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本スレ転載用スレ

1名無しさん:2011/11/19(土) 00:45:21 ID:k2jmL4Io
本スレに書き込めなくなった場合に使用するスレです
こちらに投下されている内容を、投下できる方が本スレに貼ってあげて下さい

3 ◆YR7i2glCpA:2011/11/30(水) 21:45:55 ID:TZONvVug
本スレの方に書きこめなかったのでこちらの方に投下します。

エリナ、ジョセフ・ジョースター、アダムスさん、投下します。

4 ◆YR7i2glCpA:2011/11/30(水) 21:46:43 ID:TZONvVug
重力は、毎秒9.8メートルの勢いで地上全てのものに働く。
それはすなわち、最初に落とす位置が高ければ高いほどに、その勢いと速度を増していくという事。
これは、人間の幸福にも当てはまることである。
受けた幸福の度合いが高ければ高いほど、そこから突き落とされた時の恐怖や絶望といった負の感情は計り知れなくなるほど大きくなるものである。
では、その人間の幸福とは一体どのようなものであろうか?
それは百人人間がいれば百通りの例があげられる。
美味なるものを腹一杯食べることと答えるものもいるだろう。
自らが満足するだけの作品を作り上げることと答えるものもいるだろう。
かねてより収集しているものを集められることと答えるものもいるだろう。
幸福とは、具体的な形を持たないものだ。
そして、今ここに一人の女性がいる。
彼女は、それまでの人生でも最上級の幸福の真っ只中にいた。
――そう、『いた』。



彼女の名は、エリナ・ジョースター。
旧姓をペンドルトンという。
彼女には、心の底から愛し、また同等かそれ以上の愛を与えてくれる一人の男性がいる。
たとえどのような苦境に陥っても、決して絶望することはなく、常人離れした勇気と熱く誇り高き精神を持って困難を打ち破る事の出来る男だった。
その男の名は、ジョナサン・ジョースター。
エリナとジョナサンは互いに深く愛し合い、そして先日ついに結婚した。
数多くの友に祝福され、幸福に包まれながら新婚旅行へ向かう船へと乗り込んだ。
これから先に待つ、希望と幸福に満ち溢れた人生への船出になる、見た目には小さくも彼女にとっては大きな一歩であった。



しかし、その一歩は幸福への道を踏むことはなかった。

5 ◆YR7i2glCpA:2011/11/30(水) 21:47:38 ID:TZONvVug
一瞬のブラックアウトの後に目の前に広がったその風景は――絶望だった。
どこなのかもよく分からない空間の中で、メガネをかけた小柄な老人が自分たちに呼びかけた。
「今、この場を持って『バトル・ロワイアル』の開催を宣言する」と。
バトル・ロワイアル。
殺し合い。
エリナには、最初その言葉の意味が分からないでいた。
今まで幸福の真っ只中にいた彼女には無理のない話だった。
だが、その直後に老人の横に一つの人影が現れた。
その者が何者であるのか理解したその瞬間、エリナはひどく狼狽しそうになった。
エリナは知っている、あの逞しい体躯を。
エリナは知っている、あの誇り高き精悍な顔を。
エリナは知っている、目の前にいるあの男の名は――
ジョナサン・ジョースター。
自分が愛し、また自分を愛してくれたあの人が今、こうして捕らえられている。
それなのに今、エリナにはどうすることもできなかった。
やがて同じように拘束されている二人の男が現れたが、エリナの目にはジョナサンしか見えていなかった。
何故、ジョナサンがあそこにいるのか。
あの老人は一体誰なのか。
そもそもいま自分がいるここは一体どこなのか。
何もかもが、エリナには分からなかった。
だが何も分からないエリナにも、ジョナサンの首に何かが巻かれているのが見えた。
はっきりと見えたわけではなかったが、チョーカーやネックレスといった装飾品ではなかった。
まるで、家畜やペットにつけるような首輪。
よく見ると、その首輪は横の二人の男にも巻かれていた。
一体何の首輪なのだろうか?
そうエリナが考えを巡らせようとした次の瞬間、信じられない、信じたくない光景が広がった。



大きな音と共に、首輪が爆発した。
あまりにも短い、時間でいえば一秒にすら届かない瞬間の出来事だった。
首を失った体躯はだらりと力を失い、行き場を失った血液はその首からたらたらと溢れだす。
一瞬にして、周囲が怒号と悲鳴に溢れていった。
だが、エリナの耳には何も入らない。
エリナの視界が一瞬で霞んでいく。
喉の奥が一瞬で乾き、声すらも上がらない。
ぐらり、と自分の脚の力が失われるのを覚えたが、その先に待っていたのは二度目のブラックアウトだった。

6 ◆YR7i2glCpA:2011/11/30(水) 21:48:23 ID:TZONvVug



(一体なんだったんだあれは…?)
ジョセフ・ジョースターは今までに体験した事のない不思議な現象に頭を痛めていた。
気分が悪い。
今までそんなに長い年月を生きていたわけではないが、このような感情は初めてだった。
今まで、本当に数多くの経験をしてきた。
おばあちゃんに叱られた事は両の指じゃ足らないくらいだし、警察のお世話になったこともたびたびあった。
乗っている飛行機が墜落した事もあったし、街中で機関銃をぶっ放したこともあった。
ナチスの将兵と仲良くなったこともあったし、親友を喪ったこともあった。
人間をはるかに超えた力を持つ誇り高き精神を持った戦士と文字通りの死闘も繰り広げたし、究極生命体を地球から吹き飛ばしたこともあった。
そんなジョセフにも、つい先程経験した事は今までにないことだった。
――自分自身が死ぬ瞬間を、自分自身のその目で見る。
どの世界にそんな経験をしたものがいるであろうか。
だが確かにあの時首輪を爆破されて死んだのは自分自身に他ならなかったし、ここにいる自分は他でもないジョセフ・ジョースターだ。
一体これはどういうことなのか?
考えても考えても、さっぱり分からない。
そもそも自分は柱の男達との死闘の全てに決着をつけ、みんなにスージーQとの結婚を報告しに行こうとしていたのに、何がどうして見たこともない場所で殺しあえと言われないといけないのだろうか。
何もかもが、さっぱり分からない。



分からないのは過程だけではなかった。
今ジョセフが立っているこの場は、実に奇妙な場所であった。
ギンギンの色彩で彫刻された不思議な動物達が立ち並ぶその場は、異様な雰囲気を醸し出していた。
(ここは……そう言えばおばあちゃんが教えてくれたっけな……なんとかっていう中国人だったかがこんなへんちくりんな庭園を建てたって……名前は…そうそう、タイガーバームガーデンだ。)
祖母から聞かされていた教えがこんなところで役に立つとは、とジョセフは小さくため息をついた。
しかしこのタイガーバームガーデン、どうにも居心地がいいとは言い難い。
ギンギンの色彩で彩られた彫像はこちらをじっと見つめてきているようで、どうにも落ち着かない。
それに今のこの場は殺し合いの場なのだ。
隠れる所が多いこの庭園では、どのような奴が潜んでいるのかも分からない。
ジョセフはデイパックを担いで一刻も早くこの場を離れようとした。

しかし、そのジョセフの耳に奇妙な音が飛び込んできた。
飛び込んできた、というよりはまるで囁いてきたかのような小さなか細い音だった。
若い女性であろうか、すすり泣く声だった。
(…オバケとかじゃねーだろうな?)
ジョセフがそう思ってしまうのも無理はない。
ジョセフが今立っているその場は先ほども言ったようにタイガーバームガーデン。
奇妙な彫像が所狭しと立ち並ぶその場で若い女性のすすり泣きの声が聞こえてくると言うのは、実に不気味である。
一瞬、その不気味さにジョセフはこの場から立ち去ろうかとも考えたが今のこの場は殺し合いの場なのだ。
殺し合いという恐ろしい場で一人泣いている女の子を放って自分は逃げるなんてことは、ジョセフにはできない。
ジョセフは意を決して、奇妙な彫像の庭園を進んでいった。

7 ◆YR7i2glCpA:2011/11/30(水) 21:49:37 ID:TZONvVug



あふれ出る涙を、止めることができない。
脚には力が入らずに、地面に投げ出される。
この上もない深い絶望と悲しみを、エリナは全身から感じていた。
ジョナサンが、死んだ。
首輪を爆破されて、呆気なく死んだ。
自分が愛し、また自分を愛してくれたジョナサンは、自分に最後に何を言っただろうか?
それすらも思い出せない。
エリナは、無力だった。
この殺し合いという危険な場において、何もできないでいる。
それがどれほど危険なことなのか、頭では分かっていてもそれ以上にエリナの頭の中にあるのは最愛の人、ジョナサンが死んだという悲しみと絶望だけだった。

何かが後ろに来たような、そんな気配を感じた。
だが、その気配すら今の彼女には届かない。



生物を動かすものは何だろうか?
それは一口で言ってしまえば本能である。
快適な温度の場所を求め移動する、それも本能。
外敵のいなさそうな場所を求め移動する、それもまた本能。
そして、食べ物のありそうな場所を求め移動する、それもまた本能である。
今彼の目の前には、それは美味しそうな見た目麗しい女がたった一人で座っていた。
じゅるり、と舌が動く。
溢れ出そうになる涎を無理やり飲み込むと、彼はそっと彼女に近づいた。
かなぐり捨てたい理性をかき集めて、泣いている彼女に後ろからそっと近づく。
この位置ならば、いつでも喉笛に食い付けるのに、それを敢えてしない。
ぞくぞくするようなギリギリな状況を、彼――アダムスは感じていた。

(お…女だ!若い女の血はフワフワして美味いんだぜぇーっ!!)

ああ、すぐにでもその傷一つない肌に牙を突き刺したい。
その骨という骨を自慢の長い舌で舐り回したい。
だがその欲望を無理やり涎と共に飲み込むことで、味わうその女性の味はより一層絶品なものとなる。

そしてついに、自分の射程範囲内に彼女を捕らえた。
彼女はまだこちらに気づいていない。
しゃがみ込んでさめざめとただ泣くだけの彼女を前にして、アダムスはその歪んだ口元から舌を――人間のそれにしてはやたら長い舌を出した。
彼女を――人間を、捕食する。
それが屍生人。
バリバリと、人間の皮が破れその舌から醜悪な屍生人の顔が露わになる。
その屍生人の本能のままに、アダムスは女に飛びかかろうとした。



だが、飛ぼうとした体勢そのままに、アダムスの顔面は石の床に叩きつけられた。
そしてそのまま、全身に炎が注入されたような奇妙な熱さを感じていった。
それが、最期だった。

8 ◆YR7i2glCpA:2011/11/30(水) 21:50:33 ID:TZONvVug



エリナにしてみたら、何が何だか分からないとしか言いようのない事態だった。
何か凶悪な殺気を一瞬感じたと思ったら、目の前には全身がぐつぐつに煮えてしまったような無残な死体と男の人であろうか、大きな両足が見えるだけだった。
腐肉のような醜悪な匂いがエリナの鼻を蹂躙する。
胃の中が撹拌されるような吐き気を覚えながら、ゆっくりと視点を上へと向けていく。
「やれやれ、まさか屍生人がいるとは思わなかったなあ……大丈夫かい?カワイ子ちゃん。」
ノリは軽いが、優しそうな声が耳に届いたがそれを言ったその顔はエリナには信じがたい顔であった。

その太い眉。
その強い意志を秘めた眼差し。
その精悍な顔立ち。

彼は――いや、そんなはずはない。
だが、今目の前に起きているのは紛れもない現実。
エリナの頭が、目の前の死体のようにぐちゃぐちゃに混乱していく。
そして目の前の男の腕にまだへばりついていた死肉を見たその瞬間――



「い、嫌あああああああああ!!」



エリナは、逃げ出した。
あまりにも多くの衝撃的な事が、おきすぎていた。
あまりにも多くの悲劇的な事が、おきすぎていた。
そしてエリナは、悲しいぐらいに無力だった。
その無力さは、エリナ自身を暴走させてしまう。
どこにどうつながっているのか分からない漆黒の道へと転げ落ちるように、重力が加速させるかのようにただただ暴走してしまう。
その力のままに、エリナはただただこの場から離れようと走り去ってしまった。

そしてそこには、ジョセフ・ジョースターだけが残されたのであった。





【アダムスさん 死亡】

9 ◆YR7i2glCpA:2011/11/30(水) 21:51:51 ID:TZONvVug





【地下E−5 タイガーバームガーデン/1日目 深夜】


【ジョセフ・ジョースター】
【スタンド】:なし
【時間軸】:第二部終盤、ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前。
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、不明支給品1〜2(未確認)、アダムスさんの不明支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】基本行動方針:ゲームから脱出する。
1.とりあえず、あのカワイ子ちゃん(エリナ)を追いかける。
2.いったいこりゃどういうことだ?
3.殺し合いに乗る気はサラサラない。



【エリナ・ジョースター】
【時間軸】:ジョナサンとの新婚旅行の船に乗った瞬間
【状態】:精神錯乱(中度)、疲労(小)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、不明支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
1.何もかもが分からない。
ジョセフ・ジョースターの事をジョナサン・ジョースターだと勘違いしています。
東西南北どちらに走ったかは不明です。

【備考】
アダムスさんの参戦時期は屍生人となった後、ジョナサン達と遭遇する前でした。

10 ◆YR7i2glCpA:2011/11/30(水) 21:52:49 ID:TZONvVug
投下終了です。
タイトルは これはゾンビですか?いいえ、それは孫です。


11 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:33:33 ID:1hW6MgTg
規制されてました。こちらに投下します。

12 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:34:03 ID:1hW6MgTg
「ハァ……ハァ…………ッ!」

近づいてくる。一歩、また一歩。
動けない。まるで自分の体が石になったかのように。
脚は言うことをきかず、ただただ震えるのみ。身体を支えるのでいっぱいっぱい。
手に持った竿が揺れる。攻撃? とんでもない。竿を持っている、そのこと自体が奇跡みたいなものだ。
試しに力をこめてみる。弱弱しく、申し訳程度の圧力が竿にかかり、ペッシは『まだ』自分の手が機能してることを理解した。

「ううう、ウゥゥゥ…………ッ!」

呼吸が、うまくできない。恐怖? 緊張? 脅え?
全部だ。負の感情を全てごった煮、放り込み、ごちゃ混ぜにされていると考えてほしい。
背負いきれない感情はとめどなく腹の底からわき上がりペッシを圧迫していく。身体的にも、精神的にも。

口の中に沸き上がった酸っぱいもの。胃が縮み身体がよじれる。
噴水でも頭についてるかのようにとめどない冷や汗が流れ落ち、また流れる。
だめだ……もう、限界だッ…… こんな状況にいるぐらいなら、もう、いっそのこと……ッ


「ククク…………」


ビクゥッ!!

感情を読み取られたかのように笑い声が鼓膜を震わした。薄暗がりの中、ぼんやり見える相手の輪郭は巨大の一言。
まさか相手は……自分の感情すらわかるのか? いや、まさか……ッ
その間も相手との距離はどんどん縮まっていく。列車二本分はゆうにあったであろう距離が短く、短く。

殺るなら……もうこの距離しかないッ
薄暗い町中、住宅街。まだ許容範囲だ。闇夜であろうと相手の姿形は見えている。
スタンド、『ビーチ・ボーイ』! この距離、この的のでかさなら外しようがないッ
どれだけ自分に自信がなかろうが、この条件なら殺れるッ いいや、殺らなきゃ……殺られるッ!

「『ビーチ・ボーイ』!!」

高速で弾き飛ばされた針は目標へと一直線に向かって行く。
弾丸にも勝るとも劣らない速さ。例えスタンド使いであろうとこいつを避けることは不可能。対処するのであれば必ず防御に回るはず。
それこそが彼の狙いッ 一度針が体内に入り込んでしまえば……後は焦る必要もない。
ジワリジワリ追いつめるのも、命を盾に交渉・恐喝してしまうのもこちらの裁量次第ッ 圧倒的アドバンテージッ

「……えっ」

13 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:35:05 ID:1hW6MgTg
そう、“普段”のペッシであればなんてことはないであろう。
キツ〜く厳し〜い“兄貴”の前で萎縮していようとも、流石のペッシも10mに満たない距離でスタンド攻撃を外したことはなかった。
だが今の状態、状況、環境はッ! まさに“普通”とはかけ離れたものッ!
異常、極端、最悪ッ! 今のコンディションはまさに想定される範疇を大きく超えていたッ!
そしてなにより―――

「相手が悪かったようだなァ……“坊主”」

鼻には大きなリング、頭に巻くは民族風ターバン。筋骨隆々、溢れんばかりのエネルギー。
二メートルを超える大男の名はエシディシ。柱の男 ――― 人は彼のことそう呼ぶ。

エシディシは一瞬の間にペッシの背中を取っていた。低く轟くような甘美な声。うめき声が遮るように同じ方向から聞こえてきた。
振り向くペッシ。相手は何もしない。堂々と身を隠すことなく、ただ含み笑いとともに直立するのみ。
瞬間、ペッシは後悔。微かに残っていた赤みがペッシの顔から消え、能面のように真っ白となった。

エシディシの存在を知覚した時から、途切れ途切れに聞こえていた謎の声。
あまりにも大きすぎた恐怖を前にかき消されていたが、面と面を向かい合わされては嫌でも目に、耳に飛び込んでくる。

男は“食事中”であった。右肩と右腕からニョキッと生えた異形のものがだらしなくぶら下がっている。
柱の男の生体ッ 身体全体を使っての捕食ッ! 無造作にはみ出ているものは“残りかす”だ。暗殺チーム、ホルマジオという男の名前の食べカス。
体に乱雑に突き刺さるホルマジオの頭部と右腕。未だ完全に殺されることなく生殺し、その中途半端さがグロテスクな様子に拍車をかける。

「ペッシィイィにげるんだぁあぁあぁ……」

白目をむき、口角から泡を飛ばし、焦点が合わぬ目で、それでも仲間に対し叫び続ける。
狂ったテープレコーダが見慣れた顔から耳慣れた声で叫び続けている。言葉にすれば簡単だが、こんなにも残酷で、こんなにも惨い。
エシディシがペッシに近づく。歩くたびにゆらゆらとホルマジオの僅かに残った腕と首が揺れた。

「……ゥゥッ!」
「にげ、るんだぁあぁぁあぁ…………」
「…………うわああああああああああああああああああああああ」

極限状態のペッシが選んだ選択肢は攻撃。追い込まれたネズミ、猫をも噛む。
半べそに錯乱状態のヤケクソ。超至近距離から二度目の釣針がエシディシにむかって飛んでいく。
だが相手は猫、なんてクソ優しいものではない。飛んできた釣針をいとも簡単にキャッチ。そして腕の筋肉が爆発するかのような力で糸を引っ張ったッ

釣竿を放り投げればよかったのに。だが極限まで追い込まれた時、果たして人はそんなに冷静になれるだろうか。
ペッシは掴んでいた『釣竿』に引っ張られ、空を飛ぶ。釣針の持ち主、エシディシの元へ向かい、飛んでいく。

ペッシの視界。迫ってくる肉体、凶暴な笑みの男。
エシディシが大きく、大きくなっていき……エシディシとの距離が近づき、近づいていき……。
最後に見たのは視界一杯にふさがる鍛え抜かれた肉体。そして―――




ズルゥゥゥウ……







14 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:36:14 ID:1hW6MgTg






真夜中の住宅街。肉をすり潰すような、気味の悪い音が響いていた。

「ほうほう、なるほどなるほど。ほかになにかルールはあるのか?」
「スタンド本、体との距離が遠……く離れれば離れ、るほど、パワーや細かい作業ができなってい、く」
「FUM……どおりで興味深いなスタンドとは。人間も随分と進化したものだ」

食事、兼、情報収集。虚ろな表情のペッシの上半身がエシディシの腹から突き出ている。
前菜“ホルマジオ”をぺろりと平らげ、第二の料理へ。腹が減っては戦ができぬ、を文字通り体言する柱の男。
ジュブリ、ジュブリと音をたてる肉体。消化は順調に進んでいる様子である。

と、その時 ――― 熱心に食事と尋問を続けるエシディシの耳が、不意に乾いた音を捕えた。
あぐらをかき、道のど真ん中に座り込んだエシディシの耳に飛びこむ、固いコンクリートを踏み叩く音。
会話を続けながらも反響音からその距離を探る。100メートル、角を曲がる……50メートル、同じ通りに出た。

近づいてくる靴音。構わずペッシとの会話を続けるうちに、音はどんどん大きくなっていく。
スタンド能力の基本知識、形状、種類、能力例。現代の人間のギャング組織について、ペッシという人物とその周辺関係。
聞けることは聞きだし、覚えるべきことは覚える。そうする間にも靴の音はだんだんと大きくなっていく。
やがてこれ以上無視できない、とエシディシが判断するまでに距離は縮まり……ピタリと脚は止まった。

――不審、戸惑い。
――背を取ったというのに何もしないとは。
――人間は人間が“食べられてる”のをみると大なり小なり喚くはずだがなァ。

だが会話はやめない。やがて聞きだすべき事を聞きだし終えると、まるで飛び出た引き出しを棚にしまうかのような気軽さでペッシの頭を軽く押しこむ。
体内に消えていく一人の人間だったモノ。暗殺を専門とする二人の男、怪物を前にその腹を満たしたのみ。
立ちあがり少し伸びをすると、満腹となった胃をポンと一触り。そうして、ようやく振り返った先に立っていたのは一人の男。

食事を邪魔することなく、殺気を振りまくでもなく。
“異端” ――― エシディシは意図せず溜息を漏らしてしまった。
彼の最大のライバルにして時間つぶしの相手、波紋戦士に限りなく近く、限りなく遠いような存在が目の前にいた。

「……待たせたかな?」

何故だか笑いがこぼれる ―― コイツは何だ? ちょっと面白そうだぞ。
近かった距離をさらに詰める。超至近距離、そう呼べる距離からジロジロと舐めるように相手を見つめる。
表情、ほんのわずかだが強張る。筋肉、収縮あり。体温上昇。発汗、活性化。呼吸、乱れ気味。
確かに圧力(プレッシャー)を感じる人間の自然反応が観察できるというのに……この男は何か違う。だがその“何か”がわからない。
何だかわからんが、いいぞ、“これ”は。暇つぶしになりそうだ……ッ

「唐突だが自己紹介させていただく。名はリンゴォ・ロードアゲイン。きっかり6秒だけ、それ以上でも以下でもない、時を巻き戻すことができるスタンド使い。
 スタンドの名は『マンダム』。右手首に巻いたこの腕時計のつまみをスイッチとして……マンダムはその能力を発動する。
 その間の記憶はしっかり残っている。時を巻き戻せば『し終わった』という記憶だけが残る。
 そして何度でも……時を戻すのに6秒以上感覚を開ければ、時を巻き戻すことができる」
「ほぅ……それで、その時を操るスタンド使いがこの俺に何の用かな?」
「このオレを『殺し』にかかってほしい。公正なる果たし合いは自分自身を人間的に成長させてくれる。
 卑劣さはどこにもなく……漆黒の意志による殺人は、人として未熟なこのオレを聖なる領域へと高めてくれる。
 『男の世界』。乗り越えなければならないもののために、オレは……戦わなければならない」
「……男の世界。男の世界か! フッフッフッ……! こいつは面白い。お前は何処か他の人間とは違うと思っていたが、なんてことはない、いつの時代も人間は変わらぬもの

だなァ?
 波紋戦士も誠実さとやらを大切にしていた奴がいたぞ。正々堂々、騎士道精神だと言ってな。尤も、このエシディシを前に会えなく散っていったがね。
 下らんなァ……何を望んでそう早死にしたがるのだ? 何故人間は繰り返しても学ばぬマヌケばかりなのだ、UNNN?」

15 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:36:46 ID:1hW6MgTg
敢えて大げさに笑い声をたてる。笑いが堪えぬとあたかも本当に感じているかのように。
効果のほどは定かでないが、目の前の人間の顔に、僅かだが赤みがさした。微かな隙間を縫いこの男の激情を感じる。ほの暗く、底の知れない漆黒の激情が。
笑いが一段落するもニヤニヤ笑いをひっこめることはしない。それでもエシディシはゆっくりと腕組を解く。余裕綽々な態度は崩さない。あくまで自分は上、コイツは下だ。
仮に目の前の男の言葉が本当であるならば攻撃手段は何らかの武器、兵器。未だ経験が少ないスタンドとやらで攻撃されれば足元をすくわれることもあろう。だが白兵戦でこ

の柱の男を相手しようと……?
笑止ッ たかが人間が随分となめ腐ってくれるでないかッ

エシディシから発せられた熱が見えぬ力となり、リンゴォに襲いかかる。
男は黙って本来銃を納める場所からナイフを二本取り出す。左右一本づつ持つと、手に馴染ませるように、ぐっと力を込めた。
怖気づく様子、なし。一歩も引かない。エシディシを前にしても決して押し負けるようなことはない、力強い眼光。そこらの獣よりよっぽど飢えと渇きに満ち溢れた目つきだ




果たして目の前の人間はどれだけ自分を楽しませてくれるであろうか? せいぜい時間つぶしになればいいが。
一体どれほど持つだろうか。試してみたい。死を前にしてもその冷静さ、保っていられるか。


戦いの合図 ――― 何の合図もなしに、だが本能的にであろう、二人は後ろに同じ距離だけ下がった。視線に映るは互いの姿のみ。
極寒の冬の夜のような、身体が引き締まっていく感覚。今の緊張感を表すのであれば、そう言える。
張りつめた糸。断ち切るのはどちらか。互いに交わる視線。王者の余裕と漆黒の意志。



かたや表情は余裕の笑み、侮蔑と嘲りを込め――
かたや表情は殺意のこわばり、敬意と覚悟を込め――



自然と両者が口にする。どちらからともなく口を開いた。



「「よろしくお願い申しあげます」」








16 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:37:55 ID:1hW6MgTg






キィイン!

甲高い音とともに銀色の破片が空を舞い……くるくるくるくる、回転。
刃を下に向けたまま直角と言っていい角度で、その折れた切っ先がアスファルトに突き刺さった。
“四つ目のナイフ”がこれで駄目になった。残りは二本。
左から頭部を狙った一刺し。狙われた大男はあくびを噛み殺しながら一瞥することなく、その脚を一閃。矢のような速さ、オモチャの人形かのような柔軟性。
エシディシの蹴りが襲いかかり、手に持っていた刃物をかっさらっていった。ご丁寧にも、その足の指で挟んで。
これで“五本目”。

「……ッ!」

何でもないように見えた一撃。それですらただ事でないダメージを拳に負わせる。
左手を抑え、その場で片膝を突くリンゴォ。体力も限界に近かった。ほぼ一方的に攻め続けていたというのに、彼が果たしたことはただいたずらに体力を消耗したのみ。

「もうおしまいか? お前の言う“公正”とやらを満たすには、あとどれぐらいハンデを与えればいいのかな? NN?」
「ッ!」

獣のような勢い。なんの警戒も見せずに無防備に近づいたエシディシに、リンゴォは懐に隠していた最後の一本を突きたてようと飛びかかる。
だが当然のように組み伏せられる。“動いてから”反応する。それでことたりてしまう。本質的に違うのだ、男と柱の“男”では。
駄々をこねる子供から取り上げるように武器は手からもぎ取られ、ぽいと放り投げられた。
必死で抵抗するリンゴォ。片手で大の男を押さえつけるエシディシ。果たして全力の何十パーセント、いや、何パーセントを使っているのだろうか。
子供と大人、それ以上の差が二人の間に横たわっていた。

「人間的に成長……漆黒の意志による殺人……それがこの結果だとしたならば、滑稽だなァア、リンゴォ・ロードアゲイン!」
「こ、ろ…………せ」
「殺せ、とな? 死を望むか。まるで死が勇敢である証拠であるかのようだな」

ヒュウ、ヒュウ、とリンゴォの喉が荒れ、乱れる。首を掴まれ押さえつけられているのだ。
柱の男がその気になれば今すぐにでも彼を殺すことができる。ほんの少し力を込めれば。ほんの少し手首に力を込めれば。
だがしない。しばらくの間リンゴォを黙って見つめ、そのまま時が流れる……。そしてエシディシは手を離し、立ちあがった。
なにごともなかったかのように。無関心、無興味。

「なッ!?」

興が削がれた。期待した分、がっかりだ。スタンド、兵器、武器。だが本質的な部分は変わらない。
人間はどこまで追っても人間。コイツもただの変わり種の中の一人。命を大切にしない、ただの“蛮勇”なだけ……。

「“食後”の運動としてはなかなかだったな。さて、どうするか……カーズとワムウははたしてこの場にいるのだろうか。
 しまったなァアア〜〜〜さっきの説明とやらの時に探しておくのだったなァ。
 まあいい、仲間を探すのも一興。誰もいなければ皆殺しにして、さっさと奴らの元に帰るのみだ」

あたかも戦闘などなかったかのように。自分のデイパックに近づくと、エシディシは中から地図を取り出そうと無防備な背中を見せる。
呆然とするリンゴォ。だが次の瞬間、ばね仕掛けのように先ほど弾き飛ばされたナイフに飛びつき――

「ガフッ」
「思いあがるなよ、人間……! いつでも殺そうと思えば殺せるのだッ」

17 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:39:41 ID:1hW6MgTg

車にはねられたかのような勢いで、住宅の生け垣に突っ込むリンゴォの体。殴られたのか、蹴られたのか。それすらわからなくなるような速度の攻撃。
ひたひたと裸足の脚が地を蹴る音。目の前を通り過ぎていく男の体。
リンゴォは重くけだるい右手を必死で動かす。生垣に突っ込んだ際骨が折れたのかもしれない。それでも無理やり手を動かし、動かし―――


ドォオオオ―――――…………ン


二人は馬乗りになった状態まで『巻き戻る』。エシディシは上、リンゴォは下。
パチクリ、と目を瞬かせる上の人物。説明には聞いていたがまさか本当に時が巻き戻るとは。体験した時の動きに少し新鮮さを感じた。
が、彼の行動に変わりはない。リンゴォをすぐ近くの民家の壁に叩きつけると、再び歩き出す。
さて、どこを目指そうか。次の目的地は……

ドォオオオ―――――…………ン

繰り返す。何度であろうとリンゴォは繰り返す。エシディシ、二度目の時空体験。
大きな窓が目立つ一軒の民家。次の瞬間、ガラスをまきちらし傷だらけになりながら窓から突っ込む一人の男。。歩き出す大男。

ドォオオオ―――――…………ン

煙突に突き刺さるリンゴォの身体。

ドォオオオ―――――…………ン

マンホールに落とされるリンゴォ。

ドォオオオ―――――…………ン

燃えるごみは月・水・金。ゴミ箱に逆さに突っ込まれる。

ドォオオオ―――――…………ン



…………




「いつまでやれば気が済むのだ? いい加減オレは先に進みたいのだが、リンゴォよ」
「何度でも繰り返せる、そう言ったはずだ……。ここを出て行きたければオレを殺すしかない……。
 『男の世界』は……光輝く道を前進するのみッ オレを殺せないであるのであれば……貴様はうそつき、ということになる……!」

18 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:41:39 ID:1hW6MgTg

頬をかるく掻く。困ったことになった。正直もはや男の道なんぞはどうでもいい。うそつきになろうが恥知らずと言われようが、元々自分の性格上、人間の戯言なんぞは気に

ならない。
だがここでリンゴォの口車に乗せられてコイツを殺してもそれはそれで面白くない。
勝った負けた、ではないが傷一つ負わなかった相手の思い通りになるというのは何か気に食わない。さて、どうしたものか。
しばらくの沈黙の後、エシディシは何かひらめいた表情。そして笑顔。それもとびッきりの。
倒れ伏すリンゴォに近づくとニヤニヤとした笑みを浮かべる。そして大げさに溜息を吐くと、仕方あるまい、そう言った。

スッと掲げられる手。リンゴォは目を細める。
彼は知っている。その手がどれだけ素早く力強く動くのか、どれだけ切れ味鋭い刃となるのか。
自分の心臓を一突きせんと手が動く、と思われたが……

ガッ!

顎を掴まれ、口を覆われる。思わず漏れた苦悶の声も、その掌に押され消えてしまう。

「ところでリンゴォォオオ〜〜〜……、貴様イイ身なりをしているなァ?
 ガンマンのなりに給料はイイのか? ン? そもそもどうやって生計を立ててるのだ? 農夫か? 暗殺業か?
 にしてもオシャレだなァ〜〜。こじゃれた服装、無骨なホルスター、ちょっと生えたダンディな顎髭。
 どれをとってもオレには真似できんなァ〜〜まったくうらやましいかぎりだ!」

なにか、嫌な予感がした。だがどうしようもできない。どうしようもできないからこんな状況に陥っているのだ。

「そしてなにより……素敵な素敵な腕時計をお持ちだなァ―――!?」

くぐもった叫び声はかき消された。右肘辺りをオーブンで焼き焦がされたかのような熱、そして針が千本は流し込まれたかのような猛烈な痛み。
目の前で火花が散り、どうしようもならないような悲鳴が抑えきれずに湧き上がる。まるで体の中で怪物が暴れまわっているかのようだ。
地べたに這いつくばり、身をよじるリンゴォを残し大笑いのエシディシはその場を後にする。
その手にリンゴォの『右腕』を持って。


「BAOOOOOOOOOOOOOOO!! この時計は、腕ごと借りて行くぞ、リンゴォ―――ッ!!
 返してほしければ、力づくで奪うがいいさッ UHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


そして笑い声は次第に小さくなり……やがて聞こえなくなった。







19 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:42:25 ID:1hW6MgTg






ジャガーがジャングルを駆け回るように、エシディシも現代のジャングル、鉄筋と瓦の森を飛び跳ねて行く。
清々しい気分……イイ気味だッ 死を畏れないものへの最大の屈辱ッ 見逃『される』という行為ッ!
今頃奴は一体どんな顔をしているだろうか? 悔しみ? 悲しみ? 案外もう野垂れ死んでいるかもしれない。
腕一本持っていかれたのだ。あのまま失意に沈み、治療もせずに放っておいたならば長くは持たないであろう……。

「NN?」

と、そこでエシディシは奇妙な事に気づく。自らが所持するデイパックが細かく振動している。まるで中で何かが暴れているような。
はて、どうしたものだろうか。好奇心に負け、足をゆるめ、一休憩。中から何が出てくるのだろうかと期待に胸を膨らませ―――

「!?」

デイパックの中から『貸してもらった」リンゴォの腕が飛び出てきた。流石の柱の男も何千、何万年生きてきたとはいえ、空飛ぶ片腕なんぞは見たことも聞いたこともない。
とはいえ、これはエシディシの戦利品にして借りたもの。猛スピードで飛んでいくリンゴォの腕を改めて捕まえようとして―――

「やめだ」

爆発的な跳躍のため収縮した両腿の筋肉がゆるんでいく。これもきっとスタンド能力の一つだろう。一体どんなスタンド能力か、検討もつかないが……だからこそ興味深い。
皆殺しにするといったが、そいつはちと軽率だったかもしれない。まだまだここには面白いものがたくさんありそうだ。スタンド、人間、波紋戦士……。
ワムウとカーズの元に帰るのは当分先になりそうだな。何、俺たち柱の男に取ったたかが2日や、3日。そうかわらんことだ。

「ゆっくりしていくとするか」

そう呟くと屋根の上にどっかりと腰をおろし、改めてデイパックの中身を確認し始めた。
噛み殺そうとしても笑いが次々と漏れ出てくる。そして、何処かで期待している自分がいた。あの『男』がまたあの『右腕』をつけ、自分に立ち向かってくることを。






20 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:42:45 ID:1hW6MgTg






「あの〜〜……大丈夫ッスか〜〜? 一応傷とか、怪我とかは治したんですけど、まだどっか痛む場所とっかあったりするんスかねェ?」

例え体は元に戻ったとしても、心は元には戻らない。
奪われた『誇り』は自らの手で取り戻さなければ意味がない。
『納得』ッ! ジャイロ・ツェペリの言葉がリンゴォの頭の中で浮かんでは消え、沈んでは浮かび上がる。
許されないのは奴の行為ッ 命を馬鹿にしたのではない。奴は『男』を馬鹿にした。『男の世界』を侮辱したッ

「弱ったなァ〜〜、ほんと大丈夫ッすか? あ、もしかして俺のことが信用ならねェとかですか?」

だが、どうしてそうなったのだ。激情に駆られた自らを遮りぽつりと、呟くもう一人の声。
そもそも『男の世界』を証明できなかったのは奴のせいか。奴に非があったのか。
証明できなかったのは、誰だ。誰に対してだ。お前は一体何に『納得』できてないのだ。

「……お前は」
「俺っすか? あれ、聞いてなかったンすか。仗助、東方仗助っす。アンタ名前は?」
「オレか? オレは、……オレの名は…………―――――」

無事に戻った右腕、それの手首を辺りを男は何度も何度も撫でていた。
マンダム、そう呟くと“並び立つ者”が張り付くようにリンゴォの背中に現れる。

だがいくら待てども、どれだけ念じようとも。


リンゴォの手首に時計が現れることはなかった。




【ペッシ 死亡】
【ホルマジオ 死亡】

【残り98人以上】

21 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:44:11 ID:1hW6MgTg










【D-6 南東/1日目 深夜】
【エシディシ】
【時間軸】:エア・サプレーナ島でジョセフの指で拳を突き破られた瞬間。
【状態】:健康、満腹
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、不明支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:面白そうなので少し遊んでいく。
1.とりあえずデイパックの中を確認。
[備考]
ペッシからスタンドの基本知識、暗殺チーム等の情報を得ました。詳しくは後続の書き手さんにお任せします。





【E-4 北東部/1日目 深夜】
【リンゴォ・ロードアゲイン】
【時間軸】:ジョセフの葬儀直前。
【スタンド】: 『マンダム』
【状態】:健康、屈辱、怒り、???
【装備】:DIOの投げナイフ半ダース(内2本、折れている)
【道具】:基本支給品、不明支給品1
【思考・状況】
基本行動方針:???
1.???
[備考]
精神状態が落ち着けばマンダムが回復する『かも』しれません。後続の書き手さんにお任せします。

【東方仗助】
【時間軸】:???
【スタンド】: 『クレイジー・ダイアモンド』
【状態】:健康
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。
1.目の前のおっさんから詳しい話を聞く。
2.承太郎さんとジジイ?が、死んだ……?!
[備考]
時間軸は後続の書き手さんにお任せします。

22 ◆c.g94qO9.A:2011/11/30(水) 23:48:24 ID:1hW6MgTg
以上です。どなたか、代理投下よろしくお願いします。
タイトルは投下してる途中になんか他にもいいのあるだろう、と思えてきたので未定です。
また思いついたら連絡します。明日までには考えておきます。

>>執筆
露伴がとっても『らしい』。ほのぼのしてるけど、ロワなので油断禁物。ヘブンズ・ドアーが効かない相手が来たら、恐ろしい。
>>これはゾンビですか?いいえ、それは孫です。
重力と幸せのくだりでニヤリ。ジョナサン≒ジョセフのギミックも素敵。二部ジョセフには吸血鬼&柱の男相手に活躍してほしい。
>>オフィーリア
徐倫死亡に絶望。希少な女の子成分が、絶望。承太郎も自分と同じように絶望してるだろうな。FFの登場軸が肝。こっからどう転がしていこうか。

23 ◆YR7i2glCpA:2011/12/06(火) 21:21:25 ID:UB.HngXQ
規制されたのでこちらに投下します。

24 ◆YR7i2glCpA:2011/12/06(火) 21:23:31 ID:UB.HngXQ
トクトクと、ティーカップに水が注がれていく。
グラスの半分ぐらいまで注がれたその水は一瞬盛り上がるかのように動くと、やがて表面張力により静かに平穏を取り戻した。
と、次の瞬間に水面が波を立て始めた。
辺りには風もなく、またカップ自体が動いたわけでもない。
ではなぜ波が立ったのだろうか?
それは、そのティーカップを持っている男に秘密があった。

カラフルな色彩の派手なシルクハットをかぶり、口元には綺麗に整えられた口ひげを蓄えたその紳士の名はウィル・A・ツェペリ。
彼には常人にはない、とある『能力』を持っていた。
それは、『波紋法』というもの。
東洋に古くから伝わる呼吸法により、その身体の血液エネルギーを蓄積させ、生命エネルギーを活性化させる特殊な力であった。
それによって生まれるエネルギーは太陽の波動と同じ力を持っており、強い波紋エネルギーは吸血鬼や屍生人といった怪物を倒す事が出来る。
また、その活性化したエネルギーを持って病人を治療したりすることもできる、極めて優れた能力であった。
手にしたティーカップの水面が揺れるのも、『波紋』によるもの。
この波の動きは周りの生体エネルギーを察知し、それを伝えるレーダーとなる。
深淵の闇に閉ざされた見ず知らずの場所に置いても、ツェペリはこの場にいる何者かの存在に気づいていた。

25 ◆YR7i2glCpA:2011/12/06(火) 21:24:50 ID:UB.HngXQ

今ツェペリがいるその場は地図で言うところのB−8に存在する、サンモリッツ廃ホテルだった。
当初はその暗闇と不気味な佇まいに困惑したものの、段々と目が慣れてきた今は探索をしている。
『波紋法』の達人であるツェペリにはこのような芸当は朝飯前であった。
(この感じからして、恐らく吸血鬼や屍生人ではなさそうだのう……男、それも青年、数は一人…といったところかな。)
水面の波の動きが示すままに、ツェペリが向かった先は使われなくなってどのくらいたったのかはもう分からない厨房だった。
明かりもついておらず、暗闇が支配するその場には人がいるとは到底思えなかった。
しかしツェペリの手の中にあるティーカップは、静かに波を描いていた。


「誰かおらんか?私はウィル・A・ツェペリ男爵と言う者だ。この殺し合いなんかには乗る気は毛頭ないからここにいる者、出てきてくれないかな?」

暗闇に向かって声をかけると、少しの間ののちに闇が少し動いたかのように見えた。
「……本当デスカ?」
「ああ、本当だとも。」
「……ソウデスカ。それナラ」
その言葉ののちに、闇の中から白い影が現れた。
よくよく眼を凝らしてみると、どうやらその人物は純白のコック服を着た青年であった。
怯えてはいるが、錯乱はしていないようであった。

26 ◆YR7i2glCpA:2011/12/06(火) 21:25:44 ID:UB.HngXQ
「…私ノ名はトニオ、トニオ・トラサルディーと言いマス。」
「そうか、君はこの殺し合いには……」
「エエ、乗る気ハ有りまセン。」
「そうかそうか、じゃあよろしく頼むな、トニオくん。」
右手を差し出したツェペリに対して、トニオはその右手をじっと見つめていた。
「…どうしたのかね?トニオくん、ちゃんと洗ってあるぞ。」
「ツェペリサン……貴方……」
差し出された掌をしげしげと眺めるその様は、ツェペリでなくとも少々不思議に見えただろう。
だがそんなツェペリをよそにトニオはツェペリの掌を見ていた。
「あ、あのー、トニオくん?」
「素晴ラシイ!貴方のヨウナ『健康』ナ人に出会ッタのは初めてデス!」
「…は?」
突然のトニオの発言に、ツェペリは一瞬呆然となってしまった。
「…あ、スイマセン……実ハ私、掌デその人ガ『健康』かドウか分かるんデス。」
「ほほう。」
「イヤハヤ、正直驚きマシタ。貴方ニハ是非私の料理ヲ食べて頂きたいデス。」
「それは楽しみだ……だがトニオくん、一ついいかね?」
「何でショウ?」
ツェペリは何も言わずに、トニオに手に持ったティーカップを見せた。
その中にある水面は、まだ波を立てていた。
その様子にトニオは不思議そうな表情を見せたが、そんなトニオにツェペリはそっと囁いた。

(……この建物の中に『誰か』が入ってきたようだ。)

ビリ、と空気が震えたような感覚を二人は覚えた。

27 ◆YR7i2glCpA:2011/12/06(火) 21:26:20 ID:UB.HngXQ




【C−8サンモリッツ廃ホテル・1日目深夜】

【ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:ジョナサンと出会う前。
[状態]:健康
[装備]:ウェストウッドのティーカップ(水が少量入っている)
[道具]:基本支給品(水微量消費)、不明支給品×1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.入ってきた何ものかを警戒。
2.吸血鬼や屍生人が相手なら倒す。
3.協力者を探し、主催者を打倒する。

【トニオ・トラサルディー】
[能力]:『パール・ジャム』
[時間軸]:杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いから脱出したい。
1.入ってきた何ものかを警戒。
2.ツェペリサンを信頼、いずれ彼に料理をふるまいたい。



[備考]:何者かがサンモリッツ廃ホテルに入ってきました。

28 ◆YR7i2glCpA:2011/12/06(火) 21:27:23 ID:UB.HngXQ
投下終了です。
タイトルは『来たのは誰だ』


29 ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:00:55 ID:dIxCZ1BU
ウェザー・リポート、ブラックモア 投下します。

30 ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:01:22 ID:dIxCZ1BU
大粒の雨が容赦なく降りそそぐ。冷たい雨を浴びながら町中を歩く男はまるで幽霊のように霞み、揺れる。
男の名はウェザー・リポート。記憶を失った、天候を操るスタンド使いだ。
凍えるような寒さの中も気にするそぶりを見せることなく、彼は一人歩いていた。
踏み出した足は水たまりを無造作に跳ね上げ、水飛沫が勢いよく吹き上がる。宙に舞った水滴は新たに落ちてくる雨粒に混ざわり、何事もなかったかのようにまた地に戻って

いく。



――雨が降り続いていた。



黙々と足を運んでいた男がふと視線をあげると、濃い雨霧をぬい、ゆらりと揺れる影が見えた。
身構える彼の目の前で段々と濃くなっていく影。
月の光も、星の光も雨雲に遮られてしまい、辺りを照らしているのはポツンと寂しげに立つ街灯のみ。
切り取られたような闇がどこまでも広がる中、ウェザー・リポートは街灯へ近づいて行く。
影も動く。ウェザー・リポートの動きに合わせるかのように、同じく街灯へと足を運ぶ。
二つの影は冷え冷えとした夜の元、唯一の拠りどころに集まる。雨で霞み、ぼんやりと滲んだ光が互いの姿を映し出した。

ウェザー・リポートの目にうつったのはレインコートを身にまとい、童話の中から飛び出てきたような何処か浮世離れした男。
痩せた体をスッポリ包む、ブカブカの黒いポンチョ。水玉模様の細長い、風変わりな長靴。
表情は思わず気を似てしまいそうになるひょうきんじみた顔。一本にまとめられだらしなくぶら下がる髪の束が間抜けさを演出する。
そのくせ、周りを舐めまわすように観察する視線は知性に溢れ、狡猾な人間、侮れない男というイメージをウェザーは感じ取った。

「こんばんは。今夜は散歩にぴったりの夜ですねェ」
「ああ、そうだな」

しばしの沈黙。
静寂さを引き立たせるかのように、雨足が少しだけ強まった気がした。
ウェザーは男を指さし、言った。

「いいレインコートだ。あんたにとても似合ってる」
「ありがとうございます。あなたのその帽子も素敵ですよ。さぞかし暖かいことでしょう。
生憎このレインコート、安物でして、寒さまでは防いでくれないのですよ」

大袈裟なため息。舞台であるならば観客が思わずクスリと笑ってしまいそうになる滑稽さ。

「申し遅れました、私、ブラックモアというものです。
こう見えてもエリート中のエリート、かの有名なアメリカ大統領の付き人というか、小間使いというか。護衛兼召使いのようなことをやらせていただいております」
「オレの名前はウェザー・リポート」
「ウェザーさんですね、なんとも天晴れなお名前です」

ブラックモアのお辞儀につられてか、ウェザーも思わず軽く頭を下げる。

31 ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:02:41 ID:dIxCZ1BU


「にしても私の格好を気に入ってくださるとはありがたいことです。どうも私の周りはセンスのない方々ばかりでございまして……。
私を見ても“ダサいって世界だな”だの“奇天烈だぜ!!”と抜かすだの。本人を前に平気で口にするもので……」
「そいつは気の毒だな。気の合う友人ってのはなかなか見つからないからな」

ウェザー・リポートの返事にウンウン、と頷き賛成するひょうきんな男。
会話が一段落したそのとき、ふと相手を見つめるとどこからともなく傘を取り出していたことに気付いた。いつの間にさしていたのだろう。あの大きなコートの中にでもしま

っていたのだろうか。
彼の疑問を知ってか知らずか、ブラックモアは優雅に傘を広げ、クルクルと手の中で回転させる。
色は彼の服装とマッチする黒、しかし残念ながら女物の傘だ。だがその“チグハグサ”こそがこの男の“らしさ”なのかもしれない。
ウェザーは思わず頬を緩め、口を開いた。

「そのカサも似合うな」
「ありがとうございます」

そして、急に真顔になると少しだけ語気を強め、言った。


「でもオレが一番オシャレだと思うのはその“仮面”だ」
「―――――…………」



――沈黙。雨がさらに強くなった。



ダダダ、と散弾銃でもまきちらしたかのような数え切れないほどの雨粒が天から降り落ちる。
その勢いは凄まじく、直接皮膚を叩く水滴が痛いと思えるほど。しかし二人は動じない。
凍えた体よりも、突き刺すような寒さよりも、冷たく鋭い視線で互いを見つめていた。


「……ウェザーさん、貴方は理解者となる友人が多くいる。そんなことをおっしゃられてましたよね?
うらやましい限りです。熱い友情、信頼すべき友。共感し、心震わし、涙涙の感動劇。
アア、美しいッ!」

驚くべきか、並みのものならば口を開くことすら躊躇われるこの状況、緊張感を前にブラックモアの口調は変わらない。
飄々としていて、淡々としていて、まるで今起きてることを面白がっているかのように。
さしずめ、王様をからかう命知らずの道化師のように。

先ほどより深く、より仰々しく一礼するブラックモア。片手を高くあげ、頭を下げ、芝居ががった語り口調。

「どうか私をその友人に加えていただけませんか。
まだあってほんの少し、一瞬と言っていいかもしれませんねェ。しかし、私はこれを“運命”と受け取りました。
一目ぼれの相手と運命の赤い糸で結ばれていると思うのと同じように。まるで違う極同士の磁石がたがいに魅かれあうように。
どうでしょう、ウェザーさん。友達になりましょうよ。そして熱い友情の元、私と“協力”して――」

32 ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:04:11 ID:dIxCZ1BU


声のトーンが、何オクターブかわからないほど下がる。
低くかすれた声はまるで地面からわき上がるように響き、大音をたてる雨に負けることなく、ウェザーの鼓膜を震わせた。


「この“殺し合い”で勝ち抜きましょう…………」


ウェザーの返事に躊躇いはなかった。
相手を見つめ、大きな声でこう叫んだ。

「オレの答えは“NO”だ。お前に話す言葉など何もない」
「そうですか……」

雷鳴が轟いた。 ビカッ!! と一瞬だけ辺りが昼のように照らし出され、凄まじい轟音が大地を揺るがした。
雷の余波にやられたのか、街灯が一度だけ燦然と輝くと、 バチッ!! という音とともに微かに呻き、次第に弱弱しく、最後には消えてしまった。
ウェザーはスタンドを傍らに呼び出す。拳を構え、半身の姿勢を取る。
ただならぬ気配と圧縮された殺気は目の前の男が元凶。頭を垂れ、片手を差し出し、一見無防備、無警戒、無抵抗を装う、この男が。



「――では、死んでもらいましょうかァ」



闇がこちらを向いた。どこまでも深く、底の見えない闇が。
パッと顔をあげた男には“口”がなく、ぽっかりとあいた闇がこちらを覗いていた。
狂気 ―― ウェザーの頭にその文字がよぎったのと同時に、首筋に熱い痛みを感じた。

飛び散る血。凄まじい勢いで宙を“蹴り”、接近するブラックモア。
喰らいつく牙。痛みに顔をゆがめるウェザーはそれでもスタンドの拳を振りぬいた。



――雨が降り続いていた。







33 ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:05:27 ID:dIxCZ1BU





雪崩落つ雨を切り裂くように、一直線に空中を蹴り、接近するブラックモア。左腕を弓矢のようにしならせ、最高速度で傘を突きだす。
首筋の痛みに思わず体勢を崩したウェザー・リポートは自分のスタンドが“固定”されていることに気付くのが遅れた。
追撃は間に合わない。鋭く尖った傘が、もうそこまで迫っていた。

「ッ!」

右肩に真っ赤な花が咲いた。右目を狙った一撃を前に、寸前のところで身体を捻ることで最小限に被害を抑える。
だがダメージは右肩だけに収まらない。固定された雨粒が身体を切り裂き、銃弾が通り抜けた様に身体中に穴があく。
苦悶の表情を浮かべるウェザーを尻目に、ブラックモアはその場を駆けぬけ、また距離を取る。
宙でクルリと一回転、傘を構え、再び加速のポーズを取る。決して相手の間合いには近寄らない。
雨粒による固定、噛みつき、突き刺し。三つの要素を軸に、圧倒的優勢を保ちつつもブラックモアは決して油断しない。

(あのスタンド……)

固定された身体を傷つけぬよう、首だけをこちらに向け睨みつけるウェザーの目は死んでいない。ブラックモアは傘の柄を強く握り、考える。
ウェザー・リポートに並び立つスタンドの力はいまだ未知数。自分のスタンドは直接戦闘型でないため、防御力はない。向こうに攻勢を仕掛けられたらお終いだ。
つかず離れずの距離を保ちつつも、戦闘を長引かせてはならない。雑な攻撃ではカウンターを合わせられる。慎重になりつつも、大胆に攻めねばならない。

(向こうが何かしらの突破口を考えだす前に、けりをつける)

姿勢を低く低く取り、雨粒を裏に感じながら加速の準備。
第二派、開始。狙いは心臓一点だ。ダメージ覚悟で動かせない唯一の急所を突く。

バシャッ! と足裏の雨粒が舞った。固定された水滴を次々と踏みしめ獲物へ迫る。
より早くッ より鋭くッ
その時、横薙ぎの風が唐突にブラックモアを襲う。風の抵抗を受けガクンと減速するブラックモア。思わずよろけ、たたらを踏みながらもなんとか持ち直す。
無駄に距離を消費してしまったが、まだ標的となるウェザーははるか先にいる。こっからもう一度立て直して加速していけば―――

(……?)

風はまだ吹いていた。グイグイとブラックモアの身体を押し、どんどんどんどんウェザーのいる位置から遠ざけようとするかのように。
もはや風はブラックモアに牙をむき、暴風と呼べる強さで襲いかかっていた。固定されたとは言え、足場は雨粒の塊。決して安定してるとは言い難い。
なびく自らのレインコートに視界が遮られ、強烈な雨粒が顔を直撃する。視界がほとんど塞がった中、なんとか手をかざしウェザーの状態を伺う。

重なり合った視線。ブラックモアは見た。ウェザーの瞳に宿る、紛れもない漆黒の殺意を。
文字通り手も足も出ない中、それでも確かな意志を持ってブラックモアを“殺そう”とするウェザー・リポートの覚悟を。

それを見て確信する。間違いない、この強風は……この風は、ウェザー・リポートのスタンド能力。
見るとウェザーの周りに浮かぶ無数の空間の歪み。ちょう彼の体とスタンドを固定する雨粒の周辺が、蜃気楼のように揺らいでいるのだ。

(いや、違うッ! あれは、あの空間のゆがみは……ッ)

34 ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:06:47 ID:dIxCZ1BU


ブラックモアが目を凝らす先で、一つ、また一つと雨粒が消え去っていく。
小さな台風が何個もウェザーの周りを漂っていた。水滴が消滅するほどの風力で固定そのものを削り取り、解除していく。
もはやウェザーの身が自由になるのも時間の問題。そしてもしも、彼の風を操る能力が本物であるならば……もしも彼が、この上空の雨雲を吹き飛ばすほどの台風を作り出せ

るとしたならばッ

判断は一瞬で下された。このままではマズイ。なんとしてでもこやつを―――始末しなければ。
ブラックモアは直進を切り上げ、直角へと移行する。風は依然強い。彼を振り落とそうと、右から吹き、左から押し、雨粒すらも運び去っていく。
なんとか十分な高度までたどり着くと、いそいでウェザーの頭上へと向かっていく。身体はまだ固定されている。首を上に向け、彼はこちらを見つめていた。
高度が上がれば、遮蔽物も自然と減り、風の直撃は避けられない。一歩、また一歩、台風の中を歩くように確実に進んでいく。

(あの場所へッ あの場所へさえ、たどり着ければッ)

ようやく目的地へ到達、ブラックモアは足元にいるウェザーの位置をしっかり確認する。
時間がない。勝算は五分五分、リスクも大きい。確実に勝てる方法でもない。
しかし『雨がやむ前に決着をつけなければならない!』、その事実が、ブラックモアから冷静さを奪い、焦りを生みだしていた。

傘を下に向け、構える。さながら剣を地面に突き刺すような形で。
風が弱まった。ウェザーも下でブラックモアが何をしようとしているのか気付いただのだろう。スタンドの能力をいったん解除、ブラックモアの攻撃に対処しようとスタンド

パワーを集中させる。
こっから先は互いに引けない詰将棋、どちらがより相手を上回ったかの答え合わせのみ。

ブラックモアは肺一杯に空気をため込むと……足場としていた雨粒の固定を解除、地面に向かって一気に落下していくッ
右手に持った傘がウェザーを狙い、バタバタといななく。上空から頭を通り、足まで真っ二つの突きさしにしてくれようッ
当然ウェザーもそうはさせまいと風を呼び起こす。強風がブラックモアの軌道を逸らそうと、近くの民家も吹き飛ばさん限りに襲いかかった。

「う、おおおおおおおお―――ッ!」

だがブラックモアの覚悟が一枚を上をいった。狙い、ウェザー・リポートから逸れることのないように自らが落ちる脇の雨粒を固定する。
つまり両側の水滴が壁のような役割を与え、例え風に煽られようとも無理矢理軌道修正させるようにしたのだ。身体が雨粒との摩擦で傷つくこと、承知で。
皮膚を破き、血が飛び散り、それでもウェザー目掛けて落下していくブラックモア。ウェザーはまだ固定を解除しきれていない。このまま突ッきれッ……このまま突ッこめッ

……!

(……雨が――――?)

上空20メートル、ブラックモアの広がる視界がウェザーから逸れた。それは彼が見たものがとても奇妙なものだったから。
落下する中、初めて気がついた。民家を挟んだすぐ向こうの道では雨が“降っていない”。雨どころか、月の光を浴びているのだ。
スローモーションのように、まるで何かに魅かれるようにブラックモアは宙で回転し、空を仰ぐ。
雨雲はいつの間にか、去り、自分とウェザーの上空にしかなかった。まるで誰かが“天候を操っている”かのようだった。

(まさか、ウェザーリポートのスタンド能力は―――)

そこから先は考えることができなかった。
仰ぎ見た雨雲が一瞬にして色を変え、真黒な雷雲へと変わる。降りそそいだ稲妻が、ブラックモアを直撃した。










35 ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:07:06 ID:dIxCZ1BU






「何故、雨を解除しなかった……」
「…………」
「ウェザー・リポート(気象予報)、文字通り“天候を操る”スタンドだったとはな。私は最初から“詰んで”いたわけだ。
 この雨すらお前の能力だというのに、そんなことすら気付かずに。滑稽だ……幸運だと思い込んでいた私が馬鹿らしくなってくる……」

寒い、ものすごい寒さだ。体の芯から凍え、唇は勝手に震えだす。
身体を伝う雨粒が熱を奪い去り、流れ出る血は留まる事を知らない。

「何故だ、何故雨を解除しなかったッ!? 手のひらで踊る私をこき下ろしていたのか?
 天候を解除る迄もない相手だと思ったのか? それとも何だ、同情でもしたつもりかッ
 答えろ、ウェザー・リポートッ!!」
「…………」

横たわっていたブラックモアは、瀕死とは思えない勢いで起き上がるとウェザーの胸ぐらを掴む。
雷に打たれた眼球は白く濁り、とめどなくあふれ出る血は彼の命がもう僅かしか残っていないことを明確に知らしめる。

「ブラックモア、雨粒で傷口を固定しろ。今ならまだ間に合う。出血を抑えて安静にしておけば死ぬことはない」
「質問に……、答えろッ!! この私に、情けをかけたのか? 偽善者めッ……! 貴様は私を侮辱したッ! 屈辱だッ 恥だッ」

抜け目ない策略家であり、人を殺すことに意を介さないブラックモア。他人の命と自分の命を秤にかけたならば、躊躇いなく自分の命を取るブラックモア。誰かを蹴落として

でも勝ちぬきたい、生き残りたい。そう思う覚悟が彼にはあった。
それはウェザーには決してできないこと。記憶をなくし、自分が何者なのかわからない、何のために生き、どうして刑務所に入れられ、そして刑務所から出たならば、そのあ

とどうすればいいのか。
死にたくはない、素直に殺される気もさらさらない。
だが誰かのために必死になり、誰を蹴落としてでも、“死んでも”叶えたい“何か”がある。
ウェザーには生きる意味が見当たらなかった。自分が生きている記憶も記録も失ってしまった。
ウェザー・リポートは羨ましかった。ブラックモアが羨ましかった。

力尽きた様にブラックモアの身体が崩れ落ちる。まだ死んでいない。だがもう、手遅れだ。そしてブラックモアもそれはわかっている。自分がもう長くないことを。
降り続ける雨粒を最後の力を振り絞り、固定する。醜く地を這いずり、なんとかそれにしがみつくと、よろよろと立ちあがる。自力で、誰の助けを借りることもなく。
再び立ち上がる。今度はしっかりと、二本の脚で。ウェザーに向かいあう形で立ち、彼は言った。

「私にはわかる……貴様は“私と同じ”だ。“人殺しの眼”、殺人を犯すのに何の躊躇いも持てないヤツの目だ……」
「…………」
「自分を欺むき続けるがいいさ……だが、偽善者、貴様は私と同類だ。
 人を殺すことでしか自分の存在価値を証明できない。人を殺すことでしか自分を保っていられない。
 私たちは“悪魔”なんだ……どこへ行こうとも、一人、孤独だ……」

36 ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:08:04 ID:dIxCZ1BU

本当にそうなのか、ウェザーはブラックモアに尋ねてみたかった。
彼はウェザーと戦っていた時、常に自分の背後にいる誰かと戦っていた気がしたから。
自分のためでない、誰かのためだけに命を捧げ、命を投げうっていたような顔をしていたのだから。


「悪魔が、首を、傾げるな……―――」


ブラックモアの最後の言葉は風に運ばれ、消えて行った。同時に雨が弱まり、固定された雨粒が消えていく、消えていく……。
前のめりの状態でブラックモアの身体が静かに倒れて、バシャッ、と水たまりが大きく跳ねた。
ウェザー・リポートはブラックモアのデイバッグと傘を拾い上げ歩き始める。もう雨は上がっているというのに、傘を差したまま歩きだした。


(俺も、あいつのように……)


人を殺すことは怖くない。人に殺されることも怖くない。
だがブラックモアのように、閃光のように一瞬でも輝き、誰かのために生きれたとしたら。
ブラックモアのように、何かのために懸命で、必死で、燃え尽きるように生涯を終わらせることができたならば。

脳裏に“友人”と呼んだ何人かの顔が浮かんでくる。
エルメェス・コステロ、ナルシソ・アナスイ、エンポリオ・アルニーニョ、フ―・ファイターズ、そして……―――


「徐倫……、君とそよ風の中で話がしたい。一度だけでもいい、君と話が―――」





――雨があがった。










【A-1 北西/1日目 深夜】
【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:右肩にダメージ(中)、右半身に多数の穴
[装備]:スージQの傘
[道具]: 基本支給品×2(自分、ブラックモア)、不明支給品1〜2(自分)、
[思考・状況]
基本行動方針:襲いかかってきたやつには容赦しない。
1.徐倫……

37悪魔が首を傾げるな ◆c.g94qO9.A:2011/12/07(水) 01:12:15 ID:dIxCZ1BU
以上です。何かありましたら指摘ください。
ちなみに題名は2ndのウェザー&ブラックモアのSS、「悪魔に首を懸けるな」を意識しました。

38名無しさん:2011/12/07(水) 08:34:18 ID:NsScWYUo
 一応気付いたところだけ。

・誤字と思われるところ。
>第二派、開始。
→第二波、開始。

>ちょう彼の体とスタンドを
→ちょうど彼の体とスタンドを

>閃光のように一瞬でも輝き、誰かのために生きれたとしたら。
→閃光のように一瞬でも輝き、誰かのために生きられたとしたら。

・以下の部分、改行の間に空白行があったので、何らかのミスかと。
>あの大きなコートの中にでもしま
>っていたのだろうか。

>の台風を作り出せ
>るとしたならばッ

>スタンド
>パワーを集中させる。

>突ッこめッ
>……!

>誰かを蹴落として
>でも勝ちぬきたい、生き残りたい。そう思う覚悟が彼にはあった。

>そのあ
>とどうすればいいのか。

39 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 01:40:50 ID:C/WJpKCQ
現在推敲中です。規制されていたのでこちらに、二時前を目安に投下します。

40 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:18:22 ID:C/WJpKCQ
投下します。

41 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:18:53 ID:C/WJpKCQ
暗い路地裏に金具がぶつかり合う音が響いた。J・ガイルはいつもよりきつめにベルトを締め、満足げに息を漏らす。
ズボンを履きなおすとゆっくりとその場を後にする。“左手”に持った包丁が僅かに差し込む街灯の光できらりと輝いた。

「一人で二発“やれる”ってのは便利なもんだよなァ……これだから女はイイ。
 一発ヤッて一発殺れる……ククク、二度美味しいってもんだ。病みつきになるぜ」

灯りが届かないところに止めてあったバイクにまたがると、ポケットから地図を取り出し次の目的地を検討する。
次の獲物を探すのもいいが、殺し合いとなればあせらずとも満足いくまで“やれる”であろう。高揚した体を休める意味でも、休息を求めるのは悪くない。
それに考えないといけないこともあるしな、と一人言い聞かせる。となると次の目的地は……

「“廃”ってところが気になるが、それでもここらよりはましだろう」

アクセルを捻るとけたたましい音をたてバイクは動き出し、J・ガイルはあっという間に闇に消えて行った。
最後に残した小さな呟きはエンジン音に紛れ、誰に聞こえるわけもなく消えていった。


「それにしても、“空条承太郎”が二人いる……? 一体なにが、どうなってやがるんだ……?」





42 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:19:15 ID:C/WJpKCQ



「あっ!」

よろけた体を支えてくれたのは一本の逞しい腕。承太郎が反射的に差し出した腕につかまり、しのぶは寸前のところで持ち直した。
安堵の気持ちがわき上がると同時に、しのぶの顔に赤みがさす。会って間もない赤の他人同然の男の腕に、咄嗟とはいえ抱きついてしまったのは、いささか軽率だった。恥じらいの気持ちがわき上がる。
ありがとうございます、と小さく感謝の言葉をつぶやくも男は頷くのみ。すいこまれそうなエメラルドグリーンの瞳で、ただ黙ってしのぶを見つめていた。
気まずい空気が流れ、しのぶはそそくさと腕を離し再び歩き出す。承太郎がその横に並んで歩くのを横目でチラリと確認するも、その表情は何を考えているのかわからなかった。

二人は並び立ち、黙ったまま目的地を目指し、歩き続けた。向かっている先は地図で言うところの右下、杜王町と記された地域。
そうやってただ暗い夜道をもくもくと歩いていると、碌な考えが浮かんでこない。そもそも『殺し合い』、その事実が未だしのぶの中では整理できていない。
遠い親類の葬儀や家族の墓参りは経験したことがある。『死』なんていうものは知識や認識としてはわかっているつもりでも、自分には関係ないものだ、そう考えていた。
だからこそ目の前で、しかも首輪爆弾なんていうテレビでも見たことがないような方法で人が殺されたとしても、フワフワとそれが形をなしてないように思えた。
自分には無縁の世界がそこには広がっていて、自分がそこに巻き込まれてしまった。ただそれだけ。今こうして、歩いているこの時でさえ誰かが殺し、殺されている。そんなことが本当に起こっているのだろうか。

だけど……とそこまで考え、しのぶは自分の腕をさする。決して寒くはないのだが、ゾッとするような怖気が走った。
早人が、夫がこんなことに巻き込まれているとしたら? 彼らが得体のしれない何者かに襲われるとしたら?
ついさっき見た光景に息子と旦那の顔が重なる。うなだれる二人は椅子にしばりつけられ、死を待つのみ。色眼鏡をかけた老人が声高々に宣言をし、二人の首が吹き飛ぶ……。

「川尻さん……、川尻さん!」
「ハッ!?」

いつの間にか先を行く承太郎を追い越し、違う道に迷いこんでしまったようだ。後ろを振り向くと心配そうにこちらを眺める承太郎がいて、慌てて十字路まで戻っていく。
と、その時キラリと光る何かが目に入り、しのぶは足を止めた。民家と民家の隙間、人一人分しか通れないであろう狭い隙間。古びた街灯ではそこまで光が差し込まず、一体何があるのか、はっきりとは見えなかった。
なんてことないものかもしれないが、何故だかどうも気になってしまいしのぶはその場に立ちつくす。まるで魔法で操られたかのように、その光る物体が何故だか気になった。一瞬だが、鋭く光った、何かが。
不審に思った承太郎がしのぶに近づき、どうしたんですか、と尋ねる。困惑気味の表情をする彼にしのぶは黙って狭い通路を指さした。何かそこで光ったの、そう告げようとした。

だがかわりに口から出たのは、短いひきつった悲鳴。反射的に押し殺した叫びはくぐもった唸り声に変わり、通路を指す指が震えた。
承太郎の顔に影がさす。しのぶを庇うように彼は一歩前に踏み出した。
二人の目に飛び込んできたのは光でなく、地面に飛び散った真っ赤な液体。路地の先、暗闇が濃くなるにつれ、赤い面積もどんどん広がっているようだった。

43 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:20:07 ID:C/WJpKCQ


「離れないで。声もできるだけ抑えるように」

鋭く、小さな声で出された指示に彼女は黙って頷く。身体ががたがたと震えだし、一人じゃとてもじゃないが立てそうにもなかった。恥も外聞も捨てしのぶは承太郎の腕にしがみつき、彼についていくほかなかった。
この先には進みたくない、行ってはいけない気がする、進んだら絶対後悔する。だが彼女を支える男は一歩一歩、確実に通路を進んでいく。恐怖のあまり、思わず目をつぶった。
やめて、もう戻りましょうよ、行っちゃ駄目な気がするの。そう言いたいと思いつつもどこかで現実を直視しなければならないと思う自分がいる矛盾。ただ歩いているだけなのにどうしようもなく呼吸が乱れ、嫌な汗が止まらなかった。
頭の中では先ほど浮かんだ最悪の結末が浮かんでは消え、浮かんでは消える。息子と夫がもしこの先にいたら……。もし彼らが最悪の結末を迎えていたら……。
光なんぞに気を取られなければよかったのに、しのぶがそう後悔したころ、彼の歩みが徐々にゆっくりになっていく。遂に何かを見つけってしまったのだろうか、そう思うと怖くて眼も開けられなかった。
何も聞こえない。自分の乱れ、早まる呼吸がやけにうるさい。落ち着くように、冷静にならなきゃ、そう言い聞かせ深呼吸をしようとした。

ぐにゃァ


「きゃあああああああ―――…………ッッッ!」
「静かにッ」

そこからさきは混乱。足元の奇妙な感覚、何か“柔らかいもの”を踏んでしまったしのぶ。
叫び声が出ないように抑えられた口元。混乱、呼吸困難で涙目になりながらも、次第に視界が暗闇に慣れ始めた。承太郎が彼女の口をふさぎ、辺りを獣のような鋭い目線で警戒していた。
そして、奇妙な感覚の元を確かめようと視線を下に向け……しのぶはそうしてしまったことを後悔した。
彼女が踏んづけていたのは誰かの“左腕”だったから。

見なければいいのに、何故だか眼を塞ぐことができなかった。身体がギュッと何者かに搾り取られたかのような感覚。よせ、やめなさい、そう体に銘じたくても勝手に神経が張り詰め、知りたくないものまで知ってしまう。
地面は血の海、赤一色。元のコンクリートの色が一部の隙間も見当たらないほどびっしりと広がっている。むせかえるような血の臭いが承太郎の拳越しにでもツンと鼻を突いた。
パニックに陥りながらも、命の危機を悟った本能が彼女を無理矢理冷静にする。ハッハッ、と短く鋭い呼吸で頭がぼんやりとしてくるも、彼女はもう一人で立っていた。承太郎がゆっくりと体を離したときも、なんとか民家の壁を支えにし、しのぶは一人立っていた。
承太郎がゆっくりと歩いて行く。背中越しにチラリとみると、大きなポリバケツが見え、その周りに異常なほどのハエが飛びまわっているのが一瞬視界にうつった。

44 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:20:49 ID:C/WJpKCQ

「あなたは見ないほうがいい。女性が見るものじゃない」
「そう……かもしれません」

しのぶの視線を感じたのだろう、振り返った承太郎は警告する。刺激が強すぎる。こっから先は彼女のような“普通”の人には関係のない世界。
地面に横たわる右腕を見たくはない。だが辺りに危険が潜んでいるかもしれない以上、眼をつぶってやり過ごすことはできない。しのぶは深呼吸を何度も繰り返し、頭の中を空っぽに。無心のまま民家の壁を見続けた。
彼女の様子がしばらく見ていた承太郎だったが、倒れることも叫ぶこともないと判断し、目の前のポリバケツに集中をうつす。中に入っているのは間違いなく、“誰かだったもの”だろう。


『―――父さん』


血が出るほどの勢いで唇を噛みしめた。あってはならない、そんなことは。だが、あり得るのだ、そんなことが。
無力な娘が強力なスタンド使いを前にすれば、それは起こり得る結果。スタンド使いどころか刃物一本あれば、誰ですら可能な事実。
それでも、祈りたくなるほどに、縋りたくなるほどに、その可能性を否定する。娘でなければ誰だっていい、親であるならそう思ってしまうことは罪であろうか。
ポリバケツの蓋をゆっくりつかみ、ぎゅっと握る。柄にもなく手汗がひどい。少しだけ浮いた蓋が指先から滑り落ち、そのまま元の場所に同じように収まった。
どうしても踏ん切りがつかなかったのか、決断を先送りにしたかったのか、承太郎は川尻しのぶの足元に転がる腕に注意を逸らす。ポリバケツから離れるとその場にしゃがみ、その腕をじっくり観察してみた。

安堵と確信が広まっていく。いくら音信不通といえども娘の特徴ぐらいは彼もわかっていた。そのちぎれた腕には娘であるならば入っているはずの刺青がなかった。
娘じゃない、赤の他人だ。徐倫は死んでない、少なくとも、あのポリバケツの中に徐倫はいない。何度も何度も噛みしめるように、自分に言い聞かせる。ゆっくりと息を吐くと、承太郎は一瞬だけ眼をつぶった。
表面上は冷静さを保っていても承太郎自身、しのぶのようにギリギリの精神状態であった。心臓をわしづかみにされるような恐怖は子を持つ彼も同様に感じ取っていたのだ。

十分な冷静さを取り戻した彼は、ふとキラリと輝く何かを目にした。腕をひっくり返すと、さっきしのぶが言っていた輝く何かの正体がわかった。腕時計が僅かに差し込む街灯を反射し、輝いていたのだ。
このまま腕をここに放置するわけにもいかず、承太郎はそれを持ちあげる。娘でないとわかったとはいえ、だれかの死体を見なければならないというのは気が重い。
溜息をぐっとこらえながら、彼はゆっくりと立ち上がった。

45 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:23:10 ID:C/WJpKCQ

「……?」

その時、何か、違和感を覚えた。勘と言ってもいいかもしれない。何かが引っかかる感覚。目に飛び込んだ情報をきっかけに脳がフル回転を開始、何かを思い出そうとしている。
それがとてつもなく恐ろしい、その時承太郎は本能的にそう悟った。何かを思い出そうとしている、だがそれは決して思い出してはいけない気がする。思いだしたらそのことを自分は後悔しそうな気がする。
それがなんなのかはわからなかった。ただこの場にこれ以上とどまっていたくなかった。これ以上ここにいたら、なぜだかおかしくなってしまいそうだった。
嫌な予感を振り払うように、乱雑に腕を持ちポリバケツに足早に近づく。娘でないとわかった以上、確認する必要もないだろう。この腕は川尻早人のような少年なものでもないし、川尻耕作、もとい吉良吉影のものでもない。川尻しのぶと関係のない死体だ。
であるならば誰が死んだかも確認する必要はない。腕の細さ、皺の寄り具合からして年配の女性のものであろうことは容易く推測できた。

「年配の、女性」

意図せずとも零れ落ちた呟き。自分が出した分析結果が承太郎の中で決定的な何かを生み出した。
血液が濁流するような、胃が握りつぶされたような、全身の肌を虫が這いずるような、嫌な感覚。なにかをやってしまった、とりかえしのつかないことをしてしまったという感覚。
導かれるように、視線は再び持っている腕へと向けられた。違う、そう否定したくても導き出した結果は一致していた。感情がどれだけ否定しようとも、脳がはじき出した結果は変わらなかった。

気のせいだ、この手に見覚えがあるなんぞ、そんなわけがない。俺は知らない、見たこともない。勘違いだ、きっと記憶違いに決まっている。
必死で、必死に取り繕っても、感情だけが空回り。どれだけ否定の言葉を重ねても、自分の記憶に疑いをかけようとも、その一方でとてつもなく冷静な自分が答えを導き出し続けていた。いいや、見間違えなんかじゃない。これは確かに、俺が知っている彼女の―――。
そして承太郎は見てしまった。気のせいでも何でもなく確かな事実を。
見間違えるはずがない、それはそこに存在する物体なのだから。人の手であるならば誤解する可能性もあるであろう。普段あまり注意しないからな、と勘違いと一蹴することもできよう。
だが時計という物質は間違えようがなかった。なによりそれは承太郎が、彼自身が選び購入したものだった。いつ買ったのか忘れてしまったが、彼女は滅多に渡されないプレゼントに大層感激し、飛びまわるように喜んでいたのだから。


『キャアアア―――ッ、プレゼントッ?! 嬉しいィイ―――やったぁ、ありがとう、承太郎、きゃっ!』
『やかましい! うっとおしいぞ、このアマ! 気に入らねェなら返せッ』
『まさかッ! ほんとにありがと〜〜、大切に使うわよ!』


そこからさきはどうなったかわからない。真っ白になった頭のまま、まるで吸い込まれるように導かれ、上ブタを持ち上げる。中に入っていたものが彼の目に飛び込んできた。

46 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:23:27 ID:C/WJpKCQ


「……空条さん?」


プラスチックの蓋が乾いた音をたて、路地裏に跳ねまわる。不安げに川尻しのぶがそう声をかけた。
だがもはや承太郎には何も聞こえていなかった。何も考えられなかった。

辱めを受け、輪切りにされ、身体をバラバラにされた一人の女性だったモノ。オブジェのように悪趣味に血でコーティングが施され、絶妙なバランスでポリバケツの中で組み立てられた芸術作品。
一番上に飾りつけられた頭部、光をともさない眼がぼんやりとこちらを見つめていた。焦点を合わすことのない空虚な瞳が路地裏にさす街灯を微かにだけ反射した。


 空条承太郎。彼に時は止められても――時は巻き戻せない。


自分の母親、空条ホリィの変わり果てた姿を前に、空条承太郎は何を思う?
小さく音をたて、時を刻む母親の腕時計だけが静寂を破っていた。秒針は止まりもせず、巻き戻りもせず、ただ淡々と時を刻み続けていた。




【空条ホリィ 死亡】

47 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:23:44 ID:C/WJpKCQ
【D-7 西/一日目 深夜】
【空条承太郎】
【時間軸】:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
【スタンド】:『星の白金(スタープラチナ)』
【状態】:健康
【装備】:煙草&ライター@現地調達
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊&娘の保護。
1:???

【川尻しのぶ】
【時間軸】:四部ラストからしばらく。The Bookより前か後かは未定。
【スタンド】:なし
【状態】:疲労ちょい
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:夫と合流。いれば息子も。
1:空条承太郎と行動。
2:杜王住宅街に向かう。


【C-7とD-7の境目/一日目 深夜】
【J・ガイル】
【時間軸】:???
【スタンド】:『吊るされた男(ハングドマン)』
【状態】:健康
【装備】:バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの)、トニオの肉切り包丁
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2
【思考・状況】
基本行動方針:思う存分“やる”。
1:サンモリッシ廃ホテルに向かう。
2:みせしめでみた空条承太郎はずいぶん老けてたが……二人いんのか?

48 ◆c.g94qO9.A:2011/12/20(火) 02:25:20 ID:C/WJpKCQ
以上です。何かありましたらまた指摘ください。タイトルはまだ考え中です。
3rdでも承太郎には苦しんでほしいと思ってます。

49名無しさん:2011/12/20(火) 10:15:55 ID:kugR62Zs
投下乙です。私も規制中ですので転載はほかの方にお願いするとして。

>大きなポリバケツが見え、その周りに異常なほどのハエが飛びまわっているのが一瞬視界にうつった。
どこにも明言されていないのでなんとも言えませんが、『会場に生き物は居ない』のでは?
もっとも、話の重要な部分ではなく、更にこれを言い出すとロッズとか呼び出せないし問題はないんですが、一応、気になった点として。

>【空条ホリィ 死亡】
ズガン枠の使用ですが、ズガン枠って予約不要でしたっけ?人によってズガン枠を( )で書いたり明記してる人もいるので。
先日話題になった破棄からの再予約とあわせてもう一度話し合っておくべきでしょうか?その場合議論スレに持っていきますが。

>ずいぶん老けてたが……二人いんのか?
私の読解力ではピンと来なかったんですが、Jガイルは参加者の承太郎を(遠目にでも)見た、だから二人と推測いると思った、ってことでしょうか?
それともただ単に「Jガイルの知る3部承太郎」と「見せしめ承太郎」がいる推測、ってことでしょうか?
なんともド低能な質問で申し訳ないです……。

50 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:22:30 ID:JqMC3wR6
投下します。

51 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:22:55 ID:JqMC3wR6
シュトロハイムさんは気さくで豪快な人だった。少し高慢ちきで無神経なところもあるけどその率直さが今の僕をホッとさせた。
身の丈に合わない期待、過剰なプレッシャー。もしシュトロハイムさんもそんな風に僕を扱っていたらさぞかし参ったと思う。
シュトロハイムさんにとって僕は単なる日本人の少年、僕に対してああだこうだと望むようなことはしない。ただの一人の人間として、等身大の僕でいられる。背伸びしないでいいことが僕の肩の荷を下ろしてくれた。

「なァに、康一ィ! 貴様は何ぞ悪いことはしとらん、少年は少年らしく健全にまっとうに、大船に乗った気でいるがいいッ
 殺し合いなんぞにこのシュトロハイム、そしてわれらが同盟国民を巻き込んだ事を後悔させてくれよォオオ―――――ッ!!」

シュトロハイムさんは何を考えてるのか……。こう言ったら失礼かもしれないけど、もしかしたらなんにも考えてない人なのかもしれない。
けどその見た目の奇天烈さ、常に高いテンションからは想像もできないぐらい実際頼りになる人だ。凄い人だと思う。
玉美さんがいなくなった後、僕らは互いに話した。それは主にこの数時間何があったか、だった。
僕が話に詰まった時、シュトロハイムさんは上手く言葉を引き出してくれた。うまく要点をつかみ、情報を整理し、僕の言いたい事はだいたいは理解してくれたみたいだった。僕自身、ほとんど言うべきことは言えたと思った。

シュトロハイムさんと話をして驚いたのは、スタンド使いでないシュトロハイムさんにスタンドが見えるようになっていたことだ。何故だか僕にはわからなかったけど、ここではだれでもスタンドが見えるようになってると考えたほうがいいかもしれない。
それと、シュトロハイムさんが話してくれた話はびっくり仰天の連続。柱の男、波紋使い、石仮面、エイジャの赤石……。僕自身がスタンド使いでなければきっと正気を疑っていただろう。それだけぶっ飛んだ話だった。

「気ィイイイになるぞォオオオ!! スタンド、未知の可能性ッ 異なる能力、常人には与えられぬ天武の才能ッ
 であるならば我ら崇高なるゲルマン民族にスタンドを授けることが不可能であるはずがないッ
 なぜならァアア……ドイツの科学力は世界一ィイイイ―――ッ!
 スタンド能力の分析と研究による人工的能力開発……、フフフ……もしこれができたならば戦線は拡大、そして…………」

シュトロハイムさんはスタンドのことを考えてるのか、ゲルマン、スタンド、待ちきれないッ と小さな声で呟き、ニヤニヤしていた。
僕はそんな横顔を見ながらどこまでこの人を信頼すればいいんだろうかァ、と悩んでいた。
シュトロハイムさんが悪人だとか信用できない、ってわけじゃあない。僕を助けてくれたし、一人の人間として僕に敬意を示してくれてる。
簡単なようだけど殺し合いの中でそれをするってのはなかなか簡単ではないと思う。とても立派で尊敬できる人だ。

けど少し“おかしい”のだ。
今は1999年だし、戦争なんて歴史の教科書に載るぐらい昔の事。日独伊なんちゃらかんちゃらなんてものはもはや存在しないし、アドルフ・ヒトラーはとっくに死んでいる。
シュトロハイムさんの言っていることはめちゃくちゃだ。
それに加えてその体は機械で作られていて、まるで漫画やアニメのサイボーグみたいだ。僕の知る限りじゃ最近ようやく二足歩行のロボットができたとかできてないとか、そのレベルだったはずなのに。
本人いわく ドイツの科学力は世界一ィイイイ―――ッ! だ、そうだけれども。

はたしてシュトロハイムさんは何者なんだろうか? 一体どこまで信じればいいのだろうか? 全部作り話なのだろうか。それとも僕を笑わせるための悪趣味なびっくりなんだろうか。
……違う。僕は即座に自分の思いつきを否定する。とてもじゃないが冗談ではない、それだけは断言できる。
シュトロハイムさんは言っていた。一番最初、ホールでの事、シュトロハイムさんの友人があの首輪を爆破された三人のうちの一人だったらしい。
快活で、いつも騒がしいシュトロハイムさんがこの時ばかりは神妙で真剣な顔つきになっていた。友人の死を語る軍人の顔になっていた。
そんな人がめちゃくちゃな嘘をつくだろうか? ありもしない作り話を大真面目に語るだろうか?
僕も名前と顔を知っている空条承太郎さんが目の前で殺されたことは相当ショックだった。今でも信じられないぐらいだし、仗助君のことが心配だ。
人の生き死には決して冗談で済まされない。死んだ人のことを想って、今を生きているシュトロハイムさんのことを信じたい。

52 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:24:44 ID:JqMC3wR6

けれど釈然としないんだ。僕は今、混乱している。
どうすればいいんだろう? 一体何が起きてるんだろう? シュトロハイムさんはいったい何者で、なにがどうなってるんだ?


「止まれィイイイッッッ!」


突然の大声に、文字通り僕は飛びあがった。
見るとさっきまでニヤつき顔だったシュトロハイムさんは険しい顔で橋の向こうに広がる暗闇を睨んでいる。

「警告だッ それ以上近づくようであれば30mmの鉄板をも貫く重機関砲が貴様らをハチの巣にするぞォオオオ―――ッ!
 ……康一、車のキーが俺のポケットに入っておる。タンクローリーのライトをつけてきてくれないか」

僕にだけ聞こえるように出された指示に従い、僕はタンクローリーに向かう。車を運転している両親の姿を必死で思い出し、ああでもない、こうでもないと悩みながらもなんとかライトをつけることに成功した。


     ピカァアアアア―――……ッ


ライトに照らされ、姿を現したのは二人。
一人はテンガロンハットをかぶった、まるでカウボーイのような恰好の男の人。ルックスもイケメンだ。
もう一人も負けず劣らずのハンサムな学生。バッチリと決めた学ランを着、首から下げたスカーフがとても似合っていた。
突然の光に反射的に二人は手をかざし、眩しそうに目を細めていた。

「まずは名乗ってもらおうかッ 忘れるなよ、余計な事を言おうものならすぐさま撃つぞッ」
「マウンテン・ティム、保安官だ」
「……墳上裕也」

役に立つのか、足を引っ張ることになるのか。今の僕は正直どっちだろうか。
ただの子供でありながら、普通の子供とは違いスタンドという不思議な力が使える。けれどもその不思議な力というのはたかが音を張り付け、相手を惑わしたりだます程度の、ちっぽけな能力。戦力と呼ぶには心もとないんじゃないか……。
結局僕はシュトロハイムさんの後ろに立ち、何か起きたとしてもすぐに行動できるよう、気持ちだけは準備しておくことにした。
シュトロハイムさんならすべき事があればすぐに指示をくれるだろうし、邪魔になりそうだったらはっきりそう言ってくれるだろう。
子供は子供らしく。シュトロハイムさんの言った通り、僕はまだ大人に頼るべき少年なんだ。

「……康一? おい、康一じゃねーかッ!!」

その時、タンクローリーの光に目が慣れたのだろう、煌々とライトで照らしだされた内の一人が突然声をあげた。
見ると高校生らしき男の子が僕のほうを向き、叫んでいる。銃を突きつけられている以上、動くことはできないが、僕のほうを確かに見て嬉しそうな顔をしている。
だけど僕には全く心当たりがなかった。彼とは一切面識がなかった。覚えている限りじゃ、僕は“今”初めて彼と会ったはずなんだけれども……。

53 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:25:32 ID:JqMC3wR6
そもそも僕の高校生活は始まったばかりで、クラスメイトの顔もまだ覚えきれていない。友達どころか、知り合いすらまだまだ少ない段階なのだ。
クラスのみんなは僕のことを広瀬とか広瀬君、って呼ぶし康一、なんて親しげに読んでくれるのは覚えてる限りじゃ仗助君ぐらいなもんだ。
シュトロハイムさんが顎を撫でながら僕のほうをちらりと見た。きっと僕が困っているのが顔に出ていたのだろう、声をかけてくれた。

「知り合いか?」
「……いえ、多分ちが……――」
「この不届きものォォオオオオ――――ッ!! 我々を騙そうとしてもそう上手く事は運ばんぞォオオ―――――ッ!!」
「は、何言ってんだよ、お前! 俺だよ、忘れちまったのか?
 そりゃ確かにおめ―とは実際つるんだり、一緒に飯食ったりするようなことはしなかったけどよォ、一緒に戦ったじゃねーか!
 あのクソゲスな紙使い! 仗助が本にしちまったスタンド使い! 覚えてねーのかよッ!?」

そっからさきは訳がわからなかった。彼の言うことには全く覚えがなかった。けれども何故だ変わらないけど全部が全部、嘘じゃなかった。
僕と仗助君に関して、杜王町について、ぶどうヶ丘高校について、承太郎さんについて、虹村億泰君について。

その一方で僕がまるで知らないことも次々と話題に出てくる。
殺人鬼”吉良吉影、“超人気漫画家”岸辺露伴、弓と矢について、僕のスタンドとその能力。
何より一番驚いたのは山岸由花子という女の子についてだ。
彼女は僕のことが好きらしい。そして僕も彼女のことが好きで、なんと付き合っているらしい!
この僕が、女の子と付き合っているッ!? 墳上君の言葉を信じるならば自分のことらしいんだけれども、とてもじゃないが信じられない……。

「貴様ァアアアア さっきから黙っておれば言いたい放題ぬかしおってェエエエ――――ッ!!
 スパイかッ 陽動作戦かッ どっちにしろ我々を混乱に陥れる情報錯乱戦術だというのならば容赦はせんぞォオオ! これは最終警告だッ!!」
「康一……、一体どうしちまったんだよ…………?」

シュトロハイムさんは少年の前に立ちふさがるように一歩踏み出すと、これ見ようがしにマシンガンを大きく揺らす。それをわかってか、墳上君は弱り切った表情で僕を見ている。切実そうな目に僕は思わず視線をそらしてしまった。
どうすればいいのか、ほんとうにわからなかった。墳上君は悪い人じゃなさそうだった。言ってる事は無茶苦茶だというのに全部が全部そうじゃない。
知り合いであるはずがないのに、彼は僕の事を信頼している。僕の事を気のいいやつだ、裏切るはずがない、そういう眼で見てくる。
けど……わからないんだ。だって、違うんだもの。僕は殺人鬼なんか知らないし、山岸由花子さんとは会ったことも見たこともない。
一体なんなんだ……。 僕に何をしろって言うんだよ……。


それでも僕は必死でシュトロハイムさんをなだめていた。銅像のごとく直立不動、銃身を逸らすことなく突きつけた状態でいる彼の前に立ち、なだめすかし、説得しようとしていた。
友人じゃないけど、友人かもしれない人。よくわからないけど、決して悪い人じゃない人。僕はどっちの人にも悲しんでほしくなかったし、僕のせいで誰かが傷つくなんてそんなことは絶対に嫌だったから。

54 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:26:02 ID:JqMC3wR6


「……ユウヤ、さっき話した事、覚えてるか? 君がそんなことありえるか、馬鹿馬鹿しすぎる、そう言った話だ。」
「あれは……!!」

その時、今まで黙って静かにしていたカウボーイの男の人が口を開く。
墳上君が何か言いかけたが、カウボーイはそれを無視すると遮るように強く太い声が続いて響き渡った。
シュトロハイムさんは動きを止め、その言葉にじっと耳を傾ける。

「マウンテン・ティム、一人の平和を愛す保安官としてッ 約束を貫き通す一人の男としてここに宣言するッ
 我々に敵意はないッ! 戦闘の意志もなく、貴方達を陥れようなんてことは神と愛する祖国に誓い、ないと断言しようッ
 ミスター・シュトロハイム! どうか矛を収め俺たちの話を聞いてほしい。これはもは俺たちだけの問題でもなく、君たちだけの問題でもない。
 事件に巻き込まれ、今この時も殺し合いを強要されている全ての被害者の問題。フェアな情報交換をお願いしたいッ!!」

力強い宣言だった。沈黙の中、シュトロハイムさんがマウンテン・ティムを見る。マウンテン・ティムがシュトロハイムさんを見返す。
僕のようなひよっ子にはわからない。けど二人は無言の会話を通して言葉以上にわかりあったようだった。
これ見ようがしに振りかざしていた銃を収め、シュトロハイムさんが二人を手招きした。
僕を含め全員をタンクローリーまで誘導すると、ライトを切り僕ら四人は車内で膝をつき合わせた会話にうつる。
それが更なる混乱と驚愕になるとは知らずに。





55 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:26:28 ID:JqMC3wR6

運転席に座ったシュトロハイムさんが、神経質そうに一定のリズムを指で刻む。コツコツと金属製の指が心地いい音をたてていた。
助手席に座るティムさん、整った顔の眉間に皺が寄り、外を眺めながら物思いにふけっている。
そして隣に座る墳上君は戸惑いの表情。苛立ち気に首から下げたスカーフをもてあそび、しきりに鼻を鳴らしていた。
僕はと言うと、暗闇の中、当てもなく視線を泳がしている。車のライトは消え、薄暗がりの中で僕は混乱する頭を必死で沈めようとしていた。

さっきの話声と光で、他の参加者を引きつけることになるだろうからとティムさんは移動したがっていた。だがシュトロハイムさんは四人での情報共有を優先した。
それは彼がこの情報交換がすぐに終わるものと思っていたからだ。僕という前例があったからそんなに時間はかからないものだ、そう思ってたのかもしれない。
だが四人での会話、そこから見えてきたものはまるでおとぎ話のような真実。僕ら二人の会話が砂粒ほどに見えるほどのビッグインパクト。

「それで……結局どうすんだよ?」

重苦しい雰囲気を破るように墳上君が言った。僕の隣、後部座席からバックミラーに映る前の二人を見つめている。
シュトロハイムさんは無言で僕らを見つめ返し、ティムさんはテンガロンハットをかぶりなおした。
墳上君も本気で返事を期待したわけでもないのだろう、顎を二、三度かくとまた黙りこむ。僕を含め、今わかったことを誰もが受け入れきれてないのだ。
僕らが時間を、あるいは時空をこえて集められたということに。

「俺は殺し合いに乗る気は一切ない。平和を守り、市民の安全を確保するのが俺の仕事であり、俺は自分の仕事に誇りとプライドを持っている。
 俺の提案としては当面は仲間探しだな。主催者に反抗するグループの結成、殺し合いの破壊、そしてここからの脱出。
 人数が多ければ多いほどアイディアは出てくるだろうし、技術者もいるかもしれない。コイツを分解できるような、誰かがな。
 それにせっかくこんな立派な“足”があるんだ。使わない手はないだろう?」

いくらか経った後、ティムさんの落ち着いた声がした。シュトロハイムさんが続いて賛成の意見を唱えた。
墳上君も納得したように頷いている。僕には反対する理由もなく、これからの行動方針は決まった。
協力者集め ―― 僕らはこれからいくつか施設を周り共に戦ってくれる人を探すことにした。


ティムさんの宣言の後、僕らは互いに話をした。いろんな事がわかったが一番の衝撃は決定的な矛盾。時代の違い、歴史の違い、認識の違い。
一人や二人ならまだもしかしたら“たまたま”知らなかった可能性もある。だけど四人が四人ばらばらの事を言い、知らなかったじゃ説明できないほどの矛盾があった。そして何より僕と墳上君の証言が決定的だった。
ティムさんは1890年のアメリカ、シュトロハイムさんは1938年のドイツ、僕と墳上君は1999年の“二つ”の日本。
僕らは違う時代を生きていた。そして違う歴史、違う世界を生きていた。小説や漫画でよく目にするパラレルワールドってやつだ。
さっきの墳上君の話しは“未来の広瀬康一”のものだったみたいだ。殺人鬼吉良吉影との死闘も、山岸由花子さんとのラヴロマンスも、杜王町に存在する七不思議も全て未来の僕が経験すること。

三人は地図を広げどのルートをどう取るべきかで熱い議論を繰り広げていた。僕は車の運転経験もないし、これといった案もなかったのでお任せすることにした。窓越しに広がる暗闇をぼんやりと眺めていた。
あまりに突拍子がなさ過ぎて、いまいち現実感がわかないというのが今の僕の正直な気持ちだった。そりゃ確かにスタンドなんて不思議でなんでもありな力がある以上、時間や空間を超えるスタンドがあってもおかしくはない。
けど不思議と恐怖は湧いてこなかった。突拍子がなさ過ぎて僕にはピンとこないのだ。
軍人、保安官、豊富なスタンド経験。三人はそれぞれ脅威に思える基準がある。これがどれだけ大きな力で、恐ろしいかということが直感的にわかる。
今もその気持ちがあるからこそ真剣にルートを議論し、可能な限り素早い行動に移ろうとしている。それが今までの経験上でどれだけ大切なことがわかっているから。

56 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:26:44 ID:JqMC3wR6

でも僕は違う。数週間前までただの中学生だった、この僕には。


『少年、君はたいした英雄(ヒーロー)だったぞォ!!』


僕は違う。ただの学生だ。ただの子供だ。
たまたまスタンド使いになっただけ。それ以上でもないし、それ以下でもない。
そう繰り返し言い聞かせているのに、こんなにも苦しい。
ダイアーさんが最後の力で治してくれた腕がズキズキと痛む。墳上君が“過去の僕”を見て、拍子抜けしたような表情をしていたのが忘れられない。
未来の僕はどうしてそうなれたんだ。どうして強く立ち向かえたんだ。


どうして……『  』なんかに…………―――――




「静かにッ」
「……どうした、ユウヤ?」


車内に突然鋭い声が響いた。声の元は墳上君、指をたて神経を集中させ、何かを探っている。いきなりの警告にティムさんが辺りを警戒しつつも尋ね返す。シュトロハイムさんも大きな身体を捻り、窓越しに鋭い視線を辺りに飛ばしていた。
墳上君に僕ら3人の視線が集中する。彼は静かにしてろ、と口の前で指をたてしきりに鼻を鳴らす。真っ暗やみの静寂に、衣擦れや風の音が響いた。
時間にしたら数秒だろうか、気配を察知した墳上君が口を開いた。表情は険しく、その口調には若干の焦りが含まれていた。

「シュトロハイム、さっきてめー言ってたよな? 柱の男、だっけか。奴らは全身で相手を捕食して、一つ一つの細胞で人間や吸血鬼を食う。そう言ったよな?」
「ああ」
「…………臭い、だが一体何の臭いだ? 鼻が曲がっちまいそうだ……生臭い、けど魚や肉じゃねェ。
 新鮮な肉じゃねェくせに、妙に刺激が弱いのがさっぱりわかんねェ。なんだ、これは……? こんな臭い、嗅いだことがねェ」
「一体どうしたっというのだ、墳上よォ? まさか柱の男がいるとでもいうのかァ?
 だとすればいったいどいつだ? カーズか、ワムウか、それとも我々が知らぬ新たな柱の男か?」
「…………ッ?! 車を出しやがれッ、シュトロハイムッ!」

急発進しようとした車体。ギアが入ってたなかったのか、大きなタンクローリーは揺れ、黒い煙が噴あがった。
油断していた僕はしこたま頭を天井にぶつけ、眼から火花が飛んだ。痛みのあまり涙目になりながらも見ると、シュトロハイムさんが大急ぎで発進の準備に取り掛かっている。
急発進の元凶、墳上君はと言うと席から身を乗り出し、運転手をしきりに急かしていた。それにしても尋常ない焦り方だ。
焦らされるほうはたまったもんじゃない様子で、シュトロハイムさんが盛大に悪態をついた。

57 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:27:03 ID:JqMC3wR6

「一体何が何だって言うんだッ」
「イイから出しやがれ!状況は走りながら説明する! いいから今は…………ッ」

ヘッドライトが灯され、それを合図にしたかのように彼は黙りこんだ。墳上君をのぞく僕ら三人も彼の焦りと言わんとした事を今目の前にして、黙りこむ。
ブジュル、ブジュルと微かにガラス越しに聞こえる音は耳触りで、不愉快極まりないもの。目の前に広がる光景も負けず劣らずの吐き気を催す、惨劇場。
二人と言えばいいのか、何人かと何匹と言えば正確になるのだろうか。とりあえず確かな事は一つの捕食者と、一つ以上の被捕食者がいる。
食べられているほうはもはや虫の息。一体どうなってるのかまるで分らないが顔から突き出た何匹かの蛇も、まるでつまみのように一緒くたに食べられてしまっている。
身体の大部分ももはや消化され、僅かに残った食べ残し具合がグロテスクさに一層拍車をかけている。隣で墳上君が口を押さえていた。
これが、シュトロハイムさんが口にしていた“柱の男”……ッ

「つまり、こいつがアンタが言ってた柱の男、というやつかシュトロハイム?」
「3人とも……今すぐシートベルトをつけろ。怪我をしても俺は保障何ぞせんぞ」

言葉もない僕とは対処的に眉一つ動かさず、冷静な声でティムさんが話しかける。
話しかけられたシュトロハイムさんはしばらくの沈黙の後、言葉を返す。質問には答えず、黙って従え、という意が容易にそこから読み取れた。
胃の底に響くような音をたて、タンクローリーのエンジンがうねりをあげる。獲物を前にしたライオンが喉を鳴らすように、低い音。
シュトロハイムさんの唇がめくり上がる。容赦など一切なく、目の前の敵を排除する。残忍さむき出しの、ゾッとするようなゆがんだ笑顔だった。

「貴様が何故生きているのか知らんが……今ここで再び、始末してくようぞ、サンタナァアア―――――ッ!
 貴様に与えれた痛み、屈辱ッ その身に刻んでやろうではないかァアア―――ッ!」

咆哮とともにタンクローリーは直進していく。超重量級のこの列車でシュトロハイムさんは引き殺すつもりなのだッ
打撃、斬撃、弾丸、圧力。全てに対して並はずれた抵抗力を持つ奴らに対抗すべく、シュトロハイムさんはさらにアクセルを踏み込んだッ

「くらえサンタナァアア――――ッ!!」

衝突音、車体に走る衝撃、暗闇で何が起きたか僕からはよくわからなかった。フロントガラスを遮るように一度だけ影が走り……そして静寂。
息をのむような沈黙だったがそれはすぐに破られる。僕が黙ったいたのは現状がよくわかっていなかったから。だけど他の三人は違ったようだ。
額に汗を浮かべ、引きつった表情。前の席に座った二人は一切警戒心を解いていない。墳上君がぽつりと、望むようにつぶやいた。

「……やったのか?!」
「あれッ!」

その時、僕は見た。何気なく視線を向けただけだった。別にそれを見つけようとしたわけではなく、言うならば見てしまったのだ。
口から飛び出た声は僕が思ったよりずっと大きく、緊張で高くなっていた。僕が指差したサイドミラーを一斉に三人は見た。
ゾッとするような怖気が走る。サイドミラーに映ったのは今しがた跳ね飛ばしたはずの……今しがたシュトロハイムさんが始末したはずの、柱の男だったッ

58 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:27:34 ID:JqMC3wR6


「おいもっと飛ばせねーのか?! このままじゃ追いつかれんぞッ!! あんな化け物野郎、俺たちだけじゃ無理だッ 追いつかれようもんなら俺たち、皆殺しだぞッ!?」
「慌てるな、ユウヤ……いざとなったら川に飛び込めれば逃げ切れる可能性もある。本当の最終手段だが、まだあわてるような状況ではないッ」
「それもできんようだぞ、マウンテン・ティム……」

混乱の中、それぞれがありのままの言葉を口にする。
墳上君は焦り、恐怖を前に叫ぶ。ティムさんは努めて落ち着いて口調で冷静を呼びかけようとするも、柱の男の規格外のタフさを前に額に冷や汗を浮かべる。
そしてシュトロハイムさん。ひきつった笑顔に余裕は一切ない。強がりでもなく、ただただ驚愕の事実を前に笑うしかない、そんな感じの表情だ。
一瞬だけ視線をミラーに向け、アクセルを一踏み。うねりをあげて、車が加速する。シュトロハイムさんが食いしばった歯の間から言葉を捻りだす。

「くそッ、我々は決して奴を侮ったわけではないッ だがそれでもここまでの……これほどの化け物だったとはッ
 奴はこの“車”という機械の構造を完ぺきに理解している! この殺し合いの中での数時間で身につけたのか、あるいはそれ以外の場所で知識として理解したのか。
 とにかく今の一瞬の交錯の際、奴は肉片を利用したのか、直接その身で行ったのか……。
 このタンクローリー……もはやブレーキが利かんッ! この車はたった今、この瞬間から……」

開き直りににも似た表情、悟り切り覚悟した眼で僕らの顔を順に眺めると、最後の一言を言いきった。


「暴走列車になるッ……!」


呆然とする僕ら二人を脇目に、大人たちは動きを止めない。
シュトロハイムさんは片手でハンドルを動かし、ポケットから地図を取り出す。そんな彼に向ってティムさんはでデイパックをあさりながら、一言二言、言葉を交わした。
その眼に星屑のように輝く、力強い希望を宿して。

「運転は君に託したぞ、シュトロハイム。コーイチ、ユウヤ、腹をくくれ……四の五の言ってる暇はない。
 俺たち三人で奴を……叩くッ もしがそれができなければ……」


止められない。僕らはもう進むしかない。後戻りはもう、できない。
どうしてこうなった、そんな不平や不満を言っても何も変わらない。嘆き悲しみ、それでも僕らには突っ切るほか、道は残されてない。


「俺たち四人は全員、朝日を拝むことなく……死ぬことになるッ」




59 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:27:49 ID:JqMC3wR6




数時間……たった数時間で僕の周りは劇的に変化した。
僕はそんな状況に出会うたび、慌てふためき、嘆き、苦しみ、それでも最善の選択肢を目指しもがいてきた。

突然見ず知らずの男に襲われた時、僕のような弱い人を戦いに巻き込くまいと必死だった。
倒れ伏し、死にそうな怪我負った命の恩人に僕は逃げてほしかった。
そんな人がそれでも立ち上がり、一歩も引かずに戦った時、なんとか手助けがしたかった。
僕を信頼し、期待してくれる人の期待に、僕は何とかこたえたかった。

そして今、またこうやって途方もない困難に立ち向かうしかない状況に直面する。
なんで僕がこんな惨めで、残念な気持ちにならなきゃならないんだ……? そんな気持ちがわいてくる。開き直り、そして怒りが僕の中で込み上げる。
やつあたり? ああ、そうだ、そうかもしれない。だけど殺し合いに巻き込まれて誰に怒りを向けずに素直に殺し合う……そんなとはまっぴらだッ


ああ、いいさ! いいとも、やってやるとも! やるしかないんだもの!
化け物だろうが、なんだろうがかかってくるがいいさッ
やってやる……僕は、僕らは…………負けてなんかやらないぞッ!!















さぁ、お手並み拝見と行こうか……、“勇敢なる”ヒーローたちよ!

60 ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:28:03 ID:JqMC3wR6

【F−5 南東部路上/一日目 黎明】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → ???
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小)、錠前による精神ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず殺し合いには乗らない。
0:サンタナをどうにかする。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:タンクローリー運転中。
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
0:サンタナをどうにかする。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後。
[状態]:なし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0:サンタナをどうにかする。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【墳上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:なし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0:サンタナをどうにかする。
1:各施設を回り、協力者を集める。




【サンタナ】
[スタンド]:なし
[時間軸]:後続の書き手さんにお任せします
[状態]:なし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:???
0:???


【備考】
四人と一人は東に向けて爆走中です。どのぐらいの速さ、ルートは次の書き手さんにお任せします。

61GO,HEROES! GO!    ◆c.g94qO9.A:2011/12/30(金) 18:30:42 ID:JqMC3wR6
以上です。また規制されてたのでどなたかすみませんがお願いします。
何かありましたら指摘ください。

あだ名を下さった方、ありがとうございます。名前負けしないよう、これからもがんばります。

62名無しさんは ガオンッ されました:名無しさんは ガオンッ されました
名無しさんは ガオンッ されました

63 ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:43:23 ID:iabJl0Mw
投下します。

64 ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:43:46 ID:iabJl0Mw



     ――――それは零へと至った物語。僕と友のかけがえのない冒険譚。





65 ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:44:01 ID:iabJl0Mw
ポタリ、ポタリ、ポタリ…………。
向かいに座っていたアナスイは席から立ち上がると、緩んでいた蛇口をしっかりとひねった。
耳障りな水滴音がなくなるのを確認すると彼は再び席につき、口を開いた。

「オーケー、あんたの言ってることは完璧に理解したよ、ジョニィ・ジョースター。
 この殺し合いの首謀者はあのメガネのジジイ、スティーブン・スティールではないであろうということ。
 裏で糸を引いているのは死んだはずのアメリカ大統領、ファニー・ヴァレンタインが関わっている可能性が高いこと。
 そして俺とあんたは時代を超えて呼び寄せられていて、そうである以上黒幕は一人ではなく、協力者がいるであろうこと」

だがな、そう最後に付け加えるとアナスイは初めて僕と視線を合わせた。僕はその目を見て、旅の途中で出会った一人の男を思い出す。
リンゴォ・ロードアゲイン。彼はかつて僕を見て言った。漆黒の殺意、いざというときに相手を躊躇わずに殺すことができる、人殺しの目。
アナスイの澄んだ目の底には根深い殺人者の匂いがこびりついていた。洗っても洗っても落ちることのない業。かつてリンゴォが僕の目に見たであろう殺意が、僕を見つめ返していた。

「俺が聞きたいのは『それでアンタはどうしたいんだ』ってことだ。
 首謀者も分かった。黒幕も分かった。それでアンタはどうするんだ? この殺し合いの中、アンタは結局どうしたいんだ?」

アナスイの身体から飛び出た影が彼自身に重なる。机を挟んだこの距離は、近距離パワー型スタンドの領域だ。
答えによってはただじゃおかない。並々ならぬ気迫を前に僕は唇を舐め、慎重に自分の答えを吟味する。彼の質問に答えようと僕は口を開いた。

その時、アナスイが僕を見た。僕は彼を見つめ返した。そうしたまましばらく沈黙が流れ、僕はそのまま口を閉じると、視線を逸した。

「……わからない」
「……俺は決まってる。一秒でも無駄にはできない、俺は徐倫を探しに行く」

消えるような僕の答えを聞くと彼は立ち上がり、足早に出口へと向かっていく。
僕はそんな彼を止められない。凍りついたように椅子から立ち上がれないまま、彼がただ出ていこうとしているのを見守るほかなかった。
ドアノブに手をかけると彼は思い出したかのように呟く。誰に聴かせるわけでもなく、つい口に出してしまったかのように。

「殺し合い、そんなことはどうでもいい。俺のすることは、いつだってどこだって決まっている。
 俺の身は徐倫のため、俺の心は徐倫のため。彼女のために全てを捧げ、彼女を守るためなら俺はなんだってする。
 そう、“なんだって”だ」

アナスイは言っていた。彼が守るべき存在、空条徐倫のことを。
アナスイは言っていた。彼は躊躇わない。彼女を守るため、彼女のためならなんだってする。殺しもする、拷問もする、人の道も外れるし、誰かに命を狙われても構わない。
彼の目には殺意以上に煌くものがあった。真っ黒に光る殺意の奥、そこには確かな覚悟があった。
人を殺す必要があるのならばぼくはきっとそうするだろう。いざという時ならば僕は容赦なく非情になる人間だと思っている。
だがはたして僕にあるのだろうか。彼のような、覚悟が。

66 ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:44:21 ID:iabJl0Mw


「一人で探すよりは二人で探したほうが早く見つかるに決まってる。ここで考えるよりも、行動に移したほうが確率は上がる。
 約束は守ろう、ジョニィ・ジョースター。ただし、アンタも俺の約束を守ってくれよ」
「……僕は空条徐倫を傷つけない。君もジャイロ・ツェペリには手を出さない」
「そのとおり。スティーブン・スティールとファニー・ヴァレンタインのことを教えてくれて感謝する。よろしく頼んだぜ。じゃあな」

約束を守らなかったら? そう聞き返してみたかった。だけどそんなことは無理だ。彼はその問いに答える前に出ていってしまった。
僕の目の前で、音を立て扉が閉まった。静寂の中、やけに反響する音が耳から離れなかった。







死んだはずの親友と出会えるとしたらあなたはどうする? あなたは全てをなげうってでも彼に会いたい、そう言えるだろうか?
その親友が自分の知らない親友でも? あるいは彼が自分のことをこれっぽっちも知らないとしても?
親しければ親しいほど、僕らは些細な違いに気づいてしまう。彼はこう言わない、彼ならこんなことはしない。誰よりもその差に気づくのは自分自身だ。

アナスイは言った。そんなことはどうでもいい、それでも自分は構わない、そう言った。
空条徐倫が自分のことを知らなくとも、自分の知らない彼女であろうとも。彼女という存在のためなら命すら惜しくないと。
彼女の記憶にとどまらなくても構わない。ただ俺は彼女の平穏のために死んだ、そう胸をはれるならば本望だと。

だが僕はわからない。僕の知らないジャイロ・ツェペリ。僕を知らないジャイロ・ツェペリ。
そんな君にあったら、そんな自分を見つけたら、一体僕はどうなるんだろうか。



     ―――この旅は僕が歩き出す旅だった。歩けるようになるという肉体的成長でなく、大人として歩き出すという精神的成長。



「……行こう」

67 ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:44:35 ID:iabJl0Mw


僕はマイナスだった。大陸横断の旅の始まり、僕は何も出来なかった。すべてを失っていた。
だけど彼と旅をするうちに、なくしていたものを僕はひとつずつ取り戻していく。ひとつひとつ、拾っては集め、見つけては再び手に入れる。

失う前に戻ったわけじゃない。過去は決して変わらず、僕はあの時より少しだけ年をとった。
零へ戻っただけというのならそうかもしれない。
傍らに立つ友はいない。名誉もなければ賞金も勝ち取れず、僕は何も成し遂げちゃいない。何も変わらずただ少し大人になっただけなんだ。
ほろ苦い別れを経験して、妥協と諦めることを知った。生き抜くための当たり前の知恵を身につけ、喧嘩していた親と和解した。
僕だけじゃない。ティーンエージャーなら誰もが経験するモラトリアムを乗り越えただけだ。

だからここからは“僕”なんだ。荒野の道、どこに向かい歩いていくのかを決めるのは僕だ。僕が僕の道を創りだしていくんだ。
まっさらな地図に赤線を刻んでいけ。十字路にさしかかり、右に曲がるか左に行くかは僕次第。僕だけが僕を決めていける。


「ジャイロ……君に会いたい」

僕はジャイロに会いたい。
会ってどうする。最初から決まっていた。僕はジャイロに『ありがとう』、そう伝えたいだけなんだ。
それだけのことか、と呆れられるかもしれない。ジト目で僕を睨む彼の顔が容易に思い浮かぶ。でもそれだけでいい。それで僕は構わない。

ジャイロは僕を歩かせてくれた。ジャイロは僕に与えてくれた。教えてくれた、受け継がせてくれた。
だというのに僕は彼に何一つ出来なかった。僕は彼に何もしてあげられなかった。

殺しあいなんてどうでもいい。誰がどうなろうが知ったこっちゃない。
ただ会いたい。会って、言ってやりたい、見せてやりたい、教えてあげたい。

ジャイロ、君のおかげで歩けるようになったんだ。見てよほら、イケてるだろ? これでお気に入りのジーンズも履けるぜ。
乗馬だって今まで以上に楽しめるんだ。君は知らないかもしれないけど、僕ってイケイケの騎手なんだぜ? イギリスにおいでよ、とびっきりのブロンドガールを紹介してやるよ。
君の住むところにも行ってみたいな。そうだ、イギリスから乗馬で君の祖国まで旅するってのもイカしてないか? 絶対楽しいよ。旅費は僕に任せてくれ。

     ―――それもこれも君のおかげなんだよ、ジャイロ。

68 ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:44:51 ID:iabJl0Mw


守る、だなんて傲慢だ。君無しじゃいられない、なんて男女のラブストーリーで出てきそうなキザな台詞を吐くつもりもない。
それを教えてくれたのは君なんだもの。君は君がしたいことをして、僕は僕がしたいことをする。
一人で立ち、歩いて行くこと。それができるようになったのは君のおかげなんだから。

だからこれは僕の勝手。僕がしたいこと。僕が選んだ僕の道。僕が歩く地図の上。


「ジャイロ、君にあって……伝えたい」


それ以外はそこから考えればいい。彼が僕の知るジャイロ・ツェペリでなかったならば。彼が僕、ジョニィ・ジョースターを知らなかったならば。
それでも僕は伝えたい。君がどんだけイケてるやつか。僕がどれだけ君に感謝しているか。
扉を開き、夜を冷えた空気が僕を包む。力強く地面を踏みしめ、僕は夜の世界へと、一歩踏み出した。







     ―――これは一へと至る物語。僕が大人になって進む初めての冒険譚。





69 ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:45:06 ID:iabJl0Mw







【E-8 杜王町路地 / 1日目 黎明】
【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。


【E-8 杜王町路地 / 1日目 黎明】
【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:(あとの書き手の方にお任せします)
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
1.徐倫を探す。
2.味方になりそうな人間とは行動を共にする。ただしケースバイケース。今は協力者を増やす。

70 ◆c.g94qO9.A:2012/01/04(水) 16:46:42 ID:iabJl0Mw
以上です。いつになったら規制解除されるんでしょうか。
すみませんがどなたか代理投下をよろしくお願いします。
なにか指摘がありました教えてください。
タイトルはまだ考え中です。

71 ◆c.g94qO9.A:2012/01/08(日) 01:56:48 ID:ZEUB9cG2
投下します。

72 ◆c.g94qO9.A:2012/01/08(日) 02:06:09 ID:ZEUB9cG2
すみません、手違いのため投下を中断します。
いつになるかわかりませんが予約の文はしっかりと書き上げます。

73 ◆LvAk1Ki9I.:2012/02/07(火) 22:18:30 ID:dfwzqSr6
さるさんくらいました……以下の分代理投下お願いします。



【ケンゾー 死亡】
【残り 89人以上】





【G-2 ジョースター邸前 / 1日目 黎明】

【チーム 一触即発?トリオ】

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:後続の方にお任せしますが、少なくともエシディシ撃破後です
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2(ベックの物)、トニオさんの石鹸、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者(この場にいるなら)柱の男、吸血鬼の打倒
1.しばらくは形兆達についていき、ディオと会ったら倒す
2.形兆とヴァニラには、自分の一族やディオとの関係についてはひとまず黙っておく
3.知り合いの捜索
4.身内の仇の部下と組むなんて、形兆は何を考えているんだ?
5.ヴァニラは何故ディオに従う? 事と次第によっては……


【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:健康、人間
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様……
1.DIO様を捜し、彼の意に従う
2.DIO様の存在を脅かす主催者や、ジョースター一行を抹殺するため、形兆達と『協力』する
3.DIO様がいない場合は一刻も早く脱出し、DIO様の元へと戻る
4.あの小僧、自分を『DIO』と呼んでいるだとッ!思い上がりにも程があるッ!許さんッ!

※デイパックと中身は『身に着けているもの』のため『クリーム』内でも無事です。


【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜2(人面犬の物)、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する
1.上記の目標の為、様々な人物と接触。手段は選ばない。
2.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう
3.オレは多分、億泰を殺せない……
4.音石明には『礼』をする

※他のDIOの部下や能力についてどの程度知っているかは不明です(原作のセリフからエンヤ婆は確実に知っています)。

74 ◆LvAk1Ki9I.:2012/02/07(火) 22:19:40 ID:dfwzqSr6

[備考]
・形兆とシーザーはお互いのスタンドと波紋について簡単な説明をしました(能力・ルール・利用法について)
・ヴァニラは他二人との情報交換は行っていません。
・三人はまずジョースター邸内を探索する予定です。
 その後どうするかは後の書き手さんにお任せいたします。

※ケンゾーの支給品一式は粉みじんにされました
※ケンゾーの参戦時期はサバイバーによる乱闘が始まる直前からでした



【支給品】

ジョセフの女装セット(2部)
シーザー・アントニオ・ツェペリに支給。

ジョセフがナチスの地下施設に潜入しようとしたときの変装に使った服、アクセサリー、化粧道具、カゴ、テキーラ酒二本のセット。
結果はどこからどう見てもバレバレの変装だったため、一目で見破られた。
なにが恐ろしいかってジョセフ本人は自分の女装が見破られない自信があったことである。


コーヒーガム(3部)
虹村形兆に支給。

イギーの大好物であるコーヒー味のチューインガム(箱入り)。
これが無ければイギーは全く言うことを聞こうとしない。

ちなみにコーヒー味のガムは最近ロッテが復刻発売している。


モデルガン(4部)
虹村形兆に支給。

東方良平が仗助に突きつけたモデルガンのリボルバー。
仗助が本物と見間違えるほどの出来だが、弾丸は発射できない。

75 ◆LvAk1Ki9I.:2012/02/07(火) 22:23:07 ID:dfwzqSr6
以上で投下終了です。
タイトルは「もしDIOがこの『バトル・ロワイアル』に参加していたら」です。
Wiki編集だけでは飽き足らず、このたび遂に書き手として投下させて頂きます。
指摘、意見、感想等ございましたら遠慮なくどうぞ。

76 ◆Rf2WXK36Ow:2012/02/09(木) 13:13:13 ID:Mw5Mw74c
最後の最後でさるさん食らいましたァん!
以下の状態表の転載をお願いします

【E-8 どこかの民家/一日目 黎明】

【ラバーソール】
【スタンド】:『イエローインパランス』
【時間軸】:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
【状態】:疲労(中)、『川尻浩作』の外見
【装備】:
【道具】:基本支給品一式×3、不明支給品3〜6、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作)
【思考・状況】
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.空条承太郎…恐ろしい男…! しかし二人とは…どういうこった?
2.川尻しのぶ…せっかく会えたってのに残念だぜ
3.『川尻浩作』の姿でか弱い一般人のフリをさせて貰うぜ…と思っていたがどうしようかな
4.承太郎一行の誰かに出会ったら、なるべく優先的に殺してやろうかな…?




【D-7、E-7 境目の路地/一日目 黎明】

【空条承太郎】
【時間軸】:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
【スタンド】:『星の白金(スタープラチナ)』
【状態】:健康、精神疲労(中)
【装備】:煙草&ライター@現地調達
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊&娘の保護。
1.川尻しのぶに真実を話し、詳細な情報交換をしたい。
2.川尻浩作の偽物を警戒。
3.お袋――すまねえ……
4.空条承太郎は砕けない――今はまだ。


【川尻しのぶ】
【時間軸】:四部ラストから半年程度。The Book開始前。
【スタンド】:なし
【状態】:疲労(小)、精神疲労(中)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:?
1.空条承太郎から真実を聞く。
2.この川尻しのぶには『覚悟』があるッ!
3.か、勘違いしないでよ、ときめいてなんていないんだからねッ!

77 ◆Rf2WXK36Ow:2012/02/09(木) 13:19:30 ID:Mw5Mw74c
以上で投下終了です
タイトルの読みは「ヴィア ドロローサ」です
誤字脱字、矛盾、指摘、俺のしのぶor承太郎さんは浮気なんかしないふじこ!という苦情等ございましたら遠慮なくお願いします

78 ◆c.g94qO9.A:2012/02/13(月) 01:56:32 ID:Luoyrjss












【スミレ 死亡】
【残り 87人以上】


【C-4 シンガポールホテル周辺/一日目 黎明】
【ペット・ショップ】
【スタンド】:『ホルス神』
【時間軸】:本編で登場する前
【状態】:全身ダメージ(中)
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】
基本行動方針:サーチ&デストロイ
1.とりあえず体力の回復を図る
2.自分を痛めつけた女(空条徐倫)に復讐
3.DIOとその側近以外の参加者を襲う
[備考]
※ペット・ショップの状態は飛ぶことはできるが、本来のような速さは出せない状態です。
※シンガポールホテル付近にスミレの死体が転がっています。近くにデイパック、折れた棒、溶けかけの氷柱が放置されています。

79 ◆c.g94qO9.A:2012/02/13(月) 01:59:55 ID:Luoyrjss
以上で投下完了です。まさかスレ容量オーバーとは予想外でした。
誤字脱字、気になる点ありましたらお願いします。タイトルは結構気に入ってるんですが、変えるかも。一応仮で。
三行状態表を見たらなんでもスミレの花言葉は忠誠だそうで。面白いですね。

80 ◆LvAk1Ki9I.:2012/02/22(水) 20:35:12 ID:fYRvyGDE
残り2レスでさるさんくらってしまいました。
代理投下お願いします。


【支給品】

波紋入りの薔薇(第1部)
ワンチェンに支給。

首だけになったダイアーが波紋を込めてディオに飛ばした赤い薔薇の花。
有名なセリフ「フフ……は…波紋入りの薔薇の棘は い 痛か……ろう………フッ」のアレ。

ロワ仕様として、誰かに刺すまで波紋は消えないようになっている。


サバイバー入りペットボトル(第6部)
リキエルに支給。

見た目は共通支給品と同じ水入りペットボトルだが
中の水を飲んだり触ったりするとスタンド『サバイバー』の電気信号が脳に送られ、その人物を『怒らせる』効果がある。

『サバイバー』で怒った人間は
・闘争本能が引き出され、ほとんど見境なしに相手を襲う
・相手の「強い」ところが光って「見える」
・身体能力が強化される
といった状態になる。


ハーブティー(第7部)
吉良吉影に支給。

SBR11巻でジョニィが淹れたミントのハーブティー。
原理は不明だがジョニィはハーブを飲むことで撃った爪が速く生えてくる。
カモミールを混ぜるのが効果的。

原作ではキャンプケトル(キャンプ用のやかん)に入っていたが、
ロワでは魔法瓶に入っているため、冷めることはない。

81 ◆LvAk1Ki9I.:2012/02/22(水) 20:39:22 ID:fYRvyGDE
以上で投下終了です。
比較的オーソドックスな展開……の割りにはやや長めだったり。

仮投下時からは多少文章をいじった程度で大きな変更はありません。
ご意見、感想などありましたら遠慮なくお願いします。

82 ◆LvAk1Ki9I.:2012/02/22(水) 21:03:29 ID:fYRvyGDE
書き込めたため代理投下は結構です。
失礼しました。

83 ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:09:26 ID:EcmzuraA
 相変わらずアクセク規制中につき、こちらに
 F・F、ホル・ホース、投下します。

84川の底からこんにちは ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:14:27 ID:EcmzuraA
「お前の事はあたしの記憶に無い…。
 だからもう一度問う。
 お前はあたしの『敵』か? 『味方』 か…?」

 ああ、分かってるよ。
 おれみたいな奴が、間抜けにもこんなときこんな場所で気ィ失って寝とぼけてなんかいたら、話になんねぇ。
 スマートに決めてスマートに立ち去る。そいつが本来おれの流儀。
 しょぼくれて、若造に訳も分からずにしこたまやられて、お次は可愛い子ちゃんと来た。
 こりゃツイてるのか? ツイてねぇのか?

 ☆ ☆ ☆

 ひとまず、気がついたときに話を戻すぜ。
 気がついた、ってのは、つまりおれが意識を取り戻したとき、ってのと、この女に気がついたとき、ってのと二つの意味でだ。
 意気消沈していたところを、やたらに調子の良い小僧にしてやられて、おれとしちゃあもう殺されたと思っていたわけだが、そうじゃ無かった。
 あの小僧、おれを舐めてたのか、いざとなってブルっちまったのか、単にそこまで考えて無かったのか、荷物だけ盗んだだけで、止めを差しもせずズラかりやがったらしい。
 川っぺりでアホみてーにぶっ倒れていただろうおれだが、意識を取り戻すのにそう時間が掛かったワケじゃ無い…と、思うぜ。
 まあそこんとこは曖昧だ。そんなに根拠はねえし、一々突っ込むなって。
 ただ、意識がぼんやりとでも戻ってきていることと、すぐさま行動できるってのは別だ。そうだろ?
 まあこれ又情けねぇことに、意識が戻って周りの状況(そして、おれ自身の状況)が分かってからもしばらくは、這い蹲ってただ辺りを眺めているだけだった。
 で、ざまぁねぇや、と自重するヒマも無く、川を流れてくるそいつが目に入ったワケだ。

 初めは、死体かと思ったぜ。
 そりゃそうだろう。泳いでる、でも、溺れている、でもねぇ。ただ水に浮かんで、ゆるりとした流れに運ばれているだけだ。
 ただの死体ならそう気にもしなかった。どこのどいつか知らねーが、とんでもねぇパワーのスタンド使いに浚われて殺し合いをしろなんて言われてりゃ、死体が流れてきたっておかしかねぇ。
 おれだってそうだ。ついさっき、殺されたと思ったんだからな。
 ただ、微かな光に照らされて、二つのふくらみが見てとれて、おれはようやく上体を起こしたわけだ。
 何だって? つまり、胸だよ、胸。乳房。女の身体でも、群を抜いて魅力的な部位のことさ。
 要するに、シリコンでも埋め込んだヤローでないなら、そいつは女だってことだ。そうだろ?
 で、俺は女にゃ優しい男だ。いつだって、な。
 ああ、そりゃあ勿論、利用もするし騙しもする。けど、優しいってのは間違いじゃねぇし、進んで女を傷つける真似もしねぇ。
 そして勿論、困ってる女を見捨てたりもしねぇ。ま、相手は選ぶがな。(エンヤ婆みてーなのは俺だってお断りだ)
 もしかしたらまだ生きてるかもしれねえ。死んでいたとしても、そのまま川を流れたままにしておくってのはあんまりだろ?
 で、ここに来ておれはようやく、ちょっとばかしいつものペースを取り戻しかけた、ってわけさ。
 がばと起きあがり、ざんっ、と川へと入ると、その女の方へと泳ぐ。
 泳いで、肩を掴むと、ぐいと引き寄せ声に出して聞いた。
「おい、お嬢ちゃん、生きてっか? 生きてるなら返事をしな!?」
 で、そこから冒頭に繋がってくわけだ。
「…お前は、敵か?」
 おいおい、いきなりそれはねぇだろうよ。

85川の底からこんにちは ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:15:21 ID:EcmzuraA
 
「お前の……その行為は……状況から察するに、『救助』しようとしている…という事に思える……。
 だが『わたし』はお前を知らない……。
 ならば、何故『助ける』……?」
 妙な具合だぜ、こいつは。
「おうおう、無事なら結構。
 とにかく岸に上がろうぜ。水の中をぷかぷか浮いていたら、落ち着いて話しも出来やしねえ。
 少なくとも今はアンタの『敵』じゃあねぇ。
 おれは世界中の可愛い子ちゃんの『味方』だぜ」
 女は、月明かりに見ても美人だった。この俺が言うんだから間違いねえぜ。
 東洋人とアングロサクソンの血が混じったような、エキゾチックな雰囲気がある。なんとはなしに見覚えのある気もしたが、いや、やっぱり記憶にゃあ無かった。
 ただ、妙なのは言葉や態度だけじゃねぇ。
 なんというか、巧く言えねえが、何かが妙だった。
 ぎくしゃくしているというか、ちぐはぐというか、機械的ってのとも違う。何か人間のようで人間でない、妙な感じだ。
 とはいえ、それでも目の前の女を助けないってのは、俺の流儀にゃ反する。
 反するし、何よりここに来てようやく、『俺らしい』事が出来る機会が来たってのも、重要っちゃ重要だ。
 女の肩をそのままぐいと引いて、岸まで行く。
 それに抗う素振りも見せず、そのま素直に、ふたりして岸へと上がった。
 
 さて、ずぶ濡れだ。俺としても正直気持ち悪いし、ここは2人とも服を脱いで乾かすのがベターなところだが、女は濡れた服のことなどまったく気にした様子が無い。
「とにかく、どっかの建物に入って、服を脱いで乾かした方が良いぜ。
 おっと、変な気持ちで言ってるんじゃねえ。
 俺は少なくとも女に対しちゃあ紳士だ。特に可愛い女の子には、な」
 軽くおどけた調子で、気持ちをほぐそうとする。
 改めて向き合うと、思っていた以上に若い。もしかしたらまだ10代かもしれねえ。
 首輪がつけられている事から、おれ同様に無理矢理連れてこられて殺し合いをしろと言われているお仲間、って事なんだろうが、態度様子からもその事を気にしている風でも無い。
 顔立ちの美しさに加えて、プロポーションも悪くない。ただ、立ち姿がちょいと様になっていない……というか、変だ。
 そしてその姿勢以上に、女の反応はどうもぎこちない。
 いや、ぎこちないというか、俺の言っていることを理解していないというか……いや、むしろ俺のことを観察している感じだ。
 警戒している、というわけでもない。
 最初はそう思った。だからおどけた事を言ってみたわけだが、そこには何の反応も無いんだから、どうにもつかみようがない。
「……その恰好」
 表情のない視線を俺に向け、妙な事を言い出す。
「『あたし』の記憶によれば、『西部劇』とやらの……カウボーイか…ガンマンみたいだが……お前はそういうヤツなのか……?
 そういうヤツ、というのは、つまり『西部で牛を追って暮らしている人間』なのか、という事だ。
 『あたし』の記憶の中では、直接会った事は無いんだ。『西部劇』の中か、フェスティバルの扮装以外では、という事だが……」

86川の底からこんにちは ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:16:17 ID:EcmzuraA
 
 さて、どうしたもんか。
 状況から混乱しているのか? それともハナっからイカれてるのか…? 或いは記憶障害ってーヤツかもしれねえ。
「あー、俺はまあ、『世界中を旅している男』さ。
 そんなのは『職業』じゃねぇって言う奴もいるが、そりゃそうだ。ま、言うなれば『生き様』ってーヤツだからな。
 で、この恰好はそーゆー俺の『開拓精神』に即してるからってのもあるし、険しい土地でも丈夫で破けねえから、ってのもある」
「理解した。つまりその恰好は、『カウボーイでは無いが、カウボーイの様に生きたいという意思表示』という事だな」
 うぐ…。なんかそう簡潔に纏められると、ちょっと恥ずかしい気がしてくるじゃねえかよ。くそっ。
 調子狂うぜ。
「とにかく、お前は『わたし』の敵ではない。そして ――― 『ありがとう』 と言っておこう。
 『あたし』の記憶において、こういうときはそう言うべきはずだ……」
 回りくどい、というより、非常に奇っ怪だ。
 狂っている、ってーんでもない。何が何やら、とにかく妙だ。混乱しているというのも又違う。 
 いや、むしろ逆だ。混乱はしていない。凄く理路整然としている。
 そして、理路整然としつつ、おかしいんんだ。
 まいったぜ。こんな女…いや、こんなタイプのヤツは、見たことも会ったこともねえ!
 
 俺の方が些かに混乱していると、それを尻目に女はくるりときびすを返し歩き出した。
「お、おい、ちょっと待ちなよ、嬢ちゃん!
 どこに行こうってんだ?
 とにかく一端落ち着きなって。服も乾かした方が良いしよ。風邪ひくぜ?」
 妙な女だと思いつつも、ついそう呼び止めてしまう。
 呼び止められた女は、またぎこちない姿勢で変な具合に振り返る。
「『わたし』は、刑務所に向かう。そこに、『あたし』の記憶があるからだ。
 『わたし』は、『あたし』の記憶を見なければならない。そうしなければ、『あたし』を『わたし』のものにする事は出来ないからだ」
 この点、嘘偽りなく正直に言っておくぜ。
 『おれ』は間違いなくこのとき、とてつもなく間抜けな面をしていただろうさ。見てねーけどな、自分じゃ。

87川の底からこんにちは ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:17:15 ID:EcmzuraA
 
 ☆ ☆ ☆
 
 で、今おれが居るのは、地図上で『GDS刑務所』と書かれた場所の真ん前、ってわけだ。
 塀に囲まれた、妙に近代的 ―― というか、未来的? ――― なコンクリートの建物は、敷地内にゃ椰子の木なんか生やしてやがって、ちょいとした南国気分で、刑務所って感じがしねえ。
 空も白み始めているし、だんだんと周りが見え始めている。
 その中で見てもこの女は確かに美人で、そして同時にやはり、何か妙に、人間らしさが無かった。
 そんな妙な女に何故のこのこと付いていっているのか、って言うと、結局のところ『成り行き』と、『他にやることがなかったから』って事になっちまうかもしれねえ。
 勿論、妙な女だが女は女だし、そうそう放ってもおけねえってのもあるし、打算的な事を言えばいずれ『利用』出来るかもしれねえってのもある。
 だが、そうだな ――― もっと妙な事を言えば、例えばこう、『引力』みたいなもんかもしれねえ。
 いやいやいや、変な意味じゃあねえぜ。
 
 おれは夢見る乙女の運命論みたいなのとは無縁な男さ。
 それでもこの女とは、今ここで別れるってのは『無い』って気がしたのは、事実なんだよ。
 そして、それがツイていたのかツイてなかったのか、ってのも、これまた分からねぇ。
 
 女は何かを確認するように、立ち止まり周りを見て居る。
 記憶、と言っていたが、その記憶と合致しているところを確認しているかのようにも思えた。
 そして暫くして、唐突にこう言い出した。
「『知性』 ――― と、『記憶』……。
 自分を自分たらしめるものは、一体どっちなんだろうな ―――」
 妙な事ばかり言う女だ。最初はそれが自分に向けられた言葉なのか、ただの独り言なのか分からなかった。
 そして、おそらくは独り言だろうとは思ったんだが、かと言って無視するのも何か変な気がしたもんで、おれはこう答えた。
「そりゃ、『記憶』だろうよ。
 どっちも必要だし、どっちも欠けたら困るけどな。
 おれがおれでいるのは、おれとして生きてきた『記憶』があるからだし、おれの女たちにしたって、『おれとの記憶』が無くなっちまったら、もうそいつは『見知らぬ女』になっちまう。つまり、『別人』さ」
 まあ、やはりというか当然というか、おれから答えが返ってくるとは思っていなかっただろう女が、こちらへと顔を向けて、なんというか「きょとん」とした様な表情を浮かべていた。
 初めて見た、ちょっとは『人間らしい』 と言える表情だ。なかなか可愛いじゃねえのよ。
「――― そうだな」
 今度は軽く口の端を上げて、微笑んだように見えた。
「だから ――― あたしは、空条徐倫なんだ。
 『わたし』は、F・Fだが、『あたし』は、空条徐倫でもあるんだな ―――」
 
「ニャ…ニャニィ ー――z___ ッ!?」
 な? たしかにこいつは、ちょっとした『引力』だ。
 そしてこの『引力』が、ツイていたのかツイていなかったのか、まだ分からねえ。
 
 
----
【H&F】


【E-2 GDS刑務所 / 1日目・早朝】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:些かの疲労、まだ服が濡れて気持ち悪い
[装備]:マライアの煙草(濡れている)、ライター
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.『空条徐倫』 だってェー――z___ ッ!?
2.牛柄の青年と決着を付ける…?

88川の底からこんにちは ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:17:59 ID:EcmzuraA
 
【フー・ファイターズ】
【スタンド】:『フー・ファイターズ』
【時間軸】:農場で徐倫たちと対峙する以前
【状態】:健康、空条徐倫の『記憶』に混乱
【装備】:空条徐倫の身体、体内にFFの首輪
【道具】:基本支給品×2、ランダム支給品1〜4
【思考・状況】
基本行動方針:存在していたい
1.GDS刑務所の中で空条徐倫を知り、彼女となる
2.敵対する者は殺す。それ以外は保留。

【備考】
※F・Fの首輪に関する考察は、あくまでF・Fの想像であり確証があるものではありません。
※空条徐倫の支給品(基本支給品、ランダム支給品1〜2(空条徐倫は確認済))を回収しました。
※空条徐倫の参戦時期は、ミューミュー戦前でした。
※体内にFFの首輪を、徐倫の首輪はそのまま装着している状態です。

89 ◆SBR/4PqNrM:2012/02/27(月) 00:18:46 ID:EcmzuraA
 区切りが変なんなっちゃった。
 けど、取りあえず以上にて、どなたかよろしうに。

90迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:28:07 ID:yOSWL4e.
さる喰らいました。
申し訳ありませんが転載お願いします。

※これは冒頭ではありません。
頭は本スレに投下済みですので、そちらからご覧下さい。

――――


(こいつはタマげたぜ。ありゃあ、ネコと……ネズミか?)

杜王町立図書館、通称『茨の館』。
その屋上に降り立ったドルド中佐はハングライダーを折りたたみ、双眼鏡で杜王駅の様子を伺っていた。
駅は人が集まる重要なポイントだが、それを逆手にとった待ち伏せ攻撃を受ける可能性もある。
現に、ドルドは点火したものを攻撃するライターを、トラップとして駅に仕掛けようとしていた。
ドルドは付近でも背の高い建物だったこの図書館の屋上に降り立ち、双眼鏡で駅の状況を探ることにしたのだ。
観察を初めて数分、ドルドは恐るべき殺戮現場を目撃することとなった。
女子供を含む3人の人間が駅を訪れたかと思うと、そのうちの一人の少年が突如、ロウソクのように溶かされてしまう。
次いで、白人の大男が足元のデイパック目掛けて銃を乱射…… しかし、その後むなしく大男も溶かされてしまった。
ドルドは、その大男を仕留めた敵の正体も目撃していた。
大男の背後30メートルの物陰から、小さなネズミが針を飛ばし、その効果によって大男は死に至ったのだ。
そして最後には、妙な服を着たネコが残った女の口の中に飛び込み、殺害したのだった。

(ものの数分で3人が全滅か…… このゲーム、思った以上にハードなようだ。
あんな危険な生物がいるんじゃあ、いま駅に近づくのは自殺行為だな……)

ネコの方もブッ飛んではいるが、ドルドが特に注目したのはネズミの方だった。
触れただけで身体を溶かす、これとよく似た技をドルドは知っている。
『バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン』。
寄生虫バオーに侵された生物が、強力な酸を含む体液を放出しタンパク質を溶かす技だ。
そして、針を飛ばすのは『シューティングビースス・スティンガー』によく似ている。
どちらもバオー武装現象(アームドフェノメノン)の一種だが、あのネズミの能力は酷似している。

『バオー鼠』…… 実験で犬に寄生させていたことを考えると、可能性としてはなくはない。
だが、2つの武装現象を組み合わせて新たな技を作り出したとなると相当危険な相手になる。
狙撃銃でもあれば話は別だが、体内にある武装だけではあのネズミを安全に始末することは出来そうもない。

91迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:29:48 ID:yOSWL4e.

(まあ、いい。バオーとはいえ所詮はネズミだ。行動範囲はたかが知れている。
しばらくは杜王町エリアとやらを離れ、この町であのネズ公が参加者の数を減らしてくれることを期待するか)


方針変更。目的地は西だ。
あわよくば、どこかで『人間』の仲間でも欲しいものだ。
それも、さんざん利用できそうなお人好しの馬鹿野郎だと嬉しいんだがな。

これから始まるネコとネズミの戦いにも気づかず、ドルドは再び空へ飛びだした。




【C-7 杜王町立図書館 屋上・1日目・黎明】

【ドルド】
[能力]:身体の半分以上を占めている機械&兵器の数々
[時間軸]:ケインとブラッディに拘束されて霞の目博士のもとに連れて行かれる直前
[状態]:健康。見た目は初登場時の物(顔も正常、髪の毛は後ろで束ねている状態)です
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ジョルノの双眼鏡、ランダム支給品0〜1(確認済み)、ポルポのライター
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、且つ成績を残して霞の目博士からの処刑をまぬがれたい
1.コレ(ライター)を誰かに拾わせる。
2.地図の西方向へ向かう。
3.仲間が欲しい。できれば利用できるお人好しがいい。

[備考]
・支給品は確認しました。
・ジョルノの双眼鏡はカプリ島でジョルノがボート監視小屋を見張っていた時に使用していたものです。
・ゲームはドレスの仕業だと思っています。
・犬好きの子供、ブルート、織笠花恵の死亡を確認しました。
・杜王駅にいたネズミの正体が「バオー鼠」ではないかと推測しています。




☆ ☆ ☆

92迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:32:26 ID:yOSWL4e.

再びドルチが考えるのは、あの右耳が欠けたネズミ野郎がこれからどう動くか、ということだった。
ネズミはドルチと目があった(はずである)。
ならば、ネズミはドルチを始末したがっているはずだ。
織笠花恵はもう死んでいるが、ネズミはこの女にもう毒針は撃ってこないだろうか?
いや、以前からあった死体(東方良平)は、死後にも執拗に毒針を撃ち込まれ続けたような、歪な死に様を見せていた。
おそらく毒針で溶かして固めるのがあのネズミの『狩り』であり『食事』なのだ。
だとすると、ネズミは織笠花恵の死体にも毒針を撃ってくるだろう。
織笠花恵の肉の鎧を纏い、凌げる攻撃はせいぜい5〜6発ほど。
時間にして、30秒といったところだろう。

たったの30秒。
せっかく逃げ込んだ人体という名の要塞も、ネズミの毒針に対しては一時的なその場凌ぎにしかならないのだ。
ドルチも、そんなことは承知していた。
だがドルチの策にはそれで十分だった。
ほんの30秒の時間さえ稼げれば、ドルチは作戦のための細工ができる。
その細工さえ完了すれば、ドルチはネズミを追い詰める一手を掴むことができる。

ドルチは頭の中で、花恵の体外の情報を整理する。
織笠花恵の死体、少年の死体、ブルートの死体、東方良平の死体。
杜王駅構内の地形、出口、改札口、売店、4人の死体、散乱したデイパック、それらの位置関係。
うむ、完璧だ。
外に飛び出しても、迷い無く行動できる自信がある。

織笠花恵の胃袋という狭い空間の中で千載一遇の機会を狙い、ドルチは小さな身体を潜めていた。

93迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:34:45 ID:yOSWL4e.


「ギャァァァァ―――――スッ!!」

物陰から両耳を覗かさたネズミから、『ラット』の毒針が連射される。
標的は30メートル先に倒れる織笠花恵の死体。
正確無比なその射撃は、近くに転がる東方良平や少年の死体にはかすりもしない。

『ダサい格好をしたネコが、ニンゲンのメスの体内に逃げ込んだ』

それだけ理解していれば、ネズミの脳でもどうやって追い詰めればいいのかが見えてくる。
ドルチのとった行動は、どう見ても苦し紛れの悪手でしかない。
スタンドを起動させ、立て続けに毒針を10連射。
これで織笠花恵の身体は毒に侵食され溶けていく。
ヤドクガエルよりも強力な生物毒は、やがて花恵の身体を肉の泥へと変えていく。
体内にいたら、そのままドルチはオロク確定だ。
そして予想通り、毒針でやわくなった腹部をぶち破り、ドルチが外へ飛び出した。
花恵の血液に塗れ、身体は真っ赤に染まっていた。
そのグロテスクなネコに止めを指す。

狙いを定め放った毒針は、見事ドルチのどてっ腹に突き立てられた。


『勝った――― ざまあみろ、ネコ野郎。いままで散々ビビらせてきやがって――
ネズミ様をなめるなよ―――』






(左斜め後ろ―――――8時の方向――――――)

94迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:38:35 ID:yOSWL4e.

「ギッ!!」

ネズミは、勢いよく振り返ったドルチに睨まれ戦慄する。
ドルチの鋭い眼光は、そのネズミのピンと伸びた2つの耳と、赤く光る両眼を捉えていた。

(距離――30メートル―――――  改札手前―― ベンチの影の後ろ――――――)

間髪を入れず、ドルチは駆け出す。
ネズミを目指して最短距離だ。
対するネズミは、向い来るドルチに向けて毒針で応戦、しかし―――

「ギャギャァッ!!?」

ドルチはそれを口に咥えた『盾』で防ぐ。
『盾』――― それはネズミの最初の攻撃で犠牲となった「少年の生首」だった。
いつの間にそんなものを咥えたのか、ネズミには見当もつかない。

頭部に毒針が効かないならば胴体に撃てばいい。
跳弾を利用して身体を狙えばいい。
だが、先ほどどてっ腹に撃ち込んだ毒針は効かなかったではないか?何故?

そして、再び照準を合わせ、跳弾でドルチを狙う。
そんな悠長な時間など、ネズミにはありはしない。
ほんの2秒ほどでネズミとの距離を一気に詰めたドルチは、野生で獲物を狩ることに特化した肉食動物特有の前足を振りかざし、ネズミの胴体を叩き潰した。

「ギャァァァァァァァ――――ッ!!」

すべてが一瞬の出来事だ。
これが野生の掟だった。
こうなれば、ネズミにスタンド能力があろうが無かろうが関係ない。
人間に好かれ、愛玩用として育てられてはいるが、これこそが本来の『ネコ』の姿なのだ。
食物連鎖の名の元に、ネズミは成すすべもなく『狩り(ハント)』され、絶命した。

花恵の血液で血まみれのドルチが、煩わしかったダサい服を脱ぎ捨てる。
その服の下。ドルチの体には、薄い金属製の帯が何重にも巻かれていた。
そう。これこそがドルチが施した策。
東方良平のデイパックに忍び込んだ際に手に入れた、「ドノヴァンのナイフ」だった。
リボンのように長く伸ばすことができるこのナイフを身体に巻きつけ、簡単な防弾チョッキを作り出したのだ。
人間と比べ、ごく小さな身体を持つドルチだからこそ取れる奇抜な用法だった。
ナイフを隠し持ち、ドルチは織笠花恵の体内に侵入。
体内に隠れていられる数十秒もあれば、防具として身体に巻きつけることができたのだ。
そして、服の下にこれを隠すことで目立たない。
愛子雅吾の忘れ形見となった悪趣味な服は、思いもよらぬ形でドルチの役に立ってくれたのだった。

95迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:44:47 ID:yOSWL4e.

体外に出たドルチはまず、花恵の死体のそばに転がっているはずの「少年の生首」を口に咥えた。
距離を詰めるまでに2〜3発撃ち込まれるだろうから、それを防ぐ簡易の盾が欲しかった。
自分の頭より大きなものならば何でもよかったのだ。


ひとつ、ドルチに不安があったとすれば、それはネズミの移動速度だった。
東方良平のデイパックの中でブルートの射撃を受けたネズミが、脱出してブルートを攻撃するまでの時間が短すぎたのだ。
ブルートが攻撃された地点の周囲には、ネズミが身を隠せるような場所はなかった。
あの一瞬で、ネズミはどうやって姿を眩ませたのか、それだけがわからなかったのだ。


だが、その心配も杞憂に終わったようだ。
ネコに距離を詰められたネズミは、所詮ただのネズミだった。
確かに手ごわい相手だったが、それでも自分が負けるわけはない。

『ネコ』が『ネズミ』に負けるなど、そんなことあるわけがないのだ。

その揺るぎない事実を自分の中で再確認し、ドルチは自らが仕留めたネズミの亡骸を見下ろしていた。





チクリ




そしてそれと同時に、首筋から身体が溶け始める妙な感触と、再び感じる殺気の存在を察知した。

96迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:49:26 ID:yOSWL4e.

「バ………カな………………」

ブルートの頭の上に登り、最初に『敵』の姿を確認した時のことを、ドルチは思い出す。
東方良平のデイパックに隠れたネズミは特徴的にも、右耳が虫に食われた葉っぱのように欠けていたのだ。
だが、今しがた仕留めたネズミはどうだった?
目の前に横たわるネズミの頭には、しっかりと両耳、無傷で生え揃っているではないか。
ドルチが眼前に見下ろすそのネズミは、最初のネズミとは別のネズミ。

「2匹いた……… という事か……… チクショウ…………」


死に物狂いで、ドルチは後ろを振り返る。
ブルートの死体の分厚い腹に隠れ、懐からこちらを狙うネズミ、『虫喰い』の姿がそこにあった。
さらに2発、3発。
動きの鈍ったドルチはさらなる攻撃を交わすことは出来ず、その全てを被弾。
最後の最後で人語を喋ったダイ・ハード・ザ・キャットは、その儚い一生の最期を迎えたのだった。


つまり、こういうことだ。
当初から杜王駅には毒針のスタンドを操るネズミは『2体』いたのだ。
2体のネズミはゲーム開始直後、まず東方良平を襲撃した。
そして次に杜王駅に縄張りを張り、手当たりしだい襲撃することにしたのだ。
初めに犬好きの子供を殺害し、ブルートの腹に毒針を撃ち込んだのは『虫喰い』だ。
虫喰いは東方良平のデイパックの中に潜み、良平の死体を餌に近づいた人間を攻撃する役目だ。
そしてブルートに拳銃で狙われ、慌ててデイパックを脱出。ブルートの懐に飛び込み、身を隠した。
ドルチの動体視力をもってしても逃げるネズミの姿を捉えることは出来なかったわけだが、なんてことはない。
虫喰いは逃げたのではなく、向かってきていたのだ。
ブルートの分厚い腹の下に隠れてしまえば、ドルチの視界からは完全に消えてしまったのだ。

そしてここで選手交代。『虫喰いでない』方のネズミがブルートの背後から止めを刺したのだ。
このせいでドルチはブルートの腹に隠れたもう1匹のネズミに気付くことがなかった。
その2匹目の存在に気が付けなかったことこそが、ドルチの完全なる敗因となってしまったのだ。

97迷い猫オーバーラン ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:50:10 ID:yOSWL4e.


虫喰いにとっても、今回の戦いはとてもじゃあないが完全勝利とは言い難い。
元の世界にいた頃、虫喰いたちは他の仲間のネズミを皆殺しにしていた。
彼らにとって、スタンド使いでないネズミはすでに仲間ではなかったからだ。
残った唯一の仲間であるネズミと、この戦場でも再会することができた。
にもかかわらず、この共同戦線はほんの数時間で崩されてしまったのだ。
しかも、相手はあの『変な頭』でも『白コート』でもない。
元・天敵とはいえ、何の特殊能力も持たない『ただのネコ』だったのだ。
チカラを得て、自分は最強だと理解した。そう信じ込んでいた。
だが現実はそうではなかった。
虫喰いは改めて、本能で理解する。

この弱肉強食の世界、一筋縄で行くほど甘くはないということだ。


【虫喰いでない 死亡】
【ドルチ 死亡】



【D-8 杜王駅 / 1日目 黎明】

【虫喰い】
[スタンド]:『ラット』
[時間軸]:単行本35巻、『バックトラック』で岩陰に身を隠した後
[状態]:健康。食事中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:喰う……サーチ・アンド・デストロイ
2:練る……もう油断はしない。同じ失敗を繰り返したりはしない。
3:覚悟を決める……この弱肉強食の世界、一筋縄で行くほど甘くはない。

[備考]
杜王駅内に東方良平、犬好きの子供、ブルート、織笠花恵、ドルチ、虫喰いでないの遺体と、以下の物が放置されています。内容は以下のとおり
1:虫喰いのデイパック:パン消費、支給品のブドウ(1部でエリナがジョナサンに渡した物)消費、中は虫喰いの糞だらけ。
2:良平のデイパック:拳銃でボロボロ。中は基本支給品一式のみ。
3:犬好きの子供、織笠花恵、ブルート、ドルチのデイパック:詳細不明。ブルートの支給品のみ一つは使用済み。
4:虫食いでないの支給品:駅またはその周辺のどこか(虫喰いでないの初期位置)に放置されている(はず)
5:ドノヴァンのナイフ:東方良平の支給品。ドルチの遺体のそばに放置。
6:カイロ警察の拳銃:ブルートの支給品。ブルートの遺体のそばに放置。弾倉は空。予備弾薬の有無は不明。

東方良平の死体はすでに、原作で冷蔵庫の中に保存されていた住人のように固められています。
織笠花恵、ドルチの死体はドロドロに溶かされ原型はほとんどありません。
犬好きの少年の死体は腹部と四肢を溶かされ、首が溶け落ちています。頭部のみ離れたところに転がっています。
ブルートの死体は腹部と頭部を溶かされていますが、比較的原型を留めています
虫喰いでないの死体は、胴体が叩き潰された状態です。

ブルートの参戦時期は、ジョセフと出会う前でした。
犬好きの子供の参戦時期は、イギーに助けられた後でした。
織笠花恵の参戦時期は、少なくとも飛来明里失踪事件の数年以上後でした。
虫喰いでないの参戦時期は、少なくともスタンドを得た後、殺される前でした。
ドルチの参戦時期は、本編終了後でした。

98 ◆vvatO30wn.:2012/02/28(火) 16:50:57 ID:yOSWL4e.
以上で投下完了。
いやはや、難産でした。

どうしても書きたかった虫喰いVSドルチ。
動物ロワを彷彿とさせる対決というのも悪くはないもんです(ほとんど読んだことないですけど)。
実際書いてみると、お互いセリフがないので苦労しました。(ドルチは喋れますが、喋るのは最後だけにしたかった)

事前にズガン枠を公表しなかった理由は2つ。
1つ目は、最初のズガン人間3人を誰にするか決まっていなかったから。
話の流れ上、はじめに数人犠牲にしたかったのですが、その内訳は誰でもよかったわけで……
何度も書き直している間にキャラを変更することもしばしば…… 執筆開始前にズガンを誰にするか決めてしまうことはできませんでした。
例えばブルりんがドノヴァンだったり、犬好きの子供がポコやスモーキーだったり……
「猫好き」ということで織笠花恵の犠牲は早めに決まっていましたが、東方朋子だったり、「猫を飼っている」ということでダービー兄だったり、いっそのことドルチとセットで雅吾を参戦させるアイディアもありました。

そして2つ目は、最後まで『虫喰いでない』の存在を隠したかったからです。
叙述トリックというものに憧れて、物語終盤まで『虫喰い』という名前は用いず、一貫して「ネズミ」で通しました。
あとは『虫喰いでない』の耳に関する描写をちょくちょく差し込んだり……
4キャラクターも登場した他のズガン枠の面々も、『虫喰いでない』の存在を隠すいい隠れ蓑になってくれているのではないかと思います。

まあ、うまくいったかどうかはよくわかりませんが。


しかし、タイトルと内容が見事に関係ない。
「猫」が主人公ってところくらいじゃねーか
あ、ネコがネズミに勝つためには「2回死なす」必要があった、的な……なんちゃって

99 ◆Rf2WXK36Ow:2012/02/28(火) 16:59:21 ID:308QaWs.
※このレスの転載は不要です
代理投下してましたが、さるさん食らいました…OH MY GOD!
続けられず申し訳ないです、どなたかお願いします

100名無しさんは砕けない:2012/03/08(木) 05:23:30 ID:h89A6hBE
投下乙です
ペット・ショップが働きまくりやで。登場からフル稼働じゃないか、こいつw
ホルス神とクラッシュのコンビは考えてなかったけど、なかなかおもしろい
イギーが一矢報いることはできるのか! 楽しみ!
それにしてもスクアーロから、苦労人オーラが出まくりである

――

↑お願いします。
よもや、感想でさるとは。

101名無しさんは砕けない:2012/03/08(木) 05:30:01 ID:h89A6hBE
分かるように、あげときます。
なお、このレスは転載ふよーです。

102 ◆3uyCK7Zh4M:2012/03/13(火) 23:50:40 ID:sL83uM2Q
うわあああまさかのさるさん…
すいませぇん、転載お願いします。

103褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M:2012/03/13(火) 23:51:25 ID:sL83uM2Q

※※※



吸血鬼、波紋、スタンド、百年の眠りから目覚めた化物DIO、その部下たちとの戦いの旅路、突如巻き込まれた殺し合い。
モハメド・アヴドゥルと名乗ったそのエジプト人は、警戒心を解いてビーティーに語った。
此方が「スタンド使い」でないことが分かり、友人の仇ではないと安心出来たそうだ。
到底信じられない話ばかりだったが、実際に奇妙な体験ばかりだし、スタンドそのものを見せられては信じるしかなった。
そして、どうやらアヴドゥルはこの殺し合いで既に二人の仲間を失ったらしい。
一人はあのホールでの見せしめの一人、もう一人は自らの油断が原因で死なせてしまった男。
その話を聞いて、ビーティーは焦る。
もしこの場に公一がいるとしたら……真っ先にターゲットにされるだろう。

このアヴドゥルという男は見た目は暑苦しいブ男だが、実に理知的な人物らしい。
ビーティーは戦う術を持っていない、認めたくはないが圧倒的に不利な立場にいる。
アヴドゥルは立場的には有利な位置にいるはずだが、あくまで「対等な情報交換」という姿勢は崩さない。
力とか年齢とか、そういうものに左右それない高潔な男だ。

アヴドゥルからの話が終わると、ビーティーからも出せる程度の情報は出すことになった。
親友である麦刈公一、そばかすの謎の少年をやり込めたこと、その直後気づけば先ほどホールのような場所にいたこと。
此処に来てすぐ出会ったジャイロという男、「利害の不一致」で仕方なくジャイロと別れたこと。

104褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M:2012/03/13(火) 23:52:12 ID:sL83uM2Q
アヴドゥルは一人で何やら考え込みながらビーティーの話を聞いていた。
互いに語り終わると、自然とその場に静寂が広がった。
アヴドゥルは顎に手を当て、ビーティーは耳を撫でながら考えをまとめる。
そんな空気がしばらく続いた後、アヴドゥルはふと伏せていた目をビーティーへ向けた。

「君に一つ相談があるのだが」
「何だ?」
「――私に君の理性を貸してもらえないだろうか」

ビーティーは耳を触る手を止めた。

「私は短気で熱くなりやすい性格でね。おまけに柔軟な発想、というものも苦手だ。
 ……ポルナレフを殺した奴に出会った時、自分が冷静でいられるとは思えない」

冷静な自己分析を口にしておいて何を。
だが友人のためにそこまで感情を荒げられるのならば、やはりこの男は信頼に足る人物なのだろう。

「私はわが友であり仲間であったポルナレフに、必ずや『復讐』と『勝利』を捧げると誓ったッ!
 だが復讐も勝利も、ただ感情的になっただけでは成し遂げることは出来ない……。
 だからこそ、君のその策士的な理性を貸してほしい。
 頼む。ポルナレフの仇を討ち、このバトルロワイヤルの謎を解く、そのために協力してくれないか」

ビーティーはまだ、アヴドゥルの内に潜む熱さを知らない。
そしてアヴドゥルもまだ、ビーティーの悪魔的な本性に気付かない。
少年はアヴドゥルの言葉を聞くと、至極楽しそうにその唇を歪ませた。

「……友のために報いをくらわせる、という訳ですね。
 いいでしょう。好きですよ、そういうの……。
 お互い、二つの点で協力することを誓約しませんか?」
「二つ?」
「まず貴方は、第一に『友人の復讐をする』第二に『バトルロワイヤルの裏を暴く』
 そして僕は、『公一を見つけ出す』そして『バトルロワイヤルの主催者に報いを与える』
 貴方の目的のために僕はこの理性を貸しましょう。
 そして僕の目的のために、貴方はその能力――力を貸して下さい」

アヴドゥルは底知れぬ少年の瞳を見つめた。
ビーティーはアヴドゥルの返答を待ち、彼に右手を差し出す。

アヴドゥルはその手を握ることを一瞬ためらった。
特に論理的な問題があった訳ではない。
むしろその条件は、アヴドゥルにとって願ってもないことだった。
だが、この少年の漂わせる空気が誰かに似ている気がする。

しかし自分にはこの手を取る以外に道はない。

魔術師は魔少年の手をとった。

105褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M:2012/03/13(火) 23:52:41 ID:sL83uM2Q

【C-7 ぶどうが丘高校 校庭/1日目 黎明】


【モハメド・アヴドゥル】
[スタンド]:『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』
[時間軸]:JC26巻 ヴァニラ・アイスの落書きを見て振り返った直後
[状態]:健康、肩に一発だけ弾丸を受けた傷(かすり傷)、ポルナレフを死なせたことへの後悔
[装備]:六助じいさんの猟銃(弾薬残り数発) (ボーンナムの支給品)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊、脱出。DIOを倒す。
1.この少年の理性を借りる。そのために「公一を探す」ために少年に力を貸す。
2.ポルナレフを殺した人物を突き止め、報いを受けさせなければならない。
3.ディアボロとは誰だ?レクイエムとはなんだ? DIOの仕業ではないのか?
4.ポルナレフは何故年を取っていたのか? ポルナレフともっと情報交換しておくべきだった。
5.ブチャラティという男に会う。ポルナレフのことを何か知っているかもしれない。
6.ポルナレフを置き去りにしてしまった。俺はバカだ。
7.承太郎……何故……

【ビーティー】
[スタンド]:
[時間軸]: そばかすの不気味少年事件、そばかすの少年が救急車にひかれた直後
[状態]: 健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、薬物庫の鍵、鉄球、薬品数種類
[思考・状況]
基本行動方針:主催たちが気に食わないからしかるべき罰を与えてやる
1.この男の力を利用する。そのために「ポルナレフの仇討ち」のために男に理性を貸す。
2.公一をさがす

106褐色の不気味男事件の巻  ◆3uyCK7Zh4M:2012/03/13(火) 23:56:05 ID:sL83uM2Q
以上で投下完了です。
仮投下で指摘していただいた点や、細かいところを少し修正してあります。

二人とも策士で魔術師で、でも正反対っておもしろいなーと思って書き始めましたが
心理戦はやはり難しい…精進いたします。
問題点誤字脱字、ありましたらお願いします。

107 ◆yxYaCUyrzc:2012/03/25(日) 17:56:05 ID:COCFfHv6
本スレへの投下、規制がかかっているのでこちらに投下します。お暇な方は転載をお願いします

108披露 その1 ◆yxYaCUyrzc:2012/03/25(日) 17:56:42 ID:COCFfHv6
二足の草鞋を履く、という言葉があるだろう?
“一人の人間が全く別方向の仕事をする”とか、そう言う意味だそうだ。

例えばそうだな……魔法が使える戦士とか。もう少し現実味のある話をするならいろんな出版社で全然ジャンルの違う作品を掲載している漫画家とか。
後は――全く別の方向かっていうとそうじゃないけど、任務を遂行しながら部下を守るなんて、ある意味そうじゃない?

で、ここから何が言いたいかなんだけど。
“二足の草鞋を履く”って、結構難しいことだと思う……少なくとも俺には出来ないね。
事実として今、俺の靴箱には二足の草鞋が入っている。けど、どっちかを履くとどっちかが履けない。だからまあ交互に履くんだけどね。

君らにはそう言う経験ないかい?……あーいや、仕事じゃなくて趣味とかでも良いよ。あっちをやったりこっちをやったり、って。
俺の話を聞きながら、少し思い浮かべてみてよ――

●●●

「オイッ!奴を叩くったって、一体どうするつもりだよ!?」
後部座席のユウヤが身を乗り出してくる、滝のように流れる汗を拭おうともせずに。
俺はそちらに一度視線を送り、すぐに顔を前に向けた。
「落ち着け、あまり騒いでると運転にも支障が出る。
 ……どうする、シュトロハイム。今の装備、状態でさっきのサンタナとやらを確実に殺せるか?
 この自動車はどのくらい走る?燃費はリッター400メートルくらいか?」
「バァカをぬかすなァッ!そんな高燃費の車がこの世のどこに存在すると言うのだアァーッ!
 それにこの大型車だ!そう細かい旋回など出来ん!大通りに出た上でエンジンブレーキをかけねばまともに止まれずドカンだぞォッ」
シュトロハイムには怒鳴り返されたが、状況の判断はこの中の誰よりも的確だろう。間違った事は何一つ言っていない。止まれなくとも加速しなければ問題ないという事か。
しかし、原理が分かろうと自動車に詳しくない俺はサポートに回るほかない。シュトロハイムの左手に握られていた地図を受け取り、現在地から大通りに出る方法を割り出す。
俺たちは今、エリアG−6かF−7あたりにいるのだろうか。速度は先程より緩やかになってきている。もっとも、まだ早々には止まれなさそうではあるが。

となれば次に考えなければならないのはサンタナへの攻撃だ。如何にしてあの生物を殺すべきかをこの場で考えておかねばならない。
俺は後部座席を振り返る。シュトロハイムは運転しながらでも話を聞いて答えを返してくるだろう。
「今の内に武器を出せるようにしておけ。さっき皆でやりとりした支給品だ……シュトロハイム、お前の物もここに出しておくぞ」
緩やかに左カーブを描くタンクローリーの遠心力に振り回されそうになりながら二人がデイパックを開く。もちろん俺もだ。

康一が力を込めてナイフを握る。ユウヤが機関銃を抱え込む。
それを見届けて俺はロープをパンと張り、シュトロハイムに割り当てた武器、チェーンソーとライフルを紙にしまったまま手の届く位置に置いた。

109披露 その2 ◆yxYaCUyrzc:2012/03/25(日) 17:57:09 ID:COCFfHv6
「よォし、用意は良いなお前らアァッ!大通りに出るぞッ!振り落とされるナアァァーーーッ!」
言うが早いか、もぎ取らんばかりの勢いでシュトロハイムがハンドルを切る。ぐん、という衝撃とタイヤが擦れる音が車内に響いた。
頭を振って視線を正面に戻すと数百メートル先にコロッセオが映っていた。流石にあそこに辿り着くまでにはこの車も止まる筈だ。
となればコロッセオ内でサンタナを迎え撃つのが最適か。シュトロハイムを見れば彼の表情にも笑みが見られる。おそらく俺と同じ発想なのだろう。
後部座席からもギリッと歯を食いしばるような音が聞こえてくる。覚悟は出来ているようだ。

よし――

「止 ま る な ッ !」

●●●

「止 ま る な ッ !」

そう言った僕の方を皆が一斉に振り向く。運転しているシュトロハイムさんまで。
「オイオイそりゃどういうこったよ康一ィ!?サンタナの野郎から逃げ切りたい気持ちはわかるが止まらない事にゃあどうしようもないぜ!」
「そうだぞ康一イィィッ!走るのはともかく理由を言えェい!」
「二人の言うとおりだ。コロッセオなら十分に体勢を立て直せる。それともシュトロハイムの言うとおり何か理由が?」
口々に詰め寄る皆に、ひと息ついて僕は答えた。

「今のカーブで姿勢を崩して初めて気がついたんですよ。
 ……僕の足が食われてる」
キョトンとする、という言葉がどういう状態を指すのか?ってのを僕はタンクローリーの中で見た。まさに今、こういう状況のことだろう。
僕を除く車内の全員が全く理解できていないようだから、もう一度僕から切りだした。
「さっきサンタナを轢いた時、奴の身体の一部がこの車にくっついたんでしょう。
 それが今僕の右足にあって、溶けると言うかえぐれると言うか、とにかく……だんだんなくなっていってるんですよ。足が」
「――おのれェサンタナの野郎やってくれやがったナァッ!それはミート・インベイド、憎き肉片だッ!!」
シュトロハイムさんは流石に詳しいのか、そのギャグみたいな技の名を言って、ダンとハンドルに拳を叩きつけた。

「……それが車を止めねぇこととどう関係があるってんだ?」
「そこだよ噴上君。このままだと僕のせいで四人とも全滅してしまう。
 ティムさん、さっき渡したロープを」
その一言だけでティムさんは全てを理解してくれたようだ。
「いいのか?確かに俺のスタンドならダメージを受けている部分だけを切り離すことが出来るが……」
「エッ!?ちょっ待てよ!康一お前自分の足ぶった切るつもりかよ!」
驚きを隠そうともせずに噴上君がつかみかかってくる。逆の立場だったら僕だってそうするだろう。
そう、そのつもりなんだよ。確かにいきなりそんなことを言えば驚くさ。でも――


「僕はこれでもスタンド使いで皆の仲間だ!足手まといにはならないぞッ!
 ああ、いいさ! いいとも、やってやるとも!
 アイツに勝つためなら足の二本や三本かんたんにくれてやるぞーーッ!!」

110披露 その3 ◆yxYaCUyrzc:2012/03/25(日) 17:57:38 ID:COCFfHv6
「……康一よ、お前の覚悟しかと受け取ったぞッ!
 ティム、ロープだ。我々が全滅しない内に早くッ」
シュトロハイムさんがそう言ってくれたのを合図に、ティムさんが僕にロープを差し出す。
それを左手で握りしめると、身体がぶつ切りになっていく。右足の付け根が身体から離れた。
僕は窓を開けてナイフを構える。車内に入りこむ強風に煽られる事もなく鮮やかなロープ捌きでティムさんが右足だけを外に出してくれた。

怖くないかと言われれば怖いと答えるだろう。
無人島で自分の足を食って生き延びたコックさんの漫画を見たけど、まさか自分が体験することになるなんて。
でも、僕も男だ。一度くらいは僕の覚悟ってやつを皆に披露してやりたい。

ブツッ、と小さい音を立ててロープが切れた。
痛みはない。自分の肉を直接切った訳じゃあないから当然かもしれない。
だけど……さようなら、僕の右足。

「チクショウ……康一おめぇカッコイイじゃあねーかよ!
 シュトロハイム!タンクローリーぶっ飛ばせよッ康一の見せてくれた覚悟を無駄にすんな!
 まずは康一の治療だ、いいかゼッテー止まるんじゃあねえぞ!」
「分かっておるわァーーー!サンタナを一度振り切り体勢を立て直すッ!」
噴上君が唾を飛ばしながらシュトロハイムさんに檄を飛ばす。シュトロハイムさんもやる気スイッチが完全にオンになっているみたいだ。

「そうじゃあねぇ!俺が仗助を探すッ!見つけるまでは何があっても止まるな!
 そいつに康一の足を治してもらってからでもサンタナ退治は遅くねぇ!」
言うが早いか噴上君はスタンドを足跡状にスライスして車の外に飛ばし始める。
「フフン、いずれにせよ我々がサンタナはじめ柱の男たちを駆逐せねばならんのは変わる事無き事実ッ!
 ――しかし車を止めないことには攻撃できず、車を動かさないことには治療できずかァッ!なかなかのブラックユーモアじゃあないかッ!
 だがここは治療を取るぞッ!万全の状態で彼奴を討たねば康一が披露した誇り高き精神に曇りが残るわアァァッ!!」

「……決まりだな。 康一君、君は自分の身を犠牲にして僕たちを助けてくれた英雄だ。
 そのジョースケ君とやらに足を治してもらったら、全員でサンタナを討とうじゃあないか」
ティムさんの言葉を待っていたかのように再びタンクローリーが加速を始めた。

僕には何もできないと思っていた。ヒーローなんかじゃあないと思っていた。なれる訳がないとも思っていた。
でも、なってしまったんだ、ヒーローに。
披露してしまったんだ、僕の覚悟を。ダイアーさんにも、ここにいる皆にも。だから、皆が僕のことを英雄だと呼ぶんだ……

皆が僕の行動を受けて次の方針を立ててくれている。
涙が止まらない。痛みとか恐怖のせいじゃあない。嬉しくて嬉しくて、ぼろぼろと大粒の涙が流れてきた。
ヒーロってものは、一人で孤高に戦う戦士のイメージだ。それなのに皆に助けられて泣きべそをかいている。
そんなふうに思ったら、ちょっとだけ笑えてきた。

●●●

111披露 その4 ◆yxYaCUyrzc:2012/03/25(日) 17:57:56 ID:COCFfHv6
うーん、ちょっと歯切れが悪いけどこの辺で止めよう。さっきの草鞋の話がどうも頭から抜けなくてね……。
タンクローリーを止めてサンタナを倒す、タンクローリーを止めないで仗助を探すっていう全く逆でいて同じ草鞋を履いた皆の状態をちょっとまとめてみるよ。
運転もする、柱の男を殺すというルドル・フォン・シュトロハイム。
仲間を探す、主催も倒すというマウンテン・ティム。
仗助を探す、サンタナを倒すという噴上裕也。
そして――覚悟を見せながら、足の治療に期待をかけながら、ヒーローでもある広瀬康一。
どのメンツも……まあ全くの別方向ではないにせよ、一気に複数の物事を消化しようとしている。
これって案外、いやかなりすごいことだと思う。

で、最初に言ったけど俺には二足の草鞋は同時に履けない。
ティムは康一を“覚悟を見せ、仲間を守った”ヒーローだって言ってたけど、俺からしてみたら二足の草鞋を履けるだけでも十分に超人、ヒーローなのさ。
君たちはどうだい?あっちの絵を描きながらこっちで音楽を奏で、そっちでは小説も書くなんて出来る?

その話、聞いてみたいな。たまには俺からじゃなくて君たちからも何か話をしてくれよ――

112披露 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2012/03/25(日) 17:58:22 ID:COCFfHv6
【F−7 コロッセオ南の路上/一日目 黎明】

【暴走列車の乗客たち】

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → ???
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小・応急処置済)、錠前による精神ダメージ(小)、右足切断(膝上から。痛み・出血なし)、若干興奮状態
[装備]:琢馬の投げナイフセット
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0:右足の治療のために仗助を探す(探してもらう)
1:サンタナを倒す
2:やってやるぞ!見せてやるぞ!僕の覚悟!
3:なってしまった、ヒーローに……

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康。タンクローリー運転中。
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0、ローパーのチェーンソー、ドルドのライフル(残弾数は以降の書き手さんにお任せします)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
0:タンクローリーを走らせ続ける
1:サンタナを殺す
2:康一の誇り高い覚悟!俺は敬意を表する!
3:各施設を回り、協力者を集める(東方仗助が最優先)

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:健康
[装備]:ポコロコの投げ縄(数十センチ切断。残り長さ約二十メートル程度)
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0:サンタナを倒す
1:まずは東方仗助の捜索
2:方針1とほぼ同時に各施設を回り、協力者を集める

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:健康、スタンドを行使中(仗助捜索のため)
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数は以降の書き手さんにお任せします)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0:仗助(のにおい)を探して協力を仰ぐ
1:各施設を回り、協力者を集める
2:サンタナを倒す
3:康一のカッコよさにシビれる!憧れる!……?

【備考】
タンクローリーの移動経路:F−5→G−6→G−7→F−7と大通り(地図に表記されている道)を通り、現在は正面にコロッセオを見る形で走っています。
今後のルートは次回以降の書き手さんにお任せします。
また、故障個所はブレーキだけのようで、アクセルを離していれば自然と止まること自体は出来るようです。

113披露 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2012/03/25(日) 17:58:38 ID:COCFfHv6
【支給品情報】
※4人ともランダム支給品は2つずつ配られ(=全8種)全て確認済です。
※内、この作品で登場したのは5種。残りの3種は状態表の通り所有していますが、支給された人と所有している人が違う(渡す等のやり取りがあった)可能性もあります。

●チェーンソー
噴上に支給、現在はシュトロハイムが所持。
ゴージャス・アイリンにて大女ローパーが使用していた排気量400cc、重量80kgの巨大チェーンソー。ガイドバー(チェーンが巻いてある鉄板)に凝ったデザインが施してある。
余談:この道具、イメージとして『13日の金曜日』のジェイソンが浮かびやすいが彼がチェーンソーを使ったシーンはないらしい

●トンプソン機関銃
シュトロハイムに支給され現在は噴上が装備。
ジョジョ2部でジョセフがストレイツォに向けてぶっ放したもの。アサルトライフルというよりはサブマシンガンに分類される銃なのでジョセフにとっては少し小ぶりかもしれない。
余談:特徴的なドラムマガジンだが、あれを取り付けられる機種は製造中期の物で、おそらく『M1928』または『M1928A1』というモデルだと思われる

●ポコロコの投げ縄
康一に支給、現在はティムが装備。
SBRの1stステージでサンドマンに「持ってるロープを使え、操れるのならな」と言われたロープ。これでポコロコは崖を超えられた。
余談:レース開始時にグリッド内にいなかったポコロコのフライングの話はたびたび議論に上がるが、それを指摘されなかったのが彼の一番の幸運なのかもしれない

●琢馬の投げナイフセット
ティムに支給、現在康一が装備。
いわゆるスローイングナイフ。銀の物が2本に、カーボン製の黒い物が1本ある。今回のSSでは康一がこれで右足(のロープ)を切った。
余談:勘違いされがちであるが「ナイフは刃を持って投げる」だけでなく「まっすぐ飛んでいく」のも若干違う。至近距離ならまだしもある程度離れているなら回転させて投げるべきである。

●ドルドのライフル
シュトロハイムに支給され、そのままシュトロハイムが所持している。
ドルドがバオーを狙撃する際に腕に取り付けて使用した銃。スコープが目元まで伸びて距離や風向き、温度まで分かるようだ(ドルドゆえの能力かは不明)。シュトロハイムとの互換性も分からない。
余談:手榴弾もそうだが、炸裂弾は爆発の威力よりもそれではじけ飛ぶモノ(銃弾の破片や中に仕込む散弾)で攻撃する方が効率的らしい。ドルドさん……

114披露 ◆yxYaCUyrzc:2012/03/25(日) 18:00:24 ID:COCFfHv6
以上で本投下終了です。
仮投下からの変更点は以下の通り
投下レスの分割箇所を変更
フンガミの字を「噴上(口へんの噴)」に統一。多分こっちであっているはず……
分割箇所の***を●●●に変更

さて、二足の草鞋、皆さんは履けますか?俺はジョジョロワという草鞋を履いたらもう他ロワなんて手を出せませんw

それから、康一君の登場するSSでの「HERO」タイトルという暗黙の了解(?)ですが。
『英雄』だと思ったか!違うよ!w
『ヒーロー』ト『披露』ガ カケテアリマスネ ダカラ『ドーダコーダ』言ウワケデハ ナインデスガネ
という事でこうなりましたwww『疲労』でも良かったんですがねw

あとは支給品。
全ての支給品がほぼアタリっていうグループが1チームくらいあってもいいんじゃない?という事でここにしました。
執筆当初はポコロコの投げ縄が西戸のチェーンだったり、ライフルがレッキングボールだったりもしましたが。まあまだ未開封の物もあると言う事で。

何だか勢いで書いてしまった今回のSS。草鞋の話、覚悟を披露する話、ヒーロー康一の話を上手く結びつけられた自信は正直言ってありませんorz
本編中だとシュトロハイムの「ブラックユーモア」のセリフがかろうじて、かなぁ。
展開は進んでいるのにリレーがされていないパートという事でここを執筆しましたが、他にもっといい作品を検討している方がいるようでしたらこれは没にしようかな、というくらいに自信がないw

誤字脱字、矛盾点等々ありましたらご指摘ください。それでは。

***

以上、どなたか転載をお願いいたします。。。

115 ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 17:53:25 ID:GQyq.9Vs
案の定というべきか、ひさしぶりでも規制さんが本気を出してきました。
サンタナ、シュトロハイム、東方仗助、広瀬康一、噴上裕也、マウンテン・ティム 投下します。
少し長めですが、代理の方、よろしくお願いします。

116英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 17:54:14 ID:GQyq.9Vs
轟轟と音を立てて燃え盛る炎。火、火、火……辺り一面、火の海だ。
立ち上る熱気、滾る興奮に汗が止まらない。重く湿った学生服で額をこすりあげると血に染まった袖がどす黒く変色した。
それを見た噴上裕也は、自然と口角が吊り上るのを抑えきれなかった。
血だ。しかし、本来ならば反応を示すべきそれですら、今の彼にとってはどうでもいいもの。

ただ、ただ、おかしかった。目の前の光景、事象。すべてが滑稽だった。

「おい、なんなんだよ、これ……」

呆然とした声が聞こえ、彼は視線を上げる。燃え盛る光源がスポットライトのように辺りを照らし、声の主を赤く染め上げていた。
揺らめく熱気、陽炎のように点滅する光景を前に、東方仗助は思わず声を漏らしてしまった。
そんな仗助を見て、噴上は笑った。ずっと抑え込んでいた感情が爆発し、彼は腹を抱えて、笑った。

「なんなんだって? これが一体なんなのかわからないっていうのかよ、仗助よォ?」

大げさで仰々しいとわかっていながらも噴上はあえて舞台の一コマかのように、手を広げ、声を張り上げる。
二人の視線が交錯する。噴上は皮肉気に、自嘲を込めて彼に宣言する。
その瞬間、炎は勢いを増し、二人を呑み込むように天高く、舞い上がった。


「英雄ごっこはお終いだ、ってことさ」


ハッピーエンドじゃ終われない。
全ての物語が笑顔で終演を迎えられるとは限らない。


空は漆黒の闇から、ほの暗い暁の紺へと色を変えていた。
二人の頭上、遥か天高くより、いくつもの星が堕ちていく。
炎に飲み込まれたかのように一瞬だけきらめいた星々は、やがて見えなくなった。







117英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 17:55:07 ID:GQyq.9Vs






―――物語を少々遡って……


「しつこい男は嫌われる、というのがおれの持論なんだが、ユウヤ、君はどう思う?」
「時代は変わっても、そこら辺はあんまり変わってねェーぜ、ティム。
 おれも賛成だ、特にこっちの都合も考えずに追っかけまわすような男は風上にも置いとけねーなァ!」
「何のんびり話してるんですか、追いつかれそうなんですよッ!?」
「ドイツの運転技術は世界一ィイイーーーッ! 見よ、この華麗なドリフトをォオオーーー!」

爆音を鳴らし進むタンクローリー、車内に響く悲鳴にも近い少年の叫び声。
耳を塞ぎたくなるような轟音と混乱を前に、おもわずしかめ面になったマウンテン・ティム。知らず知らずのうちに、溜息を零してしまう。
この窮地を切り抜けた暁には煙草の一本でも吹かしたいもんだ、呑気にそんなことを考えながらも、ティムは現状を分析する。
バックライトに時折映る筋骨隆々の影は、先ほどより色濃くなり始めた。忍び寄る死神は疲れを知らず、それどころか、後一歩のところで彼らに追い付こうとしている。
つまりは、とそっと息を吐き出すと彼はこう結論付けた。
このままだと追いつかれる。ただこのまま何もせず、タンクローリーをむやみに走らせていたならば。

「ティムさん!?」

マウンテン・ティムが助手席の扉をあけ、車内に暴風がなだれ込んできた。
吹き飛びそうになるカウボーイハットを抑え、名前を呼ばれた彼は振り返る。その表情は緊張でこわばるでもなく、戦いを前に高揚しているわけでもなかった。
康一が目にしたのはどこまでもクールで、冷静な仕事人。パトロールに出かける前、同僚に呼び止められただけかのような、穏やかな表情を浮かべていた男がそこにはいた。

声をかけたはいいものの、何を言えばいいのかわからない。
言葉を失った康一からゆっくりと視線を外し、マウンテン・ティムはもう一人の少年に尋ねた。

「ユウヤ、ジョウスケ君は見つかったか?」

保安官の鋭い視線を受け止め、噴上は下唇をかみしめる。

「……いや、まだだ」
「そうか」

返しの言葉とともに席から立ち上がる。後部座席に座っていた少年二人は思わず腰を浮かした。
マウンテン・ティムには覚悟があった。自分の命を天秤にかけ、リスクを取る覚悟が。
マウンテン・ティムには誇りがあった。どんな状況であろうと、市民の平和のためならば戦いぬいてやろう。そんな保安官としての誇りが。
だが、たとえそうであろうと! 例え少年たちがそんなことは百も承知だとしても!
理性的判断と『納得』は別物だ。少年たちは『納得』できない。ティムを一人、戦いの場に送り出すなんて、承知できるわけがない。

口々に彼らは言う。一人で行かせるわけにはいかない、自分もついていく、このまま車内で待ちぼうけなんぞ臆病者のやることだ。
もう少し待つことはできないのか。すぐにでも助っ人を探し出して見せる。今の状況ならば、それこそ準備を整え四人で立ち向かったほうが、はるかに勝算が高いはずだ。
少年たちの抗議の声は反響し、増幅され、あたかも何千人もが抗議しているのかのようで。いきり立つ二人を前に、保安官は困ったように笑うのみ。
そんな時だった。

118英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 17:57:06 ID:GQyq.9Vs


「黙れェエエエエエいッッ!」

言葉とともにハンドルに振り下ろされた拳が轟音を立てた。シュトロハイムの大声に車内はようやく静寂を取り戻した。

「餓鬼どもがキャンキャンキャンキャン、喚くでないッ 貴様ら、闘うということを舐めているのか? エエ?
 お前たち二人合わさっても助けになるどころか、足を引っ張るだけだ―――ッ!
それともなんだ、貴様らティムを殺したいのか? ティムにわざわざ“守ってもらう”ためだけに、サンタナの前に立とうというのか?!」
「だったら、なんだっていうんだ、ここで大人しく蹲って、頭でも抱えとけっていうのかよ!?」
「ああ、そうだ! 今の貴様らなんぞ、犬の糞以下の価値もないわッ
 戦場を舐めるなよ、小僧ッ 貴様には貴様のなすべきことを果たせばいいのだ。
 それにな、まさかこの“鬼畜アメ公”が勝算もない戦いに挑むとでもお前たちは思っているのか?」

ティムは思わず声を立てて、笑ってしまった。言い放ったシュトロハイムも思わずニヤリと笑みを浮かべる。うろたえる少年たち二人とは対照的に、二人の男たちは何が面白いのか、しばらくの間笑い転げていた。
笑いが収まった二人、途端に真面目なものに表情を戻すと見つめ合う。無言の会話を通し、いくつもの感情と言葉が交わされていく。
任されたものと、任すもの。帰ってくるべきものと、帰るべき場所を守るもの。自然と二人がとったのは敬礼のポーズだった。沈黙の中で流れる男たちの歌がそこにはあった。
くるりと身体の向きを変え、ティムは少年たちに向き合う。シュトロハイムは何事もなかったかのように、運転に戻った。

「ユウヤ、ジョウスケ君を一刻も早く探してくれ。奴を相手に時間を稼ぐのはなかなか骨が折れそうだからな」
「…………」
「康一君、君は本当に頼もしいやつだよ」
「ティムさん……ッ」

短い会話を終え、男は武器となる支給品を彼らから預かる。ありったけの武器を抱え、もう一度だけ彼は車内の男たちを眺める。
シュトロハイムは運転に集中し、引き締まった表情で前を見つめている。窓の外を眺めている噴上の拳は、悔しさで震えていた。下唇を噛みしめ、くしゃくしゃに表情を崩しながら康一はティムをじっと見つめている。

なんて素敵な男たちだろう、なんて気持ちのいい奴らなんだろう。ティムはそう思う。
この短い時間で彼らは何度も素晴らしい勇気を見せてくれた。こんな難しい状況で、見知らぬ他人同然の自分を信頼してくれた。
ティムは嬉しかった。少年たちが、大声で自分も連れてってくれ、と叫んだとき、自分の中に温かい何かが流れ込んできたかのように感じた。
それは勇気というものだろう。ティムのどたまから、足の底まで貫く、大事な、大事な何かを揺さぶる感情。
それを今、ティムは三人の男たちから分け与えてもらったのだ。それは彼にとってどんな武器より強力なものだった。

素晴らしい少年たちだ、素晴らしい男たちだ。彼は思う。
そして、そんな少年たちを、男たちを守りたいと願ったからこそ、自分は保安官になったのだ。
これ以上の名誉はない、保安官冥利というのであればまさに今、この瞬間がそうだ。
自分はこれから戦いに行く。死ぬかもしれない。無事では帰ってこられないかもしれない。
正直に言えば、ブルってしまっている。身体は汗ばんでいるし、手の震えも止まらない。吐き気もすれば、顔もきっと青ざめていることだろう。

だが、しかし! 仮にそうであったとしても!
自分の正しいと思う正義のためならば! 自分が信ずる信念に殉ずる事が出来るのであれば!
マウンテン・ティム、この選択に一切の後悔はない。
人間賛歌は勇気の詩。いつの間にか震えは収まっていた。

戦いの前の表情を崩すと、最後にティムは柔らかな笑顔で男たちに別れを告げる。
ロープを巧みに操り助手席から飛び立った彼の姿は、すぐさま闇へと消えていった。
後に残されたのは、開かれた扉と誰もいない助手席。荒れ狂う風がシートを一舐めし、通り抜けていったのを二人の少年は、呆然と見るのみ―――。







119英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 17:58:10 ID:GQyq.9Vs






「さて、さて……」

タンクローリーの上に立ち、凄まじい風を全身に浴びながら男は独り呟く。
永い間愛用している帽子を押さえつけ、車の最後尾までやってきたマウンテン・ティム。そんな彼を待っていたかのように、二本の腕が闇より這い出てきた。
筋骨隆々、美しさすら感じさせる腕は車体の最後尾を捕え、巨体とも言える身体を軽々持ち上げる。
サンタナ、柱の男がゆっくりとその姿を露わにした。辺りを伺うような目つきで、鋭く睨みつけ、そして目の前の男へと目を向ける。
タンクローリーの上、幅わずか数メートルの空間で二人は対峙する。暴風吹き荒れる中睨み合う二人、その様はまさに決闘前のガンマンかのようで。

先に動いたのはティムだった。噴上よりあずかったトンプソン機関銃で、サンタナの頭を吹き飛ばす。
タンクローリーの上という場所もあり、ティムはむやみに弾をまきちらすこともできず、弾幕は数秒で終わりを告げる。
それでも、圧倒的な殺傷力。人一人には有り余る、充分すぎるほどの凶弾を、驚くことにサンタナは真正面から受け止めた。
いなすでもなく、かわすでもなく、ただそこに立ちつくす。ティムの射撃は狙いを的確に射抜き、サンタナの顔面をハチの巣のように穴だらけにした。
だが―――

次の瞬間、ティムは後ずさりそうになるのを、必死でこらえた。
世にもおぞましい光景。ぐしゃぐしゃになった顔が時間とともに、ゆっくり元に戻る。吹き飛ばされたはずの頭を乗せた身体は、何事もなかったかのように動いている。
顔をそむけたくなるような、グロテスクな状況だ。化け物具合はシュトロハイムから聞いていたが、流石に目の当たりにすると『くる』ものがある。
もはや恐怖を通り越し、笑いすら込み上げてくる。そして思う。
こんな化け物相手に、俺はいつまで時間を稼ぐことができるのだろうか。果たして本当にこんなやつを殺す事なぞ可能なのだろうか。

「ッ!」

じっくりと恐怖すら感じさせてくれない。サンタナが振り上げた指より、お返しとばかりに、いくつもの銃弾がティム目掛けて襲いかかる。
殺気を感じ取り、あらかじめスタンドを発動していたのが幸いした。鉛玉はバラバラになった身体をすり抜け、闇へと消えていくのみ。しかしティムは同時に予想以上に自分が追い込まれている事を実感した。
必要以上の銃弾は使えない。サンタナはタンクローリーを爆破したところで重傷は負うだろうが、死にはしない。しかし自分たちは違う。サンタナが放った弾丸がタンクローリーを爆破しようものなら、その時点でお終いだ。
銃弾をヤツに与えるのは危険。となるとあずかった重火器類はむやみやたらに使えない。
ならば近接戦を挑むのはどうか。これも愚策だ。チェーンソーだろうと、ナイフであろうと、柱の男たちのゴムのような身体を貫くには相当の腕力が必須となる。
波紋も使えない以上、ティムは自分の体をガードすることもできない。ならば、どうやって戦う? 一体どうやって、この化け物に立ちむかえばいいのだ?

『オー! ロンサム・ミ―』 を発動し、突進してきたサンタナをかわす。そのまま位置を入れ替えるようにヒラリとタンクローリーに着地。
ティムは頭をフル回転させる。何度も襲いかかる死神の鎌を紙一重で避けながら、考えるのをやめない。
人体の構造を無視した角度からの蹴り、顎の先をかすめ、肉を抉る。死角からの骨の追撃。ロープで身体をバラし、貫かんとばかりに迫った刃をかわす。

サンタナ自身もどうやら慎重になっているようだ。それもそうかもしれない、ヤツにとってもスタンドと言う概念は未知なる力。
ティムの柔よく剛を制すの戦法を前に、焦れるような時間が続く。それでも粘り強く、的確に急所を狙ってくる。そして、じっくりと観察を続ける。
未知なる力、ロープ上で身体を分解するという奇術。この男の能力は何なのか、何が可能なのか。一体どこまで、何ができるのか。

120英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 17:59:30 ID:GQyq.9Vs

数回の交戦が終わった。流れ落ちる汗と血をぬぐいながらティムは厄介な相手だ、と一人毒づく。
一息ついたこの時でさえ、数メートル離れた位置からサンタナは、じっとこちらを見つめている。
一挙一足見逃すまいと、ぎらつかせた目で、どんな時でも気を抜かない。隙があればすかさず襲いかかって来るだろう。不用意にスタンドを発動しようものなら、すぐさま能力を把握するだろう。
カウボーイとして牛や馬を相手するのとはわけが違う。今まで相手してきたどんな生物より、サンタナは骨の折れる相手だ。
息もつかせぬ攻防が、また繰り返される。瞬きすら許されぬサンタナの突進、攻撃。
微かな牽制の意味を込め、ティムは銃弾を放ち、ナイフとチェーンソーを振りかざす。必要最低限の攻撃、意識のほとんどは防御と回避に集中だ。それでようやく釣り合いが取れるレベルとなる。

どれほど経ったのだろう。僅かな時間しか経ってないように思える。数時間もの間、戦い続けているようにも感じる。
ふとすれば切れてしまいそうなる集中力をもう一度かき集め、ティムはサンタナと戦い続けていた。

「ッ!」

だが足場が不安定な場で戦っている以上、遅かれ早かれ起こるべき事がここ一番で起きてしまった。
車体の上、攻撃をかわす際に着地でバランスを崩したティム。身体が傾き、時速数十キロの地獄が牙をむく。地面に叩きつけられるようなことがあれば一巻の終わりだ。
そしてそんな隙を見逃す相手でもない。迫りくるサンタナ、タンクローリーの表面をへこまんばかりの力強さでジャンプ一番! ティムの頭上より、飛びかかる!
下へ逃げるもできず、上へ逃げるもできず! 決断を迫られるティム! 逃げるべきはどちらだ? 上か、下か?

「やれやれだ……」

いいや、この男は逃げることなんぞ選びやしない。端から逃げるなんて考えてもいない。
保安官マウンテン・ティムは戦うためにこの場にいるのだ。仲間を守るため、彼はタンクローリーの上で化け物を相手しているのだ!
ロープを巧みに操り、彼はサンタナへ叩きつけるように縄を放った。重力の加速を味方に、凄まじい勢いで迫る柱の男。そんな状況でも彼は、クールに笑顔を浮かべていた。

『オー! ロンサム・ミ―』で宙に浮かび、地へと叩きつけられることを回避したティム。空中でサンタナと激突する。
振るわれた腕がティムの顔を喰らいつくさんと迫る。紙一重で回避するも、脇腹を抉り飛ばされた。飽き足らんとばかりに、腿の大部分も同時に奪われる。
車体に同時に降り立った二人。しかし、ダメージの大きさからか、ティムはまたしても体勢を崩した。最後尾に着地したサンタナは畳みかけるように、駆けてくる。
今度こそおしまいか。知覚すら容易でない素早さで、サンタナが迫りくる。なんとか危機を回避した保安官、それでも粘りは、ここまでか……!?
サンタナの腕が矢を放つ弓かのように、大きくしなる。拳より、全身を喰らわんと突きが放たれる!

121英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:00:21 ID:GQyq.9Vs



『……? ……?』


……と、思われた。確かに柱の男は拳を放ったはずだった。
故に混乱は収まらない。まるで手品、まるで奇術。表情を持たないと思われたサンタナの顔は、確かに驚きの色に染まっていた。
腕が、なかった。寸秒前、マウンテン・ティムの脇腹と腿を喰らい、そして今度は彼そのものを飲み込むはずだった右腕。それが肩の先から削り取られたように、消えてしまっているのだ!

「もしかして、探し物はこれかな?」

かけられた言葉に、顔をあげる。カウボーイハットをかぶり直し、不敵な笑みを浮かべる男がいる。そして、その男の足元にあるものこそ、柱の男が本来持つべきもの。
マウンテン・ティムの足元に転がっているもの、それはサンタナの腕だった。右肩からごっそりと、綺麗な精肉用品かのように、見事なまでに切り取られたものがそこにあった。

そう、全てはマウンテン・ティムの思惑通り。足場が不安定な場でバランスを崩したのもわざと、それに乗じてサンタナが攻めてくるのも彼の計算の内。
ダメージを負う覚悟で彼は攻めに打って出たのだ。宙で交わった僅かな瞬間、針に糸を通すかのような、ほんの少しの時間に彼はスタンド能力を発動。
脇腹と腿を代償に、彼はサンタナの腕をロープ上で分解。そして、先ほど康一がやったのと同じように、その部位のみをナイフで切ったのだ。

完全にスタンド能力を把握しているわけではない。しかし、本能的とでも言うべきか、直感的とでも言うのだろうか。
サンタナはすぐさまティムに向かい、真正面から飛びかかった。自らの腕を取り戻さんと、これまで以上の速さで、ティムへと突進。
タンクローリーの上で交錯する二人。すれ違い、数メートル進んだ先で、微動だにしない二人。次の瞬間、今度はサンタナの左腕が切り飛ばされていた。

「たいした暴れ馬だ。だが…………」

表面上は変わりないように見える。しかし、サンタナがもしも人間であったならば。もっと表情豊かな生物であったならば。
きっとその顔は青ざめ、冷や汗をかいていたことだろう。だるま状態一歩手前の自らの危機的状態に、さぞかし狼狽したことだろう。
立場は完全に逆転していた。ティムは深呼吸をひとつし、長い、長い息を吐いた。足元に転がる二つの腕を何の感情のこもらない瞳で見つめる。

「裏を返せば、君は“馬”程度、ってわけだ」

革靴のつま先で、地べたに向けて蹴落とす。時速数十キロの速さにさらわれ、すぐさま二本の腕が見えなくなる。
ティムはもう一度帽子をかぶり直し、脅し文句と言わんばかりに、マシンガンを握りなおす。
サンタナはまるで狼かのように、鋭い歯をむき出しにし、彼を睨みつけていた。

「このまま細切れにさせてもらおう……!」

ティムの声は、もう震えていない。身体も手もしっかりと動き、その顔は戦う男のものとなっている。
戦況は人間有利。化け物は化け物でも、殺し方がわかったならばそれは希望となり、勇気となる。
闇を振るわせるような咆哮が響く。屈辱に燃えた獣が保安官へと、襲いかかった。



―――――第二ラウンド、開始。







122英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:01:07 ID:GQyq.9Vs






 『 ア マ っ た れ て ん じ ゃ ね ぇ ッ ! !』

ついさっき、自分が言い放った言葉が頭の中で鳴り響く。
まるで拡声器を使ったかのように増幅され、地の底まで響くかのように反響していく言葉。
何度も、何度も、繰り返される。叱咤激励するため咄嗟に言ったとはいえ、今の状況を考えればあまりに皮肉すぎる一言だ。
自重の笑み一つ浮かばせる余裕もなく、東方仗助は深くうなだれる。その間も、自分が言い放った一言が呪いのように重く、深く、彼の背中にのしかかっていた。

 『俺のダチに、何でも削り取っちまうスタンド使いがいる』

そのダチは、今まさに目の前にいる。道のど真ん中に転がっていた彼を、仗助はここまで担いできたのだ。
こんなところに寝かしていたら可哀想だ、起きるもんも起きなくなっちまう。せめて死に場所ぐらいは綺麗なところで。こうやって安静にしておいてやればすぐにでも目を覚ますだろう。
二つの感情が入り混じる。目をそむけたくなるような現実と心の底から信じたくなるような理想。揺れ動く感情は行き先をなくし、仗助は苦悶の声を漏らす。
助けを求めるように、手を伸ばした先にあったのは手(ハンド)。
血に塗れた億泰の大きな手をもう一度握りしめる仗助。温もりを感じさせない、冷え切った掌を額に押し当て、もう一度彼は念じた。

 『俺なんかいちいちスタンドの名前を叫ばなくても、ちょっと心で思えばそれだけで能力は発動する。スイッチなんかいらねぇし』

だが、いくら強く念じようとも。どれだけ心で強く思えど。
億泰が目を覚ますことはなかった。安らかな笑みを浮かべたまま、彼はまるで夢を見ているかのように眠り続けている。
二度と覚めることのない、深い、深い眠りの中で、夢を見ているかのように。

「……クレイジー・ダイヤモンド」

何も、変わらない。億泰は、眠り続ける。

ああ、もしもこれが夢であるならば。そう仗助は思う。
億泰の安らかな顔を見ながら彼は思う。俺もこんな呑気な顔して夢を見ているのであれば、どれだけ幸せだろうか。
お袋に叩き起こされ、遅刻間近の時刻に大慌てで家を飛び出す。いつもの通学路、いつもの級友たちに囲まれ、退屈な学校生活が始まる。
そんなささやかだが、愛すべき日常が始まったらどれだけ幸せだろうか。

その一方でこうも思う。きっと満足して億泰のやつは逝ったんだろう。
最後の最後に、こいつは悔いなく逝けた。この混じりけのない表情は、億泰が何かを成し遂げたからこそ、刻まれているのだ。
そう思うと少しだけ救われる気がする。せめて満足げに彼はこの世を去れた。慰めにはなるだろう。

信じたい、信じたくない。二つの矛盾した想いは、仗助の中を駆け巡り、心の中を滅茶苦茶に噛み砕く。
何を信じたいのだろうか。億泰が生きているということか。自分のスタンド能力か。吉良との戦いで見せた、奇跡の復活を信じているのか。
何を信じたくないのか。億泰の死か。先ほど言い放った自らの言葉か。未だ能力は発動していない、そんな僅かな希望を信じたくないのか。

行き先をなくした感情が暴走し、彼を苦しめる。仗助は祈るように億泰の手を握り締める。
神に祈るかのごとく、彼の手を両手で包み、膝をつき、目を瞑る。
込み上げる熱い感情が目頭を熱くする。喉が焼けるように熱くなり、呻き声が噛みしめた歯の隙間から漏れ始める。
それでも、それでも仗助は信じたい。今だけは、自分の感情が赴くままに。今しばらくは絶望の希望に浸っていたい。

123英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:02:10 ID:GQyq.9Vs


『仗助!』
「…………………………噴、上か?」

立ち向かうべき現実はどこまでも厳しく、仗助の前に立ちふさがる。ああ、なんという無情か。心の整理をする時間すら与えてくれない。
部屋に響いた聞き覚えのある声に、仗助はゆっくりと、機械的に顔をあげる。未だ手は離さず、億泰のものをしっかりと握りしめながら、彼は部屋を見回した。
『ハイウェイ・スター』、街のスタンド使いの一人、噴上裕也のスタンドがそこにはいた。

『ああ、見つかってよかった、クソッたれ! いいか、よく聞いてくれ、とにかく時間がねェ!
 俺たちは今、タンクローリーに乗って……』

わからない。言葉は耳を確かに通り抜け、鼓膜を振るわしている。
しかしながら今の仗助には、その言葉が心を振るわせてくれない。考えることを心が、魂が受け付けてくれないのだ。
突如言葉を切り、動きを止めたスタンドを目にしても、これといって動くわけでもない。
ただぼんやりと待つのみ。彼自身から状況を把握しようという意志は一切起きなかった。

『クソが!』

突如現れたのと同じように、消えるのも唐突であった。
本体のほうに緊急事態が起きたのだろう、ハイウェイ・スターは瞬く間に身体を細切れにすると、開け放たれた窓から飛び出ていった。
それを眺める仗助の眼は、まるで曇りガラスかのように無気力で、くすんでいる。
スタンドを眼で追って初めて窓の外の変化に気づいた彼。段々と明るくなり始めた空。夜明けが近づいている。それはつまり放送が近いことを意味していた。

「放、送…………」

次の瞬間、そう遠くない位置から聞こえてきたのは車両音。タイヤが地を滑り、道路を進んでいく音。音の低さと大きさから、大型の車両であろうと仗助は推測した。
だが、それがどうしたというのだ。そう囁く声がする。今大事なのは億泰を守ってやることだ。
こんなところで一人ほったらかしにしてみろ。誰に襲われるかわかったもんじゃねェー。間抜け面して眠りこけやがって、とんだ迷惑掛けやがるぜ。
俺はここにいないとだめだ。億泰をここに一人置いて行くなんて、そんなことできやしない。
そうだ、俺たちは最強のコンビだったじゃねーか。一番のダチ公だったじゃねーか。サイモン&ガーファンクル、うっちゃんに対するなっちゃん。
俺と億泰も一緒だ。そう、俺たちはいつも一緒、俺たちは……


「どうしろっていうんだよ……」


仗助の頬を、いくつも雫が伝っていく。開け放たれた窓から風が吹き込み、水滴を運んでいく。
誤魔化しは限界だった。わかっている。仗助には痛いほどわかっているのだ。死んだものを生き返らせることは自分にはできない。
どんなスタンドだろうと、どんな能力を使っても。生命が終わったものは、もう戻らない。


「億泰、俺は……」


だが、たとえそうであろうとも。例え少年にとって、そんなことは百も承知だとしても。
理性的判断と『納得』は別物だ。少年の脚は動かない。微動だにせず、彼は親友の手を握り続ける。
とめどなく流れる涙は涸れることを知らない。呻き声とともに閉じられた瞳、仗助の頬から流れ落ちた水滴が億泰の頬をぬらしていく。
その様は、まるで彼の親友も涙を流しているかのようで。

124英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:03:21 ID:GQyq.9Vs






BANG! BANG! BANG!
三発の銃弾を曲芸のようにかわしたサンタナだったが、両手を失った影響か、着地の際に体はよろめき、バランスを失う。
すかさずマウンテン・ティムは距離を詰める。至近距離から首輪を狙おうと銃を構えるが、数歩進んだところで飛びのいた。
サンタナの右蹴りがティムを蹴り殺さんと横薙ぎで迫っていたのだ。大きく後ろに飛ぶと、再びサンタナの脚の届かない安全圏へと退避する。
互いに間合いを取った状況、息をつける僅かなこの瞬間。保安官はカサカサに乾いた唇を一舐めした。

戦いは均衡していた。戦況はどちらに大きく傾くでもなく、主導権をどちらが握るでもなく。
両手を失ってもサンタナは圧倒的であった。今まで以上に荒々しく、そして獰猛にティムの命を狙い、駆けまわる。
リーチを失ったのを運動量で補わんと、狭いスペースを存分に使い、ティムをあらゆる角度から攻めたてる。
ティムもただ攻撃を受け止め続けていたわけではない。柱の男より腕を奪ったロープ&ナイフ戦法、そして首輪を狙った射撃。
二つの戦術を軸に、彼は粘り強くサンタナの隙を伺っていた。カウンター一番、後ほんの少しというところまで何度も迫ったが、その後少しが遠い。

時間だけが淡々と過ぎていった。ティムがそれを実感したのは、微かに明るくなり始めた空と、見慣れない街並みに車両がさしかかったことからだ。
それは落胆すべきことではない。時間稼ぎが彼の仕事であるならば、充分以上の働きをティムはしている。
むしろ追い込まれ始めているのはサンタナのほう。時期に夜が明ければ彼らの天敵、太陽が顔を出す。
サンタナから逃げ切ることができた。そうなってしまえば、この勝負、人間たちの勝利だ。

「俺はお前に近づかない」

投げ縄の要領で、ロープを回転させるティム。ヒュンヒュンヒュン……と鳴く風切り音が耳に心地よい。
車両が起こす風を切り裂かんとばかりに、サンタナ目掛けて放たれた縄。怪物は身体を捻り、関節を外し、これを避ける。
そして人間には不可能な体勢から、あり得ないほどの跳躍力で宙より迫らんとする。
マウンテン・ティム、前転で相手の下に潜り込む。同時に首輪目掛け、天へと銃弾を放つ。狙いをろくすっぽ確認せずに放ったが牽制には充分だったようだ。
サンタナ、着地と同時に反転、ティムに接近する。引き戻したロープを構え、保安官の左手に構えたナイフが鈍く光を放った。
何度となく繰り返された交錯。サンタナの脚がティムの腕を狙う。
カウンターは無理だ、そう判断したマウンテン・ティムは、『オー! ロンサム・ミ―』を発動。身体を分解すると、相手の攻めをいなし、ゆるりと暴力の嵐をすり抜けた。
元通り、位置も変わらず、戦力を失ったわけでもない。繰り返す、何度も、何度も。ティムはこれを繰り返す。
もう少しの辛抱だ。夜明けが先か、噴上が仗助を見つけるのが先か。あるいは三人の男たちが何かしらの突破口を見つけるということもあり得るかもしれない。
勝利が近づいても決して気を抜いてはいけない。滝のように流れ落ちる汗をぬぐい、ティムはそれまで以上に神経を張り詰める。

呼吸を整えろ。武器を構え、神経を張り詰めろ。
全身でサンタナを感じるのだ。見るのではなく、観るんだ。聞くのでなく、聴くんだ。
夜明け前の薄暗さの中に立つ化け物へと視線を向ける。焦るべきは俺ではなく、ヤツのほうだ。無策無思考、人間であるならば、考えろ、マウンテン・ティム!

立ちすくむサンタナを前にロープを握り、銃のグリップへと手を伸ばす。
何もしない、この時ですら不気味さを感じる。表情のない化け物を相手取るのは予想以上に、彼の神経を消耗させていた。
そんな時だった。車両が街の街灯の脇をすり抜け、灯りがサンタナの横顔を、一瞬だけ照らした時だった。

125英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:04:15 ID:GQyq.9Vs



(……笑っ―――!?)


奇術や魔術、波紋やスタンド、近代兵器に車という最新機器。恐るべきは柱の男たちの対応力。そしてあくなき好奇心と向上力。
欺き、欺かれる。騙し、騙される。そのたびに彼らはそこから何かしらを学び、取り込んでいく。
自分なりに咀嚼し、消化しきったものを、自ら実践するのだ。さながら柱の男たちの食事方法かのように。
サンタナは学んだ。ジョセフ・ジョースターの奇襲戦法、マウンテン・ティムの博打殺法。
そして人間の勇気! 人間のしぶとさと、弱さから生まれる、知力そのものを!

「これは……ッ!?」

マウンテン・ティムの集中力が裏目に出た。いや、サンタナが自身に注意を引かせるような動きをしていたからこそなのかもしれない。
切り落としたはずの腕は地面に落ちたのではなかった! 落とされる瞬間、車両にひっかけるようにサンタナがコントロールしていたのだ。
今、まさにティムの脚を喰らっているのは、彼が落としたと思っていた腕のうちの一本! そして、それはティムを喰らい、ダメージを与えるには充分すぎるほど!

マウンテン・ティムは知らなかった。切り落とした腕だろうが、爆破して木っ端みじんになった肉片だろうが、柱の男たちは肉体を再構築できることを。
マウンテン・ティムは知らなかった。時間を稼いでいたのは人間たちでなく、柱の男のほうだったのだ!

「……ッ」
『マウンテン……、ティム………………』

地獄の底からゾッとするような声が聞こえてきた。サンタナの深く、喜びに溢れた声に身体中の毛が恐怖で逆立った。
瞬間的にティムは無傷でこの場を切り抜けることを諦めた。腰に刺していたナイフを抜き、『オー! ロンサム・ミ―』を発動させる。
足を諦め、切り落とす。その判断は間違っていない。むしろ、この緊急事態にその素早く、勇敢な対応は称賛されるべきもの。
だがロープ上に逃げようとスタンド発動させた彼は、今までのように素早い身のこなしを奪われていた。
この対応もサンタナの計算内。再度切り落とされかけた腕はそれに抵抗するかのように『憎き肉片』でティムに食らいつく。
逃がしてはなるものか、そんな怨念が込められた一粒一粒がティムの動きを鈍くする。

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

同時にサンタナ本体自身も動いていた。足を取られ、スタンドで逃げることも叶わない。保安官が遂に死神の手にかかってしまった。
体全身で喰らう、その特徴を最大限に生かした体当たり。足元から肉片が喰らい、本体は腕からティムを身体に取り込まんとしている。ティムの断末魔のような叫びが空気を震わす。何とか逃れんと彼は手にもつ武器を必死で振り回す。

現実はいつだって唐突に降りかかる。困難な選択肢は、時間制限があるからこそ、その難易度をさらに上昇させる。
ティムの脳裏に浮かんだ一つの天秤。取るべきはどちらか。自らの命か、仲間の命か。信じるはどちらか。現状からの一発逆転か、安全な妥協策か。
選択肢は二つだ。スタンドを何とか発動させ、身体の内無事な部分だけでもサンタナの捕食より逃れる。しかしこれは消極策だ。逃れたところでどうする、そんな難問が待ち構えているのだから。
もうひとつは、よりシンプル。今やサンタナと一体化したこの身体ごと……タンクローリーより身を投げる。こうすれば、仲間三人の安全は保証できる。犠牲になるのは、マウンテン・ティム一人のみ。
思考に時間を割く時間はほとんどない。躊躇っていてはその身、余すことなく喰らいつくされる。
保安官マウンテン・ティムとして、男マウンテン・ティムとして。
そして少年たちにその生きざまを見せるべき、大人として! 彼は選ぶ。彼の選択は…………!

126英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:04:37 ID:GQyq.9Vs



「…………え?」


しかし彼が決断を下すまでもなかった。二人が一つに一体化した身体は誰に支えられるでもなく、タンクローリーの上に転がっているのみ。
いとも簡単に彼らは地に落ちる。足で蹴落とされたサンタナとティムの体は宙にふわりと浮かび、重力にひっぱられていく。
スローモーションのようにコマ切れで回る世界。地が迫り、車体が離れ、空が地面に、星が道路に。
回転する視界の中、マウンテン・ティムは確かに見た。タンクローリーの上で、こちらを見下ろす影と傍らに立つスタンド。

「……―――すまねェ、ティム」

ふわりと揺れる首元のスカーフ。この舞台で保安官が初めて会った青年の声が聞こえた。
同時に、大地に叩きつけられた衝撃が襲う。轟音とともに瞬く間に車体が遠ざかっていくのが見え……車は闇へと消えていった。







127英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:06:09 ID:GQyq.9Vs





地面を転がる事、四、五回。大地に叩きつけられること、幾度となく。
慣性の法則にしたがっていた二人の一つの身体は、いつの間にか元の一人一人に別れていた。
流石のサンタナも時速数十キロの衝撃に耐えきれなかったのか。或いは唐突すぎる突き落としにさしずめ柱の男も動揺したのか。
もしかしたら百戦錬磨の保安官、マウンテン・ティムがスタンド能力を行使したのかもしれない。

結果から述べよう。サンタナとティムはそれぞれ自由を取り戻し、道路上数十メートルの距離をとって互いに倒れ伏している。
しかしながらその後の対応は実に対照的。サンタナは即座に起き上がると、辺りを見渡し、現状を分析する。
獣のごとく鋭い眼光は追撃者を伺い、芸術作品に匹敵する肉体はどこから襲いかかれようと対応できるよう臨戦体制。
一部の隙も見当たらない、今しがたタンクローリーから突き落とされたとはとても思えない、万全に近い状態だった。

一方、マウンテン・ティム。仰向けのまま、指一本動かさず、満点の空を眺め続けるのみ。
サンタナから離れることができたとはいえ、その体はつい先ほどまで捕食されていたのだ。
半身は火傷のように肉が爛れ、ぴかぴかに磨かれていたブーツは足ごとミンチのようにひきつぶされていた。
そんな状態でも、彼は笑っていた。痛みが全身に走り、身体も動かせない状況でマウンテン・ティムは笑った。自虐と自嘲、諦めと情けなさで彼は思わず笑みをこぼしてしまった。

幽霊のように、ゆらりと立ち上がる。足は震え、視界が歪む。少し離れた位置に立っていたサンタナがこちらを向いた。
今の自分の状態、この何の遮蔽物のない道路という状況。一瞬でかたはつく。柱の男対正義の味方保安官の戦いは、そろそろ最終ラウンドへ向かおうとしていた。
いや、最終ラウンドとは語弊があるな、そうティムは自嘲する。今からここで起こるのは、一方的嬲り殺し。虐殺だ。

ロープ&ナイフ作戦は無効だとヤツに身をもって知らされた。平地では切った先から、元の本体に融合されてしまうに違いない。
銃撃にしたって、あの狭い空間ですら首輪に直撃させることができなかったのだ。この道路という、横幅・立て幅・高さを存分に生かせる立体的空間で高速移動するサンタナの、さらにごく小さな首輪をピンポイントで打ち抜くなど、できるわけが、ない。
そして肉弾戦。これに至っては論じるまでもない。瞬時にヤツのごちそうとなるだけ。最初から抵抗しようというのが間違いだ。

車両という狭いスペースがあったからこそ、ここまでは対等までわたりあえていたのだ。
スタンドという未知なる力があったからこそ、のらりくらりとやり過ごせていたのだ。
種明かしが終われば、マジシャンは舞台を去らなければいけない。
誰よりも、一戦交えた彼だからこそわかってしまう、この現実。絶望的なまでの現状が導く結論は一つ。それは、彼の死だ。
ゆっくりと、だが確実にこちらを目指し歩きだしたサンタナを前にティムは、ただ立ちつくすことしか、できなかった。

揺れる視界の中で確かに大きくなるサンタナの影。一歩、また一歩、怪物は近づいてくる。
油断も隙もなく、ただ一心にマウンテン・ティムに死をもたらそうと、彼へと近づいていく死神。

ティムは笑う。クックックッ……と低く、茶化すように喉を震わし、笑う。食われかけた左頬が筋肉の痙攣を起こしたように突っ張り、痛みが走る。
それでもマウンテン・ティムは笑い続けた。自らの愚かさを嘲笑い、迫りくる死神を前に諦めの笑みを浮かべていた。

「やれやれ……」

噴上に突き落とされ迄もなく、彼はこうする予定だった。頼まれるでもなく、彼には自らを犠牲に三人を救う覚悟があった。
いや、ティムは頭を振るうと自らを否定する。醜い自分はこう囁いたはずだ。臆病な自分は悪魔の誘惑になびいたはずだ。
もしかしたら、三人が助けに来てくれるのではないか。もしやすると、スタンドを上手く使えば自分だけタンクローリーの上から脱出できたのではないか。
一瞬でも、一時でもそんな考えが浮かんでないと誓えるだろうか。合衆国旗を前に、正々堂々宣言できるだろうか。

(いいや、できない)

128英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:07:18 ID:GQyq.9Vs


ふとすれば消し飛びそうな勇気をありったけ集めて、ティムは化け物の前に立ち続けた。それは一人の人間としては称賛されるべき、勇気ある行動だ。
だが、しかし! 保安官マウンテン・ティムであるならば! 彼自身が目指すべき男、という存在であるならば!
最後の最後、決断を迫られた時、迷わずタンクローリーの下に身を投げたはずだ。サンタナを道連れできる、そう思い嬉々として化け物と一緒に時速数十キロの地獄に飛び込んだはずだ。

そして、なにより! もしも、もうほんの少しだけ、ティムの判断が早ければ!
噴上裕也という少年に十字架を背負わせずに済んだはずだ。自分たちの命を優先するために、一人を切って捨てる。そんな辛い選択を少年に強いたのは、ティム自身の不甲斐なさゆえだ。
ティムは、噴上は間違っていないと思っている。彼は正しい選択をした。だが、それを迫った自分が情けない。まだ青さが残る少年に、辛い選択をさせてしまった自分に呆れかえるほどだ。

(これは、俺への天罰だ)

数メートルとまで二人の距離が詰まった時だろうか。サンタナが低く姿勢をとった。太ももが爆発的加速を前に、ミシミシと音を立てて筋肉を膨張させる。
どうせなら一思いにやって欲しい。いや、散々苦しんで、自分は死ぬべきだろう。こんな不甲斐ない、威厳もない、保安官失格のクソッたれにはそれが相応しい末路だろう。
ロープもナイフも、マシンガンも。全てを手放すと大きく腕を広げる。サンタナを受け止めるかのように、堂々と待ちかまえる。
貫くならば、心の臓を。へし折るならば、心の魂を。後は死を待つのみ。ティムは目をつぶると、最期の言葉を呟いた。



「ベッドの上で死ぬなんて期待してなかったさ。俺はカウボーイだからな…………」


その瞬間、サンタナが動いた。巻き起こった風が頬を打つ。砂と泥が舞い上がり、鼻を震わす土の香り。サンタナの脚が大地を蹴る音が聞こえた。




「そうかい、じゃあお前といるときはいつもベッドを担いでねェーとなァー!」
「!?」




耳を打ったのは自らの肉体が抉り飛ばされる音でも、喰らいつくされる音でもなかった。
少し斜めに構えた、捻くれ者の青年の声。拳と拳がぶつかり合う、鈍い打撃音。
ティムは信じられない思いで眼を開く。視界にうつったのはサンタナと渡り合う一つのスタンド像。
噴上裕也のスタンド、『ハイウェイ・スター』がティムを庇うようにそこにはいた! 柱の男を相手に一歩も引かず、激戦を繰り広げていた!

「おもしれェ、体そのものが消化器官だって? くいしん坊野郎が、かかってこいよ、オラ!」

見知らぬスタンド乱入に、当初は慎重だったサンタナ、次第に調子を上げて攻め立てる。そんな柱の男に負けまいと、ハイウェイ・スターも押し返す。
だが無情なまでに戦力差は大きかった。気持ちだけで勝利は得られない。圧倒的なまでに有利なのはサンタナ、ぶつかり合った先からスタンドの肉体を喰らい始める。
手を、腕を、足を、脚を。突きを、拳を、蹴りを、投げを。攻防一体の鎧は残酷なまでに少年に現実をつきつける。血が飛び、肉が飛び、骨を喰らわれる。

だが、それでも! 決して噴上裕也の気持ちが折れることはなかった!
スタンド勝負は精神の勝負。噴上裕也は砕けない。噴上裕也は砕けない!

129英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:07:49 ID:GQyq.9Vs


「吸収対決といこうか、エエ?」

サンタナの両手首を抑え、ハイウェイ・スターがその能力を発揮する。肉体が喰らわれるのを意に介さず、サンタナのエネルギーを吸い上げる。自らの体に訪れた違和感に、柱の男の顔に驚きの色が走った。
肉体が喰らわれようと、ハイウェイ・スターは手を離さない。サンタナによる強烈なけりが腹を揺らそうと、脳天切り裂く頭突きを見舞われようと、決してその手を離さない。
血を流し、意識が飛びそうになるのをこらえながら、それでも青年は戦い続ける。かつて一人、タンクローリーの上で戦い続けた男かのように。気高く、孤高に、化け物相手に食らいつく。

「待たせたな、噴上ィイイイ―――――ッ! 俺が来た以上、ここから先は任せろォオオオオオ―――ッ!」

闇夜を切り裂く叫び声と同時に、ハイウェイ・スターが脇に飛びのいた。入れ替わりにティムの前に躍り出たのは軍服に身を包んだ一人の“兵器”。
ゲルマン魂の叡智の結晶、シュトロハイム大佐、ここに見参。サンタナへと飛びかかると、化け物相手に一歩も引かない力比べ。
手と手を合わせて、真正面からの力勝負。二人の足場が、力のあまり削れていくほどに。

「この時をまっていたぞ、サンタナァアアアア―――ッ! リベンジマッチ、貴様に吹き飛ばされた肉体が疼きよるわ―――――ッ!
 尤も、今となってはこの最高にして偉大なるドイツの科学力によってェエエエエエ、この俺の肉体はァアアアアア!
 貴様以上のものへと、大変身を果たしたのだァアアア! その力、とくと体に刻みこんでやるわァアアアアア―――――ッ!」

本日何度目だろうか、サンタナの目に驚愕が灯ったのは。削れた足場に沿うように、サンタナが押されていく。一歩、そしてまた一歩。
距離にすればほんの数センチずつなのかもしれない。しかし、サンタナからすれば予想もできないことだ。この柱の男が、人間から化け物扱いされていた生物が、人間相手に力負けをしている……ッ?!
その顔色の変化を読み取ったのだろう、ニヤリと笑みを浮かべるシュトロハイム。さらなる隠し玉、とっておきを彼は持っていた。
サンタナが気づいた時には既に遅し。シュトロハイムの右目が怪しく輝く。

「紫外線照射装置発動!」
「HUOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA―――――ッ!」
「ふはは、ゲルマンの叡智を思い知ったかッ わがドイツ軍の科学力は世界一ィイイイイイイ―――!」
「おい、シュトロハイムッ! さっさとどけ!」

顔を覆い、苦悶の叫びをあげるサンタナ。シュトロハイムはその場を逃れるように大きく飛び跳ねた。
その場を退くように指示を出した張本人はいつのまにであろうか、ティムの傍らに立っていた。
ティムに負けず劣らずの満身創痍。ボロボロの肉体に鞭打ち、彼はティムを抱きかかえるとシュトロハイムと同じようにサンタナから距離をとる。
噴上裕也、いつもの小奇麗な身なりはどこへやら。スタンドのフィードバックもあってだろう、身体中傷だらけの泥だらけ。
だがその眼は、だがその眼はだけは。いつも以上に光輝いていた。

「あとは頼んだぞ、康一ッ!」
「どいて、どいて―――ッ!」

悲鳴に近い声、重なるように聞こえるダイヤの摩擦音。
マウンテン・ティムは噴上裕也に支えられたまま、なんとか首だけを動かし声のほうを見る。すると、眼を疑いたくなるような光景が飛び込んできた。
広瀬康一がフロントガラスよりちょこんと顔を覗かし、タンクローリーを運転していたのだ。呆気にとられるティム。無免許運転だの、道路交通法違反なんぞそんなチャチなものでは断じてない。
なんとも奇妙で、滑稽な。時が時ならば笑ってしまいそうになる、そんなシュールな光景。しかし運転している本人は真剣そのものだ。それが一層、滑稽さを引きたてている。

凄まじい速度でタンクローリーが進んでいく。目指すは柱の男、サンタナだ。
サンタナへと向かい、一直線。脇目も振らず、どんどん速度を増し、化け物を引き殺さんばかりに迫っていく! タンクローリーが牙をむいて、死神へと襲いかかるッ!
だがッ!

「何だと!?」
「かわされたッ」

130英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:08:16 ID:GQyq.9Vs


ティムの叫びと、噴上の怒号が重なり合う。よろけながらも、正気を取り戻したサンタナは紙一重のところで横っ跳び、タンクローリーをさけたのだ!
康一を乗せた車体は無情にも通り過ぎていく。ブレーキ―なしの暴走列車が、勢いそのまま駆け抜けていく。
最悪の状況だ、そう保安官は思った。噴上たちの計画は泡となって消えた。それどころか今や状況は悪化している。
危機的状況が二か所、それも同時に。化け物サンタナを殺す方法が消え、暴走列車に乗っているのは頼る相手を失った広瀬康一のみ。
一体どうするのだ。どちらから対処すべきだ。化け物か、康一の救助か。
判断しかねるティムは視線を傍らの青年へと向ける。すると、驚くべき事に青年は笑顔を浮かべていた。

「やれ、康一ッ!」

噴上の言葉と同時に聞こえたのは『キキィイイ……―――――ッ!』という甲高いブレーキ音。
そう、聞こえるはずのない、壊れたはずのブレーキ音が確かに聞こえたのだ。ティムは我が耳を疑い、我が目を疑う。それはサンタナも一緒だった。
通り抜けていったタンクローリーが帰ってきた! その巨大な車体をそびやかし、再びものすごい勢いでタンクローリーが、サンタナ目掛けてつっこんできた!

