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ネタバレ@ファラミア/*  2

1萌えの下なる名無しさん:2004/05/12(水) 00:20
薄幸のゴンドール大将、後のイシリアン大公にして27代執政ファラミア殿に
原作・映画込みで萌えるスレ。
多彩なカプ萌え(攻受不問)から単体萌えまでこちらでどうぞ。

■『萌える子馬亭』の約束(必読)■SS投稿時には必ずお読み下さい。
http://0024.hiho.jp/pony/fellowship_rule.html

■前スレはこちら(過去ログ倉庫)■
http://0024.hiho.jp/pony/last_log/index.html

58萌えの下なる名無しさん:2004/05/27(木) 15:53
>54-55女神様

大将の如才なさがいかんなく発揮されてるのを
拝見して、うはうはです!大将、口が上手すぎです。
そんな大将が大好きです。
さりげなくエオメル王を助けてやってる優しさも大好きです。
大将の魅力炸裂ですね!

エオメルが、大将に助けられたことを素直に感謝してくれてるのが
なんとも嬉しいです。二人が、いよいようち解け始めてる感じです。
最初は、険悪だった二人が自然とお互いの立場を尊重し認め合う
過程をつぶさに見ることが出来て、幸せの極みです。
しかも、それが毎日続いてるだなんて!

この幸せが、終わるときを考えるとすこし寂しいのですけども、
続きが読みたい気持ちには叶いません。
日々の幸せをありがとうございます!!

59萌えの下なる名無しさん:2004/05/27(木) 19:08
>54-55女神様
惹かれつつ、微妙にすれ違ったりもするこの二人、この先どうなってしまうの
ですか?こうなったらどこまでも着いて行きますよ!

>50-51女神様
大将の後ろ姿・・・広い背中にほっそい腰(脚も細い)・・・ハァハァ(AA略)
なんか、ヘンネス・アンヌーンではいろいろ大変なことが起きてるんじゃない
かと、妄想が止まりません。
ああしかし、いずれにせよ今回の件が兄君の耳にはいったら、部下A君だかB君
だかの運命は風前の灯という気がします。

60萌えの下なる名無しさん:2004/05/27(木) 23:45
>50です。
くだらないSSに、あたたかいお言葉の数々をありがとうございました。

>50様 たくましい胸に細い腰…しかも大将の!
想像するだけでたまりませんです<変態一号

>53様 自分で書いておきながら、うらやましかったりです。

>49様 ありがとうございます。慰めになりましたら、何よりです。

>57様

>「兄上は咄嗟に手が(剣が)出るから危ないyo(´ー`)」なのか、
>「兄上に手を出したらただじゃ置かんぞ(#゚Д゚)ゴルァ」なのか。

確かに、どちらとも取れます…。日本語が不自由で申し訳ないです。
あれは大将なりの冗談です。でも笑えません。
意味は、書いた当人としては「危ないyo」の方です。
ですが、どっちでもお好きな方でお願いできればと。

>59様 お言葉に、想像をたくましくしてしまいました。

兄上は、自分ではしっかり者のつもりで、実際は部下に触られ放題です。
ファラミアは、兄上を買いかぶってます。
大将はそのつもりなら、誰にも指一本触れさせないと思われます。

6160:2004/05/27(木) 23:50
連投すみません。
>60で、とんでもなく失礼なことをしてしまいました。
>52様へのコメントが、>50宛ての自己レスに。
>52様、せっかくお言葉をくださったのに、本当に申し訳ありません。どうお詫びして良いか…。

蛇足中の蛇足<知ってしまった兄上>

「ファラミア」
「これは兄上。血相を変えていかがなされました」
「小耳に挟んだのだが。お前、部下に弄ばれたというのは、まことか」
「何と、尾ひれがつき放題でございますな」
「まことなのだな。その身の程知らずの配属は変更するが、異存はないな。わたしの権限で最前線へ立たせようぞ」
「配属替えは構いませぬが。最前線の部隊は、常にこのファラミアが率いております」
「……」
「兄上?」
「部下に隙を突かれるなど、未熟な証拠であるぞ」
「お言葉、肝に銘じます」
「何をしておる」
「兄上を抱擁しております。隙がございましたもので」
「……」
「兄上?」
「兄弟の間で隙も何もあるものか。それに、いつもしていることだ」
「そうでした」
 神妙に頷くファラミアの体に、ボロミアの腕が回された。ファラミアは顔を低くして、ボロミアの唇に唇を触れさせた。
「ファラミア」
「いつもしていることではないですか」
「……」
「兄上?」
「部屋に戻る」
 ボロミアは、腕をほどいてきびすを返した。さして歩かぬうちにボロミアは立ち止まり、ファラミアを振り返った。
「何をしておる。お前もだ」
 ボロミアに気付かれないよう笑うと、ファラミアは小走りに兄の背に向けて駆け出した。

スキンシップ過剰です。
レス番間違いに連日の連投、大変失礼致しました。

6254:2004/05/27(木) 23:55
>>56>>57>>58>>59
ありがとうございます。私はたぶん今すごく幸せなのだと思います。
ほんの少し書き物をしたことはありますけども、いつまでも書き止めたくないと思ったのはこれが初めてです。…というか、まず最後まで書き上げられるかが問題なのですが…。ああこんな事書いちゃっていいのかな、実はこんなに長い話を書くのも初めてです。
さあ、今日中に続きを書き上げましたよ。
明日朝ウプは難しいかもですゴルア

エオメル/ファラミア しるけ有り(になる予定)
>>55の続き





「なぜここに?」エオメルはファラミアに問い掛けた。
「一人になりたいとおっしゃった。」ファラミアは答えた。「ならば、ここほどふさわしい場所は有りますまい。」
緑の塚原には白い星が花咲いていた。辺りは静まりかえり、ただ風の音だけが鳴り響いていた。塚が西側に九つ、東側に八つ並び、マーク代々の王たちが醒めぬ眠りの中に憩っていた。一番新しい塚は、エオメルが父とも慕った故王のためのものだった。エオメルは塚の前まで歩いていき、額づいた。
「あの方の事が偲ばれます。」エオメルは言った。「ファラミア殿は、私の一人になりたいという我が侭を聞き入れて私をここに連れてきてくださったが、ここにいると私は一人ではないのだと感じられます。」
「あなたを見守っている方がいらっしゃる。」ファラミアは言った。
「そうです。」エオメルは応えた。
「もうお会いする事も語り合う事も出来ないが、それでもあの方はここにいらっしゃる。」
エオメルは立ち上がり、誇り高い頭を巡らせた。
「私は決してあの方を忘れることは無いでしょう。」
鳥の群れが空を渡っていった。エオメルは感情の発露を恥じた。
「埒も無い事を言ってしまった。」
ファラミアはかぶりを振った。エオメルはふと気付いたようにファラミアを見た。
「私たちは同じなのですね。」
ファラミアは笑うばかりでそれには答えなかった。
突然の衝動に動かされて、エオメルはファラミアの手首を捉えた。
「あなたはいい匂いがする。」
エオメルはファラミアの首筋に顔を近付けた。ファラミアは素早く身を引いた。
「アセラスではないでしょうか。」
「アセラス?」
エオメルはファラミアの手首を掴んだまま彼の目をのぞきこんだ。
「怪我をしていらっしゃるのか?」
ファラミアは顔を背けた。
「もう癒っております。」
エオメルはファラミアの顔を見ようと首を傾けた。ファラミアはそれとは反対方向に目をそらせた。
「ただ、かぐわしい匂いがするので、擂り潰して水を満たした杯に浮かべたりするのです。お気に召したなら、株を取り寄せましょう。強い植物ですから、気候が合えば根付くはずです。もしかしたらローハンに自生しているかもしれない。」

63萌えの下なる名無しさん:2004/05/27(木) 23:56
>>61の続き
エオメル/ファラミア しるけ有り













ファラミアは抵抗するのをあきらめ、俯いた。緩やかに波打つ髪が顔にかかり、エオメルから表情を隠した。
ファラミアは言った。
「エレスサール王はもうヘルム峡谷にお着きだろうか。」
エオメルは虚を衝かれた。
「さ、騎士だけならば今夜遅くに着くかもしれませぬが。」エオメルは答えた。
「徒歩の者がいるならば、とても。」
ファラミアは目を上げてエオメルを見た。エオメルの顔にはただ驚きの感情だけが浮かんでいた。
ファラミアは幾度か躊躇いながら、唇を湿らせて口を開こうとした。
「あなたは―」
そう言いかけた時、驚くほど近くから澄んだ声がかけられた。
「お兄様。」
エオメルは弾かれたように身を起こした。ファラミアは慌ててエオメルの手を振り解いた。縛めは難なく外れた。
優美な姿が彼らの傍らに立っていた。
「お話のところを邪魔してしまいまして?」
「いや―エオウィン姫。」
ファラミアは、彼に似合わず口ごもった。エオウィンは白鳥のように優雅に首を傾げて彼を見た。エオメルは何故か浮気の現場を取り押さえられた間男のような居心地の悪さを味わった。
ファラミアの頬には桃色の斑点が散っていたが、エオメルの見たところ彼は落ち着きを取り戻したようだった。
「邪魔をしているのは私の方ではないだろうか。兄妹水入らずで話したい事も有るだろうに、気の利かぬ事を。失礼。」
ファラミアは口速に言い、その場を立ち去った。エオメルは唖然として彼を見送った。気が付くと、恐ろしく怖い顔をしたエオウィンがエオメルを睨み付けていた。
「エオウィン、まさかと思うがファラミア殿の前でそのような顔をしないだろうな。百年の恋も醒めるぞ。」
「ご心配無く。ファラミア様は兄上の思うより心の広い方ですわ。」
エオウィンはエオメルに剣突を食らわせた。エオメルはたじたじになった。
「お兄様、ファラミア様を苛めていたのではなくて?」
「いや、まさか。」
エオメルは言った。
「ただ話していただけだ。」
エオウィンは足の爪先から頭の天辺までエオメルを眺め回した。突き通すような眼差しに、エオメルは心の底まで覗かれるような気持ちになった。
エオウィンは溜息を吐いた。
「ならばよろしいのですけれど。」
エオメルは妹を見た。エオウィンは何かを堪えるような表情をしていた。
「私はお二人とも幸せになっていただきたいのです。」
愛情がエオメルの心を満たした。エオメルはエオウィンの肩に手を置いた。
「それは私も同じことだ。お前には幸せになってもらいたい。ファラミア殿と共に。」
エオウィンはエオメルの手の上に手を重ねて置いた。
「お兄様、眉間に皺が寄っておいでですわ。本当にいつまでもお変わりなくていらっしゃること。」
エオメルは思わず自分の顔を撫でた。

64萌えの下なる名無しさん:2004/05/28(金) 00:06
Σ(||゚Д゚)ヒィィィィ >>60女神様、書き込みかぶってしまいました、申し訳ありません!
唯一の慰めは、交互にならなかったこと か と… orz

すみません、次からちゃんと確かめます。
兄上とラブラブなファラミア様にハッピーな気持ちになれましただ(*゚∀゚*)ポルアアン

65萌えの下なる名無しさん:2004/05/28(金) 00:10
>62-63女神様

即レスせずにはいられないです。興奮しすぎです<自分

明日の朝の楽しみを、今いただいたということですね!ありがとうございます!!
出来ることなら、書きやめないでいただきたく!

大将のかぐわしいにおいに、どきどきです。
色っぽすぎます。大将。独り者のエオメルには毒です。やばいです。
そして、エオウィン!
可愛らしいですぞー。エオメルとの会話が、まさに兄妹!
ぐいぐいとひきこまれます。

話が広がるのが楽しみでたまらないです。
次回は、明日夜でしょうか。<催促するなと
続きを心待ちにしております!!

6660:2004/05/28(金) 09:28
>64様

むしろ勇み足は>60です。
本人的にはSSとはいえないような
小話のためにお気を遣わせてしまい、
女神様にも、スレ住民の皆様にも申し訳ないです。

女神様の続きを待たれてる皆様の
楽しみが減じていないことを祈ります。

67萌えの下なる名無しさん:2004/05/28(金) 21:58
>60=61様
隙だらけの兄君と余裕の弟君、素敵です。
笑えない冗談の大将も好きです。
こんな人たちが指揮官では、部下の皆さんが気の毒にもなりますが(w

それから、自分52ですけど、あまりお気になさらないで下さいね。

68萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 09:56
>62-63様
浮気の現場をとらえられた間男のような表情の
エオメルがなんともいえません。
ファラミアの顔に浮かぶ憂愁の色に思わずくらくらきてしまったんですね。

>50-51様
やがてこのお話はイシリアンの「民話」として
語り継がれていくのであった……
ところで、この新兵君のひたむきさ、
部下A君か部下B君か、というより
部下Z君、という感じですな。

>60様
兄上も隙だらけにみえて、実は、やるな。

69萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 10:58
すみません、遅くなりました (((;゚∀゚) アセアセ
実は1日につき1話分をまとめてアップしようという下らない意地を張ってまして、それで間隔が空いてしまいました。

>60様
いえ、こちらこそお気を遣わせてしまって申し訳ありませんでした。
一週間もスレ寡占状態になって本当に申し訳ありません。残り1回ですので、最後までよろしくお付き合いください。m(_ _)m


エオメル/ファラミア 次こそしるけ有りになる予定

>>63の続き




その後エオメルは去っていったファラミアに心を残しつつ、政務に戻った。
あれこれの雑事をこなしながら、昼間起きた出来事が時折影のようにエオメルの心をよぎった。エオメルはファラミアに感じた不思議な衝動を、彼自身説明出来ないでいた。だが、彼がとった行動が奇妙なものだったという事だけは分かった。成すべき事を全て終えたらファラミアに会いに行こうと思った。ファラミアに会えば、心の片隅に巣くう疑問も全て解けるだろうと思われた。
その思いが功を奏したのか、その日の仕事を成し終えたのは、まだ太陽が草原の地平を茜色に染めつつある頃のことだった。
ファラミアを捜し歩くエオメルに、一人の老人が声を掛けた。
「エオメル様、お久しゅうございます。」
「ギャムリングか。久方振りだな。」
老人の名はギャムリングといい、戦での功績を讃えられて城勤めになった者だった。エオメルとは剣を共にして戦った仲である。
ギャムリングはエオメルにつと近づいて声をひそめた。
「エオメル殿に申し上げたい事がござる。余人を交えぬ場所で。」
エオメルは眉をひそめた。彼らは遮るものとてない広場の中ほどに立っており、夕暮れ時の慌しさに、二人の男に目を留める者などいないようだった。
「ではここで話せばよかろう。」
ギャムリングは老いた忠実な頭を昂然と上げた。
「では、申し上げる。」
「何なりと。」
「ファラミア殿のことで。」
エオメルは少なからず動揺した。心を読まれたような気さえした。
だがギャムリングは彼の反応を見ず、一息に言った。
「エオウィン様の婿殿と親しくなさるのはよろしかろう。だが度を超すと、災いを招きましょうぞ。ローハンの王はゴンドールの僕よと口さがない事を言う者もおりかねませぬ。我が王がゴンドールのエレスサール王を慕っておいでなのは周知の事実ゆえ。」
エオメルは予期せぬ方向から殴られたような気分になった。いわれのない邪推に頬がかっと熱く燃えた。怒りがむらむらと心の底からこみあげてきた。
だが目の前にいるのは長年忠義の士としてローハンに仕えてきた男だった。
エオメルはどうにか怒りを鎮め、尋ねた。
「なぜそんなことを?」
「昼過ぎ頃、王家の塚でファラミア殿とお話なさっているのがここから見えました。」
ギャムリングは答えた。
「あのような人気無き場所でお二人になるのも避けた方がよろしかろうと存じ上げる。御身大事なれば。ファラミア殿とても同じ事。ゴンドールの執政であられる身が異国の地にあって凶事あらば、申し開きのしようも御座いませぬ。」
エオメルの心は冷水を浴びせかけられたように醒めた。
ファラミアはエオウィンの夫となる男であるばかりでなく、強国の重臣でもあった。エオメルはそれを全く失念していた己に怒りさえ感じた。

70萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 10:59
>>69の続き
エオメル/ファラミア しるけ有り













「諫言耳に痛い。」エオメルは言った。
「おわかりいただけましたか。」
ギャムリングは安堵の表情を浮かべた。エオメルは厳しい様子を崩さず、彼を見た。
「ギャムリングよ、セオデン王を覚えているか。」
ギャムリングは戸惑った。
「どうして忘れるはずがありましょうか。」
「私の心にも彼の姿が焼き付いている。」
エオメルは言った。
「セオドレド殿も。同じ館で共に育ち、長じては軍団長として親しくさせていただいた。」
エオメルはしばらく目を閉じ、懐かしい人々を思った。
「彼らを失った事は私にとって大きな痛手だった。」
「我々皆にとってです。」ギャムリングは言った。エオメルはうなずいた。
「一人残され、重責を担うようになり、幾度還らぬ彼らを思っただろうか。かの王であれば、彼であれば、このような不甲斐な無きことは無いだろうにと。」
「エオメル様、何を言われるか。」
エオメルは手を挙げてギャムリングを止めた。
「だがそう思うのは間違いだったのだ。」エオメルは言った。
「私は己のみが辛い、苦しいとばかり思い込んでいた。何故私一人がこのような荷を負わねばならぬのかと。だがそれは思い上がりというものだった。私と同じ境遇にありながら、耐えて務めを果たしている方がおられる。」
それがファラミアである事は明白だった。
「分かってもらえるだろうか、ギャムリング。私は妹婿だけでなく、思いがけず良い知己を得たのだ。彼がいなければ私はいつまでも亡き方々を望み無き頼りとするばかりだっただろう。だが私は、今の私と同じ重責に耐え、民をよく導いたあの方々を誇りに思い、若輩者ではあるが父祖に恥じぬ王でありたいと願う。
それに、ファラミア殿は友情を利用するような方ではない。仮にそうであったとしても、私は彼を信じたいと思う。」
エオメルは真摯だった。
ギャムリングは思わず目に浮かんだ涙をひそかに拭った。
「では、もう何も申しますまい。」ギャムリングは言った。
「ただ、程ほどになされよ。いつまでも二人で話し込まれていては、殿とお近づきになりたい乙女らが臍を曲げましょうぞ。」
エオメルは憮然とした。ギャムリングは皺深い顔をほころばせた。
「いつまでも童のようでおられる。おそれながらそのように不快をすぐ顔に表すようでは王として務まりませぬぞ。」
「なぜ不快と分かる?」エオメルは尋ねた。
「眉の間に皺が。」ギャムリングは答えた。
エオメルは昼間のエオウィンとのやり取りを思い起こした。
ギャムリングのたわいない揶揄は、エオメルの心に小さな棘を残した。

ファラミアは彼の部屋にはいなかった。エオメルは思いつくままにあちこち足を運んだ。
次第に太陽の高度は下がり、すでに空を赤く燃やしていた。エオメルは途方に暮れた。
よくよく考えるならばファラミアは夕食の席に現れるはずだった。疑問はその後にでもただせばよい。エオメルはそう考え、踵を返した。

71萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 11:00
>>70の続き
エオメル/ファラミア しるけ有り













だがその時、鋼が風を斬る音が城の裏手からエオメルの耳に届いた。
軽く足を踏む音が続いたのは、誰かが剣の稽古をしているものと思われた。重ねて剣が空を切る音が続いた。ブーツが地を蹴り、大きく振りかぶられた剣が美しい太刀筋で見えぬ敵を一刀両断にした。
淡い藍に染まりつつある空を背にして、ファラミアが一人剣を振るっていた。
彼が力強く空を薙ぎ払うたび柔らかな髪が躍り、服の長い裾がはためいた。剣は力任せに振るわれているようで、その実骨の髄まで叩き込まれた型が保たれていた。ファラミアは足で地面に大きく半円を描き、返す刀を打ち込んだ。さらに二度、三度。
その姿はエオメルの目にはどこか痛ましく映った。
望まぬ軛に繋がれた若駒が、縛めから逃れようともがき苦しんでいるようだとエオメルは思った。
エオメルはファラミアに近づきかねて十歩ほど離れた場所から声を掛けた。
「ファラミア。」
ファラミアは動きを止めた。しばらく遠くを見つめ、肩で息を付いていたが、やがて額に浮かんだ玉の汗を拭い、エオメルに顔を向けた。
「何か御用か。」
エオメルの背筋が凍った。
ファラミアが薄く浮かべた笑顔の、二つの瞳だけが笑わず冷たく凍り付いていた。エオメルは戸惑い、また失望と小さな怒りを感じた。
「昼間の事だが。」エオメルは切り出した。
ファラミアの肩が揺れた。
「礼を言いに。」
ファラミアは首を傾げてエオメルを見た。
「あなたは私にセオデン王を思い出させてくださった。彼らを思う事は私にとってどれほど慰めになることか。」
エオメルは言った。彼は自分の言葉が空虚に響くのを聞いた。つい先ほどまでとても大事に思われた事が、今は全く価値を失ったように感じられた。
だがファラミアは苦笑し、うなずいた。
「あれはただの思い付きです。私に礼を言われるような事などない。礼を言うとするならば、あなたにそう思わせるほどの方だったセオデン王に。」
エオメルはファラミアから遠く離れた場所に立ち尽くしたまま返答に困っていた。
ファラミアは態度を少し和らげた。
「かつてセオデン王とセオドレド殿にお会いした事があります。あなたは残念ながら務めで都を空けていらしたが。お二人とも豪放磊落、まさに王者の気風を備えたお方だった。館の内にあって、太陽のように内側からエドラスを明るく照らしていらした。」
エオメルの怒りが消し飛んだ。身内を褒められただけで機嫌を直した自分を単純だと思ったが、そのような事は気にならなかった。
「その太陽もすでに落ちてもう見る事は叶わないが。」
エオメルはファラミアに歩み寄った。
「では私の胸の内にあって心を暖かく燃やしているのは残照だと言うべきだろうか。」

72萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 11:00
>>71の続き
エオメル/ファラミア しるけ有り













ファラミアはエオメルが近付いた分だけさりげなく遠ざかった。
「御用がそれだけでしたら、私はこれで。」ファラミアは言った。それから思いついて付け加えた。
「ああ、明日は遠乗りに行く約束をしていたのでしたか。楽しみにしています。」
エオメルはファラミアの態度が急に硬化したことに愕然とした。ファラミアはエオメルに背を向け、立ち去ろうとしていた。
「どうしてそんなにつれなくなさるのか。」エオメルは言った。
「つれないとおっしゃるか。」
ファラミアは髪を乱して振り向き、剣の切っ先をエオメルに向けた。
二人の距離は手をどれほど伸ばしても届かぬほど離れていたが、エオメルは喉元に刃を突き付けられたような錯覚に陥った。
「あなたは全く気付いておいででないが。」
ファラミアは怒りに肩を震わせていた。
「我々は今、薄い刃の上を渡っているのだ。さもなくば断崖絶壁の縁を。」
ファラミアは抜き身の剣を鞘に納めた。彼は刺々しい様子を隠しもせず歩き始めた。エオメルは後を追った。
「あなたが何をおっしゃっているのかさっぱりわからない。」
「わからないならわからなくてよろしい。」
「わからないなりにあなたが気分を害しているのはわかる。このままでは納得がいきません。」
ファラミアは足を速めた。エオメルもそれに続いた。二人はじゅうを打ち倒す程の勢いで回廊を歩いていった。
ファラミアは自室の扉の前で立ち止まった。エオメルはすぐに追い付いた。
ファラミアは振り向き、エオメルに言った。
「また明日お会いしよう。今日はこれで。」
だがファラミアの声は震えていた。エオメルは言った。
「あなたは何をそんなに恐れておいでなのか。」
ファラミアは激情にかられた。
「そうだ、私は恐れている。」
白い歯をむき出してそう言ったファラミアの頬は紅潮し、目はぎらぎらと輝いていた。エオメルは安堵すらおぼえた。氷のような眼差しを向けられるよりは余程ましだった。

