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【B-5 南部 民家/一日目 午前】
【J・ガイル】
[能力]:『吊られた男(ハングドマン)』
[時間軸]: ホル・ホースがアヴドゥルの額をぶちぬいたと思った瞬間。
[状態]:健康、イライラ
[装備]:コンビニ強盗のアーミーナイフ
[道具]:基本支給品、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
0.カップル死ねよ。
1.思う存分楽しむ。ついでにてワムウの味方や、気に入りそうな強者を探してやる。
2.12時間後、『DIOの館』でワムウと合流。
3.ワムウをDIOにぶつけ、つぶし合わせたい。
4.ダン? ああ、そんな奴もいたね。
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:全身傷だらけ、顔中傷だらけ、血まみれ、貧血気味、ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.とりあえずこの場を切り抜ける。
【山岸由花子】
[スタンド]:『ラブ・デラックス』
[時間軸]:JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
[状態]:健康、血まみれ、???
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品合計2〜4(由花子+アクセル・RO/確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:広瀬康一を殺す?
1.康一くんをブッ殺す? まずはここを切り抜けてから。
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以上です。何かあったら指摘ください。
元ネタの歌は凄く爽やかで素敵です。ⅡよりⅠのほうが好みです。
どなたか代理投下をよろしくお願いします!
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投下します。
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じっと空を眺める男の後ろ姿がそこにはあった。遠く広がる空には藍色が滲み始め、いよいよ太陽の光も強まり始めていた。
思えば遠くまで来てしまったものだ、と男は思った。走って、走って、走り通して……ついにはこんなところまでやってきてしまった。
不意の哀愁が彼を襲った。ただ理由もなく、乾いた砂漠と一族の歌が懐かしくてたまらなくなった。
時間は恐ろしくゆったりと辺りを漂っている。男は手元に残った紙切れに、もう一度眼を落した。
何人もの名前がそこにはあった。数えるのも億劫になるほど、人の名前が記されている。
そのどれもが彼にとってはどうでもいいことのように思えて、男は黙って名簿をカバンにしまいこんだ。
今は考えるよりも行動しよう。為すべき事を終えれば幾らでも時間はあるはずだ。
静まり返った街並みを一人、男はゆっくりと進んでいく。
恐れる必要はない。何一つ見逃すまいと辺りに眼を配り、彼は慎重に足をすすめていった。
ジョニィ・ジョースターはそう遠くない場所にいる、と彼は思っていた。
これと言った理由があるわけではない。強いて言うならばあの青年が見せた暗く冷たい眼だろうか。
あの眼を思い出すたびに、彼の中でその想いは大きく膨らんだ。それは次第に思いというより確信にすり替わっていった。
ヤツの眼を思い出せ。あれは覚悟の座った目だった。自分の目的のためならば難なく一線を超えてしまえる眼。
ヤツは、俺と同じ眼をもっている。ジョニィ・ジョースターは俺と同じだ。目的のためならば手段や方法を選ばない意志。
それをヤツは持っている……!
ピりッ……と空気が張り詰めていくのを感じ取った。もはやそれは男の中で確信と言うものから確固たる事実として姿を変えていた。
男の足が自然に早まる。ぶるり、と電流が駆け抜けていくような感覚が彼を襲い、彼の身体は戦いを前に自然と高揚し、緊張し、震えた。
男は足を進め続けた。一切気を緩めることなく街の道を歩き続け、そして次の十字路を左に曲がったところでピタリと立ち止まった。
いた。そこに立ちつくしているのはジョニィ・ジョースター。
二本の足でしっかりと立ち、左手は右手首を固定。銃の狙いを定めるように、その右手を彼目掛け伸ばしている。
即座に男はスタンドを傍らに呼び出した。わざわざスタンドを隠す必要はないと思った。
青年の背後に漂う薄い影は間違いなくスタンド像。どうせわかってしまうことならばわざわざ隠すまでもない。
青年の足が自由に動いていることは確かに驚くべきことだった。しかしそれもあまり考慮すべき事ではない。
この一本道、例え足が動こうが動かまいが、逃げ道はない。つまるところ、戦いは単純だ。
生きるか死ぬか。数時間後、ここに残るのはジョニィ・ジョースターか、サンドマンか。
吸い込む息はどことなくざらざらしていた。呼吸を躊躇うような重い沈黙が辺りを満たし、二人はその場に凍りついたように動かない。
狙いを定める青年の指先。懐に飛び込もうと力を込めた男の足。隙のない二人はどちらも動かない。動けない。
風が二人の間を通り抜けていった。沈黙を青年の言葉が破った。
「君は何のために戦っている……?」
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ちょっとした静寂が二人の間を流れる。風が吹けば消し飛んでしまいそうなほど、薄い静寂。
「土地のため、家族のため、一族のため」
男は短くそう答えた。青年は何も言わず、ただ頷いた。返事のしようがなかった。
男は一呼吸置くと、歯の隙間から漏らすように息を吐き、話を続けた。
別に話す必要はなかった。二人は戦うべきはずで、おしゃべりなんかを楽しんでいる場合ではない。
だというのに、何故だかそうしなければいけないと思った。
そうしなければ自分の行為がまちがった、汚れたものに成り下がってしまう。そんな気がインディアンの彼にはしていた。
「俺はただ奪われたものを取り返したいだけだ。ほかは何も必要ない。
大地があって、精霊たちを祭る聖地があって、一族が暮らせるだけの場所があればそれだけでいいんだ」
「…………」
「綺麗事ばかり言ってはいられない。
例え土地と言うアイディアが俺たちにとって掴みどころのないものであったとしても……。
後から乗り込んできた者たちが、勝手に権利という紙きれで主張しようとも……。
俺はただ、俺たちの生活を守りたいだけだ。なによりも俺たちにとっての大切なものを守りたいだけだ」
「…………」
「……そして、そのためなら俺は躊躇わない。一族を救うためなら、俺はなんだってやってやる。
レースで一位にもなってやる。金を集めて買い取ってやる。誰かを犠牲にしなければいけないとでもいうのなら、殺しだって、やってやる」
言葉が宙に消えていくと、再び辺りは沈黙に満ちた。静けさが影を落として二人の間を漂う。
青年はゆっくりと手を下した。銃のように突きつけていた指先は地面を指し、背後を漂っていたスタンドが姿を消す。
青年は無防備な姿をさらしていた。チャンスだ、と男は思った。
何故そうしたかはわからないが、青年はみすみす大きな隙を見せていた。ジョニィは直立不動、サンドマンは臨戦態勢。
その一瞬は、大きな一瞬として勝負を決定づけしまうだろうというのに……青年は構えを解いた。
固く冷えたコンクリートの感触を確かめる様、そっと足先に力を込める。サンドマン、いつでも動ける体制で初撃を狙う。
青年はそんな動きを見せても、何も言わなかった。何も動かなかった。
黒く乾いた目線が男を突き刺すように見据えている。その沈黙は話の続きを促すようだった。
彼の懐まで飛び込むのにどれぐらいの時間が必要だろうか。何度跳躍をし、どれほど踏み込めばこの拳は彼に届くだろう。
もう何も話すことは残っていなかった。しかし、考える時間が欲しかった。
サンドマンは白々しいとはわかっていたが、話を続けた。彼の体を貫くイメージを脳裏に浮かべながら、青年の問いかけに答えを重ねる。
「だからジョニィ・ジョースター、俺はお前を殺す。お前にはここで死んでもらう。
遺体を大人しく引き渡せばと考えていたが、お前はあまりに知りすぎている。
足が動くようになっていて、俺の知らないことを多く知っているようにも思える。
取引を確実にするためにも、お前にはやはり死んでもらうしかない」
「……一族のため、聖なる大地のためか」
「ああ、そうだ」
青年はため息をこぼさなかった。その瞳に感情の波風一つ立てずに、彼は言った。
「―――ないんだよ、サウンドマン」
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耳が痛くなるほどの沈黙が落ちた。
インディアンは眉をひそめた。まさに今飛びかかろうと、足に込めていた力を緩めた。
目の前にいる青年が放った言葉の意味が理解できなかった。彼の言い放った五文字の言葉が、一体何を指し示しているのか、彼にはわからなかった。
青年は繰り返す。なくなったんだ、とはっきりとした口調で繰り返した。男は何が、と聞き返すことができなかった。
青年の瞳は寒々しさを覚えるほどにからっぽだった。がらんどうの空洞の奥には感情が潜んでいるかどうかも、わからない。
肌の下で心臓が大きく膨らんでいくのがわかった。それが上下に揺れて、肺と喉が締め付けられた。男は無償に苦しかった。
沈黙がこれほどまでに苦しいということを、彼は今初めて知った。
今から始まるものが何であるにせよ、決して良くないものだということだけはわかっていた。
多分言葉を遮るように襲いかかることもできたはずだ。彼を黙らせるように飛びかかることも容易かったし、きっとそうしたほうが自分は幸せなのかもしれない。
けどそうしなかった。男は、息を殺し、青年の言葉を待った。ジョニィ・ジョースターは話を続けた。
「1890年12月28日のことだった。
その日サウスダコタ州、ウーンデット・ニーで争いが起きた。争いという名の虐殺が行われた。
米軍第七騎兵連隊はスー族インディアン、女子供を含む200人を、或いは一説によれば300人以上を、一斉に殺した。
軍は速射ホッチキス砲で無差別砲撃を加えたんだ。それだけでなく、当時新鋭のスプリングフィールド銃がこの虐殺では試用された。
幼い子を抱いて逃げる女性も、馬も、犬も、子どもも狙い撃ちし、皆殺しにされた。100人弱の戦士たちは、没収された銃を手にするまでは素手で虐殺者たちと戦った。
戦士たちは銃をとった後はテントに立てこもり、白人を狙い撃ちした。テントに火が放たれ、全身に銃弾を浴びるまで勇敢に戦った」
何を言っているんだ、と思った。お前は一体どこの、何の、誰の話しているんだ。
しかし話を聞けば聞くほど鮮明に、男の頭の中にその光景が思い浮かんだ。生々しいほどのリアリティがその話にはあった。
銃弾を喰らいもんどりうつ戦士たちの姿が見える。泣きながら母の名を呼ぶ子供たちが撃ち殺される。子の死体に縋りつく女たちが物言わぬ亡きがらに変わる。
決して降ることなのない、真っ赤な雨が砂漠に堕ちていた。息を吸い込めばその臭いをかぎとれるほどに、青年の話は鮮烈だった。
青年はまるで実在した、本当の事件のことを話しているようだった。男は自分の足元がゆっくりと崩れ落ちていく錯覚を覚えた。
「銃と砲弾の降り注ぐ中、女子供たちはそれでも3キロばかり逃げた。だが負傷のためにそこで力尽き、一人、また一人と倒れていった。
部族員のほとんどが武器を持たず、それを四方から取り囲んだ兵士達が銃撃した。白人は29人死んだ。白人側の負傷者は39人だった。
インディアンの抵抗はないに等しかった。白人たちは味方の攻撃の巻き添えを食って死んだんだ。それほどまでのすさまじい無差別銃撃だった。
ある兵士はその様子をこう語っている。
『ホッチキス砲は1分間で50発の弾を吐き、2ポンド分の弾丸の雨を降らせた。命あるものなら何でも手当たりしだいになぎ倒した。
この女子供に対する3キロ余りの追跡行は、虐殺以外何ものでもない。幼子を抱いて逃げ惑う者まで撃ち倒された。動くものがなくなってようやく銃声が止んだ』
またある兵士はこうも語っている。
『これまでの人生で、このときほどスプリングフィールド銃がよく出来ていると思ったことはない。乳飲み子もたくさんいたが、兵士はこれも無差別虐殺した。
この幼子達が身体中に弾を受けてばらばらになって、穴の中に裸で投げ込まれるのを見たのでは、どんなに石のように冷たい心を持った人間でも、心を動かさないではいられなかった』」
めまいが彼を襲っていた。吐き気もだ。
聞きたくないと思えば思うほどに、ジョニィ・ジョースターの言葉一つ一つが容赦なく彼の鼓膜を揺すぶる。
やめてくれ、と男は叫びたかった。彼の話を遮り、殴りつけ、その荒唐無稽な話で自分を惑わせるのはやめろと怒鳴りたかった。
だが彼がそう思えば思うほど身体は固くなった石のように地面にこびり付き、動かなかった。
青年の話は暗く死んだ世界の向こうにあるものを想像させた。荒涼とした砂漠と、誰ひとりいない故郷の影。
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「ワゴン砲の砲撃でばらばらになったたくさんの死体の中、こときれた母親の胸で乳を吸おうと泣き叫ぶ赤ん坊もいた。
虐殺から数日後、凍結した女性の死体の下から赤ん坊の泣き声が聞こえ、女の子の赤ん坊が発見されたんだ。
死んだこの女性の娘で、発見された時、母親は彼女を守る様に腕にうつ伏せになって娘を抱いたまま死んでいたと言う。
彼女はその後、軍率いる准将に“ウーンデッド・ニーの虐殺の生きたマスコット的存在”として利用され、育てられた。
ロスト・バードと名付けられた彼女は結局のところ、差別や虐待に苦しみ29歳の若さで死んだ。最後まで故郷のことを想い続けていたと記録は語っている。
この虐殺を白人側は“ウーンデッド・ニーの戦い”と呼び、虐殺を実行した第7騎兵隊には議会勲章まで授与した」
男は青年の声に混じって風の歌を聞いた。一族皆の声をのせ、笑いや雄叫びが混じる、懐かしい歌を。
砂漠に立ち上る蜃気楼のように、全てが捩じれて、霞んでいく。朝の日差しが彼を包み、視界全てが真っ白に染まった。
足元がフワフワする。平衡感覚が狂い、全ての感覚がマヒしていく。
いっそのこと悲しみや苦しみの感覚もマヒすればいいのに。そう願ったがむしろ感情は殊更鋭くなっていた。
全身を針で貫いたように、痛みが彼を襲っていた。
「サウンドマン、君の帰るべき場所はもうない。君が守りたいと思ってるものはもう失われた。
アメリカ政府は同日、フロンティアライン消滅を宣言した。
事実がどうであれ、結果は変わらない。その日、アメリカ政府にとってインディアンは消滅した。
無関係だった150人もの女子供は無抵抗、無意味に、家畜同然に虐殺された」
―――君の部族は、もう、死んだんだ。
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「うそだ」
長い長い沈黙の後、零れ落ちた言葉はそんなものだった。それはガラクタのように意味を持たない言葉だった。砂漠でコンパスを失った地図よりも無価値な言葉。
そうかもしれない、とジョニィ・ジョースターは返した。
彼の眼はとても静かだった。そしてとても透き通っていた。砂粒を含まない、無機質で、固くて、気温の感じられない眼だ。
風の歌が止んだ。もう誰の声も聞こえなかった。誰の歌も聞こえなかった。
「ウンデット・ニーの虐殺は避けられなかったという説もある。虐殺が、ではなく民族の滅亡が、という意味らしいけど。
君も知っての通り、生活環境の破壊は加速していた。インディアンは住む土地、住む土地追い出され、絶望のどん底にあった。
きっかけがなんであれ、衝突は起きただろうということだ。それが濁流で押し流されるように一瞬なのか、真綿で締める様にじわりじわりとなのかの違いだ。
そしてその結果がどうであれ、それを指揮するのは、指示するのはアメリカ政府だ。インディアンに対する排他的行為は、他でもない、公式見解だった。国民の総意だった。
アメリカ国民が、移民たちが、白人が、そして……大統領が、それを認めたんだ」
息だけが不自然に短く、途切れ途切れに繰り返されていた。
言葉はなによりも男の心を傷つけていた。それは心臓を刃物で抉り取るかのような激痛を男に与えていた。
青年の言葉には一切の許容も、容赦もない。インディアンの男はそっと眼を瞑った。
「サウンドマン、君はそれでも戦うのか。君にはもう守る故郷も、守るべき人もいない。それでも、例えそうだとしても、君は戦うというのか」
真冬の砂漠よりも冷たい孤独感が彼を襲っていく。そこにはなにもなくて、誰もいない。
何もかもが崩れ落ち、湧き出た故郷の記憶さえ次々に失われていく。砂漠の砂を掬おうとしているかのようだ。急速に全てが現実感を失っていった。
光が消える。臭いが消える。風が消える。声が消える。もう何も考えられなかった。もう何も考えたくなかった。
「サウンドマン」
「その名前で俺を呼ぶんじゃない。白人のお前が、その名前で、俺を」
ジョニィ・ジョースターの長い影が男の上に落ちていた。倒れ伏し、固いアスファルトを見つめる男は振り絞るようにそう言った。
サンドマンの瞳から涙が一粒だけ溢れ、乾いた大地に音をたてて零れた。
泣けばいいのか、怒ればいいのか、決めかねた様な様な表情を彼は浮かべていた。ジョニィは何も言わなかった。
何かを言うべきかどうか、長いこと悩んでいたが、結局口を開くのを諦めた。ただ男が立ち上がるのを彼は待った。
温かい日差しが二人を照らしていく。男の涙と嗚咽は長いこと止まらなかった。
▼
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「共に戦うことはできない」
泣き疲れた男の声に、青年は沈痛な面持ちで頷いた。
きっとそうなるだろうとは思っていた。それでもできることなら彼と共に戦いたいとジョニィは思っていた。
サンドマンは全てを失った。故郷も一族も土地も大地も、なにもかも。ジョニィ・ジョースターの言うとおりだった。
彼がそれでも立ちあがる理由は、もはや自分しか一族がいないという使命感だ。
全て失った。例え遺体を持ち帰っても今さら約束通り土地が返してもらえるとは、もう思えない。
例え返してもらえたとしても、近い将来インディアンはきっと土地を追われる運命にあるのだろう。
白人は白人だ。インディアンがインディアンであるのが自然であるように、彼らはどうしようもなく彼らなのだ。
そうしていつかはこの地上から彼ら一族はいなくなってしまうのかもしれない。聖なる大地は汚され、白人の手によって壊されてしまうのかもしれない。
だからといって諦められるわけがなかった。絶望のままに、命を投げ捨てるわけにはいかない。
なぜならまだ自分は生きているんだ。まだ、自分が、残っているのだから。
この身に流れる血が、歌が、魂が。それはどうしようもなくインディアンのものだった。
まだインディアンは死んでいない。サウンドマンはまだ、生きている。
過去は変えられないかもしれない。未来を変えることも難しい。しかしそれは未来を諦めることとイコールではない。
インディアンの男の中で燃え上がったのは復讐心でもなく、噴怒の炎でもなく、代々受け継いだ未来に託す想いだった。
血を絶やすわけにはいかない。必ず生きて帰って、自らの手で一族を創りなおさなければいけない。
それは今まで以上に過酷な旅路を意味していた。SBRレースやこのデスゲームで行った“命を賭してでも”、そんな無謀な戦いをすることはもうできなくなった。
その瞬間から、彼は決して死ねなくなった。自分たち一族全ての祈りを乗せ、彼は必ずや故郷に帰ることを誓った。
だからこそッ!