柱の男に迫られた選択。いや、それは選択ではなかった。サンタナは腰を落とし、手を広げると肺一杯に空気をため込む。
ティムは悟った。あの化け物、真正面から受け止める気だ。さきほどシュトロハイムに跳ね飛ばされたのとは違い、真っ向勝負で、タンクローリーとぶつかり合う気だ!
そして同時にこうも思った。あの化け物ならば、もしかしたら。あの脅威の肉体ならば下手すれば、タンクローリーでさえ。
はたして勝負はここに極めり。サンタナにぶつかる直前、康一が運転席から外へと飛び出す。
それを待ちかまえるように並走していたシュトロハイム、ナイスキャッチで彼を受け止める。そして一目散に、ティムと噴上の元へ。

スローモーション。
シュトロハイムが走る。その後ろでタンクローリーも走る。
シュトロハイムが駆ける。むんずり掴まれ、脇に抱えられた康一が喚き立てる。その背景でサンタナがタンクローリーの前で仁王立ち。
シュトロハイムが跳んだ。康一を庇うように、抱きかかえるように、数メートルの大ジャンプ。サンタナの背中の筋肉が盛り上がる。いざ、尋常にとタンクローリーとがっぷり組みあう。
その時、ティムの視界の端でちらつく物体が。サンタナの背後にふわりと浮かぶ、謎の物体が。
緑色の昆虫のような、蛹のような、不思議な生命体が宙に浮かんでいた。サンタナも気づいていない。それもそうだろう、今柱の男は車につきっきりだ。
するとその昆虫が尻尾をこねくり回し、まるで粘土細工を練り直すかのようなしぐさをとり始めた。時間にしてそれは数秒もかからなかっただろう。だが今のティムには全てがスローモーションのように見えた。

そして次の瞬間、彼ははっきりと見た。昆虫が作り出した『ボカァアアアアン』の文字を。そして、それをサンタナの背後から、ヤツの首輪へと放り投げた瞬間を。
そして―――――




腹の底に響くような大爆発。首輪の爆破はタンクローリーのガスに引火。辺りは一瞬で黒煙と熱風、そして耳が壊れるほどの音の嵐に包まれる。
暴風と熱風で眼が開けられない。凄まじい熱気、凄まじい轟音。
マウンテン・ティムは必死で墳上裕也につかまる。シュトロハイムと広瀬康一の叫び声が微かに聞こえた。
数秒の間、世界の終わりを迎えたかのような時が過ぎていく。やがて、舞い上がった砂埃が落ち始めたころ、ようやく視界が元に戻った。
ティムはゆっくりと目を開く。見ると、隣でシュトロハイムが頭から地面につっこんでいる。康一は無事なようだが、音と光に目を白黒させグロッキー。
そして何より、噴上裕也。なんとこんな状況でありなが彼は、身だしなみをただしていた。
いつもと同じように、何があるわけでもないのに不満げな表情で、スカーフをいじりながらポケットより手鏡を出す。
髪形を整えながら、誰に言うわけでもない不満を口にしていた噴上。横目でティムの意識がはっきりしていることに気づいた彼は、あたかも興味がないかのように、こう言った。

131英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:09:14 ID:GQyq.9Vs

「生きてるか、ティム」
「……ああ、生きてるとも」

カウボーイハットをかぶり直す。すこし深めに被ったのは表情を見られたくなかったからだ。
尤も、顔中広がったニンマリ笑顔はどうやっても隠しきれないだろうがな、そうティムは思った。

情けない。自分は何も成し遂げられなかった。守るはずがいつの間にか、守られていた。
だが、それは喜ぶべき事でもあった。なんてことはない、どうやら彼は少年たち二人を甘く見ていたようだ。
逞しく、頼りがいのある少年たちだ。いや、もはや少年と呼ぶのが相応しくないほどだ。
彼らは男だ。一人前の男。マウンテン・ティムの窮地を救った、英雄(ヒーロー)たちだ。

「なぁ、ティム」
「なんだ?」
「その……本当にすまねェ」

予期せぬ謝罪に、マウンテン・ティムは目をパチクリさせる。
噴上は視線を逸らし、ぼそぼそと言葉を続けた。

「俺はあんたみたいな英雄(ヒーロー)にはなれなかった。俺はアンタが戦ってる時も助けに入ることはできなったし、作戦があったとはいえ、一時はアンタを切り捨てて一番の貧乏くじをひかせちまった」

本当にすまねェ、そう繰り返された謝罪の言葉。しかし、言葉の途中からマウンテン・ティムはそれを聞いていなかった。
全身に広がる安堵感。自分が許されたという開放感。職務を全うできた達成感。
全てが電流のように彼の中を駆け巡り、感情を揺さぶっていく。
どうすることもできず、何を言うわけにもいかず。最後に彼がひねり出したのは笑い声だった。
腹を抱え、傷だらけの身体を捻りまわし笑う。最初は突っかかるように噛みついていた噴上だったが、その内つられるように笑い始める。

パチパチと火花を散らし、タンクローリーの破片と思しきものが音を立てる。
静寂の中でやけに響く火の音を聞きながら、ティムと噴上はいつまでも、いつまでも笑い続けていた。







132英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:09:46 ID:GQyq.9Vs






「おい、なんなんだよ、これ……」

ドサリ、と腰が抜けたように仗助はその場に崩れ落ちた。膝を地面に落とし、目の前の光景を呆然と見つめる。
噴上は笑いながら仗助の元へと駆けよっていく。彼の後ろに見えるのは三人の男たち。いずれも満身創痍、傷だらけのボロボロだ。
大げさで仰々しいとわかっていながらも噴上はあえて舞台の一コマかのように、手を広げ声を張り上げた。

「なんなんだって? これが一体なんなのかわからないっていうのかよ、仗助よォ?」

表情を変え、噴上は自戒を込めたさびしそうな笑顔を浮かべた。
助け起こすように差し出した手をぼんやり見つめたまま動かない仗助。そんな彼を見て、噴上はその手をひっこめた。
その代り、彼と同じ目線まで姿勢を低くすると、強い目つきで彼の瞳を覗きこむ。

「英雄ごっこはお終いだ、ってことさ」

両肩に手を置き、一言一言語りかけるように。仗助の瞳が揺れる。彼は焦点の薄れた眼で噴上を見あげると、かすれた声で問いかけた。

「俺は、また……間に合わなかったのか?」
「いいや、間にあったぜ。その証拠に、ここには誰一人、死んだ奴はいねェからな」

呆然としたままの東方仗助。瞬きを何度か繰り返した後に、彼は俯くと、それっきり黙りこんでしまった。
噴上は下唇をかむと、次の言葉を探し、しばらくの間黙りこんだ。
言うべき言葉が見当たらない。どんな言葉をかければいいのか、わからない。それでも彼は口を開いた。

「仗助、お前は今泣いていいんだ。言っただろ、英雄ごっこはお終いだって」

いつの間にか彼の仲間が傍らに並んでいた。一番重症のマウンテン・ティムはシュトロハイムに肩を担がれ、足を引きずるようにして近づいてきた。
仗助の心許せる友、広瀬康一はすぐそばに腰かけると、背中に手を回し、彼を落ち着かせるように優しく撫でる。
噴上がもう一度口を開いた。その声は優しかった。

「何でもかんでも一人で抱え込むことねェよ。そりゃ俺たち、そんなに仲良しじゃねェってのはわかってる。
 気が合う友達、気が許せる仲間っていうのもなんか違う気がする。
 それでもよ、俺たちは英雄(ヒーロー)じゃねェんだから。
 誰でも彼でも救えるようなスーパーマンじゃねェから。苦しいし、キツイし、やっぱずるしたくなっちまうんだよ、俺たちは」

語りの最中、仗助の眼から大粒の涙がこぼれおちる。康一はポケットからハンカチを取り出すと、黙ってそれを手渡してやった。

133英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:10:35 ID:GQyq.9Vs


「だからさ、力を合わせようぜ。辛さは分け合おうぜ。
 俺も一人じゃなんもできなかっただろうさ。逃げて、逃げて、逃げ回ってたにきまってる。
 逃げたっていいじゃねーか。泣いたっていいじゃねーか。
 今はそう言えるぜ。なんせ逃げても帰ってくる場所を守ってくれる男たちがいる。泣いても励ましてくれる友達がいる」

抑えきれない涙声が、仗助の口からあふれ出る。拭っても拭っても、滴り落ちる涙の数々。
四人はそんな仗助を優しく見つめる。二人の男は少年の成長と挫折を前に凛々しい面構えで。二人の少年は友の嘆きと苦しみを和らげようと慈愛に溢れた表情で。


「泣け、泣いちまえ。それで、落ち着いたら……億泰の墓を立ててやろう、な?」


ハッピーエンドじゃ終われない。
全ての物語が笑顔で終演を迎えられるとは限らない。

堪え切れなくなった仗助は、人目もはばからず大声を出し、泣きじゃくる。康一は傍らに座り、仗助を優しく抱いた。彼の目にも涙が浮かんでいた。

空は漆黒の闇から、ほの暗い暁の紺へと色を変えていた。
五人の頭上、遥か天高くより、いくつもの星が堕ちていく。
友の死を弔うかのよに、一際輝いた大きな星は、やがてその輝きを失い、闇へと消えていった。





                    ◆





 誰もが皆、ヒーローなんぞにはなれやしない。けれども、だからだろうか、誰もが皆、ヒーローに憧れる。
                僕らは皆、ヒーローに恋をする。
               彼らに花束を。ヒーローたちに幸運を。





                    ◆

134英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:11:17 ID:GQyq.9Vs
【C−5 北西 コルソ通り/一日目 早朝(放送前)】

【チーム名:HEROES】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小)、精神ダメージ(小)、膝上より右足切断
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0:仗助が落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:大量消耗(小)、全身ダメージ(小)
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
0:仗助が落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:左半身喰われかけ、左脇腹消失、右足ミンチ、右腿消失、全身ダメージ(大)、体力消耗(大)
[装備]:ポコロコの投げ縄、ローパーのチェーンソー、琢馬の投げナイフ×2本、トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0:仗助が落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:両手ダメージ(大)、全身ダメージ(中)、体力消耗(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0:仗助が落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。

【東方仗助】
【時間軸】:JC47巻、第4部終了後
【スタンド】: 『クレイジー・ダイヤモンド』
【状態】:左前腕貫通傷、深い悲しみ
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、ナイフ一本、不明支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0:落ち着いた後、億泰を埋葬してやる。その後、治療と情報交換。
1:各施設を回り、協力者を集める。
2.リンゴォの今後に期待。
3.承太郎さんと……身内? の二人が死んだ、のか?



【備考】
タンクローリーの移動経路:F−5→G−6→G−7→F−7 / (ここまで前SS)コロッセオの左を通って E−6→E−5→D−5→C−5
仗助の北上ルートは以下の通りです:D−4→D−5→C−5→B−5
タンクローリーが爆発した音が響きました。もしかしたら他の参加者に聞こえたかもしれませんし、聞こえなかったかもしれません。
C−5北西のコルソ通りで火の手が上がっています。今は鎮火していますが、もしかしたら誰か見てたかもしれません。
タンクローリーは完全に爆破しました。破片や瓦礫、残りかすがそこら辺に転がっています。
億泰の死体はクレイジー・ダイヤモンドによって綺麗にされ、仗助に運ばれて、B−5の民家に安置されています。

135英雄失格 (ヒーローしっかく)    ◆c.g94qO9.A:2012/04/17(火) 18:25:24 ID:GQyq.9Vs
以上です。誤字脱字、矛盾点とうとうありましたら指摘ください。
久しぶりにかいたら楽しかったです。これからはもっともっとバリバリ書いていきたいです。

136名無しさんは砕けない:2012/04/17(火) 19:50:08 ID:u4c7gsU.
乙です!面白かった!
冒頭で悲劇が予感され……凄くハラハラさせられながら読みました。
イケメンHEROS格好良すぎるダロ

137名無しさんは砕けない:2012/04/17(火) 20:33:26 ID:xXfPRsJQ
皆かっこええ、一気に読んでしまった
ところでサンタナの生死どうなってんの?
そのあたり追加希望

138名無しさんは砕けない:2012/04/17(火) 23:08:55 ID:ruaCbRwE
乙です!
攻防、鳥肌モノでした
ティム、噴上、シュトロハイム、康一…みんな男前すぎるだろ!
サンタナの不気味さもすごくよかったです、原作で初登場したときの底知れなさを彷彿とさせてくれました
生死は確かに気になりますね、状態表は無いけど死亡表記もなく…どちらにしても追加して頂けると幸い
あと、仗助の心情でグッときました…黄金の精神を持っていたって、まだ十代の子供なんだよなあとふと思わせられました
すごく面白かったです!

139愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:40:21 ID:31UARX/I



「ジョナサン……」
「ああ、ここにいるよ」
「ああ、ジョナサン……! 本当に、怖かった……本当に、本当に…………」
「もう大丈夫だよ……大丈夫だから…………」


 落ち着かせるように、なだめるように背中をさすり続ける。
 もたれかかってきた身体をしっかりと支え、ただただ、ジョセフはエリナをなだめ続けた。
 無理もないだろう。たった今起きた出来事は、エリナでなくても目を覆いたくなるような惨劇だった。
 あまりのむごたらしさ、そして悪趣味具合に吐き気がするほどだ。
 洞窟の地面に転がる首輪とカバンに、ジョセフはゆっくりと目を向けた。

 ほんの少し前の出来事だ。二人が歩いていると、暗闇にうずくまる一人の女性がいた。
 警戒するジョセフを押しとどめ、エリナは後ろから声をかけた。
 看護師である彼女は女性が怪我をしていると思ったから。慈愛にみち溢れる彼女は女性を放っておくことができなかったから。
 すすり泣く彼女に、エリナはこう言った。


『もしもし? あの、すみません』
『…………―――の赤ちゃん、私の、私の……………………』
『どこか怪我をされているんですか? 大丈夫ですか?』
『……私の赤ちゃんはどこ? 私の赤ちゃんが、アタシの赤ちゃんが…………』


 呟きがピタリとやんだ。不穏な雰囲気にジョセフが前に出ようとした、その時だった。


『あたしィィィの赤ちゃあァァァ―――――ンッッッ!』
『危ない、エリナッ!!』




 知らず知らずのうちに、ジョセフは拳を固く握りしめていた。
 耳の奥がジンと痺れ、胸のあたりに込み上げて来る不快な感触から、必死で目をそむける。
 だが、掌に伝わった確かな感触、それだけは誤魔化しようがなかった。
 波紋が的確に流れたことは一瞬のうちに融け消えたゾンビと、残された首輪が確かな事実として物語っていた。
 残酷すぎる事実として、はっきりと。

 ジョセフは乱れた呼吸を整えるように、ゆっくり呼吸を繰り返す。
 揺れ動く感情を沈め、内なる獣をあやし続ける。けれどもうまくいかなかった。
 ほんの少しの間に、あまりに多くのことが起きすぎた。

140愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:40:52 ID:31UARX/I
猿さんくらったのでどなたかお願いします。

 ジョセフ・ジョースターがどれほどの楽天家であろうと、どれほどのおちゃらけものであろうと。
 彼はまだ19歳の青年だ。彼は、重荷を背負うには余りに若すぎた。
 
 祖母を守る決意、同時に祖母に自分の正体がばれてはいけない。
 生粋のおばあちゃんッ子であるジョセフは彼女のほっとした笑顔を見るたびに胸が張り裂けそうな罪悪感に苛まれる。
 俺は、おばあちゃんを騙している。こんなにも、おじいちゃんのことを愛し、信じ切っている、おばあちゃんを……。
 
 殺したゾンビの最期の言葉が、耳の奥で鳴り響き続けている。
 彼女も一人の母親だったのだろう。どうしてゾンビなんかになってしまったのか。
 生を呪ってでも彼女は子を守ろうとしたのかもしれない。悲しみのあまり、彼女は呪われた道を選んでしまったのかもしれない。


(―――考えるな)


 落ち着いたエリナに向かって笑いかける。強張った表情がゆっくりとほどけ、彼女も笑顔を浮かべていた。
 くすんだ瞳は未だ輝きを取り戻していない。祖母の精神状態はまだ、不安定だ。
 自分がしっかりしなければ一体誰が彼女を守るというのだろうか。

 足元に気をつけて、そう声をかけると腕を組んで歩きだす。
 僅かな光を頼りに二つの影が道なき道を進んでいく。右に左に、ゆらりゆらり。
 寄り添い歩くその姿は、まるで夫婦のようだった。


「ジョナサン」
「なんだい?」


 見るとエリナはどこか夢見心地の表情でジョセフを見つめている。
 ジョセフが視線を向けると、彼女はにっこり笑い、もう片方の腕を伸ばした。
 自由なほうの手で、エリナがそっと自らのおなかを触る。愛する何かを撫でるように、何か守るべきものがそこにいるかのように。
 

「愛しているわ、ジョナサン……」


 その時ジョセフは自分がどんな表情をしていたのか、想像もつかなかった。
 もはや精神の限界、感情の決壊。思考は白濁にのまれ、視界は暗転。
 果たして壊れているのはエリナなのだろうか。壊れてしまっているのが世界ならば、まともなままの自分こそが壊れているのではないか。
 隣にいるのは祖母であり、彼女のおなかの中には自分の父がいる。
それはパニックにも近い衝動だったのかもしれない、恐怖と言い換えてもいいだろう。
 考えれば考えるほど、気が狂ってしまいそうだ。もうなにがなんだかわからなくなってしまった。

 ただひとつ、わかっていること。
 こんな狂った世界だろうとジョセフは祖母を守ってやりたい。隣を歩く女性の笑顔を守りたい。彼は顔をあげ笑顔を祖母に振りまくと、改めて共に歩こうと固く誓った。
 無論ぐしゃぐしゃになった感情は、到底整理しきれるものでない。
 大声をあげて吠え狂いたい。手当たりしだいやつあたり、怒鳴り散らし暴れ狂いたい。全てを放り投げて逃げ出せたらどれだけ楽だろうか。
 けれども……けれどもジョセフは、そうしなかった。横にいる女性を支え、荷物を背負い、彼は歩いて行く。 

 より一層固く腕をからめ、祖母の存在をしっかりと確かめる。エリナの青ざめていた頬にさっと赤みがさした。
 愛する祖母のためならば。大切なエリナおばあちゃんを守るためならば。
 暗闇はいまだ濃く、辺りははっきりしない。はたしてこの洞窟から抜け出すことはできるのか。
 よぎる不安を押さえつけ、ジョセフはゆっくりと歩を進めていく。底の見えない闇の中へ、彼とエリナは今、歩み出した。

141愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:44:11 ID:31UARX/I
【D-4中央 地下通路/1日目 早朝】


【ジョセフ・ジョースター】
【スタンド】:なし
【時間軸】:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前。
【状態】:精神疲労(大)
【装備】:なし
【道具】:首輪、基本支給品×3、不明支給品3〜6(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ)
【思考・状況】
基本行動方針:エリナと共にゲームから脱出する
0.とりあえず地上を目指す。洞窟から出たい。
1.『ジョナサン』をよそおいながら、エリナおばあちゃんを守る
2.いったいこりゃどういうことだ?
3.殺し合いに乗る気はサラサラない。

【エリナ・ジョースター】
【時間軸】:ジョナサンとの新婚旅行の船に乗った瞬間
【状態】:精神摩耗(中)、疲労(中)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品、不明支給品1〜2 (未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:ジョナサン(ジョセフ)について行く
1.何もかもが分からない……けれど夫を信じています

【備考】
エリナはジョセフ・ジョースターの事をジョナサン・ジョースターだと勘違いしています
ジョセフはエリナが「何らかの能力で身体も精神も若返っている」と考えています


 ◇ ◇ ◇

142愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:44:27 ID:31UARX/I
【3】


「…………もしも反対の立場だったら? またあんたはとんでもないこと考えるわね。
 あの父さんがムショ入り? 似合わねェー! 想像もつかねェな。

「……ざまぁみろ、としか思わないと思う。あたしとママを捨てた天罰だッて感じでね。
 確実に言えるのは今言ったような親子愛だの、家族の絆だとかについて、きっと微塵も考えなかったでしょうね。
 きっと嘲笑って、高みの見物代わりに面会に来たりはしたかもしれないけど。
 情けない話、ここに来てようやくあたしは家族とか、血縁に属してるって言うのを感じたのよ。
 それまであたしにとって大切だったこと、ものが180度変わった。
 だってね、これまで“クウジョウ”だなんていう苗字はあたしにとって重荷以外の何でもなかったのよ。
 父親の血が流れてるって考えるだけでも嫌だったし、それこそあのオヤジと関係があるって考えただけで寒気がした。
 そういえばジュニアスクールに通ってた時、一回同級生をボコボコにしちゃったことがあったのよ。
 父親のことでからかわれてね。ママには迷惑かけたな……あれはちょっとやりすぎたな、今考えると。
 思うに、父さん関連であたしって問題起こしすぎな気がするわ……。

「今は違う。それだけは確実に言えるわ。
 自分でも可笑しいとは思うけどこうまでして変わったか、ってぐらい違うものね。
 不思議なもんよね……。

「なんで、って言われても……うーん…………なんでなのかしらね?
 エンポリオも言ってたわよ、普通じゃない、って。
 けどなんていうんだろう……父さんはとても不器用な人なんだなァーって思ったの。
 方法がわからなかったんじゃないの、ママもあたしも守りながら幸せになるっていうのが。
 こうやって刑務所にぶち込まれて、クッソでタフな生活してると、そりゃ誰だって大切な人をこんな風にしたくないってなるわ。
 きっと背負ってたのよね、ママとあたしの分まで。
 父さんが悪いってわけじゃなくて、言うなら父さんがアンラッキーすぎたんじゃないの?
 あの人、行く先行く先で決まったようにアクシデントとかハプニングに巻き込まれるって言ってたし。
 やれやれ、刺激溢れる人生よね。だからヒトデだなんて意味分かんない生物に興味もったんじゃない?
 人生の刺激のバランスをとるみたいにさ、あんな害もくそもない平穏の塊みたいな生物の何がいいんだか。

「F・F、アンタの言うとおりだと思う。
 というかそれは世界中のだれもが考えてる事だし、実際事象としても起きてるし、偉人達もそうやって言ってきたのよね。
 さっきの本、ある? 多分載ってるんだろうけど……、あ、そこそこ。そこの下、読んでみなさいよ。

「『愛の反対は憎しみではない 無関心だ』 流石マザー、聖女様よね。

「その通りだと思うのよ。愛情の裏に憎しみがあるんじゃなくて、愛情と憎しみは隣り合ってるの。
 今まで人類の歴史上で何人もの男と女が憎しみで殺し合ったし、嫉妬から戦争が起きたこともあるのよ?
 それだけとんでもないエネルギーをもったのが愛で、それに匹敵するのは憎しみ。
 無関心っていうのはまったくのなし、無、ってことだからね。

「そうよ、時に憎しみは容易く愛情に変わるし、逆もしかりよ。
 かわいさ余って憎さ百倍、嫌よ嫌よも好きの内。
 人の感情なんて不安定だし、未来に何が起きるのかもわからない。
 過去に積み上げてきた感情が大きければ大きいほど、崩れたときに発生するエネルギーは相当のモンよ。
 その時、その人がどうするかはほんとにその人次第でしょうね。
 我を失うのか、逆上するのか、泣き叫ぶのか。
 取り戻せないわけじゃない。というか、そもそも取り戻そうだなんていう考えが可笑しいのかもね。
 なんかアンタと話してると結局愛情ってのも一つの感情にすぎない、そう思えてくるわ。
 でもそれはあまりに寂しいかな、あたしは。
 やっぱりあたしにとって愛は特別であってほしいのよ。
 例えそれが憎しみから変わったものであろうと、憎しみに変わりゆくものだろうと。
 そこには混じりけのない、誰か一人のために向けられたものであってほしい。
 少なくともあたしはそう思うわ。

143愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:44:49 ID:31UARX/I
 ◇ ◇ ◇


 ヴラディミール・コカキが苦手とするタイプは主に二つである。
 一つ、息をひそめて影から命を狙うスナイパー。
 彼のスタンドの性質上、相手に思考を強いられない、あるいは彼の土俵に持ち込めないと途端に戦いは厳しくなる。
 二つ、狂人、理解不能の殺人ジャンキー。
 思いこみを定着させる『レイニーデイ・ドリームアウェイ』だが、問答無用で襲いかかって来る殺人狂には分が悪い。
 だがそれは一方でコカキのスタンドの強力さを裏付けているともいえる。
 この二つの天敵以外を相手すれば、ほとんどといっていい、コカキが負けるようなことはないのだから。
 

「1943年8日6日 ――― 見たところ君たちは生まれてもいないだろう。
 その日は私にとって長い長い一日だった。そして私の人生を決めづけた一日となった。
 君たちにもあるだろう、忘れられない一日というものが。その日以降、人生が激変した、そんな運命とも言える日が。
 私にとってこの日はまさにそんな日だったのさ」


 たった一言、そう、一言でいいのだ。言葉一つを相手に聞かせれさえすればいい。
 それだけでコカキは相手を征服できる。それだけでコカキは相手を掌中に収めることができる。
 
 会話を行う以上、何も感じずに言葉をかわすという行為を続けるのは不可能だ。
 どんなくだらないものであれ、どれだけ難解なものであれ、人は何らかの感情を抱かざるを得ない。
 それがコカキの付け入る隙となる。コカキは想いを定着させていき、これまで何人もの豪傑を葬ってきた。
 もはや皮と骨だけの存在ともいえる、タダの老人が、だ。
 彼には力もなければ途方もない技術があるわけでもないのに。

 スタンド能力と相性抜群の観察眼と度胸。
 心を見透かしているかのようなその両目で相手を丸裸にし、例え銃や刃物を突き付けても表情一つ変えることなく笑顔を浮かべ続ける。
 戦闘能力と呼ぶには的外れと言えるかもしれない。いうなれば精神力であり、彼の人生そのものだ。
 ヴラディミール・コカキの強さとは彼自身の歴史や経験、彼が培ってきた『記憶』そのものといえるかもしれない。

 コカキはゆっくりと自分の言葉が相手の心に染みいっていくのを眺めた。
 彼の前に立つのは一人の青年と一人の男。視界が遮られるほどの霧の中、二人はともに鋭い視線でコカキを睨みつけている。
 既に、コカキの術中にはまっているとも知らずに。皮肉を込めた笑みを浮かべ、コカキは続ける。
 彼の呪われた半生がいかに形作られていったかを。

 始まりはどんな感情だろうと、どんな思いだろうと構わない。
 大切なのは相手に聞かせることだ。語りかけることだ。
 『なんだこいつは』という感情を定着させられたならば、もはや相手は後戻りできない。
 『興味』だろうと『警戒』だろうと、一度定着してしまえばもはや脱出不可能の罠。
 あとは、コカキがあせることなくじっくりと調理を施していくだけだ。
 一手一手逃げ道を防いで、詰みまでの道筋を立てる。将棋やチェスで言うところのチェックメイトまで持ち込むだけ。
 
 彼は朗々と語っていく。彼の妹がどのように死んだかを。彼の能力がどのように発動し、彼の能力でどんな最期を妹が迎えたのかを。
 話が進むにつれ、二人の表情が変わっていく。はっきりとして警戒に加え、焦燥や危機感が広がっていくのが面白いほどわかった。
 それが命取りになるとも知らずに ――― にっこり笑うとコカキは構わず話を進めていく。仕上げまでもう少しだ。
 駒は盤上から逃れることはできない。コカキのスタンドから獲物が逃れられることができないように。

144愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:45:04 ID:31UARX/I
 恐怖や警戒を思った人間が取る行動は二つ。
 行動に移るまで時間の差はあれど、彼らが選ぶのは決まって『闘争』か『逃走』だ。
 そしてそのどちらを選ぼうと、コカキが敗北することはない。
 
 一瞬でも浮かべてしまった逃亡の思い、『逃げる』という思いを定着させてしまえば、あとはこの舞台が処理してくれるのだ。
 逃げる、の一色で染まった頭。逃げ続けた先に待っているのは禁止エリアか、あるいは血に飢えた殺人者たちか。
 わざわざコカキが手を下すまでもないのだ。疲労にまみれ思考停止の人間たちが、はたして死神の手から逃れようか。
 
 『戦い』であっても変わりはない。恐怖に突き動かされた人間の取る行動はシンプルそのものだ。
 そもそも恐怖や危機感から振った拳がコカキを捕えることなんぞできようか。
 窮鼠猫をかむ、それは美学に見えるが実態はただの開き直りでしかない。
 幾多もの修羅場をくぐってきたコカキにとって初撃をかわすのは難しくはない。
 そして一度攻撃をかわせれば、あとはなにもしないでいい。『外した』という思いを定着させるだけでいい。
 何をする必要もなく相手が外し続けるのを眺めていくだけ。コカキはそんな相手にじっくり止めを刺すだけでいいのだ。

 今回の二人も同じであった。妹の話を終えると男と青年は感情に突き動かされるように動き出した。
 雪のように白い肌の少年は荷物を全て放り投げ、気の毒になるほど大慌てで逃げだした。よっぽどコカキのことが不気味に見えたとみえる。
 毛皮の帽子をかぶった男は軽蔑するような眼差しで襲いかかってきた。だがまたたく間にその顔には大粒の汗が浮かび、呼吸は乱れ切っていく。
 逃走し続ける青年、闘争し続ける男。滑稽とも言える光景にコカキは忍び笑いを漏らした。

 しばらくの後、彼はゆっくり立ち上がると、ウェザー・リポートに向かって一歩踏み出した。
 害虫駆除するような手軽な感じで、コカキは目の前の男を殺すことを決心した。
 殺す必要がないのであれば殺さないに越したことはない。
 が、彼が属する麻薬チームに僅かでも危機が及ぶ可能性があるなら、その芽は潰しておくしかない。
 例えそれが数パーセントであったとしても。 

 しかしながら不運な事に、コカキの支給品には武器が入っていなかった。彼に与えられたものは真っ赤な宝石一つだけ。
 ただ幸運な事に、逃げだした青年は荷物を放り捨てていってくれた。もしかしたらこの中に何かしらの武器があるかもしれない。
 別に暴れまわる男を殴り殺したり締め殺したりすることもできなくはないが、老体に鞭打つのは可能ならば遠慮願いたい。
 せっかくデイバッグあるのだから、まずは中身をチェックして、それでも武器がないようだったらその時はその時だ。
 コカキはそう判断すると、ゆっくりと青年が置いたデイパックへ近づいて行った。
 その鼻先を男のスタンドの蹴りが、ものすごい勢いで駆け抜けていく。だがそれも『外されて』いく。

 コカキはきびきびとした感じで青年の支給品へと近づいて行く。
 霧漂う中放置されたバックへ手を伸ばした時、脇に置かれた本の存在に、彼はその時初めて気がついた。
 
 くすんだ茶色の革表紙の本。使い古され歴史を感じさせるが、大切に扱われているのか、とても綺麗だった。
 なんでこんなところに。そう感じたが、これも支給品の一つだったのだろうと宝石を思い出し、一人納得する。
 折り目をつけるように伏せられていた本をコカキは手に取った。
 そして何の気もなしに、彼は開かれていたページに目を通そうとしたのだった。

145愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:45:27 ID:31UARX/I
 ◇ ◇ ◇



 「琢磨」


 後ろからかけられた声を無視し、蓮見琢磨は目の前の老人をじっと見つめた。
 足が奇妙な方向にねじ曲がり、血だまりの中で虫の息。まるで車にでも跳ね飛ばされたかのような怪我を負っている。
 今はかろうじて生きているが、このまま治療を施さなければもう数分もせずに彼は死んでしまうだろう。
 ヒュウ、ヒュウ……と細い管を空気が抜けていくような音が聞こえた。それが老人の呼吸音だということが、しばらくしてから琢磨にはわかった。
 
 耳の奥がジン……と痺れるような気がする。息が少し苦しく、モノを吐き出すかのように盛大に咳を繰り返す。
 果たして自分は何を思っているのか。きっと今手に持っている本を覗けば赤裸々にそこに感情が記されているに違いない。
 怒りなのか、悲しみなのか、あるいは嬉しさなのか。本はいつでも正直に琢磨の気持ちを教えてくれる。
 けど琢磨はその気になれなかった。ただじっと目の前で地面に横たわる老人を見つめ続けていた。

 唐突に肩を掴まれる。振り払いたくなるのをなんとか堪えると、ゆっくりと首を動かし、ウェザーの顔を見る。
 険しい表情で、首を左右に振るウェザーがそこにはいた。
 もう少しだけ、そういう意味を込めて琢磨は沈黙を返す。
 それでもしばらくの間、ウェザーは琢磨の肩を掴んでいた。やがて諦めたかのように手が肩から離れ、地面を踏みしめる靴の音がした。

 老人が折れまがった腕を持ちあげようとしている。
 ほとんど力が入らないのか、腕は絶えず震え続け、そんな簡単な動作にさええらく時間がかかっていた。
 琢磨はその場にしゃがみ込むと老人の口に耳を近づける。血濡れた腕が頬に触れ、かすれた声が鼓膜を震わせた。


「い、もう……――― じん、せいは…………あ、い」

  
 意味を持たない言葉を最後に呟き、それっきり老人は黙りこんだ。
 冷え切った手が頬から離れ、血だまりの中へ沈んでいく。琢磨は何も言わなかった。
 黙って老人のふれた頬を撫で、服の袖で血をふき取った。死んだはずの老人が、ニヤッと笑ったような気がした。

 くるりとその場を後にすると、少し離れた場所で待っていたウェザーと合流する。
 何も言わずについてくるウェザーが少しだけありがたい。とてもじゃないがおしゃべりをする気にはなれなかった。
 今琢磨に必要なのは沈黙だ。けれども沈黙は否応なしに思考を助長させ、琢磨は思考の海に沈んでいく。
 老人が語った歴史が頭の中でもだけ、妹との悲劇が砂に染みいる水のようにじんわりと広がっていく。
 例えようもないくらい、それが不愉快だった。

 戦うことも、逃げだすこともしなかっただけではないか。琢磨はそう思った。
 老人の人生は妹が死んだ時から終わった。その時から彼は妹の人生を背負い、歩き続けなくてはいけなかった。
 それは途方もない呪いといってもいいだろう。それを真っ向から受け止めるのがいいのか、放り捨てて逃げ出すのがいいのかはわからない。
 琢磨には死んだ妹なんぞいないし、人の人生を背負うって生きていこうなんてことは考えたこともなかったから。

146愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:48:23 ID:31UARX/I


 ウェザー・リポートが戦闘の途中、折り曲げた電灯が行く先に転がっていた。
 最後の輝きを見せるように一瞬だけ輝くと、バチッ……と音を立てて電球はそれっきり黙りこんだ。
 二人は黙って歩き続ける。琢磨の頭の中に母と妹の顔が思い浮かんだ。

 老人はどっちつかずだ。
 妹の死に何故泣き叫ばなかったのだろう。妹の死に何故怒り狂わなかったのだろう。
 ナチスドイツに復讐を決意してもいいはずだ。悲しい思い出として大切にしまいこみ、新たなスタートを切るのも選択肢にあったはずだ。
 考えたくもないのに、纏わりつくように老人の笑顔が視界にちらついてくる。
 妹の死を呪った彼が、今度は琢磨に呪いかかったかのようだった。琢磨は首を振り、何を馬鹿な事を考えているんだ、そう一人呟いた。

 暗闇の中を黙って歩き続けていく。それでも、ふと気づけば琢磨はまた考え込んでしまう。
 母の事、妹の事、そして老人の事。琢磨は道路わき、民家の窓に映った自らの顔を覗き込んだ。
 本来なら自分の顔が移るべきそこに、殺したはずの老人が映り込んでいるかのような錯覚を覚えた。

 先を行くウェザーに急いで並ぶ。世間話を切り出すかのような感じで、琢磨は彼に問いかけてみた。
 妹はいるか、と。ウェザーは首を振り、小さく返す。俺には記憶がない。だからわからない。
 琢磨は驚き、少しだけ眼を見開くもそうか、とだけ返した。深くは聞かなかった。聞く必要もないな、そう琢磨は思った。

 湿った空気を切り裂くように、一陣の風が吹きぬけていく。
 僅かにだけ残っていた霧を掻っ攫い、二人の間を通り抜ける風。
 琢磨は目を閉じると、頬を撫でる風に身を震わせた。
 寒くはなかったが、何故だか胸にぽかっりと穴が空いたような消失感を感じ、彼は気が休まるまで自らの胸を撫でまわしていた。

147愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:48:46 ID:31UARX/I

【A-2とB-2の境目/1日目 早朝】


【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:身体疲労(中)、右肩にダメージ(中)、右半身に多数の穴、
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石
[道具]: 基本支給品×2、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:襲いかかってきたやつには容赦しない。
0.南下する。施設にたちより、情報収集するつもり。
1.仲間を見つけ、ここから脱出する。
2.琢馬について、なにか裏があることに勘付いているが詮索する気はない。
 敵対する理由がないため現状は仲間。それ以上でもそれ以下でもない。
3.妹、か……

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:憂鬱、思案中、精神疲労(中)、身体疲労(小)
[装備]:双葉家の包丁
[道具]: 基本支給品、不明支給品2〜4(琢磨/照彦:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
0.南下する。施設にたちより、情報収集するつもり。
1.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。
2.千帆との再会を望むが、復讐をどのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
3.妹、か……

[参考]
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります(例・4部のキャラクター、大成後のスピードワゴンなど)
明里、照彦、コカキの基本支給品は放置してきました。
照彦のランダム支給品(1〜2)は確認後、現在琢磨が所持しています。赤石はウェザーが所持しています。
二人は情報交換をしましたが、必要最低限のみです。ほとんど喋ってないという解釈で構いません。具体的には次以降の書き手さんにお任せします。
ウェザーと琢磨の移動経路は ルーブル → 双首竜の間 → 現在位置 です。

148愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 00:49:03 ID:31UARX/I








【母ゾンビ 死亡】
【ヴラディミール・コカキ 死亡】
【残り 80人以上】







【支給品紹介】
【エイジャの赤石@二部】
カーズ達が捜し求めていた、ルビーのように赤い石。
結晶内で光を何億回も反射を繰り返し増幅した後、レーザービームのように一点に照射する力を持っていて、武器としても使える。
石仮面とともに使用すれば、究極生命体を作り出すことも可能となる。

149名無しさんは砕けない:2012/05/12(土) 01:02:37 ID:Rv6GikXE
代理投下人も猿です
どなたかあと2レスお願いします

150愛してる ――(I still......)  ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 01:02:39 ID:31UARX/I
以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら指摘お願いします。
題名元ネタは2ndの「I stil...」と◆ZAZEN/pHx2さんの『生とは――(Say to her)』を意識しました。
というかぶっちゃけスタイル、形式全部◆ZAZEN/pHx2さんのをパクリ、もといオマージュです。

過疎過疎言われて悔しいので、明日指摘なく収録できたらまた予約します。

151 ◆c.g94qO9.A:2012/05/12(土) 01:06:34 ID:31UARX/I
>>149
代理ありがとございました。残り、投下完了しました。

152名無しさんは ガオンッ されました:名無しさんは ガオンッ されました
名無しさんは ガオンッ されました

153 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:13:55 ID:tRLTibJ.
規制されていたので、どなたか代理投下をお願いします。
それでは予約していたアバッキオ組、いきます。

154 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:15:24 ID:tRLTibJ.
ピンと張りつめた空気を破るものはいなかった。
誰もが拳を握る理由を持ち合わせながら、それを振るうきっかけを掴めずにいた。
微かな呼吸音が静寂を震わせ、五人の鼓動がそこにあることを知らしめる。
敵となるものを鋭く睨みながらも、横目で互いの様子を伺い、いつか来る『その時』をただひたすら待つ。
誰かの顎より滴り落ちた汗の雫が落ち、水滴音が家々に反響する。緊張を現すような深呼吸が、路地裏にこだまする。
それでも誰も動くものはいなかった。誰も動けずにいた。

 ―――カッ……

固い革靴の音を響かせ、一歩踏み出したのは男、リンゴォ・ロードアゲイン。
虚ろで、しかし妖しげに輝く目で大男を睨みつけ、彼は一歩一歩近づいて行く。
手に持つナイフが月の光を反射し、銀色に輝いた。
男はさらに一歩踏みだす。もう一歩。更にもう一歩。

それを合図としたかのように、真正面に位置していたパンナコッタ・フーゴが動き出した。
リンゴォの動きに合わせ、距離を徐々に詰めていく。慎重に、滑るように。闇に溶け込むかのように。
一歩、そしてもう一歩。更にもう一歩。青年は確実に近づいて行く。

間に立つエシディシと呼ばれる男は左右の接近を前に、顔色を変える。
弾かれたように首を振ると、焦りと狼狽が大粒の汗となり顎の先から滴り落ちた。
右側からはリンゴォ・ロードアゲイン。左側からはパンナコッタ・フーゴ。つまり挟み打ちの形となっている。
どうしようもない危機的状況を前に、男は必死で頭を絞るも何も考えられず、何も動くことができず。
ただ彼にできたのは、忙しくなく両者を見比べるのみ。

「―――……それ以上、俺のそばに近寄るな」

そんな時、唐突にリンゴォは歩みを止め、口を開いた。
意図の読めない、誰に向けたかもわからない宣言に、再び空気が張りつめる。
リンゴォは黙ってナイフを腕の高さまで持ち上げると、視線の先の人物にその切っ先を向けた。
民族衣装の大男、エシディシではなく。こじゃれたスーツの青年、パンナコッタ・フーゴに。
リンゴォは、これは警告だ……、そう付け加え、青年に変わらずナイフを向け続ける。そして続けるように、こう言った。

「奪われたのは俺のスタンド、そして誇り。
 ならばこれは俺とヤツの問題だ。これは俺とヤツの戦いだ。
 神聖なる誇りを取り戻す戦いに、意志を持たない対応者は必要なし」

一息つくと、彼は言葉を重ねる。

「仲間のスタンドを取り戻す、それは別にかまわない。どうでもいい、俺には関係のない話だ。
 だがそれが俺の戦いを邪魔することを意味するというのならば、俺の世界を汚すというのならば……話は別だ。
 戦いを邪魔し、俺の誇りを汚すというのならば、俺はその行為を許しはしない。
 覚悟を持たない部外者に、俺は敵意を向けることを躊躇わない」

広がり始めたのは緊張感に加え、不穏な空気。
コールタールのようなどろりとした、纏わりつくような感情が、辺りを漂い始めていた。
不信、敵意、戸惑い、反発心。夜明け前の冷えた空気が体温を奪うのと引き換えに、憂いの感情を忍び込ませていく。
パンナコッタ・フーゴは眉を寄せ、ゆっくりと口を開く。視界の端で焦れるような表情を見せるナランチャ・ギルガを視線で押しとどめ、彼は問いかけた。

155 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:16:00 ID:tRLTibJ.

「つまり……手を出すな、一対一で話をつけたい、コイツは俺の獲物だ。そういうことですか?」
「そうだ」
「貴方は本当に一人でこの男に勝てると思っているんですか?
 スタンドもなく、片腕も使えず、見た限り身体のどこかに怪我も負っているように僕には思える。
 それでも貴方は真正面から戦いたい、助けを乞う必要はない、そう言っているんですか?」
「……昨今では理解されなくなったことだ。
 世の中には『社会的な価値』がある。そして『男の価値』がある。
 不条理や不合理だと人は呼ぶ。だがそんな『男の価値』が『真の勝利への道』には必要だ。
 社会がはかる勝ち負けの定義、そして生と死。それを超えたところに存在しているのが『男の世界』。
 俺には歩みを止めるすべを知らない。俺にとっては他の道など存在する価値を求められない。
 道に立ちふさがるものを除外する。そこに何の理由がある?
 道を取りあげたものから道を取り戻す。そこに何故躊躇う必要がある?」

生温かい空気が充満し、うっすらと東の空が明るみ始めた。時計の針は留まることを知らず、当たり前のように全てが進んでいく。
話を進めていくうちにリンゴォの脳裏に男たちの顔が浮かび上がった。
ジャイロ・ツェペリの怒りに満ちた瞳が。東方仗助の激昂に歪んだ表情が。二人の男がまるでリンゴォ・ロードアゲインを乗っ取ったのかのように、突き動かしていく。
考えるよりも先に言葉が口をついて、飛び出した。男の言葉だけが、閑静な住宅街に響いていた。

「俺は『納得』したいだけだ。はたして俺は生き残るのに相応しいのか、俺の道は間違っていないのか。
俺は死ぬべきなのか、生きるべきなのか。
 白黒つけることでしか俺は『納得』ができない。灰色じゃ駄目だ。
 白か黒か。生か死か。
 ……俺は戦わなければならない、誰よりも己自身と。そして『男の世界』と」

リンゴォは決して声を荒立てたわけではない。声を張り上げたわけでもなく、大声で叫んだわけでもない。
しかし訪れた静寂はそれまでのものよりずっと重く、ずっと長かった。

四人の男たちはリンゴォの言葉に衝撃を受けていた。一人の男の生きざまに、雷にでも打たれたかのように、ただその場に立ちつくすほかなかった。
ジョナサンは無意識のうちに力一杯握りしめていた拳を緩めていた。
フーゴは奥歯をぐっと噛みしめ、視線を逸らしたい衝動を必死でこらえていた。

ジョナサンは思い出す。怒りに震え、ディオに向かって叫んだときの自分のことを思い出す。
父を殺された時からずっと、彼は恨みを晴らすために戦ってきた。父と師を殺され、誇りに満ちた騎士を踏み台にされ、ジョナサンはそれだからこそ、彼らの意志を受け継ぎ、戦いぬくことを決意したのだ。
奪われたものをディオから取り戻すべく、もうジョナサンはディオを殺すことに躊躇いはなかった。
数の違いや、方法の違いが問題なのではない。受け継ぐでもなく、切り開く。
リンゴォ・ロードアゲインが自ら手に入れた誇りはそれだけに尊く、どれだけ輝かしいものだろうか。
ジョナサンは身震いしたくなるような高貴な精神をリンゴォの中に見た。
誇りを取り戻すため、納得をするため、戦う。気高く、光輝く魂が確かにそこにはあった。

フーゴは思い出す。頼るべきものを見失い、ボートに乗るために一歩踏み出せなかった自分のことを思い出す。
自分が信じていたものが唐突に消えてしまった時、自分は立ち止ることしかできなかった。
リンゴォは違う。彼はもがき、苦しみながらも、闇夜の中に踏み出す勇気を持っていた。たった一人でも、戦い続けることに迷いはなかった。
誇り高いという言葉がこれ以上似合う男が他にいただろうか。そして、その辛さを自分以上に理解できる男が、この場にいるだろうか。
フーゴは胸が締め付けられるような哀愁をリンゴォの姿に見た。
固い意志で立ち続ける彼は、それしか信じられぬ故に座り込むことを知らなかった。立ち止まるなと言われたからこそ、彼は再び道を歩き出すしかなかった。
その悲しみに、フーゴは泣き叫びたくなるような衝動に襲われた。

156 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:16:35 ID:tRLTibJ.
再び沈黙が流れる中、口を開くものはいなかった。じんわりと熱せられた大地より薄く陽炎が立ち上り、湿った空気の臭いが男たちの鼻をくすぐる。
もう太陽が昇る時も近いのだろう。月明かりは薄れ、夜の世界は終わり告げる。傍らに立つ街灯の灯りが、やんわりと夜明け前の明るさに滲んでいった。
その時だった。誰もが足を止め、動くのをためらうような中、大男の肩が震えだした。
その表情は暗闇に隠れはっきりとしない。身体が震えているのは歓喜になのか、悲しみになのか。
彼を囲むように立つ四人の男たちは何事か、と訝しげにその様子を伺う。彼らは黙って大男を見守った。

ゆっくりと空気が震えた。その波は鼓膜を震わせ、音となり、男たちの脳を揺らす。
大男は笑っていた。やがて大きくなり始めたその声は、はっきりと笑い声となって辺りの建物に反響する。
そして身体を捩るように、彼は大口を開けて笑った。恐怖を煽るような笑いではなかった。だが、人の神経に触る、不愉快な笑いであった。

フーゴは反射的にスタンドを呼び出すと、自らを守るように戦いの構えをとる。
リンゴォはナイフを向けると、いつでも戦える臨戦態勢をとった。
苛立ち気な様子のナランチャをなだめるように、ジョナサンはその肩に優しく手を置いた。
四人の鋭い視線が一人の男に注がれる。狂乱の持ち主はあたりを知ってか知らずか、それでも笑いを止めようとしなかった。

どれほど笑いは続いただろうか。乾いた笑いは最後に一段と大きくなり、そして消えた。
息を乱し、肩で息をしながら、大男は笑顔を張り付けると捻りだすように言葉を口にする。
その声は低くドスの利いた声であった。

「お説教はおしまいか? 戯言吐くのにも満足しただろうな。あまりのくだらなさに欠伸が出るぐらいだ。
 言いたいことがあるなら今のうちに言っちまいな。じゃねーと後で言いたくなった時、その口、使い物になってねーかもしれねェからな。
 くだらねェ……誇りだ? スタンドを取り戻すだと?
 ハッ、いいだろう、やってみやがれってんだ。かかってこいよ、髭野郎、筋肉だるまにもやし小僧と阿呆チビッ
 四人同時にかかってきても俺は一向に構わないぜ? スタンド使いだろうと、なんだろうと大歓迎だッ
 文句があるならかかってこいよッ 戦おうってなら……やってやろうじゃねーかッ」

当初追いつめられ、うろたえていた様子はもう、微塵も感じられなくなっていた。
ギラギラと光る目は獣のように鋭く、戦いの興奮に合わせたかのようにその体が大きく膨らんだように見えた。
空気が圧縮され、重量を持って五人の上にのしかかる。

大男が背にした民家に拳を叩きつけた。窓が割れ、コンクリが砕け、大気が震えた。
それを合図にしたかのように、飛び出す二つの影。
血気盛んなナランチャがジョナサンの制止を振り切り、飛び出した。ナイフを構えたリンゴォが、一目散に駆けていく。

迎え撃つは超越者、『柱の男』、『エシディシ』。咆哮をあげた大男が戦場に身を躍らせる。
戦いが始まろうとしていた。

157 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:17:39 ID:tRLTibJ.




その戦いは一瞬だった。
あまりに素早く、あまりに圧倒的で、唐突であった。フーゴは一歩も動くことができなかった。

まずはリンゴォだ。真っ先に襲いかかった男が鋭く突きを放つも、柱の男は身体を僅かに傾ける最小限の動作でこれを回避。
お返しとばかりに、スタンド『ムーディー・ブルース』でリンゴォの首目掛けて手刀を振り下ろした。
同時に本体である柱の男は、つい今しがた砕いたコンクリートの破片を手にすばやくリンゴォの後ろに回り込む。
ムーディー・ブルースの攻撃を避け、体勢が崩れていたリンゴォはその俊敏で大胆な動きについていけない。
苦し紛れに振り向きざま一閃、しかしこの一撃も空振りに終わり、大男はリンゴォの後頭部に鉄塊を叩きこんだ。あっと叫ぶ暇もなくリンゴォの身体が沈んでいく。

まずは一人。なすすべもなかった。
柱の男の身体能力はスタンド同等。いや、下手をしたらそれをはるかに凌駕するほどだ。
ナイフ一本の男を相手するなどわけないことだったのだ。
リンゴォは何が起きたかよくわかっていないような、呆けた表情のままその場に崩れ落ちる。
どうやら気を失ったようであった。


次はナランチャだ。同時、飛び出していた少年は戦いの隙を突き、大男の後ろをとっていた。
飛行機型のスタンドを呼び出すと、大きく跳躍し狙いをしっかりと定める。ターゲットはスタンドではなく、大男本人。
奪われたとはいえ、かつての仲間のものであったスタンドを攻撃することは、ナランチャにはできなかった。
跡かたもなく吹き飛ばしてやる、怒りに燃えたナランチャはそう思った。
銃口を向け、まさに今、銃弾を発射せんとする。だがまさにその時、男が鋭く言葉を言い放った。
足元に横たわるリンゴォ・ロードアゲインを見つめながら、振り向くことなく柱の男が言った。

「いいのか、ナランチャ……? 『エアロ・スミス』をぶっ放せばハチの巣になるのは俺だけじゃないぜ?」

ほんの少し、時間にすれば秒針が動く隙もないほどの、僅かな時間だったであろう。ナランチャは躊躇った。
男が背を向けているというその姿を怪しんでしまったのもいけなかったかもしれない。スタンド名を何故知っているのか、そう考えてしまったのもいけなかった。
迷いは隙を生む。隙は時間を呼ぶ。

「ナランチャ君ッ!」

ジョナサンが叫ぶ。しかし、動き出すのがあまりに遅すぎた。
ハッと気づいた時にはナランチャの視界いっぱいに広がる灰色の石。柱の男の馬鹿力で放り投げたコンクリの塊はもはや凶器と呼ぶにふさわしい。
時速百数十キロで襲いかかってきた投石を宙で避ける術はない。
コンクリはナランチャの額に直撃、血飛沫を上げながら少年の視界は暗転する。ナランチャの意識は闇へと沈んでいった。
これで二人目。秒針が半周もしないうちに、この場に立つ人間の数が半分まで減らされていた。

158 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:18:17 ID:tRLTibJ.
それでも戦いは終わらない。意識を失ったリンゴォの腕時計の秒針が、音を立てて進んでいく。

ナランチャの身体が宙に舞い、地面に落ちるその直前、ジョナサンが身体を滑り込ませる。
叩きつけられぬよう、少年を優しく抱きとめるジョナサン・ジョースター。それも計算の内だと言わんばかりに、柱の男は既にッ 既にッ!
次なる攻撃に備え、動いていたッ!

少年の影に隠れる様、軌道に合わせ、颯爽と駆けていく。
数十メートルを瞬時に詰める脅威の身体能力。
吸血鬼という超越者を更に上回るスピードはジョナサンにとっても予想外。それでも咄嗟に蹴りを放つのは流石歴戦の波紋使いだ。

だが柱の男、これを一歩で避け、さらに懐に潜り込む。もう一歩、更にもう一歩ッ!
両腕で少年を抱え、不慣れな体勢では歴戦の戦士も普段通りとはいかない。数回の交戦を経るも、瞬く間に追い詰められていく。
加えて相手は一人でありながら、スタンドを操り攻撃を仕掛けてくる。
それは人を五人同時に相手するのと同じ、いや、下手をすればそれ以上の人数の攻撃を同時に裁けというのと同義であった。
ジョナサンの呼吸が乱れる。強引に放たれた蹴りにはいつもの鋭さがまったくなかった。
柱の男の右頬が、ジュ……と波紋で焦げるような傷跡を残す。それだけであった。致命傷どころか、怯ませることもできなかった。

次の瞬間、柱の男の右腕の筋肉が大きく盛り上がる。
グシャッと手に持ったコンクリの塊が一瞬で砕け散り、無数の破片へと形を変える。
そしてそれが超至近距離、顔を合わせたような距離からおもいきり、ジョナサン向けて叩きつけられたッ

刹那、ジョナサンは全身を同時に殴りつけられたような衝撃を感じた。
マシンガン、あるいは散弾銃を身体中、埋め尽くすように撃ち込まれたような衝撃だった。
爪の先ほどの大きさの小石が、まるで生きた羽虫のように、青年の身体を喰らいつくしていくかのようだった。
ジョンサンの皮膚という皮膚全てが切り裂かれ、砂混じりの血飛沫がシャワーのように降りそそいだ。

ジョナサンは倒れなかった。ナランチャをこれ以上傷つけまいと彼は全ての弾丸を体全身で受け止め、それでも倒れなかった。
真っ赤な服を着ているかのように全身を血で染めながら、顔をあげたジョナサン。輝く瞳で柱の男を見つめる。
その視線に、暴れまわっていた大男が一瞬だけ怯んだように、フーゴには見えた。

だがそれでもッ それでもだッ 暴力はやまず、拳は止まらず。
ジョナサンが口を開こうとする。何か言葉を口にしようとするも、それは柱の男の疾走音に紛れ、よく聞こえない。
まるで掻き消すかのように走っていく。聞くのを嫌がるように、見つめられるのが辛いかのように。
血を一度に失いすぎた青年は軽い貧血状態に陥り、その動きに対応することができなかった。
リンゴォと同じように、『ムーディー・ブルース』が優しくその首筋に手刀を振るうと、呆気ないほど簡単に、青年は気を失った。

159 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:18:59 ID:tRLTibJ.
そして三人目。ついに残すは後一人のみ。呆然とその場に立ちつくす、パンナコッタ・フーゴのみ。
あっという間だった。フーゴが割って入るほどの隙は一切なく、気付けば戦いは終わっていた。
地面に横たわる三つの体。薄明かりの中、月を背にそびえる柱の男。傍らに立っているのはフーゴにとって見慣れた仲間のスタンドだ。
どこか現実感のないその光景に、フーゴは眩暈を感じ、まるで足元が溶け落ちていくかのような感覚に襲われた。

大男が一歩踏み出した。ビクリと身体を震わせ、反射的にパープル・ヘイズを間に立たせるように動かす。
後ずさりしたくなる気持ちを必死で堪え、フーゴは目をしっかり開くと現実を見つめる。
恐怖はある。死にたくもない。だがそれ以上に、後ずさりたくない。その気持ちがフーゴの中で上回った。
これ以上逃げるのはまっぴらだ、そう思った。

強張る表情とは裏腹に、脳は柔軟にフル回転していく。
そもそもフーゴが戦いに参加しなかったのは、隙がなかったのもあるが、なにより彼のスタンドの性質故だ。
柱の男のような超至近距離を主戦とする敵を相手する場合、下手にフーゴが介入すれば助けになるどころか、仲間討ちになる可能性のほうが高い。
不用意な一撃、不必要な接近でパープル・ヘイズの毒を充満させることを、フーゴは何よりも恐れていたのだ。

なんとか逃げだす足を止めた。堪えることはできている。えらいぞ、そうフーゴは口の中で自らを勇気づける。
今度は足を動かしてみる。大地を踏みしめ、逆に男に向かって歩み出す。
半歩は踏み出すことができた。その勇気を持っている。ならばもう半歩だ……もう一歩だッ

前は持っていなかった勇気だ。誰かに頼らなければいけない自分だった。
だがもう頼る相手はいない。太陽のように輝いていた『彼』は、もういない。
ならばこそ……フーゴはなんとか自分に言い聞かせ、進んでいく。自らの意志で一歩、更にもう一歩ッ
そんなフーゴの足が次の瞬間止まった。目の前の男が口を開いたのだ。

「やめとけ、フーゴ。この明るさで『パープル・ヘイズ』を使おうってもんなら、俺もお前もあっという間にお陀仏だ。
 それだけならまだマシだろう……。けどな、下手に即死できずにのたうち回ってみろ。
 気絶してるこいつらにも菌が感染、あとは地獄絵図だ。もしかしたら俺たちの戦闘音を聞きつけて他の参加者も来るかもしれない。
 そんなことになったら……死の連鎖は、どこまでも続いて行くぜ?」

何故この男は自分のスタンドのことを知っているのだろうか。沈黙が流れた中、混乱した頭で最初に思いついたのはそのことだった。
フーゴは警戒心から進めていた足を止め、むしろ一歩離れるように距離をとった。
まじまじと、改めて目の前の男の様子を伺ってみた。さっきまであんなに大きく見えた男が、今は何故か小さく、しぼんで見えた。
それどころか化け物のような荒々しさ、獣のような猛々しさから一転。
仕事に追われ、くたびれ果てたサラリーマン。そんな疲れ切った表情を浮かべているように、フーゴには思えた。

一体この変わりようはなんだ。何故こいつは僕に襲いかかってこない。
一度考えだすとそこから先は止まらなかった。フーゴの中であぶくのように、次から次へと疑問と疑惑が浮かび上がってきた。
そしてまるで誰かが電球のスイッチを捻ったかのように。まるで誰かがスイッチのボタンを押したかのように。
唐突にフーゴの中で一つの可能性が思い浮かんだ。
こま割り映画のように、たった今起きた出来事全てが、頭の中でもう一度流れていく。
無意識のうちにたまっていた違和感が次々に、ハマるべきところにハマり、あたかもパズルのように仮説が頭の中で完成していく。

160 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:19:46 ID:tRLTibJ.
なぜナランチャの名前を知っていたのか。それどころかナランチャのスタンド、『エアロ・スミス』まで、その存在を知っていたのはなぜだ。
それは彼自身の場合にもあてはまる。パンナコッタ・フーゴ、そして『パープル・ヘイズ』。この場合は名前にとどまらない。
スタンドの能力まで把握されていた。菌の弱点、光とその関連性までも、この男は知っている。
それを知っているのは、アイツらしかいない。同じ護衛チームにいた、アイツらしか、知らないはずだ。
それはつまり…………―――

フーゴはゆっくりと口を開いた。
唇がかさつき、舌がやけに乾いていて、口の中に貼りついたかのように、うまく動かなくなっていた。まるで喋り方を忘れてしまったかのようだった。
半信半疑のまま、言葉の通じぬ動物にでも話しかけるように、フーゴは言った。
その低く、くぐもっている声は、まるで自分じゃない、他の誰が喋っているかのようだった。

「アバッキオ、なのか」

大男は何も言わなかった。しかし顔にかかる影が一段と濃くなり、疲労の色が確かなものになったような気がした。
沈黙は即ち肯定の合図。フーゴはそれを信じられぬ思いで見つめ、しかし心のどこかで冷静に納得している自分がいた。
安堵と絶望、相反する二つの感情が強力な毒素のように全身を駆け巡った。

「一体、なにが」
「これは、俺のひとりごとだ。聞き流してくれても構わねェ」

問いを遮るように発せられた深い低音の声。
それはかつて護衛チームとしてフーゴと行動を共にしたレオーネ・アバッキオのものとは似ても似つかぬ声だった。
だというのに、その声の裏側には確かに彼の存在が見え隠れする。
ぶっきらぼうなもの言いといい、一つ一つの言葉の刺々しさといい、誰を相手にしようと食ってかかるような口のきき方といい。

フーゴは何も言わなかった。何も言えなかった。彼はただ黙って、『レオーネ・アバッキオ』の話を聞くほかなかった。



根性ある少年を助けるため、怪物と戦った。えらく自分らしくないとはわかっていた。でも自然と身体が動いていた。助けない、そんな選択肢は浮かばなかった。
どこかの誰かさんの甘さが移ったのかもしれない。物怖じず、ふてぶてしいガキがどっかのアホのガキと重なって見えたのかもしれない。
とにかく無茶して、下手をこいた。怪物はとんでもないヤツで、自分は殺された。レオーネ・アバッキオは死んだ。

―――そのはずだった。

161 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:20:25 ID:tRLTibJ.
その後のことも数分がかりで話し、『レオーネ・アバッキオ』のとんでもない話が終わった。
語り聞かされた話はまるでおとぎ話のようで、とても信じられぬものではなかった。
普段のフーゴならば、馬鹿馬鹿しい、そういって一蹴するような与太話で合っただろう。
しかし今回ばかりは話が違った。フーゴは何度も瞬きを繰り返し、脳の働きをチューニングするように繰り返し頭を振って、意識をはっきりさせる。
それでも、彼が感じる事象に変化はなかった。五感から感じるもの全てが、はっきりと目の前の存在が何かを示していた。

それは人ではない、超越者。全身で人を喰らう、謎の生命体。
それは彼の同僚、レオーネ・アバッキオ。天邪鬼でガラが悪くて、喧嘩ッ早い、目つき最悪の元不良警官。
矛盾しながらも辻褄の合う説明だった。フーゴの感情と理性を無視すれば、それは筋の通る話であった。

堪らず放心状態で、それでも何か言わねばと、フーゴは口を開く。
だが当たり前のように言葉は出てこず、かわりに唸り声が漏れ出た。それを聞いて男が唇を捻りあげるような嘲りの笑みを浮かべた。
その皮肉たっぷりで人を小馬鹿にする笑い方は、かつて何度か青年をブチぎらせかけた同僚の笑い方にそっくりであった。
その事に気づき、初めてフーゴは事実を事実として受け入れた。ああ、目の前のコイツは……紛れもなく、アバッキオなのだろう、と。

沈黙が流れる。立ちつくす二人は腕を伸ばせばすぐにでも届くほど近く、間に深い深い谷底が横たわっているかのように遠い。
男が口を開いた。自分の身に何が起きたかを説明していた時より、更に感情の籠らない話し方で、彼はフーゴに向かって言った。

「チームの皆には言わなくていい」

視線を合わせるも、その瞳からは感情が読み取れなかった。
底の知れない怪物のような目が青年を見返していただけだった。
再び男が話し始める。ふと、視線を外すとどこか遠いところを眺めるような、そんな目つきになった。
フーゴはそんな風に話す『アバッキオ』を見たことがなかった。

「リンゴォ、ロードアゲイン、だったかな。さっきの髭野郎の名前。
 面白いやつだよな。久しぶりに、柄にもなく昔のことを思い出しちまった。
 俺がまだ現実ってやつを知らず、警察官であることに誇りを持っていて、餓鬼みたいに目をキラキラ輝かせて時のことをよォ……」
「…………」
「『納得』……納得ねェ。たいしたもんだぜ、まったく。吐き気がするほど青臭ェ、眩暈もするほど見てらんねェ。
 だけど一番眩暈と吐き気がするのは、そんな言葉に動かされた自分がいるってことだ」
「これから……どうするつもりなんだい、アバッキオ」

肩をすくめると男はしばらく黙りこむ。その横顔をじっと見つめるも、奥底にある感情は読み取れなかった。
いや、フーゴは視線を逸すと、目を瞑った。感情を読み取りたくなかったし、読みとってはならないと思ったから。
一人の男が赤裸々に感情を吐露している。かつて長い間、相棒役を務めながら一度も触れなかった不可侵の領域。
鋼鉄のように固い守りを放っていた男の無防備さを、青年は直視することができなかった。
そんな男の脆さを見てはいけないような気がしたから。

162 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:21:04 ID:tRLTibJ.
「なぁ、フーゴ……二人でよく殺したよな。沢山、沢山殺したよな。
 スキャンダルのもみ消し、横領をしようとしたやつの処刑、抗争の裏工作……まったく、汚ねェ仕事だったよなァ。
 ポルポに頼まれもしたし、ブチャラティに内緒でした時もあったはずだ。
 一体俺とお前で、何人殺したんだろうな」
「…………」
「結局のところ、俺に出来るのはそんな仕事だけだ。俺に相応しいのはそんぐらいだってことだ。
 ゴミ捨て場の掃除、後処理と片付け。それが俺にはお似合いだってことだ。
 神様とやらがいるんだったらな……まぁ、なんというか、よく見てやがる。天命ってやつだぜ、まったく」
「アバッキオ、君は……」

――また誰かの代わりに、殺すんですか。『巨大で絶対的な何か』、神(ディオ)とやらに従って、動くつもりですか。

その言葉をフーゴは飲み込んだ。
それこそがリンゴォ・ロードアゲインが最も卑下し、唾棄すべきものだと思っているのではないだろうか。
フーゴはそう思ったが、それを言う勇気はなかった。それに正解なんてないのだと思ったのだ。
レオーネ・アバッキオにとっての『納得』がそれなら、それでいいはずだ。それが彼の歩む道なら、フーゴにそれを止める権利はないのだ。

――だがそれは、あまりに寂しすぎないだろうか。

フーゴの胸の奥底が、チクリと痛んだ。

「俺は行くぜ、フーゴ。次あった時はもう他人同士だ。
 もちろん襲いはしねェ。だけど呑気なお話はここでお終いだ。
 俺とおまえはもう赤の他人。知り合いでもなんでもねェし、同じチームで何でもない。いいな……」
「……」
「『レオーネ・アバッキオ』は死んだんだ……。だがな、『俺』は死なねェぜ、フーゴ?
 必ず生き残ってやる。殺して、殺して、殺しつくして……そして最後、最後の最後の尻拭いも自分で済ませるつもりだ。
 なんでも、そいつ……ジョナサン・ジョースターによるとこの身体は吸血鬼のものらしい。なら簡単だよな。太陽の日を浴びちまえば、銃を使う手間もなく、楽に自殺できる。
 それに最悪、この首輪とやらにお世話になればいい。あの眼鏡ジジイの世話になるのは癪だが、まぁこの際贅沢は言わねェさ」
「吸血鬼、ですか」
「なんでもありだよな」

暗い声で、男は笑った。フーゴはとてもじゃないがそんな気分でもなく、ただ彼を見つめていた。
だが彼がそろそろ旅立とうと準備を始めた時、フーゴは自分の支給品を思い出した。
そしてこれ以上ない、餞別になるな、そう思い彼にこれを譲ることにした。
アバッキオ、背中を向けた怪物にそう声をかける。ジロリと脅すように睨みつけるその様子は迫力たっぷり。だがフーゴは怯まなかった。
それどころか、ここ一番の笑顔でもう一度彼の名を呼び、そして地図を彼の顔先に突きつけた。

「僕からの餞別だと思ってください」
「……礼はいわねェぞ」

163 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:21:27 ID:tRLTibJ.
デイパックに地図をしまう彼と握手をしようと腕を伸ばす。アバッキオはそれを無視した。だが皮肉気な、いつも通りの笑顔を浮かべた。
素直じゃないな、そう思い苦笑いを返す。アバッキオはそれを見て更に口の端を釣り上げた。
一瞬だけ視線が交わる。それは文字通り一瞬だった。
次の瞬間、男は近くの民家に向かって跳躍。ひとっ飛びで屋根の上に着陸すると振り返ることなく去って行った。
向かう先はきっと地下へと続くコロッセオだろう。手渡した地図の内容を想い浮かべながら、フーゴはぼんやりと、そう思った。

アバッキオはほんとうに『納得』しているのだろうか。
チームのため、誰かのために、殺人者を殺す殺人者になる。
毒を持って毒を制する。怪物を仕留めるには自ら怪物になるしかない、そういうつもりなのだろうか。
誰にも理解されることなく、誰が褒めるわけでも感謝するわけでもない。称えてくれる人もいなければ、共に戦ってくれる人もいない。
孤独で辛い道をレオーネ・アバッキオは選んだのだ。考えてみれば、いつだって彼はそんな選択肢を選んできた。
遠ざかっていく背中が見えなくなるまで眺めていた。その背中はとても大きく、しかしとても寂しげに見え、フーゴは身を切られるような切なさに、唇をかんだ。

助けることはできない。だけど祈ることはできるだろう。
せめて彼がこの先も『納得』できる道を歩み続けれるよう、可能な限りのサポートはしよう。
地面に転がるナランチャを見つめ、フーゴは固く決心した。

その時、後ろで何者かが動く気配を感じ、反射的にフーゴは振り返った。
立ちあがっていたのはリンゴォ・ロードアゲイン。いつのまに意識を取り戻したのだろうか。
見たところ、怪我はそれほど重症ではなさそうで、後遺症もないようだ。
だがその様子は異常だった。カッと見開かれた目は血走り、今にも目玉は飛び出さんばかり。その瞳は狂気に染まっていた。
彼は、ものすごい勢いでフーゴの肩を掴むと掠れた声で問いかける。あまりに強く掴むので、フーゴの肩の感覚がなくなるほどだった。

「今の話は……ほんとうなのかッ」
「い、今の話って……」
「お前と、お前がレオーネ・アバッキオ、そう呼んでいたヤツの会話のことだッ」

チームの皆には言わなくていい、アバッキオの言葉が思い起こされた。
だがこの男はチームの一員ではない。ならば彼には知る権利がある。
それに会話を聞かれた以上、隠す必要もないし誤解を解くきっかけにもなる。
フーゴは頷き、言葉を返した。

「全て事実です。貴方がどこから話を聞いていたのかはわかりませんが、彼は『レオーネ・アバッキオ』です。
 見た目は全くの別人ですが、正真正銘『レオーネ・アバッキオ』なんです」
「…………馬鹿な」

164 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:22:30 ID:tRLTibJ.

説明を続けようとフーゴは口を開く。だが男は既に聞いていなかった。
痛くなるほど掴まれていた肩は離され、男は脱力したようにその場に崩れ落ちる。
もはやフーゴなんぞ目に入っていないのか、呆けた表情を浮かべしばらくの間、ずっとそうしていた。
その間、彼は何を見つめるでもなく、何を伝えるでもなく、ただひたすらに、意味の成さない言葉を、ぶつぶつ呟き続けていた。
空っぽの瞳で地面のある一点を凝視し続け、早口で何語かもわからぬ言葉を捲し立てる。異常な光景だった。
気味が悪いな、フーゴは男の行動に戸惑いつつも、そんな感情が自らの中で湧き上がるのを認めざるを得なかった。

長い間、男はずっとそうしていたが、やがて立ち上がると、夢遊病者のようにあらぬ方向へと向かい歩き出す。
その異常さを目の当たりにしたフーゴは一度だけ彼に声をかけた。
正直気味も悪いし、一体何が何だかわからなかったが、それでも男を放っておくことはできない。そうフーゴは思ったから。

だが無駄だった。彼は一度も振り向くことなく、まるでフーゴなんぞそこにいないかのように歩みを止めようとはしなかった。
一度だけ肩に手を置くと、ものすごい勢いで振り払われ、鬼のような形相で睨みつけられた。
男の表情を見てフーゴはゾッとした。それは男の表情が鬼気迫るものであったからではない。
数十分しか経っていないはずなのに、男は十歳も二十歳も一気に年をとったかのように、やつれ果てていたのだ。
その変貌っぷりに、フーゴは伸ばしていた手をひっこめた。

もう一度、まるで脅すようにフーゴを睨みつけるリンゴォ・ロードアゲイン。
恐怖は湧きあがらなかった。フーゴは無意識のうちに拳を握りしめ、彼をそのまま見送った。

彼はそうされることを最も嫌悪するだろうとはわかっていても、フーゴは男に同情してしまった。
きっと『超越者』とリンゴォ・ロードアゲインの間には並々ならぬ因縁があったのではないだろうか。
それが今や『超越者』は『レオーネ・アバッキオ』になってしまったのだ。
滾る感情は宙ぶらりん。そうですか、わかりました、なんて簡単には真実を受け入れられないのだろう。
あんなに声高々に『納得』を叫んでいたのだ。彼の気持ちを推し量れば、フーゴにはかける言葉が見当たらなかった。

東に向かって歩き始めた彼。太陽がうっすら昇り始め、逆光の中、光の道を歩き出した男、リンゴォ・ロードアゲイン。
フーゴは彼が見えなくなるまでじっと彼を見つめ続けていた。

そして、ふと時間に気づくと、ゆっくりとその場を離れ、放送にそなえるための準備を始めた。
ジョナサン・ジョースターをスタンドで抱え、ナランチャは自分自身の腕で抱きかかえる。
最後にもう一度だけ東の空を見る。顔をのぞかせていた太陽は今日も変わらず、美しい。

目が霞むほどの明るさを飽きることなくフーゴは見つめ続けていた。
そして、ゆっくりと近くの民家へと向かい、彼は足を向けた。

考えることは山ほどある。やるべき事は沢山ある。
長い一日になりそうだ。フーゴはポツリとそうこぼし、ふとトリッシュ・ウナ護衛作戦の日を思い出した。
それほど時間は経っていないというのに、なぜだか彼の胸は懐かしさで満たされていた。

165 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:23:05 ID:tRLTibJ.

【E-7 杜王町住宅街(南西部)/ 1日目 早朝(放送直前)】
【レオーネ・アバッキオ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:健康
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:護衛チームのために、汚い仕事は自分が引き受ける。
1.南下しコロッセオに向かう。そこから地下に潜る予定。
2.殺し合いにのった連中を全滅させる。護衛チームの連中の手を可能な限り、汚させたくない。
3.全てを成し遂げた後、自殺する。
【備考】
※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。 吸収などはコツを掴むまで『加減』はできません。



【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中/出血中)、貧血気味、気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.気絶中
1.目の前の吸血鬼?を倒す。これ以上は一人の犠牲も出させはしない。
2.(居るのであれば)仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
3.ジョルノは……僕に似ている……?

166 ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:23:24 ID:tRLTibJ.


【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド] :『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:気絶中、額に大きなたんこぶ&出血中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.気絶中
1.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
2.ジョナサンについていく。仲間がいれば探す。
3.もう弱音は吐かない。

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:精神消耗(小)
[装備]: DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品一式、DIOの投げナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.民家で二人の手当、その後放送を待つ。
1.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集める。
2.ナランチャ、アバッキオが生きていることについて考える。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。なんて言うべきだろうか……?



【リンゴォ・ロードアゲイン】
【時間軸】:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
【スタンド】: 『マンダム』(現在使用不可能)
【状態】:右腕筋肉切断(止血済み)、身体ダメージ(小)、放心状態、絶望
【装備】:DIOの投げナイフ1本
【道具】:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ半ダース(折れたもの2本)
【思考・状況】
基本行動方針:???
0.嘘だッ……嘘だろ…………ッ!?
1.決着をつけるため、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする?
2.周りの人間はどうでもいいが、果し合いの邪魔だけはさせない。



【備考】
E-7北西のコンテナが退かされました。
下敷きになっていた露伴の遺体、アバッキオの遺体、エシディシの所持品(基本支給品×3(エシディシ・ペッシ・ホルマジオ)、不明支給品3〜6(未確認) )はその場に放置されたままです。

167怪物は蘇ったのか    ◆c.g94qO9.A:2012/05/27(日) 21:32:26 ID:tRLTibJ.
以上です。誤字脱字、矛盾点ありましたら指摘ください。
前作の誤字脱字指摘、ありがとうございました。遅くなりましたが、さっきなおしてきました。
感謝します。

168名無しさんは砕けない:2012/05/28(月) 00:23:43 ID:LAsH..nA
途中まで代理投下
創発版は支援なしだと一人で書き込めるレス数は10レス/h なので、事前に投下時間を宣言しておいてくれると助かります
本スレ過疎中なので特にね

169 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:21:03 ID:pK8x81ZQ
ごめんなさい、えらく時間がかかりましたが、投下します。

170 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:21:51 ID:pK8x81ZQ
 



 先に動いたのはティッツァーノだった。だが上をいったのはプロシュートだった。



全てがスローモーションのように、ゆっくり流れていく。
研ぎ澄まされた神経は的確に脳を、そして身体を動かす。ティッツァーノはプロシュートが動くより早く、既に動きだしていた。
聴覚が狂ったのだろうか、まるで音が遅れてやって来るかのよう。しかし極限の集中力が生んだそんな不思議な世界の中でも、彼は驚くほど冷静だった。

静脈注射を施す看護師のように、慎重に狙いを定める。狙いは目の前の男、脳髄を吹き飛ばし確実に仕留める。
考えるよりも前に、身体は動いていた。西部劇のガンマンも青ざめる早撃ち、早貫き。既に銃は構え終えていた。
死をもたらす、無慈悲で暴力的な銃口。夜空より更に深い漆黒、底知れない暗がりが、男の眉間に突きつけられていた。


だが対する男は平然としていた。銃を額に向けられていても汗一つかかず、髪の毛一本動かすことない落ち着き。
一枚上手だったのは暗殺チームの一員、プロシュートという男。
敢えて先手を取らしたのか、そう疑うほどに淀みなく、彼もまた、既に動き終えていた。
ティッツァーノが掲げた腕に巻きつかせるように、プロシュートは腕をからめとっていく。
肩と腕の関節を利用して、ティッツァーノの腕を締めあげる。途端にティッツァーノの顔が、苦悶の表情に歪んだ。

銃を持った腕が震える。当然、銃口の狙いは定まらない。
もはや痛みはとうに次の段階へと移り、段々と腕の感覚が失われつつある。
これはまずいことになった。感覚が失われてきたということは、こうしている今にも、銃を取り落としかねないのだから。
制御の利かない腕に必死で言い聞かせ、ティッツァーノはそれでも銃を離さず、殺意を手放さず。

ミシミシ……深夜、病院の廊下の元、青年の腕はしなり、音をたてて軋む。万力のような力で、男は顔色一つ変えず、負荷をかけ続けていく。
その表情に焦りはない。自分が指先一つで死ぬことになる、そんな恐怖を一切感じていないかのようだった。
だが落ち窪んだ目の奥を覗きこんだとき、真っ赤に燃える何かがティッツァーノを見返していた。


 ―――『ブッ殺す』と心の中で思ったなら その時スデに行動は終わっているんだッ


乾いた音を立て、拳銃が床に落ちた。ティッツァーノの指先から滑り落ちた銃を、プロシュートが踏みつける。
ティッツァーノの腕は砂漠の樹木かのように、萎びれ、渇ききったものへと変わり果てていた。
『グレイトフル・デッド』、プロシュートのスタンド能力を前には流石の親衛隊の意地も折れざるを得なかったのだ。

二人は見つめ合う。落ちた銃に目をくれることなく、黙ったまま二人は互いの瞳を覗きこむ。
廊下の先から、再び少女の悲鳴と銃声が聞こえた様な気がした。それでも二人は動かなかった。
頭上に吊るされた避難灯が男たちの顔に影を落とす。プロシュートがゆっくり瞬きを繰り返した。ティッツァーノがそっと瞼をしぱたかせた。
来るべき瞬間が来るのを待つ二人。断頭台に上った死刑囚が運命を受け入れる様、その瞬間をただひたすら、男たちは待った。

171 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:22:49 ID:pK8x81ZQ


 ――― いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しないッ


しかし……プロシュートはティッツァーノの腕をゆっくりと手離すと、何事もなかったかのように銃を拾い上げる。
そうして、萎びた腕を庇うようにもう片方の腕でさするティッツァーノに、銃のグリップを突きだした。
親衛隊の男は肩で呼吸をしながら、目の前の男と銃を、ゆっくりと見比べた。

その男の意志が全く読めなかった。目の前の男が一体何を考えているのか、全くわからなかった。
ポタリ、音を立てて、ティッツァーノの顎先から汗が一滴、流れ落ちる。

たった今、敵と認識した男に再度獲物を渡すという行為。敵に塩を送ることなんぞ、この男が最もしないであろう行為だ。
慈悲だとか、正々堂々だとか、そんな言葉はプロシュートに全く持って相応しくない。

困ったら殺す、面倒になったら殺す。敵ならば殺す、味方であろうと時に殺す。
それは何も暗殺チームに限ったことでなく、ギャングならば誰もが実践する原則的ルールだ。ましてやプロシュートは暗殺チーム所属の男。
今さら殺しに躊躇いなんぞはまったくないだろうし、彼以上に殺しを徹底してきた男はいないはずだ。
だというのに何故殺さない……? 何故今さら殺さないという結論に至ったのか……?
何をどう考えたら、たった今銃を突きつけ、その上スタンドを曝け出した相手に、武器を渡すような行為に及ぶのか。
ティッツァーノには全くわからなかった。いくら考えても答えは出てこなかった。

沈黙が続く。空気が凍りついたまま、しばらくの間、時間が流れていった。
やがてプロシュートは我慢しきれなくなったのだろう、半ば強引に彼の掌に銃を押しつけ、そして、くるりと背中を向け走り出していった。

最初はゆっくり、そして次第に駆け足、最後には全力疾走。
暗殺チームの男は一度たりとも振り返ることなく、そして一瞬たりとも立ち止まることなく、瞬く間に廊下の先へと姿を消した。
差し込む月光の中に消えていったプロシュート。ふと手元へと視線を落として見れば、手のひらに収まった拳銃が一丁、そこにあった。

どんな馬鹿だろうと、どれほどマヌケであろうとも、誰だってできる簡単なことだった。狭い廊下ではかわすこともできないし、加えて男は背中を向け走っている。
拳銃を狙いに向け、引き金を引くだけ。それだけで男はもんどりうって、その一生を終えるだろう。たった、それだけのことで。
ティッツァーノはぎこちなく銃を構えると、男の背中に狙いを定めた。対象を真ん中に合わせ、あとは指先に力を込めるだけ。

だが、できなかった。ティッツァーノは引き金を引くことができなかった。
ティッツァーノは馬鹿の一つ覚えのように、その背中を見続ける。
それは何故か。ティッツァーノは今気がついたのだ。プロシュートが何故彼を殺すことなく、そして何故平気で銃を手渡したのか。
それに今、ようやく、気がついたのだ。

172 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:06 ID:pK8x81ZQ

男は知っていた。ティッツァーノが引き金を引けないことを。親衛隊所属の男に自分が殺せないことを。
武力や方法という意味ではない。
ティッツァーノには覚悟がなかった。喰らいついてでも必ず成し遂げて見せる、そんな覚悟が感じられなかった。
ティッツァーノには勇気がなかった。どこかで諦め、言い訳していた。思考即行動、それを妨げる、一歩踏み出せない遠慮を男は嗅ぎ取っていたのだ。
だから銃を渡した。だから背を向け、彼は一目散に走っていたのだ。何も心配することなく、殺されないという確信を持って。


『覚悟』がないことを見透かされた。そう、ティッツァーノは『情け』をかけられたのだ。
見下され、蔑まれ、憐れみを……ッ 同じギャングでありながら、暗殺チーム、プロシュートという人間に彼は……ッ

自分の愚かさに気づいたティッツァーノは愕然とした。そしてそんな彼の視線の先から、いつのまにか男は姿を消していた。
後に残されたのは惨めで、間抜けな、敗残兵。真っ暗やみの廊下の下、放り出された一人の、哀れな敗北者。
たった今受けた屈辱、そして最後に男が投げかけた視線。男の後ろ姿が彼の瞼に焼きつき、ティッツァーノはただ、立ち尽くすしかなかった。

173 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:23 ID:pK8x81ZQ




研ぎ澄まされた感覚は玄関への扉をぶち開くとともに、一つの殺意を感じ取った。
すかさずプロシュートはその場から逃れるよう、近くの机の下へと飛び込んだ。
直後、彼がたった今いたであろう場所に弾丸が撃ち込まれる。タァン……、重量感を持った銃撃音が部屋内にこだましていった。
プロシュートは闇夜に目をこらし、狙撃手の姿を探る。同時に、今ここで何が起きているのかを、瞬時に把握していく。

見張り番を頼んだはずのマジェントの姿、見当たらず。マジェントが見張っていたはずの老人、同じく見当たらず。
室内、荒れた形跡有り。広いロビーは所々影になっていて隅まで見渡すことはできないが、物を引きずった跡や、家具が動いた形跡がある。
破壊された形跡、特になし。何者かがここで暴れまわったことはなさそうだ。それはつまり、大規模な戦闘は起きていないことを意味している。

プロシュートは考えを進めていく。弾丸飛び交う戦場であろうと、彼は常に冷静だ。

プロシュートはマジェントがもう既に死んだものとして考えを進めていた。それは何故か。
マジェントが言いつけを破って単独行動をするようには思えないのだ。短い付き合いだが、ある程度、彼のことは理解したつもりでいる。
そんな彼がいるべきはずの玄関にいない、姿を見せない。となるとその理由は必然的に一つになる。
マジェントは姿を現すことができない状態にいる、すなわち既にマジェントは死んでいるのではないか。
プロシュートはそう考えていた。

『20th Century BOY』は強力なスタンドだ。だが強力な能力ゆえに、本人の注意力のなさは際立つほど、ない。奇襲から即死、その可能性は十二分にあり得る。
また、これは室内が荒れていないことの裏付ともなる。侵入者はマジェントを一撃で仕留めた、あるいは本人が侵入に気づく以前に殺したのではないだろうか。

ここで疑問になって来るのが、果たしてプロシュートを撃ち殺しかけた相手とマジェントを仕留めた相手は同一人物なのかという点だ。
プロシュートが部屋に飛び込んできたとき、咄嗟に相手は銃を使って攻撃してきた。そう、主な攻撃手段は銃なのである。
ところが玄関の窓は一枚も割れていない。それどころかヒビ一つ入っていない。
そうなると、仮にマジェントが銃殺されたとすれば、窓の外からの狙撃ではなく、面と向かって射殺されたことになる。
それは不可解だ、プロシュートは不機嫌そうに顔をしかめた。
どれだけマジェントがマヌケであろうと、面と向かって銃殺されるほどの大馬鹿ものではないとプロシュートは思っている。
ならばマジェントを殺した人物と、今プロシュートを狙撃している者。これは別々の人物ではなかろうか。
つまり、病院内に忍び込んだ参加者は、少なくとも二人以上いるのでなかろうか。

そこまで考えた時、もう一度聞こえた銃声に思わずプロシュートは首をすくめた。
一度思考を中断すると、男は神経を集中させ気配を探っていく。銃弾は彼に着弾することなく、見当違いのところへ撃ち込まれていた。
銃撃音は室内に反響するため、音から狙撃手のいる位置は容易には掴めない。しかし銃撃の際出たフラッシュのような閃光、それを彼は見逃さなかった。
闇夜に浮かぶガラスが鏡代わりに、一瞬だけ散ったスパークを映しだしていた。そして青白く浮かび上がった少年と少女の顔を、プロシュートは見過ごさなかった。

174 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:23:44 ID:pK8x81ZQ

『グレイトフル・デッド』はそこまで素早いスタンドではないが、注意をしていれば銃弾をはじき返す程度のことは可能だ。
プロシュートは音もなく身体を滑らし、机の影から抜け出す。そうして徐々にバリケートへと近づいて行く。
暗殺者は影のように静かに、闇へ姿を紛らし、接近する。彼の狙いは今しがた見つけた二人組に接触すること。

マジェントを打ち破った者、プロシュートを狙う子供二人組。どちらが与しやすいかと問えば、間違いなく後者だ。
敵の敵は味方。実際のところ子供二人を味方にしたって、戦力になるとは思えない。だが、彼の狙いは二人を味方につけることよりもむしろ、彼女たちに敵として認識されないことにある。
一対一対一 よりも、ターゲットを一つに絞り込む。懐柔する際にリスクはあるが、とりあえず背中を撃たれる危険が減れば、それだけでもお釣りが返ってくる。

体勢を低く、ソファーの影に滑り込んだ。目標の二人組は、まさにこのソファーの裏側に陣取っているに違いない。
困難な事は二人組に話をつける前に狙撃されることだ。同時に、第三の敵にも注意を払わなければならない。
厄介な任務だな、プロシュートは冷静な分析の元、そう判断する。しかし最悪ではない。
これより遥かに難関な暗殺を、彼は何度も成功させてきたのだ。この程度で怖気ついたり、怯んだりする男ではない。

「おい、ガキとお嬢ちゃん。聞こえるか」

距離にするとソファーを挟んで僅か一メートル以内。物陰の裏側でビクリと人が震える気配がした。
可能ならばゆっくり、じっくりと説き伏せたいところだが今は時間がない。マジェントを殺した未知なる牙が、今こうしている間にもプロシュートに迫っているかもしれないのだから。
できる限り単刀直入に。そう思い、男は畳みかけるように言葉を繋げようとした。

直後、長年の勘が我が身に迫る危機を察知する。直感的に、二人組がいるであろう、ソファーの裏側へ身を躍らせた。
ほぼ同時といっていいタイミングで、プロシュートの耳を打つ二つの風切り音。
一つは銃声、一つは彼を掠めるように飛ばされた針の発射音。間一髪のところで、男は危機を脱することができた。

突っ込んだバリケード内、ソファーや椅子に囲まれた狭い空間。飛び込み、受け身をとると、プロシュートも思わず息を吐いた。
流石に紙一重のところで死地を切り抜けると肝が冷える。きっとこの二人の銃撃がなければ、針はプロシュートの身体を的確にとらえていただろう。
ほんのわずかだけ、本当に掠めていっただけだというのに、その針はプロシュートの上等物のスーツを台無しにし、その下の皮膚まで被害を及ぼしていた。
火傷のように、チクリと走る痛みにプロシュートは生きていることを実感する。そして同時に、直撃していれば死は免れなかったな、そう思いゾッとした。

とにもかくにも、予定していた形とは随分違うが、二人組と接触することには成功した。
プロシュートが死なないよう銃で牽制してくれたところをみると、敵意はそれほどないとみていいだろう。
借りを作ってしまったことは癪だが、この際、それは置いておく。とりあえずの礼を言おうと、彼は振り向き、そして、開きかけた口を閉じた。

少女にほとんど抱きかかえられるように、支えられている少年。彼には腕がなかった。
本来なら腕があるべき場所にポッカリと闇が存在し、歪んだ暗闇がプロシュートを見返していた。
ほとんど涙目の少女が、少年の顔にかかった髪の毛をかきあげてやる。鬱陶しそうに彼は少女を睨みつけるも、文句を言わず、ただ辛そうに深呼吸を繰り返していた。

175 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:24:45 ID:pK8x81ZQ


 ―― もう長くないな


プロシュートは冷静に、そう判断する。
今しがた男を射殺しかけた針を、少年はまともにくらっていた。針は十中八九スタンド能力だろう。
刺さった部分から肉を溶かす毒が流れていくようだった。毒は継続的なもので、その上即効性充分のようだなと、プロシュートは自分の傷と少年の状態を確認し判断する。
針が着弾したのは左肩の下あたりだろう。場所が悪かったな、心臓まで毒がまわり、その上肉の爛れが止まらない。
やけに少年の呼吸が荒いのは、融解が内蔵機器まで届いているからだろう。脂汗の量が尋常でない、体温調節もやられているのかもしれない。
皮肉な事でいくらここが病院だからといって、処方できる医師もいなければ、スタンドを処置できる特殊器具なんぞも存在しない。
つまるところ、少年は運が悪かった。プロシュートに言わせればたったそれだけのことだった。

そう、普段の彼ならばそれまでだったであろう。苦しそうなガキがいようと、彼には関係ない。
彼はそれこそ、哀れなガキが惨めに死んでいくところを嫌になるほど見てきた。今さら目の前で二人や三人ガキが死のうと、何ら感慨を抱くことない。
そういつもの彼なら考えていたであろう。

だが、今回ばかりは違った。プロシュートは手を伸ばすと少年の頭を乱暴に握った。そして同時に真正面から、彼と視線を合わせた。

「―――……チッ」

“人殺しの目”、少年の奥底にはプロシュートの中にも潜む狂気と殺意が、幾重にもなって渦巻いていた。
彼は自分自身を少年の中に見た。少年の中に潜む、どうしようもない燃え盛る情熱を、彼は見逃すことができなかった。
見つめ合ったまま、プロシュートはゆっくりと口を開く。僅かにでも視線がぶれるようであれば、そこまでのガキだ。
だがもしもこの子供が、復讐を願うようならば。心の底から、神に何者かを殺すことを祈るような狂信者であるならば。

「坊主、殺したいか。お前をこんな風にしちまったどっかの誰かが、憎いか、殺したいか」

不用意に答えれば浅はかさを見透かされ、考えなしにその問いに答えれば後悔することになる。
低く押し殺したその問いかけには凄味があった。長い間その界隈に身を置いた、一流の男が醸し出す威圧感に、千帆は身を震わした。
だが、早人は脅えなかった。唾を飲み込み、呼吸を整えると言葉を返す。小さな声だったが、一切迷いのない返事だった。

「憎くはない。どうしようもないことだったし、今さらどうのこうのしたって自分が手遅れだって事には気がついてるさ」

だけど、そう最後に付け加える早人。少年は男を見た。男は少年を見返した。

「決着がつけたいんだ。腕の一本をもいだところで僕が負けたってことにはならない。戦いは、まだ終わってないんだから。
 僕は見せつけてやりたいんだ。僕の覚悟を、僕の根性をッ
 終わらせるんだったら僕の手で。このまま、舐められたまま終わるだなんて、まっぴらだ……ッ」

176 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:26:02 ID:pK8x81ZQ


少年がそう言いきると、再び沈黙が三人を包み込んだ。
そして、唐突に男は少年に問いた。名前は何と言うのか、と。
少年は答えた。川尻早人、そう答え、彼は男の返事を待った。
二人は会話を終えても互いを見つめ、そしてどちらからともなく息を吐いた。


「いいだろう……助けてもらった借りもある、一時とはいえ手を組んだ相手を始末された“礼”もある。
 川尻早人、テメーの依頼、暗殺チームのプロシュートが、確かに請け負ったッ」


プロシュートが言った。その言葉には力が込められ、彼の目はらんらんと輝いていた。
単なる怨恨だけならば或いは話はもっと単純に終わっていたのかもしれない。男はそこまで少年に期待していなかったのだから。
だが彼は会話を通し少年の覚悟を受け止め、そして会話以上に心そのもので川尻早人の覚悟を理解した。
そしてその瞬間から、プロシュートにとって彼は少年ではなくなった。
男にとって彼もまた、認識すべき男になったのだ。敬意を払うべき誇り高き魂を、少年の瞳に見つけたのだ。


「さぁ、出てこい、臆病者のマヌケ野郎ッ 出てこないってなら……俺のほうから炙りだしてやるぜッ」


そう、プロシュートは見たのだ。川尻早人の瞳に映る漆黒の殺意が拭い難い、屈折した輝きを放っているのを。


「グレイトフル……、デッドォオオ―――ッ!」


傍らに出現したスタンドが煙を撒き散らしていく。病院全てを飲み込むような、濃縮された霧が辺りを漂い始めていた。
やるとなったらとことんやる。手を抜かず、最初から全力全開の真っ向勝負ッ それが川尻早人への最大限の礼儀となるッ
プロシュートは叫ぶ。己の分身の名を呼び、彼はありったけのスタンドパワーを振り絞った。

177 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:27:14 ID:pK8x81ZQ




グレイトフル・デッド、彼のスタンド能力は老いを増進させること。
その射程距離は丸々列車一つを包むほどであり、また直に触れれば一瞬で相手を老化させることが可能だ。
だがこの能力、一つ弱点がある。氷や冷水によって体温をさげれば、老化のスピードが緩やかになってしまうという点だ。
尤もこの弱点に関しては、スタンドの担い手であるプロシュート自身には関係ない。
彼にとっては未来の出来事だが、実際にプロシュートは護衛チーム暗殺の際、自らを老化させることでグイード・ミスタを欺いたことがある。
すなわち、彼自身は老いの超越者なのだ。プロシュート自身は、老いのスイッチを自らオン・オフ、切り替えることが可能なのだ。

そう、可能『だった』はずだ。スティーブン・スティールによる、ふざけた制限というものがなければ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
「プロシュートさんッ?!」

千帆が悲鳴を上げた。彼女の金切り声を無視して、プロシュートは構わずスタンド能力を発動し続けた。
彼の体が酷使に耐えかね、老木のように枯れ果てて行っても、ボロボロと崩れ始めても。男はスタンド能力を止めようとしなかった。
プロシュートが吠える。辺りに漂う霧が一層濃くなり、彼自身の体の震えが大きくなった。
それでもやめないッ プロシュートは叫び、病院全体がビリビリと揺れ始めていたッ

プロシュートはここに来るまでに支給品の水を使い切っていた。それは何故か。
制限だ。忌々しいことに、彼のスタンド能力は制限されていたのだ。それも、彼が最も屈辱的だと思う方法で。
射程距離が制限されていたならば、戦い方を変えればいい。能力発動に時間がかかるようなら戦略を練り、頭を絞ればいい。
だが主催者は違った。彼らが仕掛けた制限とは『プロシュート自身にも霧の効力が発動する』、そして『プロシュート自身で老いのオン・オフをコントロールできない』というものだった。

これによって、スタンド使い本人であろうと老いを解除するには身体を冷やさなければならなかった。また、老人に扮して行動することも不可能になった。
だから彼は当初、マジェントと遭遇した時、水をかぶっていたのだ。自らのスタンドの不調に気づき、検証を重ね、彼は自身の能力の異変に気付いたのだ。
制限を気にしては全力で戦えない。必ずどこかでブレーキを踏みながら戦わざるを得なくなる。
それは胸糞悪くなるような、屈辱的な気分であった。怒りのあまり吐き気を催したほどだった。
彼らが施した制限とは文字通り、飼い犬に首輪をつける行為であったから。暴れる獣の牙や爪を奪う行為であったから。


   だがッ! プロシュートという男はッ だからといってそこで留まるような『臆病者』では断じてないッ!

178 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:28:21 ID:pK8x81ZQ

「いったん食らいついたら腕や脚の一本や二本、失おうとも決して『スタンド能力』は解除しないッ!
 やれ、グレイトフル・デッド……全力全開、この病院を、崩壊させてやろうじゃねーかッ」

男は思う。川尻早人の言うとおりだ。舐められたままで終わるだなんて、まっぴらだ、と。
その通りだ。彼はプロシュートと同じだ。プロシュートと早人は似ているのだ。
川尻早人は針のスタンド使い、プロシュートはこの催しものを管理しているクソッたれ眼鏡ジジイ。
相手は違えど互いに抱く感情は一緒だ。それがわかったからプロシュートは手を貸したのだ。
自分と同じ、誇り高い魂を早人の中に見つけたのだから。

「目にもの見せてやろうじゃねーか、川尻早人……ッ
 踏ん反り返って、こっちを見下す頭でっかち野郎。イイ気になっていられるのも今のうちだ……ッ!」

川尻早人、そして双葉千穂のみを避けながらスタンド能力を展開していく。それも制限下という慣れない状況で。
だがプロシュートはやってのけた。自らの体に鞭を撃ち、加速的な疲労を身に感じながらも、彼はスタンド能力を解除しない。
彼は屈しない。他人が作ったレールなんぞぶち壊し、囲い込まれたルールを蹴破った。
死をもってしても、プロシュートの誇りだけは奪えやしないッ!

直後、ソファーと椅子の隙間をぬってプロシュート目掛けて飛ぶ針一群。
目で捕えど、回避が間にあわない。老化した身体は言うことを聞かず、プロシュートは迫りくる針を前に動けない。
だが焦りはなかった。とっさに千帆が自らのデイパックを放り投げるのが目に映った。針はいつものスピードもキレもなく、少女でも十分対処できるほどであった。
凶暴な笑みが男の口元に浮かんだ。グレイトフル・デッドは効いている。それは針のスピードが格段に落ちたことからも明らかだった。
そしてクソッたれスタンド使いもそれがわかっているから、虫の息の早人よりも、容易く仕留められるであろう千帆よりも、プロシュートを狙ったのだ。

プロシュートが吠える。隣で少年が、少女に寄りかかりながらも銃を構えた。
ピンチの後にチャンスあり。射撃型スタンドは攻撃の際、一番大きな隙を生む。攻撃は即ち、自らの位置を知らしめる行為なのだから。

「やれ、早人ッ!」

鳴りひびく銃声、再度飛来する針。弾丸と針は宙で交差することなく、それぞれがターゲット目掛けて飛んでいく。
銃弾は獲物をしっかりと捕えていた。川尻早人はやってのけたのだ。彼は自らの屈辱を、その手で晴らすことに成功した。
耳障りな獣の悲鳴が天井に反響し、男は少年が成し遂げたことを確信した。そして同時に、自分がどうしようもない状況に陥っている事も、また、理解した。

銃弾と同時に放たれた針、これに対処できる人物がいない。
早人は銃を握っていて、片腕はない状態。千帆はそんな早人を抱え、狙いがぶれることないよう支えていts。
自身はどうだ。いいや、彼はとうに限界を迎えていた。
病院を包み込むほどの霧を展開しつつ、早人たちの場所にだけ能力が行かないようコントロール。その上、自らも可能な限り老化しないように神経を振り絞ってきた。
それでもいくらか霧はコントロールしきれず、プロシュートは弱っていた。飛んでくる針を避けられぬほどに、彼は力を振り絞っていたのだ。

針の狙いの先はプロシュートッ! 肉溶かす死神の刃が、彼に襲いかかろうとしていたッ!
迫る……迫るッ! 回避、間に合わない。撃撃、整わないッ
身体を捻るも、射軸から逸れることはできないだろう。軌道を辿っていけば、針はプロシュートの頭部のど真ん中を直撃する。
即ち、プロシュートはここで死ぬ。男の戦いは呆気なく、ここでお終いだ……―――

179 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:28:44 ID:pK8x81ZQ


 ―――連続して、銃声音が響いた。放たれた銃弾がプロシュートの目前で、針を一つ残らず、弾き飛ばしていった。


振り向けば、廊下へ続く扉の脇に人影。いつの間に、いつからそこいたのだろうか。
白く長い髪をなびかせた一人の男が、こちらに銃を向けたまま、そこに立ちつくしていた。
手に持った銃口から立ち上る煙。プロシュートの危機を救ったのはティッツァーノ。
今しがた、プロシュートによって生き永らえた男が氷のように冷たい目で、暗殺チームの男を睨みつけていた。

「……これで貸し借りはなしだ」

不機嫌そうに、彼はそう言った。そしてもはや関係なし、そう言いたげに壁に背を預けると三人と一匹の様子をただ見守っていた。
プロシュートは口角を釣り上げ、何も言わなかった。無様なところを見られた気恥ずかしさがあったが、それを振り払うように彼は今一度、力を振り絞る。
スタンドを再度出現させ、大地へと掌を叩きつける。スタンドパワー全開……ッ! 彼はもう一度、あらん限りの力で叫んだッ!

「グレイトフル・デッドォオオ―――ッ!」

一瞬の静寂が訪れ、そして、ギャース、そう小さい鳴き声が聞こえてきた。
早人の銃弾を喰らいながら、逃げおおせようとしていた小さなスナイパー。
立ち込める霧の中、鼠は手足が痺れたかのように震わせ、弱弱しげにその場に倒れ伏した。
こうして獲物は遂に捕えられ、ここに戦いは決着した……。

180 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:29:02 ID:pK8x81ZQ




這いずるように少年は一歩一歩確実に、獣の元へ向かっていく。
千帆は不安そうに、彼より一歩下がったところで少年を見守り、時に腕を伸ばしてはひっこめるを繰り返していた。
早人を助けるべきか否か、止めるべきか黙って見守ればいいのか。彼女にはわからなかった。

早人の額に浮かんだ脂汗が、ピカピカに磨かれたフロアにこぼれ落ちる。
青を通り越し真っ白な顔で、少年は手が届く距離まで鼠に近づくと、そこで力尽きたかのように座り込んだ。
慌てて千帆は早人を助け起こす。ぜぇぜぇ……と整わない呼吸を繰り返し、彼は一息つくと、手に持つ武器を獣へ向けた。
いつの間にか明るくなり始めた東の空を、その真黒なピストルが映し出していた。少年は目を細め、一瞬だけその光景に目を奪われた。

千帆は湧き上がる感情をグッとこらえ、零れ落ちそうになった涙をなんとか止めた。早人が泣いていないのに自分なんかが泣いていてはいけない、そう思ったから。
膝の上で少年を抱え、早人が銃を構えるのを彼女はただひたすら見守った。
弱弱しく震える獣は見るに堪えぬ痛々しさだ。だがこのネズミは人を二人も殺し、そして今、早人をも殺しかけているのだ。

一思いに終わらせてあげて。或いは、気の済むまで早人君の好きなようにしたほうがいい。
一体どちらの言葉が真実なのか。こんな時にどんな言葉をかければいいというのだろうか。
どんな気の利いた台詞も、心をこめた言葉も、空回りしてしまう。心を滑って、中途半端に浮かんでしまう。
言葉を選ぶことが唯一できることだというのに、自分は一体なんと無力な事だろう。
千帆は湧き上がった幾多もの感情を飲み込んで、同時に再度せりあがった涙を根性で押し込んだ。
見守らねばならない、早人の雄姿を。見届けねばいけない、自分のした行為の結末を。
岸辺露伴の言葉が千帆の心を揺さぶり、彼女は涙をぬぐうと今度は胸を張って、凛と姿勢を正した。

早人の腕が震える。もはや銃を持つのも、腕を上げることすら辛そうだ。
滝のように流れ出た脂汗が掌にも広がっている。拭っても拭っても、銃のグリップがぬめり、手のひらを滑っていく。
早人も自身がながくない事をわかっている。だからこそ、最期の決着は自分自身で。終幕は自分で締めてこそ、そういった思いが彼を突き動かす。

だがそれでも、その小さな身体には容赦なく限界が訪れていた。こればかりは誤魔化しようがなかった。
やっとこさで持ち上げた銃口、その向きが安定しない。小さな鼠の身体を前に、震える手が狙いを定めさせてくれない。
そうしているうちに痙攣はさらに振り幅を大きくしていく。
気持ちとは裏腹に、身体が言うことを聞いてくれない。視界も段々狭まってきている様だった。
ここまでか……、せっかくプロシュートの助けを借りたというのに……ッ それでも僕は、決着をつけられずに……ッ

「早人君……」

181 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:30:30 ID:pK8x81ZQ

銃を握る掌がぽかぽかした暖かさに包まれた。
ほっとするような柔らかみに、落ちかけた瞼を強引にこじ開ける。見ると、千帆のほっそりとした手が自らの手を覆うように添えられていた。
手を重ね、共に銃を握る。滑り落としそうになっても、千帆が支えてくれる。離しそこなっても、千帆が受け止めてくれる。
思えば、左腕を失ってからずっとそうしてもらっていたはずだ。けれども早人は今ようやく気がついた。
どれだけ自分が彼女に助けられ、また、どれだけ彼女が自分のことを気遣ってくれていたか。
少し気づくのが遅すぎたかな、そう考えて早人はひっそりと笑った。

拳銃を持ち上げる。もう手は震えていなかった。瀕死の鼠が懇願するような目でこちらを見つめている。
大丈夫、僕ももうすぐそっち側だ。意志が伝わるかどうかはわからないが、少年は弱弱しく笑いかける。
ひょっとすると鼠からしたら止めを刺す前の残忍な笑顔に見えるのかもしれないな。なんだかそう思うと可笑しかった。

自分が死にかけているのは彼女のせいだ。湧き出るように心に響く恨み節。仄暗い声に早人はイエスと返した。
そうだ、確かに千帆がいなければ自分は死なずにすんだ。鼠が仕掛けた罠に、先に気がついたのも自分のほうだ。
彼女を庇う必要がなければ針を避けることもできたし、そもそも病院にも来ていないかもしれない。
そう考えると、確かにそうだ。千帆は間違いなく、早人の死に対して責任がある。それは動かすことのできない、れっきとした事実であった。

「それが……どうしたッ」

そうだ、だからなんだというんだ。早人はその事に後悔はない。千帆と共に行動したことを悔やむことは一切ない。
この舞台で千帆に会った時、彼自身が言ったはずではないか。足手纏いなんだ、お姉ちゃんは。お姉ちゃんは甘すぎるんだよ、と。

だがその甘すぎる少女がついてきたとき、それを許したのは誰だ? 早人だ。
お節介で、世間知らずの少女があちこち首を突ッこんだ時、何も言わなかったのは誰だ? 早人だ。

力ない、渇いた笑い声が漏れた。ああ、そうだ。早人がこんなにも千帆のことを嫌っていたのは同族嫌悪ゆえの事。
結局のところ、自分だって非情に徹しきれなかった。殺し合いだなんて極限状態で虚勢を張って、母親を守ろうと背伸びしてきた。
それなのに千帆といったら、マイペースで、図々しくて、怖いもの知らずで……―――

「まったく、弱っちゃうよ……」

自分が否定し、なんとか目を逸らしてきたことを堂々と恥じることなく。
彼女はこの舞台の上でもあるがままの自然体で、生きている。
嫉妬にも似た感情なのかもしれない。自分は母親を守ろうと躍起にもなっているのに、千帆は自然体で、感情的で、我慢知らずで。
強がっている自分が馬鹿みたいじゃないか。力んでいることがアホみたいに思えるじゃないか。
だから早人は千帆にどなったり、苛立ったり、噛みついたりしたのだ。
あるがままの、子供のままでいられる彼女が、早人は羨ましかったのだ。彼は夢見る少年であるには、いささか修羅場を潜り抜けすぎていた。

「大丈夫、怖くないから…………」

182 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:30:51 ID:pK8x81ZQ

マグナムのトリガーを千帆の細く長い指が押し下げる。
怖がっているのはお姉ちゃんじゃないか。震える声でそう言った千帆をからかいたくなったが、やめておいた。実際その余裕もなかった。
着実に、自分に残された時間は減ってきていた。早人はなんとか力を振り絞り、引き金へと指を伸ばす。
強張った指を苦戦しながらもなんとか撃鉄にそえ、早人は再度力を尽くして身体を起こした。
ふと、視界が広がり早人は傍らのガラスに映った自分たちの姿を、改めて見直した。
大きく黒い銃を、子供二人が押し合うように握る姿。不格好な姿に思わず笑ってしまいそうだった。なんとも滑稽な姿だった。

「ほんと……お人好しなんだよ、お姉ちゃんは」

千帆のひきつった横顔を眺め、ポツリとそうこぼした。実のところ、早人が千帆にやけに突っかかっていたのにはもう一つ理由があった。
認めるのは恥ずかしくてここまで誤魔化してきた。だが、早人は最後になってようやく、その事を受け入れた。

千帆は彼の母親に、どことなく似ているのだ。
感情豊かでコロコロ表情が変わっていく。素直じゃなく、お節介なうえに頑固者。そうかと思えば、飾らずストレートに気持ちを伝えてくる。
いうなれば、彼女への抵抗はささやかな母親への反抗期みたいなものだったのだ。
癪だったが早人自身どこかで、母親に甘えるように彼女に甘えている部分があったのかもしれない。きっとそうだったのかもしれない。

「ママ……」

死ぬのは怖くない、なんてプロシュートの前では啖呵を切ったが、実際やっぱり怖い。
段々と体が冷えてきた。意識もはっきりしないし、どことなく視界もあいまいだ。
これが死ぬ事かと思うと、恐怖がない、だなんて口が裂けても言えない。
怖いし、独りぼっちだ。あのどこまでも底なしの闇に自分が呑まれていくのかと思うと、気がおかしくなりそうだった。
やっぱり死にたくない、まだまだ生きていたい。早人はそう思った。
涙が自然と込み上げてきたが、ここで零すと情けなくて、男の子の意地でそこはグッとこらえた。
怖くて怖くてたまらず泣け叫びたくなったけれども、なんとかそれだけは踏ん張った。

「……なんで泣いてるのさ」
「……早人君の分まで、私が泣いてるのよ」

183 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:14 ID:pK8x81ZQ

だというのに、まただ。またも千帆は早人の意志なんぞ関係なしに。早人の気持ちなんてお構いなしに。
ポタリポタリと早人の掌に水滴が降りかかる。見るまでもなくわかった。千帆が人目をはばからず、泣いていた。
宝石のように綺麗な瞳から、キラキラと輝く水滴が流れ落ちる。綺麗だとは思ったが、口に出すと何だか悔しいので早人は黙ったままだった。
千帆の目から水の蕾が、とめどなく溢れ、落ちていく。
その美しいこと! 健気な様子も相まってか、千帆のその涙にくれる姿はとても印象的だった。

一滴落ちるたび、早人の中で邪念が消えていく。
恐怖が、妬みが、憎しみが。怒りが、悲しみが、寂しさが。
水滴とともに、負の感情は流れ落ち、早人の心は澄み渡っていった。湖のように穏やかで、波一つないほど平穏だった。
ふと頬に手を伸ばしてみると、早人自身もいつの間にか涙していた。口元には笑顔が浮かんでいるというのに、涙が止まらない。
せっかくさっきは頑張ってこらえたというのに。まったく台無しだ。本当に、千帆は困ったものだ。
困らされたついでだから、最期は自分が千帆を困らせる番だ。そう早人は思い、少女に話しかける。
彼が託した願いはたった一つだけ。泣き笑いのまま、最期に千帆に囁くような声で早人は頼んだ。

「ママに、よろしく伝えておいてくれない……?」

返事はなかった。決壊した感情から、千帆は嗚咽を漏らし、僅かに頷くことしかできなかった。
それでよかった。きっと彼女はやり遂げてくれるだろう。これで心おきなく逝くことができる。
早人は最後にやり遂げた。戦いを終え、伝えることを伝え、もう少年がなすべき事はない。
達成感とともにこみ上がってきた疲労感。倦怠感に身を任せ、早人はゆっくりと千帆に身体を預けた。
そして最後、千帆に、おねえちゃんと声をかける。そして手に持つ拳銃のグリップを力強く握った。
無言で伝わる合図に、少女は頷き、そして掌と心を重ねた。


そして早人は引き金を引く。銃弾は宙を裂き、狙い通り、獣の心臓を捕えるだろう。
叫び声をあげる暇もなく、いたぶらずに済めばそれは幸いだ。早人は最期、満足そうにそっと呟いた。
少女にあてた、最後のメッセージだった。それが銃声に紛れ、彼女に届いたかどうかは早人にはわからなかった。


「ありがとう……」




   ―――パァン………………!







184 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:35 ID:pK8x81ZQ

これだけ明るいと月の位置にも気をつけないといけないな。
頭上にそびえる大きな月を眺め、そう考えていた男は直後、苦笑いを漏らす。
こんな時まで仕事のことを考えているなんて、さすがにワーキングホリックがいきすぎだ。
第一もう夜は明けようとしているのだ。東の空に顔をのぞかせた真っ赤な球体を眺め、プロシュートは大きく息を吐いた。
朝の陽ざしが立ち上る蒸気を反射すると、寒い冬に吐いた息のように、白い霧がうっすらと漂っていた。

病院入り口前の段差から立ち上がると、ズボンについた埃をはたき落とす。
腫れぼったい眼をこすり、身体を伸ばしていると、後ろで自動ドアが開く音が聞こえた。プロシュートは病院から出てきた人物に目を向けた。

プロシュートは普段タバコを吸わない。ウマいマズイは別として、臭いがつくのが嫌なのだ。
タバコの臭いは本人が気づかぬ以上に服についてしまうもので、それが原因で任務失敗なんてことになったら、悔やんでも悔やみきれない。
なにしろこのご時世、嫌煙家はすごい勢いで増えつつある。ターゲットもタバコのにおいに敏感になりつつあるのだ。
それがいいことかどうかはわからないが、少しでも任務の成功率を上げるためなら努力は惜しまない。
だから彼はタバコを吸わないのだ。決して吸えないわけではないし、嫌いでも好きでもないが、ただ吸わない。
プロシュートとは、そういう男なのだ。

故に男が彼に向かってタバコを突きだしてきたとき、彼は少し迷った。
しかし断るのもなんだか野暮で、その上誘い方が強引だったものだから、なし崩しで彼は一本受け取った。
すかさず渡されたライターで火をつけると、肺一杯に煙をため込み、そして、大きく一服する。
爽快感も、清々しさも別段これと感じなかった。ただそのままボケっとしているのもマヌケっぽいと思ったので、何度か煙を吸い、そしてその度、吐き出した。

時間が経つにつれ、ニコチンが身体中に回っていくのがわかった。同時に身体のあちこちに鋭く、ズン、と響くような痛みを感じた。
表面上は平然としているよう努めるが、相手に気づかれぬよう、プロシュートは自分自身の体を逐次点検していく。
短時間でダメージを追いすぎたな、そう反省した。一方で、あの厄介なスタンド使い相手にこれだけ軽症で済ませられたのは幸運だったな、彼はそうも思った。

タバコが半分まで短くなったところで、咥えていた吸殻を落とし、靴の裏で踏んづけた。
隣の男を見るとちょうどよく、彼もまた一服を終えたところだったようだ。都合がいい、なすべき事はさっさと済ませてしまうに限る。
プロシュートは傍らにいる男に背を向け、数歩だけ足を進める。背中に突き刺さるような視線をあえて無視し、彼は必要以上にゆっくりと歩いた。

「いつから気がついていた?」

振り向くと同時に、眼前の男はそう問いかけてきた。右手に持った拳銃をギュッ……と握りしめたのが、傍目からみてもわかった。
すぐには返事をせずに、プロシュートは男の目を見つめ続けた。互いの視線が混じり合い、瞳の奥底、更に奥に潜む心を覗きこんでいるかのようだった。
依然そのままの眼差しで、暗殺チームの男は気だるそうに、口を開いた。

185 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:31:51 ID:pK8x81ZQ


「いつからと言われれば最初からだし、最期の最期まで確信はなかった。
 ただ言わせてもらえば、最初から病院内にいる参加者全員、始末する予定ではいた。
 マジェントも、お前も、あの上議員さんとやらも」
「疑わしきは殺せ……ってか?」
「そういうことだ。特にマジェントは俺のスタンド能力を知っていた。
 アイツの事だ、放っておいたらあっという間に会うやつ会うやつ全員に言いふらしかねない勢いだった。
 そんな危険性も考えれば、始末しないわけにはいかなった。スタンド能力は俺にとっての死活問題なんでな」
「自分の尻拭いを口封じで補おうってか? 暗殺チームの名が泣くぜ」
「そういうお前さんもギャングが聞いて呆れるな。敵前逃亡、自信喪失。対した度胸だ、涙が出るほどご立派だ。
 お母ちゃんのお乳でも吸って、慰めてもらえばいいさ。おっと、タマナシ臆病者の場合は、“ぶ厚い胸板に抱いてもらう”、か?」


眼光鋭く、挑発に挑発を重ね合う二人。口調こそ冷静そものだったが、一色即発の空気が二人の間には漂っていた。
ティッツァーノが震える右手で銃を握り直す。プロシュートは重心を僅かに下ろし足裏で砂利をしっかりと踏みしめた。
あとはどちらが先手を打つか。達人同士が刀を握ったまま動かない、そんな肌を焦がすような緊張感が二人の間に流れていた。
瞬き一つ躊躇うような時間がいくらか流れ、二人の考えることは、ともに一つ。

これがそこらのナンパ道路や仲良しクラブであるならば、あるいは二人が虚勢を張ったチンピラ同士ならば。
なんてことない、二人は派手に喧嘩騒ぎを起こし、共にムショにぶち込まれ、そしてそれっきりだ。
それが普通だ。ぶっ殺すなんて言うが、本当に殺すやつなんかいるわけがない。死ね、なんて暴言を実行してしまうやつは頭のおかしな殺人狂だ。

だが不幸な事に、二人はギャングだった。それも他方は裏切り者、もう一方はそれを始末する命を背負った親衛隊。
尤も相容れない両者に、覚悟の決まった者同士。ならばこれは必然だ。戦いは必須であるほかない。

ティッツァーノの目にもう迷いはなかった。ここでひいたら、彼は彼でなくなってしまう。
一度ならず二度まで尻尾を巻いて逃げだすことは、死ぬより辛い行為だろう。
敗北を背負い続けて生き永らえるなんぞどんな拷問よりも、惨い処罰だ。
怒りのあまり、拳が震えた。彼は先ほどかけられた屈辱を、忘れてはいない。

プロシュートはとうの昔に覚悟しきっている。彼は一度として過去を振り返らず、神に祈ったこともない。
男はいつだって自分が正しいと思った道を歩んできた。全て背負い、頭を下げることなく歩いてきた。
それで戦う必要があるならば、彼は全身全霊を傾けて戦うだろう。今も、そして、これからも。
目前の男から立ち上る闘気を前に、武者震いをする。自分が生きている世界を実感する瞬間だ。

突如、身体がよろけるような暴風が吹きすさんだ。ティッツァーノの白い髪が風に煽られ、大きくなびく。
音を立て流れる気流に負けることないよう、彼は大きく叫んだ。

186 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:32:25 ID:pK8x81ZQ



「パッショーネ、ボス親衛隊、ティッツァーノ。スタンドは『トーキング・ヘッド』」


そして向かい合う男も、言葉を返した。


「パッショーネ、暗殺チーム、プロシュート。スタンドは『グレイトフル・デッド』」



 ―――いざッ 尋常に……ッ!



病院が、二人を覆うように影を落としていた。
その影を切り裂くように、東から昇った日が差し込んだ。
それが合図だ。男たちは同時に動いていた。


「ティッツァーノォオオオ―――――ッ!」
「プロシュートォオオオオ―――――ッ!」


光の道に合わせ、プロシュートが駆けていく。十数メートルあった距離を、一跳びッ 二跳びッ
己の分身、『グレイトフル・デッド』を纏うように呼び出し、男は吠え、駆けていく。獲物目掛けて、走っていくッ
ティッツァーノは黒光りする銃を振り上げ、凶弾を撒き散らす。そして同時にバックステップ、距離をとるッ
予想通りプロシュートは弾丸をはねのけ、頭を低くしたまま突っ込んできた。ここまでは思った通り。覚悟の差を見せつけるならば……次の一手だッ

直後、二人の間に一つのビンが放り投げられた。ティッツァーノが投じたのは消毒用アルコールのビン。
そう、真夜中時にティッツァーノが一人の男を始末した時のようにッ アルコールの引火による火炎攻撃ッ!
彼の狙いは銃撃でなく、灼熱の炎による真っ向勝負だッ 手に持った銃口がビンを狙う。着弾すれば、油の雨が容赦なく二人を襲うだろう。

187 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:16 ID:pK8x81ZQ


「グレイトフル・デッドッ!」

だがプロシュートは怯むことなく踏み込んだッ 常人ならば踏みとどまるところを、男はさらに加速した。
ビンに向かって身を乗り出し、さらに勢いをつけて突進したのだッ これしきのことで、プロシュートは止められない!
殺意を、死を幾らもってしても彼を止める事なぞ出来やしないッ それがプロシュートという男なのだッ!

そして それがわかっていたからこそッ 男がそんなことでは怯みもしないと知っていたからこそッ
ティッツァーノもまた、彼を上回るため、既に行動は完了していた! 無傷で済まそうなんて、そんな甘えた思考は一切ない!
後退から一転、急発進すると彼は銃を持っているというのに接近戦を仕掛けようとしていたッ!
そして同時に、頭上のビンを、銃弾で狙い撃とうと構えを取ったッ!

地獄の業火も生ぬるい、例えこの身焼き尽くされようともッ
二人の男が接近する。銃を構えたティッツァーノ、スタンドを従えたプロシュート。
届くはどちらだ? 拳か、弾丸かッ!


そのさなか、ティッツァーノは気がついた。刹那、訪れた辺りの変化に、彼は自らの敗北を悟った。
いつの間にか辺りを漂っていた霧が色を変えていた。白く薄かがっていた朝もやが、いつしか不気味な紫色の霧に変わっていた。
途端、手に持つ銃が鉛のように重くなる。踏み出す脚が泥に嵌ったかのようにもつれた。


 ―――これは…………ッ!?


銃声、風切り音、そして沈黙。
宙で割れることなく落ちてきたビンが、ガシャン、と音を立てて破裂した。続いて一つの影が地面にゆっくりと、倒れ伏す。
崩れ落ちたのはティッツァーノ、立ちつくすはプロシュート。勝負は決した。暗殺チームの一員、プロシュートの勝利だった。

188 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:29 ID:pK8x81ZQ

胸に空いた大穴から血が吹き出る。両手でいくら抑えても、後から後から底なしの泉のように血が湧き出て、止まらなかった。
瞬く間に辺りは血の池になり、その真ん中で陸に上がった魚のように、ティッツァーノは口を動かしていた。
呼吸ができない。血が止まらない。死に逝く定めだとわかっていても、やはりそう簡単には手放せなかった。彼は死に物狂いで、必死で、必死に生へと食らいつく。

頭上、影が覆いかぶさった。逆光で表情が見えない中、男は屈むとティッツァーノの右手に持った拳銃へと、手を伸ばす。
渡してなるか、そう思い歯を食いしばったが、虚しくなるほど簡単に銃は取り上げられた。
もう何の抵抗も無駄だ。まな板の上の鯛。現実は悲しくなるほど、非情である。

最期の瞬間、ピストル越しにティッツァーノは男の目を見た。
それを見た時、安堵にも似た感情が身体中を駆け巡り、彼は自分の全身から力が抜けるのがわかった。
ああ、それでいい……なんて美しいのだろう。
感嘆するほど、その目に慈悲は一切なく、憐れみも、同情もしない、真っすぐな目が彼を見つめ返していた。
口元が緩み、死にかけの男の顔に笑顔と思しきものが浮かんだ。諦めでもない、皮肉でもない。
沸き起こった感情は何だかわからなった。だが、それでも、彼は笑っていた。

「男一人仕留めるのに、えらく苦労したな……プロシュート?
 裏切り者は死ぬ運命だ。俺程度に苦戦しているようなら、この先、お前たちに未来はない」

細く皺だらけになった腕を、頭上に伸ばす。男に指を向け、彼は大見えを切った。

「勝利にはかわりがない。必ずやボス親衛隊はお前たちに死をもたらす……ッ」

男の表情は見えなかった。
言葉を返すこともせず、代わりにティッツァーノの耳に聞こえてきたのは彼が安全装置を引き下げる音だった。
無慈悲で、冷たい、機械的な音だった。


「そうだ、かわりない。俺たちの勝利には……」




   ―――パァン………………!

189 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:33:50 ID:pK8x81ZQ





歌が聞こえた。美しい歌声だった。
柔らかなメロディに、伸びのあるハミング。どこか故郷を懐かしむようなその歌は、プロシュートの足を立ち止らせた。
再度病院に足を踏み入れた男は、しばらくの間、その歌声に聞き惚れていた。
それでもいくらか経てば歌は終わり、辺りは再び沈黙に包まれる。男は玄関ホールを横切ると、うっすらと浮かび上がる人影に近づいていく。
人影がはっきりと見える距離まで近づくと、彼はそこで立ち止まった。

人影は一人の少女と、一人の少年だったもの。
少女は膝の上で死んだ少年を抱き、彼の頭を優しく撫で続けていた。渇いた涙の後がはっきりと残り、真っ赤に充血した眼が痛々しい。
少年に目をやると、その死に顔は大層穏やかで、まるで子守唄で眠りに落ちた赤ん坊のようだった。
悔いが残らなかったならそれでいい。プロシュートは自分の行いが少年の助けになったとわかり、少しだけ充実感を感じた。

気配を感じたのか、少女がこちらを見る。目をそむけたくなるほど真っすぐで、綺麗な目をしていた。
プロシュートは何も言わず、無言のまま。しばし二人は見つめ合う。視線を逸らしたのは少女のほうで、男が持つ拳銃に気づいた彼女が途端に身を固くした。
男はそれでも何も言わないままだった。弁明するでもなく、脅迫するでもなく。
彼女と同じように、自分の持つ拳銃を改めて見直す。親衛隊の男の血がこびり付き、グリップに至っては元の色がわからぬほどに真っ赤に染まっていた。
それを見ているうちに、男の脳裏を一つの言葉が横切っていく。今しがた、元の拳銃の持ち主に、彼が言った言葉だった。


   『最初から病院内にいる参加者全員、始末する予定ではいた』


顔をあげ、もう一度少女の視線を真正面から受け止めた。握り直したグリップは血が滑り、その拍子に渇いた血痕が剥がれ落ちた。
私も殺すんですか、少女が聞いた。寸秒も置くことなく、ああ、そう言おうとして……言い返せなかったことに男は驚きを隠せなかった。
何を躊躇っているのかまったくわからない。けれども普段であるならば、考えるまでもなく言えるイエスが、今は口に出すことができなかった。
自分の言葉が重みを持って、心臓辺りにぶら下がっている。込み上げた吐き気を無理矢理呑み戻したかのような、不愉快さだった。

だが、どれだけ僅かであっても、躊躇った決断に身を委ねるのは許せない。
不愉快さには意味がある。本能や直感は必然だ。なにか自分の中で不満や鬱憤があるからこそだが、一体それはなんだというのだろうか。
少女を殺すのには理由がある。必要もあれば、手段も選ぶほどある。ならば何故。一体どうして。

190 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:35:02 ID:pK8x81ZQ


「……ッ」

頭をぶん殴られたような衝撃が、次の瞬間プロシュートを襲った。
どんなことがあろうと一切ヒビを入れなかった男の表情に、亀裂が走っていた。
夢か幻覚か、プロシュートは少女の後ろに二人の男の姿を見た。
川尻早人とティッツァーノ、亡霊のように、彼女の目を通して二人が男を見返していたのだ。

人は誰でも甘さを持って生きている。誰もが心を鬼に、修羅のような人生を送れるわけではない。
漆黒の殺意を持つ男であっても。どんな時でも苦楽を共にしたパートナーを持つギャングでも。
人が人である以上、優しさや慈愛はどれだけ洗い流そうとも、落ちることのない業だと言っていい。そう、愛だってまさにそうだ。

罪を背負って生きていくこと。それはどれだけ難しく、辛いものなのだろうか。
誤魔化すでもなく、目を逸らすこともなく、受け入れる困難さを男は知っている。
彼がどれだけ長くをかけて、今の自分である覚悟をしたのか。心張り裂けるような葛藤がその裏には確実にある。

プロシュートが感じたのは凄みだ。ただの一人の少女、双葉千穂が背負う宿業の大きさ。
何千何万と人々を見てきた。人間の罪深さ、欲望の底なしさ、吐き気を催すような所業。
殺しに深く関われば関わるほど、人の本質から目を背けずには生きていけなかった。
だが違う、双葉千穂は違う。彼女の瞳に宿る意志は、清汚混在、彼がかつて見たことのないほど底知れない。
そう、無限に続くのではと思わせ、恐怖を抱かせるほどの深淵が、彼女の中に潜んでいた。

「……埋めてやるぞ」
「え?」
「川尻早人をだ。放送までしばらくある。気休めにはなるだろう」

男はそれに気づいてしまった。知らなければ、どれだけ彼にとって心穏やかに済んだであろう。
ただ一人の少女を始末した。それはきっと心乱すことない、いつもの彼でいれた、『あったかもしれない未来』だ。
だが、気付いてしまった。偶然であろうと、必然であろうと、運命であろうと。プロシュートは悟ってしまったのだ。
ならばもう戻れはしない。もう男は、振り向くことができない。

今、振り返れば。今、後戻りしたら。
それはプロシュートだけでなく、早人を、ティッツァーノを、そして彼が背負ってきた人すべてを侮辱することになる。

病院の冷たい床が、頭上の蛍光灯を反射した。
浮かび上がったプロシュートの顔は幽霊かのように青ざめていた。
だが、その顔から迷いは消えていた。暗殺チームの一員、プロシュートは振り返ると、千帆がついてくるのを待ち、そして裏庭へと姿を消した。

191 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:35:23 ID:pK8x81ZQ






誰もいない病院の玄関。
天井から漏れた一雫の水滴が、誰のものとも知れない血だまりに落ち、ピチョン……と音を立てた。








【虫喰い 死亡】
【川尻早人 死亡】
【ティッツァーノ 死亡】

192 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:36:15 ID:pK8x81ZQ

【G-8 フロリダ州立病院内/1日目 早朝(放送直前)】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:動揺、体力消耗(大)、色々とボロボロ
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.早人を埋めてやる。その後放送を待って行動。
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.千帆の処遇は保留。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:体力消費(中)、精神消耗(大) 目が真っ赤、涙の跡有り
[装備]:万年筆、露伴の手紙、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、救急用医療品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0:早人を埋めてやる。その後放送を待って行動。
1:とりあえずはプロシュートについて行くつもり。
2:川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
3:琢馬兄さんもこの場にいるのだろうか……?
4:露伴の分まで、小説が書きたい

【備考】
※『グレイトフル・デット』には制限がかかっています。が、精神力でどうともなります。水をかければ一瞬で治ります。
 あまりロワというものの制限が好きじゃないのでノリで書いていいと思います。
 一応具体的には 射程距離が伸びると疲れる、自身の老化コントロール不可 の二点です。が、気にせずブッちぎってもいいと思います。
※プロシュートは病院内に放置してあった基本支給品から水を回収しました。不明支給品も回収し、残りは荷物になるので置いて行く予定です。
※病院の玄関前にティッツァーノの死体が、玄関ホールにマジェント+上議員の合体死体、そして虫食いの死体が放置されています。
※ティッツァーノの銃をプロシュートが、早人の銃を千帆が、それぞれ所持しています。

193 ◆c.g94qO9.A:2012/06/07(木) 01:43:00 ID:pK8x81ZQ
以上です。誤字脱字、矛盾点などありましたら連絡ください。
前回も確かそうでしたけど、毎回こんな感じで少し遅れて投下してすみません。
タイトルは仮ですが「ろくでなしブルース」です。変えるかもしれません。

ベレッタの予備弾薬で少し気になった点がありました。
銃が15発単位なのに、予備弾薬が50になっているのって正しいのでしょうか。
イメージですが、カートリッジみたいな感じで弾補充はすると思うので、予備弾薬も15発単位では? と思い勝手ですが変えました。
銃について詳しい方、なにか知っていたら教えて下さい。

長くてきっと大変ですが、どなたか代理お願いします。

194名無しさんは砕けない:2012/06/07(木) 21:19:26 ID:UPGwu.Js
〜189まで代理投下しました。
190〜193の残りをどなたかお願いします。

195名無しさんは砕けない:2012/06/07(木) 21:35:41 ID:7EqsAbc.
190〜残りを代理投下しました。途中ageてしまったりごめんなさい

>>192の誤字を勝手に修正して投下しました
『グレイトフル・デット』→『グレイトフル・デッド』

196 ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:36:02 ID:qW0eyZ26
すみません、予約期限勘違いしてました。
その上遅れましたが、完成したのでとにかく投下します。
規制されてたのでどなたか代理をお願いします。

197君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:38:19 ID:qW0eyZ26
 ◆ ◆ ◆




 ――― 君は『引力』を信じるか?人と人の間には『引力』があるということを……

198君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:38:38 ID:qW0eyZ26
 ◆ ◆ ◆



イギーは笑った。そしてその場を去る。
愚者はこの場に相応しくない。いや、言い換えるならば一体誰が愚者であろうか。
どうだっていいことだ。イギーにとって大切なのは自分のみ。
犬の影はゆっくりと朝焼けの街並み消えていった。
愚者は愚者らしく。だが誰もが愚者でありえるのだ。人それに気づいていない。



【C−4 ティベレ川河岸/1日目 早朝】
【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:首周りを僅かに噛み千切られた、前足に裂傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出するため、ポルナレフのように単純で扱いやすそうなやつを仲間にする。
1:優雅に逃走。あばよー!
2:花京院に違和感。

199君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:39:06 ID:qW0eyZ26


 ◆ ◆ ◆



ペット・ショップのイライラは頂点に達していた。
醜く地を這い、所構わず汚物をまきちらす、憎き犬畜生。そんな犬に見事いっぱい喰らわされたと思うと喚き散らしたくなるぐらい、腹立だしかった。
自分の不甲斐無さを笑い、今もこの街のどこかを我がもの顔であの犬が歩いているかと思うと、怒りで気が狂いそうだった。

―――許せないッ 絶対許してはならないッ!

確かに自分のミスでもあった。戦線を組んだスクアーロがダメージを喰らったことに、一瞬だが気を取られた。
直後、辺りを覆い尽くさんばかりに舞いあがった砂嵐。ペット・ショップは目をやられた。
幸い目に傷を追うようなことはなかったが、その隙は致命的だった。あの犬が身を隠し勝ち逃げるには充分すぎるぐらいの隙であった。

犬はスクアーロにダメージを追わせ、そしてペット・ショップの視力を奪い、逃走した。
それはもう笑えるほど優雅に、余裕綽々で。
一杯喰らわされたのはどちらだろうか。どちらが勝者に相応しいと言えようか。
考えるまでもなく、圧勝したのはイギ―だった。その事実、否定しようのない敗北感にペット・ショップは震えた。

―――何たる恥ッ なんたる屈辱ッ

思えばペット・ショップは屈辱続きの数時間を過ごしている。
無傷で切りぬけた戦いは一つとしてなく、空の狩人の名が廃れるような散々たる結果だ。
怒りに燃えるペット・ショップが叫んだ。彼の苛立ちは、もう限界だった。

それだからペット・ショップは上空浮かぶ謎の物体を見つけた時、迷うことなく一直線に向かっていった。
背後でスタンドを展開、氷のミサイルは発射準備ばっちりだ。

―――次こそはッ 次こそは必ずッ

空の捕食者、鳥類王者のプライド。ペット・ショップが飛ぶ。ペット・ショップが翔んでいく。
怪鳥ホルス神、空をゆく。夜明け前の空、勝ちどきを知らせる甲高い声が響いていった。

200君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:40:51 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



「ッたく、なんだっていうんだよォ」

サーレ―の口から漏れた言葉は苦々しかった。
その拍子にふっと漏れ出たアルコールの臭いがチョコラ―タの鼻をくすぐり、彼は不愉快そうに顔をしかめた。
そして視線を僅かにだけ外すと、なおも不満をだらだらと言い続ける傍らの男を見た。

まったく呑気なものだ。そうチョコラ―タは思った。
足元に転がるいくつもの酒瓶とチョコレートの包み紙を見て、チョコラ―タはため息を吐く。
そして直後苦笑すると、彼はそれを隠すように顔を覆い、サーレ―に表情を見られないようにした。

酒にうつつを抜かしたサーレ―を笑える身ではない。自分だって、この数時間したことといえばドングリの背比べ、対して変わらないのだ。
手に持った自身の支給品を見つめ、チョコラ―タは更に笑顔を深くした。
彼がしたことと言えば、ナチス研究所が残した残虐非道の人体実験レポートを夢中で読みふけったのみ。
まったくもって笑えない。酒に溺れるサーレ―。読書にふけるチョコラ―タ。なんて間抜けな連中だったのだろう。
自分の事でありながら、チョコラ―タははっきりと、そう思った。
自分自身、呆れるほどに平和ボケしていたことを、彼は認めざるを得なかった。

「胡散臭ェ、鳥公が。まったく、このサーレ―様も舐められたもんだ」

男二人は背中合わせでピアノ中心に立ち、辺りを漂う怪しげな影を睨みつけていた。
突如現れた怪鳥は今にも二人を八つ裂きにせんばかりに、殺気に満ち溢れていた。
薬品の臭いもアルコールの臭いも吹き飛ばすほどの戦いの臭いを、その鳥は運び込んできた。

サーレ―は舌打ちをし、チョコラ―タは再度ため息。
チョコラ―タは落胆していた。まったく、もう少し待ってくれればレポートも読み終わることができたというのに。
男は恨めしそうに空舞う鳥を見つめ、残念そうにうつむいた。嘆かわしそうに、彼は頭を左右に振った。
だがしばらくし、再び彼が顔をあげたときには、その顔には笑顔が浮かんでいた。

そうだ、なにを嘆くことがある。レポートよりももっと刺激的で、もっと素晴らしいものがあるじゃないか。
眺めているだけじゃつまらない。実践しなければこの高鳴りは収まらない。
ああ、一体自分は何をしていたんだろう。殺し合いという最高の舞台を用意されながら、まったくなんて無駄な時間を過ごしていたんだろう。
ならば、動きだせ、チョコラ―タ。遠慮なんていらない、さっそくとりかかっていこうじゃないか。

男は両手を震わせ、空を掴むように指を動かした。滾る興奮が、彼を突き動かしていた。
躊躇いなんぞは一切ない。慈悲も情けも、この男には存在しない。
あるのは掛け値なしの狂気のみ。チョコラ―タは舌を震わせる蛇のように、獲物へと手を伸ばそうとしていた。


―――そう、彼の傍に立つサーレ―という男。彼こそがチョコラ―タの獲物だった。

201君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:41:06 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



―――ッたく、なんだっていうんだ


今度は口にださず、サーレ―は一人心の中で呟いた。
アルコールのせいか、身体は火照り熱を帯びていたが、それでも頭脳はクールに、そして正確に働いていた。
暗闇に漂う殺気を一つと混同するほどに、酔いは回っていなかった。

夜空に舞う鳥の影、背後から滲み出る狂気の香り。二つの気配は確かに自分に向けられていた。
上空数十メートルで、どうやらサーレ―は挟み撃ちの形に陥ったようだった。

だが男はうろたえない。逃げ場もなく、戦力差もハッキリしているというのにそれがどうしたと言わんばかりの態度だ。
サーレ―は首の骨を豪快にならし、腕をぐるぐるとまわし、肩の疲れをほぐしていた。
そしてさも手軽な感じで、さて、どうしたもんか、そう呟き、傍らにスタンドを呼び出した。
『クラフトワーク』、彼が信頼する自身のスタンド。一対一ならば決して負けることのない、強力なスタンド。
彼は絶対の自信を持っていた。例え多勢に無勢であろうと、俺のクラフトワークが負けるわけがない。
そう思っていた。

「よっ、と」

宙を裂く氷柱が雨嵐と襲いかかる。サーレ―は片手をあげ、冷静に一つ一つを固定し、防いでいく。
怪鳥が叫ぶ。宙に固定された氷柱を砕き、まきちらしながら、更に襲いかかる追撃の氷。
変わらずサーレ―はこれも冷静に対処。サーレ―の周りにはいまや無数の氷が浮かんでいる。
お見事、クラフトワーク。流石、サーレ―。
ペット・ショップはなおも手を休めず攻撃し続けているというのに、彼にはまったくもって関係なかった。
背後に立つチョココラータが驚き、感心するように唸った。サーレ―は淡々と、氷を固定し続けた。

高いところにいるものが有利になるスタンド能力。
さきほどチョコラ―タが言ったその言葉を思い出したサーレ―。攻撃を防ぎつつ、彼は僅かにだけ自分より高い位置にある氷に飛び移る。
後ろにいるチョコラ―タにも首だけでついてくるよう合図する。不気味なほど、男は素直に従ってきた。

今自分に必要なのは隙だ。サーレ―は再度襲いかかってきた氷の攻撃に対処しながら、そう思った。
鳥を出し抜くにしろ、後ろのチョコラ―タを始末するにしろ、どちらかの気を引く何かが欲しい。
さすがにいつまでもこうしておくわけにはいかない。ジリ貧だ。集中力が切れることもあり得る。
ならば第三者の介入が必要だ。ならばなるべく派手に、目立つように動き、誰か介入してくれるものを待とう。
そして隙ができ次第、チョコラ―タか鳥、どちらか順に始末していこう。

サーレ―がそこまで考えていた時、ペット・ショップがの叫び声が彼の思考を切り裂いた。チョコラ―タが後ろで何事か呟くのも聞こえた。
サーレ―は自らの顔に降りかかった影に、さっと顔をあげる。そして、おいおい、冗談じゃねーぞ、そう言った。
自身のスタンドに絶対の信頼を置く彼も、目の前の光景には呆れてものが言えなかった。

ペット・ショップがスタンド・パワーを集中させ、大きな大きな氷を作りだした。
それは北極から氷を丸々切りぬいてきたかのように、巨大で雄大。
圧倒的な大きさの氷が二人を押しつぶさんと、宙より迫る。そして……


―――ドゴオオォォォー…………ン


轟音を立て、三つの影が氷に包まれる。霧靄が晴れた時、しかし変わらずそこには一匹と二人がいた。
怪鳥の叫びが一段と大きくなった。イライラが募っているのだろう。
最後に氷柱を撒き散らすと、一旦、距離を取るペット・ショップ。

サーレ―は変わらず向かっていく。ただ漠然と、なんとなく、気の向くまま、彼は進んでいく。
後ろに殺しを求める狂人を従え、苛立ちに吐く怪鳥を伴って。
二人と一匹が目指す先、そこにはGDS刑務所が、あった。そして二人と一匹はまるで引力に引きつけられるように、そこに向かっていった。

202君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:41:20 ID:qW0eyZ26

【D−3 南西 上空 / 1日目 早朝】
【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:ホロ酔い、冷静
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず生き残る
1.派手に動きまわって、誰かの注意を引きたい。そしてチョコラータとペット・ショップの隙を作りたい。
2.ボス(ジョルノ)の事はとりあえず保留

【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:興奮
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×二人分、ランダム支給品1〜2(間田のもの/確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ。
1.サーレーを殺したい。
[備考]
サーレーの支給品はナチス人体実験レポート、チョコラータの支給品はナランチャのチョコレートとワイン瓶でした。
二人はそれぞれ支給品を交換しました。

【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:全身ダメージ(中)、苛立ち
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
1:八つ当たりだけど、この二人に完勝していらだちを解消したい。
2:自分を痛めつけた女(空条徐倫)に復讐
3:DIOとその側近以外の参加者を襲う
[備考]
二人と一匹はGDS刑務所に向かっています。

203君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:41:42 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



―――ドゴオオォォォー…………ン


――おい、おい! 大丈夫か、スクアーロ!

うっとおしい、そう言葉を返そうとしたが、代わりに彼の口から出たのは血と呻き声だった。
どうやら少しの間気を失っていたようだ。口元から垂れる血をぬぐい、頭を振り、意識をはっきりさせる。
スクアーロはたった今、何が起きたかわからなかった。確かな事は一杯喰らわすはずが、一杯喰らわされていたということだけだ。

「チクショウ……!」

前歯を何本かを失った彼は、もごもごとはっきりしない悪態をつく。
老人のようにその言葉には力がなく、男は自らの情けなさを恥じた。
心配してるのか、興奮しているのか、とにかく喚き続けるアヌビス神を無視し、彼は辺りを見渡す。
戦いは既に場所を移っているようだった。遠く聞こえた戦闘音に耳を澄ませ、もう一度空を見上げる。
微かに見えた影は共に戦った鳥のものに見えた。誰と戦っているかはわからない。さっきの犬だとしたら、上空で戦っているのもおかしく思える。

とにかく、一度手を組んだやつが戦っているのを放っておくわけにはいかない。
スクアーロはアヌビス神を握り締め、戦場向かって駆けだした。
途中足がもつれ、倒れかけた。アヌビス神が心配そうに声をかけたが男はその声も無視する。
何も怒りに燃えているのはペット・ショップだけではない。借りた借りはきっちり返す。スクアーロとて、ギャングだ。
なめらっぱなしでは堪らない。

「クソッたれ…………!」

スクアーロは進む。鳥が行くままに後を追い、誰と戦っているかも知らずに進んでいく。
行く先にあるのはGDS刑務所。まるでなにものかに引かれるように、彼はふらふらと足を進めていった。



【D−3 中央 / 1日目 早朝】
【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:脇腹打撲(中)、疲労(中)、前歯数本消失
[装備]:アヌビス神
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノと合流、いなければゲームに乗ってもいい
0;なめらっぱなしは我慢ならないので、ペット・ショップを追って、きっちり借りは返すッ
1:まずはティッツァーノと合流。
2:そのついでに、邪魔になる奴は消しておく。

204君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:42:20 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



―――ドゴオオォォォー…………ン


「あれは……!?」
「…………」

轟音に慌てて外に出てみれば、そこにあったのはとんでもない光景だった。
ストレイツォは普段はピクリともさせない顔を微かに歪ませ、吉良は柄にもなく眼を見開き、驚く。
ビルの間に突如出現した巨大な氷の塊。一瞬で砕け散ったそれは、キラキラとダイヤのように美しかった。
太陽の光と、それで生まれた影。更に遠目で見たため、そこにだれがいるのか何がいるのかはわからなかった。
二人の男はただ顔を見合わせ、何も言うことができなかった。

先の戦闘の傷をいやすため、二人は今までずっとサン・ジョルジョ・マジョーレ教会教会に身をひそめていた。
というのは建前で、実を言えば傷はとっくに癒えていた。ただ吉良がわざわざ平穏を捨ててまで外に行く気がしなかったので、仮病を装っていたのだ。
その一時の平穏も、今、崩れ去った。

ストレイツォが吉良を見つめる。何を言わずとも、吉良は目の前の男が何を言わんとしているかはわかっていた。
その眼は彼がよく知る目だ。偽善者で、情熱に燃える、やる気に満ち溢れる者の眼。自分とは真逆の人間が持つ眼だ。
やれやれと首を振り、息を吐く。こうなると言ってどうにかなるものでもない。そしてストレイツォほどの戦闘力をここで捨てるのも実際惜しい。

ストレイツォが何か言いかけるのを手で遮ると、吉良は黙って荷物を取りに建物の中に引っ込んだ。
その嫌々ながらも正義に燃える(ように見える)態度に、波紋の戦士は何も言わず感謝を示した。
吉良は準備を終え、戻ってくると、あいつはどうするのだ、そう訪ねてきた。あいつとはついさっき戦った男、リキエルのことである。
ストレイツォはロープで縛り上げられ、気を失っている男を見下ろした。
結局男から情報を聞き出そうという当初の予定はうまくいかなかった。ストレイツォの波紋がよっぽど効いたのか、あるいは疲労もあったのだろう。
リキエルは気絶したきり、目を覚まさず、今ものんきに白目をむいて倒れている。
無様なものだとストレイツォは思ったが、どうしようもないその男の存在に、頭を抱えた。

急に襲いかかってきた危険人物をここに置いていくのは責任感のない行為だ。
だが連れて行くのも大変だし、かと言って殺すのも後味の悪い話だ。悩む波紋戦士を吉良は黙って見つめていた。

結局彼はもう一度波紋を流し、男をその場においていくことにした。
ついでに持っていたロープで縛り上げ、誰かに殺されることないよう、協会の奥底に寝かしておいてやった。
あまり褒めれた行為ではないが、致し方ないこと。何よりあの氷の元に、保護すべき誰かがいる可能性だってあるのだ。
遠目でもわかるほどのあれに惹きつけられる弱者だっているだろう。ならば、急がなければいけない。
一人でも多くを助けるため。波紋戦士の誇りにかけて、あれは見逃せるものではない。


――― 本当にそうだろうか?


一瞬だけ浮かんだそんな疑問をストレイツォは何を言っているんだ、一蹴した。
それ以外の理由なんぞ何もない。戦士として、一人の人間として彼はあの場に向かうのだ。
助けるために、救うために、ストレイツォはGDS刑務所へと向かっていく。
引力に引きつけられるように、その足は軽快で、迷いないものだった。
後ろにいる吉良を急かし、ストレイツォは先を急いだ。

205君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:42:39 ID:qW0eyZ26

【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会前 / 1日目 早朝】
【ストレイツォ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:吸血鬼ディオの打破
1.GDS刑務所に向かい、一般人を助ける。
2.周辺を捜索し吉良吉影等、無力な一般人達を守る。
3.ダイアー、ツェペリ、ジョナサン、トンペティ師等と合流した後、DIOの館に向かう。

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:健康
[装備]:波紋入りの薔薇
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
1.平穏に過ごしたいが、仕方ないのでストレイツォについていく。
2.些か警戒をしつつ、無力な一般人としてストレイツォについて行く。
3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。
[備考]
ハーブティーは飲み干しました。
二人はGDS刑務所に向かっています。
ストレイツォの支給品はマウンテン・ティムの投げ縄のみでした。
リキエルが持っていた支給品を取り上げました。一応基本支給品だけは置いていってあげました。

【リキエル】
[スタンド]:『スカイ・ハイ』
[時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前
[状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック、気絶、縄で縛られてる
[装備]:マウンテン・ティムの投げ縄(?)
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針: ???
0.気絶中

206君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:43:59 ID:qW0eyZ26
 ◆ ◆ ◆



―――ドゴオオォォォー…………ン


マッシモ・ヴォルペは機械的に、顔をあげ、音が聞こえたほうを見やった。
しばらくの間、彼は何事かと耳を澄ませていたが、続けて音が聞こえることはなかったので、再び視線を落とし、考えにふけ始めた。
河はゆっくりと流れ続けていた。穏やかで、何の変哲もない河を、ヴォルペはじっと見つめていた。

ヴォルペはそっと目を閉じ、長々と息を吐いた。まるで乙女が恋煩いしているような、そんなため息だ。
記憶を掘り返せば脳裏に映る一人の男がこちらを見返している。
まるで蛇のように細く、切れた真っ赤な眼光が男を見返していた。ヴォルペはもう一度ため息をつき、そして歩き始めた。

どれだけ考えても、結局はなにもわからなかった。
男は歩きながら、自らの左胸にそっと手をやった。激しい運動をしたわけでもないのに心臓が早鐘を打っている。
それは未だかつて彼が経験したことのない事象だった。認めたくなくても、彼はそれを認めざるを得なかった。

俺は今、魅かれ始めている。幸せを求める自分自身が、何を求めているのか、気になり始めている。
そして何より……、更に呼吸を荒くし、男は歩調を速めた。脚の先は約束の地、GDS刑務所に向いていた。

DIO……俺はあの男に魅かれている。

約束の時間まではだいぶあったが、待ってなどいられなかった。
一刻でも早くDIOに会いたい。あの轟音、DIOに何かあったらそれは良くない。
気持ちは固まらず、未だ現実感はない。ただその二つだけは確かな感情だった。
マッシモ・ヴォルペはまるで引力に導かれるように、GDS刑務所へ続く道へと消えていった。


【E-2 GDS刑務所・特別懲罰房外 川岸 / 一日目 早朝】
【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:健康、DIOに夢中
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。
1.GDS刑務所い急いで戻る。
2.DIOと行動。
3.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。

207君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:44:19 ID:qW0eyZ26

 ◆ ◆ ◆



自分は誤解されやすい人間のようだ。ディ・ス・コはそう思った。
無口無表情、無駄な事は極力しない性格ではあると自覚している。だが自分は冷徹ではないし、どんな状況にあろうと冷静沈着でいられるとは思っていない。
襲われれば緊張もするし、きっと命がかかるような窮地に陥れば悲鳴をあげてしまうかもしれない、そうディ・ス・コは思っている。
けどそれを言う必要がなければ言わないし、顔に出したところで無駄ならば顔に出すこともしない。
ディ・ス・コと言う男は、そんな男だった。

そもそも、とディ・ス・コは、歩きながら胸中で思う。
ジャイロ・ツェペリがこの場にいなかったならば当初の目的は全て無駄になってしまう。
それに気づいた彼は、ある程度まで北上したところで進路を西にとった。
彼は地図に記されていない空白の場所を確認しに行こうと決めたのだ。
ジャイロ・ツェペリがいるかいないか、どちらにせよ、スティーブン・スティールが真実を語っているかどうかを確認することは、決して無駄になるまい。
ディ・ス・コはそう思ったから。

実際西の最果ての地は、そこらの風景となんら変わらず、境界らしきものも見えなかった。
だがある地点を越えて一歩踏み出すと、首輪は鳴り響びき、確かにそこに地図上の境界線があることを男に知らしめた。
首輪は確かに作動している。地図の外は地雷地帯。これは有益の情報だ。使える、確固たる情報だ。
ディ・ス・コはそう思った。

だから、この行動も無駄ではなかった。彼は自身に言い聞かせる。
臆病風に吹かれた故の行動であっても、結果的にそれが無駄足でなかったのならば、それはきっといいことだ。
いや、決して臆病風に吹かれたわけではない。心の内でそう訂正する。
ただ確認する必要があったから確認した。それだけのことだ。

東に向かって一歩一歩足を進め始めていた。
呼吸が乱れるようなこともなく、冷や汗や脂汗をかくようなこともしない。
そんな彼が今向かっているのはGDS刑務所。
ディスコの現在地から最も無駄なく、最短距離に位置する施設である。
ただ淡々と、機械のごとく脚を進め続けている。目的地に向けて、ディスコは歩き続けている。


―――ドゴオオォォォー…………ン


ふと鼓膜を震わす音に気づき、彼は空を見上げた。
東の空に顔を覗かす太陽を背に、宙に浮かんだ三つの影。なんだろうと、目を凝らす暇もなくその三つの影がもつれるように落下していった。
さっと走った緊張感を緩め、ディスコは顎をなぞり、今見た光景が何であったのか、考える。

しかし幾秒か考えても何も思い浮かばず、彼は再び歩き出した。
情報も何もなく考えるのは不安を呼び、捻じれた憶測を生む。ならばそれは無駄な行為だ。
無駄な行為は無駄なくするのが一番だ。

だがもしもGDSに行くこの行為、これすら無駄であったら。
ふと頭に思い浮かんだアイディアをディスコはやはり打ち消し、歩き出した。
それも無駄。考えても無駄だ。誰に言うでもなく、心の中、自分自身にそう言い聞かせ続ける。
それに、ディスコは柄にもなく、こう思った。

GDS刑務所に行けば何かわかる気がする。それは根拠のない、何かしらの確信であった。
強いて言うならば、ディスコは微かにだけ苦笑いを浮かべ、自分の馬鹿げた考えを嘲笑う。

彼は今、GDSに魅かれている。まるで引力を感じるかのように。運命にときめく少女のように。

208君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:44:32 ID:qW0eyZ26





【E−1 東部 / 1日目 早朝】
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:大統領の命令に従い、ジャイロを始末する
1.サン・ピエトロ大聖堂に向かうのは保留。一旦GDS刑務所へ向かう。
2.信用できそうな奴を見つけたら、シュガー・マウンテンのことを伝える。

209君は引力を信じるか   ◆c.g94qO9.A:2012/08/06(月) 02:50:06 ID:qW0eyZ26
以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら指摘ください。
予約期限勘違いしてました。すみません。

把握で読み返したんですけど、ディ・ス・コって結構人間臭かったです。

210 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:46:36 ID:BiQ1F2r6
投下します。どなたかお願いします。

211 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:46:46 ID:BiQ1F2r6
「どうだ?」

虹村形兆のその言葉にシーザー・アントニオ・ツェペリは首を振った。ヴァニラ・アイスは何も言わず、それどころか視線すらこちらに向けなかった。
形兆は最初から期待していなかったのか、苦笑を浮かべ首をすくめると、スタンドを撤収させた。
ジョースター邸中に広まっていた緑の兵隊たちが一人、また一人彼の元へと戻ってくる。
案の定、参加者も、参加者がいたと思われる痕跡も見つけることは出来なかった。
形兆はスタンドたちに、御苦労、そう呟くと彼らをひっこめ、目線をあげた。
目の前に立つ伊達男、壁にもたれる眼光鋭い狂信者。形兆は二人の男に向け、問いかける。

「ってわけでジョースター邸は空振りだ。人一人、猫一匹おりゃしねェ。
 情報交換の時に打ちたてた通り、当分は情報収集兼協力者探しのためにもなるべく多くの参加者に接触したい。
 となると次の目的地は市街地、刑務所、公園のどれかにしようと思うわけなんだが……何か意見はあるか?」
「俺が今あがった候補から選ぶとしたら……まぁ、実際刑務所じゃなけりゃどっちでもいいぜ。あんなカビ臭くて辛気臭い所に行くのは気が進まねェのさ。
 それに、刑務所なんてところには確実に! レディがいない!
 太陽のように美しく、野花のように朗らかな女性たちってのは刑務所なんかにはいやしねェさ。
 これだけは間違いないからな。それならわざわざなら行く意味なんてねェ。
 東に進路をとって市街地か、北上して公園か。これっきゃないだろ、そうだろ?」
「ヴァニラ・アイスは市街地からこっち、地図で言えば西側に進んできたわけだろ?
 なら効率的に考えれば北上したほうが俺としてはいいと思う。
 それに地図の端から埋めていくのは気持ちがいい。だれだって几帳面に色塗りしていくのは気分がいいものだ。
 そうだろ?」
「…………」

シーザーが言い、形兆が賛成するように意見を付け加える。ヴァニラ・アイスはなおも黙ったままで、興味なさそうに頷くだけだった。
二人の男は互いに見つめ合い、そして頷いた。
ヴァニラ・アイスは選択を放棄、北上という点で二人の意見は一致。ならば行き先は決まったも当然だ。
二人の指がこれからの行く先を同時に指さした。三人がこれより目指すは、ドーリアパンフィーリ公園。





212 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:47:06 ID:BiQ1F2r6




一陣の風が吹き、公園中の木が優しく揺れた。気持ちの良い葉擦れの音が男たちを包み、そしてやむ。
形兆は足元でうずくまるシーザーを何の感情の籠らない眼で見つめていた。
シーザーは今は固く動かなくなった少女を抱え、泣いていた。決して大きく叫ぶことはせず、涙も見せはしなかった。
だが肩を震わさせ、歯を食いしばり、彼は一人泣いていた。

何の罪もない少女が殺されという事実に。その少女を助けることができなかった自らの愚かさに。
シーザーは怒っていた、嘆いていた。自分自身が許せなかった。間にあわなかった自分を、彼は呪っていた。

悔しさに震える男を、形兆はただ見つめ続ける。
目線はシーザーに向けられていて、あたかも傍目からみればシーザーの感情が落ち着くのを待っているように見える。
しかしそうではなかった。形兆はこれ以上ないほど神経をすり減らし、辺りの気配を探っていたのだ。
眼だけではなく耳を最大限まで活用し、木の葉一枚舞い落ちる音さえ見逃すまいと集中力を高めていた。
スタンドを展開、『バッド・カンパニー』たちが気配を消しゆっくりと進んでいく。足音を殺し、兵士たちは偵察のために陣形を広げていった。

形兆が探しているのは少女を殺した何者か……ではなく、いつの間にか姿を消したヴァニラ・アイス。
ジョ―スター邸を出発した三人は予定通りドーリアパンフィーリ公園にやってきた。
二人はそこで見つけた少女の遺体に気を取られ、そして気がつけばヴァニラ・アイスの姿は見えなくなっていた。

形兆が真っ先に思ったのは、いつの間に、そしてなにゆえにという疑問。
彼が忠誠を誓うのはDIO一人にして、唯一無二。彼が行動するのはDIOのためであり、DIO以外に理由はない。
最悪の可能性を形兆は考える。もしもヴァニラ・アイスが気づかぬところでDIOと接触していたら?
そしてもう既に形兆たちを始末するよう、命令されていたら?

自分の注意力のなさに彼は舌打ちをした。“たかが”少女の遺体一つで動揺しすぎた。
スタンドたちから発見情報はいまだ届かない。自身の目や耳でも、ヴァニラ・アイスの痕跡は捕えられなかった。

形兆はヴァニラ・アイスの落ち窪んだ眼光を思い出し、首筋の産毛が反り返るのを感じた。
協力関係を組んだとはいえ、手をかまれる危険はいつだってある。
そう、何か不都合があれば。ヴァニラ・アイスの琴線に触れるようなことがあれば。
形兆が父親を処分するよりも前に、自分が消される危険性だってある。自分の置かれてる状況を改めて実感し、彼は身震いした。

柔らかな風がもう一度吹き、森がまたゆっくりと囁いた。静まり返る森の中、形兆は神経を研ぎ澄ます。
シーザーの嘆きを聞き、なだめる様に傍らに寄り添いながら、彼はひたすらに待つ。
気配を探り続け、どこからでも、何が起きてもいいように…………。臨戦態勢で、彼は待ち続けた。



 ……―――うわァァァアアッッッ!

213 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:47:30 ID:BiQ1F2r6
叫び声が静寂を切り裂く。
形兆は弾かれたように走りだした。少し遅れてシーザーが動き出し、男たちは声の元へと向かっていく。
森を裂き、大地を蹴り、辿りついた場所は森の中で開けた広場のような場所。
男たちはそこではたと足を止め、目の前の光景に言葉を失う。

ヴァニラ・アイスと一人の男がそこにはいた。正確に言えば、『半分』の男がそこにいた。

「くッ……う、ううゥ…………!」
「もう一度、もう一度だけ聞いてやろう。DIO様、あのお方について僅かで情報があるならば洗いざらい吐け。
 どんな些細な事であろうといい。今すぐにだ。知っているならば……言え、言うのだ…………ッ!」
「か、は……、はァ……………ッ!」

鮮やかな赤が目に眩しい。まるで地面に広がる真っ赤な絨毯のようだ。
男の右半身はスプーンで刳りぬいたかのような、なめらかな切断面を見せていた。
脇に転がるメキシカン・ハットを踏みつけ、再度ヴァニラ・アイスが迫る。
虫の息の男が荒い呼吸を繰り返し、その音だけが沈黙を破っていた。

「知らない……! ほんとに、俺は、何も知らねェんだッ!
 チクショウ、チクショウ……! なんだってんだ! なんだって、俺がこんな目に……!
 ディオ? なんだそりゃ! クソッたれ、知るかよ、そんな野郎の事!
 ディエゴ・ブランドーのことじゃねーのかよ! クソ…………クソ、痛ェ……痛ェ!
 俺の身体が、身体がァ…………ッ!」
「……そうか」

髭面の男が最後まで言い切らないうちに、ヴァニラ・アイスは囁いた。
その声の冷たさに、思わず後ずさりかける。隣で何かを察したシーザーは、まさか、と眼を見開き一歩足を踏み出した。
ヴァニラ・アイスがその場にしゃがみこむ。傍らに出現したのは彼のスタンド。
シーザーが走る。叫び声をあげ、彼は男を止めようと、飛ぶようにかけた。しかし彼はまた間にあわなかった。
血も凍るような、無慈悲な音が森に響く。


 ―――ガオン…………ッ!


右半身しか残っていなかった男は右腕を残し、消えた。ヴァニラ・アイスは何事もなかったように立ち上がる。
男の支給品であろうライフルをもぎ取り、残った腕をその場で放り捨てる。
ゴミ掃除を終えたささやかな満足感がその眼を満たしていた。今しがた男がいた場所を怒りの表情で見つめ、彼はこう言った。

「DIO『様』だ……。何者であろうと私の前であの方を侮辱するのは許さん……ッ!
 ただ、一つだけ感謝してやろう。ディエゴ・ブランドー……DIO『様』の名を借りる不届きもの名を知れたのは収穫だ」
「てめェ…………ッ!」

214 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:47:45 ID:BiQ1F2r6


怒りに震えるシーザーが叫んだ。だが彼が拳を振り抜くよりも早く、そしてヴァニラ・アイスが動く隙も与えず、形兆は冷静にこの場を収めるために動いていた。
シーザーがハッと気がつけば、肩に緑の兵士たちが飛び乗っている。
銃口は彼の首輪に向けられていて、見ればヴァニラ・アイスの肩にも同じものが乗っている。
二人の間に立つように、ゆっくりと形兆が歩いていく。両手をあげ、二人をなだめるような落ち着いた口調で言い放つ。

「やめろ、シーザー。お前もだ、ヴァニラ・アイス。二人とも、やめるんだ」

さもなければ首輪を吹き飛ばす。形兆がそう言わんとしていることは明らかであった。
だがそれでも、二人の怒りは収まりそうもなかった。熟練の波紋戦士、狂気の殺人者。
二人の刃物のような視線を受け止めながら、形兆は苛立ち気に声を荒げた。
冷静さが身の上の彼にしては珍しく、感情的な叫びだった。もう一度二人に矛を収める様に叫び、ようやくその場の緊張が薄れる。
ヴァニラ・アイスはスタンドをひっこめ、シーザーは拳を下ろす。形兆は大きく息を吐いた。

「…………」
「おい、どこ行くんだ」
「…………貴様には関係のないことだ。遠くまでは離れない。心配なら貴様のスタンドで見張っていろ、虹村形兆」

森の闇へと溶けていく狂信者を形兆は鋭く睨みつけた。
男は一度として振り返ることなく、仕方なしに何人かの『バッド・カンパニー』を尾行させることにした。
ヴァニラ・アイスの後ろ姿が消えたころ、シーザーが、少しの間一人にしてくれ、そう言った。
断るわけにもいかず、形兆は頷く。シーザーは来た道を引き返し、少女の元へと戻っていった。
きっと彼女を埋葬してやるのだろう。形兆はそう思った。

「…………」

どうやら自分がやろうとしていることは思った以上に大変なようだ。
形兆は大きくため息を吐き、こめかみのあたりを優しく撫でる。頭痛の種は増えていくばかりだ。

シーザーはまだいい。感情的で熱い男で、その本質は優しい善人のものだ。形兆が羨ましくなるほどに気持ちのいい男だ。
ヴァニラ・アイスもそれほど問題ではない。さっきの言葉から自分のことを一応は買ってくれていることがわかる。
心配していたような、すぐに殺される事態はよっぽどのことがない限り、ないだろう。DIOのことを下手に口にしない限りは、だが。

問題なのはこの二人がまっったくもって真逆の人間だということだ。
一人一人ならばいい。一対一ならばそれほど手綱を取ることに苦労はしない。だが三人一緒に行動となると、これはもう無理だ。
必ずどこかで爆発する。どちらかが越えてはいけないラインを破った時……きっと二人は衝突する。
そしてそれを止める自信も、止めるリスクを考えてまで得られるリターンも、形兆にはないように思えた。

ならば……、と形兆は『バッド・カンパニー』に神経を集中させ、二人の男を観察する。
放送まで時間があるのは幸いした。考える時間と情報を元に、彼は決断するだろう。
遅かれ早かれ、『この時』が来るのはわかっていた。だがそれがこんなにも早くとは思っていなかっただけのことだ。

覚悟はとうの昔に済んでいた。慈悲や後悔は、もうどこにもない。
形兆を支えるのは憎しみと意地。それだけあれば、銃口を向けることに躊躇いなんぞ、ない。

シーザー・アントニオ・ツェペリか。ヴァニラ・アイスか。
決断の時は放送の時。その時、この三人は二人になり、そしていつか一人になる時もくるだろう。
開幕を告げるのは形兆のピストル。男は森の中、一人、来るべき時と向けるべき相手を考え、佇んでいた。













                                    to be continue......

215 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:48:00 ID:BiQ1F2r6





 【ガウチョ 死亡】



【E-1 ドーリア・パンフィーリ公園 泉と大木 / 1日目 早朝 放送前】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッシ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:怒り、悲しみ、不甲斐なさ、二人に対する不信感
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式×2、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒
0.少女(シュガー・マウンテン)を埋葬してやる。しばらく二人には会いたくない。
1.形兆達についていき、ディオと会ったら倒す
2.形兆とヴァニラには、自分の一族やディオとの関係についてはひとまず黙っておく
3.知り合いの捜索

【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:怒り
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様……
0.DIO様……
1.DIO様を捜し、彼の意に従う
2.DIO様の存在を脅かす主催者や、ジョースター一行を抹殺するため、形兆達と『協力』する
3.DIO様がいない場合は一刻も早く脱出し、DIO様の元へと戻る
4.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。

【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悩み、憂鬱、覚悟
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する
0.放送後、『どちらか』を始末する? まだ考え中。方法と人物も考え中。
1.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく。
2.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう
3.オレは多分、億泰を殺せない……
4.音石明には『礼』をする



[備考]
・情報交換をしました。どの程度までかは次以降の書き手さんにお任せします。
・ガウチョの参戦時期はリンゴォに撃ち殺される直前でした。ガウチョの基本支給品と腕以外の部分はガオンと消されました。
・それぞれ支給品を確認しました。内容は以下の通りです。
 ベックの支給品……メリケンサックのみ、ヴァニラ・アイスの支給品……点滴と???(次以降の書き手さんにお任せします)
 ガウチョの支給品……リー・エンフィールドと予備弾薬30発、人面犬の支給品……ダイナマイト6本のみ




【支給品紹介】

【メリケンサック@Part2 戦闘潮流】
ワイヤードのベックに支給された。原作ではニューヨークのヤクザが使っていたもの。
実際効果はあるのだろうか。殴ったとき拳が痛くないってジョジョの世界ではなんかそこまで意味なさげに思える、不思議。

【点滴@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
原作では仗助が使って噴上戦で勝利をおさめた。
あんな風に即効性があるとはとてもじゃないが思えない。
あと食べても満腹にはならないと思う。多分。

【リー・エンフィールドと予備弾薬30発@現実世界】
全長640mm、重量3900g、装弾数10発、ボトルアクション方式の光景7.7mm。
戦争映画や漫画で出てくる典型的、古典的ライフルといえばイメージしやすいと思う。
設計、製造されたのが1900年代初めだったにもかかわらずその有効射程は約918m、およそ1km。
凄い。

【ダイナマイト6本@Part2 戦闘潮流】
エシディシが腹の中でドムン!と爆発させた、あのダイナマイト。
胃に入れる前なので綺麗です。安心して使ってください。

216 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 20:49:13 ID:BiQ1F2r6
以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら指摘ください。
ガウチョ、ごめんね。お前の事けっこーすきだよ。

217 ◆c.g94qO9.A:2012/08/11(土) 22:58:09 ID:BiQ1F2r6
題名忘れてました。「三人の怒れる男たち」です。

218単純 その1 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:35:11 ID:LYwRF6QY
さて――君たちに『俺の話はつまらないか?』と聞いて以来の話か。
自分で言っておいてなんだが、こういう悩みは何とも厄介なものだと思う。
本人にとっては深刻でも周りから見たら些細な事なのかも知れないしね。
で……そういう場合は多くの人がこう言うだろう。
――ん?『そんなに気になるんなら精神科にでも依頼すればいいのに』?そんなこという奴がいるのか?
もっとシンプルなセリフだよ。そう、『もう少し単純に考えたら?』と。
もっともな意見だ。というよりこれが全てかもしれない。

だがこの『単純』というのもなかなか難しい。

例えば――漫画作品を発行部数だけで見て、中身を見もせずに、
『売り上げナンバーワンの……ウン!ウゥン!……こそ史上最高!!他作品はゴミ。
 てめーらゴミ屑のネガキャンなんて関係ねーんだよ』
と爆笑するのも単純ゆえの発想だろう?そして、それに対していろいろ思うことがあってもそれを表面に出さず、
『そうなんだ、すごいね!』
の一言であしらうのも単純だが破壊力抜群の迎撃法だ。

で――単純ということの何が難しいって、
さっきまでの俺のように『単純に物事を考えられないこと』と、
例に挙げたような『単純にしか物事を考えられないこと』と、『そういう単純な相手を相手に回したときの対処法』だ。

君らは物事を単純に考えられるかな?単純な相手を上手くあしらえるかな?今回はそんな話をしよう。


●●●

219単純 その2 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:38:09 ID:LYwRF6QY
「絶対に相容れないって意味の、『水と油』って言葉があるがよォ〜……」
誰に言うでもなく一人で演説を始める男の名はギアッチョ。
彼がいる場所はエリアでいうとF−4地下、地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)の底だ。
相棒のディエゴ・ブランドーはその様子をフロア――柱の頂上から見下ろしている。お互いのスタンドの性質上、手を貸すわけにはいかない。貸す気もないが。
だがギアッチョは一向に上ってこようとはしない。様子を見ているディエゴを知ってか知らずかギアッチョはなおもひとりごちる。

「その言葉の意味はわかる、スッゲー良くわかる。
 油ァ入ったコップに水入れても混ざりはしねーからな……」

この言葉、恐竜の身体能力を肉体に宿したディエゴには十分に届いていた。
しかし、彼はこの後“ギアッチョのセリフに耳を澄ましていた”事を後悔する。

「しかしよォ〜〜この『油』って字はどういうことだアァ〜〜!?
 “サンズイ”ってのは水のことじゃあねェのかよッ!
 油が“水”ならとっくの昔に混ざりきってるじゃあねぇかッ!!
 どういう事だよ!エェ!?このイラツキ、どうしてくれるんだァ!!!」

突如張り上げられた怒声に鼓膜を破られんばかりの衝撃を受けたまらずたじろぐディエゴ。
怒りのたけを目の前の柱にぶつけるギアッチョは、殴って開けた穴を凍らせ、また柱を殴り穴をあけ――を繰り返し、あっという間に柱を登り切ってきた。

「オイッ追うぞ!まだ遠くに行っちゃあいねぇハズだ!ボサッとしてんな!
 っつーかお前も追ってたろ!どこ行ったか検討つかねぇのか!?」
「デカい声を出すな。俺は建物の上から奴らを追っていたからおおよその見当は付く――逃げる瞬間こそ見逃したが奴らは地下を通って」
喚き散らすギアッチョに落ち着くよう促すも、ディエゴの言葉はなかなか彼の耳に入らない。

「地下なのは知ってんだよ!だから俺が下水道もぐって追っかけて壁ブチ壊しまくって――この柱にたどり着いたんだからな!」
「その先だ、ギアッチョ。俺が地上から確認していた限りでは奴らはまだ地下から出てきていない。
 というよりおそらくこの柱は無視しただろう。この建物の下水道それ自体をうまく伝って別のエリアに逃げたとみるべきだ」

わかりきっていた事実を淡々と告げられたことにギアッチョの中の怒りが爆発した。ディエゴの胸ぐらを掴む。
「ンな解りきったこと聞いてるんじゃあネェんだよ!とにかく追うぞッ!」
大量の唾を吐きかけんとするほどの勢いでまくしたてるギアッチョをディエゴは再度制す。
「落ち着け……まだ慌てるような時間じゃあない。そして、闇雲に追うべきでもない。
 こう――発想を変えてみろ、逆に考えるんだ、俺たちはあえて取り逃がし、それを先回りして待ち伏せる体制を作ったんだと。
 直接追っていくのは些か骨が折れる。奴らが『この場にいた』ことが分かっただけでも十分じゃあないか?」

言われたギアッチョはゆるゆると襟首から手を放す。その鋭い視線はディエゴから1ミリも逸らさぬまま。
一方のディエゴの本心は先の台詞とは半々、といったところだ。彼とて自分の知りえぬ自分を知る人間に会場を闊歩されるのは気に食わない。
だがその感情が最後の最後で詰めを誤らせる。この場に放り込まれる直前に受けた屈辱を思い起こすかのごとく腹をさする。

「……チッ!まあそういう事にしてやる。ブチャラティの野郎がいたってことは奴のチームも、俺らのチームもいるってことだろうしな」
「わかってくれて何よりだ。そうと決まれば、こんなエリアの端で燻っている訳にはいかない。とりあえずエリア中央に向かって北上するぞ」

端的に会話をすませ、2人の化け物が館を飛び出していった。

220単純 その2.5(状態表) ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:39:29 ID:LYwRF6QY
【F-4 エア・サプレーナ島→? 1日目 早朝】

【ギアッチョ】
[スタンド]:『ホワイト・アルバム』
[時間軸]:ヴェネツィアに向かっている途中
[状態]:健康、疲労(小)、怒り(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1〜2(未確認)、ディエゴの恐竜(元カエル)
[思考・状況]
基本的思考:打倒主催者。
1.ブチャラティ達を先回りして迎え撃つ……?とにかくタダではおけない。
2.1のためにとりあえず北上してエリア中央に向かう予定。
3.暗殺チームの『誇り』のため、主催者を殺す。
4.邪魔をするやつは殺す。

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスター』
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、人間状態、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品2〜4(内1〜2は確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
1.ギアッチョのいうブチャラティを先回りして討つ、ということにしておこう。
2.ルーシーから情報を聞き出さねばならないが『いる』とわかればどうとでもなる。
3.1・2の目的のため北上しつつ仲間を増やす。
4.あの見えない敵には会いたくないな。
5.ギアッチョ……せいぜい利用させてもらおう。少しうっとおしいが。
6.別の世界の「DIO」……?

[備考]
・ギアッチョとディエゴの移動経路は以下の通りです。
ギ:F−4を南下→G−4で路地を利用されブチャラティに逃げられる→地下の存在に気付きマンホールから下水道へ
  →G−4地下→F−4地下→突如現れた壁をぶち壊したら地獄昇柱の内壁だった→柱を登る←ここ
デ:建物の屋上を伝いF−4→G−4→ディエゴと同様ブチャラティを見失う→ギアッチョが地下に潜るのを確認し地上から追うことに
  →G−4→F−4→エア・サプレーナ島到着→柱に向かって喚くギアッチョ発見←ここ
・ギアッチョとディエゴ・ブランドーは『護衛チーム』、『暗殺チーム』、『ボス』、ジョニィ・ジョースター、ジャイロ・ツェペリ、ホット・パンツについて、知っている情報を共有しました。
・フィラデルフィア市街地および地獄昇柱(本体・内壁)が所々氷結・破壊されています。

221単純 その3 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:41:17 ID:LYwRF6QY
●●●


「……なんとか撒いたようだな。
 ゆっくり話をする暇も与えてくれなかったとは。流石というか、奴も一流だな。
 ルーシー、すまないが地図を出してくれ。今俺たちがどこを走っているかわかるか?」
バックミラーの片隅から白い男が消えたことを確認しながらブチャラティが促す。
声をかけられたルーシーは、緊張こそしていたものの襲撃にあった疲労を表情に出さず地図を広げる。
「ええ、えーと――さっきG−4を南下してきて、この曲がり角で……その先はこの地図だけじゃあわからないわ」
「そうか――だが地下にこんな洞窟があるということはその地図もあるはずだ。俺が持っている支給品、全部開けて構わないから探してみてくれないか?」

ブチャラティの作戦はこうだった。
襲撃された地点から地図端に向かってひたすら南下、路地を曲がった瞬間にS・フィンガーズを発現し地面に穴をあける。
そのまま下水道を通って――仮に下水道などなくとも地面そのものにジッパーを取り付けて掘り進むつもりだったが――逃走を完了する。これが見事なまでに成功。
背後から追跡していたギアッチョは『建物の中に潜りこんだ』と、建物の屋上を飛び移りながら追跡していたディエゴは『エリア端は別の場所に繋がっている』と、一瞬だけ推測したのだろう。
それが正しいことかどうかは別として、その一瞬こそ殺し合いの場では命取りになる。結局のところ推測は『違った』が、それを確信した時にはすでに逃走者の姿はなく、と言ったところだ。

「ごめんなさい……それっぽいものは見つからないわ」
「君が謝ることじゃあない――とりあえず車を止めよう」
言いながら自動車を停止させ、エンジンを切ったところでブチャラティが車を降りる。それに倣うようにルーシーも。
静寂の中に放り出された二人。本来なら日が昇り鳥が囀るような時間であるが、それすらもない。
その静けさはルーシーのついた小さな溜息さえ大きく聞こえるほどで。
自分の溜息にビクリと体を震わせたルーシーの肩を抱きブチャラティがゆっくりと口を開く。

「……ルーシー」
「え、あっあの――」
ついにこの時が来てしまったか。彼にすべてを話さねばならない時が。
そう覚悟した瞬間だった。

「シッ――誰かくる……っ!」

彼の口から発せられた言葉は彼女の思っていたものとは違った。
しかし、それが彼女たちに安堵をもたらすかどうかと言われれば、単純に肯定はできないだろう。

彼らが真実を語りあうには、まだ遠い。

222単純 その3.5(状態表) ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:42:29 ID:LYwRF6QY
【E-6 地下 洞窟内部 1日目 早朝】

【ブローノ・ブチャラティ】
[スタンド]:『スティッキィ・フィンガーズ』
[時間軸]:サルディニア島でボスのデスマスクを確認した後
[状態]:健康 (?)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、不明支給品2〜4(自分、ジャック・ザ・リパーのもの、ルーシーが確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者を倒し、ゲームから脱出する
1.誰かがくる……!あれは……!?
2.1の対処後、ウソ偽りなく、ルーシーと互いの情報を話したい。
3.何とか撒けたが、なぜ死んだはずの暗殺チームの男が?
4.ジョルノが、なぜ、どうやって……?
5.出来れば自分の知り合いと、そうでなければ信用できる人物と知り合いたい。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:健康、精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、鉈
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
1.また襲撃……?
2.ブチャラティに全てを話すべきなの?(でも襲撃の最中はそれを忘れられるから正直ホッとしている)

[備考]
・ブチャラティが運転した車の移動経路は以下の通りです。
F−4を南下→G−4で路地を利用しギアッチョを一度引き離す→G−4地下→F−4地下
→そのまま下水道を伝うことで柱を回避→E−5地下→E−6地下←ここ
・二人の支給品の中に地下の地図は無いようです。

223単純 その4 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:44:22 ID:LYwRF6QY
●●●


「……まだあまり無理をするな。薬の効果がほとんど切れたとはいっても」
「大丈夫よ、問題ない。それにあたしが勝手にやってることなんだから」

ギャングたちの抗争から時間を少々さかのぼる。
場所はF−5南部、ローマの観光地を一部屋だけくりぬいたような土地。そこに一組の男女が姿を現した。
ちなみに女――トリッシュが疲弊しているのは何も薬のせいだけではない。背中に大きな荷物を背負っているからだ。

小林玉美。トリッシュをゲームさながらのシチュエーションで襲っておきながら、最後の最後で無様に気絶したド変態。
なぜ彼女がそんな変態を背負って歩くことになったのか、それはレストランでトリッシュの体力回復が終わるころに話し合った結果である。

当初ウェカピポは彼を連れて歩くことに反対した。
自分たちを――殺人という意味ではないにせよ――襲ってきた相手である。殺すとは言わずとも縛り上げてこの場に放置していくべきだと主張した。
この当然の意見にトリッシュは異を唱える。曰く、
「ここに放っておいて死なれたら自分たちのせいだ。己の正義にも反するし、玉美を知る人物にでも引き渡してしまうべきだ」
と。たとえ反対されても私が背負って歩く、とまで付け加えて。
そのまっすぐな意見にウェカピポが折れ、ならばと地図の地点を少しずつ移動しながら参加者と接触する案を出し――結果として一番手ごろなこの地点にたどり着いたのだ。

ちなみに――トリッシュは今、ウェカピポがよこしたジャケットの下に、レストランの中で調達した服を着ている。
ブランド物の服はいつかコイツに弁償させてやるなどと言いながらも、初めて着るウェイトレスの服には少女らしいはしゃぎようを見せていた。
閑話休題。

さて、到着したその地点は『真実の口』、表向きは有名な観光名所だがその実、ナチス研究所への入り口である。
この事実、二人はとうに知っていた。涎をたらし気絶している玉美の支給品を物色、没収した際に発見した地下施設の地図。
地下に何があるのかは二人の知るところではない。しかし、通常の支給品とは別に地図が支給されるという事実。
二人は地下に何かあるに違いないという理由、次の施設へ移動する際の直通経路になるという理由から地下に潜ろうと意見を一致させていた。

「いいか――開けるぞ」
「お願い。チャッチャと潜りましょう。綺麗なところだといいんだけどね」

短い会話を交わしウェカピポが真実の口に手をかける。
重々しい音を上げながら大きく口をあけたその真実に二人は――正確には三人だが――静かに身体を滑り込ませる。
ゴゥン……という音を上げ、真実は再びその口を閉ざした。

224単純 その5 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:45:31 ID:LYwRF6QY
●●●


さ〜て……玉美サン、実はもうとっくに目ぇ覚ましてましたァン!そら背負われてりゃ振動で起きますわな。
でももう少し気絶したフリしてるのが賢いですねェ〜、トリッシュちゃんの背中あったかいナリィ、ってかァ。
両手縛られてるからパイタッチできないのが難点だが……下手に触ってまた殴られるのもちょっとなぁ。

しかし地図も何も取られちまったのは痛いぜぇ。ウェカピポとかいう男は完全に俺のこと警戒……ってかケイベツしてるだろうしな〜。
この先どうすっか――もういっぺん康一どのあたりと合流できればラッキーちゃんなんだが、仗助あたりじゃあ厄介だしな……
つーか地下に潜ってこの先二人は行くアテあるのか?いつまでも寝っぱなしもさすがに怪しまれそうだしなァ〜。

「あれは――ブ、ブチャラティ!?」
「……ルーシー・スティール?なぜここに!?」

って、ん?誰か知り合いか?そ〜っと目をあけて……

……オォッ!?
ルーシーちゃん(でイイだろ、ブチャラティちゃんって名前があるか)カワイイおじょーちゃんじゃねぇかッ!
見た感じトリッシュちゃんより年下っぽそうだけど、ってことはもしかしてバババ、バージン!?うっひょォッ!
こりゃ〜玉美サン盛り上がっちゃうぜェ〜?あんまり盛り上がりすぎて“見た目”でバレちまわない様にしねぇとなぁ〜!
日ごろの行いが良かったっていうのか?やっぱ、俺ってば、ホント、ラッキー!!

225単純 その5.5(状態表) ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:47:25 ID:LYwRF6QY
【F-6 地下 コロッセオ地下遺跡 1日目 早朝】

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:肉体的疲労(小)
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済)、破られた服
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.あれは……ブチャラティ?なぜ……?
2.この変態野郎にあと100発くらいぶち込んでやりたいが、見殺しにするのは私の正義に反する。
3.ミスタ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。
4.あのジョルノが、殺された……。
5.父が生きていた? 消えた気配は父か父の親族のものかもしれない。
6.二人の認識が違いすぎる。敵の能力が計り知れない。
[参考]
トリッシュの着ていた服は破り捨てられました。現在はレストランで調達したウェイトレスの服を着て、その上に吉良のジャケットを羽織っています。
『冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器』を打たれましたが、体力はずいぶん回復したようです。

【ウェカピポ】
[能力]:『レッキング・ボール』
[時間軸]: SBR16巻 スティール氏の乗った馬車を見つけた瞬間
[状態]:健康
[装備]:ジャイロ・ツェペリの鉄球、H&K MARK23(12/12、予備弾12×2)
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜1(確認済)、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュと協力し殺し合いを止める。その中で自分が心から正しいと信じられることを見極めたい。
1.ルーシー・スティール……?なぜこの場にッ!?
2.この変態野郎が目を覚ましたら尋問して情報を聞き出す。
3.ミスタ、ジャイロ、ジョニィを筆頭に協力できそうな人物を探す。
4.スティール氏が、なぜ?(思考1のことも踏まえ)
4.ネアポリス王国はすでに存在しない? どういうことだ?

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:全身打撲(ダメージ小)。興奮(大)。拘束(両手両足を縛り、猿ぐつわ)されている。服はウェカピポが着せたようです。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:どんな手を使ってでも生き残る。
1.トリッシュちゃんの背中あったかいナリィ……
2.ル!ルーシーちゃん!?カワイイ!ヨダレズビッ!
3.賢く立ち回るために気絶したフリ。タイミングを見計らって逃げるなり起きる(フリをする)なりしよう。
[備考]
どうしようもなく変態です。

226単純 その6 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 19:48:39 ID:LYwRF6QY
●●●


さて――多くの人間が話に出てきたからちょっとここらで整理しようか。

最初に出てきたのは、いかにも単純に見えるがれっきとした暗殺者のギアッチョ。
そして、そんな荒馬を、大変そうではあるが見事に乗りこなしているディエゴ・ブランドー。
それから、そんな狂気の二人組から逃げた冷静沈着、われらがブローノ・ブチャラティ。
彼に対して、また自分の存在があまりにも複雑すぎてちょっとしたことで壊れてしまいそうなルーシー・スティール。
ブチャラティの死を知っているから、単純に彼との再会を喜べないであろうトリッシュ・ウナ。
トリッシュと同様、ルーシーの存在に少なからず複雑な心境を抱くウェカピポ。
最後に……本能に忠実というか、単純極まりない小林玉美。

誰がどう行動し、それが何を生み、何を失うのか。
それを単純に言葉で表すのは不可能だろう。
だがしかし、それらが複雑に絡み合って生み出され、失うものもまた小さなものにはならない。

……なんて、ちょっとカッコつけて言ってみたりして。
『シンプルがいいッ!』なんて格言があるくらいだ。案外単純明快な玉美だけが生き残ったりしてね。ハハハ。

――ん?フラグ?あんまりそうメタな発言をするもんじゃないよ。
そういう言葉が単純なものをまた複雑にかき回すんだから――

227単純 ◆yxYaCUyrzc:2012/08/18(土) 20:09:29 ID:LYwRF6QY
以上で投下終了です。仮投下からの変更点は以下の通り
・したらばで指摘された誤字の訂正
・パート区切りの記号の変更(wiki対策)
・描写・文末、状態表の整理

エリア端で燻っている連中を少々強引にではありますが引き合わせてみました。
せっかくなら地下も活用しようとギアッチョ達を地上に、ブチャラティ達を地下に据えて話は終了。

それから、『俺パート』について少々。

仮投下スレ447氏には申し訳ないですが、『やめません』とここで明言しておきます。
例えば他ロワの作品では、本文中にAAが貼られることもあるそうです。そのことに否定はしません。
私の『俺パート』も、そういう『一種の表現方法』としてみてくださればと思います。
また、『あくまで2chの企画、クオリティばかりを求めないでいい』と書き手志望の方々に感じてもらえればとも思いながら書いてたりします。

あと『自分の作品がつまらないか気になるなら批評スレ行けよ』という意見に関してですが、
確かに『俺』は『作者の代弁』をしてくれます。どんなにSS数を投下しても不安にはなります(むしろならない人がいるのか?)
ですが、『俺』は、あくまで俺という『キャラクター』です。自分の悩み『だけ』をSSに乗せる公私混同のようなまねはしてないと自負しています。
前作『病照』ではあくまでも『俺の愛を受け取れない奴はどうしちゃおっかな〜』と、あくまでもテーマは『愛』に、
そして今作では、そんな質疑応答を乗り越えて、こういう悩みを例に挙げて『単純に考えること』をテーマに据えています。
(それが読み取れないと言われたら単純に自分の文章力不足だと考えます)

パロディが多いこと、メタな視点からの語り、雰囲気ぶち壊し、本文中にテーマ組み込めよ、エトセトラエトセトラ。
言いたいことは多々あると思います。ですが……ジョジョロワ3rd、岸部露伴の
『そんなものは、ノンフィクション作家に任せておけばいいのさ。』
という言葉をパロディで借りるなら、
『クオリティの高いものは、有名小説家に任せておけばいいのさ。』と。
先にも書きましたがあくまで素人集団の集まり。多少ぶっ飛んでても楽しくSSを読めればいいのではと思います。

もしこれでよっぽど叩かれるようなら……引退はしませんが別トリ用意して新人からやり直すくらいの覚悟ではあります。

長くなりましたが、そんな俺パートも含め、感想(もちろん誤字脱字や矛盾の指摘も)いただければと思います。それでは。



***
規制につき、ここまでをどなたか本スレへの転載をお願いいたします

228 ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:23:37 ID:TwxXUmKo
クソッタレぃ!やっぱり規制されてたよ
ということで、どなたか転載お願いします。

花京院典明、山岸由花子 投下します。

229僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:26:39 ID:TwxXUmKo



幼い頃からひとりだった。



☆ ☆ ☆


「見失った……ですって?」

金属を切断するようなキンキンと響く悲鳴が耳障りだ、と花京院は思った。
自分の無能さを棚に上げて、文句ばかりを並べ立てる。
この女に惚れ込まれた康一という男に心底同情した。

やかましく喚く由花子の声を無視し、花京院は辺りを見渡す。
周りに転がっているのは、3人の大人の男たち、いずれも既に死体だ。襲撃者は彼らの方だった。
スタンド使いでない彼らは花京院の敵ではなかったが、3人がかりで同時に襲われたのでは、タンクローリーの姿を見失うには十分すぎる要素になる。

花京院は数分前の出来事を思い返す。
タンクローリーを追って杜王町エリアを後にした花京院典明、山岸由花子の両名は、道中であるタイガーバームガーデンにて待ち伏せによる襲撃を受けたのだ。

230僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:28:01 ID:TwxXUmKo

『俺の名はケイン!』
『俺の名はブラッディ!』
『そして俺の名はドノヴァンだァァ――ッ!』

突如、軍人風の男達に囲まれた花京院たち。
先行していた『法皇(ハイエロファント)』の能力でも察知できなかったのは、ナチス親衛隊コマンドーであるドノヴァンによる功績が大きい。
3人の襲撃者は花京院を取り囲むように姿を見せ、襲いかかった。
素早い身のこなし、手にはそれぞれナイフが握られていた。

殺意を持って襲いかかってきたのかはわからない。
真っ先に花京院を狙ってきたことからして、由花子を下衆い動機で襲うのが目的だったのかもしれない。
なんにしても、生身の花京院がどうにかできる相手ではないことは明確だ。

『エメラルド・スプラッシュ!!!』

タンクローリーを逃さぬよう300メートル先行させていた『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』を高速で呼び戻す。
そして射程距離ギリギリからの、その両掌から放たれる必殺の散弾『エメラルド・スプラッシュ』―――有無を言わさぬ最強の攻撃により、3人の軍人たちは悲鳴を上げる暇すら与えられず、沈黙する肉片へと姿を変えた。
文字通り、他愛のない襲撃者たちだ。しかしスタンドを呼び戻す必要があったため、追跡していたタンクローリーを見失うという結果に陥ってしまった。



「ほんっとスットロいわね、あんたは!? これじゃあ何のために組んだのか分かりやしないわ!?」
「うるさい人だな。自分の無能さを棚に上げて私を侮辱するとは呆れたものだ。この者たちを『貴女のスタンド』で始末してくれれば、私も『法皇』を呼び戻すこともなかったのですが―――
もっとも冷静さの欠ける貴女では、彼らの襲撃に気づくことも対応することもできなかったでしょうがね?」
「ふざけんじゃあないわよ? 襲われたのはアンタじゃないの! どうしてあたしが助けなきゃいけないわけ? あたしが用があるのは康一くんだけなのよッ!!」

花京院は頭を抱える。やはりこの女はダメだ。
スタンド能力は強力だが、花京院のために使用するつもりは微塵もないらしい。
いざとなれば、彼女はいつでも花京院を犠牲―――身代わりに差し出すだろう。(もっともこれはお互い様だが)
由花子から得られた情報に大したものは無かったように思える。
自分の握るDIO様の情報やアレッシーの話と比較しても、割に合わない。
口を開けば「康一くん」、「康一くん」と、やかましい。自分から持ちかけた同盟関係だったが、花京院は既に見切りをつけていた。
そして、由花子も同様の結論にたどり着いていた。

231僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:30:06 ID:TwxXUmKo


『花京院くん、恐れることはないんだよ。友達になろう』

DIO様はあの時、私にそう言った。
初めは恐怖していたと思う。次に感じたのは安心だ。そして最終的に自分の中に生まれたのは、この上ない『憧れ』の感情だ。



『嫌いだって言ってるんだよ。きみに既にさあ……』

康一くんはあの時、あたしにそう言った。
あたしはこんなにも「好きだ」と言っていたのに――― 私の中に生まれたのは、この上ない『怒り』の感情だ。



幼い頃からひとりだった。
子供の時から、友達はいなかった。
私の『法皇(ハイエロファント)』の見える人間など、誰一人いなかったからだ。
そんな者たちと友人になることなどできるわけがなかった。

幼い頃からひとりだった。
人を好きになったのは、初めての経験だった。
どいつもこいつも下心丸出しの、下卑た男ばかりだったからだ。
そんな者たちに興味を持つことなんてあり得なかった。

232僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:31:08 ID:TwxXUmKo

DIO様は神のように思えた。
私の全てを理解してくれた。私のすべてを捧げたいと感じた。
彼と真の友人になりたい。彼の役に立つことならばなんでもやりたい。
彼のためならば命だって捨てられる。

康一くんはヒーローだった。
勇気と信念を持った男の顔。笑った時のカワイイ笑顔。すべてがあたしの理想だった。
彼と真の恋仲になりたい。彼のために自分の一生の全てを捧げても構わない。
そう思っていたのに。



山岸由花子は違う。『法皇(ハイエロファント)』が見えるかどうかは問題ではなかったようだ。
友人とまではいかなくとも、目的を共有する同盟くらいならば何とかなると思っていたが……
彼女は役に立たない。百害あって一利なし。いつか近いうちに、彼女に脚を引っ張られる時がきっと来るだろう。

花京院典明は違う。彼の能力で康一くんを見つけることはできたが、それだけだ。
康一くんの代わりになる事などありえないが、使える味方くらいにはなるかと思っていたが……
もう無理だ、こんな男と行動することなど耐えられない。同盟関係を近いうちに仲間割れを起こし、どちらかがどちらかを裏切ることになるだろう。



やはり私にはDIO様だけだ。

やはりあたしには康一くんだけ……。



幼い頃から独りだった。
仲間なんか、はじめから必要なかった。




233僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:32:01 ID:TwxXUmKo


「………………………………」
「………………………………」

2人の間に不穏な空気が流れる。
お互いが相手に抱いている負の感情が、なんとなく理解できた。
同盟関係はここまでだ。
向かい合って、臨戦態勢に入る2人。いつでもスタンド攻撃可能。

そのとき、遠方で巨大な爆発音が響いた。





「……康一くんの居場所がわかったわ」
「…………その様だな」

爆発の規模から考えて、今の大爆音はタンクローリーの物だ。
すなわち、そこが広瀬康一の居場所だ。そして、足を失った。追いつくには今しかない。
無事でいればいいが――――――。

2人は同時に戦闘態勢を解く。余計な人間を相手にしている時間はお互いにない。
だがこれ以上同盟を続けていくことは決して無いと、両人が理解していた。

「悪いけど、あんたに構っている暇はないわ。あたしの目的は康一くんただ一人なの。もう行かせてもらうからね」
「好きにするがいい。私も貴女の『お守り』をするのにはほとほと疲れていたところなのでね」
「フン!」

両者が刃を収めたのは、戦っても無傷で済む相手ではないと判断したからだ。
お互いに自分の本来の目的ではない相手だ。不要な戦闘はできる限り避けたほうがいい。

長い髪を翻し、山岸由花子は一人、走り出した。
高く立ち上る煙と炎の明かりが何よりの目印だ。距離にして1キロメートルあるかないか――大した距離じゃあない。
もし康一が無事ならば、すぐにでも移動してしまうだろう。そして、もし康一が無事でないならば、なおのこと急がねばならない。
康一の息の根を止めるのは、自分でないといけないのだ。

234僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:34:11 ID:TwxXUmKo

朝日の昇りだしたローマの街へ消えていく由花子の姿を、花京院は見送る。
彼女の行く末がどんな結末になるか、なんて彼にとってはどうでもいいことだ。
あえて質問がなかったので花京院は話さなかったが、タンクローリーに乗っていたのは広瀬康一だけじゃあない。
時代遅れのジョン・ウェインに、剃り込みを入れたヤンキー風の日本人。それに、ハンドルを握っていたのは某格闘ゲームの衝撃音波を用いる空軍少佐に似た大柄の男。
少なくとも4人組以上、うち何人かは当然スタンド使いだろう。
由花子が目的を遂げるも良し、相打ちになるのがベストだが――― まあ由花子の能力程度じゃあ返り討ちが関の山だろう。
タンクローリーを追撃していた正体不明の敵の存在もあるが、まあ、知ったことじゃあない。

そんなことを考えながら、花京院は辺りの死体を見渡す。
恐らくスタンド使いではない男たちだったが、統率の取れた彼らの動きは生身の人間ならたとえヘビー級のプロレスラーでも敵いはしないだろう。
『法皇(ハイエロファント)』を持つ花京院の敵ではなかったにしろ、彼らの連携は美しかった。
彼らのような関係が、真の『仲間』というものなのだろう。
花京院にとってはわからないことであるが――― ケインとブラッディは元の世界よりの仲間同士であるが、ドノヴァンに関してはこのローマに連れてこられた後に出会った者なのだ。
彼らがこの6時間の間にどのように出会い、どのような時間を過ごしてきたのか。今となっては知る由もない。
だが彼らは、花京院が17年間かけて作れなかった『友』を、ほんの数時間で築き上げていたのだ。

『エメラルド・スプラッシュ』による攻撃はとっさだったものとは言え、容赦のない全力の攻撃だった。
そのため、返り討ちにあった3人の男たちは、みな悉く即死してしまった。
『情報収集』が第一目的の花京院にとって『見敵即殺』はナンセンスだ。
アレッシーにしても由花子にしても、ゲーム開始以降、花京院は会話もなく相手を殺しにかかったことなどなかった。
無意識の即殺行為の裏側には、花京院の、仲間への『羨望』、『嫉妬』という感情があったのではないだろうか。

235僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:35:18 ID:TwxXUmKo

「…………フン、まさか」

馬鹿げた考えだ、と花京院はかぶりを振る。
恐れ多い考えだが、自分の友達はDIO様一人で充分だ。
DIO様のために生き、DIO様のために働き、DIO様のために死ぬ。
他の仲間など…… 『友達』などは、必要ない。

なぜならば――――――




花京院典明は、幼い頃から独りだったのだから。



【E-5 タイガーバームガーデン / 1日目 早朝】

【花京院典明】
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[状態]:健康、肉の芽状態
[装備]:刺青のナイフ、スリのナイフ、第22の男のナイフ
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す
0.DIO様の敵を殺し、彼の利となる行動をとる。
1.山岸由花子との同盟を破棄した。放送後、今後の身の振りを考える。
2.ジョースター一行、ンドゥール、他人に化ける能力のスタンド使いを警戒。
3.空条承太郎を殺した男は敵か味方か……敵かもしれない。
4.山岸由花子の話の内容で、アレッシーの話を信じつつある。(考えるのは保留している)

【備考】スタンドの視覚を使ってサーレー、チョコラータ、玉美の姿を確認しています。もっと多くの参加者を見ているかもしれません。

【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。

【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。(能力、射程等も大まかに説明させられた)
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。(詳細は不明だが、音を使うとは認識・説明済み)
東方仗助、虹村億泰の外見、素行など(康一の悪い友人程度、スタンド能力は知らないしあるとも思っていない)

※ケインとブラッディはバオー来訪者に登場したドレスの戦闘兵二人組です。

※ケイン、ブラッディ、ドノヴァンの参戦時期は不明です。
※彼らの行動目的やこれまでの行動経緯は不明ですが、花京院、由花子以外の参加者との遭遇は無かったようです。
※ただしムーロロの『オール・アロング・ウォッチタワー』に目撃されている可能性はあります。

※ケインの支給品は、刺青(スピードワゴンの仲間@Part1)のナイフでした。
※ブラッディの支給品は、スリ(に扮したナチス兵@Part2)のナイフでした。
※ドノヴァンの支給品は、第22の男(バオー来訪者に登場する刺客の一人)のナイフでした。
※彼らに他の支給品があったかどうかは不明です。




☆ ☆ ☆

236僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:36:21 ID:TwxXUmKo


☆ ☆ ☆




「見つけたわ………康一くん!」

見間違うはずもない、凛々しい笑顔。
あんな大爆発があったにもかかわらず、やはり無事だった。
花京院は「逃げながら敵と戦っている」と言っていたが、この様子だと敵を見事に撃破したようだ。
さすが自分が惚れた男性、と物陰から様子を伺っている由花子は笑みを漏らす。
厄介なことに康一は他の仲間たちに囲まれている(その中にはあの「東方仗助」の姿もあった)が、由花子にとっては些細なことだ。
花京院が考えているほど、由花子は愚かではない。
多勢に無勢。考え無しに飛び出して殺害を企てるような馬鹿な真似はしない。
しかし、康一たちが少しでも油断し隙を見せたならば、その時は………

(待っていてね、康一くん。すぐにでもあなたを殺してあげるから――――――)

いや、殺すのではない。由花子は自分に言い聞かせる。
康一は自分の中で生き続けるのだ。由花子のことを「嫌いだ」と言った康一だけがいなくなり、由花子の理想である『広瀬康一』が、彼女の中で永遠に生き続けるのだ。
これからは何処へ行くのも、何をするのも、彼女の中の『康一』いつも一緒になる。
自分と広瀬康一以外の人間など誰ひとり必要ない。
なぜならば――――――




山岸由花子は、幼い頃から独りだったのだから。



【C-5 北西 コルソ通り/一日目 早朝】

【山岸由花子】
[スタンド]:『ラブ・デラックス』
[時間軸]:JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
[状態]:健康・虚無の感情(小)・興奮(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品合計2〜4(自分、アクセル・ROのもの。全て確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:広瀬康一を殺す。
0.見つけたわ、康一くん。
1.康一くんをブッ殺す。他の奴がどうなろうと知ったことじゃあない。
2.花京院をぶっ殺してやりたいが、まずは康一が優先。乙女を汚した罪は軽くない。

※チーム『HEROES』を発見しました。現在、物陰より彼らを観察しています。
※向こうはまだ由花子の存在に気がついていません。



【コンビ・花*花 同盟決裂】

【ケイン 死亡】
【ブラッディ 死亡】
【ドノヴァン 死亡】

237僕は友達が少ない ◆vvatO30wn.:2012/08/19(日) 03:46:46 ID:TwxXUmKo

はい、投下依頼完了です。どなたか本スレへ転載をお願いします。
タイトルはエア友達(スタンド)しか友達がいないおふたりだったので。正直これは予想されてた気がする。
元々は仲違いするだけのつもりだった話なんですが、yx氏さんの予約を見て、玉美、トリッシュたちと戦わせる予定だったメローネをここへ組み込もうかとしていました。
結局、なかなか上手くいかず断念。メローネはFate/stey night執筆時にも挑戦したのですが、前回も今回も失敗。
ボツOPにまで出演していたメローネでしたが、3rd出場の夢は残念ながら潰えてしまったようです。
4thに期待して出直してこい、メローネ(と、仗助に弟を産む予定だった東方朋子さん)。
それで、本編がどうなったかというと、なぜかドノヴァンとオマケ二人が参戦。
ズガン制度がなくなると思ったら、なんとなく書きたくなってしまいました。
たしか彼は◆yx氏のお気に入りキャラでしたね。喜んでくれると嬉しいです。
それではまた。

238 ◆c.g94qO9.A:2012/08/31(金) 01:33:00 ID:S540n7VU

二度目はほとんど叫びに近かった。飛び跳ねる様にしのぶもデイパックを拾い上げ、承太郎の隣に並び立った。
承太郎はしのぶを見下ろした。かなり身長差があるので、普通にしていても見下ろすような形になってしまうのだ。

「嫌だと言っても承知しません。仮に貴方が嫌だと言っても、拒否しようとも、無理矢理にでもついて行きますから!
 今決めました! ええ、そうしますとも! 例え地の果てまでだろうと、私はあなたについて行きますからッ!」

男はじっと女を見つめた。女は口を真一文字に結び、挑戦するかのように男を睨みつけた。
そのまま永遠に続く様な沈黙が流れ、空条承太郎は視線を逸らした。
ボソリと言葉をつぶやくと、彼は玄関に向かって一歩踏み出す。その足取りは決してせわしないものではなかった。
何かにおいたてられたわけでもなく、何かから逃げるようなわけでもない。空条承太郎は呆れた様に溜息を吐いた。

「―――……勝手にすればいい」
「ええ、しますともッ」

しのぶは怒ったように、そう言い返す。玄関の扉を開くと、承太郎は彼女を先に扉の外へと出してやった。

不意に何かを感じ取った男は、改めて家の中を見渡した。
何でもない一軒家だ。とりわけ大きいわけでもなく、それほど小さいわけでもない。
金持ちでもなく、貧乏人でもなく、フツーのサラリーマンがフツーに生きて、そして精一杯の努力の末、なんとか建てることができた家。
そんな家だった。


――― 俺もこんな……


承太郎は首を振り、思考を打ち切った。自分が何を考えていたかははっきりとわかっていた。
だが最後にそれを本心として捕えるようなことはしたくなかった。それをしてしまうと何か大切なものを失いそうだった。
しのぶが不安げな顔でこちらを見ていた。承太郎は最後にもう一度だけ家を見回し、そしてそっと扉を閉じた。



バタン、と控え目な音が静かに家に響き……そして家はいつもの朝を、いつも通り迎えていた。

239 ◆c.g94qO9.A:2012/08/31(金) 01:35:42 ID:S540n7VU
【E-7 北部 民家/一日目 朝】
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:???
[装備]:煙草、ライター
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.???

【川尻しのぶ】
[時間軸]:The Book開始前、四部ラストから半年程度。
[スタンド]:なし
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎についていく
1.空条承太郎についていく

【備考】
・承太郎は参加者の時間のズレに気づきました。ただしのぶに説明するのも面倒だし、説明する気もありません。

240ダイヤモンドは砕けない ◆c.g94qO9.A:2012/08/31(金) 01:40:18 ID:S540n7VU
以上です。誤字脱字矛盾等あれば指摘ください。
どなたか代理投下、よろしくお願いします。

あと相談が一つ。
自分の描いた作品読みかえしてどうもしっくり来なかったんですけど、書き直してもいいでしょうか。
具体的にいうと 093『全て遠き理想郷』の最後のタルカスの部分です。
影響はもちろんあるとはわかっていますが、どうも『納得』がいかないので。
ご意見下されば助かります。

241 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:38:10 ID:futNY7Os

 本スレ、239 の続きでゴザル。
 どなたか頼むでゴザル。

242トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:39:29 ID:futNY7Os
「ならば、私が間に立って事情を説明すれば…」
「いやいや、無理だ。状況が落ち着けば可能かもしれないが、そこはまず待ってくれ。
 もしアンタが俺の名を出せば、その時点で警戒される。
 ただでさえこんな状況なんだ。誤解の種をわざわざ振りまく必要も無いだろう?」
 確かに、そうかもしれない。
 しかし何も話さずに同行して、後で知られた場合も厄介なことにはなりそうだが…いずれにせよ、込み入った話ではある。
「とりあえず、了承した。実際にどうなるかは保証できないが…」
 結局ストレイツォとしてはそう答えるしかない。
 
 簡単な情報交換と休息。
 しかしその間にも状況は変化している。
 外の様子を伺っていた吉良が戻ってきて、「やはり見失った」と告げる。
 これは、最初にストレイツォたちが目標としていた、上空での轟音と光の反射の主、ホル・ホース曰く『ホルス神のペット・ショップ』の事だ。
 吉良も、狭い入口から外を探っていただけだった以上、上空すべてを監視できていたわけではない。
 もとより、双方移動しながらの事だった上、間に放送などがあった以上、見失ったとしても致し方ない。
 いったい誰が、ディオの部下と戦っていたのか。
 気になるといえば気になるが、もはやどうもできない。
「それで、ストレイツォ」
 ぐ、っと、今度は吉良が顔を寄せ話しかけてくる。
「あいつらとはどういう話になった?」
「とりあえず同行はしない。あの少女の休息時間をもっと取りたいようだし、ホル・ホースは戦士だ。自分たちの身は自分たちで面倒見れる、と。
 名簿にメモをしたが、彼の知っているディオの手下と、ジョースターの仲間たちの名は聞き出せた。
 できれば、彼らを探し出し、戦力を増やしてディオに挑みたいのだが…」
 視線が絡み合う。
 吉良はしばし思案した様子で、しかし続けてこう言った。
「徐倫…」
 不意に出たその単語に、ストレイツォは少し戸惑う。
「ストレイツォ。放送を聞いたとき、それをメモしたのは私だ。そして自慢じゃあないが、私は結構記憶力は良い方だ。
 最初、あの男は、同行している少女を、『徐倫』と呼んだ。
 名簿にある名前でそれと似た名前は、『空条徐倫』ただ一つだ。
 少し似た響きでアイリンという名もあるが、まあそっちでは無いだろう」
 ゆっくりと、確認するように、言葉をつなぐ。
「そして、『空条徐倫』…あと、『アイリン・ラポーナ』は、ともに死亡したと告げられていた…」
「!?」
 ストレイツォの顔がこわばる。
「彼らは…放送を確認していない、と言っていた……。
 ディオから逃げるのに必死で、その時間が取れなかった………とも」
 そのため、吉良がメモしていた名簿と地図の印を、ホル・ホースに渡して写させている最中だ。
 50人という膨大な人数の死者数だけに、写しを取るだけでも一苦労である。
   
 ストレイツォが呼吸を整え、両足から床に微弱な波紋を流す。
 波紋は、生命のエネルギー。屍生人や吸血鬼にとっては破壊をもたらすもの。
 しかし、床を伝って届いた微かな波紋が、壁際に座り込んでいる少女に、ダメージを与えた気配はない。
 もとより、彼女は刑務所の前からここまで、朝日を全身に浴びてやってきているのだ。屍生人であるハズは…無いのだ。
「名前を騙っているのか…、そもそも名簿や放送が誤り、嘘なのか…、或いは………」
 吉良の言葉がストレイツォの中に浸透していく。
「死から蘇る…又は、死んでいないのにかかわらず、主催者側に死んだと思わせる何らかの手段があるのか………」
「何者だ…」
 ストレイツォは吉良以上に混乱する。
「彼女の中は『生命のエネルギー』に満ちている…。
 しかし、その肉体は『死んでいる』………」
 波紋の伝わり方、その流れからストレイツォが感じ取った結論は、彼女が屍生人であるというものよりも、奇っ怪で悩ましい、理解を超えたものであった。

243トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:41:04 ID:futNY7Os
 ☆ ☆ ☆

 ポルナレフ、アレッシー、エンヤ婆……。
 ジョースター一行も、ディオの手下も、この膨大な50人もの死者の中に名が上がっている。
 アレッシーはたしか再起不能になったはず、とか、エンヤ婆はあの後ジョースター達に捕らえられたため、別の刺客に粛清されたと聞いているが…等など、気がかりになる事はいくつもある。
 いくつもあるが、問題はそれじゃあない。
 空条承太郎が最初に殺され、そしてポルナレフまで死んだとなれば、花京院、アヴドゥル、そして老いぼれのジョセフ…と、残りのジョースター一行は、DIOに対抗できるとはとても思えない面子だ。
 もとより、ホル・ホースは、ストレイツォと『仲間』になって、『ともにDIOに立ち向かおう』などとは、さらさら考えていない。
 むしろ、DIOの対処を奴らに押し付けて、できるだけ離れていようと、そう考えている。
(もちろん、彼らが『運良く』DIOを倒してくれれば、『儲けもの』ではある、が)
 そのためにも、情報が必要だ。
 DIOの手下がどれだけいて、DIOに立ち向かおうという人間がどれだけいるのか。
 それを把握するためにも、聞き逃した放送の情報をストレイツォから引き出したのだが…。
 
「放送で読み上げられた死者」としてチェックの入っている名。
『空条徐倫』。
 どういう事だ…?
 ホル・ホースは、傍らで座り、壁にもたれ掛かって、何事かを思案しているのか、或いはただ休んでいるのか分からぬ少女を見る。
 先ほどの感情の爆発から一転、それまで以上に空虚な表情である。
 空条徐倫。曰く、空条承太郎の娘。曰く、GDS刑務所の収監者。
『糸』のスタンドを使い、先ほど殺された野球帽の少年の友人。
 どろどろに意識と肉体を『溶かす』スタンドによって死に瀕している父、承太郎を助けること。
 エルメェス・コステロ。ナルシソ・アナスイ。ウェザー・リポート。F・F…。
 F・F…?
 再び、名簿を開いて名前を探す。
 ある。『F・F』の名は、名簿にある。
 エルメェス、アナスイ、ウェザー、エンポリオ等もある。
 話半分、ハナから与太話と思っていたのは確か。
 彼女は空条承太郎の縁者か何かかもしれないが、娘などということは有り得ない。
 彼女の語っていた承太郎は、明らかに自分より年上だ。
 人となり風貌などは似ているが、実在したとしても別人だといえる。
 別人?
 再び名簿に目を向ける。
 参加者の中に、やはり『空条承太郎』の名がある。
 しかし、そこには「放送で読み上げられた死者」として、チェックが入れられていない。
 ストレイツォが記入し漏らしたのか? いや、最初の段階の死者はそもそも放送では読み上げていなかったのか?
 しかし、読み上げなかったのであれば、なぜ名簿に名前があるのか?
 ホル・ホースの頭がフル回転で状況を整理する。
 
 ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎は、最初の会場で殺されている。
 しかし名簿によれば、空条承太郎はまだ生きてこの奇妙な街のどこかにいる。
 それがもし正しいとすれば―――この会場にいる空条承太郎こそ、ホル・ホースの知っている18歳の空条承太郎とは別人で同姓同名の、空条徐倫の父親なのではないか―――?
 
 待て。待った。違う、そこじゃない。そこが問題なんじゃあ無い。
 
 再びホル・ホースがかぶりを振る。
 
 問題は、放送で『空条徐倫』が『死んだ』とされたのは本当なのか。
 本当だとしたらなぜ、今生きているはずの徐倫が死者として名を告げられたのか。
 そして―――。
『F・F・F(フリーダム・フー・ファイターズ)…』
 あの針の化物が襲いかかってきた時に徐倫が呟いた、この言葉―――。
 
(徐倫―――…、一体お前は…?)
 
 視界の中、『糸』が、ホル・ホースに向かって放たれた。

244トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:41:48 ID:futNY7Os
 
「うおぉああぁあっ!!??」
 
 背後を見やる。
 そこには、『糸』でがんじがらめにされた青年の姿。
 そう、この会場で最初にホル・ホースが出会い、完膚無きまでに叩きのめされた「牛柄の服を着た青年」が居たのだ!
 
「とりあえず…ハナっから『撃つ』のも何だし、『糸』で縛り上げたけどさ……」
 徐倫の気のないセリフに、ストレイツォ達の声がかぶさる。
「しまった、目覚めていたかッ!?」
「待て、攻撃するなっ…! そいつにはまだ…」
 瞬時に駆け寄る二人に、ホル・ホースは『皇帝(エンペラー)』を出して牽制。
「おい、仲間か!? 見知らぬ仲ッて訳じゃなさそうだがよぉ〜!?」
 二人が足を止める。
「いや、我々はその男に襲われたが、撃退して縛り上げていたんだ」
 なるほど、確かによく見ると、糸の前に両腕と胴体がロープで縛られているのがわかる。
 ただ、縛りが甘かったのかどうなのか、ところどころ緩んで、這うように移動することはできる状態のようだ。
「や…やめてくれ、息が……息ができない……ッ! まぶたが下がるッ……!」
「ニャにィ〜〜!? てめー、俺を忘れたとは言わせねぇぞ!?
 さっきはよくもやってくれたなぁ!!!???」
「ヒィイィィィ〜〜〜!! 覚えて無いッ!!! アンタ誰だッ!!?? 俺は何で縛られてんだッ!!??
 やめろっ……息がッ……!!」
 あまりの狼狽ぶりに、逆にホル・ホースが面食らう。
 徐倫は糸を戻し、ストレイツォ達もゆっくりと歩み寄る。
「…何だか、随分と態度が違うな……」
「無理もないだろう、ストレイツォ。あれだけ君に容赦なくしてやられたんだからな」
 会話の内容に、青年の腫れた顔から、どうやら自分が手も足も出なかったこの青年を、ストレイツォは余程の目に合わせたと思え、複雑な気分になる。
 その悔しさからか、ホル・ホースはいささか乱暴な動作で青年に『皇帝』を突きつけ、
「てめー、一体何者だ? なぜ俺…この二人を襲った?」
 相手がしらばっくれていることもあり、自分がストレイツォ達より前に青年に完膚無きまでに負けたことをごまかしつつ、そう問いただす。
「わ、分からねェ……。自分でも分からねェんだよ〜〜〜!!
 神父に……神父に言われたんだ……。
 そしたら、急に変なところに連れて行かれて……殺し合いしろとか……。
 そんで、息が苦しくなって、また、まぶたが落ちてきて、水を……水を飲んだら……」
 縛られたまま、這うようにのたうつように体を揺らすが、ぐいと『皇帝』を突きつけられどうにもできない。
「まぶた、だの、水、だの、どーでも良いンだよッ!!
 てめーは何者で、なぜ襲ってきた!!??」
 ひいっ、と再びの悲鳴。
「リキエルっ! 俺の名前はリキエルっ…! DIOの息子だっ!!」
「「「「!!!???」」」」
 叫びを聞く4人それぞれに衝撃が走る。
「神父が、俺たちのことを『DIOの息子』だって、そう言って……それで、『空条徐倫』の足止めをしてこいって言われて………! そしたらいつの間にか変なところに………」

 ―――神父。DIOの息子。空条徐倫。死んだ肉体に生命をみなぎらせる少女。波紋戦士。殺し屋。殺人鬼。死んだものとして名を告げられた少女。空条承太郎の娘―――。

245トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:43:12 ID:futNY7Os
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【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内部 / 1日目 朝】

【H&F】

【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:困惑
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。
2.徐倫に興味。ただ、話の真偽は不可解すぎるぜ。
3.DIOの息子? 空条承太郎は二人? なぜ徐倫の名が死者として呼ばれた?
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。
 内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。

【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:軽い疲労、髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトル2本消費)、ランダム支給品1〜4
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
1.『あたし』は、DIOを許してはならない…?
2.ホル・ホースに興味。人間に興味。
3.もっと『空条徐倫』を知りたい。
4.敵対する者は殺す。それ以外は保留。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いてません。

246トータル・リコール(模造記憶) ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:45:50 ID:futNY7Os
【ストレイツォ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3(水ボトル1本消費)、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を集い、吸血鬼ディオを打破する
1.ホル・ホースは信頼できると思うが、この徐倫という娘は一体何者なのか?
2.青年(リキエル)から話を聞き出すべきか?
3.吉良などの無力な一般人を守りつつ、ツェペリ、ジョナサン・ジョースターの仲間等と合流した後、DIOと対決するためGDS刑務所へ向かう。
[備考]
※ホル・ホースから、第三部に登場する『DIOの手下』、『ジョースター一行』について、ある程度情報を得ました。

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:健康
[装備]:波紋入りの薔薇
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。
2.死んだと放送された『空条徐倫』に、「スタンド使い」のホル・ホース…ディオ? ディオの息子…ねぇ…。
3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。
[備考]

【リキエル】
[スタンド]:『スカイ・ハイ』
[時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前
[状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック、縄で縛られてる
[装備]:マウンテン・ティムの投げ縄(縛られている)
[道具]:基本支給品×2、
[思考・状況]
基本行動方針: ???
1.ヒィイィィィィ〜〜〜!! 何が何だか分からねェ〜〜〜!! 息が、息が出来ねぇっ…!!
 

【E-2 GDS刑務所・正門の内側 / 一日目 朝】
【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:痛みと疲労、数箇所の弾痕(表面のみ、致命傷にいたらず。能力を使えばすぐにでも治せる程度)、『何も分からない』
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:特になかったが、DIOに興味。
1.友を思い、怨敵を思う。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。

247 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/02(日) 20:49:55 ID:futNY7Os

 イジョウデース。

 ヨーロシーク オーネガーイ イータシマース。(オウム)

248 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:50:35 ID:8tKIpr92

「畜生……、この畜生が…………ッ!」

込み上げた酸っぱい胃液を飲み込みながら、噴上裕也は毒づいた。
威勢のいい言葉とは裏腹にその口調は弱弱しく、彼は壁にもたれかかかりながら荒い呼吸を整えていた。
吐き気の波がもう一度彼を襲う。口を手で覆いながら彼は言葉にならない悪態をつく。

「鼻が人一倍効くお前には辛いだろう。無理しなくてもいいぞ、フンカミ」
「黙れ、このサイボーグ野郎! 畜生……、この畜生が…………ッ!」

屈んでいたシュトロハイムがゆっくりと立ち上がった。男は少年のほうを振り向かず、ただ黙って目の前の光景を見つめていた。
洞窟は真っ赤に染まっていた。それはもうどうやったらこれほど鮮やかに彩れるのだろうと思うぐらい、赤一色に。
壁、地面、天井までに飛んだ血痕。鼻を覆いたくなるような鉄臭い臭いが充満していた。シュトロハイムは拾い上げた身体の『一部』をじっと見つめていた。

「……無茶しよって」

それは『ロバート・E・O・スピードワゴン』だったモノ。
ロバート・E・O・スピードワゴンだったモノが、辺り一面撒き散らされていたのだ。
鮮やかな切り口で細切れにされた身体の断片。一番大きなものでもそれは容易く男の掌に収まってしまうぐらいで、生前の面影はほとんどない。
シュトロハイムは黙々と動き続けた。まるで感情を見せないロボットかのように彼は機械的に動き、数分のうちに身体の大部分を集め終える。
噴上裕也は青い顔で動けずにいた。シュトロハイムが今度は穴を掘り始めても、少年はその場から動くことができなかった。

「それでいい。それでいいんだ、フンカミ」

いつもは叫ぶように話すシュトロハイムがボソリとそう唸った。
噴上がごくりと唾を飲み込む。シュトロハイムは言葉を続けた。

「本当はお前をここに連れてくるのもよくはないとわかっていた。こんな光景をできることなら見せたくなかった」
「舐めるなよ……ガキじゃねーンだぞ、俺は」
「ガキも子供も、大人も成人も関係あるまい。こんな光景は戦場だけで十分だ」

その時唐突に、噴上裕也は目の前の男が軍人であることを思い出した。
そんなことは知っていたはずだった。口開けばゲルマン、ナチス。そんな男が軍人以外の何物でもあるわけがなかった。
だが言葉の背後に広がるほの暗さを嗅ぎ取り、噴上は改めて、心で、そして魂で認識したのだ。
ルドル・フォン・シュトロハイムという男のことを。彼の背中から漂う、血なまぐさい臭いを。
そんな男の背中に、噴上裕也はかける言葉が見当たらなかった。

249 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:51:16 ID:2ahIG5lQ


出来上がったスピードワゴンの墓はあまりに素っ気ないものだった。
きっと言われなければ誰もが見落としてしまうに違いない。言われたところで盛られた土があるだけで、きっと誰もがそれを墓だとは思わないだろう。
一時代を築いた石油王にしてはあまりに寂しく、物悲しい、墓だった。
シュトロハイムはしばらくの間、そんな墓の前に立ち続けていた。右腕をピンと伸ばした敬礼のポーズのまま、男はしばらくの間その場に立ちつくしていた。


「戻ろう、皆が待っている」


十数秒の沈黙の後、シュトロハイムはくるりとその場で振り返り、洞窟の入り口にいる噴上に声をかける。
男はそれっきり背後を振り向かなかった。少年を引き連れ、辺りを警戒しながら、シュトロハイムは仲間が待つ場所へと帰っていく。
誇り高き軍人はリベンジを誓った。亡き石油王のためにも、因縁の相手との決着は必ずやつけなければならない!


「カーズ……!」


男の憎々しげなその呟きに、少年はなんと返せばいいかわからなかった。
噴上裕也は黙って聞こえないふりをし、何も言わずに先を行く男に追い付こうと、ほんの少しだけ足を速めた。






【B-4 古代環状列石(地上)/一日目 朝】


【チーム名:HEROES+】

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
0.仲間の元へと戻り、改めて作戦を練る。今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める?

【東方仗助】
[スタンド]: 『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷、深い悲しみ
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0.二人の女性が目が覚ますまで救急車で待機。仲間が帰ってきたら今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める?
2.リンゴォの今後に期待。
3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか?
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが“凄み”でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

250 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:52:00 ID:2ahIG5lQ

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小)、右足に痛みとつっかえ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.二人の女性が目が覚ますまで救急車で待機。仲間が帰ってきたら今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める?

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:全身ダメージ(小)、疲労(小)
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0.仲間の元へと戻り、改めて作戦を練る。今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める?

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前。
[状態]:フルボッコ、気絶中、治療中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.気絶中
1.徐倫、F・F、姉ちゃん……ごめん。

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:全身ダメージ(中)、体力消耗(大)
[装備]:ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ローパーのチェーンソー
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0.二人の女性が目が覚ますまで救急車で待機。仲間が帰ってきたら今後の行動方針を決定する。
1.各施設を回り、協力者を集める。

251 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:52:57 ID:2ahIG5lQ


【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:全身打撲、左肩に重度の火傷傷、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
0.気絶中
[備考]
参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
ジョージⅡ世とSPWの基本支給品を回収しました。SPWのランダム支給品はドノヴァンのマントのみでした。
放送を片手間に聞いたので、把握があいまいです。





252 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:53:19 ID:2ahIG5lQ

放り投げた首輪を投げ、そして落ちてきたところをまた掴む。
考え事をしながら無意識のうちに、カーズは繰り返し、繰り返し、首輪を投げては掴み、投げては掴んでいた。
ふとその首輪を見つめていると、その持ち主との会話を思いだした。
未だ血が残る銀の輪を見つめ、しばしカーズは記憶の中の会話に浸る。


『もう一度だけチャンスをやろう、人間……貴様が持っている情報を洗いざらい吐け。
 そうすればせめて痛みを感じぬように、このカーズが丁重にあの世へと葬ってやる……』
『…………何度聞かれようと私の答えは変わらない。その問いに対する答えは、NOだ。』
『ほゥ……』

―― ザクッ……!

『―――ッ!』
『意地を張らずに素直に従えばいいものを……。さて、貴様がどこまで耐えることができるか、これは見ものだなァ』
『……何度でも言ってやろう、私の答えは変わらない。私から情報を聞き出そうというのなら、それは無駄なことだ。もっとその時間を有意義なことに使うがいいさ』
『……人間風情が舐めた口をきくようだな。だがそう言われると、このカーズ、ますます口を割らせたくなるものよ!
どれ、お手並み拝見と行こうではないか……!』


結果的には情報は手に入らなかった。人間一人に気を取られたあまりに、カーズはその仲間をみすみす見逃したことになる。
自分らしくもない失態だった、彼は一人そう反省する。
男があまりに堂々としていたので何か策でもあるのではないかと無駄に勘ぐってしまったのだ。安い挑発にまんまと引っ掛かり、思惑通りに事を運ばれてしまった。
加えて先の異形の怪物、自分を尾行していた謎の生命。ここにはカーズの知らぬ“何か”がいたるところにいる。
その事実がただでさえ慎重なカーズを、より慎重にさせてしまったのだ。男がただのはったりかましていると気付いた時には、時既に遅かった。

「……ふん」

結果だけ見れば、これはカーズにとっての『敗北』になるだろう。
この男の目的は仲間を逃がすことであり、そしてその目的は達成されてしまったわけだ。
目論見通り二人の人間は無事逃げのび、このカーズは無様にも足止めを喰らった。

「だが…………」

カーズは別段気にすることなく、彼の関心はすでに首輪へと移っていた。
手元のサンプルが二つに増えたことでまがいなりにも実験らしきものをする環境は整っている。
支給品とやらでカーズに配られたものが大工具用品一式であったことも幸いした。今いる場所も洞窟の奥で邪魔が入ることもなさそうだ。

その一方で、別段焦ることでもないとも思っている。
サンプルだって人の数だけいるのだ。それこそ5個、10個の首輪を集めてから本腰入れて取りかかるのも一つの手だ。
一度始めたらそれなりに時間を取られるのは確かなのだ。ならばもっと万全の態勢を整えてから取りかかっても決してそれは遅くないだろう。

ふわり、ふわり。首輪が舞う。
器用なもので、カーズは二つの首輪を同時に放りながら、歩みを止めず、考えることもやめなかった。
柱の男は思考を続ける。実験に取り掛かるか。この地下洞窟の探索を続けるか。
カーズにとっては当たり前のことだったが、ついに彼は今殺した男の名を知らぬことに気がつかなかった。
当然だ。カーズにとって人間は食料の食料にすぎず、虫けらよりも価値のないものなのだから。

柱の男がすすんでいく。ひたひたと足音をたてながら、男は洞窟の暗闇へと姿を消していった……。

253 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:53:43 ID:2ahIG5lQ



                                 to be continue......



【B-5 中央(地下)/ 1日目 早朝】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:健康
[装備]:服一式、工具用品一式
[道具]:基本支給品×2、サヴェージガーデン一匹、首輪(億泰、SPW)
ランダム支給品0〜3(億泰のもの 1〜2/カーズのもの 0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.首輪解析に取り掛かるべきか、洞窟探索を続けるか。
1.柱の男と合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。

254男たちの挽歌 ◆c.g94qO9.A:2012/09/04(火) 23:55:08 ID:2ahIG5lQ
以上です。誤字脱字、矛盾点ありましたら指摘ください。
今回はけっこう苦戦したので荒があるかもしれません。
丁寧に見てもらえたら嬉しいです。とくに仗助とシ―ラEのキャラとか。

あと、仗助の制限に関しても、なんかあったら意見ください。

255 ◆c.g94qO9.A:2012/09/13(木) 03:07:31 ID:4PMAk8Ts











エリナ・ジョースターが彼を突き飛ばした。容赦ない鉄槌が彼女の体を捕えた。




狭い洞窟内に、グシャリ、と耳を覆いたくなるような、鈍い打撃音がこだました。
ジョセフ・ジョースターの絶叫が、地獄まで轟くように、暗闇を切り裂いた。







256 ◆c.g94qO9.A:2012/09/13(木) 03:08:59 ID:4PMAk8Ts
湿った砂を踏みしめる音が聞こえてきた。エリナの血をたっぷり吸いこんだ、真っ赤な砂。
ジョセフは振り返らなかった。
そんなことを気にかけていられる余裕が今の彼にはなかった。ジョセフ・ジョースターは祖母を抱きしめ、繰り返し、繰り返し彼女の名を呼んだ。
祖母の頬を撫で、名前を呼ぶ。逆の腕で傷口に波紋を宛がい、必死の治療を続ける。ジョセフもまた血みどろだった。

じわり……と広がる血の池。出血が止まらない。このままではマズイことになる。このままいけば、エリナ・ジョースターは死んでしまう。
はらはらと流れ落ちた涙が女性の頬を濡らす。ジョセフは泣いていた。ジョセフの涙が降りかかっても、エリナ・ジョースターの瞳は固く閉じられたままだった。
ジョセフは、祖母の名前を呼び続けた。それでも彼は名前を呼んだ。


黒騎士ブラフォードは既に撤退済みだ。鉄槌をエリナに叩きこんだ時にできた隙、そこにジョセフは渾身の波紋を込めた一撃をぶちかました。
身体を焼く炎のような感触に男は怒り吠えた。屍生人である彼にとってその一撃は確かな痛手となったのだ。
最後に憎々しげにジョセフを睨みつけると、彼は闇へと姿を消した。それ以上戦えばタダじゃ済まないことを黒騎士は悟ったのだろう。
結局彼は最初から最後までジョセフのことをジョナサンと誤解したままだった。


足音が確かなものとなって、ジョセフの鼓膜を震わせた。
次第に大きくなっていく音、無視できないほどに近づいてくる。
それでもジョセフは無視した。無視せざるを得なかった。
それほどまでに近づいているとわかっていても、今の彼には他に為すべき事があったのだから。

狭い洞窟、うるさいと思えるほどにジョセフの声がこだまする。
その声にこたえるかのように、エリナ・ジョースターが意識を取り戻した。たっぷり一分と時間をかけて、彼女はゆっくりと眼を見開いた。
まるでそうすることにすらエネルギーを振り絞らなければいけないと言わんばかりに。
男の腕に抱かれてまま、女性がそっと腕をあげる。涙が滴る夫の顔を、彼女は優しく撫でてやった。


「エリナ……! エリナ……!」
「……泣か、ないで。泣いちゃ、だめ……。わた、しは ――― 貴方が無事で、本当に良かった……。貴方が助かって、本当に―――」
「エリナ、僕は ――― 僕は…………!」
「大丈、夫、きっと ――― 大丈夫だから……わた、しは……大、丈夫だから……」
「……駄目だ、エリナッ! エリナ、駄目だ、駄目だ、駄目だ! 死ぬな……死んじゃ、駄目だ、エリナッッッ!」


腕の中で女性が少しずつ軽くなっていくような気がした。ジョセフは必死で波紋を流し込む。少しでも彼女を助けようと、虚しい努力を繰り返す。
信じたくなかった。考えたくなかった。死が、恐怖が、ジョセフを蝕んでいた。
こんなはずじゃなかったはずなのに。こんなこと、思ってもみなかったのに。
自分のせいで祖母が死んでしまうだなんて、そんなこと、絶対に嫌だ。そんなことがあってたまるか。そんなことがあっていいものか。

どんなことがあっても絶対に守ってやるって、誓ったはずだった。
唯一の肉親だ。たった一人の家族なのだ。
今までどれだけ迷惑かけたと思っているんだ。どれほど心配させ、どれほど祖母の気持ちを揉ませたと思ってるんだ。
今度は自分が守ってやらなければ。今度は自分が守られてきた分、守ってやらねばと思ってたはずなのに。

必死で耐えてきた。偽るのは辛かった。騙すのは心痛んだ。
だけどそれもこれも、全ては祖母のためだった。祖母のためだったというはずなのに!

