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避難用作品投下スレ

1管理人:2006/11/11(土) 05:23:09 ID:2jCKvi0Q
新スレが立たない、ホスト規制されている等の理由で
本スレに書き込めない際の避難用作品投下スレッドです。

2名無しさん:2006/11/12(日) 18:56:29 ID:3NIiOBjA
test

3悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:10:49 ID:plKhezlE
「智子さん落ち着きなさい。これは北川君達がやったんじゃないわ」
「何でや?うちが来た時にはもうこのみは死んどった・・・コイツラ以外に考えれへんわ!」
皐月が冷静な口調で智子を制止しようとするが、我を忘れている智子は全く聞く耳を持とうともしない。
その剣幕に皐月以外は動揺していたが、皐月はそんな智子相手でも冷静そのものだった。

「仮に北川君達が裏切っていたとして、最初にこのみを殺す必要がどこにあるの?」
「!」
その一言に、智子の動きが止まる。

「私がもし裏切るとしたら、まず最初に武器を奪うわ。もしくは寝室に集まっているところを狙って一網打尽にするわね。
このみ一人を殺しても疑われるだけで逆効果よ」
「ふむ、確かにの」
「言われて見ればそうなんよ・・・」
皐月の論理の正当性に、花梨と幸村は感心顔で頷くばかりである。
しかしそれでも智子は納得出来ていなかった。

「でも、ならなんでこのみは死んでるんや!?自殺でもしたっていうんか・・・・・。
コイツラがショットガンで撃った以外ありえへんやろ!」
「違う!何でかは分からないけど、柚原の首輪が突然爆発したんだ」
「黙らんかい!うちが・・・、うちがあんたらを信頼したせいでこのみが・・・・」
「保科・・・・」
智子の銃を握る手が震えている。その瞳には涙が浮かんでいた。

「分かったわ。じゃあ私が裁いてあげる」
「!?」
驚いて声のした方を振り向く一同。

そこにはいつの間に回収したのか、ショットガンを手にした皐月の姿があった。
そのショットガンの銃口は北川達の方を向いていた。
銃を構える皐月の表情はあまりにも無表情で、迷いや躊躇は一切感じられなかった。

4悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:13:10 ID:plKhezlE
「く・・・・!」
「き、北川!?」
北川は真希を押し退け、彼女を庇うように前に立っていた。

「良い度胸ね・・・・・じゃ、さようなら」
そう言い、北川の頭に向けて狙いを定める皐月。
食堂全体に緊張が走る。

――止めなければならない、止めなければきっと今の皐月は容赦無く北川の命を奪うだろう。
だがその事が分かっていても、皐月の声の冷たさに、迫力に、花梨も幸村も智子も動けない。
北川は目を瞑って黙って最期の時を待っている。


「駄目ぇっ!!」
叫びながら再び北川を庇おうとする真希。
それを見て、北川は慌てて真希を制止しようとしている。
ショットガンによる銃撃は広範囲に及ぶ。下手をすれば二人とも命を落としかけない状況だった。
その光景に、最初に北川達に銃を向けた張本人である智子ですら目を瞑る事しか出来ない。

だが、いつまで経っても銃声が鳴り響く事は無かった。
「・・・・・なんてね。安心しなさい、あなた達の疑いは晴れたわ」
「・・・・え?」
北川達が皐月の方へと視線を戻すと、皐月は北川達には目もくれずにショットガンを念入りに調べていた。

「疑いが晴れたって、どういう事だ?」
「この銃、弾数が一つも減ってないわ。それに床に空薬莢も見当たらない。」
「何やって!?」
「つまり、このショットガンはまだ未使用って事よ。少なくともこの場所ではね。
このみの首輪が爆発した理由は分からないけど、北川君達が犯人じゃないのは確かよ」
大体犯人だったらこんな馬鹿な庇い合いなんてしないわよ、と北川達の方へと視線を戻しながら付け加える皐月。

5悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:14:24 ID:plKhezlE
動機も無ければ凶器も無い。
第一、北川達がゲームに乗っているのなら弁明などせずにショットガンを手に攻撃を仕掛けてきている筈である。
もはや、北川達を疑う理由は存在しなかった。

「そうやったんか・・・・。北川君の話を全く聞かないで、とんでもない事してもうた・・・・。」
謝って許される問題やないけど、ごめん・・・。本当にごめんな・・・・」
「全く、冗談じゃないわよ。北川がこんな事するわけないじゃない・・・・」
若干落ち着きを取り戻した真希が、ぶっきらぼうに言い放つ。
その瞳にはまだ涙が溜まっていた。

「とにかく、これにて一件落着ね。"私"が出ていられる時間はそろそろ終わりみたいだから、後は頼んだわよ」
言い終わるとほぼ同時に皐月がその場に崩れ落ちた。

「皐月っ!!どうしたんやっ!?」
智子が慌てて駆け寄り皐月を抱き起こす。
「・・・・寝てるだけみたいやな」
そう言って、安堵の表情を浮かべる智子。
皐月のおかげで救われた。彼女がいなければどうなっていたか分からない。
いや、きっと最悪の事態になっていただろう。
智子達は今回の最大の功労者を寝室まで運んでいった。

「なあ保科。柚原の遺体を埋葬したら今日はもう休もうぜ」
皐月と遠野を運び終えて、食堂に戻る途中で北川が智子に声を掛ける。
「北川君・・・。怒ってないんか?」
「怒るとか怒らないとかじゃなくて、今やるべき事をしないと駄目だと思うんだ。
俺達は明日も頑張らないといけないんだからな。柚原の分もな・・・・・」
柚原の分も。その言葉で智子も北川自身も改めてこのみの死を実感し、俯く。
そんな彼らの様子を見ていると、真希もこれ以上文句は言えなくなっていた。

6悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:15:33 ID:plKhezlE

皐月達がホテル跡に到着してから約7時間半。
様々な悲しみを生み出しながらも、ようやくこの場所に静寂が訪れようとしていた。


湯浅皐月
【所持品:専用バズーカ砲&捕縛用ネット弾、予備弾薬80発ホローポイント弾11発使用、セイカクハンテンダケ(×1個&四分の三個)支給品一式】
【状態:寝室で気絶中】
幸村俊夫
【所持品:無し】
【状態:朝まで休憩してから北川達とは別行動】
保科智子
【所持品:なし】
【状態:同上】
笹森花梨
【持ち物:38口径ダブルアクション式拳銃(残弾6/10)】
【状態:同上】
ぴろ
【状態:皐月の傍にいる】