彼はジョニィと共に行くことを拒否する。ほかでもない、ジョニィ・ジョースターが白人だったから。
彼の元からすべてを奪い、全てを裏切った人間と同じ人種だったから。
感情的な問題だった。冷静に考えればとか、合理的に考えればだとか、そんなことはわかっている。
だがそれでも男は青年を拒否した。彼を殺す気もないし、邪魔をしようとも思わないが、力を合わせることは無理だった。
もうこりごりだったのだ。勝手に権利を主張し、それに合わせて契約や約束というものを学んでも、それでも結局白人は与えようとしなかった。
かわりに彼の手元からすべてを奪っていった。
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もう誰にも頼らない。もう誰も頼れない。
ジョニィは眼の前に立つ男を見つめた。なんて気高き男なんだろう。なんて誇り高い男なんだろう。
―――だというのに、何故彼の横顔はこうも儚く見えるんだ。
青年の心は締め付けられる。できることなら手伝いたい。だがそれは不可能だった。これはもう、彼自身の戦いだった。
自分には決して手出しができない、彼だけの戦い。
泣きだしたくなるような、叫びたくなるような、郷愁がジョニィを襲う。
青年は黙って事実を記した百科事典を男に手渡す。そして彼に伝言を頼んだ。
ジャイロ・ツェペリに会ったら伝えてほしい。第三回放送の時刻に、マンハッタン・トリニティ教会で会おう、と。
サンドマンは頷き、そして言う。
「ジョニィ・ジョースター、また会おう。お前には借りができた。
“俺たち”は借りた借りは必ず返すと誓ってる。だから必ず生きて、また会おう」
「“ゴール”は僕と一緒なんだろう? 殺し合いからの生還。ならまた必ず会えるさ。その時に返してくれよ」
殺し合うはずであった男たちは、固く手を握り合う。
青年の言葉に、男の顔が微かにほころんだ。僅かにだけ見せた微笑はすぐに消えると、サンドマンは身をひるがえす。
別れの合図に手をあげるとジョニィが見守る中、男は徐々にスピードを上げていく。そうしてすぐに、サンドマンは道の先へと姿を消した。
彼の姿が見えなくなっても、青年は長いことそこから動けなかった。
彼の脳裏に浮かんだのはアリゾナの砂漠。不意にジャイロと砂漠を旅していた時のことを、彼は思い出していた。
見渡す限り砂しかない不毛の大地。サボテンと岩、砂と太陽しかそこにはない。
ジャイロは不満ばかり言ってたような気がする。といっても彼はいつでも不満ばかり言ってたような気がするけど。
自分は馬のことが心配で風景を楽しむ余裕なんてなかった。ああ、道のわきにある十字架がすごく不気味だったことは覚えてる。
ジャイロと顔を見合わせて苦笑いしたもんだ。突っ切る時はドキドキしたな。
スタンドと鉄球があると言え、馬がやられたらそこでアウトだ。今考えればよくぞ無事ですんだものだ。
そういえばサボテンの針で攻撃するテロリストもいた。ワイヤー使いのスタンド使いもいた。煙や川を爆弾にかえるヤツもいた。ロープの達人、マウンテン・ティムと共に戦った……。
いくつもの思い出があった。冗談のように笑える出来事があった。今だから笑い飛ばせる無茶も、少しはある。
サンドマンはあそこで育ったのだ。彼にとっての故郷なんだ。愛すべき家族、愛すべき故郷。
「サンドマン、君の故郷はあそこにあったんだな」
ジョニィは一人思った。立ち去った男のことを思い出し、彼は一人空に向かって呟いた。
―――祈っておこうかな……彼の旅路の無事を…。そして、彼が故郷に帰れるその日のことを……。
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【D-7 南部/1日目 朝】
【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
[備考]
※サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。
※召使のもう一つの支給品は予備弾薬でした。ジョニィの支給品はフーゴの百科事典のみでした。
※サンドマンと情報交換をしました。
【サンドマン(サウンドマン)】
[スタンド]:『イン・ア・サイレント・ウェイ』
[時間軸]:SBR10巻 ジョニィ達襲撃前
[状態]:大きなショック、うろたえ気味、ナイーブ、動揺
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(内1食料消費)、ランダム支給品×1(ミラション/確認済み)
形見のエメラルド、フライパン、ホッチキス、百科事典
[思考・状況]
基本行動方針:生きて帰って、祖先の土地を取り戻す。もう一度部族を立ち上げる。
1.とりあえず情報収集。もう誰も頼らない。
2.故郷に帰るための情報収集をする。
3.必要なのはあくまで『情報』であり、積極的に仲間を集めたりする気はない。
4.ジャイロ・ツェペリに会ったら伝言を伝える。
[備考]
※ジョニィと情報交換をしました。
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以上です。なにかありましたら一言ください。
規制が一向に解除される気がしません。
仕方ないとはいえ、毎回こうもやられると興をそがれるというか、代理投下の方に申し訳ないというか。
したらば管理人さん、チェックありがとうございました。なんだったんだろう。
あと前作、感想ありがとうございました。
感想がたくさんもらえてうれしかったです。頑張ろうって気になりました。
頑張ります。
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>>365まで転載したところで連投規制ひっかかりました。
申し訳ありませんが、どなたか>>366お願いします。
◆c.g94qO9.Aさんは投下乙でした。
サンドマン切ないな。今回もメッセージ託されたが・・・
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規制されていたのでこちらに
↓
ラジオ!!もちろん大歓迎!!
プロシュート、双葉千帆
投下します
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……さて、放送は以上だ。第二回放送は同じく六時間後、太陽が真上に上る12時きっかりに行う。
この放送は私、スティーブン・スティール、“スティーブン・スティール” がお送りした。
諸君、また六時間後に会おう! 君たちの今まで以上の健闘を、私は影ながら応援しいるッ
それでは良い朝を!…………
煩いばかりだった放送が終わり、フロリダ州立病院の一室は再び静寂を取り戻しつつあった。
人けのない病院の南側の一室には、双葉千帆とプロシュートがおのおの壁を背に向かい合い座っている。
かわす言葉はなく、ふたりは彫像のようにかたまっていた。
双葉千帆のもとよりあまり日焼けしていない顔は、さらに色を失い骨のように白い。
岸辺露伴の死を、彼女は直接見てはいなかった。
露伴の死を証明するものは地中にめり込んだ巨大なコンテナと、早人から渡された彼からの手紙のみだったからだ。
ゆえに心のどこかで期待していたのだ。
岸辺露伴は死んではおらず、彼に自分が原作の漫画を書いてもらう日が来るのではないかと。
『放送』はそんな彼女の期待を無常にも否定した。
自覚すらしていなかった願いを、無惨に打ち砕いた。
死亡者として読み上げられた中には川尻早人の名もあった。
実際には死亡していない人間を、いたずらに『死亡者』として放送するなどということはおそらくないだろう。
疑いなく、ふたりは死んだのだ。
岸部露伴の新作漫画を読む日も、川尻早人の成長を喜ぶ日も、決して来ない。
そして、読み上げられた双葉照彦の名前。
読み上げられた瞬間には彼女は気づかなかった。それが自らの父親の姓名だと。
76名もの死亡者はあまりに多く、少女には音として認識した文字を筆記するだけで精一杯だったのだ。
『ふたばてるひこ』
ひらがなで書かれたそれはなにかの記号のようだった。
名簿とつきあわせ『双葉照彦』という文字列を理解した瞬間の気持ちを表現することはできない。
シチューの残り香がただようリビングで、あの人に突き立てようとしたものは紛れもない殺意。
父だから許せなかった。
愛していた、父だからこそ……。
皺を刻んだ笑顔の父と、絶望の表情を浮かべた父の顔が交互にフラッシュバックした。
苦しまぎれの息つぎをするように千帆が顔をもちあげる。
視線の先、プロシュートは無表情で名簿を眺めていた。
-
(ホルマジオ、ペッシ、イルーゾォ、リーダー……)
表情こそ平静を装っていたもののプロシュートの心中は穏やかさとかけ離れた状態にあった。
死亡者の中には彼が呼びなれた名前が混じっていた。
弟分であったペッシはおろか、自分がリーダーと認めたリゾットすらすでに死んでいるとは。
胸のうちにあるものが『驚き』だけだといえば嘘になる。
ソルベが送りつけられたとき以上の激情が彼の胸の内で燃えさかっていた。
しかしプロシュートはそれを表に出そうとはしない。
必ずやり遂げなければならないことができた。嘆くことも思考停止することも許されない。
名簿を見返す。ギアッチョの名が斜線を引かされずに残っていた。
『暗殺チーム』という括りでみれば、メローネ、ソルベ、ジェラートの名前は名簿のどこにも載っていなかった。
死んだ者は蘇らない、という当たり前の原則に沿えば、ソルベ、ジェラートがいないことに疑問はない。
しかしメローネはどうだ。
あの男が死んだという情報を、少なくとも自分もペッシも受けていなかった。
死亡したはずなのに参加させられた、ホルマジオ、イルーゾォそして涙目のルカと、死亡していないはずなのに参加していないメローネ。
考えたところで、メローネが名簿に載っていない理由はわからないが、時間軸の違いは確定していいように思えた。
時間軸が違えば死んだ人間が蘇ったようにみえることに疑問はないだろう。
自分が殺した男、ティッツァーノからすれば、すでに自分は死んだ人間だった可能性もある。
プロシュートは自嘲的な笑みを浮かべながら再び名簿に視線を戻した。
まずジョースターの姓をもつ人間が嫌でも目につく。
次におそらく『パッショーネ』の関係者がほとんどであろうイタリア人。
東洋人も多いように見受けられる。
だがその組み分けからあぶれる人間もまた多い。
国籍の判別がつかない「あだ名」のような名前は本名や身分を隠したがる人種の二つ名のようなものだろうか。
このふざけたイベントを主催した存在は、『老い』も時間も世界という枠組みさえも超越したもの。
だというのに、この場にいる者で疑いなく共同戦線を張れる人間はすでにギアッチョしか残されていない……。
カタカタ……と床が音を立てる。
ふと見ると手が小刻みに震え、握っていた鉛筆が床を叩いていた。
一瞬呆気にとられたプロシュートの表情が、徐々に羞恥に歪む。
名簿から目をはなせば、同じようにひととおりの考察を終えたのであろう少女がこちらを見つめていた。
「嬢ちゃん、まずは知り合いについて教えてもらおうか」
かたぎの人間がきけば震え上がりそうな口調をしたことに、プロシュート本人は気づいていない。
双葉千帆の瞳に恐怖の色はなかった。
ただ、数瞬、鳩が飛び去った窓辺を見やり、小さなため息と共に彼女は、はい、とこたえた。
窓の外には、徐々に青みを増しつつあるライトブルーの空が広がっている。
* * *
-
プロシュートは自分のことを語ろうとはしなかった。
千帆の知り合いが何人いるか。
彼らとはどういう関係か。
直接の知り合いでなくとも、知っている人物がいるか。
彼女にとって今は“何年”か。
ここに連れてこられる前、どこにいたのか。
杜王町とはどんな地域なのか。
彼の一方的な質問に千帆が答えるだけ。
それを千帆はおかしいとは思わなかった。
早人に協力してはくれたが、おそらくそれは敵あらばこそ。
早人は死んだ。彼を死に至らしめた鼠も死んだ。
そして戦闘のさなか銃撃によってプロシュートを救った男性も、死んだ。
彼がプロシュートの仲間であったのなら共にここで放送を迎えられたはずである。
銃のグリップにこびりついていた血の跡。
赤く汚れた長い白髪と血だらけの白鼠のイメージが重なった。
ただの高校生である自分が、足手まといにしかならない自分が生かされたのは情報交換という目的があったからだろうか。
だとすればこうして喋っている一瞬一瞬が、死へのカウントダウンにほかならない。
それを理解していながら、同時に淡淡と感情もなく語る自分を千帆は実感するのだった。
「安心しな。オレは嬢ちゃんを殺す気はねえ」
そんな千帆の心を見透かしたようにプロシュートが言い放った。
哀れな孤児をなだめるようなおだやかな口調だが、目も口元も笑ってはいない。
「情報の整理はあらかたすんだ。
本当のところをいえば、嬢ちゃんを生かしておく理由はない。
殺す理由はいくらでもあるがな」
「なら、どうして……」
千帆がいいかけてやめ、そんな自分を恥じらうように目を伏せる。
自らの発しかけた問いがその身の安全を脅かすことに気づき、そして、そんな保身に走った考えが恥ずかしくなり、千帆は押し黙った。
目の前の男にはそうした下衆な考えがすべて透けて見えただろう。
プロシュートは千帆の手元を見つめていた。胸の前で心臓を守るように組まれた小さな手を。
時が止まってしまったのでは、と千帆が思い始めた頃、ようやくプロシュートは口を開いた。
-
「死ぬのは怖い、か?」
はじかれたように千帆の瞳が見開かれる。
カッと頬に赤みがさし、彼女は声を張り上げた。
「プロシュートさんは、怖くないっていうんですかッ?!」
「さあな。
だが生きている限り、恐怖、孤独、悲しみ、不安、あらゆる苦痛は永遠に続くんだ。
『死』は平等だ。優しい。
そこに、人が恐れるものは存在しない」
語るプロシュートの表情は、落ち着きを通り越して安らかだった。
千帆が戸惑い、反発を覚えるほどに。
「でも……ッ」
「スタンドも、体術の心得があるわけでもねえだろう。加えて人脈もねえ。
どうやって生き残る気だ?」
頬を紅潮させた千帆の指が短銃のグリップをなぞる。
その早人の形見となった銃でスタンド使いを相手に渡り合おうというのだろうか。
「戦います」
千帆が銃を持ち上げてみせる。
少女のほっそりと柔らかな手の内で、ゴツゴツとしたフォルムの銃はひどく不似合いで重たく、危うげに映った。
「射撃の練習をしたことがあるってわけでもないんだろう?
初心者が扱う場合10mも離れれば弾はまず当たらない。
嬢ちゃんは6発の内1発くらいは当たるだろうと考えてるかもしれねえが、目の前に対峙したやつを敵だと判断してから何発撃てると思う?
的はさっきみてえな目先の死にかけじゃねえ。
こっちを殺そうとする敵だ。全速力で向かってくる。そいつだって死にたくないからな。
10mなんて一瞬だ。相手がガキでも。
くわえて銃にはリコイル、反動がある。さっき撃ってみてわかってるはずだ。
あれだけの衝撃を受けて、何発も狙いをつけて発砲することができると思うのか。その貧弱な腕で」
千帆は言い返せなかった。
自分で自分の腕を抱き、イヤイヤをするように首をふる。
「それでも、私は……」
今にも泣き出しそうになっているくせに、千帆は頑として折れなかった。
うっすらと涙を浮かべた瞳で、プロシュートのことを睨んでいる。
地獄を見てきた人間が持つ壮絶さと、聖母のような慈愛を併せ持ったその瞳。
(まるで聞き分けのない、“マンモーナ”だな)
プロシュートが千帆を見つめる。
二人は無言のまま見つめ合い、やがてプロシュートの方が根負けしてため息をついた。
-
「こっちに来な。
少しはマシにしてやる」
プロシュートは千帆から銃を受け取ると、馴れた手つきで銃弾を抜いていった。
弾丸の込め方はあとから説明する、と口上を添えて。
6発分の銃弾を抜き取ると、プロシュートは対面の壁に向かって銃を構えてみせた。
「銃を撃つときの基本的な姿勢はこうだ」
両足を肩幅ほどに開き、腕をまっすぐ前方に伸ばす。
腕の先端、プロシュートの存外大きな両手が銃のグリップを握っていた。
その指は引き金にかかっていない。
顔は突き出しすぎだと千帆が感じるほど銃に寄せている。
千帆がそう感じているのをプロシュートも読み取ったのだろう。
「大事なのはきちんと照準を合わせることだ。
正しく狙いをつけたところでさまざまな要因によって銃弾は逸れる。
だがそれで照準合わせを怠れば、絶対に銃弾は当たらないと思え」
銃を千帆の目線の高さまで持っていき、照準あわせの動作を確認させる。
そして握り方と引き金の引き方について。
「引き金を引くことに意識を集中させるな。
標的に照準をあわせたまま、引き金を『絞る』」
銃の携帯の仕方から、構え方、空薬莢の抜き方、銃弾の込め方まで、一連の動作をデモンストレーションしたところで、M19はふたたび千帆の手の内にかえってきた。
見よう見まねで銃を構える千帆に、激しい檄が飛んだ。
「銃は遠距離から攻撃できるだとか、6発あるから余裕だなんて考えは捨てろよ。
1発で仕留めろ。1発撃てばもう終いだ。
たとえれば、ギャンブルと同じ心理だな。
撃ちはじめちまったら、次こそ当たるだろう、次こそ当たるだろうとすがっちまう。
6発の中に『当たりくじ』が入っていない可能性を、人は直視できなくなる。
気づいたときには距離のアドバンテージなんてもんは皆無になっちまってる。
結末は、いわなくてもわかるな?
これが武器になるなんて考えは捨てな。
下手に撃てば、互いに引けなくなる。
銃声は別の敵を引き寄せる。
銃を撃つ状況はどちらかがすでに詰んでる状況だと思え。さっきの鼠みてーにな。
確実に殺すために撃ちな」
-
小一時間ほど経ったころ、ようやくプロシュートの指導は終わった。
約1kgの銃を、暴発に注意しながら扱う作業は想像以上に千帆を疲れさせた。
紙から出てきたドーナツと水で休憩をとる千帆に対して、プロシュートは静かに語る。
「嬢ちゃんは、なぜオレに殺されないか不思議に思っていたな。
おそらく理解できないだろうが、オレはこう考える。
単純に、“力”を持つことは素晴らしい。それを行使することも。
しかしそれは“強さ”とは違う、とな。
最終的には『持っている』人間が生き残る。
力の優劣とは、また別の次元の問題だ」
千帆が困ったように首を傾げる。
プロシュートがなにを言いたいのかわからなかった。
「この6時間の間に76人が死んだ。
力の優劣がすべてを決めるなら、嬢ちゃんはとっくに死んでるはずだ」
そこでプロシュートは言葉を切った。
どこか、痛ましい色がその瞳に浮かんでいるのを千帆は見逃さなかった。
(『暗殺チーム』と言っていた。
この人も、誰か大切な人を失ったのかもしれない)
プロシュートの言いたいことが千帆にはよくわからない。
『持っている』人間の話と、自分を殺さないという話は結びつかないように思える。
それに彼が言ったとおり、自分は特殊な力も、武器を扱える腕も、頼りにできる友人もいない人間だ。
『持っている』人間にあたるとは思えない。
けれど頭で理解できないことが、心で理解できることもある。
プロシュートの言葉が、行動が、千帆に勇気の心を芽生えさせようとしていたのは確かだった。
「私、小説を書くんです。
元の世界に戻って。絶対に」
「……そうか」
プロシュートの返答はそっけない。
しかし千帆はプロシュートを信頼しつつあった。
かつて好きになった人は、彼のような強さをもつ男だった。
「さて、オレはそろそろここを出る。
この6時間ほとんどこの近辺から動いてないんでね。
欲しいのは仲間と情報だ。向かうのは当然人が集まる場所になる」
荷物を肩にかつぎあげながらプロシュートが、足元のほこりを払う。
「ついてくるなら忠告くらいはしてやるが、オレは嬢ちゃんを助けない。
その兄貴とやらを探すも、ここに篭城するも、好きにしな」
振り返りもせず歩き出す。
その背を追って、千帆は迷いなく立ち上がった。
それを気配で感じ、プロシュートがうっすらと笑う。
「後悔するなよ“千帆”」
「……はい!」
-
【G-8 フロリダ州立病院内/1日目 朝】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:体力消耗(中)、色々とボロボロ
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.暗殺チームを始め、仲間を増やす 。
1.この世界について、少しでも情報が欲しい。
2.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。
【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:体力消費(中)、精神消耗(中) 、涙の跡有り
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品、ランダム支給品1 (確認済み。武器ではない)
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0:プロシュートと共に行動する。
1:川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
2:琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。
3:露伴の分まで、小説が書きたい。
【備考】
プロシュートは千帆から、千帆の知っている人物等の情報を得ました。
千帆はプロシュートから情報を得ていません。
千帆はランダム支給品を確認しました。支給品は1つで、武器ではありません。
ウィルソン・フィリップス上院議員の不明支給品は【ドーナツ@The Book】のみでした。
以上で投下完了です。
指摘等ございましたら、よろしくお願いします。
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タイトルは「Dream On」です
すみませんがどなたか代理投下お願いします
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カウントを間違えたすみません。
どなたか>>376を転載お願いいたします。
◆4eLeLFC2bQさんは投下乙でした。
兄貴さすが渋カッコいい。千帆はけなげ可愛いな。
◆vvatO30wn.さんも前編お疲れ様でした。
後編も楽しみにお待ちしております。
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ラジオ中ですが投下します。
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「立ち話も何だ、席に着いたらどうだね?」
ディ・ス・コは動こうとしなかった。座るどころか動くことすら危ういと、彼は感じ取っていた。
目の前の男の存在感は圧倒的だった。それはもう、あまりに圧倒的だった。
例えるならば丸裸丸腰でライオンの檻に閉じ込められたも同然の如く。それは下手に動けば死が訪れることを嫌でも意識させられた。
DIOが椅子を指し示した指先は、長いこと、ただいたずらに宙にかざされていた。やがて彼は腕を下ろし、それを肘掛椅子の上に戻した。
男は何も言わなかった。代わりにその真っ赤な目をゆっくりと細ばめた。
百獣の王、生まれついての捕食者としての目線がディ・ス・コの身体を舐めまわしていく。
身体の隅から隅まで、一部の隙間もなく。ディ・ス・コの肌はゾクリと震えた。
そうかい、私は遠慮なく座らせてもらうがね、と男は言った。
男のの言葉には苛立ちや怒気は込められていなかった。ただ面白そうな何かを見つけた、純粋な興味がにじみ出ていた。
DIOは深々と身を沈めると息を吐き、肘掛椅子の上で頬杖を突く。しばらくの間彼は無言で天井を見つめた。
ディ・ス・コも喋らなかった。何を言えばいいかわからなかった。
沈黙が蜘蛛の張った糸の巣のように辺りにからまり……しばらくの間、二人は共に動くことも、話すこともしなかった。
沈黙を破るきっかけは音だった。
カタカタと微かに聞こえる音にDIOは首を傾けると、男の腕が激しく震えているのが目に映った。
肩にかけたデイパックがその振動を伝え、音を発していたのだ。DIOは頬笑みを浮かべ、ゆっくりと彼に向かって語りかけた。
「震えているのかい? このDIOを前にして」
ディ・ス・コは身体を固くした。それはその声がとても美しかったからだった。
美しいと思って、そして一瞬聞き惚れてしまいそうになった自分に動揺して、彼は身を固くしたのだった。
何を馬鹿なことをしているんだ、と彼は思った。この男を前に自分はなんて呑気なことを。こんなことをしている場合など断じてないというのに。
先手必勝だ。唇を噛みしめ、ディ・ス・コは自身を勇気づける。
相手は椅子に座ったまま余裕を醸し出している。そのどたまにスタンド能力を叩きこんで、一瞬で始末してやれ。
震える腕を伸ばしスタンド出現させ、構える。構えようとして……彼は、動けなかった。
そうわかっているはずだ。そう思っているはずなのに……ディ・ス・コは動かない。動けない。
DIOが話を続けても、スタンドを構えることすらしなかった。
それは彼が心の底では、男の言葉をもっと聞きたいと願っていたからかもしれなかった。
「脅えることはない、何も私は君を取って食おうとしているわけじゃあないんだ……安心してくれ」
男は安心させるよう手を広げ、そして次いではディ・ス・コに向かって笑いかけて見せた。
どうやら彼を気に入ったらしい。肘掛椅子に投げ出していた身体を持ち上げると、男は姿勢をただし、椅子の先に乗り出すように座りなおした。
膝を組み替えてリラックスした様子で、DIOはそっと囁くように続けた。
-
「安心と恐怖は感情の双子の様なものだ。隣り合わせ、鏡写し……言葉は何であれ、つまるところ恐怖があるから安心があり、安心があるから恐怖がある。
そもそも人間は誰でも不安や恐怖を克服し、安心を得るために生きている。名声を手に入れたり、人を支配したり、金もうけをするのも安心するためだ。
結婚したり、友人をつくったりするのも安心するためだ。人の役立つだとか、愛と平和のためにだとか、すべて自分を安心させるためだ。
安心をもとめる事こそ、人間の唯一にして究極の目的だ……」
不思議と続きが気になる話し方を、DIOはした。彼は話の最中に身振り手振りを加えることをしなかったし、大声で声高々に主張することもしなかった。
しかし、ディ・ス・コは知らず知らずのうちにその話に引き込まれていく。耳を傾け、聞き惚れ、頷いてしまう。
彼は一呼吸置くともう一度口を開いた。相変わらず、その声は囁くような声音であった。
「人間は生まれた時から死ぬ運命を背負っている。
それは誰一人例外でなく、誰にしも赤ん坊だった時があり、少年だった時があり、青年、成人、そして老人……。
やがてそうやって人は皆老い、そして死んでいく。
死は避けようもない人類共通の恐怖だ。いまだかつてそれを克服した人間は誰一人としていない。
このDIOを除いては、だが……」
快活な笑い声を挟んで、DIOは更に話を続けた。
「恐怖こそが人間を支配する感情だ。恐怖を克服するためならば、人間は死に物狂いで何かを成し遂げることができる。
君が今身につけている服も、私が手にしているグラスも、口にしているワインも全て、全てその結果だ。
恐怖という鞭が人間を進化させ、安心という飴を手に入れるために人間は生きているのだ。
そう考えると人間とは随分低俗で、愛らしく……哀れな生き物だと思わないかね?
