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仮投下スレ
1
:
◆OCD.CeuWFo
:2011/10/21(金) 00:00:06 ID:UbGMEgSk0
文字通り、SSの仮投下する場所です
ご利用は各々の判断に委ねます
143
:
『第一回放送』
◆gry038wOvE
:2012/06/24(日) 10:05:34 ID:FFfJQo0g0
それから、何人かの参加者は時が止まるような感覚を覚えただろう。あるいは、加頭自身もそうだったのかもしれない。
だが、死んだ人間のために時間を割いていては、この先とても大事なことを聞き逃してしまうこととなる。
だから、ここで現実を受け入れきれなかった人間は、後で自分にそれが跳ね返ってくることになる。
【】
「次に、禁止エリアの発表です。これを聞き逃すと皆さんの命にも関わるので、聞き逃すことのないようお気をつけください。
それでは、今後6時間で禁止エリアとなる区域の発表です。
7時にE10エリア、9時にG3エリア、11時にB5エリア
以上3エリアとなります。
まだ時間も経っていないので、今回はまだ皆さんが自由に行動できるようソフトに選びましたが、次回以降はどうなるかわかりません。
──────さて、以上が第一回放送となります。
おおよその流れは掴めましたか?
万が一、大事な人の名前が呼ばれたとしても、まだ勝機はありますので、安心してください。
それでは、6時間後に皆さんが再びこの放送を聞くことが出来るよう……」
「ピンポンパンポ〜ン♪」
【】
万が一、大事な人の名前が呼ばれたとしても…………。
そうだ、彼は今、その人の名前を呼んだ。
そして、その人の魂が再び現世に現れることを、彼自身も十二分に望んでいる。
園咲冴子さん。
……こんなに早く心がぶれてしまうとは。────彼女が死ぬのは、もっと後だと思っていた。
何にせよ、彼はショックだった。心の底よりショックだったのだ。
今頃気づいたが、随分と美しい名前である。他の17人の名前を呼ぶときは何も感じなかったのに、この名前だけは特別だった。
いや、まだきっと大丈夫だ。
死者18名の魂はまだ何処かに存在している。進行役に過ぎない彼は詳しくは知らないが、この戦いで死んだ人間の魂はどこかに現存するらしい。
例えば、ソウルジェムを砕かれたほむらやマミの場合でも、確かにそうである。
むしろ、彼女たちは奇跡と魔法のある世界の住人なのだから、まあ生き返ることができるのは当然といえば当然かもしれない。
とにかく、冴子はまだ、完全には死んでいない。
加頭はそう信じていた。
実際のところ、100パーセント本当に信じていいのかどうかはわからないが、それは加頭にそう信じさせるほどの力の持主が加頭の上に立っているということなのである。
それに、加頭だって、一度死んでいるのだ。────この名簿の中にもある、大道克己という男の手によって。
だから、疑う余地もないし、やがて「彼女も自分と同じ、死んだ人間になれる」────彼女が加頭に近付いていく、そんな期待と高揚さえ感じ始めていた。
既に、放送を聞いた各々がなんらかの反応を起こしている。
その様子を見に行くため、彼は放送室を出た。────園咲霧彦や、井坂深紅朗の様子が気になったのだ。
本来、大道克己やバラゴの様子も気になるのだが、それは霧彦や井坂が冴子の死をどう受け止めたかを確認してからでいい。
【】
144
:
『第一回放送』
◆gry038wOvE
:2012/06/24(日) 10:06:13 ID:FFfJQo0g0
以下は参加者に聞こえた放送内容まとめ。
(放送開始)
「ピンポンパンポ〜ン♪」(高音)
「皆さん、おはようございます。最初に申しあげたとおり、六時間ごとに当局から放送を行います。
お忘れだった方のために、一分間だけメモの準備を行うための時間を取るので、既に準備を行っている方は少しだけ待ってください」
(1分間の休憩)
「──────それでは、第一回放送を始めます。
まずは、残念ながらこの六時間で退場となってしまった死亡者の発表です。五十音順に発表するので、名簿の上から見て行ってください。
人数も多いので、発表は一度だけとなります。準備はよろしいですか?
…………それでは、発表します。
相羽ミユキさん、暁美ほむらさん、池波流之介さん、鹿目まどかさん、来海えりかさん
シャンプーさん、ズ・ゴオマ・グさん、園咲冴子さん、高町なのはさん、照井竜さん
巴マミさん、ノーザさん、速水克彦さん、フェイト・テスタロッサさん、腑破十臓さん
本郷猛さん、三影英介さん、ユーノ・スクライアさん
以上18名、残り生存者の人数は48名です」
(10秒間の休憩)
「次に、禁止エリアの発表です。これを聞き逃すと皆さんの命にも関わるので、聞き逃すことのないようお気をつけください。
それでは、今後6時間で禁止エリアとなる区域の発表です。
7時にE10エリア、9時にG3エリア、11時にB5エリア
以上3エリアとなります。
まだ時間も経っていないので、今回はまだ皆さんが自由に行動できるようソフトに選びましたが、次回以降はどうなるかわかりません。
──────さて、以上が第一回放送となります。
おおよその流れは掴めましたか?
万が一、大事な人の名前が呼ばれたとしても、まだ勝機はありますので、安心してください。
それでは、6時間後に皆さんが再びこの放送を聞くことが出来るよう……」
「ピンポンパンポ〜ン」(低音)
(放送終了)
145
:
◆gry038wOvE
:2012/06/24(日) 10:08:13 ID:FFfJQo0g0
以上、仮投下終了です。
146
:
◆7pf62HiyTE
:2012/06/24(日) 18:36:48 ID:9CE7NIkE0
すみません、拙作の放送案で禁止エリアについての記述が間違っていました。
>>129
について
まず、禁止エリアについての説明を行うわ。
これから3時間後、8個のエリアを発動するわ、その場所は――
となっていた所を、
まず、禁止エリアについての説明を行うわ。
これから所定時間に次の場所にて発動するわ、その場所と時間は――
に修正いたします。お手数おかけいたします。
147
:
名も無き変身者
:2012/06/29(金) 00:26:03 ID:/bLjggEg0
放送案も決まった様なのですが、その案で行く場合2点ほど意見が。
1つは禁止エリアなのですが、その案をそのまま採用した場合全部施設(灯台、冴島邸、灯台)が埋まってしまう事になるのですが、出来れば3つとも施設を埋めるのではなく、2つぐらいは施設との隣接エリアの方が良いと思うのですが。
どうしてもこの場所で無ければならない理由があるならともかく、そうでないならもう少しバリエーションを持たせても良い様な。
もう1点は、施設間を移動できる魔方陣なんですが、これ一歩間違えれば汎用性が高すぎてやりたい放題出来るので、採用するとしても制限を厳しめにした方が(発動には何かが必要、1つにつき1度しか使えない等の)良いと思うのですが。
あまりあっさり移動するのは折角場所が離れていても意味が無いので、個人的には採用して欲しくないんですが、これを目当てに投票した人もいるだろうからせめて条件を厳しめにして欲しい。
148
:
第一回放送(修正版)
◆LuuKRM2PEg
:2012/06/29(金) 19:32:23 ID:WsrgJI0g0
放送の修正パートを投下します。
やや大げさ気味に両目を見開いたサラマンダーの言葉は続く。
「それから続いて、禁止エリアを発表しよう。念の為に行っておくが、メモに残しておいた方がいい。うっかり聞き逃して、それが原因で負けてしまっては目も当てられないからな……
それでは、発表する。七時に【G−6】、九時に【F−5】、十一時に【D−10】……以上、三つだ。どうか、気を付けたまえよ」
それから数秒の間を空けたサラマンダーは、不敵な笑みをそのままに最後の言葉を告げた。
「そして、最後に君達へのちょっとしたボーナスがある事を教えてあげよう。もしも君達が勝ち残るのならば、午前十一時からこの会場のとある施設に君達の移動に役立つある物が用意される。
それさえあれば、遠く離れた施設まで一瞬で着けるだろう。何が用意されるのかは、見つけるまでのお楽しみだ……それでは参加者の諸君、健闘を祈る」
そうして、サラマンダーの姿はこの世界より消滅する。
殺し合いの第二幕は、こうして始まった。
◆
一切の光が差し込んでこない暗闇の中を掻き分けるように、サラマンダー男爵は歩いている。長きに渡る間、キュアアンジェによって封印されたからこのような場所は慣れていると思ったが、この闇は見ているだけで気分が悪くなった。
砂漠の使途の王、デューンが持っていた威圧感を遥かに上回っており、ここにいては一秒先の命すらも保障されないと嫌でも思い知らされてしまう。尤も、逃げ出す事なんて出来るわけがないが。
やがて歩を進めるサラマンダー男爵の前に、この殺し合いの案内人である加頭順がその姿を現す。
「ご苦労様です、サラマンダー男爵」
「加頭君……こういう事は慣れてないので少し不安だったが、何か不備があったかね?」
「いえ、上出来ですよ。我々が指定する条件を全て満たしてくれたのですから」
順は労いの言葉をかけてくるが、その表情は能面のように感情が感じられないので胡散臭いことこの上ない。それどころか、あのデューンが嫌う『心』という物が欠片も感じられなかった。
「脱落者、禁止エリア、そしてボーナスの正体を隠す……これで充分です」
「そのボーナスとやらで、反撃される恐れはないのかな?」
「いえ、あの首輪がある限りは不可能ですよ……ボーナスの前で役割以外の何を願おうが」
ボーナスとは、サラマンダー男爵の生きる世界とはまた別の世界に存在する、時空魔法陣という物らしい。詳しいシステムは知らないが、その上に乗れば遠く離れた場所まで一瞬で跳べるようだ。
しかしあくまでも翠屋と警察署間の移動だけであって特定のエリアに飛ぶ事は出来ないのに加えて、二人以上の参加者を仕留めた者でなければ使えないようだ。しかも、一度誰かが使ってしまってはその時点で消滅してしまうと聞いている。
それの一体どこがボーナスなのかとサラマンダー男爵は思ったが、それを問い詰める気にはなれなかった。
【ボーナスについて】
※午前十一時より、翠屋と警察署付近に【時空魔法陣@仮面ライダーSPIRITS】が設置されます。具体的な場所は、後続の書き手さんにお任せします。
※時空魔法陣で移動できるのはあくまでも翠屋から警察署間であって、首輪がある限り施設のない特定のエリアに移動する事は出来ません。また、一度誰かが使用したらその時点で消滅します。
※時空魔法陣が使用できるのは他参加者を二人以上殺害した参加者に限られます。
149
:
名も無き変身者
:2012/06/29(金) 20:13:42 ID:rlxwSDZQ0
修正乙です
150
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:30:00 ID:dr6pOkoM0
ただいまから、放送案の投下を開始します。
151
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:30:32 ID:dr6pOkoM0
一日目、正午。
直前まで戦いを続ける者、放送に備える者、何かの判断を強いられている者……生きている限りは誰も何かの行動を取っている。
長い一日の中で最も暖かい日の光が注いでいるが、屋外にいる者もいれば屋内にいる者もいる。だから、それを誰もが体表で感じているわけではなかったし、それを心地よく浴びる余裕のある者なんていなかった。
……それにしても。
星も見えるし、空も見える。日の光も浴びれる。
それが、不思議だ。
作った当人たちでさえ、この島が疑似的に様々な施設を再現した模造の島だとは信じがたいと思っているほど、精巧な異世界。
あまりにも、違和感や異常が無さ過ぎて、逆に気が狂ってしまいそうだ。
昨夜、誰か大切な人を喪い、六時間前の放送を聞いた者もそろそろ悲しみを収めただろうか。
しかし、その悲しみを上塗りする悲劇が、また報ぜられる。
そう、第二回放送──。
その時間が今、ちょうど来たのだ。
十二時きっかり、一秒の狂いもなし。
今度は小汚い男のホログラフが映った。逆立った金髪も特徴的だが、眼鏡に白衣という研究者風の風体の方が目立つ。しかし、同じ白服でも加頭が放った、気品のようなものがない。やはり着崩し方、汚し方に問題があるのだろうか。
その代わりと言っては何だが、加頭ほど人間味がないようには見えない。加頭が感情の無い置物ならば、彼はどこか内面に狂気や歪んだ歓喜を抱えているように見えた。それも決して、良い感情とは言えないが。
彼の名はニードル。
かつてバダンの幹部だった、「ヤマアラシロイド」の別名を持つ男だった。
「初めまして、参加者の皆さん。私の名前はニードル。
加頭順、サラマンダー男爵と同じく、このゲームの企画に協力している者です。……彼らに心当たりはなくとも、私に心当たりがある方は何名かいるでしょう。
放送担当者が変わってわかりにくい……という方もいるでしょうが、私の名前など覚える必要はありません。私は企画・主催の協力者の中ではあくまで末端だと考えてください。
我々が持つ兵力は絶大なのです。あなたたちが身を寄せ合ったところで、敵わない存在です。ですから、我々に刃向おうなどと愚かなことは考えないようお願いします」
こうして、毎回のように放送者を変えるのは、主催者側の兵力を示すためだろう。
加頭順……ユートピア・ドーパントの場合なら、左翔太郎やフィリップ。
サラマンダー男爵の場合なら、花咲つぼみや明堂院いつき。
ニードルの場合なら、一文字隼人や村雨良。
誰かしら、彼らの恐ろしさを知る者がここに来ており、その者たちは必ず仲間の参加者に情報を伝える。
結果的に、彼らは主催陣営の強大さに気づいていくわけだ。
少し長い前置きになったが、すぐにニードルの脳内にある死亡者リストが読み上げられた。
152
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:31:23 ID:dr6pOkoM0
「では、サラマンダー男爵の時と同じく、まずは第一回放送からここまでの死亡者を読み上げましょう。
相羽シンヤ、井坂深紅郎、五代雄介、早乙女乱馬、志葉丈瑠、筋殻アクマロ、スバル・ナカジマ、園咲霧彦、月影ゆり、ティアナ・ランスター、パンスト太郎、東せつな、姫矢准、美樹さやか、山吹祈里……以上15名。
ここまで、全参加者のちょうど半分にあたる33名が死亡ということになりますね。素晴らしいペースです。これを維持して頂きましょう」
おそらく、既に全ての参加者が誰かしら知り合いを喪っている頃だろう。
もしかすれば、行き会う参加者がほとんど死亡している人間もいるかもしれない。
参加者の半分というのは、それだけ重みのある数字だった。
「次に禁止エリアを発表します。メモの準備はいいですか? 一度しか言わないのでよく聞いてください。
13時に【H−9エリア】、15時に【F−8エリア】、17時に【G−3エリア】。以上の3つが今回の禁止エリアとなります。そのエリアの近くにいる参加者は、くれぐれも首輪の爆発で死んでしまわないよう注意してください。」
それから、またしばらく間を置いている。
一応、参加者が禁止エリアを塗りつぶすのを待っている……ということになっているのだが、おそらくどの参加者も急いで塗るだろうから、この時間はそもそも無駄である気がしてならなかった。
三つの禁止エリアのうち二つが街エリアなのは、そこに参加者が寄ったからだろう。
この放送が開始した時点で、そのエリアにいる参加者もいるが、一時間で逃げ切るだろうか?
「……それから、前回のボーナスですが、まだ使用した参加者はいないようですね。まだ一時間しか経っていないようですが…まあ、見つけてもらえないのではこちらとしても甲斐がないので、みっつのヒントを差し上げましょう。
ひとつ。ボーナスは「○+×」、または、「青+黄色」の式が示す施設に存在すること。
ふたつ。雄介−弧門−薫+隼人−結城。この数の参加者を手にかけた人間のみが使用できること。
みっつ。現在これが使用できる人間は五人。そのうち二人が、どちらかの施設の近くにおり、その参加者はいずれも“変身後”の姿の敵を倒した実績を持つこと。
心当たりのある参加者は、その施設に立ち寄ってみては如何ですか?」
まるで、なぞなぞのようなニードルの言葉。
主催側がいかに、このバトルロワイアルをゲーム感覚で行っているかがわかるルールだった。
同時に、なぞなぞが解けたならば、自分の近くにイベント施設があることや、自分の身に危険が迫っていることも把握できる。
「そして、今回のボーナスは、特殊アイテムの配置場所の指名です。
こちらはヒントなしで簡単に説明しましょう。……もう見つけた参加者もいるのですが、ある二つの施設に緑と青の強力な武器を用意しておきました。
ただ、こちらで制限をかけて、使用不能となっていますから、見つけても無駄だったでしょう。今回は、17時からその制限解放と、説明書の配置を行います。
尚、説明書の配置時には我々が自ら出向くわけではありませんから、その瞬間を狙っての奇襲などを考えても無駄ですよ?
……それはいいとして、戦力のない方、より強い力を欲する方はボーナスの利用も考えてはどうでしょうか。今回の武器は、体格が合い、一定の体力があれば誰でも使用可能になっています。
それでは、今回の放送は終了です。……みなさん、ごきげんよう」
153
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:31:59 ID:dr6pOkoM0
ニードルの姿が消え、第二回放送が終了する。
参加者たちは、この放送を聞いてどう行動するのだろうか。
放送により一度、休憩時間のように時が止まった世界が、再び不思議な慌ただしさを取り戻して動き出す。
変身者たちのゲームはまだまだ続く……。
★ ★ ★ ★ ★
放送の終了とともに、ニードルは主催陣の一人に声をかけられた。
案の定、加頭順だ。
「ご苦労様です、ニードルさん」
「加頭さん。どうでしたか? 私の放送は」
「……サラマンダー男爵以上に楽しげな放送だ、とだけ言っておきましょう」
楽しげ、という言葉を彼の口から聞いて、ニードルは思わず苦笑する。喜怒哀楽の表情とは一切無縁で、彼が楽しいと感じるかさえ怪しいと思える。
しかし、その言葉の裏にある「嫌味」の意味もはっきりと理解していた。
ボーナスについてベラベラと話してしまうのは、あくまで「提供者」である主催側としては、中立性を欠いていて不平等だ。
一応、台本はあるのだが、ボーナスのヒントでなぞなぞを使ってくるなどとは、思っていなかったのだろう。
「ククク……いや、失敬。“立案者”としてはボーナスが使われないのは不服でしたからね。“イラストレーター”の台本にヒントの提示を付け加えてもらったんですよ」
そう、このゲームに存在する「ボーナス」という制度を作ったのはニードルだった。
時空魔法陣も彼の世界の技術で、彼の協力なしには実現しない制度だ。
しかし、それをあの抽象的な放送内容のせいで見つけてもらえないのは、立案者としてはつまらないことこの上ない。
加頭やサラマンダーが機械的に作業を行っているのに対し、ニードルは冷徹ながらも少しはゲームを面白くする工夫を必要としていたのである。
「……あのくらいは許容範囲でしょう?」
「ええ、許容範囲です。しかし、中立性があるとは言えません。特定の参加者に語りかけるのはいけません」
「特定の参加者に語りかける……? 私に心当たりがある方、というくだりでしょうか。それとも、ヒントで示した『警察署』のくだりでしょうか」
「後者です」
後半のボーナスのくだりでは、警察署にいる弧門やヴィヴィオを動かそうというニードルの思惑が見えていた。
主催側があのように、暗に特定の参加者に対して道を示すような行動は本来あってはならない。
「……加頭さんは、あれを私のアドリブだと思ってるんですか? 私のアドリブは、ヒントを、なぞなぞ風味に変えたことだけですよ。ククク……」
そう言い残し、答えも聞かないままにニードルは去っていく。
加頭がニードルの方を見ると、彼は左手をポケットに入れ、こちらに背を向けたままもう片方の手を振っていた。
ニードルが闇に消えていき、加頭はそこに一人取り残された。
★ ★ ★ ★ ★
154
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:32:30 ID:dr6pOkoM0
「調子はどうですか、イラストレーター」
加頭順は、その一室で作業を行う「イラストレーター」と呼ばれる少年・吉良沢優にそう話しかけた。
財団Xの同業者を彷彿とさせる白い服と凛々しい顔だったが、決定的な違いはやはり、彼の容姿が極めて幼いことである。彼は、人間の中でもトップクラスの天才「プロメテの子」であり、その有用性は大人以上であると言えるが、どうも加頭は彼の実力を認められなかった。
ここに来たのも、ニードルの含みある言葉を疑い、放送の原稿を書いた彼を訪問したからだった。
「……君たち変身能力者と同じ場所で働け、って言われて、本調子が出ると思う?」
「……」
イラストレーターの嫌味に、加頭は言い返せなかった。
一応、メモリやガイアドライバーを渡してはいるが、彼にそれを使う気持ちはないようだし、精神面でも少し弱いかもしれない。まあ、一般人よりは少しマシという程度だろう。
「更に付け加えるなら、僕は君たちと違って、この殺し合いには否定的な立場だ。ただ単に反抗を企てても勝てないと知っているから絶対に反抗しない……それに、人が死んでも淡々としていられる。それだけの理由でこれをやってるに過ぎない」
「人が死んでも淡々としていられる……そうでしょうか? どうやら、先ほどの放送では、弧門一輝を動かすような内容を書いたようですが」
イラストレーターの表情が固まるのを、加頭は見逃さなかった。
どうやら、図星らしい。
イラストレーターは元々、弧門一輝や西条凪が属していた組織の一員である。
それを、こちらの提示した特殊な条件を飲ませる形で引き入れたに過ぎない。
「……ヒントの提示は、ニードルさんが要求したことです。僕は、それに従ったに過ぎない。口答えができる立場ではないから、ね」
イラストレーターがそう答える。
とにかく、ニードルに責任の一部をなすりつけることで、こちらに牙が剥くのを回避しようとしたのである。
そう、ヒントの提示はニードルがイラストレーターに頼んだ。イラストレーターはその原稿を書き、ニードルに読ませる。そして、ニードルがアドリブでヒントをなぞなぞ形式にしたのだ。
もともとのヒントは、「赤い仮面ライダーの職場と白い魔導師の故郷」という露骨なものが多かったのだ。それらの人物の情報を持つ者にはそのまま答えとなってしまう。
それを、ニードルが誰でも解けるチャンスがありながら、少し頭を使わなければわからないなぞなぞにしたわけである。
そうした経緯があって、責任問題となったら誰が中心になるのかはわかりにくくなっていたのだろう。
「……まあいいでしょう。我々はあなたの条件の一部を既に叶えました。ですから、途中で投げ出したり、我々の意向にそぐわない行動を取ったりするのは契約違反です。……以後、厳重に注意をしておいてください」
155
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:33:05 ID:dr6pOkoM0
加頭は、そう言い残してその場を去って行った。
どうやら、そこまで大きな問題としては見られておらず、加頭個人が気にした程度にすぎないらしい。そのため、引き下がるのも早かった。
部屋で一人になったイラストレーターは、安心した気持ちになる。
この部屋の形はTLTの司令室と全く同じ間取りになっていて、彼の心を落ち着かせていた。来訪者たちもここにいるし、レーテの再現もあるので、実際、ここが異世界であるとは信じがたかいものだった。
更には、イラストレーターが見たい参加者の音声が再生できるようになっており、彼としては最も快適な場所だ。
彼の役割は、“来訪者”との会話と、“コンタクティ”としての能力を利用した大まかな予知、そしてその片手間に放送原稿の作成することである。それも、実際イラストレーターの脳内で起こる予知が全てそのまま、他の主催者たちに知れ渡っているため、実質仕事は台本の作成だけだ。
これを殺し合いの終了──おそらく三日もかからないだろう──までやっているだけで、イラストレーターが提示した条件は全て果たされるのだから、美味しい話だと言える。
しかし、それでも彼の心は僅かに曇っていた。
「……憐」
イラストレーターの手には、タカラガイの貝殻が握られている。
それは、一文字隼人に支給されていたものと全く同じ貝殻だった。本来、まったく同じ形の貝殻が二つも存在していることなどありえない。
しかし、異世界の存在や別の時間軸に干渉する方法を認めた今、それは当然ありえることだった。
イラストレーターが殺し合いの協力のために提示した条件は幾つかあった。
まずは、イラストレーターと同じ「プロメテの子」の仲間である千樹憐の救済である。
遺伝子に障害のある彼は、17歳を境に全身の細胞がアポトーシスを起こし死亡する……という、「プロメテの子」の失敗作であった。
天才となるために生まれてきた特殊な遺伝子の集団の中で、たった一人だけが持つ、悲しい運命である。
否認、怒り、取引、抑うつ、受容。
死への五つの段階のうち、憐は「受容」の段階に入っていた。元々、親も無く生まれ、閉じ込められて生き、常人とは話がかみ合わないであろう彼だったから、その段階を踏んでいくのはなかなか早かったはずだ。
あとは、死ぬだけだと思っていたに違いない。憐はその運命に、どこか達観し始めていた。
しかし、見ている方としては、それを見ているのは苦痛だった。
「プロメテの子」の仲間たちはその特効薬「ラファエル」の完成に急いでいた。
医学、薬学、遺伝子学のあらゆる分野から、あらゆる国籍の人たちが、世界にたった一人しかかかっていない病のために奮闘していたのである。研究することは他に幾つもあるだろうというのに、たった一人の親友のために何人もの天才が時間を費やす。
イラストレーターは、それを見かねて、悪魔と契約を結ぶ第一条件として、彼の救済を要求した。
そして、ラファエルはすぐに完成した。
イラストレーターは、その時、かなり久々に驚愕したのである。
地位、名誉、金……特にそんな願い事もないイラストレーターは、試しとして絶対に不可能だと思う条件を提示したはずだった。
彼が吉良沢優として願っている、おそらくは一番の願い。そして、彼自身も半ば諦観していた願い。
だから、彼はそれを真っ先に口にした。──「ダメでもともと」というようなネガティブな考えのもとに。
更に驚くべきは、彼が要求した細かな条件までやってくれたことである。
仲間たちの努力を無駄にしないためにと……あくまで、「プロメテの子」たちの手で完成させることを要求すると、それを実現させた。どうしてそんなことができたのかと聞くと、彼らの脳内に直接、ラファエル完成のためのヒントを閃かせるような合図を送ったという。
しかし、何にせよ、その結果、憐がデュナミストになった直後に、ラファエルが完成し、憐の病は完治した。
更には、加頭順の口からは、アンノウンハンドの正体なども詳細に教えられた。
156
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:33:40 ID:dr6pOkoM0
加頭順を初めとする“彼ら”の介入はイラストレーターの住む世界線に多大な影響を与え、デュナミストの変動や早期段階でのダークザギの正体発覚につながることになった。
予期されていた出来事は、“彼ら”の介入がなかった場合の世界線でのことであるため、レーテやダークザギの予知能力も実質無意味になった。
更に言うなら、ここに来ているダークザギやダークメフィストに関しては、自分が予知能力を有することさえ忘れているらしい。世界線の影響なのか、主催側で制限を設けたのかはわからないが、それにより彼らの動きは変わってきている。
その後正式に決めたもう一つの契約内容は、イラストレーターの住む世界そのものの救済だった。
イラストレーターの来ていた世界で起こるはずの、あらゆる出来事の可能性を排除することで、自分の住む世界の救済を行うのだ。
たとえば、斎田家や山邑家や西条家の家族の死、溝呂木眞也のダークメフィストとの融合、新宿大災害やビーストによる数多の犠牲。その全てが消えた世界──ビーストのいない世界としての再構築。
それを実現できるか、と問うと“彼ら”は肯定した。後から、鹿目まどかのいた世界では、実際にそれが行われたとも言われた。
流石に、姫矢准に降りかかったセラという少女の死のように、ビーストと直接関係のないところは干渉できないかもしれないが、それはまた個々に頼めば良い話。……こうした細かな条件も付け加えなければ、弧門一輝は幼少期に溺死してしまう運命にある。
「……救われる世界もあれば、救われない世界もある、か……」
ここに来ているダークザギがいた世界線は救済に近づいていることだろう。巨悪ダークザギが世界から消えれば、残るはビーストの残党やダークメフィスト程度。それにより、世界を大きな絶望から遠ざけることができる。
ダグバ、ドウコク、バラゴなどが来たことで救われた世界線や命も確かに存在すると思う。彼らが奪った命、壊した街の数は計り知れない。
……まあ、一方で、それに仇なす存在が消えた代償も大きいだろうが。
「僕はただ、救われる側の世界に住みたいだけなのかもしれない。たとえ、その下に幾つもの救われない世界が転がっているとしても」
こうして、何人もの異世界の戦士たちや、彼らの住まう世界を犠牲にして、自分の世界を救う。
後ろめたい気持ちも多少はあるが、それはどんな社会でも同じことだった。
人は皆、誰かの不幸のもとに幸福を得ているのだ。
(……それでも、なるべくここでも犠牲者は出したくない。この鳥かごから脱出できない運命なら、その運命を打ち砕いてほしいんだ。──憐のように)
イラストレーターの手に握られたタカラガイ。
憐があの折から脱出した証を、イラストレーターはまた見つめていた。
わざわざ異世界からもう一つの全く同じタカラガイの貝殻を取り寄せてまで、参加者に支給したのは、彼のそんな願いゆえだった。
157
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:37:40 ID:dr6pOkoM0
【全体備考】
※主催側には、【吉良沢優@ウルトラマンネクサス】がいます。彼のいる部屋には、来訪者がいるほか、レーテなども主催側施設に再現されている模様です。また、戦力を持たない彼にはガイアドライバーとメモリが支給されています。
※吉良沢の参戦時期は憐がデュナミストになったあたりですが、主催組織の介入によって世界に変動が起きており、ネクサス世界のその後も主催側のデータで知っているため、終盤の出来事も知っています。
※予知能力は一部健在ですが、多大な情報が与えられたことや、複数世界のものが入り混じった空間であるため、やや弱まっています。
【第一回ボーナスのヒントの答え】
【ひとつめの答え】○+×(組み合わせると警察署の地図記号)、青+黄色(組み合わせると緑=碧屋)。このふたつの施設にボーナスがあることを示しています。
【ふたつめの答え】放送されたそれぞれの名前は、“五”代雄介、弧門“一”輝、“一”条薫、“一文字”隼人、結城丈“二”。そのため、式は5−1−1+1−2=2で、二人殺害することで時空魔法陣が使えることを示しています。
【みっつめの答え】これはなぞなぞでも何でもありません。そのままの意味で、既に二人殺害した参加者が五人(ガドル、溝呂木、モロトフ、克己、ダグバ)おり、モロトフとダグバが警察署の近くにいることを示しています。
【第二回ボーナスについて】
どこかの施設に配置されたソルテッカマン1号機(または改)、警察署に配置されたソルテッカマン2号機の制限が17時以降解除され、説明書が付近に転送されます。
逆を言えば、それまでソルテッカマンの使用は不可能です。
こちらには、一定の殺害数などが必要になることはありませんが、体格が合うことや活動に見合う体力を持っていることは最低条件です(特に、体格に関しては人外のドウコク、小柄なヴィヴィオなどは絶対に不可能と思われます)。
158
:
第二回放送
◆gry038wOvE
:2013/02/02(土) 13:38:12 ID:dr6pOkoM0
以上、放送案の仮投下終了です。
159
:
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/27(土) 00:37:25 ID:FgPKWW620
ネカフェからの投稿だとなんか本スレ投下できないみたいなので、こちらに投下します
よろしければ誰か代理投下お願いしたいです
160
:
崩落の呼び声
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/27(土) 00:38:45 ID:FgPKWW620
放送を前にして、モロトフことテッカマンランスは市街地へと舞い戻り、中学校へとやってきていた。
そして、参加者を倒すべく探索をしていたのだが…
「ち、誰もいないのか」
そう、参加者は一人もいなかった。
いくつかの部屋には道具類が散らばっていたり、荒れている部屋などもあったため、誰かがいた痕跡はあるのだが…
「すれ違ったか…運のいい奴らめ」
モロトフがそう考えたとおり、数十分前まではここに二人のプリキュアと一人の仮面ライダーが訪れていたのだが、彼らはみなすぐにこの場所を発っていたのだ。
むろん、当のモロトフはそんなことなど知る由も無い。
「もうすぐ放送か…」
時計を見て、つぶやく。
一通りの探索を終えたモロトフは、放送の時間まで待機することにした。
『それでは、今回の放送は終了です。……みなさん、ごきげんよう』
「…ふん」
放送を聞き終えたモロトフは、憮然とした表情だった。
そしてしばらくして、先ほどの放送を行ったニードルのホログラフが現れた上空を眺める。
「我々の兵力は絶大?かなわない存在?ふざけたことを…この世にテッカマンより絶対的な力を持ったものなどいるものか!我々テッカマンこそが最強であり絶対なのだ!」
先ほどのニードルや、加頭、サラマンダー男爵の不敵な表情を思い起こし、モロトフの中で彼らへの敵愾心が強まっていく。
彼らは、自分たちが抗う姿を、高みの見物とばかりに見下ろし、自分たちが上位であり、強者であると、勘違いをしているのだ。
真の強者が、誰であるかもわきまえず。
161
:
崩落の呼び声
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/27(土) 00:39:40 ID:FgPKWW620
「最強は、真の強者は、我々テッカマンだ!加頭、サラマンダー、ニードル。貴様らの思い上がり、この私が、テッカマンランスが、叩き潰してくれる!」
主催者打倒の決意を改めて固めたモロトフは、改めて今後の身の振り方について考える。
まず先ほどの放送。
死亡者情報については、ブレードが無様にもまだ生きながらえているということ以外には関心ごとなど無い。
禁止エリアについても、近隣のエリアが指定こそされたが、特別問題は無い。
となると考えるべきは、先ほどのニードルが出したふざけたクイズだ。
といっても、答えはすでに出ている。
完璧たるテッカマンたる自分に、あんな子供だましのなぞなぞが解けぬはずも無い。
前回提示されたボーナスの場所は翠屋と警察署…使用条件は変身者の二人以上の殺害…こんなところだろう。
新たに提示されたボーナスについては…どうでもいい。
完璧たる存在であるテッカマンに新たな力など不要な存在。
というより、そのようなものに頼るなど、彼のプライドが許さなかった。
モロトフは、あくまでテッカマンの力で最強を示したかった。
「そう、証明して見せるのだ!
