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【TRPG】ブレイブ&モンスターズ!第四章

1 ◆POYO/UwNZg:2019/03/18(月) 20:11:11
――「ブレイブ&モンスターズ!」とは?


遡ること二年前、某大手ゲーム会社からリリースされたスマートフォン向けソーシャルゲーム。
リリース直後から国内外で絶大な支持を集め、その人気は社会現象にまで発展した。

ゲーム内容は、位置情報によって現れる様々なモンスターを捕まえ、育成し、広大な世界を冒険する本格RPGの体を成しながら、
対人戦の要素も取り入れており、その駆け引きの奥深さなどは、まるで戦略ゲームのようだとも言われている。
プレイヤーは「スペルカード」や「ユニットカード」から構成される、20枚のデッキを互いに用意。
それらを自在に駆使して、パートナーモンスターをサポートしながら、熱いアクティブタイムバトルを制するのだ!

世界中に存在する、数多のライバル達と出会い、闘い、進化する――
それこそが、ブレイブ&モンスターズ! 通称「ブレモン」なのである!!


そして、あの日――それは虚構(ゲーム)から、真実(リアル)へと姿を変えた。


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ジャンル:スマホゲーム×異世界ファンタジー
コンセプト:スマホゲームの世界に転移して大冒険!
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール:マナーを守った上で可
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし

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166崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/12(水) 15:47:00
もしもこのまま明神が勝ち、彼曰くクーデターが成功したら、いったいどうなるか。
明神がパーティーのリーダーにおさまり、なゆたはその補佐に――とはならないだろう。
歴史を紐解いてみても、クーデターを起こされ追い落とされた側がそのまま存命するということはない。
悪しき前支配体制の元凶として、見せしめに処刑されるのが常である。
もちろん、明神がなゆたを見せしめに殺すなどということはないだろう。
けれど、もうなゆたはこのパーティーにはいられない。――といって、真一のところにも行けない。
真一はひとりで修業がしたいと言った。ひとりで金獅子に匹敵する力を手に入れなければ意味がない、と。
その決意を妨げることなどできない。まして、どの面を下げて真一に『パーティーを追い出された』などと言えるのか。

敗北したなゆたにできることと言ったら、リバティウムのなゆたハウスへ戻り、ひっそりと過ごすことくらいだ。
それは奇しくも、かつてなゆたが絶対に承服できないものとしてエンバースに言ったとおりの行為だった。
しかし。

――もう、それでもいいよ。

それさえ受け入れてしまうほど、なゆたの心は疲弊しきっていた。

――もともと、リーダーなんて器じゃない。真ちゃんが抜けて、たまたま代わりをやってただけ。
――明神さんがリーダーをやりたいっていうなら、やってもらえばいい。わたしである必要なんてないんだ。
――わたしの負けでいい。モンデンキントの負けで。こんな戦いをする意味なんて、どこにもないよ……。

なゆたの心を、どうしようもなく暗い感情が覆い尽くしてゆく。
赭色の荒野でも、ガンダラでも、リバティウムでも決して挫けなかった心が、大きく揺らいでいる。
ほんの少し前まで、あんなに楽しかったのに。みんなで世界を守ろう! って誓ったばかりだったのに。
どうして。どうして。
どうして、こんなことになっちゃったんだろう。バラバラになっちゃったんだろう。
……どうして……。

両手で顔を覆い、なゆたは泣いた。
どれだけパーティー内で勝気を装っても、モンデンキントとして人格者を演じても、なゆたはどこにでもいる女子高生に過ぎない。
ネット上なら、どんな悪口を言われても気にしない。言われた直後はショックを受けても、すぐに忘れてしまう。
ネットの壁という分厚い緩衝材のおかげで、見たくない情報は容易にシャットアウトできる。
けれど、ここにその緩衝材はない。すべては現実。目の前で実際に起こっていること。
地球から異世界アルフヘイムへと召喚されたときは、真一の存在がなゆたの心を支えた。
真一がパーティーを離脱してからは、仲間たちとの絆だけが気力を奮い立たせるよすがだった。
しかし。

パーティーが崩壊した今、明神から向けられた『血の通った憎悪』に、なゆたは耐えられなかった。

カザハの声が聞こえる。ジョンの声も。
でも、何を言っているのかまでは分からない。なゆたを呼んでいるのか、叱咤しているのか。
何もかもが正常に頭に入ってこない。ただただぐちゃぐちゃした塊が意識に押し寄せてくるだけで、理解できない。
どうすればこの状況を打開できるのだろう? 全員が元の関係に戻れるのだろう?

>気付いてっか?リバティウムを出てからこっち、俺たちがみんな別々の方を向いてるの。

明神の言葉がよみがえる。ああ、そうだ。そんなこと、ずっと分かっていた。
エンバースを拒絶し、除外しようとした時からずっと。でも、どうすればよかったのかなんて分からない。
正解なんて分かるはずもない。なゆたは最善を選んだつもりだったが、それは言うまでもなく悪手だった。

かなしい。
つらい。
さびしい。

溢れかえった負の感情を持て余し、なゆたはただただ嗚咽を漏らす。
そして。

「……………………たす…………け、て……………………」

ほんの僅か。
ほとんど空気が漏れるだけのような、幽かな声で――なゆたはそう言った。
誰か、特定の個人に対して言った言葉ではない。それはなゆた自身無意識のうちに漏らした弱音である。
傷つき弱った心が縋るものを求めて零した、まぎれもない本音――



それは。確かにエンバースの耳にも届いただろう。

167Interlude ◆5WH73DXszU:2019/06/16(日) 07:50:34
【タクティカル・スキマティック(Ⅰ) ――チープ・トリック――】


所謂ハイエンド・コンテンツが“実装時点ではクリア不可能”な形式で実装される事は珍しくない。
何故ならば――それは、不可逆的な資源の消費によって生成された、一つの集大成だからだ。
ここで言う資源とは労働力/人件費の事ではない――それらの消費は不可逆ではない。
不可逆な資源とは――キャラクター/ロケーション/ストーリー等の事を指す。
慣れ親しまれた登場人物/積み重ねた伏線/描き上げた壮大な世界観。
それらを生贄に――ハイエンド・コンテンツは召喚される。

「……つまり飢えたゲーマー如きが、小腹を満たす為に食い散らかしていいような代物じゃないのです。
 同時実装されたガチャ限スペルとユニットを揃えて、レベルマにして、漸くスタートライン。
 それが出来ない連中は、レベルキャップが解放されるまでは参加権すらないのです」

「なるほど……それが、俺をこんな小汚い監獄に誘拐した理由か」

「軽口を叩かない事です。この会話のログは全て保存されているのです。
 我々運営はあなたとそのチームが、例のコンテンツをクリアした事を疑問視してるのです。
 例え重課金規模のガチャを回していたとしても、あなた達のクリアタイムは我々の想定外なのです」

「それで?タネ明かしをしてくれって?アクションログくらいサーバーに残ってるだろ」

「ログを精査し、そこからあなた達の利用したバグ、グリッチを逆算する。
 勿論、それもこのインタビューと並行して進めているのです。ですが時間が惜しいのです。
 最新コンテンツを封鎖してのバグフィクスなど、運営の恥。さっさと自白すれば、アカウント停止処分だけは――」

「ちょっと待て……バグ利用だと?」

「例のコンテンツは完璧だったのです。攻略に必要な総ダメージ量と、総ダメージ軽減量。
 既存のカード、ユニットをどう組み合わせようと、それらの釣り合いは決して取れない。
 そのように設計されていたのです。さあ、吐くのです。あなた達が利用したバグの――」

「いいか、一度しか言わないぜ――そのような事実は、ない。
 ただ俺の方が、あんた達よりも知恵が回った。それだけだ」

「ログの精査が終われば、あなたの自白には何の価値もなくなるのですよ?」

「……分かったよ。そこまで言うなら、いい機会だ……少し、自慢話に付き合ってもらおうか。
 俺達の編み出した攻略法は、本当は誰にも明かすつもりはなかったんだが――
 あんたは多分、これを口外にはしない……いや、出来ないだろうしな」

168Interlude ◆5WH73DXszU:2019/06/16(日) 07:52:12
【タクティカル・スキマティック(Ⅱ) ――チープ・トリック――】

――確かにやつは強かった。アンデッド特有の高耐久に加え、あの自己再生能力。
ターン毎のダメージ量が一定の水準に達していないと、HPを削る事すら叶わない。
かと言って火力偏重ビルドでは、一定ターンおきに繰り出される大技で全滅する。
バフ、デバフ付与スキルも完備……つまりシナジー・コンボビルドの対策も完璧。

「だけど、それが良くなかった。つまり――コンセプトが明白過ぎたんだよ。
 あんた達は、俺達が何者かを忘れてたんだ……俺達は、ゲーマーなんだよ。
 四六時中、まだ見ぬ対戦相手にメタ張る事を考えてるんだぜ。分かるかな」

――要するに、俺達はただルールを暴いて、その裏を掻いただけだ。

「ログチェックはまだ終わらないのか?正直な話……俺は、その瞬間が待ち切れないんだ」

■■■■は明らかに高揚していた――ガチ勢のゲーマー、その心中には常に矛盾が渦巻いている。
彼らは知恵を振り絞り、新たな戦術を編み出す/だが決してそれらをひけらかす事はない。
既存戦術を一掃する新基軸的ドクトリンは、しかし一度明かせばただの常識と化す。
故に、隠す――それはある意味で、古流に伝わる殺人術にも似ていた。

「傑作だったぜ。双界万事を識り尽くす叡智の象徴が――」

けれども今、眼前にいるゲームマスターには、その心配は無用だった。
これから語る戦術を、彼女は決して口外しない――その確信があった。

「――何十本と酒瓶をぶつけられた挙げ句、倒れていく様は」

なにせ啓蒙/蔓延させるには――それはあまりにも、陳腐だった。

169embers ◆5WH73DXszU:2019/06/16(日) 07:52:44
【カウンター・ブレイブ・タクティクス(Ⅰ)】


『守るだぁ?てめーはなんにも分かっちゃいねえなエンバース。モンデンキントがおこな理由がよ。
 これから俺はモンデンキントと一線交えるがよぉ、お前は俺とあいつのどっちを守るんだ?ええ?
 守りたいモン同士がバトるとき、そのどっちを優先するか……決めてあんだろうなおい?』

「一戦、交えるだって……?な、なんでだ!なんでそうなる!
 例えあんたがうんちぶりぶり大明神だったとしても、明神さんは明神さんだ!
 ……あんたにとっては、そうじゃないのか?今まで、一緒に旅をしてきたんだろ!?」

『のべつまくなく守ろうなんてのはな、エンバース。ゾンビとあんまし変わんねえぞ。
 本能が求めるのが食人か庇護か、違いはそれだけだ。まぁしょうがないか!焼死体だもんね!
 ホントはお前、生前の欲求に従って動くだけのガチゾンビなんじゃないのぉ?』

「……ああ、なるほど。人間とチンパンジーの遺伝子は、その99%が一致するって話だな?
 明神さん、大事なのは残りの1%なんだ。その1%に、あんたはこんな事を選ぶのかよ!」

『……場所を変えようぜ。ここは暴れるには狭すぎる。ゴッドポヨリンさんも使いづれえだろ。
 下にいい感じの広場があったな。そっちで闘ろう』

「っ、待て明神さん!話はまだ終わっちゃいない……」

『まあ、うちらブレイブやし、やり合わな収まりがつかんこともあるやろうしねえ
 エンバースさん、カザハちゃん、それにジョンさんも、これからに必要な大切な事やからいきましょか〜』

「みのりさんまで!これは……ゲームじゃないんだぞ!」

抗議の声を上げる焼死体/聞く耳持たない明神――折れざるを得ないのは必然、前者。
意地を張っていても置き去りを食らうだけ/不本意ながらも後を追う。

170embers ◆5WH73DXszU:2019/06/16(日) 07:53:58
【カウンター・ブレイブ・タクティクス(Ⅱ)】

『さて、挨拶が遅れちまったな。俺がうんちぶりぶり大明神だ。説明は……要らねえよな――』

「明神さん、考え直せ。こんな事、何の意味もない……!」

『まさかこんな形でツラ拝む羽目になるとはな。だけど一応、お前に言おうと思ってたことがあるんだ――』
『しかしまぁがっかりだなぁ?みんな大好き月子センセーが、こんな小便くせえガキだなんてよ――』」

「明神さん……本気で言ってるのか?」

『どーもお前とモンデンキントが結びつかねえんだよな――』」
『気付いてっか?リバティウムを出てからこっち、俺たちがみんな別々の方を向いてるの――』」

「……明神さん、やめろ。こいつに意見があるのは分かった。
 だけど……こんなやり方で伝える必要はなかった筈だろ!」

焼死体の制止――明神には届かない。

『そういうわけでモンデンキント、こいつはクーデターだ。
 不甲斐ないリーダーをぶっ倒して、これからは俺がパーティを仕切る。
 出しな、てめーのポヨリンさんを。その可愛い可愛いひんやりボディを叩き潰してやるよ』

「……分かった。分かったよ、うんちぶりぶり大明神。あんたは、それでいいんだな」

運命は、帰還不能点を通過した――焼死体の双眸に灯る、蒼い炎/兵士の如き眼光。

「呼び方の話じゃない……これが、あんたのルート選択なんだな。
 一度始めちまったら……もう、リトライは出来ないんだぞ」

『石油王!カザハ君!ジョン!一口乗るなら今だぜ!俺に加勢すりゃ、新生パーティに相応の地位を約束する!
 ついでにモンデンキントを打倒したプレイヤーの名もほしいままだっ!』

「……やめておいた方がいい。俺も腹を決めたよ。あちら側に付くなら――俺は、その全てを制圧する」

そして――決闘が、始まる。

171embers ◆5WH73DXszU:2019/06/16(日) 07:55:45
【カウンター・ブレイブ・タクティクス(Ⅲ)】

『――『黎明の剣(トワイライトエッジ)』、プレイ!』

立ち込める濃霧/付与される攻性魔力――成立するのは一帯を覆うダメージフィールド。
スペルに対する除外手段を持たない焼死体は――しかし平静を崩さない。

『なゆちゃんなぁ、この一ターンはうちからのサービスやよ〜
 うちはなゆちゃんの事はかってるし、うち【ら】ではでけんことをやってくれると思うてる
 でもなぁ、うちもなゆちゃんのリーダーの資質、見てみたいんやわ〜』

「……残念だよ、みのりさん。あんたは……もう少し、優しい人だと思ってた」

ATBを持たない焼死体が時間を無為に過ごす理由は一つだけだ。
時間経過による勝率の低下を、一切考慮していない。
つまり己の力量に対する圧倒的な自負/不遜。

『エンバース。俺と組めよ、一緒にモンデン野郎をぶっ倒してやろうぜ。
 お前を拒絶し、罵倒し、抜けても構わないとまで言った、あの女を!
 明確に拒否られたんだ。お前にとっちゃこれ以上、あいつを守る理由なんざないはずだよなぁ……?』

「俺にのされた後で、その顔面を誰かに踏みつけられないか、気にしてるのか?
 だったら心配いらないさ。そうなったら全員平等に、戦闘不能にするまでだ」

濃霧の中で背後を/乳白色の隔たり――その奥にいる、なゆたを見つめる、蒼炎の眼光。

「それと、丁度いい機会だ。俺の事が気に食わないなら、いつ仕掛けてきても構わないぜ。
 先手は譲ってやるよ――リバティウムでも言ったよな。全員相手でも俺は構わないって」

その勝負は――なゆたが受けた時点で、焼死体にとっては実質的に“勝ち”だった。
勝利し、実力を示す事が出来れば最良/敗北してもPT内の不和は解消される。
その上で、多勢に無勢であれば――自分の面目も一応、保たれる。
だが――焼死体の企て/妥協案は、早々に躓く事になった。
霧の向こう側から――なゆたの返答が、ない。

「……おい、どうした?もしかして、あんまりキレると冷静になるタイプだったり――」



『……………………たす…………け、て……………………』



それは――声と呼ぶにはあまりにも微かな音だった。
濃霧/無数の水粒は音を喰らい、代わりに静寂を産み落とす。
圧殺された悲鳴/ノイズは――しかしそれでも、焼死体に火を灯すには、十分過ぎた。

172embers ◆5WH73DXszU:2019/06/16(日) 07:56:54
【カウンター・ブレイブ・タクティクス(Ⅳ)】

焼死体が体ごと、なゆたへと振り返る/声を頼りに歩み寄る。
そして辿り着く――向き合う形/彼我の口論における定位置。
だが憎まれ口が紡がれる事はない/何一つ、言葉は伴わない。
何よりもまず、その失意/涙に濡れた美貌を――抱き寄せた。

「……心配するな。大丈夫だ――俺がいる」

黒焦げた左手が、幼子をあやすように、なゆたの頭を撫でる。

「言ったろ……俺が、守ってやるって。お前がどんなに嫌がろうと……そんなの、知った事かよ」

――そうだ。俺は誓ったんだ。誰にも、お前を傷つけさせはしないって。
今度こそ、失敗なんかしない。絶対に、絶対に、守り抜いてみせるから。

「ここで、じっとしてろ。すぐに終わらせてやるさ。ああ、そうとも。すぐに……」


――だから、もう泣くなよ……“マリ”。そんな泣き面、お前らしくないぜ。


「……すぐにみんな、焼き払ってやる」

憎悪を帯びた呟きは――濃霧が覆い隠した。
脳裏に焦げ付いた過去/ひび割れた眼球に映る現在。
それらの区別が――今の焼死体には、付いていなかった。

173embers ◆5WH73DXszU:2019/06/16(日) 07:58:50
【カウンター・ブレイブ・タクティクス(Ⅴ)】

「行ってくる……寂しがるなよ?」

なゆたを解放/漆黒の狩装束を翻し――懐から抜き放つ、溶け落ちた直剣。
一歩踏み出し――ふと、足元の[スライム/ポヨリン]を俯瞰する。

「オウル、お前がご主人様の盾になれ――剣は、俺が務める」

言葉と同時/左手は衣嚢を探る/引きずり出すのは――小さな革袋。
それを掲げ/握り潰す――瞬間、溢れ返る液体/酒気。


【小さな革袋(ちいさなかわぶくろ) ……インベントリを二枠拡張する。拡張されたインベントリに、これと同類のアイテムは入らない。
 ――いいから、まずはこれを買っておけ。優れた武器で魔物を殺して、その次は?死体を担いで歩き回る気か?――】

【火酒(フロウジェン・ロック) ……飲用時:対象に『酩酊』を付与/投擲時:対象に『酒気帯び』を付与。
 ――春が訪れると、フロウジェンの山脈からは火酒が溢れる――】


左腕を伝う液体は、焼死体の内に燻る火気により、炎上。
そのまま地面へと流れ落ち/広がる――対戦領域を徐々に塗り潰す、蒼い炎。

「……警告しておこう」

システムに流動性を有するあらゆる対戦ゲームは、『メタゲーム』によって表現される。
つまり流行の/安定した/勝率が高いとされる――デッキ/装備/ユニット編成。
だが完全無欠の編成は存在しない/誰もがその存在を忌避するからだ。

「シナジーだの、コンボだの、そんな物を悠長に積み上げてる暇はないぜ」

故に『アンチメタ』が誕生する/またその対策が生み出される。
要するに『メタ』とは無限に続くジャンケン/鼬ごっこ。
大半のプレイヤーは、その最先端を見抜けない。
だが――[焼死体/■■■■]は、違った。

「見えるか?この炎が――お前達のATBが溜まるよりも、ずっと早く燃え広がるぞ」

それは『アルフヘイム』において極めて合理的な『対【異邦の魔物使い(ブレイブ)】戦術』だった。
『アルフヘイム』/『ブレイブ&モンスターズ』の間には――明確に仕様の異なる点が複数存在する。
例えばスペル効果の再解釈/パートナーの蘇生の可否/より精密な、部位破壊に伴うステータス低下。
そして――プレイヤーの装備/所持品/行動が、ブレモンのシステムによって制限を受ける事はない。

このアルフヘイム特有の仕様は、TIPS“DPS”と照合すると――このように再翻訳する事が出来る。
“アイテムの多重/高速使用は、デッキ外からの火力を理論上、無制限に向上させる事が可能”と。
そこから算出される最適解/最先端――底上げされた火力による、コンボ成立に先んじる短期決戦。

「俺はお前達に、結構な時間的猶予を与えてやったよな。その間に何本ゲージを溜められた?」

立ち昇る熱気は濃霧を僅かに退ける/微かに見える人影――焼死体の歩みが明確な指向性を帯びた。
いつの間にか焼死体の双眸――そこに宿る炎/眼光は、白霧に映す色合いを蒼から変化させていた。

「……これから身を護る為に、何本消費させられると思う?」

篝火が産み落とす影の如き漆黒――その色の名が殺意である事は、この場にいる誰もが、知り得ない。

174うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:32:33
もはや言うまでもないことだけれど、クソコテ「うんちぶりぶり大明神」は界隈指折りの嫌われ者だ。

東に楽しい雑談あれば、行って話の腰を折り。
西にまともな議論があれば、極論ぶちまけ本題潰す。
北にいざこざ諍いあれば、対立煽って人格批判。
南にアンチが暴れていれば、おだてはやしてハシゴを外す。

雨にも負けず風にも負けず、毎日のように俺は"聖戦"と称したネガキャンを繰り返していた。
ときには俺に賛同する、あるいは面白がって神輿に乗るアンチも居たが……そいつらさえも、俺は叩き潰した。
邪悪は馴れ合わない。ブレモンの癌は、業界の暗部は、俺一人居れば良い。

生まれたのは、真っ当はプレイヤーはおろかアンチからすら排斥される、正真正銘の爪弾き者。
路傍の汚物が如く、誰もが目にも入れたくない、存在そのものがNGワード。
うんちぶりぶり大明神は、そうして誰からも顧みられることなく、一山いくらの荒らしとして忘れ去られるはずだった。

ただ、実際のところ俺は誰に忘れられることもなく、ブレモンの闇で在り続けた。
攻略本に名前が載ってるくらいだしな。
好きの反対は無関心とかよく言うけれど、世間は俺に対し無関心を貫けなかった。
俺が無視されなかったのは、稀代のクソコテとして有名になっちまったのは――モンデンキントが居たからだ。

殆どのプレイヤーがうんちぶりぶり大明神の存在を黙殺する中、ただ一人モンデンキントだけは違った。
俺と会話を試み、議論を吹っかけ、一晩かけてでも俺に改心を促した。
何度も何度も。どれだけ煙に巻いてレスバをノーゲームに持ち込もうとしても、奴は諦めなかった。
俺がアンチとして活動する場には必ずと言っていいほど現れて、不毛な説得を試みた。

光と影のように、コインの表裏のように、俺の眼の前には常にモンデンキントが居た。

そうしていつしか俺たちの論戦はフォーラムの風物詩として捉えられるようになり――
うんちぶりぶり大明神は、モンデンキント伝説に配された都合の良い悪役みたいになっちまった。

英雄譚は、英雄と敵対する悪役の存在によってはじめて物語として成立する。
まるでアンパンマンに対するバイキンマンだ。そしてその評価は、あながち間違いでもない。

俺がここまで拗らせちまったのは、お前のせいでもあるんだぜモンデンキント。
お前がランカーとして正道を駆け上がるのを、ずっと闇の中から見ていた。
俺が心の底から渇望して、それでも届かなかった場所。
降りるってんなら俺が貰っちまうぜ。

PVPでもレスバでも、地球に居た頃は結局一度も勝てやしなかったけれど――
三度目の正直だ。今度こそ、俺はお前に勝つ。

 ◆ ◆ ◆

175うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:33:35
俺とモンデンキントの敵対が明確になった瞬間、最初に動いたのはやはり石油王だった。
デュエルフィールドの中に足を踏み入れて、モンデンキントの隣に立つ。

>「え〜これって【うんちぶりぶり大明神】と【モンデキント】のお話やから手は出さへんつもりやってんけど〜
 まあ、明神さんのたっての願いやしぃ、しゃーないわなぁ」

石油王はあっちについたか……。まぁ想定の範囲内だ。
王都に来る前からあいつは真ちゃんやなゆたちゃんとよろしくやってたし、そもそもこの戦いで俺に正義はない。
奴と敵対することで僅かな勝率がさらに目減りするが、それでも俺は配られたカードで頑張るっきゃねぇ。

>「霧を対象にするやなんてゲームではでけへんし、それをやろうという発想にもびっくりやわ
 周囲を包むきり自体でダメージ受けるやなんて防ぐのも難しいけど、うち相手には悪手やねえ
 我伝引吸(オールイン)……プレイ!」

ダメージ吸収のスペルが起動。
俺が濃霧に付与した『ダメージだけ』をカカシが吸い取り、バフの輝きが弱まっていく。

>「ごちそうさん」

石油王はこっちをチラ見して唇を舐めた。仕草が堂に入っていやがる。こいつマジで何歳よ?
そしてこれで、俺のばら撒いた継続ダメージは少なくとも1ターンの間意味を為さなくなった。
これだよ。俺のDot戦術と一番相性が悪いのは、ダメージ吸収能力を持ったバインドデッキだ。
次善の策はもちろんあるけど、この段階で手札を一つ潰されたのはかなり胃が痛い。

>「なゆちゃんなぁ、この一ターンはうちからのサービスやよ〜
 うちはなゆちゃんの事はかってるし、うち【ら】ではでけんことをやってくれると思うてる
 でもなぁ、うちもなゆちゃんのリーダーの資質、見てみたいんやわ〜」

だが石油王はなゆたちゃんにそれだけ伝えると、彼女の傍からふっと姿を消した。
同時にスマホに通知。『五穀豊穣』が俺のパーティに加入していた。

「……は?え?お前どういう――」

どういうつもりだ、と問おうとして俺はやめた。
石油王は『なゆたちゃんの資質を見たい』と言った。語調の差はあれ、俺と同じ言葉を口にした。
なんのこっちゃない。俺のやろうとしてること、俺のやりたいことを、こいつは100%理解してくれてるのだ。
見透かされたとは思わない。数多の言葉を弄さなくなって、想いは伝わるってだけのこと。

「……助かる」

ガンダラからずっと陰日向に俺を支えてくれた相棒に、俺は一言だけ述べた。
俺たちの間には、それで十分だった。

カザハ君はぷりぷりと怒りを顕わにしながらモンデンキントの隣に立つ。

>「誰が乗るかッ! このうんちぶりぶり大明神め!
 その小学生男子が喜びそうなネーミングセンスは嫌いじゃないけどネタ枠だから許されるのであってリーダーは駄目!
 “うんちぶりぶり大明神とその仲間達によって世界は救われました!”なんて伝説に刻まれたらどうしてくれるの!?」

「ネタ枠はおめーも大概だろうがよぉー!つーか何お前、世界救うってのに名前が判断基準なの?
 魔王に唯一有効な最強武器が『うんこソード』とかだったらどうすんだよお前、使わずに死ぬつもりかよ」

まぁ史実でもうんこエンチャントした刀めっちゃ強かったらしいけどね。切られたら破傷風になっちゃうし。
良いんだぜ俺は、『笑顔きらきら大明神』に改名してもよぉ。それでお前が俺の味方になるならな。
相変わらず微妙に緊張感のねぇ野郎だ。ついでにもひとつ煽っとくか。

「大体さぁ、世界救ったとしてお前の名前が刻まれるかどーかわかんねえぞ?
 なんか見た目がカワイイからスルーされてっけど、お前もエンバースと同じモンスターじゃん。化物じゃん。
 バロールも意味深なこと言ってたしよぉ、ホントはお前こそ魔王の手下とかなんじゃないの?
 お前が結局何者なのか、この場のだーれも知らない鳥取出身の謎ナマモノだってこと、忘れてんじゃねえぞ」

176うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:34:28
まぁ見た目的に味方ポジションっぽいのは認めるよ。シルヴェストル可愛いもんな。
だけど、モンスターである以上無条件でアルフヘイムの味方と断ずることはできない。
使役する者次第で善にも悪にも容易く転ぶのがブレモンのモンスターだ。

「お前が俺たちの仲間ヅラしてんの、結局のところ全部ただのノリじゃん。マジでその場のノリじゃん?
 怖えなあ何考えてっかわかんねー奴と一緒に居んの。それがモンスターだってんならなおのことこえーわ」

立ち込める濃霧に覆われて、そのうちカザハ君の姿は捉えられなくなった。
顔が見えないのは俺にとって好都合だった。掲示板越しのレスバトルと何も変わらないからな。

>「だめだブライトゴッド!君はなぜ自分から嫌われにいくんだ!?ちゃんと話合って解決すればいいだけじゃないか
 エンバース!君もなゆが本気で言ってないって理解しているんだろう!?だれも争う必要なんてないんだ!誰も・・・」

霧の向こうからジョンの悲痛な叫びが聞こえる。
立ち位置的に見ても奴はモンデンキントの側についたと見て良いだろう。

>「雄鶏乃栄光!対象ポヨリン、発動!」

ジョンがバフスペルを起動した。これであいつとの敵対も明確になる。
カザハ君とこいつはおそらくなゆたちゃんに味方するだろうってのは予測できてた。
というかまぁ俺サイドにつく理由がないってだけなんだけれど。

だから、ジョンが何言おうがレスバで鍛えた都合の悪い事実に耳を塞ぐスキルで受け流す構えは出来てた。
出来てたのに……演説馴れでもしてるのか、いやによく通る奴の声は、俺の耳朶を強かに打った。

>「そんなに君はなゆが、他のみんなが信じられないのか?
 自分の過去を知られたらみんな無条件で離れてしまうと思っているのか?
 ちゃんと話合うんだ、この乱闘騒ぎがどう終わろうとね」

「…………っせーぞイケメンッ!てめーに何が分かる!!俺の何が分かるってんだよ!!」

ジョンの言うことは正しい。正論だ。そして俺は正論が、反吐が出るほど嫌いだ。
ふざけんじゃねえぞ。この想いが、溜め込んできた感情が、正論なんかで押し流されてたまるか。

>「ブライドゴッドの覚悟はよくわかった、だからもう言葉で引きとめようなんて無粋な真似はしない
 だから・・・僕は僕のしたいようにする・・・それでいいんだろ?」

「分かってんじゃねえか。とっくにバトルは始まってるぜ、さっさとカードを切れよ」

ジョンの戦闘力は……正直未知数もいいとこだ。
ウェルシュ・コカトリスは確かに雑魚だが、雑魚故にデータがない。誰も使ってないからだ。

>「あ・・・やっぱり・・・最後に一つ言わせてくれないか?」

「あ?言葉は無粋とかさっき言ったばっかじゃねぇか」

そのままジョンは固まった。え、何?CPU使用率が急に100%になったの?
全時代のOSみたいな謎フリーズは続く。たっぷり10秒、その間に俺も勘付いてしまった。
この不気味な沈黙は――こいつまさか!ゲージ溜めてやがるな!?

>「なあ明神・・・雄鶏乃怒雷!」

「うおおおおおっ!?ヤマシタ!」

案の定ジョンは不意打ちでスペルを放ってきやがった。
コカトリスの口から紫電が迸り、濃霧を貫いてこちらに飛来する。
間一髪でジョンの企みに気付いた俺はヤマシタを傍に引き戻し、盾で俺を庇わせた。

177うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:35:45
油で揚げたみたいな快音が響き渡る。
電撃の直撃をくらったヤマシタはしばらく痙攣するも、HPバーの損失は軽微。
スペル自体の威力はそこまで高くない。だが濃霧に付与してたバフが一部欠けてる。
ディスペル効果を持った電撃か……出の速さと言い、無視できる脅威とは言えねえな。

>「怒らないでよ、こんなの挨拶だよ挨拶」

「てめっ……大した演技力じゃねえか!ツラも良いし自衛官より役者でもやった方が良いんじゃ――」

頭にカっと血が上って、海馬に酸素が巡ったのか、一つ記憶がポンと浮かんできた。
いつだったかテレビで見かけた顔。街角で横切ったポスターの写真。

「思い出した、お前ジョン・アデルだろ。そのツラ、テレビで見たことあるぜ。
 地震かなんかの救助活動でお前、国から表彰されてたよなぁ。
 それだけじゃねえ。駅にゃてめーのツラ大写しの広報ポスターが貼ってあったな」

外国人の両親を持ちながら、日本人として在野で活躍する現役自衛官。
その甘いマスクと、災害現場での人命救助の実績がワイドショーでも連日取り上げられて、
ちょっと前までこいつはお茶の間のヒーローだった。
通勤に使う駅にもこいつが爽やかスマイルで敬礼してる広報ポスターが張り出されてるくらいだ。

『イケメン自衛官、被災地に笑顔を届ける!』

クソが。浮ついてんじゃねーぞ。ムカつくぜ。アイドルかよてめーは。
それでもこいつの存在は被災地の希望だったし、慰問活動に救われた人間は数知れねえだろう。
正真正銘のヒーロー。テレビの前で酒飲みながら大変だねーとか言ってる俺の百万倍価値のある人間だ。

出会ってすぐにジョン・アデルだと気付かなかったのは、なんか小汚かったってのもあるけれど、
俺自身アイドルまがいのヒーローとかいう人種が眩しすぎて直視できなかったからだ。
目に入れるのも痛くて、記憶を全部頭の奥底にしまいこんでた。
そのジョン・アデルと、なんの因果か俺は対峙している。

「てめーにゃ俺の気持ちなんて一生かかったってわかんねえよ。俺とお前は違う。違いすぎる。
 真っ当に努力が出来て!報われて!光の中で生きてきたような奴に、俺の何が分かる!?」

こいつにだって、俺の知らない挫折や絶望はあったろう。だが奴はそれを肯定し、前へ進んできた。
でなきゃ人助けなんて出来やしねえし、表舞台で脚光を浴びることもねえはずだ。
足を止めちまった俺とは違う。日陰を這いずり回ってきた俺とは、違う。

「俺はうんちぶりぶり大明神。てめーらみたいな表舞台の主役共を憎む者。
 何も持たない、持つための努力を放棄してきた連中の、俺は代弁者だ」

レスバトル必勝法がひとつ、『主語は常に大きく』。
不特定多数の代弁者を気取ることで、主張に権威の説得力を追加する。
対立の構図を『俺vs相手』から『持たざる者vs持つ者』に誤魔化す詭弁のテクニックだ。

こんなもんはお為ごかしでしかない。
ジョンが一般論染みた正論をかなぐり捨てて本音をぶつけてくれば、容易く崩れる砂上の城。
だが、俺はこいつの腹の中身が見たい。

これでエンバース以外の全員の立ち位置が明らかになった。
妖精さんとイケメンがモンデンサイド……ここまでは想定の範囲内だ。
カザハ君は攻略本首っ引きのド素人。ジョンも企画モノ買うようなニュービー。

ブレモンはモンスターやスペルに対する知識と理解が強さに直結するゲームだ。
こいつらが敵対したところで俺と石油王のタッグなら余裕でぶっ潰せるだろう。

178うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:38:05
ただ、それでも油断は出来ない。
コンボも知らないような格ゲー初心者が、レバー適当にガチャガチャしてラッキーパンチを引き当てるように。
『何をしてくるか分からない』という怖さが初心者にはある。
戦術が明らかな分、ミハエル君のほうがよほどカタに嵌めやすかったくらいだ。

そして、こういう初心者未満の集まりですら、卓越した指揮力で古強者の集団に変えちまうのが――
モンデンキントというプレイヤーの真骨頂にして最も恐れられている部分だ。

モンデンキントは強力なプレイヤーであると同時に、極めて優秀なメンターでもあった。
モンキンチルドレンとかいう連中に代表されるように、奴の薫陶を受けて育った実力者は多い。
伊達に月子先生なんて呼ばれちゃいないってわけだ。

他ならぬ俺たちブレイブは、そうやってこれまでの困難に打ち勝ってきた。
絶体絶命のピンチを乗り越えるとき、俺たちの中心にいつも居たのはなゆたちゃんだ。
俺は荒野で出会った時からずっと。なゆたちゃんが俺たちのリーダーだった。

真ちゃんは確かにパーティの推進力で、俺たちはみんなあいつを追いかけて旅をしてきた。
だがあいつの役割は、いわば船の帆だ。風を受けて船を前に進める動力源だ。
そして、ただ直進するだけの船は移動手段とは足り得ない。

船を目的地へ向かわせるには、舳先の方向を制御する『舵』が必要不可欠。
帆と舵が揃って初めて、船は人やモノを運ぶ乗り物として完成する。
なゆたちゃんという舵があったからこそ、俺たちはこの世界で迷わずに済んだ。

ガンダラでも。リバティウムでも。王都でも。
常にパーティの行動指針を決定してきたのはなゆたちゃんだ。
その役目を、文句一つ言わずに引き受けてやり遂げてくれたのは、なゆたちゃんだ。

彼女を欠けば、今度こそ俺たちパーティは瓦解する。
石油王も、カザハ君やジョンだって、そこに疑いはないだろう。
今にして思えばこれが、なゆたちゃんのモンデンキントとしての最初の面目躍如だった。

――その、件のモンデンキントは。

>ぽろり。
>ぽろ、ぽろ、ぽろ。

泣いていた。
庭園での身バレからここまで、何も言わず付いてきたモンデンキント――なゆたちゃんが。
大きな両目にいっぱいの涙をこぼし、しまいには顔を覆って慟哭を上げた。

……泣くなよ。俺が悪いことしてるみたいじゃん。
言うまでもなくなゆたちゃんを泣かせているのは俺で、この場で最も邪悪なのも俺だった。

心臓が軋む。俺はこれまで、親を泣かせたことはあっても他人を泣かせたことはなかった。
それが、これまで一緒に死線をくぐってきた大切な仲間で……努力を常に傍で見てきた少女の涙なら、なおのこと。
ズキズキと心を蝕んでいく痛みがある。

いや、どうなんだろう。
こうして顔が見える相手だからこそ顕在化しているのであって、本当はもっと多くの人を俺は泣かせてきたのかもしれない。
俺のせいで空中分解し、人間関係が崩壊したパーティは両手が数えきれないほどある。
フォーラムでベチボコに煽り尽くして、二度とゲーム内で見かけなくなったプレイヤーも居る。

俺はこれまで、いくつの涙をブレモンの上に積み重ねてきた?
知ったこっちゃねえやと見ないフリしてきた誰かの涙は、ちゃんと拭われてきたのか?

