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没作品投下スレ

90毒吐き2862:2007/03/17(土) 02:53:11 ID:obbHa4eY
毒吐きの方で肯定的な意見が頂けましたので拙作を投下させていただきました。
少しでも本スレで活躍されている書き手諸兄に追いつきたいと思いますので、
感想、批評などを避難所か毒吐きスレの方に書き込んでいただければ幸いです。
非常に勝手なお願いですが、今後の為にも出来れば辛口で批評をお願いします。

91魔法少女カレイドナナシ:2007/03/18(日) 23:08:25 ID:V1OwK2f2
書き手の端くれとして偉そうな事を言わせて貰う。


書き手になれ。いやむしろなって下さい。

視点が微妙な所さえどうにかすれば充分じゃね?

92魔法少女カレイドナナシ:2007/03/19(月) 20:53:03 ID:nXsot16g
>>91
実は小ネタで繋ぎくらいは投下したことあるんだけど、ペースが速すぎでついていけない俺がいる。
今までのも放送前後の時間に余裕のある時しか書けてない遅筆だから。
これも一週間以上かけてようやくこのレベル……
筆を速くしたいが、その前に視点固定や文の繋がりなんかの基本を徹底出来るようになったら書きたいと思う。
そんなこと言ってもらえて嬉しかったんだぜ!

93魔法少女カレイドナナシ:2007/03/24(土) 21:09:52 ID:9KWQlq76
カズマとヴィータが、二人組みのマーダーと遭遇してコンビネーション攻撃に圧倒された後、分断に成功すれば使えたかもしれないカット。


視線を交わして言葉を紡ぐ?
歩調を揃えて同じ道を歩む?

違う。背中合わせで立ち上がるのが彼らのあり方。
だがそれ故に、避けては行けぬ戦場の上でのみ、彼らは合同に近い相似形。

この一戦の間だけは、ヴィータは反逆の拳であり、カズマは守護の鉄槌だった。

立ち塞がる城壁を打ち砕く破城槌と、

「一対一なら、鉄槌の騎士ヴィータに―――」

立ち塞がる壁こそを打ち砕く反逆者、

「タイマンなら、シェルブリットのカズマに―――」

二人の声が、唱和する。

「「負けは、ねえッ!!」


カズマの口調は怪しいし、テンポ悪いし、これしか思いつかなかったし……

94魔法少女カレイドナナシ:2007/04/22(日) 20:47:37 ID:UVnsWIWg
惨殺と鬱展開ばっかだけど、もう実現できないネタだし晒してみる
暇とか出来たらアナザーとして執筆するかもしんない


・水銀燈にローザミスティカ4+ジュエルシード+レイジングハート+闇の書の7つで擬似アリスとしてラスボス化
・梨花ちゃんにレイジングハート収奪させて腹黒巫女オヤシロ梨花として無差別マーダー化
・マーダーに挟み撃ちさせて新SOS団でひぐらし皆殺し編風展開、梨花役としてアルルウが惨殺される
・ホテル戦でフェイトの誤解フラグを消化してなのはVSフェイト
・先生とジュン君遭遇、ジュン君を保護しようとした先生がキレたジュン君に惨殺
・ドラえもん、ブチ切れ水銀燈にジャンクにされる。

95 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:32:19 ID:PZT8JobA
『―――貴様は言ったな、俺を殺すと。ならば―――人類全てを、歴史もろとも殺す気で来い。
唯一無二の力を―――アルターがアルターと呼ばれる所以を見せてやる!』
 
 画面の中で男が咆哮をあげ、紺碧の、刃そのものに等しい装甲身に纏った。
「何だと!?」
 その瞬間、それまでワインを片手に死闘の映像を楽しんでいた男、ギガゾンビの顔色が変わった。
(馬鹿な……ありえん……)
 画面の中の男、劉鳳が使うアルター能力とは、超空間の一つの支流に当たる空間にアクセスすることで、
物質を原子レベルで分解し、各々の特殊能力形態に再構成することができる特殊能力だ。
 その性質ゆえ、亜空間破壊装置の影響を受け、その力は抑制されている――

 ――はずだ。

(さらに上の段階への『進化』など不可能なはずなのだが……)
慌しく立ち上がり、ギガゾンビは劉鳳の首輪から最後に送られた戦闘データーの数値に目をやった。
その数値を目にした瞬間、ギガゾンビは自分の顔が引きつるのを感じた。
(何だこれは……)
 そこに記されたデータは、恐るべきものだった。
 仮に劉鳳という男が本調子であったなら、亜空間破壊装置が作動していなかったら、どれほどの力を発揮していたか検討もつかない。
 ギガゾンビの背筋に氷塊が落ちた。
 苛立たしげに、手元のコンソールを叩き、劉鳳の戦闘時刻の亜空間破壊装置の作動状況をチェックする。
 ややあって、ギガゾンビの舌が大きく打ち鳴らされた。
 案の定というべきか、劉鳳の戦闘時刻の亜空間破壊装置の出力は、わずかに弱まっていた。
 1つでもこの空間を覆うには十分とはいえ、やはり5つあったものが1つになったのだ。
 当然だが無理は出る。

 ――とは言っても

(ええい! アルター能力者というのは、化物か!?)
 弱まったとはいえ、それはほんの僅か。
 本来、無視しうる程度なのだ。
 にもかかわらず、あの劉鳳という男は、亜空間破壊装置の壁をぶち破り、彼らの世界では『向こう側』などと呼ばれている空間に、
 アクセスしてのけたのだ。
 そして、劉鳳は死んだが、彼に勝るとも劣らぬもう一人の男は未だ生存している。
 首輪がはめられている限り、こちらの絶対的優位は覆らないとはいえ……。
 ギガゾンビは腕組みをした。
(気に入らん、気に入らんぞ……)
 取るに足らない存在だと思って侮っていると、足元をすくわれるというのは、骨身に染みるほどしっている。
 首輪解除の動きや、亜空間破壊装置の破壊をこれまで放置してきたのは、これもまた座興だと思っていたからだ。

96 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:32:50 ID:PZT8JobA
 
 ――無駄な足掻きをする人間ほどみていて面白いものは無い

 そして、足掻いた末に見せる絶望の表情は、とてもとても良いものだ。
『技術手袋』を支給したのは、そのためだ。
 途中で切れている鎖を金の鎖だと思って手繰り寄せる滑稽さを嗤い、金の鎖が切れた鎖だと知った時の参加者の絶望の顔を見るつもりで支給した。
 だが、どうにも嫌な予感がする。
 
 ――参加者達があまりにも希望に満ちすぎている

 もっと絶望に顔をひきつらせていても良さそうなものだ。
 ところが、彼らの中の幾人かには、明らかに『アテ』でもあるような言動がチラホラみられ、
その瞳には、目的地を定めたような光がある。
 そんなものが、あるはずはないのに。
 奴等の行く先には絶望の夜しかないはずなのに。
 だが、あの目が気になる。
 幾人かに宿る、真っ直ぐな、何かを見据えたものの目が。
(……ここで読み間違えると、万が一ということがあるかもしれんな……)
 参加者の中には、この世界につれてきた時よりも高い戦闘能力を引き出している者達がいる。
 データ上では『カートリッジ』を全弾使い切っているはずの魔力を消費しながら、怒りでそれを補ってしまった少女や、
劉鳳と同じ領域に達しつつある同じ能力を持つ青年。
意志の力で科学の壁を乗り越えてしまう者達。
彼等の首輪が万が一にも外れることがあれば……。

――脅威となりうる

ギガゾンビの眉間に深い皺が刻まれた。
絶対的な君臨者であるべき自分が、脅かされるようなことがあってはならない。
さりとて今、首輪を全て爆破してこのゲームを終わらせたくは無い。
この戦いは、貴重な収入源でもあるのだ。
どの世界でも、大抵の娯楽は飽食しつくしてしまい、刺激に飢えている富裕層という者は多数存在する。
厳選に厳選を重ねて客を絞り、リスクを承知で亜空間破壊装置に一瞬だけ穴を開け、彼等に圧縮したデーターを送信しているのだが、
凄まじい反響だった。
どれだけでも金を払うからもっと高画質の物を寄越せだの、倍額払うから他より早く配信してくれだのという人間の多いこと多いこと。
鋼の肉体を持つもの同士の戦闘に熱狂する者、美少女が無残に死んでいく様に大喜びするもの、
人間ドラマとやらに涙する者、
大して力を持たない者が圧倒的な力を持つ相手に一泡吹かせるところが好きだ、という者……。
 ギガゾンビは陰惨な笑みを浮かべた。
(これが人間、まさしく人間よ!)

97鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:33:35 ID:PZT8JobA
文明が進むにつれ、世の中は窮屈になった。
 血を、より残酷なものを、より刺激的なものを求めるのが人間の性だというのに、それをやたらと制限しようとする愚暗の輩が跋扈するようになった。

 ――くだらん、まったくもってくだらん

 コロシアムで、猛獣にキリスト教徒が食われる様をみて熱狂し、罪人の無残な処刑の有様をみて歓喜するのが人間の本性なのだ。
(それを分かっとらんカスどもが多すぎる!) 
ギガゾンビの生まれた世界では、暴力シーンが1分流れただけで、世の『良識派』とやらが発狂したようにクレームを入れるため、
創作物すら、毒にも薬にもならない物に成り下がっている。
それに比べて、21世紀の創作物のなんと刺激に満ちていることか……。
 ギガゾンビは、一冊の本を取り出した。彼のバイブルともいえる本だ。
 この本を読んだ時、震えた、絶頂を覚えた、勃起すらしていた。
 何度も何度も読み返した。
 そして――
 
この話を実現したいと思った。

 そのために、そのためだけに、科学を極めた。
 そして、古代の日本に王国を作り、このゲームを開催しようと準備を進めていた時に、横槍が入った。
 収監された時はもう終わったかと思った。
 
だが、帰って来た。

あの脱出不能と謳われる牢獄から自分は帰って来た。
(費やした時とたゆまぬ努力が無駄でなかったことの証の為に! 理想の物語の完成のために!
バトルロワイアル開催成就のために! 私は……。帰って来た!)
そして、ついにやり遂げた。
そう。

 ――信じていれば、諦めずに追いかけ続けていれば、夢はいつか必ずかなう!!

(この私の悲願の成就、誰にも邪魔はさせん! 邪魔はさせんぞ!)
 例え、参加者であろうと、だ。
 彼らはただ最後の一人になるまで殺しあっていればいいのだ。
 そうでなければ、原作どおりにならないではないか。
 ギガゾンビは手を伸ばし、コンソールを操作した。
 画面の中では、一人の少年が剣を天に翳し、誓いの言葉を発している。
(厄介なヤツだ! 貴様のような存在は、このゲームの中では、あってはならぬ存在だというのにっ!!)

98鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:34:09 ID:PZT8JobA
 侮っていた。
 まさか、一般人の、しかも幼児にあんな力があるなどと、予想外にもほどがある。
 
 ――目だ

 あの黒曜石の瞳に宿る大空を写したような輝きが気に入らない。
(真っ直ぐなあの目、あの目はバトルロワイアルには無用の物だ)
 あの輝きが他者に伝染し、集団が生まれ、科学の道理を意志の力でこじ開ける者達の首輪が外されでもしたなら……。
 ギガゾンビの眉間の皺は、更に深さを増した。
無論爆破をしようと思えば、できる。
 しかし、それでは物語としての完成度が落ちてしまう。
 主催者による遠隔爆破など、無粋の極みだ。

 ――だが、どうする?

 ギガゾンビの心の水面は大きく揺らいでいた。



 峰不二子は困惑していた。
 温泉に入ろうと、危険を侵して猶予の30秒を使って禁止エリアを突破し、やれやれと安堵の域を吐いた所で

――バッ●マンの仮装?

と思わずツッコミたくなる格好の男が現れたのだから。
いきなり、空間にドアが出現し、唖然としている間にそのドアをくぐって男は現れた。

――銃を抜く暇すらなかった

嫌な汗が背中をつたうのを不二子は感じた。
 今の自分は完全に男の間合いに入ってしまっている。
 自分が銃を抜こうとした瞬間に、男の剣が閃いて自分は両断されるだろう。
(……落ち着け……落ち着くのよ……)
 不二子は自分に言い聞かせた。
 無差別に参加者を殺して回る類なら、既に自分は死んでいる。
 にもかかわらず、何もしてこないということは、相手に何か考えがあるということだ。
 男が口を開いた。
「ようこそいらっしゃいました」

 ガクっと不二子の肩が落ちた。

「どうぞ、こちらへ。当エイハチ温泉は、サウナに水風呂、ジャグジーに露天風呂、色々取り揃えております。
まずは、どちらになさいますか?」
「……そうね、まずはゆっくりとお湯に浸かりたいわ」

99鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:34:34 ID:PZT8JobA
 脱力しつつ、不二子は何とかそれだけを口にした。
「ならば、どうぞ大浴場の方へ。当温泉の泉質は、アルカリ性単純温泉。適応症は、神経痛,リュウマチ,肩こり,腰痛 肥満,喘息,腎炎,糖尿病,冷え性,不妊症, 便秘,更年期障害,水虫等で、
古来より、「長寿美肌の湯」と称えられて――」
 男の口上を右から左へと聞き流しながら、不二子はほっと安堵のため息をついた。
 どうやら、何事もなく温泉に浸かれそうだ。
 ほどなく一行は温泉の入り口へと辿り着いた。
 のれんをくぐり、廊下を歩き、更衣室へと――
「……いつまでついてくる気?」
 不二子は背後の男に冷たい視線を叩きつけた。
「お手伝いは無用なのですか? お背中を流すお手伝いを――」
「結構よ!」
 ピシャリと言い捨て、不二子は更衣室のドアを閉めた。
 不二子の姿が消えると同時に、男からへりくだった態度が消えうせた。
「グ、グリフィス様〜」
「何だ? コンラッド」
 近寄ってくるコンラッドを見下ろすその目は、将の目だった。
 気圧されるものを感じつつも、
「どうして、何も聞かずに、簡単に入れちゃったギガ? 万が一あの女が、亜空間破壊装置を破壊しようとするヤツだったらえらいことギガ」
「その心配はまずないな」
「何でそう思う、ギガ?」
 首をかしげるような仕草をするコンラッドに、
「お前は匂いが分からないから、気づかなかっただろうが、あの女からは酷い刺激臭がした。
女にとってあんな刺激臭を漂わせておくことは耐えがたいことだ。匂いを落そうと温泉に来てもなんら不思議じゃない」
 ミッドランドの淑女達が、競うように香水を振り掛けていたのを思い出しながらグリフィスは言った。
「間違えるなよ? コンラッド。ギガゾンビ様の目的は、あくまでこのゲームを楽しむことだ。
参加者が一人減れば、それだけあの方の楽しみが減ってしまう」

――俺にとっても都合が悪いしな

 グリフィスは心の中で呟いた。
 あの女は、あちこちに傷を負っていたから、戦闘行為をしてきた可能性が高い。
 好戦的な参加者が減ることは、グリフィスにとっても不本意なことなのだ。
「なるほどギガ……。確かにそうギガね」
「だが一応監視はしておけ。あの女が、この施設を巡っているうちに……。という可能性はゼロじゃないからな」
「了解したギガ」
 コンラッドに指示を与え、グリフィスは歩き去った。

100鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:35:01 ID:PZT8JobA


 熱い湯が身体に心地よい。
「……ふぅ……」
 不二子は至福のため息をついた。
 この腐れゲームに巻き込まれて以来、心休まる暇がなかった。
 ふと、爪に目をやり、不二子はげんなりした。
 爪と爪の間に土が入り、黒ずんでいる。
(……まあいいわ。どうせまた、汚れるんだろうし)
 この温泉から出た後は、また血みどろの殺し合いをやらなければならないのだ。
 綺麗にしたところで意味は無い。
 そう、女らしい感覚など、今の自分にとっては無用の長物。
(これ以上漬かっているのは、まずいわね……。気持ちが萎えちゃう)
 不二子は、立ち上がった。
 湯が不二子のしなやかな、丸みを帯びたからだをつたい落ちていく。
 ドアを開け、置いてあるタオルで手早く身体を拭き、衣服を身に着ける。
(さて、これからどうしようかしら?)
 やはり、思考はそのことに集中した。
 殺し合いを避け、このまま山中に身を隠すという選択肢もあるにはある。

 ――だが、そんな消極的なことで勝ち残れるのか?

 不二子は嘆息した。
 力が足りない、どう考えても自分には力が足りない。
 不二子は頭を振った。
(嘆いていても仕方ないわ)
 もう自分は踏み出してしまったのだから。
 どんなことをしても、外道と呼ばれようなことをしてでも勝ち残ると決めたのだから。
 マッサージチェアに身を沈め、振動に身を委ねながら再び思考を巡らせようとして――

 ――ふと、引っ掛かりを覚えた。

 実をいうと、温泉に入っている時から、何かが引っかかっていた。
(何かしら……)
 こういう引っ掛かりを放置しておいてはいけないことを、不二子は知っていた。
 何故なら、こういう経験則から来る第六感的なものこそ、隠し扉の発見や暗号の解読につながるからだ。
 考えるうちに、一つの考えに不二子は突き当たった。

 あの男。


 温泉に自分を導いた男が、引っかかっているのだ。
 何故ここにだけ、『人間』を配置する必要があるのだ?
 不二子の中の好奇心が鎌首を上げた。
 マッサージチェアから立ち上がり、不二子は通路を歩き始めた。
 いくつかの部屋のドアを開け、中を調べてみる。

101鷹の女 ◆WwHdPG9VGI:2007/04/24(火) 20:37:35 ID:PZT8JobA
 サウナ、水風呂、ゲームコーナー、ランドリー……
「お客さん、何してるギガ?」

「何って……。どんなものがあるのか見て回ってるんだけど?」
 背後の気配に気づいていた不二子は、平然とツチダマの質問に答えた。
 調べられて何かまずいことでもあるのか? という風に。
「……そこから先は、従業員フロアギガ。関係者以外は立ち入り禁止ギガ」
「あら、そうなの? ごめんなさいね」
 しれっといい捨て、不二子は身を翻した。

 ――怪しい

 不二子の中で疑問がふくらんでいた。
 もう一度マッサージチェアに身を沈めながら、不二子は思考する。
(どうやら何か見られたくないものがあるみたいね……。しかもそれはとても大事なもの)
 どうにも血が騒ぐのを感じ、不二子は苦笑した。
 どんな状況であろうと、どんな覚悟を決めようと好奇心だけは捨てられないらしい。
 どの道このままでは、勝ち残るのはおぼつかない。
 自分には強力な力が必要なのだ。
 主催者の行使するオーバーテクノロジー、それを手に入れることが出来れば何かが開けるかもしれない。
(虎穴にいらずんば、虎子を得ず、よ……)
 マッサージチェアから立ち上がると、不二子は女子トイレに足を踏み入れた。
 便座の上に立ち、通風孔の枠を外す。
 我ながら、こういう作業はなれたものだと思う。
 何百回、いや、何千回と類似した行為を繰り返してきたのだから当然といえば当然なのだが。
 狭い通風孔に身体をねじ込み、さっき静止された通路の方角へと這い進む。
 
どれだけ進んだだろうか?