7悲劇の結末:2006/11/13(月) 21:16:19 ID:plKhezlE

北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾、SPAS12ショットガン総弾薬数8/8発+ストラップに予備弾薬8発】
【状態:朝まで休憩してから村へ(どの村へ向かうかは次の書き手さん任せ)】
広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:同上】
遠野美凪
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:寝室で気絶中、朝からは北川達と共に村へ】


共通
【場所:E−4、ホテル跡】
【時間:2日目00:40頃】

【B-11(支障がなければ他でも)】
【関連415】
※北川、遠野、広瀬の荷物はショットガン以外は食堂の端に
※花梨の銃と皐月以外の荷物は元の寝ていた部屋に

8魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:48:56 ID:mkPywDUg

名倉由依は目を閉じて携帯電話を握り締めながら、祈っていた。

(どうか―――どうか、いい人が出ますように!)

短い発信音の後、

『―――はい、天野です』

唐突に、電話が繋がった。
まるでこんな殺し合いとは関係のない誰かの自宅にかけてしまったかのような錯覚を、由依は覚える。
それほどに淡々とした、それは少女の声だった。

「え!? あ、も、もしもし!」

一瞬呆然とするも、慌てて喋りだす由依。
切られてはたまらないとばかりに、早口でまくし立てる。

「あ、あたし名倉といいます! 名倉由依!」
『……はぁ』

電話の向こうの相手は、戸惑っているようだった。
それはそうだ、こんな島でいきなり電話がかかってきて、しかも唐突に自己紹介をされても反応に困るだろう。

「あ、いえ、その、すいません突然電話なんかしちゃって!」

まるでキャッチセールスのようだった。
何を言っているのか、自分でもよくわからない。

『……落ち着いてください』

9魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:49:56 ID:mkPywDUg
相手の平坦な声に、少しだけ冷静さを取り戻す由依。
そうだ、自分は世間話をするためにこんな危険を冒してるんじゃない。
とにかく本題を切り出さなければ、と焦る。

「……その、き、聞きたいことがありますっ」

色々と考えていたはずの手順は、遥か彼方へと飛んでいった。
ままよ、とばかりに口を開く。

「あ、あなたは、殺し合いに参加していますか?」

言った。ごくり、と唾を飲み込む由依。

『……』

寸秒の沈黙が、由依にとっては永遠にも等しく感じられる。

(お願いします……神様!)

ほんのささやかな祈りが、天に通じたか。

『……いいえ、別段』

と、相手は告げた。

「……そ、そうですか! よ、よかったぁ……」

言葉とともにへたり込む由依。
冷たい木の床が心地いい。

10魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:50:18 ID:mkPywDUg
『……それが、何か?』
「あ、ええ、いえ、あ、あたし捜してたんです、そういう人を!」
『……殺し合いに参加していない人間を、ですか』
「はい、そうです! そういう人と協力できればって、そう思って!」
『……協力』
「そ、その……こんなのおかしいって、やめさせなくちゃ、って」
『この殺し合いを、ですか』
「はい、そうです……! だから、そういう風に考えて、一緒にやってくれる人がいれば、って!」
『……お話は、分かりました』

冷水を浴びせ掛けるような声に、必死にかき集めた由依の勇気が萎んでいく。

「あ、あの……やっぱり、こんなこと言うの、おかしいですか……?」
『いえ、とても立派な考え方だと思います』

不安そうな由依の声をどう感じたか、相手の言葉はどこか優しげに聞こえた。
その声に勢いを得て、由依は立ち上がると再び相手に語りかけようとする。

「じゃ、じゃあ……!」
『しりとりをしましょう』

あまりにも唐突なその提案に、由依の思考が一瞬停止する。

11魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:51:03 ID:mkPywDUg
「……え?」
『しりとりです。分かりませんか?』
「し、しりとりって、あの、しりとりですか?」
『ええ。相手の言葉の最後の音に繋げていく、あのしりとりです』
「は、はぁ……その、どうして、しりとりを……?」
『ちょっとしたゲームですよ』
「ゲーム……?」
『はい。私はあなたのお話にとても感銘を受けました』
「あ、ありがとう……ございます」
『しかし、そのお話に乗るのは非常にリスクの大きい行為です』
「……それは……その」
『ですから、ゲームをしましょう』
「あの、すみません、お話がちょっとその、よく……」
『簡単なことです。あなたはあなたの計画を賭けてゲームをするのです』
「え……?」
『言葉通りですよ。私とゲームをして勝つことができたなら、私はあなたのお話に乗りましょう』
「そ、それって……」
『お約束しましょう。全面的に協力します』

相手の意図を、由依ははかりかねていた。からかわれているのかもしれない。
相手の言うとおり、これはひどくリスクの高い計画だった。
命綱もつけずに綱渡りをするような、そんな行為だ。
それに参加するかどうかを、ゲーム、それもしりとりで決めようというのだった。
本気で言っているとは思えなかった。
だが、それでも。

「……わかりました」

そう言うほかに、由依に道は残されていなかった。

12魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:51:56 ID:mkPywDUg
殺し合いに参加していない人間に電話が繋がるような幸運が続くとは限らない。
もしかしたら次に出るのは、自分を騙して言葉巧みに居場所を聞き出そうとする殺人鬼かもしれないのだ。
少なくとも、と由依は思う。
少なくともこの相手は、そういう類の人間ではないと、そう直感していた。
この直感が外れるようなら、どの道こんな計画など成功するはずがない。
騙されて、殺されるだけだった。
だから、由依は電話の向こうの相手に向けて、口を開く。

「わかりました。勝負、しましょう」
『……いい返事です』
「その代わり、あたしが勝ったら……!」
『はい、お約束しましょう。そのときは、あなたのお力になります』
「……その言葉、信じます」
『よろしい。―――では、始めましょう』