二人は戸の前に立ちしばらく睨み合っていた。
だが、やがてファラミアが目を伏せた。彼は言った。
「あなたに出会わなければよかった。」
その言葉はエオメルに少なからぬ衝撃を与えた。ファラミアの怒りがどのような事に端を発していたにせよ、そこまで嫌われていたとは思いもよらなかった。

73萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 11:01
>>72の続き
エオメル/ファラミア しるけ有り













エオメルの男らしい顔は夕闇の中でもはっきりとわかるほど青ざめた。エオメルは冷たい刃がゆっくりと胸に差し込まれていくような感覚に苦しんだ。ファラミアはそれを見てとり、自分の言葉がエオメルに及ぼした影響の大きさに怯えた。
「すまない、八つ当たりだ。」
ファラミアは言った。
「これは私の気持ちの問題だ。あなたには関係ない。」
エオメルはファラミアを見た。
「あなたの気持ちとは。」
エオメルは低く尋ねた。
ファラミアは緩く首を振った。
「それをあなたに知られたくないのだ。」
エオメルは少し考え込んだ。
「では、やはり私と関係有るということになる。」
ファラミアは口を引き結んだ。
「昼間の事なら」
ファラミアは身を硬くした。エオメルは言った。
「あなたと私が同じだと言った事で気分を害しているなら謝ろう。あなたが失った人々を軽々しく扱ったと思われたなら。」
ファラミアの身体から力が抜けた。
「いや、それについてはあなたが謝ることはない。ただ、あなたのように亡き人に良い思い出を持っている人間ばかりとは限らないというだけだ。」
ファラミアは自嘲した。
「この事はもう言わないようにしましょう。」
エオメルはファラミアがひそかに傷付いていたことに驚いた。ファラミアは決してそのような感情を表に出そうとはしなかった。その様子を、雨に打たれうなだれる花のようだとエオメルは思った。
彼を慰めたいという衝動に従い、エオメルはファラミアの頬に手を伸ばした。
途端にファラミアの目に怒りが蘇った。ファラミアはエオメルの手を音高く払いのけた。エオメルは戸惑って身を引いた。
「そのように」
ファラミアは言った。
「思いのままに振舞うのは止めたがよろしい。あなたは王なのだから。」
エオメルはファラミアを見つける前に交わした会話を思い出した。
「ギャムリングにもそういわれた。」
ファラミアは目顔で問い掛けた。エオメルは言った。
「私の部下だ。昼間黄金館からあなたとのやり取りを見ていたそうだ。あなたに必要以上に近付かぬようにと言われた。」
「館から?」
ファラミアは肩をすくめた。
「草原の方は目が鋭くておいでだ。」それから言った。
「ギャムリング殿のおっしゃる通りだ。我々はこれ以上近付いてはいけない。」
エオメルは納得がいかないという顔をした。ファラミアは言った。
「これ以上は罪を犯すことになる。」
「罪?」エオメルは言った。
「何の罪です。」

74萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 11:02
>>73の続き
エオメル/ファラミア しるけ有り













ファラミアは失言に気が付いた。彼の顔色が変わった。
エオメルもまたそれに気が付いた。これまで起きた出来事の数々がエオメルの脳裏に甦った。諍いと、和解。朝日に照らされ、力無く悲しむ彼を美しいと思った事。差し伸べられた手。雨上がりの草地のような、清々しく甘い香り。彼の手首の感触。生き身の人間の暖かさ。
全てを反芻しエオメルは自分の衝動の意味とファラミアと彼の間に流れる感情の正体を悟った。
彼の顔にたちまちのうちに血が昇った。ファラミアは逃げ出したそうなそぶりを見せた。
「逃げないでください。」エオメルは言った。
「これでは堂々巡りだ。」
ファラミアは観念して目を閉じた。
「おっしゃる通りだ。」ファラミアは言った。
「だが、これでもうお分かりだろう。我々はこれ以上仲を深めてはならない。」
エオメルはファラミアの頬に手を伸ばした。ファラミアは今度は抵抗しなかった。ファラミアはエオメルの手の温もりを感じ、エオメルはファラミアの肌の暖かさを覚えた。
太陽は既に沈み、残照だけが空を赤く彩っていた。黄昏時の薄闇が彼らの姿を人目から覆い隠した。
エオメルの心に刺さった小さい棘がうずいた。
「エオウィンの事か。」エオメルは言った。
ファラミアの唇が震えた。
「そうです。」
「せめて我々は友になれまいか。」
「あなたはそれで良くても、私は。」
ファラミアは目を開けてエオメルを見た。
「どうしてあなたを好きにならずにいられるだろう。」
ファラミアは優しくエオメルの手を外した。
「先ほど私はセオデン王の事を太陽のようだと申し上げた。」
ファラミアは言った。
「あなたも同じだ。あなたは光り輝いている。」
エオメルは何も答えられなかった。
ファラミアは言った。
「この事は忘れてください。私ももう申しますまい。そして新しい親族としての私を迎え入れて下さればいい。私自身ではなく。」
ファラミアはエオメルをやんわりと押し退けて部屋に入り、戸を閉めた。
扉を挟んだ両側で、彼らはしばらく立ち尽くしていた。

75萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 16:52
>69-74様
本日も、楽しみに読ませていただきました。
以前から、エオメル王が指輪戦争後、あっという間に
ドル・アムロスの姫君と結婚してしまったことについて
「兄ちゃん、寂しかったんだろな。みんないなくなっちゃって。」
と思っていたのですが、そうか。
日増しにつのってくる義弟への思いを断ち切るためだったのか、
なんて、このお話を読んでいて一人納得してしまいましたぞ。

ところで、毎日雨あられと降る恩寵のせいでしょうか。
執政家兄弟が登場するへーんな夢を見てしまったので、以下ご報告いたします。


ある日、ファラミアはボロミアをつれて映画館にやってきた。
チケットを買って入場しようとすると、チケット売り場の姐ちゃんが
「10元出しな。じゃなきゃ、入れてやらない」と脅しにかかる(何故、“元”!?)。
つまり、チケットを正規の値段(たしか一人1元くらい)で売らず、
姐ちゃん自身に袖の下を渡せ、という意味である。
「仕方あるまい」とか言いつつ、ファラミアは小銭を払うことすら惜しみ、
現金ではなく手持ちの小額切手で間に合わせようとする(大将、ドケチ虫か?)。
その切手がまた、1.78元など非常に半端な額の細かいものばかり。
さすがのファラミアも計算に時間がかかっている。
ボロミアも計算に参加し、「これとこれで3元になる」などと横から口を出している。
計算をしながらもボロミアは「ところでいったい、今日の映画はどんな内容なのか」と弟に聞く。
するとファラミアは、「兄上、あなたについての映画ですよ。」と答える。
しかし、看板を見ると、どう見ても子供向けのアニメである……

覚えているのはこれだけなのです。バカな夢ですみません。
一番の疑問は、使用されている通貨単位がなぜ、
中国の「人民元」なのか、ということです。

76萌えの下なる名無しさん:2004/05/29(土) 19:14
60です。

>67=52様
お優しいお言葉ありがとうございます。気を付けますね。

人目をはばかることを知らない兄弟の過剰なスキンシップは、
ゴンドールの兵、民に見られ放題だと思われます。
各方面から暖かい目で見守られてたら良いのですが。

>68様
コメントをありがとうございます。
件の若者、部下の末席に名を連ねてるだけで精一杯というか、
しっかりしろと。そこを、何とかするのが大将ですが。

大将は誘わせ上手、兄上は、誘い上手ではないかと。
ただし、お互いにしか発揮されません。意味があるのかないのか。

>69様
ありがとうございます。もう少しで終わりなのですね。
終わるのは寂しいですけども…がんばってください。

7769:2004/05/30(日) 07:10
>68様>75様>76様
感想キタ━(゚∀゚)━(∀゚ )━(゚  )━(  )━(  )━(  ゚)━( ゚∀)━(゚∀゚)━ !!
ありがとうございます!ありがとうございます!心優しい皆様の感想がどんなに励みになったことか!
やっと念願のエチシーンにこぎつけましただ!
長かった…・゚・(つД`)・゚・
では、続きいきます!


エオメル/ファラミア しるけ有り

>>74の続き




次の日の朝、遠乗りに王とその臣とゴンドールからの客人と、そして多くの従者たちが草原に乗り入れた。
エオメルはローハン一足の速い駿馬にまたがっていた。ファラミアもまた客人のためによりすぐられた足の速い馬に乗っていた。
エオメルとファラミアは出会い頭に通り一遍の挨拶をしただけで後は近付こうとすらしなかった。
ファラミアは軽い失望をおぼえながら事が丸く納まったことに安堵した。これで良かったのだとファラミアは自分に言い聞かせた。
遠乗りは和やかに続いた。ファラミアの周りには人が絶えなかった。ファラミアは従者の一人から鳥や花の名をローハンの言葉で何というのかを教わったりしながらそれなりに楽しんでいた。
そんな時だった。
ふと、ファラミアの目とエオメルの目が合った。
ファラミアは、エオメルがにやりと笑った気がした。
ファラミアは黙って目をそらした。だが、胸の中で一つのある決意をした。
ファラミアは人をそらさぬ態度で従者に話しかけた。
「ところで、あの花はローハンの言葉で何というのでしょう?」
「どれでしょうか。」
従者は答えた。ファラミアは後ろめたさを感じながら言った。
「あれです。向こうに咲く、あの小さな黄色い花。」
人のいい従者は客人の疑問に答えるべくファラミアから離れていった。ファラミアはエオメルが近づいてくるのを感じて目を閉じた。
ファラミアが目を開けると、目の前にエオメルがいた。エオメルは短く一言言った。
「付いて来い。」
言うが早いか、馬に拍車を掛け全速力で駆け始めた。ファラミアの胸に愛しい女の面影がよぎった。だがそれも一瞬のことだった。一拍遅れて、ファラミアも駆け出した。
突然走り出した二頭の馬に周囲の人々は唖然とした。しばらくして我に返った従者たちは王とその客人に追い着こうと馬を走らせ始めた。しかし彼らの距離はぐんぐん広がっていく。
エオメルは後ろを向いてそれを確認しながら馬を走らせた。ファラミアの方はそんな余裕も無くやっとのことでエオメルに付いて行くので精一杯だった。二人はどこまでも馬を駆けさせた。
エオメルの口から喜びの雄叫びがあがった。続いて、高らかに笑い声をあげた。ファラミアも馬にしがみつきながらいつのまにか笑っていた。これほど清々しい気分になったのは久方振りだった。

エオメルは目的の場所に着くと、馬を止めた。彼は自分の家の庭のようにその地を知り尽くしており、草原が平らに見えて実は起伏に富んでいることを知っていた。
彼らは馬から下り、遠くに向けて走らせた。従者たちは空の鞍を乗せた馬たちを追っていくだろう。
エオメルとファラミアはすりばち状の窪地に入っていった。窪地には丈の高い草が生い茂っており、目を刺さないように注意しなければならなかった。ファラミアの気分は子供の頃かくれんぼをして遊んだ時のように浮き立った。
窪地の中心地でエオメルは立ち止まった。

78萌えの下なる名無しさん:2004/05/30(日) 07:10
>>77の続き
エオメル/ファラミア しるけ有り













エオメルはファラミアに向き合い、切り出した。
「ファラミア、私は昨夜一晩中考えていた―」
だがファラミアはエオメルを遮った。
「エオメル、何も言うな。」
ファラミアは言った。
「あなたが私に付いて来いと言い、私があなたに付いて来た。それでもう答えが出ている。後は何を言っても言い訳になるばかりだ。結局する事は同じなのだから。」
それから思い直して言った。
「もし、これが私の浅ましい欲望が産んだ勘違いなら、私は今酷い恥をかいたことになるが。」
エオメルは応えた。
「いいえ。」
ファラミアはエオメルを見た。
「いいえ。」
だがエオメルの心にはまだ迷いが残っていた。彼は肉体的にファラミアを求めている事をどう言うべきか考えあぐねていた。ファラミアは苦笑した。
「エオメル、こういう時はこう言うのだ。あなたを抱き締めたい、と。」
ファラミアはエオメルの逞しい身体を見て付け加えた。
「私の両腕はあなたの背中に回りきらないかもしれないが。」
ファラミアはいたずらっぽく笑った。
エオメルは胸を詰まらせた。エオメルは革の手袋を外し、亜麻色の髪をかきわけてファラミアの頬に手を寄せた。
「あなたを抱き締めたい。」
本来なら草原の端から端まで響き渡るほど深く澄んだ声が、みっともないほど掠れた。
ファラミアは、私もだ、と言いかけた。
エオメルはその言葉を唇ごと吸い取った。

エオメルとファラミアは身に着けている物を全て取り去り、身を横たえた。ファラミアの背中の下でヨモギの葉が潰れ、辺りに芳しい香りが漂った。
ファラミアは、つい先日まで見知らぬ男だったはずのエオメルの手が肌を滑るのを不思議に感じていた。もし二日前にエオメルに触れられたならファラミアの心は怒りに燃えただろうと思われた。だが今、ファラミアの心に浮かぶのは静かな喜びばかりだった。
「ファラミア。」
エオメルが言った。
「ファラミア。」
ファラミアの曇りの無い目は恐れがエオメルの心を満たしているのを見抜いた。だがその源までは分からなかった。ファラミア自身もまた恐れを抱いていた。
ファラミアはエオメルほど若くなく、しかも男だった。
恐れが二人の動きを止めた。
太陽は中天にかかろうとしていた。
ファラミアはエオメルの胸元に震える唇を付けた。
エオメルの分厚い胸板の下で心臓が跳ね、逞しい四肢に血液を送り出した。
「エオメル。」
ファラミアは言った。
「私はあなたを抱き締めたい。」
不思議な誇りがエオメルの身体を駆け巡った。

79萌えの下なる名無しさん:2004/05/30(日) 07:11
>>78の続き
エオメル/ファラミア しるけ有り













エオメルはファラミアを傷付ける事を恐れていた。そして何より、欲望を露わにしてファラミアに軽蔑される事を恐れていた。
しかしファラミアはエオメルを許していた。エオメルに傷付けられる前からエオメルを許していた。
エオメルはファラミアのなだらかな胸を撫でた。柔らかく短い毛がエオメルの手に絡んだ。熱く脈打つ器官がエオメルの興奮をファラミアに伝えた。
ファラミアは恐れを捨てた。
ファラミアはエオメルの体の中心を掴み、口に含んだ。エオメルは驚き、ファラミアの頭を押し退けようとした。ファラミアは半ば意地になってその行為を続けた。
ファラミアはもう十分という所までエオメルを昂らせると、その上から身を沈めようとした。
「ファラミア。」
エオメルの目に傷付いた色が浮かんでいた。
ファラミアは間違いを犯した事を悟った。
「ファラミア、私はあなたを抱き締めたい。」
エオメルはファラミアに繰り返し口付けた。ファラミアは目を閉じてエオメルの唇を受けた。ファラミアの口からくぐもった笑い声が洩れた。
エオメルの背中に鳥肌が立った。
エオメルはファラミアの髪を乱暴に引き掴み、唇に噛み付いた。舌と舌が絡み合い、濡れた音を立てた。エオメルとファラミアは声も立てずにお互いを貪り合った。
エオメルは熱く張り詰めた塊をファラミアに押し付けた。ファラミアは目を閉じ、息を吐いた。エオメルは軋みを上げながらファラミアの中に分け入った。ファラミアの目は衝撃に見開かれた。
「ファラミア。」
ファラミアはエオメルを見た。ファラミアの体の中でエオメルの熱が燃えていた。エオメルはファラミアの身体を揺さぶった。ファラミアは口の中で小さな悲鳴をあげた。
エオメルは、ファラミアの目の中で氷の最後の一辺が溶けて瞳に薄い水の膜を張るのを見た。
「ファラミア。」
エオメルは歯を食いしばった。
「あなたを抱き締めたい。」
ファラミアはエオメルの首に両腕を回した。熱い鼓動と共に涙が吹き零れた。
絶頂の訪れは急速だった。
熱が引いた後も、彼らはそのまま温もりを分かち合っていた。

80萌えの下なる名無しさん:2004/05/30(日) 07:12
>>79の続き これでラストです。
エオメル/ファラミア しるけ有り













エオメルは息を吐いてファラミアの上から身を起こした。塩辛い汗の混じった髪がエオメルの口に入った。
ファラミアは身をよじって草むらから起き上がった。背中に貼り付いた葉がぱらぱらと落ちた。
空は青く、太陽は中空にあった。風が二人の汗を冷やしていった。
二人は顔を見合わせた。
そして、二人とも惨憺たる姿である事を認めざるを得なかった。髪は乱れ、草の葉が身体のあちこちに付き、下肢には情事の残滓がこびりついていた。
「酷い姿だ。」エオメルは言った。
「あなたこそ。」ファラミアは応えた。
二人は睨み合った。
「―まあ、いつまでも睨み合っていても仕方が無い。」
「全くだ。」
ファラミアとエオメルは手早く身支度を整えた。目の前に横たわる問題にはあえて触れずにいた。
「さて、これからどうすべきかな。」
ファラミアは言った。エオメルはファラミアの髪から頭をのぞかせている草を抜き取った。
「まずは馬を捕まえ、館に帰る事だ。」
エオメルは言った。ファラミアは首を振った。
「私の場合はまず、馬に乗れるかどうかが問題だな。」
エオメルはファラミアを見た。
「頼むから何も言うな。」
ファラミアはエオメルに釘を刺した。
「それでも私は後悔していないのだから。」
エオメルはファラミアの肩に手を置き、唇を吸った。顔を離すと、エオメルの顔は赤黒く染まっていた。ファラミアは肩を揺らして笑った。
「さすがにもう一遍は無理だが。」
「私が思うに、」エオメルは言った。
「あなたはやはり人の心が読めるのではないか。」
「ヌメノールの透視力と言いたい所だが。」ファラミアは言った。
「あなたに関して言うならば、考える事が顔に出ているのだ。」
ファラミアは澄まし顔で答えた。エオメルはファラミアを抱き締めた。ファラミアはエオメルの背中に腕を回し、力を込めた。
遠くから彼らを呼ぶ声が聞こえるまで、二人は時を忘れてお互いを固く抱き締め合っていた。

8177:2004/05/30(日) 07:12
やっと終わりましただ!長々とスレ汚しして本当に申し訳ありませんでした。
では、そろそろROMに戻ります。最後なのでご迷惑も省みずマルチレスいきます!

>38様
早速のご感想ありがとうございました。ご期待に添えなくて申し訳ありませんでしただ…
何やらよからぬ事を企む大将もぜひ拝見したく。

>39様
サイト情報ありがとうございました!ひっそり萌え心を養わせていただきましただ(w

>43様
実は我ながらあの展開には無理があったかと。大目に見てくだされ orz

>44様
パタパー二世様、ご感想ありがとうございます!子馬亭の更なる発展をお祈り申し上げております!

>47様
朝早くからありがとうございました…・゚・(つД`)・゚・大変な時間にウプしてすみませなんだ。

>48様
イムラヒル大公登場は自分サービスだったり(w 映画でもお目にかかりたかったですだ。

>50 - 60女神様
優しいお言葉ありがとうございましただ。SSには目茶目茶心慰められました!慰められるどころか萌えて萌えて(*´д`*)ハァハァ
大将は誘わせ上手には禿げしくドウーイ (w
本当にいつもお声がけくださって、ありがとうございました。これからも頑張ってください!楽しみにしてます!
ところで実は53は私なのですが、とここでこっそり申し上げたり(ノ´∀`*)

>52様
なかなかエチーに進まなくて申し訳ありませんでしただ。じらしプレイ?(w

>56様
あれはカコイイ大将を狙いましたので、嬉しいお言葉でした。カコイイというよりただのタラシになった気も orz

>57様
いや、我ながら体力の限界に挑戦しました(;´Д`) お声掛けありがとうございましただ…本当に励みになりました。

>58様
こちらこそ、ありがとうございました。m(_ _)m SSをウプしつつ幸せを噛み締めておりましただ。私は毎日お応えすることができたでしょうか。

>59様
まだ着いてきてらっしゃいますか〜(゚ー゚*)ノ゙ 惹かれ合いすれ違いは自分的に萌えテーマですだ。おかげで長くなって申し訳なく・゚・(つД`)・゚・

>68様
浮気を捕らえられた間男のようなというか、エオメルはそのものだとセルフツッコミを(w 大将には憂い顔がよくお似合いですだ。

>75様
何てうらやましい夢を見てらっしゃるんですかと小一時間(ry ドケチ虫な大将も素敵だと申し上げたく(w


ではでは、お付き合いくださってありがとうございましただ!
メルロンモルニエウトゥーリエ、ナマリエ〜(^^ /""

82萌えの下なる名無しさん:2004/05/31(月) 11:50
>81女神様
最後のレス番にご挨拶を。
現在書き込みが止まっているのは、皆さん感動に言葉も出ないからだと思われます。
私も初めから読み直して、もうもう何を申し上げていいのやら・・・
惹かれあって、すれ違って、でも想い合って(互いのことだけではなく、国のことや
周りの人のことも)、草原の風のように爽やかで、そして切なくて・・・
ハラハラドキドキしながらのこの一週間、とても幸せでした。
本当に本当に、ありがとうございました。言葉が足りなくてごめんなさい。

83萌えの下なる名無しさん:2004/05/31(月) 14:33
>81女神様
ほんと、萌え過ぎて何と感想を書いたものやらー、でしたよ。
1週間お疲れ様でした、素敵な作品をありがとうございましたー。

84萌えの下なる名無しさん:2004/05/31(月) 20:21
>>81女神様
完結、おめでとうございます。
そして、日々の更新お疲れ様でした!
女神様のおかげで、ここ一週間スレをみるのが
いつもにも増して楽しみでした。

大将とエオメル王の関係が、だんだん抜き差しならなくなって
来た辺りから、萌え以上に息をのむような気持ちで、
見守らせていただいてました。
エオメルには悪いですが、いざとなって大将にリードされてる様や、
悪い言葉で言えばなんとかの一つ覚えのようなセリフの他には
言葉が出ない、余裕の無さには、微笑ましいものを感じましたが。
大将は、エオメルのそういう真っ直ぐなところが好きなのかもしれない、と
勝手に感じました。大将がはっきり好きだと意思表示をしているエオウィンと兄上も
性格はエオメルに通じるものがありますし。

大将がひとりで剣を振るってる場面が、いちばん好きでした。
大将の姿が目に浮かぶようでした。
いつも、文字から絵を頭に描くことは無いのですが、あの場面だけは
自分にも不思議なことに、例外でした。

今度はイムラヒル様あたりで、いかがですかとか<余計なお世話
最後に。たくさんの幸せをありがとうございました!!