なゆたちゃんは泣いた。俺が彼女の信頼を最悪の形で裏切ったからだ。
自分がどれだけ残酷なことをしたのか、否応なしに事実が頭をぶん殴る。

179うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:40:29
冷静なツラしてっけど、結局俺もだいぶ情緒が不安定になってるんだな。
憎むべきモンデンキントと、仲間としてのなゆたちゃん。
どちらが俺にとって真実なのか……結論は、まだ出ない。

だが……いびつな歯車は動き出しちまった。止めることはできない。
どんなかたちであれ着地する。もう、元の関係には――戻れない。

「立てよモンデンキント、俺は矛を収めるつもりはねえ。てめーの絶望なんざ知ったことか。
 ウジったまんまのお前なんか秒で潰せるがよぉ……全力のてめーを倒さなきゃ、意味がねえんだ」

俺は『なゆたちゃんの資質を問う』と言った。その言葉に嘘はない。
ガタガタになっちまった急造のパーティだけど、俺はもう一度奇跡が見たい。
モンデンキントの名を界隈に轟かせる……有無を言わせぬリーダーシップを。

その上で、この俺が貴様を倒す。
うんちぶりぶり大明神の物語は、それでようやく完結する。

俺の知るモンデンキントは、決して絶望に身を屈したままじゃ終わらなかった。
何度口汚く罵っても、次の瞬間には手痛い反撃を食らわせてきた。

いずれ、彼女は心に折り合いを付けて、涙を拭いて立ち上がるだろう。
あるいは、誰かに涙を拭ってもらい、支えてもらいながらでも、俺の前に立ちはだかる。
そしてその涙を拭うのは……俺以外でなければならない。
そうでなくてはならない。

エンバース。

お前は釈然としないかも知れねえけど、なゆたちゃんは良い娘だぜ。
ちっと頑固なところもあるが、善人で、誠実だ。
モンデンキントが人に愛される最大の理由は、奴が誰よりも公正明大だったから。

「正義は必ず勝つ」って言葉は真理だ。
これは勧善懲悪がどーのこーのじゃなくて、多数決の残酷さを表している。
多くの者が共感し、広く支持されるものを正義と呼ぶのなら、正義とはすなわち多数派のことを指すのだろう。

そして多数派は、強い。無敵に近い。
数の利って奴は覆し難いし、一見民主的な多数決すら、少数派を黙殺する格好の手段に過ぎない。
正義はそれだけで、悪を問答無用に叩き潰せる『数の力』を持っている。

だが、モンデンキントは安易な数の力に頼らなかった。
あいつが旗を振れば、それこそ数千人規模の軍団で俺を叩き潰せただろう。
どこに隠れようが見つけ出して、リアルの身元を割り出したりアカウント削除にまで追い込むことだって出来たはずだ。
「みんなこいつは無視しましょう」の一言だけで、うんちぶりぶり大明神はフォーラムに存在できなくなったはずだ。

それだけの力を持っていてなお、モンデンキントは俺を『説得』しようとした。
あくまでタイマンで、議論を重ねて、俺を殺すのではなく改心させようとしていた。
主張を吟味し、常に正しさを追求していた。

エンバースとのいざこざにしたってそうだ
それこそ多数決でもとれば、きっと満場一致でエンバースはパーティを放逐されただろう。
わざわざ言葉で殴り合わなくたって、なゆたちゃんは気に入らない奴を排除することができた。
俺たちを従わせるだけの実績を、これまで彼女は積み上げてきた。


だから、エンバースを問答無用で叩き出さなかったなゆたちゃんを、俺は信頼する。

お前はモンデンキントだよ。俺が恨み、そして憧れ続けた――光だ。

180うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:41:30
>「……………………たす…………け、て……………………」

なゆたちゃんが、顔を覆う手の隙間から、なにか言った。
俺の位置からはほとんど聞き取れやしなかったが、反応する動きがあった。

>「……心配するな。大丈夫だ――俺がいる」

エンバースだ。
奴はうずくまるなゆたちゃんを慈しむように抱き寄せる。

>「……すぐにみんな、焼き払ってやる」

そして立ち上がり、振り返った焼死体の双眸には――赫々と燃える意思の炎があった。
敵意。戦意。……憎悪だ。

だけどエンバースから向けられた身に刺さるような視線が、今は快かった。
なゆたちゃんの周りには焼死体が居る。カザハ君が居る。ジョンが居る。
膝を折る彼女を守るように、囲うように、寄り添っている。
石油王だって、その振る舞いにはなゆたちゃんへの気遣いがあった。

……なんだよ。ちゃんとリーダーやれてんじゃん。
ガッタガタのパーティだって関係ない。中心に居るのは、変わらずなゆたちゃんだ。

>「オウル、お前がご主人様の盾になれ――剣は、俺が務める」

オウル?誰だよ。そいつはポヨリンさんだろ。
疑問が言葉になる前に、エンバースは動いた。ポケットから取り出したるは、革袋。
インベントリを拡張する『小さな革袋』だ。握りつぶし、中から色のついた液体が零れ落ちる。

石畳に広がる水たまりは……エンバースの炎に引火して、燃え上がった。
――青い炎、アルコールランプと同じ炎色反応。あいつ革袋に酒なんか隠し持ってやがったのか。

>「……警告しておこう」

揺らぐ炎の向こうに、黒衣の不死者が立つ。

>「シナジーだの、コンボだの、そんな物を悠長に積み上げてる暇はないぜ」
>「見えるか?この炎が――お前達のATBが溜まるよりも、ずっと早く燃え広がるぞ」

「おいおいおいおい、見境なしかよ……!」

酒の水たまりはどんどん広がり、炎がフィールドを舐め尽くしていく。
ヤマシタのHPバーがガンガン減ってくのに気付いて俺は戦線を少し下げた。

>「俺はお前達に、結構な時間的猶予を与えてやったよな。その間に何本ゲージを溜められた?」
>「……これから身を護る為に、何本消費させられると思う?」

こいつはまずい。バフ付きの濃霧よりずっとダメージレートの高いDot攻撃だ。
何がやべえってこの放火はATBによるスペルやスキじゃなく、単なるアイテム使用でもたらされたものだってこと。
つまり奴は理論上、ATBゲージを無視して攻撃を実行できることになる。

ゲージ無消費行動による、こちらのATBゲージを削る戦術。
それがどれほど厄介で、致命的なものであるか、プレイヤーなら誰でもすぐ理解できるだろう。

ATBゲージは、ブレモンにおける最も基礎的かつ重要なリソースだ。
ゲージがたまらなけりゃカードは切れないし、パートナーに指示も飛ばせない。
オーバーチャージを除けば、『1ターン1アクション』の原則があらゆるプレイヤーに課せられた共通の縛りだ。

したがって、継続的な攻撃に対抗する為に1ターンごとにゲージを浪費させられれば、プレイヤーは何もできない。
エンバースの戦術は、俺たちから行動選択の余地を確実に奪っていた。

181うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:42:08
まじか。エンバースってこんなに強かったのかよ。
リバティウムで会った時からやたらと強気に守る守る言ってたのは、一切フカシなんかじゃあなかった。
単なる焼け焦げた肉壁なんかじゃない。こいつは確かに、知識と仕様に精通した実力者だ。

そしてもっとまずいのは、俺も石油王も炎属性に対しては相性が悪いってところだ。
言うまでもなくカカシは燃えやすい。アンデッドも、『燃え残り』を除いて大体は炎に弱い。
リビングレザーアーマーに至っては革をワックスで煮込んで固めてる。すこぶる良く燃えるだろう。

俺がエンバースをクーデターに引き入れようとしたのは、この致命的な相性の悪さを危惧したからだ。
仮に戦力にならないにしても、『何もさせない』ことで熱源をフィールドから排除しようと思ってた。
とんだ見込み違いだ。こいつがこんなに強いって知ってたら、もっと丁寧に勧誘してたぜ。

……だが。

「派手な虚仮威しだなエンバース!自分が野良のモンスターに過ぎないって忘れてんじゃねえだろうな!
 お前は誰のパーティメンバーでもない!その炎が炙るのは俺たちだけじゃないんだぜぇ!」

エンバースの戦術は確かにATBを削るが、その影響を受けるのはモンデンチームも同様だ。
フレンドリーファイア無効はパーティメンバーにしか作用しない。
炎のダメージは、等しくなゆたちゃんたちにも及ぶ。

「ハッタリだ!てめえの炎はそれ以上燃え広がらない!なゆたちゃんまで燃やしちまうからな!
 虎の子の戦術も、単なるフィールド効果としてその儚き生を終えるんだよぉっ!」

とは言え、この時点で炎は相当燃え広がっている。
逐一消して安全な領域を確保するにしても、そのための行動にはATBゲージを消費する。
ゲージ削りの戦術は未だ健在には違いない。

「石油王、あの炎どうにかできるか?」

属性不利は承知のうえで、俺は石油王に問題の対処を投げた。
敵はエンバースだけじゃない。炎と濃霧に覆われた向こう側には、カザハ君もジョンも居る。
そして――モンデンキント。本丸はまだまだ遠い。

「ATBゲージへのダイレクトアタック……こいつは確かに厄介だ。
 だがよぉ焼死体!悪巧みはお前だけの専売特許じゃあない。
 世の中にはゲージを増やす方法なんてのもあるんだぜ」

防御を石油王に丸投げしてどうにか捻出した1本のATBゲージ。
そいつを消費して、俺はスペルを切った。

「『万華鏡(ミラージュプリズム)』――プレイ!」

半分のステータスで分身を3つ生成するスペル。
対象は――俺のスマホだ。

スマホが光に包まれて、同じものが3つ出現した。
そのうち一つを左手に握り、ブレモンアプリを起動。ログイン先は、本体と同じアカウント。
本体と分身、2つのスマホで同じアカウントに接続した。

同一アカウントを複数デバイスで同時に運用するテクニック『複窓』。
ミハエル戦でも言及した、れっきとした規約違反行為だ。

ATBゲージの累積計算はゲームアプリ側で行われる。
その一方で、スペルの効果やダメージ計算などはサーバー側で判定される。
この差を利用して、複数のアプリで並行してゲージを溜め、1ターンで複数回行動できるようにしたのが、
『複窓』と呼ばれるハードウェアチートの原理だ。

182うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/06/23(日) 02:43:05
対戦相手からして見れば、ゲージ1本しか溜まってないのにいくつもスペル撃たれる理不尽の極み。
当たり前だが運営はとっくに対策して、現在は1アカウントにつき1つのデバイスしか同時に接続できないようになっている。
だから、スマホを複数台用意してももう複窓は使えない――というのが本来の仕様だ。

抜け道がないわけじゃない。
例えば……内部システムのシリアルナンバーまで完璧に再現したスマホの複製品なら、
アプリのデバイス認証を突破してログインできる――事実上不可能な理論も、魔法なら現実に変えられる。
『万華鏡』で複製したスマホは、性能以外は全て同様の、完璧な複製品だ。

ソフトウェアでもハードウェアでもない、『マジックチート』。
ぶりぶり★フェスティバルコンボの基幹をなす、この世界に来て編み出したテクニックだ。

「ブレイブ殺しの戦術はそれで品切れかぁ?
 甘い!甘い!あめーなぁ!考えがよぉ!おじいちゃんのくれた特別な飴くらい甘い!
 俺たちをそんじょそこらのブレイブと一緒にすんじゃねえ。くぐってきた死線の数が違うぜ!
 ――ヤマシタ、『五月雨撃ち』」

リビングレザーアーマーが鎧の中から長弓を引っ張り出し、無数の矢を同時につがえる。
上空へ向けて放たれた大量の矢は、放物線を描いて雨のように敵陣へ降り注いでいく。
弓兵の範囲攻撃スキルだ。

「まだまだ俺のターン!『濃縮荷重(テトラグラビトン)』、プレイ!」

モンデンチームの居るエリアに漆黒の魔法陣が展開し、領域内の重力を二倍に引き上げる。
これは純粋に身体を重くして行動力を奪うと同時に、先んじて発動した五月雨撃ちの威力も引き上げる。
重力加速度が倍になった矢は、より深く対象へ突き刺さるだろう。

加えて、エンバースの炎が生み出す上昇気流で舞い上がったダメージ付き濃霧も、重力に惹かれて降ってくる。
逃げ場のない波状攻撃の雨あられで、確実に戦力は削がれるはずだ。

複垢の恩恵で、俺は1ターンに都合2回の行動を許される。
半分が素人で構成された急造チームに、俺と石油王のタッグから勝ちをもぎ取れるとすれば。
鍵となるのは――モンデンキント。おそらくお前だ。

「イカサマだとか抜かすなよ!ズルまで含めてこいつが俺の全身全霊だ!
 ケツの毛も残らねえくらい、俺の持ちうる全てを出し切って、お前らを倒す!」

やつが復帰する前にチームモンデンを壊滅させられるか否か。
運命の分岐点は、そこにある。



【カザハ君とジョンに煽りぶちかます。
 万華鏡でスマホをコピーし、アプリの多重起動で1ターン2回行動
 範囲攻撃+重力倍加のコンボで波状攻撃】

183五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/06/26(水) 21:08:00
庭園の階下
まばらに植木と彫像が立ち、足元は石畳が敷かれているひらけた場所
そこは今、濃霧が立ち込めブレイブたちの決闘の場となっていた

なゆたと明神、モンデキントとうんちブリブリ大明神の地球での因縁が発端になったこの決闘はパーティーを二分する戦いとなっている
奇しくもその組み分けは、リバティウム後に仲間になった三人がなゆたにつき、明神にはみのりがついていた

とはいっても、みのりは積極的に戦うつもりはなかった
どちらかと言えば傍観者として見極める立ち位置にいる

なゆたと明神にどういった因縁があるかはみのりには埒外の事
だがそれをそのままにしていつか爆発させるよりも、今この場
感情を発露させ吐き出させるだけ吐き出させてしまった方が良いという判断
それとともに、なゆたのリーダーとしての資質を発揮させるためでもあった

ここまでの旅でなゆたのリーダーとしての功績は疑うべくもない
だがリバティウム以降に再編されたといっても良いパーティーにあって、流れと成り行きで担ぎ上げられてきた感も否めない
そういった確かなものがない状態でリーダーとして進んでいってもいつか歪みが生じるものだ
故に、ここで一度はっきりさせようと思ったからだ

更に言えば組み分けもみのりにとって都合よく綺麗に別れたと、明神の煽りを聞きながらほくそ笑んでいた

みのりはリバティウム以降仲間になった三人を信用していない
疑っているのではなく、信用に足る要素がないからだ
故に「囮の藁人形(スケープゴートルーレット)」の藁人形を渡して動向を探ろうとしていたのだが、手間が省けたというものだ

こういった時にどういう行動をとるのか
どういった戦いができるのか
明神の煽りに対し、どんな反応をするのか
明神の煽りは「成り行き上なあなあにしてきた部分」を的確についてきてくれるのだから

みのりが時間をかけ探っていこうとしたことを、この戦いで一気に見極める事ができる

ジョンがぽよりんに対してバフをかけ、明神に語り掛けながら不意打ちを敢行
お行儀のよい正統派の騎士様という印象とは裏腹に、そういった不意打ちもできるのかと感心の息を吐く

煽りに耐性ゼロで右往左往して騒いでいたカザハも戦う覚悟を決めたようだ

明神の言葉通りカザハとカケルもモンスターであり正体不明な存在である
にもかかわらず、あまりにも自然に、違和感を感じさせる間もなく溶け込んでいる
それは認識改変ミームでもあるのではないかと思えるほどなのだから

カケルにまたがりHP回復継続スペルを行使
1ターン過ぎれば継続ダメージを与える霧の中で戦うための対処と言える
体を包むそよ風がこの濃霧の中でどれだけ拡散できるのか?
これだけの濃度だとまだ混ぜ返すだけの可能性もある
ゲームシステムにない攻防であり、注視するところである

霧そのものがダメージ領域と化かしているのであり、そのダメージ量は表面積に比例する
小柄なシルヴェストルはそこまでダメージはないだろうが、ユニサスのような表面積の大きなモンスターはどうだろうか?
そういった意味ではなゆたのぽよりんも分裂合体巨大化などこの霧の中では大きな代償を払う事になるだろう

184五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/06/26(水) 21:08:37
濃霧の中、かすかに見えるなゆたに目を向けると、そこには明神の憎悪に晒され崩れ嗚咽する姿があった
その口からこぼれるのは……
その言葉に、みのりは総毛だつ

……まず一つ……

なゆたからこぼれた言葉はエンバースに届いた
戦い始まる前、慌て考えなおすような説得をしていたエンバースを動かすに足る力をもって

厭世的で諦めたような立ち振る舞い
それでいて守るという事に執着し、それを常に実行しようとする姿勢
しかしバロールの召喚リストになく、壊れたスマホを持つ燃え残りのモンスターエンバース

言葉はともかく行動は信頼に足るのではありが、正体不明な部分が多すぎて掴みようがない
だからこそ、この戦いでの動きを、なゆたから届いた言葉への反応をよく見ていた

なゆたを軽く抱きしめた後、向き直るエンバース
その踏み出す一歩をみのりは小気味良い笑みで迎えた

しかしここは戦いの場
満足な笑みをもって抱き合える場所ではない
むしろこれからは始まりなのだ

エンバースの革袋から零れ落ちた酒は炎を纏い広がる
それはいち早くみのりに届き、更にフィールド全体を覆おうとしていた
スマホが壊れており、ブレイブとしての戦いができない
モンスターとしての燃え残りエンバースの戦力かと思いきや、なかなかにどうして

>「石油王、あの炎どうにかできるか?」
霧の向こうから明神の声が届く
「もう少し炙られててもええんやけど、どうにかしまひょ」
声は明神の耳元から届くだろう

明神の肩口に一体、リビングレザーアーマーに二体の藁人形が張り付いていた
濃霧の中静観しながら二枚目の「囮の藁人形(スケープゴートルーレット)」を切っていたのだ
「全部出し切らな収まり付かへんやろしな、無理通さなアカンこともあるやろうし、お守りやよ」
という言葉と共に

霧の中明神の後ろに移動したみのりは火だるまになっていた
明神が霧を展開させると同時に裾から広げた「荊の城(スリーピングビューティー)」は石畳の下を這い広がっていたのだ
石畳の下は薄く砂の層がありさらにその下は砕石を敷き整え、その下は土になっている
まばらに植えられた植木から砕石や砂の層はそう厚くないと踏み、広げていたのだ

フィールド内すべてを網羅する荊である、石畳をズラすだけでも相手の機動を制限できる
積極参戦の意志がなくフィールドメイクを主眼に動いていたが、広がる炎は地中の荊を嘗め尽くし、元であるみのりにいち早く届いたという訳だ

エンバースによりひとつ策を潰されてしまったわけだが、服の下は変形したイシュタルがみのりを包み込んでおり、みのり自身に炎は届いていない
イシュタルの総HPからすれば炎によるダメージは深刻なものではなく、むしろ累積ダメージを溜める餌と言えた

がそこで発見があった
みのり自身に炎が届いていないので熱さやダメージがないのは当然としても、服が燃えていない
これもフレンド対戦モードフィールドの恩恵だろうか?
なんにしてもこれで憂う事なく戦えるというものだ

霧の向こうのなゆたを見ながらスマホをタップする

185五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/06/26(水) 21:11:01
みのりはリーダーとは先頭を走り皆を【引っ張っていく】者ではないと考える
それは引率であり、明神でも自分でもできるだろう
だが、リーダーはそうではない
先頭に立ち方向を指し示す
そして皆が同じ方向を向き背中を【押されていく】者だと考えているのだ

故に、孤高にて最強である必要はなく、不屈であればよいのだ
むしろ仲間に頼る事ができるのはリーダーとしての大きな資質といえる

だからこそ、なゆたの口から零れ落ち、エンバースを動かしたその言葉にみのりは総毛だった

しかし、それだけでは足りない
頼り守られているだけならばそれは庇護される姫でしかない
守られていても良いが、先頭に立ち指し示すことが必要なのだから

だから
「さあ、サービスの1ターンは終わりやえ?
お姫様のように守られるなゆちゃんもかわええけど、このデュエルでこのまま観客決め込められる子やないやろ?
見せてもらうえ、なゆちゃんの不屈をなぁ
それでうちらを受け止めたってえな」

なゆたの足元からみのりの声が届くだろう
明神に三体、みのりが持つ親機が一体、そして最後の「囮の藁人形(スケープゴートルーレット)」の一帯がなゆたの脚にしがみつき声を届けていたのだ

不屈とは折れない事ではなく、折れてもまた立ち上がれる事を言うのだから

現在フィールドに蔓延するのだ濃霧と炎
どちらもダメージを与えるものであり、炎は火酒のアルコールによって燃え広がっている
雨を降らしたところで霧を叩き落せても炎が消えるかは難しいトコロ

だから、「肥沃なる氾濫(ポロロッカ)」を発動させた
効果はフィールド上を洪水が押し流し、与えたダメージ分回復する

それを具現化させるようにみのりの周囲から水が溢れ出し、50センチほどの嵩を持ってフィールドを押し流れる
霧を損なうことなく、明神やヤマシタを炙る炎を消火し、石畳ごと炎を飲み込み押し流していく
そう、「荊の城(スリーピングビューティー)」によって耕された石畳、砕石、砂利を浮かせ内包し、土石流となって広がっていくのだった

エンバース、ジョン、カザハ、カケル、そしてなゆたに地からは二倍重力、上からは加速した乱れうちの矢とダメージ効果のある霧
そして足元は土石流が迫るのであった

【ジョン、カザハ&カケル、エンバースの反応を注視】
【地下に展開した荊は炎に舐められ火だるまに】
【明神となゆた双方に藁人形を派遣】
【肥沃なる氾濫(ポロロッカ)で石畳ごと炎を押し流す】
【フィールドに土石流発生】

186ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/27(木) 20:09:20

>「ジョン君……なゆがゴッドポヨリンさんを出すまでなんとか時間を稼ごう!『癒しのそよ風(ヒールブリーズ)』!」

「ゴッドポヨリン・・・わかった!前線は俺がでる!カザハはカバー・・・し・・・て・・・?」

カザハから協力を求められそれに応じる為、行動に移そうとしたその瞬間気づいた。
さっきまで元気に喋っていたなゆが一言も喋ってないということに。

>「『俊足(ヘイスト)』!」

「・・・カザハストップだ!ストップしてくれ!」

スペルを準備するカザハを止め、二人でなゆを見る。
そこにはさっきまで元気だったはずのなゆが。
崩れ落ちて泣いてるなゆがいた。

僕は勘違いしていた。
彼女は仲間と数多の危機を乗り越えてきたと聞いていた。
今まで経験した修羅場に比べればこんなのもへっちゃらなのだろうと。
だが違ったのだ、彼女は普通の・・・普通の女の子だったのだ。

もしかしたら僕が思うような修羅場には運よく遭遇しなかったのかもしれない。
今まで仲間と仲良し小好しでここまでこれてしまったのかもしれない。

これがなゆがこの世界にきて初めての裏切り・・・修羅場なのかもしれないと

「なゆ・・・」

言葉がでてこない、いや言葉がないのだ・・・僕には。
僕がなにを言ってもなゆには・・・届かない。

「カザハ・・・もうやめよう・・・俺達の負けだ」

いくら僕達が補助しようともこの戦いはなゆVS明神なのだ。
そのなゆが戦闘不能状態の今、僕達にできる事は・・・ない。

その時背後になにかを感じた、振り返るとそこに居たのはエンバース。
彼はよろよろと泣き崩れたなゆに近づくと、ゆっくりと、そして優しく抱き寄せた。

普段ならなにか茶化していたかもしれない。
でもさすがに今回はそんな事しようなんて気にはなれなかった、もちろんそんな場面じゃないと言うのもある、あるが。

――エンバースに違和感を感じたからだ。

187ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/27(木) 20:09:49

>「……心配するな。大丈夫だ――俺がいる」

なぜだろう。

>「言ったろ……俺が、守ってやるって。お前がどんなに嫌がろうと……そんなの、知った事かよ」

今のエンバースに。

>「ここで、じっとしてろ。すぐに終わらせてやるさ。ああ、そうとも。すぐに……」

違和感を感じるのは――

>「……すぐにみんな、焼き払ってやる」

「なあエンバース、そりゃちょっと物騒すぎないか・・・?」

>「行ってくる……寂しがるなよ?」

僕やカザハの言葉は聞こえていないといわんばかりに無視。
そしてなゆを開放し、明神がいる方向へとゆっくりと、確実に進んでいく。
違和感は疑惑に疑惑は確信に変わっていく。

>【小さな革袋】【火酒】

エンバースがアイテムを取り出し使用する。
すると地面に蒼い炎が広がった。

「エンバース!聞こえてるのか!?エンバース!おい・・・!?熱い!?」

どこか変なエンバースを止める為に手を伸ばしたその瞬間、まるで焼かれているかのような痛みを感じ手を引っ込める。

「・・・?だって君は・・・エンバースは味方のはず・・・?」

本来今この状況(エリア)はただのお遊びのPvPモード。
ゲーム的に言えばHPが0にならない状態で、現実的にいうなら死なないモード。
そしてフレンドリーファイアは本来OFFの筈、その証拠にみのりは霧の影響を余り受けてないように見える。

もしかしたらダメージは減少しているだけでFFはあるのかもしれない、けど。
エンバースを止める為に伸ばした僕の右手に来た熱は、火傷にはなってこそいないが軽減されているという感じではなかった。

だがなぜだ?エンバースはまだ僕達のPTにいるはずだ、みのりのように抜けるそぶりすらしていなかった。
さっきのなゆに対する発言を見れば隠れてPTを抜けたという事もないだろう。
じゃなぜモード適応がされてない?なぜ一人だけこの展開されたフィールドで例外が許されている?

>「……問題ないさ。パートナーがいないのは……確かに不安要素だ。
 だけど……この体はそれなりに便利だ。スマホがなくても俺は戦えるよ。
 デッキも手札もないって事は……逆に言えば、俺はブレイブのルールに縛られない」

エンバースがみのりとしていたこの会話、僕は軽く流していたこの会話こそが。

>「派手な虚仮威しだなエンバース!自分が野良のモンスターに過ぎないって忘れてんじゃねえだろうな!
 お前は誰のパーティメンバーでもない!その炎が炙るのは俺たちだけじゃないんだぜぇ!」

もし本当なのだとしたら・・・彼はこのお遊び空間でただ一人、正常なルールが適応されていないとしたら・・・。
本当にたまたまなにかしらのエリアルールで加護が適応されたからこの火は僕達に実害を及ぼさないだけ、だったとしたら・・・。

188ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/27(木) 20:10:12
>「ハッタリだ!てめえの炎はそれ以上燃え広がらない!なゆたちゃんまで燃やしちまうからな!
 虎の子の戦術も、単なるフィールド効果としてその儚き生を終えるんだよぉっ!」

よく見ればなゆの周りだけ燃えていない。
これだけ的確に燃えていない所を見ると、エンバースが狙って発動させている事がわかる。
だがこれ以上火を強くすれば当然なゆの所にも火が回ることになる。

「ブライトゴット!わかっているなら一旦戦闘やめよう!普段ならいいんだろうけど
 今のエンバースはまともとは思えない!・・・くっ」

炎は容赦なくなゆがいる場所以外を燃やしている。
僕やカザハの事は計算に入っていないらしい。

>「『万華鏡(ミラージュプリズム)』――プレイ!」

こっちがエンバースの炎で大騒ぎの間に明神達は着実に攻撃の準備をしている。

「カザハ!エンバースを援護する余裕はない、俺達だけで防御を固めるぞ!」

今だに僕やカザハに対し無視に近い反応を続けるエンバースをみて援護は無理だと判断。
現状"中立"の彼を援護するなんてそんな余裕はない。

>「ブレイブ殺しの戦術はそれで品切れかぁ?
 甘い!甘い!あめーなぁ!考えがよぉ!おじいちゃんのくれた特別な飴くらい甘い!
 俺たちをそんじょそこらのブレイブと一緒にすんじゃねえ。くぐってきた死線の数が違うぜ!
 ――ヤマシタ、『五月雨撃ち』」

>「まだまだ俺のターン!『濃縮荷重(テトラグラビトン)』、プレイ!」

・・・たとえどんな障害があっても中途半端にやめるつもりは・・・ないんだね。

「ブライトゴッド、君はなゆと本気で向き合おうとしてるんだね」

>「イカサマだとか抜かすなよ!ズルまで含めてこいつが俺の全身全霊だ!
 ケツの毛も残らねえくらい、俺の持ちうる全てを出し切って、お前らを倒す!」

奥の手、それも完全レッドゾーンの連携技、明神がどれだけ本気なのかよくわかる。
たしかにここで中途半端に止めるのは愚なのかもしれないな・・・。

「ちょっと・・・うらやましいな」

なゆと、いやモンデキントと本気で向き合う為。
そしてこれからをなんとかするために全力でぶつかり合う為。
逃げずに立ち向かおうとする明神をみて心のどこかに剣を刺されたような気分になった。

たぶん僕が明神の立場ならもっと綺麗にやれていたと思う。
でもそれは半ば相手を騙す、火に油を注がないよう慎重に立ち回るって事で。
相手の為ではなく自分の為に誤魔化しているに過ぎない。

・・・僕が人にこんなに熱心に、本気で向き合った事などあっただろうか?。
本気でだれかの為に行動した事なんて・・・今までの人生で一度もなかったような気がする。
そもそも人に本気で関心を寄せた事が――

>「さあ、サービスの1ターンは終わりやえ?
お姫様のように守られるなゆちゃんもかわええけど、このデュエルでこのまま観客決め込められる子やないやろ?
見せてもらうえ、なゆちゃんの不屈をなぁ
それでうちらを受け止めたってえな」

「今は無駄な事を考えてる場合じゃあなかったね」

189ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/27(木) 20:10:50

みのりの足元から水が溢れ出す。
それはまるで小さい津波のように足元の砕石、砂利を巻き込みながら押し寄せてきていた。

「上から矢と霧、下から土砂と来たか、それと重力ね・・・僕は普段つけてた装備に比べれば軽いからどうってことないけれど」

絶望的な状況である。
ゲームならこの状況になった時点で負け確定だっただろう。

「カザハ・・・空中のアレ、任せてもいいかい?・・・それとできる限り僕の真上と近くにはいないようにね、巻き込まれると危ないから」

上から跳んでくる矢と部長の相性は最悪を通り越してなにもできる事がない。
現状でいえば完全にカザハ頼りだ。

「さてみんなに部長の凄さ、ちょっとだけ見せちゃおうかな?レアモンスター故の意外性って奴をね・・・雄鶏絶叫!発動」

「ニャアアアアアアアアアアアア!」

部長が叫ぶ、大音量で叫ぶ。
このスキルは任意で効果量を変えられる、強く叫べば叫ぶほど素早さを犠牲にして攻撃力と防御力を上げることができる。
知ってるプレイヤーなら叫んでる最中に攻撃を仕掛けてくるだろう。
だが実戦でウェルシュ・コトカリスと対戦した奴が一体何人いるというのか。
知識としては当然あるだろう、だがこの実践の中で咄嗟に思い出し行動できる物は・・・少ない。

「いいぞもっと!もっと気合を入れろ!部長!・・・雄鶏乃栄光!」

「ニャアアアアアアア!ニャ!」

さらにそこに追加のバフを掛ける。
自分の攻撃力と防御を限界まで高めた部長の顔つきは普段と一味・・・特に違わなかった。

「よし準備は整ったな・・・よしいくぞ部長!・・・そおおおおおおれ!」

部長を空高くぶん投げる、空高く舞った部長は矢にぶつかるがバフで防御が上っているため部長のダメージはほとんどなかった。

「ブライトゴッド!君が用意してくれたこの重力!遠慮なく使わせてもらう!
 部長!鎧変形!、そして・・・雄鶏疾走!全力で地面にぶつかれ!」

ここでさらにバフを発動防御がほぼ0になる変わりに10秒の間だけ神速の早さを手に入れる。
重量が増し、加速状態になり、さらにそこに2倍になった重力の影響をもろに受けた部長は肉眼では見えない速度で落下し始めた。

「ニャアアアアアアアアアア!」

そして非常に大きな音と共に地面に衝突する。
部長がぶつかった地面にはかっこよく言えばクレーターが・・・かっこ悪くいえば非常に大きな穴が開いた。

190ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/06/27(木) 20:11:14

大きな穴に水が、土砂が流れていく。

「これでこっちに向ってくる水は全部防げるし、みのりのお陰で火も大体消えたわけだ
 部長の力も見せれたし、よかったよかった」

実際はなにも自体は好転していない。
上空からは矢が現在進行形で迫ってきており、霧のせいで部長も僕も結構なダメージを受けてしまった。
そしてATBを使い果たし反撃すら満足にできない。

「部長砲弾を食らいたくなかったら降参をオススメするけど・・・」

虚勢を張る、敵にもう策がないと悟られてはいけない。
部長も僕も霧のダメージで満身創痍、回復しようにも次のゲージが溜まるのを待たなければならない。

対人戦慣れしている明神なら驚きはすれどこの虚勢でひるまない、当然降参もしない。

「うーんそうかい・・・結構痛いと思うけどこのエリアならまあ・・・死にはしないと思うから思いっきりやるよ」

嘘だ、霧に苛まれ、ちゃんとした回復もせずにもう一度重い重力と霧の中、部長を空高く投げ飛ばしたりすれば部長はそれだけで戦闘不能になってしまう。
それに霧の影響で僕も体が相当やばいことになっている。
当然なゆを見捨ててこの砲弾を明神やみのりに直撃させるという手段もあった、あったが。


信用を得る為とはいえもっとうまいやり方あったなあ・・・。


どんなに後悔してもやってしまった事、どうしようもないと割り切る。
ゲージを待って回復したいが、味方の援護なしでは回復スペルカードを発動した瞬間に強襲されて終わりだ。
カザハは空の矢の対処中、エンバースは僕達の事は無視、残るは・・・。


なゆ・・・はやく・・・きてくれ・・・!



【地面に大きな穴を開け水をそこに逃がす事に成功】
【しかし霧の中激しく動いたせいで部長・ジョン共に満身創痍】

191崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/30(日) 06:19:47
581 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:11:14
ホントいい加減にしろうんち野郎
お前のおかげでどんだけの人間が迷惑してると思ってんだタヒね
二度とこのスレッドっていうか板にツラみせんなウスラボケ

582 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木)21:16:29
削除依頼出してくる
もうこいつの書き込み見るのも不快

583 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:23:09
あくしろよ

584 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:29:55
月子先生も荒らしに構わないで
構うから図に乗るんだから、構わなきゃじきにいなくなるんですから
この次のレスからは徹底的に無視ってことでよろすく

585 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:38:01
さんせいー

586 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:40:47
うんちぶりぶり大明神なんてクソコテは最初からいなかった、ってことでおk?

587 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:41:03


588 名前:モンデンキント◆L0..JUD/KE[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:47:36
いえ、皆さんお気持ちは分かりますが、ちょっとだけ待って頂けませんか?

589 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:50:31
いやいや、だから先生が構うからうんち野郎が調子こくんじゃん?
先生が無視してくんないとこいつずっとここに居座り続けるじゃん?
みんなこいつの名前も書き込みも見たくないんだしさぁ

590 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:52:09
また先生の悪い癖が…

591 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:53:48
先生マジ仏
でもその汚物に仏の慈悲はいらない
ほっとけ(仏だけに)

592 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 21:59:30
『燃え盛る嵐(バーニングストーム)』プレイ!>>591にダイレクトアタック!

593 名前:モンデンキント◆L0..JUD/KE[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 22:07:19
皆さんの仰ることはごもっともなのですが、すみません。
私はもう少し、彼と話してみたいのです。私の完全な我侭だというのは、重々承知しているのですが……。
彼を力ずくで排斥するというのは、もう少しだけ待って頂きたいです。
どうか、お願いします。

594 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 22:10:11
うんち野郎と話すことなんて何もないでしょ!
こんなのと話してたら月子先生まで品位が疑われるから!