今のままのテッカマンの力でも、ブラスター化した不完全なテッカマンなどに負けなどしないと!」
それに、ブラスター化の弊害を知った今、新たな力など手に入れてもろくなことにならないという考えもあった。
そういうわけで、モロトフは主催者から新たに提示されたボーナスの話を、頭の隅へと追いやった。
「さて、これからどうするか…」
放送について一通り考えをめぐらしたモロトフは、改めてこれからの行動について考える。
中学校には相変わらず人など来ない。
このまま待ち続けるというのも億通だし、行動として消極的だ。
それなら、以前図書館でそうしたように、この中学校を破壊した上で拡声器を使ってみるか?
あるいは、変身者を二人以上倒したという強者が近くにいるという警察署へ向かってみるのもいいかもしれない。
ちなみにモロトフは、マミやせつなの死を直接見たわけでもなく、またせつなの名を知らないために、自分がその「変身者を二人以上倒した参加者」であることに思い至っていなかった。
そんなこんなで色々と考えているモロトフの目に…ふと、一つの施設が目にとまった。
162
:
崩落の呼び声
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/27(土) 00:40:23 ID:FgPKWW620
「あれは確か…風都タワーだったか」
風都タワー。
それは自分がこの地で初めてタカヤと遭遇した場所だ。
そして、あのオカマとブレードに苦渋を飲まされる羽目になった場所だ。
「ふん…無駄に高いだけの塔……そんなものを作りたがるとは、愚かな人間どもの好みそうなことだな」
少し離れたこの場所からでもはっきりと見える風都タワーを、鼻で笑う。
馬鹿は煙となんとやらというやつだ。
あんなものを作って、自分たち人間があの塔の高さのように偉大な存在であると示したつもりなのだろうか。
だとしたら、なんともお粗末な話だ。
あんなもの、ただ無駄に高いだけで何の役にも…
「……待てよ?」
そのとき、モロトフの中で一つの考えが浮かんだ。
そうだ。どうして気づかなかったのだ。
この方法なら、拡声器以上に自分の存在を周囲に知らせることができる…!
考えをまとめたモロトフは、南下した。
目指すは風都タワーだ。
ちなみに、同エリア内には翔太郎たち一行がいたのだが、幸か不幸か彼らはすれ違ってしまい、遭遇することは無かった。
もっとも彼らも、そう遠くないうちにモロトフの存在に気づくだろう。
何故なら、彼がしようとしていること、それは―――
「たどり着いたぞ…風都タワー」
そんなわけで、道中誰にも出会うことなく、モロトフは風都タワーへとやってきていた。
「ふん、この私の役に立てることを、光栄に思うがいい…」
「テックセッタアアアアアアアアアア!!」
テッククリスタルを掲げたモロトフは、テッカマンランスへと変身。
そして、間髪入れずに…
「ボルテッカアアアアアアアアアアア!!!」
風都タワーめがけて、ボルテッカを放ったのだ。
「ふ、この至近距離からのボルテッカではひとたまりも………………何っ!?」
テッカマンランスは驚きの声を上げる。
彼の計画では、このタワーを崩落させるつもりであった。
が、風都タワーは派手に破壊こそされたが、未だにしっかりと立っていた。
「ち、思っていた以上にボルテッカへの制限は大きかったようだ…もう一度だ!」
「ボルテッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
ガラガラガッシャアアアアアアアアアアアアン!!
2度目のボルテッカにより、今度こそ風都タワーは音を立てて崩れていった。
「これでいい…」
163
:
崩落の呼び声
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/27(土) 00:43:19 ID:FgPKWW620
風都タワーが倒れたことに、テッカマンランスは満足する。
風都タワー…それはランスからしてみれば無駄に高いタワーに過ぎなかった。
しかし、だからこそ利用価値があった。
このタワーは、市街地内にいるものやその近辺にいる参加者なら誰もがその姿を目撃する。
それだけ目立ったタワーなのだ。
ゆえに…このように音を立てて崩れてしまえば、誰でもそこで何かがあったのだと気づく。
その範囲は、拡声器の比ではない。
拡声器の何倍もの範囲で、周囲に自分の存在を知らしめることができるのだ。
「さて、これで仕上げだ…」
風都タワーを破壊したランスは、デイバックから拡声器を取り出し、スイッチを入れる。
そして……叫んだ。
『愚かな蟻どもよ!この私の偉大なるショーを見てくれたかな?私の名はテッカマンランス!たった今この風都タワーを破壊してやった!』
『ふははは、驚いているか?これこそがテッカマンの力!テッカマンの前には、いかなる抵抗も反抗も無駄だと分かってくれただろう!』
『それでもなお、私に逆らおうというのなら…H-8、風都タワー跡へとやってくるがいい!』
【1日目/日中】
【H-8/風都タワー跡】
【モロトフ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ランスに変身中
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、拡声器、ランダム支給品0〜2個(確認済)
[思考]基本:参加者及び主催者全て倒す。
1:風都タワー跡にて参加者がやってくるのを待つ
2:いずれブラスター化したブレードを倒す。
3:プリキュアと魔法少女なる存在を皆殺しにする。
4:キュアピーチ(本名を知らない)と佐倉杏子の生死に関してはどうでもいい。ただし、生きてまた現れるなら今度こそ排除する。
5:ゴ・ガドル・バという小物もいずれ始末する。
[備考]
※参戦時期は死亡後(第39話)です。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。
※ボルテッカの威力が通常より低いと感じ、加頭が何かを施したと推測しています。
※ガドルの呼びかけを聞きましたが戦いの音に巻き込まれたので、全てを聞けたわけではありません。
※2発のボルテッカによる轟音が響き渡りました
※風都タワーが崩落しました
164
:
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/27(土) 00:44:37 ID:FgPKWW620
仮投下終了です
どなたか代理投下お願いします
165
:
崩落の呼び声(修正)
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/28(日) 16:51:01 ID:FgPKWW620
本スレ187〜189部分の修正を投下します
「最強は、真の強者は、我々テッカマンだ!加頭、サラマンダー、ニードル。貴様らの思い上がり、この私が、テッカマンランスが、叩き潰してくれる!」
主催者打倒の決意を改めて固めたモロトフは、改めて今後の身の振り方について考える。
まず先ほどの放送。
死亡者情報については、ブレードが無様にもまだ生きながらえているということ以外には関心ごとなど無い。
禁止エリアについても、近隣のエリアが指定こそされたが、特別問題は無い。
となると考えるべきは、先ほどのニードルが出したふざけたクイズだ。
といっても、答えはすでに出ている。
完璧たるテッカマンたる自分に、あんな子供だましのなぞなぞが解けぬはずも無い。
青+黄色→緑で「翠屋」、○+×は日本の地図記号で警察署を表しているのだろう。
テッカマンとなる前には、アルゴス号の乗組員として相羽孝三のもとについていたこともあり、日本の地図についての知識もあったのだ。
そして、参加者の名前の計算式…これは名前の中にある漢数字を計算して、「参加者を二人以上殺した参加者が使用できる……といったところだろう。
新たに提示されたボーナスについては…どうでもいい。
完璧たる存在であるテッカマンに新たな力など不要な存在。
というより、そのようなものに頼るなど、彼のプライドが許さなかった。
モロトフは、あくまでテッカマンの力で最強を示したかった。
「そう、証明して見せるのだ!今のままのテッカマンの力でも、ブラスター化した不完全なテッカマンなどに負けなどしないと!」
それに、ブラスター化の弊害を知った今、新たな力など手に入れてもろくなことにならないという考えもあった。
そういうわけで、モロトフは主催者から新たに提示されたボーナスの話を、頭の隅へと追いやった。
「さて、これからどうするか…」
放送について一通り考えをめぐらしたモロトフは、改めてこれからの行動について考える。
中学校には相変わらず人など来ない。
このまま待ち続けるというのも億通だし、行動として消極的だ。
それなら、以前図書館でそうしたように、この中学校を破壊した上で拡声器を使ってみるか?
あるいは、変身者を二人以上倒したという強者が近くにいるという警察署へ向かってみるのもいいかもしれない。
ちなみにモロトフは、マミやせつなの死を直接見たわけでもなく、またせつなの名を知らないために、自分がその「変身者を二人以上倒した参加者」であることに思い至っていなかった。
そんなこんなで色々と考えているモロトフの目に…ふと、一つの施設が目にとまった。
166
:
崩落の呼び声(修正)
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/28(日) 16:54:12 ID:FgPKWW620
「あれは確か…風都タワーだったか」
風都タワー。
それは自分がこの地で初めてタカヤと遭遇した場所だ。
そして、あのオカマとブレードに苦渋を飲まされる羽目になった場所だ。
「ふん…無駄に高いだけの塔……そんなものを作りたがるとは、愚かな人間どもの好みそうなことだな」
少し離れたこの場所からでもはっきりと見える風都タワーを、鼻で笑う。
馬鹿は煙となんとやらというやつだ。
あんなものを作って、自分たち人間があの塔の高さのように偉大な存在であると示したつもりなのだろうか。
だとしたら、なんともお粗末な話だ。
あんなもの、ただ無駄に高いだけで何の役にも…
「……待てよ?」
そのとき、モロトフの中で一つの考えが浮かんだ。
そうだ。どうして気づかなかったのだ。
この方法なら、拡声器以上に自分の存在を周囲に知らせることができる…!
考えをまとめたモロトフは、南下した。
目指すは風都タワーだ。
ちなみに、同エリア内には翔太郎たち一行がいたのだが、幸か不幸か彼らはすれ違ってしまい、遭遇することは無かった。
もっとも彼らも、そう遠くないうちにモロトフの存在に気づくだろう。
何故なら、彼がしようとしていること、それは―――
「たどり着いたぞ…風都タワー」
そんなわけで、道中誰にも出会うことなく、モロトフは風都タワーへとやってきていた。
「ふん、この私の役に立てることを、光栄に思うがいい…」
「テックセッタアアアアアアアアアア!!」
テッククリスタルを掲げたモロトフは、テッカマンランスへと変身。
そして、間髪入れずに…
「ボルテッカアアアアアアアアアアア!!!」
風都タワーめがけて、ボルテッカを放ったのだ!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
ガラガラガッシャアアアアアアアアアアアアン!!!
そして、ランスのボルテッカを受けた風都タワーは音を立てて崩落した!
「これでいい…」
167
:
崩落の呼び声(修正)
◆OmtW54r7Tc
:2013/04/28(日) 16:59:02 ID:FgPKWW620
風都タワーが倒れたことに、テッカマンランスは満足する。
風都タワー…それはランスからしてみれば無駄に高いタワーに過ぎなかった。
しかし、だからこそ利用価値があった。
このタワーは、市街地内にいるものやその近辺にいる参加者なら誰もがその姿を目撃する。
それだけ目立ったタワーなのだ。
ゆえに…このように音を立てて崩れてしまえば、誰でもそこで何かがあったのだと気づく。
その範囲は、拡声器の比ではない。
拡声器の何倍もの範囲で、周囲に自分の存在を知らしめることができるのだ。
「さて、これで仕上げだ…」
風都タワーを破壊したランスは、デイバックから拡声器を取り出し、スイッチを入れる。
そして……叫んだ。
『愚かな蟻どもよ!この私の偉大なるショーを見てくれたかな?私の名はテッカマンランス!たった今この風都タワーを破壊してやった!』
『ふははは、驚いているか?これこそがテッカマンの力!テッカマンの前には、いかなる抵抗も反抗も無駄だと分かってくれただろう!』
『それでもなお、私に逆らおうというのなら…H-8、風都タワー跡へとやってくるがいい!』
【1日目/日中】
【H-8/風都タワー跡】
【モロトフ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ランスに変身中
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、拡声器、ランダム支給品0〜2個(確認済)
[思考]基本:参加者及び主催者全て倒す。
1:風都タワー跡にて参加者がやってくるのを待つ
2:いずれブラスター化したブレードを倒す。
3:プリキュアと魔法少女なる存在を皆殺しにする。
4:キュアピーチ(本名を知らない)と佐倉杏子の生死に関してはどうでもいい。ただし、生きてまた現れるなら今度こそ排除する。
5:ゴ・ガドル・バという小物もいずれ始末する。
[備考]
※参戦時期は死亡後(第39話)です。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。
※ボルテッカの威力が通常より低いと感じ、加頭が何かを施したと推測しています。
※ガドルの呼びかけを聞きましたが戦いの音に巻き込まれたので、全てを聞けたわけではありません。
※ボルテッカによる轟音が響き渡りました
※風都タワーが崩落しました
以上です。
地図記号については、本スレに書いたことを根拠として、モロトフは知識を持ってるということにしました。
168
:
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:45:32 ID:Jb4jQKnY0
完成しましたが、一応こっちに仮投下してから本投下する形式にします。
169
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:46:22 ID:Jb4jQKnY0
「……寄せ集めが二人。この俺に勝てると思ってるのか?」
血祭ドウコクは、眼前の仮面ライダーダブルとウルトラマンネクサスへと言い放った。
「だから三人だって言ってんだろ!! ……ったく」
二人しかいないように見えるが、仮面ライダーダブルは左翔太郎とフィリップの二人の意識を内在する戦士である。一方のウルトラマンネクサスは佐倉杏子が変身しており、彼女自身も、ダブルの登場にはまだ驚愕しているようであった。
だが、ドウコクを倒す仲間としては、やはりダブルの存在は心強い。心強い一方で、折角逃げたのだから逃げ切ってほしいという複雑な心境でもあった。ここに来てしまった以上、引き返せというのもナンセンスな話だが。
「どうするか、フィリップ。逃げ場は完全になくなっちまったみたいだぜ」
『どうするもこうするも……これで倒す以外の選択肢、あるかい?』
フィリップは呆れたように、しかし頬を浮かしながら答えた。
翔太郎が無茶をする事にフィリップは慣れていた。
「そうだな、それが唯一にして……」
『そう、完璧な答えだね』
「『ハァッ!!』」
仮面ライダーダブル・ルナトリガーは声を合わせ、再び何発もの弾丸をドウコクに向けて放つ。
一発一発が不思議な軌道を描き、ドウコクの身体の表面で爆ぜる。ドウコクはそれを全て全身で受ける。
避ける隙がなかったわけではない。避ける“意味”がなかったのだ。
その弾丸を受けながらも、ドウコクは平然としながら前進する。走るような素振りは見せず、威風堂々、全身を揺らしながらゆっくりと歩いている。
そのあまりの豪快さと身体の硬さに、やはり強敵の貫禄を感じ、ダブルは息を飲んだ。
(……ただ、その完璧な答えを通用させるには、少し難しい相手かもな)
二人は鳴海壮吉の死から数えて三年戦い続けたとはいえ、翔太郎はまだまだハーフボイルドだ。
しかし、目の前の敵は違う。どれだけの時を戦い続けているのかわからない。生まれた時から戦ってきたかのようにさえ見える。──果たして、日常生活というものを経験した事がある相手だろうか?
昼夜を問わず依頼人のために働く体力のいる仕事・探偵を選んだ翔太郎も、所詮は人間のスペシャリスト並みの体力でしかなく、それを仮面ライダーとしての戦闘力と戦闘経験で補っているに過ぎない。
──だが、ダブルに向かって駆けてくる、このドウコクなる者は、そんな程度の力ではない。
ヒトですらなく、ヒトらしい心さえ持たない外道衆。しかも、その総大将だ。縛る力の存在がその所以とはいえ、単純な戦闘力においても外道衆では最強と言える。これまで仮面ライダーダブルが戦ってきた相手は殆ど人間が変身した敵であったが、それらとはまた違った次元の敵であった。
それが歩いてくるとなれば、それはやはり────恐怖を増幅させる能力の持ち主であるテラー・ドーパントの時に匹敵する恐怖が翔太郎の中にあったかもしれない。
それでも、仮面ライダーである以上、ダブルは当然それに立ち向かわなければならなかった。
その意思をより強くするため、再びメモリを変える。
このまま遠距離攻撃をしていても、おそらくは何も効かないままに距離を詰められる。それより前にメモリをチェンジせねばなるまい。
まず、防御の力も引き出しておいた方がいいだろうか。
取り出したのはメタルメモリだった。
──Metal !!──
──Lunna × Metal !!──
170
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:46:53 ID:Jb4jQKnY0
ルナメタルへとハーフチェンジしたダブルは、メタルシャフトの先端を鞭のように伸ばし、ドウコクの身体へと届く。この攻撃はこの殺し合いに来て以来、誰にも使った事はない。つまり、ドウコクもこの戦い方を知らない。
それが一瞬の翻弄へと繋がる。
イレギュラーな攻撃に、ドウコクは一瞬対応に困ったようだが、対応はごくごく簡単な話──右手の剣を振るい、それを身体の手前に翳して攻撃を弾く。降竜蓋世刀の刃渡りは微かに少なく、それを受け切る角度としてはやや物足りないものだったが、仮に身体にメタルシャフトが届いたとして、小さな火花を散らす程度だ。ドウコクには効かない。
「ハァッ!」
そんな攻撃の隙間に、近くにいたネクサスは高く跳び、ドウコクの頭を目がけて足を突き出しての落下を開始していた。ネクサスは、遠距離戦以上に肉弾戦を一つの武器としている。アンファンスキックである。
ネクサスの攻撃に気づいたダブルが、メタルシャフトを引っ込め、ネクサスの身体にメタルシャフトが当たらないようにする。
直後、ネクサスのキックは確かにドウコクの頭に命中した。それはある程度ドウコクに効いたようで、ドウコクの身体は自然と数歩後ろに下がった。
「ああ……?」
だが、大きなダメージには至らなかった。むしろ、着地したネクサスの身体こそ、攻撃を受けた直後のドウコク以上に隙がある存在だったがゆえ、降竜蓋世刀がネクサスの身体を横凪に襲う。
「デュアッ!」
辛うじてネクサスは身を翻す。それを避けたつもりだったが、胸元に微かに刃が命中した。
胸元から小さな火花が散り、ネクサスの目が反射的にそちらに向いた。この火花は、ヒトならば真っ赤で膨大な血液だっただろう。避けきったつもりだったのに攻撃が届いていた。そのため、ダメージの程度がわからなかったのである。身体にどんな痕ができてしまったか──その確認のようなものを、本能が求めた結果かもしれない。
しかし、そうして自分の傷跡を見た瞬間、更にドウコクの左拳がネクサスの頭部へと放たれる。
これは避ける事さえもできない。見事に命中し、ネクサスは下半身が前に向きながらも上半身が殴られた方向に捻られる形になった。
そこからドウコクは再び、降竜蓋世刀で左下から右上へと豪快に斬り捨てる。それは具体的にネクサスの身体の何処を狙ったわけでもない。ただ、その斬撃がどのくらい派手にネクサスの身体を仕留めてくれるかという楽しみがドウコクの中にあった。
「調子に乗るなよ?」
大雑把な攻撃でありながら、効果は絶大だ。
ネクサスの腹部から胸にかけて、今度こそ巨大な傷が残る。
黒く焦げ、抉られたような傷が、アンファンスの銀色の身体では非常に目立つ。これこそ、ヒトならば骨まで見える大怪我……相当な致命傷だろう。
「デュァァァァァ……!」
その呻き声は、痛みを訴えながらも堪えようという努めが見られた。
ネクサスは地面に膝をついて、胸を抑える。
二度目の変身とはいえ、初めて使う力には違いないのだ。突然その力を与えられ、まだ使い勝手に苦しんでいる杏子である。
だが、ネクサスは顔をあげ、ドウコクを見上げる。
距離、ゼロ。
降竜蓋世刀は、真上からナタでも突き刺すかのように振り下ろされる。しかし、それに気づいたネクサスは、己の力の限りを尽くし、すんでのところで真横に転がって回避する事に成功した。
「フィリップ、俺達もチャンスだ……!」
『ああ……!』
次の瞬間、ダブルとドウコクの間にいたネクサスが消えた事で、ダブルにも攻撃の隙が出来た。二人が攻防を行っているうちにダブルはサイクロンメタルへとハーフチェンジしており、メタルシャフトから旋風が放たれる。何度も何度もメタルシャフトを回転させながら、風を巻いた一撃がドウコクへとぶち当たる。
しかし、俊敏であるように見えて愚鈍なその風は、あっさりと見切られ、降竜蓋世刀が跳ね返した。
「弱ぇな」
171
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:47:26 ID:Jb4jQKnY0
ドウコクが呟く。
やはり、弱い。手ごたえがない。
シンケンジャーの方がよほど戦い慣れをしていただろうか。そんな思いが巡る。
モヂカラを持つ者たちが世襲していくシンケンジャーは日々の修行を欠かさず、シンケンレッドなどは非常に長い期間戦ってきた。
だが、彼らはどうか。モヂカラも持たず、戦い慣れもない。多少は慣れているとは言っても、せいぜい戦っていた期間はダブルが四〜五年、ネクサスに至っては一年程度に見える。それはドウコクの中では戦い慣れとは呼ばれない。
そんな敵に、人の一生より長い期間を戦い続けたドウコクが負けるわけがないではないか。……しかし、もはや手ごたえなど、ドウコクは求めていなかった。
「ハァッ!!」
不意に、真横からドウコクに向かって、鋭い刃が向けられる。それは剣の形をしていない。ネクサスの腕の側部を覆うアームドネクサス──そのエルボーカッターであった。
アームドネクサスは低い位置からエルボーカッターを使い、ドウコクの首筋を狙う。
おそらく身体構造は同じ。ならば、急所も同じだと考えたのだろう。
だが、降竜蓋世刀はそれを平然と防ぐ。今度は刃渡りも角度もドンピシャである。ドウコクの身体には刃が当たる事さえもなかった。
これだけの姿になりながらも、余程の勇気をもっての一撃と見える。
「グァァァァァァッッ!!!」
ドウコクは咆哮する。
それは身体の痛みから来るものでも何でもない。ドウコクの攻撃の一つであった。
咆哮は衝撃波となって、ネクサスの身体を遠く吹き飛ばす。ある程度の距離をキープしていたはずのダブルでさえ、左足が下がり、両手を体の前で組み耐えているほどである。
再び、近距離にあったはずのネクサスとドウコクの間が広まった。
ネクサスは後方に倒れ、本人の意思を無視して衝撃に転げた。
その様子を見て、ダブルが呟く。
「……クソッ。なんて奴だ」
てっきり近距離攻撃のみを武器とするのかと思っていたが、衝撃波を操るなど、もはや反則だろう。ダブルほど多彩ではないものの、ダブルが持つ全ての姿の力を超える圧倒的な力をドウコクは持っている。
近距離の斬撃。遠距離の咆哮。
かなり難しいところだ。翔太郎は考えていたが……
『……翔太郎。さっきから気になってるんだけど』
不意にフィリップが突然に口を挟んだ。
「おい、なんだフィリップ。まさかこんな時に桜餡子について調べたいとかいうんじゃねえだろうな」
『それもいいかもね。……だけど、翔太郎は杏子ちゃんの姿に疑問に思わないのかい?』
──疑問。
一口にそう言われても、翔太郎には、思い当たる節が多すぎて一体、どの疑問なのかわからない。
だいたい、戦闘中には仮にどんな疑問が出たとしても、それは全てフィリップに任せる方針だった。この身体が翔太郎のものである以上、ダブルの今の戦いは翔太郎の命がかかった戦いでもあるのだ。
「なんの疑問だよオイ。いろいろありすぎてわかんねーよ」
『あの銀色の巨人の姿、前に戦った時は確か、別の色になってガドルたちを圧倒した……』
「ああ、そうだな」
『じゃあ、今の彼女の姿を見てごらんよ』
ダブルはネクサスの方へと目を移す。
確かに、考えてみれば、以前姫矢が変身するウルトラマンネクサスと共闘した際、ネクサスは肩に装甲を拵え、全く別の体色の姿へと変わった。
赤を基調とするボディラインへと変化した事はよく覚えている。ヒートメタルとは配色こそ異なるものの、基調となる二つのカラーは同じだったはずだ。
「今の杏子は……全身銀色だ」
『そう。本当は別の色に変身する力があるはずなんだ』
「……そうか、俺達のハーフチェンジみたいに……」
『ああ。おそらくそれは、あの戦士の力を引き出す鍵なんだ。でも、杏子ちゃんはそれに気づいてない』
「……なんだって?」
172
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:47:56 ID:Jb4jQKnY0
そう、以前フィリップが言ったとおり、あの力が引き継がれていくものだとすれば、彼女が力を引き継いだのはつい数時間前。まだ彼女が使い方を知らない可能性だってあるはずだ。
いや、可能性なんかじゃない。ほぼ確実にそうだろう。先ほどから、ネクサスは非常に単調な攻撃しかできていない。魔法少女の姿の方がトリッキーで様々な攻撃ができていた。
それは彼女がネクサスの力の使い方をよく知らない所為もあろう。
「そうか。ならとにかく、それを杏子に教えてやらねえと……」
……と、翔太郎が言った瞬間である。
「……何を教えるって?」
ドウコクはダブルの近距離に迫ってきていた。
翔太郎とフィリップは普段、会話しながらも周囲に気を配るくらいはできた。だが、ドウコクの咆哮が耳鳴りを起こさせており、何より会話のために聴力をフル稼働させる必要があったのだ。
そのため、視覚に気を配るのを一瞬でも忘れさせていたのである。その一瞬が、ドウコクを近距離まで歩かせていた。ドウコクのマスクは喜怒哀楽の怒の表情のみを拵えたような恐ろしい外形である。
やはり、近距離で見れば鼓動が高鳴り、翔太郎の中で一瞬、時が止まるほど恐怖に満ちていた。
「くそっ!!」
ドウコクは降竜蓋世刀を振り下ろす。幸いにもサイクロンメタルの姿をしていたがゆえに、左半身に力を込めてそれを防いだ。硬質化したメタルの左半身は敵の攻撃を簡単には受けないほど硬い筋肉に覆われている。確かに、多少は衝撃を感じたものの、防御に関してはサイクロンメタルは卓越している。
ダブルは左手で攻撃を防ぎつつ、右手でサイクロンメモリをヒートメモリに入れ替えようとしていた。
しかし──
「しゃらくせえ!」
「何っ!?」
そんな右手とベルトのやり取りは、ドウコクの蹴りによって防がれる。
ドウコクの蹴りはダブルの右手へと命中し、その手に持っていたメモリを弾いた。腹部にこの蹴りがぶち当たれば、かなり膨大なダメージを与えたかもしれないが、ドウコクの目的はダメージを与える事ではない。
ただ、ダブルの小細工を防ぎたかっただけである。
「あっ……くそっ……ヒートメモリが……!!」
ヒートメモリが宙を舞い、ダブルからは数メートル離れた地面にぽとりと落ち、少し跳ねた後、動かなくなった。たかが数メートルの距離とはいえ、そこまでの間にはドウコクがいる。こうしてハーフチェンジを防がれるのでは、ルナメモリも使えない。
ヒートメモリはソウルサイドのメモリだ。仮面ライダーダブルに変身した事でこちら側に実体化していたメモリなので、おそらく壊されない限り、変身を解けばフィリップの元へと帰るだろう。しかし、今はそんな暇がない。変身を解くなど自殺行為だろう。
ドウコクには特に有効であるヒートメモリがダブルの手を離れてしまったのは痛手であった。
それに、現状変身しているサイクロンメタルというのは、ダブルが持つ九つの形態の中でも、二つのメモリの相性が特に悪い最悪の組み合わせなのである。戦えない事もないが、使用はだいたいの場合一瞬の翻弄に終るのである。
ドウコクは、サイクロンの側からメタルの側を斬りつけるように横凪ぎに刀を振るう。
「ぐああああああっっ!!!」
173
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:48:26 ID:Jb4jQKnY0
ダブルの身体にもまた、深い傷跡が刻み込まれた。
防御力が高いメタルの身体を持ちながらも、やはりドウコクの魂のこもった一撃は違う。真の闘士はドウコクであった。
同じ闘士であっても、彼は数百年来の闘士なのである。
『大丈夫かい!? 翔太郎!』
痛む翔太郎の身体の身を、フィリップが案じる。
そのフィリップの弱弱しい心配の声を聞き、ドウコクはニヤリと笑った。
「一人の体に二人の頭。煩わしいだけだと思ったが……最高じゃねえか、一人で二人分の悲鳴を挙げてくれるんだろ?」
そう、もう一人の人格はこの状況下では戦えないらしい。ダブルに変身して戦っている限り、彼はもう片方の男が死ぬのを見続けるに違いないのである。
前々から翔太郎もドウコクを悪趣味だとは思っていたが、尚更それが憎く感じる。彼に対する反発心は充分だった。
ともかく、もとより死ぬ予定はないとはいえ、死ねない理由は更にもう一つ出来たというところだろうか。自分が死んでフィリップが悲鳴をあげるのなら、それは相棒として事前に食い止めていくべき話だろう。
「違うね……そんな悲鳴をあげるのはお前の方さ……」
ダブルは、ドウコクの真後ろを見てそう言う。
立ち上がったネクサスが、ドウコクの両肩を後ろから掴み、自分の方へと寄せた。ダブルには、ネクサスがドウコクに向かって駆けてくるのが見えていたのである。
次の瞬間、ドウコクの胸へとネクサスのアンファンスパンチが繰り出される。
「……バカな野郎だ」
しかし、それは予測済だったのだろうか。それと同時にネクサスの体を剣が凪ぐ。タイミングは見事なほどに合っていた。ネクサス自体が、半ば捨て身で向かってきた所為もある。
「危険が迫ってるのをわざわざ教えてくれてありがとよ……!」
「くそっ……!」
翔太郎の台詞こそが、ドウコクに直前でもネクサスの攻撃を予測させる原因になったのだ。
(ちくしょう……すまねえ、杏子)
我ながら余計な事を言った、迂闊だった、と後悔し、杏子に申し訳なく思う。
戦略的に無意味な恰好付けにしかならなかったのだ。いつもの癖で言ってしまったが、そんな余裕のある相手ではなかったらしい。
「グァァァッ!!」
直後に聞こえるのはネクサスの雄叫び。
再び体に深い傷を負ったネクサスは遂に膝をつき、肩で息をしていた。肩で息をする姿というのがこれほどまでにわかりやすいものだとは誰も思わないだろう。呼吸をしているかもわからないネクサスだったが、明らかにゼェゼェと息をしているようである。
ピコン…ピコン…ピコン…ピコン…ピコン……
そして、そうして大きく息を吸い、大きく吐いていると、奇妙な音が鳴り始めた。
まるでタイマーの点滅のような変な音であった。
どこから鳴っているのかと思えば、それはネクサスの胸にあるY字型のエナジーコアからである。
「おい、杏子。なんかヤバいみたいだぜ……!」
ザルバが言う。
ネクサスは己の胸元で点滅を始めた光にぎょっとしたように目をやった。
エネルギーの限界とダメージの蓄積が来ている事の証明である。それを教わったわけではないが、自分の状態が限界に近いのは理解していたため、何となくそれがウルトラマンとしての限界を表しているのだろうと理解できた。
ウルトラマンネクサスの活動時間に特に制限はない。メタフィールドを展開した場合、メタフィールド内での活動時間は3分に限られるが、この場所では枷となるものはなかった。しかし、エネルギーの消費が激しい場合や、身体的に膨大なダメージを受けた場合の話は別である。
174
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:49:08 ID:Jb4jQKnY0
続けて、ドウコクは先ほど向いていた方向へと向き直り、ダブルの体へと斬りかかる。
頭の上で真一文字に斬りかかろうと言う姿勢だった。
「その身体……真ん中から真っ二つに引き裂きたくなるのが情って奴だよなァ」
笑ったような声とともに、サイクロンとメタルの狭間の線をなぞるように、ドウコクの剣はダブルの身体を斬る。稲妻か業火か、ダブルの身体に光が迸る。
無論、ここから翔太郎の悲鳴が聞こえないはずがなかった。
「ぐあああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」
『翔太郎ぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!』
ぷすぷすと身体の狭間から仄暗い色の煙が昇る。
ドウコクの目的とする悲鳴の連鎖は、まだまだ終わらない。これだけ敵が巨大なダメージを負っている今、その隙は一秒前より確かに大きいものとなる。
痛みに倒れるダブルの身体に、二度三度とドウコクの刃は通る。
火花はあまりにも巨大だ。
翔太郎とフィリップの悲鳴は止まない。
ドウコクは笑いもせず、極めて冷徹にその悲鳴を耳に通した。高笑いなどはしない。冷徹に追い詰めながらも、当人はその慟哭の中に悦びを感じている。
翔太郎が憧れるハードボイルドから優しさを消せば、これと似ているかもしれない。無論、優しさのないハードボイルドはハードボイルドに非ず……ハードボイルドの定義からも外れる。翔太郎は、この宿敵を認めないだろう。
数度の攻撃の後、ドウコクはその場に倒れる二人の戦士に攻撃を加えるのをやめた。
「……ぐっ! ………………あがっ………」
ダブルは立ち上がろうとするも、全身の力が出し切れず、そのまま地面に身体を打ちつける。ドウコクは憮然と立っていた。
ネクサスは立ち上がり、数歩よろよろと歩いて近づこうとして、また倒れた。ドウコクはそれを冷淡な目で見つめていた。
「さあ、どっちが先に死ぬ? 先に死にてえのは、どっちだ?」
しかし、冷淡に見つめながらも、ドウコクは敵を散々痛めつける快楽の中にあった。
これほどまでに長い時間を殺しながら楽しむ悦びなど、これまであっただろうか?
