分からんこの状況で宴会が出来ると思っているのか?」
「俺もエルネスト側だな。あんたが酒好きってのはよーく分かった。
 いつか飲み明かしてみたいと思うけどよ、今はとりあえず片付けようぜ?」
「む……むぅ……」

黙り込んでしまったクラースを尻目に、話し合いは再開された。

251大人の嗜み  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:44:51 ID:fPGbHLMI
【C-04/黎明】

チーム【変態魔導師と不愉快な中年達】
【レザード・ヴァレス】[MP残量:5%]
[状態:精神力を使用した事による疲労(やや大)]
[装備:サーペントトゥース@SO2、天使の唇@VP、大いなる経典@VP2]
[道具:ブラッディーアーマー@SO2、合成素材×2、ダーククリスタル、スプラッシュスター@SO3、ドラゴンオーブ、アントラー・ソード、転換の杖@VP、エルブンボウ(矢×40本)、レナス人形フルカラー@VP2、神槍パラダイム、ダブった魔剣グラム@RS、荷物一式×5]
[行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る]
[思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える]
[思考2:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない]
[思考3:フェイト、マリア、ソフィアの3人は屍霊術で従えることは止めておく]
[思考4:ボーマンを利用し、いずれは足手纏いのソフィアを殺害したい]
[思考5:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考6:ブレアを警戒。ブレアとまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す]
[思考7:首輪をどうにかしたい]
[備考1:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません]
[備考2:クリフの持っていたアイテムは把握してません]
[備考3:ゾンビクリフを伴っています]
[備考4:現在の屍霊術の効力では技や術を使わせることは出来ません。ドラゴンオーブ以外の力を借りた場合はその限りではない?]

【ボーマン・ジーン】[MP残量:10%]
[状態:全身に打身や打撲 上半身に軽度の火傷 フェイトアーマーの効果により徐々に体力と怪我は回復中]
[装備:エンプレシア@SO2、フェイトアーマー@RS]
[道具:サイレンスカード×2、メルーファ、調合セット一式@SO2、バニッシュボム×5、ミスリルガーター@SO3、七色の飴玉×2@VP、エターナルソード@TOP、首輪×1、荷物一式×5]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:とりあえずレザードと一緒に行動。取引を行うか破棄するかは成り行き次第]
[思考3:調合に使える薬草を探してみる]
[思考4:レザードのコンディションを見てからレザードを倒すかブラムスと合流を優先するか決める]
[備考1:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[備考2:ミニサイズの破砕弾が1つあります]

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:45%]
[状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中]
[装備:連弓ダブルクロス(矢×27本)@VP2]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:4回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:後7〜8時間以内にレナスの意識で目を覚まします]
[備考4:首輪の機能は停止しています。尚レザードとボーマンには気付かれています]

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2、自転車@現実世界]
[道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ@SO3、煙草(ワイルドセブン)@BR、荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:ブラムスを取り引き相手として信用]
[思考4:ボーマンを信頼。レザードに警戒心と嫌悪感]
[思考5:次の放送前後にF−4にてチーム魔法少女(♂)と合流]


☆   ★   ☆   ★   ☆   ★

252大人の嗜み  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:45:22 ID:fPGbHLMI
(……オリジン?)
(何だ?)
(この作戦……何がそんなに駄目だったかな……?)
(当然何もかも駄目だろう。だから私の話を聞けと言ったではないか。
 何が「彼等を酒で酔い潰し、その間に荷物を盗み見る」だ!
 仮に成功したとして、酔い潰れた奴らを連れてブラムスとの合流地点まで行けると思っているのか?)
(…………無理、だろうな)
(それに奴らが潰れている間にロキに狙われでもしたらどうするつもりだ? たちまち全滅する事になるぞ?)
(…………なる、だろうな)
(お前がそんな事にも気付かぬとは、私も流石に信じられんが)
(…………………………………………すみません)
(お前、やはり自分が飲みたかっただけではないのか?)
(そ、そんな事はないぞ! いくら私でもそれはない! 馬鹿にするな!)
(まあ、良い。良いから次の作戦を考えるのだな)
(その前に、この酒なんだがな……)
(む?)
(このままにしておくのは勿体無いから――)
(いかん!)
(ま、まだ何も言っていないじゃないか)
(言わなくても分かる! 持っていこうというのだろう?)
(な、何故分かった?!)
(分かるに決まっているだろう! いかんいかん、お前に酒など猫にまたたびよりも質が悪い!)
(それは……言い過ぎだろう)
(言い過ぎなものか。この間泥酔した時など道端で寝込んで風邪をひいてミラルドに散々小言を言われていたではないか!)
(くっ…………)
(その前の時は道路を平泳ぎして家まで帰ろうとしていたな。お前は酔うと何が見えるのか分かったものではない)
(それは私も覚えていないのだが……)
(なお悪い。諦めて今はしっかり話を聞いておけ)
(分かったよ。……でも、なぁ……昨日も飲んでないしぃ)
(いい加減に酒から視線を外せっ!)


【クラース・F・レスター】[MP残量:50%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:神槍グングニル@VP、魔剣レヴァンテイン@VP、どーじん♂@SO2、薬草エキスDX@RS、荷物一式*2]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動(ブラムスの同盟破棄は警戒)]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[思考4:グングニルとレヴァンテインは切り札として隠しておく]
[思考5:次の放送前後にF−4にてチーム魔法少女(♂)と合流]
[思考6:ブラムスに対してアスカが有効か試す(?)]
[思考7:レザードを警戒]
[思考8:可能なら『エターナルソード』をボーマンとレザードの荷物から探す]
[備考1:あくまでも作戦の一部として謝罪したのであって、レザードの考えを肯定する気はありません]
[備考2:酒に目が向いてます]

【現在位置:C-04南東部の民家】

253 ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/04(月) 01:51:30 ID:fPGbHLMI
投下終了です。
俺の書いたコミカルなものを読んでみたいという声を頂き、
調子に乗ってコミカルに挑戦しようとしたら何故かこんな事になってしまいましたw

いくらなんでもクラースさんの扱いが酷すぎるかな? とも思いますし、
何より話が進んでないので試験投下扱いとしました。
こんなんでも大丈夫という意見があるようでしたら、本投下させて頂きます。

254名無しのスフィア社社員:2010/10/04(月) 13:26:19 ID:7f9szL6k
>>253 投下乙っす。わざわざリクエストに答えてくださってありがとうございます。

クラースさんの扱いはギャグパートならあれでも問題ないっす。中々かわいらしい一面が見れたし良かったっすよ。
個人的には彼は突っ込みキャラだと思ってるんで、オリジンに言われたから渋々やったら案の定白い目でみられたでゴザルをやらせてもいいかもと思いました。
後エルとボーマンのパート全体的に漂う妙齢のおっさんならではの独特な空気がすげー好きです。
他の面子は若いの多めだからあんな感じの空気は出せませんしね。

後話が進んでないのが気になるのでしたらこの後にシリアス展開に傾れ込んでもいいと思いますよ。

255 ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/05(火) 01:45:29 ID:oNDnUVSs
>>254
指摘&感想ありがとうございます!
コミカルに挑戦したはずが、コミカルパートよりもシリアスパートの方が
クオリティが高い結果になってしまった(気がしている)という不思議な事に……
おっさんは偉大ですw

指摘を受けてオリジンに進められたから……という方向で書いてみようとしましたが、
そうすると今後ロワ内で二人が仲違いしてしまいそうなので断念しましたw

あーと、言葉足らずで申し訳ありません。
話があまり進んでないにも関わらず休憩時間潰しちゃってる事が1番気になるところでした。
この後の展開はどなたかにお任せしたい気持ちはあるんですよねw

256大人の嗜み(微修正&追加)  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/06(水) 20:01:07 ID:NsYcPr4g
☆   ★   ☆   ★   ☆   ★


(……オリジン)
(何だ?)
(この作戦……やはり駄目ではないか!
 何が「彼等を酒で酔い潰し、その間に荷物を盗み見る」だ!
 お前のおかげで全員から変な目で見られる事になったじゃないか! どうしてくれるんだ!?)
(……何を言うか。私の作戦は完璧だ)
(どこが完璧なんだ!?)
(足りないのはお前の説得力の方だ。もっと巧みに誘導しないからこういうことになるのだ)
(何を人のせいにしている! お前の言う通りにやったんだぞ!)
(私はあそこまでしろとは言ってないぞ。大体何だあの顔は。あんな顔をしてたら飲みたいだけだと思われて当然だ)
(何だと!)
(お前、何だかんだ言って自分が飲みたかっただけではないのか?)
(そ、そんな事はない! いくら私でもそれはない! 馬鹿にするな!)
(まあ、良い。それよりも奴ら話し合いを再開しているぞ。早く片付けろ)
(何!? くそっ、後でまだ話があるからな。覚えておけ!)
(分かった分かった)
(……ところでその前に、この酒なんだがな……)
(いかん!)
(まだ何も言っていないじゃないか)
(言わなくても分かる! 持っていこうというのだろう?)
(な、何故分かった?!)
(分かるに決まっているだろう! いかんいかん、お前に酒など猫にまたたびよりも質が悪い!)
(それは……言い過ぎだろう)
(言い過ぎなものか。この間泥酔した時など道端で寝込んで風邪をひいてミラルドに散々小言を言われていたではないか!)
(くっ…………)
(その前の時は道路を平泳ぎして家まで帰ろうとしていたな。お前は酔うと何が見えるのか分かったものではない)
(それは私も覚えていないのだが……)
(なお悪い。そうなると面倒だから駄目だと言うのだ)
(分かったよ。……でも、なぁ……昨日も飲んでないしぃ)
(いい加減に酒から視線を外せっ!)


☆   ★   ☆   ★   ☆   ★

257大人の嗜み(微修正&追加)  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/06(水) 20:01:40 ID:NsYcPr4g
「では、気を取り直しまして」
「ああ」
「おう」

台所でお片付けをしているクラースを気にかける奴は誰も居なかった。
まあ、俺も酒は好きだがあれはちょっと、な。

「今後の方針ですが、我々はまずブラムスとの合流を第一に考え、全員で合流地点まで向かうべきだと思います。
 ロキが近くに居るかもしれないのならば、戦力を分散させるたり減らしたりする事は危険ですからねえ」

そう言ってレザードは口元を吊り上げ、変わり果てたクリフを見る。
何処までも嫌みたらしい野郎だが、そいつが余計にエルネストの反感を買う事になるなら俺としては願ったりだ。
しかし、エルネスト達が三人がかりで負け、レザードが警戒する相手か。厄介な野郎ばかり居やがるな、ここは。

「その後は状況次第でしょうね」
「と言うと?」
「言葉の通りです。その時になってみなければ分からない事は多い。
 例えば放送でソフィアやマリアの死亡が告げられる可能性もあります」

……そうだな。俺もソフィアが死んだ時の事は考えておかないとな。
レザードとの契約はソフィアの殺害だ。
それを他の誰かが実行してくれるなら面倒無くて良いんだが、ソフィア死亡後のレザードがどうでるか。
こいつの事だ。全員の前で「実は彼は殺人鬼でして」なんて言い出したり……
流石にそれはねえかな。「じゃあ殺人鬼と一緒にいたお前は何なんだ?」って話になるしな。
だが、それこそ様々な状況を想定しとくに越した事はねえ。
そう考えると、やはりベストは下手に不利な状況になる前の今なんじゃないか? 今ならこいつを潰すには――――

「すまない、聞きたい事がある」

そこでクラースが戻ってきた。
ちゃぶ台の下で力を込めてた拳をリラックスさせ、何だい? と返事を返すが、どうやらレザードへの質問だったようだ。

「お前は元々の世界では、ブラムスの……仲間、なのか?」
「いえ、違いますよ。一時的に協定関係にあった事もありましたがね。
 彼は不死者達の王。人間の私とは一応は敵対関係という事になりましょうか」
「ならば、ブラムスの弱点を聞いても構わないな?」

258大人の嗜み(微修正&追加)  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/06(水) 20:02:10 ID:NsYcPr4g
何を言い出すのかと思えば、仲間の弱点なんか聞いてどうするんだ? まあ俺にはちょっと興味ある話だが。
そう思ったのも束の間だった。
クラースとエルネストの説明では、ブラムスって奴は場合によっては優勝狙いに切り替えるかもしれない、だそうだ。
しかもソフィア、マリア、フェイトの内の誰かが死んだらスタンスを変える可能性が高いという。
ちょっと待て、そんな大事な事は早く言え。
あのミカエルを素手で、しかも無傷でぶっ殺す奴が優勝狙い……冗談じゃねえぞ。んなもんどうやって勝てっつーんだ!?
と、思ったら今度はレザードがとんでもない事を言い出した。
今気絶している兄ちゃんがブラムスとも同等以上の強さらしい。ただしそれも真の実力が出し切れればの話らしいが。
これにはエルネストとクラースも目を丸くしている。てか俺もそうなってる。
ソフィア達を襲った強敵をこの兄ちゃんが倒したって話は聞いたが、まさかミカエル以上の強さとは考えもしなかった。
半信半疑ではあるが、もし本当ならそれはまた厄介だ。
ブラムスにロキにこの兄ちゃん。
俺がいくら頑張っても勝ち目の無い奴らがまだまだゴロゴロしてるって事だからな。
そんな奴らどうやって殺せばいいんだよ……?
この兄ちゃんなら気絶してる今なら殺せるだろうがそれはレザードが許さないだろうし、
先にレザードを殺したとしてもこの兄ちゃんまで殺す理由が無い。
レザードを殺すどさくさに事故を装って殺すなら可能か?
ただそうなると今度はロキやブラムスとは三人で戦う事になるが……勝てる気がしねえな。
この兄ちゃんは置いといてレザードだけ殺すって手もあるが、
ブラムス戦で兄ちゃんの真の実力とやらが出ない事を考えれば、レザードも必要な戦力だ。
聞くところに寄ればブラムスは素手で戦うタイプ。ロキは接近戦もこなす魔術師らしい。
そんな化け物共との戦いで俺が前衛を務めるのは御免被りたい。その時このクリフは捨てがたいよなあ。
だが無論ソフィア達が死んでもブラムスが優勝狙いに切り替えない可能性。つまりブラムスと戦わない可能性もある。
その場合レザードを生かしとけば、さっき考えてたみたいに何を言い出されるか分かったもんじゃない。
それにこの兄ちゃんはレザードの仲間だ。
エルネスト達にも火種を残したとは言え、兄ちゃんが起きた後でレザードを殺すのは難しいよな……
ならやっぱり今……ってまずいな、堂々巡りになってきた。

