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避難用作品投下スレ5

1管理人★:2009/05/28(木) 12:49:59 ID:???0
葉鍵ロワイアル3の作品投下スレッドです。

341(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:27:04 ID:M3ANcTgY0
 壮観だ。
 ぞろぞろと居座っている十四人、自分を含め十五人の姿を眺め、那須宗一は感嘆の息を漏らした。

 いざこうして生存者が全員揃うと見ものだ。
 敵対する相手が出なくて良かったという安堵よりも、こうなるだろうと予感していた自分があるということに気付き、
 宗一は案外人を信じるようになってきているのかもしれない、と思った。

 不思議と、この中に欺こうとする者がいるとは思えなかった。
 おかしな話だ。つい先程まで、自分は疑うことを常としているはずだったのに。
 この場に漂う連帯感を纏った空気、皆一様に同じ一点を目指す指向を感じたからこそ、理性も納得しただけのことなのかもしれない。
 どちらでもいい、と宗一は断じた。直感が信じていいと言ったのなら、別にどちらでも良かった。
 少なくとも、人の悪意のみを信じて生きているのではないということが分かったのだから。

「さて、と。まずは何から言うべきなのかね、リーダー」

 じろ、と隣に立っているリサ=ヴィクセンが睨んだ。
 話を纏める分には年上の格があるリサがいいという判断で言ってみたのだが、なぜ不機嫌そうにされるのか分からず、
 宗一は曖昧に笑い返すことしかできなかった。
 短い溜息がリサの唇から漏れ、仕事用のそれに切り替わった声が場に響いた。

「皆さんに、聞いてもらいたいことがあります」

 珍しい。敬語だ。任務でも滅多に聞かない口調に、宗一は思わず口笛を鳴らしていた。
 十三人の目がこちらを向く。教卓の上に立たされ、何かを喋らされているときに似ていた。

「ここに私達が集まったということは、大よそその目的は掴めているかと思います。
 顔見知り同士もいれば、初めて顔を合わせる方もいます。そこで、まずは名前を公表してもらおうと思います。
 ここから先、協力してゆく者同士、最低限のことですから」

 そう言うと、リサは背後のホワイトボードに自分の名前を書き連ねた。
 宗一も続くようにして自分の名前を記す。それがスイッチとなり、前に座っていた者から順番に名前が書かれてゆく。
 約、一名を除いて。

342(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:27:24 ID:M3ANcTgY0
「……あなたは?」

 リサの目が、メイドロボらしき少女へと向けられた。

「わたしは、正規の参加者ではないようなのです。支給品として、ここにいます」
「支給品……?」

 何人かが呆気に取られた声を出した。一斉に視線がメイドロボへと向くと、隣から高槻と名前を書いていた男が手を上げた。

「そいつは事実だ。俺はこの目で見たわけじゃないが、仲間からそうだと聞いてる。もっとも、今は全員この世にはいないが」
「支給品だと証明できる手段は?」

 リサが質問を重ねた。支給品だということが事実だとすれば、確実に主催者の手が入っているということになる。
 盗聴装置、監視装置。本人にその自覚がなくても設置されている可能性もあれば、
 主催者からの命令で参加者に偽装しているとも考えられる。リサが疑うのは当然のことで、最悪の場合分解、という措置もあり得る。
 しかしここで反論したのは意外にもメイドロボだった。

「USBメモリの中に、支給品一覧というものがあるはずです。その中に、わたしが含まれているはずですが」
「USBメモリね。持っている人は」

 二つの手が上がった。姫百合瑠璃、一ノ瀬ことみだった。
 ことみが補足するように発言した。

「多分、私が持ってるのがそれだと思うの。杏ちゃんが持ってたのを、預かったから」
「ああ。私の持ち物、元は高槻たちのものも含まれてるから。間違いないと思うわ」

 証拠はあるということになる。ならば支給品の線は濃厚だが、主催者からの刺客という疑念は晴れたわけではない。
 だがそれを払拭するかのように、芳野祐介が口を開いた。

343(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:27:46 ID:M3ANcTgY0
「ちなみに、こいつがクロだという線は薄い。こいつは自ら主催者の一派を知っていることを口にした。
 口外したところで主催者にとっては百害あって一利なし、だ。
 何も喋らなければ、そもそもの情報が足りない俺達には何もやりようがないからな。
 疑われる理由を増やしたところでどうにもならん」
「その主催の一派、って何だ?」

 メイドロボへの疑いよりも、主催者のことを知っていると口にしたことの方が気になった。
 情報源が少なすぎる今、些細な情報でも貴重なところだ。
 芳野祐介の言う通り、これが偽情報だろうが本当だろうが、こちらとしては裏切り者の可能性があると疑う要素になりうるわけだから、
 わざわざ喋る必要性がない。裏が全く取れない以上、喋らないことほど隠匿に最適なことはないからだ。
 そういう意味では、すでにメイドロボへの疑いは晴れていた。リサも同じ結論を得ていたのか、その話題の方が気になっていたようだった。

「俺と高槻、このほしのゆめみで、主催者の手駒と思われる、ええと、何だったか」
「『アハトノイン』だ。ちなみに、こいつが戦利品。逃がしたのが惜しすぎるがな」

 高槻がデイパックからP−90、そしてロボットのものらしき腕を取り出して机の上に置く。
 敵もロボット、という認識が瞬時に広がり、頭にあるリストが検索をかけはじめていた。

「アハトノインはわたしの同型機です。戦闘用にモデルチェンジされたのが、彼女達です。
 もっともわたしは、彼女達の詳細なデータベースを保持していないのですが……」
「どうして?」

 宗一が考える一方、リサは再び質問を始めていた。

「わたしの型番はSCR5000Si/FL CAPELII.で、アハトノインについてのデータは当時開発中ということで殆どインプットされていませんでした」
「SCR5000Si/FL CAPELII.……どこかで聞き覚えがあるわね」
「例の盗難事件だ。覚えてるか」
「……アレね」

344(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:28:09 ID:M3ANcTgY0
 宗一達エージェント界隈では割と有名になっていた盗難事件で、
 日本で開発されていた新型コンパニオンロボットのデータが何者かによってハッキングされ、盗まれていたという事件だった。
 手口が俊敏かつ手際がよく、巧妙に隠蔽されていたがために発見が遅れ、今でもその足取りは掴めていない。
 また同時期に、海外ではロボットの開発会社が相次いで倒産することがあり、関連性は薄いものの何かしらのきな臭さを忍ばせるものがあった。

「だとするなら、この事件の犯人はロボットに関連する誰か……?」
「リサ、ひとつだけ引っ掛かりがある。篁財閥が最近ロボット開発をしているって噂があったろ」
「そういえば……最近、そういう事業部が設立されたわね。主任はデイビッド・サリンジャーって天才プログラマーだったけど……
 彼、以前に日本の学界で小さな騒ぎを起こして以来、特にこれといって目立ったようなことはしてこなかった。だけど……」

 リサは篁財閥へのダブルスパイとして潜入していた、という情報はここに来る直前、宗一の耳にも伝わっていた。
 サリンジャー、という名前には聞き覚えはある。ドイツの大手ロボットメーカーに鳴り物入りで入社した天才プログラマーだったが、
 ある日を境に退社。その後篁財閥に招聘されたという情報だった。
 そして、そのロボットメーカーはサリンジャーが退社した後に倒産している。

「……篁も、ここにいた」

 リサの小さな呟きが、それまで欠けていたピースを埋め合わせる材料となった。
 盗まれたロボットのデータ。篁財閥。相次いだロボットメーカーの倒産。そして、デイビッド・サリンジャー。
 殆ど確信に近い推論が生まれたが、ひとつだけ、そして決定的に引っかかる部分があった。

「だけど、篁は既に死んでる。醍醐もな」

 篁財閥総帥である彼が既に死亡していること。そしてその側近だと言われている醍醐も既に死亡しているのだ。
 仮にあの事件に篁が関わっているのだとすれば、この顛末はどういうことなのだろうか。
 まだ何か、自分達に大きな情報の不足があることは明らかだった。
 知る由もない、この殺し合いが開かれた、真の理由を――

「で、おい。勝手に盛り上がってないで、いい加減結論を出して欲しいんだが」

345(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:28:28 ID:M3ANcTgY0
 いつの間にか近寄っていた高槻がずいと横から口を挟んだ。

「あ、ああ。悪かった。とりあえずええっと、ほしのゆめみさんのことは分かった。信じるよ」
「ええ。こっちもこっちで分かったこともあるし」

 あくまでも推論の域に過ぎないが。
 高槻は訝しげな視線で睨んだが、納得を得られたらしいと分かって引き下がった。
 ほしのゆめみもことの次第を了解したらしく、ぺこりと頭を下げていた。
 悪いことをしたかもしれない、と思いつつ、宗一は返礼した。

「よし。ゆめみさんのお陰で大分話がし易くなったわね。次なんだけど……これから呼ぶ人たちで少し会議を開きたいと思うの」
「全員でやらないんですか?」

 古河渚が手を上げて聞いてきた。

「これだけ人数がいると、却って進行が遅くなるの。それよりは少人数で決めるだけのことを決めて、後から伝えた方が早いわ」
「仲間外れにするようで悪いが……一つの役割分担だと思ってくれないか?」

 宗一がそう言うと、渚は納得して素直に引き下がった。
 その様子を見ていたリサが、肘で脇腹をつついてくる。

「なんだよ」
「彼女、宗一に素直ね」
「……元からああいう奴だよ」
「そうかしらね? 宗一が言った途端完全に納得したみたいだったけど」
「俺の説明の仕方が良かっただけだ」
「ふーん……」

 渚が首を傾げるのが見えたが、何でもないと手を振ると、いつものような柔らかい微笑が返ってきた。
 リサの素直ね、という言葉が頭の中で繰り返され、宗一の中で奇妙な波紋を広げたが、無視することに務めた。

346(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:28:45 ID:M3ANcTgY0
「それじゃ名前を呼ぶわね。私、宗一、ことみ、高槻、芳野。この五人で会議するわ」
「ついでにUSBメモリも持ってきてくれ。後は……俺がノーパソを持っていく」
「要はPC関連のものがあったら持って行けばいい?」

 ことみの分かりやすい質問に「ナイス。そういうことだ」と親指を立たせて応える。
 その一言で何人かがデイパックからそれらしきものを取り出し、机の上に置いた。

「高槻。お前は俺と一緒に来い。取りに行くものがある」
「へいへい。気安く呼ぶなってんだ」
「あ、私も行くの」
「会議はここでやるからな」

 職員室から出て行こうとする高槻、芳野、ことみに呼びかけると、三人は手を上げ、無言で応えた。
 どこか別の場所に置いてきたものがあるらしい。ことみが行くことから考えると割と重要なものなのかもしれない。

「他の人たちは自由にしてていいわ。あんまり学校から離れすぎないように。会議が終わるまでに結構時間もかかりそうだから、
 リラックスしておいて。欲を言えば、荷物の整理もしておいて欲しいかな」

 ごちゃごちゃになった荷物にはどれだけの武器弾薬があるか分からない。
 120人分の支給品があるとして、数は十分だろうが、分からないことにはどうしようもない。
 大雑把にでも分けて貰えれば後々こちらも楽になるというものだった。
 残っていた連中は頷くと、各々の近くにあるデイパックを取って、ぞろぞろと職員室を後にしていった。
 そうして職員室には、リサと宗一だけが残される。

「お見事な采配で」

347(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:28:58 ID:M3ANcTgY0
 ノートパソコンのプラグを電源に繋ぎつつ、宗一は賞賛の言葉を贈った。
 以前グダグダな話し合いを展開していた我が身の経験からすれば天と地の差だった。
 これが大人の貫禄かと感心していると、台車に何かを載せた芳野達が帰ってきた。
 随分と早い。少し息を切らせていることから考えると、走ってきたのだろう。

「早いところおっぱじめようぜ。時間はいくらあっても足りないんだからな」

 時間が足りない、という高槻の言葉は、次の放送で主催者が動いてくるのを予想しての言葉なのかもしれなかった。
 殺し合いを続ける者がいなくなったことで、確かに次がどうなるのかが見えてこない。
 朝までに早急な手を打つ必要があった。

「それじゃあ、会議を始めましょうか。書記、そこの二人で頼むわね」

 宗一とことみが指名され、お互いに苦笑しながら席についた。
 書記という名目ではあるが、この会議に筆談の要素も備えている以上、主要な会話はこちらで行われそうだった。

 会議といっても卓を囲むという仰々しいものではなく、ノートパソコンの周辺に人が群がるという暑苦しい構図だった。
 ここまで泥臭く生き延びてきた自分達にはお似合いの構図なのかもしれなかった。
 宗一はニヤと笑いながら、メモ帳を開いたのだった。

348(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:29:21 ID:M3ANcTgY0
【時間:3日目午前03時30分ごろ】
【場所:D−6 鎌石小中学校】

『自由行動組』何を、誰とするかは自由。小中学校近辺まで移動可

川澄舞
【所持品:日本刀・投げナイフ(残:2本)・支給品一式】
【状態:往人に付き従って行動。強く生きていたいと考えている。額から出血。両手に多少怪我(治療済み。支障は全くない)、肩に浅い切り傷】
【その他:往人に対して強い親近感を抱いている。剣道着を着ている】
その他:舞の持ち物(支給品に携帯食が十数個追加されています。)

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン(32/36)、バタフライナイフ、支給品一式】
【所持品2:芳野の支給品一式(パンと水を消費)】
【状態:鎖骨にひびが入っている可能性あり。往人・舞に同行】
【その他:体操服(上下のジャージ)を着ている】

国崎往人
【所持品:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 4/5 +予備弾薬5発、パン人形、38口径ダブルアクション式拳銃(コルトガバメントカスタム)(残弾4/10) 予備弾薬35発ホローポイント弾11発、スペツナズナイフの柄、支給品一式(少年、皐月のものを統合)】
【状況:強く生きることを決意。人形劇で誰かを笑わせてあげたいと考えている。全身にかすり傷】
【その他:左腕に文字を刻んだ。舞に対して親近感を抱いている(本人に自覚なし)】

古河渚
【持ち物:おにぎりなど食料品(結構減った)、支給品一式×2(秋生と佳乃のもの)、S&W M29 1/6、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱】
【状態:心機一転。健康】
【目的:人と距離を取らず付き合っていく。最優先目標は宗一を手伝う事】

349(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:29:37 ID:M3ANcTgY0
伊吹風子
【所持品:サバイバルナイフ、三角帽子、青い宝石(光四個)、グロック19(0/15)、イングラムM10(0/30)、イングラムの予備マガジン×1、M79グレネードランチャー、炸裂弾×2、火炎弾×9、Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×17、スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、SIG(P232)残弾数(2/7)、仕込み鉄扇、ワルサー P38(0/8)、フライパン】
支給品一式】
【状態:泣かないと決意する。全身に細かい傷】

ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×4)、支給品一式×2】
【状態:生き残ることを決意。髪飾りに美凪の制服の十字架をつけている】
【目的:とりあえず渚にくっついていく】 

姫百合瑠璃
【所持品:MP5K(18/30、予備マガジン×8)、デイパック、水、食料、レーダー、携帯型レーザー式誘導装置 弾数2、包丁、救急箱、診療所のメモ、支給品一式、缶詰など】
【状態:浩之と絶対に離れない。浩之とずっと生きる。珊瑚の血が服に付着している】
【備考:HDD内にはワームと説明書(txt)、選択して情報を送れるプログラムがある】

藤田浩之
【所持品:珊瑚メモ、包丁、レミントン(M700)装弾数(3/5)・予備弾丸(7/15)、HDD、工具箱】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、折りたたみ傘、鋸、支給品一式】
【状態:絶望、でも進む。瑠璃とずっと生きる】

ほしのゆめみ
【所持品:忍者刀、忍者セット(手裏剣・他)、おたま、S&W 500マグナム(5/5、予備弾2発)、ドラグノフ(0/10)、はんだごて、ほか支給品一式】
【状態:左腕が動くようになった。運動能力向上。パートナーの高槻に従って行動】

藤林杏
【所持品1:ロケット花火たくさん、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【所持品2:日本刀、包丁(浩平のもの)、スコップ、救急箱、ニューナンブM60(5/5)、ニューナンブの予備弾薬2発】
【状態:重傷(処置は完了。激しすぎる運動は出来ない)】

350(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:30:17 ID:M3ANcTgY0
『会議組』色々話し合う。爆弾の材料一式は職員室に持ち込まれている。職員室には入室不可

那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数0/20)、防弾チョッキ、SPAS12ショットガン8/8発、投げナイフ1本、鉈、H&K SMGⅡ(30/30)、ほか水・食料以外の支給品一式】
【所持品2:S&W M1076 残弾数(6/6)とその予備弾丸9発・トカレフ(TT30)銃弾数(0/8)、デザートイーグル(.44マグナム版・残弾4/8)、デザートイーグルの予備マガジン(.44マグナム弾8発入り)×1、S&W、M10(4インチモデル)5/6】
【持ち物3:ノートパソコン×2、支給品一式×3(水は全て空)、腕時計、ただの双眼鏡、カップめんいくつか、セイカクハンテンダケ(×1個&4分の3個)、何かの充電機】
【状態:全身にかすり傷】
【目的:渚を何が何でも守る。鎌石村小学校に移動し、脱出の計画を練る】 

課長高槻
【所持品:日本刀、分厚い小説、コルトガバメント(装弾数:7/7)、鉈、電動釘打ち機12/12、五寸釘(10本)、防弾アーマー、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、予備弾(30発)×2、P−90(50/50)、ほか食料・水以外の支給品一式】
【状況:全身に怪我。主催者を直々にブッ潰す】

芳野祐介
【装備品:ウージー(残弾30/30)、予備マガジン×2、サバイバルナイフ、投げナイフ】
【状態:左腕に刺し傷(治療済み、僅かに痛み有り)】
【目的:休憩中。思うように生きてみる】

351(パルチさん、会議中)/agitation:2009/10/04(日) 17:30:37 ID:M3ANcTgY0
一ノ瀬ことみ
【持ち物:H&K PSG−1(残り0発。6倍スコープ付き)、暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)、100円ライター、懐中電灯、ポリタンクの中に入った灯油】
【持ち物2:要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、要塞見取り図、フラッシュメモリ】
【持ち物3:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式(保健室でいくらか補給)、乾パン、カロリーメイト数個、カメラ付き携帯電話(バッテリー9割、全施設の番号登録済み)】
【持ち物4:コルト・パイソン(6/6)、予備弾×13、包帯、消毒液、スイッチ(0/6)、ノートパソコン、風邪薬、胃腸薬、支給品一式】
【状態:左目を失明。左半身に怪我(簡易治療済み)】
【目的:生きて帰って医者になる。聖同様、絶対に人は殺さない】

リサ=ヴィクセン
【所持品:M4カービン(残弾15/30、予備マガジン×3)、鉄芯入りウッドトンファー、ワルサーP5(2/8)、コルト・ディテクティブスペシャル(0/6)、支給品一式】
【所持品2:ベネリM3(0/7)、100円ライター、参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、フラッシュメモリ(パスワード解除)、支給品一式(食料と水三日分。佐祐理のものを足した)、救急箱、二連式デリンジャー(残弾1発)、吹き矢セット(青×4:麻酔薬、黄×3:効能不明)】
【所持品3:何種類かの薬、ベレッタM92(10/15)・予備弾倉(15発)・煙草・支給品一式】
【状態:車で鎌石村の学校に移動。どこまでも進み、どこまでも戦う。全身に爪傷(手当て済み)】

ウォプタル
【状態:待機中】

ポテト
【状態:光二個】


その他:宗一たちの乗ってきた車・バイクは裏手の駐車場に、リサたちの乗ってきた車は表に止めてあります。

→B-10

352(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:06:40 ID:P99wcgic0
 自由行動、と言われて放り出されたのはいいが、果たして始めに何をするべきなのだろう、
 という疑問はここにいる全員が持つ考えのようだった。

 言葉少なく廊下に立ち尽くす十人からの集団を眺めながら、朝霧麻亜子は廊下の薄暗い天井を見渡していた。
 材質は古そうだが、年代を感じさせない、どこか光沢を残している塗料の色。
 汚れていない蛍光灯、曇りの一片もないガラス窓、埃の少ないサッシを見て思うことは、
 老朽化した部分はほぼないのだろうということだった。