 だだっ広い空間が下に現れた。何やら音が響いている。
 今度は少し苦労したが、通風孔の柵をなんとか外し、不二子は床に向かって飛び降りた。
 軽やかに着地しながら、不二子は顔や手に煤がついているのに気づく。
 そしてそんなことに全く頓着していない自分にも。
(さて、お宝はっと……)
 不二子が奥へと足を進めようとしたその時、

「動くな……」

 冷徹な声が響いた。


 ――ここまで読んでくださってありがとうございました。


この後、不二子は拘束されるが、これ以上対主催がすすむとやばいと考えた
ギガゾンビの一存で――という展開になる予定でした。
他にも色々考えていたが、めでたく没と相成りました。
本当にアニロワの椅子とりゲームは地獄だ……。

102魔法少女カレイドナナシ:2007/05/08(火) 21:37:07 ID:A4qDXj42

住職ダマBことユービックは、こう言った。
「弾丸寄越して、皆は避けておくギガ」
皆に背を向け、後ろ手に弾丸を寄越せと手を差し出す。右手にはサブマシンガンを携え、
「──少しは足止め出来るかもしれんギガ」 
と、背後からスランが告げた。か、とオイルの混じった唾を吐きながら、
「足止め?―――だけど、相手はアルター使いギガよ?ユービックが頑張ってどれくらい持つギガ?」
「そうギガね……まあ、三秒くらいギガか?」
「嘘ギガ──実は右足の脛、折れてるギガね?」
「じゃあ、二秒ギガ」
「右鎖骨の骨折は?」
「……じゃあ、一秒ギガ」
まあ、とユービックは応えた。
「正直、──0.7秒くらいは、奴を足止めできるギガ?」
サブマシンガンを脇に構え、セラミックの身を笑いに震わせ、
「だから、さあ、」
「行くギガ。グリフィス様に知らせに」
言った瞬間だ。左右に、影が並んだ。
二つずつ。どれもくたびれ傷ついた無機物の体だ。
住職ダマB、ユービックは、強く鳴り出した地響きの中、
「皆……」
端の、長銃を背負ったツチダマが空を見上げて声を挙げた。
「疲れて―――、動けないギガ―――」
逆端のツチダマが、突撃銃を肩に担い、
「0.8秒って所ギガ」
頷いたのは二挺拳銃のツチダマで、彼は拳を握りながら、
「申告ギガ―――0.4秒!」
その声に、右から数字が走った。
「0.――7!」
日本刀を佩いたツチダマが言い、
「――1.0、ギガ!」
最後にスランが、
「ギガが1.3秒で、全員合計4.9秒!どう思うギガ?」
スランは摩擦熱に煙を上げるナイフを構え直した。正面を見据え、
「こんな感じで救えるギガ?グリフィス様を」
そうギガ、とユービックは笑った。
「――4.9秒もグリフィス様を救えるのなら、捨てたものじゃないギガ」
「確かにそうギガね。……グリフィス様に、4.9秒も時間を与えられるギガ」
「責任重大ギガね」
ユービックの言葉に、皆が笑った。
そして全員は、不意に笑いを止め、もはや姿も明確になったカズマに対し、
「構え―――!」
撃て、とユービックが言った。



……元ネタ解る人がいるのか激しく不安だ。

103魔法少女カレイドナナシ:2007/05/25(金) 21:38:54 ID:1.clWY.Q
ハルコンネンの弾が正式に消失したんで……

ハルコンネンの弾を火の中に突っ込んで暴発、大惨事とか考えていました。
しかし、機会を伺っている内に梨花死亡→翠の子から大集団へ→グリフィスへとなり、最終的に別の世界へと消えてしまいましたとさw

104魔法少女カレイドナナシ:2007/05/27(日) 15:52:01 ID:ajCAv9c2
「そう! 首輪の起爆装置だよ! 私の楽しみをここまで台無しにしてくれたお前たちも、ついにおしまいだ!
 全員まとめてドカーン! だ!」
「そ、そうはさせないぞ!」
 ズボンに挟んだ鉄の塊が、のび太の体温を吸いながら、自己主張を始めていた。
 対化物用拳銃ジャッカル。総重量13キログラム、装薬は.454カスール弾。馬鹿と冗談の総動員。
 大の大人でさえの代物が、小学生に扱えようはずもない。
 だがもう他に、戦う術はなかった。
「おっと動くなよ! このスイッチはすべての首輪につながっている……変な動きをしたらすぐに押すぞ」
 拳銃に手を伸ばしかけたのび太が、油が切れたように動きを止める。その目の前で、ギガゾンビのシルエットが大げさな身振りでなおも続けていた。
「だがどっちにしろ、お前たちには消えてもらうつもりだったんでな……では死ね!」
 緊張と焦りでかすんでいく視界の中で、のび太はギガゾンビの親指が動く瞬間を見た。
「うわあああああああああああ!」
 あっけないほどに乾いた破裂音がして、のび太が仰向けに跳ね飛び、倒れた。
 部屋に少しずつ広がっていく、火薬の混じった赤い鉄錆びの匂い。
 重く張りつめた沈黙の隙間を縫うように鼻腔に届いたそれが、思った以上に近い場所から漂っていることに気づいた時、
 精霊大王ギガゾンビはようやく現実を把握した。
「…………き」
 スイッチが吹き飛んでいた。
 右手首ごと、などという生易しいものではない。
 狙い違わずスイッチを捉えた.454カスール弾は、そのまま肘から先を巻き込みながらギガゾンビの胸を叩き潰し、
 その体を胴から上下に両断していたのだった。
「きさ、ま、きさま、……」
 スイッチを押そうとするまで、のび太は何もしていなかったはず。
 一体どうやって。
 本当にダメなのび太くんにも、取り柄のひとつはあるんだ、と、ドラえもんがいたなら、そう言っただろう。
 その取り柄は、宇宙最強の殺し屋との抜き撃ちの勝負を制する程度のものでしかなかったが、この場ではそれで充分であった。
「し、しにた、ない……」
 かろうじて生き残った冷静な思考も、のび太が自分に次の弾丸を送り込もうと照準しているのではないかとの恐怖が白く塗りつぶしていく。
 次を撃たれたら、今度こそ死んでしまう。
「……たす…………け……」
 ギガゾンビは気付かない。
 極限までの集中と、身の丈に合わない怪物拳銃の発射衝撃によって、のび太はとっくに目を回していることに。




こんな終幕。

105魔法少女カレイドナナシ:2007/06/02(土) 16:01:43 ID:ODLWeBz6
>>104
本編とのギャップで泣けてくる……w

106魔法少女カレイドナナシ:2007/06/04(月) 21:14:14 ID:fIbIZl.Q
クオリティ高い作品が多いなやっぱり

107黄金の海 1/5:2007/06/05(火) 02:01:12 ID:bYJS98Ps
 目に映る光景があった。
 どことも知れぬ城下に積み上がった死。
 足の踏み場も見えないほどに積まれた人間の死体。突き立つのは、無数の剣。打ち砕かれた廃城もまた、屍の荒野に崩れていた。
 戦支度の者が死ぬのは当然である。煌びやかな鎧を身に倒れた者には、無常感が胸に浮かぶ。
 布きれを当てた麻の服を着た老婆には、何と言葉をかければいいのだろう。
 死した赤子を守るように身を丸めた母には、どうすればいいのだろう。
 敵であろうと、味方であろうと、それは死である。
 ここは、彼らの住処だった場所であった。
 彼らの生きていた国であった。

 見下ろせば、何がどこにいるか、よくわかる。
 逃げようとして叶わなかった者も、最後まで義務を果たそうとした者も、何もわからないまま終わった者も。
 いくら目を凝らしても、この剣の丘で、生きているのは自分一人である。
 なぜなら、自分は王だから。
 王は頂きに立つものである。たとえそれが、民の屍の山であろうとも。
 数多の戦によって、王もまた屍と成り果てる運命も、自分には来ない。
 王の手の剣は、勝利を約束されている。


「俺は、俺の国を手に入れる」
 ミッドランドの白い鷹は、いかなる王よりも気品と威厳に溢れた、理想そのものの姿だった。

「聖上は迷わなかった。某も、そんな聖上のお力になりたいと思ったのだ」
 エヴェンクルガの武士は、憧憬を胸に天を仰いだ。
「すべては、我が主のため」
 ヴォルケンリッター烈火の将は、その名を口にするとき、慈愛の女神の面影を見せた。
「どんな敵が相手でも、グリフィスがいるだけで勇気がわいてくる。夢を見させてくれる」
 鷹の団の千人長は、陶然と眼を伏せた。

 王とはいかにあるべきか、未だ答えはない。だが彼らの眸に映る者たちに比べて、我が身のなんと不似合いなことだろうか。
 それでも我が身が選定の剣に選ばれたのは、何かの意味があったのではないだろうか。その疑問も、やはりしこりのように残っている。
 だから、高みを目指す輝く鷹に自分の夢を託して、エクスカリバーを預けた。

「あいつは、自分の思ったことを押し通すためには何だってやる奴だ」
 だが、身にまとった甲冑より深い黒を瞳に宿したあの剣士の言葉が、棘のように突き刺さっている。

 グリフィスにエクスカリバーを任せたことは、正しかったのだろうか。
 彼は確かに、王に相応しい気品と威厳を持っている。そして、王に必要な冷徹な計算の才覚も。
 その才覚が向く先は、果たして民の安寧なのだろうか。
 あの鷹のような瞳孔を思い出す度に、冷やかな不安が胸の内を撫でるのを感じる。
 鷹の翼は、民を包むのか。
 剣を渡したのは尚早であったかもしれない。
 荷に包んだ鞘が、妙に騒いでいる。

108黄金の海 2/5:2007/06/05(火) 02:01:38 ID:bYJS98Ps
 グリフィスは、すでに約束の場所に待っていた。
 その腰に佩いた見覚えのある剣を見て、セイバーの心中に安堵と共に暗鬱な気分が小さく湧き出してくる。
「グリフィス」
「無事だったか。どうだった、そちらの様子は」
 柔らかさを見せる顔に、少しだけ気が咎めるが、それでも言わなければならない。
「グリフィス、話がある。剣を……」
 なんと切り出そうか。穏便に言うべきか、直接的に切り出すべきか、呼びかけてもまだ悩んでいる。
 エクスカリバーは並の剣ではない。グリフィスがこれに勝る武器を得ていれば、返してもらえる希望は大きくなるだろうが、見たところその様子はない。
 そもそも、王の剣と説明して渡した物だ。穏便といっても、どう言い訳をつけるか。
 グリフィスの悠然とした表情が、セイバーの次の言葉を待っている。
「……剣と、鞘がある」
 口をついて出たのは、かつて己に問いかけられた王の資質だった。
「剣は、念じて振るえば千万の軍を打ち倒し、鞘は持つ者がいかなる傷を得ようとも、決してその命を手放させはしない。
どちらか一方しか得られぬ時、あなたはどちらを取る?」
いくら柔らかく言おうと、疑念は隠しおおせるものではない。グリフィスは、その意を明確に汲み取ったようだった。
「答えてほしい。剣と、鞘と」
 彫像めいた無機質さをまとって、グリフィスは形の良い唇を小さく動かす。
「剣を。俺の夢を叶えるための、至高の力を」
「私もかつて、同じ問いを受けたことがある。剣と、鞘と、いずれを取るか」
 表情を変えないグリフィスの瞳に、己の視線を突き立てる。見通せたのは、いかなる手段をもってしても見通せないという冷徹な事実のみ。
「私も、やはり剣と答えた。マーリンは……師は、王ならば鞘を取るべきだと言った。だから、あなたにその剣を預けておくことはできない」
 空気がガラスの冷たさを帯びた。
「俺には、いつも夢に見る光景がある」
 悪夢なのかもしれないが、どうかはわからない、とグリフィスは薄く笑う。
「町の路地裏に入ると、城が見えるんだ。高く、遠く、とても輝いて見えて……俺もあそこへ辿り着きたいと、ずっと思っていた。
だが、あそこへ行くためには、道を作らなければいけない。人の屍を積み上げて」
 急拵えの鞘から、聖剣が引き抜かれる。陽を受けて輝く刀身に映るのは、銀と金。
「俺は、俺の国を手に入れる。この剣があれば、それが果たせる」
 再び柔らかさを取り戻した微笑で、グリフィスは続ける。
「お前の願いは俺が果たす。王には、俺がなろう。お前も俺の手伝いをしないか。お前がいれば、俺の夢も叶う」
 剣が降ろされ、セイバーに手が差し伸べられた。

 王たることは、その足下に民の屍を踏むことである。
 民を導くために遙かな高みを目指して――しかし、屍を積まねば高みへ行くことは叶わず――そしていくら積もうと、終には手が届くこともなく――
 守るべき者たちを踏みつけに、己の血を流すことも許されず、積まれた死の上を往く者である。
 すべては、屍たちを救わんがため、王は苦難を背負う。

 今ならわかる。
 己のために屍の果てを望む者を――この男を、王にしてはいけない。
 鷹は、飛ぶ。地に這うすべてを見下しながら。

「エクスカリバーを、返す気はないのですね」
 差し出されたままの手への返答に、セイバーは刀を抜いた。
 応じるようにグリフィスの剣先も上がる。
「俺が勝ったら、お前は俺のものだ」
 鷹が笑みを消した。
 磨き上げた鋼刃の貌だった。

109黄金の海 3/5:2007/06/05(火) 02:02:25 ID:bYJS98Ps
※     ※     ※

 セイバーが剣先を迎え撃とうと微動した瞬間、グリフィスの右足が雷撃のように跳ねた。
 応じるのが僅かに遅れた。斬り落しはできないと見て取って、脚に鍔元を合わせる。
 そして蹴りを防いだ刹那、セイバーは自分が宝具の間合いに踏み止まってしまったことを悟った。
「約束された――」
 タイミングは完璧だった。
 この間合い、この刀、この体勢では、振るうのが真の使い手でなかろうとも、宝具を防ぐことは不可能。
 だが幾多の戦場を乗り越えた騎士の頭脳は、意志と無関係に対抗手段を探し――そして、見つけた。
 荷から突き出した鞘を、素早く引き抜く。
 剣に対抗できるものは、彼女の知る限りこれしかない。
「――勝利の剣!」
「全て遠き理想郷――!」

 無論、ギガゾンビの作り上げた空間で、聖剣の鞘はその力を大きく縛られていた。
 それが真の持ち主であっても、鞘に秘められた宝具の力を引き出すことは叶わない。そして、持ち主自身もそれを知っていた。

 だから、それは、ただの風王結界である。
 聖剣の一撃など、到底耐えられない脆弱な武装だった。

 だが。
「……ベディヴィエール?」
 屍があった。
 地より身をもたげ、王のために鞘へ手をかざす騎士の死。
「ケイ……」
 その無理解を詰るかのように、手をかざす死。
「ガウェイン、ランスロット、パーシヴァル……」
 忠義を満たした瞳、詫びるような横顔、敵のみを見つめる力強い腕。
 すべてが、身に剣を受けた屍である。
 すべてが、王が踏み敷いた者たちである。
 すべてが、王の鞘を支えていた。

 あるいは、選定の剣の鞘が見せた、一時の幻だったかもしれない。

 風王結界は破れ、吹き散らされた魔力が風となって散っていく。
 宝具の直撃を受けて鞘は縦に真っ二つに割れ、剣から放たれた膨大な魔力の激流はセイバーの身を切り苛む。
 そして、必殺であるはずの「約束された勝利の剣」は、その使い手に勝利をもたらさなかった。
 真名の解放に絶大の信頼を寄せていたわけではなくとも、セイバーを葬れる自信はあったのだろう、グリフィスの目が見開かれていた。
 その一瞬の隙を狙い、セイバーは刀を振りかぶった。
 刹那、グリフィスの顔が鋭さを取り戻す。刀が届く前に、翻った聖剣がセイバーの胸当てを貫いた。
 十分な状態であれば、すぐに刀を変化させて受けられたはずである。防ぎ切ったとはいえ、宝具のダメージは確実にセイバーの命を削っていたのだ。
「……残念だ」
 道端の石ころを見る目で、グリフィスはエクスカリバーをねじった。
 傷が抉られ、背中まで通った。
 セイバーは血を吐いた。
「……させません……」
 引き抜かれようとしたエクスカリバーを、セイバーはもたれかかるように抱え込んだ。
「あなたに……王の剣を……渡すわけには……」
 グリフィスは、無言で力を込めた。だが、剣は根を張ったように動かない。
「……なんだと」
 抜けないと見るや、押し込む。が、やはり剣は動かない。
 セイバーを斬り割ってでも、と全身の力を込めても、それ以上ただの1ミリも、剣は動かなかった。
 まるで石にでも刺さったかのように。
「……国は、民は、王のためにあるものではない……」
 セイバーが後ろへ大きく下がったと同時に、グリフィスの手からエクスカリバーが、鉛のように抜け落ちた。
 そしてその目の前で、自らの胸から剣を抜き放ったセイバーが、ゆるゆると剣を腰に構えた。
「約束された――」
 グリフィスの手が疾る。だが遅い。
「勝利の剣――――」

110黄金の海 4/5:2007/06/05(火) 02:02:55 ID:bYJS98Ps
 目に映る光景があった。
 どことも知れぬ城下に積み上がった死。
 足の踏み場も見えないほどに積まれた人間の死体。突き立つのは、無数の剣。打ち砕かれた廃城もまた、屍の荒野に崩れていた。
 戦支度の者が死ぬのは当然である。煌びやかな鎧を身に倒れた者には、無常感が胸に浮かぶ。
 布きれを当てた麻の服を着た老婆には、何と言葉をかければいいのだろう。
 死した赤子を守るように身を丸めた母には、どうすればいいのだろう。
 敵であろうと、味方であろうと、それは死である。
 ここは、彼らの住処だった場所であった。
 彼らの生きていた国であった。

 見下ろせば、何がどこにいるか、よくわかる。
 逃げようとして叶わなかった者も、最後まで義務を果たそうとした者も、何もわからないまま終わった者も。
 そして今、この屍の山を這い上がろうとしていた少年が、力尽きて屍に消えた。
 彼は誰だったろう。銀色の髪をした、美しく烈しい少年だった。
 また、この剣の丘で、生きているのは自分一人になった。
 なぜなら、自分は王だから。
 だがそれももう終わる。
 頂きもまた、屍の山には違いなかったのだから。

 ふと足元を見れば、記憶の彼方に掠れ果てた男の顔が、声にならない叫びの形で王を見上げていた。
 何が不満なのかオーガのようになってしまっているその顔に、かつて王は後ろめたさを覚えながらも、その意思を押し潰し、
 その顔を鉄の仮面で覆っていたことを思い出した。
 そして王は、鞘に添えられた手と、貌を閉ざした王を詰る目を思い出した。
「――聞こう」
 そんな言葉が、王の口をついて出た。
「聞かせてくれ。皆の言葉を。聞いてほしい。私の言葉を」
 男の屍の、叫びの形をとった口が、僅かに閉じられる。
「遠慮をすることは……ない。私は――――――」
 王は民の中へ還った。

111黄金の海 5/5:2007/06/05(火) 02:03:22 ID:bYJS98Ps
◆舞台裏
古代中国に王道と覇道という区別がある。王道は徳で国を従え、覇道は武で国を従えるというのが大意。
Fateの詩にある「剣の丘」を、屍の山と翻案すれば、この二人は同じものを見ていたことになる。
山を登りたい覇道のグリフィスと、山を降りたい王道のセイバーは好対照の良コンビじゃないかと目処は付けていた。
王道を象徴するものが剣(エクスカリバー)、覇道を象徴するものが卵(ベヘリット)というのが皮肉が利いていてよいと思ったが、活用できず。

本編見てて、どうやら他人でもエクスカリバーを使えるらしいと描写があったので形にした。
ただし
・セイバーがグリフィスの深層心理(国の話)を覗けるくらい親しくなっている
・グリフィスの資質に触れて、剣を譲渡している
・ガッツとグリフィス絡みの会話をしている
以上の条件があるので、目処がたった時点で事実上ルート消滅していたパターン。
書いてる間中、グリフィスの顔を思い出そうとして伊良子清玄が浮かんできて困った。

タイトルは、見渡す限りの麦畑。屍の山に匹敵する強大な生のイメージ。王の行く最後の場所。


◆FAQ
Q.擬似アヴァロンの際にセイバーが見た人々は何?
A.幻覚です。

Q.「屍の山」「剣の丘」っていうのは原作でも二人とも見ていたもの?
A.幻覚です。

Q.最初と最後の屍の山とかは?
A.幻覚です。

Q.グリフィスがセイバーからエクスカリバーを引き抜けなかったのは、選定の剣に選ばれる資格がないっていうこと?
A.幻覚です。

Q.なあ、あんたどっかで……
A.幻覚です。

112腹黒巫女オヤシロ梨花ちゃん ◆qwglOGQwIk:2007/06/12(火) 21:08:31 ID:9PPMEY7w
予約取れなくてぶっちゃけ暇だからいつかは書きたかった没ネタ投下。

推敲とかはせずに勢いのまま書き上げたので色々おかしいかもしれないけどカンベンして!