人間は限界がある。恐怖を上回ることも、安心という檻から出ることもできない。
人間は実に物悲しい生き物だよ……。いたたまれなくて、時には見ていられなくなるほどに……」
ディ・ス・コは答えを返さなかった。
何を言えばいいのかわからなかったし、何を言っても間違った答えになるような気がして、黙って口を閉ざした。
DIOは一向に気にしていないようだった。彼は誰かに話すというよりも、自分の考えを思いのまま、口にしているだけのようだった。
「では吸血鬼になり、永遠の命を得たこのDIOは何に恐怖すればいいのだろうか? 何を目的に生きていけばいいのであろうか?」
沈黙。空白。言葉を切ったDIOはじっと宙を見つめ、そしてまた口を開く。
「……スタンドはその人物の精神の象徴といってもいい。私のスタンドの名は『世界』。能力は、そうだな……文字通り『世界を制する力』といっておこうか。
どちらにしろそれほど重要なことじゃあない。ここで取り上げるのは能力でなく、名のほうだ。
『世界』、私はこの名をいたく気に入っている。運命的な出会いとってもいいかもしれない。
その名前を初めて聞いた時、私はまるでその二文字の言葉が私だけのために用意されていたと思えたほどだ。
感動すらした。クローゼットの中でずっと袖を通すのを待っていた仕立て済みの服かのように、ピッタリと馴染んだんだ。
いずれ『世界』を制するであろう私に、まさにうってつけの名前だ。君もそう思わないかね……?」
ディ・ス・コは黙って頷いた。DIOが言うのであればそうなのだろう、そう思って彼は素直に首を縦に振る。
世界を制する。並みのものなら夢物語と馬鹿にされるだけだろうが、彼が言うとその言葉は途端に説得力に満ちたものに変わった。
本当にこの男なら成し遂げてしまうのだろう。ディ・ス・コは実際にそう思って、思ったので頷いた。
DIOは言う。彼の話はまだまだ続いた。
-
「再び問いかけだ。では世界を制するとは何をもってそう言えるのだろうか? 何を成し遂げれば世界を制したことになりえるのか?」
今度は頷かなかった。ただ黙ったまま頭を何度か左右に振った。
ディ・ス・コにはそんなことはわからなかったし、ただのそれ以上、思いつきもしなかった。
彼にとって沈黙が答えだった。だがそうして黙っていると、奇妙に暗闇が広がっていきそうな感覚が男を襲った。
どちらも口を閉ざしたまま長いこと時間が経った気がした。実際のところはわからない。
「君は神を信じているか?」
DIOが言った。それは突拍子もない疑問で、突然言い放たれた言葉だった。
だが、それが大切な問いかけであることはディ・ス・コにはわかった。DIOの口調でそれがわかった。ディ・ス・コは首をゆっくりと横に振る。
DIOは何も言わなかった。確認のつもりだったのか、彼はそれを見て満足そうに、小さくうなずくだけだった。
サイドテーブルからグラスを取ると、一含みを口の中に流し込み、男は言う。
「かつて最も神に近づいた男がいた。その男は数々の奇跡を起こし、人々に神と崇められ、その思想は今も生きている。
彼は水をぶどう酒に変えた。家が吹き飛ぶ嵐を片手で静めた。何の変哲もない石や水をパントとワインに変え、海の上を歩き、イチジクから命を吸い取り、そしてまた人々に命を分け与えた。
そして彼は、一度死んだ後に蘇り、その奇跡が決して不純なものでなく奇跡以外の何でもないことを証明して見せた。
人々は彼を神と呼んだ。今も呼んでいる。そしてこれからも呼び続けるだろう。人間が生き続ける限り」
それはまさか“あの方”のことを言ってるのですか。喉元まで込み上がった言葉を押し戻し、ディ・ス・コは訳もなく動揺している自分に動揺した。
そんな、まさか。ありえない。しかし本当にあり得ないかどうかとDIOに問われたら、彼は自信を持って返答できたろうか。
DIOならなれる。いや、DIOにならば“彼”を越えて見せれるのではないかと、そう思うほどまでにディ・ス・コの中には確固たる“何か”が芽生え始めていた。
「私は、神(ディオ)になるべき男だ。世界を制するとは、神(ディオ)となり、人々を導くことだと私は思っている」
だから彼はこんなにも私を怯えさせているのだろうか。
こんなにも恐怖で私を竦ませているのは、彼が神に近い男で、私に安心と恐怖を刻みなおすためなのだろうか……?
私にこれからの道筋を、導きを、もう一度示しなおすためなのだろうか……?
「惜しむべきは彼は二度の奇跡を起こさなかった事だ。結局彼が死を克服することはなかった。
だがこのDIOは違う。私は死を克服した。世界を制する力を手に入れた。
彼ができない、決して手にすることのない奇跡を、今すぐにでも実践できる力が私にはある。
このDIOこそが神に相応しいのだ。私は全てを制して見せる。運命も、生命も、世界も、時空も、空間も制し……全ての頂上に私は立って見せる……!」
力を貸してくれないか。そう囁かれた言葉が自分に向けられたものだと気付くのには、時間がかかった。
顔を上がればいつの間にかDIOは椅子より立ち上がり、ディ・ス・コと同じ地べたで同じ高さで、手を差し伸べていた。
直々に。その身で、直接。ディ・ス・コという男のために。
-
その時、男は初めてDIOの眼を見た。
真っ赤だった。そしてとてもきれいだった。
闇の中でもハッキリとわかるほどに、その目は光って、輝いていた。
自分を見つめるその真っ赤な目から目が離せない。吸い込まれていきそうだ。どこまで澄んでいて、輝いていて、美しくて。
すぅ……と縦に開いた瞳孔が彼を映しだす。真っ赤な輝きとは正反対に、そこには底知れない黒さが潜んでいた。
その輝きから目が離せなかった。その底知れなさに呑みこまれたいとすら、ディ・ス・コは思った。
このままずうっと見ていたいと、ディ・ス・コは思ったほどだった。叶うことならば、ずっと、そのまま……。
ディ・ス・コは何も言わなかった。ただDIOが彼を見つめていることが、たまらなくうれしくて、彼の心は大きく震えた。
その震えは今まで感じたどんな震えよりも大きな震えだった。どんなに人生で幸福だった時よりも、どんなに生涯で嬉しかった記憶よりも……。
奇妙な安心感が男を包む。ディ・ス・コは息を漏らすと、そっと瞳を閉じた……。
▼
-
またNGワードでひっかかりました……なんでだろう……
―――――
「DIOさま……」
「期待しているよ、我が部下ディ・ス・コよ……」
勿体のないお言葉……、と言い放たれた言葉を最後に男の姿は闇に紛れ、そして扉を閉めるような音が微かに響いた。
DIOはしばらくの間身じろぎもしなかったが、やがて面白くもなさそうに鼻を鳴らすと、彼は椅子に深く座りなおした。
どうやら男の興味は既に次のものへと移っているようだった。先ほどとは違って、部屋には新たな緊張感が満ちていた。
見知らぬ誰かを探るような、警戒心に近い緊張感。DIOはそのままの姿勢でじっとしていて……そして不意に笑い声を洩らすと闇に向かって囁いた。
「いつまで隠れている気だい?」
それを合図としたように、ぬっと姿を露わにした男が一人。
「短い間に随分とお行儀が悪くなったじゃないかい、マッシモ」
からかうような言葉に返事もせず、マッシモ・ヴォルペは無言のままDIOの正面の席に腰かけた。
表情は硬く、顔は白い。DIOもしばらくの間は笑顔を浮かべていたが、そんな彼の様子に笑いをひっこめると、彼の顔をじっと見つめた。
二人は長いこと話さなかった。ヴォルペを落ち着かせるように、DIOは彼の膝に手をやると、そっと優しく撫でてやった。
まるで子供をあやす母親のような仕草だった。ほどなくして、ヴォルペが重々しく口を開いた。
-
NGワードでひっかかったので小刻みに投下してきます
―――――
「今、俺はこの場で死んでもいいと思ってる」
「それは何故?」
「俺の心に安心は存在しないからだ。二度と、俺の心に安心が吹くことはない」
-
DIOは/問/い/か/け/る/様/に/彼/の/眼/を見た。
-
ヴォルペは黙って首を振り、その白く濁った眼で彼を見返した。
吸血鬼の彼もゾッとしない、何も見ていない眼を彼はしていた。
ふむ、と唸り声をあげDIOは顎を撫でる。そして腕を伸ばすと、躊躇いなくヴォルペの首元へとその鋭い指先をのめりこませていった。
DIOはヴォルペの血管を指先でつまんだまま動かなかった。青年もまた、動かなかった。
ほんのわずか、どちらかが身体を傾けでもすれば大動脈はかっ切られ、その男は死ぬだろう。
すぅ……と裂けた皮膚から一滴だけ血が流れ落ち、首筋に赤いラインを描いていく。
同時に俯むき具合の彼の頬に、幾筋もの涙が下りていくのをDIOは見た。
静寂の中、二つの液体だけが滴る音が響いた。涙と血。青年は泣き、血を流した。
DIOは首元から手を離した。それは長い長い沈黙の後のことだった。その間もヴォルペは泣き続けていた。音もなく、男は涙していた。
吸血鬼は立ちあがるとぶ厚いカーテンを閉めた窓際に寄りかかり、男に向かって言い放った。
「すまなかった。君を侮辱することになってしまった」
「……別にかまわない」
ヴォルペは本気だった。本当に心の底から死んでしまってもいい、と思っていた。
深い深い絶望が彼を襲い、すさんだ感情が彼を覆っていた。DIOはそれを肌越しにも感じ取った。彼の涙を見て、それを理解した。
青年の深い悲しみと、失意、そして虚無感が本物であり、自分がその事を疑ったことを恥じた。DIOはそっと視線を自らの足元へと落とした。
-
ヴォルペの頬を伝う涙は追悼の涙だった。一人の少女と一人の老人を想う涙。
彼と彼女がくれた安心。それが二度と戻ってこないと改めて突きつけられたのは辛かった。
一度失って、もしかしたらこの地でもう一度得ることができたかもしれなかっただけに、その辛さはより鋭く、彼の心をえぐっていた。
死んでもいいと言ったのは本当だった。何もかもが空っぽに思えた。
自分にはなにもないし、なにもわからない。わかっていない。
分かり合える時があったはずだったのに、それがわかった時には全て失った後だった。いつも、そうだった。
ヴォルペはうな垂れた。涙はとめどなく流れていた。
そうやって感情が収まっていくと、ようやく自分の正直な気持ちがわかってきて、そこにたどり着くまでにまた随分と時間がかかる自分に嫌気がさした。
暴発的に誰かに殴りかかり、感情的に心許せる男の前で涙し、そうしてようやく自分の気持ちに気づく。
ヴォルペの固く閉じた唇から言葉が零れ落ちた。それは紛れもない、彼の本心だった。
ただ……、どうしようもなく……
「虚しいんだ」
ヴォルペは虚しかった。自分の生きている意味がわからなかった。どうしようもなく自身が空っぽに思えた。
DIOが言っていた幸福も、不安や恐怖も安心も、全部が全部自分にはもはや関係ないもののように思えて辛かった。
自分はどこにも属せない様な強い疎外感が彼を包んでいた。そして、だからこそ自身が唯一安心感を覚えた麻薬チームがどこまでも懐かしくて、愛おしかった。
それが全て終わったものだと知っていても、それを懐かしめれるほどに、彼は強くなかった。ヴォルペには彼を支える今がなかった。
虚しかった。本当に虚しかった。
壊れたオルゴールのように、その言葉をヴォルペはただいたずらに繰り返した。
DIOはじっとヴォルペを見つめていた。彼はゆっくりと立ちあがり、また元の肘掛椅子に座った。
ヴォルペの真正面に位置する椅子だ。男は青年を落ち着かせるように、そっと彼の背中に手を置き、ヴォルペの気が済むまでそうしていた。
やがて青年の心がすっかり平静を取り戻したころ、DIOはゆっくりと口を開いた。
「なぁ、マッシモ」
青年はゆっくりと顔をあげる。DIOは彼の眼を覗き込みながら、話を続ける。
-
「あるところに男がいた。
その男は容姿に優れ、素晴らしい運動神経と優れた知性を持ち、比類なき勇気と判断力を持っていた。
それだけでなく高潔な人間性、熱い情と強い正義感を持ち合わせていて、おまけに有り余るほどの金を持った財団とのコネがあり、更に先祖をたどれば高貴なるジョースター家直属の血統付きときたものだ。
更に更に彼、空条承太郎はこのDIOと同じタイプのスタンド、同じ能力を持っている。
ヤツが願うことはないだろうが……うまく立ち回れば世界を制することもできるかもしれない。
いや、そう願わなくても、ある程度はヤツを中心として自然と世界は回るだろう。きっとこのDIOを打ち倒した後の世界でな」
「……打ち倒した?」
「ああ、そうだとも」
「君が、敗北した相手なのか。その……空条承太郎という男は」
「正確に言えば、“ある世界”では“敗北しうる相手”と言い直させてもらおうか。
“この”DIOにとってはそれは未来に起こり得ることなので何ともいいかねることだ」
「とても信じられないな」
「私もさ、マッシモ」
DIOの口元には薄く妖艶な笑みが、貼り付けられたように浮かんでいた。
ヴォルペはその笑みから目が離せなくなっていた。その笑みにの裏には灼熱に燃え上がる何かが潜んでいることを、彼は感覚的に理解した。
「そんな全てを手にして空条承太郎という男だが……きっとヤツは今嘆いてる事だろう。慟哭していることだろう。悲しみに打ちひしがれていることだろう。
言うなれば、ヤツの屈辱的喪失初体験ってところかな……? フフ……!
空条徐倫……やつに姉や妹がいないことは把握している。母の名は知っているが、その名は既に放送で読み上げられている。
となるとこの女はヤツの妻か、娘と言ったところか……。どっちにしろ、母を亡くした男にとっては手痛い損失だな……!」
話がどこに向かっているのかわからない。いきなり持ち出された男の話に混乱するヴォルペ。それを察したDIOは丁寧にもう一度その男の話をした。
空条承太郎。その男と彼の血縁。繰り返された話を整理するうちに、ヴォルペもいつしか冷静さを取り戻していた。
涙は止まり、呼吸は整い、今しがたまで荒れていた青年はいつものように冷静な面持ちで彼の話に耳を傾ける。
大きく頷くと、ヴォルペの頭の中ではおぼろげながらに男の存在が像として浮かび上がり始めていた。
なんとも凄まじい人生を歩んできている男だ、とヴォルペは思った。
同時に、羨ましいとため息がこぼれ落ちた。どれほどの充実感、安心感を彼はその手でつかみとってきたのだろう。どれほどの満足感を、彼は築き上げてきたのだろう。
ヴォルペが決して成し遂げられないことを成し遂げれるその男が眩しかった。自分と対極的だとそれがわかり、冷えた心にチクリと痛みが走った。
DIOは気の毒そうに顔を歪めていた。ヴォルペのことを心から同情するような顔をしていた。
青年が顔あげれば彼は慈愛に満ちた頬笑みを浮かべ、励ますようにこう言った。
「不公平だと思わないかい、マッシモ」
一瞬何を言っているのかわからなかった。ヴォルペは不公平という言葉を繰り返し、DIOはその言葉に頷いた。
-
「君のように不運を掴まされ、不幸な人生を味わい、虚しさに身を縮めている一方で全てを手にしていた男がほんの少しの喪失で君と同じ感情を覚えているんだ。
君が望んでも得られなかった幸福感をそれこそ山ほど持っていた男が! ほんのちょっぴりを失っただけだというのに!