257 ◆c.g94qO9.A:2012/09/13(木) 03:15:34 ID:4PMAk8Ts



「なんで……」


ジョセフの声が震えた。波紋を流し続ける両手が真っ赤に染まり、手のひらに伝わる感触が生々しい。途端、まざまざと蘇った記憶に今の光景が重なった。
そう、数時間前に彼が波紋を流し、一人の女性を殺した時のような。
命がその手を滑り落ち、二度と返ってこないような。ゾンビの最後の生命力が塵となっていく光景に、今のエリナが重なった。

呼吸が乱れる。心臓が高鳴る。ジョセフはエリナ・ジョースターの顔を見た。女性の顔は死人のように真っ青で、生気が全く感じられなかった。
青年の息が止まり、彼は何も考えられなくなる。目の前の光景が急速に薄れていった。女性の呼吸が止まっていた。
エリナ・ジョースターの心臓が、止まっていた。



「 ――― ジョセフ・ジョースターだな?」


―― その時だった。突如、声が聞こえてきた。

青年の大きな肩に手が置かれる。乾いた、がらんどうのような声が、止まりかけたジョセフの思考を揺さぶった。
黒い山高帽子をかぶり、薄いナイフのような目つきをする男がそこいた。身体はそこまで大きくない。
警戒心の高い、成長しすぎたトカゲのような、そんな気配を感じさせる男がジョセフの傍らに立っていた。

カンノーロ・ムーロロは女性の意識がないことをもう一度確かめると、ジョセフの腕から半ば奪い取るようにして、エリナの身を地面に下ろした。
優しくはないが、かといって乱雑に扱うわけでもない。引っ越し業者が高級品の家具を取り扱っているかのような態度だった。
頬を何度か叩き意識を確かめる。瞼をこじ開け、じっくりと眼球の様子を伺う。心臓の鼓動を、手首の脈を。手慣れた感じで男は淡々と調べを進めた。
ジョセフは何もできずに、呆然としたままその様子を見つめていた。目の前の光景に、現実感が湧かなかった。

時間にして1分もかからなかった。
全ての点検を終え、ムーロロはエリナを地面にそっと置きなおした。そうして服についた砂を払い落す。
山高帽子の位置を直し、軽く咳払い。ジョセフは何も言わない。彼が何も言わないのでムーロロはもう一度咳払いした。
青年の眼が焦点を取り戻すまで、男はじっと辛抱強く待っていた。そして話が聞ける状態になったのを待って男は口を開いた。

ジョセフ・ジョースターだな。
もう一度、そう念を押すように言った。ジョセフは頷く。
ムーロロは何も言わなかった。彼は確認に納得がいったのか、小さくうなずき、そうかと独りつぶやいた。

懐をごそごそとまさぐり、男はトランプのカードを取りだす。
状況がいまいち飲み込めていないジョセフに気をはらうことなく、彼はカードを操る手をすすめた。
説明する気がないのか。今はその時ではないのか。カンノーロ・ムーロロは無言のままにシャッフルを続けた。

258 ◆c.g94qO9.A:2012/09/13(木) 03:16:50 ID:4PMAk8Ts


「アンタはその女を助けたいのか?」

ジョセフ以外にこの場にいない以上、それは確実に彼に向けられた言葉だろう。
だがムーロロの視線は虚空に向けられ、まるでジョセフ何ぞいないかのような態度だった。青年はそんな様子に、曖昧に頷くしかなかった。
助けたいにきまってる。助けられるならどれほどいいだろう。ジョセフはそう思った。だが願いとは裏腹に、彼はわかっていた。わかってしまっていた。


だけど、もう駄目だ。もう……間にあわないんだ。
おばあちゃんの身体はもうゆっくりと死んでいくだけだ。波紋は万能の力じゃない。波紋は生命力。
なら死にかけのおばあちゃんは……もう、間にあわないんだッ!


「―――選べ」


俯いた彼に突きつけられる、三枚のトランプカード。
クローバーのジャック、スペードのエース、そしてハートのキング。
陽気で奇妙な絵柄が彼を見返していた。見間違いでないならば、その絵柄は彼に向って一様に笑いかけ、手を振り、そして自分を選ぶように声をあげた。
ジョセフはなにがなんだかわからぬまま、ムーロロを見上げる。ムーロロは何も言わずにジョセフを見下ろす。

膝突く青年に黙って待つ男。沈黙の後に説明が必要だとわかると、ムーロロは乾いた声でこう付け加えた。


「選べ。カードは三枚、全部がJOKER、その上アンタは俺に大きな借りを作ることになる。
 だけどアンタは選んだんだ。なら選ぶしかない。選ぶ覚悟がないなら、その女がこのまま死ぬだけだ」


そして男は説明を続けた。エリナ・ジョースターを助けるための手段を。
サッと手が動くと魔法のように三枚のカードが一枚になった。クローバーのジャックがジョセフの前で陽気に踊る。


「一つ。アンタから見たら息子にあたる男に助けを借りる。
 スタンドと言う特殊な能力をソイツは持っていて、助けを借りれば確実とは言わないが高確率で死なずに済む。
 ただ今言った通り、ソイツはアンタの息子だ。“今”のアンタと見かけは同じぐらいの年。
 つまり祖母に抱いた通りの感情を、アンタの息子は抱く羽目になるかもしれない。抱かないかもしれない。俺にはわからない。
 その上二人の怪我人を抱えていて、今にでも移動する可能性もある。リスクは高く、後の面倒も多い」


最後の言葉を言い終わらないうちに、男の手がまたも素早く動く。
カードが風を切り、そして気がつけばそれは次の一枚に早変わり。スペードのエースがくるりと一回転、そして深々と礼をした。

259 ◆c.g94qO9.A:2012/09/13(木) 03:17:53 ID:4PMAk8Ts



「二つ。アンタから見た血縁上、叔父にあたる男に助けを求める。
 少年と言ってもいいぐらい若いが、確かな能力を持っている。頭も回る、度胸もある。冷静な判断力も魅力だ。
 ただその少年も前者と同じように怪我人を抱えている。そいつは他でもない、アンタの母親だ。
 面倒な事に変わりはない。だが話がこじれれば、もしかすれば治療を断られるかもしれない、断られないかもしれない。俺にはわからない。
 ちなみに彼は待ち人と約束を交わしている。つまり移動制限あり、おまけにタイムリミットつきだ」


言葉の意味がようやく飲み込めてきた。ジョセフの光宿さない眼が、徐々に輝きを取り戻す。
俯いていた彼が顔上げ、信じられないような表情でムーロロを見つめる。男は何も変わらず、代わりに手の中のカードが入れ替わった。


「そして、三つめ」


ハートのキングが狭い掌の上で踏ん反り返り、ジョセフの顔を面白そうに眺めていた。


「スタンドと言う能力、アンタは信じられないかもしれない。突然超能力で治療するなんて言われればそう思うのもわかる。
 誰だって信用ならないと思うだろう。当然のことだ。
 ならばこのカードが一番アンタにとって本当に信頼たるものなのかもれしれない。
 なんせアンタは実際にそれを見て、触れて、体験してきたんだ。なら信用せざるを得ないだろう。
 少なくとも俺はアンタが一番にしようするのはこれだと思う」

一瞬の沈黙の後、ムーロロが続ける。彼の言葉は一ミリも変わらない。
まるで彼には感情と言うものがないかのようだった。熱もなく波もなく、男は何も思っていないかのように話しを続けた。

「DIO、という男に手を借りる。彼はアンタから見たら血縁上、祖父に当たる男だ。
 そう、『ジョナサン・ジョースター』まさにその人だ。波紋使いであって、今は吸血鬼である男。
 彼ならば間違いなく、それこそ一度その女が“死んだ”としても、必ずや生き返らせてくれるだろう。
 治療どころじゃない。死すら克服する力。それをDIOはもっている」


どちらも何も言わないまま、数秒の間沈黙が続いた。
だが両者ともに、何かを感じ取った。その数秒で様々な感情、理解、知性が飛び交ったことを理解した。
ジョセフ・ジョースターはゆっくりと立ち上がり、そして今度は逆に男を見下ろした。
大柄である彼は、眼の前の男を見下ろしているはずなのに、何故だかそんなふうには思えなかった。小柄なはずの眼の前の男が小さく見えなかった。

堕ちていくだけなのに、その闇がどこまでも続いて行く。そんな無限の可能性を、ジョセフは男の中に見た。
本能が告げている。同時に戦士の勘も囁いていた。
コイツはやばいヤツだ。掛け値なしの、関わっちゃならねェ“裏側”の人間だ、と。



「さぁ、選びな、ジョセフ・ジョースター。時間はない。俺もそう我慢強いほうじゃない。
 十数えるうちに一枚抜け。それでも選べなかったら、この話はナシだ」



どうする……? 無理矢理波紋でふんじばるか?
ぶん殴ってビビらせて、力づくで従わせるか? そんな街角のチンピラみたいな理論が、こいつに通じることなんてあり得るのか?
震える腕を持ち上げると、ジョセフは手を伸ばした。眼前に広げられた三枚のカードが踊る。ムーロロは踊らない。青年はごくりと唾を飲み込んだ。


空虚で脆い監視塔、嘘と偽りのトランプタワー。
ジョセフが、そっと、息を吐いた。いつの間にか彼の呼吸は、波紋の呼吸に戻っていた。

260 ◆c.g94qO9.A:2012/09/13(木) 03:18:36 ID:4PMAk8Ts
【D-4 北(地下)/1日目 朝】

【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前。
[状態]:精神疲労(大)、体力消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:首輪、基本支給品×3、不明支給品3〜6(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ)
[思考・状況]
基本行動方針:エリナと共にゲームから脱出する
0.???
1.『ジョナサン』をよそおいながら、エリナおばあちゃんを守る
2.いったいこりゃどういうことだ?
3.殺し合いに乗る気はサラサラない。

【エリナ・ジョースター】
[時間軸]:ジョナサンとの新婚旅行の船に乗った瞬間
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2 (未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョナサン(ジョセフ)について行く
1.???

【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
0.???
1.情報収集を続ける。
2.今のところ直接の危険は無いようだが、この場は化け物だらけで油断出来ない。
[備考]
※依然として『オール・アロング・ウォッチタワー』 によって各地の情報を随時収集しています。
 制限とか範囲とか精度とかはもうノリでいいんじゃないか。



【ブラフォード】
[能力]:屍生人(ゾンビ)
[時間軸]:ジョナサンとの戦闘中、青緑波紋疾走を喰らう直前
[状態]:腹部に貫通痕、身体中傷だらけ、波紋ダメージ(中)
[装備]:大型スレッジ・ハンマー
[道具]:地図、名簿
[思考・状況]
基本行動方針:失われた女王(メアリー)を取り戻す
0:一旦撤退。戦況をたてなおす。
1:強者との戦いを楽しむ。
2:次こそは『ジョナサン・ジョースター』と決着を着ける。
3:女子供といえど願いの為には殺す。

261fake   ◆c.g94qO9.A:2012/09/13(木) 03:21:55 ID:4PMAk8Ts
以上です。代理投下お願いします。指摘ありましたらください。

人気投票の集計、乙でした。そして投票してくれた方、ありがとうございました。
これからもがんばりたいです。

262 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/13(木) 17:30:18 ID:Nrl7PKCc
 またもアクセス帰省中!  よってこちらに投下分へのコメント。

>fake  
 乙乙乙一。
 
 ブラフォードからもジョナサン扱いされて自分で自分がわからなくなっていいるジョセフ大変!


 して、一つ。
「ムーロロがどうやって人間関係(特に血縁関係)に関する情報を手に入れたか」 は、流石にフォローしとかないとまずいかも。
 ウォッチタワーの情報収集では、3人の能力を確認するタイミングは一応あるけど、人間関係に関する発言(特にジョルノ)はほとんど無いし。
 原作でも、「遠見の技ではなくあくまでスタンドをスパイとして使う情報収集」と強調されている以上、見聞できる範囲を超えてノリにしちゃうと根本設定が変わってしまう。

263 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/13(木) 23:59:54 ID:Nrl7PKCc
 最後の詰め&修正の後、ちょいちょいで投下します。
 規制中なので、どなたか代理をお願いします。

264メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:03:49 ID:WPwP7bSA
 これは、以前読んだ医学書からの知識だ。
 医学上の健忘には、逆向性健忘と前向性健忘の二つの症状がある。
 簡単に言えば、「ある時点から以前の記憶がなくなる」か「ある時点から以降の記憶を保持できなくなる」か、だ。
 前者は、俗に言う「記憶喪失」というものだ。つまり、ドラマや漫画で、「こはどこ? 私は誰?」となってしまうアレだ。
 症例以外の分類を言えば、心因性か、外傷性か、或いはアルツハイマーなどの疾患の症状か、薬剤などによるものか等などの違いもある。
 心因性というのはストレスやトラウマを引き金とするものだし、外傷性というのは怪我などがきっかけ。
 統計を取ったわけではないし、そういうデータを見た記憶もないが、おそらくフィクションで一番多用されるのは、「心因性のショックで逆行性健忘に陥る」というパターンだろう。
 このあたりは、千帆に聞いたほうがいろいろと例を挙げてくれるかもしれない。

「忘れる」ということができない僕は、それらの逸話や話を聞くときに、何とも言いようのない気分になる。
 例えばそれらに恐怖を感じるとしたら、それを聞いた人間にも「忘れてしまう経験」があり、だからこそ「すべてを忘れてしまう」というようなことに共感や感情移入がなされるのだろう。
 僕は、おそらく、その点において彼らと同じようには感じられない。
 自分が記憶を失うということが、怖くないのか? と問われたらそれは「怖い」と言える。言えるだろうと思う。
 しかし、現実に僕は、どうしようもなく「忘れる」ということが、できないのだ。
 出来ない以上、どうしてもそこに、溝が生まれる。
 或いは憎くも思っていたし、苦痛でもあり災厄でもあるこの「能力」。
 それが失われることを願ったこともあるが、とはいえ既に自分の一部、いや、自分そのものとも言える「すべてを記憶する能力」。
 もし、過去のページを捲っても何も思い出せず、再現されなくなったら?
 もし、新たなページに何も書き込まれず、何も覚えられなくなったら?
 想像は、できる。しかし、実感をしようがない。
「忘れることのできない僕」が、「忘れてしまうということ」に対して、どういう立ち位置でいるのか。
 僕自身、それをはっきりと明言することはできない。
 
 ☆ ☆ ☆ 

 そのカフェの一角で、僕がメモを取る、と自分から申し出たのは、一つにはカモフラージュでもある。
 どういう方法でかわからないが、どこからともなく聞こえてくるこのアナウンスを、たいていの人であれば耳そばだて必死になりメモをとることだろう。
 何より、50人という人間が殺されたというが、あの読み上げの速度では、ゆっくり落ち着いて書き取る、なんてのはそうそうできるものではない。
 けれども僕に関して言えば、違う。
 はっきり言えば、改めてメモを取る必要などないのだ。
 全ては、自動的に僕のこの、〈本〉に書き込まれるのだから。
 しかし、そのことを彼らに悟られるのも困るので、ことさら「必死になってメモを取っている」風を装う必要があるのだ。
 
 どこからともなく現れた鳩が、その足にぶら下げた名簿を落として去っていったのには驚いたが、それをとやかく考える暇など与えずに、アナウンスは続いている。
 ウェザー・リポートはメモを僕に任せて、周囲への警戒を続けていた。放送を聞き入っている時に襲われる危険性もある。
 もちろんそこには、周囲のみならず、ジョルノへの警戒も含まれている。
 ジョルノ・ジョバァーナ。彼は明らかに、最初のホールで殺された少年と寸分違わぬ同一人物だ。
 それは僕の記憶力をもってしなくても、明白すぎるほどに明白だろう。
 そのジョルノ・ジョバァーナも、僕同様にメモを取っている。
 華奢、とまでは言わないが、決して偉丈夫というほどではない体格。
 てんとう虫をあしらったブローチやボタンが随所に施された、学生服と似たシルエットの上下に、特徴的なカールした前髪。
 年の頃は僕とさほど変わらないだろう。まだ幼さすら残る顔立ちは、日本人っぽいところもあるが、基本的にはイギリス系白人の特徴を多く持っている。
 似ている、というだけなら、先ほどの救急車から落ちたであろう白人男性とも似てはいる。
 最初のホールで殺された、ほかの二人とも似てはいる。
 しかし、「同一人物」と言えるのは、やはり同じ上下を着ていた、最初のホールの壇上にて、最後に紹介された少年。
 寸分違わぬと言えるその横顔を、見続けながらメモをとる。

265メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:05:58 ID:WPwP7bSA
 
 一通りの情報は、それぞれに異なる衝撃と驚き、或いは困惑をもたらしたようだ。
 勿論、僕にもある。
 ひとつは当然、双葉千帆の事だ。
 名簿には彼女の名が有り、そして死亡者として告げられたなの中には無い。
 勿論、名簿も放送も、すべてが掛け値なしの真実という保証などどこにもない。どこにもないが、僕には付け加えて情報がある。
 つまり、最初に目撃した二人の死者 ――― 父、大神照彦と、母、飛来明里の存在。
 彼らの『死体』を目撃しているウェザー・リポートも知らない事実。
 なぜか昔に死んでいたはずの母を含め、この会場で二人が死に、その名は名簿にあり、死者として放送された。
 少なくとも、この二人に関しての放送は、「事実」だ。
 ならば他の名に関しても、「事実」かもしれない。
 たとえば、ホールでちらりと見かけた、「母同様とっくの昔に死んでいるはずのウィルソン・フィリップ上院議員」や、「同じ杜王町の住人である、岸部露伴や虹村億康。あの東方仗助の年老いた父、東方良平」などに関しても「事実」かもしれない。
 それを確かめる為には、ともあれ、彼らの「死」を、確認しないとならないだろう。

 もう一つ。千帆が集められた中にいるのであれば、最初に考えた推論、「特殊な能力を持っている人間を集めたのか?」というのが、やはり違うものではないかとも考えられる。
 母の存在もその推論を否定してはいたが、僕自身が母と接していた期間は殆どない。僕が「記憶していない」だけで、何らかの「特殊な能力」を持っていた可能性はゼロではない。(あったとしても、大神に対抗できるものでは無かったということかもしれない)
 だが、実際に知り合って付き合っていた限りにおいて、千帆にはやはり、「特殊な能力」は無い。大神の言葉もそれを証明している。
 本人含め誰もまだ気づいていない、というのもあるかもしれないが、やはり「ない」と考えるのが自然だ。
 となると、あのスティールという男が、一体どう言う基準で「集めた」のか…。
 
 僕も含め、ウェザー・リポートに、ジョルノ・ジョバァーナ。ここにいる3人の男は皆、「特殊な能力」を持っている。
 途中で襲いかかってきた老人もまた同様。催眠術というか何というか、僕らの意識に働きかける何らかの力を持っていたようだ。
 
『頼む――――ッ! 琢馬――――ッ!! 千帆を――――ッ!! 頼む――――ッ!!』
 
 悲痛な叫びが、僕の脳裏にこだまする。
 〈本〉を読むまでもない。読むまでもなく、絶叫のこだまは、僕の脳裏から離れてなどいない。
 僕は、応えなかった。何も応えることなどなかったし、応えるべき言葉などもなかった。
 彼に対して、応えるべき言葉など、何もない。
 だが、しかし ―――。

 ☆ ☆ ☆
 
「――― 僕の名前は、ジョルノ・ジョバァーナ。イタリアに住んでいる学生で ――― ギャングです」
 改めての「自己紹介」は、言葉面だけで言えば異様だし以外とも言えるが、耳にしての感想としては「しっくりくる」ものだった。
 ギャング、という言葉にある一般的なイメージ…つまり、粗野で粗暴で無教養、というようなものとはかけ離れているが、けれども何故かそれを納得させられるものもある。
 そして付け加えれば、学生であり僕と同世代であるという事からはとても結びつかないが、おそらくきっと彼は、ギャングの中でも地位の高い存在なのだろうとも思えた。
 放送が終わり、再び静寂の戻ったカフェの中、朝のさわやかな光が彼の顔を鮮やかに浮かび上がらせる。
 同様に、今までは月明かりにしか観て取れなかったウェザー・リポートの顔をちらりと眺め、改めてその表情を見て取ると、僅かな苦悩とも困惑とも取れぬ、かといって無表情とも言えぬ複雑なもの。
「お前のその、『スタンド能力』―――『ゴールド・エクスペリエンス』か…」
 切り出したのはそのウェザー。
 『治療する』彼の能力は、既に実証されていた。
 その点は実際目にした僕らには明白で、ジョルノの申し出に最初は些か気乗りしないながらも、ウェザー自身も『治療』を受けている。彼は僕以上にそれを実感しているのだろう。
「『部品を作る』…と言ったが、それは、『自分の治療』にも使えるのか?」
 スタンド―――。
 先ほど、死に瀕していた女性を「救う」と言ったジョルノ・ジョバァーナも、自分の「能力」を、そう呼称していた。
 どうやら彼らの間では、「ほかの誰にも見えることのない像を持つ、特殊な能力」を示す名称として、共通のものとして知られているようだ。

266メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:07:51 ID:WPwP7bSA
「ええ、使えます。自分自身の部品を作り、それを自分の傷や欠損にはめ込むことで、治療することもできます」
 簡潔かつ無駄のない答え。
「…では、『死者』には―――?」
「無理です」
 再びの問に、やはり簡潔な答え。
「僕の能力は、厳密には『治療をする能力』ではなく、『生命を与える能力』です。
 石や木の枝に生命を与え、それを体の部品として作り出すことはできますが、それでできるのはいわば『移植』のようなもので、『回復そのもの』は、治癒力に任せるしかありません。
 死んだ肉体には治癒力がありません。『無生物』になりますから、そこから『新たな生命、部品』を作ることはできても、『死んだ当人自体』を蘇らせることにはなりません」 
 そう都合良くはいかない、と同時に、最初のホールで一度死んだ彼が、能力で蘇ったわけではない……という事でもあるのだろう。
 再び、会話が止まる。
 ちらりと横目に見たウェザーの顔に、かすかな陰りと苦痛が見えた。
 それはすぐに引っ込んだが、きっとおそらく、さっきの放送で読み上げられた名と関係あるのだろう。
 
 ウェザーが黙ってしまったので、仕方なく僕が話を続ける。
 つまり、彼に関する一番の『謎』である、「なぜ、最初のホールで殺されていたジョルノが、いま生きてここに居るのか」だ。
 しかし回答は、「自分にもわからない」という、拍子抜けしたもの。
「自分にもわからないが、あそこに居た自分も自分だったし、ここにいる自分も間違いなく自分自身だ」
 普通に聞けば、とてつもなく馬鹿げた嘘をついているとしか言えないが、そうも思えない。
 ホールで自分自身と対面したとき、自分がちぎれ飛ぶような感覚とともに体が分解しかけたこと。そしてそのあと自分の能力でなんとか治療したこと。
 いずれも何の証拠もない。
 それでも、僕は既に知っている。「すでに死んでいる人間」がこの会場にいた、という事を。
 そして彼らの言う『スタンド能力』のことを合わせれば―――死、あるいは時間を超越する何らかの力が、この件に関して働いている…。
 成り立たなくはない推論だ。勿論、確証など何もないが。
 
 そして付け加えれば、それらの推論よりも雄弁なのは、彼、ジョルノ・ジョバァーナ本人そのものだった。
 彼は、おそらくは「正直な人間」だ。
 いや、勿論それにも確証はない。ただの印象でしかないと言われれば、そうとも言える。
 ただそれでも、例えば今いるここ、地図上はB-2の『ダービーズカェ』であろう場所へと来る際も、「ここでさっきまで仲間といて、待ち合わせもすることになっている」と、そう言ったのだ。
 それら正直さも、もちろん計算のうちではあるだろう。
 正直=善人、などと安易に考えるほどに僕は単純でもない。
 仲間といる、と言っておいて、待ち伏せをしているかもしれない、と疑われる可能性はある。
 かと言って、仲間がいることを言わずに連れて行って、悪いタイミングでバッティングする方にもリスクはある。
 それらを考えて、「正直に話すことの利」を取った。
 能力についても、それ以外についても、彼はかなり「正直」だ。
 そしてそれは、「バカ正直」なのではなく、きちんと思慮熟考した上での「正直」なのだろう。
 であるならばむしろ、そのことに関して言えば、「信頼できる」。

267メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:08:32 ID:WPwP7bSA
 
 
「『納得』はできないようですが、『了承』はしてもらえたようですね…」
 口調に、かすかな安堵がこもった声。信用してもらえる自信も保証もない話だ。無理もない。
「……そうだな。お前が嘘をついているようには思えない。結局はあの男に問いただすしか無い」
 結局のところ、「何故、死んだはずの彼がここにいるか?」 を、彼に問うことは、やはり無意味なようだ、というのが、僕の(そしてウェザーの)結論になる。 
 それからは、ウェザーと僕の方が彼に情報を出す番だ。
 ある程度かいつまんでの自己紹介。自分がここに来る前の状況など。話せる範囲で話す。
 とはいえ、ウェザーはそもそも「過去の記憶がない」。
「気がついたら刑務所にいた。自分が誰だかわからない」という話も、考えてみれば荒唐無稽だ。
 僕はというと、当然「話せることが少ない」。
 日本の学生。地図上には自分が住んでいた町がある。他に、何が話せる?
「あらゆるものを記憶する能力がある」、「その記憶の中の出来事を再現することができる」、「実の父親を復讐のため殺すことだけを考えて生きてきた」
 駄目だ。
 まったくもって、人のことを言えた義理じゃない。
 そして、ジョルノとは真反対なほどに、僕は秘密を後生大事に抱え込んで手放せない。
 ギャングという背景。スタンド能力。仲間の存在。
 ジョルノが詳らかにしたこと全て、僕は手放すことができず蹲るのみだ。
「話すことない」ウェザーと、「話せるわけがない」僕。
 これはまったく、不公平な情報交換だろう。
 
「この、名簿と、さっきの放送なんだが…」
 その気まずさもあって、僕は話を切り替えた。
「何か気づいたことは?」
 この話題が、より気まずいものだろうことは分かっている。
 特に、先ほどの僅かな表情からすると、ウェザーには何かがある。
 それでも、自分から話せることのない僕にとっては、そのほうがまだましである。
 それにやはり、おそらくそれらは、「知っておいたほうが良い」事だ。

 二人の顔を交互に見る。
 やはり、そうそう気軽に話せる話題ではないようだ。
「実は、妙なことを言うようだけど、この中に……」
 なので、僕が口火を着ることにした。
「死んだはずの人間の名前があるんだ」
 びくり、と、顔色が変わった。
「それは……」
 口に出しつつも、その次を出せない二人。
「ここに、『吉良吉影』という名前がある。彼は僕と同じ街の人間で、ちょっと前に交通事故で死んでいる。ガス爆発か何かがあったらしい現場で、被害に遭っていた一人らしいんだけど、やってきた救急車の前に飛び出して轢かれてしまったらしい。
 ニュースにもなったし、救命士の責任問題にもなっていたから、ちょっと覚えているんだ」
 東方良平やウィルソン・フィリップ上院議員よりは、出しやすい名前を出しておく。
 二人はそれぞれに、気まずそうな、あるいは悩ましげな表情を浮かべ、顔を見合わせた。
「F・F……は、少し前に死んでいる」
 僕に続いて、ウェザーがそう切り出す。
「ほかにもいるが……スポーツマックスという男も、少し前に死んでいたはずだ」
 二人の、「死んだはずの人間」……。
 そしておそらく、「F・F」というのは、彼の「仲間」で、「スポーツマックス」は、「敵、あるいはそれ以外」だろう。無意識の言い回しに、それが表れていた。
 もとより彼は、最初に出会った時から、「友達」ではなく、「仲間」という言い方をしていた。「仲間を探している」と。
 「仲間」という言い方は、「友達」よりも、重い。結びつきの強固さ、あるいは同類、同士、また、「仲間以外」、この場合、「敵」がいる、という関係性で使われることが多い。
 いずれにせよウェザーにとっての「仲間」は、漠然とした「ご近所さん、お友達」などではないだろう。
 人を殺してでも、再会したい、「仲間」……。

268メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:10:00 ID:WPwP7bSA
 
 視線をそらすように、僕はジョルノを見る。
 発言を促されたと感じたのだろう。ジョルノもまた少し思案してから、
「僕も同じです。呼ばれた死者にも、名簿の中にも、「すでに死んだ者たち」が含まれています」
 ギャングだ、と言ったからレの口から出る、「すでに死んだ者」というのは、さらに「重い」。
 もしかしたら、抗争の果てに殺し合った相手、などもいるのかもしれない。
 いや、間違いなく居るだろう。ここまで、慎重ながらも、正直に語っていたジョルノが、わずかながらも躊躇いを見せた発言だ。
 「すでに死んだ者たち」のみならず、おそらくは間違いなく、「既に殺した敵」も、含まれているのだ。
 
 ジョルノやウェザーの言う、「すでに死んだ者たち」が、彼ら同様(また、僕同様)に、特殊な能力……つまり、彼らの言う『スタンド能力』を持っているのかどうか。またそれらがどんな驚異なのか。
 それももちろん気にはなる。気にはなるし、何れは聞き出したい情報ではあるのだが、今はそれを脇に置いておくべきだろう。
 
☆ ☆ ☆
 
「僕は、この『バトルロワイアル』を、壊すつもりです」
 それぞれに微妙な距離感で続けられていた会話、空気の中、ふいにジョルノがそう宣言した。
「あなたたちは、『殺し合い』をしたいとは思っていない。当然僕もそうです。
 このジョルノ・ジョバァーナには『正しいと思う夢』がある……。そのために、『襲ってくる敵』と戦い、傷つけ、殺したこともある。
 けれども、誰がどうやったのかまだわからないが、『殺し合い』を強制されるなんてことは、『正しい道』じゃあない。
 だから…」
「待った」
 彼の言葉を、僕は右手で制して止める。
「『協力して欲しい』っていうなら、悪いけど断る。
 それは、既にウェザーにも言ってある事だ。
 僕は、『殺し合い』をする気もないし、『殺される』気もない。けれども、『仲間を募って共に戦おう』なんてのもゴメンだ」
 おそらく言うであろうと思っていた言葉。
 見ず知らずの人間に出会い、『治療』し、『話し合う』。
 なら、次はこうくるだろう。
 彼がどんな人間か。わずかな時間ながら、分かってきている。
 ウェザーも僕も、『殺し合い』をする気はない、という点で『道連れ』にはなっていたが、かと言って『仲間』になったわけではない。
 『仲間』…。
 そしてこの場合は、『共通の目的、意志で結ばれた仲間』……。
 ウェザーには、『仲間と合流する』という『目的』がある。そしておそらく名簿にその、『仲間』の名前があった。あるいは、『敵』の名前もあったのだろう。
 ジョルノには、『バトルロワイアルを壊す』という『目的』がある。そしてその『目的』の為の、『仲間』を求めている。
 僕は……?
 違う。
 改めてウェザーの目を見、ジョルノの目を見る。いや、見ようとして、直視できずに目線を逸らしている。
 
 違う。
 彼は、僕とは違う。
 根本的、根源的に、彼は僕とは違う。
 おそらくそうだろうという気はしていた。そしてそれは、彼が『治療』をしているあいだに、話をしているあいだに、確信へと変わりつつあった。
 
 ウェザーには、『仲間』がいる。
 ジョルノには、『正しいと思う夢』がある。
 
 僕には、何も、無い。
 ただうずたかく積み重ねられた書物の山。その山の中にあるあらゆる……『記憶』……。
 『それだけ』だ。
 ただ、『復讐』だけを生きる理由として来た。
 友達や仲間を持ったことはない。
 正直さとは無縁の人生。ただひたすら秘密を抱えて生きてきた。

 ウェザーは……まだ良い。
 彼もまた、僕とは別の意味で、『空虚』だ。
 けれどもジョルノは……その、『まぶしさ』は……。
 
 僕には、耐えられない。
 
 それが、今、はっきりと分かった。

269メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:11:46 ID:WPwP7bSA
 
 
「あなたはどうですか、ウェザー?」
 僕の内なる懊悩を感じ取ったのだろうか。ジョルノはしつこく追求することはせずに、ウェザーへと話を向ける。
「俺は、『仲間』を探している。そしてその『仲間』は、今この会場のどこかにいるらしい……。
 琢馬と行動しているのも、ただ互いに邪魔をしないという約束でのことだ。
 だが……」
 そこで一旦言葉を区切り、それから目を閉じ…しばらくしてゆっくりと見開いた。
「仲間と合流できたあとになら……協力できるかもしれない。
 ジョルノ……。きっとお前は、『信頼』できる人間だ。
 俺もよく知っている……ある人物とよく似た『匂い』がある……。
 たとえ『牢獄の中に閉じ込められても、泥を見て嘆くより、星を見上げて希望を心に灯すことができる』……。
 そんな人間の持つ、『気高い匂い』だ……」
 会って以来、さほど会話を交わしてはいないウェザーだが、それでもここまで饒舌に語るのは少し意外だった。
 そしてその彼の語るジョルノへの印象は、驚く程に率直で、好意的だ。
「琢馬」
 そのウェザーが、不意に僕へと向き直る。
「お互い余計な詮索はしない、という前提で行動を共にしてきた。
 お前が自分について語らないのも、『生き残る』ことを最優先にして行動するのも、それはそれで良い。
 だが、ひとつだけ話してもらうぞ……」
 ジョルノの、暗闇の中でも光をもたらす目とは、真逆。
 すがるべき光を見失い、それでも闇の奥から見つめ続ける目。
 常人であらば身震いをするであろう目で、僕を見ている。
 
「お前のスタンド能力は、何だ?」
 
 ☆ ☆ ☆
 
「俺の名は『ウェザー・リポート』。
 スタンド名も同じ……。能力は『天候を操ること』。
 だがこれは本名じゃない。
 俺には過去の記憶がない。だからこの名前も、能力からとった仮の名だ……」
 囁くような、ぼそぼそとした声の調子。
 だがしかし、決して弱々しくはない。
「俺は、『仲間』を探している。そして、名簿によれば、仲間はこの会場のどこかに居るらしい。
 名簿……そして放送が事実ならば、な……」
 じわりと、絡みつくような視線を、逸らすことはできない。
「あのスティール…あるいはその仲間のスタンド使いは、俺たち…そして、100人を優に超える人間を一堂に集め、こんな街を創り出してしまう『能力』を持っている……。
 『スタンド使い』も、『死んだはずの人間』も、お構いなしだ。
 どんなトリックだ? ただのハッタリか?
 そうかもしれない。まだ何も確認できていないからな」
 その響きに、心当たりがあった。
「それでも、それらが『事実』だとするなら……。
 俺には『やるべきこと』が増えた。
 『仲間を探す』、『仲間を殺したやつを探し、殺す』、『プッチを探し出し、殺す』……そして、『スティールとその仲間を、殺す』」
 殺意。復讐心。
「俺はジョルノとは違う。
 琢馬、お前がそれでも、自分には何の能力もないというなら、俺にはお前を助けながら歩き回る積もりも余裕もない。
 お前が自分の能力を絶対に明かさないしというなら、お前に背中を見せる気もない。
 
 だから、改めて聞く。
 
 お前の『スタンド能力』は何だ?」

 プッチ。エンリコ・プッチ。その名前は名簿にあった。きっとウェザーの『敵』なのだろう。
 あるいはさっき出た名前……『死んだはずなのにここにいる』F・Fという『仲間』を殺したのが、プッチなのかもしれない。
 殺意と、復讐心。
 あるいは、僕の唯一にして長年連れ添った友人の別名。
 常に僕の傍らに佇み、寄り添い、支え、そして縛り付け続けるもの。
 そして……最も憎むべきもの。

270メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:13:35 ID:WPwP7bSA
 
 ウェザーは言った。「俺はジョルノとは違う」。
 確かにそうだ。
 『僕ら』は、ジョルノとは違う。
 『夢』よりも、『殺意』。『希望』よりも、『復讐心』を、糧として生き、進み続ける。
 だがそれでも尚……。
 僕とウェザーもまた、違うのだ。
 
「僕は……」
 
 
 ☆ ☆ ☆

「ジョージ……?」
 か細く、それでいて透き通った声。
 陽のあたるダービーズ・カフェ店内のカウンター奥から聞こえるその声は、僕とウェザーのやりとりを見守っていたジョルノに向けられたもの。
  
 放送前。大きな破壊音を聞いて調べに行った場所で、おそらくは「救急車から突き落とされて」瀕死の重傷を負っていた女性。
 そこで、あとからやってきたジョルノが、自らのスタンド能力、『ゴールド・エクスペリエンス』を使い、治療をした。
 彼が作り出した『部品』は、たしかに女性の体にはめ込まれ、今現在外見上何ら怪我を負っていないように見える。
 特に頭部は、実際よくよく見れば頭蓋が割れ、脳の一部が露出するほどのものだったのだが、今では傷口の痕跡も見えない。
「……いえ、違います。僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。
 一緒にいたであろう男性……ジョージさんですか? 彼は、残念ながら既に亡くなっていました。
 簡単にですが埋葬をしてあります。
 あなただけは、発見時にまだ生きていたので、なんとか肉体の損傷を治すことはできましたが……」
 もうひとりの男性、彼女が「ジョージ」と呼んだ、古めかしい軍服姿の男性は、ジョルノとウェザーでピエトロ・ネンニ橋脇の土手に穴を掘り、埋めてきてある。
 その上にジョルノの能力で蔓薔薇を生やして、墓標替わりとしていた。
 
 彼女はなんとなく焦点の合わないような目で、どこに視線を定めるでもなくこちらを見ている。
 ウェザーは僅かに身構えていた。既に僕の方を気にしている素振りはない。彼女が何者なのか。敵ではない、危険ではないという保障がない事から、まだ警戒を解いてはいないのだろう。
「……一緒にいた? なにを言っているの? ジョージは……彼は……」 
 戸惑い。混乱。眉根を顰め、立ち上がろうとするが、弱った体でそれもかなわず、崩折れる。
「気をつけてください! 確かに表面上の傷は治しました。
 しかしあなたは、死んでいてもおかしくないほどの重体だった……!
 すぐに歩ける程に回復することもないですし、後遺症もあるかもしれない」
 手を貸そうジョルノ。その差し伸べられた手を払い除け、女性が跳ね上がるようにして起立する。
「ジョージは……殺された! そう……『思い出した』わっ……!
 あの人は殺されたの……。空軍司令…ディオの部下だった、生き残りの屍生人によって……!!」
 驚異的身体能力だ。あるいは回復力も異常なほどなのか?
 ジョルノが目を見張り、ウェザーがさらに緊張を現す。
「ジョルノ、と言ったわね。状況はわからないけれども、手助けしてくれたであろう事には礼を言うわ。
 けど、私は『復讐』をしなければならないッ……!
 夫の、ジョージの仇をとる……必ずよッ………!!」
 ジョージ・ジョースターⅠ世、あるいはジョージ・ジョースターⅡ世。
 そのどちらなのかはわからないが、名簿に名前が有り、そして共に「死んだ」と放送された2人。
 そのどちらかが彼女の夫であり、また、彼女はその夫を殺した相手を知っている。
 あの救急車に乗っていたのが、おそらくはその仇、という事なのだろうか。彼女の言葉、そして状況からはそう受け取れる。
 あれだけの大怪我を負って、それでも尚、夫の復讐のために立ち上がろうとする。
 そのまま、歩き去ろうとする彼女を、ジョルノが呼び止める。

271メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:17:01 ID:WPwP7bSA
「待ってください。まずは状況を確認したほうが良い。
 さっき、放送がありました。それに、名簿も。
 この『バトルロワイアル』の中に、ほかにも知り合いや、敵…問題のある誰かがいるかもしれない。
 情報を交換し、お互いに手助けも……」
 鋭い刃…そうとしか見えぬものが突きつけられ、ジョルノを押しとどめる。
「エリザベス…。名前だけは教えておくわ。けれどもそれ以上は馴れ合う気はない……」
 彼女の、破れた黒衣の袖。その袖に何らかのエネルギーが流れ込んでいるのか、ただの布が文字通りに鋼のように鋭く、固く尖っていた。
 断固とした拒絶。
 自らの目的のために、復讐のために、あらゆるものをかなぐり捨ててしまおうという、漆黒の殺意。
 その殺意が形になったが如き黒い刃が、彼女とジョルノ、そして僕らとを隔たっている。
 有無を言わせぬその態度に、押し黙るしかない僕らを置いて、彼女は踵を返してカフェを出ようとし……、再び、足元から崩折れる。
 ジョルノが再び駆け寄って、その体を支える。
 跳ね除けられるかと思ったが、やはり見た目とは裏腹に体の回復が追いついていないのだろうか。力なくうずくまり、かぶりを振る。
 陽が差し込む開いたカフェの中、朝の空気と緊張が、場を支配していた。
 
「……ジョージ……?」
 その沈黙を破ったのは、再びの彼女の声。
 か細く、それでいて透き通った声は、困惑と不安を微かに表していた。
 ジョルノの顔を見て、それから周囲を見る。
 その視線は当て所なくさ迷い、さらなる困惑をもたらしてくる。
 彼女と、僕ら全員に、だ。
「…違う……。あなたは誰? ここは……?」
「……どうしたんですか、エリザベス……?」
「………ジョージ! そうッ………彼は殺された……! 空軍司令………ディオのかつての手下……屍生人にッ………!!
 私は復讐しなければならないっ………! 夫の仇を……ッ!!」
 
 
 ☆ ☆ ☆ 

 『忘れる』ということは、幸せなのだろうか?
 あらゆる過去を全て記憶し、捨てることのできない僕。
 ある時点からの過去を一切持たないウェザー。
 未来への確たる『正しいと信じる夢』を掲げているジョルノ。
 そして……『未来も過去もなく、今しか持たなくなってしまった』彼女……エリザベス。
 
 逆向性健忘とは、「ある時点から以前の記憶がなくなる」症状を指し、前向性健忘とは、「ある時点から以降の記憶を保持できなくなる」症状を指す。
 
 『忘れる』ということは、幸せなのだろうか?
 
----
 
【B-2 ダービーズカフェ店内 / 1日目 朝】 
 
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:健康
[装備]:閃光弾×1
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える 。
1.エリザベス(リサリサ)の様子を確かめる。
2.ウェザー、琢馬と情報交換。できれば『仲間』にしたいが…。
3.ミスタたちとの合流。午前8時までダービーズ・カフェで待つ。
4.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。

[参考]
時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。
ウェザーについてはある程度信頼、琢馬はまだ灰色、エリザベス(リサリサ)の状態に困惑しています。

272メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:19:17 ID:WPwP7bSA
 
 
【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:右肩にダメージ(中)ジョルノの治療により外面的損傷は治っている。
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石
[道具]: 基本支給品×2、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:『仲間を探す』、『仲間を殺したやつを探し、殺す』、『プッチを探し出し、殺す』、『スティールとその仲間を、殺す』
1.エリザベス(リサリサ)の様子を確かめる。
2.琢馬について、『スタンド能力』を確認したい。
 敵対する理由がないため現状は仲間。それ以上でもそれ以下でもない。
3.ジョルノは、『信頼』できる。
 
 
【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:身体疲労(小)
[装備]:双葉家の包丁
[道具]: 基本支給品、不明支給品2〜4(琢磨/照彦:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
1.エリザベス(リサリサ)の様子を確かめる。
2.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。 どのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
3.ウェザーたちに『スタンド能力』を話すべきか?

[参考]
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
琢馬は救急車を運転していたスピードワゴン、救急車の状態、杜王町で吉良吉影をひき殺したものと同一の車両であることを確認しましたが、まだ誰にも話していません。
スピードワゴンの顔は過去に本を読んで知っていたようです。
 
 
【リサリサ】
[時間軸]:ジョセフの葬儀直前。
[状態]:頭部裂傷、左腕切断等を含めた全身にダメージ(ジョルノの治療により外面的損傷は治っている)、脳の損傷による記憶障害。破れた喪服。
[装備]:承太郎のタバコ(17/20)&ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品1
[思考・状況]基本行動方針:『夫の仇を取る』。
1:ジョージ…?
 
[参考]
※リサリサの記憶障害は、『ジョージⅡ世の復讐に向かった時点』にまで逆行し、また、『記憶をごく短いあいだしか保持することができない』状態です。
※琢磨たちは、「記憶を保持できない」ことには気づきましたが、「過去の記憶が抜けている」ことには気づいていません。
※ストーンオーシャンにて、ミューミューの『ジェイル・ハウス・ロック』にかけられた時と似た状態ですが、『記憶の個数』ではなく、『記憶できる時間』が短いという状態です。
※リサリサの体のダメージは回復していません。波紋呼吸である程度動かすことはできますが、万全には程遠いいようです。
※リサリサが初めから所持していたサングラスは破壊されました。

273 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:22:03 ID:WPwP7bSA
 以上にて。
 コンディションとかいろいろありまして、たぶん誤字脱字が結構ある気配。
 あといろいろ日にち忘れすぎ!
(実は投票の締め切りも間違えて結局投票できなかったのは内緒だ)
 
 どなたか、本スレ転載していただければ幸いです。

274 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 01:49:58 ID:WPwP7bSA
 しまった。すでにこの時点でミスを発見してしまった。
 後ほど、またはwikiで訂正します。
 訂正箇所についてはまた。

275 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:18:04 ID:WPwP7bSA
 とりあえず、修正後の分をこちらに投下。
 結構こまごました誤字や言い回しも修正したので、本スレに転載していただくのはこれから貼るほうでお願いします。

276 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:19:15 ID:WPwP7bSA
 これは、以前読んだ医学書からの知識だ。
 医学上の健忘には、逆向性健忘と前向性健忘の二つの症状がある。
 簡単に言えば、「ある時点から以前の記憶がなくなる」か「ある時点から以降の記憶を保持できなくなる」か、だ。
 前者は、俗に言う「記憶喪失」というものだ。つまり、ドラマや漫画で、「ここはどこ? 私は誰?」となってしまうアレだ。
 症例以外の分類を言えば、心因性か、外傷性か、或いはアルツハイマーなどの疾患の症状か、薬剤などによるものか等などの違いもある。
 心因性というのはストレスやトラウマを引き金とするものだし、外傷性というのは怪我などがきっかけ。
 統計を取ったわけではないし、そういうデータを見た記憶もないが、おそらくフィクションで一番多用されるのは、「心因性のショックで一時的な逆行性健忘に陥る」というパターンだろう。
 このあたりは、千帆に聞いたほうがいろいろと例を挙げてくれるかもしれない。

「忘れる」ということができない僕は、それらの逸話や話を聞くときに、何とも言いようのない気分になる。
 例えばそれらに恐怖を感じるとしたら、それを聞いた人間にも「忘れてしまう経験」があり、だからこそ「すべてを忘れてしまう」というようなことに共感や感情移入がなされるのだろう。
 僕は、おそらく、その点において彼らと同じようには感じられない。
 自分が記憶を失うということが、怖くないのか? と問われたらそれは「怖い」と言える。言えるだろうと思う。
 しかし、現実に僕は、どうしようもなく「忘れる」ということが、できないのだ。
 出来ない以上、どうしてもそこに、溝が生まれる。
 或いは憎くも思っていたし、苦痛でもあり災厄でもあるこの「能力」。
 それが失われることを願ったこともあるが、とはいえ既に自分の一部、いや、自分そのものとも言える「すべてを記憶する能力」。
 もし、過去のページを捲っても何も思い出せず、再現されなくなったら?
 もし、新たなページに何も書き込まれず、何も覚えられなくなったら?
 想像は、できる。しかし、実感をしようがない。
「忘れることのできない僕」が、「忘れてしまうということ」に対して、どういう立ち位置でいるのか。
 僕自身、それをはっきりと明言することはできない。
 
 ☆ ☆ ☆ 

 簡単に食事と水を摂った後、放送が始まったカフェの一角で、僕がメモを取る、と自分から申し出たのは、一つにはカモフラージュでもある。
 どういう方法でかわからないが、どこからともなく聞こえてくるこのアナウンスを、たいていの人であれば耳そばだて必死になりメモをとることだろう。
 何より、50人という人間が殺されたというが、あの読み上げの速度では、ゆっくり落ち着いて書き取る、なんてのはそうそうできるものではない。
 けれども僕に関して言えば、違う。
 はっきり言えば、改めてメモを取る必要などないのだ。
 全ては、自動的に僕のこの、〈本〉に書き込まれるのだから。
 しかし、そのことを彼らに悟られるのも困るので、ことさら「必死になってメモを取っている」風を装う必要があるのだ。
 
 どこからともなく現れた鳩が、その足にぶら下げた名簿を落として去っていったのには驚いたが、それをとやかく考える暇など与えずに、アナウンスは続いている。
 ウェザー・リポートはメモを僕に任せて、周囲への警戒を続けていた。放送を聞き入っている時に襲われる危険性もある。
 もちろんそこには、周囲のみならず、ジョルノへの警戒も含まれている。
 ジョルノ・ジョバァーナ。彼は明らかに、最初のホールで殺された少年と寸分違わぬ同一人物だ。
 それは僕の記憶力をもってしなくても、明白すぎるほどに明白だろう。
 そのジョルノ・ジョバァーナも、僕同様にメモを取っている。
 華奢、とまでは言わないが、決して偉丈夫というほどではない体格。
 てんとう虫をあしらったブローチやボタンが随所に施された、学生服と似たシルエットの上下に、特徴的なカールした前髪。
 年の頃は僕とさほど変わらないだろう。まだ幼さすら残る顔立ちは、日本人っぽいところもあるが、基本的にはイギリス系白人の特徴を多く持っている。
 似ている、というだけなら、先ほどの救急車から落ちたであろう白人男性とも似てはいる。
 最初のホールで殺された、ほかの二人ともどことなく似てはいる。
 しかし、「同一人物」と言えるのは、やはり同じ上下を着ていた、最初のホールの壇上にて、最後に紹介された少年。
 寸分違わぬと言えるその横顔を、見続けながらメモをとる。

277メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:21:24 ID:WPwP7bSA
 
 一通りの情報は、それぞれに異なる衝撃と驚き、或いは困惑をもたらしたようだ。
 勿論、僕にもある。
 ひとつは当然、双葉千帆の事だ。
 名簿には彼女の名が有り、そして死亡者として告げられた名の中には無い。
 勿論、名簿も放送も、すべてが掛け値なしの真実という保証などどこにもない。どこにもないが、僕には加えてさらなる情報がある。
 つまり、最初に目撃した二人の死者 ――― 父、大神照彦と、母、飛来明里の存在。
 彼らの『死体』を目撃しているウェザー・リポートも知らない事実。
 なぜか昔に死んでいたはずの母を含め、この会場で二人が死に、その名は名簿にあり、死者として放送された。
 少なくとも、この二人に関しての放送は、「事実」だ。
 ならば他の名に関しても、「事実」かもしれない。
 たとえば、ホールでちらりと見かけた、「母同様とっくの昔に死んでいるはずのウィルソン・フィリップ上院議員」や、「同じ杜王町の住人である、岸部露伴や虹村億康。あの東方仗助の年老いた祖父、東方良平」などに関しても「事実」かもしれない。
 それを確かめる為には、ともあれ、彼らの「死」を、確認しないとならないだろう。
 
 もう一つ。千帆が集められた中にいるのであれば、最初に考えた推論、「特殊な能力を持っている人間を集めたのか?」というのが、やはり違うものではないかとも考えられる。
 母の存在もその推論を否定してはいたが、僕自身が母と接していた期間は殆どない。僕が「記憶していない」だけで、何らかの「特殊な能力」を持っていた可能性はゼロではない。(あったとしても、大神に対抗できるものでは無かったということかもしれない)
 だが、実際に知り合い付き合っていた限りにおいて、千帆にはやはり、「特殊な能力」は無い。大神の言葉もそれを証明している。
 本人含め誰もまだ気づいていない、というのもあるかもしれないが、やはり「ない」と考えるのが自然だ。
 となると、あのスティールという男が、一体どう言う基準で「集めた」のか…。
 
 僕も含め、ウェザー・リポートに、ジョルノ・ジョバァーナ。ここにいる3人の男は皆、「特殊な能力」を持っている。
 途中で襲いかかってきた老人もまた同様。催眠術というか何というか、僕らの意識に働きかける何らかの力を持っていたようだ。
 
『頼む――――ッ! 琢馬――――ッ!! 千帆を――――ッ!! 頼む――――ッ!!』
 
 悲痛な叫びが、僕の脳裏にこだまする。
 〈本〉を読むまでもない。読むまでもなく、絶叫のこだまは、僕の脳裏から離れてなどいない。
 僕は、応えなかった。何も応えることなどなかったし、応えるべき言葉などもなかった。
 彼に対して、応えるべき言葉など、何もない。
 だが、しかし ―――。

 ☆ ☆ ☆
 
「――― 僕の名前は、ジョルノ・ジョバァーナ。イタリアのネアポリスに住んでいる学生で ――― ギャングです」
 改めての「自己紹介」は、言葉面だけで言えば異様だし、意外とも言えるが、耳にしての感想としては「しっくりくる」ものだった。
 ギャング、という言葉にある一般的なイメージ…つまり、粗野で粗暴で無教養、というようなものとはかけ離れているが、けれども何故かそれを納得させられるものもある。
 そして付け加えれば、学生であり僕と同世代であるという事からはとても結びつかないが、おそらくきっと彼は、ギャングの中でも地位の高い存在なのだろうとも思えた。
 放送が終わり、再び静寂の戻ったカフェの中、朝のさわやかな光が彼の顔を鮮やかに浮かび上がらせる。
 同様に、今までは月明かりにしか観て取れなかったウェザー・リポートの顔をちらりと眺め、改めてその表情を見て取ると、僅かな苦悩とも困惑とも取れぬ、かといって無表情とも言えぬ複雑なもの。
「お前のその、『スタンド能力』―――『ゴールド・エクスペリエンス』か…」
 切り出したのはそのウェザー。
 『治療する』彼の能力は、既に実証されていた。
 その点は実際目にした僕らには明白で、ジョルノの申し出に最初は些か気乗りしないながらも、ウェザー自身も『治療』を受けている。彼は僕以上にそれを実感しているのだろう。
「『部品を作る』…と言ったが、それは、『自分の治療』にも使えるのか?」
 スタンド―――。
 先ほど、死に瀕していた女性を「救う」と言ったジョルノ・ジョバァーナも、自分の「能力」を、そう呼称していた。
 どうやら彼らの間では、この「特殊な能力」を示す名称として、共通のものとして知られているようだ。
「ええ、使えます。自分自身の部品を作り、それを自分の傷や欠損にはめ込むことで、治療することもできます」

278メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:22:40 ID:WPwP7bSA
 簡潔かつ無駄のない答え。
「…では、『死者』には―――?」
「無理です」
 再びの問いに、やはり簡潔な答え。
「僕の能力は、厳密には『治療をする能力』ではなく、『生命を与える能力』です。
 石や弾丸、無生物に生命を与え、それを体の部品として作り出すことはできますが、それでできるのはいわば『移植』のようなもので、『回復そのもの』は、治癒力に任せるしかありません。
 死んだ肉体には治癒力がありません。『無生物』になりますから、そこから『新たな生命、部品』を作ることはできても、『死んだ当人自体』を蘇らせることにはなりません」 
 そう都合良くはいかない、と同時に、最初のホールで一度死んだ彼が、能力で蘇ったわけではない……という事でもあるのだろう。
 再び、会話が止まる。
 ちらりと横目に見たウェザーの顔に、かすかな陰りと苦痛が見えた。
 それはすぐに引っ込んだが、きっとおそらく、さっきの放送で読み上げられた名と関係あるのだろう。
 
 ウェザーが黙ってしまったので、仕方なく僕が話を続ける。
 つまり、彼に関する一番の『謎』である、「なぜ、最初のホールで殺されていたジョルノが、いま生きてここに居るのか」だ。
 しかし回答は、「自分にもわからない」という、拍子抜けしたもの。
「自分にもわからないが、あそこに居た自分も自分だったし、ここにいる自分も間違いなく自分自身だ」
 普通に聞けば、とてつもなく馬鹿げた嘘をついているとしか言えないが、そうも思えない。
 ホールで自分自身と対面したとき、自分がちぎれ飛ぶような感覚とともに体が分解しかけたこと。そしてそのあと自分の能力でなんとか治療したこと。
 いずれも何の証拠もない。
 それでも、僕は既に知っている。「すでに死んでいる人間」がこの会場にいた、という事を。
 そして彼らの言う『スタンド能力』のことを合わせれば―――死、あるいは時間を超越する何らかの力が、この件に関して働いている…。
 成り立たなくはない推論だ。勿論、確証など何もないが。
 
 そして付け加えれば、それらの推論よりも雄弁なのは、彼、ジョルノ・ジョバァーナ本人そのものだった。
 彼は、おそらくは「正直な人間」だ。
 いや、勿論それにも確証はない。ただの印象でしかないと言われれば、そうとも言える。
 ただそれでも、例えば今いるここ、地図上はB-2の『ダービーズ・カフェ』であろう場所へと来る際も、「ここでさっきまで仲間といて、待ち合わせもすることになっている」と、そう言ったのだ。
 それら正直さも、もちろん計算のうちではあるだろう。
 正直=善人、などと安易に考えるほどに僕は単純でもない。
 仲間といる、と言っておいて、待ち伏せをしているかもしれない。少なくとも、そう疑われる可能性はある。
 かと言って、仲間がいることを言わずに連れて行って、悪いタイミングでバッティングする方にもリスクはある。
 それらを考えて、「正直に話すことの利」を取った。
 能力についても、それ以外についても、彼はかなり「正直」だ。
 そしてそれは、「バカ正直」なのではなく、きちんと思慮熟考した上での「正直」なのだろう。
 であるならばむしろ、そのことに関して言えば、「信頼できる」。
 
 
「『納得』はできないようですが、『了承』はしてもらえたようですね…」
 口調に、かすかな安堵のこもった声。信用してもらえる自信も保証もない話だ。無理もない。
「……そうだな。お前が嘘をついているようには思えない。結局本当のところはあの男に問いただすしか無い」
 結局のところ、「何故、死んだはずの彼がここにいるか?」 を、彼に問うことは、やはり無意味なようだ、というのが、僕の(そしてウェザーの)結論になる。 
 それからは、ウェザーと僕の方が彼に情報を出す番だ。
 ある程度かいつまんでの自己紹介。自分がここに来る前の状況など。話せる範囲で話す。
 しかし僕はというと、当然「話せることが少ない」。
 日本の学生。地図上には自分が住んでいた町がある。他に、何が話せる?
「あらゆるものを記憶する能力がある」、「その記憶の中の出来事を再現することができる」、「実の父親を復讐のため殺すことだけを考えて生きてきた」…。
 駄目だ。
 人のことを言えた義理じゃない。ジョルノとは真反対なほどに、僕は秘密を後生大事に抱え込んで手放せないでいる。
 ギャングという背景。スタンド能力。仲間の存在。
 ジョルノが詳らかにしたこと全て、僕はまるで明らかにできない。
 「話せるわけがない」事ばかりの僕。
 これはまったく、不公平な情報交換だろう。

279メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:23:40 ID:WPwP7bSA
 
「この、名簿と、さっきの放送なんだが…」
 その気まずさもあって、僕は話を切り替えた。
「何か気づいたことは?」
 この話題が、より気まずいものだろうことは分かっている。
 特に、先ほどの僅かな表情からすると、ウェザーには何かがある。
 それでも、自分から話せることのない僕にとっては、そのほうがまだましである。
 何より、おそらくそれらは、「知っておいたほうが良い」事だ。

 二人の顔を交互に見る。
 やはり、そうそう気軽に話せる話題ではないようだ。
「実は、妙なことを言うようだけど、この中に……」
 なので、僕が口火を着ることにした。
「死んだはずの人間の名前があるんだ」
 顔色が変わった。
「それは……」
 口に出しつつも、その次を出せない二人。
「ここに、『吉良吉影』という名前がある。彼は僕と同じ街の人間で、ちょっと前に交通事故で死んでいる。
 ガス爆発か何かがあったという現場で、被害に遭っていた一人なんだけど、やってきた救急車の前に飛び出して轢かれてしまったらしい。
 ニュースにもなったし、救命士の責任問題にもなっていたから、ちょっと覚えているんだ。
 もちろん、ただの同姓同名かもしれないが…日本人でもこの名前は、かなり珍しい。データは無いが、実際日本に片手で数えるほどにいるかすら怪しい、特徴的な名前だ」
 東方良平やウィルソン・フィリップ上院議員よりは、出しやすい名前を出しておく。
 二人はそれぞれに、気まずそうな、あるいは悩ましげな表情を浮かべ、顔を見合わせた。
「F・F……は、少し前に死んでいる。俺の知っているF・Fなら、な…」
 僕に続いて、ウェザーがそう切り出す。
「ほかにもいるが……スポーツマックスという男も、少し前に死んでいたはずだ」
 二人の、「死んだはずの人間」……。
 そしておそらく、「F・F」というのは、彼の「仲間」で、「スポーツマックス」は、「敵、あるいはそれ以外」だろう。無意識の言い回しに、それが表れていた。
 もとより彼は、最初に出会った時から、「友達」ではなく、「仲間」という言い方をしていた。「仲間を探している」と。
 「仲間」という言い方は、「友達」よりも、重い。結びつきの強固さ、あるいは同類、同士、同じ組織、同じ目的……。
 また、「仲間以外」、つまりこの場合、共通の「競争相手」、「敵」がいる、という関係性で使われることが多いだろう。
 いずれにせよウェザーにとっての「仲間」は、漠然とした「バカ話をして笑いあうだけのお友達」などではないはずだ。
 人を殺してでも、再会したい、「仲間」……。
 
 視線をそらすように、僕はジョルノを見る。
 発言を促されたと感じたのだろう。ジョルノもまた少し思案してから、
「僕も同じです。呼ばれた死者にも、名簿の中にも、「すでに死んだ者たち」が含まれています」
 ギャングだ、と言った彼の口から出る、「すでに死んだ者」というのは、さらに「重い」。
 もしかしたら、抗争の果てに殺し合った相手、などもいるのかもしれない。
 いや、間違いなく居るだろう。ここまで、慎重ながらも、正直に語っていたジョルノが、わずかながらも躊躇いを見せた発言だ。
 「すでに死んだ者たち」のみならず、おそらくは間違いなく、「既に殺した敵」も、この名簿には含まれているのだ。
 
 ジョルノやウェザーの言う、「すでに死んだ者たち」が、彼ら同様(また、僕同様)に、特殊な能力……つまり、彼らの言う『スタンド能力』を持っているのかどうか。またそれらがどんな驚異なのか。
 それももちろん気にはなる。気にはなるし、何れは聞き出したい情報ではあるのだが、今はそれを脇に置いておくべきだろう。

280メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:25:01 ID:WPwP7bSA
☆ ☆ ☆
 
「僕は、この『バトルロワイアル』を、壊すつもりです」
 それぞれに微妙な距離感で続けられていた会話、空気の中、ふいにジョルノがそう宣言した。
「あなたたちは、『殺し合い』をしたいとは思っていない。当然僕もそうです。
 このジョルノ・ジョバァーナには『正しいと思う夢』がある……。そのために、『襲ってくる敵』と戦い、傷つけ、殺したこともある。
 けれども、誰がどうやったのかまだわからないが、『殺し合い』を強制されるなんてことは、『正しい道』じゃあない。
 だから…」
「待った」
 彼の言葉を、僕は片手で制して止める。
「『協力して欲しい』っていうなら、悪いけど断る。
 それは、既にウェザーにも言ってある事だ。
 僕は、『殺し合い』をする気もないし、『殺される』気もない。けれども、『仲間を募って共に戦おう』なんてのもゴメンだ」
 おそらく言うであろうと思っていた言葉。
 どことも知れぬこんな場所で、見ず知らずの人間に出会い、『治療』し、『話し合う』。
 なら、次はこうくるだろう。
 彼がどんな人間か。わずかな時間ながら、分かってきている。
 ウェザーも僕も、『殺し合い』をする気はない、という点で『同行者』にはなっていたが、かと言って『仲間』になったわけではない。
 『仲間』…。
 そしてこの場合は、『共通の目的、意志で結ばれた仲間』……。
 ウェザーには、『仲間と合流する』という『目的』がある。そしておそらく名簿にその、『仲間』の名前があった。あるいは、『敵』の名前もあったのだろう。
 ジョルノには、『バトルロワイアルを壊す』という『目的』がある。そしてその『目的』の為の、『仲間』を求めている。
 僕は……?
 違う。
 改めてウェザーの目を見、ジョルノの目を見る。いや、見ようとして、直視できずに目線を逸らしている。
 
 違う。
 彼は、僕とは違う。
 根本的、根源的に、彼は僕とは違う。
 おそらくそうだろうという気はしていた。そしてそれは、彼が『治療』をしているあいだに、話をしているあいだに、確信へと変わりつつあった。
 
 ウェザーには、『仲間』がいる。
 ジョルノには、『正しいと思う夢』がある。
 
 僕には、何も、無い。
 ただうずたかく積み重ねられた書物の山。その山の中にあるあらゆる……『記憶』……。
 『それだけ』だ。
 ただ、『復讐』だけを生きる理由として来た。
 友達や仲間を持ったことはない。
 正直さとは無縁の人生。ただひたすら秘密を抱えて生きてきた。

 ウェザーは……まだ良い。
 彼もまた、僕とは別の意味で、『空虚』だ。明確な理由は無いが、うっすらとそれが感じられる。
 けれどもジョルノは……その、『まぶしさ』は……。
 
 僕には、耐えられない。
 
 それが、今、はっきりと分かった。

281メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:25:57 ID:WPwP7bSA
 
「あなたはどうですか、ウェザー?」
 僕の内なる懊悩を感じ取ったのだろうか。ジョルノはしつこく追求することはせずに、ウェザーへと話を向ける。
「俺は、『仲間』を探している。そしてその『仲間』は、今この会場のどこかにいるらしい……。
 琢馬と行動しているのも、ただ互いに邪魔をしないという約束でのことだ。
 だが……」
 そこで一旦言葉を区切り、それから目を閉じ…しばらくしてゆっくりと見開いた。
「仲間と合流できたあとになら……協力できるかもしれない。
 ジョルノ……。きっとお前は、『信頼』できる人間だ。
 俺もよく知っている……ある人物とよく似た『匂い』がある……。
 たとえ『無実の罪で牢獄の中に閉じ込められても、泥を見て嘆くより、星を見上げて希望を心に灯すことができる』……。
 そんな人間の持つ、『気高い匂い』だ……」
 会って以来、さほど会話を交わしてはいないウェザーだが、それでもここまで饒舌に語るのは少し意外だった。
 そしてその彼の語るジョルノへの印象は、驚く程に率直で、好意的だ。
 僕が目をそらすしかないでいるジョルノのまぶしさを、彼は目を細めながらにも直視している。
「琢馬」
 そのウェザーが、不意に僕へと向き直る。
「お互い余計な詮索はしない、という前提で行動を共にしてきた。
 お前が自分について語らないのも、『生き残る』ことを最優先にして行動するのも、それはそれで良い。
 だが、ひとつだけ話してもらうぞ……」
 ジョルノの、暗闇の中でも光をもたらす目とは、真逆。
 すがるべき光を見失い、それでも闇の奥から見つめ続ける目。
 常人であらば身震いをするであろう目で、僕を見ている。
 
「お前のスタンド能力は、何だ?」
 
 ☆ ☆ ☆
 
「俺の名は『ウェザー・リポート』。
 スタンド名も同じ……。能力は『天候を操ること』。
 だがこれは本名じゃない。
 俺には過去の記憶がない。だからこの名前も、能力からとった仮の名だ……」
 囁くような、ぼそぼそとした声の調子。
 だがしかし、決して弱々しくはない。
「気がついたときには、俺は刑務所の中にいた。
 地図にある、GDS刑務所の男子房……。今の俺にある記憶は、その時点からだ。
 本名も、生まれも……俺が何をやって刑務所に入ったのか。本当に犯罪者なのか…何もかも分からない」
 ウェザーがかすかに見せる、空虚さ。その理由。
「俺は、そこで出会った『仲間』を探している。そして、名簿によれば、仲間はこの会場のどこかに居るらしい。
 名簿……そして放送が事実ならば、な……」
 じわりと、絡みつくような視線を、逸らすことはできない。
「あのスティール…あるいはその仲間のスタンド使いは、俺たち…そして、100人を優に超える人間を一堂に集め、こんな街を創り出してしまう『能力』を持っている……。
 『スタンド使い』も、『死んだはずの人間』も、お構いなしだ。
 どんなトリックだ? ただのハッタリか?
 そうかもしれない。まだ何も確認できていないからな」
 その響きに、心当たりがあった。
「それでも、それらが『事実』だとするなら……。
 俺には『やるべきこと』が増えた。
 『仲間を探す』、『仲間を殺したやつを探し、殺す』、『プッチを探し出し、殺す』……そして、『スティールとその仲間を、殺す』」
 殺意。復讐心。
「俺はジョルノとは違う。
 琢馬、お前がそれでも、自分には何の能力もないというなら、俺にはお前を助けながら歩き回る積もりも余裕もない。
 お前が自分の能力を絶対に明かさないというなら、お前に背中を見せる気もない。
 
 だから、改めて聞く。
 
 お前の『スタンド能力』は何だ?」

282メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:27:50 ID:WPwP7bSA
 
 プッチ。エンリコ・プッチ。その名前は名簿にあった。きっとウェザーの『敵』なのだろう。
 あるいはさっき出た名前……『死んだはずなのにここにいる』F・Fという『仲間』を殺したのが、プッチなのかもしれない。
 殺意と、復讐心。
 あるいは、僕の唯一にして長年連れ添った友人の別名。
 常に僕の傍らに佇み、寄り添い、支え、そして縛り付け続けるもの。
 そして……最も憎むべきもの。
 
 ウェザーは言った。「俺はジョルノとは違う」。
 確かにそうだ。
 『僕ら』は、ジョルノとは違う。
 『夢』よりも、『殺意』。『希望』よりも、『復讐心』を、糧として生き、進み続ける。
 だがそれでも尚……。
 僕とウェザーもまた、違うのだ。
 
「僕は……」
 
 
 ☆ ☆ ☆
 
「ジョージ……?」
 か細く、それでいて透き通った声。
 陽のあたるダービーズ・カフェ店内のカウンター奥から聞こえるその声は、僕とウェザーのやりとりを見守っていたジョルノに向けられたもの。
  
 放送前。大きな破壊音を聞いて調べに行った場所で、おそらくは「激しい戦闘の後、走っている救急車から突き落とされて」瀕死の重傷を負っていた女性。
 そこで、あとからやってきたジョルノが、自らのスタンド能力、『ゴールド・エクスペリエンス』を使い、治療をした。
 彼が作り出した『部品』は、たしかに女性の体にはめ込まれ、今現在外見上何ら怪我を負っていないように見える。
 特に左腕は完全に接合され、頭部も又、頭蓋が割れ、脳の一部が露出するほどのものだったのだが、今では傷口の痕跡も見えない。
「……いえ、違います。僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。
 一緒にいたであろう男性……ジョージさんですか? 彼は、残念ながら既に亡くなっていました。
 簡単にですが埋葬をしてあります。
 あなただけは、発見時にまだ生きていたので、なんとか肉体の損傷を治すことはできましたが……」
 もうひとりの男性、彼女が「ジョージ」と呼んだのであろう、古めかしい軍服姿の男性は、ジョルノとウェザーでピエトロ・ネンニ橋脇の土手に穴を掘り、埋めてきてある。
 その上にジョルノの能力で蔓薔薇を生やして、墓標替わりとしていた。
 
 彼女はなんとなく焦点の合わないような目で、どこに視線を定めるでもなくこちらを見ている。
 ウェザーは僅かに身構えていた。僕の方をやや気にしつつも、彼女へと向き直っている。
 彼女が何者なのか。敵ではない、危険ではないという保障がない事から、まだ警戒を解いてはいないのだろう。
「……一緒にいた? なにを言っているの? ジョージは……彼は……」 
 戸惑い。混乱。眉根を顰め、立ち上がろうとするが、弱った体でそれもかなわず、崩折れる。
「気をつけてください! 確かに表面上の傷は治しました。
 しかしあなたは、死んでいてもおかしくないほどの重体だった……!
 すぐに歩ける程に回復することもないですし、後遺症もあるかもしれない」
 手を貸そうとするジョルノ。その差し伸べられた手を払い除け、女性が跳ね上がるように起立して、叫んだ。
「ジョージは……殺された! そう……『思い出した』わっ……!
 あの人は殺されたの……。空軍司令…ディオの部下だった、生き残りの屍生人によって……!!」
 驚異的身体能力だ。あるいは回復力も異常なほどなのか? どこに、あんな力が残っていたというのか。
 ジョルノが目を見張り、ウェザーがさらに緊張を現す。
「ジョルノ、と言ったわね。状況はわからないけれども、手助けしてくれたであろう事には礼を言うわ。
 けど、私は『復讐』をしなければならないッ……!
 夫の、ジョージの仇をとる……必ずよッ………!!」
 ジョージ・ジョースターⅠ世、あるいはジョージ・ジョースターⅡ世。
 そのどちらなのかはわからないが、名簿に名前が有り、そして共に「死んだ」と放送された2人。
 そのどちらかが彼女の夫であり、また、彼女はその夫を殺した相手を知っている。
 あの救急車に乗っていたのが、おそらくはその仇、という事なのだろうか。彼女の言葉、そして状況からはそう受け取れる。
 あれだけの大怪我を負って、それでも尚、夫の復讐のために立ち上がろうとする。
 驚くべき執念であり、驚くべき行動力だ。
 そのまま歩き去ろうとする彼女を、ジョルノが呼び止める。

283メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:29:16 ID:WPwP7bSA
「待ってください。まずは状況を確認したほうが良い。
 さっき、放送がありました。それに、名簿も。
 この『バトルロワイアル』の中に、ほかにも知り合いや、敵…問題のある誰かがいるかもしれない。
 情報を交換し、お互いに手助けも……」
 鋭い刃…そうとしか見えぬものが突きつけられ、ジョルノを押しとどめる。
「エリザベス…。名前だけは教えておくわ。けれどもそれ以上は馴れ合う気はない……」
 彼女の、破れた黒衣の袖。その袖に何らかのエネルギーが流れ込んでいるのか、ただの布が文字通りに鋼のように鋭く、固く尖っていた。
 断固とした拒絶。
 自らの目的のために、復讐のために、あらゆるものをかなぐり捨ててしまおうという、漆黒の殺意。
 その殺意が形になったが如き黒い刃が、彼女とジョルノ、そして僕らとを隔たっている。
 有無を言わせぬその態度に、押し黙るしかない僕らを置いて、彼女は踵を返してカフェを出ようとし……、再び、足元から崩折れる。
 ジョルノが再び駆け寄って、その体を支えた。
 跳ね除けられるかと思ったが、やはり見た目とは裏腹に体の回復が追いついていないのだろうか。力なくうずくまり、かぶりを振る。
 陽が差し込む開いたカフェの中、朝の空気と緊張が、場を支配していた。
 
「……ジョージ……?」
 その沈黙を破ったのは、再びの彼女の声。
 か細く、それでいて透き通った声は、困惑と不安を微かに表していた。
 ジョルノの顔を見て、それから周囲を見る。
 その視線は当て所なくさ迷い、さらなる困惑をもたらしてくる。
 彼女と、僕ら全員に、だ。
「…違う……。あなたは誰? ここは……?」
「……どうしたんですか、エリザベス……?」
 彼女の顔が苦痛に歪む。それは体の苦痛ではない。心の、魂のもたらした苦痛だ。
「ジョージは……殺された! そう……『思い出した』わっ……!
 あの人は殺されたの……。空軍司令…ディオの部下だった、生き残りの屍生人によって……!!
 私は復讐しなければならないっ………! 夫の仇を……ッ!!」
 
 
 ☆ ☆ ☆ 

 『忘れる』ということは、幸せなのだろうか?
 あらゆる過去を全て記憶し、捨てることのできない僕。
 ある時点からの過去を一切持たないウェザー。
 未来への確たる、『正しいと信じる夢』を掲げているジョルノ。
 そして……『未来をなくし、今しか持たなくなってしまった』彼女……エリザベス。
 
 逆向性健忘とは、「ある時点から以前の記憶がなくなる」症状を指し、前向性健忘とは、「ある時点から以降の記憶を保持できなくなる」症状を指す。
 
 『忘れる』ということは、幸せなのだろうか?

284メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:30:15 ID:WPwP7bSA
 
【B-2 ダービーズカフェ店内 / 1日目 朝】 
 
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:健康
[装備]:閃光弾×1
[道具]:基本支給品一式 (食料1、水ボトル半分消費)
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える 。
1.エリザベス(リサリサ)の様子を確かめる。
2.ウェザー、琢馬と情報交換。できれば『仲間』にしたいが…。
3.ミスタたちとの合流。午前8時までダービーズ・カフェで待つ。
4.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。

[参考]
時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。
ウェザーについてはある程度信頼、琢馬はまだ灰色、エリザベス(リサリサ)の状態に困惑しています。
 
 
【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:右肩にダメージ(中)ジョルノの治療により外面的損傷は治っている。
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石
[道具]: 基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:『仲間を探す』、『仲間を殺したやつを探し、殺す』、『プッチを探し出し、殺す』、『スティールとその仲間を、殺す』
1.エリザベス(リサリサ)の様子を確かめる。
2.琢馬について、『スタンド能力』を確認したい。
 敵対する理由がないため現状は同行者だが、それ以上でもそれ以下でもない。
3.ジョルノは、『信頼』できる。

285メメント ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:30:46 ID:WPwP7bSA
 
 
【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:健康
[装備]:双葉家の包丁
[道具]: 基本支給品(食料1、水ボトル半分消費)、不明支給品2〜4(琢磨/照彦:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
1.エリザベス(リサリサ)の様子を確かめる。
2.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。 どのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
3.ウェザーたちに『スタンド能力』を話すべきか?

[参考]
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
琢馬は救急車を運転していたスピードワゴン、救急車の状態、杜王町で吉良吉影をひき殺したものと同一の車両であることを確認しましたが、まだ誰にも話していません。
スピードワゴンの顔は過去に本を読んで知っていたようです。
 
 
【リサリサ】
[時間軸]:ジョセフの葬儀直前。
[状態]:頭部裂傷、左腕切断等を含めた全身にダメージ(ジョルノの治療により外面的損傷は治っている)、脳の損傷による記憶障害。破れた喪服。
[装備]:承太郎のタバコ(17/20)&ライター
[道具]:基本支給品、不明支給品1
[思考・状況]基本行動方針:『夫の仇を取る』。
1:ジョージ…?
 
[参考]
※リサリサの記憶障害は、『ジョージⅡ世の復讐に向かった時点』にまで逆行し、また、『記憶をある程度の間しか保持することができない』状態です。(具体的にどの程度かは未確定)
※琢磨たちは、「記憶を保持できない」ことには気づきましたが、「過去の記憶が抜けている」ことには気づいていません。
※ストーンオーシャンにて、ミューミューの『ジェイル・ハウス・ロック』にかけられた時と似た状態ですが、『記憶の個数』ではなく、『記憶できる時間』が短いという状態です。
※リサリサの体のダメージは回復していません。波紋呼吸である程度動かすことはできますが、万全には程遠いいようです。
※リサリサが初めから所持していたサングラスは破壊されました。

286 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 05:33:09 ID:WPwP7bSA
 以上、修正含めた訂正文です。
 では。

287名無しさんは砕けない:2012/09/14(金) 20:09:16 ID:3pDK9OF2
代理投下中連投規制くらった
>>282まで投下済み
誰か残りの代理投下お願いします

288名無しさんは砕けない:2012/09/14(金) 21:35:50 ID:KUHoQZDk
残り代理投下しました。
抜け、無い・・・よな? あったらごめんなさい。

289 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/14(金) 23:44:37 ID:WPwP7bSA
>>287-288
 転載どうもアリガトゴザイマース(オウム)。
 抜けなどは無いようですもう万対です。
 
 >>262 に書いた指摘も、もしかしたら本スレに転載してもらったほうがよいのかなぁ、とも思いますが、どーだろか。 
 たぶん点採用スレのほうは見ていない、という人も多い木はするので。

 ただ指摘した点に関しては、後付的にフォローするアイデア自体は僕の中にチョットあるので、通して後付してもよいかもな、とも思ってます。

290 ◆c.g94qO9.A:2012/09/15(土) 05:28:59 ID:HgF3zNFA
>>298
指摘ありがとうございました。
どうしましょう。ノリノリで書きすぎて、全然考えてませんでした。
僕自身一応フォローのアイディアも思いつきましたし、SBRさんもあるみたいなんですけど、結局どうしましょうか。
通しちゃいましょうか、修正入れましょうか。

291名無しさんは砕けない:2012/09/15(土) 16:11:03 ID:A1O/TgHY
自分は修正入れたほうがいいような気がします
血縁関係まで詳細に知っているというのは、フォロー無しではやりすぎだと思います
フォローできるとはいっても、それを期待して修正できるものを無視してぶん投げるのはなにか間違っていると思います

292 ◆SBR/4PqNrM:2012/09/15(土) 19:52:41 ID:M98HsfXU
 たぶん、アイデア自体はどっちも同じよーな気がしますが、既にアイデアあるんなら、どちらでフォローしてもよいと思いますよん。
 今回のこのエピソードに関しては、この中にムーロロ視点の場面を入れない、ってのも演出上利いている部分でもありますし。

 ただまあ、別SSでフォローするって場合、そっちの可否ってのを待たなきゃいけない、って話にもなる問題はありますから、加筆、修正入れちゃう、ってのが一番簡単でしょうが。

293 ◆c.g94qO9.A:2012/09/23(日) 08:27:52 ID:fu.zuf3c
胃を抉るような衝撃が走った。ヘビー級のボクサーが力任せに叩き込んだような拳。そんな拳が何度も何度も、それこそ百を超えるほどに、アナスイを襲った。
気がつけば視界が反転。青空が上に、アスファルトが目の前に。身体全体を固い地面に叩きつけられて、息がとまる。
その後地獄のような時間が彼を襲った。身体をくの字に折り曲げると、青年は全身を喰らう痛みに呻き、もがいた。
痛みのあまり滲んだ視界。彼はそんな世界で、自分の身に何が起きたか理解した。

空条承太郎のスタンド、『スター・プラチナ・ザ・ワールド』。
男が時を止めている間に自分を叩きのめしたということを、アナスイは理解した。

地べたに這いつくばるアナスイに影が落ちる。苦悶の表情を浮かべながらも、なんとか見上げればそこには承太郎がいた。
男の表情はわからない。そうなることを狙ってか、逆光が男の顔に影を落としている。彼の顔色はうかがえない。
承太郎は落ち着いた口調で語りかけた。その冷静さが、何の感情も込められていない言葉が、なによりも恐ろしかった。

「テメーにとって娘がどんな存在だったかはしらねーが……俺は娘を失った。
 娘を失った父親の気持ちをてめーに押し付けようなんて思ってはいねーし、押しつけて理解してもらおうとも俺は思わねェ」
「がァ ――― ハ……ッ!」
「誰も俺のことを理解できるはずがないんだ。俺がテメーのことを理解できねェように、な。
 テメーが俺に感情を押し付けるのは勝手だ。だが、それが気に食わなかったんでちょいとお痛を味わってもらったぜ。
 事後報告になって申し訳ねェな。その点だけは謝るぜ」

目の前をゆっくりと通っていく一組の靴。地に這いつくばり、未だダメージの残るアナスイにそれを止める術はない。
承太郎が遠ざかっていく。一歩、また一歩。また遠くなる。その間、アナスイは必死で立ちあがろうとしていた。
立ちあがらなくてもいいのに。立ちあがったところで何ができるかもわからないというのに。
それでも彼は、今必死でもがいていた。必死で震える、手に、足に鞭打ち、男は這い上がろうと足掻いていた。


 ――― ナルシソ・アナスイの目に光が宿る。

その目に宿ったのは希望ではない。悲しみでもない。
怒りだった。まごうことなき、純粋な怒り。しかしそれは彼のやつあたり的な怒りではない。

男はなんとか立ち上がる。
胸が痛む。吐き気がこみ上げる。拳を叩き込まれた胃がひっくり返そうだ。
だがそれでもアナスイは立ち上がったのだ。どんな困難にも決して怯まず、決着ゥつける“彼女”の姿を思い出し……男は立ちあがったのだ。


「承太郎さん……、いや――― 空条承太郎ッ!」


その場を去ろうとする男に指を突きつけ、彼は叫んだ。

「あんたは、自分の納得のためだけに動いてる……!
 娘を失った無力感、娘に何もしてやれなかったという罪悪感に突き動かされ……! 無茶で無謀な破壊衝動に犯されているッ!
 悪党退治だなんて崇高な義務感に……あんたは酔っているだけなんだッ」

空条承太郎は振り向かない。
一度だけ、ぴたりとその場で立ち止まったが、やがて気を取りなおしたように足を動かしだした。
アナスイはやめなかった。彼は肺一杯に空気を吸い込むと、力の限りに、怒鳴った。



「徐倫はこんなことを望んでいやしないッ」

294石作りの海を越えて行け    ◆c.g94qO9.A:2012/09/23(日) 08:30:11 ID:w6ygC5nA
男は足をすすめようとして……その足を浮かしたままの状態でしばらく固まった。
そして次の瞬間、目にも止まらぬ速度で振り向くと同時に、アナスイ目掛けて一目散に向かっていった!

男の反応を予期していたように、アナスイも既に行動を終えていた。
スター・プラチナの拳が迫る。真っ向勝負でダイバー・ダウンが迎え撃つ。凄まじい轟音が響き、二つのスタンドは拮抗した。
空条承太郎が初めて感情をあらわにした。怒りに燃えた瞳が、スタンド越しにアナスイへと突き刺さる。


「てめェに、なにが、わかるってんだ……ッ!」
「ああ、わかるさ……! すくなくとも徐倫がそんなことは望んでいないってことぐらいは、わかってるつもりだ……!」


凄まじいスピード、とんでもないパワーで押してくる。
迫りくる拳の嵐。ダイバー・ダウンはおされていく。アナスイは無理することなく一度後ろに飛び下がり、距離を取る。
逃がさんとばかりに、承太郎は猛追。再び拳を振り上げ、彼は言う。アナスイも負けじと答える。


「てめェが! 娘の名を呼ぶんじゃねェッ!」
「徐倫はアンタをみすみす殺すために! 命をかけて、傷だらけになって! 救い出したんじゃないんだぞッッッ!」


ダイバー・ダウンが押し返した。承太郎は怒っている。だがそれ以上に、アナスイも怒っていた。
流れは再び中立に。パワーA同士のスタンド、突きの速さ比べは際限なく加速していく。
両者の顔が、怒りに、そして痛みに歪んだ。歯をくいしばって耐える二人の男。アナスイは、その食いしばった歯の隙間から、振り絞るように言葉を吐いた。


「何度でも言ってやる……!」


次の瞬間、ダイバー・ダウンの一撃が、スター・プラチナのガードをこじ開けた。
驚愕に染まる承太郎の瞳。ガラ空きのボディに迫るダイバー・ダウン。
アナスイが吠える。ナルシソ・アナスイの渾身の一撃が、魂の叫びが承太郎を穿たんと迫る……!



「徐倫は……そんなことを望んでいやしないッ!」



そして次の瞬間! ダイバー・ダウンの拳が数ミリまで迫ったその瞬間!   ……――― 時が止まった。


   ……――――――


そして時が動き出す。

295石作りの海を越えて行け    ◆c.g94qO9.A:2012/09/23(日) 08:30:52 ID:w6ygC5nA
途端、アナスイの身体は木の葉のように吹き飛び、きりもみ回転しながら近くのゴミ山に突っ込んだ。
青年の口から血が噴き出す。すぐには立ちあがれないほどのダメージを前に、彼はどうすることもできなかった。
空条承太郎の手加減抜きの攻撃を喰らったのだ。むしろそれだけで済むほどにアナスイはタフで、承太郎を追い込んでいた。

帽子をかぶりなおした男はその場を立ち去ろうと一歩踏み出し、途中で止まる。しばらくの間、彼は自らの拳を見つめていた。
生々しく残った感触がやけに鮮やかで、気味が悪いなと承太郎は思った。
そういえばスタンドで人を吹っ飛ばしたのは久しぶりだなと思い出し、彼はやれやれ、といつもの口癖を口にした。
頭を振り、その場を後にする。だが直後、背後から聞こえた物音に気がつき、振り返った彼は驚愕に動きを止めた。

ナルシソ・アナスイはダウンしていなかった。
彼はなんとしてでもこれだけは言ってやりたいと。それだけを口にせずには意識を手放せないと言わんばかりで。
フラフラになりながらもゴミ捨て場を抜け出し、半分座り込んだまま……男に指を突きつけ、彼は声を張り上げた。

無様な姿だとはアナスイもわかっている。
情けなくて、カッコ悪い。徐倫が生きていたなら、絶対に見せたくない姿だ。


「止めてやる……ッ!」


だけど……もう、徐倫は死んだんだ。
もう徐倫は……いないんだ。


その瞬間、アナスイはようやくその事実を受け入れた。そしてその事実を受け入れ、だからこそ、そう宣言した。


「俺は、絶対に、あんたを……止めてみせる!」


それが徐倫の望んだことだと、心の底から思ったから。
徐倫が生きていたならば、必ずやそうしただろうと確信できたから。


徐倫は死んだ。もういない。

296石作りの海を越えて行け    ◆c.g94qO9.A:2012/09/23(日) 08:31:58 ID:w6ygC5nA
それはあまりに悲しいことだった。絶望して、膝をつきそうになりそうだった。
地団太ふんで一日中、いや、一年中一人部屋にこもって泣きつくしたい。
徐倫を想って涙で海が作れるほどに泣いていたい。もうこの身体が枯れ果てるほどに悲しみに浸りたい。
だけどそんなことをしている暇はない。そんなことに暇をさいて止められるほど、徐倫のお父さんは弱くないんだ。

アナスイは涙していた。放送で徐倫の死を聞き、徐倫の死を受け入れてから初めて、彼は泣いた。
アナスイは泣いた。自分の弱さに泣いた。何もできなかった自分の非力さに泣いた。
何もできなくてごめんと徐倫を想って泣いた。惨めでダサくて、自分が情けなくて泣いた。

涙と鼻水で顔はぐちょぐちょだ。疲労とダメージで視界が暗くなる。
それでもアナスイは繰り返し喚いた。もはや承太郎がそこにいるのか、立ち去ったのかもわからなかったが、何度も、何度も、叫んだ。
止めてやる。俺があんたを止めてやる。腕を振り回し、あらぬところを指さし、そう叫ぶ。
そうやって繰り返して、繰り返して、疲れ果てた彼は地面に倒れ込み……やがて静かになった。


それでも彼の涙は止まらなかった。彼は夢見心地のまま涙し、最後に徐倫……と彼女の名を呼ぶと、そうして気を失った。





空条承太郎は、そんな彼を見つめ……しばらくの間動かなかった。

気がつけばしのぶがそばに寄り添っている。数十秒がたち、安全だと判断した川尻しのぶは、男の傍をすり抜ける。
彼女は気を失った青年の隣にしゃがみ込み、容体を見守った。
気を失ったわ。そう彼女は確認し、男を見た。空条承太郎は何も言わずにその場に立ちつくしている。しのぶは何も言えなかった。
本当は一言二言、小言を言い、盛大にため息を吐きたい気分だったがグッとこらえた。
代わりに彼女はアナスイの脇に腕を射し込み、なんとか彼の体を持ち上げようと奮闘する。小柄な彼女にアナスイの大きさと重さはたいそうな負担だった。
承太郎は手伝わなかった。かわりに彼女の腕からデイパックを半ば強引に奪い取ると、それを代わりに持ってあげた。

297石作りの海を越えて行け    ◆c.g94qO9.A:2012/09/23(日) 08:33:06 ID:w6ygC5nA
十数分の奮闘を経て、しのぶはなんとか青年を安全な場所へと無事寝かしつける。
駅の脇の飲食店、ソファの上に彼を放り投げると、彼女は一息ついた。
引きずっているうちに足を何度か家具にぶつけたりしたが、この際贅沢は言わないだろう。
胸を見れば呼吸に合わせてしっかり上下している。死んではいない。素人判断だが、触った感じだと骨折もしてなさそうだ。

しのぶは、ふぅ……と大きく息を吐き、少しだけ休憩を取る。
さり気なさを装って店を見渡せば、厨房のほうから立ち上るタバコの煙が見えた。
しのぶは今度は我慢せずに、やれやれの言葉とともに大きくため息を吐いた。やれやれ。ほんとうに、やれやれだわ。


「行きましょう。時間がもったいないわ」

数分の後、充分休息がとれたと判断したしのぶ。付添いの男にそう声をかけた。
承太郎は黙って頷く。火をつけかけていた二本目のタバコをもみ消すと、脇に置いていたデイパックを手に取った。
しのぶは気がつく。承太郎は彼女の分のデイパックも持ってくれていた。



 “てめェに、なにが、わかるってんだ……ッ!” 『徐倫は…… ――― あんたの娘なんだぞッ!』
 “てめェが! 娘の名を呼ぶんじゃねェッ!” 『徐倫はこんなことを望んでいやしないッ』

店の扉を潜り抜け足早に男の横に並んだ時、唐突に彼とナルシソ・アナスイとの会話を思い出した。しのぶの胸が痛んだ。
そっと見上げれば承太郎はいつも通りのむっつりとした顔で、何を考えているのかまったくわからない。

ナルシソ・アナスイ。空条承太郎。どちらも一人の少女を失い、ひどく傷ついている。
しのぶは悲しかった。これは二人の男の問題で、話し合えばわかりあえるものでないともわかっていた。
どちらの言い分も痛いほどわかるので、だからこそ、余計に胸が苦しかった。

それでも、としのぶは思う。それでも、自分は空条承太郎から目を離すわけにはいかない。

青く若いナルシソ・アナスイは一見、若さゆえに無謀で無茶をしでかしそうに思える。
でもしのぶは彼なら大丈夫だ、という奇妙な安心感があった。アナスイならば立ちあがれると何故だか信じられた。
あの青年は少女の死にひどく傷つき、取りみだし、喪失感に苦しんでいた。
だけど……泣いていた。少なくとも泣けたのだ。彼は。

アナスイは徐倫のことを思って泣いていた。
しのぶと承太郎のまえで、それはもう惨めになるほど、ボロボロ、ボロボロと。
涙を流して、泣くことができたのだ。

298石作りの海を越えて行け    ◆c.g94qO9.A:2012/09/23(日) 08:33:36 ID:w6ygC5nA


もう一度隣の男の顔を見上げる。民家を出発後、たまたま化粧室による機会があり、二人はそこで身なりを整えていた。
彼の頬に涙の跡はもう残っていなかった。そのことが何故だか、しのぶの心を寂しくさせた。

どうかしたか。目線を辺りに配り、血に飢えた殺人鬼に警戒しつつ、承太郎がそう言った。
なんでもないわ。しのぶはそう返し、そっと目を伏せた。
何故だか気を抜いたら、泣きだしそうだった。だがそれはあまりにかっこ悪いと思い、彼女はグッとこらえた。

隣の女性の様子に気が付いているのか、いないのか。
承太郎はぶっきらぼうに、駅内を捜索するぞと彼女に告げる。しのぶは黙って頷いた。
そのまま近づきすぎず、離れすぎずの距離を保ったまま……一組の男女は駅の中へと姿を消していった。







湿った風が通り抜けると、ゴミ捨て場のアルミ缶が転がり……寂し気な音をたて、転がっていく。

アナスイの残した涙の跡は、もう残っていなかった。

299石作りの海を越えて行け    ◆c.g94qO9.A:2012/09/23(日) 08:34:44 ID:w6ygC5nA
【D-8 杜王駅入り口 / 1日目 朝】
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:体力消耗(中)、???
[装備]:煙草、ライター
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.???
1.杜王駅内を捜索する。

【川尻しのぶ】
[時間軸]:The Book開始前、四部ラストから半年程度。
[スタンド]:なし
[状態]:疲労(中)、精神疲労(中) すっぴん
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎についていく
1.空条承太郎についていく

【備考】
※アナスイと承太郎の話を聞いて、しのぶもなんとなく時間軸の違いに気がつきました。ですがまだ確信はありません。
※アナスイと一方的な情報交換をしました。
 その結果、承太郎はジョンガリ・A、リキエル、エンリコ・プッチを危険人物と判断しました。発見したら殺りにいきます。
 ウェザー・リポートは灰色です。ヘビー・ウェザーになったら容赦はしないと思っています。
※承太郎はアナスイを殺す気は『今のところ』ありません。危険人物ではないと判断しました。
※化粧室に寄った際、しのぶは化粧を落としました。すっぴんです。


【D-8 杜王駅脇の飲食店 / 1日目 朝】
【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(極大)、 体力消耗(中)、精神消耗(中)、気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
【備考】
※骨折はしていません。承太郎はちゃんと優しく、全力で手を抜かずに、オラオラしました。
※放送で徐倫以降の名と禁止エリアを聞き逃しました。つまり放送の大部分を聞き逃しました。

300石作りの海を越えて行け    ◆c.g94qO9.A:2012/09/23(日) 08:38:26 ID:w6ygC5nA
以上です。誤字脱字矛盾点などありましたら指摘ください。
代理投下、お願いします。

301境遇  ◆yxYaCUyrzc:2012/10/02(火) 11:04:10 ID:LXHJvhoI
最後の最後で規制orz下は挨拶だけですが転載してくだされば幸いです
***

以上で投下終了です。

仮投下からの変更点
・誤字脱字修正&文章追加修正
・内容の変更は無し

誇りってなんだろね、な話を書いてみたかったので“被害者”の二人にスポットを当ててみました。
本当は「妹同様の存在を失った二人」をテーマにもう少しネチネチ書くつもりでした。
だが億泰はともかくコカキの存在を忘れていた……もとい、かえって話の本筋が見えなくなりそうだったので思い切ってカット。
後半の俺パートも端的に状況説明しないと。あれを一人称三人称で長々書いてたらもうね、どうしようもないですよw
(どうしようもない書き方をしている人の言えたことではないですがorz)

それから、このSSに限らずですが自分の「かぎかっこ」の使い方について少々。
『 』は漫画で言うならフキダシの中に書かれる、文字通りこの『 』で、
“ ”はジョジョ原作でもよく見るフキダシの中の傍点(文字の隣に・がうってあるアレ)をイメージしています。
今回の本投下時には修正はしていません(むしろ追加したくらい)
読みにくい・パロロワ暗黙のルール等の理由で統一すべきなどの意見がありましたらお聞かせください。

設定の矛盾や誤字脱字、その他のご指摘も受け付けております。それでは次回作でまたお会いしましょう。

302 ◆c.g94qO9.A:2012/10/24(水) 04:09:29 ID:CyKYNUQs

【B-2 ダービーズ・カフェ店内 / 1日目 午前】  
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:健康
[装備]:閃光弾×1
[道具]:基本支給品一式 (食料1、水ボトル半分消費)
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.ミスタたちとの合流。もう少しダービーズ・カフェで待つ。
2.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。

【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:健康、ナイーブ
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石
[道具]: 基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者と仲間を殺したものは許さない。
1.ジョルノと共に行動。とりあえずはカフェで待機。







母を重ねていたわけではない。

「あッ」

間の抜けたエリザベスの声に続き、彼女の体が傾く。先と同じようなへまはしない。
躊躇わず腕を伸ばし、琢馬は彼女の体ごと抱きかかえる。
腕に感じる彼女の柔らかさ。そして心配したくなるほどの身軽な体。

琢馬は驚いた。一体この細い体のどこにそれだけのパワーが。そう思えてしまうほどに、彼女は華奢で、その体は軽かった。

「……気をつけないと」

エリザベスが一人で立てるのを確認した後、青年はボソリと言った。
非難しているわけでもないのに、自分の口調がきつくなっているように思えて琢馬はらしくもなく動揺した。
表情の揺れを誤魔化すように、エリザベスの手から飛び出た介助用の杖を取りに行く。
押し付ける様に彼女の手にその杖を握らせると、二人はまた歩き出す。一歩、また一歩。

303 ◆c.g94qO9.A:2012/10/24(水) 04:09:53 ID:CyKYNUQs


悲劇的とも言えそうなほど、のんびりとしたスピードだった。
だが琢馬は気にしなかった。それどころか腕を差し出し、こっちのほうが安定する、と言い彼女に掴ませた。
二人三脚のような、歪な影が街を進んでいた。二人の間に会話はなく、沈黙の街が二人を見つめていた。



躊躇いはなかった。罪の意識すら感じなかった。琢馬はすでに心に決めていたのだ。
それでも感じる微かな胸の痛み。それは自分の中に残った僅かな良心か、兄としての責任感か、或いは子供としての最後の甘えか。

頭を振って姿勢をただす。だかららこそだ。ならばこそ、やらなければいけないんだ。
全部投げ捨てる、たったいま決めたことじゃないか。今度こそ決断したはずじゃないか。

『これからは、自分のためだけに――― 幸せに―――あなた自身の未来へ――― イキナサイ』

今さら歩みを止めるわけにはいかなかった。全てを忘れて新しい道を進むことはできやしない。
“忘れる”事は復讐を忘れることだ。復讐を忘れるとは全てを失うのと一緒だ。

ひとりの男を絶望に突き落とすために、自分は生きてきた。
琢馬にとって復讐とは生まれた時からずっと傍にあり続けたもの。復讐とともに生まれと言っても過言でない。
自分にはそれしかなかったのだから。それしかしらず、それだけのためにこれまで生きてきたのだ。

『頼む――――ッ! 琢馬――――ッ!! 千帆を――――ッ!! 頼む――――ッ!!』

積み上げてきた記憶の数々は、もはやガラクタ以下の紙屑同然。
何の意味も持たないゴミの山。例え綺麗に整頓され、本棚に収まっていようとも。それはもはや必要ないもの。
どれだけびっしり文字で埋まっていようと、真っ白と一緒。もう無駄なものとなってしまったんだ。

復讐は達成された。或いは達成されてないのかもしれない。そして、これから達成しようにも、それはできなくなった。
琢馬の気持ちも、理想も、計画も。全て踏みにじり、現実は彼を追いたてた。
後に残されたのは蓮実琢磨と言う空っぽの人間。
ちょうど一個だけ余ってしまったパズルピースのようだ。まるで復讐の想いが形となり、『結果』だけが残ってしまった、双葉千帆かのように。


そう、蓮実琢磨は似ている。蓮実琢磨は、“双葉千帆”に“似ている”。


母は満足して逝った。復讐を果たすべき父はもういない。
二つの願いを託され、どちらに動こうともその願いは彼をがんじがらめに縛りつける。
自由に生きたいともがけば母の影が。元の生活を求め、平穏を辿れば父の怨念が。


「だからこそ、俺は……」

304 ◆c.g94qO9.A:2012/10/24(水) 04:10:13 ID:CyKYNUQs



―――これは「呪い」を解く物語だ。そして、蓮実琢磨が歩き出す物語。


太陽が昇りかける朝、『蓮実琢磨』は人を殺した。
精一杯の力を振り絞って、つい先まで隣を歩いていた女性の首を絞めあげた。


「か……はッ、あ」


細腕の下で震える喉。掌に感じる死の感触を、きっと自分は死んでも忘れない。
カランと音をたて介助用の杖が宙を舞った。弱弱しく抵抗する女性。更に力を込め、まるで首の骨を折らんばかりにねじあげる。
何故だか母を刺し貫いた時の感触が思い浮かんだ。記憶の波から漏れだした想いが腕を震わせ、視界をにじませた。

そうしてゆっくりと、女性のもがく力は弱くなり、皮膚越しに彼女が冷たくなっていくことを琢馬は感じ取った。
アスファルトの上に横たわる彼女を見降ろした。何も考えられなかった。達成感も沸かなかったし、高揚感もなかった。
わかっているのは踏み出した一歩の軽さ。途方もなく、終わりの見えない道を、自分が歩き出したという感覚だけだった。


太陽は全く同じ強さで照り続けている。見慣れない街並み立っていると、現実感を失い、自分の体がまるで消え去ってしまいそうに思えた。
窓に反射した日光が思いのほか強く、少年は顔をしかめた。白い肌を焦がす、ジリジリという音が聞こえてくるかのようだ。

琢馬は最後に彼女に、さようなら、と一言言おうとして、その言葉を途中で飲み込む。
何も見てはいない女性の瞳を覗きこみ、そしてその中に写った自分の顔を見る。能面みたいに無表情だった。
もうこの場ですべきことは何も残っていなかった。

エリザベスのデイパックを拾い上げ、彼女に渡した杖を手に持つ。握り手はまだ温かい。
千帆を探そう。まるで子供のころの思い出を唐突に思いだしたかのように、そう思った。それは兄として? 恋人として? 道具を利用する人間として?
わからない。だが彼女に会わないといけない。自分の始まりは彼女と共にあった。ならば終わりも、新たな始まりも彼女と共にあらなければいけない。



―――これは「呪い」を解く物語。そして、蓮実琢磨が歩き出す物語。



蓮実琢磨の姿は街並みの影に、ゆっくりと消えていった。



【リサリサ 死亡】

305 ◆c.g94qO9.A:2012/10/24(水) 04:10:36 ID:CyKYNUQs







【C-3 中央/ 1日目 午前】  
【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:健康
[装備]:双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖
[道具]: 基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、不明支給品2〜3(リサリサ/照彦:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。千帆に会って、『決着』をつける。
0.???
1.双葉千穂を探す。
2.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。 どのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
[参考]
※参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
※琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
※また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
※また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
※蓮実琢磨の支給品は スピードワゴンの杖@二部 だけでした。

306黒金の意志  ◆c.g94qO9.A:2012/10/24(水) 04:11:03 ID:CyKYNUQs
以上です。突っ込みお待ちしております。

307黒金の意志  ◆c.g94qO9.A:2012/10/24(水) 04:11:24 ID:CyKYNUQs
ageときます

308勝者 指摘追加分  ◆yxYaCUyrzc:2012/10/31(水) 10:52:18 ID:PCoKMz4o
本スレ規制orz


以上の文を>>378
「略)見事についたビーティーの勝ちさ」

「さ、長くなったが(略」
の間に追加しようと思います。
ご指摘ありがとうございました。

さて、今作のwiki収録ですが、今回の指摘追加分に対するさらなる指摘を受けたのち(1日くらい置く?)に収録しようと思います。
とりあえず今はcg氏の作品に期待しておりますw

まだ何かご指摘ありましたらバシバシとどうぞ。 それでは。

309 ◆yxYaCUyrzc:2012/10/31(水) 11:12:27 ID:PCoKMz4o
容量いっぱいでの規制でしたので新スレ立てて解決しました。

310 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:22:10 ID:QSWuxJbg
スレ立て乙です!
色々てこづって、しかも規制されてますが、とにかく投下します。

311 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:22:52 ID:QSWuxJbg
それは唐突に襲いかかってきた。立ちくらみのような、めまいのような。脈絡もない突然のフラッシュバック。

鉄が錆びた様なこもった臭い。重苦しく淀んだ空気。地面に散らかる赤の斑点。
断片のようないくつもの記憶が思い浮ぶ。細部まで見たわけでもないし、急いで目を逸らしたから、全部がどうだとわかっているはずもない。
だというのに記憶の中のその光景は嫌に鮮明で、生臭くて。
手を伸ばせば掴めそうだと思えるほどのくっきりとした記憶が、川尻しのぶの脳を揺さぶった。

しのぶはごくりと唾を飲み込む。込み上げた吐き気も一緒に飲み干せたらいいのにと思ったが、吐き気は収まらなかった。それどころかますますひどくなった。
掌にじんわりと広がる汗を感じる。顔から血の気が引いて行くのが見ずともわかる。
彼女はゆっくりと眼を瞑って、息をとめてみた。あまり効果はないことはわかっていた。けれどもそうするほかにすることもなかったので、とりあえずそうしてみるしかなかった。
瞼の裏に映る暗闇を見据え、しのぶは隣に座る男に気づかれなければいいけど、と思った。
空条承太郎に気を使われるようなことはしたくない。それだけが心配だった。


アナスイとの一件を終えた後、二人は杜王駅内を捜索した。
駅には誰もいなかった。残酷な殺人鬼も、恐怖におびえる幼子も、影一人、人一人見つけることができなかった。
かわりに二人が見つけたのは、奇妙な形に歪められた死体。捩じれて、融け合わされ、崩れかけている幾つもの残骸。
人間としての表情が読みとれる余地が残されているだけ、余計にたちが悪い。
だがそれを見ても承太郎は眉一つ動かさなかった。彼は一切動じる素振りを見せなかった。

立ちすくむしのぶを尻目に彼は被害者の顔を覗きこみ、知り合いでないことを確かめ、そして支給品を一つ残さず全て回収した。
おまけに荷物になるであろう余分なデイパックや食料、懐中電灯を残してくるほどの徹底ぶり。
墓を造るようなことはもちろん、死者のために黙とうをささげるための僅かな時間すら、彼は惜しんだ。
吐き気を堪え俯く中、しのぶはそんな男を見て、まるで感情を剥ぎ落した機械のようだと思った。
場慣れた刑事や勘の鋭い戦士でなく、一体のアンドロイドが動いているかのような……そんな印象を彼女は抱かずにいられなかった。


しのぶはそっと眼を見開く。吐き気は少しだけ収まっていた。だがフロントガラスに映る自分の顔色は、一向に良くなる気配を見せない。
車内に会話はなく、壊れかけた空調が時折軋む音が、静寂を破っていた。隣の運転席でハンドルを握る男は、長い事口を閉ざしたままだった。

今二人は駅で拾った支給品のうちの一つ、車にのって移動している。
速度はそれほど出ていない。ちょうど朝の通勤ラッシュで急ぐサラリーマンぐらいの速さだ。
承太郎に言わせれば、誰かが見つけても追いつけられる程度で、誰かを見つければ追いつくぐらいのスピードだそうだ。
しのぶは自分の体調がよくなるよう、大人しく座席に収まっていた。


「少し休憩する」


数分後、男は速度を緩めると路肩に車を駐車した。
シガーライターでタバコに火をつけ、何回か煙を吐いた後、彼は思いついたかのようにそう言った。
やはり彼に気を使わせてしまったのだろうか。そう、と返事をするとしのぶはため息を堪え、居心地悪そうに視線を車外に向けた。
恥ずかしさと失望感で、とてもじゃないが話す気にはなれなかった。

312 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:23:21 ID:QSWuxJbg
しのぶにもわかっていたことだった。
お節介を焼いているのは自分のほうのはずだというのに、気がつけばいつも自分は彼に気を使わせている。
最初からそう。彼が無理を言ったことと言えば、ここにきて最初に会った時だけ。
『すまないが、一本吸わせてもらってからでいいか』 そう言った時だけなのだ。

彼との関係は、自分が一方的に追いまわしているだけの関係のはずなのに。
承太郎からすれば自分と一緒に行動してなんら得になるようなこともなかったし、きっとこれからもないように思える。
空条承太郎は自分がつけまわすことを“許してくれている”のだ。わざわざ自分に合わせ、足並みをそろえてくれているのだ。
その気になればしのぶをほっぽり出し、自分一人でより効率よく、より迅速にこの場を駆けまわれるというのにだ。
彼は自分が危険にならないよう、疲れないよう、さり気なく、いつも手を差し伸べてくれている。

しのぶは顔をしかめた。情けなさと怒りが半分ずつ同居するような、中途半端な表情だった。


長いこと、承太郎は動かなかった。
彼は何も言わず、地図と名簿をジャケットのポケットから取り出すと、じっとそれを眺めていた。
それほど熱心に眺めているわけでもない。なんとなくすることがないのでそうしている。何とも言えない、ポッカリとした空洞感があった。

そうして彼は不意に筆記用具を取り出すと、一つの名前の隣にメモを取る。
しのぶがすっかり回復したのを見計らったようなタイミングで、承太郎は動いた。
無言のまま、彼はしのぶにそれを突きつける。しのぶはそれを覗きこみ、そして次の瞬間、息をのんだ。

それは名簿に載っていた名前を見たからではない。承太郎の筆跡がそこにこう記していたからだ。

『俺たちは誰かに見られている』





313 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:24:32 ID:QSWuxJbg
突如脇腹に鈍い痛みが走り、私は呻き声を漏らしかける。
慌てて口を覆い、喉奥で痛みの叫びを噛み砕く。もしや聞かれてしまっただろうか。空条承太郎は今の声を聞き落としてくれただろうか。

ラバーズに意識を集中させ、様子を伺う。
車からのっそりとその巨体を捻りだしたのは紛れもなく、あの空条承太郎だ。辺りをゆっくり見渡し、鋭い視線で何一つ見逃すまいと神経を張り巡らしている。
しばらく観察を続けたものの、どうやら声を聞かれてはいないようだ。ほっとしたのも一瞬、私は気合を入れ直し、再びラバーズに集中する。

助手席に座る女には見覚えはない。念のため手元にある名簿に目を通すが、これといってピンとくる名前もなかった。
承太郎の母親にしては若すぎる。顔も似ていなければ、態度も肉親にしてはよそよそしすぎる。
きっとどこかで拾ったただの女だろうと、だいたいの見当をつける。あの脅えかたからしてもスタンド使いとは思えない。
こうなると、やはり注意すべきは承太郎だ。

あの強力無比なスタンド、スター・プラチナの恐ろしさを忘れてはいない。眼前まで迫った拳の嵐。ラバーズすら知覚し、捕える桁外れの基礎能力。
油断は禁物だ。ドジを踏めば今度こそ、あの拳で再起不能なまでに叩きのめされるだろう。
私は自らを叱咤激励するように、つい先、つけられた傷口を撫でた。鋭い刃物で貫かれたその脇腹は、決して油断してはならないという戒めの証。


今私は単独で行動している。放送を終えた後、結局私は独りで行動することを決意したのだ。
情報交換の後に身の振り方を考えようと思っていたが、呆れることにヤツらはまともに情報交換する気すら見せなかった。
怪物でありながら戦闘狂であるワムウ。血と殺戮を愛する狂人、J・ガイル。きっと頭の中は闘いのことでいっぱいだったのだろう。
認めよう、私の認識が甘かった。こんなやつらとともに行動していたら戦いに巻き込まれ惨めな死を迎えるか、策略をめぐらしてる最中に背中から貫かれるに違いない。
最初からこんな二人を手駒にしようというアイディアそのものが無謀だったのだ。

実際この傷はJ・ガイルによってつけられたものだ。
私が別行動をしようと提案したのがよっぽど気に入らなかったのだろう。
脇腹の肉をえぐり飛ばし、ゲスじみた笑いをヤツはあげていた。今でも動けばずきずきと痛むほどの傷だ。

怒りで体が硬直しかけ、再び私は傷に手をやった。冷静になるんだ、スティーリー・ダン。落ち着くんだ、落ち着くんだ……。
J・ガイルやワムウでのミスを繰り返してはならない。まして相手はあの空条承太郎、その上見たところ私が知っているヤツより年をとり、熟練の雰囲気すら纏わしている。
隙もなければ、その眼光の鋭さも並はずれている。思わず私の体が震えるほどだ。恐ろしい……、あの男、ヤバすぎる。

「―――……だが」

これは真っ向勝負の戦いでなく……決闘でもなければ、ルールの存在するゲームでもない。
正攻法で敵わないならばそれなりの戦い方というものがあるのだ。そしてその闘い方において、このラバーズに弱点は……ないッ
ここに連れてこられる前にジョースター一行と戦えたのは幸運だった。J・ガイルによって慢心の愚かさを知れたのは幸いとしかいいようがない。
慎重に、慎重にスタンドを進めていく。そうだ……慎重に、そして大胆に。
策さえうまくはめてしまえば例え承太郎だろうと上回る自信はある。あの場所へ、“あそこ”まで辿りついてさえしまえば……!

「……良し」

だが、まさにそんな時だった。まさに私が策を完遂させ、これでヤツとも対等に渡り合えそうだ……と思いかけた、その瞬間。
思わず小声で自身を勇気づけるような言葉を吐いた瞬間。


「――――――…………」

314 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:26:45 ID:QSWuxJbg
承太郎が息を吐く。深く、長いため息のような呼吸音。気を静めるのでもなく、呆れるのでもなく、ただ機能的にそうしたような音が聞こえた。
そして唐突にヤツは私のほうをまっすぐに見据え、呟くようにこう言った。

声が届く範囲に私はいない。そんな距離まで近づいていない。だから私はヤツの口元を読み取っただけだ。
もしかしたら間違いでは。そう望みたくなった。何故こちらの居場所がばれたのだろう。微塵の当てすら浮かばなかった。
ただのブラフだ。山カン張った、ただの虚勢に違いない。私は咄嗟にそう思う。
だが無意味だったのだ。空条承太郎は、私が隠れている場所を真っすぐに見据え、こういったのだ。


「そこにいるんだろう、スティーリー・ダン」、と。


刹那、ぞわり と、背中が震える。

その声は私が知っている空条承太郎のものではなかったから。いや、空条承太郎どころか……この声は本当に人間のものなのだろうか。
私の体は震え始めていた。私の腕が、身体が、足が、そして……傷口が警報をがなりたてるように疼いた。
私は見た。こちらを向いた空条承太郎の目を、見た。
そこに込められたのは狂気……。そしてどこまで続くかもわからないほどの、底無しの殺意……。





315 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:33:27 ID:QSWuxJbg
川尻しのぶが不安げな様子で外に出てきた。今にでも爆発する何かを刺激しないように、彼女はそっとドアを開け、そして閉める。
空条承太郎は動かない。男は道路の先に視線を向けたまま、微動だにしない。
その様子から彼が何かを待っているのだろう、としのぶは思う。だが一体何かを待っているのか、それが何なのかはさっぱりわからなかった。
沈黙のまま、刻々と時だけがすすんでいく。十秒、三十秒、一分…………。

状況が動くのにそれほど時間はかからなかった。スティーリー・ダンがその姿を現したのだ。
二人が面する道路、その先の坂を登って、たっぷり50メートルほどの位置で、その男は立ち止っていた。
しのぶは神経質そうに、ちらちらと承太郎へ視線を向けた。彼はその視線を無視した。承太郎は今、目の前に現れた男に全神経を注いでいる。

しのぶには何が起きているのか、まるでわからない。承太郎が車の外に出て、辺りを見渡して、一言二言、ブツブツと呟き……。
そして今、新たに姿を現した男は、はるか向こうで立ち止まり此方の様子を伺っているのみ。
此方に声をかけるでもなく、知り合いかどうかを確かめるために近寄るでもない。ただそこにひたすら立っているのだ。

そもそもここまで離れていると顔すらはっきり見えない。話をしようと思ってもこの距離となれば大声でしなければいけないのだが、そうする様子も見えない。
承太郎と男は会話もせず、互いに顔も見合わせる必要もなく、何かしら二人の間だけで通じ合っているようだった。
自分が蚊帳の外に置かれている事で、不安は大きくなるばかり。しのぶはやきもきしながらも、だが、ただ二人を見守るほかなかった。

「スティーリー・ダンか?」

316 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:34:42 ID:QSWuxJbg
承太郎が、確かめるようにそう言った。しのぶが辛うじて聞こえるぐらいの、小さな声。

317 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:35:22 ID:QSWuxJbg
これじゃ相手に聞こえるわけがない。無論、承太郎もそんなことは承知だろう。

318 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:37:40 ID:QSWuxJbg
だが彼はそのままの声で話を続けていく。

319 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:38:26 ID:QSWuxJbg
独り言としてはいささか奇妙で、淀みなく。

320 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:39:45 ID:QSWuxJbg

「タロットカード、恋人。スタンドはその名の通りラバーズ。能力は極小のそのスタンドを敵の脳内に埋め込み、内部から攻撃する。
 特徴は自分が傷つけば、相手にもダメージが及ぶというのを前提とした人質作戦。性格は紳士風を装っているが、そこらのチンピラと変わらない、虚栄心の強い男。
 DIOから命を受け、パキスタンを少し過ぎたあたりで俺たち一行に襲いかかったことがある……」

ふぅ、と一息入れる。そして続ける。
次に出てきた言葉は問いかけのようでありながらも、ほとんど確信を込めているのがしのぶにもわかった。

「あのスティーリー・ダンで間違いないな」

砂粒一つが落ちても聞こえるのではないか。そう思えるほどの沈黙が辺りを包み、二人と男の間を風が駆け抜けていく。
承太郎はきっかり十秒だけ待った。刑の執行直前に自白を待つかのような重苦しい十秒だ。
そして時が過ぎ、遠くの男がそれでも動かないのを見定めると……彼は男に向かって足を進めた。
その歩みに一切迷いは感じられなかった。空条承太郎は綺麗に、一直線に、男めがけて向かっていく。

慌てたのは遠くの男のほうだった。

321 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:42:16 ID:QSWuxJbg
「止まれ、承太郎ッ」


承太郎は止まらない。変わらず一定のペースで黙々と足を運んでいく。


「そこまでわかってるなら、私が考えそうな策も、当然わかってるんじゃないか……ッ!?」


少しだけ、ほんの少しだけ、彼のペースが落ちた。早歩きのスピードが、普通の歩くぐらいまでのペースに落とされる。
それでも……それでも、彼は止まってはいない。着実に、二人の男の距離は詰まっていく。


「我がラバーズは! 既にッ! その女の脳内に潜んでいるッ!
 つまりこれがどういことかわかるか? 貴様には理解できているのか、エエ!?」


スティーリー・ダンと呼ばれた男の額に汗が浮かぶ。
顔は余裕を現すために笑おうとしているのだろう。だが承太郎の接近に驚きと狼狽を隠せていないのは一目瞭然だった。
奇妙にねじれた笑い顔は素直な焦り顔より、よっぽど惨めで、余裕がないことを顕著に示していた。


「おいッ、止まれと言ったはずだぞ、このクソガキがッ!」


男は声を荒げ、脅そうとしたのだろう。しかし緊張でか、途中で声が裏返ってしまい、脅すどころか笑いすらこみ上げてきそうだった。
本人もその裏返った声にあからさまに動揺している。見ていると、段々気の毒になって来るほどに。
同情すらしたくなるほどまでに、その男の表情と挙動は奇妙で余裕がなく、明らかに承太郎を前に冷静さを失っていた。

スティーリー・ダンは慌てふためきながら、ズボンのポケットをまさぐる。
尻ポケットから目的のものを見つけた彼は、これ見ようがしにそれを振り回し、承太郎の進行を食い止めようとした。


「動くんじゃねェ―――ッ! それ以上動くようだと、この銃で……、ぶっ殺すぞ!」

322 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:42:48 ID:QSWuxJbg
黒光りする武器、武骨で荒々しい暴力の象徴。今までどこか余裕のあったしのぶも、さすがに銃の登場にハッと息をのんだ。
承太郎が見せたスター・プラチナという能力。とても強力で、並大抵のことじゃかすり傷すら負わないだろうとはわかっている。
だが、それでも銃はやはり怖い。どれほど説得力を持たせ説明されても、現実世界最強の武器、銃は、しのぶにとって死そのものを連想させるのだ。

承太郎が、ようやく止まる。スティーリー・ダンが荒れる呼吸を整える。気がついてみれば彼と男の距離はもはや十メートルほどしかない。
いつの間にこれほど詰められてしまったのか。だが驚いている暇すら、今のダンには惜しい。
とにかく止めることはできたのだ。ようやく・・・・・・、ようやく! 承太郎が止まったのだ。
畳みかけるならここしかない。ラバーズが潜んでいる事実をもう一度印象付け、最悪ここは一時的に逃走してもいい……―――

ダンがそう考えている時だった。
無意識のうちに、彼は銃身を下げていた。承太郎の心臓目掛けて向けられていた暗闇が、足元へ向く。
最強のスタンド使いの眼が怪しく光る。そして男は絶妙のタイミングで彼は話しかけた。まるで日常の会話の一コマかのように、極めて自然に、そして如何にも気軽な感じで。
承太郎が言った。

「覚えてるか、スティーリー・ダン。てめェにはじめ会った時の事、ジジイを人質に取った時のことだ」
「…………?」

そうして一寸、立て続けにいくつかの事が起こった。承太郎の体から飛び出る大男の影。最強のスタンド、スター・プラチナが構えを取る。
スティーリー・ダン、反射的に及び腰になる。頭は冷静に射程距離外だと喚き立てるが、本能的な恐怖が理性を上回った。
男の膝が砕ける様に曲がり、彼は何もかもを捨ててその場から逃げようとした。脅しが効かない相手だと、そのとき初めて理解し、命惜しさにその場を逃れようとした。

逃がれようとした。

「『スター・プラチナ・ザ・ワールド』」
「え」

それが最期の言葉となる。スティーリー・ダンの記憶の中で最後に口にした言葉。



幸か不幸かと問われれば、きっと幸運だったのだろう。
スティーリー・ダンは自分が気づかぬうちに逝った。時が静止した世界で知覚すら不可能のまま、男はスター・プラチナに首をはねられ、一瞬で、死んだ。
一閃、目で追えぬほどの速さで振るわれた二本の指先。ザクッ、と小気味よい肉裂き音をとどろかせ、彼の首はピンポン玉のように綺麗に飛び、そして跳ねた。

坂を転がり、重力に従い、ころころころころ……。
驚愕を張り付けたままの首はしのぶの足元で、狙ったように止まった。
しのぶは見下ろす。見たくなくても、その生首から目が逸らせなかった。
自分の身に何が起きたかわからないまま、何が何だかわからない表情を張り付けた男の生首。
焦りと恐怖を焼き付けた瞳が、しのぶを見つめていた。しのぶは、視線をそらすことができなかった。

足が震え、呼吸が乱れる。足に力を込め、その場に崩れ落ちないよう、なんとかふんばる。
だがそんな彼女をつき落とすように……―――それは唐突に襲いかかってきた。立ちくらみのような、めまいのような。脈絡もない突然のフラッシュバック。

駅の死体、濁った臭い。そうでないはずなのに夫の、そして息子の死にざまがそれに重なる。
足元に転がる首。誰のものだろうか。スティーリー・ダンのものだったはずなのに。いつの間にか、息子の面影がそれを覆い隠す。
首なしの死体が、夫の一張羅をはおる。息子が首をサッカボールのようにドリブルする。
あらぬ妄想が、現実と重なり合い、氾濫し、混乱を生む。

しのぶは、その場で倒れないように、しゃがみ込むことで精いっぱいだった。
様々な感情がこみ上げる。同時に吐き気と、そしてなぜだか涙がせり上がった。

しのぶはその場にしゃがみ込む。長い間、彼女は動かなかった。
空条承太郎がスティーリー・ダンのデイパックをあさっている間も。点検を済ませ、首輪を拾い上げる音が聞こえても。
気遣っているのか、ただ単に待っているのか……彼女の様子を確かめる様に傍に男が立ちつくしていても。


川尻しのぶは、動かなかった。





323 ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 11:44:12 ID:QSWuxJbg
いつかはその時が来るとはわかっていた。
それに近しいことは先のナルシソ・アナスイの時にも行ったことだったし、なにより自分は彼の凄みを理解していたつもりだった。
けれども、それでもしのぶはそうなって欲しくないとどこかで願っていた。彼の決心がどれだけ固かろうと、まだここでとどまっているうちは、彼は帰ってこれると信じていた。

踏切台から飛び降りる様に、もうその一線を越えてしまっては二度と戻れない。


空条承太郎は、たった今、殺人者になった。
スティーリー・ダンを殺したのは、空条承太郎。


誰かを守るためでもなく、誰かを救うためでもない。しのぶを傷つけないと確信していたから彼は拳を振るったわけではない。
彼は迷わなかった。きっとしのぶがもっと直接的に人質に取られていたとしても、彼は同じように殺しただろう。
もしかしたらその拳で、しのぶごと貫いていたかもしれない。足元に転がる生首、その男の何も写さない瞳を見ると、しのぶの胃がざわついた。


覚悟が、足りなかったのだ。

立てるか。そう承太郎に尋ねられ、しのぶはそっと頷いた。泣いてはいなかった。
差し出された腕を掴み、男の隣に並び立つ。彼女は承太郎の顔を見るのが怖くて、前を向けなかった。
覆いかぶさっていた影が動き、男が去っていくのがわかる。見れば車へ向かう男の後ろ姿があった。
彼の鉄仮面に負けず劣らず、その背中は何も教えてはくれない。大きくて、けれども淋しい背中だ。

このまま私はついていっていいのだろうか。彼と共に歩むのは間違った行為ではなかろうか。
ふとそんな疑問がわき上がり、しのぶの足が自然に止まる。男は変わらず車へ向かっていく。

でも……今さらどこに行くの? この人を、一人、放っておくつもりなの? こんなに優しくて……さびしい人なのに。

何秒かの後、しのぶの足が動き出す。しっかりと大地を踏みしめ、力強く前進していく。もう迷ってはいなかった。
彼女の顔色を伺うように視線を向けていた空条承太郎。しのぶは車を出すように彼を促し、助手席へと滑りこむ。
男は無表情のまま、しばらく彼女を見つめていた。そして……ゆっくりと頷き、車のキーをポケットから取り出す。


車のエンジン音が轟き、やがて消えていく一台の車。排気ガスが立ち込める街。後には誰も残っていない。
捨て残されたスティーリー・ダンの死体は、何も言わず、俯いたままだった。

324スター・プラチナは笑わない   ◆c.g94qO9.A:2012/10/31(水) 12:00:24 ID:QSWuxJbg
以上です。指摘などありましたら連絡ください。どなたか代理投下してくださったら助かります。

状態表についてなのですが、したらばのNGワードに引っ掛かってしまい投下できませんでした。
実は文中の>>361->>319の間にもあったようで、細切れになったのはそのためです。
何がNGワードなのかはわかりませんが、規制がとけたら本スレに、駄目だったらwiki収録の際に状態表と一文を加えたいと思います。

管理人さん、できるようでしたらNGワードの確認をお願いします。


>>◆yxYaCUyrzcさん
改めてですが、投下&スレ立てお疲れ様です。
ビーティーがクールでかっこよくて素敵でした。あとアブドゥルもクールですごいな、って思いました。
不安定なグループの今後が楽しみです。

一つだけ気になったのがジャイロの存在です。前作で『下の様子を見てくる』と言ったのに、何のリアクションなしは少し奇妙な感じがしました。
誤差範囲内なんで、そこまでと言ったらそこまでなんですけど。
言いがかりみたいですみません。あと僕の投げっぱなしリレーが面倒で済みません。
ぶっちぎってもらっても全然OKです。

>>◆SBR/4PqNrMさん
支援絵、感動しました。画像、保存しました。
ホル・ホースが渋くてクールでダンディで、そしてイケメンで……。
SSも書けて且つ、こんな絵が描けるなんてマジですごいです。

あとリサリサの件ですが、なんかどこに入れても結局違和感あって、なんだかんだいって何もフォローしませんでした。
ごめんなさい。

予約の分も期待わくわくです! キャラ大量で大変でしょうが、頑張ってください!
投下まで毎日楽しみにしてます!

325名無しさんは砕けない:2012/10/31(水) 17:50:39 ID:zheVjG4g
投下乙
状態表と同じレスの予定だったんでしょうか?
ダンの死亡表記がありません

しかし黒承太郎が怖い怖い

326 ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:07:30 ID:oEnzT.CU
『ぼっ、ぼっ、ぼくらは 〈劇団見張り塔〉〜〜!』
『今から、

 ジョナサン・ジョースター、エリナ・ジョースター、
 ジョセフ・ジョースター、ルドル・フォン・シュトロハイム、
 DIO、東方仗助、広瀬康一、噴上裕也、山岸由花子、セッコ、ナランチャ・ギルガ、パンナコッタ・フーゴ、
 エルメェス・コステロ、マウンテン・ティム、ディ・ス・コ、シ―ラE、カンノーロ・ムーロロ

 …の、SSを、投下するよォ〜〜〜!!』

『誰か代理投下を、よっろしっく、ねぇ〜〜〜〜!!』

『それにしても何だいこの人数! ちゃんとさばききれているのかなぁ〜〜?』
『そうだね、ちょっとリストラした方が良いンじゃないかな〜〜〜?』
『おい、ちょっとまて、お前、今俺の方みたな!? リストラするならやくたたずのお前の方だろ!?』
『はは、役たたずの下っ端同士で揉めてるぞ!』
『まちなよみんな、ぼくらはみんな揃っての 〈劇団 見張り塔〉 だろ〜〜?』
『うるせぇ〜、いい子ぶりっこ!』
『いた、やめろって、おいっ…!』
『ばか、それは俺の数字だっ』
『いてて、いてっ!』

『そ、それでは……』
『タイトル、【死亡遊戯(Game of Death)】……』
『……はじまり、はじま……りぃ〜〜〜……』

  パタン……。

327死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:09:46 ID:oEnzT.CU

 トクン  …―――…  トクン  …―――…  トクン  …―――…  トクン  …―――…
 
 微かな。
 聞こえるか聞こえないか。感じるか感じないか分からぬ程に微かな。
 儚く、もろく、今にも消えいりそうな鼓動。
 それを無理矢理に動かしているのは、男の両手から発せられている生命のエネルギー。
 古代より伝えられる、呼吸法により生み出される技。波紋、である。

 背に負うた女性は、若く美しく、常ならば誰しもの心を癒しうるだろう気品すら感じられるが、その顔面は土気色をし、胸元は赤黒い血で染まっている。
 出血そのものは止まっている。
 しかし問題はそこではない。
 黒騎士ブラフォードによって与えられた、鉄槌のダメージ。
 それは間違いなく、彼女の骨を砕き、内蔵を破り、血反吐を吐かせている。
 瀕死。
 本来ならばすでに死んでいる。死んでいるはずの損傷。
 それを、ただ波紋の力で、無理に生かしている。
 もし、少しでも波紋呼吸のリズムが狂えば。
 もし、その効き目が通じなくなるほどにの時間が経てば。
 
 彼女は、死ぬ。
 
 それを知り、だからこそ。
 彼は、走るのを、止めない。
 止められるはずもないのだ。
 
  
☆ ☆ ☆

「ジョースターの血統……?」
 名簿を見る。確かにそこには、ジョナサン・ジョースターはもとより、二人のジョージ・ジョースターに、エリナ・ジョースター、ジョセフ・ジョースター、さらにはジョニィ・ジョースター等、多くの『ジョースター姓』の名前がある。
 ジョナサン・ジョースター。
 ゲーム開始直後にコロッセオでナランチャと出会い、行動を共にしていた屈強な青年。
 正直で、誠実。
 自分たち『ギャング』とは真反対な、気高く誇らしい世界の住人。
 元々は資産家、上流階級の中で育ったフーゴではあるが、これまでの人生で、『本物の紳士』に出会ったことはほとんどない。
 いや、むしろ、『上品で気取った連中』の、その裏にある醜さであるならば、ギャングになる前にもそれ以降にも、嫌というほどに見てきている。
 その上で、フーゴは感じ取ったのだ。
「彼は、本物の紳士だ」と。
 
 今、ジョナサンはナランチャと共に、簡単な食事と水分補給をしつつ、リストの確認をしている。
 放送は、彼らがまだ意識を取り戻す前に行われていた。従って今ここにいる3人の中で、メモを取れたのはフーゴのみ。
 放送後に意識を取り戻した彼らとフーゴは、近くの建物に一旦身を隠し、『放送』の内容を伝え整理しなければならなかった。
 奇妙な境界からは、『ローマ』側の建築物。石造りの外観だが、中は広めのアクセサリーショップの様だ。
 居住性を考えれば、住宅のどこかに隠れたほうが良かったのかもしれないが、異国の狭い住宅はいまいち勝手がつかめないし、外の様子を確認しづらく思えた。
 それと近くに戦闘の痕跡があるというのも問題に思えたし、思案の末、西へ数ブロックほど移動することにしたのだ。
 ここは、外の様子がよく見える大きめのガラス張りだが、内側にはショーケースやカウンターがあり遮蔽物に事欠かない。
 裏口と二階への階段もあり、とっさの逃亡ルートも確認してある。
 また、目が覚めた後のナランチャは、フーゴに言われて〈エアロスミス〉での索敵を始めていた。
 その上で、無人の街のショップの奥、レジカウンター近くに、3人は陣取っている。

 参加者とされる人間の名前。そして死者の数。
 メモを確認しつつ、ジョナサンとナランチャは、驚きを隠せない。
 そう、『77人』もの死者の数、その意味を、それぞれに異なった衝撃で受け取っている。

328死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:13:44 ID:oEnzT.CU
 
「なんだよ、これ、おかしーじゃねーかよ…」
 震える声でそう吐き出すのは、ナランチャ。
「だっておかしーじゃねーか!? 俺ははっきりと見たんだぜッ!?」
 叫びだすナランチャに、フーゴはそっと人差し指を立てて口元に寄せ、静かにするよう促す。
「たしかに、ナランチャ。ぼくらは最初の場所で、ジョジョ……ジョルノが殺されるのを観ている」
 ジョジョ、という言葉にジョナサンが僅かに反応する。フーゴはなんとなしに、そういえば彼の名前、ジョナサン・ジョースターも、愛称として『JOJO』と呼ばれるのには相応しい、と思った。
「だったら…、だったらなんで、『名簿』にジョルノの名前があるんだよ!? 
 ブチャラティやミスタ、トリッシュが居るのは分かるぜ…。きっと『ボス』の奴が何かやってるんだッ……。
 けど、まさか、『殺し合い』させるために、ジョルノを殺してから、また生き返らせたとでも言うのかよッ!?」
 生き返らせた、という言葉に、またジョナサンが微かに反応した。
 アバッキオの体の持ち主が『吸血鬼』であると即座に見抜いたりと、どうも彼はそのあたりに何か因縁があるらしいが、フーゴはまだ詳細を知らない。
「ナランチャ。この名簿が正しいのかどうか。それは今の僕らに確かめようは無い。
 けど、それでも、君と僕はここで出会った。この名簿に名前のある、ジョナサンとも出会っている。
 だったら、僕らがまずすべきことは、分かるだろう?」
 何度も『このド低脳がーッ!』 などと『ブチ切れられた』ことのあるナランチャが、平時であれば気味悪く思うくらい優しく丁寧な調子で、フーゴが続ける。
 唾を飲み込みながら、ナランチャはそれに応える。
「……ああ、わかってるよ。まずは、ブチャラティ達と合流する……」
「『チーム』が集まること。『任務』を達成すること。
 それが一番だ。そしてその任務には間違いなく、『このゲームを仕組んだ奴らを倒す』ことが含まれる……!!」
「けど、けどよォ……!」
 飲み込むべき言葉。けれどもナランチャは堪えきれずに吐き出してしまう。
「あの、アバッキオを『殺して、逃げた』でかいやつをッ……!」
「あいつは後回しだ、ナランチャ!」
 その叫びを、フーゴはきっぱりと、そう切り捨てた。
 日の光が出始めて、あの化物は逃げていった、と、二人には説明してある。
 もちろん、「あの大男の中身はアバッキオで、化物となった宿命を背負い、その力で会場にいるであろう殺人者たちを始末して回るつもりでいる」などということは、言っていない。
 そして、二人が聞いていないことから、『死者として告げられた名』の中に、アバッキオの名を付け加えておいた。
 ごまかしに過ぎないと分かっている。しかしナランチャに問われて、誤魔化しきれる自信がなかった。
 アバッキオの意志もある。あるが何より、そもそもフーゴ自身、そのことをどう捉えれば良いかの整理がついていない。
 何よりフーゴは今、それら以上にどう捉えれば良いかわからぬ情報に混乱させられているのだから。
 
 強く言われたナランチャは、やや意気消沈した様子で押し黙る。
 立ち上がっていた足も萎え、半歩ほど後ずさり、傍のカウンターにもたれ掛かり項垂れる。
 ナランチャとて、分かっているのだ。
 まずは仲間と、チームと合流すること。『アバッキオの仇』を追うにしても、まずはそれからなのだと。
 そして何よりも、ジョルノのことを確認したいという気持ちもある。
 彼が本当に生きているのか? あの最初のステージで殺されたのは誰だったのか…?
 ナランチャが不承不承ながらも納得したのを確認して、フーゴは改めてジョナサンに向き直る。
「ジョナサン…そう呼んでも構いませんね?」
「……あ、ああ。ジョナサン・ジョースターだ」
 不意に声をかけられて、苦痛と困惑に顔をしかめていた青年は、悩ましげな様子を慌てて引っ込めてそう返した。
「辛いことを聞くことになりますが、教えてもらいたい。
 この名簿の中に、ジョースター姓の人物が多くいます。彼らは君と関係が?」
 小細工や、もって回った物言いは返って逆効果と考え、フーゴは率直に核心に触れる。
 ジョナサンはその岩のような拳をぎりりと握り締め、それを震えさせながら口元にやりつつ、それでもはっきりと、「何人かは」と答えた。
 ナランチャとも、フーゴとも、比べようもないほどに体格が良い。丸太のような脚は、チームの中でも一番痩せているナランチャの胴回りくらいはありそうだし、胸板は並みの格闘家にも引けを取らない。
 それでいて粗野粗暴の風はまるでない紳士。その紳士の彼が、今はひとまわりもふたまわりも小さく見える。

329死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:14:37 ID:oEnzT.CU
「ジョージ・ジョースターⅠ世、というは、僕の父の名だ……。Ⅱ世とあるのが誰かは解らない。
 ほかの名前も、もしかしたら遠縁の人かもしれないが、少なくとも僕は知らない…」
 ジョージ・ジョースターは、Ⅰ世、Ⅱ世ともに、放送で告げられた『死者』に含まれている。
「何人かは、というと、後は…?」
 再び、ジョナサンは苦痛と苦悩に顔を歪める。
「エリナ……」
 エリナ・ジョースター。これも、名前がある。まだ『死者』としては呼ばれていないが、名簿には書かれている。
「僕の知っているエリナは、エリナ・ペンドルトン…。優しく、気丈で、誇り高い……僕の幼馴染で……最愛の人だ」
 再びここで、口ごもる。
「結婚したいと、そう考えていた……」
 ジョナサンはつまり、それを加味して危惧しているのだろう。
 意地悪くも、或いは残酷なこの『主催者』は、彼が結婚しようとしている女性の名前を、敢えて『ジョースター姓』で名簿に載せたのではないか、と。
 
「君は、ディオという敵を追っている最中だと聞きましたが……」 
 フーゴが話の流れを変える。
「ああ。ディオは石仮面の力で吸血鬼となった、かつての僕の友人だ。彼は非常に危険な力を持っている。
 それに……」
 困惑と悔恨。複雑な感情のうずで藻掻いている。
「吸血鬼のディオは、死者を屍生人として蘇らせ、自分の手下にする能力を持っているッ……!
 蘇ったものは、人間の生き血を啜る邪悪な亡者となってしまうんだ……!
 僕の………僕の父も、まさかッ………!」
 ぶるぶると震えているのは、恐怖ではない。怒りと悲しみ。それらの感情の波が、彼の体の全てに波紋のように広がっているのだろう。
「ジョナサン。確認させてもらいたい。
 つまりそれは、君の父は、『すでに死んでいた』ということですか?
 それなのになぜかこの『名簿』に名前があり、さらに先ほどの放送で『ここに来て死んだ』とされている。
 だから、『ディオにより蘇らせられた後に、ここで再び死んだのではないか?』 と………。
 そう考えているのですね?」
 慎重に、言葉を選びながらも、はっきりと問い直すフーゴに、丸太のような両腕が伸ばされ、その襟首を締め上げる。
「ジョ、ジョナサン……!?」
 慌てたナランチャが間に割って入ろうとするが、するまでもなく締め上げる力は勢いをなくし、怒りに燃えた瞳から、瞬時に強い後悔の色が浮かび上がる。
「わかってる、ナランチャ…。済まない、フーゴ……。
 君たちも今しがた仲間を失ったばかりだというのに、僕は、自分の事ばかり……」
「気にしないでください、ジョナサン……」
 襟元を直しつつそう言うフーゴ。
 
 しかし。
 フーゴがそう言うのは、何もジョナサンを気遣ってのことではない。
 もちろんまるで気遣っていないというわけでもないが、フーゴにはそれよりも考えねばならないことがあったからだ。
 いくつかはすでにナランチャにも話していた事を含め、改めて『名簿』としてもたらされた人名について、照らし合わせていく。
 ロバート・E・Oスピードワゴンは彼の友人で、ウィル・A・ツェッペリは波紋法の師。そしてその同門の波紋戦士、ダイアーとストレイツォ。
 黒騎士ブラフォードとタルカス、ジャック・ザ・リパーやワンチェン等ディオの配下の屍生人。
 そして……。
「『DIO』もしくは、『ディエゴ・ブランドー』。このどちらかが、君の宿敵である『ディオ』かもしれない」
「ディオ・ブランドー、が彼の名前だ。
 僕は最初、ウィンドナイツロットに来たときのように、催眠術のようにディオの罠にかけられてここに居るのではと考えていた。
 けれどもし、この『名簿』のどちらかが『ディオ』で、『殺し合いの参加者』というのなら、全く別の何者かの仕業なのかもしれない……」
 
 ジョースターの血統。『ディオ』との因縁。だが、しかし……。
 
「クウジョウ、とか、ヒガシカタ、というのは、まるで聞いたことがない」
 
 再び、フーゴはしばし押し黙った。
 そうだろう。きっとそうなのだ。
 そしてだからこそ、それをいつ、どう説明するべきかを考えねばならない。

330死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:15:45 ID:oEnzT.CU
★ ★ ★

 四方を壁に囲まれた、石造りの海の底。
 あえて形容するならば、此処はそういう場所だ。
 広大な敷地と、堅牢な外壁を持つこの施設の奥の奥、一切の日の当たらぬその場所で、彼は名簿に目を通している。
 重厚な机に、クッションの良い椅子。棚や調度品もそれなりに値の貼るものだし、机の斜め向かいにある応接セットも同様だ。
 元々それらは、刑務所内の他の場所にあったものだ。
 GDS刑務所の女子監房内の一室を仮の拠点とし、いろいろと物を運び込んでいる。
 女子監房はGDS刑務所のほぼ中央に位置し、管理ジェイルや医療監房等の施設に近い。
 建物自体の、外に通じている窓などは全て塞いでおいた。
 強いパワーのスタンドや、吸血鬼並みの膂力を持つものであればたやすくどかせる程度のものだが、ここで直接日の光にさらされる事はまずない。
 地下へと通じる経路も確保している。よほどの油断をしなければ、たいていのことに対応できるだろう。

 簡素な蛍光灯の明かりの下で、DIOは、広げた名簿とメモを見る。
 150人の『参加者』。76人の『死者』。
 その中には、馴染んだ名もあれば、知らぬ名もあり、配下や友人の名もあれば、宿敵や殺した者の名もある。
 屍生人、波紋使い、スタンド使い…そして、「過去の、すでに死んでいるはずの人物」……。 
 過去の、というのは、いささかに主観的すぎる言い分だ。
 彼ら(例えば先ほどそれを確認した少年、ポコなど)からすれば自分の方……、つまりはDIOこそが『未来の』人物だろうし、或いはDIOの時代より『未来から』来ている者もいるのだろう。
 
「セッコ」
 座ったまま、DIOはそばにいた別の男へと話しかける。
「今は何年だ?」
 呼びかけられ、セッコと呼ばれた、『奇妙な全身スーツ姿の男』は、作業の手を止めてしばし思案する。
 しかし思案の後に帰ってきた答えは、
「……わッかんね〜〜。気にしたこともねーや」
 というもの。
 常にチョコラータの庇護下にいて、彼の言うままに殺しを働くだけの生活において「今が何年か」という知識は、確かに不要なものだったのだろう。
 年、年月というのは、主観的な世界においては無用だ。それは社会性というものの中に存在する。
「そうか、なら良い」
 そう言ってDIOは会話を打ち切り、セッコも元の作業に戻る。

 ポコの証言。最初のホール、ステージで見た『空条承太郎と、よく似た男たち』。
 そして、名簿に、放送された死者の名前。
 これらを、『事実』と仮定するのであれば、この『殺し合い』を目論んだものは、『時空間を超越した能力』を持っていることになる。
 だとしたら、それを、『どう扱うべきか』……。
 そう、『どう対処するか』ではない。『どう扱うべきか』だ。
 つまり、『天国への扉を開くために、使えるか否か』。
 DIOにとって重要なのは、その点なのだ。

331死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:16:46 ID:oEnzT.CU
 
「な、な、DIO!
 どう? どう?」
 楽しげに、或いは些か誇らしげに、セッコがDIOへと聞いてくる。
 思索から引き離され煩わしげ、ということはまるでない素振りで、DIOは僅かに視線を向ける。
「そうだな……、悪くは、ない」
 しかしその言葉は、セッコにとっては望む評価には程遠いいものである。
「だ、だめか、これェ……?」
 奇妙に小首をかしげるように、少しさみしげに返すセッコ。
「駄目、ということはない。
 少ない材料で仕上げたにしては、なかなかセンスが良い。
 特に、上下のバランス、かな。
 真ん中を中心に、左右をあえて非対称にずらして配置し、それらを囲む並べ方も象徴的だ」
「そうか!? センス良い!?」
 一転して、DIOの寸評にご機嫌になる。
「まあ、悪くはない、と言ったのは、やはり材料自体が足りないということにあるかな。
 もともと小さかったし、数も少ないが、何より、バリエーションに欠ける」
「けどよォ〜〜〜、そいつはしょ〜〜〜がねェ〜〜〜しよォ〜〜〜〜……」
 再び残念そうな表情のセッコに、DIOは指を1本挙げて続けた。
「ひとつ……。
 ついさっき、『ここから逃げた何者か』がいる。
 なぜわかるか……? は、問わないでくれ。私にも説明はできない。
 ただ、『私を見ていた者』がいて、そいつは、『恐れて、逃げた』……。
 そういう事だ……」
 首筋に意識をやる。
 首から下、今の『DIOの肉体』の下の持ち主である、ジョナサン・ジョースターの肉体。
 その肉体を得たことで、DIOは『ジョースターの血統』との、奇妙な結びつきをもっているらしい。
 だから、『分かる』 …いや、『感じる』というほうが正確だろう。
 誰かは分からぬが、誰か。名簿にある『ジョースターの血統』の中の誰かが、『見ていた』のを、DIOは感じ取っていた。
 そして、『逃げた』。
 だとすれば、それは承太郎ではないし、また脅威となる相手でもない。
 
「少しの間、遊んで来てみてはどうだ?」
 直接的な驚異ではないが、周りを飛び交うハエは、潰しておいたほうが良い。
 アスワンツェツェバエの例では無いが、たかがハエに邪魔されることになるのは、面倒ではある。
「ウホッ!? い、良いのか? 遊んじゃって、良いのか、俺ェ…!?」
 セッコは…『面白い』。DIOはそう考えている。
 無邪気な子供のように、今彼は『新しい遊び』に、夢中になっている。
 かつてのセッコは、チョコラータという男の『ご褒美』欲しさに殺しをしていた。
 今、彼は、自分自身の中に、『殺すことの意味』を生み出そうとしている。
 悪意でも憎しみでもない。狂気でも利害でもない。
 無意味の時平線から、意味を創造し起立させようとしている。
 そのこと自体は、DIOにとってさして意味のあることではない。
 ただ面白く、興味深いのだ。
 そういう意味で言えば、セッコ自身がDIOにとっての、『新たに手に入れた面白げな玩具』そのものでもある。
「できれば一時間程度で戻って来て欲しいが、まあ、君のその『能力』なら、どこに逃げようと隠れようと、見つけ出して捉えられるだろ?
 障害はほとんど無い。
 僕の友人や部下たちに気をつけてくれれば、好きなだけ『材料』を持ってこれる」
 新たなる創造物。セッコの初めての『作品』に目をやる。
「おう、おう! すげェ! DIOの言うとーりだ!
 俺、次はぜってー、もっと『スゲェもの』作れるぜ!」
 そう言うとセッコは、軽く飛び上がってからくるりと身を翻して、地面の中へと『飛び込んで』行った。

332死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:17:48 ID:oEnzT.CU
 
 残るは、DIOと、『作品』。
 赤錆た匂いと、糞尿の混ざった臭気は、近づくもの全てに吐き気を起こさせるだろう。
 乾きかけた血と体液に肉塊は、うずたかく積み重ねられ、組み合わされ、形作っている。
 先ほど、ここでその命を奪われた3人の少年、その残骸を材料として作られた、血塗られたオブジェ。
 
 放送前にポコに対して試してみた、『食べてみる』という選択肢は、セッコにとって目新しい刺激ではあったが、そのことをまだ自分の中でうまく捉えきれていない。
 それもそうだろう。
『食人行為』というのは、飢餓によるそれや性倒錯を除けば、一種の呪術的行為で、死者の肉体を自らに取り入れることで、相手の持っていた霊力を得る、というような意味合いを持つ。
 言い換えれば、他者の持つ人格や精神を認めた上で、それらを『自分のものにしたい』という欲求、同化願望や支配欲こそが、食人という行為に意味を持たせる。
 そういった呪術的な思考というのは、セッコの持つ感覚からは程遠い。
 それでも敢えてその観点で考えるとすれば、セッコにとって『意味のある食人行為』と言えるのは、チョコラータやDIOを『食べる』ときになるとも言える。
 セッコはその発想には未だ至れない。セッコにとって意味も価値もない人間の死体をどれほど『食べた』ところで、そこから意味を見出すことは叶わないだろう。
 
 それで、次に彼が試したのが、この『アート』だ。
 誰かを殺し、その死体を使って、何かを『創る』。
 チョコラータは、『死の間際の恐怖』にそそられていたし価値を見出していたが、死んだあとの死体にはさほど関心を示していなかった。
 元々医者でもある。彼にとって死体はただの物体でしかない。タンパク質とカルシウム。そこに、それ以上の意味などは感じないし見いだせない。
 ならば、そのあとに自分なりの創意工夫を凝らしてみようというのが、セッコの新たな着想であった。
 セッコにとってこれもまは、未知なる喜びだ。
 死体、死者を弄ぶ、冒涜する、というような感覚はセッコにはない。
 ただ純粋に、生まれて初めて、『自分で何かを作り出す喜び』を感じているのだ。
 はなから、彼にとって、殺人はそれ自体が快楽でもなければ、忌避されるべき悪でもない。
 神も人間性も信じていない、その存在すら知らない彼には、冒涜という概念すら無い。
 彼にとっての殺人とは、『できるから、する』ものだし、死体とは『その結果できるもの』でしかないのだ。
 
 
「―――さて、どうする?」
 そのセッコによる『初めての作品』、奇怪なオブジェを挟んで向こう側。
 暗闇の中のさらにその奥に、DIOが言葉を投げかける。
「今ここで、君と私は、『ふたりきり』だ。
 戦うか? 君が是非にというのなら、それもよかろう。
 それとも ――― お話でもしてみるか?
 私は、どちらでも構わないよ ―――」
 奇怪なオブジェの向こう側。
 暗闇の中のさらにその奥からは、すぐさまの返答は返ってこなかった。

333死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:19:26 ID:oEnzT.CU
☆ ★ ☆
 
 紙が、あたり一面に散乱している。
 それらのいくつかは、テーブルの上に並べられ、またいくつか床やソファの上に何箇所かに分けてまとめられている。
 紙の多くは、会場内各所から〈オール・アロング・ウォッチタワー〉が『拾ってきた』ものだ。
 コーヒーメーカーに『サンジェルマンのサンドイッチ』、『鎌倉カスター』等の新鮮な食料も、その紙の中にあった支給品である。
 支給品の中には、『地下地図』のような有用なものから、武器類に、飲食品類、そして『図画工作セット』のような、何の目的で支給されたか不明なものもあった。
 
 テーブルの真ん中辺り、本来は、綺麗に磨かれていたはずの面には、マーカーで縦横の線が引かれている。
 ちょうど7×9マス。縦にはA〜Gの文字が振られ、横には1〜9の数字が振られていた。
 そのマス目の中に所狭しと並べられているのは、駒。
 小さく切り抜いた紙を、テープで三角形にし、名前とマークを書いてある。

 例えば、ほぼ中央に位置する場所に、ボルサリーノ帽のマークが書かれた駒がある。
 これは自分の位置を現す駒だ。
 そのやや斜め右下に3つの駒があり、『◎フーゴ』、『○ナランチャ』、『☆ジョナサン』、と書かれていてる。
 やや左下には、別の駒がいくつか有り、その中には『●セッコ』、『●ヴォルペ』、『△男』、そして、『★DIO』などとある。
 名前が解らない人物には、とりあえず便宜的な属性だけ書いておいた。
 やや左下の集まりの中の、南北戦争時の軍服のような服を着た無精髭の、『△男』は、今ところ『●=危険で殺る気満々の奴ら』とも、『○=殺る気の少ない手合い』とも解らない。
 だから、『△=立場不明』の、『男=名前不明の男』の駒だ。
 そのやや近くにある『●鳥』は、『危険な鳥』だし、『●チョコラータ』、『●サーレー』は、それぞれに殺る気アリな危険人物と分類している。
 
 マークは、会話や行動からの危険度を簡易的に表しているそれと、もう一つ。
 先ほど手に入れたものにあった、特筆すべき情報、『家系図』にある、『ジョースターの血統』と、その関係者を現す、『星』の記号。
 
 ジョースターの血統。
 ボルサリーノ帽を斜に被り、洒落た仕立てのスーツを着込んだ男、ムーロロは考える。
『亀』の中で、ソファに沈み込むかのように身を落とし、テーブルの上に並べられた駒と、いくつかの情報を書止めた紙を見ている。
 煎れたばかりの熱いカプチーノには殆ど手をつけておらず、サンドイッチも鎌倉カイターとかいう甘いケーキ菓子も、何口か食べただけで置かれたままだ。

 名簿の中にいる、驚くほど多い『ジョースター姓』の名前。そして、花京院という男から手に入れた、『家系図』の中に秘められた、『因縁』。
 それらは、まず間違いなく、『鍵』だ。
 この、『殺し合いのゲーム』を引き起こした何者かにとっても、おそらくは重要な『鍵』なのだ。
 下弦の月が、呼ばれてこの会場では満月となっていた。
「一瞬で呼び出された」というのが実は間違いで、「さらわれたあと数日か数週間、どこかで昏睡させられていて、改めて全員揃えてからゲーム開始になった」
 その可能性も考慮していた。
 だが、違うのだ。
 ムーロロはすでに『確信』している。
 このゲームが始まってからの約6時間ほどの間。ムーロロはひたすら『亀』の中に潜み隠れたまま、会場中に飛ばしたカード、自らのスタンド〈オール・アロング・ウォッチタワー〉により、情報収集をしていた。
 最初のステージで殺された男によく似た男たち。
 すでに死んでいるはずの、ナランチャやアバッキオ、ブチャラティチームの面々に、暗殺チームの面々。
 体が半分機械化されたナチスの軍人に、西部劇さながらの格好をしたカウボーイやメキシカン。
 日本の学生やサラリーマンらしき者たちに、産業革命時代の英国紳士。
 吸血鬼、屍生人、柱の男、波紋戦士。
 とうの昔に死んだはずの、スピードワゴン財団設立者、ロバート・E・O・スピードワゴン。
 彼らの振る舞い、言葉、話している内容…。

334死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:20:49 ID:oEnzT.CU
 
 皆が皆、『演技をしている偽物』であったり、『催眠術や暗示か何かでそう思い込まされている何者か』というのでもない限り、結論は限られてくる。
 そう。
 ムーロロはほぼ、『確信』している。 
 この『殺し合い』の参加者は、『様々な時代から呼び出されて』おり、そしてその多くは、『ジョースターの血統と因縁のある者か、その関係者』である、という事を。
 もちろん、まだ確定的とは言えない。すでに、その例外、『イレギュラー』と思える参加者たちもある程度は把握している。
 それでも、この『ジョースターの血統』が大きな『鍵』である、という見立てには、『確信』を抱いている。
 
 ジョセフ・ジョースター。
 はじめのステージで殺された男に、酷似した男。
 先ほど『コンタクト』を取ったこの男は、探っている間ずっと自分の名を言わなかったし、同行しているエリナという女も、襲いかかってきた長髪の剣士も、『ジョナサン・ジョースター』と呼んでいた。
 しかし、ムーロロは既に、最初の頃に発見したナランチャが、ジョナサン・ジョースターと名乗るよく似た男と同行しているのを確認していた。
 だから、カマをかけてみた。
 
 
 
「 ――― ジョセフ・ジョースターだな?」
 
 否定は、ない。ムーロロの推測は当たっていた。
 そして、ならばこの、『家系図』のとおりの『事実』が、見出されるかもしれない。
 
 エリナ・ジョースター。家系図によれば、ジョセフの祖母。ジョナサンの妻。
 その見捨てることのできるはずのない存在を『救う』ため、どんな決断をするのか ―――。
 
「―――クソッ、ごちゃごちゃくだらねーコト言ってんじゃぁねぇ〜〜〜ッッ !! 全部だッ! 全部教えろッ!!!」
 怒号とともに首を絞め上げられる。
 なかなか、直情的なところもあるようだ。
 だが、震えるその両腕は、決して加減を間違えてもいない。本当に本気で締め上げて、こちらの情報を得られなりかねない愚を犯すほどではないというところか。
「貸しがさらに二つ、そう判断するぜ」
 ムーロロは、表情ひとつ変えずに返す。
 ひらりと動かした手の中には既にカードはなく3枚のメモ。
 それがはらりと地面に落ちる。
「どこを選ぶかは、お前が決めろ。どこに行けば良いかなんてのは、俺に決められる事じゃぁないしな」
 ジョセフの両手から解放され、襟元を直しながらムーロロは言う。
 慌ててメモを拾い集めて、その中身を確認するジョセフだが、再び顔を上げた時には、暗闇にムーロロの姿はなかった。
 
 
 
 ムーロロはようやくに、カップのカプチーノに口を付け、ふた口目を啜る。
 ――― どれを、選んだか。
 その答えをムーロロは既に知っている。カードがジョセフの後をつけているからだ。
 そしてその先で起きている出来事も、起こりつつある出来事も、ムーロロは知っている。

335死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:22:51 ID:oEnzT.CU
 
 それをしかし、知らせる事はしない。
 ボス ――― ジョルノが今どこでどうしているかも知っているが、それをフーゴに教えることも、まだしない。
 フーゴに伝えたのは、『家系図』にある、『ジョースターの血統』が、『鍵』になるのではないか、という推測と、「ジョナサン・ジョースターから目を離さず同行しろ」という指示。
 とは言えフーゴのことだ。
 おそらくは、『何世代にも渡るジョースターの血統』に関する話と、こちらの『煮え切らない反応』から、きっと敵が持っているであろう、『時間を超越したスタンド能力』に関してまでは、独自の推理でたどり着いていてもおかしくはない。
 
 情報の全てを、与えてはならない。
 情報には、使うべき時と使うべき価値が有り、今ムーロロのもっているそれは、おそらく他の誰もが及ばないだけのものだ。
 あとは ――― それらを使い、どうするか ―――。
 いつどこで誰と誰を組ませ、誰と誰を争わせるか ―――。
  
 盤面の駒を見る。
 ハートのキング。長年に渡る『ジョースターの血統』の宿敵、DIO。
 この男を、どう『利用』すべきか。
 さらには、家系図には書かれていないが、おそらくは彼らの一族と強い因縁のある対立構造、『柱の男』と、『波紋戦士』。
 ジョナサンの体と、DIOの魂の落し子、『ボス』、ジョルノ・ジョバァーナと、敵対するパッショーネの殺し屋ども。
 そして、いくつかの『イレギュラー』たち……。
 
 家系図と名簿を見比べる。
 『ディエゴ・ブランドー』、『ジョニィ・ジョースター』。
 『家系図』に無い二人の『ディオ』と、『ジョジョ』は、果たしてどのような存在なのか?
 
 盤面の駒を見る。
 この二つの『イレギュラー』は、今行われている死の遊戯において、果たしてどんな利用価値があるのだろうか?
 
 
☆ ☆ ☆
 
「ジョジョ!? ジョセフ・ジョースターか、貴様ッ!?」

336死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:24:18 ID:oEnzT.CU
 
 シュトロハイムの大声に、一同の注意が引き寄せられる。
   
 シュトロハイムと噴上裕也が戻ってから、さほど時間が経ったわけでもない。
 意識のあったものは簡単に食事や休息をとり、また周囲を警戒しつつ、二人の女性の治療にあたっていた。
 怪我の具合が幾分ましで、疲労もあるがむしろ緊張が緩和したことから意識を失っていたシーラ・Eがエルメェスより先に目覚め、ごく少ない時間ではあったが、自己紹介とわずかな情報交換をしはじめていた。
 それぞれの名前と、簡単な経緯を確認し始めた、ちょうどその最中である。
 サンタナ、そしてカーズ。二人の『柱の男』と関わってしまった、2組の即席チーム。
 彼ら男女7人、そこに居合わせた者たちの反応は様々だったが、突如としとて古代環状列石の地下から現れた男へと、自然と視線が集まった。
 
「死んだものと思っておったぞ、このバカモノが!
 しかし一体どんなトリックで……」
 多くの。ここにいる多くの者が、『首輪の爆発で殺された』ことを確認しているハズの男。
 シュトロハイムは、彼自身が『ジョセフ・ジョースター』と呼んだこの男が、生きている事に喜びこそすれさほど訝しみはしていない。
 彼の中では、『死んだと思ったら生きていたとしても、おかしくはない』のだと言わんばかりの反応だ。
 しかし、残りの者は違う。
 
(あの男は、確かに最初のステージで殺されていた……。それはここにいる皆が見ているはず……だが) 
 投げ縄を手にしつつ、救急車の中のエルメェスから離れずにマウンテン・ティムが鋭い視線を向ける。
(ジョセフ・ジョースター? おい待てよ、そいつは確か仗助のオヤジで、ヨボヨボの爺だったんじゃねーのか!?)
 ハイウェイスターを傍らに呼び出す噴上裕也が脳裏に浮かべるのは、全く別の人間の姿。
(知ってるわ、その名前……! スピードワゴン財団とも関係のあった、ニューヨークの不動産王の名前と同じ……。
 スピードワゴンと良い、いったい何なんだッ!?)
 ようやく疲労からも回復し始めたシーラ・Eが、未だおぼつかない意識で困惑の目を向ける。
 
「シュトロハイム! 俺の事は今はいい!
 細かい話をしてる場合じゃねーんだ!
 それより……誰が、『ジョースケ』だ!?
 エリナを、エリナばーちゃんを助けてくれッ!!」」
「ジョースケ? ジョースケならそこで別の女性の……」
 
 ショトロハイムとしては質問攻めにしたいところだったが、ジョセフの勢いに押され、救急車でエルメェスの治療をしていた仗助の方を見やる……が、そこに仗助の姿は無かった。
 何処だ? 慌てるシュトロハイムと、焦るジョセフの背後から、その声が聞こえてくる。
「アンタが何者で、何で生きてんのかとか……何で俺のことを知ってるのかとか……、いろいろと聞きてー事は山ほどある……」
 いつの間にか後ろに回っていた仗助が、重く暗い眼差しでジョセフを見据える。
「お前がジョースケか!? 頼む、エリナばーちゃんを、『治して』くれッ……! 頼むッ……!」
 懇願。悲痛なまでのその叫びに、周囲のざわめきも困惑も、さざ波が引くかのように消えていった。
 だが ―――。
 
「もう、試した……」

337死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:26:08 ID:oEnzT.CU
 
 ぐらり。
 地面が揺らぐ。
 ――― ため…した…? 
 ――― 何を言っているんだ、とにかく早く『治して』くれ。
 ――― 俺の『波紋』で持たせられる時間はそんなに無いんだ。
 ――― もうこんなに冷たくなっている。
 ――― 青白くなった肌が乾いているし、足がうっ血してむくみだしている。
 ――― それに見ろ、首なんて、だらりと力なく仰け反り、目は既に何も見ていないじゃないか。
 ――― だから早く、『治して』くれ。
 ――― 何やってんだよ、おい。
 ――― 待て、聞こえ無いぞ。
 ――― きちんと、しゃべ 
 
「俺のスタンドは、『物を直す』こともできる……、『怪我を治す』ことも出来る……」
 
 絶叫が、響いている。
 
「けど ――― 『死者を蘇らせる』ことは、出来ない……」
 
 絶叫が、ただ響いている。
 行くあてすら無い、絶叫が ――― 。
 
 
☆ ★ ☆
 
 ジョセフが仗助を選んだ理由には、見当がつく。
 ムーロロの渡したメモにある道のりで、今いる場所から一直線に走って着く場所が、仗助のいる古代環状列石に続いていたからだろう。
 不確かで、何ら確証の無い情報であっても、あれこれ吟味している時間など無い…そういう判断だ。
 ハナから死ぬことを前提にすれば、複雑な地下迷路をたどってGDS刑務所へと行く手もあっただろうが、流石にそれは選ばなかったし ――― 選べるわけもない。
 そして、地下、地上どちらから向かっても見つけにくい位置にいたジョルノは、その点で論外だったというワケだ。
 とは言え。
 時間的に最速の位置に居た仗助に助けを求めたものの、結局は『間に合わなかった』のだから、『エリナ・ジョースターの死』については、どれを選んだところで不可避だったということになる。
 ならばDIOであれば蘇らせることができたのか? それをジョセフは、エリナは(そして、この殺し合いを仕組んだ者は)『よし』としただろうか?
 そこに関しては、確認できずじまいだった。
 
 
 今 ―――、それぞれの場所で、当事者とムーロロしか確認していない出来事が三つ、進行している。
 
 一つ。ジョルノ・ジョバァーナは、『家系図』上のジョセフの母、リサリサを治療し終えたが、彼女の様子は『かなりおかしい』ということ。
 
 もう一つ。DIOの元を訪れた新たな存在。テーブル上の駒、『△男』のこと。
 この男のマークが、『●=危険で殺る気満々の奴ら』の仲間になるのか、あるいは、『○=殺る気の少ない手合い』となるのか……或いは、『駒そのものが盤上から消え去るのか』。
 
 そして、さらにもう一つ ―――。
 ジョセフの訪れた場所にいた一人と、それをつけまわしていたもう一人。
 少し前まで『●カキョーイン』と一緒にいた、『●ユカコ』…『髪の毛を自在に伸ばして操る、スタンド使いの女』が、残り全員がジョセフの出現に気を取られているその隙に、『○コーイチ』…、『背の低いガキ』を絡め取り、密かに連れ去ったということ。
 このことに、今はまだ、あの場にいる7人は、気づいていない。
 
 この二つの出来事の顛末。その結果、その波紋が盤上にどのような結果をもたらすのか。
 それはまだ、誰にも分からない。
 
 
【エリナ・ジョースター:死亡】

338死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:27:33 ID:oEnzT.CU
----
【E-6 ローマ市街・ショップ内 / 1日目 朝】
 
【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中)、貧血気味、疲労
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
1.『参加者』の中に、エリナに…父さんに…ディオ……?
2.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
3.ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
 
【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:気絶中、額に大きなたんこぶ&出血中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
1.ブチャラティたちと合流し、共に『任務』を全うする。
2.ジョナサン…は、どうする?
3.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
 
【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.『ジョースターの血統』に、『ディオという男』……? とにかくジョナサンとは同行しておかないと…。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。しかしどう辻褄を合わせれば……?

339死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:28:41 ID:oEnzT.CU
【E-2 GDS刑務所1F・女子官房内の一室 / 一日目 朝】
 
【DIO】
[時間軸]:三部。細かくは不明だが、少なくとも一度は肉の芽を引き抜かれている。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×5、麻薬チームの資料、地下地図、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、携帯電話、スポーツ・マックスの首輪、ミスタの拳銃(5/6)、石仮面、不明支給品×0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、いつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考える。
1.『新しい訪問者』を見定める。
2.マッシモとセッコが戻り次第、地下を移動して行動開始。彼とセッコの気が合えば良いが?
3.プッチ、チョコラータ等とは合流したい。
4.『時空間を超越する能力』を持つと思われる主催者を、『どう利用する』のが良いか考えておく。
5.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。
[備考]
※『この会場に時間を超えて人が集められている』、『主催者は、時空間を超越する能力を持っている』であろう、と思っています。
※『ジョースターの血統の誰か(徐倫の肉体を持ったF・F)』が放送中にGDS刑務所から逃げ出したことは、感じ取りました。
 
【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態、血まみれ
[装備]:カメラ
[道具]:基本支給品、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]基本行動方針:DIOと共に行動する
1.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。
2.逃げてった? やつ? で、遊んでみて、一時間くらいで戻る!
2.DIO大好き。チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな? よくわかんねえ。
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。  
 
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康、空腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況] 基本行動方針:大統領の命令に従い、ジャイロを始末する
1.何 な ん だ こ い つ ら は っ … … !?

340死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:29:33 ID:oEnzT.CU
【D-4 近辺いずれか。『亀』の中 /1日目 朝】 
  
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、『ジョースター家とそのルーツ』、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(8〜21)
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
1.情報収集を続ける。
2.『ジョースター家の血統』、『イレギュラー』、『DIOという男』、『波紋戦士』、『柱の男』、『パッショーネ』……。さて、どう、『利用する』べきか……?
[備考]
※〈オール・アロング・ウォッチタワー〉の情報収集続行中。

※回収した不明支給品は、
 A-2 ジュゼッペ・マッジーニ通りの遊歩道から、アンジェリカ・アッタナシオ(1〜2)、マーチン(1〜2)、大女ローパー(1〜2)
 C-3 サンタンジェロ橋の近くから、ペット・ショップ(1〜2)
 D-8 杜王駅から、ブルート(0〜1)、犬好きの子供(1〜2)、虫喰いでない(1〜2)、織笠花恵(1〜2)、ドルチ(1〜2)
 E-7 杜王町住宅街北西部、コンテナ付近から、エシディシ、ペッシ、ホルマジオ(3〜6)
 F-2 エンヤ・ガイル(1〜2)
 F-5 南東部路上、サンタナ(1〜2)、ドゥービー(1〜2)

 の、合計、13〜26。
 
 そのうち5つは既に開封しており、『川尻家のコーヒーメーカーセット』、『地下地図』、『図画工作セット』、『サンジェルマンのサンドイッチ』、『かじりかけではない鎌倉カスター』が入っていました。


※【川尻家のコーヒーメーカーセット@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 川尻家の朝には欠かせない、手軽に本格コーヒーをドリップできるコーヒーメーカーのセット。
※【図画工作セット@現実】
 はさみ、のり、セロテープにカラーマーカーやクレヨン、色鉛筆に油粘土等々。
 いわゆる小学校低学年の図画工作の授業で使われるようなものの詰め合わせ。
※【サンジェルマンのサンドイッチ@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 売り切れ必死大人気のサンドイッチ。重ちーの買ったほうなので吉良の『恋人』は入っていない。
※【かじりかけでない鎌倉カスター@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 神奈川県鎌倉市にある鎌倉ニュージャーマンで製造販売している、カスタードクリームをカステラ生地で包んだ洋菓子、と思われる。
 東方朋子の好物で、杜王町在住の彼女は、おそらく通販かなどのお取り寄せで購入したか、知人縁者から贈答で貰ったていたのだろうから、そりゃあ一口だけかじっておかれていたら怒る。誰だって怒る。

341死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:30:41 ID:oEnzT.CU
【B-4 古代環状列石(地上)/一日目 朝】


【チーム名:HEROES+(-)】

【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前。
[状態]:絶望、体力消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:首輪、基本支給品×4、不明支給品4〜8(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???
 
【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[スタンド]:なし
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊。
1.ジョセフの様子が心配。
2.『柱の男』殲滅作戦…は、どうする?

【東方仗助】
[スタンド]: 『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷、深い悲しみ、
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
1.ジョセフ・ジョースターに、エリナ……?
2.各施設を回り、協力者を集める?
3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか?
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』

[時間軸]:四部終了後
[状態]:全身ダメージ(小)、疲労(小)、空腹
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
1.ジョセフ・ジョースター? 仗助の親父の名前じゃなかったか?
2.各施設を回り、協力者を集める?

342死亡遊戯(Game of Death) ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:31:58 ID:oEnzT.CU
 
【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前。
[状態]:フルボッコ、気絶中(?)、治療中、空腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.徐倫、F・F、姉ちゃん……ごめん。
 
【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:全身ダメージ(中)、体力消耗(大)、
[装備]:ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ローパーのチェーンソー
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
1.ジョセフ・ジョースター? 最初に殺された男に瓜二つだが……。
2.各施設を回り、協力者を集める。

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:全身打撲、左肩に重度の火傷傷、肉体的疲労(大)、精神的疲労(大)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.ジョセフ・ジョースター? スピードワゴン財団関係者の不動産王と同じ名前じゃないか……?

[備考]
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
※ジョージⅡ世とSPWの基本支給品を回収しました。SPWのランダム支給品はドノヴァンのマントのみでした。
※放送を片手間に聞いたので、把握があいまいです。
 
 
 
【B-4 近辺のどこか /一日目 朝】  

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:左腕ダメージ(小)、右足に痛み、山岸由香子に捕獲され中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.???
 
【山岸由花子】
[スタンド]:『ラブ・デラックス』
[時間軸]:JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
[状態]:健康、虚無の感情(小)、興奮(大)、康一君を捕獲中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品合計2〜4(自分、アクセル・ROのもの。全て確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:広瀬康一を殺す。
1.康一くんをブッ殺す。他の奴がどうなろうと知ったことじゃあない。
2.花京院をぶっ殺してやりたいが、まずは康一が優先。乙女を汚した罪は軽くない。

※康一くんをひそかに捕獲成功。まだ(ムーロロ以外の)他の者達に気づかれていません。

343 ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 21:36:50 ID:oEnzT.CU
 以上本文及び状態表でありますホワチャ〜〜!

 むやみに人数が多いので状態表の照らし合わせとかすげーしくじりありそうです。
 と、いうか、しくじりと言えばですね。

 ワタクシ、『第一回放送までの死者数』 を、どこかで勘違いして、『50人』って覚えてしまっていたのですね。
 なので今まで投下した第二回放送後のSSで、何度も『50人もの死者』とか書いてしまっているっ……!
 ま一応、表記修正だけで済むことなので、後でwikiの方を直しておきます。ハイ。

344 ◆SBR/4PqNrM:2012/11/02(金) 22:58:22 ID:oEnzT.CU
>>340 の、訂正。

【D-4 近辺いずれか。『亀』の中 /1日目 朝】 
  
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、『ジョースター家とそのルーツ』、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(8〜21)
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
1.情報収集を続ける。
2.『ジョースター家の血統』、『イレギュラー』、『DIOという男』、『波紋戦士』、『柱の男』、『パッショーネ』……。さて、どう、『利用する』べきか……?
[備考]
※〈オール・アロング・ウォッチタワー〉の情報収集続行中。
※回収した不明支給品は、
 A-2 ジュゼッペ・マッジーニ通りの遊歩道から、アンジェリカ・アッタナシオ(1〜2)、マーチン(1〜2)、大女ローパー(1〜2)
 C-3 サンタンジェロ橋の近くから、ペット・ショップ(1〜2)
 E-7 杜王町住宅街北西部、コンテナ付近から、エシディシ、ペッシ、ホルマジオ(3〜6)
 F-2 エンヤ・ガイル(1〜2)
 F-5 南東部路上、サンタナ(1〜2)、ドゥービー(1〜2)
 
 の、合計、10〜20。
 
 そのうち5つは既に開封しており、『川尻家のコーヒーメーカーセット』、『地下地図』、『図画工作セット』、『サンジェルマンのサンドイッチ』、『かじりかけではない鎌倉カスター』が入っていました。
 
 
※【川尻家のコーヒーメーカーセット@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 川尻家の朝には欠かせない、手軽に本格コーヒーをドリップできるコーヒーメーカーのセット。
※【図画工作セット@現実】
 はさみ、のり、セロテープにカラーマーカーやクレヨン、色鉛筆に油粘土等々。
 いわゆる小学校低学年の図画工作の授業で使われるようなものの詰め合わせ。
※【サンジェルマンのサンドイッチ@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 売り切れ必死大人気のサンドイッチ。重ちーの買ったほうなので吉良の『恋人』は入っていない。
※【かじりかけでない鎌倉カスター@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 神奈川県鎌倉市にある鎌倉ニュージャーマンで製造販売している、カスタードクリームをカステラ生地で包んだ洋菓子、と思われる。
 東方朋子の好物で、杜王町在住の彼女は、おそらく通販かなどのお取り寄せで購入したか、知人縁者から贈答で貰ったていたのだろうから、そりゃあ一口だけかじっておかれていたら怒る。誰だって怒る。

345 ◆SBR/4PqNrM:2012/11/04(日) 01:21:05 ID:DQb8xZw2
 今更ながら、 >>340 の再訂正。

【D-4 近辺いずれか。『亀』の中 /1日目 朝】 
  
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、『ジョースター家とそのルーツ』、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(5〜15)
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
1.情報収集を続ける。
2.『ジョースター家の血統』、『イレギュラー』、『DIOという男』、『波紋戦士』、『柱の男』、『パッショーネ』……。さて、どう、『利用する』べきか……?
[備考]
※〈オール・アロング・ウォッチタワー〉の情報収集続行中。
※回収した不明支給品は、
 A-2 ジュゼッペ・マッジーニ通りの遊歩道から、アンジェリカ・アッタナシオ(1〜2)、マーチン(1〜2)、大女ローパー(1〜2)
 C-3 サンタンジェロ橋の近くから、ペット・ショップ(1〜2)
 E-7 杜王町住宅街北西部、コンテナ付近から、エシディシ、ペッシ、ホルマジオ(3〜6)
 F-2 エンヤ・ガイル(1〜2)
 F-5 南東部路上、サンタナ(1〜2)、ドゥービー(1〜2)
 
 の、合計、10〜20。
 
 そのうち5つは既に開封しており、『川尻家のコーヒーメーカーセット』、『地下地図』、『図画工作セット』、『サンジェルマンのサンドイッチ』、『かじりかけではない鎌倉カスター』が入っていました。
 
 
※【川尻家のコーヒーメーカーセット@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 川尻家の朝には欠かせない、手軽に本格コーヒーをドリップできるコーヒーメーカーのセット。
※【図画工作セット@現実】
 はさみ、のり、セロテープにカラーマーカーやクレヨン、色鉛筆に油粘土等々。
 いわゆる小学校低学年の図画工作の授業で使われるようなものの詰め合わせ。
※【サンジェルマンのサンドイッチ@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 売り切れ必至の大人気サンドイッチ。重ちーの買ったほうなので吉良の『恋人』は入っていない。
※【かじりかけでない鎌倉カスター@Part4 ダイヤモンドは砕けない】
 神奈川県鎌倉市にある鎌倉ニュージャーマンで製造販売している、カスタードクリームをカステラ生地で包んだ洋菓子、と思われる。
 東方朋子の好物で、杜王町在住の彼女は、おそらく通販などのお取り寄せで購入したか、知人縁者から贈答で貰ったていたのだろうから、そりゃあ一口だけかじっておかれていたら怒る。誰だって怒る。

346 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 01:56:18 ID:52T8yFhU
投下します

347 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 01:57:14 ID:52T8yFhU
学生や社会人が足早に駆けていく朝。誰もが立ち止まり、何事かと思うような轟音が、一件の民家から聞こえてきた。
木製の家具がけたたましい音をたて床に叩きつけられる。椅子は倒れ、机が床を滑り、衝撃に合わせて棚より何枚かの食器が落っこちてきた。
壁に投げつけられた少年は、ぐぇ、と短い呻き声をあげた。視界が一瞬で真っ白になり、心臓を止められたかのように呼吸ができない。
地面に落下し、二度目の衝撃を受けても、呼吸は戻ってこなかった。まるで息をする方法を忘れてしまったようだと、康一は空気を求めて喘ぎながら、思った。

パリン、と陶器が割れる音が聞こえる。砕けた細かい破片を踏みしめる音。
パキ……、パキ……、パキ……。足音に合わせ、倒れた康一に近づく一つの影。
彼を投げ飛ばした少女、山岸由花子が迫りくる。

由花子は興奮を抑える様に深呼吸を繰り返していた。ゆっくりと息を吸い、大きな扉を押し開けるかの様に、肺の奥にためていた空気を吐き出す。
彼女は必死で冷静になるよう、言い聞かせていた。
まだよ、まだ漏らしては駄目。ここからが本番じゃない、と。自身に言い聞かせるように、そう呟いた。

左まぶたの痙攣が止まらない。彼女の高ぶり、残虐性を知らせるように目元の筋肉が収縮を繰り返す。
ピクピク、ピクピクと。震えが大きくなるに従って彼女の中で、大きなさざ波が生まれる。それに呼応するかのように、彼女の美しい黒髪も震えた。
獲物を前にした蛇のように、ざわめき、首をもたげ、凶暴な目で康一を見下ろす。少年はごくりと唾を飲み込んだ。


「……それで」


弱弱しい声が沈黙を破る。康一の声は震えてはいなかったものの、懇願するような声音だった。
隠しきれない恐怖と戸惑いの色が漂い、由花子の心の震えを更に大きくする。憐れむような視線と声が、彼女の中の何かを刺激した。
少年は続きを言おうと口を開くが、途中でそれをひっこめる。代わりに短い、押し殺した唸り声が漏れ出た。
彼が言葉を言いきる前に、由花子の長く、獰猛な髪の毛が少年の体を宙吊りにしていた。

「一体、僕に……なんのようだっていうんだい…………?」
「よくもそんなセリフが吐けるものね……私に、あんな仕打ちをしておきながらッ」

ぎゃ、と短い悲鳴に続き、轟く衝突音。康一の体は弾丸のように弾き飛ばされ、もう一度壁へと叩きつけられる。
耳を覆いたくなるような音が聞こえた。グシャリと音を響かせ、少年の体が折れ曲がる。見ているほうが、聞いているほうが痛々しく思えるほどだ。
康一の体は何度も何度も、床に、壁に、そして天井に叩きつけられた。出来の悪いピンボールのように、少年の体は何度も跳ねかえり、はずみ、由花子はそんな様子を薄笑いを浮かべ眺めていた。

最後に一段と派手に食器棚を吹き飛ばし、そこでようやく由花子は一満足する。埃が収まらぬうちに、瓦礫の中より足だけ突き出た少年を引きずり出した。
由花子は彼を逆さ吊りにしたまま、改めて少年の顔を眺めてみた。愛する恋人と見つめ合うような至近距離で、彼の顔を見つめてみた。
青あざ、切り傷、水ぶくれ。傷だらけの泣きべそ。そんな表情を浮かべた彼は、大層ひどく、醜く見える。
由花子は笑う。情けない男ね、と少年を鼻で笑い、そしてそんな彼に向かって手を伸ばす。
少年への処刑はまだ終わっていない。由花子の高ぶりは、この程度では収まらなかった。

康一の悲鳴が宙を切り裂いていく。手入れのいき届いた尖った指先が、彼の傷口を抉りとっていく。
目に鮮やかな赤い肉、その奥底までずぶりずぶりとその指を射し込んでいく。康一が身をよじらせ苦痛にもがくが、由花子は一向に意に介さない。
爪が丸ごと埋まるぐらいまで、女は指を進め、長く轟く少年の痛みの叫びに身体を震わせた。心地よい興奮が彼女を満たしていた。

自分のことを侮辱したこのガキを、今確かに自分は蹂躙している。踏みつけ、屈服させ、懇願させている。他でもない彼を。この私が。
加虐心が空っぽの体へ流れ込む。素晴らしい感覚だった。満ち足り、充実感が、彼女を包んでいた。
由花子はしばし時間を忘れ、その高揚感に身をよじらせていた。康一のすすり泣きと絶叫が、民家を包むように響いていく。

348 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 01:59:17 ID:52T8yFhU
やがて満足したのか、由花子はその指を引き抜いていく。
些か名残惜しい気持ちもあったのだろう。突き刺した時の倍以上の時間をかけ、引き抜く際には関節を曲げ、爪でひっかき、彼の内側を徹底的に痛み付けるのを忘れない。
康一は几帳面に刺激を与えるごとに悲鳴を上げ、身をよじる。それが由花子にはたまらなく心地よかった。


「なんで……」


涙声の少年が哀れっぽく呻いた。依然逆さ吊り、宙づりの彼の頬を、傷口から流れ出た血が濡らしていく。
由花子は血で真っ赤に染まった指先を口で含み、唇を朱に染める。
口の中に広がる鉄苦さ。生温かく、張り付く様な弾力のある液体が口の中に広がっていく。
広瀬康一の血で自分が汚れることに嫌悪感はなかった。それを上回る満足感が、少女の中を満たしていたから。

反対向きの少年の頬を両手で包み、優しく撫でる。涙で潤み、問いかけるような少年の視線を受け止めながら。由花子はゆっくりといとおしむ様に康一の頬を撫でる。
血が筋になって少年の頬をすっと流れていく。赤い線が無数に走り、彼自身の血で肌が染まっていく。

今度はその両手で、十本の爪で、由花子は少年をいたぶり始めた。
万力の力で全ての爪を喰いこませていく。プツリ、プツリと肌を突き破る音。ジワリと赤の液体が滴り、零れてくる。
そしてそれに調和するように、少年の長い、長い呻き声がこだましていた。由花子は夢中でその行為を続けた。時間を忘れるほど、それに熱中した。


どれほどの間、そうしていただろう。どのぐらいの間、由花子は康一をいたぶっていただろう。
気がつけば由花子は肘まで真っ赤に染まっていた。少年の顔には無数の傷跡が蟻塚のように空いている。
二人はともに、制服の元の色がわからないぐらい、血まみれになっていた。

正気に戻った由花子はそっと康一をその場におろしてやる。
トスン、と軽い音が響き少年は久方ぶりに大地に降り立つ。彼にその事を喜ぶ余裕は既になかったが。

辺りが急激に静まり返っていった。しんと冷える民家と、誰もいない街並み。聞こえるのは康一が痛みに喘ぐ声と、彼の荒い呼吸音だけ。
由花子は彼を見下ろす。康一はうなだれ、その体を小刻みに震わせる。沈黙が二人を包み、しばらくの間、時だけが過ぎていった。


「山岸、由花子さん……なんだよね?」


康一が口を開いた。少女は返事を返すことなく、口を開いた少年を突き刺すように見つめる。
少年はそれを肯定と受け取ったようだ。彼は話を続ける。

「なんで、僕に、こんなことを」
「……殺し合いで誰かを殺すのに理由が必要とでも?」

由花子は少し間をおいてから楽しげな声でそう言った。ゾッとするような声だった。
氷のように冷たく、鉄のように頑なな声。であるのにその声は確かに喜びに満ちていた。
楽しくて仕方ない。幸せでどうにかなりそう。そんな感情が手に取って確かめられそうなほど、少女の声は朗らかで透き通っている。
相反する二つの感情をその声に乗せ、由花子の言葉が康一の鼓膜を震わせた。
少年の胃がぐらりと揺れる。確かな恐怖を、彼は感じ取る。

349 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 01:59:48 ID:52T8yFhU
湧き上がった感情を誤魔化すかのように、康一は言葉を繋げる。
焦燥感、危機感。二つの感情に突き動かされ、彼はこう付け加えた。


「でも、由花子さんは僕の……―――」


恋人だったんじゃないの、と。

だがその言葉を遮るように黒色の光が彼を襲い、少年はまたも黙らされた。
それを言えばどうなるかは先で嫌というほど味わったはずなのに、それでも康一は思わずそうこぼしてしまったのだ。
ひょい、と気軽な感じでラブ・デラックスが彼の体を締め上げ、そして康一の体が縛りあげられる。
これ以上ないほど痛みつけられているはずなのに、それでも痛覚だけは彼の体を離れていない。

ギリギリと、骨まで軋む髪の圧力。ひきつぶすように胃が、心臓が。内臓全てが圧迫されていく。
康一はもう言葉も出ない。身体中が激痛に溢れ、どこがどう痛いのかすら曖昧なほどに彼の身体は全身痛みで支配されていた。
しばらくの後、由花子が拘束を緩めた。絞りあげられた雑巾のように、惨めで汚い少年の残骸が、床に崩れ落ちる。
康一は低く、唸るように、泣いた。

「アンタのその図々しい話は聞きあきたわ。一度でも充分なのに、二度もそんな話は聞きたくない」

そこにはからかいの響きはなかった。しかし同時に温かみもなかった。
この民家に来てから始めて、由花子の顔に怒りの色が灯った。殺意や愛情、憎しみ以外の初めての感情だ。

由花子が康一を連れ去って真っ先に口にしたその話。それは彼女にとって侮辱以外の何でもなかった。
彼曰くこの舞台は様々な人々たちが集められ、その中には時間軸の違いあるとのこと。
曰く康一は由花子と知り合う前から呼び出され、故に由花子とはこれが初対面であるし、どんな感情を持てばいいかわからない。
将来の恋人と言われてもピンとこないし、由花子の気持ちに対しては戸惑い以外の何も持てない。
要約すれば、康一の言っていたことはこんな感じであった。そしてそれは由花子の中で暴力という感情を膨らませ、結果二人はこうして蹂躙し、蹂躙されている。

由花子にとってもその話はどうでもいいことばかりだった。
時代を超えていようがいまいが知ったことでない。康一が過去から来ていることに対してはそう、としか言いようがない。
他の参加者なんて知ったことでないし、だいたい殺し合いなんて話もべつにどうでもいい。
彼女にとって大切で重要なのは終始一貫して広瀬康一のみだった。彼女にとって広瀬康一以外は何一つ興味をひくものはなかった。

そして、だからこそ! だからこそ、なによりも!
これ以上ないほど! 異論の余地を挟めないほどに彼女が気に入らなかった事は!
それは!

「げフッ」

康一を次に襲った衝撃は締め上げるような痛みでもなく、叩きつけられるような苦しみでもなかった。
山岸由花子と言う少女自身が振るった拳による殴打。由花子の鋭い拳が直接、真正面から、康一の頬と脳を揺らした。
骨と骨がぶつかり合う音、鈍くこもった打撃音。少年の眼から火花が散る。
由花子は手を緩めない。熟年のボクサーのように、彼女は拳を振るい、そして同時に彼の身体に刻みつける様に言葉を吐いた。

350 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:01:34 ID:52T8yFhU
「なんで、アンタは私のことを知らないのよッ! 時代を超えた? 過去から来た? 未来では恋人?
 ふざけるんじゃないわよッ! ならッ! そうなるはずだって言うのならッ! なんでアンタはッ!
 私のことを『知らない』だなんていうのよッ!」

一言一言、区切る度に腕が伸び、康一の口から血へどが噴き出る。
一度は収まりかけた左まぶたの痙攣。残忍性が少女の中でずるりずるりと影を伸ばしていく。
濁流のように溢れかえる凶暴な気持ちが、由花子を突き動かした。彼女に拳を振るわせていた。

「未来なんてどうでもいいわ。過去から来たなんて言い訳よ。時間? 時空? 私たちには関係ないじゃないッ!
 なんでアンタは私を見てないの? なんでアンタは私を知らないの?
 こんなにも私は康一君を見てきたというのに。アンタがそうしてた間にも私はアンタを見ていたというのに。
 康一君の魅力に気づいて、康一君の良さに気づいて、康一君のことばかり考えて。
 なのに康一君はその時私のことさえ知らなかったっていうのッ!? 私に対して何の感情も抱いていなかった、そう言うのッ!?」
「がハッ…………!」
「私が康一君を想い、康一君を呪い、康一君を愛し、康一君を憎み!
 康一君のために動いて、康一君のために走って、康一君のためにかけずり回って、康一君を殺そうとしていた時に!
 アンタは私のことを『知覚』すらしていなかったッ! アンタは私の名前も、顔も、存在自体を知らなかったッ!
 なんでなのよッ! 可笑しいじゃないッ! 私のことを何だと思っているの!? 舐めるんじゃないわよッ!
 このクソガキがッ! アンタにとって私って何なのよッ! アンタにとって私はその程度の存在だとでも言いたいのッ!?
 ふざけんじゃないわよ、この屑がッ!」

由花子の感情の高ぶりは、一向にとどまる気配を見せなかった。
無抵抗の康一をいたぶる行為は続いてゆく。康一は気を失うことも、逃れることも、そしてそのまま死ぬことすらも叶わない。

「私の中にいる康一君の分、康一君の中に私がいないなんて可笑しいじゃないッ!
 どうして私が愛した分、愛してくれないの? どうして私が呪った分、呪ってくれないの? どうして私が憎んだ分、憎んでくれないの?
 私が費やした時間の分だけ費やしなさいよ。私が殺したいと思うだけ私を殺したいと想いなさいよ。私が愛おしいと思ったぐらい私を愛おしいと想いなさいよ。
 どうして康一君はそうしてくれないの? なんで、なんで、なんで? ねぇ、なんで、なんで? なんでなのかしら、康一君?」

一向に終わる気配の見えなかった暴力の嵐。ようやく拳の動きが止まった。少女の美しかった手は血でまみれ、手の甲は慣れない殴打に腫れあがる。
少年の顔はもはや判別不可能なほどに損なわれていた。コブと膨らみ、青あざと血に染まった肌。
幾つもの影が彼の顔を覆い、そして濃淡混じった無数の彩りが浮かび上がっていた。

康一は息を吸い込んで、それを耳障りな音として吐きだした。
何かを言おうと彼は口を動かしたが、それすら不可能なほどに彼の顔は由花子によって破壊されてしまっていた。
ただそれでも底のない彼の深い眼は、じっと少女に注がれていた。何かを訴える様に。

また深い沈黙が訪れた。潮時だろう、と由花子は思う。
もう充分だ、もういいだろう。これ以上耐えられない。
殺してしまおう。広瀬康一を殺し、そしてそれでおしまいだ。
彼女は髪を震わせ、康一の腕や足を押さえつける。そして腕を伸ばし、その首に手をかけた。
じわりじわりと馴染ませるように、由花子が康一の首を締めあげていく。ゆっくりと時間をかけて、少年の気道が塞がっていく。

「…………」

351 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:02:50 ID:52T8yFhU
少年の澄んだ目線はずっと彼女にそそがれていた。
責めるわけでもなく、恨みを込めたでもなく。
康一の視線は、ただひたすら真っすぐに由花子の中へと突き刺さっていた。
由花子が呟く。


「……何よ、戦う気なの?」


緑色のスタンドは控え目に姿を現していた。康一の上に馬乗りなった由花子、その脇三メートルほど離れた場所に、ふわりと浮かんでいる。
由花子は少しだけ力を緩めると、汚らしい昆虫を眺めるかのよう眼でエコーズのほうを向く。
康一が何を考えているのかはわからないが、そのスタンドは由花子に対峙するでもなく、ただそこに浮いているだけだった。
攻撃の姿勢を見せるでもなく、逃走の準備をするわけでもなく。エコーズは時折身体を揺すり、首を傾げるようなしぐさを見せた。
いちいち癪に障るやつだ、と少女は思った。

死ぬならさっさと死ねばいい。戦うならさっさと戦えばいい。
いちいち反発するガキだ。何故こうも無駄に抗うのか。どうして人がこうしようとした時に、それを邪魔するようにたてつくのか。
ああ、いらつく。黙って従えばいいものを。アンタは黙って私の言う通りにすればいい、それだけでいいのに……ッ。
そんなこともできないのか! そんなことすら邪魔しようというのか!

真意の見えない行動は彼女を惑わせる。エコーズの無機質な顔。何も浮かべない康一の顔つき。
その二つの曖昧さは少女を戸惑わせ、苛立たせ、そして怒らせた。
もしかしたらそれこそが康一の策なのでは。そう思ったが感情は押し殺せなかった。

由花子は緩めていた両手を完全に離し、スタンドを展開していく。
逃げ道を塞ぐように、ゆっくりと、だが広範囲に真黒な髪の毛が伸びていく。
四方八方、縦横無尽。部屋を、そしてそれどころか民家を丸ごと包むように、由花子の髪は張り巡らされていった。

エコーズはまるで蜘蛛の巣に迷い込んでしまった蝉のようだった。
逃げ道は塞がれ、自由に動くスペースはほとんどなく、視界はもはや真黒に染まっている。
時刻は早い時間だというのに室内は薄暗く、電気をつけなければとてもじゃないが廊下を進むのも困難だろう。

挑発にのっても構わない。やるっていうのであれば徹底的に、体の芯から刻みつけてやろう。
エコーズを切り裂き、同時に本人の首をへし折ってやる。
肉体的だけではなく精神的象徴としてのスタンドまでをも、彼女は切り刻み、八つ裂きにしようとしていた。
それほどまでに由花子は、猛烈に、そして容赦なく、康一の全てを破壊つくそうとしていた。

「…………」

エコーズが動きをピタリと止める。ラブ・デラックスが伸ばしかけていた末端を宙で留めた。
戦いはしんとした空白の後に起こる。短い間だった。その一瞬の間の後に、静寂が引き裂かれた。

緑色のスタンドが風のように動いた。その尾を丸め、解き放つ。狙いを定め放ったその一撃、弾丸のように一直線に向かっていく。
なだれ込む髪の毛は一部の隙間もなく、空間を押しつぶす。まるで堤防が決壊したかのように、黒い影が部屋中を覆い尽くした。

ズシン、と揺れる音。パリン、と割れる窓。床に倒れていた康一は突如跳ね起き、由花子を突き飛ばす。直後、少年が痛みに呻く声が聞こえた。
二人がいる民家はなんとか崩れ落ちるのを堪えていたが、ラブ・デラックスがトドメとばかりに柱を叩き折り、家は壊滅状態へと追い立てられた。
天井が崩れ、床は割れ、屋根が大きく傾いた。なんとか全壊はしなかったものの、崩れた民家の外観は同情を誘う。

352 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:03:24 ID:52T8yFhU
少女は訝しげに暗闇を見つめた。半壊の民家で、自らを髪でクッションのように包み込んでいた少女に傷はない。彼女のその浮かない顔は痛みからではなかった。
不可解だったのだ。
康一のエコーズが最後に放った攻撃が、少女を突き飛ばした康一の行動が、彼女の心を乱していた。

エコーズの攻撃は由花子目掛けて放たれていなかった。彼女から大幅に逸れ、背後にあった窓をねらったのだ。
康一は唯一といっていい攻撃の機会を放棄して、彼女の後ろの窓を破壊した。何故? 何のために?
少年には由花子を突き飛ばせるほどの余裕があった。ならば彼は何故あれほどまでに無抵抗だったのだろう。
突き飛ばした時もそうだ。あんなことする必要なんてなかった。その時間で、逃げたり、或いは攻撃に対処できたはずだというのに。

由花子にはわからなかった。
何をしたのかはわかっても、何故そうしたのかがわからなかった。
何が起きたかはわかっていても、どうして彼がそう動いたのかがわからなかった。

少女は、ふぅと息を吐くと、少し離れた場所に位置する康一の傍で片膝をついた。少年の脇腹に鋭く空いた傷口。それは由花子がつけたものではない。
何者かが、つい今しがたナイフで刺しぬいたような傷だ。彼女はラブ・デラックスを展開し、包帯のようにその傷口を覆ってやる。
治療とまではいかないが、これで多少出血は抑えられる。何もしないよりはましという程度の施しだったが、今はそれで我慢するしかない。

由花子はじっと康一を見つめた。自分の拳で、風船のように腫れあがった少年の顔を見つめた。

「……どういうつもりよ」
「…………」
「私はアンタを殺そうとしていたのよ?」
「…………」
「首に手をかけ、絞め殺そうとしていたのよ?」
「…………」

沈黙。康一は何も言わない。
だが間違いないだろう。何も言わなくても由花子にはわかっていたことだ。
だがどうしてもそれを受けいれられなかった。それを認めると自分が惨めで、情けなく思えて。それは彼女にとって許されざることで。

エコーズが文字を投げつけた瞬間、走った閃光。彼女を突き飛ばしたと同時に、抉られた康一の脇腹。
視界の端、窓に映った怪しい影。包帯巻きの怪しいスタンド。舌打ちと同時に聞こえた、うすら寒い男の笑い声。

由花子は叫んだ。康一の肩を掴むと、彼女はその体を揺すり、彼に向って怒鳴った。

「なんで助けたのよッ!? なんで今、私を庇ったのよッ!?」

考えてみればおかしなことだった。
由花子が康一をさらった時も、彼は暴れることなく無抵抗だった。
民家にたどり着き話をしている最中も、由花子が暴力を振るった際も、康一はスタンドを出さなかった。

冷静になればわかることだった。
康一は由花子をなだめようとしていた。由花子を落ち着かせ、辺りに注意を向かせようとしていたのだ。
彼女に向けられていた視線は二つの意味を持っていた。
辺りを警戒するようにという無言のメッセージ。そして康一自身の眼で、彼は彼女が危機に巻き込まれることのないよう、常に警戒していた。

エコーズを出現させたのは口を開けなかったのもあるが、相手のスタンドを視界に捕えたから。
由花子を挑発するようにスタンドを動かしたのは、彼女が攻撃の対象にならぬよう。

353 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:04:01 ID:52T8yFhU
広瀬康一は最初から“そうしていた”のだ。彼は“既に”由花子に出会った時から彼女を守っていた。
彼は理解していた。由花子がどんな人間かを。どんな激情家で思い込みが激しく、一度思い込んだら他人の意見を聞こうとしないかを。
無駄にもがけば二人もろとも屠られる。下手に刺激したなら殺人鬼に隙を見せることとなる。
康一はそれがわかっていたので、ああしたのだった。全ては自身と、由花子の安全のためだった。

犠牲になろうだなんて、そんな気持ちはなかった。
広瀬康一にとってそれはただ単にすべきことをしただけのこと。
未来の世界で自分が幸せにし、自分を幸せにしてくれるであろう少女をみすみす殺すことなんて、彼にはできるはずがなかった。

だから我慢した。痛くてもこらえた。言いたかったけど言わなかった。襲われる直前、彼女を突き飛ばした。
ただ由花子が気づくのが遅れただけのことだ。全てはそれだけのことだった。


「正直気の強い女の子とは聞いていたけど……まさか問答無用でここまでされるとは思ってなかったよ」


苦笑いを浮かべ、少年はそうこぼす。
腫れがすこしおさまったのか、もごもごとした声であったが、彼の口は言葉を紡いだ。
少女はまるで怒鳴られたようにその言葉に身体を固くする。
怒りは既に去っていた。殺意もいつのまにか、どこかに飛んでいた。

あるのは戸惑いと脅え。こんなことをした後でも、広瀬康一は笑った。自分をリラックスさせるように微笑んだのだ。

どうしてそんなことができる。何故そうまでしてくれる。
由花子はわからなかった。だがそのわからないという気持ちは、決して嫌ではなかった。
冷たく、黒く尖った殺意でなく、温かな濁流が彼女の中を駆け巡った。
罪悪感とそれ以外の“何か”が彼女の心を満たしていく。心を振るわせ、締め上げた。

「いきなりは無理かもしれない。やっぱり僕には初対面の女の子といきなり仲良くなるのは難しいや」

場所も忘れ、時も忘れ、康一は笑った。
そうしている場合でないとはわかっている。包帯巻きの謎のスタンド使い、彼の気配はまだ残っている。だがそんなことよりもやらねばいけないことがあるのだ。
罪悪感と戸惑いで、どんな顔をしたらいいかわからない。
そんな山岸由花子を放っておいていいわけがなかろうが。どうして彼女をこのままにしていられようか。

康一は床に腰を下ろしたまま、由花子の眼を見つめる。

だからさ、そう少年は言葉を繋ぎ彼女へと笑いかけた。朗らかで眩しいくらいの笑顔が彼の中で咲き誇っていた。

「まずはお友達から……始めませんか?」

354 ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:04:49 ID:52T8yFhU
それで由花子さんが満足してくれたら、の話だけど。
そう康一が慌てて付け加えた言葉を、彼女はもう一度口の中で繰り返した。
由花子は思わず脱力してしまいそうだった。指や、肩や、首や、足から一つ、また一つ力が消えていく気分だった。

少女はその時、自らの敗北を知った。広瀬康一には敵わない。自分は一生この男に勝つことはできない。

肉体的にという意味ではない。精神的にということでもない。
由花子は恥じた。自らの未熟さ、そして正眼のなさを恥じた。それは同時に広瀬康一への称賛でもあった。
自分の行為を許した、この少年の懐の大きさ。少女はそれを認めた。小さいけれど、なんて大きな男なのだと由花子は思った。

「……お友達も何も、まずはここを切り抜けないことには何も始まらないわ」

どうしたってキツイ口調になってしまう。ついさっきまで殺そうとした相手なのだ。今さら彼の存在を認めたところで、どう対処を変えればいいのかわからない。
いや、認めたからこそ、それを相手に知らせるようなあからさま態度の変化は由花子にとって照れくさかった。
自然とぶっきらぼうな口調になり、視線は周りへ向けられる。警戒すべき敵がいることを、どこかで歓迎していることは否めなかった。

「そうだね。じゃあ、僕と協力してくれる?」

康一は何も言わなかった。その変化に気づいているのか、先より少しだけ笑みを深めると彼はそうとだけ言った。
由花子は黙り、すぐには返事を返さない。そしてふんと鼻を鳴らし、彼に早く立ちあがるよう腕を貸す。少年は痛みに顔を歪ませながらもその手を取った。




山岸由花子、広瀬康一。
ガール、ミーツ、ボーイ。少女は少年に二度恋をする。
今、スタンド使い最凶のカップルが、一人の殺人鬼と対峙する。

はたして愛は障害を乗り越えるのか?



                                   to be continue……

355BREEEEZE GIRL     ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:05:36 ID:52T8yFhU




【B-5 南部 民家/一日目 午前】
【J・ガイル】
[能力]:『吊られた男(ハングドマン)』
[時間軸]: ホル・ホースがアヴドゥルの額をぶちぬいたと思った瞬間。
[状態]:健康、イライラ
[装備]:コンビニ強盗のアーミーナイフ
[道具]:基本支給品、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
0.カップル死ねよ。
1.思う存分楽しむ。ついでにてワムウの味方や、気に入りそうな強者を探してやる。
2.12時間後、『DIOの館』でワムウと合流。
3.ワムウをDIOにぶつけ、つぶし合わせたい。
4.ダン? ああ、そんな奴もいたね。
  
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:全身傷だらけ、顔中傷だらけ、血まみれ、貧血気味、ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.とりあえずこの場を切り抜ける。
 
【山岸由花子】
[スタンド]:『ラブ・デラックス』
[時間軸]:JC32巻 康一を殺そうとしてドッグオンの音に吹き飛ばされる直前
[状態]:健康、血まみれ、???
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品合計2〜4(由花子+アクセル・RO/確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:広瀬康一を殺す?
1.康一くんをブッ殺す? まずはここを切り抜けてから。

356BREEEEZE GIRL     ◆c.g94qO9.A:2012/11/08(木) 02:09:23 ID:52T8yFhU
以上です。何かあったら指摘ください。
元ネタの歌は凄く爽やかで素敵です。ⅡよりⅠのほうが好みです。
どなたか代理投下をよろしくお願いします!

357 ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:03:39 ID:VPgF32Is
投下します。

358 ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:05:34 ID:VPgF32Is
じっと空を眺める男の後ろ姿がそこにはあった。遠く広がる空には藍色が滲み始め、いよいよ太陽の光も強まり始めていた。
思えば遠くまで来てしまったものだ、と男は思った。走って、走って、走り通して……ついにはこんなところまでやってきてしまった。
不意の哀愁が彼を襲った。ただ理由もなく、乾いた砂漠と一族の歌が懐かしくてたまらなくなった。

時間は恐ろしくゆったりと辺りを漂っている。男は手元に残った紙切れに、もう一度眼を落した。
何人もの名前がそこにはあった。数えるのも億劫になるほど、人の名前が記されている。
そのどれもが彼にとってはどうでもいいことのように思えて、男は黙って名簿をカバンにしまいこんだ。
今は考えるよりも行動しよう。為すべき事を終えれば幾らでも時間はあるはずだ。

静まり返った街並みを一人、男はゆっくりと進んでいく。
恐れる必要はない。何一つ見逃すまいと辺りに眼を配り、彼は慎重に足をすすめていった。
ジョニィ・ジョースターはそう遠くない場所にいる、と彼は思っていた。
これと言った理由があるわけではない。強いて言うならばあの青年が見せた暗く冷たい眼だろうか。
あの眼を思い出すたびに、彼の中でその想いは大きく膨らんだ。それは次第に思いというより確信にすり替わっていった。


ヤツの眼を思い出せ。あれは覚悟の座った目だった。自分の目的のためならば難なく一線を超えてしまえる眼。
ヤツは、俺と同じ眼をもっている。ジョニィ・ジョースターは俺と同じだ。目的のためならば手段や方法を選ばない意志。
それをヤツは持っている……!


ピりッ……と空気が張り詰めていくのを感じ取った。もはやそれは男の中で確信と言うものから確固たる事実として姿を変えていた。
男の足が自然に早まる。ぶるり、と電流が駆け抜けていくような感覚が彼を襲い、彼の身体は戦いを前に自然と高揚し、緊張し、震えた。

男は足を進め続けた。一切気を緩めることなく街の道を歩き続け、そして次の十字路を左に曲がったところでピタリと立ち止まった。
いた。そこに立ちつくしているのはジョニィ・ジョースター。
二本の足でしっかりと立ち、左手は右手首を固定。銃の狙いを定めるように、その右手を彼目掛け伸ばしている。

即座に男はスタンドを傍らに呼び出した。わざわざスタンドを隠す必要はないと思った。
青年の背後に漂う薄い影は間違いなくスタンド像。どうせわかってしまうことならばわざわざ隠すまでもない。
青年の足が自由に動いていることは確かに驚くべきことだった。しかしそれもあまり考慮すべき事ではない。
この一本道、例え足が動こうが動かまいが、逃げ道はない。つまるところ、戦いは単純だ。

生きるか死ぬか。数時間後、ここに残るのはジョニィ・ジョースターか、サンドマンか。


吸い込む息はどことなくざらざらしていた。呼吸を躊躇うような重い沈黙が辺りを満たし、二人はその場に凍りついたように動かない。
狙いを定める青年の指先。懐に飛び込もうと力を込めた男の足。隙のない二人はどちらも動かない。動けない。
風が二人の間を通り抜けていった。沈黙を青年の言葉が破った。

「君は何のために戦っている……?」

359 ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:05:58 ID:VPgF32Is
ちょっとした静寂が二人の間を流れる。風が吹けば消し飛んでしまいそうなほど、薄い静寂。

「土地のため、家族のため、一族のため」

男は短くそう答えた。青年は何も言わず、ただ頷いた。返事のしようがなかった。
男は一呼吸置くと、歯の隙間から漏らすように息を吐き、話を続けた。
別に話す必要はなかった。二人は戦うべきはずで、おしゃべりなんかを楽しんでいる場合ではない。
だというのに、何故だかそうしなければいけないと思った。
そうしなければ自分の行為がまちがった、汚れたものに成り下がってしまう。そんな気がインディアンの彼にはしていた。

「俺はただ奪われたものを取り返したいだけだ。ほかは何も必要ない。
 大地があって、精霊たちを祭る聖地があって、一族が暮らせるだけの場所があればそれだけでいいんだ」
「…………」
「綺麗事ばかり言ってはいられない。
 例え土地と言うアイディアが俺たちにとって掴みどころのないものであったとしても……。
 後から乗り込んできた者たちが、勝手に権利という紙きれで主張しようとも……。
 俺はただ、俺たちの生活を守りたいだけだ。なによりも俺たちにとっての大切なものを守りたいだけだ」
「…………」
「……そして、そのためなら俺は躊躇わない。一族を救うためなら、俺はなんだってやってやる。
 レースで一位にもなってやる。金を集めて買い取ってやる。誰かを犠牲にしなければいけないとでもいうのなら、殺しだって、やってやる」

言葉が宙に消えていくと、再び辺りは沈黙に満ちた。静けさが影を落として二人の間を漂う。
青年はゆっくりと手を下した。銃のように突きつけていた指先は地面を指し、背後を漂っていたスタンドが姿を消す。
青年は無防備な姿をさらしていた。チャンスだ、と男は思った。
何故そうしたかはわからないが、青年はみすみす大きな隙を見せていた。ジョニィは直立不動、サンドマンは臨戦態勢。
その一瞬は、大きな一瞬として勝負を決定づけしまうだろうというのに……青年は構えを解いた。

固く冷えたコンクリートの感触を確かめる様、そっと足先に力を込める。サンドマン、いつでも動ける体制で初撃を狙う。
青年はそんな動きを見せても、何も言わなかった。何も動かなかった。
黒く乾いた目線が男を突き刺すように見据えている。その沈黙は話の続きを促すようだった。

彼の懐まで飛び込むのにどれぐらいの時間が必要だろうか。何度跳躍をし、どれほど踏み込めばこの拳は彼に届くだろう。
もう何も話すことは残っていなかった。しかし、考える時間が欲しかった。
サンドマンは白々しいとはわかっていたが、話を続けた。彼の体を貫くイメージを脳裏に浮かべながら、青年の問いかけに答えを重ねる。

「だからジョニィ・ジョースター、俺はお前を殺す。お前にはここで死んでもらう。
 遺体を大人しく引き渡せばと考えていたが、お前はあまりに知りすぎている。
 足が動くようになっていて、俺の知らないことを多く知っているようにも思える。
 取引を確実にするためにも、お前にはやはり死んでもらうしかない」
「……一族のため、聖なる大地のためか」
「ああ、そうだ」

青年はため息をこぼさなかった。その瞳に感情の波風一つ立てずに、彼は言った。



「―――ないんだよ、サウンドマン」

360 ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:06:24 ID:VPgF32Is
耳が痛くなるほどの沈黙が落ちた。
インディアンは眉をひそめた。まさに今飛びかかろうと、足に込めていた力を緩めた。
目の前にいる青年が放った言葉の意味が理解できなかった。彼の言い放った五文字の言葉が、一体何を指し示しているのか、彼にはわからなかった。

青年は繰り返す。なくなったんだ、とはっきりとした口調で繰り返した。男は何が、と聞き返すことができなかった。
青年の瞳は寒々しさを覚えるほどにからっぽだった。がらんどうの空洞の奥には感情が潜んでいるかどうかも、わからない。
肌の下で心臓が大きく膨らんでいくのがわかった。それが上下に揺れて、肺と喉が締め付けられた。男は無償に苦しかった。
沈黙がこれほどまでに苦しいということを、彼は今初めて知った。

今から始まるものが何であるにせよ、決して良くないものだということだけはわかっていた。
多分言葉を遮るように襲いかかることもできたはずだ。彼を黙らせるように飛びかかることも容易かったし、きっとそうしたほうが自分は幸せなのかもしれない。
けどそうしなかった。男は、息を殺し、青年の言葉を待った。ジョニィ・ジョースターは話を続けた。


「1890年12月28日のことだった。
 その日サウスダコタ州、ウーンデット・ニーで争いが起きた。争いという名の虐殺が行われた。
 米軍第七騎兵連隊はスー族インディアン、女子供を含む200人を、或いは一説によれば300人以上を、一斉に殺した。
 軍は速射ホッチキス砲で無差別砲撃を加えたんだ。それだけでなく、当時新鋭のスプリングフィールド銃がこの虐殺では試用された。
 幼い子を抱いて逃げる女性も、馬も、犬も、子どもも狙い撃ちし、皆殺しにされた。100人弱の戦士たちは、没収された銃を手にするまでは素手で虐殺者たちと戦った。
 戦士たちは銃をとった後はテントに立てこもり、白人を狙い撃ちした。テントに火が放たれ、全身に銃弾を浴びるまで勇敢に戦った」


何を言っているんだ、と思った。お前は一体どこの、何の、誰の話しているんだ。
しかし話を聞けば聞くほど鮮明に、男の頭の中にその光景が思い浮かんだ。生々しいほどのリアリティがその話にはあった。

銃弾を喰らいもんどりうつ戦士たちの姿が見える。泣きながら母の名を呼ぶ子供たちが撃ち殺される。子の死体に縋りつく女たちが物言わぬ亡きがらに変わる。
決して降ることなのない、真っ赤な雨が砂漠に堕ちていた。息を吸い込めばその臭いをかぎとれるほどに、青年の話は鮮烈だった。
青年はまるで実在した、本当の事件のことを話しているようだった。男は自分の足元がゆっくりと崩れ落ちていく錯覚を覚えた。


「銃と砲弾の降り注ぐ中、女子供たちはそれでも3キロばかり逃げた。だが負傷のためにそこで力尽き、一人、また一人と倒れていった。
 部族員のほとんどが武器を持たず、それを四方から取り囲んだ兵士達が銃撃した。白人は29人死んだ。白人側の負傷者は39人だった。
 インディアンの抵抗はないに等しかった。白人たちは味方の攻撃の巻き添えを食って死んだんだ。それほどまでのすさまじい無差別銃撃だった。
 ある兵士はその様子をこう語っている。
 『ホッチキス砲は1分間で50発の弾を吐き、2ポンド分の弾丸の雨を降らせた。命あるものなら何でも手当たりしだいになぎ倒した。
  この女子供に対する3キロ余りの追跡行は、虐殺以外何ものでもない。幼子を抱いて逃げ惑う者まで撃ち倒された。動くものがなくなってようやく銃声が止んだ』
 またある兵士はこうも語っている。
 『これまでの人生で、このときほどスプリングフィールド銃がよく出来ていると思ったことはない。乳飲み子もたくさんいたが、兵士はこれも無差別虐殺した。
  この幼子達が身体中に弾を受けてばらばらになって、穴の中に裸で投げ込まれるのを見たのでは、どんなに石のように冷たい心を持った人間でも、心を動かさないではいられなかった』」


めまいが彼を襲っていた。吐き気もだ。
聞きたくないと思えば思うほどに、ジョニィ・ジョースターの言葉一つ一つが容赦なく彼の鼓膜を揺すぶる。
やめてくれ、と男は叫びたかった。彼の話を遮り、殴りつけ、その荒唐無稽な話で自分を惑わせるのはやめろと怒鳴りたかった。
だが彼がそう思えば思うほど身体は固くなった石のように地面にこびり付き、動かなかった。
青年の話は暗く死んだ世界の向こうにあるものを想像させた。荒涼とした砂漠と、誰ひとりいない故郷の影。

361 ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:09:19 ID:VPgF32Is
「ワゴン砲の砲撃でばらばらになったたくさんの死体の中、こときれた母親の胸で乳を吸おうと泣き叫ぶ赤ん坊もいた。
 虐殺から数日後、凍結した女性の死体の下から赤ん坊の泣き声が聞こえ、女の子の赤ん坊が発見されたんだ。
 死んだこの女性の娘で、発見された時、母親は彼女を守る様に腕にうつ伏せになって娘を抱いたまま死んでいたと言う。
 彼女はその後、軍率いる准将に“ウーンデッド・ニーの虐殺の生きたマスコット的存在”として利用され、育てられた。
 ロスト・バードと名付けられた彼女は結局のところ、差別や虐待に苦しみ29歳の若さで死んだ。最後まで故郷のことを想い続けていたと記録は語っている。
 この虐殺を白人側は“ウーンデッド・ニーの戦い”と呼び、虐殺を実行した第7騎兵隊には議会勲章まで授与した」


男は青年の声に混じって風の歌を聞いた。一族皆の声をのせ、笑いや雄叫びが混じる、懐かしい歌を。

砂漠に立ち上る蜃気楼のように、全てが捩じれて、霞んでいく。朝の日差しが彼を包み、視界全てが真っ白に染まった。
足元がフワフワする。平衡感覚が狂い、全ての感覚がマヒしていく。
いっそのこと悲しみや苦しみの感覚もマヒすればいいのに。そう願ったがむしろ感情は殊更鋭くなっていた。
全身を針で貫いたように、痛みが彼を襲っていた。


「サウンドマン、君の帰るべき場所はもうない。君が守りたいと思ってるものはもう失われた。
 アメリカ政府は同日、フロンティアライン消滅を宣言した。
 事実がどうであれ、結果は変わらない。その日、アメリカ政府にとってインディアンは消滅した。
 無関係だった150人もの女子供は無抵抗、無意味に、家畜同然に虐殺された」



―――君の部族は、もう、死んだんだ。





362 ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:09:57 ID:VPgF32Is




「うそだ」


長い長い沈黙の後、零れ落ちた言葉はそんなものだった。それはガラクタのように意味を持たない言葉だった。砂漠でコンパスを失った地図よりも無価値な言葉。

そうかもしれない、とジョニィ・ジョースターは返した。
彼の眼はとても静かだった。そしてとても透き通っていた。砂粒を含まない、無機質で、固くて、気温の感じられない眼だ。
風の歌が止んだ。もう誰の声も聞こえなかった。誰の歌も聞こえなかった。

「ウンデット・ニーの虐殺は避けられなかったという説もある。虐殺が、ではなく民族の滅亡が、という意味らしいけど。
 君も知っての通り、生活環境の破壊は加速していた。インディアンは住む土地、住む土地追い出され、絶望のどん底にあった。
 きっかけがなんであれ、衝突は起きただろうということだ。それが濁流で押し流されるように一瞬なのか、真綿で締める様にじわりじわりとなのかの違いだ。
 そしてその結果がどうであれ、それを指揮するのは、指示するのはアメリカ政府だ。インディアンに対する排他的行為は、他でもない、公式見解だった。国民の総意だった。
 アメリカ国民が、移民たちが、白人が、そして……大統領が、それを認めたんだ」

息だけが不自然に短く、途切れ途切れに繰り返されていた。
言葉はなによりも男の心を傷つけていた。それは心臓を刃物で抉り取るかのような激痛を男に与えていた。
青年の言葉には一切の許容も、容赦もない。インディアンの男はそっと眼を瞑った。

「サウンドマン、君はそれでも戦うのか。君にはもう守る故郷も、守るべき人もいない。それでも、例えそうだとしても、君は戦うというのか」

真冬の砂漠よりも冷たい孤独感が彼を襲っていく。そこにはなにもなくて、誰もいない。
何もかもが崩れ落ち、湧き出た故郷の記憶さえ次々に失われていく。砂漠の砂を掬おうとしているかのようだ。急速に全てが現実感を失っていった。
光が消える。臭いが消える。風が消える。声が消える。もう何も考えられなかった。もう何も考えたくなかった。


「サウンドマン」
「その名前で俺を呼ぶんじゃない。白人のお前が、その名前で、俺を」


ジョニィ・ジョースターの長い影が男の上に落ちていた。倒れ伏し、固いアスファルトを見つめる男は振り絞るようにそう言った。
サンドマンの瞳から涙が一粒だけ溢れ、乾いた大地に音をたてて零れた。
泣けばいいのか、怒ればいいのか、決めかねた様な様な表情を彼は浮かべていた。ジョニィは何も言わなかった。
何かを言うべきかどうか、長いこと悩んでいたが、結局口を開くのを諦めた。ただ男が立ち上がるのを彼は待った。
温かい日差しが二人を照らしていく。男の涙と嗚咽は長いこと止まらなかった。





363 ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:10:20 ID:VPgF32Is




「共に戦うことはできない」

泣き疲れた男の声に、青年は沈痛な面持ちで頷いた。
きっとそうなるだろうとは思っていた。それでもできることなら彼と共に戦いたいとジョニィは思っていた。

サンドマンは全てを失った。故郷も一族も土地も大地も、なにもかも。ジョニィ・ジョースターの言うとおりだった。
彼がそれでも立ちあがる理由は、もはや自分しか一族がいないという使命感だ。

全て失った。例え遺体を持ち帰っても今さら約束通り土地が返してもらえるとは、もう思えない。
例え返してもらえたとしても、近い将来インディアンはきっと土地を追われる運命にあるのだろう。
白人は白人だ。インディアンがインディアンであるのが自然であるように、彼らはどうしようもなく彼らなのだ。
そうしていつかはこの地上から彼ら一族はいなくなってしまうのかもしれない。聖なる大地は汚され、白人の手によって壊されてしまうのかもしれない。

だからといって諦められるわけがなかった。絶望のままに、命を投げ捨てるわけにはいかない。
なぜならまだ自分は生きているんだ。まだ、自分が、残っているのだから。
この身に流れる血が、歌が、魂が。それはどうしようもなくインディアンのものだった。
まだインディアンは死んでいない。サウンドマンはまだ、生きている。

過去は変えられないかもしれない。未来を変えることも難しい。しかしそれは未来を諦めることとイコールではない。
インディアンの男の中で燃え上がったのは復讐心でもなく、噴怒の炎でもなく、代々受け継いだ未来に託す想いだった。

血を絶やすわけにはいかない。必ず生きて帰って、自らの手で一族を創りなおさなければいけない。
それは今まで以上に過酷な旅路を意味していた。SBRレースやこのデスゲームで行った“命を賭してでも”、そんな無謀な戦いをすることはもうできなくなった。
その瞬間から、彼は決して死ねなくなった。自分たち一族全ての祈りを乗せ、彼は必ずや故郷に帰ることを誓った。


だからこそッ!
彼はジョニィと共に行くことを拒否する。ほかでもない、ジョニィ・ジョースターが白人だったから。
彼の元からすべてを奪い、全てを裏切った人間と同じ人種だったから。

感情的な問題だった。冷静に考えればとか、合理的に考えればだとか、そんなことはわかっている。
だがそれでも男は青年を拒否した。彼を殺す気もないし、邪魔をしようとも思わないが、力を合わせることは無理だった。
もうこりごりだったのだ。勝手に権利を主張し、それに合わせて契約や約束というものを学んでも、それでも結局白人は与えようとしなかった。
かわりに彼の手元からすべてを奪っていった。

364 ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:10:43 ID:VPgF32Is


もう誰にも頼らない。もう誰も頼れない。

ジョニィは眼の前に立つ男を見つめた。なんて気高き男なんだろう。なんて誇り高い男なんだろう。


―――だというのに、何故彼の横顔はこうも儚く見えるんだ。


青年の心は締め付けられる。できることなら手伝いたい。だがそれは不可能だった。これはもう、彼自身の戦いだった。
自分には決して手出しができない、彼だけの戦い。

泣きだしたくなるような、叫びたくなるような、郷愁がジョニィを襲う。

青年は黙って事実を記した百科事典を男に手渡す。そして彼に伝言を頼んだ。
ジャイロ・ツェペリに会ったら伝えてほしい。第三回放送の時刻に、マンハッタン・トリニティ教会で会おう、と。
サンドマンは頷き、そして言う。

「ジョニィ・ジョースター、また会おう。お前には借りができた。
 “俺たち”は借りた借りは必ず返すと誓ってる。だから必ず生きて、また会おう」
「“ゴール”は僕と一緒なんだろう? 殺し合いからの生還。ならまた必ず会えるさ。その時に返してくれよ」

殺し合うはずであった男たちは、固く手を握り合う。
青年の言葉に、男の顔が微かにほころんだ。僅かにだけ見せた微笑はすぐに消えると、サンドマンは身をひるがえす。
別れの合図に手をあげるとジョニィが見守る中、男は徐々にスピードを上げていく。そうしてすぐに、サンドマンは道の先へと姿を消した。

彼の姿が見えなくなっても、青年は長いことそこから動けなかった。
彼の脳裏に浮かんだのはアリゾナの砂漠。不意にジャイロと砂漠を旅していた時のことを、彼は思い出していた。

見渡す限り砂しかない不毛の大地。サボテンと岩、砂と太陽しかそこにはない。
ジャイロは不満ばかり言ってたような気がする。といっても彼はいつでも不満ばかり言ってたような気がするけど。
自分は馬のことが心配で風景を楽しむ余裕なんてなかった。ああ、道のわきにある十字架がすごく不気味だったことは覚えてる。
ジャイロと顔を見合わせて苦笑いしたもんだ。突っ切る時はドキドキしたな。
スタンドと鉄球があると言え、馬がやられたらそこでアウトだ。今考えればよくぞ無事ですんだものだ。
そういえばサボテンの針で攻撃するテロリストもいた。ワイヤー使いのスタンド使いもいた。煙や川を爆弾にかえるヤツもいた。ロープの達人、マウンテン・ティムと共に戦った……。

いくつもの思い出があった。冗談のように笑える出来事があった。今だから笑い飛ばせる無茶も、少しはある。
サンドマンはあそこで育ったのだ。彼にとっての故郷なんだ。愛すべき家族、愛すべき故郷。

「サンドマン、君の故郷はあそこにあったんだな」

ジョニィは一人思った。立ち去った男のことを思い出し、彼は一人空に向かって呟いた。


―――祈っておこうかな……彼の旅路の無事を…。そして、彼が故郷に帰れるその日のことを……。

365彼の名は名も無きインディアン   ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:12:06 ID:VPgF32Is


【D-7 南部/1日目 朝】
【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
[備考]
※サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。
※召使のもう一つの支給品は予備弾薬でした。ジョニィの支給品はフーゴの百科事典のみでした。
※サンドマンと情報交換をしました。

【サンドマン(サウンドマン)】
[スタンド]:『イン・ア・サイレント・ウェイ』
[時間軸]:SBR10巻 ジョニィ達襲撃前
[状態]:大きなショック、うろたえ気味、ナイーブ、動揺
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(内1食料消費)、ランダム支給品×1(ミラション/確認済み)
    形見のエメラルド、フライパン、ホッチキス、百科事典
[思考・状況]
基本行動方針:生きて帰って、祖先の土地を取り戻す。もう一度部族を立ち上げる。
1.とりあえず情報収集。もう誰も頼らない。
2.故郷に帰るための情報収集をする。
3.必要なのはあくまで『情報』であり、積極的に仲間を集めたりする気はない。
4.ジャイロ・ツェペリに会ったら伝言を伝える。
[備考]
※ジョニィと情報交換をしました。

366彼の名は名も無きインディアン   ◆c.g94qO9.A:2012/11/13(火) 20:13:50 ID:VPgF32Is
以上です。なにかありましたら一言ください。

規制が一向に解除される気がしません。
仕方ないとはいえ、毎回こうもやられると興をそがれるというか、代理投下の方に申し訳ないというか。
したらば管理人さん、チェックありがとうございました。なんだったんだろう。


あと前作、感想ありがとうございました。
感想がたくさんもらえてうれしかったです。頑張ろうって気になりました。
頑張ります。

367名無しさんは砕けない:2012/11/13(火) 22:59:03 ID:UQSSBy9Y
>>365まで転載したところで連投規制ひっかかりました。
申し訳ありませんが、どなたか>>366お願いします。

◆c.g94qO9.Aさんは投下乙でした。
サンドマン切ないな。今回もメッセージ託されたが・・・

368 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:44:26 ID:u2BhKLhQ
規制されていたのでこちらに

ラジオ!!もちろん大歓迎!!