おいおい、何だこの状況は?
何を選ぼうとも厄介事が残る可能性がついて回りやがる。
「あちらを立てればこちらが立たぬ」にも程があるだろうが。
どうすりゃ良い? 何が最善手だ? そもそも最善手なんてあるのかよ?
…………いや、違うな。何が最善手か、じゃねえ。こうなったらギャンブルみたいなもんだ。
今は全てのカードが伏せられている。オープンしてみなけりゃアタリかハズレか分からない。
一枚選び、それがハズレだったらその時どうにかするしかない。

だったらシンプルに、どのカードを引くか。それだけを考えるか。
とりあずは、レザードのコンディションだ。それを確認してからカードを引く。
今レザードを倒すか。ブラムスやロキに備えるか。或いは――――

259大人の嗜み(微修正&追加)  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/06(水) 20:02:53 ID:NsYcPr4g
【C-04/黎明】

チーム【変態魔導師と不愉快な中年達】
【レザード・ヴァレス】[MP残量:5%]
[状態:精神力を使用した事による疲労(やや大)]
[装備:サーペントトゥース@SO2、天使の唇@VP、大いなる経典@VP2]
[道具:ブラッディーアーマー@SO2、合成素材×2、ダーククリスタル、スプラッシュスター@SO3、ドラゴンオーブ、アントラー・ソード、転換の杖@VP、エルブンボウ(矢×40本)、レナス人形フルカラー@VP2、神槍パラダイム、ダブった魔剣グラム@RS、荷物一式×5]
[行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る]
[思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える]
[思考2:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない]
[思考3:フェイト、マリア、ソフィアの3人は敢えて殺してまで屍霊術で従えようとは思わない]
[思考4:ボーマンを利用し、いずれは足手纏いのソフィアを殺害したい]
[思考5:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考6:ブレアを警戒。ブレアとまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す]
[思考7:首輪をどうにかしたい]
[備考1:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません]
[備考2:クリフの持っていたアイテムは把握してません]
[備考3:ゾンビクリフを伴っています]
[備考4:現在の屍霊術の効力では技や術を使わせることは出来ません。ドラゴンオーブ以外の力を借りた場合はその限りではない?]

【ボーマン・ジーン】[MP残量:10%]
[状態:全身に打身や打撲 上半身に軽度の火傷 フェイトアーマーの効果により徐々に体力と怪我は回復中]
[装備:エンプレシア@SO2、フェイトアーマー@RS]
[道具:サイレンスカード×2、メルーファ、調合セット一式@SO2、バニッシュボム×5、ミスリルガーター@SO3、七色の飴玉×2@VP、エターナルソード@TOP、首輪×1、荷物一式×5]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:とりあえずレザードと一緒に行動。取引を行うか破棄するかは成り行き次第]
[思考3:調合に使える薬草を探してみる]
[思考4:とりあえずはレザードのコンディションを窺う。それからレザードを倒すかブラムス戦に備えるかを考える]
[備考1:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[備考2:ミニサイズの破砕弾が1つあります]
[備考3:レザードが知り得る限りのブラムスの弱点(属性等)を聞きました]

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:45%]
[状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中]
[装備:連弓ダブルクロス(矢×27本)@VP2]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:4回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:後7〜8時間以内にレナスの意識で目を覚まします]
[備考4:首輪の機能は停止しています。尚レザードとボーマンには気付かれています]

260大人の嗜み(微修正&追加)  ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/06(水) 20:04:35 ID:NsYcPr4g
【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:両腕に軽い火傷(戦闘に支障無し、治療済み)]
[装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2、自転車@現実世界]
[道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ@SO3、煙草(ワイルドセブン)@BR、荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:ブラムスを取り引き相手として信用]
[思考4:ボーマンを信頼。レザードに警戒心と嫌悪感]
[思考5:次の放送前後にF−4にてチーム魔法少女(♂)と合流]
[備考1:レザードが知り得る限りのブラムスの弱点(属性等)を聞きました]

【クラース・F・レスター】[MP残量:50%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:神槍グングニル@VP、魔剣レヴァンテイン@VP、どーじん♂@SO2、薬草エキスDX@RS、荷物一式*2]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動(ブラムスの同盟破棄は警戒)]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ]
[思考4:グングニルとレヴァンテインは切り札として隠しておく]
[思考5:次の放送前後にF−4にてチーム魔法少女(♂)と合流]
[思考6:ブラムスに対してアスカが有効か試す(?)]
[思考7:レザードを警戒]
[思考8:可能なら『エターナルソード』をボーマンとレザードの荷物から探す]
[備考1:レザードが知り得る限りのブラムスの弱点(属性等)を聞きました]

※議論は継続中。今後の方針がどう決まるかは後の書き手さんに一任します。

【現在位置:C-04南東部の民家】

-----------------------------------
>>252の少々の修正と、ブラムス包囲網フラグを少し進めてみました。
こんな感じなら本投下大丈夫でしょうか?

261名無しのスフィア社社員:2010/10/07(木) 13:16:58 ID:LwhTeLNI
>>260修正乙っす。
対ブラムスルートフラグとか今後活かせそうなフラグの強化はうれしいですね。
投下準備万端って感じっすね。
最悪ここのパートならブラムス合流を選択すれば次の放送いけそうですし。

262 ◆cAkzNuGcZQ:2010/10/08(金) 02:10:14 ID:xCuSJ3iY
御意見どーもです!
OKが出た(と思う)ので投下させて頂きました!

確かにここは放送もいけそうですね。
対ブラムスルートフラグ進めはしたんですが、
果たしてキーマンレナスは起きてくれるのか……w

263 ◆cAkzNuGcZQ:2011/11/05(土) 17:19:39 ID:/Ch18lSg
ちょっと不安なので仮投下させて頂きます。
問題になりそうでしたら破棄しますので、ご意見頂きたく存じます。

264 ◆cAkzNuGcZQ:2011/11/05(土) 17:23:22 ID:/Ch18lSg
『洵。聞こえるか?』
『ああ』
『聞いてたか?』
『一言一句、聞き漏らしてない。お前の方は大丈夫か?』
『大丈夫だ。クロードは仲間の様子を見てる。この距離なら聞かれない』
『注意だけはしておけ。それで、その首輪を追跡する道具だが――――』
『さっき言った通りだ。ここからだと生き残り16人全員分の反応が見られる』
『俺の居場所は分かるか?』
『多分、D−3のこれだ。……気を付けろ。すぐ南西が禁止エリアだ』
『……禁止エリアか。俺を道連れにしようと目論んでいたのかもしれんな……』
『……それから、そこから東の方向に4つの反応がある。見えるか?』
『東、だな。…………いや、ここからは見えないが――――少し待て。行ってみる』








『ルシオ』
『どうだ? 見えたか?』
『お前の言う通り、確かに一つの集団が街道に留まっている。だが……遠目で分かり辛いが、五人は居るな』
『5人? でも反応は――――』
『待て。あの内の一人はレザードだ』
『レザード……間違いないのか?』
『あの格好は、恐らくな。であれば説明はつく。他の四人のどれかは屍だ。その道具は死者には反応しないんだったな?』
『……屍霊術か』
『恐らく、な。……他にこの辺りに反応は?』
『無い。他の反応は、さっきの平瀬村に4つ。クロードが戦った奴らの方に4つ。俺とクロード達で3つ。それで全部だ』
『……平瀬村に四つ? ……クロードが戦った奴らにしても三人だったはずだな?』
『ああ。でも確かにどっちも殆ど固まってる……。平瀬村は、1つはブレアとして、後2つはマリアとレナだけど……』
『……確か、レナが一度あの家には逃げ込んでいたな。家内にもう一人隠れていたという事か。それも、戦力にはならん奴が』
『ちょっと待てよ。だとしたらクロードが戦った奴らの側にいるのは――――』
『……ブラムス、だな。平瀬村にもここにもいない以上、そこしかない』
『……よりによってこいつら、ブラムスと敵対してるのか』
『やれやれ。……厄介な奴らを引き入れたな』
『……どうする? ここで殺すか?』
『……いや、まだだ。マリア達を殺す分には、そいつ等は使える』
『それは、俺もそう思ったんだけど……』
『理想は、マリア達を殺す際にそいつ等も殺す事。ブラムスと敵対しているならば、そいつ等の首は良い手土産になる』
『ブラムスに取り入るのか?』
『不死者風情を信用する気はない。だが奴が何を案じているのかは知らんが、当面、人間と手を組んでいるなら何かしらの取引は出来るかもしれん』
『だったら、出来る限り早く行動しないとな。まだブラムス達に動きはないけど、追い付かれたら台無しだ』
『……俺はこのまま平瀬村に戻る。お前もなるべく早く動け』
『レザードはどうする? ほっとくのか?』
『今はどうする事も出来ん。いくら俺でもレザード相手に一対五では勝ちは拾えん。
 ……ブラムスと鉢合わせて足止めになってくれれば良いんだがな……』
『そればっかりは運を天に任せるしかないか。……分かった。じゃあ出来るだけ早めに移動する。他には何かあるか?』
『そうだな……。クロード達が持つ道具は把握しておけ。無論、可能であれば分配する様に誘導しろ』
『分かってる。……いざとなったらスリ取ってやるさ』
『……頼もしい特技だが、見習いたくはないな』
『これが飯の種だったからな。……俺が自慢出来るのはこれだけだけど』
『……後はその道具だ。その首輪を追跡する道具は絶対に返すな。適当な理由をつけてお前が持っているんだ。……俺からはそれくらいだ』
『それも分かってるさ。じゃあ、俺は戻る。コミュニケーターはこのままにしておくから、何か話したい事があったら合図でも送ってくれ』
『……くれぐれもばれるなよ』
『……それも、分かってる』

265 ◆cAkzNuGcZQ:2011/11/05(土) 17:25:00 ID:/Ch18lSg
【F-04/朝】


【ルシオ】[MP残量:10%]
[状態:身体の何箇所かに軽い打撲。身体中に裂傷、打ち身、火傷。衣服が所々焼け焦げている(ほぼ回復)。精神的疲労大]
[装備:アービトレイター@RS]
[道具:マジカルカメラ(マジカルフィルム×?)@SO2、
    コミュニケーター、10フォル@SOシリーズ、ファルシオン@VP2、空き瓶@RS、グーングニル3@TOP
    拡声器、スタンガン、ボーリング玉@現実世界、首輪、荷物一式×4]
[行動方針:レナスを……蘇らせる]
[思考1:クロード達の道具を確認し、出来れば分配する様に誘導する。その後平瀬村へ]
[思考2:洵と協力し、殺し合いを有利に進める]
[思考3:ブレアから情報を得る]
[思考4:ゲームボーイを探す]
[備考1:デイパックの中にはピンボケ写真か、サイキックガン:エネルギー残量〔10〕[70/100]が入っています]
[現在位置:F-04西部]




【D-03/朝】


【洵】[MP残量:5%]
[状態:手の平に切り傷 電撃による軽い火傷 全身に打撲と裂傷 肉体、精神的疲労大]
[装備:ダマスクスソード@TOP、アービトレイター@RS]
[道具:コミュニケーター@SO3、アナライズボール@RS、スターオーシャンBS@現実世界、荷物一式×2]
[行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする]
[思考1:平瀬村に向かう]
[思考2:ルシオ、ブレアを利用し、殺し合いを有利に進める(但しブレアは完全には信用しない)]
[思考3:ゲームボーイを探す]
[備考1:ブレアの荷物一式は洵が持っています]
[現在位置:D-3南西部]

※D-3南西部にクレスの死体があります。
※クレスの死体にはポイズンチェックが残っています。
※チーム中年がD-3まで移動しています

266 ◆cAkzNuGcZQ:2011/11/05(土) 17:26:56 ID:/Ch18lSg
えー、以上で投下終了です。
会話だけで1作ってどうなのか。こんな形でチーム中年の位置を動かすのはどうなのか。
この2点についてご意見頂きたく思います。
それ以外にもご指摘ありましたらお願い致します。

267名無しのスフィア社社員:2011/11/05(土) 22:20:17 ID:16eE9XE2
投下乙です。
個人的には全く問題ないと思います。
こういう話があってもいいんじゃないかなー。

268名無しのスフィア社社員:2011/11/05(土) 23:22:46 ID:bAEzrDdw
仮投下乙ー!

チーム中年>もともと移動中でしたから2エリア分の距離なら問題ないと思います。
もう少し進めそうではあるけれど人を運んでるならこんなものなのかも?

会話だけで一作>地の文があった方が親切ではあるけれど無くても大丈夫だと思います。
個人的には地の文が少しあった方が状況が分かりやすいとは感じました。
コミュニケーターを繋いだままだった事とかルシオとクロードが少し離れる様子とか…
いえ前者は私が忘れてただけなんです。
後者は前回登場作を読み返すとルシオはクロードとの会話後に離れた描写がないようなので。
まあ細かいところばかりなので各自が脳内補完しても問題ないかな。

269 ◆cAkzNuGcZQ:2011/11/06(日) 00:45:16 ID:diJUd5eI
返答ありがとうございます!

>>268
今回の話は、放送聞いて、反応して、その後の事のつもりでした。
なので前回から動きがあった事にしてみたのですが、当然と言うか、分かりにくいようですね。
やはり地の文か、或いは少し説明的になりますが会話を追加した方が良さそうですかね?