85萌えの下なる名無しさん:2004/05/31(月) 23:13
>81様
私も昨日のうちに読み終わりましたが、
つまらない感想を書くのがもったいないように感じ、
今まで余韻を楽しんでおりました。
不器用でクソマジメなエオメルの
みっともない求愛ぶりが、なんともいとおしい。
大将の、年下の恋人に見せる思いやりも切ないですね。
年をとった二人は、このときのことをどんな風に
思い出すんだろう。

ともあれ、とてもさわやかで美しい作品
ありがとうございました。

8677:2004/06/01(火) 21:31
ど、どうもこんばんは、77です〜…。一度ROMると申し上げておきながら今ひとたび舞い戻って参りました…。
あ、あの、褒められ過ぎて、嬉しいのですが、すごく嬉しいのですが、同時に身の置き所が無い位かなりすごく恥ずかしいです、
色々お言葉をいただきながら申し訳有りません。
それで、スレ汚しご迷惑ついでに訂正したい箇所が一つあるのですが、いいでしょうか。
>>78の冒頭からです。

>エオメルはファラミアに向き合い、切り出した。
>「ファラミア、私は昨夜一晩中考えていた―」
>だがファラミアはエオメルを遮った。
>「エオメル、何も言うな。」
>ファラミアは言った。

上記の箇所を、

エオメルはファラミアに向き合い、切り出した。
「ファラミア、我々は、いや私は、あなたを諦めたくない。エオウィンを憎まぬために。」
ファラミアの返答を聞かず、エオメルは続けた。
「私は昨夜一晩中考えていた。あなたと私の事を考えていた。我々の間にある障害の事を考えていた。」
二人の心に、彼らが等しく愛しく思う女性の影が落ちた。
「あなたも気付いただろう。このままお互いを諦めたならば、我々はいつかエオウィンを憎む。彼女を愛しい妹、愛しい妻と思うのではなく、我々を引き裂いた憎い女と思うようになるのだ。いや、既にそう思い始めている。」
エオメルはうなだれた。金色の誇り高い頭が鈍くくすんだ。
「これほど恐ろしい事は無い。」
エオメルは言った。
「だがそれは彼女を体の良い口実にしているようにも思える。」
少しの沈黙の後、ファラミアは言った。
エオメルは答えた。
「そうかもしれない。それでも私は―」
だがファラミアはエオメルを遮った。
「エオメル、もう何も言うな。」
ファラミアは言った。

に直したいのですが、ど、どんなものかと…。
訂正部分は最初話がくどくなると思って削った部分なんですが、やっぱり必要な気がするので、追加修正していただきたいのです。
一度手放した物に手をつけるのもどうかと思ったのですが、ご、ごめんなさ…。
設置様、重ね重ね申し訳ありませんが、倉庫格納の際修正をお願い致します。
いつもいつもご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。すすすすいません本当に、正直に申し上げればファラメル/メルファラのあれは私です。
あ、あの、地獄のような改行とか改行とか改行とか・゚・(つД`)・゚・

実は、この場を借りて率直に言わせていただければ、このSSは一人の人のために書き始めた物で、その人がここを見ているかどうかはともかくとして、そうでなければ書かなかったというか、書けなかった話です。
かなり色々とツッコミ所のある話ですが、もう一度書けと言われても(言われないと思いますが)書けません。いえヘボい話なのは重々承知なんですが、自分の力量を遥かに超えていると思います。
とはいえ、子馬亭という場所が無ければこの話は決して産まれませんでした。
ここで、場所をいつまでもお借りしてご迷惑をお掛けしたお詫びと、暖かい言葉を下さった事にお礼を申し上げたいと思います。
では、なんだか物凄く恥ずかしいカキコをしているような気がしてきましたので、そろそろここら辺で…。今度はちゃんと消えます。
すみません、その前にマルチレスを。
>82様
あの、真剣に読んで下さって本当にありがとうございました。皆様の反応が不安だったので、すごく嬉しいです!本当に、暖かいお言葉に心慰められました。

>83様
も、萌えてくださいましたか…?そうだとしたら嬉しいのですが。ありがとうございます!

>84様
あのシーンは自分でも絵が浮かんで描いたものですので、ご好評いただけて嬉しいです。エオメルが格好良くならなかったのが我ながら悲しかったですだ。

>85様
う、さわやかで美しい話ですか…。高潔な彼らに非常に手前勝手な事やらせてしまいましたが、これで良かったのかどうか…。良いか悪いかと言われれば良くないんですが。いや自分でそんな事言っちゃいけませんな。
二人が年をとったら、ふとした折にきっと夢のように思い出すと思いますだよ。

では失礼します。色々と、本当にありがとうございましただ。((((((((((゚∀゚)/~ スササササササ

8777:2004/06/01(火) 21:33
勢いあまってageちまったですだ…申し訳ありませぬ orz
最後の最後まで格好悪…

88名無しの1:2004/06/02(水) 00:43
いきなり失礼します。
キャラスレとしては真っ先にお引っ越しして来たものの、内心では、全然人が
来なかったらどうしよう・・・とびくびくしておりました。が、そんな危惧も
どこへやら、という最近の盛況ぶり、嬉しい限りです。
それもこれも、次々素晴らしい萌えをご提供下さった女神様方のおかげです。
ありがとうございました。
現在、他スレもどんどんお引っ越ししていらして、新館の方も賑わうことと
思います。このスレも引き続き「多彩な萌え」を提供していきたいですね。

それにしても、マターリあいのりして来たレゴギムスレ、揃って到着の旅の
仲間たち、そしてどさくさに紛れてちゃっかり一番乗りしていたこのスレ・・・
と、何となく扱う対象を反映しているみたいなところが面白いですね(w
(ローハン勢はまだか!?)
では、またただの名無しに戻って応援させて頂きます。

89萌えの下なる名無しさん:2004/06/02(水) 01:17
>>88
同感です!わたしも嬉しい一人です。萌えは偉大です!
萌えの女神様や仲間の皆様が、こんなにいらっしゃるなんて、
なんて幸せなんだろうと思います。
ファラミア/エオメル女神様の作品が一段落して
寂しくて溜まらず、自分で自分を慰めてみたりです。

そんなものを投下させていただくのも恐縮ですが、
次なる女神様ご降臨までの、間つなぎにでもなれば幸いです。

<大将とその兄/しるけ皆無> 1/3

 白い都の夜が更けた。
 久方ぶりに顔を合わせた、もう若過ぎはしない兄弟は、連れだって片方の部屋に向かっていた。先を行く兄の後ろには、かれより多少背の高い弟が続く。部屋の主である弟が開いた扉を、当然のように兄はくぐり、自分のものならずとも勝手を知り尽くした部屋にしつらえられた長椅子に、迷わず腰を落ち着けた。兄の所作を見届けて、弟は静かに扉を閉めた。
 背の低い、小振りで重厚な長方形のテーブルを直角に挟んだ位置にある長椅子と同じ作りを持った一人がけの椅子に、部屋の主は場所を定めた。兄弟が顔を合わせる。どちらともなく笑いが漏らされた時、扉を叩く音がした。当然のように立ち上がったのは、弟の方だった。
 姿を現したのは、かれが用を頼んでいた使用人だった。弟−−ファラミアは、言いつけておいた物を受け取ると、給仕の任を果たそうとする使用人の耳に顔を寄せ、今日は、少々羽目を外すゆえ水入らずに頼む、と声を潜めて伝えた。思わず微笑を漏らした使用人を咎めることはせず、簡単に労をねぎらうと、ファラミアは、手にした銀の盆を心待ちにする人が待つ部屋に戻った。
 テーブルにファラミアが盆を乗せると、兄−−ボロミアは、長椅子の背に弛緩するように預けていた体を起こして、運ばれた物を覗き込んだ。弟は、その様が、いかにも兄らしすぎるためにこみ上げてきた笑いを、そのまま顔に乗せた。
 その表情は揶揄でも何でもなく、ただ、兄にとって喜ばしいものを目の前に差し出すことが出来た喜びの、素直な吐露に他ならなかった。ボロミアが、銀製品の上に鎮座した陶器製のピッチャーを手に取り、上から下から珍しいものを見るように眺め回すのに任せて、ファラミアは背の高いグラスを二つ、使用に丁度良く並べ、酒を注いだ。
 乾杯を言って、二人はグラスを合わせた。一息で飲めるだけの酒を喉に流した二人の口から、満足の溜息が漏らされた。
 気付けばボロミアの杯はとっくに空で、二杯目は自分で注ごうというのか、ピッチャーに手を伸ばした。いささか慌てたファラミアは、ボロミアの手を押しとどめた。
 ボロミアはファラミアの所作に構わず、笑うと、蒸留酒をあおった。
「火に出会えば、炎を上げるような酒でございますよ」
 自分の手にしたものを申し訳ばかりに舐めながら、念のためとファラミアは注意を促してみた。
「構わぬ」
 屈託無い笑いは、諌言にあまり注意を向けていない証拠だった。ただ、それで良いとファラミアは思う。ボロミアは、欲しいだけ飲んで、酔いたいように酔えば良い。大事には至らない。なぜなら、今、彼の隣には自分がいるのだから。
 そして、人の気を知ってか知らずか(知るわけはない)ボロミアは、お前ももっと飲め、と言い出した。
「ええ。頂いておりますよ」
 グラスを傾けてファラミアは中身を見せたが、ボロミアは納得しなかった。
 催促されたわけではないが、いつの間にか空になったボロミアのグラスに、ファラミアは酒を満たした。グラスに酒が入っているのは、少しの間だけだった。酒はみるみるボロミアの喉の奥に消えた。
 ファラミアも、飲酒が嫌いなわけでも、弱いわけでもなかった。ただ、ボロミアの機嫌のよい様を見る方が、自分が酒に酔うより、随分とファラミアの気分をよくするので、ファラミアはボロミアと共に杯を傾けるときは、酌に徹するのが習慣になっていた。
 羽目を外すのは、二人のうちの一人だけで十分だと、ファラミアは思っていた。
「二人揃いで正体をなくせば、誰が我らを介抱してくれるということもございません」
 自分と同じに飲ませようとする兄に対して、ファラミアが正論を吐くと、
「わたしがするとも。兄だからな」と、立派な言葉が返ってきた。

90萌えの下なる名無しさん:2004/06/02(水) 01:19
<大将とその兄/しるけ皆無> 2/3

 ボロミアは決して嘘つきではない。ただ、心がけだけではどうにもならない事態は、しばしば起こった。それを記憶しているのは、事によればファラミアだけなのかも知れなかったが。
 だから、ファラミアは、ボロミアがどんなに機嫌良くしていようとも、注意深い目を向けることを忘れなかった。
 気だるげに、長く肩につく髪をかき上げると、ボロミアは緩慢な動作で自分の背を長椅子に預けた。言った側からこれですか、とはファラミアは口にはしなかった。他人が見れば笑うかも知れないが、ファラミアは、不安にかられて椅子を立ち、長椅子の足下に膝をついてボロミアの顔を間近に見ようと覗き込んだ。ボロミアは、弟の行動を唐突だと感じたらしい。近づいた顔を初めは目を丸く、続いて面白そうに見ていたが、とうとう彼の方から顔を寄せて来たので、ファラミアは、面食らわされた。
「歌が聞きたい」
 と、気だるげにボロミアは言った。いきなり過ぎやしませんか、などと考えたところで詮無いことだった。酔っぱらいに理屈などない。酒好きな兄のおかげで、ファラミアはそれを早いうちから身をもって知っていた。
「歌がお好きだとは、ついぞ知りませんでしたが」
「お前の声は、耳に心地よい」
 ファラミアの髪に触れたたボロミアの手が、無意味に髪をかき回していく。
 こうしたときにいつもファラミアは、この人の中では自分はまだ、ただ構われたいがために姿を認めればまとわりつき、抱き上げられては高い声ではしゃぐ、小さな子どもなのだろうと思わされる。横幅はともかく、背はとっくに保護者然として振る舞う彼より少しばかり上回ってさえいるのだが、ボロミアはそれに、気付いているのかどうか怪しいものだと、ファラミアは思った。承知した上でかも知れないという、ふと浮かんだ嬉しくない想像を打ち消すように、ファラミアは首を振った。
「歌を」
 気だるげに長椅子に体を埋め、自分を促す兄の足のすぐ脇に、ファラミアは腰を下ろし、長椅子の背もたれと彼の体の間に片手を置いて、自分の体重を支えた。頬杖をつくように肘掛けに乗せた腕で頭を支えたボロミアの耳に、ファラミアは顔を近づけた。そして、囁くような密やかな声で、歌を紡いだ。
 よく聞けば、それは叶わぬ恋の歌だった。旋律に哀調はなく、ただ細く明るい。それだけに、悲しく響いた。目を閉じ、じっと黙して声に聞き入っていたボロミアが、僅かに顔を上げた。
「感傷的に過ぎぬか」
「いつぞや女官が口ずさんでおりました。私が一番最近に、耳にした歌でしたが。お気に召しませんでしたか」
「いや、いや」
 ボロミアが首を振った。
「堪能した。お前の声によく合う」
「感傷的だと」
「わたしは気に入った。それでは足りぬか?」
 ボロミアがまっすぐに顔を見るので、ファラミアは笑おうとしたが、何故か笑えなかった。
「足りぬなど、あろうはずがございません」
 赤みを帯びて見えるボロミアの額に、ファラミアは手を添えた。肌に触れた手の平が、熱を感じた。訳もなく、触れ続けてはいけないような気がして、ファラミアが手を引こうとしたとき、自分のものではない大きな手が、それを阻んだ。あまつさえ、額に押しつけるよう力を加えられた。その強さに、酔っぱらいとは、かくも容赦が無いものかとファラミアは思わされた。
「そのままに。冷たくて、ひどく心地よい」
 ボロミアが息をついた。彼の体に入った酒のにおいが、ファラミアの鼻をつくようだった。そして、額同様、息も熱を帯びているのが否応無くファラミアには感じられた。ファラミアは、困惑を、顔に出したのかどうか。力が抜けて長椅子に伸びた体を持て余したように、ボロミアがぽつりと呟いた。

91萌えの下なる名無しさん:2004/06/02(水) 01:22
<大将とその兄/しるけ皆無> 3/3

「酔った」
「そのようでございますな」
 ファラミアは、苦しく笑った。
「掛布を寄越すよう、言いつけてはくれぬか。部屋に戻るのが億劫でたまらぬ」
「頼めば飛んでくるでしょうが、側仕えの者も、既に休んでおりましょう」
 体をひねって小さなガラス器に水を取ると、ファラミアはそれをボロミアの口に運んだ。
「飲まれますように。多少は楽になります」
 頭を持ち上げるのさえもはや面倒なのか、ボロミアは差し出された器に手を添えることもなく、水が自分の口に注がれるのを待っていた。
 さて、どちらが子どもなのか、と頬がゆるむのを堪えて、ファラミアは求められるまま、そろそろと器を傾けてやった。ゆっくりと喉を上下させ、器を空っぽにしてしまうと、ボロミアは小さく息を吐いた。水を飲むには不自然な姿勢なため、唇の端から伝ってこぼれた水が作った筋を、ファラミアが指で残さず拭った。くすぐったかったのか、弟に面倒を見られているような状況を自覚して居心地が悪いのか、長椅子の上の体が、多少の身じろぎを見せた。ファラミアは、そろそろ本気でボロミアの体が心配になってきた。
「わたしの寝台でお休みになれば良いでしょう。億劫とはおっしゃいましたが、すぐそこです。手をお貸し致しますよ」
「億劫だ」
呟くのがやっとだとでも言いたげに、短く言葉を漏らすと、ボロミアは体を背もたれの側に向けてしまった。子どもですか、あなたは、と喉元まで出かけた言葉を、ファラミアは飲み込まなければならなかった。
「腰掛けなどで休まれたのでは、わたしの心が休まりません。まさか風邪など召されぬでしょうが、何事においても用心が肝要です」
 言葉に返事はなかったが、ボロミアの首が、こっくりと前に傾くのが見えた。
「お分かりいただけましたか。さあ」
 ファラミアの促しに、答えは依然として返らなかった。さりとて体も動かなかった。さてはと思い至ってファラミアが顔を覗くと、案の定、ボロミアは目を安らかに閉じて、寝息を立てていた。永遠に寝かして差し上げましょうかと、不穏な考えがファラミアの頭をよぎらないではなかったが、別に本気ではない。
「ボロミア」
 念のため、耳元に呼びかけてみた。大きく呼吸をしているが、ぴくりとも反応しない体に、ファラミアは仕方なく立ち上がった。
 申し訳程度の扉で隔てられた続き部屋は、自分の寝室になっていた。ファラミアは、使い慣れたそこに立ち入って、木綿で作られた白く、清潔で気持ちの良い厚手の掛布を選んで寝台から手早くはぎ取った。床に引きずってしまわないよう掛布は腕にたたみ込み、大股で、寝込んでしまった兄の元へファラミアは戻った。眠りを妨げないよう注意深く、その体を掛布で包んだ。場所はともかく、身体を保護するものものなく、ただ寝込むよりは随分良い状態だろうか。気休めかも知れないが、少しだけ気が軽くなったので、ファラミアは、少し口をつけただけで放っておかれたままだった酒を改めて手に取り、一息に空けた。視線を転じると、ただ、心を安んじて睡眠に身を任せるボロミアの姿があった。
 自分が、五つ年上の人間を、まるで子ども扱いしているのに気付かないまま、ファラミアは目を細めると、窮屈そうに足が投げられた長椅子の、彼の足の側に腰掛けた。目を覚まさないことを期待しつつ、意趣返しにと、ボロミアの髪に手を触れて、五本の指の間からさらさらと束をこぼすように梳いた。指の股をくすぐっていくような、その感触が無性に嬉しくて、飽きることなく同じ動作をファラミアは繰り返した。気のせいでなければ、忘れかけていたボロミアのにおいがした。自分の内のどこかが満たされるような気がして、ファラミアは知らず表情を緩め、熱をもった目覚めない体に頭を預けると、ファラミアも目を閉じた。
 
 ボロミアが歌を口ずさむなど滅多にない事だったが、その日からしばらく、一部の幸運な者は、世にも珍しいそれを耳にすることが出来たという。しかし、いつどこで覚えた歌なのか、歌った本人にもまるで分からなかった。ボロミアが何度それを尋ねても、ファラミアはただ笑うばかりだった。


 終わりです(汗) 兄上が子供ですみません。

92萌えの下なる名無しさん:2004/06/02(水) 06:57
>>89-91女神様
じんわり萌えるお話、ありがとうございます!
しるけ無しでも色気有り過ぎてどうにかなりそうですよこの兄弟ってば。
弟の前で酔っ払いで子供の兄上、面倒見のいい弟、素敵です!

新館になってからも次々とすばらしい女神様の降臨、
こんなに幸せでいいんでしょうか。この幸せを、
幸薄い大将本人に少しでも分けてあげたいくらいですw

93萌えの下なる名無しさん:2004/06/02(水) 22:28
>>89-91女神様
兄弟が髪を触り合うのが好き。と申し上げてよろしいでしょうか。
原作では黒髪の執政兄弟。映画では二人とも金髪で、兄はさらさら、
弟はふわふわ(くるくる?)って、キャラクターデザインとしては最強。
萌えろと言わんばかりだと思いますね(w

94萌えの下なる名無しさん:2004/06/03(木) 10:33
>92様、>93様
ご感想ありがとうございます。>89です。
兄弟は萌えツボです。
兄上好きな大将が萌えツボと申しましょうか。
多彩な萌えのどこにあっても、大将には兄上好きでいて欲しいとか。
自分語り入っちゃってもうしわけないです。
外見も性格も、似てないようで似てる…似てるようでやっぱり違う
などという兄弟の絶妙さには、萌えるしかなく。萌えまくりです。

>75様
超遅レスすみません。
夢枕に執政兄弟が立つなんて(違)、真剣にあやかりたいです。
勝手に萌えて、勝手に続きを書いてしまいました。
萌え話ではないのですが、おゆるしいただけるでしょうか…。

===
 ボロミアは、映画の内容を持ち出して切手から話を逸らしたついでに、
計算を続ける努力を放棄した。

>しかし、看板を見ると、どう見ても子供向けのアニメである……

 途端、ボロミアの目が輝いた。
 半端な額面の切手と格闘するファラミアをずずいと押しのけて、
ボロミアはチケット売り場の姐ちゃんと対峙した。
 いぶかるファラミアと姐ちゃんが見守る中、ボロミアは自分の懐に手を突っ込み、
窓口に一枚の紙片を突きだした。
「これで手を打たぬか」
 一見しても金目のものではないと分かるそれを、姐ちゃんは胡散臭げに眺めやった。
 彼女は渋々紙片を引き寄せた。と、その紙片が何であるのかを見て取るや否や、
目にもとまらぬ早業で自分の懐に押し込み、GJ!とばかりに、ウインクと共にボロミアに対し、
親指をぐっと立てて見せた。ボロミアも、同じ動作を返した。
「交渉成立。ゆくぞ」
 事の次第が飲み込めず、訝るファラミアの腕を引っ張って、
ボロミアは意気揚々と映画館に入場を決めた。
 暗がりの中でファラミアが見つけた席に二人で落ち着くと、
ファラミアは、いよいよ疑問を口にした。
「窓口係の豹変ぶりときたら! 
兄上は、一体いかなる魔法をお使いだったのです」
「言葉で説明出来ぬのが、魔法なのだ」
 決して口を割ろうとしないボロミアは、欲望が満たされてご満悦だった。
 ファラミアは引っかかりを拭いきれないものの、目的が達成されたことで納得することにした。
 
 魔法という名の取引に、ボロミアが誰にもいわず秘蔵しているファラミアを被写体とした
写真のコレクションから一枚が使われたことを、幸運にも、
ファラミアは知らない。

===
お目汚し失礼しました(汗)

95萌えの下なる名無しさん:2004/06/03(木) 16:43
>94様
兄君・・・ひどい・・・w
そうまでして見たかった映画って、いったい何だったんでしょうか?爆死版のアレ?
(あの映画に弟君が出ていたらどんなキャラデザだったのかと思うと、背筋が凍ります)

話は全然違いますが、デアゴの弟君フィギュアを入手しました。思ったよりはマシだった
のですが、でもやっぱりちょっと微妙・・・
兄君と並べて飾ってあげようかと思っていましたが、そっちがまた、兄君の中の人スレで
「一升瓶ラッパ呑みの酔っぱらいオヤジ」などと言われていたような代物で・・・
「こんなの兄上じゃない!」「私の弟はもっと美しい!」とか言い合いそうです(泣藁

9675:2004/06/03(木) 22:41
>89-91様
大将にとっては貴重な貴重な
「私だけの兄上」の時間ですね。
二人ともなにもせずともいるだけで色っぽいです。

>94様
いやー、あの後こんな展開になっていたのか。
もっとちゃんと夢を覚えていればよかった。
姐ちゃん、果報者や〜。
それにしても兄上、袖の下が必要な場面に
ぶちあたるたびに、「弟の秘蔵写真」をばらまいて
窮地を切り抜けていたのか。知らなかった。

でも、本当に一体なんのアニメだったんだろう。
藤子アニメ「ファラえもん ボロ太の大冒険」とか……。

97萌えの下なる名無しさん:2004/06/04(金) 00:18
>>96
>藤子アニメ「ファラえもん ボロ太の大冒険」とか……。

ファラえもんはボロ太が「たすけて〜」と叫んでもすぐには
助けてくれなそうだなぁ。w
「一体何故そのような状況になったのか、一度ご自分の胸に
聞いてみてはいかがですか?」とか言って。
でも結局最後にはブツブツ言いつつ助けてくれる。

98萌えの下なる名無しさん:2004/06/04(金) 01:18
>>96-97
で、ではライバルはジャイアラとスネレゴでしょうか((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
ジャイアラに激しく言葉責めされる兄上を見かねて、言葉責めで応戦するファラエモソ。
それを楽しげにヲチするスネレゴ(・∀・)ミンナ ナカヨシダネ!

