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第二次二次キャラ聖杯戦争 part4

1名無しさん:2019/01/06(日) 16:25:18 ID:w3v7G4MM0

ここは様々な作品のキャラクターをマスター及びサーヴァントとして聖杯戦争に参加させるリレー小説企画です。
本編には殺人、流血、暴力、性的表現といった過激な描写や鬱展開が含まれています。閲覧の際は十分にご注意ください。

まとめwiki
ttp://www63.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16771/

前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1420916017/


【参加者名簿】

No.01:言峰綺礼@Fate/zero&セイバー:オルステッド@LIVE A LIVE
No.02:真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー&セイバー:神裂火織@とある魔術の禁書目録
No.03:聖白蓮@東方Project&セイバー:勇者ロト@DRAGON QUESTⅢ〜そして伝説へ〜
No.04:シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア&アーチャー:雷@艦これ〜艦隊これくしょん
No.05:東風谷早苗@東方Project&アーチャー:アシタカ@もののけ姫
No.06:シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD&アーチャー:ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
No.07:ジョンス・リー@エアマスター&アーチャー:アーカード@HELLSING
No.08:衛宮切嗣@Fate/zero&アーチャー:エミヤシロウ@Fate/stay night
No.09:アレクサンド・アンデルセン@HELLSING&ランサー:ヴラド三世@Fate/apocrypha
No.10:岸波白野@Fate/extra CCC&ランサー:エリザベート・バートリー@Fate/extra CCC
No.11:遠坂凛@Fate/zero&ランサー:クー・フーリン@Fate/stay night
No.12:ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人&ランサー:セルベリア・ブレス@戦場のヴァルキュリア
No.13:寒河江春紀@悪魔のリドル&ランサー:佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ
No.14:ホシノ・ルリ@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-&ライダー:キリコ・キュービィー@装甲騎兵ボトムズ
No.15:本多・正純@境界線上のホライゾン&ライダー:少佐@HELLSING
No.16:狭間偉出夫@真・女神転生if...&ライダー:鏡子@戦闘破壊学園ダンゲロス
No.17:暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ&キャスター:暁美ほむら(叛逆の物語)@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-
No.18:間桐桜@Fate/stay night&キャスター:シアン・シンジョーネ@パワプロクンポケット12
No.19:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/zero&キャスター:ヴォルデモート@ハリーポッターシリーズ
No.20:足立透@ペルソナ4&キャスター:大魔王バーン@ダイの大冒険
No.21:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん&アサシン:ニンジャスレイヤー@ニンジャスレイヤー
No.22:宮内れんげ@のんのんびより&アサシン:ベルク・カッツェ@ガッチャマンクラウズ
No.23:ジナコ・カリギリ@Fate/extra CCC&アサシン:ゴルゴ13@ゴルゴ13
No.24:電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ&アサシン:甲賀弦之介@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
No.25:武智乙哉@悪魔のリドル&アサシン:吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険
No.26:美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ&バーサーカー:黒崎一護@BLEACH
No.27:ウェイバー・ベルベット@Fate/zero&バーサーカー:デッドプール@X-MEN
No.28:テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-&バーサーカー:ガッツ@ベルセルク

2名無しさん:2019/01/06(日) 16:26:03 ID:w3v7G4MM0

【ゲームルール】

舞台はムーンセル・オートマトン@Fate/EXTRAに寄り添う『方舟』内部に再現された空間です。
方舟はムーンセルを外部演算装置とすることで稼働しているため、基本的なルールは月の聖杯戦争に準じます。

『方舟』が外部においてどういう風に観測されたかは世界ごとに変ります。
ある世界では聖遺物として観測・解釈されていますし、ある世界ではムーンセルの子機のような扱いです。
内部がある種仮想空間になっていることは共通しています。

参加者は自発的に参加する場合もあれば、勝手に呼ばれる場合もあります。
方舟の遺物『ゴフェルの木片』を入手していることが条件ですが、入手の方法、またその他の条件は問いません。
キャラクターの所持品が実は木片が加工されたものだったとして設定しても構いません。書き手の想像力の可能性に委ねます。
またある世界では木片はデジタルデータで、しかも名前が違っているかもしれません。
その為、何が『ゴフェルの木片』であったかを登場話で明示する必要はないでしょう。

ある解釈では舞台は方舟ですが、マスターとサーヴァントが男女のつがいとなる組み合わせである必要はありません。
性別を問わず、生き残りが二人になった時点で聖杯戦争は終了します。

マスターの所持品や武器・礼装の持ち込みは可能です。

全てのマスターは最初記憶を封印されており、その違和感に気付き記憶を取り戻すまでが予選になります。(Fate/EXTRA準拠)
記憶を取り戻すと同時に令呪を入手、サーヴァントの契約に移ります。
取り戻す記憶には聖杯戦争のルール等も含まれます。
 
用意された土地は様々な作品世界の混成です。少なくとも型月世界観の土地(久遠寺邸@魔法使いの夜 等)は含まれています。
またNPC(モブキャラ)が存在しており日常生活を送っています。
具体的には、現代の市街を中心として参加マスターの原作の土地が混ざり合った状態となります。

令呪に関して、三画全て失ったとしてもサーヴァントとの契約が維持できる場合は消去されることもありません。
逆にサーヴァントとの契約を失った時点で消去がはじまります。

監督役のルーラーは原作通り各サーヴァントへ命令可能な令呪を持っており、二回ずつ使用することができます。
基本的に彼らは中立ですが「無差別に一般NPCを大量に襲う」「ルーラー自身を狙う」「冬木の街の日常を著しく脅かす」等を行った主従にはペナルティを課します。

3名無しさん:2019/01/06(日) 16:26:39 ID:w3v7G4MM0

【書き手ルール】

≪予約ルール≫
予約についてはしたらばの予約スレにて行う。
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16771/1406639857/

●予約期限は一週間です。ただし五話以上書いている方は予約期限を三日間延長できます。

●予約ができるようになるタイミングは以下の通りです。
・投下完了宣言から24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 03:00に投下完了→24時間後の7/28 03:00の翌0時→7/29 0:00予約解禁)

・予約破棄宣言後の再予約は24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 20:00に予約破棄→24時間後の7/28 20:00の翌0時→7/29 0:00に予約解禁)

・予約破棄宣言の無い予約期限切れの場合、24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 23:00に予約→1週間後の8/3 23:00に締切時間、連絡なし→24時間後の8/4 23:00の翌0時→8/5 0:00に予約解禁)


≪会場ルール≫
・所持金はNPC時代の金銭引き継ぎ、通貨単位はpt、価値は日本円と同等。
 一話目書き手が状態表におおまかな感じで書く(いっぱい、とか極貧など)

・一日一回昼12時にルーラーから各マスター、サーヴァントへ残人数を告知する。

・検索施設はMAP内に三か所(月海原学園、図書館、病院)
 情報の絞り込みができればパラメータとスキル、生前の伝承が分かる(宝具は分からない)
 また正午の時点での残り人数も確認できる