ついこの間まで人生を大いに謳歌していた男と、この世全ての不幸を一身に背負っていたような男が同時に失い、しかしどちらも身を引き裂かれたような痛みを嘆くのだ。
こんなおかしなことはないと思わないかい……?」
じんと頭が痺れるような感触をヴォルペは覚えた。
目の前で淡い光がちかちかとちらつき、眩暈を感じた青年は椅子の中で身を固くする。
不公平。確かにそうだと思った。実際にヴォルペは空条承太郎を妬んだ。羨望した。ずるいとすら思った。
そしてその彼が今自分と同じ失望感に沈んでると考えてみると……不思議と心が揺れた。
それはとても奇妙な感覚だった。
暗く閉め切った部屋の中に浮かんだ二人の影が歪な形に膨らんでいく。
ヴォルペの中で、虚しさ以外の感情が次第に大きく首をもたげ始めていた。
「DIO……俺は」
男は何も言わなかった。ただ彼の顔には艶やかな邪さを秘めた、含み笑いが浮かんでいた。
それは、何も言わずとも君の言いたいことはわかるよ、と言わんばかりの表情だった。
男は椅子から立ち上がり、部屋から出かけの途中でヴォルペの肩に手を乗せこう言った。
焦ることはない、自分の気持ちに戸惑うことは誰だってある。じっくりと時間をかけて自分と向き合う時間が誰だって必要なのだよ、と。
いとおしむように最後に頬を包んだ彼の手の温かさが、ヴォルペは忘れられなかった。
DIOが部屋を後にする際、扉を閉めた音がこびり付いたように耳から離れない。
ヴォルペはしばらくの間石のように動かなかった。ようやく動けるころになると、彼は立ち上がり、男がずっと座っていた椅子に目をやった。
まるでそこに空条承太郎という名の男を創り出そうとするかのように、彼はずっとそこを見つめていた。
ドクドクと心臓が鼓動をたてる音が聞こえた。身体を包んでいた無力感、虚しさはもう薄れていた。
かわりに新しく芽生えた“何か”が、怪しいばかりの生々しさを訴えていた。だがその何かが、今のヴォルぺにはわからなかった。
結局自分は何もわかっていない。自分のことも、仲間たちのことも。そして……DIOのことも。
「知りたい」
そうヴォルペは呟いた。自分が今抱いている感情が一体何なのか、どうなるのか、そしてそれをどうすればいいのか。
同じ無知でも今はそれは絶望の無知ではなかった。DIOが与えてくれた新しい無知、興味だった。
ヴォルペは椅子に腰かけたまま、そっと頬に手をやり、そしてそれを薄暗がりの灯りに透かしてみた。
「空条承太郎、DIO、そして俺自身……」
室内の淡い灯りが青年の細い影を長く落としていた。影に紛れて、彼の表情は伺えない。
最後に呟いた言葉は、誰一人も耳にすることなく、やがて暗闇吸い込まれ、消えてしまった。
-
【E-2 GDS刑務所 外/一日目 午前】
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康。肉の芽
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOさまのために、不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。
【E-2 GDS刑務所1F・女子監周辺一室/一日目 午前】
【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:携帯電話、ミスタの拳銃(5/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面
リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、不明支給品×0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、いつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考える。
1.しばらくはヴォルペを一人にする。その後は……?
2.マッシモとセッコが戻り次第、地下を移動して行動開始。彼とセッコの気が合えば良いが?
3.プッチ、チョコラータ等と合流したい。
4.『時空間を超越する能力』を持つ主催者を、『どう利用する』のが良いか考えておく。
5.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。
[備考]
※『ジョースターの血統の誰か(徐倫の肉体を持ったF・F)』が放送中にGDS刑務所から逃げ出したことは、感じ取りました。
※参戦時期はJC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間でした。
※時間軸の違いに気づきました。
※余分な基本支給品×4(内食料一食分消費)は適当な一室に放置されてます。
※ディ・ス・コから情報を聞きだしました。
【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:疲労(小)、空条承太郎に対して嫉妬と憎しみ?、DIOに対して親愛と尊敬?
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい。
1.空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい 。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。
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以上です。誤字脱字いろいろありましたら指摘ください。
作品名は 062話「神に愛された男」 よりです。
ラジオ楽しいです。嬉しいです。もっと頑張ります。
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タルカス、イギー
投下します
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あたたかな陽光が街路をてらしてゆく。
生命の素晴らしさの象徴のようなその光は、シンガポールホテルの前にうずくまる男の、熊のような巨体も柔らかく包みこんでいた。
つ、と、男の頬にひとすじの光がはしる。
――メアリー様がこのような場所におられなくてほんとうに良かった。
タルカスは泣いていた。
死亡者として読み上げられた中にも、そして名簿にも、敬愛した主君の名は存在しなかった。
それだけで、こころが慰められたことを男は実感していた。
『死者の蘇り』などということがほんとうに起きうるのならば、ふたたび彼女を失うこともありえたのだ。
わが主君への辱めを一度ならず二度までも許してしまったならば……、きっと、世を怨まずにはおれぬ亡霊のように成り果てていただろう。
さきほど死闘を演じた、戦友ブラフォードのように。
もし……、とタルカスは考える。
メアリー様がこの場所におられたとしたら、メアリー様だけを救うため、ほかの参加者すべてを殺すと決心していただろうか。
たとえ彼女が涙ながらに引きとめたとしても、俺はスミレを殺していただろうか。
彼のかたわらにはすでに事切れた少女が眠るように座していた。
固くとじられたまぶたの先のこまやかな睫。、ふっくらとしたくちびる。すべらかで、冷たい頬。
タルカスの大きな左手が、その手ですっぽり包みこんでしまえるほどの大きさしかない少女の頭を撫でる。
彼が敬愛する主君がこの場にいたらという『もしも』が存在しないように、スミレと出会わなかったらという『もしも』もタルカスには存在しなかった。
「スミレ、お前がいう『人間離れした力を持ってしまった』友人が、人のこころを失っていたのならば、どうしていた?
お前はそれを考えたことがあっただろうか」
返事はない。男は自分がはっした言葉を噛みしめるように目を細めた。
スミレを殺した誰かが憎い。こんな無力な少女を殺し合いの場に放り込んだ誰かが憎い。
タルカスの胸中のほとんどを占めるものもまた怨みだった。
手近に置いた槍の穂先が血を求めるようにギラリと光る。
すべて殺してしまえばいい。
神はお前などには微笑まぬ。
求めるままに破壊しつくせばいい。
主君が、スミレが微笑まぬとも、お前の渇きは満たされる……。
-
ため息とともにタルカスは目を閉じた。
スミレの瞳は未来を見つめていた。
無力な少女が、怖気もなく、明日を夢見ていた。
彼女がいたからこそ、スミレの友人である少年は人のこころを失わずにすんだのだろう。
――スミレ、俺は……
彼は戦友を愛していた。
息を吹き返した人としてのこころが、戦友を救わなければならないと確信していた。
――ブラフォード、わが戦友を殺す。
――メアリー様への愛ゆえに、やつを放置するわけにはいかないのだ。
そっと、タルカスの無骨な指がスミレの首輪をなぞった。
手首のようにほっそりとした首にまわされた首輪は固く、冷たい。
せめてこのくびきから解放してやりたいと思った。
だが、この首輪が爆発でもしたら……。
逡巡し、やがて、タルカスは手をおろした。
首輪が爆発すれば、タルカスもまた無傷ではすまされない。
さきほどのブラフォードとの交戦ですでに身体は悲鳴をあげている。
必ずブラフォードを救わんと決するのならば、無駄なリスクは犯すべきではない。
決意を無為にする行為こそ、恥ずべきことだ。そう、彼は信じた。
「むっ……?」
ふと、違和感を覚えた。
いやに低い位置から自分を凝視している視線を感じる。
見やれば、道のむこうから一匹の犬が、こちらを黙って見つめていた。
無力な少女ばかりでなく、犬まで。
そう思ったところで、タルカスはスミレの言葉を思い出した。
『猿の化け物みたいな、怪物』
『悪人に改造され人間離れした力を持ってしまった少年』
この犬も猿や少年と同じように改造された特殊な犬なのかもしれない。
タルカスの左手が槍をつかむ。
犬はおかまいなしにこちらに向かって歩いてくる。
タルカスが油断なく立ち上がった。犬に対して槍を構える。
「犬公ッ、言葉が通じるとは思わんが聞けいッ!
貴様が哀れな改造犬だろうと俺には勝てんッ!
腹を空かせて来たのだとしたらもってのほか、肉塊となる前に消え失せいッ!」
犬の動きが止まった。
利口そうな瞳で、ただタルカスを見つめている。
-
「あっちへ行けと言っているのだッ!!」
声を張るタルカスを見上げながら、クーン、と犬が鳴いた。いかにも寂しそうに。
タルカスの顔に動揺が走る。
その隙に、犬はいかにも慕わしげな様子でスミレのもとへ駆けていった。
「こ、こら……!」
追い払おうとするタルカスの声色にさきほどまでの覇気はない。
まさか、ほんとうに、ただの犬? という疑念がタルカスの胸中を支配し始めていた。
クーン、もう一度寂しげに犬が鳴き、スミレの頬をなめ始めた。
涙の痕をかき消そうとでもするかのように。
いかにも、スミレの死を悼むように。
「お前は、人の死を悼む気持ちを、理解しているのか……?」
ワン、と犬が吠えた。
そうだ、と答えているようにタルカスは感じた。
槍を引き、しげしげと犬の身体を検分し始めたタルカス。
犬の首の短いゴワゴワした毛に見え隠れする、血で汚れた首輪に気付き、哀れみに、その眉根がよった。
「お前もこの殺し合いに巻き込まれているのか……」
犬の前足がじれったそうに首輪をかく。
この邪魔な首輪はなんだ、はずしてくれ、といわんばかりである。
「すまんな、犬公よ。
あいにくだがお前のように無力な生き物でも、元いた場所に戻してやるのはあいかなわぬのだ。
だが、いずれはこの殺し合いの主催者とやらを滅してみせる。
そうすればお前はふたたび自由の身となれるだろう」
犬ははじめ、なんのことですか? といった表情で首をかしげていたが、タルカスの力強い宣言を聞くと、嬉しそうに一声鳴いた。
タルカスの顔にはじめて笑みが浮かんだ。
それは一瞬でかき消されてしまいそうな儚い微笑だった。
タルカスの巨躯がスミレの小さな身体を抱き上げる。その身をこれ以上損ねる者があらわれないようにするために。
その後ろを、小さな影が追った。
* * *
-
(やっぱ人間って単純だぜッ
ちょっと感傷的になってるやつは特にな)
『犬公』ことイギーはタルカスに付き従いながらケケケと笑った。
(ちょっとオリコーで純粋なフリをしてりゃあコロっと騙されちまうんだもんな。
見たとこ、正義感の強いおっさんが無力なガキを助けようとして失敗したって感じだったな。
ご愁傷様、お嬢ちゃんよう。おかげで俺が楽できるぜ)
放送でポルナレフの死を知ってなおこの態度。
それも致し方ないことだろう。
彼はジョースター一行に仲間意識を芽生えさせる前の彼なのだから。
(このおっさん、すでに重傷を負ってるところが気になるっちゃあ気になるが、囮か、最悪弾除けくらいにはなってくれることを期待しとくぜ)
正義感も、危機感も、いまだこの『愚者』には存在していない。
【C−4 シンガポールホテル/一日目 朝】
【タルカス】
[能力]:黄金の意志? 騎士道精神?
[時間軸]:刑台で何発も斧を受け絶命する少し前
[状態]:疲労(大)、全身ダメージ(大)、右腕ダメージ(大)
[装備]:ジョースター家の甲冑の鉄槍
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ブラフォードを救い、主催者を倒す。
1:ブラフォードを殺す。
2:主催者を殺す。
【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:首周りを僅かに噛み千切られた、前足に裂傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1:ちょっとオリコーなただの犬のフリをしておっさん(タルカス)を利用する。
2:花京院に違和感。
-
以上で投下完了です。
誤字脱字矛盾等ございましたらよろしくお願いします。
やっぱり規制中です。規制多すぎません?
どなたか代理投下をお願いします。
タイトルはwiki収録までに考えておきます。
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そして、彼にとっての最大の幸運。
それは隣を歩く青年、橋沢育朗と出会った時期がベストなタイミングで会ったこと。
もしも育朗と放送直前に出会っていなっかったら、嬉々として人を殺して回っていた時期に出会ったら。
彼の持つ邪悪の気は橋沢育朗にとってのトリガー。秘められた力を引き出すためのスイッチ。
仲間を喪った怒りと悲しみのみで攻撃を加えたからこそ、育朗も激情に燃えるビットリオに対して説得を行おうとしたのだ。
邪悪な気配が混ざっていなかったからこそ、橋沢育朗はバオーに変身して戦うことを選択しなかったのだ。
麻薬の禁断症状により思考を奪われたこともプラスに作用している。
考えることができなくなってしまえば、さしものバオーであっても本質を見ぬくことは不可能なのだから。
バオーと万が一戦う事態になってしまった場合、断言できる。
彼の命はなかったと。
『ドリー・ダガー』の弱点は複数あるが、バオーとの相性は最悪と言っても良い程のものである。
足がもがれようとも容易く癒着させるような回復力を持った相手に対し、自身の負ったダメージの7割を転嫁する程度のことが如何に不毛であるのかは想像に難くない。
だからこそ、本性がバレる前に彼の側から逃げ出せたというのは幸運であったという他無いだろう。
幸運は幸運を引き寄せる、そう感じた事のある者も多いのではないだろうか?
当然、無限に続く豪運などという夢物語を信じるものは少ないだろう。
しかし、今のビットリオはまさにこの状況。
続いている幸運によって4人もの参加者を殺害しながらも、状況は一向に悪くなることがない。
ならば彼が怪物から逃げ去る際、無意識に手にしていた育朗のディバッグの中、エニグマの紙に収められていた支給品の中に彼の最も望むものが入っていてもおかしくはないだろう。
そう、人を狂わす禁断の白い粉末が入っていようとも。
だが、何時まで続くかも分からぬ幸運しか持たぬこの少年は、誇りすらも持つことが出来ないこの少年は勝者たりえるのだろうか?
ビットリオ・カタルディは、果たして何かを掴み取ることが出来るのだろうか?
幸運にまみれているはずの彼はある意味では最も不幸な人間なのかもしれない―――――。
【C-5 地下/ 1日目 午前】
【ビットリオ・カタルディ】
[スタンド]:『ドリー・ダガー』
[時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから)
[状態]:全身ダメージ(ほぼ回復)、肉体疲労(中〜大)、精神疲労(中)、麻薬切れ
[装備]:ドリー・ダガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済)、マッシモ・ヴォルペの麻薬
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ
0:ヤクが切れているのでまともな思考が出来ない。目的地も不明瞭
1:兎にも角にもヴォルペに会いたい。=麻薬がほしい
2:チームのメンバーの仇を討つ、真犯人が誰だかなんて関係ない、全員犯人だ!
[参考]
1:彼の支給品はバイクとともに置いていかれました。
現在持っているのは橋沢育朗のディバッグに入っていたものです
2:名簿を確認しましたが、自分に支給されたものは持ってきていません
3:行動の目的地は特に決めていません。というよりも考えられません
☆ ★ ☆
-
「博愛精神に目覚めて人間気取りってか? 笑わせちまうな、おい。
いくら人間のふりをしてても分かっちまうもんなんだよこの"怪物”が」
常人を遥かに超えた筋力を持つ自分の更に上を行く剛力。
古代の拳闘士が現代にやってきたかのような装い。
敵意とも殺意とも違うもう一つの『匂い』が気になったが、それは置いておく。
僕は確信した。
眼の前に立つ相手はカーズ達と同様の存在であるのだと。
そして彼は言った。
「怪物」と。
そう言った。僕のことをそう呼んだ。
違う。
否定せねばならない。
これだけは認める訳にはいかない。
友のことを思い出す。
それだけで不思議と体に力が湧いた。
震える腕で体を起こす。
ろくに動かぬ足でゆっくりと立ち上がる。
男が驚愕に目を見開いた。
構いはしない。
そんなことは関係ない。
やらねばならぬことはたった一つだけ。
確信を込めて、力いっぱい育朗は叫ぶ。
「違う、僕は……人間だ!」
-
育朗がまだ動けたことに僅かに驚いた男も、彼の言葉を聞くと同時に口の端を皮肉げに歪めた。
逃したヤク中の少年など即座に頭から飛んでいく。
「諦めな、てめぇは既に怪物なんだからな。
気持ちはわかるぜ? 人間であることに縋りたいってのはな。
だがもう一度言うぜ、諦めな。もう無理なんだからよ」
今から彼が行うことに意味など無い。
言うならば只の憂さ晴らし。
吐き出す相手の居なかった苛立ちを晴らすための行動。
同じ立場で諦めていない青年を無性に壊したくなった、ただそれだけ。
だが、それでも彼は抗う。
「なんどでも言ってやる! 僕は人間だ!」
「ほぅ、根拠もないのにか? 誰に聞いても今のテメェは化物って言うぜ?」
男の笑みが更に広がる。
「根拠なら、ある」
「ほぅ、強がりかどうかしらねぇが言ってみろよ」
育朗が強く拳を握り締める。
思い出すのはあの感触。
強く握りしめられた掌の温もり。
拳を顔の前に突き出し、育朗は言葉を紡ぐ。
「友が……いや、ダチが僕を人間だと言ったんだ」
二カッと笑みを浮かべたダチの姿が目の前に浮かぶ。
彼の、虹村億泰のかけた言葉が一字一句違わずに耳から聞こえる。
『だからお前も人間だ。 頭がワリーから上手く言えないけど俺はそう思ってる』
育朗の心に勇気が満ちる、なおもふらつく体に力が滾る。
この言葉を嘘にはしない。
たとえ絶大な力を持った男を前にしたとしても。
「それだけか?」
「ああ、それだけだ。たった一つの言葉でしか無い。
だが億泰君は笑いながらお前は人間だと言ってくれた。
同情でも哀れみでもなく心の底から僕を人間と呼んでくれた。
それだけで十分だ」
数時間も行動にしていない人間のたった一つの言葉。
ただそれだけ。
ただそれだけのことだというのは育朗自身も理解している。
しかし、それがなんだというのだろうか。
育朗の瞳は確かに前を向く。
黄金の煌きをたたえながら。
-
「気に食わねぇ」
育朗の耳にギリギリで届くか届かないかの呟き。
ここに来て男が初めて苛立ちを見せた。
「てめぇのダチみたいな物好きがどんだけいると思ってんだ?
他の連中はきっと皆が皆テメェを化け物だって呼ぶぜ」
「それでも、誰に化け物と言われようと僕は、僕と億泰君だけは僕が人間だと信じ続ける!
億泰君が信じた僕が僕を信じる、だから僕は人間なんだ!」
なおも本心を抑え嘲るような態度を崩さない男。
なおも男の言葉に抵抗を続ける育朗。
頑として譲ろうとはせぬ二人のにらみ合いが続く。
が、男の堪忍袋の緒がついに切れる。
クソと小さく毒づくと同時に全身の血管が浮かぶ。
「だからてめぇのその根拠もクソもねぇ考えが一体なんだって言ってんだよ!」
嵐のような咆哮が地下道の大気を大きく震わせた。
常人ならそれだけで殺せそうな威圧感という名の暴風を浴びながらも育朗は男を睨む。
「てめぇも億泰ってやつ正気か? お前みたいなのが本当に人として生きていけると思うか?
断言してやるぜ、怪物の体はいつか誰かを殺しちまうな、ああ断言してやるよ。
甘ったれは知らないかもしれないがな、手加減しても人の体なんて簡単に崩れちまうんだぜ。
ああそうさ、どうやってもあっけなく死ぬんだよ人間なんてな。だったら怪物として生きるしか無い、違うか?」
感情をすべて吐き出すような、すべてを叩きつけるようなそんな叫び。
だが、育朗は男の叫びに違和感を感じた。
それはまるで自分自身の体験かのようで、自分自身に言い聞かせてるかのようで。
男から感じていた謎の匂いの正体。その片鱗を理解した。
「もう一度言ってやるよ。俺たちはもう戻れないところまで来ちまったんだ。
どうしようもねぇんだよ、ああ、クソッタレ!」
"俺たちは”
決定的な言葉。
育朗の浮かべていた表情が険しいものからハッとしたものへと転じる。
男が苦々し気な表情で舌を打つ。
「チッ、余計なことを言っちまったか」
「あなたも……なんですね」
目の前に立つ男が抱えている闇。
それはこの殺し合いに呼ばれた直後の育朗が抱えていたものと同様のもの。
理解した。理解することができた。
「ああ、下らねぇ話もここで終わりだ。最終通告だ、どきな。
さもなくば……殺すぞ」
今までの物とは質が違う殺意が育朗を襲う。
一瞬も怯むこと無く重厚なそれを正面から受け止め、彼は考えた。
-
目の前で荒ぶる彼は億泰君に出会えなかった僕なのだと。
行く先のない迷いや苦悩を諦めることで片付けてしまったのだと。
だから、そう、だから。
「あなたに人を殺させるわけには……いかない!
ここで僕が、止めてやる!」
僕の言葉と同時に飛んできた豪腕。
屈むことによって辛うじて避けることが出来た。
そして同時に飛んでくる顔面を狙う蹴り。
横に転がることでこれも回避。
頬が切れ血が流れるもその程度は気にしていられない。
圧倒的な身体能力の差。
躱すだけでは勝てない、いや、躱し続けることすら出来るかわからない。
どうすれば、いや、分かっている。
彼を止めるためには僕も変身しなければならない。
だが、意図的にコントロール出来ないこの力では。
制御のきかないこの力では。
……彼を殺してしまうかもしれない。
それでは駄目なんだ。
殺すんじゃない、それに止めるんじゃない、彼を……助けなければならない。
『恐怖をわがものとせよッ 怪物よッ!』
突如脳裏に過ぎった重低音。
ホテルで戦った男からの忠告。
『恐怖をわがものとせよッ 怪物よッ!