 以前やってきたときには半ば通り過ぎるような形であるがために、
 細かくは目を配っていなかったが、こうして確認してみると簡単に確信が持てた。

 学校という施設は案外何だってできる。人が集団で暮らせる程度には衣食住の要素が揃っているからだ。
 なるほど、ここを拠点に選んだのも頷ける。立て篭もるにも便利だから、万が一誰かが攻撃してきてもあっさり撃退できる。
 守る分には最適な施設というところだろう。

 そこまで考え、いつの間にか殺しあうことを前提とした考えに辿り着いている自分がいることに気付き、
 麻亜子は胸が暗くなる感覚を味わった。こんなことを考えさせないために自由に行動していいと言ってくれたはずなのに。

 学校にいると、無条件に身構えてしまう。
 自分の唯一の居場所でしかなかった昔がそうさせているのだろうか。
 これまで度々感じてきた寂寥感がまたはっきりとした形になって現れるのを感じた麻亜子は、無闇に明るい声を出すことで追い払った。

「せっかくの自由時間なんだしさ、やること済ませて後はぱーっとやっちゃわない? とりあえず、上の教室とかでさ」
「そうだな。種類を分けて選別した方がいいだろう。銃器、刃物、医療品などにな」

 隣にいたルーシー・マリア・ミソラが同調して、話を進めてくれた。
 夜明けまではそれほど時間はない。これだけの人数がいたとしても、一朝一夕に終わる物量ではなかった。
 何をするかはともかく、さっさと終わらせておきたいというのは皆が同じ気持ちだったようで、
 近場にいる人同士で組んで、何を集めるかを決める形となった。

353(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:06:57 ID:P99wcgic0
 グループは四つ。一つは麻亜子・ルーシー。一つは古河渚・藤林杏・伊吹風子の同じ学校組。一つは国崎往人・川澄舞の気付いてない同士。
 一つは藤田浩之と姫百合瑠璃のどう見ても以下略同士。そして……一人、いや一体が余った。
 特に何もせず眺めていたがために取り残されたほしのゆめみというロボットである。

「……ゆめみさん、あたし達のところに入る?」
「ロボットさんですか。風子とても興味がありますっ」
「わたしもお話してみたいです」

 言われると、ゆめみは頷いてとことこと入っていった。つまりは声をかけられなかったのではなく、かけなかったのだろう。
 高槻についているときの彼女はいかにも人間らしく、拳を振り上げたのを抑えたときの彼女の視線には、
 自律した意思すら感じられる鮮やかな虹彩にドキリとした感覚を味わったものだが、
 命じられて動く彼女にはロボットである、という感想以外のものを持ち得なかった。

 逆を言えば、高槻にだけは心を開くロボットなのかもしれない。まさかという反論がすぐに浮かび上がったが、
 自分が変質したように、ゆめみというロボットのプログラムにも何らかの変質が起こっているのかもしれなかった。

 とにかく、グループが決まり、次に何を整理するかもトントン拍子で決まる。
 ある程度銃知識(とは言っても俄かの素人程度だが)のある麻亜子が銃器担当。
 一番その手の種類が多そうな刃物、鈍器などの直接攻撃系の武器を渚達が。
 用途不明の品、及び医療品や生理用品などを残りが担当することになった。

 とは言ってもまずデイパックの中身を全部ひっくり返さなければならないことから、結局は全員同じ部屋で作業をすることになるので、
 特に分かれることにもならず、皆で固まって一階上の教室に赴くことになった。

「るーの字よ」
「ん?」

 ひそひそ話の要領で、麻亜子はルーシーに耳打ちする。内容は大体分かっていたのだろう、「アレか?」と言うのに「うむ」と続けた。

354(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:07:18 ID:P99wcgic0
「オペレーション・ラブラブハンターズの件でおじゃるが」
「……作戦名が変わってないか」
「細かいことは気にするない」
「まあいい。それで」
「やっぱりね、男女の仲を深めるには裸の付き合いというのがいいと思うのだらよ」
「親父臭い」
「んがっ」

 何が悪い、と全力で反論したくなった麻亜子だったが、ここで顔を真っ赤にしてマジレスしたところで、
 クールビューティーを絵に描いたような外人顔負け、クレオパトラも裸足で逃げ出す……とまではいかなくても、
 そこいらの美人よりは美人なルーシーにはダイヤモンドを握りつぶす努力をするが如く無意味であろうし、
 真っ赤な茹蛸るーるーを想像することはどうしても麻亜子にはできなかった。失恋を経験した彼女には陰がよく似合う。

「で、でも正論でしょ?」
「分からなくもないが……古典に頼るのはな……」

 古典というほど古臭いのだろうか。一応、漫画やアニメにも手は出している麻亜子だが、最近のアニメ漫画事情には疎かったりする。
 理由? 就職活動と学校の成績維持と先生へのおべっかに時間を使ったからに決まっておろうが。
 真面目にやるときゃやるからね、あたしは。……不安だらけで、できるだけ引き伸ばしにかかってたけど。

 とにかく時代の移り変わりは速いのだとしみじみ思いつつ、
 さりとて今さら脳内で三十秒を使って練り上げた計画をひっくり返すわけにもいかず、
 「これでいいのだ」と無理矢理判を押したのだった。

「……場所は? ここは学校だが」
「実はだね、ある場所にはあるのさ。いいかね? 学校は職員が寝泊りできるように、ごく一部にそういう部屋があったりする」
「ほう」
「整理が終わったらさ、そこにあの二人を呼び出すんだよ。あとはごゆっくりぃ〜」
「で、あるのか? その部屋とやらは」
「……さぁ?」
「おい」
「な、なかったらなかったで何とかするよ。例えばプールに突き落とすとか」

355(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:07:36 ID:P99wcgic0
 どうやって、という類の目がルーシーから発せられたが、そんなこと知るかと麻亜子は思うしかなかった。
 麻亜子のアイデアは常に行き当たりばったりなのであった。
 こういう癖も治っていないらしいということに思い至り、あははと苦笑いするしかなく、ルーシーも苦笑して首を振った。

 そうこうしているうちに目的の場所に辿り着いた麻亜子は、全員に荷物整理の旨を伝えると部屋の中央にデイパックを積み、
 さっさと中身を漁り始めた。浴場があるかどうか調べるためにも、早いうちに済ませておかなければならなかったからなのだが、
 周囲の面々は麻亜子に意外な真面目さに感心しつつ、それぞれ雑談しつつも整理に取り掛かるのだった。

     *     *     *

 久しぶりに会ってみても元気そうな渚の姿を目にして、杏は良かったという感想を素直に抱いた。
 それどころか以前より明るくなり、俯いていることの多かった渚は今でははっきりと面を上げ、自分から話題を振ってくることもあった。

 過酷な環境を生き延びてきただけではこうはならない。誰かに守られ、自らは殺しに加担していなかったのだとしても同じことだ。
 何かが渚の中で化学変化を起こし、不確かで先の見えない未来でも、恐れずに一歩を踏み出せる切欠を与えたのかもしれなかった。
 同時に杏自身の不甲斐なさ、真実を知ろうと決めてなお最初の一歩を踏み出せずにいることがより鮮明となり、
 あたしは何をやっているんだろうという気持ちが焦りとなって知覚されるのを感じた。

 ここには十人からの人間がいて、妹の死に関わった人だっているかもしれない。いや、いるはずだった。
 声を出して確かめられないのは、きっと怖いからだ。
 楽に逝けたのか。満足に逝けたのか。それとも想像さえ出来ないくらいに恐ろしい死に方をしてしまったのか。
 またそれを知ったときの自分が、本当に納得することができるのだろうか。
 もし知ってしまえば、自分でも制御できない負の情念、敵を追い求める本能とが渾然一体となって、
 安定したこの場を崩してしまうのではないか。いらぬ諍い、いらぬわだかまりを生み出してしまうことにはならないか。
 それらに対する恐怖、また自らへの自信を喪失していたことが、杏の決意を少しずつ鈍らせていた。

「杏ちゃん。これって、武器……でいいんでしょうか」
「え?」

356(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:07:52 ID:P99wcgic0
 物思いに耽っていたからか、渚の声を聞き取ることができずに、杏は聞き返してしまっていた。

「えっと、ですから、これ」

 とんとんとフライパンを指差され、杏はようやく何を尋ねていたのかを理解した。

「あ、ああ。もうそれ、武器にしなくてもいいんじゃない? 元々、調理器具なんだし」

 そうですよね、と微笑した渚の言葉尻には、こういうものを武器として使いたくはなかったのだろうという意思が汲み取れた。
 隣の組にフライパンを渡す渚の表情は、共同作業をしているという嬉しさがあるのかてきぱきとしていて、自分とは大違いだった。
 再び、何をしているんだろうという感想が溜息となって吐き出され、以前より逞しくなったように見える渚の横顔をぼんやりと眺めた。

 しっかりしなければいけないのに。

 今は余計なことを考えている場合じゃないと理性が言い聞かせても、それは逃げではないのかと訴える部分もある。
 どちらの言い分も正しいだけに、結局はどちらにも引っ張られ、
 わずかなりとも体の機能を停止させてしまっているのが杏の現状だった。

「……大丈夫ですか?」

 戻ってきた渚が、そんな自分の様子に気付いたのだろう、ぱっちりとした鳶色の瞳を向けていた。
 やさしさの中にも自分の意思を忘れない、渚の性質を如実にしたような目が杏を射竦め、
 隠していても仕方がないかという諦めにも似た感情を生み出させていた。

 確かに怖い。真実を知ってしまうのは時として知らない以上の恐怖と絶望を喚起させることもある。
 柊勝平を、自らの手で殺害してしまったことを自覚したときのように。
 けれども知らずにいるということは、自分に対して嘘をつき続けていることに他ならない。

357(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:08:07 ID:P99wcgic0
 嘘を、突き通したくはない。
 杏は周囲を見回し、今の自分の近くにいるひと達の姿を確認した。
 ここには渚も、ゆめみも、今しがた友達になった(というか認定された)風子もいる。
 もしも自分の感情を制御できずに壊れそうになったとしても。
 彼女達が止めてくれる。そうだと信じたかった。

「ずっと、気になってたことがあって」

 ただならぬ気配に気付いたのか、それまでゆめみを質問攻めにしていた風子と、
 それに追従するようにゆめみも耳をそばだてて話を窺っていた。

「あたしの妹……ひょっとしたら、この中に、死ぬのを見届けた人がいるんじゃないかって」

 渚の顔が一瞬硬直し、風子も顔色を変えるのが分かった。あらかじめ内容を知っているゆめみだけ顔色を変えなかった。

「でも、聞くに聞けなくってね。怖くて、言い出せなかった」
「……杏ちゃん」

 戸惑いの色を持った渚に、この子は嘘をついていないんだ、と素直に思うことが出来た。
 きっとこの人達なら見ず知らずのふりをしないだろうという確信が生まれ、それに安心している自分を俗物だと感じる一方、
 恐怖に慄く気持ちも薄れてきている感覚に、これが仲間意識なのだろうと直感した。

 自分は今だって不甲斐ない。こうして誰かに背中を預けなければ問題を解決しようとする意識だって持てない。
 けれども、それは『借り』だ。時間をかけて返すことの出来る『借り』なのだ。
 それを受け入れてくれるだけのものが、目の前にはある。
 ようやく一歩を踏み出せそうだという気持ちが波のように広がり、微笑の形を取って表せることが出来た。

「ごめん、おんぶに抱っこさせるかもしんないけど……もし壊れそうになったら……」
「分かってます。ね、ふぅちゃんも、ゆめみさんも」

358(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:08:22 ID:P99wcgic0
 渚の声は小さかった。自分に合わせて小さくしてくれていたのだと気付けた瞬間、
 無条件の感謝が生まれ、また一も二もなく頷いてくれた二人に、
 もう頭が上がらないなという結論に達した杏は、困ったような笑いを浮かべるしかなかった。
 この『借り』を返せるのは、遠い未来になりそうだった。

「……ありがとう。とりあえず、聞く人は絞れたから。後は自分で確かめてみる」

 杏は顔を横に向け、浩之と瑠璃の顔を窺った。
 渚達の一団が知らなかったことを踏まえると、確率的には残りの組が知っている可能性は高い。
 もちろん黙っている可能性もないではなかったが、そのときはそのとき。確かめに行けばいいだけだった。

 そこまで考えたとき、例の二人と目が合った。
 表情が僅かに揺れ動き、何らかの意思疎通を果たしたのだろう、浩之の方が立ち上がる。
 どうやら、自分の憶測は外れてはいなかったらしいと確信した杏は、
 同時にこれから起こりうることに体が強張り、唾が石となってゆくのも知覚していた。
 体に力が入らず、立ち上がったときには殆ど自分に接近していた浩之が、ゆっくりと、酸を飲み下すようにしながら言った。

「……後で、話があります。時間をくれませんか」
「あたしも、そう言おうと思ってたところでした」

 互いに丁寧語であったのは、自分も浩之も、本当の現実に直面することを分かっていたからなのかもしれなかった。
 杏が踵を返し、元の作業に戻ったときには、もう作業工程の殆どが終わろうとしていた。

359(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:08:39 ID:P99wcgic0
【時間:3日目午前03時50分ごろ】
【場所:D−6 鎌石小中学校】

『自由行動組』何を、誰とするかは自由。小中学校近辺まで移動可

川澄舞
【所持品:日本刀・投げナイフ(残:2本)・支給品一式】
【状態:往人に付き従って行動。強く生きていたいと考えている。額から出血。両手に多少怪我(治療済み。支障は全くない)、肩に浅い切り傷】
【その他:往人に対して強い親近感を抱いている。剣道着を着ている】
その他:舞の持ち物(支給品に携帯食が十数個追加されています。)

朝霧麻亜子
【所持品1:デザート・イーグル .50AE(1/7)、ボウガン(32/36)、バタフライナイフ、支給品一式】
【所持品2:芳野の支給品一式(パンと水を消費)】
【状態:鎖骨にひびが入っている可能性あり。往人・舞に同行】
【その他:体操服(上下のジャージ)を着ている】

国崎往人
【所持品:フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 4/5 +予備弾薬5発、パン人形、38口径ダブルアクション式拳銃(コルトガバメントカスタム)(残弾4/10) 予備弾薬35発ホローポイント弾11発、スペツナズナイフの柄、支給品一式(少年、皐月のものを統合)】
【状況:強く生きることを決意。人形劇で誰かを笑わせてあげたいと考えている。全身にかすり傷】
【その他:左腕に文字を刻んだ。舞に対して親近感を抱いている(本人に自覚なし)】

古河渚
【持ち物:おにぎりなど食料品(結構減った)、支給品一式×2(秋生と佳乃のもの)、S&W M29 1/6、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱】
【状態:心機一転。健康】
【目的:人と距離を取らず付き合っていく。最優先目標は宗一を手伝う事】

伊吹風子
【所持品:サバイバルナイフ、三角帽子、青い宝石(光四個)、グロック19(0/15)、イングラムM10(0/30)、イングラムの予備マガジン×1、M79グレネードランチャー、炸裂弾×2、火炎弾×9、Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×17、スイッチ(未だ詳細不明)、トンカチ、カッターナイフ、SIG(P232)残弾数(2/7)、仕込み鉄扇、ワルサー P38(0/8)、フライパン】
支給品一式】
【状態:泣かないと決意する。全身に細かい傷】

360(パルチさん、行動中)/Theme of WLO:2009/10/08(木) 05:08:55 ID:P99wcgic0
ルーシー・マリア・ミソラ
【所持品:IMI マイクロUZI 残弾数(20/30)・予備カートリッジ(30発入×4)、支給品一式×2】
【状態:生き残ることを決意。髪飾りに美凪の制服の十字架をつけている】
【目的:とりあえず渚にくっついていく】 

姫百合瑠璃
【所持品:MP5K(18/30、予備マガジン×8)、デイパック、水、食料、レーダー、携帯型レーザー式誘導装置 弾数2、包丁、救急箱、診療所のメモ、支給品一式、缶詰など】
【状態:浩之と絶対に離れない。浩之とずっと生きる。珊瑚の血が服に付着している】
【備考:HDD内にはワームと説明書(txt)、選択して情報を送れるプログラムがある】

藤田浩之
【所持品:珊瑚メモ、包丁、レミントン(M700)装弾数(3/5)・予備弾丸(7/15)、HDD、工具箱】
【所持品2:フライパン、懐中電灯、ロウソク×4、イボつき軍手、折りたたみ傘、鋸、支給品一式】
【状態:絶望、でも進む。瑠璃とずっと生きる】

ほしのゆめみ
【所持品:忍者刀、忍者セット(手裏剣・他)、おたま、S&W 500マグナム(5/5、予備弾2発)、ドラグノフ(0/10)、はんだごて、ほか支給品一式】
【状態:左腕が動くようになった。運動能力向上。パートナーの高槻に従って行動】

藤林杏
【所持品1:ロケット花火たくさん、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【所持品2:日本刀、包丁(浩平のもの)、スコップ、救急箱、ニューナンブM60(5/5)、ニューナンブの予備弾薬2発】
【状態:軽症(ただし激しく運動すると傷口が開く可能性がある)】

→B-10

361手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:55:55 ID:5Yr44Sw20
 作業の全てが終わるのに、それほど時間はかからなかった。
 整理整頓された荷物が列を成して教室の隅に並べられており、ご丁寧にも分類わけされている。
 よくもまあここまで道具があるものだと感心するが、汚れていたり傷があったりしているのを見ると、
 ここまで酷使してきた体と同じく道具もそうなのだろう、と国崎往人は思っていた。

 教室の中に人はまばらで、朝霧麻亜子の解散の一声と共に、全員が自由な行動を取り始めた。仕切っていた麻亜子も。
 今ここにいるのは四人。

 古河渚と、彼女と雑談しているほしのゆめみ。
 彼女達は荷物の中にあった食べ物をつまみつつ(麻亜子の号令一つ、決戦までに所定の量を食べておけというお達しが出た)寛いでいる。
 もっともゆめみはロボットであるから、食べているのは渚一人だけで、量も殆ど減っていなかったが。
 いくらか別に分けられているのは、恐らくは那須宗一への差し入れなのだろう。

 今頃は議論が白熱している最中だと思いたかった。
 なぜ自分が呼ばれなかったのかについては、多少の不満はあれど納得するしかない部分が多く、妥当なのだと言い聞かせた。
 まず会議に混じっても有意義な意見を出せないであろうことがひとつ。
 大人として成熟しきっていないことがひとつ。

「ふん、どうせ俺は免許も取れない住所不定の放浪人さ……」
「……?」

 往人の呟きに、隣でおにぎりを頬張っていた川澄舞が視線を移してきた。
 もしゃもしゃと白米を咀嚼しつつ、既にかなりの量を平らげている彼女には、
 余程腹が減っていたのだろうという感想よりも一生懸命の一語が浮かんだ。

 目の前の一つ一つに全力であり、一途で、物怖じしない健気さがあった。
 それは元々舞が持っていた性質なのか、ここに来てから変容を始め、この形に落ち着いたものなのかは分からなかった。
 ただ言えるのは……そんな彼女を、少なくとも自分は好意を以って見ていられるということだった。
 妥協を重ね、一度は目的を見失うまでに落ちぶれていた往人には、純粋で真っ直ぐな舞が羨ましくもあった。

362手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:56:16 ID:5Yr44Sw20
 いや、と苦笑して、往人は配給された乾パンをつまんだ。
 好意を抱いていることを自覚して、舞の顔を見続けられないと感じたからだった。要するに、照れていた。
 視線を逸らしたことを不思議そうに首を傾げながらも、舞も往人と同じように乾パンを食べ始めた。

 ぽりぽり。
 ぽりぽり。

 乾パンを噛み砕く音だけが聞こえる。奇妙なことに、他の音は遠くのざわめき程度にしか聞こえなくなっていた。
 心頭滅却すれば火もまた涼し。悟りの境地に入ったのだろうと意味もなく納得して、
 往人はこれからどうしよう、とようやく考えることができた。

 飯を食べた後の予定はない。どうももうしばらく時間はかかるようだし、一眠りするのが利口というものだ。
 事実心身共に疲れ切っていて、満腹になれば横になってしまいそうなほどには意識が浮ついていた。

