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試験投下スレッド

1管理人◆5RFwbiklU2 :2005/04/03(日) 23:25:38 ID:bza8xzM6
書いてみて、「議論の余地があるかな」や「これはどうかなー」と思う話を、
投下して、住人の是非をうかがうスレッドです。

246Rainy Dog7/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 08:00:25 ID:JdwCcAMg
 甲斐は一人回想した。
 初めて会った公園での対峙、地下街での戦い。
 長い探索を経て、倉庫で再戦を果たす。
 その後はなし崩し的に同盟を組んでセルネットと決戦。
 繁華街で無理やり悪魔戦を繰り広げたこともあった。
 王国では自分だけ犬の姿という理不尽な扱いを受けたが、まあそれはいい。
 塔での戦いでは少し助けてやっただけで、直接は顔を合わせていない。
 そして、この島で、果たされなかった決着をつける……はずだった。

「あの野郎。勝手にくたばってんじゃねえ……よ!」
 こぶしを思いっきり振り下ろした。
 鈍い音が響く。
 亜麻色の髪を数本巻き込み、甲斐のこぶしが少女の頬――――そのすぐ横にぶつかる。
 少女が眼を白黒させているのを見下ろしながら、こぶしを引く。
 濡れた髪から滴る水滴を払い、ぶっきらぼうに言う。
「悪かったな。もう行け」
 少女は余計に目を白黒させるが、甲斐は構うことなく背を向けた。
 なんの造作もなしに悪魔を消すと、背に残っていた水が激しく地面を叩いた。
 視界の端に自分と同じくびしょ濡れの少女を捉える。
 悪魔を使いはしたが、突撃させただけの素人以下の操作だった。
 悪魔に関してはいくつか引っかかることもあるし、その確認も必要だろう。
 それでも目の前の線の細い少女は、よくがんばた方だと甲斐は素直に思った。
 悪魔と渡り合う一般人など姫木梓だけだと思っていたが、なかなかにやる。
 ほんの少しだが、楽しかったのは事実だ。

247Rainy Dog8/8◆7Xmruv2jXQ:2005/05/16(月) 08:01:13 ID:JdwCcAMg
 だが、だからこそ、甲斐は許せないのだ。
 こんな素人相手でなく、もしも相手がウィザードなら。
 互いに死力を尽くし、生命を燃やし、ぎりぎりの戦いを行えたのなら。
 それは、最高の時間だったはずだ。
 もはや二度と手に入らない至高の瞬間。
 一度あきらめ、再び鼻先に吊るされた餌が、また寸前で取り上げられてしまった。

「俺が望んだのはこんな遊びじゃねえ。ウィザード、お前との……」
 
 
 身を起こしながら、しずくはぼんやりと男を見上げた。
 わけもわからず襲われて、わけもわからず見逃された。
 随分身勝手な人間だとは思うのだが……

(……泣いてるんでしょうか、この人は)

 しずくには、ずぶ濡れで空を見上げるその男が、やけに小さく見えた。
 
【D-7/湖岸/12:10】  
【しずく】
[状態]:右手首破損。身体機能低下。センサーさらに感度低下。濡れ鼠。
[装備]:
[道具]:荷物一式。
[思考]:1、かなめたちの救出のため協力者を探す

【甲斐氷太】
[状態]:左肩に切り傷(軽傷。処置済み)。ちょい欝気味。濡れ鼠。
[装備]:カプセル(ポケットに数錠)
[道具]:煙草(残り14本)、カプセル(大量)、支給品一式
[思考]:1.ウィザードの馬鹿野郎 2.ベリアルと戦いたい。海野をどうするべきか。
    ※『物語』を聞いています。 ※悪魔の制限に気づきました(詳細は別途確認するつまりです)
※エスカリボルグはその辺に落ちてます。

248悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:34:55 ID:wMojAoZA
 骨折した部分が痛む。疲労で体が痺れてきた。昨夜の失血が体力を低下させている。
(あー、またしても死ぬとこやった……)
 小娘に吹き飛ばされ、熊に追い回され、今度は女に殺されかけた。
 二度あることは三度あると聞くが、三度あったことは何度あるのだろうか。
 前途多難な未来を憂い、軽い吐き気を感じたが、腹の中には水しかない。
 食事をとっていなかったことが幸いしたが、全然嬉しくなかった。
(曲がりなりにも連れができた途端に、連れの敵から目ぇつけられるとは……)
 自分もガユスも喋らない。お互い、そんな気分ではなかった。
 のろのろと力なくデイパックを開け、ガユスが止血を始めた。
 どう見ても、満身創痍の状態だ。殺そうと思えば、簡単に殺せそうだった。
(24時間後までに、誰も死なへんようやったら……その時、こいつが隣に居れば
 ……俺は、こいつを殺すんやろか?)
 そんなことを考えながらも、やるべきことは済ませておかねばならない。
 無惨に分断された死体の傍らに立ち、遺品をあさる前に、死者に声をかける。
「あんたの仇をどうにかする為にも、あんたの持ってた道具、使わしてもらうで」
 気分の良い行為ではないが、遺品は必要だった。作業しながら考え事を続ける。
(死人が出んと困るんは誰でも同じや。現時点で、そうそう多人数が殺されとるとも
 思われへん。まだ人口密度は高い。まず間違いなく他の誰かが殺してくれよる。
 まぁ一応、こんなんでも味方やしな。いつまでも味方とは限れへんけども)
 移動中にガユスと会話し、斧を持った女の方がミズー・ビアンカで、剣を持った
子供の方が新庄運切だ、とは聞いている。ミズーが敵の知人だったことも知った。
(……多分、そう遠くないうちに別行動せなあかん)
 フリウ・ハリスコーと合流すれば、ミズー・ビアンカは敵になるだろう。その時には、
おそらくガユス・レヴィナ・ソレルも敵になる。女に弱そうな傾向を見て確信した。
 フリウやミズーと再会しないままなら、ずっと協力できる可能性も出てくるはずだが、
そうならない可能性の方が高そうだ。やはり安心はできない。

249悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:35:53 ID:wMojAoZA
(まぁ、主催者しか刻印を解除できへんようやったら、誰でも最後には敵になるか)
 主催者の思惑通り、最後の一人になるまで殺し合わねばならないと確定したなら。
(その時は、どないしようか……)
 この『ゲーム』の目的は何か。参加者を殺すことではない。では苦しめることか。
苦しめることそのものが目的か。それとも苦しめることによって何かを得るのか。
 競わせる為の手段なのか。ならば何を競わせているのか。おそらく戦闘能力ではない。
ただ力が強いだけでは生き残れない。主催者は、参加者に何を望んでいるのか。
 何故この顔ぶれなのか。無作為に集められたにしては、知り合い同士が多すぎる。
因縁が必要だったのか。誰かに殺意を抱く者。戦えぬ弱者と、弱者の為に戦う強者。
戦うことに価値を見出す者。殺さねばならぬと考える者。掌の上で踊る参加者たち。
 価値観の違う隣人と、常識の通じない空間。未知の存在と、予想外の出来事。
疑念と誤解と混乱と、刻印による死の恐怖。破滅の火種は無数にある。最悪だ。
 この状況下で、何をすればいいというのか。従うべきなのか、逆らうべきなのか。
 逆らうことさえもが、予定調和の展開だったのなら……どうすればいいのか。
(まぁ、どんなに悩んだところで、結局なるようにしかならへん。そんなもんや)
 溜息を一つ。長々と考えた末に出た答えは、最初と変わらぬものだった。
(俺は、生き残る。生き残ってみせる。最後の最後が、どんな結末やったとしてもな)

250悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:36:41 ID:wMojAoZA
 特殊メイクじみた姿の男と、知性的な雰囲気の女が現れた、あの瞬間を思い出す。
 そこまでは良かった。少なくとも悪くはなかった。先手を取られてしまったものの、
攻撃の前に呼び声が来ただけでも幸運だった。そう、そこまでは。
 そこから悲劇が始まった。
 女はガユスの知り合いだった。男が女を疑い、女が男を裏切った。女はガユスの武器を
奪い、男は女を本気で狙い、自分は死闘に巻き込まれた。
 女は男と戦って、ド派手な大技をくらわせ、男を死体に変えてしまった。
 女の消耗が激しかったこと、女がガユスを苦しめたがっていたこと、自分の存在が
女にとって不確定要素だったこと――様々な事情が重なって、自分たちは生きている。
(あいつら、好き勝手し放題やったなぁ……あー、あれは『魔法』やったんやろか)
 女――クエロの使っていた技は、ずいぶん不可思議だった。ほとんど理解できない。
 悪魔と呪いの刻印には、分かりやすい類似点があったのだが。例えるならば、カラスと
コウモリ程度には似ていた。方法論が近いというか、同じ種類の機能美があった。
 同じように例えるならば、悪魔とクエロの技の関係は、カラスとペンギンのような
ものだ。根本的な共通点はあるが、それ以上に相違点が目立つ、といったところか。
 対して、男の使った技の仕組みは、おぼろげながらも理解できそうだ。もう一度だけ
例えてみるなら、悪魔と男の技は、カラスとハトくらいには似ているのだろう。
 特に、青い炎を出す術は、自分の得意技だった黒い炎に近いようだ。もっとも、
あの青い炎は、純粋に精神的ダメージを与える作用に特化していたようだったが。
 最初に使った、地面から岩の錐を出す術も、悪魔の物理的干渉に少し似ていた。
 自分の鬼火も、燃料こそ悪魔の力だが、炎自体は物理的なものだ。
(せやけど、『あの男だけが使える力』って印象やなかった。むしろ、あれは……)
 脳裏に少女の面影がよぎる。“最初の悪魔”にして“最強の悪魔”、女王だ。
(女王の加護みたいなもんか? 外界にある力を、術者が利用する技やとか)
 この島には、女王に似て非なるものが存在するのだろうか。悪魔によく似たそれは、
あるいは精霊などと呼ばれているものなのかもしれない。ふと、そう思った。
(……もしかしたら、それ、女王の遠い親戚なんかもしれへんな)

251悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:38:21 ID:wMojAoZA
 考え事をしながらも回収していた品に目を向け、顔をしかめる。
(この剣、どないしようか……)
 柄と刀身を繋がない状態なら、片手でも振り回せそうな重さだ。
 結局、男の遺品で無事だったのは、剣の柄と、その付属品だけだった。
(メモも地図も名簿も、既に灰や。案の定、どんな情報も残ってへん)
 だからこそ、クエロは放置していったのだろう。最初から期待はしていなかった。
クエロは、この剣を“光の刃を出す便利な武器”くらいに思っていたようだ。
確かめたわけではないが、きっとガユスも同じような見解だろう。
 だがしかし、本当に、それだけの物なのだろうか。
 知っている剣ではある。一番最初の会場で、真っ先に殺された騎士が使っていた剣だ。
 この不吉な予感は、かつての持ち主が二人とも死んでしまったからだろうか。
 何故だか自分でも分からないが、できれば関わるな、と本能が警告している。
 この剣が、予期せぬ形で災いを招くような気がして、どうにも嫌な気分になった。
 とはいえ、武器としては貴重な上に強力だ。この場に放置していくわけにもいかない。
 とにかく持って行かねばなるまい。あえて、危機感は無視することにした。
 ガユスの方を見る。止血は終わったようだが、その横顔に覇気はない。
(……頭も体も思いっきり不調か。大丈夫やないな、明らかに)
 とりあえず、この場から少し離れて、それから休憩するべきだろう。
「こら、そこのへなちょこ眼鏡。いつまで腑抜けとんねん。用は済んだし、移動するで」
「おい、ちょっと待て、誰がへなちょこ眼鏡だ? ええ、そこの田舎なまり丸出し野郎」
 元気な演技をする余裕くらいは戻ってきたようだった。喜んでいいのか微妙な感じだ。
 そのまま景気づけに、軽く毒舌の応酬でも始めようかと思い、口を開いた時だった。
 謎の轟音が響き、そして、呼びかけと、銃声と、悲鳴が聞こえてきた。

252悪魔と魔法と光の剣 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/16(月) 15:39:35 ID:wMojAoZA


【B-1/砂浜/1日目11:00】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

253そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:27:38 ID:pBSSTsig
『……諸君らの健闘を祈る』
 放送が終わった。風見は自分の地図を広げ、BBと確認しながら禁止エリア、死者の名前にチェックを入れる。
 072 新庄運切  075 オドー  そして001 物部景
 一本づつ線を引く。気が一気に滅入る。

――馬鹿なやつ、私に誰かを重ねて見て、私を庇って死ぬなんて。

 全竜交渉でも死者は出ている。風見とてただの小娘ではないし、戦場での死は初めてではない。
 だが、今回は違う、と風見は考えている。景は私をかばって、つまり私のせいで死んだのだ、と。
 彼に失礼だとは分かっていても、風見はその後悔を捨てることが出来ない。
 自分は戦闘訓練を受けていた、というのも今思えば驕りでしかなかった。
 新庄も、オドーでさえも死んでいるというのに。
 まさしくいいとこなし、と言うやつである。
 BBは何も言わない。その気遣いが風見にはありがたい。
 新庄、オドーはどんな死に様だったのか。誰に殺されたのだろうか。
 相方が無言をいいことに、風見は自分の世界に沈み込む。
 装備型のEx−stはともかく、オドーの悪臭までは取り上げられてないだろう。
 だとすると機竜さえ打ち砕くオドーすら倒れるこの島で、銃ひとつとはあまりに心もとない。
 やはり先にG−sp2を探すべきだろうか。
 戦闘とあらば文字通り飛んでくる相棒を思い浮かべ、風見は大切なことを忘れていることにようやく気づいた。
「そうだ、飛んでこれるんじゃない」
 がっくりと肩を落とす風見。どうも今ひとつ調子が出ていない。
 打撃してないのが原因ではあるまいか、と風見は半ば本気で考えた。
「まさかアンタをぶっ飛ばすもいかないわよね、痛そうだし」
 どうも自分にはガンガン突っ込めるタイプの相方が必要らしい。
「何がしたいのかは分からんが、それが賢明だろうな」
 律儀に答えるBB。悪いとまでは言わないが、こうもお堅いとさすがにフラストレーションがたまる。
 風見は深呼吸して気を取り直した、G−sp2がくればBBにも手を痛めずに突っ込める、調子も戻るだろうと考えて、
「さて、ちょっと上をチェックしといて、どこから飛んでくるのか分からないから」
怪訝な様子のBBを無視して、
「G−sp2!」
声を張った。
 一拍の間をおいて、東から飛来する衝撃音とそれにつづく風切音を二人は捕らえる。
 そして風見は、また一つポカをしたことに気付いて頭を抱えた。
 

    *    *    *


 時刻は数分ほどさかのぼる。放送のメモを終えて子爵とハーヴェイは移動の準備に取り掛かった。
 少女の遺体を野ざらしにしておくのは忍びなかったが、埋葬する時間はない。たまたま今回の放送に名前は無かったが、
次の放送でキーリが呼ばれない保障はどこにもない。最悪、今この瞬間にも彼女が死の危地に直面しているかもしれなのだ。
 子爵もそれを察して、埋葬しようとは言わない。
「これで勘弁してくれ」
 二人は少女の亡骸を木に寄りかからせて、目をそっと瞑らせた。
【さて、放送も終わった。私は流離いの一人旅に出たいと思うのだが、君はどうするかね。尋ね人がいるのなら、協力するの
 にはやぶさかではない。かような私だが言付を預かることぐらいはできるつもりだが?】
「いや、いい。こんな状況で待ち合わせを頼むのにはアンタにも俺達にも危険だからな」
 ハーヴェイは真っ赤な自称吸血鬼のスライムにキーリの特徴と炭化銃の性質だけ教えてお別れを言った。
「アンタもしぶとさが売りなんだろうが、それでもこの島は危険だ。気をつけてな」
 子爵が赤い触手のようなものを伸ばしてきた、握手のつもりなのだろうと、彼は判断し、それを生身の手で握り返した。
 ほんのちょっぴり後悔した。 
 子爵は液体となって流れるように去っていく。彼は気取られないようにそっと手を拭きながら見送った。

254そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:32:26 ID:pBSSTsig
「武器はこれだけか」
 その後、ハーヴェイは武器を求めてウルペンが置き捨てた長槍を手に取った。
 奇妙な形状、用途不明の突起、不可解な装甲。これも非常識な物体なのかと首をひねる。
 直後、コンソールに緑色の光がともった。
『コンニチワ!』
「ああ、こんにちわ」
 淡々と返すハーヴェイ。
『ビックリシタ?』
「もう慣れた」
 槍は穂首をがっくりと落とした。ハーヴェイがリアクションに困っていると今度は辺りをきょろきょろと眺め始める。
『ヨンダ?』
 ハーヴェイもそれに倣って、辺りを探るが気配すらない。
「いや。誰もいないし、というか声すら聞こえなかったぞ」
『キコエタノ!チサトダヨ!』
 疑問視を浮かべて答えるハーヴェイ。
『ハナシテ』
 言われるままに手を離してから、猛烈にいやな予感を覚えた。
『イマイクヨ!』
「ちょっと待て」
 くるりと長槍が身を翻した。その柄を義手がとっさにつかむ。
 風船を破る、というよりアドバルーンを破るような音がして、ハーヴェイが気が付いたときには、その身ははるか上空を
飛んでいた。
 さすがのハーヴェイも眩暈を覚えた。
「……どこに行く気だよ」
 すさまじい慣性がハーヴェイを後方に引きずる。
 地上を眼下に見下ろしながら、振り落とされないようしがみつくハーヴェイ。
 ほんの数秒の飛行後、ハーヴェイは自分が危機的状況にあるのに気が付いた。
 だんだんとハーヴェイにかかる慣性が消えていく、眼下の景色も地上からだんだんと水平線になっていく。
「おいおい、マジか?」
 冷や汗が流れる。
「落ちてるぞ!」

 衝撃。そして暗転。

    *     *    *

「取りに行くか?」
「冗談、あんな大騒ぎになりそうなとこ行ったら幾つ命があっても足りないわ」
 千里は腕組みして鼻を鳴らす。
「G−Sp2には悪いけど、あの子がいないと死ぬわけでもないし……当初の予定通り行きましょ」
「結局悩みの種が一つ増えただけだったな」
 風見は返す拳もない。
「まったくよ」
 いまだけはBBの装甲が恨めしかった。

    *     *     *

 気が付いたハーヴェイが最初に見たのは、天井に開いた穴とそこからのぞく青い空だった。
 もう、どこまでもブルーである。
「なんだったんだよ、今のは」
 全ての原因はG−Sp2に施された個人識別解除処理のためだが、そんなもの風見もハーヴェイもG−Sp2も知るわけ
がない。
 とりあえずハーヴェイは全身をチェック、一箇所を除いて傷らしいものも異常は見られなかった。
 その代償はぼろ雑巾と成り果てた左腕。
 腕一本ですんだのは僥倖といえた。かばった腕はしばらく使い物にはならないが、行動不能よりはましである。
 しばらくの黙考の後、ハーヴェイは手元に長槍がないことに気が付き、とりあえず穴から上へよじ登った。
 集合住宅の屋上らしき場所、ざっと見渡して確認できるものは、血痕のあと、ディバック、メガホン、そしてコンクリー
トに突き立つ槍。人影はない。
『シクシク』
「おいおい、泣くのかよ」
 自分を慰めるように、ハーヴェイはその装甲をたたいた。

255そして不死人は竜と飛ぶ:2005/05/16(月) 16:33:52 ID:pBSSTsig
【残り85人】

【D-4/森の中/1日目・12:05】
【蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)】
[状態]:少々の弾痕はあるが、異常なし。
[装備]:梳牙
[道具]:無し(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:風見と協力して、しずく・火乃香・パイフウを捜索。脱出のために必要な行動は全て行う心積もり。


【風見千里】
[状態]:精神的に多少の疲労感はあるが、肉体的には異常無し。
[装備]:グロック19(全弾装填済み・予備マガジン無し)、頑丈な腕時計。
[道具]:支給品一式、缶詰四個、ロープ、救急箱、朝食入りのタッパー、弾薬セット。
[思考]:BBと協力する。地下を探索。仲間と合流。景を埋葬したい。とりあえずシバく対象が欲しい。