プロシュート、双葉千帆
投下します

369 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:44:52 ID:u2BhKLhQ



……さて、放送は以上だ。第二回放送は同じく六時間後、太陽が真上に上る12時きっかりに行う。
この放送は私、スティーブン・スティール、“スティーブン・スティール” がお送りした。
諸君、また六時間後に会おう! 君たちの今まで以上の健闘を、私は影ながら応援しいるッ
それでは良い朝を!…………



 煩いばかりだった放送が終わり、フロリダ州立病院の一室は再び静寂を取り戻しつつあった。
 人けのない病院の南側の一室には、双葉千帆とプロシュートがおのおの壁を背に向かい合い座っている。
 かわす言葉はなく、ふたりは彫像のようにかたまっていた。

 双葉千帆のもとよりあまり日焼けしていない顔は、さらに色を失い骨のように白い。
 岸辺露伴の死を、彼女は直接見てはいなかった。
 露伴の死を証明するものは地中にめり込んだ巨大なコンテナと、早人から渡された彼からの手紙のみだったからだ。
 ゆえに心のどこかで期待していたのだ。
 岸辺露伴は死んではおらず、彼に自分が原作の漫画を書いてもらう日が来るのではないかと。
 『放送』はそんな彼女の期待を無常にも否定した。
 自覚すらしていなかった願いを、無惨に打ち砕いた。
 死亡者として読み上げられた中には川尻早人の名もあった。
 実際には死亡していない人間を、いたずらに『死亡者』として放送するなどということはおそらくないだろう。
 疑いなく、ふたりは死んだのだ。
 岸部露伴の新作漫画を読む日も、川尻早人の成長を喜ぶ日も、決して来ない。

 そして、読み上げられた双葉照彦の名前。
 読み上げられた瞬間には彼女は気づかなかった。それが自らの父親の姓名だと。
 76名もの死亡者はあまりに多く、少女には音として認識した文字を筆記するだけで精一杯だったのだ。
 『ふたばてるひこ』
 ひらがなで書かれたそれはなにかの記号のようだった。
 名簿とつきあわせ『双葉照彦』という文字列を理解した瞬間の気持ちを表現することはできない。

 シチューの残り香がただようリビングで、あの人に突き立てようとしたものは紛れもない殺意。
 父だから許せなかった。
 愛していた、父だからこそ……。
 皺を刻んだ笑顔の父と、絶望の表情を浮かべた父の顔が交互にフラッシュバックした。

 苦しまぎれの息つぎをするように千帆が顔をもちあげる。
 視線の先、プロシュートは無表情で名簿を眺めていた。

370 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:45:20 ID:u2BhKLhQ


(ホルマジオ、ペッシ、イルーゾォ、リーダー……)

 表情こそ平静を装っていたもののプロシュートの心中は穏やかさとかけ離れた状態にあった。
 死亡者の中には彼が呼びなれた名前が混じっていた。
 弟分であったペッシはおろか、自分がリーダーと認めたリゾットすらすでに死んでいるとは。
 胸のうちにあるものが『驚き』だけだといえば嘘になる。
 ソルベが送りつけられたとき以上の激情が彼の胸の内で燃えさかっていた。
 しかしプロシュートはそれを表に出そうとはしない。
 必ずやり遂げなければならないことができた。嘆くことも思考停止することも許されない。

 名簿を見返す。ギアッチョの名が斜線を引かされずに残っていた。
 『暗殺チーム』という括りでみれば、メローネ、ソルベ、ジェラートの名前は名簿のどこにも載っていなかった。
 死んだ者は蘇らない、という当たり前の原則に沿えば、ソルベ、ジェラートがいないことに疑問はない。
 しかしメローネはどうだ。
 あの男が死んだという情報を、少なくとも自分もペッシも受けていなかった。
 死亡したはずなのに参加させられた、ホルマジオ、イルーゾォそして涙目のルカと、死亡していないはずなのに参加していないメローネ。
 考えたところで、メローネが名簿に載っていない理由はわからないが、時間軸の違いは確定していいように思えた。
 時間軸が違えば死んだ人間が蘇ったようにみえることに疑問はないだろう。
 自分が殺した男、ティッツァーノからすれば、すでに自分は死んだ人間だった可能性もある。
 プロシュートは自嘲的な笑みを浮かべながら再び名簿に視線を戻した。
 まずジョースターの姓をもつ人間が嫌でも目につく。
 次におそらく『パッショーネ』の関係者がほとんどであろうイタリア人。
 東洋人も多いように見受けられる。
 だがその組み分けからあぶれる人間もまた多い。
 国籍の判別がつかない「あだ名」のような名前は本名や身分を隠したがる人種の二つ名のようなものだろうか。

 このふざけたイベントを主催した存在は、『老い』も時間も世界という枠組みさえも超越したもの。
 だというのに、この場にいる者で疑いなく共同戦線を張れる人間はすでにギアッチョしか残されていない……。

 カタカタ……と床が音を立てる。
 ふと見ると手が小刻みに震え、握っていた鉛筆が床を叩いていた。
 一瞬呆気にとられたプロシュートの表情が、徐々に羞恥に歪む。
 名簿から目をはなせば、同じようにひととおりの考察を終えたのであろう少女がこちらを見つめていた。

「嬢ちゃん、まずは知り合いについて教えてもらおうか」

 かたぎの人間がきけば震え上がりそうな口調をしたことに、プロシュート本人は気づいていない。
 双葉千帆の瞳に恐怖の色はなかった。
 ただ、数瞬、鳩が飛び去った窓辺を見やり、小さなため息と共に彼女は、はい、とこたえた。
 窓の外には、徐々に青みを増しつつあるライトブルーの空が広がっている。



  *  *  *

371 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:45:58 ID:u2BhKLhQ



 プロシュートは自分のことを語ろうとはしなかった。

 千帆の知り合いが何人いるか。
 彼らとはどういう関係か。
 直接の知り合いでなくとも、知っている人物がいるか。
 彼女にとって今は“何年”か。
 ここに連れてこられる前、どこにいたのか。
 杜王町とはどんな地域なのか。

 彼の一方的な質問に千帆が答えるだけ。
 それを千帆はおかしいとは思わなかった。
 早人に協力してはくれたが、おそらくそれは敵あらばこそ。

 早人は死んだ。彼を死に至らしめた鼠も死んだ。
 そして戦闘のさなか銃撃によってプロシュートを救った男性も、死んだ。
 彼がプロシュートの仲間であったのなら共にここで放送を迎えられたはずである。
 銃のグリップにこびりついていた血の跡。
 赤く汚れた長い白髪と血だらけの白鼠のイメージが重なった。

 ただの高校生である自分が、足手まといにしかならない自分が生かされたのは情報交換という目的があったからだろうか。
 だとすればこうして喋っている一瞬一瞬が、死へのカウントダウンにほかならない。
 それを理解していながら、同時に淡淡と感情もなく語る自分を千帆は実感するのだった。


「安心しな。オレは嬢ちゃんを殺す気はねえ」

 そんな千帆の心を見透かしたようにプロシュートが言い放った。
 哀れな孤児をなだめるようなおだやかな口調だが、目も口元も笑ってはいない。

「情報の整理はあらかたすんだ。
 本当のところをいえば、嬢ちゃんを生かしておく理由はない。
 殺す理由はいくらでもあるがな」
「なら、どうして……」

 千帆がいいかけてやめ、そんな自分を恥じらうように目を伏せる。
 自らの発しかけた問いがその身の安全を脅かすことに気づき、そして、そんな保身に走った考えが恥ずかしくなり、千帆は押し黙った。
 目の前の男にはそうした下衆な考えがすべて透けて見えただろう。

 プロシュートは千帆の手元を見つめていた。胸の前で心臓を守るように組まれた小さな手を。
 時が止まってしまったのでは、と千帆が思い始めた頃、ようやくプロシュートは口を開いた。

372 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:46:24 ID:u2BhKLhQ

「死ぬのは怖い、か?」

 はじかれたように千帆の瞳が見開かれる。
 カッと頬に赤みがさし、彼女は声を張り上げた。

「プロシュートさんは、怖くないっていうんですかッ?!」
「さあな。
 だが生きている限り、恐怖、孤独、悲しみ、不安、あらゆる苦痛は永遠に続くんだ。
 『死』は平等だ。優しい。
 そこに、人が恐れるものは存在しない」

 語るプロシュートの表情は、落ち着きを通り越して安らかだった。
 千帆が戸惑い、反発を覚えるほどに。

「でも……ッ」
「スタンドも、体術の心得があるわけでもねえだろう。加えて人脈もねえ。
 どうやって生き残る気だ?」

 頬を紅潮させた千帆の指が短銃のグリップをなぞる。
 その早人の形見となった銃でスタンド使いを相手に渡り合おうというのだろうか。

「戦います」

 千帆が銃を持ち上げてみせる。
 少女のほっそりと柔らかな手の内で、ゴツゴツとしたフォルムの銃はひどく不似合いで重たく、危うげに映った。

「射撃の練習をしたことがあるってわけでもないんだろう?
 初心者が扱う場合10mも離れれば弾はまず当たらない。
 嬢ちゃんは6発の内1発くらいは当たるだろうと考えてるかもしれねえが、目の前に対峙したやつを敵だと判断してから何発撃てると思う?
 的はさっきみてえな目先の死にかけじゃねえ。
 こっちを殺そうとする敵だ。全速力で向かってくる。そいつだって死にたくないからな。
 10mなんて一瞬だ。相手がガキでも。
 くわえて銃にはリコイル、反動がある。さっき撃ってみてわかってるはずだ。
 あれだけの衝撃を受けて、何発も狙いをつけて発砲することができると思うのか。その貧弱な腕で」

 千帆は言い返せなかった。
 自分で自分の腕を抱き、イヤイヤをするように首をふる。

「それでも、私は……」

 今にも泣き出しそうになっているくせに、千帆は頑として折れなかった。
 うっすらと涙を浮かべた瞳で、プロシュートのことを睨んでいる。
 地獄を見てきた人間が持つ壮絶さと、聖母のような慈愛を併せ持ったその瞳。

(まるで聞き分けのない、“マンモーナ”だな)

 プロシュートが千帆を見つめる。
 二人は無言のまま見つめ合い、やがてプロシュートの方が根負けしてため息をついた。

373 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:46:46 ID:u2BhKLhQ

「こっちに来な。
 少しはマシにしてやる」

 プロシュートは千帆から銃を受け取ると、馴れた手つきで銃弾を抜いていった。
 弾丸の込め方はあとから説明する、と口上を添えて。
 6発分の銃弾を抜き取ると、プロシュートは対面の壁に向かって銃を構えてみせた。

「銃を撃つときの基本的な姿勢はこうだ」

 両足を肩幅ほどに開き、腕をまっすぐ前方に伸ばす。
 腕の先端、プロシュートの存外大きな両手が銃のグリップを握っていた。
 その指は引き金にかかっていない。
 顔は突き出しすぎだと千帆が感じるほど銃に寄せている。
 千帆がそう感じているのをプロシュートも読み取ったのだろう。

「大事なのはきちんと照準を合わせることだ。
 正しく狙いをつけたところでさまざまな要因によって銃弾は逸れる。
 だがそれで照準合わせを怠れば、絶対に銃弾は当たらないと思え」

 銃を千帆の目線の高さまで持っていき、照準あわせの動作を確認させる。
 そして握り方と引き金の引き方について。

「引き金を引くことに意識を集中させるな。
 標的に照準をあわせたまま、引き金を『絞る』」

 銃の携帯の仕方から、構え方、空薬莢の抜き方、銃弾の込め方まで、一連の動作をデモンストレーションしたところで、M19はふたたび千帆の手の内にかえってきた。
 見よう見まねで銃を構える千帆に、激しい檄が飛んだ。

「銃は遠距離から攻撃できるだとか、6発あるから余裕だなんて考えは捨てろよ。
 1発で仕留めろ。1発撃てばもう終いだ。
 たとえれば、ギャンブルと同じ心理だな。
 撃ちはじめちまったら、次こそ当たるだろう、次こそ当たるだろうとすがっちまう。
 6発の中に『当たりくじ』が入っていない可能性を、人は直視できなくなる。
 気づいたときには距離のアドバンテージなんてもんは皆無になっちまってる。
 結末は、いわなくてもわかるな?
 これが武器になるなんて考えは捨てな。
 下手に撃てば、互いに引けなくなる。
 銃声は別の敵を引き寄せる。
 銃を撃つ状況はどちらかがすでに詰んでる状況だと思え。さっきの鼠みてーにな。
 確実に殺すために撃ちな」

374 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:47:18 ID:u2BhKLhQ


 小一時間ほど経ったころ、ようやくプロシュートの指導は終わった。
 約1kgの銃を、暴発に注意しながら扱う作業は想像以上に千帆を疲れさせた。
 紙から出てきたドーナツと水で休憩をとる千帆に対して、プロシュートは静かに語る。

「嬢ちゃんは、なぜオレに殺されないか不思議に思っていたな。
 おそらく理解できないだろうが、オレはこう考える。

 単純に、“力”を持つことは素晴らしい。それを行使することも。
 しかしそれは“強さ”とは違う、とな。

 最終的には『持っている』人間が生き残る。
 力の優劣とは、また別の次元の問題だ」

 千帆が困ったように首を傾げる。
 プロシュートがなにを言いたいのかわからなかった。

「この6時間の間に76人が死んだ。
 力の優劣がすべてを決めるなら、嬢ちゃんはとっくに死んでるはずだ」

 そこでプロシュートは言葉を切った。
 どこか、痛ましい色がその瞳に浮かんでいるのを千帆は見逃さなかった。

(『暗殺チーム』と言っていた。
 この人も、誰か大切な人を失ったのかもしれない)

 プロシュートの言いたいことが千帆にはよくわからない。
 『持っている』人間の話と、自分を殺さないという話は結びつかないように思える。 
 それに彼が言ったとおり、自分は特殊な力も、武器を扱える腕も、頼りにできる友人もいない人間だ。
 『持っている』人間にあたるとは思えない。

 けれど頭で理解できないことが、心で理解できることもある。
 プロシュートの言葉が、行動が、千帆に勇気の心を芽生えさせようとしていたのは確かだった。

「私、小説を書くんです。
 元の世界に戻って。絶対に」

「……そうか」

 プロシュートの返答はそっけない。
 しかし千帆はプロシュートを信頼しつつあった。
 かつて好きになった人は、彼のような強さをもつ男だった。

「さて、オレはそろそろここを出る。
 この6時間ほとんどこの近辺から動いてないんでね。
 欲しいのは仲間と情報だ。向かうのは当然人が集まる場所になる」

 荷物を肩にかつぎあげながらプロシュートが、足元のほこりを払う。

「ついてくるなら忠告くらいはしてやるが、オレは嬢ちゃんを助けない。
 その兄貴とやらを探すも、ここに篭城するも、好きにしな」

 振り返りもせず歩き出す。
 その背を追って、千帆は迷いなく立ち上がった。
 それを気配で感じ、プロシュートがうっすらと笑う。

「後悔するなよ“千帆”」

「……はい!」

375 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:47:42 ID:u2BhKLhQ
【G-8 フロリダ州立病院内/1日目 朝】

【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:体力消耗(中)、色々とボロボロ
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.暗殺チームを始め、仲間を増やす 。
1.この世界について、少しでも情報が欲しい。
2.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:体力消費(中)、精神消耗(中) 、涙の跡有り
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品、ランダム支給品1 (確認済み。武器ではない)
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0:プロシュートと共に行動する。
1:川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
2:琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。
3:露伴の分まで、小説が書きたい。


【備考】
プロシュートは千帆から、千帆の知っている人物等の情報を得ました。
千帆はプロシュートから情報を得ていません。
千帆はランダム支給品を確認しました。支給品は1つで、武器ではありません。
ウィルソン・フィリップス上院議員の不明支給品は【ドーナツ@The Book】のみでした。


以上で投下完了です。
指摘等ございましたら、よろしくお願いします。

376 ◆4eLeLFC2bQ:2012/11/21(水) 22:51:43 ID:u2BhKLhQ
タイトルは「Dream On」です
すみませんがどなたか代理投下お願いします

377名無しさんは砕けない:2012/11/22(木) 09:09:15 ID:h2.qH9nw
カウントを間違えたすみません。
どなたか>>376を転載お願いいたします。

◆4eLeLFC2bQさんは投下乙でした。
兄貴さすが渋カッコいい。千帆はけなげ可愛いな。
◆vvatO30wn.さんも前編お疲れ様でした。
後編も楽しみにお待ちしております。

378 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:33:41 ID:HIANix1k
ラジオ中ですが投下します。

379 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:34:55 ID:HIANix1k
「立ち話も何だ、席に着いたらどうだね?」

ディ・ス・コは動こうとしなかった。座るどころか動くことすら危ういと、彼は感じ取っていた。
目の前の男の存在感は圧倒的だった。それはもう、あまりに圧倒的だった。
例えるならば丸裸丸腰でライオンの檻に閉じ込められたも同然の如く。それは下手に動けば死が訪れることを嫌でも意識させられた。

DIOが椅子を指し示した指先は、長いこと、ただいたずらに宙にかざされていた。やがて彼は腕を下ろし、それを肘掛椅子の上に戻した。

男は何も言わなかった。代わりにその真っ赤な目をゆっくりと細ばめた。
百獣の王、生まれついての捕食者としての目線がディ・ス・コの身体を舐めまわしていく。
身体の隅から隅まで、一部の隙間もなく。ディ・ス・コの肌はゾクリと震えた。

そうかい、私は遠慮なく座らせてもらうがね、と男は言った。
男のの言葉には苛立ちや怒気は込められていなかった。ただ面白そうな何かを見つけた、純粋な興味がにじみ出ていた。


DIOは深々と身を沈めると息を吐き、肘掛椅子の上で頬杖を突く。しばらくの間彼は無言で天井を見つめた。
ディ・ス・コも喋らなかった。何を言えばいいかわからなかった。
沈黙が蜘蛛の張った糸の巣のように辺りにからまり……しばらくの間、二人は共に動くことも、話すこともしなかった。


沈黙を破るきっかけは音だった。
カタカタと微かに聞こえる音にDIOは首を傾けると、男の腕が激しく震えているのが目に映った。
肩にかけたデイパックがその振動を伝え、音を発していたのだ。DIOは頬笑みを浮かべ、ゆっくりと彼に向かって語りかけた。

「震えているのかい? このDIOを前にして」

ディ・ス・コは身体を固くした。それはその声がとても美しかったからだった。
美しいと思って、そして一瞬聞き惚れてしまいそうになった自分に動揺して、彼は身を固くしたのだった。
何を馬鹿なことをしているんだ、と彼は思った。この男を前に自分はなんて呑気なことを。こんなことをしている場合など断じてないというのに。
先手必勝だ。唇を噛みしめ、ディ・ス・コは自身を勇気づける。
相手は椅子に座ったまま余裕を醸し出している。そのどたまにスタンド能力を叩きこんで、一瞬で始末してやれ。
震える腕を伸ばしスタンド出現させ、構える。構えようとして……彼は、動けなかった。
そうわかっているはずだ。そう思っているはずなのに……ディ・ス・コは動かない。動けない。

DIOが話を続けても、スタンドを構えることすらしなかった。
それは彼が心の底では、男の言葉をもっと聞きたいと願っていたからかもしれなかった。


「脅えることはない、何も私は君を取って食おうとしているわけじゃあないんだ……安心してくれ」


男は安心させるよう手を広げ、そして次いではディ・ス・コに向かって笑いかけて見せた。
どうやら彼を気に入ったらしい。肘掛椅子に投げ出していた身体を持ち上げると、男は姿勢をただし、椅子の先に乗り出すように座りなおした。
膝を組み替えてリラックスした様子で、DIOはそっと囁くように続けた。

380 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:35:28 ID:HIANix1k

「安心と恐怖は感情の双子の様なものだ。隣り合わせ、鏡写し……言葉は何であれ、つまるところ恐怖があるから安心があり、安心があるから恐怖がある。
 そもそも人間は誰でも不安や恐怖を克服し、安心を得るために生きている。名声を手に入れたり、人を支配したり、金もうけをするのも安心するためだ。
 結婚したり、友人をつくったりするのも安心するためだ。人の役立つだとか、愛と平和のためにだとか、すべて自分を安心させるためだ。
 安心をもとめる事こそ、人間の唯一にして究極の目的だ……」

不思議と続きが気になる話し方を、DIOはした。彼は話の最中に身振り手振りを加えることをしなかったし、大声で声高々に主張することもしなかった。
しかし、ディ・ス・コは知らず知らずのうちにその話に引き込まれていく。耳を傾け、聞き惚れ、頷いてしまう。
彼は一呼吸置くともう一度口を開いた。相変わらず、その声は囁くような声音であった。

「人間は生まれた時から死ぬ運命を背負っている。
 それは誰一人例外でなく、誰にしも赤ん坊だった時があり、少年だった時があり、青年、成人、そして老人……。
 やがてそうやって人は皆老い、そして死んでいく。
 死は避けようもない人類共通の恐怖だ。いまだかつてそれを克服した人間は誰一人としていない。
 このDIOを除いては、だが……」

快活な笑い声を挟んで、DIOは更に話を続けた。

「恐怖こそが人間を支配する感情だ。恐怖を克服するためならば、人間は死に物狂いで何かを成し遂げることができる。
 君が今身につけている服も、私が手にしているグラスも、口にしているワインも全て、全てその結果だ。
 恐怖という鞭が人間を進化させ、安心という飴を手に入れるために人間は生きているのだ。
 そう考えると人間とは随分低俗で、愛らしく……哀れな生き物だと思わないかね?
 人間は限界がある。恐怖を上回ることも、安心という檻から出ることもできない。
 人間は実に物悲しい生き物だよ……。いたたまれなくて、時には見ていられなくなるほどに……」

ディ・ス・コは答えを返さなかった。
何を言えばいいのかわからなかったし、何を言っても間違った答えになるような気がして、黙って口を閉ざした。
DIOは一向に気にしていないようだった。彼は誰かに話すというよりも、自分の考えを思いのまま、口にしているだけのようだった。

「では吸血鬼になり、永遠の命を得たこのDIOは何に恐怖すればいいのだろうか? 何を目的に生きていけばいいのであろうか?」

沈黙。空白。言葉を切ったDIOはじっと宙を見つめ、そしてまた口を開く。

「……スタンドはその人物の精神の象徴といってもいい。私のスタンドの名は『世界』。能力は、そうだな……文字通り『世界を制する力』といっておこうか。
 どちらにしろそれほど重要なことじゃあない。ここで取り上げるのは能力でなく、名のほうだ。
 『世界』、私はこの名をいたく気に入っている。運命的な出会いとってもいいかもしれない。
 その名前を初めて聞いた時、私はまるでその二文字の言葉が私だけのために用意されていたと思えたほどだ。
 感動すらした。クローゼットの中でずっと袖を通すのを待っていた仕立て済みの服かのように、ピッタリと馴染んだんだ。
 いずれ『世界』を制するであろう私に、まさにうってつけの名前だ。君もそう思わないかね……?」

ディ・ス・コは黙って頷いた。DIOが言うのであればそうなのだろう、そう思って彼は素直に首を縦に振る。
世界を制する。並みのものなら夢物語と馬鹿にされるだけだろうが、彼が言うとその言葉は途端に説得力に満ちたものに変わった。
本当にこの男なら成し遂げてしまうのだろう。ディ・ス・コは実際にそう思って、思ったので頷いた。
DIOは言う。彼の話はまだまだ続いた。

381 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:35:57 ID:HIANix1k

「再び問いかけだ。では世界を制するとは何をもってそう言えるのだろうか? 何を成し遂げれば世界を制したことになりえるのか?」

今度は頷かなかった。ただ黙ったまま頭を何度か左右に振った。
ディ・ス・コにはそんなことはわからなかったし、ただのそれ以上、思いつきもしなかった。
彼にとって沈黙が答えだった。だがそうして黙っていると、奇妙に暗闇が広がっていきそうな感覚が男を襲った。
どちらも口を閉ざしたまま長いこと時間が経った気がした。実際のところはわからない。

「君は神を信じているか?」

DIOが言った。それは突拍子もない疑問で、突然言い放たれた言葉だった。
だが、それが大切な問いかけであることはディ・ス・コにはわかった。DIOの口調でそれがわかった。ディ・ス・コは首をゆっくりと横に振る。
DIOは何も言わなかった。確認のつもりだったのか、彼はそれを見て満足そうに、小さくうなずくだけだった。

サイドテーブルからグラスを取ると、一含みを口の中に流し込み、男は言う。

「かつて最も神に近づいた男がいた。その男は数々の奇跡を起こし、人々に神と崇められ、その思想は今も生きている。
 彼は水をぶどう酒に変えた。家が吹き飛ぶ嵐を片手で静めた。何の変哲もない石や水をパントとワインに変え、海の上を歩き、イチジクから命を吸い取り、そしてまた人々に命を分け与えた。
 そして彼は、一度死んだ後に蘇り、その奇跡が決して不純なものでなく奇跡以外の何でもないことを証明して見せた。
 人々は彼を神と呼んだ。今も呼んでいる。そしてこれからも呼び続けるだろう。人間が生き続ける限り」

それはまさか“あの方”のことを言ってるのですか。喉元まで込み上がった言葉を押し戻し、ディ・ス・コは訳もなく動揺している自分に動揺した。
そんな、まさか。ありえない。しかし本当にあり得ないかどうかとDIOに問われたら、彼は自信を持って返答できたろうか。
DIOならなれる。いや、DIOにならば“彼”を越えて見せれるのではないかと、そう思うほどまでにディ・ス・コの中には確固たる“何か”が芽生え始めていた。


「私は、神(ディオ)になるべき男だ。世界を制するとは、神(ディオ)となり、人々を導くことだと私は思っている」


だから彼はこんなにも私を怯えさせているのだろうか。
こんなにも恐怖で私を竦ませているのは、彼が神に近い男で、私に安心と恐怖を刻みなおすためなのだろうか……?
私にこれからの道筋を、導きを、もう一度示しなおすためなのだろうか……?


「惜しむべきは彼は二度の奇跡を起こさなかった事だ。結局彼が死を克服することはなかった。
 だがこのDIOは違う。私は死を克服した。世界を制する力を手に入れた。
 彼ができない、決して手にすることのない奇跡を、今すぐにでも実践できる力が私にはある。
 このDIOこそが神に相応しいのだ。私は全てを制して見せる。運命も、生命も、世界も、時空も、空間も制し……全ての頂上に私は立って見せる……!」

力を貸してくれないか。そう囁かれた言葉が自分に向けられたものだと気付くのには、時間がかかった。
顔を上がればいつの間にかDIOは椅子より立ち上がり、ディ・ス・コと同じ地べたで同じ高さで、手を差し伸べていた。
直々に。その身で、直接。ディ・ス・コという男のために。

382 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:36:36 ID:HIANix1k

その時、男は初めてDIOの眼を見た。

真っ赤だった。そしてとてもきれいだった。
闇の中でもハッキリとわかるほどに、その目は光って、輝いていた。
自分を見つめるその真っ赤な目から目が離せない。吸い込まれていきそうだ。どこまで澄んでいて、輝いていて、美しくて。

すぅ……と縦に開いた瞳孔が彼を映しだす。真っ赤な輝きとは正反対に、そこには底知れない黒さが潜んでいた。
その輝きから目が離せなかった。その底知れなさに呑みこまれたいとすら、ディ・ス・コは思った。
このままずうっと見ていたいと、ディ・ス・コは思ったほどだった。叶うことならば、ずっと、そのまま……。

ディ・ス・コは何も言わなかった。ただDIOが彼を見つめていることが、たまらなくうれしくて、彼の心は大きく震えた。
その震えは今まで感じたどんな震えよりも大きな震えだった。どんなに人生で幸福だった時よりも、どんなに生涯で嬉しかった記憶よりも……。


奇妙な安心感が男を包む。ディ・ス・コは息を漏らすと、そっと瞳を閉じた……。





383 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:39:00 ID:HIANix1k
またNGワードでひっかかりました……なんでだろう……

―――――

「DIOさま……」
「期待しているよ、我が部下ディ・ス・コよ……」

勿体のないお言葉……、と言い放たれた言葉を最後に男の姿は闇に紛れ、そして扉を閉めるような音が微かに響いた。
DIOはしばらくの間身じろぎもしなかったが、やがて面白くもなさそうに鼻を鳴らすと、彼は椅子に深く座りなおした。
どうやら男の興味は既に次のものへと移っているようだった。先ほどとは違って、部屋には新たな緊張感が満ちていた。
見知らぬ誰かを探るような、警戒心に近い緊張感。DIOはそのままの姿勢でじっとしていて……そして不意に笑い声を洩らすと闇に向かって囁いた。

「いつまで隠れている気だい?」

それを合図としたように、ぬっと姿を露わにした男が一人。

「短い間に随分とお行儀が悪くなったじゃないかい、マッシモ」

からかうような言葉に返事もせず、マッシモ・ヴォルペは無言のままDIOの正面の席に腰かけた。
表情は硬く、顔は白い。DIOもしばらくの間は笑顔を浮かべていたが、そんな彼の様子に笑いをひっこめると、彼の顔をじっと見つめた。
二人は長いこと話さなかった。ヴォルペを落ち着かせるように、DIOは彼の膝に手をやると、そっと優しく撫でてやった。
まるで子供をあやす母親のような仕草だった。ほどなくして、ヴォルペが重々しく口を開いた。

384 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:42:02 ID:HIANix1k
NGワードでひっかかったので小刻みに投下してきます

―――――


「今、俺はこの場で死んでもいいと思ってる」
「それは何故?」
「俺の心に安心は存在しないからだ。二度と、俺の心に安心が吹くことはない」

385 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:49:30 ID:HIANix1k
DIOは/問/い/か/け/る/様/に/彼/の/眼/を見た。

386 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:50:14 ID:HIANix1k
ヴォルペは黙って首を振り、その白く濁った眼で彼を見返した。
吸血鬼の彼もゾッとしない、何も見ていない眼を彼はしていた。
ふむ、と唸り声をあげDIOは顎を撫でる。そして腕を伸ばすと、躊躇いなくヴォルペの首元へとその鋭い指先をのめりこませていった。

DIOはヴォルペの血管を指先でつまんだまま動かなかった。青年もまた、動かなかった。
ほんのわずか、どちらかが身体を傾けでもすれば大動脈はかっ切られ、その男は死ぬだろう。
すぅ……と裂けた皮膚から一滴だけ血が流れ落ち、首筋に赤いラインを描いていく。
同時に俯むき具合の彼の頬に、幾筋もの涙が下りていくのをDIOは見た。

静寂の中、二つの液体だけが滴る音が響いた。涙と血。青年は泣き、血を流した。


DIOは首元から手を離した。それは長い長い沈黙の後のことだった。その間もヴォルペは泣き続けていた。音もなく、男は涙していた。
吸血鬼は立ちあがるとぶ厚いカーテンを閉めた窓際に寄りかかり、男に向かって言い放った。

「すまなかった。君を侮辱することになってしまった」
「……別にかまわない」

ヴォルペは本気だった。本当に心の底から死んでしまってもいい、と思っていた。
深い深い絶望が彼を襲い、すさんだ感情が彼を覆っていた。DIOはそれを肌越しにも感じ取った。彼の涙を見て、それを理解した。
青年の深い悲しみと、失意、そして虚無感が本物であり、自分がその事を疑ったことを恥じた。DIOはそっと視線を自らの足元へと落とした。

387 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:50:42 ID:HIANix1k
ヴォルペの頬を伝う涙は追悼の涙だった。一人の少女と一人の老人を想う涙。
彼と彼女がくれた安心。それが二度と戻ってこないと改めて突きつけられたのは辛かった。
一度失って、もしかしたらこの地でもう一度得ることができたかもしれなかっただけに、その辛さはより鋭く、彼の心をえぐっていた。
死んでもいいと言ったのは本当だった。何もかもが空っぽに思えた。
自分にはなにもないし、なにもわからない。わかっていない。
分かり合える時があったはずだったのに、それがわかった時には全て失った後だった。いつも、そうだった。

ヴォルペはうな垂れた。涙はとめどなく流れていた。
そうやって感情が収まっていくと、ようやく自分の正直な気持ちがわかってきて、そこにたどり着くまでにまた随分と時間がかかる自分に嫌気がさした。
暴発的に誰かに殴りかかり、感情的に心許せる男の前で涙し、そうしてようやく自分の気持ちに気づく。
ヴォルペの固く閉じた唇から言葉が零れ落ちた。それは紛れもない、彼の本心だった。

ただ……、どうしようもなく……

「虚しいんだ」

ヴォルペは虚しかった。自分の生きている意味がわからなかった。どうしようもなく自身が空っぽに思えた。
DIOが言っていた幸福も、不安や恐怖も安心も、全部が全部自分にはもはや関係ないもののように思えて辛かった。
自分はどこにも属せない様な強い疎外感が彼を包んでいた。そして、だからこそ自身が唯一安心感を覚えた麻薬チームがどこまでも懐かしくて、愛おしかった。
それが全て終わったものだと知っていても、それを懐かしめれるほどに、彼は強くなかった。ヴォルペには彼を支える今がなかった。

虚しかった。本当に虚しかった。
壊れたオルゴールのように、その言葉をヴォルペはただいたずらに繰り返した。

DIOはじっとヴォルペを見つめていた。彼はゆっくりと立ちあがり、また元の肘掛椅子に座った。
ヴォルペの真正面に位置する椅子だ。男は青年を落ち着かせるように、そっと彼の背中に手を置き、ヴォルペの気が済むまでそうしていた。
やがて青年の心がすっかり平静を取り戻したころ、DIOはゆっくりと口を開いた。

「なぁ、マッシモ」

青年はゆっくりと顔をあげる。DIOは彼の眼を覗き込みながら、話を続ける。

388 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:51:35 ID:HIANix1k
「あるところに男がいた。
 その男は容姿に優れ、素晴らしい運動神経と優れた知性を持ち、比類なき勇気と判断力を持っていた。
 それだけでなく高潔な人間性、熱い情と強い正義感を持ち合わせていて、おまけに有り余るほどの金を持った財団とのコネがあり、更に先祖をたどれば高貴なるジョースター家直属の血統付きときたものだ。
 更に更に彼、空条承太郎はこのDIOと同じタイプのスタンド、同じ能力を持っている。
 ヤツが願うことはないだろうが……うまく立ち回れば世界を制することもできるかもしれない。
 いや、そう願わなくても、ある程度はヤツを中心として自然と世界は回るだろう。きっとこのDIOを打ち倒した後の世界でな」
「……打ち倒した?」
「ああ、そうだとも」
「君が、敗北した相手なのか。その……空条承太郎という男は」
「正確に言えば、“ある世界”では“敗北しうる相手”と言い直させてもらおうか。
 “この”DIOにとってはそれは未来に起こり得ることなので何ともいいかねることだ」
「とても信じられないな」
「私もさ、マッシモ」

DIOの口元には薄く妖艶な笑みが、貼り付けられたように浮かんでいた。
ヴォルペはその笑みから目が離せなくなっていた。その笑みにの裏には灼熱に燃え上がる何かが潜んでいることを、彼は感覚的に理解した。

「そんな全てを手にして空条承太郎という男だが……きっとヤツは今嘆いてる事だろう。慟哭していることだろう。悲しみに打ちひしがれていることだろう。
 言うなれば、ヤツの屈辱的喪失初体験ってところかな……? フフ……!
 空条徐倫……やつに姉や妹がいないことは把握している。母の名は知っているが、その名は既に放送で読み上げられている。
 となるとこの女はヤツの妻か、娘と言ったところか……。どっちにしろ、母を亡くした男にとっては手痛い損失だな……!」

話がどこに向かっているのかわからない。いきなり持ち出された男の話に混乱するヴォルペ。それを察したDIOは丁寧にもう一度その男の話をした。
空条承太郎。その男と彼の血縁。繰り返された話を整理するうちに、ヴォルペもいつしか冷静さを取り戻していた。
涙は止まり、呼吸は整い、今しがたまで荒れていた青年はいつものように冷静な面持ちで彼の話に耳を傾ける。

大きく頷くと、ヴォルペの頭の中ではおぼろげながらに男の存在が像として浮かび上がり始めていた。
なんとも凄まじい人生を歩んできている男だ、とヴォルペは思った。
同時に、羨ましいとため息がこぼれ落ちた。どれほどの充実感、安心感を彼はその手でつかみとってきたのだろう。どれほどの満足感を、彼は築き上げてきたのだろう。
ヴォルペが決して成し遂げられないことを成し遂げれるその男が眩しかった。自分と対極的だとそれがわかり、冷えた心にチクリと痛みが走った。

DIOは気の毒そうに顔を歪めていた。ヴォルペのことを心から同情するような顔をしていた。
青年が顔あげれば彼は慈愛に満ちた頬笑みを浮かべ、励ますようにこう言った。

「不公平だと思わないかい、マッシモ」

一瞬何を言っているのかわからなかった。ヴォルペは不公平という言葉を繰り返し、DIOはその言葉に頷いた。

389 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:52:14 ID:HIANix1k
「君のように不運を掴まされ、不幸な人生を味わい、虚しさに身を縮めている一方で全てを手にしていた男がほんの少しの喪失で君と同じ感情を覚えているんだ。
 君が望んでも得られなかった幸福感をそれこそ山ほど持っていた男が! ほんのちょっぴりを失っただけだというのに!
 ついこの間まで人生を大いに謳歌していた男と、この世全ての不幸を一身に背負っていたような男が同時に失い、しかしどちらも身を引き裂かれたような痛みを嘆くのだ。
 こんなおかしなことはないと思わないかい……?」

じんと頭が痺れるような感触をヴォルペは覚えた。
目の前で淡い光がちかちかとちらつき、眩暈を感じた青年は椅子の中で身を固くする。

不公平。確かにそうだと思った。実際にヴォルペは空条承太郎を妬んだ。羨望した。ずるいとすら思った。
そしてその彼が今自分と同じ失望感に沈んでると考えてみると……不思議と心が揺れた。
それはとても奇妙な感覚だった。

暗く閉め切った部屋の中に浮かんだ二人の影が歪な形に膨らんでいく。
ヴォルペの中で、虚しさ以外の感情が次第に大きく首をもたげ始めていた。


「DIO……俺は」


男は何も言わなかった。ただ彼の顔には艶やかな邪さを秘めた、含み笑いが浮かんでいた。
それは、何も言わずとも君の言いたいことはわかるよ、と言わんばかりの表情だった。
男は椅子から立ち上がり、部屋から出かけの途中でヴォルペの肩に手を乗せこう言った。

焦ることはない、自分の気持ちに戸惑うことは誰だってある。じっくりと時間をかけて自分と向き合う時間が誰だって必要なのだよ、と。

いとおしむように最後に頬を包んだ彼の手の温かさが、ヴォルペは忘れられなかった。
DIOが部屋を後にする際、扉を閉めた音がこびり付いたように耳から離れない。
ヴォルペはしばらくの間石のように動かなかった。ようやく動けるころになると、彼は立ち上がり、男がずっと座っていた椅子に目をやった。
まるでそこに空条承太郎という名の男を創り出そうとするかのように、彼はずっとそこを見つめていた。

ドクドクと心臓が鼓動をたてる音が聞こえた。身体を包んでいた無力感、虚しさはもう薄れていた。
かわりに新しく芽生えた“何か”が、怪しいばかりの生々しさを訴えていた。だがその何かが、今のヴォルぺにはわからなかった。

結局自分は何もわかっていない。自分のことも、仲間たちのことも。そして……DIOのことも。


「知りたい」


そうヴォルペは呟いた。自分が今抱いている感情が一体何なのか、どうなるのか、そしてそれをどうすればいいのか。
同じ無知でも今はそれは絶望の無知ではなかった。DIOが与えてくれた新しい無知、興味だった。
ヴォルペは椅子に腰かけたまま、そっと頬に手をやり、そしてそれを薄暗がりの灯りに透かしてみた。

「空条承太郎、DIO、そして俺自身……」

室内の淡い灯りが青年の細い影を長く落としていた。影に紛れて、彼の表情は伺えない。
最後に呟いた言葉は、誰一人も耳にすることなく、やがて暗闇吸い込まれ、消えてしまった。

390 ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:52:52 ID:HIANix1k
【E-2 GDS刑務所 外/一日目 午前】
【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康。肉の芽
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOさまのために、不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。


【E-2 GDS刑務所1F・女子監周辺一室/一日目 午前】
【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:携帯電話、ミスタの拳銃(5/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面
    リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、不明支給品×0〜3
[思考・状況]
基本行動方針:帝王たる自分が三日以内に死ぬなど欠片も思っていないので、いつもと変わらず、『天国』に向かう方法について考える。
1.しばらくはヴォルペを一人にする。その後は……?
2.マッシモとセッコが戻り次第、地下を移動して行動開始。彼とセッコの気が合えば良いが?
3.プッチ、チョコラータ等と合流したい。
4.『時空間を超越する能力』を持つ主催者を、『どう利用する』のが良いか考えておく。
5.首輪は煩わしいので外せるものか調べてみよう。
[備考]
※『ジョースターの血統の誰か(徐倫の肉体を持ったF・F)』が放送中にGDS刑務所から逃げ出したことは、感じ取りました。
※参戦時期はJC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間でした。
※時間軸の違いに気づきました。
※余分な基本支給品×4(内食料一食分消費)は適当な一室に放置されてます。
※ディ・ス・コから情報を聞きだしました。

【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:疲労(小)、空条承太郎に対して嫉妬と憎しみ?、DIOに対して親愛と尊敬?
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい。
1.空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい 。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。

391神を愛するたち男たち   ◆c.g94qO9.A:2012/12/01(土) 21:57:49 ID:HIANix1k
以上です。誤字脱字いろいろありましたら指摘ください。
作品名は 062話「神に愛された男」 よりです。
ラジオ楽しいです。嬉しいです。もっと頑張ります。

392 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:08:40 ID:jyE6INkw
タルカス、イギー
投下します

393 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:09:19 ID:jyE6INkw
 あたたかな陽光が街路をてらしてゆく。
 生命の素晴らしさの象徴のようなその光は、シンガポールホテルの前にうずくまる男の、熊のような巨体も柔らかく包みこんでいた。
 つ、と、男の頬にひとすじの光がはしる。


――メアリー様がこのような場所におられなくてほんとうに良かった。


 タルカスは泣いていた。
 死亡者として読み上げられた中にも、そして名簿にも、敬愛した主君の名は存在しなかった。
 それだけで、こころが慰められたことを男は実感していた。
 『死者の蘇り』などということがほんとうに起きうるのならば、ふたたび彼女を失うこともありえたのだ。
 わが主君への辱めを一度ならず二度までも許してしまったならば……、きっと、世を怨まずにはおれぬ亡霊のように成り果てていただろう。
 さきほど死闘を演じた、戦友ブラフォードのように。

 もし……、とタルカスは考える。
 メアリー様がこの場所におられたとしたら、メアリー様だけを救うため、ほかの参加者すべてを殺すと決心していただろうか。
 たとえ彼女が涙ながらに引きとめたとしても、俺はスミレを殺していただろうか。

 彼のかたわらにはすでに事切れた少女が眠るように座していた。
 固くとじられたまぶたの先のこまやかな睫。、ふっくらとしたくちびる。すべらかで、冷たい頬。
 タルカスの大きな左手が、その手ですっぽり包みこんでしまえるほどの大きさしかない少女の頭を撫でる。
 彼が敬愛する主君がこの場にいたらという『もしも』が存在しないように、スミレと出会わなかったらという『もしも』もタルカスには存在しなかった。

「スミレ、お前がいう『人間離れした力を持ってしまった』友人が、人のこころを失っていたのならば、どうしていた?
 お前はそれを考えたことがあっただろうか」

 返事はない。男は自分がはっした言葉を噛みしめるように目を細めた。
 スミレを殺した誰かが憎い。こんな無力な少女を殺し合いの場に放り込んだ誰かが憎い。
 タルカスの胸中のほとんどを占めるものもまた怨みだった。
 手近に置いた槍の穂先が血を求めるようにギラリと光る。

 すべて殺してしまえばいい。
 神はお前などには微笑まぬ。
 求めるままに破壊しつくせばいい。
 主君が、スミレが微笑まぬとも、お前の渇きは満たされる……。

394 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:09:51 ID:jyE6INkw

 ため息とともにタルカスは目を閉じた。

 スミレの瞳は未来を見つめていた。
 無力な少女が、怖気もなく、明日を夢見ていた。
 彼女がいたからこそ、スミレの友人である少年は人のこころを失わずにすんだのだろう。

――スミレ、俺は……

 彼は戦友を愛していた。
 息を吹き返した人としてのこころが、戦友を救わなければならないと確信していた。

――ブラフォード、わが戦友を殺す。
――メアリー様への愛ゆえに、やつを放置するわけにはいかないのだ。

 そっと、タルカスの無骨な指がスミレの首輪をなぞった。
 手首のようにほっそりとした首にまわされた首輪は固く、冷たい。
 せめてこのくびきから解放してやりたいと思った。
 だが、この首輪が爆発でもしたら……。
 逡巡し、やがて、タルカスは手をおろした。
 首輪が爆発すれば、タルカスもまた無傷ではすまされない。
 さきほどのブラフォードとの交戦ですでに身体は悲鳴をあげている。
 必ずブラフォードを救わんと決するのならば、無駄なリスクは犯すべきではない。
 決意を無為にする行為こそ、恥ずべきことだ。そう、彼は信じた。

「むっ……?」

 ふと、違和感を覚えた。
 いやに低い位置から自分を凝視している視線を感じる。
 見やれば、道のむこうから一匹の犬が、こちらを黙って見つめていた。

 無力な少女ばかりでなく、犬まで。
 そう思ったところで、タルカスはスミレの言葉を思い出した。
『猿の化け物みたいな、怪物』
『悪人に改造され人間離れした力を持ってしまった少年』
 この犬も猿や少年と同じように改造された特殊な犬なのかもしれない。

 タルカスの左手が槍をつかむ。
 犬はおかまいなしにこちらに向かって歩いてくる。
 タルカスが油断なく立ち上がった。犬に対して槍を構える。

「犬公ッ、言葉が通じるとは思わんが聞けいッ!
 貴様が哀れな改造犬だろうと俺には勝てんッ!
 腹を空かせて来たのだとしたらもってのほか、肉塊となる前に消え失せいッ!」

 犬の動きが止まった。
 利口そうな瞳で、ただタルカスを見つめている。

395 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:10:18 ID:jyE6INkw

「あっちへ行けと言っているのだッ!!」

 声を張るタルカスを見上げながら、クーン、と犬が鳴いた。いかにも寂しそうに。
 タルカスの顔に動揺が走る。
 その隙に、犬はいかにも慕わしげな様子でスミレのもとへ駆けていった。

「こ、こら……!」

 追い払おうとするタルカスの声色にさきほどまでの覇気はない。
 まさか、ほんとうに、ただの犬? という疑念がタルカスの胸中を支配し始めていた。
 クーン、もう一度寂しげに犬が鳴き、スミレの頬をなめ始めた。
 涙の痕をかき消そうとでもするかのように。
 いかにも、スミレの死を悼むように。

「お前は、人の死を悼む気持ちを、理解しているのか……?」

 ワン、と犬が吠えた。
 そうだ、と答えているようにタルカスは感じた。
 槍を引き、しげしげと犬の身体を検分し始めたタルカス。
 犬の首の短いゴワゴワした毛に見え隠れする、血で汚れた首輪に気付き、哀れみに、その眉根がよった。

「お前もこの殺し合いに巻き込まれているのか……」

 犬の前足がじれったそうに首輪をかく。
 この邪魔な首輪はなんだ、はずしてくれ、といわんばかりである。

「すまんな、犬公よ。
 あいにくだがお前のように無力な生き物でも、元いた場所に戻してやるのはあいかなわぬのだ。
 だが、いずれはこの殺し合いの主催者とやらを滅してみせる。
 そうすればお前はふたたび自由の身となれるだろう」

 犬ははじめ、なんのことですか? といった表情で首をかしげていたが、タルカスの力強い宣言を聞くと、嬉しそうに一声鳴いた。
 タルカスの顔にはじめて笑みが浮かんだ。
 それは一瞬でかき消されてしまいそうな儚い微笑だった。
 
 タルカスの巨躯がスミレの小さな身体を抱き上げる。その身をこれ以上損ねる者があらわれないようにするために。
 その後ろを、小さな影が追った。



   *   *   *

396 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:10:48 ID:jyE6INkw



(やっぱ人間って単純だぜッ
 ちょっと感傷的になってるやつは特にな)

 『犬公』ことイギーはタルカスに付き従いながらケケケと笑った。

(ちょっとオリコーで純粋なフリをしてりゃあコロっと騙されちまうんだもんな。
 見たとこ、正義感の強いおっさんが無力なガキを助けようとして失敗したって感じだったな。
 ご愁傷様、お嬢ちゃんよう。おかげで俺が楽できるぜ)

 放送でポルナレフの死を知ってなおこの態度。
 それも致し方ないことだろう。
 彼はジョースター一行に仲間意識を芽生えさせる前の彼なのだから。

(このおっさん、すでに重傷を負ってるところが気になるっちゃあ気になるが、囮か、最悪弾除けくらいにはなってくれることを期待しとくぜ)


 正義感も、危機感も、いまだこの『愚者』には存在していない。





【C−4 シンガポールホテル/一日目 朝】

【タルカス】
[能力]:黄金の意志? 騎士道精神?
[時間軸]:刑台で何発も斧を受け絶命する少し前
[状態]:疲労(大)、全身ダメージ(大)、右腕ダメージ(大)
[装備]:ジョースター家の甲冑の鉄槍
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ブラフォードを救い、主催者を倒す。
1:ブラフォードを殺す。
2:主催者を殺す。


【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:首周りを僅かに噛み千切られた、前足に裂傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1:ちょっとオリコーなただの犬のフリをしておっさん(タルカス)を利用する。
2:花京院に違和感。

397 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/06(木) 17:12:45 ID:jyE6INkw
以上で投下完了です。
誤字脱字矛盾等ございましたらよろしくお願いします。

やっぱり規制中です。規制多すぎません?
どなたか代理投下をお願いします。
タイトルはwiki収録までに考えておきます。

398Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:48:16 ID:mX4RIBk.
そして、彼にとっての最大の幸運。
それは隣を歩く青年、橋沢育朗と出会った時期がベストなタイミングで会ったこと。

もしも育朗と放送直前に出会っていなっかったら、嬉々として人を殺して回っていた時期に出会ったら。
彼の持つ邪悪の気は橋沢育朗にとってのトリガー。秘められた力を引き出すためのスイッチ。
仲間を喪った怒りと悲しみのみで攻撃を加えたからこそ、育朗も激情に燃えるビットリオに対して説得を行おうとしたのだ。
邪悪な気配が混ざっていなかったからこそ、橋沢育朗はバオーに変身して戦うことを選択しなかったのだ。
麻薬の禁断症状により思考を奪われたこともプラスに作用している。
考えることができなくなってしまえば、さしものバオーであっても本質を見ぬくことは不可能なのだから。
バオーと万が一戦う事態になってしまった場合、断言できる。
彼の命はなかったと。
『ドリー・ダガー』の弱点は複数あるが、バオーとの相性は最悪と言っても良い程のものである。
足がもがれようとも容易く癒着させるような回復力を持った相手に対し、自身の負ったダメージの7割を転嫁する程度のことが如何に不毛であるのかは想像に難くない。
だからこそ、本性がバレる前に彼の側から逃げ出せたというのは幸運であったという他無いだろう。

幸運は幸運を引き寄せる、そう感じた事のある者も多いのではないだろうか?

当然、無限に続く豪運などという夢物語を信じるものは少ないだろう。
しかし、今のビットリオはまさにこの状況。
続いている幸運によって4人もの参加者を殺害しながらも、状況は一向に悪くなることがない。
ならば彼が怪物から逃げ去る際、無意識に手にしていた育朗のディバッグの中、エニグマの紙に収められていた支給品の中に彼の最も望むものが入っていてもおかしくはないだろう。
そう、人を狂わす禁断の白い粉末が入っていようとも。


だが、何時まで続くかも分からぬ幸運しか持たぬこの少年は、誇りすらも持つことが出来ないこの少年は勝者たりえるのだろうか?
ビットリオ・カタルディは、果たして何かを掴み取ることが出来るのだろうか?
幸運にまみれているはずの彼はある意味では最も不幸な人間なのかもしれない―――――。




【C-5 地下/ 1日目 午前】

【ビットリオ・カタルディ】
[スタンド]:『ドリー・ダガー』
[時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから)
[状態]:全身ダメージ(ほぼ回復)、肉体疲労(中〜大)、精神疲労(中)、麻薬切れ
[装備]:ドリー・ダガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済)、マッシモ・ヴォルペの麻薬
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ
0:ヤクが切れているのでまともな思考が出来ない。目的地も不明瞭
1:兎にも角にもヴォルペに会いたい。=麻薬がほしい
2:チームのメンバーの仇を討つ、真犯人が誰だかなんて関係ない、全員犯人だ!
[参考]
1:彼の支給品はバイクとともに置いていかれました。
  現在持っているのは橋沢育朗のディバッグに入っていたものです
2:名簿を確認しましたが、自分に支給されたものは持ってきていません
3:行動の目的地は特に決めていません。というよりも考えられません






☆  ★  ☆

399Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:49:30 ID:mX4RIBk.
 


「博愛精神に目覚めて人間気取りってか? 笑わせちまうな、おい。
 いくら人間のふりをしてても分かっちまうもんなんだよこの"怪物”が」


常人を遥かに超えた筋力を持つ自分の更に上を行く剛力。
古代の拳闘士が現代にやってきたかのような装い。
敵意とも殺意とも違うもう一つの『匂い』が気になったが、それは置いておく。
僕は確信した。
眼の前に立つ相手はカーズ達と同様の存在であるのだと。
そして彼は言った。
「怪物」と。
そう言った。僕のことをそう呼んだ。
違う。
否定せねばならない。
これだけは認める訳にはいかない。
友のことを思い出す。
それだけで不思議と体に力が湧いた。
震える腕で体を起こす。
ろくに動かぬ足でゆっくりと立ち上がる。
男が驚愕に目を見開いた。
構いはしない。
そんなことは関係ない。
やらねばならぬことはたった一つだけ。



確信を込めて、力いっぱい育朗は叫ぶ。





「違う、僕は……人間だ!」

400Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:51:04 ID:mX4RIBk.
 

育朗がまだ動けたことに僅かに驚いた男も、彼の言葉を聞くと同時に口の端を皮肉げに歪めた。
逃したヤク中の少年など即座に頭から飛んでいく。

「諦めな、てめぇは既に怪物なんだからな。
 気持ちはわかるぜ? 人間であることに縋りたいってのはな。
 だがもう一度言うぜ、諦めな。もう無理なんだからよ」

今から彼が行うことに意味など無い。
言うならば只の憂さ晴らし。
吐き出す相手の居なかった苛立ちを晴らすための行動。
同じ立場で諦めていない青年を無性に壊したくなった、ただそれだけ。
だが、それでも彼は抗う。

「なんどでも言ってやる! 僕は人間だ!」
「ほぅ、根拠もないのにか? 誰に聞いても今のテメェは化物って言うぜ?」

男の笑みが更に広がる。

「根拠なら、ある」
「ほぅ、強がりかどうかしらねぇが言ってみろよ」

育朗が強く拳を握り締める。
思い出すのはあの感触。
強く握りしめられた掌の温もり。
拳を顔の前に突き出し、育朗は言葉を紡ぐ。


「友が……いや、ダチが僕を人間だと言ったんだ」


二カッと笑みを浮かべたダチの姿が目の前に浮かぶ。
彼の、虹村億泰のかけた言葉が一字一句違わずに耳から聞こえる。
『だからお前も人間だ。 頭がワリーから上手く言えないけど俺はそう思ってる』
育朗の心に勇気が満ちる、なおもふらつく体に力が滾る。
この言葉を嘘にはしない。
たとえ絶大な力を持った男を前にしたとしても。

「それだけか?」
「ああ、それだけだ。たった一つの言葉でしか無い。
 だが億泰君は笑いながらお前は人間だと言ってくれた。
 同情でも哀れみでもなく心の底から僕を人間と呼んでくれた。
 それだけで十分だ」

数時間も行動にしていない人間のたった一つの言葉。
ただそれだけ。
ただそれだけのことだというのは育朗自身も理解している。
しかし、それがなんだというのだろうか。
育朗の瞳は確かに前を向く。
黄金の煌きをたたえながら。

401Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:52:11 ID:mX4RIBk.
 

「気に食わねぇ」


育朗の耳にギリギリで届くか届かないかの呟き。
ここに来て男が初めて苛立ちを見せた。

「てめぇのダチみたいな物好きがどんだけいると思ってんだ?
 他の連中はきっと皆が皆テメェを化け物だって呼ぶぜ」
「それでも、誰に化け物と言われようと僕は、僕と億泰君だけは僕が人間だと信じ続ける!
 億泰君が信じた僕が僕を信じる、だから僕は人間なんだ!」

なおも本心を抑え嘲るような態度を崩さない男。
なおも男の言葉に抵抗を続ける育朗。
頑として譲ろうとはせぬ二人のにらみ合いが続く。
が、男の堪忍袋の緒がついに切れる。
クソと小さく毒づくと同時に全身の血管が浮かぶ。

「だからてめぇのその根拠もクソもねぇ考えが一体なんだって言ってんだよ!」

嵐のような咆哮が地下道の大気を大きく震わせた。
常人ならそれだけで殺せそうな威圧感という名の暴風を浴びながらも育朗は男を睨む。

「てめぇも億泰ってやつ正気か? お前みたいなのが本当に人として生きていけると思うか?
 断言してやるぜ、怪物の体はいつか誰かを殺しちまうな、ああ断言してやるよ。
 甘ったれは知らないかもしれないがな、手加減しても人の体なんて簡単に崩れちまうんだぜ。
 ああそうさ、どうやってもあっけなく死ぬんだよ人間なんてな。だったら怪物として生きるしか無い、違うか?」

感情をすべて吐き出すような、すべてを叩きつけるようなそんな叫び。
だが、育朗は男の叫びに違和感を感じた。
それはまるで自分自身の体験かのようで、自分自身に言い聞かせてるかのようで。
男から感じていた謎の匂いの正体。その片鱗を理解した。

「もう一度言ってやるよ。俺たちはもう戻れないところまで来ちまったんだ。
 どうしようもねぇんだよ、ああ、クソッタレ!」

"俺たちは”
決定的な言葉。
育朗の浮かべていた表情が険しいものからハッとしたものへと転じる。
男が苦々し気な表情で舌を打つ。

「チッ、余計なことを言っちまったか」
「あなたも……なんですね」

目の前に立つ男が抱えている闇。
それはこの殺し合いに呼ばれた直後の育朗が抱えていたものと同様のもの。
理解した。理解することができた。

「ああ、下らねぇ話もここで終わりだ。最終通告だ、どきな。
 さもなくば……殺すぞ」

今までの物とは質が違う殺意が育朗を襲う。
一瞬も怯むこと無く重厚なそれを正面から受け止め、彼は考えた。

402Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:53:18 ID:mX4RIBk.

  





目の前で荒ぶる彼は億泰君に出会えなかった僕なのだと。
行く先のない迷いや苦悩を諦めることで片付けてしまったのだと。
だから、そう、だから。

「あなたに人を殺させるわけには……いかない!
 ここで僕が、止めてやる!」

僕の言葉と同時に飛んできた豪腕。
屈むことによって辛うじて避けることが出来た。
そして同時に飛んでくる顔面を狙う蹴り。
横に転がることでこれも回避。
頬が切れ血が流れるもその程度は気にしていられない。

圧倒的な身体能力の差。
躱すだけでは勝てない、いや、躱し続けることすら出来るかわからない。
どうすれば、いや、分かっている。


彼を止めるためには僕も変身しなければならない。


だが、意図的にコントロール出来ないこの力では。
制御のきかないこの力では。
……彼を殺してしまうかもしれない。

それでは駄目なんだ。
殺すんじゃない、それに止めるんじゃない、彼を……助けなければならない。

『恐怖をわがものとせよッ 怪物よッ!』

突如脳裏に過ぎった重低音。
ホテルで戦った男からの忠告。

『恐怖をわがものとせよッ 怪物よッ!
 今のお前は何物にも成れん、哀れな生き物でしかない。
 何のために戦うのだ? 誰のために戦うのだ? 誇りを持たぬ戦いなんぞ、犬のクソに劣っておるわッ』

403Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:54:18 ID:mX4RIBk.
 
誰のため、何のために戦うのか。
僕はまだ決めかねていた。
この殺し合いを止めるため? 人々を助けるため。
そうだ、それも大事だ。
けど、けど今僕がやらねばならぬのは、僕の戦う目的は。



「僕が、僕があなたを人間だと信じる! だから……」




眼の前にいる男を止めることだッ!彼の手を差し伸べることだッ!
何があっても彼の手を握ってみせる。
逃げようとも暴れようとも彼の手を握りしめて絶対に離してなんかやるものか。
ダチが教えてくれたこと、今度は僕が彼に教えるんだ。
僕の力はこのためにある!



だから……。



僕は僕の中の怪物を制御してみせる。
僕は人間なのだから。
僕のことを信じてくれるた人間がいるのだから。
そのために恐怖を克服してやる!
怪物を克服してやる!





「あなたも自分が人間だと信じてくれ」




さぁ、僕に力を―――――貸せ!!!

404Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:54:55 ID:mX4RIBk.
  


バル
      バル      バル
     
   バル     バル
 
 バル   バル     バル
 
    バル            バル



体が作り変えられていく感覚の中、スミレと億泰君が笑っていた。
「よく言ったわ育朗」「よく言ったじゃねぇか育朗」二人してそう言って笑った。
そんな気がした。



億泰君、スミレ……ありがとう




バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル
バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバル





バオーは、いや、橋沢育朗は思った。

目の前の男から発せられている嫌なニオイを消してやるッ!
強く感じられるこの"悲しみ”のニオイを消してやるッ!

405Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:55:48 ID:mX4RIBk.

【D-5 地下/ 1日目 午前】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中。全身ダメージ大(急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:億泰君、ありがとう。スミレ、ごめん。僕は僕の生きる意味を知りたい
1:眼の前にいる男の悲しみのニオイを消す
2:それが終わったら少年(ビットリオ)を追う
[備考]
1:『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました
2:名簿を確認しましたが、育朗が知っている名前は殆どありません(※バオーが戦っていた敵=意識のない育朗は名前を記憶できない)
3:自身のディバッグはビットリオに取られましたが、バイクの荷台に積んであったビットリオの支給品はそのままです
  ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、基本支給品、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
4:バイクは適当な位置に放置されています


【レオーネ・アバッキオ】
[スタンド]:『ムーディー・ブルース』
[時間軸]:JC59巻、サルディニア島でボスの過去を再生している途中
[状態]:健康
[装備]:エシディシの肉体
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:護衛チームのために、汚い仕事は自分が引き受ける。
1.目の前の男を倒す?殺す?
2.殺し合いにのった連中を全滅させる。護衛チームの連中の手を可能な限り、汚させたくない。
3.全てを成し遂げた後、自殺する。
【備考】
※肉体的特性(太陽・波紋に弱い)も残っています。 吸収などはコツを掴むまで『加減』はできません。

406Wake up people! ◆m0aVnGgVd2:2012/12/08(土) 22:56:13 ID:mX4RIBk.
投下完了です。
代理投下してくれている方、本当に有難うございます、感謝です

407 ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:11:17 ID:RqD87gqo
うっかり投稿ボタン連打したのかいきなり規制食らったんでこっちで投下します
手の開いてる方がいらっしゃれば転載おねがいしますね

408タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:13:54 ID:RqD87gqo
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体の主導権をよこせ。
怪物がそう囁く。
力いっぱいに拒絶する。
明け渡してなるものか。
奪われてたまるものか。
たった一つ残された意志をくれてやるわけにはいかない。
心の中、自分と怪物だけに聞こえる声で抗った。
尚もしつこく迫る怪物。
思わず持っていかれそうになる。
だが、それでも決して折れない。
己の内から怪物を消さんと強く念じる。
幾度も侵略者への拒絶を繰り返し、彼は自身を守ることに成功した。





★  ☆  ★

409タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:15:05 ID:RqD87gqo
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不思議な感覚であった。
視覚でもない、聴覚でもない、嗅覚でもない、触覚から全ての情報が流れこんでくる感覚。
未知の経験に多少戸惑う育朗であったが、目の前から感じる"におい”で即座に我に返った。
変身前よりも遥か濃厚に感じられる悲しみのにおい。
殺意のように突き刺す様な刺激はないものの、深く絡みつくようでいてどこか儚さを感じさせるにおい。
不快だった。これ以上感じていたくないものだった。
だから橋沢育朗は改めて誓う。
このにおいを止めてやると。

「ほぅ、それがてめぇの本性かよ怪物」

爬虫類のような質感をした蒼い肌。
顔の各所に無数に走るひび割れ。
額の少し上に生えた触角。
塞がれたかのようになっている左目。
見るからに硬そうな波打つ髪。
長く伸びた爪。
発達した筋肉。
人ならざるにおい。

「俺よりもずっと人間離れしてるくせに、あんなでかい口叩くなんてな」

男が嘲るかのごとく笑う。
バオー、いや、橋沢育朗はそれに応えようと口を開く。
しかし、唇から漏れたのは『バル』という意味の持たぬ言葉だけ。
この形態では喋ることができない。育朗はそのことを初めて理解した。

「来いよ怪物が。相手するのは面倒だが、邪魔されるともっと面倒だからな」

露骨過ぎる挑発。
分かっていながらも育朗の両足は激しく大地を踏みしめた。
一瞬の交錯。
突き出された育朗の右拳を男が握って止める。
男が不敵に笑った。
力任せに、無造作に育朗の体を持ち上げ、地面へと叩きつける。

小規模なクレーターが生まれた。

育朗が苦しげな呻き声を出し、僅かに血を吐く。
が、男の脚が迫ってきていることを感知し、咄嗟に両腕で防いだ。
大きく浮き上がる体。
しかし、空中で体勢を立て直す。
吹き飛ばされた先にある石壁を蹴って男へと肉薄。
油断した男の顔を思い切り拳で殴りつける。
男の体が盛大に仰け反った。
追撃を加えようとするも、嫌な気配を感じ一度距離を置く。
直後、顎のあった辺りを蹴り上げる一撃が空を切る。

「なるほど、考える頭はあるってことか」

410タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:16:18 ID:RqD87gqo
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折れた鼻を指で無理やり元の形へと戻しながら男がつぶやく。
直感に任せて避けていなければどうなっていたのか、育朗の背筋に冷たいものが過ぎった。
だが、それしきで呑まれる彼ではない。
再度両拳を握りしめ、半身を向けるような構えを取る。
武装現象が使えぬわけではない。
本能のような物でうっすらとその存在を感じ取ってはいた。
両手首から出る万物を切り裂く刀、掌から放出される全てを溶解させる酸、あらゆるものを焼きつくす毛髪。
これらの能力が自身に備わっていることは知っていた。
だが、育朗はこれらの能力を使用しない。
殺傷能力が高すぎるため男を誤って殺害してしまう恐れがあるから?
もちろんそれもある。だが違う。
拳に思いを乗せるから。友が握ってくれた掌で思いを伝えるから。
だからこそ橋沢育朗は身体能力のみを武器に男へと立ちはだかる。

「オラァ!」

今度は男が先に仕掛けた。
急接近からの腹部に対するブローじみた一撃。
体を捻ることで外側へと回避し、その勢いを殺さず裏拳を放つ育朗。
だが、男が伸びきった腕を無理矢理開くように動かし、育朗の脇腹へとぶつける。
勢いが乗ってないためダメージは少ないものの体勢が完全に崩れた。
追撃として放たれた蹴撃。
育朗の肋から砕けた音が鳴る。
息が一瞬止まる。
それでも戦意を挫かれることはない。
怪我など負わなかったかのごとく着地し、瞬時に構えを取る。

「俺を止めるって言っただろ? やってみろよ」

語気とは裏腹に一層強まる悲しみのにおい。
育朗は立ち上がる。
止めなくては。
力尽くになってしまうかもしれない。
喋れない今、心を伝える手段は拳一つ。
が、悪くない。
言葉による説得が失敗した今、伝える手段としてはこれがいい。これしかない。
折れた骨がくっつくのを感じるとともに再度仕掛ける。

「バルッ!」

咆哮と共に放たれた牽制気味のジャブ二発。
当てるだけの軽いものとはいえ、バオーの膂力を考えれば必殺の一撃。
しかし、男も並の存在ではない。
胸板に拳をぶつけられるも、そんな攻撃はものともせずに男は距離を詰める。
育朗は咄嗟に膝を上げた。
男の腹に膝の先端が突き刺さり、表情が僅かに歪む。
生じた隙を逃す真似はしない。
右頬へと育朗の拳がめり込み、盛大に男は吹き飛ばされ、岩肌に頭をぶつける。

411タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:17:43 ID:RqD87gqo
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普通ならばこれで決着がつく場面。
人間はおろか、吸血鬼ですら頭を砕かれ派手に血の華を咲かせていたであろう状況。
だが、相手の肉体はそんな脆弱なものではなかった。
超越種、柱の男のボディがその程度で壊れてしまうほど軟なものであるはずがない。

片手で頭を抑えながらも男は平然と立ち上がった。
あの一撃でも決着どころか深手にもならない。
更に気を引き締めた育朗。
だが、彼の体が一瞬硬直した。
男の瞳に宿る今までとは違う色。
依然として頭を抑えている男の瞳に薄ら寒いものを感じた。


「わざわざ待ってくれるなんて優しいこったな」

が、頭から手を離し、軽口を叩くと共にその色は消え失せる。
育朗の首元を狙って放たれる横薙ぎの手刀。
腕を上げて防いだものの、男の腕が蛇のように絡みつく。
関節を完全に無視した動き。
振りほどこうともがく育朗の腹へと男の前蹴りが入る。
一発。
二発。
三発。
男も育朗も戦闘中の人外じみた動きは半ば本能的に行なっている。
が、この蹴撃は違う。
脳の持ち主が得意としていた馴染みのある攻撃。
肉体が覚えてなくとも頭が動きを覚えていた。
育朗が血を吐き出す。
が、四発目は入らない。
脚に意識がいって力が緩んだ隙を狙って育朗が無理矢理絡んだ腕を振り払った。
そして飛んでくる足の側面へと自分の脚を叩きつける。
男の膝から骨の先端が突き出した。
バランスを崩し、倒れる男をよそに後ろへと飛び退いて距離を置く。
追撃の好機ではあるが、自身の内蔵へのダメージを考慮して回復を優先。

412タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:19:27 ID:RqD87gqo
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負傷の度合いの差か回復力の差かは分からないが先に再生が完了したのは男の方。

一飛びで距離を縮め、猛然と両腕を突き出す。
形容するならばそれは拳の嵐。
育朗もガードに専念するも、内蔵への損傷が癒え切っていない体である。
反撃の糸口を掴めないどころか、徐々に押し切られていってしまう始末。
最初は勢いが殺された攻撃、そしてそれを皮切りに次から次へと直撃する防御をすり抜けた連打。
硬質化した皮膚がある程度の攻撃は防ぐ。
だが、当たりどころが悪ければ骨折は不可避。
飛んでいく育朗の体が男の射程から離れる前に負った損傷は数知れず。


それでも彼は立ち上がる。


またしても猛追する男。
今度は距離を取ることを意識しつつ後退しながら捌いてゆく育朗。
ひび割れた骨がくっつき、折れた骨が正しい位置に戻り癒着、粉砕した骨が急速に新しいものへと生まれ変わる。
が、それも途中で終わった。
男に頭を掴まれ、そのまま岩壁へと押し付けられる。
育朗を中心に亀裂が入り、衝撃で天井からパラパラと小石が落ちた。
半ば埋まる形になった育朗に男は追撃を仕掛けようとしない。
待つこと数秒。
壁から体を引っ張りだした育朗。


それでも立ちはだかる。


まるで傷など負っていないかのように振る舞う育朗。
だが頭への衝撃が影響をもたらさないわけがない。
男の顎を狙った蹶り上げに全く対応できず、育朗は天井まで飛ばされた。
ぶつかった衝撃で洞窟内が大きく揺れ、照明が幾つか砕ける。
降り注ぐガラスのシャワーになど目もくれずに育朗を凝視する男。
しばし天井に張り付いていた彼もやがて重力に引かれて落下。
受け身をとることすら許されず、盛大に地面とキスをする羽目となった。
だが、彼は諦めない。


立ち向かう。

413タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:21:08 ID:RqD87gqo
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それはあたかも先ほど変身する前の育朗が行ったことのリピート。
傷つき、立ち上がる。
ただそれだけの繰り返し。
いくら痛めつけられようとも諦めないその姿は依然として変わることが無い。
しかし、たった一つだけ変わったものがある。
それは男の心情。
男の心中を占めるのは苛立ちではなく疑問。
諦めの人生を送ってきたと感じている彼にとっては不思議だった。
いつも途中で投げ出してきたと思い込んでいる彼にとっては謎だった。
自分は何も成し遂げられないのだと常に考えてきた彼には理解できなかった。
今までとは違う棘のない声で男は尋ねる。

「なんでてめぇはそこまでして立ち上がろうとするんだ?
 いくら一人で肩肘張ったところで他の連中どう考えるかぐらいは分かるだろ?
 諦めちまえよ。なぁ、おい。無理する必要はねぇと思うんだがよ」

何を今更。
男だって分かっている。
こんなことを言ったところで目の前の相手が折れるはずないのだと。
なのに聞かずにはいられなかった。

「無駄になるんだぜ? いくら頑張ろうとも認められなきゃ終わりさ。
 例えば誰か一認められたとしてもだ。
 周りいる人間が一人でも怪物だって言えば他の連中はそれに追従するだろうよ。
 てめぇはどう思って……そんな苦労を背負い込んでいるんだ?
 いや、答えなくていい。わかってるさ」

ああ、これもだ。
聞くまでもない。
自分が人間だと強く信じているから。
無駄になるとしても、諦めたら最初から可能性を失うから。
諦めたら終わりだから諦めない。
そんな笑ってしまうほどシンプルな解。
されど彼にとってはずっと掴みかねていた難解な答え。
男の中にある靄がわずかに晴れた。
そして生まれ来る一つの願望。

「遠慮してんだかなんだか知らねぇが本気で戦ってないってことは分かってんだぜ?
 はっ、なめられたもんだな俺も。手加減なんてやめてかかってきな怪物。
 てめぇの理想も力も無駄だって俺が教えてやるからよ」

414タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:22:11 ID:RqD87gqo
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育朗が完全に回復をしたことを確認して男はニヤリと笑う。
次の瞬間には男の姿は消える。
フェイントも牽制も一切ない正面切った渾身の拳。
胸に突き刺さったそれによりまたしても育朗が口端から血を流す。
後ろに飛ばされていきそうになる体。

が、両の足を踏ん張ってそれを堪える。

結果、数メートルの後退で育朗の体は止まった。
そして彼も派手に大地を蹴り、開いた距離を加速に利用。
お返しだと言わんばかりに固く握りしめた拳を鼻っ柱へ。
初めて見せる一切の手加減を抜いた一撃。
男の上体が派手にのけぞった。

だが、堪える。

育朗の全力は予想以上のものだが、それでも踏ん張る。
仰向けに倒れたりなどすることなく、ギリギリで体勢を維持した。
反った体を戻す勢いを利用して自身の額を育朗の脳天へとぶつける。
頭への攻撃に僅かにふらつく育朗であったが、即座に男の腹へと拳を叩き込んだ。
体が僅かに浮き、吐き気が起こるも、それを無視して同じ箇所への同じ攻撃。


ガードなど無い。
一撃貰えばそれよりも強烈な一撃を返す。
身体能力の優劣など関係ない。
勝敗を決めるのは意志を押し通すというエゴと意地。
殺意などはない。
純粋に互いをぶつけあうだけ。俺を/僕を認めろと拳で叫ぶだけ。


肉が裂け、骨が砕け、血が流れる。
二人の回復力などとうに追いつかない。
折れた腕を直せば頭に大きな裂傷が生まれる。
内出血を止めれば今度は腿の動脈が破裂する。
砕けた鼻を修復すれば脛骨にヒビが入る。
血で鈍った感覚器官を正常に働かせれば次は内蔵が血を流す。


どんな重傷を負ってもこの二人は止まらない。止められない。
言葉ではダメだった。
ぶつけあう事でしか会話ができなかった。
男が今までとの皮肉げなものとは違う笑みを浮かべた。
育朗の唇が気のせいではないかと思うほど僅かに動いた。
捻くれ者の男が感情を思う存分発散できた。
今まで本心を見せなかった男が初めて心を開いた。
だから二人は戦いをやめない。
本来ならばこのような事をするはずのない両者がひたすらに殴りあう。
嬉々としながら互いの体を傷つけあう。
いや、彼らにとってそんな考えは微塵もない。
会話をしているのだから。
ぶつけ合いにしか過ぎない不器用なものにしろ、それは確かに会話なのだから。

415タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:22:50 ID:RqD87gqo
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「まだやるか?」


血だるまとなった男が尋ねる。
当然と言わんばかりに育朗が拳をぶつけた。
育朗の返事に男は満足気に拳で返す。
怪物の体を持っていたはずの両者。
だが、その肉体にも限界は近い
丸太のごとく太くなった脚が笑い始め、小刻みに震える
無尽蔵であるはずの体力は枯渇しかけ肩で息をする始末。

「いいかげん、倒れやがれ!」

男が吠えた。
放とうとするのは体力の消耗も全身の負傷も関係ない、これまでで最高の一撃。
踏み込んだ足によって地面が沈む。
残像を見ることすら許さぬ体の捻り。
育朗が眼の前にいるはずの男の姿を完全に見失う。
風圧で髪が揺れるのを感じた。
次の瞬間。
間髪入れずに襲い来る衝撃。
心の臓が上から潰される感覚。
膝を付きそうになる。
意識が遠ざかる。
力の抜けた脚がガクンと曲がった。
が、踏みとどまる。
体に土をつけるものかと耐える。
男の口元が僅かに動いた。



「ああ、俺の負けか……」



呟いた直後、全身へと伝わる衝撃。
男の巨体が仰向けに倒れていく様をスローモーションで眺め、育朗は勝利の咆哮を上げた。
まだ説得は終わっていないのも分かっている。
自分の意見を完全に押し付けることができたわけではない事は理解している。
それでも育朗はただただ叫んだ。





★  ☆  ★

416タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:24:55 ID:RqD87gqo
.    






「分かってたさ、言われねぇでも分かってんだよ俺だってな」


そう言いながら男は上体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
今までの荒んだ空気が霧散し、男の周りに穏やかな気配が流れていることを育朗は感じ取った。
だから男と同様 構えを崩し、彼の言葉一字一句に耳を傾ける。
そして、育朗は変身の解除も行う。
バオーの状態では言葉を発そうと思えど不可。
この場では戦闘力よりも対話が必要と考えたゆえの判断。
初めて経験であるが、開始時と同様にスムーズに行うことができた。
自分の体が戻ってゆく感覚を味わいながらも男の言葉を聞き逃すまいと神経を尖らせる。

「まだ俺が人間をやめきれてねぇからこそ、こんなことを考えちまうってことはなぁ。
 だが一つだけ言ってやるぜ。この体の主食は人間だ。
 他の食いもんで代用が効くかどうかは分からねぇが、ダメだったら俺は生きるために他人を喰わなきゃならなくなる。
 いや、既に一人食っちまったんだよ俺は。人間をな。
 それでもお前は俺を人間と呼ぶか? 人食いの怪物のことをよ」

人間をやめられないからこそ、人間を喰ってでも生き延びることができない。
最後に残されたこの矜持を捨ててしまえばもはや怪物そのものなのだから。
しかし、食物を食べずに死ねなどとはそれこそ死んでも言うことができない。
育朗は理解した。
男が抱えている絶望の一端を。
それは表面上の薄っぺらい一部に過ぎないのかもしれない。
真に共感できるのは男と同様の境遇になったものだけかもしれない。
それを理解しつつ、それでも育朗はイエスと叫ぶ。
穏やかでありながらもハッキリと叫ぶ。

「ああ、僕はそれでも貴方を人間と呼ぼう。
 人を食べたと言っているけど、貴方は後悔している人だ。
 事情は分からない。だとしても命を奪ったことについて開き直れないなら、まだ怪物じゃない。
 それに、もしも人を喰わねば生きてゆけぬのなら……その時は僕の体を喰えばいい」

バオーの回復力を以ってしてもトカゲの尻尾のように切断した四肢が再生するかは分からない。
しかし、再生可能な程度に肉を抉るくらいならば幾らでも構わない、育朗はそう考える。
苦痛が伴うのも承知の上、覚悟の上。
男が感じている痛みを考慮すればそれしきの痛みを躊躇する訳にはいかない。

一瞬だけ感じた疑問。
なぜ、育朗は自分のためにこんなにも必死なのだろうか。
問いかけずにはいられなかった。
答えなどとっくに出ているのに。

「どうして俺のためにそこまでする?」
「なぜって? 僕も貴方も人間だからだ」

417タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:25:36 ID:RqD87gqo
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間髪入れず返された答え。
想定と一字一句違わぬそれに思わず苦笑が漏れる。

「言うと思ったぜ。クソッ、てめぇのしつこさには負けたよ」 

半ば吐き捨てるように喉から出した言葉。
悪態をつきながらも発した降参の言葉。
育朗の表情が綻んだ。
心底から嬉しそうな笑みを浮かべる。
男もそんな育朗へと静かに歩み寄った。
殺気も敵意も感じないため、育朗は警戒を見せない。
一メートル程まで近づいた男が自身の顔を育朗のそれの正面へと寄せる。
そして、男は育朗の双眸を凝視したまま囁いた。

「だが、最後に聞いておくぜ。もしも俺が暴走したら、どうしようもない状況になったら……殺してでも止めてくれるか?」

硬直。
男の瞳は視線を外すことを許さない。
僅かな逡巡の後、育朗は小さく首を縦に振った。
しかし、その瞳に強さはない。
肯定の意志に嘘はないのは理解できた。
が、それでも躊躇うのだろう。
男は思わず鼻で笑う。

「底抜けの甘ちゃんだぜ、てめぇ」

418タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:26:07 ID:RqD87gqo
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腹部に一撃。


崩れ落ちる育朗。


世界が黒く反転する。


肉体的な苦痛などどうでもいい。


最後に見たのはどこか寂しげな男の瞳。


それが気になるもこれ以上の思考は不可能。


石段に叩きつけられる感覚と共に完全に途絶えた意識。


ピクリとも動かなくなった青年を見下ろしつつ嘲笑の声を上げた男。





「これで邪魔も入らなくなったしなぁ。さっさとあいつを殺しに行くとするか」









★  ☆  ★

419タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:26:40 ID:RqD87gqo
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「うぅ……」

呻き声を上げながら育朗が体を起こす。
気絶する前に起きたことを忘れていたのかしばし呆然とするも、直ぐに我を取り戻し警戒態勢に入る。
男は自分を殺さずにどうしたのか。
男が見せたあの瞳は一体何だったのか。
男が吐いた言葉の真意とは。
分からないことだらけの中、辺りを見渡すと、棒立ちで立ち尽くす男の姿を見つけた。

「よかった」

育朗は思わず息を漏らす。
ビットリオの殺害に向かったのではないかという懸念が無くなったことに心の底から安堵した。
だが、ピクリとも動こうとしない男はどう見ても尋常な様子でない。
彼が何を考えているのかが一切理解できぬ育朗は恐る恐る声をかける。

「あの……」

返事がない。
それもビットリオの様に完全な無視を決め込んでいるのではなく、銅像の様に動かない男。
鍛えぬかれた肉体美もあり、その様は古代の彫刻であるかのごとき神々しさを放つ様は本当に人間離れしていると今更ながら思ったものの、今はそれどころではない。
育朗が二度目の呼びかけを行おうと手を伸ばした、その瞬間。

420タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:27:07 ID:RqD87gqo
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「あー、その、なんだ」

どこかバツの悪そうな表情を浮かべ、男が口を開いた。
敵意の欠片すら見えない事に育朗の表情がわずかに綻ぶ。
思いが通じたのだと。
今の戦いは無駄ではなかったのだと。
そんな育朗の様子など知らなかったように男は言葉を続ける。

「今から俺が喋る内容は、いや、俺が自分のスタンドに喋らせるのはいわゆる遺言ってやつだ。
 一応事情を説明しておいてやるが、俺の怪物の体はこの殺し合いで手に入れたもの。
 簡単に言えば怪物の体に奴のものと交換する形で俺の脳を移植してこんな体になっちまったんだ俺は。
 で、問題はこれからだ。
 お前が変身し始めた辺りから脳が無くなって死んだはずの怪物が囁くんだよ、『俺の体を返せ』ってな。
 俺だって抵抗したがよぉ、無理だった。
 戦ってる中で徐々に俺の脳が侵食されていく感触ってのがハッキリしてきやがるし、声もどんどん大きくなりやがる。
 だから、こいつを道連れに死ぬことを決めたのさ。そうするしかないんだ、仕方ねぇって話だな。
 幸い太陽に弱いって弱点があるらしいからな。自殺も簡単でありがたいこった」

育朗の表情が凍りついた。
男が自ら命を断つ。
理由は確かに納得できるもの。
しかし、自分の言葉は拳は無駄だったのか。
絶望の影が姿を現したところで男は言葉を続ける。

「だがな、勘違いするなよ? 俺はヤケクソを起こして死ぬわけじゃないんだ。いいか、ここは間違えるなよ?
 俺は人間である誇りのために死ぬんだ。
 おめおめ怪物にもう一回乗っ取られるなんて真っ平御免だからな。
 おっと、むしろヤツが自分の体を取り戻すってのが適当か? いや、そんな話はどうでもいいな。
 とにかくだ、もう一度言うぜ。俺は人間だからこそ、この怪物を抱えたまま死んでいく。
 任務でも仲間のためでもねぇ、俺のために、人間としての誇りってやつを守るために。
 これがレオーネ・アバッキオとしてできる最後で最大の抵抗ってやつだ。
 お前のおかげで俺は人間として最期を迎えることができた。
 最後まで甘い理想論ばかり言いやがっていけ好かないやつだったが、これだけは感謝しといてやるぜ。
 どうせクソ真面目そうなお前の事だから、俺の死についてグダグダ悩むんだろうが、馬鹿馬鹿しいから辞めときな。
 俺がやるべきだと思ったからやった、それだけは勘違いするなよ?
 お前の言葉で思いつめた俺がこんなことしたなんて調子乗ったこと考えてんならあの世で笑ってやるよ。
 いいか? 何度でも言ってやるぜ? 確かに切っ掛けはお前かもしれないが、決めたのは俺だ。
 生憎てめぇみたいな糞ガキの言葉に一々感激しましたなんてハッピーな野郎じゃないんでな俺は。
 それと、最後の質問についてだが深く考えなくていいぜ。
 てめぇのことは自身で決着を付けなきゃいけねぇのは分かってたんだ。
 押し付けたりするなんて恥ずかしい真似ができてたまるか」

421タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:27:44 ID:RqD87gqo
.
  
少なくとも自身の行動がアバッキオに多少なりとも影響を与えることができたのだと知り、暗闇が晴れることを確かに感じた。
そのことに感謝するも、男が喋る間、育朗は一切声を発さない。
これは記録であってレオーネ・アバッキオ本人ではないのだから
厳しい言葉も優しい言葉も全て心に刻まんと耳を傾ける。

「それで、だ。一応遺言らしいこともやっとかねぇとな。
 まず、俺の足元にディバッグを置いといたからうまく使いな。
 次に、ブローノ・ブチャラティ、パンナコッタ・フーゴ、グイード・ミスタ、ナランチャ・ギルガ、トリッシュ・ウナ。
 ……それとジョルノ・ジョバァーナってやつに出会ったらレオーネ・アバッキオがよろしく言ってたと伝えといてくれや。
 ブチャラティ以外は全員一癖も二癖もある連中だが、お前の力になってくれると思うぜ。
 それに、お前を人間だとすんなり認めてくれるだろうよ、俺とは違ってな」

ちらりとアバッキオの足元に目をやると確かにディバッグが置いてあった。
だが、まだそれは拾わない。
アバッキオが告げる仲間たちの名を頭で何度も反芻し、決して忘れぬように刻む。
そうしていると、再びバツの悪そうな表情になったアバッキオが僅かに困ったかのような声を出した。

「適当に気絶させたからお前がいつ起きるか分からねぇんだよな。
 こんだけ長々と喋っといて聞き逃してましたってんじゃ笑い話だ。
 やっぱりらしくねぇことなんてやるもんじゃねぇ。
 リプレイ中に起きた時の事を考えてここで改めて言っておく。
 これは俺のスタンドが再生してる俺の遺言だ。
 怪物が俺の体を乗っ取ろうとしてどうしようもないから、ヤツを道連れに死ぬことにした。
 てめぇに責任はないからくれぐれも勘違いすんなよ? 一応感謝はしてるんだぜ俺も。
 これ以上喋ってると俺が生きてるうちに終わらないからそろそろ終わりにするぜ。
 言わねぇでも解ってると思うが、頑張れよ。俺の分もな。」

422タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:28:28 ID:RqD87gqo
.  
   











――――――あばよ、人間

423タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:29:22 ID:RqD87gqo
.
 
そう言い残して男の姿が徐々に粒子状へと変わり溶けてゆく。
スタンドの消失が命の喪失とつながっている事を育朗は知らぬが心で理解した。
目の前にいた"人間”はたった今その生命を落としたのだと。
誇り高き人間はそのプライドを失うことなくケジメをつけたのだと。
アバッキオがそうせねばならなかった理由は痛いほど理解できた。
しかし、それでも、それでも育朗は少しだけ気分が沈む。

「僕は……結局手を握ることができなかったのか?」

自分の言っていることが全くの間違いであるのは理解できている。
アバッキオの残した言葉が全て嘘でないと、育朗の言葉は確かに届いていたのだということは分かる。
だが、そう割り切るには育朗はあまりにも真面目であり、優しすぎた。

「すみませんアバッキオさん。僕はまだ自分に一切の責任がないと言えるほど強くないんです。
 もしも僕にもっと力があれば、もしも僕がもっと上手く言葉に出来れば。
 そんな後悔ばかりしてしまいます、本当にごめんなさい」

天に昇った人間へと己の弱さを詫びる。
育朗に残った唯一の誇りは涙を見せないこと。
時折悔しそうに地面を眺めるものの、決して歩みを止めることはない。

「強くなります。もっと、今度はこんな後悔しないようにもっともっと。
 絶対に立ち止まったりしない。それだけは約束します。
 これは……あなたが人間と認めてれた僕の誓いです」

だから、僕がそっちへ行ったときは許してください。

最後の小さな呟きは地下道に溶けて消えた。
ビットリオを追わなくてはならぬ以上、長々と感傷に浸る訳にはいかない。
アバッキオの遺したディバッグを拾い上げ、放置していたバイクへと歩み寄る。
一時は近づきながらも結果的にそことは逆方向へと進んでしまったドレスの研究所が気にならないわけではなかったが、今は少年の保護を優先。
音や匂いが探知の邪魔をするのを防ぐためエンジンはかけずに今まで通り押しながら進む。
その最中、育朗はふと天を見上げた。
空が見えた。
無機質で冷たい色をした岩肌などではない。
日差し降り注ぐ明るい空が。
彼が最期に見たであろう景色が。
青く澄み渡った今にも落ちてきそうな空が。



【エシディシ 完全消滅】
【レオーネ・アバッキオ死亡 残り66名】


.

424タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:30:00 ID:RqD87gqo

【D-5 地下/ 1日目 昼】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中。全身ダメージ大(急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:バイク、基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
    ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、地下世界の地図、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:億泰君、ありがとう。スミレ、ごめん。僕は僕の生きる意味を知りたい
1:眼の前にいる男の悲しみのニオイを消す
2:それが終わったら少年(ビットリオ)を追う
[備考]
1:『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました
2:名簿を確認しましたが、育朗が知っている名前は殆どありません(※バオーが戦っていた敵=意識のない育朗は名前を記憶できない)
3:自身のディバッグはビットリオに取られましたが、バイクの荷台に積んであったビットリオの支給品はそのままです

425タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:32:02 ID:RqD87gqo
投下完了です。
誤字脱字その他指摘がありましたら遠慮なくどうぞ。

改めてどなたか代理投下をお願いします

426タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 22:55:49 ID:RqD87gqo
代理投下してる人見てるなら先頭のピリオドも一緒にコピペしていただけると助かります
注文が面倒で申し訳ない

427名無しさんは砕けない:2012/12/20(木) 23:05:06 ID:ztG/WGTM
ダメだー規制入った
他の人お願いします

428タチムカウ-狂い咲く人間の証明- ◆m0aVnGgVd2:2012/12/20(木) 23:17:00 ID:RqD87gqo
状態表ミスなんでこっちに差し替えお願いします。
規制が解除されないっぽいんで完全に任せる形ですみません

【D-5 地下/ 1日目 昼】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中。全身ダメージ大(急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:バイク、基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
    ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、地下世界の地図、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:億泰君、ありがとう。スミレ、ごめん。僕は僕の生きる意味を知りたい
1:少年(ビットリオ)を追う
[備考]
1:『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました
2:名簿を確認しましたが、育朗が知っている名前は殆どありません(※バオーが戦っていた敵=意識のない育朗は名前を記憶できない)
3:自身のディバッグはビットリオに取られましたが、バイクの荷台に積んであったビットリオの支給品はそのままです

429 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:19:56 ID:8m9UJEYk
相変わらず規制中です。どなたか代理投下をお願いします
ジョナサン・ジョースター、花京院典明、ラバーソール、ナランチャ・ギルガ、パンナコッタ・フーゴ、ジョンガリ・A

430 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:20:19 ID:8m9UJEYk



 ジョンガリ・Aは白内障によってほとんどの視力を失ってはいるが、まったく目が見えないというわけではない。
 くわえて、卓越した狙撃手としての感覚と彼のスタンドで気流を読むことによって建物の位置や人の存在は察知できた。
 光ささぬその瞳は、常人が見えている範囲より多くの物事を見通していた。

 だが、彼はこの殺し合いの場において幸か不幸かでいった場合、不幸な状況にあった。
 地図や名簿といった薄っぺらな紙は彼になんの情報も与え得なかったからである。
 敬愛すべき主君も、幼き頃より見知っている神父も、この場にいるかすらわからない。
 放送を聞き終えた彼がまず情報を欲したのは、当然ことだといえる。

 空条承太郎と、その同族が最初のステージで死に、そして空条徐倫が死んだ。
 死んだ者がそれだけだったならば彼にとって疑問はない。
 この殺戮のゲームはジョースターの血統を根絶やしにするために行われており、なすべきことは参加者の殺害。
 そうシンプルな結論に落ち着く。

 しかし、あまりに死者が多すぎた。
 ンドゥール、そしてDIO様に似た空気をまとった青年の存在……。
 ジョースターの血統に仇なす者たちもまた同様に集められ、一緒くたに殺し合いを強要されているのではないか。
 そうなれば、と彼は考える。
 俺のすべきことはDIO様の護衛。
 二度とあの方を失わないチャンスがここには存在しているのだ。そのためにはまずあの方を見つけださなければならない。と。


 皆殺しか、情報収集か。


 ジョンガリ・Aは、その両方をとった。
 すなわち、情報を得つつ殺害を行う。

 放送を経て決心したジョンガリ・Aが察知したのは、南から北上する青年の姿だった。



   *   *   *

431 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:20:39 ID:8m9UJEYk



――山岸由花子を放置するべきではなかったかもしれない。

 あらためて、現状を鑑み、花京院典明はそう考えていた。

 山岸由花子は空条承太郎を知らなかったようだが、このゲームにはジョースター家に類する者、そして彼らに関わりを持った人間が多く存在する。
 何名かはDIO様と空条承太郎がたどった「歴史」を知っているのだろう。
 つまり、間接的にも、空条承太郎の仲間は多く存在していることになる。
 DIO様の敵が多いということは、とどのつまり私が始末すべき敵が多いということを意味する。

 だというのに……!!
『花京院典明』という人間が『DIO様の敵である空条承太郎を抹殺しようとしている』。
 そのことを山岸由花子は知っている。
 山岸由花子が殺害をもくろんでいた広瀬康一はたくさんの仲間に囲まれていた。
 どうせ返り討ちにあうだろうと彼女を放置したが、彼女がなんの情報ももらさず死亡する確証はない。
 彼女は私のことを憎い相手と認識していただろう。空条承太郎に関係がある相手と出会った場合、私の情報を漏らす可能性は十二分にある。
 触れるだけで相手の記憶や思考を読みとる能力――そのようなスタンドも存在しないとは言い切れない。

『未来の花京院典明』は空条承太郎の仲間だったとアレッシーは語った。
 ジョースターの一味と信頼関係を築いていたのならば、彼らは自分を見て、仲間だと認識したかもしれない。アレッシーのように。
 現在の私には「仲間になった」という未来を知っているアドバンテージがある。
 空条承太郎や他の仲間の寝首をかけるステータスが私には備わっている。
 しかし、最初から疑われていたのでは不意を打てる可能性は大いに下がってしまう。


――あの方のお役に立ちたいと願ったのなら、どんなミスも犯すべきではなかったのに……。


 名簿もなかった状況では、本名を名乗るべきですらなかったのかもしれない。
 山岸由花子から信頼を得ようとしたところで、なんの意味もなかったのだから。

 山岸由花子は爆音の響いた方へ向かった。
 追いかければ、山岸由花子かあるいは広瀬康一とやらが殺されかかっている状況に間に合うかもしれない。
 広瀬康一を助けるふりをして山岸由花子を殺害すれば……。

 花京院典明の足は自然と北へとむかう。
 しかし彼は山岸由花子に追いつくことができなかった。


 先行させたスタンドの視覚が、ライフルを背負った長髪の男の姿をとらえていた。



   *   *   *

432 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:20:54 ID:8m9UJEYk



「殺害を依頼した相手までリストに載せるバカがいるか……?」

 地図でいうところのF-8北側にある民家の一室で、男の嘆息が漏れた。
 そこは、しがないサラリーマンの住居とはにわかに信じられないような洋風二階建ての戸建て。
 川尻浩作が毎月13万円の家賃を支払い、家族と住んでいた家屋である。
 いまそこにいるのは、川尻浩作の格好をした川尻浩作ではない男。川尻浩作の心情を永遠に理解し得ないであろう男、ラバーソール。

 彼の指先はびっしりと文字が書き込まれた紙片を摘んでいた。
 陽に透かし、風に泳がせ、なんの変哲もない紙であることを確かめる。

「殺しの依頼にしちゃ、まぁ、いろいろと不自然だ、が……
 この紙切れ以外にはなんもねえようだしな」

 彼の視線の先には黄色いスライム状の物体の中でもがくハトがいる。
 ラバーソールのもとへ名簿を運ぶこととなった不幸なハトであった。

 この殺し合いのゲームが新しい依頼であり、参加者を皆殺しにすれば報酬が貰えると考えていたラバーソールにとり、『名簿』と放送の内容はやや予想外のものであった。

 依頼人にとっては、殺し屋だろうが一般人だろうが関係ねぇ。
 誰が誰を殺してもOKってことになる。
 そこから察するに、この殺し合いは誰を殺したかによって賞金の額が異なる。
 川尻浩作が100ドルだとして、空条承太郎は100000ドルってな具合にな。
 名簿にそれが載ってないのは不自然だが、『三日間生き残れ』ってのには説明がつく。
 三日間で殺した人間の賞金の合計額が生き残ってるやつに支払われるってわけだ。

 放送では空条承太郎と川尻しのぶ、そしてサンドマンとかいう野郎の名が呼ばれるのを期待したが、結果は惜しくも大ハズレ。
 死んだのは早人っていう、川尻浩作のガキだけだった。
 変装がばれ、珍しくヒヤっとする体験をしたわりに得たものはほぼ皆無。
『川尻浩作』と、もうひとりを喰ってやってからろくな目にあってねぇ。
 ったく、アンラッキーとしかいいようがないぜ。


ブジュル


 ラバーソールの苛立ちを反映し『黄の節制』が膨張する。
 もがいていたハトの姿は完全に飲み込まれ、動かなくなった。

 それにしても放送が終わってからしばらくたったが、誰もこの近辺を通りかからねぇ。
 やる気のあるやつらはすでにDIOの館なんかに行っちまってるってことか?
 それで、殺しあいなんてまっぴらだって臆病なやつらは、地図の端の方の施設でふるえてるわけだ。
 俺は? 当然、乗ってる側だ。
 泣きわめいて命乞いをするやつらを端から潰していくのも一興だが、すでに76人も死んじまってるからな。ここからは飛ばしていくぜ。

 とはいえ、問題は『誰』でいくかだな。
 空条承太郎もさっきのやつらも俺を追ってきている気配はないが、まだこの辺をうろついている可能性は捨てきれん。
 正直、空条承太郎のわけがわからん能力も、『黄の節制』をスパッとやっちまったサンドマンの能力も、ハンサムのラバーソール初の障害ってやつだ。
 俺の『黄の節制』に弱点はない。が、相打ちにならねえとも限らねぇ。
 見た目で警戒されるのは避けとくべきだ。


 となると…………。



   *   *   *

433 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:21:07 ID:8m9UJEYk



「ジョナサン、僕から質問をしてもかまいませんか?
 吸血鬼や屍生人について、詳しいことが知りたいんです。
 たとえば、その化け物たちが呼吸を必要としない生物なら『エアロスミス』のレーダーでは感知できないかもしれない。
 レーダーで追えるのはあくまで二酸化炭素の反応だけですから。
 それに、君にとっては『スタンド』の方が信じがたいと思われるかもしれませんが、僕には吸血鬼や屍生人なんてファンタジーやメルヘンの中の存在としか思えないんです」
「そうだね、ナランチャにもきちんと伝えていなかったから、さっきは危なかった。
 ふたりは『石仮面』について、聞いたことは……?」

 E-6のアクセサリーショップの中では、主にジョナサンとフーゴの間で綿密な情報交換が行われていた。
 フーゴが第一に問いただしたのは、吸血鬼と屍生人について。
 彼がそれについて真っ先に触れたのには理由があった。
 ジョナサンにもナランチャにも伝えることのできない問題がフーゴにはあったためだ。
 すなわち、自分の知るナランチャはすでに死亡しているという事実と、吸血鬼は死者を蘇らせるというジョナサンの言葉。

 ナランチャが屍生人という存在だと、フーゴには到底思えない。
 しかしジョナサンの前で、『ナランチャ、君はすでに死んでいるはずだ』と、問題提起する勇気はどうしても持てなかった。
 ジョナサンの知らないジョースターの血統――時間軸の違いをフーゴは確信しつつある。
 それはジョナサンより進んだ時間から連れてこられたゆえに気付けたのであり、吸血鬼による死者の蘇りを信じるジョナサンに罪はない。
 それでも。
 ナランチャは屍生人などではないと、完全に否定できる材料をジョナサンの口から得たかった。
 確固たる証拠がそろってから説明したいと思ってしまう自分の弱さもフーゴは自覚している。
 アバッキオのことは保留するとして、なんの説明もなしに、ナランチャ同様死んだはずのブチャラティに、かつて『パッショーネ』に属していた者たちに出会えば、いずれはどこかで混乱が生じ、隙が生じる。
 ジョナサンは誤解から他人を殺めてしまうような人間には見えないが、仲間内でのいざこざの種は潰しておくべき、彼はそう考えていた。
 それに、吸血鬼、屍生人について詳しく知れば、アバッキオを救う手だてがあるかもしれない。

 ジョジョの夢をともに追う、誰も欠けることのない、ブチャラティチーム……。
 儚い夢とうしろめたい気持ちをかかえながらフーゴは話を続ける。



   *   *   *

434 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:21:20 ID:8m9UJEYk



――エメラルドスプラッシュ


 弾かれた弾丸がどこか遠くの壁に命中し、鋭い音をはなった。
 花京院典明は舌打ちとともに神経をスタンドへ向ける。

――まさか、あの距離から撃ってくるとは思わなかった。

 北方300mはあろうかという距離から放たれた銃弾は、正確に足元を狙っていた。
 スタンドの視覚によって男の動向に気付くことができたから、どうにか銃弾を逸らせたものの、一瞬でも判断が遅れていれば骨もろともやられていたに違いなかった。
 男のものと思われるスタンドの存在は感知できていたが、それを介さない純粋なライフルによる狙撃。だというのに、おそろしく判断が早く、狙いは正確だった。

 接触を試みるか、ひとまず撤退するか。

 そうこう悩んでいるうちに、狙撃手は空薬莢を抜き、次の一撃の準備をし終えようとしている。

――見境なく撃ってくる相手と話が通じるとも思えない……。

 この狙撃手が山岸由花子を処分していることを願いながら、花京院は進路を南に取った。
 DIOへの忠誠――心中をともにする二人ではあったが、互いにそれを気付くすべはない。
 遮蔽物の多い道をジグザグに走行しながら、行く先へスタンドを先行させた。

 どうやら狙撃手は追ってきているようだ。
 脳漿までぶちまけそうな鋭い一撃が髪先をかすめ飛んでいく。

 いまや見慣れてしまったタイガーバームガーデンに突き当たり、東へまわりこむ。

 E-6の南側、スタンドの視界がガラス張りの建物の中に数人の影をとらえた。
 周囲に警戒しながらなにかを話し合っているようだ。

 正義感の強い人間ならば、銃撃を受け、逃げこんできた人間を無碍に扱ったりはしないだろう。
 うまく取り入り、狙撃手を撃退し、情報交換を行う。
 ジョースターに与する者ならば、そのまま仲間のふりをし、折りをみて一網打尽にする。
 彼らがこのゲームに乗り気な者たちであっても、こちらが無力なふりをすればまずは狙撃手への対抗を試みようとするだろう。
 狙撃手にとっての的は増える。
 どちらにせよ彼らに接触を試みるのは悪くない……。

 南東へと足を向けかけた花京院の目が、にわかに見開かれる。
 その目、いや、先行させた彼のスタンドの目がとらえていたものは、『己自身の姿』だった。



   *   *   *

435 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:21:36 ID:8m9UJEYk



 狙撃する瞬間において、筋肉を信用せず骨をささえとすることを信条としてきたジョンガリ・Aにとって、逃げ出した青年――花京院を自らの足で追うことは苦渋の選択だった。
 動けば動くほど筋肉は震え、骨はきしむ。
 遠距離から一方的に狙撃できるというライフルの利点をむざむざ手放す行為でもある。
 しかしこの数時間、誰にも会わずにきたことが彼を焦らしていた。
 地図のほぼ中央にいるのに、主君はおろか敵の姿さえ発見できずにいる。
 彼の周囲にほかに撃つべき相手の選択肢があれば、ジョンガリ・Aはリスクの高い行動を選択しなかったはずである。

 ジョンガリ・Aからの狙撃を起点とした無言の追いかけっこが続く。
 青年がスタンド使いであることはジョンガリ・Aもすでに気付いていた。
 銃弾をかわしたときの気流の乱れ、そして現在も逃げつつスタンドでなにかしようとしている。

 罠にはめられる前に追跡をあきらめるべきか……。
 ジョンガリ・Aがそう思ったときと、青年がつ、と立ち止まったのはほぼ同時だった。

 いぶかしんだ瞬間に『なにか』に足をとられ、ジョンガリ・Aの体勢が崩れる。

 膝を突き、地面に転がるのは阻止したものの、あっけにとられ、気流を読みとることをわずかな間、完全に放棄してしまっていた。
 我にかえって自分の失態に気付くもすでに青年の姿はどこにも見えない。
 
 足をとられたのがスタンドによる攻撃ならば、追撃があるはず……と構えるも、気流は朝靄のように沈澱しなにものも動き出そうとしない。
 かわりにバラバラとガラスが砕けるような音がほど遠くから聞こえてきた。

 音のした方へ向かうと、200mほど離れた建物の一階に、数人の人間が集まっているのが見える。
 大柄な男と、少年ふたりの計三人。
 さきほどまでは室内にいたため存在を見逃していたが、表のガラスが割られたことで彼らの姿がくっきりと気流に浮かび上がるようになっていた。

 どうやら青年がスタンドで表のガラスを破壊していったらしい。
 銃弾を弾くほどのスタンドならば、ガラスを割ることだって造作もないだろう。


――かわりの獲物を用意したとでもいいたいのか……?


 狙撃をかわされ、膝を突かされた青年のことは単純に憎らしい。
 だがどこにいったかもわからなくなってしまった青年と、襲撃に慌てふためく眼前の三人、どちらがよりDIO様に近いだろう……。

 あくまで冷静に、自らの目的を遂げる方法を、ジョンガリ・Aは模索し続けている。



   *   *   *

436 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:21:56 ID:8m9UJEYk



「待てッ、花京院、俺だ!!」

「承太郎……! 君は、殺されたはずじゃ……」

 E-7中央付近の路地裏で、ふたりの『学生』が対峙していた。
『花京院』と呼ばれた青年は目を見開き、驚きの表情をしている。
 そこから10mほど離れ、呼びとめた手をゆっくり降ろしているのは『承太郎』と呼ばれた青年だった。

「ああ……確かに俺はあのとき死んだ。
 それは間違いない。
 だが俺はなぜかこうして生きている。それも事実だ」

「なにを言っているのかわからないが、本当、なのか……?」

 目深にかぶった帽子の下、『承太郎』の瞳が奇妙に光る。

「この滅茶苦茶な地図を見ればわかるだろう。
 俺たちスタンド使いの常識を越えるなにかが起きつつあるんだ。
 俺が死んだはずなのに生きていること、それが不思議でないようななにかが……」

『花京院』は絶句している。
 それを見た『承太郎』の口元がヒクヒクとひきつる。
『承太郎』――否、ラバーソールは笑いをこらえるのに必死だった。

 そうそう、こういう反応を待っていた。
 あいつらみてーな異常者に先に会っちまったせいでちっと自信をなくしていたが、俺の変装は完璧だ。
 一瞬の迷いもなく俺を敵だと断じやがった空条承太郎や、人の話を聞こうともせず撃ってきやがった野郎とは違う。人の話を吟味しようって態度。
 こういう態度が大事だぜ。

 化けた『本人』を見つけちまったときには肝が冷えたが、ジョースター一行に会えたのはラッキーってやつだ。
 ブヂュブヂュルつぶして、賞金ガッポガッポだぜぇ。

437 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:22:14 ID:8m9UJEYk

「参加者の半数が死んじまってるって状況でお前に会えたのはラッキーだったぜ。
 ひとまず屋内に移動しないか?
 ここでつっ立ってるのは的にしてくれと言っているようなもんだ」

「……屋内に移動するのは賛成です。
 ですが…………」

「おう、じゃあさっさと……うぉッ?!!!」

 一歩踏み出したつま先から俺の上半身めがけて光弾が撃ち込まれる。
『黄の節制』の能力はどんな物理攻撃も無効化するが、衝撃でスタンドはぐにゃぐにゃ拡散し、『空条承太郎』の胸板には不自然なへこみができた。
 よくよくみれば足下にはかすかに発光する、なめくじが這った跡みたいな筋が走っている。

「情報を交換するのは、互いの立場が対等になってからだ。
 偽りの、空条承太郎」
「てめぇ、最初から気付いてやがったのか」

 驚きつつも親しげな雰囲気を出していた花京院の瞳がいっきに鋭く険呑の光を帯びる。
 さきほどの光弾も、すでに這わせていたスタンドからの攻撃のようだ。

「あなたが『私の姿』で歩いているところからすべて見ていた。
 それに気付かず路地裏に誘い込まれてくれるようなアホで助かったが……」

 どういうわけだか空条承太郎の姿に変装するところから見られていたらしい。
 どうしてこうも変装にひっかからないやつが多いのか。
 ラバーソールは自分の不運を嘆きたくなった。

「だがどうする?
 てめぇの貧弱なスタンドじゃあ俺には勝てねぇ。
 ドゥーユゥーアンダスタンンンドゥ!」

「理解していないのは貴様の方だ。
 人の話を聞いていなかったのか?」

「質問を質問で返すんじゃあねえ。
 てめぇ頭がいかれてんのか。
 俺のスタンドに喰われてオシマイなんだよてめぇはよぉ」

「確かに貴様のスタンドはなかなか攻略し難い能力をもっているらしい。
 変装するしか能がないスタンドだと考えていたので誤算だった。
 敵に回せば、私のスタンドでは勝てないだろう。『敵に回せば』、な」

 どうも雲行きがおかしくなってきやがった。
 たしかにこいつのスタンドは射程距離に優れていると聞いていた。
 俺の変装が偽物だと見破っていたならわざわざ近づかせる必要はねぇ。
 攻撃を仕掛けるにしろ逃げるにしろ、本体が俺に近づくことはなんのメリットもないはずだ。

 そのとき、ラバーソールの中で、奇妙に老けていた空条承太郎、川尻しのぶが夫に言った空白の半年間、それらが一本の線のように結びついた。

「まさか…………」

「ようやく理解したようだな。
 手を組まないかと言っているんだ。変装の能力を持つスタンド使い。
 私の敵は、空条承太郎だ」

438 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:22:29 ID:8m9UJEYk


 花京院典明と『空条承太郎』、横に並ぶ姿にまったく違和感のないふたりが手近な民家へと歩き出す。
『空条承太郎』は半信半疑ながら、絶対の自信を隠そうともしない狡猾そうな表情を浮かべている。
 半歩さきをゆく花京院典明は……、目を細め、口の端だけを歪め、笑っていた。

 のんきに歩いている『私』の姿を見つけたときには驚いたが、アレッシーから聞いていた話がここで役に立つとは……。
 見るからに、殺し合いに乗り気のこの男、手を組むことに反対はしまい。
 ジョースターたちへの敵意と、予想外に強力なスタンド。うまく扱えば確実にジョースターたちをしとめることができるだろう。

 そして……、これでたとえ山岸由花子が誰かに私のことを話したとしても、彼女を脅し、軍人三人を殺したのはこの男になる。
 私はあくまでジョースターの仲間を演じればいい。
 少なくとも、誰にも真相はわからない。

 自らの欲望にのみ忠実そうなその下卑た笑い。
 どうせDIO様から信用されていたわけではなかろう。
 空条承太郎とその仲間を殺すことで、あの方にお役に立てることを喜ぶがいい。





【E-7 中央 / 1日目 朝】

【花京院典明】
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[状態]:健康、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.ラバーソールと情報交換し、手を組む。
2.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
3.機会があれば山岸由花子は殺しておきたい。
4.山岸由花子の話の内容、アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。

【備考】
※スタンドの視覚を使ってサーレー、チョコラータ、玉美の姿を確認しています。もっと多くの参加者を見ているかもしれません。

【アレッシーが語った話まとめ】
花京院の経歴。承太郎襲撃後、ジョースター一行に同行し、ンドゥールの『ゲブ神』に入院させられた。
ジョースター一行の情報。ジョセフ、アヴドゥル、承太郎、ポルナレフの名前とスタンド。
アレッシーもジョースター一行の仲間。
アレッシーが仲間になったのは1月。
花京院に化けてジョースター一行を襲ったスタンド使いの存在。

【山岸由花子が語った話まとめ】
数か月前に『弓と矢』で射られて超能力が目覚めた。ラヴ・デラックスの能力、射程等も説明済み。
広瀬康一は自分とは違う超能力を持っている。詳細は不明だが、音を使うとは認識、説明済み。
東方仗助、虹村億泰の外見、素行なども情報提供済み。尤も康一の悪い友人程度とのみ。スタンド能力は由花子の時間軸上知らない。


【ラバーソール】
[スタンド]:『イエローテンパランス』
[時間軸]:JC15巻、DIOの依頼で承太郎一行を襲うため、花京院に化けて承太郎に接近する前
[状態]:疲労(大)、空条承太郎の格好
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、不明支給品2〜4(確認済)、首輪×2(アンジェロ、川尻浩作)
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残って報酬ガッポリいただくぜ!
1.まずは花京院の話を聞く。役に立ちそうにないなら養分に。

※サンドマンの名前と外見を知りましたが、スタンド能力の詳細はわかっていません。
※ジョニィの外見とスタンドを知りましたが、名前は結局わかっていません。



   *   *   *

439 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:22:48 ID:8m9UJEYk



「イタリアにはそんな話ぜんぜん流れてこねーけど、イギリスってやばい国なんだな」

 屍生人となったいにしえの騎士との死闘、人体を一瞬で凍らせてしまう吸血鬼の能力、改めてジョナサンの話を聞きながら、ナランチャがのんきな感想をもらした。

「やっぱりジョナサンはすげーや」
「僕にはスタンドの方がよほど複雑で、未知の存在に思えるけどね」

 ナランチャの純粋な賞賛に、話し始めて以降曇りがちだったジョナサンの表情がゆるむ。
 それは一見微笑ましい光景であったが、内心フーゴはふたりの認識の差の原因を思い、暗澹たる気持ちをかかえていた。

「……ナランチャ、モニターに反応は?」
「なんだよ、ちゃんと見てるだろー? 反応なしだぜ」

 不満げに言い返すナランチャに、ジョナサンの笑みが深くなった。

「仲がいいんだね、ふたりは……」
「ちげーよジョナサン。フーゴ、猫かぶってんだぜ。
 いつもはフォークでオレのこと……」
「ナランチャ!!」

 余計なことは言わなくていいと、フーゴが手で制す。
 それを見て、さらにジョナサンが笑った。

「フーゴ、僕の方は知りうる限りのことを話したように思う。
 君はずいぶん頭がいいようだから、この殺し合いについて、考えていることがあるなら話してもらえないか?」

 そう、フーゴから見ても、すでにジョナサンから得るべき情報はすべて得られたように思える。
 さりげなく水を向け、ジョナサンが19世紀末期の人間だということを確認し、ナランチャ、そしてジョナサンが屍生人や吸血鬼ではないということも確信している。
 語らなければならない。
 ジョナサンの知り合い――彼の父やSPW財団の創始者が、僕にとって全員過去の人間であることを。
 アバッキオ、ブチャラティ、ナランチャが、ここにいる彼らから見た未来の彼らがすでに死んでいることを。
 ジョナサンは彼の父に訪れた再度の死になにを思うだろう。そう考えると、フーゴの胸は苦しくなった。

「ジョナサン、……そしてナランチャ。
 どうか僕が話し終えるまで質問は挟まないでください。
 信じられなくても、落ち着いて、聞いてほしい」
「やっぱりなんか変だぜフーゴ」

 茶化すナランチャとは対照的に、困ったように、しかし信頼のこもった瞳でジョナサンがうなずく。

「ジョナサン、僕とナランチャは21世紀初頭のイタリアからここへきました。
 そして……、ナランチャ、僕の知る君は……」



 瞬間。



 フーゴの言葉は轟音に呑み込まれた。


 とっさに身を屈めた三人にこまかな結晶がパラパラと降り注ぐ。
 ショップ表側のガラスが、粉々に砕け散っていた。

440 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:23:19 ID:8m9UJEYk


「フーゴ! ジョナサン! 敵だッ!!」
「わかっていますナランチャ! いいから君はモニターを見て!」
「だめだ。見当たらない。
 ずっと見ていたけど『敵は最初からいなかった』!!」
「ここから焦って逃げ出して、狙い撃ちにされるのが一番危険です。
 ナランチャ、落ち着いてモニターから目を離さないで」

 フーゴは素早く頭を巡らせる。
 最悪のパターンはジョジョがコロッセオで戦ったというカビのスタンドのように、すでに敵の術中にはまりかけている場合。
 僕がポンペイ遺跡で戦ったイルーゾォのように、本体・スタンドが見えずとも攻撃を加えられる能力も考えられる。
 こちらにも広範囲を攻撃できるスタンドがあればいいが、エアロスミスの探索範囲を超える攻撃手段はない。
 打って出るべきか?
 しかし、すでに敵の攻撃が開始されている場合、さきほどわざわざガラスを割った攻撃の意味がわからない。
 注意を外に向けさせるための攻撃か?
 なら敵は上か、下か……。
 ダメだ。考えすぎるな。
 まず安全が確保できればいい。それは敵を倒すこととは違う。

 フーゴの視線が、ジョナサンをとらえ、ついでナランチャの黒髪に注がれる。


――僕の目の前で、コイツを死なせるわけにはいかない……。


「おい、聞こえているだろう。
 どこからか攻撃を受けた。なにか情報をくれ……」


――ムーロロ!!





【E-6 ローマ市街・ショップ内 / 1日目 朝】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(中)、貧血気味、疲労
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.敵の襲撃に対処。
1.『21世紀初頭』? フーゴが話そうとしていたことは……?
2.『参加者』の中に、エリナに…父さんに…ディオ……?
3.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
4.ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。

441 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:23:33 ID:8m9UJEYk

【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額に大きなたんこぶ&出血した箇所は止血済み
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.敵の襲撃に対処。
1.フーゴが話そうとしていたことは……?
2.ブチャラティたちと合流し、共に『任務』を全うする。
3.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.敵の襲撃に対処。ナランチャは死なせたくない。
1.ジョナサンと穏便に同行するため、時間軸の違いをきちんと説明したい。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す。
3.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。しかしどう辻褄を合わせれば……?

【備考】
『法皇の緑』でガラスを割ったため『エアロスミス』のレーダーは花京院をとらえていません。
ジョンガリ・Aもいまは射程外にいます。
ふたりとも『エアロスミス』のレーダーに気付いているわけではなく偶然です。


【E-6 ローマ市街西側 / 1日目 朝】

【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー』
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:体力消耗(小)精神消耗(中)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(35/40)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み/タルカスのもの)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
0.三人を襲撃する?
1.情報がほしい。
2.ジョースターの一族を根絶やしに。
3.DIO様に似たあの青年は一体?

【備考】
ジョンガリ・Aが三人を襲撃するかは次の書き手さんにおまかせします。

442 ◆4eLeLFC2bQ:2012/12/22(土) 20:29:55 ID:8m9UJEYk
タイトル「目に映りしものは偽」

以上で投下完了です。


仮投下時から何箇所か表現の変更がありますが、内容に変更はありません。
川尻家の家賃が26万と書いていましたが、ド低能はこの私でした。13万円ですw

・吸血鬼、屍生人、柱の男は呼吸をする必要がない
という問題についてですが、このSS内ではフーゴの推測のみであるため、
実際にどうかは、後続のそういった場面を描写することになった書き手さんにお任せしたいと思います。

443 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:53:59 ID:ulmKWjRY
投下します。

444 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:54:41 ID:ulmKWjRY

「せっかくの二人きりだって言うのに、つれないねェ」

その声に振り向きかけた少女だったが、途中で思いなおし、彼女はそのまま水面を見つめ続けた。
足音はゆっくりと近づいてくると、少女の隣で止まった。男は気だるそうな感じで、川辺に腰を下ろす。
彼は煙草に火をつけると、うまそうに煙を吐いた。煙は真っすぐ上に立ち上り、太陽の光を浴びきらきらと輝く。二人は無言のままそれを眺めた。
煙がすっかり消えてしまった後は口を開くこともなく、二人はただ当てもなく視線を泳がしていた。
しばらくの後、男は煙草を持っていないほうの手でこめかみのあたりをこすり、そして口を開いた。

「ストレイツォ……あの二枚目カタブツに無理言ったのは俺なんだぜ?
 君が一人にしてほしそうだったから気を使ったつもりだったんだけどねェ、俺は」
「ほっときなさいよ」

ホル・ホースは無言のまま唇を曲げ、肩をすくめた。つっけどんな少女の言葉を最後に二人の間に沈黙が漂う。
少女は何も言わず、男はただ咥えた煙草の火先を眺めていた。辺りは不思議と音一つしなかった。
とても殺し合いの舞台とは思えないほどに、奇妙な静寂があたりを漂っていた。

「私のこと何も知らないくせに……ってか?」

そう言うとホル・ホースはもう一度唇を曲げて見せた。
皮肉っぽい捻り方に加え、彼の目の脇の皺は笑いをこらえる様にプルプルと震えていた。
少女の頬にさっと赤みがさす。

「それがわかる程度にはわかってるつもりだよ、『徐倫』。
 それとも……『フ―・ファイターズ』、そう呼んだほうがよかったかな?」

彼女は何も言わなかった。拳をぎゅっと握り、口を真一文字に閉じたまま男のほうを見ようともしない。

まるでお手本のような図星の反応に、ホル・ホースは肩を揺らし笑った。笑い声は控え目だった。さすがに彼女の機嫌を試すような度胸はない。
じゃじゃ馬娘で癇癪持ちの若い女の子の扱い方は決まってそうだ。超えない程度に茶化すに限る。簡単なもんだ。それで相手が顔真っ赤にすればなお良し、だ。
少女の照れ隠しの顔は、美人の泣き顔の次ぐらいによい。それが男の意見だった。

徐倫はやがて、ゆっくりと拳をほどくと、つかつかと男に向かって歩いて行った。
数メートルほどあった距離を無言のまま詰めると、徐倫は男の脇にただ立ちつくす。
次の瞬間、目にも止まらぬ速さで彼女の手が動いた。男が反応できないぐらいの速さで彼女は咥えていたタバコを掻っ攫い、そして言った。

「煙草、やめてくれる?」
「できればぶん捕る前に言ってほしかった」
「父親のことを思い出すのよ」

私がじゃなくて、記憶が、だけど。一寸の空白を置いてつけくわえられたその言葉は妙に宙ぶらりんに、辺りに響いた。
ホル・ホースはしゃがんだまま少女を見上げた。少女もまた、無言のまま男を見下ろした。
沈黙のまま睨み合うように、二人は視線を逸らさなかった。『徐倫』の眼はどこか気弱で、強がってるように、ホル・ホースには見えた。
何よ、と彼女は言った。男は何も、と言い返すべきか悩んで、結局何も言わなかった。

随分と雰囲気が変わった、とホル・ホースは目の前の少女見つめ、思う。
彼女が変わったと言えるのは放送を境にだ。きっと知人が放送で呼ばれたのがきっかけだったのだろう。名簿を見たのもあるかもしれない。
なにせよイイ女であることに変わりはない。それが最も最も最も大事で、大切で、重要なことだ。

445 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:55:16 ID:ulmKWjRY


ほんの少し前のことだ。
リキエル、そう名乗った青年の叫びがきっかけに、場は荒れに荒れ、そして混乱した。
時代、DIOとディオ、空条承太郎とその娘、ジョースター一族、波紋とスタンド。
互いの自己紹介代わりの簡易な情報交換ではなく、全員がそろい、膝と膝を突き合わせるような濃密な情報交換が行われた。
そしてその中で浮かび上がった微かな共通点と、特異点。だが話はそこで煮詰まった。あまりに物語は自分たちの領域を超えていた。
殺し合いというものを抱えるだけでも精一杯だったのに、その上時代と因縁と来たものだ。
どうしたって頭を冷やす必要があった。冷静に自分の考えや気持ちを落ち着かせ、その上でこの後どうするか決める必要があった。
今二人がこうやって川辺でたそがれてるのはそういうわけだった。流れる川のように、穏やかで、落ち着いて、ゆったりとした思考を取り戻す必要がある。
だがそれはなかなか難しかった。ホル・ホースにとってではなく、『徐倫』と呼ばれた少女にとっては。

沈黙が二人の間を漂う。気まぐれに少女が投げた石がドボン、と砕けた音をたて水の中に消えていく。
彼女が口を開くまで長いこと二人はそれぞれに黙り込んでいた。動いているのは川の水面に浮かんだ波紋だけだった。


「私にはなにもないの」


彼女がそう言った。ホル・ホースは微かに浮かべていた笑顔をひっこめると、難しそうに顎を触り、言う。
何もない。少女が言った言葉を確認するように、そう繰り返す。
自分の言葉を繰り返されたのが嫌だったのか、少女が顔をしかめたのを見てホル・ホースは黙った。
まずは話を聞くべきなのだろうと彼は肩をすぼめ、続きを待った。

「ホル・ホースが言った通り、私は『フ―・ファイターズ』であり『空条徐倫』でもある。
 でも違うのよ。私は私、アタシはアタシ……確かにここにいるはずなのに、違うの。
 自分は自分以外の誰でもないはずなのに……それを確信できない気持ちってわかる?
 自分は間違いなく自分のはずなのに、それを納得できない、違和感を感じる、誤魔化せない。
 それがすっごく辛いの、空っぽなの…………。私の言ってる事、わかる?」
「部分的には」

徐倫は何も言わず頷いた。そして言った。だからわたしにはなにもない。なにもないことがすごく悲しい。
予想に反して、男の返事は素早かった。


「いいじゃあないか、『なにもない』。結構だ。これ以上何もなくさずに済む。素敵だ」


俺は羨ましいよ、と付け加えるべきかどうか悩んだが、いちゃもんをつけられそうな気がしたのでやめておいた。
返事がないままポケットから煙草を取り出して咥える。火をつけて一服しても、今度はぶんどられるようなことはおきなかった。
さっきまでとはまた違った沈黙が流れていた。その沈黙は決して悪くない沈黙だった。
かびついた、陰気臭い沈黙というよりは、どことなく春の爽やかさを感じさせる静かな時間だ。
長い沈黙の後、徐倫は呆れた様に大きく息を吐いた。ホル・ホースを見るその視線には冷ややかさが含まれている。
コイツに相談するんじゃなかったという気持ちが、ありありと浮かんでいた。それを見て、彼は満足そうに笑った。

446 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:55:40 ID:ulmKWjRY



「あなたって悩みとかあるの?」
「どうやったら川辺でセンチになっている女の子を慰められるか、今悩んでる」


馬鹿らしい、と少女がいうとそれを待ちかまえていたように、男はそろそろ戻ろうかと言った。
馬鹿らしい、結構なことだ。少なくとも無駄に落ち込んで、うじうじしているよりは何十倍もいい。
憂鬱な美人よりも呆れる美人のほうが数百倍綺麗だ。例えそれで自分が呆れられるようなものであってもホル・ホースという男にとってはそれは些細な問題だった。

二人は並んで川を後にすると、すぐ後ろに立つ教会へと向かっていった。
さり気なく肩を抱こうと男が伸ばした手は、無言のうちに少女にはたかれる。乾いた音と男の控え目な呻きが辺りに響いた。
ホル・ホースと『空条徐倫』は教会へと戻っていった。





447 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:56:07 ID:ulmKWjRY
「茶でも飲むか?」

私はその声に顔をあげた。反射的に物音に反応しただけのことだった。
吉良吉影の言葉をもう一度頭の中で繰り返し、ようやくその言葉がなにを指し示しているのか理解する。
私はゆっくりと首を振った。吉良は顔色変えずそうか、とだけいうと、再び読書に戻った。
どうやら彼なりに気を使ってくれたようだ。だとしたらさぞかし自分は難しい顔で考え事していたのだろう。
実際、ひどく混乱している。

ホル・ホースは戸惑うのも無理じゃない、と言った。
時代の越境、未来の技術、過去の存在、スタンドという概念、喋るプランクトン、ディオ・ブランドーとDIO……。
考えすぎるとひどく頭が痛くなりそうだった。知るべきことと考えるべきことが多すぎて流石の私もこれには参っていた。

その混乱を少しでも解消するために、ホル・ホースはわざわざ時間を取ったはずだった。
私も時間は必要だったし、動揺していたの事実だった。だが時間をもらえど気持ちを切り替えることはなかなかどうして難しい。
自分の置かれている立場がよく理解できない。掴みどころがないのだ。
まるで水の上に浮いた地面を歩いている様な気分だ。私は額を抑え、思わずため息をこぼした。
情けないものだ。戦いであるならばそれこそ幾千、何万もの機会を積んできた。己を鍛える辛く長い修行にも耐え努力を積んだ。

だが誰が予想できようか。時空を超え、次元を超えたものとの邂逅がこれほどまでに難解だったとは。


「……あの二人みたいに散歩でもしてきたらどうだ」

パタン、と本を閉じる音に続いて、平坦な男の声が思考を破る。吉良吉影はスーツの裾をなおしながら、顔もあげずにそう言った。

「随分と難しい顔で考え事していたのでね、お節介だとわかっているが、ついつい口出ししてしまった」
「いや、ありがたいよ、吉良。そうだな、確かにそうしたほうがいいかもしれない」
「あまり動きたくないというのならば私が席を外すが」
「大丈夫だ。リキエル、と言ったあの青年の様子も気になる。大人しくはしているようだが気分転換がてら、すこし見てくるよ」

そうして守るべき一般人からも心配される始末。私は立ち上がると青年のいる部屋に向かいながら、もう一度深い溜息を吐いた。
頭を振って思考をすっきりさせる。わからないことは素直にわからない。私はやるべきことだけをこなそう。
立ち止まるようなことがあれば、その時は彼らと共に考え協力すればいい。
とりあえず決めるべき事は……ディオの根城に乗り込むべきか、どうか。まずはこれだけを考えよう。

リキエルを寝かしつけた講堂の扉をあける。吹き抜けの高い天井に扉の軋んだ音がこだまし、靴が地面を叩く音が聞こえる。
ステンドグラスが美しく輝き、優しい光が室内を満たしていた。少し暗いが気になるほどではない。先ほどまで灯していた蝋燭の燃えかすの臭いが鼻先をかすめた。
講堂内はとても静かで落ち着いていた。人一人いないように静かで、奇妙だった。
私は扉を後ろ手でゆっくり閉め……そして戦いの構えを取った。部屋に入ってすぐおかしなことに気がついた。リキエルの姿が見えないのだ。

448 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:57:05 ID:ulmKWjRY


嫌な気配が辺りを煙のように充満している。
リキエルは入ってすぐの長椅子に転がしておいたはずだった。話を聞き終えた後で猿ぐつわをかませ、椅子ごと固定するように縛り上げたのだ。
ならば彼の姿が見えないのは何故だ。その上ロープもなくなっている。ただ抜け出しただけではないということだろうか。
吉良と共にホル・ホースたちの散歩を見送って、目を離していたのは僅か数分のことだというのに……。

そっと手に持つペットボトルに目を落とす。波紋は乱れていない。渦巻く波紋は乱れず、床伝いに何かの生命エネルギーを感じることもない。
スタンド能力だろうか。だがホル・ホースの言ったリキエルの能力にはこんな芸当ができるとは思えない。
仮にリキエルがスタンド能力とやらで自由になったとしても我々に悟られず、且つ跡一つ残さず、こうも姿を消す事なぞ可能なのだろうか……?

吉良を呼ぶべきかどうか、私は一瞬迷った。
だが危険が潜んでいる以上迂闊に動くと更に状況が混乱する可能性もある。そのまま室内を進んでいく。
カツン、カツンと革靴が音をたてる。その響きかたから考えても辺りを動くような何者かがいるとは思えなかった。

慎重に一歩。そしてまた一歩。辺りは影一つ動かない。まるで室内ごと、椅子も窓も、全てが凍りづけられかのようだった。
吸い込む息はどこか湿っていて、ネバついている様な気がする。神経を徐々に張り巡らしていくと、波紋の呼吸も落ち着いてきた。
室内の状況が段々と明らかになってゆく。やはり室内には誰もいないようだ。見渡しても長椅子がうずくまった獣のようにじっとしているだけのことだった。

「……逃げられたか?」

だとするならば考えるべきはどうやって、だ。スタンド能力か。はたまた協力者がいるのか。
もう一つ。逃げたのか、それとも潜んでいるのか。個別に行動するのは賢明とは言えないな。後ろから襲われる可能性がないとは言い切れないのだから。
私は講堂を入口から端まで歩ききり、急いで吉良の元へ戻ろうと振り返った。彼が心配だった。ホル・ホースとあの少女のことも気にかかる。
そうして振り返った時だった。


「なっ!?」


波紋が乱れないわけだ。既にそれは呼吸をしていないのだから。
床伝いに生命エネルギーを感じられるわけがなかった。それはもうとっくに死んでいて、その上壁にくくりつけられていたのだから。


「こ、これはッ!?」
 

 ドギャァ――――――z__ンッ!!


入口の真上、数メートル頭上の位置でリキエルは壁にめり込むようにして事切れていた。
彼が死んでいたという事実。それに気づかなかった自分のうかつさ。幾つもの情報が急速にわき上がったが、私はなによりもリキエルの表情に、ぞっとした。
見開かれた目、苦痛にゆがんだ頬。そして一部分がなくなっている。暗闇に目を凝らし、その部分を見た私の背中がさぁ……と泡立つ。
歯形だ。しかも人間の歯型。

449 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:57:33 ID:ulmKWjRY


リキエルは殺された……! それもただの殺しではない……!
この殺しは彼を恥ずかしめ、屈辱に塗れ、そしてなによりも! 残忍性、異常性においてずば抜けているッ!
あちこちを食いちぎり、飾り立て、オブジェのように展示しているのだッ!
彼を殺害した人物は異常すぎるッ! 吸血鬼、屍生人、人間! それを超えた禁忌に触れた、そう、まさに狂人のものの行為だッ!

無意識に後ずさっていた私は長椅子に足をぶつけ、その音で正気に戻る。
痛みと音が私を現実に引き戻した。慌てて手元のペットボトルへ目を落とす。波紋は乱れていない。少なくとも、まだ。
殺害者はもうこの部屋にはいないのか。一人目じゃ飽き足らず、二つ目の獲物を狙っているとでも言うのだろうか。
だとするならばここにいるのは尚更危険……! そしてなによりこの事実を知らない吉良が、そしてホル・ホースが……!


そう、私は焦っていた。狼狽していた。もしかしたら、恐怖、していたのかもしれない。


だから即座に気付けなかったのだ。そのちょっとした波紋の変化に。
いつもならすぐに気づけたであろう、その微かな、しかし致命的とも言える見落としに。

もう一度手元に目をやり、私は眉を寄せた。この透明な容器は使いなれてないせいか、変化に気づきにくい。
波紋は乱れていない。だがそこに変化はあった。渦巻く波紋はさきほどより深くなっているのだ。下に伸びているのだ。
そのうねりは横に乱れるでもなく、脇にずれるでもなく、まるで誰かに引っ張られるように下へ回転を増し……。


「まさかッ!?」


そう私が零したのと同時に、床板から伸びた太い腕が私の胴体を貫いた。





450 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:57:57 ID:ulmKWjRY
「ストレイツォ、ここにいるのか?」

やれやれ、いったいどこに消えたというのだろう。
あちこち見回ったが影一つ見当たらない。一度入口から覗いたこの講堂だが、ほかの場所にいない以上、この奥で何やかんやしているのかもしれない。
カタブツで融通がきかない以外はなかなか役に立つ男なんだが……まぁ贅沢は言わんがね。これくらいだったら私の平穏のために妥協はするさ。

入口の扉を開き中に入っていく。少し暗いため奥まで一目で見ることができない講堂だ。
確かに雰囲気は悪くない。考え事、読書に集中するにはうってつけの場所だな。
ストレイツォもきっとここで難しい顔をしながら考えているのだろう。

「ストレイツォ、いるのか。いたら返事をしてくれ」

さて、私がいくら平穏を愛していると言っても限度があるというものだ。
今の状況に不満があるわけじゃないがいつまでも首元に爆弾をぶら下げてるというのもわずらわしい。
辺りを殺人鬼や危険人物がうろうろしてるかもしれないというのにリラックスして過ごすというのも無理なもんだ。
私の理想としてはストレイツォがさっきの二人をひきつれて悪者退治に出かけてくれれば万々歳なんだが、さて……。

それにしてもさっきの話し合いは流石の私も度肝を抜かれた。
スタンド、というらしい特殊能力。明らかに私が持つキラ―クイーンと同種のものじゃあないか。
勿論私はキラ―クイーンの事なんぞ一言ももらさなかった。能力を誇示すれば戦いに巻き込まれることは明白だ。そして戦いは平穏とかけ離れた場所に位置しているものだ。
戦いなんていうものストレイツォの様な正義のヒーローに任せておけばいい。私にはどうでもいいことだ。
まぁ戦ったところで負ける気はしないのだがね。

「ストレイツォ、いないのか?」

にしてもディオ、と言ったかな。リキエル、ホル・ホース、そしてストレイツォが口にした男のこと。
まったくこの二十世紀になっても世界征服をもくろむ男がこの世に存在するだなんて思ってもみなかった。
頭がおかしいとしか思えないな。世界征服? 頂点を目指す? フン、笑わせるね……滑稽だ。

「…………ふぅ」

考え事をしながら辺りを見渡すがあのカタブツ正義漢の影は見当たらなかった。
長椅子の隅から隅まで視線を撫ぜるがそこに誰かが座っていた形跡すら残されていない。
一体どこに消えたというのだ? そろそろあの二人も帰ってくるころだろうし、ここでストレイツォがいなくなると色々面倒なことになるんだが。
これでまたストレイツォ捜索に駆り出されたとしたら非常にめんどうだ。できることならもっとこの教会に留まっていたい。
来るべき労働に顔をしかめ、あの正義漢はどこにいったのだろうと私はため息を漏らす。その時だった。


「―――!」


揺れる風、感じる気配。キラ―クイーンを出現させたのはほとんど反射的と言ってよかった。

451 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 01:58:57 ID:ulmKWjRY
「キラ―クイーン!」

背後から伸びた一撃は重く、強烈だった。両腕で固く守ったキラークイーンのガードが痺れるほど。
驚愕に目を見開きながらソイツを睨み、そしてさらに驚いた。

奇妙な格好をしている男だった。
毛糸を編み込んだような全身スーツ、あちこちからケーブルプラグのようなものが伸びている。これほど趣味の悪い恰好は見たことがない。
落ち窪んだ眼光、真っ赤でてかてか輝いている口元がこれ以上ないほど気味悪い。
私は驚愕と同時に、それ以上の嫌悪感を抱いた。なんなんだ、コイツ。一体何者なんだ。

「おっ、おっ、おっ…………!」
「くッ……!」

考える暇も与えない、ということか。その男は立て続けに拳を振り回し私に襲いかかる。
右に左に素早い身のこなし。鉛のように固い拳。なんてやつだ。コイツ、素早いぞ……! それに、重いッ!
私のキラ―クイーンをもってしてもさばききれないほどに……コイツの一撃は、強烈……ッ!

間違いない、こいつ……『スタンド使い』だ。私と同じ能力を持っているということだ……ッ!

隙をついて繰り出した右の一撃。私の反撃を相手はガードすることなく、その場で沈みこみ回避する。鼠のようにすばしっこいヤツだ。
長椅子をガタガタと揺らしながら男は暗闇に紛れ、そして姿が見えなくなる。恩わず私は舌打ちした。この状況、圧倒的に不利なようだ。
だが不利であっても不運ではない。ヤツは完全に去ったわけではない。気配は感じられる。どうやらコイツ、戦る気のようだ。
あのスーツをまとった謎の男はこの吉良吉影と戦う気らしい……!

(いいだろう……ならば、かかってくるがいい! 私とて君をここで逃すわけにはいかないのだからな)

腕時計に目を落とす。ホル・ホースたちが帰って来るまでどれぐらいかかるだろうか。もうすぐにでも帰って来るのではないだろうか。
やれやれ、とんだ災難だ。だがこんなピンチであろうと私には切り抜けられる。切り抜けるだけの能力があると、自負している……!

速攻でカタをつけさせてもらおうか。
ああ、そうだ。君は既に見てしまったのだからな……このキラ―クイーンを。私のスタンドを!
私は誰かに勝利することに喜びを感じない。だが、だからといって誰かに敗北することは決してない。
平穏は勝利でもなく敗北でもなく、その先にあるのだ。私の平穏のためにも……

「君にはここで死んでもらう……!」






【リキエル 死亡】
【ストレイツォ 死亡】

【残り 65人】

452 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 02:00:10 ID:ulmKWjRY
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会脇/1日目 午前】

【H&F】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(ホル・ホースの物)
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
0.教会に戻ってストレイツォ達と合流。
1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。
※ストレイツォから基本支給品、それとホル・ホースのものだったランダム支給品を返してもらいました。

【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルなし)、ランダム支給品2〜4(徐倫/F・F)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
0.教会に戻ってストレイツォたちと合流。
1.『あたし』は、DIOを許してはならない……?
2.もっと『空条徐倫』を知りたい。
3.敵対する者は殺す? とりあえず今はホル・ホースについて行く。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いてません。
※少しずつ記憶に整理ができてきました。





【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内講堂/1日目 午前】

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:健康
[装備]:波紋入りの薔薇、聖書
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
0.スタンドを見られた以上セッコを逃さない。
1.平穏に過ごしたいが、仕方なく無力な一般人としてストレイツォと同行している。
2.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
3.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態、血まみれ
[装備]:カメラ
[道具]:基本支給品、死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ、リキエル、ストレイツォ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.邪魔されたので吉良を殺す。
1.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。
2.DIO大好き。チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな? よくわかんねえ。
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。  


[備考]
※リキエルとストレイツォの死体は講堂内に放置されています。一部がセッコによってデコレーションされてます。
※それぞれの死体の脇にそれぞれの道具が放置されています。
 ストレイツォ:基本支給品×2(水ボトル1本消費)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
 リキエル:基本支給品×2、

453 ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 02:05:37 ID:ulmKWjRY
以上です。何か指摘ありましたらください。
年末すごく忙しくて投下が遅れました。連絡もできなくて済みませんでした。
今年もよろしくお願いします。


>>批評して下さった方々
丁寧な批評ありがとうございました!
指摘くださった箇所を意識しながらもう一度自分でも読みなおしてみました。
まだまだ駄目だな、と痛感しました。同時にもっともっと巧くなりたいとやる気がわいてきました。
これからも悩んだり、一区切りついたら批評をお願いするかもしれません。その時はよろしくお願いします!
ありがとうございました。


>>支援絵
描き手さんに敬意を表する! 水の不安定な感じが素晴らしい!
書き手も頑張るので、今年もよろしくお願いします。

454AWAKEN ― 乱   ◆c.g94qO9.A:2013/01/01(火) 02:10:00 ID:ulmKWjRY
あ、題名忘れてました。
題名は『AWAKEN ― 乱』です。

455 ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:09:19 ID:O1t3If1w
投下します。

456 ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:09:47 ID:O1t3If1w
森中に轟く様な放送が終わりを告げ、静寂が訪れる。
誰も何も言わなかった。声をあげることもしなかったし、身じろきすらしなかった。
名簿と放送を前に三人が見せた反応は実に対照的である。



ヴァニラ・アイスは名簿を運んできた鳩を吹き飛ばすような勢いでその紙をひったくり、長い間顔をあげなかった。
ただひたすらにDIO、その三文字で記された名前を見つめ、ヴァニラは拳を固く握った。
同時に彼はその近くにある空条承太郎、ジョセフ・ジョースターの名から目が離せなかった。

握った紙はくしゃくしゃになる勢いで、その体はぶるぶると小刻みに震えていた。
確かにこの目で見たはずだ。首に巻かれた爆弾が爆発し、血を噴きあげながら死んだはずだ……!
だが違ったのだ。空条承太郎は生きている……! 今、こうしている間ものうのうと。ヴァニラ・アイスの知らぬところで、生きている……!

それだけではない。DIOに敵対するジョセフ・ジョースターが、モハメド・アブドゥルが、花京院典明が。
ヒビ一つ入らなかった男の顔がドス黒く歪んでいく。渦巻く感情は激情に近いものだった。この数時間自分はいったい何をしていたんだ、という自戒と自らに対する苛立ち。
あの憎きジョースターたちがこの場にいるというのに自分は何を呑気に過ごしていたのだ。
仕留めなければならない。殺さなければならない。一刻も早く、一秒でも早く。

―――ジョースターたちを殺すのはこの私だ……! ヤツらを殺し、血を、肉を……DIO様に捧げるのは自分の義務であるというのに……!

静寂に満ちた空間をミシリ……という嫌な音が破った。
あまりにも強く握った拳が骨を軋ませ、ヴァニラの怒りに堪え切れなかった筆記用具がへし折れた。
乾いた音に顔をあげる者はいなかった。ヴァニラは怒りに身体を震わせ、憎々しげに名簿を見つめ続ける。
まるでそうしていれば、遠いどこかにいようとも呪い殺すことができるかのように。



シーザーは呆然としたまま名簿を何度も見直した。
一度見た時は自分の頭がおかしくなったのかと思った。二度目見た時は自分がつづりを読み違えているだけではないかと疑った。
だが何度見直してもジョセフ・ジョースターの名前は消えなかった。兄弟弟子で喧嘩別れの挙句、二度と会えないはずだと思っていた男の名前。
シーザーは戸惑っていた。長い沈黙の後で、一体どういうことだ、と思わず独り言をつぶやいてしまうほどに混乱していた。
ヴァニラも形兆も返事を返さず、シーザーも返事を期待していたわけではない。だがそれでも彼は独り、自らに向かってつぶやき続けた。
安堵の気持ちを、その言葉に乗せて。

―――死んでいなかったのか、ジョジョ……!

少しだけ平静を取り戻し、名簿を上から下まで改めて見直す。よく見ればエシディシの名もそこにはあった。
それどころか、その男は既に死んだものとして名前が読み上げられている。
一度死んだはずのあの柱の男が? そもそもあんな化け物を誰がどうやって? 実は死んでいなかったのか? ジョセフもエシディシも?
シーザーの口から漏れる呼吸音はいつの間にか乱れ、不自然に途切れ途切れになっていた。波紋の呼吸を忘れるほどに、シーザーは戸惑っていた。
いくら考えても答えは出ない。沈黙のまま、シーザーはそれでも考えるのを辞めなかった。
何を信じ、何をすればいいのか。シーザーは唇を噛みしめ、思考を続ける。

457 ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:13:11 ID:O1t3If1w

そして形兆は……一度だけ深い溜息を吐くとそれっきり顔をあげなかった。
ゆっくりと筆記用具を下ろし、両手で顔を覆う。名簿を見直すことも地図を確認し直すようなこともしなかった。
彼の表情はうかがえない。悲しんでいるのか、皮肉気に唇を曲げているのか。それとも……涙しているのか。
虹村億泰。その名前は名簿から見つけ出すよりも先に放送で読み上げられてしまった。
形兆はその名前が呼ばれた時一寸だけ、メモを取る手をピクリと固めた。だが結局彼は最期まで几帳面に全ての死者の名をかき取った。
淡々と。まるで機械のように几帳面な字で一字一句、書きとった。

458 ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:14:00 ID:O1t3If1w

形兆はヴァニラ・アイスが怒りに震えても、シーザーが問いか/ける様に呟いても動かなかった。
億泰が死んだことに対して形兆は二つの感情を抱いていた。やっぱりなという諦めの様な気持と純粋な悲しみ。
家族を失った喪失感が影のように形兆を包んでいる。顔を覆う両手を下ろすと、男は深々と息を吐いた。彼の顔には疲労の色が濃く浮かんでいた。
疲れて表情を作ることすら面倒だと言わんばかりの、深く深く青い顔。形兆は眉間に手を当てると考えに沈んだ。

459 ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:14:35 ID:O1t3If1w



父親を殺すために生きてきた。父親を治すため生きようとした。でもそれは形兆自身のためだけだったのだろうか。
いいや、違う。苦々しげに表情を歪め、形兆が脳裏に浮かべたのはできの悪い弟の顔。
兄らしいことはなにもできなかった。否、なにもしてやれなかった……『しなかった』。
億泰と前に会話をしたのはいつになるのだろうか。一緒に食卓を囲んだのはいつだった。
母が死んで、父があんなものになってから……兄弟そろって笑ったことなんてあっただろうか。

『こいつを殺したとき、やっと俺の人生が始まるんだッ!』
そう声高に叫んだのは自分だ。弟は何も言わなかった。自分の目的のため、何もかもをほっぽり出して形兆は矢の分析と調査に夢中になった。
そんな時も億泰は何も言わなかった。何も言わず、ただ自分をじっと見つめていただけだ。

『家族』を失ったんだ。形兆はゆっくりとその事実を理解し、途端に乾いた笑いが口から漏れた。
母は死んだ。父は屑でそれにふさわしい化け物に成り下がった。だが弟は違ったはずだ。億泰は違う。億泰は違うはずだったというのに……!
何の罪もないアイツを巻き込んだのは自分だ。
自分がスタンド使いにならなければこんなことにはならなかったはずだ。自分がDIOの連中にこんなちょっかいをかけなければ億泰は死ななかった。自分が親父を殺そうと思わなかったら……!

―――アイツを殺したのは、俺だ。



冷たい風が三人の間を切り裂いた。身体を震わせるような冷たい風だ。誰も動かなかった。

控え目に舞った木の葉が恐る恐ると言った様子で一枚だけ落ちてくる。
ヴァニラ・アイスはそれが落ちるのを待ちかまえていたかのようにデイパックを取りあげると無言のまま立ち去ろうとした。
一度だけシーザーがその背中に声をかける。おい、待て、どこに行く気なんだ、と。
ヴァニラ・アイスは振り返りもせず、返事もすることもしなかった。ただ背中から滲み出た怒気はそれ以上に彼が言わんとすることを物語っていた。
シーザーは男が立ち去るのをただ見送るしかなかったった。きっと止めるべきだったのだろう。だがはたして今の自分にヤツを止められるのだろうか。

動揺に波紋を乱した自分と、主の忠誠に燃える男。シーザーは拳を固く握った。
ヤツがリサリサを、シュトロハイムを、そしてジョセフを殺す未来だってあり得るというのに。
祖父の仇ディオ。ならばそのディオに仕えるあの男も見逃していい道理などあるはずがないというのに……!

シーザーは結局戦わなかった。
唇をきつく噛みしめ、ヴァニラ・アイスの背中が見えなくなるまでその姿を見つめていただけ。
深く多い繁った森がヴァニラ・アイスを包み、やがて彼の姿は消えていく。悔しいが見逃したのは自分ではなくヴァニラのほうだ。見逃したのでなく、『見逃された』のだ……ッ!
シーザーはもう一度拳を固く握った。戦ってもないのに、惨めなまでの敗北感が彼を襲い、シーザーは何も言うことができなかった。





460 ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:15:04 ID:O1t3If1w
「お前はどうするんだ」

シーザーがそう言ったのはだいぶたった後だった。
風がもう一度吹き木の葉を揺らすまでの長い間、二人はそれぞれに黙り込んでいた。
形兆は長いこと俯いたままだった。もしかしたら泣いていたのかもしれない。そうシーザーは思った。

依然無言のまま黙り込む形兆を見て、シーザーはデイパックを取りあげる。いつまでもこうしているわけにはいかなかった。
混乱が収まったわけではない。だが気持ちは既に固まっていた。
ジョセフに会う。リサリサを見つける。シュトロハイムと協力し、柱の男たちを仕留める。
そして……ディオとの決着も、なにより死んだはずの祖父ウィル・A・ツェペリその人にも、必ず会わなければならない。
一体何が起きているのかはわからない。だからこそ、ここで立ち止まっているわけにはいかなかった。
シーザーは前に進む。デイパックを担ぎ直すと、最後にもう一度形兆を見、そして歩き始める。



「わからねェんだ」

不意に形兆がそう言った。放送を越えて初めて形兆が口にした言葉だ。
背中越しに投げかけられたその言葉に振り返り、シーザーは腰に手を当てると男の顔を真正面から見つめた。
形兆の頬は涙でぬれ、目は充血して真っ赤だ。乱暴にごしごしと目元をこすり、地面を見つめる形兆。
神経質そうな面影はもうどこかへいってしまった。悲しみと失意に打ちひしがれた、ただの青年がそこにはいた。
シーザーは覚えている。名簿にはもう一人の『ニジムラ』が載っていたことを。そしてその名前が放送で呼ばれたことも。

「もうなんのために戦えばいいのか、俺にはわからないんだ、シーザー」

なんと弱気な言葉だろう。なんと哀れな姿だろう。
これがあの虹村形兆か。計算高く、度胸に溢れ、掴みどころのない男。そうシーザーに思わせた男なのか。
シーザーは黙って拳を握りしめた。一歩、二歩、大股で形兆に近づくとその胸ぐらをつかみ無理矢理その場で立たせる。
力のない視線がシーザーを見返した。何て目をしているんだとシーザーは思った。死んだ魚だってもう少しましな目をしている。

ああ、そうだろう、悲しかろう。涙したいだろう、励ましてほしいだろう。抱きしめてほしいだろう。
家族を、身内を失えば誰だって悲しいさ。泣きたくもなる。動きたくもなくなる。ずっと蹲ってそんなこと信じたくないんだって叫び出したくなる気持ちだってわかる。

―――わかるとも。俺だってそうだったんだ……ッ!

だがシーザーはそんなことをしなかった。そんなことを考えもしなかった。
代わりにシーザーは腕を思いきり振りかぶり、万力込めて目の前の男を張り飛ばした。
波紋を込めた強烈な、眼がばっちり覚めて一週間は眠れなくなるような、そんな凄まじい一撃だ。

461 ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:15:31 ID:O1t3If1w



「知るかよ」


吹き飛んだ形兆は綺麗な弧を描き、受け身を取る暇もなく大地に叩きつけられる。
吐き捨てるようにシーザーはそう言った。もとよりシーザーには学がない。難しいこともわからない。
女の子を口説くことは大の得意だが、身内を失った男の励まし方なんて考えたこともない。
だから殴った。自分の気持ちを込めた一撃を、言葉だけではなく拳で伝えようとしたのだ。


「戦う理由なんて俺だってわかんねェよ。考えたこともないさ。
 けど……それでも俺のご先祖様は戦ってきたんだ。俺のお師匠さんも、悪友も、むかつくがあの柱の男たちだって……今までずっと戦ってきたんだ。
 贅沢言ってんじゃねェぞ! 生きてんだろ、お前は。脚がある、手がある、ピンピンしてる。
 わからねェならわかるようになればいいッ! わかるまで戦い続ければいいッ! すくなくとも俺はなにもしないで、何もできないで殺されるなんてごめんだぜッ
 爺さんも親父も戦って死んだッ! なら俺だって戦って戦って……何か成し遂げねェーとあまりにカッコ悪すぎるだろうがッ!」


シーザーもかつて『失った』男だった。母を失った。父を失った。家族を失った……!
だがそこで彼は折れなかった! シーザーを立ちあがらせたのは失ったはずの父だ。
彼が失ったと思っていた祖先が、血統こそが彼を奮い立たせたのである。


「俺はもう行くぜ、形兆。ヴァニラ・アイスは放っておけない。アイツは本気で危ないヤツだ。放っておいたら何しでかすかわからない。
 それに危ないのはヤツだけじゃない。ほかにもたくさん、たくさんぶっとばさねーといけねーやつがいるんだ。
 いつまでもここにいるわけにはいかない」


地べたに座り込んだ形兆を尻目にシーザーは立ち止ることなく歩き出した。
太陽は既に昇り始めている。多い繁る木々を掻い潜り、光の筋が辺りに降りそそいでいた。
形兆はまだ俯いたままだ。シーザーの殴った頬を撫ぜると、無言のまま項垂れている。
シーザーは振り向くことなく、顔をあげることなく言葉を口にした。それでも形兆は動かない。

「森の切れ目で五分だけ待つ。その後どこに行くかは考えてないが……もしもお前が一緒に行きたいって言うなら俺は大歓迎だ」


ヴァニラ・アイス。忠誠と狂信で、ただ盲目に先をゆく者。
シーザー・アントニオ・ツェペリ。背負って潰れて、それでも再び歩きだす者。
虹村形兆は? 弟はいない。背負うべき血統も家族もない。支える友人もいなければ、守りたいものももう失った。


二人が去り、一人残された森の中。ようやく顔をあげた形兆を照らす日差しは眩しい。
殴られた箇所がズキズキと痛んだ。口の中を切ったのか血の味がじんわりと広がっていく。唾を吐きだしてみれば、それは真っ赤に染まっていた。
形兆は重々しくため息を吐いた。その目はいくらか『まし』になっていた。すくなくともさっきよりは随分と『まし』な目を、彼はしていた。

デイパックを取りあげ、のろのろと体を引きずるように行進を始める形兆。
その行く先にはなにが待つ? その行く先になにを見る?

462 ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:15:50 ID:O1t3If1w






―――シーザーがその遺体を埋めた少女、シュガー・マウンテンはかつてこう言った。

 “『全て』をあえて差し出した者が、最後には真の『全て』を得る”

差し出すものもない青年は何を見る? 主に全てを差し出した狂信者は? 全てを背負った誇り高きものには?




―――答えはまだ出ていない。

463背中合わせの三つの影   ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:16:42 ID:O1t3If1w

【E-1 東部 / 1日目 朝】
【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:怒り、焦り
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のために行動する。
1.DIO様に敵対するジョースター一行とその一味を始末する。
2.DIO様を捜し、彼の意に従う
3.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。



【E-1 ドーリア・パンフィーリ公園 泉と大木 / 1日目 朝】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッシ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:健康
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式×2、ジョセフの女装セット
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.形兆を森の切れ目で五分だけ待つ。来なかったらそれまで。
1.ジョセフ、リサリサ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。

【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悲しみ、動揺
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する?
0.???
1.シーザーについて行く? ヴァニラを追う?
2.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく?
3.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう?

464背中合わせの三つの影   ◆c.g94qO9.A:2013/01/11(金) 18:18:15 ID:O1t3If1w
以上です。誤字脱字矛盾点ありましたら指摘ください。
申し訳ないんですが、どなたか代理投下をお願いします。

465 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:08:53 ID:dZiaTow.
投下します。

466 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:15 ID:dZiaTow.



―――初めて乗るバイクはとても大きかった。





467 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:35 ID:dZiaTow.




双葉千帆は小説家を夢見るフツーの女の子だ。
親の愛情をたっぷり受け、のびのびと育ち、温かな家庭で生きる女の子。
家に帰っても母親がいないというのは年頃の女の子に少しだけ辛い事実であるが、父は優しく、時に過保護すぎるほどだった。
そんな家で育ったから千帆は夜遊びなんてめったにしなかったし、バイクに乗るなんてことはもってのほかであった。
彼女にとってバイクとは学校にいる悪い先輩のオモチャ道具、あるいは住宅街でやたら騒音をたてる耳障りなものでしかなかった。

「……お前、運転できるか?」

折りたたまれた最後の支給品を開けば、そこから飛び出て来たのは一台のバイク。
なにが入っているか確認していたとはいえ千帆が想像していた以上にそのバイクは大きかった。
目を丸くする千帆にプロシュートが尋ねる。千帆は黙って首を振った。自転車なら載れますけど、彼女はそう申し訳なさそうに返事をした。
プロシュートはそうか、とだけ言うと何でもないといった感じでバイクに近づき、シートやハンドルを優しく撫でた。

えらく手慣れている感じがした。普段からバイクに乗り慣れているのだろうか。
千帆が見守る中、プロシュートはサッと脚をあげ座席に跨り、メーターをチェック。
ガソリンの量を確認し、ハンドルの感触を手に馴染ませる。なんら異常のない、むしろ手入れが行き届いている良いバイクだった。
手首を返すようにグリップを捻り、バイクのスタンドを蹴りあげる。途端に機械の体に命が宿ったようだった。
腹のそこまで響く様な低音が辺りを包む。ドドド……と唸るバイクはまるで大きな獣のようだ。手懐けられた元気いっぱいの鉄の生き物。
そしてそれに跨るシックなスーツをまとったプロシュート。

凄く『絵になる』風景だな。千帆は状況も忘れ、一人そう思った。
まるで古いハリウッド映画の一コマの様な、そんなことを連想させるワンシーンだった。


「なにしてるんだ、おいていくぞ」

千帆の思考を破ったのはそんな言葉だった。目をパチクリとさせながら見れば、プロシュートが座席の後ろ側を指さしている。
千帆は最初プロシュートが何を言っているのかわからなかった。おいてく、って何が?
いまいち状況が飲み込めていない千帆の状況を察し、男が深々と息を吐く。

「お前が持ってた支給品なんだからお前がのらないんでどうするんだ」

だから乗るって……どこに―――?






468 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:09:56 ID:dZiaTow.




「しっかりつかまっておけよ」

改めてみる男の背中は大きかった。千帆は振り落とされないようにその体にしがみつく。
親でも兄妹でも恋人でもない男の人に抱きつくのは初めてのことで千帆は最初、それを躊躇った。
腕越しに伝わる男の体の温もり、スーツ越しでもハッキリとわかるほど鍛え抜かれた肉体。心臓が早鐘を打つ。
お願いだから振り返らないでほしい。誰にいうわけでもなく千帆はそう願った。今の自分は間違いなく赤い顔をしているだろうから。

一台のバイクが街をゆく。ゆるいカーブに千帆は振り落とされないよう、少しだけ腕に込める力を強くした。

プロシュートが気を使ってくれたのだろうか。あるいは乗車中に襲撃されることを考慮したのかもしれない。
バイクはそれほどスピードを出さないで、滑るように道路を進んでいった。音は微かにしか出ず、振動もほとんど感じられない丁寧な運転だった。
最初は緊張に身を固くしていた千帆も、その内運転を楽しむまでになっていた。
頬を撫でる風が心地よい。風景があっとういまに前から後ろへ流れていく。とても新鮮だった。
バイクに乗るってこんな感じなんだと思った。そんな驚きと興奮が彼女の中で湧き上がっていた。

二人の旅は順調に進んでいく。千帆とプロシュートは一度地図の端まで参加者を探しに南下し、ついで禁止エリアの境目を確認する。
そこにはなにもなく、目印も標識も一切なかった。何も変わりない街並みが、ずっと先まで続いている。
それはとっても非現実的な光景だった。日本のただの住宅街なのに、そこには生活の臭いと言うものを感じさせない、居心地の悪い無機質感が漂っていた。


折り返し、今度は病院を左手に北上していく。東から地図に記されている拠点をしらみつぶしに周っていった。
レストラン・トラサルディー、東方家、虹村家、靴のムカデ家、広瀬家、川尻家、岸辺露伴の家……。

そうして幾つものカーブを曲がり、無数の十字路を通り過ぎ、何度か左に右に曲がったころ……。
順調に進んでいたバイクがスピードを落とし始め、遂には完全に止まる。
それはこの旅で一度もなかったことで、突然の停止に千帆は何事かとプロシュートの背中を見つめた。

ひょっとしたら誰か他の参加者を見つけたのかもしれない。それとも何か人がいたと思える痕跡を見つけたのかも。
何も言わないプロシュートの後ろから首を伸ばして道路の先を見る。すると一人の男が立っているのが視界に写った。
どうやら向こうもこちらに気づいたようで、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

近づいてくるにつれ、その男の容貌がはっきりとしてきた。ヒゲ面で腰のベルトにナイフを刺した風変りな男だ。
抜き身のまま剥き出しの刃物が怪しく光る。見るからに『危ないヤツ』というを雰囲気を醸し出している。
アウトロー丸出しの、西部劇に出ても違和感なく馴染めそうな浮世離れした男だ。
自然と千帆の腕に力がこもる。プロシュートは何も言わなかった。だが千帆の腕を無理にひきはがすようなこともしなかった。
それが彼女を少しだけ冷静にさせた。

バイクにまたがる二人に近づく男。お互いに顔がわかるぐらいまで近づいたころ、ようやくその男が口を開いた。
思ったよりハッキリとした口調でしゃべるなと千帆は思った。もっとぼそぼそとくぐもった声でしゃべるかと思っていた。

「エシディシという男を知らないか。民族衣装の様な恰好をして、がっちりとした体つきの二メートル近い大男だ。
 鼻にピアスを、両耳に大きなイヤリングをしていて頭にはターバンの様なものも巻いていた。
 一度見たら忘れらない様な、強烈なインパクトの男だ」
「……しらねェな、そんなヤツは」
「そうか」

469 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:10:36 ID:dZiaTow.


沈黙が辺りを漂った。会話はそれでおしまいのようで、ヒゲ面の男は要は済んだという顔で踵を返し、元来た道を戻り始める。
プロシュートはそんな男を何も言わず、ただ見つめていた。とても険しい顔をしていた。
千帆が話しかけられないほどにプロシュートは鋭い目つきで、その男が見えなくなるまでずっとその後ろ姿を睨んでいた。

男が角を曲がり、ようやくその影も見えなくなる。初めてプロシュートが緊張を解いた。
短い間だったはずなのにずしっりとした疲労感を感じさせる、緊迫した時間だった。
千帆も止めていた息を吐くと、張りつめていた神経を解く。実を言うと千帆はあの男が怖かった。
ギラギラとした眼、亡霊のように力なく揺れる身体。気味が悪かった。エシディシと言う男との間によっぽど何かがあったのだろう。
その底知れない執念というのか、怨念と言うのか。きっとそれは千帆が初めて体験した『生の殺意』だったのかもしれない。
混じり気なしの、ただただ“殺したい”という気持ちが凝縮された感情。

思い出すだけでゾッとした。千帆はそっと鳥肌が立った腕を撫でる。改めて自分がとんでもない場所にいるんだ、と実感する。
早人や露伴先生、プロシュートのような人ばかりでない。あんな恐ろしい男が沢山いるかもしれないのだ。


再び動き出したバイクはさっきより遅くなったように思えた。
滑るように進んでいたその機体はノロノロと住宅街を進む。千帆は少し躊躇ったが口を開いた。
ずっと黙ったままのプロシュートに尋ねる。背中越しにその表情はうかがえない。
二人を包む風に負けないよう、大きめの声で言った。

「あれだけでよかったんですか?」
「あれだっけって言うのはどういうことだ」
「だからあれだけですよ。何も聞かなかったじゃないですか。
 向こうはエシディシって人のことを聞いたのに何も聞かなかったし、今思えばあの男の人の名前もわからないじゃないですか。
 さっき言ってましたよね、仲間と情報が欲しいって」
「……そうだな」
「そうだな、って……」
「千帆、アイツの眼見たか?」

プロシュートがスピードを緩めるとT字路を左に折れた。
こうやって会話を交わしながら、運転しながらでも、プロシュートが辺りをしきりに警戒していることがわかる。
見ることは見ましたけど。千帆は自信なさげにそう返す。だけど見たからなんだというんだ。
千帆は軍人でもないし、心理学者でもないのだ。正直言ってあまりいい印象を持たなかった、としか言いようがない。詳しく聞かれたところでなにも言える自信はない。
プロシュートも彼女の言わんとすることがわかったのか、問い詰めるようなことはしなかった。ただ少し間を開けた後、彼はこう言った。

「病院で話したよな。“最終的には『持っている』人間が生き残る。力の優劣とは、また別の次元の問題だ”って。」
「はい」
「直感でいい、お前から見てアイツはどう思った?
 あの男は『持ってる』ヤツか? それとも『持ってない』ヤツか? 千帆の眼にはどう映った?」
「…………」

470 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:00 ID:dZiaTow.


すぐに答えることはできなかった。難しい問いかけだ。
千帆はもう一度さっきの男のことを思い出す。今度は曖昧な記憶を掘り起こすのでなく、しっかりと男の容姿から話し方まで、全部くっきりとイメージする。
話しながらどんなふうに身振りをしていたか。プロシュートを見る時どんな眼をしていたか。千帆を見た時、どういう顔をしていたか。
身長はどれぐらいだ? 癖は何かなかったか? 薄暗い雰囲気をしていた。ならどうしてそう思ったのか。どこがそう思えたのか。
プロシュートは千帆の返事をじっと待っていた。急かすようにするわけでもなく、その間もバイクの運転とあたりの警戒に神経を注いでいる。

やがて長い直線が終わるころになってようやく千帆の中で答えがまとまった。
ハッキリとした声で千帆は言う。まちがってるとか、正解は何だと聞かれてたらこうは答えられなかっただろう。
でもプロシュートが聞いたのはどう映ったか、だ。だから自分の思ったことなら、千帆は自信を持っていうことができる。


「『持ってない』ヤツ、だと思います」
「……なんでそう思った?」
「難しいんですけど、あの人から“死んでも生き残ってやる”って気持ちが伝わってきませんでした。
 変な表現なんですけど……というか矛盾してるし、きっと小説でこんな言葉使っちゃいけないんですけど……私にはそう見えたんです。
 凄い気持ちがこもってる人だとは思ったし、それが伝わってきたのは確かです。怖かったぐらいです。
 でもだからこそ、一度それが壊れたら……脆いんじゃないかなって」
「なるほど」
「エシディシ、って人を探してるみたいで……きっとその人を……殺したがってるみたいなんですけど……。
 なんというか、殺したらそれで満足しちゃいそうな気がしました。生き残れって言われてるはずなんですけど、殺したらそれで満足だ、みたいな……。
 悲壮な覚悟って言えばいいんですか。特攻隊というか、思いつめてるというか……」
「俺もだいたい同じことを考えてた。俺から見ればアイツは『持ってるものを放り捨てれるヤツ』だと思った。
 目的のためなら簡単に飛び移れるやつだ。何かを犠牲にして次のステージに写って、そっからまた次へ……って具合でな。
 こうやって言うのは簡単だが、それをするのはなかなか難しい。それにそれがいつだってそれがいい事かと言えばそうでもない」


持ってるものを放り捨てるヤツ。千帆はその言葉を聞いて顔をしかめた。
あまり好きそうになれないタイプだ。繋がりとか積み重ねというものを大切にする千帆にとってはそういう人はなかなか信用できる人ではない。
勿論何かを成し遂げるには何かを犠牲にしなければいけない。小説を書くときに睡眠時間を削ったり、友達の誘いを断ったり。
でもそういうのも普段の積み重ねのうえでの取捨選択だ。100から0に、イエスかノー。切り捨てや立ち切りというものはそう簡単にできるものではない。
逆説的に言えば、それができるほどあの人は強い人でもあるのかもしれないけど。千帆はそう思った。

プロシュートの話は続いた。

「俺が銃の構えを教えた時、何て言った?」
「えっと……引き金を引くことに意識を集中させるんじゃなくて、引き金を『絞る』」
「それ以外は?」
「6発あるからだなんて考えるんじゃなくて、一発で仕留めろ」

プロシュートが大きく頷いたのが筋肉の振動で伝わってきた。
声のトーンが少し変わった。もしかしたらうっすら笑っているのかもしれない。

471 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:27 ID:dZiaTow.


「そうだ。なら聞くけど一発でも仕留められそうにもない時、お前だったらどうする?
 今しかきっとチャンスはない。ここで撃てば確実仕留められるはずだ……ッ!
 でもどうしてだか、相手に銃弾が当たる気がしない。コイツを討つイメージが頭に浮かばない。
 そう思った時、お前はどうする?」
「…………」
「……俺がお前の立場なら答えは決まってる。『逃げる』、ただそれだけのことだ。
 そしてもう一度待つ。次こそは見逃さない、今度こそ絶対に一発で仕留めてやるってな」
「逃げていいんですか?」
「勿論逃げちゃいけない時もあるし、逃げられない状況もある。けど逃げが間違いだっていうのは『間違い』だ。
 逃げだって選択肢の一つだ。それに時には撃つ時よりも、戦う時よりもよっぽど勇気が必要な『逃げどき』だってある。
 忘れるな、逃げることだって立派な選択肢なんだ。進む方向が違うだけで逃げだって前進してる。
 イノシシみたいになにがなんでも突っ込めばいいってもんじゃねーんだ。まぁ、その選択が一番難しいってのはあるけどな」

難しい話だ。一発で仕留めなければいけない覚悟が必要なのに、二発目以降も準備しておかなければならない。
歌を歌いながら小説を書けと言われてるのも同然だ。そんなことが自分にできるのだろうか。まだ銃の構えだっておぼろげなのに。
千帆の不安が伝わったのか、プロシュートは更にスピードを緩めながら口を開く。
その口調は確かに柔らかなものになっていた。

「俺が言いたいのはな、さっきの言ったことと矛盾してるみたいだが、一発外したら、はい、そこでお終いなんてことはないってことだ。
 そりゃ相手を前に外したら誰だってヤバいって思う。衝撃を受けるのは当然だ。俺だってきっと動揺する。
 けど大切なのはそこで敗北感に打ちひしがれないことだ。まだ相手は生きてるし、自分も生きてる。
 もしかしたら相手が俺を撃ちぬくことのほうが早いかもしれない。けどもしかしたら相手も慌てていて、俺の二発目が間に合うかもしれない。
 俺が逃げ伸びて、次の時にうまく弾丸をぶち込めれるかもしれない。一瞬硬直して、逃げようとしたら背中を撃たれるかもしれない」
「…………」
「つまりだな、千帆、生きることを最優先しろ。生きてればリベンジできる。生きてる限り、銃弾を込めなおすこともできる。
 けど死んだらおしまいだ。死んでもやってやるなんて覚悟は『死んだ後』にでも考えておけ。それか『どうあがいても間にあわない』って時にでもとっておけ。
 死を賭してでもって覚悟はけっこー諸刃のもんなんだ。少なくとも俺はそう思う」
「…………」

千帆は何も言えなかった。ただ何も言わないのは失礼な感じがして、黙って大きく頷いた。
背中越しでも頷いたことがわかるように少しだけ大袈裟に。プロシュートがどう思ったかはわからない。でも千帆はその言葉に素直にうなずけない自分がいることを自覚した。
自覚したから頷くだけで返事をしなかったのだ。バイクは何事もなく進んでいった。辺りには人影一つ見当たらなかった。

472 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:11:48 ID:dZiaTow.



―――生きること、か。


それは時にものすごく残酷な刃物になる。
悲しみを背負って歩き続けなければいけないことは辛いことだ。それが努力ではどうにでもならないものであればなおさらだ。
だが千帆に逃げる気などさらさらない。死のうだなんて絶対思わないし、さっきプロシュートに言った言葉に偽りはない。

―――『私、小説を書くんです。元の世界に戻って。絶対に』

絶対に……。絶対に……! 彼女は言い聞かせるように心の中でその言葉を繰り返した。
ああ、そうだとも。生き残ってやる。例えそれが呪われた運命だとしても、それを選んだのは千帆だ。千帆自身だ。
千帆は自分が『何かに巻き込まれた』とは思ってない。千帆がここにいるのはそうする必要があったからだ。
千帆がここにいるのは、千帆である必要があったから。千帆にしかできないこと、千帆が成し遂げるべき何かがあるからだ。

プロシュートが一瞬だけ視線をサイドミラーに移した時、後ろの少女と眼があった。
さっきあった男と正反対の意志が彼女の瞳には宿っていた。誇り高き、強いものの眼だ。プロシュートは彼女のそんなところが気に入った。



再び口を開いた時、プロシュートの口調は元の淡々としたものに戻っていた。
バイクのスピードを落とし、次の角も右に曲がる。まるでそこにある『なにか』がわかっていたかのような感じで、彼はバイクの速度を緩める。
二人の視線の先に一人の男が映っていた。さっきのような怪しい気配剥き出しの男ではなかったが、こちらを警戒しているのが一目でわかる。

身長は平均よりやや高いぐらい。腕や肩のあたりががっちりしていて、それに比べると足や腰はほっそりしている。
バイクの音を聞きつけていたのか、びっくりした様子もなく、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
片方の腕を伸ばし、突きつける様に指さしている。見た感じ武器を持っているようには思えなかったが油断はできない。スタンド能力を持っているのか知れない。
プロシュートはそんな彼の手前、三十メートルほどでバイクを止めると振り向くことなく千帆に言った。

「千帆、お前が説得してみろ」
「え?!」
「さっきのヤツは見るからにヤバいヤツだったから俺が対処した。今度のヤツはまだマシに見える。
 いつまでも俺におんぶにだっこってわけにはいかねーだろ。それに俺はお前の眼を信用してる。お前のツキも信用してる」
「そんなこと言われても……」

いいからやってみろって。そう背中を押され、千帆は最後にはやるしかないと覚悟決め、バイクを降りた。
プロシュートが隣に立ってくれていることが彼女を勇気づけた。真正面に立つ青年がそれほど怪しい目つきでないのも彼女を奮い立たせてくれる。
唇を一舐めすると、心臓に手をやりながら口を開いた。なんだか喋ってるのが自分じゃないみたいだ。
千帆は相手に聞こえる様、大きな声ではっきりと話した。

「私は双葉千帆と言います。ある人を探していて、その人のことについて知っているならお話がしたいです。
 私は誰も殺したくありませんし、貴方も誰も殺さないというのなら一緒に力を合わせたいと思います。
 どうでしょうか、私と協力してくれませんか?」

訪れた沈黙が居心地を悪くする。ジャケットに入れた拳銃がひやりとしていて、その感触がなんだか胃をムカムカさせた。
馬鹿正直に話しすぎだろうか。千帆は少しだけ後悔した。でも彼女は自分の勘を信じていた。
眼の前の青年は決して平和ボケしたような甘ちゃんではないが、誠意をもって話せば話は通じる相手だろうと。
ピンと来たのだ。この人は私と同じだと。私と同じように誰か探している様な気がする。それも堪らなく会いたいと思えるような、大切な人を探してる。

473 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:07 ID:dZiaTow.


「彼女の後ろに立ってるアンタ……。アンタはスタンド使いか?」

返事は冷たく、固かった。
視線を千帆からゆっくりと外し、プロシュートを睨みながら青年が口を開いた。
プロシュートは唇を捻っただけで何も言わなかった。肯定も否定もしない。初対面でこの反応はいい印象を与えないだろう。
隣に立つ千帆は少しだけ心配だった。自分に説得するようやらせておいて、それはないんじゃないのと思った。
長い沈黙の後、ジョニィが口を開いた。依然指先はこちらを向いている。その鋭い眼光も一向に衰えていない。

「話をするなら……一人ずつにしたい。僕はあなたたちを悪いヤツではないと思ってる。
 だけど、まだ完全に信頼することはできない。騙し打ちをする気なんじゃないかって、そう疑う気持ちだってある。
 だから話をするならどちらか一人ずつだ。ここじゃないどこかで、一人ずつ話をしたい」

千帆が振り向けばプロシュートは我関せずと言った顔であらぬ方向を向いていた。
話をするかどうかも、全部任されたということだろうか。初めての交渉なのにいきなり投げっぱなしとは信頼されているのか、試されているのか。
少しの間考えてみた。ずっしりとした拳銃の重みが彼女の決断をより一層重大ものにすると訴えている。
そうだ、間違えたら死ぬのだ。眼の前の青年を測り違えたら殺されるのだ。そう簡単にできるものではない。

それでも……再び千帆が動いた時、彼女の中で迷いはなかった。
ジョニィに見える様、彼女は力強く頷いた。その目に一点の躊躇いも持たず、千帆はジョニィ・ジョースターとの対峙を選択した。





474 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:28 ID:dZiaTow.




スクアーロからもらったタバコを病院に置いてきたのは間違いだったかもしれない。
千帆とジョニィ・ジョースターがひっ込んだ民家の前で座り込み、プロシュートは一人思う。
こんなのんびりとした時間がこうもはやく来るとは流石に予想外だ。病院を一歩出ればそこは戦争で、戦い尽くしの未来だと勝手に思っていた。

スーツについたほこりを叩き、さっきまで乗っていたバイクにもう一度またがる。
千帆の予想に反し、プロシュートはそれほどバイクに乗り慣れているわけではない。どちらかと言えば車のほうが普段からよく使うし、車のほうが好きだ。
座席は柔らかいし、オーディオもいい。風にバタバタ煽られることもなければ、不格好なヘルメットをつける必要もない。
ただどうしてか、プロシュートは昔から何事も飲み込みがよく、バイクだってそのうちの一つでしかなかった。
実際さっきの運転中も見た目以上に神経をすり減らしていたのだ。千帆にそれを悟らせなかったところは流石と言うべきか。
わかっていたことではあるが、キツイ道中になりそうだ。プロシュートは身体を馴染ませるようしばらくの間、バイクに跨り考えにふけっていた。

プロシュートの思考を破ったのは道路の先から聞こえてきた足音だった。
住宅に跳ね返り聞こえてきた靴の音。それほど先を急ぐような音ではなかった。一歩一歩、確実に進んでいくような足取り。
バイクにもたれ何が来るだろうと曲がり角を睨んでいれば、一人の男が現れた。
ナルシソ・アナスイだ。そこに現れたのは愛に生きる一人の男。

プロシュートを最初見た時、彼は露骨に警戒心をあらわにした。だが見敵必殺とばかりに襲いかかってこないことがわかると、少しだけ警戒心を緩めた。
そのまま少しずつプロシュートへと近づいてくる。一歩、そしてまた一歩。その歩き方が少し不自然で、プロシュートはアナスイが怪我を負っていることに気がついた。
見れば服装も汚れ、所々血が付いているの見える。プロシュートはアナスイにばれないよう、後ろのベルトに刺した拳銃に手を伸ばす。
グリップの冷たさが彼の思考をクリアにした。怪我を追っているとはいえ油断はできない。なにかあれば容赦なく、撃ち抜く。


「……ここを誰か通っていかなかったか?」

アナスイが言った。

「人を探してるんだ。男と女の二人組。アンタは見てないか?」







475 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:12:49 ID:dZiaTow.






タロットカード、十三枚目。それは死神。
意味は終末、破滅、決着、死の予兆。しかしひっくり返して逆位置にすれば……その意味は再スタート、新展開、上昇、挫折から立ち直る。
リンゴォ・ロードアゲイン。双葉千帆、プロシュート。ジョニィ・ジョースター。そして、ナルシソ・アナスイ。
死神に取りつかれ、死神に魅了された五人ははたして死神に呑みこまれずにいられるのか?





                                        to be continue......

476 ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:13:12 ID:dZiaTow.
【D-7 南西部 民家/1日目 午前】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:全身ダメージ(中)、全身疲労(中)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還。
0.目の前の男に対処。
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす。
2.この世界について、少しでも情報が欲しい。
3.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。

【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(極大)、 体力消耗(中)、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
1.情報を集める。
【備考】
※放送で徐倫以降の名と禁止エリアを聞き逃しました。つまり放送の大部分を聞き逃しました。


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:疲労(小)
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品
[思考・状況]
基本的思考:ノンフィクションではなく、小説を書く。
0.ジョニィ・ジョースターと情報交換。
1.プロシュートと共に行動する。
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。
4.露伴の分まで、小説が書きたい。
[備考]
※千帆の最後の支給品は 岸辺露伴のバイク@四部・ハイウェイスター戦 でした。

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
0.双葉千帆と情報交換。信用はまだできない。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
[備考]
※サンドマンをディエゴと同じく『D4C』によって異次元から連れてこられた存在だと考えています。




【D-7 南西部/1日目 午前】
【リンゴォ・ロードアゲイン】
[時間軸]:JC8巻、ジャイロが小屋に乗り込んできて、お互い『後に引けなくなった』直後
[スタンド]: 『マンダム』(現在使用不可能)
[状態]:右腕筋肉切断、幼少期の病状発症、絶望
[装備]:DIOの投げナイフ1本
[道具]:基本支給品、不明支給品1(確認済)、DIOの投げナイフ×5(内折れているもの二本)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.それでも、決着をつけるために、エシディシ(アバッキオ)と果し合いをする。
[備考]
※名簿を破り捨てました。眼もほとんど通していません。
※幼少期の病状は適当な感じで、以降の書き手さんにお任せします。

477死神に愛された少女と死神に魅せられた男たち    ◆c.g94qO9.A:2013/01/15(火) 19:15:16 ID:dZiaTow.
以上です。誤字脱字、なんかありましたら指摘ください。
タイトルは前も一回やりましたけど 062話『神に愛された男』からです。
神系列はタイトルで使いやすくて素敵です。

478 ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:49:33 ID:TFUPmPs.
投下します。

479マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:50:38 ID:TFUPmPs.




「なんで助けたんですかッ!? なんでッ!?」

吠える様に、唸るように康一がそう言った。康一に胸ぐらを掴まれたマウンテン・ティムは、何も言えず俯いた。
カウボーイハットを深くかぶりなすと、その表情を暗く影に隠れるようにする。しかし大きく俯いてもその口元までは隠しきれなかった。
怒りに震えるその唇を。真一文字に結ばれたその口元を。
マウンテン・ティムは口を開く。その声は自らに対する怒りで低く、くぐもっていた。

「君が俺を殴りたいというのであれば甘んじてそれを受けよう。君が俺を罵倒して気が済むならばいくらでもそれにつき合おう」
「そんな話がしたいんじゃないッ! 僕が話したいのは……ッ!」
「君を救うためだ。君を助けるためにはどうしたって誰かが足止めしなきゃいけなかった。
 誰かがあの化け物を相手にする必要があった。そしてあの娘はそれを望んだんだ。
 だから俺はそうした。ああ、そうさ、康一君。俺は逃げたんだよ。彼女を見殺しにした。彼女を助けにずに、時間稼ぎの生贄に利用した。
 責任があるというのであれば判断を下した俺だ。俺の……この俺の、ミスだ」
「……ッ!」

矛先のない怒りが康一の中を駆け巡った。
八つ当たり気味に振りあげた拳はマウンテン・ティムの胸の前で止まり……かわりに地面に向かって叩きつけられた。
違う……違うッ! 康一もわかっていた。マウンテン・ティムはあえて悪者になろうとしている。
康一の向けどころのない怒りを受け止め、その感情のはげ口になろうとしてくれている。でも違う。康一もわかっているのだ。マウンテン・ティムは何も悪くない。
むしろ彼のおかげでこうして康一は生きていられるのだ。今身体を駆け巡る怒りがあるのも、電流のように流れる節々の痛みも、全てティムが救ってくれたおかげだ。


「……悪いのは、僕なんだ」

重苦しい沈黙を切り裂くように、康一がそう言った。



―――そうだ、由花子さんを殺したのは……僕だ。

480マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:07 ID:TFUPmPs.

「僕がもっと強かったなら! 僕がもっと冷静だったなら! 僕がもっと辺りを見ていられたら! 警戒を怠っていなければ!
 僕が……僕が……僕がッ! 全部僕がいけなかったんだッ! 由花子さんを殺したのは僕だッ!」
「……康一君」

せきを切ったように康一の口から言葉が溢れだした。途中からその声は涙でぬれ、ほとんど何を言っているかわからないほどになっていた。
康一を励ますようにマウンテン・ティムが肩に手を置く。その手は暖かった。
しかし……康一はそっとその手を引きはがす。その優しさに溺れてはいけない。その甘さに目をそむけてはいけない。現実を見つめるんだ。
山岸由花子を殺したのは……僕だ。由花子が死んだのは、広瀬康一が……弱かったから。


好きになったわけではない。まだ会って数時間、共に過ごした時間は数えるのも馬鹿らしくなるほどの短い間だ。
恋人になりたいとかだとか、共に生きていたいだとか……そんなことを問われれば、わからない、と康一は答えるだろう。
二人が過ごした時間はあまりに短く、入り組んでいた。それでもきっと出会い方が違ったなら……そう思ったのも事実である。

第一印象は最悪だった。なんだこの人は。なんなんだこのヒステリックな女の子は。正直に言えばそう思った。
しかしそれだけじゃないのだ。彼女の言葉を受け止め、彼女の視線を見つめ、一度だけではあるが共に戦い……康一は由花子の中にある強さも見ていた。
そのダイヤモンドのように固く輝く彼女の強さに……見とれていたのも事実である。いや、正確に言えば見惚れていた。

少しずつではあるがハッキリとイメージは浮かんでいた。そうか、未来の僕はこの人と一緒に過ごすのか、と。
一緒に学校に登校したり、休日には買い物に出かけたり、ご飯を食べに行ったり、映画を見に行ったり……。
そう思うと悪くないなという気持ちだった。恋人だとかは置いておいても結構僕たち、いい友達になれるんじゃないかって本気で思ったりした。

481マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:27 ID:TFUPmPs.



「…………守れなかった」


しゃがれた声で康一がそう言った。

だけどそう思った少女はもういない。康一に輝く未来を見せてくれた少女は死んでしまったのだから。
糸が切れた様に全身から力が抜ける。崩れ落ちた身体でその場にうずくまり、康一は地面を見つめた。
とりとめもなく、涙が溢れた。後から後から感情がこみあげてきて、それはどうしようもなく止められなかった。

由花子が笑うことはもう二度とない。嫉妬に怒り狂うこともなければ、不機嫌そうに顔をしかめることも、もう、ない。
彼女と共に歩む未来はその手をすり抜け、二度と掴めない。友達から始めませんか、そう言って差し出した手を由花子が握ることも決してないのだ。

守れなかった、未来の恋人を。友達になって欲しいと差し出した手を握った女の子を……守れなかったのだ、康一は。


康一は大声をあげて泣いた。少女の名を呼び、情けない自分を呪い、地面を叩き、涙した。何度も、何度も叫び、泣いた。
いっそのこと喉が張り裂けてしまえと康一は思った。地面を叩く拳も壊れてしまえばいい。なにもかもが、もう、どうでもいい!
康一は自らを罰するかのように、ずっとそうしていた。
だって由花子さんは痛みすら感じられなくなってしまったじゃないか。だって由花子さんは僕のせいで死んでしまったじゃないか……!

少年の叫びが辺り一面にこだまする。
マウンテン・ティムは何も言わず、ただ康一の傍で立ちつくすことしかできなかった。何もすることができない自分がふがいなかった。
獣のような吠え声が住宅街に響き渡る。康一の叫びはいつまでも、いつまでも途切れることなく、辺りに轟いていた。




【山岸由花子 死亡】







482マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:51:51 ID:TFUPmPs.




―――物語を少々遡って……

「ちょっと、えと、由花子さん……!?」
「しょうがないじゃない、こうしてないと危ないんだから」
「そんなこと言ってもこんなにくっつかないでもいいじゃないかな……?」

暗闇に包まれた民家の、その中でもさらに暗い場所でのこと。康一と由花子は身を寄せ合って辺りの様子を伺っていた。
先の由花子と康一の戦いで辺りには木片が散り、家具は壊れ、部屋中がひっちゃかめっちゃかな状態になっている。
由花子が伸ばしたラブ・デラックスは依然辺りに広がったままで、その一番濃い部分、中心地に二人は寄りそうにように立っていた。

由花子はそっとスタンドを動かすと伸ばしていた髪を集め、二人を包むように展開していく。
それはまるで巨大な繭のようだった。真っ黒で、禍々しくて、人二人をゆうに包み込める大きな繭。
二人がぴったりと体を寄せ合っているのでそれほど窮屈ではない。怪我をしている康一も由花子が気を使ってラブ・デラックスで支えているので、問題なく立つことができている。

敵のスタンドはなにか光に関連したものだろう、と二人はあたりをつけていた。
ガラスに映ったぼんやりした影。康一を襲った謎の閃光。おおまかであるが何かしら光が関連しているか、あるいは光を利用したスタンド攻撃なのではないだろうか。
康一も由花子もスタンドによる戦いの経験は少ない。戦いながら相手のスタンド能力を推測することにはまだ慣れていないのだ。

とにかく、二人はとりあえずの防御態勢を取ることにした。
由花子のラブ・デラックスで光を遮る。同時にクッションのように二人を包み込むことで突然の襲撃にも対応できるようにする。
康一の傷はそれほど深くはない。依然出血があるものの、それも由花子の応急処置で対処できている。
言い換えれば、相手の攻撃は『それまで』の攻撃なのだ。

謎の襲撃者のスタンドは由花子のラブ・デラックスのように窓をぶち破ったり、人を持ち上げたりすることはできない。
康一のエコーズのように、火を発生させたり、音をぶつけたり、そういう能力もないようだ。
ならば由花子のラブ・デラックス二人をで包めば、光が差し込むこともないし、ある程度の攻撃も防げるだろう。

無論それで全ての攻撃が防げるわけではないだろうし、繭の中であれば安全が保障されているわけでもない。
最大限の防御を引いているだけで、いずれは破られる可能性だってある。ラブ・デラックスを貫く一撃もあるだろうし、二人のスタンド予測が的外れな可能性だってある。
結局のところ、あとは戦いの中で見つけていくしかないのだ。経験が皆無と言っていい、スタンド使い二人の力を合わせて、戦うしか……!


「それで、どうするつもりなの?」

黒繭のなか、由花子が康一にそう尋ねる。今の状況、正直言えば防戦一方だ。

483マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:53:13 ID:TFUPmPs.

「一応助けは呼んでおいたよ、僕の『スタンド』でね」
「……そんなので大丈夫なの? 助けにやってきたところを逆に返り討ち、なんてなったら目も当てられないわよ」
「大丈夫だよ、僕は仗助くんたちを信じてる。すっごく便りになる人達なんだ。由花子さんもきっとすぐ友達になれるよ」
「……まぁ、いいわ。それでその助けが来るまで呑気にここで待ってればいいのかしら?」
「由花子さんは何か考えある?」
「……自分で聞いておいて言うのも何だけど、ない、わね。光が攻撃になるって言うならこの防御を解くのを相手がまっている可能性は高いでしょうね。
 外に逃げようものなら光に身をさらすことになるからそれは危険。暗闇で隠れていても相手の能力次第では懐中電灯も必殺の道具になる。
 お手上げ、かしら? 動いた途端やられるとわかっている以上、下手に動かずこうしているのが最善策……。
 じれったいわね。まるで壁越しに拳銃を突きつけられたみたい」
「我慢比べってことかな? 一応僕のスタンドで少しずつあたりを伺ってみるよ」
「あまり無理しちゃ駄目よ」
「わかってるって」


二人がそうしてからどれくらいの時間が経っただろう。焦れる様な、ひりつくような緊張感の中を二人は長い事ただ待っていた。
由花子が康一の怪我の様子を見直したり、エコーズでほんの一瞬だけ辺りを見回ったり……。
結構な時間がたったが、その間に何か起きるわけでもなく、かえってそれが二人を不安にさせた。

繭の外の様子に変化はなかった。薄暗い部屋、照りつける太陽、静寂に包まれた住宅街。襲撃者の影一つ見当たらなかった。
康一は少し危険を犯してまで先に自分が攻撃を喰らった窓ガラス辺りを調べてみたが、そこにも人影は見当たらなかった。スタンドの気配もなかった。


諦めたのだろうか……? いや、まさか。
敵は二人が戦っている最中も、粘り強く隙を伺っていたようなヤツなのだ。獲物の位置がはっきりとしている今、そんなヤツがこのチャンスを逃すだろうか?
現状由花子と康一は圧倒的不利な状況におかれている。そうまでして追いつめた獲物を、わざわざ諦める様なことをするだろうか?
いいや、しないだろう。必ずや相手は何か仕掛けてくる!
由花子と康一が光に身を晒さざるを得ない状況を作り出す……ラブ・デラックスから二人を引きずりだす攻撃を仕掛けてくる……。
そう、そんな風にならざるを得ない何かを……! 必ずや、何かを仕掛けてくるッ……!


「ねぇ」

唐突に由花子が言った。振り向いた康一の視界に写るのは暗闇のみ。辺りは真っ暗なため由花子がどんな顔をしているかわからない。
だがどことなく不機嫌な声音だった。恐怖と言うよりは、不愉快だと言わんばかりの声だ。

「なんだか熱くない?」

確かに少し康一も汗をかいている。だがそれは気にするまでもない、普通のことだと思っていた。
髪の毛の繭に包まれている今、その性質から汗をかくのも不思議ではないと思っていた。髪の毛の保温性は高いし、その中にいる二人が熱く感じるのは当然のことだ。
しかしよく考えてみれば、確かにおかしい。由花子も汗をかいてる。自分も汗をかき『始めている』。

「まさか……」


康一は思わずそう呟いた。即座にスタンドを呼び出すと外の様子を慎重にうかがう。
この現象が意味することは気温が上昇しているという事実。それも汗をかくほどまでに、急激に! 急速にッ!
そしてそれが意味することは即ち……!

484マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:53:54 ID:TFUPmPs.



「エコーズッ!」

スタンド越しに見た民家は数分前とはうって変わって明るく、光を放っていた。康一の口から思わず呻き声が漏れる。
火だ……! 敵は火を放っていた! 籠城を決めこんだ由花子と康一に対して相手がとった手は古典的だが効果抜群の策ッ!
火炙り、火攻め、炎の流法! しかもただの火炙りではない。敵には同時に光を使った攻撃手段もあるのだッ!
それが意味するものは即ち、火と光の挟み撃ち! 火から逃れようと動けば光のスタンドが容赦なく二人をねらう。光のスタンドから身を隠し続ければいずれは二人に火の手が伸びる。
攻撃は既に完成していた! 相手は何もしていなかったわけではない。『既に』だッ!

二人の策、そして由花子のラブ・デラックスを前に『襲撃は完了』していたのだッ!


「由花子さん」
「……覚悟を決めろ、って顔してるわね」
「火、凄く広がってた」
「…………なるほどね」
「……」
「なら仕方ないわね」
「え?」

そう言って由花子は康一を強く抱きよせた。突然のことに康一は何が何だかわからないという顔をしている。

「康一君、まさかと思うけど貴方こんな風に考えてないかしら。
 僕が囮になる、だからその間に逃げて、とか。それか僕が敵の注意をひきつける役をするからその間に安全な場所まで走ってだ、とか。
 僕がなんとかしている間に近くにいるはずの仲間を呼んできて、だとか」

図星だった。由花子は康一が考えていたことを、まさに言い当てた。
康一には覚悟も度胸もなかった。由花子と一緒にこの場で焼け死ぬという覚悟と度胸も。共に手を取り逃げだす覚悟と度胸も。
由花子を死なすわけにはいかない。だけどこれと言った策が思いつくわけでもない。そんな康一が思いついたことといえば愚直なまでに身体を張ることだけだった。
英雄(ヒーロー)のように、その身一つで全てを抱え込むこと。女の子を守ること、庇うこと。


「まぁ貴方が考えそうなことよね。でもね、敵もそんなこと承知で火を放ったんじゃないかしら。
 火を放つまでかかった時間から考えても相手はなかなか頭が回るヤツよ。下手に康一君が囮になったとしても最悪二人ともやられる、なんてこともあるわけ」
「じゃあ、どうしろって……?」
「それはね……」


だが由花子は断じてただの女の子ではない!
彼女はスタンド使いだ。そして何より守られるだけの女の子では決してないし、ましてや庇ってもらうべき者でもないッ!
由花子は夢見る少女だ。広瀬康一に恋する少女だったのだ!

485マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:55:40 ID:TFUPmPs.

二人を包んでいた繭が狭く、そして少しだけ薄くなる。エコーズをひっこめた康一にはなにが起きているかがわからない。
いったいこの繭の外で、由花子が何をしようとしているのか、何をしているのか。
問/いか/ける様に見上げても、由花子は何も答えてくれなかった。途切れた言葉はふわりと宙に浮かび、どこに落ちるわけでもなく宙ぶらりんでぶら下がっている。
由花子は鋭く輝く目で康一を見返し、ほんの一瞬微笑んだだけだった。そして次の瞬間、キッ、と表情を険しいものに変えると彼女は叫んだ。

由花子が康一を抱き寄せたのは“こうする”ためだ。
『ラブ・デラックス』がその黒い体を振るわせる。それはまるで暴れるまえに大きく息を吸い込む、巨獣のようで。


「正面からぶち壊すッ!」


由花子の言葉と共にラブ・デラックスがその力を解き放った! 二人を中心として四方八方伸びていく髪の毛。とてもじゃないがそれは髪の毛には見えなかった。
それを髪の毛と呼ぶには、あまりに太く逞しすぎた。電信柱をゆうに越す長さと大きさで、ラブ・デラックスが辺りにあるもの全て、なぎ払っていく。
それはまるで黒い濁流! 何百、何千もの髪の毛を一つにまとめ上げ、力任せに振り回す! その力は民家の柱を叩きおり、窓を粉砕し、壁をも突き破る!

ガードに回していた髪の毛をも動員したこの圧倒的破壊力ッ!
未だ内側にいるためその全貌を見ることは叶わないが、突然聞こえてきた轟音に康一は眼を白黒させて驚いたッ!


「焼け死ぬ? 酸欠で死ぬ? そんなのはまっぴらごめんねッ
 そんな風にここで小さくはいつくばっているぐらいなら、いっそのこと全部ぶっ壊してやるわッ」

半壊していた家は由花子が言葉を吐くごとに、更にその安定感を失っていく!
傾いた屋根が更に大きく傾く! 家を支えていた大きな柱が、由花子の暴力的な衝動を前に堪え切れず折れ始めるッ!


「火がなんだっていうの? 炎? 火災? ならその火ごとこの家と共に押しつぶすッ!
 敵が近くにいるかもしれない? 好都合よ。なら私たちと一緒にまとめて民家の影に叩き落とすッ!」


折れまがった水道管から勢いよく水が噴き上がる! 降りそそぐ天井が、瓦礫の破片が火を押しつぶし消していくッ!
由花子の狙いはこれだ! 遠い昔、江戸時代に人々が火災の際に柱を倒し、家を壊したのと同じこと!
燃え広がる前に、叩き壊す! シンプルだが効果は抜群だッ! それに彼女のスタンドならば家の内側から壊しても押しつぶされるようなことはない。

なにより今の彼女は恋する乙女なのだから。憧れの彼のまさに眼の前でいるのだから! カッコ悪いところなんて見せていられようかッ!

486マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:57:02 ID:TFUPmPs.

やがて遂には砕け落ちてきた天井をも由花子はスタンドで支えると、ぐっと力を込めて投げ飛ばす。
勢いよく跳んだ残骸が地面ではねあたり、轟音を立てて崩れていく。
砂埃があたりを包み……そして静寂が響いた。聞こえるのは未だ吹きあげ続ける水の音。そして僅かに燻る残り火の音。
再び火が燃え上がるようなことはないだろう。なぜなら辺りにはもはや由花子と康一を残して一切なにも残ってないのだから。

暗闇が二人を包んでいた。薄く残ったラブ・デラックスを透かしてみても辛うじて残った瓦礫が積み重なり、大きな影として日光を遮っている。
呆然としたままの表情で康一が由花子を見つめる。何を見るでもなく立ちつくしていた由花子はその視線に気づくと振り向き、そしてにっこりと笑った。

その時、康一の脳裏に浮かんだのは仗助と噴上の言葉だった。
放送前のちょっとした時間、由花子について話をした時、二人はとっっても微妙な顔をしていたことを康一は思い出した。
曰く、見ればわかる。あんまりアイツのことは話たくねェ―な。とにかくパワフルなヤツだ。プッツンしてるが悪いヤツじゃない。
その言葉が今になってようやくわかった。

眼の前で微笑む山岸由花子を見て、広瀬康一は一つの真実を悟った。

自分は決して山岸由花子に敵わない。自分は一生この娘に勝つことはできないだろう、と。
山岸由花子。ただの少女でありながら彼女が持つ底なしのエネルギーを前に、康一は何も言うことができなかった。





487マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:58:22 ID:TFUPmPs.


マウンテン・ティムが駆けつけたのは全てが終わった後だった。
彼は申し訳なそうに康一に謝り、そして無事に再開できたことを素直に喜んだ。

「怪我はともかく……こうして会えて何よりだよ、康一君」
「ええ。それも全部由花子さんのおかげです」
「……私は何もしてないわ」

マウンテン・ティムの言葉に康一は笑顔でそう返し、由花子は複雑そうな顔でボソリと呟いた。

戦いの終わりは意外なまでに呆気なかった。火を止めた由花子と康一が民家の中を調べてみれば、一人の男が見つかったのだ。
崩れ落ちた瓦礫に挟り、脚だけはみ出たその男を引きずりだすと、見るからに凶悪な面をしていた。ゲスじみた内面が顔まで滲み出ている、そんな顔をした男だった。
幸か不幸か、その男は落ちてきた破片に頭を強く打ち、気を失っていた。二人はとりあえず手足を縛り、猿ぐつわをかませ、今は適当に寝かせてある。
眼が覚めたら色々と情報を聞きだすつもりだ。まさかここまで来ておいて放火や光のスタンドと無関係である、なんてことはないだろう。

その後エコーズの声を元にやってきたマウンテン・ティムと合流し、由花子と康一はこうしてほっと一息ついているのである。
康一は由花子につけられた怪我の手当てを、ティムは未だ起きない男に対する警戒を。
そして由花子は……何をするでもなく、どこか浮かない様子で瓦礫に腰かけている。
彼女が戸惑うのも無理ではない。心中湧き上がるのは康一に対するまとまりのない感情、複雑な想い。

由花子にとってティムが来たことは幸運でもあり、不運でもあった。
正直なところ、戦いが終わったところで康一と二人きりにされたならば、どんな顔で、何を話せばいいかわからなかっただろう。
かといって、ティムが来たことによって康一とゆっくり話す機会を失ったのもまた事実なのだ。
じれったい気持ち、ほっとする気持ち、もどかしい気持ち……様々な思いが今、彼女の中に渦巻いている。
時折康一と目があえば、彼は由花子に向かって微笑みを向ける。その度に由花子は顔をしかめ、顔を背けた。

こんなこと今までなかったのに。こんな感じ、どうすればいいのかわからない。瓦礫に腰かける三人の間に沈黙が流れ、それは長い間破られなかった。
由花子は顔をあげ、瓦礫の隙間から差し込む光を仰いだ。細く差し込む太陽の光が、無性に眩しかった。
いつもは気にならないどうでもいいいことが何故だか今は無性に気になった。
康一の笑い声が、マウンテン・ティムと楽しげに笑う少年の横顔が、目に焼き付いて離れなかった。



「さて、そろそろ二人とも落ち着いただろう」

二人がすっかり回復しきったころ、マウンテン・ティムがそう言った。その言葉をきっかけに情報交換が始まる。
ティムと康一がほとんど一緒に過ごしていたこともあって、話はほとんど長引くことなく終わった。
目を引くような内容を強いてあげるならば、由花子が語った花京院典明と言う少年について。それくらいだろうか。
どっちにしろ即座に対処すべき問題はない様に思えた。
崩れた民家の薄明かりの中、由花子と康一、そして時折質問を投げかけるティムの声が交差していく。
当面の方針としては、まずはこの襲撃犯と思わしき男の眼ざめを待つことで三人は同意する。

488マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:58:57 ID:TFUPmPs.
「……ティムさん」
「コイツ、目、覚ましたみたいよ」
「待て、何か様子がおかしい」

数分も経たず、猿ぐつわをかまされた男が意識を取り戻す。途端にその男J・ガイルは目を大きく見開くと、縛られた身体を捻り、暴れ出した。
尋常じゃない様子だった。その様子はまるで、その姿勢のままでもいいからとにかくこの場を離れようとしているかのようだった。
拘束されたことで悪態をつくでもなく、逆に開き直って襲いかかって来るでもない。
まるで、何かから、逃れようとしているかのようなそんな必死さが見る三人にも伝わってくるほどだった。

ティムがゆっくりと口の拘束を緩める。喋られるようになった途端、J・ガイルは街中響くような声でこうがなりたてた。

「助けてくれッ! 早く助けてッ……くそ、なんだこの……ッ! おい、解けよ、このロープッ!」
「自分の立場をわかってないのか? 二人を襲っておきながらそんな虫のいい話があるわけないだろ、このマヌケ」
「間抜けだろーがなんだろーが、今はどうでもいいッ! いいからほどけよ! やばいんだ……ッ! ここは、ヤバいんだよッ!」
「……ヤバい?」

鬼気迫る様子だった。
そこには襲撃者としての開き直りも、凶悪犯としての余裕も残忍さも見られなかった。
額に浮かんだ汗、狼狽した表情。三人は思わず顔を見合わせる。
マウンテン・ティムはカウボーイハットをゆっくりとかぶりなおすと、もがき続けるJ・ガイルに問いかけた。

「康一君、由花子君を襲ったのはお前だな?」
「俺は乗り気じゃなかったんだ! そりゃ最初は正直殺る気満々だったぜ? でもそこにいるアマがしっかり対処するもんだから、俺は途中で諦めたんだ!」
「ならどうして……?」
「脅されたんだよッ! さっきからいってんだろ? 俺は途中から引く気だったんだ!
 せいぜい火を放つにしても、その後は遠目で隙あればスタンドで攻撃する程度のつもりだったさッ!
 じゃなかったらこんなノコノコ接近する理由なんてねーさ! でも『アイツ』がッ!
 『アイツ』が、お前たちを始末しなければ、この俺も殺すなんて言うもんだから! これは不可抗力だったんだよ! 俺は仕方なしに……!」

「アイツ……?」




そう誰かがともなく呟いた時だった。
直後 ――― 瞬時に、そして同時にいくつものことが起きた。幾つもの影が交差した。

489マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:59:22 ID:TFUPmPs.
J・ガイルの前に覆いかぶさるよう立っていた康一を由花子が突き飛ばす。
J・ガイルの胸を突き破り、超速で伸び出た一本の刃がそのまま直線状にいた由花子を貫く。声をあげる暇もなく、J・ガイルは絶命する。
死ぬ間際、ほんの僅かに呻いただけだった。呆気ない終わり。最後まで彼の顔から、焦りの色は消えることなく、その凶悪殺人鬼は殺された。

康一の眼の前で由花子がJ・ガイルと連なるような形で刃に串刺しにされる。太く、禍々しい刃は容赦なく彼女の体を貫いていた。



「余計なおしゃべりを……ゴミクズの分際で…………」

積み重なった瓦礫の隙間から、身長二メートルを超す大男が姿を現した。
関節を捻じ曲げ、筋肉伸び縮めさせ、その身体を徐々に三人の前に露わにする。



「こ、コイツは……ッ!」
「逃げて、こう、いちく……ん」
「そ、そんな…………なんで…………ッ!」



柱の男カーズがそこにいた。蹲る瓦礫の中で、最強の生物が躍動する。





490マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 19:59:53 ID:TFUPmPs.
叫び声が木霊し、悲鳴が行き交う。押しとどめる者、もがく者。
地面に転がっているのは由花子とJ・ガイル。男はもう末にこと切れている。由花子も同じようなものだった。
心臓からその下、肺、胃、肝臓、腎臓……いくつもの臓器を真っ二つに裂かれ、血がとめどなく流れている。生きているのが不思議なほどだ。
もっとも、そう長くないことは間違いないだろう。カーズは舐めるようにあたりを見渡し、満足げに笑った。


「ふむ、一、二、三……全部で四つの首輪だ。なかなかやるじゃないかァ、J・ガイルゥ……?
 口が軽いのはどうかと思ったが、これは思わぬ収穫だったぞ。まぁ、もう聞こえてはいないだろうがね……フフフ……!」
「由花子さんッ!」
「駄目だ、康一君ッ! 行っちゃ駄目だ……!」

―――もう手遅れだ。

その言葉をつけ足すことは躊躇われた。
マウンテン・ティムは血が滴るほどに強く奥歯を噛みしめる。助けに入ろうと今にも飛びださんばかりの康一の背中を掴み、必死で内なる激情を押し殺す。
何もできない、今この状況に。無力な、守るべき少女が目の前で蹂躙されているのにどうしようもできないという事実。

相手は間違いなく『柱の男』と呼ばれる一族だ。シュトロハイムが言った特徴、サンタナを思わせる圧倒的なプレッシャー。
今ここで飛び出せば、間違いなく殺される。マウンテン・ティムも。広瀬康一も。
ちょうど地面に転がるJ・ガイルのように貫かれるのが関の山だ。
ならばここは飛び出すべきではない。例え由花子が虫の息でなっていようとも、今すぐに助けなければ間にあわないとわかっていても……。
考えるべき事は生きるため、死なないため……何をすればこの場から逃げられだろうか。


―――マウンテン・ティムは間違っていない。だがそれを冷静ととるか、冷徹ととるかは人次第だ。

康一には我慢ならなかった。理性的にだとか、相手の力量を考えてだとか、そんなことは全部吹き飛んでいた。
由花子は自分を庇ったのだ。あの瞬間、何かに感づいた由花子は康一を突き飛ばし、そして彼の代わりに貫かれた。
由花子は康一を救った。由花子は康一を守った。本当なら今地べたで血を吐き、内臓を撒き散らしているのは康一だったはずなのだ。康一だったはずなのだ……ッ!


「由花子さん、今助けるからッ! 今、助けるからッ!」
「……『オー! ロンサム・ミー』」
「なッ!?」


康一の体が滑るようにロープの上で分裂し、由花子の元へかけよろとしていた身体は力なく崩れ落ちる。
マウンテン・ティムのスタンドによって脚はもがれ、もはや動けず。口は上下に分かれ、話すこともできず。
康一のバラバラになった身体はマウンテ・ティムの腕の中で、それでも弱弱しくもがいていた。
ティムがなぜ助けに入らないのかもわからず、それでも山岸由花子を助けるためになんとかしようと、必死に。

491マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 20:00:12 ID:TFUPmPs.

カーズは何も言わずその様子を眺めていた。冷たい眼をすぅ……と細めると感心したように言った。

「徹底を選ぶか。なかなか賢いじゃないか。激情にかかれて襲いかかるか、我を失って殴りかかって来ると思っていたぞ」
「……生憎『あんた達』の恐ろしさは身にしみるほど知っているんでね」
「…………ほぉ」

それが意味することは柱の男たちと戦ったことがあるという事実。
そして同時に今こうやってカーズの前で立っているということは柱の男と戦って生き残った、勝利したほどの強者と言うことでもある。

そんな相手をどうしてみすみす見逃せようか。カーズのプライドにかけて、そんなことは許せるはずもない。
カーズは唇を釣り上げると凶暴な笑みを浮かべ腕を振りかざした。背筋が凍るような金属音と共に、鋭く磨かれた刃がむき出しになる。
カーズに二人を見逃す気はさらさらない。慎重に、一切油断することなく……この刃で真っ二つにするつもりだッ!

距離はそう離れていない。三人の間にある間合いは柱の一族の前ではあまりに短すぎる距離。
カーズが全力で飛び出せば、一歩、二歩で縮めれるほどの距離だ。問題はタイミング。
マウンテン・ティムが背を向けて走る瞬間。カーズが脚に込める時。
どちらが動くか、どちらへ動くか。きっかけをつかめずに微動だにしないまま時間が流れる。

マウンテン・ティムは鋭い視線でカーズを睨む。暴れる康一を押さえつけ、ひたすら逃げる隙を伺い続ける。
カーズは瓦礫の隙間より射し込む太陽の位置を確認し、襲いかかる最短経路を探し出す。獲物の様子を伺い、行動を読むために目を凝らす。


焦れるような沈黙が流れ……そしてカーズが一歩踏み出した ――― その時だったッ!



「む!?」
「行って、マウンテン・ティム……。アタシはもう長くない。せいぜい時間稼ぎと言っても、もってほんの少しだけ……」


その瞬間、脱兎のごとく走り出したティム。カーズは動けない。カーズの足を止めたのは虫の息だった由花子だった!

カーズの足首にまとわりつくラブ・デラックス。最後の力を振り絞り、由花子はスタンドを動かしカーズを引きとめたのだ。
一秒でも長くその場に引き留めるために。すこしでも確実にマウンテン・ティムと康一が逃げ伸びることができるように!
消えそうな命のともしびを必死でつなぎとめ、由花子は最後まで抗った!


「おのれ、この小娘がッ!」

492マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 20:01:00 ID:TFUPmPs.
ティムが走る。その肩に担がれた康一は声にならない叫びを放つ。
即座に由花子の静止を振り切ったカーズであったが、今から走ったところで間にあわないのは明らかであった。
二人は既に瓦礫の間を抜け、崩れた家から抜け出し、陽のあたる場所まで走り去ってしまっていたのだから。
ティムは走り続けた。カーズの視界から完全に消えるまで、一度として止まることなく、走り続けた。

歯がみする柱の男にできたのは苛立ち気に悪態をつくだけだった。
足元に転がる、瀕死の小娘に足止めされたという事実は彼の神経を逆なでした。
なんたる恥! なんたる醜態! 餌のまたその餌にごときにこのカーズが邪魔をされただと?
この石仮面を作りし最強で最高のカーズが……たかが人間の小娘に、まんまと一杯食わされただとォ……?!

「貴様……ただではおかんぞッ!」


しかし、その言葉を吐いた後、カーズはその言葉がもはや意味をもたないことを理解した。
カーズが見下ろすその先で、由花子はもう既に死んでいた。康一が逃げ延びたのを最後に見届けた彼女は、満足げに頬笑みを浮かべ、こと切れていた。
残されたのは瓦礫の山、二つの死体、一人の柱の男と敗北感。
カーズは顔をしかめると拳をぎゅっと握った。フンと鼻を鳴らし、振り上げかけた拳をほどくと代わりに刃を振るい、二人の首輪を回収する。


カーズはきっと認めないだろう。しかし確かな事実として、マウンテン・ティムと広瀬康一は生き延びた。
山岸由花子は勝利した。たった一人の少女は自分身を犠牲に、二人の命を救ったのだ。柱の男を相手に、勝利した。
後にも先にもそんな偉業を成し遂げたのは彼女ぐらいだろう。

あのカーズを相手に! 一人の女の子が! 真正面から挑み! 二人の命を救ったのだ!


それを成し遂げさせたのは大きな、大きな愛。
それは一人の少女が少年に恋をして、その恋に一生懸命生き、その果てに成し遂げた……大きな愛の物語。
山岸由花子。彼女は愛と共に生き、愛のために死んだ ――― どこにでもいる、ただの少女だった。

彼女は恋する、夢見る少女だったのだ。


強いて言うならば柱の男は山岸由花子にではなく……偉大な偉大な愛(ラブ・デラックス)の前に敗北したのだ。


カーズが刃を振るうその直前、由花子は最後にそっと恋する少年の名を呼んだ。
誰にも届かないその名前を呼び、彼女はそっと目を閉じた。

493マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 20:01:20 ID:TFUPmPs.












【J・ガイル 死亡】
【残り 62人】

494マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 20:01:39 ID:TFUPmPs.
【B-5 南部/一日目 午前】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:悲しみ、ショック、全身傷だらけ、顔中傷だらけ、血まみれ、貧血気味、体力消耗(大)、ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.由花子さん…………

【マウンテン・ティム】
[スタンド]:『オー! ロンサム・ミ―』
[時間軸]:ブラックモアに『上』に立たれた直後
[状態]:全身ダメージ(中)、体力消耗(大)
[装備]:ポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ×2本、ローパーのチェーンソー
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気、一切なし。打倒主催者。
0.康一が落ち着くのを待つ。
1.シュトロハイムたちの元へ戻り、合流する。
2.各施設を回り、協力者を集める。



【B-5 南部 民家/一日目 午前】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:健康
[装備]:服一式
[道具]:基本支給品×5、サヴェージガーデン一匹、首輪×4(億泰、SPW、J・ガイル、由花子)
    ランダム支給品3〜7(億泰+由花子+アクセル・RO:1〜2/カーズ:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.首輪解析に取り掛かるべきか、洞窟探索を続けるか。
1.柱の男と合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。

495マイ・ヒーローと偉大なる愛     ◆c.g94qO9.A:2013/01/26(土) 20:13:02 ID:TFUPmPs.
以上です。誤字脱字なにかありましたら指摘ください。
少し長めで大変ですがどなたか代理投下をお願いします……!

本スレ>>29
指摘ありがとうございます。wiki収録で訂正しておきます。

>>仮投下スレ
投下乙です。これと言って誤字脱字はないように見えました。
突っ込みとしては>>557で言われている通り、説得力云々の問題だけでしょうか。
描写を少し加えたりすれば何ら問題ないと思います。
本投下をまってます!

496名無しさんは砕けない:2013/01/26(土) 20:45:45 ID:XUR3Sdmk
投下乙!
由花子さああああああああああああああああああああああああああん!!
やっぱり康一と会うのはフラグだったか…。それにしてもカーズとHEROESの対決が濃厚になってきたなあ…。
J•ガイル?2nd最終回組にしては結構長生きしたよね

497名無しさんは砕けない:2013/01/27(日) 04:14:19 ID:EeGrwDD6
投下乙です!
誤字は再開できた→再会、徹底を選ぶ→撤退でしょうか
愛に生きた由花子がかっこよかったです

498最強  ◆yxYaCUyrzc:2013/01/29(火) 23:20:08 ID:xMK37UNc
投下は終了しましたが最後のご挨拶でさるさん規制w

仮投下からの変更点:誤字脱字・表現の変更、ペットショップがスクアーロを撃った理由=八つ当たりの心境をやや追加。

サンドマンの空耳パロは使ってみたかったんで自分パートで使用してみました。
あとは『作者からパロ』これは2ndでも一度やってますね。お気に入りですw

書いてて問題かなと思ったのは『誰一人として死んでいないこと』です。どこからどう見ても『いやそこは死んどけよ』な感じがねぇ。
後は戦闘での矛盾とか。サーレー正直に落っこちないでも&パラシュートはそんな使い方しねぇよ→落っこちた瞬間の描写はないの?ペットショップ無限コンボはどうした、スクアーロ何しに来たんだ、などなど。
それから文章の表現法や文体。ちょっと原点回帰というか、『小説っぽいSS』でなく『2chのパロディまみれなSS』を意識してみました。
未来の書き手さん、こういう書き方で良いんだよ、ってことでw……え、いつものこと?まぁそう言わず。

そんなこんなで突っ込みどころ満載かとは思いますが多少強引にでも動かさなきゃなぁと私なりに考えた結果です。
誤字脱字、指摘等ありましたらご意見ください。それではまた次回作でお会いしましょう。

499 ◆33DEIZ1cds:2013/01/30(水) 23:52:39 ID:nCGWL6V.
規制中のため、こちらに。

ワムウ、宮本輝之輔 投下します。

500ただならぬ関係  ◆33DEIZ1cds:2013/01/30(水) 23:53:18 ID:nCGWL6V.
 音石明というチンピラの死から、宮本輝之輔の身にはアクシデント続き、最低最悪のジェットコースター気分。
 今ならどんな神にでも、すがって頼りたい心境。
 いっそ、あのまま本にされ湿っぽくて薄暗い図書館の棚に収まっていたほうが、何倍幸せだったか知れなかった。
 それならば、耳たぶの肉を根こそぎ『指先で削り取られる』などという経験をすることもなかったろうに。

 音も無く滴る血の筋を、輝之助は頬に感じる。 

 ――頭がくらくらする。

 なぜこうなってしまったのだろう。紙の中にいれば安全だとばかり思っていたのに。
 あの殺人事件の後、わけがわからないまま紙の中に収まっていたら、こんな取り返しの付かない事になってしまった。

 全ては第一回放送後、短い時間に起こったこと。

 出てこないならば破いて捨てると、『エニグマ』の性質も知らないはずなのに、その弱点を押さえられた。
 人間離れした感の鋭さは、スタンド使いになったばかりの少年にはショックが甚大、恐怖のボルテージははちきれそうに高まる。 
 渋々紙から出てきてみれば、襟首を掴み上げられ、主催者との関係を問いただされて、何も知らなくて、震えて上手く喋れなくて。
 口からは、意味のない音を吐き出すしかできなかった。

 その結果がこれだ。
 大男の指先が米神をかすったと思うと、頬を伝い口の中に侵入してくる血。
 耳をやわやわと襲う痛み。
 鉄の味のぬるい液体が、震える舌をさらにこわばらせる。
 死のイメージを呼び覚ます、この生暖かさ。

 薄暗い地下の

「あ、あ……」
「俺が人間に触れるとこのように、な。わかったのなら知っていることを話せ」
 
 人間を超越した種族と名乗った『ワムウ』は、煩わしそうな声で言う。

 恐怖の中でのっそりと起き上がった痛みに、恐れが限界点を超えた輝之助は、デタラメに暴れだした。
 襟首を掴まれた状態でじたばたともがき、哀れ『エニグマの少年』は、苦労の末、懐から拳銃を取り出す事に成功する。
 その浅黒い手のひらの中に収まったコルト・パイソンが、闇雲に動いて、かろうじてワムウの体を捉えた。
 硬い銃口が男の顎にあてがわれたのを視界の隅で捕らえるが早いか、輝之助の指先は冷たいトリガーを押す。
 破裂音が静かな地下に響いた。空間を伝わり、どこかへと広がっていく。

501ただならぬ関係  ◆33DEIZ1cds:2013/01/30(水) 23:53:43 ID:nCGWL6V.
 反響するその音が闇に吸われて消える頃、輝之助の顔は、拳銃を撃つ前のそれよりもより強い恐怖に引き攣っていた。

「は。な、んであんた、何だそれ、顔撃ったのに、血も流れてない……?」

 軽蔑の色をたたえて、男はふ、と全身をこわばらせた。
 弾丸の型にめり込んだ皮膚から、スイカの種でも吐き出すように、潰れた鉛玉が飛び出てくる。
 乾いた音を立てて転がる、ひしゃげた金属。

「全く呆れ果てる。こんなチャチな武器なぞで、このワムウに傷を負わせることができると? 人間という種族は、幾世紀を経てもこの程度か。
 武器の見てくれと手軽さが変わっただけで、性能はまるで石槍と変わらんな」

 おしまいだ、と固く目を閉じた輝之助の耳に、怪物の独白めいた言葉が落ちてきた。

「ここまで差し迫っても吐かんとは……貴様、真実何も知らんのか」

「い、い、い、いや……たしかに、なんで僕の能力が、支給品に使われてるかのは知らない、けど……けど」

 声は、輝之助自身が思った以上に震えている。
 ここで自分に価値がないと分かれば、まるでろうそくの炎を消すような手軽さで、命を吹き飛ばされるだろう。
 何とか生き残るための言葉、情報、理由を絞り出さなくては。しかし焦るほどに思考が空回る。

「殺す気はない……貴様の能力は使える。それに、依然主催者との関わりが全くないと判明しきったわけでもない。
 貴様があの忌々しい老人への『道』となるかもしれんのだからな」

 見透かしたように怪物はしめくくり、掴んでいた襟首を離す。間抜けな音と一緒に尻餅をついた。
 ようやく布地の圧迫から逃れるが、輝之助の胸中は窒息しそうなほど恐れおののいている。

 それは延命宣告であり処刑宣告だった。
 ひとまず殺されることはない代わりに、この怪物にいいように引きずり回され、用無しとなれば殺されるのだ。
 疑いなく、殺される。それだけの凄み、怪物の『表情』から読み取ることができる。
 今は、情報提供がこの乱暴者の求めることだとわかったのなら、輝之助にそれを拒む理由はない。
 自分がここに来る前、何をしていたのか。誰の命令で、どんな事情で。
 微に入り細を穿って、事細かに並べ立てていく。隠せば命はないと悟り、自分のスタンド能力さえも。

「……ていう、感じ、でした」

 腕を組みうつむきながら聞いていたワムウは、輝之助の語りが終わったと見るや、すぐに名簿を取り出して言った。

「やはり死者が生き返っている……? 貴様の言う『虹村兄弟』。死んでいるはずの兄が生存者と数えられ、弟が死者として発表されている?
 そして、エシディシ様が、『サンタナ』と人間どもに呼ばれていたあいつが! 死亡者、として数えられているということは、生者としてこの地にあったということ!
 さらに、『シーザー・ツェペリ』! なぜ生きている? このワムウが確かに葬ったはず。これがスタンド能力によるものだというのかッ」

 矢継ぎ早に立ち上がる疑念と、激しい怒りの感情がせめぎ合っている様は嵐のよう。
 輝之助は圧倒され、ぽかんと口を開けたまま、ワムウを凝視するしかできなかった。
 『人間を超越した種族』は、伝書鳩が運んだ名簿を握りしめ、思いの丈を表し続ける。

「そして、最も怪奇極まりないと同時に、俺に対する最大の嘲りである、この名簿の内容……」

502ただならぬ関係  ◆33DEIZ1cds:2013/01/30(水) 23:54:02 ID:nCGWL6V.
ギリ、と歯の軋む音。

「『ジョセフ・ジョースター』! 生存者として記載されているのはどういうことだ!? 俺はたしかにあの広場で見届けたぞ、奴の鮮血がほとばしるさまを。
 名簿に載っているのは、JOJOの名を騙る者!?」

 その怒り、突風が巻き起こらんばかりの凄まじさ。
 輝之助は逃げ出したい衝動にかられながらも、動けない。男の覇気の激しさに足が震え、立ち上がることもままならない。
 何より、その常軌を逸した『体質』、人間に触れるだけでその肉を吸収してしまうとあれば、すこしでも変な動きをみられただけで、命取りになりかねない。きっとなる。
 名簿が引き裂けるかというほどの力で掴み、わずかに震えながら、ワムウはくぐもった憎悪の言葉を吐いた。

「憎いぞ、このような座興を企んだ存在……スティーブン・スティールッ! 決闘に水を差すだけでは飽きたらず、奴の偽物まで創り出したのかッ!?
 ……いや、JOJOに会うことがない限りどうにもわからん。死者を生き返らせる能力があるかも知れぬのだから。
 しかし、地形を動かす……死者蘇生……二つの異常に共通点が無い。我ら柱の一族にとっても奇想天外な能力の産物か。
 どうであれ、許さん。よくもこの戦闘の天才たるワムウの、誇りある戦いを、これほどまでに侮辱できたものだな……」

 頭部から垂れ下がった幾本もの紐を振り乱し、ワムウは今や立ち上がって同じ場所を歩き回っていた。
 まるで、得物に狙いを定める獣のように。
 柱の男の独白は続く。

「俺も、シーザーも、JOJOもたった一つの命をかけて戦っていた。エシディシ様や『サンタナ』とて同じ事。
 それを、まるで遊技盤の駒を右から左へ動かすように生き返らせ、あるいは殺し……これは、戦いの中にその身を置く者の『尊厳』に対する侮辱と見なすッ!」

 見えない敵、主催者への宣戦布告。
 戦い? 尊厳? 侮辱? 訳の分からぬ内容ながら、輝之助はその極まった激情に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 
「JOJOとの誇り高き決闘と、奴の生命を汚した罪、エシディシ様やシーザー、すべての戦士達への侮辱、その死を持って以外には贖えぬと知れ……」

 燃え上がるかと思うほど、その瞳は怒気をはらんで煌めている。
 戦士の固く握りしめた大きな拳が、くぐもった音を立てた。

 その拳が、今にも自分に振るわれるのではないかと身構える輝之助をよそに、ワムウは自分のデイパックを掴みあげた。

「ここに長居するつもりはい。本来なら足を運ぶことも避けたかった場所だ」

「な、なんでだよ。とりあえずは安全だろ」

 どもりながら言う輝之助の言葉が聞こえているのかいないのか、怒れる戦士は、ひとりきりの思惑に沈んだ様子。

「エシディシ様と『サンタナ』が逝ってしまった今……ここへ飛ばされる前と同様、残る柱の一族はカーズ様とこのワムウ、たった二人。
 やはり、我らの悲願、赤石を追い求めるカーズ様に、俺の目的を理解していただくことは……」

 輝之助はふと、その表情に織り込まれた『変化』に気がついた。
 恐怖のサインを探し続け、人を観察する能力を極限まで練り上げたといえる彼にのみ、気づくことができたもの。
 何者にも動ずることが無いように思われたこの怪物の、静かな表情のなかに薄く広がった、ごく僅かな。
 これはなんだろう。悲しみ? 怒り? いや、違う。そんな単純なものじゃない。
 強烈な何か、狂おしい何か。
 輝之助は胸中で相応しい言葉を探しあぐねて惑う。
 その訝しげな視線に気付いたのか、ワムウは一点を見つめていた視線をこちらに向けると、毅然とした表情を取り戻して言った。

503ただならぬ関係  ◆33DEIZ1cds:2013/01/30(水) 23:54:47 ID:nCGWL6V.
「……余計な話だった、忘れろ。ともかく、俺はカーズ様にお会いするわけにはいかん故に、ここには留まらん」

「あ、『カーズ』って、ここ確か地図で『カーズのアジト』とか書いてあった場所……カーズ様、って知り合いなのか? なのに会いたくない?」

 慌てて地図を広げる輝之助の言葉には答えず、大男は鼻を鳴らす。
 
「宮本とやら、貴様は少ない脳みそを使ってあれこれ思い悩む必要はない。
 どうせ太陽の出ているうちは自由に動けぬ身、ならば地下でつながっている『ドレス研究所』まで足を運んでみても損はないだろう」

 さり気なく罵倒されていることを感じつつ、荷物をまとめにかかる。
 怪物にわりと会話が通じるとわかり、震えが幾らか和らいだ。
 紙の中で震えていて聞き逃した第一回放送も、大体の必要な部分を教えてもらえた。
 おそらく足手まといにしないためで、それ以上でもそれ以下でもないのだろうけど。
 今のところ、能力にも価値があると思ってもらえているらしい。すぐに殺されることも無さそうだ。
 ようやく生きた心地が戻ってきた。
 耳の傷は痛むが、袖の一部を破って手で抑えている。じきに出血も止まるだろう。

 輝之助は考える。
 さっきのワムウの表情、まるで人間のような感情のゆらぎについて。
 この怪物にも感情があるのならば、『恐怖のサイン』も存在する?
 人間を紙にするための条件を話した時も、自分には関係ないとでも思っているかのように、無関心だったこの大男。
 だが、感情がある以上、『恐怖』も当然存在するのではないか。

 一抹の望み。
 こいつを紙にさえしてしまえば、煮るのも焼くのも思いのまま、この絶望的な状況から一発逆転も夢ではない。

 だが、なんなのだろう。
 輝之助は胸に違和感を覚え、ワムウの表情を盗み見ながら、そっと手のひらを握り絞める。
 この、自分には窺い知れない深い深い感情の、底知れないゆらぎの名は?
 無表情だと思っていたこの人物は――人ではないが――よくよく見れば、表情豊かだ。
 耳たぶを吸収された痛みも忘れるほどの集中力で、輝之助は怪物を凝視する。

 この世にたった二人しかいなくなったという柱の男は、今は顎に手を当てて思案顔だ。
 やはりこいつ、ずっと無表情に見えてそうでもない。

「貴様を紙に閉じ込めて持ち運んだほうが、俺にとって面倒がないか? どう思う、人間。宮本輝之助よ」
「か、勘弁……話したけど、燃えたり破れたりしたら、中身も駄目になるって言ったろ。
 あんた、戦闘になっても僕を気にして戦ってくれるつもりなんかないだろうし……」
「FUM、俺が戦闘に臨んだ時に、紙ごとどこかへふっ飛ばされてもかなわんな。同じ理由から、荷物を収納することも避けたほうが良かろう。
 ならばせいぜいついてこい。逃げられぬのはわかっているな? 妙な気配を悟った瞬間、貴様の体は消し飛ぶぞ」

 今度はニヤリと笑う、目の前の怪物。恐怖がまた胸に迫り、輝之助はひゅっと悲鳴に近い呼気を漏らす。

 ――僕は、死にたくないんだ!

504ただならぬ関係  ◆33DEIZ1cds:2013/01/30(水) 23:55:18 ID:nCGWL6V.
 彼は決心したように唇を噛み、思う。

 ――こいつの恐怖のサイン、それを見つけ出す!

 見つけられるだろうか? こんな異形の生物が『恐怖』する瞬間を。 
 自分をバカにして道具扱いした報いを、きっと受けさせてみせる。

 でも、あの一瞬だけ見えた、悲しそうな、苦しそうな表情が、なぜか心に焼き付いてはなれない。
 血がダラダラ流れるほどの怪我を負わされたばかりだというのに、一体何だというのだろう。
 大股に歩き出したワムウの後をつんのめり気味に追いながら、輝之助は心の内を持て余している。
 傲慢な化け物の鼻を明かしてやりたいと思う一方で、人間ではないと豪語する生物の計り知れない感情が、心の中をチラついて消えない。

 ――人の肉をえぐっておいて何も思わないような奴が、悲しむ? 苦しむ? そもそもこいつは、人間じゃあ無いんだ。
     
 ただそれだけのこと。
 言い聞かせ、振り切るようにぶんぶんと頭を振って思考を保つ。

 地下は静まり返り、二人の歩くヒタヒタという音だけが不気味に響いていた。
 輝之助が付いて来ていることを肩越しに確認し、警戒するように周囲を見渡したワムウは、なぜか同行者のさらに後ろ、影になっている一点を強く睨む。
 釣られた輝之助が不思議そうに振り返ったが、そこには何もなく、薄暗い空間しか見えない。
 
 「……今は良い。遅れるな、人間」
 「あ、歩くの速……」 

 二人は湿った地下道へと進む。
 少年と怪物が闇に吸い込まれると、少し遅れて、一枚のトランプカードがひらりと舞い落ち、その後を追った。

 これは、長く続く闘いの、ほんの幕の内の物語。

505ただならぬ関係  ◆33DEIZ1cds:2013/01/30(水) 23:55:37 ID:nCGWL6V.
【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、片方の耳たぶ欠損(どちらの耳かは後の書き手さんにお任せします)
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0.ドレス研究所へ
1.ワムウに従うふりをしつつ、紙にするために恐怖のサインを探る。
2.ワムウの表情が心に引っかかっている

※スタンド能力と、バトルロワイヤルに来るまでに何をやっていたかを、ワムウに洗いざらい話しました。
※放送の内容は、紙の中では聞いていませんでしたが、ワムウから教えてもらいました。

【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:疲労(小)、身体ダメージ(小)、身体あちこちに小さな波紋の傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
0.ドレス研究所へ
1.強者との戦い、与する相手を探し地下道を探索。
2.カーズ様には会いたくない。
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
4.12時間後、『DIOの館』でJ・ガイルと合流。

※『エニグマ』の能力と、輝之助が参戦するまでの、彼の持っている情報を全て得ました。
 脅しによって吐かせたので嘘はなく、主催者との直接の関わりはないと考えています。

※輝之助についていた『オール・アロング・ウォッチタワー』の追跡に気付きました。今のところ放置。

506 ◆33DEIZ1cds:2013/01/30(水) 23:59:59 ID:nCGWL6V.
以上、矛盾点のご指摘がありましたら、よろしくお願い致します。

宮本が虹村兄弟の生死について知っているのは、吉良の親父から聞いた……と言う架空にも等しい設定です。
「それはこういう理由から、在り得ない」等、間違いがありましたらご指摘いただけると助かります。

また、前述の通り規制中のため本スレへの投下も何方かにお頼りするしか無く……申し訳ないですが、よろしくお願いします。

いやあ、久々の投下で間違ってないかビクビクだけど、楽しく書かせてもらいました!w

507名無しさんは砕けない:2013/01/31(木) 01:04:25 ID:agDGHT6c
虹村兄弟やジョセフ、シーザーについてもだけど、金田一少年の時にツェペリたちと時間超越の議論はひと通りされていますね
SF慣れしていないであろうワムウがそこから死者の生存にすぐ結び付けられるかはわかりませんが、少しくらい触れられていてもいいのではないかと思いました

ワムウはもちろんのこと、宮本もかっこいいな
ワムウはあれで意外と油断する奴ですし、エニグマならワムウに勝ってもおかしくはないと思うので楽しみです。

2ndに続き3rdでも書いてくださって嬉しかったです。とても面白かったです。
また気が向けば書きに来てください。楽しみにしています。

508 ◆33DEIZ1cds:2013/01/31(木) 01:28:53 ID:tyfjtc8.
感想と指摘ありがとうございます。

一部消し漏らし(>>500の19行目)も見つけましたので、修正をさせていただきたいと思います。
一度投下をしたとはいえ、予約期限から超過しますが、あすの夜にもう一度手直ししたものを落とします。

その他矛盾があれば、ぜひともお願いします!