≪時間について≫
時間の区切りは4時間単位。

■時間表記
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜間(20〜24)


≪状態票テンプレ≫

【X-0/場所名/○日目 時間帯】

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

4 ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:27:44 ID:VW/HurTw0
あけまして投下します

5THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:29:50 ID:VW/HurTw0


春川英輔の知識と知能をクローニングした人格プログラム。
それがHALの正体だ。
零からアメーバ一匹も創造できない21世紀の黎明において、プログラム上とはいえ自身の完全なる模倣を造り出す、当時からすれば途方もない偉業。
日本有数の天才である春川のデータを精密に模倣(コピー)し、思考と記憶を寸分違わず再現されている。
その意味ではまさしくHALこそは春川英輔の「もう一人の自分」だといえよう。

しかし春川はHALだが、HALは春川ではない。
国内のあらゆるサーバーにアクセスして瞬く間に掌握し、去った後は尻尾を掴む痕跡も残さない。
電脳空間で最適された意志持つプログラムによる、他と隔絶したハッキング能力。
これは電子上に住まうHALであるが故に獲得した能力であり、同等の頭脳を持つ春川であっても人間である限り、同様の成果を出す事は不可能に近い。
さらに寿命という概念の消失。あくまでデータの塊であり自己変革を繰り返すHALに肉体の生存限界は存在しない。
自らの手で消滅する、人間でいう自死の選択肢は春川から与えらておらず、外部の手で破壊されなければ幾らでもHALは存続できる。
永遠の計算。無制限の自己改革。それがHALに課せられた最大の、そして唯一の意義だ。

春川が死すともHALは消えず、その逆も然り。
これだけでも、既に二者は完全な同一個体とはいえないだけの差異が生じている。
『電人HAL』と自ら称したプログラムとは、いわば宿主が消えても地に残り続ける陽炎。人の背に張り付く影(シャドウ)でありながら個別した人格(ペルソナ)だ。

「……だが私と春川の目的は変わらない。
 その為の私であり、その為のHALだ。それを成す事のみこそ私は生きる。1ビットたりとも変化してはいない」

研究室。
最低限の明かりがあり、大型の冷蔵庫が稼働しているような音が鳴る暗い部屋で、いまや一人であるHALはいる。
春川として個人の身分と研究室を得ている現在、ここはHALの手で日々改造を施されている。
物理的にではない。春川の地位とマスターである能力を用いれば幾らかの資材を投入する事は可能かもしれないが、科学、物理を用いた防備がサーヴァントに有効になり得はしない。
コンクリートであろうがカーボンであろうが、霊体化なり、あるいはもっと直接的な攻撃なりで容易く陥落する他ない淡い砦だ。
ならばHALが行える、霊子の海におけるマスターの備えとは即ち―――

光の線が、部屋の壁から天井にかけてまで走った。
電灯は点いていない。この部屋を照らすのはコンピューターのスイッチや画面から出る光と、時折走る光条のみだ。
幾つかの光条が駆け巡り、暗闇に沈む部屋の内部を露わにする。
人の形はやはりHALのひとつのみ。それ以外には気配もない。
光が途絶える。部屋は再び闇に溶ける。光は循環しておりそう遠くない内にまた光条が走ってくる。
その僅かな間に、影も形も見えない中から声がした。

「儂を伴わずに敵方との交渉を済ませるとは、我が主も剛毅なものよ」

視覚無き世界で聞こえた、木の葉がこすれるような男の声。気配を察知させず存在のみを誇示するさまはアサシンのサーヴァントの見本となるべき手並みだ。
そのサーヴァント・甲賀弦之介のマスター、HALは当然驚くことなく従者の帰還を迎え入れた。

「裏の空間での私の性能は証明された。あそこでならサーヴァントをも凌ぐ相手に対しても私は優位に立てるよ」
「それほどに摩訶不思議なる空間が用意されてるとはな。不安要素はまだ残るが、使わぬ手はあるまい」
「ああ、侵入経路は限定されているが、ここに引き込めればより確実に勝利をものにできる。
 私の存在を嗅ぎつけ迂闊に近づいた者ほど罠に嵌め易くなる」

"噂"を元に見つけた、影の冬木市とでもいうべき空間。
その侵入を果たしたHALは独り精査をしている最中にも、アサシンに命じ表の冬木市で間諜の任を続行させていた。

6THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:30:31 ID:VW/HurTw0


「案の定、幾らか制御を外れた者がおる。完全に意識を取り戻さずとも、指令を忘れ無差別に破壊を振り撒く例が散見された。
 書面にあった者共の処理は終えたが、少数は握り潰す前に御用になってしまっている」
「あの英霊の性質に中てられたが故の暴走だからな。それも当然の理だ」

ベルク・カッツェの起こした騒動、その後処理である。
そもそもの発端とは、あの扇動のサーヴァントと接触したHALが彼の排除を目論んだ事が始まりとなる。
結果としてカッツェの討伐は成ったものの、その過程で生じた様々なトラブルの弊害はHALの戦略にも少なからず影響を及ぼした。
その最たるものこそ、カッツェの能力による電子ドラッグ感染者の暴走だ。

電子ドラッグの元の構造は犯罪願望の表層化。それを暴き立てるあのサーヴァントとの相性は格別に悪かった。
能力は元より性格が致命的に尽きる。保身を捨てた子供の癇癪じみた感情でHALの兵隊は狙いに定められ、その統制を大いに乱された。
その可能性を当然考慮していたHALだ。直後から手を走らせ迅速にネットワークを再構築してある。
けれどもどうしても取りこぼしは否めない。手が及ぶ前に異常行動に出る輩握り潰す事はかなわない。

憂慮すべきは、その他のマスターに目撃される事態だ。
あれだけ派手に騒いだ事態だ。直接関わらずとも遠巻きに見ていた陣営はどこにでもいたはず。
そうした相手にこそ俄然見つかる危険がある。
だからこそのアサシンの単独行動だった。本流の忍の英霊はHALよりもずっと速く現実での状況把握に向いてる。
兵隊の情報を握らせた上で、大学付近の一帯を走らせて虱潰しに監視させたのだ。
それによってHALも兵達の動きを完全把握し、被害を最小限に抑えることが出来た。

もっとも問題は。
その最小限こそが最大の被害となったことだったか。

「そうか、ホシノルリが気づいたか」

電子の妖精と名高い女性警視のマスターが電子ドラッグにたどり着いた事についても、HALに冷静さを奪うには及ばなかった。
むしろ順当な結果ともいえよう。警察の身分とカッツェのマスターを保護しているという二点から選出した相手だが、第二の狙いは彼女の品定めでもあった。
早期からターゲットとしていた、HALを上回る情報処理能力の正体。警視という権限ある立場。
宮内れんげというイレギュラーがなければ恙無くカッツェを仕留められていただろう。
その優秀さを鑑みれば、混沌下した街中で不審な兵に気づき電子ドラッグを解析する……という結果も予測の範疇だ。