ごくり、と唾を飲み込んで渇いた喉を湿らせながら、由依は相手の言葉を待つ。
冷たく静かな空気に、精神が研ぎ澄まされていく。不思議と緊張はなかった。

『オーソドックスにしりとりの、り、からいきましょうか。どうぞ』
「り、りんご!」『格子』「シマリス!」『寿司』「しつけ!」『芥子』「島!」『蝮』「鹿!」
『菓子』「し、獅子!」『紳士』「し、新聞紙!」『色紙』「し、し、シルクロード!」
『……ふふ、いきなりし攻めは少し意地悪でしたかね。では、趣向を変えて……道路』「ロバ!」
『販路』「ろ、ろ……ろくでなし!」『進路』「ろ、路地裏!」『ランドセル』「る、ルアンダ!」
『タイル』「る、ルノワール!」『ルール』「―――ルパン!」

しまった、と思ったのは、口に出した後だった。
全身から一気に血の気が引いていくのがわかる。
こんな、こんなつまらないことで、せっかく掴んだチャンスを不意にするのか。
ルパン、三世、と付け加えたらどうだろう。ルール違反か。そもそも遅すぎる。
あらゆる後悔が、由依を襲っていた。

13魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:52:26 ID:mkPywDUg
だが、次の瞬間。

『……ンジャメナ』

相手の声が、由依を絶望の淵から引き上げた。

「……え?」
『どうしたのですか。な、ですよ』
「で、でも、あたし、今……」
『些細なミスです。続けましょう―――それとも、ここでやめますか?』

その一言が、由依に火をつける。

「い、いえ! 続けます! な、長野!」

九死に一生を得た気分だった。
まだ勝負は終わっていないのだ。
勝って、勝って協力者を得るのだ。
そうして一緒にこのばかげた殺し合いを終わらせるのだ。
その意気込みが、由依を後押しする。

『その意気です、……ノルマ』「漫画!」『画廊』「ウサギ!」『妓楼』「馬!」『松』「月!」
『騎士』「しおり!」『利子』「し、塩辛!」『乱視』「し、四十雀!」『卵子』「……あ!」

由依が声を上げる。

『どうしました?』
「いま、同じ言葉を二回言いましたよね!?」
『いいえ』
「あ、あたしの勝ちです、……え?」

14魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:53:34 ID:mkPywDUg
『いいえ、言っていません』

その声は、どこまでも平静だった。

「で、でも今、らんしって二回……」
『先に言ったのは乱視。目の屈折異常です』
「え……」
『後に言ったのは卵子、卵巣から産み出される生殖細胞です』
「そ、そんな……! そんなのって、」
『……それより、時間切れですよ』
「え!?」

意外な言葉に、由依が驚く。

『卵子、で止まっています。……二回目のミスですね』
「え……でも、それは……!」
『―――小豆島』
「……、え……?」
『しょうどしま。ま、ですよ』
「……あ……、」
『どうしました? やめるなら構いませんが』
「ま、まち針!」

必死に言葉を紡ぐ由依。
相手の勝手な言い分に抗議しても始まらない。
この勝負の主導権は、始まる前から常に相手にあるのだと、由依はようやく理解していた。

『利回り』「り、り……料理!」『リキュール』「ルーズソックス!」『スリッパ』「パンダ!」
『達磨』「漫画!」『……』「……?」

15魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:54:17 ID:mkPywDUg
相手の声が、返ってこない。

「ど、どうしました……?」
『……』
「あ、あの……」

無言。
途端に心配になる由依。もしかして相手の身に何かあったのだろうか。
しりとりに夢中で忘れていたが、今は殺し合いの真っ最中なのだ。
だが、そんな由依の不安を打ち消すように、電話の向こうから声が返ってきた。

『……漫画、は二回目です』
「あ……」

しまった、という言葉だけが一瞬にして由依の脳裏を支配する。
言い訳が、出てこない。

『―――三回』
「は……はい……?」
『三回、ミスしましたね』

相手の声が、回線を通して由依の耳の中を撫で回すように感じられた。
冷たく無慈悲なその声音に、由依の背筋が凍りつく。

『一回なら』
「え……」
『一回なら、ごめんなさいで済ませましょう』
「はい……?」
『―――けれど、二回続けて負けたのならば、あなたの持つ財産を』
「あ、あの、何を……?」

16魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:54:51 ID:mkPywDUg
言葉の意味をはかりかねて問いかける由依の言葉を無視するように、相手の声は続く。

『そして、もしも』
「あの、」
『もしも、三回続けて負けたなら―――』

一息。

『―――その時は、あなた自身をいただきます』

その声は、厳かですらあった。
絶対の意思をもって告げられた託宣のように、それは由依の脳裏に反響する。

「なに、何を、言って……?」
『これは、ゲーム』

ゲーム、と告げたその言葉は、ひどく神聖なものを扱うかのように繊細で。
だが同時に、隠しようもなく禍々しい何かを、孕んでいた。

『あなたと私が、互いを賭けて行った、闇のゲームです』

告げられた言葉の意味が、理解できない。
しかし、その声に含まれた小さな笑いが、由依の感情をひどく刺激した。

「……もう、いいです! 切ります!」

言って、携帯のボタンを押そうとする由依。
だが、

17魂の牢獄:2006/11/18(土) 04:55:19 ID:mkPywDUg
「ひっ……!?」

その手にした携帯から、黒い影がじわりと染み出していた。
影は瞬く間に指を飲み込み、腕を伝って由依の肩までを黒く染め上げる。

『―――良い夢を、名倉由依さん』

喉が、口が、鼻が目が、そして最後に耳が塞がれる瞬間に、そんな声が聞こえた、気がした。



静まり返った職員室に、カタリ、と音がした。
小さな携帯電話が、木の床に落ちた音だった。
それはしばらく、ツー、ツー、という音を響かせていたが、やがて止んだ。

闇に沈む職員室には、もう誰もいない。



【場所:D−06:鎌石小中学校・職員室】
【時間:1日目22時30分頃】

名倉由依
 【状態:消滅】

天野美汐
 【所持品:様々なゲーム・支給品一式】
 【状態:遊戯の王】

(関連・55,177,394 ルートD−2)

18名無しさん:2006/11/18(土) 04:56:28 ID:mkPywDUg
ここって30行制限なのね。
いきなりエラーが出てちょっと驚いた。

19母と子と…:2006/11/19(日) 20:01:53 ID:Lh4y2ZjY

『―――その務め、私が承りましょう』
「な……、今度は何やっちゅうねん……!」

巻き起こる土埃に手をかざしながら、晴子が叫ぶ。
透き通るような声とともに天から舞い降りてきたのは、輝く白い巨体。
吹きすさぶ風に金色の髪をなびかせた、それは美しくも壮大な彫像であった。
張り出した乳房に細い腰という女性的なフォルムの背には、どこまでも白く大きな翼。
静謐な容貌に限りない知性と包容力を感じさせるその彫像が、地響きと共に大地へと降り立つ。