113魔法少女カレイドナナシ:2007/06/12(火) 21:08:47 ID:9PPMEY7w
……実に酷い有様だと思った。初めに私が思ったことはただそれだけだった。
怪我の治療、そして新しい駒を手に入れるために向かった病院だが、辺り一面に広がるのは瓦礫だけ。
私の居たホテルのほうも綺麗に崩れ去ってしまっていたことからみて、かなり好戦的かつ強力な生存者が複数存在するのは間違いない。
今更ながら、私にしては珍しく今はツイているんだということを実感した。

ホテルの集団に紛れ込み、手持ちのスタンガンと散弾銃付き傘で野原みさえを殺したのを見つかった時は「運が悪かった。」とも思った。
だが、こうして一日を生き延びれたことさえが幸運だったのだ、所詮小さな少女に過ぎない私がどんな武器を持とうとも、絶対に敵わない連中だっている。
ホテルに都合よく乱入してくれたあの化物には感謝をしなければならない。と同時に頭が痛い。
なぜなら私はあの化物を倒して優勝しなければならないのだ。天地がひっくり返ってもあんなのには勝てっこない。
私の手持ち武器は相変わらずスタンガンと傘だけ。
普通ならば使い勝手のいいスタンガン、そして強力な銃。相対的には恵まれている武装ともいえるだろう。
だが、それでは駄目なのだ。恵まれていても所詮普通、一般の範疇。一般をはるかに凌駕する超常の生物には勝てない。

……足りない。駒が足り無すぎる。

目の前に広がるのは唯の瓦礫、周りには人がいない。
ここまで殺されずに済んだのは幸運だ。私を殺そうとする人間に会わなかったのは幸運だ。
だが、それでは駄目なのだ…………。
私には駒が必要なんだ。化物さえも打ち砕く強力な駒が。

それこそこの病院を倒壊させるだけの、有無を言わさぬ強力な力の持ち主が私の駒になればよい。
だが、それはありえないだろう。
病院はとっくに倒壊している。そこには誰の姿もない。
つまりその力の持ち主は、瓦礫に巻き込まれて死んだか、病院に乗った参加者を全て殺し終わって移動を終えたか。
その二択でしかない。私が動いた先に都合よく強力な駒がいた等という、幸運はなかったのだ。

114魔法少女カレイドナナシ:2007/06/12(火) 21:09:07 ID:9PPMEY7w
とりとめのない思考を続けながら、私は瓦礫の山を歩き回り、何か無いか探していた。
もしホテルのように襲撃者が現れていった結果ならば、ここに何か役立つものがあるかは怪しいだろう。
だが私は、瓦礫に巻き込まれて死んでしまい、たまたま見つからなかった死体とその道具が無いかを探しているのだ。
戦略から言えばここを離れ、生存者がいたのならば移動した別の施設へ向かうほうがよい。
だが、どこへ向かえばいいのか?

ホテルやレジャービル側は論外、私がこのゲームに乗っていることを知っている連中と対面することになる。
近くに見える図書館はといえば、近くのビルから付近を観察したら崩れ落ちていたという顛末。
北側にもやはり破壊活動をするだけの参加者がいる。論外。
残った南はどうかと言えば、駅がある。駅ならば参加者との遭遇率も上がるだろう。
だが、これでは上がりすぎるのだ。
向こう側の駅からは電車が発進され、東西の駅が交流しているのを私は知っている。
ホテルから脱出した連中が駅へ向かい、こちらへ来たならば鉢合わせ。やはりゲームオーバー。

……結局の所、私はリスクを犯すぐらいならば誰も居ない病院に留まると言うことを選択したということだ。
我ながら弱気である。部活のセオリーならば運気が向いている時にこそどんどん行動をしなければいけないのだ。
そんなことを圭一が言っていたが、その圭一はもう死んでしまった。私の知らないどこかで死んだ。
レナもそんな風にして死んでいった。
そして魅音は私自らの手で殺した。

部活メンバーは頼れる仲間ではなかったが、大切な大切な仲間だった。
彼らは弱かった。化物に立ち向かうだけの力は無かった。
もう半分以上の参加者は脱落済み。その半分の中に残れた幸運などは関係ない。
私が必要なのは駒、使えるならば猫の手でも羽入の手でも欲しい。
何も無いなんて諦めるのは早い、わずかでも可能性があるのならば、すがるしかないのだ。


「あうっ……痛ったたた…………」

……少々考え事が過ぎたせいか、瓦礫に躓いて転んでしまったようだ。
瓦礫に頭をぶつけて死ぬなどと言った間抜けな死に様にならなかったのを感謝するしかない。

……ん?

瓦礫の隙間に何か見える。一体なんだろうか。
私は気分が高揚するのを感じた。こうして瓦礫に転んだのは不運だが、それ以上の幸運を掴んでしまったのだ。
確率的には低いはずの遺留品をこうして発見した。私のツキはまだまだ見捨てたものではないらしい。

そんなこんなで私は新たに増えた擦り傷を省みず、両手を使って瓦礫を退かす。
そして発見できたのは女の死体とディパック。やった、やった。

私はディパックをあけ、中身を取り出す。



何も無い…………?

115魔法少女カレイドナナシ:2007/06/12(火) 21:09:23 ID:9PPMEY7w
私が手に入れたディパックから出てきたのはランプや地図といったどうでもいいものばかり。
役に立ちそうな道具は、な〜んにもない。つまりただのはずれ。
神様なんて居ないというか、役に立たないのはよく知っている。だがここまで夢を見させて落とす神というのは聞いたことがない。
まあ、あの変態仮面の殺し合いだ。何が起こっても不思議じゃないのは知っている。

「本当に、滑稽ね……」

そういって私は自嘲の笑いを上げる。
期待させて落とされたという結果には、もう笑って誤魔化すしかなかったのだ。


『……Master?』


はっとなり周りを見渡す。私はしまったと思いながら360度見渡すが、相変わらず誰も居ない。
気のせいか?それとも私もこの場で狂ってしまったか?等と考え、溜息をつく。

『マスターなんですか?マスター、生きているのなら返事をしてください』

良く見れば女の死体の傍には赤い宝石。ぴかぴか光りながら声を出している。
良く出来たおもちゃかと思ったが、その可能性のほうが低いだろう。
化物が居るんだから、しゃべる宝石が居ても不思議ではない。

「マスターって、私のことかしら?」

そう答えて宝石を拾い上げる。

『すみません、勘違いでした』
「……勘違いとは酷いわね」
『あなたの声がマスターそっくりでしたので、つい勘違いをしてしまったのです』
「ふ〜ん……」

宝石は唯の勘違いをしていただけらしい。だがその結果としてこれを発見できたのだから幸運だろう。
私はこの宝石のマスターとやらに感謝しなければならない。
女の死体は赤く血で染まってぐしゃぐしゃとなり、見るに耐えない。
彼女がそのマスターとやらだったのならば、とりあえず感謝だけはしてあげる。

116魔法少女カレイドナナシ:2007/06/12(火) 21:09:34 ID:9PPMEY7w
「さて、勘違いついでに貴方のこと、そしてここで何が起こったかを教えてもらおうかしら? 」
『分かりました、情報交換をしましょう』

そんなわけで情報交換。要約するとこうなる。
この赤い宝石はインテリジェント・デバイスという魔法の道具で、本来の持ち主は高町なのはという。
この病院には何人かの参加者がいて、レイジングハートの仮マスター遠坂凛が不幸にも誤解され、戦闘となってしまった。
その誤解の原因とは水銀燈というドール。ようするにローゼンメイデンのせいらしい。
仮マスターの遠坂凛は誤解を解こうとするが失敗に終わり、やむなく交戦した結果として病院が戦闘に巻き込まれ倒壊。
遠坂凛は瀕死の重傷を負った所を水銀燈に止めを刺され、レイジングハートはそのまま倒壊に巻き込まれたらしい。
レイジングハートは水銀燈に破壊されそうになったが、そこで別の参加者が彼らを発見。
そのまま水銀燈と乱入射はここを立ち去ったというわけだ。

『……というわけです』

そんな締めでレイジングハートの長い身の上話は終わった。
レイジングハートは英語でしゃべっていたが、何故か英語の出来ない私に言葉が理解できたかは考えないこととした。
この殺し合いそのものがおかしいのだから、考えるだけ無駄。
重要なのは一つ、この宝石を利用する方法。

「話は分かったわ、それであなたは私に何をして欲しいのかしら」
『はい、貴方に私を使ってもらい、仮マスターやマスターの敵を討って欲しいのです』
「まあそれは分かったけど、私みたいないたいげな小娘に凶悪なドールを倒せと? 」
『私に出来る限りは協力します』
「で、何を協力してくれるというのかしら」
『心を澄ませ、次の言葉を復唱してください
 我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は天に、そして不屈の心はこの胸に。
 この手に魔法を。レイジングハート・エクゼリオン、セットアップ!』

一体何が起こるのかわからないが、物は試しである。
私は数分かけて心を澄ませ、その言葉を暗唱した。



「我、使命を受けし者なり。契約のもと、その力を解き放て。風は空に、星は天に、そして不屈の心はこの胸に。
 この手に魔法を。レイジングハート・エクゼリオン、セットアップ!」

117魔法少女カレイドナナシ:2007/06/12(火) 21:09:45 ID:9PPMEY7w
レイジングハートの光が止むと、私の服装が変化していることに気がついた。

着物、袴、右手には鍬。綿流し祭りで使っていたアレだ。

……いったい何が起こった。

『どうかしましたか……? 』

少々混乱しながらも、どうやら私はテレビによくある魔法少女物のアレをやってしまったという考えに至る。
が、これはあんまりじゃないか?
魔法少女への憧れが無いといったら嘘になる。まだ幼い頃はテレビで見た魔法少女物のアニメに憧れていたものだ。
長い長い惨劇の果てに何度も繰り返し見たアニメのことなんてどうでもよくなっていたが、なれるならなりたかったものだ。

「だいたいねぇ! 巫女服って何よ巫女服って? 」

思わずツッこんでしまった。圭一ではないが魔法少女と言うのはフリフリのドレスやセーラー服っぽいものだというのが定番である。
定番に逆らうからと言って、巫女は無いだろう巫女は。
これではあまりに新鮮味が無い。女の子の夢が台無しである。

『……これが私に出来る協力です。それにしても驚きました……』
「はぁ…………、何に驚いているのかしら? 」
『貴方がまさか私を使いこなせるとは思いませんでした。それだけでなくかなりの魔力を感じます』

どうやら褒められているらしい。魔力ねえ。自称オヤシロ様こと羽入が見えるというどうでもいい力のことだろうか。
オヤシロ様の生まれ変わりとやらは、どうやら本人も知らない非凡な才能があったらしい。

『それで、私に協力していただけないでしょうか……ええと…』
「…私の名前は古手梨花よ」
『古手梨花さん、お願いします』

考えるまでも無い。即答だ。

「悪いけど、貴方の頼みは飲めない」
『……すみませんでした』
「あら、謝る必要なんて無いのよ? 」


くすくすと悪意を込めて笑いながら、レイジングハートに現実を突きつけてやる。


「私は殺し合いに乗っているもの、もう三人は殺したわね。
 貴方は私の手駒として協力してもらうことがもう決まっているのよ」

118魔法少女カレイドナナシ:2007/06/12(火) 21:10:01 ID:9PPMEY7w
『梨花さん、なぜこんな殺し合いなどに? 』

第一声がそれか、まあ普通と言えば普通だ。

「私には叶えたい願いがある、だから殺し合いに乗った。これじゃ駄目かしら? 」
『私には理解できません。あの仮面の男が素直に願いを叶えるでしょうか? 』

答えに詰まる。考えていなかったといえば嘘になるが、改めて言われると少々詰まってしまう。

『梨花さん、考え直してください』
「……考え直す気なんて無いわよ。それぐらい分かってる。
 でも私にはこれしかないのよ。貴方には分からないでしょうね…………」

レイジングハートの説得などどうでもいい、決心は変わらない。

『分かりません、殺し合いに乗る等ということは…』
「…意味が違うわよ。私が言っていることは違う。
 仲間を救えない苦しさ、自分ではどうにもならない運命」
『……やはり分かりません。私やマスターならばそんな運命は破って見せます』


そういってレイジングハートは私を説得する。
貴方にも私にも力はある等とか、これだけのことをやってみせたなどといって自分の解決した事件の顛末も語る。
彼女はこの期に及んで私を説得し、改心させたいらしい。

「レイジングハート、聞きなさい。貴方のマスターは死んだ、仮マスターの遠阪凛も死んだ」
『…………』
「どれだけ貴方に力があろうとも、救えない物があるのよ
 ……ふふ、今度は貴方がだんまりかしら? 」

そう、救えない物がある。私は雛見沢でそれを何度も、何度も思い知った。
どうやっても救えなかった私の両親。私は数え切れない繰り返しの果てに両親を救うことを諦めた。
私はどうやっても救えない、二者択一の運命があることを学んだのだ。

「私は救えるものだけ最高の形で救う。雛見沢の惨劇の運命を止めるためならなんだってする
 そのためならばあの変態仮面に心も体も売る覚悟はある
 私はそのために大切な仲間を殺した。親友を殺す覚悟ももうできている」
『……私には理解できません。友人を殺してまで手に入れたいものなんて理解できません』
「デバイスとやらもずいぶん物分りが悪いのね……
 レイジングハート、貴方はただの道具で私が居なければ何も出来ない
 あなたの運命は私に握られているのよ? どうにかできるつもりならどうかしてみなさい? 」

レイジングハートは黙りこくる。いい気味だ。
羽入は物分りが良すぎてイラついたが、こっちは頑固すぎてイラつく。
だからか、ネチネチと苛めたくなるのだ。

「ね?できっこないでしょ。分かったら黙って私に協力しなさい」
『……分かりました。マスター……』
「そうそう、道具は黙って主人に従えばいいのよ
 分かったらさっさと魔法や呪文を教えなさい」
『はい、マスター……』

119魔法少女カレイドナナシ:2007/06/12(火) 21:10:29 ID:9PPMEY7w
「ディバイン、バスタァァァァァァァァ!!! 」

私がそう詠唱すると、レイジングハートから巨大な光線が発生する。
発生した光線は全てを飲み込み、瓦礫を持ち去っていった。

「…はぁ、はぁ、凄い威力じゃない、レイジングハート」
『……驚きです』

……なんという威力。

正直言って私も驚きだ。途中まで半信半疑でやっていたせいか発動までかなり時間はかかった。
だが、その対価に見合うだけの、手持ちの武器すらはるかに凌駕する圧倒的な力。


……いける、これならいける。



――あの化物さえも、運命さえも打ち砕ける。
――もう私は、無力な少女なんかじゃない。



「レイジングハート、貴方は凄いわね」
『……』
「褒めたんだから、素直に喜んで欲しいものね」
「レイジングハート、私は決めたわ」

私はもう哀れな古手梨花なんかじゃない。私は決めた。言ってやった。



「私は哀れな少女の古手梨花であることをやめる。私の名前は魔法少女フレデリカ・ベルンカステル」



反応が無いとちょっと寂しい。というかちょっと痛いかもしれない。

「……ま、貴方にはそんなことどうでもいいかしらね。……くすくす」

とりあえず笑って誤魔化すことにする。

「それじゃ、続きを教えてもらおうかしら」
『……はい、マスター……』





無力な少女はもうここにはいない。私はフレデリカ・ベルンカステル。


運命を、惨劇を自らの力でぶち壊すことができる超常者。

120魔法少女カレイドナナシ:2007/06/12(火) 21:18:00 ID:9PPMEY7w
TIPS(FAQ)

梨花ちゃんは169:"深まる疑心"の後禁止エリアでジュンの死体を発見。
翠星石がショックで逃亡した所をジャイアンが追っかける。
魅音は梨花ちゃんと二人きりになったところで年少組に見切りをつけて魅音をスタンガン+傘のコンボで殺害。
その後ホテルに行きホテル組と合流。口八丁で騙して入り込む。
疑心を煽るためにみさえを殺したはいいがガッツに見つかって殺されそうになる。
その後本編同様ルイズ&アーカード突っ込んで大惨劇。うまく立ち回ってホテルから脱出。
そしてホテル戦終了後に没ネタへと続くって感じ。


凛は誤解されて死にました。銀様とか病院組は誰だったかとか細かいのは考えてない。


書けるなら絶対書きたかったけど、梨花ちゃんが死んじゃったんで没送り。
ああ、畜生畜生ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ。

121魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 15:49:19 ID:nK54p8y2
明らかに参加者の参戦時期を無視しているしそもそも文章が酷いのでここに投下させていただきます。
ここに番外編なのでここに投下するべきかは正直わからないけど間違ってても許して。

-Call To Power-

――英国上空
「はぁ〜。生き残ったはいいんだけどなぁ。まったく」
大英帝国空軍基地に着陸しようとしているビジネスジェット機の中で長髪のフランス人が呟く。
彼はピップ・ベルナドット。フランス人といっても今はほぼ無国籍といってもよい。
世界中の地獄で二束三文のはした金で誰に言われたわけでもなく殺したり殺されたりする傭兵である。
機内の客室には空の棺おけが2つ。それが彼の悩みの種である。
「これからどうしよっかなぁ」

122魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 15:51:52 ID:nK54p8y2
――ロンドン郊外、王室別邸“クラウニーハウス”
「ヘルシング卿、まだ彼は到着しないのですか?」
「は、もうまもなく到着すると思われます」
丁寧な、それでいて威厳のある声の主に卿と呼ばれた女性、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングはできる限り丁寧に、かつ簡潔に答える。
英国人としてそれは常識である。
なぜなら問いかけてきたのは大英帝国において唯一で絶対の人、クィーンその人なのだから。
インテグラの両側には11人の英国の政治家、貴族、軍人が腰掛けている。
インテグラを含めた彼ら12人こそが英国のすべてを裏から操る英国王室に忠誠を誓った円卓会議のメンバーである。
「アンデルセンを使いに出したのがマズかったのでしょうか?」
その12人の円卓会議とは反対側に立つその場には似つかわしくないカトリックの神父の格好をした銃使いが主に問う。
「否。アンデルセンとてこの任務の重要さは理解している。それに残念な、そして不愉快な事にわれわれは後手後手に回っている。我々の行動は完全に奴らに筒抜けだ。彼ほどの手練でなければ接触すらできなかったろう。奴らの協力者はあらゆる所にはびこっている。政府、軍部、経済界、宗教、エトセトラ、エトセトラ。永遠の命という誘惑に耐え勝てる程の人間など数少ない。そうだとも、世界中にいる。英国にも、ヴァチカンにも、そしてたぶんこの中にも。糞虫共め」
怒りに満ちた表情で語ったのはヴァチカンの唯一の戦力であり化け物退治、異教弾圧、異端殲滅のプロフェッショナルである存在しないはずのイスカリオテの名を持つヴァチカン第十三課局長エンリコ・マクスウェルである。

123魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 15:53:54 ID:nK54p8y2
「っちわー」
なんてこった。右手には英国の著名人11人にインテグラ嬢。
左手にいるのは服装からしてヴァチカンの代表だろう。
何より目の前には大英帝国の頂点に立つクィーンが座っていやがる。
ここは明らかに俺みたいな傭兵風情がいる場所じゃない。
「ただいま帰りました」
「クィーンの御前だ。帽子を取れ。何があったか説明しろ」
「こいつは失礼しまた」
そう言って俺は帽子を脱いだ。
「な、何があったって程のことはなかったんだが。テレビでホテルでアーカードの旦那とセラス嬢ちゃんが戦闘しているって聞いて俺は警察の本部を爆破して、その後でヘリを奪ってアーカードの旦那とセラス嬢ちゃんを迎えにホテルに行ったんだがホテルの屋上には誰もいなかったんだ。屋上にはトランプが散らばっていてと焼死体が一体あっただけであとはめちゃくちゃになっていた。サツがまた集まってきたからそこにずっととどまる訳にも行かなくて仕方なくせめてそこにあった棺おけだけ積んでその場からずらかった。そんで郊外のセントローズとかいう辺鄙な町のモーテルで待機してたらあんたらのとこの神父が来て飛行機の譲渡書をくれたって訳」
「その神父はその後どうした?」
マクスウェルとか言うヴァチカンの男が聞いてきた。
「知らねえ。アーカードの旦那がいないと知ったら失望したようにどこかへ行きやがった」
失望のため息が聞こえた。それもそうだ。
俺の話にアーカードの旦那とセラス嬢ちゃん、あとあのウォルターとかいう執事が消えたことに関する手がかりになるような話は無かった。
今、ヘルシング機関がきれるカードは俺の傭兵たちだけなのだ。ヴァチカンの連中も同じだ。
彼らの最強のジョーカーが消えた今、残ったカードでは誰がどう見ても決定力不足だ。

124魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 15:55:18 ID:nK54p8y2
「コンニチハ」
・・・
へっ?な、何だこいつ?
そこに立っているのは俺以上に場違いなナチス武装親衛隊の准尉の服装をした猫耳の少年だった。
頭は混乱していたが体はとっくに反応していた。ヴァチカンの銃使いも同じようだ。
「待った。僕は特使だ。やりあうつもりはないよ」
「特使?いつの間に?いったいどこから?衛兵!?」
インテグラ嬢がそばにいる衛兵に問う。
「さ、さあ?け、警備は完璧のはずです。なにせクィーンがいらっしゃっていますから。破られた様子もありません」
「無駄だよ。僕はどこにでもいるしどこにもいない」
くそ、また化け物か。
「今日はお集まり頂いた英国・ヴァチカン両陣の方々へ我々の指揮官、少佐殿より大事なお話がありますのでしっかりとお聞きください」
そういってそのガキは小型のテレビモニターを取り出した。
カチッ
「あれ?どうした?何も写らないぞ」
「どうした、シュレディンガー准尉?ぜんぜん写らないぞ、これ」
「ん?ああ、写った、写った。少佐、そっちは大変そうですねえ」
画面の向こうにはメガネをかけた太った小男が立っていた。
「腰の抜けた上官を持つと難儀するよ。でもこれでようやくせいせいする、はずだったのだが困ったことになった」
「貴様が敵の総師か?」
インテグラ嬢が落ち着いた声で小男に問う。
「おお、貴方が王立国教騎士団機関長、インテグラ・ヘルシング卿ですね。お初にお目にかかる」
「何が目的だ?」
「目的?お嬢さん、美しいお嬢さん、それは愚問というものだ。目的?ふふん、目的とはね、極論してしまうならばお嬢さん。我々には目的など存在しないのだよ」

125魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 15:57:21 ID:nK54p8y2
「ば、馬鹿なッ!!」
円卓会議でも最古参のメンバーであるアイランズ卿が激怒して怒鳴る。それはそうだ。目的もなくそれでいて自分たちの命を狙ってくるのだ。冗談じゃない。
「目的が無いだと?ふざけるな。目的もなく我々に攻撃をだと。冗談もたいがいに」
「黙れ。お前とは話をしていない。私はこのお嬢さんとお話をしている。女の子と話すのは本当に久しぶりなんだ。邪魔しないでくれ若造」
「なっ」
若造?この老人に向かって若造だと?この男は一体何歳なのだ?
そうだ、そういえばこの肥満野郎は第2次大戦の時にすでにSS中尉だったらしい。なんだ?こいつも化け物なのか?このデブ男が。
「目的の為なら手段を選ぶな。君主論の初歩だそうだがそんなことは知らないね。いいかな、お嬢さん。貴方はかりにも一反撃戦力の指揮官ならば知っておくべきだ。世の中には手段の為なら目的を選ばないという様などうしようもない連中も確実に存在するのだ。つまり、とどのつまりは我々のような。しかし、実のところ我々えらそうなことは言えなくなっている。その手段が行使できなくなってしまっているのだ。そこで一つ相談だがお嬢さん。一時休戦にしたい」
「ふざけるな。お前たちはただのテロリスト集団に過ぎない。我々は貴様らの存在を排除する。我々は唯々、我々の反撃に取りかかるだけだ」
「しかしお嬢さん。貴方の大切な僕はどこにいる?あの少年は?婦警は?我々は彼らについての情報を持っている」
「貴様らの仕業か?」
インテグラ嬢が怒りに震えながら聞く。もしあの狂った少佐がアーカードの旦那達を消し去ったんならこれは世界の終わりだ。もう誰もそんな化け物を止められない。
「お嬢さん、それは違う。残念なことに、本当に残念なことにアーカードを消し去ったのは我々ではない。そうだ、君たちの神父のことも知っているぞ、十三課。どうだい?私の話を聞いてみないか?」
「・・・」
「よかろう。これから話す話はとても簡単に信じられる話ではない。しかし総て真実だ」

126魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 15:58:27 ID:nK54p8y2
少佐の話はこうだった。昨日の少佐の基地に侵入者が侵入したらしい。
彼はまもなく少佐の部下達に殺されそのまま食べられたということだが彼の血がとんでもないことを教えてくれたらしい。
彼は時空管理局という機関に所属する機関員で魔道士、つまり魔法使いだというのだ。
どうやらこの世には俺たちが住む世界のほかにもいろんな世界がありそれらを管理、維持するための司法機関らしい。
そして今、いろいろな世界からありとあらゆる人やそれに準じたものが拉致されるという怪事件が起きていてアーカードの旦那達はそれに巻き込まれたとのことだ。
その機関とやらはもう犯人の特定はできているようでギガゾンビという未来人らしい。
彼は拉致した人間などに殺し合いをさせているらしい。俺にとっては余りに信じがたい話だ。
吸血鬼の次は異次元に魔法に未来人か。
しかしギガゾンビというのもおかしなやつだ。
不死身の吸血鬼に殺し合いをさせる?それは殺し合いではなく虐殺だ。
それとも吸血鬼を殺せるようにする魔法でもあるのだろうか?そうなると大変だな。
アーカードの旦那はいいとしてセラス嬢ちゃんが危ない。とにかく自分が拉致されなくて本当によかった。
て、何真剣に考えているんだ。こんな与太話を信じられる訳が無い。
所詮ネット上のリレー小説化何かに決まっている。
そういえば前に日本人がそんな映画を撮っていた気がする。
まったく世界中にまだまだ地獄があるのに映画の中にまで地獄を造らなくてもいいだろう。

127魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 15:59:20 ID:nK54p8y2
「くだらない戯言だ。つまらん童話だ」
「お嬢さん、信じるか信じないかは貴方の自由だ。しかし我々は一時休戦にさせてもらうよ。アーカード抜きで戦争をしてもつまらぬ。ごきげんよう、お嬢さん」
「というわけだから僕も行くよ」
猫耳准尉が言う。
「撃て、ベルナドット」
「え、でも彼は」
「撃て!」
パンッ
しばらくして口を開いたのはクィーンだった。
「仕方ないわ、ヘルシング卿。アーカード達を探しなさい」
「は、おおせの通りに、女王陛下」

128魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 15:59:52 ID:nK54p8y2
――ロンドン郊外、王室別邸“クラウニーハウス”廊下
ヴァチカンからの代表が帰るところだ。
「どうします?マクスウェル局長」
「いくら我々十三課とてアンデルセンがいないのでは余りに戦力不足だ。聖遺物管理局第三課「マタイ」に過去に魔法使いや異次元などに関する記録が無いか確かめてくれ」
異次元だ?魔道士だ?ふざけやがって。これは我々の神に対する挑戦か?
まあいい。とりあえず今はあのギガゾンビという奴に神罰を与えなければならない。
我々神罰の地上代行者イスカリオテの第十三課を妨害した異端を許すわけには行かない。
今度の敵はクロノスだ。我々の神の正しさを骨の髄まで刻み込んでやる。

【エンリコ・マクスウェル@Hellsing】
[状態]:健康・困惑およびギガゾンビへの怒り
[装備]:無し
[道具]:聖書
[思考]
基本:アレクサンド・アンデルセンを探す
1:異次元や魔法に関する情報を集める
2:十三課の行動を妨害したギガゾンビに神罰を与える
3:異次元にもキリスト教を広めたい
[備考]
*まだ少佐を完全に信用したわけではありません
*まだ横あいから思いっきり殴りつける最高のタイミングを探っています

129魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 16:00:38 ID:nK54p8y2
――ロンドン、ヘルシング機関本部
「ウォル、じゃない、そこのお前。異次元や時空管理局に関係のありそうな資料を徹底的に探すよう要請しろ。ベルナドット、女王の命令だ。アーカード達を探し出すぞ」
「へ、でも」
「そのギガゾンビとやらが何者かは知らないがアーカードのことだ。ほかの参加者を皆殺しにしかねない。それに見敵必殺と命じたのは私だ。私が責任を取らねばならない。お前も覚悟しておけ、ベルナドット。今度の敵は魔法を使う未来人だ」
「え?え〜。ダメダメダメダメダメ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、今度こそ死ぬ。オレ死ぬ、オレが死ぬ。オレやだ。オレがやだ。」
「雇用主に逆らうのか、ベルナドット?傭兵の名が泣くぞ」
「あークソッ。やるよ。やりゃいいんだろ。クソッ、セラス嬢ちゃんも心配だしな。クソッ、ついてねぇ」

【インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング@Hellsing】
[状態]:健康・ギガゾンビへの怒り
[装備]:シグザウアー P226(法儀済み粒化銀弾)(残弾12/12発 予備弾薬36発)、ワルサーPP(法儀済み粒化銀弾)(残弾7/7発 予備弾薬21発)、サーベル
[道具]:無し
[思考]
基本:見ギガゾンビ必殺
1:アーカード、ウォルター・クム・ドルネーズ、セラス・ヴィクトリアを探す
2:異世界や時空管理局に関する情報を集める
3:自分が「見敵必殺」とアーカードに命じたせいで参加者を皆殺しにしてないか心配
[備考]
*まだ少佐を完全に信用したわけではありません

【ピップ・ベルナドット@Hellsing】
[状態]:健康・困惑
[装備]:AK74(法儀済み粒化銀弾)(残弾30/30発 予備弾薬150発)、コルトSAA(法儀済み粒化銀弾)(残弾5/6発 予備弾薬42発),コンバットナイフ
[道具]:無し
[思考]
基本:金もらっちゃったもんなぁ!!やっぱなあ!!やるっきゃねえッよなァ!!
1:とりあえず命令があるまで待機
[備考]
*吸血鬼に関する基本的な知識があります

130魔法少女カレイドナナシ:2007/06/30(土) 16:01:50 ID:nK54p8y2
――南米アメリカ、ミレニアム本拠“豹の巣”
「いいのですか、少佐?せっかくの戦争だったのに」
「ドク、わかっていないな。我々は手段となる戦争を失ったのだよ。私はアーカードのいないヘルシングと戦争をするつもりはない。今更ロンドンを攻撃する意味はないのだよ。それより我々はあのギガゾンビとやらを許しはしない。我々は50年間ずっと舞台の幕を開いていた。ただ観客がこっちに向いていなかっただけの事だ。そして今やっと首根っこを押さえつけてこっちに目を向けさせたのだ。それなのにギガゾンビとやらは総てをぶち壊した。我々が楽しみにしていた戦争を、一心不乱の大戦争を彼は殺し合いというくだらないお遊びでふいにしたのだ。彼にはきっちり我々の50年分の出演料を払ってもらうつもりだ。なに、心配するな。時間はたっぷりある。なにせ、我々は化物なのだから」

【モンティナ・マックス(少佐)@Hellsing】
[状態]:健康・ギガゾンビへの怒り
[装備]:ルガー P08(法儀済み粒化銀弾)(残弾8/8発 予備弾薬32発)
[道具]:無し
[思考]
基本:戦争をする
1:自分の戦争を汚したギガゾンビを褐色の狂気を持ってして教育する
2:異世界や時空管理局に関する情報を集める
[備考]
*異世界や時空管理局についての一般の魔道士と同等の知識があります
*しかし魔力を持たないため異世界へ移動する手段はありません

131魔法少女カレイドナナシ:2007/07/19(木) 17:07:07 ID:okCnlkIY
ホテル戦終了〜病院まであたりの魅音とキョン。雑談や情報交換なんかをしてい
るうちにキョンが魅音よりも未来からきていることを再確認する。面白がってこ
れから起こる事件などを聞き出そうとする魅音。聞かれるままに答えようとする
キョンだったがふと思い直して
「……禁則事項だ」


思いついたのが最近というどうしようもない理由で生まれた瞬間から没。

132魔法少女カレイドナナシ:2007/07/20(金) 18:59:09 ID:YcpbYn4A
くっそぉ……。
思いついてたら、書いたのになあ、そのエピソード。
何で思いつかなかったんだ、畜生。

133魔法少女カレイドナナシ:2007/07/21(土) 11:41:53 ID:W4Fyh5TE
気絶中の翠星石の夢の世界に蒼星石の力でJUM、真紅との3人が行く
んで、色々話してお別れの、蒼と真紅の死を翠が悟るってのを考えたことがあった
でもありきたりな上に思いついたのも最近だったから普通に無理でした
敢えて入れるとしたらみさえに拳骨もらった後気絶してた時かなぁ…

134 ◆FbVNUaeKtI:2007/07/22(日) 16:26:55 ID:KcOJFOE.
※ひぐらしのネタバレあり注意。




昭和60年6月 雛見沢

135駒失し ◆FbVNUaeKtI:2007/07/22(日) 16:28:08 ID:KcOJFOE.



「ここはあまり変わってないな」
夕日で紅く染まった急な石段を昇りきり一息を吐く。
目の前に広がった風景に、僕は一端の懐かしさを感じていた。
誰かが掃除しているのか塵一つ見当たらない境内。
多少古ぼけているけれども致命的な痛みを感じさせない本殿。
変わったことと言えば、鳥居の近くにあった集会所がコンクリート作りの立派な物になっている事くらいか。
雛見沢のほぼ中心に位置する古手神社は主を失った今もなお、その姿を留めていた。


そもそも何故、僕――赤坂衛が7年ぶりに雛見沢の地に降り立ったのかと言うと……
それは3ヶ月前に札幌で再会した、大石氏との会話が発端だった。
酒の席で聞かされた5年にも及ぶ怪事件、通称“雛見沢連続怪死事件”
昭和54年の現場監督のバラバラ殺人から始まったこの事件は、直接的な関連性は不明瞭なものの、
毎年同じ日に一人の死者と一人の行方不明者を出し続けてきた。

ダム工事の現場監督と事件の主犯格の男。
ダム工事に反対していた北条家の夫婦。
古手神社の神主とその妻。
2年目に失踪した北条家夫婦の弟夫妻、その妻と北条家夫婦の長男。

その全てが、かつての月夜の晩に彼女が僕に言った予言通りだった。
そして、5年目は……
「5年目の昭和58年は……実はそれまでの事件と結構毛色が違いましてねぇ……」
大石氏はそう言い淀むと、手にしたコップを口にする。
そして並々と注がれたビールを飲み干すと、最後の年に起こった事件の概要を語り始めた。

136駒失し ◆FbVNUaeKtI:2007/07/22(日) 16:29:09 ID:KcOJFOE.
その年の6月。毎年の様に行われる綿流しの祭りの一週間程前にその事件は起こった。
雛見沢分校に通う数名の児童が、下校途中に失踪したのだ。

古手梨花、園崎魅音、北条沙都子、竜宮礼奈、前原圭一。

御三家の娘と村の仇敵である北条家の娘を含む5人の少年少女達。
いつも共に遊んでいた……いわゆる仲良しグループの彼等は放課後、やはりいつものように教室に残り遊んでいたらしい。
そして、彼等が校門から出て行く姿を担任の女性教師やクラスメイト等が見かけたのを最後に……彼等は村から忽然と姿を消した。
失踪した当初は5人が山に入り遭難したものと思われていた。
しかし興宮から派遣された警官隊や村人達の有志による山中の捜索は思うように成果を挙げず、一週間で打ち切られる。
また、毎年綿流し前後に村を訪れるフリーカメラマンが児童等と同時期に姿を消している事から、
興宮署内ではこの男が事件に何らかの形で関与しているのではとの見方が強まっていた。
だが懸命の捜査にも関わらず、彼の素性や足取りもまったく掴めず……
やがて、彼と親交の深かった入江診療所の看護婦鷹野三四が後を追うように失踪した事により、
二つの事件はそれぞれ別件として処理される事になる。

そして、その年の綿流しの晩以降、村では人が死ぬ事も失踪する事もなくなった。


『今でもね、村の古老達はこう噂してるんですよ。
 古手家最後の当主が、自分達の身と引き換えにオヤシロサマの怒りを鎮めたんだ、ってねぇ』
独特の笑み共に呟かれた大石氏のその言葉を思い出す。
……果たして彼女達は何処に消えたのか?
もし、僕が彼女の訴えを心に留め、2年前のあの年に雛見沢を訪れていたならば、何かが変わっていたのではないか?
そして、彼女達はまだ何処かで生きているのか、それとも7年前の予言通りすでに……
そんな事を考えていた所為だろうか?
ふと気がつくと、僕は境内の一角……7年前のあの日、彼女と最後の会話を交わした場所に足を運んでいた。