 ああ、なるほど。悟ったのではなくて眠くなってきたというわけか。

 幸いにしてここにはどこかから持ち込んだらしい毛布がたくさんあるので眠るのには困らない。
 雑魚寝は往人の得意技の一つ。どこでも眠れて体力回復を図れるようにしておくのは、
 往人がこれまでの人生で培ってきた、生きるための方法の一環だった。

 よし決めた。寝よう。

 そう思うと体も頭もその体勢に入るもので、元々ぼーっとしていた意識が更にぼーっとしてきて、
 惰性的に手を伸ばしていた、乾パン入りの皿が空だったのにも気付かず、手を彷徨わせていた。

「……いる?」

 ん、と横を見ると、舞が乾パンを一枚握っていた。ようやく、そこであれが最後の一枚なのだと気付いた往人はうん、と首を縦に振った。
 旅では食べられるときに食べられるだけ詰め込んでおけというのを教訓にしてきた旅芸人の頭が自動的に頷かせたのだった。
 ひょいと受け取り、ぱくりと一口。微妙に湿った感覚があったが、別段気になるものでもなかった。

363手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:56:34 ID:5Yr44Sw20
「ごちそうさま」
「……ごちそうさま」

 往人が言うのに合わせて舞も手を合わせた。声が小さく、また頬に赤みが差しているのはどうしてだろうとも思ったが、
 徐々に押し寄せてくる眠気の前にはどうでもいいことか、と思い直し、毛布を持ってこようと腰を上げた瞬間、騒がしい台風がやってきた。

「よーっ、頼もうたのもー!」

 まーりゃんこと朝霧麻亜子だった。この深夜にも関わらずハイテンションなのには一種の感服すら覚える。
 無視して毛布を取りに行こうとしたが、その襟首をぐいと掴まれた。振り向く。麻亜子が満面の笑顔で待っていた。嬉しくなかった。

「放せ」
「やあやあお兄さん。寝るのはまだ早いと思わないかね」

 麻亜子が騒がしいのはいつも通りとばかりに、周囲の面々は構わず喋り続けている。
 舞に救いの視線を投げかけてみたが、何をやっても無駄、という風に目が伏せられた。
 こうなると早く眠りたい往人にとっては逆らっても時間の浪費だという思考が働き、とっとと用件を済ませようという結論に落ち着いた。
 麻亜子のことだからきっとくだらないものなんだろう、と考えながら。

「話だけなら聞いてやる」
「さっすが往人お兄さんはお目が高い! いよっ色男!」
「いいから話せ」
「お風呂入らない?」
「は?」

 予想もしない方向に話が振られ、往人は思わず素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
 まーりゃんとか、なんて言葉が浮かびそうにもなり、往人は自分が激しく疲れていることを改めて自覚させられた。
 風呂と聞いて男の欲望が出てくるあたり、きっと限界手前なのだと感じた往人は、ここが学校なのだということも忘れていた。

364手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:56:50 ID:5Yr44Sw20
「お風呂があるんですか?」

 往人の代わりに尋ねたのは渚だった。

「そだよ。へへへ、あたしが探して見つけたんだ」

 得意げにない胸を反らす麻亜子。ああ、そういえばここは学校だったという遅すぎる事実を思い出した往人は、
 ならばどうしてまず自分を誘うのか、という疑問に突き当たった。

「お前は入らなかったのか。まだ入ってないようだが」

 麻亜子の肌身の部分(膝とか腕とか)にはまだ土の汚れがついており、風呂に入ったとは考えられなかった。
 嬉しさの余り自分が入ることも忘れ、吹聴しながらここまで来たのだろうとは予測できても、何故自分を誘うのかやはり分からない。

「あたしはまだ仕事があるのさ」
「寝ろよ」
「そうもいかんのだよ。くふふ」

 何を企んでる、と聞こうと思ったが、ひねくれ者の麻亜子が正直に答えるはずもない。
 ならば自分から目標を反らせばいいだけだと断じて、往人は周囲に声をかけた。

「俺は後でいい。他に先に入りたい奴はいないか?」
「わたしは今すぐお風呂が入用でもないですから……」
「わたしはそもそも入る必要がないですね」
「私は……」

 どうすればいい、という類の視線。
 他の二人に速攻で断られてしまった以上もう舞を当てにするしかなく、往人は頼む、と無言のうちに伝えた。

 許せ舞よ。俺の安らかな就寝のために今回は犠牲となってくれ。南無。

365手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:57:03 ID:5Yr44Sw20
 麻亜子に付き合うとロクなことはないと半日にも満たない付き合いで理解しきっていた頭は、
 好意を持った女の子よりも自分の保身を優先したのだった。
 無論そんな往人の思惑に気付くはずもなく、分かったと頷いた舞が律儀にも麻亜子に申し出てくれた。

 ありがとう勇者。さようなら勇者。そしてこんにちは俺の就寝タイム。

「……お風呂に入りたい」
「むぅ。そかそか。ならしょうがないね。まいまい女の子だし」

 にひひ、と気味悪く笑う麻亜子は、既に目標を舞へと変えたようだった。
 ちょっぴり罪悪感が芽生えたが、朝を目前にしては国崎往人は本能に忠実だった。

「まぁさ、後で他の皆も入るといいよ。お風呂は心の洗濯だって言いますからねぇ。狭いけどさ」

 他人にも勧めておくのは、彼女なりのちょっとした気配りなのだろう。
 こういう憎めない部分があるのだから、単に騒がしいだけの人間だと思えないのが麻亜子だった。
 なんだかんだで仕切ってくれてもいるし、本能的に人にお節介をはたらくタイプなのかもしれない。
 そこに個人の思惑を働かせ、面倒事に巻き込んでくれる性質さえなければもっと好意を持てるのだが。

 だが今のままでも嫌いではないというのも確かなことだったので、苦笑を浮かべながら往人は見送った。
 台風一過。これでようやく休めると判断して、今度こそ毛布を取りに行こうと荷物の山まで足を向けたとき、次の台風がやってきた。

「国崎はいるか」

 ルーシー・マリア・ミソラだった。
 今日は厄日だ。いや、殺し合いに巻き込まれる以上の厄なんてないのだけれども。
 どうやらどう足掻いても眠れるのはもう少し先のことらしいと諦めて、溜息と一緒に「なんだ」と応じた。
 少しばかり機嫌が悪い風に装いつつ。

366手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:57:24 ID:5Yr44Sw20
「悪いが、物を運ぶのを手伝って欲しいんだ。会議の連中から持ってくるように頼まれてな」
「何をだ?」
「さあ、そこまでは……置いてある場所を指定されただけで」

 会議の連中は、どうも秘密主義的なところがあった。
 情報を漏らすとまずいことがあるのだろう。積極的に殺し合いに乗った連中が全滅したとはいえ、
 殺し合いの元である主催者から監視されていないとは言いがたいのだ。
 極力こちらの動きは悟られたくないということなのだろうと納得して、「分かった」と往人は頷いた。

「あの、わたしたちも行きましょうか?」

 会話を聞いていたらしい渚達が申し出たが、「ああ、いい」とルーシーは制した。

「男手一つあれば十分な数らしい。まあダンボール一箱分くらいだろう」
「ですけど……」
「構わない。どうせすぐ済む話だ」

 往人がそう言うと、他に反論のしようもない渚は「分かりました」と言って引き下がる。
 多分これは舞を犠牲にしてしまったツケなのだろうと思う部分もあり、なるべく自分一人でやりたかった。
 疲れてはいるが、まあ何とかなるだろうと考え、往人は教室から出てゆくルーシーの後に続いた。

     *     *     *

「なぁ、さっきまーりゃんが来たんだが」
「それで?」
「あいつも何か頼まれてたのか」
「そんなこと言ったのか」
「いや……知らないならいい」

 そうか、と答えると、ルーシーはさっさと足を進めていく。
 他にやることがある、と言っていたのはひょっとするとこのことなのかもしれなかったが、
 今さら詮索するべきことでもないと考え、往人は黙ってルーシーについてゆく。

367手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:57:39 ID:5Yr44Sw20
 しかし、風呂、か。

 あのときはまーりゃんの企みがあるのかと疑って断ったが、よくよく考えてみれば魅力的な話だ。
 往人自身は旅をする立場であり、風呂はその辺の公園で体を洗うか、収入が良かった日に銭湯に入るくらいが精々で、
 毎日のように風呂に入ったことはない。神尾家に居候しているときは流石に毎日入っていた(というより入らされていた)が、
 ここに連れてこられてからというもの、久しく湯船の感覚を味わっていない。
 何より、風呂で体もさっぱり洗い流せばより快適な睡眠が得られることだろう。

 そう思うと無性に風呂に入りたくなってくるのだから、現金なものだった。
 これが終わったら戻って、タオルを取って風呂にでも入るか。その頃には舞も戻っているだろう。
 そんな想像を働かせているうちに、どうやら目的の場所についたらしい。

 ここだ、と言って扉を開けたルーシーに先んじて部屋の中に入る。
 どうやら元々は学校の職員が寝泊りに使う部屋らしく、手狭なアパートよろしく、数畳の居間には簡素な机が中央に置かれ、
 部屋の隅には小さな布団が綺麗に畳まれている。この布団、持って帰ろうか……いやいや。

「で、持っていくものはどこにあるんだ。ここにはそれらしきものは見当たらないが」
「ああ、悪い。この小部屋にある」

 ルーシーが入ってすぐ横にある扉を指した。なるほど、物置か何かだろうか。
 管理を厳重にしておくのは流石に用心深いといったところか。
 扉を開け、中に入る……が、どうも段ボール箱のようなものは見当たらない。それどころかここは物置ではなさそうだった。
 洗面所の近くには小さな脱衣籠があり、その奥にあるもう一つの扉からは明かりが漏れていて、時折水音にも似た音が聞こえる。

 ぽりぽりと頭を掻く。はて、ここには何をしに来たのだったか。そうだ、荷物を取りに来たんだ。
 随分と変な場所に置くんだなと無理矢理頭を納得させつつ、奥にある扉を開ける。
 広がる湯気。鼻腔をくすぐる湿気。そしてどう見ても浴槽に浸かっているひとがひとり。

「……」
「……」
「すみません、間違えました」

368手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:57:56 ID:5Yr44Sw20
 ぱたん。

 おかしいな。どうして風呂と思しき場所に人がいるんだ。しかも舞にそっくりだったな。ははっ。

「っておい! ちょっと待てぇっ!」

 我を取り戻した往人が入ってきた扉に張り付く。だがドアノブを捻ってもびくともせず、
 何かつっかえでもされているのか何をしても開かない。
 嵌められた、と理解した頭に血が上り、往人は力の限り扉を叩きながら叫んだ。

「おいルーシー! どういうことだこれは!」
「はっはっは。愚かなり往人ちん」

 くぐもった声は間違いなく麻亜子のものだった。何となく全てを悟った往人はこめかみに血管を浮かせつつ、
 何故自分がこのような状況に置かれなければならないのかということを嘆きながら話しかけた。

「お前の差し金か」
「あちきの罠は隙を生ぜぬ二段構えよ」
「すまん。許せ」

 全然悪びれてもいなさそうなルーシーの声が続き、どうしてグルだと疑わなかったのかと、往人は心底恥じ入る思いだった。
 あんな都合のいいタイミングで二回も呼び出すこと自体がおかしいと気付くべきだったのだ。
 それを自分は、舞を身代わりにした安心感と、真面目一徹だと思い込んでいたルーシーがこのようなことをするとは思わず、
 油断してホイホイついて行ってしまったというわけか。
 そういえば麻亜子とルーシーが何か喋っていたな、と今さらのように思い出して、往人は溜息をつくしかなかった。

369手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:58:11 ID:5Yr44Sw20
「まぁそういうわけでまいまいとゆっくりしていってね! 二人で一緒に心の洗濯ってね!」
「ああ。ここは私達が見張っておくから安心していいぞ。任せておけ」

 嬉しくない気遣いだった。
 物置もとい浴室は完全な密室であり、どう考えても脱出できそうにない。
 ここで待つという手もあった。だがじっと待って舞が上がってくるのを見計らって出て行ったところで、
 風呂に入ってないことを素早く嗅ぎ分けるであろう麻亜子は無理矢理にでも自分達を風呂に入らせようとするに違いない。

 お節介にも程がある。確かに舞とは一緒にいる機会も多かったし、麻亜子も大体のことは知っているということは承知だったが……
 一体何だってんだよ、と往人は心中に吐き捨てる。
 ここで二人きりになって、一体何を話せというのか。話すようなことなんて何も……

「何も……なんだ?」

 いつの間にか自分が舞の全てを知っているかのような考えに至っていることに気付き、どうしてという言葉を浮かび上がらせる。
 確かに一緒にいたし、好意を持っているという自覚もある。しかし自分が、舞の何を知っているというのか。
 生まれ、生い立ち、何をしてきたのか……何が好きなのか、何が嫌いなのかも分からない。
 考えてみれば全然、彼女のことは何も知らない事実を突きつけられ、往人は愕然とする思いを味わった。

 ひょっとすると、無意識に全てを分かっていると思い込んで、かえって距離を離してしまっていたのではないのか。
 舞はそれを麻亜子に相談していて、その解決のために一計を案じた。
 考えすぎだろうと否定する部分はあっても、自分が舞のことを分かった風なつもりでいることは事実だった。
 くそっ、と頭を掻く。どうにもこうにも分からないことだらけだった。

 こうして国崎往人という人間は他人を傷つけてきたのかもしれない。
 金と生活のことだけを考え、人との交わりを疎かにしてきた結果なのだろう。
 人の意思も汲めず、理解もしようとしない人間が誰かを笑わせられるものか。

 往人は、人を笑わせたいと思ってる?

370手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:58:32 ID:5Yr44Sw20
 母の言葉が思い出され、単に自分はそうしなければいけないという使命感に囚われていたのではないかと思い至り、
 失笑交じりに自分の不甲斐なさを改めて認識していた。
 どうも根本から、国崎往人という人間は駄目であるらしい。
 まずはそこを変えなければいけなかった。
 諦め半分反省半分の気持ちを交えながら、往人は風呂場に通じる扉をノックした。

「あー……その、舞」
「……なに?」

 いつもの口調で返されるのが微妙に息苦しい。ふと足元の脱衣籠を覗いてみると、舞が着ていた胴衣が折り畳まれて入っていた。
 一瞬見えた舞の裸体が思い出され、俺は何をしようとしているんだという呆れが生まれたが、
 こうなってしまえば勢いに任せるしかなかった。ほんの僅かに興奮し始めているのには気付かないふりをしながら。

「生きてここから出られたら、どうするつもりなんだ?」

 そつのなさ過ぎる話題だと思ったが、コミュニケーション能力の欠如している往人にはこれが精一杯だった。
 沈黙が重苦しい。そもそも、こんな話題は風呂越しにする会話でもなかった。
 ひょっとすると自分は変態一歩手前の領域まで来ているのかもしれないという不安が、往人の頭を重くさせた。
 まずここにいる理由から説明すべきではなかったかという後悔が鎌をもたげ始めたころ、何かを決心したような声が聞こえてきた。

「入って」
「は?」

 その返事が怒らせることになるかもしれないと思ったが、往人はそう言わずにはいられなかった。
 つまり、普通に解釈すれば彼女は混浴しようと言っているわけで。
 男と女。密室でふたりきり。

371手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:58:48 ID:5Yr44Sw20
 往人とて男であることには間違いなく、その手の知識も人並みにはあった。
 数年前、道端で拾った、薄汚れた雑誌を開いたときの何とも言えない、未知との遭遇の感覚を思い出す。
 それからしばらく、一生懸命金を稼いだ。本屋に入って、雑誌コーナーのとあるジャンルを目指した。
 あのときの緊張感は警察に追いかけられるときのものと同等だったことは心に強く刻み付けられている。
 その本はボロボロになって、風雨で読めなくなるまで往人の夜の相棒だった。プレイルームは便所の個室。
 しみじみとした思い出にトリップしかけた往人の意識を引き戻したのは、先程よりか細くなった舞の声だった。

「その、扉越しだと、よく聞こえない、から」

 くぐもっていても恥ずかしさの余り声が詰まっているのは明らかだった。
 初心すぎる反応に、却って往人の煩悩は霧散した。
 女にここまでさせておいて自分が安全圏に引っ込んでいるとは何事か。
 自らを叱咤激励し、大きく息を吸い込み心頭滅却して、往人は服を脱いだ。
 全部脱いだその瞬間、マジでやっちゃうの? と冷えた部分が囁いたが、やる。と言い返して勢い良く風呂へと侵入した。

「……よう」

 まずは普段通りに挨拶。いつもの声が出せていることに、往人は少し安心する。
 浴槽に体育座りの形で鎮座していた舞の頭が動き、ちゃぷ、と音を立てた。

 顔色が熟れた林檎のようになっているのは、きっとお湯のせいだけではないのだろう。
 硬く石のようになった舞を横目にしながら、それでも思うことは色白でふくよかな体つきをした舞が綺麗だという感想だった。
 水に濡れ、髪を下ろした彼女の姿は神秘的であり、普段の凛々しさを含んだ気高さとはまた違う艶のようなものがあった。
 自分は意外と面食いなのかもしれないと思いながら、往人はシャワーで体を流す。

「生きて、出られたら……」

 会話を再開したのは舞からだった。

「学校を卒業して、その後は……分からない」
「そうか。俺も同じだ」

372手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:59:02 ID:5Yr44Sw20
 翼を持つ少女を自分の代で諦めてしまった以上、当面の目的などなかった。
 人を笑わせる。そう決めてはいても、それは人生の目的ではなかったし、
 生活していくに当たってはまるで関係のないことだったからだ。

「元々定住してるような身分でもなかったしな。いつだって行き当たりばったりだったさ。
 それに今となっちゃ、旅をする目的なんて失ったようなもんだ。どうしようかって、本気で考えてる。何かいい案はないか?」
「……働く」
「厳しいな」

 往人は苦笑した。住所不定の男を雇ってくれるところなどある方が珍しい。
 生きて帰ったとして、辛い生活が続くのには変わりがないのかもしれないと自覚したが故の苦笑だった。

「でも、そういうことを考えてる往人は凄いと思う。私は今までも、今でも、待ってることしか出来なかったから」
「待ってる……か。何を?」
「実は、自分でも分からない」

 舞の声がひとつ落ちて、沈むのが分かった。何かを待っているらしい彼女。
 ただ正体が分からず、あやふやなまま現在を過ごし、自分が何をしようとしているのか、何をしたいのかも分からない。
 きっと辛いことから逃げている。逃げたまま、解決しようともしないのが今の自分なのだと舞は語った。
 正体不明のものを待ち続ける感覚。翼の少女というあるかも分からないものを追い続けてきた往人にも、その感覚は理解できた。

「俺は、逃げてもいいんじゃないかって思う」

 どうして? という気配が伝わる。
 逃げることを許容した往人が信じられないようでもあり、また逃げることそのものを悪だと断じる意思が感じられ、
 それも間違いではないと往人は思ったが、人の一生から見れば半分も生きていない自分に真に正しいことが言える自信はなかった。
 往人が示せるのは正しさではなく、選択から生まれる可能性だけだった。

「逃げるってことは、一つの区切りなんじゃないかって考えてるからだ」

373手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:59:17 ID:5Yr44Sw20
 旅をやめ、新しい目的を探して生きるようになった自分がそうであるように、逃げたからといって全てが終わるわけではない。
 ただ逃げるからには相応の代償が必要であるし、やってきたことも無意味だったと認めなければならない。
 けれども往人だって悪戯に逃げることを選択したわけではないし、今こうしていることにも新しい意義を感じている。
 だから良かった。本気で良かったのだと、往人は素直に思えていた。

「待たなくてもいいんじゃないか」
「……」

 舞の目が伏せられ、私には無理だという無言の思いが伝えられた。
 しかし諦めるように閉じられた目は拒絶ではなく、押し殺した怯えから来ているのだと分かる。
 往人は最後にシャワーを頭から被ると、スッと立ち上がり、湯船の中の舞に聞いた。

「少し開けてくれないか?」

 浴槽の中央にいた舞がもぞもぞと動き、端の方に寄る。
 往人は動いたのを見計らって、背中合わせになるようにして浴槽へと入った。
 狭かったがために往人一人が完全に入れるだけのスペースはなく、舞の背中に体を押し付ける形になる。
 想像以上の柔らかさ、女性特有の質感にドキリとしながらも、逆に人間らしさも感じて安心させられる思いだった。
 無表情の中に全てを押し込んで、強く在った彼女の偶像が潰れ、自分と同じ種類の人間なのだと納得させられるなにかがあった。