270268:2011/11/06(日) 03:25:16 ID:cNDrmaTE
>>269そのままでも良いと思いますよ。
他の方も仰ってますが、たまにはこういう話もいいかと。
268については単に私の読み込みの甘さもありますし、別の話で補完することも可能でしょうから。

271 ◆cAkzNuGcZQ:2011/11/06(日) 10:08:59 ID:gaBBQu/o
ご指摘を受けまして、前半部分少々加筆しました。
結局会話だけですが、これでいかがでしょう?
他にもありましたら遠慮なく仰って下さい。

----------------------------------------------------------

『洵。聞こえるか?』
『ああ』
『聞いてたか?』
『一言一句、聞き漏らしてない。お前の方は大丈夫か?』
『大丈夫だ。クロードからは離れた。この距離なら聞かれない。今あいつは仲間の様子を見てるよ』
『注意だけはしておけ。……それにしてもそいつ、ロキにまで丸め込まれていたとはな』
『ああ……放送聞いて落ち込んでるよ。お人好しにも程がある。
 ……まあ、だからこそ見張り役を買って出た俺をあっさり信用して「こいつ」を貸してくれたんだけどな』
『…………ふん』
『どうした?』
『何でもない。それで、その首輪を追跡する道具だが――――』
『クロードのさっきの説明の通りだ。ここからだと生き残り16人全員分の反応が見られる』
『俺の居場所は分かるか?』
『多分、D−3のこれだ。……気を付けろ。すぐ南西が禁止エリアだ』
『……禁止エリアか。あの男、俺を道連れにしようと目論んでいたのかもしれんな……』
『……それから、そこから東の方向に4つの反応がある。見えるか?』
『東、だな。…………いや、ここからは見えないが――――少し待て。行ってみる』

272名無しのスフィア社社員:2011/11/06(日) 23:29:55 ID:cNDrmaTE
だいぶ状況が分かりやすくなってますね、GJ!

273 ◆cAkzNuGcZQ:2011/11/07(月) 00:28:00 ID:j.YIouDw
ありがとうございます! では本投下してきます。

274 ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:07:26 ID:tte3u08U
転の修正分の投下を開始します。

275転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:07:56 ID:tte3u08U
ガーガガガガ、ガガガ、ガガガーガガッガーガガ。
意識の海にノイズが走る。
瞳孔が急激に開き、体全体が小刻みにふるえていく。
頭を引き裂きそうなほど、けたたましく鳴る爆音。
音の正体は何かわからない、分かることもできない。
手に持っていたペンがポトリと落ち、ゆっくりと力が抜けていく。
抗おうにも抗えず、力の入らない体はただ崩れ落ちていくだけ。
視界に広がっていく、白濁の世界。
響き続けるノイズの中、何が起こったのか分からないまま。
偽物は、意識を手放した。



これは殺し合いに立つもの達が知り得ない水面下の話である。



「なんと言うことだ……」
思わず額に手を当て、考え込んでしまう。
社長への報告を後回しにし、今回のプロジェクト全体を見直していたベリアル。
あのとき報告しなかったのは、正解だったのかもしれない。
事態が思っていたより重大だったからだ。
何者かによる外部アクセスにより、ドラゴンオーブの制限は緩くされていた。
これだけなら、何ら問題はない。
プログラムを修正し、より強力な制限へと元に戻せばよいのだから。
だが、改変されていたのはそれだけではなかったのだ。
支給品データの各項目をもう一度みると、それぞれに割り振られていた制限の度合いを示す数値がすべて「可変」になっていたのだ。
支給品のデータを送り出した段階のチェックでは固定となっていたものが、値を自由に書き換えられるように属性が変更されている。
おそらく、時限式の動作を仕込まれていたのだろう。
アクセスが数日前、たった一回だったのもこれで頷ける。
一回のアクセスで、支給品データ全体にアクセスし、値を可変できるように仕込んでおく。
そして、気が他方に向くようにドラゴンオーブの値のみ変更しておいたというところか。
「フッ、とんだ笑い話だな」
不完全な妨害手口に、思わず笑いがこぼれてしまう。
いや、むしろ手間が省けたと感謝するべきか。
値が書き換えられるようになっているのならば、それを利用して書き換えてやればいい。
最終決定権はこちらにあるのだから。
ベリアルは笑みを浮かべながら、手慣れた手つきでドラゴンオーブの"制限率"と表示された項目を本来の数値へと書き換えていく。
ルシファーの手を煩わせる間でもない、簡単な作業で済むお話であった。
報告することも簡易に纏まって一石二鳥だ。
早急に報告を済ませ、次の仕事へと取りかかろうとしていたその時だった。
「……は?」
出てきた画面を疑った。
支給品のデータを示す"制限率"の項目が、すべて0へと変わっていっているのだ。
その操作を取り消そうと動こうとしたときにはすでに遅く、支給品の制限がすべて無き物にされていった。
"カーニバル"はそれだけでは終わらない。
「THANK YOU FOOLMAN」という一文と共に、画面を埋め尽くすようにハムスターが駆け回る。
何とか対処しようと動くものの、操作系統がすべて反応しない。
あれこれ手を試しているうちに、画面がハムスターで埋め尽くされていく。
「クソッ! 小賢しい真似をッ!」
彼が叫んでいる間にも、ハムスターは画面を埋め尽くしている。
ルシファーと連絡を取らねばならない、そう思って端末を取り出したとき。
その連絡すべき当人から、ちょうど良く着信が入っていた。

「ベリアルか」
「はっ」
「急を要するため用件だけ告げる、社長室にて放送システム及び禁止エリア発動プロセスの見直しを行え」
「ですが社長、今支給品システムが――――」
「ああ、知っている。だからこそ急を要するのだ」
「しかし」
「頼んだぞ」

通信は、一方的に切れた。

276転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:08:38 ID:tte3u08U



アザゼルが笑う。
失ったはずのブレアの姿をこんなにも早く見つけることが出来たのだから。
灯台もと暗し、同じポイントに念入りにアクセスを試みたところ、簡単なパスワードロックがかけられていた。
軽々とそのロックを解析し、中へとアクセスする。
そこには一心不乱にコンピュータを操作し続けるブレアの姿が映っていた。
「一時はどうなることかと思ったが……この程度とはな」
事が早く解決したことに安堵を覚えると共に、この程度の策にハマってしまっていた自分に苛立ちを覚える。
なぜ、ロストした時点でこれを試さなかったのか。
そうすれば、早い段階で解決していたというのに。
「まあ、いい」
過ぎたことを悔やんでも仕方がない。
とにかく、用件は解決したのだ。
今後、この女から目を離さないようにすればいい事。
そしてアザゼルは、しっかりと報告を済ませようと端末に手をかける。
その時だ。
「ん……?」
画面の中の監視対象が、ゆっくりと立ち上がった。
そしてゆっくりと監視カメラの方へと向かってくる。
まるで監視されていることを察知しているかのように。
しかし、それを察知されていたとしてもこちらに特に実害はない。
カメラが破壊されたとしても、同じ場所に他のカメラが設置されている。
場所さえ分かればカメラの事は解決出来るのだ。
そう思いながらじっくりと画面を見つめる。
ちょうど画面の中央に写るよう歩みを止めたターゲットは、カメラの方をじっと見つめ続けている。
怪訝な表情を浮かべながら、監視カメラの映像を見続けるアザゼル。
はっきりとその行動を見るために対象へとズームをかけていく。

「ユ」

画面いっぱいにターゲットの顔が写ったとき、唇がゆっくりと動き出す。

「ル」

一文字ずつ、一文字ずつ、ゆっくりと呟いていく。

「サ」

その全てが揃いかけたとき、アザゼルの額からは一筋の汗が流れていた。

「ナ」

意味を理解したとき、形容しがたい恐怖に駆られたような気がした。

「イ」

最後の一文字をつぶやき終えた彼女は、ゆっくりと笑い。
その瞬間、首が吹き飛んでいった。
映像が赤に染まる。
首を失った遺体を中心に、斑に飛び散った血液と肉片。
何が起こったのか、しばらく理解できずに呆然としていた。
映像に視線を釘付けにされたまま、アザゼルは端末を取り出す。
報告しなくてはならない。
起きたことを正直に、しっかりと報告しなくては鳴らない。
その連絡すべき当人から、ちょうど良く着信が入っていた。

「アザゼルか」
「社長、大変で――――」
「急を要するため用件だけ告げる、社長室にて盗聴のシステム見直し及び録音ログの内容を全員分まとめろ」
「しかし! 監視対象がたった今――――」
「ああ、知っている。だからこそ急を要するのだ」
「社長!?」
「頼んだぞ」

通信は、一方的に切れた。

277転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:09:13 ID:tte3u08U

「あーあ、こりゃまたド派手にやるわねぇ……」
ブレアから受け取った偽装通信プログラムを使いつつ、ため息を一つゆっくりとつく。
画面に映る二つの惨劇を見ては、流石のベルゼブルもため息をつくしかなかった。
片方は瞬く間にハムスターが画面を埋め尽くし、操作系統を無効化させている。
片方は生々しいスプラッタ映像と共に、根幹システムへのロックを解除するウィルスが作動している。
数日前にこのプロジェクトの事を教えただけというのに、ここまで強力なウィルスを作成できるのか。
兄が大天才なら、妹もやはり大天才……ということだろうか。
これで一部だというのだから、あとどれだけの罠が残っているのだろうか。
考えるだけでもゾッとするが、同時にワクワクが止まらなくなる。
「"罠"のうち二つが動作開始……よん♪」
通信ではなく、ショートメッセージを送る。
「"罠"の一部が動作したら連絡して」
このプロジェクトが始まる前、ブレアにそう言われたとおりに。
「やはり、お前か」
ちょうどその時、背後から一人の声が響いた。
チッ、と聞こえないように舌打ちをしながら振り返る。
「あらやだ社長、何の事かしら?」
あくまで笑顔を崩さず、ベルゼブルはルシファーへと振り返る。
何時もどおりの表情のベルゼブルに対し、ルシファーはあくまで事務的に用件を伝える。
「席を外している間に数日間の端末通信ログを、全社員分解析させてもらった。
 ブレアと連絡を取っているのだろう?」
そこで、ルシファーは一呼吸を置く。
ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべる男を睨みなおし、一言だけ告げる。
「何が目的だ?」
凍りつくような覇気を放ちながら、ルシファーがベルゼブルに問う。
ああ、バレてしまったのか。
それならばと言わんばかりの笑顔を浮かべ、開き直って彼は口を開く。
もう隠す必要も、こそこそ動く必要も無い。
「目的? ウフッ、それはね――――」
盤面は、動き出しているのだから。

端末が鳴動する。
そこに表示されていた文字を読みとり、ブレアは事態を大まかに把握する。
罠が二つ作動したのならば、それぞれの対処に追われるはず。
その対処の手段の付近にも、ある程度罠を仕込んでおいた。
偽装通信が上手く流れれば、次々に罠が動作するはず。
そうすれば、あのプログラムを制御するのはほぼ不可能になる。
それが意味するのはプロジェクトの失敗だ。
そうとなれば兄はまた、E・Sを削除しようとするだろう。
罠が作動し自由に動けるようになったという事は、同時にタイムリミットも出現したという事。
バグが全てを乗っ取り制御不能にさせる前に、会場の参加者を脱出させなければいけない。
兄や管理部の人間の妨害が入ったとして、バグがシステムの根幹を食いつぶすには半日はかかる。
それまでの間に、E・Sから脱出させる。
この瞬間のために数日で用意してきた、全ての準備を今こそ使うときがきた。
あのプロジェクトを、完全に終わらせるために。
「さぁ、まずは……!!」

278転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:10:30 ID:tte3u08U

初手。
まずはIMITATIVEブレアにアクセスする。
とある裂け目から突如登場し、ある程度の思考ルーチンでプロジェクト内を行動する存在。
プログラムの手によって、人造的にゼロから作られた彼女。
このプロジェクトで唯一「上書き」が可能な存在。
つまり、同時にこのプロジェクトの「穴」でもあるのだ。
まずはリモートコントロールにより思考ルーチンを攻撃し、その意識を失わせる。
ぱたりと行動を停止したことを確認し、すかさず事前に用意したプログラムへと書き換えていく。
本当は当初のアクセスの段階で書き換えることが出来たのだが、あの時点で大胆な動きをすれば一発でバレてしまうのが目に見えている。
だから罠が発動し、本部が混乱するタイミングまで待っていたのだ。
このプログラムへと干渉しようとすれば、他のウィルスへの対処が遅れる。
事前の仕込みとリアルタイムの攻撃による二面攻撃。
向こうの管理人数に対抗するには、これしかなかったからだ。

自由な領域へ書き込んでいくのは、意志を持つ者に次元を飛び越える力を与えるプログラム。
いわば、次元の裂け目と言ったところだろうか。
コンピュータを操作し、IMITATIVEブレアが存在した領域へそのプログラムを書き込んでいく。
じわりじわりとIMITATIVEブレアがその姿を失っていき、代わりにその空間に黒い裂け目のようなモノが現れていく。
これこそが、ブレアの考案した次元を飛び越える力を与えるプログラム。
名付けて"ディメンジョン・ゲート"だ。
但し、このプログラムは試験動作すら行っていない。
ブレアが頭の中で組み上げ、上手くいくように仮説に仮説を重ねたモノだ。
だから、このゲートで彼らが脱出できる確信はない。
それでも、彼女は信じている。
数々の奇跡を起こす彼らなら、人の力を持つ彼らなら。
きっとモノにしてくれると。

