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試験投下スレッド

1管理人◆5RFwbiklU2 :2005/04/03(日) 23:25:38 ID:bza8xzM6
書いてみて、「議論の余地があるかな」や「これはどうかなー」と思う話を、
投下して、住人の是非をうかがうスレッドです。

293最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その4 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:57:09 ID:Hw7b583Y
「甘いな」
 振り向きもせずニヤリと笑うのはフォルテッシモ。 背後にまで罅割れを広げ、壁を作ったのだ。
 油断することを知らないその体は、彼に一分の隙も作らせない。
 全てを遮断するその壁は、ヒースロゥの渾身の一撃をも楽に受け止める。
 そして、彼が指を軽く動かすと同時に鉄パイプは砕け、ヒースロゥは吹っ飛ばされ鉄骨に激突する。
「ガハッ!」
 たたき付けられた衝撃でくぐもった声が漏れる。
「お前の負けだ」
 目の前に、威風堂々と最強が立ち塞がる。
 ヒースロゥは殺されるだろうと思い、覚悟を決めた―――

「くたばるにはまだ早い。
 ――お前には見込みがある。あの男と同じように、俺の敵になる見込みが」
 フォルテッシモの言葉に、ヒースロゥは唖然となった。
「おまえは、まだあるものにあっていない。その殻を破る前に死んでしまうにはあまりに惜しい」
 フォルテッシモは言葉を続ける。
 その言葉の真意に気づくと、ヒースロゥは激怒した。
「貴様……俺に生恥をさらせというのか!?」
 それは彼にとって屈辱に他ならなかった。
 フォルテッシモは無視してさらに続ける。
「おまえはあるものを探せ。そいつは、十字架のペンダントの形をしている。
 それを手に入れ、そして再びあったとき、今度こそ望み通り、息の根を止めてやろう」
 言葉を伝えた後、最強は風に背を向け歩き出す。
 その顔にはこれ以上ないほど凶暴な笑みが貼りついていた。
(あの男、いわばもう一人のイナズマといったところか……楽しみにしてるぞ)
 彼は天を仰ぐ、朝日の輝きが顔に当たる。
 しかし彼はその輝きに対しても不敵な笑みを浮かべた。
 それはまるで、その中にいる神に向かって『なかなか洒落た贈り物だ――』
と、感謝しているようだった。


 それに対しヒースロゥは激怒した。
 情けをかけた敵に対し、そして何よりも、弱い自分に対し。
 その心に広がる感情はその昔、似たような場所であの敵に出会った、ある男によく似ていた。


 再び彼らが出会う場所、それは宿命のみが知る……

294魔界医師の思考遊戯(1/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:48:13 ID:IUdB/xsA
「……ふむ」
 魔界医師はそう呟くと、終、志摩子へ視線を巡らし、次いで自分の腕に目を落とす。
 先程の対話の後、志摩子が辛そうにうつらうつらとしていた為、眠るように勧めると、すぐに寝息を立ててしまっていた。
 終も同様に、本人曰く「竜化は疲れる」とのことで、カーラに無茶をされた所為もあってか志摩子が眠りにつくとすぐに倒れてしまう。
 それでも、志摩子より先に眠ってしまわないあたり、大した精神力と言えた。或いは、心がけが徹底しているのか。
「さて……では“実験”を開始してみるとするか」
 こんな状況でも知識欲を失わないあたり、流石は魔界医師、といったところであろうか。

 “実験”を始めたメフィストは、左腕の袖を捲ると、おもむろに右手の指をその腕に突き刺す。
 ぬぷり、というなんとも言えない音と共に、その指が腕にめり込んでいく。
 ――心霊医術。一般にそう呼ばれる、霊的治療術。
「……む?」
 数秒程も指を動かすと、メフィストがなんとも言えない奇妙な表情になる。
 敢えて言うならば、白米だと思って噛み潰したら苦虫だった、というところであろうか?
 奇妙な表情もつかの間、またすぐに無表情へと戻ると、魔界医師には似つかわしくない溜息のような吐息を漏らす。
「これでは、いかんな」
 視線の先は、今し方“実験”を行っていた自分の腕。
 そこには、指を潜り込ませていたのときっかり同じ場所に五つ、小さな痕が残っていた。
「自らの身体でも、これか。他人相手の場合、苦痛を与えてしまうかもしれんな……
 最悪、無用に傷を付けてしまうかもしれん。これでは、治療に使うことは諦めるか」
 治療に完璧を求める魔界医師としての美意識が、普段とは似ても似つかない無様な業(わざ)を許容しない。
 メフィストは、それを封印することに決めた。

295魔界医師の思考遊戯(2/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:48:55 ID:IUdB/xsA
「次は……」
 言い、立ち上がると、舞踏でも踊るかのように動き出す。時に、ゆっくりと。時に、激しく。
 衣擦れの音以外、足音を立てることがないのは流石、と言うべきだろうか。
 しかし、メフィストはやはり――
「…………これも、いかんな」
 どうにも奇妙な表情を作る。
 “気”を応用して、身体の操作能力を上昇させることが出来ないのだ。
 指先等、一箇所に集中すればできないこともないが、それでも先程の様に不完全なものにしかならない。
「では、最後に……」
 メフィストは、“気”を掌に集中させていく。いや、ここは解り易く差別化して、氣と表現した方がいいだろうか。
 シュッ、という音と共に、メフィストの右手が、手刀の形に振られる。
 肌をチリチリと焦がすような見えない圧力が走ると、木陰の落ち葉を散らす。
 ――が、散らしただけ。圧力の中心にあった葉は四散したが、その周囲の葉は散っただけで終わってしまう。
「やはり駄目か」
 そう言って、メフィストは元居た場所に座り込む。「まぁいい」と呟くと、今度は思考に没頭する。
 確定事項、推理事項、断片的な情報、僅かな関連性。
 あらゆるピースをあらゆる角度で結びつけ、論理的な事実から単なるこじつけまで、無数の可能性を組み立てていく。
「知識、知性までは制限を設けなかった所を見ると、魔法的な概念しか制限できていないのか? それとも……」
 魔界医師の思考遊戯は、二人の寝起きまで止むことはない。

【C-4/一日目/13:00】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

296魔界医師の思考遊戯(3/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:50:03 ID:IUdB/xsA
【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

297Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:27:27 ID:MK/bu.h6
(なにをやってるのかしらね、私は……)
 心が暗く沈んでいくのを自覚しながら、パイフウはその長い髪を掻き分けた。
 黒髪が水のように空を滑る。
 ただそれだけの動作が絵になるほど、彼女の美貌は際立っていた。
 もっとも、唯一のギャラリーは見惚れるような迂闊さとは無縁だったが。
 パイフウの物憂げな黒瞳が自身の手元を注視する。
 117人の名前が連なった名簿。
 その内の36個は斜線が引かれ、この世界から削り取られている。
 パイフウ自身が削った名前は――彼女の認識とは一人分違い――わずかに二つ。
 彼女の背景を考えるなら、間違いなく少ないといえる。
(……歯車が狂ってる。重症ね)
 パイフウは静かに認めた。
 森では素人と大差ない二人相手に骨を折られ、逃亡し、どちらか片方さえ殺せなかった。
 少女の催眠術に手を焼いたのは確かだが、普段なら少女の接近にわけなく気づいたはずだ。
 少年とあわせて、瞬きする間に殺せる程度の障害。
 それを越えられなかった理由はなにか。
(技が鈍っている以前の問題。今の私じゃ素人ですら殺せない。
 ……そんな私がこの男を相手にしたら、一分と持たないでしょうね)
 黒衣の騎士は堰月刀を握ったまま、黙して地面を見ている。
 休んでいるようでその実隙がない。
 こちらが動けば刹那の間に対応するだろう。
 さらには、地下に行けばこの男の主とやらがいる。
 思い出すだけで背筋が冷たくなるあの威圧感。
 見えざる棘のように肌を、肉を刺し貫く鋭利な冷気。
 心臓を鷲づかみにされたような感触がパイフウに警鐘を鳴らしている。
 地下にいる化け物に、関わるべきではないと。
 もちろん自分から関わる気はなかったが……
「そんなことを気にする時点で、らしくないんでしょうね」
 空気に溶けるほど淡く、パイフウは自嘲の笑みを浮かべた。

298Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:28:16 ID:MK/bu.h6
 
 会話すらなく教会内で時間が過ぎる。
 大雑把に推測して、放送から一時間といったところか。
 左の鎖骨はいまだに繋がらない。
 もともとそう簡単に治るものでもないが、治癒が遅いと感じるのも事実だった。
(気が弱まってるのかしら)
 ヒーリングにはいつもと同じだけの厚みを持った気を練っている。
 それにも関わらず、作用する効果自体は弱まっているようだった。
(こういった違和感の積み重なりが歯車を狂わせている。
 気がつかないうちに、他の身体能力も下がっていたのかもしれない)
 この島に来てからの戦闘を回想する。
 軟派な金髪の男は動けないところを蜂の巣にしたので除外。
 城での乱戦、住宅街での奇襲、森での遭遇戦。
 なるほど。
 あらためて考えてみれば、普段の自分と比べて動きがわずかにずれている……ような気がする。
 まあ、とっかかりになればなんでもいい。
 パイフウは一つうなずくと、自身の能力を下方修正して思考を打ち切った。
 後は骨折が治るまでやることがない。
 黒衣の男と地下を含め、周囲への警戒は怠らないが。
  
 ステンドグラスをくぐった陽光が、柔らかくパイフウを包んでいた。
 その光の暖かさは、彼女の職場たる保健室で感じるそれに似ている。
(エンポリウム、か。あの子ならどうするのかしらね)
 家ともいえる街を人質に取られて、殺人を強要されたとしたら。
 火乃香がどうするか、パイフウにはわからなかった。
 エンポリウムを見捨てられるとも思えなかったし、マーダーとして暗躍するとも思えなかった。
 ディートリッヒらを倒そうとするのが一番ありえそうではあるが、現状では不可能だ。

299Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:29:03 ID:MK/bu.h6
 パイフウの視線が自身の左手に注がれる。
 殺し合いにおいて致命的なハンデを負った左腕。
 動かそうとして生じた激痛に眉一つ動かさずに耐え、パイフウは胸中で苦笑した。
(やっぱりあの子に汚れ役をやらせるわけにはいかないわ)
 そもそもディートリッヒが約束を守るかも怪しいが、そこは相手を信用するしかない。
 自分を見限ったディートリッヒが火乃香に接触することだけは、絶対に避けたかった。
 なんせまだ三人しか殺していないのだ。
 残念ながらこれ以上休んでいる時間はないだろう。
 不安要素を残したまま、パイフウは行動を決意した。

「行くわ」
「そうか」
 唐突なパイフウの台詞に、黒衣の騎士は短く答えた。
 パイフウの肩が完治していないのは見抜いているだろうが、特に言及してくることはない。
 アシュラムにとっては主の眠りさえ妨げなければどうでもいいのだろう。
 パイフウは長い黒髪を手でかきあげると、入り口に向けて歩き出す。
 いまだ肩は治っていないので、ウェポン・システムを右手で扱えるようホルスターはずらした。
 一流を相手に格闘戦はつらいかもしれないが、早撃ちと組み合わせれば切り抜けられるだろう。
(ディートリッヒは気に入らないけれど……仕方ないわ。尻尾を出すまで待ちましょう)
 もう余計なことを考える必要はない。
 主催者も参加者も関係なく、一人を除いた、この島にある全ての命をただ摘み取ろう。
 最高性能の殺人機械として。
 文字通りの“生き人形”として。
 いつもどおり無感情に、この世界を俯瞰するだけだ。
 淡い陽光の中扉に手をかけて、美しき死神は笑いもせずに囁いた。

「次に会うときは、あなたの主も含めて殺すわ」
 
 アシュラムは動じず、沈黙を保った。
 パイフウは揺るがず、扉をくぐった。
 教会が、再び静寂に沈んだ。

300Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:29:48 ID:MK/bu.h6
【D-6/教会/1日目・13:10】

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る


【パイフウ】
[状態]左鎖骨骨折(多少回復・処置中断)
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
[道具]デイバック(支給品)×2
[思考]1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

301魔界医師の思考遊戯ver2(1/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:45:25 ID:IUdB/xsA
「……ふむ」
 魔界医師はそう呟くと、終、志摩子へ視線を巡らし、次いで自分の腕に目を落とす。
 先程の対話の後、志摩子が辛そうにうつらうつらとしていた為、眠るように勧めると、すぐに寝息を立ててしまっていた。
 終も同様に、本人曰く「竜化は疲れる」とのことで、カーラに無茶をされた所為もあってか志摩子が眠りにつくとすぐに倒れてしまう。
 それでも、志摩子より先に眠ってしまわないあたり、大した精神力と言えた。或いは、心がけが徹底しているのか。
「さて……では“実験”を開始してみるとするか」
 こんな状況でも知識欲を失わないあたり、流石は魔界医師、といったところであろうか。

 “実験”を始めたメフィストは左腕の袖を捲ると、おもむろに右手の指をその腕に突き刺す。
 ぬぷり、というなんとも言えない音と共に、その指が腕にめり込んでいく。
 ――心霊医術。一般にそう呼ばれる、霊的治療術。
 患部に直接指で触れ、器具無しに完治させてしまうそれは、しかし……
「……む?」
 数秒程も指を動かすと、メフィストがなんとも言えない奇妙な表情になる。
 敢えて言うならば、白米だと思って噛み潰したら苦虫だった、という感じだろうか?
 奇妙な表情もつかの間、またすぐに無表情へと戻ると、魔界医師には似つかわしくない溜息のような吐息を漏らす。
「これでは、いかんな」
 視線の先は、今し方“実験”を行っていた自分の腕。
 そこには、指を潜り込ませていたのときっかり同じ場所に五つ、小さな痕が残っていた。
「自らの身体でも、これか。他人相手の場合、苦痛を与えてしまうかもしれんな……
 最悪、無用に傷を付けてしまうかもしれん。これでは、治療に使うことは諦めるか」
 治療に完璧を求める魔界医師としての美意識が、普段とは似ても似つかない無様な業(わざ)を許容しない。
 メフィストは、それを封印することに決めた。
「恐らくは、私の“声”も同じか」
 メフィストの、声。魔界医師の、声。言霊によって相手の精神に絶対的な安らぎを与える技術も、不思議な制限の対象になっているに違いない、と推測する。
 ましてや他人の精神を縛るなど、以ての外だろう。

302魔界医師の思考遊戯ver2(2/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:46:09 ID:IUdB/xsA
「次は……」
 言い、立ち上がると、舞踏でも踊るかのように動き出す。時に、ゆっくりと。時に、激しく。
 衣擦れの音以外、足音を立てることがないのは流石、と言うべきか。
 しかし、メフィストはやはり――
「…………これも、いかんな」
 どうにも奇妙な表情を作る。
 “気”を応用して、身体の操作能力を上昇させることが出来ないのだ。
 指先等、一箇所に集中すればできないこともないが、それでも先程の様に不完全なものにしかならない。
 恐らく戦闘ともなれば、集中する時間も取れずに己の筋力のみで闘うことになる。
 しかし、メフィストは気にもしていないのか、更に“実験”を続ける。
「では、最後に……」
 メフィストは“気”を掌に集中させていく。
 シュッ、という音と共に、メフィストの右手が、手刀の形に振られる。
 肌をチリチリと焦がすような見えない圧力が走ると、木陰の落ち葉を散らす。
 ――が、散らしただけ。圧力の中心にあった葉は四散したが、その周囲の葉は風圧に散っただけで終わってしまう。
「やはり駄目か」
 そう言って、メフィストは元居た場所に座り込む。「まぁいい」と呟くと、今度は思考に没頭する。
 確定事項、推理事項、断片的な情報、僅かな関連性。
 あらゆるピースをあらゆる角度で結びつけ、論理的な事実から単なるこじつけまで、無数の可能性を組み立てていく。
「知識、知性までは制限を設けなかった所を見ると、魔法的な概念しか制限できていないのか?
 それとも、主催者に都合の悪い記憶だけを狙って消す事が出来るというのか……?」
 口にはしてみるが、記憶に欠損は見つからない。今までに書物で仕入れた知識は全て頭に残っている。完璧だ。
「だが一応、せつらに出会うことがあれば記憶の確認をしてみるか」
 それを最後に、魔界医師は思考のパズルに没頭する。

 しかし、魔界医師は気付いていない。
 書物による知識が残っていても、それ以外から得た知識は一片たりとも残されていないことに。
 そして、「思い出せない」という意識すら覚えることなく消された記憶があることに。

 それでも魔界医師の思考遊戯は、二人の寝起きまで止むことはない。

303魔界医師の思考遊戯ver2(3/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:46:52 ID:IUdB/xsA
【C-4/一日目/13:00】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

304真実と事実(1/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:56:03 ID:14CXvzZA
 目を覚ますと、木製の天井が映った。
(ああ……戻ってきたんだったわね)
 朦朧とする意識を引きずって、クリーオウと空目の待つ保健室へ辿り着いたところまでは覚えている。
 道中、他の参加者に出会わないかどうか気が気ではなかったが。
 毛布を被せて貰い、一言二言話をして……そこで安堵してしまったのか、どうやら私は気を失ったらしい。
 床に倒れていたはずだが、いつの間にかベッドに寝かされていた。
 身体の横に重みを感じる。涙でぐしゃぐしゃになった顔のクリーオウがしがみついていた。
 他に、サラとピロテースの姿が見える。彼女達も無事戻ってきたようだ。空目とせつらはどうしたのだろう。
「クリーオウ……」
 手を伸ばして頭を撫でてやる。
「クエロ! よかったぁ……気がついた……」
 泣き笑いの顔で安堵の声を漏らすクリーオウに、こちらも弱弱しく笑いかける。
 図らずも少し睡眠をとったというのに、身体の疲労は取れていなかった。
 ゼルガディスの出したあの青白い炎に触れてからだ。いまいましい。
 ……そう、彼――ゼルガディスのことをごまかさなくては。

「だから言ったろう。気を失っているだけだと」
「だ、だって……!」
 枕元にやってきたサラとクリーオウの会話。
 この調子では、私が気を失ったことでこの子は大騒ぎしていたに違いない。
「サラ、今の時刻は……?」
「12:10。今さっき、放送でゼルガディスの名が呼ばれた。……何があった?」
 ゼルガディスの名が出た瞬間に、服の裾を掴むクリーオウの手がびくっと震えた。
 ごめんねクリーオウ、恨むなら彼の用心深さと運の悪さを恨んでね。
「……ええ、話すわ」
 精一杯沈痛な表情を浮かべ、私は皆に『事の顛末』を語りだした。

305真実と事実(2/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:56:48 ID:14CXvzZA
 ――周辺エリアで、二人の参加者の死体を見つけたこと。
 その参加者の支給武器と思われる、"魔杖剣・贖罪者マグナス"を発見したこと。
 魔杖剣についてはマニュアルがあったことにした。今後、彼女達の前でこれを使う場面はきっとある。
 そして、元いた世界での敵――ガユスとの遭遇――

「なるほど、相手を騙し油断させて寝首を掻くのがその男のスタイルか」
「ええ、でもそれを知っている私がいたから……」

 ――友好的態度で接してきたガユスと連れの男――彼は緋崎と呼んでいた――は態度を豹変。
 私は緋崎の魔術を不意打ちで食らってしまい、今のこんな状態に――

「体内の精霊力に乱れがある……というより、酷く弱っているな。私も精神を磨耗させる精霊を呼べるが、それのさらに強力なものを受けたのだろう」
「そんな……それ、大丈夫なの?」
「しっかりと、まとまった時間の睡眠をとれば問題ないはずだ」

 ――戦闘が始まった。
 だが、私はほとんど前後不覚の状態で、実質二対一。
 ゼルガディスは私を足手まといと断じて逃げろと命じ、自身は私が逃げる時間を稼ぐためにそこに残った。
 そして、微かに聞こえた、彼の断末魔の声――