「まあ俺のようなろくでなしの意見だ。聞き流してくれてもいい」
「そんなこと……」
「ただな、もし逃げたいと言うのなら、一つ特典がつくぞ。……俺も、一緒に逃げてやる」

 背中越しに絶句する気配があった。素直に「ずっと一緒にいたい」と言えないあたり情けないと思わないではなかったが、
 口に出して言い切れただけマシだというものだった。だから自分は、舞を必要としているのかもしれなかった。

「ちなみに、期限は無期限だ」

 固まっていた体が揺れるのが分かった。押し殺した笑いが聞こえ、往人の口元も自然と緩んだ。

374手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:59:30 ID:5Yr44Sw20
「笑うなよ。割と真剣なんだぞ」

 伝わる振動が大きくなった。また同時に、背中から聞こえる心臓の鼓動が早まったような気がしていた。
 往人はようやく、初めて笑わせることができたと確信していた。人形を使って、ではないのが悔しくもあったが、
 ろくでなしの自分にはこれくらいが丁度いいと解釈して取り敢えずは満足することにする。
 互いに笑いが収まる頃には、堅さもなくなり、可能な限り体を密着させるようになっていた。
 それぞれを必要としていることを自覚し、この先を共にする意識が出来上がっているのかもしれなかった。

「そろそろ、私は上がる」

 振り向くと、はにかんだ舞の顔があった。

「渚たちと約束してるから」
「ああ。俺はしばらくここにいる。……風呂はいいもんだな」
「浸かりすぎてのぼせないように」
「分かってるさ」
「それと」
「ん?」
「……後ろ、向いてて」

 躊躇いがちな舞の言葉を理解したのは、数秒経ってからのことだった。「あ、ああ」と頷いて壁際の方を向く。
 その間に舞は湯船から上がる気配があったが、ちらりと、横目で見てしまう。
 しなやかで贅肉のひとつもない、絶妙なバランスの取れた均整な肢体だった。
 やはり男の性はそう簡単に抑えられないものらしいと苦笑して、往人は湯気の立ち昇る天井を見つめていた。

375手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 03:59:53 ID:5Yr44Sw20
【時間:3日目午前04時30分ごろ】
【場所:D−6 鎌石小中学校】

『自由行動組』何を、誰とするかは自由。小中学校近辺まで移動可

【刀剣類:日本刀×3、投げナイフ(残:4本)、バタフライナイフ、サバイバルナイフ×2、カッターナイフ、仕込み鉄扇、包丁×3、忍者刀、忍者セット(手裏剣・他)、鉈×2、暗殺用十徳ナイフ、ベアークロー】

【銃器類:デザート・イーグル .50AE(1/7)、フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 5/5 +予備弾薬4発、
     コルトガバメントカスタム(残弾10/10)、S&W M29 5/6、グロック19(10/15)、SIG(P232)残弾数(2/7)、
     S&W 500マグナム(5/5)、ニューナンブM60(5/5)、S&W M1076 残弾数(6/6)、デザートイーグル(.44マグナム版・残弾8/8)、
     S&W、M10(4インチモデル)5/6、コルトガバメント(装弾数:7/7)、コルト・パイソン(6/6)、ワルサーP5(2/8)、
     二連式デリンジャー(残弾1発)、ベレッタM92(15/15)】
【サブマシンガン・ライフルなど:イングラムM10(30/30)、IMI マイクロUZI 残弾数(30/30)×2、MP5K(18/30)、
     レミントン(M700)装弾数(5/5)、H&K SMGⅡ(30/30)、89式小銃(銃剣付き・残弾22/22)、
     P−90(50/50)、M4カービン(残弾15/30)】
【ショットガン:Remington M870(残弾数4/4)、SPAS12ショットガン8/8発、ベネリM3(7/7)】
【爆発物系:M79グレネードランチャー、携帯型レーザー式誘導装置(弾数2)】
【弾切れの銃:ワルサー P38(0/8)、ドラグノフ(0/10)、H&K PSG−1(残り0発。6倍スコープ付き)、
     FN Five-SeveN(残弾数0/20)、コルト・ディテクティブスペシャル(0/6)、トカレフ(TT30)銃弾数(0/8)】

【弾薬:38口径弾31発+ホローポイント弾11発、炸裂弾×2、火炎弾×9、12ケージショットシェル弾×10、
    9mm弾サブマシンガンカートリッジ(30発入り)×14、.500マグナム弾×2、7.62mmライフル弾(レミントンM700)×5、
    10mm弾(M1076専用)×9、5.56mmライフル弾マガジン(30発入り)×6、マグナムの弾(コルトパイソン)×13、
    】

【その他間接武器:ボウガン(32/36)、電動釘打ち機12/12、五寸釘(10本)、吹き矢セット(青×4:麻酔薬、黄×3:効能不明)】

【その他近接武器:トンカチ、スコップ、鉄芯入りウッドトンファー、フライパン×2、おたま、折りたたみ傘、鋸】

【防具:防弾チョッキ、分厚い小説、防弾アーマー】

【医療器具等:救急箱×4、包帯、消毒液、何種類かの薬、治療用の道具一式(保健室でいくらか補給)、風邪薬、胃腸薬】

【工具等:ロープ(少し太め)、ツールセット、工具箱、はんだごて】

【食料など:支給品のパンと水たくさん、おにぎり、缶詰、携帯用ガスコンロ、野菜などの食料や調味料、携帯食、
      カップめんいくつか、セイカクハンテンダケ(×1個&4分の3個)、乾パン、カロリーメイト数個】

【その他:三角帽子、青い宝石(光四個)、スイッチ(未だ詳細不明)、レーダー、懐中電灯×2、ロウソク×4、イボつき軍手、
     ロケット花火たくさん、ただの双眼鏡、何かの充電機、100円ライター×2、スイッチ(0/6)】

【会議室にあるもの:診療所のメモ、珊瑚メモ、HDD(HDD内にはワームと説明書(txt)、選択して情報を送れるプログラムがある)、
    ノートパソコン×3、腕時計、ことみのメモ付き地図、ポリタンクの中に入った灯油、要塞開錠用IDカード、武器庫用鍵、
    要塞見取り図、フラッシュメモリ、カメラ付き携帯電話(バッテリー9割、全施設の番号登録済み)、
    参加者の写真つきデータファイル(内容は名前と顔写真のみ)、フラッシュメモリ(パスワード解除)】

376手を取り合って/Let Us Cling Together:2009/10/17(土) 04:00:12 ID:5Yr44Sw20
川澄舞
【状態:往人に付き従って行動。強く生きていたいと考えている。両手に多少怪我(治療済み。支障は全くない)】
【その他:往人に対して強い親近感を抱いている。剣道着を着ている】

朝霧麻亜子
【状態:鎖骨にひびが入っている可能性あり。計画通り】
【その他:体操服(上下のジャージ)を着ている】

国崎往人
【所持品:スペツナズナイフの柄】
【状況:強く生きることを決意。人形劇で舞を笑わせてあげたいと考えている】
【その他:左腕に文字を刻んだ。舞に対して親近感を抱いている】

古河渚
【状態:健康】
【目的:人と距離を取らず付き合っていく。最優先目標は宗一を手伝う事】

ルーシー・マリア・ミソラ
【状態:生き残ることを決意。髪飾りに美凪の制服の十字架をつけている】
【目的:とりあえず渚にくっついていく】 

ほしのゆめみ
【状態:左腕が動くようになった。運動能力向上。パートナーの高槻に従って行動】

→B-10

377終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:13:14 ID:EcYFC0rI0
 
それは、塔と呼ぶより他になく、しかし塔と呼ぶにはひどく躊躇いを覚える、そんな代物である。
俯瞰すればそれは空と大地とを繋ぐ、黒く捻れた蜘蛛の糸とでも感じられただろう。
煉瓦造りのようにも、鉄板が張り巡らされているようにも見える外観には窓一つない。
一様に黒く、奇妙に捻じくれながら空へと伸びるそれは明らかな人工の建造物であった。
見上げてもその頂が目に入らないほどに高い、雲を越えて遥か蒼穹の彼方へと続く
その常軌を逸した全高に比して、ほぼ真円形の横幅はしかし、あまりにか細い。
ものの一分もかからずに周囲をぐるりと回ってこられるほどの構造が、如何なる技術をもって
恐るべき荷重を支えているものか。
決して自然のものではあり得ず、さりとて人がそれを造り得るのか。
思考に答えは返らず、故にそれを見る者は押し並べてそれを塔と呼ぶことに躊躇する。
だが彼らの目に映るその漆黒の構造物の、ただ一つ外壁とは異なる部分が、それを人工物であり、
また塔と呼称されるべき何かであることを誇示していた。
扉である。やはり見上げるほどに大きな、両開きの扉。
重々しくも冷たい金属の質感に隙間なく彫り込まれた精緻な紋様は幾何学的で、
全体にどこか儀式めいている。
ノッカーはなく呼び鈴もなく、しかしぴったりと閉め切られた大扉を前に、ふん、と。
小さく鼻を鳴らす者がいた。

「呼ばれて来たってのに、いい態度じゃない」

天沢郁未である。
ところどころが焼け焦げた襤褸雑巾のようなブレザーの成れの果てを申し訳程度に纏い、
全身を返り血と自身の血の乾いた赤褐色に染め上げて、表情を動かすたびにぽろぽろと
その欠片を落としながら手にした薙刀を弄んでいる。

378終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:13:33 ID:EcYFC0rI0
「で、どうしようか。ぶっ壊す?」
「待て待て待てっ」
「……?」

背後からの慌てたような声に振り返った郁未が眉根を寄せる。
立っていたのは背の高い、鋭く眼を光らせた男である。
一歩前に出た男が、郁未に食って掛かった。

「いきなり無茶なことを言うなっ」
「何が無茶よ」
「初手から『ぶっ壊す』が無茶以外の何だというんだ!」
「うーん……、日常?」
「……」
「……」
「……とにかく、だ」

深い溜息をついた男が、呆れたように首を振って言う。

「相手は突然湧いて出た、山より高い代物だ。こんなわけの分からんものにはもっと慎重になれ」
「……つーか、さっきから思ってたんだけどさ」

男の言葉を聞いてか聞かずか、郁未が手にした薙刀の柄をくるくると回しながら口を開く。

「そもそも、あんた誰」

ぐるりと見渡した、郁未の視線の先には男の他にも幾つかの人影がある。
名を知る者も、知らぬ者もあったが、しかしそのすべてが、郁未にとって見知った顔であった。
男の顔だけに見覚えがない。
その身に着けた飾り気のないシャツにも皺こそ寄っていたが、郁未たちのように
激戦を物語るような痕跡は見当たらない。
この島で終戦まで生き延びながら長瀬源五郎との戦いには加わらず、しかし帰還便の船着場ではなく
何処へ続くとも知れぬこの塔の前に立っている。
目付きの悪さも相まって、胡散臭いことこの上ない男であった。

379終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:14:02 ID:EcYFC0rI0
「俺か? 俺は……」
「―――その薄汚い男性の言う通りです、郁未さん」
「薄汚い!?」

名乗りを遮るように、声が上がった。
声の主をちらりと横目で見て、郁未が口を尖らせる。

「えー……だってさ、葉子さん」
「だって、じゃありません」
「薄汚いって!?」

たしなめるような口調は鹿沼葉子。
郁未と同じく全身を乾いた血に染め、長く細い金髪も見る影もなく傷めていたが、
表情には常日頃の静謐が戻っている。

「けど、開かないんだもん、このドア」
「だからといって壊そうかはないでしょう。そもそも郁未さんは……」
「まあ、お説教は後回しにして」
「おい、薄汚いって何だ!?」

男の悲鳴じみた抗議は揃って無視。
脱線しかけた葉子の肩を掴んで、扉の前へと向ける郁未。

「はい、バトンタッチ」
「まったく……」

話の腰を折られ、僅かに渋面を作った葉子が背丈の倍はあろうかという鉄扉に歩み寄る。
重々しく鎮座する扉を前に、葉子が振り返った。

「いつものように、郁未さんの開け方が悪かったのでしょう」
「いつもって何よ」
「いつもはいつもですよ、郁未さんは何事も大雑把ですから」

肩をすくめてみせる葉子。
汚れ破れた布地の隙間から時折白い肌を覗かせるその姿がひどく艶かしい。

380終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:14:44 ID:EcYFC0rI0
「いちいち棘があるよね……まあいいや、ならやってみせてよ」
「言われずとも」

呟いて扉へと向き直った葉子が、己の胸の高さ辺り、漆黒の扉に据え付けられた、
一見して紋様のひとつとも見紛いそうな円形の引き手を、掴む。
掴んで、固まった。

「……」
「……」

その背が、腕が、微かに動いている。
押し、引き、捻り。
色々と試行錯誤しているように、郁未には見えた。

「……」
「……」

暫くの間を置いて、郁未が何度目かの欠伸を漏らそうとしたとき、葉子が唐突に振り返った。
郁未と視線を合わせ、ひとつ頷いて、おもむろに口を開く。

「破壊しましょうか」
「お前もかっ!」
「よーし、んじゃ葉子さん、ちょっとそこどいて」

葉子の言葉を受けて、郁未が手の中で弄んでいた薙刀を宙へと放り投げてぐるりと腕を回す。
落ちてきた薙刀をぱしりと受け止め、構えは大上段。
横に一歩移動した葉子に口の端を上げて見せると、すう、と息を吸い込んだ。
日輪を映してギラリと輝いた刃が微かに震えた、そこへ大音声が響く。

「―――人の話を聞けっ!」
「……?」
「不思議そうな顔をするなっ」

完全に無視されていた男が、郁未の切っ先を塞ぐように両手を広げながら前に出る。

「邪魔なんだけど」
「邪魔してるんだっ」

そう郁未へ言い放った男が、横目でぎろりと睨んだのは葉子だった。

「お前の慎重論はどこへ行った!」
「……」
「不思議そうな顔をするなっ」

言われた葉子は郁未と目配せをひとつ。
溜息をつくと、大儀そうに口を開いた。

381終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:15:12 ID:EcYFC0rI0
「開かないのなら、開けるまでです」
「……」
「……まだ何か」
「もういい……ってこら、薙刀を振りかぶるなっ」
「だって、もういいんでしょ」
「いいわけあるかっ! お前らも見てないでこいつを止めろ!」

男の呼びかけた方に振り向いた、郁未の視界に映る影は二つ。
その全身を獣のものともつかぬ奇怪な白銀の体毛に包み、手には抜き身の一刀を提げた少女、川澄舞。
もう一人もまた、少なくともその外見においては少女である。
笑みとも嘲りともつかぬ、どこか掴みどころのない表情を浮かべたその名を水瀬名雪といった。
どちらもが、見知った顔である。
といっても直接に交わした言葉などほんの二、三に過ぎない。
つい先刻終結した、神塚山頂での長瀬源五郎との決戦において一時限りの共闘に及んだという、
それだけの間柄だった。

「……」
「……」
「無視されてるし」
「うるさいっ」

男の声にも、舞と名雪は指先一つ動かさない。
ただ思い思いの方を見つめたまま、何事かを思案しているようだった。

「お前らは少し協調性という言葉を理解しろ……」
「で、もういい?」
「だから得物を振りかぶるな! いいからそれを下ろせ!」

大袈裟な身振りで郁未に向けて腕を振ってみせた男が、険しい顔で振り返ると塔の方へと向き直る。
そのまま一歩、二歩、扉の前へと歩み寄ると、漆黒の鉄扉を見上げた。

「そもそも本当に開かないのか?」
「ずっと見てたでしょ」
「女の細腕で試しただけだろう」

小さく鼻を鳴らすと、男は見るからに重そうな円形の引き手を掴む。
僅かな間を置いて、思い切り引いた。

「細腕って、少なくともあんたよりは……って、……え?」



******

382終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:15:32 ID:EcYFC0rI0
******






ぎぃ、と。
錆び付いた音を立てて、扉が開く。

その奥には漆黒の闇だけが拡がっている。




******

383終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:16:03 ID:EcYFC0rI0
******

 
 
「……俺よりは、何だって?」

振り向いた、男の得意げな視線を郁未は見ていない。
その瞳は男の背後、漆黒の外壁と鉄扉との間に顔を覗かせた、細く深い闇へと吸い寄せられている。

「嘘っ!?」
「嘘も何もあるか。ごく普通に開いたぞ」

思わず目線を送れば、葉子もまた僅かに目を見開いている。
と、郁未の視線に気付いた葉子が、無言のままに頷く。
確かに先刻は開かなかったのだと、その瞳は語っていた。

「……」

原因は分からない。
何かの仕掛けがあるのか、男が見かけによらず並外れた膂力の持ち主だったのか。
それとも、ただの偶然か。

「……そりゃ、ないよねえ」

呟いた郁未が口の端を上げてみせる。
眼前に開いた闇からは今にも何かが零れ落ちてきそうだった。
どろどろとした、冷たくて粘つく薄気味の悪い何か。
この塔の中にはきっと、そういう何かが詰まっている。
その扉が、偶然などで開くものか。

384終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:16:24 ID:EcYFC0rI0
「面白いじゃない。……行こ、葉子さん」
「お、おい……!」

考えるのは、相方の役割だ。
そして自分の役割は、前に進むこと。
二人はそうしてできている。

「はい」

短い返事を確認。
手の薙刀をくるりと回すと、郁未は細く隙間を覗かせる扉を一気に引き開ける。
目に映るのは闇の一色。
恐れることもなく、踏み出した。

「―――」

背後から響く足音はひとつ。
耳に馴染んだ鹿沼葉子の歩調。
その向こうからは、場にそぐわぬ呑気な会話が聞こえてくる。

「そういえばお前、あの、アレ……どうした?」
「渡した」
「……」
「……」

僅かな沈黙。
会話が微かに遠くなる。

「……って、誰に渡したんだ」
「佐祐理」
「誰だそりゃ……」
「……」

再び、沈黙。
目に映る闇に融けるように、声が段々と聞こえづらくなっていく。

「お前、友達いないだろ……」
「いる。佐祐理」

三度の沈黙の後に聞こえたのは、深い溜息である。

「はあ……もう、いい……」


それを最後に、音が消えた。



******

385終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:17:02 ID:EcYFC0rI0
******



声が響く。
高く澄んだ、変声期を迎える前の少年の声だ。

「……開くわけがない、はずなんだけどね」

応えるように、もうひとつの声が響く。
まだ幼い、童女の声だった。

「けど、あいてるよ」

星のない月夜の下。
声だけが、天を仰ぐ白い花を揺らしている。

「はあ……汐、もしまた生まれたらお母さんに戸締りはきちんとするように言っておいて」
「なんで」

汐、と呼ばれた幼い声が尋ねるのに、少年の声が呆れたように響く。

「何でって、君のお母さんが作った入り口じゃないか」
「そうだっけ」
「そうだよ。中途半端なことしてさ、忘れてちゃ世話ないよ」
「ごめん、ごめん」

悪びれない謝罪。
小さく溜息を漏らした少年の声が、ふと何かに気付いたようにトーンを落とす。

「ん、いや待てよ……」
「……?」
「この場合は戸締りよりも……むしろ身持ちを固く、かな?」
「みもち……?」
「男に限ってあっさり開くんだから、困ったものさ」
「ねえ、何のはなし……?」

幼い声に、少年の声が笑みを含んで響く。

「だって、あれは臍の緒だろう。すっかり干からびてしまっているみたいだけれど」
「へそのお……?」
「うん、ならやっぱり、その先に口を開けているのは……」

そこまでを語って、少年の声が不意に途切れた。

「まあ、いいや。子供に聞かせる話じゃあない」
「……?」
「いいんだってば」

どこか照れたような少年の声が、こほん、と咳払いを一つ。

「ふうん。へんなの」

つまらなそうに呟いた幼い声が、やはりつまらなそうに続ける。

「でも、かんけいないでしょ。どうせ―――」
「まあ、そうだけどね」

少年の声が、幼い声の言葉を引き取る。

「―――どうせここまで、道は続いていないんだから」

風のない花畑に響いた、その声に。
一面に咲いた白い花が、ざわ、と揺れた。



******

386終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:17:39 ID:EcYFC0rI0
******





闇を抜けると、そこは海だった。

広い、広い海には、

波間に浮かぶ小さな島々のように、

白い羊が、浮かんでいる。



.