「加えて、同様の能力を持つと思しき"ますたあ"と盟を結んだ様子。そちらも我らの兵を抑えており、傍らの英霊共々油断がならぬ」

シオン・エルトナム・アトラシアとの接触の場面も、弦之介は余さず観察していた。
HALの尖兵の安否の確認の為に街中を馳せていたのだから、そのうち二名も確保していた者に行き着くのは自明の理だ。
ここで更なる解析が及ぶ前に芽を潰すのがHALの従者としては常套であるが、そこは甲賀の忍、獲物を前に迂闊を見せる愚は犯さない。
呑気にも会話しているシオンのサーヴァントが、周囲を取り囲む結界を糸で編んでいたのを看破していた。
触れれば絡め取られるか、鳴子の要領で敵を感知するか。張り巡らされた隙のない配置。抜け目のない切れ者だ。
さらに敵は一騎ではない。必殺の瞳術といえど弱卒でもない猛者相手に軽率に使うべきではない。よって強襲は避け監視に留めていた。

「手を出す事を控えた君の慧眼に感謝しよう、アサシン。確かにホシノルリは難敵となる。同じくシオン・エルトナムについても油断を許されない相手となるだろう」

シオンの情報は、学生の身でありながら錯刃とは別の大学の研究室にも出入りするほどの才女という線から引き出せた。
穂群原学園はいまや魔境と化している。あそこから生き延びているだけでも手練れには違いない。あるいは元凶そのものか。

「だがそれでも、今の私の優位を崩すには届かない。
 リカバーは充分聞く範囲であり、巻き返しを許さぬ準備も整えてある」
「……捕らえられた兵から、此方の所在が割れる心配も無いのだな?」
「一人はランダムに選んだ人間。片方はうちの生徒だがそこからここに行き着くには理論の飛躍が過ぎる。
 あの二人の頭をどこまで洗おうと私と犯人を結ぶ線が伸びるのはあり得ない――――――とは言い切れないのが、聖杯戦争の恐ろしさだな」

見破られるのはまだ先の時間と豪語していた昼にも、HALの予想もつかない方法から正確に位置を見破られた出来事を思い出す。
電脳冬木市には古今東西の英霊の奇手妙手が揃っている。どれひとつとってもHALの牙城を飲み込む恐るべき津波。

7THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:31:47 ID:VW/HurTw0


「やはり、引きこもっているのはこの辺りが限界のようだな」

どの道、いつまでも穴蔵のまま勝てるなどとは思ってない。情報収集は勝利の為の策の一環。来る攻め時に確実な道程を築く方策。
見に徹し過ぎればいずれ機を見失い、受け身にならざるを得なくなる。

「―――いいだろう。ホシノルリ。シオン・エルトナム・アトラシア。魔神皇。まだ見ぬ数多のマスターよ。
 ここからは第二局面だ。0と1の世界の住人、電人HALの真髄を披露しよう」

静かなる宣言に呼応するように、床、壁、天井を伝う光条が一斉に励起した。
黒の空間を埋め尽くして流れる無数の光は、さながら宙を星々が舞う構図を思わせる。
あるいは魔術師の称するところの、『魔術回路』と呼ばれる小宇宙のイメージか。

これこそが、HALの施した改造の全容だった。
禍津冬木市にて試行し、採集したデータを元にした法則。これを表の冬木市でも再現が可能な空間の構築。
限定的だが、裏で示した能力の数割をここでなら引き出す事ができる。
これは驚くべき領域に指をかけた行為。遠く隔てた異邦の世界の法則をも学習し始めた、人工知能の進化過程。
いわばHAL流の魔術工房。電人本来の能力を現実でも発揮する術をHALは手にしたのだ。
ここでなら魔神皇やサーヴァント相手ならともかく、マスターを相手にまず遅れを取りはしないだろう。
兵隊とアサシンとで集めた情報を元に相手を燻り出し、新たな手札をぶつけこれを討つ。

「使える男か、あの引き入れた"ますたあ"は」

自らが離れている間にHALが新たに手に入れた"戦力"―――テンカワアキトに、弦之介は怪訝に尋ねた。
NPCを殺傷しお尋ね者となり切迫していたアキトを、保護と引き換えにHALが協力関係を結んだ形だ。
今は適当な配下の一人の家に入れ匿っている。NPCの警察の目をかいくぐるぐらいHALにはわけもない。

「直接戦闘に特化したクラス、殺意の塊のようなサーヴァントだ。加えて社会的立場の不利。
 切り捨てるに易く、使うには旨味がある。君にとっては最高の相性であり、私にとっては最適な同盟相手だ」

アキトの擁するバーサーカーは自陣営に欠けていた破壊力を持つ有用な戦力だ。
裏切りのリスクは常に控えているが、切るタイミングを選べる機会は圧倒的にHALにある。
元より乗らざるを得ない状況だからこそ持ちかけた提案。イニシアティブはこちらが握ってるといっていい。

軽快な電子音が部屋に鳴った。電脳工房の中、指の動きでデータごと手元に引き寄せ内容を解く。

「噂をすれば影だ。早速あちらから要求が来た。
 我等の走狗になる気はない、あくまで討つべき敵は自分で決める、か。フッまあいいだろう。有用性を示す為にも少しは好きにやらせておくか」

手早く望むものを仕込んだデータをメールに加工して送り出す。これでまたひとつ盤面が動いた事になる。
データでしかない体に、静かな熱が疼いてるのをHALは知覚した。
単なる一時のエラーかもしれない。戦士でも魔術師でもないHALに、戦争に沸き立つという感情はない。
春川であった頃から出会う事のなかった、同じ分野で自分と比肩し超える天才に興味を覚えこそすれ、目的を傾けるだけの指向が生じるわけもない。
ならばこれは、はじめから胸に抱いていた熱。
強敵を退け、艱難辛苦を乗り越え、聖杯を手にするという、初志の目的を認識したが故。
【刹那】に至る瞬間を想起した、ひとりの男から継いだ夢が生んだ熱(バグ)だった。

8THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:32:35 ID:VW/HurTw0










眠りを必要としないサーヴァントに、昼夜を通しての行動に支障はない。
魔力さえ足りてれば休息を挟まず連日で街中を駆け巡っていても疲労消耗とは無縁だ。
あるとすれば精神的な疲弊だが、歴戦の英雄が一日二日で音を上げようはずもない。
草木も眠る丑三つ時も超え、間もなく朝日が昇ろうとしてるこの時刻でも哨戒するアーチャー、アシタカもまた例外ではない。