ドウコクをはじめとする外道衆は、三途の川の水を身体に残さなければ、水切れを起こして三途の川へと帰らなければならない宿命を持っていた。
そう、ついこの間まではドウコクは少しでも人間界に出れば、すぐに水切れを起こしてしまう厄介な体質だったはずだ。
しかし、今は違う。
薄皮太夫の身体をその身に宿したドウコクは、完全無欠の外道衆と成った。人間界でどこまでも暴れられる。敵を殺し、人の苦しみを聞く事で三途の川の水も増える。
いや、それだけではない。
三途の川を増水させて人間界に向かわせるよりも、ドウコクはこの戦いを愉しんでいた。
今は、怒りを感じれば何処まででも敵を殺せるのだ。
「……いや、もう声も出せねえか」
ダブルは小さな声を上げたが、それでもドウコクには聞こえなかった。ネクサスの言葉はドウコクには伝わらないため、ドウコクが向かったのはそちらになるのは必然だ。
ネクサスは自分のいる場所から遠ざかっていくドウコクに近づこうとしたが、無意味に少し這うだけだった。
エナジーコアはだんだんと点滅を早めている。
もうすぐネクサスの変身が解けてしまいそうであった。耳触りなアラームは、更に音を加速させ、ネクサスの胸元で鳴りつづける。
「おらっ!!」
ドウコクはダブルのメタルシャフトを取り上げ、ダブルの身体を蹴飛ばし、仰向けの体形に転がす。翔太郎の小さなうめき声がそこから漏れたが、ドウコクはそれに耳も貸さない。
ドウコクはダブルの身体を両足でまたぐようにして立った。
次の瞬間、垂直に突き立てられたメタルシャフトは、何度も何度もダブルの胸を、腹を、叩きつけるように振り下ろされる。身体を潰し、突き破るような一撃が真上からダブルの身体へと何度も繰り出された。
ドウコクとしては、さながら餅つきでもするような感覚だっただろうか。
175
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:49:40 ID:Jb4jQKnY0
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!」
翔太郎の身体の皮膚を、骨を、内臓を、突き破る気なのだろうか。
ドウコクは、精一杯の力と体重を込め、メタルシャフトでダブルの身体を突く。突くたびに、地震でも起きたかのような小さな轟音がネクサスの耳にまで入ってきた。
「うらっ!! おらっ!!」
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああッッ………!!」
「でかい声が出せるじゃねえか……!」
先ほど、小さなうめき声しか出せなかったダブルとは思えないほど、その声は大きかった。どんなに口を閉ざそうとしても、痛覚がある限り絶対にその声を止ませる事はなかったかもしれない。あるいは、声が枯れない限り……永遠に。
ドウコクはもはや、先ほどの問いの答えを知る気さえなかったかもしれない。
ダブルの悲鳴は、三途の川へとどれほど響くだろう。
『やめろ……やめてくれ!!』
魂のみが宿っているフィリップは、その時、翔太郎の叫び声と重ねながら、彼より大きい声で必死に訴えかけた。
相棒を失いかけているフィリップの声は涙さえ混じっているように聞こえる。結局、ダブルの状態では彼が泣いているか否かなど、わかるはずもないが。
『やめてくれえええええええええッッッ!!!!』
ドウコクの身体がメタルシャフトを振り下ろす直前に、フィリップは絶叫した。
翔太郎が大声で叫ぶのが、一瞬でも止んだ隙に、ドウコクの耳に入るよう訴えたかったのだ。
ドウコクは、その声を合図に、メタルシャフトを振り下ろすのを突然やめる。メタルシャフトがダブルの身体の上で少し跳ねた。
「……やめろ? それはどういう意味だろうな」
実際、攻撃を止めてはいるものの、すぐにでもまた攻撃を仕掛けようと言う姿だった。
一時的に止めただけで、フィリップの言葉を素直に聞き入れたわけではないらしい。
かえって嫌な予感がしたので、二人はその静寂に冷や汗を流す。
「それは『殺すならあっちの小娘にしろ』って意味か、それとも『今すぐコイツを殺して息の根を止めてくれ』って意味か……二つに一つしかねえだろ? ……決めてみろよ。はっきり叫べば、俺はその通りにしてやる」
ドウコクの提案──それは翔太郎たちにとって、最悪の二択だった。予想はしていたが、やはりドウコクの残虐性は翔太郎たちの次元からは遠く離れたものである。
どちらであっても、ドウコクにとっては嬉しい言葉に違いない。
ドウコクは殺し合いに乗っているが、無暗に殺しまくるというより、その悲鳴を聞き、人間の底の浅さに満足したかったのである。
(さあ、どうする……。さっさと見せろよ、人間の本性って奴を……)
ドウコクがこれまで戦ってきたシンケンジャーは、自分の命を他人のために平然と捨てる連中だった。他人のために道衆と殺し合い、自分たちが命を落とす可能性があるとしても、それを頭の片隅にさえ入れず、誰かを守ろうなどと考える愚か者だった。
ドウコクの仲間である骨のシタリはその姿を「外道衆よりも命を粗末にしている」と形容する事になったが、それは事実だろうとドウコクも思っていた。
ドウコクたち外道衆は仲間の死にさえ冷淡で、感情らしいものは欠如していると言えるかもしれない。元々人であった太夫などを除けば、ドウコクのように真正の外道となる者が大半だ。
しかし、どういうわけかシンケンジャーは、人の死にいちいち反応する。自分の命より他人の命を大切にする不可解な存在だった。
それがドウコクを苛立たせる。
他人の命は自分の命を賭してでも助ける価値がある? ──そうじゃないはずだ。そんなはずがない。
自分の命のために他人を捨てられる──それだけ大切な命を消し去ってこそ、ドウコクは満足なのだ。
その人間にとって何より尊い命を奪ってこそ、悲鳴は上がり、不幸は生まれる。
だが、シンケンジャーたちはどれだけ痛めつけても何故か、絶対に他人を捨てようとはしなかった。そんな人間を殺しても絶望などは生まれないし、幸せそうに……満足そうに、非生産的に死ぬだけだ。
ここにはそんな人間が何人もいる。
それが、ドウコクには許せないのだ。
176
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:50:14 ID:Jb4jQKnY0
ドウコクは認めない。
それは絶対にありえないはずだ。ドウコクにだって命は大切なものだ。他人の命を犠牲にしてでも生きたい。
本性はそうであるはずなのだ。
それを確かめたい。そうであると信じているドウコクの思想を、絶対に塗り替えてはならない。
『翔太郎、僕は──』
「やめろ……フィリップ…………こんな奴に…………俺達は…………」
──俺達は負けない。
そう言おうとした瞬間に、翔太郎の右胸をメタルシャフトが打つ。
その一撃は、装甲の上からでも翔太郎の体の骨を折るほどではないだろうか。
ドウコクは、とにかく何か口を挟む相手の妨害をしたかった。
「ぐあああああああああああああああああッッッ!!!」
これでもそんな事が言えるか? と、まるでそんな事を言っているようだ。ドウコクは、彼が勝つ希望など無いというアピールをしている。
それがまた、フィリップの迷いを強めさせる。実際、フィリップはいま一瞬、翔太郎に答えを乞おうとした。それは、彼が少しでも迷っている証だ。
ここでドウコクが強いている答えは、時が経つにつれ重くなっていった。
「……答えが出ているみてえだな」
しかし、その一方、ドウコクは彼は迷いなく、自分の意に沿った決断をしているだろうと思っていた。
このフィリップという男は、ドウコクがどれだけダブルを痛めつけても痛みを感じてはいないようなのである。ならば、ここで悲鳴をあげる仲間を取り、ネクサスの死を望むに決まっているだろうと思っていた。
ここで殺せというのは、相棒の苦痛を知り、安楽死を望んでいるという事だろうが、それはどちらかといえば可能性としては低い。
他者を蹴落とし、自分の身を取るのが当然の局面だとドウコクは思っていただろう。
『…………』
フィリップは、少し悩んだように黙った後、答えた。
『血祭ドウコク……すまないが、君の望む答えは、僕達からは出せないようだ』
「……何だと?」
答えを出さない。それは即ち、苦しみから逃れる決断も、他人を蹴落とす決断も下さないという事。それは、ドウコクにとっては有りえない筈の決断だ。
ドウコクの眉間に皺が寄る。
『……僕と翔太郎は、お前のような悪を討つ仮面ライダーだ! 僕たちは命を簡単には捨てないし、他人も犠牲にしない!』
「フィリップ……!」
実はフィリップは一秒も悩まずにこの決断を下していたのだった。
悩んでいるように見えたのは、少しでも翔太郎が痛めつけられる時間を伸ばそうと、悩んでいるフリをしていただけに過ぎない。
苦しいが、フィリップは残念ながらそれしかできなかった。
この決断は、翔太郎の意思でもあるだろうとフィリップにはわかる。これまで仮面ライダーとして戦ってきた彼が杏子を犠牲にして生き残るわけはない。
たとえフィリップがその判断を望んだとしても、それを口に出したら、二人は永久に相棒でなくなるだろう。かといって、翔太郎を殺させる事もできない。
二人は、二人で一人の仮面ライダーなのだ。
どうあっても、犠牲は作らない。もし、犠牲が出来てしまう決断を選ぶ時があるとしても、今はその時ではないはずだ。
「……なるほど。てめえらも本当に不愉快な大馬鹿野郎だ……!!」
目の前の敵もまた、シンケンジャーや姫矢と同じだった。
彼らはこの状況でもまだ、命が助かるかもしれないとか、きっと何とかなるとか、そんな幻想を抱いているのだろうか。他人の命が自分の命より大事だと考えているのだろうか。だとすれば、それはまさしくドウコクを不愉快にさせる考え方だった。
ドウコクはメタルシャフトを辺りに捨て、降竜蓋世刀を右手に握る。その刃を左手で一度なぞり、刃こぼれがないのを確かめる。
強く、強く握った。
まだチャンスはある。
直前になればもっと巨大な悲鳴で喚き、「俺達じゃない、あいつを殺せ」と騒ぐはずに決まっている。
ドウコクはそれを信じて、刀を真上に掲げる。
次の瞬間、その刃はダブルの身体に向けて振り下ろされる事になった。
△
177
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:50:50 ID:Jb4jQKnY0
ウルトラマンネクサスは、這いつくばったまま右手を前に伸ばした。必死に地面を掴み、右手に力を込め、少しだけ前に進む。うつ伏せに倒れたネクサスは、己の身体にある僅かな力を前へ前へと少しずつ出すしかなかった。
顔を上げて見てみれば、ドウコクは倒れた仮面ライダーダブルの身体に、何度も何度もメタルシャフトを振り下ろし、体を突いている。────それは、彼女の身体から数十メートル離れた位置の出来事だった。
歩くよりも遅く這って、そこまで辿り着く筈がない。日を浴びたアスファルトは、ネクサスの身体を少しずつ焼いている。
「……オイ、あんたも……あんたの仲間も……ヤバいんじゃないか?」
指に嵌められたザルバは、少し焦りを見せながら言った。
ヤバい──そんな状況なのは、一目瞭然だろう。翔太郎の絶叫はここまで聞こえている。
結局、ほとんど赤の他人で状況すらよく掴めていないザルバにはわからないだろうが、ネクサスはかなりの焦りと絶望を感じながら、必死に身体を前へと出しているのだ。
自分が死んでしまうからではない。
このままでは、何もできずに死んでしまうからだ。何かを成し遂げて死ねるならいい。でも、このままでは、何もできない。
翔太郎を助けられない。
これから幾つもの命を救って行けるかもしれない翔太郎が痛めつけられているのに、彼を助けられないのだ。
せめて、その命くらいは助けたい。
ネクサスの身体はボロボロだ。
ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン……
エナジーコアの点滅はだんだんと早くなる。
このまま這っていては、やはりあそこへたどり着く前にネクサスとしての活動は停止されてしまうだろう。
(ちくしょう……なんで……なんで助けられないんだよ……)
杏子は思った。
自分が死ぬわけではないが、その瞬間、まるで自分が死ぬ瞬間のような感覚に陥る。景色の全てがスローモーションで無音に感じ始める。
そして、全身の疲労のせいもあってか、走馬灯というものが流れ始めてきた。
まるで自分自身が死んでしまったかのような、長い映画が始まる。
本当は助けるつもりだったのに、崩壊させてしまった自分の家族。
父を、母を、妹を、救うための行動が、逆に自分の家族の命を奪ったあの時のことも。
殺し合いに乗るつもりで一緒に行動し、時に敵と戦った仲間。
フェイトやユーノを騙すつもりだったのに、いつの間にか二人の死が胸を刺したあの時のことも。
杏子が魔法少女となって間もない頃に出会った友達。
別れた後で、巴マミの死を聞かされたあの時のことも。
それから翔太郎を運んで、出会った同じくらいの年齢の少女。
杏子を諭し、許してくれたせつなが死んだあの時のことも。
己の罪と向き合い、敵と戦う事を誓ったあの放送の男。
杏子が駆けつけた時にはその男は敵に倒され、灰となり消えてしまったあの時のことも。
それから先、杏子と少しだけ会話を交わして、不思議な共感を抱いた男。
この力を明け渡し、杏子たちを守ってくれた姫矢の死を知ったあの時のことも。
全てが罪悪感を伴った悲しい記憶として思い出された。
こういう時、普通ならば自分の人生を呪うだろうが、彼女は少し違った。
(なんで、あたしはいつも……こう人を巻き込んじまうんだ……)
178
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:51:20 ID:Jb4jQKnY0
杏子の家族は、きっと杏子が何も願わなければ死ななかった。
マミは、杏子があのまま友達として傍に居続けていれば死ななかった。
フェイトは、杏子が共闘を提案しなければ死ななかった。
ユーノは、杏子が殺し合いに乗るために利用しなければ死ななかった。
せつなは、杏子があの時逃げ出さなければ死ななかった。
姫矢は、杏子が勝手に放送の男のもとへと駆けつけなければ死ななかった。
そして、翔太郎は杏子がここでドウコクと戦おうとしなければ、こうして死の危険を受ける事もなかった。
杏子の行動は常に裏目に出て、誰かを傷つけつけてしまう。
自分の人生の理不尽ではなく、自分自身の存在の理不尽を呪った。自分の人生がどれほど荒んだ物なのかはいいのだ。ただ、自分が存在するだけで他人の人生が失われていく恐怖が増幅する。
(……なあ、神様…………たまには、あたしの願い通り、誰かを助けさせてくれよ……助けようとするたびに人が死ぬなら、償う事もできないじゃねえか……こんな酷い事ってあるのかよ……)
誰かを助ける心が、世界に一度でも受け入れられた事があっただろうか。
全て裏目に出て、杏子や周りを不幸にしてしまう。
誰かを助けたいと思ってしまう心が罪なら、その罪を償う方法など最初からあるはずもない。誰かを助けようとするたびに誰かが死に、誰かが傷つく。
誰かを救おうとする心が、必ずしも誰かを救う結果にたどり着くわけではないが、彼女の場合は状況を悪化させてしまうのだ。
(……やっぱり、あたしがあの兄ちゃんを助けようっていうのが間違いなのかもな)
────そう思った瞬間、ネクサスは這うのをやめた。全身の力が抜けたのである。月並みな言い方なら、一本の糸が切れたような瞬間だった。
翔太郎には申し訳ないが、このまま助けようとする事こそが、また新しい罪を生む。
杏子にできるのは、そうならないために「助けない」事であるように思えたのだ。
そうすれば、きっとドウコクは翔太郎を殺した後、杏子を殺す。
それでいいじゃないか。
それで……全ては丸く収まるじゃないか。
それで、あたしも楽になるじゃないか。
エナジーコアが点滅を早めていく。今にも消えそうなほどに、その光は闇へと近づいていく。光の力が弱まり、ネクサスとして変身できる力がだんだんと失われつつあった。
このまま眠ってしまうのも、悪くないかもしれない。
いや、悪くないというより、それが最良の判断なのかもしれない。
「……オイ、アンコ。何で向かうのをやめるんだ?」
指輪が、杏子にそう言った。
そういえば、ザルバを嵌めていたのを忘れかけていた。こいつにも謝らなければならないだろうか。ドウコクについでとして破壊させるかもしれないザルバに謝罪の言葉をかけたいところだったが、そんな気力さえわかなかった。
もうこのまま、何も聞かず、何もせず、何も考えないのが丁度良いと思えたのだ。
それこそ、何もかもが裏目に出る人間の最期に相応しいではないか。
「……諦めるのか? お前にもあの悲鳴が聞こえるんだろ? お前には戦う力があるんだぜ? それなら、あの悲鳴を止める事だってできるはずだ」
ザルバはそう言う。
確かに、どんなに聴覚をシャットダウンしようとしても、簡単に消せる感覚ではなかった。杏子の耳には、いまだはっきりと翔太郎の悲鳴が聞こえる。エナジーコアの点滅音や、ザルバの言葉とともに、ひたすら生々しく翔太郎の声が届いた。
179
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:51:52 ID:Jb4jQKnY0
だんだんとガラガラ声を交えているのは、声が枯れている証拠だろうか。
それがまた、杏子の罪悪感を掻き立てる。
お菓子でも食べて食欲を満たさなければ苛立ちで心がパンクしそうになる。
「……なあ、俺はあんたとはほとんど初対面だが、あんまり見ていられないんで、この際はっきり言わせてもらうぜ。──アンコ、お前は弱すぎる」
どんな怒号が飛び込んでくるかと思えば、かなりバッサリと斬り捨てられた。
怒号を期待していたせいもあってか、少し気が抜けてしまった。
(うるさい指輪だとは思ってたけど…………………やっぱり本当にうるさいな)
杏子は苦笑する。
このまま生きるのを諦めたというのに、ザルバはやたらと冷静だった。
杏子が生きるのを諦めれば、ザルバも死んでしまう。だが、それにしてはザルバは冷静に杏子に語りかけていた。
「……でもな、どんなになっても、どんなに自分が弱くても、どんなに強い敵が相手でもな……誰かを救おうっていう意志がないと、誰も守れない。……俺はそんな強い意志で、自分より強い敵と戦った男を何人も知ってる。あいつらに比べて、今のあんたにはあの兄ちゃんを救う意志ってのが感じられないぜ」
そこはやはり、冴島大河や冴島鋼牙など、あらゆる魔戒騎士──その最高位たる黄金騎士の相棒をやってきたザルバである。
多くの戦士たちと出会い、ザルバは彼らがどうあってもホラーから人を守ろうとしている姿を見てきた。
それに対して、こうしてすぐ諦めようとする杏子には、憤りも感じている。だが、それを口に出したところでどうにもならない。冷静に、なだめるようにそれを言う。
そもそも、杏子は先ほどまで、ネクサスとして立派に誰かを救おうとして戦い、倒れてもなお這っていたではないか。あんなに必死で這って、誰かを助けようと進める彼女を、ザルバは応援したくなった。
それを、何故諦めてしまうのか。それがザルバには理解できなかったのである。
(……確かに、助けようと思わなかったら、兄ちゃんは死んじまうだけかもしれない……)
このまま放っておけば翔太郎は死ぬ。
助けようとして死んでしまう事があるかもしれないが、仮に助けなかったとしても、翔太郎は死んでしまう。
「……まっ、まともに戦ったところで勝算はゼロだと思うがな。あのドウコクって奴、なかなか強い……鋼牙でも勝てるかどうかってところだ。だから戦うのはやめといたほうがいいな。助けてやるなら、それ以外の方法で助けるといい」
実はザルバの知る鋼牙は、ここに来ている鋼牙より少し前の鋼牙である。
本来、バラゴを倒した後のザルバならばバラゴの事など知る由もない。戦闘で破壊され、記憶を失って修復された新しいザルバなのだから。
しかし、実際問題、ドウコクは十臓などと渡り合える剣の達人であり、場合によれば鋼牙とも充分に渡り合える相手に違いなかった。
(戦って勝つ以外……? 一緒に逃げるってのか?)
そういえば、杏子は先ほどまで、ドウコクがどこまでも追ってくる相手であると思っていた。
だから、戦うしかないと思っていたが、戦ったら確実に負ける。
そもそも、逃げきれる可能性を切り捨ててはならなかったのではないか。
戦って勝つ可能性なんかよりも、逃げ切る可能性の方が何倍も高いのではないか。
杏子は考える。
そうだ。確かに、戦って勝つ以外にも、逃げるという方法はある。
だが、この距離があるし、たどり着けるだけの力もない。
しかし、まずは立ち上がらなければならないだろう。
どうする。
立ち上がらないでこのまま倒れるか、あるいは、力を出し惜しみして這いつくばるか。
立てるくらいの力があるかもしれないと考えて、全身の力を体に込めるか。
そのまま走ろうとできるのか。
すぐに答えは出た。
全身の力を両腕に込める。
起き上がろうと立ち上がる。
180
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:52:27 ID:Jb4jQKnY0
身体はふらふらだが、両腕に力がみなぎり、足にも力を送る。
前にふらっと揺れたが、何とかネクサスは立ち上がった。
エナジーコアが音を加速し、更なるエネルギーの消耗を示している。
時間はない。
(──走れるか?)
見れば、ネクサスの目の前で、ダブルに向けて剣が向けられ、振り下ろされようとしていた。ダブルは動けないようで、その攻撃に抵抗もできずに仰向けに倒れていた。
やっぱり、ドウコクをあのまま放っておけない。
ドウコクがダブルを殺すのを、ネクサスは止めなければならない。
(────いや、走るんだ!!)
ネクサスは、身体の全エネルギーをかけて、走り出す。
間に合うかはわからない。
いや、間に合う確率は絶望的だ。この距離が空いていて、既にネクサスはよろよろと走るしかできない。ドウコクの腕はもうダブルに向けて振り下ろされようとしている。
間に合え。
間に合え……。
必死に前へ前へと身体をふらつかせるように、手を振る事さえもできずにネクサスは走る。走るたびに、ネクサスは加速する。
ゴールは近い。
あの一撃をネクサスは防げるのか?
それとも、防ぐ事もできず、ただ疲れたうえにドウコクとの距離を縮め、少し死期を早めて死んでしまうのか。
(……間に合え!!)