306真実と事実(3/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:57:34 ID:14CXvzZA
「ごめんなさい……私が、もっと注意を払っていれば……こんなことにはならなかったのに……!」
「クエロ……」
 嗚咽し、取り乱す私をクリーオウが抱きしめてくれる。
 声を出すと自分も泣き崩れそうなのだろう。身体が小刻みに震わせ、必死に声を殺しているのが分かった。
「――それは彼が自分で判断して取った行動の結果だ。あまり気に病まないことだね」
 扉を開けてせつらと空目が入ってきた。
 せつらはバケツを、空目はポットとトレイを携えている。載ってるのは……インスタントコーヒーの瓶?
「二人ともごくろう。……自分で探せと言っておいて言うのもなんだが、よく見つけたな。空目」
「職員用の給湯室で見つけた。ガス――火種も生きていた」
 サラが指示を出して持ってこさせたらしい。
 何に使うのかと思ったが、バケツになみなみと入ったお湯を見て、私の汚れを落とすためだと気づいた。
 転がって服の炎を消したり、ここへの道中幾度か転倒していたことで、かなり薄汚れてしまっているはず。
 ……というか、今気づいたけど下着姿じゃない。毛布で見えないけど。
「僥倖だな。さあ、男性陣は向こうを向いているのだ。こちらを向いたら同盟破棄とみなすのでそのつもりで」
「それは大変だ。お湯は水道水を暖めたものですが、よろしいんですね?」
「一応私が浄化する。そこに置け」
 ピロテースがなにやらよく分からない言葉を紡ぎながら湯に触れる。
 一瞬それを興味深そうに眺めて、せつらはおとなしく窓の外に視線を移した。

307真実と事実(4/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:58:41 ID:14CXvzZA
「――ギギナ? それも危険人物か」
「ええ。ガユスの仲間で、こっちは戦闘狂よ。……そういえば放送では?」
「呼ばれていない。容姿を詳しく教えてほしい」
 保健室に常備されていたタオルで身体を拭きつつ、私はサラの疑問に答える。
 汗と土で汚れた身体が綺麗になっていくのはやはり心地よい。
 擦り傷や軽い火傷もあったと思うが、それらはピロテースが治したらしい。
 もっとも、「精霊を呼ぶ際の消耗が普段より大きいので多用はできない」そうだが。
「はじめに危険人物のリストも作っておくべきだったか」
 ギギナの特徴をメモしたサラがそう漏らした。
 今回のはリストがあっても避けられなかったと思うけど、それには賛成。
 それに、魔杖剣は手に入ったし、邪魔な男も始末できた。
 結果オーライとはいえ、悪い展開ではなかったわ。私にとってはね。
「誰か他に危険人物に心当たりのある者はいないか?」
「……特定の個人としてではないが」
 サラの言葉に、そう前置きしてピロテースが口を開いた。
「実は、森でゼルガディスの探し人を見つけた。死体だったが」
「というと……つまり、アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンか」
 サラが呟いた。その人も死んだということは、残る彼の知り合いはリナとか言う女性一人。
 精神的に強いかどうか分からないけど、下手をすると自棄になってゲームに乗りかねないわね。
 ピロテースがデイバッグから何かを取り出した。
 腕輪とアクセサリー。つまりは、アメリアの遺品だろう。
「そのアメリアの死因を探ってみたのだが、どうやら参加者の中にヴァンパイアがいるらしい」
 窓際で空目と缶詰談義をしていたせつらが反応した。
「詳しくはな……」
「同盟破棄」
「……振り向いてませんよ。詳しく話してくれませんか」

308真実と事実(5/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:59:48 ID:14CXvzZA
 せつらとピロテースの話を要約すると、こうだ。
 曰く、美姫という参加者がヴァンパイア――吸血鬼である。
 曰く、咬まれた対象はその眷属となり、血を求める危険な存在となる。
 曰く、アメリアには咬み跡があったにもかかわらず、眷属となってはいなかった。
 少ない情報だが、ここから導き出される結論は。
「アメリアを殺害したのは美姫ではない。他の吸血鬼か似たような存在が殺害した、ということか」
 美姫とその何者か。警戒すべき吸血鬼、もしくはそれに酷似したものが、最低でも二人以上いるということ。
 魔法、精霊、それに吸血鬼。本当に何でもありね、この世界は。
「ガユス、緋崎正介、ギギナ、美姫、謎の吸血鬼……最後のは容姿が分からないが、分かっている危険人物はこんなところか」
 サラがまとめつつコーヒーを差し出してくれた。
 礼を言って受け取り、一口飲む。……甘い。
 クリーオウはこれくらいが丁度いいのか、美味しそうに飲んでいる。
「糖分を摂取して眠るといい。起きたらまた行動開始だ」
「え、私は起きてるよ。皆が寝てる間、見張りを……」
「いいから寝るのだ。今のあなたに必要なのは休息だぞ、クリーオウ」
「それは皆のほう!」
 二人が口論しているうちに一気に飲み干し、ベッドに横たわる。
 疲れた身体と精神に暖かい飲み物とくれば、次に来るのは眠気だ。
 案の定、急激に眠くなってくる。
(悪いわね、ベッド一つ占領させてもらうわよ)
 言葉にするつもりだったが、それすらも億劫だ。
 心の中でだけそう言って、二人の声をBGMに私は意識を手放した。

309真実と事実(6/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 01:01:22 ID:14CXvzZA
【D-2/学校1階・保健室/1日目・12:25】
【魔界楽園のはぐれ罪人はMissing戦記】
共通行動:学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1と1/3。パンが少し減っている)。缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)
[思考]:みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康。感染
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式。《地獄天使号》の入ったデイバッグ(出た途端に大暴れ)
[思考]: 刻印の解除。生存し、脱出する。詠子と物語のことを皆に話す
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲労により睡眠中
[装備]: 毛布。魔杖剣<贖罪者マグナス>
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾(残り4発)
[思考]: ゼルガディスを殺したことを隠し、ガユスに疑いを向ける。
    集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
    魔杖剣<内なるナリシア>を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: 高位咒式弾の事を隠している

【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/アメリアの腕輪とアクセサリー
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存

310金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(1/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 06:57:15 ID:8OL21RyU
サラとせつらが地下連絡通路から出ると、そこは城の地下室だった。
争いの様子が無い――そもそも人が居ない――事を確認し、慎重に調査を始めると、
しばらくして彼らは、僅かに漂う血の臭いに気づいた。
そして、その臭いの元となっている部屋を見つけ、踏み込んだ。
「――またも死体か」
開け放たれた扉からは鼻をつく濃厚な血の臭いが漂っている。
これが僅かにしか感じられなかったのは、単に距離が遠かったからにすぎない。
この部屋の中でなら、例え嗅覚が塞がっていても舌で血の味を感じるだろう。
「これは酷いな、殆ど抵抗できずに撃ち殺されている。
最初に足を撃たれ、その後に蜂の巣にされたようだ」
サラは、金髪の男の死体を見下ろしながら言う。
「死後硬直は殆ど完了している。8時間近く経っているな」
「ドッグタグが付いています。軍人さんかな? クルツ・ウェーバー、だそうだ」
「その名前なら、6時の放送の時に名前が有った」
淡々と会話をかわしながら検屍を終え、遺留品を纏める。
まずは廊下に落ちていた粉々になった謎のアンプル。
サラは匂いを嗅ぎ……心当たりを感じて一舐めすると、呑み込まずに吐いて、言った。
「揮発性の強い興奮剤だ。アンプルが割られた時に、対処無しにそれを吸い込めば、
動揺して冷静な判断がしづらくなるだろうな。戦闘か交渉に使われたのだろう」
次に、クルツ・ウェーバーの物と思われるデイパック。
水はこれ以上要らないとしても、パンはもらっておくに越した事は無い。
そして、最後に……
「さて。……なんだろうな、これは?」
おそらくはクルツの支給品と思われる奇妙な筒を手に取る。
「なんでしょうね。実験してみたらどうですか?」
「そうだな、そうしよう」
即決実行。サラは筒を壁に向けると、迷わずスイッチを押した。そして――

「これは良い物ですね。僕にピッタリだ」
――せつらの声に思わず喜色が混じった。
今、この超人は、この島で得うる支給品の中でも最高の物に出会ったのだ。
すなわちそれは、秋せつらにブギーポップのワイヤーである。

311金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(2/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 06:58:04 ID:8OL21RyU
「やたらと物に恵まれてきたな、わたし達は。とんとん拍子が過ぎる」
「生きている人間にはとんと会えませんけどね」
一つ目の死体でのリサイクル。二つ目の死体の遺留品。
この二つの死体との出会いにより、彼らの装備は万全となった。
だが、裏を返せば、彼らはまだ死者にしか出会えていなかった。
「さっきの放送の者達も死んでいる公算が高いですし。物騒な事です」
11時になる少し前の、おそらくは何らかの支給品か、あるいは放送施設で行われた、
非戦の呼びかけ。それを遮った銃声。そして、悲鳴と断末魔。
それにより得られた情報も有ったが、同時にまた、(確定ではないが)人が死んだのだ。

「この調子で生者に会えなければ、人を捜そうにもどうしようもないな」
上級魔術師と魔界都市一の捜し屋が揃っても、人に会えずに捜し人を見つけるのは困難だ。
「この城、他にも人が居そうなんですけどねぇ」
「時間があれば念入りに調べるのだが」
時刻は11時を回った。
幾ら地下通路により安全且つ一直線の移動が出来るとはいえ、
そろそろ帰還を考えなければいけない時刻だ。
「この部屋を見たら最後にしよう」
扉を開いた。
その部屋は、またも血の臭いが漂っていた。
だが、そこには生者が居た。

312金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(3/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:02:54 ID:8OL21RyU
彼は傷を負い、その上に意識を失っていた。
それは危機的状況だった。
もちろん、その状況自体が極めて危険な事は言うまでもないが、
それに加え、彼の倒れていたエリアは半日足らずでゆうに5回もの殺し合いが発生した、
いわばこの殺人ゲームの過密地と言えるとんでもないエリアだったからである。
その割に死者が2人に納まっている事はむしろ幸運だろう。
他に歩く死者が出入りしたり、普通なら死ぬ瀕死人が転がっているが、それはさておき。

そんな、とんでもなく危険で不幸中の僅かに幸運な場所で、
半日足らずで二回も意識を失った不幸な青年は、今回も生きたまま目覚める事が出来た。
正しく地獄に仏と言うべき事であった。
ただ、その目覚めは強烈な刺激臭を伴っていたが。

「〜〜〜〜っ!?」
ツーンと鼻に来る強烈な刺激臭に無理やり夢から引きずり起こされ、
思わず飛び起き――
その時、彼は確かに「カーン」という澄んだ音と共に星を見た
――もう一度石床に逆戻りし、頭を打ち付け呻き声を上げた。
(な、何ですか、一体!?)
必至に状況を把握しようと試みる。
今、どこで、ぼくは、どうなっている? 何が起きた?
しばらく目を瞬かせていると、徐々に目が慣れてきた。
……目の前には、一組の美しい男女が立っていた。

一人は息を呑む程に美しい青年。
彼自身、整った美形と甘いマスクで同性には疎まれる人間だったが、
目の前の青年はそれとは別、同性でさえ文句の付けようがない美形だった。
しかし、その表情は茫洋と緩んでおり、そのおかげでバランスが取れていた。
もう一人はそれよりは劣るが、整った容姿の女性。
綺麗な白い肌。黒い髪には艶があり、瞳は深く神秘的な色合いの藍色をしている。
その表情はまるで感情の見えない鉄面皮であり、
左手には刺激臭の根源らしき薬品の浸みた脱脂綿を。そして、右手には――

313金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(4/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:03:43 ID:8OL21RyU
そして、右手には――フライパンが握られていた。
おそらくこれが、自分が起きあがり様に頭をぶつけた物の正体なのだろう。
(…………な、なぜ?)
その視線を受けて、彼女は「ああ、これか」とフライパンに目を落とした。
よく見ると、彼女の足下にはおたまも転がっていた。
「いや、地球という世界では、フライパンをおたまで叩いて熟睡者を起こすと読んで」
「それで、やってみようと?」
隣の青年が少し呆れた調子で尋ねると、彼女は大きく肯いた。
「この殺伐とした世界で円滑にコミュニケーションを取るには、場を和ませる必要が有る。
まず気付け薬で起こした後にフライパンをおたまで叩くつもりだったのだが……
急に起きあがってきて頭がぶつかりそうだったのでガードさせてもらった。いや、すまない」
この場にツッコミ人種――例えばダナティア皇女――が居れば全力で色々とツッコミを入れただろうが、
生憎とこの場には誰も居らず、無表情無感動鉄面皮な確信犯的ボケ役を止める者は居なかった。が。
「僕は古泉一樹と言います。誰かは知りませんが、初めまして」
「僕は秋せつらです。それにしても災難でしたね」
他2名、鮮やかなスルーに成功。
「わたしはサラ・バーリンだ。よろしく頼む」
元から冗談が滑る事に慣れているサラも、流れるように話に付いていく。
そういうわけで、この件はそういう事になった。

「ところで、あなたはアシュラムという人物に会った事は有りませんか?」
「アシュラムさん、ですか? 少なくとも名前を聞いた事は有りませんね」
「そうですか。外見は、黒い髪で……」
せつらはピロテースから聞いたアシュラムの外見を伝えたが、古泉はやはり首を振った。
「ではアメリアやリナ、オーフェン……あと、ダナティア殿下に会った事も無いだろうか?」
サラの言葉にも、古泉は首を振った。やはり、どれも知らない人物だった。
「お役に立てず、残念です。ところで僕の方からもお訊きしたいのですが……」
そして、古泉の捜し人もやはり、せつらもサラも知らなかった。
「出会ったら、あなたが捜していると伝えておきましょうか? 僕達は集団で人を捜している」
目の前の青年が危険人物でないという保証は無い。だから、言付けだけの提案をした。
それに対し、古泉は少し考えると、言った。
「……そうですね、お願いします。それと、『去年の雪山合宿のあの人の話』と伝えて下さい」

314金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(5/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:04:29 ID:8OL21RyU
古泉の奇妙な言付けを預かると、去り際にサラはデイパック一つ分のパンを取りだした。
「血臭がする場所に有った物が混じっているが、どうか受け取って欲しい」
「はあ、これはどうも」
首を傾げながら受け取る。
薬品を染み込ませたとかそういった様子は無い。紛れもない、支給品のパンそのままだ。
「だけど、何故です?」
「荷物が思ったより多くなったので、やはり少し減らそうと思ったのだ」
判らないでもない理由だ。パンは重さこそ無いが、体積は有る。
「さて、わたし達はそろそろ戻らないといけないな」
「そうですね。それでは、僕達は行くとします。
そうそう、捜し人もまた僕達の仲間と言えます。貴方が敵対する事にならないと良いですね」
裏を返せば、捜し人と敵対すれば、彼らとも敵対する事になると釘を刺したわけだ。
「では、ごきげんよう。あと、自力で銃弾を摘出したのは見事な物だが、包帯はキチンと巻いた方が良い」
「はい、さようなら。……あの時は、余裕が有りませんでしたから」
苦笑しつつサラに返事を返した。我ながらよくやったものだ。
肩を見てみると、そこには……きっちりと巻いてある新しい包帯が見えた。
もしも彼が物を透視する事が出来たなら、その下の銃創まで縫合してあるのが見えただろう。
「これは……」
あなたがしてくれたのですか? そう言おうと振り返った時、二人は既に居なくなっていた。
(長門さんのように、何らかの手段で高速で移動する事が出来る人達なのか?)
少なくとも、ただ者ではないのだろう。
「敵に回したくはありませんね。さて、僕も行かないと……」
最初に動き出そうと決意した後、色々有った挙げ句に気絶したせいでかなり時間が経ってしまったが、
今度こそ長門有希を捜しに出なければならない。
怪我をした肩を庇いながら立ち上がると、古泉は歩き出した。

315金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(6/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:07:40 ID:8OL21RyU
「今の時間は……11時40分か。この通路が無ければ帰りが間に合っていないな」
「だからこそ縫合までしたんでしょう? あの治療は10分以上も掛かりましたよ」
「すまない。医術は専門でない事が祟ったか」
サラの治療は特別遅かったわけではなく、むしろ開業医になれる程の手早さだったのだが、
世界最高――いや、ここに連れてこられた者達の元居た世界全ての歴史を全て掘り返しても、
一人とて居ないほどの超人的医者を親友に持つせつらから見れば、稚拙に映った事は否めない。
だから、流石に『そうでもない』等という言葉は掛けず、ただ歩き続けた。
しばらく、無言で歩き続ける。
所々に付けられた光量の低い照明に照らされ、薄暗い通路は延々と続いている。
時間として
「ところで、あのワイヤーの具合はどうだった?」
唐突にサラが訊いた。
「ああ、良い物でしたよ。ただ……少し頑張って洗わなければいけないでしょうが」
ワイヤーが有った場所が場所だ。
ワイヤーは入れ物である筒ごと、べっとりとクルツ・ウェーバーの血に沈んでいた。
他の武器ならいざ知らず、細く軽く鋭くしなやかで柔軟な金属ワイヤーはそうは行かない。
「帰ったら、化学室から金属を腐食させずに凝固した血液を溶かせる薬品を出してこよう。
水で薄めてバケツに入れて、部屋の隅において2〜3時間。それで使えるようになる」
「それじゃ、そうする事にします。どうもありがとうございます」
彼らは地下通路を歩き続けた。
帰還した時に仲間の一人の死を知らされ、更に数分後にそれが証明される事など知りもせず。

316金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(7/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:08:40 ID:8OL21RyU
【G-4/城の地下・隠し連絡通路(学校へと移動中)/1日目・11:40】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)/ブギーポップのワイヤー
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
    依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。
    ブギーポップのワイヤーは帰ったら洗浄液入りバケツに漬け込み、部屋の隅に置く。


【G-4/城の中/1日目・11:40】
【古泉一樹】
[状態]:左肩、右足に銃創(縫合し包帯が巻いてある)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は満タン。パンは2人分。
[思考]:長門有希を探す

317ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:44:48 ID:hNdeEao2
チサト ーあの青年が確かだと思うもの、彼の幸い、彼の真実。自分はそれを、奪う。
アストラ ー己が確かだと思いたかったもの、己の妻。殺人精霊はもう居ない。
そして彼女の対なるミズーもまたー

( ー俺にはまた 何も無い)
一歩、また一歩を踏みしめながらは、ウルペンはひたすらにその言葉を繰り返す。
信じるに足る物など何も無い世界。
帝都、契約、絶対殺人武器。
それらは風のようにすり抜けていき、手の中には何も残らなかった。
心の奥に虚しさだけが募る。
信じるに足るものなど何も…
「…いや、一つあるか」
思わず声が漏れ、唇が皮肉に歪む。
それでも歩みはとまらない。
   
   ー死ー
彼がもたらし、彼に訪れ、彼の真実を奪い去った事もある。死。
この世界において唯一信じるに足る、必ず果たされる約束、いや、契約。
かつて信じていた契約、己の不死を保証するそれとは違う。
「契約者」の死、彼はそれを目撃した。
また「契約者」であった自身の死、それもこともなげに訪れた。
しかし、その死によって証明された事もある。

318ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:46:15 ID:hNdeEao2
『奪われないものなどなにもない』
それだけが、唯一絶対の真実。
(皮肉なものだな…。逆吊りの聖者には相応しい)
おそらく、それは絶望なのだろう。
規則性に欠けながらも途切れる事の無い歩調の中で自覚する。
俺は絶望しているのだーと。

唐突に、先ほどの青年の決然とした表情が浮かんだ。
信じるものがあるかと言う問いに、即座に答えたその表情。
ーー彼にも絶望を。
絶望した心中に生まれた願望ーチサトを殺し、彼から奪う。彼に絶望を教える事。
それは何か儀式めいた意味を持つように感じられた。
例え倒錯であったとしても構わない。
いや、あの青年だけでは飽き足らない。
参加者の全て。
絶望を知らない者の全て。
既に死したはずの自分と出会う生者の全て。
このゲームという名の殺しあいに否応無く飲み込まれた全てに。
思い知らせてやるのだ。死と喪失だけが人に約束された唯一のものだと。
そしてー やがては自身にも再び死が訪れるだろう。
だが、それまでに、果たしたい望みがある。チサトーそして…

319ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:48:02 ID:hNdeEao2
「これで…」
自然と歩調が早まる。
確かなものはなにもない、それが答え。自分はそれを証明する。
「これで満足か、アマワァあああああ!」
いつしか彼の内、出血に喘ぐ男の内は外見も知らぬ女と異形の怪物の姿に占められつつあった。

やるべき事は決まっている。
チサトを殺し、全てを殺し、アマワに答えを突きつけるのだ!
この島のどこかにいるアマワに…

彼は歩みをとめないー

 『地図の空白が失われた時、怪物はどこにいくのだろう?』

【G−3/森の中/1日目・12:30】

『ウルペン』
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:1)チサト(容姿知らず)の殺害。2)その他の参加者の殺害3。)アマワの捜索

