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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第六章

368embers ◆5WH73DXszU:2020/11/17(火) 00:43:44
【フラグメンタル・ライフ(Ⅲ)】

『なんでだよ!?いつもみたいにそこは諦めないって言う所だろ!?まっててくれロイ今俺が…』

遺灰の男=無言でジョンを待つ/説得しようとはしない――説得出来ない。

『僕のせいだ…僕が君を殺すことになってしまった…僕が…全部悪いんだ』

ロイ・フリントは死ぬ運命にあると告げる事は、その原因がジョンであると言及する事でもある。
そんな事を何度も告げる気にはなれなかった――例えジョン自身がそれを自覚していたとしても。

『俺はな…ジョン…自分の意志でこの道を選んだんだ。多くの道がある中で…この道を俺自身の意志で選んだんだ』

遺灰の男に出来るのは、この最後の時間に水を差さないでいる事だけだった。
そして――不意に遺灰の背後で、空気の爆ぜる音/スタンガンの作動音がした。
振り返る/ロイに寄りかかるように意識を失ったジョンを、カケルの背へ乗せる。

『……じゃあな……オレの友達』

これで、一つの人生が終わる――遺灰の男が、最後にロイ・フリントを見つめる。
別に死にたい訳じゃない/だが、羨ましい――矛盾した感情が空洞の胸中に灯る。
その感情をどう消化すればいいのかは、偽物の存在にはまだ分からなかった。

369embers ◆5WH73DXszU:2020/11/17(火) 00:43:57
【フラグメンタル・ライフ(Ⅳ)】


『みんな、格納庫の扉が開いたら、ダッシュで乗り込むよ。
 ――10秒前。9、8、7、6――』

指定の刻限――響く、機械仕掛けの駆動音/ロイ・フリントは約束を果たした。
飛空艇に乗り込む一行/少々の操作――僅かな振動/微かに響く起動音。
そして神鳥の咆哮が轟く――空が、見えた。

『ヴィゾフニール、発進!!』

一瞬、慣性に体を包まれて、気づけばヴィゾフニールは飛び立っていた。

『レプリケイトアニマが……』

眼下に、崩落するレプリケイトアニマが見える/遺灰の男はそれを一瞥――すぐに目を背ける。
己の人生を持たぬ偽物――故に感慨など抱けない/ただ、エンバースとしての記憶が疼くだけ。

「……くそ」

それが不愉快で/妬ましくて、遺灰の男は拳を壁に打ち付けた。

《みんな、無事にヴィゾフニールを手に入れられたようやね〜。
 ……その、ジョンさんは……お悔やみ申し上げますとしか言えへんけど……。
 あかんなぁ、うち、こういう空気は苦手やわ……》

遺灰の男は何も言わない/言えない――紡ぐべき自分の言葉が浮かんでこない。
だが、エンバースの記憶=判断/衝動/言葉に頼り切りでいるのも、嫌だった。

《つらいやろけど、これが世界を救うってことなのかもしれへんね。
 いろんな犠牲を乗り越えて、それでもうちらは前へ進まなあかん……。
 気ぃ取り直して……っちゅうのんはすぐには無理かもしれへんけど、元気出していかなあかんよ。
 ちゅうことで、次の行き先。ヴィゾフニールも手に入ったし、予定通り聖都エーデルグーテへ行っておくれやす〜。
 ジョンさんのブラッドラストを解く必要はななったけど、教帝オデットとプネウマ聖教の協力は取り付けたいよってなぁ》

〈聖都エーデルグーテ、教帝オデット……やっと、ですか。
 彼女が不死者の扱いに、まこと長けていればいいのですが〉

フラウの呟き――切実な響き/真の主人の帰還を待ち侘びて。
遺灰の男=無言――闇色の眼光が僅かに揺れる/動揺の徴候。

教帝オデットは『永劫』を冠する不死者の王/聖属性魔法の達人。
死霊/悪霊に堕ちた霊魂を元に戻す事など――きっと造作もない。

つまり――聖都に着けば遺灰の男は消える事になる。
遺灰の男は、思った――そんな結末、願い下げだと。

「……明神さん」

明神の名を呼ぶ遺灰の声――スマホの操作を依頼する為だ。
フラウの召喚を解除すれば、少なくともこの場では口封じが叶う。
その後は――最悪、スマホごと置き去りにすれば秘密が暴かれる事はない。