『我が名はウルトリィ―――』

彫像は、動くことのないその口で、しかしはっきりと名乗った。

「は、今更喋るロボなんぞで驚けるかい……何の用じゃ、おどれ!」

言って銃を構える晴子。
だがその言葉が虚勢でしかないことは、震えるその手を見れば一目瞭然であった。
この巨体の前では、M16など豆鉄砲程度でしかないと、晴子にも分かっていた。

『……失礼ながら、お話は聞かせていただきました』

そんな晴子の動揺を無視するように、彫像が語り始める。

『そこの貴女―――、貴女には器が必要なのですね』

彫像の顔が、観鈴の方を向く。

「な……自分、観鈴が見えるんか!?」
(にはは……わたし、注目されてる)

20母と子と…:2006/11/19(日) 20:02:38 ID:Lh4y2ZjY
『私はオンカミヤムカイの巫―――時にあなたのような方と語り合う務めもありました』

彫像の言葉に、神奈が厳しい顔で彫像に問いかける。

「そなた、その翼といい……やはり余と同じ―――」

と、彫像が初めて神奈の背に生えた翼に気づいた様子で言葉を紡ぐ。

『これは珍しい……このような時の彼方で、オンカミヤリューの裔と出会うとは……。
 ……いえ、裔というよりは……貴女はむしろ……』

そこで彫像は一旦言葉を切る。

『……これも巡りあわせというものかもしれませんね』
「そなた、何を言っておるのだ……?」

ひとりごちるような彫像の言葉に、神奈が眉をひそめる。

『……いえ、今は関わりの無いことです。それよりも、貴女……』

と、観鈴のほうに向き直る彫像。

『貴女がお母様と触れ合い、言葉を交わすために……仮初めの器が必要なのでしょう。
 母と子の絆……私にも覚えがあります。遠い時の彼方の、色褪せぬ思い出……』

何か大切なものを思い出すように、声を落とす彫像。

『貴女が母を求め、母御もまた貴女を求めるというのであれば……私のこの身体、
 しばしの間でもお貸しいたしましょう……』
(ロボットさん……)

21母と子と…:2006/11/19(日) 20:03:30 ID:Lh4y2ZjY
その言葉に、神奈が腕組みをして何やら考え始める。

「ふむ……翼持つそなたなら、或いは……しかし……」
「―――何をごちゃごちゃ言うとんねや!」

話に置き去りにされていた晴子が、銃を構えたまま叫ぶ。

「このけったいなロボに観鈴が入る? ……冗談やないで!」

言いながら躊躇なくトリガーを引く晴子。
高い音が響き、弾丸が彫像に弾かれる。その表面には傷一つついていない。

「うちの観鈴はな、ぽかって叩いたら、がお言うて涙ぐむアホな子や!
 こんなん叩いたら、うちの手が痛い痛いってなってまうわ! ボケ!」
(お母さん……)

観鈴が沈痛な面持ちで呟く。

「返せっちゅうてんねん! うちの観鈴を! 泣き虫で、アホたれで、笑うのがへったくそな、
 うちの観鈴を返せ、って……、そう、言うてんのや……!」

晴子は、泣いていた。
彫像に体重を預け、その硬い表面を、素手で叩いている。

「何や……こんなん……! がお、言うてみいや……! 言えへんやないか……!」

泣き崩れる晴子を見る観鈴。

22母と子と…:2006/11/19(日) 20:03:53 ID:Lh4y2ZjY
(……ロボットさん)

その目に涙をいっぱいに溜めて、観鈴が彫像に言う。

(お願い、できますか)

神奈は何も言わない。ただ無言で観鈴と晴子、彫像を見ている。
晴子の声は、いつしか小さく掠れていた。

「うち、まだ何もしてへんやないか……なんで、なんでこないなことになってんねん……。
 なんにも……何にもできひんままなんか……、なぁ、観鈴……」

涙声と共に、力なく振り下ろされる拳。
ぺちりと、彫像の表面を叩く。

『……が、がお』

その声は、彫像から発せられていた。

「……ッ!? な……何やて……?」

がばりと顔を上げる晴子。
真っ赤に腫れた目で、白い彫像を見上げる。彫像もまた、晴子を見下ろしていた。

『にはは……お母さん、ちっこい』
「その声……観鈴、観鈴なんか……!?」

懐かしい、久しく聞いていなかったように感じられるその声に、晴子が彫像にすがって問いかける。
そんな晴子に向かって、彫像がそっと跪く。
しっかりと視線を交わすように、晴子の方を向いて離さない彫像。

23母と子と…:2006/11/19(日) 20:06:08 ID:Lh4y2ZjY
『お母さん、わたし……今なら、お母さんといっぱいお話できる』
「……観鈴、……観鈴っ!」

冷たく白い、その表面装甲。
しかし晴子は構わず、その装甲にすがりつく。
声と口調、仕草。
ほんの一瞬で、それらすべてが観鈴のものであると、晴子には感じられていた。
涙が零れ落ち、白い装甲に跳ねる。

『が、がお……お母さん、泣いちゃだめ……』
「……アホ、こういうときはいっくら泣いたかてええんや……憶えとき……」
『お母さん……』



しばらくの時間、そうしていた。
神奈はその間中、一言も口を挟むことなく、二人の様子をじっと見ていた。
晴子が泣き止むのを待って、白い機体が、跪いたままそっと手を差し伸べる。