320罠、そして……(1/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:13:15 ID:yl5Di1eM
 タイムリミットがあるからには、最大限に時間を有効利用する必要がある。
 自分の持てるあらゆる技能を駆使し、効率良く人を殺さねばならない。
「どこまで歩くんです?」
 横を歩くキノが訊く。
「あの森に着いたら小休止しつつ作戦を話す。引き続き警戒を緩めるな」 
 言われるまでもない、といったふうにキノは頷いた。
 
 森の中。二人は当面の安全を確保し、話を始める。
「おまえはトラップ作りは得意か?」
「……いえ」
 唐突な質問に、とりあえずは首を振っておく。
「そうか。ではおまえの役割は、適当な木を見つけその先端を尖らせる事だ。できる限り鋭利な槍を作れ。
そのナイフで支障があるようなら、こちらのサバイバルナイフを貸してやる」
「何をするつもりなんですか?」
 大方の想像はついたが、詳しく尋ねる。
「俺達だけではカバーできる範囲に限界がある。獲物を探しつつ罠を仕掛けていくのが効果的だ」
「なるほど。それで、どんな罠を?」

321罠、そして……(2/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:16:16 ID:yl5Di1eM
 小動物を捕獲するならば、スネアが最適だ。
 スネアとは、釣り糸・ワイヤ等で作った輪を、動物の首や足に引っかける罠である。
 だが、人間相手では効果が弱い。徒党を組んでいるとなるとなおさらだ。
 デッドフォール――餌を取った動物に上から重量物を落とす罠――は手間が掛かりすぎる。
 ならば、今回使う罠は。
「スピアトラップを仕掛ける。手早く生産でき、効果の高い罠だ」
 ジェスチャーを交え、宗介はその罠の詳細について説明し始めた。
 スピアトラップの構造は単純だ。
 先端を尖らせたスピアを、曲げられた枝等に固定する。
 獲物が餌を取ったり、ピンと張られた『ライン』に引っかかったりすると、
 即座に槍がその身体に突き刺さる、という罠である。
「――――以上だ。付け加えるならば、ベトナム戦争でベトコンが使った罠として有名でもある」
 と、宗介は説明を締めくくった。
 
「べとこんとかは良く分かりませんが……分かりました。それで、どこにその罠を仕掛けるつもりですか?」
「今の所、禁止エリアは南に集中している。南に居た参加者が北上する、もしくはしている可能性は高い。
さらにここ一帯の森林は島の中心部に当たり、水場もある。人の行き来は多いと推測できる。
以上の理由により、この辺りに広がる森林内で人が通りやすい箇所に、いくつかの罠を仕掛けるつもりだ」
 あの地下墓地に近い事もここに罠を仕掛ける理由の一つだったが、話す必要は無いので黙っておく。
「水を求めてやってきた人、見晴らしの良すぎる平原から避難して来た人にグサリ、という訳ですか」
「肯定だ」
 無感情なキノの声に、こちらも無感情な声が応える。
「質問等無ければ、早速作業を開始する」
「……ボクの作業には関係無いですけど、トラップに使うワイヤーとかはどうするつもりですか?」
 二人ともワイヤーや釣り糸のたぐいは持っていない。疑問に思ってキノが問うと、
「それには、これを使う」
 むっつり顔のまま表情を変えず、宗介はデイパックを指し示した。

322罠、そして……(3/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:19:52 ID:yl5Di1eM
 見つけた木の先端を削りつつ、横目で宗介を見遣る。
 彼は器用にデイパックを解体し、トラップ用の『ライン』を作っていた。
 確かにこのデイパックは頑丈だ。
 どんな支給品が入っていても耐え得るよう設計されているのだろうか。
 何の繊維を使っているのか分からないが、よっぽどの事が無ければ破れそうにない。
 この生地を使って獲物を引っかける『ライン』を作る。
 罠を看破されないよう細くかつ強靱なものを作らねばならないが、彼ならば可能だろう。
 
 何気なさを装って作業をしつつ、キノは足を進める。
 宗介にとって死角になる地点へと。
(この人は、危険だ)
 罠も作り慣れている。そして、戦い慣れている。おそらくは自分よりも。
 先程の戦闘では張り合えたが、次はどうだろうか。
 今はまだバレてはいないようだが、自分の性別が彼に知られたら?
 男女の力の差が目に見える形で現れる接近戦、それも武器を使えない状況での格闘戦に持ち込まれたら?
 その時点で自分の負けだ。
 いつどのように彼の気が変わるのかは分からないのだ。
 火力ではおそらくこちらが勝っているが、安心などとてもできない。
 いっそ、今の内に――
 
 地面に木を立て掛け、キノは片手で作業を続ける。
 先程までの風景と変わらないよう、シュッシュッと木を削る音もそのままに、
 もう片方の手で『銃』を用意。
 何気なく、本当に何気なく宗介に『銃』を向け――
 引き金を、引いた。

323罠、そして……(4/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:22:32 ID:yl5Di1eM
 木を削る様子がなかなかサマになっている。
 両手で作業を進めるキノを、宗介は目の端に映していた。
 一時的に同盟を結んだとはいえ、全く油断はできない。
 いつどちらとも寝首を掻かれるか分からない、砂のように脆い同盟関係なのだ。
 その同盟相手が作っている鋭い木の槍。
 それを凶器として使用するスピアトラップ。
 地下墓地の女のような化け物には効かないかもしれないが、並の人間がこの罠にかかればひとたまりも無い。 十中八九、命を落とすだろう。
 
 並の人間――
 かなめは、地下墓地に囚われている限り大丈夫だ。
 もっとも、あの女が約束を守るのかどうかという根本的な問題もある。
 あの女からかなめを奪還、もしくはあの女を斃す方法も考えておかねばならない。
 今の所は全く妙案が浮かばないのだが……。
 テッサは、ウィスパードの知識を扱えるとはいえ、宗介やクルツのようなサバイバル技能は無い。
 それどころか、何の障害物も無い道で突然すっ転ぶほどの運動音痴だ。
 もし彼女が単独で行動しているのなら、この罠に掛かる可能性は十二分にある。
 テッサの命を奪うかもしれない罠。
 テッサが罠に掛かっていたなら、自分はその首を切り取ってかなめを救いに行くのだろうか。
(それでも、俺は……)
 あの日あの時、<アーバレスト>の掌の上で。
 自分は確かに一方を選び、もう一方を見捨てた。
 最後の最後、このゲームで生き残って欲しいのは――
 
 刹那、懊悩する宗介をぞくりとした感覚が包む。
 戦場に生きる兵士だからこそ感じられるもの。
 だが、感覚に対する身体の反応が、一拍遅れた。
(間に合うかっ?)
 咄嗟に飛びずさるが、引き金は既に――

324罠、そして……(5/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:24:28 ID:yl5Di1eM
「……ぱぁん」
「……何のつもりだ」
 油断なくソーコムピストルを構え、宗介が誰何する。
 じとり、と冷や汗が背を伝った。
「何って、ちょっとした冗談じゃないですか」
 キノが楽しそうに言う。
 『銃』の形を模した指を宗介に向け、もう一度『ぱぁん』と指鉄砲を撃った。
「笑えない冗談だ。……次に紛らわしい真似をした場合は容赦無く撃つ」
 忌々しく吐き捨て、宗介は銃を下ろした。
「怖いなあ……」
 溜息を吐いて、キノは呟いた。
(やはり、この人は強敵だ。決定的な隙が出来るのを待つしかない)
(少年のような態をしているが、この男は危険だ。機を待ち片を付ける)
 二人が似た考えを抱いていたことは、互いに知るべくもなかった。

325罠、そして……(6/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:26:48 ID:yl5Di1eM
 ミッション開始より約58分が経過。
「時間だ。今完成した罠で最後にする」 
 森の中を短距離移動・罠設置を続ける間、幸か不幸か他の参加者には出会わなかった。
 じわじわとタイムリミットが近づく。
 焦りは失敗を生む。それを分かっている宗介は冷静さを維持しようと努める。
 そこへキノが、
「罠の設置も終わった事ですし、早いうちに人が密集してる場所を狙いませんか? 
ボクとあなたがいつまで共闘できるかも分かりませんし」
 抜け抜けと物騒な話を持ちかけた。
「同意する。では、作戦の詳細を検討しよう」
 情動の感じられない声で、宗介が答えた。
 時間が無い宗介にとって、それは願ってもいない提案だ。
 二人は互いの持つ情報を擦り合わせ、狙うべき場所を協議する。
 多くの人が集まっていそうな場所。二人での挟撃に適した場所。
 学校、海洋遊園地、商店街……。

「じゃあ、最初のターゲットは学校という事でいいですか?」
「肯定だ。距離もここから近い。……では、直ちに作戦を開始する」

 そして、二人の殺人者は学校へ――

326罠、そして……(7/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:27:47 ID:yl5Di1eM
【D-4/森の中/1日目/13:35】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。 /行動を共にしつつも相良宗介を危険視している


【相良宗介】
[状態]:健康。
[装備]:ソーコムピストル、コンバットナイフ。
[道具]:荷物一式、弾薬。
[思考]:かなめを救う…必ず /行動を共にしつつもキノを危険視している

[備考]:D-5の湖周辺の森林内、人が通りそうな場所に罠(スピアトラップ)有り。数は不明。
    設置された時間は12:30〜13:30頃

327テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ:2005/05/27(金) 17:48:22 ID:pBSSTsig
「うーん、どこから話したらいいかな」
 詠子は再び小首をかしげた。
「そうだね、まず向こう側について語ってくないかね。状況整理といこうじゃないか」
 長くなるよ、そう前置きして詠子は佐山に向き合った。
「うーん、向こうはね、ほんとはこっちと変わらないんだよ。見れば分かるんだけど、誰も見ること
 は出来ないからそれを理解できないの。居るのに無視されたら誰だって悲しいよね。だから彼らは
 いつも“こっち”に来たがっている。でもやっぱり皆はそれすらも理解できないの」
 悲しいね、つぶやきながら詠子は佐山に額を寄せた。
「じゃあ、見えないものと向き合ってもらうにはどうすればいいかな」
 楽しそうに、尋ねる。
「ふむ、何故だかデジャヴを感じる質問だね」
 佐山は腕組みをして、思考する。
 デジャヴ、とはいったものの、2−Gとは状況は全く異なる、そもそも立場も逆だ。
 こちらは交渉がしたいのに、相手にそれを理解してもらえない。
 対等とすら思われていない?
 違うな。佐山は思考をリセットする。2−Gと混合してはいけない。ケースが全く異なるのだ。
 そもそも我々は見えないものとどう向かい合ってきたか?
 見えない、未知のものに遭遇してまず我々がすることは何だ。
「仮定してもらう、ということかね」
 存在すると仮定する、理解できる理論として構築し、当てはめることで、人類は病原菌を、電波を、
過去や未来さえも可視してきた。
 佐山の目の前にある笑みが強くなる。

 11時30分、
 草原と森の境目で、其処に無いものを捉える少女は、枝に括り付けられているそれを見つけた。
 白い紙、びっしりときこまれた文字。彼女が好奇心のままに手に取ったそれは……

328テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ:2005/05/27(金) 17:49:12 ID:pBSSTsig
「そう、それが物語。人は『そう言うもの』と想うことで、それが存在するかのように振舞うことが
 出来る。絆も血縁も社会も命も、そうやって人は仮定してきたんだよねえ。物語に触れれば人は彼
 らに触れることが出来る。向こうに行くことも出来る。向こう側に行くと、私みたいに魔女になれ
 るの。今まで見えなかったものが見えるようになる、世界が新しい方向へ広がる」
「君のように世界の背景が見えるようになると?」
 人類の革新だね、佐山はにこりともせずに笑う。
「んー、ちょっと違うかな? みんなが教えてくれるようになる、が一番近いと思う」
「ふむ、しかしそれは君の能力とは少し異なるようだがね」
「皆にそれぞれ物語、‘魂の歪み’があるからね、自分の物語に近いほうが理解しやすいもの」
 佐山はそこであごに手を当てる。一拍の間、
「それが私は‘裏返しの法典’というわけなのだね」
 詠子は笑みを絶やさない。顔はまだ近づいたままだ。
 会話のたびに、お互いの呼吸が頬をくすぐり前髪を揺らす。

 11時、
 ‘魔術師’は、仲間とともに道を行く。ディバックの中には黄ばんだ地図。その裏には……

「君の話から推測するに、君が今までばら撒いてきたのは、向こうに行くための物語ではないのかね。
 読めば向こうに行けるようになる。そして向こうでその人の物語に近しい突出を得ることになる」
 そして佐山も笑みを浮かべ、
「しかし君はこうも認めた、『コンタクトは友好なものではない』と。全ての者が歪みを抱えている
 わけではないだろう。いや、君のような能力者は異端といっても差し支えないことを考えると」
そして糾弾の言葉を告げる。
「耐えられないのだろう。ほとんどの者は向こう側で、あるいはそこにたどり着く前に、向こう側の
 犠牲になるのではないかね」
 詠子は静かに、ただ変わらぬ笑みを以ってその言葉を肯定する。
「それを目的に広めるとは。いやはや、詠子君も中々に大した悪役だよ。ハハハ、この腐れ外道が」
 言葉と同時に、鉛筆を持つ佐山の指が踊った。
『しかし同時に、一部の者は自身の物語にふさわしい突出を得る、中にはこの現状を打破し得る能力
 者が生まれる可能性がある。違うかね』
「だとしたら本物の悪役君はどうするのかな」
 沈黙。言葉のエアポケット。
 その間を縫うように、佐山は小さな、しかし確かに聞き覚えのある飛来音を耳にした。
 一瞬逸れそうになる視線。
 詠子はそっと両手を佐山の頬に。
 触れそうで触れない両手が、確かに佐山を詠子に縛る。

329テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ:2005/05/27(金) 17:50:57 ID:pBSSTsig
 10時30分
 道に迷う、合わせ鏡の殺人鬼は、風に舞う一枚のメモを拾った。
 ただ短い一文が書かれたそれは……

「私が播いたのは『合わせ鏡の物語』4時44分、死んだ人の顔が鏡に写る、四次元の世界に引き込
 まれる。零時、今日と明日の入れ替わる時間、鏡は違う世界につながってる。二時、丑三つ刻、全
 ての境界があいまいになる時間、鏡に未来の自分の姿が見える、鏡と現実が入れ替わる。いろいろ
 なカタチがあるけれど。みんなが『違う世界』を望んでる。だから私は種を播いたの。鏡の向こう、
 違う世界にいけるように」
 詠子の言葉が、徐々に佐山を浸していく。
「私はみんなの‘望み’を叶えたあげたいだけ。そのために物語を広げるの」
 詠子は、もう一度佐山に尋ねる。
「だとしたら本物の悪役君はどうするのかな」
 見詰め合う二人。
 口元を引き結ぶ少年と、蕩けるような笑みを浮かべる少女。
 佐山はその端を歪めて、笑う。
 体をわずかに前倒しに。それは前髪がかすかに触れる距離。
「戯言だね」

 同時刻
 四人の少女は一路を北に。そして‘意識の底に触れる’少女はまた転ぶ。
 地面を這うその視線の先に、一枚のメモを見つけた。
 それは……

「詠子君、自分の行動に人を理由にしないことをお勧めする。それは腹の底を隠しています、と宣言
 しているようなものだよ。敢えてもう一度言おう、戯言だね」
 いいフレーズだ。自身の冴えに、佐山は確固たる自己を確認する。
「ああ、気にすることはないよ、詠子君。悪役に本音を隠して相対するのは魔女の宿命だが、それを
 見抜かれるのもまた宿命だ。何、私は役割を弁えているのでね。安心して嘘を吐くがいい、ことご
 とく見破って差し上げよう」
 詠子は、ほぅ、と溜息を吐く。二人の前髪がかすかに揺れた。
「本当に君はすごいね。魔女の言葉に耳を傾けて、それでもなお自分を保てるなんて」
「なに、相手の欲するところを悟るのも交渉のうちと言うことだよ」
 触れ合う前髪の心地よさに目を細め、佐山は魔女と『交渉』する。
「契約書だ、これでいかがかね」
『魔女が悪役にその瞳を差し出し、世界の脱出に協力するなら……』
 佐山は一息に書き連ねた。
『悪役は魔女に、この世界の物語をお見せしよう』

330テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ:2005/05/27(金) 17:52:04 ID:pBSSTsig
 そして13時
 罠を拵える番犬は、木に刻まれた一文を認めた。
 それは……

 互いの額が触れ合う、唇が触れ合いそうなその距離で、詠子はくすくす、その喉をならす。
「魔女は悪役にすっかり誑かされちゃったからね」
 その目を瞑って、おかしそうに笑う。
「契約だよ、君は私にこの世界の物語を見せる。その代わり……」
 鉛筆を握る佐山の手、そこに自分の手を重ねた。
「私は君に猫の瞳と魂を預ける」
 唇の距離がゼロになる。
 佐山は口内に侵入してくる舌に自分のそれを絡ませた。
 唾液に混じるかすかな血の味。詠子の吐息とともに、飲み込んだ。

 7時50分
 世界の一部である少女はその超聴覚に唄をとらえる。
 それは魔女の夜会の招待状。

【C-6/小市街/1日目・12:15】

『Missing Chronicle』
【佐山御言】
[状態]:精神的打撃(親族の話に加え、新庄の話で狭心症が起こる可能性あり)
    異障親和性覚醒、詠子に感染
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:1.風見、出雲と合流。2.詠子の能力を最大限に利用。3.地下が気になる。
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:1.佐山に異界を見せる(佐山がどう覚醒するかは不明)
    2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。

331オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:02:09 ID:mhhsWZag
フリウ・ハリスコーは歩く。
すでにその細い足の先は棒になり。
すでにその小さな手の先は枝になっている。
何も動く気がせず。
何も動かせる気もしない。
それでも足は止まらない。止められない。止まってくれない。
フリウ・ハリスコーは歩き続ける。
その目は乾き睡眠を要求し。
その耳は赤く静寂を渇望する。
何も見る気はせず。
何も聞ける気もしない。
ただ歩き、ふらつき、蠢き、息を切らす。
手足は森の木で擦りむき。
腕はちりちりと痛み。
脇腹はきりきりと傷み。
頭はずきずきと悼む。
「はっは……は…っは」
息が荒くなってきた。苦しい。
休めるところ──そもそもこの狂った所にそんな場所があるのかはともかく──を探そうとする。
目の前には巨大な──建物があった。
地図を見る。
ここは、よく分からないがB-3かC-4の建物だろうと検討をつけた。
そんなに歩けた自分に驚いた。中に入って休憩しようと思う。
はっとし、瞼を閉じかけている自分に気がついた。
「……まだ、駄目。もうちょっと……目立たないところに」
入り口らしきところから入り込む。

332オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:03:24 ID:mhhsWZag
「誰も、いない……よね」
緊張からか、息が大きい。必死で息を止めようとする。
気のせいか息をするたびに苦しくなっていく。
床に倒れこもうとすると、赤くて長い髪を見つけた。
「っ……!」
一本。
その赤い髪は否応無くミズー・ビアンカを連想させた。
あの人──正確に言うとあの人の死体──は。
あの女性──正確に言うとあの女性の死体──は。
ここに在るの…?
にじみ出る涙をこらえて立ち上がった。
その乾いた目はどうにか赤い髪の毛を確認した。
その赤い耳も辛うじて奥から聞こえる話し声を捕らえた。
その枝のように細い腕は少女を立ち上がらせた。
その棒になった足もなぜか勢いよく走り出した。

奥のドア。
運良く隙間が少し空いてたことに感謝しながら覗き込もうとする。
「は…っは…ぜっ…」
息が大きい。黙れ。お願いだから。
隙間を覗き込んで──中を見る。
がたんっ!
「っきゃ……!」
「おいおいどこの素人鼠さんかと思ったら……可愛らしい女の子じゃねぇか」
ドアを──体重を掛けていたドアを──引っ張られ、転倒した。
見上げるとそこには背の高い。片手に子犬を抱いた。
赤いスーツに赤い──とても紅い髪をした女性が立っていた。

333オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:04:28 ID:mhhsWZag
「そうだねアイザック!」
若い男女がこちらに言ってくる。それをもはや聞ける状態じゃなかった。
息が。息が。息が。
苦しい。苦しい。苦しい。
それでも声をひねり出した。
「ミズーじゃ…無かった……」
再び涙がこぼれ。目の前はぐしゃぐしゃになり。
再び足は崩れ。頭の中はぐしゃぐしゃになり。
そして気を失った。