△
181
:
赤く熱い鼓動(前編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:53:00 ID:Jb4jQKnY0
──其処は、真っ白な空間であった。
『────どうして、力を貸してあげないの?』
突然聞こえた彼女の声に、少女は驚いて顔を上げる。そこには覚えのある顔があった。
しかし、彼女の問いに、少女は悲しい声を返す。少女には、彼女に返すべき言葉もない。
少女は、かつて彼女と会った時とは考えられないほど無口に俯いていた。
『あなたの力があれば、彼女はあの人を助ける事ができるはずよ』
そう、それは少女にもわかっている。
わかっているけど、できないのだ。
力を貸す事を、心のどこかがまだ拒否しているのだ。やらなければならないのはわかっているはずなのに、どうしてもできない。心が邪魔して、どうしても少女を突き動かす事ができなかった。
迷い────そう、これは少女にとって最大の迷いだ。“彼女”にはもう悪い力はなく、近づくのを邪魔する物もない。だから、少女は“彼女”に力を貸してやる事ができる。そして、少女が抱える苦難を消し去る事もできるはずだ。
少女は、ただ、自分の意思で“彼女”を遠ざけているのだ。
その理由を、彼女もまた知っていた。
『……あなたの気持ちはわかるけど、それは私のためにはならないわ。そして、あなたのためにも』
……やっと出会えた大切なパートナーと離れたくない。彼女以外をパートナーとして認めたくない。──そんな思いが少女にはあったのだろう。
ここにいる彼女が少女を見つけるまで、少女はずっと彼女の傍にいた。しかし、少女は彼女に近づく事ができなかった。
やっとの思いで彼女をパートナーにする事ができた。
彼女以外の人をパートナーとして認めたくないのだ。そんなプライドが、邪魔をしている。
「それだけじゃない……もう大切な仲間がいなくなるのは嫌だ!」
それに、仮に“彼女”を新たなパートナーとして認めたとしても、少女にはまた別れが待っているかもしれない。──そんな恐怖もあった。
大切なパートナーを失うのはもう嫌だ。
もう二度と、パートナーを失いたくない。
彼女が死んでしまったら、また少女は悲しむ事になる。
『……ねえ。彼女は今、必死に戦ってる。それでも彼女があの人を助けられるかわからないの。……だけど。あなたなら、私の友達の背中を押してあげられるでしょ?』
少女の幼心が揺れ動く。
自分にしかできない使命──そう、これは他の誰にもできない事だ。
この少女に全ての責任がある。
この先に起こる出来事が、少女の行動で大きく変わるのだ。
『迷わないで。あなたは私の立派なパートナーだった。……でも、次はあなたの意思で、新しい仲間を作るの。それに、私たちはいつまでも一緒よ』
パートナーの激励が、少女の胸を打つ。
『……精一杯、頑張って。……アカルン』
彼女のパートナー────東せつなは、最後にそれだけ言って、再びどこかへ消えた。
「……せつな」
少女・アカルンは寂しそうに名前を呼んだ。
せつなはもういない。アカルンは、キュアパッションとなる人間を選ばなければならない。
だが、“彼女”こと佐倉杏子にせつなほど高いプリキュアの資質を感じてはいなかったし、次のパートナーとして選ぶには少し頼りなくも感じた。
ただ、アカルンの力で手を貸す事くらいはできる。
────アカルンは、現実に戻る。
目の前には、傷つける人と、傷ついている人がいた。
182
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:53:37 ID:Jb4jQKnY0
>>181
は中編です。ゴメンナサイ。
183
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:54:20 ID:Jb4jQKnY0
そして、アカルンを持っているのは、それを助けようとする人だった。
目の前で剣が振りあげられている。……それを助けられるのは、一瞬で距離を縮める瞬間移動の能力を持っているアカルンだけだ。
アカルンの力さえあれば、ネクサスは一瞬でドウコクたちの目の前に瞬間移動する事ができるのだ。
自分にしかできない。
その使命感が、彼女の判断を後押しさせた。
「キィィィィ!!!!」
──彼女は、大きな声で叫ぶと、ウルトラマンネクサスとともにそこから姿を消した。
△
「………………なんだ?」
────ドウコクと仮面ライダーダブルの間に、謎の人影があった。
いや、人の形ではないし、人の色ではない。
不思議な三角形の頭に、銀色。────これはウルトラマンネクサスだ。
ネクサスは、ダブルを庇うように現れ、ドウコクが振りおろした剣を左手で握っていた。
どう走ってきたわけでもない。いや、そもそも走ってきたのかどうかさえわからない。突然、ネクサスがドウコクの目の前に現れたのだ。
何もなかったはずの空間を、ネクサスが埋めていたのである。
「アンコ……俺は……信じてたぜ……」
ボロボロのダブルは、半分笑いながらそう言う。心から笑っているのではなく、虚勢であるのは言うまでもない。
しかし、その虚勢こそが、仮面ライダーダブルらしかった。どんな時でも笑える余裕くらいは持っておくべきものだろうか。ダブルは敵を茶化しながら戦う事もあったが、それは翔太郎が見せた虚勢であっただろう。
「……てめえ、どうして……」
ネクサスの声がドウコクに伝わるわけもないので、ネクサスは無視してドウコクの腹に右手の拳でアンファンスパンチを見舞う。
予期せぬ攻撃にドウコクは対応できず、数歩後退し、ダブルの身体から離れた。そんなドウコクに向けて、ネクサスは刀を投げ捨てた。
「……なんだか知らないが、今のはそいつのワープ能力か?」
ザルバが訊く。
ザルバも、こうなるとは予想していなかっただろう。
ウルトラマンネクサスの身体は突然に瞬間移動をしたのである。
(いや、違う……これは……)
杏子はこれがネクサスの力ではないのを感じている。
この能力が覚醒したのは、そう────
(……ありがとう、せつな)
杏子はその力を貸してくれた人の名前を思い出し、薄く笑った。
これはせつなが杏子を追うために使った「アカルン」の力である。一瞬で別の場所に移動させる能力を持ったピックルンは、杏子を一瞬でこの場所まで移動させたのだ。先ほど聞こえた高く大きな声も、そのアカルンが杏子に発した声なのだろう。
制限がかかっているとはいえ、少なくとも、アカルンは目に見える距離くらいは移動可能になっている。
184
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:54:50 ID:Jb4jQKnY0
杏子自身も驚いていたが、アカルンの力を感じ取っていた。
その暖かさに甘えながら、もう一度キリッと前を向き、ドウコクを凝視する。距離は充分離れていた。
──もう一回だ……行くぜ、兄ちゃん──
杏子は念話を使って、翔太郎に言う。フィリップにまで通じたかはわからないが、とにかく翔太郎へとその言葉は届いた。
翔太郎はここまで、ネクサスに何を言っても無視されてたので、「しゃべれるのかよ!」とツッコみたくなったが、声は出ない。
ネクサスはダブルの手を握る。
「逃がすかよ……!」
だが、ドウコクはネクサスの手を握った。
ネクサスがダブルの手を握っていたのを見逃さなかったのである。
おそらく、複数人の移動をする場合、こうして手でも握る必要があるのではないかとドウコクは睨んだのだ。
(……チッ)
エナジーコアの点滅は、一秒に何回もという次元に達した。
活動限界はあと数秒。このままでは杏子は生身の杏子に戻ってしまう。
「……デュア!!」
ネクサスは必死でドウコクの手を振り払おうとした。
だが、外れない。ドウコクは手をあまりにも強く掴んでいた。
当然、ここまで痛めつけられ疲労したネクサスにはそれを放す術はない。
限界は十分の一秒ごとに確かに近づいていく。
「……フィリップ。いくぞ」
ダブルは、左手で、ドウコクが先ほど地面に投げ捨てたメタルシャフトを力強く握り、風を纏わせながら、ドウコクの腹を突いた。
「おらっ!」
「何っ!?」
その風の勢いが思いのほか強かったのか、ドウコクは手を放して数歩分吹き飛んだ。
これでドウコクの身体はネクサスから離れた。これでドウコクを巻き込まずに瞬間移動する事ができる。
「いまだっ!」
ダブルに言われるまでもなく、アカルンは己の力を使う。
エナジーコアの点滅が終わるまで、残り一秒というところの瀬戸際の攻防であった。
そして、二人分の人影は、再びその場から消え去った。
ドウコクが手を伸ばせば、そこにはもう誰もいない。
「……くそっ。三人まとめて消えやがったか……」
ドウコクの苛立ちは尽きない。
いや、むしろ水増しされていく一方だった。
またも逃がした。……これで敵を逃がすのは何度目だろうか。
今すぐにでも叫びたい気分になった。
△
ある建物で、変身を解いた杏子と翔太郎は身体を休めていた。
窓から杏子が覗いて、そこに居るドウコクの様子をよく注意して見てみる。……ドウコクはいつまでも風都タワーの跡地の周囲をウロウロしていた。
「……なんだよ。この距離が限界かよ」
アカルンの力で移動した杏子は、そう嘆いた。アカルンは、少し萎れたように、申し訳なさそうにしていたが、制限があるので仕方がないだろう。
185
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:55:49 ID:Jb4jQKnY0
これでは所詮時間稼ぎにしかならない。殺風景で何もなく、窓から辛うじて外を眺められるくらいのビルだが、風都タワーの跡からはそう離れていなかった。距離にして二百メートル程度。それも、おそらく二人分の移動で、連続でもあったため、移動できた距離は通常の四分の一か五分の一分程度ではないだろうか。
放送を行ったモロトフもここからは見えない。彼は戦いの場を変えたのかもしれない。今はドウコクに注意を払いながら、身体を休めて対策を練るのみだ。
「せめてもう少し遠くなら気づかれずに逃げられたかもしれないが」
ザルバも半ば絶望しているようだった。
ドアがある場所は窓と同じ側だ。ドアを開けた瞬間にドウコクがこちらを見れば、彼もすぐに気づいてしまうだろう。
素早く逃げる事など、二人がこの身体では困難。一瞬で距離を詰められ、殺される運命しかない。
「……このまま逃げるなら、結構辛抱強くアイツがいなくなるのを待たないと駄目そうだな。それも、アイツがこっちに来ない条件付きでだ」
ドウコクはかつて風都タワーだった瓦礫に剣を向け、雄叫びを上げながら破壊している。
獲物に逃げられた怒りが見て取れた。その怒りで我を忘れていてくれれば幸いだが、不意にでもこちらを向く可能性があるのなら、やめておいた方がよさそうだ。
あの場から立ち去ってもらえれば、杏子たちはその時に出ようと思えるのだが。
「ドウコクが近くにいる、か……。少しでも声を抑えないとマズいみたいだな。フィリップ、わかったか?」
『ああ。それが一番心配なのは翔太郎だけどね』
変身を解いた翔太郎は、フィリップにそう言うしかなかった。壁に寄りかかって座る彼の身体は全身にあらゆる傷を作っていた。傷のない場所も、強く圧迫されているので、少し服を脱げば紫色の痣だらけである。
ダブルドライバーを巻いてはいるが、ダブルに変身する気力は湧かない。
体の全身が痛むので、痛む部分を自分の手で摩りたいのだ。装甲に包まれた傷を装甲に包まれた手で触るのは、やはり気持ちが良いものではない。
「………………おい、杏子」
翔太郎が、杏子の名前を小さく呼んだ。
彼の眼は、どこを向いているのかもわからない。ただ、名前を呼べば気づいてくれるだろうという程度のものだろうか。
「……何だい?」
何を訊きたいのかはおおよそ検討がついているが、杏子は真顔で惚けた。
翔太郎が訊きたいのは、ネクサスの力の事に違いない。それは杏子がつい先ほどまで隠し通した話であった。
翔太郎が顔を上げると、杏子と目が合う。
お互い、相手の身体のあまりの痛ましさを見ても目を逸らさないのは流石というところだろうか。
しかし、会話をできるくらいには息も声帯も落ち着いてきただろうか。
「単刀直入に訊かせてくれ……その力は何だ?」
「……それは……」
言いかけてから、一度止まる。
その後、またゆっくりと次の言葉を口に出した。
「あたしもはっきりとはわからない。とにかくこれは、姫矢の兄ちゃんが死んじまった後、あたしに回ってきた力だ」
杏子はこの力を、あくまで自分自身の解釈でしか捉えていない。デュナミストが戦う意味を知った時に回っていく力であるのは事実だった。フィリップの推測も当たっている。
以前、おおよそ自分で考察した能力だったので、そこから先は杏子もすらすらと話す事ができた。
「なんでこの力があたしを選んだのかはわからない……。でも、一つだけわかる。きっとこれは、罪を持つ者に回ってくる力なんだ」
翔太郎とフィリップは、この『罪』という単語を聞いて、以前杏子が語った『ビギンズナイト』を思い出した。
それに、殺していないとはいえ、殺し合いに乗っていたのも事実だろうか。
杏子が抱えていた罪はそれだけではなかったが、翔太郎たちが知る杏子の罪とは、おそらくそれだけだった。
186
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:56:20 ID:Jb4jQKnY0
そうした罪にネクサスの光が宿るというのだろうか。
「……この力はさ、たぶん使っていくたびに人の命を吸っていくんだよ。人間の力じゃあ扱いきれないほど強い力なのかもな」
「……」
「でも、だからこそ……ああいう奴らを倒す力にもなる。そうして罪を洗い流す…………きっと、そのためにある力なのさ」
そう言う杏子は、自嘲したように笑う。
使う度に死に近づく力など、普通は受け入れる事が出来るわけもない。
自分の力を使えば使うほど、自分の身体には疲労と消えない傷が残っていく。
しかし、力を手放す事もできないし、力を手放すわけにもいかない。……ならば、笑うしかないではないか。
「…………ふざけんなよ」
そんな杏子の様子を見て、わなわなとふるえていた翔太郎は、感情を抑えられそうではなくなっていくのを感じた。彼の怒りの言葉が吐き捨てられる。
「なあ、杏子! おまえそんな力を姫矢が渡したって、本気でそう思ってんのかよ! 犠牲になるとか、そんな考え方……まだ捨てられねえのかよ!」
『翔太郎! 声を抑えるんだ! 敵に気づかれるんだろう!』
何もない部屋に、翔太郎の怒号が響く。
フィリップが必死にそれを制する。エクストリームメモリの中にいる彼も、当然翔太郎の声の大きさが危険なレベルである事は気づいていた。
翔太郎の声は部屋中に反射し、寂しい余韻が残っていた。
杏子は、黙って窓の外の様子を見た。ドウコクが気づいている様子はなかった。
「……」
翔太郎も、自分自身で一瞬ヒヤッとしたものの、杏子の様子を見て安心する。特に挙動におかしいところはなく、ドウコクがこちらに気づいてない事をわかってるようだった。
少し感情を落ち着けた後に、翔太郎は彼女を冷静に諭す事にした。……これが普通にできればハードボイルドも近づくだろう。
「……なあ、杏子。前に姫矢が変身したそれを見たとき、俺にはなんつーか……デカいモンが見えたんだよ」
『……翔太郎は、あれを銀色の巨人って言ってたね』
「そうだ。俺は姫矢が変身した戦士を見て、思わず『銀色の巨人』って呼んだんだ」
あの時、既にウルトラマンネクサスはジュネッスに変身していたが、全身のほとんどは銀色を残している。
しかし、巨人ではなかった。
巨人ではないのに、大きく見えたのだ。
杏子は、この力が自分に渡った時に現れた銀色の巨人の事を思い出した。そう、翔太郎にはああいう風に見えていたのかもしれない。
実際に見た杏子とは違い、精神面がそう思わせたのだろうが。
「……でもな、お前が変身したら、急にデカく見えなくなったんだよ。なんていうか、お前は……その……本当に小さかった」
『翔太郎も人の事言えないけどね』
「何ィッ!? 俺のどこがちっさいって……」
と、思わず大きく声をあげてしまった事に気づいて再び口を塞ぎ、咳払いして話を戻す。
「……あー、とにかく、俺にはそいつがさ、お前の言うように人の命を吸う力とかそういうものには見えねえんだ。それに、姫矢がそんな力をお前に託したとも思えない。きっと、お前がいつまでもそうやって自分を責めてるから、巨人の本当の力が出せないんだ」
翔太郎の中でウルトラマンネクサスが『銀色の巨人』から『銀色の戦士』へと降格した理由──それを、翔太郎はそのように解釈した。
ネクサスの力は、決して自責の念にかられるためのものではない。
むしろ、ネクサスはどんな辛い状況でも絶対に生きる希望を捨てない人たちに受け継がれていく力なのである。
「それに、前に戦った時、杏子が変身した銀色の戦士の色は、姫矢が最初に現れた時と同じ……全身銀色だった。でも、姫矢はそこから別の姿に変わったはずだ」
『でも、さっきの戦いで杏子ちゃんは銀色から別の形態にはなれなかったね』
杏子は確かに、姫矢が銀色だけでない姿に変身していたのを思い出す。
しかし、杏子はそのやり方がわからなかった。どうすれば、そんな姿になれるのか──そして、どうすれば巨人の力はそれを教えてくれるのか。
187
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:56:58 ID:Jb4jQKnY0
「……どうすりゃ、そんな風になれるんだよ」
素直に翔太郎の怒号を胸に仕舞って、反省の色をした顔で訊いた。
彼の言葉は確かに胸に響いたが、それでも実際に杏子自身が自分のやり方を変える気はなかった。
「……どうすりゃなれるか……か。それはわからねえな」
「無責任な事言うなよ……」
「……それなら、推測でいいか?」
「ああ、推測でも何でもいい」
推測でも何でも、とにかく手がかりなら何でもいい。
あれより強くなれる方法が知れるのなら、杏子は大歓迎だった。
「誰かを助けたい気持ち……そして、助けた誰かがお前を支える気持ち……ってのはどうだ?」
翔太郎は、そう口にした。
かつて翔太郎とフィリップは、たくさんの人の声援を受け、街の思いが風となり、サイクロンジョーカー・ゴールドエクストリームへと変身した事がある。
その時と同じく、人の意志が関るというのを、翔太郎は考えたのだ。
あの時の姫矢は、ハーフチェンジのように特殊な動作をせず、ただ自然と新しい姿に変わった。その感覚を掴むのが難しいのかもしれない。
ただ、翔太郎がそういう感覚で変身できたのはあの一回だけだ。
人々の声援を受け、人々の送った風が翔太郎たちを新たな姿に変えたのである。
「そんなんでなれるわけねえだろ!」
「……なれるさ。誰かを助ければ、それだけ感謝されるし、誰かを助けた見返りってのがきっと来る」
翔太郎は「あの時の事」を。
そしてまた、杏子も彼女にとっての「あの時の事」を思い出す。
「……じゃあ聞かせてくれよ。あたしがもし、魔法少女になんかならなければあたしの家族は死んでなかったと思うか?」
しかし、杏子は納得できなかった。
人を助けたい気持ち──それが、必ずしも助けられる事に繋がらないのを、杏子はよく知っているのである。
「……え?」
「前に話したよな。あたしが魔法少女になったから、家族は死んじまった……」
「それ、お前の知り合いの話だって聞いたぜ」
杏子ははっとする。
そう、前に翔太郎にこの話をした時、杏子は『知り合いのバカの話』と言って、その話が誰の話であるかは暈したのであった。
翔太郎も杏子の話である事に気づいてはいたが、杏子は認めなかった。
しかし、この時ばかりは口が滑ってしまったのだろうか。
こうなっては認めざるを得ない。
「もういい……。そうなんだよ、あたしがバカなんだよきっと……。あたしが誰かを助けようとしたり、誰かのために何かをしようとすると、いつも誰かが死んじまう……誰かを助けるなんて、あたしの柄じゃないんだよ」
少なくとも、彼女の家族や姫矢はそうだった。
杏子が良かれと思ってやった行動が原因で巻き込んで、死んでしまったのだ。
それは計れないほどに重い罪だった。自分のせいで人が死んでしまったのである。彼女にかかった重圧も大きかった事だろう。
それでも、翔太郎は彼女の言葉に納得ができなかった。誰かを助ける事が裏目に出続ける人間なんて、いてはならない。人と人とは助け合うものだと思っている彼の世界から、杏子が外れてしまうではないか。
それは認めない。
それに、彼女は必ずしも誰かを助けられないわけじゃない。──翔太郎は覚えている。つい先ほどの出来事だ。
「……だけど、お前はさっき俺達を助けてくれたじゃねえか!」
「それも元々あたしが勝手な事しなければあのまま全員逃げられたんだ!」
188
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:57:58 ID:Jb4jQKnY0
今度は杏子の感情が爆発する。
「アンコ、そこの兄ちゃんみたいにデカい声を出すと、ドウコクに気づかれるぜ」
熱の上がったこの場を今度冷ますのはザルバである。
冷静に場を見られるフィリップとザルバがいなければ、この二人は結構危険な組み合わせかもしれない。ザルバはやれやれ、と半ば呆れたようにその会話を聞いていた。
フィリップもまた、この会話が聞こえていたならば同じように呆れていただろう。
「……違うぜ、杏子。俺は、別にお前に無理やり連れてこられたわけじゃない」
「だって……!」
杏子が向かったから、翔太郎がここに来る事になったのではないか。
そういう事を言おうとしたが、先を言う前に翔太郎が返した。
「あれはなぁ、俺が勝手に向かっただけだ……風都タワーを破壊した奴もムカついたしよ」
『ねえ翔太郎。僕には翔太郎の声しか聞こえないから、ちょっと話がわからないんだけど』
「杏子の奴が、自分の勝手な行動に俺達を巻き込んだとか言ってるんだよ。ドウコクに煙玉ぶつけた時に!」
『ああ、あれは翔太郎が悪いね』
「……」
あまりにもあっさりとフィリップに言われたのが、かえって真実味を持たせたが、翔太郎は開いた口が塞がれない状態になってしまった。
翔太郎としては、ストレートに言われてしまったのがショックだった部分もあるのだろうが、否定もできない。
「……とにかく、あれは俺達の勝手な行動だ。……いや、むしろ勝手な行動をした俺達を助けてくれて、ありがとう……。俺が言うのは、そういう言葉の方が正しいんだ」
『それに、はっきり言って、僕達はドウコクとの戦いでは足手まといだったみたいだしね……それは、ゴメン』
そう、ダブルはドウコクとの戦いに参戦したものの、ほとんどの場面で彼らは何の役にも立てなかったのだ。
とにかく、こうして謝られ、感謝されては杏子も何を言う事もできなかった。
まさか、自分の勝手な行動を怒られもせず、謝り、感謝されるなど……そんな事があるとは思ってもみなかったのだ。
翔太郎は、これまで全ては打ち明けられなかった杏子の気持ちをよく知って、自分の経験を思い出した。
彼女は、そう……かつての翔太郎に少しだけ似ていた。
あの時──そう、ビギンズナイトの時と、その少し後。あの時の出来事が、どれだけ翔太郎の胸を締め付けたかはわからない。
「……こう言っちゃ何だけどな、杏子。人生っていうのは……本当に何が起こるかわからないゲームなんだ」
「え?」
「……俺だって、杏子と同じさ。俺にも、俺が勝手な事をしたから大事な人が死んじまった事が……確かにある」
鳴海壮吉の事だった。
翔太郎の慢心が原因で死なせてしまった、彼の大事な師匠である。
それから先も、翔太郎には幾つもの辛い出来事や思い通りにいかない出来事があった。
しかし、それでも翔太郎は仮面ライダーとして街を守る事はやめない。守ろうとした結果、何かを失う事があっても、きっともう迷わない。
『……良かれと思ってやった事は、必ずしも望んだとおりの結果を生むわけじゃない。それは誰にでもある事なんだよ』
「そうだ。俺達はそのたびにその罪を乗り越えて、新しくやり直して、それでも街を守る事だけは絶対にやめねえ……俺達は、街を守り続けると同時に、守れなかった命を……自分の罪を数え続ける」
仮に医者が一人いたとして、その医者は一度、少しの怠りで人を死なせてしまって、医者をやめるだろうか。
確かに、賠償があったり、自責の念があったり、そういう理由で医者を辞める事はあるかもしれない。
だが、人を救う術と経験を持つ彼らは決して一度のミスで、人を救う事をやめられない。
誰かを助けるために医者になったのなら、何度でも誰かを救うために、オペを行うはずだ。
仮面ライダーも同じである。
189
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 01:58:58 ID:Jb4jQKnY0
「でも……あたしは自分の罪なんて、……もう数えきれない」
父。母。妹。見滝原の人々。フェイト。ユーノ。マミ。せつな。霧彦。姫矢。さやか。
一体、どれだけの人を傷つけた罪があるのだろう。
杏子は何度数えても、今更数えきれなかった。今数えようとしても、彼女の中には幾つもの罪が渦巻いている。
「……罪が数えきれないって? ……なら、数えきれないだけ誰かを助けりゃいいんだ。俺だって、何度もあんな台詞を言ってはいるが、自分の罪なんて……もう数えきれないさ」
『そう。それに、罪だと気づいてない罪もあるかもしれない。それでも、数えきれないほど、人の罪を洗い流せばいい』
「お前が誰かを救うなら、その思いはきっといつか、風になる」
『何にも変え難い、黄金の風となって、君の背中を押すはずだ』
仮面ライダーエターナルとの戦いの日。
あの時、罪を背負った人たちも含め──風都中の人が仮面ライダーを応援した。
仮面ライダーダブルは、自分たちが守ってきた街に救われたのだ。
黄金の風。そう呼ぶのは確かに相応しい。──奇しくも、ザルバが知る絵本のタイトルは『黒い炎と黄金の風』であった。
「……アンコ。どうやら、この変な兄ちゃんの言ってるところは正しいみたいだぜ」
ザルバも、鋼牙がかつて父とバラゴの決闘に顔を出した事で、父を死なせ、バラゴを野に放ってしまった罪を持っている事をよく知っている。その戦いの時、大河の腕にはまっていた彼は、今は鋼牙の相棒として立派に戦っていた。
そう、これからも何度でも鋼牙は戦う。
ホラーと戦い、暗黒騎士と戦い、人を守っていく事こそが鋼牙の贖罪なのだ。
それは決して、戦いの果てに無様に死ぬためではない。
(どうして……)
杏子の心に風が吹く。
これまで自分を縛ってきた根っこを揺れ動かす黄金の風。
それが揺れ動き始めた。
誰かが教えた心が、杏子の中で動かされる。
「くそっ……ここに来てから……あたしの周りはどうしてこう……変わった奴らばっかりなんだよ」
ここにいる人たちは変わってなどいない。言ってる事は、正しいのだ。かつて、自分が正しいと思う事をたくさんの人に訴え続けた父のように。
だが、正しい事を言える人が、この世の中には少なかった。そして、その正しい事を杏子は長らく忘れていた。
せつなや翔太郎が……たくさんの人が、いつも励まし、誰かを守る強い意志を持ち続けてくれている。
杏子は決して、それを否定したくはなかった。
でも、否定するしか生きる術がなかったのだ。──彼女が生きてきた世の中では。
それでも、否定をしてきた心が揺らぐ。
「……でも、あたしもやっぱり……変わり者になりたいよ……」
杏子の瞳から涙が伝う。
この罪は、自分だけが抱えているものじゃない。
多くの人が罪を抱えている。
佐倉家の教会に来た人たちが少しでもいたのは、彼らが罪を洗い流そうとしたからだ。
見滝原を通るたくさんの人々が、それぞれ幾つもの罪を抱えている。
風都の人々が善と悪の風を吹かせ続けるように。
ラビリンスが人々に不幸をもたらしてきたように。
「……安心しろよ、杏子。お前は充分変わり者さ」
翔太郎は優しい声で言った。
翔太郎は顔をあげ、少し自分の体に注意を払いながら立ち上がった。やはり、体に激痛が走ったようで、一瞬だけ苦痛に顔を歪めたが、それでもバランスを保つ。
「……そう……かな?」
「ああ。……お前が俺達を助けようとしたのは、紛れもない事実だ。今思えば、俺達が出てこなければ、ある程度は杏子にも分があったかもしれない。そんな足手まといな俺達を、何度も何度も助けようとしてくれたのは、どこの変わり者だろうな」
ダブルの体に寄りつくドウコクを引きはがそうとしたネクサスを、ダブルの迂闊な一言で傷つけさせてしまった。
190
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:00:10 ID:Jb4jQKnY0
それが彼女に膨大なダメージを与える一撃を作ってしまったのだ。
あれは戦略面では最低の「余計なひと言」であったと思う。……それを翔太郎は、今も自分の『罪』のひとつとして反省していた。
「……」
黙って下を向いて涙を堪える杏子の手が、わなわなとふるえている。
特に右手は強く握られていたので、翔太郎はその右手をちゃんと見てみた。
その右手に握られた物を見ながら、翔太郎は薄らと笑う。
「……行くのか? 杏子」
翔太郎には杏子がエボルトラスターを握っているのがよく見えた。
彼女は、また戦いに行くつもりだ。ずっと、そのつもりだったのだ。……彼女は、まだ姫矢の死がドウコクによるものだった事実が振り切れないのだろう。
でも、きっとわかってくれたと翔太郎は思っていた。彼女は決して、己の命を捨てにいくわけじゃない。
それならいい。それなら、翔太郎たちがいつも風都で繰り広げている戦いと同じだ。
杏子は返事をする。
「……ああ」
「大丈夫だ。今のお前なら、あんな奴ブッ潰せる」
「……そうかな……」
翔太郎は杏子の頭へと、帽子を深くかぶせた。翔太郎の位置からは、もう彼女の目元など見えない。目元に流れる涙は、翔太郎からは見えない。
これは翔太郎が憧れた“男”の帽子である。
“帽子が似合う男になれ”
鳴海壮吉の姿にあこがれた翔太郎が、その帽子を頭に乗せつづけたワケ。
それを考えれば、決して彼はこの帽子を手放すべきではなかっただろう。
女子中学生である杏子に、翔太郎が好む男の帽子が似合うわけはない。杏子が帽子を着用している姿はあまりに不格好だった。
しかし、彼の優しさはそこに確かにあった。杏子の涙を帽子の下の世界に隠し、その世界で少しだけ、涙を止める時間を与えた。
「そうだ。これも教えとかないとな、杏子。変わり者にもルールがある。……命を粗末にしない事。それから、人からもらった物はなくさない事だ」
翔太郎はルールを決める。
それは、杏子に絶対に守ってほしいルールだった。命を粗末にする事も、また、この帽子を無くす事も許さない。
戦うのなら、生きて帰って来い。勝たなくてもいいから、必ずここに帰って来い。そういう意味だった。
「……」
杏子は自分で帽子を少し上げる。杏子の涙は消えていた。この帽子を貸してくれるというのだろうか。余程大事なものであるはずなのに。
しかし、杏子はそんな大事な物をどうしても返して欲しがるルールとやらに便乗する事にした。
「なあ。それ、今決めたあんたの創作だろ」
キリッとした瞳で、杏子は窓の外を見つめる。
ドウコクは、風都タワーの積み上げられた瓦礫の上に憮然と立っている。剣を構え、当て所のない方向を見ていた。
背後には破壊されたタワーの先端にあった風車が傾いている。地面に面している半分が折れ、もはや二度と回る事はないが、それでも巨大な外形は、周囲の建物を圧迫していた。
こんなにも綺麗に、悪の根城のような絵は出来上がるだろうか。
まるで、狙ったかのように恐ろしい背景だった。
「ああ、俺の創ったルールさ。でも、ずっと昔からみんな言ってきた、当たり前のルールだ」
「それでも守れる奴が少ないんだ。……借りた物が返ってこないのはよくある」
「ああ、お前それ返せよ」
「……あたしも当たり前のルールを一つ追加していいよな?」
「……構わねえけど」
杏子はエボルトラスターを体の真横で構え、ニヤリと笑ってから言った。
191
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:00:40 ID:Jb4jQKnY0
「食い物を粗末にしない事!!」
エボルトラスターを刀のように引き抜くと、杏子の姿は帽子ごとウルトラマンネクサスへと変身した。
変身した直後はアンファンスの姿である。
アンファンスの姿だが、彼女が別の色になれるかは翔太郎にもわかっていた。
──どうかな? 大きく見えるかな?──
念話を使い、翔太郎の耳に杏子の声が聞こえた。
翔太郎は、鼻の頭を掻いてから、帽子の位置を直そうとした。そこに帽子はない。今は杏子が持っているではないか。
恰好はつかなかったが、ポーズだけは取って、言った。
「……行けよ、“銀色の巨人”!!」
身長、体重で言えば、全く先ほどと変わらないはずなのに、ネクサスの姿は全然違った。
ウルトラマンネクサス・アンファンスは次の瞬間、翔太郎の前から姿を消した。
アカルンが、ネクサスの体をワープさせたのだ。
ドアから出て行ってしまっては、翔太郎の居場所もわかってしまうから、そのための配慮だろう。
翔太郎が窓の外を見ると、ネクサスは血祭ドウコクと対峙していた。
遠く、遠くにいるはずなのにその背中はいつまでも大きい。
「フィリップ、こんな部屋に二人だけになると、少し心が寂しくなるな」
『さよならを言うのは、わずかの間死ぬ事だ……ってやつ?』
翔太郎が愛読し、フィリップもかつて壮吉に渡された本の台詞であった。
フィリップ・マーロウという男の中の男が主人公である『長いお別れ』というハードボイルド小説だ。
「……あっ! くっそ〜! それを言うチャンスだったか! 俺とした事が見逃した!」
と、翔太郎は自分の今抱いている心境が、その台詞に似たものだと気づいた。いつも読んでいる本で、いつもどこかで使おうとしているのに、何故気づかなかったのだろう。案外、こういう事はあるものだ。
その台詞だけでは共通性はわからないかもしれないが、さよならを言うと、心のどこかが少しだけ死ぬ……という意味だった。日本語の訳自体が正確ではないので、余計に意味が通りにくい部分もある言葉だが、二人は──あるいは、鳴海壮吉も──この台詞が好きだった。
『……大丈夫さ、翔太郎。すぐにまた、生き返れるよ』
「……そうだな」
翔太郎は笑った。
そして、そのまま、外を見た。
外では、ネクサスが戦っている。自分たちも出来る限りの戦いはしたいが、元気に戦える体ではなかった。
しかし、自分たち無しであっても、彼女が負けるとも思わなかった。
△
「……またてめえか」
ドウコクは、また突然目の前に現れたネクサスに苛立ちを隠せない様子である。
「俺の目の前に現れたり、消えたり……面倒な奴だ。相手にする気にもならねえ」
ドウコクはすねたように言った。
彼からしてみれば、ネクサスの行動は卑怯そのものだろう。肝心な場面になると、いつも逃げてしまう。
またそうなるのだろうと思い、彼は相手を面倒がった。
彼自身は、殺し合いに乗る気はない。ただ、時折気分で人を襲うだけだ。気分が乗らないならば、戦っても仕方がない。
──そいつは困るな、血祭ドウコク──
192
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:01:11 ID:Jb4jQKnY0
自分の脳に直接聞こえたかのような少女の声に、ドウコクは困惑する。
彼女が使ったのは、魔法少女の念話だ。
──相手してくれよ、今度は逃げない──
ドウコクは、ネクサスの方をより強く睨むと、黙って降竜蓋世刀の刃を向けた。
杏子の言葉を信じたのか、はたまた、何度気が変わったのか。それはわからない。
とにかく、ドウコクは、あっさりと、ここで戦いを行う事を決めたのである。
「……来るなら来い」
ドウコクは重たい声でそう言う。
──行くさ。だけどその前に……さあ、お前の罪を数えろ!!──
鳴海壮吉が相棒に放った言葉。
左翔太郎とフィリップがそれを真似て、いつまでも敵に突き付ける言葉。
それを今度は、佐倉杏子が真似た。
自分に道を示してくれた人の言葉なのだ。その人のお蔭で生きられる。だから、自分自身のオリジナルでなくていいから、これが言いたかったのだろう。
「ガァァァァァァァッッッ!!!」
ドウコクは以前のように咆哮を放つ。
ネクサスは地面を蹴り、空中へと移動した。
敵が対応できないほどの滑空は不可能とはいえ、少しならば空中浮遊も可能である。
魔導師やテッカマン、仮面ライダーゼクロスのように、空中へと飛ぶことが出来る参加者が多いからだろうか。
「……チッ!」
咆哮の範囲外へと消えたネクサスに、またドウコクは舌打ちする。
これでは戦えない。やはり卑怯ではないか。
しかし、ネクサスは咆哮の余韻が消えるとともに、ドウコクの前まで飛んだ。
「自ら来やがるか……」
降竜蓋世刀を持ち、駆けだしていくドウコク。
空中からこちらへ降りてくるネクサスとすれ違う時に斬りかかろうというのだ。
ネクサスは、空中でエルボーカッターを出した。
接近していく……。
距離、三メートル。二メートル。一メートル。
──ゼロ。
「うおらぁぁぁぁぁぁっ!!!」
鬼神の如く剣を振るうドウコクであったが、その切っ先はネクサスへは届かなかった。
あまりの飛行速度に対応しきれなかったのだ。
遅れて、ドウコクの左肩からエルボーカッターによる切れ痕が生まれる。そこから液体が噴き出た。
「……何っ!?」
先ほどとは動きの違う敵に、ドウコクは驚きを隠せない。
敵は既に地面に着地していた。
ドウコクは、そこがねらい目だと感じたのか、そこに向かって駆け出していく。
しかし、斬りかかった瞬間に、ネクサスの体は消える。
そう、アカルンの力であった。
アカルンが杏子を認め、杏子を手伝うと決めた以上、杏子はその身体をワープさせ続ける事が出来る。ある程度の制限はあるものの、軽微な瞬間移動ならば問題はない。
たとえば、敵の後ろに立つ程度の瞬間移動ならば。
「ぐあぁぁっ!!」
ドウコクの背中に、ジュネッスパンチが繰り出される。
ネクサスの体は傷だらけのはずなのに、それを感じさせない一撃だった。
193
:
赤く熱い鼓動(中編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:02:15 ID:Jb4jQKnY0
体の捻りを抑え、斬りつけられた胸や腹の傷が噴き出さないようにしたのだ。
「やるじゃねえか、アンコ。いい調子だぜ」
ザルバが、ネクサスの戦いぶりを囃し立てる。
うるさいとは思いつつも、杏子はそれを言われたのが嬉しかった。気持ち次第でこんなにも戦いが変わるのだろうか。
久々に爽快な戦いであった。罪を重ねながら戦うストレスに比べれば、何と心地よい戦いだろう。
ザルバに杏子は、一言返す。
──見てな、まだこんなもんじゃない──
そう、ネクサスはまだアンファンス。
ウルトラマンネクサスは、それぞれの命の色を映すジュネッスという力があるのだ。
その姿は十人十色。それぞれが全く別のジュネッスを持つ。
生きる希望を捨てずに戦い続ける者に、ウルトラマンは力を貸し続けるのだ。
(……せつな、姫矢……みんな……あたしに力を貸してくれ……)
杏子が思う。
杏子にはまだ、生きたい……そんな希望があった。
生きて、誰かの助けになれるのなら、本当はそれがいい……。
ネクサスの体が発光する。光は強くなり、彼女の身体を真っ白に包む。
かなり強い光で、ネクサスに何が起きているかは周囲からでは見えないだろう。
しかし、当のネクサスは自分の体を見下ろすと、自分に何が起きているかよくわかった。体のシルエットが変わり、肩に姫矢のジュネッスと全く同じように装甲が生える。
銀一色だった体に光の色が走っていく。
赤く光る体。それは、誰かの姿に似ていた。
『俺はこの少女に……俺と同じように何かの原因で自責し続けるこの少女に、光を託す!』
知らなかった筈の姫矢の想いが光が流れるとともに伝わっていく。
赤く熱い光が、まるで血の流動のように杏子の体を駆け巡る。
これは姫矢が託した光。その光は、決して罪を持つ者に向けられたものじゃない。
それが姫矢の口調と言葉で伝わった。
『アカルンは……きっと、あなたの力になってくれるはずだから……』
不意に、せつなが最後に言ってくれた言葉が杏子の脳裏をよぎる。
アカルン。それはせつなの持っていた不思議な携帯電話とその鍵だろう。
そうだ、アカルンは確かにこの戦いで何度も杏子に力を貸してくれた。
だが、それはずっと、ワープ能力を使わせてくれた事だと思っていた。
(ありがとう……力を貸してくれるんだな……)
しかし、アカルンが本来の力を貸せば、キュアパッションとなる変身能力が芽生えるはずなのだ。認めたならば、当然キュアパッションとしての戦闘力を付与する。
だが、それは杏子自身が使わなかった。少し使うのが恥ずかしい気もしたし、幾つもの力を持っている杏子がわざわざそれを使う理由もなかった。
これは、その代わりなのかもしれない。──もはや、キュアパッションの力を使う必要はないのだろうと杏子は悟った。
(姫矢の兄ちゃんとは、違う……)
ネクサスの色は、赤だった。しかし、より濃度の濃い赤であり、ボディラインも微かに違っていた。
かつて、杏子は今の自分のボディカラーの配色を見た事があった。
それは杏子の友達。
既にこの世にはいない杏子の大事な友達の変身した姿の色だった──そう、キュアパッションの配色に似ていたのである。黒、赤、銀色の三色から成る杏子たちの命の輝きの色。
(これが、あたしに繋がれたみんなとの絆……これが、あたしの生きる希望……!)