279転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:11:08 ID:tte3u08U

次の手。
このプロジェクトの中の参加者は、それぞれが強固な意志を持ち、思考や行動はもちろん、命や意志に至るまで一切の干渉が出来ない。
管理者ですら干渉できないその部分に、干渉した参加者がいる。
レザード・ヴァレス。
この殺し合いという限られた条件下で、ドラゴンオーブなどの土台をしっかりと揃え、還魂の法と輪魂の呪を成立させた。
魂を別の肉体に移し変える儀式、プログラムの観点で言えば「干渉すら出来ない領域に干渉し、その内容を書き換えた」という事になる。
つまりレザードは、各参加者に敷かれているある種のロックを解除してその中身を書き換えたのだ。
このプロジェクトでは、参加者が死亡してもその思考や行動を記録するため、いわば"魂"を記録している。
死体になってもその部分だけは書き換えられないようになっている。
そもそもこのプロジェクトの参加者達の"魂"とは、ソースコードを見てもブラックボックスだらけでヘタに書き換えられるものではない。
IMITATIVEブレアのような単純な思考ルーチンを与えただけの存在ではなく、中身がリアルタイムで更新されている存在なのだ。
外部から何かしら干渉を加えようとしたところで、存在側の更新速度に勝てるわけもない。
だが、レザードはドラゴンオーブを用いることでその不可能を覆した。
外部から書きかえれないのならば、内部の"魂"を持つ人間から書き換えればいい。
格納されていたレナス・ヴァルキュリアの魂を持ち出し、ルーファスの魂の場所へと書き換えた。
ルーファスの存在を亡きものにする事によって、レナス・ヴァルキュリアを蘇らせたのだ。
魂の書き換え、管理者でも解くことのできないロックを解除して行われた予想外の行為。
レザードはその不可能を見事達成させた。
しかし、それが行われたというのにレナス・ヴァルキュリアは目を覚ますことがなかった。
簡単な話だ。
プログラムがエラーを吐いていた。
ルーファスという肉体にレナスという魂が宿っている。
一致するはずのない符号を照らし合わせ続け、ルーファスの肉体が拒否反応を起こしていた。
魂だけが突然書き換えられたのだから、プログラムからしてみれば「予期せぬエラー」なのだ。
だから、レナスを起こすにはレナスの魂をルーファスだと偽装すればいいのだ。
輪魂の法にて書き換え不可属性が改変されたレナスの魂なら、そのプログラム部分の名称を「ルーファス」だと偽ること程度ならできる。
そして、利点はそれだけではない。
フィールド全体に流れる放送の応用で、読み書きが可能になったレナスの魂と電脳上での対話ができるのだ。
どこにいるかわからない偽ブレアがゲート化した事を知ることなど、参加者たちには不可能だろう。
放送が使えれば呼びかけることも可能なのだが、生憎と実行権がまだ手元にない。
それならば、器に相入れぬ魂としてさまようレナスにその情報を与えておけばいい。
彼女の能力であれば、きっと参加者たちを正しい道へと導いてくれる。
「脱出の可能性」を託すには最高の人物だ。
そうして、ブレアはレナスの魂へと接続する。
禁忌の法にて電脳の世界をさまようことになった、戦乙女の心へと語りかけるために。
「レナス、聞こえる!?」

280転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:11:41 ID:tte3u08U



「改めて、ガッカリしたからよ」
ため息と同時に吐き出された言葉に、ルシファーは眉を顰める。
ベルゼブルはその様子を気にとめる事なく、決壊したダムのように次々に喋り続ける。
「社長が思っていたより、無能だったからよぉん」
今まで黙っていたこと、全てをぶちまけるように。
「自分が創造した世界の存在に滅ぼされそうになったから、創造した世界を滅亡させた。
 そんな姿に本当にガッカリしたわぁ」
起こった事実から、自分が受け止めた真実を吐き出していく。
「だから、思ったの。
 今回も自分が掌握しているはずの存在に、社長がボコボコにされちゃうんじゃないか、ってね」
可能性の話と自分の気持ちを織り交ぜて、ぶつけていく。
「だったら、そんな上司に従うなんてバカらしいじゃない?
 プロジェクトが失敗すれば社長の無能が再度証明されておしまい。
 成功すれば社長が汚名返上しておしまい。
 だからどっちでもよかったのよん」
試してやろうと思ったのだ、このいけ好かない野郎の実力を。
「でも、はじめからガチガチの枷をかけておいてプロジェクトが成功しましたって言われても微妙よねぇ。
 だったら、前回の汚名を返上しきるぐらいの事じゃなきゃ、面白くないでしょ?
 だから妹や外部の妨害を受けさせて、それすらも乗り越えてプロジェクトを運用できるかどうか。
 それを見届けようと思ったのよん」
どれだけの壁が立ちふさがろうと、全てはねのけて野望を掴む力のある人間なのか。
それとも、今回も無様な姿を晒して終わる存在なのか。
「ここで私を殺してもいいわよ、でも罠も作動してるしブレアちゃんも新たな妨害に走ってる。
 私にかまうことがプロジェクトの成功に結びつくのか、考えた方がいいわねぇん」
このクソったれの無能を試してやろうと思ったのだ。
「もう一度、私が惚れた社長を見せて頂戴」
一言、強めに言う。
挑戦的で高圧的な一言を受け、ルシファーは笑う。
「……フッ、私も見くびられたものだな」
やれやれと肩をすくめてから、次の言葉を放つ。
「いいだろう、私の力のみでこの状況に対処してみせる。
 助けも何も必要ない。絶対にこのプロジェクトを成功させてみせる」
素早く身を翻し、ルシファーはその場を去っていく。
「ええ、見せてもらうわぁ」
ベルゼブルはその後ろ姿を笑いながら、ずっとずっと見守り続けていた。

ブレアがこのプロジェクトに無数の罠を仕掛けていた。
これに気がつけなかったのは確かに自分のミスだ。
ベルゼブルの言うとおり、どこか慢心していたところがあったのかもしれない。
ならば、その慢心を捨て去る。
自分こそが絶対支配者なのだともう一度示してみせる。
その証明のために、彼は駆けだしていく。
己の部屋ではなく、このプロジェクトの全てを統括している、メインルームへと。

281転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:12:13 ID:tte3u08U



暗い暗い闇の中。
ふわりとした意識だけがさまよっている。
エインフェリアを勧誘するときも、こんな感じの場所に居たのかもしれない。
そんな暗黒の中を長い長い間、特に考えることもなくさまよっていた。
どれほどの時間が経った時だろう。
「レナス、聞こえる!?」
耳に覚えのない声が聞こえたのは。
「あ、そっか。意識だけみたいなモノだから返事ができないのか……でもま、聞こえてるわよね」
声は一人で話を進めていく。
いったい何者なのか、目的は何なのか、彼女にはわからない。
「ごめんね、レナス。今から言う事を落ち着いて聞いてほしいの」
そんなことを考えている内にも、謎の声は一人で話を進めて行ってしまう。
手短にまくし立てるように天の声が響く。
自分がレザードの手によって蘇った事。
とある村のとある場所に、この殺し合いから抜け出せる可能性のある空間があるという事。
意識の中で整理する時間すら与えられず、ざくざくと語られていく。
「これからあなたは全く違う肉体で目覚めることになる。
 すごく困ることや、面倒な人間もいるかもしれない。
 でも、私にはあなたぐらいしか頼ることのできる人がいないの。
 私のこの話をしっかりと、みんなに伝えてあげて、導いて欲しいの」
突然現れて話し始めたと思えば、それを誰かに伝えて欲しいと願ってくる。
いったいこの声は何者なのだろうか?
自分が蘇ったという情報を突きつけたと思えば、この殺し合いから脱出することができるという。
正直、都合のよすぎる話だ。
「ごめん、時間がないからもう行かなくちゃ」
そんな都合のいい存在は、向こうの都合で今消えようとしている。
こちらの答えは纏まっていないというのに。
「よろしくね、ヴァルキリーさん」
その一言を残して、声の気配は消えてしまった。
都合のいい情報だけを残して、跡形もなく。
ふわりと浮くような感覚に襲われる。
ああ、これは。
目覚めるときの、感覚だ。
「……う、うん」
微睡みから覚めていく。
現実へ引き戻されていく。
はっきりとわかる感覚と共に、彼女は目覚めようとしていた。

「レナス……頼んだわよ」
レナスの魂の名義を「ルーファス」と書き換えながら、ブレアは次の作業へと移る。
あまり考えたくはないが、レナスが思った通りの動きをしなかった場合、全ての策が無駄になる。
故に保険として、自分自身も動く必要がある。
しかい、IMITATIVEブレアは次元転移プログラムの犠牲となってしまった。
彼女がプロジェクト内の人間に干渉できる手段はない――――

282転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:12:49 ID:tte3u08U

いや、ある。

よく考えてみて欲しい。
輪魂の法によってレナスとルーファス、二人分の読み書き権限は変更され、ルーファスにレナスの魂が移った。
では残されたレナスの根幹の部分はどうなっているのか?
もちろん、空だ。
書き込みを許されたまま、何も受け入れるプログラムがないまま、レナスの「死体」だけが存在している。
ここなら、干渉できる。
IMITATIVEブレアに干渉したときのように、レナスの魂を納めていたはずの空白にプログラムを書き込めば。
レナスの体を操れるようになるはずだ。
根幹の魂を格納する部分に、マニュアル操作のプログラムを書き込むことによって無理矢理動かす。
他の死者では死してなお更新し続ける魂が邪魔してできない方法が、魂を移され、空の容器となった彼女にだけ通用する。
迷うことなく、レナスを示す領域にアクセスし、プログラムを書き込んでいく。
もう、形振りを構っている場合ではない。
「悪いけど、ちょーっと借りるわよ」
手慣れた手つきで、IMITATIVEブレアへと干渉したときのプログラムより多めのプログラムをレナスの空白へ書き込んでいく。
普段からは、考えられない速度で。
「……よし」
予想通り、書き込みが上手く行った。
これで、レナスの遺体はブレアが操作することができる。
マニュアル操作の影響で体が動いているだけに過ぎないので、心臓をぶち抜かれた全裸の彼女の体が動いているわけではない。
いわば、運営者の扱う「アバター」のような感じだろうか。
ブレアがプロジェクトに干渉するための「皮」なのだ。
とはいえ、いつまでこの体が持つかは分からない。
あくまで操作しているのは魂と意識なので、肉体の損壊が激しくなってしまえば操作ができなくなってしまう。
使える時間は思っているより残っていない。
「さ、行かなきゃ!」
心臓をぶち抜かれた全裸の女性の姿を纏いながら、ブレアは殺し合いの地を駆ける。
この殺し合いを、兄の野望を、全て打ち砕くために。

283転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:13:37 ID:tte3u08U
【IMITATIVEブレア@SO3 消滅】
※平瀬村(中島家付近)の民家2階にブレアの作ったゲートが存在しています。
※首輪のみがゲート付近に落ちています。動作しているかどうかは不明。

【其々の場所で/朝】

【ブレア・ランドベルド@レナス・ヴァルキュリア】
[状態:本当なら死んでる]
[装備:なし]
[道具:なし]
[行動方針:プロジェクトの妨害]
[思考1:レナスの死体を介して、ゲートの存在を知らせる]
[備考1:ドラゴンオーブ以外のプログラムにも何らかの仕掛けを施しています。現在二個発動中]
[備考3:他にも参加者を脱出させる方法を考えている、もしくは用意している可能性があります]
[現在位置:D-5西部]

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:45%]
[状態:ルーファスの身体、気絶から覚醒――?、疲労中]
[装備:連弓ダブルクロス(矢×27本)@VP2]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:???]
[思考2:ルシオの保護]
[思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)]
[思考4:4回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流]
[思考5:協力してくれる人物を探す]
[思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考2:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考3:首輪の機能は停止しています。尚レザードとボーマンには気付かれています]
[備考4:ブレアに一方的に情報を渡されました、はっきり覚えているかどうかは不明です]
[現在位置:D-03]

【ルシファー】
[行動方針:プロジェクトを成功させる]
[思考1:ブレアの作った"罠"への対処]

【ベリアル】
[行動方針:オーナーの方針に従う。]
[思考1:与えられた任務の続行]

【アザゼル】
[行動方針:オーナーの方針に従う。]
[思考1:与えられた任務の続行]

【ベルゼブル】
[行動方針:社長を見届ける]
[思考1:物見遊山]

[現在位置:それぞれ不明]

284転(修正) ◆DxQ.rNoSKQ:2012/11/17(土) 00:14:25 ID:tte3u08U
以上で修正稿投下終了です。

285爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:28:30 ID:CqtLXK5M
とりあえず出来あがりましたがなにぶん不安なので先にこちらに投下します。
おかしいところや、「それはないだろ〜」等あればご指摘ください。

286爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:29:37 ID:CqtLXK5M
「…これからの行動について、もう一度確認しましょう」

自分でも解るくらいにか細く、今にも折れてしまそうな声だった。
マリア自身、今の自分たちの状況が如何に絶望的なのか解っていた。
しかしだからこそ自分たちに何が出来るかを考える必要があり、
それを遂行するための作戦も用意しなければならないと考えた。

「まずそうね、私達にいま残されたアイテムの確認から始めましょうか」

正直期待はしていなかったものの、もしかしたらという希望も捨てきれずにいた。

「私はこの魔眼のピアスだけよ」

とレナは自分の左耳のそれをチャリンと鳴らすかのように指で指しながら揺らした。

「でも、今は疲れていてあんまり効果がないの…ごめんなさい…」

そうレナは申し訳なさそうに俯く。
そこに被せるようににプリシスは口元に人差し指を添えながら言う。

「だったらあたしが付けようか?あたしは戦ってはいないから疲れていないし」

なるほど、確かに首輪の解除ツール作成に勤しんでいたとはいえ特に疲労はない。
それにレナは今精神的に疲弊しきっている。
外すことで少しは楽になるかもしれない

「そうね、とりあえずはそうしましょう」

レナは数瞬戸惑う様子を見せたもののすぐにうなずいた。
丁寧に左耳からピアスを外し渡す。

「その…これ、オペラさんが身に着けていたものだから……
もしエルネストさんに会ったら渡して貰いたいの」

ピアスを受け取ってそれを強く握りしめ逆の手でVサインをしながら答える。

「うん!オッケオッケ!絶対に生き残ってエルネストに渡すんだから」

生き残る。プリシスの言葉を自分へ言い聞かせるように心の中で反芻する。
こんなところで死んでたまるものかと改めて胸に刻む。

(少なくともこれで奇襲だけはなんとか対処できるはずね)