『……乗って、お母さん』
「乗る……乗るて、このロボ……ちゃう、自分にか、観鈴?」
『にはは……観鈴ちん、いま巨大ロボ……。操縦できるよ』

言って、差し伸べた手に晴子を乗せる機体。
その巨大な手が、胸元へと引き寄せられる。

「うわ、ごっつ高っ……!」
『そこのレバー、回してみて』
「これか……? おわ、開くんか!?」

24母と子と…:2006/11/19(日) 20:06:37 ID:Lh4y2ZjY
胸元のハッチが開放される。
中はパネルに囲まれた狭い空間。シートも見えた。

「これに入れ……ちゅうんか」
『お母さん、いらっしゃい』
「何や、けったいな気分やな……」

シートに収まる晴子。
ハッチが閉まると同時に、各種パネルが点灯する。

「何や……? 観鈴、自分がやっとるんか?」
『うん、今はわたしの体みたいなものだから……』
「そか……便利っちゅうてええんかな、この場合は……」

周囲のモニターに、外の様子が映る。
視点が高くなった分、島の様子が遠くまで見渡せた。
と、暗い夜空に大きく映る金色の光。

「……満足したか?」

神奈だった。
彫像の顔の辺りまで飛び上がって話しかけているらしい。

「何や、親子水入らずの一時、邪魔せんといてや。
 ……って観鈴、この声、外に伝わっとるんか?」
『大丈夫、ちゃんと聞こえてるはず。観鈴ちん、えらい』
「はいはい、ええ子やなー。
 ……で、羽つきの姉ちゃんな。自分、さっき何ちゅうた」

25母と子と…:2006/11/19(日) 20:07:23 ID:Lh4y2ZjY
晴子の声に、神奈が答える。

「先程、とは何のことだ」
「……幸せな記憶、がどうちゃらこうちゃら、や」
「何だ、そのことか。……そなたと観鈴が幸せな記憶を作れば、それでそなたの役割は終わりだ。
 余は愚か者どもに神罰を下すべく往く」
「観鈴は」
「土に還ると言っておろう」
「ほぉ……」

思案げに言葉を切る晴子。

「……観鈴」
『なに、お母さん』
「飛べるか」

晴子の言葉が終わるか終わらないかの内に、モニターの風景が流れていく。
島の南西部が一望できるほどの高度を維持したまま、観鈴の声がコクピットに響く。

『これでいい?』
「上出来や」

一方、突然の上昇について行き損ねた神奈が地上で叫んでいる。

「……こ、こら、約束が違うではないか!」

いかに叫ぼうと、声は届かない。
追いすがるべく上昇を始める神奈。

26母と子と…:2006/11/19(日) 20:08:26 ID:Lh4y2ZjY
「……アホが。幸せな記憶なんぞ作ったら、観鈴とはおさらばやないか……!」
『……お母さん?』
「はいさいなら、ってそんなんでいいわけあるか、ボケ!」
『が、がお……無視』
「観鈴。うちにはまだ、このクソッたれた首輪がある。
 島から離れたらどうなるかわからへん。それで、や」
『うん』
「皆殺しや」
『……え?』
「どいつもこいつもブチ殺して、うちが優勝する」
『お、お母さん……』
「それで首輪外して、あの家戻って、いつまでも二人で暮らす。
 めでたしめでたし、ちゅうわけや」
『そ、そんなのダメだよ、お母さん……』
「―――やかましい!」
『が、がお……』
「うちかて分かっとる……無茶苦茶言うとるわ。けどな、これしか思いつかへんねん。
 もう、自分と離れたないんや……観鈴」
『お、お母さん……』

と、モニターを一瞥して晴子が舌打ちする。

「ち、追いかけて来よったか……バケモンが」
『……』
「とりあえず逃げるで、観鈴。さっきの黒いのは得体が知れんからな」
『……』

観鈴の心に、地面に叩きつけられて死んだ男の記憶が甦っていた。

27母と子と…:2006/11/19(日) 20:08:51 ID:Lh4y2ZjY
ひとつ首を振るようにして、徐々に加速を始める白い機体。
見る間に神奈との距離が開いていく。

(汝、神尾観鈴……それを望みますか?)

そんな観鈴に、繰り返し語りかける声があった。
観鈴にだけ聞こえるそれは、ウルトリィと名乗った彫像本来の、透き通るような声だった。
ずっと黙り込んでいた観鈴が、機体を加速させながら一つの言葉を形作る。

『……お母さんが、そうしたいっていうなら』
「ん? ……何や、観鈴。何か言うたか?」

それには答えず、ただ機体を更に加速させる観鈴。

(―――契約は紡がれました)

次第に小さくなるウルトリィの声。

(それでは、私は束の間の眠りに入りましょう―――)

やがて、声は聞こえなくなった。
母を乗せ、観鈴はただ天空を往く。

28母と子と…:2006/11/19(日) 20:09:08 ID:Lh4y2ZjY

【時間:2日目午前2時】
【場所:H−4上空】

 神尾晴子
【持ち物:M16】
【状況:優勝へ】

 アヴ・ウルトリィ=ミスズ 
【状況:契約者に操縦系統委任、一部兵装凍結/それでも、お母さんと一緒】

 神奈
【持ち物:ライフル銃】
【状況:おのれ賤民】

→385 ルートD-2

29黒白:2006/12/07(木) 20:03:19 ID:gW6263Ic

母は歪んでいる。
そして、母をそんな風にしてしまったのは、紛れもなくこのわたしだ。
わたしを救えなかったという絶望、そしてまた、わたしがこの仮の身体を得て存えているという一縷の希望。
悔恨と、無力感と、自己陶酔と、そしてほんの少しだけの愛情めいたもの。
そんなものたちが、母を突き動かしている。

もう少しだけ踏み込んでものを言うならば、母はこの現実から逃避したがっているのだ。
わたしと暮らしていた頃、母はわたしという現実から目を逸らすために、仕事とアルコールに逃げ込んでいた。
神尾晴子というのは、そういう弱さを持ったひとだった。
そして母はいま、殺し合いを強制させられるという常軌を逸した環境に放り込まれていた。
要するに母は、より脅威的な現実を目の前にして新しい逃避の対象を探しており、そこにわたしという
格好の偶像がいたと、つまりはそういうことだった。
わたしを行動原理とし、わたしという存在に依存することで、その他のことには盲目的でいられる。
それが母の、脆い精神を支える柱となるのだ。
これまでずっと母を見てきたわたしには、母の言葉の意味、涙の意味が、手に取るようにわかっていた。

わたしは、だけどそのことに、この上もない幸せを感じている。
母はいま、どうであれわたしを中心として動いてくれているのだ。
かつてわたしという厄介者に怯え、逃げ回っていた母が、わたしだけを見てくれている。
それだけで、わたしはこの胸から溢れだした幸せに、溺れてしまいそうな錯覚を得るのだ。
いったいこの世界に、大好きな人が自分を見てくれているという、それ以上の幸せがあるだろうか。
少なくともわたしは、それをこそ幸福と、定義していた。