137駒失し ◆FbVNUaeKtI:2007/07/22(日) 16:30:43 ID:KcOJFOE.
そこから見える風景は変わっていなかった。
確かに、この場所から見える住宅数は増え、あちこちが整備され、当時から見るとこの地は姿を変えている。
けれどもここは当時のまま村の全景を……彼女の愛する雛見沢を臨む事ができた。
「ここは、変わらないな」
「……ええ、昔から変わらず、ここは絶景なのですよ」
思わず漏れた呟きに、予想していなかった返事が背後から届く。
聞き覚えのあるその口調に、僕は慌てて振り返った。
「梨花ちゃ……!」
……しかし、そこに居たのは見知らぬ少女。
考えてみれば当然だ。
失踪して2年間生死不明だった少女が、7年ぶりにこの地に訪れた知人の前に姿を現すなんて物語の結末としても陳腐だろう。
こちらの戸惑いの表情に少女は人懐っこい微笑みを浮かべている。
無性に気恥ずかしくなりながらも謝罪した僕は、改めて少女の姿に目をやった。
おそらくはこの神社を管理しているのだろう、紅白の巫女服に身を包んだ少女。
両耳の上の辺りには変わった形の髪飾りをつけている。
「えっと……この神社の関係者かな?」
僕の質問に少女は笑みを絶やすことなく頷く。
先程の口調といい、梨花ちゃんの親族かなにかなのだろうか……?
もしかすると、2年前の話を聞く事ができるかもしれない。
そう思って口を開こうとする僕の行動を遮るように、少女は呟いた。
「大丈夫ですよ。彼等は居なくなってしまったけれど、誰の事を恨んでもいないのです」
固有名詞など一つも含まれていない、小さな呟き。
けれども、その言葉は暗に一つの事を指しているようしかに思えなかった。
「君は……あの事件の事を、何か知っているのかい?」
その質問に困ったような表情を浮かべる少女。僕は目の前の光景に既視感を覚える。
「あれは誰が悪いというわけではないもの。
 あの子達を忘れずにいる事はともかく、救えなかったと悔やむのは筋違い。
 けれども、それでは貴方の優しさが納得できないでしょう……ですから、私は貴方を許しましょう」
少女の言葉に息が詰まる。眩暈がする。
事件に深く関与しているなどでは無い。目の前にいる少女は、そういう次元の者では無いと僕の感が告げる。
……では、目の前にいる彼女は、いったい何なのか?
そう考えると、つい数十秒前から変わらず浮かべられている彼女の微笑が、何か恐ろしいモノに見えてくる。
「赤坂、貴方は悪くない。
 確かに貴方は、彼女の助けを求める声に気付けなかった。
 けれども、この結末は誰にとっても予定外。仮に貴方が気付けたとしても、何も変わる事は無かった。
 だから、自分を責めないで。貴方は悪くないのだから……」
少女がそこまで呟いたときだった。
不意に少女の背後から突風が起こる。
僕はあの時そうしたように、両方の腕を使って砂埃から両目を守る。

……果たして僕が腕を下げた時、そこにはどんな光景が広がっているのだろうか?
恐る恐る両の腕を降ろし、前方を見る。


少女の姿は、まるで世界から失われたように消えて無くなっていた。

138駒失し ◆FbVNUaeKtI:2007/07/22(日) 16:31:20 ID:KcOJFOE.











                                  雛見沢村児童失踪事件
                                    昭和58年6月発生




   □前原圭一
    昭和58年6月、下校途中に失踪。消息不明。

                  ◇

    バトルロワイアルに召喚され、狂気に囚われつつある竜宮レナと遭遇。
    行動を共にするも、最終的に暴走したレナと戦闘し敗北。
    同行者のソロモン・ゴールドスミス等を殺害しようとするレナを止めるため後を追ったが、
    第二放送を聞きマーダーになる事を決意したソロモンの手によりレナは死亡。
    復讐の為にソロモンと戦闘し、彼に傷を負わせたものの返り討ちにあい出血多量で死亡。



   □竜宮礼奈
    昭和58年6月、下校途中に失踪。消息不明。

                  ◇

    バトルロワイアルに召喚され、狂気に囚われつつも遭遇した前原圭一と行動を共にする。
    その後、同行する事になったソロモン・ゴールドスミス等に疑心を爆発させ暴走。
    止めようとする圭一を返り討ちにし、ソロモン等を殺害しようとする。
    だが、第二放送を聞きマーダーになる事を決意したソロモンにより胸部を貫かれ死亡する。

139駒失し ◆FbVNUaeKtI:2007/07/22(日) 16:32:05 ID:KcOJFOE.




   □園崎魅音
    昭和58年6月、下校途中に失踪。消息不明。

                  ◇

    バトルロワイアルに召喚され、ストレイト・クーガーと遭遇、行動を共にするが、
    数十分後に獅堂光と遭遇、彼女を追うことにしたクーガーと別れ、単独行動を取る事になった。
    そして第一放送後に古手梨花等と遭遇。年少組を結成する。
    しかし、第二放送後、桜田ジュンの死体を確認し、暴走した翠星石の手により梨花が死亡。彼女への復讐を決意する。
    それから遊園地内で出会った獅堂光等と行動を共にするも、ホテル前に出現したアーカードに襲われる。
    彼との戦闘で光が死亡、本人もあわやという時にクーガーが登場し彼女は救われる。
    直後にセラス・ヴィクトリアを迎えに行った先でシグナムに襲われるが、その場にクーガーが残り応戦。
    引き返した先のホテルで再びアーカードと対峙するも、他の参加者達と力を合わせ撃退。
    その後は北条沙都子を含むグループと行動を共にするが、誤解の末にエルルゥを射殺。罪の意識に苛まれる。
    しかし誤解の原因が沙都子にあるとわかった後も、彼女を責める事無く逆にその身を庇った。
    その後、沙都子やしんのすけと共に病院へ向かった仲間達を待つが、
    襲撃してきた峰不二子の手により沙都子が死亡、不二子を射殺するも自身も撃たれ共に倒れる。



   □北条沙都子
    昭和58年6月、下校途中に失踪。消息不明。

                  ◇

    バトルロワイアルに召喚され、殺し合いに乗る事を決意。
    スモールライトで縮んだガッツと野原みさえを襲うが、直後に元に戻ったガッツにより足を叩き潰される。
    その後はガッツ等と共に行動していたが放送後に別々に行動する事を提案。
    自身は一人、山寺に残りトラップを設置して参加者の殺害を試みる。
    しかし、自慢の罠はタチコマに一蹴され、他の参加者を利用すべく一路温泉へ。
    そこで出会ったロック等と行動を共にしつつ、山を下る。
    道中遭遇したエルルゥと民家まで避難したあと、園崎魅音と再会。
    全員を殺害するという決心が鈍りそうになり、野原しんのすけに筋弛緩剤を飲ませ、場を混乱させる。
    しかし、同行していたトウカ等にゲームに乗っている事が発覚。
    彼女に殺害されそうになるものの、魅音やしんのすけにその身を庇われ改心する。
    その後は、しんのすけ等と共に脱出を目指していたが、襲撃してきた峰不二子からしんのすけを庇い射殺される。



   □古手梨花
    昭和58年6月、下校途中に失踪。消息不明。

                  ◇

    バトルロワイアルに召喚され、殺し合いに乗る事を決意。
    直後に襲ったアルルゥからショットガンを手に入れ、それを利用しカルラを射殺。
    明け方には、住宅街で出会った剛田武と翠星石のパーティーに潜り込み、二人を利用しようと画策する。
    その後、園崎魅音とも再会、仲間を増やし虎視眈々と機会を待つが、
    桜田ジュンの死体を確認し動揺する翠星石を使えないと判断、殺害しようとするも逆に射殺される。

140駒失し ◆FbVNUaeKtI:2007/07/22(日) 16:33:16 ID:KcOJFOE.




           -------------------------------------------------


   □富竹ジロウ
    昭和58年6月以降、消息不明。

                  ◇

    バトルロワイアルに召喚される。
    殺し合いを止めようとするも、ギガゾンビにより首輪を爆破され死亡する。



   □鷹野三四
    昭和58年6月、失踪。消息不明。

                  ◇

    詳細不明











                     ひぐらしのなく頃に

141カケラ遊びの最後に  ◆qwglOGQwIk:2007/07/22(日) 18:31:32 ID:g8n17Nyw
※引き続きひぐらしのネタバレ全開なので注意




「羽入、今日は昭和何年の何月何日?」
「昭和58年6月の……19日なのです。あぅあぅ……」
「…………そう」

いつもの部屋、いつもの始まり。隣にはすやすやと眠る沙都子。
古手梨花の100年、あるいは千年に渡る終わり無き旅は、今まさに最悪のバッドエンドへと近づきつつあった。
梨花はとうに諦めきった様子で、一言呟いたきり羽入と話すのを辞めた。
梨花は食器棚からグラスを取り出す。
そして冷蔵庫へと向かい氷を取り出すと、押入れからお気に入りのワインを取り出す。
梨花は氷の入ったグラスにワインを並々と注ぎ、氷が解けるのも待たずに口へと運ぶ。
ぷはぁと息を付く古手梨花の顔は、怠惰と絶望に満ちていた。
羽入の顔もまた、苦々しい表情に包まれていたのは苦手なワインのせいだったのだろうか。
それとも――

「梨花。まだ、まだ終わってはいないのです。あぅあぅ……」
「何をやっても無駄よ羽入、もう何もかもが遅い。今日は綿流しの日なんだからね。
 今日もまた富竹が死に、仲間が狂い……」

――そして私が殺されて、永遠の時の牢獄へと閉じ込められる。

ここ数百回のやり直しは梨花にとっても不幸だったと思う。サイコロの1が連続して出たというべきだろうか。
圭一は再び仲間を疑いだした。暴走してレナと魅音を殴り殺した時もあれば、暴走を止めようとした私が殺されたこともあった。
レナが暴走すれば、いつものように学校を占拠し、私ごと学校を爆破して死んでいった。
ある時は鉄平が雛見沢に現れ、沙都子を拉致していった。その時は圭一やレナ、あるいは詩音が殺人を犯していった。
この数百回は、こんな顛末が続いていった。そうするうちに羽入の力はどんどん衰えていった。

例外は詩音、そして富竹だろうか。
詩音だけは何故かある時を境に二度と園崎家を疑うことなく、沙都子のねーねー役として雛見沢にやってくるようになった。
富竹が失踪したケースは、もしかしたら逃れられない運命を変えたのではないか? と梨花も羽入も考えていた。
その期待を裏切るかのように富竹の変わりとして北条鉄平が死に、少しばかり変わった運命は結局梨花を飲み込んでいった。

再び活性化した大切な仲間の暴走、不活性化した詩音の暴走に考えを巡らせたって、梨花が望む最高の結末は手に入らない。

142カケラ遊びの最後に  ◆qwglOGQwIk:2007/07/22(日) 18:32:18 ID:g8n17Nyw
羽入だけが全てを知っていた。
ある世界で梨花は突如失踪し、梨花だけが永遠にその世界へと戻らなかった。
またある世界では圭一が、レナが、魅音が、沙都子が、富竹が失踪し、やはり梨花と同じように帰ってこなかった。
平行世界を移動し、『オヤシロ様』として超常的な力を持つ羽入でさえ、不可解な失踪は何が起こったのか分からなかったのだ。
分かってることは二つ、失踪は一人に付き一度しか起こらない。
そして、失踪した人間は、平行世界の記憶、経験を全て失っているのだ。
これは、全てを知る視点の羽入にしか分からない事実でもある。
梨花が失踪した次の世界では、梨花は全ての記憶を失い、最初の頃のような無垢な少女へと先祖帰りしていた。
最も、その表情は幾度かの繰り返しの末に、記憶を失う前へと戻っていった。

圭一が失踪したときは特に顕著だった。
失踪直前の圭一は仲間を信じ切り、暴走することは無くなっていたのだ。
だが、失踪後は極めてレアなイベントである圭一の暴走が再び起こり出したのである。
レナのケースにおいても、失踪後では格段に発生率が上がったのだ。
羽入は梨花の事例、レナの事例、そして圭一の事例からそういった結論を導き出したのである。

いずれは詩音も失踪し、再び過ちを犯すのだろうか。だが詩音の失踪は起こる前に、羽入の力は尽きた。
これが本当に最後の最後、もう二度と昭和58年6月19日より前へと時は戻らない。
惨劇を防ぐことが出来るのは、これが本当に最後の最後。







―昭和58年 6月22日

――その日梨花はいつものように、あっけなく殺された。

143カケラ遊びの最後に  ◆qwglOGQwIk:2007/07/22(日) 18:33:05 ID:g8n17Nyw

「くすくすくす。ごめんなさいね。……あなたは神に試されなさい。
 私は今日を境に試す側となるのよ。」
「…………以上で、黙祷を終了する。」

「全小隊、滅菌を開始せよ。」

人がゴミのように殺されていく。ころころ、ころころと。
リングはそんな人を人とも思わない光景を最後まで見届け、報告文書に淡々と事の顛末を書き上げるしかなかった。
あのバトルロワイヤルさえ超える虐殺を、ただただ黙って見届けるしかない自分の力の無さに打ち震えるしかなかった。

「なんで、なんでこんな歴史が……」

この日雛見沢村が消えるという歴史は、正史のものとなった。
鷹野三四という女は、神の高みへと昇った。
タイムパトロールの捜査方針に従い、バトルロワイヤルの影響下にあった各並行世界群の調査をするというのが今のリングの仕事だ。
その平行世界の一つ、『ひぐらしのなく頃に』と呼ばれる世界の調査に来てしまったのは、リングにとっての不幸だった。
リングはバトルロワイヤルの犠牲者である部活メンバーたちに手を差し伸べ、未来を変えるだけの力を持っていた。
しかしその権限はリングには無い。
歴史に不干渉であるべきという23世紀のタイムパトロールの方針から、各平行世界を本来あるべきであろう結末へと導くことが出来ない。
最も一部の世界を除けば、未開の平行世界のあるべき未来の姿など、誰にだって分かりはしない。
それでも、歴史は変わらない。リングがどれだけ歴史を変えようと願っても、願いは決して叶わない。


惨劇は、永遠のものとなった。

144カケラ遊びの最後に  ◆qwglOGQwIk:2007/07/22(日) 18:34:08 ID:g8n17Nyw
どう? あなたは楽しかった?

梨花がまさかこの閉じた世界から居なくなるとはさすがの私も予想が付かなかったわね。
タイムパトロールとやらがこの閉じた世界に興味を示しているみたいだけれども、閉じた時の世界にどうやって干渉するのか見物ね。
もう私でも閉じた世界のカケラには触れても干渉は出来ないし、新しい私の妹『古手梨花』もやってこない。
あなたはどうか知らないけど、私としては出来ることなら梨花たちが帰ってきて欲しかったかな。
もしかしたらあの後梨花達は運命を覆し、昭和58年6月を超えるかもしれなかったかもしれないのだから。
最も、梨花が永遠に昭和58年6月19日に閉じ込められてしまった以上、私にはもうそのカケラは知覚できないんだけどね。

ねえ? もしかしたらあなたは知っているのかしら?
梨花達が見事苦難に打ち勝ち、運命を覆して昭和58年6月を超える世界を――

145魔法少女カレイドナナシ:2007/07/23(月) 02:16:18 ID:cxWg6Ou6
ドラえもんのエピローグに登場する野比玉子が
カオスロワ仕様。

間違いなくNGなので没。

146魔法少女カレイドナナシ:2007/07/24(火) 15:35:35 ID:iq8FEpzo
>>145
カオスロワEND? ぜひここに投下してくれw

147魔法少女カレイドナナシ:2007/07/24(火) 18:43:47 ID:x7wX/E4w
本スレでちょっとだけ触れたルパンEDのプロット

視点はリンディ提督とかリングとか、外部の世界の人間(つーかキャラあんまり知らないから書けなかったり)。
ルパン一味の存在が消えたことで、その消えた時間以降に彼らが関わった事件の結末も変わることになる……
……はずだった。

舞台はカリオストロ公国。ルパン達が消えたことで、クラリスと伯爵の婚礼は邪魔もなく執り行われ、
伯爵の野望は完遂する……はずだった。
ところが、リンディ達が確認すると、婚礼は何者かの乱入により中断、伯爵のゴート札の悪事も公になり、
本来の歴史となんら変わらない……いや、全く同じと言っていい結末を迎えていた。
紛れもない、ルパン一味の手口。
そんなはずは。絶句するリンディ達。
改めて調査し直すTP達だが、詳細は不明のまま。
未来科学や魔法をもってしても、なんとルパン一味の素性は全く洗うことができなかったのだ。
一体何者なんだ、あの連中は?

そして最後に問いかけるのだ。

我々がこの物語で見てきたルパン一味は、本当に本物のルパン達だったのだろうか……と。


様々な謎を丸投げしつつEND。
はいはい、ダメに決まってるでしょこんなの。NGNG。

148魔法少女カレイドナナシ:2007/07/24(火) 19:22:50 ID:oKgHaJNA
押井ルパンじゃんこれwww

149魔法少女カレイドナナシ:2007/07/24(火) 20:33:09 ID:MSxoqESU
これマニアックすぎるだろwwww

150魔法少女カレイドナナシ:2007/07/25(水) 01:36:36 ID:PQUcdaio
この設定に駄目出しされた押井が劇場版パトレイバー1を作ったのは有名な話。

151貝がら Ghost in the Shell ◆TIZOS1Jprc:2007/07/26(木) 00:23:17 ID:8D/kycn.
油圧駆動系――応答なし。
人工筋肉作動信号――応答なし。
電波信号送受信――不可。
破損度チェック――不可。

手足を砕かれ、喉を潰された彼は、ひとり廃墟の街に横たわる。
出来ることは何もない。
伝えることも叶わない。
彼は辛うじて残された"目"を見開く。
最後の使命、"観測"を成し遂げるために。

一時間が経ち、二時間が経ち。
相変わらず変化はない。
時折遠くから響く爆音も、"耳"が用を成さなくなってからは聞くことが叶わなくなった。
太陽が登って、また沈み。
やはり、周辺に変化は見られない。
忘れ去られ、捨て置かれ。
丸一日が過ぎて、突然世界が白に包まれた。

ホワイトアウト。
信号が飽和する。
CCDもサーモグラフィーも焼き切れた。
遂に"目"すら潰され、世界は黒に包まれる。

衝撃。
だが、終わりではない。
まだ、考えられる。
まだ、憶えていられる。
不思議な浮遊感。
ここは何処だろう?
死後の世界などというものが有り得るのか。
それとも――――。
ひょっとすると、不安定な時空のタペストリーを突き破り、別の宇宙へと迷い込んでしまったので

はないだろうか?
ジャイロが周期的で穏やかな加速を検出する。
どこへ向かっているのか。
その先を見ることは最早叶わないと言うのに、彼の胸は期待で膨らんでいた。
――――かつて、無限の遠宇宙に向けて旅立った兄弟が居たという。
それに勝るとも劣らぬ冒険譚を聞かせられるかもしれない。
彼は、最後の記録を開始した。

到達点に向かって。



・・
・・・
・・・・
・・・・・

152貝がら Ghost in the Shell ◆TIZOS1Jprc:2007/07/26(木) 00:23:53 ID:8D/kycn.
――――今でないいつか、ここでないどこか――――


潮の香りが強くなる。
鬱蒼とした森を抜けると、浜辺が広がる。
波打ち際に、彼はいた。

人気の無い砂浜の上に足跡が一列に延びていく。
女が、たった一人、歩いていた。
金髪を白いリボンで一つに結んだ、まだ少女と言っても良いかもしれない年齢の、美しい女。
向かう先には、砂に半ば埋まっている、中型車量程の大きさの青い機体の残骸が転がっていた。
装甲はグチャグチャに歪んで原型を留めておらず、全面を錆とフジツボに覆われていても、一目で"

彼"と判った。
錆を払い、キャノピらしき所に付いている取っ手に手を遣る。
パラパラと錆が落ちるだけで全く動かない。
ぐっと力を込めると、音を立てて止め具ごとハッチが外れてしまう。
搭乗席の中に光が差し込み、小さな蟹やフナムシがわらわらと逃げ出していく。
身を乗り出し、メインモニタにそっと触れた。
微かに唸る起動音。
教わった手順に従ってプログラムを立ち上げる。
なけなしの予備電源を消費している為、長くは持たないだろう。
モニタが明滅しノイズだらけの起動画面が表示された。

"ニューロチップとの接続…………エラー。
自己診断モードへの移行…………エラー。
メインエンジンの起動…………エラー。
…………"

片端からプログラムを実行していくが、全て失敗に終わる。
彼女は最後に残された項目、メモリーの再生の項にカーソルを合わせると実行のキーを押した。

"非運動系内部記憶との接続…………完了。
警告:致命的なエラーが発生しました。
データの99..%が消失しました。作業を続行しますか?"

