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避難用作品投下スレ

993オープニングセレモニー/開場・金色真紅:2007/04/21(土) 01:33:05 ID:fRxfNhwM0

風が吹き荒んでいた。
圧倒的な力によって押し退けられた大気が渦を巻いている。
小石を巻き上げるほどの猛烈な風の中心に、影があった。

立ち尽くすその影は、二つ。
荒れ狂う風をものともせずに固まっていたその影が、ゆらりと揺れた。
小さな言葉が、漏れた。

「―――これが、長瀬ぞ」

ぐらりと、影の一つが大きく揺らいだ。
山頂に、光は既にない。
曇天の薄明かりが、ぼんやりとその光景を浮き上がらせていた。

「ち……くしょ、う……」

長瀬源蔵の拳が、古河秋生の胸を深々と抉っていた。
ずるりと、粘り気のある赤い糸をその口から引きながら、秋生が崩れ落ちる。
大地に膝をつき、天を見上げて、そしてついには、どうと倒れた。

「……」

その姿を、拳を突き出したままの姿勢で源蔵は見ていた。
呼吸が荒い。震える腕を押さえるようにしながら、大の字に倒れた秋生の上に馬乗りになる。
重みに、秋生が薄く眼を開けた。

「なん、だ……爺さん……、すこし見ねえうちに……随分と、老いぼれた……もんだ、な……」

言って、血の泡を吹く口で小さく笑ってみせる。
見下ろす源蔵の容貌は、果たして先刻までの壮年のそれではなかった。
本来の年齢、老境の痩身へと戻っている。
白髪を乱し、身に纏った黒服とシャツは既に襤褸切れ同然となり果て、老いさらばえた身に幾つもの傷を
負いながら、源蔵は秋生を見下ろしていた。

「……」

その光宿らぬ右の手指が、震えながらも真っ直ぐに揃えられていく。
貫手の形。拳を一個の刃と見立てるその突きは、ある一点に向けられていた。
無防備な秋生の喉元を貫かんとするその構えをぼんやりと見て、秋生が口元を歪める。


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