わたしの記憶にある母は、表情に乏しい。
怒っているか、困っているか、酔って笑っているか。いつだって、そのどれかだった。
それが今は、どうだろう。
母はわたしのために涙し、殺人すら躊躇うことなく肯定してみせた。
それが無償の愛ゆえでなかったからといって、そのことの価値は些かも揺るがない。

30黒白:2006/12/07(木) 20:03:45 ID:gW6263Ic
だから、わたしは母の、わたしに対する自己中心的な依存に感謝こそすれ、そのことで
母を責める気など、毛頭なかった。
むしろようやく親孝行ができると、そんなことをすら考えていた。
ひとを潰す、―――いや、殺すのも、その延長線上でしかなかった。

そう、ひと一人の生命を絶つというのは、わたしにとって真実、それだけのことでしかなかったのだ。
満足に生きてこなかったわたしは、死ぬということに対して希薄なのだ。
誰かのそれも、わたし自身にとってのそれもひと括りにして、わたしには理解が難しい。
死ぬということは、単に生き終わるということで、それは解放と同義だ。
勿論それが世間一般の理解とかけ離れた認識だと、わたしは痛いほど思い知っていた。

わたしとて、それを肯んじ得ていたわけではない。
生きるということが苦痛以外の意味を持つなら、それが知りたかった。
だが、わたしにそれ以外の答えを教えてくれる誰かなど、現われはしなかったのだ。
これまでの人生で、一度として。
だからわたしは今でも、死というものがよくわからない。
生も死も、その重みがわからないわたしは、だからこうして、変わり果てた姿になって
何の恨みもないひとを殺してしまっても、ひどく気持ちが悪いと、ただそれだけをしか思えない。

愛している。
わたしは、母を愛している。
そして母は、その根底はどうであれ、わたしのために歪むことを選んだのだった。
ならば、わたしの愛もまた、母の歪みのままに、歪んだものであるべきなのかもしれない。

―――してみると。
目の前に立つ黒い翼の神像は、わたしの歪みを形にしたものであったのだろうか。

31黒白:2006/12/07(木) 20:04:27 ID:gW6263Ic
「く、黒い……ロボ、やと!?」

母が、戸惑ったような声をあげる。
一方的な狩り、虐殺の陶酔に、冷水を浴びせかけられたのだ。
母が脳裏に思い描く夢には、こんなものは出てこなかったのだろう。

もっとも、わたしは母ほど驚いてはいなかった。
都合の悪いものを意図的に排除した夢の陰には、いつだってこんなものが潜んでいる。
こういうものに出くわすのは、だからわたしにとっては日常茶飯事だった。
わたしはいつだって、夢ばかりみるように生きてきた。
こういう時、わたしは決まって同じことをする。
破れた夢を繕って、新しく自分の周りに張り巡らすように、力なく笑うのだ。

『にはは……でっかいカラス』

そんなわたしの言葉を張り飛ばすように、母が声を上げる。

「あ、アホ! どこの世界に手足のついたカラスがおんねん! ってツッコむんはそこかい!」

これでいい。
母に調子が戻ってきた。

「これは敵や、気ぃつけえ観鈴!」

折りしも降り出した雨で、地面はすっかり泥だらけだった。
翼を広げたまま佇むその黒い神像から視線を離さないようにしながら、わたしは静かに立ち上がる。
後ろ手についた掌の下で、倒木がひしゃげる音がした。
いつまでも血がこびり付いたままの左手を、泥と木の葉に擦りつけて拭う。
黒い神像の後ろで、先程まで動けずにいた少女がもう一人の少女に抱えられて逃げていくのが見えていたが、
母は何も言わない。それどころではないと、わたしも母も理解していた。

32黒白:2006/12/07(木) 20:04:58 ID:gW6263Ic
眼前に影のように立つこの神像は、まさしく脅威だった。
わたしが立ち上がるまで、黒い神像は不動の姿勢を保っていた。
その背丈はわたしのこの身体とほとんど同じくらい。
女性的なフォルムに翼の生えた人型という、同系統の造形。黒と銀の色彩だけが、対象的だった。
わたしが身体を預かっているこの神像と関連があることは、ほぼ間違いなかった。

『―――お姉、様』

だから、突然そんな声がしても、わたしはさして驚かなかった。
むしろ、ひどく納得のいく感じがしたものだ。
おそらく、わたしを受け容れたウルトリィという白い神像のことを姉と呼んでいるのだろう。

「な、何や!? どっから声がしとる!?」

母が再び取り乱している。
わたしを姉と呼んだ声は、わたしの中にも響いていた。

『黒いのが喋ってる……んだと、思う』

ほぼ確信に近いものがあったが、あえて語尾は濁しておく。
母は、わたしが何かを断言することを好まなかった。

「何やて……!?」
『その声……お姉様も誰かを乗せてるのね?』

高い、澄んだ声。その声は、いくつかの事を示唆していた。

33黒白:2006/12/07(木) 20:05:29 ID:gW6263Ic
まず、一つめ。
通常、この神像はウルトリィやあの黒い神像のように、独自の人格を持ったまま行動するらしい。
だが、契約は紡がれた、と告げたあの時以来ウルトリィは眠り続けており、こうして呼びかけられていても
一向に目覚める気配はなかった。わたしのこの身体はイレギュラーというわけだ。

そしてもうひとつの事実。
「お姉様も」と口にしたということは、向こうの神像にも誰かが、母のように乗り込んでいるのだ。
そして、わたしたちの場合と照らし合わせるならば、それは、この殺し合いの参加者である可能性が極めて高い。

『聞いて、お姉様!』

だが声は、続けてこんなことを言った。

『おば様……カミュの契約者は、殺し合いなんてしたくないって言ってるの!』

黒い神像はカミュというのだろうか。
しかしそれよりも、その声が告げた内容に、母は目を丸くしていた。

『お姉様が選んだなら、そっちにいる人もきっと、こんな殺し合いなんて嫌だって思ってるよね?
 お願い、おば様のお話を……』

黒い神像、カミュの声は、そこで途切れた。
母が、お腹を抱えて笑い出したからだ。心底おかしそうな、爆笑。
その笑い声に、カミュが腹を立てたような声を上げる。

『な、なにがおかしいの!?』
「……嬢ちゃん、あんま笑かしたらあかんで」

不意に笑いを収め、母が奇妙に低い声で言った。

34黒白:2006/12/07(木) 20:06:01 ID:gW6263Ic
「姉ちゃんってな、このロボのことかいな」
『……え?』
「……観鈴にこの身体くれた、お人良しでアホな、このけったくそ悪い白ン坊のことかって聞いてんねや」