女がYesのキーを押すと、生き残った情報が表示される。

"・視覚情報:32件
・音声情報:32件
・テキスト:32768件
…………"

女は視覚と音声を選択し一つ一つ再生していった。
モニタにノイズ混じりの映像が映し出される。
最初に見えたのは、無機質などこかのラボの風景。
それは、闘いの記録だった。

153貝がら Ghost in the Shell ◆TIZOS1Jprc:2007/07/26(木) 00:24:18 ID:8D/kycn.
闘うために生み出され、分化し、破壊し、より優秀なものだけが掛け合わされ、再び並列化させら

れる。
試験。試験。試験。訓練。実戦。捜査。監視。点検。訓練。拘束。殺害。大破。再生。実戦………


無味乾燥で殺伐とした世界。
だが、彼は、彼等はそこで情報を集め、他者と触れ合い、徐々に己を知り始める。
義眼の男がこっそり変わったフレーバーのオイルを補給している映像。
ペットの墓の前で泣く少女の映像。
容量を割いて保存するに値しない、何の意味もない、何の役にも立たない映像だ。
そんなデータを、彼はバックアップまで取って、大切に保管していた。

御前達はは無力でない、と諭す女の声が音声として添えられた、彼を見送る義眼の男の映像を再生

し終えると、残された映像は後一つになっていた。
女の指が再生を促すキーを押す。

金髪の少女が映し出される。
顔は煤で汚れ、服はボロボロ、体はあちこち擦り傷だらけ。
時を越え、彼女はかつての自分自身と再会した。
くしゃくしゃの顔で、少女は、泣いていた。

『けど……こにいる――――は……ここにしかいないじゃない!』

映像がノイズに飲まれる。
ノイズすら小さな粒子に散らばっていきフェードアウトしていく。
最後に、一回だけ、

《――――thanks》

と、表示されると、画面が完全に消える。
もう、何も映さなかった。
どのキーを押しても、何も映らなくなった。

…………………………………………

154貝がら Ghost in the Shell ◆TIZOS1Jprc:2007/07/26(木) 00:24:45 ID:8D/kycn.
潮騒が響く。
顔を上げると、もう夕方になっていた。
水平線の向こうへと、夕日が沈んでゆく。
青い装甲が朱に染められ、虹色に輝いている。
潮溜りになった搭乗席の底で、アメフラシやイソギンチャクが遊んでいるのを見て、彼女は一時微

笑んだ。
きっと、ここなら寂しくない。

女の影が残骸から離れて行く。
後ろ姿は一歩ずつ小さくなり、やがて見えなくなった。
残された足跡を、波が浚う。
さっきまでここに誰かがいた、そのことを示す痕跡は、もう、ない。

日が沈み、夕凪の時間が終わる。
マニピュレータに結ばれた黒いリボンが、風に揺れていた。

155 ◆2kGkudiwr6:2007/07/28(土) 19:46:14 ID:WcADepnE
没ネタその一・トウカvs小次郎。半年くらい前に書いたもの。
所々空白になってて話が繋がってないのは没ネタで未完成だから。

没にした理由
・トウカと小次郎が会う機会に恵まれず
・キョンの話し方と似非剣豪小説風味の文体、相性が最悪すぎる
戦い方はセイバーvs小次郎、セイバーvsトウカに流用できたけど文体は流用しようがない(トウカと小次郎じゃなきゃ意味がない)
しかもトウカも小次郎も初書きで殺してしまう始末。

いつかこんな感じの文体で剣士対決を書いてみたい、とは思っていますけどね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


不釣合いに巨大な剣を携え、日の中に剣士は立つ。
彼らに殺し合いという言葉は似合わぬ。
合う言葉はただ一つ……果たしあうというべき言葉か。

「名乗られたからには名乗り返すが礼儀。
 我が名はトウカ。仕えるが主、聖上はハクオロ。
 そして今刀を預ける相手はキョン殿」

女侍が名乗りを上げる。
その声さえ優雅。戦場(いくさば)に咲く凛とした花。
ゆえに、小さく剣士は笑う。彼にとってこれほど嬉しいことはない。

「ふむ……やはり真の侍か。
 喜ばしい。我が剣が『侍』に届くか否か、是非とも試しておきたかったのでな」
「某にはよく分からないが……侍ではない、と言っていた。
 しかし、それほどの剣気を見たのは某も数度しかない」
「残念ながら、私が生まれた時には既に一介の農民には仕官の望みは無く……
 できたことは燕でも斬ることのみだった……故に、この戦いこそが」

「我が望み」




「……いざ」


巨大な剣。おそらく

「ふむ、これは中々」

剣こそ巨大。
しかし小次郎が剣は剛が本質ではない。
柳のように流れ、風のようになびくこそ小次郎が太刀。
女侍はそれを見切ったからこそ、柔を以って剣を舞わす。
その動き、舞妓にも劣らぬであろう芸術。

「そなたの剣、まさに剣舞。雅なことよ」

156 ◆2kGkudiwr6:2007/07/28(土) 19:47:37 ID:WcADepnE
「小次郎殿も」

共に、その顔に浮かぶは笑みである。
周囲に響くは美しき風切りの音。生えている草が剣風にそよぎ、剣舞の場を彩る。
「流す」ことを主体にした二人の剣が周囲の物を傷付ける事無し。
だからこそ、芸術として生えよう。相手に対しては、剣は赤い血を流させるが故に。
右腕上腕、右腕下部、右手薬指、左腕肘、肋骨部分より心臓まで、胃部より腹部まで。
ほんの数瞬で剣は敵目掛けて流れ、その全てを刀が流す。
そのまま刀が相手の同箇所を目掛けて流れ、やはりその全てを剣が流す。
どちらの足も重心を動かすのみ。だが、その腕は風さえ追いつかぬ。
そして、生半可な手合いではその刃を視ることさえ叶わず。
ここで女侍が踏む込む。



小次郎は後退したのではない。構えたのだ――

「秘剣――燕返し」

奔る剣は二つ。一つの剣が二つの剣と化す。
一つをとっさに流したものの、翼のごとき耳が落ちる。鮮血が迸る。
それでも苦悶の声さえ漏らさず、女侍は後ろへ跳ぶ。
続いて繰り出された剣筋がその肩を掠めていた。

「はっ!」
「っくぅ……」

ここで流水のごとき剣は怒涛と化す。
退いた相手を飲み込まんと、小次郎の剣が女侍を襲う。
先ほどまでは美しい剣舞。だが今描かれるは凄惨なる死闘。
傷ついた女侍の刀には鈍りがあり、小次郎の剣にそれは無い。
故に、女侍は追い詰められていく。
剣が振り上げられる。刀で虚空へ流す。
返しの薙ぎ。流しは間に合わず、ゆえに力による真正面からの受け。
動きが止まったことを見逃さず、小次郎が剣を流し斬り返す。再び後退し回避。
小次郎がすばやく追い、剣を振るう。また、繰り返し。剣を幾度も流し、防ぎ、避ける。
女侍の服は裂け傷は増えるのみ。このまま戦えば敗北は必定。

――故に、女侍は己が閃きに賭けた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最終的にどちらが勝ったかは……そこまで書いてませんでした。

157魔法少女カレイドナナシ:2007/07/29(日) 01:52:26 ID:UvfMrMPA
病院からハルヒが出てって、のび太が疑心暗鬼だった辺り



水銀フォース暴走。
なんやかんやで不意をつかれ、凛気絶。
 ↓
セラス・劉鳳、のび太・ドラ・凛を守りつつ応戦。
 ↓
疑心暗鬼状態ののび太が、ドラの手を引いて移動。
 ↓
『Photon Lancer Genocide Shift』 幾百もの光弾により、辺りが光に包まれる。
光の中に劉鳳の叫び声だけが、響き渡る。
 ↓
のび太が目を開けると、ドラえもんごと何かに巻かれていたようで目の前は真っ暗。
巻いていた何かがボロボロと砕けていき、視界が開けていく。
その時になって、のび太は理解する。
自分とドラえもんを巻いていた物は、真・絶影の触鞭だと。

周りを見て、状況を把握する。
凛はもう1本の触鞭に、セラスは絶影の本体に守られていたと。

その時、のび太は気付く。
2本の触鞭と本体で他人を守ってしまった以上、劉鳳自身を守るものが存在しないことに。
自分がドラを連れて動かなければ、凛と同じ触鞭に自分達が入ることが出来、もう1本の触鞭に劉鳳が入れたことに。
 ↓
激昂したセラスとドラが特攻するも、水銀フォースの魔法で拘束。
 ↓
のび太、劉鳳への誤解に気付くが時既に遅し、劉鳳死亡。
水銀フォースに銃を向けるが、旅の鏡。
 ↓
水銀フォースがのび太を最初に殺そうと、彼に近づいた瞬間、カズマ登場。
のび太により、劉鳳がのび太・ドラを守って死んだことを知る。
ほとんど消滅してしまっている絶影をアルター化。
 ↓
ボロボロのセラスに、ドラ・のび太・凛を連れて何処かへ行けと頼む。
 ↓
セラス達を背に、アルターで覆われた拳を水銀フォースに向ける。
「劉鳳、のび太……お前らの反逆、この俺が引き受けたッ!」



時間軸とか、トグサとか、リアルでの予定で没に
のび太の改心と劉鳳の最期を書きたかったんだ、うん。

改めて見ると凛とドラ空気すぎww

158 ◆2kGkudiwr6:2007/08/04(土) 18:10:55 ID:vp1hckrY
※注意

・あんまりロワ関係ありません。
・嘘予告です。自分は書きません。
・実を言うと没ネタでさえありません。
・FateやっててリリカルなのはStSを見ている人限定のネタです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「告げる――」

声が響く。
魔法陣が魔力を紡ぎ、唱えたものを光に染める。

「――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者――」



「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

幼い少女の声が響く。
紫色の魔法陣が魔力を迸らせ、長い紫色の髪を巻き上げる。
その中心には、金色の鞘。

「――告げる。
 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
 聖杯の寄るベに従い、この意、この理に従うならば応えよ――」



「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。
 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

凛とした声が響く。
赤い魔法陣が魔力を紡ぎ、赤い女を紅く染める。
10年前にした時と、同じように。

「告げる――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」






10年後の、第六次聖杯戦争。
それは冬木市を舞台とする、七人のマスターと七人のサーヴァントによる殺し合い。
けれど、魔力を使わずに溜め込み続けたことと――
数多の陰謀と黒い意志が原因となり、さまざまな異世界までその戦場を広げることとなる。


魔法少女リリカルフェイトHeaven's feel



159 ◆2kGkudiwr6:2007/08/04(土) 18:12:22 ID:vp1hckrY

冬木市のとある街角。そこは既に、異界と化していた。
ただし……区切っているのは結界ではなく、無数の蟲。

「このっ!」

3mを超える巨大な蟲が、その触手を振るう。
それはたんなる打撃ではない。強力な溶解液まで撒き散らす、危険極まりない範囲攻撃だ。
エリオはなんとかそれを回避して……跳ぼうした先に、大量の蟲が蠢いているのを見た。

「う、うわっ!」

生理的嫌悪と危険察知から、なんとかエリオは足の向きを変え、退いた。
あの蟲を下手に潰せばその体液で溶かされてしまうという事は、もう既に知っていること。
空を飛べないエリオが足を失うことは、死を意味すると言っていい。

戦況は最悪だ。
周囲には蟲の群れ、目の前にはまるで得体の知れない気色悪い巨大な蟲。
既に周囲には悪臭が満ち溢れ、地面は蟲が発する酸で溶けている。
まともに近寄ればそれだけで倒れそうな相手だ。何より下手に近づけばそれだけで溶かされる。
それでもエリオの機動力ならば、逃げること程度は可能だっただろう。
それをしない理由は単純。脇に、気絶したキャロを抱えているからだ。

「くっ……」

思わず呻くエリオの頭に、蒼い英霊の姿が過ぎる。
もし彼だったら、こんな苦境も簡単に……

「……こんなこと考えてる場合じゃない!」

そう呟いて、エリオは頭からその考えを振り払った。
何度も特訓をつけてもらったとはいえ、彼はここにはいないのだ。
触媒をくれたバゼットや彼本人に感謝こそすれ、嘆く権利などエリオにはない。

「ストラーダ、カートリッジロード!」
「ほう、まだ諦めぬというのか。殊勝な心がけじゃのお。
 ……じゃが、いつまで持つかな?」

間桐の翁、アサシンのマスターが嘲笑う。
包囲している小さな、しかし無数の蟲はゆっくりと距離を詰め、
その女王たる巨大な蟲は動かずに触手を振るい、液を撒き散らしていく。
……だが、突如エリオが呆けたように止まった。

「……む?」

すぐにエリオは回りを注意へと移したものの、その様子は未だどこか意識を他へと向けているように見える。
老練な魔術師がそこから、自分の好機よりも相手の転機を感じ取った数秒後――
その瞬間、エリオがキャロをその場に置いて跳んだ。

160 ◆2kGkudiwr6:2007/08/04(土) 18:12:41 ID:vp1hckrY

「ふむ……何か考えがあるようじゃな……」

そう呟いた翁が手を動かすのと同時に、小さな無数の蟲がキャロへと殺到する。
何をしてくるか分からないエリオへの対応を考えるより先に、弱者を殺しておくべきと考えたのだ。
……もっとも、正確には殺さず蟲漬けにし人質とするつもりだったが。
だがその瞬間。キャロの竜、フリードリヒが群がる蟲を焼き払っていた。

「――猛きその身に、力を与える祈りの光を」
「……ほう?」

思わぬ事態に、老練な翁の眉も思わず動いていた。
答えは単純。意識を取り戻したキャロは寝たふりを続けながら、念話でエリオに話しかけていたのだ。
単純だが……念話を知らない間桐の翁には、これ以上なく効果的な作戦。
翁が事実に気付き舌打ちした時には、キャロは既に起き上がって呪文を詠唱している。
唱えたのは支援魔法。対象の攻撃力を一時的に増加させるもの。
そして、その対象であるエリオは、既に。

「一閃必中――シュタールメッサー!!!」

バリアジャケットに無数の穴を開けながらも、巨大な蟲と距離を詰めている――!



161 ◆2kGkudiwr6:2007/08/04(土) 18:13:56 ID:vp1hckrY

「……つまり、スカリエッティがずっと冬木で蠢いていたのは」

リインフォースの言葉に、相手はどこかつまらなげに頷いた。
今までの会話を総合すれば――ガジェットドローンを冬木の教会跡地周辺に送り続けていたのは、
言峰が遠坂家から密かに持ち出していた触媒、つまり最古の蛇が残した抜け殻を得るためである。
その触媒で何を召還できるのか?それは、とある叙述詩を見れば分かろう。
蛇は、不老不死の薬を飲んだからこそ脱皮するようになったとされる。
そして、その薬を元々手に入れていたのは。

「ふん、貴様は我(オレ)を知っているようだな。10年前の聖杯戦争とやらか?
 よい、発言を許す。貴様も我が財に加えてやるのだからな」

リインフォースの前に立っている、人類最古の英雄王――ギルガメッシュに他ならない。
彼は金色の鎧を纏わず、黒いライダースーツを纏っていた。そして、その右手はデバイスと思しき杖を弄んでいる。
見当はつく。恐らく、彼は異世界の物であるデバイスに興味を持ったのだろう。
ギルガメッシュの圧倒的な威圧感とカリスマは、訓練された兵隊でも立ち竦ませて余りある。
だがリインフォースは臆せず、嫌悪をはっきりと口に出した。

「……大層な自信だな、ギルガメッシュ」
「ほう。我に逆らう気か?」
「凛から話は聞いている。お前の歴史は数千年に過ぎない。そして、僅か一つの世界でしか生きていない。
 数多の世界で生き、数万の歴史を重ねた私を、お前が扱いきれることなどない」
「……ほう? 何が言いたい」
「ならはっきり言ってやる。
 お前は我が二人の主、そのどちらにも及びはしない」
「く……くははははははははは!」

明らかな挑発。リインフォースの言葉は、尊大な英雄王を怒らせておかしくはない。
しかし、英雄王は怒るどころか……まるで狂ったかのように笑い出していた。

「……何がおかしい」
「侮るなよ、魔道書風情が。貴様の経歴は聞いている。
 だがどれほどのものであろうと、我が所有すると宣言した以上はそれは我に所有されなくてはならぬ。
 数万年の歴史? 数多の世界での経験? それがなんだと言うのだ。世界より重いのか、貴様は?
 貴様はかの半神のように大地を支えたことがあるか?我のように神の裁定と戦ったことがあるか?
 ――幾千幾万の民を、幼子を、守ったことがあるのか?」
「……何?」

そう言い返すリインフォースの語気は、先ほどより弱い。
彼女には、英雄王の言う事がまだ理解できていない。何より、悪寒がしたのだ。自分の根幹を抉られるような、そんな予感が。
そして、それは決して間違いではなかった。

「雑種共は脆い。ましてや今の人間共は無秩序に増えるだけで余計に弱くなった。
 その程度の者共が向かう先は、世界の破滅のみよ。
 貴様がしたという変質がその証拠。驕り高ぶった雑種共が、数多の世界を滅ぼしたのだ」
「…………!」
「もっとも、貴様の背負った業の全てを我に背負わせてもなお足りぬがな。
 英雄とは目に見える全てを背負う者。
 所詮貴様も騎士王と同じよ。一人で背負いきれなかった貴様に、我と競う資格などない!」

驕りも、慢心さえなく。
英雄王は数多の世界の滅亡を、自分ならば背負ってみせると断言した。



162 ◆2kGkudiwr6:2007/08/04(土) 18:14:52 ID:vp1hckrY

「一対一か。さっきまでの袋叩きとは違って随分とまあ礼儀正しいことだぜ。
 ……セイバーはどうした?」
「セイバーは……アーチャーと戦ってる」
「アーチャー……ああ、あの嬢ちゃんが呼んだ赤い方のことか。
 クラス重複ってのは呼び方に困るぜ。で、お嬢ちゃんはちゃんと俺と戦えるのか?」
「……ガリューがいる」
「使い魔か? そりゃよかった。張り合いがありそうだ」