387終演憧憬(1):2009/10/19(月) 12:18:45 ID:EcYFC0rI0

【時間:2日目 3時過ぎ】
【場所:I−10 須弥山入口】

国崎往人
 【所持品:人形、ラーメンセット(レトルト)】
 【状態:法力喪失】

川澄舞
 【所持品:村雨】
 【状態:健康、白髪、ムティカパ、エルクゥ】

水瀬名雪
 【所持品:くろいあくま】
 【状態:過去優勝者】



【時間:すでに終わっている】
【場所:世界の終わりの花畑】

岡崎汐
【状態:――】

少年
【状態:――】



【時間:すでに終わっている】
【場所:???】

天沢郁未
 【所持品:薙刀】
 【状態:重傷・不可視の力】

鹿沼葉子
 【所持品:鉈】
 【状態:健康・光学戰試挑躰・不可視の力】

→692 1068 1071 1080 ルートD-5

388断ち切る:2009/10/21(水) 23:17:39 ID:9uSh9wRc0
 人殺しの目、とはどのようなものなのだろうか。
 姫百合瑠璃は、平静さを装いながらも笑い出してしまいそうになる体を抑えるのに必死だった。

 言ってしまえば流されるがままで、なにひとつとして明確な意思も持てずここまで来てしまった自分。
 拠り所を他者に求めるばかりで、自らのためにやれることはやれてもそれを別の方向に向けることもできない自分。
 抱える弱さが渾然一体となって押し寄せてきているからこそ、これほどまでに怯えているのかもしれなかった。

「……もう、分かってるかもしれませんけど」

 滅多に使わない丁寧語そのものが逃げの象徴のように思えて、瑠璃は息を詰まらせた。
 そんなことは許されないのにと分かっていても、誤魔化すことに慣れきってしまった体が反射的にさせたのかもしれなかった。
 目の前にいる、身じろぎもせずに胸の前で腕を抱えている藤林杏は何も言わない。
 眠っているのではないかとさえ思えるくらいに、彼女は整然としていた。

 そんな杏の姿を眺め、何を待っているのだろうと自問した瑠璃はいつもの自分になりかけていることに苛立った。
 冗談じゃない。ここまで来て怖気づいて、何がツケを支払う、だ。
 黙りこむのは簡単だが、そうして失ったものは絶対に取り戻せない。
 取り戻せるのだとしても、その時はいつだって自分が後悔する時だ。

 だから今ここにいるのではないか、と瑠璃は半ば呆れる思いで己を叱咤した。
 情けないという思いが込み上げてきたが、そんなことに拘れるほど人間ができていないのが姫百合瑠璃だった。

「あなたの妹の……椋さんは、ウチが殺しました」

 倒すでも、戦ったでもない。確かに殺意を持って椋に、名前も知らなかった少女にミサイルを撃ち込んだのだ。
 ぴくりと杏の指が動き、手が飛んでくるのではないかと予感したが結局何もされることはなかった。
 けれども「なんで、殺したの」と続けられた杏のひどく冷静な声が瑠璃の胸を締め付けた。

「椋さんが殺し合いに乗ってた正確な理由は、分かりません。でも、多分、杏さんのために殺してたのは……確かです」

389断ち切る:2009/10/21(水) 23:17:57 ID:9uSh9wRc0
 偽りの笑顔、偽りの優しさを向けられ会話していたときでさえ、椋が話題に挙げた姉のことに関しては心底事実だと思えた。
 格好良くて、面倒見のいい、自慢の姉。どこで歪んでしまったのかは分からなかったが、
 少なくとも姉に対する思いだけは死ぬ直前まで変わらなかったと確信させるだけのものが椋にはあったと思っていた。

「殺したの? 椋は、誰かを」
「……ウチの、姉を。それに友達を、仲間を、たくさん」

 珊瑚の姿を思い出した瞬間、やり直しだと告げた姿がフラッシュバックして瑠璃は目尻に涙を浮かべそうになった。
 服に滲む黒ずんだ血の色の中に何も出来なかった自分の姿が映った気がした。
 いけないという意思の力でどうにか抑えたものの、声を詰まらせたことは杏に伝わってしまったらしかった。
 杏はすぐには何も言わず、顔を俯けていた。瑠璃も耐え切れず、床に視線を落とした。
 互いが互いの家族を奪い合った現実の重さ。負債と言うには重過ぎる、過酷な事実が声をなくさせたのだった。

「ごめん、なさい」

 出し抜けに紡がれた声に、瑠璃は呆然として視線を杏に向けた。
 唐突に過ぎる謝罪の言葉に「どうして」と詰問の口調で言ってしまっていた。

「謝る必要があるのはウチだけです。だって、あのとき確かに……ウチは椋さんを憎んでた。
 死ねばいいって思ってた。許されなくって当然なんです」

 動転していたからなのかもしれない。瑠璃は率直に己の内面を伝えていた。
 今の自分には様々な感情が交錯し、絡み合っている。憎む気持ちは確かにあった。そのことに関しては弁解する余地もない。
 なのにこれでは、痛み分けを促し、自分が負債を踏み倒してしまったみたいじゃないか。
 だから自分が負債を少しでも請け負う――そんな気持ちで言い放った瑠璃の言葉を「違うの」と杏は返した。

「妹の代わりに謝ったんじゃない。あたしは……妹があなたのお姉さんを殺したのを聞いても、
 それでも生きてて欲しかった、って思ったの。そんな、自分がバカらしくて……」

390断ち切る:2009/10/21(水) 23:18:15 ID:9uSh9wRc0
 杏の返答に瑠璃は絶句した。身勝手ともとれる杏の考えに失望したのではなく、実直に過ぎる言葉に触れ、
 自分は本当に取り返しのつかないことをしてしまったという実感から絶句したのだった。
 姉妹の絆を引き裂いてしまった。家族のかけがえのなさを知っているのは自分もなのに。

「だから……ごめんなさい。自分だけが慰められればいいって考えてて、ごめんなさい」

 瑠璃はこれに返せるだけの言葉を持てなかった。そうしてしまえば自分が赦されたがっているような気がして、
 みじめになってゆくのが簡単に想像できたし、杏の人格を傷つけてしまうことが分かってしまったからだった。
 甘かった。このツケは人が一生をかけたところで払いきれるものではない。
 生きている限り罪を実感し続けてゆかなくてはならないものなのだ。
 瑠璃は代わりに「いいんです」と告げた。

「間違ってないって、思います。ウチも……杏さんの立場ならそう思っただろうから」

 他の関係を全て押し退けて、無条件に愛し、守ろうとできるのが家族。
 だからこそ何の遠慮もなく、瑠璃もそう言うことが出来た。
 そこには何のしがらみもなかった。強すぎる想いが引き起こした、一つの悲劇なのかもしれない。
 周りから見ればそれだけで片付けられるものではないと言及されそうだったが、瑠璃にはそうとしか思えなかった。
 椋の見せた表情を知っていれば。

「椋、笑ってた?」
「……はい。杏さんの話をしてるときは、ずっと」

 瑠璃の言葉を聞くと、杏は「あのバカ」と言って天井を仰いだ。
 死に目に会えなかった妹の表情を必死に手繰り寄せているのかもしれなかった。

「あたし、簡単に死ねなくなっちゃったわね」

 瑠璃に目を戻した杏は苦笑していた。寂しさと心苦しさ、自分には推し量れない何かを抱えた顔だった。

「軽率だったかな。瑠璃は、もうそんなのとっくに過ぎてるのにね」
「え……」

391断ち切る:2009/10/21(水) 23:18:34 ID:9uSh9wRc0
 そうなのだろうか、と自問する声がかかり、やはり明確な答えを出せずに瑠璃は沈黙した。
 流されるままで、他人には死んで欲しくないとは思えても自分のことになると頓着するものなど殆どなかったこと。
 償うことばかり考えていて、自分自身のことなんて思いつきもしなかった。

「だって、そうでしょう? 簡単に死ねないって分かってて、ずっと内側で黙り込んだままなんて出来ないもの。
 吐き出して、どっかで楽にならなければ人って生きられないから……それこそ、聖人君子でもなければ、ね」

 人の持つ芥を理解し、自分本位で動くことも是と受け止めた顔があった。
 緩やかに曲線を描いた口元は笑っているようでもあり、諦めているようにも思えた。

「多分あたしもあなたも、どっかで絶対許せないところがあるのよ。でもそれだけじゃ寂しいでしょう?
 だから少しでも本音を吐き出しておけば、あたし達なりにも理解することができるようになる。
 理解できないとね、思い込みで憎んだり疑ったり、軽蔑するだけになるから。……自分にも」

 杏は椋のことを忘れられないし、その生を奪われたことも許せない。
 瑠璃も珊瑚のことを忘れられないし、奪われたことを絶対に許せない。

 でもそれでいいのだ、と杏は言ってくれた。ちゃんと互いに吐き出して、自分なりの納得さえ得られれば。
 それはある意味では自分達の善意を信じての言葉だった。
 善くなっていけるだろうと信じられるからこそ、杏は許せなくてもいいと言ったのだろう。

「ありがとう……」

 だから瑠璃が言ったのは謝罪でもなく疑問を差し挟むことでもなく、自分達の在り様を肯定してくれたことに対しての感謝だった。
 無論これだって自分を保つための論理なのかもしれない。でもそれでもいい、と瑠璃は率直に思うことが出来た。
 手を出しだした瑠璃に、何の躊躇いもなく杏も手を握り返してきた。

「お互い、死ぬまで生きましょう」
「うん。絶対に」

 辛酸を自分で洗い流すことを覚えた女二人の手が離れる。
 毅然として歩く杏の後に続きながら、瑠璃は話していた空き教室の前で待っているであろう藤田浩之の姿を思い浮かべる。
 今晩は彼と話しつつ、一緒に過ごしてみよう、と思った。
 初めて自分のことだけを考えている自分を、自覚しながら。

392断ち切る:2009/10/21(水) 23:18:55 ID:9uSh9wRc0
【時間:3日目午前04時00分ごろ】
【場所:D−6 鎌石小中学校】

『自由行動組』何を、誰とするかは自由。小中学校近辺まで移動可

姫百合瑠璃
【状態:死ぬまで生きる。浩之と絶対に離れない。珊瑚の血が服に付着している】

藤田浩之
【状態:瑠璃とずっと生きる】

藤林杏
【状態:軽症(ただし激しく運動すると傷口が開く可能性がある)。簡単には死ねないな】

→B-10

393終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:33:56 ID:IOL2TXto0
 
「―――ふうん。それじゃ、さっきの白いのがおまえの言ってた子だったんだ」

ずずぅ、と癇に障る音を立ててマグカップの茶を啜りながらしたり顔で頷く春原陽平を
ちらりと横目で見て、長岡志保は頬杖をついたまま口を開く。

「だから、おまえっていうのやめてよね。あたしには志保ちゃんって立派な名前があるんだから」
「……へいへい」

突き放すように言われた春原が、露骨に顔を顰めながら言い直そうとする。

「で、その志保ちゃんは―――」
「あんたに志保ちゃんとか呼ばれたくないんですけど。キモい」
「ムチャクチャ言いますねえっ!?」

口から唾と茶とを飛ばしながら抗議する春原に、心底面倒そうな表情を作って志保は視線を外す。
実際、心底から面倒くさかった。
甲高くて喧しい声は、どんよりと澱んだテンションにざくざくと突き刺さってひどく鬱陶しい。
今はただ、窓の外に広がる景色と静寂だけに身を委ねていたかった。
目をやれば、四角く切り取られた空は、青の一色からだいぶ趣を変えている。
傾きかけた陽射しの黄色みがかった色合いが、森と山と小さなリビングとを、薄いヴェールで覆うように
やわらかく染め上げていた。

394終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:34:15 ID:IOL2TXto0
「白い子……って、川澄さんのことですか?」

背後でなおも不満そうにぶつぶつと抗議の声を上げ続けている春原を見かねたか、
困ったような顔の渚が会話に入ってくる。
ここで目が覚めてからほんの数時間。
その間に、同じようなことが何度もあった。
場に険悪な空気が流れること自体が嫌なのだろう、と思う。
古河早苗がこの場にいれば、空気が悪くなるより僅かに手前で自然に軌道修正するような一言を放って、
一瞬にして和やかな雰囲気を取り戻していただろう。
それは一種の天賦の才で、しかし早苗は今キッチンに立っている。
だから渚は仕方なく、どこか必死さを滲ませながらぎこちなく、対立に介入しようとしているのだろう。
ともすればそれは優しさではなく、手前勝手な心情の押し付けだった。
しかし穏やかな口調と下がった目尻は、春原のそれと違ってささくれ立った志保の心を刺激しない。
それはどこまでも薄く、軽く、やわらかい身勝手だった。
仕方ないかと内心で苦笑した志保が、窓から視線を離すと渚の方へと向き直る。

「そ。あたしと美佐枝さんが何とかしようとした子」

本人には言えなかったけどね、と苦笑交じりに呟く。
あんた、何で生きてるのよ。
言えるわけがない。
長岡志保を知る誰もが理解しているように、流れに乗れば志保は誰に対しても、何についても口に出す。
出してしまう、或いは出せてしまう。
そうしてまた、これは誰もが誤解していたが、流れに乗ることができなければ、志保は怯えて動けない。
一線を踏み越えることのリスクを過剰に考えすぎてしまうのが、長岡志保という少女の一面である。
酔った勢い、という言葉がある。
流れに乗るというのはそれに近いのかもしれない、と志保は自己を分析していた。
但し酩酊するのはアルコールに対してではない。
長岡志保を酔わせるのは、空気と呼ばれるものだった。
場に流れるテンションの総量が、志保を大胆にする。
言わなくてもいいことや言えなかったはずのことや、しなくてもいいことやすべきでないことをさせる。
踏み出した足が一線を越えた、そのこと自体がテンションを押し上げて、志保自身を加速させていく。
それが好循環であるのか、それとも悪循環であるのかを志保は評価しない。
ただ自分自身がそういうものであると、それだけを理解していた。
温まらない場では動けない。
人見知りをしないくせに、一度でも苦手意識が芽生えた相手の前では口も出さない、笑えない。
それが長岡志保で、そして志保にとっての川澄舞は、明らかに苦手な相手だった。

395終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:34:38 ID:IOL2TXto0
「何とかしようとして、何ともならなかった子だろ」

ずぅ、と茶を啜りながら春原が言う。
返事をするのも面倒だった。
代わりに、春原が少しづつ啜っているマグカップの底を、思い切り指で押した。

「ぶあつぅーっ!?」
「ひゃ!? だ、大丈夫ですか春原さん! わ、わたしタオルとお水、持ってきます!」

椅子から転げ落ち、大きな腹を抱えたままごろごろと床をのたうつ春原を無視して、
志保は窓の上に据え付けられた壁掛け時計を見上げる。
短針は右真横、九十度。
時刻は間もなく三時になろうとしていた。

「……だから、もう少ししたら出よっかな。船が出るのは六時だっけ」

何が、だから、なのか。
口にした志保自身が、そのことを疑問に思う。
何とかしようとして、何もできなかったから、だからここを出て、船に乗って、本土へ帰るのか。
舞が蘇って、すべきことが何もなくなったから、だから悪夢の一日を生き延びたことに感謝して。
何かをしようと決意して、何ができたのかも分からないまま放り出されて、だから家路に着くのか。
夢と現の狭間で、何かを見出したつもりだった。
誰もが戦っていたあの山頂を見上げていたとき、心の中には確かに何かが存在していたはずだった。
ぐにゃりと歪んだ世界の中で、ずるずると纏わりつく無数の想念に貫かれながら膝を屈さずにいたとき、
志保の中の一番声の大きな何かは、必死で叫んでいたはずだった。
だがこうして、温かいお茶とうららかな陽射しと穏やかな景色とに包まれていると、そのすべてが
夢か幻であったように思えてくる。
掴んだはずのものが、するりと手の中から零れ落ちていくような感覚。
開いてみれば、手のひらの上には何も残っていない。
小さく、無力な手が傾きかけた陽に照らされて黄金色を帯びている。
転んだときの細かな傷の幾つかが血が滲んでかさぶたになっていて、そうして、それだけだった。
船に乗って家路について、日常に戻ればすぐに消えてしまうような、そんな傷。
それだけが志保に残されたもので、傷が消えてしまえば、この島の全部が消えてしまうような、
そんな錯覚が、ぼんやりと志保を包み込んでいく。

396終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:35:02 ID:IOL2TXto0
「はあ……」

深い溜息と共に、テーブルに突っ伏す。

「あたし、何やってたんだろうなあ……」

頬に当たる飾り板の冷たい感触と篭った溜息の生温さが、ほんの一呼吸、二呼吸の内に混じり合っていく。
腕で覆った瞼の内側は暗く、狭く、簡素で、心地いい。

「何にもできてない」

小さな壁の内側の空虚に甘えながら呟けば、愚痴じみた言葉はひどく自然に耳に馴染んで、
それはきっと本音なのだろうと思えた。

「ずっと誰かに助けられてて、なのに恩返しもできなくて。だけど……」

濁った声が溶けていく。
溶けて乾いて、残らない。
それでも、口にして、思う。
だけど、は優しい言葉だ。
曖昧で、緩やかで、言葉が続かなくても、許してくれる。
だけど、の後に何を言おうとしたのか、もう自分でも分からない。だけど。
だけど、仕方ない。
きっとそれは、仕方ないことだったのだ。
即席の闇の中、だけど、が大きくなっていく。
だから、を侵して、だけど、が言葉を濁らせる。
濁った言葉は吸い込んだ息と一緒に肺の中で血に混ざって、体中を這い回る。
這い回って、いつかの、思い出せないほど遠くの自分が傷だらけになりながら手を伸ばしていた理由や、
手段のない目的や、原因の見つからない衝動や、そういうものを砂糖菓子みたいに包み込んでくれる。
それは疲れきった身体に染み込んで、甘い。
それは弱りきった精神に沁み渡って、軽い。
それは長岡志保を満たし、覆い、溢れて、

「……だけど、なんだよ」

そういうものに包まれた自分は、ひどく言い訳じみていて。
醜く、くすんでいる。

397終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:35:31 ID:IOL2TXto0
「―――」

春原陽平の声が、冷水のように、或いは無遠慮に響く足音のように、志保を打つ。
打たれて剥がれた砂糖菓子のコーティングの下から、剥き出しの衝動が顔を覗かせていた。
それは疲れきり、弱りきって、しかし、だから何だと、叫んでいた。
ずっと誰かに助けられていて、なのに恩返しもできなくて。
だけど、ではないと。
それは、叫んでいた。
だから、だ。
だから、お前はどうするのだと、真っ直ぐに、心臓の裏側に爪を立てるような眼差しで、問いかけていた。

「……わよ」

ぎり、と噛み締めた歯の隙間から、声が漏れた。

「はあ? 何だって?」
「―――あんたには、分かんないわよ……!」

眼差しから視線を逸らし、傷口から漏れ出した問いを塞ぐように、必死に己を抑え込みながら、
志保が声を絞り出す。
理不尽だと分かっていた。
ただの八つ当たりだと、理解していた。
それでも、言わずにはいられなかった。
顔を上げて睨んだ先に、

「何、それ」

底冷えのするような目が、待っていた。

398終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:35:59 ID:IOL2TXto0
「……!」
「笑えるね。一人で悲劇のヒロインぶってさ」

いつの間にか立ち上がっていた春原が、すぐ傍に立っていた。
気圧されたように言葉に詰まった志保を見下ろして、春原が口の端を上げる。
にやにやと人を見透かしたような、嫌な笑い方だった。

「だけど、だけど。言ってれば? ずっと、そうやってさ」
「何が……言いたいのよ」
「べっつにぃ」

嘲るように、蔑むように。
笑みを浮かべた春原が、そこだけはぞっとするように冷たく光らせた眼を、すうと細めた。

「たださあ―――」

それが、たまらないほど疎ましく。
怖気が立つほど厭わしくて。

「―――楽だよなあ、って」

思考が、白く染まる。

「あんた……っ!」

どん、という手応えは、意外なほどに軽かった。
あまり肉付きの良くない肩の辺りを突き飛ばした腕に、どれほどの力を込めていただろう。
分からない。
衝動に任せた手は、にやにやと笑う春原の表情を、一瞬だけ驚愕の色に染め上げ。
そして、視界から消した。