あれから。
岸波白野の戻らぬアパートで待ち続け、流石に周囲の不審の目も出てくるようになって、遂に開かぬ扉をあとにした。
一応玄関には書き込みをしたメモ帳を入れてある。
聖杯戦争だのマスターだのといった内容を大っぴらに書くのははばかられたため、とりあえずは早苗の名前と連絡先、安否の確認を記してある。
帰宅した白野が手紙を読めば、少なくとも早苗の存在には気づきはする。そこから先は未知数だ。
監督役の少女は、聖杯について知りたいのであれば岸波白野を探すといいと伝えた。
けれど白野が味方になるとまでは言っていない。聖杯に詳しい事と好戦的である事は、合わさっても決して矛盾しない要素だ。
むざむざ所在を明かし、かえって襲撃を受けるかもしれない。逆に警戒され避けられてしまうかもしれない。
既に白野は敗退し、倒した方のマスターが戦利品替わりに見つけ、悪用される結果もあり得る。
そうした最悪の可能性を想定した上で、早苗は決めた。悪手でも、愚かでも、迷ったままでも。ひとつの心を決め、その心に従う行いをした。
サーヴァントであるアシタカはその決断をこそ尊ぶ。主が進む道を決めたならば、崖に足を踏み外さないよう眼前の霞を払う。
主従や忠義といった習いに囚われなかった生前だが、サーヴァントとして、傍らに付く隣人として、アシタカは早苗を支えるべく尽力する。

早苗は既に自室にて眠っている。
目立った傷も霊力の消耗もないが、精神の疲弊は重くのしかかっていたのだろう。
少し横になるだけと言っていたが、一時間も経たないうちに安らかに寝息を立ててしまった。
それでいい。あてもなく彷徨っても焦りばかり募り疲れが嵩むばかりだ。いずれ来るその時まで、休めるうちは休むべきだ。
アシタカも独断で戦火に飛び込む事はせず、斥候の役目に徹する。早苗の住居とは別のマンションの屋上に立ち、河を挟む街を見渡す。

遠方を見渡す千里眼。山を超えたもののけの存在を察する感覚が昇華した気配感知。多くの生命が息づく様をアシタカは見た。
街を祭りの最中であるかのように賑わす熱狂の渦。突如空に出現する船。
南に生い茂る森を焦がすほどの、燃え盛る無数の生命の雀躍。
見てるのみでは会話や表情、事の仔細を掴むまではいかない。しかし凄絶極まる戦いが繰り広げられていたのは違えようもない。
聖杯戦争は着々と進行している。早苗の煩悶など一顧だにせずに。失われる命の是非はともかく、それもまた揺るがぬ事実だ。


―――森から抜ける奇妙な影を捉えたのは、そんな時だ。


精錬な鎧姿の、金の髪の少女。
先日の朝にもその姿は見ていた。監督役を務める裁定者のサーヴァント、ルーラー。
彼女は一人ではなかった。年端もいかない幼い少女を連れている。手を取り歩調を合わせ、気遣う様子を見せながら。
その幼子にも、アシタカは見覚えがあった。早苗が気にかけていた、夜の街で同盟を組んだらしきサーヴァント二騎の傍にいた子供。
その子供がルーラーと一緒に連れられて歩いている。なんとも珍妙な光景だ。アシタカの関心の対象に視線は寄せられていく。
子供の方のサーヴァントはどうしているのか。ここからでは霊体化して付いているか判別がつかない。
二人はどこへ向かうのか。ルーラーの帰る先といえば教会だが、子供もそこに連れる気なのか。
拭えぬ疑問に悩み――――――――――自らに向けられた視線に総毛立った。

9THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:33:14 ID:VW/HurTw0


ビルの屋上から躊躇なく飛び降りる。生前騎馬もないままでは肝を冷やしたろう高さもサーヴァントになった今ではおそるるに足らない。
地面に足が着いてすぐさま弓と矢を手元に現出させ、即座に矢を番える準備を終える。歴戦のガンマンの早撃ちに似た、まさに瞬間の切り替えだった。
振り向く先には暗闇と人工の光源。人影は見受けられない。あくまでも視界内においては。

"―――――――――いる。"

眼よりなお鋭敏になった感覚が告げている。
この方角の先。姿は見えず、声も届かぬほど遠くの地点から、自分は視線を交差させていると。

おそらくはアーチャークラス。高い視力か、それに変わる感覚を備えた自分と同系統の能力の持ち主か。
矢が飛んでくる気配はない。あからさまに戦意があるでもない。不気味なほど変化はなく、空は静寂だ。

"――――――――――仕掛ける気はない、か"

向こうが感じた以上、こちらが見返すのも感じてるはず。
自分と同じく、斥候の任を優先としていたのだろう。そして同じ対象を見ていた事でかち合った。
ルーラーの挙動には誰もが注目する。その点を見過ごし関心を傾け疎かにしていた己の落ち度だ。

視線が逸れた気配はない。向こうもどう出るか考えあぐねていると見える。
実体の構成を解れさせる。睨み合いを続けていても埒が明かない、こちらから潔く身を引いておくべきだろう。
第三の観察者が現れないとも限らないのだ。ここで泥沼化は避けたい。
早苗の住むマンションからはやや離れているが、追跡を撒く予防策だ。
風に流されるが如く、霊体化したアシタカは夜気に溶け街に降りていった。










「――――――引いたか。賢明な判断だな」

完全にサーヴァントの気配が絶たれたのを確認してから、矢にかけた指から手を離す。
アシタカが向けていた視線の先。新都と深山町とを繋ぐ赤い大橋の上。鉄骨に立つ赤い外套は、クラスを同じ弓兵とするサーヴァント、エミヤだ。
忍者のサーヴァントを討ち倒した後にも休息を挟まず偵察に出ていた中でのサーヴァントの感知。
すぐに身を隠されてしまったため姿は確認できずじまいだったが、同じアーチャーのクラスと当たりをつける。
弓兵の鷹の眼から逃れ狙撃のリスクを真っ先に殺した動きは、同じ戦法を用いるが故と思ったからだ。
少なからず消耗の身、事を荒立てる気はなかったが、それはお互い様だったらしい。緊迫した雰囲気は一瞬で、あちらから霊体化して範囲から離脱していった。
状況を読み身を引く冷静さ。共闘する候補に一考しておいてもいいだろう。
とはいえ相手の顔も声も禄に視認出来ていない、通路でたまたま視線が重なった程度の交錯だ。
少なくとも、今はまだ意味を持つ事のない接触だ。

切嗣は先に拠点に帰してある。あそこに潜む別の暗殺者(アサシン)の警戒からだ。
念入りに追跡の可能性を潰し、未だ騒然とする雑踏に紛れ、複数ブラフを撒きもした。令呪も因果線(ライン)の異常もなく、マスターは未だ無事だ。
戦闘中を見計らっていたのなら、アサシンのマスターだけでなく切嗣も闇討ちをかけられてもおかしくなかった。
身を潜めていたのが功を奏して運良く発見されずに済んだか。確率では半々だ。
サーヴァントの守りなきマスターに及ぶ暗殺者の牙がどれだけの驚異となるか。それを承知している切嗣は、夜が明けるまで行動は控える予定だ。
これもまた複数のクラスが入り乱れる方舟の聖杯戦争ならではの着眼点だろう。既存の知識を更新しただけでも生き延びた甲斐はあった。