こういうとき、母の言葉はひどく判りづらい。
頭に血が登ると、自分の視点からしか物を言えなくなる人だった。
だからわたしは、一応のフォローを入れておく。

『が、がお……ウルトリィさんのこと、悪く言ったらダメだよ……』
『……ウルトリィさん、って……。それに、その声……?』

戸惑ったようなカミュの声。
どうやらカミュには、わたし自身が発する声と、乗っている人間のそれとの違いが判るらしい。
そんなことを考えた時、新たな声がした。

「―――その白い機体が、少なくとも今はあなたのお姉さんではないということよ、カミュ」

女性の声だった。
若々しい張りはあったが、中年と言っていい頃合だろう。おそらくは、母と同年代。
言葉からして、察しは良さそうだった。

『おば様……』
「観鈴、というのは……この名簿によれば、神尾観鈴さんのことかしら。
 なら、そちらに乗っているのは神尾晴子さん……違いますか?」

少し驚いた。
母の言葉を手がかりに組み立てれば、その結論にたどり着くのはそう難しいことではなかったが、
それにしても答えを出すのが速い。
母にしても、それは意外だったらしい。ひとつ舌打ちをして、忌々しげに口を開く。

35黒白:2006/12/07(木) 20:06:22 ID:gW6263Ic
「……どうも、よろしゅうに。そちらさんは?」
「はじめまして。柚原春夏と申します」

素直に答えが返ってくる。
カミュという力に護られている安心感なのか、それとも単に育ちがいいのかは分からない。
勿論、偽名ということも考えられるが、先程のカミュの言葉を聞く限りではその可能性は薄いかもしれない。

「……で、その柚原さんが、うちに何ぞ用かいな」

警戒心をむき出しにして母が訊ねる。

「お嬢さんと合流されたのですね。おめでとうございます」
「……そら、どうも」
「ただ、どういったいきさつかは存じませんが、お嬢さんは少し……。
 その、変わった状況にあるようにお見受けしますが」
「……で?」

何かを堪えているような、低い声。よくない兆候だ。
母は、こうした形式ばった物言いが何よりも嫌いだった。
眉間に皺を寄せた母が爆発するより前に、わたしは緩衝材となるべく口を挟んだ。

『にはは……ご丁寧に、どうも』
「……観鈴、大人同士の話や。黙っとき」

苛立ちの矛先が、上手くわたしの方へと向いた。
同時にわたしを子供扱いすることで、母は自尊心と体面を思い出すことができる。
落ち着きを取り戻した母の声を聞いて、わたしは胸を撫で下ろす。これでいい。

「これは家庭の問題や。口、挟まんとってくれるか」
「……」

36黒白:2006/12/07(木) 20:06:51 ID:gW6263Ic
母の無茶な言い様に、さすがに二の句が継げなかったらしく、一瞬の沈黙が訪れる。
しかし、春夏と名乗った女性はどうにか言葉を続けた。

「……申し訳ありません。ただ、私で何かお力になれることがあれば……」
「結構や」

ぴしゃりとはねつけるような、母の厳しい言葉。

「言いたいことがそれだけなら―――」
「分かりました。では、単刀直入に言います」

春夏さんの声音が変わる。これまでよりも、少し強い調子。
思ったよりも、気の強いひとなのかもしれない。

「私も……娘を、捜しています。
 娘を捜し、そして護るために、こうしてこの子……カミュにも協力してもらっています」

そこで一旦言葉を切る。
軽く息を吸い込むような気配の後、春夏さんは一気に言葉を吐き出した。

「身勝手を承知で、お願いがあります。
 そちらの……観鈴さんとあなたの力を、娘……このみを捜すために、貸してはいただけないでしょうか」
「……」

母はそれを、腕組みをしながら黙って聞いている。

「初めは、あなたに戦いをやめてもらおうと思いました。
 ……その、事情はわかりませんが、あなたや私の持つこの力……この子たちの力は、人に向けられるべきではないと、
 そう思いました。ですから、戦いを止めようと割って入りました」

37黒白:2006/12/07(木) 20:07:33 ID:gW6263Ic
理由はどうあれ水を射されることが大嫌いな母だったが、しかし春夏さんの言葉を聞いても表情は変わらない。
ただじっと正面に立つカミュと、おそらくはその中にいる春夏さんを見つめている。

「けれど、お話を伺って……あなたが、娘さんのいらっしゃる方だと、この島で娘さんを見つけられた方だと知って……、
 無理を承知で、お願いしようと思いました」

そこで少し言いよどんだ春夏さんだったが、意を決したように続ける。

「卑怯な物言いですが……同じ、母親として」

その言葉に、能面のようだった母の表情に、初めて変化が現れた。
ぴくりと、眉を上げたのだった。

「あなたが、娘さんを護るためにその力を使われる気持ち、よくわかります。
 ですが……」
「―――もうええわ」

吐き棄てるような母の声が、春夏さんの言葉を遮っていた。

「もうええ。もう充分や」
「で、でしたら……」
「……ざけんなや」

縋るような春夏さんの声を、一刀の元に斬り捨てる。

「よくわかるぅ……? ハ、あんた、なぁんもわかってへんわ。
 ちぃっとでもわかっとったら、そないなアホなこと、よう言われへん」
「な……」
「一緒に娘を捜してくれ、やって……? 笑えん冗談も大概にせぇや」

38黒白:2006/12/07(木) 20:07:59 ID:gW6263Ic
心底から嘲るような、母の声音。

「捜してどないせぇっちゅうんじゃ。諸共ぶっ殺したろか? ……それも悪ぅないなぁ」
「……ッ!」
「オマケに何や、同じ母親としてぇ? ……死なすぞボケ」

ドスの聞いた声に、春夏さんが絶句する。

「おのれに母親語られたないわ。うちの観鈴と、おのれんとこの、なんや、このみちゃんか?
 仲良しこよしで嬉しいなあ、ってか。ドタマ沸いとんちゃうか?
 それからどないすんねや。くじ引きでもして誰が死ぬか決めるんか。
 誰ぞ死なんと終わらんで、この腐れたゲームのド畜生は」
「それは……」
「ええ加減にせえよ。なら今、ここでぶっ殺したる方が、ナンボか後腐れないっちゅうもんやろ」
「……」
「安心せえ。可愛いこのみちゃんもすぐにそっち送ったるわ。
 観音様の前で親子水入らずや、好きなだけしたったらええがな」