399終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:36:21 ID:IOL2TXto0
ガタ、ゴン、と。
重い音が、後から響く。
よろけた春原が足を絡めて躓いた、木製の椅子が床に当たって立てた音。
そうして、すっかり大きくなった腹を抱えた春原が、受身も取れないまま、正面から床に倒れた音だった。

「え……?」

すぐに立ち上がると、思った。

「ちょ、ちょっと……」

立ち上がって、眼を剥いて、甲高い声で食って掛かってくると、そう思った。
しかし。

「じ、冗談やめなさいよ……」

春原陽平は、起き上がらない。
顔を上げようとも、しなかった。

「……どうしました!? 今、すごい音が……」

キッチンから顔を覗かせた渚が、立ち尽くす志保と、ほんの少し遅れて床に倒れた春原に気付く。

「春原さん? ……春原さん!?」
「あ、」

声が、出ない。
春原を突き飛ばした手が、伸ばされたまま、震えていた。

「……お母さん! お母さん!!」

恐ろしく切迫した渚の声が耳朶を打つのを感じながら、志保の瞳はどこか他人事のように
目の前の状況を映していた。
凍りついた脳が、情報を処理しきれずにいるようだった。
倒れ伏した春原の、腰に巻いたシーツがまるで何か、水に濡れたその上に掛けたようにじわりと滲み、
瞬く間にその色を変えていくのも、だから志保はぼんやりと、ひどく無機質に、眺めていた。



******

400終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:36:42 ID:IOL2TXto0
 
 
長岡志保は走っている。
息は荒く、全身は汗みずくで、目尻には涙を浮かべながら、しかし休むことなく、走っている。
取り返しのつかないことをしたと、それだけがぐるぐると志保の脳髄を廻っていた。

晴れ渡っていたはずの空にはいつの間にか薄く、しかしじっとりと重たげな灰色の雲が
黴のように涌き出して、傾いた陽を覆い隠そうと機を窺っていた。
そのせいで木漏れ日と影との境がひどく曖昧で、荒れた足元は更に不安定になっている。
張り出した木の根を飛び越えた、その先の地面が小さく窪んでいるのに気付いたのは、
着地のほんの僅かに寸前、かろうじて顔を出した陽光が地面を照らしたからだった。
足を取られ転びそうになって、それでもどうにか体勢を立て直し、志保は疾走を再開する。

危険な状態です、と早苗は言っていた。
真剣な表情だった。

動かせないと。
お産が始まると。
破水が、陣痛が、他にも色々と言っていて、そのどれもが志保には届かなかった。
ただ、医者が必要なのだと。
この場にはいない、それが必要なのだと。
それだけが、志保に理解できた唯一のことだった。

それで、志保は走っている。
指定された帰還者たちの集合場所へと、影の濃くなってきた林道を荒い息をつきながら走っている。
何も守れず、何も掴めず、そうして挙句に何かを失いかけた今になって。
だけど、だから、長岡志保は、走っている。

401終演憧憬(2):2009/10/23(金) 03:36:57 ID:IOL2TXto0
 
【時間:2日目 午後3時すぎ】
【場所:I-6 林道】

長岡志保
 【状態:健康】


【場所:I-7 沖木島診療所】

春原陽平
【状態:破水】

古河早苗
【所持品:日本酒(一升瓶)、ハリセン】
【状態:健康】

古河渚
【所持品:だんご大家族(100人)】
【状態:健康】

→1080 ルートD-5

402終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:22:43 ID:QqjtjFrU0
******



「素晴らしい。君は、この戦いの勝者だ」

「戦い抜いて、生き抜いて、とうとうハッピーエンドを勝ち取ったんだよ、おめでとう」


「さあ、だからもういいだろう?」

「物語を終わらせよう」


「だってもう、世界には―――」

「君しか、残っていないんだから」



******

403終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:23:11 ID:QqjtjFrU0
 
「うわっ、たたたっ……!」

闇を抜けると、そこは海だった。
扉を潜り、塔の中に入ったはずだった。
ほんの数歩で視界は黒の一色に染まり、次の数歩で闇が晴れ、そうして足元には水面が拡がっていた。
直径にして二十メートルほどの塔の中に、如何なる怪異を以て海原を再現してみせたものかは
天沢郁未にとって理解の範疇外である。
或いは逆に、郁未たちの身を一瞬にして何処とも知れぬ大海原の只中まで移動させたものかも知れなかったが、
いずれまやかしであれ超常の力であれ、理解よりも先に対処をせねばならない。
水面に落ち身が沈むよりも早く体勢を整え、とそこまでを思考したところで、背後から声がする。

「……沈みませんよ」

何が、と考えて、一瞬行動が遅れた。
しまったと己が迂闊を悔やむと同時、靴先が水面に触れる。

「……ですから」

ふよん。
冷めた声が背を打つのに、郁未は返事を返さない。
それよりも。
ふよん、ふよん。
足元から伝わる、奇妙な感覚に気を取られていた。
柔らかく、弾力のある何かが、今にも水面を踏み抜きそうだった足の下に、ある。
どうやら水の上に浮いているらしきその足場、見れば一面が白く長い毛に覆われている。
弾力を生み出しているのは、そのもこもことした毛の絨毯のようだった。

「っていうか……」

座り込んで毛足を撫でれば温かい。
よくよく見れば、その絨毯には顔がついている。
鼻があり、口があり、目があった。
大きなビーズのような、黒い瞳だった。
長い毛の中に紛れてくるりとカーブを描く小さな角も見えた。
ひどくメルヘンチックなデザインのそれを、もうひと撫でしてみる。

「……ひつじ?」

べぇーぇ。
と、絨毯が鳴いた。

404終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:24:03 ID:QqjtjFrU0
「こんな、絵本の挿絵みたいな羊はいませんよ」
「えー」

振り返れば、そこにはいつも通りの顔。
仏頂面に呆れを混ぜた、鹿沼葉子の姿がある。

「分かんないじゃない。世界は広いんだし」
「少なくとも海を泳いで渡る羊の群れなど聞いたことがありません」
「……群れ?」

言われて見渡せば、郁未たちの周囲には幾つもの小さな白い足場が浮いている。
小さく口笛を吹くと、そのすべてが計ったように口を開いて、べぇーぇ、と鳴いた。

「面白ーい」
「他の方々はいらっしゃらないようですね」
「無視された……」

冷ややかな視線で睨む葉子の言う通り、塔の外にいたはずの面々は見当たらない。
三百六十度の水平線には、ただ郁未と葉子と、白い羊たちだけが浮かんでいる。
空に太陽はない。
陽が沈んだ直後だろうか、或いは夜が明ける直前だろうか。
濃紺の天頂から群青色の水平線へと至るグラデーションが、夜空の静謐と
日輪の温もりとを併せ持った色合いで空一面を彩っていた。

405終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:24:27 ID:QqjtjFrU0
「……」
「……」

自然、言葉が失われる。
吐息が夜を運ぶような、或いは瞬きひとつが曙光を導くような、そんな錯覚。
遥か水平線の彼方と、波間に浮かぶ自分との距離が零になる。
圧倒的な断絶と不思議な一体感とがない交ぜになったような奇妙な陶酔感に揺蕩えば、
次第に思考と感情がくるくると渦を巻いて回りだす。
湧き出すのは、すぐ傍にいるはずの誰かが、次の瞬間にはもうそこにいないような不安。
叫びだしそうになる衝動を堪えて伸ばした手が、小さな温もりに触れた。
目をやるまでもない。
同じように伸ばされた、それは手だ。
縋るように、縋らせるように、握った手に、そっと力を込める。
ほんの少し、滲んだ涙が乾くほどの短い間、空を見上げながらそうして手を繋いでいた。

「あのー……もしもし」

声が聞こえても、そうしていた。

「そろそろ、いいかな……?」

気配が真後ろに迫っても、そうしていた。

「……もしかしてお邪魔かな、わたし」
「邪魔だねえ」
「邪魔ですね」

即答しながら、ずっと空を見上げていた。

406終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:24:51 ID:QqjtjFrU0
「うわ冷たっ! っていうかリアクションしてよ! 気付いてるなら!」
「……」
「……」
「お願いだからこっち向いてよお……」

涙声に、渋々ながら振り返る。
険しい表情の郁未の眼前、ほんの数十センチの距離を開けて、白い布地が翻っていた。
簡素なワンピース様に裁断された布地を纏うのは、幼い少女である。
まだ就学年齢にも達していないだろう少女が、ニコニコと笑いながら、郁未の前に、浮かんでいた。

「ばあ!」
「……何か用? つーか、誰」
「……」
「……」

心底から面倒くさそうな問いかけには、小さな舌打ちすら混ざっていた。

「あの、わたし浮いてるんだけど……」
「できるヤツもいるよそれくらい。探せば。たぶん。……それで用、済んだ?」
「ま、まだ本題にも入れてないかなあ」

目尻にほんの少し光るものが滲ませながら、それでも少女は笑みを崩さない。

「じゃ、手短にお願い」
「やりづらいなあ、もう! ……気を取り直して、こほん」

ふわふわと浮いた少女が、小さく咳払いをして一瞬神妙な表情を作ると、

「はぁーい、麦畑のうさぎさんはただいま別件で対応中でーす!
 代わりにえいえんの空のみずかちゃんがお相手いたしまーす!」

弾けるようなとびきりの笑顔で、言った。

407終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:25:15 ID:QqjtjFrU0
「ウザっ」

正直に、返した。

「……」
「……」
「……郁未さん、言葉が足りないと人を傷つけることもありますよ」

痛々しい沈黙を破ったのは、葉子のたしなめるような声だった。
笑顔のまま固まっていた少女が、我が意を得たりとばかりに郁未に食って掛かる。

「そうだよ、傷ついたよっ」
「そんなときはきちんとこう言うものです。……あなたはテンションが妙に高くて鬱陶しい、
 相手にするのも面倒ですので私たちの目の届かないところに消えてくださいお願いします、と」
「余計に傷つくよっ!」

少女の目尻に溜まる涙の粒がますます大きくなる。
もう少しで零れ落ちそうだった。

「で? その……何だっけ、みずかちゃんとやらがどうお相手してくれるんだって?」

軽い溜息をついて、郁未が話を進める。
どの道、いつまでも海の真ん中でメルヘンな羊に乗っているわけにもいかなかった。

「もう、話を聞きたいのか聞きたくないのか、どっちなんだよっ」
「そういうのいいから」
「むー……」

しばらく不満げな顔をしていた少女だったが、それでも話の続きを始める。

「久々登場、みずかちゃんの解説コーナーでーす」

妙にテンションが低い。
話の腰を折られたのがそんなに気に入らないか、と茶々を入れそうになったが、
背後から聞こえた小さな咳払いに郁未は慌てて口を閉ざす。
葉子に先手を打たれていた。
仕方なく、身振りで先を促す。

408終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:25:42 ID:QqjtjFrU0
「何が訊きたいですかー。世界の始まり? それとも終わり?
 黒幕、目的、歴史の裏側、何でも教えてあげちゃうよ」

どうだ、と言わんばかりに胸を張る少女を前に、郁未は肩越しに振り返って葉子と眼を見交わす。
肩をすくめる葉子に視線だけで頷いて、向き直る。

「あ、あれ?」
「……」
「……」
「リアクション薄いなあ。もっと驚こうよ!
 ホントに何でも答えちゃうよ? 出血大サービスだよ?
 お隣の国の軍事機密でも、ジョンベネちゃん事件の真相でも、何でもだよ?」
「いや、そういうの興味ないんで」

つーかジョンベネちゃんって誰だそれ、と口の中で呟いた郁未が、何かに気付いたように
ぽん、と手を打つ。

「あ、そうだ。一つだけあった」
「うんうん!」

ようやくか、と期待に満ちた瞳を向ける少女。

「出口どこ」
「あのさあ!」

宙に浮いたまま器用に転ぶ真似をしてみせた少女が、郁未に詰め寄る。

「何怒ってんの」
「ふつう怒るでしょ! マジメにやってよ!」
「真面目に訊いたんだけどなあ……」

溜息をついた郁未が、持った薙刀を手の中でくるりと回す。
長柄でとんとんと肩を叩いて、ゆっくりと口を開いた。

409終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:26:34 ID:QqjtjFrU0
「じゃ、ついでにもう一つ」
「……今度はちゃんと、ね」

すっかりへそを曲げた少女が半眼で睨むのに苦笑しながら、郁未が問いを口にする。

「―――あいつは、何処にいる?」
「……お」

僅かな間、虚を突かれたように少女が沈黙する。
凪いだ海原にちゃぷちゃぷと響く波の音が大きくなったように感じられた。
ややあって。

「いい質問だねえ」

少女が、笑う。

「そういうのを待ってたんだよ。けど……」

にたりと、能面を貼り付けたような笑み。
友好という観念からは程遠い、それは笑い方だった。

「それはまあ、タダでは教えてあげられないかなあ」
「……なら、力づくってことで」

即答した郁未の手に握られた薙刀には既に、不可視の力が乗っている。
無数の激戦を経て、数多の屍を造り出しながら刃毀れ一つさせない、
それは刃に無尽蔵の切れ味を与える恐るべき異能の力。
ぎらりと煌く刃を前に、ふわふわと浮いた少女が笑みを貼り付けたまま、口を開く。

「へえ。やれるもんならやってみ、」

軽口が、途切れた。
躊躇なく振るわれた刃が、にたにたと笑う少女の顔面を、横薙ぎに一閃していた。
ぱかり、と。
耳まで裂けた少女の口が、上下に分かれて、そのまま、

「―――」

霞のように、全身が消えた。
表情に緊張を走らせた郁未が、周囲に目線を配ったのは一瞬。

「……あのさあ、女の子の顔、狙う? 普通」

声は後ろから。
身を捻りざま、袈裟懸けに切り下ろす。
刃に遅れて振り返った郁未が視認した少女の姿は、しかし胴の辺りが真っ二つに裂けている。
鹿沼葉子の鉈が、郁未に先んじて少女に叩きつけられていた。
ひゅう、と口笛を吹いた郁未の眼前、しかし少女が再び、消える。

410終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:27:05 ID:QqjtjFrU0
「無駄だよ」

右手に現れた少女の肩口を、郁未の刃が突く。

「わたしはここにいないもの」

左で笑う少女の喉を、葉子の鉈が描き切った。

「ううん、わたしなんて、どこにもいない」

頭上に浮かぶ少女の足を、二人の刃が一本づつ断ち割って、

「いつか誰かがみた夢。ずっと昔に、とても大きな可能性だった誰かがみた夢」

しかし水面の下から響く少女の声は、止まらない。
ころころと笑う少女は無数の刃を浴びながら、しかし次に現れるときには意に介した様子もなく
平然とそこに浮かんでいる。

「幻覚の類……?」
「手応えは、ありますが……」

渋面の郁未が背を合わせた葉子に問えば、返答にも幾許かの困惑が混ざっている。

「あはは、違う、違う」

郁未の眼前に現れて、頭頂部から断ち割られておきながら消失し、次の瞬間には
再び寸分違わぬその場に姿をみせた少女が、手を振って郁未たちの問答を否定する。

411終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:27:39 ID:QqjtjFrU0
「わたしはここにいるよ。いるけど、いないだけ」
「謎掛けのつもり?」
「違うよ。単なる事実」

眉を寄せて口を尖らせた少女が、郁未の前でくるりと回る。
背を見せたその一瞬に薙刀が奔り小さな身体を両断しても、ふわりと消えてまた回る。

「わたしは『ここ』で」

両手を広げ。

「ここは、どこにもない」

濃紺の空を見上げて。

「だからわたしはどこにもいない。いないけど、あなたたちのいる『ここ』は今、
 あなたたちを包んで存在してるんだ。だからわたしも、今ここにいる」

謡うように口にする、少女の言葉を、

「……分かんないよ」

郁未は突き出す刃をもって拒絶する。

「もう、しょうがないなあ」

白いワンピースごと腹を割かれ、血も流さないまま桃色の肉を覗かせた少女が、消えて、戻る。

「ここは、えいえん。そう呼ばれる場所。そういうあり方のできる世界」

412終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:28:11 ID:QqjtjFrU0
薙がれた刃をふわりと躱して、宙に浮いたままゆっくりと下がっていく。
追いかけようと足を踏み出した郁未が、しかしその先に浮かぶ羊がいないことに気付いてたたらを踏んだ。

「とこしえに醒めないゆめ。どこにも続かない空。たどり着ける島のない……海」

刃の届かぬ中空で、群青色の空と水平線とを背景に、少女が両手を広げる。

「わたしは『ここ』。この空と海のようなもの。切っても突いても、死んだりしないよ。
 だって、最初から生きてなんていないんだから」

小さな手を、白い服に覆われた胸に当てる。

「わたしがひとのかたちをしているのは、誰かがそういう夢をみたから。
 それがとても深い夢だったから、わたしはまだ、こういう姿でここにある」

眼を閉じて語る、少女の表情には静謐と空虚とが混在している。

「これでもわたしは、えいえんにあり続けているんだよ」

声は、次第に囁くようなものになっていく。

「ここは―――えいえん。変わらない場所。変わらずにいられる場所。
 だからここに、出口はない」

代わりにちゃぷちゃぷと、波の音が少女の声を掻き消すように響き出した。

「もう、あなたたちは出られない。ずっと、ずぅっと、ここにいるんだ。
 変わらないまま。ただ海に揺蕩ったり、空を飛んだり、草原で風を感じたりしながら。
 ……でもね」

波の音が、段々と大きくなっていく。

「でも、ここに来られるのは、とても幸福なことなんだよ」

413終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:29:00 ID:QqjtjFrU0
波濤の砕ける音は、雑踏のざわめきに似ている。

「耐えられない悲しみに引き裂かれたり、平凡な毎日に腐っていく自分が赦せなかったり。
 そういうものは、いつだってここを夢想するんだから」

或いはそれは、消し忘れたテレビから聞こえてくる、不快なノイズのようでもあった。

「ここは、そういうものを認めてあげられる場所だから。
 そういうあり方を赦してあげられる場所だから。
 そういうものたちが望んで、望んで、ようやくたどり着ける、終わりの場所だから」

きんきんと、ざわざわと、がやがやと、頭の中に響く音が、大きくて。

「だからあなたたちは―――」

だから天沢郁未は、細く、細く息を吐いた。

「―――ああ」

ゆっくりと、眼を開ける。

「耐えられない悲しみや、許容できない自分や、求めても得られない苦しみや。
 ああ、ああ、」

重く、低く、薄く、昏く、呟く。

「そういうものに追い立てられて、終に至る、安息の地か。
 成る程、成る程、」

天を仰いで。

「―――成る程、私には、必要ないな」

肩越しに金色の髪の相方を見やった。

「……私たちには」

期待通りの言葉。
いつも通りの仏頂面。
知らず、笑みが漏れた。

「そうだね。私たちには、必要ない。そんなものは、もう」

414終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:29:32 ID:QqjtjFrU0
手を伸ばすことはない。
伸ばしても、重ねられる白い指はない。
伸ばせば触れると、わかっている。
その温もりを、知っている。
だから真っ直ぐに瞳を覗くことも、なかった。
深い、緑がかったその水面に映っているのは、天沢郁未だ。
そうして郁未の瞳には、鹿沼葉子が映っている。
それで、充分だった。