595 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 22:10:47
先生も大概一度言い出すと聞かないから・・・

596 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 22:12:49
先生のスレなんだから、先生の気の済むようにするのがいいと思う
見てるこっちはいい気はしないけど……だから今回が最後ってことで

597 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 22:14:01
名無しが排除しようとする→先生が止める→うんちぶりぶりが調子こく
この流れがもう何度繰り返されたことか

598 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 22:15:57
しゃーない

599 名前:モンデンキント◆L0..JUD/KE[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 22:21:21
ありがとうございます、皆さん。
もちろん、彼だけでなく皆さんとも楽しくお話しができればと思っています。
そういえば、そろそろ新しいイベントの時期ですね。
昨年の今頃は夏イベが告知されて、水着エカテリーナが実装されましたが。
今年は誰が水着になるのでしょう?楽しみです。

600 名前:名無しのブレイブ[sage] 投稿日:20××/6/29(木) 22:29:57
水着マル様ハァハァ




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――――――――――
―――――

192崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/30(日) 06:20:26
アルフヘイムへ来て以来最大級の絶望に打ちひしがれ、なゆたはただ泣くことしかできなかった。
ほんの少し前までは、それでも何とか皆でアコライト外郭へ行こう!世界を救おう!と言っていたのに。
気が付けばパーティーは二つに分かれ、なゆたそっちのけで戦闘が始まってしまった。
しかも、異世界に放り出されて以来苦楽を共にしてきたふたりが敵に回ってしまうなんて――。
頼るべき寄る辺を失い、なゆたの心は折れた。
戦闘に参加するどころではない。なゆたの心に、サレンダーという言葉が浮かんでは消える。
戦闘放棄。降伏。自身の負けを認める行為。
なゆたがそれを口にすれば、戦闘は終わるだろう。そもそも、これは明神となゆたの因縁から始まったこと。
明神に対してなんの遺恨も因縁もないジョンやカザハが戦う理由などないのだ。

>ネタ枠はおめーも大概だろうがよぉー!つーか何お前、世界救うってのに名前が判断基準なの?
 魔王に唯一有効な最強武器が『うんこソード』とかだったらどうすんだよお前、使わずに死ぬつもりかよ

「うんこソード!? いや、それは無理! 私の負けだ!」

ドン引きする元魔王である。この世界をかつて恐怖のどん底に叩き落とした魔王本人の弁だけに説得力が半端ない。
しかし、魔王が白旗を振ったところでこの戦いは終わらないのだ。

>お前が俺たちの仲間ヅラしてんの、結局のところ全部ただのノリじゃん。マジでその場のノリじゃん?
 怖えなあ何考えてっかわかんねー奴と一緒に居んの。それがモンスターだってんならなおのことこえーわ

そうだ。明神の言葉は正鵠を射ている。
カザハは『異邦の魔物使い(ブレイブ)』とミハエル、ミドガルズオルムの戦いのさなかに突然現れた。
そしてなし崩しに共闘し、気付けば仲間になっていた。
なゆたは『協力してくれたんだから悪い人ではないだろう』と安易に考えていたが、それは言うまでもなく短慮である。
ライフエイクを挙げるまでもなく、真の悪人とは最初は親切な善人を装って近付いてくるものだ。
バロールは自分がカザハを召喚した、と言っていたから、カザハがアルフヘイム側なのは間違いない。
けれど、『アルフヘイム側である』ことと『なゆたたちの味方である』ということは、必ずしもイコールにはならない。
明神やみのりがいい例だ。
バロールに召喚されはしたものの、先ほどまでのふたりのバロールやアルフヘイムに対する態度は敵意そのものだった。
アルフヘイム側として召喚されたにも拘らず、ニヴルヘイム側につく――そんな『異邦の魔物使い(ブレイブ)』だっているだろう。
今まで長くアルフヘイムで修羅場をくぐってきた明神とみのりがカザハを信用しきれないのは当然と言えた。
むしろ、なんの警戒もなく直感でいい人と決めつけてしまったなゆたの方が迂闊で、不用心なのだ。

>だめだブライトゴッド!君はなぜ自分から嫌われにいくんだ!?ちゃんと話合って解決すればいいだけじゃないか
 エンバース!君もなゆが本気で言ってないって理解しているんだろう!?だれも争う必要なんてないんだ!誰も・・

ジョンが明神の説得を試みる。
ジョンはその外見や雰囲気にたがわぬ、正義の心を持っている人物のようだった。
そして、明神とほぼ同時のタイミングでなゆたもまた、そんな彼の正体に気が付いた。
ジョン・アデル――被災地で明日をも知れぬ不安な日々を送る人々に、希望を届ける自衛官。
整った顔立ち、優しい物腰は老若男女を問わずファンが多く、写真集なんかも出ていた気がする。
ワイドショーでもよく取り沙汰されていたし、なゆた自身も街角のポスターで敬礼する彼の姿を見かけたことがある。
しかし、そんな有名人がまさか『異邦の魔物使い(ブレイブ)』として召喚され、自分の目の前にいるなんて――。

>そんなに君はなゆが、他のみんなが信じられないのか?
 自分の過去を知られたらみんな無条件で離れてしまうと思っているのか?
 ちゃんと話合うんだ、この乱闘騒ぎがどう終わろうとね

よく通る声でジョンは明神の説得を続ける。――だが、それは功を奏さなかった。
明神はとっくに覚悟を決めている。なゆたのライフを0にし、ブレモンプレイヤーとしてのすべてを打ち砕くまで止まらないだろう。
ジョンも、ほんの少しの会話を通して明神の覚悟を理解したようだった。
その直後の奇襲は不発に終わったが、これでジョンの心も決まったらしい。
言って分からないのなら、腕ずくで黙らせる。
世界最高峰レベルの兵士(トルーパー)である自衛官らしい判断だった。

>立てよモンデンキント、俺は矛を収めるつもりはねえ。てめーの絶望なんざ知ったことか。
 ウジったまんまのお前なんか秒で潰せるがよぉ……全力のてめーを倒さなきゃ、意味がねえんだ

ジョンとの遣り取りを一段落させた明神が言葉を投げかけてくる。なゆたは一度びく、と身体を震わせた。
辛辣な言葉だ。心を切り刻む鋭利なナイフのような言葉だ。
ここにいるのは、もうなゆたのよく知る頼りがいのある仲間、苦楽を共にし死線を潜り抜けてきた明神ではない。
モンデンキントに対して底知れぬ憎悪を抱く、ブレモン最悪最強の荒らし――うんちぶりぶり大明神なのだ。
もう、以前のようには戻れない。つらくとも手を取り合い、皆で支えあってきたあのころには。
真一としめじ、ウィズリィが去り、明神に憎まれ。
パーティーは瓦解した。四分五裂し、粉々になってしまった。



なゆたの冒険は、終わったのだ。

193崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/30(日) 06:20:46
……と、そのとき。
ジャリ――と靴裏が石畳を擦る音。鼻腔に漂う、焼け焦げたにおい。
顔を覆っていた両手を束の間どけて、なゆたは顔を上げた。
いつの間にか、すぐ目の前にエンバースが立っている。
パーティーが分裂し、その立ち位置がほぼ決定した今、エンバースだけは両陣営にも属す動きを見せない。
しかし、なゆたには分かっていた。エンバースはきっと、明神の側に行くだろう。実際、彼は明神に誘われていた。
明神の言うとおりだ。自分はエンバースを拒絶した。否定した。いなくてもいいと言った。
そんななゆたをエンバースが守る理由などないだろう。
そう、思ったが。
気付けば、なゆたはエンバースに強く抱きしめられていた。

「……ぁ……」

彼の胸に軽く両手を添える体勢になりながら、なゆたは驚きに目を見開いた。その拍子に、また涙がこぼれる。

>……心配するな。大丈夫だ――俺がいる
>言ったろ……俺が、守ってやるって。お前がどんなに嫌がろうと……そんなの、知った事かよ

エンバースの手が、なゆたの髪を優しく撫でる。
今まで憎まれ口ばかり叩いていたエンバースの身に何が起こったのか、まったく分からない。
彼が自分に優しくする理由など、何もないというのに――。
なゆた自身も、突然抱き寄せられたことに対して拒絶をすべきだった。すぐに彼を突き飛ばせばよかった。
実際、平素のなゆたならそうしただろう。生来の強気な性情で彼の横っ面を平手打ちしてやったに違いない。
けれど、折れた心はそれをしなかった。

>……すぐにみんな、焼き払ってやる

なゆたを解放したエンバースが踵を返し、明神やみのりと対峙する。

>オウル、お前がご主人様の盾になれ――剣は、俺が務める

『ぽよっ?ぽよぽよっ、ぽよよ〜っ!』

ポヨリンがシンプルな顔の眉間に皺を一本作ってぽよんぽよんと飛び跳ねる。違う名前で呼ばれたことに抗議しているらしい。
しかし、エンバースはまるで気にしない。小さな革袋を取り出すと、それを握り潰した。
そこから流れ落ちる液体が、瞬く間に発火しフィールドを蒼炎に染め上げてゆく。

――な――

頬を撫でる熱気。それを感じながら、なゆたは息を呑んだ。

――何が起こってるの……?

空を舞うカザハとカケル。部長を前に身構えているジョン。そして、フィールドの中央に佇立するエンバース。
エンバースに抱きしめられていた時間は、きっと二分にも満たなかっただろう。
が、異性に強く抱き寄せられるという出来事は、ショックで空白になっていたなゆたの意識を現実へ引き戻すには充分だった。
なゆたの頭の中で、猛烈な勢いで今までの出来事が整理されてゆく。
明神の正体。避けられない戦い。ふたつに分裂したパーティーと、仲間たち。
これからどうすべきなのか、その岐路に今、自分は立たされているということ――。
しかし、茫然自失の状況から我に返っても、なゆたはその答えを出すことに躊躇していた。
自分の不采配のせいでパーティーがバラバラになってしまったというのは事実だ。皆の見る方向を一ヵ所に揃えられなかった。
そんな自分が、この先もこのパーティーのメンバーとしてやっていけるだろうか?
うんちぶりぶり大明神は言うまでもない荒らしだったが、言うことにはいつも一定の理があった。
もし、明神が自分や真一に代わってパーティーを牽引し、それで全てが上手くいくのなら、自分が先に立つ必要はないのだ。
そう――なゆたがこのパーティーに残り続ける理由など――
しかし。

その『声』は、足許から聞こえた。

>さあ、サービスの1ターンは終わりやえ?
 お姫様のように守られるなゆちゃんもかわええけど、このデュエルでこのまま観客決め込められる子やないやろ?
 見せてもらうえ、なゆちゃんの不屈をなぁ
 それでうちらを受け止めたってえな

「わ……!!」

見れば、いつの間にかみのりの『囮の藁人形(スケープゴートルーレット)』が脚にしがみつき、こちらを見上げていた。
リバティウムのトーナメントの時と一緒だ。あの時は、いつの間にかなゆたは人形に首筋に回られていた。
驚くべき抜け目のなさだ。みのりは頼りになる仲間だが、敵に回るとこれほど恐ろしい相手もいない、となゆたは思う。
だが、そんなみのりの人形が発した言葉は、決して敵意でも、落胆でも、失望でもなく――

叱咤、だった。

194崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/30(日) 06:21:02
明神側に回ったとき、みのりは『なゆたのリーダーの資質が見たい』と言った。
そしてまた、『囮の藁人形(スケープゴートルーレット)』を通して『なゆたの不屈が見たい』と言った。
それで自分たちを受け止めろ、と。
みのりは決して、なゆたを見限って明神側についたのではなかった。
ただ、力を見せろと言っている。この滅びゆく三つの世界で戦い、勝ち残ってゆけるだけの力を。
信じるに足る力を。ATKとかデッキとか、そんな数値の強さじゃない。
心の強さを見せてみろ、と――。

今までなゆたたちはやむを得ず、なし崩しに、ワケも分からず流されるまま進んできた。
しかし、この王都キングヒルで自分たちが召喚された理由を聞き、世界の状況を聞いてしまった今、そうはいかない。
これからは自分の意志で戦い、勝ち抜き、目的を果たしていかなければならないのだ。
もう一度、パーティーを結成し直す必要がある。死なないことを前提として結束したパーティーではなく――
この世界を救うという、確固とした決意を全員が共有するパーティーを。
そして、みのりはそのパーティーのリーダーにはなゆたがいい、と言ってくれている。
だからこそ、資質を見せろと――自分がリーダーと仰ぐに足る人物かどうか見せてみろと言っているのだ。

そして、明神も。
明神はモンデンキントを叩きのめすチャンスを狙っていた、と言っていた。いけすかないと。
しかしその反面、先ほど確かにこうも言ったのだ。

>ハッタリだ!てめえの炎はそれ以上燃え広がらない!なゆたちゃんまで燃やしちまうからな!
 虎の子の戦術も、単なるフィールド効果としてその儚き生を終えるんだよぉっ!

なゆたちゃん、と。
今までずっとそう呼んでいたから、咄嗟にモンデンキントではなくなゆたと呼んでしまったのだろうか?
いいや、違う。本当に心から憎んでいる相手ならば、ここで言い間違えることはあるまい。
憎しみ以外の気持ちがあるから。怒り以外に伝えたいことがあるから。
明神は無意識になゆたの名を呼んだのではないのか――?

エンバースの放った炎が、みのりの『肥沃なる氾濫(ポロロッカ)』によって消し止められてゆく。
代わりに発生したのは土石流だ。轟音を響かせながら、洪水が迫ってくる。

>ブライトゴッド!君が用意してくれたこの重力!遠慮なく使わせてもらう!
 部長!鎧変形!、そして・・・雄鶏疾走!全力で地面にぶつかれ!

しかし、その土石流をジョンと部長が機転を利かせて防いだ。
フィールドの中央に開いた大穴に、土石流が飲み込まれてゆく。大穴が土石流でふさがれ、フィールドは再度戦闘可能になった。

「……ジョンさん……」

なゆたはジョンを見た。
ジョンはすでにボロボロだ。毎ターンダメージを誘発する霧にさらされ、予想以上にダメージを負っている。
高レベルのレジストを持つ姫騎士装備を纏ったなゆたやモンスターであるエンバース、カザハと違い、ジョンは生身の人間だ。
いくら自衛隊の訓練で鍛えた身体を持っていると言っても、このフィールド内での活動には限界がある。
だというのに、立っている。なゆたに力を貸そうとしてくれている。
なゆたとカザハはあっさり彼を信頼したが、他のメンバーはそうは行かない。特に明神などは正反対の属性だ。
この戦いは、ジョンのパーティー加入試験とも言えるのかもしれない。
戦いとはもっとも原始的な行為。一通り見ていれば、その人物の人となりや思考、行動パターン、癖が見えてくる。
その人物が信用に足る、誠実な人物であるのか否かも――。
そして。それはカザハやエンバースにとっても同様だ。
リバティウムのミドガルズオルム戦で助太刀してくれたとはいえ、それは最終盤。彼らの全力を見たとは言い難い。
ならば。そんな三人を率い、勝つ。それこそがリーダーの資質を問うみのりへの何よりの答えとなるだろう。

きっと、明神にとっても……。

「――――――――――」

ギリ、となゆたは歯を食い縛った。
カザハは、なゆたがゴッドポヨリンを召喚するまで時間を稼ごうと提案した。
ジョンは、そんなカザハの気持ちを汲んでなゆたが覚醒するまでの活路を開いてくれた。
エンバースは、なゆたを守ると言った。そして実際にその通りにしている。守ってくれている。
みのりは、なゆたのリーダーとしての資質を見極めるため、それを一番分かりやすく見られる位置に立った。
明神は、今まで培ってきたもののすべてを。何もかもを出し尽くして、なゆたを倒そうと迫る。
この場にいる全員が、なゆたに対して何らかの想いを抱いてくれて。出来うる限りの力を発揮している。

だとしたら。

それならば。

その想いに応えないのは、崇月院なゆたではない。

195崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/30(日) 06:21:29
「『高回復(ハイヒーリング)』……プレイ!」

スマホをタップし、スペルカードを切る。対象はジョンだ。
これでジョンはダメージが相当量回復するだろう。部長は後回しになってしまうが、魔物は人間とは比較にならないライフを持つ。
とりわけサポート面で強力なスキルを持つウェルシュ・コトカリスならば、もうしばらくは持ってくれるだろう。
そして――

「カザハ、ジョン、エンバース! わたしの言葉を聞いて……お願い!
 五月雨撃ちは敢えて喰らう――全員! 防御態勢!」

なゆたは素早くマントの後ろについているフードをかぶると、全身をこわばらせた。

ドドドドドドドドッ!!!!

ヤマシタの放った矢の雨がなゆたチームサイドに降り注ぐ。
『濃縮荷重(テトラグラビトン)』に引かれて速度を増した矢は、通常よりもダメージが高い。
が、即死するレベルではない。ダメージこそ与えられるものの、致命傷には程遠い。
明神もこれで勝負を決めるつもりはないだろう。つまり、これは示威的行為に過ぎない。
とすれば、避ける必要はない。今は、矢を叩き落とすことでATBを1ターンを無駄にするよりは、攻撃に費やした方がよい。

「……ぐ……!!」

降り注ぐ矢が全身にくまなくダメージを与えてくる。なゆたはきつくきつく歯を食いしばって激痛に耐えた。
実際であれば肉を貫き骨を穿つであろう矢は、しかしPvPのフィールドにあっては衝撃のみを齎す。
実際に肉が裂けたりはしないものの、電気ショックのような痛みが身体を貫く。
それでもなんとか倒れずに凌ぎ切ると、なゆたは大きく息を吐き、そして明神とみのりを見つめた。

「……ふたりの気持ちは、わかりました。特に明神さん……あなたが“彼”だったなんて。
 奇跡みたいなものですよね……バロールさんはこの世界にたくさんの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚した。
 なのに……大勢の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中で、あなたとわたしがパーティーを組んじゃうなんて」

バロールは何らかの意図があってこのチームを編成したわけではない。
真一となゆたが近くにいたのはもともと住まいが近所だったからかもしれないが、他のメンバーは全くのランダムだ。
それでも、ふたりは出会ってしまった。この広い世界で。

「わたしのこと、さぞかし嫌いだったでしょう。いつも、あなたの書き込みに意見して。反発して。
 正義を振りかざして……。実際わたしも、あなたのことが好きじゃなかったと思う。
 どうしてブレモンが嫌いなのに、ここにいるんだろうって。楽しい空気に水を差すんだろうって。
 何が、この人をこんなにもブレモンを憎むようにしてしまったんだろう? って――ずっと思ってた」

静かな抑揚で、なゆたは言葉を紡ぐ。

「レスバトルをするあなたの知識は本物だった。ルールも、そのルールをつく抜け穴も、何もかも知ってた。
 わたしが知らなかったことだっていっぱいあった。あなたとのレスバトルの最中に気付かされたことも。
 だから――わたしにとって、あのレスバトルは無駄なものじゃなかった。
 罵られるのはいやだったし、腹も立ったけれど……それ以上に得るものがあったんだ」

知識というものは、嫌々頭に入れようとしても入らないもの。好きだからこそ、知りたいと願うからこそ頭に入るものだ。
明神の知識は、貶すことを前提として培われたものではない。なゆたはそう思った。
好きの反対は無関心。嫌いであるなら、最初から覚える気も起きない。
けれど、明神はそうではなかった。結果的に悪事に用いていたとはいえ、知識そのものに善悪はない。
どうしようもなくねじ曲がってしまっているとはいえ、知識を吸収し応用するその姿勢だけは尊敬に値すると。そう思っていたのだ。
そして――

「……わたしもね。ずっと戦いたいと思ってたんだ。あなたよりずっと。ずっとずっとずっと!!
 わたしよりたくさんの知識を持ち! わたしより多くの発想力に恵まれて! そして、そのすべてを悪事に利用するあなたと!
 それが、今まで旅してきた……あの強くて頼れる明神さんならなおさら!
 あなたを懲らしめるため? ううん――違う。
 『わたしより』!『強いあなたに』!!『勝つために』!!!」

迷いなき眼差しで明神を見つめながら、なゆたは叫んだ。
なゆたとこの男が戦うのは、これが初めてではない。
かつて、飛ぶ鳥を落とす勢いでランキング戦を勝ち上がっていったなゆたが倒した多くの相手の中に、この男もいた。
なゆたはそれを知らない。この男が堕ちるきっかけとなった戦いは、なゆたの中ではワンオブゼムとして埋没した。
だが、それはあくまで『タキモト』というプレイヤーの話。『うんちぶりぶり大明神』とは違う。
なゆたにとってうんちぶりぶり大明神とは、そして明神とは――

「誰が持たざる者ですって? バカなこと言わないでください。あなたは持ってる、たくさん持ってる!
 そんなあなたが、何もかもをかなぐり捨ててわたしを倒すって言うのなら――
 わたしもそれに応える! ここからは……『何でもあり(バーリトゥード)』よ、明神さん!」

何としても倒さねばならない、倒したい、乗り越えたい壁。なのだ。

196崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/30(日) 06:21:48
今まで、多くの強大な敵を倒してきた。
ベルゼブブ。
バルログ。
タイラント。
煌めく月光の麗人(イクリップスビューティー)。
バフォメット。
ミドガルズオルム。
ミハエル・シュヴァルツァー。

楽をして勝てた敵はひとりもいない。一瞬たりとも手を抜けない、極限の攻防を制して勝利を収めてきた。
だが今回の相手は、そんな彼らより数段も強く、そして――絶対に負けられない相手だった。
明神とみのり、その強さをなゆたは知悉している。何よりも深く理解している。
だからこそ倒さなければならない。乗り越えなければならない。
これからも、彼らと一緒に旅をするために。
ひび割れ、壊れかけた絆を、もう一度結び直すために。

ばっ、となゆたは突然胸当ての内側をまさぐると、右手を突き出した。
そこには、ふたつのアイテムが握られている。それらは明神もみのりも見覚えがあるだろう。すなわち――

『ローウェルの指環』と『人魚の泪』。

一度使用したスペルカードを瞬時にリキャストし、また想像を絶する強化を施す超チートアイテム、ローウェルの指環。
メロウの王女マリーディアとその恋人ライフエイクの愛の結晶であり、ミドガルズオルム召喚のキーアイテム、人魚の泪。
ゲーム内であればバランスブレイカー間違いなしの超絶レアアイテムが、なゆたの手の中にある。
そのふたつを使用すれば、きっとふたりを瞬殺することができるに違いない。
ローウェルの指環のリキャスト機能を使い、スペルカードを湯水のように使って圧倒もできる。
ミドガルズオルムのスキル『絶対無敵の大波濤(インヴィンシブル・タイダルウェイブ)』はすべてを押し流す。
戦略も何もない、ゴリゴリのゴリ押しプレイでふたりを撃破できる――。

だが。

なゆたはそのふたつを、フィールドの隅で判定員を気取っていたバロールへと投げた。

「……モンデンキント君?」

チートアイテムを受け取ったバロールが怪訝な表情を浮かべる。

「それ、持っててください。この戦いには不要のものだから」

「使わなくていいのかい?」

「そんなの使って勝ったって、それはなんの強さの証明にもならない。
 こんなチートアイテムを持ってるなら勝って当然だって。負ける方がおかしいって。
 ――自分たちは負けてないって。そう思わせるだけだから。
 わたしはそんなアイテムに頼らない。わたしの、ううん……わたしたちの力だけで、明神さんとみのりさんに勝つ!
 だから――」

なゆたはカザハとジョン、そしてエンバースを順に見た。そして大きく口を開く。

「三人とも、わたしに力を貸して!
 四人でやっつけよう――みのりさんを。明神さんを!
 みんな気を付けて、あのふたりは……下手なレイド級モンスターなんかより、よっぽど強い!!」

スマホを握りしめ、なゆたは叫んだ。
長い戦いによって、明神とみのりは互いの特性を理解している。闇属性と土属性は相性も悪くない。
確かに、数の上ではなゆたチームの方が相手を倍する量で上回ってはいる。
だが、息の合ったコンビネーションの前では単純な兵力の多寡など何のアドバンテージにもならない。
ましてなゆたチームの三人はこれが初めてのパーティープレイだ。チームワークでは明神たちの足元にも及ばない。
そんな圧倒的不利を覆し、明神とみのりを撃破する方法があるとしたら――

――わたしたち四人の力を。ひとつに束ねるしか……ない!!

197崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/06/30(日) 06:22:27
「カザハ! エンバースに『自由の翼(フライト)』! ジョンさんは彼に『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』用意!
 エンバース、あなたは――イシュタルに特攻! まずは各個撃破、みのりさんから行動不能にする!」

大きく右手を横に振り、なゆたはメンバーに指示を下す。
パーティープレイでは敵を一気に倒そうとしてはいけない。ひとりひとり潰していくのが定石である。
なゆたはまずみのりとイシュタルのペアに標的を定めた。
現時点で怖いのは、明神よりもむしろそのサポートに回っているみのりだ。

「エンバースがみのりさんに接近したら、ジョンさん! 『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』!
 カザハはエンバースの武器に『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』!
 自分で攻撃は控えて、とにかくエンバースにバフをかけて!
 炎属性のエンバースのATK値は、属性同士の相乗効果で約2.5倍にアップする! 部長のスペルがあれば、さらに倍!
 藁のイシュタルは、さぞかしよく燃えるでしょう――!」

『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』の生み出す太陽は光を浴びた味方のATKとDEFを倍にし、敵を沈黙させる。
うまくいけば沈黙効果でイシュタル最大の脅威である『収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)』を封じられる。
イシュタルに対して各人が散発的な攻撃を繰り返すのは悪手だ。それはただ蓄積ダメージを与えるだけであろう。
アタッカーをひとりに定め、その強力な火力をもって一気にイシュタルのライフを削りきる。それが最適解である。
そして、もしそれが不発に終わったとしても、次の手がある。
イシュタル潰しにはエンバースが最適というのは、属性理論から言っても間違いない。
『収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)』は一度限りの大技だ。これさえ対処してしまえば、イシュタルは怖くない。

「エンバース……! わたしたちを守ってくれるんでしょ!? あなたが言い出したことよ!
 みのりさんとイシュタルは守りに特化した、わたしたちの中でも一番の壁役!
 その壁を破って! じゃなきゃ……わたしたちは勝てない! 
 無茶なこと言ってるって分かってる、でもやって! あなたを……信じるから――!」

まっすぐにエンバースを見つめながら、なゆたは叫んだ。
エンバースとの蟠りがなくなったわけではない。何もかも水に流せるかと言うと、それは甚だ心もとない。
けれど、今はそんなことを言っている場合ではない。どんな小さい諍いも、持ち出せば即チームの崩壊に繋がる。
崩壊したチームでは、明神とみのりを倒すことはできない。
今は、何もかもを忘れて。ただ勝利のために全員の心をひとつにしなければいけないのだ。

実家の寺で、父が檀家の人々を相手に法話で口にしていた言葉を思い出す。

『まず自分が信じてあげなくては、人に信じてもらうことなどできない』――

言いたいことは山ほどある。気に入らないことも。受け入れられないことも。
だが、それはおいおい決着を付けていけばいいことだ。敢えて今持ち上げるべきではない。
だったら――彼の願いを叶えよう。彼のことを信じよう。
そうすれば『守りたい』という強烈な想いのもと、彼はきっと強大な力となってくれるだろう。

「総攻撃よ! エンバースを主軸にみのりさんを墜とす!
 カザハもジョンさんも力を貸して! この霧の中じゃ、長期戦はわたしたちの不利……!
 速攻で勝負をかける! 行くわよ――」

カザハも、ジョンも、エンバースも、出会って間もない人々だ。
何を考えているか分からない。何が目的でここにいるのかも、何ができるのかも。
信頼に足るのか、信用を置いていいのかも。何もかも分からない。
けれど、この戦いを通じて、きっと多くのことが理解できるようになるはずだ。

明神の正体が地球で因縁のあったうんちぶりぶり大明神であったと判明した時は驚いたし、その造反に打ちひしがれもした。
もうダメだと諦めかけた。世界を救うなんてとてもできっこないと。自分は無力だと。
でも、もうそうは思わない。実際にできるかできないかは別して、やれない――やりたくないという考えはない。

あるのは、ただ心のうちに燃え盛る闘志のみ。
持ちうるすべてを結集して自分を倒そうと向かってくる明神と、なゆたの資質を見極めようとしているみのり。
そのふたりを、モンデンキントとして倒す。
それが、それだけが、唯一この壊れかけたパーティーを蘇らせる手段となろう。


「――――――デュエル!!」


なゆたは大きく、凛とした声音で言い放った。


【崇月院なゆた再起動。エンバースを主軸にみのりに対し集中攻撃を示唆】

198カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/30(日) 12:40:50
>「ネタ枠はおめーも大概だろうがよぉー!つーか何お前、世界救うってのに名前が判断基準なの?
 魔王に唯一有効な最強武器が『うんこソード』とかだったらどうすんだよお前、使わずに死ぬつもりかよ」

「どうしよう、困ったなあ……!」

>「うんこソード!? いや、それは無理! 私の負けだ!」

最強武器が“うんこソード”だったらどうしようと真剣に悩み始めるカザハと、あっさりと白旗を振るバロールさん。
バロールさんと私達は旧知の仲らしいが、この二人、多分気が合うんだろうなあ。

>「大体さぁ、世界救ったとしてお前の名前が刻まれるかどーかわかんねえぞ?
 なんか見た目がカワイイからスルーされてっけど、お前もエンバースと同じモンスターじゃん。化物じゃん。
 バロールも意味深なこと言ってたしよぉ、ホントはお前こそ魔王の手下とかなんじゃないの?
 お前が結局何者なのか、この場のだーれも知らない鳥取出身の謎ナマモノだってこと、忘れてんじゃねえぞ」

流石は歴戦のフォーラム戦士、皆が空気を読んでなんとなくスルーしているところを容赦なくついてくる。
私達はバロールさんにとっては旧知の仲のようだから、アルフヘイム側なのは間違いない。
よってバロールさんが本人の言う通り本当に世界を救おうとしていれば何の問題も無いのだが、
問題は万が一バロールさんが皆を騙して利用する黒幕だった場合だ。
その場合、バロールさんが本性を現し私達が自分達の正体を思い出すなんて展開になった場合、皆の敵に回ることになるかもしれないのだ。

>「お前が俺たちの仲間ヅラしてんの、結局のところ全部ただのノリじゃん。マジでその場のノリじゃん?
 怖えなあ何考えてっかわかんねー奴と一緒に居んの。それがモンスターだってんならなおのことこえーわ」

「確かにノリなのは認めるよ。でもノリがそんなに悪い!?
目の前で街が破壊されようとしてたら止めなきゃって思うじゃん!
世界がヤバイって聞いたらどうしかしなきゃって思うじゃん!」

カザハの言う通り、ノリは別に必ずしも悪いものではない。
ノリとはすなわち、理屈とか立場によるしがらみとか一切取っ払ったその瞬間の素直な気持ち。
それだけに、今日は味方だったのに状況次第であっさりと明日には敵に回ってしまう可能性もある怖さがある――
明神さんはそのことを言っているのだろう。
明神さんは続いてジョン君をひとしきり煽り、いよいよ本格的に戦闘が始まる。
――かと思われたが。

>「・・・カザハストップだ!ストップしてくれ!」

なゆたちゃんは、泣いていた。
いつもエンバースさんとやりあっているように勝気に言い返すとばかり思っていたのに。
ここにいるのは最強のスライム使いモンデンキント先生ではなく、一介の女子高生に過ぎない崇月院なゆただった。
こんな時に、ずっと苦楽を共にしてきた仲間なら気の利いた言葉がかけられるのかもしれないが、合流したばかりのカザハには成す術もない。
先程出会ったばかりのジョン君は猶更だ。

199カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/30(日) 12:41:51
>「カザハ・・・もうやめよう・・・俺達の負けだ」

「明神さん……お願いやめて! 少なくとも今は待って……!
君が倒したいのは一介の女子高生じゃなくて最強のモンデンキント先生でしょ!?」

明神さんに今はやめておくように説得するカザハだが、一度こうなってしまった以上当然応じるはずもなく。

>「立てよモンデンキント、俺は矛を収めるつもりはねえ。てめーの絶望なんざ知ったことか。
 ウジったまんまのお前なんか秒で潰せるがよぉ……全力のてめーを倒さなきゃ、意味がねえんだ」

>「……………………たす…………け、て……………………」

どうしていいか分からず立ち尽くすカザハだったが、その時意外な人物がなんとも大胆な行動に出た。
エンバースさんがなゆちゃんを抱き寄せる。

>「……心配するな。大丈夫だ――俺がいる」
>「言ったろ……俺が、守ってやるって。お前がどんなに嫌がろうと……そんなの、知った事かよ」
>「ここで、じっとしてろ。すぐに終わらせてやるさ。ああ、そうとも。すぐに……」

普通ならいきなりラブコメか!とツッコミの一つでも入れたいところだが、エンバースさんにどこか違和感を感じる。
まるでここではないどこか、今ではないいつかの光景を見ているような――

>「……すぐにみんな、焼き払ってやる」

「エンバースさん……? まさかその“みんな”の中にボク達は入ってないよね……?」

>「オウル、お前がご主人様の盾になれ――剣は、俺が務める」

「その子はポヨリンさんだよ!? 一体どうしちゃったの!?」

そしてエンバースさんは――突然放火した。

>「……警告しておこう」
>「シナジーだの、コンボだの、そんな物を悠長に積み上げてる暇はないぜ」
>「見えるか?この炎が――お前達のATBが溜まるよりも、ずっと早く燃え広がるぞ」
>「俺はお前達に、結構な時間的猶予を与えてやったよな。その間に何本ゲージを溜められた?」
>「……これから身を護る為に、何本消費させられると思う?」

「エンバースさーん! 熱いんですけど!」

見境なく燃え広がる炎に抗議の声をあげるカザハ。

>「ハッタリだ!てめえの炎はそれ以上燃え広がらない!なゆたちゃんまで燃やしちまうからな!
 虎の子の戦術も、単なるフィールド効果としてその儚き生を終えるんだよぉっ!」

>「ブライトゴット!わかっているなら一旦戦闘やめよう!普段ならいいんだろうけど
 今のエンバースはまともとは思えない!・・・くっ」

ジョン君の言う通りだ。それでも明神さんの勢いは止まらない。

200カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/30(日) 12:42:56
>「『万華鏡(ミラージュプリズム)』――プレイ!」

明神さんは分身のスペルを使うが、ヤマシタさんが増えた様子はない。
じゃあ一体何を増やした……? 何だかよく分からないが、滅茶苦茶嫌な予感がする。
その間にもいよいよエンバースさんが放火した炎がこちら側に迫ってくる。

>「カザハ!エンバースを援護する余裕はない、俺達だけで防御を固めるぞ!」

「うん、なんとかやめてもらわなきゃ! カケル、”ブラスト”だ!」

カザハの指示に応じ、翼を一振りすると、こちらチームから向こうチームに向かって突風が吹き抜ける。
風魔法を主とするユニサスのスキルの一つだ。
炎がこちら側へ延焼するのを防ぐと同時に向こう側へ燃え広がらせ、危機感を覚えさせる作戦だろう。
しかし、明神さんの勢いはとどまるところを知らなかった。

>「ブレイブ殺しの戦術はそれで品切れかぁ?
 甘い!甘い!あめーなぁ!考えがよぉ!おじいちゃんのくれた特別な飴くらい甘い!
 俺たちをそんじょそこらのブレイブと一緒にすんじゃねえ。くぐってきた死線の数が違うぜ!
 ――ヤマシタ、『五月雨撃ち』」
>「まだまだ俺のターン!『濃縮荷重(テトラグラビトン)』、プレイ!」
>「イカサマだとか抜かすなよ!ズルまで含めてこいつが俺の全身全霊だ!
 ケツの毛も残らねえくらい、俺の持ちうる全てを出し切って、お前らを倒す!」

そして、なゆたちゃんを叱咤激励するみのりさんの声が聞こえる。
向こう側チームに行きはしたが、単純になゆたちゃんに反感を持って向こう側に行ったのではないということか。
むしろ、敢えて向こう側につくことで彼女の実力を見極めようとしている……?