99萌えの下なる名無しさん:2004/06/04(金) 15:38
割り込みすみません。

>95様
怖いもの見たさでキャラデザだけでも、爆死版大将を拝みたかったです。
爆死版の続きは、もう出ないんでしょうね。残念です。

フィギュアご入手おめでとうございます!
ネットで見た限りではパッケージがよさげなだけに、
肝心のフィギュアが微妙だったというのは惜しいことです。
フィギュアは、小さいサイズの詰め合わせにしてくれれば良いのにと。
小さいものなら、多少作りが微妙でも仕方ないとか思えるので。

>96=74様
失礼千万はたらいた上、ご光臨までいただいて、
かたじけないです。

既に、74様の夢とは別物になり果ててるので、
先に謝罪させてください。
兄上は、外見内面ともに優秀な弟がさぞや自慢なのだろうと。
兄上が出す年賀状は(あれば)、弟の写真です。

さて、兄上は気づいてませんが、弟も兄上写真のコレクションを持っています。
兄上所有のコレクションは、微笑ましい画像ばかりですけども、
弟所有の兄上写真のコレクションは、人には見せられない感じで。
写真は門外不出で、その存在と共に墓の中まで大将が持って行きます。

気になるアニメですけども、
「ファラえもん〜」は、藤子映画の常として、
泣ける良い話に仕上がってと信じてます。
物語は、異世界での出会いと別れとか。<誰とですかと。
別れの辛さに大泣き&落ち込むボロ太を慰めるファラえもんの株は、
天井知らずに上がり放題です(という己の願望です)。
ファラえもんでなければ、
キテレツファラミアとボロ助で、大百科とか。
やなせたかしで、姉妹→兄弟変換して、
「ファランパンナちゃんと、ボロールパンナちゃん」とか。

…言い逃げ。

100萌えの下なる名無しさん:2004/06/04(金) 21:42
・・・そしてエオバーガーキッドと。


・・・・・・言い逃げ。

101萌えの下なる名無しさん:2004/06/05(土) 01:40
WOW!もう100スレですか。
記念に・・・も何にもならないけど、夜更けに小ネタを投下させて頂きます。

<ボロ/ファラ しるけ有り>
直接的描写はありませんが、何しろ近親ネタの上、呆れるほどへぼんなので、
イヤな方にはスルー推奨。1スレ分しかないし。









彼の手はいつも優しい。
その手で、彼は私の手を取り、唇で触れ、
「美しい手だ。本来は剣や弓を持つべき手ではない。平和な時代でさえあれば」
と言う。
「でも、それではあなたのおそばにいられない。生も死も共に、との誓いは果たせない」
私は答える。
彼の手はまた、私の髪に触れ、頬に触れ、そして私の体を辿る。
「ああ、しかし、おまえの部下たちは優秀だ。しっかりした盾となっておまえを護り、おまえの体に忌わしい傷を残さない」
「それは名誉でしょうか」
と、私は言う。
彼の体には、大きさも形も様々な傷痕が数多くある。それは彼の名誉だ。
怖れず怯まず、常に先頭に立って、わが国とそこに住む人々を護ろうとした証し、彼の意志と誇りと愛情の表象。
むしろ敬虔な気持ちで、私はその傷痕のひとつひとつにくちづける。
くぐもった声を上げ、彼は私を押しとどめる。
「おまえは、目に見える傷などつけてはいけない。おまえのいちばん深い傷は、見えない所にあるのだから。そして、それを癒すすべを、私は持たぬのだから」
なぜか、涙が溢れそうになる。こぼれ落ちる前に、彼の唇がそれを吸い取り、そしてまた、私の唇に触れる。
自分の涙の味がするキス。その後の温かい抱擁。
「こうしていて下さるだけでいい・・・」
私の声はかすれる。
「不思議だ」
と、彼は言う。
「おまえは、倫理や道徳を重んじる人間だと思っていた。それなのに、このことについては何のためらいもないのだな。初めから」
そう言われることの方が、私には不思議だった。なぜなら私は、これを人倫にもとる行ないだと考えたことは一度もないからだ。
「あなたはためらっている?今でも?」
「おまえは弟だ」
「そう。だから・・・」

彼の手はいつでも優しい。
その手が、私の髪を撫で、涙を拭い、肩を抱き寄せ、私の体をしっかりと抱きしめてくれる。そして、そのまま寄り添って眠る。
子供の時も今も、そのことに何の変わりがあるだろう。その絆を更に完璧なものにする為に、いったい何のためらいが必要だと言うのか。
罪だと言うなら、確かにこれは二重の罪。しかし、私にとっては二重の祝福。

「いつでも、おまえの望む通りにする」
結局、彼はそう言うのだ。
「おまえの望まぬことは何ひとつしない」
あにうえ、と呼びかけると、彼はそっと首を振った。
「名前を呼べ」
「・・・ボロミア」
より深く、より完璧なキスが、それに応えてくれる。
愛しているか、と問うことさえしない。それは既に自明のことなのだから。
生まれた時から、私がその中にあった愛。私の知るただひとつの愛が、ここにあるのだから。


・・・・・・失礼しました。もう寝ます。

102萌えの下なる名無しさん:2004/06/05(土) 01:54
SSが読みたいとか、叫んでもいいですか。
3日あいてないのに欲求不満なんて、贅沢杉ですか。

>>100

>・・・そしてエオバーガーキッドと。
××バーガーキッドってどんなキャラだったかな、と
ぐぐってみたところが…。はまりすぎて!笑い死ぬかと。

唐突に、SSを貼り付けていきます。
>15にある、セオドレド×ファラミア話の割愛部分にして、
導入部です。出して良いものか迷ったのですが。
手持ちをはき出せば、しるけ部分にも勢いがつくかと。
得体の知れない名無しのお嬢さんが出てきます。
カップリングがないので、登場人物を列記しておきます。
4〜5分割で。

<ファラミア/ローハンの娘さん/ボロミア/セオドレド> 1
















「お前の見識が立派なのは、わたしも感心せざるを得ないところだ。しかし、見聞の方はどうかな」
 と、彼の兄は思ったらしい。本人の前でそう口にしたのだから、間違いはない。余計なお世話だと思いもしない弟は、兄、ボロミアの勧めに従って、彼が言うところの「見聞を広める」ための旅に出立することとなった。
 兄が提案した行き先は、ローハンだった。異を唱える理由はどこにもなかった。ファラミアにとって行き先などどこでも構わないようなものだったし、ローハンならばむしろ願ったりだった。
 デネソールは、ファラミアのローハン行きを快諾した。ボロミアの口添えが功を奏したばかりでなく、執政家の人間が若い内から近隣諸国の統治者の知遇を得ておく事は、ゴンドールにとって有用だという判断からだろうと、ファラミアには思われた。
 旅には、ボロミアが同行することに決まった。ローハンが、ファラミアにとって初訪問の地だということもあり、デネソールの後継者が顔を見せるのは、礼儀にかなったことだった。ただ、執政家の人間が、二人も同時に国を留守にするのは決して望ましい状態だというわけではない。ボロミアの滞在は、最小限にとどめておくことになり、そのためボロミアは、ファラミアを送り届けて翌日には、故国に引き返す形で話が整った。
 ボロミアの同行は、ファラミアにしてみれば嬉しくもあり、申し訳なくもあった。
 そのままを伝えるとボロミアは、わたしもたまにはあの国の駿馬が見たいのだよ、と言って笑った。もう一つ、と、ファラミアが聞いてもいない事をボロミアが付け加えた。セオドレドに会えるからな、とボロミアは機嫌良く言った。セオドレドが、現ローハン国王のセオデン王の世継ぎでボロミアとは同い年である程度の事は、ファラミアも聞き知っていた。セオドレドを話題にするボロミアがあまりに愉快そうだったので、ファラミアの内には、まだ見ぬセオドレドに興味が湧くのだった。
 話が整うと、兄弟は、最小限の荷物と手回りの者を伴って、早速といった体で旅だった。

 到着した兄弟は、ローハン王セオデンの歓待を受け、その日の夜は、兄弟のためにと、身内だけを集めたささやかな宴に招かれた。
 セオデンは、恐縮する兄弟をよそに早々に宴の席を辞していった。年寄りのお守りはつまらないだろうから、と、客人には聞こえぬよう、彼の息子に耳打ちをして。
 残された格好になった若い者三人は、床に敷かれた毛織物の上に車座になって、酒を酌み交わした。セオドレドは、兄弟の従者達もこの場に呼ぶつもりでいたらしかった。ボロミアは、それを遠慮した。戦場を離れて主従が同じ場所で共に飲み食いする習慣は、兄弟の国には無かったので、兵達が緊張するからというのがその理由だった。
 セオドレドのその申し出を、ボロミアから聞かされたファラミアは、これが見聞を広めるということかと、妙なところで感心したものだった。
 セオドレドが、ファラミアの杯に酒を満たしながら、上から下までファラミアの姿を眺め回した。
「ファラミア殿は、まことご立派になられた」
 感慨深げなセオドレドの物言いは、ファラミアには意外に思えた。
「わたしの気のせいでなければ、ですけれども。まるで、セオドレド殿は過去わたしに面識があられたように聞こえるのですが」
「気のせいなどではなく、わたしは、お小さい頃のあなたにお会いしておりますよ」
 セオドレドが、ファラミアの顔を真っ直ぐ見て微笑む。さて、対照的なのがボロミアだった。それまで機嫌良く酔っていたと思えば、今はセオドレドをまるで睨み付けるように見ている。気付かないファラミアではなかった。
「どうしました」
「いや」と、ファラミアに向き直ったボロミアの顔からは、先ほどまでの険は消え、いつもの顔で笑って見せてさえいた。

103102:2004/06/05(土) 02:01
>>101女神様
リロードすれば良かったと、今ほど思ったことはないです。
それ以上に、ご降臨うれしいです。ありがとうございます!
今はまともに感想を書ける気がしないので、お詫びとお礼だけで
失礼させてください。
SSを堪能できる明日が、楽しみです。

104101:2004/06/05(土) 10:22
>102様
こ、こちらこそすみませんでした。よりにもよって、あのへぼ・・・と言うか
へっぽことバッティングだなんてすごい災難に遭わせてしまい、申し訳ありません。
どうか、アレのことは捨ておいて、続きをお書き下さい。セオドレドのお話、私も
楽しみにしておりましたので。

105102:2004/06/05(土) 15:12
>>101=104様

こちらのうっかりにも関わらず、あたたかいお言葉、
ありがとうございます。落ち着きました。そして、楽しみにしていた
SS拝見しました。

萌えの方は、落ち着くどころではないです。
なんでも望むとおりにとか言いながら、自分の満足もしっかり
追っちゃう兄上が、すごく兄上らしくて好きです。
兄上としては、大将の体には、ちょっとも傷がついちゃいけないんですね。
自分は、傷なんて気にしないし、傷だらけのくせに(笑)
部下をいつの間にか「愛する民」ではなくて、弟を守るための盾として
見ちゃってるなんて、弟ばか(萌えワードです)兄上の本領発揮かと!

そして愛する対象には枷なんかないと思うし、そう言い切っちゃう
潔い大将が好きです。大将に大いに同感です。
なんで、あの兄弟はあんなにお互いしか見えないのかと。
なんでと言いつつ、生まれながらなのだろうと決めてかかってるのですが。
そこがまた、萌えポイントだったりします。

いとおしさたっぷりの兄弟をありがとうございます。
本当に、この兄弟ってば、一緒にいるだけでなんといいますか、
あやしげな空気を醸しすぎです。
自分にとっては、兄弟の萌えポイントがこれでもかと凝縮されたSSでした。

それなのに、壊れた萌え方しかできなくて、申し訳ないです。
萌えでお返しできれば良いのですが。力の及ぶ限りやらせていただきます!

106101:2004/06/06(日) 00:39
>105様
ひー、あの、あまりのへぼんさに自分でもろくに読み返していないような代物に
過分なお言葉、痛み入ります(汗
ひと言余計な付け足しをすると、弟君って、アタマはいいかも知れないけど、
或る面でどうしようもなく何かが欠落した人だという印象があるのですよ。
原作、映画、fan-fic(w ごっちゃになった勝手なイメージですけどね・・・

107萌えの下なる名無しさん:2004/06/06(日) 14:24
お引越し後初カキコ&初投稿(絵)です。

>89女神様を拝見し、「二人とも酔ったらどうなるのか」と思ったのが発端ですが、
女神様とこの御兄弟とは別物のような気がしますだ。オラドコデマチガッタダカ(´・ω・`)
http://souko.s4.xrea.com/fellowbbs1/bbsnote.cgi
のNo.182になります。






4コマ目がないのは仕様です。

108萌えの下なる名無しさん:2004/06/06(日) 21:48
>>101=106様

>或る面でどうしようもなく何かが欠落した人

分かる気がします。簡単に分かった気になっちゃいけない事かもしれませんが。
紙一重すれすれといえば、大将に失礼かもですが、でもそう思ってます。
頭のいい人は、一般人とは、どこかずれてるという偏見持ちです。
理屈に合うことだけが、人を動かしてるのではないと。そういうところを
理解しきれないんでは、など。

兄上が言う、いちばん深い見えないところにある傷に実は、興味津々なのですが。
いずれ、突っ込んで書かれるご予定などお持ちでしたら、たいへんうれしいです。
(クレクレ厨は嫌われます)。

>>107女神様

兄弟の酒盛りを絵で見られるなんて、思ってもみず。
興奮してなにがなんだかです。すみません。
イラストの感想をご迷惑かもですが、書かせていただきたく!
そちらはイラストの方に、レスさせてください。

109萌えの下なる名無しさん:2004/06/07(月) 23:17
>101様
兄上は罪の意識にさいなまれながらも光を求め、
弟はおだやかに微笑んだままで
地獄に落ちていくのも厭わない、そんな兄弟でしょうか。
といっても、中つ国に「地獄」の概念があったわけではないのでしょうが。

>102様
セオドレドのファラミア馬鹿一代、
続きを楽しみにしています。

>107様
お好きでなかったら申し訳ないのだけど、
ちょっと坂田靖子さん風のとぼけた雰囲気が
なんともいいですねえ。
兄上、果たしてどんな反応を示すのやら。
(坂田さんには常々、執政家やハセヲさんの優雅な生活
を書いてもらえたらなあ、なんて思っています。)

110萌えの下なる名無しさん:2004/06/08(火) 18:52
>102のつづきを貼らせてください。
まとまりなくて申し訳ないです。

<ファラミア/ローハンの娘さん/ボロミア/セオドレド> 2















「セオドレド殿。その話は蒸し返さない方が我々のためではないだろうか」
 困惑混じりの表情で、ボロミアはセオドレドを見ていた。
「なぜです。私にとっては思い出すのに心地良い、微笑ましい記憶なのですが」
「あれが微笑ましい」
 ボロミアの提案を、一向に意に介さないセオドレドに対して、ボロミアは、むっつりと黙り込んでしまった。
 話が飲み込めないままに、ファラミアは反目する二人の顔を交互に眺めた。その視線が、セオドレドのものと合った時、セオドレドは僅かに肩をすくめた。
「言ってしまえば何の事はないお話です。私は、ファラミア殿ご生誕の儀に、父の供でゴンドールを訪問させていただいたことがあるのです。ファラミア殿にはご両親と、ボロミア殿が付き添われていたのを記憶しておりますが」
「セオドレド殿」
 まるで言葉を遮るかのように、幾分きつい色を含んだボロミアの低い声が響いた。
「承知しました。この話はこれまでに致しましょう」
 赤子だった自分の記憶にない祝いの席で、ボロミアにとって何か面白くないことがあったに違いない。でなければ、セオドレドが今、聞かせたような事は既にボロミアの口からもたらされていただろう。何か分かるかとファラミアはボロミアの表情に気を付けたが、そこから意味のある感情を読み取ることは、ファラミアにも出来なかった。
「そんなお顔をなさらずとも、私は、ファラミア殿を取るような事はしませんよ」
 セオドレドは、ボロミアの顔を面白そうに覗き込んでいた。ボロミアの機嫌は、ますます怪しくなっていく。また、ボロミアはそれを隠そうともしなかった。
「取るだの取らないなどと、人の弟を掴まえて物のように言われるか」
「何をかいわんやです。誰より、それを理解しているのが私でしょうに。物であれば、見合った対価を払えば得られるものをです」
 セオドレドは、笑った。
 ボロミアは、目に見えて憮然としていた。二人の会話を聞きながら、薄々ではあるけれども、ボロミアにとってのわだかまりが何であるのかが、分かってきたようにファラミアには思えた。だから、ファラミアは自分の兄を抱き締めたい衝動にかられたが、場が場であるだけに、とりあえず忘れることにした。
 それにしても、とファラミアは思う。
 憮然としつつもセオドレドの物言いを許しているところを見ると、ボロミアは、セオドレドをかなり好ましく思っているのだろう、と。

 酒も進み、夜も深まりはじめただろう頃、ふと、ボロミアがセオドレドの耳に何事かを囁いた。受けたセオドレドは神妙に頷いた。そして、ファラミアは、思いもしなかった言葉を、ボロミアの口から聞いた。
「これから、わたしはセオドレド殿と折り入っての話があるので、先に休んでいなさい」
「お話、ですか」
「申し訳ない。お部屋にはお世話をさせていただく者を控えさえておりますゆえ、ご不便のないよう、何なりとその者にお申し付け下さい」
 セオドレドが、ファラミアに頭を下げた。
 突然の事に、決して釈然とはしないものの、年長者二人にそう言われると、ファラミアは承諾せざるを得なかった。
 宴はお開きとなった。兄弟のためにと整えられた一室に、セオドレドはファラミアとボロミアを案内してくれた。
 そこは一見して申し分の無い寝室だった。たっぷりした広さの部屋には、天蓋のついた寝台が二つ見えた。天井に届き、外側に向かった壁面全てに備えられたガラスの入った扉の向こうはテラスになっていて、その向こうは、おそらく庭園である。日の光の元で見たなら、緑がよく映えるだろう。外を眺められる位置には、居心地のよさげなソファと背の低い机の対があり、別の壁面には、物を書くのにいかにも適した、机と椅子が備えられているのだった。そうして、セオドレドは一人の女性を、部屋付きの者だと言って二人に会わせた。
 ボロミアは、もはや不機嫌ではなかった。
「ではファラミア。セオドレド殿のご厚意だ。兄に遠慮なく、休ませていただくよう」
「不調法にて、ご不便をおかけするやも知れませぬが、部屋係も出来るだけの事は致しますゆえ」
「お心遣い、かたじけのうございます」
 ファラミアはセオドレドに一礼し、同い年の二人が、自分の前からどこかに消えるのを見送った。
「何かの困りごとが起こればお呼び立てすることもありましょう。その時にはお願い致します」
 そう告げて、ファラミアは部屋係を下がらせた。

111萌えの下なる名無しさん:2004/06/08(火) 18:53
<ファラミア/ローハンの娘さん/ボロミア/セオドレド> 3













 初めて訪れた土地の見知らぬ部屋に一人になって、ファラミアは嘆息した。
 テラスに続くガラスのはまった扉の前に立って、すっかり闇に覆われた外の風景と、続いて、空に目を向けた。
 様々のことがありすぎた。
 旅の過程は思い出しても愉快なものだった。見る物、聞く物すべてが物珍しいとまでは行かなかったが、ボロミアの言葉の通りに、書物で見ていた事物を肌で感じることもあったし、書物にないものを多々目にした。道すがら、ボロミアは、自分が見聞きした諸々の事の話を、ファラミアに語った。それらは、ファラミアの興味を満たしてくれるものだった。いざ到着してみても、セオデン王やセオドレドが見せた歓待は思いの外居心地が良く、ファラミアを快くさせた。
 解せないのは、ただ一点だけだった。
 ファラミアは、次の誕生日が来れば二十歳になる。既に、兄の後ろについて回らなければ気が済まない子供ではなくなっているとはいえ、ボロミアがここにきて、自分を一人放っておくのに不思議な感じが拭えなかった。なぜなら、この年齢になってなお、ボロミアは、何かにつけてファラミアの世話を焼きたがっていたからである。そもそも、この旅にファラミアが出ることになったのも、ボロミアの意向といえば意向だったはずである。
 敢えて付け加えるならば、ボロミアが自分を一人にした割に、己だけはやたらに楽しげな様子だったのが、ファラミアにとってあまり愉快なことではなかった。ファラミアは、ここに来る前から、セオドレドに会うのを楽しみにしていたボロミアを思い出し、自分を納得させるしかなかった。数日の逗留を許されているファラミアとは違い、ボロミアは明日の朝にはここを発つ身だ。別れれば、二人が次に会うのはいつとも知れない。だから、時間は惜しいのだろう。
 それにしても、だ。
 理屈で理解したところで、心に生じた引っかかりが消えるわけではなかった。
 我ながらつまらない事ばかり考えている、と一人ごちたファラミアは、ボロミアの言う通りに、さっさと休んでしまうことに心を決めた。
 丈高いローハンの者に合わせているに違いなく、二つ並んだ寝台は、並のゴンドールの者よりよく育った兄弟にとっても十分な大きさがあった。その真っ白な上掛けに、客人のために用意された清潔そうな部屋着がきちんとたたまれて置かれていた。
 ファラミアは、それを有り難く借りることにして、のろのろと着替えると、ベッドの一つに腰掛けた。寝ようとは決めたが、眠いわけではなかった。
 すると、扉を叩く音がした。ボロミアが帰ってきたのかも知れない。などという考えがファラミアの頭をかすめた。
 ファラミアは立ち上がり、自分で扉を開けた。

112萌えの下なる名無しさん:2004/06/08(火) 18:56
<ファラミア/ローハンの娘さん> 4
大将に女性が絡みます。苦手な方はご注意願います。












 しかし、開いた扉の向こうに立っていたのは、偉丈夫ではなかった。
 夜半の訪問者は、二人いた。一人は、既に見知った部屋係だった。その彼女が、まだ少女といっても差し支えないだろう年齢に見える女性を傍らに連れていた。
 嫌な感じがした。
 これから休むところだと告げようとするファラミアの機先を制して少女が口を開いたので、ファラミアは口を挟む機会を失った。少女は、ファラミアに深々と頭を下げた。
「遠方より、ようこそいらっしゃいました。大切なお客様が、ご退屈なさらぬようお相手を務めさせていただきますよう、言いつかって参りました」
 少女の言葉が終わると、部屋係もお辞儀をして見せた。
 今となっては、疑問は何もなかった。
 ボロミアは、是非ともファラミアをこの部屋に一人にしたかったに違いなかった。だから、ボロミアはセオドレドと消えたのだ。そうすると、目の前の少女はボロミアがセオドレドに頼んで寄越させたのであろう。そう考えれば、少なくとも辻褄は合う。
 ありがた迷惑な話ではあったが、恐らくはファラミアのためにと、お膳立てしてくれた年長者二人を、無碍にすることなど出来ない相談だった。何せ一人は自分の兄であり、もう一人は一国の世継ぎかつ、自分がしばらく世話になる相手である。
「お心遣い、恐れ入ります」
 ファラミアが少女に片手を差し出した。少女は、その手に戸惑いを隠せないままの視線を落とし、それから、彼女の隣に控えた部屋係の顔を仰いだ。部屋係の女性の目配せを受けた少女は、差し出された手に、おずおずといった風情で己の手を重ねた。少女は、働き者を思い出させる手をしていた。
「それでは、お休みなさいませ。ご用がありましたら、いつでも隣にお声がけを」
 部屋係は、少女を客の寝室に残して、一礼すると部屋を出た。しばらくは聞こえていた足音も、やがてやんだ。
 取り繕いようもなく落ちつかなげな少女を、ファラミアは部屋のソファに導いて座らせた。
 自分はといえば、机に備え付けられた椅子をソファの傍らに運んで来、そこに腰を下ろした。見上げてはくるものの、どこに視点を定めて良いのか迷っているらしく、彷徨っている少女の視線がファラミアの気持ちを暗くさせた。
 少女が身につけている上等の薄衣は、蝋燭の薄明かりの下でも、少女に似合っているように見えた。けれども、それを少女が決して着慣れている様子はなく、少女からふわりとのぼる甘やかな香りすら、少女には馴染んでいないようだった。少女の、膝の上にきちんと揃えられた両手には、心なしか不自然な力が入りすぎているのが見て取れて、ファラミアはどうにも痛ましい気持ちに襲われた。しかし、それら一切を、ファラミアはおくびにも出さなかった。
「わたしは、まだあなたに名乗っていなかったね。わたしは、ファラミアと申します。数日の間、こちらにお世話になる者です。どうぞ、よろしく」
 目を合わせて語りかけると、少女が口を開こうとした。が、ファラミアは敢えて言葉を繋いだ。
「あなたの名前を、わたしは知らない方が良いかと思う。理由は聞かないでいただきたいのだが。よろしいですか」
 なるべく穏やかに、少女に告げた。
「わたくしは−−」
 細く、上ずった声が少女の口から漏らされた。
「わたくしは、わたくしのお役目を言いつかっております。わたくしは、ファラミア様のお言葉に、否はもうしあげません」
 言うと、唇を引き結んだ。
 どうあって、明らかにそれを生業にしているわけではない様子の彼女が、ここに来るよう定められたのか。ファラミアは、心中に去来する様々を押して微笑んだ。