【C-8/港町/1日目・12:05】

【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:健康状態 
[装備]:なし
[道具]:デイパック一式、 「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」
    アメリアのデイパック(支給品一式)
[思考]:アメリアの仲間達に彼女の最後を伝え、形見の品を渡す/祐巳がどうなったか気にしている 。
[補足]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
    この時点で子爵はアメリアの名前を知りません。
    キーリの特徴(虚空に向かってしゃべりだす等)を知っています。

【C-6/住宅街/1日目・12:05】

【ハーヴェイ】
[状態]:生身の左腕大破、他は完治。(回復には数時間必要)
[装備]:G−Sp2
[道具]:支給品一式
[思考]:まともな武器を調達しつつキーリを探す。ゲームに乗った奴を野放しに出来ない。特にウルペン。
[備考]:服が自分の血で汚れてます 。

【C-8】から【C-6】に向けてG−sp2が飛びました。音に気づき、場合によっては目撃したものがいると思われます。
 放送によりウルペンがハーヴェイの生存に気づいた可能性があります。
 個人識別解除処理が施されているため、G−Sp2は呼びかけない限り風見に気づけません。

256Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:42:35 ID:yKn.3DL2
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「…」
さめざめと涙を流す藤堂志摩子、また1人彼女の友が逝ったのだ。
メフィストも何も言わない、さしもの彼と言えどもこんな状況で何を言えばよいのか?
さらに、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して見つけあるものが、
彼の心を時折ひどく不機嫌にしてもいた。
「まさかな…あの禁断の秘儀を知るだけでなく、実行するものがいるとも思えぬが」

そんな彼の顔を涙ながらにも興味深く覗き込む志摩子。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格も自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終、しかも身体中のかすり傷は全てメフィストの手により全快している。
目の前の白き医師にとって、そんな程度の傷は怪我の内にも入らないようだ。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、たな…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

257Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:47:25 ID:yKn.3DL2
「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、由乃、祥子は死に、敬愛する聖は闇に堕ち、
さらには親友までもが…。
最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも、
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。
メフィストはさらに終から情報を引き出している。
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

終は倉庫での出来事をおぼろげながら思い出す、こちらは断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ、姿はちょっと変わってたけど…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

258Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:48:15 ID:yKn.3DL2
悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す
あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
となるとやはり…。
「食鬼人…」
特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする忌まわしき外法の1つだ。
自分の存在する世界では文献の中にしか存在せず、とうに絶えた術だが…
しかし急激に身体能力を強化できる呪術であり、また状況から言って間違いはない
何者かがあの術を使ったのだ、しかも…

「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
「気を確かにして聞いて欲しいことがある、祐巳くんはおそらく」

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子。
祐巳の気持ちは分からなくも無い…でもだからってそこまで…。
「お願いします、祐巳さんを元に!人間に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「…無理だな、ただの病ならば数秒で治してみせることもできる、だが食鬼人とは病ではない…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、普通の食鬼人ならば
 そのような現象は起り得ない、そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

だが…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、食鬼人のことを知りえたのかということだ。
いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
「でもこんな状況だろう?仕方ないんじゃないのか?」
「確かに…それは事実だ、だが自分の心を、身体を失ってまで得る生に何の意味があるというのかね」

259Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:48:55 ID:yKn.3DL2
終を睨むメフィスト。
「ここを生き延びても人生は続いていくのだぞ…君ならわかるはずだ、逆に聞くが、
 君は今の自分の力と、ささやかだが平凡で普通の暮らしとどちらか一方しか選べぬのなら
 どちらを取るかね?」
「んなもん決まってるだろ…」
そこまで言って、あっ!と声をあげる終。
「だよなぁ…」

確かに自分は人を遥かに超える身体能力を誇っているが、それを便利だと日常の中で思うことは、
ほとんどなかった…逆に余計な連中を引き寄せただけだ。
今は負ける気はしないし、今までも勝ち続けてきたが…いつまでこんなことしなきゃならんのだろうと、
思うことは多々ある…小早川のおばはんに出会ってからは特に。

「でも…私は大丈夫です、たとえ祐巳さんが」
そこで志摩子は絶句する。
終がどう考えても持ち上がらないだろうと思われる公園のベンチを蹴り上げ、
軽々とリフティングなどしてみせている。
「よっと!ほりゃ!」
鼻歌交じりに最後はベンチを真っ二つに蹴り割る。
「今の見て俺のことどう思った?」
えっ…と考え込む志摩子…その、あの…と多少の枕詞が漏れて、

「すごいって思いました」
だがその割りに表情は重い。
「正直に答えてくれ」
終の真摯な視線に耐えられず目を逸らし…そしてようやく、か細い声で志摩子は答えた。
「怖いと…思いました…ものすごく」

もし祐巳がそんな身体になってしまっているとして、
自分でもそう感じるのだ、他の見知らぬ他人がそれを知ればもっと怖いだろう。
まして彼女の家族はどう思うのだろう、我が子が人ならざる物になってしまったことを知れば…
隠し通せる物でもない、まして祐巳は隠し事が出来ない子だ。
つまりそれが代償なんだろう、どう考えても割の合う話ではない。

でも…祐巳の気持ちもわかる、どうしようもないやり場の無い思いを何とかするには
力にすがるしかなかったのだろう。
「でも…皆さんのそれは強い者の理屈です!、弱くってちっぽけな私たちには
そうするしか…選べるほどの選択肢は用意されてないんです!」
「君は十分に強い、本当に大切なのはどんな過酷な状況においても誘惑に負けず己の心を見失わぬことだ」
志摩子の嘆きを微笑で包んで受け流すメフィスト。
「だいたい自分はどうなってもいいから、なんて気持ちで誰かは救えないよなぁ、あー畜生め」
足元の小石を蹴り飛ばす終、一時のこととはいえ、誘惑に乗った自分を恥じているのだ。

260Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:49:41 ID:yKn.3DL2
「あ…ごめん君の友達のことを悪く言ってしまって」
頭を下げる終、志摩子はいいんですよと力なく応じる。
「だからこそ、君がしっかりしなければならない、親友なのではないのかね?
まぁ、女同士の友情ほど信用ならず脆いものは無いと私個人は思っているのだが」
無論、君に関しては大丈夫だと思うが…と付け加えることも忘れないメフィスト。
「そう…ですよね」

そうだ、由乃も祥子ももう亡き今、自分しかいないと思う志摩子、
その気丈な決意の内面は不安と恐怖で一杯だったが。
「でも…私なんかで」
「君だからこそだ、君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終。
「重い荷物も分担すりゃ多少は楽になるって!」
もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無く、カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいませんっ!ありがとうございますっ!」
「君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?それこそ君の役目だろう?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。

「まぁそのカーラという女性には、速やかに安楽死していただくことになるかと思うが」
 泣きじゃくる志摩子に優しく語りかけるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

261Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:50:35 ID:yKn.3DL2
【C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

262Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:51:27 ID:yKn.3DL2
あれやこれやといけ好かない男の声で放送が流れる。
そんな中、かなめは戦っていた…己の内から湧き出る渇きに。

あたし…負けないから。
だって宗介はあたしのためにやりたくも無い人殺しをやるって…決めたんだから
本当は誰も殺してもらいたくない、でも…。
またズクリと胸が痛くなる…この痛みに負けたとき、自分は消えてしまう。
自分の目の前にはナイフ…宗介が残していったナイフがある。

いざとなれば…いや今しかない。
人でなくなるくらいなら…まだ人間のままで、相良宗介の知っている千鳥かなめとして、
あたしは死にたい!
あたしは恐る恐るナイフに手を伸ばした。


ここは…どこだろう?
誰かの声が聞こえる…にじみ出る後悔に耐え切れないようなそんな悲しい声。
この声…聞き覚えがある…宗介の声だ。

「千鳥…すまない、俺はお前を救えなかった」
そんなに泣かないで…宗介
ああ、あたし死んじゃったんだ…でも宗介が生きていてくれたのなら
それで充分だよ。
だから…今度はあたしの分まで宗介に幸せになって欲しい…もういいから
あたしの視界が開ける、誰かの部屋みたいだ…こじんまりとしてるけどそれでいて
温もりのあるそんな空間、
かつて…まだ生きていたあたしがほんの少しだけ夢見たのかもしれないそんな場所。

こうなるくらいなら…もっと正直になりたかった。
テーブルの上には写真がある…そこにはあたしが写っている、学校の制服を着て
ハリセン持ってにっこりと。

263Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:52:55 ID:yKn.3DL2
そんなあたしの写真を見て…また悲しげに微笑む宗介。
そこに誰かが入ってくる。
「またかなめさんのことを考えていたんですね…サガラさん」

その声を聞いた途端、あたしの痛みが大きくなった…テッサの声を顔を見た瞬間。
どうしてだろう?
テッサは親友で戦友で同志だから、宗介のことが好きなのはわかっていたはずなのに、
だからあたしが死んだらそこにいるのはむしろ自然なことなはずなのに?

これまでも危ない目にはあってきた、もし自分が死んだら宗介はどうなるんだろうと
考えたことも1度や2度ではない。
彼があたしを守るのは任務でしかないとわかっていながら…それ以上をいつの間にか
心の奥底で望んでいたあたし。

その度にテッサなら…仕方ない、テッサなら大丈夫…という思いでいつも考えを打ち切っていた。
でも。
「雨続きが終った今夜は星がたくさん見えますね」
「そうですね…千鳥にもみせてやりませんと」
テッサはなれなれしくも宗介の隣に座って、宗介の肩にしなだれかかっている。
何それ?何してるのあんた?
ああ…そうか、そうだったのか、今はっきりとわかった。
逆だ…逆なんだ、彼女だから、親友で戦友で同志だから…許せない。
私の知らない誰かなら仕方がないと思う、けどテッサだけはダメなのだということに。

でも写真の中のあたしは笑ってる、今これを見ている私は多分泣いているのに。
「明日はかなめさんの席も用意しているんですよ、もちろん特等席ですよ」
「千鳥、君にこそ祝福してもらいたいんだ、俺たちの一番の同志であり友であった君にこそ」
そんなのうれしくないよ…いやだよ。
でもあたしは何も出来ない、だってもうあたしは写真だから…。
写真の中のあたしはずっと笑顔のまま…ずっと見ていないといけない、いつまでも…。
そんなのってひどい!

264Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:54:16 ID:yKn.3DL2
「そして改めて誓う、君の分まで幸せになると…こんな汚れた俺にその権利があればの話だが」
宗介はぎこちないけど、険の取れた笑顔で写真の私に話しかける。
その笑顔は…その表情は、あたしがずっと見たかった…頭の中で想像するしかなかったそんな顔で、
そしてその隣には…あたしがいるはずなのに…、
でもあたしじゃなくって…その隣にいるのは…。

「情け無い話です」
あたしの写真を見ながら、寂しげに笑う宗介。
「闇に包まれると千鳥を失ったあの地下室を思い出してしまいます…暗闇を恐れる兵士、笑い話以下です」
「でも、そのおかげでサガラさんは人間の暮らしを取り戻すことができましたわ」
テッサは宗介の手を包み込むように握る。
「それも千鳥のおかげです、千鳥と過ごした時間があったからこそです」
頷くテッサ。
「だから…千鳥の分まで、大佐殿を…」
その続きを言おうとした宗介の口を指でふさぐテッサ。

「私に敬語とかそういうのはもうやめていただけないでしょうか?私たちはもうミスリルを除隊した身ですし」
自分で言っていて照れて赤面するテッサ、その顔は紛れもなき勝者の顔だった。
少し時間が止まったような…そんな不思議な表情の宗介、その口元は止まった時間を動かそうと
なにやら呪文を唱えているかのようだ…やがて。
「なら…たい…いやテッサ今こそ誓おう、千鳥の分まで君を幸せにすると…だから俺のことも宗介と呼んで欲しい、
 千鳥がそうしていたように…」

その言葉は、何よりも鋭く、そして痛くあたしの心に突き刺さる。

やめてやめてやめてやめてやめて…
あたししゃしんのなかじゃないここにいるのにここにいるのだからおねがいやめてそれだけは、
それいったらあたし。
額縁の中の私がテッサを睨む、笑顔のままで。
あなたをゆるさない。

265Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:55:04 ID:yKn.3DL2
でもテッサには何も届かない…聞こえない…
「わかりました…宗介」
テッサは私の写真を手に取り、そして、
「かなめさん、天国で見ていてください、私たちはあなたの分まで幸せになります」
あたしの負けだと言った。

そしてあたしの中で何かが崩れた…。

「とてつもなき無き朴念仁じゃの、宗介とやら」
かなめの身体を膝に乗せ嘆息する美姫…これでは女の身はとてもじゃないが持つまい。
「かなめよ、お前が見ているそれはお前が最も恐れる未来よ…お前は何を望む…
 未来を受け入れるか?それとも抗って見せるか?」
美姫が挑発めいた言葉を口にする中、かなめはまだ悲しみに満ちた表情で
苦悶の涙を流していた。

266Alway look on the bright side of life </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/17(火) 00:55:52 ID:yKn.3DL2
【千鳥かなめ】
【状態】吸血鬼化進行中?精神に傷
【装備】鉄パイプのようなもの。(バイトでウィザード「団員」の特殊装備)
【道具】荷物一式、食料の材料。
【思考】苦悶中

【美姫】
 [状態]:通常
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:上機嫌

267魔法と魔剣と断末魔 </b><font color=#FF0000>(qBC89beU)</font><b>:2005/05/17(火) 09:57:02 ID:gze6IUQc
>>248-252の【悪魔と魔法と光の剣】を改題。少し描写を書き足しました。

>>251の最終行から後を、以下のように変更。

『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
 謎の呼びかけが響き、銃声に中断され、悲鳴が聞こえて、静寂だけが残った。


「どっちも俺の知らへん声やったわ。お前は、あの二人の声に聞き覚えないんか?」
 あれがフリウの声だったとしても、こう言ったはずだ。本当に知らない声だったが。
「さっき初めて聞いた声だ。会ったことはない。……多分、もう会えなくなったな」
 呼びかけの途中で襲撃された男女は、どこの誰だか分からないままだった。
 お互いに、無言で視線をそらす。黙祷したわけではない。閉口しただけだ。
「さっき狙われた二人が、探すべき相手じゃなければいいんだが……」
 あの男女は新庄の知人だったのかもしれない。新庄は今、泣いているのだろうか?
 ガユスは今、必死で冷静になろうとしている。ミズーと新庄が無事でいるかどうか、
気になっているのだろう。苛立たしげな舌打ちが、隣から聞こえた。
 自分は今、空を眺め、目を細めて、大きく息を吐いている。
(ふむ。これでまた、今から24時間、誰かを殺さんでも済むようになったか)
 これでも、酷いことを考えているという自覚はある。反省する気は微塵もないが。


【B-1/砂浜/1日目11:05】

『罪人クラッカーズ』
【ガユス・レヴィナ・ソレル】
[状態]:右腿負傷(処置済み)、左腿に刺傷(布で止血)、右腕に切傷。戦闘は無理。精神的、肉体的に限界が近い。
[装備]:グルカナイフ、リボルバー(弾数ゼロ)、知覚眼鏡(クルーク・ブリレ) 、ナイフ
[道具]:支給品一式(支給品の地図にアイテム名と場所がマーキング)
[思考]:D-1の公民館へ。

【緋崎正介(ベリアル)】
[状態]:右腕・あばらの一部を骨折。精神的、肉体的にかなり疲労。
[装備]:探知機 、光の剣
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1本) 、風邪薬の小瓶
[思考]:カプセルを探す。なんとなくガユスについて行く。
[備考]:第一回の放送を一切聞いていません。骨折部から鈍痛が響いています。
*刻印の発信機的機能に気づいています(その他の機能は把握できていません)

※この後の『罪人クラッカーズ』について書かれた作品が、既に存在しています。

268instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:31:12 ID:yxHCzzcQ
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くかだ、なぁ」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。

そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも14時30分から雨が降る、こういう状況ならばよほどのことが無い限り雨中の移動は基本的には行うまい。
と、なると14時30分から雨が上がる17時までは拠点内での制圧戦になる。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。

「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。

弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。

「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸同士が激突し、閃光、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)

269instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:32:37 ID:yxHCzzcQ
あの男…やる!
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、

そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
弾は撃ち落とされてしまった。
マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。

(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。

それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノはヘイルストームの銃身で受け止める、がちんと乾いた火花が散る。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。

270instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:35:38 ID:yxHCzzcQ
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退り、また距離を置く…
そして、一度は退こうとした彼らが何かを察知したかのように、その身体を翻した時。
かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。
微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームは、宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。

だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。

「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」
今度は逆に宗介がキノに聞く。
「死にたくないから」

至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「聞いてどうすんですか?そんなこと」
キノの言葉には僅かな動揺、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」

宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「ならここで死ぬまでやりあうか?俺も分が悪い駆けは張りたくないんでな、お前も同じだろう?
 続きは最後の2人になったとき、改めて行えばいいだけだ」
だが、俺はそこまで待つつもりはない、お前もだろうが、と心の中で呟く宗介。

271Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:36:25 ID:yxHCzzcQ
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。

一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
わけのわからないイデオロギーで振りかざすこともありえないだろう。
戦場においては利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。

どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に同盟が締結されたことを意味した。
「ボクの名前はキノ」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ、よろしく頼む」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。

272Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 01:40:40 ID:yxHCzzcQ
【B-5/1日目/12:15】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

273◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:00:06 ID:YJtIx1B.
「でよ、ちょっと野暮用でな、商店街までの道を聞きてーんだけどよ」 
 顔に刺青を入れた少年はぶっきらぼうに訊ねる。
「商店街? お前地図持ってないのか?」
 スィリーの所為で多少疲れ気味になっているのか、割と投げやりに聞く。
「それが置いてきちまってよ」
 両手を上げ、やれやれ、といったポーズをとる。
「それなら、ここから北西に真っ直ぐ1kmほど行ったところですわ」
「おっ、サンキュー。んじゃな。」
 言うなり、茉衣子が指を差した方へ向け歩いていく。
「まぁ、待ちたまえ。キミは何か目的があって商店街に?」
「おうよ、ちょっと水が足んなくなっちまってな、俺が集めてくることになった」
 宮野に止められ、振り向く零崎。
「ふむ、ということはキミのお仲間がいるということだな?」
「仲間、仲間ねぇ。ま、どっちでもいいけどよ、何人かいるのは間違いねぇ」
「良かったら我々を案内してはくれまいか?」
「わりーんだけど、急いでるんだわ、また会ったら教えてやっても良いぜ、んじゃな」
「そうか」
 意外とあっさり引き下がる宮野。
「少年、これを持っていけ」
 懐を探り、持っていた自殺志願をホルダーごと零崎に放り投げる。
「うぉっ、っぶねーな…、って自殺志願じゃねーか?!」
 ホルダーから大鋏を抜き出し、確認する。
 自殺志願、かつて零崎人識が兄の双識から殺してでも奪い取ろうとしたアイテムだ。
「私にはそのような物は必要ない、君が使いたまえ」
「ラッキー、念願のマインドレンデルを手に入れたぜ。
 わりーな、次会ったら今度は案内してやっからよ。じゃーな」
 今度こそ、少年は森の中へと消えていった。

274◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:00:48 ID:YJtIx1B.
「良いのですか?」 
「ふむ、私には関係ない」
「…? 何故彼に?」
「彼が持っているべきだと、そう思っただけだ、そもそも私に武器は必要無い。
 私は自分自身の能力に絶対の自信を持っているからな!」
 拳を握り、高らかに掲げる宮野。
「行っちまったな、どうすんだ?」
「また人を探すまでだ。彼とは別の方向に向かってみようか」
 
 そして、やっぱり適当に歩き出す宮野であった。
 
*** *** *** *** *** ***

 先ほどの青年は、ひとしきり何かを呟いた後さっさと行ってしまった。
 しずくは黙って見送り、立ち上がる。
 思ったよりもすぐ側にエスカリボルグは落ちていた。
 半壊しかけた腕を垂らしながら、逆の手で拾い上げる。