とひとまずは安堵する。
しかし、単純に奇襲されても察知できるだけであって戦闘の可能性がなくなったわけではない。
むしろ十二分にあると考えていいだろう。
そう考えるといくらアイテムがあっても足りない。

「ところでプリシスは何を持っているのかしら?」

287爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:30:11 ID:CqtLXK5M

ガシャン、と背中にある大きな腕のような物を動かす。
その小さな身体と不釣り合いな程に大きい。
そしてデイパックの中を漁り、工具、解体した首輪、図面と出していく。

「ほとんど工具とかで武器とかになりそうなのは他にはないかなー」

ある意味期待通りか、と眉間にしわを寄せる。
まともな武器はプリシスのものだけで、しかもそれは彼女専用。
私やレナに渡せる代物ではない、と。
ピアスがプリシスに渡った今、自分とレナは本当に何も無くなってしまった。
先ほど剣士に破壊されたサイキックガンも修理できるかもしれないが、あまり期待は出来ない。

(本当に絶望的じゃない…)

いっそ笑えたら楽になれるかもしれないが、今はそんな場合ではない。
こうなったら先ほどの戦場に何か落ちていないか探したほうがいいのかと考えたその時だった。

「あ、あとこの盗賊てぶくろがあるよ」

そこには広げた右手をこちらに向けているプリシスの姿があった。
しかし、それはマリアの世界にはないものだったので何なのかは知らない。
が、もう名前からしてなんとなく効果は解る様な気がする。
本来ならそんな名前を冠したアイテムを使うこと自体避けたいところであが、
背に腹は代えられないとでも言おうかそんなこと言ってられないのも事実。

「――それは、何の効果があるのかしら?」

半ば回答は解っているもののもし期待通りの効果ならもしかしたらアイテムが手に入るだけでなく、
もしかしたら相手の作戦も崩せるかもしれない。

「まぁ名前の通りっちゃまんまなんだけど、これを装備すると持ち物を盗むことが出来るんだ。
もちろん失敗することもままあるけどね」

これはいける…と確信を持てるまではないものの多少の光明ではある。
自分たちの持ち物に+1されるだけでなく、
相手の持ち物に−1をする…つまり+2分の働きが期待できるのである。
彼女曰くそこまで成功率の高いものでもないらしいが。
しかし、彼女がはめている様にどうやら普通に手で盗るようであるが、
背中のあれで戦う彼女がいきなり手を伸ばしたりしては不審がられるのではないだろうか?
そもそもアレのリーチで戦うと手が届かない。

「ねぇ、それは装備すれば誰でも出来るものなの?」

一つ質問をぶつける。

「うーん、一概に誰でもってわけでもなくて、
度胸があってポーカーフェイスな人ってのが条件かな?
本当は盗られることにすら気付かれちゃいけないんだけど、
今の状況だったら盗った後は気付かれても敵だったら問題ないんじゃないかな?
盗ってしまえばこっちのものだし」

にっしっし、と悪戯っぽく笑う。
ポーカーフェイスということなら彼女は不敵ではないのではないかという疑問はそっと胸にしまおう。

「ということは気付かれないように……まぁ、相手の背後から素早くコトを済ませば大丈夫かしら?」

彼女はしばし考える。

「んー…いけるんじゃないかな?あ、もちろんこれをあんまりすると身内から嫌われるから注意してね!」

めっ、といった具合に指を立てる。
当然である。盗みと言う行為はどんな宗教・部族でも殺人と並んでまず禁止項目にはいるものの一つであろう。
如何に味方とは言えたやすく許容出来るものではない。

288爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:30:42 ID:CqtLXK5M

「レナは出来るのかしら?」

レナの方が身軽だろうからどちらかといえば適任であろう。

「えっ…い、いち、ぉぅ…は…」

と消え入りそうな声で答える。
確かに胸を張って言えることではないので気持ちは重々わかるつもりだ。

「そしたらそれはレナが装備しておいて貰えるかしら?
背中のそれで戦うプリシスよりは手足で戦うレナのほうがまだ怪しまれにくいでしょうし」

間接的に手を汚してくれと言っているようなものなのでもし出来ないようなら自分で付けることにしよう。
少なくとも度胸もポーカーフェイスも出来る方だとは思う。

「は、はい…」

恥ずかしいのか、どこか顔を赤らめながらプリシスから受け取った手袋を付ける。
普段ナックルなどを装備しているせいかなんとなく様になるはめ方に見えたのは気のせいだろうか。
さて、アイテムに関してはこんなものだろうか。
当然これでは心もとないので外に落ちているであろう道具類を回収しておきたいところ。
欲を言えば銃が欲しい。ダメ元で聞いてみるとしよう。

「ねぇ、さっき改造してもらった銃なんだけども壊されちゃったのよ。
しかも、刀でグシャっと…」

「ありゃりゃ〜」

と製作者は苦笑い。当然である。作ってもらって1時間も経たずに壊してしまっているのだ。

「あたしが渡したセブンスレイはどったの?」

金髪との戦闘中に改造したサイキックガンを貰ったときに落としたはずである。
あれでもないよりはマシなので戻って来るときに回収しておけば良かったと後悔する。

「それも外にあると思うわ」

しばし目を瞑り額に指を当て考える仕草をするプリシス。
やはり難しいのだろうか…
だったら使いやすいとは言えないがセブンスレイで――

「だったら…たぶんセブンスレイから部品を持ってくれば出来ると思うよ」

これは思わぬところでいいほう転がった。
銃さえ確保出来れば少なくとも先ほどの金髪剣士レベルの相手と1対1で遅れを取ることは無くなるだろう。
と安堵しているところで視界の隅の方でうつらうつらと頭を揺らしている青髪の少女。


「……ぁ、っとすみませんっ」

おそらく紋章術の使い過ぎで精神力が削られたところでの先ほどのミランダの死。
精神的に疲れるには充分過ぎるものであった。

「いいわ、とりあえずそんな状態で戦闘になっても何も出来ないでしょうから2階で寝てきなさい」

横でプリシスも頷く。

「で、でも…」

申し訳ない気持ちからか、断るレナ。
とはいえ、どう見ても戦闘は出来そうにはない。

「いい?あなたは格闘が出来るとはいえ紋章術がメインでしょ?まして、治癒も出来るんだから。
むしろ今のうちに少しでも休んどいてもらって、後で補助に回復と充分に働いて貰うわよ」

諭すようにそう言った。実際、戦闘時に備えて一つでも多く紋章術を唱えられる用にしてもらった方がこちらとしても有難い。
それとは別に素直に休んで貰いたいと言う気持ちもあった。

「作戦はあたしたちで考えておくからレナは休んできなよ!」

念を押すかの様に続いてプリシスが言う。

「わ、わかった…それじゃあマリアの傷を治す為に休んで来るわね」

少しこちら意味合いとは違ったものの休んでくれる気になったようで一安心である。

「それじゃあ私は武器の回収に向かうわ。プリシス、敵の接近とレナがきちんと休むように監視お願い」

そういって私は椅子から立ち上がり、扉へと向かう。

「了解だよ!」

元気に親指を立てる少女を見て少し元気を分けてもらえたような気がする。

289爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:31:38 ID:CqtLXK5M





民家から出るとそこには先ほどの戦闘の傷跡が色濃く残っている。
それこそ、血のにおいもまだ残っていていやでも先の光景を思い描いてしまう。
嫌でもあのとき別の選択をしていれば良かったのではないかと苛まれる。
先ほどの金髪も態勢を整えてまた襲ってくるかもしれない。
侍男もクレスの転移で飛んだはいいもののもしかしたらそう遠くないかもしれない。
もっと別のゲームに乗っている人物が襲ってくるかもしれない。
そう自分たちに取って嫌なケースを思い描いている内にこの場に相応しくない不自然な蛍光色のバットがあった。

(これは……クレスの持ってた……)

そう思い、しゃがんでバットを取る。
マリアの脳裏にもうこの世にはいない男の姿が浮かんだ。



『僕は…ルシファーをゆルシファー(許しは)しない!』



(私が始めてあなたを見たときに吐いたセリフがこれだったかしら?
こんな状況の中でくだらないダジャレを言うだなんてとんだマヌケがいたものだと思ったわ…
その後少し意地の悪い質問をしたら…)



『……誓います。この戦いを終わらしてルシファーを倒すまで、絶対に挫けないと。
 それに言ったはずです。僕の仲間はこんなところで死なないって』



(とか言っちゃって…本当、世間知らずの優等生にしか見えなかったわ…)



『そのレーションの味はどうレーション(でしょう)か?』



(ほんっとぉーーっに、くだらないって思って1発や2発蹴ってやろうかしらって考えたくらいよ全く…)



『僕も神様を信じていれば怪我を治せる気が(けが)してきたぞ!』



(なんで思い出すのがほとんどダジャレなのかしら……
やっぱり2,3発は蹴っといた方が良かったかしら?)



『―――マリアさんは僕が命に代えても守ります。
 僕は最後まで絶対にあなたを守り通します』



(よくもまぁ、そんな恥ずかしいセリフを抜け抜けと吐けるものよね……
……でも、そう――素直にね……嬉しかったわ…)



『…………強いわけじゃないですよ。ただ、こういう役目を引き受けちゃう役目ない(憎めない)奴なだけですよ』



(あの時は気付かなかったけど、これもダジャレだったのよね…
場を一応和ませようとしてくれるのは有難いけどもう少し空気を読んでほしいわ
――というか、ダジャレ言い過ぎじゃないかしら?)



『心配しなくても大丈夫ですよ! それに、マリアの言う事にあやマリアんて(誤りなんて)無いですって』



(そうやって信じてもらえていたのは本当に嬉しかったのよ…
ちょっとカッコいいかもって思いかけちゃったくらい……
でもね……ダジャレは余計よ、ホントに……)



『後は、任せ、……マリア(ました)よ……』



(結局、最期までダジャレだったのよねあなた…
私たちを助ける為にあんな……自分の身を犠牲にしてまでなんて……
だいたい、あなた自分で言ったじゃない…『最後まであなたを守り通します』って、
先に逝っちゃったら、もう……出来ないじゃない……)

290爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:32:32 ID:CqtLXK5M

「とんだ嘘つきさんね……」

蛍光色のバットを見つめるつつか細い声で悪態をつく。
その笑みには影がさしている。
おもむろに立ちバットを握りしめる。

「空気の読めないしょうもないダジャレ剣士なんだから、せめて嘘つきさんにならないように最後まで守ってもらうわよ…」

そう言い放ちバットを大切そうにデイパックにしまう。
先ほどまで顔にさしていた影も幾分か薄れている。
おもむろに瞼を閉じ

「ありがとう」

と一言呟き決意を胸に踵を返した。





一通りアイテムを回収し終わって民家に戻ったマリアの目に映ったものはもぬけの殻となった1階であった。
レナがいないのはある意味当然として、プリシスがいないのはおかしい。
少なくとも外で何かあれば聞こえてきたはず。となれば、中で何かあったのであろうか。
マリアの中で警戒レベルを2つほど上げた。
もしかして侵入者でもいたのかとも考える。
先ほどの金髪か、侍のほうか。あるいはブレアあたりがいつの間にか潜んでいたのかもしれない。
先ほど拾ったセブンスレイを構え、恐る恐ると1階を探っていく。
しかし、何もおかしなところはないのを確認したところで2階から話し声が聞こえてきた。
もちろん何を喋っているのかは判別できないがレナとプリシスの声である。
それでも警戒レベルを落とさずに階段を1段1段足音を立てないように慎重に上っていく。

「――んだろうねこれ」

「んー少なくとも触ったりはしない方がいいんだろうけども…」

そこにはレナとプリシスの姿があった。
どうやら侵入者の類ではないらしい。
ひとまずは安心――と言いたいところだが見覚えのない奇妙な黒い裂け目のようなものがあった。
否、マリアには見覚えがあった。
エターナルスフィアからFD空間へと渡る際に使用した惑星ストリームにあったタイムゲートである。
もちろんそれはタイムゲートと言われる身の丈を大きく上回る装置があり、
空間の裂け目とも呼ぶものはどちらかと言えば水色の様なものであったがその性質、雰囲気は目の前のそれと酷似している。

「これは…どうしたの?」

「あ、マリア…戻ってきてたのね……それが、言われた通り休もうと2階に来たらこの首輪と一緒にあったの」

チャリ、と誰のものか解らない首輪を掲げる。
レナは未知なるものに対して怪訝そうな顔をしている。
プリシスは好奇心が刺激されたのか興味津々にあらゆる角度から観察している。
とはいえ見ただけで解るはずもなく、お手上げの様子である。
そもそもここに首輪だけあると言うのも不可解である。

「マリアはこれが何かわかるの?」

「わかる――とは少し違うわね……強いて言えば検討はつくと言った話かしら……
かつて私たちがエターナルスフィアからFD界に渡ってルシファーを倒した話は覚えているかしら?」

二人は首を縦に振る。

「エターナルスフィアからFD界に渡るときにタイムゲートって言う、言わばワープ装置の様なものを使ったのよ。
で、その目の前の黒い裂け目とタイムゲートの雰囲気……気配が似ているのよ」

「「じゃあ!」」

パァっと両者の顔は明るくなる。
二人からしたら耳寄りな情報であることを想像するのは容易い。
だがおかしい、というよりおかしなことだらけである。

「早合点はだめよ二人とも
この空間から脱出できる代物をルシファーたちが用意するわけがないわ、罠の可能性だって…
それに仮にそういう類の代物だったとしても私の知っているものと少し違うのよ
だから私の経験だけで語ることはできない」

