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避難用作品投下スレ5
372
:
手を取り合って/Let Us Cling Together
:2009/10/17(土) 03:59:02 ID:5Yr44Sw20
翼を持つ少女を自分の代で諦めてしまった以上、当面の目的などなかった。
人を笑わせる。そう決めてはいても、それは人生の目的ではなかったし、
生活していくに当たってはまるで関係のないことだったからだ。
「元々定住してるような身分でもなかったしな。いつだって行き当たりばったりだったさ。
それに今となっちゃ、旅をする目的なんて失ったようなもんだ。どうしようかって、本気で考えてる。何かいい案はないか?」
「……働く」
「厳しいな」
往人は苦笑した。住所不定の男を雇ってくれるところなどある方が珍しい。
生きて帰ったとして、辛い生活が続くのには変わりがないのかもしれないと自覚したが故の苦笑だった。
「でも、そういうことを考えてる往人は凄いと思う。私は今までも、今でも、待ってることしか出来なかったから」
「待ってる……か。何を?」
「実は、自分でも分からない」
舞の声がひとつ落ちて、沈むのが分かった。何かを待っているらしい彼女。
ただ正体が分からず、あやふやなまま現在を過ごし、自分が何をしようとしているのか、何をしたいのかも分からない。
きっと辛いことから逃げている。逃げたまま、解決しようともしないのが今の自分なのだと舞は語った。
正体不明のものを待ち続ける感覚。翼の少女というあるかも分からないものを追い続けてきた往人にも、その感覚は理解できた。
「俺は、逃げてもいいんじゃないかって思う」
どうして? という気配が伝わる。
逃げることを許容した往人が信じられないようでもあり、また逃げることそのものを悪だと断じる意思が感じられ、
それも間違いではないと往人は思ったが、人の一生から見れば半分も生きていない自分に真に正しいことが言える自信はなかった。
往人が示せるのは正しさではなく、選択から生まれる可能性だけだった。
「逃げるってことは、一つの区切りなんじゃないかって考えてるからだ」
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