「夜は明ける」

あの赤い月の夜のように。

「私たちは、そう望む」

阻むすべてを、切り払い。

「そうしてそれは、叶うんだ」

永遠をすら、越えて。
重なる声が、谺する。
それは、世界に命じる声だ。
傲慢で貪欲で、身勝手な享楽に満ちた、変革の大号令だ。

そうあらねばならぬという確信と、
そうあらぬすべてを拒む断絶と、
そうあれかしと踏み出した靴音の、

それは、世界を革命する曙光だ。



***

415終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:29:51 ID:QqjtjFrU0
***




水平線の向こうから、黄金の光が、射した。
永遠の空に、陽が、昇る。




***

416終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:30:12 ID:QqjtjFrU0
***



「そんな、どうして……!?」

褪せていく群青色の空を見上げて、少女が悲鳴に近い叫びを上げる。

「あり得ない……! えいえんを、拒むの……!?」

黄金色の光が、少女を包んでいく。

「安らぎを、平穏を、変わらずにいられる幸福を、どうして望まないの……!?」

耐えかねて手を翳した、少女の言葉に郁未が応える。

「悪いね」

手にした刃の石突を、とん、と白い羊の背に委ね、郁未が穏やかに笑う。
べぇーぇ、と羊が鳴いた。
波の音は、もう聞こえない。

「私ら、その手の勧誘は一通り断ってきたんだ。大丈夫、間に合ってます……ってね」

誘惑も。過去も。快楽も。苦痛も。愉悦も。恐怖も。
あの暗い、剥き出しのコンクリートとリノリウムだけがどこまでも続く施設の中で。

「今はもう、私は私を悔やまない。きっと、ずっと」

横目で見た葉子の相変わらずの仏頂面の、ほんの僅かに緩んだ口元に、郁未はひとつ頷いて、
笑みを深める。

417終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:30:41 ID:QqjtjFrU0
「……そう」

そんな郁未たちを見返した、少女の表情はどこか無機質に感じられた。

「やっぱりね」

言って、眼を逸らす。
翳した手の隙間から漏れる陽光が、大きな黒い瞳にきらきらと反射して、
まるで涙に濡れているように、見えた。

「たくさんの人がここを求めているの。見上げた空や、冷たい壁や、ちかちか光るモニタの中や、
 そういうものが寂しくて、辛くて、煩わしくて、夢をみるの。
 たくさんの人が、自分を縛る何もかもを投げ出してしまえるような、そんな素敵な夢をみて、
 だけどほとんどは夢をみることにも疲れてしまって、だからここまでたどり着ける人はほんの少し。
 ほんの少しは、それでも、ここまでやって来られるんだよ」

淡々と呟く少女の声を聞きながら、郁未はゆらりと、視界が揺らぐのを感じていた。
否、揺らいでいるのは視界だけではない。
足場の羊も、寄せては返す波も、頬に感じる大気の流れも。
何もかもが、ゆらゆらと揺れている。
見渡せば、揺れる世界の中、少女と鹿沼葉子だけが背景から切り取られたように
しっかりとそこに立っている。
黄金の穂を揺らす麦畑のときと同じだった。
ここから離れる瞬間が近いのだ、と感じる。

「それなのに、せっかくたどり着いたほんの少しの人たちも、結局ここには留まらない。
 みんな、どこかへ帰っていくんだ。棄てたはずの場所へ。断ち切ったはずの何かに縋って。
 わたしはそれを、ずっと見送るだけなんだ。ずっと、ずっと、見送るだけなんだ。
 それが、えいえんということだから」

418終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:31:03 ID:QqjtjFrU0
世界は既に、空と海とが混ざり合って、その境目をなくしている。
子供が捏ねた粘土細工のような夜明けに浮かんで、少女は郁未たちを見下ろしていた。

「ねえ」

問いかけは、短く。

「……『そっち側』は、そんなに素敵?」

視線と言葉は、率直で。
だから郁未は一瞬だけ、葉子と顔を見合わせて。
それから、少女のほうを向いて、言う。

「―――来てみりゃ、わかるよ」

言葉に添えられたのが、笑顔だったかは分からない。
刹那、幾多の、本当に幾多の光景が脳裏を過ぎり、それは幸福だけでも、不幸だけでもなく、
天沢郁未の見てきた世界はただの一色ではなかったと、それだけは間違いなく、
だから笑顔を浮かべられたかどうか自信はなくて、

「そう」

そんな風に素っ気なく頷いた少女の、しかし浮かべたやわらかい笑みを見たのを最後に、
天沢郁未の意識は、ふつりと途切れた。



******

419終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:31:27 ID:QqjtjFrU0
 
 
ちゃぷちゃぷと、小さな音がする。
羊たちの群れが、波を掻き分ける音だ。
穏やかな曙光を浴びて黄金に輝く波間に、しかし平穏を蹴倒すような声が響く。

「―――ちょっと、それってどういうこと!?」

みずかと名乗った少女の声だった。
中空に浮かぶ少女は、怒声に近い声を上げて誰かに語りかけている。

「誰かが、解放したって……誰が!?」

しかし見渡す限りの海の只中、語りかける相手の姿はない。
独り言じみた様子もなく、少女はまるで見えない誰かがそこにいるかのように声を上げていた。

「来栖川……? あれは死んだ、って……。うん、だけど……それじゃ、バクダンは?
 そう、……わかった。うん、……うん。だけどさ……、はあ……だから、ごめんって。
 そりゃ、まかせっきりにしたわたしも悪いけどさあ……」

盛大な嘆息。

「なんで負けるかなあ、千鶴さん……そんなはず、ないんだけどなあ……。
 うん……だけど、どうするの? もう次はないんでしょ? 
 わたしはいいんだよ。そういうものだから。だけど、あなたは……、」

ほんの僅かの間。

「……そう。うん、わかった。なら、いいよ。もう言わない」

そう言った少女の声は、微かに沈んだ響きを帯びている。
それからまた、暫くの沈黙を置いて、少女がふと思い出したように、呟く。

「……あ、そうそう」

何気なく、日常に愛を囁くように。

「来てみれば、わかる……ってさ」

それだけを口にして、少女がふわりと、宙に舞う。
どうやら、話を終えたようだった。

「ふう」

風が、ふわりと少女の白い服を揺らす。
遥か遠い曙光が、夜の凪を振り払うように、波頭を震わせていた。

「……本当、みんな勝手だよね」

溜息と共に紡いだ声は、見えない誰かにも届かない。
肩をすくめて見つめた陽の眩しさに、少女が微睡むように、眼を閉じた。





【一層 開放】

420終焉憧憬(1):2009/10/30(金) 15:31:59 ID:QqjtjFrU0
 
【時間:すでに終わっている】
【場所:???】

天沢郁未
 【所持品:薙刀】
 【状態:重傷・不可視の力】

鹿沼葉子
 【所持品:鉈】
 【状態:健康・光学戰試挑躰・不可視の力】


【場所:えいえんの世界】

みずかと呼ばれていた少女
 【状態:???】


→805 1100 ルートD-5

422少女達の休日:2009/11/04(水) 21:31:12 ID:y6TU6bzk0
「よー、首尾はどうだったかい」

 ニヤニヤしながら尋ねる朝霧麻亜子の言葉を「別に」とそっけなく返して川澄舞は歩いてゆく。
 風呂上りの彼女は髪を下ろしていたせいか雰囲気を異にしていて、
 熱を逃がすためなのだろう、少し開けられた胸元とうなじが妙に艶かしく感じられた。
 風呂場で国崎往人と何があったのかは想像するのも野暮というものなので、
 ルーシー・マリア・ミソラはそれ以上考えるのをやめにした。

「参ったね、やっぱ無理矢理だったかな」

 頭を掻き、多少力なく笑う麻亜子には、流石にお節介過ぎただろうかという不安が滲んでいた。
 やることなすこと無茶苦茶な癖に、こういう繊細な部分も持ち合わせているのが彼女。
 或いはその繊細さを隠すために破天荒を装っていたのかもしれないとも思う。

 よく分からない。少なくとも自分には分かるまいとルーシーは半ば諦めていた。
 まだ『みんな』になりきれていない自分が、人の心を推し量れるはずもない。
 だから分かったようなことを口にすることは出来ないし、早すぎる。

「かもしれない。お前は無茶苦茶だ」
「うぐ」
「それに付き合う私も無茶苦茶だが」

 ニヤと笑ってみせると、呆気に取られた顔になったのも一瞬、
 へへへと誤魔化すように笑って麻亜子は「だよねー」と意味もなく頷いていた。

 こうすればいい。自分を晒せばいい。
 分かるためには、まず自分からカードを見せる必要があった。
 出会ったときから実践していたであろう、春原陽平のように。

「お風呂と聞いてやってきました」

423少女達の休日:2009/11/04(水) 21:31:33 ID:y6TU6bzk0
 そうして二人で笑っていると、いきなり目の前に現れた伊吹風子がこちらを見上げていた。
 脇にはタオルやら何やらを抱えている。シャンプーハットが見えるが、特に気にしないことにする。

「残念だがチビ助よ、先客がいるのだ。そして次はあちきらよ」
「そうなんですか? さっき川澄さんが出て行くのを見ましたけど。あとチビ助言わないでください」
「ぬふふ、一緒に入っていたのだよ」
「誰ですか? 少なくともまーりゃんさんではなさそうですが。ばっちいですし」

 さらりと女性に対してひどいことを言っている風子だが、特に麻亜子に対しては遠慮のない彼女なので何も言わないことにする。
 麻亜子自身も気にしてはいないようだった。本当によく分からない、とルーシーは内心で溜息をつく。

「聞いて驚くなかれ、実はだな」
「はい」
「ゆ・き・と・ち・ん」
「ええっ!?」
「まさかの混浴である」
「ままま待ってください! す、するとあれですか!?」
「いいや。そんなもんじゃないのさ。こう、もみもみしたりなでなでしたり果てにはフュージョンしてヘブン状態!」
「え、えっちです!」
「いやあ、漏れ聞こえる愛の営みを耳にするのは辛かったでごんす。チビ助が聞いたら蒸気噴き出して失神してたね」
「そんなに激しかったんですかっ! えろえろです! ギガ最悪ですっ!」
「思い出すだけで赤面しちゃうね。思わず風呂の前に張り紙張って、『愛の巣』って書き込んじゃおうかと思ったよあっはっは」
「あ、愛の巣ですかっ! 幸せ家族計画ですかっ! もうお前ら幸せになっちまえバーローですか!!!」
「そうそう。しかも聞く限り往人ちんのは超度級グランギニョルマグナムっぽかっ」
「おい」

 あることないこと吹き込む麻亜子の後ろで、この世をも震撼させるようなドスの利いた声が発した。
 多分、オーラというものがあるのだとしたら、間違いなく怒りで真っ赤に染め上がったオーラが見えることは間違いが無かった。
 にこりともしない往人が麻亜子の頭をがしっ、と掴む。「あ、えっちな国崎さんです」と言った風子の言葉が火に油を注ぐ。

424少女達の休日:2009/11/04(水) 21:31:53 ID:y6TU6bzk0
「あ、アノデスネ国崎往人さん? わたしなにもわるいことしてないアルよ?」
「なるほど、確かに俺と舞が一緒に風呂に入っていたのは事実だ」
「ですよねー!」
「だがな、お前の言うようなことは何一つやってない」
「え? そうなんですか?」
「こいつの言う事は五割が嘘だ」
「あははー酷いなぁ往人ちん、どーせまいまいにやらしーイタズラあいだだだだだだだだっ!」

 掴んだ頭に渾身の力を込めて握り潰そうとする往人に悲鳴を上げる麻亜子。
 何やら体も浮いているような気がする。自業自得だとはいえ、痛そうだなという感想と哀れみの感情が広がってゆく。
 無論、何もするつもりはなかった。

「ギブギブギブ! あたしプロレス技にゃー慣れてないのさー!」
「うるさい黙れ。そして死ね」
「あ゛ーーーーーーーーーっ!」

 タップも空しく痛めつけられる麻亜子。殆ど涙目になっている彼女を見ながら、やっぱりよく分からないとルーシーは思うのだった。
 結局、麻亜子が開放されたのはたっぷり数分が経過した後だった。

     *     *     *

 やることがなくなってしまうと、いつもひとり取り残されたような気分になる。
 教卓の近くに腰掛けて所在無く手遊びをして、どこともなく視線を彷徨わせているのは古河渚だった。
 それぞれ出かけていった皆に混じることもなく、渚はじっとしていた。

 一人でいたかったわけではない。ただ、自由にしていいと言われるとどうしていいのか分からなくなるのが渚だった。
 眠るという選択肢はない。どういうわけか目が冴えて、少し横になってみても眠気はない。
 この状況で遊ぶ気にもなれず、仕方なくぼーっとしているしかなかったのが今の渚の状況だ。

425少女達の休日:2009/11/04(水) 21:32:26 ID:y6TU6bzk0
 正確に言えば、渚一人ではない。壁に背中を預けじっと体育座りをしているほしのゆめみもいる。
 彼女の場合はただ単にロボットだから何もしなくてもいいという結論に落ち着き、次の指令があるまで待機しているというだけの話。
 何をしていいのか分からない自分とは違う。話しかけてみようかとも思ったが、どのように話題を切り出していいのか分からず、
 まごまごしている間に目を閉じてピクリとも動かなくなった。

 稼動待ち、パソコンで言えばスタンバイモードに入ったらしい彼女を起こす気は持てず、今まで通りぼーっとしているしかなかった。
 風呂にでも入りに行こうかとも考えた渚だったが、伊吹風子がタオルなどを持って出てゆく姿を目撃しているだけにその選択肢もなくなる。
 一緒に入ろうか、と言っておけば良かったと溜息をつく渚だったが、今さら追いかけてももう上がりかけている頃かもしれないと思ったので、
 結局そのままでいることに。思いつく限りのことをするには全て中途半端に過ぎる時間帯であり、
 しかもその原因は自分にあるとなれば、自らの不明を恥じるしかない。

 いつもの日常に戻ってしまえばこんなものなのだろうと渚は失笑した。
 やれと言われればそれなりのことは出来るけれども、こうして時間を与えられ、
 自由に使っていいと言われてしまうとどうすればいいのか分からず、ただただ途方に暮れているしかない。

 それではいけないとは思うのだが、やれることはといえばお喋りするくらいしかないし、
 そんなことをしていていいのかと思ってしまい、立ちすくんだ挙句に無為の時間を過ごす羽目になる。
 焦りすぎているのだろうか、と渚は思う。誰かの役に立つことをしなければという思いに囚われすぎていて、
 肩肘を張りすぎているだけなのではないのだろうか。

 ここに至るまで自分は誰かに助けてもらっているばかりで、自分の力だけで何かの役に立ったことはない。
 力不足、若造の粋がりといってしまえばそうなのだろうが、それだけで納得できるはずもない。
 さりとてこの有り余った力をどこに……と堂々巡りを繰り返していることに気付き、だから気張りすぎているのかと思ってしまう。
 一人でいるのがいけないのだろう。どうにもこうにも考えすぎてしまっているという自覚はあり、
 少し頭を冷やしてくるべきかと考えた渚は顔を洗ってくることにした。

 腰を上げて伸びをすると、それまで座りっぱなしだった体がポキポキと小気味のいい音を立て、僅かに体が軽くなったような気になる。
 それが気持ちよく、更にうんと体を伸ばす。筋肉が解れる心地良さに気を抜いた瞬間、バランスを崩してしまい床で滑ってしまう。
 派手に尻餅をついてしまい、いたた、と情けない気分になったところで、渚は見られていることに気付いた。

426少女達の休日:2009/11/04(水) 21:32:47 ID:y6TU6bzk0
「あ……」

 どうやら風呂から上がったと思しき川澄舞がしっかりと渚の無様を目撃していたようだった。
 思わぬ光景だったのだろう、目をしばたかせていた舞に、渚はいたたまれなくなり、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
 同時に何をやっているのだろうという冷めた感想が広がり、誤魔化し笑いを浮かべる気にもならず、ただ溜息だけを漏らした。

「大丈夫?」

 だが舞はそんなことを気にすることもなく、小さく笑って手を差し出してくれた。
 何の含みもない、たおやかで細い指先。髪を下ろし、ほんのりと染まった肌色と合わせて、
 ドキリとするくらいの美しさに僅かに戸惑ったものの、渚は頷いて舞の手を取った。
 ほんの少しだけ濡れた感触が心地良い。立ち上がったと同時に漂ってくる石鹸の香りは、
 飾らない舞の質実さを如実に表していて彼女らしいな、と渚は何の抵抗もなくそう思うことが出来た。

「どうされたんですか?」

 何か用事があるのだろうかと思って尋ねてみたが、舞はむ、と眉をひそめる。
 気分を害するようなことを言ってしまったのだろうかと思い、どうしようと思ったが、それより先に舞が口を開く。

「渚が皆で過ごそうって言ってたのに……」
「……あ」

 自分で言ったはずの言葉をすっかり忘れていた。荷物整理の作業に夢中になる余りに頭の外へと追いやっていたのだろうか。
 それとも、余裕をなくした頭がこんなことも忘れさせてしまっていたのか。
 どちらにしても自分の失態であることには違いなく、「ご、ごめんなさい、すっかり……」と精一杯の謝罪の気持ちを込めて頭を下げる。

「別にいいけど……私も、自分のこと優先してたし」
「いえ、約束を忘れていたわたしが……」
「今までゴタゴタしてたし、確認すればよかっただけ。渚に非はない」
「いえいえいえ、それでもやっぱりわたしが」
「何やってるのよ」

427少女達の休日:2009/11/04(水) 21:33:04 ID:y6TU6bzk0
 謝罪合戦になりかけていたところに呆れている声が割り込んできた。藤林杏のものだった。

「突っ立ってないで、座りなさいよ。あたしはよく知らないけどさ」

 用事があると言って藤田浩之、姫百合瑠璃と共に出て行った杏の顔はいつもと変わりない明るいものだった。
 どこかさっぱりした様子に、問題は解決したのだろうかと思ったが、聞くのも野暮だと思い、大人しく言う事に従う。
 ゆめみの動かない姿を見た杏は「寝るんだ」と物珍しそうに言って、しかしすぐに意識の対象をこちら側に戻す。

「他のみんなは?」
「どこかに出かけちゃったみたいです」
「伊吹とルーシー、まーりゃんと往人ならお風呂の近くで見た」
「で、あなたは入ってきたと。……ていうか、お風呂あるんだ」

 風呂上りの舞をしげしげと眺めながら、杏は羨ましそうに息を吐き出す。
 あたし、髪がぼさぼさでねと苦笑する杏の髪は、確かに以前とは比べ物にならないほどみすぼらしい有様だった。
 髪が長ければ長いほど手入れも大変だと聞くから、これだけ風呂に入っていないとなるとダメージも深刻なのだろう。
 だから舞はそちらを優先したのかもしれないという納得して、渚も自分の髪を触ってみた。

 手触りが悪い。土埃と汗で上手く梳けない。比較的短髪だから気付きもしなかったが、自分も中々ひどいものだった。
 そう認識するとこんな格好でいることが恥ずかしく思えてくるのだから、自分も女かと思う一方、鈍いのだなと思いもする。

「後であたし達も入ろっか」
「そうですね。って言っても、順番待ちだと思いますけど」

 でしょうね、と苦笑する杏を見ていると、もう何も聞く必要はないなと自然に思うことが出来た。
 今の皆はきっと、いい方向に向かっているのだろう。
 自分はその中に混ざれるのだろうか……安心すると同時にそんな不安が浮かんでくる。

428少女達の休日:2009/11/04(水) 21:33:20 ID:y6TU6bzk0
「そりゃここにいる大半が女の子だもんねー。今まではさ、何かやることがあったりそんなこと考えてる暇がなかったりしたけど、
 こうしてのんびりする時間を貰ったら、身なりも気になってくるか。……考えてみたらさ、こういう時間、なかったし」

 足を伸ばし、天井を見つめながら話す杏。その声色は与えられた時間を満喫しているというより、
 時間を潰すだけの余裕を与えられたことに対する戸惑いを含んでいるように思えた。

「実はね、戻ってきたのも、何しよっかなって迷っちゃって。ほら、これまでって誰かを探したり、生き残るために何かを探すとか、
 そういうのばっかりだったじゃない? ……ううん、前からそうだったのかも。
 学校に行くのも、勉強するのもそうする必要があるからってだけで、本当に考えてやったことじゃない。
 もっと自由な時間が欲しいとか思ってたけど、いざこうしてみると分かんなくなっちゃう」

 言葉を切った杏に、渚は何も言うことが出来なかった。同じ気持ちを、渚も抱いていたからだった。
 人は本当の意味で時間を与えられると何をしていいのかも分からず、途方に暮れることしか出来ない。
 だから人や物に目的を見出し、その場その場で理由を見つけてはやるべきことを為してゆくだけなのだろう。
 人はひとりでは生きられない。この言葉の意味は、一人では何も見つけられないという、それだけの意味なのかもしれない。
 そう考えると一人で悩んでいたことがバカらしく思えてきて、抱えていた重石がふっと軽くなったように感じられた。