>「さあ、サービスの1ターンは終わりやえ?
お姫様のように守られるなゆちゃんもかわええけど、このデュエルでこのまま観客決め込められる子やないやろ?
見せてもらうえ、なゆちゃんの不屈をなぁ
それでうちらを受け止めたってえな」

上空からは無数の矢、地面からはみのりさんが「肥沃なる氾濫(ポロロッカ)」によって起こした土石流が迫る。

>「カザハ・・・空中のアレ、任せてもいいかい?・・・それとできる限り僕の真上と近くにはいないようにね、巻き込まれると危ないから」

「分かった!」

ジョンと部長が捨て身で地面に大穴を開け、土石流を防ぐ。
こちらはゲージが溜まり次第『風の防壁(ミサイルプロテクション)』を展開する算段だ。
正直間に合うかどうかヒヤヒヤしたが、矢が一度空高く打ち上げられたのが幸いし、なんとか間に合った。
カザハが腕を掲げ、スペルを発動しようとしたまさにその時。

>「カザハ、ジョン、エンバース! わたしの言葉を聞いて……お願い!
 五月雨撃ちは敢えて喰らう――全員! 防御態勢!」

「……マジで!?」

201カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/30(日) 12:45:07
ついさっきまで打ちひしがれて泣いていた女子高生とは思えない凛とした声が響く。
彼女とはフレンドになっているので、こちらが矢を防ぐのに最適なスペルを持っているのは知っている上での指令。
それでも尚この行動回数は矢を防ぐよりも重要な何かに使うべき、ということだろう。
そう思わせる有無を言わせぬ何かがあった。これが、モンデンキント先生……!
私は地面に降りて翼を畳み、いったんカザハを体の下へ避難させる。
出来ればなゆたちゃん達もそうさせたかったが、そんな暇はなかった。
なゆたちゃん達はカザハやエンバースさんとは違って生身の人間だが、耐えられるのだろうか――
矢の雨がやんだとき、なゆたちゃんは耐え抜いて立っていた。
そして明神さん達に朗々と宣戦布告する。

>「誰が持たざる者ですって? バカなこと言わないでください。あなたは持ってる、たくさん持ってる!
 そんなあなたが、何もかもをかなぐり捨ててわたしを倒すって言うのなら――
 わたしもそれに応える! ここからは……『何でもあり(バーリトゥード)』よ、明神さん!」

>「それ、持っててください。この戦いには不要のものだから」

そしてなんか凄いらしいアイテムをバロールさんに預ける。
チートアイテムは無しで正々堂々と戦って勝つつもりなのだろう。

>「三人とも、わたしに力を貸して!
 四人でやっつけよう――みのりさんを。明神さんを!
 みんな気を付けて、あのふたりは……下手なレイド級モンスターなんかより、よっぽど強い!!」

「承知いたしました! なゆ……いえ、モンデンキント先生、ご指示を!」

カザハは拳にした右手を左胸にあてるどこかで見た事があるような”心臓を捧げます”的な意味のポーズを取り、
おどけながらも確かに先生に付いていきます!という意思を示す。
“お前精霊だから心臓ないやろ!”とツッコミが入りそうである。

>「カザハ! エンバースに『自由の翼(フライト)』! ジョンさんは彼に『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』用意!
 エンバース、あなたは――イシュタルに特攻! まずは各個撃破、みのりさんから行動不能にする!」

奇しくも、先生からの指示は『自由の翼(フライト)』。
どうでもいいけど『紅蓮の弓矢(フレイムアロー)』なんてスペルカードもあったりするのだろうか。

「エンバースさん、受け取れぇええええ! 『自由の翼(フライト)』!」

味方にかけた場合、対象に飛行能力を与えるスペル。
これでエンバースさんは2倍重力などものともしない機動力を得ることになる。

>「エンバースがみのりさんに接近したら、ジョンさん! 『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』!
 カザハはエンバースの武器に『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』!
 自分で攻撃は控えて、とにかくエンバースにバフをかけて!
 炎属性のエンバースのATK値は、属性同士の相乗効果で約2.5倍にアップする! 部長のスペルがあれば、さらに倍!
 藁のイシュタルは、さぞかしよく燃えるでしょう――!」

矢継ぎ早の指示を飛ばす先生。
元々こうなのか、最初にかけたヘイストが地味にそれに輪をかけているのか。

202カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/06/30(日) 12:47:28
>「エンバース……! わたしたちを守ってくれるんでしょ!? あなたが言い出したことよ!
 みのりさんとイシュタルは守りに特化した、わたしたちの中でも一番の壁役!
 その壁を破って! じゃなきゃ……わたしたちは勝てない! 
 無茶なこと言ってるって分かってる、でもやって! あなたを……信じるから――!」
>「総攻撃よ! エンバースを主軸にみのりさんを墜とす!
 カザハもジョンさんも力を貸して! この霧の中じゃ、長期戦はわたしたちの不利……!
 速攻で勝負をかける! 行くわよ――」

エンバースさんを全員で強化し、鉄壁のイシュタルを堕とす――これがモンデンキント先生の作戦だった。
飛行能力を得たエンバースさんはすぐに敵陣営に到達した。
矢を打ち落とすのに行動回数を使わなかったおかげか、その頃には気が付けばゲージがもう一本溜まっていた。

「――『烈風の加護(エアリアルエンチャント)』!」

指示通りに、エンバースさんの持つ物騒なデザインの槍に強化のスペルをかける。
ちなみに明神さんの選んでくれた”精霊樹の木槍”の効果で、地味に威力20%増しだ。

>「――――――デュエル!!」

エンバースさんと、みのりさん操るイシュタルが激突する。ここからが本当の勝負だ。

「エンバースさん、思い出に浸るのもいいけどそろそろ帰ってきてね!
大丈夫だよ、君は一人じゃない。君がなゆちゃんを守るなら、ボク達が君を守るから!」

思えばカザハは第一印象でなゆたちゃんに嫌われてしまったエンバースさんをずっと気にかけていたが、
それは単に同時加入仲間だからというだけではないのかもしれない。
カザハの心根は私のためにいじめっ子に立ち向かってくれた幼い頃から何も変わっていない。
ただ邪気眼系厨二病の概念が一般的になってしまってからは力及ばずいじめられっ子共々ボロ雑巾のようになったり
最近だと部内のパワハラを”秘密厳守”の窓口に告発したところ何故か訴えを黙殺された上に
リストラ候補の窓際部所に飛ばされたりする結果に終わったりしたため、”守る”と口に出しては言わないだけだ。
だから、自信満々に”守る”と言えてしまうエンバースさんが羨ましかったのかもしれない。
そのカザハが”守る”と口に出してしまったのは、この場を支配する熱に浮かされてしまったからだろうか。
無論、これは単なる気休めではない。
カザハは、自分や味方が致命的なダメージを受けそうになった時には瞬間移動で回避させる事が出来るスペルを持っている。
その時に備えて、ゲージを常に1本温存しておくのがいいだろう。

「いっけぇえええええええ!! エンバースさん!!」

203embers ◆5WH73DXszU:2019/07/04(木) 06:20:51
【ソウルファイア・リット(Ⅰ)】

『派手な虚仮威しだなエンバース!自分が野良のモンスターに過ぎないって忘れてんじゃねえだろうな!
 お前は誰のパーティメンバーでもない!その炎が炙るのは俺たちだけじゃないんだぜぇ!』

「それがどうした。俺が一人立っていれば、どうせ全て事足りるんだ。
 傷つきたくなければ……引っ込んでいればいればいい。
 その方が……俺としても、やりやすい」

その言葉は、単なる記憶の再現でしかなかった。
いつか/どこかで紡いだ決意――その燃え残り/リフレイン。

『ハッタリだ!てめえの炎はそれ以上燃え広がらない!なゆたちゃんまで燃やしちまうからな!
 虎の子の戦術も、単なるフィールド効果としてその儚き生を終えるんだよぉっ!』

「……虎の子?お前にはこの炎が、荒れ狂う虎に見えるのか?
 だとしたら……次にお前は、何を見る事になるんだろうな。
 竜か?鬼か?だが安心しろ……地獄だけは、確実に見える」

抱き寄せ、守ると誓った者の名に、焼死体は無反応だった。
狂ってしまえば、愛する者を守れない/狂わなければ、愛する者の幻を見失う。
戦闘に要する知性/心地よい記憶の混濁――二律背反の両立を、壊れた精神は無意識的な認知障害に求めた。

『ATBゲージへのダイレクトアタック……こいつは確かに厄介だ。
 だがよぉ焼死体!悪巧みはお前だけの専売特許じゃあない。
 世の中にはゲージを増やす方法なんてのもあるんだぜ』

「それは凄いな。画期的だ。その調子で、残機を増やす方法も見つかるといいな」

悠然と/漫然と――幽鬼の如く進む、焼死体の足取り。

『ブレイブ殺しの戦術はそれで品切れかぁ?
 甘い!甘い!あめーなぁ!考えがよぉ!おじいちゃんのくれた特別な飴くらい甘い!
 俺たちをそんじょそこらのブレイブと一緒にすんじゃねえ。くぐってきた死線の数が違うぜ!
 ――ヤマシタ、『五月雨撃ち』』

歩調は語る――抵抗したければ、好きにしろ。

『まだまだ俺のターン!『濃縮荷重(テトラグラビトン)』、プレイ!』

どうせ全て、無駄に終わる――と。

『イカサマだとか抜かすなよ!ズルまで含めてこいつが俺の全身全霊だ!
 ケツの毛も残らねえくらい、俺の持ちうる全てを出し切って、お前らを倒す!』

降り注ぐ矢雨/フィールドの凡そ半分を支配する重力領域――いずれも問題ない。
動脈/臓器へと深く届く破壊――それらはアンデッドにとって、致命的ではない。
倍化した重力も――燃え落ち/情念により動く焼死体を完全に縛る事は出来ない。

――なんで俺は、自分がモンスターである事を前提に戦術を組み立てているんだ?

戦術構築の為に残された知性が、己の思考に巣食う矛盾を検知。
しかし燃え盛る妄執の炎が、すぐにその疑問を焼き払う。
余計な事を考えるな/守るべき者を、守れ――と。

204embers ◆5WH73DXszU:2019/07/04(木) 06:22:14
【ソウルファイア・リット(Ⅱ)】

「全身全霊、ね。お前にとっては可哀想な話になるが――」

焼死体が溶け落ちた直剣を左手へ/背中から血染めの槍を取る。
漆黒の眼光が貫くのは――怨敵を守護する、生ける革鎧。
超重力領域の境目が、彼我の間合いの境界/死線。

「お前の全身全霊なんて、俺の1ターンにも満たないんだよ」

一足一刀の間合い/地の利は対手にあり。
だが焼死体のひび割れた眼球には――見えていた。
一撃/1ターンの下に革鎧を下す勝利の幻想/飛散する血/霧散する命。

そしてその幻想を現実とすべく、焼死体は一歩踏み出して――

『カザハ、ジョン、エンバース! わたしの言葉を聞いて……お願い!』

しかし不意に、その動作を完全に停止した。
描き上げた殺戮の方程式も/双眸に宿した殺意も、忘れていた。
ただ背後から響いたその声が――過去に支配された脳を、揺さぶっていた。

――お願い?お願いだって?マリが、俺に、こんな状況で?

『五月雨撃ちは敢えて喰らう――全員! 防御態勢!』

結果として殆ど無防備な状態で、焼死体は矢雨に晒される事となった。
闇狩人のコートを貫き、赤錆びた鏃が全身を穿つ/膝から崩れる。
それでも怯まない/怯む事も出来ないほど、動揺していた。

『……ふたりの気持ちは、わかりました。特に明神さん……あなたが“彼”だったなんて――』

――なんだ。何の話をしてるんだ?明神さん?

『わたしのこと、さぞかし嫌いだったでしょう。いつも、あなたの書き込みに意見して。反発して――』

――ああ、そうか。そう言えばこの決闘は、明神さんが始めたんだったな。

『レスバトルをするあなたの知識は本物だった。ルールも、そのルールをつく抜け穴も、何もかも知ってた――』

――だが、おかしい。何故マリが明神さんの事を知っている?

『……わたしもね。ずっと戦いたいと思ってたんだ。あなたよりずっと。ずっとずっとずっと――』」

――いや、そもそもマリと明神さんが一緒にいる事自体が変だ。一体どうなってる――

『誰が持たざる者ですって? バカなこと言わないでください。あなたは持ってる、たくさん持ってる――』

――やめろ。考えるな。思い出すな。忘れるな。この幻覚は――全くの偶然の産物なんだぞ。
一度見失えば、もう二度と見つけられないかもしれないんだ――余計な事を考えるな。
そうだ。マリはし――――もういな――――駄目だ。そんな事を思い出すな。
マリはそこにいる。今も変わらず、俺の助けを求めてる――忘れるな。

『……モンデンキント君?』

――違う。そいつはマリだ。マリでないといけないんだ。

『カザハ! エンバースに『自由の翼(フライト)』! ジョンさんは彼に『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』用意!』
『エンバースさん、受け取れぇええええ! 『自由の翼(フライト)』!』

――もういい。みんな黙らせた方が、ずっとはやい。

205embers ◆5WH73DXszU:2019/07/04(木) 06:23:10
【ソウルファイア・リット(Ⅲ)】

そして焼死体は立ち上がった――誰の言葉を/誰の想いを汲む為でもなく。
ただずっと昔、守ると誓った者を守る為――その執念で、誰も彼もを、殺す為に。
漆黒の狩装束/白光の翼/血霧匂い立つ朱槍を右手に/死神の如き様相で、死線を超える――

『エンバース……! わたしたちを守ってくれるんでしょ!? あなたが言い出したことよ!』

焼死体の知覚/思考/行動は、生理機能を起源としていない。
それらは滅びた肉体ではなく、未練を帯びた魂に由来する。

『みのりさんとイシュタルは守りに特化した、わたしたちの中でも一番の壁役!
 その壁を破って! じゃなきゃ……わたしたちは勝てない!
 無茶なこと言ってるって分かってる、でもやって!』

故に、焼死体は何もかもを見ないふりが出来た/何もかもを聞こえないふりが出来た。
故に、焼死体は愛する者の幻を見る事が出来た/叶わなかった祈りを聞く事が出来た。


『あなたを……信じるから――!』


だが、一体何故か――その最後の一言を、焼死体は聞き流せなかった。
聞こえないふりをするには――言葉に宿った熱量が、大きすぎた為か。
或いは、その声が――以前にも一度、己に火を灯した声だったからか。



そして焼死体は振り返り/瞬き一つ分の時間、静止して――それだけだった。

206Interlude ◆5WH73DXszU:2019/07/04(木) 06:25:19
【イン・ザ・ブリンク(Ⅰ)】

気づけば眼前に[最愛/マリ]がいた。
呼吸を忘れ、暫し呆然としていた焼死体は、だが思い出した。
今は明神との決闘の最中――だと言うのに致命的な隙を晒してしまった。
咄嗟に明神へと振り返ろうとして――しかし体が動かせない/手も足も/指先/視線の一つさえ。

「心配する必要はない。アンデッド類のモンスターはその知覚、思考、行動を脳機能に縛られない。
 それはつまり、思考能力において人間のそれを大きく上回る可能性を秘めている。
 ……かつて君が、攻略の為に突き止めた事だ。忘れたのかい?」

「マリ……俺は……これは……どうなってる。お前は……幻覚なのか?」

「無意味な問いかけだ。それを私が答えて、君は安心出来るのかな?
 君と私は旧知の仲だ。私の語り口くらい、君は知り尽くしている。
 それに……君は賢しらだ。だから結局、私の事を信じられないよ」

「ああ、ああ……お前のその無駄話を、何度恋しいと思ったか……。
 だけど……分かったよ、お前は幻覚だ。聞くまでもない事だった」

「へえ、それはどうして?」

「お前みたいなお喋りが、俺が足掻くのを、黙って眺めていられた訳がないからな」

「……君がそう思うのなら、ここではひとまず、そういう事にしておこうか」

「いいや、話は終わりだ……例え幻覚でも、お前と話すのは、楽しいよ。
 だけど……今は駄目だ。俺は、目を覚まさなきゃいけない。今すぐに」

「……へえ、どうして?かわいい私と楽しくお喋りしたくない?」

「分かってるだろう。俺は今、明神さんとのデュエルの最中なんだ」

「そんなの、後でいいじゃないか。時の止まった世界で、私と存分に語らおう。
 二人の思い出を一つ一つ、映画みたいに一緒に眺めて、また仕舞い直して。
 辛かった事全部、吐き出して……戦いに戻るのは、それからでいい」

「やめろ。これは幻覚だ。時間は止まってなんかいない」

「似たようなものだよ。君は脳ではなく魂によって思考する。
 君の思考速度は、シナプス間を走る電気信号を遥かにを凌駕する。
 時間を限りなく分割し続けられるのなら……それは時間停止と同義だ」

「ああ、そうだな。飛んでいる矢は止まっているんだ。
 もういい……言葉遊びはもう十分だ。消えてくれ。
 俺は……戦わないと、守らないといけないんだ」



「――本当は、私達の遺品を預けたら、すぐに死のうとしてたくせに?」

207Interlude ◆5WH73DXszU:2019/07/04(木) 06:26:24
【イン・ザ・ブリンク(Ⅱ)】

「……っ!あの時とはもう、事情が違う!」

「ああ、そうさ。君の言う通りだ。あの時とはもう、事情が違う。
 もうとっくの昔に……死のうなんて考えは、忘れてたんだろ?」

「……俺は」

「君にはもう……火が灯されてるんだ。それに気付いてる筈だ。
 “この二周目は、私達の一周目より、過去の時点にある”と」

「それは……」

「バロールの戯言が全て真実だと、仮定した場合の話に過ぎない?
 彼にあんな手の込んだ嘘を吐く理由はない……分かってる癖に」

「……俺に、どうしろって言うんだ」

「いつまでも、いじけてるなよ。カッコ悪いぜ。
 “なるほど、ハッピーエンドは二周目以降に解禁って訳だ”。
 くらい言ってみせてくれよ。でないと安心して成仏出来ないじゃないか」

――なんだよ、幻覚が成仏って。それに、俺自身すら忘れてた事まで持ち出して。
ここではひとまず、そういう事にしておこう、じゃなかったのかよ。
そんな減らず口を、俺は叩こうとした。けど声が出なかった。
泣きたいくらいに胸の奥が震えていて、声が出なかった。
だけど……確かにお前の言う事にも、一理あるよ。
ああ、確かに……確かにお前の言う通りだ。



「……見てろよ」



――カッコ悪いのは、よくないよな。

208embers ◆5WH73DXszU:2019/07/04(木) 06:33:09
【ソウルファイア・リット(Ⅳ)】


「信じる?いいや、その必要はない――ただ、見てろ」

焼死体は、なゆたと目線も合わせずにそう答えて、視線を前へ戻した。

『エンバースさん、思い出に浸るのもいいけどそろそろ帰ってきてね!
 大丈夫だよ、君は一人じゃない。君がなゆちゃんを守るなら、ボク達が君を守るから!』

「余計なお世話だ。俺は、君達を守る。だから君達は……自分の姉弟(きょうだい)を、守るべきだ」

死神の如き様相の闇狩人が、朱槍を振りかざす/蒼炎の眼光が獲物と定めたのは、革鎧だった。
自由の翼による機動力に頼れば無視は容易い/だがその判断は、背中を刺されるリスクを残す。

「どいてくれ」

故に――焼死体は懇切丁寧に“お願い”をした。
つまり血染めの穂先が、地面を擦るほど低く槍を薙ぎ、
しかし革鎧を捉える直前に人外の膂力を以て、柄を振り上げた。
逆巻く紅色の閃きは――革鎧に踏み留まる事を許さず、主の傍へと押し返す。
引き起こされた現象は、防御不能の刃速故ではない/単純なステータス差によるものだ。

「ナイスアシストだ、明神さん。あんたのお陰でやりやすかった」

即ち――重量差だ。アンデッド属の多くは筋骨格によって肉体を制御していない。
腐った/枯れた/焼け落ちた肉体/ただの骨/霊体――装備者なき革鎧。
命伴わぬ軽さは、アンデッド属に多く見られる特徴だった。

「さて……次は、あんただ。みのりさん……だけどその前に、一つ確認させてくれ」

言いながら、焼死体は左手の得物を己の胸に突き立てた。
行為の目的は自傷ではなく――溶け落ちた直剣の収納/左手の解放。
血浸しの朱槍を両手で掴み/超重力領域を脱して――みのりへと歩み寄る。

「――恨みっこなし、で良いんだよな?」

返答は待たない――焼死体が地を蹴る/土埃を巻き上げ/迸る影と化す。
心臓に狙いを定めた刺突は、宛ら疾風――案山子に避けられる道理はない。
バフを重ねた/だが無芸の一撃は、イシュタルの防御を貫けない――貫く気もない。
ただ藁の鎧に刃を突き刺し――その体ごと朱槍を高く掲げた/同時に跳躍/自由の翼を以て飛翔。

「この対戦フィールドがなければ、このまま何処か遠くへ投げ飛ばしてもいいんだけどな。
 残念ながらそれは出来ない……だから、すまない。少し苦しい思いをしてもらわないと」

そして、みのりを空中で解放/再上昇/反転/急降下――再び槍の穂先を、藁の鎧に突き立てた。
降下速度は緩めない/落下先も既に選定済み――【濃縮荷重(テトラグラビトン)】の領域内へ。
響く轟音/飛散する石片/土/泥――その中心に焼死体は立ち、五穀みのりは、磔とされていた。

「……立てるか、みのりさん。もし、まだ立って戦えるなら……今すぐ降参してくれ。
 でないと俺はあんたに……今度はもっと、苦しい思いをさせなきゃならなくなる」

返答は待たない――焼死体の右足が、ゆっくりと、みのりの首元を踏みつけた。
足元は一度クレーターを穿たれ、土石流で埋め立てられたエリア。
土壌は多量の水分を含み/地盤は緩く/混ぜ返されている。
強く踏み躙れば――足は沈み込み/水が湧くほどに。
それは文字通りの、ブレイブ殺しの戦術だった。

209五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/07/08(月) 21:16:09
みのりの放った「肥沃なる氾濫(ポロロッカ)」は広がる炎を押し流し、全域に広がりダメージを与え更にその分イシュタルのダメージは回復する
そして残ったのは押し流された泥の足場で機動力は大幅に落ちる
というものであったが、それを阻止したのはジョン出会った

コーギー種の犬の体から力強く発せられる咆哮は猫のそれそのもの
しかしこの咆哮に様々な効果がある事はみのりはうろ覚えにしか知らず、はっきりと判別できない
ただステータス変化効果があるというだけで
ここがマイナーレアモンスターのアドバンテージたるところだろう

宙に放り投げられた部長は瞬間ごとにステータスを変え、更に鎧に変形し重量とスピードを増して地面に激突した
超重力場の効果も相まって、ぐずぐずに耕された石畳を吹き飛ばし大きなクレーターを穿つことになる

水は高き所から低きへ向かう
大穴に土石流は流れ込み、みのりの攻防一体の一手は防がれたのだ

>「部長砲弾を食らいたくなかったら降参をオススメするけど・・・」

何処までも紳士的に降伏勧告を行うが、当然それに明神が従うはずもなし
それよりもこの霧の中で何の対策もせずにあれだけ派手に動けば人の身では随分と応えたであろう

「外人さん思ったよりやりようるわねえ、ほやけど……」
感心しながら小さく呟くを漏らす

この世界での戦いにおいて、ブレイブは強力なモンスターを使役し様々な戦術を駆使できる
が、人そのものは脆弱なままであり、それはいくら鍛えた自衛隊員であるジョンとて程度の差こそあれ変わりはない
故にみのりはイシュタルの変形機能を使い鎧として纏っているのだが、ジョンはこの戦いで何を感じどうしていくのだろうか?
ゲームプレイヤーとしてではなく戦闘のプロの行く末を楽しみに思いながらも、今回ジョンはもう動けないだろうと見ていた

たとえ回復を入れたとしても、この霧がある限り常にダメージを負う
むしろここでとどめを刺すより、回復を吸うスポンジとして負担になってもらった方が良いと判断し放置

それよりも、だ
ここからが本当の戦いの始まりなのだから

>「カザハ、ジョン、エンバース! わたしの言葉を聞いて……お願い!
> 五月雨撃ちは敢えて喰らう――全員! 防御態勢!」

『囮の藁人形(スケープゴートルーレット)』をなゆたの元にはなったのは何も自分の声を届けるためだけではない
藁人形同士はトランシーバーのように通話できるが、それは発信側の相応の操作を行った前提である
が、みのりの持つ親機は操作を必要とせずに藁人形周辺の音声を拾う事ができる盗聴機能がある
濃い霧に包まれ戦いの最中で位置が離れていても、みのりにはなゆたの声を明瞭に聞き取る事ができるのだ

そして今、藁人形から流れてくるなゆたの声は、泣き言でも悲壮でもヤケクソでもない、明確な意思がこもった言葉
リーダーとして先頭に立って戦う
それは物理的に先頭に位置する必要はなく、戦闘という流れの舵取りをするという事なのだから

今、なゆたは3人の先頭に立ち自分たち二人の最前線に立ったのだ

210五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/07/08(月) 21:18:42
「おめでとさん、漸く明神さんがぶつけるに足るなゆちゃんが帰ってきたねえ」
明神の肩にへばりつく藁人形から流れるみのりの声は、どこか弾んでいるように聞こえるだろう
そして同じく藁人形から筒抜けになっているなゆたの戦略作戦を伝える

「それにしても流石はモンデキント先生やわぁ
これだけ畳みかけられたらイシュタルも持たへんやろうけど、それもタンクの仕事の内やしね
気にせんと自由に動いたてぇな
それで、五穀豊穣が落ちた後は、うちから明神さんに上げられるのは3秒やね
必要になったら合図したてえな。あらゆるものを排する3秒をサービスさせてもらうよってな」

フォーラムに出入りはしておらずとも、みのりとなゆたは以前野良パーティーをくみそこでフレンド登録もしている間柄
その時のゴッドポヨリンコンボと共に指揮能力も良く知っていたのだから、その再現を喜んでいた

敵対し自分を落とすと定められた上で、明神に言葉をかけたのだ

コンビネーションプレイの基本はタンクとアタッカーである
戦いでは防御行動と攻撃行動を両立させる必要がある
防御行動は防御テクニックで受けるかHPで受けるかにもよるが、なんにしても相応のコストを支払い攻撃行動に移れる
しかし、役割を分担する事によってアタッカーは行動のリソースを全て攻撃行動に回すことができる

そういった意味では今回の一斉攻撃を受けるみのりは数的不利を帳消しにする、という時点で仕事を果たしたことになる
ゆえに、これから起こる事に気づかい無用、更にその先の話も言づけておき、みのりは霧の中を進む

明神のスマホのPT欄には[五穀豊穣]に加え[天威無法]という見慣れぬ名前が加わったことに気づくだろう
それはみのりが一人レイドするために用意したもう一つのスマホのアカウント名
王都にて明神だけに見せた二台目のスマホであった


的確になゆたの指示を実行していくカザハとジョン
良きにしろ悪しきにしろ、状況の変化には戸惑いが生まれるものだ
それはタイムラグとなって表れるものだが、二人の動きに淀みがない
それだけなゆたを信頼し即応できる意識を持っているという事

自衛隊員だったジョンはまだわかるが、カザハとカケルの動きもまた素早くそして的確なものだと評する
明神の煽りに過剰反応のするようにアクションが大きく、言ってみれば無駄の多い動きとみていた
しかし指示を受けた後の切り替えの早さと何気エンバースに寄り添いバフをかける姿をは、ただバフをかけたという以上のものを感じてしまう

211五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/07/08(月) 21:23:12
二人のバフを受けてエンバースが動き出す
ダメージを与える霧の中を
重力の加速を得て降り注ぐ矢を受けながら

エンバース、燃え残りと称されるアンデッド
故に機能的な障害に至らぬであろうが、それでもHPというものは存在する
それは着実に削られているにもかかわらず、それらを一切合切考慮せぬ歩みにみのりはため息をつく

まずはヤマシタを薙ぎ払い、明神の元へと弾き飛ばす
だがダメージはないだろう、代わりに藁人形が一つはじけ飛ぶ

>「さて……次は、あんただ。みのりさん……だけどその前に、一つ確認させてくれ」

その足でみのりと対峙するエンバースの言葉を聞きながら、みのりの全身は藁で包まれていく
今まで服の内部にインナースーツのようにまとわりついていたが、それは王城での謁見に対しての備え
こうして戦うのであれば隠している理由もなく、間もなくみのりを覆う全身わら鎧となっていた

>「――恨みっこなし、で良いんだよな?」

「うふ、もちろ……ん」
返事に被せるようにエンバースが地を蹴り泥を巻き上げる
荊に耕され、炎に焼かれ、そして濁流に流された足場は石畳に整備されたころの面影はなく、むき出しの泥場になっていた

機を制し突き立てられた朱槍はわら鎧の鎧に突き立つが、みのりには届いていない
だがバフを重ねられた一撃は中身に届かずともイシュタルには大きなダメージを与えた
強力な攻撃ではあるが、それはバインドデッキを前にしては諸刃の剣
これだけのダメージを「溜め込んだ」のであればエンバースを一撃で屠る鎌を出現させることができるのだから

「恨みっこなしはお互いさまやえ」

用意してあった「収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)をタップしようとした瞬間、みのりの視界が大きく動く
突き刺した朱槍をみのりごと掲げエンバースは飛翔したのだ
高く飛び上がり、それは霧の領域を超えその上空に輝く太陽のもとに晒された

雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)によって生み出された太陽の光は味方の攻撃力と防御力を倍加し、敵には沈黙の効果を与える

濃霧の中ならばそのデバフの効果も怪しいものであったが、こう照らされてしまっては仕方がない
「収穫祭の鎌(サクリファイスハーベスト)」をタップしてもその沈黙効果により鎌は出現しない
それにより漸くみのりはこのスペルの効果を把握していた

反撃のタイミングを致命的な状態で阻止されたのだ
「コトカリスデッキの効果なんてなゆちゃんよぉしっとったなぁ、まあ、流石と言わなしゃあないわ」
半ば諦めと半ば称賛の声を漏らしながら、エンバースに再度刺され落下していく

落ちた先は先ほどジョンが開けた巨大クレーター
中には泥がが溜まりクッションとなりイシュタルはともかく中身のみのりにはダメージはないが、それ以上に効果はある
そう、下が泥であり、みのりはイシュタルに包まれている
すなわちプレイヤーごとこの泥の中に串刺しとなっている事だ

>「……立てるか、みのりさん。もし、まだ立って戦えるなら……今すぐ降参してくれ。
> でないと俺はあんたに……今度はもっと、苦しい思いをさせなきゃならなくなる」

下が石畳ならば単に串刺しになっただけで、プレイヤーに被害はない
が、こと泥だとプレイヤーは沈み行動不能、ともすれば窒息となる

212五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/07/08(月) 21:26:48
みのりは早くからこの世界での戦いにおける問題は、モンスターの強力さに比べあまりにもプレイヤーが脆弱であると思っていた
強力なモンスターと戦うより、それを操るブレイブを倒せばいい、というのは当然の理屈
故にイシュタルを変形させ鎧として纏う事でその欠点を補うという結論に達したのだが
そこに付け込んだのが、このエンバースの戦術であった
もしみのりがイシュタルを藁の鎧として纏っておらず、案山子として前面に出していたらこの戦術意義をなくすほどに要点となっているのだから

「うちは農家の娘やし、泥にまみれるのは慣れているけどな
エンバースさん優しいなぁ、そんな優しくされると……うちも胸開いてみたくなってまうわ〜」

降伏勧告をしながら返事を待たず首元を踏みつけるエンバース
みのりは胸と首元を抑えられ沈んでいく
だがそれは濃霧の中かすかな陽光すらエンバースが遮るという事でもある

すなわち……ここからみのりのコンボが始まるのだ
イシュタルは胸部の藁を変形解除した
藁の鎧がなくなったことで朱槍はみのりの胸元に刺さるのだが、傷はつかない
そのダメージはみのりの持つ藁人形が肩代わりするのだから

「囮の藁人形(スケープゴートルーレット)」は5体の藁人形を出現させる
藁人形はダメージを肩代わりし破壊されるが、うち一体は破壊された際に5体の藁人形の受けた累積ダメージを反射する

みのりの持つ親機が反射機能を備えた藁人形であり、ここで破壊されたことによりヤマシタに加えた打撃と今回みのりの胸につきたてられた槍のダメージがエンバースに衝撃波となって襲うのだ

倒せるようなダメージではない
だがエンバースの体勢を崩すには十分

衝撃を受けたエンバースは直ぐに引き寄せられることになるだろう
半ば泥に沈みかかったイシュタルから赤い糸が放たれエンバースに絡みつく
「愛染赤糸(イクタマヨリヒメ)」
対象とパートナーモンスターを赤い糸で繋ぎ、一定期間離れられないようにするスペルカードでエンバースを捉えたのだ
そしてみのりの声がエンバースの頭上から聞こえるだろう

「金蝉脱殻の術〜ってやつやよ〜
直接抱きしめてあげたい所やけど、恨みっこなしってゆう事で
今はイシュタルで我慢したってえや」

イシュタルを纏って戦う
それは自分の身を守るためではあったが、リバティウムでイブリースを前にして悟ったのだ
鎧では身を守り切れない
みのりにとって最優先すべきは自分の命
故に鎧を捨てて自分だけ脱出する必要も出てくるだろうと

それがこの金蝉脱殻の術であった

213五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/07/08(月) 21:28:55
泥水のまみれ湿気っているとはいえ、所詮は藁の身
既に十分なダメージを受けており、さらに燃え残りであるエンバースと抱き合っていればすぐに燃え尽きてしまうだろう
故に

「あとこれサービスな
エンバースさんの守りたいいう気持ちはよう見せてもらったわ
今度はなゆちゃんは守られるだけでなく、一緒に戦うに足る女やゆうところを見たってえな
そんなに怯える必要はあらへんくらい強いんやでぇ?」

発動させたのは「地脈同化(レイライアクセス)」

これによりイシュタルは回復効果を得る代わりに地脈に繋がれ移動不可の効果を受る
そのイシュタルに「愛染赤糸(イクタマヨリヒメ)で絡めとられたエンバースはイシュタルが燃え尽きる十数秒は動くことはできないだろう
たとえなゆたなりカザハが救出するとしても、たかが十数秒を短縮させるためにスペルカードやATBを消耗させられるのなら悪くない取引だ
その分明神はさらに行動時間が広がるのだから

その間にみのりはクレーターから出てフィールド隅、バロールの隣へと位置した

十数秒後、エンバースが自由になるころにはイシュタルは燃え尽きており、パートナーモンスターを失った五穀豊穣は自動的にこの戦いからリタイアとなるのだから

早々にリタイアとなったみのりだが、その表情は明るかった

敵の攻撃を一手に引き受けるというタンクの役割を果たした
これにより一ターン完全なる自由を得た明神は大きく戦術を動かせただろう
力を集結しほぼ完封に近い形でイシュタルを落とした3人の力
それぞれに込められた思いを見る事が出来たのだから
そして、どん底の状態から立ち上がり三人を指揮したなゆたのリーダーとしての資質を見る事が出来た

この戦いで見たかったものを二つ残して全て見る事ができ、満足に包まれていたのだった

【コンボを受けてイシュタル撃破される】
【イシュタルを捨ててみのり脱出】
【悪あがきにエンバースとイシュタルを抱き合わせでクレーターにつなぎ止める】
【イシュタル撃破と同時に五穀豊穣リタイア】

214うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:42:47
『タキモト』がその名を捨て、『うんちぶりぶり大明神』に身を窶して数ヶ月。
八方各所を荒らし回り、最悪の糞虫野郎の名をほしいままにしていた俺の目の前に、奴が現れた。
PVPの上位ランカーとして名を馳せ、同時にPVEにおいてもエンドコンテンツ攻略組の中心に居る有名プレイヤー。
――モンデンキントだ。

既に殆どの利用者から総シカトを食らっていたフォーラムで、俺に論戦を仕掛けてきたモンデンキント。
思わぬ再会に、すげえ気持ち悪い言い方になるけど、俺は運命を感じた。
神様なんざぴくちり信じちゃいないが、こればかりは神が上手いこと因果を弄くり回したもんだと思った。
運命が、俺にリベンジの機会をくれた――今度こそ奴を打ち負かすチャンスだと、そう感じた。

自慢じゃねえけど俺はレスバトルには絶対の自信がある。
半端な論客なら屁理屈の畳み掛けで黙らせられるし、そうでない奴も執拗に食い下がればそのうち嫌気が差して消える。

レスバトルの最大の必勝法は、どれだけ論破されようとも、決して負けを認めないこと。
破綻した論理をゴリ押ししているだけであっても、最後に勝利宣言すれば俺の勝ちだ。
睡眠時間も業務時間も全部犠牲にすれば、その勝利条件を満たすことは難しくなかった。

だけど俺は結局、フォーラムでもあいつに勝てなかった。
夕方から始まったレスバが夜を徹し、翌日の昼になっても、モンデンキントは俺の前から消えなかった。
しまいにゃ俺の方が体力に限界が来て、職場のトイレで寝落ちしてる間にスレッドが落ちる始末。
性懲りもなく別にアンチスレを立てれば、奴の取り巻きに呼ばれてやっぱりモンデンキントが登場する。

論破は出来なかった。
奴は常に正しかったし、その正しさを過不足なく伝える言葉の力がある。
なによりその言動には、ブレモンやそのプレイヤーに対する愛があった。
そしてその高潔な愛は、ときに敵対する俺にすら向けられた。

クソコテなんて続けてりゃ、当然あらゆる方面から嫌われる。敵意を向けられる。
モンキンチルドレンを代表とするシンパ連中に袋叩きにされたことだって一度や二度じゃない。
だがそいつらも、モンデンキントが議論の場に現れれば余計な茶々を入れずに行儀の良い聴衆となった。
皮肉な話ではあるが、奴が居たことで、かえって俺の主張は外野の声に塗りつぶされることなく、きちんと吟味されたのだ。

いつからか、俺はブレモン界隈を荒らすことよりも、モンデンキントを論破することに傾注していた。
雑談スレを荒らす時間が減って、代わりにモンデンキントと話す時間ばかりが増えた。
そういう意味じゃ俺はもはや、ブレモンアンチじゃなくてモンデンアンチだったのかも知れん。

……いや、いまさらこんな言い訳なんざ無意味だな。

俺はお前と戦いたい。お前に勝ちたい。
戦って、勝って、他の誰でもない、お前に認められたい。

ただバトルで勝つだけじゃ満足できねえ。
俺の全身全霊を、本当の俺の実存を、お前に認めさせる。

タキモトとかいう名もなきガチ勢の一人なんかじゃなく。
瀧本俊之とかいう窓際族のしょぼくれたリーマンなんかじゃなく。
どうしようもない爪弾き者、何者にもなれなかったブレモンの闇、『うんちぶりぶり大明神』が――

モンデンキントを倒すんだ。


 ◆ ◆ ◆

215うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:43:25
>「もう少し炙られててもええんやけど、どうにかしまひょ」

俺の無茶振りに石油王は文句なしの満点回答を寄越した。
耳元で奴の言葉が聞こえたのは、藁人形が肩の上に乗ってるからだろう。
見れば、ヤマシタの背にも二体くっついてる。
いつの間に仕込んだのか知らねえが、驚きはなかった。それくらいのことはやってのける奴だ。

>「全部出し切らな収まり付かへんやろしな、無理通さなアカンこともあるやろうし、お守りやよ」

「……エクセレント。防御は頼んだぜ、相棒」

対峙するチームモンデンから目を離さずに答える。
俺と石油王のタッグの最大の強みは、お互いが何を出来るか大体把握してることだ。
もちろん俺も奴も隠し玉は持ってるだろうが、連携においてこれほど心強いことはない。
石油王がどうにかすると言ったなら、これはどうにかなる。そういう前提で戦略を組める。
どんな言葉よりも雄弁な、『共に死線をくぐった経験』が、俺の判断を後押ししてくれる。

背後で何かが燃え上がる音がした。視線だけで後ろを見る。
石油王は俺の後ろで炎に包まれていた。

「……っておい!?石油王!?」

突如炎上した石油王に心臓がどきんと跳ねるが、炎の向こうの顔は涼しげだ。
代わりにイシュタルのHPバーがじりじり減っていく。
よく見りゃ、奴は服の下にカカシを纏っていて、そっちが炎に巻かれていた。

抜け目のない女だ。
範囲攻撃合戦において最も危険なのはモンスターではなくそれを駆るブレイブ。
巻き込まれれば死にはしなくとも痛みを負うし、自分自信の体力が尽きれば行動不能になる。

石油王はその仕様をいち早く見抜き、人魔一体となることでリスクを抑えた。
全ては……戦い続けるため。タンクとして、一秒でも長くこの場にとどまる為。
俺がコンボを組み立てる、時間を稼ぐためだ。

立ち位置的に俺より先に奴に火が回るのは不自然。
これがエンバースの意図したものでないなら、石油王がなにかやったと考えるのが道理だ。
つまり、これも考慮から外して良し。炎がカカシに吸われ、炎上領域の拡大が緩やかになる。
石油王の稼いだ時間は、全てATBのオーバーチャージに費やせる。

>見せてもらうえ、なゆちゃんの不屈をなぁ それでうちらを受け止めたってえな」

炎に包まれながら石油王はスペルをタップ。
出現した洪水が炎を飲み込み、石畳やその下の土砂を巻き込んだ土石流と化す。
上からはDot霧と五月雨撃ち、下からは炎を乗せた濁流。
天地挟み撃ちの範囲攻撃が、チームモンデンに殺到する。

216うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:44:22
>「上から矢と霧、下から土砂と来たか、それと重力ね・・・僕は普段つけてた装備に比べれば軽いからどうってことないけれど」

対して、真っ先に動いたのはジョンだった。
奴は迫りくる波状攻撃にも、悠然とした態度で前に出る。
言葉通り、自衛隊じゃもっと重い装備で土石流掻き分けて進むこともあるだろう。
被災地での救援活動なら足場の悪さはこんなもんじゃきかねえだろうしな。

「強がるなよヒーロー!教育隊の訓練とはワケが違うぜぇ!?
 重装備と不整地にゃ馴れてるお前でも、矢の雨ン中行軍した経験はねえだろ!」

だが、降りしきるのは雨粒じゃなく殺傷力を持った矢だ。
加えて奴の今の装備は高性能なボディアーマーではなく、パーカーとジーンズ。
ワンちゃん一匹盾にしたって凌ぎ切れる物量じゃあない。

>「さてみんなに部長の凄さ、ちょっとだけ見せちゃおうかな?レアモンスター故の意外性って奴をね・・・雄鶏絶叫!発動」

果たしてジョンは、コカトリスに庇わせるでもなく――あろうことかカードを切った。
防御はカザハ君に丸投げするつもりなのか、この波状攻撃を素受けして耐えきれる自信があるのか。
いずれにせよ、奴は防御行動をとらない。
コカトリスが雄叫びを上げ、自身の能力を高めていく。

『雄鶏絶叫(コトカリス・ハウリング)』。
確か、素早さと攻撃防御のトレードオフを叫ぶ時間によってコントロールするスペルだ。
叫べば叫ぶほどハイレートで攻防力が上がるが、その分機動力は損なわれる。

「ヌーブがっ!この状況で単独バフなんざ使って何になるっ!?
 鈍亀になった犬っころで範囲攻撃を凌ぎ切れるわけがねぇっ!」

馬鹿め。機動力を優先していれば、まだ逃げ切れる可能性が残っていたものを。
やっぱりジョンは初心者だ。定石すら満足に辿れない。

>「いいぞもっと!もっと気合を入れろ!部長!・・・雄鶏乃栄光!」

「追加のバフだぁ?甘えんだよ、考えがよぉ!ワンちゃんだけ生き残ったって意味はねえんだぜ!」

ジョンは再びスペルを切る。これも単独対象の攻防バフ。
何だ、何を考えてる?クソ雑魚コカトリスをどれだけ強化しようがパーティは守れない。
なんぼジョンが初心者だからって、犬コロ単品でどうにかできるとは思っちゃいないはずだ。

ぞくりと首筋に寒気がした。これが初心者特有のレバガチャならまだ良い。
だが、俺は知らない。ウェルシュ・コカトリスの運用方法を。
スペックは頭に入ってても、使ってる奴が居なさすぎて、研究も対策もまるで進んじゃいないのだ。

>「よし準備は整ったな・・・よしいくぞ部長!・・・そおおおおおおれ!」

そしてジョンは、バフてんこ盛りになったコカトリスを両手で掴み――
――投げた。

「投げたぁぁぁぁぁ!!??」

直上に高く高く放り投げられたコカトリス。
降ってくる矢の第一波が直撃しまくるが、盛りに盛った防御バフでダメージは軽微。

>「ブライトゴッド!君が用意してくれたこの重力!遠慮なく使わせてもらう!
 部長!鎧変形!、そして・・・雄鶏疾走!全力で地面にぶつかれ!」

さらに叩き込まれたバフがコカトリスを流星へと変える。
総身を鎧で固め、スペルによる加速と二倍の重力で加速したコカトリスが、地面へと着弾。
地盤を揺るがすような轟音と共に石畳にクレーターを穿った。
迫りくる土石流が、大穴へと飲み込まれて行く!

217うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:45:24
>「これでこっちに向ってくる水は全部防げるし、みのりのお陰で火も大体消えたわけだ
  部長の力も見せれたし、よかったよかった」

「よかったよかった……じゃ、ねえーーーよッ!
 モンスターを投げる奴があるかーーっ!!」

どこの世界にモンスターぶん投げてフィールドぶっ壊すブレイブが居るよ?いたわ!ここにいたわ!
確かにお前の言った通り意外性はあったよ。ああ、予想だにしなかった。
でもこれ、レア度とかぴくちり関係ねーかんな!?ヒャクパー筋肉依存じゃねえか!

非の打ち所のないゴリゴリのゴリ押しだ。
こんな脳筋戦法誰が予想できるよ?モンスターで闘うってそういう意味じゃねーから!

真ちゃんも真っ青の肉弾アタックに俺はドン引きしていた。
言うまでもなくモンスターはブレイブにとって剣であり、何より盾だ。

多くの攻撃に対しブレイブは無力で、モンスターに庇わせなきゃ一撃で消し飛びかねない。
リバティウムで俺がやった遠距離からの立ち回りならともかく、範囲攻撃が迫る中モンスターを自ら手放すその胆力。

いやなんつーか言葉選ばずに言うけど、頭おかしいよこいつ……何なの……こわい……。
脳みその恐怖を感じるリミッターが外れてるとしか言いようがねえ。

一方で、悪寒はやはり正解だったと思う。
ジョン・アデル。こいつはコカトリスのステータスの低さを、スペルと自分自身の行動で補った。
ゲーム上じゃ間違っても再現できない、『ブレイブ流の戦い方』。
仕様を現実で上書きする、俺たち独自の戦法を、こいつもまた体得している。

>「部長砲弾を食らいたくなかったら降参をオススメするけど・・・」

「ば、ばっかおめぇ、またアレやる気かよ!?しまいにゃ王様に怒られんぞマジで!
 ここ王宮ってこと思い出そうね!なぁバロール!こういうの良くないよね!?」

泡を食ってバロールに水を向けるが、イケメンはなにか諦めたような面持ちで視線を逸らした。
つかえねー王宮魔術師様だなオイ!お前の職場穴ぼこだらけになりますよ!?

「へっ、何が部長砲弾だ。確かにびっくりしたけど二度目はやらせねえよ。
 ワンちゃん投げてる間てめーは生身で、無防備だ。その隙を俺が逃すと思うなよ」

じきに五月雨撃ちの第二波が来る。
威力を稼ぐために高く高く打ち上げた分、ダメージも攻撃範囲も第一波の比じゃない。
カザハ君が先行して迎撃に向かってはいるが、生半可な防御スペルじゃ空を覆う矢の全ては防げない。
部長砲弾を投げるより先に撃ち漏らしが直撃して、それで奴はゲームセットだ。

>「うーんそうかい・・・結構痛いと思うけどこのエリアならまあ・・・死にはしないと思うから思いっきりやるよ」

「試してみるか?てめえの次弾装填と五月雨撃ちの着弾、どっちが早いか――」

>「『高回復(ハイヒーリング)』……プレイ!」

その時、視界の外から声が飛んだ。
声はスペル効果を伴っていて、ジョンの負った傷が回復していく。
それが誰によるものだったのか、俺には見ずとも分かった。


ずっと、待ってた。


モンデンキント――なゆたちゃん。
戦闘開始からずっと膝を折り、顔を覆っていた彼女の手に、スマホがある。
今度こそ、俺は全身の毛穴が開くのを感じた。
ぶるりと身体が震えるのは、畏れか、あるいは……武者震いか。

218うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:46:05
>「カザハ、ジョン、エンバース! わたしの言葉を聞いて……お願い!
 五月雨撃ちは敢えて喰らう――全員! 防御態勢!」

「「……マジで!?」」

なゆたちゃんの号令に、俺とカザハ君の声がハモる。敵味方共にそれだけの衝撃があった。
五月雨撃ちに対して防御スペルを使わず、スキルで相殺するでもなく、素受けする――
合理性はある。温存したATBで手痛い反撃を食らわす、肉を切らせて骨を断つ発想も理解は出来る。

だが、対戦フィールド内であっても矢は矢だ。苦痛からは逃れ得ない。
高性能な鎧やモンスターの肉体であっても、痛みは本能的に忌避すべき損害だ。
なゆたちゃんはそれを受け入れる選択をして……そして、カザハ君もジョンもエンバースさえ、付和雷同に頷いた。

>「……ぐ……!!」

高空で威力を蓄積した五月雨撃ちが着弾する。
土砂降りのように耳を打つ轟音に、少女の苦悶の声が混じる。
石畳を蜂の巣に変える矢の豪雨、その全てが地面に叩きつけられるまで、時間にして数秒。
当事者にとっては悠久にも等しい拷問を、なゆたちゃん達は一切のATBを消費することなく――耐えきった。
全ての矢を無防備に被弾して、それでも彼女はもう、膝を屈することはなかった。

「……冗談じゃねえ。クレイジー過ぎる。前々から思ってたけど、やっぱブっとんでるぜ、お前」

強い、強い意思の籠もった眼差しが俺を射抜く。
この眼だ。ガンダラで始めて無茶振りされた時にも感じた、畏怖に近い感情。
痛みを受け入れ、それでも目的を完遂せんとする、眩いばかりの意思の光。

だけど……これがモンデンキントだ。これがなゆたちゃんだ。

俺がこの世界で、もう一度の対峙を狂おしいほどに望んだ好敵手は、ここに居る!

モンデンキントは今、再び!俺の眼の前に立ちはだかった!!

>「……ふたりの気持ちは、わかりました。特に明神さん……あなたが“彼”だったなんて。
 奇跡みたいなものですよね……バロールさんはこの世界にたくさんの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚した。
 なのに……大勢の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中で、あなたとわたしがパーティーを組んじゃうなんて」

「そうだな。この世に神が居るのなら、こればっかりはシャッポを脱ぐしかねぇ。
 元の世界に戻れなくたって良い。でも、最後にお前とだけは、決着をつけたかった」

>「わたしのこと、さぞかし嫌いだったでしょう。いつも、あなたの書き込みに意見して。反発して。
 正義を振りかざして……。実際わたしも、あなたのことが好きじゃなかったと思う。
 どうしてブレモンが嫌いなのに、ここにいるんだろうって。楽しい空気に水を差すんだろうって。
 何が、この人をこんなにもブレモンを憎むようにしてしまったんだろう? って――ずっと思ってた」

「……理由なんか、多分ねえよ。お前とレスバトルしてるうちに、そんなもん忘れちまった」

本当は、モンデンキントにこっぴどくやられたからだと言いたかった。
逆恨みに過ぎなくても、うんちぶりぶり大明神のルーツはそこに間違いない。
だけどきっと、それは単なるきっかけでしかなくて……今の俺には、どうだって良い。

219うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:47:01
>「レスバトルをするあなたの知識は本物だった。ルールも、そのルールをつく抜け穴も、何もかも知ってた。
 わたしが知らなかったことだっていっぱいあった。あなたとのレスバトルの最中に気付かされたことも。
 だから――わたしにとって、あのレスバトルは無駄なものじゃなかった。
 罵られるのはいやだったし、腹も立ったけれど……それ以上に得るものがあったんだ」

俺も同じ気持ちだった、とは言えない。それはモンデンキントに対する侮辱だ。
有象無象の荒らしに過ぎなかった俺は、モンデンキントとの戦いで明神の名に意味を得た。
そしてそれだけじゃない。俺が奴からもらったものは、断じてそれだけじゃない。

モンデンキントを論破する為に、パッチノートを何度も精読して仕様を頭に叩き込んだ。
プレイヤーのトレンドがどんな戦術で、それをどうすれば打破できるか研究もした。

そうして分かったのは、俺がまだ、このクソゲーを嫌いになりきれてないという事実。
モンデンキントとの論戦の中で、何度も気付かされては、否定してきた気持ちだ。

>「……わたしもね。ずっと戦いたいと思ってたんだ。あなたよりずっと。ずっとずっとずっと!!
 わたしよりたくさんの知識を持ち! わたしより多くの発想力に恵まれて! そして、そのすべてを悪事に利用するあなたと!
 それが、今まで旅してきた……あの強くて頼れる明神さんならなおさら!
 あなたを懲らしめるため? ううん――違う。『わたしより』!『強いあなたに』!!『勝つために』!!!」

「……そうか」

そうだ。
ただモンデンキントに一泡吹かせるだけなら、何も相手の土俵に上がる必要なんかなかった。
取り巻きのチルドレン共を闇討ちでもすりゃこいつは心痛めるだろう。
フォーラムに限らなくなって、こいつをアク禁したアンチサイトでも運営して批判活動を続けりゃ良かった。

それをしなかったのは、フォーラムでの活動に執着したのは――俺が、お前と戦いたかったからだ。
形は違えども、ブレモンというフィールドで、お前に真っ向から勝利したかったからだ。
ブレモンを――捨てたくなかったからだ!

誰よりもブレモンを愛するモンデンキントに、俺はその愛で、負けたくない。
強いモンスターを持ってなくても。誰からも愛される人望がなくても。自分を鍛え上げる努力が出来なくても。


――ずっと俺を受け止め続けてきてくれたお前から、俺は逃げたくない。


>「誰が持たざる者ですって? バカなこと言わないでください。あなたは持ってる、たくさん持ってる!
 そんなあなたが、何もかもをかなぐり捨ててわたしを倒すって言うのなら――
 わたしもそれに応える! ここからは……『何でもあり(バーリトゥード)』よ、明神さん!」

「………………っ!」

言葉が詰まった。我ながらあまりにチョロい。チョロすぎる。
この一言で、認められたって思っちまうなんてよ。
腹の奥底から湧き上がる快さをどうにか押し留めて、俺もまたなゆたちゃんに視線を合わせた。

「ははは!確かにな!お前がそう言ってくれるんなら、きっと俺はたくさん持ってるんだろうぜ!
 ――だが足りねぇなぁ!全然これっぽっちも足りてねぇ!こんなもんじゃ満足できるかっ!」

貪欲さが俺の原動力だ。
眼の前にこんな美味そうな獲物がちらついてるってのに、眠ってなんかいられるかよ。
幾度となく書き込みボタンを押してきたその指を、眼の前のなゆたちゃんに向ける。

「俺に足りないもの全部!お前が持ってるもの全部!今ここで、お前に勝って手に入れる!!」

ようやく。モンデンキントとの最後の決戦が始まる。
うんちぶりぶり大明神の二年間は、今日この時のためにあった。
心の底からそう思った。

220うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:48:32
>「おめでとさん、漸く明神さんがぶつけるに足るなゆちゃんが帰ってきたねえ」

「ああ!気ぃ引き締めてかかれよ石油王。ミドやんなんざ足元に及ばねえ超強敵だぜ」

藁人形から聞こえる石油王の声もどことなく喜色ばむ。
俺とはまた別の思惑で動いていたこいつも、望みの行き着くところは俺と同じ。
全力のモンデンキントを呼び覚ます。俺たちの宿願は、これでついに叶った。

石油王は藁人形越しに傍聴したチームモンデンの作戦内容を手短に伝えて来る。
もちろんこいつもズルだ。でも謝らねえ。俺たちの全身全霊を懸けると、そう言った。
だから、なゆたちゃんがローウェルの指輪や人魚の泪を使うのも、異議を唱えるつもりはなかった。
それがあいつの全身全霊なら、俺も受け止めようと、覚悟していた。

>「それ、持っててください。この戦いには不要のものだから」

だがなゆたちゃんは、2つのチートアイテムを俺たちに見せた上で、第三者のバロールに預けた。
チートに頼らない意思表示をこの場でする理由はただひとつ。

>「そんなの使って勝ったって、それはなんの強さの証明にもならない。
 こんなチートアイテムを持ってるなら勝って当然だって。負ける方がおかしいって。
 ――自分たちは負けてないって。そう思わせるだけだから。

なゆたちゃんは、正々堂々真っ向から、言い訳のしようもないくらい俺たちを叩き潰すつもりでいる。
――いてくれる。
これだ。この高潔さと、それを裏付ける絶大な自信。紛れもなくモンデンキントのものだ。

「上等だこの野郎!チートアイテム持っとかなかったこと、後悔させてやるぜ!!」

>「それにしても流石はモンデキント先生やわぁ
 これだけ畳みかけられたらイシュタルも持たへんやろうけど、それもタンクの仕事の内やしね 気にせんと自由に動いたてぇな」

石油王からリークされた相手PTの作戦は、イシュタルへの集中攻撃による早期撃破。
なゆたちゃんは石油王の技量をよく理解してる。半端な攻撃で反撃火力を献上するのは愚策と判断したんだろう。
事実上の死刑宣告を受けて、それでも石油王は動揺しない。タンクの役割を誰よりも理解しているからだ。
石油王が集中攻撃されるということは、その間俺が完全フリーになることを意味している。

>それで、五穀豊穣が落ちた後は、うちから明神さんに上げられるのは3秒やね
 必要になったら合図したてえな。あらゆるものを排する3秒をサービスさせてもらうよってな」

「んん?落ちた後に一仕事ってどういう――」

スマホが振動。対戦画面に見慣れぬ名前のパーティ加入の通知があった。
『天威無法』。五穀豊穣のすぐ下に表示された名前の意味は、すぐに理解できた。
エンバースのお色直しのときに石油王が俺に見せた二台目のスマホ。
サブアカウント――そういうことか。

どこまでも抜け目ない石油王の立ち回りに若干ぶるっちょだが、心強いことにゃ変わりねえ。
三秒。それだけありゃスペルも手繰れるし、アイテムだって使える。
石油王の本垢が落ちた後のボーナスタイムを、どう使うか。

それがこの戦いの鍵を握る。

>「――――――デュエル!!」

作戦の要諦を伝え終わったチームモンデンが進攻を開始する。
カカシの反撃スペル、通称イシュタル砲を封じつつ、バフ盛ったエンバースで属性有利の畳み掛け。
現状の手札なら間違いなく最適解だ。俺だってそうする。アタッカー絞ってバフ積んだほうがDPS出るからな。

だが単体攻撃故に、石油王の庇護下に居る俺に攻撃は届かない。
マジックチートでATBゲージを二本持つ俺をフリーにしたその判断、凶と出るぜ……!

221うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:49:02
>「エンバースさん、受け取れぇええええ! 『自由の翼(フライト)』!」

カザハ君がエンバースに飛翔スペルを行使し、エンバースは重力倍加の拘束から脱する。
もともとカサカサに乾いた焼死体にDEX低下の効力は低かったが、これで奴の機動力は格段に上がった。
空飛ぶ焼死体とか風邪引いたときの悪夢みたいな光景だ。やだよただでさえ夜中トイレ近いのに。

>「信じる?いいや、その必要はない――ただ、見てろ」

バフを受けたエンバースは、槍を構えてスイーっと移動する。
その穂先が捉えるのは――

>「どいてくれ」

俺の革鎧、ヤマシタだった。

「ちょっ!お前!何なゆたちゃんの指示ガン無視してんだ!カカシ狙えって言われただろーが!!」

とはいえエンバースの立ち回りにも合理性はある。
能動的な攻撃手段に乏しいイシュタルよりも目下フリーなヤマシタを先に片付けるべきっつーのは分かる。
分かるけどさぁ……そういうのよくないと思うよ俺!

逆袈裟に振るわれた槍が、朱色の軌跡を描いてヤマシタに直撃する。
だが甘え。ヤマシタには藁人形が2つついてる。即死級でも二撃は耐えられる。
属性不利があるからまず勝てはしないだろうが、動きを止めてイシュタル砲をぶっぱしてやるぜ――

>「ナイスアシストだ、明神さん。あんたのお陰でやりやすかった」

「……あ?」

交差するエンバースの槍とヤマシタの剣。
十分抑え込めるはずの一撃によって、ヤマシタは大きくふっとばされた。
こいつは……重量差か?あの野郎、テトラグラビトンの倍加荷重を逆手に取りやがった。

カザハ君のスペルは確かにエンバースを荷重から解き放ったが、あくまで『飛翔能力付与』であって『軽量化』じゃない。
エンバースは飛翔の機動力の恩恵を受けつつ、インパクトの瞬間だけ地に足着けて飛翔を停止し、荷重を受けていた。
どういう戦闘センスだよ。モンスターじゃなく自分にかけられたスペルをここまで巧みに操縦する理解と機転。
やっぱこいつ、ただの元ブレイブじゃねえな。俺達より遥かに、『ブレイブの戦い方』を知ってる。

>「さて……次は、あんただ。みのりさん……だけどその前に、一つ確認させてくれ」
>「――恨みっこなし、で良いんだよな?」

ヤマシタを放り飛ばしたエンバースは、今度こそ石油王と対峙した。
その手に握る朱色の槍、命を貫く穂先が、カカシと石油王に向けられる。

>「うふ、もちろ……ん」
>「恨みっこなしはお互いさまやえ」

突貫する焼死体。迎え撃つ石油王。
刺突。突き立った槍は抜けず、そこはカカシの間合いだ。

出るぞ……二種のDotをたらふく溜め込み、トドメに槍の刺突まで食らった反撃ダメージ。
ベルゼブブだって一撃で瀕死に至らしめた石油王の奥義、イシュタル砲が――

「飛んだ……!?」

石油王がスペルをタップするより早く、突き刺したカカシごとエンバースは飛翔する。
濃霧を突き抜け天井付近まで到達し、そこにはジョンのスペルが待ち受けていた。

222うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:51:01
――『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』。
極小の太陽を出現させ、光を浴びた味方に強化効果、敵に沈黙効果を与えるスペル。
まずい……!イシュタル砲はスペル。沈黙によって阻害される!

ここで俺もなゆたちゃんの作戦の本質に気づく。
可能性を完全に見逃してた。エンバースの強化が目的ではなかった。
全ては、イシュタル砲を封じカカシを確実に落とすための布石……!

>「この対戦フィールドがなければ、このまま何処か遠くへ投げ飛ばしてもいいんだけどな。
 残念ながらそれは出来ない……だから、すまない。少し苦しい思いをしてもらわないと」

「石油王――!」

スペルを封じられた石油王は為す術なく、エンバースによってクレーター直下へ叩き落とされる。
土石流を飲み込み泥土と化した地面に磔にされ、ゆっくりと沈むのを待つばかり。
その上にエンバースが立ち、倍加した体重で石油王を押さえつける。

>「……立てるか、みのりさん。もし、まだ立って戦えるなら……今すぐ降参してくれ。
 でないと俺はあんたに……今度はもっと、苦しい思いをさせなきゃならなくなる」

あいつマジかよ。本気で石油王を殺すつもりかよ。
本来なら地面に叩きつけられたダメージは、対戦フィールドの恩恵によって致命傷とならない。
だが窒息はどうだ?攻撃によらない被害まで、フィールドは軽減してくれるのか?
藁人形が致命傷を肩代わりしてくれるにせよ、泥沼に沈んだままならまた窒息するだけじゃないのか?
検証なんて出来るはずもなく、ただただ危機感と焦燥だけが募っていく。

どうする、俺のスペルで救出するか?
ここでATBを消費すればコンボは成立しない。こちらの手札が揃わないままエンバースに蹂躙される。
現段階の俺の仕事は、余計な行動をせずじっとATBゲージを溜め続けること。

だが……石油王が命の危機に陥っているのなら、コンボがどうとか言ってる場合じゃない。
戦術も何も全部投げ捨ててエンバースを排除し、石油王を助けなきゃならない。

>「うちは農家の娘やし、泥にまみれるのは慣れているけどな
 エンバースさん優しいなぁ、そんな優しくされると……うちも胸開いてみたくなってまうわ〜」

だが、石油王の声に動揺はなかった。
エンバースの身体が雄鶏乃啓示の光を遮り、影を落とす。
それはつまり、石油王のスペルが行使可能となったことを意味していた。

石油王の持つ藁人形の親玉が弾け、イシュタルサブキャノンが発動。衝撃波がエンバースの体幹を崩す。
生じた隙を見逃さず、イシュタルから『愛染赤糸(イクタマヨリヒメ)』――拘束スペルの糸が伸びる。
エンバースをイシュタルの元へ釘付けにし、そして石油王は沈みゆくカカシからベイルアウトした。

>「金蝉脱殻の術〜ってやつやよ〜
 直接抱きしめてあげたい所やけど、恨みっこなしってゆう事で 
 今はイシュタルで我慢したってえや」

げに恐るべきは石油王のしたたかさ。
モンスターを身にまとう戦術の「自分もまとめて狙われる」という最大の弱点を逆手に取り、
自分すら囮にしてエンバースを術中に落とし込んだ。
緊急脱出の手段を備えていたとはいえ、見てるこっちが心臓に悪い。

「ヒヤヒヤさせてくれるぜ、相棒」

223うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:52:56
これが石油王という女であり、タンクという役割だ。
あらゆる手段を講じてタゲを取り、動きを封じ、味方の行動機会を稼ぐ。
その第一義を実現するために、自分の存在さえも布石にする。

そして石油王は……明確に、自分の命をベットした。
これがパーティ内の単なる内ゲバなら、石油王が命を懸けることなんかなかっただろう。
なゆたちゃんが、俺が。こいつから本気を引き出した。

五穀豊穣の犠打で稼ぎ出した賭けの配当は俺のATBゲージ。
俺はこいつで、石油王の本気に応える。

「もらったATBで悪いがもいっちょ封印させてもらうぜ。
 こいつは……危険すぎる」

スマホを手繰り、ユニット『焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)』をプレイ。
石油御殿で借りた三枚のカードの一つであり、物理無効バフのかかったトーチカを作り出すユニットだ。

そしてその圧倒的な防御性能は、外からだけでなく『内側』からの攻撃に対しても発揮される。
イシュタルとエンバースがもつれ合うクレーターに覆いかぶさるようにドーム状のトーチカが出現。
二体のモンスターを完全にその下に隠す。

これで奴は穴でも掘らない限り出てこれないだろう。
エンバースの行動には、石油王に対する実体を伴った殺意があった。
例えそれが無力化の最適解だとしても……ガチで殺しに来るような奴を野放しにしておけない。

そもそもこいつ戦闘が始まってからなんか言動おかしかったしな。
ちっと頭を冷やしてもらおう。全部終わったら出してやるよ。

「これでお前らのメインアタッカーは封じた!こっから先は俺たちが追い詰めるターンだぜ!」

そして……石油王の稼ぎ出した時間で、2つのスマホにはコンボを成立させるに十分なATBゲージが溜まってる。
エンバースのバフにATBを費やしたことで、チームモンデンが再行動可能になるまでまだ猶予が残ってる。
ここからがぶりぶり★フェスティバルコンボの本領発揮だ。

「『武具創成(クラフトワークス)』、プレイ!」

複数の装備品を作り出すユニットカード。
無数の革鎧が出現し、空中を所体なさげに浮遊する。

「『工業油脂(クラフターズワックス)』、プレイ!」

粘着し、硬化する油脂が出現。無数の革鎧をつなぎ合わせ、一つの形をつくってゆく。
巨大な人型。体長5メートル程度の、革で出来た巨人。
その中心に、ちょうど人ひとりが入れそうな空隙がある。
ヤマシタが跳躍し、中心に収まった。

「モンスターの合体による、レイド級の創造……ぽよぽよ☆カーニバルコンボは確かにエポックメイキングだった。
 だが忘れるなよモンデンキント!お前の戦術フォロワーは、お前のシンパ共だけじゃねえ!
 俺たちミッドコアもまた、お前のコンボを研究し、その力を我がものにしようとしてきたんだ!
 刮目して見とけよ!こいつが俺の真骨頂……ぶりぶり★フェスティバルコンボだ!!」

――ぶりぶり★フェスティバルコンボは、まぁぶっちゃけちゃうとGODスライム召喚コンボのパクリだ。
リビングレザーアーマーの本体は革鎧ではなく、それに憑依した怨念。
なら、巨大な革鎧を作ってそこに怨念を憑依させれば、巨大なリビングレザーアーマーが出来るはず。

思い付いて試してみたけど、上手くはいかなかった。
どれだけ綿密に革鎧をつなぎ合わせても、まともに手足を動かせず倒壊してしまう。
怨念のパワーが足りなくて、巨大な四肢の隅々まで力を行き渡らせることができないのだ。

224うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:54:19
ゴッドポヨリンさんが巨体を自在に操れるのは何故か。
これは仮説でしかないが、おそらくコアになってるポヨリンさんの強さが関係してるんだろう。
極限まで鍛え込んだポヨリンさんが中心に収まるからこそ、その意思を不足なく巨体に伝えられる。
ポヨリンさんの統率力で、身体を構築する400体のスライムを一糸乱れず従わせられるのだ。

クソ雑魚モンスター・ヤマシタの怨念じゃ、巨大革鎧を制御できない。
だったら、より強い怨念を宿せば良い。

「インベントリ起動」

スマホから湧き出た光の粒が輪郭をつくり、実体を生み出す。
俺の背丈ほどもある、大剣。よく手入れされ、使い込まれた傭兵の仕事道具。
――リバティウムの事件における唯一の死者、バフォメットに殺された男、バルゴス。
奴の遺した忘れ形見だ。

「さあ起きろ!お前の恨みは、未練は!簡単に晴れるもんじゃねえだろう!
 契約はまだ続いてる!追加の報酬も用意した!もう一度俺に手を貸せ――バルゴス!!」

ヤマシタを搭載した巨大革鎧が、関節をギチギチ言わせながら宙を舞う大剣を手にする。
剣からどす黒い靄が生まれ、それは腕を伝って革鎧の中心に宿った。

――スラムでもらったバルゴスの形見は、やっぱり祟られていた。
バフォメットに殺される時相当悔しい思いをしたんだろう。怨念がべったりこびり付いていた。
ブレモンにおけるアンデッド系の上位種、さまよえる古兵の魂『マーセナルスピリッツ』。
バルゴスの怨念は、モンスターへの変化を遂げる最中だった。

俺はリバティウムを出るまでの間、復興作業も手伝わないでずっとこいつと対話を続けていた。
ブレモンには、死者の怨念と対話するアンデット特攻アイテムなんてのもあるからな。
つっても文明人で無神論者の俺に死者の未練を解き放つような技術はない。
何よりこいつの怨念は、死地に放り込んだ俺にも向けられたものだったのだ。

だから、交渉した。報酬を上乗せして、怨念のままこいつを再雇用した。
サモンで無理くり従わせることもできたが……人の尊厳は、死んでも尊重されるべきだろう。
死人にいくら金積んだって意味はない。酒もメシも価値はない。

バルゴスが提示した報酬は、奴の故郷であるリバティウム路地裏の安寧。
そして、嫌われ者のこいつが、世界を救った英雄として名を残すこと。

前者はしめじちゃんが、後者は俺が履行する。
俺たちの利害は一致した。

「いくぜ怨身合体――超機動重装怨霊!『リビングレザー・ヘビーアーマー』!!!」

ズン……と轟音と共に降り立った革鎧の重装騎士。
準レイド級にカテゴライズされるアンデット系最上位種、『アーマードリッチ』の革鎧版だ。
5メートルの巨体に巨大な剣を握り、指先に至るまで怨念の力が満ちている。

コアとなったバルゴスはもともと重装甲の大剣使いだ。スケールはともかく、身体の動かし方は生前と変わりあるまい。
そして奴はライフエイクが雇った手練の傭兵だ。ヤマシタよりも遥かに攻撃的なスキルを習得している。

「さあバルゴス!奴らを蹂躙しろ!暴力を振るうとスカっとするぞ!……バルゴス?」

バルゴスは振り向きざまに大剣を振るった。
風を巻いて迫る鉄塊は正確に俺の首筋へと直撃し――フレンドリーファイア無効によって弾かれた。

「……キレんなよ。俺はお前の雇用主だぜ、ビジネスライクに行こうや」

225うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:55:25
バルゴスとは、完全に和解できたとは言い難い。
とりあえず契約で縛って俺への祟りはやめさせたが、それで恨みつらみが消えたわけじゃないのだ。
付き合いの長いヤマシタと違って、好き勝手動くバルゴスをマニュアル操縦しなきゃならない。

マジックチートによるダブルATBがコンボに必須なのはこれが理由だ。
片方のATBでスペルやスキルを使いつつ、もう片方でバルゴスに命令を送る。
雑魚モンスターから準レイド級を錬成するだけあって、常時ATB二本消費のコストは極めて重い。
ズルでもしなきゃまともに運用できやしないけど、モンデンキントに比肩しうる手札はこれだけだ。

「手札は整った。こっからは早指しでいくぜモンデンキント。付いてこいよ、俺のスピードに!」

スマホを手繰り、巨大革鎧と化したバルゴスが踏み出す。
大剣を担いだ突進は、見かけによらない革鎧の軽量さで、想像よりもずっと早い。

「出し惜しみなしだ。俺は俺の全てでお前に挑む。
 腹の中身、全部見せるから――ちゃんと受け止めてくれよ、なゆたちゃん」

ゴッドポヨリンさんが完成する前に勝負を決められればベストだが、そう甘くはいくまい。
なぜならなゆたちゃんは、この戦いが始まってからずっと、ATBを温存している。
消費したのはジョンに対する回復スペルの一回きり。それ以外は全部オーバーチャージだ。

相手のATB残量を類推するのは対人戦において非常に重要なテクニックと言える。
どれだけの行動回数が残されてて、次に行動可能になるのはいつか。
アクティブタイムバトルという性質上、相手の先の先、後の先をとるのに必須の情報だ。

当然、俺もバトルにおいては誰がどの程度ATBを残しているか秒数を基準に覚えてる。
だが……実際のところ、なゆたちゃんのATB蓄積を完全に読み切ることはできなかった。

――カザハ君の使った『俊足(ヘイスト)』。
対象の機動力とATB蓄積量を25%向上させるスペルだ。
これによりなゆたちゃんのATB残量は通常よりも多くなっているはずだ。
25%アップを考慮して再計算……も出来なくはないが、不確定要素がもうひとつ。

カザハ君は、『精霊樹の木槍』を装備している。
魔法の効果を20%高める装備品だ。これは攻撃スペルだけでなく、支援スペルにも適用される。
じゃあ25%の2割増しでだいたい30%のATB加速か?うーんでも"だいたい"を前提に動くのは怖い。

それにカザハ君が木槍を握らずにスペル撃った可能性もあるんだよな。
装備効果は当然装備しなきゃ発揮されない。
本格的なぶつかり合いのないあの時点では、重たい槍をユニサスに載せたままでもおかしくない。
濃霧の影響で、カザハ君がスペル使った瞬間は視認出来てないのだ。

クソ……まさかこんなところでわけのわからんデバフ(?)を受けるとは……
カザハ君恐るべし。あいつ絶対ここまで読み切ってたわけじゃねえだろうけど。

俺はカザハ君が闘う動機の薄さを指摘したが、ノリで動く奴が恐ろしいのはこういう時だ。
深く考えないってのはまぁ美徳とは言えないけど、『判断が早い』と言い換えることもできる。
とにかくこいつは決断が素早い。俺たちが陥りがちな思考による硬直がない。
その場その場のノリと勢いで必要な判断を下せるのは、一種の強みと言えるだろう。

そして往々にして、その決断は俺の理解の斜め上を行く。
――真っ先に排除すべきはこいつだ。

試掘洞での戦いを見る限り、ぽよぽよ☆カーニバルコンボの成立に必要な手数は7ターン。
ゲージ7本もオーバーチャージしてるとは考えにくい。
それよりも、カザハ君に追加でヘイスト使われるほうが厄介だ。
先にこいつを片付ける。

「お前の言う通り、ノリも勢いも悪くねえよカザハ君。
 だがノリだけで世界は救えねえんだ。つらいことも苦しいことも、ノリじゃ片付けられねえ」

226うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/07/16(火) 01:56:12
ノリだけで集まった集団は、瓦解するのも早い。
笑って済ませられない危機に直面したとき、『冷めて』しまうからだ。
みんなでワイワイ攻略しよう!ってパーティがまともにレイドクリアできたのなんか見たことねえしな。
フットワークが軽い奴は逃げ足も早い。これ豆な。

「確たる信念のねえ奴に!その場限りの結束に!世界が救えてたまるかっ!!
 ――『工業油脂(クラフターズワックス)』、プレイ!」

シルヴェストルとユニサスの最も厄介な点はその自在に宙を舞う機動力。
空から落ちてきた大量の油脂がカザハ君と馬に降りかかり、次第に硬化し、翼の動きを阻害していく。

「俺はモンデンキントをぶっ倒す。あいつに勝って、俺の矜持を取り戻す!!
 俺って実はすげー奴だったんだって!他ならぬ俺自信に、認めさせる!!」

それでようやく、俺はこの世界を、ブレモンを、好きだって言える。
救いたいって思える。

「この一戦で終わりになんかしたくない。
 何度だって、世界救ってでも俺は戦いたい。――なゆたちゃんと、ブレモンがしたい」

機動力を奪ったカザハ君の横合いから、バルゴスの大剣が薙いだ。
これでカザハ君を落とせば、残るはなゆたちゃんとジョン。
残りのATB全ツッパすればゴッドポヨリンさんがお出ましになる前に勝負を決められる。

ただし、不安要素はもうふたつ。
想定外の動きをしやがるのはカザハ君だけじゃなく、ジョンにも言えること。
そしてゴッドポヨリンさんを封じたからといって、モンデンキントが無力に成り下がるわけじゃないってことだ。

世界最強のプレイヤー、ミハエル・シュヴァルツァーの堕天使を。
あの女は、コンボパーツすっからかんの状態から打ち破ったのだから。


【穴の中のエンバースを物理無効バフ付きの城塞ユニットで蓋して封印。
 ぶりぶり★フェスティバルコンボ始動。準レイド級リビングレザー・ヘビーアーマーを召喚。
 カザハ君をワックスべったりで拘束し、大剣で薙ぎ払う】

227ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/07/17(水) 02:48:09
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「母さん、今日稽古を休みたいのですが・・・」

物心ついた時から稽古とは名ばかりの、大人でも苦しい様な訓練のような日課を毎日のようにしていた。
学校から帰ってきたら稽古ばかりしていた、体を鍛える為に。
端からみたら虐待のような思えるメニューだったが、小さい頃から体格に恵まれていた僕は苦痛には感じなかった。
ただ一点の理由を除いて。

「なぜですか?」

父より母のほうが僕を稽古させる事に熱心だった。

【強靭な肉体には健全な心が宿る】

という教えを僕に熱心に僕に説いていた。

「友達と・・・その遊ぶ約束してしまって・・・ええと・・・それで」

「はっきりと言いなさい」

この頃の僕は内気で、あんまり正々堂々と物事を言えるようなタイプではなかった。
幼稚園の頃は性格と外人の見た目という理由でずっと輪になじめずに過した。
たまたま見た目がよかったらからか、外人が珍しかったのか、小学校では友達か何人かできた。

僕は始めてできた友達に遊びに誘われ舞い上がって即okしてしまったのだ。
今考えればこれが初めて両親にお願いした事かもしれない。
僕は僕なりに精一杯がんばって友達と遊びたいんだ、ということを母に伝えた。
稽古が決まっているのにそこに用事を重ねるとはどうゆうことだ、と怒られる覚悟はしていた、だが。

