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避難用作品投下スレ3
437
:
十一時十八分/Seifer Almasy
:2008/03/26(水) 03:15:53 ID:IHprr5pU0
「―――決着がついたようだな」
銀髪の軍人がふと漏らしたような声に、久瀬はぼんやりとした視線を南側へと向ける。
そこには荒涼とした岩場を歩く、ひとつの小さな影があった。
来栖川綾香だった。
長く美しかった黒髪は短く切り揃えられていたが、その存在感を見紛うはずもない。
松原葵を制し、この頂へと歩む姿には、やはり一片の翳りもなかった。
遠く、その表情は見えなかったが、顔にはきっといつも通りの不敵な笑みが浮かんでいるのだろう。
強い女だ、と思う。いつだって人の二歩、三歩先を行き、振り返ろうともしない。
同じペースで歩んでいるつもりでいても、いつの間にか差が開いていく。
生き急ぐでもなく、焦るでもなく、ただ悠然と歩む彼女についていこうとした自分は、いつだって小走りに生きるしかなかった。
それは純粋に、存在としてのスケールの差なのだと、久瀬はそう理解していた。
その来栖川綾香が、迫ってくる。
距離にしてほんの数百メートル。
文字通り無人の野を往くが如く、綾香はその行く手を阻まれることなく歩んでくる。
「……陣を、組み直さないんですか」
「あの女の纏う雰囲気、最早夕霧では抑えきれまい。……俺が出る」
気負いも迷いもなく返す男に、久瀬もまた驚きを見せることなく静かに問いを重ねる。
「ここを、空けるんですか」
「指揮はお前が引き継ぐんだ」
間髪を入れぬ言葉。
予想通りの回答に、苦笑じみた表情を浮かべて久瀬が俯く。
「僕には無理ですよ」
「何故そう思う」
「理解できないからです」
短いやり取りの中、血と死臭に澱んだ空気が揺れる。
閃光と爆発。何かが焦げるような臭いを運ぶ風。
北と西では未だ激しい戦闘が続いているという、それは証左だった。
だが南側を向いてしまえば、それは単なる音でしかない。
人が死んでいく音。それだけのことでしか、なかった。
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