「みんなそうだと思う」

 杏の言葉を受け取って、舞が続けた。

「理由が欲しいから、人は一緒にいようとする。でもそれでいいと思う。少なくとも、私はそう考えてる」
「……そうよね。まぁその、なんだ。あたしは暇を持て余してたから、お喋りしたかったのよ、うん」

 上手く説明できていないようだったが、なんとなく杏の言いたいことは渚にも伝わった。
 とりあえず何かしていたい。それだけなのだろう。
 なら、と渚は遠慮なく乗ることにした。意味のあるなしはもうどうでもよかった。暇なままでいたくない、理由はそれひとつで十分だった。

「じゃあ、しりとりでもしましょうか」
「……しりとり?」

429少女達の休日:2009/11/04(水) 21:33:35 ID:y6TU6bzk0
 怪訝な顔をする杏。話題として一番初めに思いついたのがこれだったので言ってみたが、まずかったのだろうか。
 さりとて代わりの話題も浮かばず、どうしようと思ったが「まあいいか」と納得した杏も話題が思いつかないという顔であった。
 何でもいいからやりたい気分なのだろうと解釈して、渚は先陣を切ることにする。

「それじゃ、しりとり、からで。りんご」
「ゴリラさん」
「……」
「……」
「……あ」

 『ん』がついたことに気付き、しょぼんとなった舞をフォローして、「そ、それじゃもう一度!」と明るい声を出して杏に続きを促す。

「あ、ああ。えーと……ゴボウ」
「ウリ」
「リスさん」
「……」
「……」
「……あ」

 再び肩を落とす舞。

 渚は気付いた。

 しりとりはやめておくべきだったのだ、と。

430少女達の休日:2009/11/04(水) 21:33:56 ID:y6TU6bzk0
【時間:3日目午前04時50分ごろ】
【場所:D−6 鎌石小中学校】

川澄舞
【状態:往人に付き従って行動。強く生きていたいと考えている。両手に多少怪我(治療済み。支障は全くない)】
【その他:往人に対して強い親近感を抱いている。剣道着を着ている】

朝霧麻亜子
【状態:鎖骨にひびが入っている可能性あり。そんなことよりおふろはいりたい】
【その他:体操服(上下のジャージ)を着ている】

国崎往人
【所持品:スペツナズナイフの柄】
【状況:強く生きることを決意。人形劇で舞を笑わせてあげたいと考えている】
【その他:左腕に文字を刻んだ。舞に対して親近感を抱いている】

古河渚
【状態:健康】
【目的:人と距離を取らず付き合っていく。最優先目標は宗一を手伝う事】

ルーシー・マリア・ミソラ
【状態:生き残ることを決意。髪飾りに美凪の制服の十字架をつけている】
【目的:まーりゃんはよく分からん】 

ほしのゆめみ
【状態:スリープモード。左腕が動くようになった。運動能力向上。パートナーの高槻に従って行動】

藤林杏
【状態:軽症(ただし激しく運動すると傷口が開く可能性がある)。簡単には死ねないな】

→B-10

431報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:50:05 ID:x/wIwU5o0
 報われぬ愛国者、フリッツ=ハーバーに捧ぐ。

 この一文から始まったテキストを食い入るように見つめている、自分を含め五人の男女がいる。
 始まりは高槻のこの一言だった。

「まずここにあるもんの確認からいこうぜ」

 高槻が持っていたのは小さなUSBメモリ。それは以前高槻が持っていた……正確には立田七海という少女の持ち物であったらしいのだが、
 その中には支給品の詳細が記されているのだという。
 中には用途不明のものもいくつかあったので、これからの戦いに備えて使い方を把握しておきたいものもあり、まずはそちらを確認することになった。

 会議室と称した職員室のテーブルには今のところ三台のノートパソコンがある。
 幸いなことに三台全てが使用可能であり、OSも同じウィンドウズ。
 中身を見てみたが、一台を除いてはインストールしたての新品同然のパソコンであった。
 もっともメモ帳として使えるから別に構わないのだが……問題は残す一台の方だった。

 何の意図があってか、そのPCには暗号解読用のソフトがインストールされていた。
 それもその手のプロが使うような高性能な代物であり、エージェントであるリサ=ヴィクセンは何らかの意図を感じずにいられなかったようだった。
 無論同業者である那須宗一にとっても暗号解読ソフトがあるのには不審の念を抱いたが、試しに起動してみても何もおかしな部分はない。
 他の構成ファイルなどを覗いてみても罠らしきものは何もなく、
 なぜこんなものが、と周囲に尋ねてみたところ、いくつか推測ではあるが答えが返ってきた。

 曰く、もうひとつのUSBメモリには以前パスワードが仕掛けられていたらしく、それを解除するために用意されたものではないかということ。
 曰く、高槻の方のUSBメモリにも暗号のかけられたファイルがあるのではないか、ということ。

 そこでまず高槻の方のUSBメモリを検閲することになった。

「そういえばもうひとつ何かあったような気がする」

 と言っていた高槻の言葉通り、もう一つファイルが見つかった。
 ただのテキストファイルだったが。
 題名は『エージェントの心得』。

432報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:50:23 ID:x/wIwU5o0
 今さらこんなものを見たところで、と宗一でさえも思ったが、中身がある以上確かめないわけにもいかず、普通に開いてみることにする。
 そして最初に戻る……というわけだ。

 報われぬ愛国者、フリッツ=ハーバーに捧ぐ。

 その冒頭から始まるテキストはエージェントの心得どころか何の意味もないテキストで、
 フリッツ・ハーバーという化学者の半生を振り返り、その締めくくりとして、
 『人の行いは何も意味を為さないのではないか』というありがたい諦めの言葉が添えられていた。

「なんだ、これ」

 と呆れた声を出したのは高槻だった。
 支給品に諦めろと言われればそうなるのも当然だな、と思いつつ宗一も軽い苛立ちを覚える。
 ここまで生き延びてきて、苦労して支給品をかき集めたと思えばいきなり出鼻をくじかれたのだ。
 一ノ瀬ことみも芳野祐介も声にこそ出さないが憤懣やるたない表情であったが、ただ一人、リサだけは違っていた。

「ねえ、何かおかしくないかしら」
「何がだよ。ただのクソつまらない文章じゃねえか。それともアナグラムでもあったか? それとも縦読みか?」

 高槻の言葉を聞いた瞬間、宗一はリサが持っている違和感の正体を察知した。
 ファイルが重たすぎる。たったこれだけのテキストを開くのにたっぷり数十秒がかかっていた。
 テキストファイルの容量自体も数メガをゆうに超えるサイズであり、とてもこれだけの内容とは考えられなかったのだ。
 ただ見た限りではただのテキストファイルであり、PCの性能も至って普通。

「となれば……」

 宗一は先程の暗号解読ソフトを起動させ、テキストファイルをそこにドラッグして持ってくる。
 と、その途端。

433報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:50:50 ID:x/wIwU5o0
「お、おおっ!?」
「ビンゴだな」

 先程とは比べ物にならない量のテキストがずらずらと並べられる。
 暗号自体はそれほど難しくもなかったようだが、隠すだけの内容があった。
 ここに本当の『エージェントの心得』とやらがあるのかもしれない。
 もっとも既にエージェントである自分達にはあまり得でもないことだろうが……
 そう思いながら、宗一は無言になった一同と一緒にテキストを読み進めることにした。

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434報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:51:03 ID:x/wIwU5o0
 私の名前は和田透と言う。
 このテキストが誰かの目に触れているのなら、それは私の最後の妨害が成功したということだろう。
 とは言っても、この程度の妨害しかできない私の不明は、いくら恥じても足りない。
 それでも私はやれるだけのことをやろうと思う。
 篁財閥で、バトル・ロワイアルと言う名の狂気のゲームに手を貸してきた私の、せめてもの贖罪として。
 近いうちにやってくるであろう、ある日本人の女の子への手助けとなることを願って。
 そして篁の手にかかって死んでいった、ロシア系アメリカ人夫妻への手向けとして……
 ここに私が知る限りの真相と、情報を提供したいと思う。
 無論、これらの情報を書き連ねていると知られれば、私はただでは済まないだろう。
 いや、彼らのやり方は私もよく知っている。
 我がクライアントは私の為した仕事について、常に厳格な評価を下し、相応の報酬を支払ってきたものだ。
 長い付き合いだ、今回の仕事について彼らがどう評価し、どのような報酬を与えるつもりなのか考えなくても分かる。
 だが私は逃げない。
 取り巻く世界がどのように変わろうと変わらない強さ。強い意志と信念の力。
 私はハーバー氏の生涯に同情したわけでも、自分を重ねていたわけでもなく、その強さにずっと惹かれていたのだろう。
 前口上はここまでにしておく。
 事の始まりはもう10数年も前、私が研究職から離れ、さる商社に務めていたころの話だ……

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435報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:51:18 ID:x/wIwU5o0
 『ハーバー・サンプル』というものについてご存知だろうか?
 我々科学者の間ではちょっとしたフォークロアだった。
 永久運動機関や常温核融合と同じ、誰もが忘れ果てた頃に、ひょっこりとその姿を垣間見せては、
 即座にその存在を否定されて消えていく、あやふやでいいかげんな噂話の一つに過ぎなかった。
 いわく、それは『ハーバーの遺産』とも称され、彼が密かに開発し、隠匿した何かで……
 空気から石油を生み出す技術であったり、錬金術を可能にする触媒だったり……
 新種の化学肥料だと言うものもいれば、超強力な毒ガスだと言うものまでいた。
 もっぱら化学系の研究者の間で囁かれる話なのだが、畑違いの私がそれを聞く立場にあったのは、専攻分野の特殊性によるものだった。
 当時、統合地球学という分野は、現在ほど確立しておらず、設備も人材も十分でない頃で……
 その名のとおり、地質学・治金学・化学・物理学を統合していたその内容上、他の学科の教授の協力を仰いだり、
 実験設備を共用するために、他分野の研究室に出入りするのは日常茶飯事だったのだ。
 その『ハーバー・サンプル』と称した寄せ木細工の小箱と共にとある『計画書』が送られてきた。
 詳しい内容は省くが、それは大規模な海洋探査プロジェクトだった。
 計画書の内容は私にとって実に魅力的であり、『ハーバー・サンプル』の魔力ともいえるものに惹かれ、私はそのプロジェクトに参加した。
 無論多少の経緯などは存在したものの、それを語るのは蛇足であろう。
 そのプロジェクトの名前が『ハーバー・サンプル』であり、海洋審査に用いられていた当時最先端の海洋掘削船の名を『メテオール号』と言う。
 世間では表沙汰にされておらず、現在は殆どの記録も抹消されている案件であるから、余程の情報通でなければこの名前は聞いたこともないだろう。
 とにかく、私はこのプロジェクトに参加し、計画を推し進める過程で、とある人達に出会ったのだ。

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436報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:51:33 ID:x/wIwU5o0
 プロジェクトの責任者に任命され、殆どの調査を実際に指揮することになっていたのは、ロシア系アメリカ人の地質学者夫妻だった。
 スタッフに対しては分け隔てなく、アメリカ人特有の陽気さで接して士気を鼓舞し、
 データ収集においては厳格なロシア人気質を発揮して、精確なデータを得るまでは決して諦めようとしなかった。
 まさに、このプロジェクトにうってつけの人材だった。
 彼らとは、月に一回程度連絡を取り合い、半年に一度は、プロジェクトの進行状況と今後の方針について協議するために、会合を持った。
 この過程で、私は彼らと、仕事だけではなく、個人的にも親しくなった。
 彼らは、かつてのソ連が生んだ奇妙な学説の一つ、石油無期限説――石油が生物の遺骸からではなく、
 地殻に含まれる深層ガスから精製されるという、当時でも異端視されていた学説だ――を研究していた、地質学者だった。
 また彼らを通じて、とある日本人夫妻とも親しくなった。
 彼らは物理学の、超ひも理論を専攻していた科学者で、私とは遠く離れた分野の研究者達だった。
 かいつまんで言えば、この世界にはもう一つの世界があり、いわゆる平行世界というものの研究をしていた。
 また夫妻の言葉によれば、もしももう一つの世界を発見し、
 行き来することができるようになれば新たな資源確保への道が開けるかもしれないという。
 SF紛いの話だと当初は思ったものだが、真摯に語っていた彼らの話を聞くうちにだんだんと私も彼らの情熱に共感するようになっていた。
 私と、ロシア系アメリカ人夫妻と、日本人夫妻。
 全く分野は違いながらも、内奥に持ちうるものが殆ど同じ種類の人間達だった。

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437報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:51:47 ID:x/wIwU5o0
 こうして、プロジェクト開始から、丁度2年が過ぎた。
 第一次探査計画(今回の調査の呼称だ。結果如何によっては第二次、第三次と続行されるはずだった)は、ほぼ終盤を迎えようとしていた。
 調査では、地下資源の探索においても、地下生命圏の解明においても目覚しい成果を挙げていた。
 ここで注釈を加えておく。
 プロジェクトの内容としては、大雑把に書き連ねて以下のようなものがあった。
 ・海洋地殻上層部の石油・天然ガス・鉱物と言った天然資源の精密な調査。環太平洋圏資源マップの完成。
 ・地殻深部に存在すると予想される、好熱・好圧性微生物にによる地下生命圏の探査。及びその生態系の解明。
 ・最深部、海底直下8000メートルを越える掘削による、マントルプレートへの到達とマントルコアの回収。
 このプロジェクトが成功すれば、人類の資源問題を殆ど解決することが出来た、と言っておこう。
 そして、我が友人達の指揮するメテオール号では、数十回に及ぶ慎重な試掘を完遂させて、
 ついにマントルプレート到達を目指す最後の掘削作業に突入していた。
 既に掘削が始まってから六ヶ月近くが経過しており、今回の探査で発見された最古の海底……
 二億八千年前の海洋地殻には、7000mにも及ぶ掘削孔がうがたれていた。
 まさにマントルプレート到達は目前だと思われたその時……
 あの事件が起こったのだ。

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438報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:52:02 ID:x/wIwU5o0
 メテオール号は消失した。
 突如として連絡を絶ち、文字通り跡形もなく消えたのだ。
 ちょうど、このプロジェクトの責任者である夫妻が、科学財団への定例報告のため、船から離れた折に起こった事件だった。
 だが、私は詳しい事情を彼らの口から聞くことはなかった。
 事件が起こった直後に、彼らもまた、財団のあったニューヨークで殺されていた。
 滞在先のホテルに、何者かが押し入り、銃を乱射したとの事だった。
 また例の日本人夫妻も、まるでタイミングを合わせたように事故死していた。
 旅客機の墜落事件。エンジントラブルにより墜落した飛行機に、丁度学会へ発表に行く途中だった夫妻が乗り合わせていたのだ。
 聞くところによると、例の研究の理論が一通り完成していて、論文も夫妻が持ち込んでいた。
 当然捜索も行われたが、論文はもとより夫妻の遺体も見つからず仕舞いという形となり、
 さらに論文はあのオリジナルしかなく、自宅には何も残っていなかったという。
 私にも急転する事態が訪れた。
 ニューヨークへ急行しようとしていた私も、あらぬ疑いをかけられ空港で拘束されることとなった。
 身に覚えのない、背任容疑だった。
 私は何十日も拘束され、ようやく拘置所から出たときには、まるで最初からなかったかのように綺麗さっぱりと事件の痕跡は消え失せていた。
 私も商社を解雇され、退職扱いとなり、銀行口座には退職金としては多額の……だが口止め料としては小額の金が振り込まれていた。
 明らかな犯罪であった。
 そう、手を下したのはこのプロジェクトのクライアントだろう。
 莫大な予算をかけられるだけのプロジェクトを強力に推し進めたその財力を、そのクライアントは持っていたのだ。
 そう――篁財閥という、世界をも支配すると言われるだけの財力を持つ、彼らが。
 篁財閥の力をもってすれば、船を一隻沈め、街中で人間を二人ばかり射殺し、事故死に見せかけて人間二人を殺害し、
 そして事件そのものをもみ消すことなど造作もないことだろう。
 何故こうなったのか?
 それはデータ専有の件で、研究者側と何か決定的な破局が生じたのだ。
 クライアントと研究者の間では、データを公表するか否かで対立が起こっていたのだ。
 公表はされていなかったが、環太平洋圏の地下資源マップは殆ど完成していたはずだ。
 例えば、大規模な油田や希少金属の鉱床が発見されていたとして……
 それが公海上だったら問題ないだろうが、もしもどこかの国の排他的経済水域上だったとしたら。
 その国が自社と対立していようが友好関係にあろうが、情報は徹底的に隠匿したいはずだ。
 相手国を利さないためにも、採掘権交渉を有利に進めるためにも、それは不可欠だろう。
 何か大きな発見を契機に、そのデータの公表を巡って研究者側と対立し、全員の口を塞ぐことになった……
 プロジェクトの全貌は、メテオール号で把握・管理されていたから、この船を乗員ごと葬り去ってしまえば、情報の隠匿は可能だった。
 当時の私はこれ以上関わるのも恐れ、堅く口を閉ざしていた。
 私はそれなりに賢明な男だと思われていたらしい。実際彼らの目論見通り、私は何もすることはなかった。
 海外から、あの手紙が届いたときも……

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439報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:52:18 ID:x/wIwU5o0
 その手紙が届いたのは、私が釈放されてから一ヶ月ほど経った頃のことだった。
 いや手紙と言うには分厚く、中にはいくつもの紙が入っていることは容易に想像できた。
 そして手紙の送り主が誰であるのかも……
 差出人は匿名であったが、それが経由したルートは尋常のものではなかったことが容易く想像できた理由だ。
 いくつもの国を渡ってきたのだろうと思わせる、見慣れない切手と通関印、異国の言葉の数々。
 複雑な転送サービスを用いたのであろう。そう、あのロシア系アメリカ人夫妻か、あの日本人夫妻のものに違いなかった。
 結論から言ってしまえば、私は中身は見たものの内容まで吟味することはなく、すぐに焼き捨ててしまったのだ。
 今にして思えば、どうしてそんなことをしてしまったのか……
 後悔は今でも私の内側にこびりついて剥がれない。
 拘留期間での苛烈な取調べの連続。それまであったものを一切合財奪われたことによる茫然自失感。
 言い訳をするなら言葉は尽きないが、実際のところは恐れていただけなのだろう。
 巨大すぎる敵に立ち向かうことへの恐ろしさに震えていただけの、情けない男だった。
 その時から既にやるべきことは分かっていたにも関わらず……
 私は、まったく賢明な男だった。

     ----------decording---------

440報われぬ愛国者:2009/11/08(日) 17:52:32 ID:x/wIwU5o0
 その後、私はエージェントとなった。
 路頭に迷ったとは言え、まだ壮年と言える年齢で、十分に実績もあり、再就職も容易だった私が、
 あえてそうなる道を選んだのは……どうしてだったのだろうか?
 昔はあっさりと私を切り捨てた会社と、そして堅実な生き方しかしてこなかった自分自身への、復讐のつもりだとばかり思っていたが……
 どうやら、それだけではなかったと、今になって気付いた。
 そう、『それは必然だった』と、声を大にして言えるのが、今の私には喜ばしい。
 仕事内容は省くが、私は徐々にエージェントとしての名を上げ、やがてある多国籍企業の専属エージェントとして雇われることになった。
 私はその企業の元で様々な仕事を行ってきた。
 いわゆる経済方面における情報操作を行っていたのだが、白状させてもらえるならば、私はこのときから次の罪へと手を染めていた。
 情報操作を行うということは、即ち私の雇い主に利益をもたらすこと――そう、私が雇われていたのはあの篁財閥だった。
 だが私は篁財閥がメテオール号沈没事件の犯人だとは知らなかった。
 例のプロジェクトの間、私には一切クライアントの名は知らされていなかったからである。
 私がそれを知る事になったのは、ひとつの偶然からだった。
 ふとした切欠から、私はメテオール号の沈没した場所を調べ始めた。
 何故か、と問われると即答はできない。
 エージェントとして人を騙し続ける空虚な生活を慰めるべく、せめてかつての知人を弔ってやりたいとでも考えたのか……
 それとも家の隅に置いてあった『ハーバー・サンプル』の小箱に何か動かされるものでもあったのか。
 だがそのお陰で私は本当の真実に、遅まきながら辿り着くことができたのだ。

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