113萌えの下なる名無しさん:2004/06/08(火) 18:58
<ファラミア/ローハンの娘さん> 5
大将に女性が絡みます。苦手な方はご注意願います。














「あなたは、物語はお好きですか。歌は、いかがです?」
 伏し目がちだった少女が、大きな瞳を更に大きく見開いて、ファラミアの顔をまじまじと見つめた。
「わたしは、それらを好んでおります。ここは、わたしにとっては初めて訪れた土地です。わたしの知らない伝承や、物語をお聞かせいただければ、大いに役立ちますし、慰めになるのですが」
 少女の喉から、戸惑いの色を含んだ息がかすかに漏れる。
「立派なお国から来られた、立派なお客さまをご満足させるようなものを、わたくしが、お聞かせできるとお思いでしょうか」
「立派、などとおっしゃる」
 ファラミアは、緩く首を振った。
「わたしが思うところによれば、人にとって本当に価値あるものとは、ひとびとが、その暮らしのうちに持っているものです。わたしは、書物に親しみますけれども、ひとびとが経験しているものがあってこそ、それらが価値あるものとして現れるのですよ。何より、書物では得られないものを見聞するために、わたしはこちらに参ったのです」
 ファラミアの言葉に、少女は、目を瞬かせた。
「わたくし、そのようにおっしゃる方には、はじめてお目にかかりました。失礼でなければ、わたくしが存じているものごとを、お話出来ると思います」
 初めて、少女の顔に明るさを見て、ファラミアは目を細めた。
「それは、わたしにとって、ありがたい言葉です。あなたは、わたしを喜ばせてくれる」
 目に見えて恐縮する少女を前に、ファラミアは笑みを絶やさない。
「お話とは素晴らしいものですが、その前にもっと、楽しくなることがあると思いますよ。何か、飲み物をお願いしてきましょう。甘い菓子が、お好みでないなんて事は無いでしょうね?」
 何かを言いつのろうとする少女を、手でやんわりと制して、ファラミアは椅子を立った。「あなたが、あなたが言いつかったことに忠実であろうとするように、わたしのわがままを叶えるよう言いつかってる方もおられるのですよ」
 そうして、ファラミアは部屋を出て部屋係の詰めている隣室に向かった。
 ファラミアが一人で部屋に戻ってからほどなくして、部屋には、葡萄酒と色とりどりの菓子が乗った盆が運ばれてきた。
 ソファと対になった台に盆を置いて係の者が部屋を辞すと、残った二人は、盆を覗き込んだ。ファラミアが機嫌良さそうに笑うのにつられたのか、少女も自然に笑みを見せるようになっていた。
「さて、この素敵な葡萄酒を、わたしにいただけますか」
 ファラミアが差し出したグラスを、少女は慣れない手つきながら葡萄酒で満たした。
「そして、わたしは、あなたに差し上げましょう」
 カップの一つに少女の手を添えさせ、ファラミアが葡萄酒を注いでやった。ファラミアの方から、軽くカップ同士の縁を触れ合わせ、葡萄酒を一口飲み下す。ファラミアが頼んだとおりに、甘い葡萄酒だった。
「口を潤して、お腹がくちくならなければね。弾む話も弾まないというものです」
 そして、共犯者の顔で少女の顔を見、笑った。

 夜がとっぷりと更けて、葡萄酒の瓶が空になった頃、少女のまぶたが重くなってきたようにファラミアには見えた。それでも、睡魔と必死に戦っているらしい。少女が、はっきりと目を閉じることは無かった。これが潮時だろうとファラミアは思った。

114萌えの下なる名無しさん:2004/06/08(火) 19:00
<ファラミア/ローハンの娘さん> 6
大将に女性が絡みます。苦手な方はご注意願います。















「さて。わたしは、もう休みますが」
 ファラミアの一言に、少女がはじかれたように顔を上げた。恐らくは飲みつけていない酒を、それなりに口にしたため、その顔は赤く染まって見えた。
「幸い、寝台は二つあります」
 ファラミアは、兄弟に一つずつ用意された寝台を視線で示し、少女に向き直った。
「誤解しないでいただきたいのは、わたしがこう言うのは、あなたに、同じ寝台に入りたくないような、何かの欠点があるからではありません。あなたが語ってくれたお話に、わたしは満足させていただきました。ですから、あなたは、十分に言いつかったという役目を果たしている、とわたしは思います。そして、あなたは、わたしの言う通りに、わたしの使う隣の寝台に入って、休まなければなりません。なぜなら、あなたは、わたしの言葉に、否とは言えないはずですからね」
 噛んで含めるように、そんなに年の変わらないように見える少女に対して、ゆっくりと話して聞かせる。
「お言葉のままに、いたします」
「上出来です」
 今すぐにでも眠り込んでしまいたいくらいなのだろう、気丈に振る舞おうとしてはいるものの、少女の口調はおぼつかなくなっていた。足下も怪しいものだと、ファラミアは伺いを立てることなく少女の手を取り、体に気を付けながら寝台に連れて行った。それでもいくぶんか、ためらいを見せる少女を促し、布団に潜り込むのを確かめてから、ファラミアは少女にお休みを言った。
 そうして、自分の寝台に寝転がると、明日は兄が部屋に来るだろうから、その前に起き出さねばと心を決めて、ファラミアも眠りに落ちた。

 翌朝は、思っていたよりも早く、まだ外がほの明るくなりかけた頃に目が覚めた。
 隣の寝台を覗くと、少女は眠っているようだった。
 寝台から起き出し、少女からは死角になる位置を選んで手早く着替えた。部屋係が詰めているはずの、隣の部屋を訪れて、昨夜に飲食したものの片づけと、湯を頼み、居住まいを整える。
「まだ、お休みになっている方がおられるのでね。ごくお静かにお願いいたしますよ」
 と、念を押すことも忘れなかった。
 すっかり支度が調うと、少しばかりの心の痛みには目をつむり、夜が明けきらないうちにと少女に目覚めを促した。少女は、目を開けた。夢の中をたゆたっているようで、像を結んでいないだろう視線だけがファラミアに向けられていた。彼女の頭が、状況を把握するのを待って、ファラミアはその顔に微笑みかけた。
「お早うございます」
 声を潜め、囁くように告げる。目覚めた少女は、寝台から跳ね起きた。
「お早うございます。このような姿はお目にかけて良いものではありませんのに。申し訳ございません」
 寝台を立ってうなだれる少女の、寝乱れて皺の寄った着衣を、どこから見ても立派になるようにファラミアは整えてやった。
「あなたは、あなたに定められたおつとめを十分に果たされましたよ。わたしは、あなたが、わたしを大変満足させてくださったと、しかるべき方にお伝えさせていただきましょう。ただ、今は、ご自分の場所に戻らなければなりません。じきに、わたしの連れが、この部屋に来るはずですが、あなたが彼と顔を合わせるのは、わたしの望むところではありませんので」
「おっしゃる通りに致します」
 少女は、彼女なりの礼を取ると、早々にファラミアの前を辞そうとした。
「待ちなさい」
 声をかけられた少女は立ち止まり、踵を返してファラミアの元に歩み寄った。次の言葉を待つような表情を浮かべた少女の額に、ファラミアは唇を押し当てた。どう反応してよいものか分からないのだろう。動きを止めてしまった少女に、ファラミアは穏やかに微笑んだ。
「これは、わたしの国での挨拶で、感謝のしるしです。わたしは、あなたが、わたしのために大変よくつとめてくれたと思いますので。さあ、お隣のお部屋に行けば、あなたはきっと安心しますね」

115萌えの下なる名無しさん:2004/06/08(火) 19:03
<ファラミア/ボロミア> 7 【ラスト】
大将と兄上。














 昨夜に、少女を招き入れたときのようにファラミアは手を差し出した。今度は、少女は間違えなかった。重ねられた手を引いて、ファラミアは彼女を扉まで見送った。
 一人になったファラミアは、ソファに体を投げ出した。備えられていた水差しから自分でグラスに水を取り、一息にあおった。朝は少しずつ近づいてきてはいたものの、人々の活動が始まる時間にはしばらくあるようで、外からの物音はごく僅かに過ぎない。二度寝というのも業腹ではあるしと、ファラミアは天井を振り仰ぎ、目を閉じた。

 朝の日差しが強くなる前に、ボロミアは、自分たちにとあてがわれた部屋に戻ってきた。扉を一応叩いてみるものの、初めから返事は期待してはいないようで、ファラミアの声が返るのを待つこともなく、扉を開いて体を部屋に滑り込ませた。
 まず様子を窺った寝台には誰の気配もないと見て初めて、ボロミアは部屋の中を見回した。
「何をなさってるんですか」
 ソファに身を投げていたファラミアは、座り直してボロミアを見ていた。
「ファラミア」
 探していた人物を見つけると、ボロミアは大股に歩み寄り、ファラミアの隣、体が触れ合うほどの近くに座って、ファラミアの顔を覗き込むように見た。
「朝が早すぎるようだが。何か不都合でもあったか」
 怪訝な顔、というより、何かを心配しているかのようなボロミアに、ファラミアは笑って見せた。
「ありません。昨夜は、わたしなりに、大いに楽しませていただきました」
 何を楽しんだとは、ファラミアは言わなかった。
「そうか」
 あからさまにボロミアがほっとした顔を見せたので、ファラミアは大きく息をついた。
「今日はもう、発たれるのですね」
「ああ。王へのご挨拶が叶い次第、発つ」
「…お気を付けて」
 少しばかり力の無いファラミアの声をどう取ったのか、ボロミアは、いつも見せる笑顔で力強く言った。
「続く滞在の事は、セオドレド殿にくれぐれもとお願いしてある。わたしがいなくても、何ら不安に思うことは無い」
「何もかもお世話をかけます。ありがとうございます。…今は、少し休みます」
 閉じた目はそのまま、ファラミアは呟いた。
「疲れたか」
「そうですね。昨夜は、いささか夜更かしが過ぎました」
「たまには良いとも」
 力のない声の調子に、ボロミアは弟の顔を覗き込むと、寝るのに具合が良くなるよう、体の位置を変えてやる。
「食事には、起こして下さいよ」
「兄を信頼せぬか」
 そう言って、ボロミアは笑った。笑うと、それにつられて体が揺れるので、触れ合ったファラミアの体も心地良く揺さぶられた。
 今日の陽が、いつもよりも寝坊であれば良いのに、とファラミアは心の中だけで呟き、昨夜は自分の元に無かった体温を、体の深くにまで感じながらまどろみの中に身を委ねた。

116>102,>110-115:2004/06/08(火) 19:10
スレを、これでもかと消費してすみません。
板の趣旨を考えると、申し訳なさ倍増です。

次なるお目汚しは、
セオドレド×ファラミアにて、【完】としたいです。

117萌えの下なる名無しさん:2004/06/10(木) 10:05
>>102,>>110-115女神様
続きが読めて嬉しかったです。これがあのセオ/ファラにつながるのですね。
いたいけな娘さんを気遣う大将、素敵です。自分だって二十歳そこそこなのに。
しかし、この大人で紳士な人が、セオドレドにはされるがままになってしまう
のですか!?(w
と言う訳で、そちらの続きもよろしくお願いいたします。

>>107女神様
兄弟のほのぼのバカップルぶり・・・好きです(w

しかし>109様。坂田さんは指輪があまりお好きでない、どころかそもそも
読んでいないという話を、以前エッセイで書かれていた記憶があります。
あの方の絵でホビットたちとか見てみたい気はするのですけどね・・・

118萌えの下なる名無しさん:2004/06/11(金) 10:05
>109様、>117様
お声をかけてくださってありがとうございます。
切りの良いところまで。とりあえず、2分割で。
なんかツッコミどころ満載ですが、ご勘弁ねがいたく。

>>30の続き
<セオドレド×ファラミア/キス程度> 1















 寝台が置かれている側は想像していたよりも、広く感じられた。
 セオドレドに促されて、ファラミアは寝台の縁に腰掛けた。部屋の主はとえいえば、寝台の脇にしつらえられた飾り棚に向かい合っており、何かを手に取り上げているように見えた。
「広いですな」
 敷布に片手を這わせ、柔らかく織られた上等の木綿が持つ手触りを心地良く確かめながら、目にしたままをファラミアは告げ、自分が履いているブーツを片方ずつ、足から抜いて、揃えると自分が座っている物の下に潜り込ませ、腰かけるだけではなく体の全体を寝台に上げた。
 自分の体のせいではない重みで、寝台が沈み込む感じがした。顔を向けると、セオドレドが隣に同じく腰を下ろし、かれの体の陰になる側に、棚から取ったものだろう何かを、寝台の隅へと手から離しているところだった。
 自分に見える横顔からは何も読めなかった。
 ファラミアは、寝台の隅々に視線を投げてから、セオドレドに向き直った。
「この広さなら、馬と一緒にでも寝られそうですな」
 セオドレドは、燭台の明かりの下でも分かる、世にも奇妙な顔をした。
「さすがに馬は寝台に上げませんが」
「冗談です」
 笑って良いのかどうかセオドレドが迷っているように見えたので、黙って寝台の縁で膝を抱えたところに、遠慮無しな体がファラミアの体に寄り添わせされた。肩と肩、腕と腕、それに腰が触れ合うと、否応なくその存在を突きつけられている気分に囚われた。それを、手っ取り早く自分の内に馴致しようではないかと、その肩口に顔を寄せて意識的に大きく呼吸をすると、嗅ぎ慣れないにおいが体を満たしてくるようだった。
 土地が変われば、空気の匂いが変わると聞いたことがあった。確かに、この国に近づくにつれ、故国と違う空気が周囲に濃くなっていくのは感じようとせずとも、感じられた。その、ゴンドールにあるのとはまったく異質な匂いを、この国の世継ぎもまた身の内に持っていた。馴染みの無いそのにおいに、好意を抱くか嫌悪になるかは、まだいずれにも振れるだろう事だったものの、これから決まるのだろうそれがどちらになるのかは、ファラミアにとっては間違いなくセオドレド次第だった。
 ファラミアの後ろ頭の髪に手が回されてきて、自分の頬に自然と落ちてくる髪が、長い指で耳の後ろに取りのけられたのが分かった。暖かい手と指が頬を這っていき、ゆるくうねりのある髪を、指の間に髪の細い束を通すようにして、横顔から後頭部にかけて梳き、ファラミアの耳にかけた。それが、くすぐったくて−−いや、まるで誰かがいつも自分に対してそう接してくるように、幼子扱いされているように感じられて−−ファラミアは声を殺して笑った。セオドレドはといえば、そんなファラミアに目を細くしてさえいたので、急に自分の行いが、状況に相応しくないような気がして、早々に笑いを引っ込めることが出来た。
 ややあって、セオドレドが口を開いた。
「お互いの、好きなものの話をしましょう」
 セオドレドの提案に、ファラミアが顔を上げると、靴を自分の足から取りのけながら、セオドレドは言葉を足した。
「ただし若干、趣向を加えてです」
 靴を脱いでしまい、ファラミアに体を向かい合わせて、寝台の上へと座り直したセオドレドの方へ、ファラミアは、抱えていた膝から腕をほどいて身を乗り出した。
「それはなかなかに面白そうです。して、いかなる」
「一言につき、一つの口づけを」
 ファラミアは実のところ面食らったが、おくびにも出さなかった。そうしたことは、得意だと自認していた。何も好きこのんで身につけたわけではなく、さもなくば日々がままならぬ事だと自ら知れたときに、体得を選択せざるを得なかった技量だった。
 セオドレドの狙いが言葉それ自体なのか、それに付随する接触なのか判じかねたが、おそらくは両方だろうと思い至って、随分と欲張りな話ではないかと、半ば呆れ、半ば感心させられた。ファラミアの興味を強く引いたのは、行為でも言葉でもなく、セオドレドの出方だったが。

119萌えの下なる名無しさん:2004/06/11(金) 10:07
<セオドレド×ファラミア/キス程度> 2
 2分割予定が3分割に。すみません。















「では、言いだした方からお願い致しましょうか」
「願ったりです。では、馬と」
 少しの迷いもなく返ってきた答えが、いかにも名馬の産地と名高い国の世継ぎらし過ぎて、ファラミアは、この五つ年上の丈高い青年を、自分の兄にそうしているように、抱き締めたくなったのだが、衝動は叶わずに消えた。ファラミアが行動を起こす前に、唇をセオドレドのそれに触れられたからだった。かすめるように一瞬だけで離れた口づけとも呼べないような感触に、ファラミアは堪えきれず、肩を震わせて笑った。子供の挨拶でも、もう少しはまともに成されるものではなかったか。一度に全てを白日の下に晒さず、探られているのだという可能性は、経験が深いとも言えず、加えてそうした趣味も持たないファラミアには、さっぱり浮かばなかった。
「わたしの番ですな」
 真っ先に頭に去来したものを、ファラミアは口にしなかった。不審げな顔がファラミアを見ていたのに気付いたけれども、何食わぬ顔で言葉を継いだ。
「白の塔…は、ミナス=ティリスに来られたのならご存じでしょうが」
 説明を加えるつもりもなく、自分に与えられたのと同じだけの、軽い口づけを、ファラミアはセオドレドの唇に与えた。
 触れられるのと自ら触れるのと、どちらも同じくすぐったさをファラミアの内に沸き上がらせた。理由は分かっていた。やはり彼はどこか、自分の兄を思い出させるのだ。セオドレドではなく自分自身に責のあるそれが、ファラミアにはひどく恨めしかった。
「他には。馬が、すべてでしょうか」
「まさか。わが父もです」
 言葉が終わると、柔らかい感触がファラミアの唇を包んだ。触れ合わされるだけにせよ、初めのものよりも口づけらしい口づけに、ファラミアは目を閉じた。まるみを帯びた弾力を、お互いにいい加減味わって、それらは離れた。
「わたしは、歌が好きですよ」
 自分の物ではない唇の感触が消えぬうちに、セオドレドのそれに口唇を触れ合わせると、セオドレドの舌が歯に阻まれて行き先を失うまで、唇を割って口腔に入って来、並びの良いファラミアの歯に舌を触れさせながら、唇の狭間を急がず慌てず、左右にゆっくりと撫でていった。唾液に滑らされる舌が心地悪いわけではなかったが、いつ終わるとも知れない気がして、自分の舌先を伸ばして唇に挟まれた舌をつつくと、顔を触れるか触れないか程度にだけ離して、セオドレドが笑った。
「可愛らしい従兄弟たちも好きです」
 言葉を交わす暇も惜しいとでも言いたげなセオドレドから、唇を包み込むように、ファラミアは深く口づけられた。緩やかに何度か唇を吸われたので、自ら上下に唇を薄く割った。すかさず、舌が歯の上下の間に差し出され、上顎の内側をなぞってくる。緩い動きを止めない舌の裏側に、自分の舌先を触れさせると、舌縁を辿るようにセオドレドのそれが触れてきたと思うと、舌を触れ合わせたまま口を吸われた。さて、どうしたものかと考えている内に、ファラミアは開放され、一息入れることが出来た。
「書物も好きです」
 ファラミアは喉の奥で笑った。セオドレドは訝っているようだったが、人物を挙げ始めたセオドレドに対して、自分は物ばかりを口にしているのが可笑しかったのだとは、告げなかった。そうして、セオドレドの唇に唇を触れた。申し合わせていたわけでもないのに、どちらともなく舌がお互いの口腔を求めた。それまでよりもはっきりと舌が触れ合わされたせいだろう、セオドレド自身という他には、何にも喩えようがない味と、匂いがした。まだ、体に馴染んでいるわけではないけれども、決して不快ではない味が口中に広がり、鼻を抜ける。

120萌えの下なる名無しさん:2004/06/11(金) 10:08
<セオドレド×ファラミア/キス程度> 3 【とりあえずラスト】















 喉を小さく上下させて、口腔に溢れ始めた唾液を、ファラミアは少しずつ喉奥に流した。触れ合っていた舌が引かれたと思うと、再び合わさったときには、舌と共に唾液がファラミアの口中に、ねっとりと入り込んできた。思わず目を見開き、舌を使って、彼のものだか自分のだか、既に判然としないものではあったが、それでもセオドレドのものはセオドレドにと、自分の口腔にある舌に思うだけの唾液を擦りつけた。お互いの舌の間で、なめらかにそれらが混ざり合うと、もう一度喉を使う必要に迫られて、ファラミアは舌を引いた。
 セオドレドが閉じた口の内側で舌を口腔に擦りつけているのが、外側からから様子で分かった。
「ファラミア殿は行為を楽しんだ事が無いとおっしゃいましたが」
 何を思ったのか急に真顔で言われたことに、ファラミアはつい苦く笑った。
「自分が望みもしない相手と、何事であれ、楽しめるものですか」
「さすれば、今ある私の心中は、ご理解いただけましょう」
 締まった腕が背に伸ばされたと思うと、体を抱き込んできた。正直な人柄だと、ファラミアは初めて、彼の内にあるいくばくかを見た気がした。自分とて嘘はつかないが、しかし、それは正直さとは異なる性質のものだと思う。自分の内に無いものは、時にひどく好ましいものだ。
 自分の物よりも広い背にファラミアは迷わず腕を回し、その必要が無いほど体が触れ合っているにもかかわらず自分の体を、セオドレドのそれに寄せた。ぼんやりとした温かさを、体が味わっていた。このまま眠っても良いくらいだという思いを、ファラミアは打ち消した。それでは、せっかくの機会が不意になってしまうではないか。
「続けましょう」
「ファラミア殿ですよ」
「わたしは、セオドレド殿がおっしゃる番だと思いましたが」
 ファラミアにも見覚えのある顔を、セオドレドは見せた。先には、冗談を言ったときだったか。
「私は、ファラミア殿が好きですと、申し上げているのです」
 即答されて、ファラミアはセオドレドの顔を、それまでになくまじまじと見つめた。何故自分なのかと問うても仕方がない事は、ファラミアは既に知っていた。セオドレドは、言うに決まっている。ファラミアがファラミアだからだと。永遠に何の理解の助けにもなりそうもない言葉を、二度聞く気には到底なれなかった。

121118-120:2004/06/11(金) 10:11
色々と、のろくてすみません。まだ終わりません。
大将へんな人でごめんなさい。

女神様のご光臨、皆様の萌え話お願いしたいです。

122萌えの下なる名無しさん:2004/06/11(金) 23:52
>>118-120
お待ちしてました女神様!>>22の続きが読めて嬉しいです・・!
大将がなんだかとてもかわいらしいー。いったいどうなっちゃうの!
セオドレドのゆったりした攻め口がまたたまらない!くらくらしちゃいます・・。

123萌えの下なる名無しさん:2004/06/12(土) 12:19
>>118-120女神様
自分も相手のこともけっこう冷静に観察しつつ、流されていく大将・・・
あああ・・・

