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避難用作品投下スレ3

190診療所にて、煩悩と戦闘と策/壊れた歯車の国、暴虐の王:2008/01/14(月) 16:18:29 ID:/lyj3aFg0
 どうどうと祐一の肩を叩きながら英二が続ける。
「一応治療は済んだが、観鈴君は依然として危険な状態だ。ここで二人いっぺんに逃げても同時に襲われる。対象が一つだからだ。ならリスクは減らした方がいい。僕が引き付けている間、少年が観鈴君を背負って逃げる。そして環君と合流する。後はよりいい治療ができる人物を探す」
 英二の言わんとしていることは分かる。観鈴を危険に晒してまで二人で逃げるよりはどちらかが囮になって観鈴を安全に逃がした方がいい。英二が言わなければ祐一がそう提案していたところだ。しかし納得できない部分が一つだけあった。

「囮なら俺がやります。体力のある俺が引き付ければ」
「違うな」
 何が違うのか、と詰め寄りたくなった祐一だが英二の目が「まあ聞け」と言っていたので飛び出しそうになる言葉を口を堅く結んで抑える。
「確かに体力のあるのは若い少年の方だろう。それは分かってるさ。だが考えてくれ。人一人背負って走るのと、自分の身一つで戦うのと、どちらが体力を要すると思う?」
「……! それは……」
「残念だが、僕が観鈴君を背負って走ると数百メートルも持たないと思う。情けないがそういう自信がある。それに万が一、囮になった方が殺されてみろ。僕と少年、どちらがマルチと距離を広げられると思う?」

 祐一は反論できない。英二の言う事はもっともだ。あのマルチを倒せれば問題ない、が先程の戦闘で実感した通りあれを相手に生き残るだけでも至難の業だ。祐一が行ったところで勝てるのかさえ分からない。足止めをするのは体力のある方だ、と勘違いをしていた自分が恥ずかしいと祐一は思った。
「煙草なんて吸うものじゃないな。少年も、成人してもそういうことはするんじゃないぞ」
 自嘲するように、英二は煙草を吸う仕草をする。あるいは呪っているのかもしれない。体力がない自分に対して。

「観鈴君は任せた。僕は僕の仕事をしてくる」
 英二は立ち上がると、ベレッタのマガジンをベルトに差し、恐らく治療中にかき集めたのであろう医療具などを祐一に投げ渡した。祐一は自分のデイパックにそれを詰め込みながら、まるで家族に語りかけるように言った。
「ああ、気をつけろよ」
「心配するな。何たって僕は敏腕プロデューサーなんだからね」
 軽く手を上げて応えると英二はまったく畏れることなく、扉の外へ――敵の待つ戦いの場へと赴いていった。

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