今のお前は何物にも成れん、哀れな生き物でしかない。
何のために戦うのだ? 誰のために戦うのだ? 誇りを持たぬ戦いなんぞ、犬のクソに劣っておるわッ』
-
誰のため、何のために戦うのか。
僕はまだ決めかねていた。
この殺し合いを止めるため? 人々を助けるため。
そうだ、それも大事だ。
けど、けど今僕がやらねばならぬのは、僕の戦う目的は。
「僕が、僕があなたを人間だと信じる! だから……」
眼の前にいる男を止めることだッ!彼の手を差し伸べることだッ!
何があっても彼の手を握ってみせる。
逃げようとも暴れようとも彼の手を握りしめて絶対に離してなんかやるものか。
ダチが教えてくれたこと、今度は僕が彼に教えるんだ。
僕の力はこのためにある!
だから……。
僕は僕の中の怪物を制御してみせる。
僕は人間なのだから。
僕のことを信じてくれるた人間がいるのだから。
そのために恐怖を克服してやる!
怪物を克服してやる!
「あなたも自分が人間だと信じてくれ」
さぁ、僕に力を―――――貸せ!!!
-
バル
バル バル
バル バル
バル バル バル
バル バル
体が作り変えられていく感覚の中、スミレと億泰君が笑っていた。
「よく言ったわ育朗」「よく言ったじゃねぇか育朗」二人してそう言って笑った。
そんな気がした。
億泰君、スミレ……ありがとう
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バオーは、いや、橋沢育朗は思った。
目の前の男から発せられている嫌なニオイを消してやるッ!
強く感じられるこの"悲しみ”のニオイを消してやるッ!
-
【D-5 地下/ 1日目 午前】
【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中。全身ダメージ大(急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:億泰君、ありがとう。スミレ、ごめん。僕は僕の生きる意味を知りたい
1:眼の前にいる男の悲しみのニオイを消す
2:それが終わったら少年(ビットリオ)を追う
[備考]
1:『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました
2:名簿を確認しましたが、育朗が知っている名前は殆どありません(※バオーが戦っていた敵=意識のない育朗は名前を記憶できない)
3:自身のディバッグはビットリオに取られましたが、バイクの荷台に積んであったビットリオの支給品はそのままです
ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、基本支給品、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
4:バイクは適当な位置に放置されています
【レオーネ・アバッキオ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:健康
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:護衛チームのために、汚い仕事は自分が引き受ける。
1.目の前の男を倒す?殺す?
2.殺し合いにのった連中を全滅させる。護衛チームの連中の手を可能な限り、汚させたくない。
3.全てを成し遂げた後、自殺する。
【備考】
※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。 吸収などはコツを掴むまで『加減』はできません。
-
投下完了です。
代理投下してくれている方、本当に有難うございます、感謝です
-
うっかり投稿ボタン連打したのかいきなり規制食らったんでこっちで投下します
手の開いてる方がいらっしゃれば転載おねがいしますね
-
.
体の主導権をよこせ。
怪物がそう囁く。
力いっぱいに拒絶する。
明け渡してなるものか。
奪われてたまるものか。
たった一つ残された意志をくれてやるわけにはいかない。
心の中、自分と怪物だけに聞こえる声で抗った。
尚もしつこく迫る怪物。
思わず持っていかれそうになる。
だが、それでも決して折れない。
己の内から怪物を消さんと強く念じる。
幾度も侵略者への拒絶を繰り返し、彼は自身を守ることに成功した。
★ ☆ ★
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不思議な感覚であった。
視覚でもない、聴覚でもない、嗅覚でもない、触覚から全ての情報が流れこんでくる感覚。
未知の経験に多少戸惑う育朗であったが、目の前から感じる"におい”で即座に我に返った。
変身前よりも遥か濃厚に感じられる悲しみのにおい。
殺意のように突き刺す様な刺激はないものの、深く絡みつくようでいてどこか儚さを感じさせるにおい。
不快だった。これ以上感じていたくないものだった。
だから橋沢育朗は改めて誓う。
このにおいを止めてやると。
「ほぅ、それがてめぇの本性かよ怪物」
爬虫類のような質感をした蒼い肌。
顔の各所に無数に走るひび割れ。
額の少し上に生えた触角。
塞がれたかのようになっている左目。
見るからに硬そうな波打つ髪。
長く伸びた爪。
発達した筋肉。
人ならざるにおい。
「俺よりもずっと人間離れしてるくせに、あんなでかい口叩くなんてな」
男が嘲るかのごとく笑う。
バオー、いや、橋沢育朗はそれに応えようと口を開く。
しかし、唇から漏れたのは『バル』という意味の持たぬ言葉だけ。
この形態では喋ることができない。育朗はそのことを初めて理解した。
「来いよ怪物が。相手するのは面倒だが、邪魔されるともっと面倒だからな」
露骨過ぎる挑発。
分かっていながらも育朗の両足は激しく大地を踏みしめた。
一瞬の交錯。
突き出された育朗の右拳を男が握って止める。
男が不敵に笑った。
力任せに、無造作に育朗の体を持ち上げ、地面へと叩きつける。
小規模なクレーターが生まれた。
育朗が苦しげな呻き声を出し、僅かに血を吐く。
が、男の脚が迫ってきていることを感知し、咄嗟に両腕で防いだ。
大きく浮き上がる体。
しかし、空中で体勢を立て直す。
吹き飛ばされた先にある石壁を蹴って男へと肉薄。
油断した男の顔を思い切り拳で殴りつける。
男の体が盛大に仰け反った。
追撃を加えようとするも、嫌な気配を感じ一度距離を置く。
直後、顎のあった辺りを蹴り上げる一撃が空を切る。
「なるほど、考える頭はあるってことか」
-
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折れた鼻を指で無理やり元の形へと戻しながら男がつぶやく。
直感に任せて避けていなければどうなっていたのか、育朗の背筋に冷たいものが過ぎった。
だが、それしきで呑まれる彼ではない。
再度両拳を握りしめ、半身を向けるような構えを取る。
武装現象が使えぬわけではない。
本能のような物でうっすらとその存在を感じ取ってはいた。
両手首から出る万物を切り裂く刀、掌から放出される全てを溶解させる酸、あらゆるものを焼きつくす毛髪。
これらの能力が自身に備わっていることは知っていた。
だが、育朗はこれらの能力を使用しない。
殺傷能力が高すぎるため男を誤って殺害してしまう恐れがあるから?
もちろんそれもある。だが違う。
拳に思いを乗せるから。友が握ってくれた掌で思いを伝えるから。
だからこそ橋沢育朗は身体能力のみを武器に男へと立ちはだかる。
「オラァ!」
今度は男が先に仕掛けた。
急接近からの腹部に対するブローじみた一撃。
体を捻ることで外側へと回避し、その勢いを殺さず裏拳を放つ育朗。
だが、男が伸びきった腕を無理矢理開くように動かし、育朗の脇腹へとぶつける。
勢いが乗ってないためダメージは少ないものの体勢が完全に崩れた。
追撃として放たれた蹴撃。
育朗の肋から砕けた音が鳴る。
息が一瞬止まる。
それでも戦意を挫かれることはない。
怪我など負わなかったかのごとく着地し、瞬時に構えを取る。
「俺を止めるって言っただろ? やってみろよ」
語気とは裏腹に一層強まる悲しみのにおい。
育朗は立ち上がる。
止めなくては。
力尽くになってしまうかもしれない。
喋れない今、心を伝える手段は拳一つ。
が、悪くない。
言葉による説得が失敗した今、伝える手段としてはこれがいい。これしかない。
折れた骨がくっつくのを感じるとともに再度仕掛ける。
「バルッ!」
咆哮と共に放たれた牽制気味のジャブ二発。
当てるだけの軽いものとはいえ、バオーの膂力を考えれば必殺の一撃。
しかし、男も並の存在ではない。
胸板に拳をぶつけられるも、そんな攻撃はものともせずに男は距離を詰める。
育朗は咄嗟に膝を上げた。
男の腹に膝の先端が突き刺さり、表情が僅かに歪む。
生じた隙を逃す真似はしない。
右頬へと育朗の拳がめり込み、盛大に男は吹き飛ばされ、岩肌に頭をぶつける。
-
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普通ならばこれで決着がつく場面。
人間はおろか、吸血鬼ですら頭を砕かれ派手に血の華を咲かせていたであろう状況。
だが、相手の肉体はそんな脆弱なものではなかった。
超越種、柱の男のボディがその程度で壊れてしまうほど軟なものであるはずがない。
片手で頭を抑えながらも男は平然と立ち上がった。
あの一撃でも決着どころか深手にもならない。
更に気を引き締めた育朗。
だが、彼の体が一瞬硬直した。
男の瞳に宿る今までとは違う色。
依然として頭を抑えている男の瞳に薄ら寒いものを感じた。
「わざわざ待ってくれるなんて優しいこったな」
が、頭から手を離し、軽口を叩くと共にその色は消え失せる。
育朗の首元を狙って放たれる横薙ぎの手刀。
腕を上げて防いだものの、男の腕が蛇のように絡みつく。
関節を完全に無視した動き。
振りほどこうともがく育朗の腹へと男の前蹴りが入る。
一発。
二発。
三発。
男も育朗も戦闘中の人外じみた動きは半ば本能的に行なっている。
が、この蹴撃は違う。
脳の持ち主が得意としていた馴染みのある攻撃。
肉体が覚えてなくとも頭が動きを覚えていた。
育朗が血を吐き出す。
が、四発目は入らない。
脚に意識がいって力が緩んだ隙を狙って育朗が無理矢理絡んだ腕を振り払った。
そして飛んでくる足の側面へと自分の脚を叩きつける。
男の膝から骨の先端が突き出した。
バランスを崩し、倒れる男をよそに後ろへと飛び退いて距離を置く。
追撃の好機ではあるが、自身の内蔵へのダメージを考慮して回復を優先。
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負傷の度合いの差か回復力の差かは分からないが先に再生が完了したのは男の方。
一飛びで距離を縮め、猛然と両腕を突き出す。
形容するならばそれは拳の嵐。
育朗もガードに専念するも、内蔵への損傷が癒え切っていない体である。
反撃の糸口を掴めないどころか、徐々に押し切られていってしまう始末。
最初は勢いが殺された攻撃、そしてそれを皮切りに次から次へと直撃する防御をすり抜けた連打。
硬質化した皮膚がある程度の攻撃は防ぐ。
だが、当たりどころが悪ければ骨折は不可避。
飛んでいく育朗の体が男の射程から離れる前に負った損傷は数知れず。
それでも彼は立ち上がる。
またしても猛追する男。
今度は距離を取ることを意識しつつ後退しながら捌いてゆく育朗。
ひび割れた骨がくっつき、折れた骨が正しい位置に戻り癒着、粉砕した骨が急速に新しいものへと生まれ変わる。
が、それも途中で終わった。
男に頭を掴まれ、そのまま岩壁へと押し付けられる。
育朗を中心に亀裂が入り、衝撃で天井からパラパラと小石が落ちた。
半ば埋まる形になった育朗に男は追撃を仕掛けようとしない。
待つこと数秒。
壁から体を引っ張りだした育朗。
それでも立ちはだかる。
まるで傷など負っていないかのように振る舞う育朗。
だが頭への衝撃が影響をもたらさないわけがない。
男の顎を狙った蹶り上げに全く対応できず、育朗は天井まで飛ばされた。
ぶつかった衝撃で洞窟内が大きく揺れ、照明が幾つか砕ける。
降り注ぐガラスのシャワーになど目もくれずに育朗を凝視する男。
しばし天井に張り付いていた彼もやがて重力に引かれて落下。
受け身をとることすら許されず、盛大に地面とキスをする羽目となった。
だが、彼は諦めない。
立ち向かう。
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それはあたかも先ほど変身する前の育朗が行ったことのリピート。
傷つき、立ち上がる。
ただそれだけの繰り返し。
いくら痛めつけられようとも諦めないその姿は依然として変わることが無い。
しかし、たった一つだけ変わったものがある。
それは男の心情。
男の心中を占めるのは苛立ちではなく疑問。
諦めの人生を送ってきたと感じている彼にとっては不思議だった。
いつも途中で投げ出してきたと思い込んでいる彼にとっては謎だった。
自分は何も成し遂げられないのだと常に考えてきた彼には理解できなかった。
今までとは違う棘のない声で男は尋ねる。
「なんでてめぇはそこまでして立ち上がろうとするんだ?
いくら一人で肩肘張ったところで他の連中どう考えるかぐらいは分かるだろ?
諦めちまえよ。なぁ、おい。無理する必要はねぇと思うんだがよ」
何を今更。
男だって分かっている。
こんなことを言ったところで目の前の相手が折れるはずないのだと。
なのに聞かずにはいられなかった。
「無駄になるんだぜ? いくら頑張ろうとも認められなきゃ終わりさ。
例えば誰か一認められたとしてもだ。
周りいる人間が一人でも怪物だって言えば他の連中はそれに追従するだろうよ。
てめぇはどう思って……そんな苦労を背負い込んでいるんだ?
いや、答えなくていい。わかってるさ」
ああ、これもだ。
聞くまでもない。
自分が人間だと強く信じているから。
無駄になるとしても、諦めたら最初から可能性を失うから。
諦めたら終わりだから諦めない。
そんな笑ってしまうほどシンプルな解。
されど彼にとってはずっと掴みかねていた難解な答え。
男の中にある靄がわずかに晴れた。
そして生まれ来る一つの願望。
「遠慮してんだかなんだか知らねぇが本気で戦ってないってことは分かってんだぜ?
はっ、なめられたもんだな俺も。手加減なんてやめてかかってきな怪物。
てめぇの理想も力も無駄だって俺が教えてやるからよ」
-
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育朗が完全に回復をしたことを確認して男はニヤリと笑う。
次の瞬間には男の姿は消える。
フェイントも牽制も一切ない正面切った渾身の拳。
胸に突き刺さったそれによりまたしても育朗が口端から血を流す。
後ろに飛ばされていきそうになる体。
が、両の足を踏ん張ってそれを堪える。
結果、数メートルの後退で育朗の体は止まった。
そして彼も派手に大地を蹴り、開いた距離を加速に利用。
お返しだと言わんばかりに固く握りしめた拳を鼻っ柱へ。
初めて見せる一切の手加減を抜いた一撃。
男の上体が派手にのけぞった。
だが、堪える。
育朗の全力は予想以上のものだが、それでも踏ん張る。
仰向けに倒れたりなどすることなく、ギリギリで体勢を維持した。
反った体を戻す勢いを利用して自身の額を育朗の脳天へとぶつける。
頭への攻撃に僅かにふらつく育朗であったが、即座に男の腹へと拳を叩き込んだ。
体が僅かに浮き、吐き気が起こるも、それを無視して同じ箇所への同じ攻撃。
ガードなど無い。
一撃貰えばそれよりも強烈な一撃を返す。
身体能力の優劣など関係ない。
勝敗を決めるのは意志を押し通すというエゴと意地。
殺意などはない。
純粋に互いをぶつけあうだけ。俺を/僕を認めろと拳で叫ぶだけ。
肉が裂け、骨が砕け、血が流れる。
二人の回復力などとうに追いつかない。
折れた腕を直せば頭に大きな裂傷が生まれる。
内出血を止めれば今度は腿の動脈が破裂する。
砕けた鼻を修復すれば脛骨にヒビが入る。
血で鈍った感覚器官を正常に働かせれば次は内蔵が血を流す。
どんな重傷を負ってもこの二人は止まらない。止められない。
言葉ではダメだった。
ぶつけあう事でしか会話ができなかった。
男が今までとの皮肉げなものとは違う笑みを浮かべた。
育朗の唇が気のせいではないかと思うほど僅かに動いた。
捻くれ者の男が感情を思う存分発散できた。
今まで本心を見せなかった男が初めて心を開いた。
だから二人は戦いをやめない。
本来ならばこのような事をするはずのない両者がひたすらに殴りあう。
嬉々としながら互いの体を傷つけあう。
いや、彼らにとってそんな考えは微塵もない。
会話をしているのだから。
ぶつけ合いにしか過ぎない不器用なものにしろ、それは確かに会話なのだから。
-
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「まだやるか?」
血だるまとなった男が尋ねる。
当然と言わんばかりに育朗が拳をぶつけた。
育朗の返事に男は満足気に拳で返す。
怪物の体を持っていたはずの両者。
だが、その肉体にも限界は近い
丸太のごとく太くなった脚が笑い始め、小刻みに震える
無尽蔵であるはずの体力は枯渇しかけ肩で息をする始末。
「いいかげん、倒れやがれ!」
男が吠えた。
放とうとするのは体力の消耗も全身の負傷も関係ない、これまでで最高の一撃。
踏み込んだ足によって地面が沈む。
残像を見ることすら許さぬ体の捻り。
育朗が眼の前にいるはずの男の姿を完全に見失う。
風圧で髪が揺れるのを感じた。
次の瞬間。
間髪入れずに襲い来る衝撃。
心の臓が上から潰される感覚。
膝を付きそうになる。
意識が遠ざかる。
力の抜けた脚がガクンと曲がった。
が、踏みとどまる。
体に土をつけるものかと耐える。
男の口元が僅かに動いた。
「ああ、俺の負けか……」
呟いた直後、全身へと伝わる衝撃。
男の巨体が仰向けに倒れていく様をスローモーションで眺め、育朗は勝利の咆哮を上げた。
まだ説得は終わっていないのも分かっている。
自分の意見を完全に押し付けることができたわけではない事は理解している。
それでも育朗はただただ叫んだ。
★ ☆ ★
-
.