「ジョン」

そう僕の名前を呼ぶと母は頭を撫でててくれた。
怒られると思って身構えていたのに予想より違う反応に動揺してしまう。

「遊びにいってきなさい、でも次はちゃんと稽古ではない日にするのですよ」

絶対怒られると思っていたのに、母は僕の頭を撫でながら笑顔で行って来ていいと言う。

「たしかに稽古は大切です、人間一度、楽に流れればずっと流されてしまう、でも
 友達を作るのだってとっても大切です、多くの友人がいればそれだけ人間の心も豊かになる」

小さい頃の僕にはよくわからなかった、そんな僕の頭を撫でながら母はニコっと笑う。

「ジョン、人間は一人ではダメになってしまいます、友達をいっぱい作りなさい、そしてそこからあなたが心から親友と言える相手ができたら・・・」

大切にしなさい

そう言った母の顔は少し儚げな笑顔がとても美しく、僕の記憶、心に残った。

228ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/07/17(水) 02:48:30

中学に上る頃には友達も増え、そのおかげか性格もドンドン陽気になった。
もはや内気な性格だったジョンを信じる者がいないくらいに。

しかしジョンには未だにわからない事があった。

「親友の作り方?そんなの人に、自分の父親に聞くことじゃねーだろうが!」

ガハハと笑うのは僕の父親、まさにUSAといった感じの体つきに豪気な振る舞い。
僕はそんな父に親友の作り方を聞いていたのだった。

「あれだな・・・あえて言うならその時になったらわかることさ」

じゃ僕にはまだ親友がいないの?そう聞くと父は頷いた。
わしゃわしゃと僕の頭を両手で掻き回しながら父は言う。

「親友ってのはな、頭で考えてる内はちげーんだわ、なんていうーかうまくいえねーけどよ・・・
 その時になりゃ心で理解できると思うぜ」

「心で理解できる?」

「お子様の内はわからねーだろうな!大人になる頃には分るんじゃねーか?まあ焦るなよジョン」

父は笑うのをやめ、屈んで僕の目をじっとみる。
真剣な眼差し、まるで僕の中にあるなにかを見ているような・・・。

「人に為に行動できるような人間になれ、だが自分を粗末に扱うな、自分を好きになれ、そうすれば心の底から信用できる奴が現れる・・・んで」




「もし大切な人ができたなら守ってあげるんだぞ、そうすればきっとお前の助けにもなってくれる」

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229ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/07/17(水) 02:48:48

>「『高回復(ハイヒーリング)』……プレイ!」

その時体が光に包まれ、その光と、言葉で目がさめる、さっきまでだるくて痛かった体が一瞬にして楽になる。
どうやら数秒ほど気を失っていたらしい、頬を手で叩き気合を入れなおす。

「ハッ!・・・ありがとうなゆ!体が相当楽になったよ!」

かなり昔の事を思い出していた。
よりにもよってこんな時に昔の事を思い出してしまうなんて。

>「カザハ、ジョン、エンバース! わたしの言葉を聞いて……お願い!
 五月雨撃ちは敢えて喰らう――全員! 防御態勢!」

ジョンはなぜこんな時にこんな事を思い出すんだろう?ということが頭が離れなかったが。
そうしてる間にも、覚醒したなゆがPT全員に指示を出す。
決意に満ちた目をするようになったなゆをみて、余計な考えはどこかに吹き飛んでしまった。

「わかった、なゆに従おう!部長!」

体を丸め部長を盾にするように部長を抱える。
矢は部長の鎧部分に命中していく、どうしても部長との体格との差で僕もダメージを受ける。

「いて!いててて!でも大丈夫、この程度なら問題ない!」

>「……ふたりの気持ちは、わかりました。特に明神さん……あなたが“彼”だったなんて。
 奇跡みたいなものですよね……バロールさんはこの世界にたくさんの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』を召喚した。
 なのに……大勢の『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の中で、あなたとわたしがパーティーを組んじゃうなんて」

なゆが明神に思いをぶつけていく。
しかし目覚めたなゆの目には迷いはなく。

>「三人とも、わたしに力を貸して!
 四人でやっつけよう――みのりさんを。明神さんを!
 みんな気を付けて、あのふたりは……下手なレイド級モンスターなんかより、よっぽど強い!!」

「もちろん!」

>「カザハ! エンバースに『自由の翼(フライト)』! ジョンさんは彼に『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』用意!
 エンバース、あなたは――イシュタルに特攻! まずは各個撃破、みのりさんから行動不能にする!」

なゆは的確に指示を出していく。
さっきまでのお姫様状態は一体どこへやら。

>「総攻撃よ! エンバースを主軸にみのりさんを墜とす!
 カザハもジョンさんも力を貸して! この霧の中じゃ、長期戦はわたしたちの不利……!
 速攻で勝負をかける! 行くわよ――」

「ああ・・・いこう!」

>「――――――デュエル!!」

230ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/07/17(水) 02:49:06
>「エンバースさん、受け取れぇええええ! 『自由の翼(フライト)』!」
 「エンバース   受取れ!       『雄鶏乃啓示(コトカリス・ヴィクトリア)』!」

カザハにあわせるように部長の口から太陽が射出される。
この光を浴びれば味方ならステータスが単純に2倍、敵は沈黙。
コトカリスが前提という条件がなければブレモンでも最強クラスのカード。

「だがエンバース!注意しろ!このカードは太陽から照らされる光を浴びなければ効果が発動しない!
 霧の中じゃ効果が途切れる可能性がある!注意してくれ」

>「余計なお世話だ。俺は、君達を守る。だから君達は……自分の姉弟(きょうだい)を、守るべきだ」

エンバースはこちらに一瞬で振り向きそう告げる。
さっきまでのエンバースの違和感は消え彼もまた・・・前を向いた・・・ような気がした。

「エンバース!燃やした事はチャラにしてあげるからきっちり決めてくるんだ!
 間違っても二人を怪我させるような真似はするなよ!」

エンバースは明神のモンスターを軽がると跳ね除けみのりに到達する。
霧の中、尚且つヴィクトリアのバフがかかっているのか怪しい状況で生身でモンスターを跳ね除ける強さに驚く。

「つ・・・強い」

エンバースは相棒さえいないが単体ではモンスター含めこの場にいるだれよりも最強クラスなのかもしれない。
本来モンスターを操る側が最大の弱点であるが、エンバースにその心配は必要ない。

>「この対戦フィールドがなければ、このまま何処か遠くへ投げ飛ばしてもいいんだけどな。
  残念ながらそれは出来ない……だから、すまない。少し苦しい思いをしてもらわないと」

本当に大丈夫なんだろうか、決意の目をみてもなお。
唯一このフィールドでは殺せないという制約を持っていないエンバースに不安が募る。

>「――恨みっこなし、で良いんだよな?」

藁に刃を突き刺しそのままエンバースが急上昇する。

「飛んだ・・・!」

霧の範囲よりさらに上に跳躍することでみのりを太陽の元に引きずりだし、無効化。
そして自分は強化される、そしてそのまま僕やみのりのスペルでぬかるんだ地面に急降下する。

完璧だった。
やってのけたエンバースも無論凄まじい、がこれを一瞬で計画し命令したなゆの構築力。
マイナー中のマイナーであるコトカリスでさえも、コンボの一部にしてしまうその実力。
実を言えば疑っていた、この子がランカーであるという事を。
だがこうも見せ付けられては信じるしかないだろう。

231ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/07/17(水) 02:49:27
みのりは完全に脱落した、この場にいる全員が確信したであろう。
いくらモンスターを鎧のように纏っていたとしても、泥のようになった地面に押し付けられているのだ。
窒息するのも時間の問題だったからである。

>「うちは農家の娘やし、泥にまみれるのは慣れているけどな
エンバースさん優しいなぁ、そんな優しくされると……うちも胸開いてみたくなってまうわ〜」

何度も言うが確信していた、まだ余裕がありそうな声でみのりがそう発言するまでは・・・

「エンバース!まだなにか仕掛けてくるぞ!」

しかし警告は既に遅く、エンバースは赤い糸に絡め取られ地面に沈んでいく。

足が遅くなった部長を抱え、エンバースの元に走る。
霧なんてしったことか!

「エンバース・・・まってろ今引き上げてやる!」

エンバースに向って手を伸ばした瞬間、エンバースがなにかに包まれる。

>「もらったATBで悪いがもいっちょ封印させてもらうぜ。
  こいつは……危険すぎる」

【焼き上げた城塞】・・・!物理無効のトーチカを人に被せて封印するなんて・・・!

本来は自分や仲間を守るためのスキルを人に被せるという荒業、本当のゲームではありえない使い方。

「これを考えて即座に実行できるなんてブライトゴッド・・・君も本当にすごいな!」

足元にある大きめの石片を拾い思いっきり叩いてみる。
やはり単純に硬いだけではなく、やはりなにかの力によって無効化されているという感じがする。

>「これでお前らのメインアタッカーは封じた!こっから先は俺たちが追い詰めるターンだぜ!」

>「モンスターの合体による、レイド級の創造……ぽよぽよ☆カーニバルコンボは確かにエポックメイキングだった。
  だが忘れるなよモンデンキント!お前の戦術フォロワーは、お前のシンパ共だけじゃねえ!
  俺たちミッドコアもまた、お前のコンボを研究し、その力を我がものにしようとしてきたんだ!
  刮目して見とけよ!こいつが俺の真骨頂……ぶりぶり★フェスティバルコンボだ!!」

エンバースを封じられ、相手のコンボは確実に僕達に牙を剥こうしている。
みのりを倒して希望が見えたと思ったのも束の間、一転して絶望的な状況に逆戻り。

「なゆ・・・君のコンボは彼のコンボより先に出せるかい?」

どちらにもしても無理かもしれない。
元々参戦するのが遅かった上に僕を助ける為にATBを消費してしまっている。
僕達が時間を稼がなければ。

だが・・・どうやって?僕の手の内は見せてしまった、しかも回復されたとは言え。
部長は部長砲弾2回目なんてしたら終わった直後に戦闘不能になってしまうだろう、僕も正直もう一回あれをやるのはかなり無茶がある。
カザハはどうかわからないが、レイド級コンボに一人で時間稼ぎをするだけのパワーがあるようには見えない。

232ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/07/17(水) 02:49:51
目の前でなにかが蠢いている。
それは徐々に形をなし巨大な・・・魔物へと姿を変える。

「これが・・・ブライトゴッドの・・・奥の手」

コンボのネーミングセンスはほめられた物じゃないが、やばさだけは本物だ。

>「さあバルゴス!奴らを蹂躙しろ!暴力を振るうとスカっとするぞ!……バルゴス?」

バルゴスと名づけられたそれは、なぜか僕達ではなく明神を攻撃する。
明神はうろたえない、そうするのが分っていたといわんばかりに。

>「出し惜しみなしだ。俺は俺の全てでお前に挑む。
  腹の中身、全部見せるから――ちゃんと受け止めてくれよ、なゆたちゃん」

今あれを動かされたらこっちにはアレをどうこうできる手段が現状ない。
どうにかなゆだけでも逃がさなければ、なゆを守りきれば勝機がある、いや、なゆにしかない。

「カザハ!なゆを連れて飛んで逃げれるか?あの巨体だ、リーチは長いだろうが空に逃げれば追いかけてこれないはずだ」

なゆの為に時間稼ぐなら逃げるしかない!

「カザハ!僕の事はいい!早くしろ!君だけが頼りなんだぞ!」

>「お前の言う通り、ノリも勢いも悪くねえよカザハ君。
  だがノリだけで世界は救えねえんだ。つらいことも苦しいことも、ノリじゃ片付けられねえ」

当然明神が見逃すはずがなく。

>「確たる信念のねえ奴に!その場限りの結束に!世界が救えてたまるかっ!!
  ――『工業油脂(クラフターズワックス)』、プレイ!」

べっとりとなにかがカザハにまとわり付くと徐々に固まり
カザハをあっという間に拘束してしまった。

>「俺はモンデンキントをぶっ倒す。あいつに勝って、俺の矜持を取り戻す!!
  俺って実はすげー奴だったんだって!他ならぬ俺自信に、認めさせる!!」

カザハに向ってバルゴスと名づけられた巨大ななにかが剣を振りかざそうとする。

>「この一戦で終わりになんかしたくない。
  何度だって、世界救ってでも俺は戦いたい。――なゆたちゃんと、ブレモンがしたい」

ああ・・・本当に君は・・・
人に本気で向き合える、そんな心を持っているんだね。

233ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/07/17(水) 02:50:08
どれだけ多くの友達を作ろうとも。
両親にいくら聞こうとも。
彼女を作ろうと。
理解できなかった。

”人に為に行動できるような人間になれ”という意味が、親友という分類が・・・。

ただの人助けではなく、その人と本気で向き合う事が人に優しくするのだと。
頭では理解していたが、実践できる事はなかった、それをしなければいけない理由も分らなかった。

多くの友人を助けた、好きだからと告白された女の子と付き合った。
ボランティア活動もした、災害が発生したときはだれよりも率先して行動した。
今回だってなゆを助けようと奮闘したのも。

これらはただ僕が理解できているんだと、自分に言い聞かせるために。
”自分の為”にしてきた事だったのだと。

不器用だけどまっすぐになゆと、モンデキントとぶつかり合おうとする明神を見て、気づかされたのだ。

「ありがとう、ブライトゴッド」

カザハとバルゴスの間に走って割り込む。
もちろんこの世界に来て防具も、武器も、なにも所持していない。
だけど僕には苦しい訓練の末に手に入れた武器が・・・肉体がある。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

バルゴスの大剣を受け止める。
本来なら間違いなく真っ二つだが、この空間なら、プレイヤーを文字通り”切断”することはできないだろうと読んでいた。
だが当然だが体全体に激痛が走り、少し気を抜いたら気を失ってしまいそうな衝撃に襲われる。

でも不思議と負ける気はしなかった。

「おんどりゃあああああああ!!」

バルゴスのなぎ払いの一撃ををなんとか上にずらす事に成功した。
拘束されたカザハの上空を掠めるように大剣の一撃は空を切る。

「はあ・・・ゲホッ・・・ゲホゲホ」

ふらふらと立ち上がる、この霧にあまりにも長く触れ、激しく動き続け、バルゴスの攻撃を一度凌ぎきった。
回復を受けてもなお、生身の人間であるジョンには無理な負担、それでもまだ立っていなければ。

「なゆ・・・君は君のすべき事をするんだ」

心配そうに見つめるなゆを制止する。

234ジョン・アデル ◆yUvKBVHXBs:2019/07/17(水) 02:50:27
「ブライトゴッド・・・君が羨ましいよ・・・本気で人を想える君が・・・」

明神の仲間への思いを聞いた今、どんなに体が悲鳴を上げてもやらなきゃいけない事がある。

「僕はね・・・本当は君が思ってるほどいい奴じゃないんだ、自分の事しか考えていないクソ野郎なんだよ」

スマホを見る。ゲージが一つ溜まっていた。

「今、一つ決めた事があるんだ、本当に今決めた事なんだけれど・・・僕は」

部長を抱える、ごめんね部長、無理をさせてしまう事になってしまうけれど、僕に力を貸して欲しい。
最後のゲージを使って命令を下す。

【明神に向って思いっきりぶつかれ】と。

「ブライトゴッド!君を・・・いや!なゆも!エンバースも!みのりも!カザハも!とにかく全員を!僕は親友にする!」

生まれてだれかを親友にしたいと思った、今までの人生で一度も思わなかったけれど
本気で人に向き合おうとする君に・・・みんなに・・・心動かされてしまったんだ!

「はあああああああああああ!!」

そしてまた思いっきり部長を上空にぶん投げる。
さっきの部長砲弾の時より高く、遠く投げた。

「いったろ?もう一度やるって・・・ブライトゴッド、今度は部長が君を、今度は地面でなくではなく君に向って降って来るぞ」

雄鶏疾走がないから落ちてくるにも時間が掛かるし、威力は先ほどよりは出ないだろう。
だが脅威である事には変わらない。

撃ち落すため、ガードするため。
なにをするにしても隙が生まれる、そしてその隙は決して見逃されないだろう。

「エンバアアアアアス!まさかそこでずっと眠ってるつもりじゃないだろうな!」

叫ぶ、力の限り。
この先の展開の鍵を握るのはエンバースだ、彼があそこからでなくてはこの勝負、お話にならない。
残った全員で力を合わせなくては。



叫び終わったと同時にとうとう体が限界を迎えた、僕の役目は終わったのだ。

「それじゃ・・・なゆ・・・僕はちょっと・・・疲れちゃったから・・・休む・・・ね」

そこでジョンの意識は途絶えた。

235崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/07/24(水) 17:27:59
「な……!?」

エンバースの取った行動を見て、なゆたは瞠目した。
確かに、みのりをなんとかしろと言った。その鉄壁の防御を打ち崩し、埒を開けてくれと。
ただ、その手段については何も言わなかった。――思いつかなかったのだ。
ジョンやカザハに送った、何々をこれこれしろという“指示”ではない。なゆたがエンバースにしたのは、ただの“お願い”だった。
だというのに、エンバースは見事それに応えたのだ。それも、なゆたが想像だにしなかった方法で。

エンバースの機転によって、みのりはその鎧として纏ったイシュタルごと地面に縫い留められた。
みのりはもう行動不能だろう。タンクさえなくなれば、残るは明神だけだ。
……と、思ったが。

>うちは農家の娘やし、泥にまみれるのは慣れているけどな
 エンバースさん優しいなぁ、そんな優しくされると……うちも胸開いてみたくなってまうわ〜

それさえ、みのりにとっては予想の範囲内であったらしい。
みのりが藁の鎧の一部を解除した瞬間、エンバースの槍のダメージが藁人形によってエンバース自身に帰ってくる。

>金蝉脱殻の術〜ってやつやよ〜
 直接抱きしめてあげたい所やけど、恨みっこなしってゆう事で
 今はイシュタルで我慢したってえや

地面に縫い留められた状態から脱したみのりが言う。
イシュタルと藁人形でダメージを肩代わりし、身を守る――というのは今までもやってきたことだし、理解はできる。
しかし、まさかその先のことまで考えていたとは。
タンクという役目を完璧にこなし、なおかつ自らの保身も抜かりなく考えておく。
アルフヘイムに召喚された直後より、みのりは確実に進化している。そう思わせるに足る戦術に、なゆたは舌を巻いた。
そのうえ、『愛染赤糸(イクタマヨリヒメ)』によってエンバースを道連れにするなど、見事と言うしかない。
改めて、みのりが敵に回ることの恐ろしさを痛感する。

>あとこれサービスな
 エンバースさんの守りたいいう気持ちはよう見せてもらったわ
 今度はなゆちゃんは守られるだけでなく、一緒に戦うに足る女やゆうところを見たってえな
 そんなに怯える必要はあらへんくらい強いんやでぇ?

みのりはさらに『地脈同化(レイライアクセス)』を発動。それによってエンバースは一層イシュタルともども地面に封じられた。
エンバースの炎がイシュタルを焼き尽くし、イシュタルがリタイヤするまで、エンバースはその場から動けない。

>もらったATBで悪いがもいっちょ封印させてもらうぜ。
 こいつは……危険すぎる

ダメ押しとばかりに、明神がスペルカードを発動。
物理攻撃に対して圧倒的防御力を誇る『焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)』のトーチカがエンバースを封印した。

>これでお前らのメインアタッカーは封じた!こっから先は俺たちが追い詰めるターンだぜ!

明神が叫ぶ。確かに、これでなゆたのチームは貴重なアタッカーをひとり失ったことになる。
だが、或いはそれでよかったのかもしれない。先ほど、エンバースはともすればみのりを殺すかもしれない行動に出ていた。
明神の言う通り、今のエンバースは危険に過ぎる。まずは頭を冷やしてもらう必要があるだろう。そして何より――
この戦いは明神チームとモンデンキントチームの戦いであると同時、明神となゆたの一騎打ちでもあるのだから。
エンバースにばかり頼っていてはいられない。決着は、自分たちふたりがつけなければならないのだ。

「やあやあ、五穀豊穣君! お疲れさま、実にカッコよかったねぇ!
 まさか、スケアクロウをあそこまで巧みに使いこなす『異邦の魔物使い(ブレイブ)』がいたなんて!
 あとはここでゆっくり観戦するといいよ。あ、お茶はどうかな? ビスケットもあるよ!」

みのりがやってくると、バロールは明るい表情で彼女を迎えた。メイドたちがすかさずテーブルと椅子を用意し、着席を促す。
どうやら、ここが戦闘不能(リタイヤ)した『異邦の魔物使い(ブレイブ)』の観覧席になりそうである。

236崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/07/24(水) 17:28:14
「さすがね、みのりさん……。やっぱりみのりさんってスゴイ。
 みのりさんの力は見せて貰った……あとは、わたしがみのりさんの期待に応えるだけ!」

新たな手の内を晒してまで、みのりはなゆたの再起に期待してくれた。
それに応えないわけにはいかない。スマホに目を落とすと、すでに相当量のATBがオーバーチャージされている。
しかし、まだ足りない。この戦いを制するにはまだ何かが――最後の一押しが足りない。
それをこのデュエルの間に開眼し、実践し、それによって勝利を収めなければ、戦いに至った意味がない。
明神がすべてをかなぐり捨てて挑んできた、その想いに報いるには――。

>『武具創成(クラフトワークス)』、プレイ!

そう考えている間に、明神が自らの奥の手を開陳した。
文字通り、周囲に無数の防具や武具を生み出すユニットカードだ。
空中に驚くほどの数の革鎧が出現するものの、果たしてそんなものを何に使うのか。
しかし、その疑問はすぐに解消されることになった。

>『工業油脂(クラフターズワックス)』、プレイ!

さらに明神のスペルカード発動。空中を漂っていた革鎧たちがひとつに纏まり、何か別のものへと変質してゆく。
完成したそれは、身長5メートルほどもある巨大な全身革鎧の巨人――。
その胸部に空いた空洞へ、ヤマシタが潜り込む。

>モンスターの合体による、レイド級の創造……ぽよぽよ☆カーニバルコンボは確かにエポックメイキングだった。
 だが忘れるなよモンデンキント!お前の戦術フォロワーは、お前のシンパ共だけじゃねえ!
 俺たちミッドコアもまた、お前のコンボを研究し、その力を我がものにしようとしてきたんだ!
 刮目して見とけよ!こいつが俺の真骨頂……ぶりぶり★フェスティバルコンボだ!!

「ぶりぶり★フェスティバルコンボ……!」

明神の発したその名称を、我知らず呟く。
モンスター同士の合体によって、そのデュエル限定でレイド級モンスターを召喚する――。
それは確かに、ブレモンでは自分が最初に提唱したものだ。
ひょっとしたら海外では既にあったかもしれないが、少なくとも日本で最初にそれをやったのは自分だろう。
それが多くの追従者を呼んだというのも知っている。多くの似通ったコンボの誕生したのも。
しかし――これは初めて見るコンボだった。

>さあ起きろ!お前の恨みは、未練は!簡単に晴れるもんじゃねえだろう!
 契約はまだ続いてる!追加の報酬も用意した!もう一度俺に手を貸せ――バルゴス!!

インベントリから明神が取り出したのは、巨大な剣。
しかしただの剣ではない。肉眼で視認できるほど、その刀身には怨念が宿っている。
ヤマシタが合体した巨大な革鎧の巨人が、剣の柄をがっしと握る。その途端、怨念が革鎧全体へ伝播してゆく。
ヤマシタの怨念が大剣の怨念によってブーストされ、革鎧の塊を完全に制御下に置く。
そんなコンボは前代未聞だ。そもそもコストがかかりすぎるし、歩留まりが悪いというものだ。
しかし、ゲームの中では甚だ現実的でないそのコンボを、明神はこの幻想世界で見事に結実させてみせた。
モンデンキントを倒す、その一念で。

>いくぜ怨身合体――超機動重装怨霊!『リビングレザー・ヘビーアーマー』!!!

明神の叫び声が、フィールドに響く。ズズゥン……と巨兵が戦いの場に降り立つ。
上位アンデッド『リッチ』の怨念が武具に憑依することで完成する準レイド級モンスター、アーマードリッチ。
その革鎧版とでも言うべき、恐るべきモンスターが降臨したのだ。
ただし、その制御は必ずしも万全ではないらしい。明神の命令に対し、巨兵は叛逆のそぶりを見せた。
フレンドリーファイア無効の縛りでその攻撃は空振りに終わったが、いずれにしてもまだ使いこなしてはいないということか。
とはいえ、いずれにしても驚天動地の事態には違いない。

237崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/07/24(水) 17:28:30
>なゆ・・・君のコンボは彼のコンボより先に出せるかい?

「ゴメン、間に合わないよ……。手持ちのスペルカードとユニットカードを出し切っての、レイド召喚コンボ……。
 おまけに、マジックチートでスマホをふたつ同時に操って準レイド級のモンスターを制御するなんて――」

ジョンの問いかけに、一度かぶりを振る。
確かにレイド召喚コンボは自分が考え出したものだ。
しかし、明神はその先をやってみせた。しかも、この幻想世界でしかできない奇想天外な手法を用いて。
以前からそうだった。明神はいつだって決められたルール以外の要素に着目し、戦いに勝利してきた。
ブレモンのルールに縛られたモンデンキントには、想像さえできないような戦術を用いて――。

決められたルール以外の要素。
奇想天外な手法。
マジックチート。

――うん?

なゆたの頭の中で、パチリと火花が散る。
しかし、その正体がなんなのかまでは分からない。

>手札は整った。こっからは早指しでいくぜモンデンキント。付いてこいよ、俺のスピードに!

ズン、と地響きを立て、巨兵が行動を開始する。
アーマードリッチは全身金属鎧のため、動きが鈍重という欠陥がある。が、この巨兵は革鎧のせいか存外に動きが素早い。
反面、その攻撃力は甚大である。さしものポヨリンも現段階で直撃すれば一撃で沈むだろう。

>出し惜しみなしだ。俺は俺の全てでお前に挑む。
 腹の中身、全部見せるから――ちゃんと受け止めてくれよ、なゆたちゃん

「上等!
 明神さんがその気なら、わたしも真っ向勝負! 全身全霊で受け止めるから、120%全力で来てよね!」

に、と不敵な笑みを見せ、明神の言葉に応える。
しかし、明神が狙ったのはなゆたではなく、空を飛ぶカザハだった。

>確たる信念のねえ奴に!その場限りの結束に!世界が救えてたまるかっ!!
 ――『工業油脂(クラフターズワックス)』、プレイ!

べたべたした重い油脂が天から降り注ぎ、ユニサスの翼に纏わりつく。
ユニサスとシルヴェストルの最大の長所は、その機動力だ。油脂によって身動きを封じられてしまっては致命的である。

>俺はモンデンキントをぶっ倒す。あいつに勝って、俺の矜持を取り戻す!!
 俺って実はすげー奴だったんだって!他ならぬ俺自信に、認めさせる!!

>この一戦で終わりになんかしたくない。
 何度だって、世界救ってでも俺は戦いたい。――なゆたちゃんと、ブレモンがしたい

「……明神……さん……」

叩きつけられる激情。明神の本当の心。
否応なしに鼓膜を震わせるその言葉に、鼻の奥がツンとする。
大きな目に涙が溜まる。しかし、それは先ほど流したような絶望の涙ではない。
心を満たすのは、歓喜。その想いに言い知れない幸福を覚える。

――ブレモンをやっていてよかった――

そんな気持ちに、胸が詰まる。
だが、それと勝負の行方とは別だ。明神の熱い想いにあてられて、勝ちまで手放してしまうつもりはない。
巨兵の大剣が、カザハを墜落させようと薙ぎ払われる。
カザハが墜とされれば、こちらはさらに不利になる。なゆたはまだ、この巨兵を打ち破るための方策を考えついていない。
しかし、巨兵の剣は狙い過たずカザハを狙っている。カザハにそれを避ける手段はない。
絶体絶命の窮地、しかし。それを救ったのは――


パーティーでは一番の新参である、ジョンだった。

238崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/07/24(水) 17:28:43
>うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

薙ぎ払われる大剣。このままでは、カザハはその一撃を食らって沈む。
誰もがそう思った。――が、そうはならなかった。
ジョンが、その身を挺して大剣を受け止めたのだ。
それまで、真一など『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が戦闘の矢面に立つ光景を何度か目の当たりにしてきた。
だが、それは魔法のブーストがあったからだ。肉体の強化が図れていたからこそ、生身の人間がモンスターと戦うことができた。
だというのに。
ジョンはあろうことか、魔法による強化を一切受けずに準レイド級モンスターの一撃を受け止めたのだ。

>おんどりゃあああああああ!!

「ジョン……!!」

ジョンは渾身の力で大剣の軌跡をずらし、カザハへの攻撃を逸らしてみせた。
いくら元自衛官で、日頃から訓練で身体を鍛えているとはいえ、無茶にも程があるというものだ。
呆気に取られて見ていると、ジョンはふらふらになりながらもなゆたへ顔を向けた。そして言う。

>なゆ・・・君は君のすべき事をするんだ

「……うん」

本当は、すぐにでも駆け寄ってジョンの傷の手当てをしなければならないのだろうけれど。
それは許されなかった。そうすれば、せっかくジョンが作ってくれた活路を無駄にすることになってしまう。
ジョンの矜持を冒涜することはできない。
満身創痍の状態で、ジョンは明神に向き直る。部長を抱え上げ、身構える。

>ブライトゴッド・・・君が羨ましいよ・・・本気で人を想える君が・・・
>今、一つ決めた事があるんだ、本当に今決めた事なんだけれど・・・僕は
>ブライトゴッド!君を・・・いや!なゆも!エンバースも!みのりも!カザハも!とにかく全員を!僕は親友にする!

「―――……」

ジョンの魂の叫びに、なゆたはもう一度心を揺さぶられた。
なゆたはジョンのことをほとんど知らない。テレビやポスターで見たことがあるくらいだ。
だから、その半生についてももちろん知らない。さぞかしヒーローとして満ち足りた人生を送ってきたのだろう、としか。
しかし、それがただの勘違いで。
彼には彼の苦しみや悩みがあって。それを解きほぐしたいと、彼が心から望んでいるのなら――
それにもまた、応えなければならない。いや、応えるべきなのだ。

>はあああああああああああ!!

ジョンが最後の力を振り絞って部長を天高く投擲する。
先ほど、床に大穴を開けた部長の一撃。それが再現される――しかも、明神本体へ向けて。
明神は防御するか、避けるかに1ターンを消費しなければいけない。
その間に、こちらは逆転の一手を打つ。そうすることを、ジョンが望んでいる。
勝て、と。

>それじゃ・・・なゆ・・・僕はちょっと・・・疲れちゃったから・・・休む・・・ね

部長を投擲し、トーチカに封じられたままのエンバースに檄を飛ばすと、ジョンはふらりと大きく身を傾がせて倒れた。
すぐにバロールが戦闘不能となったジョンの身体を魔法で観覧席へと転移させる。
メイドたちがジョンに手厚い看護を施す。PvP空間ではダメージは受けても受傷はしない。すぐに目を覚ますことだろう。

「まったく、無茶をするね……。地球の人々はみんなこんな感じなのかい?
 それはともかく……これで彼に対する不信は解消されたかな、五穀豊穣君?」

バロールがみのりを見て小さく微笑む。
これで、両チームはお互いにリタイヤが一人ずつとなった。

239崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/07/24(水) 17:28:56
「ゴメンね、ジョン。いっぱい心配かけちゃって……でも、本当にありがとう。助かったわ。
 わたしも、あなたと親友になれたらって思う……。その気持ちに応えたいって思う。
 だから……その手始めに、アナタから託されたバトンを無駄にはしない! このデュエル、必ず勝つ!」
 
決意に満ちたまなざしで、なゆたは前方の敵――リビングレザー・ヘビーアーマーを見た。
ふたつのスマホでスペルやスキルを使いつつ、同時にモンスターを制御する“ぶりぶり★フェスティバルコンボ”。
身体強化なしで大剣の一撃を防ぎ切った、ジョンの行動。

――あ!!

今まで、ふたりの『異邦の魔物使い(ブレイブ)』が見せた全力の行動。
それを目の当たりにしたことで、なゆたはひとつの戦術を思いついた。
たった今、それこそ天啓のように閃いた策だ。もちろん試したことなんてないし、誰も知らないだろう。
うまくいくか、そもそも発動するかさえ分からない。が、もし発動すれば起死回生の逆転策となるに違いない。
明神の戦術を考えた場合、あとはそれに賭けるしかない。その綱渡りにすべてを委ねるしか。

――よし!わたしのすべてを……この策に!

決断してしまうと、あとは早い。なゆたは迷いなくスマホをタップした。

「『分裂(ディヴィジョン・セル)』――プレイ!」

対象を分裂させるスペルカード、『分裂(ディヴィジョン・セル)』。普段はポヨリンを分裂させるために使うスペルだ。
しかし、なゆたがスペルを発動させても――

『ポヨリンは分裂しなかった』。

ポヨリンはいつもの調子でただ一匹きりのまま、なゆたの足許でぽよんぽよんと跳ねている。
けれどそんな不具合など一顧だにせず、なゆたは今まで溜まりに溜まったATBを怒涛の勢いで消費してゆく。

「早指しで行くって言ったわね、明神さん!
 望むところよ……エンバースが、カザハが、ジョンが繋いでくれた希望……絶対に無駄にはしない!
 『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』……プレイ!」

なゆたはユニットカードでフィールドを水属性に変えると、さらにスペルカード『分裂(ディヴィジョン・セル)』を三度発動。
今度はポヨリンはいつも通り分裂し、32体にも増えた。
明神の読み通り、G.O.D.スライム召喚までに必要なターンは7ターン。
すなわち『現界突破(オーバードライブ)』。
『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』。
『分裂(ディヴィジョン・セル)』3回。
『民族大移動(エクソダス)』。
そして『融合(フュージョン)』という手順を踏まなければならない。 
ただ、それはソロのPvPの話で、パーティープレイの場合はその限りではない。
他のメンバーが掛けてくれたバフでも代替は可能なのだ。現在、ポヨリンにはジョンのバフがかかっている。
今は『現界突破(オーバードライブ)』を省略し、6ターンでG.O.D.スライムを召喚できるという訳だ。

「『民族大移動(エクソダス)』プレイ!そして――『融合(フュージョン)』!
 ウルティメイト召喚……光纏い、降臨せよ! 天上に唯一なるスライムの神――
 G.O.D.スライム!!」

『ぽぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜よぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!』

召喚された400匹ものスライムたちがまばゆい光に包まれ、なゆたの言葉によって一体に融合する。
頭上に王冠と光輪を頂き、光背と三対の翼を有した、身長18メートル重量40トンの黄金に輝くスライム。
スライム系統樹に君臨する二体のスライムのうちの一体。
G.O.D.スライム――またの名をゴッドポヨリン。
ミハエル・シュヴァルツァーと戦った時のような紛い物ではない、正真正銘のレイド級だ。

「一気に行くわよ、ゴッドポヨリン!」

「ぽぉぉぉぉぉ〜〜〜〜よぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜よぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜んんんんん〜〜〜〜」

なゆたの命令によって、ゴッドポヨリンは三対の翼を一打ちさせると一気に上空へと飛翔した。
ぼっ!と音を立て、明神の造り出した刃の濃霧の遥か上空へと移動する。
時刻は昼間だ。濃霧の外には、まだ太陽が輝いている。
ゴッドポヨリンは太陽を背にして浮かんだまま、何を思ったかつぶらな目を閉じた。

240崇月院なゆた ◆POYO/UwNZg:2019/07/24(水) 17:29:11
別に、ポヨリンはマスターであるなゆたを見捨てて日向ぼっこを決め込んだわけではない。
その背に負った真円、神の一柱であることを示す光背が、その輝きを徐々に強めてゆく。――太陽の光を吸収しているのだ。
さらに、光背が吸収した光がゴッドポヨリンの身体に流れ込み、一点に収束してゆく。
ゴッドポヨリンの透明の身体は、超巨大なレンズのようなものだ。その中で膨大な光が集まり、高出力の魔力に還元される。
蓄えた光が臨界点を超えた瞬間、ゴッドポヨリンはあんぐりと大きく口を開いた。10メートル以上の巨大な“砲口”だ。
そして――

「ゴッドポヨリンの攻撃! 一切万象を灰燼と帰せ――天の雷霆!」

ゴッドポヨリンが濃霧に遮られたバトルフィールド全体を睥睨する。

「『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』!!!」

カッ!!!!!

ゴッドポヨリンの大きく開かれた口から、収束し臨界点に達した光が放たれる。
直径10メートルの光の柱。すべてのものを薙ぎ払い、塵と化す神の雷。
閃光が濃霧を蒸発させながらフィールドに着弾すると、ゴッドポヨリンはわずかに身じろぎして座標を修正する。
その標的は、もちろん明神の操るリビングレザー・ヘビーアーマーだ。
もうひとつのスキル『黙示録の鎚(アポカリプス・ハンマー)』は敵単体にゲンコツで極大ダメージを与え、
その後地震によってフィールド全体の敵にダメージを与える物理攻撃である。
一方で『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』は敵全体を標的とした極太レーザーの魔法攻撃だ。
フレンドリーファイア無効設定によって、なゆたはもちろんカザハや封印されているエンバースもダメージを受けない。
レイド級モンスターの必殺スキルだ。たとえ準レイド級の高位アンデッドであろうと、甚大なダメージは免れ得まい。

「明神さん――勝負!」

床を高熱によって融解させながら、リビングレザー・ヘビーアーマーへと閃光が迫る。
今までゴッドポヨリン召喚に成功して、勝てなかった戦いはない。レイド級モンスターを場に召喚した時点で決着はついている。
明神がぽよぽよ☆カーニバルコンボを換骨奪胎し、独自のコンボを作り上げたのは正直、驚嘆に値する。
しかし、ぽよぽよ☆カーニバルコンボは必殺の戦術。
長い時間と二百回以上の実戦を経てようやく辿り着いた、なゆたのブレモン愛の結晶である。
オリジナルがコピーに敗北するなどということは、絶対にあってはならない。

「わたしは負けない! 絶対に……この戦いに勝ってみせる!
 明神さん、わたしだってあなたに負けないくらい……ううん! あなたの何倍も、ブレモンが好きだから!
 この戦いが終わった後も! 世界を救っても! 何年経ったって、変わらずブレモンをやり続けるために!
 あなたともっともっとデュエルするために! あなたに失望されないデュエリストであり続けるために!
 ……あなたに……、勝つ!!」

なゆたの突き出した右手をガイドとして、ゴッドポヨリンが狙いを定める。巨兵へと正確に照準が合う。

ゴウッ!!!!!