124萌えの下なる名無しさん:2004/06/12(土) 20:15
>122様、>123様
のろくさい話にお付き合いくださって、本当にありがとうございます。
なんとお礼を言って良いのかです。

>>120の続きなのですが。今回3分割で。
まだ終わらないのがなんとも申し訳ない限りです。

<セオドレド×ファラミア/脱衣程度)> 1 












 決して小柄とはいえない青年二人が体を伸ばしてなお、十分な広さを持った寝台の上で、二人は互いに体のぬくもりを与え、与えられていた。唇を触れ合わせながら、セオドレドの手に着衣の上から胸を探られると、喉の奥からくぐもった音が、どうしようもなく漏れた。今、セオドレドが要求している物を自覚したファラミアは、手を伸ばし、自分のものではなくセオドレドが着ているものを剥ごうとした。どうせ、お互いいつまでも着衣ではいないのだ。それならば、自分のものを自分で脱ぐという誰憚ることのない当たり前の行為よりは、セオドレドを脱衣させるという、二度とその機会が巡ってこないかも知れない行為を選ぶ方が、よほど有意義ではないか。しかし、蝋燭が投げかける不確かな明かりと自分の手の感触だけを頼りに、見慣れぬローハンの衣装を自分の意のままにすることは、さしものファラミアにも簡単ではなかったので、ファラミア自身に、そのつもりは無かったが、むきになっていたに違いない。
「ファラミア殿、ファラミア殿」
 笑いながら、セオドレドにファラミアの手は押しとどめられた。セオドレドといえば、片手をファラミアの服の合わせにちゃっかりと触れて、迷うことなく着衣をほどいていくのだから、たまったものではなかった。こんな些細な事でさえ、自分は、彼と比べても何も知らないのだと、ファラミアは思い知らされたような気がした。
 いい加減衣服を緩まされてしまうと、普段は確かに体を守るのに役立つ衣類も、鬱陶しく体の邪魔をしているだけに思えてくるのが不思議だった。そうしたファラミアの心中を知ってか知らずか、セオドレドはファラミアの腕を自分の背からやんわりと取りのけて、ファラミアが申し訳程度に引っかけているだけになった服を、ファラミアの体から、寝台の端っこに移した。
 ファラミアも逆らうつもりはないどころか、セオドレドの手を助けるために腕を伸ばしたり腰を持ち上げたりしたのだが、セオドレドの視線が、飾りたてる物が何もない自分の体を、何か眩しいものでも前にしているかのような目で隈なく見つめていくので、さすがに落ち着かない気分に襲われた。
 それではと、手をセオドレドの衣服にかけてみたものの、いっそのこと布切れを裂いてしまえれば話が早い上に、楽だろうにという埒もない思いを味わっただけだった。ほとんど何も成し得なかった手を、セオドレドがやんわりと掴んで、その衣服を留めている部分に導いたおかげで、ようやく目的が果たされることになったときには、無力感に溜息がつい漏れた。セオドレドはファラミアの手だけに任せず、自分で服を脱ぎ捨てるとファラミアの背を、両腕で引き寄せた。
 着衣で触れた時とはまるで比べ物にならない身体の、圧倒されるような存在感は、いつになくファラミアの気分を高揚させた。
 立てられたセオドレドの両膝の間に体を置く格好になって初めて、ファラミアはセオドレドの身体を自分のごく間近に見た。片手をすぐ目の前の肩に預けて膝立ちになると、大きな手に腰を支えようとでも言うのか、両腕に掴まれた。特段害は無いだろうと、任せ切りにして、セオドレドが自分にそうしたように、体の隅々まで見逃すまいと視線を落とし、鍛えられた筋肉の隆起の一つ一つの谷を、指で辿った。
 戦場でさぞかし役に立つだろう締まった体は、目にも肌にも心地良いとファラミアは思う。誰が植え付けた価値観だか、と、答えを知りすぎるほど知っている自分を、ファラミアは自分自身からはぐらかした。
 無骨であるのに滑らかさを持つ裸の皮膚は、ファラミアの意のままに差し出され、二度ほど顔を見ただけの他人に触れさせて、いかなるわだかまりを持つ様子も無い。
 決して愛撫ではなく、あくまで鑑賞でしかないファラミアの行為を、セオドレドは楽しんでさえいるようにファラミアには感じられた。むしろ、気にかけられているのはファラミアの方だった。
「面白いのですか」
 見事としか表現の仕様がない造形に、つい夢中になっていたファラミアだったが、頷く事で応える。
 そのとき、胸にちくりとした痛みが走った。

125萌えの下なる名無しさん:2004/06/12(土) 20:18
<セオドレド×ファラミア/触れ合う程度> 2

















 体の内のものなのか、外のものなのか、いずれにも覚えがあるファラミアは、彼には珍しく混乱した。ファラミアには自由に己の体を触れさせながら、セオドレドは、ファラミアの胸に顔を寄せ、その皮膚のごく僅かな面積を、ひどく彼の唇に吸った。痛みは一つに止まらなかった。少しずつ場所を変えて繰り返し与えられる、体のどこであるともなく痺れさせるような疼痛の連続に、姿勢を保持するのが耐え難くなり、膝立ちで持ち上げられていた腰を、自分の足に落として正座する格好になった。それでも、まだファラミアが求める、落ち着くという事態が叶わないと知れると、意識せずとも両腕を自分の体の後方に引き、寝台について体を支える助けとした。
 腰を抱えるようにして持ち上げる力を感じた。と思うと、後ろから片足にだけ膝裏にセオドレドの腕が入り込んで、足をセオドレドの肩近くまで高くすくい上げられた。突然のことに新たに平衡を得る暇もなく体は、腕の支えでは足りず背から寝台に倒れ込んだ。何事を理解する間も与えられぬまま、片足を折り曲げて持ち上げられ寝台に仰向かされたファラミアの体を、セオドレドは自分の体の下に抱き込んでいた。
 腕に抱えられた片方の足をセオドレドの肩に乗せられて、普段にない自分の体の形が余りにも無防備過ぎはしないかと、ファラミアを落ち着かない気分にさせた。
「苦しくは、ありませんか」
 セオドレドが顔を覗き込んだので、目と目が合った。幸い、鍛錬の成果もあり体が硬い方では無かったので、取らされた姿勢によって体が辛いということはなかった。だが、苦しくなければそれで万事、事も無しとはいかない。
「奇妙な感じがします」
 ファラミアの答えに、問いかけた者は笑って見せただけだった。そうして、何の予告もなくファラミアに心づもりもさせず、ファラミアの一番敏感な部分に指を触れさせてきた。
 息を飲んだ弾みに、喉が高く鳴ったのが、自分の発した音ながら−−あるいは、そのためか、ひどく耳についた。おそらく、身体を合わせているセオドレドにも聞かれているだろう。だから、ファラミアは当然のこととして、謝罪の言葉を口にした。
 セオドレドが困惑するのだとしたら、ファラミアの反応というよりも、むしろそれに対してファラミア自身が見せる対応だと、ファラミアは思ってもいないのだろう。それが火を見るよりも明らかで、セオドレドはファラミアに再び笑ってみせるしかなかった。
「ご自分の、なされることについて、これ以上は何もおっしゃいませぬよう」
 生来のものなのか、彼の生き様がそうさせたのか、見る者を安心させずにはおかない表情を、セオドレドは持っていた。だから、ファラミアは安んじていさえすればそれで良いはずだった。なのに、少しだけ、忌々しさが残るのは何故なのだろう。
 返答として、言葉の代わりにファラミアは腕を持ち上げ、セオドレドの背に回した。
 体にかかってくる、決して楽ではないが無理のない重みも、自分の体を抱く腕の強さも、触れ合っているせいか汗ばんで感じる彼の体が持つ匂いも、ファラミアはすべて自分のものとして、内に取り込もうとしていた。加えて、自分の下腹に無駄としか思えない異物感を与えてくる、セオドレドが持つ欲の、あからさまな発露の一端も。それもまた、かれの紛れもない、しかもより深い部分にある一部にはちがいないばかりではなく、自分とて、器官としては同一のものを有するものだ。にも関わらず、それが持たされている意味は、それぞれで決して同じではないように思えて、仕方が無い。
 それを分けるものの正体を渇望する自分を、ファラミアは自覚していた。おそらく、セオドレドはファラミアがまだ知らぬ答えを、その内に持っているのだ。そうでなければ、セオドレドは、自分に何を教えるというのだろう。
 欲求が明らかになればファラミアは、迷わなかった。そうして、ファラミアの関心を体現したセオドレドのものに、手探りに手を伸ばして、触れた。熱いのは、自分の掌なのかそれとも彼なのか。少しも理由がないのに、めまいがしそうだった。自分が理解しきれないものの、正体が知りたかった。だから、手の中に収まらない彼のものである器官を、掌に転がして、何かを探るように、指をその余裕なく張った表面に隈無く這わせていった。
 自分の身の上に置かれた大きな体が、僅かの間だが落ち尽きを失って身じろいだ。
 その体の持ち主の指が、自分が触れたのと同じ部分を、全体としてきつく戒めるのを感じたのと、胸を中心に、先ほどまでとは比べ物にならないほどの、強い痺れが走っていったのは、ほぼ同時だった。

126萌えの下なる名無しさん:2004/06/12(土) 20:20
<セオドレド×ファラミア/触れ合う程度> 3 【とりあえずラスト】















「ぅあ…」
 意図しない自分の声に、保持しているつもりの平静さが揺らぐのを、いよいよ抑えきれなくなりそうだった。せめて、声は自分がそれを本意として表しているのではないのだと、伝えらたなら、多少なりとも楽になれるだろう。ただ、つい先ほど念を押してきたセオドレドの言葉の意味が理解出来ないファラミアではなく、ならば、いかに空しい努力を必要とされようが、自分の内で処理する他は無かった。だから、ファラミアはせめて口を引き結んだ。
 固い、おそらくは健康的な歯に、胸の申し訳程度の突起が挟み込まれていた。適度に手心は加えられているにしても、滅多にない場所を押しつぶされる感覚と、そこが歯に食い込まれる感覚の双方は、仮に、どちらか一方だけだったにせよ、それだけでおそらくはファラミアには過剰だっただろう。決して己が選べるものではないが、口を開くのを自ら、良しとしないファラミアは、そうするともなく喉だけで呻いた。歯が当たっていく場所を微妙に変えながら、それに噛み合わされていくのは、ただ刺激を受け続けるよりも、よほど堪え辛かった。緩むとつい体を弛緩させることが叶う瞬間を期待するのだが、分かっている事ながら、安堵の息をつく間も無く、新たに加えられる刺激によって、儚い望みとして期待は潰えるのだ。いっそ、与えられるのが純粋に痛みのみだった方が、自分にはましかも知れないと思うところに、なめらかで温度のある舌に、目で見たわけではないが、歯の痕を残しているに違いない部分の周囲から中心を、執拗に撫でられた。
 上下の唇を合わせておくことはもはや叶わず、何を求めてなのか断続的に漏れ出る自分の声は、聞こえないことにした。
 セオドレドのものに触れていた指には、いかに意識しようとも、もう力が入らなかった。持て余した挙げ句、寝台の上に落ちるに任せて投げ出した腕を、セオドレドの背に戻すことも出来なかった。
 急に、自分のものではない呼吸がかかる皮膚を、過剰に熱く感じた。だが、ある部分が他より多少余計に熱を持っていようがいまいが、もはやどうでも良い事だった。すべて解放されるか、すべてを熱に委ねるか。選択肢はどちらかしか無かったし、選択はすでになされていた。
 気怠さと高揚感という相反するものを同時に、自分の身の内に突きつけられてくるのが堪えがたく、ファラミアは身をよじった。が、せっかく変えようとした姿勢は、セオドレドの体重に空しく押し戻された。望むと望まないとにかかわらず、ファラミアの体は従順に、セオドレドの意に従う他、どのようにもやり様がないのだと、今更ながら思い知ることになった。
 それでも自分の、ファラミアにしてみれば無駄に鋭敏なものを包み込んだセオドレドの手は、やはり、温かかった。
 それだけで、体のどことはいわず、痺れていくようだった。セオドレドのその手に、やんわりとした動きを与えられると、いや増していくその、落ち着かないが不快ではない感覚に、頭の先から足のつま先までを、自分の意志に関係なく支配されていくような気がした。
 汗ばんだ手をファラミアは掴む物もなく、きつく握りしめた。そうしたものの、それが余りにも空疎で、固められたばかりの指は、すぐに自らの意志でほどかれた。
 顎の裏側の、やわらかな皮膚にセオドレドの唇が触れたのは分かったが、それは、自分の喉が反らされているからだと、気付くことはなかった。ある意味急所としか言えない箇所を、異国の王子の前に晒してファラミアは、何をすることもなかった。無防備な喉の、皮膚がセオドレドの唇に与えられるちくりとした痛み混じりの痺れと、ゆるやかな、それでいて身体のすべてを、あるいはそれ以上のものをさらって行きかねない感覚とに苛まれて、ファラミアに出来ることといえば、それを望まないまま、息を乱すことくらいだった。

127>124-126:2004/06/12(土) 20:26
だんだん、言い訳が出来ない感じに。
すみません。後1,2回で終わるのではと思われます。

128萌えの下なる名無しさん:2004/06/13(日) 09:22
>124-126女神様!
大将ぎこちなくかわいらしく萌え萌えで、こんな感想はさむのも
大変恐縮なのですが、流麗な文章をとーっても楽しみにして
おります。だから長くなった言い訳なんてなさらないで下さいですよー。

129萌えの下なる名無しさん:2004/06/14(月) 00:11
>128様
心優しいご感想くださってありがとうございます。
空気が読めない奴なせいか、つい優しいお言葉に甘えてしまいます。
文章は、ときどき意味が通らないのを平気で見過ごしてます。ごめんなさい。

ところで、すごくエロくさい大将が見たいんですけど、そういうネタどなたか
お持ちじゃないでしょうか。

以下、妄想垂れ流しなので、なま暖かくスルーでお願いできれば(汗)

第二次性徴を迎えて兄上に一から面倒を見られる大将とか。
某エロゲーのパクリでアレですが、自分の不注意で、大切な人が生死の境を彷徨う羽目に
陥ってしまったために自分自身を許せなくなり、その自分に罰を与えようと、
自分から誘って恋人でも何でもない関係の人に体を任せる大将とか。
フロドは、大将率いるレンジャー部隊に囚われた時、夜中に人に言えないものを
見てるんじゃないかとか。

…大将スレの品位を一人で貶めてる気がしてきました。失礼しました。

130萌えの下なる名無しさん:2004/06/14(月) 09:01
>129様
品位も何も、しょせん我らは同じ闇の世界の、更に隠れ里の住人でございますよw
私も、イシリアンの森の中やヘンネス・アンヌーン周辺では何が起きているか
わかりゃしない、などと思いつつも、自分では書けませぬ・・・
と言うより、自分の文章では萌えられません。でも、人様がご提供下さるおさかな
なら、おいしく頂けます。
ので、まずはセオ/ファラの続きをよろしく(て、結局催促してますw)。

131萌えの下なる名無しさん:2004/06/14(月) 15:10
セオドレド×ファラミア、こっそり続きます。ペース落ちてます。2分割くらいで。

>130様
心強いお言葉ありがとうございます。
そして、ご催促頂けてるうちが花です。たぶん。

>自分の文章では萌えられません。
今までは無かった、つまらない妄想が止まらないのはそのせいかと!
自分がだらだらしてるせいで、おさかなのお裾分けをいただき損ねてるかも
知れないとか思うと、いてもたってもいられず。

<セオドレド×ファラミア/しるけうっすら/ファラミア馬鹿、再び> >126の続き 1













 時折、強張りを見せるファラミアの体は、その中心も例外ではなく、そこへと触れたセオドレドの指に確かな感触で押し戻す力を加えていた。
 セオドレドにはそれが、ひどく愛おしかった。
 愛しいものの体に回した腕を伸ばし、それが得も言われぬ心地良い手触りを持つ事を、己の皮膚で知ったその髪に指を触れさせた。そうすると、浅い息を繰り返しながらも、首がほんの僅か左右される。そこに、何を映そうというのだろう、ファラミアの目が、自分の顔を見上げてくる。それまでになく心細く見える年若い彼の、頭を自分の肩口に抱き寄せ、自分の耳の近くにその吐息を聞いた。浅く、止まらない溜息に似た色を帯びて繰り返される呼吸は、その持ち主が意図しようがすまいが、セオドレドの体の芯を、深く、否応なくくすぐってくる。自分ではない何かの力に動かされでもしたかのように、セオドレドが自分の内にある欲の、普段は眠っているその源を、自分の指に包んでいるファラミアのその部分に押しつけてやると、無意識だろう、抱えた足の内側に入る不自然な力が入るのと、肌にかかる息が、吐き捨てるような荒さを含むのが分かった。
 愛しいものを巻き込んだ指をきつく締めると、体の下でファラミアがそれと分かる音をたてて、息を飲んだ。
 それでも、口は開かれなかった。
 つい今しがた自分が告げたことを、この状況にあっても律儀に覚えているのだろう。それがまたいじらしくも愛おしさを掻き立ててくる。今、この時にあっても、ファラミア自身、そして自分自身さえをも含めた誰をはばかることなく、思う様この体を抱き締められたらどんなに良いかという衝動にかられる。
 こんなにも自分を捉えずにはいない生き物が存在するなどとは、あの、初めてゴンドールを訪れ、執政家の面々に面会した幼い日を迎えるまでは、考えてもみなかった。あるいは、子供の自分が見た夢であったやも知れぬと。自分自身が年月を経てあの時と同じ自分ではなくなろうとも、思いが募りこそすれ消えることは無かったし、今、自分が目に見、肌を触れているのは、疑うべくもない現実そのものだろう。
 歳月は人を変える。−−時に、己の想像の無力さを感じざるを得ないほどに、素晴らしく。
 かつて、自分はかれを宝物だと思った。今、かれを形容するための言葉は、持てそうにもなかった。敢えて名付けようにもそれは、愛だの恋だのでは決してなかった。支配を望むわけでもなかった。唯一確かなのは、どのような意味においても、かれに望まれたいと欲している自分だけだった。
 つまらない連想で、ふと、頭の隅をかれの兄の姿が掠めた。
 年齢のせいばかりではなく、ファラミアよりは遙かに自分と近しい関係にあるボロミアは、愚かにも、近くに在りすぎてそれが、いかなる価値を持つのか本当には理解していなかった。あるいは、傲慢にも。−−傲慢。そうかも知れない。そこに在るのがボロミアにとっては、当然過ぎるほど当然なのだろうゆえに。
 血のつながりの名の下に、いや、それさえ言い訳にしか過ぎないのだとでも言いたげに見えるほど、求め、求められるのが呼吸する事よりも、まるで当然であるかのように振る舞うのを、自分は目の当たりにさせられた。ボロミアだけではない。成人した後にセオドレドが初めて、二人揃って見た兄弟は、だ。
 それはそれで構わなかった。ボロミアと、自分とはまるで違う場所に立っているのだから。どちらがより幸福だろうかなどと比べる必要すらなかった。それぞれが思いたいように思い込んでいればそれで良い。それで全てだ。
 いくら触れても足りない唇に、唇を深く重ねて、呼吸のために乾いたファラミアの口腔に、濡れた舌を入れてやり、潤いを求めるファラミアの舌が、おぼつかない様子ではあるが、十分に湿っている舌に絡み、粘りを帯びた水分を自分の舌に舐め取っていくのに、舌を合わせた。そうしながらも、ファラミアの様子を見ながら、狭くした指でかれの先の終わりまでを、上下させていく。ファラミアは気付いていないのだろうが、寝台に伸びていたはずの足が、いつの間にか膝を曲げて立てられて、強ばったまま時折震えていた。呼吸のために大きく膨まされる胸も、どこか苦しげに見えたが、僅かたりとも、手を緩める気はなかった。

132萌えの下なる名無しさん:2004/06/14(月) 15:13
<セオドレド×ファラミア/文字通りしるけあり> 2















 汗が、形の良い額に張り付かせた、乱れてなお彼の顔立ちを映えさせる色の薄い髪を、頭に回した手の指で退けてやりながら、引き込まれるようにファラミアの表情を見つめた。そして、セオドレドは、自分の知る限り誰の物でもない頬に、自分の頬を重ねた。汗を滲ませてはいるものの、繊細な、セオドレドから見てもまだ若い体が持つ皮膚は、まるで吸い付くようで、願望が勝るがゆえの思いこみに過ぎないにしても、それが自分を受けいれようとしているかに思えて仕方がなかった。
 なぜだか、ファラミアが、不意に表情を緩めたのが見えた気がした。落ち着く筈のない呼吸は相変わらずだったが、ファラミアは、寝台に預けていた腕をゆるゆると持ち上げて、セオドレドの髪に指を差し入れて、絡ませた。
 セオドレド自身さえ思わないことに、身に鳥肌が立った。
 ファラミアの中心にあるものをゆるく上下していたセオドレドの指が、ファラミアにしてみれば、無理な力でそれを締め上げた。
 突然の事に、ファラミアは高く声が上がるのを、とどめることが出来なかった。
 咄嗟に、年長の彼の名を呼ぼうとしたが、加えられた行為に意味を持った言葉は奪われた。絞られた指が、激しいまでの性急さで、ファラミアの体を誘おうとしていた。体にきついはずなのに、セオドレドの望むままに反応を返している自分のままならない部分を、ファラミアは心の内で呪おうとした。が、それも長くは続かなかった。逆うのを望んだところで逆らいきれない、身体の内から出口を要求してくる苛烈な感覚だけを、ファラミアはいつしか追っていた。片方の足を不自然な形に縛められ、出会って間もない見知らぬ異国の人間の体に体を拘束され、自ら選ぶこと無しに、まるでセオドレドの意志の他には何も自分を動かし得ないのだとでも言いたげに、体は無邪気なほどに追い立てられていく。セオドレドの強い腕がファラミアの肩の片側を、痛みさえをも覚えるほどの力で、寝台に押さえつけていた。ファラミアは、火がついたように叫んだ。身も世もなく体の自由を求めた。そのファラミアを待っていたのは、セオドレドの手の内に、無駄に体液を放出する瞬間だったけれども。
「…っん」
 背と腰が、セオドレドの体に阻まれずに済む程度まで跳ねた。後は、正体なく弛緩するだけだった。息を継ぐことのみで精一杯である中で、ファラミアはセオドレドの顔に、目を向けずにはいられなかった。ファラミアの体から溢れた、放置すれば決して清潔とはほど遠くなる液体を受けて、ファラミアが見たセオドレドもまた、乱れた自分の呼吸に対峙していた。茫然自失に見えるのは、自分の目がくるっているからだろうかと、ファラミアは、普段通りにはきかない頭の片隅にぼんやりと考えた。
 セオドレドは、初めに放った布切れを手探りに見つけて手を拭い、肩に抱え上げていたファラミアの足を寝台に横たえさせて、ファラミアの身のあり方をファラミアの意志に委ねた。

133萌えの下なる名無しさん:2004/06/14(月) 15:20
<セオドレド×ファラミア/しるけあるかも程度> 3 短いです。【とりあえずラスト】














「ご気分はいかがです」
 問いかけに、ファラミアは首を横に振り、セオドレドに自ら体を添わせた。
「…わたしには、申し上げられません。セオドレド殿を疑ってのことではなく、わたし自身の問題ではありますが、おそらく、何か言えばそれと意図せずとも嘘になりかねません。わたしは、それを望みませんので。…今は、確かに物が言えそうにも、ないのです」
 語尾が弱くなるのを、自覚したがどうにもならなかった。自分自身にとってさえ曖昧模糊なものとしてしか把握できない己の姿など、本当は誰の目にも晒したくはなかった。だから、自分の頭を、自分の片腕に顔を縦断させて抱えた。ただ、見る者が違えば、たとえ両者が同一のものを目にしているとしても、そこから得られる認識は異なるのだという、考えずともごく当たり前でしかない事実が、すっかり失念されていたので、セオドレドが一体、今のファラミアに何を見ているのかなどということは、ファラミアの思い至るところではなかった。
 背中側から伸ばされてきた腕が、両の腋を通り肩を拘束したと思うと、体を引きずられた。
 引きずった張本人は、大人二人が三人でも楽に寝られそうなほどたっぷりとしていて、かつ、見るからに柔らかそうな枕に背を預け、見ようによってはだらしなく体を伸ばして、その上にファラミアの体を仰向かせて引き上げた。無駄を蓄える気配はかけらもないファラミアの腹筋の上で、ファラミアの背後から体に回された腕が、取るに足りない程度の拘束力を発現させて、交差させられていた。セオドレドの両足の間から胸にかけて背を伸ばすと、ちょうどファラミアの頭がセオドレドの肩先に触れた。
 セオドレドは、ファラミアが落ち着きを回復するのを待っていたのかも知れない。息がようやく整った頃に首を少しだけ傾けて、間近にあるセオドレドの顔を見上げると、ファラミアも決して嫌うことができない、件の笑顔が目に入った。そして、セオドレドの肩が、ファラミアの頭を押しやって顔の傾きの角度を変えさせたと思うと、瞬きをしている間に、口づけられた。隙間もなく深く触れ合わされる唇の内側には、いずれの者にとっても既に、それがどちらのものであるかの区別など無いに等しかった。口中を繰り返して吸われると、自分の精が解放されたときのように頭の芯が働かなくなりそうで、何の解決にもならないと知りつつも、目を閉じた。
 一つの感覚が塞がれると、他に向けられる神経は意識せずとも敏感さを増すのだろう。セオドレドの体が与えてくる温度と、セオドレドのにおいが、皮膚に染みるようで心地良かった。自分のものではない滑らかな舌も、唇も、その味も。
 片方の足の、内側をセオドレドの手が筋肉の動きに沿って、撫でていた。その手に身を委ねて視界を得ぬまま、身を包み込むような温かさの内にたゆたうのは、ファラミアにしてみても決して悪いものではなかった。

【続きます】

中途半端な量が、はみ出すなんて…。ごめんなさい。
いつ終わりそうとか嘘になるので、もう言いません。
女神さまのご光臨、みなさまのご歓談お願いします。

134萌えの下なる名無しさん:2004/06/14(月) 20:51
はい!はい!ここにもこっそりエロを待ちわびている者がおります!
女神様、私の分までこれからもどんどんファラミア様を気持ち良くしてしまってくださいますよう!