「お、おい! 少女! どうした!? いきなり倒れるな! リアクションに困るぞっ。
 <世界の中心で愛を叫ぶ、ただしボーイズラブ>みたいなっ!」
「ちょっと潤さん! その娘、すごい息が荒いですよ!」
「見てアイザック!腕も火傷してるよ!」
「大変だグリーン!」
「…デシ!」
「うるせぇてめぇら!」
とりあえず少女を仰向けにして容態を見てみる。
息が速く浅い。これが一番やばそうだ。
これは、過呼吸…ぽい。
「ビニール袋はないか?」
過呼吸は酸素の吸いすぎで、急な運動をしたりすると起こる。
簡単な症状だが放っておくと以外に危険だ。
ビニール袋に吹き込んだ二酸化炭素の多い空気を吸ってると治る。

334オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:05:51 ID:mhhsWZag
「無いです!」
それを聞いて、にやりと──邪悪な笑みを浮かべた。
「な〜るほどぉ。それじゃ、しょうがないな。うん。
 ここは『やむおえなく』この人類最強のおねぇさんが介抱してやろう」
がっしと少女の肩を掴み息しやすそうな位置に固定。
「…潤さん?」
「「グリーン?」」
「それでは」
にやりと笑みを深めて──さらに深めて。
「いただきます」
ちゅう。
哀川潤は、人類最強は。いたいけな、気を失った少女に、大義名分の下、ちゅうをした。
ふぅぅぅっと息を吹き込む。二酸化炭素の多い空気を。
吹き込む。吸い込む。さらに吹き込む。繰り返す。
しばらく。あるいはほんの数秒後。
ぱちくり。
フリウは、目を覚ました。完全に。謎の感覚と共に。
目の前には──本当に目の前には真っ赤な髪をした、ミズーじゃない女性。
口には違和感。むしろ異物感。
「〜〜〜〜!!」
だっと突き飛ばして──いや自分が下がったが──距離を置いた。
「はっ…へっ? は、ええ!?」
「いいなーそういう初々しい反応。思わずお姉さん萌えちゃったよ」

335オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:06:39 ID:mhhsWZag
「元気になったね!」
「グリーンのキスで目を覚ます、かぐや姫だね!」
「いやそれは白雪姫じゃあ…」
どくどくした鼓動を押さえ、状況が掴めずにいるフリウ。
そのフリウに近づいていき、手を差し伸べた。いつもと同じ皮肉な顔で。だが少なくともフリウには優しく見えた。
「悪い悪い。いやしょうがなかったんだって。
 疲れてるし、怪我もしてるだろ? お前ぼろぼろだぞ。大丈夫だから休めっていうか休ませるぞ」
その言葉と、初めて出会った優しい人と、紅い髪が重なり。
もう一度フリウは泣き出したのであった。

【C-4/ビル一階事務室/13:00】

『人類最強で天使な世にも幸せバカップル国記』
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神的ダメージ。右腕に火傷。肋骨骨折。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)。眼帯なし
[道具]: 支給品一式
[思考]: 元の世界に戻り、ミズーのことを彼女の仲間に伝える。 この人たちはいったい? 休憩。
[備考]:第一回の放送と茉理達の放送を一切聞いていません。
 第二回の放送を冒頭しか聞いていません。
 ベリアルが死亡したと思っています。ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。

336オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:07:21 ID:mhhsWZag
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。創傷を塞いだ。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:錠開け専用鉄具(アンチロックドブレード)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻)は殺す こいつらは死んでも守る  この娘を休ませる&怪我の治療をする。 事情を聞く。
[備考]:右肩が損傷してますからあまり殴れません。太腿の傷で超長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は若干治癒)
    体力のほぼ完全回復には残り10時間ほどの休憩と食料が必要です。 若干体力回復しました。

【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:前足に深い傷(処置済み)貧血 子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:お腹空いたデシ  誰デシ?
[備考]:回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。

【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式・お茶菓子)
[思考]:すごいぞグリーン!休ませよう!

337オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:08:10 ID:mhhsWZag
【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式・野菜)
[思考]:この女の子をどうしよう
[備考]:上半身肌着です

※昼ごはんに野菜とパンを食べました。残った野菜は要が持ってます。

338戦神戦捷(精神損傷) 1/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 12:53:55 ID:ETuBmvOM
 食事も終わり休もうとしたとき、ギギナは轟音を聞き取った――――



「……降ろして」
 長門の言葉を無視して、出夢は南下する。
「せっかちだな。おにーさんのところに着くまでの辛抱だ」
 出夢は苦笑しながら人を一人抱えたままとは思えないスピードで走り続ける。
「おにーさんの所に着いたら、次は坂井を探さなきゃな。
 そういえばあの時に聞こえた奇声、なんだったんだ……?
 まぁ、考えても仕方がな…………ん?」
 人の気配に気付き、出夢は立ち止まる。
「……ちっ、敵か」
 ぼやきながら左を向く。視線の先には男がいた。男との距離はおおよそ20mだろう。
 銀髪で、顔に刺青。身長は190以上はある。漆黒の剣を携えて……嗤っていた。
 男は嗤いながら問う。
「貴様らは、楽しませてくれるか?」
 出夢は不快そうな顔をしながら男を睨む。
 そしてしばらくしてから長門に囁いた。
「……長門、コイツはヤバイ。お前がいても邪魔なだけだから、先におにーさんの所に行ってろ」
 頷いたのを確認し、出夢は長門を地面に降ろす。
 そしてすぐさま、長門はもと来た道を走っていった。
「っておい! そっちじゃない!」
 出夢が長門を捕まえようとした時、男が再び声を掛けた。
「敵前逃亡するとはな。……貴様は強き者か?」
 出夢は面倒事を黙然にして嘆息する。
(やるべき事があるんだが、仕方がねえな……)

339戦神戦捷(精神損傷) 2/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 12:54:51 ID:ETuBmvOM
 戦闘は避けられないと判断して、男に向き直る。
 そして哄笑しながら、男に名乗った。
「ぎゃはははは! やってみれば分かるんじゃねえか?
 僕は《人喰い》。殺し屋の匂宮出夢だ。
 あんたは?」
 男はこちらへと歩みながら同じく名乗る。
「私の名は、ギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ」
「なげぇよ」
 吐き捨てるように言った出夢はギギナへと疾走。
 ギギナは一旦歩みを止め、
「ふん、剣と月の祝福を」
 そして出夢と同じく疾走。
 二人の距離が一気に縮み、ギギナが先攻。
 ぎりぎりのところで出夢は斬撃を避け、ギギナの左側へと素早く回り込む。
「おらよっ!」
 出夢の鋭い蹴りがギギナの左脇腹を直撃。
「ぎゃははははは! 降参するのなら見逃してやっても……っっ!?」
 ギギナは痛みに口元を歪めるだけだった。
 逆に、こちらの左脇腹に抉られるような激痛。たまらず後退するが、片膝を地面についてしまう。
 脇腹を押さえながらギギナを睨む。
 全力で繰り出したあの蹴りを喰らえば、ただでは済まない。だがギギナには口元を歪める程度だった。
 それどころかこちらに蹴りを。しかも、自身よりも強力な。
 足先が掠っただけで、この威力だ。もし咄嗟に後ろに跳ばず、まともに喰らっていたら絶命していただろう。
 一般人並の防御力しか持たない出夢にとって、ギギナの人外の破壊力は喰らえば確実に一撃死。
「ぐ……てめえどういう体してんだ……」

340戦神戦捷(精神損傷) 3/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 12:55:53 ID:ETuBmvOM
 見上げると、ギギナは出夢を見下しながら、怒っているような顔をしている。
「……貴様は、この程度か? つまらぬな」
「…………」
 怒りから、嘲笑に変わる。
「ハハハッ! 所詮、この程度ということか!
 降参するのなら逃がしてやっても良いが? ハハハ」
 不機嫌な顔をしながら出夢は立ち上がった。
 ギギナを睨みながら出夢はギギナと距離を取るため後退する。
(こいつを生かしておくと、おにーさん達が危険か……。それに、ムカツクしな)
「……ぎゃははは! 僕の本気を見せてやるよ!」
 体勢を立て直して、ギギナへと再び疾走。
 両腕を大きく仰け反りながら走り、出夢はギギナに近づいた。
 ギギナが剣を横に薙ぐが、超反応で出夢はギギナの頭上に飛翔して避ける。
「上がガラ空きだぜえぇっ!!」
 そして振りかぶった。


《一喰い》


 ヒュンと空を斬る音が聞こえた。
 出夢は地面に着地し、ギギナを向いた。
 危機一髪で横に転がり《一喰い》を避けたギギナは冷や汗をかきながら嗤っていた。
「僕はやることがあるんだが、これで終わりにしてくれないか?」
「却下する」

341戦神戦捷(精神損傷) 4/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 12:56:39 ID:ETuBmvOM
 即答したギギナは剣を構え直す。
 そして一気に間合いを詰めて振るう。
(さっきより動きが速い! こいつ、本当に人間か?
 もしかしたら、人類最強と同じくらいかもな……)
 清水の舞台での『最強』との戦闘を思い出し、出夢は戦慄する。
 すぐさま後ろへ跳躍して回避したが、ギギナの素早い追撃が迫る。
 背後に大樹があったため、出夢は横に転がりかわした。そして出夢を斬るはずだった斬撃は、大樹を軽々と薙いだ。
「マジかよっ!」
 そのままギギナは大樹に近寄り、
「うるぁっっ!」

 掴んで投げた。

「……は?」
 眼前で起こったありえない出来事に出夢は素っ頓狂な声をあげる。
 体勢を直す前には、いくつも枝分かれした大樹が高速で迫っていた。
 出夢は避けきれないと判断し、顔を手で守り、身を縮めた。
 幹に当たらなくて良かった。そんな事を思いながら茂る葉と枝に巻き込まれる。
「ぐ……」
 派手な音をたてながら、かなりの距離を進んでから大樹は止まった。
 全身に傷を負いながら、なんとか葉と枝の中から抜け出そうとする。
 抜け出した先では既にギギナが剣を構えて振りかぶろうとしていた。
「っ!」
 出夢は半ば予想していたので、すぐさま横に転がる。剣は肩を浅く斬る程度だった。
「うぐ……」

342戦神戦捷(精神損傷) 5/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 13:03:42 ID:ETuBmvOM
 だったのだが、何故か力が入らない。さらに視界が霞んできた。
(なん……だ……? あの大樹のせい……か? 頭を庇っていたし、葉がクッションになっていたから、致命傷じゃあないはず……)
 薄れる意識の中で、ギギナの声が聞こえてきた。
「む……、あるのは素早さと破壊力だけか。先程の着ぐるみの男ほどではなかったな。
 だが、あの攻撃は素晴らしかったぞ。貴様が『当たり』を引いていたなら、あるいは互角だったかもしれんな」
(クソ……)
「さらばだ、女よ」
 ギギナは踵を返し、東へ去っていった。
 出夢はその場で気絶した。

【E-4/森/1日目・08:00】

【匂宮出夢】
[状態]:肩に浅い切傷。全身に掠り傷。気絶
[装備]:シームレスパイアスはドクロちゃんへ。
[道具]:デイバック一式
[思考]:生き残る。あんまり殺したくは無い。長門を連れ戻す。

【長門有希】
[状態]:疲労が限界
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:一旦休む。現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?

【ギギナ】
[状態]:疲労。まだ完全にダメージが回復していない。
[装備]:魂砕き
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:休んで強者探索。

※ギギナはこの後に『勘違いと剣舞』に続いています

343 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 22:18:16 ID:MqxFG5Y.
>>338-342
問題点多数のため破棄します。

344Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:09:23 ID:woCeKPjo
「へぇ、やるじゃない」
パイフウは一帯に仕掛けられたトラップの数々を見て、感心の言葉を漏らす。
単純なスピアトラップだが、巧妙かつ全てが理に叶った配置になっている。
「なるほどね、北上する相手をここで迎撃ってこと?」
地図を見ながら頷くパイフウ、ずきりと左肩が痛む…まだまだ本調子とは行かない。
「なら乗っかるとしようかしら」
そう言ってパイフウは相変わらずの感情を感じさせない声と表情で配置につくのだった。

「……」
アーヴィング=ナイトウォーカー、略してアーヴィは足の傷を無言でさする。
まったくいつまでたってもミラが見つからないのはどうしてなんだろう?僕の何がいけないのだろう?
うーん、こうなったらミラ以外の誰かをみんな撃っちゃうしかないのかな?そしたら最後に残った1人が多分ミラだろう。
うん、それがいいそれにきめた。
えらく危険な独り言をぶつぶつ呟きながらアーヴィもまた島の中心部へと向かっていく、その先に何人かの集団が目に入った。

そしてそれより数十分前、
「曇ってきたわよ…これなら大丈夫なんじゃないの?」
マンションの一室から空を見上げて千絵をせかす聖。
「だから昼間は様子見だって」
「でも、ぐずぐずしてたから祥子ちゃん死んじゃったじゃないの、勿体ない」
限りなく食欲と性欲の入り混じった、そんな感じの言葉を吐く聖、それをなんともいえない奇妙な表情で眺める千絵。
「それに…千絵ちゃんの友達も死んじゃったんでしょう」
「うん…」
聖の声に言葉少なく頷く千絵…物部景の死は確かに残念だった…。
だがその残念さが何によっての残念なのか、彼女にももはや分からなくなっていた。
(私は彼に欲望以外の何かを求めていたような…もう思い出せないけど)
「ねぇ、行こうよお?」
甘えるように千絵にすがり付く聖、その上目遣いの瞳が思わず同性でもため息を付きたくなるほどの
美しさと愛らしさを醸し出している。
それに押されてかどうかは知らないが、千絵は千絵で考えをめぐらせる。

実を言うと疼くような渇きをまた覚えつつある、このまま吸わなければいざという時正常な判断が出来なくなる可能性もある。
しかもたっぷりと補給した自分はともかく、聖はシズの血をあまり飲んでいない…。
だとするといつまたあの高架下のように暴走するかもしれない、今ですら欲望過多の彼女だ、そうなるともう抑えきれない。
互いの血を啜りあうことも手の一つだがこれは渇きを満たせても、今度は体力が落ちてしまう。
やはり2人では何かと効率が悪い、なら偵察がてら狩りに出るのもいいだろう。

345Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:10:41 ID:woCeKPjo
「わかったわ、例のものは出来てるわね?」
聖は千絵が先程の仕掛けをしている間に作っておいた物を取り出す。
それは明け方に被って逃げたカーテンを利用して作った砂漠の民が身につけるような巨大なマントだ。
急ぎの仕事ゆえにあちこちいびつな出来だが、当面は身体全体と口元が隠れればそれでいい。
かなり奇異な格好と思われるかもしれないが 、突っ込まれれば土地の風習とでも言えばいい。

地図を眺める千絵…東か西か…ここに踏み込まれた場合の逃走ルートとしては東だが
今回は仲間を増やすのが目的だ、なら西よりに島の中心付近がいいだろう
禁止エリアの兼ね合いで北上してくる者も多いだろうし、東と比べ西側には施設も多い。
「1時間が限度よ、それ以上は無理…もし見つからないときは私の血で我慢して」
そう聖に告げ、頷いたのを確認して、それから千絵はマントを頭から羽織るのだった。



「あうっ!」
また頭から転ぶテッサ、これで何度目だろう?
明らかに苛立った感じで手を出すシャナ、相談の結果林道を行くことにした彼女ら、
その理由はどんな道だろうがテッサが転ぶのは避けられない、なら少しでも距離が短いルートを選んだほうがマシという消極的な理由だった。

現在の隊列はダナティアとリナが前衛、そして真中にテッサ、後衛にシャナの順だ。
最初は違ったのだがあまりにもテッサの進む速度が遅いため、いつのまにかこういういびつな隊列になってしまっていた。
本来フォローしなければならないはずだったリナは、明らかに不機嫌な表情でのしのしと歩いている。
だから今現在テッサのフォロー役はなりゆきでシャナなわけだが、その彼女の苛立ちは頂点に達しつあった。

「あ…花」
この日もう何回目か分からない転倒、ぐらりと揺れる視界の中、その片隅に一輪の花を見つけるテッサ。
何故そんなことをしようとしたのか分からない…この状況の中で、ただ確かに言えることは
彼女もまた皆と同じく疲れ傷ついていたのだ、まして彼女は指揮官という立場上
こういうギリギリの状況にはあまり慣れていないし、増して周囲には頼れる部下、いやかけがえのない仲間たちは誰一人としていない。
だからなのだろうか…普段なら心にとめることすらない路傍の花に思わず手を伸ばしてしまったのは。

シャナはそんなテッサの道草に知らん顔をする。
「知らない…」
そのまま先に向かうシャナ、テッサの目に余るトロくささにいいかげん嫌気が差している。
自分だってけが人だというのに…しかしその苛立ちゆえの他愛ない意地悪が、取り返しのつかない悲劇を生むことになった。

テッサが道端の花に手を伸ばすのと、それを見つけたアーヴィが狙いをつけるのは同時、
そしてさらに花を掴もうとしたテッサの指先が何かに触れた時、ぷつんという音と同時に茂みの中の何かが
テッサのわき腹を貫き、さらに風切る高速の何か、アーヴィの放った弾丸がのけぞったテッサの背中にあたったかのように見え、
それを察知したシャナの目の前でテッサはバランスを崩し茂みの中へと転落していった。

346Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:11:40 ID:woCeKPjo
くぐもった命中音に振り向くリナ、そしてあえてやや先行していたダナティアが戻ってくる。
彼女としては自分が先行し、後に続くリナに2人のフォローを任せたつもりだったが、色々な偶然、不幸が重なり
結果、わずかな時間だったが間延びしきった隊列になっていたのは前述の通りである。
ダナティアが見たのは油断なく周囲を見渡すリナと、そして顔面蒼白になってるシャナだった。
「わ…わた・・・わたしっ」
「いいから何があったか教えてくださるかしら?」
完全にテンパッてしまってるシャナを刺激させないようにやさしく問い掛けるダナティア、だがそれが裏目に出た
その視線、声…それはシャナがもっとも尊敬し、頼りにし、そして恐れている女性
坂井千草の面影を思い出させる物だった…だから、彼女は、シャナは…。
「私が見たときはもう撃たれて…血がいっぱい出て下に落ちちゃったの」
嘘をついた。

「それって…」
突っ込みを入れようとしたリナの声をさえぎる様にまた銃声だ。
舌打ちするリナだが、考えてみれば自分に彼女を責める資格はない。
「話は後よ…逃げるわよ!」
おそろしく正確な狙撃に追い立てられるように3人は前に向かって進むしかなかった。
当然その行く手には宗介らの仕掛けた数々のワナが待っている。
先を行くダナティアの足にわずかな違和感、すかさず後ろのリナが竹槍を蹴り飛ばす、
シャナの首筋を糸が掠める、すかさずしゃがんだその鼻先を同じように槍が通過する。

「さがって!まだるっこしい!!」
リナの手から衝撃波が放たれる、とそれを受けて次々とワナが発動する
「よくもまぁこんなに…ったく」
それら恐ろしく周到で、なおかつ巧妙な位置に仕掛けられていた…その陰険さに思わず内心を吐き捨てるリナ。
とにかく先を急ごう、まだ背後の敵を振り切ったわけではなさそうだ。
「テッサは…」
「それは後の話よ!まずはここを逃れることを考えなさい!」

「うまくいかないものね」
嘆息するパイフウ、彼女のプランでは罠を察知し方向転換した標的を背後から攻撃、
それで仕留めきれない場合はそのまま教会に誘導し、あの黒い騎士を引きずり出して挟撃する予定だった。
しかし予想外の方向からの攻撃、さらに彼女らがそのまま力技で罠を抜けて来たため、結果正面から鉢合わせる構図となってしまっている。

347Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:13:44 ID:woCeKPjo
これでは正面から迎撃する羽目になってしまう、今の状況でそれは避けたい、また逃げる場合だが、
もし察知されれば自分が仕掛けたと思われることは明白だ、それも避けたい、ならばどうする…。
「ならこうするわ」
パイフウは軽く自分の頬を叩いて気分を変えると、あろうことか自分の腹に「気」を入れる。
「ぐっ…」
胃液が逆流する苦痛の中、あらかじめ作っておいたシナリオを頭の中で何度も反芻する。
演技と見抜かれぬためにはこうするしかない。