 ―――はふ。

 溜息。先ほどの黒鮫を殴った所為で右手は暫くの間は使い物にならない。
 システムチェック、アクティブ・パッシブ共にセンサーの能力低下。
 右腕上腕から末部に到るまでの神経系の物理的切断箇所多数。
 幸いフレームにはこれといった異常は見当たらない。
 歩いていく分には問題は無いが、激しい動きは控えた方が良いだろう。
 数時間安静にしていればこの程度の損壊などは修復できるのだが、現時点で安静に出来るような場所の確保などは難しい。

275◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:01:39 ID:YJtIx1B.
 それに、のんびりも言っていられない。かなめを助けなければならないのだ。
 宗介には「誰にも言うな、次に会えば殺す」と言われたが、出来る事ならば彼も助けてあげたいと思う。
 彼の戦闘能力は常人よりも遥かに高い、もし出会ってしまったら彼を抑えられる人間は限られる。
 火乃香や"蒼い殺戮者"の様に高い戦闘能力を持っていれば何とかなるだろう。
 その2人なら宗介だけでなく、かなめも助けてくれるに違いない。
 問題は、出会えるかという事だ。
 火乃香やBBで無くても良い、戦闘能力が高く、尚且つこちらに手を貸してくれる者。
 いるだろうか。
 しずくは考える。これからは人に声をかけるときは気をつけなければならない。
 かなめやオドーの様にこちらに好意的とは限らないのだ。
 朝、神社で襲撃された時点、いや、この争いが始まった時から解っていた事なのに。

 どうするべきだろうか。しずくは半壊した腕を抱え、何処へともなく歩き始める。
 じっとしていても始まらない、腕を完治させるのは後回しだ。
 ふと、思い出す。あの地下で眠っていた女性は何者なのかと。
 宗介や自分よりも速く動き、得体の知れない雰囲気を纏っていた。
 あの女性を倒すか説得するかしなければ、かなめは救われずに、宗介も殺人を繰り返す。
 それだけは、避けなければ。
 BBの「野生の感」といったようなものは無い、火乃香の「気」もない。
 レーダーセンサーが能力ダウンした今、頼りになるのは聴覚・視覚センサーのみだ。
 耳を澄まし、眼を凝らし、一歩ずつ確かに歩いてゆく。
 森を抜け開けた海岸に出、見渡してみるが誰もおらず、仕方なく引き返そうとする。
 振り向きざまに森の奥を見渡す。 

 誰か、いる―――。

276◆91wkRNFvY:2005/05/19(木) 19:02:20 ID:YJtIx1B.
 警戒しつつ木陰に隠れ、先ほど映った人影を再生する。
 白衣の男性、黒衣の女性と男性、3人を確認。敵か、味方か。
 向こうにも気付かれたようで、緊張が走る。だが。
「案ずることは無いぞ!そこな娘っ子よ!
 我々はこのケッタイなゲームから脱出しようという目的を持つ、正義の魔術師なのだ!
 キミも良かったら我々の同志にならんかね?」
 若い男性の声と、それに反応するように女性の声。
「班長、いきなり声をかけるとはどういう了見でしょうか。
 先ほどの放送はお聞きになったでしょう?もう既に30人を超える方々が亡くなっているのです。
 ということは、それに近い殺人者が潜んでいる可能性がありましょう?
 もしかしてお忘れになったのですか?それとも聞いていなかったのでしょうか?
 でしたらやはり班長の脳ミソの中にはホンモノの代わりに蟹ミソでも詰まってらっしゃるのでしょうね」
「茉衣子くん、蟹味噌は蟹の脳ミソのことでは無いぞ!そんなことも知らんのかね!そもそも蟹味噌とはだな…」
「どうでもいいけどよ、あの子はほっといて良いのか?」 
 冷静な指摘で、最初の男はこほん、と咳をたて、
「む、そうであったな、では改めて。我々はこの空間から脱出できる人材を捜している。
 キミに心当たりは無いかね?」

 この人たちは、自分の頼みを聞いてくれるだろうか。

277たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:16:44 ID:mhhsWZag
「あーくそっ。遅れちまってる」
俺はようやく商店街に着きながら言った。
ちょっと前に三人組と会って道を聞いたまでは良かったが。
なにやら戯言昆虫がいたのは─まぁいい。予定外に時間を食われたのが間違いだったようだ。
コンパスも貰えばよかった…と手元の大鋏をくるくる回しながら考える。
危険極まりない大鋏だが、刃物の取り扱いは慣れている。
それにこのマインドレンデルは前から欲しかったものだ。
使うものが使えば首も容易に切断できる業物だ。
そしてこれは兄貴の形見──
「ん?」
疑問がよぎる。なんでこんなこと考えたんだ?そもそも兄貴って死んだっけ?
俺は、いつここの世界に連れ去られたんだっけ?
一つ一つ思い出す。欠陥製品との出会い。人類最強との戦い。そして逃走。さらに…
思い出せな──
そう思った瞬間様々な事が断片的に浮かんできた。
両手首の無い少女。倒れてる自殺志願。早蕨。舞織。死に顔。
止まる電車。ギザ十。『お前ら全員、最悪だ』知ってる。『人の死には悪が』俺が言ってる。
弾ける扉。入ってくる赤。言う少女。『それでは零崎を始めます』
そこまで考えて、記憶は雲散した。
もしかして、都合がいいように記憶が改変させられている?
「問題は『何』に都合がいいか、だな」
入ってきた赤との戦闘はまるで思い出せない。止まる物語。
デジャヴを感じたような、煮え切らない感じ。むかつく。
例えば<マンイーター>匂宮出夢。奴は「理澄が死んだ」と言っていた。
生憎そこまで殺し名世界の情報には詳しくないが、少なくとも<カーニバル>が死んだ、とは聞いていない。

278たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:18:01 ID:mhhsWZag
多分、違う時間に連れ去られてきたのだろう。何かの都合のために。
俺は最初殺した奴に「昼寝してた」と言ったが、どこで、いつ?
あの欠陥もあの人食いもあの策士も記憶が都合よく変えられ、奴らの物語は止まっているのだろうか。
そしてあの──
「さぁ盗むぞミリア!手始めは野菜だ!グリーンだからきっと青野菜が好きだな!」
一つ隣の通りで大声が聞こえた。さっきから気づいていたから今更慌てないが。
「ビタミンミネラルだねアイザック!」
「潤さんはむしろ赤って感じだけど…」
潤さん。…<砂漠の鷹>哀川潤だろうか。
仲間、か?あの赤の。
どうする。会ってみるか?俺より後の時間に連れてこられたとしたら、色々俺の疑問─あやふやになった記憶を保管できるが。
「んー」
考えながら手ごろな民家に入り込む。あいつ等はとりあえず無視。
炊事場を発見し、水道のコックを捻る。
「駄目、だよな。多分」
水が、では無い。哀川潤に会うのが。
俺より少し前に連れてこられたとしたら俺をぶっ殺すだろうし、後に連れてこられたとしても和解できてるとは思わねーし。
ボトルの中に水を注ぎ込む。あっという間に三本溜まった。
少し飲んでみたが、うれしいことにおいしい水道水だった。
デイパックを抱える。意外と軽い。まだ何か入りそうだが。
刃物はもういい。業物を持ってる。
食料は探してるとさっきの連中に会うかもしれない。哀川潤に俺の風貌を言われたら殺しに来るかもしれない。

279たまには俺も考える:2005/05/19(木) 21:18:42 ID:mhhsWZag
思い立って机を漁り、コンパスを取った。たしか南東を進めばいいはずだ。
ちらっと本棚を見る。本が大量に置いてある。
「なんだ。ライトノベルばっかだな」
端から見ていく。Dクラッカーズ、Missing、されど罪人は竜と踊る、アリソン、ウィザーズブレイン………かなりの種類のノベルが全巻揃ってる。
違う棚を見る。俺の好きな太宰治が置いてあった。それを嬉々ととり、デイパックに詰める。

──幸か不幸か、彼は「零崎双識の人間試験」と「撲殺天使ドクロちゃん」の背表紙を見ないで出て行った。

「よっし帰るか」
そういって彼は民家から飛び出す。
3キロの水と大鋏、それに太宰治の代表作をもって走り出した。
『皆さん聞いてください、愚かな争いはやめましょう、そしてみんなで生き残る方法を考えよう』
聞こえてきた放送、そして銃声にも何の感慨も示さず、連れの待つ森へと向かう。

【C−3/商店街/1日目・11:05】

【零崎人識】
[状態]:平常
[装備]:出刃包丁  自殺志願
[道具]:デイバッグ(ペットボトル三本、コンパス)  砥石  小説「人間失格」
[思考]:惚れた弱み(笑)で、凪に協力する。 F-4の森に帰る
[備考]:記憶と連れ去られた時期に疑問を持っています。
     大量の参加者たちのライトノベルを目撃しました。

280Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:29:06 ID:NLLJlQ1U
地図を眺めながら今後の計画を練る宗介。
タイムリミットは6時間、6時間で5人の命を奪う。
ギリギリだが出来ないわけではない、
問題は…。
「この広範囲をどう動くか、どう考える?」
クルツ、と言いかけて宗介は寂しげに口をつぐむ。

そうだ、もうクルツはいない…、マオもここにはいない。
せめて2人のうちのどちらかがいてくれれば…いや無いものねだりをしても仕方が無い。
しかも場合によっては拠点内での制圧戦を考慮に入れないといけない。
覚悟は出来ているがそれでも単身での突入は避けたかった。

「国際条約違反だがやむを得まい」
考え事をしながらもコンバットナイフでガリガリと手持ちの弾頭を削り十字の切れ込みを入れていく宗介、
ダムダム弾を作っているのだ。
ダムダム弾とは、弾頭を丸く削り、さらに十字状に切れこみを入れたもので、こうしておくと、
本来貫通するはずの弾丸が標的に命中した瞬間、破裂するようになり、したがって破壊力は、
通常弾の数十倍にも達する。

弾丸には限りがある、しかもこの地にはオドーや先ほどの女のように自分のまだ知らぬ強敵が
数多く潜んでいる。
ならば、弾丸一発一発の破壊力を可能な限り上げ、確実に一撃で沈める。
いかに頑丈を誇る相手でも、肉もろとも骨をも砕くダムダム弾の威力には抵抗しえまい。


「さてと…」
行くか、そう呟き立ち上がろうとした瞬間だった。
ソーコムを握る宗介の右腕が鋭く閃く!
僅かに遅れて弾丸同士が激突し、閃光、マズルフラッシュを直視しないように、
さらにもう一発追い撃ちを掛ける宗介。
(早速か…探す手間が省けたな)

281Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:29:50 ID:NLLJlQ1U
あの男…相当な技量だ。
気配を完璧に消して、なおかつ後ろを取ったはずなのに…、
宗介の放った弾丸を回避し、柱の影に隠れるキノ。
(残り弾は…)
さっきの1発で合計8発、ショットガンは虎の子だ…今はまだ使えない。
なら、接近戦を仕掛けるしかない。
出来る限り相手を視界に捕らえ、その上で速射ち勝負をかける。
キノは猫のように身を屈め、廃墟の中を縫うように移動を始める、

そして一方の宗介も考える、相手は相当な早撃ち自慢…察知したのはこちらが早かったにも関わらず、
トリガーを引いたのはおそらく向こうが速かった、弾が撃ち落とされたのは偶然に過ぎないだろうが。
マガジンは今使っているのを含めてあと2つ…今後を考えると無駄撃ちは出来ない。
しかし節約して戦えば火力で押し切られる危険もある。
なら接近戦しかあるまい。
宗介はコンバットナイフを構え、キノと同じように廃墟の中を滑るようにやはり移動を開始する。

(どこだ…)
薄日が差し込む中、息を潜めつつも俊敏に廃墟を駆けるキノと宗介。
神の目を持つものならわかるかもしれない、
彼らは廃墟の中、お互いの背後を取り合うべく円を描くように移動している。

それは僅かな時間でしかなかったが、妙な均衡状態をその場にもたらしてもいた。
あとは崩れるのを待つだけだ…。
一羽の小鳥が廃墟の中に迷い込む…静寂の中僅かな羽音が響いた時、
いつの間にか移動のベクトルが変わっていたらしい、
正面から宗介のナイフが凶悪な唸りを上げて、キノの首筋へと迫る。
それをキノはヘイルストームの銃身で受け止める、がちんと乾いた火花が散る。
宗介が刃を滑らせナイフの軌道を変えるのと、キノがそのスキにトリガーを引くのは同時。
宗介が身をかがめ足元をなぎ払おうとした時には、先程の彼の心臓の位置を弾丸が通り過ぎていた。

282Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:31:14 ID:NLLJlQ1U
「チッ!」
2人は同時に叫んで飛び退る、宗介のナイフの第2撃が今度はキノの胸元を狙う。
今度はくぐもった音、キノの手にはいつの間にか折りたたみナイフが握られている。
それは宗介の持つコンバットナイフの凶悪なフォルムに比べるとチャチだが、
キノの手首が閃き、逆にすべるような軌道で宗介の首筋に刃が伸びる…実用度では引けをとらない。
防ぐのは間に合わないと判断しまた後退する宗介、しかし背後は壁だ、どうする?
宗介は迷うことなく渾身の力でバックジャンプし、その反動で壁を蹴り、

その勢いのままキノへとび蹴りを見舞おうとする。
前のめりになっているキノには逃れる術がないように思えたが、キノはこれも瞬時の判断で
素早く身を伏せ、前転することで宗介のキックをやり過ごす。
そして宗介が着地し、キノが立ち上がると同時に、かちゃりと冷たい音がまた2つ同時に響いた。

微動だにせず向かい合う宗介とキノ、宗介のソーコムはキノの眉間に向けられている、
一方のキノのヘイルストームも宗介の眉間にポイントされていた、
距離は3M…お互いの技量なら必殺の距離だ。

だからこそ動けない、トリガーを引くことは簡単だ…だがそれは同時にどちらかが死ぬことを
意味する、それが自分か相手か…その確証が得られぬ限り引くわけにはいかない。
そして時間だけが過ぎていく、迷い込んだ小鳥がチチチと空気を読まずに囀る。
「らちがあかないですね?」
最初に口を開いたのはキノだった。
「ああ…」
表情を変えずに応じる宗介。
「お前は何のために戦う?」

今度は逆に宗介がキノに聞く。
「死にたくないから」
至極当たり前のように答えるキノ、それを受けてまた宗介。
「何人殺した?」
「聞いてどうするんですか?そんなこと」
キノの言葉には動揺はない、それを聞いて考えをめぐらせる宗介…やがて。
「俺と組まないか?」
宗介の言葉に沈黙と失笑で応じるキノ。
「考えろ、ここで死ぬリスクと俺と共闘することのメリットを、互いの利害が一致する以上、
 俺たちは共闘し、戦力を提供し合えるはずだ」
だが、俺は最後まで付き合うつもりはない、それはおそらくお前もだろう?、と心の中で呟く宗介。

283Instant Duo </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 21:33:26 ID:NLLJlQ1U
宗介の言葉に思考をめぐらせるキノ。
確かに地下での出来事から、1人で戦うことの焦りを感じ始めていた矢先だ。
まして相手の力量は互角…ここは従うか…。
いざとなれば寝首を掻けばいい、相手も同じ心境だろうが…その方が後腐れがなくって、
共に戦うにせよやりやすいはずだ。

一方の宗介…彼にとっては、無論これ以上の戦闘を避けたいというのもあるが、
これからの殺人ロードを行うにあたっての人手が欲しかったというのが第一だ。
それに相手の目的が生き残るという単純な物なのも好都合だ、
正義だの愛だの憎悪だの復讐だのと、わけのわからないイデオロギーを振りかざされると厄介だ。
戦場においては生存という名の利害関係こそがもっとも強固な絆となるのだ。
さらに言うなら殺人者を手元においておくことで、間接的にかなめやテッサの安全を守れることになる。
それに…首を1つ確保できたことにもなる。

どちらからともなく、2人は銃を下ろした。
それはこの瞬間に偽りながらも同盟が締結されたことを意味した、例えるなら
昨日の他人と明日の敵の間にはとりあえず今日の友人、という所だろうか?
「ボクの名前はキノ」
キノが自己紹介を始める、伏せ目がちなのはその瞳の奥の危険な本心を隠すためとしか思えない。
「相良宗介だ」
宗介は宗介でやはりその表情は不自然極まりないのだった。



【B-5/廃墟/1日目/12:15】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。

【相良宗介】
【状態】健康。
【装備】ソーコムピストル、コンバットナイフ。
【道具】荷物一式、弾薬。 かなめのディバック
【思考】かなめを救う…必ず

284Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:39:55 ID:NLLJlQ1U
「うーん腹減ったあ」
空きっ腹を抱えてうろつく竜堂終、永遠の欠食児童または食欲魔人の異名を持つ彼である。
想像に漏れず、支給品のパンはとっくに胃袋の中だった。
「しかもあのおばさん、人の身体で思い切りハッスルしやがって、あー腹減ったあ」
満腹の時はいざとなればそこらへんの野草でもむしって食べればいいやと思ってたが、
空腹になってみるとどうしても躊躇してしまう、ならバッタかコオロギでも食べるか…
いや、そこまでやってしまうと何かこう人間の尊厳とかそういう難しい何かが
音を立てて崩れてしまうような、そんな複雑な気分になってしまう。
商店街に戻るのも手だったが、カーラが好き放題してくれたおかげでしばらく表街道は歩けそうにもない。
(あの頬に傷の兄ちゃん…かなりやばいな)
強者は強者を知る、一瞬の出会いだったが、終は実のところオドーよりも宗介に危険性を感じていた。
(てっきり狙いはあっちだと思ったんだけど…おばはんの考えることはよく分からん)
「でもまぁ・・・俺竜だしなぁ、うん?」
くんくんと鼻を鳴らす終、漂うのは魚を焼く香ばしい匂いだ、誘われるように終はふらふらと歩いていった。

「…」
さめざめと涙を流す藤堂志摩子、また1人彼女の友が逝ったのだ。
メフィストも何も言わない、さしもの彼と言えどもこんな状況で何を言えばよいのか?
さらに、道中で見つけた誰かの墓を掘り返して見つけたあるものが、
彼の心を時折ひどく不機嫌にしてもいた。
「まさかな…」

そんな彼の顔を涙ながらにも興味深く覗き込む志摩子。
何か心配事でも?とは聞けない、もとより聞く資格も自分にあるとは思えない。
「大丈夫だ、君には関わりのないことだよ…ああそれから」
そんな志摩子の心の内を知ってか知らずか、優しく声をかけるメフィスト
「そこの君もだ、早く来ないと全部食べてしまうぞ」
メフィストの呼びかけに応じるように、木立ちの中から終が姿を見せたのだった。

285Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:40:59 ID:NLLJlQ1U
「いやあ食った食ったあ」
満足げにお腹をさする終、しかも身体中のかすり傷は全てメフィストの手により全快している。
目の前の白き医師にとって、そんな程度の傷は怪我の内にも入らないようだ。
「喜んでくれて何よりだ…では」
若鮎のような君の身体を隅々まで…と言いかけるメフィスト、
だがそこで何かを感じ取ったのか、身構えようとする終。
「どうしたのかね?」
「ああ…なんつーか独特の空気を少しだけ感じたんだ、いやあ多分大丈夫とは思うけど、
 竜堂家の家訓としてホモは宇宙の塵にしろってのがあるから」
まぁ、この子って鼻が利くわねと思いながら志摩子が口を開く。
「それは竜堂家だけじゃなく、たな…」
「そこまでだ」
ついつい危険な領域に話を踏み込ませようとした志摩子を嗜めるメフィスト

「で、では何なんだよ?」
「あーその…つまり」
宇宙の塵になりかけた魔界医師がもったいぶってようやく応じる。
「食事代として君が今までに見てきたこと、知っていることを教えてもらいたい、
 我々が2匹食べる間に君は8匹も食べたのだからな…」