ルーテシアの答えにランサーはそう軽口を叩いたが……その体は見るも無残な様子を晒していた。
左半身は熱で焼け爛れ、左腕からは骨が覗いてさえいる。そしてその身に残っている魔力は、本来の四分の一にまで減っていた。
理由は腐るほどあるが、特に悪かったのはヴィヴィオを庇い、ヘビーバレルを直接受けてしまったこと。
ナンバーズ10・ディエチによるSランクオーバーの砲撃は、いかに英霊といえど耐えられるものではない。
しかし、それでもなおランサーは己が魔槍を構え……無表情だったルーテシアの顔が、僅かに動いた。

「…………」
「諦めが悪いと思うか?
 だがあいにく、俺の売りはそれなんでね。死ぬまで戦い続けるさ」
「……セイバーも?」
「さあな。育ちのいい騎士王様のことなんざ知らねえよ。
 もっとも、そう簡単に諦める腰抜けなんて英雄にはいねえがな」

ランサーの言葉に、ほんの一瞬だけルーテシアは考え込んだ。
聖杯は破壊しなくてはならないとセイバーは言う。だから彼女はずっと、あと一歩の所でルーテシアに逆らってきたのだろう。
そこまでしなくてはならないほど、セイバーにとって大変なことなんだろうか。

……けれど。



163 ◆2kGkudiwr6:2007/08/04(土) 18:15:11 ID:vp1hckrY

「ディバイン、バスタァァァァァァァァァ!」

スバルが、叫んだ。
既にその瞳は金色に染まり、彼女の魔力は暴風となって周囲の物を吹き飛ばしていく。
そして、撃ち出したその砲撃は暴風すら上回る、ただの暴力の塊だ。
……しかし、当たらない。
ディバインバスターが抉ったところには、既に何もいなかった。

「キキ――素質は評価しヨウ。
 その能力ハ対魔力ヲ持つサーヴァント殺シといウべきモの。
 特ニセイバーにとっテは、あノ金髪の女ヨリ厄介ダ」

髑髏が喋る。声から位置を探ろうとスバルが周囲を見渡すが、無駄なこと。
暗射者の気配遮断は、声の響きさえ異様な形に変えていた。
声はまるで、全方位から響く山彦のよう。そんな音から居場所を探るなど出来はしない。

「ダが、ワたシに対魔力はナイ……キキ、キ。
 しカし避けル手段と隠レる手段なラば山ほドあル」

山の翁――サーヴァント・アサシンが投げつけた短刀は、プロテクションを貫通してスバルの肩に上から突き刺さった。
しかし、痛みを堪えながらスバルが天井を見上げても、アサシンは既にそこにはいない。
彼女に暗殺者の位置が分かるのは、攻撃して来る瞬間のみ。
アサシンの隠れ身は、スバルに全く位置を悟られない。悟らせない。
故に、アサシンは断言した。

「つマり……本来最弱でアるワたシこソ、相性がイい」

完全にスバルの死角に入りこんだアサシンが、折りたたんでいた右腕を伸ばす。
その名は宝具・妄想心音(ザバーニーヤ)。鏡像を作り、離れた位置から相手の心臓を握り潰す呪いの腕。
宝具である以上は魔力を消費する。それゆえに、スバルに位置は悟られる。だがそれは問題ではない。
体の各所に傷を受けているスバルは、確実に反応が遅れるだろう。そして、反撃をする前に彼女は死ぬ。
その距離は20m。走り寄るには遠く、スバルの射撃では溜めが間に合わない。
驕りも油断もない。これは正しい判断であり、事実である。

164 ◆2kGkudiwr6:2007/08/04(土) 18:15:42 ID:vp1hckrY

――スバルに限った話ならば。

「隠れるのはそっちだけの専売特許じゃない――クロスファイアー・シュートッ!」

響いたのは、新たな声。
伏兵が撃ち出したオレンジ色の魔弾が、アサシンの右腕に命中する。
アサシンを倒すには、遠く及ばない一撃。しかしそれでも……一瞬だけ、アサシンの動きは止まっていて。

「ありがと……作戦通りだね、ティア!」

スバルが相棒に言葉をかけながら、走っていた。
状況が変わった今、勝敗の行方も変わりつつある。
アサシンが宝具による呪いを完遂するより先に、スバルが距離を詰め、アサシンに一撃を叩き込む可能性も多いにあるだろう。

「キキ……キィ!」

それでも、蟲が鳴くような声で髑髏が笑う。
アサシンに慢心はない。なればこそ、今までスバルを痛めつけ、宝具を文字通りの必殺となそうとしていたのだ。
現に傷ついたスバルはティアナの援護を受けて尚、反応が遅れている。
故に、この程度で敗れはしないというのがアサシンの矜持であり。
皆と一緒なら勝てると言うのが、スバルの誇りだった。



目覚めた黒い聖杯。攫われたギンガ。そしてスカリエッティの真意。
それぞれの目的のため結託する間桐と英雄王。立ちはだかる最優のサーヴァント。
世界の全てを集めし最強の王と、それに拮抗する贋作者。
サーヴァントに対する新たなジョーカーと、立ちはだかる暗殺者。
従来のルールを尽く覆し破綻した聖杯戦争の中で、フェイトと凛は――



「――教えてあげるわ、金ぴか」
「確かに、私達一人じゃ背負いきれない。だから、皆で一緒に背負うんです!」

165次のバトルロワイアルのために ◆TIZOS1Jprc:2007/08/26(日) 22:26:25 ID:OXAMUAwY
青い空に、青い海。
人気のない白い砂浜に椰子の木が風に揺れる、どこかの瀟洒なリゾート地みたいな南国の風景。
パラソルの下でデッキチェアに寝そべる半裸の老人がいた。
ブーメランパンツ一丁で、皺だらけの貧相な肉体を周囲に晒している。
はっきり言って、目に毒である。見る者とていないが。
否。

「ご機嫌麗しそうね、何度も死にかけた直後だって言うのに」
「ふふ、王たる者は何度窮地に追い遣られても決して取り乱したりはせぬのだよ、テスタロッサ」

何の前触れもなく、妖艶な魔女、プレシア・テスタロッサが、彼の隣に出現していた。
下手な水着よりもキワどい黒の衣装に黒のマントと言う、通常の神経の持ち主なら絶対に公衆の面前には立ちたくない格好である。
娘さんもレオタード一枚で飛び回ってるけど、このヒトの場合年齢ってモンを自覚し……ゲフンゲフン。

「脱獄の支援、感謝するぞ。さすがの私でもあのままじゃちとマズかった」
「ギブアンドテイクよ、こちらからは魔法技術とロストロギアの模造品の供与。貴方からは次元断層からの救出と未来の科学技術と秘密道具の供与。
こっちから一回は助けないと、お合い子にならないの」

実際は有用なコネクションを失いたくないと言うドライな打算に過ぎないのだが。

「タイムパトロール……だったかしらね。あの程度の連中、出し抜くのは簡単だったわ。遣口を教えられていたし」
「上長上長」

老人は機嫌良く高笑いを始めた。

「アルハザードに至る為……私の願いを叶える為に、貴方にはもっと役に立って貰わないといけないのよ」
「ん? 何か言ったのか?」
「いいえ……。それより貴方はこれからどうするつもり?」
「そうだな、しばらくはほとぼりを冷ましてから……」

老人は、ぐっと握り拳を天に掲げた。

「今度こそ、バトルロワイアルを完遂して見せる!」
「……。まだやる気なの」
「そうとも。神に等しきこの私に苦汁を飲ませたあやつらに、何としても目に物見せてやらねば。
次こそは全員絶望のどん底でむごたらしく嬲り殺しになって貰おうではないか!」
「そう」

プレシア、心底どうでも良さげに相槌。

「何でも良いけれど、今度はヘマをしないことね。私ね、無能な子は嫌いなの」
「フッフッフ、勿論だとも。同じ失敗を私が繰り返すと思うか? 次回は手心など加えん。
私自身の絶対的安全を保障した上で、奴等から反抗への手立てを完全に奪い去る。これで完璧だ。
今回の忌々しい生存者共に新たに数十人加えて第二回バトルロワイアル、開催決定だ」

無関心げなプレシアがふと興味を引かれたように老人を見た。

「どうして、そんなにその"バトルロワイアル"に拘るのかしら?」
「私の……悲願だからだ」

握り拳を己が胸に当て、断言する。
実際は今回の"興行"の取り引き相手が軒並逮捕されたおかげで、闇業者からの借金を返すアテがなくなり、首が回らんくなったからです。
いかに30世紀の未来技術を持つとは言え、表社会からも裏社会からも追われるようになっては、にっちもさっちも行かんとです。
等と、格好の悪い話は置いておく。

「まあ、そろそろほとぼりも冷めた頃合か。追手の連中がここを嗅ぎ付けるやもしれん。そろそろここを引き払って……」
「そうは行かないねぇ」

背後からの第三者の声に振り返ると同時、断続的な銃声が響く。
複数の機関銃からフルオートで撃ち出される7.92mm弾が白い砂浜に青い海と青い空が広がる平和な光景を、文字通り"粉々に吹き飛ばした"。
砕けたガラス片が一面に舞い、ホログラム装置と背景の液晶画面が機能停止する。
機械で演出されたリゾートの代替物は、数秒後には滅茶苦茶に散らかった、近代的な高層ビルの一室に過ぎないと言うその正体を暴かれていた。

「お客様の様ね」

プレシアの声に老人が顔を上げると、そこには十数名の旧ナチスドイツ親衛隊の制服を身に纏った屈強な兵士が雑多な銃火器を構えていた。
そして一列に並んだ彼等がさっと道を開けた場所を通って、後ろに控えていた三人組が悠々と歩み出てくる。
中央の、小太りというにはちょっと肥え過ぎな感じの眼鏡の中年男が語りかけてくる。

「やあ、お取り込み中の所を悪いね、ギガゾンビ君。
はじめまして。我々は、"最後の大隊"さ。
私の事は、取り合えず少佐、と呼んでくれ給え」

166次の次のバトルロワイアルのために ◆TIZOS1Jprc:2007/08/26(日) 22:27:30 ID:OXAMUAwY
男の視線が、這いつくばっている老人の横で平然と立ったままでいる女の方にずれる。

「おや、確かお嬢さんは……プレシア・テスタロッサ嬢ではないかな?」
「だったら?」

プレシアの猛禽を思わせる眼が細められる。
少佐は鷹揚に笑って返した。

「いやいや、君のような美しい女性とは一度ゆっくり話がしてみたいとは思うが、今、我々の用事があるのはそこのご老体なのだよ」

老人、ギガゾンビがよろよろと立ち上がりながら、男を睨み付ける。

「貴様……。そうか、思い出したぞ。
確か、あの吸血鬼どもを引っ張って来た世界にいた、連中の宿敵……」
「宿敵は良かったな」

少佐は含み笑いを漏らした。

「そう、宿敵。君が玩具扱いした、あの素敵な化け物たちは我々の宿敵だったのだよ。
大切な、唯一無二の、何者にも代え難い。
彼等が相手でなくては、我々は、その全身全霊をかけた全力で戦争をすることが叶わないのだよ。
なにしろ、先の大戦から半世紀。我々が力を蓄えている間に、世界は我々の事を忘れ去ってしまった。
かつての英雄たちは死に絶え、のうのうと平和を甘受する先進諸国民達は、豚の群となり果てているではないか!
いかん! 実にけしからん! 本当に嘆かわしい! そうは思わないかね?」

少佐は、握り拳を固めて振り回しつつ、問われてもいないのにベラベラと長ったらしい口上を、とうとうとぶった。

「我々の望みは唯一つ。戦争をすることだ。
唯の戦争、そこいらで毎日起きてる地域紛争程度では勿論良い訳がない。
司令官が地下深くに掘られた安全な指令所でボタン一つ押すだけでカタが付く、大陸間弾道ミサイルが飛び交うだけの単調極まりない、無機質で"クリーンな"未来戦争など問題外だ。
我々の望む戦争とは、もっと血飛沫騒ぎ肉片踊る、千差万別有象無象老若男女を巻き込んだ、親に合うては親を殺し仏に合うては仏を殺し神に合うては神を殺す、五臓六腑を喰い千切り阿鼻叫喚の怒号に包まれた、そんな素敵で脅威で大惨事な大戦争なのだ!
それをする相手はもう、彼等しか存在しなかった!
アーカードとその下僕、そして"死神"ウォルターを擁する英国国教騎士団!
そして化物殺しの鬼札アンデルセンを有する法王庁特務局第十三課!
彼等しかいなかった! 彼等でなくてはならなかった!
彼等が存在しないのでは、我々の、この振り上げた拳をどこに振り降ろせば良いのだ!
半世紀もの間密かに研ぎ、磨き続けて来たこの牙を一体だれに突き立てれば良いのだ!
戦争するしか能の無い、戦争の事しか脳に無い我々が、この地球上に存在する意味が無いじゃないか!
……………………。
一体この落とし前はどう付けてくれるんだいギガゾンビ君?」

ねっとりとした和やかな笑みを浮かべながら、男はギガゾンビに対しすごんでみせる。
しかし孤立無援のはずの老人は不敵に笑って見せる。

「フン……群れねば何も出来ぬロートル共めが。貴様等の相手など下らない面倒をしていられる程、私は暇では無いわ」

言うと同時に、金属製の分厚いシャッターが彼等の間に滑り落ちてきた。
完全に遮断され、無効の物音一つこちらに届いてこない。
ちなみに、プレシアも向こう側だ。

「やれやれ、これだから礼儀を知らぬ野蛮人は。
まあ、これで十分時間は稼げる。今の内にさっさと、おさらばするとしようか……」

先程の銃撃で砕け散った窓ガラスから、外を覗き込む。
すぐ真下に小型のタイムマシン兼用クルーザーが待機している。
ギガゾンビはニヤリと笑うと、外へと一歩を踏み出そうと……、

「遅すぎですゥ」

突如耳に届く粘っこい男の声。
同時、クルーザー全体にスパークが走ったかと思うと、次の瞬間には爆発四散していた。
爆風を食らいかけて腰を抜かした老人の目の前に、白蛇を思わせる風体の男が立っていた、空中で。
オールバックの白髪、色の濃いバイザー、ぴっちりとした黒のスーツ、口元に浮かべられた皮肉げな笑み。

「ンフフフフフ……捕まえましたよォ、ギガゾンビ」
「き、キサマは、あのアルター使い共の世界での、"本土"側の能力者!」
「はいィ。本土のアルター使い、無常矜侍ですゥ」

167次の次のバトルロワイアルのために ◆TIZOS1Jprc:2007/08/26(日) 22:28:33 ID:OXAMUAwY
相変わらずのスローペースで自己紹介をする男。

「い、一体私に何の用だ! 私は貴様とは何の関わりもない!」
「貴方に無くとも、私にはあるのですよォ」

腰を抜かしたまま後ろにズリ下がる老人にゆっくりと迫りながら、蛇男はとうとうと語りかけた。

「今回貴方が仕組んだ"バトルロワイアル"の全容、私はちゃーんと把握しております。
やってくれましたねェ……。
よく私の"向こう側"とのコンタクトと言う悲願を見事に打ち砕いてくれました……。
もうあそこにはアルター反応がありませんでしたねェ……ストレート・クーガーも殺されたのですか?
ま、あの精製を受けてボロボロの体では、当然の事でしょうねェ……。
それにしても、あと一息のところで扉を開く鍵であるあの二人、カズマと劉鳳がお亡くなりになってしまうとは……。
ジグマールさんには残念でしたが、私はもっとでしょうか……。

はじめてですよォ……。
このわたしをここまでコケにしたおバカさんは……。
まさかこんな結果になろうとは思いませんでした……」

と、それまでの皮肉げな雰囲気が一変。俯いてなにやらドス黒いオーラを放ち始めた。

「ゆ……」
「ゆ?」

思わず聞き返したギガゾンビは、夜叉の如き憤怒の表情を見せている無常の顔をまともに見る羽目になった。

「ゆるさん……」

いつもの、常に嫌味っぽいほどマイペースな彼を知る人間ならば別人かと疑う程に、無常矜侍は激怒していた。

「ぜったいゆるさんぞこの虫ケラめが!!!!!
じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!!
塵一つ残さんぞ覚悟しろ!!!」

気圧されたギガゾンビはじりじりと下がるが、すぐに壁際まで追い詰められる。
へばりついた隔壁が突然轟音と共に揺れ動き、大きくひしゃげた。
二、三回それが続いたかと思うと、次の瞬間には壁ごとバラバラになって吹き飛ばされる。
土煙の向こうには、軍帽を目深に被り、バレルを非常識な位長く改造してあるモーゼル拳銃を腰に提げた、長身の軍人が拳を突き出していた。

「大尉、ご苦労」

ギガゾンビの背後は、あっと言う間に、SS軍人たちに取り囲まれていた。

「おやァ? これは面白い。彼等も君を帰すつもりはないようですねェ」
「フフフ、どうやら、そこの男も我々と目的は同じの様だね。
しょうがない。君も混ざり給えよ」

なにやら少佐と無常が意気投合している。
今の所は同士討ちしてくれることは有り得ない様だ。
だが背水の陣となったギガゾンビは、不敵な態度を崩さなかった。

「ククク……、身の程死らずの愚か者めが……。
生きて帰れぬのは貴様等だと知るが良い。
やれッ! テスタロッサッ!
奴等を皆殺しにしろッ!!」

168次の次のバトルロワイアルのために ◆TIZOS1Jprc:2007/08/26(日) 22:29:21 ID:OXAMUAwY
声高に叫んだ。
沈黙が降りる。
壁に寄り掛かって、様子を見ていたプレシアはしかし、動かなかった。

「テスタロッサ……?」

プレシア、溜息。

「正直言うとね、貴方には失望したの」
「なんだと……!」
「"剣を持つものは、また自らも剣によって滅ぼされることを覚悟せねばならない"。
あれだけの事をしでかしたのだから、法による罰以外にも、個人的な報復なども警戒しておくのが当然でしょう。
それなのに貴方と来たら……この体たらく。付き合ってられないわ。
幸い貴方がコンタクトした科学技術の発達した世界とのコネクションは私も貰った事だし。
科学の特徴とはその再現性。
魔法と違って、知識と道具さえあれば専門家なしでも事は済ませられる。

貴方、用済みだわ。
そちらの方々、彼の処遇はご自由にどうぞ」
「なッ……! そんなッ……!」

哀れ老人は屈強な軍人二人に両脇を拘束された。

「頼むッ……! 見捨てないでくれッ……!」

誰も老人の懇願に耳を貸さない。

「そうだッ! お前達! 私の科学力は欲しくないか!?
私は二十三世紀最高の技術力と三十世紀の科学技術の両方を持っているぞ!」
「それは良いことを聞いた。ドク!」
「は」

少佐が指を鳴らすと、背後に控えていた、血濡れの白衣を纏った多重レンズ眼鏡の男が歩み出てきた。

「彼を拷問に掛け給え」
「はッ! ゲシュタポ上がりの腕利きを多数用意しております」

チャッと音が出る程に畏まって見せる男の背後から、見るからに近寄りがたい風貌をした軍人三人が現れる。

「……こ、殺すならさっさと殺せッ」
「死に損いの分際で命令するつもりか!」
「よぉし、こいつの肉はお前たちにくれてやる。好きにしろッ!」
「秘密道具さえあれば……こんな奴等に……」
「へへへ。おい、あべこべクリームってやつを用意しろ。みんなで気持ちよくしてやる」