「分かってたさ、言われねぇでも分かってんだよ俺だってな」
そう言いながら男は上体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
今までの荒んだ空気が霧散し、男の周りに穏やかな気配が流れていることを育朗は感じ取った。
だから男と同様 構えを崩し、彼の言葉一字一句に耳を傾ける。
そして、育朗は変身の解除も行う。
バオーの状態では言葉を発そうと思えど不可。
この場では戦闘力よりも対話が必要と考えたゆえの判断。
初めて経験であるが、開始時と同様にスムーズに行うことができた。
自分の体が戻ってゆく感覚を味わいながらも男の言葉を聞き逃すまいと神経を尖らせる。
「まだ俺が人間をやめきれてねぇからこそ、こんなことを考えちまうってことはなぁ。
だが一つだけ言ってやるぜ。この体の主食は人間だ。
他の食いもんで代用が効くかどうかは分からねぇが、ダメだったら俺は生きるために他人を喰わなきゃならなくなる。
いや、既に一人食っちまったんだよ俺は。人間をな。
それでもお前は俺を人間と呼ぶか? 人食いの怪物のことをよ」
人間をやめられないからこそ、人間を喰ってでも生き延びることができない。
最後に残されたこの矜持を捨ててしまえばもはや怪物そのものなのだから。
しかし、食物を食べずに死ねなどとはそれこそ死んでも言うことができない。
育朗は理解した。
男が抱えている絶望の一端を。
それは表面上の薄っぺらい一部に過ぎないのかもしれない。
真に共感できるのは男と同様の境遇になったものだけかもしれない。
それを理解しつつ、それでも育朗はイエスと叫ぶ。
穏やかでありながらもハッキリと叫ぶ。
「ああ、僕はそれでも貴方を人間と呼ぼう。
人を食べたと言っているけど、貴方は後悔している人だ。
事情は分からない。だとしても命を奪ったことについて開き直れないなら、まだ怪物じゃない。
それに、もしも人を喰わねば生きてゆけぬのなら……その時は僕の体を喰えばいい」
バオーの回復力を以ってしてもトカゲの尻尾のように切断した四肢が再生するかは分からない。
しかし、再生可能な程度に肉を抉るくらいならば幾らでも構わない、育朗はそう考える。
苦痛が伴うのも承知の上、覚悟の上。
男が感じている痛みを考慮すればそれしきの痛みを躊躇する訳にはいかない。
一瞬だけ感じた疑問。
なぜ、育朗は自分のためにこんなにも必死なのだろうか。
問いかけずにはいられなかった。
答えなどとっくに出ているのに。
「どうして俺のためにそこまでする?」
「なぜって? 僕も貴方も人間だからだ」
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間髪入れず返された答え。
想定と一字一句違わぬそれに思わず苦笑が漏れる。
「言うと思ったぜ。クソッ、てめぇのしつこさには負けたよ」
半ば吐き捨てるように喉から出した言葉。
悪態をつきながらも発した降参の言葉。
育朗の表情が綻んだ。
心底から嬉しそうな笑みを浮かべる。
男もそんな育朗へと静かに歩み寄った。
殺気も敵意も感じないため、育朗は警戒を見せない。
一メートル程まで近づいた男が自身の顔を育朗のそれの正面へと寄せる。
そして、男は育朗の双眸を凝視したまま囁いた。
「だが、最後に聞いておくぜ。もしも俺が暴走したら、どうしようもない状況になったら……殺してでも止めてくれるか?」
硬直。
男の瞳は視線を外すことを許さない。
僅かな逡巡の後、育朗は小さく首を縦に振った。
しかし、その瞳に強さはない。
肯定の意志に嘘はないのは理解できた。
が、それでも躊躇うのだろう。
男は思わず鼻で笑う。
「底抜けの甘ちゃんだぜ、てめぇ」
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腹部に一撃。
崩れ落ちる育朗。
世界が黒く反転する。
肉体的な苦痛などどうでもいい。
最後に見たのはどこか寂しげな男の瞳。
それが気になるもこれ以上の思考は不可能。
石段に叩きつけられる感覚と共に完全に途絶えた意識。
ピクリとも動かなくなった青年を見下ろしつつ嘲笑の声を上げた男。
「これで邪魔も入らなくなったしなぁ。さっさとあいつを殺しに行くとするか」
★ ☆ ★
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「うぅ……」
呻き声を上げながら育朗が体を起こす。
気絶する前に起きたことを忘れていたのかしばし呆然とするも、直ぐに我を取り戻し警戒態勢に入る。
男は自分を殺さずにどうしたのか。
男が見せたあの瞳は一体何だったのか。
男が吐いた言葉の真意とは。
分からないことだらけの中、辺りを見渡すと、棒立ちで立ち尽くす男の姿を見つけた。
「よかった」
育朗は思わず息を漏らす。
ビットリオの殺害に向かったのではないかという懸念が無くなったことに心の底から安堵した。
だが、ピクリとも動こうとしない男はどう見ても尋常な様子でない。
彼が何を考えているのかが一切理解できぬ育朗は恐る恐る声をかける。
「あの……」
返事がない。
それもビットリオの様に完全な無視を決め込んでいるのではなく、銅像の様に動かない男。
鍛えぬかれた肉体美もあり、その様は古代の彫刻であるかのごとき神々しさを放つ様は本当に人間離れしていると今更ながら思ったものの、今はそれどころではない。
育朗が二度目の呼びかけを行おうと手を伸ばした、その瞬間。
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「あー、その、なんだ」
どこかバツの悪そうな表情を浮かべ、男が口を開いた。
敵意の欠片すら見えない事に育朗の表情がわずかに綻ぶ。
思いが通じたのだと。
今の戦いは無駄ではなかったのだと。
そんな育朗の様子など知らなかったように男は言葉を続ける。
「今から俺が喋る内容は、いや、俺が自分のスタンドに喋らせるのはいわゆる遺言ってやつだ。
一応事情を説明しておいてやるが、俺の怪物の体はこの殺し合いで手に入れたもの。
簡単に言えば怪物の体に奴のものと交換する形で俺の脳を移植してこんな体になっちまったんだ俺は。
で、問題はこれからだ。
お前が変身し始めた辺りから脳が無くなって死んだはずの怪物が囁くんだよ、『俺の体を返せ』ってな。
俺だって抵抗したがよぉ、無理だった。
戦ってる中で徐々に俺の脳が侵食されていく感触ってのがハッキリしてきやがるし、声もどんどん大きくなりやがる。
だから、こいつを道連れに死ぬことを決めたのさ。そうするしかないんだ、仕方ねぇって話だな。
幸い太陽に弱いって弱点があるらしいからな。自殺も簡単でありがたいこった」
育朗の表情が凍りついた。
男が自ら命を断つ。
理由は確かに納得できるもの。
しかし、自分の言葉は拳は無駄だったのか。
絶望の影が姿を現したところで男は言葉を続ける。
「だがな、勘違いするなよ? 俺はヤケクソを起こして死ぬわけじゃないんだ。いいか、ここは間違えるなよ?
俺は人間である誇りのために死ぬんだ。
おめおめ怪物にもう一回乗っ取られるなんて真っ平御免だからな。
おっと、むしろヤツが自分の体を取り戻すってのが適当か? いや、そんな話はどうでもいいな。
とにかくだ、もう一度言うぜ。俺は人間だからこそ、この怪物を抱えたまま死んでいく。
任務でも仲間のためでもねぇ、俺のために、人間としての誇りってやつを守るために。
これがレオーネ・アバッキオとしてできる最後で最大の抵抗ってやつだ。
お前のおかげで俺は人間として最期を迎えることができた。
最後まで甘い理想論ばかり言いやがっていけ好かないやつだったが、これだけは感謝しといてやるぜ。
どうせクソ真面目そうなお前の事だから、俺の死についてグダグダ悩むんだろうが、馬鹿馬鹿しいから辞めときな。
俺がやるべきだと思ったからやった、それだけは勘違いするなよ?
お前の言葉で思いつめた俺がこんなことしたなんて調子乗ったこと考えてんならあの世で笑ってやるよ。
いいか? 何度でも言ってやるぜ? 確かに切っ掛けはお前かもしれないが、決めたのは俺だ。
生憎てめぇみたいな糞ガキの言葉に一々感激しましたなんてハッピーな野郎じゃないんでな俺は。
それと、最後の質問についてだが深く考えなくていいぜ。
てめぇのことは自身で決着を付けなきゃいけねぇのは分かってたんだ。
押し付けたりするなんて恥ずかしい真似ができてたまるか」
-
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少なくとも自身の行動がアバッキオに多少なりとも影響を与えることができたのだと知り、暗闇が晴れることを確かに感じた。
そのことに感謝するも、男が喋る間、育朗は一切声を発さない。
これは記録であってレオーネ・アバッキオ本人ではないのだから
厳しい言葉も優しい言葉も全て心に刻まんと耳を傾ける。
「それで、だ。一応遺言らしいこともやっとかねぇとな。
まず、俺の足元にディバッグを置いといたからうまく使いな。
次に、ブローノ・ブチャラティ、パンナコッタ・フーゴ、グイード・ミスタ、ナランチャ・ギルガ、トリッシュ・ウナ。
……それとジョルノ・ジョバァーナってやつに出会ったらレオーネ・アバッキオがよろしく言ってたと伝えといてくれや。
ブチャラティ以外は全員一癖も二癖もある連中だが、お前の力になってくれると思うぜ。
それに、お前を人間だとすんなり認めてくれるだろうよ、俺とは違ってな」
ちらりとアバッキオの足元に目をやると確かにディバッグが置いてあった。
だが、まだそれは拾わない。
アバッキオが告げる仲間たちの名を頭で何度も反芻し、決して忘れぬように刻む。
そうしていると、再びバツの悪そうな表情になったアバッキオが僅かに困ったかのような声を出した。
「適当に気絶させたからお前がいつ起きるか分からねぇんだよな。
こんだけ長々と喋っといて聞き逃してましたってんじゃ笑い話だ。
やっぱりらしくねぇことなんてやるもんじゃねぇ。
リプレイ中に起きた時の事を考えてここで改めて言っておく。
これは俺のスタンドが再生してる俺の遺言だ。
怪物が俺の体を乗っ取ろうとしてどうしようもないから、ヤツを道連れに死ぬことにした。
てめぇに責任はないからくれぐれも勘違いすんなよ? 一応感謝はしてるんだぜ俺も。
これ以上喋ってると俺が生きてるうちに終わらないからそろそろ終わりにするぜ。
言わねぇでも解ってると思うが、頑張れよ。俺の分もな。」
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――――――あばよ、人間
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そう言い残して男の姿が徐々に粒子状へと変わり溶けてゆく。
スタンドの消失が命の喪失とつながっている事を育朗は知らぬが心で理解した。
目の前にいた"人間”はたった今その生命を落としたのだと。
誇り高き人間はそのプライドを失うことなくケジメをつけたのだと。
アバッキオがそうせねばならなかった理由は痛いほど理解できた。
しかし、それでも、それでも育朗は少しだけ気分が沈む。
「僕は……結局手を握ることができなかったのか?」
自分の言っていることが全くの間違いであるのは理解できている。
アバッキオの残した言葉が全て嘘でないと、育朗の言葉は確かに届いていたのだということは分かる。
だが、そう割り切るには育朗はあまりにも真面目であり、優しすぎた。
「すみませんアバッキオさん。僕はまだ自分に一切の責任がないと言えるほど強くないんです。
もしも僕にもっと力があれば、もしも僕がもっと上手く言葉に出来れば。
そんな後悔ばかりしてしまいます、本当にごめんなさい」
天に昇った人間へと己の弱さを詫びる。
育朗に残った唯一の誇りは涙を見せないこと。
時折悔しそうに地面を眺めるものの、決して歩みを止めることはない。
「強くなります。もっと、今度はこんな後悔しないようにもっともっと。
絶対に立ち止まったりしない。それだけは約束します。
これは……あなたが人間と認めてれた僕の誓いです」
だから、僕がそっちへ行ったときは許してください。
最後の小さな呟きは地下道に溶けて消えた。
ビットリオを追わなくてはならぬ以上、長々と感傷に浸る訳にはいかない。
アバッキオの遺したディバッグを拾い上げ、放置していたバイクへと歩み寄る。
一時は近づきながらも結果的にそことは逆方向へと進んでしまったドレスの研究所が気にならないわけではなかったが、今は少年の保護を優先。
音や匂いが探知の邪魔をするのを防ぐためエンジンはかけずに今まで通り押しながら進む。
その最中、育朗はふと天を見上げた。
空が見えた。
無機質で冷たい色をした岩肌などではない。
日差し降り注ぐ明るい空が。
彼が最期に見たであろう景色が。
青く澄み渡った今にも落ちてきそうな空が。
【エシディシ 完全消滅】
【レオーネ・アバッキオ死亡 残り66名】
.
-
【D-5 地下/ 1日目 昼】
【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中。全身ダメージ大(急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:バイク、基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、地下世界の地図、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:億泰君、ありがとう。スミレ、ごめん。僕は僕の生きる意味を知りたい
1:眼の前にいる男の悲しみのニオイを消す
2:それが終わったら少年(ビットリオ)を追う
[備考]
1:『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました
2:名簿を確認しましたが、育朗が知っている名前は殆どありません(※バオーが戦っていた敵=意識のない育朗は名前を記憶できない)
3:自身のディバッグはビットリオに取られましたが、バイクの荷台に積んであったビットリオの支給品はそのままです
-
投下完了です。
誤字脱字その他指摘がありましたら遠慮なくどうぞ。
改めてどなたか代理投下をお願いします
-
代理投下してる人見てるなら先頭のピリオドも一緒にコピペしていただけると助かります
注文が面倒で申し訳ない
-
ダメだー規制入った
他の人お願いします
-
状態表ミスなんでこっちに差し替えお願いします。
規制が解除されないっぽいんで完全に任せる形ですみません
【D-5 地下/ 1日目 昼】
【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中。全身ダメージ大(急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:バイク、基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、地下世界の地図、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:億泰君、ありがとう。スミレ、ごめん。僕は僕の生きる意味を知りたい
1:少年(ビットリオ)を追う
[備考]
1:『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました
2:名簿を確認しましたが、育朗が知っている名前は殆どありません(※バオーが戦っていた敵=意識のない育朗は名前を記憶できない)
3:自身のディバッグはビットリオに取られましたが、バイクの荷台に積んであったビットリオの支給品はそのままです
-
相変わらず規制中です。どなたか代理投下をお願いします
ジョナサン・ジョースター、花京院典明、ラバーソール、ナランチャ・ギルガ、パンナコッタ・フーゴ、ジョンガリ・A
-
ジョンガリ・Aは白内障によってほとんどの視力を失ってはいるが、まったく目が見えないというわけではない。
くわえて、卓越した狙撃手としての感覚と彼のスタンドで気流を読むことによって建物の位置や人の存在は察知できた。
光ささぬその瞳は、常人が見えている範囲より多くの物事を見通していた。
だが、彼はこの殺し合いの場において幸か不幸かでいった場合、不幸な状況にあった。
地図や名簿といった薄っぺらな紙は彼になんの情報も与え得なかったからである。
敬愛すべき主君も、幼き頃より見知っている神父も、この場にいるかすらわからない。
放送を聞き終えた彼がまず情報を欲したのは、当然ことだといえる。
空条承太郎と、その同族が最初のステージで死に、そして空条徐倫が死んだ。
死んだ者がそれだけだったならば彼にとって疑問はない。
この殺戮のゲームはジョースターの血統を根絶やしにするために行われており、なすべきことは参加者の殺害。
そうシンプルな結論に落ち着く。
しかし、あまりに死者が多すぎた。
ンドゥール、そしてDIO様に似た空気をまとった青年の存在……。
ジョースターの血統に仇なす者たちもまた同様に集められ、一緒くたに殺し合いを強要されているのではないか。
そうなれば、と彼は考える。
俺のすべきことはDIO様の護衛。
二度とあの方を失わないチャンスがここには存在しているのだ。そのためにはまずあの方を見つけださなければならない。と。
皆殺しか、情報収集か。
ジョンガリ・Aは、その両方をとった。
すなわち、情報を得つつ殺害を行う。
放送を経て決心したジョンガリ・Aが察知したのは、南から北上する青年の姿だった。
* * *
-
――山岸由花子を放置するべきではなかったかもしれない。
あらためて、現状を鑑み、花京院典明はそう考えていた。
山岸由花子は空条承太郎を知らなかったようだが、このゲームにはジョースター家に類する者、そして彼らに関わりを持った人間が多く存在する。
何名かはDIO様と空条承太郎がたどった「歴史」を知っているのだろう。
つまり、間接的にも、空条承太郎の仲間は多く存在していることになる。
DIO様の敵が多いということは、とどのつまり私が始末すべき敵が多いということを意味する。
だというのに……!!
『花京院典明』という人間が『DIO様の敵である空条承太郎を抹殺しようとしている』。
そのことを山岸由花子は知っている。
山岸由花子が殺害をもくろんでいた広瀬康一はたくさんの仲間に囲まれていた。
どうせ返り討ちにあうだろうと彼女を放置したが、彼女がなんの情報ももらさず死亡する確証はない。
彼女は私のことを憎い相手と認識していただろう。空条承太郎に関係がある相手と出会った場合、私の情報を漏らす可能性は十二分にある。
触れるだけで相手の記憶や思考を読みとる能力――そのようなスタンドも存在しないとは言い切れない。
『未来の花京院典明』は空条承太郎の仲間だったとアレッシーは語った。
ジョースターの一味と信頼関係を築いていたのならば、彼らは自分を見て、仲間だと認識したかもしれない。アレッシーのように。
現在の私には「仲間になった」という未来を知っているアドバンテージがある。
空条承太郎や他の仲間の寝首をかけるステータスが私には備わっている。
しかし、最初から疑われていたのでは不意を打てる可能性は大いに下がってしまう。
――あの方のお役に立ちたいと願ったのなら、どんなミスも犯すべきではなかったのに……。
名簿もなかった状況では、本名を名乗るべきですらなかったのかもしれない。
山岸由花子から信頼を得ようとしたところで、なんの意味もなかったのだから。
山岸由花子は爆音の響いた方へ向かった。
追いかければ、山岸由花子かあるいは広瀬康一とやらが殺されかかっている状況に間に合うかもしれない。
広瀬康一を助けるふりをして山岸由花子を殺害すれば……。
花京院典明の足は自然と北へとむかう。
しかし彼は山岸由花子に追いつくことができなかった。
先行させたスタンドの視覚が、ライフルを背負った長髪の男の姿をとらえていた。
* * *
-
「殺害を依頼した相手までリストに載せるバカがいるか……?」
地図でいうところのF-8北側にある民家の一室で、男の嘆息が漏れた。
そこは、しがないサラリーマンの住居とはにわかに信じられないような洋風二階建ての戸建て。
川尻浩作が毎月13万円の家賃を支払い、家族と住んでいた家屋である。
いまそこにいるのは、川尻浩作の格好をした川尻浩作ではない男。川尻浩作の心情を永遠に理解し得ないであろう男、ラバーソール。
彼の指先はびっしりと文字が書き込まれた紙片を摘んでいた。
陽に透かし、風に泳がせ、なんの変哲もない紙であることを確かめる。
「殺しの依頼にしちゃ、まぁ、いろいろと不自然だ、が……
この紙切れ以外にはなんもねえようだしな」
彼の視線の先には黄色いスライム状の物体の中でもがくハトがいる。
ラバーソールのもとへ名簿を運ぶこととなった不幸なハトであった。
この殺し合いのゲームが新しい依頼であり、参加者を皆殺しにすれば報酬が貰えると考えていたラバーソールにとり、『名簿』と放送の内容はやや予想外のものであった。
依頼人にとっては、殺し屋だろうが一般人だろうが関係ねぇ。
誰が誰を殺してもOKってことになる。
そこから察するに、この殺し合いは誰を殺したかによって賞金の額が異なる。
川尻浩作が100ドルだとして、空条承太郎は100000ドルってな具合にな。
名簿にそれが載ってないのは不自然だが、『三日間生き残れ』ってのには説明がつく。
三日間で殺した人間の賞金の合計額が生き残ってるやつに支払われるってわけだ。
放送では空条承太郎と川尻しのぶ、そしてサンドマンとかいう野郎の名が呼ばれるのを期待したが、結果は惜しくも大ハズレ。
死んだのは早人っていう、川尻浩作のガキだけだった。
変装がばれ、珍しくヒヤっとする体験をしたわりに得たものはほぼ皆無。
『川尻浩作』と、もうひとりを喰ってやってからろくな目にあってねぇ。
ったく、アンラッキーとしかいいようがないぜ。
ブジュル
ラバーソールの苛立ちを反映し『黄の節制』が膨張する。
もがいていたハトの姿は完全に飲み込まれ、動かなくなった。
それにしても放送が終わってからしばらくたったが、誰もこの近辺を通りかからねぇ。
やる気のあるやつらはすでにDIOの館なんかに行っちまってるってことか?
それで、殺しあいなんてまっぴらだって臆病なやつらは、地図の端の方の施設でふるえてるわけだ。
俺は? 当然、乗ってる側だ。
泣きわめいて命乞いをするやつらを端から潰していくのも一興だが、すでに76人も死んじまってるからな。ここからは飛ばしていくぜ。
とはいえ、問題は『誰』でいくかだな。
空条承太郎もさっきのやつらも俺を追ってきている気配はないが、まだこの辺をうろついている可能性は捨てきれん。
正直、空条承太郎のわけがわからん能力も、『黄の節制』をスパッとやっちまったサンドマンの能力も、ハンサムのラバーソール初の障害ってやつだ。
俺の『黄の節制』に弱点はない。が、相打ちにならねえとも限らねぇ。
見た目で警戒されるのは避けとくべきだ。
となると…………。
* * *
-
「ジョナサン、僕から質問をしてもかまいませんか?