「祐巳さんが…そんな」
終の話は志摩子にとって衝撃そのものだった、由乃、祥子は死に、敬愛する聖は闇に堕ち、
さらには親友までもが…。
最初は信じられなかった、しかし彼女が落としたというロザリオは間違いなく祐巳のものだった。

やはりあの飾りをつけなくってよかった、と思いつつも、
自分の代わりに親友が犠牲になってしまった、その忸怩たる思いが志摩子を締め付ける。
メフィストはさらに終から情報を引き出している。

286Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:41:45 ID:NLLJlQ1U
彼がもっとも警戒する敵である美姫の動向を聞けたのも大きかったが、今はもっと重要なことを聞かねばならない。 
「それで主な戦法は何かね?」
「魔法を使うぜ、それもかなり強力な、でも注意すべきは戦場での経験値だな、力の入れ所、抜き所は
 まさに完璧、ああいうのを歴戦って言うんだろうな…それから交渉は無理だぜ
 自分の正義に凝りかたまって、しかもまるで疑問にも思ってないからな」
「身体能力はどうなる?わかるかね」
「武術もけっこうなもんだ、けど多分つけた人間のそれに依存すると思う、俺の身体を手に入れて拾いものだって言ってたから」
「祐巳くんの身体能力はどんなものかね?」
「どちらかといえば苦手な方だと思います」
志摩子の言葉に反応する終、
「祐巳ってあの子のことか?運動が苦手?とんでもないぜ」

終は倉庫や先程の出来事を思い出す、倉庫に関しては断片的にしか覚えてなかったが。
「てな具合だ…うん?」
これまで冷静そのものだったメフィストの顔がかなり険しくなっている。
「もっと詳しく聞かせてくれないか」

悪い予感が現実のものに、しかも最悪のものになりつつある。
終が嘘を言うとは思えない、ただの人間である彼女が。福沢祐巳が突如そこまでの身体能力を得られるものなのだろうか?
考えたくはないが…メフィストは先程の墓での出来事を思い出す

『墓を暴くなんて…』
伏せ目がちながらも抗議する志摩子。
『君の気持ちはわかる、だが戦場においては死体こそが全てを雄弁に語るのだ、その気持ちを持って
 志半ばで死した者の冥福を祈ってくれないかね?』
周囲の状況を綿密に観察しながら、墓土を暴いていったメフィスト。

あそこに埋葬されていたのはダンピール、しかも心臓の血が抜かれていた。
それも殺されてからしばらく経過して、それだけのためにわざわざ心臓を取り出している。
周囲の状況からいって、埋葬した何者かが行ったことだろう。

となるとやはり…。
メフィストは自分の予感があたりつつあるのを感じていた、
特定の魔の血肉を取り込み、己が力とする外法。
例えば龍の血を浴び不死身となったジークフリードの伝説など、この手の話はよくあることだ。
もっとも自分の存在する世界では伝説や文献の中にしか存在せず、とうに絶えた術だが…

287Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:42:27 ID:NLLJlQ1U
「志摩子くん、聞きたいことがある…彼女の靴のサイズが幾つなのか分かるかね?」
「えっと」
志摩子は聞かれるままに答える。
地面に残されていた足跡、歩幅…それから手形…死体を切開した際の傷の角度や大きさ、
メフィストの頭のなかで次々とパズルのピースが噛み合っていく
「最後に、身長と体重を教えて欲しい」
志摩子が答え、パズルのピースが合わさった、そして得られた結論は…。
志摩子の顔を見るメフィスト、…ダメだ、今彼女にこの事実を告げることは出来ない。
いずれ頃合を見て、ということになるのだろうか?
今はまだ早すぎる。

「どうして…どうして…祐巳さん…」
耐え切れなくなったのだろう、涙を零しながら親友の名を呼ぶ志摩子、
もしかするとメフィストが言わずとも何か察するところがあったのかもしれない。
「お願いします、祐巳さんを元に戻してください!先生なら出来るんでしょう!!」
「難しいな…しかし」
メフィストは志摩子の肩を持つ。
「奇妙な言い方で申し訳ないが、唯一の救いは彼女が異形の姿になっていたということだ、
 そこに彼女を人に戻す鍵があるやもしれん」

…問題は一介の学生に過ぎぬ彼女が何故その事を、そのような忌まわしき真似を行ったかということだ。
無論、それだけで彼女がそのような存在になってしまったと断定は出来ない、
だが例の死体の解体現場に彼女が関係していたということだけはおそらく事実。
そして終のいう異形と化した彼女の姿、いったい誰が彼女を唆したのだろうか?
まぁ、いずれにせよ全ては彼女と対面してからだ。

288Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:43:34 ID:NLLJlQ1U
「さて、となると大変なのはこれからだ、彼女を取り戻すにはまずは厄介な魔術師を何とかせねばならん」
終の方を見るメフィスト
「役目重大だぞ、君は先程までそのカーラだったのだ、ならばわずかな時間とはいえ彼女のやり方もある程度は
 分かるのではないのかね?」
「ああ、とりあえず今あいつが狙っている標的は2人だ」
「ほう」
「まずは俺よりちょっと年下の男子、もう1人はバンダナを頭に撒いた…黒いシャツを着た…うーん
 あれは男か女か…」
しかめ面で記憶を手繰り寄せる終、まぁ顔は覚えてるからと締めくくる。
「なるほど、ならば彼女に先んじて彼らと接触しよう、それはすなわち祐巳くんを救うことにも
 繋がるのだから」

志摩子の瞳からまた涙が…しかし今度は嬉し涙だ。
「私なんかのために…すいません・・・ありがとうございます」
「決して君だけのためではない、ここに集うもの全てが私の患者、そして私は医者だと
 それにこれを彼女に渡さねばならないのではないかね?それこそ君の役目だろう?」
祐巳のロザリオをそっと握らせるメフィスト。

「それに彼女を取り戻した時こそ、君の本当の戦いが始まる、
 それは親友である君にしか出来ないことだ」
頷く志摩子、祐巳の身に何がおきているのかはわからない。
だが…それが何であれ、彼女がいかに変わり果てていようとも支えるのが自分の役目であり、
それは武器を振るい血を流す戦いよりも、遥かに困難なことのように思えた…それでも。
「はい!」
泣きながらもしっかりとロザリオを握り締める志摩子。

289Human System </b><font color=#FF0000>(5jmZAtv6)</font><b>:2005/05/19(木) 22:45:35 ID:NLLJlQ1U
そうだ、由乃も祥子ももう亡き今、自分しかいないと思う志摩子、
その気丈な決意の内面は不安と恐怖で一杯だったが。
「でも…本当に」
「君のためだけではないと言ったが、君だからこそという部分も勿論ある、
 そんな君だから我々は協力したいと集っているのではないか」
メフィストの言葉に成り行きでうんうんと頷く終。
「重い荷物も分担すりゃ多少は楽になるって!」
もちろん志摩子に協力したいのはいうまでも無く、カーラに仕返しもできるし、一石二鳥だ。
それに彼は彼女の境遇を自分と重ね合わせてもいた。
(始兄貴、茉理ちゃん…)
泣きじゃくる志摩子に胸を貸してやるメフィスト、絶世の美男子に美少女、実に絵になる光景だ。

しかし…納得いかない人もいる。
あー畜生、そうだよ…こんな役はどうせ続兄貴とかこんなんとかばっかが持って行くんだ。
俺なんざ結局小早川…ダメダメダメそれはダメ、絶対。
うらやましげにメフィストを見る終だった。
「年齢的にいってそれは俺のポジションだろうがあ」

【C-4/一日目、12:30】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
 [状態]:健康
 [装備]:不明
 [道具]:デイパック(支給品入り)、
 [思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

290最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その1 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:54:39 ID:Hw7b583Y
 男が鉄骨に腰を下ろしている。
 手足の長いスマートな体系をした少年、彼の名はリィ舞阪といった。
 だが彼をその名で呼ぶ人はほとんどいない。
 彼を知るものたちは畏怖をこめ、彼を《フォルテッシモ》と呼んだ。
 フォルテッシモの目的は、結局達成せずで終わってしまった。
 彼の探していた相手、ユージンは先ほどの放送で死者として名前を呼ばれ、
その放送は当然、フォルテッシモにも届いていた。
 彼はその放送を聞いてがっかりした。
 しかしそれは、子供がテストで悪い点をとったときのような、その程度のものでしかなかった。
 そしてすぐに気を取り直す。事実を分析するにつれて気持ちは高ぶっていく。
(奴が殺された。ということは奴を超える強者が、最低でも1人、この島にいるってことだ。
どんなやつかは知らないが、楽しみが1つ増えたと考えるべきだな……)
 笑みがこぼれる。
 だが残念ながら、フォルテッシモの予想は間違っていた。
 ユージンを殺したものは既に消滅させられていたのだ、とある神父の手によって。


 フォルテッシモが今いる場所、ここは彼の思い出の場所によく似ていた。
 この場所が自分に新たな宿命を持ってきてくれるかも知れない。
 そう考えた直後、彼は自分の考えに苦笑した。いつから自分はロマンチストになったのか。
 まあ特に急ぐことも無いので、誰かがくるのを待つことにした。

 まだ見ぬ強者を待つ間、彼は唯一自分に敗北を味合わせた男と、初めて会ったときのことを思い出していた。
(これで雨でも降ってれば完璧だったんだがな。そう都合よくはいかねーか。
……そういえば奴の名前は名簿になかったな。チッ、あいつらどういう基準で選んでんだ?)
 参加者に自分の知り合いがいないことを嘆くのは彼ぐらいのものだろう。
 彼の最も会いたい人物であり、戦いたい人物でもある高代亨は、彼に勝利した後姿を消していた。
 もしこの島に彼が来ていれば、フォルテッシモにとってこのゲームはまさに“傑作”となっていたのだが。
(まあ、殺し合いに傑作も糞もないか)
 彼にとって殺し合いそのものには価値は無い。その中にある『なにか』
 それこそ彼が追い求めるものであり、最も価値あるものだった。
 そしてフォルテッシモがそんなことを考えていたとき、1人の男が現れた。
 それはまさに――――宿命の出会いだった。

(……アイツは……)
 向こうから現れた男の雰囲気は、先程まで考えていた男のそれと瓜二つだった。
 ある程度の距離まで近づくと、彼はフォルテッシモに訪ねる。
「人を探しているのだが、目元を隠す仮面をつけた男だ」 
 相手の問いに対し、フォルテッシモは不気味な笑みを浮かべながら答える。
「そいつは舞踏会にでも行くつもりだったのか?
 ……まあいい。こっちも人を探してる。いやなに、おまえのように特定の人物ではないがな」
 フォルテッシモは鉄骨から降り、相手と向き合う。
 相手は怪訝な顔を見せるのも無視して、彼は宣言する。
「俺が探しているのは、そう――

―――俺を楽しませてくれる奴だ」
 抑えていた殺気を解き放つ。その場の空気が一気に重くなる。
 相手もそのオーラを感じとり、懐に差していた木刀を構える。
「くくっ、そいつがおまえの剣か? ……いいぞ、ますます気に入った」
(アイツも剣にはこだわってなかったからな)

291最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その2 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:55:28 ID:Hw7b583Y
(体の中に恐怖はないといえば嘘になる。相手の殺気は尋常ではない)
 だが彼、ヒースロゥ=クリストフも幾多の死線を潜り抜けてきた猛者であった。
 その殺気に負けない闘気を身に纏うことで、僅かながら残っていた恐怖を完全に断ち切る。
 相手までの距離は8m、いつでも飛び込める距離だ。
(仕掛けるか否か、できるなら話し合いで解決したいとこだが……)
 判断に迷っていると相手から声が掛かる。
「どうした、こないのか? ……こないならこちらからいかせてもらうぞ」
 ビュッという音とともにヒースロゥの頬が切れた。
 射程距離ギリギリで空間を断ち、それに付随して生じる
カマイタチを飛ばしたのだが、そんな事彼が知るはずもない。
(風の呪文か? これはあくまで牽制、狙いは別と見るべきだな……しかし)
 傷は2つ3つと増えていく。
 1つ1つにほとんどダメージは無いにしても、行動しなければこのままなぶり殺しだ。
(このままではじり貧となる――罠だと分かっていてもいくしかない!)
 心を固め、気合を込める。
「ハァアアア!!」
 いったん攻撃のラインから外れるため、横に飛ぶ。そして、一気に相手との距離を詰める!
 スピード、タイミング、共に十分すぎる。相手のけん制によって生じていた隙を完璧に突いた攻撃だった。
 だがその攻撃が相手に当たる直前、確かにあった筈のその隙が―――消えた。

「何!?」

 そんな気がしただけだ。だけなのだが、彼の本能は全力で攻撃を中止することを求める。
 本能に従い、剣を引き距離を取る。何が起こったのか、その木刀は柄から先が無かった。
 どうやら従って正解だったようだ。
 もし突っ込んでいたら、彼の体はこの木刀と同じ運命を辿っていただろう。
 ヒースロゥと対照的に、フォルテッシモの顔は余裕に満ちている。
「ほう、鼻先一つ掠らなかったか。やつはこれで片目を潰したんだが」
 満足そうにうんうんと頷く、どうやらヒースロゥは合格点をもらえたらしい。
 だがそれは決して、良いことではない。


(どういうことだ? やつの攻撃が見えなかった)
 相手の攻撃に全く検討がつかないまま、落ちていた鉄パイプを持ち再び身構える。
 何がおもしろいのか、相手がいきなり笑い出した。
「何がおかしい?」
 苛立ちの顔でヒースロゥは尋ねる。
「クックック…いやなに、おまえの行動がある男とそっくりでな。
 ……そういえば名前を聞いてなかったな。
 なんならその男と同じく、名付けてやってもいいが?」
 完全にからかっている声だった。
「……ヒースロゥ=クリストフだ。」
 ヒースロゥはわけが分からない。
 だがとりあえず、初対面の男に名付けられるのは御免だ。
「ほう、なかなか垢抜けた名前だな。
 俺の名はフォルテッシモ、呼びづらいならリィ舞阪とでも呼ぶといい」
(フォルテッシモ? ……音楽記号だったか?)
 意味も無く考えてしまった。
 音楽は趣味ではないが、それくらいは覚えているらしい。
 仕様もないことを考えてる自分に軽く苦笑するヒースロゥ、まだ余裕はあるらしい。
 だがフォルテッシモの次の台詞が、彼からさらに余裕を奪っていく。
「さて、俺の能力だが――見るやつから見れば、世界は無数の罅割れで覆いつくされている。
 そして、俺はそいつを広げられる、といったところだ」
 こんな風にな。と言うと、フォルテッシモは軽く手を振った。
 すると、彼がさっきまで座っていた鉄骨が一部分だけ、刳り貫かれて落ちた。
 その断面はさながら鏡のようにヒースロゥの姿を映し出す。
 世界一の剣士とも言われるヒースロゥの剣技を持ってしても不可能な芸当だった。
「なかなか便利なもんだろ」
 せせら笑うようにフォルテッシモは言った。
「さて、おまえはどんなものを持ってるんだ? 言いたくないなら無理にとは言わないが。」
 言葉とは裏腹に興味津々である。

292最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その3 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:56:13 ID:Hw7b583Y
「貴様のようなものならば、持ち合わせてはいない」
 ヒースロゥはその問いに素直に答えた。
「ほう……なんの能力も持たず、俺の攻撃をかわしたのか?」
 意外そうな顔をする、それほどまでの相手には彼は出会ったことがなかった。
「そんなもの、感覚を研ぎ澄ませれば自然とわかる」
 だが、実際のところはただ体が自動的に動いただけで、もう一度かわせるかは微妙なところだ。
 フォルテッシモはゆっくりと歩き始める。
 彼の攻撃の間合いまで、あと3歩程の距離だった。

「そういうものなのか?」
 あっさりとフォルテッシモは信じた。嘘が得意なタイプでもあるまい。
 ヒースロゥはその場を動かない。まだ飛び出すには早い。

 ――残り2歩

「そういうものだ」
 フォルテッシモは歩みを止める気配を見せない。
 対してヒースロゥは今にも動き出さんとする衝動を抑える。

 ――あと1歩

(まだだ……まだ飛び出すには早い)
「そうか――」

 踏み出された瞬間、ヒースロゥの周りの空気が、さらに重くなった。
(来る!)

「――なら、こいつはどうだ!?」

 射程距離に入ったと同時、ヒースロゥのいた場所が弾け飛んでいる。
 しかし、そこに彼の姿はない。2度目もかろうじてだが成功した。
 前と同じように横に跳ぶ。
「せいっ!」
 手に持っていた木刀の柄を投げつける。ダメージを与えるには充分なスピードを出している。
 しかし、この攻撃の狙いは無論、敵にダメージを当てるためではない。
 ただ突っ込むだけでは次こそ木刀と同じ運命を辿ることになる。ヒースロゥはそう考えたのだ。
「ふん」
 と、フォルテッシモが目の前で柄を砕いた。
 砕かれた破片は目眩ましとなり、一瞬視界ではあるが視界が奪われる。
 木片がその効果を失った時、ヒースロゥの姿は視界から消えている。
(もらったぞ!)
 視界が塞がれていた、あの一瞬の間に真後ろに回りこんだヒースロゥ、
躊躇いなくフォルテッシモの背後から、鉄パイプを降り下ろす!
 今度こそ、完全に決まったはず―――しかし、またしても攻撃は失敗に終わった。

293最強は風の中に稲妻を見る 校正案 その4 ◆I0wh6UNvl6:2005/05/21(土) 23:57:09 ID:Hw7b583Y
「甘いな」
 振り向きもせずニヤリと笑うのはフォルテッシモ。 背後にまで罅割れを広げ、壁を作ったのだ。
 油断することを知らないその体は、彼に一分の隙も作らせない。
 全てを遮断するその壁は、ヒースロゥの渾身の一撃をも楽に受け止める。
 そして、彼が指を軽く動かすと同時に鉄パイプは砕け、ヒースロゥは吹っ飛ばされ鉄骨に激突する。
「ガハッ!」
 たたき付けられた衝撃でくぐもった声が漏れる。
「お前の負けだ」
 目の前に、威風堂々と最強が立ち塞がる。
 ヒースロゥは殺されるだろうと思い、覚悟を決めた―――

「くたばるにはまだ早い。
 ――お前には見込みがある。あの男と同じように、俺の敵になる見込みが」
 フォルテッシモの言葉に、ヒースロゥは唖然となった。
「おまえは、まだあるものにあっていない。その殻を破る前に死んでしまうにはあまりに惜しい」
 フォルテッシモは言葉を続ける。
 その言葉の真意に気づくと、ヒースロゥは激怒した。
「貴様……俺に生恥をさらせというのか!?」
 それは彼にとって屈辱に他ならなかった。
 フォルテッシモは無視してさらに続ける。
「おまえはあるものを探せ。そいつは、十字架のペンダントの形をしている。
 それを手に入れ、そして再びあったとき、今度こそ望み通り、息の根を止めてやろう」
 言葉を伝えた後、最強は風に背を向け歩き出す。
 その顔にはこれ以上ないほど凶暴な笑みが貼りついていた。
(あの男、いわばもう一人のイナズマといったところか……楽しみにしてるぞ)
 彼は天を仰ぐ、朝日の輝きが顔に当たる。
 しかし彼はその輝きに対しても不敵な笑みを浮かべた。
 それはまるで、その中にいる神に向かって『なかなか洒落た贈り物だ――』
と、感謝しているようだった。


 それに対しヒースロゥは激怒した。
 情けをかけた敵に対し、そして何よりも、弱い自分に対し。
 その心に広がる感情はその昔、似たような場所であの敵に出会った、ある男によく似ていた。


 再び彼らが出会う場所、それは宿命のみが知る……

294魔界医師の思考遊戯(1/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:48:13 ID:IUdB/xsA
「……ふむ」
 魔界医師はそう呟くと、終、志摩子へ視線を巡らし、次いで自分の腕に目を落とす。
 先程の対話の後、志摩子が辛そうにうつらうつらとしていた為、眠るように勧めると、すぐに寝息を立ててしまっていた。
 終も同様に、本人曰く「竜化は疲れる」とのことで、カーラに無茶をされた所為もあってか志摩子が眠りにつくとすぐに倒れてしまう。
 それでも、志摩子より先に眠ってしまわないあたり、大した精神力と言えた。或いは、心がけが徹底しているのか。
「さて……では“実験”を開始してみるとするか」
 こんな状況でも知識欲を失わないあたり、流石は魔界医師、といったところであろうか。