姫矢から受け継いだウルトラマンの力に、せつなから受け継いだプリキュアの力が重なり、彼女へと生を与えた人々の光が結集する。彼女が背負ってきた『罪』とそれを乗り越えた力、これから背負っていく『優しさ』、そして戦い続ける『情熱』のカラー。
この世界に存在している色ならば、パッションレッドと呼ばれる色が近いだろうか。
(あたしの……赤く熱い鼓動だ!)
名づけるならば、ジュネッスパッションであった。
△
194
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:02:59 ID:Jb4jQKnY0
「おい、あれが……杏子かよ」
窓の外から漏れる強力な光が止むと、そこには全く別の色へと変わったネクサスがいた。
この遠距離からでもその姿はよく見えている。ネクサスの色はかつて翔太郎たちが見たジュネッスとは少しばかり違っていた。
かつての姫矢とはまた違った、『命の光』。
同じ赤でありながら、それは微妙に違った色の輝きを示している。
そう、命の色はそれぞれ違う。
十人十色。誰もが違った色を持ち、誰もが違ったものに運命を惹かれるのだ。
「……すげえ」
翔太郎は幾つかの感想を口に出そうとしたが、そうとしか言いようがなかった。語彙が無いのではない。本当に素晴らしいものを見た時、人はそれを上手く形容する文句など考えようともせず、ただ目の前の出来事に心惹かれるのだ。
それはまさに彼女が築いてきた絆の姿だった。
姫矢のジュネッスと同じ力。せつなのキュアパッションと同じカラー。あらゆる人が繋いだ彼女の命。それが全て、あの光の中に在る。
翔太郎自身もまた、彼女の命を繋いでいた一人だから、より強い感動があったのだろう。
『翔太郎、僕にも見せてくれないか』
「ああ……ちょっと待ってな」
翔太郎はジョーカーメモリを取り出した。
戦うわけではないが、それでもこの姿をフィリップに見せてやろうと思ったのである。
メモリの電子音が鳴る箇所を少し抑え、なるべくドウコクに聞こえないようにしながら、翔太郎はメモリのボタンを押す。
──じょぉかぁ……(←小声)──
「『変身(←小声)』」
──Cyclone × Joker!!──
「こらっ、ちょっ、うるせえ!」
翔太郎は電子音とBGMにキレてドライバーを軽く叩いた。しかし、どうやら向こうは向こうでネクサスに気を取られているようで、辛うじてこちらに気づいていないようである。ともかく、仮面ライダーダブルとなった二人は、再び窓の外を見る。
その景色は、すぐにフィリップにも伝わった。ネクサスはパッションレッドの光を放ち、ドウコクと対峙している。
『……翔太郎』
「どうだ? あれを見た感想は?」
翔太郎は、おおよそフィリップがどんな感想を述べるか、予想がついていた。
翔太郎はフィリップが薄く笑ったのを感じた。
『ゾクゾクするねぇ』
△
ドウコクは目の前の戦士を見てどう思っただろうか。
薄皮太夫の三味線の音に惹かれた彼ならば、少しは何か心を動かされるものがあっただろうか。
敵の姿がより強力なものへと変わったというのに、そこに脅威を感じるというより、むしろ骨抜きにされたように見つめていた。
それは戦うためだけの姿ではなかったのである。
確かに逞しく進化し、豊富な技を持つ戦士であったが、同時にその姿は一人の人間の生を表現した芸術であった。体を駆け巡る血流のようなラインは、哺乳類の血管だけでなく、万物の体に流れる繊維や、あるいは各々の感情でも体現しているかのようだった。
彼女はあらゆる生を食らい、今ここに生きている。
彼女の命を繋いできた糧も、命を賭して彼女に生を与えてきた人々の思いも、或いはこの体の中にあったかもしれない。それが彼女と、彼女を支えてきた人たちの絆だ。
「……なんだよ、それは」
少なくとも、ドウコクから発された言葉は、翔太郎と同じく簡素なものだった。
感動したようには見えなかった。
この光には、ドウコクが望む感情はなかった。孤独がなく、恨みもない。太夫の三味線とは違ったのだろうか。
──これは、あたしたちの絆……あたしたちのウルトラマンだ……──
その名を、杏子は初めて呼んだ。
195
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:03:37 ID:Jb4jQKnY0
かつて、孤門がこの姿を見て、思わずウルトラマンと呼んだように、杏子はいま、この巨人に自然とウルトラマンという名前があるのだと感じたのだ。
しかし、あまりにも自然に言葉が出たため、杏子自身が、自分の呼んだ名前に気づいているかも曖昧だった。
「……ウルトラマン? そいつはそんな名前なのか。まあいい。……ここからは、戦いを愉しませろよ。敗走は無しだぜ」
ネクサスはドウコクの言葉に頷き、右手を前に突き出し、腰を落として構えた。
二人の距離は約二十メートル。
二人は同時に駆け出し、その距離は一瞬にしてゼロになる。
ドウコクが右上から、ネクサスに向けて剣を振るう。ネクサスはそれを右に避け、ドウコクの顎を砕くジュネッスパンチを放った。
ドウコクの身体が吹き飛び、瓦礫の山へと堕ちていく。何かの角がドウコクの身体へと突き刺された。ガラス片の数も多く、ここに落ちるという事は、もし人間ならば危険極まりない話だった。
「デュアッ!」
ネクサスはその場からドウコクを引きはがすようにして起こした。
しかし、ドウコクを助けるためではない。乱暴に放り投げ、後退したドウコクに向けてネクサスは何発ものパンチを決めた。
その痛みや衝撃は、無論アンファンスパンチの比ではない。
再び、ドウコクは二三歩後退した。よろよろと後退しながらも戦闘の意思は消えず、左手はネクサスの身体目がけて大量のガラス片を投げた。さきほど倒れた時に掴んでいたのだろう。
「デュアァッ!」
ネクサスの身体は、不意の攻撃に目をくらませる。
ガラス片など、ネクサスの身体に効くはずもないが、本能的に避けたのだろう。杏子自身、その時ばかりは「危ない」と思ったに違いない。顔の前に両手を掲げて、目にガラス片が入らないように構えたのである。
「やってくれやがったな!」
その瞬間を狙い、ドウコクはこの距離からネクサスを斬る型を取る。
刃を振るった瞬間、降竜蓋世刀の先から衝撃が発生し、ネクサスの身体に深い一撃を与えた。
斬れるはずもないのに斬れる──それは、鎌鼬(カマイタチ)というやつに酷似していた。それはまるで、至近距離で鋭利な刃物で斬られるのと同じほどの威力を持っていた。衝撃波か鎌鼬か……厳密にはわからないが、それは風に乗るように真っ直ぐに進み、ネクサスの身体を傷つけるのである。
「デュアァァァ……!!」
<痛み>の声を発しながら、ネクサスもまた何歩か後退する。手の上に少し残っていた粉々のガラス片が落ちていく。
真後ろには風都タワーの跡があったが、ネクサスはその数歩前で動きを止めた。
「……俺の番だ!!」
再び、ドウコクは刀を虚空で振るう。今度は二度──×印を描くように刀を振るい、×印の衝撃がネクサスへと高速で進行した。常人ならば避ける術はないかもしれない。
それでも、ネクサスは既に超人である。
地面を強く蹴り、高く跳ぶ。
ドウコクの鎌鼬は、後方で風都タワーの残骸の中を深く掘り進め、×印の穴を作り出した。そして、最後には真後ろにあった風車の欠片を四つに裁断して衝撃は消え去る。
風車は大きく音を立てて崩れたが、ドウコクはそんな事を気にも留めなかった。
ネクサスは上空から、まるで仮面ライダーのように蹴りを放とうとしていた。
仮面ライダーダブルから着想を得た両足での蹴りは、真っ直ぐにドウコクの身体に向かっていく。無論、身体が半分に避けるような事はないが、それでも右足を曲げて、左足から順に蹴飛ばそうとしていた。
滑り台でも降りるかのように下降していくネクサスであったが、ドウコクがそれに気づかない筈はない。
刀を構え、真正面からそれを抑え込もうとしていた。
しかし────
「何ィッ!?」
196
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:04:08 ID:Jb4jQKnY0
────ドウコクの背中で、何発かの弾丸が爆ぜ、バランスが崩れた。
何事かと咄嗟に後ろを見る。すると、数百メートルほど離れた建物の窓から仮面ライダーダブル・ルナトリガーが顔を覗かせていた。
いないと思っていたら、あんなところにいた。彼が弾丸を放ったのだ。
「折角俺たちの技をやってくれようっていうんだ。邪魔されちゃ困るからな」
『……杏子ちゃん版ジョーカーエクストリーム。ゾクゾクするねぇ』
ここにいるネクサスとドウコクには聞こえないが、建物の中で二人はそう言っていた。
それに気を取られてしまった自分を嘆きながら、ドウコクはまた正面を向く。
次に後ろから攻撃を受けるとしても、無視を決め込む覚悟を決めながら──
だが、時、既に遅し。
振り向いた瞬間に、ドウコクの右胸をネクサスの左足が押し出し、すぐに左胸を右足が突き出した。タイミングが難しいところだが、上手い具合にネクサスの両足はドウコクの身体にヒットする。
「デュアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
ジュネッスキックにジョーカーエクストリームのエッセンスを交えた一撃に、ドウコクは何歩も後退する。ふらついただけではなく、距離を置きたいと思ったのだ。
それはまたネクサスの怒涛の攻撃の好機を作り出した。
ネクサスの右手が身体の前へと突き出される。
それに交差させるように左手が突き出される。
それを崩して両手を上げ、身体全体でY字を作り出す。
「……くそっ!!」
ネクサスへと刀一本で向かっていこうとするドウコクであったが、野望は叶わなかった。
その一歩手前で、ネクサスの両腕は、あらゆるウルトラマンたちが使う光線技のように、L字型に組まれたのである。
それは、姫矢のジュネッスと同じく──杏子のジュネッスパッションがオーバーレイ・シュトロームが放つ瞬間であった。
光のエネルギーがネクサスの両手から放たれる。
その攻撃は自分に向かってきたドウコクを、どこまでも押し出していく。まるで、川の流れに巻き込まれたように、ドウコクは声にならない声を発しながら後ろに向かって流れていく。
△
「……なあ、フィリップ。ちょっと待ってくれ。……これはどういう事だ?」
名もなき建物で、仮面ライダーダブル──というより、翔太郎は状況が飲み込めずにいた。
ドウコクがこちらに向かってきている。──いや、ネクサスが放った光線がこちらに向かってきている。
まるで増水した川があらゆるものを巻き込んでこちらに流れてくるように。
しかし、あまりの出来事に翔太郎はキョトンとしてしまい、冷静にフィリップに訊いた。いや、冷静というより、混乱しているのだろう。一方フィリップは冷静だった。
『待てないよ、翔太郎』
「だよな?」
危険であるのを再確認する。
『早く逃げないと、この建物ごと消えてなくなるよ。ドウコクと一緒にね。あっ、後ろにはドアがないから、あのドアから逃げるといい』
「だよな、だよなだよなだよなだよな……!? 逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
『いいから早く逃げてよ、翔太郎』
ダブルは、身体の節々の痛みさえ忘れて、ドアを蹴破ってすぐに右に飛んだ。火事場の馬鹿力という奴か。
197
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:04:55 ID:Jb4jQKnY0
ドアに向かうという事は光線が出ている方向に突き進んでいくという事だったが、フィリップの冷静な判断によってうまい具合にそこから飛んだ。光線から逃れようとして逆方向に逃げたら、それこそ逃げ場がない。
かなりギリギリのタイミングで飛んだらしく、ダブルが先ほどまでいた場所はあっさり光線に飲み込まれた。
ネクサスが発したオーバーレイ・シュトロームはそのまま濁流のようにドウコクを巻き込んで真っ直ぐ進み、翔太郎が先ほどまでいた建物を飲み込んでいく。あの中にいたら、光に巻き込まれる。
しかも、翔太郎がかなり重い怪我人である事を考えれば、大ダメージ。そこに建物でも倒壊すれば偉い事になるだろう。
少し、我を忘れて放心した後──
「杏子このやろおおおおおおおおおおおおお!!!!」
──翔太郎が杏子に対する恨みの念を叫ぶ。
一方のドウコクはどうやらそこで背中を打ったらしく、壁にぶつかるたびに「ごぇっ!」とか「ぐぇっ!」とかそんな声を発していた。流石にドウコクも不憫に思えてきたが、自業自得というやつである。
そのまま、あっさりと先ほどまでの建物は突き破られ、ドウコクは既に視界の果てに消えた。小さな悲鳴も聞こえないほど遠くへと消えると、そのまま建物も音を立てて、予想通り倒壊した。
ダブルは地面に転がり、起き上がろうとするが……。
「……って、痛えええええええええええええええええええええええっっ!!! 死ぬ、死ぬ! ギブッ!! ギブッ!! 胸ェェェェ!! 胸ッ!! 胸ッ!! 胸ェェェェェッ!!」
どうやら胸骨のあたりに罅でも入っていたらしい。
それが、地面に派手にダイブしたせいもあって、罅を大きくしたのだろうか。
起き上がろうとした瞬間、かなりの激痛が走ったようだった。
『翔太郎。無理に起き上がらない方が良さそうだね』
「起き上がるなって……そんな事言われても……」
『……じゃあ、胸って叫び続けるかい? 探偵事務所より刑務所がお好みなら、それでもいいと思うけどね』
「……くそっ……杏子のやつ……。痛ぇ……」
すぐにダブルは変身を解いて、胸を抑える。
身体を曲げるとかなり痛いようだった。……これは、折れてる。間違いない。
△
「……ハァ……ハァ……」
ネクサスの変身を解除した杏子も、肩で息をしているような状態だった。
実際、ネクサスへの変身は結構な負担がかかるもので、特にオーバーレイ・シュトロームの使用には多大な負担がかかる。
しかし、杏子は久々に誇らしい事をした気分になっていた。
多くの人の支えが、自分の中に在るような気がしたのだ。自分を支えるたくさんの人々の事を思い出すと、やはりその助けのお蔭で自分が生きていると実感できた。
「……あー、あの兄ちゃん無事かな?」
終わってみると、やたらと冷静に頭が回った。変な虚無感もあったが、とにかくやり遂げた悦びも胸にあった。
ふと、目の前の建物が派手に倒壊している事に気づき、杏子はてくてくとそちらに歩いていく。これもまあ、先ほどまで戦っていたとは思えない姿だ。彼女自身、微かに混乱しているのかもしれない。
風都タワーと同じく、根っこのバランスを保ちきれずに倒壊。何階建てだったかはわからないが、最上階が一階か二階あたりの位置にまで落ちて、原形がなくなっていた。
「あちゃー……あーあ、こりゃ完全に死んだな。あんたは本当に良い半熟兄ちゃんだったよ。安らかに眠れ。アーメン」
杏子は久々に胸の前で十字を切って目を瞑り、両手を重ねる。
ちょっと悲惨な墓だが、遺体を掘り出す事はできない。
198
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:05:53 ID:Jb4jQKnY0
「ちょと待て、杏子! あちゃー……じゃねえよ! 生きてるから! 俺、生きてるから! って胸ェェェェェ!! 痛ェェェェェッッ!!!」
杏子が横を向いてみると、面白い人が倒れていた。
左翔太郎だ。杏子は、流石に翔太郎を殺すつもりではないので、翔太郎が生存している事くらいは気づいていた。それを見越したうえでのお茶目な冗談である。
ある程度の信頼を向けてオーバーレイ・シュトロームを打ったので、翔太郎は避けているだろうと思ったのだ。多少痛いのは我慢してほしい。
「……なんだ、生きてたのか」
口から出たのはわざとらしい言葉だったが、翔太郎は先ほど胸を地面に打ち付けたのが相当こたえたらしい。
胸を下にして倒れたまま、右手を開いて、杏子の前に向けている。さながらゾンビのようである。
「はぁ……はぁ……胸……胸……胸…………」
「……」
「胸が……」
「……」
「杏子……胸……胸が……」
「……やっぱ死んだ方がよかったかもな」
哀れ翔太郎。胸が痛いだけだというのに、突然変質者になったと勘違いされ、愛想を尽かされた。
杏子としても、自分の胸が狙われているような気がしてならなかったのだ。
そういえば、彼の知り合いに井坂とかいう変態風な紳士がいたが、彼も仲間だったのだろうか。
杏子は翔太郎を見るのをやめ、プイと後ろを振り向いて歩き出した。
「あーっ!! ちょっと待て! 杏子! 胸が痛くて起き上がれねえんだよ! お前の水平線じゃない、お・れ・の・む・ね!! 力を貸してくれ、杏子! ……痛ェェェ!!」
『……翔太郎。ちゃんとそう言わないと伝わらないよ』
流石にフィリップも呆れたらしいが、それで杏子には伝わった。一瞬、失礼な事を言われた気がしたが、無視する。
「……ったく」
杏子は仕方がなさそうに、翔太郎の身体をひっくり返し、お姫様抱っこする。
体格は大きく違ったので、流石に重く感じたが、辛うじて可能だった。すぐに腕が釣りそうになったものの、三秒で下してしまうのも意地が許さない。
「……これで大丈夫か?」
「ちょっと待て……プリンセス・ホールド? いくらなんでもこれは無えだろ!! げほっ!」
『……翔太郎。いま、お姫様抱っこされているのかい? ウルトラみっともないよ』
「ウルトラは余計だ! ……っつーか、みっともないも余計だろ!!」
しかし、当の翔太郎が自力で起き上がれないのだから仕方ない。
これでも胸が曲がっているので多少は痛むが、最も安定した姿勢である。背中に背負ってしまうと、翔太郎の胸は杏子の背中にぶつかり、場合によっては相当痛む可能性がある。
杏子は、かなり意地になって歩き出した。ものすごく重いと感じつつも、その重みに歪んでいる顔を帽子が隠している。
(重っ……! どうすんだよコレ……!)
前にも運んだ事があったが、あの時は背中におぶって翔太郎の足を引きずりながら歩いた分マシかもしれない。
今は、翔太郎の全身が杏子の両腕に支えられている。魔法少女にでも変身しない限り、この体制はキツいように思えた。
「……てか、オイ杏子。あの赤鬼野郎どうした?」
「わかんねえ……! わかんねえ……! けど……!」
「流石に死んだか?」
「死んでない……! と思う……! でも……! 流石に……! これ以上……! 追うのは……! 無理だわ……! それに……! 向こうも……! 限界だろ……!」
ドウコクは倒壊した名もなき建物の向こう側にいる。確認は不可能だ。
それはそれとして、杏子がかなり辛そうな様子なのが感じられた。文節ごとに根性を振り絞るみたいな声を出している。むしろ、それが気になって杏子が何を言ってるのか聞き取るのさえ億劫だ。
199
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:06:55 ID:Jb4jQKnY0
明らかに無理をしているのが、他の全員に伝わる。
「……」
「……」
『……』
「……ふんぬっ! ……はぁっ……!」
「……」
「……」
『……』
「……はぁ……! ……ぐっ……!」
押し黙った状態で、荒れ始めた杏子の息を聞きながら、彼らは歩いている。
翔太郎、杏子、フィリップ、ザルバ……それから、一応その他もろもろ。
それなりに頑張っているものの、やはり辛そうなのが感じられる。
杏子自体、戦った後に成人男性をお姫様抱っこは相当きついだろう。
「あー、杏子」
「何ッ!?」
「ちょっとどっかで休まねえ?」
「……休み……! たい……! のか……!?」
杏子の息はだんだん荒くなっている。
「……いや、俺じゃなくて…………あーん……まあいいや。どっかで休もう」
『杏子ちゃん、その方がいいよ』
「……わかった」
ともかく、彼らはお姫様抱っこをやめてアカルンで近くのゲームセンターまで瞬間移動した。
何故ゲームセンターだったのか──おそらく彼女が好きだったからではないかと思う。
△
血祭ドウコクは、いままさにその名に相応しい血に濡れた体を起こしていた。それはいつものように敵の血ではなく、自らの血であったが。
「……畜生」
オーバーレイ・シュトロームで何メートル吹き飛ばされただろうか。
ドウコクは、あのままオーバーレイ・シュトロームによって目の前の瓦礫──その時はまだ壁だったはずの瓦礫──を突き破ると、更に次の建物の壁に叩きつけられた。そこに全身がめり込んで、しばらく動けなくなっていた。
全身に強い痛みが走っている。ぶつけられた背中も特に痛む。直撃を受けた表面中もまた痛んでいる。力もろくに入らない。
だが、ドウコクは立ち上がった。
「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ドウコクの咆哮は、真後ろの建物にできた罅を巨大にしていく。
それはやがて、建物を支えきれないほどの罅ができると、その建物はドウコクの真後ろで、目の前の建物と同じく瓦礫に変わっていった。
これで風都タワーから三つ連続で瓦礫ができたわけだ。
この近辺は他にも、瓦礫と化した建物があった。
どうやら、戦いはドウコクがいま体験したものだけではなく、幾つもあったようである。
腹の底から怒りがわき上がる。あの娘に敗北するなど、あってはならないはずなのだ。
自分は外道衆の総大将であるというのに、何故あんな小娘にやられてしまうのか。
(……やっぱり、あれが無えと力が出ねえか……)
どうも、小刀である降竜蓋世刀では、ドウコクは弱かった。
刃渡りの短さゆえ、ドウコクもあれを使って衝撃を起こすのは非常に難しく、また、敵との距離も詰めなければ戦えないのが少し問題であった。
昇竜抜山刀──それが、ドウコクが真に力を発揮するのに丁度良い刀なのだが、あれの持ち主はどこにいるのだろうか。
(先にそいつを探すか……? こんな場所で小さく暴れてても仕方がなさそうだ)
200
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:07:43 ID:Jb4jQKnY0
ドウコクはもう一度、今度は冷静に思考を巡らせる。
怒りの咆哮を上げる時間は終わりだ。
残るシンケンジャーはシンケンゴールドのみ。これは放っておいても何とかなる。
あそこにいた数名分のデイパックは確認済だが、そこに昇竜抜山刀はなかった。
そうなると、街にいても仕方がないような気がしてくる。
(志葉屋敷……あそこに向かってみるか?)