そして罠を抜けてきたダナティアらの目の前によろめきながら現れるパイフウ。
「て…てき…やられ…」
そのままへたり込む彼女を反射的に抱きかかえるダナティア、もちろん油断無くリナとシャナが目を光らせている。
「肩と…お腹をやられていますわね?相手は誰?」
「わかり…ません…出会い頭だった…から」
本当に苦しい息の下、ぜいぜいと答えるパイフウ…そのまま気を失ったふりをする。
瞳を閉じた中でダナティアらの声が聞こえてくる。
「リナさん、彼女の傷治せますかしら?」
「この女を信用するの?」
「それはまた別の話ですわ」

「誰かを殺しているかもしれないわよ?」
「それは貴方も同じではなくって?もしそうだとしても彼女を責めるわけにはいきませんわ」
しばしの沈黙の後、ここじゃ無理だからとにかく目的地に行きましょ、リナの声が聞こえる。
心の中で笑うパイフウ、まさか肩の傷まで治してもらえるとは…ようやく運が巡ってきたようだ。
リナの背中に揺られながら凶悪な思考を続けるパイフウ。
(傷が全快したら…全員皆殺しね、悪いけど)
「テッサのこともあきらめたわけじゃないわよね」
「無論ですわ…でも全ては体勢を整えてから」
こうして彼女らは危険極まりない虎を自らの手で招きいれてしまったのだった。

348Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:18:52 ID:woCeKPjo
一方のテッサだが、
「サガラさぁん…」
泣きながら藪の中を這いずるテッサ…ヘルメットはとうに脱げてしまっている。
その上小型のピットトラップに引っかかり、足の甲と太ももを槍に刺し貫かれそこからじくじくと血が滲み出している。
しかもこの周囲の地形は藪に囲まれたすり鉢状で、一旦転落するとそれほどの広さで無いにもかかわらず発見・脱出は容易ではない。
さらに…ぽつぽつと雨が降り始める。
「死ぬんですね?私…」
観念して目を閉じるテッサ…その時だった。
「ほら!いいことあったじゃない!」
「たまたまよたまたま…」
「まさに雨に打たれてずぶ濡れのELFって感じね、拾い物よ」
その声の主はもちろん聖と千絵だ…彼女らはテッサの血の匂いをかぎ付けここまでやってきたのだった。
もう我慢できない、そんな感じの聖、しかし千絵がそれを制止する。

千絵はそっと顔の覆いを取り、あえて牙を伸ばし…テッサの耳元で囁く
「あなたには2つの道があるわ、1つはこのまま運命を受け入れる道…もう1つは」
そこで言葉を止める千絵。
「人を捨てて自分の本当の願いを叶える道…どちらを選ぶかはあなた次第よ」
2つの言葉がぐるぐるとテッサの頭を巡る。
いや巡ったのは言葉ではない、1人の少年の姿。
(サガラさん…やっぱり会いたい…たとえ『仲間』でしかなくってもいい、それ以上先に進めなくってもいい…だから)
最初から答えは考えるまでもなかった。
この痛みから、そして苦しみから逃れられるのなら…そしてもう一度サガラさんと会えるのなら…何より生きてさえいれば、
チャンスは必ずやってくるのだ、それが汚れた生であっても。
テッサは自ら戦闘服のファスナーを外し、喉元を露出させる…誰に教えられたわけでもないのに。
そして、聖と千絵は頷くとその牙をテッサの白い肌に突き立てたのだった。

349Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:35:38 ID:woCeKPjo
【D-6 /森/1日目・14:20】

『目指せ建国チーム』

【リナ・インバース】
[状態]:平常。わずかに心に怨念。(テッサの件で責任を感じている)
[装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。

【ダナティア・アリール・アンクルージュ】
[状態]:左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル
[思考]:群を作りそれを護る。シャナ、テッサ、パイフウの護衛。
[備考]:ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。

【シャナ】
[状態]:平常。体の疲労及び内出血はほぼ回復
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:悠二を見つけたい。テッサごめんね
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。
     手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。

【パイフウ】
[状態]左鎖骨骨折(多少回復・処置中断)
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
[道具]デイバック(支給品)×2
[思考]1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す
(ダナティアらに傷を治療してもらい。その後皆殺し)


【アーヴィング・ナイトウォーカー】
[状態]:情緒不安定/修羅モード/腿に銃創(止血済み)
[装備]:狙撃銃"鉄鋼小丸"(出典@終わりのクロニクル)
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:主催者を殺し、ミラを助ける(思い込み)
(現在は追撃を中止しています)

350Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:36:32 ID:woCeKPjo
『No Life Sisters』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ
[装備]:剃刀
[道具]:支給品一式、カーテン、
[思考]:移動。己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。

【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化(身体能力向上)、シズの返り血で血まみれ
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式、カーテン
[思考]:移動。景、甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
    死にたい、殺して欲しい(かなり希薄)。

【テレサ・テスタロッサ】
[状態]:重傷・吸血鬼化
[装備]:UCAT戦闘服
[道具]:デイパック×2(支給品一式) 携帯電話
[思考]:不明

351Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/31(火) 22:40:34 ID:UrNk.4Ws
「ふふ」
闇に包まれた地下で美姫は笑う、その腕の中にはぐったりと気を失ったままのかなめ
「のう、かなめや、宗介は今何処であろうな?」
その顔を撫でてやりながら、話しかける美姫…かなめの顔が僅かに歪む。

「ほほ、案ずるな…所詮は塵芥に過ぎぬ人間風情、期待など最初からしておらぬ、要はあの男がお前のために何ができるか、それよ」
楽しげに美姫は笑う。
「律儀に首を5つ狩るのも良し、例えそれに及ばずともわたしと再び会うまでの間どれほどの奔走をしていたかは目を見ればわかること…
わたしはそれが知りたい、愛や恋とやらのためにどこまで人は己を犠牲にできるのかをな」
少しだけ懐かしい目を見せる美姫、思い出したのだろう…彼女もまた全てを捨てて一人の男をその手中に収めんとした日々があったことを、
「ゆえにうらやましいぞ、お前が…ふふふ」
焼け焦げた己の半顔を撫でる美姫…それはもはや叶わぬ遠い夢であるが。

「たとえ首を狩れずとも、その時は我が前で這いつくばり、自らの首を差し出す度量あらば、我が心も動くかもしれぬ、だが」
そこで美姫は意地悪く、そして凄惨な表情を見せる。
「卑しくも死体の首を狩ろうなどと墓盗人のような真似をした時は、断じてお前を帰してやるわけには参らぬの、
お前の器量ならば他に相応しき男いくらでもおろう、のうかなめや…ふふふ」
そう思いながら、それでも少しだけ宗介に何かを期待している自分に気がつき、
また美姫の口元は緩み始める。

そういえばあのカラクリ娘はどうしているだろうか?
美姫はしずくの顔を思い出す、今ごろ彼女もまた宗介を、そしてかなめを救うため
奔走しているのだろうか?
「お前たちが約定を守る以上わたしもこの娘を守ろう、これもまた座興よ…だが他言の末にこの娘を救う目的で踏み込まば、
 それが誰であろうと、わたしは躊躇無くかなめを殺す…よく考えよ」

空気が湿り気を増しているのが地下でもわかる、そろそろ雨が降るかもしれない。
「おおそういえばわたしが戯れに悦びを与えた娘がおったの、いまごろ何処におろうかの?」

352Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/31(火) 22:41:43 ID:UrNk.4Ws
そしてそのころ
「曇ってきたわよ…これなら大丈夫なんじゃないの?」
マンションの一室から空を見上げて千絵をせかす聖。
「だから昼間は様子見だって」
「でも、ぐずぐずしてたから祥子が死んじゃったじゃないの、勿体ない」
限りなく食欲と性欲の入り混じった、そんな感じの言葉を吐く聖、それをなんともいえない奇妙な表情で眺める千絵。
「それに…千絵ちゃんの友達も死んじゃったんでしょう」
「うん…」
聖の声に言葉少なく頷く千絵…物部景の死は確かに残念だった…。
だがその残念さが何によっての残念なのか、彼女にももはや分からなくなっていた。
(私は彼に欲望以外の何かを求めていたような…もう思い出せないけど)
「ねぇ、行こうよお?」
甘えるように千絵にすがり付く聖、その上目遣いの瞳が思わず同性でもため息を付きたくなるほどの
美しさと愛らしさを醸し出している。
それに押されてかどうかは知らないが、千絵は千絵で考えをめぐらせる。

実を言うと疼くような渇きをまた覚えつつある、このまま吸わなければいざという時正常な判断が出来なくなる可能性もある。
しかもたっぷりと補給した自分はともかく、聖はシズの血をあまり飲んでいない…。
だとするといつまたあの高架下のように暴走するかもしれない、今ですら欲望過多の彼女だ、そうなるともう抑えきれない。
互いの血を啜りあうことも手の一つだがこれは渇きを満たせても、今度は体力が落ちてしまう。
やはり2人では何かと効率が悪い、なら偵察がてら狩りに出るのもいいだろう。

それに…正直な話いいかげんこの女がウザくなってきた。
もともと欲望過多だったのかもしれないが、こうやってしょっちゅう纏わりついて身体を求めてくるのには辟易する。
そりゃ抱かれるのは気持ちいい…しかしフィニッシュの時に他の女の名前を言うのは論外だろう。
そんなに栞が欲しければ本屋にでもいけばいいのだ。

心の中でひそかに聖殺害のプランを練る千絵
当然クリアせねばならぬ問題は幾つもある、平常時の彼女はセクハラを繰り返すが。
それに反してその頭脳は明晰といってもよく、さらに彼女はこの島のどこかにいる「主」(聖いわくマリア様だそうだ)に、
直接洗礼を受けており、その力は今の自分を凌駕している。

353Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/31(火) 22:42:32 ID:UrNk.4Ws
何よりも今殺せば自分1人になってしまう、それは絶対に避けたかった。
やはり仲間が必要だ、それもこんな扱いにくい奴ではなく、従順な。
千絵は昨夜からの自分の心境の変化を敏感に察していた、あの時…聖の手首から流れる血潮を飲んだとき、
脳裏のもやが晴れ…あそこで自分を取り戻せたような気がする、だとしたら。

彼女が達した結論、それは吸われるだけではなく自分の主の血を吸って初めて自我を取り戻し、自立型の吸血鬼になれるということ。
ただ吸われただけでは主に従うだけの下僕に過ぎないのだ。
ならば狙うならやはり男だろう、これならレズビアンである聖に邪魔されず、自分だけの下僕を作ることができる。

(私にこの悦びを与えてくれたこと、そしてこんなにすばらしい生き物へと生まれ変わらせてくれたこと、それだけは感謝してるの…だから
なるだけ苦しまない方法で死なせてあげる)

「わかったわ、例のものは出来てるわね?」
聖は千絵が先程の仕掛けをしている間に作っておいた物を取り出す。
それは明け方に被って逃げたカーテンを利用して作った砂漠の民が身につけるような巨大なマントだ。
急ぎの仕事ゆえにあちこちいびつな出来だが、当面は身体全体と口元が隠れればそれでいい。
かなり奇異な格好と思われるかもしれないが 、突っ込まれれば土地の風習とでも言えばすむ。

地図を眺める千絵…東か西か…ここに踏み込まれた場合の逃走ルートとしては東だが
今回は仲間を増やすのが目的だ、なら西よりに島の中心付近がいいだろう
禁止エリアの兼ね合いで北上してくる者も多いだろうし、東と比べ西側には施設も多い。
「1時間が限度よ、それ以上は無理…もし見つからないときは私を好きにしていいわ」
そう聖に告げ、頷いたのを確認して、それから千絵はマントを頭から羽織るのだった。

354Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/31(火) 22:43:25 ID:UrNk.4Ws
そして30分後、ぐっしょりとぬれたマントを羽織ったまま森の中をとぼとぼと歩く吸血鬼シスターズ。
「どうしてくれるのよ、おかげで帰れなくなったじゃないの」
まさに憤懣やる方ない、そんな表情の千絵。
「えー千絵ちゃんもさんせーしたじゃない」
わざとらしくしれっと受け流す聖。
まさかこんなに早く降り出すとは思わなかった、出来ればマンションに戻りたいが、
おそらくあの近辺の参加者が全て集まっていることだろう、となると危険すぎる。

「まぁまぁ雨に打たれてずぶ濡れのELFが、こいつは拾い物って感じで落ちているかもしれないじゃないの?」
「そういうのって大抵食いつぶされて終わるのよ…しかも気がついたときには遅すぎるの」
被ったマントが水を含みじっとりと重い、血で汚れてパサついた髪と顔を濯げたのは好都合だったが、
雨宿りできる場所なら、一応近くに教会がある…でも。
「絶対いや」
やっぱり聖が猛反対したのと、やはり自分も彼女ほどではないが嫌な何かを感じてしまう。

「そんなんで戻ったとき大丈夫なの?佐藤さんの学校ってミッション系でしょ?」
「うーん、そうなのよねぇ…朝とかミサやったりするのよ」
千絵は想像する、吸血鬼と化した女生徒たちが、耳を塞いで賛美歌のメロディにのたうちまわる様を。
まるでギルの笛の音に苦しむキカイダーだ。

さて、とそれはさておきどうする?
あれからもうすぐ1時間、何の収穫もなかった…それでも自分はまだ大丈夫だが
聖はどうなのだろう?せめて夜まで渇きが保ってくれればいいが…。
「ねぇ…祐巳って子に知られてるんでしょう、大丈夫なの?」
「大丈夫よ、祐巳ちゃんは喋らないわ、絶対」
聖は自分に言い聞かせるようにして応える、何故だか分からないがそういう気がする。
逆に志摩子が知ったら間違いなく自分を殺しに来る、そんな気もした。
「ふぅん…」
森を抜けるとそこにはもう街が目の前に迫っていた。

「ねぇ…服、全部脱いで、それからカバンも隠して…剃刀は確かマントの中に隠しポケットがあったわよね、そこに入れて」
「え、こんなところで!?ダイタン」
「何考えてんのよ」
やはり生かしておけないと改めて思いつつ、千絵は説明する。
「こんな汚れた服で、もし誰かに見られたらどうするのよ?雨宿りしてるときにずぶぬれマントじゃ不審でしょう、理由がないと」
屋内でも出来る限り脱ぐつもりはないが、突っ込まれてもこれで身包み剥がれたからという言い訳がたつ。
少なくとも血まみれの服を見られるよりはずっとマシだ。

「でも…」
「何いまさら迷ってるのよ、私を抱いたとき何て言ったの?私たちはもう人の世界の小賢しいルールには縛られないって…それともそういう時だけ
都合のいい理屈を持ち出すの?…じゃあ教えてあげるわ」
聖を睨む千絵の瞳がギラリと光る。

「私たちはね、もう獣なのよ」
だが聖はまるで動じなかった。
「それはさておきあと15分よね」
その言葉で逆に凍りつく千絵、しまった忘れていた…やっぱりこの女は獣だ。

355Rainytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/31(火) 22:50:40 ID:UrNk.4Ws
【D-5/地下/1日目/14:00】

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:スローイングナイフ
 [道具]:デイパック(支給品入り)
 [思考]:座興を味わえて上機嫌

【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化?
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。(ディバックはなし)
【思考】不明

【D-4 /森の出口/1日目・14:40】

『No Life Sisters』
【佐藤聖】
[状態]:吸血鬼化(身体能力向上)、マントの下は裸
[装備]:剃刀
[道具]:カーテン(マントのみ)、
[思考]:移動。己の欲望に忠実に(リリアンの生徒を優先)
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。

【海野千絵】
[状態]: 吸血鬼化(身体能力向上)、マントの下は裸
[装備]: なし
[道具]: カーテン(マントのみ)
[思考]:移動。甲斐を仲間(吸血鬼化)にして脱出。
    聖がウザい、殺したい
    吸血鬼を知っていそうな(ファンタジーっぽい)人間は避ける。
    死にたい、殺して欲しい(かなり希薄)。

356さらばボルカン! 渚に消えた英雄(1/7)◇J0mAROIq3E:2005/06/01(水) 23:17:43 ID:fuk4MM2Y
 森の中に、場に相応しくない声が響き渡る。
「じゃあこういうのはどうだ? ある無賃乗車の女が列車の外側に張り付いてたんだ。
 すると車輪とかの付いてる機関部から血まみれの車掌が這い出てきて一言。『切符を拝見させてください』!」
 内容は怪談らしいが、いかにも楽しそうな語り口がそれを相殺している。
「それはあれだ。きっと黒い奴に黒く吹っ飛ばされた車掌が轢かれたりしながらも職務を全うしたという美談だな」
「つまらんこと言うな。せっかく知り合いから仕入れた最新の怪談だってのに」
 あからさまに残念そうな顔をするクレアを後目に、ボルカンは歯ぎしりをしてと森を行く。
(まったく何故にこの俺様が道案内なぞせにゃならんのだ)
 撒こうとしても、赤毛の男はまったくこちらから視線を逸らさない。
 北へ南へと蛇行して時間は稼いでいるが、人っ子一人いない。
 城から出たとき聞こえたブルンブルンとうるさい音と、先ほど聞こえたよくわからない男女の声。
 それ以外は何の問題もなく進行できてしまっている。
 いつもいつも面倒ごとばかり起こるというのに、起こってほしいと願うときに限って起こらない。
 まったくもってドーチンがいないせいだと心中で毒づき、ボルカンは焦りを自覚した。
(……まずい。まずいぞこれは)
 このままでは地図上で東の果てにあっさり辿り着いてしまう。
 何故こうなってしまったのか。

 時間は二時間近く前に遡る。

357さらばボルカン! 渚に消えた英雄(2/7)◇J0mAROIq3E:2005/06/01(水) 23:19:06 ID:fuk4MM2Y
「で? 姫はどこにいる?」
 やばいこいつはやばい黒くないけど赤いけど借金取りと同じ原理で産まれたに違いないやばいやばい。
 だらだらと汗を流しボルカンは必死に考える。
 この状況を打破するには洗濯物を乾かし殺すか、もしくは、
「……俺様の命だけは助けやがってくださると見逃してやらんこともありません」
 平伏した。
 この手の反応に慣れているクレアは鷹揚に頷くとその頭をがっしり掴んだ。
「安心しろ。仕事じゃないから殺さないし、子供を殺す趣味はないし。子供のふりをした悪人はちょっと殺し続けたが」
 笑いながらもその瞳は少しの輝きもなくボルカンを射抜く。
 地獄を煮詰めたような色は、ボルカンに逆らった場合の未来を正しく想起させた。
(きっと黒ビームやら借金フラッシュを目から出して俺様から無い金を奪い尽くすに違いない。けしからんな!)
 やはりここは英雄として隣の荷物預かり殺すしかないかと勢いよく顔を上げ、
「それで、シャーネ姫をどこに隠したんだ魔王の手下その1?」 
 その目を見ると、諦めて嘘をつくことにした。
(姫といえばやはりあれか。げに恐ろしき伝説の銀月姫のことか)
 忌まわしき伝説の――そして自分が実際に遭ってしまった地人の姫を思い出し、軽く身震いする。
 出会ったのはアーバンラマ近くの荒野だったが、多分遠い。かなり遠い。嘘だと見破られる。
「あー……確かついさっき東の方で合戦をしてたな。うん、確か」
「合戦。おぉ、なんかすっぱり誘拐されるよりシャーネらしいぞ。バトルヒロイン、それもまた良し!」
 あっさりと頷くと、そそくさと地図を取り出し始めた。

358さらばボルカン! 渚に消えた英雄(3/7)◇J0mAROIq3E:2005/06/01(水) 23:20:01 ID:fuk4MM2Y
「東っていうと海沿いか森か。面白くなってきたな。――よし腹ごしらえだ!」
「すぐ行くんじゃないのか!?」
「あん? なんで?」
 思わず叫ぶボルカンに不思議そうに首を傾げる。
「だって俺が死ぬはずないと思えばシャーネが死ぬわけないし。強いし、俺の婚約者だからな。
 ピンチの時駆け付けるのもいいが、それなら俺が駆け付けるまでピンチにならないのが道理だし。
 そうだな、このアイザックとミリアって奴らはフィーロとジャグジーの友達だっけか。
 というかあの列車に乗ってたっけな。これも縁だ。死なせるわけにはいかないな。死なない死なない。よしこれで死なない」
 本気でそう言うと、取り出したパンをごく普通に頬張った。
 自信と言うことすら憚られる確信ぶりにさすがのボルカンも呆気にとられる。
「どうした手下その1? お前も食えよ。俺のはやらんが」
「は?」
 情報(嘘だが)を与えてもう用はないだろうに、何故そんなことまで口を出されるのか。
 確かに腹は減っているが。
「なに呆けてんだ。俺をシャーネのとこに案内するんだろ? 俺に使われる幸運を喜べ」
「ふ、ふざけるな! このマスマテュリアの闘犬ことボルカノ・ボルカンに道案内を強要するなど不敬罪にも程があるぞ!」
「何? この線路の影をなぞる者こと葡萄酒ことフェリックス・ウォーケンがここまで低姿勢で頼んでも駄目だってのか?」
「どこが低姿勢だ!? 鉄塔の上で土下座するのを低姿勢と言い張るならこっちも司法に頼る気がしないでもないぞ!」
「まぁいいけどな、ここに残りたいんなら。魔王と手下その2と仲良くな」
 ちらりと横を見ると、巨漢とバーテンダーが仰向けにぶっ倒れている。
 なんだかドーチンがいつも諦めを含んだため息をつく理由が分かった気がした。