こうして冬木の街を俯瞰していても、戦闘行為は禁じられ偵察のみに留めている。
新都と深山町と結ぶ赤い大橋。その鉄骨の上に立ち街の全景を見渡している。
C-6地区―――大学のある場所で起きた暴動は収まったようだ。生憎切嗣を運ぶ最中だったので、事の成り行きを見届ける事は叶わなかったが。
さぞ複数のサーヴァントがひしめき合う伏魔殿だったろうが、見る限り派手な破壊の跡はなく比較的戦闘の規模は広がらなかったようだ。
破壊の度合いでいえば、南の森林地帯の方こそ甚大そのものだ。
森が丸ごとくり抜かれたような跡。圧倒的に呵責なき破壊。随分と血の気の多い輩もいたものだ。
自分達も知る、図書館で交戦した紅血の吸血鬼。あれだけの戦鬼であれば宝具を開封すれば、この被害も頷けるか。
鬱蒼と生い茂る森林地帯という戦場も、アーチャークラスの千里眼にとって視界の障害にはならない。

10THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:33:56 ID:VW/HurTw0


二騎の英霊は倒れ、マスターもまた森を出た様子もない。
それはいい。潰し合いの末勝者も敗者も共倒れになった。労せず難敵が落ちた最良の展開だ。
懸念はルーラーに手を引かれていた、年端もいかない少女の存在。
単なる巻き込まれたNPCにしては行き過ぎた保護。マスターだとすれば尚更に平等の立場である裁定者の座が揺れる。
なにがしかの異常。ルールにない不測の事態が発生したか。

「システムの異常。規格外のサーヴァントとらしくもないマスター。
 まあ、珍しくもないが」

それ以上の追求もせず、橋から動かずに街を見やる。
方舟のマスターにはNPCの時代から引き継いだ役割がある。学生や公務など制限を受ける職であれば朝に向けて準備をしている時分だ。
ここで派手に事を仕出かす真似もすまい。街の暴動と、森の大戦。一日目に起こる戦いはこれにてお開きとなるだろう。
斥候はここらで終わらせマスターに報告する段だ。切嗣は今も一睡もせず情報の整理作業に没頭してるだろう。
決して無傷の体ではないが行動に問題ない以上、寸暇を惜しんで次の戦略を巡らせてるはずだ。

つまり、自己の思惑に没頭できる時間は、今だけということだ。


――――――この聖杯戦争は正常なるか否か。


方舟内に再現された冬木市に召喚されて以来、常に思考の隅に置いていた問題。
概要こそ召喚直後に書き加えられた基礎知識に入ってるが、確証を得るには心許ない。
しかし自身にはそれを調べる方法も、時間も、多くは残されていない。
唯一といえる手段は、このまま勝ち進み最期の一組に残ること。
優勝者となれば自然聖杯へ繋ぐ扉は開かれ、真実も明らかとなるだろう。地道ではあるが確実だ。
元より勝ち残る気でいるのだから方針を変える事もない。
仮に聖杯に異常があり、悪災を撒き散らす代物だとすれば、その時は破壊すればいい。そこの判断を過つ衛宮切嗣ではない。
多くを救うという正義の為に少数の犠牲を厭わないという裁定は、自身の願いすらも傾く天秤に置く事を選ぶのも躊躇しない。

だからこのまま続ければいい。
敵を出し抜き、慮外から不意打ちを食らわせ、人情の訴えも無視して、速やかに掃討すればいい。
いつもの掃除屋の仕事と同じだ。意思のあるなし程度の差で、血潮にまで染み付いた殺戮の技巧が鈍りはしない。
仮想世界の疑似生命の住人と何処とも知れぬ世界のたかだか二十数名。世界の維持の為には取るに足らない犠牲。

ああ、けど。
全てを殺し尽くして、ただ独り立つ勝利者である彼を待つものが、あの日の地獄に送り出すだけなのだとしたら。
そんなものは始まり(ゼロ)に至るだけで、全ての行いは虚無(ゼロ)でしかない。

元の世界に帰還した切嗣がどのような状況に置かれるかは分からない。
異世界に流れた影響は歴史の流れを歪ませ、世界の修正の利かない事象の変化を及ぼしかねない。
そうなれば、この切嗣の行動で座に刻まれた己がどうなるわけもない。
己が死に、生まれ直した運命の日を回避したとて、還るものはない。

聖杯の力が真実本物であれば、いい。切嗣の願い。どれだけ子供じみた絵空事の理想でも現実に叶うのならば構わない。
英霊エミヤという機構が二度と生まれない世界――――――それは己の願いにも合致する。

「これは奇跡か、迂遠な嫌がらせか、それとも最後のダメ押しのつもりなのか――――――
 なんにせよ機会をくれたというのなら利用させてもらうとしようか」

待ち受ける未来、突きつけられる結末を思い描いても、男はいつものように皮肉げに笑った。

11THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:35:49 ID:VW/HurTw0









奪われたものを取り戻す為に、大切な思い出を捨てた。

悩もうが嘆こうが嗤おうが、自分で切り捨てたものはもう返ってこない。

飼い犬も傀儡も今更だ。どう思われようと、胸の欠けた穴の懊悩に比べれば苦痛にすらならない。



『もう一人の自分に出会わなかったのか』。
表に戻る手段も不明で、戻ったところで逃げ場がない立場にいる中での誘い。
そんな分かりきった答えより前に、提案を持ちかけた相手にそんな問いを投げかけた。
返ってきた答えは要領を得ず曖昧だったが、あの空間が電脳空間であれば、そこを自在に操るこいつはそれこそ誰かの作った"自分"なのかもしれない。


鈍る眼でも感じる光が、夜が明けたのを告げる。
どこの誰とも知らない、自意識が飛んだとしか思えない虚脱した連中が用意した部屋に連れられてから一夜。
つまりはもう、開戦の合図だ。
たが。それより先に。