509 ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:49:38 ID:Tb5DzS7w
ちょこっとですが、修正を加えました。
修正箇所が分散しているのと、短い話なので、一から投下し直させて頂きます。

510 ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:06 ID:Tb5DzS7w
音石明というチンピラの死から、宮本輝之輔の身にはアクシデント続き、最低最悪のジェットコースター気分。
 今ならどんな神にでも、すがって頼りたい心境。
 いっそ、あのまま本にされ湿っぽくて薄暗い図書館の棚に収まっていたほうが、何倍幸せだったか知れなかった。
 それならば、耳たぶの肉を根こそぎ『指先で削り取られる』などという経験をすることもなかったろうに。

 音も無く滴る血の筋を、輝之助は頬に感じる。
 周囲は薄暗く、闇に慣れない目を限界まで見開いても、まともな景色を認識できない。 
 何処かの地下らしいということだけは分かったが、紙の中で震えていた彼には、現在位置など推測しようにも無理な話だった。
 どこかも分からないような陰気な、土の下の空間に、二メートル近くある大男と二人きり。

 ――頭がくらくらする。

 なぜこうなってしまったのだろう。紙の中にいれば安全だとばかり思っていたのに。
 あの殺人事件の後、わけがわからないまま紙の中に収まっていたら、こんな取り返しの付かない事になってしまった。

 全ては第一回放送後、短い時間に起こったこと。

 出てこないならば破いて捨てると、『エニグマ』の性質も知らないはずなのに、その弱点を押さえられた。
 人間離れした感の鋭さは、スタンド使いになったばかりの少年にはショックが甚大、恐怖のボルテージははちきれそうに高まる。 
 渋々紙から出てきてみれば、襟首を掴み上げられ、主催者との関係を問いただされて、何も知らなくて、震えて上手く喋れなくて。
 口からは、意味のない音を吐き出すしかできなかった。

 その結果がこれだ。
 大男の指先が米神をかすったと思うと、頬を伝い口の中に侵入してくる血。
 耳をやわやわと襲う痛み。
 鉄の味のぬるい液体が、震える舌をさらにこわばらせる。
 死のイメージを呼び覚ます、この生暖かさ。

511 ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:23 ID:Tb5DzS7w
「あ、あ……」
「俺が人間に触れるとこのように、な。わかったのなら知っていることを話せ」
 
 人間を超越した種族と名乗った『ワムウ』は、煩わしそうな声で言う。

 恐怖の中でのっそりと起き上がった痛みに、恐れが限界点を超えた輝之助は、デタラメに暴れだした。
 襟首を掴まれた状態でじたばたともがき、哀れ『エニグマの少年』は、苦労の末、懐から拳銃を取り出す事に成功する。
 その浅黒い手のひらに収まったコルト・パイソンが、闇雲に動いて、かろうじてワムウの体を捉えた。
 硬い銃口が男の顎にあてがわれたのを視界の隅で捕らえるが早いか、輝之助の指先は冷たいトリガーを押す。
 破裂音が静かな地下に響いた。空間を伝わり、どこかへと広がっていく。

 反響するその音が闇に吸われて消える頃、輝之助の顔は、拳銃を撃つ前のそれよりもより強い恐怖に引き攣っていた。

「は。な、んであんた、何だそれ、顔撃ったのに、血も流れてない……?」

 軽蔑の色をたたえて、男はふ、と全身をこわばらせた。
 弾丸の型にめり込んだ皮膚から、スイカの種でも吐き出すように、潰れた鉛玉が飛び出てくる。
 乾いた音を立てて転がる、ひしゃげた金属。

「全く呆れ果てる。こんなチャチな武器なぞで、このワムウに傷を負わせることができると? 人間という種族は、幾世紀を経てもこの程度か。
 武器の見てくれと手軽さが変わっただけで、性能はまるで石槍と変わらんな」

 おしまいだ、と固く目を閉じた輝之助の耳に、怪物の独白めいた言葉が落ちてきた。

「ここまで差し迫っても吐かんとは……貴様、真実何も知らんのか」

「い、い、い、いや……たしかに、なんで僕の能力が、支給品に使われてるかのは知らない、けど……けど」

 声は、輝之助自身が思った以上に震えている。
 ここで自分に価値がないと分かれば、まるでろうそくの炎を消すような手軽さで、命を吹き飛ばされるだろう。
 何とか生き残るための言葉、情報、理由を絞り出さなくては。しかし焦るほどに思考が空回る。

「殺す気はない……貴様の能力は使える。それに、依然主催者との関わりが全くないと判明しきったわけでもない。
 貴様があの忌々しい老人への『道』となるかもしれんのだからな」

 見透かしたように怪物はしめくくり、掴んでいた襟首を離す。間抜けな音と一緒に尻餅をついた。
 ようやく布地の圧迫から逃れるが、輝之助の胸中は窒息しそうなほど恐れおののいている。

 それは延命宣告であり処刑宣告だった。
 ひとまず殺されることはない代わりに、この怪物にいいように引きずり回され、用無しとなれば殺されるのだ。
 疑いなく、殺される。それだけの凄み、怪物の『表情』から読み取ることができる。
 今は、情報提供がこの乱暴者の求めることだとわかったのなら、輝之助にそれを拒む理由はない。
 自分がここに来る前、何をしていたのか。誰の命令で、どんな事情で。
 微に入り細を穿って、事細かに並べ立てていく。隠せば命はないと悟り、自分のスタンド能力さえも。

512 ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:50:45 ID:Tb5DzS7w
「……ていう、感じ、でした」

 腕を組みうつむきながら聞いていたワムウは、輝之助の語りが終わったと見るや、すぐに名簿を取り出して言った。

「第一の異常は、死者が生存しているらしいということ……名簿を率直に信じるならば。
 貴様の言う『虹村兄弟』。死んでいるはずの兄が生存者と数えられ、弟が死者として発表されている?
 そして、エシディシ様が、『サンタナ』と人間どもに呼ばれていたあいつが! 死亡者、として数えられているということは、生者としてこの地にあったということ!
 さらに、『シーザー・ツェペリ』! なぜ生きている? このワムウが確かに葬ったはず。これがスタンド能力によるものだというのかッ」

 矢継ぎ早に立ち上がる疑念と、激しい怒りの感情がせめぎ合っている様は嵐のよう。
 輝之助は圧倒され、ぽかんと口を開けたまま、ワムウを凝視するしかできなかった。
 『人間を超越した種族』は、伝書鳩が運んだ名簿を握りしめ、思いの丈を表し続ける。

「そして、最も怪奇極まりないと同時に、俺に対する最大の嘲りである、この名簿の内容……」

 ギリ、と歯の軋む音。

「『ジョセフ・ジョースター』! 生存者として記載されているのはどういうことだ!? 俺はたしかにあの広場で見届けたぞ、奴の鮮血がほとばしるさまを。
 名簿に載っているのは、JOJOの名を騙る者!?」

 その怒り、突風が巻き起こらんばかりの凄まじさ。
 輝之助は逃げ出したい衝動にかられながらも、動けない。男の覇気の激しさに足が震え、立ち上がることもままならない。
 何より、その常軌を逸した『体質』、人間に触れるだけでその肉を吸収してしまうとあれば、すこしでも変な動きをみられただけで、命取りになりかねない。きっとなる。
 名簿が引き裂けるかというほどの力で掴み、わずかに震えながら、ワムウはくぐもった憎悪の言葉を吐いた。

「憎いぞ、このような座興を企んだ存在……スティーブン・スティールッ! 決闘に水を差すだけでは飽きたらず、奴の偽物まで創り出したのかッ!?
 ……いや、JOJOに会うことがない限りどうにもわからん。『蘇り』を可能にする能力があるかも知れぬのだから。
 しかし、第二の異常『動かされた地形』……第三は『年代の著しい隔たり』……第一、第二、第三と、各種の異常に共通点が無い。
 我ら柱の一族にとっても奇想天外な能力の産物か。どうであれ、許さん。よくもこの戦闘の天才たるワムウの、誇りある戦いを、これほどまでに侮辱できたものだな……」

 頭部から垂れ下がった幾本もの紐を振り乱し、ワムウは今や立ち上がって同じ場所を歩き回っていた。
 まるで、得物に狙いを定める獣のように。
 柱の男の独白は続く。

「俺も、シーザーも、JOJOもたった一つの命をかけて戦っていた。エシディシ様や『サンタナ』とて同じ事。
 それを、まるで遊技盤の駒を右から左へ動かすように生き返らせ、あるいは殺し……これは、戦いの中にその身を置く者の『尊厳』に対する侮辱と見なすッ!」

 見えない敵、主催者への宣戦布告。
 戦い? 尊厳? 侮辱? 訳の分からぬ内容ながら、輝之助はその極まった激情に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 
「JOJOとの誇り高き決闘と、奴の生命を汚した罪、エシディシ様やシーザー、すべての戦士達への侮辱、その死を持って以外には贖えぬと知れ……」

 燃え上がるかと思うほど、その瞳は怒気をはらんで煌めている。
 戦士の固く握りしめた大きな拳が、くぐもった音を立てた。

513 ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:51:01 ID:Tb5DzS7w
その拳が、今にも自分に振るわれるのではないかと身構える輝之助をよそに、ワムウは自分のデイパックを掴みあげた。

「ここに長居するつもりはい。本来なら足を運ぶことも避けたかった場所だ」

「な、なんでだよ。とりあえずは安全だろ」

 どもりながら言う輝之助の言葉が聞こえているのかいないのか、怒れる戦士は、ひとりきりの思惑に沈んだ様子。

「エシディシ様と『サンタナ』が逝ってしまった今……ここへ飛ばされる前と同様、残る柱の一族はカーズ様とこのワムウ、たった二人。
 やはり、我らの悲願、赤石を追い求めるカーズ様に、俺の目的を理解していただくことは……」

 輝之助はふと、その表情に織り込まれた『変化』に気がついた。
 恐怖のサインを探し続け、人を観察する能力を極限まで練り上げたといえる彼にのみ、気づくことができたもの。
 何者にも動ずることが無いように思われたこの怪物の、静かな表情のなかに薄く広がった、ごく僅かな。
 これはなんだろう。悲しみ? 怒り? いや、違う。そんな単純なものじゃない。
 強烈な何か、狂おしい何か。
 輝之助は胸中で相応しい言葉を探しあぐねて惑う。
 その訝しげな視線に気付いたのか、ワムウは一点を見つめていた視線をこちらに向けると、毅然とした表情を取り戻して言った。

「……余計な話だった、忘れろ。ともかく、俺はカーズ様にお会いするわけにはいかん故に、ここには留まらん」

「あ、『カーズ』って、ここ確か地図で『カーズのアジト』とか書いてあった場所……カーズ様、って知り合いなのか? なのに会いたくない?」

 慌てて地図を広げる輝之助の言葉には答えず、大男は鼻を鳴らす。
 
「宮本とやら、貴様は少ない脳みそを使ってあれこれ思い悩む必要はない。
 どうせ太陽の出ているうちは自由に動けぬ身、ならば地下でつながっている『ドレス研究所』まで足を運んでみても損はないだろう」

 さり気なく罵倒されていることを感じつつ、荷物をまとめにかかる。

 怪物にわりと会話が通じるとわかり、震えが幾らか和らいだ。
 紙の中で怯えていて聞き逃した第一回放送も、大体の必要な部分を教えてもらえた。
 おそらく足手まといにしないためで、それ以上でもそれ以下でもないのだろうけど。
 今のところ、能力にも価値があると思ってもらえているらしい。すぐに殺されることも無さそうだ。
 ようやく生きた心地が戻ってきた。
 耳の傷は痛むが、袖の一部を破って手で抑えている。じきに出血も止まるだろう。

 輝之助は考える。
 さっきのワムウの表情、まるで人間のような感情のゆらぎについて。
 この怪物にも感情があるのならば、『恐怖のサイン』も存在する?
 人間を紙にするための条件を話した時も、自分には関係ないとでも思っているかのように、無関心だった。
 だが、感情がある以上、『恐怖』も当然存在するのではないか。

 一抹の望み。
 こいつを紙にさえしてしまえば、煮るのも焼くのも思いのまま、この絶望的な状況から一発逆転も夢ではない。

 だが、なんなのだろう。
 輝之助は胸に違和感を覚え、ワムウの表情を盗み見ながら、そっと手のひらを握り絞める。
 この、自分には窺い知れない深い深い感情の、底知れないゆらぎの名は?
 無表情だと思っていたこの人物は――人ではないが――よくよく見れば、表情豊かだ。
 耳たぶを吸収された痛みも忘れるほどの集中力で、輝之助は怪物を凝視する。

514 ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:51:15 ID:Tb5DzS7w
この世にたった二人しかいなくなったという柱の男は、今は顎に手を当てて思案顔だ。
 やはりこいつ、ずっと無表情に見えてそうでもない。

「貴様を紙に閉じ込めて持ち運んだほうが、俺にとって面倒がないか? どう思う、人間。宮本輝之助よ」
「か、勘弁……話したけど、燃えたり破れたりしたら、中身も駄目になるって言ったろ。
 あんた、戦闘になっても僕を気にして戦ってくれるつもりなんかないだろうし……」
「FUM、俺が戦闘に臨んだ時に、紙ごとどこかへふっ飛ばされてもかなわんな。同じ理由から、荷物を収納することも避けたほうが良かろう。
 ならばせいぜいついてこい。逃げられぬのはわかっているな? 妙な気配を悟った瞬間、貴様の体は消し飛ぶぞ」

 今度はニヤリと笑う、目の前の怪物。恐怖がまた胸に迫り、輝之助はひゅっと悲鳴に近い呼気を漏らす。

 ――僕は、死にたくないんだ! 

 彼は決心したように唇を噛み、思う。

 ――こいつの恐怖のサイン、それを見つけ出す!

 見つけられるだろうか? こんな異形の生物が『恐怖』する瞬間を。 
 自分をバカにして道具扱いした報いを、きっと受けさせてみせる。

 でも、あの一瞬だけ見えた、悲しそうな、苦しそうな表情が、なぜか心に焼き付いてはなれない。
 血がダラダラ流れるほどの怪我を負わされたばかりだというのに、一体何だというのだろう。
 大股に歩き出したワムウの後をつんのめり気味に追いながら、輝之助は心の内を持て余している。
 傲慢な化け物の鼻を明かしてやりたいと思う一方で、人間ではないと豪語する生物の計り知れない感情が、心の中をチラついて消えない。

 ――人の肉をえぐっておいて何も思わないような奴が、悲しむ? 苦しむ? そもそもこいつは、人間じゃあ無いんだ。
     
 ただそれだけのこと。
 言い聞かせ、振り切るようにぶんぶんと頭を振って思考を保つ。

 地下は静まり返り、二人の歩くヒタヒタという音だけが不気味に響いていた。
 輝之助が付いて来ていることを肩越しに確認し、警戒するように周囲を見渡したワムウは、なぜか同行者のさらに後ろ、影になっている一点を強く睨む。
 釣られた輝之助が不思議そうに振り返ったが、そこには何もなく、薄暗い空間しか見えない。
 
 「……今は良い。遅れるな、人間」
 「あ、歩くの速……」 

 二人は湿った地下道へと進む。
 少年と怪物が闇に吸い込まれると、少し遅れて、一枚のトランプカードがひらりと舞い落ち、その後を追った。

 これは、長く続く闘いの、ほんの幕の内の物語。

515 ◆33DEIZ1cds:2013/02/01(金) 00:54:47 ID:Tb5DzS7w
【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、片方の耳たぶ欠損(どちらの耳かは後の書き手さんにお任せします)
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0.ドレス研究所へ
1.ワムウに従うふりをしつつ、紙にするために恐怖のサインを探る。
2.ワムウの表情が心に引っかかっている

※スタンド能力と、バトルロワイヤルに来るまでに何をやっていたかを、ワムウに洗いざらい話しました。
※放送の内容は、紙の中では聞いていませんでしたが、ワムウから教えてもらいました。

【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:疲労(小)、身体ダメージ(小)、身体あちこちに小さな波紋の傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
0.ドレス研究所へ
1.強者との戦い、与する相手を探し地下道を探索。
2.カーズ様には会いたくない。
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
4.12時間後、『DIOの館』でJ・ガイルと合流。

※『エニグマ』の能力と、輝之助が参戦するまでの、彼の持っている情報を全て得ました。
 脅しによって吐かせたので嘘はなく、主催者との直接の関わりはないと考えています。

※輝之助についていた『オール・アロング・ウォッチタワー』の追跡に気付きました。今のところ放置。

>>507氏にご指摘いただき、たしかにワムウが突然死者の「蘇生」と言い出すのは不自然かと思い、表現を変えたところが主な修正点です。

その他時間軸の矛盾などがあればよろしくお願い致します。
無さそうであればお手数ですが、代理投下をお願い致します。

516 ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:22:44 ID:fHviQRHE
遅れました。すみません。投下します。

517Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:24:01 ID:fHviQRHE

開け放した窓から雨の臭いがした。風は吹いていない。雨の臭いだけが部屋の中にそっと忍び込んでいた。
雨が降っている。目を凝らさないとよく見えないぐらいのきめ細かい雨。
ジョルノは窓越しにそれをじっと見つめていたが、ふと思い出したように手もとの時計へ目を落とす。
濡れる街、薄暗い空。時計の針は短針が九を、長針が六を指していた。気が滅入りそうになる午前九時半だ。BGM代わりの雨音が店内に響いている。
ここはダービーズ・カフェ、ジョルノがミスタと合流を約束した場所。窓際の席に腰かけたジョルノは何も言わず、雨打つ街を眺めていた。

聞こえるのはしとしとと降りそそぐ雨の音、少し低めの天井にとりつけられたファンが回る音。そして朝食にがっつく男たちの声。
ジョルノの真正面に腰かけたミスタが派手に食器を打ち鳴らし朝食を堪能する。
隣に座ったミキタカも一度として手を止めることなく、皿に盛られた料理に食らいついていた。よっぽど腹が減っていたのだろう。


「それでよォ、ミキタカのやつ、いきなり俺を担いで走り出すもんだから……」
「ミスタさんはそんなこと言いますけど、ほんと危なかったんですよ! 私、冗談じゃなくて死ぬかと思いました」


口の中をからにした途端、ミスタがフォークを振り上げ大袈裟にそう言った。
頬についたパンの欠片に気づくことなく、彼は如何に自分たちが大変な目に会ったかをジョルノに語って見せた。
その話の内どこまでが本当で、どこからが誇張されたものなのだろうか。
時折入るミキタカの的確な突っ込みに、ジョルノの頬もついつい緩む。そうやって会話を交わす二人の姿が面白くて、ジョルノは少しだけ頬笑んだ。
いつも通りの朝だ……そう勘違いしてしまいそうになるほど辺りは平和に包まれ、何事もなく進んでいるように見えた。


「それでまた最後になァ……って、オイ、ジョルノ! 聞いてるのかよ!」
「ジョルノさん?」
「すみません、少しぼうっとしてました。あまりに平和すぎて、つい……」


霧雨の向こうに向けられた視線。影は見えなかった。
そして店内を見直せばどうしたって空いている椅子のことが気になる。ミスタ、ミキタカ、ジョルノ……そして誰も座っていない四つ目の空席。
ジョルノはウェザー・リポートの事を考えた。
少しだけ辺りの様子を見回って来る、そう言い残したウェザー・リポートは、まだ帰って来ていない。


『何かあったら雨が教えてくれる……心配するな、俺は弱くない。それに“何もわからぬまま”死ぬ気もない』


カフェを出る直前にそうウェザーは言っていた。ミスタ達と入れちがいになるような形で、ウェザーは霧けぶる街に姿を消したのだ。
控え目ではあるが確かな自信と確固たる意志がウェザーの口調には込められていた。
きっとジョルノの考えすぎなのだろう。すぐにでもウェザーは帰って来る……。

ミスタとミキタカの笑い声がどこか遠くで聞こえた様な気がした。話に集中できない。薄い雨音がジョルノの頭にゆっくりとしのびこむ。
ウェザーは強い。間違いなく強い。だがそれでもジョルノは彼が無事帰って来てくれるかは、確信が持てなかった。
復讐心と失った過去。蓮見琢馬とエリザベス。ウェザーの憂いを含んだ横顔がちらつく。
見回りというものは何かの口実でしかないのかもしれない。ひょっとしたらウェザーに帰って来る気はないのかもしれない。

ジョルノにウェザーを止める権利はなかった。背負うべき過去を失ったわけでもない、ジョルノには。

518Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:24:30 ID:fHviQRHE


―――カラァァン……


その時、唐突にベルの音が響いた。店内が一瞬凍りつく。ミスタも、ミキタカも、ジョルノも。三人はそろってはたと動きを止めた。
扉のほうを向けば全身を雨で濡らし、立ちすくむ男の影が見えた。ウェザー・リポートだ。ウェザーは約束通り、帰ってきた。
だがミスタとミキタカはウェザーのことを知らない。ウェザーもミスタとミキタカの顔を見ていない。
戸惑い気味の三人に慌ててジョルノは互いのことを紹介した。ウェザーに空いている席を勧め、簡単な自己紹介をすませる。

ミスタがウェザーの手を握る。ミキタカは馬鹿丁寧なお辞儀を繰り返していた。
ジョルノはそっと横目でウェザーの様子を伺った。これといって変わりは見えなかった。ウェザーは二人と何事もないように、淡々と会話を交わしている。硬さも見られない。
案外人見知りしない人なのかもしれない。ジョルノは椅子に深く座りなおすと、気のせいだったか、と誰に聞かれるわけでもなく、呟いた。


「グイード・ミスタだ。ミスタでいいぜ。よろしくな」
「ウェザー・リポートだ。ジョルノに話は聞いている。ミスタと……、それとアンタは?」
「よくぞ聞いてくれました。私、実は宇宙人なんです……―――」


―――雨が少し強くなったような気がする。

雨音にまぎれながら飛び込んでくる三人の会話を聞き、ジョルノは顔をしかめた。
さっきから何かおかしい気がする。理由のわからない違和感だ。もどかしさと不安。顎をゆっくりと撫で、考える。
だが見つからない。“何か”がおかしいはずなのに、その“何か”が見つからなかった。気を紛らわすように会話に集中しようとするがそれすらもうまくいかない。

ジョルノは舌打ちしたくなる気持ちをぐっとこらえた。何なのだろうか、この違和感は。
違和感の始まりはミスタとミキタカにウェザーのことを言ったころからだったような気がする……。
詳しい説明は省いたものの、もう一人仲間がいると真っ先にジョルノは言った……。信頼できる仲間、ウェザー・リポート。
琢馬とエリザベスは引きとめられなかったがウェ―ザは残ってくれた……。
詳しい事はわからないが、直感的に頼りになる仲間だとわかった……。そうジョルノはウェザーのことを説明した。
ミスタとミキタカを何も言わず、そんなものかと受け入れてくれた。事実今だってこうやって四人で今後のことを話している……―――。



「……待って下さい」


三人の会話に割って入るよう、唐突にジョルノは言葉を口にした。訝しげな表情で三人がジョルノを見る。ジョルノ自身も口にした自分に驚いていた。
“それ”は“おかしなこと”だった。“ありえない”ことだった。
三人の雰囲気がどうだとか、せっかくのうちとける機会だとか……それを越えてでも聞かずにはいられなかった。

ジョルノは立ち上がると、きっかり三歩だけ、距離を取った。そして隣にゴールド・エクスペリエンスを呼び出す。
この間合いならばジョルノのほうが早い。仮にウェザーがスタンドを出したとしても、それはスタンドを叩きこむ十分な隙になるだろう。
唇を一舐めすると、ジョルノはミスタを見つめ口を開いた。困惑した表情のミスタ、不思議そうに首を傾けるミキタカ。そしていつも通り無口で無表情な、ウェザー・リポート。

519Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:25:05 ID:fHviQRHE

「ミスタ……僕の思い違いならばそれで構いません。考えすぎだとしたらそれはそれで笑い話になるでしょうし、むしろ僕はそれを期待しています」
「おいおい、どうしたんだよ、ジョルノ? 何か俺、失礼なことでもしたか? それとも何かヤバい事?」
「ウェザーは“四人目”の男なんですよ、ミスタ。なんで貴方はそんなに彼に打ち解けられるのですか?」


自分で言いながらも馬鹿らしいと思った。きっと言い終ると同時にミスタは笑いだすだろう。ウェザーとミキタカは何を言っているんだと混乱するだろう。
そうであってくれ、むしろジョルノはそう願った。自分のこの些細な違和感がくだらないジョークとして終わって欲しいと心から思った。
もしかしたらミスタはわかっていて敢えてそれに触れなかったのかもしれない。自分のジンクスを押し殺してでもウェザーを歓迎してくれているのかもしれない。

だが聞かずにはいられなかった。店の外の天気のように、薄く霧がかった不安がジョルノをまとわりついていた。
何か不気味な違和感が……、湿りついた異常なぎこちなさが……。ジョルノの心に張り付き、離れなかった。



 そして…………―――    ―――……瞬間



ミスタの顔から表情が滑り落ちる様に消えた。一瞬何もかもが停止する。沈黙が針のようにジョルノを突き刺した。
背中の産毛が一斉に逆立つ感覚。隣に立つミキタカも不自然なまでにピタリと動きを止める。ウェザーも動かない。
一瞬のうちに、ジョルノの世界全てが凍りついた。

「な……ッ! ま、まさか…………!?」

跳ねあがるように飛び下がれば、机が倒れ、椅子が転がった。ジョルノは慌てて三人から距離を取り、そして違和感に気がついた。
音が遠く聞こえたのだ。倒れた椅子がゆっくりと宙に浮いた気がした。フローリングの上で跳ねあがったはずだというのに何も聞こえない。
そしてなにより……身体にぶつかった感覚がなかった。痛みすら感じなかった。そのことがジョルノの中で焦燥と、そして同時に確信を生んだ。


「これはスタンド攻撃…………ッ!」


誰にいうでもなく、自分自身に言い聞かせるように叫んだ。信頼できるはずの仲間は何も言わなかった。
ミスタも、ミキタカも、ウェザーも。案山子のように突っ立ったまま、ガラス玉のような眼でジョルノを見つめていただけだった。
それが尚更不気味だった。自分が知っていると思っていた仲間たちが、不気味な何者かにすり替えられたことがなによりも恐ろしかった。
ジョルノは叫んだ。自分自身を目覚めさせるように、喉が壊れんばかりに叫んだ。


「幻覚だッ! このスタンドは……僕に幻覚を見せているッ!」







520Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:25:29 ID:fHviQRHE
ウェザー・リポートが最初に理解したことは自分が誰かに殴られた、ということだった。
電流を流されたような痛みに身体がビクリと反応し、背中を強く打ちつけた感触が身体中を駆け巡る。
ガシャン、と家具を倒れる音も聞こえた。きっと殴り飛ばされた拍子に椅子や机をなぎ倒してしまったのだろう。
じわりと痛みが広がるとともに意識が覚醒していく。混乱する頭でまず考えたのは現状の把握。
殴られた。左頬を殴られた。そして椅子や机のあった場所に突っ込んだ。だけど誰に? そしていったい何故? そもそもここはいったい……?

鉛のように重たい瞼をこじ開けると異様な様子が目に飛び込んできた。あまりに不思議な光景だった。
ウェザーが今いるのはダービーズ・カフェだ。ジョルノと一緒に朝食とった場所。しかし朝食を取った、ついさっきまでと比べて、その様子はあまりに異なっている。

天井に取り付けられたファンは止まり、その先から不気味な液体が滴り落ちる。天井も壁も床も……全部、水浸しだ。
椅子や机、ウェザーの体までびっしょりと濡れている。そして僅かではあるが、溶けている。服も、家具も。全てがまるで使いかけの蝋燭のようにただれている。
カフェ全体が何かの胃の中かの様な、そんな不気味な光景だった。ウェザーは頭を振って意識をはっきりとさせた。それでも目の前のその光景は変わらなかった。


「ウェザー・リポート…………」


机に突っ伏したままのジョルノがそう呻いた。ジョルノの状態もひどい有様だった。
液体に覆われ、謎のドロドロが彼の体という体を濡らしている。とても弱っている。息をするのも苦しそうだ。
ウェザーは立ち上がりジョルノを助けようとしたが、ウェザー自身も消耗が激しかった。“ただれ”は彼自身をも覆っている。
立ち上がりかけたウェザーをジョルノは視線だけで押しとどめた。助ける必要はない。ジョルノはそう眼で訴えた。
息も絶え絶えにジョルノが言う。


「スタンド攻撃です……僕たちは、幻覚を、見せられていました」


ウェザーは自分を落ち着けるように大きく深呼吸を繰り返した。冷や汗が額を伝った。唾を飲み込めば、大きな音をたてて喉が鳴った。
そうだ、自分はカフェを出て見回りに出たはずだ。心配そうな顔をしたジョルノを安心させるよう、自分のスタンドを少しだけ見せたことも覚えている。
雨がやめば自分の危機を知らせてくれる。そう言ってカフェを後にして……それで、それから……。

―――ならいったい何故自分はカフェにいる?

重たい頭に痛みが走る。全てが混乱していた。全ての記憶があいまいで、ごちゃごちゃにされている。
スタンド攻撃で幻覚を見せられていた。ならばどこからが『幻覚』で、どこまでが『幻覚じゃない』んだ?
いや、待て、そもそもこの状況、このスタンド……俺は“知っている”。実際にこのスタンド攻撃を受けたことがある……?
馬鹿な。そんなことなら覚えているはずだ。だがしかし、忘れたこともあるかもしれない……?
それすらもしやこのスタンドの幻覚が見せたことかもしれなくて…………ウェザーは頭を振って、奥歯を噛んだ。

なにもかもがわからない。駄目だ。今の自分は何かを考えるには混乱しすぎていたし……なによりひどく頭が痛んだ。
万力で締められているかのように、ひどい頭痛がした。


「行ってください……僕は、もう限界です。
 なにかが……『決定的な』何、かが僕、の中から失われてしま、ったよう な…………」

521Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:26:43 ID:fHviQRHE



痛む頭と歪んだ視界。ウェザーは思う。今、何か影を見た気がする。ジョルノの後方、窓の外を駆け抜けていった影が見えた様な気がした……!
よろめく身体をおこし、ジョルノが突っ伏す机までなんとか辿り着いた。ジョルノを起こそうとその身体に触れ、ウェザーは愕然とした。
冷蔵庫に入れられたようにジョルノの身体は冷たくなっていた。まさかと思った。しかし僅かにではあるが脈はある。呼吸もしている。ただ意識は……ない。

―――俺は、この病状を……知っている?

ノイズがかかったように視界の中を砂嵐が通り抜けていく。ウェザーは強烈な眩暈を感じた。
ジョルノを助け起こし、隣の部屋のソファになんとか寝かしつけるその間も、脳にかかった霧が晴れることは起きなかった。
あたまが痛い、割れるように痛い。いっそのことジョルノの隣の床に倒れ込んでしまいたいぐらいだ。

大きく唾を飲み込むと、ウェザーは目を瞑り意識を取り戻す。駄目だ。そんなことはできない。
ジョルノは言った。“奪われた”、“決定的な何かを奪われた”と。
そうやって奪われている間にも、ジョルノはウェザーを救いだした。幻覚から覚めたのはジョルノがウェザーを殴り飛ばしたからだ。
ジョルノがいなければ、やられていたのはウェザーだったのかもしれない。ジョルノはウェザーを庇ったのだ。
身体を溶かしながら、致命的な何かを奪われながら……ジョルノはウェザーを救いだした。


「すぐに助けに戻る。待っていてくれ」


よろめく身体に鞭をうち、ウェザーはカフェを飛び出した。雨には止んでおらず、薄い雨の向こうに虹がかかっているのが見えた。
ウェザーは走る。辺りを見渡し、怪しげな人影が見つかりやしないかと目を凝らし、走り続ける。

ジョルノはウェザーを救った。精神的にも、そして肉体的にも。この短い数時間で二度も、彼は救われた。
ジョルノがいなければウェザーは過去に囚われたままだったかもしれない。エリザベスが見せた確固たる意志、琢馬が見せた気高い意志。
あの時ウェザーが感じたのは自己嫌悪と劣等感だ。ジョルノはそれをなんでもないことだと慰めてくれた。些細なことだが、それは確かにウェザーを救ったのだ。

ジョルノがいなければあの幻想の中に囚われたままだったかもしれない。そして気づかぬうちに体全身を解かされ……そのまま死んでいたのかもしれない。

「ジョルノ……」

ジョルノを放っておけるわけがない。ウェザーは拳を握りしめ、固く誓う。
同時にウェザーは徐倫のことを思い出していた。守りたかった一人の女の子。
どこかジョルノに似ていて、そしてウェザーの知らぬところで逝ってしまった女の子。

ジョルノは未来を見据えていた。だから脚を止めなかった。だから過去を振りかえらなかった。
徐倫はいつも希望を抱いていた。現実に立ち向かう時、脚が止まってしまいそうな時……いつだって彼女は希望を見つめていた。

震える脚に鞭をうつ。徐倫のことを思い出すと勇気がわいてきた。ジョルノのことを考えれば頭痛のことなんて吹っ飛んだ。
今度は間にあわせる……! また間に合わなかったなんて……・、“三度”失うだなんて、もうごめんだ……!
ジョルノを死なすわけにはいかない……! 絶対に、絶対死なすものかッ!
ウェザーは一人街を走っていく。どこへ知れず、ただ己の勘と運を信じ、走り続けた……。







522Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:02 ID:fHviQRHE
雨が降っていた。エンリコ・プッチはそんな雨の中、微動だにせず、全身を濡らしている。
吐く息が白い。雨は相当冷たい様子だ。だがプッチはそんなこと気にも留めていない。それどころか雨が降っていることにも気づいていないのかもしれない。
プッチの足元には一人の女性が寝そべっている。目は固く閉じられ、手足がだらりと投げ出されている。一目には眠っているようにも見える。
プッチがそっと言った。囁くような口調だった。


「……君は“運命”というものを信じるかね?」


返事も待たずにプッチは続ける。


「ホット・パンツ、もしも君が私に出発を促すようなことしなければ……。もしも君がダービーズ・カフェでなく、DIOの館に向かっていれば……。
 もしも君が店内の様子を伺った時にジョルノ・ジョバァーナに気づかれていれば……。ウェザー・リポートに気づかれていれば……。
 もしも君がそのまま私に相談することなく、二人に接触していたならば……。もしも私がスタンドを使わずに、二人に対して交渉することを選択していたならば……。
 もしもジョルノ・ジョバァーナが、あのDIOの息子でなかったならば……ッ!」


プッチの手には一枚のDISCが握られていた。微かではあるがその表面に写っているのはジョルノ・ジョバァーナの顔だった。
それはジョルノの記憶DISCだ。たった今の今までプッチがその中身をのぞいていたDISC。
プッチは少しの間何も言わず、ただそこに立っていた。誰かの返事を待っているようにも見える。勢いを増した雨が彼の顔をうち、水滴がその顎から滴り落ちた。


「君は聖女だ、ホット・パンツ……。巫女であり、祈りの人であり、しかし私にとって君はそれ以上の存在となった。
 君は私を導いてくれた。君の選択が、そして運命が、私をここまで連れてきた……! それはもはや奇跡ではなく運命だ。
 君の運命が私を押し上げた! ジョルノ・ジョバァーナ! DIOの、あのDIOの息子との邂逅を!」


静かな興奮がプッチを包んでいる。震えているのは寒いからではない。激情が彼を震わせていた。
ホット・パンツを見下ろすプッチの視線は慈愛に溢れている。彼は心の底から思っているのだろう。
ホット・パンツが成し遂げたことが彼の考えた通りであると。彼女こそが聖なるものであるに違いないと。


「ここに教会を建てよう。君のための教会だ」


プッチの口調が早くなる。隠しきれない興奮が彼を突き動かす。
一度大きく息を吸い込むと、プッチは呼吸を整えた。焦ることではない。大切なのは尊厳だ。厳粛さだ。
再びプッチが口を開いた時にその口調はいつもの控え目で厳かなものに戻っていた。
しかし押し隠した感情はやはり言葉に飛び出る。声が震えた。意図せずとも頬が緩む。


「人と人の出会いは運命だ。なるべくしてそうなったもの。
 だがそれを運命と片付け、得意げに鼻を高くするのは神に対する冒涜だ。
 私たちは祈るべきなんだ、感謝するべきなんだ。君のような存在に……それを導く神と、その全てに……」


誰も何も言わない。プッチの独白にホット・パンツが返事をするようなことは起きなかった。
しかし代わりにプッチは振り向くと霧雨の奥に見える影に問いかけた。
“彼”がそこにいることはとっくに気がついていた。いや、彼がここにやって来ることはわかっていた。
プッチに言わせたならば……それもまた“運命”なのだから。


「なあ、そう思わないかい……ウェザー・リポート?」

523Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:23 ID:fHviQRHE
ザァザァ……という雨音にまぎれ、革靴が地面をうつ音が響いた。
うっすらと映っていた影が濃くなり、やがてプッチの目にはっきりと像となってその姿が映った。
険しい顔のウェザー・リポートが姿を現す。プッチの顔を真正面から睨みつけると、ウェザーは十メートルほど離れた場所で立ち止まる。
隠す気もないほどに、その表情は憎しみに塗られていた。奥歯を噛みしめ、その隙間からひねり出すようにウェザーは言う。


「ジョルノに何をした」
「聞くまでもなくお前はわかりきっているだろう」
「DISCを返せ」
「それはできない」


そこで会話は途切れ、雨音が二人を包んだ。睨み合う視線、絡みあう感情。
プッチは見下すような、憐れむような目線でウェザーを見つめ、ウェザーは今にもプッチを殺さんばかりの凶暴な目で見返す。
雨が強くなったような雰囲気が辺りを包んだ。しかし、雨脚は強くなどなっていない。
二人の敵意と、戦意が辺りの緊張感を高めていた。それはあまりに強烈で、宙を落ちる雨粒がはじけ飛びそうなほどだった。
何も言わず、二人は長い事睨み合っていた。沈黙の後、唐突にプッチは視線を切ると、ふぅ……と息を吐いた。
瞳を閉じ、腰に手を当てる。聞きわけの悪い修道士に説教をするような感じでプッチは言った。


「私は全てを赦そう、ウェザー・リポート」


そして付け足す。



「いいや……、“ウェス・ブルーマリン”」



ウェザーは何も言わなかった。反射的に彼は右手で頭の後ろ辺りをそっと撫でた。そこに入ったであろう、自らの“記憶”を確かめるように、優しく。

プッチに言わせるならば、それすらも“運命”であった。全てがこのために用意された、こうするべきだから導かれた一つの事実。
ホット・パンツがジョルノとウェザーを見つけることも。ジョルノがDIOの息子だったことも。そこにウェザー・リポートがいることも。
そして……プッチに支給されたランダム支給品が『ウェザー・リポートの記憶DISC』であったことも……!


「我が弟よ、私は全てを赦そう」


ウェザー・リポートは何も言わない。ずっと睨みつけていた視線を足元に落とすと、彼は俯き、唇をかんだ。
何を言うべきか、長い事ウェザーは悩んでいた。言いたいことが多すぎた。突きつけたい感情は溢れるほどあった。
ウェザー・リポートがぎゅっと拳を握った。腕が震える、唇がわななく。これほどに感情が高まったことは生きていて今が初めてだった。
ペルラに恋をした時よりも……。ペルラにそっとお別れのキスをした時よりも……そして彼女が、死んだ時よりも……、ずっと……。

524Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:29:44 ID:fHviQRHE

結局出てきた言葉は何の意味も持たない言葉だった。それが今のウェザーには限界だった。


「なんのつもりだ……?」


そう問いかける。プッチはため息を吐き、あきれた様子で返事をする。


「だから言っているだろう……私はお前を赦す、と。お前が望んでいるものを私は差し出そう。
 記憶を返した。それはそれがお前の望みだったはずだからだ。記憶を取り戻す前のお前は何よりも望んだこと。
 そして記憶を取り戻した今、お前が望んでいることは……」


その時、辺りを静寂が包んだ。雨音がやんだ。時間が止まったような感覚がウェザーを襲う。
プッチの体から影が飛び出る。薄い膜のような影。反射的にウェザーは腕をあげ、頭を庇う。
音が聞こえない。超速で浮き上がったホワイト・スネイクがウェザーに迫る。強く地面をけり上げたプッチの体が宙を舞い、その影がウェザーを覆う。
上空からプッチが囁いた。文言を唱えるように穏やかな声だった。


「―――死だ」


交差する二つのスタンド。間一髪で間にあった『ウェザー・リポート』。
硬く閉じられたガードを押しとおし、行き場をなくした運動エネルギーがウェザーを吹き飛ばす。
バシャバシャと水しぶきを上げながら、ウェザーは後ろに大きく跳び下がった。水が舞う。雨粒が顔をうつ。
二人の距離は大きく離れた。ウェザーはプッチを睨みあげる。プッチは冷たい眼でウェザーを見下す。


「これは運命だ、弟よ。神が選んだのだ。
 ジョルノ・ジョバァーナに相応しいのはお前ではない。彼の隣にお前が立つのはあってはならないことだ。
 私だ。私こそが彼に相応しい。DIOがいて、そして彼の息子である彼の隣に立つべきはお前ではない! この私だ!」


今度は押しとどめる必要がなかった。
背後に小さな竜巻を展開、風に乗った体全身で真正面からプッチにぶつかっていくウェザー。
全体重を乗せ、全ての感情を乗せ、ウェザーは拳を振るった。受け止めたホワイト・スネイクの腕が衝撃で軋む。プッチの顔が苦悶の色に染まった。

互いの腕を掴みあい、つばぜり合いのような至近距離からウェザーは吠える。
今度は躊躇わなかった。迷わなかった。最初から言うべき事はわかっていた。思うがままに、感じるがままに言えばいいだけだったのだ。


「お前は俺から怒りすら奪うのか……! 覚悟すら取り上げるのかッ!!
 過去を奪い、ペルラを奪い……それでも飽き足らず、まだ奪う気かッ!!」

525Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:30:25 ID:fHviQRHE

右の拳で殴りつける。受け止めたプッチのその顎狙い、蹴りあげる。どちらもなんとかプッチは受け止める。
左からの拳は力に加え風を利用した一撃だ。今までの一撃とは違う重さにホワイト・スネイクがぐらつく。プッチの顔に汗が浮かぶ。
堪らずプッチは後退する。隙を創り出さんと、ウェザーの顔めがけて腕を伸ばした。DISCを奪われるわけにはいかず、ウェザーも身体を大きく振りさげる。
それは一瞬ではあった。だがプッチにはそれで充分だった。プッチは跳び下がり、距離を取る。二人はまた元の通りに、離れた位置で互いに隙を伺う形。
雨音に包まれ、互いに睨み合う。雨が二人に染みいるわずかな間、二人は何も言わなかった。

突然、ウェザーの右の頬がパックリと開いた。真っ赤な血が滴り落ちる。ウェザーはそれを拭わなかった。
プッチの胴着が大きく切り裂かれた。胸ポケットにしまっていたジョルノの記憶DISCが音もなく、落下する。
プッチはゆっくりとそれを拾い上げると、もう一度ポケットにしまいなおす。ウェザーは動かなかった。プッチもまた隙を見せなかった。



―――雨が強くなった。



気のせいではなく、確かな事実として二人をうつ雨粒が大きく、そして多くなる。
滝のように二人の顔から水滴が散る。落ちては落ちて、それでも止むことのない雨。


「“虹”は出ないようだな」


そうプッチが言う。ウェザー・リポートが返す。


「出す必要はない」
「私を殺したいのではないのか、“ウェズ”?」
「なら尚更だ」
「ほう」


以前ならば、そう一瞬だけウェザー・リポートの脳裏を想いが走った。
ここに呼び出される前ならば……。この殺し合いとやらに巻き込まれていなかったならば……。
もしかしたら、ウェザーは“虹”を望んだかもしれない。

だがもう彼は虹を望んでいなかった。
雨に溶けるようなレインコートを着た男。雪のように真っ白な肌を持つ青年。霧に包まれ微笑む老人。
そして黄金のように輝く、太陽のような少年……。皆全てこの場で会った人たちだ。
そして誰もが何かを背負っている。過去を背負って、それでも生きている。


「プッチィィィイイイイ―――――――ッ!!」


バシャリ、と音をたてウェザー・リポートの足元で水が舞う。飛び出すように動くその身体。水たまりに写るウェザー・リポートの姿。
プッチは構えを取り、そんなウェザー・リポートを迎え撃つ。跳ねあがった水滴にぶつかるよう前に飛ぶと、ホワイト・スネイクが躍動する。



雨はまだやまない。今はまだ……止まない。






                             to be continue......

526Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:30:50 ID:fHviQRHE
【B-2 ダービーズ・カフェ店内 / 1日目 午前】  
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:瀕死、記憶DISCなし
[装備]:閃光弾×1
[道具]:基本支給品一式 (食料1、水ボトル半分消費)
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
0.気絶
1.ミスタたちとの合流。もう少しダービーズ・カフェで待つ?
2.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。


【C-2 北部/ 1日目 午前】
【ウェザー・リポート】
[スタンド]:『ウェザー・リポート』→『ヘビー・ウェザー』
[時間軸]:ヴェルサスに記憶DISCを挿入される直前。
[状態]:記憶を取り戻す、体力消耗(中)
[装備]:スージQの傘、エイジャの赤石、ウェザー・リポートの記憶DISC
[道具]: 基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者と仲間を殺したものは許さない。
1.プッチを倒し、ジョルノを救う。

【エンリコ・プッチ】
[スタンド]:『ホワイト・スネイク』
[時間軸]:6部12巻 DIOの子供たちに出会った後
[状態]:健康、有頂天
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品、シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
    クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC、ジョルノ・ジョバァーナの記憶DISC
[思考・状況]
基本行動方針:脱出し、天国を目指す。手段は未定
1.ウェザー・リポートを殺し、自分がジョルノの隣に立つ。
2.ホット・パンツを利用しながら目的を果たす
3.DIOやディエゴ・ブランドーを探す
4.「ジョースター」「Dio」「遺体」に興味
[備考]
※シルバー・バレットの記憶を見たことにより、ホット・パンツの話は信用できると考えました。
※ミスタの記憶を見たことにより、彼のゲーム開始からの行動や出会った人物、得た情報を知りました。
※プッチのランダム支給品は「ウェザー・リポートの記憶DISC」でした


【ホット・パンツ】
[スタンド]:『クリーム・スターター』
[時間軸]:SBR20巻 ラブトレインの能力で列車から落ちる直前
[状態]:気絶中、両方のDISCを奪われている
[装備]:トランシーバー
[道具]:基本支給品×3、閃光弾×2、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻り、遺体を集める
0.気絶中
1.プッチと協力する。しかし彼は信用しきれないッ……!
2.おそらくスティール氏の背後にいるであろう、真の主催者を探す。

527Catch The Rainbow......    ◆c.g94qO9.A:2013/02/13(水) 00:33:04 ID:fHviQRHE
以上です。何かありましたら指摘ください。
毎度毎度代理投下をお願いして申し訳ないです。
そして予約期限ぶっちぎりまくりでごめんなさい。

Catch The Rainbow - Ritchie Blackmore's Rainbow
ttp://www.youtube.com/watch?v=tV8x2HKTRdM

528理由 その1  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:43:58 ID:4qAwTwKE
例えば……君らが、あるマンガキャラを原作とした対戦格闘ゲームを予約したとする。
別に発売日に店頭に並んで待ってたっていいのに、予約したとする。

……なぜ?

どうしても発売初日に手に入れたい?
売り切れが心配?
初回封入特典のダウンロードコードとメモ帳がほしかった?
数量限定生産のエッチングプレートがほしいから?

――おいおいそう熱くなるなよ。俺は何もゲームそのものについて話をしようとしてる訳じゃあない。
要は“欲しかった『理由』”について聞いてるんだよ。

何もゲームの購入に限ったことじゃあない。
全ての行動に理由はある。

……たぶん、きっと。


●●●

529理由 その2  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:46:18 ID:4qAwTwKE
「よくもエリナを……エリナばあちゃんを見殺しにしやがったなッ」
バキィッ!

「……」

「治したとか言って手ェ抜いたんじゃねぇだろうなァアッ」
ドムッ!

「……」

「彼女は俺のこと本物の旦那と信じて疑わなかったんだぞッ」
ベチィッ!

「……」

「なんで、なんで死なせたんだ!このハンバーグ頭ッ」
ボスッ!

「……」

「何とか……何とか言えよ!この野郎ッ……クッソ……」

「……」

「オイ……ナメてんのかテm」
ドガァッ!

「おい――俺の頭がなんだって?
 ドサクサに紛れてバカにしてんじゃあねぇぜッ!

 殴って気が済むならいくらでも殴りやがれ!
 ……俺のは一発で許してやるよ、えぇ?親父」

「――え」

「俺だって“曾祖母ぁちゃん”を救えなくって悲しいさ。悔しいんだ。
 だがよ、俺は一緒に暮らしてた祖父さんが死んだときにゃあ一秒も泣かずにその意思を継いだもんさ。
 ジョセフ・ジョースターっつったな?
 『ジジイ』の若いころがこんな泣き虫野郎だとは思わなかったぜ」

「お、おま――じゃあ本当に」

「んな事今ここで問答するこっちゃあねぇだろ。
 『エリナばーちゃん』はそんな事望んでるのか?
 見てみろよ、幸せそうな顔で眠るようでよ――
 アナタは泣かないで前向いて歩いてくださいね、って、そういってる風には見えねぇか?」

「……何が言いてぇんだ?かたき討ちでもしに行けってのかッ!?」

「それをバーチャンは望んでないだろうがな。
 きっかけなんて、理由なんてそんなもんでいいだろ、とにかく立ちやがれ。
 ここでグズってるよりは百倍マシだと思うぜ、俺ぁよ」


●●●

530理由 その3  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:49:08 ID:4qAwTwKE
「畜生!おいなんで行かせてくれないんだよ!仲間攫われてんだぞ!」
そう叫ぶ男は噴上裕也。目の前には立ちはだかる一人の軍人。

「何度も言っておろうが!マウンテン・ティムに任せておけとォ!
 貴様らごときが行ったところで足手まといにしかならんわァアア!」
周囲の目も気にせず高らかに声を上げるのはシュトロハイムである。

ちなみに、
「あーあ、だめだこのガンコ軍人。あたしはエルメェスのそばにいるから何とか説得しておいて」
早々に説得を放棄したシーラEはそう言って救急車の中に戻ってしまった。

「ホラホラァ!言葉で説得できなければ力ずくでも俺を納得させて見せろォ!」
「クッソ!言われなくてもッ!ハイウェイ・スター!次は左からだ!」

言いながら己の分身をシュトロハイムにぶつける。
身体に張り付く無数の足跡に、普通の人間なら栄養失調で立ってなどいられない。
更に上半身は拳でのラッシュを無防備な顔面に叩きこむ。

しかし。

「――効かぬわアァァッ!」

それらの猛攻をものともせず本体である噴上の足元に威嚇射撃。
当然弾丸は当たらないものの、不意を突かれた上にその気迫に押し負けた噴上はスタンドを消してしまう。

「――えぇい!ナチス軍のサイボーグはバケモノかッ!?」
思わずこぼす噴上。それに対しシュトロハイムは鼻を鳴らす。

「バケモノ?違うなァ!貴様らが軟弱すぎるのだ!
 なーにが『スタンド』!なァにが『ひ・と・り・ひ・と・の・う・りょ・く』だッ!
 そんな慎ましさで今後襲いくる脅威に敵うモノかァ!サンタナなどカーズらに比べれば赤子も同然よ!」

「おい……スタンド使いバカにしてんのかよ」
「そうともよ!マウンテン・ティムはスタンド使いである以前に『カウボーイ』で『保安官』!さらに『ルックスもイケメン』だ!
 たかだか『学生』でしかない貴様よりは十分に有能よ!ゆえに康一の捜索を依頼した!貴様の匂いの能力も不要!」

「それが――それがさっきまで一緒に戦った仲間に言うセリフかよ(つーかイケメン関係ねーだろ)」
もはや噴上からは闘志が抜けきってしまっている。
目の前の男に叶わない事実。仲間を追う事すら許されない悔しさ。

「フン、貴様が重要なことを忘れて――お、終わったか、気分はどうだ、ジョジョ」


●●●

531理由 その4  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:52:27 ID:4qAwTwKE
「気分はどうだ、ジョジョ」
そういって後ろに立つジョセフ・ジョースターに向かって歩き出すシュトロハイムを手で制す。

「康一を追わせてもらうぜ」
「なんだなんだ、パパの前に子供が立つだなんて、なかなか面白い光景じゃあないか?普通は逆だぞォ?えぇ?ジョースケよ」

シュトロハイムの奴がやっすい挑発をかましてくるが気にしてなどいられない。
康一が攫われてるっつーのにこの泣き虫野郎の説得に時間をかけすぎたからな……
これが“ジジイ”いや『オヤジ』なんて信じられっかっつーの、俺は絶対ェに認めたくねーぞ――

「話題変えてんじゃあねぇ。康一を追いたいっつってんだ」
「ホホォ〜?それじゃあ噴上に代わってこの俺を説得してみるんだなァ?」

なるほど……それで噴上はこんなに悔しそうなのか。シュトロハイムも面倒な事しやがったな――

「ホラホラァ〜何とかして康一を追いたいんだろォ?その理由言ってみなァ」

わーったよ……そんなに聞きたきゃ言ってやる。
たっぷり十秒くらいは間を開けた後、軽く息を吸い込む。
極力感情を抑えて俺は口を開いた。


「ダチ助けるのにいちいち理由がいるのかよ」


「んん?ダチぃ〜?」
「そうよ、広瀬康一は俺の親友だ。そいつを助けに行きたいんだ。理由なんかいらねぇだろ」

眉一つ動かさずそう付け加えた。
俺のメンチとタンカを黙って聞いてたシュトロハイムは……

「フン、やっと友人という単語を聞けたわ。
 そう、それでいいッ!『仲間は友とは限らん』が!『友は仲間』なのだァァァ!
 よし良いだろうッ!合格だ!全員で追うぞォッ」

そう返してきた。


……き、決まったァ〜仗助君カッコイイ〜!


「お、ちょうどいいタイミングだったかな?行くんだろ?コウイチ君を追っかけに」
「君が治療してくれたんだってな、ありがとよ、ジョウスケ。
 ……ちょっと前から見てたけど、ナチスのアンタ。うめぇなぁ、ピエロごっこがよ、ハハハ」

振り返ればシーラEがそう言って手を振ってる。隣にいるのはエルメェス!意識を取り戻したみてーだな。

「チッ、なんだ俺ぁやられ損かよ。おい仗助、良い役回りやったんだから今度なんか奢れよ――もういいだろ、行けッハイウェイ・スター!」
背中をドツいてきた噴上も、悪態付きながらスタンドを展開してる。思ったよりショック少なそうだな。


で――問題の奴は……?
「――ジョースケ、悪かったな。
 まだ漠然としちゃあいるが、俺だってなんかしなくっちゃあな。
 きっとエリナばぁちゃんもそう望んでるだろうからな」


……大丈夫そうだな、さっそくシュトロハイムの激励攻撃にあっていやがる。


よっしゃ、いっちょ康一を攫ったやつをぶん殴りに行こうじゃあねーか!


●●●

532理由 その5  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:54:42 ID:4qAwTwKE
――どうやらうまく話がまとまったみたいだ。

しかし仗助が『理由なんてそんなもん』とか言いながら、ちょっとしたら『理由なんかいらない』って言うんだから面白いもんだ。

だがそれは確かに的を得てる言葉だ。
……確か君らに最初に話したのは『欲望の話』だったかな。それにも似通ってくる。
本能的な行動には理由なんかないが、それをいかに理由づけて抑制するか。
あるいはその逆かな。どう理由つけてワガママを押し通そうとするか。

――ん?
なんで仗助がこんなにカッコ良すぎるか?その理由?

う〜ん……



……『主人公補正』ってやつかな?


バァー―z__ン

533理由 状態表1  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:57:14 ID:4qAwTwKE
【B-4 古代環状列石(地上)/一日目 午前】


【チーム名:HEROES+(-)】

【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:絶望(回復中)、体力消耗(中)、泣き疲れて目が真っ赤
[装備]:なし
[道具]:首輪、基本支給品×4、不明支給品4〜8(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:オレだってなんかしなっくっちゃあな……
1.康一を追うことに同行
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる

[備考]
エリナの遺体は救急車内に安置されています。いずれどこかに埋葬しようと思っています。

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[能力]:サイボーグとしての武器の数々
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊
1.康一を追うことに同行。友というその言葉!聞きたかったぞ!
2.ジョセフ復活!思ったより元気そうじゃあないか!
3.『柱の男』殲滅作戦…は、どうする?

【東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷(応急処置済)、顔面の腫れ(軽度・ジョセフに殴られた)、悲しみ、やや興奮気味
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0.康一を追う。さらったやつは容赦しない。
1.ジョセフ・ジョースター……親父とはまだ認めたくない(が、認めざるを得ない複雑な心境)
2.各施設を回り、協力者を集めたい
3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか?
4.キマッタァァァ俺カッコイイー!

[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

534理由 状態表2  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 10:58:49 ID:4qAwTwKE
【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:全身ダメージ(回復)、疲労(ほぼなし)、ちょっと凹んでる
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
1.康一を追うことに同行
2.ジョセフ・ジョースター、マジか……
3.各施設を回り、協力者を集める?
4.ったく損な役回りだったぜチクショウ……↓

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:ダメージによる疲労、傷は回復、空腹
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1.康一を追うことに同行
2.まずは現状を把握したい
3.徐倫、F・F、姉ちゃん……ごめん。

[備考]
シーラ・Eから自分の境遇についてざっと聞きました。これから他のメンバーと情報交換したいと思っています。

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:健康、肉体的疲労(小)、精神的疲労(小)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
1.康一を追うことに同行
2.ジョセフ・ジョースター?マジかよ……
3.エルメェス、良かった……

[備考]
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
※ジョージⅡ世とSPWの基本支給品を回収しました。SPWのランダム支給品はドノヴァンのマントのみでした。
※放送を片手間に聞いたので、把握があいまいです。→他のメンバーとの情報交換によって把握しました。

535理由  ◆yxYaCUyrzc:2013/02/25(月) 11:04:12 ID:4qAwTwKE
以上で投下終了です。

仮投下からの変更点
・分割箇所をwiki収録に合わせ***から●●●に変更
・若干の文章変更(内容に変更なし)

『死亡遊戯(Game of Death)』と『BREEEEZE GIRL』の間の補完話という時間軸で書かせていただきました。
のはいいんですが……

ジョセフ号泣→一人にしてやろう
→その間に仗助による全員の治療&情報交換(ここまでは『死亡遊戯』でも行われています)
→康一いねぇじゃん!どうすんだ!
→ティムが一人で追うことになった
→俺らも追うぞ!→シュトロハイム「駄目だティムに任せておけ!」
→仗助「てか親父はいつまで泣いてンだ俺が根性叩きなおしてやる!」

という、冒頭に入るべき描写をざっくりと省いています。
このことに関して特に指摘をいただきたい。
……と思っていましたが仮投下時に指摘無かったので一切補完していません。
因みにいうとシュトロハイムが噴上に放った威嚇射撃もドルドのライフルではなく自分の肉体(胴体の機関銃とは思いにくいけど)だったりとか、そういうのもカットしてます。
もちろん今からでも指摘ありましたらwiki収録までには補完話書くつもりですが。


さて内容ですが、仗助が見事に暑苦しいキャラになってしまってますねw
まぁ歴代ジョジョの7(8)人の中では一番直情的なジョジョだと思っておりますから。このくらいはね。
○○の××はバケモノか!なんて有名な(?)パロディ、今後とも使っていきたいと思っております。

それでは最後になりましたが、誤字脱字や上記その他のご指摘ありましたらご連絡ください。それでは。


***
以上の文章まで、どなたか代理をお願いいたします。

536 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:28:38 ID:/z9qDo4g
本スレ>>115の続きです

乗馬メットからはみ出た髪を撫でつけると、ディエゴはため息を吐いた。
どうも調子が狂う。色々計算外のことが起き、面倒なことになったな、というのがディエゴの本音だった。
最初はからかい半分、搦め手半分のつもりだった。サンドマンはどうやら色々知らないらしい。これは利用できる。ヤツの興味を引き、なんとか利用してやろう……と。
そんな軽い言持ちで話しだしてみれば……なにやらジョニィ・ジョースターと色々あったことがサンドマンの表情から読みとれた。

悲しみ、苦しみ、虚しさ。そんなところか。
馬鹿らしい、とサンドマンの耳に届くないよう、口の中で呟いた。
何を悩む必要があるのだ。何をそんなに苦しむことがあるのだ。

ならば勝てばいいだけじゃないか……ッ! スティール・ボール・ラン・レース? 百万ドルを超える賞金と名誉?
それすらが馬鹿馬鹿しくなるほどの商品が、今目の前に転がっているではないか。あのスティール自身もそう言っていた。
たかが“レース”が“殺し合い”に変わっただけのことだ。ならば悩む必要などない。
勝てばいい。奪えばいい。それだけのことだ。そしてディエゴはそのつもりだ。


―――尤も、俺は大人しく“受け取る”だけで満足するつもりはないがな。


「白人の傲慢さにはもはやあきれ果てた」

脈絡もなく、突然サンドマンがそう呟いた。途端にディエゴは一歩踏み下がり、指笛を吹く。辺りに潜んでいた恐竜に合図を送る。
傍らに立っていた恐竜がその音に反応し、鼻をぴくぴくと鳴らした。そして背中に乗せたルーシーを落とさないよう、二人から離れた位置に飛び下がる。
野性動物でも感じ取れる、不穏な空気が辺りを漂っていた。ディエゴを睨むサンドマンの視線は鋭かった。
そして……何もかもを乗せたように重苦しく、どす黒かった。

ディエゴはそんな視線をそよ風か何かのように軽く受け止めると、首の骨をならし、軽く肩をまわしていた。
戦いの前の準備体操と言ったところか。そこに緊張や重荷を感じ取ることはできなかった。
ディエゴにとって何かを奪う、誰かを打ち倒すということはあまりに軽い、当たり前の行為に思えた。

「組むつもりもないのなら不戦条約は?」
「却下だ」
「“領土不可侵条約”も?」
「馬鹿にするな、“白人”」
「ウィットに富んだジョークと言ってほしいね。俺はイングランド出身だからな」

537 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:29:31 ID:/z9qDo4g

ニヤッと笑みを見せたディエゴ。その口元で鋭く尖った歯が輝いた。人間にしてはありえないほど、鋭い歯。
サンドマンが腰を低く下ろす。ディエゴが爪と爪をぶつけ合わせ、カチカチという音が辺りに響いた。
空気が張りつめていく。風が奇妙な動き方をした。像と像の間を通り抜け、二人の頬を優しく撫でていく。
サンドマンが口を開く。

「もう何も信用できない」
「それは俺が白人だからか?」
「信じられるの自分だけだってことだ」
「それが白人に与えられた知識を前提に下した判断だとしても?」
「例えそうだとしてもだ」
「なら俺としても仕方がないなァ……」


一瞬の空白。呼吸を整える瞬間、静寂が降る。

「俺が引導を渡してやる、野蛮人」
「一族を舐めるな、白人風情が」

ディエゴの姿が一変する。全身を鱗が覆い、身体が縦に一気に伸びる。
サンドマンの傍らに立つスタンドが、その身体につけた羽を震わせた。まるで踊っているかのようだった。サンドマンの一族が戦いの前に踊りを踊るように。

両者の足元から砂埃が舞った。地を蹴り、弾丸のように空を跳んでいく。
叫び声が重なり合う。ディエゴが爪を振るう。サンドマンが拳を突き出す。

戦いの始まりだ。





538 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:29:50 ID:/z9qDo4g



―――戦いは長く続かなかった。結末はあっけないほど簡素で単純だった。


戦いの図は追うディエゴ、逃げるサンドマンの形。
サンドマンは冷静だった。冷静に自分の不利な状況を受け入れ、そして最善の策を取った。
即ち、逃げながらの各個撃破だ。目に見えただけでディエゴを含め二匹の恐竜。ディエゴの性格から考え、まさかそれだけでお終い、というわけはないだろう。
一対多は避けられない……。ならば可能な限り、自分の有利な状況を作り出す。一度に多数を相手にするのでなく、できるだけ一対一の状況を作り出すのだ。
そのためにサンドマンは走った。像と像の間を風のようにすり抜け、乾いた大地を思いきり蹴りあげ、颯爽と駆けていく。

走り出すと、像越しに右側から迫って来る恐竜が見えた。左後方にも二匹、その姿を現す。そして背後からはディエゴ本人、ルーシーを背中に乗せた二匹。


「……全部で五匹」


進路を左に切り、円を描くように駆けていく。ジグザグに像の間を抜け、途中で急に反転。踏み越えたり、出し抜いたり……サンドマンはまずは恐竜たちの包囲網を崩そうとした。
だが恐竜たちはサンドマンのかく乱作戦に粘り強くついてくる。立ち止まりはしても、すぐに気を取りなおしたように包囲網を引き直す。
司令塔のディエゴの裏をかかない限り、ヤツらの連携は破れはしないということか。

「ならば……」

サンドマンは低い体勢のまま、こっそりと指の間から小石を滑り落とした。隠し持っていた木の葉もカムフラージュできるよう、落ち葉に紛らす。

追いすがるならばその足を奪うまでだ。音を乗せた攻撃でまずはその足を駄目にする。そして負傷し、足並みが崩れ、バラバラになったところを一人ずつ、始末する!
サンドマンがスパートをかけ、速度を上げる。たちまち恐竜たちの姿が後方に消え、同時にに叫び声があちこちから挙がった。
それは苛立ち気な声であったり、悪態をつくような鳴き声だったり……。察するにサンドマンの作戦は上手くいっているようだった。
まきびしのように巻いた音、罠のようにひそめたスタンド攻撃。絶えずついてきていたディエゴの姿も消えた。かく乱作戦は成功だ。ここからはサンドマンが追う番だ。
スピードを緩めブレーキ、そして反転。サンドマンは元来た道を引き返すと恐竜たちを探し始める。


小石や葉に込めた音はそれほど大きいわけでない。モノ自体が小さいため、ダメージはせいぜい足の裏に傷をつける程度だろう。
しかしそれで十分だ。痛みに足を止めたならば、包囲網が崩れ、連携が取れなくなり……あとはそこを一匹ずつ殺っていく。
サンドマンの眼光が暗く、鋭くなった。狩られる側から狩る番へ。攻守交代だ。

音と叫びを頼りに一匹ずつ処理していく。あっけないものだった。分断された個の恐竜たちは、あまりにもろく、簡単に倒れていった。
自慢の動体視力も脚が満足に動かなければ意味がない。身体がついて行かず、『イン・ア・サイレント・ウェイ』の拳を受け一匹、また一匹と倒れていく。
ある恐竜は最後まで必死であがき、ある恐竜は懇願するように泣き叫んだ。哀愁を誘う姿であったがサンドマンは容赦しなかった。
一切の慈悲もなく、スタンドの拳をその鼻先に叩きこんだ。恐竜たちは音を込められ、バリバリと身体を二つに裂かれながら絶命した。


「これで、三匹目……」


どさっ、と音をたててその身体が地面に倒れた。足元に広がる血を目にも留めずサンドマンはすぐに走り出す。
残るはディエゴ本人と、その近くにいた一匹のみ。油断はできない。やはり一番注意すべきはディエゴ本人だ。

539 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:30:14 ID:/z9qDo4g

風が通り抜けていく。今のサンドマンは冷酷ッ! 残忍ッ! 白人に対する、逆恨み的なテンションが彼の体を突き動かしていた!

少し開けた場所まで出ると一旦立ち止まり、辺りを伺う。音は聞こえず、空気も震えない。
ディエゴはどこにいるのだろうか。まさか逃げてはいないだろうか。

「俺を探しているのか?」

再び声が頭上から降り注いだ。最初の時と一緒だ。サンドマンは反射的に声のほうを見上げた。
見下ろすディエゴ、見下されるサンドマン。状況はディエゴ不利だというのにその気配はみじんも感じさせない。
いつもの余裕さ、優雅さを携え、ディエゴは静かにサンドマンを見下ろしていた。傍にいた恐竜も今はいない。
一対一、絶好のチャンスだ。サンドマンは脚に力を込めた。像の上だろうとこの距離ならば一跳びで詰められる。

「まァ、待てよ。サンドマン」

遮るように、ディエゴは掌を向けると言った。サンドマンの出鼻をくじくように言葉を続ける。

「戦って改めて思ったが、君は相当の実力者だ。称賛に当たる。ここで殺すのはあまりに惜しい」
「…………」
「俺の自慢の恐竜たちがいつの間にか三匹もやられた……ほとんど音もなく、気配も感じさせなかった。見事だぜ。
 暗殺稼業でも開けば売れっ子間違いないな……。羨ましいね。ランナーからの転職をお勧めするよ」
「御託はいいからさっさとかかってこい」
「まぁ、待て。そう慌てるなよ……ッと!」

音速で飛んできた小石を器用にかわし、ディエゴはにやりと笑った。こんなときでも笑顔を崩さないその余裕はどこから出てくるのか。
サンドマンはもう一度握っていた石を放り投げる。と、同時に本命の攻撃、音を込めた木の葉も上から舞わせる。
だが全て読み切ったかのような動きで、ディエゴはそれすらもかわした。
よく見ればディエゴの身体には傷一つ、ついていない。これまでの恐竜たちとは違い、サンドマンの音を込めた攻撃を全てかわしたということなのか。

「君が始末したのはあくまで偵察隊だったってことさ」

答えるように、ディエゴがそう言った。

「まさかと思うが恐竜たちがたったこれだけで打ち止めだなんて考えていないだろうなァ、サンドマン?
 君を追わせたのはあくまで一部隊でしかないんだぜ。先見隊ってヤツだ。おかげで俺はこの通り、傷一つない」
「…………」
「いやいや、恐ろしいスタンドだ。何て言ったかなァ……そうそう、『イン・ア・サイレント・ウェイ』だったか?
 迎撃にはうってつけだ。なんせスタンドの攻撃がスタンドの攻撃らしく見えないんだからな。
 音を込めたのは石とか枝とか砂とか……そう言ったものだったんだろうな。
 恐竜たちが走ってる途中に呻き声をあげながら倒れていく様は異様だったぜ。もしもあれが俺だったらって考えると……背筋が凍るね」
「…………」
「そう、迎撃にはうってつけ……だがこうやって向かい合ってのサシの勝負ではどうなるのかなァ!?」

言葉を言い終えた瞬間、ディエゴが動いた……! 他の恐竜たちとは比べもにならないスピードだッ!

540 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:31:27 ID:/z9qDo4g

「WRYYYYYYYYYYYY!!」
「『イン・ア・サイレントウェイ』ッ!」

スタンドの拳をすり抜け、音を込めた投擲も全てかわされる。圧倒的な動体視力だ。そしてそれを可能にさせる身体能力もまた、超ド級ッ!
スタンドのラッシュを潜り抜け、ディエゴがサンドマンに肉薄する。迎え撃つように飛び出たため、避けるのは難しい。
サンドマンは前に傾けた身体を宙で思いきりのけぞらせる。エビ反りのような苦しい体勢だ。顎先をディエゴの鋭い爪が通っていった。
苦し紛れに身体を捻り、蹴りを繰り出す。ディエゴはそれすらもかわす。持ち合わせていた投擲を全て放り投げ、距離を取る時間を稼ぐ。

「無駄無駄無駄無駄ァ! 眠っちまいそうなほどスローだぞ、サンドマンッ!」

だがそれすら無意味だった。あまりの速さにサンドマンの眼にはディエゴの姿がダブッて見えた。

サンドマンの顔が苦痛にゆがんだ。熱ゴテを押しつけられたような、鋭い痛みが脳を揺さぶる。
ディエゴの爪が彼の腕を切り裂いていた。右の上腕、深い筋肉の繊維までざっくり。
続いて頬の肉をごっそりと奪われる。爪跡が真っ赤に染まり、鮮血が舞った。こちらも痛い一撃だ。
口の中まで切り裂かれ、一瞬だけ呼吸が止まった。息をするたびに血の味と臭いがする。
ディエゴは止まらない。畳みかけるように、爪を、そして牙を振るう……!

サンドマンは地面をけり上げた。走るためでなく、砂を使った眼つぶしのため。しかし苦し紛れの雑な一発だ。
当然のようにディエゴはこれすらも避ける。砂粒、一粒一粒が見えているような動きだ。
立ち止まることなく、更にサンドマンに襲いかかるディエゴ……ッ! 鋭い爪を頭上高く振り上げる……!



「『イン・ア・サイレント・ウェイ』」


―――その時、サンドマンがそっと囁いた。


ディエゴが手を伸ばせば届くぐらいの距離にいるにもかかわらず、彼の眼は怪しく輝いている。
その目線はディエゴに向いていない。ディエゴは気づく。後ろだ。サンドマンは後ろを見ている……!


―――次の瞬間、影がディエゴを覆った。ディエゴを丸々押しつぶすには充分すぎるほど、大きな影。


ディエゴは振り向いた。振り向かずにはいられなかった。
そして振り向き、その視界に映ったのは……根元からぽっきりと折れた像だった。


ここはタイガーバームガーデン。金色に輝く怪しげな像はそれこそ百を超えて展示されている。
見る者が見ればそれは全部一緒に見えるだろう。旅行者でもない限り、注意をはらわない置物。ただの風景と一緒だ。
木や葉、ただそこにあるものでしかない。

しかしあらかじめそれを罠として利用しようと思っていたならば……?
走りながらも像に触れ、それを一つの武器として利用としようと思っていたならば……!

541 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:33:14 ID:/z9qDo4g


「WRYYYYYYYYYYYYYYYY!」
「ぶっ潰れろ」


どれだけ反射神経が優れていようと。どれだけ身体能力がぬきんでていようと。
脱出不可能な攻撃はある。それ以上の質量、物量で上から蓋したならば、逝きつく先は二つに一つだ。
ディエゴに残された選択肢は、スタンド構えるサンドマンに真正面からぶつかっていくか、そのまま像の下敷きにされるか。
そしてどちらを選んでも……タダで済むわけがない。

砂に音を込め、最後の一押し。完全に折れた像がディエゴを押しつぶさんと降りかかる。
ディエゴは動かなかった。ディエゴが選んだのは不動。
迎え撃つサンドマンのほうには向かわず、ディエゴはその場で踏ん張った。
脚に力を込め、腕をあげる。像を受け止めようと全身に力を込める……!


―――ズゥゥゥゥウウウウウンンンン…………ッ!


地面を揺るがすほどの音が響き、砂埃が舞う。サンドマンの見る眼の前で、黄金の像が完全に落下した。
脱出は不可能だった。出ていく影も見えなかったし、像が持ち上がるようなことも起きなかった。ディエゴは像の下だ。

サンドマンは唇をほんの少しだけ曲げた。罪悪感はないが、気持ちのいいものではない。殺しを楽しいと思ったことは決してない。
ただ必要だったからしただけ、それだけだった。気分は晴れなかった。サンドマンはその場を立ち去ろうと、踵を返した。
ジワリと広がる血の池が不愉快だった。たとえ外道の血であろうと、大地に血が流れることは決して歓迎できるものではない。

沈黙が辺りに降りそそいだ。木の葉がそよぐ音すら、辺りには聞こえなかった……。


「おい、サンドマン! いや、ミスター・サウンドマン!」


静寂を破り、突如として聞こえてきた声。ありえないはずのその声に足が止まった。サンドマンは振り向いた。
ディエゴの姿は見えない。黄金に輝く像がそこにあるだけで、声だけがどこからか聞こえてきた。
よくよく耳を澄ませばその声はどうやら像の下から聞こえてくるようだった。どうやって、とサンドマンは思った。
下敷きになればただで済むはずなんてない……! 脱出も不可能だ。逃げ道なんてない事はサンドマン自身がこの眼で、確かに見ていたはずだというのに!

サンドマンが冷静になるまで、長くはかからなかった。よくよく眼を凝らしてみるとディエゴが何をしたかがわかってきたのだ。
滲んだ血はディエゴのものではない。像が完全に落下したにしては隙間がやけに大きい。
サンドマンは用心しながらその場にしゃがみ、隙間を覗き込んだ。そしてやはりそうか、と納得する。
そこにいたのは恐竜をつっかえ棒のようにし、苦しそうな笑顔を浮かべたディエゴだった。

あの瞬間、ディエゴは一瞬だけ像を支えたのだ。自らが操る恐竜を呼び出す一瞬、その時間だけあれば十分だった。
あとは恐竜を盾に像の落下を待つだけ。勿論恐竜はただでは済まない。しかしディエゴは無事だ。

542 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:34:31 ID:/z9qDo4g

「いやいや、お見事だ。完全にやられたよ。完敗だ、完敗。
 言い訳の一つも出ないぐらい、真っさらな敗北だ。お手上げ、お手上げ」
「こんなときだっていうのによく回る舌だ」
「なぁに、すぐに殺されないってわかってればこれぐらいの余裕は出てくるさ」

その通りだった。サンドマンにディエゴを殺す気はない。“今は”まだ。
サンドマンが尋ねる。

「ルーシー・スティールはどこだ?」

その言葉を待っていたと言わんばかりに、ディエゴはニヤッと笑った。

「俺が素直に答えるとでも?」
「答えないのであれば今度こそ完全に押しつぶしてやる」
「できるものならば、どうぞ」

無言のまま、しばらくの間二人は見つめ合った。折れたのはディエゴのほうだった。

「オーケー、オーケー、降参だ。わかった、君に従おうじゃないか。流石の俺も今回は分が悪い」

音もなく、一匹の恐竜が姿を現す。ルーシーはその背中に乗せられていた。まだ恐竜が残っていたのか、とサンドマンは驚いた。
この様子からすればまだ二匹、三匹……いや、それどころかもっと潜んでいるのではないだろうか。
ディエゴにばれないよう、さり気なくあたりを伺ったが影は見えなかった。油断はできない。
いまだ余裕の見えるディエゴの様子が不気味だった。絶体絶命の危機、サンドマンのさじ加減一つで死ぬのはディエゴだというのに。
追い込まれているのはディエゴのほうだというはずなのにッ!

「丁重に扱えよ、貴重な情報源なんだからな」

ディエゴの神経質な声が聞こえたが、サンドマンはそれを無視した。
恐竜の背中から、そっと地面に横たえる。ルーシーはいまだ眼を覚まさない。
幼い横顔を見つめながらサンドマンは少し躊躇いを感じた。

なんだってやってやる、そう決意したはずだった。
SBRレースに参加すると決めた時、暗殺の依頼を受け入れた時、ジョニィの話を聞いた時……。
分かれ道はたくさんあったはずだ。そして今ここに立っているのは自分が選んだから。

だが、これ以上頑張って何になるというのだろうか。こんな小さくて幼い少女を利用して……それはまるで“白人”と同じじゃないか。

何も知らない、ただ巻き込まれただけの人間を利用する。
サンドマンはルーシー・スティールを知らない。ただスティーブン・スティールの妻であるということしか知らない。
だが妻であるならば……きっと何かを知っているだろう。仮に知らないにしても、主催者であるスティールとの繋がりはルーシーが一番太いのだ。

543 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:34:50 ID:/z9qDo4g
利用してやる……。何も知らないだなんて言わせない。
拳をぎゅっと握りしめ、サンドマンは決意を確かなものにする。そうだ、やってやる。なんだってやってやるとも。
例えそれが無垢な少女を踏みにじる行為になろうとも……。白人たちと同じ、下劣な行為をすることになったとしても……!

サンドマンは振り向くと、ディエゴがいるであろう、像の下を睨みつけた。

そうだ、ならばまずはヤツからだ……。
動けない無抵抗の男を殺す。もはや子供同然の無力で哀れなあの男を、躊躇いなく殺す。

なぜなら……殺らなきゃ殺られる。先に拳を振り上げたのは……お前たち、白人のほうだからだ。

サンドマンは一歩、前に踏み出した。像の下は影に隠れ、ディエゴの様子はわからない。
わからないほうがいいのかもしれない。せめて痛みだけはなく、葬ってやる。それが最大限の礼儀だろう。
サンドマンは更に脚を進めた。像に近づき、そのそばにしゃがみ込み、そして……―――





ルーシー・スティールの腕が、サンドマンを貫いた。








544 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:35:10 ID:/z9qDo4g
サンドマンの口から血が溢れた。とめどなく血が流れ、全身から力が抜ける。
なんとか立とうと力を込めるが、それは無駄だった。柔らかな地面を爪先が虚しくひっかいた。
崩れ落ちるようにサンドマンの身体は倒れ、そして二度と起き上がれなかった。
ルーシーは平らな表情のままサンドマンの体から腕を引き抜くと、何も言わず彼を見下ろしている。
サンドマンはようやく気がついた。

ルーシーの肌に浮かんだ鱗。奇妙に縦長の瞳。鋭く尖った爪と歯。そうだったのか、と言葉が口から零れ落ちた。
同時に派手に咳こむと、サンドマンは大量に血を吐いた。内臓を貫かれているのだ。もう長くはないことを理解した。

恐竜化したルーシーが機械のようにぎこちない様子で脚を進めると、像の傍にしゃがみ込む。
ただの少女ではびくともしないであろう像に手をかけると、彼女は軽々とそれを持ち上げた。
ディエゴはゆっくりと像の下から姿をあらわにする。身体を伸ばし、服についた血を気味悪そうに眺め、そしてサンドマンの傍に立つとニヤつき顔で口を開いた。

「気分はどうだ」
「最悪だ」
「俺は絶好調さ、野蛮人」

最初から全て計算づくだったのだろう。
サンドマンがルーシーを利用しようとしていることをディエゴは見抜いていたのだ。
そしてルーシーの安全が保障されるまで自分が殺されないことも、ディエゴはわかっていた。わかっていたからこそ、こうなった。
サンドマンは奥歯を噛んだ。今にも死にそうなほど、弱弱しかった。

ディエゴは鼻を鳴らすと、サンドマンを見下ろした。一切の躊躇いも、慈悲も……情けをかける気配を微塵も感じさせなかった。
先のサンドマンとは対照的な冷え切った眼が彼を見下ろしていた。俺もそうすればよかったのかもしれない、とサンドマンはぼんやりと思った。

ディエゴのように冷徹であれば。ディエゴのように全て割りきっていれば。ディエゴのように開き直って、自らのためだけに動けたならば……。

意味のない仮定だった。全ては終わってしまったことだった。
それでもサンドマンは血の池に沈みながら、静かに思いを馳せた。
あったかもしれない未来と、その手から滑り落ちた希望。どこで間違えてしまったんだ、と呟きがこぼれ出た。

545 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:35:32 ID:/z9qDo4g


何がまちがっていたのだろう。レースに出ることがまちがっていたのだろうか。
やはり一族のしきたりを守っていればよかったのだろうか。白人を理解するには白人らしく、そんな考えが神の逆鱗に触れたというのだろうか。
あの時、あの時、あの時、あの時……。走馬灯のように記憶がわき上がって止まらない。
サンドマンの頬を涙が伝った。悔しかった。砂漠にある、全ての砂粒ほど多くの後悔がわき上がって、感情がせきを切ったように溢れた。

サンドマンは吠えた。大声をあげて、残された力を振り絞って拳を振り上げ、最後の一瞬まで足掻いた。
意味のないことだってわかっていた。どうしようもなく愚かで、惨めで……それがわかっていて一層やりきれなかった。

ディエゴの冷たく、憐れむ瞳を真っ向から見返す。呆れてはてる彼に向って呪いの言葉を吐き続けた。
喉が張り裂けるかと思うぐらい大声をあげた。ただ服を汚すだけとわかっていても、血まみれの拳で、脚で、ディエゴの体を殴った、蹴りあげた。
潔さなどかなぐり捨て、最後の一瞬までサンドマンは抵抗を続けた。ただディエゴを煩わせただけにすぎなかったのかもしれない。でもそうせずにはいられなかった。

ディエゴがその鋭い爪を振り上げる。照りつける太陽が顔に影を落とし、彼がどんな表情をしているかはわからない。
サンドマンはその顔を睨みつけた。もう声を挙げることもできなかった。喉が潰れて、呻き声すらあげられなかった。
しゃがれた声で最後の言葉をつぶやく。誰の耳にも届かないぐらい、か細い声だった。
最後に一粒だけ雫が、頬を伝っていった。


「姉ちゃん……俺は、……―――」


ディエゴが腕を引き下ろした。肉を裂く、ザクッという小気味いい音が辺りに響き渡る。
そしてそれっきり、何も聞こえなくなった。






546 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:36:42 ID:/z9qDo4g
腹が減っていては戦いはできない。
ディエゴはデイパックを開くと、味気ない食事をほうばりながらルーシーの眼ざめを待った。
辺りには血のにおいが充満していた。恐竜の血、人間の血、野蛮人の血……食欲を削ぐようなむせかえるほどの血の臭いだ。
だがディエゴは一向に気にしない様子で淡々と手をすすめた。
ぼうっと頭を空っぽにして、久方ぶりに頭も体もリラックスさせる。辺りの警戒は恐竜たちに任せている。
完全には信用できないが少しの間だけならば大丈夫だろう。ディエゴは何を見るでなく、何を考えるでもなく、ただ機械的に食事を終えた。

ディエゴは気づかない。いや、はたして彼がいつも通り注意深く、狡猾であったとしても……彼はそれを見て何を思っただろうか。
きっと何も気にしなかったに違いない。そう言うこともあるのかと首をすくめるか、馬鹿にしたように唇を曲げるか。

ルーシー・スティールの頬を涙が伝う。声を殺し、喉を押さえ、彼女は一人涙する。
ルーシーは震える手を抑えるように、そっとその両手で自らを抱き寄せた。血から漂う血の臭いに思わずせき込みそうになったが、グッとこらえた。

ディエゴがサンドマンを殺したのだ。そう開き直るのは簡単なことだった。
だがどれだけそう信じても、どれだけそう言い聞かせても……こびり付いた手の感触が、血の臭いが、微かに残った記憶が、音が、映像が……。
ルーシーは涙した。肩を震わせるでもなく、声をあげるでもなく、静かに涙する。

最後の最後に力を振り絞った一人のインディアンが乗せた音。それは誰にも届かず宙に消えることなく、しっかりと少女の体に刻まれていた。

呪いの言葉だ。どれだけこの世を恨んだ事か、どれだけ未練を残しこの世を去ったのか。どれだけの想い、どれほどの気持ち。
それら全てが一つに集約され、ルーシー・スティールの体に刻まれていた。必死で伸ばした腕は、もしかしたら望まぬ相手に届いたのかもしれない。

ルーシーは想う。こっそりと涙をふき、髪の毛を整えると、眼を開いた。

誰もが必死で生きたがっている。誰もが何かを成し遂げたいと願っている。
ならばどうして救われないんだ。神様はいったい何を見ているのだろうか。
救いを求めて、必死であがいて……なのにどうして。なんで。誰も救われず、こんな虚しい結末しか用意されていないのだろう。

サンドマンに託されたのはきっと偶然でしかないのだろう。
いや、サンドマン自身、きっと託したなんて思ってもいないだろう。無我夢中で伸ばした手がルーシーに触れた、ただそれだけのことだ。
だがそれをルーシーは偶然ですませたくなかった。そこに何か意味を持たせたかった。何かをしてあげたかった。
そうでなければ……あまりにインディアンの彼が、可哀想だったから。

よろめく身体を起こし、眼を見開いた。ディエゴは彼女の眼ざめに気づくと、いつも以上ににこやかな笑みを浮かべた。
ルーシーは何も言わず、ディエゴを見返した。後ろ手に回すと、拾い上げたサンドマンの形見をこっそりポケットに忍ばせた。

547 ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:37:18 ID:/z9qDo4g


「お目覚めか、プリンセス」
「馬鹿な呼び方しないで頂戴」
「最初ぐらいは上品にさせてほしいね。なんせ君の出方次第で、いくらでも野蛮なことになるんだからな」

すぅと細められた眼を睨みつける。黄色く鋭い目に怯みそうになるが、ルーシーは堪えた。

像から優雅に跳び下りたディエゴが迫る。体が震え、思わず後ずさりそうになる。だけどルーシーはそうしなかった。
彼女より孤独で、気高くて、立派に戦いぬいた男が……ついさっきまでいたのだから。
その生きざまを彼女は受け継いでいこうと決心したのだから。

ディエゴに向かって逆に一歩踏み出した。僅かだが、ディエゴの表情に驚きの影が走ったのをルーシーは見逃さなかった。
ここじゃ場所が悪いわ。そう呟いた。それを聞いたディエゴが指笛をならす。途端に恐竜が二匹、とんできた。

ディエゴ・ブランドーを“出し抜いてやる”……。
なんとも無謀で、呆れるような無理難題。だがしかし、やり遂げてやる。必ずや、やってみせる。
振り落とされないよう恐竜の首に固く腕を回し、ルーシーは思った。その目はもはや脅えた少女のものでなかった。

芯を持ったひとりの人間として、戦う一人の人間として……怪しいまでの輝きを、ルーシーはその目に宿していた。


二匹の恐竜がタイガーバームガーデンを去る。そしてそこには誰もいなくなり、侘しいまでの砂埃が一人、通り抜けていった。




                                 to be continue......

548IN A SILENT WAY   ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:38:02 ID:/z9qDo4g





【E-5 タイガーバームガーデン / 1日目 午前】
【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×4(一食消費)地下地図、鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球、ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2   
    ランダム支給品2〜5(ディエゴ:0〜1/確認済み、ンドゥ―ル:1〜2、サンドマンが持ってたミラション:1、ウェカピポ:0〜1)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
1.人気のない場所を探す。その後ルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも。
2.ギアッチョの他の使える駒を探す。
3.別の世界の「DIO」に興味。
[備考]
ギアッチョから『暗殺チーム』、『ブチャラティチーム』、『ボス』、『組織』について情報を得ました。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
1.ディエゴを出し抜く。


[備考]
※フライパン、ホッチキス、百科事典、基本支給品×1(食料消費1)がタイガーバームガーデンに放置されてます

549IN A SILENT WAY   ◆c.g94qO9.A:2013/03/06(水) 01:39:07 ID:/z9qDo4g
以上です。何かありましたら指摘ください。

550虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:05:39 ID:PtRhpByI

「それで、コイツはどうしますか」
「君の意見を聞こうじゃないか」
「血で床が汚れるのは個人的に好きじゃない。ああいう汚れは一度しみつくとなかなか落ちないんだ。
 こすってもこすっても張り付いたように残っちまう。どす黒い血の後ほどいらつくものはね―ぜ。
 よかったら川に放り込んでおくが……それでどうだ?」
「君に一任しよう。なんてたって君が仕留めた獲物なんだからな」
「人を猟銃扱いするのは勘弁してほしいね」

どうしてだ、と口に出そうとしたがそれは呻き声にすらならなかった。
視界が狭く、暗くなる。急速に身体から力が抜けていった。シーザーにできることと言えば恨めしげに形兆の眼を覗き込むことだけだった。
形兆は真っすぐシーザーの眼を見返した。それは憂いを含んだ、深い視線だった。


「フフフ……君を部下にしたのは正解だった。優秀な男だ。君の父親もそうだった」
「親父の話をするのはやめてくれませんか。アイツの血が流れてると思うだけで頭痛が止まらなくなる」
「これは失敬……だが父親が父親なら、子もまた子だ。改めて君の忠誠を歓迎するよ、ケイチョウ・ニジムラ……」
「忠誠はいいから、どうせなら手を貸してくれませんかね。人一人運ぶってのはけっこう大変なんですよ」



そうしてシーザーの意識は闇に落ちる。最後に彼が見たものは空っぽの表情を張り付けた、形兆の顔だった。



【シーザー・アントニオ・ツェペリ  再起 不 能】







551虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:06:36 ID:PtRhpByI



何が何だかわからなかった。なにはともかく、シーザーが真っ先に感じたのは息苦しさだった。
酸素を求め思いきり口を開けば、器官目掛け水が逆流した。思いきり水をのみこんでしまったシーザー。苦しさにもがけば、酸素が泡となってさらに出ていく。
身体を包む浮遊感、ひんやりとした水の冷たさ。混乱する頭で今の状況を理解する。シーザーは水面目掛け思いきり腕と足をばたつかせた。

「ぶハッ!!」

ようやくのことで川面に顔を出すと、シーザーは盛大に咳こみ、飲み込んだ水を吐き出す。
深呼吸を何度か繰り返してようやく一息つくまで落ち着く。顔を流れる水滴が心地よい。肺を満たす酸素が最高に気持ち良かった。


「生きてる……」


そう、シーザーは生きていた。形兆に心臓をうちぬかれ死んだと思われたシーザーはまだ、生きていた……!
辺りを見渡す。見覚えのない場所だった。川岸まで泳いで間近で建物を見るが、洋風の建物だということしかわからなかった。

シーザーは撃ち抜かれたはずの場所を触ってみる。
血はまだ流れていたが、傷は小さい。弾丸も体内にとどまることなく、綺麗に貫通している。
これなら波紋の呼吸で対処できる範囲内だ。バンダナをほどくと圧迫するように傷口にあてる。これで治りも早くなるだろう。

「……あの野郎」

川辺にどかッと腰をおろし、シーザーはそう呟いた。
体を冷やしてはいけないと上着を脱ぎ、よく絞る。水が滴る様子を見ながら憎々しげに彼はそう言った。

自分が今生きているのは形兆のおかげだ。シーザーは思う。
思わず熱くなって襲いかかったが、今冷静になってわかる。きっと俺は死んでいた。
もしもあの時形兆が後ろから撃ってくれなかったら……、もしもあのままディオ向かって飛びかかっていたら……。
今自分は生きていない。今頃死体になって河底を漂っていたことだろう。

「くそったれ……」

もう一度傷口を撫でれば、あまりの正確性に唸り声が漏れた。
心臓に傷一つつけない一撃は形兆らしい神経質な一撃だった。血管も傷一つない。兆弾もなし。
全てが計算ずくで、定められたものだった。

「お前は大甘ちゃんだ……ッ! 大甘ちゃんのクソッタレ野郎だッ! 大馬鹿野郎のトンチキだ、形兆ッ!」

552虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:08:40 ID:PtRhpByI


なぜ形兆がDIOの傍にいるのか。なぜ形兆がスパイになろうと思ったのか。
それはわからない。なにもかもわからない。
だがそれでも唯一わかったことは、一つだけわかったことは……形兆が命をかけてシーザーを救ったということだ。

「これで借りを返したってつもりなら、ソイツは違うぜ、形兆……!
 返しすぎだ、馬鹿野郎……! これじゃ俺が借金背負いじゃねーかッ
 貧乏生活はガキん時に嫌というほど味わったってのに、また俺はあんときに逆戻りじゃねーかッ!」

そう、ガキん時に逆戻り。波紋も優しさも温かみも知らない、何一つできない、何一つ受け取ろうとしない情けないただのガキ。
シーザーは顔をこするとキッと顔をあげた。その顔に迷いはない。後ろめたさや恐怖は微塵も感じられなかった。

「今の俺じゃ勝てない」

DIOは未知なる何かを持っている。それは理屈でなく、魂で理解したことだった。
ただの吸血鬼がああまでした圧倒的プレッシャーを纏えるものか。王たるもののカリスマ、強者としてのオーラと言えど限度がある。
なによりシーザーは波紋使いだ。吸血鬼の天敵だ。ならばもっと危機感を抱いてもいいはずだ。

何かがある。DIOに余裕を持たせる未知なる力が……、スタンドが……ッ!!


「待ってろよ、形兆」


服が乾くまで、なんてのんびりしている暇はなかった。
波紋の呼吸が戻ったころ、シーザーは立ち上がると、見知らぬ街を睨みつけた。
そして叫んだ。

「借りた借りは必ず返す! 約束は必ず守る! テメーには一発殴った借りと命を救ってもらった借りがある!
 だからテメーが俺を一発殴るまで! 俺がテメーを救うまで! ディオなんかに殺されるんじゃねーぞ、形兆ッ!」

川辺に響いた声に返事はなかった。シーザーは顔を引き締めたものに変えると、照りつける街に向かって歩き出した。




【シーザー・アントニオ・ツェペリ  再起可能】

553虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:09:19 ID:PtRhpByI



【E-3 北部 ティベレ川岸/ 1日目 午前】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッシ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発、体力消耗(中)、全身ダメージ(小)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.街に向かう。
1.ジョセフ、リサリサ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。
2.DIOの秘密を解き明かし、そして倒す。
3.形兆に借りを返す。








554虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:09:57 ID:PtRhpByI

「よろしいのですか」
「何のことだ、ヴァニラ」
「……虹村のことです」
「つまり、シーザー・アントニオ・ツェペリのことでもある」

ヴァニラ・アイスは控え目に頷いた。DIOはしばらく何も答えなかったが、思いついたように急に口を開いた。

「お前に任せる」
「……任せる?」
「ああ、私としては泳がせたほうが面白いと思ったからそうした。ちょっとしたゲームだ。
 吸血鬼の私にとって波紋使いというのは言わば好敵手。殺し合いの中でちょっとした余興とすれば充分じゃないか。
 あのスティーブン・スティールが言った通りだ。ゲームならば楽しまなければならない。ゲームなら演出にも凝る必要がある」

ヴァニラは沈黙を貫いた。彼が慕うDIOという男は時折こういったことをする。
慎重かと思えば大胆。徹底的かと思えばひどくずぼらな点もある。それについてとやかくいう権利もつもりも、ヴァニラには全くない。
王には王の素質があり、相応しい態度、相応しい振る舞いもまた存在している。余裕もまたその一つの要素にすぎない。

「シーザー・アントニオ・ツェペリは放置。あの波紋戦士がどう出るか、楽しみにしようじゃないか。
 なんならヴァニラ、気にいったと言うならお前が戦ってもいい。
 歴戦の波紋戦士と最強のスタンド使い……血肉湧き踊る戦いじゃないか」
「ありがたきお言葉です」
「虹村形兆に関してもお前に一任する。いや、私から直々に奴に言っておこう。
 今後ヴァニラ・アイスと共に行動を取るように、と」
「つまりDIO様の邪魔だと判断したならば、始末しても構わないと?」
「ヴァニラ・アイスよ、すぐは駄目だ。今は駄目だ」

DIOはもて遊んでいたワイングラスを一気に飲み干すと、それをサイドボードにそっと下ろした。
床に膝をつき、此方を見ていた部下を見返す。底知れない、真黒な目がDIOを見ていた。

「亜空の瘴気、全てを飲み込むスタンド『クリーム』……お前のスタンドは強い。このDIOの『世界』と肩を並べるほどに強い」
「私にはあまりにもったいないお言葉です、DIOさま」
「謙遜するな、ヴァニラ……。私は事実を語っているまでだ。
 仮にだ。仮に私がお前と戦わなければならないとなれば……敗北はないにせよ、大きな痛手をこうむることは間違いないだろう。
 半身をもがれるか、腕を失うか、はたまた脚がちぎれ飛ぶか……それはわからない。しかし最終的には私が勝利するだろう。
 それもひとえに私がお前の弱点を知っているからこそだから。唯一にして絶対の弱点をな」
「…………」
「お前は飲み込むモノを捕える時顔を出さねばならない。それは大きな隙になる。
 お前のスタンド能力を知っていればなおさらだ。その一点のみを辛抱強く待ち、その一点のみを突こうとするだろう」
「…………」

DIOは視線を外し、蝋燭を見つめた。話している最中にも蝋が解け、白い結晶が積もっていく。
揺らめく火の影が、DIOの横顔にそっと落ちていた。ヴァニラは何も言わない。DIOの話は続いた。

「虹村形兆のスタンドはお前の補佐にピッタリだ。小回りのきくスタンド、数で圧倒する物量作戦、小粒でありながら破壊力もある。
 ジョースター一行は決して弱くない。心配しているわけではないが、万が一ということもある。
 お前は虹村を利用して奴らを始末しろ。一秒でも早く、一人でも多く」
「……必ずや奴らの首を貴方様に捧げます」

555虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:12:29 ID:PtRhpByI

扉が開く音が響き、二人の会話は中断する。
マッシモ・ヴォルペが室内に姿を現すと、DIOに向かって言った。ヴォルペのは口調は相変わらず乾いたままだった。


「三人が目を覚ました」
「正確には三人と一匹だろう、マッシモ」


どうでもいいことだ、とヴォルペが呟くとDIOは面白そうに笑った。
ヴァニラ・アイスは眉をひそめた。そんな風に笑う主のことを、彼は今まで一度も見たことがなかったから。
お前に任せたぞ、と念を押すような言葉をもう一度受け、ヴァニラ・アイスは無言で頭を下げた。
扉がもう一度閉まり、DIOの姿が見えなくなるまでそうしていて、姿が見えなくなった後もしばらく動かなかった。
否、動けなかった。

胸に湧き上がった絡み付いた感情をほどくのには時間が必要だった。
自分が一番あのお方を理解していると、自分こそが傍に立つ者に相応しいと思っていた。
それは間違いだったのかもしれないと今、それに気づかされ、ヴァニラはそれがショックだった。

マッシモ・ヴォルペ、という呟きが思わず零れ落ちる。
口にした途端、ヴァニラ・アイスは思わず辺りを伺った。誰もを聞いたものはいないようだった。
ほっとすると同時に何を憂う必要がある、とも思った。

やがて時間が立ち、ヴァニラ・アイスが立ちあがる。
もう動揺は収まっていた。主君の命に従う忠実な部下として、ヴァニラは虹村形兆の姿を探しに刑務所の奥へと姿を消した。

同時に本棚にあった本が僅かに揺れた。隙間に隠れていた兵士はヴァニラが消えたことを確認すると、自身も姿を消す。
主君である虹村形兆にこの会話を届けるため。自らの任務を成し遂げるため、バッド・カンパニーは闇に溶けていく……。



そうして後に残されたのはワイングラス、一冊の本、そして暗闇……―――。



そこにはもう誰もいなかった。
バタン、とどこか遠くで扉が閉じる音が聞こえ……音さえも姿を消した。

556虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:13:44 ID:PtRhpByI
【E-2 GDS刑務所の一室/ 1日目 午前】
【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:健康
[装備]:携帯電話、ミスタの拳銃(5/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面
    リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.眼を覚ました四人の様子を見に行く。
2.セッコが戻り次第、地下を移動して行動開始。
3.プッチ、チョコラータ等と合流したい。


【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:健康
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的行動方針:DIO様のために行動する。
0.虹村形兆と合流、ジョースター一行を捜索、殺害する。
1.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。


【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:瀕死
[装備]:アヌビス神
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
0.???
1.DIOとその側近以外の参加者を襲う


【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悲しみ
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する?
1.隙を見せるまではDIOに従うふりをする。とりあえずはヴァニラと行動。
2.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく?
3.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう?

557虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:15:56 ID:PtRhpByI
【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず生き残る
0.???
1.ボス(ジョルノ)の事はとりあえず保留


【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:生き残りつつも、精一杯殺し合いを楽しむ
0.???


【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:瀕死
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノを殺したやつをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0:???


【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康
[装備]:肉の芽
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。
※ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。


【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:空条承太郎に対して嫉妬と憎しみ?、DIOに対して親愛と尊敬?
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい。
0.DIOと共に行動。
1.空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい 。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。

558虹村形兆の裏切り    ◆c.g94qO9.A:2013/03/16(土) 00:25:58 ID:PtRhpByI
以上です。誤字・脱字・質問等ありましたらお願いします。

559名無しさんは砕けない:2013/03/16(土) 01:35:42 ID:i.EgfL6o
なんじゃあこれは!
面白すぎるだろう!!
DIO様がかっこいいなあチクショウ
ヴァニラとは初遭遇か。着々と軍団が完成して行っているのが怖い
これから形兆がどう動くか・・・・・見ものですね

560名無しさんは砕けない:2013/03/16(土) 01:37:30 ID:i.EgfL6o
テンション上がりすぎて代理スレに感想書いちまった笑

561太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:42:59 ID:vNgFKv6c
>>本スレ164の続きです



「こ、これは……ッ!?」



驚愕に手が止まった。呼吸がつまる。汗が噴き出る。
ウェザーは雷に打たれたように、その場に立ちすくむ。そして見る。

自らのスタンドの腕にぶら下がった人間を。エンリコ・プッチであろうはずのその影を。

だが違ったのだ。そこいるべきはずのエンリコ・プッチはッ!
ウェザーが叩きのめしたいと望んだはずの男は!
そこには影も形もいなかった! 代わりにそこにいたのは……―――何も知らない一人の女性だッた!!!


ホット・パンツが血を吐きながら、その身を貫かれ、絶命していたッ!!


弱まった雨をやぶり背後から、靴音が聞こえた。同時に話声も。

「自分を信じるとは難しい事だ……あらゆる困難が立ちふさがり、あらゆる難敵が襲いかかる。
 その度に私たちは自らに問いかけなければいけない。これでよいのか? 自分は正しい道を歩めているのか? と」


振り返ればそこには見覚えのある影、自分と同じぐらいの背、同じぐらいの肩幅の男。

「弟よ、ホット・パンツを貫いたのはお前の腕だ。そのか細き女性の体をぶち抜いたのはお前のスタンドだ」

焦りもなく、恐怖もなく、乗り越えた強さを持つ者の目をした男がそこにいた。
傍らに立つのはアルファベットを身体に刻んだ、黒と白のストライプ。細長で強靭な肉体を持つスタンド。
 

「自分を信じてみればいい。彼女を殺したのは俺ではない。エンリコ・プッチのせいだ。
 ヤツが見せた幻覚のせいだ。俺は悪くない。悪いのはプッチだ。ヤツのスタンドがこうさせたんだ……! そう言い聞かせてみればいい!
 だがどうだ、今実際目の当たりにしてる光景はッ! 手に残った感触は、どう答えるッ!?
 さぁ、答えてみろ、ウェズ・ブリーマン……!
 それを殺したのは誰だ? 私かッ!? お前かッ!? 答えてみろッ!」
「プッチ、貴様……ッ!」
「さぁ、誰が悪い? 私のせいか? お前のせいか? 天気のせい? 彼女のせい?
 答えてみろ、ウェザー・リポートッ! そのお前のやわな信仰心で、何を支えられるか答えてみろッ!」

562太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:43:33 ID:vNgFKv6c
勝ち誇ったプッチの叫びが、雨音をも突き破ってウェザーの鼓膜を揺さぶった。
あの瞬間、プッチがとった行動は逃走でもなく、諦めでもなく、ひらめきだった。
即座にスタンド能力を発動。ほんのちょっぴりだけ、幻覚をウェザーに見せつけた。

幻覚は大きなものでなくて構わなかった。豪雨が味方したのはウェザーだけではない。
先も見渡せない狭まった視界はプッチにも味方したのだ。

そう、ウェザーにホット・パンツがエンリコ・プッチであると勘違いさせるほどに……。
かつてとられた罠に、もう一度陥ってしまうほどに軽率に……!


ウェザーは動かなかった。
プッチの問いかけを受け、彼はあらぬ方向に視線を送り、自らの腕にぶら下がる遺体から目を逸らした。

プッチが迫る。駆けるプッチ、走るホワイト・スネイク。
今度こそ終わりだ。次こそ、ウェザーは対処できまい! そのズタボロになった精神で、このホワイト・スネイクに勝てるはずがないッ!

腕を高く高く振り上げると、頭めがけ叩き下ろす。脳天から股下まで、真っ二つに切り裂き、それでお終いだッ
ウェザーは動かない。いいや、動けまい! なんせ、なんと言おうと、ホット・パンツを殺したのはウェザーなのだから。
紛れもない、誤魔化しようもない、確固たる事実として! 彼女を殺したのはウェザー・リポートなのだから!


「終いだ、ウェザー・リポートォォォォオオ――――ッ!!」


プッチが跳んだ。三メートル、二メートル、一メートル……! 振りかざされた手刀がウェザーに押し迫る!
ウェザーはまだ動かない! 逃げ場なし! 反撃もなし!
重いホット・パンツの体を抱えては今さら動いたところでかわすことも不可能ッ!
プッチの勝利は確実だ…………ッ! 



そして! まさに! 瞬間ッ!



―――ウェザーのどす黒い視線が、跳び上がったプッチを捕えた。

563太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:44:02 ID:vNgFKv6c
ウェザー・リポートが動いた。ホット・パンツを貫いたまま、腕に彼女の遺体をぶら下げたまま。
身体を反転、その手でプッチを迎え撃つ。宙に浮いて身動きの取れないプッチ目掛け、的確に腕を振るった。
精密射撃のような鮮やかさで、呆然とするプッチの顔を殴り飛ばす。一撃、二撃、三撃……それ以上数えることは不可能だった。
目にも止まらぬ速さの拳の嵐が、ホワイト・スネイクとプッチを、空高く弾き飛ばした。

呻き声をあげながら、プッチは地面に強くたたきつけられる。何が何だかわからないと言った表情で、唖然とした表情で上半身だけを起こす。


「これしきで怯むと思ったのか……? たった一人の女を殺したことでこの俺が……街一つ消し飛ばした俺が、“怯む”とでも?」


“死神”が迫る。恐怖のあまり身体がすくんだ。
今のプッチから見ればウェザーはまさに死神だった。細かな霧雨を背に、影を携え、女性の遺体を腕に抱き、しかし一歩も引かず迫って来る。
情けない悲鳴が口から零れ落ちる。尻もちをついたまま、腕を使い、後ずさる。
ウェザーは一歩一歩近づいてくる。真黒な目でプッチを捕え、一瞬でもその視線をとぎらせることなく。


「来るな……来るんじゃない……」
「天国に行けるだなんて思っていねェ……救われるだなんて願ったこともねェ。
 俺は人殺しだ。ゲス汚ねェ差別主義の探偵を殺した。その一味も殺した。黒ずきんをかぶった奴らを殺した。
 何の罪もない街の市民も殺した。そしてこれからも殺し続ける……。
 そしてなにより……、妹を、ペルラを……愛するあの女(いもうと)を殺したのはこの俺だッ!」


腰を抜かしたのか、プッチは立ち上がれなかった。震える脚をひきずり、二本の腕でなんとかさがる。
情けない震え声が、後からともなく口を出た。意味もない祈り。意味の為さない懇願。
ウェザーは一切それらを無視する。確実に、着実にプッチに迫る。

プッチは何を考えたのか、水たまりの水をウェザー目掛け撒き散らしていた。
はっきりと恐怖の色が浮かび上がっていた。狼狽、焦り、脅え……。混乱した頭でプッチが何を導き出したのかはわからない。
それでもプッチは狂ったように、水をばしゃばしゃと跳ねあげた。それが本気で死神の足を止められると、信じて。


「来るな……こっちに、来るな…………! 来ないでくれ…………!」
「罪悪感で俺が膝をつくとでも? 人を殺して、俺がビビり上がるとでも?
 今さら一人殺したぐらいで、この俺が立ち止まれるわけがない……! この俺が人殺しで怯むはずがないッ!」

564太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:44:28 ID:vNgFKv6c
死神は止まらない。噴怒の表情はさながら鬼ののようだ。
歯をぎらつかせ、目を燃え上がらせ、ウェザーがプッチに迫る。
その腕に抱いたホット・パンツの遺体が乱暴気に放り投げられた。打ち捨てられた女性の遺体が、地面で跳ね、動かなくなる。

「来るな……」

腕を振り、足をすすめ、ウェザーが進む。加速する。加速する……!
ハッキリと走り出したウェザーはあっという間にプッチの元へ!

「来ないでくれ…………」

恐慌半狂状態のプッチがDISCを投げつけた。だが届かない。あらぬ方向、見当違いの方向へ跳び、ウェザーは叩き落とす必要すらなかった。
もはやプッチにまともな思考は残されていなかった。訳もわからぬ抵抗と目の前の死を目にして、神父がしたことは無駄なあがき。

神にすがることすらせず、プッチが最後まで寄りかかったのは己の半身、ホワイト・スネイク。
狂ったようにDISCを投げ続け、甲高い声で叫び続けた。死を受け入れてなるものかと、必死で。


「私の傍に近寄るなァァァァアアアア―――――ッ!!」
「死ねェェェェエエエエい―――――ッ!!」




そして、肉を切り裂くような音が木霊して……雨が次第に弱くなる。


薄く見える霧雨の向こうで影が二つ、並んでいる。
一人は男。もう一人は女。
そこに見えたのは……死んだはずのホット・パンツが、ウェザー・リポートの背中を貫いている姿だった。

565太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:44:54 ID:vNgFKv6c
色をなくしたウェザーの唇から、血が一筋、スゥ……と流れ落ちる。重力に従い、首が下に振り下がる。
背中から胸を貫く腕を見て、意味をなさない呻き声が漏れた。
同時に全身から力が抜け、ウェザーの体はその場に崩れ落ちる。


その最中、ウェザーは見た。座り込んだ男の眼に宿った二回目の希望の光を。
怪しいほどに輝く、エンリコ・プッチの瞳を。

―――ああ、そうか。

全てを理解したウェザーは、自らの敗北を悟り、その場に崩れ落ちる。
そしてピクリとも動かなくなった。











566太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:45:58 ID:vNgFKv6c
「DISCはお前目掛け投げつけたのではない。ホット・パンツだ。
 私は指令を書きこんだDISCを、彼女目掛け放り投げた。実際にこうなるかどうかは賭けだった。
 頭部にDISCが入らないかもしれない。もはやホワイト・スネイクにその力は残っていないかもしれない。
 ホット・パンツが完全に死んでいるかもしれない。彼女の手刀より、お前の拳のほうが早いかもしれない。
 全ては偶然だった。幾つもの“かもしれない”を潜り抜け……ここに私は立っている。そしてお前は地に伏している」
「………ッあ」
「弟よ、お前は運命に敗北したのだ。神が選んだのは私だ」

力なく伸ばされた腕は何も掴まずに、地に落ちる。
プッチの胸ぐらを握ろうと、二度三度、最期に虚しくあがくが、ウェザーの腕はそれっきり動かなくなった。
空っぽの瞳は憎き相手を捕えるでもなく、未来を見据えるでもなく、ただ虚空を見つめる。

プッチはウェザーの傍らに立つと、そっと優しく語りかけた。
もう決して間にあうことのない病人を見送るような、そんなそっとした口調でプッチは言う。

「天に召される前に何かいい残したことはないか?」

辺りを包んでいた雨音が段々と遠くなる。湿った服の冷たさが染みいるまでの長い沈黙の後、ポツリとウェザーが呟いた。


「……―――雨を、ふらしたんだ」
「……なに?」


ウェザーはぼんやりとした表情で、プッチに顔を向ける。
その目は確かにプッチを見つめていると言うのに、どこか遠くのものを眺めているかのごとく、深く澄んでいる。
ウェザーは雨をふらしたんだ、とだけ繰り返した。困惑するプッチ向かって、そう言い続けた。
言葉は途切れ途切れでえらく聞き取りづらい。プッチが身をかがめて、口元に耳を寄せる必要があったくらいだ。

途中で何度もつっかえながら、血をせき込み吐き出しながら、それでもウェザーは懸命に言葉を紡いだ。

「俺は、ただ……雨を振らしただけなんだ。そこから先は、運……だった」
「……何のことだ? 何を言っている?」
「た、だ雨を……振らしただけ。それだけなんだ……。だから、立ち……あがったのは“彼”の意志だ。“彼”、自身の 強さだ……。
 ほんとに、ほ んとにありがとう……それしか言葉が出な……い。彼は 俺を信じて く……れた。俺は彼を救え た。
 記憶のないこの俺を……、人殺しのこの俺が……」

天より降りそそいだ水滴が、ウェザーの頬に落ちると、涙のように伝っていく。
雨はほとんど上がっていた。黒くぶ厚い雲は頭上を去り、本来の天気が辺りに戻って来る。

567太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:47:44 ID:vNgFKv6c

何かがおかしい。何かが、変わってきた。

プッチはゆっくりと振り向いた。雲が去り、雨が上がり、辺りは温度のは急激に上昇する。
その影響で濃い霧が街を包んでいた。前方十数メートルは立ち上った水蒸気が遮り、多くの影が蠢いては怪しく揺れる。
プッチの眼はその蠢きの中に異質のものを捕えた。あれは……ちがう。あの蠢きは、あの揺れ方は……本物の人影だッ!


「ありがとうを言うのは、僕のほうです」


コツン、コツン……と革靴の音が民家に反響する。頭上の雲が薄れ、少しずつ太陽が街を明るく照らす。


「そして同時に謝らなければいけません……」


霧が晴れ、その中から一人の少年が姿を現した。
プッチは反射的に胸のポケットに手をやった。ない。そこにあるべきはずの、“あの”DISCが……。
一枚のスタンドDISC、三枚の記憶DISC……。そしてあるはずの“四枚目の記憶DISC”……!
一番大切にしまっておいたはずのあのDISCが……! 決して手放さんと、丹念にしまったはずのあの記憶DISCが……―――!


―――『ロックコンサートにでも行こうというのかい、神父様』


「ハッ!? ウェザー、貴様まさかッ!?」

ウェザーは何も答えなかった。否、答えれなかった。
答えるにはあまりに血を流しすぎていた。いつ死んでもおかしくないぐらいだ。
文字通り血の池にその身体を鎮めながら、ウェザーはそれでもプッチに向かってニヤッと笑って見せた。

その通りさ、と馬鹿にするように。今頃気づいたのか、馬鹿めと言わんばかりに。

「あの一撃はこの布石だったのか……ッ!? 全てはこのため、全ては“彼”のために……ッ!?
 何故だッ!? 何故そんなことができたッ!? 何故お前は今日会ったばかりの、見ず知らず同然のヤツを信用して……ッ
 そのもののために命すらかけたと言うつもりかッ―――!?」

568太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:48:06 ID:vNgFKv6c
プッチとの距離およそ10メートル。“少年”は歩みを止めなかった。
爛々とその瞳輝かせ、傍らに黄金のスタンド並び立たせ、希望に満ちた表情をして。
少年は歩みに合わせて、話を続ける。雨は既に止んでいた。濡れた街の向こうには、一本の虹が弧を描いていく。


「『何かあったら雨が教えてくれる……』、貴方のその言葉を僕は危険信号だと思っていました。
 一種の救助サインだと、助けを求めるサインだと、僕は勘違いをしていたのです。
 だが違いました。あの雨こそが……、あの豪雨こそが、僕を救ったんです…………ッ!」


ウェザー・リポートは戦いの直前に、プッチがDISCを胸ポケットにしまっていたところを見ている。
すぐにでも取り返そうとは思っていなかった。正直に言えば戦いに勝ち、復讐を果たすことが一番の目的だったから。
けれども、取り返そうとする意志は衰えていなかった。ウェザーは自責の念を抱えていたのだ。
“彼”を巻き込んだのは自分だと。自分こそが彼とプッチを引き合わせてしまった。
自分のせいで、“彼”はこんな目に会ってしまったのだ、と……!

だからDISCが落ちた時、ウェザーはそれを見逃さなかった。そして自分が負けるかもしれないと思った時、瞬間的に閃いたのだ。
この豪雨を利用してやろう。濁流のように湧きあがった雨粒をコントロールし、彼がいるあのカフェまで……彼が寝るあの部屋まで。
このDISCを運んでやる、と。そうしたならば、仮に負けたとしても心おきなく逝くことができる、と……。


ウェザーは今にも落ちてきそうな瞼を必死でこじ開けると、プッチの背中越しに彼の姿を捕えた。
ウェザーが笑えば、彼も笑い返してくれた。ひどくやられたな、という顔をしたので君ほどじゃないと、おどけてみせた。
そんななんでもないやり取りができることがうれしかった。こんな死に間際でも彼とそんな些細な、友人のような挨拶ができ、ウェザーは心の底からそれを喜んだ。

“彼”がいう。力強い、何もかもに任せられるような、エネルギーに満ち溢れた声だった。


「ウェザー・リポート、あなたの覚悟は天降りそそぐ太陽よりも貴く、まばゆい光を放っている……!
 その誇り高き輝きが照らし出した道は……この僕を導き、呼び寄せたッ!
 僕は貴方に敬意を表します、ウェザー……! そして貴方は死なせない……!
 この“ジョルノ・ジョバァーナ”の名にかけて! 僕はッ! 必ず貴方を救いだすッ!!」





―――雨が上がった。ジョルノを照らし出すように、ぶ厚い雲の隙間を切り裂き、太陽の光が降りそそいだ。


そうさ、俺はウェザー・リポートさ。お天道様の名前をしてるんだ。イカすだろ? なぁ、ジョルノ……。
口の中で、自分だけに聞こえる冗談を口にしてウェザーはそっと目を閉じる。
そのまま全身を包む無力感に逆らわずに、彼は闇に意識を手放した……。

569太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:48:30 ID:vNgFKv6c




辺りの景色は様変わりしていた。
雲は流れ、霧は晴れ、さんさんと輝く太陽が照らす。
気温は上昇し、フライパンを温めるかのごとく地面が熱を帯び始めた。
プッチが口を開く。ジョルノが来たときの動揺や驚きは既におさまっていた。


「大見え切って啖呵を吐いたのはいいが……足元がふらついているぞ、ジョルノ・ジョバァーナ」
「…………誰のせいでそうなったか、とぼけるつもりですか」


ジョルノを中心として円を描くように、足をすすめていく。
左に流れていくプッチを追うことなく、ジョルノは身体を傾けるだけで動かなかった。
互いに様子を伺う慎重な立ち回り。戦いは既に始まっている。しかし激突の時は、まだ“今”ではない。プッチは話を続ける。


「君におとなしくしてもらうにはああするしかなかった。時間が必要だったのだ。
 これは私と弟、私とウェザー・リポートの問題だ。何も知らない君に首を突っ込んでもらいたくなかった。
 それが結果的に、ああいった形で君を傷つけるようなことになってしまったのは……謝りたい。本当に申し訳なかったと思う。
 だが君には必ずやDISCを返すつもりだった。それだけは神に誓ってもいい。私の本心だ」
「僕が神ならば例え一時とはいえ、他人から記憶を奪う盗人を赦すつもりはありません。それが神父というのならばなおさらです」
「神はいつだって私に寄り添ってらっしゃる。時に神は人知を超えた行動をとることもある。それが神だからだ」
「神の選択と言えば何でも許されると? まるで免罪符ですね。神が聞いて呆れます」


じりじり、じりじり……プッチは足を止めることなく、ジョルノの周りを回り、最適な角度を探す。
地面の状態、背後にさがるスペースの少なさ、ウェザー・リポートと射線を重ねること。
“攻撃”に必要な条件はそろっていた。あとはタイミングだ。一瞬でもいい、あとはジョルノが見せる隙を待つのみ……。


「君はまだ若いから知らないのだろう。人間はそれほど強くない。
 不都合がその身に襲いかかった時、不条理なことが起きた時、納得のいかない災害に襲われた時……。
 縋るモノが必要だ。祈るモノが必要だ。自分を支えてくれる、見持ってくれている存在が。
 そんな神と呼ばれる存在が……弱い人間を強くする時がある」
「……ならば僕には神は必要ありません」
「……なに?」
「そんなものが神ならば、こっちから願い下げだと言ったのです」

570太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:49:48 ID:vNgFKv6c
思わず足が止まった。それは聞き逃せない言葉だった。
プッチの怒りを込めた視線を受け止めながら、ジョルノは鋭く返す。

「エンリコ・プッチ、あなたは悪だ。それもこの世で存在するなかで最も醜い悪、独善に満ちた悪だ。
 貴方は自分が正しいと思っている。まごうことなく正義だと自分を信じている。大した精神力です。すがすがしいほどの割り切りだ。
 だが違う。そんなものは正義ではない。邪悪だ。
 貴方はそうやって自分が信じる正義のために! 自分の信じる正義を振りかざしたいがために!
 何人ものを無知なるものを踏みにじってきた……吐き気を催す邪悪だ!」

民家の壁に反響し、辺りはジョルノの叫びで埋め尽くされる。
最後にひときわ大きな声で叫ばれた邪悪だ、の一言が何度も何度も繰り返される。
邪悪だ、邪悪だ、邪悪だ……。険しい顔のプッチはやがてふっと顔をあげるとため息を吐いた。
彼の顔にはやれやれ、といった表情が浮かんでいる。


「……君には失望した、ジョルノ・ジョバァーナ」


目を閉じ、頭を振る。聞き分けの悪い小僧を相手するのはつかれた、と言わんばかりだ。
ホワイト・スネイクが新しく一枚のDISCを創り出す。プッチはそれを無造作に、ジョルノの前に投げ捨てた。


「幸運なことを一つ上げるならば……君がDIOと会う前にこうして私と会えたことだな
 君には相応しい役割を演じてもらうことになりそうだ。王には王の、料理人には料理人の、そして皇子には皇子の役割がある。
 今はわからなくてもいい。段々と君もわかり、そして身につけていくがいい。だが私はDIOを失望させたくない」
「なんのつもりですか」
「そのDISCを頭に入れろ。そうすれば一時的ではあるが君はそのバカげた考えを忘れることができる」
「拒否します。僕は操り人形なんかじゃない」
「やれやれ、DIOにこんな報告をするのは心苦しい事だが……そういうのならば仕方ない。
 君の息子は随分と聞き分けの悪い男で、しかたなく私が処分した……なんて報告を聞かせるようになるとはなッ!」


言い終ると同時にDISCがものすごいスピードでジョルノ目掛け飛んだ。
ジョルノはゴールド・エクスペリエンスではじきとばし、その一撃を回避する。
と、同時にプッチ目掛けて駆けだした。答えるように、プッチも走る。二人の距離はあっというまに縮まっていった。

白の大蛇、黄金の戦士。激突の時が来た。互いに吠え声をあげながら、二つのスタンドがぶつかり合う。


「ホワイト・スネイクッ!」
「ゴールド・エクスペリエンス!」

―――……戦いが始まる。

571太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:50:27 ID:vNgFKv6c




二人の力は五分と五分。プッチはウェザーとの戦いで消耗し、ジョルノは記憶を取り戻したばかりで本調子じゃない。
プッチは強引に攻勢を仕掛けていった。長期戦になれば先に体力が削れているプッチが押し負ける。
ジョルノが調子を取り戻す前に決着をつける。狙うは短期決戦……、呼吸を整える前に終わらせてやる!

「……くッ」

苦しそうな、短い息がジョルノの口から零れ落ちる。
心臓目掛けて放たれたプッチの手刀を間一髪のところで防ぐ。鋭い一撃だった。ワンテンポ遅れたら、殺られていた。
続けて放たれた回し蹴り。今度は防げなかった。体勢が崩れたところに重い蹴り。
腹をけり飛ばされ、ジョルノの細い体が吹き飛ばされる。民家に叩きつけられると呼吸が止まった。
ガハッ、と空気が肺から押し出され、同時に血を吐きだす。プッチは隙を見逃さず、攻撃を畳みかける。

石を穿つ音がひびき、ジョルノ顔のすぐそばをホワイト・スネイクの拳がとんだ。
背後の壁を削りながら、構わずプッチは攻撃を続ける。ジョルノは避けの一手だ。攻撃をする暇もない。プッチの猛攻がそれをさせなかった。

しかし何の策もなかったわけではない。
攻撃をかわし続ける中でジョルノのスタンドは既に壁に触れていた。その壁から既に、生命を産みだしている。

「小賢しい真似をッ!」

まとわりつくように伸びた蔦をさけるため、プッチが一旦距離をとる。
今度はジョルノの番だ。ゴールド・エクスペリエンスが躍動すると、プッチ目掛け拳を振るった。
地面を砕き、民家を崩し、辺りを破壊しながらゴールド・エクスペリエンスがプッチを追いかけていく。
だが完全にとらえるには至らない。後一手が足りない。どうしてもプッチを捕えられず、いたずらに住宅街を破壊する音が木霊した。

「どこを狙っているッ!」

何度目になるかわからない破壊音、そして伸びる蔦。プッチはかわす。もう何度繰り返したかわからない攻撃と回避。
ジョルノは少し離れたところで膝をついて、息を荒げていた。段々と攻撃が単調になっていた。体力の回復より消耗が上回っていたのだろう。
状況はプッチに傾いた。腰を落とし、瞬時に踏み込むと間合いを詰める。
ジョルノが敷いたガードの上から強引に殴りつけてゆく。パワーでのごり押しだ。実際、今のジョルノにそれを受ける体力はない。

焦燥が表情に浮かぶ。徐々に、そして少しずつ、ジョルノの体にダメージが浮かんでいく。
頬に走る真っ赤な線。身体に浮かぶ真っ青なあざ。少しずつ、だが着実にジョルノの体は浸食されていく。
一方プッチに消耗は見られなかった。攻勢一方なのだから当然だ。
つまるところ勝負の分かれ目はひとつだ。消耗したジョルノにプッチを押し返す力はあるのか。プッチを防戦に持っていく策があるのか。

572太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:51:06 ID:vNgFKv6c
ついにプッチがジョルノを追いつめる。
街中を飛び回るように戦っていた二人が辿りついたのは袋小路。三方を高い壁に囲まれて逃げ道なし。正面にはスタンドを構えたプッチがいる。
ジョルノの額を汗が伝った。それは疲労ゆえのものなのか。追いつめられた危機感ゆえのものなのか。

ゆっくりと、そして確実にプッチが距離を詰める。後ずさりしていたジョルノの身体が壁にぶつかった。
もう時間を稼ぐことも不可能。消耗したジョルノに正面のプッチを打ち倒すことも無理。
観念するんだなと、プッチが言った。文字通り将棋やチェスでいうところの『詰み』だ。ジョルノは唇を噛み、青い顔で黙り込んだ。

「覚悟するんだな、ジョルノ・ジョバァ―ナ……ここまできたら逃げられない」
「“覚悟”……ですか。それなとうに済ませましたよ」
「ふっふっふっ……殺される覚悟か? それとも自分を捨てる覚悟か?」
「いいえ、そのどちらでもありません。僕にできた覚悟、それは…………」

疑惑がもたげる。不安がよぎる。思わずプッチの動きが止まってしまった。
ジョルノはすでに疲れ切っている。そこに偽りはない。
ダメージも相当のものだ。生傷、青痣、骨折、打撲……プッチはジョルノに生命を生み出す隙、治療させる隙を与えなかった。
つまり状況は圧倒的有利なはずだ。ここからプッチに負ける要素など、皆無のはずだ。

―――ならばこのジョルノの余裕はなんだ? その顔に浮かんだ不屈の心は、輝くきらめきは……?



「危険を冒してでも貴方を殺す覚悟です」
「……なに?」

プッチの問いかけは地響きに紛れ、ジョルノの耳まで届かなかった。
直後、辺りを揺るがすような轟音が響いた。否、事実、現象として辺りが揺らいだ。
プッチの足元が崩れる。ジョルノが倒れた地面が割れる。民家が、壁が、木が、街が…………!
突然足元に生まれたぽっかりとした穴に二人の体が吸い込まれていくッ!

「ゴールド・エクスペリエンス!」
「うおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!?」

プッチは見た。そして理解した。
固いコンクリートを貫き張り巡らされた根。水道管をぶち抜き伸びる木々。
ついさっきの光景が頭の中で再生される。つまりは『こういうこと』だったのだ。すべてはジョルノの策だったのだッ!

ジョルノの攻撃はプッチを狙っていたのでない。地面だッ!
すべてはこの時のため、プッチをはめるためッ! ジョルノは! あえて大振りで拳を振るったッ!
プッチに悟られぬよう、あえてそうしたのだッ!

573太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:51:28 ID:vNgFKv6c
底知れぬ闇に落ちていく二人。プッチの叫びが聞こえる。
どこまで落ちていくんだろうか。この先はどこに通じているのだろうか。
まさか行き着く果ては……転落死? 固い地下通路にたたき伏せられ、この私が……こんなところで…………死ぬ?


―――バシャンッ



「こ、これは…………“水”……?」

濡れた顔を拭い、足着かぬ縦穴で泳ぎながらプッチは上を見上げた。
相当深いところまで落ちたようだ。さっきまで見えた太陽がまるで針の穴かのように細く小さく、上から射している。
辺りを見渡せば少し離れたところにジョルノもいる。闘志は衰えていない。ここからが勝負だということか。
足場もない水の中、そこでの真っ向勝負と洒落込むわけか。

「貴方は覚悟を口にした……それは軽々しく口に出してはいけない言葉だ
 なぜなら覚悟とは与えらるものでも押し付けられるものでもないからだ」

しかし直後プッチは自らの勘違いに気づく。ジョルノの言葉が狭い穴の中で増幅される。
ジョルノの策は終わっていない。むしろここからだ。逃れられない結果だけが、そこには存在していたのだ!


「覚悟とはッ! 己の意志で、自らの手で……光り輝く明日を切り開くことだッ!」


顔を打つ雨粒。滴り落ちる水滴。そして聞こえる轟音。水の音。
太陽がさえぎられる。黒い雲が細い光を遮り、今にも泣きだしそうな天候がプッチを見返した。
絶望に染まった顔でプッチはジョルノを見た。ジョルノは何も言わなかった。スタンドすら構えなかった。
なぜならここに落ちた時点でプッチは“終わっていた”のだから。
なすすべもなく“死ぬこと”だけは、すでに決まりきった“運命”なのだから。


「嘘だ……ありえない。この私が、この私がこんなところで、こんな小僧と共に…………ッ!!」
「“覚悟”してもらいますよ、エンリコ・プッチ…………」


縦穴に水が流れ込む。ゆっくりと、そして次第に加速して。肩までだった水が顎まで伸びる。顎までだった水位が唇まで上がる。
ジョルノはゴールド・エクスペリエンスであちこちの水道管をひねり、曲げて、そしてこの縦穴に流れ込むように細工した。
ウェザー・リポートの豪雨を最大限に利用したのだ。

逃げ道はない。今のプッチに縦穴を上る力は残されていない。仮あったとしてもジョルノがそれを許さない。
逃げようにも足は底をつかず、絶えず立ち泳ぎ状態。辺りはすべてに壁に囲まれている。
井戸に落とされたも同然だ。そして井戸に突き落とされたままそこに水がなだれ込めば……しかも記録的、災害的豪雨の直後であったならば……。

574太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:52:21 ID:vNgFKv6c




「このちっぽけなゴミ糞がァァアアア――――ッ!」


やけっぱちに悶えたプッチのスタンドがジョルノに迫る。ジョルノは冷静に、落ち着いて……一閃。
黄金の輝きがクロスカウンター気味に拳を叩き込んだ。つぶれた饅頭のような格好でプッチがうめき声をあげる。
ジョルノは止まらない。ジョルノは今一度、力を振り絞り、すべてのエネルギーを解放し……スタンドの拳をプッチ目がけ叩き込んだ。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄―――」


雨よりも多い拳がとぶ。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄―――」


風よりも早く拳が打つ。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄―――――――――ッ!」



そして耳をつんざく轟音と共に、この世の終わりを思わせるほどの濁流が天より降りそそぎ……二人の姿は見えなくなった。
そこにあったのは水。二人は水に飲みこまれ……そして浮かんでくるものは何一つなかった。







575太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:54:05 ID:vNgFKv6c
「終わったのか……」

底も見えないほどの深さの池の近くで、男の声がそう問いかけた。
ウェザー・リポートは身体を引きずりながらジョルノとプッチが落ちていった池を覗き込む。
真黒で何も見えない。あの大雨全てが流れ込んだのだ。二人が生きてるはずがないだろう。


――――もしもなにも策を講じていなければ、だが


「……ぶ、はアッ!」
「ジョルノ、大丈夫か」

池から二本の腕が伸びると、水面からジョルノが顔を出した。身体には何十もの蔦が絡まっている。そしてその腕に丸々と太った魚が一匹。
ジョルノはあの濁流を乗り越え、底知れない池より這い上がり、見事に生還した。
ジョルノの完全勝利だ……! プッチは死に、ジョルノは生き残った……!


濁流が流れ込んだ瞬間、ジョルノは頭上と体全身をスタンドで生んだ木の葉でつつんだ。
あの状況で真っ先に死ぬ要因として挙げられるのは溺死でなく、圧死。
何万トンもの水が、雪崩のように流れ込むのだ。そのまま何もせずにいたならば、まず真っ先に水の重さで、潰れて死ぬ。
ジョルノはそれを避けるために、隠し持っていた木の葉、木の枝、あらゆるものを身に纏った。
プッチとの戦いでそれをしなかったのは機動力を殺さないため。そしてプッチに攻撃してもらうためだ。
ジョルノにとって避けなければいけなかった事は長期戦と、ウェザーをいけにえに取られるような行為だったから。
長引けば体力を限界まで削りきっていたジョルノは押し負けていだろう。そのためにもカウンターではなく、一撃で沈める必要があったのだ。

水の濁流をスタンドの反射で乗りきり、次にすべきことは脱出だ。
圧死は免れたとしても深さ20メートルはあろう縦穴からの脱出は困難必須。
一度に流れ込んだ水流が安定するのには時間がかるだろうし、渦潮のように滅茶苦茶にうごきまわる可能性もある。
人間の体は自然と浮かび上がるようにできているとはいえ、それを待っていては窒息死、あるいは戦いの中でついた傷が開いて失血死が待っている。

ジョルノがとった策は二重。穴の外にいるウェザーによるサルベージ。そして生みだした生命が元の持ち主戻ろうとする性質を利用するもの。
生みだした魚は生まれた地上目指し上昇する。舵を取るように蔦が動けば、もう大丈夫だ。
何をする必要もなく、ジョルノは水面にたどり着く。そうして今、こうやって彼は生きている……。

576太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:54:45 ID:vNgFKv6c
「やったな」

柔らかな笑顔をこぼし、ウェザーが言う。水を滴らせながら呼吸を整えていたジョルノはその言葉に顔をあげ、そしてニヤッと笑った。

「目にもの見せてやりました」

ぱんっ、と乾いた音が辺りに響く。二人の掌がぶつかり合う音だ。高らかに鳴る勝利の音。
ウェザーは笑った。ジョルノも笑った。この勝負、二人の勝ちだ。しかもただの勝利ではない。二人がいたからこそ、二人だったからこその勝利。
どちらかが欠けていても負けていた。どちらかの意志が伝わらなかったら負けていた。
二人こその勝利。二人だけの勝利。それはとっても嬉しい事だ。境遇を越え、年齢を超え、二人が真に心を通じ合わせた証拠とも言えよう。


「ジョルノ」
「はい」
「頼みがある」
「はい」
「アメリカ、フロリダ州メーランドに俺の家族の墓がある。母、父、そして妹……一家の墓なんだ。
 そこに俺の名前を刻んでほしい。頼まれてくれるか?」


だからこれは悲しい事ではない、とジョルノは自身に言い聞かせようとした。
血を流し、白色の顔で倒れたウェザーを見て、奥歯をグッと噛みしめた。
既に手遅れだった。最後のあの豪雨、大穴に雨を流し込んだ時点でウェザーの命は燃え尽きていた。
否、実際はもっとそれよりも前に、ウェザー死んでいたのだ。ウェザーが今動けているのはジョルノのおかげ―――。


「君が悲しむ理由はない。君がダービーズ・カフェで俺に拳を叩きこんだ時、ちょっぴり君のエネルギーをわけてもらえた。
 そうでなければ俺はとっくに死んでいる。今こうやって話していられるのも君のおかげなんだ。だから悲しむことじゃない」
「わかっています……。わかってはいるんです……」
「ジョルノ、君は俺を救ったんだ。家族との決着を済ませた。一夏の恋物語もついに決着だ。
 もうなにもいらない。登場人物はとうに皆、死んでいる。だから今度は俺の番。ただ今それが来ただけ。
 それだけのことなんだ……」

時が来ようとしている。二人は口にするまでもなくそれを察した。
残る力を振り絞って、ウェザーが腕を持ち上げる。その手を受け止め、ジョルノが手を握る。
死ぬ間際とは思えないほどの温かくて力強い握手を交わし、二人は言う。別れの言葉だ。

577太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:55:15 ID:vNgFKv6c



「君と友達になれて良かった、ジョルノ」
「僕もです、ウェザー・リポート」


太陽が真上から二人に降りそそいだ。そして一瞬雲が横切って……再び光が見えた時、既にウェザーはこと切れていた。
冷たく硬くなった手に一度だけ頬よせ、ジョルノ目を瞑った。

仲間がいた。上司がいた。敵もいたし、コイツだけは許せないと思うヤツも何人もいた。
ウェザーはそのどれにも当てはまらない不思議な人物だった。
互いがどんな音楽を好きかも知らない。食事を一緒にとった回数だって一度だけ。
今回だって共に戦ったとはいえるが、肩を並べて戦ったわけではない。


「人と人との出会いは偶然です。もしかしたら、それは運命と言えるのかもしれません」


それでもジョルノにとってウェザーは友人だった。
年齢も人種も性格も境遇も全く違うが……違うからこそ芽生えた不思議な連帯感はそうとしか形容ができなかった。
もっと一緒にウェザーといたかったとジョルノは思った。
記憶を取り戻したウェザーは予想以上に激情家だったが、そんな一面も新鮮で面白いと思えた。
落ち着いた一面だって素敵だった。物静かで、読書や音楽を楽しむ時に一緒にいてくれるだけで幸せにしてくれるんじゃないかと思った。
そんな風に期待できる何かを、ウェザーは持っていた。


「だったら僕はあなたと出会わせてくれた運命に感謝します」


約束は必ず守ってやる。この戦いを終えたらウェザーの言った通りに、花束を持ってアメリカにわたり、そして彼の名前を刻んでやる。
とびっきり派手にだ。なんだったら墓一つ丸々作り変えてもいい。
名前以外になんて刻もうか。偉大なる気象予報士、ここに眠る、なんてジョークを書くのがアメリカ式なんだろうか。

578太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:55:29 ID:vNgFKv6c


「さよなら、ウェザー・リポート」


ジョルノは振り向かない。冷たく転がる遺体に一瞬も目をやることなく、彼は先に向かって足をすすめた。
いいだろう、約束してやる。約束してやるとも。
ウェザー・リポート、僕がまとめて救います。貴方を救ったよう、僕は皆を救います。
もう誰も失わない。もう誰も死なせません……!


決意を胸に少年がいく。その背中を押すように温かな光線が降りそそいだ。
雲は去り雨は上がり太陽が輝く。ジョルノは進んでいく。その輝ける未来めざして。







【ホット・パンツ 死亡】
【エンリコ・プッチ 死亡】
【ウェザー・リポート 死亡】

【残り 58人】







【C-2 北部/ 1日目 午前】  
【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(小)
[装備]:閃光弾×3
[道具]:基本支給品一式、、エイジャの赤石、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
    地下地図、トランシーバー二つ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.ミスタ、および他の仲間たちとの合流を目指す。
2.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。

※ウェザー・リポート、エンリコ・プッチ、ホット・パンツの支給品、デイパックを回収し、必要なものだけを持って行きました。
 必要のないものは全て放置しました。回収したものはエイジャの赤石、不明支給品、トランシーバー二つ、閃光弾二つ、地下地図です。

579太陽の子、雨粒の家族  ◆c.g94qO9.A:2013/03/25(月) 18:56:33 ID:vNgFKv6c
以上です。遅れてすみません。
何かありましたら連絡ください。

ウェザーは書いてて、天気で演出ができるので楽しかったです。

580判断 その1  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:46:17 ID:8/47zDzA
――さて突然だが、


ピシュッ


――……おおっ、この距離で投げたフォークを全員が回避できるとは!
先っぽ研いであるから当たれば結構痛いかななんて思ったんだけど。
……あ、イヤ悪かったよ本当。ごめんごめん、何も君らに怪我させようなんて意味はないんだって。
フォークだってほら最近流行ってる名状しがたいカオスなナントカのアニメで良く見るからってだけの理由だし。

――しかし君らは“カンが良いな”。
俺の最初の一言から何かしらのニュアンスを感じたか、単純に飛んでくるフォークを見てからどう動くかを一瞬で決めたか。
いずれにしてもその直感、もっと磨いた方が良いよ。

さて、この『カン』は――えーと、まあつまり“判断力”ってことだと思う。
この判断力って何するにも重要だと思う訳よ。学校のテストにせよ今のような戦闘――じゃないんだって、まあ何にせよね。正解を選んだり、あるいは今自分はどうすべきか、とか。

じゃ、そういう事で今回はそんな連中の話をしよう。


●●●

581判断 その2  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:46:58 ID:8/47zDzA
「おい、聞こえているだろう。
 どこからか攻撃を受けた。なにか情報をくれ……」

小さく呟いた僕の言葉に対しトランプからの返事はない。
情報の提供どころか、たとえば『テメーで考えろバーカ!』のような煽りもないとは。

あっても迷惑なだけだが。

しかし……この状況、裏を返せば“ムーロロの情報を聞かなくても対処できるレベル”という事なのでは?

「フーゴッ!おい外は大丈夫なのかッ!?」
――と、ここで悲鳴にも似たナランチャの呼びかけに意識を引き戻される。
そうだ、ここは三人で切り抜けなければならない。とりあえず飛び出そうとするナランチャを手で制す。

「フーゴ、今のは……突然緑色の飛礫がガラスを割ったように見えた!これがスタンド攻撃というものなのか!?」
ジョナサンがそう聞いてくる。緑の飛礫?僕には見えなかった。彼の波紋の力か、あるいは動体視力か?いずれにせよ彼の力もスタンド使いに引けはとらない。
「君には今のが――僕には見えなかったが――見えたと?すごい動体視力だ。そして、そう、今のは明らかにスタンド攻撃。
 そしてナランチャ。君ならこの場をどうする?」
あえてナランチャに話題を振る。この状況を三人で切り抜けると決意した以上、状況と思考は共有しておかなければならないからだ。

「そ、そんな事急に言われたって俺にわかる訳ねーだろッ!」
「落ち着いて、ナランチャ。君は『飛び道具で攻撃するスタンド使い』を良く知っているはずだ」
「この攻撃がミスタだってのかよォーッ!」

……以前ならここで『んなワケがあるか』とブチ切れて彼を殴り倒していただろう。だが、そうはしない。

「そうじゃあない。ミスタを良く知ってる君なら“銃使いを相手にしたらどうするか”を考えられるはずだ」
ナランチャがハッとして目つきを変える。どうやら彼にも理解できたようだ。

『銃弾の軌道をも操作される可能性がある以上、我々のスタンドの間合いまで突っ込む』ッ!

582判断 その3  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:48:14 ID:8/47zDzA
「待ってくれ!戦うという事なのか!?僕たちには味方が必要だ!
 怯えて不意にスタンドを使ったのかもしれないッ」
ジョナサンが話に割り込む。彼が言いたいこともよく理解している。
「ジョナサンも。スタンドに関しての戦闘は僕やナランチャの方が慣れています、落ち着いて聞いてください。
 ――あれを見てください。ふわふわと浮いている、あれがスタンドです。きっとあれが僕たちを監視しているのだと思う」
人差し指を立てて静粛を促し、そのまま指さした先には鍵のぶら下がったUFOのような物体が浮いている。
どう見てもスタンドだ。しかも“人型ではない遠距離型あるいは自動操縦型”と推測できる。
「じゃああれが先の飛礫を放ったというのか?」

「おそらくは。ですが推測のし過ぎは良くない。ハナから相手はチームで、飛礫を放ったのは別のスタンドという事も考えられる。
 そして、とにかくここで立ち止まっていれば全滅の可能性もある。ならば戦うにせよ逃げるにせよ、必要なのは移動ってことです。
 さらに先にナランチャに聞いた質問の答え。飛び道具が相手なら、それが届かない距離に逃げるよりもこちらの間合いまで突っ込むのが鍵。

 ……ここは僕が引き受ける。全力で君らを逃がす!」

ジョナサンの質問に回答しつつ方針の決定、行動に移す旨を伝える。
そして僕がこの場を引き受けるという発言を受けナランチャがギョッとする。そりゃあそうだろう。
ジョナサンの腕を引っ掴み戸口へ走った。
「行くぞジョナサン!ここはフーゴに任せるぞッ」
「彼を置いていくというのか!?僕も戦うぞッ!」
「ちげーよバカ!近くにいたら巻き込まれる!とにかく行くんだよ!!
 おいフーゴ!そうだよなッ?」
振り返って叫ぶように僕に問うナランチャ。僕も彼の目をしっかりと見返し、頷いた。
「ああ。ここはあくまで足止め、僕もすぐ行くから、安全な場所についたらエアロスミスを飛ばしておいてくれ。勝手に見つけて合流しますから」

最後の方なんかほとんど聞いてないんじゃあないか、という勢いでナランチャが飛び出した。
ジョナサンは心配気味に最後まで僕の方を見ていたが、それでもナランチャを追って行ってくれた。そう、それでいい。

さあ、いくぞ……“全力で”!

パープル・ヘイズ・ディストーション!


●●●

583判断 その4  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:48:58 ID:8/47zDzA
結論から言ってしまえば、ジョンガリ・Aは三人を襲撃するつもりはなかった。
三人のうちに知り合い、あるいは敵がいるのかどうか、そういった状況を把握するためにとスタンドを行使しただけである。

それが気付けば前を走っていた奴と同一人物か、またはチームでの襲撃かと勘違いされて攻撃を受けたという訳だ。
人型のスタンドではない『マンハッタン・トランスファー』のダメージフィードバックが全身の皮膚に傷をつけている。

だが、まだ彼が再起不能になったわけではない。

一瞬だけ襲ってきた、蝕まれるような鋭い痛みにひるみ、さらにその後に吹き上がった煙に気流を乱されその場を退いた、それだけだ。
そしてこの屈辱を、『恨み』を晴らさぬジョンガリ・Aではない。

とは言え、とは言えだ。
自分の能力で、あるいは単独行動というスタンスで今後も動き続けられるかと問われれば素直にイエスとは言えない。
狙撃手ならば狙撃手らしく安全かつ有利な場所に陣取って動かずにいるという事も選択肢の一つであるし、放送で得た情報、得られなかった情報の獲得に動こうとしていたことも事実。

それらを理解しているからこそジョンガリ・Aは歯噛みをしつつも再びスタンドを空中に舞い上げ、歩き出すしかない。

そんな逆境続きの中、数分もしないうちに先の三人組を見つけられたのは彼にとって幸運以外の何物でもなかった。
当初からそう遠くへ逃げ出そうとする気はなかったのだろう。そんな推測が一瞬頭をよぎるも、問題はそこではない。

『三人組が五人組になっていること』と、
『己のスタンドで読めるのは気流から得る体格や動きだけで会話を聞き取ることが出来ないこと』の二点が問題なのだ。

ジョンガリ・Aは考える。
先の戦闘の際に向こうの五人組のうち少なくとも一人以上には自分のスタンドが見られており、自分が攻撃を仕掛けた“と思われている”事は大いに問題だ。
姿を現しただけで有無を言わさずスタンドのラッシュを受ける可能性だってある。
しかし、『ガラスを割ったのは自分ではない』と証明することが出来たのなら。
割った本人に罪をなすりつつ――事実彼が割ったわけではないから些か語弊のある表現ではあるが――彼らに取り入ることも不可能ではないのでは?
自分が攻撃“された恨み”を抑える事さえできれば『無実の自分を問答無用で攻撃してきた』として逆に弱みを握ることも出来るのでは?
もちろん……この五人組を相手に今度こそ本当に攻撃することも選択肢の一つである。

さまざまな可能性を考えながらも歩みは止めない。止められない。
全てはDIO様のため。迷いこそすれ立ち止まる訳にはいかないのだ。


――緩やかな日差しが注ぐ街並みにジョンガリ・Aは姿を消した。


●●●

584判断 その5  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:51:09 ID:8/47zDzA
●●●


「お、おーいフーゴぉ〜」
「よかった!無事だったのか!」
ラジコン飛行機みたいなスタンドがナランチャとかいうガキのもとに戻ってくる、一人の男を連れて。
ジョナサンとか言われた方も顔がゆるんでやがる。マッチョのニヤニヤ顔なんて見たくねーっつーの。

「ええ――倒すことを前提としなかった分楽に逃げられましたよ」
「え、お前のパープル・ヘイズで倒さねーなんて、そんなこと出来るのか!?」
「まあ……何でもいいじゃないですか、無事だったんだから」
フーゴと言われた奴がナランチャと一言二言挨拶してこっちに歩いてきた。

「だな、それよりよォ!スゲェ人と会ったぜ!誰だと思う?ドジャァ〜ン!」
どじゃぁ〜ん、ってお前ガキかよ。確かに見た目ガキだけど。
最初から俺ら隠れてもいねーし。フーゴとやらも最初からこっちガン見だったし。

「フーゴ……久しぶりね」

――え?

「あ、あぁ。久しぶり。元気そうで何よりです、トリッシュ」

え?え?

「なんですかトリッシュ様?この穴スーツもトリッシュ様のお知り合いで?」
思わず聞いちまった。
穴スーツなんて呼んじまったせいで明らかに嫌な顔をされた。チクショウ。

「まあね、あ、こいつは小林玉美っていって――」
ト!トリッシュ様が俺の事を紹介してくださってる!思わず背筋が伸びる。
「紹介に預かった玉美と言いやす。縁あってトリッシュ様のお供をさせていただいておりやすが……」
が。そうだ。ガキらにナメられる気はさらさらネェ……そこまで言うとこっちがガキ臭くなるので言わねーが。

「――なぁフーゴ?トリッシュの奴あんなちゃっちぃオトコを連れて何のツモリなんだろうな?」
「さあ……この半日間の間に何かあったんでしょう。あとでゆっくり聞けばいい」
小声で話してるつもりなのか!?聞こえてるっつーの!流石の俺様も怒り爆発のサムライ激怒ボンバーってやつだ。

「オイ!おめぇらな、いくらトリッシュ様の知り合いだからって俺にイバりちらすんじゃあねーぞ!俺が忠誠を誓ったのはトリッシュ様だけなんだからな!」
「……玉美、うっさい」

ぐっ……流石にトリッシュ様に怒られると引き下がるしかない。
「し、失礼しやした……」
そうか、トリッシュ様の命令次第じゃ俺はこいつ等の下になっちまうのか……

「まあまあ。君たちが皆顔なじみの友人でよかったじゃあないか。
 改めて、僕の名はジョナサン・ジョースター。君たちとともに力を合わせて戦いたいんだ!」

と、ここでジョナサンとやらが自己紹介して場をリセットする。
学級委員タイプだな。コラ男子静かにー!ってか。まあ、嫌いじゃあねーかな。好きでもないが。

「決まりね。じゃあちゃっちゃと情報交換……始めようかしら、ね。フーゴ。ナランチャはエアロスミスで周囲の警戒を」
「な、なんで俺がトリッシュに命令されなきゃなんねーんだよ!?おいフーゴッ」
しかし切り出したのはトリッシュ様!流石です!ナランチャてめーは黙ってトリッシュ様にしたがってりゃいいんだよ!ケッ!

「いや、まあ……でもトリッシュの言うとおりだ、とにかく周囲の警戒を。
 トリッシュ、特に君とはいろいろ話をしておきたい」
こっちはこっちでナニ気安くトリッシュ様のこと呼んでるんだよ!こいつぁメチャムカ着火ファイアーなんじゃねーの!?

「あァん?てめぇトリッシュ様に馴れ馴れしkブゲッ」

「玉美、うっさい」

トリッシュ様……ナイスな腹パン、ありがとうございます……


●●●

585判断 その6  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:51:45 ID:8/47zDzA
さて、ここでいったん話を切ろう。

最初に君らに念頭に置いといてもらったのは“判断力”ってことだが、どうだろう?
ここで一番物事を判断しなきゃならないのは誰だ?

ジョナサンはまあ、今回そろったメンツの中では顔見知りがいない分判断は連中任せ……とは言っても本人の目的は明確だからまっすぐ行くだろうね。
玉美も同じ。まあ判断の基準が『トリッシュ様』の命令だから何とも言えないけど。全て彼女に一任します!って感じで。
ナランチャは……頭がアレだから行動方針やら何やらの判断は出来なさそうだなぁ。戦闘になれば天才的な勘、つまり判断ができるんだけど。

で、メインはトリッシュとフーゴの二人だろうね。
どちらも『ジョジョ』を知ってて、しかもトリッシュに至ってはブチャラティに送り出されてきたばっかりで。
情報交換も慎重になりそうだ。各々の考えや判断をいかに先の三人に伝えるかが課題だろうね。

――で、忘れちゃあいけないのがジョンガリ・A。
現状で選択肢が、つまり判断しなければいけないことが一番多いのは彼だと思うよ。しかもそれを一人で判断しなければいけない。自分の判断の尻拭いもすべて自分ですることになる。
これは中々のプレッシャーだろうね。あ、いやプレッシャーと表現するのはアレだけど。

あとはそうだなぁ……この話には出てこないけど、ムーロロだってずっとフーゴのポケットで話聞いてるはずだからね。判断要素が一気に増えたと思うよ?
殺戮ウイルスって聞いてたフーゴのスタンドが相手を殺さなかった?
最近デビューした歌手がなんでパッショーネの連中と知り合いなの?
……とか。
でもまあ、ここで俺がムーロロについて話しても仕方ないからね。ほら何というか――話さない方が面白くない?彼の場合は。


――え?俺の判断力?
いや俺は大してないよ。選択肢を選んでくゲームなんかはいっつも負けばっかりで、


……ってうわっヤメ、フォーク投げるの止めて!痛いから!ごめんマジごめんってッ――

586判断 状態表(1)  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:52:23 ID:8/47zDzA
【E-6 南部 路上  / 1日目 午前】


【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(小程度に回復)、貧血(ほぼ回復)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.ナランチャやフーゴの知り合いか!情報交換をしよう。
1.先の敵に警戒。まだ襲ってくる可能性もあるんだから。
2.『21世紀初頭』? フーゴが話そうとしていたことは?→方針0の情報交換で聞こう
3.『参加者』の中に、エリナに…父さんに…ディオ……?→方針0の情報交換で何かわかるかも?
4.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
5.ジョルノは……僕に似ている……?
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。


【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額にたんこぶ(処置済み)&出血(軽度、処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.トリッシュだ!仲間増えてよかった!エアロスミスで警戒してるから情報交換しようぜ!
1.フーゴが話そうとしていたことは?→方針0の情報交換で聞こう
2.ブチャラティたちと合流し、共に『任務』を全うする。
3.アバッキオの仇め、許さねえ! ブッ殺してやるッ!
4.フーゴのパープルヘイズが『逃げ』で済ました……?よくわかんねー
[備考]
※放送を聞いていません。フーゴのメモを写し、『アバッキオの死が放送された』と思ってます。
※エアロスミスのレーダーは結局花京院もジョンガリ・Aもとらえませんでした。


【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:健康、やや困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.トリッシュ……素直に喜んでいいものか、とにかく情報交換はせねば。
1.先の襲撃&追撃に引き続き警戒。
2.ジョナサンと穏便に同行するため、時間軸の違いをきちんと説明したい。→方針0でしっかり話しておこう
3.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す。
4.ナランチャや他の護衛チームにはアバッキオの事を秘密にする。しかしどう辻褄を合わせれば……?

587判断 状態表(2)  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:52:46 ID:8/47zDzA
【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:肉体的疲労(中程度までに回復)、全身に凍傷(軽傷だが無視はできないレベル)、失恋直後、困惑
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服
[道具]:基本支給品×4、破られた服、ブローノ・ブチャラティの不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
0.フーゴ……いざ会うと複雑な気持ちね、とにかく情報交換かしら
1.ウェカピポとルーシーが心配
2.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく(ただし情報交換・方針決定次第)
3.ありがとう、ブチャラティ。さようなら。
4.玉美、うっさい

[参考]
ブチャラティ、ウェカピポ、ルーシーらと、『組織のこと』、『SBRレースのこと』、『大統領のこと』などの情報を交換しました。


【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:全身打撲(ほぼ回復)、悶絶(いろんな意味で。ただし行動に支障なし)
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
1.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。
2.とりあえずトリッシュ様に従って犬のように付いて行く。
3.あくまでも従うのはトリッシュ様。いくら彼女の仲間と言えどあまりなめられたくはない。
4.トリッシュ様、ナイス腹パンです……

[備考]
拳銃の弾は無くなりました。


【E-6 中央部 / 1日目 午前】


【ジョンガリ・A】
[スタンド]:『マンハッタン・トランスファー
[時間軸]:SO2巻 1発目の狙撃直後
[状態]:肉体ダメージ(小〜中)、体力消耗(ほぼ回復)精神消耗(小)
[装備]:ジョンガリ・Aのライフル(30/40)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済み/タルカスのもの)
[思考・状況]
基本的思考:DIO様のためになる行動をとる。
0.襲撃する?取り入る?見逃す?どうする、俺?
1.情報がほしい。
2.ジョースターの一族を根絶やしに。
3.DIO様に似たあの青年は一体?

588判断  ◆yxYaCUyrzc:2013/05/17(金) 05:53:35 ID:8/47zDzA
以上で本投下終了です。……規制YYYYYYYYYorz
仮投下からの変更点
・wiki収録に合わせて***を●●●に変更(これをやると必ず作品を読み返すので誤字訂正も兼ねてたりします)
・若干の表現の変更(内容に変更なし)
当初はもう単純にフーゴ組とトリッシュ組を出会わせるだけの予定でしたが、襲撃中だったのね彼ら。ということで。
残念ながらc.g氏が破棄した予約、そこに入ってたムーロロは混ぜませんでした。予約は取り消してましたし当然と言えば当然ですが。

あと、私が描く『出会いや移動のみのつなぎ話』の場合、大概は状態表の疲労やダメージが前SSよりも若干回復します。
原作でも治療担当がいなくても結構回復してるだろお前らwってことで大きなフラグになりそうにないダメージや時間が相当経った疲労などはどんどん回復させてます。
そういった点に関してもご指摘いただければと思います。

今後もちょっとでも過疎っぽい個所動かせていければなと思っております。それではまた次回。

589 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 12:59:58 ID:koqtDMYQ
ずっと規制中です。今回も代理投下お願いします

川尻しのぶ、空条承太郎、リンゴォ・ロードアゲイン
投下します

590 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:00:38 ID:koqtDMYQ



 車は市街地をのろのろと進む。

 川尻しのぶは、運転席に座る空条承太郎の顔色をうかがっては前を向き、話しかけようとして口をつぐむ、そんなことを繰り返していた。
 彼女がなにか話しだそうとしていることに、承太郎は気づいている。しのぶも、彼が気づいていることに気づいている。
 しかし二人の間に会話はなかった。
 のろのろ進む車と同じように、わだかまった空気が二人を取り巻き、車中を支配していた。

 やがて、意を決したようにしのぶが口を開いた。

「さっき、…………死んだ、あの人、死ななければならないほどのことをしたの? って思うんです。
 空条さんはあの人のことを知っているみたいでしたけど、
 こんな、殺し合いをしろだなんていわれて、あの人、怯えているようにも見えました。
 『危険人物』として、処理しなければならない人だったのか、わたしには……」

「あの男、スティーリー・ダンは疑いようのない人殺しで、他人の命をなんとも思わねぇクズだ。
 ヤツは俺たちを殺す気でいた。かつて対峙したときも、先ほども。
 すでに攻撃もなされていた。あなたが気づかなかっただけで」

「でも、あんな一瞬で、……無力にするだけで十分だったかもしれないのに……」

 承太郎が静かにため息をついた。

「聞き出すほどの情報もないと俺は判断した。
 手足を縛ったところでスタンドを封じることはできねぇ。
 気を失わせれば無力化はできる。が、そうしたところでなんの役にも立ちやしない」


――だからスティーリー・ダンを殺したのは正しい判断だった。


 承太郎はしのぶを見ようともしない。その目はあくまで窓の外に向けられている。
 車中に静寂が舞い戻る。それきり、話しは終わる。
 と、思われた。
 少なくとも承太郎はそう思っていたのだが、しのぶは違ったらしい。
 彼女は逆に息巻いてまくし立てた。

「でも、判断が間違っている可能性もあるじゃないッ!
 よくわからないけど、人によって『未来』から来た人、『過去』から来た人、それぞれ違うんでしょ!?
 誤解して間違いを犯してしまう人もいるかもしれないわ。
 こんな状況だし、誰かを守るために闘おうとしている人、目的があって悪人と協力している人もいるかもしれないじゃない。
 アナスイさんが嘘をついている可能性や誤解している可能性だってゼロじゃないわ。
 その状況でプッチという人の仲間に出会ったら、その人が悪人ではなさそうだったら、空条さんは」
 
「すでに、話してあるはずだ。
 俺は、俺の判断により危険人物を排除すると。
 あなたはそれを承知でついてくるといった。
 俺にあなたを守る義務はない。
 俺の判断基準について、あなたを納得させる必要もない」

 しのぶの早口を遮り、単純な説明を繰り返すように承太郎がいう。
 声をあらげるわけでもなく、ただ、淡々と、ゆっくりと。
 ぐっと言葉につまり、息だけは荒くしのぶが顔を歪める。
 でも、でも、と子供のように話の糸口を探す。

「でも……、わたし、ひどい母親でした」

 話の飛躍に承太郎は閉口する。
 なぜ感情を優先して、非論理的な話し方をしたがるのだろう。彼女もそうだった。
 過去を思い出し、承太郎の目がかすかに遠くなった。
 そんな彼の様子などおかまいなしにしのぶは話し続ける。

591 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:01:45 ID:koqtDMYQ

「早人のこと、むかしは全然かわいいと思いませんでした。
 生まれた頃はかわいいと思ったこともあったけど、自己主張するようになってからは手に負えなくて。
 あの子がなにを考えてるかわからなくて、不気味に思ってました。自分の、子供なのに。
 あの人に対してもそう、回りがかっこいいっていうから、優越感からつきあって、そのまま結婚して……
 あの人はなにもいわなかった。それすら不満に思ってました。
 なんて『つまらない』男なんだろう、って」

 『つまらない』といったとき、しのぶははっきりと嫌悪の表情を浮かべていた。

「あの人がいなくなって、生活していけなくなって、わたしと早人は以前に住んでいたのよりずっとぼろいアパートに越しました。
 せまいアパートで、二人で暮らすようになって、わたし……、
 ようやく、……あの人の真面目さがわたしたちへの愛情だったことに、気づいたんです。
 給料が安くても、夕飯が用意されてなくても文句も言わず、あの人はわたしと早人のために毎日働いていた。

「でも、ふとしたときに、急にムカムカした気持ちが湧き上がってくることがあって、
 隣の部屋から、薄い壁を通して、幸せそうな声が聞こえてくるとき、
 どこからか、わいた虫をゴミ箱に捨てるとき、
 くだらないことで早人と言い争ったとき……、すごくつらくなって、
 何故もっと早く気づかせてくれなかったの、直接いってくれたなら、いい返してくれたならよかったのに、
 こうなる前に、なにかが変わっていたのかもしれないのに、
 ……って、そう何度も何度も、いなくなったあの人をなじっているんです」

「おっしゃりたいことがわかりかねます。
 いま、そのことを話す必要性についても」

 話の着地点がまったく見えて来ませんが。
 と、承太郎が口を挟んだ。慇懃でいて、ひどく無礼な口調で。
 彼は神父でもなければ、カウンセラーでもない。
 無駄な話に付き合って精神を消耗させる義理はないのだ。
 しのぶはいくらか傷ついた表情をしたが、

「わたしは、ひどい母親でした」

 しっかりと承太郎の瞳を見据え、もう一度繰り返した。

「でも、いまは、息子を、早人を愛しています。あの人のことも。
 わたしは十一年間気づかなかった。それでも、わたしは、自分がむかしとは変わったはずだと、信じます。
 『人』の本性は変わらないと、空条さんは考えますか?」

 しのぶは、どこか焦っているように頬を紅潮させている。
 いい足りないようにも見えたが、彼女はそれきり喋らなかった。
 承太郎は、やはりしのぶを見ようとはしなかった。
 彼にしては長いこと黙り込んでいたが、やがて、口火を切る。
 その声色には、あからさまな侮蔑の念がこめられていた。

「川尻さん、あなたは……、
 さきほどのスティーリー・ダンも、そして吉良吉影も、プッチとかいう野郎も、更正の可能性があるといいたいのか……?
 排水溝のネズミにも劣るゲス野郎にも反省の機会を与えれば、生まれ変わる可能性があると。
 俺にそれを見極めろというのか?
 この、殺し合いの場で。肉親を亡くしてなお。
 その必要があると、そういいたいのかッ!?」

 しのぶは、これほど多弁になった承太郎を見たことがなかった。
 承太郎はそのまましのぶの返答も待たず、言い募る。

「俺はいい父親とはいえなかった。あなたと同じだ。
 娘の行事に顔を出したことは一度もない。
 あいつが望むように、なにかしてやれたことはなにもない。
 いつも、怨みがましい目であいつは俺を見ていた」

 承太郎の双眸がしのぶに向けられる。暗緑色の瞳は激しい感情を映し燃えていた。

592 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:02:08 ID:koqtDMYQ

「俺は娘を愛している。心の底から『愛していた』。
 だが、人は……、人の本性は変わらない。
 俺はいい父親にはなれなかった。今までも、これからもだ」


――その機会は、永遠に失われてしまったのだから。


「どんな方便をいったところで変わらない。
 あなたは……、あなたが思いこんでいるようには変わっていない。
 おそらく、あの『吉良吉影』を想っていた頃と、少しも……」

 承太郎が視線を逸らす。彼の声は次第に小さくなっていった。

「人道を説くのはあなたの勝手だ。
 だが、あなた自身は…………」


(自分の、本当の気持ちに、向き合えるのか?)


 最後は言葉になっていなかった。
 車中の熱気が急速に去っていく。
 承太郎は少しばつが悪そうに窓の外を眺めていた。
 しのぶは深くうなだれている。細いあごの先から、水滴がパタリと落ちた。
 それきり、なんの物音もしない。

 車はいつの間にか止まっていたらしい。
 承太郎が車を降り、ドアを閉めた。
 足早に去っていく。振り返りもせず、ただまっすぐに。
 すぐに足音も聞こえなくなった。晴天の下、のんびりとした空気の中にしのぶはただひとり残される。


 こんなことを話そうと思っていたのではない。
 と、しのぶは自分の無力さに打ちひしがれる。

 頭の中には、論理的な話の道筋ができていたはずだった。それなのに。
 話し始めるとつい感情に流され、けんか腰になってしまっていた。
 承太郎を糾弾したかったわけではない。
 まして『吉良吉影をかばおう』としていたわけではなかった。

 たしかに、あまりに一方的な惨殺劇は、ショックだった。
 『見張られている』という緊張感、銃を持ち出されたときの恐怖、転がってきた生首の衝撃。
 大の大人の首が、あんなにも一瞬で、簡単に……。

 衝撃から遅れてやってきたのは哀れみだった。
 川尻しのぶはスティーリー・ダンを知らない。
 もしかしたら、彼は殺人者でありながら、家庭では優しい人間だったのかもしれない。そう考えてしまう。
 身内に優しい犯罪者など、客観的に見ればそれこそ処断されるべき人間だとは思う。
 それでも、胴体と切り離された頭のヴィジョンは、哀れみを誘わずにはいられなかった。

 そして『吉良吉影』への未練がまったくない、といえば嘘になる。
 夫が初めて自分で夕食を作ったあの日――あの瞬間から、夢見がちな少女のようなドキドキした日々を過ごした。
 その淡い感触は、罪悪感を伴って、いまもまだこの胸の内にある。
 死んだはずの吉良吉影が存在している。
 その人は連続殺人鬼だというけれど、もしかしたら、自分をかばってくれたときの彼が『本当』の彼で、心根は優しい人間なのかもしれない。
 どうかしてると思いながら、それを期待している自分も認めざるを得なかった。
 自分が夫や息子への愛情を得ることができたのは、逆説的には吉良吉影のおかげという事実を、正当化したいのかもしれない。
 吉良吉影が、本質的には真っ当な人間であったから、彼との一時的な生活が、自分を変えた、と。そう、自分を納得させたいだけなのかもしれない。

 それを承太郎に指摘されたため、しのぶは言い返せなかった。
 夫を亡くし、息子を亡くし、それでも『危険人物』の排除を止めて欲しいなんて、身勝手でとち狂っている。
 しかも最愛の娘と母親を亡くした人に対していったのだ。
 けれど、吉良吉影との再会を承太郎に甘えて、彼の温情にすがって行おうなどとは、しのぶも考えていない。

 しのぶは、ただ、承太郎を止めたかったのだ。
 承太郎が『殺人者』になったときから感じるしのぶ自身の苦しみを、彼女は承太郎がひた隠す内心そのものだと感じていた。
 感じてはいたけれど、うまく言い表せない。
 言い出したとたんになにか別のものに変わってしまう。

593 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:02:31 ID:koqtDMYQ

 無差別に人を殺すのは悪人で、悪人を懲らしめる必要な人が必要というのは理解できる。
 罰されるべき人間、罰されるべき罪は存在する。

(でも、どこまでが許される罪で、どこからが罰される罪なの?
 その判断を一人の人間に負わせてしまっていいの?
 あんなに……、優しい人なのに)

 人を殺したあとの承太郎の瞳を、しのぶはもう見たくなかった。
 あの目を見ているとつらく、悲しい気持ちになる。

(でも、どうすれば……?)

 アナスイ青年は力で承太郎を止めようとして、返り討ちにあった。
 純粋な力で、承太郎にかなう人間なんているのだろうか。

(わたしの、本当の気持ち……)

 額に手をあてて考える。
 息子の顔が、夫の顔が、まだ見ぬ吉良吉影のぼんやりとした輪郭が、そして空条承太郎の寂しげな横顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えた。


 うめきながら顔をあげる。
 少し落ち着いたためか、周囲を見渡す余裕ができていた。
 車外を見れば見慣れた景観、杜王町のぶどうが丘高等学校がすぐ目の前にあった。

「あっ……」

 しのぶがなにかに気づき、声をあげる。
 その視線の先にあるのは高等学校のグラウンドだった。
 不自然に土が盛り上がり、よくみればすぐ脇に大きな穴があいている。
 人を埋めようとして穴を掘れば、あれくらいの土が積み上がるだろうか。

(空条さんは、あれを調べるために出て行った……?)

 ついに愛想を尽かされたわけではないらしい。
 いくらか希望を取り戻し、しのぶも車を降りた。
 足元に、小さなシミのようなものがあるのに気づき、目をこらす。
 血痕だった。
 よく見れば点々と標のように残されている。
 不安な気持ちを抱えたまま、小走りに人けのないグラウンドを横切った。

「……なにも、いないわ」

 おそるおそる穴を覗き込み、しのぶは少し安堵した。
 土塊の横の大きな穴の底には乾燥して白くなった地肌がのぞいている。
 正直、無残な死体が転がっていることを覚悟していた。
 自分の墓を掘らせて殺す。そんな、どこかで聞いた拷問方法を、置かれた状況から連想してしまっていたのだ。

(なら、空条さんは、どこへ……?)

 そう思ったとき、ふと程近い茂みの向こう側が気になった。
 白い塊がちらちらと見え隠れしているように思える。
 胸が早鐘を打つ。
 見ない方がいい。と頭の中から警告がグワングワンと響いていたが、足は自然とそちらへ向かう。

 白い布地になにかがくるまれている。
 ミイラのようなそれは、ところどころが点々と赤黒い。

 布の隙間に手を伸ばす。
 厚い布地からあらわれた、それは――――


 血で固まった逆立てた銀髪。
 威圧的にせりでた額。
 眼帯によって隠された、顔の右半分を十字によぎる古傷。

 すでに絶命した白人男性の顔……。


「うぅ……」

 目を背け、後ずさる。吐き気をこらえるのでやっとだった。

 川尻しのぶに知る由はないが、それは承太郎の旧友J・P・ポルナレフの死体。
 アヴドゥルは親友を埋葬しようとして思い止め、ビーティーと手を組んだ際にポルナレフを置き去った。
 埋めてしまうのがしのびなかったため、彼らは死体を茂みへと隠していったのだ。
 アヴドゥルが背負って歩くには文字通りただの『荷物』であると、当然の判断だった。
 親友を置いて去るのにはあまりに簡素、手を抜いた後始末に見えないこともなかったが、
 手を組んだばかりのビーティーを私事に長時間付き合わせるわけにはいかないという、アヴドゥルの苦渋の判断がそこには垣間見られた。

 が、しのぶにそれを知るすべはない。
 そこにあるのは、頭を割られて絶命したと見られる男の死体。
 なぜ穴を掘っておきながら埋葬されずに置き去られていたのか。埋葬をしようとした人間と殺害した人間は異なるのか。
 結論を出すことも不可能だった。

594 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:02:52 ID:koqtDMYQ

 おそらく承太郎も同じような思考をたどったのだろう。
 近くに犯人の痕跡があるかもしれない。
 そう考え、見渡してみれば、校舎の一階に窓ガラスが割れている箇所がある。
 承太郎はそこに向かったに違いない。

(もし、この人を殺した人と、空条さんが鉢合わせたら……?)

 胸がざわざわする。いてもたってもいられず、しのぶは走り出した。



   *   *   *



 割れた窓ガラス。熱でひしゃげた金枠。無数の弾痕。
 プラスチックの焦げた匂い。腐臭。かすかに混じる、血の匂い。

 ぶどうが丘高等学校の校舎の中を空条承太郎は歩いていた。

(火事、か……?)

 それにしては燃え方が局所的で、爆発物にしては床面の破壊が少ない。と、承太郎は思った。
 金属が溶けるほどの高熱が発されたはずなのに、火は自然に消えている。
 燃えカスが少ない点も不自然だった。一瞬の発火と同時の鎮火。化学的な現象とは思えない。
 というより、実のところひとりの知り合いの『能力』を承太郎は思い出していた。
 情に厚く、生真面目な男の『炎を操る能力』を。

 1年B組の教室に入ったとき、腐臭がひどくなった。
 原因はじっくりと探すまでもなくすぐに判明する。
 人間のような四肢を持ってはいるが、とても人間とは思えない形相をした化け物が教室の中央で絶命していた。
 ところどころが炭化し、凄絶さに色を添えている。
 承太郎は無表情に、焼死体とその周囲を検分した。
 死体はすでに冷たくなっている。数時間前に絶命したと思われた。
 死体の周囲には机とイスが放射状になぎ倒されている。
 どうやら化け物は隣の1年C組の教室を突き抜け、ここまで吹き飛ばされてきたらしい。
 穴の向こうにいっそう煤だらけの机やイスが散乱しているのが見えた。

 C組もB組と変わらない、いや、それ以上の腐臭と血の臭いが充満していた。
 死体はどこにもなかったが、ここで殺し合いが行われたとはっきり理解できるほどの血が床に広がっている。
 学校にはあつらえ向きのサッカーボールが、赤く血に染まっている様がある種不釣り合いだった。
 そして床の上には、ドロドロに溶けたおぞましい『なにか』がある。
 『星の白金』を発現させドロドロの『なにか』を解剖してみる。
 臓物をこねくり回して焼き上げたような異様な物体は動かない。
 それが生物だったとしたら、すでに絶命しているようだった。

 これ以上この教室を調べてもなにも利はあるまい。そう判断した、そのときだった。
 ずずっ、と引きずるような足音が廊下の方から聞こえてきたのは。

(化け物の仲間か?)

 学校を根城にし、迷い込んだ人間を惨殺する化け物を思い描いてみる。
 ポルナレフを斬殺したのは彼らだろうか。
 戦闘の予感を感じながら、あくまで冷静に、承太郎は教室を後にする。

 廊下に出てみれば、50メートルほど向こうにひょろりと長身の男の姿があった。
 男の足取りは重い。脚を引きずるように全身を上下させている。
 怪我をしているのか右腕を無気力にぶらぶらとゆらし、左腕で空気を『掻く』ようにしてこちらへ歩いて来る。

 二人の間が10メートルほどの距離になったとき、男は足を止めた。
 顔をあげ、話しだそうとして、むせ、ベッと口中のものを吐き出す。
 黒ずんだ床の上に、真っ赤な鮮血が散った。

「……エシディシという男を知らないか。
 民族衣装の様な恰好をして、がっちりとした体つきの2メートル近い大男だ。
 鼻にピアスを、両耳に大きなイヤリングをしていて、頭にはターバンの様なものも巻いていた」

 今にも倒れてしまいそうな、か細い声で男は語る。
 ぜいぜいと喉がなり、何度もつばを飲み込んでいた。

「放送を聞かなかったのか?
 エシディシという男は名前を読み上げられた。
 『すでに死んでいる』」

 承太郎のにべもない返答に、リンゴォの灰白色の瞳が暗く沈みこむ。
 モゴモゴとなにか、聞き取れないことを自嘲気味に呟いて、ふたたび彼は歩き出した。
 承太郎は微動だにしない。が、彼はリンゴォを見送らなかった。

「人を殺しそうな目をして、人探し、か。
 死んだはずの男になんの用だ?」
「………………」

595 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:03:31 ID:koqtDMYQ

 リンゴォは答えない。そのまま通り過ぎようとする。
 彼の腰に差したナイフが承太郎の目を引いた。
 どこかで見たことがある小振りのナイフは、血曇りで汚れている。

「そのナイフ……、野ウサギでも捌いたのか?
 ここで、なにをしていた」

 ゆきかけていたリンゴォが、歩みを止める。
 上体だけをひねった姿勢で彼は承太郎を見つめた。
 その血走った瞳が映すは、純然たる『憎悪』の感情。

「貴様には関係のないことだ、『対応者』」
「ほ……う……」



   *   *   *



「はぁ……はぁ……」

 まともな運動をしなくなって何年経っただろう。
 少し走っただけで息があがってしまう。
 心だけが急く状況で、高等学校のグラウンドは川尻しのぶにとってやたら広く感じられた。

 空条承太郎は優しい。
 だからこそ、彼はもう迷わない。
 いまの彼はきっとすべての危険人物を排除してしまう。
 時間軸の違いから生じる無知、誤解から殺人を犯してしまう人、『彼自身』が救いたいと願う人も、許したいと思った人も、
 『危険人物だから』
 その判断さえあれば彼は殺してしまうだろう。

 でも、そうやってすべての危険人物を排除したとき。
 あなたのそばには誰が残っているの?
 最後に滅ぼすのは、もっとも許せない、ほかならぬ自分自身じゃないの?


「空条さん……ッ!」


 しのぶが空条承太郎の後ろ姿を見つけたとき、すべては『終わった』あとだった。
 彼の足下には壮年男性が横たわっており、その胸には、承太郎が所持していなかったナイフが突き刺さっている。

 男が承太郎に襲いかかろうとしたのか、あるいは会話から承太郎が危険人物と判断したのかは、もうわからない。
 男のこけた頬には血の気がなく、地面に流れ出た血液はすでに手遅れだということを暗示していた。

 承太郎はしのぶを見留め、少しだけ意外そうな顔をする。

「どうして、どうして……ッ!!」

 しのぶが、わっ、と泣き出し、くずおれる。
 承太郎はなにも語らない。しのぶに対してなにかを説明する義務はもう微塵も感じていないようだった。

 しのぶを横目にリンゴォの荷物を探り始める。
 その手が一枚の折りたたまれた紙を見つけたとき、はたと、止まった。
 それに気づいたしのぶが、泣きながらも不思議そうな表情を浮かべる。
 いまや見慣れた『支給品』が出てくる紙を、なぜ承太郎は注視するのだろう。

 緊張した様子で承太郎が紙を開く。
 現れたのは、奇妙な形をしたロケットペンダントだった。
 虫のようにも見えるそのフォルム。
 チェーンもついていないそれを『ロケットだ』としのぶが判別できたのは、承太郎がそれを開いてみせたからだ。

 中を確認し息を呑む。


「…………ッ!!」


 安堵でもない。驚きでもない。
 哀しみに似た感情が、承太郎の顔面を、さっ、とかけめぐった。
 彼の無骨な手の中でロケットがパキリと小さな音をたてる。

 彼が泣いているのかと、しのぶは思った。
 それほどまでに沈痛な表情で、長いこと、承太郎は双眸を閉じていた。
 だらりと下げた手の隙間から、いびつな形になってしまったロケットが転がり落ちる。

 彼が目を開いたとき、承太郎は表情はサイボーグのようなそれにまた戻っていた。
 承太郎が立ち上がる。校舎の出口へと向かう足取りに迷いはない。

596 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:03:46 ID:koqtDMYQ

 追いかけようと、立ち上がりかけたしのぶの目の隅で、ロケットがチカリと光った。
 承太郎が捨てていったなんの役に立つかもわからないロケットを、迷いつつ、しのぶは手に取った。
 急いで走り出し、承太郎の横に並ぶ。


(わたし、あなたを止めてみせる……ッ)


 挑むように睨み付ける。
 承太郎はその視線を受け流すように、ただ前を向いていた。



   *   *   *



「フ……フフ……、これが……果てか…………」

 その胸に短刀が突き立てられたとき、リンゴォ・ロードアゲインは笑っていた。
 時を巻き戻す能力を所持した彼は、止まった時の中でも、そこで起きていることをすべて認識していた。

 承太郎が不快感をあらわに睨みつける。
 見知らぬ、死にかけの男が止まった時を認識できたことが意外で、気に入らなかった。
 スティーリー・ダンが浮かべた驚愕の表情とは違う。
 死を理解して、なお、男は嘲るように笑う。

「フフ……ハ、ハハハハハ…………」

 時が動き出し、リンゴォの長身が崩れ落ちる。
 名は、と問いかけた承太郎を無視し、彼は笑い続けていた。
 全身をひきつらせ、血を吐きながら、地面をのたうつように、笑う。
 実際には痙攣がそうさせていたのだが、すべてが承太郎には不快だった。


 呪詛のようなその声が。宙をさまようその視線が。


 アナスイの彷徨が。


 ポルナレフの死に顔が。


 しのぶの熱情的な双眸が。



 結果的に彼女を連れまわしていることに意味などない。意味などないのだ。



 川尻しのぶの手の内では、いびつになったロケットの奥で、一組の男女が、穏やかな表情を浮かべている。





【リンゴォ・ロードアゲイン 死亡】
【残り 56人】

597 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:04:10 ID:koqtDMYQ
【C-7 ぶどうが丘高校 / 1日目 昼】
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』
[状態]:???
[装備]:煙草、ライター、家/出少女のジャックナイフ、ドノヴァンのナイフ、カイロ警察の拳銃(6/6 予備弾薬残り6発)
[道具]:基本支給品、上院議員の車、スティーリー・ダンの首輪、DIOの投げナイフ×3、ランダム支給品4〜8(承太郎+犬好きの子供+織笠花恵+ドルチ/確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.???
1.始末すべき者を探す。
2.ポルナレフの死の間際に、アヴドゥルがいた?

【川尻しのぶ】
[時間軸]:The Book開始前、四部ラストから半年程度。
[スタンド]:なし
[状態]:精神疲労(中) すっぴん
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、承太郎が徐倫におくったロケット、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎を止めたい。
1.どうにかして承太郎を止める。
2.吉良吉影にも会ってみたい。

【備考】
承太郎はポルナレフの死体を発見し、ぶどうが丘高等学校の一階部分を探索しました。
リンゴォが所持していた道具の内、折れていない3本を承太郎が回収し、折れている2本は基本支給品とともに放置しました。
リンゴォが装備していたナイフはリンゴォの死体の胸部に突き刺さっています。
リンゴォのランダム支給品の残り一つが【承太郎が徐倫におくったロケット】でした。
しのぶはロケットの中身をまだ見ていません。


【承太郎が徐倫におくったロケット@6部】
徐倫の危機に承太郎がおくったロケット。
矢の欠片は入っていなかった。
潜水艇の探知機能に反応するかは不明。

598 ◆4eLeLFC2bQ:2013/05/30(木) 13:04:30 ID:koqtDMYQ
以上で投下完了です。
タイトル『本当の気持ちと向き合えますか?』

言葉の誤用が多かったので、仮投下時から何箇所か変更しています
内容の変更はありません
問題点、誤字脱字等ございましたら指摘をお願いします

599 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:50:26 ID:f6pinpKM
せっかくゲリラ投下しようと思ったのに、スレが立てられねえ。
悔しいけどこっちに投下します。

というわけで、みなさんお久しぶりです。
ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル発売記念。
DLC配信キャラ VS セッコ 投下します。

600 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:51:49 ID:f6pinpKM
(さて………どこへ隠れたのかな………?)


薄ピンク色の亜人を傍に携え、吉良は礼拝堂内を見渡す。敵の姿は見えない。
この広い礼拝堂にはテーブルも椅子も多い。
柱や彫刻像のような遮蔽物も多ければ、カーテン付きの懺悔室まである。
隠れる場所は多い。

敵は吉良の『キラー・クイーン』とように特殊な能力を持ったスタンド能力を所持している。
吉良には初めての『スタンドバトル』だ。
現在のこの状況は吉良にとって非常に好ましくない状況であった。

1つめの問題は、講堂内にいたはずのストレイツォとリキエルの姿が見えない事だ。
死体を発見したわけではないが、吉良は2人が既に無事ではないであろうと推測し、その前提で考えを進めていた。
正義感の強いストレイツォがこの期に及んで姿を現さない理由がないし、それに現在の敵の手口は不意打ちの暗殺だった。
攻撃を受けた『キラー・クイーン』の―――吉良の両腕がまだビリビリ痺れている。
敵スタンドのパワーは非常に強い。波紋やロッズでは攻撃を防ぐことすらできないだろう。
奴を相手にするには、こちらも高い攻撃力を持つ『スタンド』でなければならない。
例えばそう、『キラー・クイーン』のような。

第2に、『キラー・クイーン』を敵に見られてしまった事だ。
先ほど攻撃を防ぐために、咄嗟に出現させてしまった。
もっとも防がなければ殺されてしまっていたので仕方がない事なのだが、目撃されたからには必ず消す必要が出てきてしまう。
姿は見えないが殺気は感じるため、敵側も戦うつもりではあるようだった。
その点については幸いしているが、もう逃すわけにはいかなくなった。
この先も無力なサラリーマンを演じていくためにも、目撃者を生かしておくわけにはいかない。

601 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:52:42 ID:f6pinpKM


「ストレイツォ! リキエルッ! どこだ助けてくれ!? 攻撃されている!!」

おそらく返事は帰ってこないであろう呼びかけを叫ぶ。
声を張り上げた理由は敵を呼び寄せるためだ。『私はここに居るぞ、さあ掛かって来い』といったところだ。
だが、それでも敵は姿を見せようとしない。
吉良のハッタリを見破って、挑発に乗らずチャンスを伺っているのか?
だとしたらなかなか大した奴だ。
見た目は頭の悪そうな出で立ちであったが、戦闘においてという点ではバカでは無いということか。

(これでもまだ出てこない。やれやれ、面倒だな………)


問題その3。ホル・ホースと空条徐倫の存在だ。
散歩に出かけたあの2人。まだこの教会の付近……遠くへは行っていないだろう。
戻ってくるまで、あの1分?2分? 今すぐにでもここに現れるかもしれない。
ストレイツォたちが(おそらく)死んでしまった今となっては、もはやホル・ホースたちと組み続けることはできないだろう。
いろいろ聞かれて誤魔化し切ることは難しい。あの2人も、もう消すしかないだろう。

2人を殺すこと自体は別に問題無いのだが、まずいのは『今の敵との交戦中にこの場に戻って来られること』なのだ。
そのまま吉良と力を合わせて3人で戦ってくれるのならばまだいい。
だがあの空条徐倫という小娘は、『敵』と『私のスタンド』を確認して、そのまま何処かへ逃げ出してしまうかもしれない。
あの怯えていた様子では、無理もない。
さらにホル・ホースがそれに同調したならば、『吉良吉影がスタンド使いである事』、そして『その事実を隠していた事』を知る人間が、吉良の元より逃げてしまうということになる。
無力で無害な一般人を演じたい吉良としては、その展開は非常にまずい。
よしんばその場は共闘を選んだとしても、スタンド使いであることを隠していた事実は変わらない。
疑念を抱かれてしまえば、1対2では暗殺も難しくなる。

吉良にとってのベストは、ホル・ホース達の帰還前に敵を瞬殺し、後に戻って来た2人を不意討ちで仕留める事だ。




(敵は動きを見せない。時間は無い。ならば――――)


「『シアーハートアタック』―――!」

吉良自身から打って出るしかない。

602 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:53:13 ID:f6pinpKM

『キラー・クイーン』の左手甲から分離し射出される、無慈悲なる爆弾戦車。
第二の爆弾『シアーハートアタック』。
本体である吉良の意思とは分離した自動操縦型の能力であり、『温度』を頼りに標的を見つけ出し爆殺する。
禍々しい髑髏の顔とキャタピラのみの小さな車体は異常なまでの強靭さを誇り、物理的な破壊をすることもほとんど不可能と言える。

「――――――『弱点』は、ない」

そう吉良が自負するに値する強力な能力なのだ。

『コッチヲ見ロォォ―――』

ギュルギュルと音を立てながら爆弾戦車が礼拝堂内を駆け巡る。
長椅子やテーブルの間を縫うように走り回り、自動で探索する。
この能力の前では、隠れる場所も逃げる場所もない。
やがて『シアーハートアタック』は『何か』の温度に反応し、走り出す。


(やれやれまったく、この能力まで見せる羽目になるとは思っていなかったが……
だが、『シアーハートアタック』が『奴』を捕捉した以上、もう勝負は付いた。
結局あの男が何者で、どんな能力だったのかわからないままだったが、しかし一つだけ間違いなく言えることがある。『シアーハートアタック』に弱点はない。
狙われた標的は、必ず仕留められる…)

講堂の入口方向へと加速する『シアーハートアタック』。
ロケット噴射のように飛び上がり、ターゲット目掛けて飛翔する。
妙な動きだ、と吉良は思った。
吉良の推測では敵が姿を潜めているのはテーブルか椅子の陰か、もしくは柱の後ろか、せいぜい壁際の懺悔室の中あたりだろうと思っていた。
それが、『シアーハートアタック』は空中に飛び上がったのだ。
この建物にも2階はあるが、天井はかなり高い。
敵の戦闘スタイルから言って、吉良を奇襲するに適した隠れ場所とは思えない。
やがて『シアーハートアタック』は、目標とした『標的』へと接近―――

(いや、違うッ! 『シアーハートアタック』の標的は『奴』ではないッ!!)

教会の入口扉から数メートル上方の壁にめり込まれた『何か』へ衝突し、大爆発を起こした。


「ああああァァァァアアアアア―――――!!!」

(何ッ!!)


突如、吉良の背後より聞こえる絶叫。
『シアーハートアタック』の標的が『敵』では無かったと気が付いた吉良が視線を切る間もなく、わずか背後1メートルに現れた敵の影。
スタンド『オアシス』に身を包んだセッコが、今にも吉良を殺すべく腕を振り上げていた。
そしてその手刀は振り下ろされることもなく宙を泳ぎ、視線と意識は爆心地付近を彷徨っていた。

603 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:53:33 ID:f6pinpKM

(この男ッ! いつの間に私の背後にッッ!? 何故『シアーハートアタック』に探知される事なく私の傍に近寄ることができたのだッ!?)

何より吉良は『シアーハートアタック』発動中でも周囲への注意は怠っていない。
その警戒を掻い潜り、吉良は敵の射程距離内への接近を許してしまったのだ。

「ああああっ!!! おっ おっ おれのアートがァァああ!!! まだDIOに見せてなかったのにィィィィィ!!!」

セッコは吉良の姿には目もくれず、爆散した肉片に駆け寄り、グロテスクなそれをかき集め始めた。
吉良にはようやく、爆破された『それ』がなんであったかを理解した。
あれはリキエルだ。この男は教会に忍び込み、リキエルを襲い殺害した。そして彼の体を切り刻み、オブジェを作り上げて教会の壁に飾っていたのだ。
そしてそれを『シアーハートアタック』が探知し、爆破した。
折角の傑作を破壊され、この男は攻撃を止め、絶叫して肉片を拾い集めているのだ。

この事は、吉良吉影のプライドを大きく傷つけた。

この男にとって、死体オブジェが爆破された事は吉良への攻撃よりも重要なことだった。
オブジェが爆発されたことで、吉良への攻撃を中断して、今、肉片を掻き漁っているのだ。
そしてもし、オブジェを爆破しなければ。この男が攻撃を途中で止めなければ。

(殺されていた――― この私は――― 『いともたやすく』――――――)

怒り。
屈辱。

(この私を殺す機会がありながら、それを安々と棒に振ったということか………)

この上ない負の感情が、吉良の心を侵食する。
決して生かして帰すものか。

(この吉良吉影を侮辱した罪、その命で償って貰うッ!!)


一方のセッコも、四散して拾い集める事など到底できないであろう肉片たちを胸に抱え、吉良への怒りに燃えていた。
彼の『処女作』は3人の少年の肉をグニャグニャと練り合わせて作った、いわば肉塊の粘土だ。
それはそれで気に入ってはいたのだが、今度の作品は一人の人間(リキエル)から、原型をあまり損ねず、なおかつ独創性のある人形、剥製の様なオブジェを作り上げていた。
チョコラータの好む恐怖の表情までも取り入れた自信作だった。
DIOをここに連れてきて、これを見せたらなんと言ってくれるだろう。そんな事を想像していた矢先の出来事だったのだ。

604 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:55:01 ID:f6pinpKM

「ゆっ 許さねェェ」

視線を切り、吉良を睨みつけるセッコ。
吉良は温度を感じさせない冷ややかな目つきでセッコの姿を眺めていた。

「てめえェェ! 絶対許さねえぞオオオオオ!! ぶっ殺――――」

『今ノ爆発ハ人間ジャネェ――――』

「ぬお?」

攻撃態勢に入ったセッコであったが、明後日の方向から聞こえる機械的な声に注意が逸れる。
吉良本体のいないセッコの側面より、活動を再開した爆弾戦車が忍び寄る。
自動追尾型スタンド『シアーハートアタック』は、本体である吉良吉影が能力を解除しない限り、いつまでも標的を狙い続ける。
攻撃はまだ終わってはいない。

『コッチヲ見ロォォ!!』
「なっ なんだコイツゥゥゥ!!?」

「私に屈辱を味合わせた分きっちりなぶり殺しにしてやりたいところだが、あいにくもう時間がないのでね。
悪いが一瞬で蹴りを付けさせてもらうよ」

即効で勝負を付けにかかる吉良。
『シアーハートアタック』はリキエルの死体オブジェを爆破したあとも、その勢いを衰えさせることもなく猛然とセッコの方へ向かっていく。
だが、『シアーハートアタック』はまたもや吉良の思惑とは異なる挙動を見せ始めた。

(何!?)
「なんだァ?」

軌道は僅かにそれ、『シアーハートアタック』はセッコが背中に回していたデイパックをめがけて突っ込んだ。
体当たりの直撃を受けたのは、中に入っていたポラロイドカメラ。
思い切り殴りつけたような鈍い音と共に、カメラはデイパックから投げ出され地面に転がる。
そして同時に、デイパックの中から写真と思われる紙切れが数枚、ヒラヒラと溢れ出てきた。

「あああああ!! おっ オレのカメラ!!」

そして爆発は怒らなかった。『シアーハートアタック』は――――――

『アレ? アレ?』

標的を見失い、ウロウロと辺りを彷徨っているだけだ。

605 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:58:12 ID:f6pinpKM


(なるほど、そういうことか)

ようやく、吉良は理解した。
奴の身体には、『温度』がない。
正確には、土と一体化したようなスーツ状の『スタンド』に身を包んでいることで、外からは奴の体温を感知することはできない。
だから、『シアーハートアタック』は奴を探知できなかった。
既に冷たくなったリキエルの死体よりも更に低温。だからこそ、『シアーハートアタック』はリキエルの死体を攻撃したのだ。

そして次に、あのポラロイドカメラ。
宙に撒かれた写真を数枚拾って見てみる。被写体はリキエルとストレイツォの死体、それも大量にだ。
ほんの数分前にこれほどの枚数を撮影したというのならば、カメラには熱が残っていたのだろう。
『シアーハートアタック』はその温度に反応した。しかし今度は爆発まではない。低くとも人間の体温程度の温度に達しなければ、爆発は起きないからだ。
そしてカメラが破壊されたいま、『シアーハートアタック』の攻撃対象(温度)は存在しない。
スタンド『オアシス』の温度は、教会の地面の温度と大差がないからである。


(弱点はないと思っていた『シアーハートアタック』だが、『温度を感じさせない敵』……
これではとんだ役立たずだ。こんな落とし穴があったとは、『スタンド』とは奥が深い)

だが、吉良は動じない。
『シアーハートアタック』が爆発しなくとも、まだ吉良には『第1の爆弾』という別の攻撃手段が残されている。
こちらは単純明快。『キラー・クイーン』の手で触れられやものは、なんでも爆弾に変えることができる。
例えそれが100円玉であろうと、なんであろうと。
今度は『シアーハートアタック』ではなく、『キラー・クイーン』の右手で敵に触れるだけでいい。

606 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:58:53 ID:f6pinpKM

「てめえカメラまで壊すとはあああッ!! っ覚悟できてんだろうなあ!?」

役目を終え吉良の元へ戻る『シアーハートアタック』を追い、セッコの『オアシス』が手刀を振り下ろす。
だが、無駄だ。『シアーハートアタック』の頑丈さは筋金入りだ。
吉良自身も『オアシス』の攻撃力は最初の攻防で理解していたが、それでも『キラー・クイーン』の両腕で止められる程度。
『シアーハートアタック』の強靭さは、そんなレベルをはるかに超えている。


ドロリ



そんな甘い考えが間違いであったことを、自らの溶け始めた左手首の痛みで思い知るのだった。

(何ィィィ!!?)

土や石と同じ温度で身を守る『オアシス』だが、能力の本質はそこじゃない。
鉱物のドロ化。それが『オアシス』の特殊能力。
爆発しない『シアーハートアタック』など、いくら硬くとも、『オアシス』の前ではただの硬い石でしかない。

(左手に痛みが……!! 『シアーハートアタック』を―――いや、物を溶かす能力―――――!!
誤算だ! 役立たずどころではない、これでは足手纏いだッ!!)

『シアーハートアタック』へのダメージが返り、左手首が泥のように溶ける。
激しく痛む左手を抑えうずくまる吉良と、その様子を見てゲラゲラと笑うセッコ。
攻撃が初めて通り、もう勝った気でいるセッコはこれから吉良をどう苦しめてやろうかを考え始めていた。




「吉良ッ!! これはいったいどういうことだァ―――!?」


そんなとき、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会に、新たな登場人物が現れた。
ホル・ホース、その後ろには空条徐倫。気晴らしにと散歩に出かけて難を逃れた2人が帰ってきた。
教会から発せられる不穏な空気を感じ取り、警戒しつつも講堂内に入った2人は、吉良たちの前にたどり着いたのだ。

607 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 00:59:32 ID:f6pinpKM

(ホル・ホースッ!! しまった、遅かったかッ!!)

まだ目の前の敵を仕留めていない、それどころか形勢は依然として不利なこの状況で、ついにホル・ホースたちが帰還してしまった。
ホル・ホースは訝しむ目で吉良と、その傍らの『キラー・クイーン』を見ていた。
無力な一般人を装っていた男が、目の前で敵とスタンドバトルをしていたのだから当然だ。

そして、その戦っている相手。
忘れるわけがない。忘れられるわけがない。
こいつは、あのDIOと共にいた、あの残酷で残忍な―――――――――



「いやあああああああああああ――――――ッ!!」

次の瞬間、空条徐倫が叫び声を上げながら脱兎のごとく逃げ出した。

ホル・ホースたちのケアもあってか幾分精神を持ち直した徐倫だったが、身体の乗っ取りからくる不安定さと、一度覚えた恐怖はそう簡単に忘れられるものではない。
DIOへの恐怖。セッコへの恐怖。
あるいは教会入口に散らばっていた、ストレイツォなのかリキエルなのかも判別できない肉片の山に、自分自身を重ねてしまったのか。

「ホル・ホースッ!」
「はッ!?」

動揺し徐倫の走り去った方向を見て立ち尽くしていたホル・ホースが、吉良の呼び声に反応し正気を取り戻す。
行くな!と、吉良は目で訴え掛ける。
苦虫を噛み潰したような顔を見せたホル・ホースは、やがて冷や汗まみれの顔を背け、カウボーイハットを深く被って目を隠し、そのまま徐倫の逃げた方角へ走り去った。



(ホル・ホースの奴―――ッ! 逃げやがった! あの糞カスどもがァァ!?)

吉良にとって最悪の展開となった。
『キラー・クイーン』を見られ、敵と戦闘している自分を見られ、そして逃げられてしまった。

嫌な予感はしていたのだ。
あの残酷で悪趣味な『アート』の姿を見た時から。
そしてリキエルの死体オブジェを爆破したとき、「まだDIOに見せてなかったのに」と、確かにそう言った。
情報交換にて得た、ディオの情報。
現在戦闘中のこの男は、空条徐倫を恐怖させた原因となった、食人鬼ではないか。
あの徐倫の反応を見るに、その想像は正解だったのだろう。
敵が他の誰かだとしたらともかく、これではまず間違いなく徐倫は逃げる。

目撃者は生かしておけない。
だが、この状況では彼らを追う事はとうてい不可能だ。
セッコは、吉良の想像をはるかに上回る強さを持った敵だった。
こいつを倒すのに、あと何分かかる?
その間に、ホル・ホースと徐倫はどこまで逃げる?
どこへ逃げる?
どうやって後を追えばいい?

セッコを倒したところで、もはや吉良吉影の秘密は守られない。
このゲームにおいて、無力なサラリーマンを演じる吉良吉影は、もう存在できない。

608 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 01:00:09 ID:f6pinpKM

「何だったんだァ? あいつら?」

2人が走り去った教会入口の外を、セッコは呆然と見つめる。
吉良という獲物が目の前にいる以上、逃げた奴らまでは対して関心がないようだ。

「フフフフフ、フハハハハハハハハ………」

そして吉良吉影は、自分の存在をアピールするかのように、自嘲的な笑い声をあげ始める。

「あんたァ、何が可笑しィんだあ? 仲間に逃げられて、これからオレに殺されるってのによお?」
「君、名前は?」

質問に質問で返す吉良。
突然英語の授業に出てくるような日常会話を始めた吉良に対し、セッコは「ハァ!?」とごく当然の反応を示した。

「私の名前は『吉良吉影』年齢33歳。自宅は日本のM県S市杜王町北東部の別荘地帯に有り、結婚はしていない。
仕事は東日本最大のデパート企業『カメユーチェーン店』の会社員で、毎日遅くとも夜8時までには帰宅する。」

「? 何言ってんだァ? おめえ……?」

「正直、こんな事態にまで陥るとは思わなかった。平穏な私の暮らしは台無しだよ。全て君のせいでね。もうどうやら安心して熟睡できないらしい。
ただし――――――」

そこで吉良は言葉を切り、そして語気を強めて叫んだ。

「ただし『このゲームが終わるまで』だけだッ! このゲームで優勝して勝ち残り、元の生活を取り戻すまでだッ!!」

消極的なスタンスでいるのはもう終わりだ。
無力な一般人を演じ、誰かが主催者を倒してゲームが崩壊するのを待つのはもうやめた。
もうゲームは半分を過ぎ、多くとも残り70人ほどだ。
殺し尽くせばいい。
吉良吉影が残りすべてを殺し尽くし、優勝者になればいい。
もちろん、平穏な人生を送るためには、そのあと更に主催者陣営も壊滅させ、ゲーム自体の秘密も暴かなければならない。
困難で、先の見えない長い試練ではあるが、しかし………



「この吉良吉影が切り抜けられなかったトラブルなど、一度だって無いのだッ!!」

609 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 01:01:02 ID:f6pinpKM

【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内講堂/1日目 昼】

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラー・クイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:左手首負傷(ドロ化)、『シアーハートアタック』現在使用不可
[装備]:波紋入りの薔薇、聖書、死体写真(ストレイツォ、リキエル)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.まずは目の前の敵(セッコ)を始末する。
1.優勝を目指し、行動する。
2.どうにかして左手の治療がしたい。
3.ホル・ホース、空条徐倫(F・F)を始末する。どこへ逃げたかはわからないが、できるだけ早く片を付けたい。
4.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
5.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態、血まみれ
[装備]:カメラ(大破して使えない)
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.オブジェを壊された恨み。吉良を殺す。
1.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。
2.DIO大好き。チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな? よくわかんねえ。
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。  


[備考]
※リキエルの死体で作ったオブジェがありましたが、『シアーハートアタック』で爆破されました。ストレイツォの死体については詳細不明です。
※それぞれの死体の脇にそれぞれの道具が放置されています。
 ストレイツォ:基本支給品×2(水ボトル1本消費)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
 リキエル:基本支給品×2

610 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 01:01:26 ID:f6pinpKM

【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会周辺/1日目 昼】

【H&F】
【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルなし)、ランダム支給品2〜4(徐倫/F・F)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
0.またあいつ!!? もう嫌だああああああ!!!
1.『あたし』は、DIOを許してはならない……?
2.もっと『空条徐倫』を知りたい。
3.敵対する者は殺す? とりあえず今はホル・ホースについて行く。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。
※少しずつ記憶に整理ができてきました。

【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:健康
[装備]:タバコ、ライター
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
0.とりあえず徐倫を追う。
1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。
2.吉良はスタンド使い? DIOの手下と戦っていた?
3.散らばっていた肉片はストレイツォ?それともリキエル?何が何だかわからねえ!?
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。内容はストレイツォ、吉良のメモから書き写しました。

611 ◆vvatO30wn.:2013/08/29(木) 01:06:01 ID:f6pinpKM
はい、ここまでです。
タイトルは「GANTZ」です
(私にしては)短めな話に収まりました。
決着までも考えていたんですが、ここらで投げてみるのも面白いかなと(←ようやくリレー小説であることを自覚)
もしかしたら続きも書きたくなるかもしれませんが、しばらく無理でしょう。
なぜならオールスターバトルやらなあかんからや!

でも、さすがに今回ほど期間を開けることはしないよう努力します。
俺は9ヶ月間も何をやっとったんや……

ではまたそのうち。

612名無しさんは砕けない:2013/08/29(木) 05:03:01 ID:SA8CnFvw
うおお投下が来とるううう!
短い話とおっしゃってますがその中に多くのフラグを立てていますので今後に繋げやすい内容だと思います。
ASB発売で投下数が増えるか減るか……増える方になることを祈りたいですね。投下乙でした。

613名無しさんは砕けない:2013/08/29(木) 10:17:53 ID:Z.iT6Mds
投下乙です
『シアーハートアタック』が完全にゲームの声で再現されます
吉良の状況厳しいが頑張ってほしい
でもセッコの活躍ももっとみたい
いきなり逃げたホルホースはポイーでw

614名無しさんは砕けない:2013/08/31(土) 10:36:44 ID:6e2bDNtE
投下お疲れさまです!!!!
今後の展開が楽しみですね!!
ASBが発売されましたし、皆さんゲームに夢中になって
まだ暫く新作はお預けだと思ってたので嬉しいです!
これからも楽しみに待ってます!!

615 ◆c.g94qO9.A:2013/09/09(月) 21:47:33 ID:k9p1fExg
ご無沙汰しております。予約していたパート、投下します。

616夢見る子供でいつづけれたら    ◆c.g94qO9.A:2013/09/09(月) 21:48:22 ID:k9p1fExg
 ▼



  「ようこそ……男の世界へ…………」     
                            ―――リンゴォ・ロードアゲイン


 ▼




僕らが話を終えてどれぐらいの時間がたっただろう。
真昼だと言うのに北向きのキッチンは薄暗く、僅かに入った日差しもどこか埃っぽい。
向かいに座った千帆さんの頬に長い影が落ちる。彼女が首を傾げるたびに髪の毛が揺れ、衣擦れの音が僕の鼓膜を震わせる。

壁時計が沈黙を破るように時を刻む。チクタク、チクタク……チクタク、チクタク……。
不意に、壁越しに男たちの声が聞こえた。一つはさっき千帆さんと一緒にいた男の声。そしてもう一つは……聞き覚えのある声だった。
椅子を引き、立ち上がる。千帆さんは顔をあげ、何か言いたげな表情で僕を見る。僕も彼女を見返す。沈黙が流れる。

チクタク、チクタク……チクタク、チクタク……。そして僕は扉に向かう。


「ジョニィさん」


僕を引きとめるように、彼女が僕の名を呼んだ。懸命に、何かを訴えるようにその目は僕をまっすぐに射抜いて行く。
僕は立ち止まり、その目を見つめ返す。睨み返す、と言ったほうが正確かもしれない。
たじろく彼女に指を突きつけると、 僕はこう言い放った。


「君の言い分はわかるし、必死だってこともわかる。
 できることなら協力してあげたい、殺さずに済むのであればそれに越したことはない……。
 それは僕が感じていることでもあるからね」
「なら……」
「けどもしも彼が、蓮見琢馬が僕の邪魔をするというのなら僕は手を止めることができない。
 繰り返すことになるけど、これは決定的なんだ。僕の確固たる意志なんだ」


一言一言僕が言葉を吐き出すたびに、彼女の顔は大理石のように固まっていった。
真っ白になった彼女の顔を見て、胸が痛まないと言えばウソになる。
けど、仕方がない。こればかりは避けようもないほどに、僕の中では“絶対的”だった。曲げることのできない、確実なものだった。

もしも蓮実琢馬が僕の行く手に立ちふさがるのなら……僕は宣言通り彼を撃ち抜く。僕のこの手で、容赦なく。

男たちの声が大きくなった。僕は彼女に向かって話を続ける。
弱った動物に止めを刺すかのように、僕は言葉を振りおろす。

617夢見る子供でいつづけれたら    ◆c.g94qO9.A:2013/09/09(月) 21:49:16 ID:k9p1fExg

「殺し合いという舞台に立った以上、望むに望まざるに戦いは避けられない。
 僕には叶えたい目的がある。必ず会わなければいけない友達がいる。
 そのためなら……なんだってする。僕にはその覚悟が、ある」
「…………」
「優しさで誰かを救えるなら僕だってそうするさ。だけどそうじゃない……本当に誰かを救うのは強さだ。優しさなんかじゃない。
 今までも……そして、これからも…………ずっと」

扉をあけると暗闇を切り裂くように陽が刺した。眩しさに目を細めながら外に出る。僕は後ろを振り返らなかった。
彼女がどんな顔をしているか、見たくはなかったから。


「夢見る少女じゃ世界を救えない。僕はそう思うよ、双葉千帆さん」


バタン、と扉が閉まる音がする。あの薄暗い部屋に彼女を閉じ込め、僕は光の中を進んでいった。





 ▼



  「その子からさあ、きたない手をはなせよ。どうせ小便してもあらってないんだろ」    
                            
                                    ―――蓮見 琢馬


 ▼





「なるほど、話はわかった」


プロシュートさんの声はどことなく歯切れが悪い。そっとばれないように視線をあげると、彼は何も言わずにコーヒーを一口すすっていた。
キッチンの窓を背にした彼の表情は影になって、よくわからない。
けど、なんとなくだけど……どこか面白可笑しく思っているように、私には見えた。

ジョニィさんとの話し合いに時間はかからなかった。
お互いに出会った人について、知っている人について、危険人物の特徴、支給品の披露などなど……。
けど結局はそこ止まりだった。ジョニィさんは辛抱強くて、気が利いて、冗談を言って私を笑わせてくれたりしたけど一緒にはいられなかった。
一緒にはいてくれなかった。

618夢見る子供でいつづけれたら    ◆c.g94qO9.A:2013/09/09(月) 21:50:52 ID:k9p1fExg

話し合いが終わるとジョニィさんは私を置いて出ていってしまった。
少しの間、外ではなしあうような声が聞こえ、入れ替わりにプロシュートさんが部屋に入ってきた。
放送も近いし昼飯でも食べておこう……そう言って私たちはここに留まり、私はプロシュートさんにジョニィさんの話をしていたのだ。

彼の真っすぐな目と、折れることのない硬い、硬い意志について……。


「もしもここがタダの街で、俺とお前が偶然街ですれ違うような関係で、それでもってたまたま何か事件に巻きこまれただけとしたら……俺も同じことを言っていたかもしれない」


コーヒーの香りをぬうように、プロシュートさんの言葉が飛びこんできた。
顔をあげた私を見て、彼は話を続ける。


「俺もジョニィ・ジョースターと一緒だ。
 目的のためならば手段を選ばない。他人を蹴落とす必要があるならそうする。ぶっ殺すと心の中で思った時には既に行動は終わっている。
 心やさしいなんて的外れもいいところだ。そんな人種だ、俺たちはな」


コト……、陶器が触れ合う音が響いた。私は両手の中にあるマグカップを見下ろした。
真黒な液体の中で、白い顔をした私自身が見つめ返している。
どこまでも深く、濃い、真黒な渦の中で。


「だけど、死んだ。そんな人種と呼ばれる俺の仲間たちは六時間も持たずに、死んだ。どいつも俺より凄い奴らばかりだって言うのにな。
 一人は俺以上に強くて、頑固で、厄介な野郎だった。
 一人は俺以上に頭が回って、冷静で、冷酷だった。
 一人は俺以上に意地汚くて、しぶとくて、ぶっ殺しても死なないような奴だった。
 それなのに死んだ。そしてお前は生き残っている」
「プロシュートさん、私……」
「千帆、お前はとびきりの大甘ちゃんだ。 誰かを蹴落とすなんて考えたこともないって面してる。
 誰かを犠牲にするぐらいなら私が犠牲になってもいい、そんな夢みたいなことを大真面目に考えてる。
 実に、馬鹿馬鹿しくなるほどに、世間知らずのお嬢様だ」

言葉とは裏腹に、プロシュートさんの顔には笑顔らしきものが浮かんでいた。
コーヒーから立ち上る湯気越しに、微かに浮かぶ頬笑み。唇をひん曲げただけの不器用な笑顔は、それでも私を励ましてくれた。
これでもいいんだって、そんな気分になった。

女々しいかもしれない。臆病かもしれない。
でもそれはもしかしたら私にしかできないことかもしれないんだ。
私だけが持つ、大切なものなのかもしれないんだ……。


「そんな大甘ちゃんだから、俺はお前に賭けることにしたんだ」


ポケットに入っている歪な形の黒い武器。傍に佇むならず者剥き出しの男の人。
どちらも私からは遠く、遠くのものだった。けど今は、それ全部が大切に思えた。

強くならなきゃいけないと思った。ジョニィさんにああやって言われて、何一つ言い返せなかった事が急に悔しく思えてきた。

619夢見る子供でいつづけれたら    ◆c.g94qO9.A:2013/09/09(月) 21:51:42 ID:k9p1fExg



「少し寝ておけ、放送が始まったら起こしてやる」


目を閉じると暗闇が広がる。奥行きのない、どこまでも広がっていく闇。
私は何て言えばいいのだろう。こんな目をした、あのジョニィさんに何て言えば“勝つ”ことができるのだろう。
眼を開けてみれば差し出した腕はどこにも届かず、ただ天井向かって延びただけだった。

私はまだ、答えられない。けどいつかは……“答えられるよう”になりたい。




 ▼



  「来いッ! プッチ神父ッ!」     
                            ―――空条 徐倫


 ▼




「俺はそう思うよ、ジョニィ」
「だったら尚更僕は一緒にいられない」


足を引きずりながら進む俺と、ただ真っすぐに進んでいくジョニィでは彼のほうが歩くペースが速い。
少しだけ前を行くジョニィの後ろ姿を見つめながら俺は見たこともない、その双葉千帆という少女のことを考えた。
何故だか彼女の姿はイメージの中で、俺の愛した少女と重なった。

それは彼女がきっと……双葉千帆が徐倫と同じぐらい優しい子だと俺が思ったからだ。
殺したくない、傷つけたくない。誰だってそう思うだろう。
彼女に足りないものがあるとするならば、それを貫きとおす勇気だ。
武力でもなく、説得力でもなく、ただ自分にそれを課す勇気……いや、勇気と言うより愛、だろうか?

母親が子に授けるような不変の愛、聖母のように慈しみ信頼する心……それを貫き通すのは難しい。

だけど徐倫だって昔は寂しさのあまりメソメソ泣くような女の子だったんだ。
彼女なら、できる。双葉千帆にだって、なれるだろう。俺はそう思いたい。
このジョニィ相手に一歩も引かないような女の子なんだ……あとはきっかけさえあれば、彼女は変わる。俺にはそう思えた。


「彼女のことが心配かい、アナスイ」
「……いいや」


振り向きもせずにジョニィがそうたずねてきた。俺は返事をし、その後ろ姿をじっと見つめる。
ジョニィは変わった。たった数時間ぶりに会っただけだと言うのに……どうしようもなくわかってしまうほど、今のジョニィは剥き出しで鋭い気を放っている。
前に比べてずっと無口で、座った目をしている。ときどき俺がギクリとなるぐらいに。

620夢見る子供でいつづけれたら    ◆c.g94qO9.A:2013/09/09(月) 21:52:21 ID:k9p1fExg

会いたい人がいると言っていた。必ず会わなければいけない友人なんだと。
きっとその気持ちがジョニィを変えてしまったんだ。失うことを恐れるあまり、失う怖さを理解しているがゆえに。
俺とジョニィの立場は完全にひっくり返ってしまった。今や俺が下がり、ジョニィが先だ。
しっかりとした足取りで前を行く彼は、頼もしげだけれどもどこか怖さを感じる。そんな風に俺には見えてしまった。


「アナスイ」


ジョニィに呼ばれ、俺は我に返った。
行き過ぎた道を戻ると、曲がり角で元来た道へと戻っていく。待ってくれていたジョニィと肩を並べ、俺たちはまた歩き出す。


―――全てをなぎ払い、踏み倒し……それでも何も手に入らなかったらお前はいったいどうするんだ?


そうジョニィに聞いてみたかった。けれども俺は尋ねない。
俺がその問いに答えることができないならば、それを口にする資格はない。
それになんとなくだが、ジョニィの答えが想像できたのだ。


―――それでも変わらず、歩き続けるだけさ。


俺は、ジョニィがうらやましかった。
こんな抜け殻になった俺なんかとは違う。死んだ女の亡霊に取りつかれるでもない。
ただひたすら道を行く、ジョニィ・ジョースターという男が…………。


「そろそろ放送の時間だ」
「ああ」


短くそう答え、俺は空を見上げる。
底抜けするように青く澄んだ空を、馬鹿みたいにでかい雲が横切っていく。
心地よい、昼下がりのことだった。






621夢見る子供でいつづけれたら    ◆c.g94qO9.A:2013/09/09(月) 21:53:49 ID:k9p1fExg

【D-7 南西部 民家/1日目 昼】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:全身ダメージ(中)、全身疲労(中)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還。
1.暗殺チームを始め、仲間を増やす。
2.この世界について、少しでも情報が欲しい。
3.双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:疲労(小)
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く。
1.プロシュートと共に行動する。
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える。
3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない。
4.露伴の分まで、小説が書きたい。




【D-7 西/1日目 昼】
【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(極大)、 体力消耗(中)、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
1.情報を集める。
【備考】
※放送で徐倫以降の名と禁止エリアを聞き逃しました。つまり放送の大部分を聞き逃しました。

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く

622夢見る子供でいつづけれたら    ◆c.g94qO9.A:2013/09/09(月) 21:55:24 ID:k9p1fExg
以上です。なにかありましたら指摘ください。

めちゃくちゃ久しぶりだったので、すごい自分自身違和感を感じてます。
ようやく生活が落ち着いてきたので、少しずつまた書ければいいな、と思ってます。

623 ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:07:05 ID:tFZwjNi.
すみせん、遅くなりました。投下します。

624大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:07:38 ID:tFZwjNi.
 ◇ ◇ ◇



 ぱちぱちぱちぱち……―――(拍手の音)



 ◇ ◇ ◇

625大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:08:36 ID:tFZwjNi.




「君たちには……人探しをしてもらいたい」

とろけそうになるほど甘い声。その声は一流音楽家が奏でるヴァイオリンよりも美しく響いた。
DIOは目前でうずくまる四人の男たちを眺める。誰もがぼんやりとした顔で、DIOの言葉に聞き惚れている。

「ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、花京院典明、モハメド・アヴドゥル……。
 この四人を、君たちには探してもらいたい。いずれもこの私の野望を邪魔せんとする輩だ。
 君たちには彼らを探し出し、このDIOのもとに連れてきてもらいたい。
 生死は問わない……信頼する君たちなら必ずやり遂げてくれるだろう……。
 さぁ、行くがいい……このDIOの忠実な部下たちよ……」

話が終わったのを合図にDIOは椅子から立ち上がり、男たちは深々と頭を下げる。
薄暗い室内をぼんやり照らすロウソクが、怪しげな影を男たちの頭に落とした。
よく見れば額に小指大の肉片がうごめいていることに気がつくだろう。DIOによる洗脳、”肉の芽”だ。

部屋の奥へとDIOが姿を消し、男たちも立ち上がる。その足取りはどことなくぎこちない。目つきも虚ろだ。
プログラミングが終わったばかりのロボットのような動きで彼らは建物をあとにする準備を始める。
一連の出来事を部屋の隅で眺めていた虹村形兆は、ゾッとしない気分だった。

これがDIO……! これが悪の帝王……ッ!

他人を踏みつけることなんぞなんとも思っていない。
喉が渇いたから喫茶店に入るような気軽な感じで、彼は人を人有らざるモノに変え、己のコマとする。
罪悪感がない……、人としての『タガ』が外れている……。その点では間違いなくDIOは人間を超越しているだろう。
何かをしようとするたびに悩み、苦しむ形兆なんかとは違って。

形兆の指先がビリビリと震えた。『格の違い』に恐怖を覚えたのは初めてのことだった。
震えをごまかすためにもう片方の手でギュッと腕を押さえつける。
隣に立ったヴァニラ・アイスに動揺を知られたくはなかった。

「行くぞ、虹村形兆。奴らに先を越されてはならん」

ヴァニラの声は無機質で、人工的で、カラッカラに乾いてるように聞こえた。
形兆が小さく頷くと、ヴァニラ・アイスは先に立って歩き始めた。
その背中を眺めながら、こいつの首筋に弾丸をブチ込めたらどれだけスカッとするだろう、と形兆は思う。

第五中連隊をそっくりそのまま投入。
三六〇度より一斉一点射撃。首元の爆弾を引火させ、上半身を根こそぎ吹き飛ばす……。
そんな夢みたいなことができたならば……。

626大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:09:14 ID:tFZwjNi.


「なにをしている、早く行くぞ」
「そう急かすんじゃあない。隊列行動は規律を守ってだ。俺に指図するのはやめてもらいたいね」

表面上は軽口を叩きながらでも、互いに警戒は全くといていない。
ヴァニラは隙あらば形兆を殺そうとしているし、形兆だって素直に殺される気はない。
まだここがDIOの目の届くところだから、ただその一点のみで二人は戦わずに済んでいる。
だが『ここ』からは違う。この扉を開け、GDS刑務所から出ればそこはもはや無法地帯だ……。

最後の扉を開くと強い日差しが差し込んできて、思わず目を瞑りそうになった。
目がなれると辺りの風景が一気に視界に飛び込んでくる。見れば先の四人は四方に散って、それぞれの方向へと向かっている。
同時に甲高い叫び声が聞こえ、つられて上を見上げれば一匹の鳥が上空高く舞っている。

側にも、上にも監視付きってことか。逃げ場なんてものはどこにも見当たらなかった。
ため息をひとつ吐くと、形兆はバッド・カンパニーを広げていく。
遅れないようヴァニラ・アイスについていきながら一人心の中で毒づいた。

(なぁ、億泰……なかなか狂ってやがるだろう? 
 あれだけ嫌ったオヤジなのに、今俺はオヤジの代わりに仕事を引き継いでいるんだ。
 皮肉なもんだ。殺したいほど憎んでいたはずなのに、そのオヤジの跡をそっくりそのままたどってやがる!
 この俺が! この俺がだぞ……!?)

吸い込んだ空気はベタベタと口周りで張り付いて、学ランの下で汗がシャツをぐっしょりと濡らした。

(だがな、俺は忘れてないからな…………!
 諦めたわけでもない。必ず俺とお前の借りは返してやるから!
 だから見とけよ、億泰!)

形兆の足元で何人かの兵士たちが武器を構え直した。
金属がぶつかりあう、特有の重量感を持った音が響いた。それは戦いを予期させるような鈍い音。
兵士たちは知らない。この拳銃をこの先誰に向けることになるか。
ひょっとしたら顔も知らない若者かもしれない。戦いに明け暮れた歴戦の兵士かもしれない。
そしてもしかしたら……。渋い顔で形兆の隣を歩くヴァニラ・アイス。
彼にその武器を向けるときは、そう遠くないのかもしれない。

627大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:10:02 ID:tFZwjNi.
 ◇ ◇ ◇



散歩に付き合ってくれないか。そう言ったDIOの提案にヴォルペは黙って頷いた。
別に断る理由もないし、ちょうど暇をしていたところだった。
頷くヴォルペを見てDIOは笑みを深め、彼を地下へと誘った。二人はGDS刑務所内の地下へと続く階段を下っていく。
最初はコンクリートでできていた階段も下るに連れて砂や石が混ざり、ついには壁も足元も未整備のものへと変わっていた。
天井から滴る水滴が水たまりをあたりに作る。ゴツゴツした地面に足元を取られないようヴォルペは慎重に進んでいく。

DIOはどこか上機嫌で鼻歌交じりで先を進んでいた。さっきからやけにハイなようだとヴォルペは思った。
何かいいことでもあったのだろうか。
特別変わったことはなかったと思っていたが、思えばヴォルペはDIOのことをよく知らない。
好きな花も好みの歌も、出身も年齢も血液型も知らない。そもそも自分から誰かに興味を持ったことなんぞなかった。

足元が一段と荒れてきた。天井が低くなり、背が高いヴォルペは身をかがめながら進む。
頭をぶたないようにしながら、水溜りに足を突っ込まないようにするのはなかなか難しい。
進んではかがみ、よれては立ち止まる。DIOはなんでもないようにスイスイと進んでいく。
ヴォルペより一回り大きな体をしているというのに器用なものだった。

「君のスタンドは素晴らしいよ、ヴォルペ」

洞窟に入ってから一言も口を開かなかったDIOが突然そう言った。
返事をするどころでないヴォルペは言い返すこともできず、ただ頷く。この暗闇では頷いたところでわからないだろうけれども。
ともに足を止めることなく、進みながら話は続く。ヴォルペは黙って耳を傾けた。

「先の三人と一匹……チョコラータ、サーレー、スクアーロ、そしてペット・ショップのことだが……。
 君のスタンドは最高だ。ほとんど再起不能当然だった彼らが今ではピンピンしている。
 全くの無傷だ。本当に素晴らしいよ、ヴォルペ……!」
「……それは、どうも」
「確かにただ動けるようにするだけなら、この私にも可能だ。
 首元に指先をつきたて、吸血鬼のエキスを流し込めばいい。そうすれば屍生人として彼らは再び動き出すだろう。
 だがそうなってしまえば二度と陽の光を浴びることはできなくなる。
 この狭い舞台で地下でしか動けない部下なんぞ、扱いづらいことこの上ないよ」
「…………」
「だが君は違う。君の能力は違う。私の真逆の能力そのものであり、だが隣り合わせのようによくなじむ!
 過剰なエネルギーを流し込み、細胞を活性化させる。復元するのではなく、再生させるのだ。
 いうならば体の内部を加速させているわけだ。一日ががりの傷を三秒で、一年がかりの怪我を三分で!
 君は確かに生命を操っているよ、ヴォルペ! なんて素晴らしい! これ以上ないほど素晴らしい!
 君は生命を与え、私は生命を奪う。君は万物を加速させ、私は世界を凍りつかせる。
 コインの裏表のようだ! 素晴らしい引力だ! フフフ……! ヴォルペ、君は素晴らしいぞ! ヴォルペッ!」

DIOの喜びようはヴォルペを戸惑わせた。
話していくうちに喜びが増してきたのだろう。DIOはまるでクリスマスと正月が同時に来たようにはしゃぎだす。
だがヴォルペにはその喜びが理解は出来ても、共感はできなかった。
喜色満面のDIOを見つめながら、ヴォルペは何をそんなに喜ぶのだろうと考えていた。

自分はただ言われたとおり手当をしただけだ。
何も特別なことをしたわけではない。そもそもそんなにすごいというのなら、それは俺ではなくスタンドがすごいだけだ。
すごいのはむしろ君の方だ。そんな類まれなすべてを惹きつける、君の引力がすごいんだ。

628大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:10:37 ID:tFZwjNi.


だが、それでもヴォルペはかすかにだが、『喜び』というものを感じていた。
だれかの役に立てたという達成感と満足感がヴォルペをすっぽり覆う。
それは初めての経験だった。こんなものが感情だというのなら、それも悪くないなと思える程だった。

「ところで」

ヴォルペの声は相変わらず乾いていたが、どこか和らげな感じだった。
先を進んでいたDIOだったがヴォルペの声に立ち止まると、彼が追いつくのを待った。
二人並ぶとゆっくり進みだす。道はだんだんと平坦になっていき、天井も3、4メートルほど高くなっていった。

「俺たちは今、どこに向かっているんだ?」

DIOはなんでもないといった感じで返事をする。

「どこでもないさ。強いて言うなら君の引力が向くがままにさ」

そしてそれに応えるかのように、前方から物音が響いてきた。
硬い金属をぶつけ合うような音だ。それは戦いの音。
DIOの顔に笑顔が広がる。今までの笑みとは違う、邪悪で凶暴な笑みだ。

ヴォルペはその横顔を黙ってじっと見つめていた。DIOの横顔からなにかをかぎ取るようにじっと……。

629大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:11:18 ID:tFZwjNi.
 ◇ ◇ ◇



洞窟。
光が刺さない地下深く、手に持った懐中電灯だけを便りに二人は歩いていく。
空条承太郎と川尻しのぶ、二つの足音がこだまする。天井は低い。承太郎が手を伸ばせば触れられそうなほどだ。

承太郎としのぶはぶどうが丘高校を後にし、空条邸に向かっていった。
承太郎は理由を言わなかった。黙ったまま車を走らせ、門のところで止めると彼はようやく口を開いた。

『アンタ、吸血鬼の存在を信じているか』

突然の質問にしのぶは何も答えられない。承太郎も答えを期待してたわけでなく、淡々と話を続けた。
承太郎が持つ支給品の中の一つに地下地図、というものがあったらしい。
この街全体に張り巡らされたような地下道は交通のためにしては不自然で、下水や浄水のためにしては大規模すぎる。
しかしもしも日中外に出られないようなものたちがいたならば……。吸血鬼と言われる怪物たちが本当に実在するならば……。
そこはこの地で一番の危険地帯に早変わりだ。

学校の周りも駅の周りも人気は少なく、情報捜索は空振りに終わった。
承太郎はこれ以上待つことは不可能と判断し、攻めることにしたのだ。
参加者名簿の中に吸血鬼と呼ばれる人種が何人もいると、承太郎は言った。
そしてそれ以上の怪物、柱の男たちと呼ばれる者もいるといった。

『俺は今から地下に踏み込み、片っ端からそういう奴らをぶちのめすつもりだ』

にわかには信じられない話だ。おとぎ話でももう少し信ぴょう性がある。しのぶは何も言えず黙っている。
だが無言のまま承太郎が車から降りようとしたとき、既にしのぶも助手席の扉を開いていた。
もはやなんでもアリだ。スタンド、人殺し、爆弾首輪。そんなものがあるのであれば吸血鬼だっているだろう。

それになにより、さっき決めたばかりではないか。
空条承太郎を止めてみせる。ならばしのぶには選択肢はない。承太郎が行くところがしのぶの行くところだ。
たとえそこがどれだけ危険な死地であろうとも。

しばらく歩くと天井が高くなり、あたりもうっすらとではあるが明るさを増した。
壁に生えるコケがかすかに光り、ところどころから飛び出た燭台にはロウソクが灯らされている。
薄明かりの中、二人は無言のまま歩く。ただひたすら歩く。
承太郎は憎むべき敵を探し、一切の気配を見逃すまいとして。しのぶはそんな彼の大きな背中を眺め、内なる決断を済ませて。

630大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:12:07 ID:tFZwjNi.