359さらばボルカン! 渚に消えた英雄(4/7)◇J0mAROIq3E:2005/06/01(水) 23:20:54 ID:fuk4MM2Y
 そして二時間後、二人は眺めのいい岬へと辿り着いた。
「さぁ着いたぞ! 誰にも遭わず実に爽快な旅路だったな部下1!」
「そ、そうだな! 誰も彼もこの英雄ボルカノ・ボルカンに恐れをなして逃げ出したと見える! ふはははは!」
「はははははははは!」
「ふはははははは…は……」
 見るとクレアは声と口だけで笑い、目はぎらぎらと輝いている。
「いやぁ、行き止まりだし、ここだよな? でも合戦って割には痕跡も何もないな?」
「不思議なこともあるものだ。きっと合戦後に後かたづけをしたに違いないな!」
「いや別にいいんだけどさ。多分でまかせだろうって思ってたし。でも俺だから理由もなく会えるかなって思ってたし」
 言いながら、二抱えほどある岩をそっと撫で、友達相手にふざけるように押す。
 地響きのような音を立て、岩が動く。
 俊敏に背を向けようとするボルカンの襟首を掴み、クレアはにこやかに岩を押す。
「何かこう、スラップスティック・コメディ:主役俺、ヒロインシャーネ、道化俺、舞台俺、みたいな?
 いやいや文句を言う気はないぞ。騙されようと思って騙されたんだし」
「いやいやいやなら岩は何だその岩は! 恐怖政治は民草を疲弊させ何というかこう、駄目だぞ!」
「文句はない。文句はないが部下への仕置きは必要というのが俺政治」
 ぐ、と一際強く押した岩が投げ込まれるように崖を転がり海へと突撃する。
 水面を打つ轟音はすぐに波音に消され、跳ねた塩水が二人にかかる。
「ちょっとすっきり。しかし残念ながら俺の苛立ち指数、高水準で安定中。故にストレス解消案その2」
 じたばたと足掻くボルカンの頭をがっしりと固定。
 しっかりと大地を踏みしめ、遠い水平線を見渡し、青い空にシャーネの笑顔(補正あり)を夢想し、
「次からは嘘を本当にできるよう努力しろよー」
 投げた。
 飛んだ。
 落ちた。

360さらばボルカン! 渚に消えた英雄(5/7)◇J0mAROIq3E:2005/06/01(水) 23:22:08 ID:fuk4MM2Y
「おおおおぉぉ!?」
 潮風の中でボルカンは自由落下を余儀なくされる。
 先ほどの岩落下の衝撃で濁った海面が迫る。
 腹から落ちると痛いことは既に学習済みなのでばたばたと羽ばたくように両手を振る。
 腹から落ちた。
 いつものことといえばいつものことだが、痛いことこの上ない。
 悶絶して息を吸うと、空気の代わりに塩水が流れ込んでくる。
 そのまま岩の破片の待つ海底に突き刺さらんばかりの勢いで沈み、しかし吹き上げる泥で視界はない。
 そんなボルカンに、海底から浮上する板を避けることを要求するのは酷というものだろう。
 海底の泥に突き刺さっていた金属製のプレート。
 それがクレアのストレス解消で戒めを解き放たれて浮き上がるという、小さな奇跡が起きた。
「ぐぼがぁっ!?」
 無論そのプレートはそれが本来の役目であるかのようにボルカンの腹を強かに打ち付け、流れに乗りながら海面へと上昇していった。
 激痛に呻きながらも、それこそ蜘蛛の糸のようにそれにしがみつき、何とかボルカンは顔を海上へと上げることができた。
 嘔吐するように海水を吐き出し、こんな目に遭わせた元凶を睨もうと見上げた。
 角度の関係か、崖の上にクレアの姿は見えない。
 とりあえずラッコの姿勢でプレートに捕まりながらボルカンは叫んだ。
「げほっ、フェリックスとか言う赤借金取り! 今度会ったらこのボルカノ・ボルカンがカビ取り殺してぶはっ!」
 波が顔を洗い、塩辛さが口内を満たす。
 慣れたら美味いかもしれないと味わおうとし、二回嚥下して気持ち悪くなったところで頭の中に声が響いた。

361さらばボルカン! 渚に消えた英雄(6/7)◇J0mAROIq3E:2005/06/01(水) 23:22:49 ID:fuk4MM2Y
「誰が借金取りだ。ていうか何だ、あの板は?」
 クレアの卓抜した視力は浮沈する板の表面を何とか捉えたものの、中身は読みとれなかった。
「俺が読めん言葉があるってのは許せんな。帰ったら図書館でも行くか……っと」
『諸君、これより二回目の死亡者発表を行う――』
 頭の中で聞き覚えのない名前がずらずらと列挙される。
 その中に知り合い三人の名は含まれていない。
「やっぱシャーネは無事だよな。ま、今度は北に行ってみるかな」
 ぶらぶらと、あくまで気楽にクレアは歩き出した。


 一方、流され方のコツを覚えたボルカンは、ようやく自分のしがみついているものに興味を向けた。
 それは大きめのノートほどの大きさの板で、海中に沈んでいたにも関わらず錆の一つも浮いていなかった。
 表面には細かな模様と文字のようなものがびっしりと刻み込まれていた。 
 その模様によって、このプレートが主催者達の監視の目さえかいくぐっていることをボルカンは知らない。
 その模様によって、刻まれた文字が島全体にかけられた翻訳の力を逃れていることをボルカンは知らない。
 その文の末尾に、このプレートの作成者の名が刻まれていることをボルカンは知らない。
 ニーガスアンガー。
 とある世界における防御魔法の使い手が残した、最も丈夫な手紙。
 それは己と同じ世界の人間の目に触れるのを、今も待ち続けていた。

362さらばボルカン! 渚に消えた英雄(7/7)◇J0mAROIq3E:2005/06/01(水) 23:23:33 ID:fuk4MM2Y
【F-8/岬/1日目・12:00】
【ボルカン】
 [状態]:健康的に北へ漂流
 [装備]:かなめのハリセン(フルメタル・パニック!)
     ニーガスアンガーのプレート(防御紋章により、盾にもなる。事件シリーズキャラしか読めない)
 [道具]:デイパック(支給品一式)
 [思考]:1.塩辛い。2.陸が恋しい。3.打倒、オーフェン

【クレア・スタンフィールド】
[状態]:絶好調
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:1.シャーネを見つける。2.アイザックとミリアと会ったら同行してもいい。

 ※ニーガスアンガー:事件シリーズに登場した最高の防御魔法の使い手。
           ある魔法に対し過剰反応してしまい死亡。

363Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 03:04:48 ID:fTfq9Pvo
「まったくバケモノ揃いですね、この島って」
「肯定だ」
顔を見合わせ囁きあう宗介とキノ、そして彼らの耳には、
「どこ行きやがった!殺す!」
怒鳴り散らす平和島静雄の声が届いていた。

発端は5分前に遡る。
平和島静雄はビルの前のベンチでひとまず一服していた。
手にはどこかからか拝借してきたタバコがある。
「あいつらどーしてっかなぁ…イザヤのバカがこの島送りになったのは当然としても、俺やセルティまでってのは
 やっぱ理不尽だよなぁ、生きて帰れたらスシくいてぇな、サイモンの店じゃなくてこうもっとゴージャスなよ」
絵に描いた餅が次々と静雄の眼前に浮かぶ、思わず手を伸ばそうとするが…やはり手は空を掴むだけだ。
「くそっ…むかつく」
そう呟いて時計を見る、あと5分休んだらまたセルティを探すか。

で、そんな静雄の背後10Mの位置に潜み寄っていた宗介とキノだ。
「いましたね」
そっとナイフを取り出すキノ…が、その前に…キノは軽く足元の石を軽く蹴飛ばし、わずかだが音を立てる。
だが、静雄はまるで反応しなかった、気が付いていないようだ。
この距離でこの反応なら殺すのは容易い、宗介も同じ考えのようだ。
「ナイフで仕留めるぞ」

思えばここで弾薬をケチったのが失敗だった。

植え込みから飛び出し左右から静雄に迫る2人、その動きは疾風のように素早い、
事実、静雄はその身体に刃が突き立てられるまで何も出来なかった…いや正確には…
何もしなくてもよかったのだ、何故なら。

背後から心臓めがけて突き入れられた宗介のナイフも、右サイドから脇の下を抉るように突き入れようとしたキノのナイフも
鉄筋コンクリートのような硬い感触と同時に弾かれてしまっていたのだ。
そして…静雄がにぃと笑う。
「人に刃物向けたら死ぬよなぁ、普通はよう…てなわけで手前ェら殺す」

364Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 03:06:56 ID:fTfq9Pvo
そう云うが否かの速度で、ぶんと唸りを上げる静雄の右フック。
それは飛び退いた宗介の鼻先をかすめ、ベンチの傍らの街灯に直撃し、街灯がその場所からひび割れていく。
そのスキをついて逃走する宗介。
「逃げんなコラァ!」
静雄は自分が座っていたベンチを軽々と持ち上げ、それを宗介らへと投げつける。
だが、そのベンチは植え込みの中に転がり込んだ彼らの頭の上を通過する。
その鮮やかな動きは、これまで静雄がブチのめした何処のどいつらよりも洗練されていた、
強いて言うならサイモンのそれに近いか?
(奴ら軍人かよ)
一瞬の逡巡の後、また怒りを取り戻す静雄だったが、
その間に宗介らは悠々と店内に逃げ込んでいたのだった。


そして現在。
「ところで何故?」
あの男に加勢して俺を殺す手もあったぞ?そう言いたい表情の宗介、
キノの答えは明確だった。
「あれは助けたら頼んでねぇ!と逆ギレするタイプか裏切りを責めるタイプだと思うんですよ」
途中までは加勢するつもりでしたけどねと心の中で付け加えるキノ。
「肯定だな」
どこの世界にでもそういう輩は多いようだ。

「こうなった以上殺すしかあるまい」
静雄の怒号が段々と近くなっていく。
「ところで残りの弾薬はどれくらいある?」
キノは唇を歪め、足元のディパックを軽く爪先で蹴る。
「まだまだたくさんありますよ、このカバンいっぱいにね…あなたはどうなんです?」
宗介もまた軽く答える。
「俺も分けてやりたいくらい余裕がある、口径の違いがあるのでそれは無理なようだが」
どたどたと階段を駆け上がる音、どうやらお出ましのようだ。

「見つけたぞ…てめぇら、しにやがれぇぇぇぇ!」
小細工一切無しの突撃を敢行する静雄、この突撃を止められる者など1人もいない。
その瞳に写るのは通路の真ん中に並んで立つキノと宗介。
だが…静雄には違和感があった、この2人、まるで俺を恐れていない。
その時、足に何かが当たる音。
(空き缶?)
そしてそれを合図に、宗介とキノの手が閃く。
(銃かよっ!)
これで合点が行った…それともう1つ分かったこと…この2人、人を殺してやがる…それも半端な数じゃない人数を。
ぱんと乾いた音がこだまする、静雄は両足を踏ん張り身体にブレーキをかけようとする。
しかし、間に合わなかった、そしてズン!という痛み以上の衝撃が静雄の身体を貫いた。

365Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 03:07:37 ID:fTfq9Pvo
腹部にダムダム弾の直撃を受け、それでも踏ん張る静雄…だがその衝撃は筋肉の鎧を伝い、その内部を確実に破壊していた。
こみあげる熱いものを感じると同時に静雄の口から噴水のように血液が噴き出し、
そしてふくらはぎが嫌な音を立て、彼の身体は空中へと舞い上がった。
そこにキノがやはりダムダム弾で追い討ちをかける、今度は支えるもののない空中、しかもその命中個所はクレアが刺し、宗介が撃った場所と
寸分違わなかった。
そしてついに静雄の筋肉の鎧が砕け、腹の傷が盛大に開き、切り揉み回転しながらその身体が強化ガラスの窓に叩き付けられる、
さらにそれだけに留まらず、ガラスがぴしぴしと軋んだかと思うと同時に割れて、外に落ちる静雄。
その落下地点には…彼自身が先程叩き折った街灯の、まるで槍のように尖った先端が待ち受けていた。

ざくっ!

2階から様子を伺うキノと宗介…その真下には鉄骨に串刺しになった静雄がいる。
「終わりましたね」 
宗介はキノの言葉には応じずそのまま踵を返し、1階への下り階段へと向かう。
その後に従うキノ、階段に差し掛かった時だった。
めきめき…。
何かが抜けるような音が微かに聞こえた、何だ?
そのまま気にせず階段の折り返しに差し掛かる。
ずるずる…。
次ははとんでもなく重い何かを引きずるような音。
今度は気にしないわけにもいかなかった。
「まさかな…」
そして1階に降り、正面玄関へと目をやり2人は同時に呟いた。
『やっぱり…』

2人の視線の先にいた物、それは怒りの形相で立ちはだかる平和島静雄だった。

366Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 03:08:25 ID:fTfq9Pvo
そう、彼は街灯に串刺しになったまま…その街灯を周辺の路面ごと無理やり引き抜き…ここまでやってきたのだ。
「あれは…人間なのか?」
静雄の余りにも異様な姿に宗介もキノも畏怖の言葉を漏らさざるを得ない。
「どんな国でも」
呟くキノ
「どんな戦場でも」
応じる宗介
『あんなのは見たことがない』
最後は2人同時だった。

その静雄は身体に数メートルはあろう街灯を身体にぶら下げたまま、キノと宗介の元へと突進しようとする。
が、届かない。
街灯が入り口に引っかかってそれ以上前には進めないのだ。
「ぐおおおおおおっ」
叫びと共に己を貫く鉄芯を引きちぎろうとするが、もはやそこまでの力は彼には残っていない。
しかも中途半端に折れ曲がったそれは鍵のようになって逆に静雄の脱出を阻む。
「ちく…しょう…せっかく…」

自分にできること、この忌まわしい肉体を存分に振える場所を、そして誰かを守る意義を…ようやく見つけた、その矢先にどうして。
「なんで…うまくいかねぇ…」
それでも何かやれることはある…あるはずだ…何も思い浮かばないなら、いつもどおりやればいい。
(あばよ…もう会えねぇ)
自分が長くないことくらいは分かる、だから最期は平和島静雄らしく!
「だったら…こっちをちぎるしかねぇよなぁああああ!」
街灯を引き抜くことを諦めた静雄、その代わり彼の取った行動…それは…
「うおおおおおおおおおっ」
叫びと同時にぴしぴしと何かが切断されていく音が響き、そして、
ぶつんという音と共に静雄は自由になった、ただし上半身だけが。
彼の取った選択…それは街灯もろとも動けない下半身を置き去りにすることだった。

367Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 03:09:05 ID:fTfq9Pvo
「これじゃ近づけませんね」
「落ち着け…持久戦ならこちらが有利だ」
自分に言い聞かせながら、待合室のソファを取り外し、それを盾にしてじわりと前進していくキノと宗介。
しかし…静雄の攻撃により、遅々として進まない。
彼らの前方に鎮座する静雄、目の前には崩れたごみ箱から大量の空き缶、それを彼は最後の力を振り絞り
キノらへと投げつけ続けているのだ。
ただの空き缶とはいえ、静雄の膂力ならそれは充分過ぎるほどの凶器となる。
事実ソファはもうベコベコになっていた。
しかし、それももう終わる…みたところ静雄の空き缶のストックはもうすぐ底を尽きる。
そうなれば勝ち…と思っていた…しかし。

次の瞬間、何かが勢いよくソファを貫通する、まるで鋭利な刃物のような何かだ。
そしてその正体が何かを知ったとき…2人は呻く以外のことが出来なかった。
「肋骨…だと」
そう、静雄は投げられる得物が無くなった果てに、自らの肋骨を抉り取り、それをキノらへと投擲したのだ。

そして2人は誘われるように改めて銃を構える。
彼らはついに確信した、どんな犠牲を払ってでも今ここで確実にこいつを自分たちの手で殺らなければ、
後々必ず後悔することになるだろうと、そしていかなる犠牲をも払うに値する相手だということも。

「っ!っ!っ!」
最後の攻撃を終えた静雄は…笑っていた。
もう声を出すことも出来ないのだろう、全身の血を出しつくし白い肌は乾ききり触ると崩れそうだ。
それでも彼は笑っていた、その先に死しかありえなくとも。
(文句あっか?)
そしてくぐもった銃声が2つ響いた。

368Battle Without Honor or Humanity ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 03:09:56 ID:fTfq9Pvo
「終わったな」
無表情の宗介、その足元には静雄の死体、
その胴体部分はほとんど四散し、首と片方の腕が辛うじて鎖骨一本でつながった状態だ。
さて、首を刈らねばならない。
宗介は改めてナイフを構え、そして静雄の眼前へと屈みこんだその時!
「!!」
静雄の残った腕が、まるで宗介の首を握り潰さんとばかりに動いたのだ!
さらに開いたままの口が、宗介の手をやはり噛み潰さんとばかりに勢いよく閉じられた。
宗介はおろか見ているだけのキノですら、戦慄を禁じえなかった…ただの死後硬直の一種だと分かっていても
肉片となってまで残る執念には寒気を感じずにはいられなかった。

こうして暴力の使徒、平和島静雄は死してなお恐怖を与えることに成功したのであった。

【B-3/ビル内/1日目/13:30】

【キノ】
[状態]:健康体。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン(残弾2) 、折りたたみナイフ
    ヘイルストーム(出典:オーフェン、残弾6)
[道具]:支給品×4
[思考]:最後まで生き残る

【相良宗介】
[状態]:健康体。
[装備]:ソーコムピストル(残弾不明)、コンバットナイフ。
[道具]:支給品一式、弾薬、 静雄の首
[思考]:かなめを救う…必ず

【平和島静雄 :死亡 】 (残り80人)

369最強、鉛弾に散る ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 04:07:27 ID:fTfq9Pvo
「まったくバケモノ揃いですね、この島って」
「肯定だ」
顔を見合わせ囁きあう宗介とキノ、そして彼らの耳には、
「どこ行きやがった!殺す!」
怒鳴り散らす平和島静雄の声が届いていた。

発端は5分前に遡る。
平和島静雄はビルの前のベンチでひとまず一服していた。
手にはどこかからか拝借してきたタバコがある。
「あいつらどーしてっかなぁ…イザヤのバカがこの島送りになったのは当然としても、俺やセルティまでってのは
 やっぱ理不尽だよなぁ、生きて帰れたらスシくいてぇな、サイモンの店じゃなくてこうもっとゴージャスなよ」
絵に描いた餅が次々と静雄の眼前に浮かぶ、思わず手を伸ばそうとするが…やはり手は空を掴むだけだ。
「くそっ…むかつく」
そう呟いて時計を見る、あと5分休んだらまたセルティを探すか。

で、そんな静雄の背後10Mの位置に潜み寄っていた宗介とキノだ。
「いましたね」
そっとナイフを取り出すキノ…が、その前に…キノは軽く足元の石を軽く蹴飛ばし、わずかだが音を立てる。
だが、静雄はまるで反応しなかった、気が付いていないようだ。
この距離でこの反応なら殺すのは容易い、宗介も同じ考えのようだ。
「ナイフで仕留めるぞ」

思えばここで弾薬をケチったのが失敗だった。

植え込みから飛び出し左右から静雄に迫る2人、その動きは疾風のように素早い、
事実、静雄はその身体に刃が突き立てられるまで何も出来なかった…いや正確には…
何もしなくてもよかったのだ、何故なら。

370最強、鉛弾に散る ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 04:09:08 ID:fTfq9Pvo
背後から心臓めがけて突き入れられた宗介のナイフも、右サイドから脇の下を抉るように突き入れようとしたキノのナイフも
鉄筋コンクリートのような硬い感触と同時に弾かれてしまっていたのだ。
そして…静雄がにぃと笑う。
「人に刃物向けたら死ぬよなぁ、普通はよう…てなわけで手前ェら殺す」