轟音がその場にいる全員の耳を劈き、ゴッドポヨリンの口から放たれるレーザーが太さを増す。
圧倒的なパワーですべてを破壊し、打ち砕く『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』。
この神の威光を浴びて生き残った者はいない。なゆたは大きく叫んだ。

「いっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――――ッ!!!!!」

高出力の閃光が、リビングレザー・ヘビーアーマーへと殺到する。
だが、なゆたは知らなかった。
みのりのマイルーム『万象法典(アーカイブ・オール)』から、明神が持ち出した三枚のカード。
『焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)』。
『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』。
そして『虚構粉砕(フェイクブレイク)』のことを――。


【ゴッドポヨリン召喚、魔法攻撃スキル『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』発動。レーザーで巨大ヤマシタに攻撃。
 明神の三枚の奥の手カードについては未確認につき分からず】

241カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/07/27(土) 01:01:38
エンバースさんはイシュタルを堕としみのりさんを戦線離脱させることに成功したが、ただで堕ちるみのりさんではない。
それと引換えに、エンバースさんも拘束されてしまった。

>「いくぜ怨身合体――超機動重装怨霊!『リビングレザー・ヘビーアーマー』!!!」

そしてついにぶりぶり★フェスティバルコンボが発動し、巨大な革鎧の重装騎士が降臨する。
それを見たジョン君がなゆたちゃんを乗せて逃げるように言う。

>「カザハ!なゆを連れて飛んで逃げれるか?あの巨体だ、リーチは長いだろうが空に逃げれば追いかけてこれないはずだ」

「君も乗って……! ボクは殆ど重さが無いから二人ならなんとか乗せれるはず……!」

>「カザハ!僕の事はいい!早くしろ!君だけが頼りなんだぞ!」

確かにエンバースさんが拘束された今、次に狙ってくるのは最強コンボを発動させようとしているなゆたちゃんだろう。
しかし重装騎士がまずターゲットに定めたのは――予想外なことに私達だった。

>「お前の言う通り、ノリも勢いも悪くねえよカザハ君。
 だがノリだけで世界は救えねえんだ。つらいことも苦しいことも、ノリじゃ片付けられねえ」

確かにゲームにおいては、敵方に機動力に長けた支援系キャラがいたらまずそいつから潰すのは定石だ。
しかし、実際に自分がリアルな戦いに放り込まれてそれと同じ判断が出来る者が果たしてどれぐらいいるだろうか。
直接攻撃してくるアタッカーや全体を指揮する司令塔に目が行ってしまう者が殆どだろう。
流石はうんちぶりぶり大明神――筋金入りのゲーマーである。

>「確たる信念のねえ奴に!その場限りの結束に!世界が救えてたまるかっ!!
  ――『工業油脂(クラフターズワックス)』、プレイ!」

「うわあ! 何コレ!?」

私達に大量の油脂が降りかかり、翼の動きが阻害される。

>「この一戦で終わりになんかしたくない。
 何度だって、世界救ってでも俺は戦いたい。――なゆたちゃんと、ブレモンがしたい」

動きがままならなくなり落ちていく私達に、大剣が横合いから薙ぎ払われる。
万事休す、お邪魔虫は退散しろってことか――と思われたその時だった。
突然疾風のように走って割り込んできた者がいた。

>「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

なんと、生身の人間であるジョン君がバルゴスの大剣を受け止めてその軌道を逸らした。

>「おんどりゃあああああああ!!」

「ちょっと……! なんて無茶を……!」

どう考えても、モンスターである私達がそのまま攻撃を受けた方がダメージは少なかった。
つまりこれは、最後までなゆたちゃんの力になれということ。

242カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/07/27(土) 01:03:13
>「ブライトゴッド・・・君が羨ましいよ・・・本気で人を想える君が・・・」
>「僕はね・・・本当は君が思ってるほどいい奴じゃないんだ、自分の事しか考えていないクソ野郎なんだよ」
>「今、一つ決めた事があるんだ、本当に今決めた事なんだけれど・・・僕は」
>「ブライトゴッド!君を・・・いや!なゆも!エンバースも!みのりも!カザハも!とにかく全員を!僕は親友にする!」
>「エンバアアアアアス!まさかそこでずっと眠ってるつもりじゃないだろうな!」

ジョン君は最後の力を振り絞って部長をぶん投げて明神さんに突撃させると、ついに力尽きた。

>「それじゃ・・・なゆ・・・僕はちょっと・・・疲れちゃったから・・・休む・・・ね」

>「ゴメンね、ジョン。いっぱい心配かけちゃって……でも、本当にありがとう。助かったわ。
 わたしも、あなたと親友になれたらって思う……。その気持ちに応えたいって思う。
 だから……その手始めに、アナタから託されたバトンを無駄にはしない! このデュエル、必ず勝つ!」

なゆたちゃんは超速でゴッドポヨリンさん召喚のためのコンボを組み始めた。
歴戦のブレモンゲーマー達が繰り広げるコンボ合戦にド素人の私達が首を突っ込めるはずもない。

「『ピュリフィウィンド(浄化の風)』――カケル、エンバースさんを救出に行こう!」

まずはスペルで油まみれの状態異常を解除し、エンバースさん救出を提案する。
しかし、無条件に賛同は出来なかった。

《安全を考えるとあのまま閉じ込めておいた方がいいのでは……。様子がおかしかったですよ?》

「ジョン君の言葉聞いたでしょ? あのまま眠らせとくわけにはいかない!
それに浄化の風の効果は”味方全体の状態異常を治す”――ボクはエンバースさんを味方だと信じるよ!」

確かにこの世界はゲームの仕様を超えたところと、妙にゲーム的仕様に忠実なところが混在している。
効果が”味方全体の状態異常を治す”と設定されていて、あれがある種の混乱という状態異常だったとしたら
たとえトーチカに閉じ込められていたとしても効果を発揮するのだろう。
エンバースさんが”味方”の定義に当てはまるのであれば。

>「『民族大移動(エクソダス)』プレイ!そして――『融合(フュージョン)』!
 ウルティメイト召喚……光纏い、降臨せよ! 天上に唯一なるスライムの神――
 G.O.D.スライム!!」

そうしている間にもぽよぽよフェスティバルコンボが完成し、G.O.D.スライムが降臨。
もう勝負がつくのは時間の問題だろう、そう思った私は、結局カザハに従う形でエンバースさんの救出に向かう。

「エンバースさん、皆の言葉、聞こえてた? ボク達と一緒に行こう!
守るだけの対象じゃなく共に助け合う仲間として! ――ハッピーエンドは、二週目で解禁だ!
――『瞬間移動(ブリンク)!』」

243カザハ&カケル ◆92JgSYOZkQ:2019/07/27(土) 01:04:39
カザハが、エンバースさんが閉じ込められているトーチカに向かって手を伸ばすようにスペルを唱えると、腕を掴まれ引っ張り上げられる形でエンバースさんが現れた。
カザハはいったんエンバースさんを自らの後ろ、つまり私の上に乗せる形で座らせる。
といっても『自由の翼(フライト)』がかかっているのでいつでも離脱することは可能だろう。

>「わたしは負けない! 絶対に……この戦いに勝ってみせる!
 明神さん、わたしだってあなたに負けないくらい……ううん! あなたの何倍も、ブレモンが好きだから!
 この戦いが終わった後も! 世界を救っても! 何年経ったって、変わらずブレモンをやり続けるために!
 あなたともっともっとデュエルするために! あなたに失望されないデュエリストであり続けるために!
 ……あなたに……、勝つ!!」
>「いっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――――ッ!!!!!」

そうこうしているうちにゴッドポヨリンさんから必殺のビームが放たれる。勝負あった――そう思われたが。

「油断しないで、勝負はここからだ……先に放たれた必殺技は防がれると相場が決まっている!」

カザハが大真面目な顔をして語る。
漫画の読み過ぎちゃうんか、と思ったが、まさかそれが真実になろうとはこの時の私は知る由も無かった。

「化け物上等……ボクは人間のままじゃジョン君みたいに強くなれなかったから」

カザハはこの世界に来てモンスターになった時、ダイエットと美容整形と若返りが一気に出来て一石三鳥!とか言って喜んでいたが、
本当に喜んでいた理由は無力な人間ではなくなったことだったのかもしれない。

「ノリ”だけ”では世界は救えない――でもノリで動く奴が一人ぐらいいたっていいよね!」

私達にゲージを何本も溜めて緻密に戦略を組み上げて――という役回りは不可能だ。
それは、分かりやすく言えばノリで、格好よく言えば刻一刻と変化する戦況に合わせて機動力を武器に全力で支援に回るという宣言だった。

「――瞬足《ヘイスト》!」

その手始めに、残ったもう一つのヘイストをエンバースさんへ。
こうして空飛ぶ焼死体は空飛ぶ瞬足の焼死体に進化したのであった。

244embers ◆5WH73DXszU:2019/07/31(水) 23:39:13
【デュエル・スタンバイ(Ⅰ)】


本当は、地面に叩き付けた時点で勝負は決している筈だった。
藁の鎧を纏っていようと、地面に全身を打ち付けた衝撃は装備者へ伝わる。
脳挫傷/内臓破裂――どちらも、“HP1”と判定されるには十分なダメージの筈だった。

だが、五穀みのりは生きていた――恐らくは、鎧の方が上手くやったのだ。
歴戦のタンクが、瞬時の判断で受け身を成した――あり得ない話ではない。

もっとも――想定外の事態は、想定内だった。
耐えられたならば、地面に抑え込み、泥に沈め、スマホを奪えばいい。
万全の深謀――焼死体の唯一の失策は、五穀みのりの胆力を読み違えた事だ。

『うちは農家の娘やし、泥にまみれるのは慣れているけどな
 エンバースさん優しいなぁ、そんな優しくされると……うちも胸開いてみたくなってまうわ〜』

焼死体を穿つ不可視の衝撃――【囮の藁人形(スケープゴートルーレット)】によるダメージ反射。
逆袈裟に放った重い斬撃/拘束を旨とした串刺しが、焼け落ちた肉体を容易く揺らす。
その直後には、みのりは焼死体の足元を脱し、スマホを操作していた。

『金蝉脱殻の術〜ってやつやよ〜
 直接抱きしめてあげたい所やけど、恨みっこなしってゆう事で
 今はイシュタルで我慢したってえや』

「いいや、遠慮しておこう。こいつは、あんたに返すよ」

絡み付く案山子の顔面を鷲掴みにして、立ち上がる。
蒼炎の眼光はみのりを追う――残存HPが不明/回復可能な案山子よりも、
無力化の手段が明確なプレイヤーを倒す方が、より効率的/合理的だと判断したからだ。

『あとこれサービスな
 エンバースさんの守りたいいう気持ちはよう見せてもらったわ
 今度はなゆちゃんは守られるだけでなく、一緒に戦うに足る女やゆうところを見たってえな
 そんなに怯える必要はあらへんくらい強いんやでぇ?』

追撃を阻む駄目押しのスペル――焼死体は、動じなかった。

「――甘いな」

ただ一言呟き、逆手に握った朱槍を振り被る――的は人体/距離は10メートルにも満たない。
超重力は人外の膂力ならば問題にならない/対して的の移動は緩慢。
焼死体の分析/見解――目を閉じていても、外さない。

『もらったATBで悪いがもいっちょ封印させてもらうぜ。
 こいつは……危険すぎる』

そして放たれた紅蓮の死閃を――赤土色の城壁が食い止めた。
甲高い金属音を奏でて、朱槍は無残に地面を転がる。
焼死体の口腔から、嘆息/黒煙が漏れた。

「俺一人に、何枚スペルを使えば気が済むんだ?」

ゲームの中で強烈なマンマークを受けた事は何度もある。
優秀なアタッカーの封殺は合理的な戦術/そして自分は優秀なアタッカーだ。
だがそんな事は何の慰めにもならない――紅く覆われた視界が齎すのは、退屈だけだ。

245embers ◆5WH73DXszU:2019/07/31(水) 23:41:20
【デュエル・スタンバイ(Ⅱ)】

「やれやれだ。お前のご主人様は大した勝負師だよ」

返事はない/求めてもいない――焼死体が狩装束の衣嚢を探る。
取り出したのは小さな革袋――口紐を緩めると溢れるのは、濃厚な酒気。
地面へと打ち捨てた案山子に頭から、火酒を浴びせる――たちまち、燃え上がる。

京都人の強かさはもう十分に思い知った/故にその退場は早ければ早いほどいい。
この期に及んで――まだ謀を隠している可能性はゼロとは言い切れない。
焼死体が危惧したのは、カードの使用による遠隔火力支援だ。

「……パートナーを置き去りにするのは、少し頂けないけどな」

やがて、案山子を包む炎が不自然に掻き消えた。
致命傷を受けたと判定された案山子は、燐光の粒子と化して消えた。
システムによる強制的なアンサモン――これで、焼死体は完全な孤独に包まれた。

投擲した槍に歩み寄る――拾い上げ/振り上げ/斬り付ける。
赤土色の牢獄には、僅かな傷が刻まれるのみ。
風属性のエンチャント分のダメージだ。

「敵戦力の五割を撃滅――と言えば、戦果としては十分だが……」

焼死体は槍を放り捨て、空いた右手を衣嚢へ沈める――脱出の方法は、なくはない。

『出し惜しみなしだ。俺は俺の全てでお前に挑む。
 腹の中身、全部見せるから――ちゃんと受け止めてくれよ、なゆたちゃん』

『上等!明神さんがその気なら、わたしも真っ向勝負! 全身全霊で受け止めるから、120%全力で来てよね!』

だが焼死体の右手は、何も掴む事なく狩装束を後にした。

「……なんだ。俺が知らない間に話は付いたのか」

壁の外から聞こえてくるのは、どう解釈しても、ただの“ゲーマー同士の日常会話”でしかなかった。
ならば最早、焼死体が――二人を守る必要はない。或いは、初めから必要なかったのかも知れないが。
焼死体は牢獄の真ん中に腰を下ろすと、背中を地面に預ける――両手を頭の後ろで重ね、足を組んだ。

「だとしたら……みのりさんには、後で謝らないとな」

耳を澄まして、対戦の空気に浸る――死合ではない対戦は、酷く、郷愁を感じる程に久しぶりだった。

『カザハ!なゆを連れて飛んで逃げれるか?あの巨体だ――』

「……そうだ。先に大物を出された以上、機動戦に勝機を見出すのは合理的だ。だが――」

『――『工業油脂(クラフターズワックス)』、プレイ!」』

「だよな。合理的だという事はつまり、読みやすいって事だ――とは言え流石だ、明神さん」

『おんどりゃあああああああ!!』
『ちょっと……! なんて無茶を……!』

「……恐らく、自分のパートナーを捨て駒にしたか?対戦のルール内なら、合理的だな」

遅滞作戦は順調に進んでいる――モンデンキントのゲージは、じきに十分量貯まるだろう。
GODコンボは成立し――しかし焼死体は知っている/明神はまだ切り札を残している。
モンデンキントは、負けるかもしれない――だが、それはただのリザルトだ。

対戦を行えば、誰かが必ず背負う事になる、単なる結果に過ぎない。
ゲーマーにとっては、ただの雨風と変わらない、自然の産物だ。
太陽が沈み/月が欠ける――その一方を厭う理由などない。


『エンバアアアアアス!まさかそこでずっと眠ってるつもりじゃないだろうな!』


「いいや、そのつもりだ――そのつもり、だった筈なんだけどな」

だが――気付けば焼死体は、立ち上がっていた。

246embers ◆5WH73DXszU:2019/07/31(水) 23:42:49
【デュエル・スタンバイ(Ⅲ)】

「……だけど、確かにここで寝てるだけってのは、退屈だ」

誰にともなく呟く弁明――火酒の革袋を再度取り出す/その口端を両手で掴み、引き裂く。
火酒が溢れ/焼死体の火気に触れて、引火――赤い城壁の内側を、蒼い炎が満たしていく。

「【焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)】は……対物理攻撃に特化した防壁だ。
 属性攻撃を持たないモンスターにとっては厄介なカードだが……甘いぜ、明神さん」

アルコールの燃焼と気化に伴う空気の膨張は物理現象だが、物理攻撃ではない。
圧力の上昇による内部からの破壊は――風属性と判定されるのが、妥当だろう。

プランを実行するに当たって、懸念すべき要素は三つあった。
一つは十分な内圧が得られるまでに、内部の酸素が尽きてしまう可能性。
しかし焼死体がその身に宿すのは、邪法の炎――少なくとも熱源が絶える事はない。

不意に、焼死体の指先に亀裂が走る――これが懸念すべき要素の二つ目だ。
城壁よりも先に、焼死体の体が、上昇する内圧によって破壊される可能性。

「予想はしていた……だが思っていたよりも、早いな」

焼死体が呟く――眼前の壁は未だに、僅かな軋みを奏でる事すら、しない。
焼け落ちた肉体の空洞に、己の体の何処かが、ひび割れる音が響き続ける。

「……なるほど。あの濃霧で、思ったよりダメージを受けていたのか。
 生理機能に支配されない体には、こんなデメリットもあるのか……。
 いい勉強になった……仕様は、理解した……次に、活かせる……な」

だが、今更プランの変更は出来ない/溢れた火酒は、革袋には戻せない。
脚に亀裂が走る/膝を突く/咄嗟に体を右手で支える――自重によって、右腕が割れる。
そして――焦げた右手が狩装束の懐を探る/こうなる可能性は危惧していた/故に当然、対策も講じてあった。

『エンバースさん、皆の言葉、聞こえてた? ボク達と一緒に行こう!
 守るだけの対象じゃなく共に助け合う仲間として! ――ハッピーエンドは、二週目で解禁だ!』

「……ふん、知った風な口を利くなよ。それに悪いが、こっちは今それどころじゃない……」

次の瞬間、焼死体は強烈な風圧に晒されていた。
何故かはすぐ理解した/【瞬間移動(ブリンク)】の宣言は聞こえていた。
カザハは、焼死体の腕を引いて弟の背へと乗せた――否、正確には“乗せようとした”。
しかし焼死体の重量は装備を含め約30kg超――妖精のSTR値/片腕の状態で牽引出来る重量ではない。

「ぐああっ!」

結果として焼死体は――脱出して早々、地面に投げ出された。

「ああ、クソ。俺の手足は……まだちゃんとくっついてるな」

懐に潜った右手を引き抜く/取り出したのは数本のポーション瓶。
瓶の口を噛み砕く/ガラス片を吐き捨てる――割れた断面を胸部に突き刺す。
経口摂取よりも、こうした方が遥かに素早く/隙がない――最低限の回復は、これで済んだ。

そして――その間にも戦況は変化する/破られない必勝法などない/暴かれない虚構など、ない。
神という虚構が砕かれた時、後に残るのは、ちっぽけなスライムと――巨大な怪物。
或いは死人を縫い合わせたようにも見える巨人を、焼死体は見上げ――

「……それで?」

一言、そう言った。

247embers ◆5WH73DXszU:2019/07/31(水) 23:45:57
【デュエル・スタンバイ(Ⅳ)】

「次の指示はどうした――リーダーは、お前なんだろう?」

振り返らぬまま紡がれる言葉――だが、それが誰に向けたものなのかは、明白だった。

「時間を稼げばいいのか?それとも――」

血浸しの朱槍は城壁の中に置き去り――焼死体は後ろ腰に差した手斧を掴み、抜いた。

「――万策尽きたって言うなら、代わりにあいつを倒してやってもいいぜ」

蒼炎の眼光が、明神を見据える――戦況は焼死体の戦術に最適と言えた。
カザハの支援により得た機動力は、準レイド級との戦闘においては決め手になり得ない。
根本的な火力が不足しているからだ――だが『ブレイブ殺し』を行うには、これ以上ない援護だった。

焼死体は、斧を大きく振り被る/半身の姿勢/左手は前方へ――左足を前へと踏み出した。
肩が唸る/肘が廻る/腕が撓る/力の連動が加速度を生む――右足を踏み切る/斧を、放つ。

「……やるじゃないか。中々のバッティングセンスだ」

鈍色の閃きは――巨兵の核たるヤマシタへと迫り、しかし大剣によって切り払われた。
ブレイブ殺しを狙っていた一撃を、結果的に防がれたのではない。
必勝である筈の戦術を、焼死体は取らなかった。

何故か――その理由は複雑なようで、酷く単純だった。

焼死体は一度ゲーマーとしての情熱を棄てた/棄てなければ生き延びられなかった。
それでも最後はデッド・エンドで終わった/裏切られ続けた魂は、凍え切っていた。

そこに、一人の少女が火を灯した――小生意気で、全然好みじゃない、女だった。
だが、気が付けば――焼死体はかつて棄てたゲーマーの情熱を、取り戻していた。
それが少女のおかげであると未だに自覚出来ないほど、焼死体は間抜けではない。

「明神さん、悪いな」

故に――焼死体は巨兵を前に立ちはだかる。
時間稼ぎでも、大物喰いでも、やれと言われた事をやる。
手段だって選ぶ――ゲーマーらしい戦いを/少女に相応しい勝利を。

「誰か一人だけを選ぶなら――俺は、あいつを守るよ」

最後に残った得物を抜いた――溶け落ちた直剣/かつての愛剣を。
それを大きく振り被る/半身の姿勢/左手は前方へ――左足を前へと踏み出した。
肩が唸る/肘が廻る/腕が撓る/力の連動が加速度を生む――右足を踏み切り/直剣を、投げない。

「うおおおっ!!!」

一連の動作はフェイク/地を蹴り/瞬時に巨兵の足元へ――その親指に、直剣を突き立てた。
飛翔の推力を斬圧と換え、強引に切り裂く/上手く行けば巨体の支えが一つ欠ける。
勢いのままに上へ飛翔――膝関節を同様の手順で斬り付ける/更に再上昇。
巨兵の心臓部/或いは脳を目前に、直剣を振り上げ――

「まぁ……俺が全部やっちまっても、つまらないからな――」

だが焼死体の進攻は、ここで止まる。
それはダイスを振るまでもない決定事項だった。
追い詰められた合理性は、その合理性故に読まれやすい。

「――今日のところは、これくらいにしといてやるよ」

巨兵の左手が焼死体を打ち払うか/或いは右手の大剣が叩き斬るか。
ダイスの出目が左右する事象の振れ幅は――精々、その程度が限度だった。

248うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:08:00
八方荒らし回ってた天罰でも下ったのか知らんが、俺は会社の便所からこの世界に放り出された。
荒野をさまよって、命の危機に何度も遭って……そして、こいつらと出会った。
こんな仲良しこよしの即席パーティ、すぐに裏切っておん出てやろうと思ってた。
なんなら最初の遭遇時点で奇襲かましてクリスタルやらカードやら奪ったって良かったしな。

俺は馴れ合いが嫌いだ。
孤独が好きってわけでもないが、人間関係の煩わしさは嫌っていうほどわかってた。
ソロ適正の高いヤマシタが居れば、俺は一人でもやってける。自信は……今でもある。
世界救うのなんかやる気のある連中に任せて、在野の野良ブレイブよろしく適当に生きてく選択肢もあったはずだ。

ベルゼバブ戦で物欲にかられて加勢しなければ。
ガンダラでマスターとの交渉を断固拒否していれば。
――試掘洞で、真ちゃんやこいつらを見捨てて逃げていれば。

きっと俺は、今よりもずっと自由気ままにこの世界を謳歌していただろう。
あるいは一人、どこかで野垂れ死んだとしても、事故に遭ったようなもんだと諦めがついた。

だけどそうはならなかった。そうすることは、出来なかった。
情が移ったってのはある。子供死なせちゃ寝覚めが悪いっつうのも、まあ認めよう。
だが、俺があいつらと旅をしてきた理由は、きっとそれだけじゃなかった。

誰かと一緒に見知らぬ土地を歩いて、食ったことのないもの食って、見たことない景色を見るのも。
かつてない苦境や強敵に、皆の力を合わせて打開策を導き出し、乗り越えていくのも。
おおよそこれまでの人生で体験したことのないくらい、楽しかった。
同じ目的のもと、助け合って困難に立ち向かっていくのは、心が踊った。

結局のところ、冷めたツラして斜に構えてるクソコテの俺も、一歩引いた位置で大人ぶってた俺も、
フレンドとの共闘に一喜一憂する……ごくごく一般的なゲーマーに過ぎなかったのだ。

なぁーにが邪悪は馴れ合わないだよ。俺、こいつらのこと好き過ぎだろ。
でもしょうがねえよ。楽しかったんだもん。もっとこいつらと旅がしたいって、思っちまったんだよ。
出会った頃からは随分顔ぶれも変わっちまったが、そんなの関係ねえ。

俺は俺の目的を、余すことなく全部果たす。
ニブルヘイムだの侵食だの、邪魔する要素は叩き潰す。
この先もブレモンのプレイヤーで、こいつらのフレンドで在り続けるために……世界だって救ってやる。

 ◆ ◆ ◆

249うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:08:35
動きを封じたカザハ君とユニサスに、直撃コースの大剣。
取った――この場の誰もが、当のカザハ君すら確信しただろう必殺の一撃。
ぶった切られた大気が生み出す風切り音の向こうから、一つの声が聞こえた。

>「ありがとう、ブライトゴッド」

声と共に大剣の前に飛び出した影の主は……ジョン!
視界の外から走り込んできた金髪が、カザハ君をかばうように踊り出る。

「マジかっ!?」

>「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

そのまま大剣が直撃し――

>「おんどりゃあああああああ!!」

鋼鉄と生身の激突が、横薙ぎの軌道をわずかに上へと逸らした!
カザハ君の頭上数センチを鈍色の軌跡が擦過していく。
致命の一撃から仲間を救ったジョンは、当然の帰結としてその身に大ダメージを受けて崩れ落ちた。

「ウソだろお前っ!どういう心臓してんだ!」

こいつには何度も驚かされた
パートナーをぶん投げる規格外の戦術も、イカれた発想ではあったが、まだ納得できる。
だがこいつは、今!断頭台の刃に等しい大剣を、自分の身体で受けやがった!

そりゃ確かに対戦フィールド内なら死にはしない。最低限の生命維持は保証される。
だがそれはあくまで命に対する保証だ。身を引き裂かれる苦痛まで取り払ってくれるわけじゃない。
まして生身で……何の防護もないまま斬撃を受ければ、それだけでショック死しかねない激痛が走るはずだ。

意味がわからん。なんでそこまでする?
今日び自衛官だろうが軍人だろうが、必要以上に自分の身体を痛めつけるような真似はしない。
能動的な殉職なんか認められてるわけもないし、作戦行動中も自分の命は何より優先されるべきものだ。

まして今日初めて会ったばかりのカザハ君のために、人間より頑丈なモンスターのために!
自分の身をなげうつ理由がどこにあるってんだ!?

>「ブライトゴッド・・・君が羨ましいよ・・・本気で人を想える君が・・・」

苦しみに喘ぎながら、ジョンは立ち上がる。
まっすぐ俺を見据えるその双眸に、己の行動への迷いは……ない。

>「僕はね・・・本当は君が思ってるほどいい奴じゃないんだ、自分の事しか考えていないクソ野郎なんだよ」

「ウソ言えよ、お前は模範的な自衛官で、被災地でもいっぱい活躍してるヒーローで……」

誰からも愛される完璧超人。ジョン・アデルは、そういう人種のはずだ。
俺とは違う、日の当たる場所で脚光を浴びる雲の上の存在のはずだ。

だが、俺の知ってるジョン・アデルは、広報メディアを通した姿でしかない。
それが渉外用に圧縮成型された、文字通りの『偶像』ではないと、否定できるか?
本当のこいつなんか知らない。こいつが何を思ってカザハ君をかばったのか、推し量ることは……できない。

>「今、一つ決めた事があるんだ、本当に今決めた事なんだけれど・・・僕は」

ただ、これからジョンの口から出る言葉は、美麗字句や虚飾のない真実であると、直感した。
ポスター越しの爽やかスマイルじゃない、ズタボロで汚れきったそのツラが、何よりの根拠だ。

250うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:09:12
息を呑む。あるいは……呑まれた。
ジョンの真に迫った表情が、警戒に割いていた俺の集中力を奪い取った。
こいつの声を聞き逃しちゃならないと、そう思わされた。

>「ブライトゴッド!君を・・・いや!なゆも!エンバースも!みのりも!カザハも!とにかく全員を!僕は親友にする!」

いつの間にか、その腕の中にウェルシュ・コカトリスが居る。
俺は気づいてしまった。こいつが部長を盾にせず、生身でバルゴスの大剣を受けた理由。
そしてこれから、何をしようとしているのか。

>「はあああああああああああ!!」

ボロッボロのボロ雑巾の、HP全損一歩手前の、満身創痍の――その身体で。
ジョンは、部長をもう一度空高くぶん投げた。
ついさっきの光景が否が応でもフラッシュバックする。
この石畳にクソでかいクレーターをぶち開けた捨て身の必殺攻撃……部長砲弾!!

>「いったろ?もう一度やるって・・・ブライトゴッド、今度は部長が君を、今度は地面でなくではなく君に向って降って来るぞ」

「く、くそっ……やりやがったなこの野郎!だったら俺ももう一度言わせてもらうぜ。
 ――モンスターをぶん投げる奴があるかぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

非難の声を上げようが、彗星の如く降ってくる部長砲弾の勢いは止まらない。
バルゴスに防御させようにも、俺との距離が離れすぎてる。
後退させればそれだけゲージをなゆたちゃんに献上する。
一発のダイレクトアタックが、俺の行動の余地を極限にまで狭めていた。

選択肢はみっつ。
スペルを使って防御するか、石油王の隠し玉を今使うか。
あるいは……それこそジョンよろしく、素受けして手札を温存するか。

上等だ!やってやらぁ!どうせ死にゃしねえんだ、俺だって痛みに耐えるくらいできるもん!!!
初心者のお前にできて俺に出来ねえことなんてねえんだよぉ!!
さあ来やがれクソッタレワン公!受け止めてヨシヨシペロペロしてやるぜ!!!

…………………………。

「うおおおおおおおお!!!!『座標転換(テレトレード)』、プレイ!!!!」

砲弾が直撃する寸前、俺はスペルを切った。
部長砲弾と俺の位置が入れ替わり、俺のすぐ背後に部長が着弾する。
さっきほどじゃないにしても、石畳を大きく抉った砲弾はごろごろ転がってどっかに行った。
破壊の爪痕を横目に見て、背中に冷や汗の滝が出来た。

いや、無理。無理無理無理無理無理だろこんなもん!!
内臓破裂じゃすまねえよ!下手すりゃ俺ひき肉になっちまうよ!?
ジョンお前、よくバルゴスの大剣生身で受けたな!?やっぱイカれてるよお前!!

貴重なATBゲージとスペル1枚を使わされて俺は戦慄する。
同時に、ジョンの立ち回りに敬意すら覚えはじめていた。

これを勇気、と呼ぶにはあまりに蛮勇が過ぎると思うけど。
結果的にジョンは、自身のATBとパートナーを温存したままカザハ君を守りきり、
こちらに手札を浪費させる反撃までやってみせた。
基礎戦術すらまともに齧ってない初心者がだ。

いや、認識を改めなきゃなるまい。
こいつはもう、得体のしれない初心者ブレイブなんかじゃない。
『生身の耐久力』という仕様のどこにも書いてない能力値を独自に検証し、それを活かす戦術を組み立てた。
紛れもなくブレイブとして開花している。

251うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:10:17
「この俺と親友になりたいとか抜かしやがったな。
 そいつがお前の信念なら、俺はお前を信じよう。だが簡単に俺と仲良くやれると思うなよ」

ジョンのすべてを今ここで知れたとは思わない。
そして俺は、他人と軽々しく友達になるつもりもない。
フレンドリストの中身は全部闇討ちリストだしな。
少なくとも今この時点じゃ、お前は俺の敵だ。

だけど、間違いなくひとつ、こいつの腹の中身を知れた。
こいつが何を求めているのか、何のために戦うのか……その信念を、垣間見ることができた。

ジョン・アデルは、正体不明の謎外人でも、偶像に塗り固められたヒーローでもない。
――人を想おうと足掻く、ただひとりの青年だ。

昨日の敵は今日の友って言葉がある。
翻せば、明日の友は今日の敵ってことだ。
最後の力を使い果たし、眠るように気絶したジョンに、俺は独り言を漏らした。

「認めるぜジョン・アデル。お前は俺の……好敵手だ」

初心者にいっぱい食わされたまま終わりにできるかよ。
俺はお前とも、また戦いたい。

これで両サイド1名の脱落者。
加えてエンバースは目下城塞の下に封印中で、数の上じゃ2対1にまで持ち込んだ。
流れは俺の方に来ている……そう思いたいが、懸念要素はまだまだある。

まず、エンバースが完全に脱落したわけじゃないこと。
ジョンは落ちる寸前にエンバースに呼びかけていた。奴の復帰を諦めちゃいないのだ。
モンデンサイドが何かしらの脱出策を用意している可能性は否定できない。

城塞が簡単に破られるとは思わないが、物理無効の障壁も魔法でなら破壊できる。
そして魔法型ビルドかつ機動力に優れたカザハ君はまだ健在だ。
こいつを初手で落とせなかったのが本当に痛い。ジョンの野郎マジで恨むからな。

そしてジョンが稼いだ時間はATBゲージに形を変えてなゆたちゃんのリソースにもなる。
これでオーバーチャージは何本になった?バトル開始から7ターンはまだ経過していないはずだ。
何よりジョンの治療に1本分ゲージを消費してる。どんぶり勘定だが、コンボ成立にはまだ足りてないと見た。
ここから超短期決戦を畳み掛ければ、ゴッポヨ降臨前に勝負を決められる。

>「ゴメンね、ジョン。いっぱい心配かけちゃって……でも、本当にありがとう。助かったわ。
 わたしも、あなたと親友になれたらって思う……。その気持ちに応えたいって思う。
 だから……その手始めに、アナタから託されたバトンを無駄にはしない! このデュエル、必ず勝つ!」

「お得意のハッタリだな。俺はどっかのチャンピオンみたく騙されねえぜ。
 まだゴッドポヨリンさんの出てくる時間じゃねえ!
 デュエルに勝つのは俺だっ!この俺の準レイド級で、お前を倒すぜモンデンキント!!」

だが、この悪寒はなんだ?
なゆたちゃんの表情に、ハッタリを看破された焦りはない。
それすら覆い隠すポーカーフェイスだってんならもうシャッポを脱ぐしかないが、ゲージ不足は確かなはずだ。

>「『分裂(ディヴィジョン・セル)』――プレイ!」

なゆたちゃんがスペルを手繰る。『分裂』?このタイミングでか?
コンボの起点となるのは『限界突破』か『原初の海』のはず。
そして、分裂スペルを行使されたはずのポヨリンさんが……増えない。
それが当然であるかのようになゆたちゃんは動じず、次々とスペルを切っていく。

252うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:11:02
>「早指しで行くって言ったわね、明神さん!
 望むところよ……エンバースが、カザハが、ジョンが繋いでくれた希望……絶対に無駄にはしない!
 『命たゆたう原初の海(オリジン・ビリーフ)』……プレイ!」

くそ……思考が追いつかない。考えがまとまるより先に戦闘が展開していく。
誰だ早指しで行くとか言った奴は!絶対許されざるよ!俺だわ!ごめん俺!いいよ!
あああこんなわけわからんこと考えてる場合じゃねえええ!!!

そしてなゆたちゃんが『分裂』を新たに三回発動する段になって、俺は気づいてしまった。
『限界突破』、コンボの根幹をなすバフが使われていない。
強化されたポヨリンさんが核にならなければ、ゴッドポヨリンは起動しないはずだ。

――まさか。
戦闘の初期段階、まだなゆたちゃんが戦意喪失してるとき、ジョンがポヨリンさんにかけた『雄鶏乃栄光』。
あれの効果は15分、まだ残ってる。コンボパーツの代替品にしやがったのか!?

思えば試掘洞での戦いで、なゆたちゃんは『原初の海』を使わなかった。
すでに石油王の炊いた『雨乞いの儀式(ライテイライライ)』でフィールドが水属性になってたからだ。
同じようにコンボパーツはPTメンバーのスペルで代替できる。

当たり前だよなあああああああ!!!???

なんで俺、これに気づけなかった!?なんでかっつったらそりゃお前、ソロ専だったからだよ!!!!
まぁ昔はレイドもやってたけど!あの頃からだいぶ環境変わってるもんなぁ!
馬鹿な……友達居ないデバフ……実装されていたのか……。
やっぱ俺ジョン君と親友になろっかな……。

「まずい……!バルゴス!ポヨリンさんを潰せっ!コンボを食い止めろ!!」

あるいは。
それもまた、モンデンキントが持ってて、俺に足りない物の一つなのかもしれない。
孤高を気取って、馴れ合いを唾棄して、独り善がりな生き方をしてきた俺が培えなかったもの。
この戦いで手に入れるべき、誰かと手を重ね合う……絆の力。

左手のスマホでバルゴスに指令を送るが、ここで表出するマニュアル操縦の欠点。
行動を選択し、対象を選択し、攻撃命令を出す……その操作に費やす時間で、なゆたちゃんはコンボを完成させていた。

>「『民族大移動(エクソダス)』プレイ!そして――『融合(フュージョン)』!
  ウルティメイト召喚……光纏い、降臨せよ! 天上に唯一なるスライムの神――
  G.O.D.スライム!!」

そして、光が瞬いた。
バルゴスの振るった剣が弾かれる。400体のスライムが融合し、ひとつの形を成す。

――無数のスライムを統合し、統率し、生み出された一個の巨人。
6階建てのビルと背くらべできる巨体は、眩いばかりの黄金色で満たされている。
スライム系最上位種、神の名を冠すレイド級モンスター――G.O.Dスライム。

ゴッドポヨリンさんが、俺とバルゴスの目の前にその姿を現した。

>『ぽぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜よぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!』

実際に目の当たりにするのは試掘洞に続いて二回目。
その神威の矛先を向けられるのは――ゲームから通算しても、これが初めてだった。

当時から頭角を現していたモンデンキントを、一気に上位ランカーへ君臨させたスライムマスター最高戦力。
レイド級すら従えるランカー達が、軒並み挑んでは散っていった規格外の大番狂わせ。
常識の外側から襲来した再現不能なトップメタであり、ブレモン界の生きた伝説だ。

253うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:11:59
人は言う。ブレモンは、これがあるから面白い。
悔しいけど、俺も同感だった。知識と発想、何より愛の組み合わせで、プレイヤーはどこまでも強くなれる。
最弱のスライムを愛でる奇人・モンデンキントはそれを体現し、最強の名伯楽となったのだ。

対峙する者にとっては絶望の象徴とも言うべきゴッポヨを目の前にして、俺は震えた。
たぶんこれは、武者震いだ。全力全開のモンデンキントと、戦える。どういうわけか喜びしか感じなかった。

「……だからやめらんねえんだ、ブレモンってやつはよ」

眼を灼かんばかりの光を、俺は瞬きすることなく視界に収めた。
ここから先は、一瞬だって眼を離したくない。

なゆたちゃんに勝つって、俺は言ったんだ。
その熱意は、その戦意は、レイド級なんぞにブルって萎んじまうようなもんだったのか?
いいや、違う!ゴッドポヨリンも含めてモンデンキントだ。
だったら……全部倒してお前に勝つ!