ローハンガール、かわゆかったです。
贅沢を申し上げるならセオ/ファラに至る過程もリクエストしたく。

135萌えの下なる名無しさん:2004/06/14(月) 22:19
エロと素敵な連ドラを待たれているところすみません。
おつまみ置き逃げします。しるけ系のお話ではないです。
これを含め5レス分です。

前半(0/3)は現時点での「劇場版オンリー」のやさぐれ気味の大将視点、
後半(1〜3/3)はそれを踏まえた旅の仲間な複数とどたばたです。

受け取り方は人それぞれだとは思うのですが
・執政を継いでいるかどうかあれじゃわからないよー
・戴冠式もなんだかお客さんっぽいんだけど…
・式典中エオウィンとは隣にいたから笑いあっただけ?
・王の手エピソード無し(今のところ)→王様ともたいした接点無いんじゃ?
という、劇場版のみで最大限寂しい解釈から自己フォローしました。

ちょっと前の映画板本スレで、エオウィンとのことでいろいろ
書かれてたのを見て、ついつい書いたは書いたのですが、
最後まで書いてたら今になってしまいまして。

これで「ちっがーう!」と怒らない方だけ…
テーマ?は家出する大将、時はエレスサール戴冠式の日です。

それでは次から4レス、You must come with me.Now.

136135〜:2004/06/14(月) 22:21
<ネタバレ無し劇場版のみ大将・0/3>















空が青い。こうやって、思い切り天を仰いだのは久しぶりな気がする。

父が、いない。兄も、いない。自分を縛るものは、もう何もない。

青い、どこまでも青い空の下での戴冠式の中、私の胸には涼しい風が吹いていた。
還ってきた王という人物は、自分はほとんど知らない人物であったけれども、
来るべき時代を象徴するような、深くゆるぎない何かをたたえた人物であることはわかった。
戴冠式には、来賓にまぎれてこっそり出席してみた。出席してよかったと思う。
自分も含んだ古い時代が終わったことが実感できた。
もう自分は大将ではないだろうし、何くれとなく支えてくれた副官も、
死地に赴く自分に着いて来てくれた部下達も、既に誰もいない。
もう自分には、何も誰も残ってはいないのだ。

…自分だけ何故助けられたのか、自分が助かったところでどうなるというのか、
その煩悶もまだ少し残ってはいたけれど、それはもう真綿で首をしめられるような
息苦しさをもたらしはしなかった。どのみちこの思いは、おそらく今後一生連れて
歩くしかないのだ。さしあたって肝心なのは、自分は助けられて今生きているという事実。

式典はまだ続いていたが、王が通り過ぎた後にこっそり抜け出してしまった。
勝手知ったる城内にするりと紛れ込んで、さてこれからどうしようか。
このまま自分がミナス・ティリスに留まることは、新しいゴンドールにとって
いいこととは思えなかった。人々は自分の後ろに父の姿を思い出すだろうし、
兄の影を見て嘆くだろう。旧体制の面影は、新しい時代には鬱陶しい枷にしかなりえない。

…いや、それは単なる言い訳かもしれない。
人々が思い出すのは良かれ悪しかれ兄や父であって、目の前にいる「ファラミア」は
それを映す鏡に過ぎない、「ファラミア」を見ている人など、これまでもこれからも
いないのだという現実を思い知らされることに、耐えられないだけなのかもしれない…

…どこか、遠く離れた街でひっそり暮らそうか。
いや、傷もだいたい癒えたことだし、いっそ旅に出てみるのはどうだろう。
そうだ、もっとこの世界を見てまわりたい。
焦燥に駆り立てられることなく、寂寥にとりつかれることもなく、
まっさらな気持ちで見てまわりたい。
山も河も森も、きっと今までとは違う姿で目に映るだろう。
イシリアンを越えて、ローハンも越えて、どこまでも行ってみよう。
…そういえばさっき隣にいたひとは、ローハンの姫君らしい。綺麗なひとだったな。

そんなことを考えて、考えた自分に気づいて、心の中でちょっと笑った。
なんだろう、こんなこと考えられたのは、そんな余裕ができたのは、いつ以来だろう。
そうだ、旅に出よう。ここ数年のレンジャー暮らしで野宿は慣れてしまったし、
無茶をしなければ自分の身ぐらい自分で守れるだろう。

そこまで考えて、ひとつ、思い切り伸びをしてみる。
さて、善は急げ、準備をしなくては。
心には、涼しい風がまだ吹いているのがわかる。
振り返って窓越しに見た空は、まだどこまでも泣きたくなるほど青かったけど、
目に浮かんだ涙はこぼれなかったし、哀しいけれど悲しくはなかった。

137135〜:2004/06/14(月) 22:22
<大将と旅の仲間複数・1/3>















「さてアラゴルン、いやエレスサールよ、今後のことなのだが」
式典を無事に終えて、来賓達も思い思いに歓談しつつ大広間まで戻ってきた頃。
還ってきた王にガンダルフが話しかけてきた。
「そなたを補佐する執政のことで、話がある」
エレスサール王は心得ているように頷いて応えた。
「もちろんファラミア殿に執政を継いで働いてもらいたい。私には彼の助けが必要だ」
自分達が黒の門に出撃している間、独裁者を失って揺れるゴンドールを執政家の生き残りとして
しっかり統率し、これまで彼の父だけが携わっていた政治的諸事万端をきちんとまとめて
まるまる引き渡してくれたファラミアを、交わした言葉は少なくとも既に王は信頼していた。
それを見て、白い魔法使いも安心したように頷いた。
「新しい時代に、まことふさわしい新しい執政といえる」
しかし、王は何かに気づいたようにふとあたりを見回した。
「そういえばその彼はどこに…?式典中は見かけた気がするのですが…」
白い魔法使いは、そういえばその当人をしばらくほったらかしにしていたことに気づいた。
「はっ、うっかりしておった!…そもそも今日、式にいたのか?」

ガンダルフと今日の主役のエレスサールまで自分を探し回っているとはつゆ知らず、
元々少ない私物をさっさとまとめて馴染んだレンジャーの装束に身を包んだファラミアは、
すでに馬上の人になってミナス・ティリスの回廊を進んでいた。
しばらく進むと、背後から声がした。
「ファラミア!」
最近彼と知り合いになった小さい人が、彼に向かってまっすぐに駆けてくる。
ファラミア自身はほぼ意識がなかったために実感はないのだが、その小さき人が
自分の命の恩人であることは伝え聞いていたし、深く感謝もしていた。
「ペレグリン・トゥック、どうなされた。式典は?」
馬ごと振り向きつつ、少し距離をおいてその相手に向き合う。
「アナタがいなかったから、探してたんです。これからどうするのかなあって…
でも…どこかへ、行ってしまうの?」
その答えと問いに、ファラミアは視線を落としてわずかに微笑んだ。
この小さき人は自分を探してくれたのだろうか、自分を見てくれていたのだろうか、
そんな思いが彼の脳裏をよぎる。しかし、気持ちは全く揺らがなかった。
そしてピピンも、その微笑から既に答えを読み取っていた。
「…お元気で…そうだ、ホビット庄にも遊びに来て!美味しいものやビールやパイプ草、
たくさん用意して待ってるから!」
それを聞いたファラミアは、ふわりと微笑んだ。
それは以前の彼からはとても想像がつかない、晴れ晴れとした優しい微笑みだった。
「…ありがとう…いろいろ、本当に。…では、ペレグリン、お元気で!」
そう言うと彼はまた馬を返し、背中越しに軽く片手を振ってピピンに最後の別れを告げると、
軽い速足で馬を走らせはじめた。もう振り向くことも思い残すこともない…
そんなファラミアの後姿を、泣きそうに微笑んでピピンは見送った。

138135〜:2004/06/14(月) 22:23
<大将と旅の仲間複数・2/3>















ピピンがこっそり広間に戻った時、こっそりだったのだがあっさりギムリに捕まった。
「どこへ行っておった?まったく、すーぐ何かしでかすからな」
「友達のお見送り…何かあった?」
その問いには、いつの間にか隣に来たレゴラスが答えてくれた。
「うん、ファラミアって人を探してるんだって。これからのことで」
答えながらレゴラスは、目の前のホビットの目が泳いだのを見逃さなかった。
「?…何か、知ってるんだね?ピピン、話して。…ガンダルフ!」
逃げかけたホビットの首根っこは、エルフの王子とあうんの呼吸を持つドワーフに
よってしっかりと捕まえられていた。

「ばっかもん!なんで止めなかった!というか、ヤツもヤツだ!どうして毎度そういう
自虐的で悲観的な発想になるんだか!デネソールも息子の一人二人ちゃんとしつけとけ!」
お互い見ず知らずなエレスサール達とファラミアの間をちゃんと取り持ってやるのを
忘れていたこと、そもそもファラミア本人のことをすっかり忘れていたことを棚に上げて
怒鳴り散らしつつ、ガンダルフは中庭へ出た。戴冠式の準備等忙しかったのもあるのだが、
それを彼に手伝わせるということを考えていなかった自分にも腹が立っているらしかった。
「執政」として、どこかに役目を作ってやっておけばよかった…今更後悔する。
「ガンダルフ、あれ!」
いつの間にかガンダルフを追い抜いていたレゴラスが、彼ならではの身軽さで
目もくらむような高さの中庭の縁の上に立って身を乗り出し、彼方を指差している。
そこには、まだ戦闘の爪跡が残るペレンノールを駆けていく一騎のレンジャーの姿が
かろうじて見て取れた。

「彼は、笑ってるんじゃないかな…」
エルフの目で見たのか、レゴラスがつぶやいた。他の者にはもちろん目では全く
見えなかったのだが、ピピンだけは同意の言葉を告げた。
「うん、僕もそう思うよ…そんな気がする」
このまま行かせてあげて欲しい、その思いを瞳にこめて傍らの魔法使いを見上げた
ピピンだったが、魔法使いはその思いを察しはしてもあっさり一蹴した。
「ダメだ。今から追いかけるぞ。彼にはまだ教えなければならんことがある…
誰の代わりでもなく彼が彼自身として必要とされていることと、愛されているということを」
瞬間曇ったピピンの表情が、ぱっと明るくなって思い切り頷いた。

139135〜:2004/06/14(月) 22:24
<大将と旅の仲間複数・3/3>















飛蔭に乗った白い魔法使いにあっさり追いつかれ、しかも戻る道中に杖で小突かれながら
くどくどとその性根について説教されたファラミアが、大変気まずい顔で
ミナス・ティリスに戻って来たのはそれから少し後のことだった。
中庭までガンダルフに引きずられるように連れて来られると、その場にいた数名の中から
2人のホビット〜1人はファラミアが知っている、先ほど別れの挨拶を交わしたはずの
人物だった〜が飛び出してきて笑いながら彼の両腕にぶら下がって来た。
何がなんだか状況が全くわからなく、ぼんやりとした表情でその重みに耐えている
ファラミアに、還ってきた王がにやにやと笑いながら告げた。
「お帰り。短い間だったけど、家出は楽しかったか?我が執政殿」
呆然と目を瞬かせていたファラミアは、その言葉を聞いてはっとしたように何かを
言おうとしたが、彼が発しようとした言葉は他の数名の騒ぎに飲み込まれてしまった。
「面白い人だね。もっと真面目な人なのかと」
「ふん、まだまだ若いのう。拗ねとるだけだろ?」
「前にも思ったんですけど、結構びっくりすることしますよねキャプテンファラミア」
「サム!…僕、目が覚めてから貴方とちゃんとお話してませんでした。あの後のこととか、
貴方に何があったのかとか、いろいろお話したいです」
口々に話しかけられ、ファラミアはますます混乱した。自分に何が起こっているんだろう、
この人達は誰に何を言っているんだ?自分に語りかけているのか?私に?何故?
その混乱ぶりを微笑ましく、そして少し痛ましく見てから、王は再び彼に呼びかけた。
「ファラミア」
すがるように自分に向けられた揺れる薄青い瞳を、包み込むような気持ちで正面から
見返しながら、王は言葉を続けた。
「ここが、このミナス・ティリスとゴンドールの国が、君の家だろう?
いや、これまでに何があっても、どういう思いがあろうとも、ここは紛れもなく
君が君として守ってきた家で、故郷で、これからも守っていく場所なんだ。
他の誰の代わりでもない、ファラミア自身として…ね。みんなそう思っているんだよ。
君にここにいて欲しいんだよ…これからも頼む、執政殿」
ファラミアは何も言葉を返さなかったが、その潤んだ瞳は彼がその言葉と思いを
まっすぐに受け止めたことを雄弁に語っていた。

それからファラミアは不意にしゃがみこんだ。横のホビット二人を抱え込むように
手を回し、一瞬うつむいてから顔を上げて、目の前にいる一人一人を見渡して言った。
「私は、まだみなさんのことをよく知らない。だからその…知りたいと思うんだが」
その様子を見て、彼は今やっと本当に救われたのではないだろうか、とガンダルフは
思いながら、杖を振り回してその間に明るく割り込んだ。
「あーほらほらみんな中に入らんか。時間はたっぷりある、茶でも飲みながら
ゆっくりおしゃべりしようじゃないか…全く世話の焼けるやつばっかりじゃな」
一同は笑いさざめきながら、青い空の下にそびえる明るい白い塔の中へと入っていった。

その日、ゴンドールで27代目の執政が任命された。王が還り来た日の出来事だった。




おしまい。

140萌えの下なる名無しさん:2004/06/15(火) 01:03
>135-139様

>来賓にまぎれてこっそり出席
って、大将・・・w
でも、なんだかすごく切なくて、3/3まで読んだら、じんとして涙まで出てきて
しまいました。本当にねえ、大将、特に映画版大将には、いろんな意味で幸せに
なってほしいですよ。
そう言えば「王の手」のシーンて、画像としてはかなり前から出回っていて、
子供向けのフォトノベライズにまで載っているくらいだから、当然SEEに入れて
くれるものと信じています。





SEEでは、戴冠式とイシリアン大公御夫妻の結婚式を一緒に執り行なっちゃう、
大盤振舞いなんだか経費削減なんだか判らない王様が見られるという噂を
聞いたことがありますが・・・本当なんでしょうか?

141萌えの下なる名無しさん:2004/06/15(火) 01:17
通りすがりに失礼いたします(作品読んでないのにすみません)。

お話の前の<1/3>というのは、3分割分のうちの1つ目、つまり
「これから3レス分使用して投稿するから、雑談等の方はお気をつけ下さい」
という注意であるので、今回の>134-139様のような場合は
<*/4>とするべきではないでしょうか。
それほどレスが活発でないので、そんなに気にすることもないのでしょうが……

こちらのスレは女神様が絶えずご降臨で羨ましく思っているのですが、
長編投稿の際の分割数がなかったり(目安としてでも入れるべきでは?)
他スレ住人ながらちょっとハラハラしていたもので、
差し出がましいとは思いましたが、長文で苦言呈させていただきました。

142萌えの下なる名無しさん:2004/06/15(火) 02:22
(;´Д`)やれやれ

143萌えの下なる名無しさん:2004/06/15(火) 21:12
>>141>>142
申し訳ありません、どうか謝らせて下さい。
長文を分割数無しに投稿した者です。
141様のおっしゃる事、その通りだと思います。
投稿の際には目安を入れるべきですし、私のした事はマナー違反だと思います。
本来なら全て書き上げてからアップロードすべきでした。しかも分かっていて
したのですから確信犯です。本当に申し訳ありません。
また、皆様大人ですからおっしゃいませんでしたが、スレ寡占状態を見苦しく
お思いの方もいらっしゃったと思います。あえて苦言を呈してくださった
141様に感謝します。
スレの住人様方、女神様方、どうぞお気を損じて下さいませんよう。
心優しい皆様、どうかお聞きくださるよう。
土下座して済む物ならします。見えないと思いますけど土下座してます。
畳の上ですから痛くありませんけどごめんなさい。

個人的には最近他スレが活発化してきてとても嬉しいです。節操無しですので
レゴギムも大好物ですしメリピピスレのSSには涙ぐみました。アラボロスレの流れに
噴き、烽火リレーには前板より心躍らせていました。今はサムフロスレに
女神様が御降臨してくださるのをお待ちしています。
本当に申し訳ありませんでした。
そしてこれからも子馬亭に女神様がたくさん来てくださるのを楽しみにお待ち申し上げております。

144萌えの下なる名無しさん:2004/06/16(水) 00:53
>135-139女神様

泣きました、泣きましたとも、笑いながら泣かせていただきました。
大将〜・゚・(つД')・゚・  幸せになって下さいまし〜
しかし、
>そういえばさっき隣にいたひとは、ローハンの姫君らしい。綺麗なひとだったな。
って見るべきところはしっかり見てるんですね、大将w

145萌えの下なる名無しさん:2004/06/16(水) 09:56
>135-139様

大将は自分を、「ゴンドールのキャプテンファラミア」ではなく、
ただのファラミアとして受けいれることが出来たのだろうなと。
本当は親兄弟が生きてるときからただのファラミアとして
愛されてたはずで、だからこそ、旅の仲間のあの言葉なのでしょう。
自分については無頓着な大将、かわいかったです。

146SS投下 1/6:2004/06/16(水) 10:08
万年カレンダー、昨日はヘンネス・アンヌーンでぐれていた頃の大将、
本日は父君なんですね。という訳でーーー

<ネタバレ@ ファラミア/父君 ファラミア/兄君 しるけなし>

・第三紀3003年くらい。兄25歳、弟20歳の設定。
・/で区切ってあるのは、単にファラミア視点という意味。

多分6レス使う筈ですが、いつまで経ってもしるけもエロも色気も出てこない
話で、特に前半は、父と子がただただ陰険に会話しているだけという萌え所の
なさ・・・
それでも良いという方はおつきあい下さい。



ボロミアが、アンドゥイン河口を騒がせていた海賊を掃討してミナス・ティリスに還って来たのは、春たけなわの頃であった。
高齢の父に代わり、二十五歳にして、既に白の塔の総大将との名を冠されていた彼の戦果は、往年の英雄、ウンバールの海賊たちを一網打尽にした後、忽然と姿を消した、かのソロンギルにこそ及ばぬながら、その年齢を鑑みれば称賛に値するものであり、父執政は、
メレズロンドに於て大々的な祝勝会を設けたのであった。
その後、ボロミアは、白の塔の下層で、気心の知れた部下たち、そして都に残っていた弟のファラミアと共に内々の祝宴を開き、エールの樽をあけ、呑み語らった。
その時、ボロミアは弟に向かい、おまえも二十歳になったことだし、共に轡を並べ、ゴンドールとその都の為に戦おう、と言った。
「我らが共に行けるよう、私から父君にお願いしてみよう」
と言う兄の言葉を、ファラミアは誇らしく聞いていた。

ファラミアが執政デネソールの呼び出しを受けたのは、翌日の午後のことだった。
彼の父親でもある執政は、大広間の執政の椅子に座し、彼を待っていた。
「我が子ファラミアよ。そなたもそろそろ、実戦の場で部隊を率いることを学ぶべき時期が来た。執政の子、ゴンドールの大将と称されるにふさわしい働きを示すべき時がな」
低いがよく通る声で執政は言った。
勿論ファラミアも、初陣はとうに済ませ、戦術や用兵についても体系的に学んではいた。
「今朝、そなたの兄が予の許に参り、次に出陣する際には是非そなたを伴いたいと、願い出て行った」
では、ボロミアは約束を守ってくれたのだと思い、再び誇らしい気持ちと、そして兄への感謝と愛情が、ファラミアの胸に湧き起こった。
しかし、執政は
「予は彼に即答はしなかった。これはそなたの身に関わることゆえ、そなたに先に伝えるのが道理であるからだ」
と前置きした後、冷然と言い放った。
「残念ながら、その願い出は却下する」
ファラミアの心も一気に冷えた。
とは言え、これは、幼い頃より憶えのある経験に過ぎない。希望を抱かされ、それが一転して失望に転じるなど、特に父の前では、何度も繰り返されたことであった。
「そなたらは幼き頃より、共に同じ戦場に手を携えて行こうと口約束をしておったそうだが、ゴンドールの執政は、子供の戯言などに取り合ってはおれぬ」
父の言葉の陰に、かすかな嫉妬めいたものが見える。と、ファラミアが感じたその時、父は、その心を見抜くかのようにこう言った。
「その理由は、第一に、執政の息子を二人ながら同じ場所で失う危険は冒せぬからであり、第二に、それと関連するが、戦力を分散させるに当たっては、それぞれ信頼するに足る指揮系統を築くことが必要とされるからだ。以上により、予はそなたにイシリアンの野伏の統轄を命ずる」
失望は既に落胆に転じていたが、ファラミアは、なんとかそれを表情に出すまいとだけはした。
「イシリアンの守りは殊の外肝要であるが、そなたはそこで、そなたの兄とは異なる戦いをなさねばならぬ。山や森の中で、忍び寄る敵の影を少しずつ、だが確実に切り崩すに当たっては、戦略も用兵も、これまで机上で学んだ理論はさして役に立たず、むしろ実戦で得ることの方がはるかに多くなるであろう。そなたには老練の野伏共をつけてやる。彼らから多くを学ぶがよい。またそれは、そなたにはそういう場の方が適していると見込んでのことだ」
そう述べてから、執政はふと語調を変え、
「家臣たちやボロミアは、またさぞ、そなたを不憫がることであろうな」
と言った。