そう云うが否かの速度で、ぶんと唸りを上げる静雄の右フック。
それは飛び退いた宗介の鼻先をかすめ、ベンチの傍らの街灯に直撃し、街灯がその場所からひび割れていく。
そのスキをついて逃走する宗介。
「逃げんなコラァ!」
静雄は自分が座っていたベンチを軽々と持ち上げ、それを宗介らへと投げつける。
だが、そのベンチは植え込みの中に転がり込んだ彼らの頭の上を通過する。
その鮮やかな動きは、これまで静雄がブチのめした何処のどいつらよりも洗練されていた、
強いて言うならサイモンのそれに近いか?
(奴ら軍人かよ)
一瞬の逡巡の後、また怒りを取り戻す静雄だったが、
その間に宗介らは悠々と店内に逃げ込んでいたのだった。


そして現在。
「ところで何故?」
あの男に加勢して俺を殺す手もあったぞ?そう言いたい表情の宗介、
キノの答えは明確だった。
「あれは助けたら頼んでねぇ!と逆ギレするタイプか裏切りを責めるタイプだと思うんです」
途中までは加勢するつもりでしたけどねと心の中で付け加えるキノ。
「肯定だな」
どこの世界にでもそういう輩は多いようだ。

「こうなった以上殺すしかあるまい」
静雄の怒号が段々と近くなっていく。
「ところで残りの弾薬はどれくらいある?」
キノは唇を歪め、足元のディパックを軽く爪先で蹴る。
「まだまだたくさんあります、このカバンいっぱいに…あなたはどうなんです?」
宗介もまた軽く答える。
「俺も分けてやりたいくらい余裕がある、口径の違いがあるのでそれは無理なようだが」
どたどたと階段を駆け上がる音、どうやらお出ましのようだ。

371最強、鉛弾に散る ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 04:10:23 ID:fTfq9Pvo
「見つけたぞ…てめぇら、しにやがれぇぇぇぇ!」
小細工一切無しの突撃を敢行する静雄、この突撃を止められる者など1人もいない。
その瞳に写るのは通路の真ん中に並んで立つキノと宗介。
だが…静雄には違和感があった、この2人、まるで俺を恐れていない。
その時、足に何かが当たる音。
(空き缶?)
そしてそれを合図に、宗介とキノの手が閃く。
(銃かよっ!)
これで合点が行った…それともう1つ分かったこと…この2人、人を殺してやがる…それも半端な数じゃない人数を。
ぱんと乾いた音がこだまする、静雄は両足を踏ん張り身体にブレーキをかけようとする、しかし
(まにあわねぇ!)
それでも1発目は避けた、しかし2発目が静雄の肩に命中する。
そして肉を引き裂き骨をも砕く、ダムダム弾の恐るべき威力によって静雄の左半分は消滅していた。

(ざまぁねぇ…な)
血にまみれ倒れ伏す静雄、池袋最強が聞いて呆れる…。
(所詮喧嘩の話かよ…)
自慢じゃねぇが、俺は結構希望に燃えていた、だから…少しだけ前向きにやれると思ってた。
ここでなら自分の力が、俺を苦しめるだけだった力を正しく振るうことが出来ると…一瞬そう思った…
けど、鉛弾には結局勝てなかった。
こんなに簡単に人は死ぬんだなというあっけらかんと空虚な何かが身体を吹き抜けていく。

(何のために…俺は生きてきたんだ…)
目の前が滲む…死ぬのが恐ろしいわけじゃない、本当に恐ろしいのは、何も残せないままこの世界から消えてしまうということ。
まして何かを残せると思った矢先に…。
「ちく…しょう」
それが最後の言葉だった。
(イザヤ…先に待ってるぞ…セルティ、お前はこっちにはくるなよ…な…はは、トムさん次の取立てはどこっすか?)

「泣いてるみたいですね」
静雄の死に顔を覗き込むキノ、だが宗介はたいした感慨も持たずその首を刈り取った。
これは今までの何百分の一でそしてこれからの何分の一かに過ぎない。
そう思えば何も感じない。
「あと4人」
ただそれのみ呟くだけだった。

372最強、鉛弾に散る ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 04:11:18 ID:fTfq9Pvo
【B-3/ビル内/1日目/13:30】

【キノ】
[状態]:健康体。
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン(残弾2) 、折りたたみナイフ
    ヘイルストーム(出典:オーフェン、残弾6)
[道具]:支給品×4
[思考]:最後まで生き残る

【相良宗介】
[状態]:健康体。
[装備]:ソーコムピストル(残弾不明)、コンバットナイフ。
[道具]:支給品一式、弾薬、 静雄の首
[思考]:かなめを救う…必ず

【平和島静雄 :死亡 】 (残り80人)

373 ◆Wy5jmZAtv6:2005/06/04(土) 12:03:36 ID:rPE/mYBg
「Battle Without Honor or Humanity」 および「最強、鉛弾に散る」
共通の修正です。

時計は14時25分を指している。

「まったくバケモノ揃いですね、この島って」
「肯定だ」
顔を見合わせ囁きあう宗介とキノ、そして彼らの耳には、
「どこ行きやがった!殺す!」
怒鳴り散らす平和島静雄の声が届いていた。

発端は15 分前に遡る。
学校へと向かうキノと宗介、しかし…道端の異様な痕跡に2人は足を止める
草や木々がまるで八つ当たりのようになぎ倒された跡が点在しているのだ。
そしてその先にはビル街があり、そこへと続く足跡もあった。

それから10分後
平和島静雄はビルの前のベンチでひとまず一服していた。
手にはどこかからか拝借してきたタバコがある。
「あいつらどーしてっかなぁ…イザヤのバカがこの島送りになったのは当然としても、俺やセルティまでってのは
 やっぱ理不尽だよなぁ、生きて帰れたらスシくいてぇな、サイモンの店じゃなくてこうもっとゴージャスなよ」
絵に描いた餅が次々と静雄の眼前に浮かぶ、思わず手を伸ばそうとするが…やはり手は空を掴むだけだ。
「くそっ…むかつく」
そう呟いて時計を見る、あと5分休んだらまたセルティを探すか。

で、そんな静雄の背後10Mの位置に潜み寄っていた宗介とキノだ。
「いましたね」
そっとナイフを取り出すキノ…が、その前に…キノは軽く足元の石を軽く蹴飛ばし、わずかだが音を立てる。
だが、静雄はまるで反応しなかった、気が付いていないようだ。
この距離でこの反応なら殺すのは容易い、宗介も同じ考えのようだ。
「ナイフで仕留める」

思えばここで弾薬をケチったのが失敗だった。

植え込みから飛び出し静雄に迫る宗介、その動きは疾風のように素早い、
事実、静雄はその身体に刃が突き立てられるまで何も出来なかった…いや正確には…
何もしなくてもよかったのだ、何故なら。

緩慢な動きで振り向いた矢先、腹部に突き入れられた宗介のナイフは、
鉄筋コンクリートのような硬い感触と同時に弾かれてしまっていたのだ。
そして…静雄がにぃと笑う。
「人に刃物向けたら死ぬよなぁ、普通はよう…てなわけで手前ェ殺す」

374人形達の参戦 1 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:32:39 ID:D7qZuQnc
 ついに長い階段が終わりを告げ、広々としたフロアに出る。
 北と東へ二本の通路が延びているが、その間には巨大な扉があった。
 それはさも異様な妖気を放っているように感じられる。
 中から感じる威圧感に気圧されながらカイルロッドは呻いた。

「これが……格納庫」

 複雑な幾何学的紋様に隙間なく覆われた鉄製と思われる大扉。
 その表面は等間隔に設置されたライトによって光沢を帯び、
 場所さえ異なれば荘厳な雰囲気を見い出すことが出来ただろう。
 しかしここは地底であり、岩肌に浮き立つその姿は魔窟の入り口にしか見えない。

「随分と手の込んだ装飾ですわね……」
 扉に近づこうとした淑芳にカイルロッドは手を伸ばして引き寄せる。
 カイルロッドは地下に入った時、背後の扉が閉じてしまい戻れなくなった事を思い出し、心配していた。
「うかつに近づくな、まだ何か仕掛けが有るかもしれない。陸、何か怪しい物は?」
「地面には何の仕掛けも有りません、周囲に不自然な臭いも無いようですね」
 付近を嗅ぎ周っていた陸がカイルロッドの問いに応じる。
「上にも特に変わった物は無さそうですわね……カイルロッド様、退がっていて下さい」
 カイルロッドの前に進み出た淑芳の手には、数枚の呪符が握られていた。
 淑芳まさか――とカイルロッドが声をかける前に、
「吹き飛ばしますわ!李淑芳の符術、得とご覧あれ。臨兵闘者以下略!絶火来来、急々如律令!」
 符が凄まじい勢いの爆炎に変化し、扉を穿つと同時に炎の光がフロアを包み、
 飛び散った火の粉が陸の毛を焦がす。
(犬ばかりにいい顔をさせるわけにはいかないわ!)
 力が制限されているとはいえ、本来なら天界の神将も感嘆するほどの高レベルな符術が炸裂した。

375人形達の参戦 2 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:34:58 ID:D7qZuQnc
 しかし――
「嘘、無傷だなんて……」
 目立った損傷もない大扉が、呆然とした淑芳の前にそびえていた。
 
 淑芳が手の込んだ装飾と称した扉の幾何学的紋様は、
 実は物質の強度を高めるための論理回路である。
 更に1st-Gの賢石加工が施されて『べらぼーに頑丈』と書かれているために、
 並みの攻撃位は跳ね返す、鉄壁の守りだという事を彼等は知らない。 

「まったく、ハデな見かけの割には、私の毛を焦がす程度の威力しかないんですか?」
 カイルロッドの背後に緊急避難していた陸が非難の声を投げかけてくる。
(大誤算ですわ、扉一つ壊せずに更には犬ごときに馬鹿にされるなんて……、
何としてでも名誉を挽回しなければなりませんわね)
 一瞬で思考を終了した淑芳は、愛しのカイルロッドと犬畜生に向かって作り笑いを浮かべた。
「ふふふ、一見しただけでわたしの実力を嘲るとは、おめでたい頭脳をお持ちですわね。
これはほんの小手調べ。序の口に過ぎないことを教えて差し上げましょう」
 黒地に銀の刺繍の入った道服を優雅になびかせ、淑芳は再び扉に向き直る。
  
 目に決意を浮かべて後ろを向いた淑芳から、只ならぬ気配を感じたカイルロッドは、
「お、おい……淑芳――」
 無理はするなよ、と告げようとした瞬間。
 彼女の手に先ほどの倍近い呪符が握られているのに気付いて、
 ――手遅れだ。
「陸、目を閉じろ!」
 足元の陸を掴むと同時に、後方に跳躍して地面に伏せる。
 直後に、
「臨兵闘者――」
 ぎりぎりで塞いだ耳に次の瞬間爆音が響き、同時に猛烈な衝撃が体を襲った。
「!!」
 続いて熱気、冷気、再度の衝撃が伏せた背中の上を通過して行くのを感じ、
 最後に強烈な打撃音と破壊音が響く。

376人形達の参戦 3 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:36:01 ID:D7qZuQnc
 ごいん!
 めきゃ!

 それきり音は聞こえなくなり、恐る恐る顔を上げたカイルロッドは、
 何か巨大な力でブチ抜かれた大扉と、乱れた髪を整えながら不適に笑う淑芳を見た。
「いかがです?まあ、犬風情では私の符術の技量を計り知る事はできそうにありませんからね。
わたしの力を侮った先ほどの台詞は見逃して差し上げるわ」
 そこはかと余裕や自信を漂わせる言動だが、実際に扉を破壊したのは淑芳の符術ではない。
 一振りで天界に衝撃を起こした、太上老君秘蔵の武宝具『雷霆鞭』である。
 実際に再び扱って淑芳はその威力に戦慄していた。
(持ち手によって威力が増減するとはいえ、なんて破壊力…… 。
これがもし、悪しき力を持つ者の手に渡ったら……考えるだけでも恐ろしいですわ。
効果範囲を絞ってもこの威力。例えどのようなものが相手であろうと必殺間違いナシですわ)
 自分が本気で符術を使えば、カイルロッド達が防御行動を起こして自分をまともに見れなくなる。
 その瞬間を見越して、符術にまぎれてデイパックから雷霆鞭を取り出し、一撃を加えたのだ。

 当然カイルロッド達はそれを知らない。
 愛する人に対して嘘を貫く罪悪感が募る。
 しかし、自分はこの武宝具の存在を隠し通さなければならない。
「す、凄いな淑芳。なんて力だ」
「確かに。口先だけでは無かったのですね」
 身体を起こしながらカイルロッドと陸が賞賛の言葉を伝える。
「簡単な事ですわ、超高熱、超低温、超打撃の一点加重攻撃は大抵の物を破壊します。
わたしの頭には、精密な頭脳が詰まっていて四六時中休みなく働いているのです。
腕っ節には自信がありませんが符術と料理は大得意ですわ」
 体を払いながら、さりげなく誤魔化しの言葉を返すと、
 おぉ、と更なる感嘆の声がカイルロッドの口から漏れる。
 自分を信用してくれているであろう彼の言葉だけに心が痛んだ。

377人形達の参戦 4 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:37:50 ID:D7qZuQnc
「さあ、丁度よい大きさの穴が空いたので格納庫に入りましょう」
 一人苦しむ淑芳の心を知ってか知らずか、陸が扉に向かって歩を進め始め、
 神妙な面持ちでカイルロッドがそれに続く。
「あぁん、そんなに急がないで下さいなカイルロッド様ぁん」
 淑芳も格納庫にある存在を確認し、兵器ならば破壊するという目的を思い出して、
 気持ちをLOVEモードに切り替えてその後を追った。
 くよくよしてもしょうがない。今は目の前の事に集中しよう。
 生き残って、理想の新婚家庭を築くために。

 淑芳がブチ抜いた穴にカイルロッドは手をかけた。
 こうして見ると扉はずいぶんと厚い。
 格納庫の存在を知った時から、
(一体何が有るのだろうか?)
 と疑問を浮かべて、その都度、
(何が有ろうと俺は臆さん)
 と思い直してきた。
(さて、吉と出るか凶と出るか……とんでもない物が無ければいいが)
 数瞬の黙考後カイルロッドが扉をくぐった瞬間、頭の中に声が響いてきた。

・――金属は生命を持つ

「何だ?」
 あたりを見回すと、奇怪な物体が大量に整列している。
 そのあまりの異様さに意識を奪われたカイルロッドは、先ほどの声の存在を完全に忘却してしまった。
 格納庫に納められていた物。それは、
「人形……なのか、これは?」
 動力を伝道するための複雑な歯車と、腱代わりの幾本ものワイヤー、露骨な金属フレーム。
 それら全てが組み合わさって織り成す造形は、不気味なオーラを放ってこそいたが、
 概ね人らしき形を保っていた。
 ユーモラスで独創性溢れるフォルムだな、とカイルロッドは心惹かれる。
 中には蜘蛛にしか見えない物も有るが、人型の物がほとんどだ。
 心惹かれると同時に、人に似ていて、しかし人とは明らかに別種の存在に対する恐怖も生まれる。

378人形達の参戦 5 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:39:32 ID:D7qZuQnc

「な、何?この奇妙な空間は?」
 後から入ってきた淑芳は思わずカイルロッドの裾を掴む。
 淑芳にしてみれば、機械仕掛けの人形など恐怖の対象でしかない。
 妖怪などとはまた異なった無機質な容姿、しかし、
「何だか……生きてるみたいですわ」
 何処からともなく視線を感じてついついカイルロッドの背中に隠れてしまう。
 情けないけど、こういう時こそ甘えておくのも善いかもしれませんわ。
 などとは決して言わないが、それとなく接近したりする辺りは、
 なかなか計算深いわね、わたし。などと冷静に思考している。

「どうやらこれは人造人間のようですね」
 人形たちの間を走り回っていた陸が戻ってきた。
 格納庫内に目立った仕掛けや、人の気配は有りません。と告げた後に、
「製作者の名前と識別名が書いて有ります。例えばこれ、『人造人間二十二号コルチゾン君』
更に、『大天才コミクロン作製』だそうです。製作者のセンスが疑われますね」
 陸が指した先の蜘蛛型の物体には確かに名前が記されている。
 同時刻に遥か彼方で、その製作者がくしゃみをして首を傾げていた事は誰も知らない。

「そう言うなよ陸、俺の世界でこれほどの物を作り上げた者は天才扱いされるぞ」
「それに、一号からの技術の進歩が見て取れますわね。複雑さが増していますわ」
「そう言われば、試行錯誤の跡が分かりますね。機械技術が未発達な世界の
先駆者の作品かもしれませんね」
「何はともあれ、危険そうでなくて何よりだ。しばらく見て回るか」

379人形達の参戦 6 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:41:00 ID:D7qZuQnc

 しばらくして淑芳は奥に並んでいた美しい女性型の人形を発見した。
 他の人造人間たちとは明らかに異なり、更に高度な技術と優美な外見を持つそれは、
「随分と綺麗な人形ですわね……スタイル良過ぎですわ。それに、なんて人に近い。
一瞬本物の人かと思いましたわ。前の方の人形とは比べ物にならない」
 ガラスのような瞳と、人の肌に似た人口表皮。3rd-Gが誇る自動人形である。
 それらは数こそ少ないものの、服を着ていて今にも動きそうなリアルさを備えていた。
「本当に……綺麗」
 
 思わず淑芳が見とれていると、
「tes.お褒めの言葉をいただき、真に感謝いたします。私は3rd-G謹製の自動人形である
八号と申します。以後お見知りおきを」
「――!!」 
 人形が動いた。淑芳の目の前で静かに一礼し、
「それでは、しばしお休み下さい」

 ごす!

 首筋に衝撃が走り、淑芳の意識はそこで途切れた。

「淑芳!……貴様、何者だ!」
 淑芳が倒れた瞬間、人造人間の間をカイルロッドが八号に向かい、疾走してくる。
 途中何体かを吹き飛ばすが気にしない。
 しかしそれは、新たなる声によって阻まれた。
「だめだよー。ここから先は通行禁止ー。って言うか動けないっしょ?」
 瞬間、カイルロッドの体が締め付けられたように動かなくなる。
 全身にくまなく結びついたそれは、
「糸……だと……」
 足がもつれてカイルロッドは激しく体を地に打ち付けた。
 金属製の床は冷たく、磨かれた表面はさらに近づく別の人形の存在を映し出していた。
 顔を上げた瞬間、
「あなたはお眠り下さいな」

380人形達の参戦 7 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:41:57 ID:D7qZuQnc
 ぷしゅ!

