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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第七章
387
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2021/10/10(日) 14:20:23
「ふう〜〜…」
落ち込んでばかりもいられない。本当に辛いのはなゆで…この後なんだから。
>「……えと。
黙って勝手にいなくなっちゃって、ゴメンなさい……」
頭を冷やしていると明神の影からひょこっとカザーヴァが顔を出す。
以外だな…僕がいなきゃ結局お前らダメダメじゃん!と軽口の一つでも叩くと思っていたが…。
>「だって。……特別になりたかったんだもん。
ソイツばっか特別扱いされてさ。特別だー、風精王の器だーってチヤホヤされてさ。
ボクとソイツは同じはずなのに……。それが悔しかったんだ。
テンペストソウルがあれば、ボクもソイツみたいになれるかなって……思っちゃったんだもん」
>「でも……もういいや。レクス・テンペストになれなくたっていい。
ボクのこと、特別だって。一生一緒だって言ってくれるひとを見つけたから。
明神がボクのことを特別だって言ってくれるなら……ボクはもう、それだけでいいんだ」
>「一生一緒、結構じゃねえの。世界救って末永く爆発してやろうぜ」
>「……ふう、危なかったな。危うく青春の波動でターンアンデッドされるところだった」
「…お幸せに」
僕もなにか一言言おうと思ったが…強烈なラブラブの波動を発していたので最低限で済ますことにした。
人の恋路を邪魔するのは馬にけられて死んじまえっていうしね。
このラブラブ空間にぶった切って現れたのはフラウスだった。
いまだに僕との距離は物理的に遥か遠いが…ラブラブ空間に抵抗はないらしい。
>「ええと。そちらの方……今、テンペストソウルを用いればレクス・テンペストになれるって仰いました?」
>「――見たところ、貴方はダークシルヴェストル。ダークシルヴェストルは風属性じゃなく闇属性――」
>「だから、クラスチェンジするにはテンペストソウルじゃなくて、アビスソウルが必要なんですぅ〜」
このラブラブ空間に衝撃の真実を持ってぶった切って現れたのはフラウスだった。
いまだに僕との距離は物理的に遥か遠いが…ラブラブ空間に抵抗はないらしい。
>「……はっ?」
>「あっはははははは! 良かったじゃないか。それならまだクラスチェンジ出来る可能性が残ってるんだから」
>「なんだよ!!! それぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「アハハ…」
怒りで叫ぶカザーヴァとそれを諫める明神を見ながら、僕は苦笑いしかできなかった。
388
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2021/10/10(日) 14:20:35
無事に戻ってきた僕達はなゆに会う前に全ての話し合いをつけてしまうことにした。
>「風の双巫女との約定により、これより我が軍の500騎を駐留部隊としてこの地に留め置き、始原の風車の防備に充てることとする」
「打倒なラインだな」
戦いは基本的に数の戦いだ。しかし、この世界では一人でその差をひっくり返す人物が多数存在する。
過剰な戦力は戦いを抑制する効果がある。しかし、相手にそれ以上の戦力が…ひっくり返す算段さえあれば戦闘は必ず起こる。
そうなれば戦闘の規模は大きくなり、人的被害どころかその場所が生物の住めない場所になる事すらある。
>「そなたらはエーデルグーテへ行くという話であったな。
『永劫』との面会を望むなら、余が親書を遣わすゆえ持ってゆくがよい。
余と『永劫』には其処迄の親密さはなかったが、それでも階梯の誼。無手で参るよりはよかろう」
>「次は宗教の総本山で僧兵軍団の調略か。いよいよもって戦国時代めいてきたな」
全てがスムーズに進行していく。さすが覇王。戦闘面だけでなく事を円滑に動かすという事を理解している。
このまま全てがうまくいけばよいのだが…。
>「さてと……。それじゃ、オレたちもここでお別れだな」
覇王の全面的な協力で、会議は瞬く間に終わり。魔法少女達は別れの挨拶を始める。
>「それに、今回のところは共闘しましたが〜、本来私たちは敵同士ですので〜……」
僕からできる限りの距離を取りながら睨んでいる。
>「まっ、縁がありゃまた会えるだろ!
そンときこそしっかり『黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)』撃たせてくれよな!
こンなンじゃ不完全燃焼だぜ、次回はキッチリ! オレたちデスティネイトスターズのスゲェとこ見せてやっからよ!」
この分だと次会って敵同士だとしても殺し合いにはならなそうだ。
そのほうがいい…またなゆが悲しむような事になってほしくないから…
>「――若干キモかったけれど、それなりに面白かった。それじゃ――」
「まて、なぜ僕を見る?」
>「待て!報告書にはちゃんと『キモかったのは焼死体と裸マッチョだけ』って書いとけよ!?