 “実験”を始めたメフィストは、左腕の袖を捲ると、おもむろに右手の指をその腕に突き刺す。
 ぬぷり、というなんとも言えない音と共に、その指が腕にめり込んでいく。
 ――心霊医術。一般にそう呼ばれる、霊的治療術。
「……む?」
 数秒程も指を動かすと、メフィストがなんとも言えない奇妙な表情になる。
 敢えて言うならば、白米だと思って噛み潰したら苦虫だった、というところであろうか?
 奇妙な表情もつかの間、またすぐに無表情へと戻ると、魔界医師には似つかわしくない溜息のような吐息を漏らす。
「これでは、いかんな」
 視線の先は、今し方“実験”を行っていた自分の腕。
 そこには、指を潜り込ませていたのときっかり同じ場所に五つ、小さな痕が残っていた。
「自らの身体でも、これか。他人相手の場合、苦痛を与えてしまうかもしれんな……
 最悪、無用に傷を付けてしまうかもしれん。これでは、治療に使うことは諦めるか」
 治療に完璧を求める魔界医師としての美意識が、普段とは似ても似つかない無様な業(わざ)を許容しない。
 メフィストは、それを封印することに決めた。

295魔界医師の思考遊戯(2/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:48:55 ID:IUdB/xsA
「次は……」
 言い、立ち上がると、舞踏でも踊るかのように動き出す。時に、ゆっくりと。時に、激しく。
 衣擦れの音以外、足音を立てることがないのは流石、と言うべきだろうか。
 しかし、メフィストはやはり――
「…………これも、いかんな」
 どうにも奇妙な表情を作る。
 “気”を応用して、身体の操作能力を上昇させることが出来ないのだ。
 指先等、一箇所に集中すればできないこともないが、それでも先程の様に不完全なものにしかならない。
「では、最後に……」
 メフィストは、“気”を掌に集中させていく。いや、ここは解り易く差別化して、氣と表現した方がいいだろうか。
 シュッ、という音と共に、メフィストの右手が、手刀の形に振られる。
 肌をチリチリと焦がすような見えない圧力が走ると、木陰の落ち葉を散らす。
 ――が、散らしただけ。圧力の中心にあった葉は四散したが、その周囲の葉は散っただけで終わってしまう。
「やはり駄目か」
 そう言って、メフィストは元居た場所に座り込む。「まぁいい」と呟くと、今度は思考に没頭する。
 確定事項、推理事項、断片的な情報、僅かな関連性。
 あらゆるピースをあらゆる角度で結びつけ、論理的な事実から単なるこじつけまで、無数の可能性を組み立てていく。
「知識、知性までは制限を設けなかった所を見ると、魔法的な概念しか制限できていないのか? それとも……」
 魔界医師の思考遊戯は、二人の寝起きまで止むことはない。

【C-4/一日目/13:00】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

296魔界医師の思考遊戯(3/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/22(日) 22:50:03 ID:IUdB/xsA
【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

297Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:27:27 ID:MK/bu.h6
(なにをやってるのかしらね、私は……)
 心が暗く沈んでいくのを自覚しながら、パイフウはその長い髪を掻き分けた。
 黒髪が水のように空を滑る。
 ただそれだけの動作が絵になるほど、彼女の美貌は際立っていた。
 もっとも、唯一のギャラリーは見惚れるような迂闊さとは無縁だったが。
 パイフウの物憂げな黒瞳が自身の手元を注視する。
 117人の名前が連なった名簿。
 その内の36個は斜線が引かれ、この世界から削り取られている。
 パイフウ自身が削った名前は――彼女の認識とは一人分違い――わずかに二つ。
 彼女の背景を考えるなら、間違いなく少ないといえる。
(……歯車が狂ってる。重症ね)
 パイフウは静かに認めた。
 森では素人と大差ない二人相手に骨を折られ、逃亡し、どちらか片方さえ殺せなかった。
 少女の催眠術に手を焼いたのは確かだが、普段なら少女の接近にわけなく気づいたはずだ。
 少年とあわせて、瞬きする間に殺せる程度の障害。
 それを越えられなかった理由はなにか。
(技が鈍っている以前の問題。今の私じゃ素人ですら殺せない。
 ……そんな私がこの男を相手にしたら、一分と持たないでしょうね)
 黒衣の騎士は堰月刀を握ったまま、黙して地面を見ている。
 休んでいるようでその実隙がない。
 こちらが動けば刹那の間に対応するだろう。
 さらには、地下に行けばこの男の主とやらがいる。
 思い出すだけで背筋が冷たくなるあの威圧感。
 見えざる棘のように肌を、肉を刺し貫く鋭利な冷気。
 心臓を鷲づかみにされたような感触がパイフウに警鐘を鳴らしている。
 地下にいる化け物に、関わるべきではないと。
 もちろん自分から関わる気はなかったが……
「そんなことを気にする時点で、らしくないんでしょうね」
 空気に溶けるほど淡く、パイフウは自嘲の笑みを浮かべた。

298Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:28:16 ID:MK/bu.h6
 
 会話すらなく教会内で時間が過ぎる。
 大雑把に推測して、放送から一時間といったところか。
 左の鎖骨はいまだに繋がらない。
 もともとそう簡単に治るものでもないが、治癒が遅いと感じるのも事実だった。
(気が弱まってるのかしら)
 ヒーリングにはいつもと同じだけの厚みを持った気を練っている。
 それにも関わらず、作用する効果自体は弱まっているようだった。
(こういった違和感の積み重なりが歯車を狂わせている。
 気がつかないうちに、他の身体能力も下がっていたのかもしれない)
 この島に来てからの戦闘を回想する。
 軟派な金髪の男は動けないところを蜂の巣にしたので除外。
 城での乱戦、住宅街での奇襲、森での遭遇戦。
 なるほど。
 あらためて考えてみれば、普段の自分と比べて動きがわずかにずれている……ような気がする。
 まあ、とっかかりになればなんでもいい。
 パイフウは一つうなずくと、自身の能力を下方修正して思考を打ち切った。
 後は骨折が治るまでやることがない。
 黒衣の男と地下を含め、周囲への警戒は怠らないが。
  
 ステンドグラスをくぐった陽光が、柔らかくパイフウを包んでいた。
 その光の暖かさは、彼女の職場たる保健室で感じるそれに似ている。
(エンポリウム、か。あの子ならどうするのかしらね)
 家ともいえる街を人質に取られて、殺人を強要されたとしたら。
 火乃香がどうするか、パイフウにはわからなかった。
 エンポリウムを見捨てられるとも思えなかったし、マーダーとして暗躍するとも思えなかった。
 ディートリッヒらを倒そうとするのが一番ありえそうではあるが、現状では不可能だ。

299Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:29:03 ID:MK/bu.h6
 パイフウの視線が自身の左手に注がれる。
 殺し合いにおいて致命的なハンデを負った左腕。
 動かそうとして生じた激痛に眉一つ動かさずに耐え、パイフウは胸中で苦笑した。
(やっぱりあの子に汚れ役をやらせるわけにはいかないわ)
 そもそもディートリッヒが約束を守るかも怪しいが、そこは相手を信用するしかない。
 自分を見限ったディートリッヒが火乃香に接触することだけは、絶対に避けたかった。
 なんせまだ三人しか殺していないのだ。
 残念ながらこれ以上休んでいる時間はないだろう。
 不安要素を残したまま、パイフウは行動を決意した。

「行くわ」
「そうか」
 唐突なパイフウの台詞に、黒衣の騎士は短く答えた。
 パイフウの肩が完治していないのは見抜いているだろうが、特に言及してくることはない。
 アシュラムにとっては主の眠りさえ妨げなければどうでもいいのだろう。
 パイフウは長い黒髪を手でかきあげると、入り口に向けて歩き出す。
 いまだ肩は治っていないので、ウェポン・システムを右手で扱えるようホルスターはずらした。
 一流を相手に格闘戦はつらいかもしれないが、早撃ちと組み合わせれば切り抜けられるだろう。
(ディートリッヒは気に入らないけれど……仕方ないわ。尻尾を出すまで待ちましょう)
 もう余計なことを考える必要はない。
 主催者も参加者も関係なく、一人を除いた、この島にある全ての命をただ摘み取ろう。
 最高性能の殺人機械として。
 文字通りの“生き人形”として。
 いつもどおり無感情に、この世界を俯瞰するだけだ。
 淡い陽光の中扉に手をかけて、美しき死神は笑いもせずに囁いた。

「次に会うときは、あなたの主も含めて殺すわ」
 
 アシュラムは動じず、沈黙を保った。
 パイフウは揺るがず、扉をくぐった。
 教会が、再び静寂に沈んだ。

300Walking with the decision◇7Xmruv2jXQ:2005/05/23(月) 00:29:48 ID:MK/bu.h6
【D-6/教会/1日目・13:10】

【アシュラム】
[状態]:健康/催眠状態
[装備]:青龍堰月刀
[道具];冠
[思考]:美姫に仇なすものを斬る


【パイフウ】
[状態]左鎖骨骨折(多少回復・処置中断)
[装備]ウェポン・システム(スコープは付いていない) 、メス
[道具]デイバック(支給品)×2
[思考]1.主催側の犬として殺戮を 2.火乃香を捜す

301魔界医師の思考遊戯ver2(1/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:45:25 ID:IUdB/xsA
「……ふむ」
 魔界医師はそう呟くと、終、志摩子へ視線を巡らし、次いで自分の腕に目を落とす。
 先程の対話の後、志摩子が辛そうにうつらうつらとしていた為、眠るように勧めると、すぐに寝息を立ててしまっていた。
 終も同様に、本人曰く「竜化は疲れる」とのことで、カーラに無茶をされた所為もあってか志摩子が眠りにつくとすぐに倒れてしまう。
 それでも、志摩子より先に眠ってしまわないあたり、大した精神力と言えた。或いは、心がけが徹底しているのか。
「さて……では“実験”を開始してみるとするか」
 こんな状況でも知識欲を失わないあたり、流石は魔界医師、といったところであろうか。

 “実験”を始めたメフィストは左腕の袖を捲ると、おもむろに右手の指をその腕に突き刺す。
 ぬぷり、というなんとも言えない音と共に、その指が腕にめり込んでいく。
 ――心霊医術。一般にそう呼ばれる、霊的治療術。
 患部に直接指で触れ、器具無しに完治させてしまうそれは、しかし……
「……む?」
 数秒程も指を動かすと、メフィストがなんとも言えない奇妙な表情になる。
 敢えて言うならば、白米だと思って噛み潰したら苦虫だった、という感じだろうか?
 奇妙な表情もつかの間、またすぐに無表情へと戻ると、魔界医師には似つかわしくない溜息のような吐息を漏らす。
「これでは、いかんな」
 視線の先は、今し方“実験”を行っていた自分の腕。
 そこには、指を潜り込ませていたのときっかり同じ場所に五つ、小さな痕が残っていた。
「自らの身体でも、これか。他人相手の場合、苦痛を与えてしまうかもしれんな……
 最悪、無用に傷を付けてしまうかもしれん。これでは、治療に使うことは諦めるか」
 治療に完璧を求める魔界医師としての美意識が、普段とは似ても似つかない無様な業(わざ)を許容しない。
 メフィストは、それを封印することに決めた。
「恐らくは、私の“声”も同じか」
 メフィストの、声。魔界医師の、声。言霊によって相手の精神に絶対的な安らぎを与える技術も、不思議な制限の対象になっているに違いない、と推測する。
 ましてや他人の精神を縛るなど、以ての外だろう。

302魔界医師の思考遊戯ver2(2/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:46:09 ID:IUdB/xsA
「次は……」
 言い、立ち上がると、舞踏でも踊るかのように動き出す。時に、ゆっくりと。時に、激しく。
 衣擦れの音以外、足音を立てることがないのは流石、と言うべきか。
 しかし、メフィストはやはり――
「…………これも、いかんな」
 どうにも奇妙な表情を作る。
 “気”を応用して、身体の操作能力を上昇させることが出来ないのだ。
 指先等、一箇所に集中すればできないこともないが、それでも先程の様に不完全なものにしかならない。
 恐らく戦闘ともなれば、集中する時間も取れずに己の筋力のみで闘うことになる。
 しかし、メフィストは気にもしていないのか、更に“実験”を続ける。
「では、最後に……」
 メフィストは“気”を掌に集中させていく。
 シュッ、という音と共に、メフィストの右手が、手刀の形に振られる。
 肌をチリチリと焦がすような見えない圧力が走ると、木陰の落ち葉を散らす。
 ――が、散らしただけ。圧力の中心にあった葉は四散したが、その周囲の葉は風圧に散っただけで終わってしまう。
「やはり駄目か」
 そう言って、メフィストは元居た場所に座り込む。「まぁいい」と呟くと、今度は思考に没頭する。
 確定事項、推理事項、断片的な情報、僅かな関連性。
 あらゆるピースをあらゆる角度で結びつけ、論理的な事実から単なるこじつけまで、無数の可能性を組み立てていく。
「知識、知性までは制限を設けなかった所を見ると、魔法的な概念しか制限できていないのか?
 それとも、主催者に都合の悪い記憶だけを狙って消す事が出来るというのか……?」
 口にはしてみるが、記憶に欠損は見つからない。今までに書物で仕入れた知識は全て頭に残っている。完璧だ。
「だが一応、せつらに出会うことがあれば記憶の確認をしてみるか」
 それを最後に、魔界医師は思考のパズルに没頭する。

 しかし、魔界医師は気付いていない。
 書物による知識が残っていても、それ以外から得た知識は一片たりとも残されていないことに。
 そして、「思い出せない」という意識すら覚えることなく消された記憶があることに。

 それでも魔界医師の思考遊戯は、二人の寝起きまで止むことはない。

303魔界医師の思考遊戯ver2(3/3) ◆3LcF9KyPfA:2005/05/23(月) 00:46:52 ID:IUdB/xsA
【C-4/一日目/13:00】

【藤堂志摩子】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:争いを止める/祐巳を助ける

【Dr メフィスト】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)、
[思考]:病める人々の治療(見込みなしは安楽死)/志摩子を守る

【竜堂終】
[状態]:健康 
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:カーラを倒し、祐巳を助ける

(共通目的、祐巳を探しつつ悠二と火乃香も探す)

304真実と事実(1/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:56:03 ID:14CXvzZA
 目を覚ますと、木製の天井が映った。
(ああ……戻ってきたんだったわね)
 朦朧とする意識を引きずって、クリーオウと空目の待つ保健室へ辿り着いたところまでは覚えている。
 道中、他の参加者に出会わないかどうか気が気ではなかったが。
 毛布を被せて貰い、一言二言話をして……そこで安堵してしまったのか、どうやら私は気を失ったらしい。
 床に倒れていたはずだが、いつの間にかベッドに寝かされていた。
 身体の横に重みを感じる。涙でぐしゃぐしゃになった顔のクリーオウがしがみついていた。
 他に、サラとピロテースの姿が見える。彼女達も無事戻ってきたようだ。空目とせつらはどうしたのだろう。
「クリーオウ……」
 手を伸ばして頭を撫でてやる。
「クエロ! よかったぁ……気がついた……」
 泣き笑いの顔で安堵の声を漏らすクリーオウに、こちらも弱弱しく笑いかける。
 図らずも少し睡眠をとったというのに、身体の疲労は取れていなかった。
 ゼルガディスの出したあの青白い炎に触れてからだ。いまいましい。
 ……そう、彼――ゼルガディスのことをごまかさなくては。

「だから言ったろう。気を失っているだけだと」
「だ、だって……!」
 枕元にやってきたサラとクリーオウの会話。
 この調子では、私が気を失ったことでこの子は大騒ぎしていたに違いない。
「サラ、今の時刻は……?」
「12:10。今さっき、放送でゼルガディスの名が呼ばれた。……何があった?」
 ゼルガディスの名が出た瞬間に、服の裾を掴むクリーオウの手がびくっと震えた。
 ごめんねクリーオウ、恨むなら彼の用心深さと運の悪さを恨んでね。
「……ええ、話すわ」
 精一杯沈痛な表情を浮かべ、私は皆に『事の顛末』を語りだした。

305真実と事実(2/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:56:48 ID:14CXvzZA
 ――周辺エリアで、二人の参加者の死体を見つけたこと。
 その参加者の支給武器と思われる、"魔杖剣・贖罪者マグナス"を発見したこと。
 魔杖剣についてはマニュアルがあったことにした。今後、彼女達の前でこれを使う場面はきっとある。
 そして、元いた世界での敵――ガユスとの遭遇――

「なるほど、相手を騙し油断させて寝首を掻くのがその男のスタイルか」
「ええ、でもそれを知っている私がいたから……」

 ――友好的態度で接してきたガユスと連れの男――彼は緋崎と呼んでいた――は態度を豹変。
 私は緋崎の魔術を不意打ちで食らってしまい、今のこんな状態に――

「体内の精霊力に乱れがある……というより、酷く弱っているな。私も精神を磨耗させる精霊を呼べるが、それのさらに強力なものを受けたのだろう」
「そんな……それ、大丈夫なの?」
「しっかりと、まとまった時間の睡眠をとれば問題ないはずだ」

 ――戦闘が始まった。
 だが、私はほとんど前後不覚の状態で、実質二対一。
 ゼルガディスは私を足手まといと断じて逃げろと命じ、自身は私が逃げる時間を稼ぐためにそこに残った。
 そして、微かに聞こえた、彼の断末魔の声――

306真実と事実(3/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:57:34 ID:14CXvzZA
「ごめんなさい……私が、もっと注意を払っていれば……こんなことにはならなかったのに……!」
「クエロ……」
 嗚咽し、取り乱す私をクリーオウが抱きしめてくれる。
 声を出すと自分も泣き崩れそうなのだろう。身体が小刻みに震わせ、必死に声を殺しているのが分かった。
「――それは彼が自分で判断して取った行動の結果だ。あまり気に病まないことだね」
 扉を開けてせつらと空目が入ってきた。
 せつらはバケツを、空目はポットとトレイを携えている。載ってるのは……インスタントコーヒーの瓶?
「二人ともごくろう。……自分で探せと言っておいて言うのもなんだが、よく見つけたな。空目」
「職員用の給湯室で見つけた。ガス――火種も生きていた」
 サラが指示を出して持ってこさせたらしい。
 何に使うのかと思ったが、バケツになみなみと入ったお湯を見て、私の汚れを落とすためだと気づいた。
 転がって服の炎を消したり、ここへの道中幾度か転倒していたことで、かなり薄汚れてしまっているはず。
 ……というか、今気づいたけど下着姿じゃない。毛布で見えないけど。
「僥倖だな。さあ、男性陣は向こうを向いているのだ。こちらを向いたら同盟破棄とみなすのでそのつもりで」
「それは大変だ。お湯は水道水を暖めたものですが、よろしいんですね?」
「一応私が浄化する。そこに置け」
 ピロテースがなにやらよく分からない言葉を紡ぎながら湯に触れる。
 一瞬それを興味深そうに眺めて、せつらはおとなしく窓の外に視線を移した。

