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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第七章
389
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2021/10/10(日) 14:20:49
なゆの顔を見た時、即座に異変に気付いた。
>「聞いたよ、あのイブリースをやっつけたんだって? やったね!
みんなが力を合わせれば、どんな強敵にだって必ず勝てるって。わたし、信じてたから――!」
でも不思議と…僕はなにも感じなかった。
>「……まあ、俺が少し本気を出せばこんなものさ」
目の前にいるなゆに以前の面影は微塵もなかった…。
頑張って明るく振舞おうとしてはいるが…明るいのは表情と声だけで…。
>「……おい、明神。どーゆーコトだよ?
モンキンのやつ、ゴッポヨ撃破されてガチ凹みしてんじゃなかったのか?」
>「……そうだな。俺にはやっぱり、ヘコんでるように見えるよ」
付き合いが比較的短いカザーヴァにはイマイチピンとこなかったのかもしれない。けど…
>「え? これ? あ、ああ、少し色々あってな! それよりなゆ……。
……すごいなこれ! また料理の腕上げたか!?」
僕にも分かるんだ。それより付き合いが長い3人には痛いほど伝わっているはずだ。
なゆがへこんでるなんてレベルじゃなく…折れてしまっている事に…
>「エンバース……ううん、ハイバラさん。あなたがどうしてそんな姿になってしまったのか、わたしには分からないけど。
これからも、みんなに力を貸してあげてほしい。お願いしてもいいかな……?
あなたのことは元々強いって思ってたけど、正体が日本ランキング一位のあのハイバラさんなら納得だね。
ハイバラさんと、明神さんと、カザハと。それにジョン。
アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がこれだけいれば、きっと世界を救うことだってできる!
侵食も食い止められるはずだよ、必ず――!!」
不思議と僕の中に悲しさはなかった。こうなる事がある程度予想できていたからだろうか?
それともやっぱり僕が普通の人間ではなく…血も涙も感じられない化け物だからだろうか?
>「わたし……パーティーを抜けるね」
やはり・・・僕はなにも感じなかった。当然の事だと処理しようとしている自分がいた。
やっぱり僕には人の心が…なにかが欠けているのだろう。
>「ハァ? なんだよソレ?
モンキン、本気で言ってんの?」
>「わたしのスマホ。壊れちゃったみたいで……何も映らないんだ。
ブレモンを起動することもできない。それに、今まで使えていたスキルも使えなくなってて……」
戦えないなら離脱するのは当然の事だ。僕達には戦えない人間を庇えるだけの余裕はない。自分の身だって守れないのに…
>「わたし。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』じゃなくなっちゃった」
彼女の顔は…もう取り繕えないほどに…ぐちゃぐちゃだった。
390
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2021/10/10(日) 14:21:05
>「バカだよねえ、わたし。
今まで勝ってこられたんだから、今回だって絶対勝てる! なんて。何の根拠もなく突っ走っちゃってさ。
イブリースは今までの相手とは全然違うのに。ちゃんとみんなで対策を練って、連携して戦わなきゃだったのに。
な〜んにも考えないで吶喊して、跳ね返されちゃって! あははははは、いや〜参った参った!
ごめんね、みんな! 本当にこんなのがリーダーですなんて、今まで大きな顔しちゃってて!」
>「だからさ。わたし、もう役立たずになっちゃったから。
リーダーの座は明神さんに譲るね。新リーダー、これから頑張って。
わたしのことは、申し訳ないんだけどヴィゾフニールでリバティウム辺りに送ってくれないかな?
リバティウムならしめちゃんもいるし、わたしの箱庭も……」
>「や、やっぱりいいや。リバティウムはやめとく。
そ……そうだなー、ガンダラの『魔銀の兎娘(ミスリルバニー)亭』なんていいかも!
あそこでマスターに雇ってもらって、ウェイトレスとかやってみたいかな!」
「…そうか」
掛ける言葉は見つからない。どんな言葉をかけても…なゆを傷つける事にしかならないという事は僕にだって分かる。
折れてしまった心は…もう戻らない。後はゆっくりと歪んでいくだけだ。
君は僕達の希望の象徴だ。決して無くなってはいけない。けど、僕には掛ける言葉の一つすらありはしない
>「わっ、わたしっ、ちょっと風に当たってくるね!