俺こいつらと一絡げにされんのマジで後生だかんな!!」
なぜだ…?
>「なんだ……まだそんな事を言ってるのか、明神さん。心配するなって。
――ガザーヴァなら、どんな明神さんでも受け入れてくれるだろうさ」
「え?これそんな話なの?」
>「明神、ボク、オナカ減った」
わいわいと話しながら僕達はテントの前で会話を一斉に止める。
決して気遣ったわけではないが…自然と口を止めて…お互いを見合った。
理由はもちろん目の前にいる少女…なゆだった。
>「みんな! おっかえりなさーい!!」
389
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2021/10/10(日) 14:20:49
なゆの顔を見た時、即座に異変に気付いた。
>「聞いたよ、あのイブリースをやっつけたんだって? やったね!
みんなが力を合わせれば、どんな強敵にだって必ず勝てるって。わたし、信じてたから――!」
でも不思議と…僕はなにも感じなかった。
>「……まあ、俺が少し本気を出せばこんなものさ」
目の前にいるなゆに以前の面影は微塵もなかった…。
頑張って明るく振舞おうとしてはいるが…明るいのは表情と声だけで…。
>「……おい、明神。どーゆーコトだよ?
モンキンのやつ、ゴッポヨ撃破されてガチ凹みしてんじゃなかったのか?」
>「……そうだな。俺にはやっぱり、ヘコんでるように見えるよ」
付き合いが比較的短いカザーヴァにはイマイチピンとこなかったのかもしれない。けど…
>「え? これ? あ、ああ、少し色々あってな! それよりなゆ……。
……すごいなこれ! また料理の腕上げたか!?」
僕にも分かるんだ。それより付き合いが長い3人には痛いほど伝わっているはずだ。
なゆがへこんでるなんてレベルじゃなく…折れてしまっている事に…
>「エンバース……ううん、ハイバラさん。あなたがどうしてそんな姿になってしまったのか、わたしには分からないけど。
これからも、みんなに力を貸してあげてほしい。お願いしてもいいかな……?
あなたのことは元々強いって思ってたけど、正体が日本ランキング一位のあのハイバラさんなら納得だね。
ハイバラさんと、明神さんと、カザハと。それにジョン。
アルフヘイムの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がこれだけいれば、きっと世界を救うことだってできる!
侵食も食い止められるはずだよ、必ず――!!」
不思議と僕の中に悲しさはなかった。こうなる事がある程度予想できていたからだろうか?
それともやっぱり僕が普通の人間ではなく…血も涙も感じられない化け物だからだろうか?
>「わたし……パーティーを抜けるね」
やはり・・・僕はなにも感じなかった。当然の事だと処理しようとしている自分がいた。
やっぱり僕には人の心が…なにかが欠けているのだろう。
>「ハァ? なんだよソレ?
モンキン、本気で言ってんの?」
>「わたしのスマホ。壊れちゃったみたいで……何も映らないんだ。
ブレモンを起動することもできない。それに、今まで使えていたスキルも使えなくなってて……」
戦えないなら離脱するのは当然の事だ。僕達には戦えない人間を庇えるだけの余裕はない。自分の身だって守れないのに…
>「わたし。『異邦の魔物使い(ブレイブ)』じゃなくなっちゃった」
彼女の顔は…もう取り繕えないほどに…ぐちゃぐちゃだった。
390
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2021/10/10(日) 14:21:05
>「バカだよねえ、わたし。
今まで勝ってこられたんだから、今回だって絶対勝てる! なんて。何の根拠もなく突っ走っちゃってさ。
イブリースは今までの相手とは全然違うのに。ちゃんとみんなで対策を練って、連携して戦わなきゃだったのに。
な〜んにも考えないで吶喊して、跳ね返されちゃって! あははははは、いや〜参った参った!
ごめんね、みんな! 本当にこんなのがリーダーですなんて、今まで大きな顔しちゃってて!」
>「だからさ。わたし、もう役立たずになっちゃったから。
リーダーの座は明神さんに譲るね。新リーダー、これから頑張って。
わたしのことは、申し訳ないんだけどヴィゾフニールでリバティウム辺りに送ってくれないかな?
リバティウムならしめちゃんもいるし、わたしの箱庭も……」
>「や、やっぱりいいや。リバティウムはやめとく。
そ……そうだなー、ガンダラの『魔銀の兎娘(ミスリルバニー)亭』なんていいかも!