307真実と事実(4/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:58:41 ID:14CXvzZA
「――ギギナ? それも危険人物か」
「ええ。ガユスの仲間で、こっちは戦闘狂よ。……そういえば放送では?」
「呼ばれていない。容姿を詳しく教えてほしい」
 保健室に常備されていたタオルで身体を拭きつつ、私はサラの疑問に答える。
 汗と土で汚れた身体が綺麗になっていくのはやはり心地よい。
 擦り傷や軽い火傷もあったと思うが、それらはピロテースが治したらしい。
 もっとも、「精霊を呼ぶ際の消耗が普段より大きいので多用はできない」そうだが。
「はじめに危険人物のリストも作っておくべきだったか」
 ギギナの特徴をメモしたサラがそう漏らした。
 今回のはリストがあっても避けられなかったと思うけど、それには賛成。
 それに、魔杖剣は手に入ったし、邪魔な男も始末できた。
 結果オーライとはいえ、悪い展開ではなかったわ。私にとってはね。
「誰か他に危険人物に心当たりのある者はいないか?」
「……特定の個人としてではないが」
 サラの言葉に、そう前置きしてピロテースが口を開いた。
「実は、森でゼルガディスの探し人を見つけた。死体だったが」
「というと……つまり、アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンか」
 サラが呟いた。その人も死んだということは、残る彼の知り合いはリナとか言う女性一人。
 精神的に強いかどうか分からないけど、下手をすると自棄になってゲームに乗りかねないわね。
 ピロテースがデイバッグから何かを取り出した。
 腕輪とアクセサリー。つまりは、アメリアの遺品だろう。
「そのアメリアの死因を探ってみたのだが、どうやら参加者の中にヴァンパイアがいるらしい」
 窓際で空目と缶詰談義をしていたせつらが反応した。
「詳しくはな……」
「同盟破棄」
「……振り向いてませんよ。詳しく話してくれませんか」

308真実と事実(5/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 00:59:48 ID:14CXvzZA
 せつらとピロテースの話を要約すると、こうだ。
 曰く、美姫という参加者がヴァンパイア――吸血鬼である。
 曰く、咬まれた対象はその眷属となり、血を求める危険な存在となる。
 曰く、アメリアには咬み跡があったにもかかわらず、眷属となってはいなかった。
 少ない情報だが、ここから導き出される結論は。
「アメリアを殺害したのは美姫ではない。他の吸血鬼か似たような存在が殺害した、ということか」
 美姫とその何者か。警戒すべき吸血鬼、もしくはそれに酷似したものが、最低でも二人以上いるということ。
 魔法、精霊、それに吸血鬼。本当に何でもありね、この世界は。
「ガユス、緋崎正介、ギギナ、美姫、謎の吸血鬼……最後のは容姿が分からないが、分かっている危険人物はこんなところか」
 サラがまとめつつコーヒーを差し出してくれた。
 礼を言って受け取り、一口飲む。……甘い。
 クリーオウはこれくらいが丁度いいのか、美味しそうに飲んでいる。
「糖分を摂取して眠るといい。起きたらまた行動開始だ」
「え、私は起きてるよ。皆が寝てる間、見張りを……」
「いいから寝るのだ。今のあなたに必要なのは休息だぞ、クリーオウ」
「それは皆のほう!」
 二人が口論しているうちに一気に飲み干し、ベッドに横たわる。
 疲れた身体と精神に暖かい飲み物とくれば、次に来るのは眠気だ。
 案の定、急激に眠くなってくる。
(悪いわね、ベッド一つ占領させてもらうわよ)
 言葉にするつもりだったが、それすらも億劫だ。
 心の中でだけそう言って、二人の声をBGMに私は意識を手放した。

309真実と事実(6/6)◇1UKGMaw/Nc:2005/05/23(月) 01:01:22 ID:14CXvzZA
【D-2/学校1階・保健室/1日目・12:25】
【魔界楽園のはぐれ罪人はMissing戦記】
共通行動:学校を放棄する時はチョークで外壁に印をつけて神社へ

【クリーオウ・エバーラスティン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ペットボトル残り1と1/3。パンが少し減っている)。缶詰の食料(IAI製8個・中身不明)
[思考]:みんなと協力して脱出する。オーフェンに会いたい

【空目恭一】
[状態]: 健康。感染
[装備]: なし
[道具]: 支給品一式。《地獄天使号》の入ったデイバッグ(出た途端に大暴れ)
[思考]: 刻印の解除。生存し、脱出する。詠子と物語のことを皆に話す
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている

【クエロ・ラディーン】
[状態]: 疲労により睡眠中
[装備]: 毛布。魔杖剣<贖罪者マグナス>
[道具]: 支給品一式、高位咒式弾(残り4発)
[思考]: ゼルガディスを殺したことを隠し、ガユスに疑いを向ける。
    集団を形成して、出来るだけ信頼を得る。
    魔杖剣<内なるナリシア>を探す→後で裏切るかどうか決める(邪魔な人間は殺す)
[備考]: 高位咒式弾の事を隠している

【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。

【ピロテース】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式)/アメリアの腕輪とアクセサリー
[思考]:アシュラムに会う/邪魔する者は殺す/再会後の行動はアシュラムに依存

310金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(1/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 06:57:15 ID:8OL21RyU
サラとせつらが地下連絡通路から出ると、そこは城の地下室だった。
争いの様子が無い――そもそも人が居ない――事を確認し、慎重に調査を始めると、
しばらくして彼らは、僅かに漂う血の臭いに気づいた。
そして、その臭いの元となっている部屋を見つけ、踏み込んだ。
「――またも死体か」
開け放たれた扉からは鼻をつく濃厚な血の臭いが漂っている。
これが僅かにしか感じられなかったのは、単に距離が遠かったからにすぎない。
この部屋の中でなら、例え嗅覚が塞がっていても舌で血の味を感じるだろう。
「これは酷いな、殆ど抵抗できずに撃ち殺されている。
最初に足を撃たれ、その後に蜂の巣にされたようだ」
サラは、金髪の男の死体を見下ろしながら言う。
「死後硬直は殆ど完了している。8時間近く経っているな」
「ドッグタグが付いています。軍人さんかな? クルツ・ウェーバー、だそうだ」
「その名前なら、6時の放送の時に名前が有った」
淡々と会話をかわしながら検屍を終え、遺留品を纏める。
まずは廊下に落ちていた粉々になった謎のアンプル。
サラは匂いを嗅ぎ……心当たりを感じて一舐めすると、呑み込まずに吐いて、言った。
「揮発性の強い興奮剤だ。アンプルが割られた時に、対処無しにそれを吸い込めば、
動揺して冷静な判断がしづらくなるだろうな。戦闘か交渉に使われたのだろう」
次に、クルツ・ウェーバーの物と思われるデイパック。
水はこれ以上要らないとしても、パンはもらっておくに越した事は無い。
そして、最後に……
「さて。……なんだろうな、これは?」
おそらくはクルツの支給品と思われる奇妙な筒を手に取る。
「なんでしょうね。実験してみたらどうですか?」
「そうだな、そうしよう」
即決実行。サラは筒を壁に向けると、迷わずスイッチを押した。そして――

「これは良い物ですね。僕にピッタリだ」
――せつらの声に思わず喜色が混じった。
今、この超人は、この島で得うる支給品の中でも最高の物に出会ったのだ。
すなわちそれは、秋せつらにブギーポップのワイヤーである。

311金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(2/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 06:58:04 ID:8OL21RyU
「やたらと物に恵まれてきたな、わたし達は。とんとん拍子が過ぎる」
「生きている人間にはとんと会えませんけどね」
一つ目の死体でのリサイクル。二つ目の死体の遺留品。
この二つの死体との出会いにより、彼らの装備は万全となった。
だが、裏を返せば、彼らはまだ死者にしか出会えていなかった。
「さっきの放送の者達も死んでいる公算が高いですし。物騒な事です」
11時になる少し前の、おそらくは何らかの支給品か、あるいは放送施設で行われた、
非戦の呼びかけ。それを遮った銃声。そして、悲鳴と断末魔。
それにより得られた情報も有ったが、同時にまた、(確定ではないが)人が死んだのだ。

「この調子で生者に会えなければ、人を捜そうにもどうしようもないな」
上級魔術師と魔界都市一の捜し屋が揃っても、人に会えずに捜し人を見つけるのは困難だ。
「この城、他にも人が居そうなんですけどねぇ」
「時間があれば念入りに調べるのだが」
時刻は11時を回った。
幾ら地下通路により安全且つ一直線の移動が出来るとはいえ、
そろそろ帰還を考えなければいけない時刻だ。
「この部屋を見たら最後にしよう」
扉を開いた。
その部屋は、またも血の臭いが漂っていた。
だが、そこには生者が居た。

312金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(3/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:02:54 ID:8OL21RyU
彼は傷を負い、その上に意識を失っていた。
それは危機的状況だった。
もちろん、その状況自体が極めて危険な事は言うまでもないが、
それに加え、彼の倒れていたエリアは半日足らずでゆうに5回もの殺し合いが発生した、
いわばこの殺人ゲームの過密地と言えるとんでもないエリアだったからである。
その割に死者が2人に納まっている事はむしろ幸運だろう。
他に歩く死者が出入りしたり、普通なら死ぬ瀕死人が転がっているが、それはさておき。

そんな、とんでもなく危険で不幸中の僅かに幸運な場所で、
半日足らずで二回も意識を失った不幸な青年は、今回も生きたまま目覚める事が出来た。
正しく地獄に仏と言うべき事であった。
ただ、その目覚めは強烈な刺激臭を伴っていたが。

「〜〜〜〜っ!?」
ツーンと鼻に来る強烈な刺激臭に無理やり夢から引きずり起こされ、
思わず飛び起き――
その時、彼は確かに「カーン」という澄んだ音と共に星を見た
――もう一度石床に逆戻りし、頭を打ち付け呻き声を上げた。
(な、何ですか、一体!?)
必至に状況を把握しようと試みる。
今、どこで、ぼくは、どうなっている? 何が起きた?
しばらく目を瞬かせていると、徐々に目が慣れてきた。
……目の前には、一組の美しい男女が立っていた。

一人は息を呑む程に美しい青年。
彼自身、整った美形と甘いマスクで同性には疎まれる人間だったが、
目の前の青年はそれとは別、同性でさえ文句の付けようがない美形だった。
しかし、その表情は茫洋と緩んでおり、そのおかげでバランスが取れていた。
もう一人はそれよりは劣るが、整った容姿の女性。
綺麗な白い肌。黒い髪には艶があり、瞳は深く神秘的な色合いの藍色をしている。
その表情はまるで感情の見えない鉄面皮であり、
左手には刺激臭の根源らしき薬品の浸みた脱脂綿を。そして、右手には――

313金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(4/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:03:43 ID:8OL21RyU
そして、右手には――フライパンが握られていた。
おそらくこれが、自分が起きあがり様に頭をぶつけた物の正体なのだろう。
(…………な、なぜ?)
その視線を受けて、彼女は「ああ、これか」とフライパンに目を落とした。
よく見ると、彼女の足下にはおたまも転がっていた。
「いや、地球という世界では、フライパンをおたまで叩いて熟睡者を起こすと読んで」
「それで、やってみようと?」
隣の青年が少し呆れた調子で尋ねると、彼女は大きく肯いた。
「この殺伐とした世界で円滑にコミュニケーションを取るには、場を和ませる必要が有る。
まず気付け薬で起こした後にフライパンをおたまで叩くつもりだったのだが……
急に起きあがってきて頭がぶつかりそうだったのでガードさせてもらった。いや、すまない」
この場にツッコミ人種――例えばダナティア皇女――が居れば全力で色々とツッコミを入れただろうが、
生憎とこの場には誰も居らず、無表情無感動鉄面皮な確信犯的ボケ役を止める者は居なかった。が。
「僕は古泉一樹と言います。誰かは知りませんが、初めまして」
「僕は秋せつらです。それにしても災難でしたね」
他2名、鮮やかなスルーに成功。
「わたしはサラ・バーリンだ。よろしく頼む」
元から冗談が滑る事に慣れているサラも、流れるように話に付いていく。
そういうわけで、この件はそういう事になった。

「ところで、あなたはアシュラムという人物に会った事は有りませんか?」
「アシュラムさん、ですか? 少なくとも名前を聞いた事は有りませんね」
「そうですか。外見は、黒い髪で……」
せつらはピロテースから聞いたアシュラムの外見を伝えたが、古泉はやはり首を振った。
「ではアメリアやリナ、オーフェン……あと、ダナティア殿下に会った事も無いだろうか?」
サラの言葉にも、古泉は首を振った。やはり、どれも知らない人物だった。
「お役に立てず、残念です。ところで僕の方からもお訊きしたいのですが……」
そして、古泉の捜し人もやはり、せつらもサラも知らなかった。
「出会ったら、あなたが捜していると伝えておきましょうか? 僕達は集団で人を捜している」
目の前の青年が危険人物でないという保証は無い。だから、言付けだけの提案をした。
それに対し、古泉は少し考えると、言った。
「……そうですね、お願いします。それと、『去年の雪山合宿のあの人の話』と伝えて下さい」

314金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(5/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:04:29 ID:8OL21RyU
古泉の奇妙な言付けを預かると、去り際にサラはデイパック一つ分のパンを取りだした。
「血臭がする場所に有った物が混じっているが、どうか受け取って欲しい」
「はあ、これはどうも」
首を傾げながら受け取る。
薬品を染み込ませたとかそういった様子は無い。紛れもない、支給品のパンそのままだ。
「だけど、何故です?」
「荷物が思ったより多くなったので、やはり少し減らそうと思ったのだ」
判らないでもない理由だ。パンは重さこそ無いが、体積は有る。
「さて、わたし達はそろそろ戻らないといけないな」
「そうですね。それでは、僕達は行くとします。
そうそう、捜し人もまた僕達の仲間と言えます。貴方が敵対する事にならないと良いですね」
裏を返せば、捜し人と敵対すれば、彼らとも敵対する事になると釘を刺したわけだ。
「では、ごきげんよう。あと、自力で銃弾を摘出したのは見事な物だが、包帯はキチンと巻いた方が良い」
「はい、さようなら。……あの時は、余裕が有りませんでしたから」
苦笑しつつサラに返事を返した。我ながらよくやったものだ。
肩を見てみると、そこには……きっちりと巻いてある新しい包帯が見えた。
もしも彼が物を透視する事が出来たなら、その下の銃創まで縫合してあるのが見えただろう。
「これは……」
あなたがしてくれたのですか? そう言おうと振り返った時、二人は既に居なくなっていた。
(長門さんのように、何らかの手段で高速で移動する事が出来る人達なのか?)
少なくとも、ただ者ではないのだろう。
「敵に回したくはありませんね。さて、僕も行かないと……」
最初に動き出そうと決意した後、色々有った挙げ句に気絶したせいでかなり時間が経ってしまったが、
今度こそ長門有希を捜しに出なければならない。
怪我をした肩を庇いながら立ち上がると、古泉は歩き出した。

315金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(6/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:07:40 ID:8OL21RyU
「今の時間は……11時40分か。この通路が無ければ帰りが間に合っていないな」
「だからこそ縫合までしたんでしょう? あの治療は10分以上も掛かりましたよ」
「すまない。医術は専門でない事が祟ったか」
サラの治療は特別遅かったわけではなく、むしろ開業医になれる程の手早さだったのだが、
世界最高――いや、ここに連れてこられた者達の元居た世界全ての歴史を全て掘り返しても、
一人とて居ないほどの超人的医者を親友に持つせつらから見れば、稚拙に映った事は否めない。
だから、流石に『そうでもない』等という言葉は掛けず、ただ歩き続けた。
しばらく、無言で歩き続ける。
所々に付けられた光量の低い照明に照らされ、薄暗い通路は延々と続いている。
時間として
「ところで、あのワイヤーの具合はどうだった?」
唐突にサラが訊いた。
「ああ、良い物でしたよ。ただ……少し頑張って洗わなければいけないでしょうが」
ワイヤーが有った場所が場所だ。
ワイヤーは入れ物である筒ごと、べっとりとクルツ・ウェーバーの血に沈んでいた。
他の武器ならいざ知らず、細く軽く鋭くしなやかで柔軟な金属ワイヤーはそうは行かない。
「帰ったら、化学室から金属を腐食させずに凝固した血液を溶かせる薬品を出してこよう。
水で薄めてバケツに入れて、部屋の隅において2〜3時間。それで使えるようになる」
「それじゃ、そうする事にします。どうもありがとうございます」
彼らは地下通路を歩き続けた。
帰還した時に仲間の一人の死を知らされ、更に数分後にそれが証明される事など知りもせず。

316金棒を持つ鬼と地獄の仏との出会い(7/7) ◆eUaeu3dols:2005/05/24(火) 07:08:40 ID:8OL21RyU
【G-4/城の地下・隠し連絡通路(学校へと移動中)/1日目・11:40】
【サラ・バーリン】
[状態]: 健康
[装備]: 理科室製の爆弾と煙幕、メス、鉗子、断罪者ヨルガ(柄のみ)
[道具]: 支給品二式、断罪者ヨルガの砕けた刀身、『AM3:00にG-8』と書かれた紙と鍵
[思考]: 刻印の解除方法を捜す/まとまった勢力をつくり、ダナティアと合流したい
[備考]: 刻印の盗聴その他の機能に気づいている。刻印はサラ一人では解除不能。
刻印が発動する瞬間とその結果を観測し、データに纏めた。

【秋せつら】
[状態]:健康
[装備]:強臓式拳銃『魔弾の射手』/鋼線(20メートル)/ブギーポップのワイヤー
[道具]:支給品一式
[思考]:ピロテースをアシュラムに会わせる/刻印解除に関係する人物をサラに会わせる
    依頼達成後は脱出方法を探す
[備考]:せんべい詰め合わせは皆のお腹の中に消えました。刻印の機能を知りました。
    ブギーポップのワイヤーは帰ったら洗浄液入りバケツに漬け込み、部屋の隅に置く。


【G-4/城の中/1日目・11:40】
【古泉一樹】
[状態]:左肩、右足に銃創(縫合し包帯が巻いてある)
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式) ペットボトルの水は満タン。パンは2人分。
[思考]:長門有希を探す

317ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:44:48 ID:hNdeEao2
チサト ーあの青年が確かだと思うもの、彼の幸い、彼の真実。自分はそれを、奪う。
アストラ ー己が確かだと思いたかったもの、己の妻。殺人精霊はもう居ない。
そして彼女の対なるミズーもまたー

( ー俺にはまた 何も無い)
一歩、また一歩を踏みしめながらは、ウルペンはひたすらにその言葉を繰り返す。
信じるに足る物など何も無い世界。
帝都、契約、絶対殺人武器。
それらは風のようにすり抜けていき、手の中には何も残らなかった。
心の奥に虚しさだけが募る。
信じるに足るものなど何も…
「…いや、一つあるか」
思わず声が漏れ、唇が皮肉に歪む。
それでも歩みはとまらない。
   
   ー死ー
彼がもたらし、彼に訪れ、彼の真実を奪い去った事もある。死。
この世界において唯一信じるに足る、必ず果たされる約束、いや、契約。
かつて信じていた契約、己の不死を保証するそれとは違う。
「契約者」の死、彼はそれを目撃した。
また「契約者」であった自身の死、それもこともなげに訪れた。
しかし、その死によって証明された事もある。

318ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:46:15 ID:hNdeEao2
『奪われないものなどなにもない』
それだけが、唯一絶対の真実。
(皮肉なものだな…。逆吊りの聖者には相応しい)
おそらく、それは絶望なのだろう。
規則性に欠けながらも途切れる事の無い歩調の中で自覚する。
俺は絶望しているのだーと。

唐突に、先ほどの青年の決然とした表情が浮かんだ。
信じるものがあるかと言う問いに、即座に答えたその表情。
ーー彼にも絶望を。
絶望した心中に生まれた願望ーチサトを殺し、彼から奪う。彼に絶望を教える事。
それは何か儀式めいた意味を持つように感じられた。
例え倒錯であったとしても構わない。
いや、あの青年だけでは飽き足らない。
参加者の全て。
絶望を知らない者の全て。
既に死したはずの自分と出会う生者の全て。
このゲームという名の殺しあいに否応無く飲み込まれた全てに。
思い知らせてやるのだ。死と喪失だけが人に約束された唯一のものだと。
そしてー やがては自身にも再び死が訪れるだろう。
だが、それまでに、果たしたい望みがある。チサトーそして…

319ナッシング・ラスト(確かさと確かさでないもの) ◆rEooL6uk/I:2005/05/24(火) 17:48:02 ID:hNdeEao2
「これで…」
自然と歩調が早まる。
確かなものはなにもない、それが答え。自分はそれを証明する。
「これで満足か、アマワァあああああ!」
いつしか彼の内、出血に喘ぐ男の内は外見も知らぬ女と異形の怪物の姿に占められつつあった。