147Sons(タイトルです)2/6:2004/06/16(水) 10:13
一応下げます。














背筋に冷たいものが走るのを、ファラミアは感じた。父の命令にすぐにも諾と答え、この場を立ち去りたいほどだった。
「他人に不憫な者と思わせておくのも才能の一つとして利用できるようになるなら、予もそなたをそう呼んでやってもかまわぬが、して、そなた自身は己を不憫と思うか」
「思いませぬ」
かすれた声で、ファラミアは答えた。父は頷き、
「賢明だ。予もそなたを不憫だなどとは全く思っておらぬ」
と言った。
「分け隔てなく育てたなどと言うつもりは毛頭ない。実際、予はそなたら兄弟を分け隔てしてきたが、それは、ボロミアが世継ぎの長子で、そなたがそうではないからであり、他意あってのことではない」
本当に他意はないかと問う意思は、ファラミアにはなかったが、それにしても父は何を言いたいのであろうかという疑問は、彼の気持ちを落ち着かなくさせた。
彼の父は、表向きの言葉の裏に、常に別の意味を持たせつつ話をする人間だった。そして、そのことを読み取れぬ相手を軽蔑し、反面、それを見透かす者を嫌悪する類いの人物でもあった。
「そなたの立場が、予にも身に覚えのある位置であればなおさらだ」
と、父は意外なことを言った。
「ボロミアがゴンドールの希望の光であるなら、そなたは彼の影に位置することを運命づけられた者だ。予が、かつてこの都で星の鷲と呼ばれた者の影と見なされたように」
「ソロンギル」
ファラミアはその名を口にした。それが、父にとっては禁句に等しいものと承知の上だったが、しかし、それを耳にしても、デネソールが顔色を変えることはなかった。
「彼は大将の器を持ち、多くの者は、その上に王者の風格をさえ見出していた。ほどなくして、ソロンギルは賢明にも都を去って行ったが、彼奴がいる間、予は執政職の何たるかに深く思いを致すところとなった」
父がいかなる意図を以てその話をしているかは、依然として判らない。
「しかるに、現在ソロンギルの位置にいるのはボロミアであり、そなたの立っている場所は、かつて予のいた場所である。それは予が意図したことではなく、そなたらの資質によるものだ。かつ、執政の長子はそなたではなくボロミアであり、わが家系に於て長子相続の原則が崩されることもまたない。そして、これをこそ不憫と言うのだ」
と、父はまたもその言葉を用いた。
「かつて、彼が予に、執政が王になれる機会はないのかと問うたことがあったが、おのが立場と職務を受容すればよいそなたより、優れた王者の資質を持ちながら執政の跡取りたることを義務づけられたボロミアの方こそが、予は不憫でならぬ」

148Sons 3/6:2004/06/16(水) 10:18
続きます。ちょっと短いけれど、区切りの都合です。














一瞬の綻びに、ふと肩の力が抜けた。
これまで、言葉を換え、表現を弄して父が述べてきたことは、つまるところ、そこに帰結するものだったのかと思えた。
しかし、その時ファラミアの胸に去来したものは、決して怒りでも軽侮でもなく、むしろ父への同情だった。そして、そのような感情を抱いてしまったことを、父に気どられてはならぬとも判っていた。
加えて奇妙なことに、父の言葉からは、彼が既に「王還ります時」の予兆を得ているようにさえ感じられたが、それについても今は触れまいと思い、ファラミアは更に表情を引き締め、心を堅固に閉ざして、ただ、
「先ほどのご命令は確かに承りました」
とのみ言った。
「よろしい」
と、執政は言った。
「そなたは、そなたの意志により、その資質にそった方法で兄の佑けとなる道を選択した。しかし、敢えて問うが、兄の影となることに不満はないのだな」
「ありません」
と、ファラミアは答えた。不満と言えば、当分兄から離れなくてはならないことだけだったが、それを父に伝える必要もない。
「白の塔の総大将はボロミア一人であり、兄上の佑けとなれることは、私の誇りでもあります」
そして言った。
「しかしながら、父君、それは義務感によるものではなく、愛情に基くものです」
「愛だと?」
父の薄い唇が引き歪んだ。
「予の前で、軽々しくそのような言葉を口にするでない。また、そなたの申すそれは、いかなる類いの愛か」
再び、背筋に緊張が走る。
「兄弟としての愛です、もちろん」
鋭い灰色の目が、刺し貫くようにファラミアに向けられる。が、やがて、
「まあよかろう」
唇の歪みが、冷笑めいた形に変わった。
「いずれにせよ、愛などというもので人は動かぬぞ、聡明なるファラミアよ。このような時代にあっては特に、人はその運命の僕であり、義務の奴隷に過ぎぬのだから。大将と呼ばれる身となれば、その意味を噛みしめることにもなろう。まして、この先もはや、そなたの兄に護ってもらう訳にもいかぬとなればな」
そして、最後の命令が下った。
「出立の準備はこちらで整える。それまで待機し、大河の東岸の地理をもう一度頭に叩き込んでおくのだ」

149Sons 4/6:2004/06/16(水) 10:22
すみません!うっかりsage忘れました。
ああ、緊張で手が震える・・・
ここから兄君が登場します。












大広間を出た後、疲労感が一気に押し寄せてきた。
一対一で父と話す時には常に緊張を強いられてきたが、それは、父も遠回しに述べたように、自分たちの資質に似通ったものがあり、それをお互いに疎ましく感じながら、なお悪いことには、疎ましく思い合っていることさえも十分認識している為だったかも知れない。
その時、塔の入り口の大扉が開き、廊下の向こうからボロミアがこちらに歩いて来るのが見えた。
「ファラミア」
彼は立ち止まり、兄を待った。
「父君には今朝、一度お目通り頂いたのだが、また呼び出しを受けた。おまえの方はどんなお話だった?」
ファラミアは、ゆっくり首を振った。
「ご自分でお訊き下さい」
しかし、彼は、こう付け足さずにはいられなかった。
「執政の君は、子供の戯言になどつきあっては下さらないそうです」
「どういう意味だ」
兄は眉を顰め、弟の顔を覗き込むようにした。
「何があった。父君からまた何かーー言われたのか」
この人はいつもこんな顔で自分を見るのだ、とファラミアは思った。
自分が赤ん坊の頃から、五歳の時も十歳の時も、二十歳になっても、おそらくこれから先もずっと。
そして、父から面と向かってあのようなことを聞かされた後でも、ボロミアに対する自分の愛情と信頼が微塵も揺るがないのが、我ながら不思議なくらいだった。そこで揺らぐほどの思いであればいっそ楽だったのに、とさえ思えた。
そのまま、彼の胸に顔を埋め、子供のように泣き出してしまいたい。
そうしたところで、おそらく兄は驚くこともなく、肩を抱き、髪を撫でて、何も心配することはないと言ってくれるだろう。幼ない日々、そうであったように。
だが、ファラミアは、すんでの所でその衝動を抑え、
「どうぞ、父君の許に」
とだけ言った。
背中に兄の視線を感じつつ歩き出したファラミアは、途中一度だけ振り返った。
「どうやら私は、弓を修練しなくてはいけないようです、兄上。今度見て頂けますか」
ボロミアの顔が明るくなった。
「もちろんだとも。弓でも剣でも、何でも見てやるぞ」
この笑顔を憶えてさえいれば、どれほど離れていても、自分は自らを保っていけるだろうと、ファラミアは思った。
ーーー私たちは決して、互いを不憫な者だなどと思い合っているのではありません、父君。
胸にその言葉を収め、自分も兄に微笑を返して、ファラミアは白の塔を辞した。

                  ○

150Sons 5/6:2004/06/16(水) 10:26
まだ続きます。














弟の処遇について、ボロミアは執政に強く反対したらしいが、日頃長男に甘い父ではあっても、今回は
「執政の長子と謂えども、執政の決定を覆す権限はない」
と一蹴し、その半月後、ファラミアはイシリアンに向かうこととなった。さすがに愛では動かぬと言ったお方だけのことはあると、ファラミアはむしろ冷めた気持ちで、その成り行きに身を委ねていた。
彼が出立する二日前、ボロミアは、いかなる名目でか、執政の名代としてローハンに使いに出されていた。その時、ファラミアは見送りに出ることすら許可されなかったが、しかし、彼自身の出立に当たっては、執政自ら
「イシリアンは今がいちばん緑の美しい季節だ。それはまた、そなたたちの活動にとっても有利なものとなろう」
と、珍しく気遣いめいたことを口にしたのであった。

そして、北イシリアンにはいって、ファラミアは父の言葉の正しさを知ることとなった。
ヘンネス・アンヌーン周辺の森林は、森の空気を嫌うオーク共はもちろん、地理に不案内な異国の敵たちに対しても格好の防御となっていたし、何より、滴る緑や咲き乱れる花たちは、間近にあるかの忌わしき国の瘴気も、人の心をも浄化する作用があるように思えた。
自分より実年齢も実戦の経験も勝る部下たちが、何やら同情的な視線を送ってくることに、当初は閉口したが、彼らについて、山中を細い抜け道一つ一つに到るまで踏査するのは、辺りにどのような敵が潜んでいるか判らない緊張の下であっても、却って開放的な気分を与えてくれた。
体も神経も酷使するのは、余計なことを考えない為にも都合がよかったが、疲労感はあの白い石の都で父と対峙する時より少ないくらいだったし、平地での戦さとはおおよそ勝手の違う、この地形や環境ならではの戦術戦法を老練な部下たちから学び、討議しあうことは、思わぬ充実感をもたらし、なるほど、父は確かに自分に適した任務を与えてくれたと、今更ながら感心するくらいだった。
執政からは、時折、敵情に関する便りが送られてきたが、不思議なのは、前線に位置する自分たちの得た情報より、都からのそれの方が、より早く、正確な場合が間々あるということだった。
ボロミアからの便りは殆どなく、あったとしても、執政を通じての情報交換や業務連絡の類いであったが、互いに任務に追われる身とあってはそれもやむなしと思い、それ以上のことは考えないようにした。

ファラミアが再び都に戻ったのは、実にその半年後、木々の葉が黄金色に変わり始める頃のことだった。これから迎える冬に備える為と、とりあえずの休暇の意味もあった。
慰労の宴の席上、執政は、次子の前では滅多に見せることのない笑顔と共に、
「我が子よ、父の見込みは正しかったであろう」
と言った。ファラミアも素直に
「はい、父君」
と答えた。実際、離れてみて改めて、父への敬意を持ち直すようになっていたからでもあった。
父の傍らに控える兄は、その時には何も言わなかった。
ただ、ファラミアがミナス・ティリスの大門を通って戻った時、ボロミアは自ら馬に乗り、わざわざ最下層の広場まで迎えに来てくれていた。
野伏の装束に身を包んだ弟の姿を初めて見た時、彼は表情を曇らせた。
「日に焼けたな」
暫しの沈黙の後、兄は言った。
「それに随分痩せたようだ」
「ご心配頂かなくとも、兄上、私はあちらではきわめて充実した日々を送っております。木立ちの中で矢を射ることにもかなり熟達しました。また見て頂けたらと思います」
「ああ、弓でも剣でも見てやろう」
兄は、出立前と同じ言葉を口にした。それから、
「だが、今の私は、むしろおまえが書庫で古文書や巻物に読みふける姿が見たいと思う」
そう言って、どこか寂しげにほほえんだ。

151Sons 6/6:2004/06/16(水) 10:29
ラストです。どうにか6分割に収まりそうです。














宴の後、ファラミアが自室に戻ろうとすると、長い廊下の中ほどに、先に出ていたボロミアが立っているのが見えた。
「ファラミア大将」
と、彼は声をかけてきた。
「もうそう呼ばなくてはいけないな。私の望んだ形ではなかったが、ゴンドールの平和のため相携えて行くには、父君のおっしゃる通り、これが最善であったのかも知れない」
並んで歩き出しながら、兄は弟の肩に手を置いた。
「おまえを誇りに思うぞ、弟よ」
「私もあなたの弟であることを誇りに思います、総大将殿」
「もうおまえを守る必要もないのだな」
そう言って、ボロミアは、再会した時と同じ微笑を浮かべた。
自分の肩を抱く兄の手、以前に変わらぬその温かさを十分感じながらも、ファラミアは言った。
「私も、もはや子供ではありません。自らのいるべき場所も、あるべき姿も弁えております。ですから、私を憐れんで下さる必要も、もうないのですよ、兄上」
「憐れみ?」
問い返して立ち止まり、兄は弟の顔を見た。
「そんな風に思ったことはない。幼き日より、私はただ、おまえに執政の子として相応しい処遇を、また、より良い生き方をと・・・」
言いかけて、彼は不意に言葉を切った。
「いや・・・」
ボロミアは髪をかき上げながら、ひとり言のように呟いた。
「今回の件に関しては、それは嘘だな。いや、おまえの身が心配だったのは本当だが・・・」
「ボロミア?」
半年前別れた時とは、異なる何かを湛える灰緑色の瞳を、ファラミアは見た。
「私は、おまえの姿が見えないのが寂しかっただけだ。おまえが私の傍らにいないのが、ただつらかった」
妙に早口で、ボロミアは言った。
「おまえに会いたかった」
自分の中で、張りつめた弓の弦が切れるような音を立てるのを、ファラミアは聞いた。半年間抑えこんでいたものが溢れ出す。
「兄上・・・」
目を伏せ、ファラミアは頭を兄の肩にもたせかけた。
「私もあなたに会いたかった。兄上・・・兄上・・・」
震える声で口にすると、兄は片手でその頭を引き寄せ、もう片方の手を肩に回して、そっと抱きしめてくれた。
「よく帰って来た」
都でも王宮でもなく、自分の帰るべき場所はここしかないと、温かい腕の中で、ファラミアは感じていた。
「私たちは兄弟だ」
その想いに応えるかのように、ボロミアの声もまた、熱と震えを帯びる。
「何があっても、どれほど離れても、そのことに変わりはない。それを変えることは何ものにもできはしない」
互いの鼓動が一つに重なり、そして、その時初めて、ごく自然なことのように、二人の唇も重なり合っていた。


ーーー父君・・・

脳裡に浮かぶ灰色の冷厳な眼差しに向けて、彼は語りかける。

あなたはやはり間違っておられる。
あなたの理解も認識も超えた所に、それはある。私の頭ではなく、私の胸の内に、この身の奥に、それは確かに存在する。
私を動かす唯一のもの。私たちは二人だけでそれを育ててきた。
そして父君、それを生み出したのは、あなたであるというのにーーー

152146-151:2004/06/16(水) 10:40
>設置様
保管の際は、3、4、6それぞれの頭に一行空け願います。

<言い訳>
実は原作父君がわりと好きだった私。執政殿に対する巷でのあんまりな扱いには
涙を禁じ得ません。だからと言って、自分の書いているものが救済になるとも
思えませんが、次男坊に対する屈折しまくった愛情の片鱗でも感じて頂ければ
幸いです。
ソロンギルの話は余計と言えば余計なのですが、父君こちらにも屈折した愛憎を
抱いていそうなので、ちょっと触れてみました。

・・・にしてもmind reader同士の会話って疲れそー。書く方も疲れました。

153萌えの下なる名無しさん:2004/06/16(水) 16:31
弟が巣立ちの時期を迎えてちょっぴりさびしんぼな兄上(*´Д`) '`ァ '`ァ
愛情表現が複雑骨折してる父上(*´Д`) '`ァ '`ァ

そして
戦地が別となれば、これが今生の別れになるかもしれないと
毎度毎度出立前夜は5割増で濃厚な一夜を過ごすと予想。


(*´Д`) <・・・・・・。
(; ゚∀゚)=3

おいしく頂きました。ありがとうございます女神様!

154萌えの下なる名無しさん:2004/06/16(水) 23:26
>146-151様

後半、理屈ではない兄弟の愛情に、ひたすらに萌えました。
素直な兄上につられるのか、大胆に兄上と触れ合う大将に萌え。

前半、父上がソロンギル殿に抱いていた感情は、なかなかに複雑で、
父上の人生というものを考えさせられました。
大将にかつての自分を投影しているくだりには、大いに頷かせていただきました。
勝手な解釈ながら、立場の類似を認めればこそ、大将について理解もし、
甘やかしも出来ないのが父上かもと。
その父上に同情を感じる大将は、大人の格好良さをお持ちで、素敵。
惚れ直しました。

155<父上にとって大将とは?>1/2:2004/06/17(木) 21:44
二番目の息子は兄弟の父にとって、いかなる意味を持っていたのか。
人それぞれ解釈の違いをご理解いただける方向け。

以下ご注意。

・萌えなし・しるけなし・原作準拠。
・死に向かう父上・兄上死にネタ・死にかけ大将・デネソール視点。
・とにかく暗いお話。

>146-151女神様の素敵SSと共通した部分を含みますが、
これは、父の日が近いので父親話という発想に基づいた偶然の産物です。

2レス分使用させて頂きます。

<デネソールとファラミア、デネソールとボロミア/しるけなし>・1/2















 堅牢を世に誇ったミナス=ティリスの、城門が燃えていた。
 瀕死の状態ながらも帰館を果たした、もはやたった一人の息子は、黒の息の元に囚われようとしていた。
 デネソールが何より愛した長子も、彼なりに愛した妻も、とうにここにはいなかった。賢明にも最後まで父の元に残った二人目の息子さえ、仮に、運良く一命を取り留め得たところで、黒の息により、元のままの息子ではいられまい。その時には、もはやファラミアであってファラミアではない悪しき何かが、息子の肉体という殻を纏い、その悪しき者が戴くに相応しい主の元へと赴くのだろう。
 そのような勝手が許されて良い筈が無い。
 いかにあろうと、これは自分の息子だ。よって、これは誰にもやらぬ。悪しき存在にはいわずもがな、たとえそれが魔法使いだろうが、いずれ還り来る王だろうが、だ。

 自分は、旧い時代に生きた。自分の生の根拠は常に、そこに存在した。来るべき次代にではない。
 時代が、音を立てて動いていた。必然により、世のあり方は変わろうとしていた。動き始めた流れは誰であろうとゆるがせられぬ。人の子が、無力だからではない。動かせぬものこそを人は、運命と呼ぶからだ。
 その奔流の中にあっても、己の意志で決定されうる事は、必ず存在する。それは、己自身に対する己の処遇というものだ。
 
 虫の息にある息子が、もう一度口を開くやも、などというささやかな望みは、事ここに至っては、己を空しくさせるばかりだった。

***

 きっかけは忘れた。イムラドリス探索行へ単独で出立する直前だったと、時期については記憶している。おそらくは、ずっと心の内にあったのだろう。尊敬してやまぬ父に、珍しくボロミアが意見した。
「父上は、ファラミアを愛してはおられぬのですか」
 弟への愛情を隠そうともしない兄らしい言葉には、無条件に頬が緩んだ。
「なぜそのように聞く」
「父上のなさりようは、わたしとファラミアでは、幾分異なるよう思われてならぬのです」
「兄弟といえど、別個の人格であるという事に、よもや異存はなかろうな。個にはそれぞれ相応の接し方がある。そなたとて、そなたにとって同じく親とはいえ、この父と先に逝った母と、同一の態度を見せてきたとは言うまい」
 立派な体躯を持ち、総大将にふさわしく育ったゴンドール執政家の長子は、俯いた。
「そなたがいくつの時であったか。随分と、この父に対して我を主張し、手を焼かせおったな」
 思わぬところで話題が自分に移り、ボロミアは内心首をかしげた。

156<父上にとって大将とは?>・2/2:2004/06/17(木) 21:45
<デネソールとボロミア、デネソールとファラミア/しるけなし>・2/2

















「その時分の所行については、申し訳なく存じます。ただ、お言葉ながら、父上。あれは、人というものが形成途上にある折、必要な過程の一つであると、自らご教示下さったかと記憶しておりますが」
「わしは、過去を蒸し返してそなたを責めておるのではない。そなた、己の我によって父の愛情を失うかも知れぬとは、後にも思わなんだか」
「…実を申せば、些かもございません」
「であろうな。そして、そなたの認識は、たとえ無根拠にせよ正しい」
「有り難く存じます」
「そなたの目には余るらしい、あれに対するわしのやりようにも、そなたの弟は異を言わぬ。わしの見立てでは、そなたに不平不満を漏らした事すらなかろう。何故か?」
 目にしない事までをも見通しながら、なぜ肝心要である理由は分からぬのかと、喉まで出掛かった言葉をボロミアは飲み込んだ。ボロミアにとっては、相手が父親でなければ、手が出ていたかも知れない物言いに、声が震えた。
「それこそが、ファラミアが父上を、深く愛しているからではございませぬか」
「さもあろう。そなたがどう判断しようが、事実として、わしはあれを理解しておる。それだけではない。あれ自身もまた、わしを理解しておる。そなたの言う愛、とやらを持つばかりではなくな。ファラミアは、何事においてもわしの言に否は唱えず、従順を常とするのはそなたも知るところであろう。ゆえんは、今、申したところの理解にある」
 父親の言葉に、呼吸すら忘れたかのように耳を傾けていたボロミアの表情は、かつて結果として、泥で縄をなう程度の役にしか立た無かった詩歌の講義中にだったか、偶然垣間見たそれを思い出させた。
「そなたに言うべき事は全て伝えた。下がるがよい」
 ボロミアが父親の前を辞す前に、親子は、お互いへの慈愛に満ちた抱擁を交わした。
 ファラミアの助けになる言葉を、兄弟の父親から引き出すことは適わなかったと、ボロミアは思った。ゆえに、ボロミアは、その会話を己一人の胸に納めたまま旅立ち、逝った。

***

 今や、目の前にいる息子は、口をきくことも叶わなかった。
 己と同じ血を引き、同じ見える目を持つ息子にして、己が生涯で持ち得た最大の理解者、ファラミア二世は、ただ横たわり、父が手を差し伸べようとも決して触れる事の能わぬ死の淵を、孤独のうちに彷徨い続けていた。
 
 時、ここに至れり。

 息子が、己の知る息子であるうちに、己が決めた場所に共に赴こう。最後まで共にあった息子は、最後まで己が連れて行こう。たった一人で、自分の与り知らぬ場所に行かせたりはせぬ。なぜなら、ファラミアは我が子である。それ以上、何を言うことがあろうや?
 命令一下、執政家の忠実なる部下たちは、旧時代最後の執政、そして、ゴンドールの大将ファラミアの父親であるデネソール最後の下命を叶えるべく、動き出した。

 それは、父が与えるどのような処遇にも、決して揺るがぬ愛情と誤ることのない理解を以て応じる息子の思いの上に、それと知って依存し、彼の存在の限り彼に甘え続けてきた父の、一度たりとも父を裏切ることがなかった二人目の息子に対する、最後の甘えだった。

//おわり

157萌えの下なる名無しさん:2004/06/17(木) 23:30
>155-156様
えー、上の方でヘリクツ大魔王な執政殿を書いた者です(w
そうなんですよ、父君とご次男て、実はちゃんと、と言うか誰よりも理解しあって
いたと思うのですよ。理解しあっているから売り言葉買い言葉になってしまうと
いう・・・。ご次男に必要なのは果たして「理解」だったのか、とも思いますし。
間にはいって心痛める兄君には、それこそ理解や納得はできない、親子の在り方
でしょうね。

さて、執政殿にあんまりな扱いをしてくれた筆頭は、実はPJだったりする訳ですが、
某サイトさん情報によると、映画の父君、いまわの際にちゃんと
"Faramia...My son..."
と言って下さっているのだそうです。My son.のところは音声にはなっていない
のですが。よかったね、大将・・・とも言いにくいですよね。あの状況じゃ。


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