吸血鬼や屍生人について、詳しいことが知りたいんです。
たとえば、その化け物たちが呼吸を必要としない生物なら『エアロスミス』のレーダーでは感知できないかもしれない。
レーダーで追えるのはあくまで二酸化炭素の反応だけですから。
それに、君にとっては『スタンド』の方が信じがたいと思われるかもしれませんが、僕には吸血鬼や屍生人なんてファンタジーやメルヘンの中の存在としか思えないんです」
「そうだね、ナランチャにもきちんと伝えていなかったから、さっきは危なかった。
ふたりは『石仮面』について、聞いたことは……?」
E-6のアクセサリーショップの中では、主にジョナサンとフーゴの間で綿密な情報交換が行われていた。
フーゴが第一に問いただしたのは、吸血鬼と屍生人について。
彼がそれについて真っ先に触れたのには理由があった。
ジョナサンにもナランチャにも伝えることのできない問題がフーゴにはあったためだ。
すなわち、自分の知るナランチャはすでに死亡しているという事実と、吸血鬼は死者を蘇らせるというジョナサンの言葉。
ナランチャが屍生人という存在だと、フーゴには到底思えない。
しかしジョナサンの前で、『ナランチャ、君はすでに死んでいるはずだ』と、問題提起する勇気はどうしても持てなかった。
ジョナサンの知らないジョースターの血統――時間軸の違いをフーゴは確信しつつある。
それはジョナサンより進んだ時間から連れてこられたゆえに気付けたのであり、吸血鬼による死者の蘇りを信じるジョナサンに罪はない。
それでも。
ナランチャは屍生人などではないと、完全に否定できる材料をジョナサンの口から得たかった。
確固たる証拠がそろってから説明したいと思ってしまう自分の弱さもフーゴは自覚している。
アバッキオのことは保留するとして、なんの説明もなしに、ナランチャ同様死んだはずのブチャラティに、かつて『パッショーネ』に属していた者たちに出会えば、いずれはどこかで混乱が生じ、隙が生じる。
ジョナサンは誤解から他人を殺めてしまうような人間には見えないが、仲間内でのいざこざの種は潰しておくべき、彼はそう考えていた。
それに、吸血鬼、屍生人について詳しく知れば、アバッキオを救う手だてがあるかもしれない。
ジョジョの夢をともに追う、誰も欠けることのない、ブチャラティチーム……。
儚い夢とうしろめたい気持ちをかかえながらフーゴは話を続ける。
* * *
-
――エメラルドスプラッシュ
弾かれた弾丸がどこか遠くの壁に命中し、鋭い音をはなった。
花京院典明は舌打ちとともに神経をスタンドへ向ける。
――まさか、あの距離から撃ってくるとは思わなかった。
北方300mはあろうかという距離から放たれた銃弾は、正確に足元を狙っていた。
スタンドの視覚によって男の動向に気付くことができたから、どうにか銃弾を逸らせたものの、一瞬でも判断が遅れていれば骨もろともやられていたに違いなかった。
男のものと思われるスタンドの存在は感知できていたが、それを介さない純粋なライフルによる狙撃。だというのに、おそろしく判断が早く、狙いは正確だった。
接触を試みるか、ひとまず撤退するか。
そうこう悩んでいるうちに、狙撃手は空薬莢を抜き、次の一撃の準備をし終えようとしている。
――見境なく撃ってくる相手と話が通じるとも思えない……。
この狙撃手が山岸由花子を処分していることを願いながら、花京院は進路を南に取った。
DIOへの忠誠――心中をともにする二人ではあったが、互いにそれを気付くすべはない。
遮蔽物の多い道をジグザグに走行しながら、行く先へスタンドを先行させた。
どうやら狙撃手は追ってきているようだ。
脳漿までぶちまけそうな鋭い一撃が髪先をかすめ飛んでいく。
いまや見慣れてしまったタイガーバームガーデンに突き当たり、東へまわりこむ。
E-6の南側、スタンドの視界がガラス張りの建物の中に数人の影をとらえた。
周囲に警戒しながらなにかを話し合っているようだ。
正義感の強い人間ならば、銃撃を受け、逃げこんできた人間を無碍に扱ったりはしないだろう。
うまく取り入り、狙撃手を撃退し、情報交換を行う。
ジョースターに与する者ならば、そのまま仲間のふりをし、折りをみて一網打尽にする。
彼らがこのゲームに乗り気な者たちであっても、こちらが無力なふりをすればまずは狙撃手への対抗を試みようとするだろう。
狙撃手にとっての的は増える。
どちらにせよ彼らに接触を試みるのは悪くない……。
南東へと足を向けかけた花京院の目が、にわかに見開かれる。
その目、いや、先行させた彼のスタンドの目がとらえていたものは、『己自身の姿』だった。
* * *
-
狙撃する瞬間において、筋肉を信用せず骨をささえとすることを信条としてきたジョンガリ・Aにとって、逃げ出した青年――花京院を自らの足で追うことは苦渋の選択だった。
動けば動くほど筋肉は震え、骨はきしむ。
遠距離から一方的に狙撃できるというライフルの利点をむざむざ手放す行為でもある。
しかしこの数時間、誰にも会わずにきたことが彼を焦らしていた。
地図のほぼ中央にいるのに、主君はおろか敵の姿さえ発見できずにいる。
彼の周囲にほかに撃つべき相手の選択肢があれば、ジョンガリ・Aはリスクの高い行動を選択しなかったはずである。
ジョンガリ・Aからの狙撃を起点とした無言の追いかけっこが続く。
青年がスタンド使いであることはジョンガリ・Aもすでに気付いていた。
銃弾をかわしたときの気流の乱れ、そして現在も逃げつつスタンドでなにかしようとしている。
罠にはめられる前に追跡をあきらめるべきか……。
ジョンガリ・Aがそう思ったときと、青年がつ、と立ち止まったのはほぼ同時だった。
いぶかしんだ瞬間に『なにか』に足をとられ、ジョンガリ・Aの体勢が崩れる。
膝を突き、地面に転がるのは阻止したものの、あっけにとられ、気流を読みとることをわずかな間、完全に放棄してしまっていた。
我にかえって自分の失態に気付くもすでに青年の姿はどこにも見えない。
足をとられたのがスタンドによる攻撃ならば、追撃があるはず……と構えるも、気流は朝靄のように沈澱しなにものも動き出そうとしない。
かわりにバラバラとガラスが砕けるような音がほど遠くから聞こえてきた。
音のした方へ向かうと、200mほど離れた建物の一階に、数人の人間が集まっているのが見える。
大柄な男と、少年ふたりの計三人。
さきほどまでは室内にいたため存在を見逃していたが、表のガラスが割られたことで彼らの姿がくっきりと気流に浮かび上がるようになっていた。
どうやら青年がスタンドで表のガラスを破壊していったらしい。
銃弾を弾くほどのスタンドならば、ガラスを割ることだって造作もないだろう。
――かわりの獲物を用意したとでもいいたいのか……?
狙撃をかわされ、膝を突かされた青年のことは単純に憎らしい。
だがどこにいったかもわからなくなってしまった青年と、襲撃に慌てふためく眼前の三人、どちらがよりDIO様に近いだろう……。
あくまで冷静に、自らの目的を遂げる方法を、ジョンガリ・Aは模索し続けている。
* * *
-
「待てッ、花京院、俺だ!!」
「承太郎……! 君は、殺されたはずじゃ……」
E-7中央付近の路地裏で、ふたりの『学生』が対峙していた。
『花京院』と呼ばれた青年は目を見開き、驚きの表情をしている。
そこから10mほど離れ、呼びとめた手をゆっくり降ろしているのは『承太郎』と呼ばれた青年だった。
「ああ……確かに俺はあのとき死んだ。
それは間違いない。
だが俺はなぜかこうして生きている。それも事実だ」
「なにを言っているのかわからないが、本当、なのか……?」
目深にかぶった帽子の下、『承太郎』の瞳が奇妙に光る。
「この滅茶苦茶な地図を見ればわかるだろう。
俺たちスタンド使いの常識を越えるなにかが起きつつあるんだ。
俺が死んだはずなのに生きていること、それが不思議でないようななにかが……」
『花京院』は絶句している。
それを見た『承太郎』の口元がヒクヒクとひきつる。
『承太郎』――否、ラバーソールは笑いをこらえるのに必死だった。
そうそう、こういう反応を待っていた。
あいつらみてーな異常者に先に会っちまったせいでちっと自信をなくしていたが、俺の変装は完璧だ。
一瞬の迷いもなく俺を敵だと断じやがった空条承太郎や、人の話を聞こうともせず撃ってきやがった野郎とは違う。人の話を吟味しようって態度。
こういう態度が大事だぜ。
化けた『本人』を見つけちまったときには肝が冷えたが、ジョースター一行に会えたのはラッキーってやつだ。
ブヂュブヂュルつぶして、賞金ガッポガッポだぜぇ。
-
「参加者の半数が死んじまってるって状況でお前に会えたのはラッキーだったぜ。
ひとまず屋内に移動しないか?
ここでつっ立ってるのは的にしてくれと言っているようなもんだ」
「……屋内に移動するのは賛成です。
ですが…………」
「おう、じゃあさっさと……うぉッ?!!!」
一歩踏み出したつま先から俺の上半身めがけて光弾が撃ち込まれる。
『黄の節制』の能力はどんな物理攻撃も無効化するが、衝撃でスタンドはぐにゃぐにゃ拡散し、『空条承太郎』の胸板には不自然なへこみができた。
よくよくみれば足下にはかすかに発光する、なめくじが這った跡みたいな筋が走っている。
「情報を交換するのは、互いの立場が対等になってからだ。
偽りの、空条承太郎」
「てめぇ、最初から気付いてやがったのか」
驚きつつも親しげな雰囲気を出していた花京院の瞳がいっきに鋭く険呑の光を帯びる。
さきほどの光弾も、すでに這わせていたスタンドからの攻撃のようだ。
「あなたが『私の姿』で歩いているところからすべて見ていた。
それに気付かず路地裏に誘い込まれてくれるようなアホで助かったが……」
どういうわけだか空条承太郎の姿に変装するところから見られていたらしい。
どうしてこうも変装にひっかからないやつが多いのか。
ラバーソールは自分の不運を嘆きたくなった。
「だがどうする?
てめぇの貧弱なスタンドじゃあ俺には勝てねぇ。
ドゥーユゥーアンダスタンンンドゥ!」
「理解していないのは貴様の方だ。
人の話を聞いていなかったのか?」
「質問を質問で返すんじゃあねえ。
てめぇ頭がいかれてんのか。
俺のスタンドに喰われてオシマイなんだよてめぇはよぉ」
「確かに貴様のスタンドはなかなか攻略し難い能力をもっているらしい。
変装するしか能がないスタンドだと考えていたので誤算だった。
敵に回せば、私のスタンドでは勝てないだろう。『敵に回せば』、な」
どうも雲行きがおかしくなってきやがった。
たしかにこいつのスタンドは射程距離に優れていると聞いていた。
俺の変装が偽物だと見破っていたならわざわざ近づかせる必要はねぇ。
攻撃を仕掛けるにしろ逃げるにしろ、本体が俺に近づくことはなんのメリットもないはずだ。
そのとき、ラバーソールの中で、奇妙に老けていた空条承太郎、川尻しのぶが夫に言った空白の半年間、それらが一本の線のように結びついた。
「まさか…………」
「ようやく理解したようだな。
手を組まないかと言っているんだ。変装の能力を持つスタンド使い。
私の敵は、空条承太郎だ」
-
花京院典明と『空条承太郎』、横に並ぶ姿にまったく違和感のないふたりが手近な民家へと歩き出す。
『空条承太郎』は半信半疑ながら、絶対の自信を隠そうともしない狡猾そうな表情を浮かべている。
半歩さきをゆく花京院典明は……、目を細め、口の端だけを歪め、笑っていた。
のんきに歩いている『私』の姿を見つけたときには驚いたが、アレッシーから聞いていた話がここで役に立つとは……。
見るからに、殺し合いに乗り気のこの男、手を組むことに反対はしまい。
ジョースターたちへの敵意と、予想外に強力なスタンド。うまく扱えば確実にジョースターたちをしとめることができるだろう。
そして……、これでたとえ山岸由花子が誰かに私のことを話したとしても、彼女を脅し、軍人三人を殺したのはこの男になる。
私はあくまでジョースターの仲間を演じればいい。
少なくとも、誰にも真相はわからない。
自らの欲望にのみ忠実そうなその下卑た笑い。
どうせDIO様から信用されていたわけではなかろう。
空条承太郎とその仲間を殺すことで、あの方にお役に立てることを喜ぶがいい。
【E-7 中央 / 1日目 朝】
【花京院典明】
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[状態]:健康、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.ラバーソールと情報交換し、手を組む。
2.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
3.機会があれば山岸由花子は殺しておきたい。
4.山岸由花子の話の内容、アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。
【備考】
※スタンドの視覚を使ってサーレー、チョコラータ、玉美の姿を確認しています。もっと多くの参加者を見ているかもしれません。
【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。
【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。ラヴ・デラックスの能力、射程等も説明済み。
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。詳細は不明だが、音を使うとは認識、説明済み。
東方仗助、虹村億泰の外見、素行なども情報提供済み。尤も康一の悪い友人程度とのみ。スタンド能力は由花子の時間軸上知らない。
【ラバーソール】
[スタンド]:『イエローテンパランス』
[時間軸]:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
[状態]:疲労(大)、空条承太郎の格好
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、不明支給品2〜4(確認済)、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作)
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.まずは花京院の話を聞く。役に立ちそうにないなら養分に。
※サンドマンの名前と外見を知りましたが、スタンド能力の詳細はわかっていません。
※ジョニィの外見とスタンドを知りましたが、名前は結局わかっていません。
* * *
-
「イタリアにはそんな話ぜんぜん流れてこねーけど、イギリスってやばい国なんだな」
屍生人となったいにしえの騎士との死闘、人体を一瞬で凍らせてしまう吸血鬼の能力、改めてジョナサンの話を聞きながら、ナランチャがのんきな感想をもらした。
「やっぱりジョナサンはすげーや」
「僕にはスタンドの方がよほど複雑で、未知の存在に思えるけどね」
ナランチャの純粋な賞賛に、話し始めて以降曇りがちだったジョナサンの表情がゆるむ。
それは一見微笑ましい光景であったが、内心フーゴはふたりの認識の差の原因を思い、暗澹たる気持ちをかかえていた。
「……ナランチャ、モニターに反応は?」
「なんだよ、ちゃんと見てるだろー? 反応なしだぜ」
不満げに言い返すナランチャに、ジョナサンの笑みが深くなった。
「仲がいいんだね、ふたりは……」
「ちげーよジョナサン。フーゴ、猫かぶってんだぜ。
いつもはフォークでオレのこと……」
「ナランチャ!!」
余計なことは言わなくていいと、フーゴが手で制す。
それを見て、さらにジョナサンが笑った。
「フーゴ、僕の方は知りうる限りのことを話したように思う。
君はずいぶん頭がいいようだから、この殺し合いについて、考えていることがあるなら話してもらえないか?」
そう、フーゴから見ても、すでにジョナサンから得るべき情報はすべて得られたように思える。
さりげなく水を向け、ジョナサンが19世紀末期の人間だということを確認し、ナランチャ、そしてジョナサンが屍生人や吸血鬼ではないということも確信している。
語らなければならない。
ジョナサンの知り合い――彼の父やSPW財団の創始者が、僕にとって全員過去の人間であることを。
アバッキオ、ブチャラティ、ナランチャが、ここにいる彼らから見た未来の彼らがすでに死んでいることを。
ジョナサンは彼の父に訪れた再度の死になにを思うだろう。そう考えると、フーゴの胸は苦しくなった。
「ジョナサン、……そしてナランチャ。
どうか僕が話し終えるまで質問は挟まないでください。
信じられなくても、落ち着いて、聞いてほしい」
「やっぱりなんか変だぜフーゴ」
茶化すナランチャとは対照的に、困ったように、しかし信頼のこもった瞳でジョナサンがうなずく。
「ジョナサン、僕とナランチャは21世紀初頭のイタリアからここへきました。
そして……、ナランチャ、僕の知る君は……」
瞬間。
フーゴの言葉は轟音に呑み込まれた。
とっさに身を屈めた三人にこまかな結晶がパラパラと降り注ぐ。
ショップ表側のガラスが、粉々に砕け散っていた。
-
「フーゴ! ジョナサン! 敵だッ!!」
「わかっていますナランチャ! いいから君はモニターを見て!」
「だめだ。見当たらない。
ずっと見ていたけど『敵は最初からいなかった』!!」
「ここから焦って逃げ出して、狙い撃ちにされるのが一番危険です。
ナランチャ、落ち着いてモニターから目を離さないで」
フーゴは素早く頭を巡らせる。
最悪のパターンはジョジョがコロッセオで戦ったというカビのスタンドのように、すでに敵の術中にはまりかけている場合。
僕がポンペイ遺跡で戦ったイルーゾォのように、本体・スタンドが見えずとも攻撃を加えられる能力も考えられる。
こちらにも広範囲を攻撃できるスタンドがあればいいが、エアロスミスの探索範囲を超える攻撃手段はない。
打って出るべきか?
しかし、すでに敵の攻撃が開始されている場合、さきほどわざわざガラスを割った攻撃の意味がわからない。
注意を外に向けさせるための攻撃か?
なら敵は上か、下か……。
ダメだ。考えすぎるな。
まず安全が確保できればいい。それは敵を倒すこととは違う。
フーゴの視線が、ジョナサンをとらえ、ついでナランチャの黒髪に注がれる。
――僕の目の前で、コイツを死なせるわけにはいかない……。
「おい、聞こえているだろう。
どこからか攻撃を受けた。なにか情報をくれ……」
――ムーロロ!!
【E-6 ローマ市街・ショップ内 / 1日目 朝】
【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中)、貧血気味、疲労
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.敵の襲撃に対処。
1.『21世紀初頭』? フーゴが話そうとしていたことは……?
2.『参加者』の中に、エリナに…父さんに…ディオ……?
3.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
4.ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
-
【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額に大きなたんこぶ&出血した箇所は止血済み
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.敵の襲撃に対処。
1.フーゴが話そうとしていたことは……?
2.ブチャラティたちと合流し、共に『任務』を全うする。
3.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.敵の襲撃に対処。ナランチャは死なせたくない。
1.ジョナサンと穏便に同行するため、時間軸の違いをきちんと説明したい。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。しかしどう辻褄を合わせれば……?
【備考】
『法皇の緑』でガラスを割ったため『エアロスミス』のレーダーは花京院をとらえていません。
ジョンガリ・Aもいまは射程外にいます。
ふたりとも『エアロスミス』のレーダーに気付いているわけではなく偶然です。
【E-6 ローマ市街西側 / 1日目 朝】
【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー』
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:体力消耗(小)精神消耗(中)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(35/40)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み/タルカスのもの)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
0.三人を襲撃する?
1.情報がほしい。
2.ジョースターの一族を根絶やしに。
3.DIO様に似たあの青年は一体?
【備考】
ジョンガリ・Aが三人を襲撃するかは次の書き手さんにおまかせします。
-
タイトル「目に映りしものは偽」
以上で投下完了です。
仮投下時から何箇所か表現の変更がありますが、内容に変更はありません。
川尻家の家賃が26万と書いていましたが、ド低能はこの私でした。13万円ですw
・吸血鬼、屍生人、柱の男は呼吸をする必要がない
という問題についてですが、このSS内ではフーゴの推測のみであるため、
実際にどうかは、後続のそういった場面を描写することになった書き手さんにお任せしたいと思います。
-
投下します。
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「せっかくの二人きりだって言うのに、つれないねェ」
その声に振り向きかけた少女だったが、途中で思いなおし、彼女はそのまま水面を見つめ続けた。
足音はゆっくりと近づいてくると、少女の隣で止まった。男は気だるそうな感じで、川辺に腰を下ろす。
彼は煙草に火をつけると、うまそうに煙を吐いた。煙は真っすぐ上に立ち上り、太陽の光を浴びきらきらと輝く。二人は無言のままそれを眺めた。
煙がすっかり消えてしまった後は口を開くこともなく、二人はただ当てもなく視線を泳がしていた。
しばらくの後、男は煙草を持っていないほうの手でこめかみのあたりをこすり、そして口を開いた。
「ストレイツォ……あの二枚目カタブツに無理言ったのは俺なんだぜ?