そう、こんなものがあることがおかしいのだ。
ルシファーがこんなものを用意するはずがない。
参加者に脱出されてはゲームが成り立たなくなる。
ならば、私達参加者の誰かが作ったのかと言われるとそれも可能性としては極めて薄い。
ルシファーがそんな別空間をつなげられる能力を持つ参加者を黙って見過ごすわけがない。
最初から参加させない、あるいは自分のアルティネイション同様制限が設けられるはずだ。

291爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:33:24 ID:CqtLXK5M

ならば、外部からの干渉と考えるのが一番筋が通っている。
ルシファー、スフィア社に対抗している何らかの組織でもいるのか。
あるいは内部からの分裂、反乱の可能性もある。
どちらにせよ、これを使わない手はない。だが、解析する必要がある。
何か空間を操るのが得意な能力者にでも見てもらう必要がある。
となるとやはりソフィアに来てもらうのが一番かもしれない。
探しに行くべきか否か。それは否だ。
ゲームに乗っているものからすればこんなもの邪魔でしかない。
私たちがここを留守にしている間に破壊――出来るものなのかは解らないが何をされるかわかったものではない。
ならば私たちで防衛するのか――少しの間、それも化け物クラスの実力者が来ないという条件付きでしか不可能だ。

「それだったらこれが解る人を探せばいいのかな?」

とレナが問いかける。
もちろんそれが出来るのならそうしたいところである。

「難しいわね、あてもなく人探しをするほど私たちに余裕はないわ。
それにこれがこの空間からの脱出の手掛かりの一つであることにはかわりない。
私たちがここを留守にしている間にゲームに乗っている誰かが何かするかもしれない…
だから私たちはここを防衛しなくちゃならない」

自分でもひどく無茶苦茶なこと言っていると思う。
だがこの裂け目は脱出する為には必要不可欠なものであることはほぼ間違いない。

「ってことは私たちはここから動けないってこと?」

「そういうことに……なるのかしらね……」

場の空気が急激に重くなる。
結局やらなければならないことが多くて何を優先してすればいいのかがわからくなってくる。
防衛するのと人を呼びに行くのをこの3人で行うのはそれこそ3手に別れても足りない。
そもそも戦力を分散させるほどの余裕はまずない。

「だったら―」

と沈黙した空気をぶち破る様にプリシスが呟く

「他の人にここに来てもらったらいいんじゃない?」

「「え?」」

逆転の発想ではあるが何をどうやってするのか、通信機の類はないというのに。
そもそも出られないなら来てもらうと発想を変える――までなら百歩譲ってまだ解るが、
変えたところでどういう意味があるのか――

「や、だって一応、(仮)ではあるけど首輪の制御をハッキングするツールはここに出来ているし」

と先ほど完成した装置をデイパックから覗かせる。

「それにこの、えーっと…なんだろう……まぁゲートでいいや!ゲートだってもちろんここにあるでしょ?
だったら他の人にこっちに来てもらった方が手っ取り早いでしょ?
それにここは11時に禁止エリアになる、
このゲートがこの馬鹿げた空間からの脱出に必要なものだとするとタイムリミットはあと大体4時間半しかないわけ。
その間に残りの参加者をここに集める必要がある――
正直あまり手段を選んでいられるほどの時間はないんじゃないかな?」

そうだ、ここはあと5時間もせずに禁止エリアになる。
ひとたび禁止エリアとなればこのゲートは使えなくなる。
そうなるとたまたまとはいえ折角見つけた脱出への手掛かりを失うことになる。
もうゲームも終盤だろう。
これから新たに脱出の手掛かりがつかめるとは考え難い。

「で、でも…肝心のその人を呼ぶのはどうするの?」

当然浮かんでくる質問を隣の少女がする。
それもそうだ。いざ呼ぶにしてもそう都合よく方法があるわけがない。

「うーんと、実はさっきこの装置を作っているときに部屋の中にC4の時限爆弾があったの」

「時限爆弾!?」

まさかそんなものがこの家の中にあったとはと驚きを隠せない。

「そそ、まぁちゃんと止めてはあるんだけどね――でそれがざっと5kgくらいかな?」

と、とんでもないことを言いだす。
そんなものが爆発したらこの民家まるごと吹っ飛ぶんじゃないだろうか。
もう一人の少女はC4がなんなのかいまいち解っていない様子できょとんとしている。

「そんだけの爆弾爆発させればケッコー遠くまで音が聞こえると思うんだ」

「待って!それだとゲームに乗っている人までおびき寄せちゃうじゃない?」

そう都合よく脱出を目指すものだけを集める方法なんて有る筈がない。
まして爆発音だなんて360度に広がる。
それでは危険は増す一方である。

292爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:34:40 ID:CqtLXK5M
「まぁそれもそうなんだけど、逆に言えばあたしたちに味方してくれる人も集まるでしょ?
さっきの放送によれば残り16人。正直あまり時間はないと思うんだ。
さっきも言ったけど11時にはここが禁止エリアになるしね。
だったらそろそろ大きく”賭け”に出てもいいんじゃないかな?」

随分と思いきったことを考えるものだ。
でも確かにもう終盤。こういった戦いの素人であるソフィアが生き残っているということは、
少なくとも守ってくれている人がいると考えてもいいかもしれない。
あの娘がゲーム乗っているとも到底思えない。
それにチェスターも生きている様子である。
フェイトはゲームに乗っていないと信じるとしよう。特に乗っていると判断する要素もない。
だったら以前の仲間ということ考えたほうがまだ信用に足る。
この時点でソフィアの守り手が1人と考えても味方になりそうなのは4人である。

加えて、エルネストというレナ達の仲間もいる。
ボーマンという例もあるため無条件で味方してくれると考えるのも良くないが確立としてそう低くないだろう。
ボーマンといえばクロードである。結局彼はどうなんだろうか。
火のないところに煙は立たないとは言うが彼女たちの様子を伺うに本来はゲームに乗る様な人物ではないらしい。

反対に確実にゲームに乗っていると考えられるのはボーマンと先ほどの二人。
当然アシュトンも要注意人物である。
ブレアは仮に本人であれば味方してくれるのだろうが、その可能性もあまり考えない方が良いだろう。

まだ未知数な参加者はレザード、ブラムス、クラースの3名。
この3名とエルネストクロードの5名が現状の立場が完全に未知数と考えられるところか。
自分たちを除いた13名中少なくとも4名、未知数の分を50%と考えると6、7名が味方になってくれると見込める計算になる。
そう考えると単純な数字的にはそこまで分の悪い賭けでもないのかもしれない。
もちろん分のいい賭けでは決してないが。

「そう……ね…どうせこのままでもジリ貧だし、ここが禁止エリアになるまでそう時間はない……
事態がいいほうに傾いてくれることを祈って見ましょうか…
あとはそうね、使うタイミングが問題かしら」

そう、使うタイミングが最重要課題である。
むやみやたらと使っても悪戯に危険を増すのは事実である。
ただし、使うのが遅すぎるとそれはそれで他の参加者がここに到着するまでに時間がそれだけ遅くなってしまう。
他の参加者がここに到着するまでに禁止エリアになっては意味がない。
このあたりはまだまだ熟考の余地がありそうだ。

「いいわ、とりあえずプリシスは私の銃を修理してちょうだい――」

「あいさー!」

「――爆弾の方は私で用意しておくわ、悪いけどちょっとだけ工具を借りるわよ」

「そんなこと出来るの?」

至極当然な質問をここまであまり会話に入ってこなかった少女がする。
しかし爆弾の扱いにおいてはクォークの時に嫌でもかというくらいに慣れてきた。
一応解除されているとはいえモノがあると言うことであれば爆弾の製作は彼女にとってそう難しいことではない。
残念ながらマリアには細工のセンスはあまりない為どうしても不格好なものに仕上がってしまうのだ。
どうせ爆発するのだ構わないだろう。そういう思考だから造形には無頓着なのであろうが…
そういえばそれを見たクリフによく笑われたものだ。もっとも、クリフのほうが細工のセンスはないのだが。

「ええ、職業柄とでも言うのかしら…爆弾の扱いには多少の心得はあるわ」

これである程度の方針は立てられたといったところか。
残るは使うタイミングだが、まずは爆弾自体を用意しないと話にならない。
もちろん出来得る限り迅速にだ。

「それじゃあ私とプリシスは作業に入るからレナは有事に備えて5分でも10分でもいいから眠っておきなさい
あとプリシスには悪いけど、奇襲を避けられるように作業中もある程度周りに神経を張り巡らせておいて」

「わかったわ」

「了解っ!」

光明――とまではいかないものの直近でやることは決まった。
あとは事態が好転してくれることを祈るしかないのが歯がゆいが――
それでも自分たちに出来ることはこれが精一杯である。
それを可能な限りいい形で遂行していくしかない。

293爆発形アイドル  ◆DpRdopub2w:2013/01/11(金) 17:36:04 ID:CqtLXK5M
最後に状態表です。


【F-01/朝】

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:電撃による軽い火傷 右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有 仲間達の死に対するショック 腰のクロス無し]
[装備:無し]
[道具:荷物一式、カラーバット@現実、解除された時限爆弾@現実]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)を憎悪]
[思考2:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考3:鎌石村方面に向かう?]
[思考4:ブレアを確保したい]
[思考5:爆弾を使える状態にする]
[思考6:爆弾を使って参加者を呼び寄せる]
[思考7:ゲートを死守する]
[思考8:ゲートを詳しい人に調べさせたい]
※高い確率でブレアは偽者だと考えています。

【レナ・ランフォード】[MP残量:5%]
[状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、
    精神的疲労極大、ミランダが死んだ事に対するショック、その後首輪を手に入れるため彼女に行った仕打ちに対する罪悪感]
[装備:盗賊てぶくろ@SO2]
[道具:首輪×2、荷物一式]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す]
[思考1:…………]
[思考2:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)を警戒]
[思考3:鎌石村方面に向かう?]
[思考4:レオンの掲示した物(結晶体×4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考5:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考6:アシュトンを説得したい]
[思考7:エルネストに会ったら何があったかを話す]
[思考8:少しでも休んで回復しよう]


【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:かつての仲間達がゲームに乗った事に対するショック(また更に大きく)、仲間達の死に対する悲しみ]
[装備:マグナムパンチ@SO2、魔眼のピアス(左耳)@RS]
[道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、
    メモに書いた首輪の図面、結晶体について分析したメモ荷物一式、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔50/100〕@SO2、
    壊れたサイキックガン(フェイズガンの形に改造)〔10〕[100/100]@SO2]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す]
[思考1:…………]
[思考2:鎌石村方面に向かう?]
[思考3:レオンの掲示した物(結晶体×4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考4:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考5:クラースという人物も考古学の知識がありそうなので優先して探してみる]
[思考6:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡す]
[思考7:マリアの銃を一刻も早く直す]
[思考8:作業中も周囲への警戒は怠らない]
[備考1:制御ユニットをハッキングする装置は完成しています]

[現在位置:平瀬村(中島家付近)の民家2階]




※ミランダの遺体は平瀬村の民家(中島家)周辺に仰向けで寝かせてあります。
 クレスの腕は布に包んだ状態でその脇に置いてあります。
※中島家周辺に落ちているアイテムはマリアがすべて回収しました。
 セブンスレイと壊れたサイキックガはプリシスが修理・改造しています。
※以下のアイテムに関しては3人の中でどう振り分けているかは後の人に任せます。
 パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔50/100〕@SO3
 万能包丁@SO2
 護身刀“竜穿”@SO3
※壊れたサイキックガンの修理と爆弾の作業時間は後の人に任せます。

294名無しのスフィア社社員:2013/01/12(土) 08:28:00 ID:UTN/chgQ
仮投下お疲れ様です。
感想は後程とさせて頂きまして、一点だけ質問させて下さい。

「首輪制御のハッキング」というのは、単に首輪解除という事で良いんですよね?
いえ、「ハッキング」というのが「ルシファーのコンピューターにアクセスする」というニュアンスにも取れるかなと思いまして。一応の確認です。

後トリップですが、したらば掲示板は確かトリキーは半角で10桁までの対応だったかと思います。
もし2chでそれ以上の桁のトリキーを使用されていても、したらばでは10桁分までしか認識されないはずですのでご注意下さい。
トリップ変更するしないにつきましてはお任せ致します。

それ以外の点は問題ないと思います。

295 ◆DpRdopub2w:2013/01/12(土) 17:50:46 ID:X3XNOeU2
「ハッキング」という言葉は第137話「Misfortunes never come single」での状態表からお借りいたしました。
ただ「制御ユニットのハッキング」の「ユニット」を省略してしまっているでそこは修正いたします。

トリップに関しては変更すると余計にややこしくなりそうなので本投下の間はこのままで行きます。

ご指摘、アドバイスありがとうございます。

296 ◆5JmtyjMEqk:2013/01/12(土) 18:05:17 ID:X3XNOeU2
さきほどはああ言いましたが、
そういえばIDは一緒なので今のうちにトリップ変えておきます。
ややこしいこと言って申し訳ないです…

大きな修正点等なければ今夜22時頃に本スレで投下しようかと思います。

297爆発形アイドル状態表修正 ◆5JmtyjMEqk:2013/01/12(土) 23:51:41 ID:X3XNOeU2

【F-01/朝】

【マリア・トレイター】[MP残量:60%]
[状態:電撃による軽い火傷 右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有 仲間達の死に対するショック 腰のクロス無し]
[装備:無し]
[道具:荷物一式、カラーバット@現実、解除された時限爆弾@現実]
[行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる]
[思考1:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)を憎悪]
[思考2:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない]
[思考3:鎌石村方面に向かう?]
[思考4:ブレアを確保したい]
[思考5:爆弾を使える状態にする]
[思考6:爆弾を使って参加者を呼び寄せる]
[思考7:ゲートを死守する]
[思考8:ゲートを詳しい人に調べさせたい]
※高い確率でブレアは偽者だと考えています。