『………………条件がある』
『今から言う二人の情報を教えろ。特に――――の方は――――――――――』



最初に同盟を組んだ相手。

戦わず、他愛のない話をしただけの少女。

自分を揺さぶる問いを投げかけ、不合理な宣言を目の前で告白した彼女。



記憶を取り戻してから、自分が最も"自分"らしかった時。
"自分"を殺した自分が持っていてはいけない思い出を、捨てなければならない。

12THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:36:59 ID:VW/HurTw0

【C-6/錯刃大学・春川研究室/二日目・早朝】


【電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]『コードキャスト:電子ドラッグ』
[道具] 研究室のパソコン、洗脳済みの人間が多数(主に大学の人間)
[所持金] 豊富
[思考・状況]
基本:勝利し、聖杯を得る。
 1.潜伏しつつ情報収集。この禍津冬木市は特に調べ上げる
 2.ルーラーを含む、他の参加者の情報の収集。特にB-4、B-10。
 3.他者との同盟,あるいはサーヴァントの同時契約を視野に入れる。
 4.ホシノルリを『ハッキングできるマスター』として認識。排除の方法を練る。
 5.魔神皇の陣営を警戒
 6.テンカワアキトを利用。しばらくは好きにさせる。
[備考]
※洗脳した大学の人間を、不自然で無い程度の数、外部に出して偵察させています。
※大学の人間の他に、一部外部の人間も洗脳しています。(例:C-6の病院に洗脳済みの人間が多数潜伏中)
※ジナコの住所、プロフィール、容姿などを入手済み。別垢や他串を使い、情報を流布しています。
※他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒しており、現在数人のNPCを通じて監視しています。
 また、彼はルーラーによって行動を制限されているのではないかと推察しています。
※サーヴァントに電子ドラッグを使ったら、どのようになるのかを他人になりすます者(カッツェ)を通じて観察しています。
 →カッツェの性質から、彼は電子ドラックによる変化は起こらないと判断しました。
  一応NPCを同行させていますが、場合によっては切り捨てる事を視野に入れています。
※ヤクザを利用して武器の密輸入を行っています。テンカワ・アキトが強奪したのはそれの一部です。
※コトダマ空間において、HALは“電霊”(援護プログラム)を使えます
※自分の研究室を"工房"に改造しました。この空間内なら限定的にコトダマ空間内での法則を使えます。
※テンカワアキトと協力関係を結びました。適当な配下のNPCの家に匿っています。

【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク 〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:健康
[装備]:忍者刀
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:勝利し、聖杯を得る。
 1.HALの戦略に従う。
 2.自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。
 3.性行為を行うサーヴァント(鏡子)、狂想のバーサーカー(デッドプール)への警戒。
 4.戦争を起こす者への嫌悪感と怒り。
[備考]
※紅のランサーたち(岸波白野、エリザベート)と赤黒のアサシンたち(足立透、ニンジャスレイヤー)の戦いの前半戦を確認しました。
※狂想のバーサーカー(デッドプール)と交戦し、その能力を確認しました。またそれにより、狂想のバーサーカーを自身の天敵であると判断しました。
※アーチャー(エミヤ)の外見、戦闘を確認済み。


[共通備考]
※『ルーラーの能力』『聖杯戦争のルール』に関して情報を集め、ルーラーを排除することを選択肢の一つとして考えています。
 囮や欺瞞の可能性を考慮しつつも、ルーラーは監視役としては能力不足だと分析しています。
※ルーラーの排除は一旦保留していますが、情報収集は継続しています。
 また、ルーラーに関して以下の三つの可能性を挙げています。
 1.ルーラーは各陣営が所持している令呪の数を把握している。
 2.ルーラーの持つ令呪は通常の令呪よりも強固なものである 。
 3.方舟は聖杯戦争の行く末を全て知っており、あえてルーラーに余計な行動をさせないよう縛っている。
※ビルが崩壊するほどの戦闘があり、それにルーラーが介入したことを知っています。ルーラー以外の戦闘の当事者が誰なのかは把握していません。
※性行為を攻撃としてくるサーヴァントが存在することを認識しました。房中術や性技に長けた英霊だと考えています。
※鏡子により洗脳が解かれたNPCが数人外部に出ています。洗脳時の記憶はありませんが、『洗脳時の記憶が無い』ことはわかります。
※ヴォルデモートが大学、病院に放った蛇の使い魔を始末しました。スキル:情報抹消があるので、弦之介の情報を得るのは困難でしょう。
※B-10のジナコ宅の周辺に刑事のNPCを三人ほど設置しており、彼等の報告によりジナコとランサー(ヴラド3世)が交わした内容を把握しました。
※ランサー(ヴラド3世)が『宗教』『風評被害』『アーカード』に関連する英霊であると推測しています。
※ランサー(ヴラド3世)の情報により『アーカード』の存在に確証を持ちました。彼のパラメータとスキル、生前の伝承を把握済みです。
※検索機能を利用する事で『他人になりすます能力のサーヴァント』の真名(ベルク・カッツェ)を入手しました。

13THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:37:31 ID:VW/HurTw0

【C-7(北西)/民家/二日目・早朝】


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]毛細血管断裂(中)、腹部にダメージ(中)、魔力消費(小)
[令呪]残り二角
[装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾
[道具]地図(借り物)
[所持金]豊富、ただし今所持しているのは資材調達に必要な分+α
[思考・状況]
基本:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を
 1.他のサーヴァントの情報を得る。
 2.他のマスターに同盟、休戦を打診する。
 3.使えそうなNPC、および資材の確保のため街を探索する。
 4.好戦的なマスター、サーヴァントには注意を払っておく
[備考]
※この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。
※NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。
※この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。
※搬入業者3人に暗示をかけ月海原学園に向かわせました。昼食を学園でとりつつ、情報収集を行うでしょう。
 暗示を受けた3人は遠坂時臣という名を聞くと催眠状態になり質問に正直に答えます。
※今まで得た情報を基に、アサシン(吉良)とランサー(エリザ)について図書館で調べました。
 アサシンは真名には至ってませんが、ランサーは次に調べれば真名を把握できるでしょう。
※アーチャー(エミヤシロウ)については候補となる英霊をかなり絞り込みました。その中には無銘(の基になった人)も居ます。
※アーチャー(アーカード)のパラメーターを確認しました。
※アーカードを死徒ではないかと推測しています。
 そして、そのことにより本人すら気づいていない小さな焦りを感じています。
※NPCから受け取った情報の詳細は、次の書き手に一任します。


【C-7/冬木大橋/二日目・早朝】

【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Staynight】
[状態]身体の右から左に掛けて裂傷(中)、疲労(中)、魔力消費(大)
[装備]実体化した時のための普段着(家主から失敬してきた)
[道具]なし
[思考・状況]
基本:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を
 1.切嗣の元に戻る。見た内容の報告を。
 2.出来れば切嗣とエミヤシロウの関係を知られたくない。
[備考]
※岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。
※エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しました。B-4での戦闘を見てその考えを強めました。
※『殺意の女王(キラークイーン)』が触れて爆弾化したものを解析すればそうと判別できます。ただしアーチャーが直接触れなければわかりません。
※バーサーカー(黒崎一護)の仮面の奥を一瞬目撃しました。
※B-4での戦闘(鬼眼王バーン出現以降)とその顛末を目撃しました。
※C-6での暴動、D-9での戦い、そこから出てきたルーラーとれんげを遠巻きに観察しました。C-6は切嗣を帰すタイミングで把握は半端です。
※アシタカの姿は視認出来ていません。

[共通備考]
※C-7にある民家を拠点にしました。
※家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。
※吉良吉影の姿と宝具『殺意の女王(キラークイーン)』の外観のみ確認しました。
 宝具は触れたものを爆弾にする効果で、恐らくアサシンだろうと推察していますが、吉良がマスターでキラークイーンがサーヴァントだと勘違い。
 ただし吉良の振る舞いには強い疑念をもっています。

14THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:38:38 ID:VW/HurTw0

【C-9/マンション(自宅)/二日目 早朝】

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:健康
[令呪]:残り2画
[装備]:なし
[道具]:今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか
[所持金]:一人暮らしには十分な仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺したくはない。誰にも殺し合いをさせたくない。
1.岸波さんは……
2.岸波白野を探し、聖杯について聞く。
3.少女(れんげ)が心配。
4.聖杯が誤りであると証明し、アキトを説得する。
5.そのために、聖杯戦争について正しく知る。
6.白野の事を、アキトに伝えるかはとりあえず保留。
[備考]
※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。
※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが、あくまで外観的情報です。名前は把握していません。
※カレンから岸波白野の名前を聞きました。
岸波白野が自分のクラスメイトであることを思い出しました。容姿などは覚えていません。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※アキト、アンデルセン陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。なお、彼らのスタンスについて、詳しくは知りません。
※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)のパラメータを確認済み。
※アキトの根城、B-9の天河食堂を知りました。
※シオンについては『エジプトからの交換留学生』と言うことと、容姿、ファーストネームしか知らず、面識もありません。
※岸波白野の家の住所(C-8)と家の電話番号を知りました。
※藤村大河の携帯電話の番号を知りました。
※白野の自宅ポストに名前と連絡付きの手紙を入れてあります。(聖杯戦争に関わる内容は書かれていません)


【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】
[状態]:健康
[令呪]
1. 『聖杯戦争が誤りであると証明できなかった場合、私を殺してください』
[装備]:現代風の服
[道具]:現代風の着替え
[思考・状況]
基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る。
1.早苗を護る。
2.使い魔などの監視者を警戒する。
[備考]
※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※教会の周辺に、複数の魔力を持つモノの気配を感知しました。
※吉良が半径数十メートル内にいることは分かっていますが詳細な位置は把握していません。吉良がアシタカにさらに接近すればはっきりと吉良をサーヴァントと判別できるかもしれません。
※C-6での暴動、D-9での戦い、そこから出てきたルーラーとれんげを遠巻きに観察しました。
※エミヤの姿は視認出来ていません。
[共通備考]
※キャスター(暁美ほむら)、武智乙哉の姿は見ていません。
※キャスター(ヴォルデモート)の工房である、リドルの館の存在に気付いていません。
※リドルの館付近に使い魔はいません。
※『方舟』の『行き止まり』について、確認していません。
※セイバー(オルステッド)、キャスター(シアン)、シオンとそのサーヴァントの存在を把握しました。また、キャスター(シアン)を攻撃した別のサーヴァントが存在する可能性も念頭に置いています。
※キャスター(シアン)はまだ脱落していない可能性も念頭に置いています。

15THE DAWN ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:38:54 ID:VW/HurTw0

【?-?/(HAL配下の家)二日目・早朝】


【テンカワ・アキト@劇場版機動戦艦ナデシコ-Theprinceofdarkness-】
[状態]疲労(大)魔力消費(大)、左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲
[令呪]残り二画
[装備]CZ75B(銃弾残り5発)、CZ75B(銃弾残り16発)、バイザー、マント
[道具]背負い袋(デザートイーグル(銃弾残り8発))
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
1.早苗を――――――
2.五感の異常及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
3.利用されてると分かっていてもHALに協力。
[備考]
※セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
※演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
※ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
※割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
※寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
※D-9墓地にミスマル・ユリカの墓があります。
※アンデルセン、早苗陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。
※美遊が優れた探知能力の使い手であると認識しました。
※児童誘拐、銃刀法違反、殺人、公務執行妨害等の容疑で警察に追われています。
 今後指名手配に発展する可能性もあります。
※HALと協力関係を結びました。適当な配下のNPCの家に匿われています。


【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]ダメージ(中)
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
※警官NPCを殺害した際、姿を他のNPCもしくは参加者に目撃されたかもしれません。

16 ◆HOMU.DM5Ns:2019/01/08(火) 23:40:00 ID:VW/HurTw0
投下終了です。今年も細々とよろしくお願いします

17名無しさん:2019/01/09(水) 23:41:39 ID:0OhwzuoY0
投下乙です!
アキトさん、ついに早苗と決着を着けるのか?

18 ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:48:32 ID:y0KF6vnQ0
お久しぶりです
避難所に仮投下していたものをこちらに投下します

19『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:50:06 ID:y0KF6vnQ0

これはまだ日を跨ぐ前、B-4エリアからバーサーカー、黒崎一護が主の下へ帰還した直後のことだった。



(思っていたほど魔力が枯渇していない?)

令呪の内容を消化し戻ってきた一護の状態、美遊自身のコンディションを一通りチェックして意外な事実に気がついた。
彼は違反行為があったという主従がいる、恐らくは多くの主従が集まってきたであろう激戦区に行っていたはずだ。
それなのに美遊の魔力はほとんど持っていかれておらず、一護も魔力が枯渇ないし枯渇寸前といった様子には見えない。
不可解な出来事に首を傾げるばかりだった。

この時点においてまだサファイアを取り戻していない美遊に視覚共有などという芸当はこなせない。
故に一護が出向いた先で何があったのかは推測する他ないが、いくら何でもロクな戦闘もなくさっさとサーヴァントを斬り伏せて戻ってきたなどと楽観的な思考はしない。
戦闘自体は行ったはず。それも場所がB-4なら超速再生を使わされるような事態も複数回あったと考えて然るべきだ。

(……まさか、バーサーカーの貯蔵魔力だけで乗り切った?)

サファイアはない。しかし美遊の魔力はほとんど使われていない。
だとすればもうこの可能性ぐらいしか考えられない。
考えてみればこれまでの美遊は一護への魔力提供に専念していた。僅かでも魔力不足に陥ることのないよう魔法少女としての機能を全て切って。
そうしていたのは「バーサーカーは消費魔力が他クラスより段違いに多い」という聖杯から齎された基本的な情報が頭に入っていたからだ。
だからテンカワ・アキト(この時点で美遊はガイという名前だと認識していたが)のバーサーカーと戦った時もアキトに取り押さえられる瞬間まで一護への供給は続いていた。
つまりあの時点で一護は彼が保有できる魔力貯蔵量の上限いっぱいまで魔力を溜め込んでいた。

(だとすれば―――戦っていない時の魔力供給さえ怠っていなければ、供給を完全に切っても一回は全力で戦闘ができる!?)