君が一人にしてほしそうだったから気を使ったつもりだったんだけどねェ、俺は」
「ほっときなさいよ」
ホル・ホースは無言のまま唇を曲げ、肩をすくめた。つっけどんな少女の言葉を最後に二人の間に沈黙が漂う。
少女は何も言わず、男はただ咥えた煙草の火先を眺めていた。辺りは不思議と音一つしなかった。
とても殺し合いの舞台とは思えないほどに、奇妙な静寂があたりを漂っていた。
「私のこと何も知らないくせに……ってか?」
そう言うとホル・ホースはもう一度唇を曲げて見せた。
皮肉っぽい捻り方に加え、彼の目の脇の皺は笑いをこらえる様にプルプルと震えていた。
少女の頬にさっと赤みがさす。
「それがわかる程度にはわかってるつもりだよ、『徐倫』。
それとも……『フ―・ファイターズ』、そう呼んだほうがよかったかな?」
彼女は何も言わなかった。拳をぎゅっと握り、口を真一文字に閉じたまま男のほうを見ようともしない。
まるでお手本のような図星の反応に、ホル・ホースは肩を揺らし笑った。笑い声は控え目だった。さすがに彼女の機嫌を試すような度胸はない。
じゃじゃ馬娘で癇癪持ちの若い女の子の扱い方は決まってそうだ。超えない程度に茶化すに限る。簡単なもんだ。それで相手が顔真っ赤にすればなお良し、だ。
少女の照れ隠しの顔は、美人の泣き顔の次ぐらいによい。それが男の意見だった。
徐倫はやがて、ゆっくりと拳をほどくと、つかつかと男に向かって歩いて行った。
数メートルほどあった距離を無言のまま詰めると、徐倫は男の脇にただ立ちつくす。
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで彼女の手が動いた。男が反応できないぐらいの速さで彼女は咥えていたタバコを掻っ攫い、そして言った。
「煙草、やめてくれる?」
「できればぶん捕る前に言ってほしかった」
「父親のことを思い出すのよ」
私がじゃなくて、記憶が、だけど。一寸の空白を置いてつけくわえられたその言葉は妙に宙ぶらりんに、辺りに響いた。
ホル・ホースはしゃがんだまま少女を見上げた。少女もまた、無言のまま男を見下ろした。
沈黙のまま睨み合うように、二人は視線を逸らさなかった。『徐倫』の眼はどこか気弱で、強がってるように、ホル・ホースには見えた。
何よ、と彼女は言った。男は何も、と言い返すべきか悩んで、結局何も言わなかった。
随分と雰囲気が変わった、とホル・ホースは目の前の少女見つめ、思う。
彼女が変わったと言えるのは放送を境にだ。きっと知人が放送で呼ばれたのがきっかけだったのだろう。名簿を見たのもあるかもしれない。
なにせよイイ女であることに変わりはない。それが最も最も最も大事で、大切で、重要なことだ。
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ほんの少し前のことだ。
リキエル、そう名乗った青年の叫びがきっかけに、場は荒れに荒れ、そして混乱した。
時代、DIOとディオ、空条承太郎とその娘、ジョースター一族、波紋とスタンド。
互いの自己紹介代わりの簡易な情報交換ではなく、全員がそろい、膝と膝を突き合わせるような濃密な情報交換が行われた。
そしてその中で浮かび上がった微かな共通点と、特異点。だが話はそこで煮詰まった。あまりに物語は自分たちの領域を超えていた。
殺し合いというものを抱えるだけでも精一杯だったのに、その上時代と因縁と来たものだ。
どうしたって頭を冷やす必要があった。冷静に自分の考えや気持ちを落ち着かせ、その上でこの後どうするか決める必要があった。
今二人がこうやって川辺でたそがれてるのはそういうわけだった。流れる川のように、穏やかで、落ち着いて、ゆったりとした思考を取り戻す必要がある。
だがそれはなかなか難しかった。ホル・ホースにとってではなく、『徐倫』と呼ばれた少女にとっては。
沈黙が二人の間を漂う。気まぐれに少女が投げた石がドボン、と砕けた音をたて水の中に消えていく。
彼女が口を開くまで長いこと二人はそれぞれに黙り込んでいた。動いているのは川の水面に浮かんだ波紋だけだった。
「私にはなにもないの」
彼女がそう言った。ホル・ホースは微かに浮かべていた笑顔をひっこめると、難しそうに顎を触り、言う。
何もない。少女が言った言葉を確認するように、そう繰り返す。
自分の言葉を繰り返されたのが嫌だったのか、少女が顔をしかめたのを見てホル・ホースは黙った。
まずは話を聞くべきなのだろうと彼は肩をすぼめ、続きを待った。
「ホル・ホースが言った通り、私は『フ―・ファイターズ』であり『空条徐倫』でもある。
でも違うのよ。私は私、アタシはアタシ……確かにここにいるはずなのに、違うの。
自分は自分以外の誰でもないはずなのに……それを確信できない気持ちってわかる?
自分は間違いなく自分のはずなのに、それを納得できない、違和感を感じる、誤魔化せない。
それがすっごく辛いの、空っぽなの…………。私の言ってる事、わかる?」
「部分的には」
徐倫は何も言わず頷いた。そして言った。だからわたしにはなにもない。なにもないことがすごく悲しい。
予想に反して、男の返事は素早かった。
「いいじゃあないか、『なにもない』。結構だ。これ以上何もなくさずに済む。素敵だ」
俺は羨ましいよ、と付け加えるべきかどうか悩んだが、いちゃもんをつけられそうな気がしたのでやめておいた。
返事がないままポケットから煙草を取り出して咥える。火をつけて一服しても、今度はぶんどられるようなことはおきなかった。
さっきまでとはまた違った沈黙が流れていた。その沈黙は決して悪くない沈黙だった。
かびついた、陰気臭い沈黙というよりは、どことなく春の爽やかさを感じさせる静かな時間だ。
長い沈黙の後、徐倫は呆れた様に大きく息を吐いた。ホル・ホースを見るその視線には冷ややかさが含まれている。
コイツに相談するんじゃなかったという気持ちが、ありありと浮かんでいた。それを見て、彼は満足そうに笑った。
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「あなたって悩みとかあるの?」
「どうやったら川辺でセンチになっている女の子を慰められるか、今悩んでる」
馬鹿らしい、と少女がいうとそれを待ちかまえていたように、男はそろそろ戻ろうかと言った。
馬鹿らしい、結構なことだ。少なくとも無駄に落ち込んで、うじうじしているよりは何十倍もいい。
憂鬱な美人よりも呆れる美人のほうが数百倍綺麗だ。例えそれで自分が呆れられるようなものであってもホル・ホースという男にとってはそれは些細な問題だった。
二人は並んで川を後にすると、すぐ後ろに立つ教会へと向かっていった。
さり気なく肩を抱こうと男が伸ばした手は、無言のうちに少女にはたかれる。乾いた音と男の控え目な呻きが辺りに響いた。
ホル・ホースと『空条徐倫』は教会へと戻っていった。
▼
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「茶でも飲むか?」
私はその声に顔をあげた。反射的に物音に反応しただけのことだった。
吉良吉影の言葉をもう一度頭の中で繰り返し、ようやくその言葉がなにを指し示しているのか理解する。
私はゆっくりと首を振った。吉良は顔色変えずそうか、とだけいうと、再び読書に戻った。
どうやら彼なりに気を使ってくれたようだ。だとしたらさぞかし自分は難しい顔で考え事していたのだろう。
実際、ひどく混乱している。
ホル・ホースは戸惑うのも無理じゃない、と言った。
時代の越境、未来の技術、過去の存在、スタンドという概念、喋るプランクトン、ディオ・ブランドーとDIO……。
考えすぎるとひどく頭が痛くなりそうだった。知るべきことと考えるべきことが多すぎて流石の私もこれには参っていた。
その混乱を少しでも解消するために、ホル・ホースはわざわざ時間を取ったはずだった。
私も時間は必要だったし、動揺していたの事実だった。だが時間をもらえど気持ちを切り替えることはなかなかどうして難しい。
自分の置かれている立場がよく理解できない。掴みどころがないのだ。
まるで水の上に浮いた地面を歩いている様な気分だ。私は額を抑え、思わずため息をこぼした。
情けないものだ。戦いであるならばそれこそ幾千、何万もの機会を積んできた。己を鍛える辛く長い修行にも耐え努力を積んだ。
だが誰が予想できようか。時空を超え、次元を超えたものとの邂逅がこれほどまでに難解だったとは。
「……あの二人みたいに散歩でもしてきたらどうだ」
パタン、と本を閉じる音に続いて、平坦な男の声が思考を破る。吉良吉影はスーツの裾をなおしながら、顔もあげずにそう言った。
「随分と難しい顔で考え事していたのでね、お節介だとわかっているが、ついつい口出ししてしまった」
「いや、ありがたいよ、吉良。そうだな、確かにそうしたほうがいいかもしれない」
「あまり動きたくないというのならば私が席を外すが」
「大丈夫だ。リキエル、と言ったあの青年の様子も気になる。大人しくはしているようだが気分転換がてら、すこし見てくるよ」
そうして守るべき一般人からも心配される始末。私は立ち上がると青年のいる部屋に向かいながら、もう一度深い溜息を吐いた。
頭を振って思考をすっきりさせる。わからないことは素直にわからない。私はやるべきことだけをこなそう。
立ち止まるようなことがあれば、その時は彼らと共に考え協力すればいい。
とりあえず決めるべき事は……ディオの根城に乗り込むべきか、どうか。まずはこれだけを考えよう。
リキエルを寝かしつけた講堂の扉をあける。吹き抜けの高い天井に扉の軋んだ音がこだまし、靴が地面を叩く音が聞こえる。
ステンドグラスが美しく輝き、優しい光が室内を満たしていた。少し暗いが気になるほどではない。先ほどまで灯していた蝋燭の燃えかすの臭いが鼻先をかすめた。
講堂内はとても静かで落ち着いていた。人一人いないように静かで、奇妙だった。
私は扉を後ろ手でゆっくり閉め……そして戦いの構えを取った。部屋に入ってすぐおかしなことに気がついた。リキエルの姿が見えないのだ。
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嫌な気配が辺りを煙のように充満している。
リキエルは入ってすぐの長椅子に転がしておいたはずだった。話を聞き終えた後で猿ぐつわをかませ、椅子ごと固定するように縛り上げたのだ。
ならば彼の姿が見えないのは何故だ。その上ロープもなくなっている。ただ抜け出しただけではないということだろうか。
吉良と共にホル・ホースたちの散歩を見送って、目を離していたのは僅か数分のことだというのに……。
そっと手に持つペットボトルに目を落とす。波紋は乱れていない。渦巻く波紋は乱れず、床伝いに何かの生命エネルギーを感じることもない。
スタンド能力だろうか。だがホル・ホースの言ったリキエルの能力にはこんな芸当ができるとは思えない。
仮にリキエルがスタンド能力とやらで自由になったとしても我々に悟られず、且つ跡一つ残さず、こうも姿を消す事なぞ可能なのだろうか……?
吉良を呼ぶべきかどうか、私は一瞬迷った。
だが危険が潜んでいる以上迂闊に動くと更に状況が混乱する可能性もある。そのまま室内を進んでいく。
カツン、カツンと革靴が音をたてる。その響きかたから考えても辺りを動くような何者かがいるとは思えなかった。
慎重に一歩。そしてまた一歩。辺りは影一つ動かない。まるで室内ごと、椅子も窓も、全てが凍りづけられかのようだった。
吸い込む息はどこか湿っていて、ネバついている様な気がする。神経を徐々に張り巡らしていくと、波紋の呼吸も落ち着いてきた。
室内の状況が段々と明らかになってゆく。やはり室内には誰もいないようだ。見渡しても長椅子がうずくまった獣のようにじっとしているだけのことだった。
「……逃げられたか?」
だとするならば考えるべきはどうやって、だ。スタンド能力か。はたまた協力者がいるのか。
もう一つ。逃げたのか、それとも潜んでいるのか。個別に行動するのは賢明とは言えないな。後ろから襲われる可能性がないとは言い切れないのだから。
私は講堂を入口から端まで歩ききり、急いで吉良の元へ戻ろうと振り返った。彼が心配だった。ホル・ホースとあの少女のことも気にかかる。
そうして振り返った時だった。
「なっ!?」
波紋が乱れないわけだ。既にそれは呼吸をしていないのだから。
床伝いに生命エネルギーを感じられるわけがなかった。それはもうとっくに死んでいて、その上壁にくくりつけられていたのだから。
「こ、これはッ!?」
ドギャァ――――――z__ンッ!!
入口の真上、数メートル頭上の位置でリキエルは壁にめり込むようにして事切れていた。
彼が死んでいたという事実。それに気づかなかった自分のうかつさ。幾つもの情報が急速にわき上がったが、私はなによりもリキエルの表情に、ぞっとした。
見開かれた目、苦痛にゆがんだ頬。そして一部分がなくなっている。暗闇に目を凝らし、その部分を見た私の背中がさぁ……と泡立つ。
歯形だ。しかも人間の歯型。
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リキエルは殺された……! それもただの殺しではない……!
この殺しは彼を恥ずかしめ、屈辱に塗れ、そしてなによりも! 残忍性、異常性においてずば抜けているッ!
あちこちを食いちぎり、飾り立て、オブジェのように展示しているのだッ!
彼を殺害した人物は異常すぎるッ! 吸血鬼、屍生人、人間! それを超えた禁忌に触れた、そう、まさに狂人のものの行為だッ!
無意識に後ずさっていた私は長椅子に足をぶつけ、その音で正気に戻る。
痛みと音が私を現実に引き戻した。慌てて手元のペットボトルへ目を落とす。波紋は乱れていない。少なくとも、まだ。
殺害者はもうこの部屋にはいないのか。一人目じゃ飽き足らず、二つ目の獲物を狙っているとでも言うのだろうか。
だとするならばここにいるのは尚更危険……! そしてなによりこの事実を知らない吉良が、そしてホル・ホースが……!
そう、私は焦っていた。狼狽していた。もしかしたら、恐怖、していたのかもしれない。
だから即座に気付けなかったのだ。そのちょっとした波紋の変化に。
いつもならすぐに気づけたであろう、その微かな、しかし致命的とも言える見落としに。
もう一度手元に目をやり、私は眉を寄せた。この透明な容器は使いなれてないせいか、変化に気づきにくい。
波紋は乱れていない。だがそこに変化はあった。渦巻く波紋はさきほどより深くなっているのだ。下に伸びているのだ。
そのうねりは横に乱れるでもなく、脇にずれるでもなく、まるで誰かに引っ張られるように下へ回転を増し……。
「まさかッ!?」
そう私が零したのと同時に、床板から伸びた太い腕が私の胴体を貫いた。
▼
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「ストレイツォ、ここにいるのか?」
やれやれ、いったいどこに消えたというのだろう。
あちこち見回ったが影一つ見当たらない。一度入口から覗いたこの講堂だが、ほかの場所にいない以上、この奥で何やかんやしているのかもしれない。
カタブツで融通がきかない以外はなかなか役に立つ男なんだが……まぁ贅沢は言わんがね。これくらいだったら私の平穏のために妥協はするさ。
入口の扉を開き中に入っていく。少し暗いため奥まで一目で見ることができない講堂だ。
確かに雰囲気は悪くない。考え事、読書に集中するにはうってつけの場所だな。
ストレイツォもきっとここで難しい顔をしながら考えているのだろう。
「ストレイツォ、いるのか。いたら返事をしてくれ」
さて、私がいくら平穏を愛していると言っても限度があるというものだ。
今の状況に不満があるわけじゃないがいつまでも首元に爆弾をぶら下げてるというのもわずらわしい。
辺りを殺人鬼や危険人物がうろうろしてるかもしれないというのにリラックスして過ごすというのも無理なもんだ。
私の理想としてはストレイツォがさっきの二人をひきつれて悪者退治に出かけてくれれば万々歳なんだが、さて……。
それにしてもさっきの話し合いは流石の私も度肝を抜かれた。
スタンド、というらしい特殊能力。明らかに私が持つキラ―クイーンと同種のものじゃあないか。
勿論私はキラ―クイーンの事なんぞ一言ももらさなかった。能力を誇示すれば戦いに巻き込まれることは明白だ。そして戦いは平穏とかけ離れた場所に位置しているものだ。
戦いなんていうものストレイツォの様な正義のヒーローに任せておけばいい。私にはどうでもいいことだ。
まぁ戦ったところで負ける気はしないのだがね。
「ストレイツォ、いないのか?」
にしてもディオ、と言ったかな。リキエル、ホル・ホース、そしてストレイツォが口にした男のこと。
まったくこの二十世紀になっても世界征服をもくろむ男がこの世に存在するだなんて思ってもみなかった。
頭がおかしいとしか思えないな。世界征服? 頂点を目指す? フン、笑わせるね……滑稽だ。
「…………ふぅ」
考え事をしながら辺りを見渡すがあのカタブツ正義漢の影は見当たらなかった。
長椅子の隅から隅まで視線を撫ぜるがそこに誰かが座っていた形跡すら残されていない。
一体どこに消えたというのだ? そろそろあの二人も帰ってくるころだろうし、ここでストレイツォがいなくなると色々面倒なことになるんだが。
これでまたストレイツォ捜索に駆り出されたとしたら非常にめんどうだ。できることならもっとこの教会に留まっていたい。
来るべき労働に顔をしかめ、あの正義漢はどこにいったのだろうと私はため息を漏らす。その時だった。
「―――!」
揺れる風、感じる気配。キラ―クイーンを出現させたのはほとんど反射的と言ってよかった。
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「キラ―クイーン!」
背後から伸びた一撃は重く、強烈だった。両腕で固く守ったキラークイーンのガードが痺れるほど。
驚愕に目を見開きながらソイツを睨み、そしてさらに驚いた。
奇妙な格好をしている男だった。
毛糸を編み込んだような全身スーツ、あちこちからケーブルプラグのようなものが伸びている。これほど趣味の悪い恰好は見たことがない。
落ち窪んだ眼光、真っ赤でてかてか輝いている口元がこれ以上ないほど気味悪い。
私は驚愕と同時に、それ以上の嫌悪感を抱いた。なんなんだ、コイツ。一体何者なんだ。
「おっ、おっ、おっ…………!」
「くッ……!」
考える暇も与えない、ということか。その男は立て続けに拳を振り回し私に襲いかかる。
右に左に素早い身のこなし。鉛のように固い拳。なんてやつだ。コイツ、素早いぞ……! それに、重いッ!
私のキラ―クイーンをもってしてもさばききれないほどに……コイツの一撃は、強烈……ッ!
間違いない、こいつ……『スタンド使い』だ。私と同じ能力を持っているということだ……ッ!
隙をついて繰り出した右の一撃。私の反撃を相手はガードすることなく、その場で沈みこみ回避する。鼠のようにすばしっこいヤツだ。
長椅子をガタガタと揺らしながら男は暗闇に紛れ、そして姿が見えなくなる。恩わず私は舌打ちした。この状況、圧倒的に不利なようだ。
だが不利であっても不運ではない。ヤツは完全に去ったわけではない。気配は感じられる。どうやらコイツ、戦る気のようだ。
あのスーツをまとった謎の男はこの吉良吉影と戦う気らしい……!
(いいだろう……ならば、かかってくるがいい! 私とて君をここで逃すわけにはいかないのだからな)
腕時計に目を落とす。ホル・ホースたちが帰って来るまでどれぐらいかかるだろうか。もうすぐにでも帰って来るのではないだろうか。
やれやれ、とんだ災難だ。だがこんなピンチであろうと私には切り抜けられる。切り抜けるだけの能力があると、自負している……!
速攻でカタをつけさせてもらおうか。
ああ、そうだ。君は既に見てしまったのだからな……このキラ―クイーンを。私のスタンドを!
私は誰かに勝利することに喜びを感じない。だが、だからといって誰かに敗北することは決してない。
平穏は勝利でもなく敗北でもなく、その先にあるのだ。私の平穏のためにも……
「君にはここで死んでもらう……!」
【リキエル 死亡】
【ストレイツォ 死亡】
【残り 65人】
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【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会脇/1日目 午前】
【H&F】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
0.教会に戻ってストレイツォ達と合流。
1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。
※ストレイツォから基本支給品、それとホル・ホースのものだったランダム支給品を返してもらいました。
【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルなし)、ランダム支給品2〜4(徐倫/F・F)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
0.教会に戻ってストレイツォたちと合流。
1.『あたし』は、DIOを許してはならない……?
2.もっと『空条徐倫』を知りたい。
3.敵対する者は殺す? とりあえず今はホル・ホースについて行く。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いてません。
※少しずつ記憶に整理ができてきました。
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内講堂/1日目 午前】
【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:健康
[装備]:波紋入りの薔薇、聖書
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
0.スタンドを見られた以上セッコを逃さない。
1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。
2.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
3.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。
【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態、血まみれ
[装備]:カメラ
[道具]:基本支給品、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ、リキエル、ストレイツォ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.邪魔されたので吉良を殺す。
1.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。
2.DIO大好き。チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな? よくわかんねえ。
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
[備考]
※リキエルとストレイツォの死体は講堂内に放置されています。一部がセッコによってデコレーションされてます。
※それぞれの死体の脇にそれぞれの道具が放置されています。
ストレイツォ:基本支給品×2(水ボトル1本消費)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
リキエル:基本支給品×2、
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以上です。何か指摘ありましたらください。
年末すごく忙しくて投下が遅れました。連絡もできなくて済みませんでした。
今年もよろしくお願いします。
>>批評して下さった方々
丁寧な批評ありがとうございました!
指摘くださった箇所を意識しながらもう一度自分でも読みなおしてみました。
まだまだ駄目だな、と痛感しました。同時にもっともっと巧くなりたいとやる気がわいてきました。
これからも悩んだり、一区切りついたら批評をお願いするかもしれません。その時はよろしくお願いします!
ありがとうございました。
>>支援絵
描き手さんに敬意を表する! 水の不安定な感じが素晴らしい!
書き手も頑張るので、今年もよろしくお願いします。
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あ、題名忘れてました。
題名は『AWAKEN ― 乱』です。
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