>「一気に行くわよ、ゴッドポヨリン!」

「来やがるぞ、備えろバルゴス!」

まず脳裏を過るのは、試掘洞でレイド級をワンパンで仕留めたハイパーゲンコツ『黙示録の鎚』。
思わずバルゴスに防御態勢を取らせようとして、すんでのところで俺は踏みとどまった。
ゴッポヨは堕天使顔負けの六枚羽で飛翔し、バトルフィールドの上空に陣取る。
濃霧の上は日光降り注ぐ野外――その巨体を照らす陽光が、透き通った身体に吸い込まれていく。

「やっぱそっちか……!」

>「ゴッドポヨリンの攻撃! 一切万象を灰燼と帰せ――天の雷霆!」

この動きは知ってる。何度も何度もランクマッチの動画で見た。
光が、ゴッポヨさんのあんぐり開いた大口へと収束していく。

>「『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』!!!」

瞬間、ゴッポヨの口から極太のレーザーが放たれた。
大樹めいた太さの光条は濃霧を貫き、蒸発させながら石畳に着弾。
さながら稲妻が降り注ぐように薙ぎ払う。

――審判者の光帯。
レイド級としてのG.O.Dスライムが有する、極大の魔法系全体攻撃だ。
日光をパワーソースとすることでほぼ無尽蔵に範囲絨毯爆撃が可能なうえ、一撃一撃がレイド級にすら致命打を与える超攻撃力。
準レイド級のリビングレザー・ヘビーアーマーなんか純粋なステ差で消し飛ぶだろう。

見ての通り単発じゃなくて継続ダメージだから、藁人形による保険も効かない。
ついでに言えばアンデッドにとって弱点となる光属性。まともに受ければ助かる道理はない。

254うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:13:23
>「わたしは負けない! 絶対に……この戦いに勝ってみせる!
 明神さん、わたしだってあなたに負けないくらい……ううん! あなたの何倍も、ブレモンが好きだから!
 この戦いが終わった後も! 世界を救っても! 何年経ったって、変わらずブレモンをやり続けるために!
 あなたともっともっとデュエルするために! あなたに失望されないデュエリストであり続けるために!」

俺は目を眇めた。
眩しいのは、きっとスキルの光だけじゃない。
あの光が、眩しいと思えるほどに、今俺はなゆたちゃんの近くに居る。対面に立っている!
今、この場に居られることが、何よりも快い。

「へっ!嬉しい提案だがよぉ……俺も負けるつもりはねえ!勝負でも、ブレモンへの愛でもだ!
 ずいぶん時間がかかっちまったが、俺はようやく気づいちまった。
 ブレモンはクソゲーだ。だけど俺はこのクソゲーが、この世のどんなゲームよりも、好きなんだ」

ブレモンが好きだ。アルフヘイムが好きだ。そこにニブルヘイムを加えたって良い。
ガバガバなバグフィックスも、雑で無節操なシナリオも、拝金主義丸出しのガチャ確率も。

クソな部分も全部ひっくるめてこの世界が好きだ。好きだから……この世界を救いたい。
一度はバッドエンドに終わっちまった未実装の物語を、俺たちの手で大団円にしてやりたい。

「気付かせてくれやがったのはお前だ、モンデンキント。
 お前が居たから、俺はブレモンを捨てずに済んだ。世界を救うチャンスを、こうして手に出来た」

モンデンキントが、うんちぶりぶり大明神の跳梁跋扈を助長していると、非難する者が居る。
お前が荒らしに構うから、うんち野郎が調子に乗るんじゃないかと。
正論だ。俺が言うのもなんだけど月子先生ちょっと煽り耐性なさすぎだと思うの。

だけど、だけどよ。お前が俺に構わなけりゃ、俺はとっくにブレモン辞めてたし、こうしてブレイブになることもなかったんだぜ。
俺たちの誰が欠けても世界を救えないのなら、モンデンキントは直接的にも間接的にも三世界全住民の大恩人ってわけだ。
最高じゃねえか。先見性のないアホどもに言ってやる。クソコテが世界救ったぜってな。

「お前は何も間違っちゃいねえ。フォーラムでのレスバトルも、不毛で無意味な時間の浪費じゃなかった。
 世界を救えるブレイブがここに一人生まれたんだって、証明するために。
 お前を倒すために磨いた技術は、無駄じゃなかったって、証明するために――」

俺たちは、ほとんど同時に叫んだ。


>「……あなたに……、勝つ!!」

「お前に――勝つ!!!」


>「いっっっっっっっけぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――――ッ!!!!!」

なゆたちゃんの声と共に、迸る光条が激しさを増す。
あの右手で弾着観測と指令を下してるのか――縦横無尽にフィールドを灼いていた光が一直線にこちらへ殺到する。
数秒もしないうちにバルゴスは消し飛ぶだろう。

「……だが!そいつは予測済みだ!!」

ゴッポヨのもう一つのメインウェポン、アポカリプスハンマーは使わないと読んでいた。
あのゲンコツは全体攻撃も兼ねるが、それはあくまで追加効果。
威力の大半を占めるのは拳の直撃――つまり単体攻撃だ。

255うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:14:42
なゆたちゃんは俺の手札に『座標転換』があることを知っている。
下手に単体攻撃をかませばテレトレードで回避からのカウンターを喰らうと警戒していたはずだ。
加えてバルゴスの攻撃手段はその成り立ちから大剣による近接斬撃しかない。
アウトレンジから必中の全体攻撃……より確実な勝利を狙うならそうする。なゆたちゃんならそうする。

そして俺には、どんな魔法攻撃だろうが確実に防ぎ切る手札がある。
石油御殿で借り受けた3枚のカードの一つ、『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』。
物理無効のトーチカと対をなす、魔法無効の鉄壁だ。

なゆたちゃんの魔法使用を読んでいた俺は、ATBを捻出し予めカードを手繰っておく猶予があった。
バルゴスと光の束が交差するその刹那、ユニットを発動する。

「『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』――プレイ!」

バルゴスの眼前に鉄壁が出現し、レーザーが吸い込まれていく。
魔法無効バフに加え、全体攻撃のターゲットを強制的に城壁単体へ切り替える効果。
このユニットが場に出た瞬間から、あらゆる魔法攻撃は壁に吸い込まれて消滅する。
壁っぽいビジュアルとは裏腹に、避雷針みたいな効果のユニットだ。

「どうだ見さらせ!こいつが古今東西あらゆるソシャゲで最強を冠する――金の力だ!!
 しっかりじっくり味わえよ……札束でぶん殴られる感覚を!!」

まぁ俺の金じゃなくて石油王の金なんですけどね。
俺は一人じゃない。石油王がついてる(金銭的な意味で)!!!
そして、

「飛べっ、バルゴス!!」

鉄壁に足をかけて、バルゴスは跳躍した。
革鎧の軽量さと、上級アンデッドのパワー。2つの要素がかけ合わさり、ジャンプの勢いは止まらない。
自由落下の楔を振り切り、またたく間に空中遊泳するゴッポヨの頭上へと到達した。

ポヨリンさんはスキル使用後のクールタイムがまだ明けてない。
今なら一方的に殴れるだろうが、それでもゴッポヨを倒すには火力不足だ。
レイド級と準レイド級には、それだけのステータス格差がある。
六枚羽で自在に空中機動できるポヨリンさんには、回避して反撃の機を待てる余裕がある。

だから――まずはその格差をぶち壊す。
ダブルATBで温存してきたゲージも、これで最後だ。

「『虚構粉砕(フェイクブレイク)』――プレイ!」

瞬間、真紅のドレスに身を包んだ女の姿が空間に投影された。
ちょっと意味わかんないくらい幅広のクリノリンスカートに、トレードマークの長煙管。
十三階梯の継承者が一人、『虚構のエカテリーナ』。
もちろん本人じゃない。NPC由来のレアスペルを使ったときに出るエフェクトだ。

幻影のエカテリーナはゴッドポヨリンさんの眼前に転移すると、煙管から煙を吹き出した。
煙がゴッドポヨリンさんを包み――そして、弾けた。
黄金の巨人は、融合前の無数のスライムの姿へと戻り、花火のごとく地面へ降り注いでいく。

エカテリーナの最上位ディスペル能力をスペル化したこのカードは、
それがどんなに上位のバフであろうと、解除不可バフだろうと、問答無用で解除する。

『分裂』はモンスターの数を増やし、『融合』は合体させて強力な個体を生み出す、
いずれもカテゴリ的にはバフの一種だ。
ゴッドポヨリンの肉体を構成するスペル効果を解除して、無数のスライムに戻した。

レイド級モンスター・G.O.Dスライムを――場から除外した。

256うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:15:27
四散するスライム達の中心に、核となったポヨリンさんがいる。
鍛え込まれたポヨリンさんは単独でも準レイド級に匹敵するステを持つが――空中ならリーチの差が活きる。
バルゴスが大剣を振り上げる、その先を自由落下するポヨリンさんと、モンスター越しに目が合う。

「よぉ。1ターンぶりだな、ポヨリンさん」

――お前と戦うのは、実は二度目なんだぜ。
コンボ開発前のモンデンキントはまだ一介のプレイヤーだったが、その頃からお前はなゆたちゃんの傍にいた。
お前とお前の御主人様に、過去の俺はベチボコに叩きのめされたんだ。

最弱の種族でありながら、絶え間なく注がれる愛に応え続け、最強の座を手に入れたお前に……俺は敬意を払う。
ずっと「さん」付けで呼んでるのだって、俺の知る限り、お前が世界で最高のパートナーモンスターだからだ。

ゴッポヨは確かに革命的だ。並のレイド級じゃワンパンで沈むブレモン界の麒麟児だ。
でも俺は、この核になったポヨリンさんこそが、超えるべき壁だと思う。
だからぶりぶりコンボは……純粋にお前と対峙するための戦術なんだ。

お前は強い。この世のどんなスライムよりも。
お前は愛されてる。この世のどんなモンスターよりも。

お前に比べりゃちっぽけな、強さと、愛と、その他諸々全部かき集めて――

今、お前を超える。

「バルゴスの攻撃!遍く全てを掻き毟れ、至道の珠剣――『アルティメットスラッシュ』!!」

左手のスマホを手繰り、バルゴスがスキルを発動。
唐竹割りの軌道で打ち下ろした、闇のオーラを纏った斬撃が、身動きできないポヨリンさんを捉えた。

ガィン!と金属質な打撃音。ウソだろ……硬すぎだろポヨリンさん。どんだけDEF上げてんだあの女。
切断こそかなわないものの、大剣の質量が強烈な慣性となって、ポヨリンさんを下方向へと弾き飛ばす。
流星と化したポヨリンさんは、水蒸気の尾を引きながら地面へと叩きつけられた。
部長砲弾なみに石畳がえぐれた。ウソだろ……(二回目)。

追うようにして自由落下したバルゴスが着地する。
革鎧のパーツを軋ませて衝撃を吸収するが、耐えきれなくなったのか革紐がいくつか弾け飛んだ

ポヨリンさんのHPはまだ1になってない。
無防備なところに準レイド級のスキルがクリーンヒットしてまだ耐えてる防御力には脱帽ものだが、
流石にもう戦闘は続行不可能だろう。

「回復の隙を与えるな!決めろバルゴス!!」

ATBゲージの蓄積がいやに遅く感じるのは、やっぱり心が逸ってるからだろうか。
次のターンで勝負が決まる。この俺が、うんちぶりぶり大明神が、モンデンキントに勝てる。
ここまで本当に長かった。俺の二年間は、無駄じゃなかったって、ようやく言える。

……だが、未だに背筋にのってりと張り付く妙な予感が拭えなかった。
いや、これは確信に近い。これで終わりじゃないと、ガチ勢としての俺が、瀧本俊之がささやく。

なゆたちゃんはジョンが退場してすぐにゴッドポヨリンさんの召喚を始めた。
俺のタゲはジョンがかばったカザハ君に向いていて、あと1ターンは余裕を持って動けたのに。
それこそカザハ君を回避タンクとして使って、よりATBを稼ぐこともできたのに。
ATBの余剰を用意しておけば、俺の反撃を防ぐ体勢まで構築できたはずだ。

最初に使った『分裂』も気になる。あれは本当に不発だったのか。
なゆたちゃんほどのプレイヤーが、コンボの順番間違えるなんてことがあるはずもない。

そしてゴッドポヨリンさんご登場のインパクトで完全に頭から吹っ飛んでたが……
カザハ君どこ行った?どこで、何をしていた?

257うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:16:39
>「ぐああっ!」

答えのひとつは、俺の横合いから聞こえてきた。
そこにいたのは、ユニサスから見事に落馬した焼死体だった。

「エンバース、お前正気に――って!どっから湧いて出てきやがった!?」

聞いてはみたけど、そんなもん犯人は一人しかいない。

>「ノリ”だけ”では世界は救えない――でもノリで動く奴が一人ぐらいいたっていいよね!」

「またお前かぁぁぁあああっっっ!!!」

――カザハ君である。この妖精さん、またしても悪さしやがった。
お前ホントはシルヴェストルじゃなくてもっと邪悪な妖精なんじゃないの!?スプリガンとかさぁ!

これだ。持ち前の機動力と即断即決で縦横無尽に戦場をかき回すトリックスター。
予測不能にして神出鬼没、これがカザハ君のブレイブとしての恐ろしさだ。

……だけど、なんか懐かしいなこういうの。
真ちゃんとPT組んでた頃も、こうしてノリと勢いで突っ走るあいつを俺たちみんなで追いかけてた。

大変だったし、危ない思いもしたけれど、多分あいつがいなけりゃこんなに早く王都には着けなかった。
タイラントとかも一ヶ月くらいしっかり作戦練ってから安全に安全に倒しに行ってたかもしれねえ。
死にたくねーからな。

だからまぁ結局、どうしても俺はこいつを嫌いになれない。
俺自身この手の行動力に手足が生えたような奴は嫌いじゃないし、
なゆたちゃんが本領発揮するのはこういう突撃系の手綱握ってるときだと思うからだ。

船の行き先を決めるのは舵だが、前に進むにはやっぱり推進力が必要だ。
すげえうにょうにょした形のエンジンだけど……。

「ノリで動くなとは言わねーけどよぉ!説明をしろ説明を!エンバース腰打っちゃってんじゃねーか!
 みんながみんなお前みてーに当意即妙以心伝心ってわけじゃねーんだぞ!」

こえーよこいつの見てる世界。どういうスピードで動いてんの?
都会人だってまだ分単位のスケジュールで生活してんぞ。お前、秒じゃん!

まーたしかにね、ノリで動く奴が一人くらいいても良いよ。
俺たちわりとそうやってここまで来た感あるしね?
でも一人で十分だわ!こんなん二人も三人も居たら収集つかへんぞマジで!

……だからこそ、俺はこいつをなぁなぁで認めるわけにはいかない。
全部吐き出させて、全部受け止める。仲間には、それが必要だ。

「予言しても良いぜ。ノリで動く奴は、危なくなったら逃げるし旗色が悪くなりゃ裏切る。
 きつくてもやばくても頑張ろうっていう意思がねーからだ。気分がノらねえからな。
 でも俺は、お前がそういう奴だとはどうにも思えねえんだ」

リバティウムでミドやんが暴れたとき、こいつはまっすぐに現場に駆けつけて被害の拡大を食い止めた。
あれもノリか?なんとなくヒマだったからお散歩に来たのか?違うだろ。
ノリだけで命かけて、一撃喰らえば消し飛ぶ超レイド級の前に飛び出すなんざできっこねえ。

「バロールと何があったのかなんざ俺には関係ねえ。お前の前世にも興味はねえ。
 俺が見たいのはお前の腹の中身だ。お前が何の為に俺たちに力を貸すのか。世界を救うのか。
 それが知りたい」

258うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:17:21
ジョンは、俺たちと親友になりたいと言った。
俺はあいつを友だちとして認めたわけじゃないけれど、それがあいつの信念だってわかった。
ズタボロになってまで、俺とぶつかり合ってくれた理由を知った。

「俺は腹の裡をぶち撒けたつもりだ。お前のも見せろよ、男同士なんだからよ、裸の付き合いしようぜ、男同士」

大事なことなので二回言いました。

>「……それで?」

と、落馬の衝撃からようやく復帰したエンバースが戦況を見回してそうこぼす。
胸にポーションの瓶が何本か突き刺さってる。飲む薬なのに注射しちゃったのかよ。
どういう構造してんだお前の身体。

>「次の指示はどうした――リーダーは、お前なんだろう?」
>「時間を稼げばいいのか?それとも――」

リーダー。エンバースはなゆたちゃんに向かって、確かにそう言った。
へっ、なんだかんだ言って認めてんじゃねーか。
その言葉をもっと早く言ってやれば百点満点だったぜ。
ちょっと遅いから80点くらいな。

>「――万策尽きたって言うなら、代わりにあいつを倒してやってもいいぜ」

エンバースは腰から手斧を抜き放ち、青白く光る双眸で俺を射抜いた。
……前言撤回、百点満点だ。いい顔してんぜお前。

俺はスマホを構える。ポヨリンのトドメ用ATBがもう溜まる。
奴が攻撃を仕掛ける前に、準レイド級の攻撃力で叩き潰せる。

焼死体が斧を振りかぶる。
この距離から何を――投げ斧か!やべえ、この位置じゃカバーが間に合わねえ!

>「……やるじゃないか。中々のバッティングセンスだ」

だがエンバースは斧を俺ではなく、バルゴスの方へと投擲した。
大剣が閃き、手斧を叩き落とす。
ダイレクトアタックに躊躇いのないこいつが、わざわざそうした理由は……考えるまでもなかった。
焼死体がなゆたちゃんとバルゴスの間で、両者を隔てるように立ちはだかったからだ。

>「明神さん、悪いな」
>「誰か一人だけを選ぶなら――俺は、あいつを守るよ」

――この戦いが始まる直前に、俺がエンバースに問いかけたこと。
守りたいもの同士が戦うとき、どちらを選ぶのか。

「へへ……」

ずっと待ち望んでたモンデンキントとの決闘の、最後の最後に邪魔が入ったってのに、
自然と笑いが出た。多分俺はいま、すげえ嬉しいんだと思う。
その理由を口に出すのは、ちょっと照れくさいけれど。

「やぁっと答えやがった」

だけどこれでようやくわかった。確かなものがひとつできた。
エンバースは、のべつ幕なしになんでも守るソンビ野郎なんかじゃない。
自分自身の意思でなゆたちゃんを守ろうとしている、彼女の頼れる仲間だ。

「だったら気合い入れて守護れよナイト様!
 あいつが今戦ってる相手はなぁ!この場の誰よりも強いぜ!そう、お前よりもだ!!!」

259うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:18:27
ポヨリンさんにトドメの一撃を入れるのが早いか。
なゆたちゃんがポヨリンさんの治療を終えて戦線に復帰してくるのが早いか。
全てはこの攻防に懸かってる。

>「うおおおっ!!!」

裂帛の叫びと共に焼死体が迫る。
その動きはさっきと同じ、投擲のモーション。獲物は新たに抜き放った直剣だ。
ションベン球で三振取れると思うなよ!もっかいホームランしてやるぜ!

――投擲はフェイント。
剣を振りかぶったまま、エンバースは強く地面を蹴る。
弾丸みたいな加速でバルゴスの足元に迫る。

「速っ――ああクソ、またカザハ君かっ!」

あいつエンバースにヘイストかけてやがった!
こっちが反応するより早くバルゴスの足に取り付いた焼死体が、剣を爪先に突き立てる。
そのまま急上昇――慣性に捻りを加えた鋭い一撃が、革鎧の親指をえぐり取った。

ヘビーアーマーを支える足がぐらりと揺れる。
親指は足のバランスを左右する重要な部位、そこをピンポイントで――
なんなんだこいつ、巨人と生身で戦った経験でもあるってのか!?

エンバースは止まらない。
カザハ君のスペルで飛翔し、膝の辺りを斬りつけて……これもえぐり取った。
片足の支えを完全に失って、ゆっくりとバルゴスが倒れて行く。

「マジかよ。準レイド級だぞ!?」

こんな、せいぜいSレア程度の『燃え残り』に、ここまで一方的にやられるもんなのか。
材質的に斬りやすい革鎧だからって、簡単に切り裂けるようなステータスじゃないはずだ。
こいつほんとに何者なんだよ。俺の中の常識がどんどん覆っていく。

だが……ここまでだ。
飛翔を続けるエンバースは、ヤマシタの収まる心臓部に到達し――

>「まぁ……俺が全部やっちまっても、つまらないからな――」

バルゴスの左手が焼死体の身体を掴んだ。
これだけ一直線に飛んでくれば余裕で捕まえられる。
腕ごと締め付ければ、もう剣は振るえない。奇跡の快進撃も打ち止めだ。

「……遺言がありゃ聞いとくぜ。いつもみたくかっこいい決め台詞言ってみな」

完全に拘束されて、あとはただ死を待つばかりのエンバースは、やっぱりニヒルにこう言った。

>「――今日のところは、これくらいにしといてやるよ」

「新喜劇じゃねーかっ!」

この状況で面白いこと言ってんじゃねーーーーよ!!!
べちーん!と握った焼死体を地面に叩きつけた。
やべ、ちょっとやりすぎたかな?まあ元々死んでるし大丈夫だろ多分……。

260うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:19:24
バルゴスが傾いていく。
足の関節を破壊され、もはや歩くことはおろか立ち上がることすらできない。
リビングアーマー本来の再生能力で修復は可能だが、ATBを消費する。
焼死体が最後に削っていきやがったせいで、ポヨリンさんを詰ませるには一手足りない。

さらにまだカザハ君が残ってる。
奴の存在自体が、戦況をひっくり返しかねない。

ポヨリンさんを回復させられた場合、準レイド級でも競り勝てるかは未知数だ。
それでなくてもポヨリンさん自身がトドメを回避すれば、それだけで勝率は一気に下がる。

二転三転する状況、追い詰められてるのは俺も同じだってのに、口の端はずっと上がっていた。
いつもいつもロード中の暗転に映るしかめっ面とにらめっこしてたあの頃とは違う。

「楽しいなぁ、なゆたちゃん。ずっとクソゲー呼ばわりしてきたのに、面白いじゃねえか、くそったれ。
 こんなに楽しい世界が、侵食されて消えちまうってんなら、救ってやらなきゃならねえな」

俺は何よりも自分が大事だ。俺の意思は他の何にも優先する。
これからも楽しくよろしくやっていくために、俺は世界を救おう。

「――楽しくなかったら、誰がこんな世界救うかよ。うひゃひゃひゃ!!」

ブレイブだからとか、地球も滅ぶからとか、そんなの関係ない。
この世界が好きだから。失いたくないから。
笑って世界を救いに行こう。

片足のままのバルゴスを突撃させる。ほとんど体当たりに近い。一歩進めばもう走れない。
攻撃用のATBはまだ溜まってなくて、敵チームはまだ二人居る。
なんと!こんな状況からでも入れる保険があるんですよ。その名も――

「――相棒!」

石油王保険って言うんですけどね。
とっておきの切り札発動。俺はあえて当人の名を呼ばずに合図だけを叫んだ。
チームモンデンが石油王という伏兵に思い至るのを、一秒でも遅らせるためだ。

石油王は、合図があればサブ垢使って3秒の間万難を排除すると言った。
この状況での万難とはすなわち、カザハ君そのものであり、ポヨリンさんの回復あるいは回避だ。

どれか一つでも拘束できれば、俺の最後の一撃が決められる。
二つ排除できればモアベター。サブ垢の詳細を知らない以上、正確な戦略は立てられない。

だけど俺は知っていた。
あの女はやると言ったら必ずやる。やり通すだけの実力と、確かなプライドがある。
俺たちはこれまで何度も、そうやって助けられてきたんだ。

バルゴスが崩れつつある片足で着地し、そのまま倒れていく。
ポヨリンさんの眼前で、大剣を床に突き立て、どうにか五体投地だけは避ける。
最後の一歩はあっけなく終わりを迎え、バルゴスはもう動けない。

「言ったよな。――腹の中身、全部見せるって」

リビングレザー・ヘビーアーマーの中央、埋め込まれたヤマシタの腹甲が開く。
そこから顔を出したのは、怨身合体の時に忍び込ませておいた俺の蛆虫――マゴットだ。
マゴットの鼻とも口ともつかない先端の穴に、ピンポン球くらいの黒いエネルギーの塊が生まれた。

261うんちぶりぶり大明神 ◆9EasXbvg42:2019/08/07(水) 00:19:48
「こいつで最後だ、気張れよマゴット!……『闇の波動(ダークネスウェーブ)』ッ!!!」

『グニャフォォォォォォォォォ!!!!!』

マゴットの口から漆黒の光条が放たれる。
レイド級モンスター、ベルゼブブの上位スキル『闇の波動』……その発展途上版。
リバティウムで使ったものよりも規模がでかいのは、あれから腐肉より良いもん食わせて育てたからだろう。
感謝するぜエンバース。お前の入れ知恵がなけりゃ、この戦略は成立しなかった。

これで全部だ。
アイテム、カード、モンスター……人脈。この世界でひとつひとつ手に入れてきた全て。
その中で、戦術に組み込めるものは全部投入した。

ウン千人居るお前のフォロワーにはちょいと足りねえかもしれねえが……。
俺の両肩にも、結構いろんな奴とのつながりが乗ってるんだぜ、モンデンキント。
想いに形があるのなら、俺はそいつを研ぎ上げて、お前の喉元に届かせる。

届くだろうか。
届かなきゃウソだろ。
たとえお前との俺との間に、どれだけの隔たりがあったとしても、今だけは。

「……届けぇぇぇぇえええっっ!!!!」

――届け。


【ゴッポヨレーザーを魔法無効防壁でしのぎ、虚構粉砕で融合・分裂を解除。ゴッポヨ撃破。
 核のポヨリンに痛打を与えるも完全撃破ならず、トドメを焼死体と妖精さんに妨害される。
 焼死体を地面に叩きつけ、片足破壊のままポヨリンに肉迫。
 天威無法による三秒の時間稼ぎを要請し、ヤマシタの腹に仕込んだマゴットがポヨリンへ闇の波動を発射】

262五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/08/12(月) 20:28:36
イシュタルを囮にエンバースを絡めとり、仕事を終えたとクレーターから出る間際
背後に魔法発動の気配を感じ振り返ると、槍を投擲する寸前のエンバースの姿があった
愛染赤糸(イクタマヨリヒメ)でイシュタルを絡み付けられ、更にそのイシュタルは地脈同化(レイライアクセス)によって地面に縫い付けられている
その状態であって追撃をしてこようとは、流石のみのりも想定外

ただその姿を確認する以外できなかったのだが、『焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)』によって救われた
「明神さんありがとさん
それにしても、まあ、これはエンバースさんを褒めなしゃあないねえ」

小さく舌を出しながら顎に伝った冷や汗をぬぐった
タンクとしての仕事は敵の攻撃を受け明神の時間と手数を稼ぐことだ
にもかかわらず明神によって救われたのは本末転倒な話だが、あの状態からでも追撃をしてくるエンバースの力量を認めざる得ないというものだ

ともあれ無事にクレーターから脱出しバロールの隣に位置するみのり
それに対してバロールは笑顔で迎え入れ、お茶にお菓子、テーブルと椅子を用意させた
リタイアした者の観戦席という事なのであろう

一言礼を言いつつもみのりは席にもつかず、そのままスマホをいじっていた
なぜならば、形式上はどうであれ、みのり的にはまだ戦いは続いているのだから

「まあ、イシュタルはここでお役御免という事で……」

スマホにイシュタルのアンサモンが表示されたのを確認
もう少しかかると思っていたが、エンバースが何らかの手段を講じたのであろう
が、『焼き上げた城塞(テンパード・ランパード)』で封じられている以上エンバースに脱出する術はないはずだ

イシュタルが戻ったことを受け、メインスマホからすべてのクリスタルをサブスマホに移しながら思いを巡らせていた
エンバース……元ブレイブという事だが、その姿が焼け残りエンバースというアンデッドモンスター
スマホも壊れ正体不明の存在であるが、その言動からしてブレイブであることは間違いない

あまりにもブレイブについて知りすぎており、ブレイブを倒すための戦略が練られているのだ
それもブレイブとしての力は使えず、モンスターとしての状態で、だ
もし彼が万全の状態であれば……?と考えずにはいられなかった

263五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/08/12(月) 20:29:43
そうしている間に戦局が一気に動く
明神がコンボを発動し、レザーアーマーの集合体してリビングレザーヘビーアーマーを創成

「いやいやいやいや、理屈の上ではそうやけど、あかんやんアレ」

思わず口をつくみのりにバロールが「そうでもないですよ」と応える

なゆたのゴッドポヨリンコンボに着想を得たのはわかる
確かにレザーアーマー創成にくっ付けるまではできるだろう
しかし、それだけの数の中枢となるのがヤマシタというのはあまりにも無理というものだ
ゴッドポヨリンも最低ランクモンスターのスライムが中核になっているが、ポヨリンとヤマシタとでは言っては悪いが練度が違いすぎる

勿論その事は明神も承知の上であり、バロールが見抜いたように大剣をイベントリ―から取り出した
それは怨念の宿る刀剣、古兵の魂『マーセナルスピリッツ』になりかけている状態なのだ
この呪いの大剣を手にすることでヤマシタの怨念がブーストされ、巨大なレザーアーマーを統括するに足る力を持つのだ

というバロールの解説の直後、リビングレザーヘビーアーマーは明神へと攻撃をふるった

「大層な解説やったけど、これどういうことなん?
創世の魔眼を持つ魔術師様に追加の解説お願いしたいところやわぁ」

ジト目でバロールに返すみのりに、
「いや、ほ、ほら!君たちの世界では幽霊の存在は稀有でしょう?
そこで育った彼がこちらに来て霊と対話し協力を取り付けるだけでも十分凄い事なのさ
それにすぐに御するようになるようだよ」

と多少焦りながら解説を追加する言葉にみのりは小さく頷いていた
ゲームとは違う戦い方は自分も意識していたつもりであった
だが明神はさらにゲームではないこの世界の在り方について考え理解していたのだろう
モンスターとしてのアンデッドではなく、この世界にある霊という存在を認め向き合ってきたのだから


そうしているうちに戦端は開かれる
まず狙ったのはカザハ
相手アタッカーは封じているのならば、次に落とすべきは機動力を持つカザハとカケル

工業油脂によって機動力を奪い、振るわれる強力な一撃
カザハはブレイブとしては素人だが、何をしでかすかわからない怖さがある
そう、何をするかではなく、何をしでかすか、だ
その怖さは時が立つほどに増大していく類のものであり、早々に退場させるのは正しい判断だろう

しかしカザハとカケルに向けられた刃は、ジョンによって防がれた
そう、文字通りジョンによって、だ
生身の体でリビングヘビーレザーアーマーの横薙ぎを受け止め、軌道を変えたのだ
更に最後の力を振り絞り部長を投げつけて地に付した

それを見てみのりは息をのんだ
ジョンはブレモン初心者
コンボや戦闘の組み立てもできず、いくら職業的に屈強であったとしてもこの戦いにおいては何もできない
むしろ回復魔法を吸い取るスポンジとして放置しておいたほどだ

にもかかわらず、結果的にはカザハを救い、更に明神に対して攻撃まで敢行している
その姿はあまりにも衝撃的だった

264五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/08/12(月) 20:30:14
みのりは勇気や覚悟というものを持ち合わせていない
恐らくこの場の誰よりも臆病だ
みのりがあらゆる場所で泰然自若としていられるのは決して勇気や胆力、自信があるからではない
あらゆることを想定し、事前に手段を張り巡らせ、自分は安全だという[自覚]があったからだ

だからそれが崩れた時、みのりは大きく崩れる
リバティウムでしめじが死んだとき、ミドガルズオルムを抑えるためにパズズを使ってしまいクリスタルを消費した時、そしてイブリースを前にした時

故に、何もない身一つで大剣に立ち向かったジョンに大きな衝撃を受けたのだった
それがみのりにとっては勇気とは呼べず蛮勇でしかないものであったとしても、だ

>「まったく、無茶をするね……。地球の人々はみんなこんな感じなのかい?
>それはともかく……これで彼に対する不信は解消されたかな、五穀豊穣君?」

「そんなわけあらへんよ〜
あんなことする人とはうちは絶対わかり合えへんけど……ええ友達にはなれそうやわねぇ
どこぞの顔と口だけ良い宮廷魔術師様と違って、中身まで男前みたいやしぃ?」

戦況を共に見守りながらにこやかに話しかけるバロールと、ことごとく撃ち落とすみのりの会話が続いていた
しかし、口ではそうはいっていてもみのりはバロールについて認識を改めていた

「彼に対する不信は解消されたかな」と問いかける
それはすなわち、みのりがジョンを信用していない事を見抜かれていたという事なのだから
更に言えば、あえてそれを口に出すことにより、みのりがバロールについても一切信用していない事もわかっているのだろう

宮廷に入ってから出された茶や茶菓子、メールアドレスなど一切手を付けていない
何が仕込まれているかもわからないようなものに手を出すような真似はできないのだから

それをわかった上でこうして接していられる強かさを持つバロールに悪い気はしないでもいた


ジョンが回収され治療を受けている間にも戦闘はめまぐるしく動く
なゆたが動き、一気にゴッドポヨリンコンボを決める
様々な要素を絡めての見事な早打ち

出来ればコンボ完成前に妨害を入れたいところだが、一方でカザハがエンバースの救援に向かっている
ここで数の不利というものが出た
ジョンの捨て身の防御が効いてきているのだ
先ほど真っ先にカザハを落としに行った明神の選択の重要性が良くわかるというものだ

だが、おそらくだが……カザハの事がなくともこの展開は変わらなかっただろう
明神はなゆたを、全力のなゆたと勝負をしたいのだから
ゴッドポヨリンを超えるのは必須の通過儀礼なのだろうから

「ほれにしても、これは無茶しすぎやわ」

必須の通過儀礼だとは言え、ゴッドポヨリンを前にしてはそうつぶやかずにはいられない

GODスライムとなったポヨリンは大きく羽ばたき陽光を吸い込んでいく
そして放たれる「『審判者の光帯(ジャッジメント・クエーサー)』

明神となゆたの攻防が繰り広げられる中、もう一つの戦いが繰り広げられていた
それはみのりの中で「もし自分が明神であったら」「イシュタルを持って戦っていたら」という想定戦
その脳内でも高速で攻防が繰り広げられていたのだが、事ここに至って……みのりは白旗を上げていた

この状況下でこの攻撃を防ぐ術をみのりは思いつかなかった

265五穀 みのり ◆2zOJYh/vk6:2019/08/12(月) 20:30:53
しかし明神はその術を持っていた
『寄る辺なき城壁(ファイナルバスティオン)』にて魔法を吸収無効化
更には
『虚構粉砕(フェイクブレイク)』であらゆるバフを解除

バインドデッキは敵の強力な攻撃を受けてこそ力を発揮する
故に敵の攻撃やバフを無効化するようなカードを使うという意識がなく、そのまま博物館に飾っていたのだが

「ふふふ、ここでこんなふうに使ってくれるとは、冥利やわ〜」

アイテムやカードは使ってこそ生きると思っている
後生大事に飾っておくコレクションではなく、実用するものだ、と
そういった思考とは裏腹に、博物館経営するような状態になっていたのだが、こうやってここ一番で使われたことに大きな喜びを感じていた

ゴッドポヨリン状態を解除され、一匹のスライムの状態でまともにリビングレザーヘビーアーマーの攻撃を受けた叩きつけられたポヨリン
あと一押しで勝てるというところでそれは立ちはだかる

まるで空挺部隊かのようにカザハから投下されたエンバースである
クレーターを作り地に埋まるポヨリンを見て、エンバースは……なゆたに指示を請うた
そして明神に向けた言葉

>「誰か一人だけを選ぶなら――俺は、あいつを守るよ」

その言葉にみのりの方がほころぶが、おそらく言われた明神も同じ顔をしていただろう

そう言い放つと、レザーアーマーの巨人に向かって駆ける
普通に見ればエンバースに勝ち目はない
単純なステータスの比較であれば順レイド級の力を得たリビングレザーヘビーアーマーと燃え残りエンバースとでは比較にならないからだ

だが、様々なバフを受け、超速で攻撃したのは巨人の足の親指!
そう、部位欠損による重心破壊
HPの足し算引き算では測れないその戦闘法は恐るべき効果を生み出していた

脚から膝へと破壊は進み、その自重故に体を支えきれず崩れるリビングレザーヘビーアーマー
崩れた先に切っ先を突きつけるエンバースであったが、快進撃はそこまで
巨大な手がエンバースを捉え、一言躱したのちに地面に叩きつけた
エンバースはこれでリタイアか、そうでなくとも起き上がれた時にもはやなすべき事は残っていないだろう
なぜならば、もう決着の時は目の前に来ているのだから


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