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避難用作品投下スレ5
417
:
終焉憧憬(1)
:2009/10/30(金) 15:30:41 ID:QqjtjFrU0
「……そう」
そんな郁未たちを見返した、少女の表情はどこか無機質に感じられた。
「やっぱりね」
言って、眼を逸らす。
翳した手の隙間から漏れる陽光が、大きな黒い瞳にきらきらと反射して、
まるで涙に濡れているように、見えた。
「たくさんの人がここを求めているの。見上げた空や、冷たい壁や、ちかちか光るモニタの中や、
そういうものが寂しくて、辛くて、煩わしくて、夢をみるの。
たくさんの人が、自分を縛る何もかもを投げ出してしまえるような、そんな素敵な夢をみて、
だけどほとんどは夢をみることにも疲れてしまって、だからここまでたどり着ける人はほんの少し。
ほんの少しは、それでも、ここまでやって来られるんだよ」
淡々と呟く少女の声を聞きながら、郁未はゆらりと、視界が揺らぐのを感じていた。
否、揺らいでいるのは視界だけではない。
足場の羊も、寄せては返す波も、頬に感じる大気の流れも。
何もかもが、ゆらゆらと揺れている。
見渡せば、揺れる世界の中、少女と鹿沼葉子だけが背景から切り取られたように
しっかりとそこに立っている。
黄金の穂を揺らす麦畑のときと同じだった。
ここから離れる瞬間が近いのだ、と感じる。
「それなのに、せっかくたどり着いたほんの少しの人たちも、結局ここには留まらない。
みんな、どこかへ帰っていくんだ。棄てたはずの場所へ。断ち切ったはずの何かに縋って。
わたしはそれを、ずっと見送るだけなんだ。ずっと、ずっと、見送るだけなんだ。
それが、えいえんということだから」
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