ドウコクの次の狙いは、マップの端にある志葉屋敷だった。
I-8エリアにいるドウコクからしてみれば途方もない距離であるが、まあ構う事はないだろうと思った。ドウコクはそう簡単には疲れない。
街にいる連中──特にあの銀色の戦士の相手をするには、今のままでは力不足な感じは否めない。
二の目になれば戦えるだろうが、二の目になるのも惜しいところである。
(……二の目? そういえば、アクマロは二の目にはならなかったのか?)
よくよく考えれば、アクマロは死亡しているものの、二の目になったのだろうか。
外道衆には、二つの命がある。今のドウコクは一の目──つまり最初の命で生きており、等身大の戦いを繰り広げる。
だが、その命が尽きたとき、アヤカシとしてのもう一つの命である二の目が始まる。二の目が発動すれば、数十メートルの巨大な体となり、自由自在に暴れ回る事ができるのだ。
これだけ広い島なので、ドウコクが知らないどこかでアクマロが二の目となった可能性はある。しかし、それを倒せる相手が果たして存在するのだろうか?
シンケンジャーが二の目を倒せるのは、シンケンオーを初めとする巨大戦用の装備があるからだ。しかし、ここにはそれらしきものはない。シンケンジャーも揃っていなければ、あの力は出せない筈だ。
アクマロは果たして、二の目になったのだろうか。
「……なるほど。ここで死んじまったら、二の目は無えって事か」
ドウコクは自分の首輪を弄んだ。
二の目になるのを封じているのは、この首輪だ。
おそらくだが、巨大化してしまえば、この首輪は耐えられなくなるのだろうとドウコクは考えた。
首輪の爆発は強力なものらしく、テッカマン、NEVER、砂漠の使徒など……おそらく外道衆と同じく戦闘に長けた者であっても死に至ると話していた。
死んで二の目になろうとした瞬間、首輪がはじけ飛べば、外道衆たりとも死んでしまうという事だろうか。
「まあいい……さっさとコレを外せる人間を捜せばいいわけだ……」
とりあえず、昇竜抜山刀を探すついでに、この首輪を解体できる人間を捜しておきたい。
そうすれば、ドウコクも本来の能力を発揮する事ができるし、禁止エリアや二の目の妨害などの様々な弊害から逃れる事もできる。
少なくとも、マイナスはないはずだ。
(ともかく、今は志葉屋敷とやらに向かうか)
かつて、ドウコクが先代のシンケンジャーと戦ったあの屋敷だろうか。
ともかく、村エリアにはそれはそれで参加者が集まっていそうな予感もする。
昇竜抜山刀を誰かが持っているのなら、そいつをさっさと奪い、使いやすい刀を使った方が暴れるにも楽だ。
初心に帰り、暴れるより先に「暴れる準備をする」。
それが、今のドウコクの最優先事項だった。
【1日目 午後】
【I−8 市街地】
【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、胴体に刺し傷
[装備]:降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:姫矢の首輪、支給品一式、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本:その時の気分で皆殺し
0:志葉屋敷へと向かう
1:首輪を解除できる人間を捜す
2:昇竜抜山刀を持ってるヤツを見つけ出し、殺して取り返す
3:シンケンジャーを殺す
4:加頭を殺す
5:杏子や翔太郎なども後で殺す
[備考]
※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。
△
201
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:08:17 ID:Jb4jQKnY0
「……しっかし、便利だなぁ、コイツ」
カードゲームか何かの機体に備え付けられている椅子を勝手に幾つも並べて寝転がっている翔太郎は杏子から返された帽子の位置を直すと、杏子が持っているリンクルンとアカルンを手で弄んでいた。
アカルンはピックルンの一つで、瞬間移動に使えると杏子が教えていたのだ。
一キロ以上先には行けそうにないほか、参加者複数人での移動は、参加者の数だけ移動可能な距離が減少するものの、便利である事には違いない。連続使用も問題がないので、ゾーンメモリのような戦い方もできるはずだが、これはまた長距離での連続使用は難しそうだった。
「キィ?」
「うわっ! 喋った! なんだコレ……喋ったぞオイ! フィリップ!」
アカルンが喋った事に驚きながらも、テンションを上げすぎて胸を抑える。
やはり、胸骨が折れたのだろう。
『……もう今更、何が喋っても驚かないよ。何が喋ったんだかもよくわからないし……はぁ』
多少興味があったようだが、フィリップは見られなくて残念そうにため息をついていた。
無暗やたらと変身するのも問題なので、変身する気は起きなかったが。
「……」
一方、杏子は、いつもの如く、ダンスのように楽しめるリズムゲームをやりながら、ひとり物思いに更けていた。
エボルトラスターがその手にある。……これの使い方、あるいはあの巨人と一体化する事の重さもよくわかったが、やはり姫矢以外の人間にも会うべきなのだろうか。
特にそう……孤門一輝という男が、杏子はずっと気になっていた。
一応、広間にいた孤門という男の事は杏子も知っている。しかし、杏子の記憶の中で、孤門という男の顔はだんだんとはっきりしないものになってきた。
茶髪だったような気もするし、黒髪だったような気もする。ハンサムだったような気もするし、普通だった気もする。その辺を捜せばいそうな普通の人で、はっきり言えば、すれ違った人のように、彼の事は忘れかけていた。
まあ、警察署の方に向かえば会えるという事だが、生きているかが不安にもなってくる。
「どうした、アンコ」
ザルバが杏子の様子を気にかけて、話しかけてきた。
杏子は話しながらでも、画面に集中してゲームをする事が出来た。多少ミスが増えるが。
「この力の事だよ。……まあ、これの使い方はわかったし、何であたしに回ってきたのかもわかった。でも、この力は永遠にあたしの物なのかな?」
「……さあ、それは俺には少しわからないな」
「だから、孤門って奴を捜しに行きたいんだ。姫矢の兄ちゃんが、前に『不思議な力を授かったら孤門って奴に会いに行け』……って言ってたからさ!」
姫矢准が自分たちと離れる時、その名前を出したのをよく覚えている。
その男が協力してくれる……彼はそう言った。
おそらく、姫矢の知り合いだったのだろう。姫矢を支えてくれた仲間かもしれない。
とにかく、この光に詳しい人間がいるとしたら、その孤門一輝の他にいないだろう。
「……孤門一輝か。確かあの広間にいた、えーっと……あの青い服の」
「青い服? あ、そういえば青い服だったな!」
「へー、そんな奴がいたのか」
ザルバは広間での出来事など知らない。
「警察の特殊部隊みたいな恰好してたよな。もしかして、それで警察署にいるのか?」
「そんなに仕事熱心なわけ……」
202
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:09:26 ID:Jb4jQKnY0
と、言いかけてから、翔太郎は照井の事を思い出した。
あの男は流石に、警察署には立ち寄らない気がするが、警察という単語で思い出すのは彼だ。
それでまた、どうも嫌な気分になって、曖昧な言い方になってしまう。
「……まあいっか。警察署に向かえば、他の奴らとも合流できるだろ」
と、翔太郎が言った瞬間、ゲームが終わる。
スコアはまずまずといったところだろうか。いろいろと話しながらゲームをするのはやはり大変である。身体も動かしたので汗が出る。
ともあれ、これで翔太郎の心配をするにも問題がないというわけだ。
「身体は大丈夫なのか?」
「……ん。ああ、何とか……」
翔太郎は、腹筋を使って身体を折り曲げ身体を起こす。
……と、同時に胸骨から激痛が走る。
「ぎゃあああああああああああああーー!!! ヘルプ! ヘルプ!!」
「……駄目じゃねえか」
「んな事言ったって、これたぶん骨折だぞ!! 骨折が放っといて治るわけねえだろ!!」
体中に痣ができた状態とはいえ、やはり胸が一か所だけ、ものすごく痛むらしい。やはり、そこだけ痣の紫色がやたらと濃かったので、怪しい。
殺し合いの場では、致命的な弱点が一つ出来てしまったといえるだろう。
骨折など、ただでさえ安静にする必要がある状態だ。しかし、翔太郎はそんな事は無視する。
「ここで立たなきゃ男が……俺のハードボイルドが廃る! 行け……左翔太郎!! 立て、立つんだ翔太郎……うおおおおおおりゃああああああああ!!!!!!」
ともかく、翔太郎は男の意地でゆっくりと起き上がり、半分涙目になりながら立ち上がる。
「……はぁ……はぁ……どうだ。立ち上がってやったぜ」
「いや、それは良いけど。歩けるのかよ」
「……はぁ……大丈夫……立ち上がれば歩けるはずだ」
翔太郎は、立ち上がって数歩歩いたが、どうやらちゃんと歩けるらしい。
足の方は、上半身に比べて痛みが少なく、辛うじて歩く時に足が痛むような事はない。
胸が痛むのは、身体を深く折り曲げたとき。胸部に刺激があった場合だろうか。
「スゲーだろ……どうだ……杏子……記念に……プリクラでも……撮るか……」
「……いいよ別に。何の記念だよ」
「そうだな……俺が、動けるなら、……プリクラとか……やってる場合じゃねえしな」
「……んじゃあ、とにかく、このまま二人で警察署まで向かうか」
二人の目的地はこのまま警察署だ。
そこに行けば、孤門に会えるかもしれないし、他の様々な仲間たちにも会える。
一つの目標地点としては間違ってない判断のはずだ。
「二人じゃねえ、三人だぞオイ、杏子」
と、翔太郎。
『……この場合、僕は含めなくていいんじゃないかな』
と、フィリップ。
「ちょっと待てよ。俺が入ってないぜ」
これがザルバ。
「キィ」
アカルン。ついでに、キルンも同じような事を言ったが、耳に入ってない。
「あー、人数の話はやめだ。ややこしすぎる。とにかく、全員で向かうぞ」
ウルトラマンの光もたぶん、人格を持ってるような気がする。
そうなると、本当に何人だかわからない。
203
:
赤く熱い鼓動(後編)
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:10:05 ID:Jb4jQKnY0
杏子は混乱するので、人数を数えるのをやめて警察署に向かう事にした。
【1日目 午後】
【G−8 市街地(ゲームセンター)】
【左翔太郎@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、胸骨を骨折(身体を折り曲げると痛みます)、上半身に無数の痣、照井と霧彦の死に対する悲しみと怒り、ダブルドライバーを一応腰に巻いてます
[装備]:ダブルドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ(ジョーカー、メタル、トリガー)、ランダム支給品1〜3(本人確認済み) 、
ナスカメモリ(レベル3まで進化、使用自体は可能(但し必ずしも3に到達するわけではない))@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損、使用には問題なし)
[思考]
基本:殺し合いを止め、フィリップを救出する
0:警察署へと向かう。
1:風都タワーを破壊したテッカマンランスは許さねえ。
2:あの怪人(ガドル、ダグバ)は絶対に倒してみせる。あかねの暴走も止める。
3:仲間を集める
4:出来るなら杏子を救いたい
5:泉京水は信頼できないが、みんなを守る為に戦うならば一緒に行動する。
[備考]
※参戦時期はTV本編終了後です。またフィリップの参戦時期もTV本編終了後です。
※他世界の情報についてある程度知りました。
(何をどの程度知ったかは後続の書き手さんに任せます)
※魔法少女についての情報を知りました。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、ソウルジェムの濁り(小)、腹部・胸部に赤い斬り痕(出血などはしていません)、ユーノとフェイトを見捨てた事に対して複雑な感情、マミの死への怒り、せつなの死への悲しみ、ネクサスの光継承、ドウコクへの怒り
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、エボルトラスター@ウルトラマンネクサス、ブラストショット@ウルトラマンネクサス
[道具]:基本支給品一式×3(杏子、せつな、姫矢)、魔導輪ザルバ@牙狼、
リンクルン(パッション)@フレッシュプリキュア!、乱馬の左腕+リンクルン(パイン)@フレッシュプリキュア!、ランダム支給品0〜1(せつな)
[思考]
基本:姫矢の力を継ぎ、翔太郎とともに人の助けになる。
1:警察署に向かい孤門一輝という人物に会いに行く。またヴィヴィオや美希にフェイトやせつなの事を話す。
[備考]
※参戦時期は6話終了後です。
※首輪は首にではなくソウルジェムに巻かれています。
※左翔太郎、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの姿を、かつての自分自身と被らせています。
※殺し合いの裏にキュゥべえがいる可能性を考えています。
※アカルンに認められました。プリキュアへの変身はできるかわかりませんが、少なくとも瞬間移動は使えるようです。
※瞬間移動は、1人の限界が1キロ以内です。2人だとその半分、3人だと1/3…と減少します(参加者以外は数に入りません)。短距離での連続移動は問題ありませんが、長距離での連続移動はだんだん距離が短くなります。
※彼女のジュネッスは、パッションレッドのジュネッスです。技はほぼ姫矢のジュネッスと変わらず、ジュネッスキックを応用した一人ジョーカーエクストリームなどを自力で学習しています。
204
:
◆gry038wOvE
:2013/08/19(月) 02:11:25 ID:Jb4jQKnY0
というわけで、仮投下終了です。
まあ、仮投下にしたのは杏子のジュネッスの扱いの部分です。
問題がなければ本投下します。
205
:
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:05:21 ID:gwcMww/60
ssが出来上がりましたが、何分色々と不安ですので仮投下させていただきます
206
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:06:43 ID:gwcMww/60
軍服の男──ガドル──が鉄の馬、現代でいうバイクに跨がってから数分後。
先程から追ってきていた一筋のタイヤの跡が無くなっているあたりに、"それ"はあった。
そして、”それ”はすぐに彼の目に飛び込んできた。
「何だ、これは……」
先程までガドルが下り降りてきていた山道とは違い、そこは少し開けていた。
故にこそ、その異変は、すぐに彼の目に留まったのであろう。
自分以外誰もいないというのに、思わずリントの言葉で驚愕の意を示しながら、彼はゆっくりと"それ"に近づ
いていった。
──それは、まるで内部から割られたかのような、不自然な割れ目の巨木。
ガドルがするようにただ己の力と剣で切り裂くのと違って、その木の切れ目はどこかしなやかだった。
まるで、木を知り尽くした匠が、一思いにその力を振るったかのような。
ただ暴力ですべてを支配し、すべての価値観が力でしか証明出来ないグロンギ族、特にガドルには縁のないよ
うなそのしなやかさに、数瞬彼は興味を持ったが、しかしすぐにそれは泡となって消える。
何故なら、即座に別のことに興味が移ったのだから。
ふと、不自然な風の流れを感じたガドルが一本の木を見ると、そこにあった木の中央付近に四点ほど完全に貫
通した極小の風穴があった。
この太さの巨木を、これだけ小さな点で貫通させるというのは、恐らくは強力で小さな"あれ"が必要だろう。
恐らくはそれなりの反動を伴うような。
と、そこまで考えて、ガドルはフッと息をついた。
(これは……、戦闘があったというよりは、"力を試した"、といった方が適切か?)
そう、ガドルはこの光景を最初、先程逃した「イシボリタイイン」という、自分を気絶させたリントと、「フ
クタイチョウ」という地位についている女のリントがここで何者かと戦闘を行った形跡ではないかと疑ったのだ
。
しかし、すぐに否定した。
この巨木は先程いったように力任せではなくしなやかに折られている。
207
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:08:04 ID:gwcMww/60
軍服の男──ガドル──が鉄の馬、現代でいうバイクに跨がってから数分後。
先程から追ってきていた一筋のタイヤの跡が無くなっているあたりに、"それ"はあった。
そして、”それ”はすぐに彼の目に飛び込んできた。
「何だ、これは……」
先程までガドルが下り降りてきていた山道とは違い、そこは少し開けていた。
故にこそ、その異変は、すぐに彼の目に留まったのであろう。
自分以外誰もいないというのに、思わずリントの言葉で驚愕の意を示しながら、彼はゆっくりと"それ"に近づいていった。
──それは、まるで内部から割られたかのような、不自然な割れ目の巨木。
ガドルがするようにただ己の力と剣で切り裂くのと違って、その木の切れ目はどこかしなやかだった。
まるで、木を知り尽くした匠が、一思いにその力を振るったかのような。
ただ暴力ですべてを支配し、すべての価値観が力でしか証明出来ないグロンギ族、特にガドルには縁のないようなそのしなやかさに、数瞬彼は興味を持ったが、しかしすぐにそれは泡となって消える。
何故なら、即座に別のことに興味が移ったのだから。
ふと、不自然な風の流れを感じたガドルが一本の木を見ると、そこにあった木の中央付近に四点ほど完全に貫通した極小の風穴があった。
この太さの巨木を、これだけ小さな点で貫通させるというのは、恐らくは強力で小さな"あれ"が必要だろう。恐らくはそれなりの反動を伴うような。
と、そこまで考えて、ガドルはフッと息をついた。
(これは……、戦闘があったというよりは、"力を試した"、といった方が適切か?)
そう、ガドルはこの光景を最初、先程逃した「イシボリタイイン」という、自分を気絶させたリントと、「フクタイチョウ」という地位についている女のリントがここで何者かと戦闘を行った形跡ではないかと疑ったのだ。
しかし、すぐに否定した。
この巨木は先程いったように力任せではなくしなやかに折られている。
208
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:09:02 ID:gwcMww/60
故に戦闘の途中で勢い余って切ってしまったというには、少々説得力に欠けると考えたのだ。
そして見つけた巨木に空いた複数の風穴。
これは、ガドルも元の世界でもこの世界でも受けたことのある「銃弾」によるものだと考えて、まず間違いない。
そして、巨木を貫通できるほどの威力を持ちながらあそこまで小さな弾丸を発射できるものに、ガドルの知り得る中で一人、丁度当てはまる者がいた。
「フクタイチョウ」の変身した、骸骨の戦士のもつあのマグナムだ。
では、尚更戦闘の可能性を疑うべきではないかといわれそうだが、それは違う。
着弾していた木の周りの地面や、他の木、そしてそこから生える葉っぱにまで目を通したが、"一つも弾痕は見当たらなかった"のだ。
それどころではない。この周囲の地面を、踏み荒らした形跡すらないのである。
「随分と、俺の事を見くびってくれた物だな……!」
その結論を出した瞬間、ガドルは、その手を強く握りしめた。
あろうことか奴らは、この破壊のカリスマが文字通り全力で奴らを殺さんと追跡をしていたというのに、その瞬間に"自分の力を試していた"ということになるのである。
なんと許し難いことであろうか。一度倒したのだから、もう一度襲ってきても容易に退ける事が出来るとでも考えていたのか。
一瞬、自分の面子を保つためにか、無意識に"何者かが、彼らを襲って力を奪いそれを試したのではないか"という考えが浮かんだが、すぐに否定した。
この場に来るまでも、この場に来てからもガドルは一切気を抜いていない。
だから、断言できる。
ここに至るまで、見事なまでに戦闘の形跡はなかったと。
であるならば、ここで力を試した者は、自ずと絞られてくる。
まず「フクタイチョウ」は却下だ。わざわざ今まで使っていた骸骨の戦士の力を、ここで試す必要がない。
では、戦闘を介さずに仲間に加わったもの──例えば自分が殺すに値しないと切り捨てたあの黒い鎧の戦士だとか──、これはどうか怪しいところではあるものの、"ゴ・ガドル・バという怪人が襲ってくるかもしれない"と忠告すれば、自分と戦闘を一度もした事が無い戦士は……、少なくとも力を試すなどということはしないだろう。
迎え撃つための待ち伏せであるなら、力を試す前に迎撃の準備をするべきだろうし、先程の黒の鎧の戦士などはその歴然の力の差故、逃げを選択するしかないはずなのだ。
209
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:09:49 ID:gwcMww/60
で、あるならば、答えは、一つしかあるまい。
(「イシボリ」、……名簿によれば「石堀光彦」か)
自分を一度は打ち倒したにもかかわらず、この命を奪わず、あまつさえいつ追いかけてくるかわからないこの破壊のカリスマを恐れることなく、自身が手に入れた新しい力を試すような無礼者。
──この男しか、いないだろう。
一度倒したのだから、もう一度来ても結果は見えているだろうと?
むしろ、一度助けてやった命を、捨てにくるような馬鹿ならば今度こそ殺そうとでも?
或いは、自分より力が劣っているのがわかったから、敢えて泳がせておこうとでも?
瞬間、怒りがマックスに達したのか、彼はその真の姿を現す。
格闘態となった彼は、目にもとまらぬ速さで、目の前の木に思い切り拳を振るう。
すると、大地に深く根を張っていたはずのその巨木は、ガドルの拳が開けた穴を中心として、文字通り木っ端みじんに吹き飛んだ。
パラパラと、空中から木の粉が降り注ぐ中、彼はふうと息をついて、自分を落ち着かせた。
とはいえ、その怒りは簡単に収まる物ではない。
どんな思惑があったにせよ、この破壊のカリスマを甘く見ているのは間違いないのである。
自分に止めを指さなかった事以上に、たかが一度勝利を預けたリント如きにここまで下に見られるというのは、屈辱以外の何者でもなかった。
「ビガラパババサズ、ボボザバギンバシグラガボソグ(貴様は必ず、この破壊のカリスマが殺す)」
新たな決意と、燃え上がる殺意を口にしたことで、ガドルにもやっと表面上の冷静さだけでも繕えるほどの余裕が出来てきた。
そうして今一度、ゆっくりと、しかし確かな足どりで、彼はサイクロン号の名を授けられたその疾風のバイクに跨がる。
人が来ても構わぬからとずっとつけていたエンジンを蒸かし、憎き「石堀」を追跡せんとした、そのときだった。
──彼が、新たな違和感に気づいたのは。
「足跡が……、ない……だと?」
210
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:10:32 ID:gwcMww/60
そう、あのタイヤ痕の延長線上はもちろんのこと、辺りには足跡どころか人が通った形跡が一切なかった。
もちろん、人が通れそうな山道はすべて見たし、獣道も……、とにかく人が通れそうなところはくまなく見たのにも関わらず、である。
そして、ついでに言っておくなら、ガドルがこれまでにバイクで追ってきた道も、明らかに自分が前々回の時に見たバイク痕と変わらぬものであったため、途中で離脱した、というのは考えられない。
「なるほど、ただ単に遊んでていただけではなかったという事か」
どうやら奴は、ただ自分をおちょくっていただけではなかったらしい。
とはいっても、"自分が思っていたほど敵に見限られていなかった"程度で喜ぶほど、ガドルは落ちぶれていなかったため、先程抱いた怒りは、収まっていないが。
「ふむ、しかしどうしたものか……」
そう、大事なのは自分がこれからどうするかである。
どうしたかはわからないが、追うべきターゲットのわかりやすい痕跡が消えてしまったのだ。
それにここは山道。先程四人を追った時とは違い、今度は行方の検討すらつかない。
故に、ガドルに残された選択肢など、もう一つしかなかった。
「いいだろう、イシボリ……、今は見逃してやる」
セリフだけ聞けば格好はいいが、実際のところ彼は標的を見失ったのである。
故に新しい標的を探し、それと戦うことを選ぶしかない。
とはいえ、石堀を見逃すのはあくまで"一時的"にだ。
この狭い島の中であれば、時間こそかかるかも知れないが、しかし生き残っていけば確実に再戦の機会は訪れるというものだろう。
その時を心の底から待ち望みながら、しかし次の瞬間には彼の心から石堀という男の存在は影を潜めた。
目の先の敵を軽んじ、大きな目標だけを見つめていては負けは免れない。
それは、ダグバとの戦い──ザギバスゲゲル──に執着しすぎてクウガという目の先の敵を軽んじた故に敗北を喫した、前回の生で学んだことだった。
打倒石堀ばかりを考えていては、彼の前に立つ前に死んでしまう。
だからこそ、ガドルは一度石堀のことを──無論、受けた屈辱なども──頭から一旦消し去った。
これでまっさらな気持ちで新たな敵と戦うことが出来るというものである。
「ヌン……!」
小さな唸り声をあげながら全身に力を込めたガドルは、次の瞬間に変身を完了していた。
──ゴ・ガドル・バ射撃態──
211
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:11:19 ID:gwcMww/60
強固な甲殻に包まれた厚い筋肉に、刺々しい意匠を施した装飾を装備している。
しかしなにより注目すべきはその緑の目が見据える景色だろうか。
先程まで模っていたリントに似た姿はおろか、彼の他の形態のどれよりも研ぎ澄まされた視力や聴力などの第五感は彼の周囲の状況を恐ろしいまでに正確に把握することが出来る。
そして彼は次に目を瞑る。
視力という、木が鬱蒼と生い茂るこの場では少々効果が薄い五感の一つを自ら無くすことで、他の五感を更に研ぎ澄ますのだ。
そして、視力以上に彼が頼りにするのは、聴覚。
すべての音は、風が運んでくる。
故にガドルはその風からすべてを感じ取るのである。
──精神を集中させろ、全てを聞き逃すな──
──風のざわめく音、木々がその身同士をぶつけ合う音、木の葉の落ちる音──
──川の流れる音、砂利の擦れ合う音──
──自然の中にある音のみだ。この周辺には参加者はいないのかと一瞬思い──
──すぐに考え直した──
「砂利の擦れ合う音……だと?」
そう、元の世界ならいざ知らず、この場には参加者以外には基本的に生物が存在しない──少なくともガドルは一度も見ていない──はずである。
なれば、砂利が擦れ合う音を出せるのは……、参加者しか、いまい。
今一度精神を集中し、先程の音が聞こえた方向へ耳を傾ける。
──聞こえる。
よくよく聞けば、砂利の擦れ合う音が二カ所から発生している。
それだけではない。金属と金属のぶつかり合うような、ある意味聞き慣れた音まで聞こえてくるではないか。
つまりただ川沿いを友好的な参加者同士で歩いているというわけではなく、戦っているということだ。
なれば急がねばなるまい。共倒れなどという残念な結果になる前に、自分も戦いに参戦するのだ。
212
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:12:35 ID:gwcMww/60
そう考えるが早いか、彼は変身を解き、サイクロン号に跨がっていた。
自分に掛けられた制限は大体把握済みだ。
制限を掛けられているとはいえ、射撃態の能力を以てしてあの音の小ささならば、悠長にやっている暇は無い。
「待っていろ戦士たちよ……、この破壊のカリスマをな」
ブルルンと心地よい音を立てたバイクは、その名のとおり疾風の如く加速を開始する。
常人には耐えられぬスピードだろうが、ガドルには最早苦でも無かった。
バイクの上で身に風を感じながら、彼は思う。
──今度こそ、皆殺しだと。
「ふう、ここまで来れば、一安心だな」
誰も聞いていないのにそう呟くのは、メタリックイエローの戦士。
そしてその肩には、幾つかのデイパックと、そして一人の女性が抱えられていた。
彼は腰に巻いた不思議な形状のドライバーから、銀の装飾品が取り付けられた赤いガイアメモリを抜き取る。
それを感知したのか、彼の体からその鎧とスーツは消え去っていった。
後に残されたのは、石堀光彦という、どうにも冴えない一人の男である。
しかし彼を見くびるべからず。
ここまでの物語を見てきた読者諸君には最早必要ないどころか聞き飽きた説明かもしれないが、彼の正体はダーク・ザギ。
ウルトラマンの王と呼ばれるウルトラマンキングを倒したこともあるほどの実力者である。
「にしてもガドルの奴、案外あっさり引き下がったな」
彼が今思考するは、先程聞こえていたバイク音を出した主、ガドルに対することだった。
ガドルとは先程の戦いの少し前の時点にも、一度戦いを交わしている。
その際に神経断裂弾という奴やダグバという怪人に特に効くらしい弾丸を撃ち込み、自分たちは撤退した。
ガドルが発した放送に集められた好戦的な参加者との接触を避けるためである。
その理由故にガドルに止めを刺すことさえ惜しんだのだが、しかし奴はその後、決して遅くはない──勿論、暁と黒岩の漫才もどきがなければもっと早く移動できたことは否めないが──速さで移動していた自分たちに、いとも容易く追いついてきたのである。
そして今度は自分がこの場で手に入れた新しい能力、アクセルトライアルの能力によって、彼を見事打ち倒したわけである。
213
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:13:16 ID:gwcMww/60
だが、石堀も現状必ずしも殺し合いに乗らないとは決めていない上、もしも邪魔者を消してくれるのならそれは好都合とガドルをまたしても殺さず放置したのだ。
しかし自分のそんな人情深い──ザギ自体は人間ではない故、根本的に人情など無いのだが──配慮も知らず、ガドルはまたも自分たちを追跡してきたのである。
全くもって、迷惑極まりない。
「まぁでも、その分俺の撒き方が上手かったってことだよな」
冗談めいた言い方だが、しかしそれは事実だった。
アクセルとなって凪を抱き抱えあの場を離れたとき、彼はすぐさまブースターに変身し、足跡という自分の痕跡を消した。
バーニアによる空中移動の勝手は、先の戦いで大体把握済み。
なれば、ザギの真の姿でもナイトレイダーとしても空を飛び回っていた彼が周りの木にも凪にもデイパックにも一切の傷をつけずに飛ぶのは、容易なことだった。
幾らなんでもそれはあり得ないのではないかと言われても、あり得ると断言できるだけの材料が、彼にはある。
元々、ザギはウルトラマンの神、ウルトラマンノアをモチーフとして作られたウルティノイドである。
彼に取り付けられた自己進化システム、それはウルトラマンの力を借りずとも自分たちのことは自分たちで守れることを証明したかった科学者たちの英知の結晶だった。
……結局は、ザギ本人に邪悪な意志を植えつけるのに一役買っただけの代物にしかなりえなかったことは、ここでは深く触れないことにしよう。
まあ何にせよ、それのお陰でザギはアクセルブースターの能力を理解し、それに適応できるようにこの場で進化したのだ。
そう、二度目の使用で、破壊のカリスマを完璧に撒けるほどに。
「さて、これからどうするかな」
最早、彼の思考の中心にガドルはいない。
少なくとも次の放送までは恐らく会わないであろう存在のことを考えるのは、無駄でしかないからだ。
故に今の彼にとって一番思考すべきは、自分の今後である。
黒岩、いやメフィストが死ぬのをこの周辺で待つか?