【レナ・ランフォード】[MP残量:5%]
[状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、
    精神的疲労極大、ミランダが死んだ事に対するショック、その後首輪を手に入れるため彼女に行った仕打ちに対する罪悪感]
[装備:盗賊てぶくろ@SO2]
[道具:首輪×2、荷物一式]
[行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す]
[思考1:…………]
[思考2:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)を警戒]
[思考3:鎌石村方面に向かう?]
[思考4:レオンの掲示した物(結晶体×4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考5:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考6:アシュトンを説得したい]
[思考7:エルネストに会ったら何があったかを話す]
[思考8:少しでも休んで回復しよう]


【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%]
[状態:かつての仲間達がゲームに乗った事に対するショック(また更に大きく)、仲間達の死に対する悲しみ]
[装備:マグナムパンチ@SO2、魔眼のピアス(左耳)@RS]
[道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、
    メモに書いた首輪の図面、結晶体について分析したメモ荷物一式、セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔50/100〕@SO2、
    壊れたサイキックガン(フェイズガンの形に改造)〔10〕[100/100]@SO2]
[行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す]
[思考1:…………]
[思考2:鎌石村方面に向かう?]
[思考3:レオンの掲示した物(結晶体×4、結晶体の起動キー)を探す]
[思考4:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す]
[思考5:クラースという人物も考古学の知識がありそうなので優先して探してみる]
[思考6:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡す]
[思考7:マリアの銃を一刻も早く直す]
[思考8:作業中も周囲への警戒は怠らない]
[備考1:制御ユニットをハッキングする装置は完成しています]

[現在位置:平瀬村(中島家付近)の民家2階]


※ミランダの遺体は平瀬村の民家(中島家)周辺に仰向けで寝かせてあります。
 クレスの腕は布に包んだ状態でその脇に置いてあります。
※中島家周辺に落ちているアイテムはマリアがすべて回収しました。
 セブンスレイと壊れたサイキックガはプリシスが修理・改造しています。
※以下のアイテムに関しては3人の中でどう振り分けているかは後の人に任せます。
 パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔50/100〕@SO3
 万能包丁@SO2
 護身刀“竜穿”@SO3
※壊れたサイキックガンの修理と爆弾の作業時間は後の人に任せます。

298 ◆ClessXXFqE:2014/04/01(火) 02:25:58 ID:rANQhwN.

         l    ィ.!.:::::::::::::::::i i:::::::::i ヽ ヽヽ
        / /.   .l::;;|:::::::::::::::::i i:::::::::ト、 i  }ヽ
       //l :. .l:::l | ,ィzz\  ii ,イ芯ヾレ!  !ヽ
      //l :.  /  |{弋zリ     ¨´≠彡'リ
        l : /l ::|ハ::{  ≠     '       }ヽl 
        l :/ l :: ィト   ー― '    ,!  !    
        /  l :/ l              ,イ    「仮投下します」
           レヽl''l个:.、       /ハ
              V ヽ`T - イノリ
             /  ‖ =只= ‖ ヘ
             i  /   ´ `   ヘ  i
              ゙、 ヘ.___,ヘ__,ノヾr’
              |=.|.| | ´╂`.| |..|.=|
              | | | |,・╂>.|,| | i
               ; ,|//.・╋> ;ヽ| i.

299 ◆ClessXXFqE:2014/04/01(火) 02:26:40 ID:rANQhwN.
木漏れ日の差し込む森林の中を、心地よい冷たさを乗せた風が木の葉と戯れて通り抜けていく。
早朝の散歩にはおあつらえ向きの環境だ。
しかし今のフェイト・ラインゴッドにはそんな事に身を委ねる余裕はなかった。
無論それには大小様々な訳があるが、現状最大の理由としてはこの一点。
いくら死体とは言え、そして中身が知り合いであるブレア・ランドベルドであるとは言え、
妙齢の女性が素っ裸ですぐ側にいる事にあった。

「どうした? 先程から挙動が不審なようだが?」

不審者王が声を向ける。
あなたにだけは言われたくない、と条件反射で答えそうになるがそこはグッと堪えてフェイトは言う。

「いえ、その、話を聞きたいのは山々なんですけど……その前にですね……」
「他に優先する事があるというのか?」
「優先って程じゃないんです。ただ、ブレアさんに何か着てもらいたいなと思いまして」
「私? ああ……別に私は気にしないけど」
「つか俺達が目のやり場に困るんだって」

ブレアと共に広すぎる背中に背負われているチェスターもフェイトの意見に頷き、賛同の意を示した。
年頃の青年二人。美人の裸が視界に入るとなればやはりどうしても目がそちらに行ってしまい、気もそぞろになりがちだ。
これからブレアが語るのは確実にこれまでの盤面をひっくり返す程に重大な情報だと思われるのだ。可能な限り話し合いには集中したい。

「なるほど、やはり人間文化にとって衣装とは重要な要素なのだな。これは迂闊だった」

うんうんと大きく頷いている不審者王。
妙な納得の仕方をしているが、目のやり場に困るって言っただろ、と突っ込みたい気持ちをグッと堪えてチェスターは言う。

「だけどよ、こんな森の中じゃ服なんかありっこねえよな」
「それは……そうだね。探すにしたって時間も無いし……」

仕方ないか。そう続けようとしたフェイトだったが、チェスターのデイパックからはみ出している『ある物』を目にした時、視線と共に言葉を止めた。

「チェスター…………それ、何?」
「それって…………おい、なんだこれ……?」

『それ』は、黒い布だった。
しかしただの布ではない。
見えている部分はごく一部ではあるのだが――――。

300 ◆ClessXXFqE:2014/04/01(火) 02:27:59 ID:rANQhwN.



我々は……この布切れに見覚えがある!
このヒラヒラの衣装を知っている!
一瞬の内にフェイトとチェスターの目を釘付けにしたこの黒い悪魔を!



もしかしたら、気付かなければ彼等は今より少しだけ幸せだったのかもしれない。
だが爽やかなはずの朝日は無情なる現実を突き付けている。二人共、既にその存在を目撃してしまっている。
フェイトは無言で、恐る恐るとその布地を引っ張り出す。
一ミリ足りとも予想に反する事のない形状をもって、それはフェイトの手の上で広がった。
どう見てもそれは目の前の不審者王がお気に召して決して脱ごうとしないあの衣装。破壊力抜群のあの凶器。
ゴクリ、と喉を鳴らしたのは果たしてどちらの青年であったか。

「チェスター……それって……」
「……ああ」
「あれだよね……?」
「……ああ」
「……君にはそんな趣味が?」
「……ああ…………い、いや違う! 知らない! 知らないぞ俺は! 何でこんなもんが入ってるんだ!? さっきまでは絶対に無かったぞ!」

渦巻く疑問と駆け抜ける混乱。
突如出現した異変に二人は困惑を隠せない。
この衣装の正体が何なのか。賢明な読者諸君の中には感付いた人もいるかもしれない。
チェスター達には一つの誤解がある。実のところ、その衣装――――というよりアイテムそれ自体はいきなり現れたものではないのだ。
それは紛う事無く支給品の一つだった。何話か前からチェスターのデイパックに入っており、状態表にもしっかりと記載されていたある道具だった。
そう、それこそは、どの様な武器にも変化するという万能アイテム『レーザーウェポン』なのだ!

何、どうしてレーザーウェポンが防具、というか限りなく防具に近いけど実質防御力なんか布の服よりも低いただのコスプレ衣装だけど
敢えて分類するならギリギリ何とかすんでのところで防具のカテゴリに収まるだろうと思われる魔改造アイテムに変化したのか、だって?

説明しよう。
例えば、だ。例えばマリアさんの得意武器であるフェイズガンがどこかその辺に置かれているところを未開惑星の住人達が見たとする。
ではこの人達はその時フェイズガンを武器だと思うだろうか? 未知の道具を武器だと思う事が出来るだろうか?
答えは否。彼等にはそう思う事は決して出来ない。
彼等の知識ではフェイズガンを武器だと認識する事は不可能であり、
この場合は仮に彼等がレーザーウェポンを手にする事があったとしても、
誰一人としてレーザーウェポンをフェイズガンに変化させられる者はいないだろう。
彼等の中ではフェイズガンとは武器と思われてないのだから、それは当然の話だ。
しかし、一旦そのフェイズガンが火を噴く場面を見たとすればどうなるか。一転してそれは武器だと見なされる事となる。
こうなった場合は彼等がレーザーウェポンをフェイズガンに変化させても何ら不思議ではないと言えるだろう。
そう、全ては認識なのだ。その物の用途を決めるのは、偏に個人の認識にかかっているという事なのだ。
そしてチェスターは認めてしまっていた。
不審者王キュアプラムスがその身に纏う着衣に現実逃避もしたくなるほどの多大なる精神的ダメージを受けた事によって、
その衣装は精神攻撃、破壊も可能な絶大なる凶器! 心の奥底ではそうと認識してしまっていた。
だからこそレーザーウェポンは魔法少女コスチュームへと変貌を遂げてしまったのだ! その認識が、この変化へと繋がったのだ!

そんな事を知る由もない二人は慌てふためくしかなかった。
慌てふためく二人を訝しんだ不審者王が振り向くのは至極当然の結果。
更なる衣装に気付いた不審者王のその後の行動。
不審者王を主導にあれよあれよと事態は進み、迎える羽目になった一つの帰結――――。

301 ◆ClessXXFqE:2014/04/01(火) 02:30:36 ID:rANQhwN.
                  ____,イヽヘヘヘ
                 //:::::::l_/ / / /
                rl l:::::::::::::'ー'-'-くつ
               ___j:l l::::::::::::::::::__/´
             /:::::::::ヽ二ニィ´
            /:::::: _,,、、---―--、,,、、、,,,_
           /::::: ,、-''"´ _,,、-;ニ-‐''""''ー-゙ヾv-‐ゝ、
          /::./´  ,、:'ン'"´  ,.r''"´ ̄ ̄`゙"'ヾ;、,,_`ヽ,
           ,イ'´  // / ./´   _,,、z==''''ヾ-、v=;、,゙ヽ,
         ,r'/    ,:'/ / ./   ,、;シ'´  _,,、、;-、,.゙l,'、`゙ヾミ'、
        /./ , .,. // ./.::/ / ,;/   ,、シ'',;、ィ' ,ィ`iヾ;ミミ、,゙\
       /:   / / /./.// ./ ..::/  /  /゙   /;/,./ / ./;/ j .ト,ヽ,`゙ヽ;゙、
      /:  /./ /./ ;'/ /: ..::/ ./  /   .,'/./ // ,' .,'};' l  .ト;、 ゙、 ヾ;.
      /:/./ ,' / ./ ./ ..:::/  /  ./   .,;/./ .,',' .,   !{;' l   l ;  ト,  ゙、
    /: ,' / ,'./ .,' ./: ..:::;'  l  .:;'   .;j;l ;l  ;'.l ,イ  .!.| .l   |l ',  l;  '、
_(二フニニ:l /  ,'/ .,' /:: ..:::;'  ,'  .,'   .,リ.l ;'  l | |.|  .l. | .l.!  .リ.;|  |;  .|
(二ニフ  |.,' .,',' ,' /::...::::/  j .;!.!   l ! .Y/ .ハl l, l,  l,. l l.l,  j / /j゙  ィ
ゝ‐‐-くリ /,'  l l゙::::::::;'   j .:::l l.   ,イレジ ノ ゙い ヽ-ゝ_Vヽ、/.L__// :/,!
 `ーァ-' | ./.,'  .| l::::::::/  .,' .:::l |   ,'.|Tl''",.、--:ニニ-‐'ン  ヾヽ--ゞ7''l |
  `´ ! ,' j  l.,':::::::/  ./.::::;'/  .,' j.l. |. ゞ;ーt‐;;テヌミ:::::.   .:'ィ'';テ、/l ! .l
     .j /.,'   j.;::::::/  ./ .:::/;'   j゙.j.j. l   ´"' '゙   .::::.   ´'゙`∧,゙l, | .|
      j / ,'   .::::/   / .:::/,;'  ./ // j        .:::::. i  ;r ゙l:>-;l !
    .// ,'  ..:::::/  , .::::/,;;'  / // .j゙          .:::::. ヽ .ム'く  ∧ l,
   / ,' ,'  .::::/  ./ .:::ノ;;;;'ヽ,/.// ノ          ´.‐'´./    /ノl |
  ./ ,'  ,' .:::/  ,/ .::/;;;;'' /゙メ,/       r<'三'ブ  /:::::: ,':::::::l .|
  / .,'  / .:/  / ./;;;;''  /,rジ. ヽ、,      `゙二´ ,.r'´:::::::: /::::::::l .j
 ,':::/ /./ , ./ /,;;;;/ /シく   ::::::`ヽ、,.     /::::::::::::/:::::::::j /
./::/ .,ジ//./;;;;/_,,、ジヘヽ, ゙<"゙''‐.、,:::::_::::`T'ー-'´l゙::::::::::::j/
';///∠-‐''~    r ̄ヽ    /:::| |:::::::::::::::::::::>、ヽ:::::::/r'!
            (_r、ヾ`ー--Oゝ:::::l ト、:::::::::::::ノ ハ レ⌒ヽ::':,
             フ ̄ゝ、::::::::::::::::::ゝヽ`二 ̄ ノ /    l:::::',
            `ー-r、_「'ーr‐┐|  ̄二ヽ、-- く -‐- /:::::::i.
                `^ヘ‐‐':::ヽ  __ニゝi   }-‐--、\::::!
                  ヽ:::::::::::l     レ二ヽ、  ヽ/:::!
                    \:::::l、 _,.イ|二ニニヽ、  ハ::!
                     ヽ:/フ!  l ヽ     ヽ/ヽ リ
                      { / ヽ、r‐'         /
                      ヽ!            {

302 ◆ClessXXFqE:2014/04/01(火) 02:31:25 ID:rANQhwN.
                        }            `、
                       ノ       j      !
                   ,. <_    ,....、  ___    ノヽ
                  /   ` ̄´/ r‐、ヽ´-‐ヽ-‐'   |
             __,. --/        | l  `´。O l |   __j
        _______r'´:::::::::::(         ヽヽ、   / /_,.-'"フ::::|
   r' ̄二ニヽ、:::::::::::::::::::`ー-、__       \ヽ_-'シ´:::::/{:::::::{
    (⌒! {⌒)____ゝ、:::::::::::::::::::::::::::` ̄ ̄ ̄ ̄´:::::::::::::::::/ヽ ̄!::::::i
   /´ ー〈 ̄{__r=r-ヽ、:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::;:-r'`ヽ(⌒^´:::::::!
  ヽニ二丶::::::::::::フ-‐>、:::::::::::::::::::::::::::::::;: -r'iへ!__,ゝ___ノ::::::::::::::::::!
      } へ:::::ハ___)_ハ ` ̄フー--r'´ ̄7____j  {⌒ー---r、____:::::::l
      `ー-/ ̄`ヽ、(___r'⌒)/  レ‐‐'´::::::::`ー'´ ̄ ̄`ヽ!/‐、}`ヽト、
        /      \:::::::::::::`':::::::::::::::::::::::::l:::::::::::::::::::::::::::::(_r‐、ゝ\
       /        ヽ::::::/--、_::::::::::::::::::::l::::::::::::::::::::::::::::::::ハヽー‐'`!
     /          !/ / r‐、「 ̄にー-!:::::::::::::::::::::::::::::::ハ ヽ____)
     /          /` ̄`ー`ー--'`)___,rト、:::::::::::::::::::::::::/ `ー'´
   ハ         /             l `ー-----‐''7
 /ヽヽ      /                 !         /
´:::::::::ゝニヽ、  /                l        ,'
´:::::::::::::ヽニニY                  l      ,'




究極生命体(アルティメット・シイング)2体目! キュア・レナスの誕生だッーっ!!!!!