やるべき事は決まっている。
チサトを殺し、全てを殺し、アマワに答えを突きつけるのだ!
この島のどこかにいるアマワに…

彼は歩みをとめないー

 『地図の空白が失われた時、怪物はどこにいくのだろう?』

【G−3/森の中/1日目・12:30】

『ウルペン』
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼き落ちている。行動に支障はない(気力で動いてます)
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 
[思考]:1)チサト(容姿知らず)の殺害。2)その他の参加者の殺害3。)アマワの捜索

320罠、そして……(1/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:13:15 ID:yl5Di1eM
 タイムリミットがあるからには、最大限に時間を有効利用する必要がある。
 自分の持てるあらゆる技能を駆使し、効率良く人を殺さねばならない。
「どこまで歩くんです?」
 横を歩くキノが訊く。
「あの森に着いたら小休止しつつ作戦を話す。引き続き警戒を緩めるな」 
 言われるまでもない、といったふうにキノは頷いた。
 
 森の中。二人は当面の安全を確保し、話を始める。
「おまえはトラップ作りは得意か?」
「……いえ」
 唐突な質問に、とりあえずは首を振っておく。
「そうか。ではおまえの役割は、適当な木を見つけその先端を尖らせる事だ。できる限り鋭利な槍を作れ。
そのナイフで支障があるようなら、こちらのサバイバルナイフを貸してやる」
「何をするつもりなんですか?」
 大方の想像はついたが、詳しく尋ねる。
「俺達だけではカバーできる範囲に限界がある。獲物を探しつつ罠を仕掛けていくのが効果的だ」
「なるほど。それで、どんな罠を?」

321罠、そして……(2/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:16:16 ID:yl5Di1eM
 小動物を捕獲するならば、スネアが最適だ。
 スネアとは、釣り糸・ワイヤ等で作った輪を、動物の首や足に引っかける罠である。
 だが、人間相手では効果が弱い。徒党を組んでいるとなるとなおさらだ。
 デッドフォール――餌を取った動物に上から重量物を落とす罠――は手間が掛かりすぎる。
 ならば、今回使う罠は。
「スピアトラップを仕掛ける。手早く生産でき、効果の高い罠だ」
 ジェスチャーを交え、宗介はその罠の詳細について説明し始めた。
 スピアトラップの構造は単純だ。
 先端を尖らせたスピアを、曲げられた枝等に固定する。
 獲物が餌を取ったり、ピンと張られた『ライン』に引っかかったりすると、
 即座に槍がその身体に突き刺さる、という罠である。
「――――以上だ。付け加えるならば、ベトナム戦争でベトコンが使った罠として有名でもある」
 と、宗介は説明を締めくくった。
 
「べとこんとかは良く分かりませんが……分かりました。それで、どこにその罠を仕掛けるつもりですか?」
「今の所、禁止エリアは南に集中している。南に居た参加者が北上する、もしくはしている可能性は高い。
さらにここ一帯の森林は島の中心部に当たり、水場もある。人の行き来は多いと推測できる。
以上の理由により、この辺りに広がる森林内で人が通りやすい箇所に、いくつかの罠を仕掛けるつもりだ」
 あの地下墓地に近い事もここに罠を仕掛ける理由の一つだったが、話す必要は無いので黙っておく。
「水を求めてやってきた人、見晴らしの良すぎる平原から避難して来た人にグサリ、という訳ですか」
「肯定だ」
 無感情なキノの声に、こちらも無感情な声が応える。
「質問等無ければ、早速作業を開始する」
「……ボクの作業には関係無いですけど、トラップに使うワイヤーとかはどうするつもりですか?」
 二人ともワイヤーや釣り糸のたぐいは持っていない。疑問に思ってキノが問うと、
「それには、これを使う」
 むっつり顔のまま表情を変えず、宗介はデイパックを指し示した。

322罠、そして……(3/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:19:52 ID:yl5Di1eM
 見つけた木の先端を削りつつ、横目で宗介を見遣る。
 彼は器用にデイパックを解体し、トラップ用の『ライン』を作っていた。
 確かにこのデイパックは頑丈だ。
 どんな支給品が入っていても耐え得るよう設計されているのだろうか。
 何の繊維を使っているのか分からないが、よっぽどの事が無ければ破れそうにない。
 この生地を使って獲物を引っかける『ライン』を作る。
 罠を看破されないよう細くかつ強靱なものを作らねばならないが、彼ならば可能だろう。
 
 何気なさを装って作業をしつつ、キノは足を進める。
 宗介にとって死角になる地点へと。
(この人は、危険だ)
 罠も作り慣れている。そして、戦い慣れている。おそらくは自分よりも。
 先程の戦闘では張り合えたが、次はどうだろうか。
 今はまだバレてはいないようだが、自分の性別が彼に知られたら?
 男女の力の差が目に見える形で現れる接近戦、それも武器を使えない状況での格闘戦に持ち込まれたら?
 その時点で自分の負けだ。
 いつどのように彼の気が変わるのかは分からないのだ。
 火力ではおそらくこちらが勝っているが、安心などとてもできない。
 いっそ、今の内に――
 
 地面に木を立て掛け、キノは片手で作業を続ける。
 先程までの風景と変わらないよう、シュッシュッと木を削る音もそのままに、
 もう片方の手で『銃』を用意。
 何気なく、本当に何気なく宗介に『銃』を向け――
 引き金を、引いた。

323罠、そして……(4/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:22:32 ID:yl5Di1eM
 木を削る様子がなかなかサマになっている。
 両手で作業を進めるキノを、宗介は目の端に映していた。
 一時的に同盟を結んだとはいえ、全く油断はできない。
 いつどちらとも寝首を掻かれるか分からない、砂のように脆い同盟関係なのだ。
 その同盟相手が作っている鋭い木の槍。
 それを凶器として使用するスピアトラップ。
 地下墓地の女のような化け物には効かないかもしれないが、並の人間がこの罠にかかればひとたまりも無い。 十中八九、命を落とすだろう。
 
 並の人間――
 かなめは、地下墓地に囚われている限り大丈夫だ。
 もっとも、あの女が約束を守るのかどうかという根本的な問題もある。
 あの女からかなめを奪還、もしくはあの女を斃す方法も考えておかねばならない。
 今の所は全く妙案が浮かばないのだが……。
 テッサは、ウィスパードの知識を扱えるとはいえ、宗介やクルツのようなサバイバル技能は無い。
 それどころか、何の障害物も無い道で突然すっ転ぶほどの運動音痴だ。
 もし彼女が単独で行動しているのなら、この罠に掛かる可能性は十二分にある。
 テッサの命を奪うかもしれない罠。
 テッサが罠に掛かっていたなら、自分はその首を切り取ってかなめを救いに行くのだろうか。
(それでも、俺は……)
 あの日あの時、<アーバレスト>の掌の上で。
 自分は確かに一方を選び、もう一方を見捨てた。
 最後の最後、このゲームで生き残って欲しいのは――
 
 刹那、懊悩する宗介をぞくりとした感覚が包む。
 戦場に生きる兵士だからこそ感じられるもの。
 だが、感覚に対する身体の反応が、一拍遅れた。
(間に合うかっ?)
 咄嗟に飛びずさるが、引き金は既に――

324罠、そして……(5/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:24:28 ID:yl5Di1eM
「……ぱぁん」
「……何のつもりだ」
 油断なくソーコムピストルを構え、宗介が誰何する。
 じとり、と冷や汗が背を伝った。
「何って、ちょっとした冗談じゃないですか」
 キノが楽しそうに言う。
 『銃』の形を模した指を宗介に向け、もう一度『ぱぁん』と指鉄砲を撃った。
「笑えない冗談だ。……次に紛らわしい真似をした場合は容赦無く撃つ」
 忌々しく吐き捨て、宗介は銃を下ろした。
「怖いなあ……」
 溜息を吐いて、キノは呟いた。
(やはり、この人は強敵だ。決定的な隙が出来るのを待つしかない)
(少年のような態をしているが、この男は危険だ。機を待ち片を付ける)
 二人が似た考えを抱いていたことは、互いに知るべくもなかった。

325罠、そして……(6/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:26:48 ID:yl5Di1eM
 ミッション開始より約58分が経過。
「時間だ。今完成した罠で最後にする」 
 森の中を短距離移動・罠設置を続ける間、幸か不幸か他の参加者には出会わなかった。
 じわじわとタイムリミットが近づく。
 焦りは失敗を生む。それを分かっている宗介は冷静さを維持しようと努める。
 そこへキノが、
「罠の設置も終わった事ですし、早いうちに人が密集してる場所を狙いませんか? 
ボクとあなたがいつまで共闘できるかも分かりませんし」
 抜け抜けと物騒な話を持ちかけた。
「同意する。では、作戦の詳細を検討しよう」
 情動の感じられない声で、宗介が答えた。
 時間が無い宗介にとって、それは願ってもいない提案だ。
 二人は互いの持つ情報を擦り合わせ、狙うべき場所を協議する。
 多くの人が集まっていそうな場所。二人での挟撃に適した場所。
 学校、海洋遊園地、商店街……。

「じゃあ、最初のターゲットは学校という事でいいですか?」
「肯定だ。距離もここから近い。……では、直ちに作戦を開始する」

 そして、二人の殺人者は学校へ――

326罠、そして……(7/7) ◆pTpn0IwZnc:2005/05/27(金) 04:27:47 ID:yl5Di1eM
【D-4/森の中/1日目/13:35】

【キノ】
[状態]:通常
[装備]:カノン(残弾無し)、師匠の形見のパチンコ、ショットガン、ショットガンの弾2発。
   :ヘイルストーム(出典:オーフェン、残り7発)、折りたたみナイフ
[道具]:支給品一式×4
[思考]:最後まで生き残る。 /行動を共にしつつも相良宗介を危険視している


【相良宗介】
[状態]:健康。
[装備]:ソーコムピストル、コンバットナイフ。
[道具]:荷物一式、弾薬。
[思考]:かなめを救う…必ず /行動を共にしつつもキノを危険視している

[備考]:D-5の湖周辺の森林内、人が通りそうな場所に罠(スピアトラップ)有り。数は不明。
    設置された時間は12:30〜13:30頃

327テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ:2005/05/27(金) 17:48:22 ID:pBSSTsig
「うーん、どこから話したらいいかな」
 詠子は再び小首をかしげた。
「そうだね、まず向こう側について語ってくないかね。状況整理といこうじゃないか」
 長くなるよ、そう前置きして詠子は佐山に向き合った。
「うーん、向こうはね、ほんとはこっちと変わらないんだよ。見れば分かるんだけど、誰も見ること
 は出来ないからそれを理解できないの。居るのに無視されたら誰だって悲しいよね。だから彼らは
 いつも“こっち”に来たがっている。でもやっぱり皆はそれすらも理解できないの」
 悲しいね、つぶやきながら詠子は佐山に額を寄せた。
「じゃあ、見えないものと向き合ってもらうにはどうすればいいかな」
 楽しそうに、尋ねる。
「ふむ、何故だかデジャヴを感じる質問だね」
 佐山は腕組みをして、思考する。
 デジャヴ、とはいったものの、2−Gとは状況は全く異なる、そもそも立場も逆だ。
 こちらは交渉がしたいのに、相手にそれを理解してもらえない。
 対等とすら思われていない?
 違うな。佐山は思考をリセットする。2−Gと混合してはいけない。ケースが全く異なるのだ。
 そもそも我々は見えないものとどう向かい合ってきたか?
 見えない、未知のものに遭遇してまず我々がすることは何だ。
「仮定してもらう、ということかね」
 存在すると仮定する、理解できる理論として構築し、当てはめることで、人類は病原菌を、電波を、
過去や未来さえも可視してきた。
 佐山の目の前にある笑みが強くなる。

 11時30分、
 草原と森の境目で、其処に無いものを捉える少女は、枝に括り付けられているそれを見つけた。
 白い紙、びっしりときこまれた文字。彼女が好奇心のままに手に取ったそれは……

328テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ:2005/05/27(金) 17:49:12 ID:pBSSTsig
「そう、それが物語。人は『そう言うもの』と想うことで、それが存在するかのように振舞うことが
 出来る。絆も血縁も社会も命も、そうやって人は仮定してきたんだよねえ。物語に触れれば人は彼
 らに触れることが出来る。向こうに行くことも出来る。向こう側に行くと、私みたいに魔女になれ
 るの。今まで見えなかったものが見えるようになる、世界が新しい方向へ広がる」
「君のように世界の背景が見えるようになると?」
 人類の革新だね、佐山はにこりともせずに笑う。
「んー、ちょっと違うかな? みんなが教えてくれるようになる、が一番近いと思う」
「ふむ、しかしそれは君の能力とは少し異なるようだがね」
「皆にそれぞれ物語、‘魂の歪み’があるからね、自分の物語に近いほうが理解しやすいもの」
 佐山はそこであごに手を当てる。一拍の間、
「それが私は‘裏返しの法典’というわけなのだね」
 詠子は笑みを絶やさない。顔はまだ近づいたままだ。
 会話のたびに、お互いの呼吸が頬をくすぐり前髪を揺らす。

 11時、
 ‘魔術師’は、仲間とともに道を行く。ディバックの中には黄ばんだ地図。その裏には……

「君の話から推測するに、君が今までばら撒いてきたのは、向こうに行くための物語ではないのかね。
 読めば向こうに行けるようになる。そして向こうでその人の物語に近しい突出を得ることになる」
 そして佐山も笑みを浮かべ、
「しかし君はこうも認めた、『コンタクトは友好なものではない』と。全ての者が歪みを抱えている
 わけではないだろう。いや、君のような能力者は異端といっても差し支えないことを考えると」
そして糾弾の言葉を告げる。
「耐えられないのだろう。ほとんどの者は向こう側で、あるいはそこにたどり着く前に、向こう側の
 犠牲になるのではないかね」
 詠子は静かに、ただ変わらぬ笑みを以ってその言葉を肯定する。
「それを目的に広めるとは。いやはや、詠子君も中々に大した悪役だよ。ハハハ、この腐れ外道が」
 言葉と同時に、鉛筆を持つ佐山の指が踊った。
『しかし同時に、一部の者は自身の物語にふさわしい突出を得る、中にはこの現状を打破し得る能力
 者が生まれる可能性がある。違うかね』
「だとしたら本物の悪役君はどうするのかな」
 沈黙。言葉のエアポケット。
 その間を縫うように、佐山は小さな、しかし確かに聞き覚えのある飛来音を耳にした。
 一瞬逸れそうになる視線。
 詠子はそっと両手を佐山の頬に。
 触れそうで触れない両手が、確かに佐山を詠子に縛る。

329テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ:2005/05/27(金) 17:50:57 ID:pBSSTsig
 10時30分
 道に迷う、合わせ鏡の殺人鬼は、風に舞う一枚のメモを拾った。
 ただ短い一文が書かれたそれは……

「私が播いたのは『合わせ鏡の物語』4時44分、死んだ人の顔が鏡に写る、四次元の世界に引き込
 まれる。零時、今日と明日の入れ替わる時間、鏡は違う世界につながってる。二時、丑三つ刻、全
 ての境界があいまいになる時間、鏡に未来の自分の姿が見える、鏡と現実が入れ替わる。いろいろ
 なカタチがあるけれど。みんなが『違う世界』を望んでる。だから私は種を播いたの。鏡の向こう、
 違う世界にいけるように」
 詠子の言葉が、徐々に佐山を浸していく。
「私はみんなの‘望み’を叶えたあげたいだけ。そのために物語を広げるの」
 詠子は、もう一度佐山に尋ねる。
「だとしたら本物の悪役君はどうするのかな」
 見詰め合う二人。
 口元を引き結ぶ少年と、蕩けるような笑みを浮かべる少女。
 佐山はその端を歪めて、笑う。
 体をわずかに前倒しに。それは前髪がかすかに触れる距離。
「戯言だね」

 同時刻
 四人の少女は一路を北に。そして‘意識の底に触れる’少女はまた転ぶ。
 地面を這うその視線の先に、一枚のメモを見つけた。
 それは……

「詠子君、自分の行動に人を理由にしないことをお勧めする。それは腹の底を隠しています、と宣言
 しているようなものだよ。敢えてもう一度言おう、戯言だね」
 いいフレーズだ。自身の冴えに、佐山は確固たる自己を確認する。
「ああ、気にすることはないよ、詠子君。悪役に本音を隠して相対するのは魔女の宿命だが、それを
 見抜かれるのもまた宿命だ。何、私は役割を弁えているのでね。安心して嘘を吐くがいい、ことご
 とく見破って差し上げよう」
 詠子は、ほぅ、と溜息を吐く。二人の前髪がかすかに揺れた。
「本当に君はすごいね。魔女の言葉に耳を傾けて、それでもなお自分を保てるなんて」
「なに、相手の欲するところを悟るのも交渉のうちと言うことだよ」
 触れ合う前髪の心地よさに目を細め、佐山は魔女と『交渉』する。
「契約書だ、これでいかがかね」
『魔女が悪役にその瞳を差し出し、世界の脱出に協力するなら……』
 佐山は一息に書き連ねた。
『悪役は魔女に、この世界の物語をお見せしよう』

330テスタメント  ◇MXjjRBLcoQ:2005/05/27(金) 17:52:04 ID:pBSSTsig
 そして13時
 罠を拵える番犬は、木に刻まれた一文を認めた。
 それは……

 互いの額が触れ合う、唇が触れ合いそうなその距離で、詠子はくすくす、その喉をならす。
「魔女は悪役にすっかり誑かされちゃったからね」
 その目を瞑って、おかしそうに笑う。
「契約だよ、君は私にこの世界の物語を見せる。その代わり……」
 鉛筆を握る佐山の手、そこに自分の手を重ねた。
「私は君に猫の瞳と魂を預ける」
 唇の距離がゼロになる。
 佐山は口内に侵入してくる舌に自分のそれを絡ませた。
 唾液に混じるかすかな血の味。詠子の吐息とともに、飲み込んだ。

 7時50分
 世界の一部である少女はその超聴覚に唄をとらえる。
 それは魔女の夜会の招待状。

【C-6/小市街/1日目・12:15】

『Missing Chronicle』
【佐山御言】
[状態]:精神的打撃(親族の話に加え、新庄の話で狭心症が起こる可能性あり)
    異障親和性覚醒、詠子に感染
[装備]:Eマグ、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)、地下水脈の地図
[思考]:1.風見、出雲と合流。2.詠子の能力を最大限に利用。3.地下が気になる。
【十叶詠子】
[状態]:健康
[装備]:魔女の短剣、『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:デイパック(支給品一式、食料が若干減)
[思考]:1.佐山に異界を見せる(佐山がどう覚醒するかは不明)
    2.物語を記した紙を随所に配置し、世界をさかしまの異界に。

331オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:02:09 ID:mhhsWZag
フリウ・ハリスコーは歩く。
すでにその細い足の先は棒になり。
すでにその小さな手の先は枝になっている。
何も動く気がせず。
何も動かせる気もしない。
それでも足は止まらない。止められない。止まってくれない。
フリウ・ハリスコーは歩き続ける。
その目は乾き睡眠を要求し。
その耳は赤く静寂を渇望する。
何も見る気はせず。
何も聞ける気もしない。
ただ歩き、ふらつき、蠢き、息を切らす。
手足は森の木で擦りむき。
腕はちりちりと痛み。
脇腹はきりきりと傷み。
頭はずきずきと悼む。
「はっは……は…っは」
息が荒くなってきた。苦しい。
休めるところ──そもそもこの狂った所にそんな場所があるのかはともかく──を探そうとする。
目の前には巨大な──建物があった。
地図を見る。
ここは、よく分からないがB-3かC-4の建物だろうと検討をつけた。
そんなに歩けた自分に驚いた。中に入って休憩しようと思う。
はっとし、瞼を閉じかけている自分に気がついた。
「……まだ、駄目。もうちょっと……目立たないところに」
入り口らしきところから入り込む。

332オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:03:24 ID:mhhsWZag
「誰も、いない……よね」
緊張からか、息が大きい。必死で息を止めようとする。
気のせいか息をするたびに苦しくなっていく。
床に倒れこもうとすると、赤くて長い髪を見つけた。
「っ……!」
一本。
その赤い髪は否応無くミズー・ビアンカを連想させた。
あの人──正確に言うとあの人の死体──は。
あの女性──正確に言うとあの女性の死体──は。
ここに在るの…?
にじみ出る涙をこらえて立ち上がった。
その乾いた目はどうにか赤い髪の毛を確認した。
その赤い耳も辛うじて奥から聞こえる話し声を捕らえた。
その枝のように細い腕は少女を立ち上がらせた。
その棒になった足もなぜか勢いよく走り出した。

奥のドア。
運良く隙間が少し空いてたことに感謝しながら覗き込もうとする。
「は…っは…ぜっ…」
息が大きい。黙れ。お願いだから。
隙間を覗き込んで──中を見る。
がたんっ!
「っきゃ……!」
「おいおいどこの素人鼠さんかと思ったら……可愛らしい女の子じゃねぇか」
ドアを──体重を掛けていたドアを──引っ張られ、転倒した。
見上げるとそこには背の高い。片手に子犬を抱いた。
赤いスーツに赤い──とても紅い髪をした女性が立っていた。

333オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:04:28 ID:mhhsWZag
「そうだねアイザック!」
若い男女がこちらに言ってくる。それをもはや聞ける状態じゃなかった。
息が。息が。息が。
苦しい。苦しい。苦しい。
それでも声をひねり出した。
「ミズーじゃ…無かった……」
再び涙がこぼれ。目の前はぐしゃぐしゃになり。
再び足は崩れ。頭の中はぐしゃぐしゃになり。
そして気を失った。


「お、おい! 少女! どうした!? いきなり倒れるな! リアクションに困るぞっ。
 <世界の中心で愛を叫ぶ、ただしボーイズラブ>みたいなっ!」
「ちょっと潤さん! その娘、すごい息が荒いですよ!」
「見てアイザック!腕も火傷してるよ!」
「大変だグリーン!」
「…デシ!」
「うるせぇてめぇら!」
とりあえず少女を仰向けにして容態を見てみる。
息が速く浅い。これが一番やばそうだ。
これは、過呼吸…ぽい。
「ビニール袋はないか?」
過呼吸は酸素の吸いすぎで、急な運動をしたりすると起こる。
簡単な症状だが放っておくと以外に危険だ。
ビニール袋に吹き込んだ二酸化炭素の多い空気を吸ってると治る。

334オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:05:51 ID:mhhsWZag
「無いです!」
それを聞いて、にやりと──邪悪な笑みを浮かべた。
「な〜るほどぉ。それじゃ、しょうがないな。うん。
 ここは『やむおえなく』この人類最強のおねぇさんが介抱してやろう」
がっしと少女の肩を掴み息しやすそうな位置に固定。
「…潤さん?」
「「グリーン?」」
「それでは」
にやりと笑みを深めて──さらに深めて。
「いただきます」
ちゅう。
哀川潤は、人類最強は。いたいけな、気を失った少女に、大義名分の下、ちゅうをした。
ふぅぅぅっと息を吹き込む。二酸化炭素の多い空気を。
吹き込む。吸い込む。さらに吹き込む。繰り返す。
しばらく。あるいはほんの数秒後。
ぱちくり。
フリウは、目を覚ました。完全に。謎の感覚と共に。
目の前には──本当に目の前には真っ赤な髪をした、ミズーじゃない女性。
口には違和感。むしろ異物感。
「〜〜〜〜!!」
だっと突き飛ばして──いや自分が下がったが──距離を置いた。
「はっ…へっ? は、ええ!?」
「いいなーそういう初々しい反応。思わずお姉さん萌えちゃったよ」

335オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:06:39 ID:mhhsWZag
「元気になったね!」
「グリーンのキスで目を覚ます、かぐや姫だね!」
「いやそれは白雪姫じゃあ…」
どくどくした鼓動を押さえ、状況が掴めずにいるフリウ。
そのフリウに近づいていき、手を差し伸べた。いつもと同じ皮肉な顔で。だが少なくともフリウには優しく見えた。
「悪い悪い。いやしょうがなかったんだって。
 疲れてるし、怪我もしてるだろ? お前ぼろぼろだぞ。大丈夫だから休めっていうか休ませるぞ」
その言葉と、初めて出会った優しい人と、紅い髪が重なり。
もう一度フリウは泣き出したのであった。

【C-4/ビル一階事務室/13:00】

『人類最強で天使な世にも幸せバカップル国記』
【フリウ・ハリスコー】
[状態]: 精神的ダメージ。右腕に火傷。肋骨骨折。
[装備]: 水晶眼(ウルトプライド)。眼帯なし
[道具]: 支給品一式
[思考]: 元の世界に戻り、ミズーのことを彼女の仲間に伝える。 この人たちはいったい? 休憩。
[備考]:第一回の放送と茉理達の放送を一切聞いていません。
 第二回の放送を冒頭しか聞いていません。
 ベリアルが死亡したと思っています。ウルトプライドの力が制限されていることをまだ知覚していません。

336オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:07:21 ID:mhhsWZag
【哀川潤(084)】
[状態]:怪我が治癒。創傷を塞いだ。太腿と右肩が治ってない。
[装備]:錠開け専用鉄具(アンチロックドブレード)
[道具]:生物兵器(衣服などを分解)
[思考]:祐巳を助ける 邪魔する奴(子荻)は殺す こいつらは死んでも守る  この娘を休ませる&怪我の治療をする。 事情を聞く。
[備考]:右肩が損傷してますからあまり殴れません。太腿の傷で超長距離移動は無理です。(右肩は自然治癒不可、太腿は若干治癒)
    体力のほぼ完全回復には残り10時間ほどの休憩と食料が必要です。 若干体力回復しました。

【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:前足に深い傷(処置済み)貧血 子犬形態
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:お腹空いたデシ  誰デシ?
[備考]:回復までは多くの水と食料と半日程度の休憩が必要です。

【アイザック(043)】
[状態]:超健康
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式・お茶菓子)
[思考]:すごいぞグリーン!休ませよう!

337オルタナティブ・レッド(異なる赤):2005/05/27(金) 23:08:10 ID:mhhsWZag
【ミリア(044)】
[状態]:超健康
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:そうだねアイザック!!

【高里要(097)】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式・野菜)
[思考]:この女の子をどうしよう
[備考]:上半身肌着です

※昼ごはんに野菜とパンを食べました。残った野菜は要が持ってます。

338戦神戦捷(精神損傷) 1/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 12:53:55 ID:ETuBmvOM
 食事も終わり休もうとしたとき、ギギナは轟音を聞き取った――――



「……降ろして」
 長門の言葉を無視して、出夢は南下する。
「せっかちだな。おにーさんのところに着くまでの辛抱だ」
 出夢は苦笑しながら人を一人抱えたままとは思えないスピードで走り続ける。
「おにーさんの所に着いたら、次は坂井を探さなきゃな。
 そういえばあの時に聞こえた奇声、なんだったんだ……?
 まぁ、考えても仕方がな…………ん?」
 人の気配に気付き、出夢は立ち止まる。
「……ちっ、敵か」
 ぼやきながら左を向く。視線の先には男がいた。男との距離はおおよそ20mだろう。
 銀髪で、顔に刺青。身長は190以上はある。漆黒の剣を携えて……嗤っていた。
 男は嗤いながら問う。
「貴様らは、楽しませてくれるか?」
 出夢は不快そうな顔をしながら男を睨む。
 そしてしばらくしてから長門に囁いた。
「……長門、コイツはヤバイ。お前がいても邪魔なだけだから、先におにーさんの所に行ってろ」
 頷いたのを確認し、出夢は長門を地面に降ろす。
 そしてすぐさま、長門はもと来た道を走っていった。
「っておい! そっちじゃない!」
 出夢が長門を捕まえようとした時、男が再び声を掛けた。
「敵前逃亡するとはな。……貴様は強き者か?」
 出夢は面倒事を黙然にして嘆息する。
(やるべき事があるんだが、仕方がねえな……)

339戦神戦捷(精神損傷) 2/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 12:54:51 ID:ETuBmvOM
 戦闘は避けられないと判断して、男に向き直る。
 そして哄笑しながら、男に名乗った。
「ぎゃはははは! やってみれば分かるんじゃねえか?
 僕は《人喰い》。殺し屋の匂宮出夢だ。
 あんたは?」
 男はこちらへと歩みながら同じく名乗る。
「私の名は、ギギナ・ジャーディ・ドルク・メレイオス・アシュレイ・ブフ」
「なげぇよ」
 吐き捨てるように言った出夢はギギナへと疾走。
 ギギナは一旦歩みを止め、
「ふん、剣と月の祝福を」
 そして出夢と同じく疾走。
 二人の距離が一気に縮み、ギギナが先攻。
 ぎりぎりのところで出夢は斬撃を避け、ギギナの左側へと素早く回り込む。
「おらよっ!」
 出夢の鋭い蹴りがギギナの左脇腹を直撃。
「ぎゃははははは! 降参するのなら見逃してやっても……っっ!?」
 ギギナは痛みに口元を歪めるだけだった。
 逆に、こちらの左脇腹に抉られるような激痛。たまらず後退するが、片膝を地面についてしまう。
 脇腹を押さえながらギギナを睨む。
 全力で繰り出したあの蹴りを喰らえば、ただでは済まない。だがギギナには口元を歪める程度だった。
 それどころかこちらに蹴りを。しかも、自身よりも強力な。
 足先が掠っただけで、この威力だ。もし咄嗟に後ろに跳ばず、まともに喰らっていたら絶命していただろう。
 一般人並の防御力しか持たない出夢にとって、ギギナの人外の破壊力は喰らえば確実に一撃死。
「ぐ……てめえどういう体してんだ……」

340戦神戦捷(精神損傷) 3/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 12:55:53 ID:ETuBmvOM
 見上げると、ギギナは出夢を見下しながら、怒っているような顔をしている。
「……貴様は、この程度か? つまらぬな」
「…………」
 怒りから、嘲笑に変わる。
「ハハハッ! 所詮、この程度ということか!
 降参するのなら逃がしてやっても良いが? ハハハ」
 不機嫌な顔をしながら出夢は立ち上がった。
 ギギナを睨みながら出夢はギギナと距離を取るため後退する。
(こいつを生かしておくと、おにーさん達が危険か……。それに、ムカツクしな)
「……ぎゃははは! 僕の本気を見せてやるよ!」
 体勢を立て直して、ギギナへと再び疾走。
 両腕を大きく仰け反りながら走り、出夢はギギナに近づいた。
 ギギナが剣を横に薙ぐが、超反応で出夢はギギナの頭上に飛翔して避ける。
「上がガラ空きだぜえぇっ!!」
 そして振りかぶった。


《一喰い》


 ヒュンと空を斬る音が聞こえた。
 出夢は地面に着地し、ギギナを向いた。
 危機一髪で横に転がり《一喰い》を避けたギギナは冷や汗をかきながら嗤っていた。
「僕はやることがあるんだが、これで終わりにしてくれないか?」
「却下する」

341戦神戦捷(精神損傷) 4/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 12:56:39 ID:ETuBmvOM
 即答したギギナは剣を構え直す。
 そして一気に間合いを詰めて振るう。
(さっきより動きが速い! こいつ、本当に人間か?
 もしかしたら、人類最強と同じくらいかもな……)
 清水の舞台での『最強』との戦闘を思い出し、出夢は戦慄する。
 すぐさま後ろへ跳躍して回避したが、ギギナの素早い追撃が迫る。
 背後に大樹があったため、出夢は横に転がりかわした。そして出夢を斬るはずだった斬撃は、大樹を軽々と薙いだ。
「マジかよっ!」
 そのままギギナは大樹に近寄り、
「うるぁっっ!」

 掴んで投げた。

「……は?」
 眼前で起こったありえない出来事に出夢は素っ頓狂な声をあげる。
 体勢を直す前には、いくつも枝分かれした大樹が高速で迫っていた。
 出夢は避けきれないと判断し、顔を手で守り、身を縮めた。
 幹に当たらなくて良かった。そんな事を思いながら茂る葉と枝に巻き込まれる。
「ぐ……」
 派手な音をたてながら、かなりの距離を進んでから大樹は止まった。
 全身に傷を負いながら、なんとか葉と枝の中から抜け出そうとする。
 抜け出した先では既にギギナが剣を構えて振りかぶろうとしていた。
「っ!」
 出夢は半ば予想していたので、すぐさま横に転がる。剣は肩を浅く斬る程度だった。
「うぐ……」

342戦神戦捷(精神損傷) 5/5 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 13:03:42 ID:ETuBmvOM
 だったのだが、何故か力が入らない。さらに視界が霞んできた。
(なん……だ……? あの大樹のせい……か? 頭を庇っていたし、葉がクッションになっていたから、致命傷じゃあないはず……)
 薄れる意識の中で、ギギナの声が聞こえてきた。
「む……、あるのは素早さと破壊力だけか。先程の着ぐるみの男ほどではなかったな。
 だが、あの攻撃は素晴らしかったぞ。貴様が『当たり』を引いていたなら、あるいは互角だったかもしれんな」
(クソ……)
「さらばだ、女よ」
 ギギナは踵を返し、東へ去っていった。
 出夢はその場で気絶した。

【E-4/森/1日目・08:00】

【匂宮出夢】
[状態]:肩に浅い切傷。全身に掠り傷。気絶
[装備]:シームレスパイアスはドクロちゃんへ。
[道具]:デイバック一式
[思考]:生き残る。あんまり殺したくは無い。長門を連れ戻す。

【長門有希】
[状態]:疲労が限界
[装備]:ライター
[道具]:デイバック一式
[思考]:一旦休む。現状の把握/情報収集/古泉と接触して情報交換/ハルヒ・キョン・みくるを殺した者への復讐?

【ギギナ】
[状態]:疲労。まだ完全にダメージが回復していない。
[装備]:魂砕き
[道具]:デイバッグ一式
[思考]:休んで強者探索。

※ギギナはこの後に『勘違いと剣舞』に続いています

343 ◆GQyAJurGEw:2005/05/29(日) 22:18:16 ID:MqxFG5Y.
>>338-342
問題点多数のため破棄します。

344Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:09:23 ID:woCeKPjo
「へぇ、やるじゃない」
パイフウは一帯に仕掛けられたトラップの数々を見て、感心の言葉を漏らす。
単純なスピアトラップだが、巧妙かつ全てが理に叶った配置になっている。
「なるほどね、北上する相手をここで迎撃ってこと?」
地図を見ながら頷くパイフウ、ずきりと左肩が痛む…まだまだ本調子とは行かない。
「なら乗っかるとしようかしら」
そう言ってパイフウは相変わらずの感情を感じさせない声と表情で配置につくのだった。

「……」
アーヴィング=ナイトウォーカー、略してアーヴィは足の傷を無言でさする。
まったくいつまでたってもミラが見つからないのはどうしてなんだろう?僕の何がいけないのだろう?
うーん、こうなったらミラ以外の誰かをみんな撃っちゃうしかないのかな?そしたら最後に残った1人が多分ミラだろう。
うん、それがいいそれにきめた。
えらく危険な独り言をぶつぶつ呟きながらアーヴィもまた島の中心部へと向かっていく、その先に何人かの集団が目に入った。

そしてそれより数十分前、
「曇ってきたわよ…これなら大丈夫なんじゃないの?」
マンションの一室から空を見上げて千絵をせかす聖。
「だから昼間は様子見だって」
「でも、ぐずぐずしてたから祥子ちゃん死んじゃったじゃないの、勿体ない」
限りなく食欲と性欲の入り混じった、そんな感じの言葉を吐く聖、それをなんともいえない奇妙な表情で眺める千絵。
「それに…千絵ちゃんの友達も死んじゃったんでしょう」
「うん…」
聖の声に言葉少なく頷く千絵…物部景の死は確かに残念だった…。
だがその残念さが何によっての残念なのか、彼女にももはや分からなくなっていた。
(私は彼に欲望以外の何かを求めていたような…もう思い出せないけど)
「ねぇ、行こうよお?」
甘えるように千絵にすがり付く聖、その上目遣いの瞳が思わず同性でもため息を付きたくなるほどの
美しさと愛らしさを醸し出している。
それに押されてかどうかは知らないが、千絵は千絵で考えをめぐらせる。

実を言うと疼くような渇きをまた覚えつつある、このまま吸わなければいざという時正常な判断が出来なくなる可能性もある。
しかもたっぷりと補給した自分はともかく、聖はシズの血をあまり飲んでいない…。
だとするといつまたあの高架下のように暴走するかもしれない、今ですら欲望過多の彼女だ、そうなるともう抑えきれない。
互いの血を啜りあうことも手の一つだがこれは渇きを満たせても、今度は体力が落ちてしまう。
やはり2人では何かと効率が悪い、なら偵察がてら狩りに出るのもいいだろう。

345Daytime Rendez-vous ◆Wy5jmZAtv6:2005/05/30(月) 23:10:41 ID:woCeKPjo
「わかったわ、例のものは出来てるわね?」
聖は千絵が先程の仕掛けをしている間に作っておいた物を取り出す。
それは明け方に被って逃げたカーテンを利用して作った砂漠の民が身につけるような巨大なマントだ。
急ぎの仕事ゆえにあちこちいびつな出来だが、当面は身体全体と口元が隠れればそれでいい。
かなり奇異な格好と思われるかもしれないが 、突っ込まれれば土地の風習とでも言えばいい。

地図を眺める千絵…東か西か…ここに踏み込まれた場合の逃走ルートとしては東だが
今回は仲間を増やすのが目的だ、なら西よりに島の中心付近がいいだろう
禁止エリアの兼ね合いで北上してくる者も多いだろうし、東と比べ西側には施設も多い。
「1時間が限度よ、それ以上は無理…もし見つからないときは私の血で我慢して」
そう聖に告げ、頷いたのを確認して、それから千絵はマントを頭から羽織るのだった。



「あうっ!」
また頭から転ぶテッサ、これで何度目だろう?
明らかに苛立った感じで手を出すシャナ、相談の結果林道を行くことにした彼女ら、
その理由はどんな道だろうがテッサが転ぶのは避けられない、なら少しでも距離が短いルートを選んだほうがマシという消極的な理由だった。

現在の隊列はダナティアとリナが前衛、そして真中にテッサ、後衛にシャナの順だ。
最初は違ったのだがあまりにもテッサの進む速度が遅いため、いつのまにかこういういびつな隊列になってしまっていた。
本来フォローしなければならないはずだったリナは、明らかに不機嫌な表情でのしのしと歩いている。
だから今現在テッサのフォロー役はなりゆきでシャナなわけだが、その彼女の苛立ちは頂点に達しつあった。

「あ…花」
この日もう何回目か分からない転倒、ぐらりと揺れる視界の中、その片隅に一輪の花を見つけるテッサ。
何故そんなことをしようとしたのか分からない…この状況の中で、ただ確かに言えることは
彼女もまた皆と同じく疲れ傷ついていたのだ、まして彼女は指揮官という立場上
こういうギリギリの状況にはあまり慣れていないし、増して周囲には頼れる部下、いやかけがえのない仲間たちは誰一人としていない。
だからなのだろうか…普段なら心にとめることすらない路傍の花に思わず手を伸ばしてしまったのは。

シャナはそんなテッサの道草に知らん顔をする。
「知らない…」
そのまま先に向かうシャナ、テッサの目に余るトロくささにいいかげん嫌気が差している。
自分だってけが人だというのに…しかしその苛立ちゆえの他愛ない意地悪が、取り返しのつかない悲劇を生むことになった。

テッサが道端の花に手を伸ばすのと、それを見つけたアーヴィが狙いをつけるのは同時、
そしてさらに花を掴もうとしたテッサの指先が何かに触れた時、ぷつんという音と同時に茂みの中の何かが
テッサのわき腹を貫き、さらに風切る高速の何か、アーヴィの放った弾丸がのけぞったテッサの背中にあたったかのように見え、
それを察知したシャナの目の前でテッサはバランスを崩し茂みの中へと転落していった。


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