おかしそうに笑う母の表情には、紛れもない悪意と侮蔑が浮かんでいた。
声音に滲み出す、その負の感情を感じ取ったものか、春夏さんはしばらく黙り込む。

『おば様……この人、もう……』
「―――春夏さん、でしょ。カミュ? ……分かってる」

その、何かを飲み込んだような春夏さんの声に、母が敏感に反応する。

「お喋りは終いやな。……お互い、可愛い娘のために気張って殺し合おうや」
「そうね。……私は、あなたを止めるわ」
「……観鈴」
「カミュ」

39黒白:2006/12/07(木) 20:08:16 ID:gW6263Ic
同時に、声が響く。

「―――飛んだり」

翼を広げ、大地を蹴り、大空に舞い上がったのにも、ほとんど差はない。
見上げる空から降りしきる雨が、顔に当たって痛いくらいだった。
瞬間といっていい速さで、わたしたちは何らの遮蔽物もない空間に占位する。

「ブチかましたれ、観鈴!」

母の声を合図に、わたしは急加速してカミュへと突進する。
こんな身体を得たとはいえ、わたしが格闘技の達人になったわけじゃない。
ただこの速度と重量を活かした体当たりだけが、有効な攻撃手段だった。
だが、その突進はあっさりと回避される。

「カミュ」
『うん、春夏さん』

カミュの広げられた片翼が、小さく畳まれる。
空中でバランスを崩し、斜めに傾ぐカミュ。
たったそれだけで、わたしは目標を見失っていた。

「な……もう一度や、観鈴!」

言われ、急制動から反転し、再度加速する。
しかし第二波もまた、最小限の動きでかわされる。

「く……何でや、なんで当たらん!」

40黒白:2006/12/07(木) 20:09:13 ID:gW6263Ic
苛立ちを隠せない母の声。
しかし、わたしには最初の突進を回避された段階で理解できていた。
これは、勝てない。動きが違いすぎる。

おそらくは、春夏さんというひとが細かい動きを担当しているのだろう。
わたしはこの身体を、文字通り手足のように動かせるが、しかし元の身体と大きく異なっている
その重量や慣性のバランスは、如何ともしがたい。
感覚的に飛ぶことや加速することはできても、振るった腕に逆に振り回されることまでは避けられないのだ。
カミュの場合は、春夏さんが操縦することでその辺りをカバーしているのだと、そう思う。
まさかこういった神像の操縦に熟練していたわけでもないだろうが、ともあれ春夏さんは
それを見事にこなしているようだった。

そして勿論、母にそんな技能はない。
操縦桿を握ることすらしていなかった。
結果、わたしの突進は何度も空しく宙を裂き、対して無傷のカミュはまるで雨に打たれることを
楽しんでいるかのように、悠然と夜空に漂っているのだった。
と、春夏さんの声が、隔てられた距離を感じさせないほどクリアに響いてきた。

「……カミュ」
『うん……お姉様の身体だけど、あれはやっぱりお姉様じゃない。
 ……これ以上、あの身体を使わせておくわけには、いかないよ』
「……いいのね」
『うん。……術法で、決める。その間、お願い』
「わかった」

やり取りを終えると、カミュの声が消えた。
代わりに響いてきたのは、低く重々しい、何かの呪文のような声。

「こ、今度は何や!?」

41黒白:2006/12/07(木) 20:10:29 ID:gW6263Ic
母が憔悴したような声を上げる。
必殺の突進を幾度も回避され、力の差を見せつけられた格好の母は、明らかに疲弊していた。
その声を聞いて、わたしは決意を固める。

―――ああ。
今の母が、このひとに勝てる道理がない。

術法、というのはこの呪文めいた声によってもたらされるのだろう。
やり取りから判断するならば、おそらくは、必殺技のような何か。
ならば、時間はそう残されてはいなかった。

わたしはこの身体をカミュの方へと向け、しかしこれまでのような急加速ではなく、ゆっくりとした速度で移動させはじめる。
予測していない動きに戸惑ったのは、むしろ母の方だった。

「何や、観鈴……!? どないしてん、突っ込んだらんかい……!」

母には答えず、わたしは空中でカミュに正対すると、静止した。
春夏さんとカミュ、そして母の視線を感じながら、全身で雨を受け止めるように、両手を広げていく。
見えない十字架に磔刑に処されているかのような格好で、わたしは声を出す。

『助けて、ください』

それは、赦しを乞う言葉だった。
一番最初に反応したのは、母だった。
驚いたような、怒っているような、奇妙に裏返った声で叫ぶ。

「な……何を言うてんねん、観鈴!? どないしてん!?」

42黒白:2006/12/07(木) 20:10:53 ID:gW6263Ic
それにはやはり答えず、わたしはカミュと、その中にいる春夏さんをじっと見つめる。
いつの間にか、カミュの呪文めいた声は止まっていた。
身体の表面を雨粒が叩く音だけが、静かに辺りを包んでいる。
しばらくの沈黙の後、春夏さんの落ち着いた声が響いた。

「……どういう、ことかしら」

その声に警戒するような色はない。
むしろ、何か既知の契約事項を確認するような、そんな声音だった。
だからわたしは、その察しの良さに感謝しながら、言葉を続ける。

『お願いします。わたしはどうなっても構いません。
 ……だから、お母さんだけは、助けてあげてください』

淡々と、わたしは告げる。

「な……!」
「……」

驚愕する母と、沈黙する春夏さん。
予想に違わぬ反応だった。

『お母さんは、わたしのために悪いことをしようとしてるんです。
 ……だから、わたしがいなくなれば、お母さんはもう悪いことをしません』

春夏さんの言葉を借りるなら、卑怯な物言いだった。
これは茶番劇だ。これまでに感じた春夏さんの善良さを利用し、そして母とわたしの関係を理解した彼女が
決してこの申し出を無視できないとわかった上での、ひどく打算的な命乞いだった。
だが、春夏さんはこんな茶番劇にもきっと律儀につきあってくれるだろう。
短いやり取りの中でも、彼女がそういう人間であろうことは、伝わってきていた。


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