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避難用作品投下スレ4

813明日の見えぬぼくたち:2009/05/23(土) 03:52:21 ID:9hfe7kLg0
 いつの間にか、雨が降っていた。
 闇夜から落ちてくる透明な粒は髪を濡らし、顔を濡らし、体を濡らす。
 熱を持った傷痕が夜雨の冷たさと中和され、心地良い痛みを作り出している。

 天然のシャワーをその身に浴びながら、天沢郁未は完全に崩落した廃墟を眺めた。
 兵どもが夢の跡。様々な人の血を吸い、命を喰ったホテル跡は僅かに炎の残滓を残すのみで瓦礫の山を築き上げていた。
 燻る煙は、殺された参加者達の怨念か無念か。けれども空に溶けてゆく様を見ればそんな思いだろうが関係はなかった。
 死んだらそこまで。敗北者は敗北者としてでしか語り継がれない。死んだ人間の存在はその程度のものだ。
 だからこそ、そうはならないために自分は戦って戦って勝ち続ける。そうしなければならないのだ。

 命の重たさが身に沁みる。敗北者どもの魂が我が身に宿っている。意外にも好敵手は多かった。
 芳野祐介。古河秋生。那須宗一。十波由真。七瀬留美。誰もが己の勝利を確信していた猛者どもだ。
 このうちの半数は既に死に、いくらかは自分が屠った。

 勝ち残れたのは自分の執念が勝っていたからだ。生きたいという願望。負けられないという願望。
 願いは大きくなり、他者を取り込みながら増大していっている。
 自分は知っている。借りを返そうと命を支払い続けた女の姿も、愚直なまでに己の正義を信じ続けた女の姿も。
 それらの存在があるからこそ自分の立ち位置も知ることが出来、生きている実感を持つことが出来る。

 そう。生きることは、戦うことだ。生きている限りは誰かとぶつかり合う。その中でこそ己の存在を認識する。
 結局人間は孤独で、互いにしのぎを削りあう存在だ。仲間などというのは利害の一致でしかない。
 だから郁未は渚の存在が、主張が許せない。

 誰かと共に有り、無条件で信じ合えると言った女。絆が力になると言った女。
 そして、戦うことを拒否した女。

 何もかもが腹立たしい。何故戦わない。何故力を見つめようとしない。何故戦いが悪いと決め付ける。
 それだけではない。何ら対抗策も持たず、ただ漠然と誰かが何とかしてくれるという他人任せの姿勢。
 主義主張はあってもその理由も持とうとしない、現実を見つめようとしない姿勢。


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