303 ◆ClessXXFqE:2014/04/01(火) 02:32:16 ID:rANQhwN.
【D-05/朝】


【フェイト・ラインゴッド】[MP残量:75%]
[状態:左足火傷+打撲(少し無理をした為に悪化。歩くにも支障あり)。クロード・アシュトンに対する憎しみ]
[装備:鉄パイプ-R1@SO3]
[道具:ストライクアクスの欠片@TOP(?)、ソフィアのメモ、首輪×1、荷物一式]
[行動方針:仲間と合流を目指しつつ、脱出方法を考える]
[思考1:ブレアに話を聞く……はずなんだけど]
[思考2:ルシファーのいる場所とこの島を繋ぐリンクを探す]
[思考3:確証が得られるまで推論は極力口に出さない]
[思考4:主催側の内部に潜入するか、このままの方針で行くか……]
[備考1:参加者のブレアは偽物ではないかと考えています(あくまで予測)]
[備考2:ソフィアの傷は全身に渡っています。応急手当にはしばらく時間を取られるかもしれません]


【チェスター・バークライト】[MP残量:30%]
[状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)、腹部に当身による痛み]
[装備:光弓シルヴァン・ボウ(矢×???本)@VP、パラライチェック@SO2]
[道具:アーチェのホウキ@TOP、チサトのメモ、荷物一式]
[行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)]
[思考0:もうこれわかんねぇな]
[思考1:この次は必ずクロードを殺す]
[思考2:アシュトンも、もう許せねえ]
[思考3:使えそうな矢を拾い集める]
[思考4:レザードを警戒]
[備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません]
[備考2:クレスに対して感じていた蟠(わだかま)りは無くなりました]
[備考3:矢は何本かは回収したかもしれません]


【ソフィア・エスティード】[MP残量:0%]
[状態:気絶中。全身に『レイ』による傷(応急手当中)。ドラゴンオーブを護れなかった事に対するショック。疲労大]
[装備:クラップロッド、フェアリィリング@SO2、アクアリング@SO3、ミュリンの指輪のネックレス@VP2]
[道具:魔剣グラム@VP、レザードのメモ、荷物一式]
[行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める]
[思考1:クロード、アシュトンを倒す]
[思考2:平瀬村へマリアを探しに行く]
[思考3:マリアと合流後、鎌石村に向かいブラムス、レザードと合流。ただしレザードは警戒。ドラゴンオーブは返してほしい]
[思考4:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい]
[備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています]

304 ◆ClessXXFqE:2014/04/01(火) 02:33:12 ID:rANQhwN.

【ブラムス】[MP残量:90%]
[状態:キュアブラムスに華麗に変身。本人はこの上なく真剣にコスプレを敢行中]
[装備:波平のヅラ@現実世界(何故か損傷一つ無い)、トライエンプレム@SOシリーズ、魔法少女コスチューム@沖木島(右肩付近の布が弾け飛んだ)]
[道具:バブルローション入りイチジク浣腸(ちょっと中身が漏れた)@現実世界+SO2、和式の棺桶、袈裟(あちこちが焼け焦げている)、仏像の仮面@沖木島、荷物一式×2]
[行動方針:自らの居城に帰る(成功率が高ければ手段は問わない)]
[思考1:ブレアから話を聞く]
[思考2:敵対的な参加者は容赦なく殺す]
[思考3:直射日光下での戦闘は出来れば避ける]
[思考4:フレイ、レナスを倒した者と戦ってみたい(夜間限定)]
[思考5:次の放送までにF-04にてチーム中年と合流]


【ブレア・ランドベルド@レナス・ヴァルキュリア】
[状態:キュアレナスに華麗に変身]
[装備:レーザーウェポン(魔法少女コスチュームに変化中)@SO3]
[道具:なし]
[行動方針:プロジェクトの妨害]
[思考1:レナスの死体を介して、ゲートの存在を知らせる]
[備考1:ドラゴンオーブ以外のプログラムにも何らかの仕掛けを施しています。現在二個発動中]
[備考2:他にも参加者を脱出させる方法を考えている、もしくは用意している可能性があります]


【現在位置:D-05東部】


【残り15人+α】

305 ◆ClessXXFqE:2014/04/01(火) 02:34:27 ID:rANQhwN.
         l    ィ.!.:::::::::::::::::i i:::::::::i ヽ ヽヽ
        / /.   .l::;;|:::::::::::::::::i i:::::::::ト、 i  }ヽ
       //l :. .l:::l | ,ィzz\  ii ,イ芯ヾレ!  !ヽ
      //l :.  /  |{弋zリ     ¨´≠彡'リ
        l : /l ::|ハ::{  ≠     '       }ヽl 「投下終了ですが、すみません一点修正です。
        l :/ l :: ィト   ー― '    ,!  !    >>300の26行目くらいの『マリアさん』を『マリア』に変更させてください。
        /  l :/ l              ,イ      後は住人の方々が問題なければ本スレに代理投下お願いします。本投下……本当か? 本当です」
           レヽl''l个:.、       /ハ
              V ヽ`T - イノリ
             /  ‖ =只= ‖ ヘ
             i  /   ´ `   ヘ  i
              ゙、 ヘ.___,ヘ__,ノヾr’
              |=.|.| | ´╂`.| |..|.=|
              | | | |,・╂>.|,| | i
               ; ,|//.・╋> ;ヽ| i.

306 ◆bYERsdX5HA:2015/02/01(日) 23:05:47 ID:evtmR2B2
「五年半ぶりの目覚め」の状態表を以下に修正します。
問題無いようであればwiki更新しときます。

307 ◆bYERsdX5HA:2015/02/01(日) 23:07:00 ID:evtmR2B2
【E-03/朝】

チーム【変態魔導師と不愉快な中年達】

【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:70%]
[状態:ルーファスの身体、憤怒]
[装備:連弓ダブルクロス(矢×27本)@VP2]
[道具:なし]
[行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する]
[思考1:ついてる…?]
[思考2:現在状況の把握]
[思考3:ルシオの保護]
[思考4:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す]
[備考1:起きました。レザードが言っていた、早めに目覚める事による副作用がどの程度かは不明]
[備考2:ブレアに一方的に情報を渡されました、はっきり覚えているかどうかは不明です]
[備考3:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます]
[備考4:ルーファスの意識はほとんどありません]
[備考5:首輪の機能は停止しています。尚レザードとボーマンには気付かれています]

【レザード・ヴァレス】[MP残量:15%]
[状態:精神力を使用した事による疲労(多少回復)レナスによるアイアンクロー]
[装備:サーペントトゥース@SO2、天使の唇@VP、大いなる経典@VP2]
[道具:ブラッディーアーマー@SO2、合成素材×2、ダーククリスタル、スプラッシュスター@SO3、ドラゴンオーブ、アントラー・ソード、転換の杖@VP、エルブンボウ(矢×40本)、レナス人形フルカラー@VP2、神槍パラダイム、ダブった魔剣グラム@RS、首輪×2、荷物一式×5]
[行動方針:愛しのヴァルキュリアと共に生き残る]
[思考1:愛しのヴァルキュリアと、二人で一緒に生還できる方法を考える]
[思考2:その他の奴はどうなろうが知ったこっちゃない]
[思考3:フェイト、マリア、ソフィアの3人は敢えて殺してまで屍霊術で従えようとは思わない]
[思考4:ボーマンを利用し、いずれは足手纏いのソフィアを殺害したい]
[思考5:出来る限り早めにF-4に向かいブラムスと合流]
[思考6:ブレアを警戒。ブレアとまた会ったら主催や殺し合いについての情報を聞き出す]
[思考7:首輪をどうにかしたい]
[備考1:ブレアがマーダーだとは気付いていますが、ジョーカーだとまでは気付いていません]
[備考2:クリフの持っていたアイテムは把握してません]
[備考3:ゾンビクリフを伴っています]
[備考4:現在の屍霊術の効力では技や術を使わせることは出来ません。ドラゴンオーブ以外の力を借りた場合はその限りではない?]

【ボーマン・ジーン】[MP残量:20%]
[状態:全身に軽い打身や打撲(火傷は治癒)フェイトアーマーの効果により徐々に体力と怪我は回復中]
[装備:エンプレシア@SO2、フェイトアーマー@RS]
[道具:サイレンスカード×2、メルーファ、調合セット一式@SO2、バニッシュボム×5、ミスリルガーター@SO3、エターナルソード@TOP、首輪×1、荷物一式×5]
[行動方針:最後まで生き残り家族の下へ帰還]
[思考1:完全に殺しを行う事を決意。もう躊躇はしない]
[思考2:F-4へ向かいブラムス達と合流]
[思考3:ブラムス、ロキ、ルーファス(レナス)を潰し合わせる展開を誘発するように立ち回る]
[思考4:その為にもソフィア、マリア、フェイトは率先して殺したい]
[思考5:調合に使える薬草を探してみる]
[備考1:アシュトンには自分がマーダーであるとバレていないと思っています]
[備考2:ミニサイズの破砕弾を1つ持っています]
[備考3:レザードが知り得る限りのブラムスの弱点(属性等)を聞きました]

【クラース・F・レスター】[MP残量:60%]
[状態:正常]
[装備:ダイヤモンド@TOP]
[道具:神槍グングニル@VP、魔剣レヴァンテイン@VP、どーじん♂@SO2、薬草エキスDX@RS、荷物一式*2]
[行動方針:生き残る(手段は選ばない)]
[思考1:ブラムスと暫定的な同盟を結び行動(ブラムスの同盟破棄は警戒)]
[思考2:ゲームから脱出する方法を探す]
[思考3:脱出が無理ならゲームに勝つ。現時点ではブラムス、レザード、フェイト、マリア、ソフィアの内誰かが死んだ場合に方針を考える]
[思考4:グングニルとレヴァンテインは切り札として隠しておく]
[思考5:なるべく早くF-4に向かい、チーム魔法少女(♂)と合流]
[思考6:ブラムスに対してアスカが有効か試す(?)]
[思考7:レザードを警戒]
[思考8:可能なら『エターナルソード』をボーマンとレザードの荷物から探す]
[備考1:レザードが知り得る限りのブラムスの弱点(属性等)を聞きました]

【現在位置:E-3南部の街道沿い】

308 ◆bYERsdX5HA:2015/02/01(日) 23:07:59 ID:evtmR2B2

【エルネスト・レヴィード】[MP残量:100%]
[状態:正常]
[装備:縄(間に合わせの鞭として使用)、シウススペシャル@SO1、ダークウィップ@SO2、自転車@現実世界]
[道具:ウッドシールド@SO2、魔杖サターンアイズ@SO3、煙草(ワイルドセブン)@BR、荷物一式]
[行動方針:打倒主催者]
[思考1:仲間と合流]
[思考2:炎のモンスターを警戒]
[思考3:ブラムスを取り引き相手として信用]
[思考4:ボーマンを信頼。レザードに警戒心と嫌悪感]
[思考5:なるべく早くF-4に向かい、チーム魔法少女(♂)と合流]
[備考1:レザードが知り得る限りのブラムスの弱点(属性等)を聞きました]

【現在位置:E-3南部の街道から少し森へ入った所で周囲を警戒中】

【残り15人+α】

309名無しのスフィア社社員:2016/02/08(月) 21:09:24 ID:lLqexHyE
>>306 ◆bYERsdX5HA氏
大変申し訳ありません。1年も経った今こちらの書き込みに気づきました……。
修正問題ないかと思われます! 収録しておきます。

310名無しのスフィア社社員:2016/02/08(月) 21:11:54 ID:lLqexHyE
一応あげ

311<エクスキューショナーが発動しました>:<エクスキューショナーが発動しました>
<エクスキューショナーが発動しました>

312<エクスキューショナーが発動しました>:<エクスキューショナーが発動しました>
<エクスキューショナーが発動しました>

313<エクスキューショナーが発動しました>:<エクスキューショナーが発動しました>
<エクスキューショナーが発動しました>

314<エクスキューショナーが発動しました>:<エクスキューショナーが発動しました>
<エクスキューショナーが発動しました>

315<エクスキューショナーが発動しました>:<エクスキューショナーが発動しました>
<エクスキューショナーが発動しました>


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板