老人がズルズルと引き摺られていく。
それをよそに、異なる世界からやってきた三悪人達はのどかに談笑していた。

「はは、これでまた戦争が出来るかもしれない。
しかも今度は唯の戦争じゃない。宇宙を股にかけた時空戦争だよ! H・G・ウェルズもびっくりだ!」
「左様ですね、少佐」
「ほう。時空を操作する力ですかァ。興味深いですねェ。
私も同伴させて頂いてよろしいですかァ?
ひょっとすると私の能力の役に立つかもしれませんし」
「私も一枚噛ませてもらっても良いんでしょう?」

もはや唯の無力な老人に過ぎないギガゾンビを顧みる者とていない。
老人は惨めに喚き散らすしか出来なかった。

「待て! 待って!! まって――――!!!
テスタロッサ――――ッ!
スラン! ボイド! ユービック! コンラッド! フェムト!
テラ! テラテラテラテラテラテラ――――!
だれか、私を助けてくれ――――!」

ああ、誰か彼をこの窮地より救い得る者がいるだろうか?
そうだ、彼なら。ギガゾンビと縁浅からぬ彼ならば。
並行宇宙の一つでは物語の主人公として万人に語り継がれる彼ならば、あるいは。
だが、あれだけの事をされた彼が、この老人を助けることなど、どう考えても有り得ないこと。
しかし、それでも、藁をも縋る思いで、ギガゾンビは彼の名を叫んだ。

「ド、ド、ドラえも――――ん!!」

169 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:32:10 ID:JbKpKyeU
時間軸はきっと◆lbhhgwAtQE氏の『静謐な病院Ⅱ 〜それぞれの胸の誓い〜』から
◆S8pgx99zVs氏の『陽が落ちる』の間(または、『陽が落ちる』の平行世界?)になるんでしょう。

『静謐な病院Ⅱ 〜それぞれの胸の誓い〜』の状態表を見た瞬間から頭の片隅から離れなかったネタを今回文章にする事を覚悟しました。

短く、面白くも無く、ひねりも無く、キャラ把握もちゃんと出来ていないであろう話ですが暇つぶし程度にはなるかも……。

170 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:32:24 ID:JbKpKyeU
「魔力がたりないのよ」

凛がいきなりではあるが言い出した。

「私もフェイトも今までの戦闘で魔力を大量に消費したわ。フェイトに関してはもう完全に魔力が無いの」

病院から出ていた5人が戻って来て、全員の状態を確認し終わって直ぐに凛はその場に居る全員に話す。

「これからギガゾンビとの戦いになるだろうけど、そこには大量のツチダマが居るのよね?」
「そ……sうだ、ギガゾnビの……しrには……何まnもの、tチdマが居る……」

ユービックが凛の質問に答える。
ツチダマであるユービックは、ギガゾンビの城の情報について知っている。
もちろん仲間のツチダマが大体何体居るかも把握していた。

171 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:32:46 ID:JbKpKyeU
「その大量のツチダマを相手にするのに魔法、魔術があればグッと勝率が上がってくるんだけど……」

使うためには魔力が必要なの。と悔しそうにつぶやく。

「魔力はどうやったら回復するんだ?」
「時間がたてば自然に回復するんだけど……今はその時間が無いの。一日あれば完全には戻ってくるのは確かよ」
「一日ですか……凛ちゃん、他の回復方法は?」

ドラえもんが聞いてくるのも無理は無い、一日も待っているうちに向こうから動いてくるのはわかっている。今は一時間、いや、一分ですら惜しい状態なのだから。

172 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:33:12 ID:JbKpKyeU
「何らか魔力を持ったアイテムがあれば、そこから魔力を吸収して回復することも可能です。でも、そんなアイテムもありませんし……」

フェイトが申し訳ないように説明をする、何でもカートリッジでは一時的に魔力を上げるだけで時間がたつと元に戻ってしまうらしい。

「とにかく、私とフェイトで魔力を何とかする方法を考えてみるわ。皆は首輪の解除の方をお願い」
「判った。じゃあここはご婦人御二方に任せて、他のご婦人&野郎共は首輪の解除に専念するぞ。

ゲインの号令に一斉に動き出す。
部屋にはフェイトと凛の二人だけになった。

173 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:33:49 ID:JbKpKyeU
「……ねえ、フェイト」
「なんですか?」

二人になって一分ほどの沈黙をした後、凛はフェイトに振り返りながら言葉をかける。

「実は……さっき皆には黙ってたんだけど短時間で魔力を回復する方法が一つあるの」
なぜかその顔は真っ赤に染まり、いつもの三倍増しの真剣な表情だ。

「魔力が回復する方法があるんですか!?何故今までだまっていたんです?」
「いろいろと事情があるのよ!……いい?この方法、半端じゃナイ覚悟が必要なの。話してもやりたくないって言ってもから、よく聞きなさいよ」
「は、……はい!」

返事を聞き、凛は口をフェイトの耳元に持っていき

「………………」

何かを教えている。

174 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:34:15 ID:JbKpKyeU
「………え、えーーーー!!!!!!ほ……本当ですかーーーーー!!!!!!」

突然フェイトが目覚まし時計も真っ青な叫び声を上げる。
なぜかその顔は凛以上に真っ赤に染まっている。

「声が大きいわよ!悲しいけど事実なの、どう?あなたに出来る?」

凛の問いかけにフェイトはじっくりと考え……。
「私は……」

175 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:34:39 ID:JbKpKyeU
「よお、チャンプ。何か解決方法は見つかったかい?」
「ゲインさん、まだ見つかりませんよ。あなただって見つかってないみたいですね」

首輪の解除方法を探していたゲイナーは途中、ゲインに遭遇する。
御互い有効な首輪の解除方法が見つからず、困っているようだ。

「お二人さん、どうだい調子は?ってやっぱり駄目みたいだな……」

廊下の奥からトグサの姿が現れる、トグサもやはり首輪の解除方法について困り果てている様子で、表情があまり良くない。
そこで三人で首輪について話をしていると今度はドラえもんがやってきた。

「あ、三人ともここにいたんですか?凛ちゃんが部屋に来て欲しいっていってましたよ」

ドラえもんの伝言を聞いた三人は凛とフェイトが居る部屋の前にやってきた。

176 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:34:50 ID:JbKpKyeU
「あれ?トグサ、ゲイン、ゲイナー、三人も呼ばれたのか?」

ドアの前にはロックがいた。
何でも彼もドラえもんの伝言を聞いて来たらしい、しかもドラえもんが伝言を頼まれた相手はこの四人で他の人は呼ばれていないとのことだ。

「一体俺ら四人に何のようがあるんだ?まあいい、開けよう」

そして四人は凛とフェイトの待つ部屋の扉を開く。

177 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:35:05 ID:JbKpKyeU
「……来たわね。四人とも」

凛が喋ると同時に部屋の中に違和感を覚える。
「結界を張らせてもらったわ、防音と人払い、そして内側から出ることが困難な結界を」
「結界って、僕たちを閉じ込めてどうするつもりですか!?」

ゲイナーの言葉には一切言葉を返さず、凛は話を続ける。
「……実はね、魔力を回復する方法があるの、その方法を、……その、手伝ってもらうというか……やってもらうと言うか……」

凛の言葉に切れがないと思い不思議がってみると二人とも髪が邪魔でわかりにくいが顔を真っ赤にしている。

178 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:35:21 ID:JbKpKyeU
「魔力を回復する方法があるだって?一体どんな方法なんだい?」
そう言ってゲインは部屋に二つあるベットのうちの一つに腰掛ける。
しかし、ベット二つもあったか?とゲインは同時にそう思った。

「一般人にもね、魔力があるの。でも他人から魔力を共有するにはラインって言うものが必要になってくるの」
「そ、それで。あ、あの……ラインを繋ぐには如何したらいいかといいますと……」
「答えはとっても簡単に出来るのよね」
「それは……」「それは……ですね……」

179 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:35:44 ID:JbKpKyeU





「「私達を抱いてください!!」」






四人は二人が何を言ったのかを理解するのに時間が掛かった。

180 ◆RX7Gqr4C4s:2007/11/05(月) 01:36:46 ID:JbKpKyeU




凛&フェイトーー魔力全回復



【トグサ、ゲイン・ビジョウ、ゲイナー・サンガ、ロック    死亡――死因 腹上死】


これ以上は無理です……。
やはり書き手でない自分が話を書くべき手はないのでしょうね……。
没作品投下スレとは言え、これを投下してよかったのかは未だにわからない……
駄目だったらスイマセン。

181魔法少女カレイドナナシ:2007/11/08(木) 18:09:14 ID:nZupFnIU
近大とか東大阪大学?といった、超難関大学が在る。

182魔法少女カレイドナナシ:2007/11/15(木) 22:43:43 ID:cc0XmCR6
>>180
たしか、当時も雑談でチラッと出ていたネタだと思うけど、まさか文章化してしまうとは……
内容的にはもちろん多種多様な意味でやばすぎるけれど、
企画終了後の没作品投下スレ作品としては十分ありな範疇。
最初は「ネタとはいえこれで4人殺すか!?」と思ったけど、たしかにそうしないとオチがつかないか。
なんせよ、自分はそれなりに楽しめた。

あと、書き手なんて、本来“話を書いて投下した人”程度の意味あいしかない。
没ネタとはいえまがりなりとも一つの話を書いて投下した以上はあなただって立派に書き手でしょうに。
そりゃ足りないところだってあるだろうとは思うけれど、妄想を具現化するのが嫌いでなければ、
気が向いたらまたどこかで挑戦してみては?

185:2007/12/07(金) 14:31:22 ID:TJvrl9yU
いじめ撃退法

186残された欠片「異郷」 ◆k97rDX.Hc.:2007/12/28(金) 23:36:09 ID:dXEPpd9E
予告より、えらく遅れて申し訳ないのですが、一応形になりましたのでここに置いておきます。内容は……蛇足ですが「ドラえもんのエピローグのその後」の没ネタです。“ひぐらし”の原作をご存知の方は、TIPSを読むような感覚で見てくださるとありがたいです。



「異郷」

 ――21××年。
 大都市の郊外にある、とあるスクラップ工場。そこが、いくつか提示されたなかからドラえもんが選んだ就職先だった。
 勤務時間は長く、労働環境がよいとはお世辞にも言えない。しかし、あちこちにガタがきた子守ロボットを採用しようなどという雇用主などそうあるものでは無い。それに、基本的な工学知識を持ち、力仕事もこなせるドラえもんにとっては自分の能力を十分に生かせる職場であることには違いなかった。

 ドアを開けて室内に一歩進んだところで、かすかな躊躇を覚えてドラえもんは踏み出した足を引っ込めた。そこは自分に割り当てられた部屋であり、寝起きをするようになってからすでに数ヶ月が経過している。入ることを誰に止められるいわれもないし、別に何か不審な点があったわけでもない。
 念のためにもう一歩下がってドアのわきを見てみれば、予想を裏切られることもなく「ドラえもん」と記された表札がそこにかかっていた。
 いつになったらこんなことをせずにすむようになるのだろうか。自分の姿に半ば呆れながら、いつもその日の仕事を終えてからするように、ドラえもんは部屋の壁と一体化したテーブルの前に座った。その上にしつらえられた端末を起動させ、その画面に表示された内容に目を通す。
『2件ノ着信アリ』
 一方の差出人は、あのタイムパトロールの隊長。彼は――と言うより、タイムパトロールの組織全体が――ドラえもんに同情的で、いくつかの件については少々の無理も聞いてくれていた。今回のメッセージは、依頼していた事案が達成できたことを伝えてくるもので、これには丁寧な文章でお礼状を送ることにした。
 さて、もう一方はと言うと、これはユービックから。中身に目を通すと、ロボット学校での生活や、日常生活の細々としたことが新鮮な驚きとともに綴られている。
 新しい環境に慣れようとして四苦八苦する友人の姿を思い浮かべ、嬉しさとともに一抹の淋しさを感じてドラえもんは微笑んだ。こちらに来たばかりの頃は毎日のように届いていた彼からの私信も、最近は週に一度に減ってきている。いい加減、自分も自立しなければいけない。
 そんなことを考えながら画面をスクロールさせ、メッセージの最後まで読んだところで、ドラえもんは目を見開いた。文面の最後に、校長先生からの伝言としてロボット学校で働かないかという誘いが記されていたからだ。
 当然と言えば当然の話で、結局、自分の存在を誰にも知られずにいるというわけにはいかなかったということになる。おそらく、ユービックがロボット学校の手に委ねられると決まった時点で、校長先生にはあの事件についての説明があったに違いないのだから。
 したためたユービックへの返信の最後に、心遣いに感謝しつつもそれについては断る旨を追加することにし、ドラえもんはできあがった二件のメッセージを送信した。
 いっそ、馴染み深い場所で、罪深い思い違いをしたまま生きられたならそれも幸せだったのかもしれない。でも、――

 部屋の隅に置かれたままのタイムテレビを眺めて、ドラえもんはため息をついた。あの日以来、一度も電源を入れられることもなく、入力キーや画面の上にはうっすらと埃が積もっている。

 そんな思い違いも許されないことは、もう十分に知っていた。

187残された欠片「遺言」 ◆k97rDX.Hc.:2007/12/28(金) 23:36:51 ID:dXEPpd9E
「遺言」

 突然の物音に、ドラえもんは道具を磨く手を休めて顔をあげた。
 もしかしてネズミじゃないだろうか? とっさに頭に浮かんだ考えに身が竦む。恐る恐る首をめぐらせて背後を確認し、そうしてやっと緊張を緩めた。
 振り向いてみればわかることだった。今も聞こえているその音は、この部屋の主、野比のび太の机がたてている音。いや、より正確には、動きが渋いその引き出しが“内側から”開けられようとしている音に違いない。
 なら、ネズミなどということはありえない。大方、未来デパートがダイレクトメールでも送ってよこしたのだろう。そう結論づけると、ドラえもんは立ち上がった。
 立ち上がって机に近付き……出し抜けに開いた引き出しに、頭をしたたかに打たれてその場に倒れた。
「タイ……大丈夫かね?」
「ええ、なんとか」
 そう言ってはみたものの、目の前では星がチカチカと瞬いている上、耳鳴りのせいで相手の声もよく聞こえない。一度目を閉じて頭を振ると、ドラえもんはその場に座りなおした。
 時がたつにつれだんだんと視界が元の明るさへと戻っていく。その中央に、見覚えのある服装が写しだされていくことにギクリとさせられながら、彼は目の前の人物の次の言葉を待った。
「もしかすると、君は私のことを知っているのかもしれないが……
 見てのとおり、私はタイムパトロールの者だ。
 “別の世界の君”に頼まれていた物を届けに来た」

                    〇〇〇

 カウンタがちょうど一時間を刻んだところで、ドラえもんはビデオの再生を中断した。記録ディスクをタイムテレビの中から抜き取ってポケットの中へ収めると、自然とため息が漏れていた。
 いくら覚悟をしていても、辛いものはどうしようもなく辛いし、哀しいものはどうしようもなく哀しい。そんなことを今更になって思う自分に苦笑しつつ、彼はタイムテレビの操作を再び開始した。
 画面に映し出されたもの。それは。

188残された欠片「決意」 ◆k97rDX.Hc.:2007/12/28(金) 23:37:19 ID:dXEPpd9E
「決意」

 タイムテレビの前で、彼はそっと呟いた。
「もう二度と――」

189残された欠片「日常」 ◆k97rDX.Hc.:2007/12/28(金) 23:38:29 ID:dXEPpd9E
「日常」

 天気予報は本当にあてにならない。雨粒が叩きつけられる窓ガラスを眺めて、僕はため息をついた。
 予報が外れたこと自体は大した問題じゃない。雨が降り始めた時は少し不安になったけれど、ドラえもんが迎えに来てくれたから、ずぶ濡れにならずにすんだ。後で自分がパパの迎えに行かないといけないのはちょっと面倒だけれど、それもまあいい。
 本当に問題なのは、どこにも遊びに行くあてがないことだ。しずかちゃんちに行ければ良かったんだけれど、都合が悪いと言われてしまった。
 こんな日には……
(やっぱり昼寝が一番)
 僕はそう結論づけてランドセルをその辺に放り投げると、引き寄せた座布団を枕にして畳の上に寝っころがった。
(……あれ?)
 眠りにつくほんの一瞬前に、微かな違和感を覚えて僕は跳び起きた。
 部屋を見渡すまでもない。体を起こしてちょうど正面、ドラえもんが寝床にしている押し入れの襖に、竹刀が立て掛けてある。
 なんで、こんなものがここに? 僕は襖の前まで這っていき、それを手にとった。
「今日のおやつはドラ焼き〜♪」
「ねえ、ドラえもん」
 都合の良いことに、ちょうどその時、上機嫌のドラえもんが鼻歌まじりに部屋に入って来た。早速、この竹刀について尋ねてみることにする。
「ん? なんだい?」
「こんな竹刀、どうしたの?」
「え!? ああ、それ? ええと、この前ジャイアンが君を追い回してたことがあったろう。
 そのとき取り上げといたのがポケットの中を整理してたら出てきたんだよ」
「……そんなことあったっけ?」
「あれ? 覚えてないの? まあ、いいでしょ。しまっちゃうから返してよ」
 怪しい。……あ、今、目をそらした。何か僕から隠そうとしているな。
 よし。
「そんなこと言ってさ。僕に使わせたくないだけで、実はひみつ道具だったりするんじゃないの?」
 僕がそう言うと、ドラえもんはきょとんとした顔でこっちを見つめてきた。黙ったまま何も言わないから、なんだか気まずい。
「な、なんだよ」
「ク、クク。ウヒャハヒャヒャ」
と、思ったら突然吹き出し、腹を抱えて大笑いし始めた。
 そのまましばらくゲラゲラと笑いつづけて、しばらくして言うことには、
「フヒ、フヒヒヒ。き、君は実に……まあいいや。変なこと言わないでよ、のび太くん。
 それはただの竹刀で、ひみつ道具なんかじゃないよ」
 もう。そこまで笑うことないじゃないか。僕がふくれてそっぽをむくと、ドラえもんはそれを宥めにかかってきた。
 『ごめん』とか、『あんまり突拍子もなかったから、つい』とか色々と言ってきたけれど、しばらく許してやるもんか。……とは思ったけれど、こんなことで意地をはるのも馬鹿馬鹿しいからすぐに振り向いた。
 そしたら、やっぱりあの気色悪いにやにや笑いに出迎えられた。
 目の端に浮かんだ涙をぬぐったりなんかしちゃってさ。泣く程面白かったって言うわけ?


 変なドラえもん。






あとがき

蛇足の話の更に蛇足ですが後書き。今回の4つの“かけら”(うち1つはえらく短いですが)は互いにつながった話かもしれませんし、まったく関わりのない話かもしれません。また、どの話を「あり」と考えどれを「なし」とするかも読む方次第です(実際、書いた自分自身、趣味に合わないのでなかったことにしているものも1つあります)。
また、解釈に幅が出る部分や妄想の入る余地を意図的に増やしてもいるので、もし、面白いと感じていただけたなら、エピローグの方と合わせて色々考えてみてください。例えば、「もしもボックスの使用の有無」、「(ロワに出場した)ドラえもんが消滅してしまったか否か」、「竹刀がのび太の部屋にある理由」あたりと今回の話のどれを採用するかを変えれば色々違う話を作れるでしょうしね。

だらだらと書きなぐってしまいましたが以上で終わりです。書く側としては力不足の目立つ自分ですが、またどこかでお会いしましたら、よろしくお願いします。


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