しのぶは諦める決断をした。
難しい判断だったがそうする勇気を持つことを、彼女は自分に決めた。
この先承太郎は何度も戦うだろう。
望まない相手に拳を振り上げる羽目になるだろう。自分を押し殺し、戦うべきでない相手と戦うことになるだろう。

しのぶにできることは『なにもない』。
なにもないとわかり、でもなにかせずにはいられない。そのためにまずは自分の身は自分で守ろうと思った。
戦う相手を救うことを、しのぶは諦めたのだ。今の彼女に、それはあまりに大きすぎたものだった。
彼女に救えるとしたらせいぜい一人ぐらいだろう。救えてたったひとり……承太郎、その人ぐらいなものだ。

だから承太郎が戦い始めたら彼女は逃げるつもりだ。
戦いを止めることは不可能だし、承太郎のそばにいたところで負担がますだけだ。
悲劇のヒロイン気取りでもうやめて、なんていうこともしない。
彼がどれだけ思いつめて、苦闘しているかはわかっているつもりだから。


大きく息を吸い込むと、砂の臭いに混じってタバコの匂いがした。
空条さんはいったい何を考えているのだろうか。一体彼には何が見えているのだろうか。
隣を歩いているというのにしのぶには承太郎の何もが、わからなかった。

頑張ったところで空回り。ただ励ましたいのに、力になりたいのに。
それなのにどうやったら力になれるかがわからない。
だけど、これ以外に、そしてこれ以上にできることは何もない。

それすらも欺瞞で、傲慢で、押し付けがましいおせっかいだ。

だから一緒にいたい。だけどそばにいたい。脇で立っていたい、寄り添っていたい。
何か一つだけでも秀でたものになりたかった。
しのぶは、心の底から『必要』とされたかったのだ。

今は無理でも……いつかはかならず……―――




―――そう、思っていた。

631大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:13:04 ID:tFZwjNi.

「柱の男、カーズ……か」
「え?」
「アンタは逃げろ」

突然立ち止まった承太郎がポツリとつぶやいた。しのぶには何が何だかわからなかった。
次の瞬間、承太郎の姿が消え、凄まじい轟音が響いた。
しのぶは音にたじろぎながらも反射的にその場に伏せる。ぱらぱらと音を立て、頭上から崩れた砂が落ちてきた。

衝撃が収まるのを待ち、こわごわと顔を上げる。
目を凝らすと十数メートル先に承太郎の背中が見えた。そしてその脇に立つスタンドと……さらに奥に男の影が一つ。

その男は怪我でもしているのか、しのぶと同じように地面にうずくまっていた。背は高く、肩幅も大きい大柄な男だ。
黒いターバンのようなものを頭に巻き、冒険家風にマントを身につけている。
近くにはついさっきまでかぶっていたと思われる山高帽が転がっていた。
状況から察するに、承太郎がその男に攻撃を仕掛けたらしい。突然姿が消えたように見えたのは、彼のスタンド能力だろう。

「川尻さん、もう一度言う。死にたくなかったら逃げろ」

しのぶのほうを振り返りもせず、承太郎は今度ははっきりとした声でそう言った。
承太郎のもとへ駆け寄ろとしかけたしのぶはその言葉に足を止める。
それは拒否の言葉ではあったが、拒絶ではない。
承太郎がほんとうにしのぶのことを思ってなかったら何も言わず、そのまま戦い続けていただろう。

しのぶの脳裏に学校での出来事が古い映画を観るように、思い出される。
駆け寄るしのぶ、突き立てられたナイフ。薄笑いを浮かべた髭面の男。ガラス玉のような承太郎の目……。
ここで彼の言葉を無視するのは簡単だ。近くに駆け寄って、手を広げてもう戦うのはよして、と叫べばいい。

だがそれで何になるというのだ? しのぶは悩んだ末に、逃げることにした。
それは承太郎を困らせることになっても、改心させることにはならないだろう。
本当に承太郎を止めたいのであれば今は動く時でない。自分勝手な馬鹿なことをすべきでないと、しのぶは学んだのだ。

だがそれでも……やはり胸が痛んだ。
承太郎に独り戦いを任せること苦しさ、戦う相手にも家族がいるのではという哀れみ。
それでもそれらすべてを飲み込むと、しのぶは元来た道を走り出す。最後に承太郎にむかって、大声で言葉を残しながら。

「空条邸で待ってますからッ! 二時間でも、三時間でも……どれだけ待たされようとも待ってますからッ!」

632大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:14:11 ID:tFZwjNi.


そして…………―――また、轟音。


カーズの体が車にはねられたように吹き飛び、何度も洞窟の壁に叩きつけられる。
バウンドを繰り返し、天井まで達し……放り投げられたおもちゃのように落ちてくる。
当然のように位置を変えた承太郎はそれを黙って見ていた。今まで違ったのはその腕に真っ赤な線が走っていること。
時を止め終えたほんのゼロコンマの瞬間に、カーズの指先が承太郎の腕の肉をえぐり飛ばしたのだ。
音を立てて、承太郎の腕から血が滴り落ちる。傷は深くもないが、浅くもない。


二度の衝撃を終えて、両者はにらみ合う。
ゆらりと立ち上がったカーズの顔には憤怒の表情が張り付いている。承太郎は変わらず、機械のように無表情だ。
泥だらけになった自分の姿を一瞥し、カーズは苦々しく言った。


「貴様、何者だ……」
「てめェには関係ないことだ。これから俺にぶちのめされる、お前にはな……」


―――……殺してやる

これほどの屈辱は未だかつて味わったことがなかった。
ダメージはない。が、餌の餌、家畜当然かそれ以下の存在である人間にこうも弄ばされいいようにやられて、カーズのプライドはズタズタだった。
スラァァァ……と薄い氷をひっかくような音を立て、カーズの腕から刃が飛び出した。承太郎もスタンドを構え直し、戦いに備える。

最初から全力全開……最強のスタンド使いと最強の究極生命体のぶつかり合い。この戦いは長くは続かないだろう。


薄暗がりの中、影が動いた。そして……三度轟音が、そして今までよりさらに凄まじい轟音が、洞窟を震わせるように響いた。

633大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:14:47 ID:tFZwjNi.

 ◇ ◇ ◇



「スター・プラチナッ!」
「KWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

カーズが感じたのは強烈な違和感だった。
目の前の男は自分を知っている。柱の男の性質を、光の流法を……波紋使いでもないのに、完璧に対応しカーズの攻撃をさばいていく。
カーズの体に直接触れることは決してしない。輝彩滑刀に対しては刃をはねのけるように側面をたたいている。

数度の交戦を経て、大きく距離を取る。承太郎も無理には追わず、一度互いに呼吸を整える。
気に入らないな、とカーズは思った。その余裕が、強さが、すべてを見透かしたようなスカした視線が!
全てがッ! 気に食わんッ!!

大地を強く蹴りあげ、跳躍。狭い洞窟であることを最大限に利用する。
天井まで上昇、今度は天井を蹴り加速。壁を蹴り、進路を変更。また床に戻り、そして上昇……。
人間には決してできない、超三次元的な動き! あまりのスピードにカーズの影がぶれてみえるほどだ!

「刻まれて、死ねェェェエエ―――ッ!」
「オラオラオラオラオラオラッ!」

だが、やはりだ。それでも承太郎は完璧に対応してみせた。
上から切りかかっても、下から切り上げても、右から真っ二つにしてやらんと振り上げても、左からます切りにしようと振り下ろしても。
スピードと破壊力では間違いなくカーズが上だ。体力も、耐久力も、地の利もカーズが上。

だがしかし精密性という一点のみで! 悔しいが認めるしかない……ッ!
承太郎の体に細い切り傷が無数に広がっていく。その先の一歩が踏み込めない。
承太郎の超人的な集中力と、スター・プラチナの能力がそれをさせない。

カーズの刃を揺らし、折らんばかりに振り下ろされるスター・プラチナの攻撃に柱の男は認識を改める。
こいつは……強い。波紋使いとは違った次元でコイツは……このカーズの脅威となる男だ、と。
そしてなにより……ッ!


「……スター・プラチナ・ザ・ワールド」


そう承太郎がつぶやき、カーズの世界が一変する。
つい今の今まで、目の前にいたはずの影が消える。と同時に、ほんのゼロコンマ秒のズレもなく、体の側面に強い衝撃。
きりもみ回転をしながら洞窟の壁に叩きつけられる。
あまりの衝撃にそれだけでは収まらず、バウンドを繰り返し、何度か壁と床を揺らしてやっとカーズの体は止まった。

634大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:15:50 ID:tFZwjNi.


そう、この謎の能力……。
人形使いに会うのは初めてではない。この舞台ではじめにあった人間もそれらしき能力をもっていた。
が、コイツはタダの人形使いではない……ッ! なにかそれ以上の恐ろしい……凄まじいなにかを、秘めているッ!


(そうでなければこのカーズが、こうまでも苦戦するはずがなかろうが……ッ! たかが人間相手に……忌々しいッ!)


体についた砂埃を払い落とし、立ち上がる。形としてはこればかりを繰り返している。
攻めるカーズ、迎え撃つ承太郎。互いにダメージはほとんどない。
なんどもカウンターをくらっているカーズだが、柱の男の耐久力、回復力がそれを補ってくれている。
承太郎も決して無理をしない慎重な立ち回りだ。じっと隙を伺い、待ち続けている。

互いを牽制しあうような時間が続き、小競り合いが二度三度。
焦れるような戦いが何度も続いた。このままでは決定打にかけ、いつまでたっても戦いは終わらないだろう。
二人にできることといえば待ち続けることだけだった。
集中力を途切らせることなく、何かこの状況を打破してくれるような「何か」をひたすら待つことだけ……!

「オラァ!」
「ふんッ!」

長い交戦の終わり際、二人はここぞとばかりに踏み込んだ。だがそれも有効打にはならない。
キィィン……と甲高い金属音が響き、カーズの刃をスター・プラチナが蹴り飛ばす。
よろめき体制が崩れたところを追撃するも、柱の男特有の柔軟さがそれをなんなく躱しきる。
顎先をかすめた蹴りをさけ、カーズは大きく飛び下がる。承太郎はスタンドを呼び戻し、また戦いに備える。

その時だった。
その金属音が止まないうちに、近づく一つの足音。そしてその場にそぐわぬ、乾いた拍手の音。
パチパチパチパチ…………。承太郎の動きが思わず止まる。一歩踏み出したところでカーズは何事かとあたりを見渡した。

二人の視線が向いた先から人影が浮かび上がってくる。
薄明かりの中出てきたのは……黄金に輝くド派手な衣装、筋骨隆々のたくましい肉体、傍らに立つスタンド。
張り詰めていた空気がさらに殺伐としたものに変わる。
承太郎の体から目には見えない、だが強烈な怒りの感情が熱となって一斉に吹き出した。

「…………DIOッ!」
「ンン〜〜、ご機嫌じゃないかァ、承・太・郎ォォ………? ンン?
 しばらく見ないあいだに随分と老け込んだじゃないかァ……。
 それともこのDIOに会うのは『数年』ぶりかな?」

635大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:16:45 ID:tFZwjNi.

返事はなく、代わりに拳が飛んできた。いくつにも増え重なった拳が、壁のようにDIOめがけて迫ってくる。
手洗い歓迎というわけだ……ッ! DIOは軽いウォーミングアップだとつぶやくと、自らもスタンドを出現させた。

「ザ・ワールド!」

その音は拳と拳がぶつかり合う音にしてはあまりに殺気立ったものだった。
刃物と刃物をぶつけ合うように鋭く、甲高い音が洞窟中に響く。それも無数に……そして同時と聞き間違うほど素早い間隔で!
承太郎とDIOはスタンド越しに火花を散らす。
パワーA、スピードAのスタンドのぶつかり合いは凄まじく、衝撃で洞窟全体がビリビリと震えた。
突きが徐々に早くなっていく……。DIOの顔から余裕の笑みが消えた。承太郎は奥歯を噛み、鼓舞するように叫びを上げる。
だが!


「KUWAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


この時を待っていた……ッ! そう言わんばかりの迅速な行動だった。
屈辱ではある。たかが人間相手に苦戦し、突然現れた邪魔者に助けられた形で隙を付くことになった。
だがカーズにとってもはやそんなことはどうでもいいことだった!
プライド、過程、こだわり……そんなもののために勝利を犠牲にするほどカーズは甘くないッ!
目的を遂行し、そのためにはどんな手であろうと迷わず実行するッ! そう、これが真の戦闘だ!
カーズにとってはそれがなによりもの真理ッ!

「その命、刈り取ってくれよォォオ―――――ッ!! KUWAAAAAAAAA!」

正面から真っ向勝負の二人に対し、真横から超速で接近。
狭い洞窟内に逃げ場はない。上下、左右。いずれに避けようとも、カーズのスピードを持ってすれば腕か足、あるいは両方共もっていかれる……ッ!
魚を下ろすかの如くッ! ただ包丁を振るうようにッ! カーズの鋭い刃が承太郎とDIOに襲いかかるッ!



   ―――その瞬間!  ……またも世界が止まった。



「「スター・プラチナ・『ザ・ワールド』ッ!」」


二人は迫り来る刃を前に、示し合わせたように同時に動いた。
ともに止まった時の世界で、DIOは左に、承太郎は右に。
たとえ柱の男といえど、止まった時の世界では『喰らう』ことは不可能だ。
DIOはそうとは知らず、承太郎はそれを知っていて。ともに最大速度でカーズめがけて拳を振るう。

636大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:18:10 ID:tFZwjNi.
すみません、抜けがありました。

>>631>>632の間です。



承太郎は動かない。返事もせず、頷きもしなかった。
足早に去る音を背にしながら、ただ目の前の男をにらみ続ける。
しのぶの足音がすっかり消え去った頃になって、ようやく地に伏せていた男が立ち上がった。
直角に曲がっていた足首も。あらぬ方向にひん曲がっていた首も。
一向に気にする様子もなく淡々と立ち上がると、服の埃を払ってみせた。

637大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:18:37 ID:tFZwjNi.

右からザ・ワールド、左からスター・プラチナ。左右からのすさまじい衝撃が一秒の狂いもなく、カーズの体内に圧縮されていく。
すべてが止まった世界でなお、その凄まじいエネルギーは暴走し、カーズの体を変形させていく。
極限までしなやかな骨は折れ、ゴムのように柔軟な皮膚ですら突き破られる。空気配給菅に押し込まれたわけでもないのにカーズの体はぺちゃんこに変わっていく。

「承太郎、貴様ッ!」
「オラオラオラオラオラオラァ!」

そして、ともに対処しなければならない共通の敵がいたとしても。
この二人が手を組むことは不可能だ。たとえそれが一時、一秒であったとしても。

時が動き出すほんのコンマゼロ秒前、体制を立て直した二人が激突する。
拳の嵐、蹴りの応酬。DIOの右肩が大きく裂ける。承太郎の腕の傷がぱっくり開き、天井に血のシミを作った。


「「そして時は動き出す……」」


「BAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


吹き飛ぶカーズとその叫びを耳にしながら、最後に拳を放つ二人。
凄まじいエネルギーがぶつかり合い……衝撃波が洞窟を通り抜けていった。
弾き飛ばされるようにDIOも承太郎も、大きく飛び下がった。
天井と壁が割れ、パラパラと小石が落ちてくる。砂埃が舞い、足元を舐めるように通り過ぎていく。

「やはり止まった時の世界で動けるか、承太郎……! このDIOにだけ許された世界にッ! 貴様はやはり入り込んできていたのか!」
「答える必要はない」

会話の終わりに二人の傷口が大きく開いた。カーズとてただ闇雲に突っ込んだわけではない。
承太郎との戦いの中でその不思議な能力は曖昧ながらも把握していた。
たとえと時間が止められようと、吹き飛ばされる直前にDIOと承太郎の体に『憎き肉片』を飛ばす。
カーズは倒れふしながらもそれでも意地を見せた。しかし屈辱には変わらない。
あの柱の男の一族が、人間と吸血鬼相手に劣勢であることは変わらない事実なのだから。

「よかろう……例え貴様が時に侵入してこようとも、このDIOが貴様をたたきつぶしてやるッ!」
「……貴様らは殺す。肉片一つ残らず殺す。バラバラのブロックに切り裂き殺す。死体も残さずこの体に取り込み殺す。
 このカーズ自らの手で! 直々に! 殺し尽くしてやるッ!」

638大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:19:06 ID:tFZwjNi.


激高するカーズの叫びと、DIOの高笑いがあたり一面にこだました。
増幅された怒りと憎しみの感情が霧のように承太郎を包んだ。しかし承太郎は怯まない。
その霧を弾き飛ばさんばかりのエネルギーが承太郎の体から立ち上った。

思い出せ、23年前のあの日のことを。怒りのままにDIOをぶっ飛ばしたあの日。
母を人質に取られ、友を殺され、祖父を侮辱され、プッツンしたあの日の怒りを……―――俺はッ!

洞窟内に見えるはずのない陽炎が立ち上っているかのようだった。
三人に増えたことで状況はより複雑なものになった。
誰かが動けば誰かが相手しなければならない。その隙に完全に自由な一人が生まれる。

ひりつくような状況で、いたずらに感情だけがそれぞれの中で昂ぶっていく。
コップいっぱいに水を注いでいくよう緊張感。火蓋が切られるギリギリまで一滴、また一滴……。
そして―――!


「お取り込み中申し訳ないのだが……君たち、泥のスーツをまとった奇妙な男を知らないか?」


辺りを漂っていた霧が散っていく。
戦いに水を差すようにひとつの影が姿を現すと、冷め切った調子で三人そう尋ねる。
見た目はただのサラリーマン以外の何でもない。きちっとしたスーツ、曲がっていないネクタイ、ピカピカに磨かれた革靴。

だがその奇妙な質問が何よりも知らしめていた。
この極限状況で、この殺気立った異様な空間で。こうまでも冷静に問を述べることができる。
カーズもDIOも理解し、承太郎は101%の確信をした。

この男もまた異形……・。絶対に始末すべき相手であると……。

639大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:19:49 ID:tFZwjNi.

 ◇ ◇ ◇


たっぷり一分は待っても返事がないことを確かめ、吉良吉影は残念そうに首を振った。

「どうやら誰も心当たりがないようだな。すまない、邪魔をした」
「待ちな、吉良吉影」

唐突に名前を呼ばれ、立ち去りかけた男は振り返った。
彼の名前を読んだ男は視線を上げることなく、斜めに構えたままだ。
吉良はその生意気な横顔に生理的嫌悪感を抱きながらも、丁寧な物腰を崩さない。

「ええと、すまない。仕事柄人と沢山合うので名前を忘れてしまったようだ。どちら様で?」

問いかけられた承太郎は長いこと無言のままだった。
ロウソクの先から雫が垂れさがるほどの沈黙の後、承太郎はポケットから右手を出すとカーズを指差しこう言った。

「カーズ、柱の男と呼ばれる一族の中で天才と言われた男。
 太陽を克服したいという目的の元、石仮面を開発。さらなる進化を遂げるべくエイジャの赤石を求めた。
 1941年イタリアで目覚めたのち赤石を求めヨーロッパを放浪。のちにジョセフ・ジョースターの手によって始末される」

カーズの驚いたよう表情を無視し、承太郎は続いてDIO指し示す。

「DIO、本名ディオ・ブランドー。
 1860年代に生まれジョースター一族を乗っ取るべく、石仮面をかぶり吸血鬼となる。
 ジョナサン・ジョースターの手によって一度は殺されたと思われたが、100年の時を経て再び野望を達成すべく蘇る。
 1987年、エジプトにて空条承太郎の手によって殺される」

DIOはカーズとは対照的に驚きを一切示すことなく、承太郎の言葉を鼻で笑って見せた。
だがその目は怒りに染まっている。承太郎を睨み殺さんとばかりにその視線は赤く、燃え滾っている。
承太郎はそれを無視して吉良を指差す。あらかじめセリフ考えていたごとく、スラスラと言葉が飛び出てきた。

「吉良吉影、1966年生まれ。
 18歳のとき初めて殺人を犯す。それを皮切りに手の綺麗な女性をターゲットとした殺人を繰り返す。
 最終的には48人もの女性を殺害、二次被害を考えれば殺害数はそれ以上と推測できる。
 1999年、M県S市杜王町の郊外で自動車事故に遭い死亡する」

言葉はなかったが空気が揺らぐような感覚が辺りを走った。
いきなり死を宣言される戸惑い、自分の領域に勝手に土足で踏み上がられた気味の悪さ。
しかし稀代の極悪集である三人はそれ以上に怒りを感じた。屈辱を味わった。

時代のズレについては理解している。なるほど、自分はそうやって死ぬの『かもしれない』。
だがそれがどうしたというのだッ! それは『貴様』の世界でおきた出来事に過ぎないッ!
自らの終りの決めるのは自分自身の行いだ。自分自身の信念だ。
この私が! そうも無様な終わりを迎えるだと? 野望を叶えることなく、惨めに地に伏すことになるだと……?

640大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:20:27 ID:tFZwjNi.
吉良の登場で冷え切った空間が急速に熱せられていく。
爆発直前のエンジン中のように、三人の怒りがあたりの空気を変えていく。

承太郎とて同じことだった。彼は怒っている。どうしよもなく、こらえる必要もなく怒っている。
ここにいる三人は間違いなく性根の腐りきった「悪」だ。
川尻しのぶの放った言葉が上滑りしそうなほどの悪。彼らを悼む家族などいない。彼らが突然良心に目覚めることもない。
殺し合いに巻き込まれたから仕方なく殺すのでない。
彼らは殺し合いが起きなかったとしても、自ら殺しあいを仕掛けるような人種なのだから!


怒りに震える三人を眺めると、承太郎はポケットからタバコを取り出し一服する。
全員から立ち上る殺気をそよ風のように受け止めながら独りごちる。

「三人同時は『少しだけ』骨が折れそうだな……やれやれだぜ」

余裕の笑みを崩すことなく、しかし内心は怒り狂いながらDIOはザ・ワールドを傍らに呼び出す。
もはや遊びはおしまいだ。死よりも残酷な結末を……ここに描いてみせるッ!

「どんな未来に生きていようとも……どんな過去を辿っていこうとも……! 『世界』を支配するのはこのDIOだッ!」

吉良吉影は己の半生を思い返す。
どんな困難であろうと切り抜けてきた。どんなピンチもチャンスへと変え、この生活を守ってきた。
譲りはしない……! びくびく怯えながら過ごす日は『今日』だけだ。
私は帰るんだ。元の世界に帰って、必ずあの平穏な日々を……!

「私の正体を知られてしまった以上、誰であろうと生かしてはおけない。全員まとめて……始末させてもらおうか」

パキパキ……と音を立てながら体が修復をはじめる。しかし木っ端微塵に砕かれたプライドまでは決して治すことはできない。
突き出た刃物越しにカーズは三人の顔を眺めた。
どいつもこいつもアホヅラを下げてやがる。このカーズの足元にも及ばぬ程の、原始人どもが……ッ!

「簡単には殺しはしないぞ、人間。このカーズを踏みにじったその行い……泣き喚き、許しを乞うほどの後悔を与えてやるッ!」


そこは既にただの洞窟ではなくなっていた。
四人の超人たちによる生き残りデスマッチ。時間無制限。ギブアップなしの一本勝負。
先の戦いの余波で、天井からゆっくりと小石が落ちてくる。そしてそれが地面に落ちたその瞬間!


―――四人の戦いが始まった。

641大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:21:20 ID:tFZwjNi.

 ◇ ◇ ◇



一番に動いたのはDIOだった。
承太郎目指し、真っすぐに向かっていく。が、左方向から迫る影を察知し、急停止。
スタンドを構え直したと同時に、上から振り下ろされた刃から身をかわす。

カーズの動きは早い。DIOが足を止めた一瞬の隙に二手、三手と攻撃を畳み掛けてくる。
小刻みに距離を取りながらDIOは考える。カーズは接近戦を仕掛けようとしている。スタンドを持たず、飛び道具もないようだ。
ならば距離を取るのが定石。スタンドがある分、距離を広げれば有利になる。

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ! ……なに?!」
「無駄、と言ったか……? 『無駄』と言ったのかァ、DIOォォ〜〜?」

が、しかしDIOは見誤っていた。相手を大きく吹き飛ばそうと放ったカウンター。
巨大なゴムをたたいているような違和感のなさ。見れば叩き込んだ拳にべったりと蠢く肉片が付着していた。
強力な酸を浴びせ掛けられたような熱さを感じ、DIOは歯を食いしばる。
嘲るカーズの追撃を間一髪でさけ、足元に転がっていた岩を放り投げ牽制する。
ようやく距離をとった頃には指先の皮膚は全て喰らい尽されたあとだった。

余裕の表情を見せるカーズ。強敵の出現に表情を険しくするDIO。

「フン、たかが吸血鬼がこのカーズに楯突こうとはなァ……。やめるなら今のうちだぞ、吸血鬼よ」
「柱の男だがなんだか知らんが……頂点に経つのはこのDIOだ。その言葉、そっくり返してやるぞ、カーズ!」



「…………」
「タバコ、やめてくれないか。そもそも吸うのであれば周りの人に一声かけるのが常識だろう」

人有らざる者たちの戦いの脇で、人同士の戦いも始まろうとしていた。
カーズとDIOの戦いを眺めていた承太郎は吉良の言葉に振り向く。
気だるげにこちらを眺める吉良の姿を確認すると、承太郎は黙って二本目のタバコに火を付けた。

吉良はイラついたような表情を浮かべたが、諦めたのか言葉を繰り返すようなことはしなかった。
代わりにキラー・クイーンを傍らに呼び出し、戦いの構えを取る。
ポケットに隠し持っていた小石を爆弾に変えようと手を伸ばす……―――。

「―――!」
「スター・プラチナ」

その一瞬の隙を付き、承太郎が仕掛けた。
時をゼロコンマ止め、一気に吉良の懐に潜り込む。吉良は突然の接近に慌てて後退するが、二人の距離は3メートルもない。
吉良は一瞬ためらい、距離をとることを諦めた。
キラー・クイーンは接近戦を得意としているわけではない。爆発の能力をフルに発揮できない分、戦いにくさは否めない。

「しばッ」
「オラァ!」

642大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:21:50 ID:tFZwjNi.

連戦と負傷で満足には動けないといえど、それでもやはりスター・プラチナが上をいっている。
キラー・クイーンが振り下ろした手刀を拳で跳ね除ける。続けて放った連撃に、キラー・クイーンは対処しきれない。
二発、三発が入り、キラー・クイーンの体が衝撃に揺れる。吉良の口から苦しげな呻きが漏れた。承太郎は手を緩めない。

だが、キラー・クイーンは吹き飛ばされた衝撃を利用して、逆に後ろに飛び跳ねた。
さらに追ってくるスター・プラチナに対し、無造作に小石を投げつけていく。
どれが爆弾化されたかわからない承太郎は闇雲に突っ込むわけにも行かず、スタンドを止める。

急停止、急後退。承太郎は追撃を取りやめ、カウンターを恐れた。
接近戦ではかなわないと悟っていた吉良は、下がった承太郎に対しむやみに仕掛けない。
そのまま距離をとり続け、爆弾が届く距離で止まった。

再び両者の距離は広まり、承太郎と吉良の間には二十メートル強の間合いが生まれる。
勝負はこの間合いにかかっている。この間合いをいかに保つか。この間合いをいかに詰めるか。

吉良は口元からたれた血をハンカチで拭う。
ポケット内で染みがうつることのないよう、折り目を逆にしてしまいなおす。
一つ一つの動作は冷静だったが、その表情は屈辱に燃えていた。苦々しげにつぶやく。

「なるほど、全てお見通しというわけか……! 私の正体のみならず、キラー・クイーンの能力までもお前は知っていると!」
「どうした、俺を吹き飛ばすんじゃなかったのか……? そんなに離れてちゃ、爆弾どころか煙すら届かないぜ」



「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
「KUWAAAAAAAAAAAA――――ッ!」

両者の戦いは熾烈を極めていた。互いに吸血鬼、柱の男の再生能力頼みの荒っぽい真っ向勝負。

DIOはカーズの『憎き肉片』に対処するため、ザ・ワールドに二本の斧を持たせていた。
自身もいやいやではあるが拳銃を手にする。直接手を触れずに、確実に息を止めるため。
カーズは既に纏っていたコートを脱ぎ捨て、帽子も放り捨てていた。
肉体を120%フルに活動させ、己の体でDIOを殺す。体面などを気にしている暇もなかった。

まるでおもちゃを扱うように、ザ・ワールドが斧を振り回す。カーズの刃をはじき飛ばし、首もとめがけ豪快に振り下ろす。
カーズは時に迎え撃ち、時に関節を捻じ曲げ、スタンドの攻撃をいなしていく。同時にDIOへの対処も怠っていない。
DIOも最初の数発でただいたずらに弾丸を打ち込むだけでは無駄と悟り、今では首輪のみを狙った射撃を心がけている。
もちろん隙あらば自身もザ・ワールドに混じり、カーズの体に攻撃を叩き込んでいる。

血が天井までとび赤いシミを作り出す。細かくちぎれた肉片が壁一面にべたりと張り付いていく。
そしてしばらくすると……パキパキパキ、と背筋が凍るような音が洞窟に響いた。
カーズの傷が癒えていく。DIOから流れ出ていた血が止まり、傷口がふさがっていく。

まさに化物どうしの戦いだった。凄まじい轟音を立てながら二人は洞窟内をめちゃくちゃに飛び回り、互いの刃を真っ赤に染めていた。

643大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:22:18 ID:tFZwjNi.

「『シアー・ハート・アタック』!」
「スター・プラチナ!」

一方人間たちの戦いに動きは少なかった。すり足で間合いを詰める。牽制を細かくいれつつ、後退する。
飛び交う爆弾、立ち込める砂埃で視界は悪い。どちらも強力なスタンドを持ってるが故に不用意に攻撃を仕掛けるわけには行かない。
人間同士だからこその堅実で、しかし息詰まるような戦いは、吉良の仕掛けで崩れた。

左腕から飛び出た不気味なスタンド。
それを見ると承太郎は即座に詰めていた間合いを放棄し、後ろ後ろへ下がっていく。
シアー・ハート・アタックの後を追うようなかたちで吉良も走る。
二つのスタンドによる波状攻撃。ここで一気に仕留める……!

承太郎はさらに後退する。時折、姿が消えたようなあの不思議な能力を発動しながら、彼は逃げていく。
ついには四人が顔を見合わせた天井の高い洞窟を離れ、狭く暗い横穴に消えていく。
吉良にとっては好都合だった。承太郎の攻撃方向を前方のみに限定できる。
間合いを見誤らなければ今までよりもう一歩踏み込んで攻撃できるだろう。

『コッチヲミロォォォォオ――――ッ!』

シアー・ハート・アタックがついに承太郎に追いつく。合わせて吉良も足をはやめる。
たとえスタンド能力を使ってシアー・ハート・アタックをかわしたとしても、必ず隙は生まれる。
承太郎のスタンド能力は連発が効かない。ならばそこをキラー・クイーンで仕留める!
狭い横道に逃げ場所はなかった。承太郎は息を切らせながら後退する。
もう少し……、もう少しでシアー・ハート・アタックが追いつく……!

「今だ、殺れ! 『シアー・ハート・アタック』!」

爆発とともに舞い上がった煙を見て、『殺った!』と吉良は思った。逃げ場などはなく決定的だと彼には思えた。
しかし次の瞬間、吉良はものすごい衝撃を喰らい、ロケットのように吹き飛んだ。
今走ってきたばかりの洞窟を逆戻りし、地面を何度も跳ねながらようやく止まる。
同時に凄まじい痛みが全身を貫いた。腹部、左腕、左手、背中、後頭部……。
フライパンで思い切り殴られたかのような痛みに、情けないうめき声が漏れた。

爆破の余波で舞い上がった煙に紛れ横道から一つの影が浮かび上がる。
のたうつ吉良の視界に移ったのは、殺ったと確信したはずの男の姿だった。
承太郎の左半身はシアー・ハート・アタックの爆破でズタズタに引き裂かれている。
だが、足も腕も、頭も無事だ。ピンピンしている。
それどころかさらに怒りを滾らせ、吉良を始末しようと迫ってくる……!

両者のダメージで言えば承太郎のほうがひどい。吉良は軽傷、承太郎は重症だ。
だがスタンドは精神力だ。心と心のぶつかり合いだ。その点で、吉良にもう勝ち目はもうなかった。
彼の心は完全に折れていた。自分の能力を完全に把握し、秘密を知っている男に吉良は不気味さと恐怖を覚えていた。
戦いは一転、弱腰の吉良を承太郎が追い詰めていく形になる。
吉良はもう攻めていかない。彼の頭にあるのはいかにこの場を切り抜けるかだけだ。

644大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:22:54 ID:tFZwjNi.

四人は戦った。時折相手を入れ替えて、一瞬のつばぜり合いをし、また戦う。
死力を尽くし、自らを鼓舞しながら戦い続ける。
終りの見えない、嫌な戦いだった。もしも誰かひとりでも倒れれば、四人のバランスは大きく傾き、戦いは終局に向かっていっただろう。

だが終わりは唐突にやってきた。誰ひとり倒れることなく、突然に。そして、唐突に。



「捉えたぞ、カーズ! 『ザ・ワールド』! 時よ、止まれッ!」

幾度の交戦を経て、DIOはフルパワーで時を止め、勝負を仕掛けた。
停止時間五秒をすべて攻撃に回しカタを付ける。
今までほんの一瞬時を止めてもフルパワーで時を止めるようなことはしなかった。
それはDIOならば承太郎の存在が、承太郎にとってDIOの存在が。
互いに時を止め終えた瞬間に時を止め返されたら大きな隙ができるとわかっていたからだ。

しかし長く待ちわびた状況がついに訪れた。
DIOとカーズ、承太郎と吉良。二組は洞窟内の端と端に分かれ、その間は優に三十メートルは離れているだろう。
たとえ時が動き出した瞬間に承太郎が時を止めても距離が大きく離れた今、十分に対処できる範囲内だ。
DIOは時を止めた瞬間、一瞬だけ承太郎の姿を確認する。いける……、今ならば間に合わない!


五秒前 ――― 戦いの余波で崩れ落ちてきた岩石をさけ、カーズのもとへ向かうDIO。
四秒前 ――― 十分間に合う。カーズまでの距離、残り十メートル。
三秒前 ――― DIOの顔に邪悪な笑みが広がった。哀れなり、カーズ……! こいつは自分が死んだことも知覚できない!
二秒前 ――― ザ・ワールドが構えた斧を振り上げる。死刑囚の首筋に叩き込むように斧が迫る!


「な、何ィィィ―――?!」

しかし直前でDIOは二つの違和感に気がついた。馬鹿な、とそう叫びたくなった。
まだまだ時間停止の世界は続くはずだった。途中で途切れたならば自身の消耗が激しかったからと納得も行きよう。
DIOにとって予想外だったのは自身も動けなくなっていたからだ。
斧が振り下ろされたその瞬間に、凍りついたようにすべてが止まったのだ!

「俺が時を止めた。カーズを始末したいのは俺とて一緒だが、お前を好きにはしておけないんでな……」
「承太郎、貴様ァ!」

そして二つ目の予想外は承太郎の行動であった。
大きく離れた位置から彼がしたことは間合いを詰めるでもなく、拳銃をぶっぱなすでもなく……。
なんと承太郎は『放り投げた』のだッ!
今しがたまで相手をしていた吉良のスタンド、『シアー・ハート・アタック』を掴むとDIOの目前めがけ放り投げたッ!
狙いすましたように斧の切っ先で停止した自動爆弾。
たとえDIOが振り下ろすのを止めたとしても、熱源に反応したスタンドは爆発するだろう。


―――そして時は動き出す

645大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:23:19 ID:tFZwjNi.



そして……直後、凄まじい音と光を発しながらシアー・ハート・アタックが爆発した。
その衝撃は凄まじく、近くにいたカーズとDIOは爆風に吹き飛ばされる。
遠く離れた位置にいた承太郎と吉良も、巻き上げられた砂埃に視界を奪われた。
轟音がとどろきあたりは一面何も見えなくなる。爆破音はいつまでもこだまするかのように、洞窟中を揺らしていた。

いや、違う……! 本当に洞窟が揺れているのだ!
ミシリ、ピシリ……と音を立てて洞窟全体が揺れ始める!
四人の戦いの余波で崩れかけていた洞窟が限界を迎え、今の一撃で完全に崩壊しようとしていた!

すさまじい音を立てて天井が崩れはじめた。次から次へと巨大な岩が、雨あられと降り注ぐ。
戦いを続けることは不可能だった。承太郎はそれでも逃がすものかと、懸命に三人の姿を追ったが後の祭りだった。
影がひとつ、ふたつと横穴に消えていく。承太郎が落ちてくる岩を壊し、かわし進むスピードより、三人の逃げ足の方が上だった。

そして四人の戦いは終わった。
あとに残されたのは手持ち無沙汰の怒りをぶら下げた承太郎と、天井まで積み上がった行き止まりの洞窟のみ……。
誰も死なず、誰も殺さず。痛み分けの、後味の悪い戦いだった。

646大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:23:49 ID:tFZwjNi.

 ◇ ◇ ◇



ずるずる…………ずるずる…………―――

洞窟の壁にもたれかかるように進む影がひとつ。体を引きずる音に紛れ聞こえるのは荒い呼吸音、ぴちゃんと液体が滴り落ちる音。
何も知らない人が彼を見たらぎょっとするに違いない。
吉良吉影は満身創痍で息絶え絶え、動いているのが不思議なほどにボロボロの姿をしていた。

何より目に付くのが血だらけの左腕。
手の甲は蜘蛛の巣のように裂傷が走り、上腕部は出血箇所がわからなくなるほどに真っ赤に染められている。
自慢のスーツも台無しだ。泥まみれ、血まみれ、埃まるけ……。時間をかけてセットした髪も、今はだらしなく垂れ下がっている。
ずりずり、と弱々しく進む。目に力はなく、もはや自分の容姿を気にかける余裕すらない。

「この吉良吉影が、なぜこんな目に…………どうして……」

闘争を嫌っていても劣っていると思ったことは一度もなかった。自分の能力をフルに発揮すればいつだって勝利できると、そう思っていた。
だが……見よ、この有様を! どうだ、この現実は!
惨めだった。情けなかった。誰ひとりとして敵う相手などいなかった。
黄金の吸血鬼、刃物を操る超人、最強のスタンド使い……どいつもこいつもこの吉良吉影よりも巨大な力を持っていた。

「くっ……なんでこんなことに……」

ぽたり、ぽたり……。
腕からの出血が止まらない。止血のため乱暴にまいたネクタイは既にたっぷりと血を吸って重くなっている。
滴る血に紛れて、頬を伝う涙が音を立てて落ちた。今、吉良は初めての敗北に打ちひしがれている。
何事も切り抜けられると思っていた。幸運は常に自分に味方してくれると、そう根拠もなく信じていた。

だが違ったのだ……! ここではそんな盲信は通用しない!
植物のような平穏な生活を送っていた彼にとって、まさにここは真逆の世界。
奪い合い! 殺し合い! 吉良は悟った。この期に及んでようやく、自分がどんな状況にいるのかが理解できたのだ……!

「私は、死なないぞ……ッ! 死んでたまるものかッ! 必ずあの平穏な生活を取り戻して……ッ!」

だがそう理解していても、吉良はどこか無用心だった。
怪我を負っているとはいえ、初めて敗北を知ったといえ、だれかの接近に気づかないほどに今の彼には余裕がなかった。
ころころと音を立て、小石が転がってくる。視線を上げ、すぐ目の前までに人影が迫っていることにようやく気がつく。

「空条……さん、じゃないですよね」

噛み殺したような声と共に懐中電灯が吉良の顔を照らす。顔を上げた吉良の視界に映ったのは川尻しのぶの姿だった…………。

647大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:24:29 ID:tFZwjNi.

 ◇ ◇ ◇



「…………」

目の前高く埋まった石を見て、承太郎は元来た道を引き返す。もうかれこれ地下道を歩いて十数分はたっている。
承太郎が思った以上に先の戦いの影響は大きかったようだ。行く先行く先で天井が崩れ、元来た道も引き返せなくなっていた。
頼りになるのはコンパス一つのみ。地下地図はしのぶに渡してしまったため、方角のみを頼りに地上に向かうしかない。

走るほど焦ってはいないが、のんびり歩いているほどのんきでもない。
早歩きで分かれ道に向かい、左へ曲がる。ずんずんと道を進み、僅かな物音も聞き逃さないと耳を澄ませる。

まだ体の中で熱は残っていた。それは、確固たる怒り。
カーズ……、DIO……、そして吉良吉影……。
いずれも裁くべき邪悪だ。容赦なく拳を振り上げれる存在だ。改めて問いかける必要もない、完璧な悪。

承太郎はどこかで彼らを求めていた。
徐倫を失った悲しみを思う存分ぶつけられる相手を。自分の不甲斐なさを怒りに変え、躊躇なくぶつけられる悪を。
歩けば歩くほどに、少しずつその事実が承太郎を蝕んでいく。
娘の死にやけっぱちになっている自分。罪滅ぼしのために無謀な何かをしてみたいと思ってる自分。

わかっている……、わかっているとも……ッ!


『徐倫は……そんなことを望んではいやしないッ!』
『わたしは、ひどい母親でした』


頭の中でナルシソ・アナスイの言葉がガンガンと鳴り響いた。川尻しのぶの戒めるような視線が承太郎の体を貫いた。

そうだ、承太郎だってわかっている。とっくに知っていたんだ、こんなことをしてどうなるかなんて。
でも、それでもどうしようもないほどに、承太郎は自分が許せないのだ。
何か目的をもたなければ体がバラバラになって二度と立ち上がれないように思えるのだ。
その場に崩れ落ちて、ズブズブと地面に溶けさってしまいたい気持ちになってしまうのだ。

誰かを断罪せずにはいられない……そして、誰よりも罪を贖うべきなのは…………罪を償うべきなのは…………。

648大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:24:59 ID:tFZwjNi.



―――娘をこんなことに巻き込んだ、俺自身だ


はたり、と承太郎の足が止まる。どうやら考え事に集中しすぎていたようだ。
気づいた頃には、迫り来る足音がもうそこまでやってきていた。
誰かがそこにいる……。スター・プラチナを呼び出し、戦いの構えを取る。
今は考えている場合ではない。今やるべきことは、とにかく空条邸まで戻り、川尻しのぶと合流すること。

「……川尻さん?」

ぴたりと相手が止まった気配がする。川尻しのぶでは、ない。
痛む左腕をそっと抱きながら、承太郎は一歩、二歩と足をすすめる。
スター・プラチナの驚異的視力をもってしても、この暗闇では相手が誰なのかわからなかった。

しのぶでないしても無害な存在なら一応保護しなくてはならない。
この殺し合いに反している正義のものなら、もしかしたら協力できるかもしれない。
そうでない奴らであるならば…………容赦はしない。たとえ手負いであろうと全力を尽くして……ぶっ潰す。
承太郎の目が妖しく光る。無言のまま、さらに近づいていく。相手が動く気配はしない。さらに一歩……さらに一歩。
そうして懐中電灯が届くであろう距離まで近づいて……


「そこにいるのは誰だ……答えな」


―――相手の顔を照らすように光を掲げ、次の瞬間、承太郎の息が止まった。


手から滑り落ちた懐中電灯が地面で跳ね上がり、何もない空間を照らす。
ジジジ、ジジジと熱線がこげるような音が聞こえ、当たり所が悪かったのか、懐中電灯が消える。
暗闇に包まれる洞窟の中、見えるのはぼんやりと浮かんだお互いの影だった。

視界が遮られ、不自然にお互いの呼吸だけが鼓膜を揺らす。
ドクンドクンと異常な速さで心臓が早鐘を打った。
尋常でないスピードで、体の隅々めがけ血流が回っているのが承太郎にはわかった。

懐中電灯を取り上げようとする手は震えていた。
承太郎は懐中電灯が壊れてないことを確かめるともう一度目の前の影に光を向ける。


―――……徐倫


そこにいたのは空条徐倫だった。
青ざめた顔、震える両の肩、ほどけた髪の毛。自分に似た目の色をもった……まぎれもない空条徐倫が自分を見つめていた。


承太郎の中で時が止まる。何も考えられない。目の前の光景が信じられない。


チクタクチクタク……デイパックの中で動き続ける時計の音があたりに響いた。
どちらも動かなかった。誰も動けなかった。
二人はバカみたいな格好のまま、それでも互の姿を目に焼き付けるようにいつまでも見つめ合っていた……。

649大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:25:23 ID:tFZwjNi.

 ◇ ◇ ◇



―――空条徐倫は死んでいる。それは紛れもない事実だ。だとしたら考えられるのは……スタンド能力、か。


マッシモ・ヴォルペは冷静にそう結論づける。
放送で読み上げられたならそれは動かしようもない、確固たる事実のはずだ。
ならば承太郎がどれだけ望もうと、どれだけ願おうと、今彼が目にしている少女は少なくとも彼が望む『空条徐倫』ではない。
もちろん承太郎とてそんなことは分かっているはずだろう。だからこそ、ヴォルペは次の反応を息を潜めて待った。

ヴォルペはずっと見ていたのだ。
DIOに連れられてこの地下に入り、DIOが承太郎と戦うところを見ていた。鬼気迫る表情で怒りの拳を振るう承太郎を見た。
戦いが終わり、腕をかばいながら歩く承太郎を追った。瓦礫で先がふさがっていても、冷静に対処するその姿も見てきた。

―――だが……この状況でどうする……? お前は今何を考えている、空条承太郎……?

ヴォルペは気づいていなかった。目の前の現象に『夢中』になるあまり自分自身の大きすぎる変化に、彼はまだ気づいていなかった。
ヴォルペは自分に感情なんてないと思っていた。感情がないならば執着もない。感情がなければ冷静さを失うこともない。
だが今や彼は承太郎の一挙一動に『夢中』であった。
彼の苦痛に歪む表情が、怒りに染まった瞳が、血だらけになった両の拳が……その全てから目が離せなくなっていた。

ヴォルペは開花しつつある……。
その魂の奥底に撒かれた邪悪の花は、DIOの手に掛かり、承太郎という餌を喰らい、今おおきく花開かんとしている。

ヴォルペの右肩に乗った『マニック・デプレッション』が怪しげな笑い声を漏らした。
誰に聞かれるでもないその邪悪な声はヴォルペ自身をも通り抜け、洞窟の暗闇の中、木霊し続けていく……。

ヴォルペは学んでいる。憎しみという感情を。嫉妬という感情を。
そして……誰かを『壊してみたい』という邪悪な想いを……。

650大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:26:06 ID:tFZwjNi.
 ◇ ◇ ◇


愚痴の一つも言いたくなるもんだ、とホル・ホースは小さな声で毒づいた。
だらだらと冷汗が流れ、シャツをぐっしょりと濡らしていく。さっきシャワーを浴びたばかりだというのにこのざまだ。
慎重に、相手に悟られることのないよう、ホル・ホースはもう一度身を乗り出す。
はるか遠く、視線の先にいたのは学生風の東洋人と……あの『ヴァニラ・アイス』だった。

(どうしてこんなんになっちまったんだよ、まったくよォ……)

徐倫を追って教会を飛び出したものの、既に彼女の姿は見えず手当たり次第あたりを駆け回った。
どこをどう探しても見つからず、諦めようかと思っていた頃に人影を見つけた。
しめた! と思ったものの見つけたのは最悪も最悪、『あの』ヴァニラ・アイスだ。
能面のように固い横顔を見つめながら、ホル・ホースは震え上がる。

(DIOに首ったけのあのヴァニラ・アイスのことだ……見つかったらただじゃすまないに決まってる!
 そのうも、お供もついてるってもんだ。一対一ならまだしも二対一じゃ多勢に無勢だぜ……。
 ああ、クソ……徐倫のやろう、見つけたらただじゃおかないぜ……あんちくしょう〜〜〜!)

物音を立てないよう、もう一度木の陰に隠れなおす。
このままやり過ごすべきか。そもそもやり過ごせるのだろうか。
仕掛けるとしたらもう少し引きつけてか? いやいや、これ以上近づかれたらまずい。この距離なら『エンペラー』でやつのどたまを……
だが待て、逆方向から弾丸をぶち込めばそっちに向かってくれるのでは? 無理に戦う必要なんてない。
ここをやりすごせれば俺としては……―――

しかし、ホル・ホースの思考は突然そこで破られた。

ウニョン、と嫌な感触を足元に感じる。生暖かい息遣いと対照的に湿った手触り。
見下ろしてみれば泥のスーツをまとった男がホル・ホースの足首を掴んでいた。
二人の視線がぶつかりあう。突然のことに、ホル・ホースの思考が止まる。
泥の男としても掴んだものがホル・ホースであったことが予想外だったのか、固まっている。
二人とも動くに動けない、奇妙な沈黙が漂う。
そして―――

「うぉおおおおおおおおおお―――ッ!?」

立て続けに銃声が三発、叫び声が二つ。それを聞いた遥か遠くの二つの影が止まる。
ヴァニラ・アイスは立ち止まると形兆に合図を送った。バッド・カンパニーが一斉に動き出す。
ホル・ホースの不幸はまだまだ続きそうだった。

651大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:26:37 ID:tFZwjNi.

 ◇ ◇ ◇



 ぱちぱちぱちぱち……―――(拍手の音)



 ◇ ◇ ◇

652大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:27:04 ID:tFZwjNi.




 ぱちぱちぱちぱち……―――乾いた拍手の音が洞窟内に反響する。

「ご苦労、戻ってこい、『オール・アロング・ウォッチタワー』」

働き蜂が巣に戻ってくるように、どこからともなく一枚、また一枚とトランプのカードたちが姿を現す。
小言や愚痴を吐きながら、ムーロロの持つ帽子の中へと飛び込んでいくスタンドたち。
はるか遠くまで飛ばしていたカードもあって、完全撤退には時間がかかった。
ハートのクイーン、クローバの8、ダイヤの10……そうして、よろよろと最後の三枚が帽子の中に入っていった。
それでもムーロロは微動打にせず数十秒待った。が、それきり帰ってくるカードはいなかった。
ムーロロは眉をひそめる。足りない。スペードのキングがまだ帰ってきていない。

「ひょっとして君が探しているのは……コレのことかな?」

即座に振り返る。と、同時にものすごい速さで一枚のトランプカードがムーロロの足元に突き刺さった。
地面に突き刺さったまま、スペードのキングが弱々しく呻く。
ムーロロはちらりとそれを眺めると、目の前に立つ男に向き直った。

DIO。本名はディオ・ブランドー。
ジョナサン・ジョースター、空条承太郎を尾行させていてた時に仕入れた情報を思い出す。
相手に悟られない程度に舌打ちをした。考えうる中で最悪最強のやつと、よりにもよってこのタイミングで会ってしまうとは……。

ムーロロは後ずさりたくなる衝動をこらえて目の前の敵をじっくりと眺めた。
王者の風格、強者としての自信……なるほど、凄まじいわけだ。先の激戦を思わせるものは何もない。
疲弊をものともせず、堂々とした態度に気負いそうになる。だが、ムーロロは呼吸を繰り返すと冷静に頭を働かせ始めた。

決して敵わない相手ではない。
ムーロロが事前に調べ上げた情報と、この『オール・アロング・ウォッチタワー』があれば勝てる。
そう、ムーロロは確信した。そして、確信した同時に奇妙な虚しさがどこかから湧き上がってきたのを感じた。

「血肉湧き踊る戦いだったろう……楽しんでもらえたかな、『カンノーロ・ムーロロ』君?」
「…………!」
「おいおい、そんな驚くなよ……そんな難しいことじゃあない。ヴォルぺを知っているだろう?
 彼が教えてくれたんだ。当然君も知っているはずだ。
 なんせ私たちを、この六時間、それ以前から監視していたんだからなァ」

手負いだというのにDIOはそんなことを気にかけず、無用心にムーロロに近づいてくる。
ムーロロは背中に手を回し、集めたばかりのスタンドたちをふるい落とした。同時にポケットに『亀』がいることを確認する。
DIOは気がついているのだろうか。それともあえてムーロロの好きなようにやらせているのだろうか。
だとしたら舐められたものだ。もっと俺のことを見下すがいいさ、と内心で毒づく。
DIOが油断すれば油断するほど勝機は増える。生き残る確率は高まっていく。

「彼が君のことを教えてくれたよ。君自身のこと、君のスタンド能力について……。
 ありとあらゆる知っている限りのことを洗いざらいね」

653大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:27:30 ID:tFZwjNi.

二人の距離が縮まっていく。闇に紛れて何枚かのスタンドたちがDIOの背後に回る。
それ以外はムーロロの足元で待機。急襲時に壁になり、迎撃にも備えさせる。勝負は一瞬だ。
DIOが『時を止める』にはどうしたって一呼吸が必要なのだ。戦いの中でその「くせ」は見抜いている。
その瞬間にムーロロは自らを囮にし隙を生み出す。そして……喉元をかっきり、腕を切断し、バラバラに引き裂いてやるッ!


「どうだい、カンノーロ・ムーロロ……ひとつ、提案なんだが……」


もう少し……もう少し……―――今!

DIOが間合いに踏み込んだ完璧のタイミングで、四方八方から51枚のスタンドカードが襲いかかった。
ザ・ワールドの精密性とスピードをもってしてもすべてをはじき飛ばすことはできない。
DIOはあまりにたやすくムーロロの間合いに踏み込みすぎた。ムーロロはやった、と思った。
拍子抜けるほど簡単だ、とムーロロはその瞬間に違和感を覚えた。
達成感と同時にどこか虚しさすら覚えるほどだった。またこうやって俺は殺しを重ねるのかとがっかりしたほどだった。


だが……―――


「私と友達になってみないかい……?」


ムーロロが予想した以上に、DIOの時を止める能力は優れていた。
もう一秒、早ければ殺ったとは言わずとも両腕を吹き飛ばすぐらいは出来たかもしれない。
気がつけばトランプたちに埋もれるはずだったDIOの姿は掻き消え、ムーロロの目の前にその姿はあった。
ほんの一メートルもない距離に、その黄金の姿を見せつけるように彼は立っていた。その顔に満面の笑みを貼り付けて。

DIOは焦るふうでもなく、なんでもない感じでムーロロの肩に手を置く。
お気に入りの甥っ子をながめるように少しだけ目線を下げるとまっすぐムーロロと目線を合わせる。
いつのまにかのびた腕はがっちりと両肩をつかみ、例え殺されようと離さないにと言わんばかりの意志の強さが腕から伝わってきた。

ムーロロはDIOを見る。DIOはムーロロを見た。
考えてみれば二人共、直接こうやって互の姿を見ることは初めてのことだった。
真紅で縦長の切れ目はまるでオパールのように美しい。
瞳に反射した自分の顔が写り、ムーロロは『無様に狼狽している自分』をそこに見た。

沈黙が辺りを覆った。たっぷり三十秒はそのまま二人は向かい合い、DIOは手を離した。
そうして彼は満足げに頷きを繰り返すと、囁くようにこういった。

654大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:28:00 ID:tFZwjNi.

「なんて『恥知らず』なんだ、君は」


それは『未来から』の伝言であり、『送られる』はずの言葉だった。
ジョルノ・ジョバァーナがカンノーロ・ムーロロに宛て、贈るはずだった言葉だ。
ムーロロの底知れない闇と、虚しさを知り、そこから救い出すべく差し出した言葉。
だが時をこえ、因果を超え……・今、その言葉が新たなものから彼に送られようとしている。
ムーロロは動けない。雷に打たれたかのように、彼はその場に凍りついたままだ。


(見破られた、この男に。自分のこのうっすぺらな根性が……! 全て! 包み隠さず!)


時が止まった空間を切り裂くよう、スティーブン・スティールの声が聞こえた気がした。
だがそんなことすらムーロロにはどうでもいいように思えた。
今はただ息を潜めて待つだけだ。自分の目の前に立つ男が何を言うか。

DIOは放心するるムーロロを眺め、笑みを深めた。
子供をあやすような優しい声音で彼は今言ったばかりの言葉をもう一度繰り返す。

「友達になろうじゃあないか……、カンノーロ・ムーロロ君……?」

655大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:28:26 ID:tFZwjNi.
 ◇ ◇ ◇






【D-4とD-5の境目 地下/一日目 昼】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:服一式
[道具]:基本支給品×5、サヴェージガーデン一匹、首輪×4(億泰、SPW、J・ガイル、由花子)
    ランダム支給品3〜7(億泰+由花子+アクセル・RO:1〜2/カーズ:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.首輪解析に取り掛かるべきか、洞窟探索を続けるか。
1.柱の男と合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。
3.自分に屈辱を味わせたものたちを許しはしない。

656大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:30:56 ID:tFZwjNi.
【D-4中央部 地下/一日目 昼】
【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』

657大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:31:52 ID:tFZwjNi.
NGワード規制に引っ掛かりました。
たぶん家/出がそれみたいです。

[状態]:左半身火傷、左腕大ダメージ、全身ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:煙草、ライター、いえで少女のジャックナイフ
    ドノヴァンのナイフ、カイロ警察の拳銃(6/6 予備弾薬残り6発)

658大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:32:11 ID:tFZwjNi.
[道具]:基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、DIOの投げナイフ×3
    ランダム支給品3〜6(承太郎+犬好きの子供+織笠花恵/確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.???
1.始末すべき者を探す。
2.空条邸で川尻しのぶと合流する?
[備考]
※ドルチの支給品は地下地図のみでした。現在は川尻しのぶが所持しています。
※空条邸前に「上院議員の車」を駐車しています。

【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:空条徐倫の身体、体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルなし)、ランダム支給品2〜4(徐倫/F・F)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
0.混乱
1.『あたし』は、DIOを許してはならない……?
2.もっと『空条徐倫』を知りたい。
3.敵対する者は殺す? とりあえず今はホル・ホースについて行く。
[備考]
※第一回放送をきちんと聞いていません。
※少しずつ記憶に整理ができてきました。


【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:空条承太郎に対して嫉妬と憎しみ?、DIOに対して親愛と尊敬?
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい。
0.DIOと共に行動。
1.空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい 。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。

659大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:32:29 ID:tFZwjNi.

【D-5 南部 地下/1日目 昼】
【吉良吉影】
[スタンド]:『キラー・クイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:左腕より出血、左手首負傷(極大)、全身ダメージ(極大)疲労(大)
[装備]:波紋入りの薔薇、聖書、死体写真(ストレイツォ、リキエル)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.けがの治療のため、地上を目指す。
1.優勝を目指し、行動する。
2.自分の正体を知った者たちを優先的に始末したい。
3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。

【川尻しのぶ】
[時間軸]:The Book開始前、四部ラストから半年程度。
[スタンド]:なし
[状態]:精神疲労(中)、疲労(小)すっぴん
[装備]:地下地図
[道具]:基本支給品、承太郎が徐倫におくったロケット、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎を止めたい。
0.地下道を抜け、空条邸で承太郎を待つ。
1.どうにかして承太郎を止める。
2.吉良吉影にも会ってみたい。

660大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:33:14 ID:tFZwjNi.


【E-2 GDS刑務所付近/1日目 昼】
【ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:健康
[装備]:タバコ、ライター
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
0.なんとかしてこの場を切り抜ける
1.とにかく、DIOにもDIOの手下にも関わりたくない。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、興奮状態、血まみれ
[装備]:カメラ
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.オブジェを壊された恨み。吉良を殺す。
1.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。
2.DIO大好き。チョコラータとも合流する。角砂糖は……欲しいかな? よくわかんねえ。
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。  
※それぞれの死体の脇にそれぞれの道具が放置されています。
 ストレイツォ:基本支給品×2(水ボトル1本消費)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)ワンチェンの首輪
 リキエル:基本支給品×2

【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:健康
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
[思考・状況]
基本的行動方針:DIO様のために行動する。
0.虹村形兆と合流、ジョースター一行を捜索、殺害する。
1.DIO様の名を名乗る『ディエゴ・ブランドー』は必ず始末する。

【虹村形兆】
[スタンド]:『バッド・カンパニー』
[時間軸]:レッド・ホット・チリ・ペッパーに引きずり込まれた直後
[状態]:悲しみ
[装備]:ダイナマイト6本
[道具]:基本支給品一式×2、モデルガン、コーヒーガム
[思考・状況]
基本行動方針:親父を『殺す』か『治す』方法を探し、脱出する?
1.隙を見せるまではDIOに従うふりをする。とりあえずはヴァニラと行動。
2.情報収集兼協力者探しのため、施設を回っていく?
3.ヴァニラと共に脱出、あるいは主催者を打倒し、親父を『殺して』もらう?

661大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:33:39 ID:tFZwjNi.

【ペット・ショップ】
[スタンド]:『ホルス神』
[時間軸]:本編で登場する前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーチ&デストロイ
0.???
1.DIOとその側近以外の参加者を襲う

【サーレー】
[スタンド]:『クラフト・ワーク』
[時間軸]:恥知らずのパープルヘイズ・ビットリオの胸に拳を叩きこんだ瞬間
[状態]:健康
[装備]:肉の芽
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……

【チョコラータ】
[スタンド]:『グリーン・デイ』
[時間軸]:コミックス60巻 ジョルノの無駄無駄ラッシュの直後
[状態]:健康
[装備]:肉の芽
[道具]:基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……

【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:健康
[装備]:アヌビス神
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:ティッツァーノを殺したやつをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0:???

【ディ・ス・コ】
[スタンド]:『チョコレート・ディスコ』
[時間軸]:SBR17巻 ジャイロに再起不能にされた直後
[状態]:健康
[装備]:肉の芽
[道具]:基本支給品、シュガー・マウンテンのランダム支給品1〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために不要な参加者とジョースター一族を始末する
1.DIOさま……
[備考]
※肉の芽を埋め込まれました。制限は次以降の書き手さんにお任せします。
※ジョースター家についての情報がどの程度渡されたかもお任せします。

662大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:34:49 ID:tFZwjNi.


【E-3とD-3の境目 地下/1日目 昼】
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、『ジョースター家とそのルーツ』
    川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(5〜15)
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
0.???
1.情報収集を続ける。
2.誘導した琢馬への対応を考える。
[備考]
※回収した不明支給品は、
 A-2 ジュゼッペ・マッジーニ通りの遊歩道から、アンジェリカ・アッタナシオ(1〜2)、マーチン(1〜2)、大女ローパー(1〜2)
 C-3 サンタンジェロ橋の近くから、ペット・ショップ(1〜2)
 E-7 杜王町住宅街北西部、コンテナ付近から、エシディシ、ペッシ、ホルマジオ(3〜6)
 F-2 エンヤ・ガイル(1〜2)
 F-5 南東部路上、サンタナ(1〜2)、ドゥービー(1〜2)
 の、合計、10〜20。
 そのうちの5つはそれぞれ
 『地下地図』→マーチン
 『図画工作セット』→アンジェリカ・アッタナシオ
 『サンジェルマンのサンドイッチ』→ホルマジオ
 『かじりかけではない鎌倉カスター』『川尻家のコーヒーメーカーセット』→エシディシ
 のものでした。

【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(大)疲労(大)
[装備]:携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面
    リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
0.???



[備考]
※地下道D-4付近一帯が崩壊しました。ひょっとしたら横道を使って通り抜けれるし、通り抜けれないかもしれません。

663大乱闘   ◆c.g94qO9.A:2013/09/23(月) 16:36:22 ID:tFZwjNi.
以上です。なんかありましたら指摘ください。
予約延長宣言できなくて申し訳ありません。

664名無しさんは砕けない:2013/09/23(月) 20:20:39 ID:5Cqbadek
投下乙です
息もつかせぬ大乱戦に興奮しました
2、3、4部のラスボスに承太郎というまさに頂上決戦
どのパートも熱く、読み応えも抜群でした。

指摘ですが、吉良のシアー・ハート・アタックは現在使用不可能では?
というか、そもそも吉良はセッコと交戦中だったのですが、いつの間にか戦いが終わっているのですが?
説明もないので、セッコがその後どうなったのかよくわかりません。

あとは、カーズがジョセフにやられたのは1939年です。
スクアーロにのみ肉の芽がついていません。

665 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 21:56:38 ID:PSZHWz6.
議論中に申し訳ありません。
タルカス、イギー、ジョルノ・ジョバァーナ、仮投下します

666 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 21:57:12 ID:PSZHWz6.
影が二つあった。一つはとても巨大な男で、どんな大男が並んでも小さく見える程だが、下を俯いていた。彼の名はタルカス。歴戦の勇士だ。
 もう一つはとても小さな影で、遠くから見渡すと見えなくなる程小さいが、大男とは対照的に、不適な眼差しは前を見続けている。彼(犬)の名はイギー、自由気ままに生きる砂の愚者だ。
 あらゆる意味で対照的で、とてつもなくアンバランスな組み合わせに見える二人は、ひたすら歩き続けていた。同時刻に行われている幾つかの激しい闘争に遭遇する事もなく、またそれを避けるかの様に、当てのない足は北を歩き続けていた。
その理由は、タルカスが大事そうに抱えているもの。ほんの少し前までは生命の音を振動させ続けていた亡骸に答えがあった。

「人のこないところに埋葬をしたい……戦いに巻き込まれない様なところに……いや、殺し合いの舞台で、そんな場所などないのかもしれないが」
 
一度、シンガポールホテルの周辺に安置をし、そのまま行こうと考えていたのだが、タルカスにはそれができなかった。殺戮者が集まるかもしれないこの周辺で、スミレが傷つくのを見たくなかった。重荷である事を承知し、スミレの遺体を抱え、人のいないであろう北端への移動を開始した。
 
しかし彼は重傷なのだ。常人ならばまともに歩く事が出来ない程に。大砲の様な豪腕は片方が使い物にならなくなり、大樹の様な足は、部分的に肉や骨が削げて落ちている。第三者が見たら『再帰不能』と言うかもしれない。それを後ろから見つめながら、イギーは思った。

(ケッ、わかんねーおっさんだぜ。そいつを守れなかった事がそんなに悔しいのか?過ぎたモンを気にしたって何の特にもなりゃしねーのによ。自分の身体を客観的に見れねーのか?そのガキを抱えるだけでも辛い筈だぜ)

彼(犬)のいう事は正しい。全く持ってその通りなのだ。それでもタルカスは歩みを止めない。
不意に、タルカスが姿勢を崩した。巨大な体の歩行による衝撃を、負傷した足が支えきれなくなったのだ。

(そら見た事か、今までそうならなかったのがおかしいくらいだぜ。どれ、ご機嫌伺いに顔を見に行って……!?)

転倒したタルカスに近づき、顔を覗き込んだイギーは、思わず飛び退いてしまった。理由はシンプルである。

(こいつ、なんて顔してやがる!)

タルカスの顔は、戦闘による負傷もあったが、それだけに留まらなかった。眼は血液と涙が混ざり、なんとも形容し難い色となっていた。唇は裂けんばかりの力で噛み続け、奥から除く歯は絶え間なく軋み続ける。噛み切った唇からこちらも血液と唾液が流れ続け、力を入れすぎた首の筋肉は異様に盛り上がっている。鬼神か悪魔か、人間とは一線を隠した様な何かが、そこにはあったのだ。
立ち上がる。タルカスが立ち上がる。負傷を意に介する事なく立ち上がる!
「スミレの体は必ず故郷に連れて帰る! 俺に人の心を思い出させてくれたお前を、決して他の者達に穢させはしない!」
 混じり気のない、とても悲痛な叫びだった。せめてもの願いだった。女王を奪われ、少女を奪われ、誇り高き戦友を失った。なにもかもを取り上げられた彼の、正に執念であった。
「俺は決して許さん!無垢なるスミレを命奪った奴をッ!スミレを巻きこんだ主催者をッ!そしてブラフォード!魔道に落ちた貴様を!必ず殺してやるッ 一片も残らず殺し尽くしてやるッ その全てを成し遂げるまで、この足を止める訳にはいかんのだ!」
大切な者を奪った者への殺意。奪い返す為の闘争。ベクトルは異なるものの、『復讐』という一点でのみ、彼は盟友であるブラフォードと並び立った。
(ク、クレイジーな野郎だぜ……動かねえ自分の右腕にパンチを入れて、無理矢理動かしてやがる。それにあのツラだ。ニューヨークにいる野良犬共の方がまだ『人間』らしい顔ができるってもんだぜ)
イギーはタルカスから離れる事を考えたが、自分を庇護し、使い捨ての盾となる人間から離れたら楽が出来ない。という日和見的思考により、結局はタルカスについていく事にした。先ほどよりも数メートル程距離を放した状態ではあるが。
それから数時間タルカスの顔は歪んだまま動かず、2人、正確には1人と1匹は一言も言葉を発する事はなかった。

◆◆◆

667 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 21:58:21 ID:PSZHWz6.
(双首竜の間……地図を見たときは我が眼を疑ったが、俺のよく知るあの双首竜の間であるならば、一時的にスミレを埋葬しておくにはよいかもしれん)
血腥い場所ではあるがな、と自嘲的に付け足した。
 彼等の現在地は、地図で指し示す所のB-2にあたる。スミレを人気のないところに埋葬するために北上したタルカスは、地図からの情報で、A-2にあたる双首竜の間があることを知った。少し距離が離れてはいたが、どこに行っても争いが起こるなら、血に飢えた参加者が多くこないであろう北端であり、自分がよく見知った双首竜の間に埋めた方が気休め程度にはなる、という考えに至り、更に北へと歩を進めていた。

「犬公よ、礼を言うぞ。文句の一つも言わず、よくここまでついてきてくれた。元の場所に帰れるかどうかはまだわからんが、それまでは俺がお前を守ろう」

数時間ぶりにでた言葉は労いの言葉だった。晴れやかとは言い難いし、まだ表情に深い影が残ってはいるが、先ほどに比べれば幾分かはマシなものだった。
 頼るものができたような、安心した様な顔を見せたイギーは、無骨な腕に頭を撫でられる。人懐っこい(様に見せている)その顔に、タルカスはほんの少しだけ安堵する。ふと思い浮かんだ事を口にする程、気持ちが緩まった。

「そういえば犬公、お前の名はなんという?」

言った後に彼は気づく、言葉が通じる訳ではないのだ。名前もない犬公呼ばわりでは良い気持ちはしないだろう、という彼なりの気遣いではあったが、その気持ちは、彼からそんな簡単な事実も忘れさせていた。それに対してイギーは
(何言ってんだこの野郎は、犬の俺に話が出来る訳ねーだろこのマヌケッ!)
と、彼からすると当たり前な事を考えていた。無論、表情は取り繕っている。
(テメーみたいなおっさんの感謝なんかいらねーよ。イイ女連れてこいってんだ。それに名前を教えろだあ?図々しいんだよ!)
言葉を発せないイギーでも、名前を伝える方法はある。その特徴的な鳴き声は相手に人名を連想させる事だろう。しかし、イギーはそれをしない。
(出会ってまだちょっとのおっさんにそう簡単に名前を教えられるか。いいからテメーは黙ってそのでかい体で俺を守ってくれりゃいいんだよ!)
以上は、イギーが頭を撫でられている間の数秒の思考である。

◆◆◆

そうこうしているうちに、双首竜の間、騎士達の修練場が見渡せる場所が見えてきた。背の高い建物は、来訪者の目に嫌でも焼き付く。名前を見ただけでは半信半疑だったものの、その外観はタルカスの記憶と寸分も違わない。
タルカスは、まるで昔に戻った様な錯覚を感じていた。処刑される遥か前、主君と認めた女王が健在で、戦友と共に修練を繰り返した青春の日々を。

『そら見ろブラフォード、やはり小手先の技だけでは限界があるのだ!』

『抜かせタルカス、力押しだけの貴様に我が剣技が見切れるか!』


それは、とても遠い昔の日々。
天涯孤独だった二人の騎士は、ようやく築く事ができた生きる意味の為に、技を磨き続けた。
「ブラフォードよ……もうあの頃には戻れんのだな……」
この数時間。顔に出ない様努めてはいたが、やはり彼は悲しんでいた。変わり果て、悪魔もぶっ飛ぶ復讐鬼と化したブラフォードをこの手にかけなければいけないことに、深い悲しみを感じていた。一度違えた道は、もう元には戻らない。
 それでも彼は顔を上げた。沈みきった心が無理ならば、せめて逃げる事はしないようにと、真っすぐ前を見つめるにした。嘗ての威光や誇りはもうない。守るべき者も失った。それでも、戦う理由だけは残されていた。
「犬公よ、もう暫しだけ付き合ってくれるか?」
黙って後ろについてくるその行動を、肯定のサインだと解釈し、建物へ向かった直後、イギーが吠えだした。お利口で無害な犬の振りを続け、沈黙を保ってきただけに、その声はタルカスに嫌な予感を抱いた。何事かと思い、振り返ったタルカスの目に、人影が躍り出た。もしもこれが知らない顔であったなら、敵であれ味方であれ、冷静さを保ったうえで対応が出来た事だろう。しかしそうはならなかった。何故か。
「僕の姿に疑問を抱いていると思います。しかしまずは話を聞いて欲しい」
 そこにあった顔が、参加者全員が見守る目の前で爆裂死した筈のものだからである。

◆◆◆

668 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 21:59:49 ID:PSZHWz6.
◆◆◆

数時間程時間を遡り、視点を変える事にする。
ウェザーに別れを告げたジョルノは、ミスタ達との合流場所であるダービーズカフェへと引き返していた。指定した時間はとっくに過ぎているが、他に目処が立っている訳でもなく、合流する機会を失いたくなかったがゆえの選択である。僅かな期待を持ちながらカフェへ戻ったジョルノだが、当然のようにもぬけの殻であり、少し前にカフェを後にした状況と変わりはなかった。別れてからの時間経過から考えて、何者かに襲われた可能性が高いと判断し、ジョルノの思考はその回転速度を上げる。あせってパニックになってはいけないが、のんびりしているわけにもいかない。ウェザーと誓った約束。それを守る為に、一つの場所に留まるという事があってはならないのだ。
 思案した末、確実性は低いが、メッセージを記す事にした。文面はこう記されている。

『第3回放送 ボートに乗った場所』
『第4回放送 鏡の男』

ミスタとの情報交換による時間のズレを考慮した結果の文面である。『ボートに乗った場所』とは、ブチャラティがディアボロを裏切り、チームのメンバーにボートに乗るか否かの問いを行った場所、すなわちD-2に位置するサン・ジョルジョ・マジョーレ教会を意味し、『鏡の男』とは、鏡を使うスタンド使い=イルーゾォとの戦闘があった場所、F-6に位置する悲劇詩人の家を指す。ミスタはこの戦闘に直接参加した訳では無いが、チームの間で情報が共有されている事は言うまでもない。
 つまり、第3回放送と第4回放送時に上記の場所に集まる、といい事だ。
 このメッセージの意味はこの2つを経験しているチームのメンバー以外に知り得る事はなく、他の人物には意味のわからないメモとなる。同行しているミキタカを考慮に入れていない内容だが、今もミスタと共に行動していることを祈るしかない。

(後は『これ』を使う。使う事によって、メッセージの伝達をより確実にする)
 
ジョルノは何かの切れ端を掴み、『ゴールド・エクスペリエンス』を発現。右の拳で軽く触る。
 切れ端の正体は、情報交換の際、ミスタのブーツの一部分を拝借したものである。(話をした時、かなり嫌がられた)
 蠅へと姿を変えた切れ端に、先程書いたメモと同じ内容の紙切れを蠅の体に目立たない様に巻き付ける。切れ端は持ち主であるミスタの元へ向かい、メモを持ったメッセンジャーとして機能する。

(これでカフェにミスタがこなくても、時間差で伝わるようになる。ゴールド・エクスペリエンスの習性から蠅は一直線にミスタに向かい、他者に発見されるリスクもほぼゼロになる)

しかし、これでも確実とは言い難い。他の参加者に潰される可能性も、僅かながら存在する。その場合はと、ジョルノは拡声器に目線を映す。周囲に確実に伝達ができるが、それは危険人物を引き寄せるリスクも存在する。いわば持ち主の意図を100%汲み取らない猿の手と言えるだろう。周辺の地形を利用して隠れる事はできるが、位置関係によってはそれもままならない事も考えられる。必要な場面は必ず出てくるが、その時を見極めて使わなければならない。ジョルノはそう判断し、拡声器に置いた手を離した。

669 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 22:00:16 ID:PSZHWz6.
テーブルへの書き置きと、メッセンジャーの蠅。二重の網を編み終えたジョルノの眼は、北端に向かう影を捉えた。
 男がとてつもなく巨大な人物でなければ、視界に入ってこなかったかもしれない。それほどまでに極端な巨躯を、一つの影は持っていた。
 隣には小さな点が揺らめいていた。人間ではない生き物、犬や猫の類いだろう。このルール無用のデス・ゲームの地において、人間以外の生物がいたとしておかしくない。
 しかし、その二つより、もっと彼の目を引いたものがあった。巨大な男は、その腕に小さな何かを抱えていた。それが何か理解した瞬間、ジョルノはえも知れぬ感覚に襲われた。例えるならコップから水が溢れて、どんどん流れ出すような、そんな気持ちだった。

(あそこにいる男は、あの子供を守れなかったことを後悔している。死を悼んでいる……)

コップから溢れた水は、二度と戻る事はない。
それがとても悲しくても、残された水はコップの中で這い回るしかないのだ。こぼれ落ちるその日まで。
もうあんな犠牲者を出してはならない。彼ら/彼女らの魂の尊厳と安らぎは、死でもって償う必要がある。然るべき報いを与える必要がある。
今は亡き誇り高き剣士の姿を思いながら、ジョルノは決意を新たにする。
 しかし、その数秒がタイムラグとなってしまった。充分な距離を保っている筈だったが、小さな愚者にはお見通しであった。けたたましい鳴き声がジョルノの耳をつんざく。犬の嗅覚は凄まじい。
気がつけば、巨大な二つの目が、こちらを睨みつけていた。訝しみと驚きが混ざった様な、そんな視線だ。
 やられる前にやる。喧嘩だろうが話し合いだろうが、共通した事実だ。自分の目標を達するために、速やかに行うのだ。
 ジョルノは己が丸腰であるのを示す様に両手を空に掲げながら言った。

「僕の姿に疑問を抱いていると思います。しかしまずは話を聞いて欲しい」

どうすれば相手が納得するか、どんな方法を用いればいいか、彼の頭脳は、既に無限の回転を始めている。
◆◆◆

670 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 22:00:53 ID:PSZHWz6.
「そこで止まれィ!」

おっさんがでけー声で叫んだ。トーゼンだろーな。目の前に死んだ筈の奴が「僕は無害です」って感じに出てきたらビビる、俺だってビビってる。そいつを見た瞬間、反射的に吠えちまったぐれーだ。いや、本当だぜ?
 そこで突っ立ってる3連煙突ヘアーは最初の広い部屋で、メガネのおっさんに首を吹っ飛ばさるのを見た。見たくはなかったが、前の方にいたからな。
じゃあ目の前にいるこいつはなんだ?そっくりさん?双子?
さっぱり訳がわからねえ。ま、考えた所でわかる訳じゃねーし、「そういう事」って事で納得するしかねーんだろうな。どのみち俺には関係ないことだぜ。植物の心みたいに平穏に過ごさせてくれるなら、後は好きにしてくれや。

「僕の名前はジョルノ・ジョバァーナです。何故僕がここにいるのか、構えてしまうのは当然です。だが納得してもらわなければならない。ですから、その槍を収めてはくれませんか?」

煙突の名前はジョルノとかいう名前らしい。まだあいつが喋ってる所をちょっと見ただけだが、どうにもスカした野郎で気に入らねえ。承太郎の野郎もこんな態度だったぜ。「俺は全部お見通しです」って感じのよォ〜っ。ガムがあったらあの穴に3つくっつけてやりてぇ。

「貴様はあの場で確かに死んでいた筈!それが何故生きている!?まさか貴様も生霊の類いかッ!」

 その単語を口にしたとたん、おっさんの口がまたギリギリ締まりがやがった。血が出てるぞ血が、ああ気持ち悪りぃ。さっきからだが、こいつ情緒不安定過ぎるぜ。もうちょっと落ち着いた奴はいねーのか?
「その言い回しからして、あなたは僕より前に死んだ筈の人物に会っている。しかもそれはあなたのよく見知った人物だった。だからこそ動揺している。違いますか?」
「ええい黙れ!死人の戯言など聞くつもりはないわッ!それ以上こちらにくるなら容赦はせんぞ!」

この煙突頭、したり顔で演説始めやがったが、どうも図星らしいな。おいおっさん、瞳孔開いてんぞ。

「だから僕は今からあなたに証明する。僕がれっきとした生きている人間であり、敵意もないということを」

気がつくと煙突は俺たちの目の前できていた。すかさずおっさんは槍を突き出す。さっき言ってたことの有言実行ってやつだな。これ以上きたらブッ刺す!だからこっちへくるな、そんなとこか?
こんな大男が武器構えてメンチ切ってんだ。さすがにこいつのしたり顔も……?

「なんの……つもりだ?」

おっさんが本当に驚いた感じで聞く。
俺もさっきはほんのちょびっとだけビックリしたが(みっともなく吠えてた?知らねえな)今度という今度はかなりビビった。この煙突、もうすぐキスができるんじゃねえかってくらい目の前に槍があるのに、止まるのをやめてねえ。何考えてるがわかりゃしねえ。脳みそにクソが詰まってるのか?
「ですから、僕が生きていること、あなたに敵意がないことへの証明をしてるんです。なにが問題でも?」
「くるなっ!それ以上くればお前をぶち撒けるぞ!くるなあッ!」
おっさんの声は怯えていた。まあしょうがないかもしれねえ。
「僕の存在を証明する手だてが他にないのであれば、それでも構いません」
あーあ、おっさんの沸点は見た目通り低いってのに、もう死んだな、こいつ。
そら見たことか、槍を握る手が少しずつ強くなって
「ぬわあああああああああああああ」
煙突の腕を突き刺した。そして次は頭か、アバヨ。調子こきすぎた自分を呪うんだな。そしておっさん。ここまでキレてるとは思わなかったぜ。ま、いざという時は簡単に捨てるから、どうでもいいことだがな。



671 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 22:01:19 ID:PSZHWz6.
結論からいうと、タルカスはジョルノの命を奪わなかった。奪えなかったというべきかもしれない。落ち着きを取り戻した彼の心が槍を止めたのか、ジョルノの持つ何かがそれをさせなかったのか。それはわからない

「命が惜しくはないのか?俺が腕に力をちょいと力を入れるだけでお前の脳組織はズタズタになり!肉片となるんだぞ!正気なのかッ!?」

加害者となったはずのタルカスは問う、叫び声をあげる。突き刺した槍は腕をミンチにし、顔面を串刺そうとしているのに、常人ならば恐怖のあまり叫び声をあげてもおかしくない筈なのにッ!
少年は止まらない、瞳に宿した輝きをさらに燃えたぎらせ、逆にタルカスに向かっていったッ!

「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある!主催者を倒し、全ての人を救うという約束がある!ここで死んでしまう命なら、その全てを叶えられる筈もない!」

力強い宣言だった。腕から流れる血をもとともせず、大陽のように輝いていた。逆境を跳ね返す熱さが、確かに存在していたのだ。
        (これは、この姿はーーーーーー)
タルカスは認めた。認めざるを得なかった。目の前の人間から感じられる死とは対極の、生命の振動を。爛々と輝く、冷める事のないエネルギーに。
そしてその姿は、人間の尊厳に満ちている事に。タルカスは一瞬、正に光が輝くような一瞬、失われた君主がいるような、そんな感覚に陥った。
「だから退きません。この槍が僕の夢を阻むのならば、決して下がらない。」

鉄槍は抜け落ちた。同時に、騎士を支配していた暗闇も、ほんの少しだけ晴れた。
結局のところ、この場で命が失われることはなかったのだ。

◆◆◆

「すまないッ……本当にすまない!」

時間は経過する。あっという間に流れていく。ジョルノに「敗北」したタルカスは、体裁も気にせず必死に頭を下げ続けた。いわゆる土下座の型である。

「気にしないでください。僕があなたへの接触方法を考えていれば、こんな事にはなりませんでした。寧ろ、そこにいる小さな彼に感謝をするべきです。あなたはそれ程までに、あなたは沈み込んでいた」

目線を向けられたイギーは無害そうに一度鳴き声を上げると、二人にそっぽを向けて不機嫌な顔を作った。彼からすれば、自分が吠えなければ、あのままジョルノをやり過ごす事だってできたかもしれない、と思っていたので、不本意な結果に終わってしまった。

「俺が余計な事をしなければ、ジョルノが怪我をすることもなかったのだ。本当にすまないッ……!」

声を向けられたジョルノの腕には、負傷の後は見られない。勿論、ゴールド・E
で治療を行った結果だ。スタンドを初めて認識し、驚く他なかったタルカスだが、ジョルノはタルカスの治療を行い、後にスタンドについて説明をすることを約束した。(イギーはプライドが許さなかったので負傷箇所を懸命に隠した)
謝罪もそこそこに、タルカスは疑問を投げかけた。

「お前の行動に一つ疑問がある。俺が危険人物だという可能性はあった筈だ。負傷に加え、自分でいうのもなんだがこのガタイだ。犬公だって無理矢理従わせていただけかもしれん」
「理由はいたってシンプルです。あなたの目が優しそうだったから。それともうひとつ、僕と遭遇した途端に大事そうに自分の後ろに置いたーー」

ジョルノが、タルカスの背後を見やる。

「彼女がいたからです。あなたは彼女をどこか人気のつかないところに埋葬したかった。僕はそう思いました。そんな人物が危険人物だとは思えない。そう思ったからです」
「そうか……」

タルカスは消え入る様に呟いた。それ以上の言葉は不要だった。
「ところで、彼女をどこへ埋葬するつもりだったんですか?僕が見た限りあなたの足取りには迷いが見られなかった。つまり行く宛てがあると解釈しましたが」
タルカスは話す。双首竜の間の存在を。ジョルノは同行を申し出る。名も知らぬ少女の弔いのために。イギーは突っ伏す、寝たふりをするために。

◆◆◆

672 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 22:02:02 ID:PSZHWz6.
「着いたぞ、双首竜の間だ」
再数時間の移動の後、2人と1匹は双首竜の間にたどり着いた。騎士達の修練状は入り組んでおり、双首竜の間はかなり深い場所にあったものの、構造を知り尽くしたタルカスの案内のもと、無事に辿り着いた次第である。

「まさかこんな迷宮のような構造になっていたとは、驚きました。しかし、この鉄の扉はどうやって開けるつもりですか?どうやら内側からしか開かない作りになっているようだし、あなたの怪力でもこじ開ける事は難しい」

自分のスタンドがあれば話は別だが、とジョルノは内心で付け加えた。しかし、人並みのパワーしか出せないゴールド・Eではタルカス以上に時間がかかることも考えられる。壁を生物に変える事も考えたが、タルカスの手前、言わない様にした。
「それに関しては考えてきた。あそこに明かり窓があるだろう。」
タルカスが視線を向けた先には、十字に穴が開いた空間が存在していた。
(ゲ、嫌な予感がするぜ)
イギーは思った。この予測は的中する事になる。

「人間が入るには無理があるが、犬や子供なら入れるだろう」
ジーッ、という音が聞こえそうなくらい、タルカスに見つめられたイギーは、なんとか無害な表情を装ってタルカスに近づく。

「すまんが犬公、頼まれてくれんか。お前ならあの明かり窓から中に入り、中にあるレバーを倒して部屋の扉を開けて欲しい」
(なにいってやがるこの野郎ッ、なんでそんな面倒くさい事をこの俺が!)
「お前は利口な犬だ。恐らく俺の言っている意味も大体は理解しているだろう。
頼む、スミレをもう人目にさらしたくはないのだ」

少女の名前が出て、イギーはスミレを見た。ジョルノによって遺体は整えられ、その表情はとても安らかだった。

(このガキ、犬好きだったのか?いや、そんな事はどうでもいいが、チッ、しょうがねえな。あくまでおっさんの信頼を得て盾にしてもらう為の下準備だ。計算された逃走経路だぜ。簡単に信じやがって馬鹿が)

あくまでも表情には出さずに、タルカスの両手に捕まった。タルカスは満足そうに微笑むと、イギーを明かり窓にやる。数秒後、レバーの下がる音と共に、扉が開いた。

「借りができたな犬公、心から感謝するぞ」
(勘違いすんじゃねーぞおっさん、俺の為に必死働いて死んでもらう為だからな。本当だかんな!)

そうして、一行は双首竜の間に入った。やはり内部もタルカスの記憶に相違なく、無機質な石畳と、鎖の鳴る音しか聞こえなかった。
タルカスは、スミレの遺体を部屋の最奥にそっと横たえた。

「すまんなスミレ。お前は嫌がるだろうが。あくまでもこの殺し合いが終わるまでだ。血腥いだろうが、勘弁してくれ」

タルカスは、スミレの遺体の手を組ませ、立ち去ろうとするが、それをジョルノが呼び止めた。
「このままでは少し殺風景なので、少し手を加えさせてもらっていいでしょうか?驚かせたいので、少し後ろを向いていてください」
二人にそう指示し、ジョルノはスタンドを発現させる。ゴールド・エクスペリエンスは、生命を生み出す。スミレの周囲を、花に変えていく。振り返ったタルカスとイギーは、その光景に驚いた。
「これも、『スタンド』とやらの力なのか?」
驚くタルカスを尻目に、ジョルノは語りだす。
「もうすぐ昼になって、お日様が差し込んでくるようになる。この明かり窓は、日当りがいいだろうな」

遺体を取り囲む花畑に、大陽の光が射した。大陽の光を受けて、花畑は光り輝く。
この輝きがあれば大丈夫だ。殺し合いの最中である事も忘れ、タルカスはそう思った。そして誓う、スミレに誓う。最後まで戦い抜くことを、そしてもう一つ
(見ていてくれスミレ……必ずこの殺し合いを打破してみせる。最後まで戦い抜いたお前の意志を、立派に受け継いでみせる!)
それに呼応するように、花が一際輝きを放った様に感じた。タルカスには、それが嬉しかった。

673 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 22:02:48 ID:PSZHWz6.
これから彼には、数多くの困難が待ち受けているだろう。その過程で多くを失う事になるだろう。それでも彼は負けない。少女との誓いがある限り、生きる意味を取り戻した騎士は、決して魔道には落ちない。そう決心した。

扉の施錠を同じ要領でイギーに任せ、双首竜の間を後にする一行。その未来にささやかなLUCK(幸運)がある事を祈るかの様に、スミレの花が咲き誇っていた。


【A-2 双首竜の間/一日目 昼】

【タルカス】
[時間軸]:刑台で何発も斧を受け絶命する少し前
[状態]:健康、強い決意?(覚悟はできたものの、やや不安定)
[装備]:ジョースター家の甲冑の鉄槍
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:スミレの分まで戦い抜き、主催者を倒す。
1:ブラフォードを殺す。(出来る事なら救いたいと考えている
2:主催者を殺す。
3:育朗を探して、スミレのことを伝える
4;ジョルノと情報交換を行う
※スタンドについての詳細な情報を把握していません。(ジョルノにざっくばらんに教えてもらいました)


【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:首周りを僅かに噛み千切られた、前足に裂傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1:ちょっとオリコーなただの犬のフリをしておっさん(タルカス)を利用する。
2:花京院に違和感。
3:煙突(ジョルノ)が気に喰わない

【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(小)
[装備]:閃光弾×3
[道具]:基本支給品一式、エイジャの赤石、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア) 地下地図、トランシーバー二つ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.ミスタ、および他の仲間たちとの合流を目指す。
2.放送、及び名簿などからの情報を整理したい。
3.第3回放送時にサン・ジョルジョ・マジョーレ教会、第4回放送時に悲劇詩人の家を指す
4.タルカスと情報交換を行う
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。

※ウェザー・リポート、エンリコ・プッチ、ホット・パンツの支給品、デイパックを回収し、必要なものだけを持って行きました。
 必要のないものは全て放置しました。回収したものはエイジャの赤石、不明支給品、トランシーバー二つ、閃光弾二つ、地下地図です。


【備考】
※スミレの遺体は双首竜の間に安置されました。周囲にゴールド・Eで生み出したスミレの花があります。
※ダービーズカフェにジョルノの書き置きが残してあります。内容は
『第3回放送 ボートに乗った場所』
『第4回放送 鏡の男』
と書かれています。
※同様の内容が書かれているメモを括り着けた蠅がミスタの方へ飛んで行きました。蠅が参加者に見えるかどうかは他の書き手さんにお任せします。
※タルカス達の移動経路はC-4→B-3→B-2 の順番でした。

674 ◆VjwVrw6aqA:2013/09/30(月) 22:06:41 ID:PSZHWz6.
すいません。ここまできて仮投下スレと間違えた事に気づきました。

自分で不安に思った点は
・登場人物の描写はどうか
・タルカス側の前話の備考欄を数行で片付け、スミレの遺体を双首竜の間まで運んだ事(周辺、という解釈に入るならば大丈夫?)
特に2つめは、話が破綻するので、破棄する事になると思います。

もし大丈夫でしたら、本投下をしたいと思います

675名無しさんは砕けない:2013/10/01(火) 22:17:22 ID:xbpk2tMg
投下乙です
一通り読みましたが誤字や脱字は見当たりませんでした
矛盾点もなく、違和感もありませんでした
大丈夫だと思います

投下待ってます

676名無しさんは砕けない:2013/10/05(土) 20:41:50 ID:x4vwl7ZM
仮投下乙です。
一点だけ、>>668の最後のほうで拡声器について書かれていますが
現在拡声器を持っているのはジョルノではなくミスタなのでこの部分は不適切だと思います。
他は特に違和感などは感じられませんでした。

677 ◆VjwVrw6aqA:2013/10/05(土) 22:46:11 ID:0IY0Whvs
>>676
ありがとうございます。
該当部分を修正して、本スレに投下しようと思います

678 ◆VjwVrw6aqA:2013/10/05(土) 23:56:44 ID:0IY0Whvs
すいません。本スレにも書きましたが、さるさんくらったので代理投下をお願いします。

タイトルは「それでも明日を探せ」です。

679 ◆VjwVrw6aqA:2013/10/05(土) 23:58:18 ID:0IY0Whvs
重ねてすいません。低スペック携帯で書き込んだ本スレのトリップが、滅茶苦茶になってしましました。

680レベルE ◆vvatO30wn.:2013/12/21(土) 14:29:06 ID:pPd6A6EY
のこり2レスだったのですが、規制に引っかかってしまいました
本スレに投下したかったのですが外出する時間になってしまったのでこちらに投下します

681レベルE ◆vvatO30wn.:2013/12/21(土) 14:29:24 ID:pPd6A6EY
【C-3 DIOの館 1F図書室/ 1日目 昼】

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中。
[状態]:健康
[装備]:自動拳銃
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。千帆に会って、『決着』をつける。
0.双葉千帆を探す。
1.放送後、ミスタ、ミキタカの両名に止めを刺す。
2.『カードの能力』の持ち主とのコンタクトを図りたい。
2.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない。 どのように決着付けるかは、千帆に会ってから考える。
[参考]
※参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
※琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
※また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
※また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
※ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
※拳銃はポコロコに支給された「紙化された拳銃」です。ミスタの手を経て、琢馬が所持しています。


【グイード・ミスタ】
[スタンド]:『セックス・ピストルズ』
[時間軸]:JC56巻、「ホレ亀を忘れてるぜ」と言って船に乗り込んだ瞬間
[状態]:記憶喪失、全身打撲、出血、気絶中。
[装備]:閃光弾×2
[道具]:拡声器
[思考・状況]
基本的思考:なし(現状が全くわからない)
1.車に……轢かれた?

※記憶DISCを抜かれたことによりゲーム開始後の記憶が全て失われています。
※ミスタの記憶はJC55巻ラストからの『ヴェネツィア上陸作戦、ギアッチョ戦の直前』で止まっているようです。

682レベルE ◆vvatO30wn.:2013/12/21(土) 14:29:58 ID:pPd6A6EY




(やばい…… まずい…… どうしたらいいんでしょうか――――――?)



もしやと思って、死んだフリをしたミキタカ。
彼が倒れた直後に、蓮見琢馬は慌てていた演技を引っ込め、冷酷な殺人者に姿を変えた。

どう考えても、外部から敵に攻撃された気配はなかった。
ギャングをやっているミスタに全く気が付かれずに、致死量のダメージを与えるほどの攻撃が、誰にも気がつかれずに行われるはずはない。
ミスタの近くにいたのは、自分以外では琢馬だけ。
そして、ミスタは琢馬から受け取ったメモを読んでいただけ。

どういう能力かはわからないが、これが攻撃のキーなのでは?
少ない情報からそこまで予想したミキタカは、琢馬に疑念を抱き、そして擬死行為によって確信を得たのだ。
ミキタカはミスタのダメージを真似て、体中に傷を作り、血を吐いた。
そういう『変身』をしたのだ。
琢馬は何も疑うことなく、自分の能力によってミキタカが傷ついたと思い込んでしまった。

ギャングのミスタに比べると、自称宇宙人のミキタカはどう見てもただのギャグキャラだ。
ミスタさえ封じてしまえば、ミキタカはどうにでもなる。
そう思い込んで先にミスタを攻撃した琢馬は、ミキタカを完全に侮っていた。




(危険…… 蓮見琢馬は危険です……! なんとかして逃げ出して、ジョルノさんを探さなくては……! 助けを呼ばなくては……!)




事が起こるのは、放送後。
ミスタの生死はすべて、ミキタカの手にかかっている。
倒れて動けないフリをしながら、ミキタカは第2回放送の始まりを静かに待った。




【ヌ・ミキタカゾ・ンシ】
[スタンド?]:『アース・ウィンド・アンド・ファイヤー』
[時間軸]:JC47巻、杉本鈴美を見送った直後
[状態]:健康、死んだフリをしている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本的思考:ゲームには乗らない
1.蓮見琢馬はやばい。ミスタを助け、なんとか逃げないと。
2.ジョルノと合流したい。
3.知り合いがいるならそちらとも合流したい
4.承太郎さんもジョルノさんと同じように生きているんでしょうか……?

※琢馬から第一回放送、名簿の情報を得ました。
※ジョルノとミスタからブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ、フーゴ、トリッシュの名前と容姿を聞きました(スタンド能力は教えられていません)。
※第四部の登場人物について名前やスタンド能力をどの程度知っているかは不明です(ただし原作で直接見聞きした仗助、億泰、玉美については両方知っています)。

683 ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 00:55:10 ID:RV0yQFhI
「見間違いじゃねーんだろうな?」
「いいや、確かだ。俺の視力は両目合わせて4.0よ、仗助ちゃん。絶対に絶対だ」

先頭を行く噴上は二人の会話を背中越しに聞き、顔をしかめた。
この二人、緊張感がなさすぎる……。細かく震える指先で顎をなで、はと思い直し視線を落とす。
いや、俺が必要以上にビビってるだけなのか……?
隣を歩くドイツ軍人は何も言わず、あたりを警戒している。ジョセフと仗助の会話には興味がないようだ。
いつもだったら大声で割って入りそうなものなのに。軍人特有のカンが危険、だと判断してるのだろうか。
戦場で生き残るのは本当に優秀な兵士と臆病者だけだ。
そんな言葉を思い出しながら、噴上はもう一度鼻を鳴らし、前に進んだ。
あたりは静まり返り、四人の歩く音だけが壁と天井にこだまする。

洞窟内は血の匂いが充満している。ただでさえ鼻が利く噴上には辛いことだった。
血の匂いにまぎれ潜んでいるであろう何者かの匂いを探そうと、鼻をひくつかせる。
鉄臭い臭いに吐き気がこみ上げるが、噴上は根性で我慢した。


六人は今二手に別れ、行動している。
クレイジー・ダイヤモンドで治療を施したといえエルメェスとシーラEはまだ本調子ではない。
体調を整える意味を込めてふたりは地上で待機。

一方主力であり、機動性のある四人は洞窟探索に出かけた。
二手に別れることに懸念はあったものの、康一のことを考えれば一刻の猶予もないと判断したのだった。

「視界が悪いな……。噴上、何か匂いは見つかったか」
「猟犬じゃねーんだよ、俺は。
 ただでさえ地下で匂いがこもりがちだってのに、こんだけ血が広まってちゃそう簡単には見つかんねーよ」

シュトロハイムが一旦歩くのをやめ、四人は立ち止まる。シュトロハイムの問いかけに、噴上は苛立ちげに返した。
シュトロハイムは頷き、今度は問いかけるようにジョセフを見た。
ジョセフは肩をすくめ、手にしたペットボトルを突き出す。水面に異常なし。
付近に何者かが潜んでいる、ということはなさそうだった。

「ジョジョ、もう一度聞くが貴様が見かけた人影とは確かなんだろうなァ?」
「しつこいぜ、シュトロハイムッ! 見たって言ったら確かに見たんだ! そんなに俺が言う事信じられねぇかァ〜〜〜?」
「普段の行いが知れるな」

四人が地下に潜ったのはジョセフが見かけたという人影を追ってのことだった。
康一を追うというのが当初の目的であったが、あまりに手がかりが少なすぎた。
マウンテン・ティムからの連絡はなく、噴上の鼻もあたりに臭いがありすぎてすぐには見つけられそうにもない。
そんな時にジョセフが怪しげな人影を見つけた、と言ったのであった。
そしてその人影を追って行き着いた先が地下だったのだが……

「そろそろ放送の時間だし、戻ったほうがいいんじゃないスか」

684新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 00:55:40 ID:RV0yQFhI

沈黙を打ち破るように、仗助が言った。三人は苦々しい表情で頷くしかない。
あとは放送で康一とティムの名前が呼ばれないことを祈るしかない。
本格的な行動開始はそのあとだ。今来た道を戻り、四人は古代環状列石に続く階段を目指す。

その時……―――


「……止まれ」

三人を制するように噴上が手を上げる。鼻を鳴らしながらあたりを探っていた噴上の顔に影がおちる。
合図で四人は前方からの攻撃に備える。仗助とジョセフが後ろに下がり、シュトロハイムと噴上は前で構える。
おぼろげながら人影が洞窟先から浮かび上がってきた。足音も聞こえてくる。
歩幅は小さく、足取りは慎重だ。小柄な男性か、あるいは女性ぐらいのサイズ。
しかし四人は緊張を解かない。シュトロハイムが一瞬だけ背後を見渡した。後ろから近づく影、なし。

互いの顔がようやく見えるかそれぐらいのころ、人影がゆっくりと口を開いた。
幼げな男の声が、洞窟内に反響した。


「僕のことを覚えているだろう、東方仗助……」
「てめぇは……―――!」


だがその先は続かなかった。目の前に立つ少年が醸し出す不気味さを上回る、なにかが仗助の背中を刺した。
背後から突然湧き上がった威圧感に、仗助は思わず振り返り、そして息を飲んだ。
噴上もシュトロハイムも気がついていない。突然現れた少年に目を凝らし、『それ』の存在に気がついていない。
さっきまで誰もいなかったはずの背後に突然現れたのは……筋骨隆々、圧倒的存在感を醸し出す、一人の戦士ッ!


「ワムウッ!」


ジョセフが叫び、飛び出そうとしたが全ては時すでに遅し。
仗助が二人を突き飛ばし、ジョセフが距離を詰めようと駆ける。だがすでにワムウの行動は終わっていた。
蹴り一閃。トンネルの天井を突き破るような一撃があたりを揺るがし、石屑が雨のように降り注ぐ。
砂埃が立ち、瓦礫が押しつぶさんと襲いかかり、そして……―――

四人は完全に分担されてしまった。それを見たワムウは、怪しげな笑みを浮かべていた。




685新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 00:55:59 ID:RV0yQFhI
背後には岩、前方には柱の男。
戦闘態勢に入ったワムウを見て、仗助は背中を汗が伝っていくのを感じた。
圧倒的担力。圧倒的存在感。本能的にわかってしまう。
もし俺がこの男と戦ったならば……タダでは済まないだろうということに。

しかし仗助は焦らなかった。
恐怖心を感じる一方で、絶対的な『自信』も存在していた。
心を落ち着かせるように、櫛を取り出しリーゼントを整える。
逃げ場が無い中、一向に構えを取らない仗助に対しワムウがドスを効かせ、言葉を吐いた。

「さぁ、構えろ。そして来るがいい。
 お前のスタンドとこのワムウの『風の流法』……どちらが優れているか、測ってみようではないか!」
「えーーっと、つまりアンタ、俺と戦いたいってことスかね」
「そうだ」
「正々堂々、真っ向勝負?」
「うむ」
「フェアースポーツ精神にのとった、爽やかで、裏みあいっこなしの本番勝負一本、みたいな?」
「くどいぞ、東方仗助ッ! もはや貴様に選択権は無しッ!
 構えろッ! そしてかかってこいッ! もしも来ないというのであれば……」
「なるほど、洞窟内に無理やり閉じ込めて、理想的な対戦環境を整える、と。
 こりゃ大したもんですよ。グレートな作戦ッスねェ〜〜〜……」

その瞬間、仗助の背後の岩が宙に浮かんだ。
ビデオを逆回しにしていくように、崩れた天井へと吸い込まれていく瓦礫。
そして、瓦礫の隙間にすべり込ませるように体をねじ込んでいた……ジョセフ・ジョースターがそこにいたッ!

「ただ一点、俺が素直に一対一を望むようなお利口さんじゃない、ってところを除けばな!」

驚き、目を見張るワムウを尻目にジョセフが立ち上がる。
イタズラがうまくいった悪ガキのような表情を浮かべながら、ジョセフは隣に立った少年を横目で眺めた。

そっくりだ、と思った。素直じゃないところ、意地汚いところ、皮肉屋なところ、相手の裏をかく頭の回転の良さ。
これが血筋というものなのだろうか。実感はないが、なんとなく、心でそれを理解した。
背中をくすぐられたような居心地の悪さもあったが、だがそれ以上に安心感を感じた。
あの柱の男ワムウを前にしても、ジョセフはなぜだか負ける気がしなかった。

「仗助ちゃーん、ナイスよ、ナイスぅ〜〜! この調子でさっさと全部、戻しちゃいな。
 俺がいれば全部大丈夫〜〜って言いたいところだけど、味方が多いに越したことはないからねェー!」
「そうしたいところだけどよ、目の前のこいつが許してくれそうにもないんスよね〜〜」
「なぁに、それなら仕方ない」

なぜだかたまらないほど頬が緩む。
ニヤついた表情で仗助を小突くと、仗助も釣られてニヤリと笑った。
笑いの伝染は広がり、ワムウすらも可笑しそうにニヤついている。
誰もが理解している。そして心の底、どこかでそれを望んでいる。

686新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 00:56:31 ID:RV0yQFhI


それ以上は不要だった。
ワムウは跳躍すると、二人に向かって弾丸のように迫っていった。
ジョセフが前に構え、仗助が後ろに回る。波紋を身にまといながらワムウを跳ね除けるようにいなす。
追撃とばかりに攻撃を重ねる。クレイジー・ダイヤモンドが軌道の逸れたワムウめがけ、思い切り拳を振るった。

「仗助、攻撃は俺に任せな! 柱の男に触れるとやばいぜ!」
「問題ないぜ、じじい……! 触れるからこそ『イイ』んだ。触れるからこそ……」

パワーAのスタンドに殴り飛ばされ、ワムウは壁へと叩きつけられた。
洞窟が揺れるほどの衝撃、一度の交戦で瓦礫が降ってくるほどの寸劇。
ジョセフの忠告に仗助は落ち着いた様子で返す。手についた肉片をなんの感慨もなく見つめ……

「『なおす』ことができる」

吹き飛んだワムウのもとに、肉片が戻っていく。状況はワムウにとって圧倒的不利だった。
仗助とジョセフ。ともに実力は折り紙つきの二人。簡単な傷ならば治癒可能。時間をかけて戦ったならば、増援が駆けつける。
だがワムウはこれ以上ないほど愉快だった。今まで生きてきた中でこれほどまでに生きている、と実感したことはなかった。

死者を愚弄し、勝者を嘲笑ったスティーブン・スティールのことはもはやどうでもいい。
あえて言うならば……感謝するほどかもしれない。
これほどまでに愉快なことがあるか。これほどまでに素晴らしいことがあるか。

二人のツェペリ、波紋と鉄球。
二人のジョジョ、波紋とスタンド。
楽しい……・楽しいッ! 心の底から、腹のそこから笑えてくるほどに! ワムウは戦いを楽しんでいるッ!

「フフフフ……ハハハハハハ、ハァアアアハハハハハハッ!!」

がれきの山から体を起こし、高笑いとともにワムウが仗助とジョセフに突っ込んでいく。
仗助もジョセフも、隣に立つ男を頼りになると感じながら、拳を振るう。
戦いは始まる。血肉湧き踊る、最高で至高の戦いだ……!







687新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 00:57:24 ID:RV0yQFhI
「我ぁぁぁああああがゲルマン魂が作り出したこの体がぁああああああああ
 一分間に600発の徹甲弾を発射しィィィイイ瓦礫の山を吹き飛ばしてくれるワァアア――――ッ!!」
「おい、待て。落ち着け……シュトロハイム」

がなるドイツ人をなだめながら噴上は暗闇に目を凝らした。
あたりの空気が変わったことに気づき、シュトロハイムもおとなしくする。
緊張感があたりを漂い、ぴりっと神経が張り詰めていく。噴上の目が暗闇に慣れ始めた。

いた。見間違いでなく、そこにはエニグマの少年が佇んでいた。
だが先までの怯えた面影は消えていた。影が落ち、力がみなぎり、戦う前の男の面構えをしている。
並々ならぬ凄みを感じながら噴上は鼻をヒクつかせる。少年の方に向かって、ゆっくりと進んだ。
宮本までの距離はおよそ十メートル強。ハイウェイ・スターで一撃を叩き込むには、まだ遠い。

「おっと、それ以上僕に近づくなよ」

噴上の足が止まる。シュトロハイムも動きを止めた。
銃を構えたわけでもない。ナイフを振りかざしたわけでもない。
宮本少年がポケットから取り出したのは一枚の紙。しかしそれだけで、足を止める理由は十分だった。

「僕は決して戦いたいわけじゃあない。生き残るために、戦うんだ」
「そこをどく気はねェようだな、紙使いの少年よォ……」
「噴上裕也、警告するようだが君の癖はまだ覚えているからな。
 『顎を指でイジる』……それが君の癖だ。君を紙にすることは紙を破くよりもたやすい。
 それを忘れないんだな」
「グダグダ言ってんじゃあねェぜッ!! 俺のハイウェイ・スターを舐めるなよッ!!
 この距離ならてめェに一発ぶち込むのに五秒もかかんねぇ!
 悪いこと言わねぇから、とっと尻尾巻いて逃げ出しな!
 どうせあのワムウとかいう野郎にも脅されてるだけなんだろうがよ、このウスラチビがッ!」

噴上の言葉は事実だった。
宮本に課された仕事は二つ。ワムウの元まで仗助一行を連れ出すこと。ワムウの戦闘を邪魔しないよう、それ以外を足止めすること。
だが実際のところ、戦闘が始まってしまえば宮本には関係のないことだった。
噴上の言うとおり逃げ出してもいいだろう。それどころか、仗助たち側に寝返るのも一つの手であろう。
だが……

(こいつらはわかっていない……! あのワムウとかいう男の恐ろしを、強さを……!
 仗助がいくら強くたって敵わない。今の僕にできることは、あのワムウに殺されないようにすることだけなんだ……ッ!)

恐怖に打ち勝つほど宮本は強くなかった。そして臆病で寝返るほどに弱くもなかった。
なまじワムウに感情があり、もしかしたら恐怖のサインを見抜けるのではと期待してしまったことも状況をこじらせた。
宮本はどっちつかずで、判断を下せない。現状維持の一手と八つ当たり気分で、宮本は噴上と対峙する。

688新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 00:58:38 ID:RV0yQFhI



「くそったれ、完全に埋まってやがるッ! クソがッ!」

ガァァァァアンン、と鉄が震える音が響き、続けざまにもう一度聞こえた。
地下へと続く階段は完全に埋まってしまっていた。中の様子は伺えない。
掘り起こそうにも周りの建物が折り重なるように倒れていて、それも容易ではない。
エルメェスは八つ当たり気味に瓦礫の山の頂上に転がっていた鉄扉を蹴飛ばした。
くそったれ、ともう一度毒づく。仲間が無事かどうか、それすらもわからない。

後ろから足音が聞こえ、エルメェスは振り返った。
苦い顔したシーラEが近づいてくる。状況はどうやら思った以上切迫しているようだ。

「こっちもダメ。細い隙間が見えるけど、下手したら全部崩れるわ」
「とりあえず手分けして崩壊の少ないところを探そう。四人全員が身動きがとれない、ってことは考えにくい。
 中と連携して瓦礫を取り除くのがベストだと思う」
「わかったわ」

二手に別れ、あたりの様子を探っていく。時折瓦礫を除いては崩壊具合を確かめ、また探る。
しばらく辺りには岩を放り投げる音と、悪態の声しか聞こえなかった。
エルメェスも次第に焦り始める。どこをどうさがしても、瓦礫の山と細い隙間しか見つからないように思えた。


「!」


エルメェスが立ち止まり、そして駆け出す。
瓦礫以外のものを初めて見つけた。灰色のコンクリートに映える、真っ赤な何かが目を引いた。
見間違えであってほしいのか、そうでないのか。それは明らかに人間の一部に思えた。
エルメェスの見間違いでないのなら……それは埋まった誰かの腕だけがそこにあるように思えた。

「待ってろ、今助けてやる!」

近づき、腕周りの瓦礫をキッスで除いていく。物音を聞きつけシーラEがこちらに向かっていくのが目に映った。
声をかける暇すら惜しい。キッスが地面を掘り進んでいく。
エルメェスは、今埋まっている人物が自分の知っている仲間でないことに気がついた。
だがそれが何だというのだ。誰だろうと助けない理由にはならない。掘り進めるスピードを上げる。完全に体が出るまであと少しだ。

「ダメよ、エルメェス!」

シーラEの声が聞こえた。エルメェスは掘り進める。
どうやら埋まっている人物は少年のようだ。小さな背中と腰の部分が見えてきた。
身動きが完全に取れないわけではないらしい。腕周りを彫り進めると、ガリガリ、と音が聞こえた。

「そいつは敵よ! そいつは……、ヴィットリオ・カダルディは! 危険な―――」

689新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 00:59:06 ID:RV0yQFhI



そして次の瞬間……キッスが少年を掘り起こした瞬間!

振り向きざまに一閃。エルメェスの胸を切り裂くようにナイフが横切った。
間一髪で身をかわし、しかし避けきれない刃が脇腹をえぐった。
鮮血が舞い、大きく後退する。コンクリートの上にポタリ、ポタリと血が落ちる。
シーラEの隣まで下がると、エルメェスはこれまで以上に、盛大に悪態を付いた。

「ようやく見つけた唯一の生存者がまさか敵だとはよォ……どんだけツイてねェんだ、アタシは」
「敵、というか狂犬ね。薬ヅケの精神異常者よ。手加減は無用、わかってるわね、エルメェス……」

二人はなんの打ち合わせもなく二手に分かれた。
シーラEが右、エルメェスが左だ。足場は瓦礫の山で、崩れやすい。
飛びかかるタイミングを揃えなければ各個撃破される。ビットリオを挟むように二人はジリジリ進む。
ビットリオは動かない。暗い、ぼんやりとした目で二人を見比べている。
現状を把握しきれえないものの、意識ははっきりとしているようだ。闘志も十分みなぎっている。

ヴィットリオはシーラEを知らない。ヴィットリオはエルメェスも、知らない。
だが……何か気に入らないから殺してやる。相手はどうやらやる気のようだ。なら、こっちもその気になってやろぉじゃあねぇか。
彼にとって、戦うにはそれだけで十分な理由なようだ。

ジリジリと焦れる時間が流れる。
飢えた狼が獲物を狙うよう、二人はヴィットリオの周りを円を描き、歩き続ける。
ヴィットリオも神経を研ぎ澄まし、集中する。下手な動きを見つければ容赦なく襲いかかるつもりだ。
手にしたドリー・タガーが輝いた。光の反射が目に飛び込み、一瞬だけ、シーラEの動きが止まった。


「!」


そして、その瞬間ッ! 二つの影が猛然と動き出す!
ヴィットリオが豹のように飛びかかる。それを追うように、エルメェスも飛び出した。
自分の失態に遅まきながら気づき、シーラEはヴードゥー・チャイルドを構える。

きらめくナイフ、躍動するスタンド。命が飛び交うその瞬間……勝負の火蓋が、切って落とされた。

690新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 01:01:08 ID:RV0yQFhI
>>685 と >>686 の間にヌケがありました。



ジョセフの全身から薄い光が立ち上る。腹のそこから吹き出すような呼吸音。
体を半身に構え、両手をねじるような構えを取る。
仗助がスタンドを呼び出すと、ジョセフに並び立つように隣に立った。
ポケットから櫛を取り出し、いつもどおり髪型を整える。戦いの前の儀式のようなものだ。

「ジョジョ! 貴様とは一度決着をつけた身……勝負は決し、お前とは二度と拳を交えることはないと思っていた!」

ワムウのからだから闘気が立ち上り、あたりの瓦礫をビリビリと揺らした。
風が威嚇するように、仗助とジョセフの間を通り抜ける。
気を抜けば吹き飛ばされそうなほど、強烈な風だった。だが二人は微動だにしない。
ワムウの動きを見逃すまいと、神経を研ぎ澄まし、待っている。


「だが貴様がその気であるというのならッ 世代を超え、時を超え……再び俺と戦おうというのならッ!」

691新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 01:01:26 ID:RV0yQFhI




【A-4とA-5の境目(地下)/一日目 昼】
【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:首輪、基本支給品×4、不明支給品4〜8(全未確認/アダムス、ジョセフ、母ゾンビ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえずチームで行動。殺し合い破壊。
0.ワムウに対処。
1.康一を追うことに同行
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる
[備考]
エリナの遺体は救急車内に安置されています。いずれどこかに埋葬しようと思っています。

【東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷(応急処置済)
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0.ワムウに対処
1.ジョセフ・ジョースター……親父とはまだ認めたくない(が、認めざるを得ない複雑な心境)
2.各施設を回り、協力者を集めたい
3.承太郎さんと……身内(?)の二人が死んだのか?
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:疲労(小)、身体ダメージ(小)、身体あちこちに小さな波紋の傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
0.二人のJOJOと戦う。
1.強者との戦い、与する相手を探し地下道を探索。
2.カーズ様には会いたくない。
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
4.12時間後、『DIOの館』でJ・ガイルと合流。
[備考]
※『エニグマ』の能力と、輝之助が参戦するまでの、彼の持っている情報を全て得ました。
  脅しによって吐かせたので嘘はなく、主催者との直接の関わりはないと考えています。
※輝之助についていた『オール・アロング・ウォッチタワー』の追跡に気付きました。今のところ放置。

692新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 01:02:24 ID:RV0yQFhI

【A-4とA-5の境目(地下)/一日目 昼】
【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、左耳たぶ欠損
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0.時間を稼ぐ
1.ワムウに従うふりをしつつ、紙にするために恐怖のサインを探る。
2.ワムウの表情が心に引っかかっている
[備考]
※スタンド能力と、バトルロワイヤルに来るまでに何をやっていたかを、ワムウに洗いざらい話しました。
※放送の内容は、紙の中では聞いていませんでしたが、ワムウから教えてもらいました。

【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[能力]:サイボーグとしての武器の数々
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊
1.現状への対処

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:全身ダメージ(小)
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0.現状への対処
1.康一を追うことに同行
2.各施設を回り、協力者を集める?

693新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 01:03:14 ID:RV0yQFhI
【B-4 古代環状列石(地上)/1日目 昼】
【ビットリオ・カタルディ】
[スタンド]:『ドリー・ダガー』
[時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから)
[状態]:全身ダメージ(小)、肉体疲労(中〜大)、精神疲労(中)、麻薬切れ
[装備]:ドリー・ダガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済)、マッシモ・ヴォルペの麻薬
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ
0:ヤクが切れているのでまともな思考が出来ない。目的地も不明瞭
1:兎にも角にもヴォルペに会いたい。=麻薬がほしい
2:チームのメンバーの仇を討つ、真犯人が誰だかなんて関係ない、全員犯人だ!

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:全身疲労(小)全身ダメージ(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.ビットリオに対処
1.康一を追うことに同行
2.まずは現状を把握したい
3.徐倫、F・F、姉ちゃん……ごめん。
[備考]
※他のメンバーと情報交換をしました。

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:肉体的疲労(小)、精神的疲労(小)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
0.ビットリオに対処
1.康一を追うことに同行
[備考]
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。
※他のメンバーとの情報交換を行いました。

694新・戦闘潮流    ◆c.g94qO9.A:2014/01/01(水) 01:06:15 ID:RV0yQFhI
以上です。誤字脱字があれば教えてください。

すみません、私用で手が離せませんでした。
とはいったものの一ヶ月前には余裕で書き込めるぐらい暇になったのですが……。
なにせ予約ぶった切って一ヶ月は突っ走ってたので気まずくて申し訳なくて現実逃避してました。
すみません。

今更来てなんじゃわれ、と思われるかもしれませんが、誰も書いてなかったので書いちゃいました。
ダメだったら却下します。ほんとすみません。

新年明けましておめでとうございます。
今年もいい年になりますように。

695名無しさんは砕けない:2014/01/02(木) 01:30:37 ID:S8RsmLmk
投下乙です
問題は無いかと思いますが、投下宣言していただかないとどこから始まってるのかわかりません
>>683が最初ってことでいいんでしょうか?

696デュラララ!! 本スレ転載お願いします ◆vvatO30wn.:2014/03/09(日) 19:22:49 ID:tS62JUsQ

【Scene.12 DIO】
   pm0:50 〜サン・ジョルジョ・マジョーレ教会-地下納骨堂〜



「わかった、よくやったぞムーロロ。そのまま蓮見琢馬の監視を続けろ」

ムーロロとの通信を終える。
いい調子だと、DIOは笑った。
命令を下した配下たちが、各々のターゲットとの接触に成功している。
ここまで采配がうまく立ち回ると、指揮官としては楽しみを感じずにはいられない。
特に、もっとも重要視していたジョルノ・ジョバァーナの確保を、ヴァニラ・アイスが成功したのは大きかった。
スクアーロの復讐は後々何らかの役に立つだろうし、形兆とシーザーの結末というのも見ものだ。
チョコラータが肉の芽から逃れていたことは誤算であったが、その代わりセッコの更なる成長の糧になったようで、DIOにとってのマイナスは無い。
ホル・ホースはどうせDIOの駒には戻り得ないだろうし、どうでもいい。


ムーロロから受け取った『ジョースター家とそのルーツ』を眺める。

空条承太郎 ―(殺害)→ DIO

ここは大いに気に入らない。
だが、事実なのだろう。未来の空条承太郎の言葉とも一致する。
相手はジョースターの血統だ。油断するわけにはいかない。
そう言った未来も、ありえるのだ。それを避けるためには、DIOの肉体を完全に馴染ませることが不可欠だろう。
そこで目を付けたのが、『ルーツ』にも記されたDIOの息子、ジョルノ・ジョバァーナだった。

(私の子が、未来でまだ生き残っているとはな。そして、同じようにスタンドに目覚め、このゲームに参戦しているとは興味深い)

DIOの意思を受け継ぎ、DIOの子として従うのならそれも面白いだろう。
だがムーロロからの話を聞く限り、それは難しそうだ。
エンリコ・プッチを殺したということからも、ジョルノはおそらく「あっち側」の人間だろう。
実際に話をするまで判断はできないが、おそらくジョルノは「こちら側」には来ないだろう。

だが考え方を変えれば、ジョルノ・ジョバァーナはジョースターの血統でもある。さらに、それと同時にDIOの血を受け継いでいる唯一の人間でもある。
つまり、ジョルノ・ジョバァーナほどDIOの身体に馴染む血を持っているものはいないということだ。

空条承太郎は強かった。カーズも危険な存在だ。
過去にディオに勝利したジョナサンや、全盛期のジョセフも侮ってはならない。
ムーロロの報告によれば、カーズに近い能力を持つワムウという男も厄介である。
そして、未知の戦闘力を持つバオーこと橋沢育朗もまた、驚異となり得る。

だが、それもジョナサン・ジョースターの肉体が完璧にDIOに馴染むまでだ。
ジョルノの血を吸ったとき、DIOの肉体は完璧を超えた存在へとパワーアップするだろう。

「認めてやるぞ、承太郎、そしてカーズ。貴様らは我が天国への道の最大の難関であるとな。
待っておれ。このDIOの手で、直々に始末してやろう。」


暗く澱んだ教会の地下で、DIOは静かに笑った。

697デュラララ!! 本スレ転載お願いします ◆vvatO30wn.:2014/03/09(日) 19:23:09 ID:tS62JUsQ


【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(大)疲労(大)
[装備]:携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面、
    リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発、『ジョースター家とそのルーツ』
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.ジョルノ・ジョバァーナと会う。おそらく配下にはできないだろうから、血を吸って身体に馴染ませたい。
2.承太郎、カーズらをこの手で始末する。
3.蓮見琢馬を会う。こちらは純粋な興味から。
4.セッコ、ヴォルペとも一度合流しておきたい。






【残り 52人】

698 ◆vvatO30wn.:2014/03/09(日) 19:24:35 ID:tS62JUsQ
投下完了です。
さるくらったので、2レスはみ出してしまいました。
本スレへの転載お願いします。

699 ◆c.g94qO9.A:2014/03/11(火) 01:42:05 ID:8qfIboUE
投下完了宣言だけさるさんくらってしまいました。
転載お願いします。

以上です。なにかありましたら連絡ください。
あたらしく書いてくださった方もいるみたいで、嬉しいことが続きますね。
私もなるべく、早く、多くの作品を書けるように頑張ります。

700 ◆jNtKvKMX4g:2014/04/05(土) 20:48:14 ID:8EUXVY.o
本スレに投下出来ないので、こちらに投下させてもらいます

701ありえない筈の遭遇 ◆jNtKvKMX4g:2014/04/05(土) 20:49:12 ID:8EUXVY.o
僕はまず、トリッシュと少し話をしようと思った。その前にトリッシュから話しかけてきた。

「ねぇフーゴ。あなたはいつの時代から来たの?」
トリッシュは不安げに僕に話してきた。

「!トリッシュもそれに気付いていましたか。僕は2001年の○月×日から来ました。トリッシュ、あなたは?」
僕は驚きながら聞き返した。

「私はあなたが来たホンの数日前だわ。ほとんど一緒ね。ということは本当の世界でのアバッキオやナランチャやブチャラティの事も………」
彼女は悲しそうな目をしながら尋ねてきた。

「知ってるよ。詳しくは知らないけどね。とりあえずナランチャの知ってる辺りまでを話しておこう」
僕は落ち着きながら言った。

「あとフーゴ。…………この世界でブチャラティが死んだわ」
彼女は震える声でそう告げた。

「えっ!?ブチャラティが……。これもナランチャには黙っておこう。放送の時にはバレてしまうが今言ったらさらに混乱させてしまう」
僕は彼女を落ち着かせるように諭した。

「あちらの方から何か感じる気がする」
ジョナサンがふと言った。
ジョナサンのその一言で、D7の方に歩く事にした。
トリッシュが話すには、ボスとトリッシュはお互いの存在を何か感覚でわかるらしい。
ジョナサンの親族ならば、会ったら協力してもらえるであろうという考えである。

「ところで、君は寒いのかい?波紋で治してあげよう」
ジョナサンが歩き始めてからすぐにトリッシュに問い、波紋で治した。

「!!ありがとう。は……もん?なに?それは?」
トリッシュは疑問そうに尋ねた。

ナランチャにエアロスミスで警戒してもらいながら、僕たちは情報交換を歩きながら行った。
SBRの事や、フーゴ達が居た世界の事(ナランチャが知っている所まで)や、ジョナサンが居た時代の事や、玉美の居た時代の事や、ここに来てからの事について話した。

702ありえない筈の遭遇 ◆jNtKvKMX4g:2014/04/05(土) 20:49:43 ID:8EUXVY.o
「ちょっとまってくれ、フーゴ。つまりは僕たちは時代を越えてここに呼ばれてるって事か?」
ジョサナンが確かめるように僕に聞いてきた。

「僕の考えではね、ジョナサン。どう考えても言ってる事が食い違いすぎる。偶然そこの変な男と僕たちは時代が近かったようですけどね」
僕は横目でその男をチラッと見、話した。

「変な男って俺の事かよ!お前。なにいってくれて
「玉美うっさい。フーゴの話を邪魔しないで」
トリッシュが少し怒りながら言った。

「すみません、トリッシュ殿。さあさあ話を続けてください」
調子が変わったかの様に玉美は喋った。

「つまりよぉ〜、ジョルノやミスタやブチャラティが俺らを知らない可能性もあるわけってことか?難しいけどよぉ〜」
ナランチャが難しい顔をしながら聞いてきた。

「そうですが、それより先が重要なんです。僕たちを知らなければ攻撃してくるかもしれませんし」
僕はナランチャにわかりやすいように喋った。

「だけどそんなんわかんねぇじゃねぇか〜」
ナランチャがお手上げのような顔をしながら言った。

「今それの対策を考えようとして

『時刻は12時、正午の時間だ。第二回放送を始める。』

「!放送だ。とりあえずそこら辺でメモをとらないと。ナランチャだけじゃなくて他の皆も警戒を頼む!僕はメモをとる」
僕は皆に素早く伝えた。

『ロバート・E・O・スピードワゴン』
(スピードワゴン。違う時代から来たとしても死んでしまったのは悲しいな)

『ウェカピポ』
(ウェカピポ!死んでしまったの!?)

『ブローノ・ブチャラティ』
『レオーネ・アバッキオ』

「えっ!?ブチャラティが何で死んでんだよぉぉぉぉぉぉ!!
なんでアバッキオが今呼ばれてんだよぉぉぉぉぉ!フーゴぉぉぉぉ!
さっき呼ばれたんじゃなかったのかよぉぉぉぉ!どういう事だよぉぉぉぉ!!
説明してくんなきゃわかんねぇよぉぉぉ!」
ナランチャが動揺しながら叫んだ。

「落ち着いてください。ナランチャ。そ、それはですね」
僕は素早く脳を動かしながら口を開いた。
(どう言えばいい!?アバッキオがこんなにはやく死ぬなんて予想外過ぎる!)

フーゴが困っていたその時だった。

「そこの人達、そこで止まるんだ!止まらなければうつ!」
そこには何故か指を突き出す妙な男が居た。

703ありえない筈の遭遇 ◆jNtKvKMX4g:2014/04/05(土) 20:50:21 ID:8EUXVY.o
****************************

《第二放送が始まる10分か20分前の事、D−7路上にて》

アナスイと僕は情報交換をした。ここに来る前の時代の事、ここに来てからの事。その途中で時代の食い違いに気づいた。
もしかしたらサウンドマンも昔から連れてこられたのではないか、D4Cの能力ではないではないのか?そうも考えた。
これらを歩きながらおこなった。僕がある方向から何か感じたからだ。彼の知り合いもそのようなものがあったらしい。
同じ血族とかでそのようなことがあるらしい。 同じ血族なら問題ないであろう、と考え向かう事にした。
そちらの方に行ってから目的地に行けばいい、との話になった。
幸い何も起きずに進めた。
それらを第ニ放送が入った時にやめた。居た場所の近くの隠れられる場所でとりあえずアナスイにメモをとってもらい、僕は警戒をすることにした。
放送の最中子供の大声が聞こえた。

「アナスイ、僕が見てくるからそこにいてくれ」
僕はアナスイにそう言い向かおうとした

「いや、ジョニィ。放送が終わったらにしよう。もうすぐ終わる筈だ。」
アナスイは僕に少し動揺しながら言った。
(ウェザーとプッチが死んだ!?)

『諸君らの健闘を祈って!グッドラック!』

「物しまったか?アナスイはそこにいてくれ。いざというときにそなえて」
僕はそう素早く言い向かった。

「わかった。頼むぞ。」
アナスイが僕の後ろからそう告げた。

「そこの人達、そこで止まるんだ!止まらなければうつ!」
僕はタスクを出す態勢になり叫んだ。

704ありえない筈の遭遇 ◆jNtKvKMX4g:2014/04/05(土) 20:50:49 ID:8EUXVY.o
******************************

「!!てんめぇ、何もんだぁぁぁぁぁ!」
ナランチャがそう言い、スタンドを出そうとしたときに何かを突き抜ける音がした。

「スタンドも出すな!次何かしたら体を狙うぞ!」
そう相手が言った時、僕のバックに穴が空いていた。

「あなた、まさかこのスタンド、ジョニィ・ジョースター!?SBRの選手の!?」
トリッシュが嬉しそうにさけんだ。

「君は何で僕の事を?」
ジョニィは疑問に思いながら問いかけてきた。

「ルーシーやウェカピポに会ったの!彼らがジャイロ・ツェペリやあなたは頼っていい人だと言っていたわ!」
トリッシュは説得するかのように彼に喋りかけた

「そうか、ルーシーやウェカピボが。なら質問する、ルーシーは何のスタンドを持ってた?」
ジョニィは態勢を崩さないまま聞いてきた。

全く僕にはわからない。ルーシーはスタンドを持っていたのか!?そんな話聞いてないが。

「いえ、彼女はスタンドを持ってなかったわ」
トリッシュは何も迷いもなく言った。

「よし、信用しよう。彼女と争ったのなら確実にはわからない情報だ」
ジョニィもまた何も迷いなく言った。

ただのハッタリだったのか。

「おい、ジョニィ」
髪が長い男が出てきて、ジョニィに話しかけた。

「大丈夫だ。それに彼らの目からジャイロの輝きと同じような物がある。そこの大男からはさっきから言ってる感覚があるしな」
ジョニィは髪が長い男に返事をしていた。

「よくわかんないけどあの二人は味方なのか?」
ナランチャがトリッシュに聞いた。

「ええ、そうよ。」
トリッシュが簡潔に答えた。トリッシュ、ナランチャの扱いうまくないか?

「まあとりあえずそこの家に入って情報交換しましょうよ」

僕は皆にそう言いバックを持つついでに中身をみた。
ウォッチタワーのカードが二枚ともなくなっていた。
疑問に思いながらも僕は歩き始めた。

******************************

「なあ、君はなんて名前なんだ?」
僕は家についたので、僕は大男に名前を尋ねてみた。

「僕はジョナサン・ジョースターさ」
彼はそう気軽に答えた。

「な、なにーーーーーー!」
僕は驚き、叫んだ。

To Be Continued

705ありえない筈の遭遇 ◆jNtKvKMX4g:2014/04/05(土) 20:51:25 ID:8EUXVY.o
【D-7 南西、家】
【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(小程度に回復)、貧血(ほぼ回復)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.あれがジョニィ?情報交換をしよう。しかし僕に何か似てる
1.先の敵に警戒。まだ襲ってくる可能性もあるんだから。
2.知り合いも過去や未来から来てるかも?
3.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
4.ジョルノは……僕に似ている……?

【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額にたんこぶ(処置済み)&出血(軽度、処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.ジョニィ?味方みたいだから、エアロスミスで警戒してるから情報交換しようぜ!
1.ブチャラティが死んで今アバッキオの名が呼ばれた?どういうことだよフーゴ(今は忘れています)
2.よくわかんないけどフーゴについていけばいいかな
【備考】
ナランチャは警戒をしていたため情報交換の時にろくに話を聞いていません

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:健康、やや困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
0.あれがジョニィ?とりあえず情報交換だ
1.先の襲撃&追撃に引き続き警戒。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す(ウォッチタワーが二枚とも消えたため今の所はムーロロには連絡できません)
3.アバッキオ!?こんなはやく死ぬとは予想外だ。
4.ウォッチタワーはどこに行った?
【備考】
『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのAとハートの2はムーロロの元に帰り、消えました。

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:肉体的疲労(中程度までに回復)、失恋直後、困惑
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服
[道具]:基本支給品×4、破られた服、ブローノ・ブチャラティの不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
0.ジョニィ!!とりあえず情報交換
1.ルーシーが心配
2.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく(ただし情報交換・方針決定次第)
3.ウェカピポもアバッキオも死んでしまったなんて…
4.玉美、うっさい

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:全身打撲(ほぼ回復)、悶絶(いろんな意味で。ただし行動に支障なし)
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
1.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。
2.とりあえずトリッシュ様に従って犬のように付いて行く。
3.あくまでも従うのはトリッシュ様。いくら彼女の仲間と言えどあまりなめられたくはない。
4.あの二人は味方か?トリッシュ殿にまかせよう。

【備考】
彼ら四人はアバッキオ以降の放送を聞いていません
彼らはSBR関連の事、ジョナサンの時代の事、玉美の時代の事、フーゴ達の時代の事、この世界に来てからの事についての情報を交換しました(知っている範囲で)

706ありえない筈の遭遇 ◆jNtKvKMX4g:2014/04/05(土) 20:51:45 ID:8EUXVY.o
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(極大)、 体力消耗(中)、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
1.情報を集める。
2.とりあえず目の前のやつらと情報交換だ。


【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(小) 、困惑
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
3.ジョナサン!?僕の本名と同じだ。D4C以外でどうやって
4.D4Cの能力で連れてこられたんじゃない?
5.情報交換をしよう
【備考】
ジョニィとアナスイはお互いにいた時代の事について情報交換をしました。
ジョニィは警戒をしていて放送をろくに聞いていません

707 ◆jNtKvKMX4g:2014/04/06(日) 08:27:29 ID:XWdx22WI
いうの忘れてしまいましたので今言わせてもらいます。
投下終了です。転載お願いします。

708星環は英雄の星座となるか? ◆3yIMKUdiwo:2014/04/06(日) 13:50:44 ID:1CjnMZCg
連投規制食らってしまいました。
以下転載願います。

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:全身疲労(小)、痛み
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.ちきしょう、こうなりゃ何処までも行くぜ!
1.空条邸へ向かう。
2.F・F…おまえなのか?

※ビットリオの持っていたデイパックがB-4のどこかに埋もれています。

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:精神的疲労(小)
[装備]:ナランチャの飛び出しナイフ
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1〜2(確認済み/武器ではない/シ―ラEのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ
0.ジョルノ様が生きている?
1.空条邸へ向かう
2.このまま皆で一緒にいれば、ジョルノ様に会えるかも?
[備考]
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです。
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません。

【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:痛み、貧血気味、体力消耗(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水ボトル1/3消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.色々考える事はありそうだけど…まず、今は川尻さんを…
1.空条邸へ向かう。
2.仲間たちと共に戦うため『成長』したい。
3.協力者を集める。


【ルドル・フォン・シュトロハイム】
[能力]:サイボーグとしての武器の数々
[時間軸]:JOJOとカーズの戦いの助太刀に向かっている最中
[状態]:健康
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶にして誇りである肉体
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ドルドのライフル(5/5、予備弾薬20発)
[思考・状況]
基本行動方針:バトル・ロワイアルの破壊
0.柱の男だけが脅威ではないのか…?
1.周りに警戒する。
2.空条邸へ向かう。

【噴上裕也】
[スタンド]:『ハイウェイ・スター』
[時間軸]:四部終了後
[状態]:痛み
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数 90%)
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、ランダム支給品1(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:生きて杜王町に帰るため、打倒主催を目指す。
0.何だか大所帯になってきたな…
1.空条邸へ向かう。
2.協力者を集める。

709 ◆3yIMKUdiwo:2014/04/06(日) 13:51:36 ID:1CjnMZCg
【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:波紋
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:健康
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、基本支給品×4、不明支給品4〜7(全未確認/アダムス、ジョセフ、エリナ)
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえずチームで行動。殺し合い破壊。
0.ワムウ…エリナ…
1.空条邸へ向かう。
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる
[備考]
エリナの遺体をB-4に埋葬しました。
母ゾンビの支給品がブリキのヨーヨーでした。

【東方仗助】
[スタンド]:『クレイジー・ダイヤモンド』
[時間軸]:JC47巻、第4部終了後
[状態]:左前腕貫通傷(応急処置済、波紋治療中)、疲労(中)
[装備]:ナイフ一本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はない。このゲームをぶっ潰す!
0.ジョセフ・ジョースター……ジジイ、か。
1. 承太郎さん…
2. 空条邸へ向かう。
[備考]
クレイジー・ダイヤモンドには制限がかかっています。
接触、即治療完了と言う形でなく、触れれば傷は塞がるけど完全に治すには仗助が触れ続けないといけません。
足や腕はすぐつながるけど、すぐに動かせるわけでもなく最初は痛みとつっかえを感じます。時間をおけば違和感はなくなります。
骨折等も治りますが、痛みますし、違和感を感じます。ですが"凄み"でどうともなります。
また疲労と痛みは回復しません。治療スピードは仗助の気合次第で変わります。

※仗助が傷を塞いで回り、その間にチーム内で放送内容やこれまでに会った者などの情報交換が行われました。
そのやりとりの中でチームメンバーは多かれ少なかれ空条承太郎が悲しみと怒りに囚われていることに気づきました。そして、誰かが見張っている事を知らされています。
※救急車はD-4空条邸(地上)に向けて疾走中。ティムの馬で並走できる位なので、速さの目安はスクーター程度でしょう。

710 ◆3yIMKUdiwo:2014/04/06(日) 13:54:47 ID:VHxxyYXY
【B-4 古代環状列石(地下)/1日目 午後】

【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、左耳たぶ欠損
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
0.取り敢えず逃げる。
1.ワムウの表情が心に引っかかっている
[備考]
※考えなしに逃げています。ワムウと会えるかはわかりません。

【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:疲労(小)、身体ダメージ(中)、身体あちこちに波紋の傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
0.ジョジョ…
1.JOJOとの再戦を誓って強者との戦いを求め地下道を探索。
2.カーズ様には会いたくない。
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
4.12時間後、『DIOの館』でJ・ガイルと合流。


以上です。誤字矛盾等あれば指摘願います。

ここまで転載願います。

711 ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 02:56:18 ID:rNPueYv2
容量オーバーで新スレ立てようとしたんですが……なんかうまくいきませんでした。
AAも何選べばいいかわからなかったし。
とりあえずこっちに一回投下します。





なぁ、億泰。お前、『ゾンビ』って知ってるか。
でかい鳥……お前が言いたいのは『トンビ』だろ、このマヌケ。
ゾンビってのは死んでるくせに生きてるような人間のことだ。
わけのわからん呻き声をあげながら腐った目をして歩き回る輩のことを言うんだ。

「この俺のように、な」

形兆は自虐的に笑うと右腕を上げた。それを合図にバッド・カンパニーが一斉に銃を目標へと向けた。
青い顔をしたまま動かないシーザーに狙いを定める。


考えてみれば俺の人生は生きながら死んでるも当然だった。
親父を殺した時やっと俺の人生は始まるんだ。それはつまり殺すまでは始まってもいないってことだ。
生きているのに、生きていない。傍から見たらくだらねェと言われても仕方ないだろうな。

けどなァ、億泰……あいつは違ったな。あのクソッタレな仗助は違ったんだ。
あのでか頭のせいで俺は思っちまったんだ。希望を持って生きることを、望むことを許された気がしちまったんだ。

「戦隊整列ッ!」

だからだろうな、あの電気のスタンドが見えたときドジこいてお前を助けるなんてことしちまった。
笑えるぜ! あんだけぞんざいにお前を扱ってたくせに今更この俺が兄貴面とはな!
さらに笑えるのが救ったはずのお前が先に逝っちまったってことだ!

なんのために……って気がしたぜ。俺は間違ってる、そう神様に面と向かって唾かけられた気分だ。
せめて死ぬのは俺のはずだろう? お前は何もしちゃいないはずだ。
後戻りできないとこまでいたのはこの俺のはずだ! おっかぶるのはこの俺だったはずなんだ!

「かまえッ!」

ああ、そうとも。俺は裁かれて当然の極悪人だ。
まっとうに生きれるはずがない宿命の人間だ。
なら! ならばこそ! 生き延びちまった今!
あんときお前をかばったように、今日だって誰かを救うために行動したいと思うだろうがッ!


「うて――――ッ!」

712 ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 02:59:17 ID:rNPueYv2

合図とともに民家の影からも、足元に広がる兵士たちも、上空を旋回する兵器たちも。
一斉に銃口から火を吹かせ、耳をつんざくような音が辺りにこだました。
銃弾はシーザー、ではなく、その後ろに立つ二人に向かって放たれた。

周りに重音と硝煙が立ち込める中、形兆は懐から一枚のトランプカードを取り出した。
それはカンノーロ・ムーロロのスタンド。DIOが形兆にかした首輪。
それを形兆はためらうことなく、バラバラに引き裂いた。

形兆は反逆する。
DIOの操り人形であることを拒否し、生きながら死んでいくことを否定する。



「聞いてんだろ、DIOッ! 俺はあんたに忠誠なんか誓わないッ!
 アンタは恐怖で人を操れると思ってんだろう。洗脳して、人を征服した気分になってんだろう。
 けれども! 人の心まで好きにできると思うなッ!」



煙が晴れたころ、そこに立っていたのは無傷の男二人だった。
サーレーとディ・ス・コの額に張り付いた肉の芽がざわり、と身をよじらせた。

「形兆、お前…………!」
「話はあとだ。来るぞッ!」

二人のゾンビは命じられるまでもなく、己の使命を悟る。
裏切り者には死を。クラフトワークが宙に固定した銃弾を乱暴に殴りつけた。
シーザーと形兆の頭上を弾丸が飛び交っていく。
そして、それに合わせるようにディ・ス・コが指を振るうと銃弾は向きを変え、二人の脳天めがけ降り注いだ。
体制を低くしたまま二人は転がるように散開する。

スタンド、クラフトワークとチョコレイト・ディスコ。形兆のバッド・カンパニーではすこぶる相性が悪い。

「シーザー、走るぞッ!」
「何か策があるのか?」
「ある。あることにはある。だが……」

あらかじめ逃走ルートに潜めていた兵士たちが援護するよう、銃を放つ。
苛立ち気な悪態を後ろに、形兆とシーザーは走っていく。
シーザーは形兆を見る。暗く、冷たい目は変わらないままシーザーを見つめ返していた。

それは確かに覚悟を決めた目だった。己の命をかけてでも守るべきものを見つけた、男の目!

シーザーは頷く。
『信頼』ッ! シーザーの中に芽生えたのは形兆に対する、赤子が親に持つような信頼関係だった。
どんな無茶をしようとも。どんな危険を冒すことになろうとも。
そして! 例えどちらかが死ぬことになろうともッ!
シーザーの中に後悔はなかった。一度ならず二度、救われた命。形兆を助けるにはそれだけで十分な理由だった。

形兆はシーザーが頷くのを確認すると、策を伝える。
しばらく走ると、二人はそのまま二手に分かれた。
追手を振りほどこうと緑の兵士たちが殊更懸命に銃を放っていく。
サーレーとディ・ス・コが十字路にたどり着いた頃には、二人の姿は影も形も見当たらなかった。








713 ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:00:27 ID:rNPueYv2
「ちくしょう、どこ行った!?」

後方から放たれた銃弾を固定しながらサーレーは喚く。
苛立たしい相手だった。銃撃の元をたどったところでいるのは形兆でなく、そのスタンド。
その上バッド・カンパニーを一体、二体潰したところで形兆へのダメージは薄い。
かと言ってやみくもに走り回ったところで本体を見つけることはできない。

「ゲリラ戦法だ」

ディ・ス・コがぼつり、とつぶやいた。わかってることを耳元で言われて余計苛立ちが募った。
使えねぇ相方だ、あえてそう聞こえるよう毒づいたがディ・ス・コの返事はなかった。
サーレーは胸ポケットから一枚のカードを取り出す。ダイヤのジャックは沈黙したまま返事をよこさない。

ムーロロのウォッチタワーとバッド・カンパニーでは数が違う。
情報戦では敵わない。逃げにまわられた今、サーレーとディ・ス・コには打つ手がなかった。


まかれたか。


怒りと屈辱が二人の心に湧き上がる。同時に心臓を鷲掴みにされたような恐怖も。
二人はムーロロを通してDIOより、形兆の監視とシーザーの抹殺を任されていたのだ。
任務の失敗はDIOの失望を招く。それは考えたくもない、足元が崩れるような恐怖だった。

それだけは……! それだけは絶対に避けなければならないッ!

しかし焦れば焦るほど形兆の作戦は効力を発揮した。
撃っては姿を隠し、気を抜いた頃を見計らって銃撃する。サーレーとディ・ス・コはがむしゃらに走るほかなかった。
湧き上がる感情をひた隠し、二人は走り続ける。それでも形兆とシーザーは見つけられなかった。

やがて二人がすっかり疲弊しきった頃。諦めと絶望に徐々に体を蝕まれた頃。
考えたくもない未来を、二人が考え始めたまさにその瞬間。
その時、道の先から声がした。

「全隊、一斉砲撃ッ!」

考える間もなく、サーレーは反射的にスタンドを構えた。
ディ・ス・コはサーレーの後ろに隠れ、同時に後ろからの射撃を叩き落としていく。
形兆が姿を現していた。その足元に黒い影がわだかまる。
黒い影が次第に濃さと広さを増していく。宙に浮かぶ者もいる。タイヤを転がし這うものもいる。
バッド・カンパニーの全兵力がそこには集まっていた。兵士も、タンクも、アパッチも、パラシュート部隊も。

形兆はここでケリをつける気だった。後先を考えない、全兵投入だッ!


「うて――――ッ!」

714 ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:01:44 ID:rNPueYv2
サーレーの周りに止めきれないほどの銃弾が固定されていく。
固定された銃弾が放たれた銃弾に押され、玉突きのように徐々に押し込まれていく。
ディ・ス・コの周囲3メートルにはびっしりと銃弾が散りばめられている。
どれだけ素早くスタンド能力を発動しても後から後へと兵士が湧いてくる。ディ・ス・コの表情にはっきりと恐怖が浮かび始めた。

弾丸が土埃を巻き上げ、硝煙が辺りを霧のようにおおった。
攻撃はまだやまない。空薬莢が雨のように降り注ぐ音があたりに響いた。
サーレーとディ・ス・コは気がつかない。目の前の攻撃を凌ぐことに懸命で、形兆の狙いに気がつかない。
土煙にまぎれ、迂回する影。ディ・ス・コのそば、わずか1メートル足らずの位置まで近づく。


「!?」


影から伸びでた手がディ・ス・コの手首を掴む。
咄嗟のことに驚き、固まった隙に形兆がもう片方の腕でディ・ス・コを抱きかかえるような体制を取る。
顔と顔がつきそうな程の至近距離。
ディ・ス・コの目に映ったのは血走った形兆の目、歯をむき出しにした凶暴な笑み。

形兆の背後から銃声が響いた。
バッド・カンパニーの銃弾は正確無比に形兆を突き抜け、ディ・ス・コの体を打ち抜いた。
ディ・ス・コは何が起きたか訳も分からず、喉の奥から血を吐き出した。
続けざまに放たれる銃撃。今までよりもさらに激しく放たれた銃弾が形兆とディ・ス・コの体を揺らし、あたりに血の海を作っていく。

チョコレイト・ディスコに飛び道具は効かない。全て撃ち落とされ、無効化される。
ならば撃ち落とされない距離で撃ち抜けばいい。ゼロ距離で死角からの一撃。
形兆の覚悟は自身の命をかけた一撃だった。文字通り体を張った攻撃。
そしてそれはまだ終わっていない。

「シーザー!」

咳き込みながら形兆が叫ぶ。血の海に倒れ込みながら、形兆は合図を送った。次なる狙いはサーレーだ。

クラフトワークの能力は触れたものを全て固定する能力。打撃、斬撃、銃撃ではダメージを与えられない。
サーレーの足元まで伸びた血の海に手を突っ込むと、シーザーは波紋の呼吸を練った。
形兆の血を伝い、しびれがサーレーの体に走る。

だが固定されない攻撃ならば! 直接ふれず、モノを媒介しない波紋ならばッ!
されど痺れは一瞬だろう。血の海といったところでそこから出れば波紋から解放される。足を離せば逃れられる。

「それを……待っていたッ!」

715 ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:02:08 ID:rNPueYv2

しかし形兆にしてみれば、その一瞬で十分だった。
サーレーの動きが止まったと同時に、生き残っていた兵士たちが一斉に狙いを放った。
サーレー目掛け、でなく、その首輪めがけ火を噴く銃口。
縦断を放ったところで、体に触れれば固定される。しかし火薬が詰まった首輪ならば! サーレーの体に触れない首輪ならば!

弾丸が迫るのをサーレーはただ見ることしかできなかった。
しびれを振りほどこうと、必死で手をあげようとするが無駄だった。
狙撃兵が放った銃弾は几帳面な形兆らしく、一ミリも逸れることなくサーレーの首輪に着弾する。

短いボンッ、という音に続いてどさりとなにか重いものが倒れる音が聞こえた。
サーレーの首と、サーレーの胴から新たに勢いよく血が噴き出した。
地面を覆うように広がっていく生暖かい感触を感じながら、形兆はそっと目を瞑る。

ようやく終わった。そう感じるとどっと疲労が押し寄せてきて、形兆は意識を手放しかける。
満足したわけではない。父を殺してもいないし、癒してもいない。
やりきったと胸を張るには不十分だと分かっていたが、それでもここでおしまいだとどこかで囁く自分がいた。

暗くなる視界の中、鬼のような形相で叫ぶシーザーが見えた。
形兆は最後になにか言ってやろうかと思ったが、血がこみ上げ、言葉が出ない。

耳元で必死に叫ぶシーザーの声が聞こえる。それも徐々に遠くなる。
そして……―――








716 ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:03:18 ID:rNPueYv2
「これで満足かよ」

誰もいない道の真ん中で、シーザーはそう呟いた。
血で手を真っ赤にしながら、誰に言うでもなくそう言った。
返事をする者はいない。先まであたりを走り回っていた小さな兵士たちも、姿を消してしまった。

策を聞いた時点でこうなることは分かっていたはずだった。
ゼロ距離から自分の体を死角に一人目を始末。自らの血で辺りを覆い、波紋で足止め。
動けなくなった二人目を形兆のスタンドがトドメをさす。完璧だった。
ただ一点、形兆が死んでしまったという点を除いては。

形兆は自ら死を望んだのだろう、と思った。
シーザーは天を仰ぎ、そっと自らの胸元に手をやった。
そこには形兆が一ミリのズレもなく鮮やかに打ち抜いた銃創の跡が残っている。
形兆の体を打ち抜きながら、且つディ・ス・コに致命傷を与える。それができるほどの技術を形兆はもっていたはずだ。

「あばよ」

立ち上がりがけに、シーザーはそっと形兆の顔に手をやった。
安らかに目を閉じさせ、頬を歪めて唇を動かす。形兆の死に顔が僅かな微笑みに変わった。

俺は死なない。死んでやるもんか。
シーザーはそっと呟いた。そんな安易な道を選んでなるものか。不用意に手放してなるものか。
生きて、生きて、生き抜いてみせる。泥臭くても、血生臭くても、しがみついて這って進んでやり遂げてみせる。

そうでなければ示しがつかないのだ。リサリサに、スピードワゴンに。そして虹村形兆に。

その気持ちだけはありがたく頂戴しておこうと思った。
立ち去りかけたとき、微量の波紋が足元を伝わせ、三人の体に波紋を流す。
サーレーとディ・ス・コの額に張り付いた肉の芽は、しばらくもがいた後、砂となって消えた。

シーザーはもう振り向かない。目指す先は東。DIOの館へ、そして川の上流へ。

「待ってろ、DIOッ!」

かすかに残ったシャボン玉が、血の池から湧き上がる。
三つの遺体が残された街路地。
真っ赤に染まったシャボンが宙を舞い、ゆらり、ゆらりと揺れていく。





【ディ・ス・コ 死亡】
【サーレー 死亡】
【虹村形兆 死亡】

【残り 49人】

717BLOOD PROUD    ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:04:29 ID:rNPueYv2
【C-2 カイロ市街地 北西/ 一日目 日中】

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発、体力消耗(大)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック
[道具]:基本支給品一式、モデルガン、コーヒーガム、ダイナマイト6本
    シルバー・バレットの記憶DISC、ミスタの記憶DISC
    クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
0.???
1.ティベレ川を北上、氾濫の原因を突き止める?
2.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。
3.DIOの秘密を解き明かし、そして倒す。
4.DISCについて調べる。そのためにも他人と接触。

【備考】
※シーザーは形兆の支給品、装備、道具を回収しました。
※サーレー、ディ・ス・コの死体の周りにデイパック及び所持品が放置されています。
 ディ・ス・コが所持していたシュガー・マウンテンのランダム支給品も放置されています。
※カイロ市街で大規模な銃撃戦が起こりました。あたりに銃声が響き、建物に銃創が数多く残っています。

718BLOOD PROUD    ◆c.g94qO9.A:2014/05/02(金) 03:09:22 ID:rNPueYv2
以上です。誤字脱字、矛盾点ありましたら教えてください。

>星環は英雄の星座となるか?
ハードボイルド承太郎が好きです。
それに対する仲間たちのリアクションもベネ。
康一君の一言とか、ティムの観察眼とか、仗助の気遣いとか、ジョセフのワンパンとか。
HEROES大集合で大所帯ですが、さてどうなることやら。
今の予約が来れば空条邸にほとんどの参加者が集まるので期待です。

>血の絆
DIOvsジョルノのお膳立てが完全に整ったので次の人が書きやすそうと思いました。
こういうパスは私としては舌なめずりするほど美味しいと思いました。
あとそこにジョナサンを突っ込むというのも美味しい。さらにジョルノ+フーゴも美味しい。
さらにさらにここにヴォルペが入ってきたらもう止まらない。
そんなこんなでこっちも続きが楽しみです。

719---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:13:55 ID:G9cHNUZg
やはりおさるさん頂いたので、残りはこちらに投下します。

720---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:14:44 ID:G9cHNUZg
情報交換の指揮はアヴドゥルとツェペリが中心となり、他の者は黙って質問に答える側だ。
ドルドに対しはなんとも思わないが、沈黙を保つ花京院にはビーティーだけでなくアヴドゥルも違和感を覚えていた。

「……さあ。私からはなんとも言えないな。君と違ってシンガポールまでしか知らないし、ここへ来てからもろくな人間と出会っていない」

話を振られ、ラバーソールはなんとか切り抜けようとした。
だがその後すぐに、今度はラバーソールがこれまでの経緯を話をするターンが回ってきた。
花京院からはほとんど何も聞かされていないため、彼も過去を創作する。
水のスタンドを使うアンジェロと言う外道を始末した事、その際に、川尻しのぶの夫らしき人を死なせてしまった。
などと言う内容などだ。
吉良の語ったカバーストーリーと比べて出来が悪く、ビーティーから鋭い指摘がある度に、言葉を詰まらせていた。

(やはり、この花京院も、何かを隠している……)
(畜生ッ! このビーティーとか言うクソガキをぶち殺してやりてえ! しかしこの人数相手に、妙なことは出来ねえ……)

ラバーソールは焦燥を誤魔化し、『法皇』を見る。
スタンドには変化はない。

(花京院ッ! もう限界だぜ! なにか指示を寄越せッ! このままじゃあ――――――)

その後、今度はアヴドゥルたちが自分たちのこれまでの経緯を話し始めた。
ポルナレフの死、ホテルでの出来事、ワムウという男、ドルドの駆除対象である危険生物バオーについて等だ。
ビーティーに巧みな話術によりジャイロの存在はうまく隠され、ジャイロ無しでは知り得ない情報(主催者スティールの事など)も当然出なかった。
一通りの話が終わった頃、時計の針は既に午後2時半を回る頃だった。

「では、このままここで待機する。承太郎の帰還を待つのだ。異論のある者はいるか?」

アヴドゥルの言葉で、情報交換は締めくくられようとしている。
川尻しのぶの言葉を信じるならば、承太郎は必ずここへ戻ってくる。
まずは、それを待ち、合流の後にその後の方針を決定するという流れだ。
異論がでるはずもないが、若干1名は納得していなかった。
無論、ラバーソールだ。

(冗談じゃねえ… この人数に加えて、承太郎まで…… 花京院の奴は一体何をしているッ?)

そんな2人を余所に、アヴドゥルはビーティーを見る。
そろそろジャイロを呼び出していいんじゃないか?
そう問いたいのだろう。

まだ屋敷内にも不安要素は残っているが、ここらがビーティーとしても譲歩のし時だ。
いつまでも門の外で待たされ、ジャイロもそろそろ我慢の限界だろう。
ビーティーは目線でドルドに指示を送る。
アゴで使われることにやれやれとため息を付き、しかしドルドは静かに従う。

721---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:18:14 ID:G9cHNUZg

「少し外の空気を吸ってくる」

適当にそう言って、ドルドは立ち上がった。
ビーティーにとっての不安は蓮見(吉良)と花京院(ラバーソール)の2人だ。

彼らについて、アヴドゥルに注意を促しておくべきか?
蓮見は、ツェペリからの波紋の治療を終え、軽く体を動かしている。
溶かされた左腕はそのままだが、それ以外は普通に動くに問題ないほどにまで回復しているようだ。
花京院は……

(ム? 『法皇』の姿が無いーーー)

ドルドに指示を送った隙にだろうか?
常に花京院の傍らに構えていた『法皇の緑』の姿が、いつの間にか消えていた。
室内を見渡すも、その姿はない。
花京院が消したのか、それともどこか遠くへ操作させたのか?
いや、違う。
ビーティー同様に、花京院(ラバーソール)もきょろきょろとあたりを何かを探しているのだ。

(花京院? クソッ! 『法皇』はどこに行った? 花京院は何を考えている?)
(なんだ? 花京院も『法皇』を探しているのか? 自分自身のスタンドを――? 奴が自分で消したんじゃあないのか?)

「おや? 川尻さん、どうしました?」

ビーティーの考えは、アヴドゥルの言葉に遮られる。
川尻しのぶが突然立ち上がり、生気のない表情を浮かべている。
その手には―――

「川尻さんッ! あんた何を?」

猟銃だ。

情報交換の間、アヴドゥルが小脇に置いていた猟銃。
川尻しのぶは猟銃を水平に構え、そして射撃した。
発射された散弾は、縁側から庭へ出ようとしていたドルドの背中を打ち抜き、胸に大きな風穴を生み出した。


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ☆

722---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:18:52 ID:G9cHNUZg

(なんだ? 銃声か!?)

屋敷内で、なにか異変が?
ジャイロ・ツェペリがビーティーの指示により空条邸の敷地外部にて待機をして小一時間が経過していた。
そろそろ待たされる我慢も限界に達していた頃、屋敷内から聞こえてきたのは、1発の銃声。
おそらく、アヴドゥルのもっていた猟銃だろう。
中で一体、なにが……?
ドルドが暴れたのか。それとも、別の敵か?

(どうする―――? 行くか? だが―――)

迷うジャイロ。
そこへ、さらに2発目の銃声が鳴り響く。
躊躇うことはない。ビーティーが自分を外に残したのは、こういう事態が発生した時を想定したからじゃあないのか?

ジャイロは鉄球を握りしめ、屋敷内部へと駆けだした。


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ☆

723---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:19:51 ID:T2JU4awg
.


「グハァッ!」

ドルドの機械仕掛けの胴体の風通しは良くなり、そのまま動作を失い地面に倒れた。
突然猟銃を放った川尻しのぶは、うつむいてなにかブツブツと呟いている。

「川尻さんっ! あんた何をしとるんじゃあ! なぜドルドを撃った!?」
「その猟銃をこっちに寄越すんだッ! さあ早くッ!」

川尻しのぶによる突然の暴挙。
これには流石のビーティーも想定外だ。
何かしでかすとしたら花京院か蓮見だと思っていたからだ。
完全に油断していた。

「猟銃? 猟銃ですってぇぇぇ……?」

しのぶが口を開く。
目は虚ろで、呂律も回っていない。

「アヴドゥルさぁん! あなたにはこの『棒っきれ』が、『猟銃』に見えるのぉおお!?」

足下がふらつき、口からは涎が垂れる。
そして猟銃を再度構え、銃口はビーティーに向けられる。

(いかんッッ!)
「それじゃあっ! ちゃんと! よく見なさぁい!!」
「『魔術師の赤』ッ!!」

アヴドゥルはビーティーを庇って前に飛び出し、スタンドを繰り出した。
銃声が鳴り響くと同時に、『魔術師の赤』も高熱の炎を吹く。
牢屋の鉄格子すら一瞬で焼き付くす炎で、飛来する弾丸を相殺させるのだ。
このゲーム開始直後、屍生人たちから同じ猟銃で狙われたときも、この炎によって防ぎきった。

「ぐゥゥ……」

だが、あの時より至近距離で、しかもとっさにビーティーを庇った直後の銃撃だった。
しかも相手は女性で、ここは学校の教室よりも狭い空条邸の応接室だ。
そのため対応が遅れ、すべての散弾を防ぎきることはできなかった。
急所は守り抜いたが、散弾の一部が炎のガードを避けて、アヴドゥルのわき腹に命中した。

(くそっ なんて事だっ! 腹をやられた。これでは、炎のパワーも落ちてしまうッ! だが―――)

「スタンドだッ! 彼女はスタンド攻撃を受けているッ!」

ビーティーが叫ぶ。
アヴドゥル同様、彼もその結論に辿り着いていた。
川尻しのぶは何者かに操られている。
それが何者の仕業か?
 それは、今のやり取りですべてわかった。

「花京院ッ! キサマかァッッ!?」

承太郎から聞かされた話でしか知らなかったが、花京院はDIOの配下だった頃、承太郎の高校の校医を操り、襲わせている。
そのときと状況が告示している。
肉の芽の有無は確認したはずだった、どうなっている?
だが、情報交換中も、花京院はどこか様子がおかしかった。
なぜもっと早く手を打たなかったのかと、アヴドゥルは悔やむ。

アヴドゥルは『魔術師の赤』の手刀を、花京院に叩き込む。
しかしーーー

「―――くそッ!」

花京院の腕が黄色いスライムで覆われ、攻撃は防がれてしまった。
ラバーソールの『黄の節制』である。

724---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:21:07 ID:G9cHNUZg

「「何だとッ?」」

アヴドゥルとビーティーが同時に叫ぶ。
スタンドは一人につき一体だ。
花京院にこんな芸当ができるわけがない。

蓮見が絡んでいるのか?とビーティーは視線を切るが、彼もまた事態を飲み込み切れていない様子で、腰を落として身を引いているだけだ。
突然の事態に、考えがまとまらない。

そして、アヴドゥルに攻撃されたラバーソールは、それ以上に焦っていた。

(畜生ッ! とっさに守っちまったッ! 花京院の野郎、俺を見捨てて、おっ始めやがったなッ!?)

すべては外にいる花京院の仕業だった。
『法皇』によって情報交換の様子を観察していた花京院は、空条邸での大乱闘を始めさせた。

承太郎がここに来る。
それは彼をターゲットとする花京院にとって好都合だったが、敵側であるアヴドゥルらの集団に行動されては、迎え撃つに都合が悪い。
花京院は、集団を崩壊させるプランを進めることにした。
ドルドが席を立ち、全員の意識がそちらに向いた隙をついて、『法皇』を川尻しのぶへ憑依さる。
そして、まず部屋を出ようとしていたドルドを銃撃。
その後、情報交換中にもっとも厄介だと判断したビーティーを始末しようとしたのだ。

『法皇』による操作を疑われるだろうが、問題はない。
なにせ、現場には『花京院』がいる。
罪はすべてラバーソールが被ってくれるというわけだ。
ラバーソールなどどうなっても問題はない。
『法皇』が暴れている以上『花京院』は言い逃れられないし、ラバーソールが正体を明かしたところで、アヴドゥルにとっては元々敵なのだから意味は無い。

そして、川尻しのぶがとりつかれている以上、『法皇』を攻撃できない。
アヴドゥルが花京院本体(ラバーソール)と交戦している隙を付き、『法皇』の攻撃でアヴドゥルを仕留める。
これで、花京院の勝利は確定する。

「アヴドゥルさぁぁん!! これは猟銃じゃあないわよねぇぇぇぇぇ!!!」

再度、弾を装填し、川尻しのぶがアヴドゥルを狙う。
炎の防御壁の威力は予想以上だった。
ビーティーから先に始末するつもりだったが、予定変更、アヴドゥルが先だ。
今の攻防でビーティーに身を守る能力がないのも明白である。
ここでアヴドゥルさえ押さえてしまえば、後はどうとでもなるだろう。

725---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:21:41 ID:G9cHNUZg

(まずい! もう一度攻撃されたら、今の俺では散弾を防ぎきれないっ! いや、花京院に捕まっているこの状態では、満足に動くこともできんッ!)

「パウッッッ!!!」

その刹那、ツェペリが飛び上がった。
座ったままの姿勢。腕の力だけでのものすごい跳躍で、ウィル・A・ツェペリは宙を舞った。

「やめんかァ―――っ!!」

(何ッ?)

花京院の予想を超える、ツェペリの超身体能力。
下半身不随と聞いて、侮っていた。
これが波紋の戦士の能力か。
飛び上がったツェペリの身体は川尻しのぶの身体を抱き留め、地面に押さえつけようとする。

だが―――


カチリ


(なんじゃとッ!?)

彼女の身体が床面に達するよりも早く、彼女の身体が起爆材となり、ウィル・A・ツェペリの身体は木っ端微塵に消し飛んだ。



「ウィル――――――ッッ!!」


奇しくもそれは、ジャイロ・ツェペリが応接室の縁側に辿り着くのと、ほぼ同じタイミングであった。



★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ☆

726---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:24:39 ID:G9cHNUZg


ローマ文化の町並みから、門をくぐればそこは日本庭園。
豪華な高級自動車に、アヴドゥルのバイク。
離れの書庫に、大きな池。
それらを横目に庭内を走り抜け、銃声のした屋敷の縁側を目指す。
ジャイロ・ツェペリが最初に見えたのは、縁側の廊下で倒れているドルド。
知らない奴とスタンド同士で取っ組み合いになっているアヴドゥル。
そして、自分と同じ姓を持つ異世界の友人、ウィル・A・ツェペリの身体が吹き飛ぶ光景だった。

(馬鹿がッ―――! 何故ノコノコ現れた? 何のためにお前を外に残したと思っているんだッ!? 
こういう場面になってこそ、伏兵のお前の存在が活きてくるのに―――ッ! もっと慎重に動けッ! 愚か者め!!)

心中で憤るビーティー。
どんな時も冷静沈着な彼とは違い、ジャイロは結構熱くなり易いタイプだ
銃声を聞いて、いてもたってもいられなくなってしまったのだろう。
本当ならばもっと現れるタイミングを図って欲しかったが、出てきてしまったのならば仕方がない。

「くそっ! どうなってやがるッ? どいつが敵だッ!?」

見極めないまま考え無しに飛び出してきたジャイロには、攻撃対象が定められなかった。
一発しか無い鉄球を構え、ジャイロは思案する。
ツェペリが爆死した側でうずくまる女か?
高そうなコートを着込んだ、見慣れぬ金髪男か?
いや、やはりアヴドゥルと組み合っている、長い前髪の少年が怪しいかッ!?

「女だジャイロ! 女を狙えッ!!」

ジャイロの迷いを、ビーティーの指示が一蹴した。
花京院が何かをしたのは間違いない。
だが、鉄球は1発だ。
謎の防御スタンドを繰り出した花京院の正体がわからぬ以上、貴重な攻撃手段を無駄に使うことはできない。

「女の腹に鉄球を叩き込めッ! その女は何者かに操られているッ!
お前の『回転』ならば、吐き出させる事もできるはずだッ!」
「お おうッ!」

まず優先して無力化すべきは、猟銃を持つ川尻しのぶだ。
猟銃には残弾が5発あった。
ドルドに1発。アヴドゥルに1発。弾はまだ3発も残っている。
しのぶが本当に『法皇』に操られているならば、解放してやらねば。
そうでないとしても、鉄球でしのぶを倒してしまえば、とりあえず猟銃の驚異は無くなるだろう。

「うおおおおおっ!!」

ツェペリの体当たりを喰らい倒れていた川尻しのぶを狙い、ジャイロの鉄球が放たれた。
回転する鉄球が身体を起こしかけていたしのぶの腹部に突き刺さる。
しのぶは低い呻き声を上げ、そして大きく開けられた口から、先ほどから見失っていた『法皇の緑』のヴィジョンが姿を現した。

『何ィィ―――ッ!?』

『法皇』を操る花京院にとっては想定外の攻撃だ。
しのぶの体内から『法皇』が強制的に引きずり出される攻撃など、予測できるわけがない。

身体から飛び出した『法皇』などよそに、側にいた吉良は、鉄球を喰らったしのぶを抱き留める。
そして、無防備に投げ出された『法皇の緑』―――。
アヴドゥルがそのヴィジョンを確認し、そして深い悲しみに襲われる。
やはり、花京院の仕業だったのだ。

727---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:26:06 ID:G9cHNUZg


(花京院―――ッ! 何故だッ! 何故お前が―――ッ!?)

「うおおおおおおお――――――ッッ!!!」

『黄の節制』に腕を捕まれたまま、アヴドゥルは吠えた。
身体を捻らせ、力の限りを尽くした回し蹴りを、無防備な『法皇の緑』の胴体へと叩き込む。

『グバァァァ!!』

強烈な一撃に見舞われ、『法皇』は苦しみを見せる。
やがて『法皇』のヴィジョンは力無く地面に落ち、そしてその姿を消した。

(よしッ! 『法皇』は仕留めたッ! あとは―――)

ビーティーとアヴドゥルは、同時に『花京院』へ視線を送る。
奴はまだ、『魔術師の赤』の手刀を黄色いスライムで防いだ状態のままだった。
つまり、『法皇』へのダメージが届いていない。
この『花京院』は『法皇』の本体では無かったッ!

ジャイロはまだ事の成り行きを把握できず呆然としている。
だがアヴドゥルは、既にすべてを理解しつつあった。
花京院とラバーソール。どういうわけかは知らないが、彼らがグルになって仕掛けていたのだ。
『黄の節制』のスタンド使いを知らぬビーティーも、ここで何が起こったのか、だいたいの予想が付いてきた。

こうなると、ジャイロの考え無しの参戦も、結果オーライで済ませられるだろう。
こちらの人的被害は、厄介なドルドと足手纏いのツェペリだけで済んだのだ。

あとは、アヴドゥルとジャイロの2人がかりで偽の花京院を倒して仕舞う。
そしてどこか近くで倒れているであろう、本物の花京院を押さえてしまえば、すべてが終わるのだ。
















本当に、そうだろうか?

728---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:26:50 ID:G9cHNUZg
.

何か見落としている気がしてならない。
ビーティーは、事件の経緯を振り返る。

そうだ。
これではツェペリが爆死した事に対し、説明が付かない。
彼は川尻しのぶの身体に触れたとたん、爆死した。
明らかにスタンドによる攻撃だ。
だが、これは誰の能力だ?
どこかに潜んでいるであろう花京院の能力は、間違いなく『法皇の緑』である。
そしてこの偽花京院の能力は、おそらくこの黄色いスライムだ。
スライムを変形させて身体に纏い、変装すると同時に身を守るスタンドだろう。
どちらのスタンドも、条件に合わない。
アヴドゥルも知らぬ『法皇』の隠れた奥の手という可能性もあるが、やはり現実的ではない。
可能性として高いのは、更なる別の敵スタンド能力の存在。

ここで、未知の攻撃についてもう一度振り返る。
ツェペリは川尻しのぶの身体に触れたことにより、爆死した。
普通なら、ここでしのぶに触れる事が危険だと、誰だって思う。
だが、奴は違った。
鉄球に弾き飛ばされたしのぶを、真っ先に抱き抱えた奴。
それも、彼女を気遣っての行動ではない。
彼女の持つ武器、猟銃を手に入れるため。
そしてその他の状況を考慮しても、消去法でも、爆破の能力の本体は、奴以外には――――――



「さて、聞かせてもらうか? キサマはいったいーーー」
「アヴドゥルッ! 蓮見だッッッ!!!」

ラバーソールへ尋問するアヴドゥルの言葉を遮る、ビーティーの叫び声。
そしてそれと同時に鳴り響く、もはや聞きなれた轟音。
猟銃を水平に構えた吉良吉影の放った弾丸は、モハメド・アヴドゥルの胴体を撃ち抜いた。


★ ★ ★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆

729悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:29:45 ID:G9cHNUZg
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こいつは鮫だ こいつにゃ歯がある
   その歯は面に見えてらあ

こいつはメッキース こいつにゃドスがある
   だけど そのドスを見た奴はねえ





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730悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:30:14 ID:G9cHNUZg

ラバーソールは窮地に陥っていた。
アヴドゥルの蹴りを防いだことによって変装がばれてしまった。
それでも花京院がアヴドゥルを倒してくれれば何とかなったかもしれないが、乱入してきたジャイロによって阻止され、『法皇』は『魔術師の赤』に倒された。
敵は、アヴドゥル、ジャイロ、そして得体の知れないビーティーという少年。
酷く不味い状況だった。

だが、その戦況は、一変した。
予想外中の予想外。まったく無警戒だった男による銃撃を受け、アヴドゥルは目の前で倒された。

(もしかして、助かったか?)

一瞬、ラバーソールがそう思ったのも無理はない。
だが、現実は甘くなかった。
未だ煙の立ち上る銃口は、続けざまにラバーソールに向けられる。
この猟銃は、2連発だ。
2発までなら、弾を込め直すことなく続けて撃つことができる。

(オイ! オイオイオイオイ! 待て待てッ! ふざけんなッ! やめろ!)

『黄の節制』に弱点はない。
ラバーソールは自らのスタンドについてそう豪語している。
ある意味では、それは正しい。
彼は油断することなく、もっと狡猾に戦っていれば、承太郎の『星の白金』にさえ遅れを取る事はなかっただろう。
ただし、それには「対スタンド」についてという条件が付随する。

『黄の節制』は弾力と柔軟性があり衝撃に強く、そして実体があり、触れた生物の肉を喰らう事ができるスタンド能力である。
相手が生物であれば、たとえ相手がスタンドだとしても、『星の白金』の壮絶なラッシュですら、防ぎきる事ができる。
また熱や冷気にも強く、その防御力の高さは全スタンドの中でも随一であろう。

ただし、『黄の節制』で喰らう事ができるのは、あくまで「生物」に限定される。
質量を持った無生物による、物理的、現実的な攻撃手段に対して、その防御力は発揮されない。
そして弾力ある物の弱点は、貫通力のある武器、すなわちナイフや銃器の類。
すなわち、猟銃という武器を向けられた『黄の節制』のラバーソールは、何の能力も無い一般人と変わらないのだ。

「待―――ッ!」

吉良の放った散弾が『黄の節制』のガードをいとも簡単に撃ち抜き、ラバーソールの頭部を腐ったザワークラウトの用に破壊した。
淡い野望を秘めたラバーソールという名の小悪党は、志半ばにその最後を迎えた。




★ ★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆

731悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:31:30 ID:G9cHNUZg



「あ…… アヴドゥル………」

敵は前髪の男じゃあ無かったのか?
続け様にその前髪も射殺され、ジャイロは呆然とする。
ビーティーに蓮見と呼ばれた金髪男。
猟銃に最後の1発を装填し、その銃口はジャイロに向けられた。

「ジャイロ!」

ビーティーの声で、ジャイロは目覚める。
ドルドやツェペリが誰に殺られたかはわからない。
前髪の長い青年が何者だったかもわからない。
だが、この野郎は目の前でアヴドゥルを殺しやがった。
何がなんだかわからないが、その事実だけは間違いない。

「キサマァァァ―――ッッ!!」

激昂したジャイロが鉄球を放る。
もはや3発目の射撃になる吉良は手慣れた構えで猟銃を向けるが、引き金を引く寸前に鉄球が炸裂し、猟銃を弾き飛ばした。

「チッ―――」

吉良は舌打ちをする。
鉄球は猟銃に当たった後、嘘みたいな軌道を描き、綺麗にジャイロの掌に収まった。

(面倒な技だな、あの鉄球…… スタンドではないようだが、ツェペリの波紋と同様、人知を越えた超技術と言うわけか……
だが……)

「『キラー・クイーン』………」

吉良がここにきて、初めてスタンドを繰り出した。
猫を思わせる耳を持つ、女性的なフォルムを持つ人型のスタンドヴィジョン。
どこが無力な一般人だ、とビーティーは憤る。
これが奴のスタンド能力『キラー・クイーン』。

(ツェペリを一瞬で爆殺したスタンド能力――― その発動条件は―――?)

ビーティーの考えのまとまらぬまま、ジャイロは身構える吉良へ再び鉄球を投げ付ける。
猟銃を失った吉良に残された攻撃手段は、自らのスタンド能力だ。
弧を描く軌道で迫る鉄球に対し、『キラー・クイーン』は
ハエ叩きのように右腕を振るい、鉄球を叩き落とした。
だが……

「ヌゥ―――?」

鉄球は回転している。『キラー・クイーン』の掌が鉄球に触れた瞬間、回転のエネルギーにより両足の力を一時的に麻痺させた。
さらに回転の勢いに飲まれ、吉良の身体は大きく転倒する。
この一投は囮だった。
ジャイロはまず足を奪い、吉良が動けなくなったところで、次の鉄球で勝負を決めるつもりだったのだ。

732悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:32:26 ID:G9cHNUZg

「待てジャイロ! その鉄球は―――ッ!?」


だが吉良の考えは、さらに上を行った。
鉄球は標的に命中した後、正確無比な軌道を描き、投擲手の元へ返っていった。
そう、鉄球は攻撃の度に、本人の手元に戻っていくのだ。

「……その鉄球は既に『キラー・クイーン』が触れている。」
「その鉄球に触れると爆発するッ!!」
「何ッ!?」

ビーティーの声は間に合わなかった。
否、もはやそれも関係無かったかもしれない。
吉良は鉄球を「起爆材」でなく「爆弾」に変えていた。
ジャイロが鉄球に触れずとも、『キラー・クイーン』がスイッチを押せば、鉄球はジャイロの至近距離で爆発を起こす。
鉄球を『キラー・クイーン』の掌で触れられた時点で、ジャイロは既に詰んでいたのだ。

「くそったれが……」

『第一の爆弾』の直撃を受け、ジャイロは吹き飛ぶ。
もはや戦闘を続けられる状態ではない。
吉良吉影は鉄球によって転ばされたものの大したダメージもなく、起きあがるとスーツの皺を治し、ネクタイを正し始めた。
そしてビーティーの方をチラリと見た後、猟銃を拾い上げ、ジャイロに歩み寄る。
ダメージは大きいが、即死には至らなかった。
だが無意味だ。
『キラー・クイーン』はジャイロ・ツェペリの身体に触れ、皮膚の表面を爆破する。
確実なとどめを刺され、ジャイロ・ツェペリは死亡した。

ビーティーは唇を噛み、頂垂れる。
もはやどうしようも無い。戦える人間は、もう誰も残っていない。
ビーティーは、負けたのだ。




★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆

733悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:33:34 ID:G9cHNUZg



吉良吉影は、空条邸に集まった参加者たちの処置について悩んでいた。
問題なのは、偽名を名乗らざるを得なかったことだ。
他人の名前を語ってる以上、どうしてもいつかはボロが出て、バレる。
そうなる前には、必ず始末をつける必要がある。

空条邸に集まった全員を皆殺しにする案は初めからあった。
だが、吉良にとっての最大の危険人物は空条承太郎だ。
川尻しのぶによれば、承太郎ももうじきここへ現れるかもしれない。
一筋縄では行かぬかもしれないが、川尻しのぶの接触爆弾さえうまく利用すれば、承太郎を倒せるという自信もあった。
承太郎さえなんとかすれば、あとはどうとでもできるだろう。
それならば、その時が来るまで沈黙するという選択肢も大いに有効だったのだ。

アクシデントは、花京院による反乱行為。
彼が戦闘を開始したため、穏やかに承太郎の帰還を待つという道は断たれてしまった。
そして、「引き返し不能点(ポイント・オブ・ノー・リターン)」は、ツェペリが川尻しのぶの接触爆弾によって死んでしまった時だ。
それまではしのぶを誰にも触れさせないように注意していたが、戦いが始まり、しのぶが猟銃をとって暴れたことで、防ぎ切ることができなかった。
これで、承太郎を川尻しのぶで殺害するというプランはほとんど実現不可能となった。
さらに、ツェペリ爆死の原因を探られれば、吉良は必ず容疑者として疑いをかけられる。
こうなってしまっては、全員殺す以外、選択肢はなかった。

ここまでくればビーティーとしのぶは無視できる。
戦闘能力の高いアヴドゥル、何を考えているのかわからない花京院(ラバーソール)を続けざまに射殺。
最後に残ったジャイロ・ツェペリを、1対1の勝負で見事下した。

734悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:33:57 ID:G9cHNUZg



すべてを終えた吉良は、無表情に肩をすくめる。
そんな彼に、足元から消えそうなほどに力のない小さな声が聞こえてきた。

「蓮見…… キサマ………」

吉良は目を丸くして驚いた。
まさか、まだ息があったとは……

腹に散弾を喰らったはずのアヴドゥルだ。
おそらく、銃撃の瞬間にスタンドで防御し、即死を免れたのだろう。
実に見事なものだ。

アヴドゥルはまだ、諦めたはいなかった。
吉良の足元で、短剣を握り、振り上げている。
ビーティーより賜った、『戒めのナイフ』だ。
アヴドゥルにとっての最後の武器―――だが、アヴドゥルには、もう力を込め、振り下ろすだけの気力が残されていなかった。
もはや戦士としては引退せざるを得ないが、その根性だけは立派なものだ。
敬意を払い、教えてやる事にした。もはや、隠す意味も無い。

「すまないな、アヴドゥルさん。蓮見琢馬と名乗ったが、あれは嘘だ。私の本当の名前は―――」

猟銃の最後の1発を、瀕死のアヴドゥルの脳髄に撃ち込んだ。

「―――"Killer"だ。」

おっと、このタイミングの名乗りだと、聞こえる前に死んでしまっていたかな?
などと思い、吉良は笑った。



★ ★ ☆ ☆ ☆

735悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:34:41 ID:G9cHNUZg



「やはり、あなたが、吉良吉影だったのですね……」

アヴドゥルに留めを刺したあと、吉良は女性の声に呼ばれ、振り向いた。
いつの間に意識を取り戻したのか、川尻しのぶが起き上がり、床に座ったままこちらを見ていた。
死んだような目で、吉良の殺人をじっと見ている。
おそらく今なにが起こっているのかも、何となく理解しているだろう。
その上で、川尻しのぶは取り乱すことなく吉良を見ていた。

吉良は迷ったが、全員の死亡確認を先に済ませることにした。
ジャイロとアヴドゥルにそれぞれとどめを差し、花京院(ラバーソール)の様子も見るが、彼は即死していた。
残る一人。吉良は縁側の廊下を見る。
最初に川尻しのぶに銃撃されたドルドだ。
驚くことに、吉良が目線を向けた瞬間、彼はピクリと動いた。
生きているとは驚きだ。
傷口から機械が見える。
どうやら彼はサイボーグだったようだ。
今更だが、吉良はこのバトル・ロワイアルの参加者たちの多種多様な常識外れさに、やれやれと肩を落とす。

(畜生…… なんてことだ…… こんなハズじゃあなかった……のに……)

ゲーム開始時からのドルドの行動方針は、お人好しの集団にとけ込み、馴れ合い、そして隙をついて優勝することだった。
ビーティー、アヴドゥル、ツェペリ、ジャイロというメンバーは、彼にとってその理想を体現したような連中だった。
その後合流した3人も、同じようなタイプの人間だと思ってしまった。
身を隠すには絶好の、羊の群れ。
その羊の群れの中に、イレギュラーな存在が紛れ込んだのだ。
花京院と言う、肉食の羊。
そして吉良吉影と言う、羊の皮を被った怪物が……

吉良は猟銃内に残った空薬莢を爆弾化させ、指で弾き飛ばした。
放物線を描き、爆弾は正確にドルドを攻撃する。

「やめっ―――」

身体を引きずってでも逃げようとしたドルドであったが、吉良吉影は甘くはない。
ドルド中佐のちっぽけな野望は、白く光る閃光と共に、永遠に葬られた。



★ ★ ★ ☆

736悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:35:06 ID:G9cHNUZg


「あなたに会いたいと…… あって話をしたいと、ずっと思っていました。
でも、実際に会ってみると、何を話していいんだか……」

川尻しのぶは、再び吉良に語りかける。
吉良もしのぶの目を見つめ返し、そして優しく問いかけた。

「何故、私が吉良吉影だと……?」
「……承太郎さんの言っていた特徴に合う、というのも確かにあるんですけれど…… それ以上に、雰囲気が……
ミステリアスというか、ロマンチックというか、言葉では言い表せない不思議な感覚が、あの時のあの人によく似ていたから……」

それに、と川尻しのぶは付け加える。
アヴドゥルたちが始めに屋敷に現れた時、吉良はしのぶを庇うような動きを見せた。
それが、猫草に襲われた時に自分を助けてくれた、夫の姿と重なったのだと言う。

吉良には理解ができなかった。
川尻浩作となった自分としのぶの結婚生活の話は聞いていたが、だからと言って殺人鬼である吉良を肯定する理由にはならない。
だが同時に、吉良はしのぶの話を聞き、味わったことの無い安らぎを感じていた。
川尻しのぶ…… 彼女は、一体何者なのだ?
人生で初めて、両親以外の人間から、『理解』されたような気がした。

「………吉良、さん。」

思わず吉良は、しのぶの右手を取る。
この人を殺してしまって良いのだろうか。
これまで一度たりとも殺人を躊躇ったことのない吉良にとって、初めての迷い。
このまま、しのぶと2人で生き残ることはできないだろうか。
あのボニーとクライドのように、ふたりきりで。
他の誰にも理解されなくとも、ふたりで生きていくことはできないだろうか。



(………なんてな)

馬鹿な事を考えるんじゃあない。
そんな事、できるわけがない。
そんな未来に、明日はない。

川尻しのぶの美貌は、その手首だけを残して綺麗に消滅した。
足手纏いを抱えて生き残れるほど、このゲームは甘くない。
そもそも一人しか生き残れないこのゲームにおいて、他者を助けるなど愚の骨頂である。
だが、これだけは間違いない。
川尻しのぶと言う名の女性は、吉良吉影にとって永遠に忘れられない存在となっただろう。



★ ★ ☆

737悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:38:09 ID:G9cHNUZg
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さて、あと一人。

「逃げようとは、考えなかったのかな?」
「おまえがそれを許すとは思えなかったからな。少しでも長く生きるためには、何もしないことが最善だと思っただけさ」

あわよくば、わずかに稼いだこの数分間に空条承太郎が帰還することを願っていたが、それも叶わず終いだった。
じっと睨みつけるビーティーに対し、しのぶの手首を懐にしまいながら歩み寄る。
そしてビーティーがスタンドの射程距離に入ったところで立ち止まり、問いかけた。

「何か言いたいことはあるか……?」

「……貴様、これまでに、いったいどれだけの人間を殺してきた?」

吉良の質問に対し、ビーティーは臆することなく質問で返す。
今までの吉良の殺人を見て、その手際の良さに驚いた。
バトル・ロワイアルだから殺しているんじゃあない。
この男は、本物の反社会性人格障害<サイコパス>だ。

ダイイングメッセージを遺したところで、意味はないだろう。
この吉良吉影という男が、証拠を残すとは思えない。

「ふぅむ、そんなものが最期の言葉でいいのか? 実のところ、覚えていない。
お前は今までした自慰行為の回数を覚えているのか?」

ビーティーに対し、吉良はフザケた返答をする。
ブラックなユーモアに例えたジョークに、吉良は笑った。
だが、ビーティーはそんな吉良のくだらない戯れ言を一蹴する。

「違うな。その例えは、見当違いもいいところだ。
貴様にとっての殺人は、自慰行為なんかじゃあ無い。ただのゴミ掃除だ。
ただ、自分の犯行が露呈する事を恐れた、逃げの手段に過ぎない。
大方、川尻しのぶにやったように、女の手首を持ち帰るためだけにやっているだけだ。
死体愛好趣味の、変態ヤローが!」

738悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:40:00 ID:G9cHNUZg

吉良の表情から笑みが消えた。
自分の衝動と異常性癖を簡単に見破られ、しかもそれを罵倒された。
と同時に、大量殺人鬼としてのちっぽけさを、叩きつけられた。
確かに吉良に、チャールズ・ホイットマンの気持ちは分からない。
彼にとって殺人とは手段であり、目的ではない。
そしてそれの主な用途は、証拠隠滅だ。
その事実を突き立てられることは、吉良にとって想定外の侮辱だった。

犯罪者としての誇りなどが持ち合わせているつもりないが、吉良は如何ともし難い苛立ちを、自分の半分の時間も生きていない少年に対し、覚えていた。



ビーティーは悔しかったのだ。
吉良吉影の不審さには、はじめから気が付いていた。
ただ、それ以上に目立つラバーソールの存在と花京院の暗躍に気を取られ、一手遅れを取ってしまった。
また、自分に戦う力があれば、こうはならなかった……
敵の不審さに気が付いても、それをアヴドゥルたちに伝えるタイムラグで遅れをとってしまった。

この男のやり口を見るに、公一を殺したのもポルナレフを殺したのも、この男ではないだろう。
結局自分は、なんの真相にもたどり着けぬまま、ここで死ぬのだ。

ビーティーはアヴドゥルの遺体を見やる。
彼の手元からこぼれ落ちた、『戒めのナイフ』―――

『過信』していたのは、自分もだった。
自分の知力さえあれば、どんな困難にも立ち向かえるものだと、自惚れていた。
この敗北は、どう考えても自分の力不足。
それが、何より悔しかった。

「小僧―――ッ!」

吉良吉影に胸ぐらを捕まれて、持ち上げられる。
体が小さく力も弱いビーティーは、反抗することもできない。

「イカレた変態の糞野郎に、しかるべき報いを……!」

739悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:40:29 ID:G9cHNUZg


心臓を爆破され、ビーティーは息絶えた。
精神的には、ビーティーは勝っていたかもしれない。
だが、それだけでは何の意味もない。
知力も、推理力も、精神力も、圧倒的な暴力の前には何の意味も持たない。
名探偵は、策を弄する「殺人犯」には勝つことができるかもしれない。
だが、常軌を逸した「殺人鬼」にだけは、どうやったって適わないのである。



【ウィル・A・ツェペリ 死亡】
【ラバーソール 死亡】
【ジャイロ・ツェペリ 死亡】
【モハメド・アヴドゥル 死亡】
【ドルド 死亡】
【川尻しのぶ 死亡】
【ビーティー 死亡】

【残り 42人】


★ ☆

740悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:40:55 ID:G9cHNUZg


最後の最後でビーティーに思いも寄らぬ反撃を受けたが、しかし気にしていても仕方がない。
今すぐにでも、承太郎が現れたっておかしくはないのだ。
川尻しのぶという武器を失った以上、このまま承太郎を迎え撃つのは厳しい。
なにより、今の大量殺戮で体力を消耗しすぎていた。
だが、このまま立ち去るわけにはいかない。
ここには、「吉良吉影の戦闘形跡」が残りすぎている。
処理しなくてはならない。
証拠隠滅のシナリオはもう考えてある。
だが、ビーティーに指摘された事をまた繰り返さなければならないという事が、非常に頭にきた。

時計を見ると、もうすぐ午後3時になる。
10分で…… いや、5分で片付ける。

まず、室内から必要な物をかき集める。
情報交換に使った資料、アヴドゥルの持っていたバイクのキー、ラバーソールの所持品からは首輪、しのぶの持っていた地下の地図など。
未開封の支給品ももちろん回収した。
ドルドの所持品の中にライターがあったのは、特に都合がよかった。
それらを纏めてデイパックに積め、庭に放り投げる。
所持品は準備完了だ。

次は、犯人とヒーローを作る。
アヴドゥルとジャイロの遺体を担ぎ、吉良は庭へ出た。
ジャイロの遺体にはもう一発爆発を食らわせ、身体を丸焦げにさせる。
まるで、『魔術師の赤』にやられたかのような、燃死体が
できあがった。

ジャイロの遺体を屋敷のそばに仰向けに放置し、傍らには猟銃を捨ておく。
空薬莢も当然ばらまいておく。

そしてアヴドゥルの遺体は、ジャイロの正面にある庭の池の中に放り込んでおいた。
『バトル・ロワイアル』が幻覚であると思い込んだ犯人モハメド・アヴドゥルは、空条邸に集まった参加者の皆殺しを決行。
全員を焼き殺すも、最期の最期で猟銃を持ったヒーローのジャイロ・ツェペリと相打ちになり、池に沈んでしまったのだ。
ジャイロの遺体に銃痕は無いし、アヴドゥルの遺体には猟銃による傷しかない。
ジャイロは丸焦げだし、アヴドゥルは水没。
遺体から正確な死因は調べられないだろう。

741悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:41:18 ID:G9cHNUZg

次に吉良は、庭に止められている自動車に向かった。
キーはつけっぱなしだった。
少し移動させ、屋敷外壁に隣接するように停車する。
そして『キラー・クイーン』の腕力によって車体を小破させ、ガソリンタンクを取り出した。

吉良はタンクを持ち、屋敷内に戻る。
邸内を少し見て回り、家主である空条貞夫の衣装タンスを見つけた。
川尻しのぶによれば、承太郎が吉良の容姿の特徴を他人に話しているかもしれない。
返り血にまみれたスーツをいつまでも着ているわけにはいかないので、吉良は着替えることにした。
戸棚から適当な衣服を選ぶ。空条貞夫の休日用のラフな服装だ。
普段の吉良のイメージとはかけ離れたスタイルだろう。
ついでに髪型や髪の色も変えたいが、残念ながらそこまでの時間はない。
吉良は脱ぎ捨てた服を一つに纏め、ガソリンをかける。
そしてそのままタンクを担ぎ、そのまま屋敷の廊下を一周、ガソリンを巻いて回る。
吉良吉影の痕跡は、残りの遺体と共に焼き付くされてしまうのだ。
そう、狂ったモハメド・アヴドゥルの『魔術師の赤』によってな。

ガソリンタンクを邸内に捨てる。
準備完了。
自動車が破壊されているが、屋敷に隣接して停車したので、どうせ炎が燃え移り、その痕跡も無くなる。
庭に放ったデイパックを拾い上げ、アヴドゥルの使っていたオートバイに跨る。
そしてキーを刺し、エンジンを掛けると、ドルドの所持品から失敬したライターを点火させ、屋敷内に放り投げる。

時計を見ると、午前3時を少し回った頃だった。
5分かからずだ。間に合った。
短時間に7人もの人間を殺害した吉良吉影は、何食わぬ顔で空条邸を去っていった。



★ ☆

742悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:42:07 ID:G9cHNUZg


異様な暑さに、花京院典明は目を覚ます。
ここは空条邸の離れの書庫だ。
意識が戻って最初に気が付いたのは、自分が拘束されていないという事実。

気を失う前の事を思い返す。
『法皇』を川尻しのぶへと憑依させ、ドルドを射殺。
次にビーティーを狙ったところをアヴドゥルに阻止される。
その後何故かツェペリが爆死し、乱入してきた新たな男によって『法皇』はしのぶの体内から吐き出されてしまった。
そして身構えるまもなく『魔術師の赤』の回し蹴りをくらい、気を失ってしまったのだ。

作戦が失敗した今、花京院はアヴドゥルらに尋問でもされるものだと思っていたが、どうにもその様子はない。
時計を見ると、午後3時過ぎ。
気を失っていたのは15分かそこらのようだ。

(しかし、なんだ? この暑さは?)

とにかく情報が欲しい。
おそるおそる引き戸を開け、庭に出た花京院の見たものは―――


「なッ!!」


大炎上する空条邸の屋敷。
花京院が気絶している間に、屋敷の本邸は業火に包まれ崩壊しつつあった。

(どういう事だ? あの後、ここでいったい何が起こったのだ?)

吉良吉影の犯した1つ目のミス。
それは、本物の花京院典明の存在に気が付かなかった事だ。

元々『法皇の緑』や『黄の節制』のスタンド能力を知るアヴドゥルや、類稀なる推理力と洞察力を持つビーティーと違い、吉良吉影には屋敷に現れた花京院が偽物であることに最後まで

気が付いていなかった。
せめて、アヴドゥルを撃つのがあと10秒遅ければ。
もしくはラバーソールが散弾を受けたのが頭部でなかったならば、結果は違っていたかもしれない。

そして当然、屋敷の離れに潜んでいた本物の花京院典明の存在も、知らぬままだ。
離れであるが故に火の手も届かず、吉良吉影は虐殺の現場に(吉良の犯行を見ていないとはいえ)生存者を残してしまったのだ。

(池に沈んでいるのはアヴドゥルか? 奴がこれを? いや、しかし奴には動機がない。
池と屋敷の間には、焼死体が一体。これだけやられていては
他の連中は? 全員、炎の中か? 全員死んだのか? 何人か逃げたのか?)

743悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:42:34 ID:G9cHNUZg

考えたところで結論は出ない。
そんな中、花京院ひとり残された空条邸に、ある乗り物が到着した。
遠くからでもわかる火の手を確認し、スピードを上げて駆けつけた救急車のようだった。




【D-5 空条邸の庭 / 一日目 午後】

【花京院典明】
[スタンド]:『ハイエロファント・グリーン』
[時間軸]:JC13巻 学校で承太郎を襲撃する前
[状態]:腹部にダメージ(小)、肉の芽状態
[装備]:ナイフ×3
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を殺す。
1.空条邸で一体なにが起こった?
2.空条承太郎を追跡し、始末する。
3.ジョースター一行の仲間だったという経歴を生かすため派手な言動は控え、確実に殺すべき敵を殺す。
4.山岸由花子の話の内容、アレッシーの話は信頼に足ると判断。時間軸の違いに気づいた。


※ラバーソールから名前、素顔、スタンド能力、ロワ開始からの行動を(無理やり)聞き出しました。
※空条邸は炎上し、崩壊中です。屋敷内を探ることは常識的に考えれば不可能です。
※空条邸の庭にジャイロの遺体(身元がわからないほどの火傷)、そのそばに空の猟銃と薬莢、池の中にアヴドゥルの遺体が放置されています。





★ ★

744悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:43:24 ID:G9cHNUZg



何者かに付けられている?
はっきりとした確信はないが、なんとなくそんな気がしていた。

バイクでの逃走を図った吉良吉影は、目的地に杜王町エリアを選んだ。
身体を休めるには慣れ親しんだ町並みが楽であろうという口実の他に、地下通路がほとんど通じていないというのが大きな理由だった。
ツェペリによれば、DIOもカーズもワムウも、太陽の光に弱い。
そして承太郎も、彼らを標的としている以上は地下に通じる場所付近にいる可能性が高いだろう。

そう思い東へ進路を取った吉良吉影だったが、先ほどより背後から視線を感じるのだ。

(何者かわからんが、もし空条邸での出来事の目撃者ならば、今までの全てが水の泡だ。
始末せねばならない………)

急ハンドルを切り、路地裏に入る。
物陰に隠れ、追跡者の正体を探ろうとした。
だが、「影の中」はまずかった。この追跡者にとっては独擅場だ。


『おまえ…… 再点火、したな―――?』

「何ィ―――?」

吉良吉影の犯した2つ目のミス。
火種の選択肢を誤った。

「『キラー・クイ』………ッッ!!」

闇の中から現れた『ブラック・サバス』の弓と矢が、「キラー・クイーン」の掌を突き破った。



【D-5 杜王町エリア 路地裏 / 一日目 午後】

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラー・クイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:左手首負傷(大)、全身ダメージ(小)疲労(中)
[装備]:波紋入りの薔薇、空条貞夫の私服(普段着)、
[道具]:基本支給品 バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの) 、川尻しのぶの右手首、
    地下地図、紫外線照射装置、ランダム支給品2〜3(ドルド、しのぶ)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.空条承太郎を殺す。
1.なんだこいつ(ブラック・サバス)は?
2.優勝を目指し、行動する。
3.自分の正体を知った者たちを優先的に始末したい。
4.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
5.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。

※波紋の治療により傷はほとんど治りましたが、溶けた左手首はそのままです。
※不要な所持品は空条邸に置いてきました。炎に飲まれて全て燃えてしまいました。
※キラー・クイーンが弓と矢に貫かれました。どうなるかは今後の書き手にお任せします。

745悪の教典 ---代理投下願います--- ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:44:15 ID:G9cHNUZg
これにて投下終了です。
代理投下のほう、よろしくお願いします。

746 ◆vvatO30wn.:2014/05/12(月) 23:45:27 ID:G9cHNUZg
投下は>>719より始まっています

747 ◆c.g94qO9.A:2014/05/19(月) 23:42:15 ID:Ju8.rUkU
規制に引っかかりました。代理お願いします。





「……なんのようだ」

教会の横長のベンチに腰掛けたヴァニラがそう問いかけてきた。
入口から差し込む陽を背に、イギーは無言のままスタンドを出す。
体を膨らまし、唸り声を上げる。
威嚇ではない。怯えでもない。怒りだ。自らへの怒り。戦士の誇りを踏みにじった、ヴァニラへの怒り。

「…………」

ヴァニラはしばらく無言のままだったが、やがて答えるようにスタンドを構えた。
憐れむように見るでもなく、退屈そうに見るのでもない。
仕方ない、と言いたげな様子でクリームを繰り出す。イギーは砂を操ると、いつもの犬の形ではなく人の形でクリームを迎え撃った。

砂の手が床に転がっていた槍を取る。砂の大男はその体を膨らまし、ヴァニラを飲み込まんと叫んだ。
教会全体が震え、ステンドガラスが砕け散る。ヴァニラはまるでそよ風を受け止めるように穏やかな表情だ。

(ちっ、別に恩返しだとかじゃねぇからな。
 大サービスだ。あんな悔しげな様子で逝かれちまったらよォ〜、俺だって後味悪いからなッ!
 さぁ、どっからでも来いッ! この槍でけちょんけちょんにしてやるぜッ!)

小手調べとばかりに放った濁流を無尽蔵に飲み込むクリーム。
それが戦いの合図だった。
街中から集まった砂は天から降り注ぎ、教会の屋根をぶち壊しながらヴァニラの頭上に降り注いだ。
イギーの操る大男が槍を振り下ろす。空振りに終わった一撃は床板を砕き、天井を揺らし、建物全体を破壊していく。




【D−2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地上/一日目 午後】
【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1.ヴァニラ・アイスをぶっ飛ばす。
2.花京院に違和感。
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わない

【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:健康
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)
   『オール・アロング・ウォッチタワー』 のダイヤのK
[思考・状況]
基本的行動方針:DIO様のために行動する。
1.イギーを始末する。





748 ◆c.g94qO9.A:2014/05/19(月) 23:42:41 ID:GgRlI99.
ゴールド・エクスペリエンスが放った拳は確実にDIOを捉えていた。
不意を付いた一撃目をボディに叩き込み、体制が崩れたところに、すかさず二発目をねじり込む。
そして三発目がDIOの表面に触れたまさにその瞬間。
一秒の隙もなく、コンマ五秒の時差もなく、完全に―――ジョルノの攻撃は空をきった。

ほんの一瞬前までそこにいたはずのDIOの体をすり抜け、ゴールド・エクスペリエンスの拳は虚しく宙をかく。


「どういうつもりかな、ジョジョ」


ジョルノは内心の驚きを隠しながら、すぐさま振り向いた。
視線の先には黄金のスタンドを脇に従え、こちらを見下すDIOがいた。

「僕はあなたたちとは相容れない存在だということです」
「理由を詳しく説明してもらおうか」
「ならば逆に問いましょう。なぜタルカスさんを襲ったのですか」

右胸のポケットに入れたブローチをそっと撫でる。
二つ対で作ったブローチの内一つはジョルノが持ち、片方はタルカスに渡した。
そのタルカスに渡したはずのブローチが『消えた』のをジョルノはスタンド越しに感じた。
反射するのでもなく、激しく揺れるのでもなく消滅。
それが意味すること、そしてそれが可能なもの、それをする理由を持つもの。
全ての元凶と思われるものは、目の前にそびえ立つ存在のみ。

二人の間を沈黙がしばらく流れ……DIOは嘲るように笑いを漏らした。

「君は羽虫を踏み潰すのにいちいち理由を求めるのかね?」

ジョルノは床を強く蹴り、DIOに向かって跳んだ。
怒りが頭の中で火花を散らし、視界が赤い靄で覆われる。
自分の勘違いであるという可能性は潰えた。DIOになんのことだかわからない、と困惑して欲しい希望は消えた。
この瞬間、ジョルノは父を失った。

父を好きになれるか不安な気持ち。
無条件の愛を注いでくれる家族という存在。
孤独感、正義の心、怒り、悲しみ、屈辱、諦め……。
ほんの一瞬のうちにジョルノの中で感情がうずまき、破裂した。

望んだはずの結末は最も残酷な形で終わりを迎えた。
抱いた夢は一瞬で崩れ落ち、こぼれ落ちる砂のように、二度とその手に戻ることはない。


「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」」


二つ重なった声が納骨堂に響き渡る。二人の間を無数の突きが行き交っていく。
互いの能力が朧げにしかわからない今、共に強く前に踏み込むことはしない。

「フン、蛙の子は蛙か……だが甘い。まさかまだこの私に思慕の念を抱いているのか、ジョルノ?」
「あなたは吐き気を催す、最悪の邪悪だ」
「褒め言葉として受け取ろう」

地面を拳で打つと、あらかじめ仕込んでおいた能力が花開く。
石畳の隙間から蔦が伸び、力強く咲いた木が天向かって伸びていく。
何もかもが崩れていく。ガラガラと豪音を立て、壁が、天井が、床が壊れていく。

そんな中でも二人は拳をぶつけ合う。
降りしきる瓦礫をもろともせず、崩れ落ちる足元を意に介さず。
全身全霊を持って二人は対峙する。

それぞれの信じる『己』を証明するために。

749 ◆c.g94qO9.A:2014/05/19(月) 23:43:05 ID:Ju8.rUkU
【D−2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地下/一日目 午後】
【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(大)疲労(大)
[装備]:シュトロハイムの足を断ち切った斧、携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面、
    リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発
   『ジョースター家とそのルーツ』『オール・アロング・ウォッチタワー』 のジョーカー
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.ジョルノ・ジョバァーナの血を吸って、身体を馴染ませたい。
2.承太郎、カーズらをこの手で始末する。
3.蓮見琢馬を会う。こちらは純粋な興味から。
4.セッコ、ヴォルペとも一度合流しておきたい。


【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(小)
[装備]:閃光弾×3
[道具]:基本支給品一式、エイジャの赤石、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア)
    地下地図、トランシーバー二つ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.DIOを倒す。
2.ミスタ、ミキタカと合流したい。
3.第3回放送時にサン・ジョルジョ・マジョーレ教会、第4回放送時に悲劇詩人の家を指す
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。






【タルカス 死亡】

【残り 40人】

750黄金の影   ◆c.g94qO9.A:2014/05/19(月) 23:44:19 ID:Ju8.rUkU
以上です。誤字脱字、矛盾点等ありましたら指摘ください。

751トリニティ・ブラッド −カルマ−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:31:35 ID:RvLBe2q6
本スレに書き込めなかったので、代理投下の方よろしくお願いいたします。

ではこれより
ジョナサン・ジョースター、イギー、ヴァニラ・アイス、DIO、小林玉美、ジョルノ・ジョバァーナ、ナランチャ・ギルガ、パンナコッタ・フーゴ、トリッシュ・ウナ、F・F、ナルシソ・アナスイ、ジョニィ・ジョースター、マッシモ・ヴォルペ
投下開始します

752トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:33:37 ID:RvLBe2q6




「……───離れていっている」


「え?」

ジョニィが漏らした発言に、トリッシュは思わず上擦った声をあげてしまった。

フーゴとジョナサンが「落とし物を拾いに行く」という名目で外に出てすでに数十分、トリッシュたち5人は2人の帰りを待つついでに休憩をとっていたのだが、遅い帰りに「なにかトラブルでもあったのでは」と誰からともなく疑念を持ち始めたころ、ジョニィがポツリと冒頭の言葉を発したのだ。


「ジョニィ、どうしたの?離れていっているって…」
「ジョナサンの気配がどんどん遠ざかってるんだ、多分…走ってどこかへ向かってる」
「! やっぱなんかあったのか!?」

西の方角へ体ごと視線を向けるジョニィに対してトリッシュは不安そうに声をかけ、それまでソワソワと不安そうに座り込んでたナランチャがジョニィに食って掛かる。彼にとって親しみを覚える2人がそろって出て行ってしまったことに戸惑っていた矢先の事態であるため、嫌な予感がナランチャの胸を駆け巡った。

「まさかあいつら、なんかやましいことがあって逃げたんじゃあねーだろーな」


ドゴッ!!


「玉美!ふざけたこと言ってると蹴るわよ!!」
「も……もう蹴ってますトリッシュ様…ぐふっ」

脇腹にまともに蹴りを入れられ悶絶する玉美、それを尻目に玉美以外の4人は話を続ける。

「敵に襲われて逃げているとかか?」
「いや、それにしては動きが直線的だ。闇雲に走っているというよりかは何かを「目指して」いるように思える…あっちの方には何があったっけ?」

アナスイの問いにジョニィは答え、西の方を指差す。それにトリッシュは地図を取り出した。

「ええっと、地図によると……一番近いので「空条邸」、少し北にずれると「マンハッタントリニティ教会」、そのさらに先に……「サン・ジョルジョ・マジョーレ教会」があって、川を渡れば「サンピエトロ大聖堂」があるわ」

地図に指をなぞりながら順番に該当する施設の名前を上げる。三番目の施設を答える時に無意識に少し間が空くが、そこはトリッシュやナランチャ、フーゴたちブチャラティチームにとって関わりの深い場所だったからだ。
ジョニィは地図を覗き込む。

「絶対とは言い切れないが、空条邸は通りすぎてるから違う、マンハッタントリニティ教会も方向的に微妙だ。となると」
「────サン・ジョルジョ・マジョーレ教会?」
「……だろうと思う、サンピエトロ大聖堂の可能性もあるが、さすがにこれ程遠いと2人で行くのは危険だと戻ってくるだろう」
「…………」

偶然とは思えない一致に、トリッシュは嫌な予感がした。

「で、でもよぉー、もし本当にそこ目指してるんなら、なんだって2人だけで行くんだよ!」
「そこまではわからない、けど……」
「けど?」
「もし、何かを見つけたのだとしたら……いや、「感じた」のだとしたら……」


ジョナサンがジョニィを「感じた」ように、ジョニィがジョナサンを「見つけた」ように
ジョナサンが「それ」を再び察知したのだとすれば

753トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:34:48 ID:RvLBe2q6

「…!」
「じゃあ、ジョナサンは血縁者の気配を感じて、フーゴと2人だけで行ってしまったってこと?」
「推測だけどね、もっとも僕は何も感じないが……(距離が遠すぎるのだろうか?)」
「確かに、ただ事じゃないのに戻ってくるなりしないのはおかしいしな」

共有した時間は僅だが、ジョナサンと交流した者であるならば分かるはずだ、彼の紳士的な振る舞いと同時に感じる彼の優しさを、そんな彼が血縁者かもしれない者の気配を感じとれば、いてもたってもいられなくなるのは無理もない。放送の直後であるのなら、尚更。

「こうしちゃいられねぇ!早く追いかけようぜトリッシュ!」
「ナランチャ!待ちなさい!」

今にも駆け出しそうなナランチャを寸のところでトリッシュが腕を掴み引き止める。

「な、何で止めるんだよ!」
「……」

ナランチャの焦りが見える言葉には返事をせず、トリッシュはジョニィへ目を合わせる。

「………ジョニィ」
「ああ、さっきも言った通り僕は急いでいる、探している人がいるんだ。申し訳ないとは思うが、面倒事が起こっているならそれに関わっている時間はない」

淡々と、しかし確固たる意思をもってジョニィは返答する。

ジャイロ・ツェペリ、ジョニィの探し人。詳しくは聞いていないが、とても大切な人らしいことは話の節々からよく分かった。察するにトリッシュにとってはある意味ブチャラティに相当するくらいの存在なのだろう。
だからこそそれほどの存在を目の前で失った彼女にはジョニィの心境が理解出来る。今こうしている間にもその人に命の危険が迫っているのだと思うと……

「途中までなら同行してもいい、けど」


ずっと一緒には、いられない


「……ええ、分かっているわ」

ジョニィの言わんとしていることを理解し、トリッシュは頷く、そして2人を追いかけるために支度を始めた。それを皮切りにジョニィとアナスイも荷物をまとめ始める。
ナランチャは慌てながらジョニィとトリッシュを交互に見やり、なにか言いたげに口を僅かに開けるものの、ぐっと堪えるように顔を引き締め同じように荷物をまとめていく。

「玉美、いつまで踞ってるの。さっさと支度しなさい」

はい!トリッシュ様!とさっきまで悶絶していたのが嘘のように勢いよく立ち上がり、玉美は元気よく返事をした。本当に犬のようである。
それほど時間はかからず全員支度を終え、メンバーは休息地点であった民家を後にしようとする。トリッシュは念のためナランチャに声をかけようとするが

「ナランチャ?どうしたの?」
「トリッシュ、俺………」

顔が髪でうまく見えないほどうつむき、声も力がなくモゴモゴと何かを言おうとしているが、絡まった糸をどうほどいていいのかわからないかのように言葉につまっている。先程の勢いとはうって変わった対照的な雰囲気となっていた。

754トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:36:14 ID:RvLBe2q6

「なんて言っていいのかわかんないけど……最初にジョナサンと会ったときに、似てるって思ったんだ。ジョルノに」
「ナランチャ……」

ようやく絞り出された台詞に、トリッシュはふとある出来事を思い出す。

放送前、ジョナサンに先の戦闘の傷を癒してもらったとき、体に波紋したその力に、トリッシュもまたジョルノを思い浮かべた。
命無きものに生命を与える者、命有るものに生命を注ぐ者、どこか共通する要素を持つ2人


「ブチャラティもアバッキオも死んじまって、ジョルノもどうなってるかわかんねぇのに、フーゴもジョナサンもいなくなって………俺もう、誰もわけわからないままいなくなってほしくねぇよォ………」


わけがわからないまま、いなくなる

その事実に、一体どれほどの人が苦しんでいるのだろう、苦しめられているのだろう。
その機会はこの場の誰もが晒される。
友達が、家族が、恋人が、己にとって親しい人が、知らない場所でいつの間にか死んでいく────考えるだけでもおぞましい想像に、頭が砕かれるような、体の内側が侵略されるような、己を形成するすべてを否定されるような、そんな感覚が魂を蝕む。

トリッシュはその感覚をよく知っている。ブチャラティ、アバッキオ、ポルナレフ、この殺し合いで出会ったウェカピポ、そして────目の前にいる少年こそが、トリッシュにとって「いなくなってしまった人」なのだから

その想像にとりつかれているナランチャの肩を、トリッシュの手が優しく包む。ナランチャは顔を上げ、トリッシュと目線を合わせる。

「ナランチャ、あたしも同じ気持ちだわ」
「トリッシュ……」
「大丈夫よ、きっと大丈夫」

その言葉はナランチャに、そしてトリッシュ自身にも言いきかせるようだった。トリッシュはナランチャの肩からするりと手を離すと、行きましょう、とナランチャを促す。ナランチャは一瞬心配そうにトリッシュの顔を見るが、黙ってトリッシュに従った。


そして5人は家を出る。久方ぶりの眩しい光に、5人は腕で顔を隠したり、目をパチパチと瞬いたりしていた。日はまだ落ちてはおらず、青い空の中で輝いていた。
トリッシュはその空を見上げながら、一人思う。


どうか、あの空が落ちてきませんように……と



  □■□■



サン・ジョルジョ・マジョーレ教会
そこはフーゴにとって「恥知らず」だった頃の記憶を思い起こさせる最たる場所である。
ボスがブチャラティの心を裏切り、ブチャラティがファミリーを裏切り、そしてフーゴがブチャラティチームを抜けた場所

あらゆる裏切りが渦巻いていたそこは────しかし既に2人が着いた頃には「なれの果て」と化していた。


ザアァァァ──────…………

砂が滝のように流れ落ちる音が、2人の男の耳に届く。

「な……なんだこれは……!?」
「フーゴ!こ……これはまさかッ……!」

D−2のサン・ジョルジョ・マジョーレ教会を目前に、フーゴとジョナサンは異様な光景を前に愕然としていた。
この場にたどり着くまでに2人が見たものは、川を越え街を越え、この殺し合いの会場全土からかき集めるかのように大量の砂がまるで意志があるかのように唸りをあげ、暴力のような嵐を生み出ながらサン・ジョルジョ・マジョーレ教会を押し潰さんとしているところだった。

今は鎮静化し砂は魂が抜けたかのように力を失っているが、それによってサン・ジョルジョ・マジョーレ教会全体は今にも崩れ落ちそうな見るも無惨な姿になっている

(ジョナサンはここから2人分の気配がすると言っていた、さっきはそれでジョニィに会えたから今度も信頼できる人物に会える可能性があると踏んでいたが……早計だったのか?)

755トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:37:27 ID:RvLBe2q6

教会を見上げ、フーゴは思考する。
この現象がスタンド能力によるものなのは間違いない、もしもこれが教会内にいると思われる人物の手によるものなのならば、この場にいるのはあまりにも危険すぎる。
フーゴはジョナサンにそのことを知らせるべく、教会から視線をはずす。

「ジョナサン、今教会に入るのは危険です。一端ここから離れま─────」

しかし、隣にいるはずの彼の方に顔を向けるも視界に映るのは砂にまみれた街並みの景色のみ。思わず言葉が途切れ慌てて探すも、見つけたのは今まさに教会へと入ろうとするジョナサンの背中であった。

「ジョナサン!?」

いつのまにか小さくなっていたその背に驚き、フーゴは急いで後を追う

(マズイッ!今のジョナサンは身内が危機に晒されているかもしれないという恐怖にとりつかれて冷静な判断が出来ていない!今すぐ止めなければ!)

砂に足をとられそうになりつつも、フーゴは既に教会内に入ったジョナサンに声を張り上げて呼び掛ける。

「ジョナサン!戻ってきてください!教会内にスタンド使いがいるかもしれない!下手をすれば貴方も──────」



風が 吹いた

ねめつけるような、鋭い刃を突き立てられたような、尖った針を全身に向けられたような、そんな風がフーゴをなぜる


『殺気』という名の、 風が


「ッ! 『パープルヘイズ』ッ!!」

反射的に己のスタンドを呼び出し防御体制になった直後、スタンドで守られていた頭部を中心にとてつもない衝撃がフーゴを襲った。

「ぐ……おぉ!」

吹き飛ばされ、地面を転がりつつもなんとかその反動を利用して立ち上がり、衝撃が来た方向へ臨戦体制をとる。ゴッ!という固く重い物が落ちたかのような音がして、一瞬ちらりと視線を向ける。

石だ。拳よりも一回り大きい程度の石
それがものすごいスピードでフーゴを襲ったのだ。普通の人間ではあり得ない所業、ともすれば

(スタンドによる襲撃か?このタイミングでなぜ?教会に入ろうとしたからか?それならなぜジョナサンを攻撃しなかった?なぜ僕だけを攻撃する?今のは明らかに僕を殺す気だった。ジョナサンは無視し僕だけを攻撃する理由…………僕を殺そうとする理由……

まさか…………!)


ざっ ざっ、と砂を踏みしめながらこちらへ近づいてくる足音がフーゴの耳まで届く。
足音の主はフーゴを見た、フーゴもまた足音の主を見た。
パサパサとした長い髪、骨ばった長身、そして、どこまでも表情の欠落した瞳────
なにも変わっちゃいなかった。なにも、なにもかも

それは本来ならあり得ない事象だった。あり得ないはずの遭遇だった。
生者と死者、勝利者と敗北者、殺した者と殺された者、どうしようもない生死の壁を、しかしいともたやすくそれはぶち壊され、そして────彼らは再び出会った。


「パンナコッタ・フーゴ……」

「……マッシモ・ヴォルペ…………」


塵一つ残さず消え去ったはずの級友の姿が、そこにあった。



  □■□■

756トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:38:30 ID:RvLBe2q6



時は遡る。

「…………クソッ」

軽く悪態をつきながら、マッシモ・ヴォルペは耳に当てていたものをはずし、目線を落とす。
それはヴォルペが持っていた支給品、携帯電話だった。元々はこの殺し合いが始まって間も無くヴォルペの能力によって麻薬を注入され、DIOに血を吸われ殺害された名も知らぬ女性に支給されたものだ。
もうこの動作を一体何度繰り返せばいいのか、ヴォルペはモヤモヤとした気持ちを吐き出すかのようにため息をつく。

これまでの経緯を説明すると、彼は空条承太郎との僅かな邂逅の後、地下の洞窟をさ迷いつつ、空条徐倫(の姿をした何者か)を連れ地上へと出ていた。
さ迷いつつ、というのは、単純にヴォルペは地下の地図を持っていなかった(DIOに渡した)こと、また地下でのDIOと空条承太郎、他2名の大乱闘で辺り一帯が崩落し、思ったように地下道を進めなかったのが原因だった。結局2人は進んだり来た道を戻ったりしつつ、ようやく地上への階段を見つけて地下から脱出することに成功したが、その時既に時間帯はとうに午後を回っていた。
……この時ヴォルペたちが地下で誰とも接触しなかったのは、ヴォルペが来た道を引き返すうえで空条承太郎を含む危険人物たちを警戒しつつ進んでいたことによる時間差が大きな要因となっている。

ともあれ、時間をとられた以外は地下で大きな問題は起きず地上に出た2人だが、問題はそこからだった。
ヴォルペはDIOが今どこにいるのかを把握しておらず、有事の際の言うなれば集合場所というのもきいていなかった。故にヴォルペはこうゆう事態になったときのためのDIOとの連絡手段、携帯電話を使うことにした。地下では周囲の警戒もあって使えなかったそれをとりだし、DIOへと発信する────が、何度コールしても、DIOが出る気配はない。
実はこの時既にDIOは息子であるジョルノと対面しており、彼が持っている携帯電話はジョルノに不要な不信感を与えないように音が出ないよう設定にしてデイバックの奥底にしまわれていた。
その後十分ほど粘ってコールしてみたものの、やはり携帯電話はとぅるるるるるんというコール音しか鳴らず、ヴォルペは連絡を一旦諦め留守電を残したのち、DIOが現在どこにいるのかの大体の目星をつける。

────地下の乱闘があったのはDー4中央一帯、そこから離脱したのなら、ずっと地下道にいるはずもないので地上に通じているどこかの施設にいるはず、また元々一時の拠点にしていたGDS刑務所からも近い方が都合が良いと思われるので、周辺でその条件に見合うような施設は────

おおよそかいつまんでこんな考えをしたヴォルペは、その条件に該当する施設、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会へと足を運んでいる。

ヴォルペ自身、結構強引なものの考え方だと思っている。地上から地下に通じてる施設なんて他に吐いて捨てるほどあるし、一時の拠点といってもDIOはあのGDS刑務所に特にこれといった思い入れもないだろうから、都合が良いというのはもしDIOがヴォルペと同じようにDIOからはぐれた連中がいるなら似たような思考になりDIOと合流しやすくなると判断をするかもしれないというあくまでヴォルペ視点での「都合が良い」だった。
だからもしかしたらまったくの検討違いかもしれない、さっさとGDS刑務所に戻ってるかもしれないし、他の施設にいるかもしれない、なんらかの事情で未だ地下道に留まっているかもしれない。
けれどヴォルペは足を止める訳にはいかなかった。例えもし向かおうとしている場に誰もいなかったとしても、歩みを止めたくはなかった。

757トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:39:57 ID:RvLBe2q6

「…………」

ヴォルペはもう一度ため息をつくと、携帯電話をデイバックの中に仕舞い、再び歩きだす。留守電を残したとはいえ、流石にこうも連絡がとれないと心配になり、ついつい電話をかけてしまう。
仕事先の彼氏にしつこく電話やメールを送りつける彼女か俺は、と自虐気味に自身を評価し、ちらりと歩きながらヴォルペは顔だけ背後へと振り替えり、人影を捉える。

「おい、もう少し速く歩け」
「………ああ」

ヴォルペの五メートル程後ろを歩く「空条徐倫」に対し、そう告げる。

(いや、正確には「空条徐倫モドキ」、か)
ヴォルペは無関心気味にそう思った。
空条徐倫────の肉体を持つF.Fは、ヴォルペの言う通りに少しだけ歩くスピードを速め、ヴォルペについていく。どこかぎこちなさを感じるその動作を見て、ヴォルペは彼女の正体に気付きはじめていた。

(外っ面の肉体は空条徐倫本人のもの、しかしその肉体はとうに死んでいる……おおよそ殺したか殺されていた空条徐倫の肉体を今の「中身」になっているスタンドが乗っ取った……というところだろう)

肉体の生命活動に影響を与えるスタンドを有することもあってか、鋭い観察眼でヴォルペはそう結論付けた。
しかし、そこまでだ
「中身」のスタンドの正体はなんなのか、なぜ「中身」が空条徐倫の肉体を乗っ取ったのか、一体これまで空条徐倫としてなにをしてきたのか、などということについてヴォルペは塵ほども興味がなかった。
当たり前だ、ヴォルペにとって彼女はただの駒、己の憎しみをぶつける空条承太郎を苦しめるためのただの道具に過ぎない。そんなものに向ける意識などクソの役にも立たない。

ヴォルペの心を占めている人物はただ2人、
敬愛とも尊敬とも親愛とも呼べぬ、しかしそれら全てに当てはまるような感情を向けるDIOと、憎悪と嫉妬と歓喜をないまぜにしたような感情をぶつける空条承太郎だけだ。

「…………」

だがヴォルペの心には、それとは別のある一抹の不安がよぎっていた。
それはヴォルペの現在の行動のそもそもの要因、すなわち『DIOとの合流』のことについてだ。
ヴォルペは無意識に歩くスピードを上げる。

もし、このままDIOと合流できなかったら?
もし、合流できずにDIOに見捨てられてしまったら?
もし──────

「…………ッ!!!」

いくつものIFが、ヴォルペの思考を侵食していく
あり得ない、あり得ないそんなこと
ヴォルペとDIOは奇妙な引力によって引き合ってきた。最初の出会いも、互いが持っていた支給品も、スタンド能力の相性も。なにもかもが偶然とは思えない、まさしく『運命』とも呼べる縁によって導かれてきたはずだ。だからきっと今度も引力によってDIOの元へたどり着けるはずだ。

きっと

……しかしそう思おうとすればするほど、ヴォルペの心は焦りの色が濃くなり、それを打ち消さんとするかのように歩みは速くなっていく。
立ち止まってはならない、歩みを止めてはならない、進んでさえいればきっと、DIOへとたどり着ける。
そう信じて、ヴォルペは前に進んでいく。

758トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:42:23 ID:RvLBe2q6



「………」

その背をF.Fはじっと見つめていた。
いや、違う。その姿の遠く向こう側にある感覚────「ジョースターの血統」の気配を、彼女もまた感じ取っていた。
空条徐倫の身体を通じて伝わってくる血の気配。それは地下で自身が「父さん」と呼んだ人物と出会った時と同じものであり、空条徐倫の知性を理解するために必要なものだということを、F.Fは確信していた。

(私は……あたしは「空条徐倫」として、空条徐倫の知性を知りたい。あたしは「あたし」という唯一の存在として生きていたい、存在していたい……)

だからきっと、空条徐倫から感じるこの感覚をたどれば、空条徐倫という存在をより本能的に知ることになる、知性を得ることが出来ると、F.Fは信じて疑わなかった。
F.Fの心は、己が知性と呼ぶそれは、今だに冷たく暗い牢屋の中にでもいるようだった。彼女はそこから出ようとしている。空条徐倫を知ることで、光の中に、日の光の当たる場所へと出たがっている

(だからあたしは会わなきゃならない、DIOに、あたしが「許してはならない」と言ったはずの、あの男に────)



本当に、そうだろうか?


「おい」

はっ とF.Fの意識は現実に引き戻される。前方をみれば先程と同じように顔だけ振り向いた、しかし先程よりも小さくなっているヴォルペの姿に、F.Fはようやく自分が立ち止まってしまっていることに気が付いた。


ヴォルペは不機嫌な顔を隠そうともせず「空条徐倫」を黙ったまま睨み付ける。やがて「空条徐倫」が歩き出すのを見ると、自身もまた歩き出した。そのスピードは変わらず早いままだった。

2人がサン・ジョルジョ・マジョーレ教会にたどり着くまで、あと少し。



……結論からしてみれば、ヴォルペの推察通りDIOは確かにサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の地下にいた。
ヴォルペの判断は間違っておらず、事がうまく運んでいればヴォルペはDIOと再会し、空条徐倫を引き合わせ、これまでの経緯やこれからの方針に関する話に花を咲かせていたはずだった。


けれども
「引力」は一歩手前で役割を放棄してしまった。



ヴォルペの持つ別の因縁の「引力」と、引き合ってしまった。

ヴォルペが教会にたどり着くのがもう3分でも早ければ、あるいは「彼」がもう3分到着が遅れていれば、いや、「彼」がDIOと因縁のある「ジョースターの血統」を連れ出していなければ、こんなことにはならなかったはずだ。

けれどもその「引力」は、会うはずだったDIOとの縁を、運命を、なにもかも持っていってしまった。

その「引力」の名は──────


「パンナコッタ・フーゴ……」

「……マッシモ・ヴォルペ…………」



  ○●○●

759トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:43:40 ID:RvLBe2q6



「どこだ?どこに……ッ!」

サン・ジョルジョ・マジョーレ教会内、フーゴの制止に構うことなく、ジョナサンは血が訴えかけるままにそこを駆けずり回っていた。
教会内部は外見以上にひどい有り様だった。砂の圧力によって教会全体は軋み、また直径が大人一人分はあろうかという円形の穴が壁、床、天井問わず至るところに空いている。
スタンドに関する知識と経験がほとんどなくとも分かる、これがスタンド使い同士による戦闘の跡なのだと。

「どうか……どうか、無事でいてくれ…………!」

悲痛に染まるジョナサンの祈りが、ボロボロになった教会にこだまする。
やがてジョナサンは地下へ続く階段を見つけ、降りていく。2つの気配は地下から感じていた。


「誰か!誰かいないかッ!!」


ジョナサンの声が冷え冷えとする地下に反響する。そうしながらもその丸太のような足は走ることをやめていない、やがて下へ下へとおりてゆき、ジョナサンは気がつけばとあるドアの前にたどり着いていた。
ジョナサンはじっと感覚を鋭くさせる。

(ここからだ………ここからずっと感じていた気配がする)

この扉の向こうにいる2つの命、2つの鼓動、2人の人物。自分に繋がっている知らない家族。それがジョニィと会ったときよりも濃く強く感じられた。

波紋の呼吸は乱れていない。いつどんなことがあろうと乱れてはならないと鍛えられたのは伊達じゃない、しかし胸の内にある感情は、心臓は、今まで経験したことのないほど激しく揺れていた。
意を決し、ドアに手をかけ、開ける。
ギイィ…と普段なら気にも止めないような小さなドアの軋む音が、やたらと耳の奥をくすぐる。

ドアが開け放たれ、ろうそくの僅かな光が部屋の内部を照らし出す。


そして


───────そこに誰かいた



「…………ディオ?」



  ●○●○



崩れていく 壊れていく

けれど、挫けてはならない、砕けてはならない ────折れてはならない



「無駄ァ!!」
「ふん」


ジョルノが打つ『ゴールド・エクスペリエンス』の拳を、DIOの『ザ・ワールド』は軽く受け止め、そのまま力を受け流しながら背後へと投げ飛ばす。

「 ッは!」

吹き飛びざまジョルノは握っていた石ころをツバメに変化させ、DIOへと突進させる……


「 無駄、無駄だジョジョ」

突如としてDIOの姿は消え、突進したツバメは空を切り、そのまま壁へと激突し元の石ころへと戻る。

「く……!」

ジョルノは『ゴールド・エクスペリエンス』に自身をキャッチさせ、地面に足をつけると消えたDIOの姿を探す。

(まただ……DIOに攻撃が当たると思った瞬間DIOの姿が消えた。確実に捉えていたのにも関わらずだ。単なる超スピードや催眠術なんかじゃあ断じてない、これは……これはまるで────)

「どうしたんだいジョジョ、もう戦う気力が失せたかな?」
「……僕が貴方と戦う理由が無くなるのは、貴方を倒した時だけです」
「ほーう?」

感心したかのようなDIOの声が頭上から降り注ぐ、視線を上げれば、DIOはジョルノが生み出した木の枝に足を組んで悠々と座っていた。

「このDIOのスタンド能力をほんのちょっぴりでも体験してまだそんなことが言えるとはな……さすがは我が息子と言ったところか?」
「心にもない薄っぺらなことを言うんじゃない、本当は僕のことはいつでも殺せるのでしょう?」
「ほう、中々に父のことが分かってきたではないか」

760トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:44:58 ID:RvLBe2q6

DIOのその言葉に、再びジョルノの視界が赤く染まる。頭の、心の奥底に熱の激流が生まれる。
こいつは『悪』だ。他人を、ましてや身内を踏み台にしても塵ほども罪悪感を持たない、ドス黒い『悪』だ────!