あそこでマスターに雇ってもらって、ウェイトレスとかやってみたいかな!」
「…そうか」
掛ける言葉は見つからない。どんな言葉をかけても…なゆを傷つける事にしかならないという事は僕にだって分かる。
折れてしまった心は…もう戻らない。後はゆっくりと歪んでいくだけだ。
君は僕達の希望の象徴だ。決して無くなってはいけない。けど、僕には掛ける言葉の一つすらありはしない
>「わっ、わたしっ、ちょっと風に当たってくるね!
みんなは祝勝会楽しんでて! それじゃ……!」
>「なゆたちゃん!……ああっ、クソ!」
>「本人がああ言ってるんだ、仕方がない……。
身を護る手段も無いのに連れ回しても危険に晒すだけだ……」
みんなもわかっているはずだ。なゆがいなければこのPTが成立しない事に。
戦力的な意味だけじゃない。彼女は希望の象徴で、この世界の平和に必要不可欠な存在だ。
世界はなゆがいなくても救えるかもしれない…けど
真の世界平和にハッピーエンドに繋げる事ができるのは…なゆだけだ。
「………」
みんなが出ていったなゆを追いかけていくなか、僕だけは椅子に座ったまま動けなかった。
391
:
ジョン・アデル
◆yUvKBVHXBs
:2021/10/10(日) 14:21:26
戦いに負けて…イブリースを倒すことも、仲間にすることも出来ず…ただ地に伏しただけ。
そして、今苦しんでいるなゆに涙どころか…悔しさでさえも共感してあげられない。
イブリースの前に決めた覚悟は一体なんなんだ?もう悲しませないと誓ったのに…
僕には…人間としての当たり前のなにかが欠けている。そう認められずにはいられなかった。
僕がどれだけ人を想っても…信頼すると口に出しても…それは結局見せかけで…
ロイが死んだあの時から…シェリーを殺したあの日から…ほんの少しでさえも成長できていない。
結局他人を思いやれている…その気になっていた自分に酔いしれていただけだ。
人が目の前で死のうとも、殺されようとも、殺そうとも、仲間と呼んでくれる人が大切な相棒を失ったとしても…なにも思わない。
ただ過ぎ去ってしまえば全て過去。それが僕だ…
だからこそ…城でなゆ達が戦ってる姿をみて…なにが変わるかもしれないと…期待して…でもそれすらも自分勝手で…
「そうだ…だから僕は…みんなに…なゆについてきたんだ」
旅の途中で成長できるなんて…そんな上等な人間じゃなかったんだ僕は…そんな事すらもわかってなかった。
分かった気になるな、奢るな。僕はそんな事が可能な人間じゃない。
「なゆ…!」
彼女のが行き着く先に…お人よしの彼女がお人よしのまま・・・物語を終えた時。世界を救ったその時に…
その物語に一人の人間として…彼女の世界で…一緒に向かって辿り着いたその先の世界にこそ…僕が求める物がある。
名前さえも分からないソレを手に入れられる。その可能性を…いや確信を…あの日に得たんだ!
ダンッ!
気づいたら椅子を蹴り飛ばし、外に駆け出していた。
なゆに会わなくては!この世界の為に…いや僕の為に彼女が絶対に必要だ!
あまりにも自分勝手だ。仲間を利用しようといまだに考えてるなんて最低だ…けど…それでも
僕には…必要なんだ
少し離れた所になゆを見つけた僕はそこに駆け寄ろうとする。
「あれは…エンバース…?」n
>「……お前がいなくなるのは、嫌なんだ」
あぁ…これだ。僕が王都で…中庭でみんなの戦いを…言葉を聞いて…それでついてくる事を決めた可能性。
僕にはなゆを慰める事なんてできない…それでいい。僕の役割はそうじゃない
なゆには・・・エンバースという心の支えがある。明神も、カザハも、この場にいないみのりだって。
僕が心配しなくたって彼女は必ず立ち直る。それはすぐじゃないかもしれない…けど仲間の力で、新たな心を…希望を持って…必ず
「カザハ!明神!二人の邪魔になるから僕と向こうにいこう!男女の秘密を覗くのはマナー違反だよ」
僕のすべき事は…これからくる困難に立ち向かう術を身に着ける事。
ブレイブとして一番直接戦闘に向かない相棒を持ち、知識も少ない…そんな僕がなぜこの世界に選ばれて…そしてなぜみんなといるのか?
なんであろうと僕がすることには変わりがない。必ずなゆ達と共に世界を救って見せる
「やるしかない…か」
拳を握りしめ、そうつぶやくのだった。
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