──却下。悠長すぎる。
ウルトラマンの光を持つものを探し、動き回るのか?
──却下。手負いどころか意識すらいつ戻るかわからない凪を抱き抱えて当て所もなく彷徨うのは危険すぎる。
では、何が最善策か。
考えるまでもなかった。
「とりあえず、街に向かうか」
214
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:14:28 ID:gwcMww/60
花咲つぼみや一文字隼人とそこで合流するように決めていた上に、メフィストが向かった西側でも無い。
光を持つものと会える可能性もあるため、余程のことが無い限り、石堀はそちらに向かおうと考えたのだ。
「今の時間は……、よし、約束時間の三十分前には余裕で間に合いそうだな」
三十分前行動は紳士の基本だからなと。
そんな軽い冗談をかましながら、歩みだした彼の心は、言葉とは裏腹にどこまでも闇で染まっている。
しかしそれを僅か足りとも見せないから、彼は今まで自分に復讐を誓う女のすぐそばで、傍観者どころか味方として存在できたのだ。
それはこの場でも変わらない。
いやむしろ強敵を相手に単身突っ込んでいき、自身の胸中を察して溝呂木と戦わせてくれた上に無事生還した石堀に対し、凪は一仲間以上の感情を抱いているかもしれない。
そんなことは誰にもわからないが、しかし可能性はあるだろう。
もしかすると彼女の未来は、ダーク・ザギですら予測できない方向へと、転がりだしているのかもしれない。
「……音がしたのは、この辺りか」
ザッ、っと音を立てて鉄の馬より降り立ったのは、破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バである。
彼は「ゴ」特有の学習能力でバイクの扱いを短時間でマスターし、ここまでの道のりをかなりのスピードで走ってきたのだ。
さて戦闘をしていた者たちはどこにいるのかと耳を澄ませ目を凝らせば、川辺の方から強い気配がするではないか。
しかし、さてどんな者かと覗いてみた彼の目に写ったのは、想定外の出来事だった。
「……ッ!?」
戦闘が終わってしまっている、少々残念だが、しかしそんなことは目の前の光景に比べれば、些細なことだ。
そう大切なのは……、そこで倒れている者も、立っている者も、ガドルは知っていたことである。
そう、そこにいるのは、間違いなく自身が倒し、殺したはずの者たちだったのだから。
(どういうことだ……?)
瞬間、頭に浮かぶのは疑問。
倒れているもの──ナスカ・ドーパントも、立っているもの──ダークメフィストも、自身が間違いなく殺したはずである。
殺し損ねた、というのはあり得ない。
両者とも、最後の一撃の際自身がいつもリントを殺すときと同じ確かな手応えを感じたし、ドーパントとやらに変身した男──ガドルは名を知らないが、その名を園咲霧彦という──は文字通り燃え尽き風になったはずだ。
また、あれがかなり変わった逃走手段だったとも考え難い。あの男は戦いの最中で片腕と、下半身を失ったはずだからである。
そして全体的に"闇"を思わせる風貌をしている戦士に変身した男──これまた同様にガドルは名を知らないが溝呂木眞也という──には生身で剣を突き刺した。
出ている血も本物としか思えなかったし、何より呼吸が長時間止まったのを確認した。
演技にしては、出来すぎている。
故にどちらも間違いなく死んだと断言できるのだ。
215
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:15:26 ID:gwcMww/60
だのに。
だのにそうして殺したはずの存在が、なぜ目の前にいるのだ?
自身と同じように、生き返ったとでも?
馬鹿な、これは殺し合いの果てに生き残る最後の一人を決めるものではなかったのか。
まさか死人がゾンビとして死後も参加できるわけではあるまい。
では生き返らせたという考えも、却下ということになる。
なれば、一体何が正解なのか。
何をしているのかいまいち遅々として進まない目の前の状況を尻目に、ガドルは思考を巡らせる。
今までの常識はもちろん、ここで聞いた真偽の定まらないような話しも含めて深く思考するのだ、答えを逃さないように……!
と、そんなとき雷の様に彼の脳裏に浮かんだのは、「フクタイチョウ」が話していた興味深い言葉。
──彼の力が失われず誰かに受け継がれている事もあるかもしれないけれど……──
あの時は受け流してしまったが、思えばなかなか興味深い話だ。
「受け継がれる力」、なるほどそう考えれば合点はいく。
確かにクウガの力は遥か昔のリントの戦士からゴダイが受け継いだものである。
その例を、目の前の光景にも当てはめるとするなれば。
思えば、彼らはどちらも──というよりこの場にいる変身戦士は大体そんなものだが──何らかのアイテムを使って変身していた。
それを何らかの手段で手に入れることが出来れば。
或いは、力を"受け継ぐ"ことも可能なのかもしれない。
そんな些細なことを再確認して、ガドルは身震いした。
"この仮説があっているならば、自身と「あの」クウガの再戦は、まだ無くなったわけではない"と。
そんな時、ガドルが思考に専念しすぎて、目の前の状況から数秒気を逸らしていた正にその時に、そこに動きはあった。
「ム……」
筆舌には尽くしがたい音を立てながら、倒れているもの──ナスカ・ドーパントの変身が解除される。
さて、自分が全力のときに思い切り戦いたいたかったと考えた男の力を継いだ者は、果たしてどんな者なのか。
216
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:16:03 ID:gwcMww/60
結果そこに現れたのは、正に瀕死の重傷を負った、余りにも小さく脆そうな、少女だった。
女は砂利の上で体を捩らせながら呻き声を上げている。全身の至る所から覗く生々しい傷が、今までの戦闘に よるダメージがいかに激しかったかを物語っていた。
……力を受け継いだのが女性だったからといって、ガドルは特別落胆しなかった。
自身の同族の中にも、メのトップの実力を誇ったガリマ、ネットという極めて難しい文化を理解し活用したジャーザなど、一瞬気を抜けば自身もどうなるかわからないほどの実力者が揃っているのだから、差別など出来ようはずも無い。
そう、ガドルが真にその光景に落胆したときがあるとすれば、それはメフィストの変身が解除されたときだといえよう。
さて激闘を制した者は一体どんな参加者なのか、もしかしたら自分がもう会ったことのある参加者かもしれないなどと期待しながら一瞬辺りを覆った闇が晴れたとき。
そこにいたのは、先程自分が殺す価値もないと考えた、あの黒騎士だったのだから。
「……」
ガドルは、何も言わない。
いや、何も言えなかった。
自身が死力を尽くして殺した実力ある戦士の力を継いだ者同士の戦いに勝ったのは、あろうことか自分が完勝した事のある者だったのだ。
言いようも無い脱力感が、彼を襲う。
先程までの期待が嘘のように、彼ら彼女らと戦いたいという思いは、消えてしまっていた。
受け継いだ"力"にも、受け継いだ"者"にも、自分は勝っているのだ。
それらが合わさったところで、勝てる道理など、全くない。
それに少女は気絶しているし、黒騎士にも先程には無かった傷が見える。
故に今襲いかかっても、自身の満足するような戦いは出来るはずも無かった。
「……」
そこまで考えて、ガドルは、無言でその場から踵を返した。
逃走ではない。
戦士とも呼べないような実力のものが勝者になり得る様な戦場に身を投げたところで、幼稚園児の喧嘩に首を突っこむ中学生のようなもの、見苦しいにもほどがある。
この戦いからは、力を受け継ぐということはあり得る、ということを確認できただけでよしとしよう。
それが実感できただけでも無駄ではなかった。
そんな風に考えなければ、今までの行動が無駄にすぎない。
217
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:16:34 ID:gwcMww/60
消えぬ落胆の思いに気を沈めながら、しかしガドルは新たな可能性に心踊らせる。
今まで取るに足らんと倒してきた者たちも、或いは強力な力を受け継いでいるかもしれない、と。
今回は少々タイミングが悪かったが、体調を整え更なる力を身につけたのなら、あの黒騎士とも戦っても良いかもしれない。
そんなことを考えながら、彼は誰にも気づかれぬまま、サイクロン号に跨がり、その場を去って行ったのだった。
【1日目 午後】
【H−6/森】
【西条凪@ウルトラマンネクサス】
[状態]:ラーム吸収による意識不明状態、身体的ダメージ(小)
[装備]:コルトパイソン+執行実包(2/6) 、スカルメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×3(凪、照井、フェイト)、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、
テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、ランダム支給品1〜4(照井1〜3、フェイト0〜1)
[思考]
※あくまで意識不明となる前の思考です。
基本:人に害を成す人外の存在を全滅させる。
0:溝呂木……。
1:黒岩省吾をどうするべきか(その思いは更に強力に)、涼村暁の事は……。
2:状況に応じて、仮面ライダースカルに変身して戦う。
3:孤門と合流する。
4:相手が人間であろうと向かってくる相手には容赦しない。
5:黒岩省吾の事を危険な存在と判断したら殺す。
6:暗黒騎士キバ、ゴ・ガドル・バもこの手でいつか殺す。
[備考]
※参戦時期はEpisode.31の後で、Episode.32の前。
※さやかは完全に死んでいて、助けることはできないと思っています。
※まどか、マミは溝呂木に殺害された可能性があると思っています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
※黒岩省吾によってラームを吸収されました。そのため、黒岩省吾がラームを吐き出すか、死亡しない限りは意識不明のままです。
【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、凪を抱えて移動中。
[装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×3(石堀、ガドル、ユーノ)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、不明支給品1〜4(ガドル0〜2(グリーフシードはない)、ユーノ1〜2)
[思考]
基本:今は「石堀光彦」として行動する。
0:凪の身体を守りながら、市街地に向かう(ただし爆発が起こったエリアや禁止エリアを避ける)。
1:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。
2:今、凪に死なれると計画が狂う……。
3:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。
4:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する
5:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。
[備考]
※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。
※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。
※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。
※良牙が発した気柱を目撃しています。
※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。
※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
218
:
確認(仮投下)
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:17:09 ID:gwcMww/60
【1日目 午後】
【H−4/森付近】
【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(大)(回復中)、右脇に斬傷(回復中) 、肩・胸・顔面に神経断裂弾を受けたダメージ(回復中)、胸部に刺傷(回復中)、サイクロン搭乗中
[装備]:サイクロン号@仮面ライダーSPIRITS、スモークグレネード@現実×2、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、京水のムチ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式×8(スバル、ティアナ、井坂(食料残2/3)、アクマロ、流ノ介、なのは、本郷、まどか)、東せつなのタロットカード(「正義」を除く)@フレッシュプリキュア!、ルビスの魔剣@牙狼、鷹麟の矢@牙狼
[思考]
基本:ダグバを倒し殺し合いに優勝する。
0:参加者を探す(黒岩、あかねは戦う価値がないので現状は放置)
1:凪、石堀を殺す。
2:強者との戦いで自分の力を高める。その中で、ゲームとしてタロットカードの絵に見立てた殺人を行う。
3:クウガを継ぐ者がいるなら、再戦し、今度こそ完全なる勝利を収める。
4:体調を整え更なる力を手に入れたなら今まで取るに足らんとしてきた者とも戦う。
※死亡後からの参戦です。
※フォトンランサーファランクスシフトにより大量の電撃を受けた事で身体がある程度強化されています。
※フォトンランサーファランクスシフトをもう一度受けたので、身体に何らかの変化が起こっている可能性があります。(実際にどうなっているかは、後続の書き手さんにお任せします)
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※ナスカ・ドーパント、ダークメフィストツヴァイを見て、力を受け継ぐ、という現象を理解しました。
219
:
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:19:02 ID:gwcMww/60
以上で投下終了です。
タイトルがタイトルなので伝わりづらいですが「確認」をタイトルにしようと思っています。
初めてなので、色々至らぬところがあると思いますが、どうかご指摘のほどお願いします。
220
:
◆p/mj97JjWE
:2014/01/09(木) 19:23:19 ID:gwcMww/60
あ、言い忘れていましたが、
>>206
はミスです。
書式設定を直し忘れていたので……。
本投下の際には
>>207
から
>>218
までを投下しようと思います。
では、それ以外で指摘等ありましたらお願いします。
221
:
◆OmtW54r7Tc
:2014/01/09(木) 23:23:58 ID:rlxwSDZQ0
仮投下乙です!
ガドル閣下マジ激おこぷんぷん丸w
石堀にガチギレしたかと思ったらあかねと黒岩にガッカリしたり、なかなかに感情豊かだなあw
投下から一日経って、特に修正点の指摘が無ければ本スレに投下して大丈夫だと思いますよ
初投下お疲れ様でした!
222
:
◆p/mj97JjWE
:2014/01/10(金) 21:49:44 ID:gwcMww/60
えと、仮投下してから一日以上経ったので本投下、してもいいんですよね?
では早速本投下……したいところなのですが、当方今から少々の期間パソコンを使うことができなくなりそうですので、
どなたか代理投下していただいてもよろしいでしょうか。
図々しい物言いだと思いますが、どうかよろしくお願いします。
223
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:06:40 ID:Abv.3SKM0
放送案の仮投下をしていいみたいなので、仮投下を開始します。
224
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:08:43 ID:Abv.3SKM0
夕方。時刻は午後六時。
太陽も沈み、それと同時に夜の始まりを告げる。空は薄らと暗くなり始め、星はもう、少しずつ見え始めている。
この殺し合いの参加者を迎えた星空が、再びその姿を現すのを、この中のうちの何人が目にする事になるのだろうか。
既に残る参加者は二十一名。これは、当初の参加者の三分の一を下回る。
四十五名の命は、既にこの世になく、強さと運に助けられた三分の一だけが奇跡的にも、この綺麗な夕焼けと夜の始まりを見る事ができる。
次は……誰が、一日の経過を体験する事ができるのだろう。
また、放送が響く。これで三度目。
飽きさせないためか、放送担当者はローテーションを採用している。
今度の放送担当者は──
「参加者のみんなー、こんばんはー!! …………うーん? 声が小さいぞー! こんばんはー!!」
上空に現れたホログラフィには、長髪に丸眼鏡の、おたく風の青年。だんだんと放送担当者のビジュアルが汚くなっているのは気のせいだろうか。
まるで、ヒーローショーの司会のお姉さんのような挨拶の文句で、放送を切り出したこの男は、主催陣営の中でも屈指の変わり者である。
「……返事をくれないのか、寂しいなぁ。今回の放送担当者はこのボクッ! ダークザイドの闇生物ゴハットだよ! ……シャンゼリオ〜ン!! 仮面ライダー!! ウルトラマーン!! 魔戒騎士〜!! それにプリキュア〜!! こっちを見てるか〜い!? ……っと、このシャンゼリオンはボクを知らないんだっけ……」
彼は闇生物ゴハット。ヒーローが大好きなオタクの闇生物であった。
もし、シャンゼリオンこと涼村暁があの世界に留まり続けたなら、出会っていたであろう怪人。しかし、暁はここに連れてこられてしまった以上、彼と再会する事はなかった。
それからしばらく、ゴハットの映像がその時のポーズのまま止まる。
……そして、また映像が動き出す。放送事故だろうか? 一部の参加者は気にしたかもしれないが、放送は続く。
「………………あー、ちょっと本部から苦情が来たので、今度は気を取り直していくよ。ゴハット・チェンジ!!」
どうやら、主催側の都合に反する内容だったらしいので、今リアルタイムで注意を受けていた模様である。
ともかく、おたくは、仰々しい掛け声とともに、人間の姿から闇生物の姿にチェンジする。青くグロテスクな十字の怪物で、腕の先は触手になっている。この触手を鞭にして戦うのだ。
「フフフフフフフ……ワッハッハッハッハッハ!! このゲームに招かれている参加者の諸君よ、気分はどうかね?」
そして、変身した時、彼の様子が変わった。彼は二重人格というわけではないのだが、気分を盛り上げるための喋り方に替えたのである。実際のところ、ヒーロー好きなダークザイドの精神に違いはない。
「ここまで生き残った参加者の諸君には、もうこの放送について説明する事もなかろう……。では、まずは恒例の死亡者の名前から読み上げさせていただこうか……フッフッフ」
悪の幹部になりきりながら、ゴハットが死亡者を読み上げ始める。
「相羽タカヤ、アインハルト・ストラトス、泉京水、梅盛源太、一文字隼人、西条凪、大道克己、バラゴ、溝呂木眞也、村雨良、モロトフ、ン・ダグバ・ゼバ。
以上12名。お勤めご苦労であった……」
ゴハットは、そう言って、お辞儀をした。これも誰かのマネだろう。
まあ、実際にこの中には、ゴハットが大好きなヒーローもいる。死亡者に対しては敬意を忘れていないのは事実だ。
それでも、彼はそこから立ち上がる熱きヒーローの姿を、全てを背負い戦う戦士たちの姿を目に焼き付けるため、涙を呑んでヒーローたちの姿を見守っているのである。
ちなみに、今回の死亡者の中に彼の期待を裏切る者はいなかった。ヒーローはヒーローらしく、悪役は悪役らしく、時に悲劇的な死に様を見せたのだ。
225
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:12:38 ID:Abv.3SKM0
「では、次に禁止エリアの発表をしよう。フッハッハッハッハッハッハ!! ……あの、ホントにこんな事で死なないでね?
……あー、気を取り直して、さあ、発表するぞ!
19時に【G−9エリア】、21時に【B−6エリア】、23時に【E−4エリア】。以上の3つだ!」
ともかく、禁止エリアの発表を終え、ゴハットは触手のようになった腕を身体の腰に乗せ、偉そうなポーズを取っている。
実は、先ほどから結構アクションが激しい。
「さて、それでは最後にお楽しみの毎回変わるボーナスタイムだ!! ……今回は、一部制限の解除やこちらからの情報伝達!! ……あの、ボクもちょっとクイズを考えようと思ったんだけど、間に合わなかったんだぁ〜……ゴメン。
ゴホン……あー、あー。では、放送が終わり次第、会場の設定でいじっていた一部設定を解除しに行く!! 制限がかかっていた対象者、また特別な連絡がある参加者の元には、我々が直々に制限解除の旨を伝えよう!!
その時に余計な事は考えるなよ……? 我々はあくまでゲームマスター。ゲームの参加者に肉体的干渉ができる状態では現れない。つまりは、今と同じく、ホログラフで現れるからな!!」
今のゴハットはあくまで完全なホログラムである。
それと同じように、生存中の参加者にホログラムとして制限解放を伝えに行くという話だ。そのため、参加者にとっては主催にはむかう好機とは行かないだろう。
次にその制限解除の条件を高らかに告げる事になった。
「……ただし! 今回もまた条件がある! その条件とは……ジャジャーン! 【今日の9時以降に、30分以上、参加者の誰にも見られず聞かれずに単独行動をする事】だ!
……参加者が誰も見てない&聞いてない状態で、一対一で会話という状況が必要だからな! とにかく、誰にも邪魔をされない状況である事をこちらが確認次第、こちらから使者を派遣し、かけられていた制限について説明する。
ちなみに、制限は一部の参加者にしかかけられていないぞ。一人になっても使者が現れない場合は、制限そのものが無い場合、または気づいていないだけで自分が他の参加者に監視・盗聴されている場合だ! まあ、常に一人で行動し続けるといいかもしれないな。
さて、今回の放送はこれにて終了だ。さらば、変身ヒーロー諸君! また会おう!! ワーッハッハッハッハッハッハ!! ワーッハッハッハッハハハハ…………フハハハハハハハハ……」
ゴハットの姿が暗転する。
第三回放送終了。
△
「あー! 楽しかった〜!!」
ゴハットが主催者の待機する場所に帰ってくる。
彼はスキップしている。変身は解いて、おたくの姿で、かなり嬉しそうだ。
それを、他の主催陣は白い目で見つめる。
加頭順は、殆ど面の色を変えずにゴハットのもとに顔を出した。
「……あの、ゴハットさん」
「はあい?」
ゴハットは、加頭に話しかけられても、全く意に介さずに、惚けた表情で動きを止めた。
加頭は、いくら感情を失いつつあるNEVERといえど、あからさまな機嫌の悪さを顔に出している。……いや、もしかすると、機械的に物事をこなしている彼だから、そう思ったのかもしれない。
当のゴハットは、無神経なのか何なのかはわからないが、一向に気にする様子がなかった。加頭は咳払いをして続ける。
「特定の参加者に声をかけるような真似は困るのですが」
「……だって! ホラ見た? あのシャンゼリオンが、ボクの知らないところであんなに立派にヒーローをやっていたなんて、ボクは全然知らなかったんだよ!! 他のみんなもカッコいいな〜。今の彼らに声をかけられるなんて幸せじゃないか!! 全員の姿をナマで見られたおたくが羨ましいよ〜!!」
226
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:14:18 ID:Abv.3SKM0
「あの。彼らは私たちの敵です。私たちを殺しに来るかもしれませんよ?」
加頭は表情を変えずに言った。しかし、ゴハットはそんな加頭の肩に手を置く。
そして、チッチッチと舌で音を立てた後、彼は眉を寄せて言った。
「……もう。わかってないなぁ。……ボクは、彼らに 倒 さ れ た い んだよ! だからおたくらに協力しているんだ。いいかい!? 彼らは正義のヒーローだよ! 力を合わせて戦えば絶対に負けない! そして、死んだ戦士の魂を背負い、己の正義を貫く……カッコいいじゃないか! そんなヒーローたちに比べれば、ボクたちワルモノはちっぽけだ。いずれ倒される運命だよ? ほら、シャンゼリオンも……ヒロイン・暁美ほむらの死を乗り越えて成長してたじゃないか! 見たかい? あのシャンゼリオンがだよ!」
ゴハットは、自分の立場を理解したうえで、こんな事が吐けるのだから、逆に神経が太いというレベルである。参加者として彼がいたら、一体どんなスタンスをとるだろう。
直接、変身ヒーローの姿を見て歓喜するんじゃないだろうか。
加頭は、呆れながらも、怒る事なく対処した。
「……わかりました。あなたは後で好きに倒されてください。……私たちを巻き込まずに」
「はーい! ……いやぁ……早く来ないかなぁ、楽しみだなぁ……。何て言って倒されようか……。フフ〜ンフフフ〜フン勇気を〜フフフ〜フフ〜フフ〜ち〜りばめ〜♪」
ゴハットは、そのまま、鼻歌を歌いながら闇に消えていく事になった。幸いにも、彼がこの場で悪の主催者に殺される事はなかったらしい。
「……いいの? あれで」
近くにいた吉良沢優が、茫然としながらも、加頭に言う。
放送の原稿を書いている彼は、先ほど放送の脱線を注意した張本人だ。だから、放送をする場所から比較的近い所にいた。
「言うだけならタダです。それに、あの人は一応、変身者という分野について、あらゆる観点から分析をしているプロですから。監修役としては一番役に立っています。案外、腕も立つようですし」
「……ああ、そう……」
吉良沢の姿も、納得してはいないだろうが、あまり興味もなかったので、すぐに闇に消えていった。
加頭順だけが、この場所に取り残される。彼は、相変わらず表情を変えずに呟いた。
「まさか、ニードルさん以上に楽しげな放送をする方がいるなんて思いませんでした」
△
【サラマンダー男爵の場合】
「……さて」
これはまた、加頭らのいた場所とは別である。椅子に座って、ため息をついたように言うのはサラマンダー男爵であった。
サラマンダー男爵は、いま放送の終わりを知った。エクストリームメモリの管理は相変わらず続いているが、それが終わるときも終わるかもしれない。
「……フィリップ。お別れの時は近いかもな」
サラマンダー男爵はエクストリームメモリに語り掛ける。
そう、【左翔太郎】の制限は、このフィリップがいない事である。
フィリップが主導となる「ファングジョーカー」、それからエクストリームメモリが必要になる「サイクロンジョーカーエクストリーム」への変身が不可能な現状では、左翔太郎──仮面ライダーダブルは万全ではない。
それが原因で、ここまでの戦いでも、血祭ドウコクやン・ダグバ・ゼバを相手に最大限の力を発揮できなかった。主催側がこうしてフィリップを軟禁している事でバランスが制限されてしまっている事は言うまでもない。
ここからは、フィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリが解放され、翔太郎はより強い力で戦うことができるようになるはずだ。
227
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:14:50 ID:Abv.3SKM0
(タイミングは、左翔太郎──あるいはダブルドライバーの所持者が、他の参加者と別行動を取り、一人になった時か)
鳥篭の中を蠢いているエクストリームメモリとの別れ。別に惜しくもなかった。
左翔太郎が一人で行動した時、サラマンダーは、彼のもとに使者として現れる。
とはいえ、今のところ翔太郎は複数名で行動をしている。少なくとも、二十分以上の単独行動とは正反対の状況にある。
自らそれを作る事もできるが、それは自らを危険な状況にする事でもあり、周りを危険に晒す事でもある。他の参加者も同じだが、集団行動をしている者はどんな裁量で行動するのかが見物でもある。
主催側は、その判断に応じて制限解除をするのみだ。
△
【グロンギ族の場合】
「ダグバがやられたか」
ラ・ドルド・グは、意外そうに呟く。グロンギの王、ダグバが死ぬ時は、全てのグロンギが滅んだ後だと思っていたが、そうはならなかった。
ドルドも、ラ・バルバ・デ(バラのタトゥの女)も、ガドルも生きている状況で、まさかダグバが死ぬとは思わなかったのだろう。
「ガドルにも、どうやら、伝える時が来たようだな」
バルバが呟いた。
「奴の事だ。知れば、必ずガミオを復活させるだろう」
実は、ンのグロンギは、まだ会場からいなくなったわけではない。
ン・ガミオ・ゼダ。遺跡に封印されていたグロンギの名前である。オオカミのグロンギであり、現状ではまだ封印が解かれていない。
第一段階では、棺が開けられる事が条件となる。これは既にバラゴの手によって解放されている。
第二段階では、ゴオマ、ガドル、ダグバが合計して九名の参加者を殺害した時に封印が解かれるという事だ。このゲゲルは、甘い設定ではないかと思ったが、案外他の変身者たちは彼らに立ち向かう力を持っていた。考えてみれば、グロンギを何体も葬ったクウガと並ぶ者たちがいるのだから当然だ。その結果、現状、犠牲者は七名のみとなっている。しかも、残るグロンギはガドルただ一人という追い込まれようである。
「……ゴ・ガドル・バ。いや……今はン・ガドル・ゼバと呼ぶべきか。夜に行く」
【ゴ・ガドル・バ】には、特別な制限はない。
ただ、彼にはこのゲゲルの事を伝える必要があった。言うなれば、これが今回の制限解放だ。
バルバがそれを伝え、残る一人と戦うためのゲゲルリングをベルトに受けた瞬間から……彼は、【ン・ガドル・ゼバ】と名を改める。
そして、もう一人の王──ン・ガミオ・ゼダに立ち向かう権利を得られるのである。
ガドルは現状、単独行動を基本としている。もともと、他人と群れる性格ではない。
△
【死者たちの場合】
この一室には、主に二日目以降が出番となる制限の解放者がいた。
その対象者は、死者──いや、厳密には、現状ではその特殊能力を活かしきれず、「死亡者となっている者」である。
そう、参加者の中には、一部に「制限」によって死亡“後”を制限されている者が何人かいた。……それはソウルジェムの濁りとともに魔女となる魔法少女であり、死とともに二の目を発動する外道衆だ。
既に死亡カウントがなされている彼らに生還の権利はない。彼らが生還したとしても、ゲーム終了と同時に、自動的に死亡する手筈だ。あくまで、その最後の悪あがきとして、彼らに機会を与えるだけである。せいぜい、地獄に他人を道連れにする相手を探すのみという事だ。
228
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:16:05 ID:Abv.3SKM0
殺し合いに影響を与えたとしても、魔女化した魔法少女が願いを告げられるはずもないし、最後の悪あがきで生き延びた外道衆に生きる機会を与える気もない。
しかし、二の目も魔女化も立派な彼らのアイデンティティである。それを封じて戦わせるわけにはいかないが、巨大な敵というのは少しばかり平等性を損なう。涙を呑んでその命を、「一度目の死」で終わりにさせたが、二日目以降、マーダーが減った場合の「お邪魔虫」として覚醒させる事は問題ない。
「……ドウコク殿はまだ生き残っているか。まあ、順当でござるな」
脂目マンプクは、巨大モニターに映る血祭ドウコクの姿を見て呟いていた。
ここまで、目立ったバトルには参加せず、基本的には戦いを避けた行動が目立つ。しかし、それが幸いか、あるいは災いか。彼は、他の参加者と大した交流もないまま生き残った。
このまま行けば、おそらく、21時30分にはドウコクに「二日目以降に二の目が解放される」と告げに行けるだろう。……まあ、ドウコクとしても、二の目などという悪あがきに頼る気はないだろうが。
誰にとっても問題となるのは、筋殻アクマロだ。
アクマロは、既に死亡カウントされているが、二の目は発動していない。つまり、彼の命はまだ「尽きていない」のである。二日目以降に復活が確定している。
これについても、ドウコクには教えておくべきだろう。
「シンケンジャーは全滅。拙者の手間も随分と省かれたものだ」
この場に招かれたシンケンジャーは、シンケンレッド、シンケンブルー、シンケンゴールド。その全員が死亡している。あとは、はぐれ外道の十臓も死亡したので、残るはドウコクのみだ。
マンプクとしても、なかなか都合の良い状況だった。