そんなものがジョルノの父だった。

「それで?君は一体どうやってこのDIOを倒そうというのかな?」
「いつでも殺す事のできるのにそうしないのは僕を殺さないほどの理由があるのでしょう?ならばそこに付け入る隙があるはずだ」
「殺さない理由……か」

DIOが意味深げにジョルノの言ったことを復唱する。

「……なあジョジョ、君は自分が何者のなのか考えたことはあるかい?」
「何者か……?」
「子供のころに考えたことのあるちっぽけな夢でもいいさ。例えば自分はどこかの国の王子さまだとか、例えば空を飛ぶことのできる魔法使いだとか、例えば────」

DIOがするりと音もなく枝から身を降ろし、地へと自然な動作で足をつける。そのままゆっくりと姿勢を正すと、ジョルノと視線を絡める。その顔は見るものを魅了するような、艶めかしい笑みを称えていた。

「────100年の時を生きた吸血鬼の息子、だとかな」
「……何?」

意図が不明なDIOの答えに声を上げるも、しかしDIOの視線はジョルノから既に外されていた。
代わりにDIOが見つめているのは、この納骨堂の入り口、先程ジョルノがヴァニラに連れられて入ってきたドアだ。2人からよく見える場所にあるそこを、ジョルノもまたDIOと同じようにを見つめる。
DIOがなぜジョルノと戦闘中にも関わらず戦闘を止めてまでそんなことをするのか、ジョルノはなんとなく分かっていた。
DIOは「待って」いるのだ。そこを開けるであろう、この場にたどり着くであろう存在を。戦いが始まる前に既に感じ取っていたその人物を


「──────!」


やがて間もなく納骨堂の外から声が響いてくる。聞いたことのない男の声、だが何故だかジョルノの心には不可思議なざわめきが波紋する。
何故だろうか、きっと会ったこともない人なのに、ずっと昔からこうなることが決まっていたような気がする。思い出せないほど昔に約束したことを掘り起こしているような、そんな感覚がジョルノの身体を駆け巡る。

気がつけば、ジョルノもまたDIOと同じように待っていた。お互いにドアを見つめ、感覚をたどり、近付いてくる足音に耳を澄ませ、やがて……ドアが小さな軋む音とともに開かれた。

外から入ってきたのは、やはり男だった。筋肉に恵まれた大きな身体、けれど威圧感はまったくと言っていいほどなく、むしろその姿勢や僅かな動作から紳士的な印象を受けた。
その男とジョルノの視線が、繋がる。


(……────似てる)


誰に?
自分に?

それとも……DIOに?


率直に思ったことにジョルノはひどく動揺した。見ず知らずの人間に、自身やDIOを重ねるなど
けれど何故かその事を否定しきれない、その男に対しどこか親しみを覚えてしまう心を止めることができない。
やがて男はゆっくりとジョルノから視線を外す。ジョルノはゆっくりと息を吐いた。何もされていないはずなのに、その瞬間だけが切り取られ、とても長い時間のように感じられた。
男の視線はジョルノの正面に立つDIOの方へと流れ行く、しかしジョルノは未だ男から目を離すことができない。いや違う、DIOの方へと顔を向けることができない。

761トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:46:00 ID:RvLBe2q6

男とDIOの視線がぶつかり合う、男の目が見開かれ、瞳孔が開き、全身に衝撃と動揺がジョルノにも分かってしまうほど伝わっている。やがてその男は口からこぼれ落とすかのように言葉を漏らした。


「…………ディオ?」


……それは確かに父の名のはずなのに、父ではない誰かの名のような気がした。同じ言葉のはずなのに、違う色を秘めているような、そんな感じが。

「 『ジョジョ』 」

DIOが己を呼ぶ、それにジョルノは機械的に反応し、DIOへと顔を向ける。DIOもまたジョルノを見る。その瞬間


────ぽろり と、ジョルノは胸の中から何かが落ちるような音を聞いた気がした。それはジョルノの中にあった小さな小さなもので、でもしがみつくように残った最後の一粒で、慌ててそれを拾おうとしても身体がそれを拒むかのように動かなくなり、ジョルノは黙ってそれが落ちていくのをぼんやりと見ているしかなかった。

カリスマの溢れる立ち振舞い
ゆれる冷たい金の髪
男とは思えぬ白い肌

DIOの一つ一つの動作が、ゆっくりと、しかし鮮烈にジョルノの脳裏に焼き付けられる。

──────こないでくれ


こらから起きるはずの事柄にそう祈っても、時は止まってくれるはずもない。ただただジョルノは、『その時』がくるのを、沈黙をもって受け入れるしかない

そして    時は動き出す



「お前はもう────用済みだ」



最後に残った一粒は 地に落ちた
落ちて────砕け散った




────その瞬間の出来事を、ジョナサンは正確に認識することができなかった。

部屋の中は何故か植物で溢れかえっており、そこに2人の人物がいて、どちらもジョナサンの知っている顔だった。
一人は最初の会場で首を吹き飛ばされ死んだはずの少年────ジョルノ・ジョバァーナで、彼の仲間からよく聞かされていたこともあったせいか、初めて会ったような気がしなくて、しかしなんと声をかければいいのか分からず仕舞いで、結局その少年には声をかけられなかった。

そしてもう一人は、7年間の青春を共にし、奇妙な友情を描き、そして……この殺し合いに呼ばれるまでは、その青春に決着をつけるために戦いを挑もうとしていた宿敵だった。
けれども


「…………ディオ?」


彼のその姿に、ひどく違和感を覚えた。
確かに見知った顔のはずなのに、なんと言うか、ちぐはぐなのだ
ジョナサンの中のディオと目の前のディオとの違い、それを一言で表すならば、そう、職人が長い年月をかけて技術を習得し、それを研ぎ澄ましていくような、いわゆる『洗練さ』があった。
帝王としての立ち振舞い。人を虜にする圧倒的な存在感。
ジョナサンは彼との間に、『時間』の積み重ねによる越えようもない何かがあるのではないかと、直感的にそう思った。
けれども、それだけでは説明できないもっと別な違和感がジョナサンの意識を掠める。
────じゃあ今まで感じていた気配がどうしてディオから感じる?

だから、自分と彼との間に横たわるこの違和感は何なのか、一体目の前の男はいつの彼なのか、彼にとってジョナサンは一体いつのジョナサンなのか
それらをどう形にしていいかも分からず、しかしそれでも言葉にしてしまわないといけないような気がして、心に溜まった思いの丈を吐き出そうと口を開こうとしたその瞬間────それは起こった。

762トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:47:44 ID:RvLBe2q6


「 『ジョジョ』 」

「お前はもう────用済みだ」


気がつけば、ジョナサンの視界からディオは姿を消していた。代わりに重々しく生々しく、何かが弾けるような音がジョナサンの耳に届く。
ジョナサンは音がした方へ瞳を向ける。そこは調度ジョルノが立っていた場所で、程なくジョナサンの視界にジョルノとディオの姿が入る。

同時に、ディオの傍に立つ精神のビジョン────スタンドも

ジョナサンは一体何をしているのか、何が起こっているのか分からなかった。ジョルノがいて、ディオがいて、ディオの傍に黄金色のスタンドがいて。それらの事実は認識しても、それらが引き起こしている事象を繋ぎ合わせられない


「…………あ……───」


その引き絞られた声はジョルノのものだったか、ジョナサンのものだったか、あるいは両方のものだったか。けれどもその声と、鼻にこびりついてくるその臭いで、ジョナサンはようやく目の前の出来事を理解することができた。


ディオのスタンドの腕が

ジョルノの腹を────正確に貫いていた


がくんと、ジョルノの身体から力が抜けていく。生命が失われていく。
すべての音を拒絶したかのような静寂、その一瞬の後、ディオのスタンドはジョルノを貫いたまま腕を大きく振りかぶった。
ジョルノの身体からスタンドの腕は抜け、勢いよく吹き飛ばされる。腹部から血肉を撒き散らしながらジョルノの身体は草木の中へ無抵抗に突っ込んでいき……やがて見えなくなった。

「──────ッ!!!!」

全身から血の気が引く、声にならない声が肺の底から突き抜ける。そこまできてようやく石のようになっていた身体が金縛りから解け、ジョナサンは己が意識する前にジョルノが消えた所へ駆け出そうとする。だが

「時を隔てた邂逅というわけか……ジョジョオオ……!」
「 はっ!」

いつの間にかジョナサンの正面にディオは悠然と立っていた。同じ高さにある彼の目線とぶつかる。そこでようやくジョナサンは違和感の一端に気付いた。
ディオの身長は自分と同じ程だっただろうか、確かに2人とも恵まれた体格をしていたが、それでも身長はジョナサンの方が高かったはずだ。
いや……それどころか、これはまるで────

「随分なマヌケ面をさらしているじゃあないかジョジョオ?それともオレが生きているのに驚いているのか?」
「ディオ……君は……君は一体…………

何をしたんだ……?」

それが今のジョナサンの言えるたったひとつのことだった。

それは何に対する問いなのだろうか
たった今目撃したものについてか
血を巡るこの感覚についてか
それとも────

「…………よかろう、このDIOが尊敬する唯一の友よ、100年越しの再会を祝してこのオレがすべてを語ってやろうではないか
すべて、をな」



────それは誇り高き血統と欲深き血統の、数奇な運命を辿る奇妙な物語



  □■□■

763トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:48:43 ID:RvLBe2q6


「ハァー……、ハァー……!」

サン・ジョルジョ・マジョーレ教会よりやや南東方向の街中で、パンナコッタ・フーゴは狭い路地の物陰にうずくまりながら荒々しい呼吸を漏らしていた。
教会前で死んだはずの麻薬チームの最重要人物、そしてフーゴの級友であったマッシモ・ヴォルペと接触後、彼らはそのまま戦闘に入り街中をかけていた。
壁の穴や地面のクレーター、ひしゃげた標識や電灯、散らばるガラスなどの破片、その一つ一つが2人の戦闘の激しさを象徴していた。
現在はお互い見えない位置に隠れ、次なるチャンスを待っているといったところか

「くそ……やっぱり本物のヴォルペなのか……」

信じられない訳ではない、確かにヴォルペはフーゴが確実に始末したはずだが、名簿にもその名は記載されていたし、死んだはずの人間がこの場においては何人もいるということをフーゴは知っていた。実際、フーゴはヴォルペよりも以前に亡くなったナランチャに会っている。

「よりにもよって何故あのタイミングで…………」

お陰でフーゴはジョナサンと離ればなれになり、それまで教会内で何が起こったのか、今現在何が起こっているのか結局分かっていない。

「だが、こうして会ってしまった以上は仕方がない…………奴は確実に始末する」

フーゴは音もなく立ち上がると、ヴォルペの位置を探るために移動を開始した。その目は既に決断を済ませた『漆黒の殺意』が宿っている。
周囲に警戒を張り巡らしながら、ゆっくりと路地を歩いていく。己の位置をバラようなことはせず、かつ相手の位置を探るためにどんなに小さな違和感をも見逃さないような慎重さと注意力を同時に展開する。

────奴を見失ってからそれほど時間も経っていない。奴もまた僕を殺しにくるから絶対に近くにいる

薄暗い路地を着々と進んでいく、しばらくすると、フーゴは『あるもの』を見つけその前で立ち止まった。

「…………?」

『それ』は民家の壁に空けられた『穴』だった。直径が人一人分はありそうな程の大きな穴、フーゴとヴォルペの戦闘中につけられたようなものではなく、ぽっかりとくり貫かれたようなきれいな円状の穴だった。
そこから民家の中を覗き混めば、床壁天井家具といわずあらゆる場所に削り取られたような跡と円状の穴が空いていた。妙なものはそれだけではなく、何故か民家の内部全体がまるで砂嵐でも巻き起こったのではないかと思うほど砂によって覆われていた。

764トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:50:09 ID:RvLBe2q6

(まさか、僕たちよりも前にここでスタンド使いの戦いがあったのか?
しかもこの砂……まさか………)

明らかに異常な現場に対しフーゴはある推察を立て始める。

「教会のあの状態……砂を操るスタンド使いが別のスタンド使いと教会で戦闘になってあの惨状になったのだとすれば説明はつくが、その跡がここにもあると言うことは、まさかまだこの近くで……」

ざり、と思わず1歩だけフーゴは後退りしてしまう。


────瞬間


    ボ ゴ ォ !!

「なにっ!!」

掘り起こされたような音と共にフーゴの足下から手が伸び、フーゴの右足首を捕らえた。

「ぐおおおおお!!!」

伸びた腕はフーゴの右足首を握り潰さんとギリギリと握力を強めていく。その激しい痛みにフーゴは吠えるかのように叫んだ。

「パープルヘイズ!!地面を殴れえぇぇ!」

『うばぁしゃああああああああ!!』

フーゴのスタンドが地面に対し容赦のない拳の雨を降り注がせる。が、相手が寸のところで退いたのか手応えは空振りに終わり、地面には人一人分の穴が埋まりそうなだけが空いていた。

「くっ!」

フーゴは穴に足を取られそうになるも、すぐさま引き抜き距離をとる。右足首は潰されずにすんだが、それでも結構なダメージを食らってしまった。
ボコ、ボコとフーゴからやや離れた位置の地面が盛り上がる。やがてそこから手が出てきて、次に頭が出てくる。
その顔はやはり級友のものだった。

「…………」

のっそりとヴォルペは完全に地面から姿を表し、フーゴを睨み付ける。フーゴもまたヴォルペを睨み付ける。

「…………」
「…………」

沈黙
互いに何も語らない。そんなものを聞く耳はないし、語らう口もいらない。
お互いに知るのは、聞くのは、見るのは………相手の断末魔だけでいい

────2人の戦いが、再び切って落とされた。


「シッ!!!」

先攻をとったのはまたしてもヴォルペの方だ、拳程ある石ころを、『マニック・デプレッション』で強化された腕をもって投球する。

(教会で襲撃を受けたときと同じ……!だが!)

ズキリ、と最初に石をガードした右腕が僅かに痛む。

(あの石ころはスタンド能力が注入されているからかスタンドで受けてもダメージがある、慎重にいきたいところだが同じ手を二度も奴はするだろうか?必ず何か手は打っている、……かわすべきか?ガードすべきか?)

迫り来るそれに対する対処法を考え、そして一瞬で決断する。

(狭い路地でかわせば動きが読まれてそこを叩かれる、ここは……!)

迫りきったそれを、スタンドの腕で弾き飛ばした。また腕が痛むが凄みでそれを抑える。
すぐさまヴォルペに接近しようとして────訪れたのは、腹部の激痛と、全身への衝撃

「ご、はあ!?」

フーゴは理解が追い付かないまま、吹き飛ばされ地面に背中を強く打ち付ける。

765トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:51:25 ID:RvLBe2q6

(ば……バカな!石ころは打ち落としたはずなのになんで……!)

打ち落としたのなら、フーゴにその石ころは着弾することなくこのように地面に叩きつかれることもないはずだ。
………投げられた石ころが一投だけだったなら

(ハッ! まさか奴が手に持っていた石ころは2つ!スポット・バースト・ショットのように一つ目を投げた直後に後を追わせるように二つ目を投げたのか……!)

フーゴは自身な起こった現象を推察し、まさしくその通りのことをヴォルペは行っていたのだか、……時既に遅し

「ぐっ……!」

フーゴは体制を立て直そうとするも、ヴォルペはフーゴとの距離を縮めんと既に駆け出していた。

二十五メートル

(速いッ!マズイぞ……!こちらはまともなダメージを食らっているが奴は体力を少し消耗しているのみ、まともに近距離でやりあって対処できるか?)

十五メートル

(殺人ウイルスを使うか?だめだもう遅いッ!この体制とダメージと時間で使用することはできない!)

────十メートル

(やるしか、ない!)

フーゴは上半身を起こした状態で戦闘体制に入る。そんな体制でまともに戦えるとは思えないが、距離が縮まっている以上どうしようもなかった。
距離が十メートルを切り、両者の視線がぶつかる。互いになんの迷いもない、黒々しい殺気を宿している。

そして距離は五メートルを切ろうとした───その時


    ガ  オ   ン ッ  !!


「!?」

「なっ!?」

突如として両側の民家の壁、それもちょうどフーゴとヴォルペの間の壁が円状に消失した。ヴォルペはバックステップで一気に距離を離し、フーゴはなにが起こったのかさっぱり分からないままとにかく立ち上がろうとする。が

「痛っ!」

先程ヴォルペに捕まれた足首に激痛が走り、体制を建て直し損ねる。そうしている間にも異常な事態は進行しつつあった。


 ガ  オ ン ッ !!

               ガ  オ  ン ッ!!
      ガ オ   ンッ  !!


フーゴが先程目撃民家の様子と同じことが、今目の前で起こっていた。

「マ……ズイ…………!!」

フーゴが立ち上がった時、ヴォルペの姿はどこにもなかった。奴にとっても予想外の事態だったのだろう。
そして突然……フーゴからそう離れていない空間から『何か』が現れた。

「す……スタンド………!?」

何もなかったはずの空間からそれは除々に姿を現していき、やがてその中からさらに何かがこちらを覗いていた。
それは人間だった。長い髪にハートの飾り、厳つい顔をした男が、こちらを睨んでいた。

「…………」

その男の目を見た瞬間────フーゴは全身に鳥肌がたった。
真っ黒いクレバスをイメージさせる眼、『漆黒の殺意』とも『どこまでも感情の欠落した』ものとも違う、底知れぬ暗黒がそこに広がっていた。
本能的にフーゴはそこから逃げようと身体を翻す。が、

766トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:52:22 ID:RvLBe2q6

「……え」

そこには、フーゴの行く手を阻むかのように、砂で構成された大男が立っていた。
フーゴが状況を理解を飲み込むよりも早く、大男は両腕でフーゴの身体をがっしりと掴む

「は?」

フーゴの身体は大男に持ち上げられ、視界と重心がぐるりと反転する。
そして────大男はフーゴを肩に抱え、そのまま走り出した。

「…………ええええええ!?」

まったくさっぱり理解の追い付かないフーゴの叫びが、路地に響いた。


  ○●○●


「クソッ!! クソッッ!あともう少しで奴をッッ……!クソ!!!」

ガン! ガン! と力任せに拳を壁に打ち付ける。加減をしていないせいで皮膚は破け肉は抉られ血が流れるが、それもスタンド能力であっという間に治っていく。

「ハァー……ハァー……!」

今のヴォルペの脳裏には、たった一人の人物だけが浮かんでいた。

パンナコッタ・フーゴ
ヴォルペから拠り所としていた人────コカキとアンジェリカを奪っていった少年

ヴォルペにとって心を許せる相手だった。必要とし、必要とされ、互いに寄りかかるような、そんな存在だった。
それは端から見れば依存と言える関係だったかもしれない。それはマイナスなことで、本来なら克服すべきものだったかもしれない。
だけど、そんなの知ったことか
世間なんて知らない、常識なんて知ったことじゃない、そんなものに当てはめっこない関係が、ヴォルペたち麻薬チームの中にはあった。
なのに、なのにあいつらは、あいつはすべてを持っていってしまった。
コカキとアンジェリカは殺され、ビットリオは石仮面を取りに行ったきりどうなったか分からない、そしてヴォルペ自身も……
何もかもバラバラになった、何もかも持っていかれた。

「……許さない」

胸の中の溢れんばかりの感情を到底形に出来るわけがないと分かりつつも、それでも言葉に乗せて吐き出していく。

「オレは……フーゴを………許してはならない──────!」

……それはヴォルペの記憶の中の少女が言っていた言葉とよく似ていた。
けれども肝心の少女のことは欠片も思い出さないまま……空虚を抱えた青年は一人暗い路地に取り残された。


  ○●○●


「……あー……」

先程の路地とは別の暗い路地、砂の大男に連れ去られたフーゴは、その事だけはようやく飲み込めたものの、やっぱり今の現状について理解が追い付いていなかった。
痛む足首を庇うように座り込む彼の目の前には……

「ワン」

……一匹の犬

「……まさかお前が砂のスタンド使い?」
「ワン」
「教会をあんな風にしたのも?」
「ワン」
「今まであの得体の知れない男と戦ってたのか?」
「ワン」
「…………」

767トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:53:33 ID:RvLBe2q6

肯定してるのだろう、合いの手のように犬はフーゴに返事をする。
あの教会を飲み込むほどの砂を呼び寄せるなど、並大抵のスタンド使いではないとは思っていたが……

(正体も並大抵じゃなかったか……)

スタンドというのは精神のビジョン、だから強い精神を持つのであれば動物でも発現することも稀にある。実際フーゴもかつてトリッシュの護衛任務時に亀のスタンド使いを用いていたことがあった。

「で?何で僕を連れ去ったんだ?ただ単にあの男から助けるためだけじゃあないんだろ?」

話が早いと言いたいのか、犬は返事の変わりにフン!と鼻を鳴らす。

「………助けた代わりにあの男を倒すために協力しろ、か?」

ただ流石にフーゴも犬の言葉は分からないので、とにかく犬が言いたそうなことを代弁してみる。

「ワン」

するとやはりそれは当たっていたようで、犬はまた鳴き声で返事をする。

「…………」

だが、フーゴは当たっていたことで逆に頭を抱えた。
いくら助けられたとはいえ、フーゴもまたヴォルペと現在交戦中なのだ。正直「そんなの知るか、そっちで勝手にやっててくれ」ぐらいのことは言いたい。
だが、今は状況がそれを許してはくれない。先程のヴォルペとの戦いにおいて優勢だったのはヴォルペの方で、さっきのイレギュラーなことが起こらなければ負けていたのはフーゴの方だっただろう。
そして今の状態でヴォルペと会っても、フーゴには勝ち目が薄い。
だが、この犬とうまい具合にタッグを組めば、あるいはヴォルペを倒すことはできるかもしれない。
……まあ見たところ頭のいい犬のようだから、そこまでうまくことが運べるかは分からないが
それにあの正体不明の男には犬と(正確には砂の大男と)いるところをバッチリ見られたので、男はフーゴが犬の仲間だと認識してしまっているだろう。
男の容赦のないスタンド攻撃、それにこの足で逃げられるかは……まあ無理だろう
頬に手のひらを当て、やや考えてみたものの、やはり犬の要求をつっぱねるのはあまり得策でないような気がする。

「あ〜〜〜、とりあえず分かった。いいよ、一先ず一緒に戦ってやる」
「フン」
「ただし、多分見てただろうけど僕もお前とは別の敵と戦っている。そっちが現れたら僕はそっちを優先する。できればお前の協力も欲しいんだが……」
「…………」
「…………」

めちゃくちゃめんどくさそうな目で見られた
久々にキレていいだろうか。

「はぁ……」

フーゴは思わずため息をつくが、どのみちヴォルペもあの男もフーゴにとって、いや互いにとって「敵」なのだ。今逃げたところでまた戦うことになる。それならば他に被害が及ばぬ内に倒しておくべきだろう。

「乗りかかった船ならぬ乗らされた船だが……やるしかない、か」

どうやら教会に戻るのは、もう少し先のことになりそうだ。
フーゴは一人の青年を思い浮かべ、その青年のことを案じる。

(ジョナサン……どうか、無事でいてください)

はたして、フーゴの祈りは青年の元へと届くのだろうか。

768トリニティ・ブラッド −カルマ− ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:55:56 ID:RvLBe2q6



(かっ、思わず助けちまったぜ……おっさんのおせっかい癖が移ったか?)

座って思い耽っているフーゴの横で、イギーは身を休めながら軽く毒づく。

(まあいいさ、俺はお前みたいなお坊ちゃんみたいな奴は嫌いだが、せいぜい役立ってくれよな)


────そもそも何故イギーが教会より少し離れたここにいるのか
タルカスがヴァニラ・アイスに殺された直後、イギーはありったけのスタンドエネルギーを使い大量の砂を教会にかき集め勝負に臨んでいたのだが、ヴァニラのスタンド『クリーム』の暗黒空間による予想以上の性能に砂はどんどんと飲み込まれていった。
そこでイギーは方針を変え、砂のダミーによる撹乱作戦を実行した。
ヴァニラの攻撃パターンから暗黒空間に身を潜ませている間は外の様子が分かっていないことを確信したイギーは、スタンドでイギーの姿をした砂のダミーを作り、ヴァニラにそのダミーをイギーだと思い込ませ追わせるように誘導した。
作戦は成功し、油断したフリをしてわざとダミーを暗黒空間に飲み込ませ、始末したとヴァニラが油断し外に出た隙に砂の大男が持つ槍でヴァニラを襲った。
残念ながら寸の所で気付かれ槍は左肩を貫通させるに留まったものの、ようやく与えた一撃にイギーは渾身の笑みでヴァニラを挑発した。
これにはヴァニラもプッツン、『クリーム』を発動させ怒りのままに無差別に辺りを暗黒空間に飲み込んでいった。
流石にイギーもここまで見境なしの相手に打つ手はなく、ヴァニラが削りとってできた穴から外に飛び出し一時的な逃走を図る。それに気づいたヴァニラもまた周囲を飲み込みながら外へとイギーを追い、そしてデッドオアアライブの追いかけっこを続けている内にヴォルペと戦闘中のフーゴを発見し……今に至ると言うわけだ。

(おっさん、もう一度宣言しとくがな、これはおっさんへの恩返しでもなければ敵討ちでもねぇ、ただ俺がおっさんに死なれて後味悪ぃってんで勝手にやってるだけだ)

イギーは教会に置いてきたタルカスの姿を思い浮かべ、その心の奥底にある感情を奮い立たせる。

(待ってろよあのクサレ脳みそ野郎……必ずこのイギー様がキッチリとオトシマエつけてやっからな……!)

イギーのその瞳は、かつてないほどに熱で満たされていた。



(にしても……)

「ん?……なんだジロジロ見て」

(こいつまだあのヤローと戦ってもいねーのになんで服がそんなに穴だらけなんだっつーの)

「?」



  □■□■

769トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:58:53 ID:RvLBe2q6



もくもくと天に昇っていく黒煙を、その5人は目撃していた。

「なあ!やっぱりあれって火事……だよな?」
「ええ、おそらく他の参加者の仕業ね。事故か意図的かは分からないけど、ただごとじゃないことは確かだわ」
「しかもあれかなり大規模だなぁ〜〜家一軒ぐらい燃えてんじゃねーの?」

ナランチャの疑問に対しトリッシュが答え、玉美がそれを補足する。
5人が現在いるのはE−6北部、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会へと続く通りの途中である。
フーゴとジョナサンの行方を追うために移動しつつあったトリッシュたち5人は、現在彼女たちのいる場所から離れた位置に発生した火災の煙を発見した。

「オレ最近知り合いの家が燃えた事がありやしてね〜、だから多分あれ家一軒丸々火事になってますよトリッシュ様」
「そう……やっぱり単なる事故じゃなさそうね、あの煙遠くからでも見えそうだから他の参加者も集まってくるかも…………アナスイ?」

玉美の話を聞きながらトリッシュは煙について少し考えるが、その時煙を睨みつけながら険しい顔をしているアナスイに気がつく。

「アナスイどうしたの?そんな恐い顔して……」
「……悪いが俺は今すぐにあの煙の所までいく、お前たちとはお別れだ」
「え!?」
「なっ……いきなりなに言ってんだよオメェ!!」
「あの煙の場所、空条邸かその周辺からのぼってるよな?」
「え、ええ……おそらくね」

アナスイの突飛な離脱宣言に一同は驚くものの、その表情はただならぬ事情があるのだと訴えかけている。

「俺の探している人があそこに向かっているかもしれない、だとすれば俺はすぐにそこにいかなくてはならない」

もし火事が起こっているのが『空条邸』ならば、その名から明らかに縁があるであろう、そしてアナスイの探し人である「空条承太郎」が来る可能性がある。一度別れたきり以降行方がさっぱり分かってなかった男を探し当てるのには絶好の、そしてまたとない機会であった。

「でもあなたまだケガが治りきっていないのよ?一人でいくなんて無謀だわ!」
「そうだぜ!空条邸なら教会に行くまでに前を通りかかるからそこまで一緒にいた方がいいって!」

トリッシュとナランチャは必死にアナスイを説得するものの、しかしアナスイは首を縦に振ろうとはしない。

「……俺はもう手遅れなんてごめんなんだよ」

ぽつりとそれだけ言い残し、アナスイは他の4人を置いて一人空条邸の方角へと走り出して行った。

「「アナスイ!!」」
「おいおいおいおい、本当に行っちまうかよ普通」

トリッシュとナランチャがアナスイを呼び止めようとするもアナスイは振り向かず、その背はどんどんと小さくなっていき、玉美は信じられないと目を瞬かせる。
トリッシュは行き場のなくなった手を降ろし、ジョニィの方へと顔を向ける。

「……アナスイは行ってしまったけど、ジョニィ、貴方はどうするの?……ジョニィ?」

トリッシュはジョニィに声をかけるが、肝心のジョニィはどこかぼんやりとした様子でサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の方角を見ていた。
それに対し玉美が声をあげる。

「おい!トリッシュ様が話しかけてんのになんだその態度は!この!」
「ってぇ!!なにすんだこの小男ッ!」
「ああぁ!?やんのか!?」
「やめなさい2人とも!」

玉美が蹴りを入れたことでジョニィは正気に戻るものの、玉美と喧嘩腰になりかけトリッシュはそれを諫める。玉美ははい!トリッシュ様!と言うまでもなくそれに従い、ジョニィもかなり釈然としない表情であったものの渋々言われた通りにした。

770トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 00:59:53 ID:RvLBe2q6

「で、どうしたのジョニィ?なんか様子が変だったわよ」
「ああ……」

ジョニィは再びサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の方へと向く。

「今、また気配を感じたんだ。多分ジョナサンのものだと思う」
「ジョナサンの!?」

ジョナサンの名を聞き、ナランチャがまた食って掛かる。

「ジョナサンは無事なんだよな!?」
「そこまでは分からない、けど……」

ジョニィは無意識に左肩へと手を伸ばす。
先程は距離が離れすぎたせいか一度ジョナサンの気配が途切れてしまったものの、今また途切れる前と同じ気配をおぼろ気ながらだが感じた。
けれど何故だろうか、先程とは違って、ジョニィの中の何かが訴えかけている。ジョナサンの身にに今ただならぬ事態が振りかかっていて、ジョニィへと助けを求めているのではないかと、根拠も何もないのに不思議とそんな確信がある。

「やっぱり今ジョナサンは危ない目にあってんのか?」
「だからそこまでは分からないって」
「……ねぇジョニィ、貴方これからどうするの?」
「どうするって……」
「あたしたちとしては一緒に来て欲しいわ。でも貴方も探してる人がいるんでしょう?」
「…………」

もちろん、ジョニィはジャイロのことを忘れた訳ではない、ジャイロを探すことはジョニィにとって何よりも優先すべきことであり、その順位は覆されることはないと思っていた。
けれどどうしたことだろうか、ジョニィは今それを理由にしてジョナサンの後を追うことを拒むことができなくなっていた。今ジョナサンを追って行かなければきっと後悔することになると、ジョニィは自然とそんな思考になっていた。
不思議な繋がりを感じる、自身と同じ名を持つあの青年を追うか。マイナスをゼロにする旅を共にし、戦いの果てに命を落とした親友を探しに行くか。


「僕……僕は────……?」


ジョニィ・ジョースターは、決断を迫られていた。



  □■□■



「…………」
「…………」

重々しく張りつめた沈黙と静寂がその空間に広がっている。
それはまるで割れる寸前までパンパンに膨らんだ風船が目の前にあるような緊張感に似ている。もう少し空気が入るか、ちょっとした衝撃があれば容易く割れてしまうような、そんな感覚がずっと続いている。
いやむしろ、彼────ジョナサンはそれを望んでいるのかも知れない。誰かがそれを割って、この醒めない夢でも見ているかのようなこの感覚を終わらせてくれる事を、彼は願っているのかも知れない。

「ジョ〜ジョ?もしかしてお前、そこでそんなアホみたいに固まったままで待っていれば誰かがお前を助けに来てくれると……そんなこと考えている訳じゃないよなァ?」

けれどその心境はよりにもよってこの空気を生み出した男によって暴かれてしまった。そう、ジョナサンの宿敵、ディオ・ブランドー……DIOによって

771トリニティ・ブラッド ?リライト?  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:01:42 ID:RvLBe2q6


ジョナサン・ジョースターはすべてを知った。
戦いの結末
己の最期
その後のディオの行方
そして────一世紀以上にも渡るディオとジョースター家の、壮大な因縁の物語を

「…………」
「黙ってないでなんか言ってみろよな。どうだジョジョ、100年後の自分の「肉体」とご対面した感想は?」
「…………」

ディオはわざとらしい笑みを浮かべながら、ジョナサンの正面に堂々とした姿勢で立つ。ジョナサンはそんな彼を、まだ夢でも見ているかのようなぼんやりとした、どこか虚ろな目で見る。

「……君は、」
「ん?」
「君はどうしてそんなにしてまで…………生きようとするんだ?」

ようやく言葉を発したジョナサンの問いに対し、ディオはくだらないと言わんばかりに鼻を鳴らす。

「ふん、何を言うかと思えばそんなことか、簡単なことだジョジョ、人は生きているうちにあらゆるものを欲する、それは名声であったり支配する力であったり金だったりする。
友人であったり結婚であったり人の役に立つことであったり愛と平和のためであったりする
だが何故人はそれを求める?何故求めてまで生きようとする?」
「何故……?」

コップに水が入っていくかのように、不思議とDIOの言葉はジョナサンの心に入り込んでくる。
ディオはジョナサンの周囲を回るようにゆっくりと歩きながら話しを続けた。

「それはなジョジョ、『安心』を得るためだとオレは思っている。
名声も支配も金も友人も結婚も人の役に立つことも愛も平和も、すべては自分が『安心』するために求めるのだ。『安心』こそが生きる上での『幸福』なのだ。
ではその反対に位置する感情、『恐怖』とは何だろうか?『恐怖』とは一体どんなときに沸き起こる?
それは『安心』を得られなかったとき、求めるものを得られなかったときだ。人はそれが起こったとき絶望し、『後悔』という形で心に刻み込み、何かに挑むことに『恐怖』するようになる
そうだろ?努力の末路がゼロになるだなんで誰だって思いたくないものだ
そうして人はどんどんと『恐怖』を心に抱えていく、挑むという行為をしなくなっていく。
しかし、人は大きな『恐怖』に直面すると、それまで得てきたものを失うかもしれないというそれ以上の『恐怖』を感じ、目の前の『恐怖』を振り払うために全身全霊をかけて積み上げてきたものを失うまいと何かを成し遂げようとする。それの連続によって人は『恐怖』を克服していくのだ。
……だがどれ程得ようとも、どれ程失おうとも、人の最後には必ず『死』が待ち受けている。それは人が抱える最大にして回避しようもない『恐怖』だ。『死』はなにもかもを台無しにしてしまう、それまで得てきたものをすべて無価値にしてしまう最悪の『恐怖』だ。
では真に『安心』を得るためには何をすべきだと思う?人にとってなにもかもを無にしてしまう『死』をいかに回避するか、あるいは『死』から……いや、あらゆる事柄から『恐怖』を取り払うには一体どうすべきだと思う?
……オレはそこにこそ生きるということの真理があると思っている。そしてそこに到達したとき真に『安心』を、『幸福』を得ることができるのだ。」

772トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:03:08 ID:RvLBe2q6

大衆を前に演説をする独裁者のような姿のディオに、ジョナサンは『恐怖』を覚えた。
ジョナサンの知っているディオと、目の前にいるディオには圧倒的な差がある。
もうこのディオはジョナサンの手の届かない場所にいるのではないか、ジョナサンの理解の範疇を越えた先に行ってしまったのではないか、……そんな気がした。

「このDIOは人を超越した……死を克服し、永遠を生きる唯一無二の存在となった。だから死の恐怖はこのDIOにはない
だがまだだ、まだオレは『幸福』を得ていない
故にオレは生きるのだ、真なる『安心』、『幸福』を得るために、『幸福』がある『天国』へと到達するためにな
真の勝利者とは『天国』を見た者のことだ……どんな犠牲を払ってでも、オレはそこへ行く」
「どんな犠牲を払ってでも……だって?」

ディオの言い放った言葉に、ジョナサンはぴくりと反応を返す。

「その犠牲が……例え血を分けた家族であってもか………?」

それはディオから話を聞いて以降、初めて感情の籠った言葉だった。

「なんだジョジョ?まさかお前「アレ」をずっと気にかけていたのか?無駄なことを……アレはオレが『天国』へ到達するための駒にするために作ったものだ。どうしようとオレの勝手だろう?」
「勝手……だと?ディオッッ!!彼は……ジョルノは君の血を引いた子どもだと言っていたじゃないかッ!自分の子どもを殺してまで得るものに虚しさを感じないのかッッ!!父の手で殺された彼の絶望に罪悪感はないのかッッ!!!」

ジョナサンの脳裏にはまだ色濃くこびりついている。ディオのスタンドがジョルノの腹を貫いたときの、ジョルノの愕然とした絶望に染まった顔が
それを歯牙にもかけないと言わんばかりのディオにジョナサンは嫌悪と怒りを持って声を荒げる。だがなおもディオは涼しい顔のまま、ジョナサンの言葉を切り捨てる。

「ほう、アレの名を知っていたか、まあそんなことはどうでもいい。血を分けた家族だからと言ってそれがどうだと言うのだ?どれ程血が繋がっていようと他人は他人、己とは異なる存在だ。違うかな?
それに忘れたのか?オレはジョースター家にくる前に父親を殺してる……今更身内殺しなんてなんでもないさ」
「 ッ!ディオ……!君は……君は……ッ!!」
「ああ、お前はそういうやつだった。家族には愛があって然るべき、親を伴侶を子を愛することこそが真の幸せだと思っている……そんなヘドが出るような思考の持ち主だった。だがなぁジョジョ
エリナ・ジョースター
ジョージ・ジョースター
ジョージ・ジョースターⅡ世
リサリサ……もとい、エリザベス・ジョースター
空条ホリィ
空条徐倫
おっと、肉体的にはお前の息子でもあるアレもそうか」
「……ッ!」
「気付いたか?そうだ、いずれもお前と血の繋がりのある者、或いはその伴侶である者たち、それもこの殺し合いで死んだ者たちの名だ…………なあジョジョ


お前の愛が、やつらの一体何を救ったと言うのだ?」

773トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:04:17 ID:RvLBe2q6


鋭く冷たく尖った刃を傷口に差し込まれ、ズタズタに引き裂かれるようだった。滅多刺しにされ、バラバラにされ、元の形がなくなってしまうほどぐちゃぐちゃにされていく。……なにもかもが崩れていってしまう。

「あ………」
「お前の愛がやつらを守ったか?いやそんなことはない、守らなかったからこそやつらは死んでいったのだからな
結局愛なんてものはそれほどまでに無価値で無為で無力なものなんだよ
一体やつらはどれ程の恐怖を抱えながら死んでいったのだろう?どれ程の絶望にまみれながら死んでいったのだろう?
……そして何故お前はこうしてのうのうと生きているのだろう?」

言葉の刃が、ジョナサンの心に止めを刺しに来る。
ガツンと頭を殴られたようだった。足元に確かな足場がない。手を伸ばそうにも灯りなんて何処にもない、そこは暗闇の荒野だった。地図もない、どこにいけばいいのかも分からない場所に、ジョナサンは放り出されてしまった。

「………………」
「……ああそうだ、お前が望むのならばひとつ……チャンスをやろう」
「チャンス……?」
「そう、チャンスだ。失ったものを取り戻せる唯一のチャンスだ
なぁに、簡単なことだ。『最後に生き残ったものがたったひとつだけ願いを叶えることができる』……覚えがあるだろう?
そう、この殺し合いを生き延びることだ。それこそがお前に残された最後のチャンスだ。だがそれを許してくれるほどこのゲームは甘くない……とうにそれは知っているな
だからこそ、ジョジョ
オレと同盟を組まないか?」
「…………同盟、だって?君と……?」
「そう、このDIOとだ。」

ディオの言っていることの意味が分からず、ジョナサンはディオの言葉を何度も心の中で反復させる。

「いまいち分かりづらかったかな?つまりはだジョジョ、オレとお前が協力して脅威となる参加者を始末して回るんだ
幸いにも今のオレは部下と『友人』に恵まれていてな、この会場にいる参加者のほとんどの居場所を突き止めることも可能だ
無論、その中には殺し合いに乗っている者や、反対に殺し合いに乗ることを是としない連中もいる、そいつらはこの殺し合いで生き残る上で邪魔な存在だ。分かるだろう?
そいつらの居場所をオレがお前に教え、お前はそいつらを始末する。シンプルだろう?
……ああもちろん、生き残れるのはひとりのみだ、だからそういう連中を全員排除できれば、その時点で同盟は解消、その後生き残れるかはお前次第だ
だが悪くないだろう?少なくとも今お前がおかれている状況よりかは失ったものをチャラにできるチャンスに恵まれているのだからなァ?」

暗闇の荒野に、光が差し込む。
それはひどく魅力的で、甘く、暗闇に閉ざされた心ではすがり付きたくなるほどの蠱惑的な光だった。

けれど、
どれ程綺麗であっても、どれ程強い光であろうと────所詮それは幻影でしかない
だが、頭では理解していても、心がそれを訴えてくれない。他の道が見えない以上、それにすがり付くしかない。

「…………」
「どうだジョジョ?うまくいけば取り戻せるどころか、大切な者と……エリナと永遠を生きられるぞ?」
「────ッ!!」

774トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:05:52 ID:RvLBe2q6

エリナ
もう会えない……本当に大切な人

ディオがジョナサンの正面に立つ、彼の言葉がジョナサンの心を締め付ける。

「  会いたいだろう?  」

けど、もう一度会えるかもしれない
大切な人たちと、また会えるかもしれない、取り戻せるかもしれない

エリナ

僕はもう一度

君と────

──────────

───────────────







「違う」



☆★



「違う……?何が違うと?」
「失ったものを取り戻せるから殺す?失っても取り戻せるから殺す?……そんなのは、違う、絶対に間違ってる」

確かな意思をもってジョナサンはディオの目を見つめ返す。
その目は暗く染まってなどいない、虚ろな目などではない。
その瞳の奥にあるのは────黄金の輝きを放つ、誇り高き意思。
ジョースターの『黄金の精神』が、確かにそこにあった。

「僕はもう……どんな形であろうと、大切な人を、家族を失いたくない!!」

足は地を踏みしめている。暗闇の中には、己にしか見えない、しかし信じることのできる光輝く道が見えている。
迷いなどない。ジョナサンの心には、爽やかな風が吹いていた────
その時のジョナサンは不思議なことに────本人はちっとも不思議に思っていなかったが────ある一人の人物を思い出していた。

ジョニィ・ジョースター
同じジョースターの姓を持つ、繋がりを感じて出会った始めの一人
ジョニィは偶然と言っていたけれど、きっと彼とどこかで繋がりがあるとジョナサンは確信していた。
あの繋がりは断たれてはならない、助けられなかったジョルノのように……そんな未来は、絶対にあってはならない

「ディオ!!君が無為に他の人の命を奪うと言うのなら、僕の家族を奪うと言うのなら!、
僕は君との青春に、決着をつけてやるッッ!!!」

コオォォォ と波紋の呼吸を発する。ディオに対し戦いの覚悟を示す。態勢はすでに臨戦状態へとなっている。
ディオは変わらず涼しい顔をしていたが、しかしその瞳からは何を考えているのか読み取ることができない。
パチパチパチ、とディオは拍手をジョナサンに送った。

「……さすがだ、ジョジョ。これほどまで突き落とされても折れぬとは、叩けば叩くほど伸びるのは本当に変わらんな。やはりジョースターは侮れん


だがなぁジョジョ」

ディオの声が背後からする。ジョナサンの視界からはとうにディオの影はない。急いで振り向くものの、そこにもディオの姿は影も形もない。

「お前はこのDIOを倒せはしない……既にオレは世界を支配する力『ザ・ワールド』を得ている。そんな生っちょろい貴様の波紋ごとき、このDIOに届きさえもしない。フーフー吹くなら……死に逝く者への地獄のラッパでも吹いているほうが似合いだぞ?」

至るところから声がする、それなのにその姿を捉えることができない。

(こ……これがディオのスタンドの能力なのか!?一体僕の身に、何が起こっている!?)

反響しているわけではない、だがどれかが本物で、それ以外が偽物の声なんていう子供だましのようなものでもない。
ジョナサンがディオのスタンド能力を見分けるには、圧倒的にスタンドに対する知識と経験が足りなかった。

「本来はこれは「アレ」の役目だったのだがな……ジョジョ、オレはこれからお前の血を吸い、この肉体を馴染ませる。なにせこれはお前自身の体だ、これ以上ないまでに馴染むだろう。そこに余計なものなど一切必要ない」
「! そんな理由でジョルノを殺したのか!!」
「お前の血がある以上、アレの存在はオレにとって『天国』への道を阻む障害でしかない……だから始末したのだ」

淡々と事実のみを語るディオに対し、ジョナサンの怒りで握っている拳をさらに握りしめ、掌へと爪を食い込ませる。心は熱の激流で満たされていく。

775トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:06:39 ID:RvLBe2q6

「さあジョジョ、無駄な時間はここまでだ。
お前の血は我が永遠の糧となり、お前の肉体は我が未来であり続ける……

そしてその血を吸った暁にはジョジョオオ!!貴様に連なる者どもを根絶やしにしッ!我が『天国』への踏み台にしてくれるわ!!!」

ディオの姿が突如としてジョナサンの目の前に現れる、ディオの腕が振り上げられ、その指はジョナサンの血を吸うべく首筋へと向かおうとしている。驚愕しとっさに反撃しようとするも……

「もうおそい!回避不可能よッ!お前の血は我が永遠の糧となり、お前の肉体は我が未来であり続けるのだ、ジョジョオオォォ!!!」

ディオの手がジョナサンの首へと伸びる。もう届くまで数瞬もない

(そんな────僕はここで終わるのか……?何もできずに、何も成し遂げられずに、ただディオに血を吸われて死ぬのか……?)

それは絶対に回避するべき事象だった。けれどももう術はない。勇気も策も、圧倒的な力の前ではなす術もなく押し潰されるのみ。ただ惨めに、潰された姿を晒すしかない。

(エリナ…………すまない…………)

ジョナサンにはただ一言、愛しい人に何も出来なかったことを悔い、謝るしかなかった。

そして────



─────ブゥン!!!



「ぐおぉ……!?」
「……な……?」

ジョナサンに最期の時は訪れなかった。
代わりにジョナサンの元へ現れたのは……一匹の「蠅」

「い……今、一体……?」

ジョナサンの首筋にディオの指先が届く瞬間、まるでそれから庇うかのように一匹の蠅がディオの指先に触れ、ディオの指を弾き返した。

(この会場に来てから虫なんて見てはいない……じゃあこれはスタンドによるもの?誰が、一体どうして……?)

ジョナサンの中に渦巻く疑問は、しかしほとんど間を空けることなく解決することになる。

ザッ  ザッ

何故ならその蠅を産み出した本人が────死んだと思われていたその少年が、草木を踏みしめその陰から再びその身を現したのだから



「…………ジョルノ?」
「………………」

ジョナサンはその少年の横顔を捉えながら名を呼ぶ、しかし少年────ジョルノはそれが聞こえていないかのようにぴくりとも反応しない。
顔は青白く、歩みもおぼつかずふらついている。貫かれたはずの腹の傷口は何故か埋まっていたが、所々出血していた。

だがその顔だけは、激情に燃えるその瞳だけは、目の前の一人だけを映していた。

「DIO……貴方は……貴方は僕にとって……」

カラカラになった喉から、それでも彼は言葉を紡ぐ。
そして、目の前の『父だったもの』に言い放った。



「倒すべき、『悪』だ」



─────それは決別の宣戦布告だった。



☆☆★

776トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:07:41 ID:RvLBe2q6



「……面白いことを言ってくれるじゃあないか、我が息子よ。そのセリフ、鏡を見てからもう一度言ってみてくれないかな?」
「…………」

ダメージを反射された指をぷらぷらと揺らしながらDIOは挑発する、しかしジョルノの瞳はまったく揺らぐことはない。
だがDIOの言葉は事実を示しており、今のジョルノの姿は誰がどうみてもまさに満身創痍と言えるものだった。

「…………ええ、今の僕では貴方に勝てません。貴方のその『時を止める』能力に勝つ方法が、僕にはまだ分からない」
「ほほーう、我がスタンド能力を見破ったか、ひょっとしてかつて似たようなスタンド能力を持つ者と遭遇していたか?
……まあいい、ではこれからどうする?まさかまた殺されに舞い戻って来たわけでもあるまい?」

ジョルノの瞳がほんの少しだけ揺らぐのを、ジョナサンは確かに見た。けれどそれは本当に少しの間だけで、次の瞬間には元のはっきりとした覚悟を湛えた眼に戻っていた。

「そうですね、僕がこうして出てきたのは、ほんのちょっぴりの時間稼ぎです。」
「時間稼ぎだと?」
「ええ、そろそろ聞こえませんか?」

ジョルノの言いはなったその直後に、ジョナサンの耳に何かの音が聞こえてきた。


ブブブブ─────

「時間稼ぎ、そうです。いくら時を止めようと関係ない、僕が考えた精一杯の『逃走経路』」

ブブブブブブ─────

「例え時を止めようと……視界が防がれてしまえば意味はないでしょう?」

ブブブブブブブブブ─────!!

「ではまた近いうちにお会いしましょう───それまではさようなら、『父さん』」


そして
DIOとジョナサンの視界は、────ジョルノの産み出した大量の『虫』によって真っ黒に閉ざされた。



ぐい、と何かに腕を引っ張られ、思わず足がもつれそうになるも、腕を引かれるがままジョナサンはなんとか駆け出した。
耳は大量の虫が生み出す羽音に埋め尽くされ、視界もまた虫によって防がれているため一体何が起こっているのかさっぱり分からず、ジョナサンは己の身を引く存在に進む方向を委ねながら走り通した。
やがてジョナサンは階段を昇っていき、それが地上へと続いている階段だと気づいたころに大量の虫は一気に姿を消した。

「────はぁーーー!」

ほどなくして階段を昇りきり、ジョナサンは息を吐く、何せ走っていたうえに虫のせいで呼吸もままならなったのでここにくるまでずっと息苦しかったのだ。
呼吸が落ち着いた頃、ジョナサンは顔を上げる。そこはサン・ジョルジュ・マジョーレ教会の地上で、ジョナサンが訪れた時のまま、今にも崩れ落ちてしまいそうなほどボロボロであった。
その様子を少しだけ見渡し……間もなくジョナサンの視線はうずくまる金髪の少年の姿を捉えた。

「ジョルノ!!」

急いで傍まで駆けつけ、ジョルノの様子を確かめる。顔は先程よりも血の気がなく、腹の出血もひどくなっている。慌てて波紋を流し込み治療をする。それによりなんとか気色は良くなり、出血もかなり抑えられた。

「……う……」

ジョルノが小さく呻き、床に手をつき立ち上がろうとする。が、腕に力が入らず、足も震えており、立つどころか体を起こすことすらままならないようだった。

「無茶をしてはだめだ、今は体を休めて……」
「…………た……」
「え?」

ジョルノの口が微かに震え、何か言葉を紡ぐものの、ジョナサンの耳にはほとんど聞こえない。
耳を澄まし、ジョナサンはジョルノに聞き返す。

777トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:08:34 ID:RvLBe2q6

「すまないジョルノ、今なんて……」
「……貴方、どうして……僕の名前を、知ってるんですか……?」

DIOはジョナサンの前でジョルノの名前を直接呼んでない。
ジョナサンにジョルノのことを語っていた際も、始終「アレ」呼ばわりで決してジョルノの名を明かそうとしなかった。にも関わらずジョナサンはジョルノのことを前もって知っていたかのようにその名を呼び、DIOに食って掛かっていた。
ようやく途切れ途切れに聞こえてきたジョナサンに対する疑問に、ジョナサンは素直に答える。

「あ……ああ、君のことは君の仲間から聞いていた。ナランチャにフーゴ、それにトリッシュも」
「…………彼らは……」
「ああ、今は離れ離れになってしまったけど、みんな無事だ」

ジョナサンの返答に対し、ジョルノは安堵したかのように息を吐く、彼が今まで出会った人の中で知り合いだったのはグイード・ミスタ一人のみで、放送で呼ばれたブチャラティとアバッキオ、ポルナレフ以外の仲間の行方はまったく分からなかったので、ジョナサンの口から彼らの名前が出たのはジョルノにとって喜ばしいことであった。
しかし、今の状況では手放しに喜ぶことはできない。ジョルノはなおも力の入らない体で立ち上がろうとする。

「ジョルノ!今は動かなくて良い、移動したいのなら僕が君を抱えるから無茶は────」
「……今、立たなければ、ならないんです……」
「……ジョルノ?」

震える体で無理矢理立ち上がろうとするジョルノに対し、ジョナサンは気づきはじめる
先程のDIOに対するあの姿勢は、精一杯の虚勢だったのだと
彼の心が、その見た目以上に、ボロボロになっているのだと
そして今もなお、その事実をひた隠し、崩れ落ちそうになりながらも立ち上がろうとしているのだと
ジョナサンはそんな彼の様子を見、胸の奥がズキリと痛む。

(ジョルノはきっと強い子なんだ、今までも数々の困難を乗り越えて来たに違いない
けど……今は逆にそれが足枷になっている。どんなに傷つこうと、どんなにボロボロになっても、決して心は折れることはない……折れることを、自分自身が許さないんだ)

だったら、彼のために、自分は何ができる?


『お前の愛が、やつらの一体何を救ったと言うのだ?』


ディオの言葉の刃が、ジョナサンの胸に突き刺さる。
ジョナサンは一度、眼を閉じる。

(僕は……何もできなかった。大切な人が苦しんでいたときに、そんなことも知らずにのうのうと息を吸っていた……
けど、そこで立ち止まってはだめなんだ。今を生きている以上、いなくなってしまった人たちの分の意思を無駄にしてはならない
去ってしまった人たちの意思は、受け継いでいかなくてはならない、さらに先に進めていかなくてはならない)

(エリナ……今の僕に、ジョナサン・ジョースターに、できることは─────)


ジョナサンは眼を開く、その心に光が降り注ぐ
その瞳に映るのは─────


☆☆

778トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:09:43 ID:RvLBe2q6


どれ程崩れてしまいそうになっても、壊れそうになっても、挫けている時間はない、砕けるようなことはあってはならない、……折れるなんてもってのほか。


────たった一歩だけでいいんだ

────一歩踏み出して立ち上がるだけでいい

────それだけで僕はまた立ち向かえる

────『悪』に、立ち向かう勇気が出てくる

────ブチャラティ、アバッキオ、ポルナレフさん……ウェザー、彼らの意思を……

────タルカスさん、彼も恐らく、もう…………本当に、すみません

────けど、立ち止まっては行けない、僕は立ち上がらなければならない

────一歩、たった一歩だけでいいんだ、それだけで勇気が湧いてくる

────一歩、だけで……


『お前はもう────用済みだ』


────………………




「ジョルノ」



☆☆



己の名前が聞こえて、顔をあげる。
瞳に映ったのは、さっき会ったばかりの男
……そういえば、名前もまだ知らなかった。

「君は本当に強いな。……僕がディオに血を吸われそうになったときも、君は僕を庇ってくれた。もう自分のことで手一杯だったろうに、地下から僕を引っ張ってここまで僕を導いてくれた。本当の覚悟と勇気がなければ、こんなことできっこない」

男の手がジョルノの手を握る、とても大きくて、それでも不思議と暖かさを感じる手

「……参ったなあ。情けないけど、こんなときどんなことを話していいのか分からない
何か話せばいいのか何も言わない方がいいのか……
話すなら何を話せばいいのか、慰めればいいのか元気付ければいいのか、好みの音楽のことを語ればいいのか……
いや、ごめんよ、変なことばっかり言ってしまって
でもジョルノ、僕から君に言えることで、たった一つ確かなことがある。これだけ言わせて欲しい…………信じて欲しい」

男の口から不思議な呼吸音が聞こえる。
けれどもちっとも不快はない、男の握っている手から暖かな感覚が広がっていく。全身に染み渡っていく。……空いた隙間が満たされていく。



「僕は、君の味方だ」



ジョルノは男の手を無意識に握り返す。胸の奥が熱い何かで満たされ、溢れかえってくる。全身の芯に生命が注がれていくような感覚がする。……足はもう、震えていない。
男が立ち上がる。自然とつられてジョルノもまた立ち上がる。その動作の一つ一つがまったく苦にならない。男に支えてもらっているからだろうか、それとも……

「君が立ち上がりたいときは、僕も一緒に立ち上がろう
君が立ち向かいたいというなら、僕も一緒に立ち向かう
一人でなにもかもしようとしないでくれ、……僕が、君と一緒にいる」

ジョルノは顔をあげる、高い位置にある男の顔は穏やかだった。ジョルノが今まで見てきた色んな人のどの顔よりも、優しい顔
ジョルノの心には、いつか感じた爽やかな風が吹いていた。

779トリニティ・ブラッド ?リライト?  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:11:11 ID:RvLBe2q6

「どうして」
「……なんだい?」
「貴方はどうして、そんなことが……」

ジョルノはDIOの息子で、DIOの体は男の体を乗ったもので。つまり男からしてみれば、ジョルノは愛した人ではない人との間で勝手に産まされた子で……

「やっぱり聞いてたんだ、ディオの話」
「……」
「そんなことは関係ないよ、君は僕を『救って』くれた、それだけで十分さ」

ゆるゆると男は首を振る。

(…………あ)

そしてひどく今更に、気づいた
なんで気がつかなかったのだろう、DIOの存在があまりに大きかったからだろうか、ジョルノが男のことをまったく知らなかったからだろうか。……とにかく、ジョルノはその時ようやく、その事実に気がついた。

(じゃあ、この人は僕の…………もう一人の────)


────父親


それは夢見心地なんてものじゃない、曖昧で漠然としてて、ぼんやりとした感覚でしか知覚できないことであった。
でも、それでも、本人たちに自覚がなくても、お互いに好みの音楽どころかその存在を知ったばかりだったとしても


『僕は、君の味方だ』


────その言葉はジョルノにとって、血の繋がりがある『家族』からの、初めての暖かな言葉だった。

「…………貴方は……」

なんと言えばいいのか分からないのはジョルノもまた同じで、それでも男のことをなにか知りたくて、形にしきる前に言葉に乗せようとして────



────……ブゥン



一匹の『蠅』が、ジョルノの元へとたどり着いた。

「……あれ?これはさっきの?」

男はそれを見て、きっと先程の逃走の際の、消えきっていなかった虫の一匹だと思ったのだろう。
でも違う、その蠅はもっとずっと以前にジョルノが生み出したものだった。ここにくる以前に『ある男』の元へと辿り着くよう向かわせたはずのものだった。

ジョルノは男から手を離し、代わりにその蠅を握る。次にジョルノが手を開けた時にはその蠅は姿を消し、手のひらには二つの『切れ端』があった。
一つは場所が書かれているメモ、一つは『ある男』のブーツの切れ端
本来ならその蠅はブーツの切れ端の持ち主の元へとたどり着くはずだった。けれど蠅は持ち主を見失い、主人の元へと戻ってきた。そのことが意味するのは……

「…………ジョルノ?」


────その蠅は『グイード・ミスタ』の死を知らせた、文字通りの「虫の知らせ」となった。



☆☆ ☆



ふらり ふらりと彼女は教会の中へと入っていく
己の思うがままに、体の感ずるがままに

やがて彼女の視界には、2人の人影が映る
2人とも何かに気をとられているようで、彼女には気がついていない
彼女は思う、あの2人から「気配」を感じると、ずっと知りたかった「空条徐倫」のルーツがあると
その内の一人に、彼女は記憶の中の影を重ねた

(………『父さん』………)

────彼女は2人に、ゆっくり近づいていく

780トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:12:19 ID:RvLBe2q6




【E−6 北部/一日目 午後】

【ナランチャ・ギルガ】
[スタンド]:『エアロスミス』
[時間軸]:アバッキオ死亡直後
[状態]:額にたんこぶ(処置済み)&出血(軽度、処置済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者をブッ飛ばす!
0.ブチャラティ、アバッキオ…!!
1.放送まちがいとかふざけんな!!
2.よくわかんないけどフーゴについていけばいいかな
3.フーゴとジョナサンを追う

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:肉体的疲労(中程度までに回復)、失恋直後、困惑
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服
[道具]:基本支給品×4、破られた服、ブローノ・ブチャラティの不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
1.ルーシーが心配
2.地図の中心へ向かうように移動し協力できるような人物を探していく(ただし情報交換・方針決定次第)
3.フーゴとジョナサンを追う
4.ウェカピポもアバッキオも死んでしまったなんて…
5.玉美、うっさい

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:全身打撲(ほぼ回復)、悶絶(いろんな意味で。ただし行動に支障なし)
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
1.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。
2.とりあえずトリッシュ様に従って犬のように付いて行く。
3.あくまでも従うのはトリッシュ様。いくら彼女の仲間と言えどあまりなめられたくはない。
4.トリッシュ様に従い、2人(フーゴとジョナサン)を追う。
【備考】 彼らはSBR関連の事、大統領の事、ジョナサンの時代の事、玉美の時代の事、フーゴ達の時代の事、この世界に来てからの事についての情報を交換しました(知っている範囲で)

【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:疲労(小)、困惑
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いたい。
1.ジャイロを探す。
2.第三回放送を目安にマンハッタン・トリニティ教会に出向く
3.ジョナサン!?僕の本名と同じだ。僕と彼との関係は?
4.ジョナサンを追う?それとも……
[備考]
※現在ジョナサンと共鳴しあってますが、距離が遠く他に気配が複数ある(DIOとジョルノ)ことに気がついてません。


【ナルシソ・アナスイ】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:全身ダメージ(中程度に回復)、体力消耗(中)、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:空条徐倫の意志を継ぎ、空条承太郎を止める。
0.徐倫……
1.情報を集める。
2.空条邸へ向かう
【備考】
ジョニィとアナスイは、トリッシュ達と情報交換をしました。この世界に来てからのこと、ジョナサンの時代のこと、玉美の時代のこと、フーゴ達の時代のこと、そして第二回の放送の内容について聞いています。

781トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:14:00 ID:RvLBe2q6



【D−3 西側、街中のそれぞれどこか/一日目 午後】

【ヴァニラ・アイス】
[スタンド]:『クリーム』
[時間軸]:自分の首をはねる直前
[状態]:左肩貫通、プッツン
[装備]:リー・エンフィールド(10/10)、予備弾薬30発
[道具]:基本支給品一式、点滴、ランダム支給品1(確認済み)『オール・アロング・ウォッチタワー』のダイヤのK
[思考・状況] 基本的行動方針:DIO様のために行動する。
1.イギーと、一緒にいた少年(フーゴ)を始末する。


【マッシモ・ヴォルペ】
[時間軸]:殺人ウイルスに蝕まれている最中。
[スタンド]:『マニック・デプレッション』
[状態]:健康、怒り
[装備]:携帯電話
[道具]:基本支給品、大量の塩、注射器、紙コップ
[思考・状況]
基本行動方針:空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい。
0.DIOの下に『空条徐倫』を連れて行く。
1.空条承太郎、DIO、そして自分自身のことを知りたい 。
2.天国を見るというDIOの情熱を理解。しかし天国そのものについては理解不能。
3.フーゴを殺す
[備考]
※現在怒りで3以外の事柄がほとんど頭にありません。時間が経つかなにかきっかけがあれば思い出すでしょう。
※携帯でDIOへ留守電を残しました。どのような内容なのかは後の書き手様にお任せします。


【どう猛な野獣タッグ 結成】

【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1.ヴァニラ・アイスをぶっ飛ばす。
2.花京院に違和感。
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わない
4.穴だらけ(フーゴ)と行動

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:右足首にダメージ、体力消耗(中)、やや困惑
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.先の襲撃&追撃に引き続き警戒。
2.利用はお互い様、ムーロロと協力して情報を集め、ジョルノやブチャラティチームの仲間を探す(ウォッチタワーが二枚とも消えたため今の所はムーロロには連絡できません)
3.ヴォルペと襲撃してきた男(ヴァニラ)を倒す(ヴォルペ優先)
4.ひとまず犬(イギー)とともに行動
5.教会に戻りジョナサンと合流する
6.アバッキオ!?こんなはやく死ぬとは予想外だ。
7.ムーロロの身に何か起こったのか?
【備考】
『オール・アロング・ウォッチタワー』のハートのAとハートの2はムーロロの元に帰り、消えました。

【備考】
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会から南東方向にイギーVSヴァニラ、フーゴVSヴォルペの戦闘跡があります。

782トリニティ・ブラッド −リライト−  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:15:59 ID:RvLBe2q6



【D−2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地上/一日目 午後】

【『ジョジョ』ファミリー】

【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:全身ダメージ(小程度に回復)、貧血(ほぼ回復)、疲労(小)、
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、不明支給品1〜2(確認済、波紋に役立つアイテムなし)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
1.ジョルノと一緒にいる。……絶対に彼を一人にしない
2.ディオ……。
3.先の敵に警戒。まだ襲ってくる可能性もあるんだから。
4.フーゴやナランチャたちと合流したい
5.知り合いも過去や未来から来てるかも?
6.仲間の捜索、屍生人、吸血鬼の打倒。
7.ジョルノ……どうしたんだ……?
[備考]
※DIOからDIOとジョースター家の因縁の話を聞かされました。具体的にどんなこと聞かされDIOがどこまで話したのかは不明です。(後の書き手様にお任せします。)

【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(大)、精神疲労(大)、腹部損傷・出血(G・E&波紋で回復中)
[装備]:閃光弾×3
[道具]:基本支給品一式、エイジャの赤石、不明支給品1〜2(確認済み/ブラックモア) 地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
1.???
[参考]
※時間軸の違いに気付きましたが、まだ誰にも話していません。
※ミキタカの知り合いについて名前、容姿、スタンド能力を聞きました。
※DIOがジョナサンに話したDIOとジョースター家の因縁の話を一部始終聞きました。具体的にどんなことを話しどこまで聞いていたかは不明です。(後の書き手様にお任せします)
※149話「それでも明日を探せ」にて飛ばした蠅がミスタが死亡したことによりジョルノの元へと帰ってきました。


【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:髪の毛を下ろしている
[装備]:体内にF・Fの首輪
[道具]:基本支給品×2(水ボトルなし)、ランダム支給品2〜4(徐倫/F・F)
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい(?)
混乱
1.『あたし』は、DIOを許してはならない……?
2.もっと『空条徐倫』を知りたい。
3.敵対する者は殺す?
[備考]
※何故F・Fが教会に入れたのか(ジョンガリ・Aに狙撃されなかったのか?)の理由については後の書き手様にお任せします。

783トリニティ・ブラッド ?リライト?  ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:17:43 ID:RvLBe2q6






「ジョジョを連れて逃げたか……ふん、ジョースターと引き合うとはやはりこのDIOの息子、か」

「まあそう問題ではない、やつらはまたこのDIOの元へとやってくるだろう、やつらのジョースターの血が、くだらん正義感が、このDIOの存在を許しはしないからな」

「……やはりそうでなくてはな、わざわざ呼び寄せる必要などない、やつらは必ずこのDIOに立ち向かってくる……我が野望の前に立ち塞がってくる」

「……ああ、そうだ……!」

「我が野望の路上に転がる石クズどもよ……」

「我が天国への階段に立ち塞がる塵どもよ……!」

「貴様らの血肉をもって、我が永遠の、そして天国への足掛けとしてやるッ!」

「さあ、来い………!」



「『ジョースター』ッ!!」






【D?2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地下/一日目 午後】

【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(大)疲労(大)
[装備]:シュトロハイムの足を断ち切った斧、携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発『ジョースター家とそのルーツ』『オール・アロン グ・ウォッチタワー』のジョーカー
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.ジョジョ(ジョナサン)の血を吸って、身体を完全に馴染ませる。
2.承太郎、カーズらをこの手で始末する。
3.蓮見琢馬を会う。こちらは純粋な興味から。
4.セッコ、ヴォルペとも一度合流しておきたい。
[備考]
※携帯電話にヴォルペからの留守電が入ってます。どのような内容なのかは後の書き手様にお任せします。
※ジョンガリ・Aと情報交換を行いました。
※ジョンガリ・Aのランダム支給品の詳細はDIOに確認してもらいました。物によってはDIOに献上しているかもしれませんし、DIOもジョンガリ・Aに支給品を渡してる可能性があります。

【備考】
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会が崩壊しかかってます。次に何らかの衝撃があれば倒壊するかもしれません。



      ★

   ☆☆☆☆☆ ☆
   ☆

784 ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:22:09 ID:RvLBe2q6
#じl(■8c。
誤字脱字、矛盾の指摘等ありましたらよろしくお願いいたします。

……余談ですが、仮投下時との大きな変更点として話を二分割し、それぞれに副題をつけさせていただきました。
それぞれ『BUMP OF CHICKEN』の曲『カルマ』、『ASIAN KUNG-FU GENERATION』の曲『リライト』が元ネタとなっておりますが、この作品のイメージソングにもなっていますので、合わせて見ていただくと拙作をより楽しめる……かもしれません

ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました。

785 ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:25:20 ID:RvLBe2q6
うわわ、ミスってトリップキーさらしちゃってますね……
申し訳ありません、次に書き込みするときはトリップキーを変えさせていただきます……

786 ◆Khpn0VA8kA:2014/06/10(火) 01:44:16 ID:RvLBe2q6
申し訳ありません、代理投下してくださる方にお願いします。>>784のトリップキーの部分を消した上で以下の内容も書き込みしてください。


────
申し訳ありません。したらばの本スレ転載用スレにて不注意によりトリップキーをさらしてしまいました。次に書き込みをするときは別のトリップで書き込みいたします。
ご迷惑おかけして申し訳ありません。

787 ◆3hHHDZx0vE:2014/06/10(火) 21:39:23 ID:RvLBe2q6
転載中失礼します。◆Khpn0VA8kAです。
どうも書き込み中に不具合で投下終了宣言の部分が何故かトリップキーに変換されてしまったみたいです。今後の書き込みやWiki収録時はこちらのトリップを使用します。
お騒がせしてすみませんでした。

788 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:01:40 ID:yhRZKQnM
本スレに転載をお願いします。

789獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:02:58 ID:yhRZKQnM

◆ ◆ ◆


 ぱらぱらぱら、と砂が降り注いでいる。
 それは、一人でさ迷う男の上にも、同じように。

「パンナコッタ・フーゴ…」

 そう虚ろな瞳で呟く男の名は、マッシモ・ヴォルペ。
 フーゴを見失ってから、彼はずっと一人で仇を探し続けていた。

(壁を削り取ったスタンド使いと、砂を操るスタンド使い…。
 壁を削ったのは、DIOの話で聞いた「この世界の空間から姿をまったく消す」スタンドを持つ、ヴァニラ・アイスだろう。
 フーゴは、ヴァニラ・アイスと敵対していた、砂を操るスタンド使いと一緒にいるのか…?)

 砂が降っているのはあまりに広範囲で、その砂を目印にフーゴ達を見つけ出すことはできない。
 だが、奴らがこのエリアにいることだけは確実だ。
 ヴォルペは注意深く、視覚と聴覚を強化して居場所を探る。
 そして。

 カツ、と。
 音がした。
 頭上から。

 ぐるん、と物凄い勢いでヴォルペは音のした方を見上げ、強化した肉体で一気に屋根まで跳びあがる。どぉん、という衝撃と共に着地し、彼はそこにフーゴとイギーの姿を見つけた。
「見つけたぞ、フーゴ…」
「くそッ」
 彼らは見つかったことに驚きを隠せないようだったが、すぐにスタンドを出した。
 そして、ヴォルペが彼らに向かって一歩を踏み出した時――――

 ガボンッと、ヴォルペのいた足場が崩れた。

 ヴォルペは、自身のスタンドを踏みつけて、再び屋根の上に戻ってきた。あまりに強く蹴りだしたため、スタンドの腕がめき、と嫌な音を立てる。もちろんそれはヴォルペにも反映されるのだが、彼の〈マニック・デプレッション〉の能力によって、その傷はすぐに治ってしまう。
 穴から抜け出したヴォルペを、フーゴとイギーが待ち受ける。おそらく、先ほどの驚愕は演技だったのだろう。最初から、こうする予定だったのだ。
 ヴォルペは、フーゴだけに視線と殺意を向ける。
 両者が激突する、まさにその瞬間――――

「ワンッ!!」

 犬が叫んだ。見れば、降り続く砂が妙な所で途切れている。球を描くように。そして、それはだんだんこちらに近づいてくる。
 ヴォルペは、その現象を知っていた。

 ガオンッ!!

 「それ」は屋根を消失させた後、動きを止めた。そして、現れたスタンドの口の中から、ヴァニラ・アイスが顔をのぞかせる。おそらく、ヴォルペ達が戦う音に引き寄せられたのだろう。
 ヴァニラ・アイスを見るや否や、イギーとフーゴは屋根から飛び降りた。そして、そのまま逃走を開始する。まるで、最初から彼が現れたら逃走すると決めていたかのように。

790獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:03:55 ID:yhRZKQnM

「………」

 マッシモは、そんな二人を追いかけもせず、じっと観察した後、再び自分が落ちた穴に目を移した。
 その中には、砂に埋もれるようにしてカプセルのようなものが転がっていた。
 彼らは、ヴァニラ・アイスの開けた穴を砂でコーティングし、パープル・ヘイズのカプセルを中に仕込んでおいたのだった。
 それを見つめていたヴォルペは、ゆらり、と体重を移動させると、強く屋根を蹴り地面に降り立った。

 そして、二人を追いかけようと暗黒空間に潜り始めたヴァニラ・アイスに。
 二度も自分の邪魔をした、彼に向って。

「おい、ヴァニラ・アイス…」

 声を、かけた。


◆◆◆


「はぁー、はぁー…」

 壁に手をつき、フーゴは大きく呼吸を繰り返す。
 足のダメージは強く残っており、走るたびに痛む。
 だが、立ち止っているわけにはいかない。こうしている間にも、マッシモ・ヴォルペとヴァニラ・アイスはフーゴとイギーを探しているのだ。加えて、フーゴの息は上がっているのに対し、追いかけるヴォルペの呼吸に乱れはない。彼はダメージも全てそのスタンドで強制的に治してしまうので、両者の機動力は開くばかりだ。
 次に追いつかれたら、その時が最後となるだろう。
「ワン!」
 イギーが吠え、フーゴが手をついている壁に向かって低く唸る。
 なんだ、と思う間もなく。

 ドゴオッ!!

 その壁が、吹っ飛ぶように破壊される。
「う、うおおおおおッ!!」
 壊された壁の破片が、散弾銃のようにフーゴの体に迫る。
 慌ててスタンドで防ぐが、全ては打ち落とせない。どすどすどす、と重い衝撃が体を貫く。
 フーゴの体は吹っ飛ばされ、通りの真ん中に転がった。
 なんとか顔を上げたフーゴの視線の先に、マッシモ・ヴォルペがいた。
「う、うう…」
 フーゴは立ち上がれず、手で体を支えながらずるずると後ずさる。そして、イギーの方をちらっと見た。
 イギーはマッシモ・ヴォルペに向かって戦闘態勢を取る。しかし、すぐにぎょっとして目を見開いた。
 ヴォルペの後方に、ヴァニラ・アイスのスタンド、〈クリーム〉がその姿を現していた。ヴァニラ・アイスはそのスタンドの口の中に入り込み、フーゴ達の方を見ていた。
 イギーは血を流すフーゴとヴァニラ・アイスを交互に見て、結局フーゴを見捨ててさっさと走り出してしまった。
 ヴァニラ・アイスは、その逃げた犬の方を追いかける。砂によって自身の移動先を知らせる、厄介な犬の方を。

 残ったフーゴは、ガタガタ震えながら、ゆっくりと近づいてくるマッシモ・ヴォルペを見た。

791獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:04:58 ID:yhRZKQnM

「ち、ちがうんだ…。全て、ジョルノに命令されたことなんだ…ッ!」
 それは、いかにも哀れな姿だった。策も何もなく、ただただ生にしがみつく、みっともない男の叫びだった。
 ヴォルペはその声を無視し、距離を詰めていく。そして、フーゴのスタンドの射程範囲ぎりぎりの所で、足を止めた。
「や、やめてくれ…こないでくれ…」
 そうやって、ひたすら命乞いをする相手に。
 ヴォルペは、怒りも憐みの感情も浮かべなかった。ただ、湖面にひろがる波紋のように、静かに口を開く。

「…考えなかったのか。

 お前たちが手を組んだように、俺達も手を組んだと」

 ぴくり、とフーゴの表情に変化が現れる。
「次の作戦は何だ?あの犬はおとりだろう?砂でできた人形か何かだ。
 そうやって分断させた所を二人で叩く。なるほど、良い考えだ。
 俺も、同じことを考えた…」
 びりり、と肌が焼けつきそうな殺気が辺りに充満する。
「マッシモ…!!」
 フーゴはもう、哀れっぽい顔をしていない。ダメージが残っているのか膝立ちのままで、それでもヴォルペを強く睨みつけ、スタンドを出す。
 その拳のカプセルが、一つ減っていた。
 フーゴのことだ、おそらくまた何かの罠に使ったのだろう。だが、そのスタンドの射程範囲内にヴォルペは入らない。
 焦るように、フーゴは拳を握る。

 そんな彼のそばに、ヴァニラ・アイスのスタンド、〈クリーム〉が迫っていた。

 砂塵は降り注ぎ続けているが、フーゴは目の前の相手に集中していて気付かない。
 イギーも、イギーのスタンドも、姿を現さない。今さら出てきたところで、砂を集める時間も余裕もない。

 その様子を見て、ヴォルペは笑った。狂気の混じった、甲高い笑い声だった。
「お前を殺せないのは残念だが!!代わりにジョルノもナランチャもトリッシュも俺が殺してやる!!お前がやったのと同じように、お前の大事なものを全て壊してやる!!」

 フーゴの瞳に、漆黒の炎が燃え上がる。

「マッシモォォォォォォォォォッ!!」



「―――ああ、その顔が見たかったんだ」



  ガ  オ  ンッ!!

792獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:06:15 ID:XQ6N4WmI




 一陣の風が吹いたのち。

 何もない空間から、一人の男が姿を現す。
 ヴァニラ・アイス。DIOの腹心の部下だ。

 早くDIOの元へと戻らなければならないのに、消さなければならない敵が増え、彼は声をかけてきたマッシモ・ヴォルペと手を組んだ。

 彼は犬を追いかけた振りをし、すぐに引き返して、マッシモ・ヴォルペと対峙していたフーゴを背後から襲ったのだ。
 簡単な作業だった。そこに、卑怯だの、汚い手だのといった感情は、一切ない。
 そして暗黒空間から出て、始末したフーゴを目で確認した時。
 彼は、驚愕で目を見開いた。

 消えていたのは、マッシモ・ヴォルペの下半身の方だった。

「バカな…!!」
 その動揺から回復する前に、ビチャ、と何かが彼の頬に跳んだ。
 その液体は赤く、粘ついていた。
 なんだ、と思う間もなく、その液体が跳ねた場所を中心に肌が崩れていく。水泡ができ、それがすぐに裂け、激痛がヴァニラ・アイスを襲う。
 それは紛れもなく、パープル・ヘイズのウイルスに感染したのと同じ症状だった。
(バカな!!奴のスタンドは射程距離外のはずッ!!)
 視線を巡らせた先には、砂でできたボールがあった。それは割れていて、中は空洞で、その中から赤いものがこぼれ出ていた。

(まさか――感染した誰かの肉体の一部を、密閉した砂の中に詰めて――)

 彼がまともに思考できたのはそこまでだった。
 激痛と、体が崩れさるという恐怖に、彼はスタンドを発動させ、無暗やたらにそこら中を駆け巡り始めた。
 ウイルスに侵されたせいで、崩れていく体とともにその球体もどんどん小さくなっていく。だが、そんなことに構っている余裕はなかった。
 そこにあるのは、忠誠心などではなく、ただDIOの役に立てないまま死ぬという、恐怖だけであった。

 ヴァニラ・アイスはミスを犯した。
 もし彼がいつものように、容赦なく無慈悲に、暗黒空間に全てを飲み込んでいれば、こんなことにはならなかっただろう。
 だが、彼は考えてしまった。
 DIO様に褒められたい、と。
 だから初めは、タルカスとイギーを『取るに足りない』と、見逃した。
 だからマッシモ・ヴォルペと手を組み、『手っ取り早く』敵を葬る道を選んだ。
 それこそが、破滅への道だと知らず。


『DIO様アアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 暗黒空間の中で、誰一人聞くことのない世界の中で、叫び声をあげながら。
 ヴァニラ・アイスは、自身が今までそうやってきた相手と同じように、何も残さず消えていった。





──────────── ──── ── ─

793獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:07:08 ID:yhRZKQnM
 ………時は、少しだけ遡る。



「マッシモォォォォォォォォォッ!!」



「―――ああ、その顔が見たかったんだ」



(今だッ!)

 フーゴとマッシモ・ヴォルペの様子を窺っていたイギーは、タイミングを見計らって、彼らの場所を地面ごと一気に移動させた。
 ちょうど、フーゴがいた場所にマッシモ・ヴォルペが来るように。
 そう。
 フーゴとマッシモ・ヴォルペが立っていた場所には、すでにイギーの用意した砂が敷き詰められていたのだ。
 マッシモ・ヴォルペの下半身が消えるのを確認したイギーは、隠れていた砂の中から飛び出し、ヴァニラ・アイスに向け砂のボールを投げる。それは途中で破裂し、中身だけがヴァニラ・アイスにかかった。そして―――。

(へッ!どーだ、喰らいやがれッ!!)

 フーゴのスタンドから飛び出したカプセルは、そのままであれば射程外に出ると消えてしまう。
 カプセルを割ってウイルスを出しても、日に当たれば消えてしまうし、そのうち共食いを始めるだろう。
 なら、どうするか。
 答えは簡単だ。
 タルカスの死体を使えばいい。
 ヴァニラ・アイスがどうでもいいと、取るに足りないと、そう思って放っておいた男を使えばいい。
 ウイルスに侵された死体の一部を砂のボールに詰め、外に漏れないようにして敵にぶつける。
 原理は簡単だ。だが、絶大な効果があった。
「フン」
 考えたのは全てフーゴだ。だが、動いたのはほとんどイギーだった。
 タルカスを運んだのも、地面を動かしたのも。
「………」
 タルカスは。
 使った死体が、別の誰かのものだったら―――例えば、スミレのものだったら―――きっと怒り狂ったに違いない。
 だが。それが、自分の体だったなら。
『おお、よくやったッ!イヌ公よッ!!』
 きっとそう言って、笑っただろう。そして、あの大きな手で、イギーの体を撫でただろう。

(ま、たとえ文句を言われよーと、オレには関係ねェからな。聞きゃしねーぜ、おっさん)

 そう思って、イギーがヴァニラ・アイスに視線を戻した時。
 彼の姿は、すでにどこにもなかった。死体もなかった。
 ヴァニラ・アイスは、最後の力を振り絞って、スタンドを発動させていた。
(な、なんだとォ!?)
 慌てて、止ませていた砂を舞い上がらせる。
 全てを飲み込む球体は不規則に動き回りながら、フーゴのいる方に近づいていた。
「ワンッ!」
 警告を発し、イギーはフーゴの姿を視界に収める。


 そこで彼は、再び驚愕に包まれた。



◆◆◆

794獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:12:45 ID:yhRZKQnM

(上手くいった、か―――?)

 身を起こしたフーゴの視界に入ったのは、仰向けに倒れているマッシモ・ヴォルペの姿だった。
 手はだらりと垂れ下がり、目は閉じている。その下半身はヴァニラ・アイスの攻撃によって消え去り、この世のどこにも存在していなかった。
 死んでいる、そう思って、フーゴが油断した時だった。

 ヴォルペの目が、ばかっと開いた。

「なッ!?パープル・ヘイ…ッ!!」
 マッシモ・ヴォルペは腕だけで自身の体を支え、フーゴに飛びかかった。そして、現れたパープル・ヘイズの拳に、自分から当たりにいった。
「し、しま、」
 気付いたときには、もう遅い。
 ウイルスに感染したマッシモ・ヴォルペが、そのままがしぃっ、とフーゴの腕をつかんだ。
 下半身を失くした人間とは思えないほどの力で、ぎりぎりぎりぎり、とフーゴの腕にしがみつく。
「う、うおお…ッ」
 フーゴの右腕がウイルスに感染し、破壊されていく。
 とっさのことで威力を調節できなかったため、ウイルスが全身を回るまでには時間がある。だが、共食いを始めるには弱すぎる。
 相討ちする気か、と思いヴォルペを見たフーゴは、ぎょっとした。

 感染し、破壊された皮膚が治癒し、また破壊され―――そんなことを繰り返している。

(ま、まさか―――感染することを予想し、すでに手を打っていたというのか!?)
 フーゴとヴォルペの目が合う。ヴォルペの瞳は真っ暗で、光というものがなかった。そこには未来も希望もなかった。
 マッシモ・ヴォルペの体は、いつかはウイルスに負け、崩壊するだろう。
 だが、それまでフーゴの体は持たない。フーゴが死んだあと、ヴォルペはウイルスをまき散らしながらジョルノやナランチャを探し回るに違いない。
 そのために無関係の人間が死のうが、ウイルスがエリア中に広がろうが、ヴォルペに取ってはどうでもいいのだ。

 フーゴを絶望の中で殺す。

 そのためだけに、マッシモ・ヴォルペは動いている。

(ヴォルペを攻撃しても感染したウイルスはどうにもならない。
 スタンド攻撃も、悪戯に感染を広げるだけだ。
 どうする、どうする――――!!)

「ワンッ!!」
 イギーの鋭い声が脳内に響いた。
 覚束ない足取りで声のした方を向くと、ずいぶんと小さくなったヴァニラ・アイスのスタンドが、フーゴ達の所へ近寄ってきていた。ぐるぐると、無秩序に暴れまわるそれに向かって――――





 フーゴは、大きく一歩を踏み出した。





──────────── ──── ── ─

795獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:13:43 ID:yhRZKQnM

 まず見えたのは、暗闇だった。



 目を開けているのか、閉じているのか。
 それすらも分からない。

 マッシモ・ヴォルペは、暗闇の中に一人で立っていた。

 フーゴはどうなっただろう。
 殺せただろうか。分からない。
 分からない。何も分からない。
 何も――――

「マッシモ…」

 少女の声が聞こえた。
「あ…」
 懐かしい声だった。
「ああ…」
 もう二度と聞くことは叶わないと思っていた声だった。
「アンジェリカ…」
 暗闇の先に、アンジェリカがいた。コカキがいた。ビットリオがいた。
 彼らは笑っていた。笑って、ヴォルペが来るのを待っていた。
 今の今まで、忘れていた。アンジェリカの名を。顔を。声を。コカキを。ビットリオを。
 そうだ、彼らがいれば何もいらなかった。
 彼らが、何より大事だった。
 なぜ、そんな大切なことを忘れていたのだろう?



「待ってたわ。マッシモ。ほら、笑って?せっかく、みんなが揃ったんだから―――」
「…ああ、そうだな…」



 ウイルスに侵されながら。そのおぞましい苦痛に曝されながら。
 マッシモ・ヴォルペは、笑って彼らの元へ旅立っていった。




──────────── ──── ── ─

796獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:14:51 ID:yhRZKQnM


 空が、見えていた。


 どこまでも抜けるような、青い空だ。
 落ちてきてしまいそうなくらい、近い。
 その空に手を伸ばそうとして、気付いた。

 右腕がない。

「ぐッ、ううう…!!」
 途端に激痛に襲われ、フーゴは身を捩りながら呻いた。
 ぎりぎりと歯を食いしばり、地面に爪を立てる。
 傷口に手をやると、そこはなぜかざらざらとした感触がした。
 見れば、傷口を砂が覆っていた。それが血を止め、フーゴの命をぎりぎりの所でこの世にとどめていた。
 顔を横に向けると、ドロドロに溶けた塊が転がっていた。
 マッシモ・ヴォルペは、今度こそ死んでいた。わずかに残っていた顔の半分はウイルスによってぐずぐずに溶け、原型も残らないほどの肉塊になっていた。
「……終わった…」
 フーゴは呟き、目を閉じた。
 そこには、歓喜も喝采もなかった。
 怒りも悲しみもなかった。
 ただ、やり遂げたという安堵だけがあった。
 フーゴは下を向いて、そこでようやく自分の体全てを視界に収める。

 ヴァニラ・アイスの『クリーム』は、ウイルスとマッシモ・ヴォルペを削り取るついでに、フーゴの右腕と脇腹と、左足の肉も抉っていた。

(ああ―――、これは、死ぬな…)

 それはどう考えても、覆せないことだった。
 こんな場所でこんな大怪我を負って、生きていられるわけがない。
 だが、それでもフーゴの心に焦りも悲哀もなかった。

 ようやく。
 ブチャラティやアバッキオに、追いつけた気がする。
 一歩を、踏み出せた気がするのだ。

(そう、よくやった…。ぼくは、やったんだ…。
 強敵を二人とも葬った。
 もう一度同じことをしろと言われても、絶対にできない。
 もう、いいだろう?休んだって、いいだろう…?)

 しかし、そう思っているのに、なぜか体の方は言うことを聞いてくれない。
 勝手に手が前に出て、どこかに行こうとしている。
 どこに行こうとしているのか。それは、考えるまでもなくフーゴの中にあった。

(ブチャラティが、二度も命を懸けて守ったトリッシュ。彼女を、守らなくてはならない。
 勇気と覚悟がなくて、死なせてしまったナランチャ。今度は、決して死なせはしない。
 自分に光を与えてくれた、ジョルノ。彼と共に、歩んでいきたい。
 ミスタは、運のいい男だ。きっとどこかで生き延びているだろう。

 ぼくは―――彼らに、会いたい)

「う、うう…」
 手を伸ばせば、その先に彼らがいる気がした。
 けれどもそれは幻影で、左手が掴めたのは砂だけで。
 フーゴは立ち上がろうと、腕に力を入れてもがく。


 だが、とうとうそれにも限界が来て、大きく体が傾いた。




──────────── ──── ── ─

797獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:16:16 ID:yhRZKQnM

 こいつはもうだめだ、とイギーは思った。
 右腕は肩から先がなく、左足も大きく抉れている。イギーが砂で傷口を固めているものの、戦うことはおろか、立ち上がることすらできはしない。
 フーゴ自身も、それを分かっているはずだ。
 だが、なぜかフーゴは歩みを止めない。
 この場で静かに傷を癒そうだとか、仲間が通りかかるのを待とうだとか、そんなことは欠片も考えていないようだ。
 動かないはずの足を動かし、残った腕で立ち上がろうとしている。

「ナ……、ト…ッシュ、ジョ…ルノ…」

 うわごとのように呟かれた名の中の一人を、イギーは知っていた。
 ジョルノ・ジョバァーナ。
 つい先ほどまで行動を共にしていた相手だ。サン・ジョルジョ・マジョーレ教会で別れたきり、会っていない。
 今、生きているのかも分からない。
 がくり、とフーゴの体が大きく傾ぐ。
 イギーは、さっとフーゴの体を支えた。砂をフーゴの元に集め、ゆっくりと持ち上げる。まともに動けない彼に代わり、イギーの操る砂がフーゴの足となる。

「…おまえ…?」

 フン、とイギーは鼻を鳴らした。
 フーゴがもう役に立たないのは明らかだった。イギーがフーゴと一緒にいる理由はもうない。
 だが。
 フーゴを見捨てて行く理由もまた、なかった。


(別に、テメーのためとかじゃあねェからな。ただ、一応共闘した相手だ。ちょっとくらい、手伝ってやるぜ…)




 二匹の獣が荒野をゆく。
 その先に道は見えず、どこに辿り着くのかも分からない。
 だが、歩みを止めることなく彼らは進む。
 その先にある、わずかな光を目指して。

798獣の咆哮 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:17:05 ID:yhRZKQnM

【マッシモ・ヴォルペ  死亡】
【ヴァニラ・アイス  死亡】

【残り 37人】


【D-3 街中 /  一日目 夕方】

【どう猛な野獣タッグ】

【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1.とりあえず、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会に向かう。
2.花京院に違和感。
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わない
4.穴だらけ(フーゴ)と行動

【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:右腕消失。脇腹・左足負傷。(砂で止血中)
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.仲間に会いたい。
2.ムーロロは許せない。
3.ひとまず犬(イギー)とともに行動
4.教会に戻りジョナサンと合流する
5.アバッキオ!?こんなはやく死ぬとは予想外だ。

【備考】
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会から南東方向にイギーVSヴァニラ、フーゴVSヴォルペの戦闘跡があります。

799 ◆q87COxM1gc:2014/06/25(水) 23:23:05 ID:yhRZKQnM
以上で投下終了です。
ご指摘、矛盾などがありましたら、よろしくお願いします。


≫789から↑まで、どなたか代理投下をよろしくお願い致します。

800名無しさんは砕けない:2014/06/26(木) 00:08:23 ID:/gq2CltY
ageとく

801無粋 その8 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:19:53 ID:M9PaPkdA
「オ、オイ!アイツだ!あの黒いスーツ!アレがオマエの相棒を殺したヤツ、プロシュートだ!」
「でもなんか別の奴とニラミあってるぜ?どうすんだよ!?」

トランプががなり立てる。
言われなくてもわかってる。

俺の目の前に移ってる光景。

手前には土気色したウェットスーツの人物。
背中しか見えないが体格から言って男だろう。そして小脇に抱えているのは生きているのか死んでいるのかもわからない少女。

その背中越しに見える――つまりその男と対峙しているのが俺が探し求めていた相手、プロシュートという訳だ。

つまり俺は完全に最後の登場人物という訳なのだが……だが。そんなことは重要な問題ではない。

俺にとって唯一にして最大の問題。

それはつまり“このウェットスーツ野郎がプロシュートと戦闘を始めてしまう事”だ。
復讐は自分の手で果たさなければならない。そうでなければ意味がない。


握りこんだアヌビス神が思わず痛がるほどに右手に力が入る。肩にかけていたデイパックを地面にたたき落とす。
二人の男はまだにらみ合い。その静寂を破るように腹の奥底から声を絞り出した。


「おまえ……人の獲物になにしてくれてんだ」


***

802無粋 その9 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:20:38 ID:M9PaPkdA
目の前の男の視線は、そのボルサリーノ帽に隠れて読み取ることはできなかった。
時折見せる口元も碌に動かない。

テーブルを挟んで向かい側。戦うでもなく、必要以上の情報交換をするわけでもなく、かといって雑談するわけでもなく。
早々に手持無沙汰になった俺は(表情を隠すという意味もあったが)テーブルに置いてあった庭の本を読んでいた。


時折、一言二言、ムーロロが電話の中継局のような会話のやり取りをするが、その意味は今すぐに理解する必要はない。耳に入っていればよかった。


落ち着いた部屋の中とは言え、それはあくまで『亀』である。
つまり亀が動けば部屋も動くし、亀が転べば部屋の中もてんやわんやになる。
今いる場所が電車の中や車の中ならまだ大した影響はないのだろうが……如何せん運搬しているのが徒歩の人間、そして時折走ったり止まったり。
――となればその揺れも部屋に響いてくる。
乗り物酔いをするタイプではないし、最初のうちこそ戸惑ったが十分もすれば慣れてきて、揺れの具合から外の状況を推測するくらいのことはできるようになった。


そして……

一瞬の浮遊感と、直後に尻に受けた衝撃、どさりという音にはさすがに舌を噛みそうになった。
もちろん『どうした!なにがあった!』だのわめき散らして混乱するようなそぶりは見せなかったし、この状態が『デイパックが落とされた』という事もすぐに理解できる。

視線を上げれば、同様に状況を観察したムーロロの目線とかち合った。
お互いに小さく頷いて、亀から出てしまわない様に注意を払いつつ、天井を覗き込む。


「おまえ……人の獲物になにしてくれてんだ」
そういう声が届いてきた。
声の主はもちろんスクアーロ。

つまり――これはどういうことなのか。再びソファに腰を落として状況を推測する。ムーロロも同様だった。

と言っても、この状況と今の台詞で容易に想像はつく。推測するほど難しいことは何一つない。

『人の獲物』とはスクアーロが復讐を果たしたいと言っているプロシュートとかいう男の事である。
『なにしてくれてんだ』とはつまり、別の何者かが『人の獲物』を自分の許可なく弄っているという事。
そしてスクアーロがいきなり攻撃を仕掛けていないという事は、未だ直接的な戦闘が始まる前の――名乗り口上の最中、と言ったところか。
天井の宝石越しに小さく見えたのは何やらダイバースーツのような格好の人物。これが『別の何者か』に当たるという訳だ。

ふう、と状況の整理が終わって息をつく、そんな俺を見てムーロロがニヤリと笑ったような気がした。
『おうおうお坊ちゃん、推理は終わったかい?』なんて言いそうな癪に障る表情だった。
視線をそらしソファに体重を預けて息をつく。

803無粋 その10 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:21:07 ID:M9PaPkdA
……

…………なんだ?


何か胸にしこりが残るような、そんな気がしてならない。


『庭』の本を手に取りムーロロとの間に壁を一枚作る。


本の存在によって、情報は活きる。


手元に『本』を呼び出した。
一番新しいページ、たった今見たものが記載されている場所だ。

【あたかもエレベーターが落ちたかのような落下の感覚を味わって地面に落ちてしまった。
 慌てるそぶりを見せないように気を付けながらムーロロと一緒に天井の宝石を覗き込んだ。
 そこに見えたのは怒りの表情を浮かべるスクアーロ、空気全体が震えているようだ。

 視線の先にはつぎはぎのダイバースーツ。

 そして、細い脚】

ここだ。ここに違和感があったのだ。
よく『本』を読み返す。

【細い脚が二本、一人分、どうやら人質か何かとしてダイバースーツがとらえたようである。
 履いているのは紺色のハイソックスと飾り気のないローファー
 この靴に俺は見覚えがあった】

――ドクン

【靴のサイズ、お父さんといっしょだ。
 彼女はそう言った。
 つまらんことに、気づくやつだ】

――ドクン

【俺はそう返した。
 その時に玄関先に並べて置いたあの靴だ。
 あの靴の持ち主だ】

――ドクン

【人質になっているのは、双葉千帆だ】


過去を読み返しながらさらに推測が進み、それらも律儀に文字となって『本』に刻まれ続ける。
鼓動が速くなるのを抑えきれなかった。
ムーロロのことなど気にせず亀から飛び出してやりたい気持ちに襲われた。

だが、そんな真似を今する訳にはいかない。

しかし、必ずやらねばならない……

口に出すことなく、心の中だけで小さく呟く。その言葉は、『本』の一番新しいページの一行目に刻まれた。

「貴様ら……人の『妹』に何をしてくれているんだい?」


***

804無粋 その11 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:22:50 ID:M9PaPkdA
カンノーロ・ムーロロはこの状況を一番理解している人物だと言って差し支えないだろう。


それもそのはず、仕掛け人は彼自身なのだから。

セッコをプロシュートのもとに向かわせる。
スクアーロも同様。ただし“他の参加者”に遭遇しないように――かつスクアーロ自身に悟られない程度に――迂回するルートを取らせる。
あとは勝手に各々が遭遇しあい、戦闘をし、命を散らせていく、という訳だ。

プロシュートが死ねばそれはそれでよし、スクアーロが死んでもそれはそれでよし、セッコが死んでもそれはそれでよし。
いずれにしても三人のうち一人は確実に死に、一人は確実に戦闘不能の状況に陥るだろう。

しかし――ムーロロは何も『これで参加者どもが減って万々歳だぜグフフ』と下種な笑みを浮かべるためにこうした訳ではない。
そういう感情は持ち合わせていない、というとムーロロがロボットか何かかのように聞こえてしまうので語弊があるが。

ムーロロは『DIOの指示を聞き』『スクアーロの目的達成を手助けし』『うろついてるセッコを回収し』という自分の任務と、
そしていつ何時も忘れることがない本能『己自身が生き残ること』を天秤にかけた。
たったそれだけの話なのである。


ムーロロは自覚している。
“そうさ、俺はDIOに指摘されたとおりの恥知らずだ”と。
しかし一方で“これが俺の人生哲学、モンクあっか!”とも感じている。
DIOのカリスマに魅せられ、そして対峙しても自分の能力で敵わないと感じていても自分の生き方を捻じ曲げることはできなかったのだ。


しかし。


しかしムーロロにも盲点があった。
目の前で庭の本を読みふける高校生。
この男が……いや、この男“までも”この三者の対峙に大きくかかわる存在であることを知らなかった。


にらみ合う三人。
見上げる二人。
気を失っている一人。

六人の思いが小さな小さな螺旋を描いて回り始める。
この螺旋がどれほどの渦になるのか、天をも巻き込む竜巻となるのか。

それはまだ誰も知ることはない。


***

805無粋 その12・状態表 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:23:22 ID:M9PaPkdA
で……そこからなんだけどさ――

え?
もういいの?
ってアレ?もう行っちゃうの?お茶飲んでけば?

……あーあ。聞くだけ聞いて行っちゃったよ。全く皆愛想のないっていうか……

これじゃあ今回の話に出てきた奴らと同じじゃあないか。

だがわかってるんだろう?
そういう“無粋な連中”に降りかかる結末がどんなものなのかはね――



【D-6 路上/1日目 午後】

【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:ダメージ・疲労はほぼ全回復、激怒
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 30/60)
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
0.目の前の男(セッコ)をブチのめす。『妹分』を救出する
  (双葉千帆がついて来るのはかまわないが助ける気はない。と思っていたのに、という自分にやや戸惑い)
1.その奥の男(スクアーロ)は何者か不明、保留
2.この世界について、少しでも情報が欲しい
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:気絶
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く
0.気絶中、思考・行動不能
1.プロシュートと共に行動
2.川尻しのぶに会い、早人の最期を伝える
3.琢馬兄さんに会いたい。けれど、もしも会えたときどうすればいいのかわからない
4.露伴の分まで、小説が書きたい
【備考】
千帆のことを観察していた相手の正体は『ウォッチタワー』でした。千帆だけでなくプロシュートの事もある程度観察していたようです。
千帆の持っていた道具(基本支給品、露伴の手紙、救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ)がD−7民家に放置されています。

806無粋 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:24:26 ID:M9PaPkdA
【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、血まみれ、興奮状態(大)
[装備]:カメラ(大破して使えない)、双葉千帆をわきに抱えている
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
1.なんだコイツ、追ってきたのか?
2.とりあえずDIOを探し、一度合流する。怒っていないらしくて安心
3.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しく女という材料も手に入れたことだし
2.吉良吉影をブッ殺す
【備考】
『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。

【スクアーロ】
[スタンド]:『クラッシュ』
[時間軸]:ブチャラティチーム襲撃前
[状態]:健康、激怒
[装備]:アヌビス神
[道具]:基本支給品一式、ココ・ジャンボ(中にムーロロと琢馬)、『オール・アロング・ウォッチタワー』 のハートのJ
[思考・状況]
基本行動方針:プロシュートをぶっ殺した、と言い切れるまで戦う
0.目の前の相手をブチのめす。プロシュート、次はお前だ
1.とりあえずDIOの手下として行動する
2.ムーロロが妙な気を起こした場合、始末する
3.復讐を果たしたあと、DIOに従い続けるかは未定


【亀の中】

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、激怒
[装備]:自動拳銃、『庭』の本
[道具]:基本支給品×2(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。千帆に会って、『決着』をつける
0.探していた双葉千帆をついに発見。しかし、この状況、どういう事なんだい?え?
1.千帆に対する感情は複雑だが、誰かに殺されることは望まない
2.ムーロロに従い、待機。隙があれば始末する?スクアーロの存在も厄介
3.ムーロロの黒幕というDIOを警戒
【備考】
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
拳銃はポコロコに支給された「紙化された拳銃」です。ミスタの手を経て、琢馬が所持しています。

807無粋 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2014/08/02(土) 23:25:20 ID:M9PaPkdA
【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、不明支給品(5〜15)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOに従い、自分が有利になるよう動く
0.自分の思いがいていた現状に満足。でも心は動かない
1.琢馬を監視しつつ、DIOと手下たちのネットワークを管理する
2.スタンドを用いた情報収集を続ける
3.コイツそんなに庭の本気に入ったのかよー(棒読み)
【備考】
現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
会場内の探索とDIOの手下たちへの連絡員はハートとダイヤのみで行っています。
それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。
※ムーロロに課されたDIOの命令は、蓮見琢馬の監視と、DIOと手下たちの連絡員を行うことです。
同時にスクアーロとお互いを見張り合っています。



***
以上で投下完了です。久しぶりの執筆はなかなか手こずりましたw

空気と化しているキャラの消化と各種フラグ立て。戦闘シーンはどうなることやら。
だってみんな俺の話聞かないで帰っちゃうんだもーん(棒)

私としてはかなり珍しく、仮投下せずにいきなり本投下で誤字脱字や話の矛盾があるかもしれません。
(特に時系列。誰も関わらずにこんな時間経過してていいのでしょうか・・・)
何かありましたらご指摘ください。それでは。

以上、このスレの>>801からこのレスまで本スレに転載をお願いいたしますorz

808 ◆/SqidL6HL.:2014/09/24(水) 21:36:29 ID:CRwETqhY

***

ジョルノとの会談に使ったのとは別の小部屋でDIOが椅子に腰かけている。
少し離れてディエゴとルーシーもそれぞれ距離を置いて座っている。
ルーシーの呼吸は安定している。腹の大きさから臨月くらいだろうが、生まれる気配はまだ無い。

「遺体の部位は全部で十。内二つ、右眼球と頭部がここにある」
「ああ、こいつを取り込んでいる間は自分のスタンドの他に発現する能力がある」
「未知なる能力か……ムーロロが戻ってきたら私も試してみる事にするよ。先程の報告ではさっそく支給品をいくつか開けたところ
 脊椎、右腕が出てきたそうだ。銃で撃たれた者がいたんだが、右腕が彼に取り込まれた途端に千切れかけの指が二本完治した。
 これはいわゆる奇跡という部類に入る。君の言う通り『聖なる』遺体だな」
「そんなに支給品をため込んでるヤツがいたとはな。良い手駒をお持ちのようだ」
「どうも。君たちと手を組めたことも嬉しく思っているよ」
「言っておくがこれはビジネスだ。遺体を全て揃えるまでのな。その後は好きにさせてもらう」
「お好きに」

ブラフォードを置いてきた今、ロクに動けないルーシーを抱えたままDIOと敵対するのは非常に危険だとディエゴは判断した。
ジョニィやジャイロといったレース参加者がいる以上、再び争奪戦が始まる前にDIOの部下を使って遺体を集めるのが先決と
一時手を組むことにしたのだ。内心腹の底までDIOへの嫌悪で一杯ではあるが、その感情をぐっと押し込んだまま損得だけで
動ける程度にはディエゴはクレバーな思考ができる男なのだ。

一方DIOは思索にふける。

(聖なる遺体……このDIOが天国へと向かうための新たなパーツかもしれん。興味が沸いてきた。
 このルーシーという女もな)

遺体を『懐胎したかのように』取り込んだルーシーに、DIOはより強い興味を示した。
母親、エリナ・ペンドルトン、空条ホリィ。
いつでも自身の人生を邪魔してきた聖なる女がまたひとり増えた。
だが今回は少し違う。ディエゴから聞いたルーシー・『スティール』の名と、主催者との婚姻関係も多少面白いとは思ったが、
それ以上に彼女の目に母親やエリナと同じ輝きと混じって決定的な異質さを感じ取ったからだ。

809されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL.:2014/09/24(水) 21:37:07 ID:CRwETqhY

(聖女……聖なる者として信仰を受ける女の事だ。
 最も有名な聖女である神の子の母マリアは純潔を守ったまま出産したことから、「清らかさ」の象徴といわれている。
 しかし、一説には娼婦であり、罪を犯したと言われるマグダラのマリアもまた神の子の復活を目撃した聖女だ。
 聖女の条件とは何か。純潔であることか? 処女懐胎をはじめ奇跡を起こすことか?いや違う。)

「ミセス、体調はどうかね」
「あなたたちさえいなければいつだって最高よ」
「いいね、実にいい。本当はこのまま側に置いておきたいところだが、私はこの後来客があるかもしれん。
 そうなったらこの崩れかけた教会は君には少しばかり危険だ。もう間もなくだろうが、部下が戻りしだいトンネルを掘って
 近くのわが屋敷に移動してもらうことになるだろう。聖女に納骨堂は失礼だからな。寝心地の良いベッドで出産に備えたまえ」
「聖女だなんて言わないで頂戴。後悔なんてしてないけど私は罪を犯したわ、おぞましく深い……罪よ」
「いいや君は聖女だ。人類はすべからく原罪を背負っている。罪の有無は君から聖者の資格を奪いはしない。
 それに罪は深ければ深いほど……このDIOにふさわしい」

(聖なるもの、聖女とは、『導くもの』なのかもしれない。困難な運命に立ち向かう者に進むべき道を指し示す。
 この罪深い少女はきっと自分を天国へと導き、押し上げてくれるだろう。)
(全てそろった遺体は所有者に『吉良なるもの』だけを集める……最終的に私の元に遺体が集まった時がチャンスよ。
 必ず幸福になってみせる……!)

DIOの手がルーシーの頬をゆっくりと滑ってゆく。
おぞましいその手を払う代わりにルーシーはDIOを真っ直ぐに見つめ返す。
その様子をディエゴは観客にでもなった様に冷めた目で見ていた。
信仰心など持ち合わせていないが、見るヤツが見たらこう言うだろうなと想像する。

『まるで神の祝福を受ける聖女の様にも見えた』と――――

810されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL.:2014/09/24(水) 21:37:36 ID:CRwETqhY


【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会 地下/1日目 夕方】

【DIO】
[時間軸]:JC27巻 承太郎の磁石のブラフに引っ掛かり、心臓をぶちぬかれかけた瞬間。
[スタンド]:『世界(ザ・ワールド)』
[状態]:全身ダメージ(中)疲労(小)
[装備]:シュトロハイムの足を断ち切った斧、携帯電話、ミスタの拳銃(0/6)
[道具]:基本支給品、スポーツ・マックスの首輪、麻薬チームの資料、地下地図、石仮面、リンプ・ビズキットのDISC、スポーツ・マックスの記憶DISC、予備弾薬18発『ジョースター家とそのルーツ』『オール・アロング・ウォッチタワー』のジョーカー
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』に向かう方法について考える。
1.ムーロロらと合流、遺体を集める。集めた後ディエゴをどうするかは保留
2.遺体とルーシーを使って天国へ向かう方法の考察をする
3.ジョジョ(ジョナサン)の血を吸って、身体を完全に馴染ませる。
4.承太郎、カーズらをこの手で始末する。
[備考]
※携帯電話にヴォルペからの留守電が入ってます。どのような内容なのかは後の書き手様にお任せします。
※ジョンガリ・Aのランダム支給品の詳細はDIOに確認してもらいました。物によってはDIOに献上しているかもしれませんし、DIOもジョンガリ・Aに支給品を渡してる可能性があります。
※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会が崩壊しかかってます。次に何らかの衝撃があれば倒壊するかもしれません。
※ディエゴから遺体の情報とSBRレース、スティーブン・スティールについて情報を得ました。
※セッコ達と合流次第ルーシーをDIOの館に移動させるつもりですが、同行させるメンバーやDIO自身が移動するかは未定です。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:処女懐胎、疲労【中】
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
0.遺体が集まるのを待つ
1.DIO、ディエゴを出し抜く

【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康
[装備]:遺体の左目、地下地図
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2
    ランダム支給品0〜3(ディエゴ:0〜1/確認済み、ンドゥ―ル:0〜1、ウェカピポ:0〜1)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
0.遺体が揃うまでDIOと協力。その後は状況次第
1.なぜかわからんが、DIOには心底嫌悪を感じる
2.ルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも
※DIOから部下についての情報を聞きました。ブラフォード、大統領の事は話していません。

811されど聖なるものは罪と踊る ◆/SqidL6HL.:2014/09/24(水) 21:39:12 ID:CRwETqhY

【 ??(DIOの元に移動中) /1日目 夕方】

【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(大)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:基本支給品×3(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み) 救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
0.千帆……
1.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない。
2.ムーロロ、セッコとDIOの元に向かう。隙があれば始末する?
3.ムーロロの黒幕というDIOを警戒
【備考】
参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
拳銃はポコロコに支給された「紙化された拳銃」です。ミスタの手を経て、琢馬が所持しています。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
 琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。

【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、遺体の脊椎、角砂糖、
     不明支給品(3〜13、うち数個は確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOに従い、自分が有利になるよう動く
0.スクアーロを始末でき、自分に損がなかったことに満足。
1.セッコ、琢馬と共に急いでDIOの元に戻る。
2.千帆とプロシュートはとりあえず放置。状況により監視を再開するかも
3.琢馬を監視しつつ、DIOと手下たちのネットワークを管理する
【備考】
現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
会場内の探索とDIOの手下たちへの連絡員はハートとダイヤのみで行っています。
それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。
※遺体の右腕はペッシ、脊椎はペット・ショップの不明支給品でした。脊椎は今のところ誰にも取り込まれていません。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、血まみれ、興奮状態(小)
[装備]:カメラ(大破して使えない)
[道具]:死体写真(シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコ)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に行動する
0.角砂糖うめえ
1.ムーロロ、琢馬と共に急いでDIOの元に戻る。
2.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しい死体が欲しい。
3.吉良吉影をブッ殺す

【備考】
『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
千帆の事は角砂糖をくれた良いヤツという認識です。ですがセッコなのですぐ忘れるかもしれません。


***
勢いで投下→規制→解除されたと思ったら朝だったorz
長々と占拠してしまいすみません。

仮投下からの修正は二点です。
・時間帯を午後→夕方に
・角砂糖をムーロロの所持品に追加
角砂糖は完全に失念しておりました。ご指摘ありがとうございます。

リレー小説も掲示板に投稿するのも批評を頂くのも全て初めてでしたが、どれも素晴らしく楽しかったです!
wikiの編集もたぶん時間かかるでしょうから、ご指摘等があればお願いします。


また規制に引っ掛かりました。以上を転載願います。

812激闘 その1 ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:47:22 ID:HoMVcMGI
さて、いよいよ……というべきか、このバトルロワイヤルも佳境に差し掛かった、と言って差し支えないだろう。

ここまで多くの命の炎が燃え尽き、そしてその場には必ず何かしらの戦いがあった。
全てを賭けた棒倒しも。鼠と猫の狩り合戦も。親の敵に取り入られ、そして裏切る一人の軍隊も。

それらを否定するわけじゃあないんだけどさ。
やっぱどうも――こう『グッと来ない』感があってさ。

やっぱ“戦い”ってのはこう、思いっきりぶん殴って、思いっきり蹴り返されて。
裏をかいたり意表を突いたりなんかしない。そんなクリーンな『ドツキ合い』がさ、グッと来ないかなあ?わかる?

あ、いや、良いんだよ人の価値観だから。単に俺が複雑な心理戦が苦手だってのもあるし。
ともかく――今回はそんな『グッとくる戦い』の話だ。
登場人物……人物と言っていいのか?うーん、とりあえず『異形が二頭』と表現しようかな。

で、だ。本当はここで皆に話の流れを“実況”するところだけれども、それもやっぱり違う気がする。

ここでブラフォードが爪を立てる。
それをバオーが身をひるがえして回避、勢いのまま刃を振りかざす。

……なんて言ってたらいつまでたっても終わりが見えない、せっかくのスピード感が削がれちゃう気がしてね。やっぱりグッと来ない。

だからとりあえず今回は彼らの戦いを『解説』させてもらうよ。

なーに、君たちの目なら俺が話すまでもなくこの激闘さえもしっかりと見極められるだろうさ。


***

813激闘 その2 ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:50:29 ID:HoMVcMGI
まず最初に必要なものは、『目的』だ。

黒騎士ブラフォード“だったモノ”は、もう完全に本能のまま戦ってる。
主君であるディオへの忠誠心と、自分が捨て去った世の中への怒りは確かにあるが、恐竜と化している現状、これらはもはや行動の第一原理ではなくなってしまった。

一方の来訪者、バオーの目的は、ご存じ「こいつのにおいを止めてやる」の一言に尽きる。
これも確かに本能に従った戦いだが、何がブラフォードと違うかって、中の人――って表現はマズイか。橋沢育朗がこの本能を承知し、理解し、彼自身の目的ともした事だ。

『欲望と意思が同じベクトルを向くのは一番厄介な事である』たしか君らに一番初めに話したね。
まあ、ブラフォード恐竜にはもうそれを厄介事だと認識するほどの脳ミソはないんだけど。

と――話しておいてなんだけど、この戦闘におけるそれぞれの『目的』は、それだけでは決着の要因には、そりゃあならない。
この場においてはどちらが正しいとか、人として間違ってる――まあヒトじゃないけど――とか、そういう事を説く必要性は全くないんだし。

だけども、どうしてもこれを話さないで次に行ってしまうと、この戦闘がなんだったのか、その意義?意味?価値?……まあそういうモノがなくなっちゃうからね。


***


さて、ここからが本題だ。次に解説するのはもちろん『スペック』さ。
この二人がガチンコで殺し合いを続けられるための――さっきの目的をメンタル面とするなら今度はフィジカルの面。

黒騎士ブラフォード。現在ディエゴの能力によって身体は恐竜のそれと化した。
装備品、なし。厳密にいうなら――スレッジハンマーは足元に転がっているし、恐竜化する際のパンプアップではじけ飛んだ甲冑もそこらに散らかっている。
だがまあ、いわゆる全裸装備という奴だ。まあ恐竜にとっては身にまとい、手に持つ武器は不要だろう。むしろ邪魔なんじゃあないだろうか。
だが、その代わりに鋭い爪と牙、強靭な尾と鱗に覆われた皮膚、力強い膂力を生み出す筋肉はさらに強化された上に恐竜の優れた動体視力を手に入れた訳だ。

対するは橋沢育朗。現在その身体は生物兵器・バオーとなっている。
装備品、こっちもなし……何期待してるんだ?全裸じゃあない。袖の破れたジャケットとベージュのチノパンは着てるさ。
だがまあ、武器や防具に該当する装備は一切ないし、ブラフォード同様にバオーにも必要ないものだ。

と、解説したのはフィジカルというか……いわゆる“見て呉れ”だが、どうだろう。そんな大差ないんじゃあないか?

814激闘 その3 ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:51:53 ID:HoMVcMGI
が――それは否。

どうだろう、今でこそお互いが怪物として存在しているが……その中身は。
比べるまでもない。中世の時代に英雄として名を馳せた騎士と、異形の力に目覚めて一週間かそこらの少年。
戦いの年季の違いだとか、茶道部が甲子園に挑むとかいう表現でさえ生易しく聞こえる。
やっとハイハイが出来るようになった赤ん坊をリングに放り出してアシュラマンと戦わせるような、とでもいうべきか。つまり……


『基本スペック』では圧倒的にブラフォードが勝っているッ!


***


とは言え――とは言えだ。
肉体のスペックのみで勝敗が決まる訳ではないのが戦いというモノでもある。
とすれば次に彼らの戦いにおいて必要な要素は『能力』であるのも当然の成り行きだろうね。

そして……異能、その点に関してバオーはブラフォードどころか、そこらのスタンド使いよりも多くを手に入れていると言って良いだろうッ!

掌からは万物を溶解させる体液を放出するし、皮膚を硬質化させた刃は育郎自身の機転と成長で電撃をまとう剣となった。
状況に応じてそれを“セイバー・オフ”させれば、帯電させることはできずとも遠距離での攻撃を可能にさせる。
もちろん電撃攻撃を単体で行う『ブレイク・ダーク・サンダー』自体も彼の武装現象として、時に拳に乗せ、時に足元の水たまりを媒介とし、ブラフォードを襲う。
そうして距離を置いたブラフォードを襲うのは、両腕から飛ばされる刃だけではない。
自然発火する体毛、『シューティング・ビースス・スティンガー・フェノメノン』。

――しかしッ!だがしかし!

『バオーに数々の能力があるのは』確かだが、
『ブラフォードに異能がない』などと俺は一言も言っていない!

そうッ彼にはあるのだ!自分の接近を許さない、雨のように襲いくる髪の毛を打ち落とす手段が!それは――


“意外!それは 髪の毛ッ!!”


***

815激闘 その4 ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:53:49 ID:HoMVcMGI
かつて、スピードワゴンは『それ』のことを、
「ヤツの髪の毛は筋肉でもついているのか!」と評し恐れた。
だが、髪の毛はあくまでも髪の毛でしかないし、筋繊維でもない。

ブラフォードの髪の毛を『死髪舞剣』という技に昇華している根拠は植物に多く見られる『膨圧運動』というものである。
植物が細胞内の水分量を調節することで膨らむ、あるいは萎む運動の事であるが――
もともとブラフォードが人間だったころから敵の手足に絡みつく程度には動かすことが可能であったし、
屍生人となってからはこの能力を持って相手の血を吸う事すら可能になった。

それが恐竜となった今。
吸血する必要がなくなった(血液どころか肉そのものを食うから)今、その力はある意味で屍生人の時代のそれより劣化しているのかもしれない。
しかし、最初に言った通り、彼は今本能で戦っている。
つまり――その髪の毛をどうやって使うのが得策かを本能で理解した、理解できたということ。

目の前に迫りくる障害を束にした髪で叩き落とす。
思い切り散開させた髪でバオーの手足を縛り自分自身が飛びかかる。

もちろんバオーも抵抗はするが、拘束されている状況、自然と攻撃手段は身体を動かさずに発生させられるブレイク・ダーク・サンダーに限られる。
水分たっぷりの髪の毛。そこに伝わる高圧電流での攻撃は“効果はバツグン”だろうか。

――否、これも否。

『電気抵抗』というのは電気が流れる導線の太さに大きく関係する。
「水鉄砲は穴が小さい方が勢いよく遠くまで飛ぶという事だ」という理論ももちろん存在するが、それと同時に、
「水撒きをするならホースでチマチマやるよりもバケツをひっくり返す方が一気に多くの水が流れる」という理屈である。
つまり一本一本が1ミリにも満たない髪の毛では大した電流が流れないのだ。
ましてや先の膨圧運動は細胞内の水分量を調節するもの。水が少なくなれば電撃は流れなくなるのもまた当然。

有利なのは依然としてブラフォード。無論、黙ってやられるバオーでもない。
切断した足をくっつけて動かすことが出来るような回復力の持ち主であるバオーは己の肉がちぎれるのも無視して髪の毛を振りほどく。
……これはおそらく『寄生虫バオー』が痛覚を持たないことも要因の一つだろう。
仮に拘束する側とされる側が逆だったらどうだろうか。おそらく恐竜の事だ、パワーで振り切ってもそののちの機動力と攻撃力はダダ下がりになることは想像に難くない。


***

816激闘 その5 ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:54:43 ID:HoMVcMGI
――と、そんなやり取りが何度も続く。
殴れば殴り返され、蹴れば蹴り返され、斬れば斬られ、髪を振り回せば髪で打ち落とされる。

とは言っても……戦闘時間そのものはそんなに長引きはしなかった。
考えてみようか、例えばボクシングのタイトルマッチはどうだろう。何ラウンドもの殴り合いこそあれど、途中にはセコンドが入り、実際にやってるのは一度に三分間。
戦闘行為の、というか攻防の密度が高くなればなるほど体感時間と実際の時間との差は大きく開くものなのだ。


二人が“変身”してから8分22秒。ブラフォードが屍生人の状態で初撃を放ってからカウントしても9分47秒。


異形の片方が崩れ落ちる。

決着がついた。


***


――最後に解説するのは当然『勝因』と『敗因』だ。


それは二つある。

『感覚器官』

そして

『そいつに触れることは死を意味する』

という事だった。


***

817激闘 その6 ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:56:31 ID:HoMVcMGI
最初にバオーの戦闘におけるスタンスを話した。

「こいつのにおいを止めてやる」と。皆も知っている通りの事さ。

――さて、この“におい”とはなんだ?

バオーはあくまでも寄生虫。宿った肉体の表面を鱗で覆うなどの変身を行いはするが、何も整形手術をするわけではない。
犬に宿ったバオーなら鼻は長く耳はとがった形に、人間に宿っていれば目や耳も残したままに『武装現象』を完了させるのだが――

その時、宿主の感覚器官は全く機能しなくなっている。
視覚も聴覚も嗅覚もバオーには関係ない。手足の感触や痛覚でさえ関係ないのだろう。
そして、それらのすべてを頭部の触覚で理解するのだ。

つまり……われわれ人間の脳では、バオーがそれらの感覚を“どういうモノとして受け取っているのか”を表現できないのである。
ゆえに『臭い』でも『匂い』でもなく、便宜上『におい』と――そう言っているに過ぎないのだ。


対するブラフォードは……いや、この場では『恐竜は』と表現すべきか。
彼の感じる“におい”は、今度は我々が鼻で感じる“臭い”と同様のものだ。
もっとも現在、橋沢育朗の体臭がどうなっているのかは不明だし、さまざまな戦闘がおこり、現在進行形で土埃の舞うこの戦場では嗅覚はほぼ機能してはいないと言える。
とすれば何でもって彼らは敵を認識するのか。

それは『動体視力』――先ほど話した恐竜のスペックの一つである。
これもまたわれわれ人間が考えているそれよりも数倍、数十倍の感覚で理解はしているのだろうが……

一つだけ弱点がある。

それは『ゆっくりの動きには対応しきれない』という事。

昆虫の複眼などとは違い、あくまでも一個の眼球で動くものを理解するので、目のピントを合わせる筋肉の動きに隙が出来るのだ。
『向こうから勢いよく迫ってくるもの』に対応はできても『それまで止まっていたものが急に目の前で動き出した』場合には対応できない、と言えば伝わりやすいだろうか。


これらの違いを踏まえて戦いを振り返ると……

バオーは終始“におい”で相手を把握、正確に攻撃を仕掛け続けていた。
一方でブラフォードは迫りくる敵、あるいは自らが敵に接近する際の“動きを目で見て”戦っていた。

バオーが成長したのか、それとも育郎の知識が後押ししたのか、次第にバオーの戦い方が変わっていく。
投石やシューティング・ビースス・スティンガー・フェノメノン、そして技としてものにしたセイバー・オフを中心に飛び道具を用いたのだ。

そして……それらのすべてに的確に迎撃を行うブラフォードの目には『ゆっくり迫りくるバオーの姿』は映っていなかった。

恐竜の両頬に群青色の掌が触れた時にはもう遅かった。
いくら髪の毛で縛り上げようが、爪で刺そうが薙ぎ払おうが全て無意味だった。

恐竜の顔がドロドロに溶けてなくなっていく。

決まり手――バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン。

まさに『そいつに触れることは死を意味する』という訳である。


***

818激闘 その7 ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:58:10 ID:HoMVcMGI
さて……どうだ?彼らの激闘を君らの目で追う事は出来たかい?

だがね、これで終わりじゃあなかったんだ。

変身を解く育朗。
目の前の死体を見て、やはりどうも複雑な気分のようだ。
いくら自分を襲う敵だったとはいえ、戦士としての自覚を持ったとはいえ、やはり根は心優しい少年なのだから。
――そりゃあもちろん「やっぱり怖くなったから戦うの止めます」なんて言うような真似はしない。
完全に液状化した頭部から転がり落ちた首輪を一瞥し拾い上げ、止めておいたバイクのデイパックに仕舞い込んで再び歩き出す。

己の身体を隠すことはもうしない。
袖は破けてしまったし、ウロコ状に変質化し始めた皮膚がその面積を広げても、それが己の肉体だと心に刻んでいるからだ。


……気がついたかい?
確かに橋沢育朗は『バオー』で皮膚はウロコのように硬質化している。
だがそんな急激に鱗が腕全体に広がるか?いくら激闘で経験値を積んだとしても?

思い出してくれ、ブラフォードは最後に何をしたか。
恐竜化したその爪でバオーを何度も傷つけていたんだぜ?


――言い方を変えるとするなら、この戦いでの真の勝者はこの場にいなかった男、ディエゴかもしれない。
そう。彼は立ち去る際にブラフォードを『リーダー』としたのさ。
お気に入りのドノヴァン恐竜と同様もともとの人間のスペックが高かったことに加え、ドノヴァンとの決定的な違いは“直接的な戦闘力が高い”こと。
そして『スケアリー・モンスターズ』の能力の本質……というか、本来の持ち主、フェルディナンド博士の能力は、リーダー恐竜を媒介に恐竜化の感染者を増やすこと。


さてさて、『スケアリー・モンスターズに触れるものは死を意味する』のかどうか。橋沢育朗の未来やいかに?
その話はまた今度にしよう。

――どうだい?グッとくる話じゃあなかったか?やっぱり殴り合いはスカッとする気がするんだよねぇ〜
さっきもさ、ここにゴキブリでてさぁ。殴りかかってくるもんだから見事に返り討ちにしてやったんだよ。でさぁ――


【ブラフォード 死亡】
【残り 35人】

819激闘 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:59:36 ID:HoMVcMGI
【D-5 北東部 地下/1日目 午後】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:全身ダメージ(中:急速に回復中)、肉体疲労(中)、恐竜化の兆候(?)
[装備]:ワルサーP99(04/20)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
[道具]:バイク、基本支給品×3、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、
    予備弾薬40発、地下世界の地図、ブラフォードの首輪、大型スレッジ・ハンマー、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
1:少年(ビットリオ)を追う?
2:具体的な目的地は不明・未定
[備考]
1:ブラフォードの基本支給品ならびに武器のスレッジハンマーを回収しました。
2:ブラフォードに接触したため恐竜化に感染した疑いがあります。
(実際に感染していたのか?恐竜化するまでの制限時間は?など詳細は後の書き手さんにお任せいたします)

820激闘  ◆yxYaCUyrzc:2014/10/31(金) 11:59:55 ID:HoMVcMGI
以上で投下終了です。仮投下を挟まずいきなり本投下(の代理)ですがどうでしょうか。
最近ハマったテラフォーマーズの影響で妙なうんちくや解説まみれになってしまいました。
……というか動きの描写は99%ブッチして。大丈夫なんだろうかこれw
誤字脱字、話の矛盾、読みにくい等々ありましたらご指摘ください。それではまた次回。

821名無しさんは砕けない:2014/10/31(金) 13:33:57 ID:NRzS729U
投下乙です。

超生物「バオー恐竜」爆誕!?
恐竜化は、寄生虫バオーにまで及ぶのだろうか。
支配権は、ディエゴとバオーのどちらに!?

822名無しさんは砕けない:2014/11/03(月) 21:18:23 ID:6dzhMOGw
投下乙です
恐竜化騎士vs怪物の戦い…!スタンドバトルとは非なる戦闘の展開にハラハラドキドキしました。バトル解説に重点をおいてもこれほど緊張感が出せるのですね…すごいです

そして(今後の展開にもよるけど)抜け目なく手駒の種を蒔いておくディエゴは流石というしかないw

823名無しさんは砕けない:2014/11/04(火) 21:44:44 ID:U1np7vEw
投下乙です。
全編解説オンリーのバトルというのは実験的でいいですね。
それぞれの場面をスローモーションで観ているようでした。
もはや武器なんて必要ない強さでありながらしっかり回収する育朗は律儀なのか周到なのかw

824 ◆yxYaCUyrzc:2014/11/06(木) 19:37:09 ID:IHMQCceo
皆様ご感想ありがとうございます。
本スレが立ち次第投下したいところですがなかなか都合がつきませんorz
いきなりwikiって訳にもいかないですし、良くも悪くも過疎気味なのでもう少し待ちたいと思っております。

825矜持 ◆yxYaCUyrzc:2015/04/04(土) 11:14:59 ID:OAZEi2Ew
最後のご挨拶だけ連投規制とか……wとりあえずこちらに。

ともあれ、以上、投下終了です。
随分と端折った描写になってしまいましたが(いつものことですが)問題ないでしょうか……
久々に書くとうまく書けないものですorz

シーラが『ウォッチタワー』をどこまで知っているのかがイマイチわからないのでその点で問題があれば、ご意見伺いたいところです。
先に予約されてた◆LvA氏の話に大きくは関わっていないと思いますが、そのへんも合わせてご意見いただければ幸いです。

物語も終盤にかかってくると何気ない繋ぎ話って書きにくくなるんですよねぇ(苦笑
それでも需要があればまたいずれ、それではノシ

826さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:17:53 ID:JYUYwMcI
カーズが左腕を振り上げる。素早く身をかわし、シーラEはこれを当てさせない。
右の拳でラッシュを見舞い、対応したところを左でぶちかますッ!
カーズはこれをバックステップでかわす。更なる進入を警戒し、素早く斬撃を飛ばし、牽制する。

カーズの反応は早い。シーラEが少しでも踏み込んでくるとすぐにバックステップ。
決して刃を大きく振り抜かない。闇雲に腕を振り回さず、必要最低限の攻撃を放ち、自分の制空圏内に踏み込ませない。

シーラEは大きく息を吐き、足元に力を込めた。
『ヴードゥー・チャイルド』が遠間から一気に踏み込んだ。躱された拳がカーズの足元に叩き込まれると、カーズの足元に『唇』が生まれた。

「MUUU?!」
「何も考えず大振りを繰り返すほど、私はマヌケじゃあないわ」

カーズのバランスがほんの一瞬だけ崩れる。シーラEは既にスタンド能力を発動していた。
その足元に蠢くのは『唇』。床一面引き締めたように、アスファルトの上は『唇』だらけだった。
そして、まるでカーズに向かって呪詛の言葉を吐く怨念たちのように、一斉に歯をガチガチと鳴らす。
靴を噛み、マントの端をついばむ。辺りを覆うような「人間たち」の言葉の一斉砲撃に、カーズは空間感覚を失う。


そして……その言葉の中を切り裂くように轟く ――― 一発の銃声。


「NUO!?」


生まれた隙は一瞬。しかし充分すぎる一瞬だった。
既に『オー! ロンサム・ミー』を発動、負傷した康一を抱えて戦線を離れたカウボーイ。彼がもう一方の腕に抱くのは一本のライフル銃。
そしてその先から立ちのぼる硝煙。カーズの脳天を貫く弾痕。柱の男の体制が完全に崩れた。

山猫のような身のこなしでシーラEがその隙をつく。カーズが振るった刀がシーラEの腕を切り飛ばす。
それでもひるまない。それでも下がらない。切り残された『二本』の腕を大きくしならせ、飛びかかる……ッ!


「エリエリエリエリエリエリエリエリエリエリエリエリ………………ッ!」



一瞬で懐に潜り込んだシーラE。全力を超えたヴードゥー・チャイルドの拳が、カーズの体の中で爆発した。


「RUUUOOOOOHHHHH!!」


手応えはあった。最後の交戦で『両腕』を切り落とされたシーラEは、肘から血を滝のように流しながら、確信する。
その傷は重症でありながら、軽傷であった。シーラEの腕は現実問題、『四本』あったのだから。
『キッス』! シールを張ったシーラEの腕はそれぞれが二つに分裂していた。
カーズが吹き飛んだ先、半壊した家の瓦礫を見つめながら、シーラEはシールをはがすと痛む腕をゆっくりと撫でた。

誰も口を開かない。暴れる馬の荒い呼吸音、ティムが馬を落ち着けようと手綱を弾く音。
それ以外はなにも聞こえなかった。ゆっくりと闇が濃くなっていくのに合わせるように沈黙も深まっていく。

827さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:18:47 ID:JYUYwMcI

  『俺とお前は、もうダチだろ。離してなんかやんねーよ』
                            『駄目だ、康一君ッ! 行っちゃ駄目だ……!』
  【やつが存在するのは危険だ!】


         ―――声が聞こえてきた。

                   ―――カーズにかけられた幾つもの罵倒。これまでの遍歴。

   『実験台にしない……? どの口がそれを言う………ッ!』
    『――バルバルバルバルバルバルバルバルッ!!』    【やつを殺してしまわなくては!】
                        
 【あいつをこの地球から消してしまわなくてはならない……!】
                   『三人同時は「少しだけ」骨が折れそうだな……やれやれだぜ』


それもゆっくりと次第に途切れ、あたりは完全な沈黙が降りる。
シュトロハイムは車から降り、シーラEに下がるよう合図を送る。自身はカーズに対し左に回り込み、噴上に対しては右に回るよう指で指示をする。
パラパラ……と壊れかけの民家から木片が落ちる音が聞こえた。シュトロハイムはひっそりと、着実にカーズが吹き飛んだ場所へと近づいていく。
砂埃が舞い、カーズの様子は伺えない。戦いの余波で壊れた電灯が突然思いついたように点滅を繰り返していた。

弱々しくうめいたと思えば、昼間の太陽のように一瞬だけ輝く。その輝きが、半壊した瓦礫に影を落とした。

影がむくりと体を起こした。きっちりと、決まりきったように上半身だけを起こす。
そのままの姿勢でしばらくうずくまっていた影が、やがて思い直したように立ち上がった。
カーズの体には傷が見当たらなかった。あれだけ放った銃弾も……! 身を切るように叩き込んだ拳も……!
柱の男の前では無力ッ! そこに見えたのは崩壊した屋根を押しのけ、ガラスをバリバリと踏み割る影!

人間たちは理解した。目の前の相手は、決して手を出してはならない相手だった。自分たちが敵う相手ではなかったのだ。


「「車を出せッ!!」」


噴上とシュトロハイムの怒号が轟く中、シーラEは聞いた。
仲間たちの声がどこか遠くに飛び去っていく中、シーラEはその胸糞悪くなる、ねっとりとした粘着性のある音を聞いた。

体中の皮膚という皮膚が、ものすごい力で引っ張られたような感覚。圧迫感と緊張感。

カーズは体を起こすと、高々と『康一の腕だった』ものを掲げた。そして、それをおもちゃのように簡単に、握りつぶした。
その時の音と言ったら! 骨が砕ける音でもなく、血がほとばしる音でもない!
肉体を喰らう音……! 消化され、柱の男の血肉に変わる音!
シュトロハイムに無理やり引っ張られ、車の中に押し込まれる中、シ―ラEの耳には『その音』が繰り返し鳴り響いた。
カーズの足がシーラEの切り飛ばした腕を踏みにじった。それも一瞬で体内に取り込まれ、あとには何も残らなかった。

828さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:19:30 ID:JYUYwMcI



「ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ」が高く、長く、嘶いた。


エルメェスの右手がシフトレバーに伸びる。タイヤがきしみをあげて回転する。
バックミラーの中でカーズとティムたちがぐんぐん小さくなっていく。
エルメェスはさらにアクセルを強く踏んだ。車のギアを一段、二段と上げていく。


「南へ向かえッ 北は街だ、曲がりで手こずれば追いつかれるぞ!」
「シュトロハイム、康一は!? ティムは!?」
「ティムを信じろ、シーラE!」


シュトロハイムが座席の間から首を突き出し指示を出す。後ろで噴上とシーラEの叫びが聞こえた。
エルメェスには振り返る余裕も、反論する時間もない。シュトロハイムの指す方向ままに、どんどん車線を変え、市街地を猛スピードで駆けていく。
バックミラーにほんの少しだけ視線を移す。カーズの姿も、ティムの影も見えなかった。
見えたのは慣れない様子でシーラEの止血をする噴上。その額には、大粒の汗が光っていた。

「次を左、そして駐車場を突っ切って真っ直ぐだ!」

シフトダウン、ブレーキ、急ハンドル。四人の体が左に流れる。縁石に乗り上げた車が嫌なバウンドは繰り返し、無理矢理にスピードを落とす。
険しい顔つきのままシュトロハイムが首を引っ込めた。
後ろを振り返ると、バックドア越しに車外を鋭く睨む。暗闇の先にカーズの姿を見透かすように強く、長く見つめる。

追っ手が来ないことを確認すると、シュトロハイムは鼻息荒く、呼吸を繰り返した。
そして後部座席に座り込む二人の顔を、時間をかけて見つめる。噴上もシーラEも血だけのまま、シュトロハイムを見上げた。
シュトロハイムは口を開いて……だが何かを言いかけた途中で思い直す。かわりに噴上の肩に手をやった。
言葉とは裏腹に厳しげな口調で言った。

「無理はするな、ユウヤ。一人で相手するには荷が重かろう」
「……戻れ、『ハイウェイ・スター』」

噴上の両腕は必要以上に血塗られていた。カーズが遅れている理由は『そういうこと』だったのだ。
仲間の中で遠距離型のスタンドを持つのは噴上だけだ。車と違い、柱の男は道路に従う理由がない。
彼らの身体能力を持ってすれば家を飛び越え、坂を飛び、最短距離でエルメェスたちに迫れるはずだ。誰も、何の妨害もしなければ。

街灯は飛ぶように後ろに消え、住宅の数が少なくなり始めた。それに伴い、車内の沈黙も深まっていく。苦しげな車のエンジン音だけが轟いていた。

シュトロハイムが時折ルートを確認する。エルメェスは短く、丁寧に返事をした。
噴上とシーラEが互いに容態を確認する。包帯や止血のための布を探す、ゴソゴソとしたさざめきが沈黙を遮った。

随分と時間が経った気がした。エルメェスは車の時計に目をやった。
だがほとんど時間は経っていなかった。時計が壊れてるのでは、と一瞬疑ったが、それは正しかった。
やがて車内の空調が、カタンと音を立てて空気を送り込むのをやめた。それが合図だったかのように、噴上はエルメェスの肩を叩いた。

829さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:20:16 ID:JYUYwMcI



「エルメェス、車を左に寄せろ。右から合流するぞ!」


橋の手前、サン・マルコ広場の出口で噴上が言った。同時に固いヒヅメの音と、荒い息遣いが聞こえてきた。
気合を入れた掛け声とともに、マウンテン・ティムが家と家の間のわずかな隙間を乗り越え、車に並び立った。
その腕にはぐったりとした様子の康一が抱えられている。ティム自身にも披露が色濃く、漂っている。


「康一君を!」

抜群のコントロールで投げ縄が車内に伸びる。
『オー! ロンサム・ミー』を発動、ロープを伝って康一の体が引き渡されていく。
ちぎり飛ばされた左腕を残して、残った康一の体が車内の安全な場所に横たえられた。


「ヤツはわざと追いつかせたんだ」

車と併走しながら、エルメェスを除く三人に向かってティムは言う。
前置きも抜きに、小さく短く、そう伝えた。風きり音に消されることなく三人の耳にはその言葉が確かに届いていた。
シュトロハイムは顎にぐっと力を込めて、車の後方を仰ぎ見る。目を凝らさなければ気づかないほどの距離に、着実に近づくひとつの影があった。

「車が疲れることはない。だが私の『ゴーストライダー・イン・ザ・スカイ』は違う。
 馬が疲れた時、私は確実に追いつかれるだろう」


 それはつまり……。

     ―――つまり、私はここでお終いだ。

誰も何も言わなかった。だがティムと三人の間には無言の内にやりとりが済んでいた。
話はお終いだ、と言わんばかりにティムは帽子をかぶり直した。そしてそのまま車から離れようと手綱を強く握りなおす。
その手を力強く掴んだのは噴上だった。ほとんど車から落ちんばかりに、窓から上半身を伸ばすと、ティムの手首を強く握る。
噴上は言う。決して大きく、叫ぶようには言わなかった。離れかけていこうとするティムに向かって、ただ強く、真っ直ぐに言う。


「きみに『戦う意思』があるのなら、きみひとりで挑むのではなくオレたちも頼りにしてほしい。『ひとりきり』で事に当たってはいけないんだ」

830さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:26:34 ID:JYUYwMcI



手綱を引くティムの手が止まった。窓から身を乗り出した噴上とティムは互いにその目の中を覗き込み、黙り込む。
沈黙を遮るようにシュトロハイムの銃口が火を噴いた。静かに、気配を感じさせず忍び寄っていたカーズを牽制する銃弾。
こうしている間にも、脅威は確実に近づいている。じりじりと死は近づいている。手をこまねいて、引きずり出さんと執拗に迫る。
シーラEは黙って康一の介抱に専念する。手馴れた様子で服の切れ端を縦に切り裂き、肩口あたりで強く縛る。

二人の男は睨み合ったまま、走り続ける。時々鳴り響く銃声が沈黙を一層引き立たせた。
噴上は怒りを口の中で噛み殺し、続ける。


「違うか? マウンテン・ティム?」


ティムはしばらくの間、噴上の顔を眺めていた。返事はせず、しかしそのまま離れることもせず、前を向くとほんの少しだけ小さく頷いた。噴上は手を離した。
愛馬に掛け声を掛け、手綱を引く。車を風よけのように使いながらピタリと後ろについて走り始めるマウンテン・ティム。
口元には中途半端にねじれた笑顔が浮かんでいた。頼もしさと寂しさを同時に表現しようとして、うまくいかなかったような笑顔だった。


「橋を越えてからが勝負だ」
「西に向かうぞ。東は袋小路だ」
「牧草地帯……隠れるところもなければ、追ってを巻くような場所もない、か」

車内では男たちが戦いの準備を整え始めた。
噴上が息巻き、シュトロハイムが指示を出す。シーラEは眉をしかめて付け加えた。

シュトロハイムは後部座席に陣取り、カーズとティムの様子に目を配る。
二人を援護するように噴上はスタンドを駆使し、時折エルメェスに前方の様子を伝えた。
シーラEは自らも傷を負いながら、康一の怪我を治療する。



   ―――車は間もなくエア・サプレーナ島に入ろうとしていた。





831さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:28:12 ID:JYUYwMcI
【4】

F-3牧草地帯。足跡一つない美しい芝。
次の瞬間、その芝を真っ二つに切り裂くように二組のタイヤが猛スピードで駆けていった。
泥を巻き上げ、車が揺れた。シーラEの怒鳴り声が飛び去っていった。

「ダメッ 追いつかれるッ!」

エルメェスは振り切れたスピードメーターに目をやり、呻いた。
背後から死が迫ってくる―――その死は冷たく一切の容赦をしなかった。黒色の死。
丘を越え、車が宙を舞う。バウンドを繰り返しながらなんとか車体を立て直そうと夢中でハンドルを切った。
また少し追いつかれた。追走は執拗だ。柱の男は執念深い。

 ――メめキャァア!

車体がひしゃげた音についに追いつかれたかと思った。
だがそれはシュトロハイムが強引にバックドアをあけた音だった。
時速100キロ近い速さで走る車の中を、風が通り抜けていく。

「エルメェスッ! なぜ俺たちはジョジョとDIOの戦いに手を出さなかった?」
「ああ?!」

振り返る暇もなくバックミラー越しに怒鳴る。シュトロハイムはマシンガンをカーズに向けたまま仁王立ちだ。

「なんでもいいから、あのクソ野郎をどうにかしやがれ!」
「忘れたとは言わせんぞッ いいから、答えろ、エルメェス!」
「『長く深い因縁』とやらのせいだろ、このくそったれが! クソッ!」

ハンドルを乱暴に殴りつける。シュトロハイムは一人頷き、笑った。その言葉が聞きたかったのだ。
次の瞬間、シュトロハイムは時速数十キロの宙へと蹴り出した。
風の音に負けないぐらいうるさく喚きながら、シュトロハイムはマシンガンを撒き散らし、カーズに向かって突っ込んでいった!

「我がナチス軍と柱の男たちの間にも……決して断ち切れない因ィィイイ縁があアぁあ―――るッ!
 今ここでッ! 貴様を細切れに吹き飛ばしッ! 因縁に決着ゥゥつけてくれよう、カーズ―――ッ!」

車の時速 プラス 柱の男の全力疾走ッ! そこに飛び出てきた誇り高きナチス軍人!
さすがの柱の男もこれには対応できない。二つの巨体は人がぶつかったとは思えぬ轟音をたてながら、芝生でもみくちゃになる。
あっけにとられるシーラE。それを尻目に、バックドアからまた一人の男が飛び出ようとしていた。
噴上が静かに言う。

「別にカッコつけるわけで言ってんじゃないけどよォ〜、念のため……念のため伝えとくぜ」

うつむき加減の噴上が見つめる先には青い顔をした彼の同級生。ぐったりとしまま、シーラEの膝の上で寝そべる康一。
汗をぬぐい、あご先をいじる。口には最後まで踏ん切りがつかない、男の弱さが滲んでいる。

「考えてみたんだ……もしこの車に俺の女たちが乗ってたらどうなるんだってな。
 もしもこの車を運転するのがお前じゃなくて……あの馬鹿でうるさい、俺が好きなあの女どもだったらって考えたらよォ〜〜」

832さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:28:47 ID:JYUYwMcI

噴上裕也は『勇気』あるものだった。
噴上はノミと違い、自分が相手をするのは人間をはるかに超越したものだと理解している。
だがそれでも彼は自らを奮い立たせた。噴上はバックドアを蹴り開けた。

「ここでガタガタ震えているのはカッコ悪いことだぜッ! 『ハイウェイ・スター』!」

マシンガンが鳴り響く音にまぎれ、鉄が捻れ、ちぎれ飛ぶ音が聞こえた。
火花が散り、高笑いが聞こえる。死がシュトロハイム捉えた。鈍い爆発音。
そして噴上はッ! 自らその暗さに飛び込んでいった……!

「エルメェス君」

一匹の馬が車と併走する。カウボーイハットを抑えながらマウンテン・ティムが言う。
エルメェスはギュッと目を瞑ると、ティムがもう一度名前を呼ぶまでそうしていた。
ハンドルは握ったまま、窓越しに二人は顔を合わせる。
ティムは柔らかに微笑んでいた。観念したように、エルメェスは天を仰いだ。

「君ほどガッツ溢れた女性は俺の周りにいなかった」
「あんたほど男前な保安官もいなかった。ムショにいるのがみんなあんたのような奴だったら良かったんだけどな」
「同僚に伝えておくよ」

固い握手が解かれると、車は前に進み、ティムは後ろに下がり始めた。
後部座席、窓越しにシーラEとティムの目線がかちあった。互いに頷くと最後の挨拶を交わす。


「アディオス、セニョリータ」
「さようなら、保安官ティム」


背後でまた音がした。背筋が冷たくなる刃物の音。三人の動きが止まった。
何かが力任せに切り裂かれた音。ねじ切られる音とすりつぶされた音。痛みに泣き叫ぶ噴上の声が聞こえた。

833さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:29:07 ID:JYUYwMcI


「行け……行くんだッ! 君たちは希望ッ! 君たちは生き延びなければならないッ!」


止める暇もなく、ティムが車から離れていく。手綱を強く引くと、興奮のあまり馬が高くいなないた。
エルメェスには何もできなかった。エルメェスにできたことはハンドルをしっかりと握り締め、前を向いて運転を続けることだった。
ただアクセルを踏んだ。できるだけ強く、できるだけ速く。
何度か光が点滅するのと銃撃音が後ろから追いかけてきたが、かじりつくようにひたすら前に進んだ。
後ろの座席でシーラEがドアを力任せに叩く音が聞こえた。

「畜生……ッ」

悔しさのあまり、うめき声が漏れた。繰り返し、繰り返し口の中で言葉を殺した。

突然強風が吹き、風に飛ばされたカウボーイハットが眼前を横切った。フロントガラスを一度だけ叩くと、後方へと吹き飛んでいく。
今止まれば、まだ間に合うかもしれない。一瞬そんなことを考えたが、エルメェスはためらわずアクセルを踏んだ。
ただ踏むしかなかった。今更止まることなんてできなかった。

再び加速した車は平原を飛ぶように突っ切っていく。
一対のヘッドライトは闇を切り裂いていき、やがて影に紛れて見えなくなった。





【シュトロハイム 死亡】
【噴上裕也 死亡】
【マウンテン・ティム 死亡】

【残り 27人】






834さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:29:30 ID:JYUYwMcI
【5】


「うおろろォォオオオおおおおオ―――――ッ!」

意味不明な言葉を叫びながら滑空する影に、カーズは弾き飛ばされた。
反射的に蹴飛ばそうともがいたが、シュトロハイムは蟹のようにしがみついて離れなかった。
ひとつの塊になったまま芝生を転がり続ける。ようやく弾き飛ばした時には車は遥か遠くまで距離を稼いでいた。


 逃したか?/逃げ切ったか?  「いや、まだ間に合う距離だ。」 ここでこいつを 切り伏せる/食い止める!


カーズは腕から刀を抜くとシュトロハイムを無視し、跳躍した。

「貴様の相手は、我がゲルマン民族の魂の! 結晶である……この私だァああアア―――ッ!」
「馬鹿の一つ覚えか……サルめ」

薙ぎ払うように放たれた無数の弾丸。横走りしながら、無造作に腕を振るう。高速回転する刃が次々と弾を切り刻んいった。
切って、切って、切って……埒があかない。カーズは舌打ちをすると、顔の前で腕を交差した。
必要最低限のガードを残し、残りを体で受け止めた。シュトロハイムが放った84発全てを食らうと流石に足元が揺らぐ。
銃弾は全てカーズを貫通し、芝生を吹き飛ばすッ! 地面には蜘蛛の巣のようなひび割れが無数に出来上がった!
だが……ッ!

「こんな生っちょろい攻撃でこのカーズが止められるとも?
 こんな見え透いた、サル知恵のような武器で、このカーズが止・ま・る・と・で・もォォオ〜?」

カーズは一瞬だけ体をぐらつかせたが……倒れずに、急反転。
追いすがるシュトロハイムに一気に迫る。突然の方向転換にシュトロハイムは虚を突かれた。
だが、それでいい。これがシュトロハイムの狙いだ。自らの命を撒き餌さに、時間を稼げればそれで問題ない。
シュトロハイムは目を見開き、カーズに弾丸を叩き込み続ける。

「むろぉぉおおおオオオおおおおお――――――ッ!!」

雨あられと降り注ぐ銃弾を雨風のように受けながら進むカーズ。一歩、一歩確実に距離を詰めると最後に強く地面を蹴る。
闇にまぎれ、その影が消えた。そしてシュトロハイムが気がついたときには既に振りかぶられていた。
月を反射した光が妖しく輝く。それが最後に見た光景。

金属が絶ち切れたとき、淡い火花が一瞬あたりを照した。シュトロハイムの体は美しいほど真っ二つに切り裂かれた。
右半身、左半身がそれぞれ重力に引っ張られ……無残にも転がった。

835さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:31:04 ID:JYUYwMcI


「シュトロハイム――――――ッ!!」


絶叫。手遅れのように思えるタイミングで新たな横槍が入る。
ハイウェイ・スターは限界まで体をばらすと、カーズの上下左右、すべてを包囲する。
幾つもの『足跡』に囲まれながら、カーズは余裕を崩さない。全身をスタンドが覆い、その養分を喰らわれようとも! 

「このカーズ相手に『吸収』勝負か? 小癪な」

スタンドを引きちぎり、弾き飛ばし、カーズは進む。月明かりにその生身を晒したとき、噴上は縮み上がった。
自分が相手するものの強さを改めて知ったとき、彼ははっきりと理解した。

俺はここで死ぬ。

いくらカッコつけようとも、いくら自分のスタンドを信じようとも!


「フフフ…………フハハハハハ――――――ッ!」


未来は変えられない。ここで俺の人生は終わる……!

その圧倒的なまでの耐久力に足が震える。自分の攻撃が通じない無力感はまるで猫を前にしたネズミの気分だった。
それでも、噴上は一歩も引かない。一歩たりとも下がったりはしないッ!
恐怖に足がすくむのはもうたくさんだ。ビビってゲロを吐く寸前までもいったってそれでも立ち向かうと決めたのだ。
だから後悔はない……。たとえここで殺されるようなことがあろうとも、噴上に後悔はないッ!

カーズは養分喰らい尽くすハイウェイ・スターを相手に自らその肉体を差し出した。
一つ、二つ始末したところでスタンド使い本体にダメージが通らないことを理解したのだろう。
戦法を変えよう……カーズはその有り余る巨体を縮めていく。そして次の瞬間、その体を自らあたり一面に撒き散らしたッ!


「そぉれ……くれてやるッ!」


『憎き肉片』ッ! 飛び散った肉片が今度はハイウェイ・スターを取り囲んだ!
肉片まみれで動きが止まるハイウェイ・スター。動きが止まったところを各個撃破でカーズは確実に息の根を積んでいく。
噴上の頬から血が吹き上がる。足元から出血が! 腕に痛みが! 本体へのフィードバックは確かにダメージを与えていることの証明ッ!
噴上は本能的にスタンドを引っ込めた。これ以上のダメージを受けては戦闘不能は避けられない……ッ!

「ほう、いいのか……? ガードががら空きだが?」

しかし、重りを失ったカーズはたった一歩で噴上のもとへたどり着いていた。
間一髪スタンドのガードが間に合った。が、その一寸の隙に噴上の左腕は切り飛ばされていた。
腕が飛び、アバラが折れる。衝撃はそれだけにとどまらず、数メートル吹き飛ばされ、噴上は大地に叩きつけられた。
今まで経験したことのない痛みが噴上を襲う。噴上は泣き叫び、地面を転がった。

836さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:31:31 ID:JYUYwMcI
「ああああああああぁああぁアアああああ―――――ッ!!!!」
「軟弱軟弱ゥ! ……むッ!?」
「上出来だ、ユウヤ!」

馬の嘶き、ヒヅメの音。トドメを刺そうとしていたところ、またしても横槍。急速に近づく、ヒヅメの音をカーズの耳は捉えた。
カーズは振り返ろうと身構え……左腕に違和感を感じる。更に強引に振り返ろうとして……体がうまく動かないことに気がついた!

一本のロープがカーズの体を貫いていたのだ! それはどんな槍よりも、刀よりも確実に! カーズの動きを止めていた!
『オー!ロンサム・ミー』を発動ッ! ティムがロープをたぐると分解されたカーズの体がその上を伝っていく。
ついに捉えた……! 馬上からティムは銃を放ち、さらに距離を詰める!

「!?」

だから次の瞬間、ティムは仰天した!
通常『オー!ロンサム・ミー』をくらえば相手は縄から逃れようと必死でもがく!
あるいは突然のスタンド攻撃に動揺し、動きが止まる! しかしカーズはッ!


なんとそのロープを自ら断ち切ったのだッ!


「柱の男の回復力を舐めるな、人間ッ!」


ロープが断ち切られたことでその肉体は無残にも芝生に撒き散らされた。
だが『その程度』だ。いくら肉体が切られようと、焼かれようと、打ち抜かれようと!
ティムの銃弾は雀の涙も同然だった。カーズが肉体を元の形に戻した頃に処分できたのはおよそ五分の一にも満たない肉片。
カーズにとっては少々動きづらくなった、と呼べるだけだ。

「化物め……ッ!」

ティムの目の前で肉片が集まり、肉体として積み上がった。
さすがのカーズも体力を消耗している。呼吸は荒い。だがまだ戦える。動きづらいが、まだ跳べる。
カーズとティムは沈黙の中向き合った。車のエンジン音が遠くどこかから聞こえた。馬の息の音が不規則に、不自然なまでに大きく響いた。


ティムは思った。勝負は一瞬だッ! そして一点のみッ!
この化物相手に勝利するには首輪を打ち抜くしかない。切っても撃っても喰らっても……カーズ相手ではあまりに足りない。
撃ち抜くんだ、カーズよりも速く……3センチ幅に勝機を託してッ!


ガンマンのように二人は向き合う。沈黙。睨み合い。
刃越しにティムの帽子が揺れる。ピストルの射線上、カーズのマントがはためいた。
そして……ッ!

837さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:32:05 ID:JYUYwMcI
「なにッ!?」

その一瞬! カーズは驚愕のあまり何が起きたか理解できなかった。
カーズの動きが止められた! ティムの弾丸を喰らわなかった足、左足首をがっしりと掴んだ機械の手!
シュトロハイムは半身で最後の力を振り絞った。スパークが飛び、目の役割を果たしていたライトが急速に点滅する。
同時に、ハイウェイ・スターがカーズを包むように展開される。逃げ場はない。地面にも、空中にもカーズは逃れられない!
ティムが愛馬にムチを振った!


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


一発、二発、三発、四発! ライフルの残弾数は残り一発!
カーズは徹底して首輪を守っている。そこだけが彼ら人間の、細い勝機とわかっているから。
すれ違いざまの一撃で、ゴーストライダー・イン・ザ・スカイの体に真っ赤な線が浮き上がった。
腹を切り裂かれた馬は鳴き、倒れる。地面が震えた。ティムは直前に飛ぶと再びカーズと向き直り、また走り出す。


「馬鹿の覚えのように突っ込んでくるか! 策がないぞ、原始人どもッ!」


カーズは叫び、そして違和感を覚えた。
ティムの眼は自分に向いていない。狙うべき首輪、カーズの光る刀。どちらも見据えていない。ならば―――なにを?


ティムの視線はカーズの後ろに向けられていた。虫の息の噴上と視線が合う。頷く。意思は伝わっている。

薄く消えかかったハイウェイ・スターの手が握っていたのはナチスご自慢の手榴弾。
カーズの頭上、わずか数メートル。そして、暗闇にまぎれ見えなかったが……ティムの左手に握られたのは同じ型のもう一発の爆弾!

カーズの目にはすべてがスローモーションのように映った。ティムの左手から放たれた手榴弾が弧を描いてカーズの元に飛ぶ。
切ることも、弾くこともできずカーズは反射的に足を止めた。この戦いの中で初めてカーズは後退を選択しようとした。
だがそれをシュトロハイムが許さない。機械の体、人間の意地。


腕の一本や二本、足の一本や二本をちぎられようとも……そして例え死んでもだッ!
一度食らいついたら決してその手から勝利を離さないッ!


両手でライフルを構えたティムが、手榴弾の向こうで見えた。ためらいは見られなかった。
二つの爆弾、噴上とシュトロハイムの首輪。それらが誘爆すればここら一体は塵なく吹き飛ぶというのに。
振り上げられたライフルは的確に、ハイウェイ・スターが持つ信管を打ち抜いた。 そして―――…………!





838さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:32:29 ID:JYUYwMcI
【6】

徒労だった。男三人が命懸けで挑み……そして敗れ去った。決して離さないと誓ったロープは短く、ちぎれてしまっていた。
爆発とともに吹き飛んだティムの下半身をつなぐことはもほや不可能。一秒ずつ、確実にティムの命は失われていく。
そしてカーズは……そのティムの、噴上の、シュトロハイムの肉をくらい再生する。

「無駄に勇み足をふみよって……このカーズ相手に」

視線の先で目を開いたまま噴上が事切れていた。残された片腕を投げ出し、無抵抗にカーズに喰らわれるがままになっている。
その向こうでは爆発の直撃を受けたシュトロハイムが火を上げる鉄くずになっていた。
カーズに盾にされたその体は、もはや判別不可能なほど、黒く徹底的に壊れてしまっていた。
三人は柱の男を前に敗れ去った。全ては、ただの徒労に終わってしまった。

爆発の際に吹き飛んだティムの帽子が風に舞い、戻ってくる。
泥だらけであちこちが折れ曲がっている。決して地に付けないこと誇りに思っていたはずの一品。
カーズは帽子に一瞥をくれたが、興味をなくし食事に戻る。噴上の肉体はもはや肉片一つ残っていない。

(これが……俺たちの、最期か)

エルメェスは無事だろうか。ほかの襲撃者に会うことなく、休息を取れる場所にたどり着けたならばいいが。
康一は目を覚ましただろうか。シーラEは再び立ち上がれるようになるのだろうか。
康一は戦いの果てに心をすり減らしてしまっていた。ティムの後悔といえば、そんな彼にまた重荷を加えることになってしまったことだった。

すまない、そうティムは呟く。口がうまく動かなくなっていた。言葉にならず、風が過ぎ去っていく。

噴上を取り込んだカーズはいくらか体力を取り戻す。
ふらついていた体を立て直すと、その足がティムの方へと向かってくるのが見えた。
ついに自分の番が回ってきた。体力の限界と、そして恐怖がティムの瞼を重くする。
くすんだ視界で死神の姿が大きくなっていく。カーズが近づいてくる……近づいてくる……。



 ―――そして…………




839さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:32:59 ID:JYUYwMcI
【7】

黒焦げの死体、上半身だけの死体、首から上と下半身が爆発で吹き飛んだ死体。
カーズはしばらくの間、じっと三つの死体を見つめていた。ちょうど待ち合わせの時間を待っている人が時計を見上げるかのように。
右手の人差し指と中指でこめかみをゆっくり撫でる。やがて決心がついたように唇をきゅっと横に結ぶと、カーズは諦めたようにため息をついた。
足元に転がったシュトロハイムの残骸を蹴り上げ、残りの肉片の回収を始める。首輪の謎は深まるばかりだった。

マウンテン・ティムを用いた首輪の実験。
死にかけのマウンテン・ティムの傷口をカーズは自らの肉片で止血し、生きながらえさせた。
そして体を地面に固定し、首輪に必要以上の負荷をかけてみたのだ。ちょうどロープで首輪を無理やり外すような動きを加えて。
予想通り、あっけなくマウンテン・ティムの首輪は爆発した。小気味良い音を立てて、マウンテン・ティムは脳髄をばらまき、そして死んだ。

そこまではいい。
死者の首輪であろうと、生者の首輪であろうと関係なく爆発は起きる。
主催者、ファニー・ヴァレンタインは断固として首輪の中身を見せたくないのだろう。

不思議なのは爆破の規模だ。
仮に首輪の中身を見せたくないがゆえに、そして禁止エリアで参加者の動きを制限したいがゆえに爆弾を仕込んでいるとしたならば……どの参加者であろうと均一に爆薬を含んでいるはずだろう。規模は違えど『参加者を殺す程度の爆発はどの首輪であろと起こる』はずだ。
つまり『こちらの首輪は爆発するが、あちらの首輪は爆発しない』なんてことは起こってはならない―――はずだ。

ティムと噴上を食べ終えたカーズは、ゆっくりとシュトロハイムだったもののもとへ足を向ける。


ところが『ここ』に『例外』が存在した。
戦闘の途中、カーズはシュトロハイムを『首輪ごと』一刀両断した。
だが爆発は起きなかった。シュトロハイムの体は美しいほど真っ二つに切り裂かれ、右半身と半身がそれぞれ散り散りに転がっただけだ。
首輪は何ら反応を示すことなく、綺麗に切り裂かれてしまった。もっともその後の爆発の余波で中身を確認することはできなかったのだが。

なぜシュトロハイムの首輪は爆発しなかったのだろう。
シュトロハイムが半人間、半機械だから? シュトロハイムの首輪だけ特別仕様だったのか?
カーズがシュトロハイムの脳天を切り裂き、生命活動を終わらせてから首輪を断ち切るまでの時間は短い。
ほとんど同時と呼んでいいくらいだ。その上、実際のところシュトロハイムは首輪が外れてから即『活動停止』とは至らなかった。
すくなくともカーズの足首を捉えるほどの働きはした……。これが意味することは一体何だろうか。

カーズは口を閉じたままシュトロハイムの残骸をじっと睨んだ。
そうすればまるで首輪の謎が自然と浮かび上がってくるかのように。切実に、ずっとにらみ続ける。
時折黒焦げになった機械部分と肉体部分の継ぎ目を指先でなぞってみた。
だがカーズにはその機械部分が何の役割を果たし、何のためにそう作られたのか理解はできなかった。


あるいは……『何らかの作用』が働いて首輪がうまく機能しなかったのか? ではその『作用』とは一体何だ?
首輪の爆発はすべて主動で行われているのか? 参加者150人全員を?

こめかみを抑え、神経を集中させる。だがいくら考えても答えは出てこない。
不確定要素が多すぎて、考えても考えても、思考がバラバラと崩れ落ちていくのカーズにはわかった。

840さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:33:31 ID:JYUYwMcI


「……忌々しい」

風が吹き、カーズのほどけた髪が額にかかる。カーズはほとんど反射的にそれをかきあげた。
月が影を落とし、芝生の上に複雑な模様を描いた。目的を持たない、長く不規則な動きで髪の毛が揺れる。
苛立ちがまた少し降り積もっていくのがカーズの中で感じ取れた。
人間三人を仕留めたにもかかわらず、その代償がこれでは……カーズのプライドは収まらなかった。
カーズは辺りに散らばった荷物をまとめようと、足を進めた。気持ちは既に次に向いていた。

新たな獲物を探しに、その場で反転し―――




『心が迷ったなら……やめなさい。ここで立ち止まるのは……カーズ、貴方にとって敗北ではない』



背後に立たれた感覚。耳元で囁かれた言葉。穏やかな息遣い。神々しい光。
カーズの左腕より刃が伸びる。電流を流されたかのように反応する。体を反転させ、背後を切りつける。
そして―――


「…………!? ……!? !?」


カーズの刀は空振りに終わった。何もない空間を切り裂いた刃先が、ほんの微かに、震えた。
振り返って、暗闇に目を凝らす。人影ひとつ見当たらなかった。息遣いも聞こえない。生命を感じさせる熱すらもそこには存在していなかった。

だが確かにいたはずなのだ……! カーズは間違えない。天才は間違わないのだ……ッ!
背後に立たれた感覚は確かな実態を持っていた。スタンドでも波紋でもない。それを超えた超能力でもない。
ありえない……! カーズは怒りすら感じながら辺りの捜索を続ける。
確かにいた! このカーズの背後に立っていた! 背後に立ち、そしてそっと語りかけ…………―――


「……MU?」


人影は見当たらなかったが、代わりにカーズは自らの体に起きた変化に気がついた。
『傷』が治っていた。つい今しがた人間たちとの戦いでつけられた体中の傷が!
カーズには理解ができない。それが『遺体』が起こす『奇跡』と呼ばれる現象だということに。
そして、彼に起こった『もうひとつの変化』にも……カーズは気がつきもしなかった。


「―――どういうことだ」


カーズのつぶやきに答えたのは空を覆い尽くす星空たち。淡く点滅を繰り返し、カーズの言葉は空へと消える。
そしてその首元に取り付けれた首輪も―――不規則な点滅でカーズの問に答えていた。

しばらくその場に立ち尽くしていたカーズだったが、やがて暗闇に姿を沈めていく。
腑に落ちない淀みをうちに抱え、カーズは新たな獲物を探し、また進みだす。
内に潜む何者かの力に気づくことなく……。そしてそれが、自らの問いに対する最大のヒントであることも知らず……。


カーズの頭上で登ったばかりの月が彼を見下ろしている。柱の男を縛り付ける首輪は、ひどく頼りげなく、寂しげな光を放っていた。






841さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:33:56 ID:JYUYwMcI
【G-2 中央部/1日目 夜】

【チーム名:AVENGERS】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』 → 『???』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:右二の腕から先切断、極度の貧血、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水1消費)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.???

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.カーズから逃げ切る。
1.運命への決着は誰も邪魔することはできない……。
2.ジョジョ一族とDIOの因縁に水を差すトランプ使いはアタシたちが倒す?

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:両腕に裂傷(中)、貧血、身体ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3(食料1、水ボトル少し消費)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ。
0.カーズから逃げ切る。
1.康一の治療と自身の治療に専念する。
2.ジョースター家とDIOの因縁に水を差すムーロロ、アタシが落とし前をつける?
【備考】
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません


【チーム全体の備考】
※全員がカンノーロ・ムーロロについての知識をシーラから聞き、情報を共有しました。
(参戦時期の都合上シーラも全てを知っているわけではないので、外見と名前、トランプを使うらしい情報チーム、という程度です)
※シュトロハイム、噴上、ティムの基本支給品、トンプソン機関銃(残弾数70%)、破れたハートの4。以上のものは車内に放置されています。
※シュトロハイムが持っていたドルドのライフル(予備弾薬を含む)、ティムのポコロコの投げ縄、琢馬の投げナイフ二本は爆発で跡形もなく吹き飛びました。
※ティムの最後のランダム支給品は「ジョルノがカエルに変えた盗難車のうちの一台」でした。
 現在康一、エルメェス、シーラEが乗車しています。
※康一の最後の支給品は「シュトロハイムがサンタナ戦で自爆に使った手榴弾×2」でした。
※ゴーストライダー・イン・ザ・スカイは死亡しました。

842さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:34:35 ID:JYUYwMcI
【F-3 南西部 牧草地帯/1日目 夜】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:遺体の左脚
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子)、壊れた首輪×2(J・ガイル、億泰)
    ランダム支給品1〜5(アクセル・RO:1〜2/カーズ+由花子+億泰:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる。
1.ワムウと合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。
3.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする。

【備考】
※スタンド大辞典を読破しました。
 参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
 現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのはティム、承太郎、DIO、吉良、宮本です。
※死の結婚指輪がカーズ、エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
 ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
 (そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
 1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
 2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
 3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
 4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『BLOOD PROUD』参照)

※遺体の左脚の入手経路は シーラEの支給品→シュトロハイム→カーズ です。
※カーズの首輪に「何か」が起きています。どういった理由で何が起きてるかは、次以降の書き手さんにおまかせします。


※康一たちとカーズの移動経路はE-4→ F-4→ F-3→ G-3→G-2 です。
 その間に夜(〜20時)までに発動する禁止エリアは存在しませんでした。

843さようなら、ヒーローたち      ◆c.g94qO9.A:2015/08/31(月) 23:35:09 ID:JYUYwMcI
以上です。誤字脱字、なにかおかしな点があれば指摘ください。

844接触 その1  ◆yxYaCUyrzc:2015/11/28(土) 22:24:13 ID:Gjquj.Tk
……え?いや、そりゃあ俺にだって知らないことはあるよ。
君らが俺に教えてくれたこともあるし、仮に知らないことがあれば知ろうと努力くらいはするさ。
ほら、最近だと『カリカリ梅が大好きな狂気のギャンブラー』とか。
彼に関しても俺は持ちうる手段を用いて調べ尽くした、はず。あまり突っ込み過ぎると消されそうだからね……

で、調べてるうちに感じたことは、彼はただ頭がいいだけじゃあない。
彼が得意なのは『賭け』ではなくて『駆け引き』だと思うのさ、俺の解釈だけど。
同じ『カケ』という読みでも随分違うんじゃあないか?この二つは。
ハッタリをかまし、道化を演じ、相手を観察し、押すときはトコトン押す。


――そういう参加者は、この場にもいるだろう?


彼が放送を聞いても特に思うことはなかった。
せいぜいが、自分の危機は去らないという事実を改めて痛感した、という程度だろう。

できるだけ多くの参加者と接触しなければ自分は実験台として人柱になる可能性が。
そして逆に参加者と接触すればするほど、乗っていた人間に殺される可能性がある。

でも、それすらどうでも良くなってきていた。
一口に『自由』といっても、それを明確にどんなものか説明できる人間はいないし、百人に聞いたら百人それぞれの答えが返ってくるような質問は質問と言わない。
先に接触した二人組に取り入ろうとせず、半ばヤケクソで与えられた命令をこなし退散したことも、その辺りが彼の胸の奥にモヤモヤと巣食っていたのが原因だろう。

ゆえに、次に出会った参加者にも特に思うところはなかった。

「今度はミュージシャン志望かよ……大したセンスだぜ、くそったれ。なんだってホント」

そりゃあ悪態の一つも付きたくなるだろう。
目の前に突っ立っている男は、そんな彼のことを、警戒するでもなく、憐れむでもなく、疑うでもなく、訝しむでもなく。
あるいはそれらを全て混ぜ合わせたような目を向けていた。

「ハァ……参加者たちに『カーズ』ってやつからの伝言。
 『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』だとさ。まあ、来ても来なくても自由だけど」

ため息混じりに言うべきことだけを言い、踵を返す。
直後にいきなり走り出さなかったのは、疲労なのか、思うところがあったのか。彼自身にもわからない。
そんな背中に声がかけられた。

「君は――」

静かに、しかしよく通る、それでいて気にしなければ聞かないで済むような、その声は。

「『宮本輝之助』だね?」

静止を求めるものではなかった。

845接触 その2  ◆yxYaCUyrzc:2015/11/28(土) 22:28:57 ID:Gjquj.Tk
***


『どうして自分の名前を知ってるんだ?』って顔をしてるな――少し私の話をしよう。

私の名は『吉良吉影』。年齢33歳。自宅は杜王町北東部の別荘地帯にあり……結婚はしていない……
仕事は『カメユーチェーン店』の会社員で、私服のセンスをミュージシャンだと評されたのは初めてだが、音楽はたしなむ程度。
毎日遅くとも夜8時までには帰宅する、普通のサラリーマンさ。

そしてある日、これは全くの偶然だったんだが……“写真のおやじ”を知っているか?彼が私のことを『弓矢』で射った。
いわく「この矢に選ばれたものは特別な能力を得る」とのことだった。例えば私が聞いたところだと……
『目や耳の内部が破裂した7人の変死事件のニュース』の真犯人は脱獄した死刑囚アンジェロじゃあないかとか、
×月×日の『杜王町停電事故』は実は人為的なものだったとか、
×月○日の『窃盗5億円事件』の犯人は超能力者だったという噂とか。
……普通の人に聞いたらほとんどが「都市伝説だろう、そんなの」という内容だ。
だが私は普通ではない能力を目の当たりにしたので、その話を疑わず――調べていくうちに君にたどり着いたってわけだ。


……フム。君の言い分もわかる。ならば君の不安を取り除くために言うが、私が君について知っているのは名前と容姿だけだ。
それから私の能力、そう君がスタンドといった、その能力だが。正直に言って『わからない』。
矢に刺されて死ぬほど痛い思いをしておきながら――自分で言うのもなんだが、これで私はエスパーだ、ヤッタバンザーイ、って気にはならなかった。
ゆえに能力を行使したことがないし、やり方もわからない。
写真のおやじはそんな私のことをかなり怪しんだ。矢から見ればアタリでも、人間的にはハズレだと。
だが、頭を切り替えたおやじは、私にこういった。
「得た能力を持って『あるスタンド使いたち』を始末して欲しい。だが、お前は能力を使えない。だったら『その無力さ』を利用して“他者に取り入る”のだ」
――とね。それなら私にも理解できた。強いものに、弱い者に。賛成派、反対派。多数派、少数派。数というのは目に見えて効果を発揮するからな。
無力な人間なら尚更だ。足を引っ張るのも、思いの外に役立つことも自由自在という訳さ。
私はケンカは苦手だが、そういう戦い方ならできるかもしれない。ゆえに写真のおやじの話に乗り……


……人の話を遮るのは感心しないが、まあ、理解が早くて助かるよ。
『私は君と同行し、カーズの話に乗った人間を演じることで効率よく参加者と接触する』

846接触 その3  ◆yxYaCUyrzc:2015/11/28(土) 22:29:19 ID:Gjquj.Tk
しかし――そう、カーズと言ったな?そいつにそんな芸当ができるのか?
もしその話が本当なら私自身もぜひ首輪を外してもらいたいもんだが……
大体、未だに宮本君、きみが首輪を装着している以上は『まだ外せない』んじゃあないのか?

どれ、見せてみろ。実はカーズにナニカサレタとかないか?
というか、その耳も。止血してやろうじゃあないか。ほら、後ろ向いて。

……ふむ。君からは見えない首輪の後ろ側にも特に変わったところはないな。
指でなぞってみた感じ、溝や段差の感触もない。私が自分で触ってるこの首輪と変わりないようだ。
つまり、君がカーズと接触したその際には、カーズによって首輪に何かしらの細工を施されたという心配はなくなったわけだ。


だが、現状でこの話を信じれる奴はどのくらいいるのかな、疑問に思わないか?
先の放送を聞いたろう?最初の舞台に立ってたカリメロ頭の男が死んで、大統領だと?
禁止エリアがわからない?次回には代役?まったくもって理解が追いつかない。

そして――もしかしたら。
主催者が死んで首輪が機能停止したとか、あるいは存在する意味を失ったとか――監視役がいなくなったという意味で――
そういう可能性を浮かべる奴もいるんじゃあないか?


……おい、落ち着きたまえ、私は可能性の話をしただけだ。なんでそこで君がビビって目を閉じる必要があるんだ。
まてまて、急に走り出すと心臓に良くないぞ。……ん?毒薬?それなら尚の事だ。深呼吸して、そう。


……うむ。早速君の役に立てて何よりだ。
なら、役立ちついでにもう一つ私から提案させてくれ。

『今私が言った可能性について、今からカーズに意見を伺いに行くのはどうだ?』

ビビるな。大丈夫だ。私も同行する。“さっそく一人くいついた”とでも言えば良いだろう。
天才カーズ、とやらのことだ。どこかで私の姿を目撃しているかもしれないが、些細なことだ。相手の素性は問わないと言ったんだろう?
途中で他の参加者に接触したってそれも問題にはならない。私がなんとかする。
なんせ『無力な人間』を地で言ってる私なんだからな……自分で言うのもなんだが、フフ。


決まりだな……ん、アテがない?
じゃあとりあえず、さっきまでいた場所に戻ってみるか。

847接触 その4  ◆yxYaCUyrzc:2015/11/28(土) 22:30:33 ID:Gjquj.Tk
***


さてさて。こうして吉良と宮本が合流してカーズのもとに向かおうとしてるわけだが。
一応……一応ね、君らにこの交渉における吉良の真意を解説して終わりにしよう。

吉良の思考はもはや――って表現は少し違うか。ずっとそうだった、『自分に危害を加えうる存在の排除』に尽きる。
趣味の『手首』ももちろん重要な点ではあるが、自分が生き延びないことには手首もヘッタクレもない。
さて、そうなれば削除する対象だが。現在での最優先は空条承太郎およびファニー・ヴァレンタインで、その下に僅差で存在するのが、もちろんカーズ。
そこに都合よく現れたエニグマの少年。聞いた話じゃ『爆発する首輪を解除しよう』としてるそうじゃあないか。

ところで。『嘘を付くときには真実に織り交ぜると良い』とはよく言ったものだ。
年齢や勤務地も、写真の親父の持つ弓矢で射られたことも、その力で敵対する存在を排除しようとしていることも。
カーズに会うという目的も本当にやりたいことだし、見た感じ首輪に異常がないことも本当だ。
むしろ、嘘は『能力がわからない』と言った、そのひとつだけだろう。
ほとんど真実の話にほんの一滴の嘘を垂らすだけで……と。まったくよくできている。

――ああ、それから本名を名乗ったことと、宮本の名を知っていたこともだな。
思い出してくれ。吉良は空条邸で『蓮見琢馬』の偽名を使ってすべてを消し去った。
つまり今後蓮見琢馬の名前を使うとなにかと不便で、しかも今後の放送――本当に行われれば、だけど――で『自分の名前』が呼ばれる可能性とリスク。
そして数刻前に呼び出された主催者サイド、そのモニターにチラリと映った姿の中に『写っていない外見』だった宮本。
最終的な判断は無作為な直感ではあったものの、結果としてそれが正解。杜王町の住民的に言うなら“鰯の頭も信心ね”ってやつだな。

さて、話が前後したけど――偽った吉良の能力だ。もちろん首輪を“ただ指でなぞって感触を確かめた”なんて事はない。
『現在宮本輝之助の首輪は爆弾になっている』――この事も、まあ本当だな。むろん、キラークイーンの能力ゆえの爆弾、という意味だけど。

首輪に触れたカーズが消し飛べば万々歳。
仮にその方法での暗殺が失敗したとしても、『アレほど外すと言ったカーズがやっぱり失敗して宮本が爆死した』という事実があればそれもそれで良し。
前者の方法でイクなら今すぐにでもカーズと接触すべきだし、後者をメインにしたいなら指令通りに多くの参加者を引き連れて、カーズに大恥をかかせてやるという訳だ。
しかも“カーズを探すあてがない”現状だったらどちらに転ぶも自然な展開にできる。

『自分の正体を知るうちのひとり』であるカーズが死ねばとりあえず一安心と。
承太郎やヴァレンタイン、あるいはジョニィ・ジョースターとの接触はその後でも構わない。
――まあ、同時に全てがうまく進行すればそれが理想だが。そうならないと感じたなら一つずつ問題を解くしかないからな。

最初に言ったな、ハッタリをかまし、道化を演じ、相手を観察し、押すときはトコトン押す。
まさに吉良吉影そのものだ。
主催者に接触した事実を隠し、それでいてほとんど自分の正体を晒し。
弱者を演じ、宮本の反応をよく観察し。押すとなれば右手のスイッチをためらわず押すだろう。

しかし最後に一言付け加えるなら……

『吉良吉影。コイツ、嘘つきだね』

848接触 状態表  ◆yxYaCUyrzc:2015/11/28(土) 22:30:55 ID:Gjquj.Tk
【C-2 路上 / 一日目 夜】


【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:左耳たぶ欠損(止血済)、心臓動脈に死の結婚指輪、動揺
[装備]:コルト・パイソン、『爆弾化』した首輪(本人は気付いていない)
[道具]:重ちーのウイスキー、壊れた首輪(SPW)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.吉良とともに行動する。カーズのもとへ戻る予定
2.体内にある『死の結婚指輪』をどうにかしたい

※思考1でカーズのもとに戻るとしましたが、カーズとの接触方法は第四放送時の会場中央以外に存在しません。
 自分の歩いてきた道を引き返す予定ですが、具体的にどうするかは次の書き手さんにお任せします。
※第二放送をしっかり聞いていません。覚えているのは152話『新・戦闘潮流』で見た知り合い(ワムウ、仗助、噴上ら)が呼ばれなかったことぐらいです。
 カーズのもとに向かう道中に吉良に聞くなど手段はありますが、本人の思考がそこに至っていない状態です。
 第三放送は聞いていました。
※カーズから『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』という伝言を受けました。
※死の結婚指輪を埋め込まれました。タイムリミットは2日目 黎明頃です。

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラー・クイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:左手首負傷(大・応急手当済)、全身ダメージ(回復)疲労(回復)
[装備]:波紋入りの薔薇、空条貞夫の私服(普段着)
[道具]:基本支給品 バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの) 、川尻しのぶの右手首、
    地下地図、紫外線照射装置、スロー・ダンサー(未開封)、ランダム支給品2〜3(しのぶ、吉良・確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
0.自分の存在を知るものを殺し、優勝を目指す
1.宮本輝之助をカーズと接触させ、カーズ暗殺を計画
2.宮本の行動に協力(するフリを)して参加者と接触、方針1の基盤とする。無論そこで自分の正体を晒す気はない
3.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい

※宮本輝之助の首輪を爆弾化しました。『爆弾に触れた相手を消し飛ばす』ものです(166話『悪の教典』でしのぶがなっていた状態と同じです)
※波紋の治療により傷はほとんど治りましたが、溶けた左手首はそのままです。応急処置だけ済ませました。
※バイクは一緒に転送されて、サン・ピエトロ大聖堂の広場に置かれています。ポルポのライターも空条邸から吉良と一緒に転送され、回収されました。
※吉良が確認したのは168話(Trace)の承太郎達、169話(トリニティ・ブラッド)のトリッシュ達と、教会地下のDIO・ジョルノの戦闘、
 地上でのイギー・ヴァニラ達の戦闘です。具体的に誰を補足しているかは不明です。
※吉良が今後ジョニィに接触するかどうかは未定です。以降の書き手さんにお任せします。

849接触  ◆yxYaCUyrzc:2015/11/28(土) 22:35:27 ID:Gjquj.Tk
以上で投下終了です。
*仮投下からの変更点*
・吉良の服装について宮本の感想と吉良の返事
・吉良が知っているスタンド使い→アンジェロ&音石のニュース(都市伝説)から調査
・宮本の名を知っている理由→直感=鰯の頭も信心ね

さて、俺パートには最近ハマりだした嘘喰いのフレーズを盛り込んでみましたw
タイトルの接触は『吉良と宮本』『吉良と首輪』『(将来的には)爆弾首輪とカーズ』の接触という意味合いです。
放送聞いてのリアクションSSにしようと書き出したはずが、いつの間にか交渉SSに。
アレ?前のジョニィの時もそうだったなあ……

一応このスレに本投下としました。今後はしたらば進行になるんでしょうかねぇ。。。
まあ、個人的にはジョジョロワを楽しめれば場所はどこでも構わないんですがね。

最後に、誤字脱字、矛盾点等等ありましたらご連絡ください。それではノシ

850名無しさんは砕けない:2015/11/29(日) 13:37:00 ID:gwYokODA
投下乙です
DIOが死んだいま、吉良は残りの中でも期待の持てるマーダーですし、活躍に期待できますね
本スレはどうしますかね?
もうちょっと勢いが増さないと、立ててもすぐ落ちちゃうような気もしますが…

851火蓋 その1 ◆yxYaCUyrzc:2016/01/12(火) 23:51:17 ID:63M9aEWI
例えば――『地球を破壊する可能性がある怪物』がいたとして。

ある人はそれを『悪魔』だの『死神』だのと呼ぶが、
別の人たちは『エロいタコ』とか『先生』とか呼ぶ。

どちらも正しく、どちらも違う。
要するに――見る側の立場の違いなんだろうけども。

今回の話もそういうところがあるかもしれない。
そうじゃないかも知れない――これも価値観の違いだが、言い続けてもキリがないか、早速始めるとしよう。


●●●


「おい」
ぶっきらぼうな声がした方に顔を向けた僕を待っていたのは、呆れたような表情だった。

「行くぞ、今からじゃあ遅いくらいだ。サッサとしろ」
愚痴をこぼす時間も惜しいと言わんばかりに立ち上がりながら荷物をまとめるプロシュートさんに思わず問いかける。

「プロシュートさんは……今の放送を聞いて何も感じないんですか」
「ああ」

一瞬とも言えないほどの即答ぶりに僕の不安や焦りと、ほんの少しの怒りが溢れてきた。
「なんでッ……双葉さんが無事だったことも!
 主催者同士でなにかトラブルがあったことも!
 そのせいで禁止エリアがわからないことも!
 ――プロシュートさんには関係ないって言うんですかッ!?」

一息でまくし立てた僕のもとにズカズカと歩み寄ってきたプロシュートさんが思い切り襟首を掴んできた。グイと顔が近づく。
少しだけ細められた目には色々な感情が渦巻いているようで、でも何も感情なんか無いようで、吸い込まれそうな眼差しだった。
小さくため息をついたプロシュートさんが僕の質問に質問で返してくる。

「おい。お前がやらなきゃあならねー事は一体何だ?」
「え?」
「言ってみろ」

反論を挟ませない勢いに気圧される――ことさえも許されない。掴んでいる手は緩むどころか力を増した感じがした。

「それは……このゲームを破壊して」


パァンッ!

852火蓋 その2 ◆yxYaCUyrzc:2016/01/12(火) 23:51:48 ID:63M9aEWI
乾いた音が僕の頬から響いた。きっと彼は全力で僕の頬をひっぱたいたのだろう。
じんじんと痛む頬をさすることも出来ず、今のでバオーに変身しなかったことに疑問を持つ間も与えず。
プロシュートさんはこう言った。

「テメェが今一番にやらなきゃあいけないのは『ワムウと決着つけること』それだけだ。
 ハッキリ言えば、主催者がどうのだの、ゲームをひっくり返すだの、ンな事ぁテメェがやらなくても構わねえんだ。
 どうせどっかの正義感に溢れるバカ共が勝手にやってくれらあ」

「そんな」


パァンッ!


二度も叩かれた――父親にだって叩かれた事なんてなかったのに。
先とは逆の頬からじわじわと痛みが広がる。きっと鏡を見たら僕の顔はひどいものなんだろう。
そんな僕の顔をまっすぐ見つめるプロシュートさんの表情はなんと表現すればいいのかわからない。
でも僕のことを真剣に考えてくれる眼差しだった。


「いいか――だがいいかッ!『これ』は“おめーじゃなきゃあ出来ねーこと”なんだよ!橋沢育朗ッ!
 俺がいるからとか、千帆がいるからとかも関係ねェ!
 自分で決めたんだろ!そう俺に言ったよな!クソッタレが!フラフラしてんじゃあねーッ!」

ドスのきいた声が、それこそドス(短刀)のように僕の胸に突き刺さる。
言い切ったプロシュートさんは、自分のガラじゃないことを言いすぎたと思ったのだろうか、舌打ちをしながら僕を突き飛ばしてバイクに跨る。

「……すみませんでした。僕が間違っていました。
 そうです、僕はもう迷いたくありません。
 ワムウと決着をつけて――僕の成長を、強さを証明してみせます。
 そして、その『僕』がこのバトル・ロワイヤルを破壊してみせます」


「……行くぞ」
「はいッ」


●●●

853火蓋 その3 ◆yxYaCUyrzc:2016/01/12(火) 23:52:15 ID:63M9aEWI
「――行くぞ」
「はい」

即答した私の方をワムウさんは少し怪訝そうに振り返った。
「ホウ……人間の女子供のこと、戦いに行くなだの、殺しはするなだのと喚き散らすものと思ったが?」

あっ、そういう事だったのか――そうだよね、普通の女の子はそういう事言ったりするかも。

でも。

少し息を吐いて、ゆっくりと私は思いを伝える。
「そんなこと言っても聞いてもらえるとは思えませんし、かと言って私には力ずくでワムウさんを止められる事は出来ません。
 それに、誰にだって『ここだけは譲れないところ』ってあると思うんです。
 私にとっては“小説”だし、ワムウさんにとっては……きっと“戦うこと”でしょうから」

「……続けろ」
「えっ、あっ、はいっ。
 えと――だから、確かに目の前で人がケンカ……戦ったりしてるの見るのは嫌です。
 その結果で……その、死んじゃったりとか殺しちゃったりとか、そういうのも、本音では見たくもありません。止められるものなら止めたいですよ。
 だけど、その人にとっては『それ』が何よりも重要なことで、それを奪ってしまったらその人がその人でなくなってしまうような、そういうことはもっと嫌なんです。
 多分私だって、小説を失ってしまったら自分が何者でもなくなってしまうような錯覚、してしまうでしょうし」

……言っていてなんだか支離滅裂になってきたかも。
それでもワムウさんは静かに私の意見を聞いてくれてる。それが妙に安心する。
ちょっとだけ間を空けて、私は最後の言葉を吐ききった。

「ワムウさんにも、きっとそういうところ、あると思うんです。
 だから、私がついていくことも、否定しなかったんでしょう?」

そう問いかけたところで私の話が終わったと認識したワムウさんは、フンと鼻を鳴らして前を向き直してしまった。
答えは聞けなさそうだな……照れてるのかな――そんな訳、ないか。

「俺は戦う事しか知らんし、それ以外の事は出来ん。

 だが……戦っているのは俺だけではない。
 俺も、あの育朗とやらも、プロシュートとやらも――俺の価値観で言えば、先の放送で死んだスティーブン・スティールという男もそうだ。
 
 そして、勝者であろうが敗者であろうが、戦うものに、戦ったものには敬意を示す。

 ――お前とて例外ではない」

言い終わると同時に大股で歩き始めてしまうワムウさん。
慌ててカバンを担ぎ上げる。
さっきまで腰掛けていた石をちょっとだけ振り返り、小走りでついていく。


そうだ。私は、私達は。
これから戦いに行くんだ。


●●●

854火蓋 その4 ◆yxYaCUyrzc:2016/01/12(火) 23:52:49 ID:63M9aEWI
「来たか」
ワムウと千帆をきっかり自分の30メートル手前で静止させ、プロシュートが口を開く。
そして、そのプロシュートを挟むようにして、こちらもきっちり30メートル先に、橋沢育郎が立っていた。

「さて――千帆はまだそこにいろ」
「……はい」
二人の短いやりとりの間、対峙する二人の男は相手の顔から視線を逸らそうとはしない。
その様子を確認したプロシュートが再び言葉を紡ぐ。

「ハッキリ言っちまえば……この瞬間に俺らがこの場にいる理由はなくなった訳だが。
 そんで怪物2匹をほっぽり出して、いずれその決着を他人あるいは本人から聞いたとして。
 ――そんなもん、俺には納得出来ねえ」

静かな夜の路上に、ゴクリと唾を飲み込む音がひとつ。
それが誰のものかはわからない。

「さっきの戦いは、アイツが勝ちました、こうこう、こーやって、ソイツを殺しました。
 ハイそーですか……だと?フザケるんじゃあねー」

誰も口を挟まない。次の言葉を待つように。期待しているかのように。

「まったく、自分でも何言ってるかわかりゃあしねぇが――
 要するに、お前らのアホくせぇ戦士としての誇りだ何だに……感化されちまったみてーだ。
 
 だから『お前ら二人の戦い、このプロシュートが預かった』

 この“決闘”が人殺しや卑怯者の行為ではなく、
 ――って、こんなクソッタレ殺し合いゲームの中で言うようなこっちゃあねーが――
 正当なものである事を証明する。

 もし乱入者だの横槍だのが入った場合、俺が責任もってそいつを叩き潰す。
 (本当なら『叩き潰した』って言いたいところだぜ……ここもコイツらの影響ってか、クソッタレ)

 お前らはただ全力でお互いを殺しにかかれ。
 ――いいな、千帆」

ワムウと育朗には問うまでもない。そして。

「はい……なんとなく、プロシュートさんならそう言うと思っていました。
 だから、私も二人の戦いをしっかり、最後まで見ていたい、と、思います。

 プロシュートさんが『立会人』なら、私は『見届け人』になります。

 絶対に目は逸らしません。それが――私の戦いです」

そう言いながらプロシュートの隣に歩み寄ってきた千帆にもまた、問う必要はなかったようである。
ふ、と息を漏らしプロシュートはほんの少し表情を緩め、そしてまた引き締める。

「……そういう訳だ。
 それじゃあ始めるか――せっかくの決闘だ、改めて名乗りでもしな。ホレ育朗」

855火蓋 その5 ◆yxYaCUyrzc:2016/01/12(火) 23:53:12 ID:63M9aEWI
つい、と顎で促された育朗は、少しだけ考えこみ、そして大きく一歩、前に出る。

「『バオー・橋沢育朗』です。
 ……“ある種の事がらは死ぬことより恐ろしい”と思います。
 このゲームで多くのものを失ったこと、そして僕自身の肉体がそれです……
 ですが、僕は誓います――自分に誓います。
 望みは捨てません!僕は誰にも負けない生命力を持った生物なんです!
 だから……見ていてください!僕の、成長を!」

言い切ると同時に額がバックリと裂ける。
変身の兆候だ――そして、恐竜の影響もプロシュートの目には確認できない。
そう、育朗は乗り超えたッ!この決闘ただの一度きりかも知れないが!それでもッ!
恐竜化する可能性とその恐怖を!そして何より脳に宿る寄生虫・バオーをッ!!


そして、空気が振動するような感覚に真っ向からぶつかるのは、膨れ上がる闘気。


「決闘の前にゴチャゴチャとものを言う趣味はない……俺とお前は、戦うことでしか解り合えない。
 しかし、貴様がそこまで言うのなら、見せてもらおうではないか。全身全霊を持って貴様と戦うと約束しよう。
 『風のワムウ』――いざ」

静かに、それでいて力強い口上とともに一歩踏み出すワムウ。
担いでいた荷物を放り、構えを取る。今の彼はこの戦いを甘く見ていたり、楽しんだりはしていない。


ひゅう、と二人の間を駆け抜けた小さな風はワムウの能力故か否か。それは誰にもわからなかった。


●●●


……さて。この戦いを君たちはどう見るかな。

プロシュートが言ったように『誇り高い戦士たちの決闘』なのか。
それとも。きっとカーズあたりなら『下らぬ遊戯』とか言いそうだが――そうなのか。
あるいはどちらでもない答えを聞かせてくれるのか。

その答えはいずれ聞かせてもらうとしよう。
ノンビリと問答をしているほど、状況は待っていてはくれない。

さあ――始まるぞ。

856火蓋 状態表 ◆yxYaCUyrzc:2016/01/12(火) 23:53:45 ID:63M9aEWI
【B-4 古代環状列石 /1日目 夜】


【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(13/15、予備弾薬 30/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品(水×3)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.ワムウと育朗の戦いに立ち会い、それを見届ける
2.千帆と合流後、闘いに巻き込まれないよう離脱する……と思っていたが、このザマだ。我ながらおかしいぜ
3.自分に寄生しているこいつは何なんだ?
4.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:健康、恐竜化の兆候、覚悟完了
[装備]:ワルサーP99(04/20)
[道具]:基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、
    予備弾薬40発、ブラフォードの首輪、大型スレッジ・ハンマー、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
1:ワムウと決着を付ける
2:第四放送時にカーズが待っている…本当だろうか

[備考]
・育朗のバイクはC-3の川沿いに放置されています。古代環状列石にはプロシュートのバイクに二人乗りでやってきたようです。
・ブラフォードに接触したため恐竜化に感染しました。ただし不完全な形です。
 ※プロシュートによる仮説
 恐竜化した身体をバオーが細胞レベルで上書きする事により完全な発症を抑えているのではないか?
・さらにバオーの力を引き出せるようになりました:自分の意志での変身ができるようになりました。

【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:身体あちこちに波紋の傷(ほぼ回復)、高揚
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOやすべての戦士達の誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺した真の主催者を殺す
0.コイツ(育朗)の成長を見せてもらおう
1.JOJOとの再戦を果たす
2.カーズ様には会いたくない。 会ってしまったら……しかしカーズ様に仇なす相手には容赦しない

[備考]
※J・ガイルの名前以外、第2回の放送を殆ど聞いていませんでしたが、千帆と情報交換した可能性があります。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:左手指に軽傷(処置済)、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、ノート、地下地図、応急処置セット(少量使用)
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く 。その為に参加者に取材をする
1.ワムウと育郎の戦いを最後まで見届ける
2.主催者の目的・動機を考察する
3.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
4.川尻しのぶに早人の最後を伝えられなかった事への後悔(少)
[ノートの内容]
プロシュート、千帆について:小説の原案メモ(173話 無粋 の時点までに書いたもの)を簡単に書き直したもの+現時点までの経緯
橋沢育朗について:原作〜176話 激闘 までの経緯
ワムウについて:柱の男と言う種族についてと152話 新・戦闘潮流 までの経緯

※サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の倒壊に伴いD-4東部の地下道が崩落しました。他にも崩落している箇所があるかもしれません

857火蓋 ◆yxYaCUyrzc:2016/01/12(火) 23:57:44 ID:63M9aEWI
以上で本投下終了です。
仮投下からの変更点
・「育朗」表記の誤字を修正
・育朗の千帆に対する呼び方を「双葉さん」に変更
・プロシュートのバイクに関する追記(本文・状態表)
・その他加筆修正を少々

相変わらずのブン投げスタイルに加えてオマージュやパロディやらでゴチャゴチャした文章にw
内容に関して大きく問題が挙がらなかったようですので、立会人プロシュート兄貴は継続させていただきます。
誤字脱字・その他ご意見等ありましたらご連絡ください、それでは次回作でノシ

858名無しさんは砕けない:2016/01/14(木) 21:35:21 ID:28HdlkCU
投下乙です
嵐の前の静けさといった感じでわくわくします
とてもいい緊張感が伝わってくるなと思いました!

859名無しさんは砕けない:2016/01/16(土) 19:52:25 ID:xt3IQ90w
テスト

860 ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 19:53:07 ID:xt3IQ90w
投下します

861風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 19:55:19 ID:xt3IQ90w
『バオー・リスキニハーデン・セイバー・フェノメノンッ! 』
「MUUUUUUUUAAAAHHHHHHHHHHHッ! 」

二人の戦士の咆哮を合図と呼んでいいものだろうか。
呼応するように、走り出した男たちはお互いの体躯をぶつけあう。
片や覚悟を決めた青年、橋沢育朗。
片や覚悟の塊のような生物、ワムウ。
火蓋は――切って落とされた。

「むぅ……この力強さ! 」
「バルバルバルバルッ! 」

ワムウはバオーから伝わってくる迫りくるものに感嘆していた。
数時間前に対峙したときとは比べものにならないほどの覇気。

「なるほど、たしかにあの時からは変わったようだ」
「バルバルバルバルバルバルッ! 」

バオーはさらに力を込めてワムウを押しこんでゆく。

「ツェェェェアァッ! 」

しかしワムウも負けじとバオーの身体を弾き飛ばした。
バオーは空中に放り出されるも、華麗な身のこなしで難なく着地した。
地に降り立った際、バオーはギラリとワムウを見つめる。
それはバオーという男が!存在が!ワムウを確実にとらえたことを意味する。

「その刃……カーズ様の『光』の流法(モード)、"輝彩滑刀"の流法に似ている!」

ワムウは構える。面白い、と彼は素直に思った。
まるで相手は自分の主であるカーズと同じ戦法をとるではないか、と。
ワムウはかつてカーズと手合せした太古の記憶を久しぶりに思い出そうとしていた。

「少年よ…わたし自身はおまえに恨みも怒りもない!だがわたしは戦士!
 闘いこそがすべて…殺りくこそ生きがい……………」

ワムウは両足にグッと力を込めると、上空へと大きく跳躍した。

「バル! 」

バオーも負けじと空へ高く跳んだ。

「殺らいでかッ 『バオー』! 」

だがワムウの跳躍力が『バオー』を上回ったッ!
そしてワムウは落下するとみせて回転脚で蹴りにきた。
このままではワムウのあびせ蹴りをまともにくらってしまう。
だが、ワムウはその行為を咎めなければならなかった。

『バオー・シューティング・ビースス・スティンガー・フェノメノン! 』

幾重にも発射されるバオーの髪の毛がワムウを襲う。
そしてこの髪はただの髪の毛ではない。あのバオーの髪の毛なのだ!
バオーの髪の毛は硬質化し、ぬけると物質の成分が変質し動物の体温で自然発火するのだ。
突然の発火には流石のワムウも両腕を振り回して炎を鎮火させるしかなかった。

「ムウウッ! NOGAHHHBA〜! 今度はエシディシ様のような……」

そして、再び地面に着地する二人。
とはいえ着地したあとの硬直時間はワムウのほうが明らかに長かった。
バオーはそれを見逃さない!ワムウはまだ火にたじろいでいる。明らかなチャンス。

「バルバルバルバルバル! 」
「止むを得ん」

バオーの右腕の刃が、

「『風』の流法」

ワムウの頭上に降りかかる、

「神砂嵐ッ! 」

その時だった。

862風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 19:55:48 ID:xt3IQ90w

☆ ☆ ☆

双葉千帆とプロシュートは茫然と立ち尽くしていた。
橋沢育朗の心配よりも、先に彼らの心を掴んだものは衝撃。

「竜巻……」

どちらがそう口にしたかはわからない。しかしそれが彼らの精一杯であった。
そう。まるで竜巻のような嵐がワムウの両腕から吹き出し周囲の地面を大きく抉ったのである。
そしてバオーは闘技場から大きく吹き飛ばされ場外へと消えたかのように見えた。

「は、橋沢さんは!? 」

ようやく双葉千帆が現状の把握をしかけたころ。
プロシュートはスッととある場所を指差した。
暗闇だが確かにわかる。そこにはバオーが突っ伏して倒れていた。
そして倒れていたバオーをワムウが見下ろしていたことも。

「よもやこんなにも早く神砂嵐を使うことになるとはな」

ワムウがバオーの頭を掴み、持ち上げる。宙吊りの状態だ。
バオーは気絶しているのか、だらりとしたまま動かない。

「……?」

この時、ワムウの頭にはひとつの疑問が浮かんだのだが、その疑問はすぐにかき消された。

「まあいい。起きろ。それともこのまま貴様は敗者になるのか? 」

その疑問をかき消したのは、静かな怒り。
まさかこの程度で終わってくれるわけではあるまいな、という望み。
あれだけ吠えた少年戦士の実力がこの程度のはずがない、と。

「……バル」
「MU?」

それは事実であった。
バオーは、橋沢育朗は、まだ死んではいなかったッ!
自分の頭を掴んだワムウの右手首を両手で掴み叫ぶ。

『バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノンッ! 』
「なんだと!? 」

次の瞬間、ワムウの右手首がドロドロのシチューのように溶け始めた。
ワムウは知らない。
"バオー"そいつに触れることは死を意味することを!

「バルバルバルバルバルバル!」

ワムウの右手が完全に溶けたために、バオーはワムウのわし掴みから解放される。
バオーの動きは止まらない。再び右腕からセイバーを出現させる。
狙いはワムウの頭部。
振られた一刃はワムウの両目に同時に食い込んだ。

「バルッ!!!! 」

そして水平一文字にバオーの腕が振り抜かれる。

「ま…まさかこんなことが………なぜ…そんなバカな」

頭部を大きく損傷したせいか、ワムウはそのままうつぶせに倒れ伏した。
前回とは大きく違う。今度はワムウがバオーの前に頭を下げる番だった。
なぜならば今のバオーは、あの頃とは違う。恐怖を克服しており、覚悟が違う。

「決まったな」

バオーがふと振り返ると、そこには立会人と見届け人がいた。
双葉千帆とプロシュートであった。

「この勝負、橋沢育朗の勝利だ」

プロシュートは両手を肩まであげ、勝敗を述べた。
その言葉に反応するかのように、バオーは己の変身を解いていく。
バオーは橋沢育朗の姿に戻り、深々と二人に一瞥した。

「ありがとう双葉さん、プロシュートさん」

千帆は優しく笑い、プロシュートはケッと返した。
プロシュートにしてみれば、肩すかしもいい所であった。
あれだけ発破をかけた少年が、こんなにも強いとは。明らかに自分より強かった。
これでは自分がまるでピエロではないか、と毒つきたくもあった。

「なぁ橋沢育朗。おめーがそんなに、その……なんだ。猛者だとは思わなかったよ。
 並のスタンド使いじゃ歯が立たねえ……いや、お前ならターゲットを倒せるかもしれねぇ」
「それはどういう意味でしょうか」
「いやなんでもねぇ。とりあえずだ」

――その刹那であった

最初に気がついたのは誰であったろうか。プロシュートか千帆か育朗か。
ほぼ三人同時であったかもしれない。三人の誰かが叫んだのは間違いなかった。

「ワムウがいないッ! 」

863風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 19:58:25 ID:xt3IQ90w
☆ ☆ ☆

ワムウの消失。それは三人の平和だった状況を一変させた。

「気をつけろ育朗、千帆!奴はまだ死んでなかった。何をしてくるかわかったものじゃねえぞッ! 」

これは新手のスタンド使いか、それともワムウの仕業か。
そんな風に考えるのはスタンド使いの常だ。
答えは、意外にもあっさりと見つかった。

「な…なまじ目が見えたから」

ワムウの声である。

「視力にたよっていたから……」

出所がわからぬ声は、三人のすぐ側から聞こえていた。

「貴様に虚をつかれた」

その出所とは――

「育朗ッ! お前の腹だァァァーーーーーーーz___ッ! 」

プロシュートが吼える。
ワムウの上半身が橋沢育朗の腹から"生えて"いた。
その摩訶不思議な光景に、双葉千帆は口に両手を合わせるしかなかった。
『柱の男』一族は、他の生き物の体の中に潜り込める。
ワムウは三人の一瞬のスキをついて、橋沢育朗の体内に入っていたのだ。
そう、決闘はまだ終わっていなかった。

「これからはこの角で明かりなくして『風』だけを感じてものを見よう」

ワムウの額から巨大な一本角がそびえ立つ。
あれだけの攻撃をバオーから受けたはずのワムウは、なぜこんなにも早く立ち直ることができたのか。
それは彼が真の格闘者だからである。
バオーから一連のダメージを受けたショックから立ち直れる精神の強さを持っているからだ。

一流のスポーツ選手には『スイッチング・ウィンバック』と呼ばれる精神回復法がある!
選手が絶対的なピンチに追い込まれた時、それまでの試合経過におけるショックや失敗、恐怖を
スイッチをひねるように心のスミに追いやって闘志だけを引き出す方法である
そのときスポーツ選手は心のスイッチを切りかえるため それぞれの儀式を行う
『深呼吸をする』『ユニホームや道具をかえる』などである
ショックが強いほど特別な儀式が必要となるが………!

ワムウのスイッチはッ!
己の両目をつぶしてしまうことッッ!
それはまさしく、バオーがトドメとしてワムウに食らわせたセイバーの一撃ッッ!!
ああッ! バオーの最後の一撃はワムウの気持ちを切りかえさせるスイッチとなってしまっていたッ!

「もう逃がさんぞ。零距離だ。風の流法、神砂嵐」

この時コンマ数秒の出来事。それは何百分の一秒間の闘いだった。
橋沢育朗は考える。

『まずいッ! 今度はワムウの神砂嵐をよけることはできないッ 』
『周囲に双葉さんとプロシュートさんがいるッ! 』
『ぼくがよけても彼らにも被害が及んでしまうッ! 』
『二人を突き飛ばすか!無理だッ!その加速と衝撃に彼らの体は耐えられない!』
『三人にさっきの神砂嵐が直撃するッ!』
『そうだ!間に合うか!?しかしヘタすれば大失敗だッ!』
『やるんだッ! やるしかないッ』

橋沢育朗は――信じられないほど冷静な判断をした。
なんと彼は自分の腹から生えているワムウを両手で掴み

「ウオオオオオオーーーーム!! 」

そのまま無理やり自分の身体からワムウを引っ張ったッ!
自分の何倍も体格のあるワムウを、体重115キロもあるワムウを!
あの大男のワムウを育朗は持ち上げて引っこ抜いたのだッ!

「――嵐ッ!!? 」

他の生物と一体化できる特技は、ワムウ自身の意思によって決まる。
だが育朗のあまりにも予想外の行動にワムウは思わず一体化を解いてしまった。
ワムウが驚く間もなく、彼はバオーに持ち上げられてしまったのだッ!
育朗はバオーの『力』を出した。変身もしていないのに『武装現象』が出現したのだ。
一日一日彼の体は確実に進化している。無敵……彼はあと数日で無敵になるであろう。

864風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 19:59:11 ID:xt3IQ90w

「うおおおお」
「きゃあああ」

ワムウの神砂嵐の直撃は免れたが、その余波を浴びて吹き飛ばされるプロシュートと千帆。
二人はそのまま近くの壁に激突し、それぞれその場に倒れた。
これでも常人であれば充分なダメージだが、死に瀕していないだけまだマシである。
間一髪で死から免れた二人に少し安堵しつつ、育朗はワムウを投げ飛ばした。

「柱の男!決闘の続きだ!行くぞ!おまえたちの"所"にッ! 」

育朗は投げ飛ばしたワムウに向けて、右手の拳を握りつきつける。

「ぼくはおまえらにとって脅威に来訪者となるだろう! もう今までのぼくじゃない! 」

地面に叩きつけられたワムウは、その言葉に答えるかのように問う。

「それは……我々柱の一族の"高み"を脅かすということか?
だとすれば、お前はカーズ様へも脅威となりうるということか。
 ならば俺は、お前をなんとしても倒さねばならぬ。戦士として、柱の一族として」

その言葉に育朗は、再びバオーに変身することで答えた。

「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルッ! 」
「ようこそ来訪者!ならば俺も応えよう! 闘技・神砂嵐ッ! 」

二人の激突。
しかし、ワムウはまだバオーの全てを知らない。

『バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノンッ! 』

高圧電流60000ボルトだッ!

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ! 」

自ら視力を断ったワムウはッ!風の動きをよみ!空気の囁きを聞き!
レーダーのようにバオーの呼吸のうねりをとらえるのだ!!
ところがそれを読み取るワムウの角は避雷針となり、バオーの電撃を一点に集める!
ワムウの神砂嵐は『風』ッ!しかし『風』は電気と相性がいい。
雷雲がこの世にあるように、『風』が『電気』をかき消すことは無いッ!
バオーはワムウに二度も勝った!!もうワムウは立てない!!

「な、なんということだ。このワムウ……なんてざまだこのワムウ!
 一万二千年を生きた肉体が、こんなに、無残に、なりさらばえて可哀想によ………」

しかし、ワムウは!ワムウの精神は!

「このワムウ…敵を楽に勝たせる趣味はない…受けた『傷』も我が肉体!
 今までの『ダメージ』も我が能力!全てを利用して…勝利をつかむッ! 」

まだ折れてはいないッ!

「そして我が『風の最終流法(ファイナルモード)』!!『渾楔颯』」

『渾楔颯』――ワムウの最終流法!
姿を透明にする時使った管より逆にぼう大な量の風をとり込み、肺の中で超圧縮させる!
そしてカミソリのような極限に狭いすき間から超高圧で吹き出す……いわば「烈風のメス」!
しかし!風の高速圧縮にともなう摩擦や熱はいくらワムウといえど……………!
その肉体は耐えきれずどんどんくずれていくのみ!しかしその無惨なる姿は美しい!

「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルッ! 」

バオーは思った!『ワムウ!おまえのにおいを直接止めてやるッ!』と!
せまりくる風の刃をくぐり抜け、バオーは一気にワムウとの距離を詰める。
そして両手からリスキニハーデン・セイバーを繰り出し、直接ワムウの頭部へとその刃を叩きこもうとした!

「バルッ!? 」

ワムウは、その瞬間を見逃さなかった。

「ずっと電撃で遠距離から攻撃していれば良かったものを」

ワムウの左手が、バオーの額にずぶずぶとめり込んでいたのだ。

「実力あるものほど、決着を早くつけたがるものだ。ましてや実力差があるならなおのこと。
 お前は確かに成長した。心も体も。先に手合せした時とは違う。今のお前は私を越える存在やもしれぬ。
 しかしそれが貴様に一筋のスキを産んだ。お前は無意識に油断していたのだ。
 直接、このワムウとの決闘に決着をつけようとしたのが貴様のミスッ! 」

ワムウの覚悟。それは自らを犠牲にした最終流法を使うことで、己の命を賭けに使ったこと。
そして、最初にバオーの頭を掴んだ時に感じた謎の正体を突き止めるのを選んだこと。

865風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 19:59:26 ID:xt3IQ90w
「NUAAAAAAAAAA! 」

バオーの頭部からワムウの左手が突き抜ける。しかし育朗は死んではいない。
ワムウは生物の中を自由に通り抜けることができるからだ。
ワムウの狙いは育朗ではなかった。狙いは育朗の脳の動脈に寄生していた『寄生虫バオー』だったのだ!

「ギャァーーーース! 」
「これが寄生虫バオーか……ムン! 」

ワムウが寄生虫を握り潰す。バオーは跡形もなく崩壊した。
ワムウはなぜバオーの存在を知っていたのか? それは双葉千帆からの証言であった。
育朗からすべての話を聞かされていた千帆は、彼の身の上話をワムウにもしていたのだ!
千帆に悪気は無かった。彼の悲惨な境遇を誰かに話さずにはいられなかった。
バオーによって呪われた運命を背負わなければならなかった橋沢育朗の悲しみを吐露せずにはいられなかったッ!

「これで貴様は、ただの、人間だ……」

ああッ!しかしなんという皮肉な運命であろうッ!
バオーの呪いをかけられし少年は、バオーの力を使い決闘した相手によって救われたのだッ!
育朗の体は、元の人間の体に戻っていく。バオーによって操作されていた肉体の呪いが解放されたのだ。

「ワムウ………さん………」
「このまま貴様を殺すことは容易い」

ワムウがニヤリと笑う。

「しかし、もう時間切れだ」

ワムウの身体は渾楔颯によって全身にヒビが入っていた。
ボロボロと朽ち始めている箇所もあった。渾楔颯を使わなければこんなことにはならなかったのに!
ワムウは戦士としてすごかった。だが彼には渾楔颯を止める味方がいなかった。

「ワムウさん、この勝負はあなたの勝ちです」
「いや、この勝負、紙一重で生き残ったのはお前だ……」
「人間になってしまった僕にはどうにもできません。これ以上の不満がありますか?」
「悔いはある……JOJOたちとの決着、カーズ様との邂逅、まだまだ俺にはやらなければならない事がある。
 それが出来なくなってしまったのは非常に残念だ」
「繋ぎます。僕たちが必ず。あなたのことを伝えます」
「……心からおまえの成長が見れてよかったと思うよ、橋沢育朗」

ワムウの身体が散り散りになり風へ乗って飛んで逝く。

「さら……ば…だ…!! バ……オー……」

ワムウは、風になった――
橋沢育朗が無意識のうちにとっていたのは『敬礼』の姿であった――
涙は流さなかったが、無言の男の詩があった――
奇妙な友情があった――
ワムウ、彼は戦闘者としてあまりにも純粋すぎた――

866風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 19:59:51 ID:xt3IQ90w

☆ ☆ ☆

「橋沢育朗。この勝負は、お前の勝ちだ」

立会人プロシュートは、立ち尽くす少年に声をかけた。
そして宣言する。戦士と戦士との決着を。
だが、育朗は――。

「プロシュートさん、ごめんなさい」

持っていたワルサーP99で自らの頭を撃ちぬいた。
響く銃声。跳ねる育朗の身体。安らかな笑顔。

「……ばっかやろう! 」

突然の出来事に、プロシュートはそう言うのが限界だった。
いったい何がどうなっているのか。なぜこの少年は自らの命を絶つような真似をしたか。
それは恐竜化であった。育朗の身体は早くも全身が恐竜になりかけていた。
プロシュートにもそれは理解できた。
バオーの支配下が無くなった今、恐竜化を止められるものは無い。
それは育朗の意思だけではどうにもできない問題だ。覚悟や根性の話ではない。

「なぜだ!何も死ぬことはねえだろう!? 俺のグレイトフルデッドを使えば……」
「それでは……ダメ、なん、です……」

育朗にはわかっていた。
バオーが消滅した今、自分の恐竜化を本当の意味で食い止められるものはいないのだと。
そして恐竜化が感染するものであれば、いつプロシュートや双葉千帆に感染するかわからない。
その原因を断つならば、このタイミングしかないと。原因の元となるものを断たねばならないのだ。

「もう時間がない……もう抑えられそうにありません…限界です……」
「てめぇ!さっきまでの覚悟はどうしたッ! 男を見せてみろよ橋沢育朗!恐竜化がなんだッ! 」
「僕が僕で無くなる前に早く! 」

そして懇願する。更なる"次の"決着を。

「…………」

プロシュートは、ベレッタM92の弾を3発、育朗の頭部に撃ちつけた。
迷いはあった。しかし時間が無かった。育朗の全身は恐竜化の兆候が顕著だったからだ。

「……あ、り、が、とう」

育朗の感謝の言葉と同時に、彼の恐竜化がみるみる内に解除されていく。
橋沢育朗は人間として死んだ。
プロシュートは勇気と覚悟ある少年にトドメを刺したことへ、舌打ちするしかなかった。

「くそったれ……」

867風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 20:01:52 ID:xt3IQ90w

☆ ☆ ☆

「はっ! 」

双葉千帆は目を覚ます。
ワムウの神砂嵐の余波を受けた彼女は、吹き飛ばされて壁に撃ちつけられた時に気絶していた。

「起きたか」

彼女はプロシュートにおんぶされていた。
彼女はワムウとバオーの対戦を、途中から見ていない。そして育朗の最後も。

「育朗さんとワムウさんは」
「死んだよ。勝負は引き分けだった」

プロシュートはそれ以上何も言わず、千帆は黙るしかなかった。
千帆はプロシュートの背中で、想像するしかなかった。

風の戦士と、怪物の戦士が闘い続ける、熱き血潮たぎる闘いを……





【B-4/1日目 夜中】


【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(10/15、予備弾薬 30/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品×4(水×6)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク、打ち上げ花火
    ゾンビ馬(消費:小)、ブラフォードの首輪、大型スレッジ・ハンマー
    不明支給品1〜2、ワルサーP99(03/20、予備弾薬40)
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.…………………
2.自分に寄生しているこいつは何なんだ?
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する

※橋沢育朗とワムウの荷物を回収しました。

【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:左手指に軽傷(処置済)、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、ノート、地下地図、応急処置セット(少量使用)
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く 。その為に参加者に取材をする
1.…………………………
2.主催者の目的・動機を考察する
3.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
4.川尻しのぶに早人の最後を伝えられなかった事への後悔(少)
[ノートの内容]
プロシュート、千帆について:小説の原案メモ(173話 無粋 の時点までに書いたもの)を簡単に書き直したもの+現時点までの経緯
橋沢育朗について:原作〜176話 激闘 までの経緯
ワムウについて:柱の男と言う種族についてと152話 新・戦闘潮流 までの経緯

【橋沢育朗 死亡】
【ワムウ 死亡】

868 ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/16(土) 20:02:25 ID:xt3IQ90w
投下完了しました。
よろしくお願いします。

869名無しさんは砕けない:2016/01/17(日) 00:49:59 ID:fKKGaoVo
投下乙です
育朗・・・さっきまでの覚悟と必ず伝えるって言葉は本当にどこ行ったんだよ・・・

疑問に思ったのがワムウが千帆から寄生虫バオーについて聞かされていた点です
ちょっとさかのぼった話になりますが、祭りの前にさすらいの日々をで育朗は寄生虫バオーについてよくわかっておらず、理解したのはプロシュートと再会後となっています
そのためそれ以前に別れた千帆は寄生虫バオーについては聞かされておらず、必然的にワムウに伝えることもできないと思います

870 ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/17(日) 12:38:23 ID:JenytoO.
ご指摘ありがとうございます。
なるほど。
たしかに寄生虫バオーに関する千帆の見識はたしかにそうですね。
では、そこのくだりを別の形に修正して再度投下したいと思います。
ありがとうございました。

871名無しさんは砕けない:2016/01/17(日) 21:26:57 ID:eow.PPic
投下乙です
もう修正に入っているかもしれませんが、全体的に惜しいので指摘をいくつか。

育朗の最期について
上の方も言ってますがワムウの遺志を繋ぐ発言をしておきながら
直後にあっさり自殺に走る行為は全体的に描写が少ない事も重なって、育朗というキャラクターがこれまでの話で
積み上げてきた『格』を一気に落としてしまったなと感じました。(悪く言えばキャラ崩壊)
最期の描写はそのキャラの締めくくりと、以降の話へと繋がる大事な要素でもあるので
せめてワムウ→育朗→プロシュートへとしっかり繋げて欲しかったです。その方が受け継ぐというジョジョのテーマとも合っていて
読み手としても受け入れやすいです。

戦闘描写について
ワムウはジョセフとの対決が終わった直後から来た設定なので、何度も丸丸同じセリフが引用されていると
ワムウ自身は全然成長してない・・・と感じました。原作と似たような流れをなぞる事自体はアリですが、ジョセフと育朗は
違う人間なので、セリフの差別化もあったらいいなと思います。

偉そうな事を書きましたが、神砂嵐の時の育朗の優しさや雷と避雷針といった要所要所のオリジナルな描写には
引き込まれるものがありました。大きなポテンシャルを秘めた書き手さんだと思いますので、
もう少し話全体のバランスと描写に気を遣う事が出来たら更に完成度が上がると思います。
修正後の投下に期待してます。

872 ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/18(月) 21:55:57 ID:aHUEDQd6
修正版を投下します。

873風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/18(月) 21:59:08 ID:aHUEDQd6
「うおおおお」
「きゃあああ」

ワムウの神砂嵐の直撃は免れたが、その余波を浴びて吹き飛ばされるプロシュートと千帆。
二人はそのまま近くの壁に激突し、それぞれその場に倒れた。
これでも常人であれば充分なダメージだが、死に瀕していないだけまだマシである。
間一髪で死から免れた二人に少し安堵しつつ、育朗はワムウを投げ飛ばした。

「柱の男!決闘の続きだ!行くぞ!おまえたちの"所"にッ! 」

育朗は投げ飛ばしたワムウに向けて、右手の拳を握りつきつける。

「ぼくはおまえらにとって脅威に来訪者となるだろう! もう今までのぼくじゃない! 」

地面に叩きつけられたワムウは、その言葉に答えるかのように問う。

「それは……我々柱の一族の"高み"を脅かすということか?
だとすれば、お前はカーズ様へも脅威となりうるということか。
 ならば俺は、お前をなんとしても倒さねばならぬ。戦士として、柱の一族として」

その言葉に育朗は、再びバオーに変身することで答えた。

「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルッ! 」
「ようこそ来訪者!ならば俺も応えよう! 闘技・神砂嵐ッ! 」

二人の激突。
しかし、ワムウはまだバオーの全てを知らない。

『バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノンッ! 』

高圧電流60000ボルトだッ!

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ! 」

自ら視力を断ったワムウはッ!風の動きをよみ!空気の囁きを聞き!
レーダーのようにバオーの呼吸のうねりをとらえるのだ!!
ところがそれを読み取るワムウの角は避雷針となり、バオーの電撃を一点に集める!
ワムウの神砂嵐は『風』ッ!しかし『風』は電気と相性がいい。
雷雲がこの世にあるように、『風』が『電気』をかき消すことは無いッ!
バオーはワムウに二度も勝った!!

「な、なんということだ。このワムウ……なんてざまだこのワムウ!
 一万二千年を生きた肉体が、こんなに、無残に、なりさらばえて可哀想によ………」

しかし、ワムウは!ワムウの精神は!

「このワムウ…敵を楽に勝たせる趣味はない…受けた『傷』も我が肉体!
 今までの『ダメージ』も我が能力!全てを利用して…勝利をつかむッ! 」

まだ折れてはいないッ!

874風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/18(月) 21:59:34 ID:aHUEDQd6
「そして我が『風の最終流法(ファイナルモード)』!!『渾楔颯』」

『渾楔颯』――ワムウの最終流法!
姿を透明にする時使った管より逆にぼう大な量の風をとり込み、肺の中で超圧縮させる!
そしてカミソリのような極限に狭いすき間から超高圧で吹き出す……いわば「烈風のメス」!
しかし!風の高速圧縮にともなう摩擦や熱はいくらワムウといえど……………!
その肉体は耐えきれずどんどんくずれていくのみ!しかしその無惨なる姿は美しい!

「バルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルバルッ! 」

その烈風のメスの勢い、切れ味を見てバオーが最初にとった行動はッ!
先ほど神砂嵐の余波を受けて吹き飛ばされたプロシュートと双葉千帆の安全の確保だった!

『双葉さん!プロシュートさん! 』

迫りくる風の刃を、その身をもって受け止めるバオー。
バオーは倒れている二人を、上からかばいながら伏せる。渾楔颯の刃はそれでもお構いなしに三人を襲う。

「バルルバルル! 」

二人は立会人&見届け人とはいえ、これは自分とワムウの決闘である。
彼らを死なせるわけにはいかない。

「バルバルバルバルバルバルバル」

しかし……ああ、なんということだろう!
ワムウの風の刃は、バオーの身体を貫通し千帆とプロシュートの身体も傷つけていたのだ。

「ウオオオオオオオオオオム」

バオーは右手の爪で唇をブツリと切り裂くと、そこから垂れる血を千帆とプロシュートに飲ませた。
バオーは感じていた!千帆とプロシュートのかすかな生命のにおいを!今なら『バオー』の血で傷を治せる!
バオーは考えていた。誰に誓った?自分に誓った。この決闘を勝つと!望みは捨てないと!
自分は最強の生命力を持った生物なのだから!

「バルバルバルバル!」

プロシュートと千帆を安全なところまで運ぶと、バオーはセイバーを再び出現させる。
そしてバオーは駆ける。駆ける。駆ける。駆ける。駆ける。駆ける!

「こいッ!バオーッ! 」

ワムウの咆哮に応えるかのように、バオーは走る。
せまりくる風の刃をくぐり抜け、バオーは一気にワムウとの距離を詰め、両手から電流を放った。

「ブレイク・ダーク・サンダーッ!! 」
「うおっ……なん…のこれしき…」

間髪入れず右腕のリスキニハーデン・セイバーを、べりべりと腕からはがしワムウに投げつけたッ!

「セイバーッオフ! 」
「うおお……」

セイバーは見事ワムウの頭部に突き刺さった。
バオーには、まさかの攻撃で完全にワムウがたじろいでいるように見えた。
バオーは思った!『ワムウ!このままおまえのにおいを直接止めてやるッ!』と。
バオーはもう一度、直接ワムウの頭部へとその左腕の刃を叩きこもうとした!

「バルッ!? 」

ワムウは、その瞬間を見逃さなかった。

「『バオー』……………」

ワムウの左手が、バオーの額にずぶずぶとめり込んでいた。
実力あるものほど、決着を早くつけたがるものだ。ましてや実力差があるならなおのこと。
バオーは確かに成長した。心も体も。
先に手合せした時とは違う。今のバオーはワムウを越える存在やもしれない。
しかしそれが一筋のスキを産んだ。油断していたわけではないッ!
直接、ワムウとの決闘に決着をつけようとしたのがバオーのミスッ!