《ちょぉぉーっと待ったぁぁぁぁ!!!!》

だが――不意に、バロールの場違いな声が響く。

370embers ◆5WH73DXszU:2020/11/17(火) 00:44:11
【フラグメンタル・ライフ(Ⅴ)】

《ちょ、お師さん? 何ですのん?》
《予定変更! ジョン君の呪いは解けたんだろう? なら、エーデルグーテは一旦後回しだ! 
 君たちにはそのまま、風渡る始原の草原へ行ってもらいたい!》

「……なんだと?」

エーデルグーテは後回し――遺灰の男にとっては、願ってもない方針転換。

《ああッ、まったく! あいつめ、あれほどもう少し待ってくれってお願いしたのに!
 私は兄弟子だよ!? それが『元』であってもだ! 普通、もうちょっとこう……敬ってくれたっていいだろう!》

「……お前の尊厳なんてどうでもいい。それより――」

《お師さん、落ち着いとくれやす。そない言わはっても、うちらちんぷんかんぷんえ?
 エーデルグーテに行ってもらう手筈やったのに、突然風渡る始原の草原とか――…あっ!!》

「なあ。みのりさん、あんたまで一人合点してどうする」

《お師さん、まさか……!》

《そうだよ。オデットの他に、もうひとり。こちらの味方につけようとしていた『彼』が動き出してしまった。
 止めなければ……取り返しのつかないことになる!》

「……そっちで話がまとまってから、もう一度そのツラを見せるようにしてくれると非常に助かるんだが」

《失敬、取り乱してしまった。
 実は私とみのり君は来たるべきニヴルヘイムとの決戦のため、各国各勢力に同盟を持ちかけていてね。
 オデットに会いにエーデルグーテまで、というのもその一環だったんだが……。

要領を得なかった会話がようやく進む/次なる障害の名が明らかになる。
『覇道の』グランダイト――覇王を自称する十二階梯屈指の武闘派/過激派。

《十二階梯の継承者は一枚岩じゃない。アラミガといいオデットといい、中立を貫いている者もいる。
 グランダイトもそのひとりだ。彼は自分の欲望に忠実だからね……彼の望むものを与えれば、必ず手を貸してくれる。
 そう踏んでいたんだが……》

「お前、いい加減自分の目を疑うって事を覚えた方がいいと思うぜ。
 その魔法の得意な節穴が魔法以外で役に立った事ってあるのか?」

『シルヴェストルとグランダイトの軍が激突して、両方が損耗しないように。
 グランダイトの侵攻を止めるのが、次のクエスト……ね。
 その上で、あわよくばわたしたち『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が両方と同盟を締結できれば、って感じ?』

「……バロールの尻拭いをさせられるのは不満だが、それを除けば俺に異論はない。
 マル様もアラミガも、その実力は、ゲーム内のそれよりも遥かに洗練されていた。
 奴らを自由に動き回らせると、厄介だ。グランダイトはきっといい抑止力になる」

遺灰の発言=あくまでも合理的な判断に基づいて――内心、胸を撫で下ろす。

『……分かった。じゃあ、進路を風渡る始原の草原へ。
 みんな、いい? 次のクエストは『覇道の』グランダイトとひと勝負よ!
 レッツ・ブレーイブッ!!』

「……レッツ・ブレイブ」

拳を静かに掲げる/微かに呟く――エンバースならば確実に拒んでいた振る舞い。
遺灰の動機=オリジナルへの反抗心/己の人生を持たぬ故の稚拙で機械的な模倣。
試しに取ってみたその動作は――どうにも場違いに思えて、しっくり来なかった。

それが遺灰の男にはひどく孤独に感じられた。


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