 何かを体に打ち込まれ、カイルロッドの意識は闇に沈んだ。
 
「さて、皆さん動いてよろしいですよ。御客人方はお眠りになられました」
 モイラ1stが手を叩くと、それまだ沈黙していた人造人間達が動き出した。
 隊長格らしい口のようなスリットのある人造人間が号令をかける。
「全体、回れー右!」
「扉を破壊し、我等を解放してくださった御方達に、礼!」

 がしゃっ、と音を立てて回れ右した人造人間達は、
 カイルロッドと淑芳に向かって敬礼する。
 続いて隊長格の人造人間が自動人形達に向き直り、
「主催者の命により、我々『人造人間中隊』は、ゲーム打破を狙う不埒な輩を
粛清すべく、出動いたします!モイラ1st様達はいかがなされますか?」
「我々自動人形は、貴方たちの作戦開始と共に先頭促進のため、
変装して集団に潜伏、撹乱し、参加者達を疑心暗鬼に陥れます」
「ってことはこの人達とは別行動だねー。大姉ちゃん」
「そうなりますね、モイラ3rd。あなたはモイラ2ndと一緒に変装セットを取ってきなさい」
「おっけー」
 
とてとてと走り去るモイラ3rdを見送ると、隊長格の人造人間は自分の体を眺め回し、
 吐息のような物を一つ吐く。
 自分達と作製技術のレベルが違う自動人形が羨ましい、とでも思うのだろうか。
 しかしモイラ1stへ向き直った彼の顔には強い決意があった。
「では、我々は作戦を14:00より開始致します。主に遮蔽物が多い森や市街地にて、
戦線を展開しますのでご注意ください」
「御忠告ありがとうございます。どうか御武運を」
 モイラ1stにうなずき返した彼は、背後に待機していた人造人間達に声を張り上げた。
 彼らは全て、キリランシェロに破壊されたコミクロンの駄作達だ。
「ガラクタ呼ばわりされ、廃棄された我々を再生し、命を下さった主催者の方々の為、
我々はこれより死地に赴く!総員、命を捨てる覚悟はあるな!」
 がちゃがちゃと体を動かし、同意を示す人造人間達。
 不気味すぎる光景だが、コミクロンがこの場に居れば狂喜の涙を流しただろう。
 やはり俺の信じた科学は偉大だ、と。

381人形達の参戦 8 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:43:05 ID:D7qZuQnc
「征くぞ!同志達よ!GO AHEAD!」
 総勢三十体あまりの人造人間達が地下道に向かって進撃していった。
 駄作の彼らが再び戻ってくることは無いだろう。
 ああ、心ある人形よ永遠なれ。

 人造人間たちを見送ったモイラ1stは、床に倒れたカイルロッドと淑芳を担ぐ。
 「さて、私達もそろそろ準備をしなくてはなりませんね。
私が変装する参加者が、そう簡単にお亡くなりにならなければ良いのですが……。
まずは12:00の放送を聞いて、生死を確かめておきますか」
 そこに、かつらを持ったモイラ2ndと服を持ったモイラ3rdが入って来た。
 かなり楽しそうなモイラ3rdを見て、
「遊びじゃないんですよ、モイラ3rd。脳の思考レベルを超ハイから元気の
ランクに落としなさい」
「ちぇー。せっかくの変装ごっこなんだから楽しくやろうよー。そう思うでしょ、八号?」
「tes.しかしモイラ3rd様は、アッパー入りすぎだと判断します」
「楽しむよりもお仕事優先です。モイラ3rd、この二人の記憶を紡いでおきなさい。
私が数時間ほど記憶を削除しておきました」
「いいよー。またリトルグレイの出てくる奴でいいよね?」
「さすがにそれはまずいでしょう」
「中姉ちゃんのいけず。いちいち考えるのが面倒なのに」

 彼女たちは忘れていた。
 密かに扉から出て行った一匹の犬の存在を。

【F-1/海洋遊園地地下 格納庫前/一日目、07:45】


 【李淑芳】
 [状態]:健康 、気絶中
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。雷霆鞭。
 [思考]:雷霆鞭の存在を隠し通す/カイルロッドに同行する/麗芳たちを探す
     /ゲームからの脱出/カイルロッド様LOVE♪
 [備考]:格納庫の事についての記憶が失われています

382人形達の参戦 9 ◆CDh8kojB1Q:2005/06/05(日) 13:43:59 ID:D7qZuQnc
 【カイルロッド】
 [状態]:健康 、睡眠中
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式。
 [思考]:シズという男を捜す/イルダーナフ・アリュセ・リリアと合流する
     /ゲームからの脱出/……淑芳が少し気になる/
 [備考]:格納庫の事についての記憶が失われています


 【陸】
 [思考]:取りあえず、この場から逃げる

 
 【人造人間達】
 [装備]:賢石。固定武装。
 [思考]:14:00より作戦行動開始/ゲームを乱す者に粛清を


 【モイラ1st】
 [装備]:麻酔銃。賢石。
 [思考]:放送後に参加者に擬態し、疑心暗鬼にさせる/殺しはしない


 【モイラ2nd】
 [装備]:賢石。?。
[思考]:放送後に参加者に擬態し、疑心暗鬼にさせる/殺しはしない
 

 【モイラ3rd】
 [装備]:曲弦糸。賢石。
[思考]:放送後に参加者に擬態し、疑心暗鬼にさせる/殺しはしない

 
 【八号】
 [装備]:賢石。?。
 [思考]:放送後に参加者に擬態し、疑心暗鬼にさせる/殺しはしない

383スィリー・カンバセーション ◆rEooL6uk/I:2005/06/06(月) 00:25:08 ID:hNdeEao2
from the aspect of ULPEN
ざく ざく ざく…
森の中に、ただひたすら自らの足音のみがこだまする。
それは心地のいい音だった。
風で葉の揺れる音も帝都の我が家を思わせて心をおちつかせる。
妻の眠るあの小屋を。
いったん草原へ抜けたのだが、暫く歩いてから引き返して正解だった。
また、見晴しの良い草原では、片目を失った視界は酷く不安でもあった。
ここにはそれがない。
どれほど歩いたのだろう。30分、あるいは1時間か。
(無心のあまりに時の概念すら忘れたか)
唇を歪ませて苦笑しつつ、彼、ウルペンは胸中でそうつぶやいた。
が、ふと気付いて笑みを消す。
長く仮面で表情を覆ううちに付いてしまった癖だった。
一人で歩きながら唐突に笑みを浮かべる男など気味の悪いものでしかないだろう。
見ている者は居ないはずだ。少なくとも彼の気付いてるなかでは。
それでも直した方がいいに変わりない。
しかし彼は気付いていなかった。
彼が見当違いな方向へ進んでいる事も。
左目を失い左腕の焼けおちた体は、酷くバランス感覚にかけており、まっすぐに歩く事は困難だ。
知らぬ間に蛇行し、同じ場所を彷徨っていても不思議は無い。
勿論いく場所に目的があったわけではない。が、それでも現在地を見失う事はリスクになりうる。
しかし彼は気付いていなかった。
森も、極限を超えた心身も、驚くほどに平穏だ。
しかし彼は気付いていなかった。
変化はいつもこともなげに訪れる。

384スィリー・カンバセーション(戯言使い) ◆rEooL6uk/I:2005/06/06(月) 00:26:22 ID:hNdeEao2
from the aspect of MONKEY TALK
 ざざぁぁぁ!
「っ!!」
本日二度目の落下感。こんなものは一日に一回で十分だ。
一日一回落下感。なんだか標語みたいで語呂が良い。
…いや、普通は一回もないのか?
「て、そんなことよりも… ドクロちゃん!!」
眼前に迫ってくる地面を後目にぼくは腕の中の少女を抱き寄せた。
目をつぶって衝撃に耐える。ついでに舌を噛まないように。生物として当然の防御反応だろう。
ずざぁぁああああん
ゆっくりと目を開ける。よし。特に怪我をした様子はない。
「ふわあーん ひははんひゃっはよー(舌噛んじゃったよー)」
なんだかすごい涙目だ。砂埃が目にはいったんだろう。
「………」
まあこの娘にそんな事期待するのは無駄だよなぁ。
しみじみと感心して辺りを見回す。
あの銀髪が追ってこないとも限らないし、今の大音響で他の参加者に気付かれないとも限らない。
上方の気配を伺ってから、前方に視線を延ばす。
そこにあったのは…黒い影。
最初ぼくはそれを怪物だと思った。
なんだか酷い違和感がある。
なぜだか凄い危機感がある。
いや、よく見ればそれは知っている人物だった。
小屋にやってきて、娘を探していたあの男。
女の子を殺した、と言っていた。危険人物と見て良いだろう。
そして違和感、その理由は――すぐに分かった。男には左腕が無い。
たった一つそれだけが彼のシルエットに怪物じみた印象を付加していた。
でも、本当に――それだけなのか? ぼくの脳が危険信号を送る。

385スィリー・カンバセーション(戯言使い) ◆rEooL6uk/I:2005/06/06(月) 00:28:07 ID:hNdeEao2
「ドクロちゃん!逃げるんだ!」
これもまた、本日二度目。
しかし当のドクロちゃんは目をこすっていて何も気付いていない。
「ドクロちゃん、といったか」
黒尽くめの声。肌が泡立ち、皮膚が戦慄する。
その言葉に反応したのはドクロちゃん。
「そうだよ。おにいちゃんの名前は?」
小首を傾げる仕草には危機感というものが全くない。
先ほど傷つけられたというのに忘れてしまったのか。
何故――気付かないんだ。
このぼくが、こんなに恐怖していると言うのに。
あの娘は、あんな目にあったというのに。
何故――この恐怖に気が付かない。
「俺の名前か」
面白そうに、男。
「俺の名前など、もうないも同然だ。もとより、多くの者が知っていたわけでもない。そして、それも皆死んだ」
ああ、そうか――
「今の俺は黒衣だ。空白を跋扈し人の世を蹂躙する怪物だ。
 さて黒衣に名前がいるか?存在の全てをこの衣のうちに隠す存在に?
 答えは否、だ。」
これは、この恐怖は――
「今の、俺に、名前は、ない」
今分かった。この恐怖はぼくの恐怖だ!!
物語を歪ませ、結末を狂わせる無為式へのジョーカー。
他人に成り代わろうとする彼女、雑音。そしてこの男。
怖い、恐い。恐ろしく、恐怖している。 
「終わりを始めようじゃないか」
見た事のある糸がどこからとも無く現れ、ぼくのひざの上の、少女の首に巻き付いた。

386スィリー・カンバセーション(戯言使い) ◆rEooL6uk/I:2005/06/06(月) 00:29:30 ID:hNdeEao2
「う あ、いやぁあ」
さっきの牽制とは違う、本気の攻撃。男は、ドクロちゃんを殺す気だ。
なんだか、少女の体重が軽くなっていくようだ。急速に、乾いていく。
「っやめろぉおお!」
ぼくはできる最善の事をした。つまりドクロちゃんを放り投げた。
木々の向こうに小柄な少女の影が消える。
…今度はちゃんと目をつぶってくれる事を祈ろう。
とりあえず、男の意識はドクロちゃんから逸れたようだった。
そして、逸れた意識が次に向かう対象は――
「つまり身を挺してあの娘をかばう、というわけだな」
やっぱり、ぼくですか。
「――別に、身を挺したつもりなんて、ないですよ。ぼくはこう見えても薄情なんです。後であの子にいろいろと恩を着せるという下心がありありですよ」
戯言だ。分かっている。
それでも喋るのをやめられない。
足が震えて動かない。
足が竦んで動けない。
それを知ってか知らずか男は一歩、こっちに近付いてきた。
気が付けばぼくの首筋にも銀色の糸。
「では一つ質問をしよう、少年。問いはこうだ。
『お前に確かなものはあるのか』」
は は、とぼくは笑った。
かすれて、悲鳴じみて聞こえていたかもしれないけど、それでも確かに笑った。
なんと、滑稽じゃないか。
今まで、ぼくは望まれもしない戯言を語ってきた。
それは物語を狂わせ、結果多くの死者が出た。
本当に、多くの人がぼくの戯言で死んでいった。
この島に来てからも一人。もしかしたら凪ちゃん、ドクロちゃんも。
戯言じみた質問だ。答える事も、戯言。
男はぼくにそれを要求している。名前の無い男。戯言の効かない切り札。
効く相手のいない戯言なんて、虚しい独り言。
「そんなもの、あるわけないじゃないですか。
壊して、眺めて、逃げて、近寄って、憎んで、愛して。
そのどれもが半端だ。
ぼくは「生きて」なんかいなかった。ただ、「いる」だけだった。
徹底的に、何もしなかったんだ。
生きたいのに、生きられず、死にたいのに、死ねず。
そんな、戯言使いです」
多分、これが最後の――
「さしあたって、確かなのはぼくはあなたに殺されるだろうと言う事ぐらいです」
最後の、戯言。

「お前は賢明だ」

ああ…喉が乾いた。
誰か、僕に水を下さい。

387スィリー・カンバセーション(戯言使い) ◆rEooL6uk/I:2005/06/06(月) 00:30:17 ID:hNdeEao2
【F−4/森の中/1日目・13:10】
 
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/(零崎人識)/(霧間凪)/三塚井ドクロ)

  【いーちゃん 死亡】

【ドクロちゃん】
  *生死不明。 次の書き手に任せます。生存なら脱水状態。

【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:こいつ(ギギナ)をどうにかして、いーちゃんたちと合流

  『ウルペン』
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:1)チサト(容姿知らず)の殺害。2)その他の参加者の殺害3。)アマワの捜索

388損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU:2005/06/06(月) 10:31:31 ID:gze6IUQc
 李麗芳は夢を見ていた。意識を失う少し前の光景が、夢の中で再現されていた。
 その時、呉星秀が死んだと放送で聞いて、麗芳はショックを受けていた。
「どうしよう……他のみんなも、いつ殺されてもおかしくないよ」
 泣きそうな顔をした彼女に、宮下藤花が言った。
「“人間にとって最大の快楽とは未来を視る瞬間にある。そのとき人は世界すら
 征服したような気がするものだ”――とか書かれた本があるくらい、人は未来を
 予測したがる。けれど、そうした予測を無条件に盲信するのは、とても危険だ。
 はたして、君の憂いている未来は、本当に実現してしまうのかな?」
「え?」
 呆然と藤花を見つめる麗芳。しぐさも、口調も、まなざしも、まるで藤花ではない
別人のようだった。左右非対称な表情には、人間らしさが欠けていた。
「未来が現在になる時まで、答えの出ない問いだ。そうは思わないかい?」
 藤花の顔をした“それ”が何なのか、麗芳には判らなかった。
「と、藤花ちゃん?」
「あ……はい、なんですか麗芳さん? わたしの顔に何かついてます?」
 小首をかしげた藤花の姿が、闇の中に溶けて――夢が終わった。

 目が覚めた時、麗芳は硬い床の上に寝かされていた。周囲は薄明るい光で
照らされていて、この場所が通路の中だと、見れば判る。
「おや、お目覚めですか」
 声の主は、奇妙な姿の男だった。彼の足元には二つのデイパックが置いてある。
片手の指でこつこつ仮面を叩きながら、もう片方の手にスタンロッドを持ったまま、
彼は彼女に歩み寄ってきた。これから戦おうという態度には見えない。

389損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU:2005/06/06(月) 10:32:16 ID:gze6IUQc
「……それ、素敵な仮面ね」
 麗芳は、男に道具と武器を奪われていた。だが、意識がなかった間に殺されても
いないし、拘束されているわけでもない。彼は話し合いを望んでいる、と判断し、
麗芳は友好的に話しかけてみたのだ。変な仮面だとか思っているが口には出さない。
「どうも。社交辞令だとは思いますが、その思いやりには感謝しておきましょう」
 そう言って、男は麗芳から離れた位置で止まり、スタンロッドを床に置いた。
「あなたのデイパックも、ここに置いて離れます。勝手に取ってください」
 怪訝そうな麗芳を気にする様子もなく、男はデイパックを一つ移動させ、もう一つの
デイパックが置いてある場所まで遠ざかった。敵ではない、と態度で示したのだ。
「失礼だとは思いましたが、あなたが寝ている間に武器を調べさせてもらいました。
 退屈だったし、興味があったものですから。あなたのデイパックは開けていません」
 しかし麗芳は、男を完全には信用しない。何か細工をされた可能性があるからだ。
「……このデイパックが唐突に爆発しても、あんたは離れてるから無事でしょうね」
 裏切って苦しませて殺すのが大好きな男だったりしたら最悪だな、と彼女は思う。
「それでは、近くまで行きましょうか。ああ、心配しなくても大丈夫ですよ。
 もしも戦闘になった場合、僕は絶対に、あなたに勝てない」
 仮面の男は、自慢にならないことを自信たっぷりに断言した。どう見ても変人だ。
「へぇ? あんたは確かに弱そうだけど、わたしだって、か弱い乙女なのよ?」
「あなたが武術の達人だというのは知っています。だいぶ鍛えられているようですね」
 麗芳に向かって歩きながら、男は苦笑したようだった。
「おっ、よく判ったね」
「気絶していたあなたを背負って、ここまで運んできましたから。大変でしたよ」
 つまり、直に触れれば筋肉の状態くらい素人でも判るということだ。

390損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU:2005/06/06(月) 10:33:07 ID:gze6IUQc
「つまり、わたしの胸やら太腿やらの感触を楽しんだわけね。高くつくわよ?」
 微妙に赤面しつつ、麗芳は男を睨む。半分本気で半分冗談だ。男が平然と答える。
「できるだけ紳士的に行動したつもりです。まぁ、証明するのは不可能ですが。
 放っておいたら誰かに殺されていたかもしれませんね。その場に留まるのは論外。
 あなたを守りながら素手で戦ったら、僕は負けてしまいます。それとも、いっそ
 引きずられて移動した方が良かったと? 僕らは泥の上も通ったんですが」
 男の靴が泥だらけになっているのを見て、麗芳は首を左右に振った。
「貸し借りは無しでいいわ。ところで、ここはどこなの? 何かの通路みたいだけど」
「水がなくなった元湖の、湖底だった場所で発見した地下通路ですよ。敵がいないと
 確認できていて、他の参加者が来なさそうな場所に、戻る途中で発見しました。
 この地下通路に入れたのは幸運でしたよ。ここは、隠れて休むのに最適な場所だ。
 ちなみに、僕のいる方に背を向けて進めば、僕らが入ってきた出入口があります。
 扉がありますが、閉じ込められてはいません。いつでも自由に地上へ出られます。
 出入口の近くには、地下の地図が描かれていました。確認しておくと良いでしょう」
 麗芳の間近で、男は足を止めた。彼女の技量なら、一瞬で彼を攻撃できる位置関係だ。
「さて、こうして僕が情報を提示した理由は、あなたと手を組みたいからです。
 僕は、主催者を打倒し、この島から脱出したいと考えています。他人の思惑通りに
 人を殺すなど、不愉快で我慢できません。だから、まず同盟を結成したいのです。
 あなたは気絶させられていた。現在の状況に、何の不安もないとは思えない。
 こうして話してみた印象からして、僕を殺したいと思っているようでもない。
 利害は一致しているはずです。違いますか?」
 不思議な男だ。善人のようにも悪人のようにも見える。信じるのも疑うのも難しい。

391損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU:2005/06/06(月) 10:33:54 ID:gze6IUQc
 麗芳は、迷った末に、その迷いを正直に伝えることにした。
「違わない。でも、お互いに、信用できるっていう証拠がないんじゃない?」
「共通の敵が、あなたと僕とを結束させてくれるように祈るばかりですね。
 そもそも今も、あなたを怒らせたら、僕は死ぬかもしれないわけですから」
 緊張感のない言い方だったが、仮面の男が危険な賭けをしているのは事実だった。
 太白さまみたいな話し方だな、と麗芳は思う。太白というのは、彼女のよく知る
天界のお偉いさんで、舌先八寸だとか五枚舌だとか言われて親しまれている二枚目だ。
「……そうね。とりあえずは、できる範囲で協力し合いましょう」
 そう言って麗芳が微笑むと同時に、謎の轟音が響いた。思わず二人は身構える。
「何だ? 今のは」
「さあ? 何だか判んないけど油断は禁物ね。えーと……あんた、名前は?」
「エドワース・シーズワークス・マークウィッスルといいます」
「うわ、長い名前……憶えにくいし、舌噛みそう……」
「EDと呼んでください。どうぞよろしく。で、あなたの名前は?」
「李麗芳よ。麗芳でいいわ。よろしくね、EDさん」
 しばらく待っていると、今度は謎の声が聞こえてきた。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
 二人は顔を見合わせたが、声に続く銃声と悲鳴を聞いて、口を閉ざした。

392損得勘定・義理人情 ◆5KqBC89beU:2005/06/06(月) 10:34:51 ID:gze6IUQc
「あれはピストルアームの発射音でした。この島にも、あれが存在しているとは……」
「何なの、そのピスなんとかって? とにかく物騒な武器だってことは想像つくけど」
 二人は食事をしながら情報交換をしていた。麗芳は常人の倍くらい食べていたが、
あえてEDは指摘しなかった。賢明だ。
 これでも麗芳としては、ものすごく食欲が落ちている状態だったりするのだが。
 二人とも、教えても無害そうな情報は隠すことなく話している。当たり障りのない
話題から語っているのは、序盤の会話を、その後の判断材料にできるようにだった。
 自己紹介。自分のいた世界について。竜について。魔法と術について。
 EDが一通りの情報を話し終わった後で、麗芳が情報を教える。そういう順番だ。
「まずは信用を得るのが第一ですからね。僕は、あなたを信用できると判断しました」
 などとEDが主張したからだ。おかげで麗芳は、隠し事をしづらい気分になった。
 情報交換は順調に進んだ。どれもこれも、互いにとって驚くべき内容の連続だった。
 魔法や術に関しては二人とも専門家ではないこと、故に呪いの刻印をどうにかする
手段がないこと、麗芳の能力に制限がかかっているらしいことなどが確認された。
 二つのデイパックが二人の手で開けられ、ランダムに渡された道具の把握も済んだ。
 次の話題は、この島にいる知人について。
 EDは躊躇なくヒースロゥのことを説明し、最後にこう言った。
「あいつなら、ちょっとやそっとのことで殺されたりはしないでしょう」


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