みんなは祝勝会楽しんでて! それじゃ……!」
>「なゆたちゃん!……ああっ、クソ!」
>「本人がああ言ってるんだ、仕方がない……。
身を護る手段も無いのに連れ回しても危険に晒すだけだ……」
みんなもわかっているはずだ。なゆがいなければこのPTが成立しない事に。
戦力的な意味だけじゃない。彼女は希望の象徴で、この世界の平和に必要不可欠な存在だ。
世界はなゆがいなくても救えるかもしれない…けど
真の世界平和にハッピーエンドに繋げる事ができるのは…なゆだけだ。
「………」
みんなが出ていったなゆを追いかけていくなか、僕だけは椅子に座ったまま動けなかった。
391
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2021/10/10(日) 14:21:26
戦いに負けて…イブリースを倒すことも、仲間にすることも出来ず…ただ地に伏しただけ。
そして、今苦しんでいるなゆに涙どころか…悔しさでさえも共感してあげられない。
イブリースの前に決めた覚悟は一体なんなんだ?もう悲しませないと誓ったのに…
僕には…人間としての当たり前のなにかが欠けている。そう認められずにはいられなかった。
僕がどれだけ人を想っても…信頼すると口に出しても…それは結局見せかけで…
ロイが死んだあの時から…シェリーを殺したあの日から…ほんの少しでさえも成長できていない。
結局他人を思いやれている…その気になっていた自分に酔いしれていただけだ。
人が目の前で死のうとも、殺されようとも、殺そうとも、仲間と呼んでくれる人が大切な相棒を失ったとしても…なにも思わない。
ただ過ぎ去ってしまえば全て過去。それが僕だ…
だからこそ…城でなゆ達が戦ってる姿をみて…なにが変わるかもしれないと…期待して…でもそれすらも自分勝手で…
「そうだ…だから僕は…みんなに…なゆについてきたんだ」
旅の途中で成長できるなんて…そんな上等な人間じゃなかったんだ僕は…そんな事すらもわかってなかった。
分かった気になるな、奢るな。僕はそんな事が可能な人間じゃない。
「なゆ…!」
彼女のが行き着く先に…お人よしの彼女がお人よしのまま・・・物語を終えた時。世界を救ったその時に…
その物語に一人の人間として…彼女の世界で…一緒に向かって辿り着いたその先の世界にこそ…僕が求める物がある。
名前さえも分からないソレを手に入れられる。その可能性を…いや確信を…あの日に得たんだ!
ダンッ!
気づいたら椅子を蹴り飛ばし、外に駆け出していた。
なゆに会わなくては!この世界の為に…いや僕の為に彼女が絶対に必要だ!
あまりにも自分勝手だ。仲間を利用しようといまだに考えてるなんて最低だ…けど…それでも
僕には…必要なんだ
少し離れた所になゆを見つけた僕はそこに駆け寄ろうとする。
「あれは…エンバース…?」n
>「……お前がいなくなるのは、嫌なんだ」
あぁ…これだ。僕が王都で…中庭でみんなの戦いを…言葉を聞いて…それでついてくる事を決めた可能性。
僕にはなゆを慰める事なんてできない…それでいい。僕の役割はそうじゃない
なゆには・・・エンバースという心の支えがある。明神も、カザハも、この場にいないみのりだって。
僕が心配しなくたって彼女は必ず立ち直る。それはすぐじゃないかもしれない…けど仲間の力で、新たな心を…希望を持って…必ず
「カザハ!明神!二人の邪魔になるから僕と向こうにいこう!男女の秘密を覗くのはマナー違反だよ」
僕のすべき事は…これからくる困難に立ち向かう術を身に着ける事。
ブレイブとして一番直接戦闘に向かない相棒を持ち、知識も少ない…そんな僕がなぜこの世界に選ばれて…そしてなぜみんなといるのか?
なんであろうと僕がすることには変わりがない。必ずなゆ達と共に世界を救って見せる
「やるしかない…か」
拳を握りしめ、そうつぶやくのだった。
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