「……魔法少女も、残るは佐倉杏子のみ。……とはいえ、魔女はまだいるわ」
そう呟いたのは、ある時間軸で魔法少女の虐殺を行っていた少女・美国織莉子。彼女もまた、このマンプクという怪物とともにモニターを見ていた。
サラマンダー男爵や吉良沢優もそうだが、特別乗り気ではないものの、手段のためにこの「主催者」という立場を利用している者もいる。織莉子もまた、同じだった。彼女は、見滝原を救うべく、この殺し合いの運営に協力する者だ。
隣の怪物にさえ、もう慣れを感じ始めていた。少なくとも、お互いに裏切るような行動をしない限りは、敵対はしない。既に反抗して殺された老人がいるとも聞いている。
それが見せしめとなって、より一層、主催陣営の連帯感は強まっている。
織莉子は、杏子が単独行動した際に、魔女に関する説明を一からしなければならない。彼女はまだ、魔女化については知らなかったはずだ。面倒だが、ともかく、「ソウルジェムの濁り」を死因として死亡扱いになった参加者二名──美樹さやかと巴マミが魔女として覚醒する事についても教えなければならないだろう。
暁美ほむらのように、あらかじめソウルジェムを割った者はともかく、巴マミや美樹さやかは濁りによってソウルジェムを割った。魔女化という運命は一日だけ封じられていたに過ぎない。
「私たちの世界の参加者も、残すところ一人」
そう、暗いトーンで呟いたのはアリシア・テスタロッサ。その瞳は虚ろで、まるで感情を失くした人形のようだった。本来は優しい少女であるはずのアリシアも、今はそんな面影を持たない。
冷淡に、ただ一人残ったヴィヴィオを見つめている。しかし、ヴィヴィオには特に大きな制限はない。ともかく、現状で唯一の同一世界の生存者という事で、強い興味を持っていただけである。
すぐにアリシアは、ヴィヴィオに対する興味を失った。
「あとは、あの機械がどれだけ働いてくれるのか」
彼女の興味が向いたのは、レイジングハート・エクセリオンの方であった。
レイジングハート・エクセリオンは、娘溺泉の水を被っている。
意思のある機械であるレイジングハート・エクセリオンには、呪泉郷の水によって変身する可能性がある。……いや、それを既にこちらで調整していたのだから、おそらく高い確率でレイジングハート・エクセリオンは若い娘の形になるだろう。
何かの泉の水を被った鯖も同様かもしれない。
とにかく、泉の水を浴びた者たちにかけられていた制限も、二日目以降はすべて解除されてしまう。
おそらく、このままレイジングハート・エクセリオンはあの場に放置され続けるだろうから、アリシアは彼女のもとに向かい、全て説明する事になるだろう。まあ、彼女は参加者ではないのだが、突然人間にするわけにもいかない。
229
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:16:35 ID:Abv.3SKM0
「……アリシア、酵素を注入する時間よ」
誰かがまた、深淵から現れた。
「ママ……」
マンプクも織莉子もアリシアも、そこにやってきた一人の女性の姿を凝視した。
彼女はアリシアの母──プレシア・テスタロッサである。その瞳には、どこか喜びや幸せが込められているようだった。かつては見られなかった笑顔がある。長年待ちわびたこの少女との再会を実感しているからだろうか。
しかし、どこかやつれているようにも見えて、長い髪は顔に影を落としている。むしろ、その姿はかつてのプレシア以上に、廃れた体躯にも見える。
アリシアの腕に、細胞維持酵素が注入される。これはアリシアが人ではなくなった証だ。
酵素。
この言葉からわかるように、アリシア・テスタロッサは、NEVERとして蘇っている。
加頭や財団Xの援助があれば、魔術の力を使わずとも、人体蘇生を行う事ができたのだ。
管理外世界に存在した予想外の技術に驚きつつも、プレシアはアリシアの体にそれを利用する事を許可した。もともと、このNEVERの技術を作り出した大道マリアの境遇はプレシアと酷似している。プレシアがこの技術に飛びつくのは当然であった。
加頭をはじめとする数名の来訪者たちからの技術提供により、夢のアリサ生還を果たしたプレシアは、こうして再び“幸せ”な家庭を築いているのである。
しかし、それがまた、プレシアの魔術に関する研究の日々をあっさりと覆す物だった事が、彼女の研究者としてのプライドを崩したのだろうか。何せ、NEVERの技術は魔術もないような世界が科学で生み出した代物なのだ。
かつてに比べてどこか冷淡なアリシアへの違和感を、何とか飲み込もうとしていて、更に精神に負担がかかっている事もある。
それが、プレシアをかつて以上に生気のない女性にしていた。
アリシアが、このまま母への愛さえ失っていく事を、プレシアは本当に知っているのだろうか。
織莉子は、そんな母子の様子を訝しげに見つめていた。
(……傍から見れば、親子というものはこんなにも愚かなものなのかしら)
織莉子は、このプレシアが騙されている事にとうに気づいている。
主催者の技術力ならば、こんな中途半端な蘇生を行うわけがないのだ。元の世界では死亡したはずの園咲霧彦やノーザが参戦している事を見れば明らかだろう。感情など失くさないまま、ありのままのアリサを取り戻す事ができるに違いない。
しかし、それを知らないプレシアは、「アリシアを蘇らせる」以上の欲を持たず、親として子を助けるための安易な方法を選んだ。他の手段を探る事もなく、即決でこの方法を選んだ。そして、それから先、もっと優良な方法の存在を知らないままアリサを愛している。アリサの狂いに気づいているのだろうが、それを心が押し殺し、自分でも知らないままにアリシアに盲目的な愛を注いでいるのだ。それは、さながら大道マリアの生き写しのようであった。
何にせよ、善意でアリシアを蘇らせるならば、NEVERとしての生など与えるはずがない。
きっと、彼女たち親子は、その愛を主催陣営に利用されているのだ。
NEVERとなった事による身体能力向上などが加頭たちにとって都合が良いのだろう。彼女のもとには、ガイアメモリも支給されているらしい。大道克己や泉京水、加頭順といったNEVERたちの様子を見ていると、この親子の身に降りかかっている状況を何ともいえない。
……まあ、織莉子も人の事を言えないだろう。それは自覚している。
安易な奇跡や魔法に手を伸ばし、彼女たちと同じように殺し合いに加担している事には違いない。
目の前の怪物がただの気まぐれで手を貸しているのを見ると、また随分と違う状況なのである。
「わからないものだな、人間というのは……」
主催者によって手渡されたはぐれ外道・修羅の体を取り込んで「水切れ」を克服したクサレ外道衆の脂目マンプク。彼もまた、この親子たちを理解できずにそう呟いた。
△
230
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:17:10 ID:Abv.3SKM0
【加頭とニードルの場合】
「……西条凪、死亡か」
加頭は呟いた。凪に特別興味はない。おそらく、吉良沢が多少興味を持っていた対象ではあるだろうが、彼が特に凪に肩を入れる事はなかったので、吉良沢はまだ、比較的淡々としている。
加頭にとって、その出来事が特別なのは、ダークザギの予知能力から外れる出来事だったからである。要するに、予知能力の制限がちゃんと効いているらしいという証明であった。
……が。
(能力解放……これで、もうダークザギもより強い力で戦えるだろう……)
21時からの制限解除の時。そこで石堀が単独行動をすればいい。そうすれば、予知能力制限を解除され、光還元の要である忘却の海レーテもまた、マップに解放されるだろう。
この対象エリアはF−5の山頂部だ。これと、「強い憎しみを帯びた光」を得れば、石堀はダークザギとして復活する事ができる。
この説明を聞けば、流石に石堀もスタンスを変えてくるだろう。
デュナミストの憎しみを拡大させ、光を奪うために画策するに違いない。その果てに、ダークザギは復活する。
殺し合いに乗る者は随分と減ったが、ダークザギが全力で戦えば相手にもならない存在が大半だ。その復活を以て、対主催陣営はほとんど手詰まりとなるだろう。
まあ、優勝したらそれはそれで厄介ではあるのだが……。
(仮に優勝した場合の対策も充分。問題はないな……)
無論、マルチバースを移動する能力はダークザギにも制限はかかるし、万一勝利して主催に反抗した場合の措置も加頭たちには残っている。
それについて考えていた時、背後から男が声をかける。
「加頭さん、どうやら結城丈二という男、薄々ながら勘付いているようですね」
加頭は気づかなかったが、どうやらこの場にニードルがいたらしい。
結城丈二に対しては彼も随分と関心を示している。加頭が振り向くと、ニードルは、ニヤニヤと笑っていた。
「ええ」
加頭順は、釣られて笑いはしないが、特別腹を立てる事もなかった。
「あまり察しが良すぎるのも困り物です」
ニードルがそう言うが、やはり困っているようには見えない。
「我々が厳密には“主催者”ではない──まさか、そんな事に気づかれてしまうとは」
加頭は少し俯いた。表情は変わらない。
……そう、実は、加頭たちは厳密にいえば、“主催者”ではないのだ。
そう見せかけたフェイク──真の主催者の余興のための一員に過ぎない。あえて言うならば、ここにいる彼らは「真の主催者」を楽しませるための「影武者」である。この場にいる主催陣営は、全員、殺し合いの参加者たちと同じ「主催者を楽しませるための駒」なのだ。
結城の仮説と同じく、加頭たちは、最後まで殺し合いを楽しませるために、「真の主催者」によって、「表向きの主催者」という役割を持たされた「参加者」たちなのである。
加頭たち、表の主催陣営は、あくまで「ゲーム」としての殺し合いを盛り上げる。その過程で、全滅なりただ一人の勝者が出るなり……という結末に終われば、彼らにとっても御の字だ。真の主催者もまあ、それで満足するだろう。
しかし、万が一、この殺し合いの果てに「正義」の陣営が脱出する事があるかもしれない。実際、脱出のための穴自体は意図的に作られており、その道順をたどる確率も高く出ている。
そして、脱出した段階で、おそらく彼らは加頭たちと戦う事になる。それを万が一にでも打ち破った場合は、「悪」たる主催者が裁かれ、死んでいくだろう。
加頭も、サラマンダーも、ニードルも、バルバも、ドルドも、ゴハットも、織莉子も、マンプクも、アリシアも、プレシアも倒された時、彼らは悪の打破を喜ぶだろう。それでここにいる誰もが満足して終わる。
……大方の物語は、だいたいそこで終わってしまう。
全てが終わった安堵感の中で、彼らは元の世界に帰っていく。ハッピーエンドだ。
231
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:17:57 ID:Abv.3SKM0
何も果たせていないのに、果たしたように錯覚して。
諸悪は残っているのに、全て終わったのだと勘違いして。
真の悪に気づかないまま、殺し合いを終えてしまう。
そして、真の主催者は、誰にも知られず、姿を見せる事もなく、その様子を嗤い続ける。
誰にも気づかれずに物語の外側ですべての登場人物を支配し、加頭たちの管理者。
無限メモリー「インフィニティ」を手にして、加頭たち財団Xが存在したパラレルワールドを侵略し、管理した、諸悪の根源。
その存在は、最後の最後まで加頭たちも絶対に秘匿し続けなければならない。
「……とはいえ、彼らはまだ、その仮説に確信を持っているわけではありません。問題はないでしょう」
まあ、加頭もニードルも、まあ彼らが察し始めた事への危機感は持っていなかった。
どうであれ、結城の説は仮説にすぎないし、それを知る二人が死ねばもう何も残らない。察したとしても、どうすれば良いのかなどわかるはずもない。
首輪を外そうが、脱出しようが、そこから加頭たちが敗北する確率はごくごく少ないものだろうし、表向きの主催者である加頭たちの兵力も十分なので、今のところ敗北する事もなさそうである。
加頭たち財団Xのバックアップは勿論、あらゆる世界からのスペシャリストの導入で、分は加頭たちの方にある。
何名かの犠牲は出るだろうが、ゴールドメモリの所有者である加頭がそう簡単に負ける事もなさそうだ。脅威となるのはダークザギだが、彼への対策は加頭も練ってある。
「今はまだ、我々は主催者です。楽しむだけで良いじゃないですか……」
ニードルがうっすらと笑みを浮かべながら言った。
△
【第三回放送ボーナス:制限解放】
21時以降に、「30分間誰にも見られず、誰にも聞かれない状態をキープする」事で、主催側から使者が派遣され、これまで架されていた制限とその説明、解除が行われます。
あくまでこれは一部の参加者のみが対象で、一定時間単独行動をしても発動しない場合があります(監視・盗聴されている場合も使者は現れません)。
また、解除される制限も一部に過ぎず、解除されたからといって全力全開で戦えるようになるわけではありません。
一部、明らかになっている内容は次の通りです。
【フィリップ、ファング、エクストリームの解放】
対象者は左翔太郎。使者はサラマンダー男爵。
フィリップ、ファングメモリ、エクストリームメモリを翔太郎のもとに解放されます。いずれも「支給品」という扱いではあるものの、フィリップには例外的に首輪が取り付けられます。
「星の本棚」の検索制限は健在であるものの、これは21時に別途で解放。その事については、今回伝えられません(左翔太郎、フィリップには伝えられないものの、結城丈二、涼邑零が知っています)。
また、21時までに左翔太郎が死亡した場合、ダブルドライバーを所有している人物に権限が移り、フィリップも譲渡されます。
【ゲゲルの情報公開】
対象者はゴ・ガドル・バ。使者はラ・バルバ・デ(バラのタトゥの女)。
それと同時に、「ゴオマ、ガドル、ダグバの合計殺害数が9名(残り2名)に達した時に、グロンギ遺跡からもう一人の王 ン・ガミオ・ゼダの復活が始まる」という情報が伝えられます。このゲゲルのカウントでは、ガドルの自殺・自滅はカウントに含まれません。
ガドルには、ダグバの死によって「ゴ」から「ン」へ昇格され、「ン・ガドル・ゼバ」への改名を認められる旨も伝えられます。
尚、ズ・ゴオマ・グ、ン・ダグバ・ゼバは対象者でしたが、死亡したため、適用資格が剥奪されました。
【二の目の解放】
対象者は血祭ドウコク。使者は脂目マンプク。
二日目(時刻不明)以降、二の目制限が解放され、筋殻アクマロが巨大化して復活する事について伝えられます。ドウコクもまた、一の目がなくなった時に、二日目以降に二の目が発動する事になります。
尚、アクマロは死亡カウントされているので、二の目の状態で生存する事はできず、生き残ったとしてもゲーム終了とともに死亡という形になります。首輪については不明。
死亡者である筋殻アクマロには一切この事が伝えられません。
232
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:19:12 ID:Abv.3SKM0
【魔女化】
対象者は佐倉杏子。使者は美国織莉子。
二日目(時刻不明)以降、魔女化制限が解放され、美樹さやか、巴マミが魔女化して復活する事について伝えられます。杏子もまた、ソウルジェムの濁りによって死亡した時に、二日目以降に魔女化が発動する事になります。
佐倉杏子は時間軸の都合上、魔女化についての知識を持たないため、それについても教えられます。
尚、さやかとマミは死亡カウントされているので、魔女の状態で生存する事はできず、生き残ったとしてもゲーム終了とともに死亡という形になります。
【呪泉郷】
対象者はレイジングハート・エクセリオン。使者はアリシア・テスタロッサ。
二日目(時刻不明)以降、呪泉郷制限が解放され、意思持ち支給品の呪泉郷制限が解除される事が伝えられます。鯖については詳細不明。
双生児溺泉のように泉そのものが枯れている泉の制限を解放するかも不明です。
レイジングハートは完全な支給品であるため、首輪は取り付けられません。
【忘却の海レーテの解放と予知能力に関する説明】
対象者は石堀光彦。使者は加頭順。
説明を聞いた時点でF−5山頂に忘却の海レーテが解放されます。説明内容もレーテについてです。
また、ダークザギとしての予知能力はフィリップと同様、1日目の21時に強制解除され、記憶制限も解除される事になります。
【その他の制限解放】
あくまで、上記は一例です。他にも一部の参加者にかけられている制限が解除される場合があります。
使者として現れる主催側の人間は、その参加者の関係者である可能性が高めです。ただし、吉良沢優のように存在を秘匿したがっている場合は関係者が姿を現さない場合があります。
複数の制限が同時に架されている可能性も否めませんが、今回はその制限に関する説明が行われ、制限は解除されます。
また、これ以降、対象者不在の制限が解除される場合があります。
【主催陣営について】
※【ゴハット@超光戦士シャンゼリオン】、【脂目マンプク@侍戦隊シンケンジャー(侍戦隊シンケンジャー 銀幕版 天下分け目の戦)】、【美国織莉子@魔法少女まどか☆マギカ(魔法少女おりこ☆マギカ)】、【アリシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】、【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】が所属しています。
※アリシアはNEVERとして再生しているため、感情の希薄化と身体強化が始まっています。また、吉良沢のように非変身者に支給されるガイアメモリも所持しているようです。プレシアも同様かもしれません(描写されていないので、ガイアメモリ以外の物という可能性もあります)。
※加頭順をはじめとする主催者は、主に影武者の役割を担っており、本当の主催者は別にいます。加頭やニードルなどの一部の参加者はその事を自覚していますが、自覚しておらず、別の目的で参加させられている者もいます(吉良沢優、八宝斎など)。
233
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:20:12 ID:Abv.3SKM0
以上、投下終了です。
タイトルは一応、「第三回放送」の予定ですが、決まった時にちゃんと考えてつけようかなと思います。
234
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 00:29:55 ID:Abv.3SKM0
あ。もし矛盾点や誤字脱字があったら、それは指摘ください。期限内に直します。
235
:
名も無き変身者
:2014/03/12(水) 18:47:08 ID:ZWd5/o120
投下乙です。
矛盾点はありませんが、誤字を
>>229
の部分
織莉子は、このプレシアが騙されている事にとうに気づいている。
主催者の技術力ならば、こんな中途半端な蘇生を行うわけがないのだ。元の世界では死亡したはずの園咲霧彦やノーザが参戦している事を見れば明らかだろう。感情など失くさないまま、ありのままのアリサを取り戻す事ができるに違いない。
しかし、それを知らないプレシアは、「アリシアを蘇らせる」以上の欲を持たず、親として子を助けるための安易な方法を選んだ。他の手段を探る事もなく、即決でこの方法を選んだ。そして、それから先、もっと優良な方法の存在を知らないままアリサを愛している。アリサの狂いに気づいているのだろうが、それを心が押し殺し、自分でも知らないままにアリシアに盲目的な愛を注いでいるのだ。それは、さながら大道マリアの生き写しのようであった。
何にせよ、善意でアリシアを蘇らせるならば、NEVERとしての生など与えるはずがない。
いくつか「アリサ」となっている部分がいくつかあります。
236
:
名も無き変身者
:2014/03/12(水) 18:47:46 ID:ZWd5/o120
「アリサ」となっている部分がいくつかあります、です。
すみません……
237
:
◆gry038wOvE
:2014/03/12(水) 21:45:16 ID:Abv.3SKM0
承知しました。
アリサはなのはの同級生ですねwww(紛らわしい…)
該当箇所はアリシアに訂正です。
238
:
◆OmtW54r7Tc
:2014/03/12(水) 23:27:12 ID:rlxwSDZQ0
放送案、投下します
239
:
◆OmtW54r7Tc
:2014/03/12(水) 23:28:47 ID:rlxwSDZQ0
時刻は午後六時を指し、夕闇に染まる空は徐々に暗い色を見せ始めている。
この殺し合いが始まってから18時間。
既に3度目となるそれは、始まった。
「参加者の諸君、よくぞここまで生き残った。私の名は片桐一樹、またの名を闇将軍ザンダーという」
現れたホログラムの人物は、歳は見たところ三十代から四十代あたり。
おそらく泉京水が生きていたならば興奮していたであろう、精悍な顔つきの男だった。
「貴様らの中には愚かにも反抗を企てているものもいるようだが、全ては無駄なことだ。貴様らが我々に歯向かうことなど、不可能なのだからな」
参加者たちを見下すような態度をとる片桐。
反抗は無駄だと、厳しい表情を崩さぬまま参加者一同に伝える。
「まずはこれまで通り、この6時間で死亡した者の名を発表する。相羽タカヤ、アインハルト・ストラトス、泉京水、梅盛源太、一文字隼人、西条凪、大道克己、バラゴ、溝呂木眞也、村雨良、モロトフ、ン・ダグバ・ゼバ。…以上12名だ」
淡々と死者の名を読み上げていく。
そこには死んでいった者達への哀悼の念などない。
「次に、禁止エリアを伝える。今回は19時に【G−9】、21時に【F−5】、23時に【E−3】だ。どこかのバカのように、禁止エリアで眠ってしまうことがないよう、気を付けることだな」
そのどこかのバカというのは、片桐もよく知る人物なのだが、そこまで語ることはしない。
「そして今回のボーナスだが…一言でいえば【情報】だ。21時にとある情報網の拡張を行う。一部の参加者には既にヒントが伝えられていると思うが、有効に使う事だ」
結城丈二と涼邑零にはおぼろげに伝えられた【地球の本棚】の拡張。
それが今回のボーナスであった。
ただし、結城達のもとに届けられたメモにあった地球の本棚やダブルドライバーという固有名詞は使わずにあくまで情報網の拡張ということを伝えるだけにとどまった。
「それと今回はとある制約についても伝える。19時以降、4人以上の参加者が百メートル圏内に集まった場合、首輪が点滅し、5分以内に離れなければ人数が3人以下となるように首輪を爆発させる!誰の首輪を爆発させるかはこちらの独断で決まる…くれぐれも必要以上に群れないことだ」
「ただし、参加者を二人以上殺した者はこの制約から外れ、密集人数の換算にも含まれないものとする」
これは、殺し合いに反対する対主催が集結しつつある状況を見ての主催側のバランス調整であった。
しかしこの制約を全員に設けた場合、対主催と殺し合いに積極的なマーダーの接触すら阻害する恐れがあるため、マーダーとしての実績があるものは制約から逃れるものとしたのだ。
「ちなみに現在この制約を外れているものはたったの3人だ。この話を聞いてどうするかは貴様らの自由だが、賢明な判断をすることだな」
皮肉のこもった嘲る口調でザンダーは語る。
ようするに彼が言いたいのは、「制約から逃れたければ殺せ」ということであった。
「これで放送を……ん?なんだ?」
突然、ホログラムが消える。
かと思えば、しばらくして再び現れる片桐の顔。
240
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◆OmtW54r7Tc
:2014/03/12(水) 23:29:48 ID:rlxwSDZQ0
「…最後に一つだけ貴様らにありがたい情報をくれてやる。間もなく、【究極なる者】が眠りから覚める」
究極なる者。
その言葉を聞いても、何のことなのか分からない者がほとんどだろう。
片桐の、次の言葉を聞くまでは。
「その者は、【ン】の名を持つ化け物だ。精々醜くあがくことだ」
そういうと再びホログラムは姿を消し、三度姿を現すことはなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「お疲れさまです。片桐さん」
放送原稿を担当する青年、吉良沢優は放送を終えた片桐にねぎらいの言葉をかける。
「すみません、途中で放送を中断することとなってしまって。彼らから伝えられた情報も伝達しておくべきだと判断したので」
そう述べる吉良沢の隣にいたのは、バルバとドルドであった。
あの時、一度放送が中断になったのは、吉良沢の指示であった。
吉良沢は、放送中部屋に入ってきた二人から究極なる者の復活を聞き、急遽放送の伝達内容に加えるよう片桐に指示したのだ。
「ふん、別に構わんが…貴様らが言っていた条件とやらを満たしたということか」
そういって片桐は放送の一時中断の原因となった二人の方を見る。
究極なる者。
グロンギ遺跡に眠り、バラゴにより封印が解かれたことは片桐や吉良沢も把握していたが、その存在が眠りから目を覚ます条件はバルバ達二人しか知らなかった。
「その通りだ」
2人の内、女の方――バルバが口を開く。
彼女の短い返答を引き継ぐ形で、ドルドが語る。
「究極なる者、ン・ガミオ・ゼダが目覚める条件――それは封印が解かれた後十三の命が散った時だった」
「なるほど、つまり復活の引き金となったのは――ダグバということですね」
吉良沢の言葉にバルバがコクリと頷く。
バラゴが封印を解かれる以前、既に殺し合いの場では32人の参加者が命を落としていた。
その後相羽シンヤが死んで放送を迎え…その後も死者の数は増えていき、そして数分前のン・ダグバ・ゼバの死をもって封印解除後十三番目の死者となった。
「まさか同じンの名を持つ王、ダグバの死が新たなンを目覚めさせることとなるとは…」
「旧き王は倒れ、新しい王が目覚めたというわけか…」
ドルドとバラゴは感慨深げにつぶやく。
彼らの言うように、皮肉にもグロンギの王の死が、新たなグロンギの王を生み出したのだ。
「ふん、くだらんな…私はモニター室へ戻らせてもらう」
片桐一樹こと闇将軍ザンダーは、放送室を後にする。
彼の役目は、モニタールームでの参加者の監視であった。
「新たな王、ン・ガミオ・ゼバか…」
2人のグロンギの話を聞いた吉良沢は、デスクに肘をつきながら、思案顔となる。
数分前に死亡したン・ダグバ・ゼバ。
バルバ達によれば思ったよりも振るわなかったという話だが、その実力は確かであり、早乙女乱馬によるベルト破壊による弱体化がなければあの場で倒されていたかもわからない凶悪な存在。
そして今、そのダグバと同等の力を持つ者が蘇ろうとしている。
241
:
◆OmtW54r7Tc
:2014/03/12(水) 23:31:08 ID:rlxwSDZQ0
(みんな、負けないでくれ…)
その事実を前に、彼が出来るのはただ祈ることだけであった。
心に光を持つ者達が、強大な闇に押しつぶされないようにと。
「エクストリームメモリの監視、お疲れ様です。サラマンダー男爵」
そうねぎらいをかけるのは、財団Xに所属する男加頭順。
が、言葉とは裏腹にその無感情な表情からはねぎらう様子がまるで感じられない。
「あんた、それでねぎらってるつもりなのか?」
「そうは見えませんか?」
「いやいいよ。あんたがそういうヤツだってのはとっくに知ってるし」
はあ、と思わず男爵は溜息をつく。
何を考えているのか、心が見えにくいこの男はどうにも苦手だ。
「それで、一体何の用だ?」
「はい、あなたのエクストリームメモリの監視任務ですが…間もなく終了となります」
加頭の言葉に、男爵は目を丸くする。
「おいおい、仕事クビってわけか?」
「はい、そうです。3時間後、このエクストリームメモリは殺し合いの会場に転送します」
「…ああ、例の情報開示って奴と関係あるのか?」
「はい、他世界の情報を閲覧するには、このメモリで変身する必要がありますから」
エクストリームメモリを用いた仮面ライダーWの最強フォーム、サイクロンジョーカーエクストリーム。
W世界以外の他世界の情報を検索、閲覧するにはこのフォームの体中央にある「クリスタルサーバー」によるデータベースへのアクセスが必要であった。
つまり、変身しなければ拡張した情報を閲覧することは出来ないのだ。
「なるほどなぁ。それで、このメモリは3時間後どこに転送するんだ?左翔太郎の所へか?」
「いえ、メモリはある人のデイバックに転送させることにしました」
「ある人?」
「ええ、実はニードルさんが面白い趣向を考え付きましてね」
そう語る加頭の表情には面白そうな印象は感じられず、いつも通りの無感情な表情だった。
そんな彼を見て、やはりこいつは苦手だと感じるサラマンダー男爵であった。
「おい、ゴハット!ゴハット!どこにいるのだゴハット!」
モニター室に戻った片桐は、部下の名を叫んで部屋の中を歩き回っていた。
下っ端の一人にすぎないにも関わらず、自分以外に主催側としてこの場に呼ばれたもう一人の同士、ゴハット。
片桐は彼と共に監視作業を行っており、放送の間は監視と留守番を任せているはずであった。
「フフ…彼ならここにはいませんよ」
その時、誰かがモニター室に入ってきた。
「お前は、ニードル…」
「フフ…片桐さん。モニターをよく見てみてください」
242
:
◆OmtW54r7Tc
:2014/03/12(水) 23:32:43 ID:rlxwSDZQ0
言われて、片桐は各参加者の姿を映し出したモニターを見る。
「なに!?」
モニターの一つを見て、片桐は驚愕する。
そこに映っていたのは…闇生物、ゴハットの人間姿だった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「到着!これで生のヒーロー達に会えるんだなあ!感激だなあ」
闇生物ゴハットは、非常にウキウキしていた。
これまで、モニター越しでしか見られなかったヒーロー達を、直接この目で見ることができるのだ。
「やっぱまずはシャンゼリオンかなあ?それとも仮面ライダー?あるいは…」
『ゴハットさん。目的を忘れてはいけませんよ』
通信機から聞こえてきたのは、ニードルの声。
「分かってるって!ヒーロー達を脅かす悪者として、がんばっちゃうよ〜」
『その意気です。それでは頼みましたよ』
そこで通信は切れた。
「そういえば、デイバックの中に役に立つ者を入れてるって言ってたっけ…」
ゴハットは、デイバックを探る。
出てきたのは、
「おお、これは!」
それは、本来参加者に支給する予定だったが、結局支給されることのなかったものだった。
「イエーイ!これでボクもヒーローだ!」
その支給されなかったものの正体は――
―JOKER!―
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「そういうわけで、ゴハットさんにはジョーカーとして殺し合いの舞台に乱入することとなりました」
「何がそういうわけだ!ふざけるな!貴様、何を考えている!?」
しれっとした顔をするニードルに、片桐は怒りの形相でつかみかかる。
「いえいえ、この殺し合いを盛り上げようと考えたまでですよ。加頭さんの了承も得られましたしね」
「部下である私に断りを入れるのが、筋ではないか!?」
「まあまあ、考えても見てください。現在の参加者達の状況は対主催者が俄然有利な状況で進んでいます。あなたも、そのような状況は好ましくないでしょう?」
「む…」
確かにニードルの言う通り、現在殺し合いに乗っているものと乗っていない者…どちらに状況が傾いているかと言われれば、後者であった。
殺し合いに乗っているものや危険人物は、数・質ともに決して悪くはない。
ただ、状況がまずいのだ。
対主催は、そのほとんどが市街地を目的地としている。
これは、一文字隼人の市街地合流の話がかなり多岐に渡って伝わったためだ。
一方でマーダー・あるいは危険人物と呼ばれる参加者は、市街地から離れたり、そちらに向かおうとしない奴らが多い
一応制約により大人数チームは作れないルールは敷いたが、これも首輪が解除でもされれば無意味なものとなり、実際に大チームを形成しているその場所では首輪の分析も行われようとしている。
いくら強力なマーダーが残っていると言えども、彼らにタイマンで互角に近い戦闘能力を持つ対主催者も多くおり、数の暴力に屈しかねない。
「だが、ゴハットをわざわざ連れてこなくとも、バルバの話ではまもなく究極なる者が…」
「ゴハットさんとこの話をした時には、ダグバもまだ死んでいませんでしたし、そもそも復活の条件すら聞かされてませんでしたから。いつ復活するかも分からない者を待つよりも、こちらで先に手を打とうと考えたまでですよ…フフ」
「ぐう…」
どうにも上手く言いくるめられているようで癪に障る。
「ち…話は分かった!俺は仕事に戻るから、貴様は出て行け!」
「フフ…ではごきげんよう、片桐一樹さん」
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