「貴様を………討つ」

ワムウの覚悟。それは自らを犠牲にした最終流法を使うことで、己の命を賭けに使ったこと。
そして、最初にバオーの頭を掴んだ時に感じた謎の正体を突き止めるのを選んだこと。

「貴様を…………葬るッ! 」

ワムウは力を振り絞って左腕を振り抜けた。
中に潜んでいた寄生虫バオーもろとも、バオーの頭部の半分が吹き飛んだ。
二人のあずかり知らぬ内に、寄生虫バオーは粉々に消し飛んだ。

875風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/18(月) 21:59:59 ID:aHUEDQd6
☆ ☆ ☆

「はっ! 」

プロシュートが目を覚ました時、すでに決闘は終わっていた。
彼の目に映る光景は、ひとりの男がもう一人の男を抱えて佇んでいる様だった。
それがワムウが橋沢育朗を運んでいるように見えるのに、時間はかからなかった。

「目覚めたか」

ワムウは険しい顔のまま、抱いていた少年の身体をゆっくりとおろした。
プロシュートは勝敗の結果をあえて聞かなかった。

「まだ息はある」

片やワムウは全身にヒビが走っており、両目も潰れたまま。既に崩壊し始めている。
片や育朗は顔から上の頭部の半分が無くなっていた。
今回の戦闘がどれほど凄惨を極めたかが物語られていた。

「育朗!しっかりしやがれ! 」
「プロ……シュートさん……無事だったんですね……双葉さん、は……」
「ああ!?……大丈夫だ。眠ってるだけだ」
「よかっ……た……」
「ふざけるな! 『守る』んだろう!? さっさと立ちやがれ! 」

こんな状況でも他人を心配している少年に、プロシュートは目頭が熱くなった。
ギャングとして生きていた自分が、とうの昔に捨てたはずの感情。
やさぐれる前のプロシュートの純粋な気持ちが、甦りつつあった。

「見事であった。このワムウ、貴様の成長をしかと見たぞ」

ワムウがニヤリと笑う。

「しかし、もう時間切れだ」

ワムウの身体は渾楔颯によって全身にヒビが入っていた。
ボロボロと朽ち始めている箇所もあった。渾楔颯を使わなければこんなことにはならなかった。
ワムウは戦士としてすごかった。彼には渾楔颯を止める理由がなかった。

「悔いはある……JOJOたちとの決着、カーズ様との邂逅、まだまだ俺にはやらなければならない事がある。
 それが出来なくなってしまったのは非常に残念だ」
「繋ぎ……ま、す……」
「ああ!ワムウッ!俺"たち"が繋ぐッ! 俺"たち"がお前の分も"繋いで"やるッ! 」

プロシュートは双葉千帆と橋沢育朗に目線を配りながら叫んだ。

「橋沢育朗……私は――」

ワムウがそう言いかけた時。
彼の身体が散り散りになり風へ乗って飛んで逝った。

ワムウは、風になった――
彼の最後の言葉は聞き取れなかった。
しかし、その言葉が何なのかは、彼らにはどことなくわかったような気がした。

「育朗よ、ワムウは最後になんて言ったんだろうな……」

あえて育朗にそう聞くプロシュートはその時、ふと妙なことに気がついた。

「育朗? 」

育朗がバオーの姿から元に戻っても恐竜化の気配が無い事に。
恐竜化した身体をバオーが細胞レベルで上書きする事により完全な発症を抑えているのではないか?
そうにしては、育朗の身体の負傷が治る気配がない。
プロシュートは応急処置セットや簡易治療器具を慌ててバッグから出そうとするが――

「…………ばかやろう……」

橋沢育朗は、まるで静かに眠っているかのようだった。

876風にかえる怪物たち ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/18(月) 22:02:03 ID:aHUEDQd6
☆ ☆ ☆

「う、ん……」

双葉千帆は目を覚ます。
ワムウの神砂嵐の余波を受けた彼女は、吹き飛ばされて壁に撃ちつけられた時に気絶していた。

「あれ……」

彼女はプロシュートにおんぶされていた。

「育朗さんと、ワムウさんは……? 」

彼女はワムウとバオーの対戦を、途中から見ていない。そして育朗の最後も。

「死んだよ」

プロシュートの冷静な返答に、千帆は黙るしかなかった。
千帆はプロシュートの背中で、想像するしかなかった。

「……この勝負は、引き分けだ」

風の戦士と、怪物の戦士が闘い続ける、熱き血潮たぎる闘いを……


【B-4/1日目 夜中】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(13/15、予備弾薬 30/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品×4(水×6)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク、打ち上げ花火
    ゾンビ馬(消費:小)、ブラフォードの首輪、ワムウの首輪、大型スレッジ・ハンマー
    不明支給品1〜2、ワルサーP99(04/20、予備弾薬40)
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.育朗とワムウの遺志は俺たちが必ず"繋ぐ"
2.自分に寄生しているこいつは何なんだ?
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:左手指に軽傷(処置済)、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、ノート、地下地図、応急処置セット(少量使用)
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く 。その為に参加者に取材をする
1.…………。
2.主催者の目的・動機を考察する
3.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
4.川尻しのぶに早人の最後を伝えられなかった事への後悔(少)
[ノートの内容]
プロシュート、千帆について:小説の原案メモ(173話 無粋 の時点までに書いたもの)を簡単に書き直したもの+現時点までの経緯
橋沢育朗について:原作〜176話 激闘 までの経緯
ワムウについて:柱の男と言う種族についてと152話 新・戦闘潮流 までの経緯


※プロシュートは、橋沢育朗の支給品を回収しました。
 橋沢育朗の遺体がB-4 古代環状列石にあります。
 ワムウの遺体は消滅しましたが首輪が残ったため、プロシュートが回収しました。

【橋沢育朗 死亡】
【ワムウ 死亡】

877 ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/18(月) 22:04:13 ID:aHUEDQd6
修正版を投下完了しました。

修正版は、修正前の>>864->>867が、>>873->>876に差し替えとなります。
ご指摘いただいた点を加味し、修正し直しました。
ありがとうございました。
それでは失礼します。

878NAMI no YUKUSAKI ◆c.g94qO9.A:2016/01/19(火) 22:08:13 ID:rIKrEk/g
投下します。

879NAMI no YUKUSAKI ◆c.g94qO9.A:2016/01/19(火) 22:09:01 ID:rIKrEk/g
揺れる衝撃に、アナスイは目を覚ました。
視界は虚ろではっきりとしない。瞬きを二度三度繰り返すが、ただ影と霞が写っただけだった。
アナスイにわかったことは誰かに担がれているということだけだった。大きな背中と暖かな感触。途切れては結ぶ意識の中、アナスイはぬくもりを感じた。
安心感と心地よさを味わうかのように息を吸うと全身が痛んだ。その痛みがまだ、自分がかろうじてではあるが、生きていることを実感させてくれた。

男たちは進んだ。登った月が二人分に膨らんだ影を落とした。吹きさらしの風が容赦なく二人を打った。
承太郎は足を止めず、ただ進んだ。傍らに立つ者はいない。承太郎自身の手で、体で、アナスイを担ぎ、南へと進む。
アナスイはゆっくりと目を閉じる。こんなに心地よいのは久しぶりだ、と思った。ひょっとしたら生まれて初めてかもしれない。
途端に『記憶にない記憶』が水面に湧き出る泡のように、浮かび上がっては消えていった。

遊び疲れた自分が父親に担がれて家へと帰ったときの記憶。
学校帰りに久しぶりに父親と会い、その大きな手で頭を撫でられたときの記憶。
大きな自宅の大きな庭で、父とボール遊びをした時の記憶。

知らないうちに頬を黒い涙が伝った。決して戻らない遠い記憶、そしてあったはずもない―――これからも決して訪れないだろう―――記憶の渦が体を貫いた。


「『[父さん]』」


小さなつぶやきが三つの声に重なった。承太郎は足を緩め、そしてまた歩きだした。
荒涼とした田舎道を一歩々々確かめるかのように、承太郎は進んでいった。承太郎の緑の瞳にGDS刑務所が、身体を伏せた獣のように映っていた。





880NAMI no YUKUSAKI ◆c.g94qO9.A:2016/01/19(火) 22:09:27 ID:rIKrEk/g
通路の幅はおよそ3メートル、奥行は25メートル。4メートル四方の牢屋が両側に立ち並んでいる。
階段を下り切ったところでアナスイはしばらく立ち止まり、左右を見渡した。
一番奥側の留置所で人の気配がした。右足を引きずりながらゆっくりと近づいていく。普段ならなんでもない距離がやたらと遠く感じた。

牢屋の前に立ち、柵越しに様子を見る。場違いなほど大きなソファ、必要のないバイク(自転車)やギター、そして鉄アレイが二組、無作法に転がっている。
承太郎はこちらに背を向けるような格好でベットに寝転がっていた。体を休めているようだ。先の戦いの治療は既に済んでいた。体中に巻かれた包帯と止血帯が目に焼き付くように白く、その様子はことさら痛々しかった。

「承太郎さん」

承太郎はゆっくりと体を起こした。石をぶつけ合う独特の音が響き、一本の煙が揺らいだ。背中を向けたまま返事をする。

「体調は大丈夫なのか」
「承太郎さんこそ」
「こんなものはカスリ傷だ」
「俺が気を失ってから―――、俺はどのぐらいの間寝ていたんですか」
「二時間か三時間といったところか」 

承太郎は時計に目をやると、煙を吐き出しながら言った。

「放送は……?」

承太郎の背中から影が浮かび出て、一枚の紙切れを弾き飛ばした。不規則に揺れながら、アナスイの足元に落ちる。
そこには禁止エリア、死亡者のリスト、スティールが脱落したことが書き留められていた。
縦長に几帳面にかかれたその文字を、アナスイは黙って追った。承太郎が一本目を吸い終え、二本目も吸い終え、三本目に火をつけたときようやくアナスイが言った。

「26人も……ですか」
「ショックか? 猟奇殺人鬼のくせに他人の人殺しは気に入らないのか」

アナスイの頬に赤味がさした。ここ数時間で最も生気が宿った表情をしていた。
アナスイは黙って紙をポケットにしまうと、鉄格子を握った。握った拍子に柵が揺れ、ガシャンと音を立てた。耳に残る、騒々しい音だった。

「どうした? 俺がお前のことに詳しいのがそんなにも意外だったか?」
「アナタが徐倫の父親でなければ、次の放送で呼ばれる名前が一つ増えるところでしたよ」
「やってみるがいいさ。鍵は空いてる」

スター・プラチナの腕が伸びると、入口が開いた。アナスイは牢屋の中に足を踏み入れる。承太郎はまだ背中を向けたままだった。
アナスイの表情から怒りが消え、代わりに戸惑いが浮かび上がってきた。
ベットの脇に立ち、承太郎を見下ろした。顔を上げた承太郎と初めて目があった。
アナスイの体から浮かんだ影が手を伸ばす。筋肉に盛り上がった腕が承太郎の喉元に伸び、ぐっとそれを掴んだ。承太郎はアナスイを見返している。

「タフぶるのはやめにしませんか。アナタの体はぼろぼろだ」
「そっくりそのままお返しするぜ」
「少なくとも俺はスタンドを使える。アナタみたいに制御できなくなったことは一度もない」

881NAMI no YUKUSAKI ◆c.g94qO9.A:2016/01/19(火) 22:09:55 ID:rIKrEk/g
承太郎の体から飛び出た薄い影は煙のようにあたりを彷徨っていた。
二、三度アナスイの方へと揺らいだが、とうとう見当つかずの方へ手を伸ばすと牢屋の中のガラクタを撫で、諦めたように姿を消した。
承太郎は左腕を使って、四本目のタバコに火をつけた。普段使い慣れていない、ぎこちなさが伺えた。煙を一息吐くと、承太郎は左手で膝の上に乗った拳銃を撫でた。
アナスイの引き締まった身体とダイバー・ダウンのたくましい肉体を前にしては、それはいかにも頼りげない武器に見えた。

「承太郎さん」
「スタンドがあろーがなかろーが、隠居するにはまだ早すぎる。片付けないといけない輩があちこちにいるんでね」
「なるほど、敵がお目当てというわけですね。確かに刑務所には敵が多くいる。暴力を厭わない看守がほうっておいても湧き出てくる。試しに一人呼んできましょうか?
 運良く看守が善良なやつだとしても―――あいにく、俺はそんなものを見たことはないが―――或いは全員寝入ってたとしても、囚人たちがいますからね。
 恋人をバラした猟奇殺人鬼とかがね」

ダイバー・ダウンが力を強めた。承太郎は目を細めて、タバコの先を強く噛み締めた。呼吸を乱さないように意識すると、自然と顎がつり上がった。
アナスイのスタンドをはさんで、二人は睨み合った。煙でかすれた声で承太郎は小さく言った。

「何が言いてぇんだ」
「あなたこそ何が言いたいんですか。怪我人を看病すれば優しい言葉でもかけてもらえるとでも思ったんですか。
 友人や頼りになる人を見送れば、慰めの言葉をかけてもらえるとでも期待していたんですか。
 この俺が―――アナタの言葉を借りれば、娘に付きまとうイカレた殺人鬼でしたか?―――あなたに優しくしてあげるとでも、本当に思ったのか?
 今のアンタは怒りに震える復讐者にも、納得を追い求める求道者にも見えない。不抜けてくたびれた野良犬みたいだ」
「……休息が必要だと判断しただけだ。何もお礼の言葉を期待してたわけじゃねぇ」
「タフぶるのはやめろ、といったはずです。戦えもせず、戦う気もないのに安い挑発を繰り返すアナタの姿は見ていられない。
 チンピラ以下の存在に成り下がりたいというのならば止めはしません。ただ、この場でチンピラ以下になった存在がどれほど生きながらえれるかんなて言うまでもないと思いますが。
 それともそれがアナタの願いですか? アナタはもう諦めているんですか? 徐倫もフー・ファイターズも、あれほど必死で生きたいと願っていたのに」

アナスイの手から力が抜け、承太郎は顔を背けた。下げた視線の先で、拳銃を強く握り締めた。引き金に指をかけ、いたずらに触れては離してを繰り返す。
アナスイがその手を抑えた。承太郎は顔を上げなかった。しばらくの間黙り込んでいたが、小さな声で吐き捨てた。

「御託はいい。やりたければやればいいさ」
「自分で死ぬ勇気も決断すらも失ったというわけですか。貴方には失望した」

アナスイは承太郎の手から拳銃をもぎ取ると、距離をとった。
銃口を構えると、狙いを承太郎の額に定めた。数秒の間、二人は黙りこんだ。
そして、銃弾を放った鈍い音が部屋に響いた。





882NAMI no YUKUSAKI ◆c.g94qO9.A:2016/01/19(火) 22:10:15 ID:rIKrEk/g
ダイバー・ダウンの『指先』から放たれた『弾丸』は承太郎の肌に当たって弾け、肌を伝うと身体中にしみ込んでいった。
しばらくの間、承太郎は身体中に回る違和感に意識を向けていた。血流に逆らうように何かが身体中に蠢いているのが感じ取れた。同時に傷口が塞がるのもはっきりと感じ取れた。
アナスイは承太郎に近づくと、肩に手を置き治療を続けた。黒い涙がアナスイの体を伝い、承太郎の体へ流れ、傷口に向かって走る。15分ほど経ち、承太郎の身体中の傷口がプランクトンで埋まった。承太郎は右腕をあげ、ポケットに手を伸ばした。アナスイに向けてタバコの箱を振る。

「俺はタバコを吸いません。『今の俺』はという意味ですが」
「拒絶反応でもあるのか。プランクトンってのはけっこーやわな生物なんだな」
「煙が入るスペースがないってだけです。『フ―・ファイターズ』『F・F』『徐倫』……これ以上積み込もうと思ったらパンクしちまう」

承太郎は頷くと、ゆっくりと立ち上がった。承太郎が身体の調子を確かめ、ベットの周りをふらつくのをアナスイは眺めていた。
承太郎はほんの二、三周あたりを歩き、部屋の大きさを確かめるかのように端から端へと歩いて行った。やがて歩き疲れたのか、ソファに息を吐きながら腰を下ろした。
顔色が優れない。呼吸が収まるのにしばらく時間がかかった。アナスイは辛抱強く待っていた。

「気分はどうですか」
「最悪だ。娘の記憶の中にどれだけ自分が少ないかをまざまざとみせつけられて、機嫌が良くなる父親なんてこの世に存在しない」
「アナタがこれまで言った意見で一番ぐっとくる言葉ですよ、それは」

アナスイの表情が和らいだ。承太郎はタバコを咥えかけ、しばらく部屋の壁を見つめていたが、思い直したように箱の中にしまい直した。
二人は何も言わず、沈黙に耳を澄ました。遠くで車のエンジンが唸る音が響いた気がした。
アナスイは立ち上がると窓から外の様子を伺った。人の気配は感じられなかった。

「どうですか、まだ死にたいと思いますか」
「いや」
「でも戦うにはまだ勇気が足りない」
「……かもな」

いつの間にか牢屋の中にモノが増えていた。隣の部屋から運ばれてきたベットを眺め、承太郎は頷いた。
二人が見ている合間にも、承太郎から飛び出た影は壁を抜け、天井から腕を突き出し、気まぐれに姿を消しては現している。
看守の部屋からかっぱらてきたであろうラジカセから、音楽が流れ始めた。男の声で別れと戦いの悲しさを歌っていた。二人はその声にじっと耳をすませた。
歌が終わり、カセットテープがざらついた音を流し始めた。アナスイが停止ボタンを押すと、かちりと音を立ててラジカセが止まった。
膝を立て座る承太郎を、アナスイはもう一度見下ろした。今度は承太郎と目があった。アナスイが言う。

883NAMI no YUKUSAKI ◆c.g94qO9.A:2016/01/19(火) 22:10:43 ID:rIKrEk/g
「行きましょう、承太郎さん」
「三人積みの車にもう一人乗せることになるぞ。お呼びじゃないだろう」
「『フ―・ファイターズ』と『徐倫』は満更でもないようですよ。あなた自身も感じ取れませんか?」

真っ直ぐな目が承太郎を見返していた。その強く、混じりけのない目は承太郎に徐倫のことを思い出させた。救うことのできなかった娘、自分のせいで戦いに巻き込んでしまった娘を。
承太郎はアナスイをしばらくのあいだ見つめ返し、やがて自身の胸に手を当てて、鼓動を確かめた。その後ろにいる三人の―――フー・ファイターズ、F・F、そして徐倫の―――意志を探ろうとした。
背中から浮かび上がった影がおぼろげながら像を結び始める。スター・プラチナは生まれたての赤ん坊のように頼りげなく、戸惑っているようにも見えた。
それでも腕が、足が、胸が、背中が形となって承太郎の傍で息づいている。承太郎は振り返り、スター・プラチナの顔を眺めた。
こんな顔をしていたのか。承太郎は忘れていた親友の顔を久しぶりに見たかのよにじっと眺め―――そして小さく、頷いた。スター・プラチナは満足したように、ふっと姿を消した。

「何もしないでいいんです。ただ傍に立つだけでいいんです。俺が望んでいるだけじゃない。『三人』も望んでいるんです。
 それとも荒っぽく牢屋から引きずり出したほうが良かったですか?」
「牢屋から無理やり連れ出されるのは一回で充分だ。やれやれだぜ」

承太郎はソファから立ち上がると、帽子をかぶり直した。アナスイは黙って傍に寄ると、片腕を差し出した。承太郎はその腕を掴むと寄りかかることがないように、しかしその片腕に体重をかけて歩きだした。
二つの影が廊下を進んでいく。ゆっくりと、確かめるように前に進んでいく。
二人の足音が時間をかけて遠ざかっていくのが聞こえ、やがて沈黙の中に吸い込まれていった。

風が吹いて、ベットに残されていった一枚の紙切れを吹き飛ばした。
承太郎が書き残した死者のリストと禁止エリア、ファニー・ヴァレンタインについてのメモとは別に短い文章が残されている。
それはアナスイに宛てたものだった。


『鏡を見ろ。お前の首輪は解除されたようだ。ただし口には出すな。盗聴の恐れアリ』


GDS刑務所正面の扉が開く音が聞こえた。牢屋の中にもう亡霊はいない。風に乗ってメモはまた浮かび、どこかに飛んでいった。

884NAMI no YUKUSAKI ◆c.g94qO9.A:2016/01/19(火) 22:11:03 ID:rIKrEk/g
【E-2 GDS刑務所/1日目 夜】

【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』(現在時止め使用不可能)
[状態]:右腕骨折(添え木有り)、内出血等による全身ダメージ(大:回復中)、疲労(中:回復中)、精神疲労(中)
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃の予備弾薬6発、 ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)
[道具]:基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、肉の芽入りペットボトル、ナイフ三本
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.…………。
1.状況を知り、殺し合い打破に向けて行動する。
[備考]
※肉体、精神共にかなりヤバイ状態です。
※度重なる精神ダメージのせいで時が止められなくなりました。回復するかどうかは不明です。
※前話、承太郎の付近にあったナイフ×3、ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)を回収しました。それ以外は現場に放置されています。

【ナルシソ・アナスイ plus F・F】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:徐倫、フー・ファイターズ、F・Fの意志を受け継ぎ、殺し合いを止める。
1.承太郎と共に行動する
[備考]
※アナスイと『フー・ファイターズ』は融合しました。
※F・F弾や肉体再生など、原作でF・Fがエートロの身体を借りてできていたことは大概可能です。
※『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』は二人の『ダイバー・ダウン』に『フー・ファイターズ』のパワーが上乗せされた物です。
 基本的な能力や姿は『ダイバー・ダウン』と同様ですが、パワーやスピードが格段に成長しています。
 普通に『ダイバー・ダウン』と表記してもかまいません。
※アナスイ本体自身も、スタンド『フー・ファイターズ』の同等のパワーやスピードを持ちました。
※その他、アナスイとF・Fがどのようなコンボが可能かは後の作者様にお任せします。
※首輪は装着されたままですが、活動を示す電灯が消えています。承太郎の『予測』では『どうやら』首輪は活動を停止しているようです。詳細は次以降の方におまかせします。

885NAMI no YUKUSAKI ◆c.g94qO9.A:2016/01/19(火) 22:15:07 ID:rIKrEk/g
以上です。誤字・脱字等ありましたらご指摘ください。
一時投下からあまり時間が経っていませんが、こちらに投下してみました。
内容に問題がありましたらアドバイスください。よろしくお願いましす。

一時投下スレにて指摘、感想くださいありがとうございました。
承太郎とアナスイの状態表、文末と表現に少し手を加えました。
あわせて確認してくださると助かります。

>>◆OnlAmXGbfQさん
投下乙です。
まさに男たちの戦いといった感じがしました。
育朗もワムウもそれぞれ最期まで『らしく』貫いていてかっこよかったです。

886名無しさんは砕けない:2016/01/19(火) 23:12:04 ID:TNX89y1M
投下乙かれさまです。
いよいよ物語の核心に迫り始めた足音をひしひしと感じました。
ぞくぞくしますね。

887名無しさんは砕けない:2016/01/20(水) 13:38:17 ID:X01MKobA
投下乙です

潜行するダイバーダウンは、フーファイターズと相性がいいのかもしれない

888名無しさんは砕けない:2016/01/20(水) 14:45:07 ID:Om0FnV7w
投下乙です
そういえばペットボトルの肉の芽はどうなっているのだろうか

889名無しさんは砕けない:2016/01/21(木) 19:55:13 ID:GrVDA0Dg
アナスイとFFの融合って2ndみたいだなー…って確認してみたら状態表がオマージュになってる!ニヤリとくる小ネタだなあ。

890 ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/23(土) 21:37:14 ID:n8yigBxo
投下します。

891次の目的地に向かえ! ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/23(土) 21:38:00 ID:n8yigBxo
暗闇の道を一台の車が駆け抜けていく。この車の行き先は地獄でも天国でもない。
人生という標識を清く正しく守り続ける現実という名のロードだ。
右へ左へ後ろへ前へ。今も車は走っている。現在の方角は北だ。

「ずっとだ………さっきからずっとだなあ…なぁ?シーラE」
「ええ。もうずっと」
「さっきからずっと尾行なんかする者もなく、もう一時間近くは走り続けている。
 ひょっとしてあたしたちは、あたしたちはひょっとして」

エルメェスはバックミラーを確認しながら、シーラEに返答を求める。
この車に乗り合わせている人物は三人。残るは、右腕を切断され気絶している広瀬康一。

「逃げ切ったのかよォーッ!!このままだと、あと数分でGDS刑務所に着けるぜッ! 」

エルメェスはハンドルをガンと叩きながら、怒気をこめて叫んだ。
無理もない。彼女たちはつい一時間前ほどに、仲間を"見捨てて"きたのだから。
自分の無力さを忌々しく呪った。それだけこの瞬間に貯まっていた何かを吐き出したかった。

「大きな回り道だったけれど、これが最短だった」

エルメェス達が自動車で通ったルートはこうだ。
まずジョースター家の牧草地を横断し、エリアG-1へ東征。
次にG-1からF-1、E-1へと縦に伸びる大きな道を北上。
禁止エリアになっているF-2とD-1を避けるようにグルリと時計回りに移動した。
そして彼女たちのひとまずの目的地はE-2のグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所。
ここはエルメェスにとって縁の地。刑務所には医務室もある。

「見えてきたぞッ! これであんたらの手当が出来ればいいが……」

目的はシーラEと広瀬康一の治療に他ならない。
あのカーズの追跡から逃れられたのならば、次の行動はこれがベスト。
エルメェスはハンドルを右に切り、車を進める。
彼女は、かつて自分が収容されていた古巣へ戻ろうとしていた。

892次の目的地に向かえ! ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/23(土) 21:38:30 ID:n8yigBxo
★ ★ ★

「――で、来たはいいけど、どうやって入ればよかったっけな……」

月明かりの下、エルメェスは独り言をつぶやいた。
康一は怪我の具合が酷いため、シーラEに護衛をまかせて車に置いてきた。

「刑務所に入った時は護送車のバスだったからなぁ」

入口の横にある守衛室のドアを破壊し、手当たり次第に物色する。
エルメェスは守衛室に置いてある鍵という鍵をかき集めて、刑務所を探検するつもりだった。

「ん? 」

この時、エルメェスは不思議なことに気がつく。
この守衛室の異様な雰囲気。異様な光景。これではまるで……。

「どうやら先客がこの部屋に入ったみてーだな」

どこかの誰かもわからない存在が、一足お先に守衛室を漁っていたらしい。
エルメェスは、先ほど破壊した外と守衛室をつなぐ扉とは別の扉に手をかける。
つまり、守衛室から刑務所につながる方の扉の鍵を開けようとした。

――そのときだった。

「うおお!? 」

ドアノブがガチャリと周り、扉がひとりでに開いたのだ。
まさかの展開にエルメェスは大袈裟にバックステップをした。
エルメェスはスタンドを発現させて、臨戦態勢をとった。
この先に待つものは知人か、味方か、まだ見ぬ人物か、それとも敵か。

「……エルメェス? 」

それは、二人の男だった。
しかしエルメェスにはその男たちに見覚えがあった。
ナルシソ・アナスイと空条承太郎であった。
そう、エルメェスよりも先に守衛室を探索したのは承太郎。
そして彼らは、まさに刑務所から退出しようとしていたのだ。
行きと同じ道を辿って帰ることは何も不思議なことではない。

「なんだよ畜生……生きてたのか……」
「おい、そんな言い草は無いだろう」
「畜生……畜生……畜生……」

エルメェスのただならぬ様子に、アナスイと承太郎は顔を見合わせるしかなかった。
彼らはエルメェスの気持ちなど知る由もなかったが、なんとなく察することはできた。
おそらく誰かが死んだのだろう。おそらく誰かを助けられなかったのだろう、と。

「何があった? 」

承太郎は、この出会いを『運命』と確信した。
片や刑務所を侵入しようとしたもの、片や刑務所を出ようとしたもの。
侵入の経路は偶然一緒だったとはいえ、このタイミングでの遭遇は偶然ではないと。
だからこそ承太郎はこの瞬間を大事にしようとした。

「カーズに……みんなやられた……ティムも、噴上も、シュトロハイムも……」

エルメェスはゆっくりと一部始終を語り始めた。

893次の目的地に向かえ! ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/23(土) 21:38:56 ID:n8yigBxo
★ ★ ★

「帰ってきた……っと、あれは……」

車を降り車体にもたれて時間を潰していたシーラEは、エルメェスの帰還に気がついた。
ぽっかりと明るく月が出ているからこそだったが、今はそんなことはどうでもいい。
それよりも、彼女が大の男を二人もつれて帰ってきたことの方が気になった。

「エルメェス、そちらは? 」
「ナルシソ・アナスイだ。話はエルメェスから全て聞いた」
「康一の容体はどうだ? 」
「今は……眠っているわ」

シーラEは車の後部座席に視線をチラリと映した。車の中では康一が横たわっている。
それを見たアナスイは、後部座席の扉を開けて康一の治療を始めた。
フー・ファイターズと融合した今の彼には、よりちゃんとした止血が可能だった。

「"俺の"F・F弾……プランクトンを傷口に埋め込むことで傷口を塞ぐことができる。
 さらにダイバーダウンで傷口を変形させて形成すれば……傷口を隠すことも可能だ。
 今はこれぐらいしか出来ないが……失血死する恐れは無くなったとみていいだろう」

シーラEには、心なしか康一の表情が和らいでいるように見えた。
それほどまでに、アナスイの治療は一時的とはいえこれ以上の無い応急処置であった。

「ヘイッ、シーラE、あんたの怪我も後でアナスイに直してもらうからな」
「ありがとうエルメェス。承太郎も、無事で良かった」
「とりあえず情報交換をもう少ししたい。カーズとやらのことも含めて、な」
「そうね。私も話がしたい。この破れたトランプのハートの4……ムーロロのこともね」

そしてアナスイが会話に割って入るように身を乗り出した。
彼は口元に人差し指を当ててしーっの合図をとりながら、自分の首輪に指をさした。
エルメェスとシーラEは思わず声が出そうになったが、なんとか我慢しとおせた。

★ ★ ★

満天の星空の下に、車が走る。
運転手はエルメェス。
助手席にはシーラE。
後部座席には承太郎、アナスイ、そして未だ気絶中の康一。

彼らの次の目的地は、いずこへ。

894次の目的地に向かえ! ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/23(土) 21:41:05 ID:n8yigBxo
【E-2 /1日目 夜中】
【チーム名:AVENGERS】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』 → 『???』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:右二の腕から先切断(止血完了)、極度の貧血、気絶
[装備]:エルメェスの舌
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水1消費)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.???

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.車でどこかへ移動する。
1.運命への決着は誰も邪魔することはできない……。
2.ジョジョ一族とDIOの因縁に水を差すトランプ使いはアタシたちが倒す?

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:両腕に裂傷(治療済)、貧血、身体ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数70%)
[道具]:基本支給品一式×6(食料1、水ボトル少し消費)破れたハートの4
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ。
0.車でどこかへ移動する。
1.ジョースター家とDIOの因縁に水を差すムーロロ、アタシが落とし前をつける?
【備考】
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません
※車内に放置されていたティム、噴上、シュトロハイムの基本支給品とトンプソン機関銃と破れたハートの4を回収しました。

【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』(現在時止め使用不可能)
[状態]:右腕骨折(添え木有り)、内出血等による全身ダメージ(大:回復中)、疲労(中:回復中)、精神疲労(中)
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃の予備弾薬6発、 ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)
[道具]:基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、肉の芽入りペットボトル、ナイフ三本
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.車でどこかへ移動する。
1.状況を知り、殺し合い打破に向けて行動する。
[備考]
※肉体、精神共にかなりヤバイ状態です。
※度重なる精神ダメージのせいで時が止められなくなりました。回復するかどうかは不明です。
※前話、承太郎の付近にあったナイフ×3、ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)を回収しました。それ以外は現場に放置されています。

【ナルシソ・アナスイ plus F・F】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:徐倫、フー・ファイターズ、F・Fの意志を受け継ぎ、殺し合いを止める。
1.エルメェスたちと共に行動する
[備考]
※アナスイと『フー・ファイターズ』は融合しました。
※F・F弾や肉体再生など、原作でF・Fがエートロの身体を借りてできていたことは大概可能です。
※『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』は二人の『ダイバー・ダウン』に『フー・ファイターズ』のパワーが上乗せされた物です。
 基本的な能力や姿は『ダイバー・ダウン』と同様ですが、パワーやスピードが格段に成長しています。
 普通に『ダイバー・ダウン』と表記してもかまいません。
※アナスイ本体自身も、スタンド『フー・ファイターズ』の同等のパワーやスピードを持ちました。
※その他、アナスイとF・Fがどのようなコンボが可能かは後の作者様にお任せします。
※首輪は装着されたままですが、活動を示す電灯が消えています。承太郎の『予測』では『どうやら』首輪は活動を停止しているようです。詳細は次以降の方におまかせします。

【チーム全体の備考】
※全員がカンノーロ・ムーロロについての知識をシーラから聞き、情報を共有しました。
(参戦時期の都合上シーラも全てを知っているわけではないので、外見と名前、トランプを使うらしい情報チーム、という程度です)
※全員がカーズという危険人物の存在を把握しました。

895 ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/23(土) 21:43:37 ID:n8yigBxo
投下完了しました。
誤字・脱字、何か問題等ございましたら指摘してくださるとありがたいです。

896名無しさんは砕けない:2016/01/23(土) 22:47:50 ID:Ie3Igxjs
投下乙です。
承太郎は康一たちとは再会になるんですね、感慨深いものもあるでしょう。
今後どうなっていくか期待が高まる集団になりますね。

さて、いくつかご指摘を。
内容については大きな矛盾点はないかと思いますが、気になった部分だけ。

・時間軸が夜中ならもう一つ禁止エリアを設定することも可能です(21時)
 作中の時間が具体的に21時前としているなら構いませんが、そうでない場合は、少なくとも彼らが行動している場所に禁止エリアはなかったことを明記しておく必要があります。
 本文中にねじ込みにくい箇所でもありますから、その際は状態表の備考欄にでも。
・文章では>>892での、
まさかの展開にエルメェスは大袈裟にバックステップをした。
エルメェスはスタンドを発現させて、臨戦態勢をとった。
 この部分で「エルメェス」が(文を区切っているとは言え)重複している感があります。
 『〜〜大げさにバックステップをし、スタンドを発現させて〜〜』とまとめることも可能です。
・同じく892より、守衛室が承太郎たちに荒らされた形跡があるのに鍵だけがかけられていた、というのも、どことなく不自然な感じがします。
 例えば『何故か空いていた鍵→荒らされた→誰か先客?』ですとか、
 『荒らされてるのに閉めて行ったということはもういない?→やっぱりいたのかよ!→びっくりして臨戦態勢』あるいは『最初から荒らされていなかったことにして先客の存在を感じ取れなかった』
 とすれば違和感が減るでしょうか。
私が感じたのはこのくらいです。

それから、これは作品に対してではないですし、どこにもルールとして明記されてない部分ではありますが、
『予約した数時間後に投下』 は如何なものでしょうか。

たしかに過疎に過疎が重なっている現状では全く問題ないとは思います。
ですが、例えば過去に2chで本スレが立っていた時には、
「おお、あそこ予約来たのか、どうなるか期待」とか「うわあああ書きたいとこかぶったあああorz」とか、そういう反応もありました。
いわゆる雑談です。したらばにも雑談スレ(今は機能してないけど)ありますし、書き手と読み手のコミュニケーションの場でもあったように個人的には感じておりました。
それがなくただただ作品を投下していくだけでは良くないような気がします。
(具体的に何がどう良くないのか説明する能力を持ち合わせてなくて申し訳ないですが・・・)
wikiの更新(トップページの【現在の予約状況】のところとかですね)もありますし、ならばいっそゲリラ投下にしてしまってもいいのでは、と思います。

おそらく◆Onl氏は作品を書き上げてから予約するタイプの方とお見受けします。この数時間で投下キャラの前作までの行動を踏襲しつつSSを書くのはかなりの負担でしょうから。
でしたら尚更、予約したあと一晩作品を寝かせる、くらいのことがあっても良いかと思います。
予約さえ通ってしまえば少なくとも3日、延長すれば1週間、もっと言えば現状を鑑みるに(一言添えてくれれば)2週間くらいは予約したキャラをほかの人に取られることなくキープできるのです。
数日置いてから自分の作品を読み返すと結構誤字脱字や矛盾点も見つかるものですよ。
それでも不安があれば仮投下することだって可能なのですから。
利用できるものはなんでも利用するべきですよ。体験談ですがねw

無論、先に書いたとおりこのことは書き手ルールのどの項目にも書いてありませんし、かと言ってマナーがどうのと押し付ける気もありませんので、あまり気になさらなくても結構です。
ですが、新しく参入してくれた氏には今後の期待も大きいですので、ちょっと頭の片隅においていただければ幸いです。

長くなりましたが、最後に改めて投下乙です。今後の展開に期待です。

897 ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/24(日) 14:22:53 ID:H.4.dvdk
指摘ありがとうございます。
禁止エリアの件と、守衛室の鍵のくだりを修正して再度投下したいと思います。

898次の目的地に向かえ! (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/24(日) 14:28:35 ID:H.4.dvdk
★ ★ ★

「――で、来たはいいけど、どうやって入ればよかったっけな……」

月明かりの下、エルメェスは独り言をつぶやいた。
康一は怪我の具合が酷いため、シーラEに護衛をまかせて車に置いてきた。

「刑務所に入った時は護送車のバスだったからなぁ」

入口の横にある守衛室のドアを開けて、手当たり次第に物色する。
エルメェスは守衛室に置いてある鍵という鍵をかき集めて、刑務所を探検するつもりだった。

「ん? 」

この時、エルメェスは不思議なことに気がつく。
この守衛室の異様な雰囲気。異様な光景。これではまるで……。

「どうやら先客がこの部屋に入ったみてーだな」

どこかの誰かもわからない存在が、一足お先に守衛室を漁っていたらしい。
そういえばこの外と守衛室をつなぐ扉もそもそも鍵が開いていた。これは冷静に考えるとおかしい。
エルメェスは、外と守衛室をつなぐ扉とは別の扉に手をかける。
つまり、守衛室から刑務所につながる方の扉の鍵を開けようとした。

――そのときだった。

「うおお!? 」

ドアノブがガチャリと周り、扉がひとりでに開いたのだ。
まさかの展開にエルメェスは大袈裟にバックステップをし、スタンドを発現させて、臨戦態勢をとった。
この先に待つものは知人か、味方か、まだ見ぬ人物か、それとも敵か。

「……エルメェス? 」

それは、二人の男だった。
しかしエルメェスにはその男たちに見覚えがあった。
ナルシソ・アナスイと空条承太郎であった。
そう、エルメェスよりも先に守衛室を探索したのは承太郎。
そして彼らは、まさに刑務所から退出しようとしていたのだ。
行きと同じ道を辿って帰ることは何も不思議なことではない。

「なんだよ畜生……生きてたのか……」
「おい、そんな言い草は無いだろう」
「畜生……畜生……畜生……」

エルメェスのただならぬ様子に、アナスイと承太郎は顔を見合わせるしかなかった。
彼らはエルメェスの気持ちなど知る由もなかったが、なんとなく察することはできた。
おそらく誰かが死んだのだろう。おそらく誰かを助けられなかったのだろう、と。

「何があった? 」

承太郎は、この出会いを『運命』と確信した。
片や刑務所を侵入しようとしたもの、片や刑務所を出ようとしたもの。
侵入の経路は偶然一緒だったとはいえ、このタイミングでの遭遇は偶然ではないと。
だからこそ承太郎はこの瞬間を大事にしようとした。

「カーズに……みんなやられた……ティムも、噴上も、シュトロハイムも……」

エルメェスはゆっくりと一部始終を語り始めた。

899次の目的地に向かえ! (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/24(日) 14:33:42 ID:H.4.dvdk
【E-2 /1日目 夜中】
【チーム名:AVENGERS】
【広瀬康一】
[スタンド]:『エコーズ act1』 → 『エコーズ act2』 → 『???』
[時間軸]:コミックス31巻終了時
[状態]:右二の腕から先切断(止血完了)、極度の貧血、気絶
[装備]:エルメェスの舌
[道具]:基本支給品×2(食料1、パン1、水1消費)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.???

【エルメェス・コステロ】
[スタンド]:『キッス』
[時間軸]:スポーツ・マックス戦直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
0.車でどこかへ移動する。
1.運命への決着は誰も邪魔することはできない……。
2.ジョジョ一族とDIOの因縁に水を差すトランプ使いはアタシたちが倒す?

【シーラE】
[スタンド]:『ヴードゥー・チャイルド』
[時間軸]:開始前、ボスとしてのジョルノと対面後
[状態]:両腕に裂傷(治療済)、貧血、身体ダメージ(中)、疲労(中)
[装備]:トンプソン機関銃(残弾数70%)
[道具]:基本支給品一式×6(食料1、水ボトル少し消費)破れたハートの4
[思考・状況]
基本行動方針:ジョルノ様の仇を討つ。
0.車でどこかへ移動する。
1.ジョースター家とDIOの因縁に水を差すムーロロ、アタシが落とし前をつける?
【備考】
※参加者の中で直接の面識があるのは、暗殺チーム、ミスタ、ムーロロです
※元親衛隊所属なので、フーゴ含む護衛チームや他の5部メンバーの知識はあるかもしれません
※車内に放置されていたティム、噴上、シュトロハイムの基本支給品とトンプソン機関銃と破れたハートの4を回収しました。

【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』(現在時止め使用不可能)
[状態]:右腕骨折(添え木有り)、内出血等による全身ダメージ(大:回復中)、疲労(中:回復中)、精神疲労(中)
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃の予備弾薬6発、 ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)
[道具]:基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、肉の芽入りペットボトル、ナイフ三本
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.車でどこかへ移動する。
1.状況を知り、殺し合い打破に向けて行動する。
[備考]
※肉体、精神共にかなりヤバイ状態です。
※度重なる精神ダメージのせいで時が止められなくなりました。回復するかどうかは不明です。
※前話、承太郎の付近にあったナイフ×3、ミスタの拳銃(6/6:予備弾薬12発)を回収しました。それ以外は現場に放置されています。

【ナルシソ・アナスイ plus F・F】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:徐倫、フー・ファイターズ、F・Fの意志を受け継ぎ、殺し合いを止める。
1.エルメェスたちと共に行動する
[備考]
※アナスイと『フー・ファイターズ』は融合しました。
※F・F弾や肉体再生など、原作でF・Fがエートロの身体を借りてできていたことは大概可能です。
※『ダイバー・ダウン・フー・ファイターズ』は二人の『ダイバー・ダウン』に『フー・ファイターズ』のパワーが上乗せされた物です。
 基本的な能力や姿は『ダイバー・ダウン』と同様ですが、パワーやスピードが格段に成長しています。
 普通に『ダイバー・ダウン』と表記してもかまいません。
※アナスイ本体自身も、スタンド『フー・ファイターズ』の同等のパワーやスピードを持ちました。
※その他、アナスイとF・Fがどのようなコンボが可能かは後の作者様にお任せします。
※首輪は装着されたままですが、活動を示す電灯が消えています。承太郎の『予測』では『どうやら』首輪は活動を停止しているようです。詳細は次以降の方におまかせします。

【チーム全体の備考】
※全員がカンノーロ・ムーロロについての知識をシーラから聞き、情報を共有しました。
(参戦時期の都合上シーラも全てを知っているわけではないので、外見と名前、トランプを使うらしい情報チーム、という程度です)
※全員がカーズという危険人物の存在を把握しました。

【禁止エリアについて】
時刻は夜中ですが、エルメェスらが通った、G-2、G-1、F-1、E-1、E-2は21時における禁止エリアでは無かったようです。

900次の目的地に向かえ! (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/01/24(日) 14:38:28 ID:H.4.dvdk
修正投下完了しました。
修正した箇所は
>>892の守衛室のくだりを微修正。
>>894に【禁止エリアについて】の追加です。
>>892>>898に、>>894>>899に差し替えてください。
それでは失礼します。

901名無しさんは砕けない:2016/01/25(月) 14:10:05 ID:uLvOKOyM
投下乙です
承太郎組とエルメス組の再合流はいい対主催勢力になりそうですね。

902 ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:27:59 ID:o7GymzmQ
修正版を投下します。

9032 Become 1 (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:29:15 ID:o7GymzmQ
「DIOの館へ向かいましょう」

それがトリッシュの選択した答えだった。彼女は自分だけに聞こえてきたルーシーの声に従ったのだ。
『教会カラ北ヘ…………DIOノ館ヘ、私ヲ助ケテ…………トリッシュ!!』
ルーシーはまだ生きている。その彼女からのSOSを、無視するにはいかなかった。
もしこれが何らかのスタンドによる通達だとすれば、見過ごすわけにはいかない。
トリッシュは地図を見せながら二人に説明した。

「ここから、こう、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会を通った先のDIOの館に……ルーシーがいるの。
 ルーシー・スティール。彼女のことはジョニィ・ジョースターから聞いたでしょう?
 彼女が助けを求めてる……だから、その、一緒にそこへ行こうと思うの。どうかしら」
「…………」
「…………」

ナランチャと玉美の答えは沈黙だった。それはトリッシュにとっては意外な反応。
いつもの玉美なら『はい喜んでトリッシュ様!』と舌を出して喜びそうなものなのに。
ナランチャにしてもそうだ。彼はシンプルに行動する。基本的に反論をするタイプではない。

「トリッシュ様。自分は反対です」
「どうして? あたしの命令が聞けないっていうの? 」
「トリッシュ様には従いやす。しかしこの小林玉美、そのルーシーという女に従っているわけではありません。
 トリッシュ様のお知り合いとはいえ、見ず知らずの女まで助ける義理はございません」 
「……ナランチャ、あなたは? 」
「お、俺はトリッシュを守りたい……トリッシュを守るのが俺の任務だ。
 DIOの館で助けを待ってる人がいるなら助けたいさ。
 でも、ということはDIOの館は今、危険な場所になっているんだろ?
 俺はトリッシュを危険な目に合わせたくない。戻ろうぜ。さっきの俺達の根城によ。
 それに……どうして今になってそんな事を言ったんだ? 」

二人は思いのほか冷静だった。どちらの言い分にも確かに一理ある。

「それは……あたしにもわからない。でも、確かに聞こえた気がしたのよ。ルーシーの声が」

トリッシュは素直に答えるしかない。彼女が聞いたルーシーのテレパシーは、紛れもなく事実なのだから。

「トリッシュ様。まずは一度、さっきまで我々がいた民家に戻りやしょう。まだ疲れが残っているのかも」
「……そ、そうだぜ。あまり賛成したかねーが玉美の言うとおりだ。
 ルーシーを助けに行くならフーゴ達を探してからでも遅くはないと思う」

ナランチャ達も素直に提案するしかない。彼らのトリッシュを想う気持ちは本物なのだから。

「――わかったわ。DIOの館に行くのはその後で、ね? 」

トリッシュはふーっと一息吐くと、踵を返した。

「トリッシュ様、そんなことよりコイツでも食べて元気出してください。
 "ローストビーフサンドイッチ"。オニオンと卵も入ってやすぜ! 」
「あ、玉美てめーいつの間に! それ俺の支給品じゃねーか! 勝手にギってんじゃねー! 」
「うるせーダボが! この玉美さまが有効活用してやるってんだからありがたく思え!」
「なんだとクソチビ! あ、やっぱりもう一つの支給品だった"防弾チョッキ"もバッグに入ってねー!
 この盗人野郎! いつの間に着やがったな!」
「どーせお前には強いスタンドがあるから不必要なものだろうが! 俺様は弱いから着る権利があるのよん」

喧噪を始める二人をよそに、トリッシュはもう一度、ルーシーの声について考えていた。
あれは幻聴ではなく、確かにルーシーの声だったのだ。
だとすれば、なぜ聞こえてきたのか。何かのスタンド攻撃を受けたのか。
しかし他の二人にはルーシーの声は聞こえていないようだ……この謎を解明するのは骨が折れそうだった。

(ルーシー、どうか無事でいて)

トリッシュにはそう願うしかなかった。
自分の体に聖人の遺体が入っているとも知らずに。

「トリッシュ、レーダーに反応ありだッ! 反応はひとつッ! こちらに向かってくる。
 フーゴかもしれねぇ。どうする? 接触するか!? 」

そんなトリッシュの思考を遮るナランチャの一声。

「落ち着いていきましょう。相手がフーゴ達ならそれでいいし、見知らぬ他の誰かだったら慎重に行きましょう。
 極端な話、相手がもし危険人物だと判断したら即座に逃げる準備を。それでいい? 」

相手は誰だ。神か悪魔か。それとも――

9042 Become 1 (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:29:36 ID:o7GymzmQ
「ジョ……ジョナサンンンンンーッ!!」

トリッシュたちが根城にしていたE-4の民家のすぐ傍で、ナランチャのレーダーが捕らえたもの。
それは、パンナコッタ・フーゴではなかった。
それは、ナルシソ・アナスイではなかった。
それは、ジョニィ・ジョースターではなかった。
それは、一筋の希望。ジョナサン・ジョースターだった。

「みんな、無事で何よりだ」

エア・サプレーナ島で目を覚ましたジョナサンはその場で充分な時間を取り、負傷を波紋で癒して英気を養っていた。
そして、島を後にしたジョナサン・ジョースターが選んだ道は北西だった。
F-5の橋を渡り、F-4のティベレ川の川沿いの道を歩き、E-4へと探索していた。
ここまで誰にも会えずにいたこと、そして第三回放送を聞き逃してしまったこと。
これらがジョナサンの精神に焦りを生んだが、トリッシュ達と情報交換したことで、その不安も解消された。
そのかわり、師のツェペリの訃報はジョナサンにとっては辛い現実として圧し掛かった。

「あたしたちはフーゴ達を探しているの。ジョナサン、彼らには会った? 」
「わからない。この辺りを散策した限り、彼は見当たらなかった」
「そう……それならもう、この辺りにいる理由は無いのかもね……」

トリッシュはチラリと自分の後ろに立っている二人を見る。

「……わ、わかったよトリッシュ! トリッシュがそこまでして行きたいのなら行こうぜ」
「トリッシュ様が、どーーーーしてもって言うのなら、俺も止めやせん。お供しやす。
 もしかしたら、ここからDIOの館へ行く途中で、フーゴたちと遭遇するかもしれない」

ナランチャと玉美は、トリッシュに根負けしたのか、地図とペンを取り出す。
二人はジョナサンに、これから自分たちが目指すべき場所とルートを提示した。
それはE-4からE-3に進み、E-3からD-3へ北上し、C-3のDIOの館を目指すというものであった。

「わかった。僕も同行しよう」

ジョナサンは三人の提案を快く引き受けた。
こうしてトリッシュ一行は共に進軍することとなった。



9052 Become 1 (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:30:06 ID:o7GymzmQ

そして、舞台は彼らがE-3北西部のティベレ川沿いの橋の付近を歩いていた時に移る。

「トリッシュ! またレーダーに反応あり。相手は一人だけ。橋の向こうからこっちへ向かって進んでいる。
 すげえスピードで進んでるみたいだ……速すぎるぜッ! このままだと、遅かれ早かれ俺たちと遭遇するぞッ! 」
「あっ! アイツかッ! あの走っている奴かッ! 何者だありゃ!? 」

玉美が橋の向こう岸にいる人物に指をさす。その存在はとてつもないスピードで走っていた。
そしてその影は橋を渡り、橋の反対側にいるトリッシュたちの場所まで走ってきた。

「フーゴじゃあねーみてーだな」
「見りゃわかるだろボケナス」
「とりあえず、彼に話を聞いてみるだけでもいいんじゃあないかな? 」

三者三様の反応をよそにトリッシュは、その男に対し警戒を抱かずにはいられなかった。

「何かしら……すごく……引かれあうのものを持っている気がするのだけれど……」

男が急ブレーキを掛けて立ち止まる。
トリッシュ達との距離、その差は数メートル。男はスタンドの射程距離に入った。

「……危険な予感も何となくするのよね……」

その男の得体の知れなさが、トリッシュの警戒心を解かせなかった。

「情報をよこせ」

誰でもない。わからない。その男は悠然でいてそれでいて壮大だった。
男はトリッシュ達を確認するやいなや、橋を渡ってきた。
橋を背に向けてたたずむ男は、月明かりに照らされて美しさすら感じられた。
そして高圧的な一言。大半の人間なら不快感を示すであろう第一印象。

「ああ!?それが人にものを頼む態度か? 」
「玉美うっさい。あたしはトリッシュ・ウナ。こっちはナランチャ・ギルガと小林玉美とジョナサン・ジョースター」

袖をまくり上げてまくしたてる玉美をなだめながら、トリッシュは自己紹介をした。
今まで会った事のない男。どの情報にも合致しない姿形と佇まい。
しかしこちらにいきなり襲いかかってくるわけでもない。
相手の素性がわからない以上、トリッシュは恐る恐る言葉を選びながら交渉する事にした。

「情報はあるわ。信じてもらえないでしょうけど。あたしたちは違う時代から集められたの、ご存じ?
 ここにいる三人は全員違う時代からこの世界に呼び寄せられたの。あなたもそうなのかしら? 」
「それを聞いて何になる」
「何になる、って……大事なことでしょう! 敵は自在に時空を超えられるスタンド使いかもしれないのよ!? 」

トリッシュは動揺するしかなかった。
これまで自分たちが散々頭を悩ませていた議論に、冷や水をぶっかけられたからだ。

「貴様らは物事の本質とやらが見えていない」

そう言うと男は初めてニヤリと笑い、自分の首輪をちょんちょんと指さした。
その仕草にトリッシュはハッとする。当たり前すぎて、身近にいすぎた存在。

「時空を超えられる者の存在をどうこう考える前に、足元……いや首元をよく見ることだな」

沈黙。トリッシュもナランチャも玉美もジョナサンも、自分の首元を無意識に触っていた。
特にジョナサン以外の三人は先ほど禁止エリアを調査していたわけで、首輪の事が全く頭になかったわけではない。
しかし、この男の言う通りだった。
『時空を超える存在』に勝つ為には、『首輪も解除』しなければ。主催者たちに一矢報いることができない。

「もう情報は無いか?」

男は再度尋ねる。トリッシュは慌てて言葉を返した。

「あたしたちは仲間を探している……フーゴ、ジョニィ、アナスイ。彼らに会ったことは?
 あなたが信用に足る相手かどうかまだ判断しかねるけれど……あたしたちはこれから仲間を探して合流する。
 そしてある目的地に行くわ……」

緊張が走る。トリッシュは咄嗟に『DIOの館に行く』とは言えなかった。
この男の素性がわからぬ内は迂闊な発言はルーシーを危険に招くと判断したからだ。

「それだけか? 」

男はもう一度尋ねる。
トリッシュは内心ため息をついた。
この男の反応は、フーゴたちのことを知らないと言っているように見えたからだ。

「無いわ」

トリッシュは正直に答えた。それ以上の言葉は無かった。
詳しい考察は、フーゴたちと合流してから議論するべきだ。

「ならば貴様らには今ここで死んでもらうか」

男が豹変したのは、その直後だった! 両腕から大きな二つの刃をむき出しにする。

9062 Become 1 (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:30:45 ID:o7GymzmQ
「――『エアロスミス』ッ! 」

しかしナランチャ達に恐怖はなかった。
むしろ警戒していた"かい"があったというもの。
お返しとばかりにエアロスミスの弾丸を男に叩き込む。

「ボラボラボラボラボラボラ!! 」

男はエアロスミスの銃撃の衝撃で、そのまま勢いよく飛び跳ね、地面に叩きつけられた。
その様を睨みつけながら、ナランチャと玉美は吐き捨て、ジョナサンは呼吸を整える。

「「敵だなてめー」」
「ならば殲滅すべしッ! 」

常人ならばこの時点で最悪死に至る。相手が人間ならば、の話だが。

「……フフフ。聞いたぞ……確かに聞いた、この耳で!『エアロスミス』と!
 なるほど……『憶えた』ぞ! 貴様のスタンドの名をッ!」

男がゆっくりと立ち上がる。
玉美は驚きトリッシュの後ろに隠れ、ジョナサンは構えた。
あれだけの弾丸を浴びせたはずなのに、男はまるで意に介していないように見えた。
それは明らかに異常! これだけのタフネスさは伊達や酔狂ではない。

「ジョナサンッ!玉美ッ! トリッシュの警護を頼むぜッ! 」

ナランチャには、確実にこの男を始末するために、もう一度エアロスミスの弾丸をぶっ放した。
しかしどういうことだろう。エアロスミスの弾丸は、男の体を貫くどころか反れていってしまった。
それもそのはずである。弾丸はすべて、男の腕から生えた刃によって全て弾かれてしまったからだ。

「どうした? さっきまでの威勢は。貴様らの顔色から察するに、大方『恐怖』に身を包まされたか」
「……ひるむ………と!思うのか……これしきの………これしきの事でよォォォオオオオ!
 まさかてめーが、ジョナサンが言ってた屍生人か吸血鬼だなッ! 」

ナランチャは思い出していた。それは今から数時間前にジョナサン・ジョースターから聞いた話を。
この世には異様なまでの不死身さを持つ化け物がいるということを。

「屍生人? 吸血鬼ィ? 」

だがナランチャはその考えを即座に否定せざるをえなかった。

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

その理由は、この男の高笑いを聞いてしまったからだ!
この人を小馬鹿にしたような態度! まるでTVのホームドラマで流れるようなわざとらしい笑い!
『それは違うよ』と言わんばかりの嘲り! 蔑みと哀れみが混じったどす黒い声!

「この柱の男カーズも舐められたものよ」
「ナランチャッ! おそらくこいつは吸血鬼や屍生人のそれとは違うッ! 気をつけるんだ! 」

そしてナランチャ達は知った!この男の名はカーズ!言葉の意味はわからないが、自称・柱の男!
腕から刃を生やすことができ、ボコボコに撃たれてもびくともしない耐久力を持つ!
すべてが規格外!すべてが超越!すべてがカウンターストップ!

「三人とも、耳を押さえろーーーーッ! 」

だからこそナランチャには迷いが無かった!
ナランチャは、エアロスミスに装備されている爆弾をカーズ目がけて投下した。
爆弾はカーズに着弾し、大きく炎と爆風と轟音を巻き起こす。

「GUAAAAAAAAAッ!」

たまらずカーズが両腕で顔を隠しながら、爆風の中から飛び出してきた。
ナランチャはその隙を見逃さなかった。相手が不死身ならば、戦わなければよい。

「俺たちはよォ……この状況を……何事もなく…みんなで脱出するぜ。それじゃあな……」

ナランチャはエアロスミスをカーズに体当たりさせる!
エアロスミスはそのままカーズの身体を宙に浮かせることに成功した。

9072 Become 1 (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:31:27 ID:o7GymzmQ
「ボラボラボラボラボラボラボラボラッ!……ボラーレ・ヴィ―ア(飛んで行きな)」

そしてエアロスミスは両翼の機銃をカーズの身体に直接叩き込んだ
空中に浮いたカーズは、余すことなくエアロスミスの銃撃を胸部で受け止めざるを得ない。
そしてカーズはエアロスミスによって吹き飛ばされ、橋から投げ出され今にも川へと落ちそうであった。

「MUUUUUUUUUUUUAAAAAA!! 」

たがカーズはッ!なんとカーズはッ!そのまま川から落ちずッ! 逆にエアロスミスにしがみついたのだッ!
そして両腕に力を込めて万力のようにエアロスミスを締め付けあげたのだ。
ベキベキと翼は折れ、プロペラはひしゃげ、機体がぐしゃぐしゃに潰れ、最後には――爆発した。
その爆発と共にカーズは川へダイブ。火花の爆音、水の激しい衝突音が夜の街並みにこだました。

「や……………………殺ってねえ……………………………」

ナランチャはゆっくりと地面に膝をつきながら、口から大量の血を噴出した。
スタンドがダメージを受ければ、当然本体のナランチャもダメージを受ける。
カーズはスタンド大辞典を読破していた為に、この知識を頭に叩き込んでいた。
勿論ナランチャの『エアロスミス』のことも、エアロスミスの対処法も!

「ナランチャアーーーーーーーーーーーッ!!」

たまらずジョナサンがナランチャに駆け寄り、突き伏しかけたナランチャを支えた。
ナランチャは力が抜けたかのようにダラリとトリッシュにもたれかかる。
ジョナサンは、ナランチャを背負い上げると、大きく叫びながら走り出した。

「みんな逃げるんだァー! 奴は川へ落ちた! 相手の得体が知れない以上、ここは逃げるのが得策ッ! 」

ジョナサンが声を掛けるまでもなく、トリッシュと玉美はたまらず北へ走り出した。



川辺から飛び出すひとつの影。それはずぶ濡れになったカーズであった。
カーズは陸地に上り立つと、自分の髪の毛をぎゅうぎゅうに締め上げて水分を落とした。
あたりを見回してみる。周りには人っ子一人いない。静寂が流れているだけだ。
どうやらまんまと逃げられてしまったらしい。さっきの集団は見失ってしまったようだ。

「フン。まあいい」

カーズは鼻息を鳴らすと、天を仰いだ。当然誰もいない。鳥も飛行機もエアロスミスも。
カーズは思い出す。数時間前に聞こえた謎の言葉を。
『心が迷ったなら……やめなさい。ここで立ち止まるのは……カーズ、貴方にとって敗北ではない』
あの声は一体誰の者であったのか。自分の空耳ではないことは確かであった。
しかしその声に"あえて"唆されるのも悪くはないと、カーズは考えていた。

「奴らの顔は『憶えた』のだからな」

カーズは、きっと表情を強張らされると、その場を後にした。

9082 Become 1 (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:31:51 ID:R0/LpjrQ
【E-3 ティベレ川辺/1日目 夜中】
【カーズ】
[能力]:『光の流法』
[時間軸]:二千年の眠りから目覚めた直後
[状態]:身体ダメージ(大)、疲労(大)
[装備]:遺体の左脚
[道具]:基本支給品×5、サヴェジガーデン一匹、首輪(由花子/噴上)、壊れた首輪×2(J・ガイル/億泰)
    ランダム支給品1〜5(アクセル・RO:1〜2/カーズ+由花子+億泰:0〜1)
    工具用品一式、コンビニ強盗のアーミーナイフ、地下地図、スタンド大辞典
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と合流し、殺し合いの舞台から帰還。究極の生命となる。
0.参加者(特に承太郎、DIO、吉良)を探す。場合によっては首輪の破壊を試みる。
1.ワムウと合流。
2.エイジャの赤石の行方について調べる。
3.第四放送時に会場の中央に赴き、集まった参加者を皆殺しにする。
4.我々は違う時代から集められた?考察の余地があるな。

【備考】
※スタンド大辞典を読破しました。
 参加者が参戦時点で使用できるスタンドは名前、能力、外見(ビジョン)全てが頭の中に入っています。
 現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのはティム、承太郎、DIO、吉良、宮本、ナランチャです。
※死の結婚指輪がカーズ、エシディシ、ワムウのうち誰の物かは次回以降の書き手さんにお任せします。
 ちなみにカーズは誰の指輪か知っています。死の結婚指輪の解毒剤を持っているかどうかは不明です。
 (そもそも『解毒剤は自分が持っている』、『指示に従えば渡す』などとは一言も言っていません)
※首輪の解析結果について
 1.首輪は破壊『可』能。ただし壊すと内部で爆発が起こり、内部構造は『隠滅』される。
 2.1の爆発で首輪そのもの(外殻)は壊れない(周囲への殺傷能力はほぼ皆無)→禁止エリア違反などによる参加者の始末は別の方法?
 3.1、2は死者から外した首輪の場合であり、生存者の首輪についてはこの限りではない可能性がある。
 4.生きている参加者の首輪を攻撃した場合は、攻撃された参加者の首が吹き飛びます(165話『BLOOD PROUD』参照)
 5.生きている参加者の首輪を無理に外そうとすると、内部で爆発がおこる。
※カーズの首輪に「何か」が起きています。どういった理由で何が起きてるかは、次以降の書き手さんにおまかせします。



9092 Become 1 (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:32:17 ID:o7GymzmQ
エリアC-3とD-3の境目。ティベレ川のほとり。息も絶え絶えの三人が飛び出してきた。
ジョナサン、トリッシュ、玉美は無事にカーズから逃げ切ったのであった。

「ここまで逃げれば大丈夫だろう」

ジョナサンはそう言うと、背負っていたナランチャを床に降ろし波紋の治療を開始した。
体中の傷を塞ぎ、ひびの入った骨を整骨し、痛めた内臓の傷を修復した。

「ナランチャ?」

しかし……ナランチャは静かに両目を閉じたままだ。
ジョナサンはナランチャの口に手を当てる。呼吸がない。
ジョナサンは更にナランチャの胸に耳を当てる。鼓動がない。

「ナランチャ……!? 」

ジョナサンの額から汗が流れる。これは焦りの汗。治療は完全に施したはずなのに。
ナランチャは目を覚まさない。これだけ完璧に波紋の治療を行ったというのに。

「………『空洞』………なのよ………」

トリッシュがナランチャの肉体に触れる。
ジョナサンには、一体何が起こっているのかまだ理解できていなかった。

「前に皆で話したでしょう?『スタンド』は魂のビジョン……魂の化身なの……。
 そして……スタンドのダメージは本体のダメージになる……そしてスタンドの破壊は……本体の死に繋がる……」
「そんなッ! ナランチャの肉体には体温があるッ! まだ温もりがあるじゃあないか! 」

だがすでにいなかった。ナランチャの肉体はどこにも『空っぽ』だった。
魂は!行ってしまった……もういない。どうやってももう駄目だった。
トリッシュは思い出していた。かつてナランチャがローマでディアボロに暗殺された時のことを。
あの時ジョルノが放った言葉を、トリッシュは思わず呟いてしまっていた。

「そんな…………」

ジョナサンがガックリと項垂れる。あまりにも突然の衝撃。あまりにも突然の別れ
あまりもあっけなさすぎる結末。ナランチャは殺されたのだ。あの恐るべき存在、柱の男・カーズに。

「…………トリッシュ様……着きやした……DIOの館です」

小林玉美がトリッシュの肩に手を置く。
トリッシュは玉美のナランチャに対する無機質な反応に、頬を引っ叩いてやりたくなった。
しかし、寸での所でトリッシュはそれを止めた。玉美の顔は明らかに沈痛の思いに包まれていたからだ。
短い時間であったが、彼もまたナランチャに仲間意識を抱いていたのだろう。

「あの川を渡れば……DIOの館です」

玉美の右親指が指し示す通り、確かにそれはエリアC-3のDIOの館であった。
DIOの館では、あのルーシー・スティールが助けを求めている。

(ナランチャが私達を『守ってくれた』ように……私もルーシーを『守れる』のかしら……)

トリッシュは、ナランチャの肉体をそっと抱きしめながら、左手で自身の涙を拭いた。

9102 Become 1 (修正版) ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:32:42 ID:o7GymzmQ
【D-3 C-3とD-3の境目にある橋のそば/1日目 夜中】
【ジョナサン・ジョースター】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:怪人ドゥービー撃破後、ダイアーVSディオの直前
[状態]:左手と左肩貫通(波紋の治療で止血済)、疲労(中)、痛みと違和感
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)
[思考・状況]
基本行動方針:力を持たない人々を守りつつ、主催者を打倒。
0.DIOの館へ向かい、ルーシーを助ける
1.ナランチャ……

【小林玉美】
[スタンド]:『錠前(ザ・ロック)』
[時間軸]:広瀬康一を慕うようになった以降
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:H&K MARK23(0/12、予備弾0)、防弾チョッキ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュを守る。
0.トリッシュ殿は拙者が守るでござる。
1.ナランチャの分も自分がトリッシュを守る。

【トリッシュ・ウナ】
[スタンド]:『スパイス・ガール』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』ラジオ番組に出演する直前
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:吉良吉影のスカしたジャケット、ウェイトレスの服、遺体の胴体
[道具]:基本支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:打倒大統領。殺し合いを止め、ここから脱出する。
0.DIOの館に向かいルーシーを助ける
1.ナランチャの死に深い悲しみ
2.フーゴを探しに行きたいけれど……

【ナランチャ・ギルガ 死亡】


[備考]
※トリッシュを中心とした地図は他の遺体の点在箇所を示しています。部位は記されておらず、持っている地図に書き写されました。
  DIOの館以外に星が記されているかどうかは以降の書き手さんにお任せします。
※ナランチャの支給品は、『ホットパンツのローストビーフサンドイッチ(SBR出展)』と『防弾チョッキ』でした。
 ホットパンツのローストビーフサンドイッチはトリッシュとナランチャが食べました。
※F-5、F-4、E-4、E-3、D-3、C-3は21時の禁止エリアではありませんでした。

911 ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/04(木) 20:34:43 ID:o7GymzmQ
投下完了です。
ご指摘くださった点をふまえて、大幅に修正いたしました。
首輪のくだりや、ナランチャと玉美がカーズに蹴りを入れるくだり等はすべてカットしました。
それでは失礼します。

912名無しさんは砕けない:2016/02/04(木) 22:24:18 ID:pMn8z3Qc
投下乙です。ガラリと内容が変わったので新鮮な気持ちでもう一度読めました。
指摘する点もさほどないと思いますが、いくつか気になった点を。

●まず>>905から、

玉美が橋の向こう岸にいる人物に指をさす。その存在はとてつもないスピードで走っていた。
そしてその影は橋を渡り、橋の反対側にいるトリッシュたちの場所まで走ってきた。
(中略)
誰でもない。わからない。その男は悠然でいてそれでいて壮大だった。
男はトリッシュ達を確認するやいなや、橋を渡ってきた。

この部分、橋を渡っているのは一度だけなので、どこかの一文にまとめてもいいでしょう。
また、途中までは「とてつもないスピードで移動するだけの存在」だったのをいきなり、
>その男に対し警戒を抱かずにはいられなかった。
では、その男(カーズ)がどんな男かわかりません。
ジョジョを知っている我々=神の視点ではわかりますが、トリッシュたちの目にはカーズがどう映ったのかの描写があると良いかと思います。
上の文の「誰でもない。〜〜」の部分も、修正前の「それは〜〜ではなかった。」の続きですが、そりゃあ知り合いじゃない(どころか男だと初めてわかった状況)なので、ちょっと読んでて「ん?」と思います。

●つぎに>>907の、
たまらずジョナサンがナランチャに駆け寄り、突き伏しかけたナランチャを支えた。
ナランチャは力が抜けたかのようにダラリとトリッシュにもたれかかる。
ジョナサンは、ナランチャを背負い上げると、大きく叫びながら走り出した。

の部分でナランチャが誰とどう絡んでいるかがパッと浮かびません。
ナランチャ倒れる→ジョナサン支える→でももたれかかったのはトリッシュ(?)→ジョナサンが担ぐ→その時既にトリッシュは玉美と走り出してる(??)
おそらくジョナサンとトリッシュを混同させてしまっているだけだとは思いますが。
(もっと言うとジョナサンの性格上、即座に逃げの決断を下せるようには……『次は僕が相手だ!→トリッシュに止められる→やむなく逃げる』くらいの流れがあってもいい、か、も)


※以下、長くなるので続きます

913912:2016/02/04(木) 22:26:31 ID:pMn8z3Qc
※続きです


●状態表で、トリッシュがカーズに対して感じた、
>「何かしら……すごく……引かれあうのものを持っている気がするのだけれど……」
を気にしていないのも、本文をリレーするうえでは問題ないですが、このSSの次の話を書く書き手さんのためにひとつ注釈を入れてもいいかもしれません。
ルーシーのテレパシー?を違和感に思っていることも同様ですかね。

●そして、これを言い出すとキリないのですが、「 ジ ョ ナ サ ン 、 死 闘 の 割 に は 回 復 早 く ね ? 」
これははっきり言って私のワガママですのでさらっと読み流してくれれば結構ですが、と前置きをして。
リレー小説である以上どこかで誰かが辻褄を合わせなければいけません。
氏の今回のSSでもジョナサンが歩いたルートには全く問題はないとは思います。
ただ、ものすごく贅沢を言えば、
『ジョナサンが目覚め、DIOに思いを馳せ、放送を聞き逃したことに気づき、それでも移動を決め=血統たちに会わない決断をし、(波紋を使って)ルートを決めて、いざ北西へ』
と、それだけでSS一本が完成してしまいます、そんな話を読んでみたいです。
もちろんこれから(今予約している方の承太郎のように)補完として執筆することも可能です。ですが、やっぱり先に読みたかった!という気持ちが少なからずあります。
『ジョナサンが移動したSS』と『トリッシュ一行がカーズから逃げるSS』とがちょうどマッチして『新しい一つのSS』になる。
こういうのはリレーSSを書いててor読んでて「おぉっココが繋がったかぁ、キター!」と感じる部分でもあります。顔も知らない画面の向こうの別の書き手さんと意思疎通ができたと思う瞬間でもあります。
さらに一言余計に付け加えさせて頂くなら、【修正にあたってジョナサンを追加予約しなかったこと】もちょっとナンセンス(という言葉は失礼ではありますが)かなと思いました。
この予約ラッシュで奇跡的に被らなかったとはいえ、上にあげたような話を書きたかった方がいたかもしれません。
逆に、もしかしたら「あんな大作SSの後のジョナサン動かしにくいからOnl氏が動かしてくれて助かったわー」という方ばかりかもしれません。
いずれにせよ、予約スレまたは仮投下スレで一筆あればなお良かったかな、とは感じました。


さて、長々と書いてしまいましたが、話はとても面白く、ぐいと引き込まれるようなSSでした。
着々とゲームの根幹に近づきつつあるカーズ。遺体に導かれながら奔走するトリッシュ。根性を見せた玉美にナランチャ。
皆が皆「らしさ」を持っていて、いかにも「ジョジョロワ読んでるな」という話でした。
色々な新しいフラグもしっかり立てられていて、次の話に期待がかかる終わり方もとてもベネです。
逆に言ってしまえば、だからこそ先に挙げたようなちょっとしたところが目立ってしまう、とも言えますが。

修正をするにせよ、これで通すにせよ、氏の今後のロワ活動に期待しております。それでは改めて乙でした。

914名無しさんは砕けない:2016/02/04(木) 23:35:35 ID:51zmvwtc
>>913
ジョナサンは最初から予約されていますよ

915名無しさんは砕けない:2016/02/05(金) 03:48:01 ID:tI1ZzXzo
あんまり話の内容的にジョナサンの登場の必要性が感じられなかったですね

916913:2016/02/05(金) 04:41:30 ID:2u.sKTZk
本当だ、予約されてましたね、失礼いたしました。。。

917名無しさんは砕けない:2016/02/05(金) 21:26:19 ID:TGwq3IHw
投下乙です・・・が、いきなり偉そうなことを言わせてもらいます。
氏は「原作や過去話の読み込みが足りていない」です。
文章を書いていて疑問点があるとき、該当部分を調べずに自分の想像だけで書いていませんか?
正直読んでいて、矛盾点やなんでそうなるの?という点が多すぎました。

以下指摘ですが、「あえて遠回しに」指摘させていただきます。
何がどう間違っているのかはご自分で調べて、修正してみて下さい。


>>904
そのかわり、師のツェペリの訃報はジョナサンにとっては辛い現実として圧し掛かった。
→ツェペリだけ?

「あたしたちはフーゴ達を探しているの。ジョナサン、彼らには会った? 」
→フーゴが消えたときどういう状況だったか考えれば、会った?では終わらないはず。

「わからない。この辺りを散策した限り、彼は見当たらなかった」
→質問と答えが食い違ってる。

「わかった。僕も同行しよう」
→もう少し言うべきことがあるはず。ジョナサンが知る限りルート上に何があって、誰がいた?

>>905
ここにいる三人は全員違う時代からこの世界に呼び寄せられたの。あなたもそうなのかしら?
→変わってませんね

>>906
「ナランチャッ! おそらくこいつは吸血鬼や屍生人のそれとは違うッ! 気をつけるんだ! 」
→説明ないけどそういう奴、前に会いませんでしたっけ? 

>>907
カーズはスタンド大辞典を読破していた為に、この知識を頭に叩き込んでいた。
勿論ナランチャの『エアロスミス』のことも、エアロスミスの対処法も!
→あれだけ食らっといて? 対処法ってなにをどうしたのよ

>>908
現時点の生き残りでスタンドと本体が一致しているのはティム、承太郎、DIO、吉良、宮本、ナランチャです。
→この一文だけでもよく読みましょう

>>909
体中の傷を塞ぎ、ひびの入った骨を整骨し、痛めた内臓の傷を修復した。
→いつからジョナサンはクレイジー・ダイヤモンドを使えるようになったんですか?
 3巻のツェペリさんの説明を読み、ナランチャの状態について考えてみましょう。

>>910
0.DIOの館へ向かい、ルーシーを助ける
1.ナランチャ……
→904の指摘参照


これ以外にも誤字脱字、文法的に変な個所が結構あります。
誤字脱字は読み返してチェックし、文法は一度作品批評スレを覗いてみてください。
自分のを批評してもらわずとも、他の人がどういう指摘を受けているのか見るだけで「こういう表現は避けるべき」などがわかります。

長々と書きましたが、氏は指摘された点をきちんと受け止めて手早く修正できる人です。
いろいろ言っている人を黙らせられるほどの「成長」を目指してみてはいかがでしょうか。

918 ◆OnlAmXGbfQ:2016/02/06(土) 08:27:37 ID:97R9KCcQ
みなさんご指摘、アドバイス本当にありがとうございました。
今回のSSは私の技量不足と短慮ゆえにまだまだ未熟だと痛感しました。

よって、今回のSSは破棄させていただきます。
多大なる叱咤激励、ありがとうございました!
それでは失礼しますm(_ _)m

919名無しさんは砕けない:2016/02/07(日) 04:43:46 ID:Iwur9umw
どんな評価されようと、書いたSSを破棄する決断は氏にとって大きなものだったと思います。
今後もめげずにいい作品を書いて持ってきてください。改めて乙でした。

920unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/11(木) 23:56:00 ID:pUBJPHs.
遅くなりました。これより本投下を開始します。

921unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/11(木) 23:56:39 ID:pUBJPHs.
ギイイィィィィーーー!!!



耳に障る音を立てながら、「それ」は自身が納められている容器の中をメチャクチャに暴れまわっている。
最期の力を振り絞っているのだろうか、グロテスクな見た目の「それ」は姿形が変形し、醜く膨張しながら縦横無尽に肉片を伸ばしていた。
しかしそれもつかの間、
やがて「それ」動きは弱々しいものとなり、ピクピクと痙攣しながらその活動を停止した。

物音のしなくなった容器の側には肉片を閉じ込めた張本人である男が一人
だが男はそんなことなど忘れたかのように肉片の断末魔を聞いても何の反応も示さない。


───蛍が一匹、緩やかに飛びながら男の目の前に近寄ってきた。

戦いの末死した者を悼むように
闘いの末生き延びた者を称えるように

だが、その輝きは彼の者の瞳に光を灯すことは決してない。
死が充満する激戦の後、宿敵との戦いを身も心もズタズタになりながらも生き延びた男───空条承太郎
彼は今、何を思っているのだろうか


すぐ目の前には緑色の学生服を着た少年が
背後の離れた場所にはその少年を殺した男が、物言わぬ遺体となって静かに横たわっている。




※※※

922unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/11(木) 23:57:44 ID:pUBJPHs.
暗く深い夜の闇を天に散りばめられた星が照らしている。
キラキラといくつも存在を主張しているそれは、見るものを魅了するほどの輝きを放っていた。
しかし悲しきかな。この場においてその輝きに見入るものはおそらくほとんどいない。



放送が終わり、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会───今は見る影もない跡地となってしまったが───辺りは激闘が繰り広げられていたときとはうってかわり、
通り過ぎる風の音以外に聞こえるものがないほどの静寂が広がっている。

「……えれーことになっちまったな。たくっ、悪いことってのはどうしてこうも重なるもんかねぇ、クソッタレが」
「………ええ、そうですね……。」

まあ、ここで悪いことが起こらなかった時間なんて無いんだがな。とジョセフは軽口に締めくくり、ジョルノはそれを少し上の空で聞き流していた。
大きめの瓦礫を背もたれにし、ジョルノは馴染みきっていない両腕を確かめるようにさする。
放送が始まる前に装着したジョセフの義手によって産み出されたそれは(「スタンドとは認識することであり、できると思えばできる」ということをジョルノは説明し、
そういえばおれもさっきスタンドが発現したときそんなんだったなあ……たぶん。 とジョセフは一人納得していた)
未だ肉がゴムでできているかのように感覚が鈍い。身体を横にしながら寝てしまい起きたときのあの腕の感覚が一番近いだろうか。

本当ならそのまま自身やジョセフ、そしてボロボロのままの仗助の亡骸の治癒にあたりたかったのだが……しかしここに来てジョルノの体力は限界に来てしまった。
そもそも彼はこの殺し合いのスタートから消耗ばかりの出来事が連続して起こっており(もう一人の自分との謎の消滅現象、プッチとの戦闘、
移動を挟みDIOとの2度に渡る衝突、合間に仲間や負傷者の治療……と、息をつけた時間はあまりない)
今まで戦ってこられたのは強靭の精神力ゆえのスゴ味によるものだ。
だがジョルノも人間……自らの腕をスタンドによって産み出し付けた直後、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。
その姿に仗助をダブらせたジョセフはすぐさまジョルノに駆け寄り波紋を流し込み近くの手頃な瓦礫にもたれかからせた。
命に別状はないことは分かったものの、ジョセフは念のため安静を優先し放送のことは自分に任せてお前は休んでろ、とジョルノに身を休めるよう促した。
無理をする必要もないのでジョルノはありがたくその申し出を受け入れることにし、そして放送が始まり……今に至る。

923unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/11(木) 23:58:36 ID:pUBJPHs.
(ミスタ……ミキタカ……)

再会を信じ別れた仲間
希望的観測がなかったかと言われれば嘘になる。
しかし放送は無情にもその約束は永遠に叶わぬものと彼らの死の現実を突きつけた。

(花京院……F・F……)

交流した期間こそ短いものの、打倒・DIOという同じ目的を掲げた仲間
こんな形で二人のその後を知りたくはなかった、出来れば生きていてほしいと願っていた。

(……仗助)

集った仲間のなかでも、特に親しみを覚えた同じ年頃の少年
ぶち抜かれた腹を治してもらったとき、彼は本当に「いい人」なのだと思った。
その時の優しげな表情と、魂が天に昇っていく時の泣きじゃくった声がない交ぜになって鮮やかに残酷によみがえる。
ズキリ、と完全に治ったはずの腹が再び痛みだした気がした。

(……『父さん』……)

同じ血を引く……二人の父
彼らに対する感情は言葉にするのが難しい
片や幼い頃から顔だけは知っていた薄っぺらい写真一枚の中の神秘的な存在・DIO、
片や自身の出生の秘密をもって発覚した今まで存在すら知らなかったもう一人の実の父・ジョナサン・ジョースター
……分からない、彼らにどんな感情を抱けばいいのか。今になってそんなことを考える。


仲間の死………敗者…………黒幕…………禁止エリア…………
ジョースター…………血統………父親…………DIO…………


(ダメだ……余計なことは考えるな、必要なことを考えろ…………必要なこと……だけを)

だが思考は脳を動かそうとすればするほど抗えぬ深みにはまっていく、意識が生ぬるい泥の螺旋へと沈んでいく。

(…………ぼく、は…………)




「ジョルノ」


ハッと意識が現実へ引き上げられる。目の焦点
が正面へと絞られ、声の主───ジョセフ・ジョースターの姿がすぐ目の前にあることに気がついた。
ジョルノに目線を合わせるようにして膝を折っている。
それほど近くに接近しているのに気がつかないほど消耗していたのかと自分自身にショックを受ける。

「な、なんでしょうか」
「寝ろ」
「はい。 …………はい?」

気の抜けた返事を返してしまうジョルノ、ジョセフの顔は真剣そのものだ

「顔に書いてあるぜェ〜?「今までロクに寝てなくて今メチャ疲れてます」ってな、まあなにかあったら叩き起こしてやっから安心しろ」
「ジョセフ……」
「おれ様ちゃんはまだビンッビンに元気だからヘーキヘーキ、任せとけって」

言って、右手でジョルノの頭をぽんぽんと優しく叩く、そこから感じなれた暖かい気配が流れ込んでくる。
波紋だ

(ジョセフ、やはり………後悔しているんですね……仗助とぼくを…重ね、て………)

朧になる思考のなか、浮上する言葉はしかし言葉にはできず、ジョルノはおとなしく心地よい暗闇へと意識を委ねた。


※※※

924unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/11(木) 23:59:13 ID:pUBJPHs.
「……そうだな、もうこんな後悔したかねえーんだおれは、……ガキはガキらしく、かっこなんてつけずにわがままでもなんでもやってりゃいいってのによ。

おれはそうだったぜ、お前はどうだったよ、承太郎」

疲労と波紋によって眠りに落ちたジョルノに少し語りかけ、立ち上がりながら流れるようにもはや感じ慣れた血族の気配へと振り返る。

「……………」

その視線の先にいた男───空条承太郎はジョセフの呼び掛けにすぐさま応えずに視線を投げ返し、ついで気を失ったジョルノ
そして…………仗助の遺体へと視線を移した。
ジョセフはその姿勢に違和感を感じたが、どうやら背中に一人誰かを背負ってるらしかった。

「……放送の通りだ、花京院とF・Fが死んだ。塔の上にいたやつもだ。遺体は全員向こうにある
俺はこれからこいつと共に南へ向かってジョナサンとDIOの生死を確かめに行く、てめーは空条邸に一旦戻って噴上たちと合流しろ」

ジョセフの問いには答えずに感情が読み取れない、というより無機質な声で淡々と述べる。
こいつ、と言って顎で自らの背中を指し、背負われている人影────ナルシソ・アナスイはそれにピクリとも反応を返さなかった。
しかし承太郎がわざわざ背負いながらそのようなことを言うということは、一先ず生きてはいるということなのだろう……とジョセフは結論付ける。

「ああ?なに言ってやがる、DIOなら放送で呼ばれたじゃねえか、間違いでもない限り奴はくたばって…」
「あの野郎が「またしても」「同じように」生き延びていないとも限らねえ」

淡々と吐き出されるかのように承太郎の言葉に、ジョセフは意図が読めず怪訝な表情を浮かべるが、一瞬の思考の後にハッとして息を詰まらせる。

そう、DIOとジョースター家の因縁の始まりとなった出来事
ディオ・ブランドーがジョナサン・ジョースターの首から下を乗っ取り、百年の眠りの後に闇の帝王として君臨した…
という、ジョースター家所縁のものにとっては絶対に忘れてはならない悪の所業、それがまたしても繰り返されていたとしたら

「連中が生者と死者をどんな風にして判別しているかわからない以上、そうなった場合どっちの名前が呼ばれてもおかしくない……ってか」
「そうだ、万が一だろうがなんだろうがその可能性があるなら徹底的に叩き潰す。」

そう口早に締めくくり、承太郎はジョセフの横を通り過ぎようとする…が、一歩二歩と進んだところでジョセフが立ち塞がるように体を横にずらす。

925unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/12(金) 00:00:40 ID:CEHundaU
「オイオイオイオイオイ、それだけかよ?もっと他に言うことねーのか?大体お前そんなボロボロな身体で行ってどうこうできんのかよ」
「応急処置は済ませたしてめーが思うほど動けない訳じゃねえ。……事は一刻を争うかもしれん、どけ」

語気を強め、承太郎は今度こそ歩を進めようと足を踏み出す。
が……その歩みはまたしても止まってしまう。否、止めざるを得なかった。
ガシィ!と首元が僅かに締め付けられる感覚と、身体全体への小さな衝撃。
しかし打撲・裂傷・骨折……DIOとの壮絶な戦闘で負ったあらゆる傷には十分過ぎた。
軋むかのように神経に苦痛をもたらす感覚に承太郎は顔をしかめ、内心舌打ちをする。

「何のつもりだ、放せ」
「ひっぺがしてーなら力ずくにでも引き剥がしゃあいいだろ。それともかっこつけといてホントはんなこともできねえほど弱ってるってか、承太郎さんよぉ?」

身をのりだし、承太郎の襟首を掴み、挑発的な言葉とは裏腹にジョセフは口角を上げ余裕ぶった表情を浮かべていた。

「平気なツラしてクールぶって一人で何もかも背負いやがって、余計なことは喋りたくねーてか。最強のスタンド使い?無敵のスタープラチナ?
 はっ、笑わせてくれるぜ。ボロぞーきんよりもひでぇ格好になりやがって」
「……何が言いたい」
「ちゃんと言えって言ってんだよこのスカタン、そうやって「言わなくていい」って思ってることなんも言わねえから肝心なときにトンでもないことになっちまったんだろうが」
「……隠していたつもりも言いたくなかった訳でもねぇ、それとも仲良くおしゃべりしたところで何か変わっていたか?俺が言うこと言っときゃ仗助達は死なずに済んだとでも?」

ぐっと短い勢いをつけて承太郎の体が僅かに浮き上がり、首もよりきつく締まる感覚がした。

「……そういうこっちゃねえってわかってんだろ、思ってもいねえことで上っ面だけの挑発すんじゃねーよ」

ジョセフの顔から余裕が消え、力の入った怒りの表情に染まる。殴れるなら今すぐにでも殴ると言わんばかりの表情だ
だが承太郎から俯くようにして一度視線を反らし内側の熱を逃がすように大きく息を吐くと、顔をあげ再び承太郎視線を合わせる。

「ああそうだよ、言ってやるぜ、おれ達の中でお前は誰より強かった。おめーがいなけりゃそれこそおれたちゃミジンコを潰すより容易く奴に殺されてた。
おめーがいたからおれ達はDIOの野郎と面と向かって戦えた。おめーが体張って戦ったからおれとじいさんはDIOに勝てたんだ。けどな───

926unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/12(金) 00:01:17 ID:CEHundaU
おめーのその強さも無敵さも、おめー一人で突っ走るためにあるんじゃねーだろうが
おれたちゃおめーに守られるためにDIOと戦ったんじゃねえ、おめーと肩並べて、おめーと一緒に戦うために奴と戦ったんだ。DIOとはちがう」


────家族だの仲間だの友情だの、そのようなものに縋るから肝心なときに裏切られるのだ……
────このDIOを見るがいい……必要ないものは全て切り捨て、配下は服従、絶対なのは己のみである……
────裏切られる信頼など元より存在しないのだから、そのような無様な姿を見せる可能性などゼロということ………
────これがおまえたち人間と、わたしの『差』だ………


二人の脳裏にもう聞きたくもない宿敵の声が再生される。
孤高であること、絶対であること、頂点に立つべきは常に自分一人であり、すべてを支配することに固執した闇の帝王
しかしその男は血の絆で結ばれたジョースターや彼らを助けた者たちの結託によって滅ぼされた……少なくともジョセフはそう確信している。

「そら、言ってみろよ承太郎、てめーが今なにを考えて、なにを感じてるのかを、ここでたっぷりとな。いいかたっぷりとだぜ?」

再び余裕綽々といった表情で顔を弛ませ、ジョセフはほんの少しだけ承太郎を締め上げている腕の力を抜く。承太郎が話しやすいように、
しかし逃がすことのないような力加減だった。



冷たい風が吹き抜ける。無数の星とたったひとつの大きな月の光が降り注ぐ。二人の男は睨み合っている。
10秒、20秒、30秒……それほどたったか、いやあるいはそれ以上か以下か?時間がてんでバラバラに揺らめいている。まるで弄ぶかのように
だが今だけはどうでもよかった。この一瞬の重要さに比べれば

ややあって、承太郎の目が細まり、何か言いたげに首をもたげる。やっとかこのスカタンと口には出さず軽く毒づくと聞き逃さぬよう耳をすませる。






「俺はアンタだ」

「………………? はあ?」


思わず素っ頓狂な声が出た。オレハアンタダ?…………何言ってんだこいつ、イカれたのか……この状況で?そう思わざるおえない程の意味不明な応え。

「てめー頭脳がマヌケか?ちゃんと言えっつたろうが、言うことが端的すぎてわけわかんねーよ………もうちと分かりやすく」







「アンタの痛みは俺の痛みだ。…………そうだろ、ジョセフ」



何かが引き裂ける音
何かが砕け散る音
それらを拒絶する耳鳴り
そして生まれる空虚、心がバラバラになりそうなほどの痛み、魂が乖離していく感覚

彼らはそれを知っていた



※※※

927unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/12(金) 00:01:40 ID:CEHundaU
〇 〇 〇 〇 〇
 ● ● ● ●

ゆらり  ゆらり  揺れている

いや 揺さぶられている? 浮いている? ……分からない 上も下も右も左も、地に足がついているのかさえ
……だが不思議と不快感はない。

ふと目の前に誰かがいるのに気付く
誰だ? と思っても、その人は磨硝子の向こう側にいるかのように、目に涙がたまっているかのようにぶけてハッキリとしない
向かい合っているのだろうか、こちらが見上げあちらが見下げているのだろうか。それすら分からない


「徐倫?」


思い当たる、想っている女性の名を呼ぶ
空気が優しく揺れた気がした。『彼女』が笑った気がした。

すると、『彼女』の姿がゆっくりと滲み始めているのに気がついた。
絵の具が水に溶けるように、カラフルな糸がほどけていくように
透き通っていく
見えなくなっていく

「徐倫!」

『彼女』に手を伸ばす。もう大切な人を失いたくないと、そんな体験は二度とゴメンだと
だが伸ばした手に『彼女』が触れた瞬間、触れた所から水面の波紋のようにぶわりと拡散する。
溶けてほどけて……体に絡まっていく、馴染んでいく、広がるのは暖かいもの


………ああ、そうか、君は………お前は…………



世界は光に包まれる



重みは四人分へと、増えた


〇●〇●〇●〇●〇

928unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/12(金) 00:02:07 ID:CEHundaU
「カッコ悪ぃな……情けねえぜ、おれってばよ……なあ、仗助」

今やすっかり暖かさを失いがらんどうとなった「息子」の亡骸の傍らに座り込み、返事が返ってくるはずもないとわかりつつもジョセフは喉から絞り出すようにかすれた声を漏らす。

「同じだった……おれと承太郎の痛みは、同じ……」

友を失い、守りたかった肉親を失い、救いたかった命を救えずなにもできなかった無力を味わい、自分を取り巻く世界すべてが否定されるような錯覚を覚え
現実を投げ出してしまいたくなるほどの苦痛のなか、しかし絶望に屈することなく立ち向かいその歩みを止めることはなかった。

彼らは同じだった………ジョセフはその事を承太郎のたった一言で、心と体で理解した。

「なんだよ……バカかおれは………なんだって……ちくしょう………」

吐き出したい心は形に出来ず無意味な言葉になる。

────リサリサ先生 たばこ逆さだぜ

唐突に、かつて波紋の師であるリサリサに対して掛けた言葉がよみがえる。
あのとき今までの人生を好き勝手やっていた自分が他人の心境を察し、思いやってみせた。少しは成長したかなと、そう思っていた。
だが、


────にしても、なんか寒くねーッスか? 俺だけ?


────母親を、娘を、仲間を殺され…家を失い…見つけた娘は仇に乗っ取られた上ずうずうしくも仲間入りし…味方は当てにならず…信頼していた友にも裏切られたというわけだ……
 正直、このDIOには半分も理解できん感情だが……おまえは、心のどこかでこう思ってしまったのではないか……?


―――こんな『現実(いま)』には、1秒たりとも留まっていたくない―――と



察するチャンスはそれより前にあった。気付こうとすれば気付けたかもしれなかった。だが出来なかった。自分のことで手一杯でみすみすそのチャンスを通り越してしまっていた。

「なにが少しは成長したかな、だ………結局なにも変わっちゃいねえじゃあねえかよ………」

思えばリサリサと承太郎もどこか通ずる所があった。目の前の為すべきこと、行動しなければならないときに自身の心を押さえ込んででも使命を達成するという覚悟を持ち合わせていた。

「…………」

だったら、自分はどうする
立ち上がる足はある。血の通った腕はある。考えるだけの頭もある。では他に何が必要か

「……同じ血を引くお前らがこれだけ頑張ってんだ。おれがうだうだしててどうする」

929unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/12(金) 00:02:47 ID:CEHundaU
ほんの少し身を乗りだし、膝をつき、仗助の顔を覗きこむ。
後悔がないわけないだろうに、血が張り付いているその顔はしかし思いの外さっぱりとしていた。
俺のことは気にすんな、いいから前見て歩け、じじい………そう言っているかのように、気のせいかもしれないが

「おれに足りねえのはよォ、『冷静さ』とか『よく観て気付くこと』とか、そうゆうやつだ………こんなところで立ち止まってる場合じゃねえ
 もう後悔はしたかねえ、おれの目の前で誰かが死ぬのは、まっぴらだからよ」

『覚悟』はできた。立ち向かうための『勇気』もある。迷いなどあるものか
そして、だからこそ、怒りが湧いてくる。何に?決まってる。

「…………」

この悲劇を仕組んだもの
この悪夢を望んだもの
血で血を洗う殺し合いの幕を上げた黒幕

「ファニー・ヴァレンタイン………」

ドゴォ!!と響く音に気付いた時には右手が地面にめり込んでいた。あまりの勢いで血がにじんでしまっている
だがその痛みを気にすることなど出来ないほどの怒りで頭の中は沸騰するほどの熱を持っていた。

(おれ達は何一つ貴様にたどり着けてねえ、分かってんのは名前とお偉いさんってことと、てめーがこんな悪趣味を催して高みの見物決め込んでるドス黒い邪悪ってことだけだぜ)

ヒントなどなにもない、敵の実力も居場所も分からない。全貌があまりにも闇に包まれ過ぎている。その事に苛立ちが止められない。
だが、それを抑えねばならない。リサリサがそうであったように、承太郎がそうしていたように、今は自分の為すべきことに対処せねばならなかった。

「……だが、これぐらいは許してくれよな」

仗助をせめて安全なところまで運びたい
そんな思いがジョセフの中にはあった。無茶をして体を張って、かっこつけながら死んでいった息子をこのままにしておくのは絶対に嫌だった。
それが終わればジョルノと共に(今は眠っているので背負っていくことになるだろうが)空条邸で噴上達と合流してトンボ返りで承太郎達と合流する。
本当は承太郎達を今すぐに追いかけたい気持ちもあるが、承太郎も重傷を負っているから素早く行動できないだろう。パッと行ってパッと帰ってくればきっとすぐに追い付く

そんなことを考えながら仗助を抱えるために体を動かそうとする。………が、その動作は中途半端な姿勢で止まってしまった。

………なんだ?すごく………奇妙な感じがする………?

930unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/12(金) 00:03:13 ID:CEHundaU
自らのすぐそこ、視界の右端、そこにある地面に何か違和感を感じた。
戸惑いながら、しかし思いきってそこを直視する。
そこには

「……?なんじゃあこりゃぁぁ〜〜?……?」

砂ぼこりと小さな瓦礫や石ころ、そして先ほど地面を殴ったときに流れたジョセフの血が、不自然なほどうごめいていた。
しばらくそれらは地面を不気味に踊ったあと、小さく震えながらピタッ………と唐突にその活動を止めた。
何かのスタンド攻撃か………?と思いつつ、周囲を警戒しながらしばらくそのまま待機していたが、それ以上のことは何も起こらない。
勇気をだし、ジョセフはその地面を覗きこむ。

一瞬「それ」が何なのか理解できなかった。砂や小石が何かの模様を描いている。じっと見つめるうちに、だんだんとそれらの正体が分かってきた。

既視感のある砂の模様の上を、血や小石が何かを示すかのように飾っている。そう、それの正体は



「………地図、か?」



ジョセフの右手に、茨の形をした紫色のヴィジョンが、うっすらと蠢きながら纏わりついていた。

931unravel ◆3hHHDZx0vE:2016/02/12(金) 00:04:16 ID:CEHundaU
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会跡地(移動中) / 1日目 夜】


【空条承太郎】
[時間軸]:六部。面会室にて徐倫と対面する直前。
[スタンド]:『星の白金(スタープラチナ)』(現在時止め使用不可能)
[状態]:右腕骨折(添え木有り)、内出血等による全身ダメージ(極大)、疲労(極大)、精神疲労(極大)
[装備]:ライター、カイロ警察の拳銃の予備弾薬6発、 ミスタの拳銃(5/6:予備弾薬12発)
[道具]:基本支給品、スティーリー・ダンの首輪、肉の芽入りペットボトル、ナイフ三本
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの破壊。危険人物の一掃排除。
0.…………。
1.状況を知り、殺し合い打破に向けて行動する。
[備考]
※肉体、精神共にかなりヤバイ状態です。
※度重なる精神ダメージのせいで時が止められなくなりました。回復するかどうかは不明です。
※前話、承太郎の付近にあったナイフ×3、ミスタの拳銃(5/6:予備弾薬12発)を回収しました。それ以外は現場に放置されています。
※肉の芽は肉塊になって活動を停止しているようです。波紋や日光に当てて消滅するかどうかは不明です。


【ナルシソ・アナスイ plus ………?】
[スタンド]:『ダイバー・ダウン?』
[時間軸]:SO17巻 空条承太郎に徐倫との結婚の許しを乞う直前
[状態]:睡眠中、精神消耗(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.徐倫……


【備考】
ジョニィとアナスイは、トリッシュ達と情報交換をしました。この世界に来てからのこと、ジョナサンの時代のこと、玉美の時代のこと、フーゴ達の時代のこと、そして第二回の放送の内容について聞いています。




【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会西の川岸 / 1日目 夜】


【ジョセフ・ジョースター】
[能力]:『隠者の紫(ハーミット・パープル)』AND『波紋』
[時間軸]:ニューヨークでスージーQとの結婚を報告しようとした直前
[状態]:全身ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:ブリキのヨーヨー
[道具]:首輪、基本支給品×3(うち1つは水ボトルなし)、ショットグラス
[思考・状況]
基本行動方針:チームで行動
1.仗助………
2.悲しみを乗り越える、乗り越えてみせる……もう後悔したくない、そのためには……
3.空条邸に戻って仲間と合流する?それとも……?
4.同じ………承太郎の痛みはおれの痛み……か
5.なんだこの………地図?


※『隠者の紫』の能力を無意識に発動しました。すぐ近くの地面に地図が念写されています。地図が何を示しているかは不明です。(後の書き手さんにお任せします。)


【ジョルノ・ジョバァーナ】
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:JC63巻ラスト、第五部終了直後
[状態]:体力消耗(大)、精神疲労(大)、両腕欠損(治療はしたが馴染みきってない) 、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、地下地図、トランシーバー二つ、ミスタのブーツの切れ端とメモ
[思考・状況]
基本的思考:主催者を打倒し『夢』を叶える。
0.睡眠中
1.状況を把握しつつ、周囲の仲間と合流する。


※ジョセフの義手を装着した状態でスタンドを発動することができました。義手はジョセフに返しています。
※周囲の蛍はジョルノが意識を失ったので元の物質に戻りました。


[備考]
仗助の遺体が近くに安置されています。持ち物である基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)もその場にあります。
また周囲には花京院、ジョンガリ・A、徐倫(F・F)の遺体があります。

932 ◆3hHHDZx0vE:2016/02/12(金) 00:06:09 ID:CEHundaU
以上です。仮投下からの主な変更点は

・冒頭に描写を追加
・文全体と状態表を加筆・修正

です。少しでも良くなっているといいのですが……
準備ができ次第まとめwikiに本作を収録いたしますが、その際に問題なければ◆c.g94qO9.A氏の「NAMI no YUKUSAKI」の承太郎の状態表に肉の芽ペットボトルの注釈を追加いたします。
あと質問なんですが、時系列的にひとつ前になる「All Star Battle」の「キャラを追って進む」の承太郎とアナスイの次話は本作に変更した方がよろしいですか?


仮投下時やなんでもスレにて指摘・感想をくださった方々ありがとうございました。またなにかありましたらよろしくお願いします。

933 ◆HAShplmU36:2016/02/12(金) 22:56:53 ID:r1FsN15.
以上で仮投下終了です。皆様お待ちいただいてありがとうございました。
今回はかなり思い切った内容ですのでご意見あれば遠慮なくお願いします。
誤字脱字もあればご指摘ください。
◆Lv氏
事後報告ではありますが宮本繋がりでセリフを一部引用させていただきました。

934 ◆HAShplmU36:2016/02/12(金) 22:57:58 ID:r1FsN15.
こんな所で間違えた!失礼しました…

935 ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:12:37 ID:jPNHKboU
投下乙です。
激闘を終えても全てが終わったわけではない、
まだ先へと進まなければならない3人のジョジョそれぞれの想いがよく伝わってきました。
そしてさっそく発動する隠者の紫にニヤリ。

ではシーザー・アントニオ・ツェペリ、イギー、宮本輝之助、吉良吉影、パンナコッタ・フーゴ
本投下開始します。

936To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:14:07 ID:jPNHKboU

(チッ、あいつ遅すぎるぜ……)

D-4、ナヴォーナ広場近くの路地にて。
眠りに入ったパンナコッタ・フーゴの傍らでイギーはいらついていた。

事の発端はサン・ジョルジョ・マジョーレ教会の突然の崩落であった。
当然、イギー達はその様子をしっかり確認しており、彼の用心棒たるシーザー・アントニオ・ツェペリはすぐにでも様子を見に行きたいようだったのだが……
同時に発生した轟音にイギーと睨み合っていたシルバー・バレットが驚いてしまい、落ち着かせるのを手間取る間に第三放送が始まってしまった。
その後ようやく出発可能となったシーザーがイギーに後を任せ、馬で駆けて行ってから数十分。
シーザーは未だ戻ってきていない。

(どいつもこいつも、なんで危険なところに行きたがるんだか……)

出発間際にシーザーが言っていたことを思い返す。

『あんなことが出来そうなやつの心当たりは、おれの「宿敵」しか思い浮かばない……
 そいつらがいそうなところへ、フーゴやお前を連れてはいけない……!』

こんな状態のフーゴ(と自分)を置いていくのかと鳴き声で抗議はしたものの、彼の答えは変わらなかった。

『波紋はおれでなく、フーゴ自身の呼吸が傷を治すんだ……おれが今やるべきなのは、ここでじっと見てる事じゃない……
 フーゴを頼んだぞ、イギー』

そう言い残して走り出した彼らを、イギーは止めることが出来なかった。
教会へ近づく気などないうえに不本意ながらフーゴのことを頼まれた以上、後を追うような真似はしない。
また、付き合いこそ短いもののシーザーがそのまま逃げるような男ではないと理解していたために黙って待っていたのである。
だがいくら信用しているとはいえ、待たされ続けるのは不満だった。

(こいつはこいつでグースカ寝やがって………ったく、せっかくジョルノがDIOの野郎を倒してくれたってのに………)

見たわけではないが、放送の内容と教会の崩落………つまりは、そういうことなのだろうとイギーは思っていた。
今のところフーゴの様子に変化はないが、それがいつまで続くか。
新たな誰かがいないかと周辺の捜索はしつくした以上、やることは―――

(そういや、こいつがあったな……全く重てえな、何が入ってんだァ?
 いい加減うざったいし、てきとーに見ていらないもんは捨てちまうか)

実際にはほとんど重さなど感じないのだが、一度意識してしまうとどうにも気になる自身のデイパックを見やる。
開始から実に二十時間近く経つにもかかわらず、開けてすらいないそれにイギーはようやく手を付け始めた。
前足で……は開けられないため、変幻自在の『愚者』で器用に開けて中身を調べていく。

937To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:15:03 ID:jPNHKboU
食料―――食いだめしておく

水―――入れ物が開けられねーからいらない

懐中電灯―――いらない

地図―――どこだかわからねーからいらない

鉛筆と紙―――犬のおれによこすな!

磁石―――いらない

時計―――上に同じ


一通り眺めていらないものはデイパックに入れっぱなしにし、残るは―――

(あとは――この妙な紙、鉄のにおいがしやがる……
 ひょっとしたら危ねーもんかもしれねーし、ちょっとだけ離れるか)

未知の中身を警戒したイギーはフーゴに影響が出ないよういったんその場を離れることにした。
シーザーがしっかりと止血処理を施していったため、もうスタンドの射程距離を気にする必要はない。
紙を口に咥えると別の路地へと移動し………

(ああ、ここか………そういや花京院のやつも呼ばれちまったんだっけ………
 ここはなんか嫌だな………もうちょい先に行くか)

そこに横たわる男―――殺し合いの最初も最初、花京院が殺害した男の死体を見つける。
普段のイギーなら「死体の傍で何かしたくない」としか思わないのだが、今は―――ほんのちょっぴり、花京院のことも思い出した。
もう一本隣の路地へと入ると地面に紙を置き、『愚者』を使って開けていく。

―――このとき、イギーの警戒は正しかった。
だが、いくら警戒していたとしても……

バシュッ!!

(…………なッ!!?)


警戒だけでは回避できない、予想外のことは起こり得る―――!

938To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:16:11 ID:jPNHKboU
#

その頃、当のシーザーは瓦礫の山と化したサン・ジョルジョ・マジョーレ教会跡を探索していた。
今の彼はひとり―――『敵』に悟られぬよう、乗ってきたシルバー・バレットは教会跡からやや距離がある地点に残してきたため。
慎重に人の気配を探りつつ、地上の瓦礫をかき分け、空いた大穴から地下へと飛び降りて誰かいないか探していく。

(倒壊はワムウあたりの仕業じゃないかと踏んでいたが……どちらにせよ『また』遅すぎたか……くそっ)

だが……必死の捜索にもかかわらず、生きている参加者は一人も見つからなかった。
人の痕跡といえば死体や肉片、ちぎれた腕が散らばるだけ―――しかも見つけた死体には全て両腕が付いているのがなんとも嫌な感じである。
彼が唯一推測できたのは落ちている道具の少なさから、「おそらく生き残りがいて、何処かに去った」ということのみだった。

(不気味だぜ………死体だらけなのもそうだが、あれだけ派手に崩れ落ちたにもかかわらず
 おれ以外に様子を見に来るやつがひとりもいねえっていうのは………)

しばらくしてシーザーはこれ以上の探索は無駄と判断し、いったん引き返すことにした。
何も得られなかったものの、気を落としてはいられない。
思ったよりも時間を食ってしまったし、フーゴは無事なのかという懸念も拭い去れなかった。

(結局、成果はなし………マンマミヤー、おれってツキに見放されてるのか?)

心の中で自虐するが、ハッキリ言ってしまえばその通りである。
どこかですれ違ったのか……それとも、今まさにこの時傍にいたのに気付けなかったのか。
シーザー自身や彼を待つフーゴにイギー、彼らが最も会いたいと望む男たちが近くにいたにもかかわらず、接触できなかったのだから。

「待たせたな、シルバー・バレット。それじゃあ戻るとするか………………ん?」

再び馬に跨り、来た道を急ぎ戻る………が、進む先に妙な違和感を覚える。
すぐにシーザーは自分が知る、出発時の風景には無かったはずのそれを視界に捉えた。

「……なんだぁ〜? あの……『鉄塔』は?」

そびえ立つは巨大な鉄塔……狭い路地を中心として、根本は周囲の建物に突き刺さっている部分もある。
会場内で風景にそぐわない建造物はいくつかあったが、一応敷地内に収まっていたそれらとは根本的に違う……
いうならば、後から無理やり付け足したのが見え見えの不自然な光景だった。

「あんなでかいのをおれが見落としていたとは思えん……
 まさか……シルバー・バレット、悪いがまた少し待っていてもらうぞ」

『敵』の襲撃か何かか……その可能性も視野に入れて行動を決める。
ひとまずシルバー・バレットから降り、自分だけで用心しながら鉄塔へと近づいていく。

(フーゴ、イギー、無事でいてくれよ………形兆も、じいさんも、ヴァニラも、DIOでさえも放送で呼ばれた………
 おれがここへ連れてこられてから知り合ったやつらは、もうおまえらしか残ってないんだ…………ん?)

そして鉄塔のすぐ下が見える位置まで来た時、シーザーの目に飛び込んできたのは……

939To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:17:43 ID:jPNHKboU
「……イギー?」

そこにいたのはまぎれもなくイギーだった。
その体に外傷などはなく、顔も苦悶の表情とは真逆でむしろくつろいでいるように見える。
シーザーにしてみれば正直、心配して損をしたと思えるほどの無事具合だった。
さらにイギーのすぐ近くに開かれた紙があるのを見て、なんとなくこの状況に予想をつける。

「支給品の紙を開けたら出てきたってとこか……
 随分とバカでかいうえに斬新な形の犬小屋だが、偉そうにふんぞり返ってる暇はないだろう?」

一応周囲には他に誰もいないことを確認しつつ、シーザーはイギーを抱え上げてでも移動させるべく鉄塔の中へと足を踏み入れようとした―――

「ガルルルルッ!!!」

―――瞬間、イギーが激しく吠え始めた。

「うおっ、なんだ? 自分の縄張りに入るなってか? 何度も言わせるな、今はこんなことしてる場合じゃ無いんだよ」
(そうじゃあねえッ! いや入るなってのは正しいんだけどよッ!!)

なおも近づかんとするシーザーに対し、イギーはついにスタンドを発現した。
イギーのすぐ前にて戦闘も辞さないといわんばかりの『愚者』を見てさすがにシーザーも足を止め、鉄塔の直前で座り込む。

「なんだぁ〜〜? そんなにそこが気に入ったってのか?
 わかったわかった、なら無理強いはしねえ―――」
(………………よし)

シーザーが折れたことにイギーは一瞬胸をなでおろす―――が、件の鉄塔の持ち主はこんなことを言っている。
「人は『入れ!』と言うと用心して入らない、『入るな』と言うとムキになって『入ってくる』」………と。


「―――っていうとでも思ったか、このワン公ッ!!
 てめーは「努力」や「ガンバル」って言葉が嫌いなどっかのバカかッ!!」

シーザーは座ったままの姿勢、膝の力だけで跳躍し一気に『愚者』を飛び越えてイギーへと迫るッ!
彼もイギーが悪い犬でないことは理解しているが、同時にそのふてぶてしさも十分に把握していたッ!
今彼らがいるのは命がけの殺し合いの中………それゆえに、役目は果たしたとばかりに何もする気のない犬を叩いてわからせてやる位はするつもりだった!
一方、不意を突かれたイギーは慌ててスタンドでシーザーの体を弾き飛ばそうとしたが、届かないッ!

(なっ……来るんじゃねえ! バカはおめーの方だッ!!)

その叫びも言葉の壁に阻まれ、シーザーはあっさりと鉄塔内へと入ってしまう。
近づいたら隙を見て噛みついてくるぐらいは予測していたシーザーだったが、意外にもイギーはおとなしかった。
半ば諦めたような表情へと変わった彼の体と近くに落ちていたもう一枚の紙を掴みあげ、そのまま鉄塔の外へと出ようとした瞬間……


                           ド  ガ  ン  !


外へと踏み出したその足が、金属へと変わっていった―――!

940To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:18:39 ID:jPNHKboU
「……こ、これはッ!!?」
(……ほれみろ、いわんこっちゃねえ)

反射的にバックステップを行い鉄塔の真下へと戻り、慌てて見直すも既に足は元に戻っていた。
ついでに、自らの手元から明らかにため息を吐く音まで聞こえてくる。

「……今のは、まさか」

おそるおそる鉄塔の外へと体を差し出してみる。
途中までは何ともなかったのだが、体の前半分……具体的には掴みあげたイギーの全身が外へ出たあたりで、またしてもシーザーの体が金属に変化し始めた。

「グッ、やはり……こいつは『罠』だったのかッ!!」
(だから警告しただろマヌケッ! おまえまで中に入っちまって、どうすんだよッ!?)

『スーパーフライ』………元の世界ではその名で呼ばれるスタンドは、この会場において鉄塔だけという形で支給品されていた。
使いようによっては邪魔な人物を閉じ込めたりできるのかもしれないが……今の彼らにとっては罠以外の何物でもなかった―――!

「だが、罠にしてはお粗末だぜ―――なにしろ、原因がはっきりしすぎてるんだからなあ―――ッ!!」

再び下がったシーザーはどうしたかというと―――イギーを地面に降ろすと同時に、鉄塔の柱へと蹴りを繰り出したッ!
罠の正体は確実にこの鉄塔なのだから、破壊してしまえばそれまでという極めてシンプルな思考でッ!

(おいバカやめろッ!!!)

だが、彼は失念していた―――まったく同じ立場になったイギーが、それをやらなかったはずがないということを。


                          ド グ シ ャ ア ッ !


さすがに粉砕とまではいかないが、鉄塔の柱の一部が僅かに歪む。
このまま攻撃を加え続ければ近いうちに破壊可能………シーザーがニヤリとしたその瞬間、妙な音が辺りに響き始めた。
―――なにかがうねるような音が。


                         ウォンウォンウォンウォン………


「………なんだ、この音は」
(あーあ、やっちまった。おれしーらね)

正体はわからないが、いい予感は全くしなかった。
柱への攻撃を中止し、注意深く周りを見回す。


                         ゴオンゴオンゴオンゴオン………


音はだんだん大きくなっていき………瞬間。


                      ゴオンゴオン………ド グ シ ャ ア ッ !

941To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:19:47 ID:jPNHKboU
「う、うおおおおおおッ!!!?」

なんと先ほどシーザーが蹴りつけたところから、「脚」が「蹴り」を繰り出して来たッ!!

「こ、これはッ! この『脚』はおれのだッ!!
 なぜかはわからんが、おれの脚が蹴り返してきやがったッ!!」

咄嗟にガードするも、手加減なしで蹴った一撃は止まりきらないッ!
シーザーは後ろに飛んで衝撃を逃がすも完全には殺しきれず、固い地面に尻もちをついたッ!
とはいえこれしきではへこたれず、すぐさま立ち上がって服についた汚れを払い、鉄塔を見上げ悪態をつく。

「クソッ、おれの攻撃を反射するとはッ! まるで波紋以外をはね返す地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)のようッ!
 しかも波紋は対生物能力……物理的な破壊は得意としていないゆえ素手だけで壊しきるにはどうしても時間がかかるッ!
 こいつは厄介だぜ……よく考えろ……地獄昇柱は波紋を好み、頂上が出口……この鉄塔は何を好み、どこが出口―――ん?」
(………………あれ?)

シーザーは言葉途中で予想外の現状に気が付き、思わず足元を確かめる。
先ほどのエネルギー反射を必死で防いだ結果、今自分が立っていたのは………鉄塔の『外』だったッ!

「お……おれはなにをどうやったんだッ!?
 すでにッ! 外へと出ているッ!
 喜ぶべきではあるが、自分自身でもわからん………」

少々混乱しながら全身を確認するも、先ほどのように金属化している部分は存在しない。
鉄塔へ視線を戻すとイギーが外に出ようとして金属化しかけ、慌てて戻るところだった。

「本当にどういうことだ………? 咄嗟の行動だったから罠が認識できなかった………?
 いや、これだけ大掛かりな罠がそんなスカスカなわけがない……とすると?
 よし……イギー! ちょっとそこを動くなよッ!!」

先ほどイギーを連れて出ようとした時の体勢を思い出し、数歩下がると鉄塔に向かって走るッ!
直前で地を蹴り、鉄塔内へと跳躍ッ! さらに勢いは止まらず、大して広くもない鉄塔内を素通りしそのまま逆側へと出るッ!
この間、シーザーの体が金属化するような様子は全くなかったッ!!
やや後先を考えない行動だったが、罠を承知で飛び込んでいくのが彼の持ち味―――そうして道を切り開いてきたのだからッ!
そして、その行動でシーザーは真相を理解したッ!!

「なるほど……いまのようにおれが出入り自由ということは……わかったぜ……!
 この罠が閉じ込めておけるのは『ひとりだけ』ってことだッ!」

その言葉で呆気にとられていたイギーも気が付く。
先ほど二人で出ようとした時も金属化しかけていたのはシーザーだけだったということに。

「だが……裏を返せば必ずひとりは残らねばならんということだ……さて、どうするか」
(おい、誰でもいいから連れてきて、さっさとおれを外に出られるようにしやがれッ!)

罠の特性は理解できたものの、それだけで解決とするには早かった。
シーザーは三度鉄塔を見上げ、考え込む。

(おれやイギーは論外、フーゴは……この罠の特性からするとある意味安全かもしれんが、ひとりだけで置いていくわけには……
 いや待てよ? シルバー・バレットなら………悪くはないが、時間がないのに移動手段を失うのはまずいかもしれん……)

942To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:20:59 ID:jPNHKboU
もともとフーゴの護衛に手を取られているうえに、ここにきてさらなる戦力の減少はかなりの痛手となる。
どうにか最善手を模索するシーザーの脳裏に浮かぶのは、こうしたピンチを自分では想像もつかないような方法で切り抜けてきた男の顔。

(正直、こういうのはJOJOの方が圧倒的に得手なのは事実だが……
 このシーザー、普段からJOJOに「よく考えろ」といっている以上、解決できませんと音を上げるわけにはいかん……!
 考えろ、もしあいつなら………ん? 待てよ? JOJOなら―――?)

唐突に思考がクリアになる。
まるで頭の回転が速い親友がその頭脳を分け与えてくれたかのように、シーザーは解決法を思いついた。

「ひらめいたぜ………! ちょっと待ってろよイギー!
 すぐ出してやるからなッ!!」
(てめーッ、またおれを待たせるのかっ!!)

イギーを尻目にシーザーは何処かへと走り去り―――しばらくして戻ってきた。
彼の傍らにはシルバー・バレットの姿も見える。

(ああなるほど、その馬を居残らせれば万事解決―――ってオイッ!?)

イギーにとっては予想外なことに……シーザーは馬を制止させるとためらいなく自分だけ鉄塔内へ入る。
それを見て不安を覚え、さっさと代わりに脱出したイギーは振り返り………鉄塔内のシーザーがなにやら白いものを持っているのを確認した。

白いものの正体―――サヴェジ・ガーデンと呼ばれるその鳩は参加者に名簿を届けた後も会場内に残っていた。
誰かに捕まったり休んでいたりと行動は様々だが、シーザーは教会へ赴く途中にそんな鳩の一羽を見かけており、犬でいいなら鳩でもいいだろうと波紋で眠らせ連れてきたのだ。
小動物に無慈悲ではと思うかもしれないが、少なくともシーザー自身は、鳩は主催者側の用意した存在との認識ゆえに罪悪感はなかった。

(……鳩? ああ、そんなのいたな。けど、そんなんで大丈夫なのか?)


―――あえてイギーの疑問について考えてみるならば。
まず、鉄塔が中に誰かを閉じ込めるのは自らが存在するためのエネルギーが必要だからである。
鉄塔がほしいのは『たったひとりだけ』―――すなわち、必要な量は『人間ひとり分』。
イギーは犬だが、彼はスタンド使いということを踏まえると例外としてよいだろう。

さらに、元の本体である鋼田一という男は鉄塔内で自給自足をしており、ウサギやスズメを捕まえて食料にもしていた。
毎日毎日外へ出る事を考えていた彼が、それらの動物を居残りとして使えないか試さなかったと思うだろうか?
そう考えると、シーザーの鳩だけを鉄塔内に残すという案は―――

943To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:22:08 ID:jPNHKboU
「………よし、出られるッ! これで無事脱出完了ってことだぜッ!」
(ふーん、ほんとに脱出しやがった)

―――うまくいってしまった。
一部の支給品のように、鉄塔の能力もまた本来のそれとは微妙に異なっていたのだろうか?
それとも、シーザーが置いた鳩が特別だったとでもいうのだろうか?
理由は不明だが、『スーパーフライ』の元の特性を知らない彼らにはそんな疑問が湧き上がる事自体無かった。
鳩を鉄塔下に置いたシーザーは悠々と外に出てくると、去り際に鉄塔へと向き直り言い放つ。

「じゃあな、最後にいい言葉を贈るぜ……おまえは『ハトにしか勝てねえのさ』!」
「………………」
(何言ってんだコイツ)

物言わぬ鉄塔に切る啖呵が決まっていたかどうかはともかく、彼らはその場を後にする。
こうして、多少時間を食ったものの大きな被害もなく鉄塔を攻略したシーザーたちはフーゴの待つ路地へと戻ることに成功した―――







                            ―――はずだった。


「………………あっ………!?」
「………!?」




                           問題はただ一つ………








                 そこで眠っていたはずのフーゴの姿が、影も形もなかったこと―――!!

944To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:25:54 ID:jPNHKboU

【D-3 路地 / 1日目 夜】

【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発(ほぼ回復済み)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック、シルバー・バレット
[道具]:基本支給品一式、モデルガン、コーヒーガム(1枚消費)、ダイナマイト6本
   ミスタの記憶DISC、クリーム・スターターのスタンドDISC、ホット・パンツの記憶DISC、イギーの不明支給品1
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
1.フーゴ、どこに………?
2.フーゴに助かってほしい
3.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。


※DISCの使い方を理解しました。スタンドDISCと記憶DISCの違いはまだ知りません。
※フーゴの言う『ジョジョ』をジョセフの事だと誤解しています。



【イギー】
[スタンド]:『ザ・フール』
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1.あいつ(フーゴ)、どこ行きやがった!?
2.コーヒーガム(シーザー)と行動、穴だらけ(フーゴ)、フーゴの仲間と合流したい
3.煙突(ジョルノ)が気に喰わないけど、DIOを倒したのでちょっと見直した

※不明支給品のうち一つは『スーパーフライの鉄塔』でした。
※デイパックと中身の基本支給品(食料無し)は鉄塔付近に放置してきました。

945To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:27:20 ID:jPNHKboU
#

………時をほぼ同じくして。
吉良吉影はバイクに跨り、後ろに乗せた宮本輝之輔と共にD-5を目指していた。
彼らの間には妙な空気が漂うと共に沈黙が続いており………吉良からしてみれば、聞きたいことがあるのに口を開けないもどかしい状況だった。

「………………」
「………………」

何故このようなことになっているのかというと、話は彼らの出発前まで遡る。

『生きたまま、参加者の首輪を破壊してみる……だと?』
『ああ、確かそんなことを言ってた………とりあえず、地下にいる誰かを探すとも』
『………つまり、行先はわからないということか』

―――カーズに会うべく先ほど出会った場所へ戻る提案をした吉良だったが、さらに詳しく宮本の話を聞いてみればカーズがそこに戻る理由は無い。
さらにマズいのは禁止エリアがわからないこと。
A-6とA-7の境目地下は禁止エリアによる行き止まりでしかも一本道。
自分たちがそこにいる間にA-5かA-6のどちらかが新たな禁止エリアになってしまえばそれこそ脱出手段がなくなる。
他の参加者もわざわざ行き止まりに向かうとは思えない以上、行くのが無駄なのは明白だった。

そうなると吉良には第二案、参加者を引き連れ第四放送時に会場の中央へ赴く方法が自然と浮かぶ。
そのために………無論、真意は隠しつつだがなるべく他の参加者に接触する必要があると主張し、同行者ができたからか宮本もそれに賛成した。

では、どこへ向かうのか。
得てしてこういったときに出る結論は「まだ行ったことのない所へ行く」という類のものであり、この場合もそれを外れはしなかった。
そしてどちらから来たのか尋ねられた吉良は、主催者にワープさせられたという真実が言えるはずもなく……宮本の逆、つまり南にあるGDS刑務所の方から来たと答えたのだ。
理由はともかく、この選択は少なくとも『最悪』ではなかったといえる―――そちらに進んでいれば刑務所にて、徒党を組んだ『敵』たちと遭遇していたかもしれないのだから。

『残るルートは東側か………既にカーズが待っているかもしれないし、一度会場の中央を確認しがてら、参加者を探すというのは?』
『………………まあ、それが無難なところだろう』

吉良としては近くにある空承邸に思うところがなくはないが、証拠隠滅は万全なはずだし、後々のことを考えるとどのみち近くまでは行かなければならない。
なにより邸内で会った者は全員間違いなく先の放送で呼ばれたのだし、ならば断る方が不自然………という理由から宮本の提案に承諾の結論を出した。
最後に、派手に崩落した―――すなわち、まだ危険そうな教会跡には近づきたくないという意見が一致し、細かい道筋を決めてバイクに跨り出発した。
嘘か誠かDIOの館は宮本が既に調べたと言うためスルーし、彼らはC-3とC-4の境目にある橋から南下し見つけたのだ―――路地にて眠る少年を。

少年―――フーゴがひとりになったのはイギーが紙を開けるため離れてからシーザーの協力で鉄塔から脱出する間、せいぜい三十分足らず。
よりにもよってその間に吉良たちが来てしまったのである―――!
彼らも鉄塔自体は見えていたものの、会場には元々歪な建造物が存在するゆえ気にも留めていなかったのだ。

(彼は………教会前で、犬と一緒に怪物どもに襲われていた少年か。
 まさか生き残っていたとはね………だが、この有様では同じことか)

未だ眠りから覚めず、うわごとでジョジョ……と呟く重傷を負った少年。
吉良が冷静に状況を分析し、おそらく助からないだろうから放っておくか、いっそ楽にしてやろうかと提案―――しようとしたところで宮本の方が動いた。
眠る少年の耳元へ顔を近づけるとなにかを囁き………次の瞬間、少年の様子が急変する。

「う……、うう………!」

946To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:28:07 ID:jPNHKboU
元々あまり良いとは言えぬ顔色はさらに蒼白となり、体全体は痙攣しはじめ、閉じられた口の奥からはかたかたと歯の鳴る音が漏れ出る。
しかし吉良が驚いたのはそこではなく………宮本のスタンドが現れて少年の体を紙に包み、収納していく様子だった。
やがて、作業を終えた宮本は紙を拾い上げると人間一人が収まっているとは思えないほど小さく折りたたみ、懐へとしまう。

「………それが、君の能力か」
「………行こう」

一言づつの会話を交わすと、宮本は別の紙を取り出してなにやら文字を書き込み……少年がいた位置へと置く。
二人はそのままバイクへと跨り東へと向かった………あまりにも淡々と―――




(人間を紙にしてしまえるとは………いまのところわたしは『安全』なようだが………
 はて、しかしこの能力はまさか………)

―――こうして、妙な空気が出来上がったというわけである。
速すぎる展開に僅かながら面食らった吉良であったが、いつまでも黙ったままではいられない。

「さっきは彼を―――」

どうやって紙にしたのか、と聞こうとして思いとどまる。
能力を知られることは弱点を知られることにも繋がる………これまでの戦いで嫌というほどそれを実感していた。
方法を知りたいのは確かだが、相手が喋る気ならとっくに喋っているだろう。
秘密なのはお互いさま―――なので、質問を不自然にならないよう変えて続ける。

「―――勝手に連れてきてよかったのかね」
「……治療跡からして同行者はいたんだろうが、普通あんな状態の仲間をひとりで放置していくとは思えない。
 理由があるとすれば、まず間違いなく崩れた教会の様子を見に行ったんだろう。
 最悪、その同行者はそこで戦闘に巻き込まれて死亡している可能性もある……
 待つのは時間の無駄かもしれないなら、動いていた方が効率がいい」

時間の無駄―――おそらくは心臓にある毒薬のことだろう。
そこまで切羽詰まるものかと他人事に呆れつつも、まだ聞きたいことはあった。

「置いてきた紙には何と?」
「カーズの伝言……ああは言ったが、同行者が戻って来る可能性は一応あるからな」
(同行者ね………教会前で少年と一緒に犬がいたが、まさか犬があの応急処置をしたわけではあるまい。
 それよりも気になるのは、彼が生き延びたということだ………もし、あの怪物どもを倒したのだとしたら)

それだけのスタンド、あるいは身体能力を持っているとでもいうのか。
少年がどんなスタンスかはわからないが、そこのところはどう考えているのだろうかと次の質問を行う。

「ふむ……ところで、彼が危険人物だったらどうする?」
「問題ない……ぼくの能力『エニグマ』でこうして紙にしてしまえば、中からは脱出不可能だ。
 いざというときも、あれだけ死にかけているのならなんとかなる」
(まあ、完全に無抵抗だったからな……だが、用心しておかねば手痛い反撃を受けるかもしれん)

出会った頃の怯えた態度はどこへやら、不自然なほど落ち着いている宮本を訝しがりつつも『首輪』がある以上大きな心配はしていなかった。
最後の質問―――本題へと移る。

947To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:29:47 ID:jPNHKboU

「……で、彼を紙にして一体全体何をするつもりなのかな?」
「どうとでもできる……『人質』とか『実験台』とか、万が一彼の同行者や知り合いと遭遇した際に信用させるための『手札』にもなるさ。
 紙になっている限り、彼が死ぬこともないから」
(『実験台』―――ね。ふむ、さすがにこいつでも『あの』カーズを手放しで信用はしていないか……
 つまり、これでカーズがこいつの首輪に触れるまで一人分の猶予ができてしまった、というわけだ)

誰かがやぶけば別だがね―――と付け加えられ、思考を切り替えると吉良は運転に集中しなおす。
このとき、聞き終えた吉良に微かな表情の変化が現れていたことに宮本は気付くことができなかった。

「さて、そろそろエリアが変わるが……また減速した方がいいかね?」
「ああ――――――よし、問題ない。いけるぞ」

D-4とD-5の境目に到着し、先が禁止エリアでないことを確かめてから侵入した彼らは数分後、空条邸とトレビの泉の中間にいた。
この場所こそカーズが指定した会場の中心―――地図上、という意味でだが。

「ここが会場の中央だが………どうやらカーズはまだ来ていないようだね?」
「………さすがに早過ぎたか……それにしても、ひどいな………
 もし知ってて選んだのだとしたら、本当に性格が悪い………」

周りに参加者の姿は見られず………代わりに彼らを迎えたのは『惨状』だった。
だがもし第三者がいたのなら、真に恐ろしく見えたのはそんな周囲を無表情で眺めつつ進む彼らだったかもしれない。

「焼け落ちた空条邸、氷塊に潰された車、血だらけの鳥の死体……さすが中心、参加者が集まる分争いは激しいということか」

自分もその一端を担ったなどとはおくびにも出さず、吉良がひとりごちる。
とはいえ、彼も自分が去って僅か数時間のうちに新たな惨状が追加されていたのは予想外―――その分参加者が減ったので内心喜んではいたのだが。
だが、カーズも他の参加者もいない時点で今のところここに来た意味がないという事実は変わらなかった。

「………わたしたち以外には誰もいないようだが、これからどうする?
 やはりもう少しじっくりと………例えば、DIOの館あたりを調べてくるべきだったのではないかね?」
「さっきも言ったとおり、第三放送前にDIOの館は調べた………生存者はいなかったし、使えそうな道具もなかったよ―――



                          ―――『これ』以外は」


                         「………………………!!」



周囲の様子に眉ひとつ動かさなかった吉良も、さすがにぎょっとする。
あくまでも無表情な宮本が取り出した『それ』―――






                         ―――『拡声器』を目にして。

948To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:30:48 ID:jPNHKboU
#

さて、二組の男たちがこれからどうするか……というところでこの話は幕を閉じるわけだが、その前にひとつ―――
『宮本がフーゴを紙にして持って行った真意』は何だろうか?
彼が言った通りの理由で別におかしくはないと思うかもしれないが、それにしては不自然な点がある。
フーゴの持つナイフを取り上げなかったり、吉良に一言の相談も無かったりと。

現在の宮本は半ばヤケクソ状態ではあるものの、考えが全くないわけではない。
カーズと別れて一人で歩く間、宮本は考えた―――後にも先にもこれ以上は無いほど考えた。
彼の思考に直結するのは当然、現在直面している二つの問題―――『カーズをどうにかする』、『死の結婚指輪の解毒も行う』。
「両方」やらなくっちゃあならないっていうのが宮本のつらいとこだった。

まずは前者……柱の男そのもの。
カーズのみならずワムウも含め残るは二人だけということだが、その両方と対峙した宮本が思うところはひとつ。

(首輪を解除してもらうなんて話じゃあない……このままだと『人間』は『皆殺し』にされるッ! あいつは……あいつらは倒さなくちゃあならないんだッ!)

心の中ではカッコいい台詞を吐くも、自分のスタンドや武器でどうこう出来る相手でないというのは身に染みてわかっている。
ならば………情けない話だが、他人にどうにかしてもらうのが一番だ。

(あいつらは人類そのものにとって敵………その存在を知れば戦おうとするやつは、残った参加者の中にだって必ずいる)


そして後者だが………冷静になって考えてみれば、伝言役を果たしたとしてカーズが素直に解毒剤をくれるだろうか?

(決まっている―――渡したりなんて、絶対にしない……)

もし、自分が彼の立場なら「そんな約束などした覚えがない」ととぼけてさっさと始末するか、偽の薬を渡して喜ぶ相手をあざ笑うくらいはやりかねない。
相手も、状況も人間の社会とは根本的に違う……立場が上の者は下に対して何をしようが周囲に裁かれることなどないのだ。
ならば………こちらは自分でどうにかするしかない。

では、それらのために自分は何をすべきか?
前者に関しては参加者に接触し、伝言を伝えている―――ひいては第四放送時にカーズにぶつけようとしている―――のは見ての通りだ。
だが後者に関してはそもそも解毒剤がどんなものなのか、本当に存在するのかすらわからない。
それらの情報を持つカーズが信用できないとなれば………他に知っている誰かに聞くしかないだろう。
さしあたって思いつくのは………

(ワムウ………いや、たぶん無理だ。
 あいつはカーズに『様』を付けて呼んでいたことから、力関係はカーズの方が上。
 カーズが仕掛けた指輪について親切心で教えたり、ましてや外してくれるなんて夢のまた夢だろう……)

少ない脳みそを使ってあれこれ思い悩む必要はない―――当のワムウが言っていたことだったか。
だが、腕力でもスタンドでも到底かなわないとなると武器にできるのはひとつ……頭脳しかない。
彼らが他の誰かと話したり、ふと口にした一言を必死に思い返した結果、一番可能性が高そうなのが………

(八方塞がり………? いや、『いる』―――他に知っていそうな参加者がッ!
 ジョセフ・ジョースター、それにシーザー・アントニオ・ツェペリ………)

ワムウと戦ったという彼らならば死の結婚指輪について知っているかもしれない、というかそれ以外に当てがない。
もう少し言うなら、そのジョセフが元の時代にて自分が始末を命じられたジョセフ―――80歳近い老人と同一人物ならば。
彼はそれだけ長生きした、すなわち柱の男との闘いに生き残ったということになるのではないか?
指輪の情報に加えて彼らをどうやって倒した、あるいは退けたのか聞いてみる価値はある。

949To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:32:07 ID:jPNHKboU
(第四放送、カーズと会う前に見つけ出すんだ……二人をッ!
 直接どうにかはできないかもしれないけど、このままよりはずっといい……!)

だが、細心の注意を払わなければならない。
もしどこかからカーズに情報が洩れでもしたら―――彼ならば一旦怪しいと思ったが最後、真偽問わずにすぐ自分を斬り捨てるだろう。
目当ての二人以外には誰にも話せないし聞けないどころか、悟られるわけにもいかないのだ。

(やるのは、ぼくひとりだけ……できるかどうかじゃない、できなきゃ……死ぬんだ―――だったら、やるだけやってやるッ!!)


                 ともすれば先は死の崖かもしれないが……それでも、宮本は進むと決めた―――


―――のはいいのだが、実行にあたって問題があった。

(ジョセフ・ジョースターの方はいい……ワムウが仗助や噴上たちを分断する際にはっきり顔を見た……
 向こうがぼくをどう認識しているかはわからないけど、ワムウに脅されていたと言えば会話ぐらいはできるだろう……
 問題はもう一人………シーザー・アントニオ・ツェペリの方だ)

彼の外見を自分は全く知らない。
参加者が時代を超えて集められている以上、これまで聞いた情報も『男』や『ウィル・A・ツェペリの孫』といった間違いようのない事実を除き当てにはできない。
かといって片っ端から参加者に聞いて周っていては命がいくつあっても足りたものではない。
ないない尽くしの現状で、絞り込む条件に選んだのが……『人種』。

(名前からして、外国人なのは間違いない……それにツェペリの孫という事実を加えれば、ヨーロッパ側の人間である可能性が高い。
 つまり探すべきは『欧州の外国人男性』ってことだ―――!)

数時間前、そんな人物を含む二人組を見かけて苦労して会話を盗み聞いたものの、男の名はプロシュート―――残念ながら人違いだった。
伝言を伝えたところ、同行者の方がカーズを知っているようだったのでとりあえず成果はゼロではなかった………と思いたい。

次に出会った男はどう見ても日本人のため対象外。
吉良吉影と名乗ったその男にいろいろ言われて同行することになったが、一目見たときから彼に思うところなどなかったのだ。
今も落ち着きすぎているとか服が綺麗すぎるとか怪しいところはあるが、心底どうでもよかった。
彼はすぐこちらを殺す気は無いようだし、利用したいならすればよい―――ただそれだけ。
自分は自分の『やりたいことをやる』だけだ。

そして、つい数分前の出来事。
路地にて眠る一人の少年を発見、そのうわごとを耳にした……瞬間、体に電撃が走ったかのようだった。
そう、少年は『欧州の外国人男性』で、しかもジョジョ(ワムウがジョセフをそう呼んでいた)を知っている。
すなわち、シーザー・アントニオ・ツェペリの可能性が極めて高かったのだ。
だから、迷わず紙にした―――死にかけている彼の、命を繋ぐために。
恐怖のサインを見つけるのは簡単で、彼にそっと囁きかけるだけでよかった―――「ジョジョは死んだ」と。

(こいつの恐怖のサインは『奥歯が鳴るほど激しく震える』ことだ)

彼が本当にシーザーならどうにかして治療することで、話を聞かせてもらえる程度の恩は売れるだろう。
よしんば違ったとしても吉良に言ったとおり、使い道などいくらでもある。
少なくとも、自分に損なことなど全くない……そう考えていた。

―――その行為が、本物のシーザーを激怒させかねない状況を作り出したとは夢にも思わずに。

死の結婚指輪、爆弾と化した首輪、拡声器、そして誘拐の代償………
自分の想像を遥かに超える速度で死の崖へつっ走っていることに気付いていない宮本は、果たして生き残れるのだろうか………?

950To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:33:23 ID:jPNHKboU
【D-5 中央 / 1日目 夜】

【宮本輝之輔】
[スタンド]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:左耳たぶ欠損(止血済)、心臓動脈に死の結婚指輪
[装備]:コルト・パイソン、『爆弾化』した首輪(本人は気付いていない)
[道具]:重ちーのウイスキー、壊れた首輪(SPW)、フーゴの紙、拡声器
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男を倒す、自分も生き残る、両方やる
1.柱の男や死の結婚指輪について情報を集める、そのためにジョセフとシーザーを探す
2.1のため、紙にした少年を治療できる方法を探す
3.吉良とともに行動する。なるべく多くの参加者にカーズの伝言を伝える
4.体内にある『死の結婚指輪』をどうにかしたい

※フーゴをシーザーではないかと思っています。
※思考1について本人(ジョセフ、シーザー)以外に話す気は全くありません。
 従って思考1、2について自分から誰かに聞くことはできるだけしないつもりです。
 シーザーについては外見がわからないため『欧州の外国人男性』を見かけたら名前までは調べると決めています。
※第二放送をしっかり聞いていません。覚えているのは152話『新・戦闘潮流』で見た知り合い(ワムウ、仗助、噴上ら)が呼ばれなかったことぐらいです。
 吉良に聞くなど手段はありますが、本人の思考がそこに至っていない状態です。
 第三放送は聞いていました。
※カーズから『第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる』という伝言を受けました。
※死の結婚指輪を埋め込まれました。タイムリミットは2日目 黎明頃です。
※夕方(シーザーが出て行ってからルーシーが来るまで)にDIOの館を捜索し、拡声器を入手していました。
 それに伴い、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会の倒壊も目撃していました。


【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:左手首負傷(大・応急手当済)、全身ダメージ(回復)疲労(回復)
[装備]:波紋入りの薔薇、空条貞夫の私服(普段着)
[道具]:基本支給品 バイク(三部/DIO戦で承太郎とポルナレフが乗ったもの) 、川尻しのぶの右手首、
    地下地図、紫外線照射装置、スロー・ダンサー(未開封)、ランダム支給品2〜3(しのぶ、吉良・確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
0.自分の存在を知るものを殺し、優勝を目指す
1.宮本輝之助をカーズと接触させ、カーズ暗殺を計画
2.宮本の行動に協力(するフリを)して参加者と接触、方針1の基盤とする。無論そこで自分の正体を晒す気はない
3.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい

※宮本輝之助の首輪を爆弾化しました。『爆弾に触れた相手を消し飛ばす』ものです(166話『悪の教典』でしのぶがなっていた状態と同じです)
※波紋の治療により傷はほとんど治りましたが、溶けた左手首はそのままです。応急処置だけ済ませました。
※吉良が確認したのは168話(Trace)の承太郎達、169話(トリニティ・ブラッド)のトリッシュ達と、教会地下のDIO・ジョルノの戦闘、
 地上でのイギー・ヴァニラ達の戦闘です。具体的に誰を補足しているかは不明です。
※吉良が今後ジョニィに接触するかどうかは未定です。以降の書き手さんにお任せします。
※宮本と細かい情報交換は(どちらも必要性を感じていないため)していません。

951To Heart ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:35:22 ID:jPNHKboU
【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:紙化、右腕消失、脇腹・左足負傷(波紋で止血済)、大量出血
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.……(思考不能)

【備考】
・フーゴの容体は深刻です。危篤状態は脱しましたが、いつ急変してもおかしくありません。
 ただし『エニグマ』の能力で紙になっている間は変化しません。


【備考】
・D-4南西にスーパーフライの鉄塔が建ちました。大きさとしては目立ちますが、カオスローマなので特別おかしくは見えないかも。
 原作通り中に入った誰かひとりだけを閉じ込めます。
 現在サヴェジガーデン一羽が居残っていますが、何故これで居残りが成立しているのかは後の書き手さんにお任せします。
・D-3の路地、フーゴが眠っていた位置にカーズの伝言(第四放送時、会場の中央に来た者は首輪をはずしてやる。カーズより)が書かれた紙が置かれています。
 シーザーたちはまだ気が付いていません。
・シルバー・バレットとイギーのケンカは無効勝負となりました。
 状況が落ち着いたらまた始まるかもしれません。

952 ◆LvAk1Ki9I.:2016/02/14(日) 23:51:01 ID:jPNHKboU
以上で投下終了です。
仮投下からの大きな変更はありません。
この宮本とあの宮本、違うけれどやはり同じということでセリフの引用はイイと思いました。

上で書き忘れましたがキャラを追って読むは確かに差し替えた方がいいと思います。
追跡表とかは投下、時系列どちらでもわかりやすいと思う方にすればいいのではないでしょうか。

そして、仮投下中でいろいろ言われているHAS氏の作品について。
SBR6巻を見る限り、死後に奇跡を起こすという事例は他にもあるようなので
遺体が『あの方』ではないという点については矛盾ではないと思います。
(問題はレスにあったルーシー関連ぐらいでしょうか?)
大統領の目的やその他については何もかもが確定しているわけではないため、今後の展開次第でしょうか。
結論として、通しでいいんじゃあないかというのが私の意見です。

それでは、失礼します。

953 ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:55:31 ID:t.jtYj9s
投下乙です。
仮投下の時も言わせていただいたんですが、自分のなんの気なしにだしたパスが思わぬ形で帰ってくるというのは驚きと同時に喜びを感じます。
宮本、吉良、フーゴのトリオは全員が『爆弾』を抱えていて不穏な雰囲気ですね。どういった形で爆発するのか、気になります。

では私も、投下します。

954キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:56:29 ID:t.jtYj9s
地上に出ると月が出ていた。あたりは明るい。川越にDIOの館がひっそりとその姿を晒している。
月光が二人の頭上から影を伸ばしている。道行く民家の窓に二人の姿が反射し、ぼんやりと影が揺らぐ。
ディエゴは鼻先を頭上に向けると、湿った空気を嗅ぎ取った。腹一杯に空気を吸い込むと、満足気に首を回した。視線を下げれば向かいの窓にジョニィが映っていた。その指先は、逸れることなくディエゴの後頭部を指差している。


「いつまでそうしてるつもりだ。人のことを指差してはいけません、ってママに習わなかったのかい、ジョニィ?」


地下にいた時からずっとそうだった。ディエゴが遺体の気配を探ろうとするたびに、鼻を鳴らしてあたりの匂いを嗅ぐたびに―――ジョニィは滑らかな動きでディエゴの後頭部に狙いをつけた。
その動きには焦りがなく、手馴れた様子だった。断固たる決意を感じさせず、まるで当たり前のように殺意を抱くジョニィにディエゴは内心ゾッとしていた。

窓に映ったジョニィがディエゴを見返す。ディエゴがずれたヘルメットの位置を調整しようと手を挙げると、ジョニィは無言のまま一歩下がり、狙いを付け直した。
居心地の悪い間が二人のあいだを漂う。行く宛をなくした腕を振り下ろし、体の両脇でブラブラと遊ばせる。しばらく経ってから鏡張りの世界でディエゴが歯をむき出しに笑った。鋭い歯が何本も覗いていた。


「おっと、君の場合はパパに、だったか。ジョースター家はなんだって大切なことをパパから学ぶんだ」
「気づいていないと思うけど、君の獣臭い息がここらに充満しているんだ。大口叩いてないでさっさと目的地に向かったらどうだ」


窓に映ったディエゴがゆっくりと目を細めた。それを合図にジョニィは浅く息を吸い、そして止めた。二人はしばらくのあいだ黙りこくった。随分と長い間そうしていたが、どちらも動かなかった。
やがてディエゴは目をそらし、一本奥まった脇道に向かって歩きだす。5メートルほど間隔をあけてジョニィはあとに続いた。

沈黙のまま、二人は黙々と歩き続けた。家と家のあいだを歩いた。橋を渡った。何度か立ち止まり、気配を探り―――そしてまた歩き出した。
ディエゴはどこに向かっているか、一向に教えなかった。ジョニィも聞かなかった。
ほとんど会話を交わさず、黙々と二人は進んだ。雲が月を覆って辺りがほんのりと暗く染まった。DIOの館にたどり着いた頃には影がほんの少し伸び、砂埃とかすかな血の匂いが風に乗ってあたりを覆っていた。
DIOの館を前に二人は並んだ。ジョニィは頑として先に扉に手をかけようとせず、仕方なしにディエゴが扉を開いた。

「ようこそ、我が館へ」

ディエゴが小さく茶化したが、ジョニィは何も言わなかった。扉を開いた途端、玄関ホールに一人の男が立っていた。

「ようこそ、ルーシー・スティールの館へ。歓迎するぜ、ジョニィ・ジョースター、ディエゴ・ブランドー」

ボルサリーノ帽子を被った、いかにも、といった感じのギャング風の男がいた。
鼻にかかったその声は、生理的に二人に嫌悪感を抱かせた。芝居ががった態度が不愉快だった。落ち着きのない目線が猜疑心をかきたてた。
警戒を顕にするディエゴに対し、ジョニィは数巡の後、その脇をすり抜けるように一歩進んだ。ディエゴを追い越すときにジョニィがそっと呟いた。

「奪われる星の下に生まれてるんだな、君ってやつは」

ムーロロのあとをついて、ジョニィが階段を上っていく。ディエゴはしばらくの間、そこに佇んでいたが、やがて首を振りながら歩きだした。




955キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:56:55 ID:t.jtYj9s
二階の天井の高い角部屋に、ジョニィたちは案内された。

入口から向かって正面と左側の二箇所に、縦長の窓がそれぞれひとつずつあった。正面の窓のすぐ前にはこちらを向くように書き物机が置かれている。その両脇にはおよそ二メートルの高さの書物棚が並んでいた。
左手には来客用に机と椅子が四脚が用意されていて、反対側には部屋主がくつろぐようにソファセットがある。
全体として高級感が漂っている空間だった。その空間の真ん中にルーシーがいた。

そよ風が向かいの窓からカーテンを中に引き入れ、ジョニィとディエゴの頬を撫でながら部屋を抜けていく。
その風に煽られて、ルーシーのワンピースの裾がめくれた。傷つきやすい脚と異様な膨らみのお腹が際立った。
ルーシーがなにか小さく呟いたが、風の音に遮られ二人には何も聞こえなかった。
ジョニィはさっと部屋に入ると壁伝いで左に逸れ、ディエゴから距離をとった。ムーロロはルーシーの近くに寄り添い立っている。ディエゴは入口に立ったまま、警戒心の高い猟犬のように部屋全体を眺めた。指先をピクリピクリと震わしている。


「ほんの少し目を離したすきに素敵なお友達ができたようだな、ルーシー・スティール」


ディエゴはルーシーの足元にうずくまるセッコ、ソファに座って俯く琢馬、そして傍に立つムーロロを順に眺め、そう言った。


「身篭ったガキと寝るってのはどんな気持ちなんだ、お前たち。さぞかしルーシーは『お上手』なんだろうな」


ディエゴがテーブルについた。誰も動かないのを見て、驚いたような表情をディエゴは浮かべた。
ジョニィに向かって両手を挙げ、肩をすくめる。悪人の俺が席につこうって言うんだ、なぜお前は座らない? そう言いたげな白々しい表情だった。
ジョニィはしばらくそのまま動かずにいたが、ゆっくりとディエゴの正面の席に座った。
机は蹴飛ばすには大きすぎる。椅子から立ち上がり跨ぐならば、一瞬ではあるが隙はできる。スケアリー・モンスターズの間合いではあるが、ジョニィに最初の一発を外すつもりはなかった。ルーシーにつきまとう三人が未知数である今、交渉―――もしそれが本当に交渉ならば―――するのもやぶさかではなかった。

「椅子が足りねェみたいだが」

ムーロロはルーシーのために椅子を引き、その向かいに腰掛けた。ディエゴから順に右回りにルーシー、ジョニィ、ムーロロ。これで四人が席に着いた。

「残りの二人に席に着くだけの度胸とオツムがあればな。おしゃべりがお望みなら他所でやってくれ、ボルサリーノ」
「決めるのはお前じゃねェ、ディエゴ・ブランドー。主催者はルーシーだ。お前は招かれた客に過ぎないんだぞ。
 それに俺はボルサリーノじゃない。ムーロロだ。カンノーロ・ムーロロだ」
「気が向いたら覚えておいてやるよ、ボルサリーノ」

ムーロロがポケットからこれ見ようがしに拳銃を取り出し、机の上においた。ディエゴはそれを見てせせら笑った。
今更拳銃ぐらいで誰も驚かなかった。ルーシーは夢見がちな瞳で机についた三人の顔を見渡した。ジョニィも黙ったまま二人のやり取りを見つめた。

「カードでもやりながら話をしようや」

ムーロロがそれぞれにトランプを配り始めた。誰も手をつけないので三枚ほど配ったあたりでムーロロはその手を止めた。

「面白みのないやつら」

そうもごもごとムーロロは呟いた。

956キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:57:54 ID:t.jtYj9s
「これじゃあ掛金の上乗せもできやしねェ」
「図に乗るなよ、チンピラ。お前が一番この中で格下なんだ。どなたの遺体かもわからないくせにでかい面叩くな」
「……本当にそう思うのか? マジで、そう思っているのか―――ディエゴ?」

『遺体』の言葉を合図に部屋中の音が止まった。ムーロロは残された少ないトランプを手の中で弄ぶ。視線はディエゴを捉えたまま離さない。ディエゴもムーロロを見下ろしたまま、微動だにしない。
ルーシーの足元でセッコがよく懐いた飼い猫のようにうずくまっている。砂糖菓子をかじる音が四人の間にふらふらと流れた。
ディエゴは肘をテーブルに載せ、前のめりになった。右隣に座ったルーシーに顔を寄せながら囁く。

「なぜ逃げなかった」
「おい、話は終わってねェぞ、ディエゴ―――……」

ムーロロの言葉は遮られた。

「俺はお前に聞いているんだぞ、ルーシー・スティール。俺の配下の恐竜を始末した時点で―――例え匂いで追われることは確実だとしてもだ―――距離をとって振り切ることはできたはずだ。
 俺はジョニィと一緒にここまでやってきた。そしてこのボルサリーノは館に入った時点で俺たちの名前を呼んだ。
 スタンドか、遺体の力か、支給品の何かか―――それはわからない。だが俺たちの動きを何かしらで把握していたのは確かなはずだ。
 ならなぜ逃げなかった?」

この賭けに勝算があるっていうのか―――ディエゴの最後の言葉は寸前で飲み込まれた。ディエゴが言い切る前にルーシーが顔を覆って机に突っ伏し、そして体を震わし始めたのだ。
嘲りと同情が三人の男たちの間で行き交ったが、それもほんのわずかな時間だった。
ルーシーが右手を鋭く突き出したと同時にディエゴの左目が鋭く痛んだ。そしてジョニィとムーロロはディエゴの顔から『左目』が浮かび出るのを見た。


「この通りよ、ジョニィ。コイツは遺体を所有している。ここまであなたにバレないようにしていたみたいだけど」


ディエゴは反射的に左手を挙げかけたが、そのまま諦めたように、机の上に腕をおろした。ルーシーが手を引っ込めるとディエゴの左目も元の場所へと収まった。
ルーシーが手を開くと、間の抜けた音を立てながら右目の眼球が机の上に転がった。三人の視線がそれを追った。
ジョニィだけが別のものを見ていた。正面に座ったディエゴの左目を真っ直ぐに見つめていた。机の下でピクリ、とジョニィの指先が動いたことに、誰も気づかなかった。

「獣相手に言葉が通じるとは思えなかった。遺体を人質に取られることが私にとっての最悪だった。
 でもこうすれば、アナタはテーブルに付かざるを得ない。そうじゃないかしら、ディオ?」
「小賢しいじゃないか。博打に勝ったっていうわけだ」
「いいえ、まだ始まったに過ぎないわ。あなたをテーブルにつかせることに成功しただけ」
「えらく謙虚なんだな。1、2、3……5対1じゃさすがの俺も苦戦するぜ?」
「……本当にそうかしら」

ルーシーは自分を除く『4人』を見渡した。
正面に座ったムーロロは椅子の背に体重をかけ、二本足でバランスをとって体を揺すっている。目深く帽子を被って、視線の行先はわからない。
セッコは砂糖菓子に夢中、琢馬はディエゴが部屋に入ってから全くと言っていいほど動いていない。現状に興味が一切もてないようだった。向かいの壁を漫然と眺め続け、それに飽きたら自分の手をじっと睨みつけることを繰り返している。


「本当に」

957キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:58:19 ID:t.jtYj9s
そして、ジョニィ。ルーシーは右に座った青年の顔を横目で眺めた。
呼吸をしているかどうかもわからないほどに、ジョニィは穏やかに見えた。体中の力が一切感じられない。だが眼光だけが、飛び抜けて鋭い。
こわばった目が一つ一つを見透かすように注がれている。机の上に置かれた右眼球に。ディエゴの持つ左眼球に。そしてルーシーの膨らんだ腹部、遺体の頭部に。
ジョニィ、あなたを本当に信頼していいの? ルーシーはそれを問いかけられない。
自分が夫を失ったように、ジョニィも唯一無二の親友を失った。しかし同じ悲しみが一切ジョニィからは感じ取れなかった。それがルーシーをためらわせる。

テーブルのナプキンを握るものはまだ誰でもなかった。四人の腹の探り合いは続く。ムーロロが姿勢を正すとゆっくりと机の上の右眼球に手を伸ばした。
ムーロロはディエゴとジョニィに目配せを送る。別に盗もうってわけじゃない。ただ今からちょっとした手品をお見せしよう。
上品で丁寧な態度でムーロロの手が眼球に触れかけた。眼球はムーロロの手が触れる前からズズズ……と音を立ててムーロロ自身の手の方へ引っ張られていった。まるで何かに引かれ合うかのように。

「どこだ」

ムーロロが手を引っ込めると、眼球は勢いをなくした。眼球が心細げに動くのをやめるのを見て、ディエゴがムーロロに訪ねた。

「どこの部位だ」
「それを知ってどうなる。それに俺が教えるとでも?」
「だがお前はそれがどなたの遺体かもわかっていない」
「いいえ、彼は知っているわ」

ルーシーが二人の間に割って入った。ムーロロは批難するような目で向かいのルーシーを見つめたが、彼女はそれを無視した。

「あなたとジョニィの来訪を教えてくれたのも彼。私が数時間気絶している間に何が起きたかを曖昧ながらも教えてくれたのも彼」

ルーシーにとって何より優先しなければならないのは自身の安全だった。
交渉が暗礁に乗り上げれば、ディエゴは文字通り牙を向くことになりかねない。
ディエゴを飽きさせてはならない。ディエゴを餓えさせてはならない。進展を印象づけるためにルーシーはムーロロの一部を売り渡した。

「彼の情報網はホンモノよ。路地裏の排水管の数まで彼は知ってるの」
「女は信頼ならないな、ボルサリーノ。あしながおじさんは骨折り損だ」
「見返りが凶暴な恐竜野郎だったとは―――割に合わねぇよ、ほんと」

ムーロロがぼやいた。向かいから送られた恨みがましい目線にルーシーは顔を伏せる。結局のところ、今のルーシーに許されたことは見極めることだけだ。
遺体に相応しいのは誰か。机に座ったのはディエゴ、ムーロロ、ジョニィの三人だけだった。
三人の中に白馬の騎士はいなくとも、遺体が揃うまでは安全を保証してくれるパトロンがルーシーには必要だった。
なにせカーズが遺体の一部を所持しているのだ。自体は一刻を争うことになっている。

「そうなるとジョニィ、お前がこの場で一番貧乏神だ」

ディエゴの言葉に全員の視線がジョニィに向く。
遺体に関する情報のアドバンテージはこのテーブル上には存在しなかった。そうなれば残すは誰が、いくつ、遺体を所持しているかだ。
ディエゴはさりげなさを装って眼球をジョニィの方向へ誘導した。眼球の勢いは止まり、ルーシーとムーロロのちょうど間で勢いをなくす。
ジョニィは遺体を所持していない。ディエゴとムーロロはその事実を同時に確信した。

「俺は馬車馬のごとく働いた。ボルサリーノは王女様の護衛兵。王女様は玉座に座ってふんぞり返るのが仕事ってもんだ。
 お前は一体何を持っている? 空手でノコノコ賭博場にやって来る田舎者でもないだろう。財布の中身を見せてもらわなきゃカウンターには座れないぜ」
「机につくのに参加料を取られるって話は聞いてない」

958キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:58:42 ID:t.jtYj9s
初めてジョニィが口を開いた。そして―――おもむろに眼球に手を伸ばした。
ムーロロは素早く拳銃を手にとると、銃口の先をジョニィに向けた。ジョニィの動きが止まった。


「図に乗るなよ、ジョニィ・ジョースター……! 5対1だとディエゴは言ったが、それはお前にとっても当てはまるんだぜ」


眼球までの距離は数センチ。眼球は動いていない。もしもムーロロが止めなければ、ジョニィはそのまま眼球を自分のものにしていただろう。
ディエゴは尻を浮かし、机の上に覆いかぶさった姿勢で動かない。対面のジョニィから目が離せない。
ディエゴの毛が逆立ち、尾てい骨のあたりが妖しく蠢いた。恐竜化の前触れだ。その鼻は戦いの匂いを嗅ぎつけていた。

ジョニィの眼が燃えた。真っ黒な目で対面のディエゴを眺め、そしてその視線をルーシーに向けた。
ルーシーは怯えた。セッコは砂糖菓子をかじるのをやめ、琢馬がうつむいていた顔を上げた。部屋は膨張するのをやめ、一気に収縮していく。
ジョニィを中心に空間が渦巻く。ジョニィが数センチ、その手を動かせば弾丸と牙が部屋を切り裂くのは明らかだった。


風がカーテンを揺らした。ジョニィは体を起こすとその指先をそのまま口元に持っていった。


「しーっ…………」

沈黙を促す。机についた三人が耳を澄ますと、扉をひっかくような音が聞こえた気がした。
数秒もしないうちに、それは耳障りな回転の音に変わった。止まることのない永遠を思わす音。音は這い上がるように動き、表に飛び出た。
それは明らかな意図を持った音だった。発生源はルーシーの足元から、そして腹部へ移り……遺体の頭部を宿すその場所へ。


「こ、これはッ!?」
「――――――『タスク act2』」


ルーシーの腹部に大きな弾痕がうごめいているのをディエゴは見た。ジョニィは座った目で、三人の顔を見渡した。


「貴様、ジョニィィィィイイ―――!? 何を考えてやがるッ―――!?」
「7秒以内に机から離れて壁に手をつけろ。今更僕を殺したところで回転は止まらない。回転を操れるのは僕だけだ。二人共従ってもらう」


椅子を蹴飛ばす音と悲鳴が響いた。ムーロロがジョニィのこめかみに銃口を突きつけ、喚いた。ジョニィは動じなかった。
ジョニィは椅子に座ったまま、ディエゴから目を離さない。両手は机に乗ったまま、ディエゴの方へ綺麗に向けられている。
ルーシーの混乱もムーロロの怒りも二人には届かない。男たちは互いに見つめ合う。ディエゴは口の端を歪ませ、吐き捨てた。


「いいのか? 遺体を諦めてお前とルーシーをこの場で八つ裂きにすることもできるんだぜ」
「本当にそう思っているのならお前は既にそれを実行しているだろう。ハッタリは効かない。それに僕が大人しくやられるとでも?」

959キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:59:00 ID:t.jtYj9s
ジョニィの目は燃えている。変わらず、黒く燃え盛る。ディエゴは苦々しい表情を浮かべ立ち上がると、時間いっぱい使い切って、壁際まで下がった。
両手は壁につけず、視線はジョニィに向けられたままだった。妥協ラインは引かれた。そしてジョニィはそれをのむ。
ディエゴが動いたのにならい、ムーロロも同じく距離をとっていた。二人が下がりきったのを合図に弾痕がルーシーの椅子の背に移動した。
途端、木片が飛び散るには大きすぎる音が聞こえた。いともたやすく椅子そのものが木っ端微塵になってしまっていた。

ルーシーがそのままバランスを失い、倒れかけた。ジョニィはさっと手を伸ばすと彼女を受け止めようとした。
が、セッコが既にルーシーを抱きかかえていた。この騒動の間もセッコは砂糖菓子に夢中だった。それは琢馬も同じことだった。
一度だけ立ち上がったが、何も起きなかったことを確認すると、またソファに座り面白くもない壁面を見つめ直す作業に戻った。

ルーシーはセッコに小さくありがとうと囁くと、ポケットからいつもより大きめの砂糖菓子を取り出した。そして喜ぶセッコにそれを手渡しながら、付け加えるように言う。

「セッコ、新しい砂糖菓子があるんだけど……欲しい?」

少し離れたところにあるの―――そうルーシーが言うのを待たずセッコは頷き、彼女の指示を待っていた。
ディエゴとムーロロの顔に嫌悪感が浮かぶ。傍に立つジョニィですら、不気味な様子に顔をしかめた。
しかし背に腹は変えられない。ルーシーが合図を出すとセッコは館の地面に沈み、どこかへと向かう。ジョニィとルーシーはふたり揃って窓際まで後退した。
油断なく指先が向けられたままだった。最後の最後までジョニィはディエゴを睨み、ディエゴはジョニィを皮肉げに見返した。

二人の体が窓枠から外へ雪崩打つ。ディエゴが窓際までいって覗き込めば、二人を器用に抱えたセッコが背泳ぎをしながら館から離れていくのが見えた。




960キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:59:21 ID:t.jtYj9s
バシン! 小気味良い、乾いた音が夜空に届いた。ジョニィは早くも赤く腫れ始めた頬を抑えるとルーシーを見た。怒りに燃えたルーシーの瞳が真っ直ぐに見つめ返している。

「……弁解する気はない。あの状況で君を安全に連れ去るにはこうするしかなかった」
「土手っ腹に穴をあけられた状況で、あなたは同じことを言えるかしら」
「僕自身、ムーロロに銃を突きつけられていたんだ。何よりディオがその気になったなら間違いなく僕がやられていた」
「だから公平、ここは一つ僕の顔に免じて許してよ―――そう言う気?」

ルーシーはジョニィに背を向け、体の前で腕を組んだ。ジョニィはここに来て初めて戸惑った表情を浮かべた。
たとえ最強のスタンドを持っていようと、聖人の遺体を持っていようと、ディエゴ相手に一歩も動じない肝っ玉を持った男であろうと―――女の子の喜ばせ方は自身で学ばなければいけない。
たとえ相手が人妻で、妊娠者で、年下の気難しい小娘だとしてもだ。どんな困難な状況でも女の子の機嫌を取らなければならない時が男にはある。
ジョニィはルーシーの背中から視線をそらすと、顔を伏せ、思い直したように前を向いた。耳たぶに軽く触れながら、ぼそぼそと言う。

「君には覚悟があるように感じた。もし僕が君を過大評価しているなら謝る」
「……謝る必要はないわ。でも私も謝らないわ、ジョニィ」

月が伸ばしたルーシーの影を見つめ、ジョニィはため息を吐いた。相変わらずルーシーはこちらを向かない。少し離れたところから、四つの砂糖菓子相手にはしゃぐセッコの声が聞こえてきた。
ため息を合図にルーシーがこちらに首だけを回し視線を送る。ジョニィはためらいながら彼女に近づいた。ルーシーは離れなかった。
すぐ脇に立つと、同じ方向を向いたまま話を続けた。視線の先には穏やかに川が流れ、その水面に月が反射して写っていた。

「南に向かいたいと思う。信用できる連中がいるんだ」
「……遺体を揃えるのが先だと思うけど」

首をかすかに振り、ジョニィは言う。

「信頼できるだけじゃない。ルーシー、確かに遺体は『最後には』僕『ら』が手に入れる。だが『この』遺体はあの方のものであって、あの方のものじゃないんだ」
「……話がよく見えないわ」

ルーシーは眉をひそめ、苛立ち気に言った。ジョニィは一度呼吸を挟むとディエゴの言葉を思い出しながら『この遺体』に対する違和感を説明する。


なぜヴァレンタインは遺体の部位を集めきり、そしてもう一度それをバラバラにして支給品にしたのか。
なぜこのタイミングでスティールを始末したのか(なぜもっと早く始末しなかった?)。
そもそもなぜスティールを司会進行に据えたのか。なぜルーシー・スティールが参加者に選ばれたのか。


「ディオが言うことはもっともね。それがどうアナタが言った『信頼できる連中』につながるのかしら」


話の途中、ルーシーは右腕を乱暴に振ってジョニィの言葉を遮った。
ディエゴやムーロロがあとを追ってくる可能性もある。難しい話は移動しながらでも、目的地についたあとにしてもいい。要点が聞きたかった。
ジョニィは顔に手をやると、先の混乱でどさくさに紛れて手に入れた右の眼球を取り出した。ルーシーは顔をしかめ、かばうようにお腹をさする。

二人を中心にうずが沸き起こる。水面に波紋が浮かび上がり、ザザザ……と音を立てて波が立ち上がった。
セッコは顔を上げると、耳をぴくぴくと震わせて空気の震えを感じ取った。二つの遺体と強い意志に呼応するように、辺りに大きな図形が浮かび上がる。

それは大規模な地図だった。この殺し合いの全体像を表した、これまでで最も大きな地図が地面に浮かび上がった。
うっすらと出来上がった地図を見下ろした時、ルーシーの目が細められた。
遺体は次の遺体を指し示す、そういう話は聞いたことがあった。であるならば―――この遺体が『あのお方』のものであれば―――少なくとも7つの星が浮かび上がるはずだった。
だが、地面に咲いた星の数は―――5つと1つ。

「ずっと心の中に引っかかっていたことなんだ。あとは確信が必要だった。上乗せする1%のための確信が……」

ジョニイは自分たちがいあるあたりに咲いた1つの星をさし、南西に固まったいくつかの星を指した。
咄嗟に天を仰いだルーシーに釣られ、ジョニィも空を見上げた。そこには何も言わない星屑たちが彼らを見下ろしている。


「全てはジョースターだ。この遺体の中心にはジョースターがいる……ッ!」


地面は蠢く。セッコが囁く。地図はまだ決まっていない。
砂糖菓子にかじりつくセッコの歯が、普段より鋭く、長くなっていたことには誰も気がつかなかった。





961キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/14(日) 23:59:50 ID:t.jtYj9s
「やられたよ、完全に出し抜かれた」
「その割には上機嫌そうだが」

窓から身を乗り出していたディエゴは体を引っ込ませるとクスクス笑いながら、テーブルに戻り、ムーロロの真正面に座った。

「スティールが死んだいま、ルーシーの株は大暴落だ。カードとしては使えない上、女一人抱えて移動したり戦ったりするのは煩わしい。
 どちらにしろアイツが遺体を孕んでる以上、誰にも手出しはできないんだ。ジョニィがわざわざ子守役を引き受けてくれたと考えれば別段問題でもない。
 それに……」

しゃべりすぎたと思ったのか、ディエゴはそこで突然口を閉じた。
ムーロロが先を促すように顎を振ったが、ディエゴは怪しげに微笑むだけだった。
キザな野郎だ、とムーロロは毒づいたが結果は変わらなかった。ディエゴは面白がって余計クスクス笑いを悪化させた。

張り切ったゴムがちぎれたような、だらしない空気があたりをさまよっている。いつの間にか琢馬も姿を消していた。二人ともそんなこと、と意に介さなかった。
ムーロロは机に散らばったカードを丁寧に集めなおすと、縦にカードを切り始めた。
なかなかの枚数をまとめているのもかかわらず、不思議と紙同士が擦れる音は聞こえなかった。
うまいものだな、とディエゴが褒めるとムーロロは小さく頷いた。テーブルで輪っか上に広げ、端の一枚を指で弾いた。ドミノ倒しのように一枚が起き上がる衝撃で隣が立ちあがり、最後には全部が支え合うように机の上で立ち上がった。
ディエゴは感心した。ムーロロはまたカードを集め、混ぜ合わせ始めた。癖のようだった。

「ジョニィたちは南に動いてるぜ。スピードはそこまで早くない。お前の脚ならすぐにでも追いつけるだろう」

カード遊びを続けながらムーロロが言った。ディエゴはムーロロの手元に視線を向けたまま、答える。

「オイオイオイオイ……俺は別に情報が欲しいわけじゃあない(あったら嬉しいのは事実だが)」
「腹を空かせた狼に別の獲物を差し出したところで、食べられてしまうことに変わりはないってわけか。だけど俺だって大人しく食われるつもりはないぜ」

先と同じようにカードを輪っか上に広げる。ムーロロの指先がカードを弾くと「イテッ!」とキンキン声が聞こえた。
ディエゴの目の前でカードたちから手と足が生え、今度は本当にそれぞれの足で『立ち上がり』はじめた。
ディエゴは汚いものに触れかけたように机から体をめいっぱい離した。両方の親指が神経質そうに、手のひらを柔らかく引っ掻いている。

「『スタンド』だったのか」
「自衛の手段だ。あの状況で襲われたらひとたまりもないんでね」
「キモが座ってるじゃないか」

カードたちが歓声を上げ、踊りながら机の上でに広がる。それまでのお喋りが嘘のように、二人は突然黙り込んだ。互いの目から視線が逸らせなくなった。
館のどこかを彷徨う琢馬の気配がする。それが二人の間を漂い、妨げる。
机の上でカードたちがそろりと動き、隊列を組んだ。ディエゴの唇が徐々に大きく裂け、耳の下まで牙が伸びてきた。ムーロロは机の上に置かれたディエゴの手のひらに、キラリと輝くウロコがあるのを見つけた。

一度ちぎれたゴムがキリキリ……と音を立てるほどにまた、引き伸ばされる。
生暖かい風が二人の左手の窓から入った時―――二人はそのゴムをどちらも切るつもりがないことを、唐突に理解し合った。
ディエゴは共犯者にむける独特の笑みを浮かべた。ムーロロは真面目くさった顔でボルサリーノ帽子をかぶり直し、大きなあくびを一つした。

962キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/15(月) 00:00:10 ID:N3B/iFSU



「なぁ、『ムーロロ』……」
「おう、『ディオ』」
「君とはいい友達になれそうだよ」


ムーロロの頭の片隅に、黄金に輝く流れ星がさっと走った。それも一瞬のことだった。顔を振ってその記憶を振り落とした。


「恐竜にされたらかなわねェ」


机越しにディエゴが差し出した手を、見下すとそう言った。良い気分がしないディエゴは手を引っ込めようとした。
それが引っ込むか、引っ込まないかのうちに、かわりにムーロロは一枚のカードを差し出した。
ディエゴはそのカードを手にとった。ムーロロを見つめたが、何も言わない目がディエゴを見返しているだけだった。
カードをひっくり返し、表を見る。ジョーカーだった。だがそこいたのはただのジョーカーではなく、体を苦しげに震わせているジョーカーだった。

ディエゴが見つめる先でジョーカーの姿がゆっくりと変わっていく。
ウロコが生え、爪が伸び、牙が顎を貫きかけるほどに尖っていった。やがてカードから突き出ていた四本の手足も変わり始めた。二本の足で支えていた体は今では前傾体制をとり、獲物を狙う肉食動物のような振る舞いをし始めた。

手のひらの上で踊る恐竜を見つめているうちにディエゴの中で笑いがこみ上げてきた。
最初は抑えていたが、そのうちどうしようもなく、ディエゴは大きな声で笑った。
ムーロロは何も言わず、机越しにディエゴを見つめた。冷めた目だったが、その奥には揺れる光が芽生えていた。


「窓のそばに控えている恐竜をさげてくれ。爬虫類は苦手なんでな」


ムーロロの言葉と一緒にカーテンが外へと流れ出た。少しづつではあるが風は強まっていたようだった。

963キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/15(月) 00:00:31 ID:N3B/iFSU
【D-2 南東部 川辺/1日目 夜中】
【ジョニィ・ジョースター】
[スタンド]:『牙-タスク-』Act1 → Act2 → ???
[時間軸]:SBR24巻 ネアポリス行きの船に乗船後
[状態]:右頬に腫れ
[装備]:ジャイロのベルトのバックル、遺体の右目
[道具]:基本支給品×2、リボルバー拳銃(6/6:予備弾薬残り18発)
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロの無念を――
1.ルーシーと共に行動。当面の目標はジョースター一族と合流すること。
2.遺体を集める
[備考]
※Act3が使用可能かどうかは次の書き手さんにお任せします。

【ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:処女懐胎
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド、大量多種の角砂糖と砂糖菓子
[思考・状況]
基本行動方針:??
0.ディエゴから離れる
1.ジョニィと共に行動し、遺体を集める。身の安全を最優先。
[備考]
※遺体を通してトリッシュ・カーズに声をかけています。(カーズに対しては『あの方』を装っています)
 その他の遺体所有者を把握しているか、話しかけられるかは不明です。

【セッコ】
[スタンド]:『オアシス』
[時間軸]:ローマでジョルノたちと戦う前
[状態]:健康、恐竜化(進行:極小)
[装備]:カメラ
[道具]:シュガー、エンポリオ、重ちー、ポコのしたい写真集
[思考・状況]
基本行動方針:??
0.角砂糖うめえ
1.DIOが死んでしまって残念
2.人間をたくさん喰いたい。何かを創ってみたい。とにかく色々試したい。新しい死体が欲しい。
3.吉良吉影をブッ殺す
[備考]
※『食人』、『死骸によるオプジェの制作』という行為を覚え、喜びを感じました。
※千帆の事は角砂糖をくれた良いヤツという認識です。ですがセッコなのですぐ忘れるかもしれません。
※恐竜化はディエゴから距離をとっているため、進行は緩やかで、無意識です。遺体を譲渡されれば解除されるかも、しれません。

964キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/15(月) 00:00:51 ID:N3B/iFSU
【D-3 DIOの館/一日目 夜中】
【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康、なかなかハイ
[装備]:遺体の左目、地下地図、恐竜化した『オール・アロング・ウォッチタワー』一枚
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
    ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2、カイロ警察の拳銃(6/6) 、シュトロハイムの足を断ち切った斧
    ランダム支給品11〜27、全て確認済み
   (ディエゴ、ンドゥ―ル、ウェカピポ、ジョナサン、アダムス、ジョセフ、エリナ、承太郎、花京院、
    犬好きの子供、仗助、徐倫、F・F、アナスイ、ブラックモア、織笠花恵)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰り、得られるものは病気以外ならなんでも得る
1.ムーロロを利用して遺体を全て手に入れる。
[備考]
※DIOから部下についての情報を聞きました。ブラフォード、大統領の事は話していません。
※教会地下に散乱していた支給品は全てディエゴが『奪い』ジョニィは自分の持っていた道具以外何も手にしていません。
※ディエゴが本来ルーシーの監視に付けていた恐竜一匹が現在ディエゴの手元にいます。

【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』(手元には半分のみ)
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降
[状態]:健康
[装備]:トランプセット、フロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)、予備弾薬15発×2セット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ、無数の紙、図画工作セット、川尻家のコーヒーメーカーセット、地下地図、遺体の脊椎、角砂糖、
    不明支給品(2〜10、全て確認済み、遺体はありません)
[思考・状況]
基本行動方針:自分が有利になるよう動く
1.ディエゴを利用して遺体を揃えるた。ディエゴだってその気になればいつでも殺せる……のだろうか。
2.琢馬を手駒として引き留めておきたい?
[備考]
※現在、亀の中に残っているカードはスペード、クラブのみの計26枚です。
 会場内の探索はハートとダイヤのみで行っています。 それゆえに探索能力はこれまでの半分程に落ちています。
※支給品二つの中身はフロリダ州警察の拳銃(ベレッタ92D 弾数:15/15)と予備弾薬15発×2セットでした。


【蓮見琢馬】
[スタンド]:『記憶を本に記録するスタンド能力』
[時間軸]:千帆の書いた小説を図書館で読んでいた途中
[状態]:健康、精神的動揺(大)
[装備]:遺体の右手、自動拳銃、アヌビス神
[道具]:基本支給品×3(食料1、水ボトル半分消費)、双葉家の包丁、承太郎のタバコ(17/20)&ライター、SPWの杖、
    不明支給品2〜3(リサリサ1/照彦1or2:確認済み、遺体はありません) 救急用医療品、多量のメモ用紙、小説の原案メモ
[思考・状況]
基本行動方針:他人に頼ることなく生き残る。
0.???
1.自分の罪にどう向き合えばいいのかわからない。
[備考]
※参戦時期の関係上、琢馬のスタンドには未だ名前がありません。
※琢馬はホール内で岸辺露伴、トニオ・トラサルディー、虹村形兆、ウィルソン・フィリップスの顔を確認しました。
 また、その他の名前を知らない周囲の人物の顔も全て記憶しているため、出会ったら思い出すと思われます。
 また杜王町に滞在したことがある者や著名人ならば、直接接触したことが無くとも琢馬が知っている可能性はあります。
※ミスタ、ミキタカから彼らの仲間の情報を聞き出しました。
※スタンドに『銃で撃たれた記憶』が追加されました。右手の指が二本千切れかけ、大量に出血します。何かを持っていても確実に取り落とします。
 琢馬自身の傷は遺体を取り込んだことにより完治しています。

965キングとクイーンとジャックとジョーカー   ◆c.g94qO9.A:2016/02/15(月) 00:01:24 ID:N3B/iFSU
以上です。なにかあれば指摘ください。
仮投下の際、ご意見くださりありがとうございました。

966名無しさんは砕けない:2016/02/16(火) 17:54:31 ID:WDFPptww
お二方投下乙です。


>>To Heart

宮本選手ここにきてまさかのニアミイイィィィスッッッ!!どうしてそこで間違ってしまったのかっ!!
『ジョジョ』から派生する勘違いがここまで転がってくるとは………まさしく死の崖へと突っ走ってる宮本、首輪の吉良爆弾といい本人から見えないフラグが立ちすぎて笑うしかない。
シーザーイギーコンビもイギーの鼻を頼るくらいしか追跡の手段がほぼない(といっても相手はバイクだからなあ)のでどうしようもない。
一応メッセージはあるが……?
シーザーではないと知られたらそれこそ肉盾ぐらいしか役に立たないと判断されてもおかしくないフーゴ、絶対絶命………!いやすでに死にかけてるけど



>>キングとクイーンとジャックとジョーカー

このキザというか超皮肉が効いてる下卑てたり殺伐としてたりする洒落たやり取りが何回も読み返すくらい最高に好きです。
まあこいつらが仲良しこよしするわけないっていう。ジョニィが上手いこと切り抜けてくれたけど、遺体の中心にジョースターがいる……?なにやら意味深な発言。何に気付いたのやら、あとセッコが妙に癒し系
(ここの逃がしてもらったけど危ない目にあったからジョニィにビンタするルーシーが「ああ、女の子だあ」とホッコリした。)
一回読んで最初から見直してみるとスタンド憑いてるトランプ配ってたり実は遺体持ってる琢馬から他の連中の注意を逸らしてたりと何気にムーロロが一枚上手だった!流石は恥知らず、どこまでも引っ掻き回してくれる
DIOからDioへとさらっと乗り換え手を組む二人、不穏組がまた一つ増えた……

967 ◆HAShplmU36:2016/02/17(水) 02:26:47 ID:A0R6iUjY
皆様本投下乙です。

unravel
ジョースター一のお調子者のジョセフが抱える激しい後悔と苦悩。DIOとの戦いで失ったものの大きさがひしひしと伝わってきます。
今ロワのジョルノはジョナサンやジョセフといった気遣ってくれる大人がいるせいか時折感傷的な描写も出てきていて、まだ少年なのだと気付かされます。
承太郎の心の痛みはジョセフも同じ。今はまだ前に進もうとしていますが、承太郎同様心が折れずにいられるのか…今後が気になります。
仮投下の際に指摘のあった改行についてもとても読みやすく改善されていると思いました。よかったら今後もたくさん書いてください。


To Hear
シーザー&イギーの鉄塔コントの影で突如発生したフーゴ誘拐事件!
破滅へ突っ走る少年と正体を隠した殺人鬼、カギを握るのは呪われたジンクスを持つ拡声器!?
…というのは冗談ですがコミカルな前半から一転、嫌な予感しかしない後半部分が今後の想像を大いに掻き立てます。
色々な目に合っているサヴェッジ・ガーデンがまた一羽活用されましたが、そういえば原作でもシーザーとハトは縁がありましたね。
散々利用された挙句にようやく立ち上がったと思うとどういう訳か全てが悪い方に転がってゆく宮本ですが
なんだかんだ生き残ってる辺り書き手の皆さんに歪んだ愛され方をしていますねw

私信になりますがセリフの引用の件、ご了承いただけましてありがとうございます。


キングとクイーンとジャックとジョーカー
全編にわたる皮肉と煽りの応酬がなんとも洗練されていて、それだけでも面白いのに水面下で交わされる攻撃と防御、
無事逃亡と思いきや見逃されただけのルーシー、ルーシーに鞍替えしたセッコにトリッシュとは違う地図を発現させた遺体などなど
全ての要素が絡み合い、一瞬たりともドキドキが途絶えることなく読み進めてしまいました。
カーズとは違う意味で危険なタッグが成立した一方遺体を取り込みながらもひとり時間が止まってしまったかのような琢馬。
このまま単独行動になるのか、この状態もムーロロの計算の内なのか、どう動くかが気になります。

968かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:08:49 ID:9iSIMCA.
虫の音も聞こえない夜、ボルケーゼ公園の芝生の上でカリカリと万年筆のペン先が紙を掻く音だけが響いていた。
千帆ではなくプロシュートが、あの戦いの顛末を書き留めている。
胡坐をかいて熱心に書き込んでいる後ろ姿は、両親の離婚が決まったあの日、夜通し書き続けた自分とどこか似ている。
そう思うと声を掛けるのも躊躇われた千帆は少し離れたところで何をする訳でもなくぶらぶらとしてみる。

いつの間にか指先の痛みが無くなっていたのに気付いて包帯を外すと、傷は跡形もなくなっていた。
おそらく育朗が癒してくれたのだとプロシュートが言っていた。彼が今日一日で負った傷もすっかり消えているそうだ。

(それでも)

文字を書く音、血の臭い、バイクの上で感じた風、夕焼けの赤。五感と記憶は密接に繋がっている。
千帆は繰り返し指の痛みを思い出した。ワムウのくれた言葉を、表情を心に焼き付ける為に……




◆ ◆ ◆




今の自分の精神状態は確実に普通ではないのだろう。
書いても書いてもペンは止まらない。文字と言う形で現出した記憶がフラッシュバックを引き起こす。
育朗の反吐が出そうな甘さと踏み入る事の出来ない領域の強さ、安らかな死に顔。
書くほどに心が仄暗い水の底へと沈んでゆき、濡れて張り付いた服のように不快感がまとわりつく。
この重苦しさは何なんだ。心臓が身体中へと腐れた毒を送り込んでいるのか?
脈絡のない悪寒に思わず胸ぐらを掴む。

(こんな俺を見て、あいつ等ならどうしただろうか。なんて言うだろうか)

仲間との過去に向かう意識を、ふと背中に感じた柔らかさが引き留めた。背中合わせに千帆が座り込んできたようだ。
甘えんなと言おうとしたはずなのに口から言葉が出てこない。

「文章を書いてる時って夢中になっちゃうから、いい気分転換になりますよね」
「俺はそうでもない」

育朗は死んだ。仲間でも何でもない奴だった。
だから事実だけを簡潔に書いてしまえば一ページで済むはずなのに、そうする気になれなくてダラダラ書いている。
そんな『らしくない』自分自身が気に入らない。何故なのかわからないのが尚更不快で仕方がない。

「ワムウさんと橋沢さんの闘いを最後まで見届けますって言ったのに、また後悔が一つ増えちゃいました」
「お前のせいじゃねえだろ。俺が見届けたしこうして書いている」
「ですよね。プロシュートさんのおかげであの二人の物語が完結します」

すこしだけ間が開く。

969かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:09:39 ID:9iSIMCA.
「正直言って私にはあの二人の覚悟も生き方も、肝心なところはきっと理解できていないんだと思います。
 だから完成した小説をたくさんの人が読んでくれて、その中の誰かの心に伝わって……繋がってくれたら
 ……素敵だと思いませんか?」

あ、と声を出しそうになったのを紙一重で堪えた。
不安だったのだ。ワムウと育朗の死に際に勢いで言ってしまった繋ぐという言葉をどう実行していいかわからなかった。
あの闘いを見たせいか言葉に伴う責任を果たせないかもしれない可能性が高いという現実を嫌でも意識し、
それを拭ってしまいたくて、どうなる訳でもないのに必要以上に言葉を連ねていたのだ。
そんなプロシュートに私達が生き残ればの話ですがと千帆が笑って付け加える。

「小説にするのは私の役割です。だからプロシュートさんは私達が生き残る事に力を注いでください。
 ふたりで生き残って、繋ぎましょう」

いつの間にか人の心まで観察しやがって。
心が感じていた重苦しさは悪態と一緒に気恥ずかしいような居心地の悪さに変わり、夜に相応しい穏やかな静けさが戻ってくる。

「気持ちが落ち込んだり迷った時はお互い少しくらい甘えてもいいと思います。仲間なんですから。
 だから今くらいは背中、預けてくれてもいいですよ」


人の心を探り、偵い、進む道はそこにあるのだとそっと教えてくれるような……優しさもまたひとつの力なのだろう。


「俺が書き終わるまでだ」


前屈みの姿勢を正すと仲間の小さな背中がプロシュートの背中の輪郭にすっぽり収まる。
温かい血液が指先に巡るのをしっかりと感じると、今度こそ力強く物語を綴る音が月夜に心地よく響き始めた。




◆ ◆ ◆




月が雲に隠れ暗闇が辺りを覆った頃、カチリと万年筆にキャップが被せられたのと木陰から男が現れたのはほぼ同時だった。
わざとらしく植え込みに足を突っ込んで音を立て存在を主張すると、認識されたことを確認するや否や東の方向へ走ってゆく。
が、全速力でもない。明らかに二人を誘っていた。

「追うぞ。見た顔だ」

970かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:10:41 ID:9iSIMCA.
プロシュートは即断すると装填しておいたベレッタを構えて走り出す。千帆もあわてて後ろをついてくる。
そのまま公園の出口へと向かっていく男だったが……おかしい、あんな所に『行けるはずがない』
知らないのか? その先は――――

「止まりやがれ! その先は禁止区域だ!!」

とっくに禁止区域に指定されていたA-7に向かって迷いなく走ってゆく男がさらにスピードを上げる。
足を撃ってでも止めるか? いや走りながら撃って出鱈目なところに命中しても困る。
そんなプロシュートの迷いを見透かしたように男は急に立ち止まると両手を軽く上げてこちらに向き直った。
プロシュートもその場で止まる。やはり見た顔だ。つい数時間前にダービーズカフェに現れ、去って行った少年……






「こんばんはプロシュートさん、双葉千帆さん。僕の名は宮本輝之輔……時間がないので事実だけを簡潔に述べますと、
 僕はあなたが会ったのとは違う、主催側の人間です。そして大統領を裏切りました」






やっと追いついた千帆の荒い息使いが一瞬で止まる。
無理もない、見た目の年齢にそぐわない落ち着き払った目の前の少年の突拍子の無い言葉を信じなければならない証拠が既に提示されていたのだから。

「首輪が……無い……?」

しかし流石はプロシュート、放送前と全く印象の違うこの少年を簡単に信用などしない。
自分もマグナムを取り出そうとしてポケットで引っかかりもたもたしている千帆にゲンコツ一発、背中に隠すと
冷静に尋問を始める。

「お前のその首、それがスタンドによる目くらましでない証拠を出せ」
「僕のスタンド名は『エニグマ』。能力はこれです」

ポケットから手のひらサイズの板状の機械らしきものを取り出し、

パタパタ、パタン!

『紙に仕舞う』とその場でもう一度開き、取り出して見せる。それを二度三度と繰り返す。
自分たちが見てきた支給品の紙となんら変わりない。

971かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:11:25 ID:9iSIMCA.
「理解した。その能力なら主催側にいる理由も納得できる。なら俺が見たお前は何だ? 何故参加者になっている」
「大統領のスタンドは別次元から物や人間を連れてこられます。今回のゲームへの協力を強制され、抵抗した際に何人かの『僕』を
 目の前で殺されました。観念した時点で一人余ってただけです。
 ちなみにあっちの僕は意識が無かったからこの辺りの事情は知りませんよ」

別に知ったこっちゃないが悲惨な参加理由だ。
要するに自分が見たのは本来主催側に一人だけ存在する宮本の複製、いや、あちらも本物か。
同一人物が二人存在しているというのはややこしい話だが大統領の能力がそういうものならとりあえず辻褄が合う。
同時に二人が並んでいるのを見ない事にはまだ100%信じる事はできないが、少しでも情報が欲しいというのも事実。

「真偽は私達で判断します。情報をください」

言ってからこっちを窺うんじゃねえよ。最初からそのつもりだ。
もう一発軽めのゲンコツを食らわせてからメモの準備をさせると宮本に目で促す。

「その気になってくれて何よりです。さて本当に時間がありません、とりあえず銃下ろして貰えますか?」
「断る。お前の話が100%真実だったとしてもそれとこれは別だ」
「これだからギャングは……はいはいすいませんごめんなさい、まずこれを見てください」

先程出し入れした板状の機械にせわしなく親指を滑らせるとこちらに放り投げてくる。
指示される通り下部の○部分を押すと画像が現れた。簡単な地図とその上に点在するマークは生存している参加者だそうだ。
現時点で周辺には誰もいない。サン・ジョルジョ・マジョーレ教会を中心とした数エリアにほとんど集中している。
さらに現在位置を拡大すると宮本の位置はやはり狙ったように禁止エリアギリギリだ。

「首輪の役割は発信機と集音機、そして周辺のカメラを起動するスイッチでもあります。
 その端末では見えませんが本部では映像で監視しています。今のあなた達は最低20個近くのカメラに囲まれてますよ」

やはりこの会場はゲームのためだけに設えたものだそうだ。
参加者の移動に合わせて首輪が出す電波を感知した極小カメラがその都度撮影、送られた高画質映像を好きなアングルに
切り替え、好きにズームして見渡せる。ショーとして見る分には最高だ。上手く編集すれば映画にもできるだろう。
そこまで聞いて疑問が浮かぶ。なら今の状況は撮影されていないのか?

「千載一遇のチャンスでした。あの教会が派手に倒壊してくれた影響で張り巡らされたケーブルの
 いくつかが断線したり電力の供給機材が異常を起こして撮影できないスポットができたんです。
 多くはすぐに自動で復旧しましたが、いくつかの箇所は人が操作しなければなりません。今の僕みたいに」

幸い大統領の関心は教会周辺の動きに向いていて、会場の外れで明らかに休む場所を探しているだけの二人は
撮影不能のこの一帯に入り込んだ後も放置されていた。そこで他の箇所の復旧作業を行いつつ、接触してきたという宮本。
首輪については禁止区域に入ってもすぐ爆発しない事、大統領が設定したパスワードを本部で入力する以外の解除法は分からないと
役立つようで頼りない情報ばかりだ。

「この端末を渡せればいいんだけど、これが無いと本部に帰る事が出来ないんです」
「それだ。俺たちに必要なのはそういう情報なんだよ、本部の場所は? 行き方はどうなっている」
「本部は会場の外側、ローマ市内にはあるらしいんですが、窓もなければ外に出たことも無いので正確な位置はわかりません。
 会場と行き来するための場所がいくつかあります。でも現実的ではありませんよ」
「どうしてですか?」
「地図上に示してある施設でこの端末を使えば移動できます。けど侵入者対策として必ず一人づつ、
 さらに一度使うと五分は使えない仕様なんです」

ますますもって役に立たない情報だ。メモを取る千帆の眉も中心に寄ってきている。

「じゃあせめてこれが何なのか教えろ」

シャツをはだけて脈打つ心臓を露わにするプロシュート。それを見た宮本は……明らかに動揺した。

972かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:12:02 ID:9iSIMCA.
◆ ◆ ◆




「それ……は……遺体……」
「干からびてたんだからそうだろうよ。誰の遺体の一部だ」

プロシュートの問いに宮本は沈黙の後意を決したように口を開く。

「……そいつの正体は僕にもわからない。知ったところでたぶん意味などないんです。
 ただ言えるのは、そいつは『聖なるもの』なんかじゃない…………それだけはハッキリしてます。複数の参加者が
 これを集めようとしていますが、彼らは勘違いしている。騙されているんだ。だから全てが集まらないようスティールさんが
 こっそり隠した筈なのに……」
「トリニティ教会の地下シェルターで見つけたんです。隠したというより置いてあった感じでした」
「そうか……できればあなた達にはこれ以上遺体と接触しないでほしい。可能であれば見つけ次第処分してください。
 とにかく重要なのは、遺体は聖なるものではない。忘れないで下さい」

暑くも寒くもない会場に風が吹き、千帆が髪を直す間に宮本の崩れかけた表情は元に戻っていた。
宮本とプロシュートは互いに視線を外さない。


「お前に指示したのはスティールか……奴は裏切りがばれて殺されたようだが本部は今どういう状況だ」
「現在本部に居るのは僕と大統領の二人だけです。スティールさんと僕の他にも何人かが準備をさせられていましたが、
 オープニング直後に僕たち以外は全員消えてしまいました」
「なぜお前は消されていない」

端末をちらと見る宮本。時間が迫っているらしい。

「僕の能力で紙にした物は僕が死ぬと同時に紙ごと消滅します。だから大統領はまだ僕を殺せません」

それはまだ大統領にとって重要なものが支給品の中に紛れている事を意味している。
遺体だけかどうかはわかりませんけどと言いながら宮本はポケットから出した紙を開けて冊子を取り出すと千帆に渡す。
開いてみるとそこには参加者たちの顔写真にプロフィールが載っていた。

「これからですが、あなた方はジョニィ・ジョースターに接触してください。彼は大統領に一度勝利しています。
 僕はもうすこしシステムを調べ直してみます。機会があればまたこちらに来れればいいですが、あまり期待しないで下さい」
「検討する」

こうして一方的な情報提供は終わった。
時間が来たのでと去ろうとする宮本に千帆が初めて疑問をぶつける。

「宮本さんは……どうして大統領に逆らったりしたんですか?」
「ひとつはスティールさんの遺志だからです。あの人がいたから僕は絶望から救われたんだ」
「他にもあるんですか?」

雲が晴れ、三人の居る場所が月明かりに照らされる。
徐々に変わってゆく宮本の表情が苦しそうなものではあるが、それは彼の年齢相応の少年らしい顔だった。

973かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:12:52 ID:9iSIMCA.
「……スタンド使いになってこのかた、僕はいつだって誰かに利用されてばかりだ。
 写真のおやじに、アイツに、大統領に……僕はただの『アイテム』で用が済んだらもういらない便利な存在。
 けど僕は死にたくない! こんな所で殺されるのはまっぴらなんだよ!!」

思わず叫んでしまってから慌てて表情を元通り取り繕うが、一瞬間が空いてプロシュートがクックと笑って銃を降ろし、千帆もホッとした顔になる。
二人の様子に困惑する宮本。

「やっと出したな」
「は……?」
「その面だ。今の言葉には嘘はねぇみたいだし、お前の事を一応は信じといてやる」
「本当の気持ちを見せてくれてありがとうございます。また会えることを祈ってます」
「……どうも。じゃあ」


そうして今度こそ宮本は去っていった。




◆ ◆ ◆




「あーっ! まだ読んでないのに何するんですか!!」
「うるせえ帰ってから読め! お前こそなんだその大量の角砂糖は、太るぞ!」
「私じゃなくてセッコさん用の保険ですよーだ!」

公園を出た二人は付近の民家で先程の情報について語ることなく好き勝手に行動していた。
プロシュートが自分で書いた部分を読めないようホッチキスで留めてしまったせいで千帆が文句を垂れ、
千帆が無駄に大量の角砂糖をデイパックに詰めようとしてプロシュートが文句をつける。
騒がしいやり取りだが、一応大統領への目くらましの意味もあった。すでに公園で今後の方針は固めてある。

宮本が禁止エリアのA-7に悠々と去って行ったのを見た以上あの話は真実なのだろうが、彼の素の表情と本音は大統領を倒そうとする気持ちに偽りがないことを二人に信じさせた。
今後はジョニィに接触すべく彼がいるC-3方面を目指すが、その前に民家で準備を整える様子を大統領にフェイクで見せておこうという算段だ。

「でもこれ便利ですよね、『橋沢さんの支給品から出てきた』顔写真付き参加者名簿。この赤い印が危険人物、と」
「ああ、今のところカーズが最も危険だ」
「ジョニィさんにアナスイさん、セッコさん、兄さん……知った人が死んでいなくて良かったです」
「セッコは危険人物だろうが」
「それはそうなんですけど……危険だけど、善か悪かって言われたら迷うんですよね」
「ああいうのは性質が悪いってんだ。今度会ったら俺は殺すぞ」

答えの出ないやり取りを続け、曖昧なまま今後も人を探すと結論づける。
映像で監視されている事が分かった以上迂闊な動きはできないし筆談もできない。これだけだと八方ふさがりに見えるが、
いくら大統領とはいえ目と耳は二つずつしかない。参加者の動向の全てをリアルタイムに見て、聞くことは不可能だ。
宮本が言ったように今回自分たちは放置されていた。すなわち大統領は『映像を取捨選択しながら見ている』という事だ。
仲間にする人間はかなり慎重に選ぶ必要があるが、文字通り大統領の目を盗むことができれば勝機も見えてくる。
そうしていざ出発、という段になって千帆が思い出したようにつぶやいた。

974かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:14:23 ID:9iSIMCA.
「そういえば朝以降全然敵と戦ってないんですよね私達って。かなり幸運なことですけど」
「戦わずに済むならそれに越したことはない。血を流して正面からやり合うなんてのは本来最終手段だ」
「殺す……のが仕事なのにですか?」

そりゃただの殺人鬼だろうが。

「俺が戦うとして大きく分けると理由は三つある。任務として命じられた時。やらなきゃやられる時。そして……
 立ち向かわなければ誇りが失われる時だ」
「社会的、肉体的、精神的な理由ですね。私が小説を書くことで戦うのは……個人的な理由だし、どちらかといえば
 精神的な理由になるような気がします」

ああ、大統領の目的の考察か。今更の様な気もするがな。

「大統領に本当の意味での共犯者がいないって事は、動機が個人的なものだからのように思うんです。
 国のためだとか世界のためなら誰か賛同してくれる人がいるでしょうし」
「まあこの上誰かに命令されてるわきゃ無さそうだしな。で、社会的な線が消えたとしてその先はどう思う」
「……まだ考え中です」
「気長にやるんだな」



まだ夜は長い。





【B-4 民家/1日目 夜中】
【プロシュート】
[スタンド]:『グレイトフル・デッド』
[時間軸]:ネアポリス駅に張り込んでいた時
[状態]:健康、覚悟完了、戦士たちに感化された(?)
[装備]:ベレッタM92(15/15、予備弾薬 28/60)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾×2)、遺体の心臓
[道具]:基本支給品(水×6)、双眼鏡、応急処置セット、簡易治療器具、露伴のバイク、打ち上げ花火
    ゾンビ馬(消費:小)、ブラフォードの首輪、ワムウの首輪、 不明支給品1〜2、ワルサーP99(04/20、予備弾薬40)
[思考・状況]
基本行動方針:ターゲットの殺害と元の世界への帰還
1.大統領に悟られないようジョニィに接触する
2.育朗とワムウの遺志は俺たち二人で"繋ぐ"
3.残された暗殺チームの誇りを持ってターゲットは絶対に殺害する
※支給品を整理しました。基本支給品×3、大型スレッジ・ハンマーがB-4の民家に放置されています
 また育朗の支給品の内1つは開けた事になっていて、本物はプロシュートが隠し持っています


【双葉千帆】
[スタンド]:なし
[時間軸]:大神照彦を包丁で刺す直前
[状態]:健康、強い決意
[装備]:万年筆、スミスアンドウエスンM19・357マグナム(6/6)、予備弾薬(18/24)
[道具]:基本支給品、露伴の手紙、ノート、地下地図、応急処置セット(少量使用) 、顔写真付き参加者名簿、大量の角砂糖
[思考・状況]
基本行動方針:ノンフィクションではなく、小説を書く 。その為に参加者に取材をする
1.大統領に悟られないようジョニィに接触する
2.主催者の目的・動機を考察する
3.次に琢馬兄さんに会えたらちゃんと話をする
[ノートの内容]
プロシュート、千帆について:小説の原案メモ(173話 無粋 の時点までに書いたもの)を簡単に書き直したもの+現時点までの経緯
橋沢育朗について:原作〜176話 激闘 までの経緯
ワムウについて:柱の男と言う種族についてと152話 新・戦闘潮流 までの経緯
188話 風にかえる怪物たち のくだりはプロシュートが書きましたがホッチキスで留められて読めない状態です

支給品紹介
顔写真付き参加者名簿
ディアボロに支給。
参加者全員の顔写真と簡単なプロフィール、スタンド名のみが載っており
スタンド大辞典と合わせる事で参加者の情報が完全にわかる事になる。

ディアボロと一緒に会場外に流されたが、宮本(参加者でない)によって回収され双葉千帆に渡された。
危険人物には印がつけられており、他にも宮本による書き込みがあるかもしれません。

975かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:15:37 ID:9iSIMCA.
◆ ◆ ◆




「戻りました……と、やっぱり起きてたんですね。一時間って仮眠といえなくないですか?」
「君が帰ってくるギリギリまでは寝ていた。起きてから身支度に4分、録画分も含めてモニターのチェックを始めてからはまだ2分だ。
 頼んでおいた仕事は済んだのか」
「ええ。ブレーカーの復旧にカメラの設定確認。下流に引っ掛かってたDIOと……ディアボロの死体も回収しましたよ」

宮本は大統領の左側に回るとサイドテーブルに置かれた箱に紙を無造作に投げ入れた。
吉良の時のような演出をする必要のないモニタールームは温かみの無い光で万遍なく照らされている。
大統領はゲーム開始以降もっぱらここで映像を見ているだけで放送はスティールが、システムの維持管理および雑務は宮本が担当していた。
どこから持ってきたのか、無機質な部屋に似つかわしくない肘掛椅子に合わせたオットマンに足を乗せた大統領がご苦労、と一言労う。

「死にたてのDIOはともかくディアボロは今更勘弁して下さいよ、何かに使うんですか?」
「使いたくなるかもしれんから念の為にな。他の死体も必要があれば回収してもらうかもしれん」

ええ……とゲッソリした顔の宮本を尻目に大統領は涼しい顔だ。

「機械関係については君の方が理解が深くて助かる。私があちらに行くわけにはいかないからな」
「原理は知らなくてもテレビゲームやインターネットはできますからね。間違えたら爆発するわけでもなし、
 ボタンの配置で操作は大体見当つきますよ」

会場全体で軽く数十万以上あるだろう監視カメラを統括する設備も、操作自体は少ないスタッフで円滑に行えるよう
限りなく簡略化されていて、宮本に渡されたのはノート一冊にも満たない簡素な説明書だけだったがそれでも十分だった。
外に持ちだして使っているモバイル端末も説明書無しで直感的に操作できたくらいだ。

(とはいえ大統領も拙いながら監視システムを使いこなしている。時間が経つほど僕が不利になるか……?)

時代と言うアドバンテージがあれども所詮は素人。宮本には壊れたゲーム機を直す技術もなければ
ウイルスを作成する知識もない。このままシステムの裏をかけないと先程のような現場に行けるチャンスはもうないかもしれない。


「君ならば万一参加者と接触してもごまかしが効くしな」

……カマかけだとしたら確証を持っていない証拠だ。
そうですねと無難に答えたが、大統領はそれ以上特に追及もしてこない。


「なあ宮本、通常誰にでも自然に備わっている感情である恐怖だが、何に対して最も抱きやすいと思う?」
「愚問ですね。生物は『未知』に対して本能的に恐怖を感じるようにできています」

宮本が最も熟知していることだ。
いつもの日常に突如不気味な来訪者が訪れる。有りえないと思っていた事が目の前で起こる。圧倒的な強者が立ちはだかる。
それによって未来の予測が限りなく不可能な状態に陥った時に人は恐怖を感じ、先に進もうとする意志を失ってしまう。

「突き詰めれば『この先どうなるかわからない』という不安が極大化したものが恐怖だと言えるな」

だから人は恐怖を感じた時、多くの場合自らを安心させようと本能的に行動を起こす。安全な場所への退避もそうだし
精神的な安定を取り戻そうと特定の行動を取ったり、現実逃避を図る。どれも原理は同じだ。

976かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:17:17 ID:9iSIMCA.
「かと言って確実な未来が分かれば安心が訪れるかと言えばそうでもない。不幸や理不尽が起こると分かっていて
 覚悟し立ち向かえる人間の方が稀だ。パンドラの箱からエルピスを解き放っても絶望という病が蔓延するだけだろう」

エルピス……予知だとか予兆だったか。
あの神父の思想は大統領のお気に召さなかったらしい。

「未知への恐怖を克服するだけなら経験を積み精神を鍛え、備えを怠らなければ良い。
 その一方克服しようのない恐怖として、『無限』というものは何よりも怖ろしいことだと私は思っている」
「終わりがない……僕には想像のつかない領域ですが、結果や結論に辿り着けない事が決定してるのは恐怖を通り越して考えるのをやめたくなりますね」
「まったくだ。ならば、無限という地獄から脱するためには何が必要だろうか」
「さあ?」


見当がつかないのは本当なので適当に返したが、普段仕事の指示くらいしかしてこない大統領が
今更言葉遊びを持ちかけてくるはずも無い。慎重に次の言葉を待つ。




「奇跡だよ」





◆ ◆ ◆




はじめに奴にとっての奇跡が起きた。
無限に存在する並行世界のどこかで行われる直前のバトルロワイヤル……絶望に支配されていた奴が迷い込んだ私を見つけた。

次に私にとっての奇跡が起きた。
本来の私は無限の回転に引きずられ戻ってしまったが、奴が毛色の違う私に興味を抱きD4Cごと複製してくれた。
その後オリジナルは基本世界で死亡し、私が真実『基本のファニー・ヴァレンタイン』となった。



「そこからは断片的に知ってますよ。いち参加者だったはずのあなたがいつの間にか人を集めてこの本部に乗り込み、
 奴を殺してバラバラにして燃やして……そこらに放り投げた」


「そして私はこのバトル・ロワイヤルを所有した」


「そしてあなたは奴の『遺体』を支給品としてばら撒いた」


「そして参加者たちは争って『遺体』を集める。私の為に」

977かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:19:52 ID:9iSIMCA.
◆ ◆ ◆




「奴が『聖なる者』だったとでも!?」
「宮本、君は根本的な事をはき違えている。君にとって聖なる者と邪悪なる者の境目はどこだ?
 幸福をもたらすか不幸をもたらすかで言うならそれらは表裏一体、世界の幸福と不幸は神の視点では釣り合っている」
「もし奇跡が起きて奴が生き返りでもしたらそれこそどうするんですか……」
「死は単なる事象ではなく救いだ。己の未来を代償に全ての恐怖から解き放ってくれる。『勝者になれない』というエルピスの毒に
 侵されていた奴は最後には死を受け入れた。あの方もついに蘇りはしなかったし、奴もそうはならないだろう」

そのセリフに宮本は違和感を感じた。
一度倒したという自負もあるのだろうが、思えば大統領の発言には終着点を自分でも予想できていない節がある。

「では僕からの質問です。オリジナルが死んで消滅の心配がないなら何故あなたは基本世界とやらに戻らなかったんですか。
 あそこには揃った『聖なる遺体』があるというじゃないですか。
 奴と同じ様に参加者に殺される危険に身を晒してまでこのゲームで得るものとは何なのですか?」

歴史は繰り返されるとはよく言ったもので、奪ったものは奪われる。よくある話だ。
大統領はあの吸血鬼みたいに自分だけは大丈夫と高をくくって相手を侮った挙句やられた様なやつとは違う。
どこの世界でもまた一からのし上がれるだけの才覚があるのだから、こんな事に手を染めず
社会の中で生きて行けばいいのにと思うのは宮本が凡人の範疇を出ないからだろうか?

「私は二度と基本世界に戻るつもりはない。『私』はあの世界をディエゴ・ブランドーに託し、自らの正義に殉じた。
 決着のついた事を覆しに戻るような恥知らずな真似はできないな」

キャプチャーした画像を拡大すると遺体を持った参加者の姿が各モニターに映し出されてゆく。

ルーシー・スティール
ジョニィ・ジョースター
ディエゴ・ブランドー
プロシュート
トリッシュ
カンノーロ・ムーロロ
蓮見琢馬
カーズ

「私が得ようとしているものや目的は当然言えないが、この世の真理として、事を起こす際には必ず対価が必要になる。
 聖なるものですら代償を支払わねば大きな奇跡は起こせなかったのだからな。
 地位や名誉、持てるものは全て彼方へ過ぎ去り、もはや差し出せるものは命以外なにも無い身だが
 私はこの世界で奇跡を起こしてみせる。それだけの価値がこのバトル・ロワイヤルにはあるのだ……!!」


そうだ、その目だ。
大統領、いやファニー・ヴァレンタインという男の目には希望と覚悟、そして犠牲を躊躇しない漆黒の意志が燃え盛っていた。
時折見せるあの誇り高く熱い眼差しを見るたび宮本の心は否応なくざわつき、焦がれてしまいそうになる。


(だが決して近づき過ぎてはならないよ宮本君。あれは誘蛾灯だ)


スティールは最後まで彼を悪だと断じなかった。
彼のやったことを見てきた筈なのに、これほどの目にも合わされているというのに尚不思議な事に宮本も彼を純粋な悪だと思えない。
だからこそ強い意志を持って抗わなければならないと何度も何度もスティールは念を押してきた。
今思えばあれは自らに言い聞かせていたのだろうか。
自分がこの先呑み込まれないようにするには――――支払うべき代償は―――――――

978かつて運命になろうとした『あの方』へ ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:22:51 ID:9iSIMCA.
「抗いますよ、僕は」
「抗えばいい、君も私も含めて全ては流れだ。不要なものは淘汰され、あるべき場所に収束する」



きっぱりと敵対する意思を宣言すると、モニターを見つめる大統領に背を向けて宮本は背筋を伸ばし歩き出す。
監視カメラに転送装置、位置確認システム。マニュアルと実践で既に舞台装置の仕組みそのものはほぼ把握した。
悔しいが支給品の事があるといっても仕事を放棄して殺されるわけにはいかないので今はまだ命令に従おう。
次はいかに大統領の目を盗んでシステムの中枢……首輪や禁止区域の設定に踏み込むかだ。
できるなら他の参加者にも情報を送りたいが、とりあえず今はあの二人との繋がりを死守しなければ。

怖かった。前のゲームの時から自分は与えられた仕事をする以外紙に引きこもっていた。
何も見ず何も聞かず、それで嵐が過ぎ去る訳がないのはわかりきっていたのに現実逃避していたのだ。
だから自分と言う杯が右から左に渡ったときも、今思えば大統領からは抵抗どころか駄々をこねたようにしか見えなかっただろう。
最後には恐怖に支配されるまま首を縦に振るしかなかった。
そんな弱くて醜い自分に辛抱強く語りかけ、諭してくれたスティールはスタンドなど無くとも間違いなく自分より強かった。
彼が大統領に立ち向かっていった道はきっと光り輝いていたのだろう。


(僕の進む道は……デコボコですぐつまづいて……崖に向かってても気付かないくらい暗かったんだ。今までは)


目の前でスティールが死んだ瞬間、その光は宮本に受け継がれた。


(今は違う。スティールさんが照らしてくれた道はデコボコどころか穴だらけ、歩ける場所すら僅かだったけど、
 僕はひとりじゃない……だから――――やるだけやってやるッ!!)





【??(バトル・ロワイヤル本部)/1日目 夜中】
【宮本輝之輔(参加者でない)】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助を紙にした直後
[状態]:健康。黄金の精神
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:スティールの遺志を受け継ぎ、参加者が大統領を倒すサポートをする
1.システムを探り、首輪の解除や本部までの道を開く方法を探す
2.隙を見て会場に行き、情報を伝える
※宮本が死亡した場合、支給品の紙は中身ごと全て消滅します



◆ ◆ ◆





ひとりモニターを見つめ続けるファニー・ヴァレンタイン。

(スティーブン・スティール……まさかお前があんな刺客を用意していたとはな)

第3回放送時、いつもは紙に籠るばかりの宮本が珍しくついてきていた時点で何か企んでいるとは思っていたが、
スティールを殺しても折れるどころか遂に敵対宣言までしてきた。よくぞあそこまで育てたものだと心の中で賞賛を送る。
仮眠の最中仕事を頼んでおいたが、たぶん誰かと接触しているだろう。が、それならそれでいい。それもまた流れなのだから。
重要なのは誰が敵だとか味方とかではない。なにが自分にとって『吉なるもの』かだ。


エルメェス
シーラE
トリッシュ
ルーシー・スティール


「やはり、良い具合に淘汰されている……」

画像が間を開けて切り替わってゆく。
そして最後に映し出されたプロシュートの画像が少しずつ横にずれてゆき……





「双葉 千帆……」





―――ぷつん、と電源が落とされた。

979 ◆HAShplmU36:2016/02/23(火) 23:26:34 ID:9iSIMCA.
以上です。
仮投下から表現の微修正、支給品紹介と宮本の状態表を修正しました。
それではまた次作で。

980名無しさんは砕けない:2016/02/24(水) 23:38:33 ID:Od.csS7A
投下乙です

奥さんも参戦させられてるのに宮本を気遣えたスティール氏の優しさよ
大統領が求めてるのは母胎?

981名無しさんは砕けない:2016/02/28(日) 22:06:47 ID:tsGjPlqw
遅くなりましたが投下乙です。
遺体の真相で随分と議論もありましたが、読んでいて次の展開に期待したくなるのは間違いありません。
書き手の皆様のハードルは上がると思いますが、ワクワクしながら待っております!

982名無しさんは砕けない:2016/03/15(火) 23:21:44 ID:YlimySSM
集計者様いつも乙です
月報失礼します

話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
195話(+7) 25/150 (-2) 16.7 (-1.3)

983名無しさんは砕けない:2016/03/30(水) 04:38:27 ID:nY7tGbj.
埋め開始
・・・で良いんだよな?

984名無しさんは砕けない:2016/03/30(水) 20:57:27 ID:aaxqn1Io
延長きたけどオレも埋めるぜ!
いろいろあってな環境変わるだろうけどみんながんばろうぜ!
このロワが盛り上がっていくように願ってるぜ!あばよ!

985名無しさんは砕けない:2016/03/30(水) 22:43:49 ID:hq201tGI
こいつは既に「前スレ」だッ!
滅びた都市、過去の記憶と同じこと
去りゆくもの、散りゆくものには、しがみ付いていちゃあいけないんだッ!

986名無しさんは砕けない:2016/03/31(木) 19:10:27 ID:p/wLlBMk
ムーディー・ブルース!>>1から再生するんだ!

987名無しさんは砕けない:2016/03/31(木) 23:54:32 ID:ng8sYdu.
埋めるんだよォォォーーーーーッ

988名無しさんは砕けない:2016/04/01(金) 11:07:26 ID:nzyE7QYc
「埋める」と心の中で思ったのならッ!

989名無しさんは砕けない:2016/04/01(金) 19:31:48 ID:xCOws63U
埋めた

990名無しさんは砕けない:2016/04/03(日) 19:09:18 ID:TRhYn196
お前は次に 埋め という

991名無しさんは砕けない:2016/04/03(日) 20:28:49 ID:JGb9k4RI
埋め
ハッ!?

992名無しさんは砕けない:2016/04/04(月) 08:48:23 ID:oJyKxIEs
逆に考えるんだ。埋めるだけなのにこんなスローペースになっちゃってもいいやと・・・

993 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:33:42 ID:LDnjk14k
遅れました、すみません。
とりあえず埋める意味もこめてこっちに投下します。

994 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:34:24 ID:LDnjk14k
恐竜に追われること早十数分。奴らは文字通り、蛇のようにしつこかった。
襲いかかってくるようならば返り討ちにしてみせる。だらだら追いかけるようなら一気に加速して振り切ってみせる。
だが恐竜たちは姑息で、賢く、狼のように統率の採れた集団だった。プロシュートと千帆の乗ったバイクを追いかけて、回り込んで―――とにかくうっとおしかった。プロシュートがいらいらを表情に出さないようにするのに苦労するほどだった。

サイドミラーの中で三匹のうち、二匹が細い路地裏へと飛び込んだ。プロシュートは頭の中で地図を思い描いた。西への逃げ道を塞ごうって魂胆らしい。
以前ギアは3にいれたままで、速度計は40キロに届くか届かないかをさまよっている。プロシュートは顔をしかめ、もどかしい思いをアクセルに変えた。
いい加減追いかけっこにはうんざりした頃だった。


「あっ」


ヘルメット越しに千帆がくぐもったつぶやきを漏らした。同時にプロシュートはバイクのハンドルを右に切ろうとして―――間に合わない、と思った。
路地裏から突然身を投げ出した小柄な男の体にバイクが迫る。プロシュートは三人全員が無傷でいられることを諦めた。中でも一番優先順位の低かったのは、ようやく馴染み始めたバイクそのものだった。
バイクすべてをめちゃくちゃにする必用はなく、そうする時間もパワーも足りなかった。右ハンドルを思い切り握り、前輪を止めた。二人の体が前に投げ出されると同時にバイクの横っ面に一撃をぶちかました。

「『グレイトフル・デッド』!」

金属がひしゃげる音、息を呑む音―――宙に投げ出され、ぐるりと世界が大きく回った。頭上の街灯が空を横切り、目の中でアーチを描いた。
千帆を抱きかかえるようにかばい、スタンドで着陸の衝撃を和らげた。かばいきれなかった左肩に大きな傷みが走り、プロシュートの息が止まった。

衝撃の余韻が道路の端々に広がっていた。
横っ面に投げ出されたバイクは歩道をフラフラとさまよったあと、力なく民家に激突した。
空に向かってかしあげられたタイヤが風車のように大きく回っていた。
エンジンの熱がむわっとアスファルトを撫で、痛む体にじわじわと染みこんだ。

「立てるか?」
「……だいじょうぶ、です」

千帆に傷はなかった。ヘルメット越しに目を白黒させながら、必死に冷静さを取り戻そうとしていた。プロシュートは頷くとそのまま伏せていろ、と小さく言った。
腰を落としたまま振り返り、跳ね飛ばしかけた男の影に目を向けた。影は路地裏に体半分入れたまま、こちらをじっと見つめていた。あちらにも怪我はないようだった。影はこちらの安否を気遣うでもなく、大声で悪態をつくでもなく、惑わしげに体を揺らしていた。

プロシュートは千帆に合図を出し、ついてくるように指示を出す。
千帆は慣れない様子で拳銃を取り出すと、それを両手で握り締め、背後を警戒しながらプロシュートの背中に張り付いた。
プロシュートの中では怒りが渦巻いてた。それは突然飛び出してきた男への怒りでもあったが、どちらかといえば自分のマヌケ具合に向けられた怒りだった。

運転に100%集中できていたか? ノー。周りへの警戒を100%怠っていなかったか? ノー。 遺体の気配に気を取られていなかったか? ノー。
宮本と名乗る少年がもたらした情報が常に目の端でちらついていた。情報不足の中、いくら考えても結論は出ないとわかっていたはずなのに、現状戦力も情報も足りなさすぎるという杞憂がプロシュートの判断をにぶらした。
これで『足』も失った。抱えるのは傷ひとつつけたくない妹分と拳銃二丁、残るは育朗が残した『甘ったれ精神』だ。

995 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:35:00 ID:LDnjk14k
最も捨て去るべきものがプロシュートの足を絡みとり、そして今不安要素となって現れた。
プロシュートは甘く生き慣れていない。これまでずっと苦味と痛みだけが信用できると言い続けてきたのだ。そう簡単には変われない。


怒りがプロシュートの足を早めた。最後の十歩を大股で詰め寄ると、男の胸ぐらをつかみ、光の中にさらけ出した。
後ろで千帆が止めるように何かを言ったが、言葉もなく背中で黙らした。プロシュートは顔に傷がついた、チンピラ風情の男の体を揺らした。
その目が恐怖で大きく開かれた。震える体にさらにムチを叩き込むように、プロシュートはその襟首を掴むとひねり上げた。


「いいか、二秒だけやる。質問に答えろ。イエスもノーも要求しちゃいねェ。これはれっきとした事実になる。そうだろ、エエ?」


手触りがやけに軽く、柔らかいことが気になったがプロシュートは尋問を進めた。スタンドを呼び出すと男が腕の中で小さくうめいたのが聞こえた。

「名前は?」
「こ、小林玉美」
「仲間は?」
「ほかに二人……近くにいる。多分ここから見える範囲に」

プロシュートは腕の力を強めた。手の中に収まった襟首が締まり、玉美の呼吸を乱す……はずだったが、奇妙な広がりが代わりに手を覆った。
隣で千帆が息を飲んだ。玉美の首はプロシュートが予期したより、強く曲がってしまっていた。その首はまるでゴムのように柔かく、ねじ曲がった。
千帆の目の中で怯えが揺らいだ。衝撃と罪悪が二人を覆った。首を曲げたまま、死んだはずの男が呟いた。


「『ザ・ロック』……発動したってことは、アンタたちは信用できる……ってことだなァ〜〜〜!」
「てめェ、スタンド使い……ッ!」
「お、重い……ッ!」


千帆は『罪の重み』に耐え切れず、その場に膝をつきかけた。プロシュートはグレイトフル・デッドを傍らに呼び出し、その拳を玉美に叩き込んだ。
玉美の体はゴムまりのようにはずみ、対面の民家の窓を突き破った。砕かれた窓に血はついていなかった。プロシュートは自分たちがハメられたことにようやく気がついた。
バイクの前に身を投げ出したのも、姿を隠さなかったことも、こうして尋問されることも計算内。
玉美の言葉は真実だった。協力者が二人いる。千帆にスタンド攻撃を仕掛けたもの、玉美の体にスタンド能力を発動させたもの、プロシュートたちの接近を感知したもの。


(野郎……うかつだった! マンモーニだったのは……ほかでもない、この俺だッ!)


足を失い、千帆は動けない。あたりがざわつく雰囲気をプロシュートは感じた。もはや問答無用だった。
怒りを沈め、プロシュートはスイッチを入れるため、一瞬だけ目をつむった。
そして、プロシュートが目を開き、その瞳が街灯の光を移さないほど暗くなったとき―――辺り一面を紫色の煙がおおった。

「いいか、千帆……これは俺が『勝手』にやることだ。てめェの敵だとか、貸し借りだとか、そんなものはどうでもいい。
 俺が俺の納得と怒りを鎮めるために、俺は今からやる……! 止めたとしても無駄だぜ……、いいなッ!」
「プロ、シュート……さん」
「『グレイトフル・デッド』! 半日ぶりの全力全開だッ! たっぷり浴びせかけてやれッ!」

996 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:35:37 ID:LDnjk14k


街灯の光が消える。頭上の月も星も消え去り、湿った空気が一斉に流れ込んだ。あたりは一面、陰気な雰囲気に包み込まれる。
直後―――東からも、西からも……周りの方向全てから鶏を絞め殺したような奇妙な鳴き声が聞こえた。
霞越しにフラフラと揺れる影が、二人に近寄り、少し離れた場所でどうっ、と音を立てて倒れた。最後に断末魔と痙攣を残して、その四本足は動くのをやめた。
千帆とプロシュートは影に近づいて、その死体を見下ろした。そこに横たわっていたのはチンピラではなく、小型のバイクほどある、一匹の恐竜だった。

「プロシュートさん、これって……?」

千帆にかけられたスタンドはまだ解けない。状況は複雑を極めていく。
わかっているだけで四人、この状況を引き起こしたスタンド使いがいる。プロシュートは一息吐くと、千帆の手をつかみ、杜王駅の方向へ向かって歩き出した。
今は逃げることが懸命だ。怒りは収まってはいないが、一発ぶちかまして頭が冷えた。全部自分の責任だ。今ならそう判断できる。

細い路地裏をゆっくりと駆けていく二人。
その二人の向こうからの光が突然途切れた。少し小柄な―――さっきよりは大きいから別の人間だ―――影が二人の足元まで伸びた。
千帆を庇うように後ろに隠し、プロシュートはポケットからベレッタを取り出した。銃口を向けるのと、女の声が聞こえてきたのは同時だった。


「待って!」


プロシュートは狙いをぴたりとつけたまま、自分が驚きのあまり銃を落とさなかったことに感心した。体は長年の習慣を忘れてはいなかったようだ。
覆った影で顔ははっきりとしない。だがプロシュートがその顔を見間違えることはありえなかった。
穴があくほど見つめたのだ。写真がすり切れるほどに見返して、焼き付けて―――何より絶対にやりとげるという覚悟があった。だから見間違えるはずがない。
目の前に立っているのは間違いない……ボスの娘、トリッシュ・ウナ。


「誤解させてしまったのは謝るわ……。でもアナタたちは『信頼できる』。その子の鍵がその証拠。だから力を貸して欲しい……ッ! 今、この状況を切り抜ける力が……ッ!」


遠く、西の方から馬の嘶きが聞こえた。背後で千帆が大きく、息を沈めるようように呼吸を繰り返した。プロシュートは拳銃のトリガーに指をかけた。
薄い皮膚の下で突然、遺体がうねるのがわかった。共鳴している。プロシュートは力でそれを押さえつけると、拳銃を握り直した。





997 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:36:35 ID:LDnjk14k
トランペットの音、力強い男性ボーカルの叫び、リズムを刻むドラム音。
誰だってじっとしてはいられない。膝を小刻みに揺らしていたが、ついには広いフロアに飛び出し、思うがままに体をくねらせた。
ムーロロはそんなディエゴの姿を煙越しに見つめた。咥えた紙タバコがジジジ……と音を立てて、口先で灰に変わっていった。

部屋はタバコの煙、アルコールの匂い、レコードが流す音楽の音でいっぱいだった。
ムーロロはワイングラスにタバコをつっこみ、また意味もなくタバコに火をつけた。ディエゴは変わらず踊り続けている。
曲が終わり、ムーディーな音楽に変わったところで、ディエゴはようやく満足したようだった。
ソファに放り投げた酒瓶を片手にムーロロのいるデスクに戻ってくる。瓶から直接酒を煽ろうとしたが既に空になっていた。ディエゴは唇を曲げ、瓶を放り投げた。ムーロロが代わりにデスクの上の瓶を差し出してやった。


「上機嫌だな」

ディエゴの顔色はいい。頬は上気し、目線は鋭さがぬけてとろん、としている。口元にはだらしない笑みが浮かべられていた。
酒を半分ほど煽ったディエゴは一息つき、意味もないニヤニヤ笑いを机越しによこした。
ムーロロはタバコを差し出すと、ディエゴが咥えたのを見てから、火をつけてやった。煙を溶かすように一瞬だけ火があたりを照らした。
ディエゴはゆっくりと煙を吸い、吸った時の倍の時間をかけて煙を吐き出した。ムーロロは顔にかけられた煙を手で払い、顔をしかめた。

「程々にしておいて欲しいもんだ」
「自分も楽しんでおきながらどの口が言うんだ、ええ?」
「俺はほとんど飲んでいやしない」

ムーロロが指さした先には半分ほど減ったグラスと、そこに突っ込まれた何本もの吸殻があった。
ディエゴは自分のタバコもそこに突っ込むと、椅子を傾け、二本足でバランスをとった。
前後に揺するたび、木製の椅子がきい、きい……と浅く鳴いた。いつの間にか音楽も止み、屋敷中にその鳴き声が伝わっていくようだった。


「祝い酒だ。二人の今後の発展を願って!」
「実務は俺だけに任せておいて、その言い草か?」

テーブルには酒とタバコに紛れて、二人の支給品とムーロロの用意した地図が置かれている。その脇には紙とハサミが置かれていた。その様子からついさっきまでムーロロが作業していたことが伺えた。
ディエゴは地図に目線をやった。七つの赤いバツ印、27つの白いコマ(几帳面な文字でそれぞれ名前が書かれている)―――ディエゴは指先で目元をこすると椅子に座り直す。ムーロロは共犯者がようやく会話をする気になったことにほっとした。邪魔なガラクタをどけて、立ち上がる。

「現在生存者は27名、そのうち殺し合いに乗り気なものは限られている。はっきりと打倒を目指している組はジョースター一族を中心に各地に分散していて……」
「その話、長くなりそうか?」

あくびを噛み殺し、ディエゴが呻いた。

「さっさと本題に入ろうじゃないか。もはや俺たちは殺し合いから『降りた』ことなんだしな」

首輪をつつきながらそう続けた。ムーロロは露骨に嫌な顔をすると、椅子に座りなおした。

998 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:37:16 ID:LDnjk14k
「俺たちの目的は遺体の総取りだ。誰が死のうが何人くたばろうと知ったことじゃない。
 たとえ遺体を総取りにすることがヴァレンタインの計画の一端であったとしても、今はこれが最善手だ」
「一人一人に頭を下げてお伺い立てて来いとでも言うのか。俺たちは対等なはずだぜ、ディエゴ」
「対等―――ほう、対等ねェ」

ディエゴは地図を眺め、遺体を持ったコマの数を数えた。七つのコマ越しにムーロロと目を合わせる。ムーロロは突然帽子の裏地に興味を持ったようで、視線が合うことはなかった。しばらくそうした時間が流れたが、ディエゴは鼻を鳴らし、話を進めた。

「俺はそんなお利口さんじゃないぜ、ムーロロ。奪い取る……カスどもたちには犬のエサでもくれてやれ、だ」

そう言いながらディエゴは緑色の紙とハサミを取りあげ、何物かを作り始めた。ムーロロの目の前で緑のコマが次々と積み上がっていく。
その緑のコマは地図のあちこちに一見無造作に配置されていった。十はあるようだった。ディエゴはそれらを自由自在に動かしながら、言う。

「お伺いはしなくていい。ただ狩りには参加してもらうぜ。いや、猟か。追い込み猟だ」
「銃の腕前には自信がない」
「司令官としての技量を見込んでの採用だぞ、カンノーロ・ムーロロ君」
「前線に立たなくていいと聞いてほっとしたよ」

ムーロロはディエゴが動かしたコマをじっと眺めた。しばらくしていくつかのコマを持ち直し、ほんの少しだけ手直しを加えた。

「現状一番の問題はカーズだ。ジョースター一族をはじめとしたお利口さん方は厄介は厄介だが対処の仕様はある。
 恐竜たちの物量作戦で押しつぶすことも不可能じゃあない。混乱を引き起こし、各個撃破を狙ってもいい。
 流石に全員大集合となったら手がつけられないが情報網では俺たちが上だ。進路を見張って妨害工作を繰り返せばいい。
 だがカーズ、やつにはこれが効かない。俺のスタンドもお前のスタンドも、柱の男には敵わない。だから―――」

柱の男を意味する黒のコマは盤上に一つ。だがその存在は大きい。
ムーロロは東にいた参加者をまとめ―――トリッシュ、玉美、ナランチャ、プロシュート、双葉千帆の文字をディエゴは読み取った―――中央にいたいくつかの参加者もそこに加えた。七つのコマの周りに恐竜たちを配置して足止めをする。
そこに南南西からまたも恐竜を使い、黒いコマを誘導、一団とぶつける。黒いコマが集団に飛び込みいくつかのコマをなぎ倒した。ムーロロは顔を上げ、ディエゴの様子を伺った。

「漁夫の利狙いだ」
「消耗を狙って横からかっさらう―――いいじゃないか。最終直線まで集団を利用して足を休め……刺して、奪い取る。俺好みだ」

ディエゴはムーロロからカーズのコマを受け取ると、そのまま群がっていた周りのコマ全てを横倒しにした。そこには柱の男一人だけが立っていた。

999 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:37:57 ID:A5b9ZT3I
「だが―――『こうなったら』……どうする?」


七つのうち二つのコマが持っていた遺体がカーズのコマに加わり、カーズが持つ遺体の総数は三つになる。相対する集団は周りに存在しない。
今度はムーロロが様子を伺われる番だった。ディエゴはカーズのコマを指で弾き飛ばし、ムーロロの方へよこした。

「消耗したカーズ―――本当に消耗していればの話だが―――相手でも、俺とお前じゃ相性が悪い。
 やつは稀代の大食いだ。油断したらカードでも恐竜でもなんでも食われるぜ」

しばらくの間、二人は無言のまま見つめ合う。保身と策略が言葉もなく二人のあいだを飛び交った。
部屋の真下でごそごそと誰かが動く気配がした。ムーロロは黒いコマを取り上げ、やれやれと小さく呟いた。

「作戦は弾切れか、司令官」
「いや、あるぜ。ただリスクがある。懐柔に自信は?」
「イタリアマフィアを一人手懐けたという実績はあるが」
「よっぽどお人好しなんだろうな、そいつァ。それかお前が知らんうちに裏切ってる可能性もあるぜ、気をつけな」

ムーロロは緑のコマを二つ作ると中央の参加者二人の傍に動かした。そのまま二人を挟み込み、四つのコマが北へと向かう。
ディエゴはその一団がDIOの館にたどり着くのをじっと眺めていた。ムーロロは視線をコマに向けたまま、小さく言った。

「コイツは文字通り、俺たちにとっての爆弾になるぜ、ディエゴ」
「爆弾ならもうすでに一つ抱えているさ」

ディエゴはムーロロが持つコマにかかれた名前に目を落とす。不安と疑いに皮肉な笑みが浮かぶのを抑えられなかった。

「対カーズ最終兵器―――『キラ・ヨシカゲ』、か……」





1000 ◆c.g94qO9.A:2016/04/04(月) 21:38:42 ID:LDnjk14k
その一室は膨らみきった風船のようであった。

「周りに敵は?」

正面の壁にもたれたナランチャは興味なさげに発言者―――プロシュートを見つめ返した。しばらく待ったが答えは帰ってこなかった。
ナランチャ、とトリッシュがたしなめるように言ったが、ナランチャは黙ったままだった。トリッシュの目線から隠れるように顔をうつむかせた。
トリッシュが間を取り持つかのように、プロシュートに目線を向けた。プロシュートはソファに座りなおすと肩をすくめた。

「俺がアンタに危害を加えることを恐れているらしい」
「そんな気はないのよね?」
「顎先の餌より背後の虎の方が気になるたちでね。シーザー、もう一度説明を頼む」

風が唸りをあげると、ガタガタと建物全体が震えた。シーザーは窓の外を一瞥すると向き直り、出会ったばかりの仲間たちを見た。
緊張感と不安が部屋の中に漂っている。かつて相対していたギャングの二人がその中心にいた。
机をはさんで傾きかけた混乱を支えていたのは二人の少女たちだった。トリッシュは背後に立つナランチャをたしなめ、千帆は隣に座る男の自制心をつっついた。
シーザーは唇を噛み、細ばった隙間からゆっくりと息を吐きだした。足元でイギーが眠たげにあくびをひとつした。

「トリッシュたちと合流したのはほんの偶然だったんだ。
 フーゴ―――はぐれた俺たちの仲間のひとりで、トリッシュの仲間でもあるらしい―――を探して東に向かってる途中、気づいたら恐竜たちに囲まれてしまっていた。
 とても敵わない……って敵じゃあない。ただとにかく数が多かった。埒があかないと思って強引に包囲網を切り抜けたら……」
「私たちと出くわした、ってわけ」

トリッシュがあとを引き継ぎ、そう付けくわた。隣で玉美が大きく、励ますように頷いていた。

「私たちがアナタたちと会ったのはその直後。恐竜に襲われて、最初にナランチャがスタンド攻撃をくらってしまった。
 恐竜化が始まってしまうと戦いはジリ貧で―――玉美のスタンドは戦闘向きじゃないし、一人でも仲間が必要だと思って……」
「それであの茶番か」

プロシュートの声は抑えていたが、皮肉げだった。ナランチャは壁から背を離すとトリッシュを庇うように前に進んだ。プロシュートにむかって凄んでみせる。典型的な威嚇の態度だった。
そんな態度をプロシュートは鼻で笑った。トリッシュはうつむき、次に言うべきことをひっこめてしまった。
慌ててシーザーがその場を取り繕った。二人の会話に割ってはいると、説明を引き継いだ。

「俺が柱の男―――カーズを見かけたのはだいたいそれぐらいの時だ。
 カーズは五匹程度の恐竜に囲まれていた。それほど苦戦しているようには見えなかった。
 ただ俺たちも恐竜に追いかけられていた。戦いながらで、ちらっとしか見ていない。だから詳しくはよくわかってないってのが正直なところだ」
「カーズについて、もう少し詳しく教えてくれ」
「柱の男たちは不老不死、驚異的な柔軟性と筋力をもった種族だ。太陽の光とこの俺が持つ技術―――波紋以外弱点はない。
 力でも能力でも奴らを押し込むのは至難の業だ。奴らは速く、強く、固く、鋭い――― 一対一で戦えば死を覚悟して挑むしかない」
「で、そんなカーズやら恐竜やら波紋使いやら―――そんな戦いのど真ん中に俺たちはノコノコ迷い込んじまったってわけだ」

プロシュートは一息をおくと、頬の筋肉を強ばらせた。


「これが誰かに仕組まれたものじゃなければな」




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