この瞬間、美遊はようやく一護の魔力消費量を過大に見積もり過ぎていたことに気がついた。
あるいは聖杯からの知識を額面通りに受け取りすぎていた。
バーサーカーは殊更に魔力を喰う、マスターに特段の負荷をかけるクラスである。これは事実だ。
またバーサーカーとして現界した黒崎一護は戦闘に大量の魔力消費を要し宝具に至っては令呪の補助なしには使えない。これも事実だ。
しかし―――だからといって最高のコンディションの状態から通常戦闘を一回行った程度で枯渇するほど魔力保有量の少ない、脆弱な英霊では断じてない。



美遊の想像は半分は外れていたが半分は的中していた。
一護はB-4では消滅寸前の槍兵を一息に斃して美遊の下へ帰還したが、B-4に辿り着く前にはアーチャー・エミヤと交戦していた。
数々の投影宝具を用いて的確に一護の弱点を突いたエミヤの奮戦によって一護は何度も超速再生を使わされており、魔力放出じみた飛ぶ斬撃も使用している。
それだけの抵抗を受けた上で、ある程度の魔力を残したまま美遊の下まで戻ってきた。
これは前述の通り事前に魔力を十分に貯め込んでいた故のことでもあるが、もう一つ美遊が知らない理由が存在する。

そもそもサーヴァントというカタチに当てはめ劣化させた状態で現界させているとはいえ、英霊を人間の魔力だけで維持することは極めて困難だ。
それこそ代を重ねた家系の一流の魔術師ですら維持するだけで魔力の大半を持っていかれる。
その問題を解決するため、聖杯戦争の期間中は聖杯がある程度サーヴァントの現界維持に必要な魔力を肩代わりしている。
とはいえここまでしても魔力を持たない一般人ではサーヴァントを運用することは難しい。
通常戦闘を行うだけでも数日に渡る魂喰いを必要としたケースも存在するほどだ。

20『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:50:52 ID:y0KF6vnQ0

だがこの聖杯戦争では一般人のマスターが多数参加しているにも関わらず、魂喰いによらずある程度の継戦を行えたサーヴァントが複数いる。
ニンジャスレイヤーなどはその最たる例だろう。単独行動のスキルを持つとはいえマスターを失った後ですら複数回に渡る戦闘行為を行えていた。

何故このような現象が起きたのか。その答えは聖杯がサーヴァントに対して働きかけるバックアップの差にある。
もとより魔術的資質の有無を問わずゴフェルの木片を持つ者を無作為にマスターを招集したのがこの聖杯戦争だ。
そのため通常の聖杯戦争よりも聖杯がサーヴァントを維持するバックアップが大幅に強くなっているのである。
この通常以上の聖杯によるサーヴァントへのバックアップは当然一護にも働いていた。
こうした要因もあってそれなりの余力を残したまま令呪の命令を消化して帰還することができたのだった。




(もしそうだとしたら、わたしがそうと気づいていなかっただけで、使える手札は無限に広がる!)

例えば今までの美遊がやっていたのは、携帯端末やポータブルゲーム機のバッテリーを常に最大に保つようなものだ。
当たり前だがその状態で充電し続けても大した意味はない。よほどバッテリーが摩耗していない限り充電をやめて即バッテリー切れなんて事態にはなり得ないからだ。
つまり今までしていたのはそういう類の、安全策ではあるが無駄が多すぎる行為だったということだ。

であれば、一護をを戦闘させながらにしてカレイドの魔法少女、そのフルパワーを敵マスターにぶつける戦術が成立することになる。
何より、短時間であれ魔力供給を行わなくて良い時間が発生するのであれば美遊自身の戦力でも最大の切り札の運用が現実的になる。

セイバー、アーサー王の力を宿したクラスカード、その宝具の名は『約束された勝利の剣』。
聖剣というカテゴリーでも最強の一角たる宝具の真名解放が可能になる。
「今回はバーサーカーへの魔力供給も行わなければいけないため、真名解放は無理だろう。」。これは一面の事実ではあるし、つい先刻まで美遊もそう確信していた。
しかし、全ては考え方一つだったのだ。想像と発想一つで出来ることと可能性は増える。
とはいえ使えても一度の戦闘につき一度きり、使えば数時間はカードの再使用は不可になりおまけに一瞬とはいえ転身そのものが解けるリスクもある。
特に転身解除がどれだけ致命的な隙かは、夕方の戦闘を思い返せば火を見るよりも明らかではある。

だが手段を「使える」と「使えない」のとでは天と地の差がある。
今思いついた供給をカットした戦術にしても戦闘が長引いたり、敵が予想外の手を使ってきたら容易く破られ得る。
その逆に当初やっていた魔力供給に全てのリソースを使うやり方もそれ自体が全てにおいて駄目だったのではなく、それ一つだけを押し通そうとしたから負けたのだ。
また少し前に考えた魔術回路をフル稼働させて魔力供給と魔法少女の機能を両立する策も魔術回路への過剰な負荷というデメリットは厳然として存在する。もちろんいざという時には回路が焼け付くことも辞さないが。
重要なのは己に出来ることと出来ないことを把握することと、実戦での判断・取捨選択を誤らないことだ。

先ほどのアキトとの戦闘を例に出せばわかりやすい。
この時点での美遊からすれば名称すらわからない転移術の使い手に一本調子の攻めが通じるほど甘くはない。
あの奇襲に確実に反応し、かつ返す刀で仕留めるならクラスカード・セイバーの夢幻召喚が必要だ。
しかしあの転移術の発動条件や予備動作の有無によってはそれすら容易ではない。
……そうなれば、やはり令呪を用いた一撃必殺の奇襲攻撃に活路を見出す他ないか。


(でも、結局サファイアとクラスカードが手元にないことには始まらない)

…と、色々と考えてはみたものの、全てはサファイアとカードを取り戻せてからの話だ。
残念ながら今必要なのはサファイアを使った運用ではなく彼女を取り戻すための策を考えることだ。
そのためなら二画目の令呪を使うことだって辞さない。まずは港に行く、全てはそれからだ。



―――そんな、相棒と再会する少し前の出来事だった。

21『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:51:35 ID:y0KF6vnQ0






  ◆   ◆   ◆





間もなく夜が明けんとする空を少女と死神が駆けてゆく。
新都から深山町へと向かう中、カレイドステッキ・マジカルサファイアは思考を巡らせていた。

(これで……このままで良いのでしょうか)

聖杯戦争が本格的に始まって一日経過し、とりあえず美遊は五体満足で生存している。
テンカワ・アキトに不覚を取りはしたものの、結果的には令呪一画の損失で済み相手にも社会的な損害を強いることに成功した。
テンカワ・アキトとホシノ・ルリ以外のマスターに関してはほぼ情報が無いというのが大きなネックではあるが、それは今後の立ち回り次第で補えないこともない。
何よりサファイアが安堵しているのは、今のところ美遊が直接人間を殺す事態にはなっていないことだ。

……詭弁に過ぎないことはわかっている。
聖杯戦争では契約サーヴァントの死はマスターの死。つまりサーヴァントの撃破は実質的なマスターの殺害だ。
美遊、一護、そしてサファイアは予選で一騎、昨日に一騎サーヴァントを討ち取っている。
であれば見えないところでマスターもアークセルによって消去されているはずだ。
つまり殺人という大きな一線は既に越えてしまっており、その事実にいつまでも目を向けないほど美遊が鈍感でないことも知っている。
あるいは既に自覚してしまっているからこそ優勝狙いへと舵を取るようになったのかもしれない。

そこまでのことを重々承知していながらも、やはり生きた人間に対して直接手を下すような真似はさせたくないと思わずにいられない。
けれど現実はどこまでも非情で、サファイアが美遊にさせたくないことはこの世界で生き残るにあたって必要不可欠なことでもある。
生還できるのは最後まで残った一組のみ。この殺し合いを勝ち抜くことでしか元の世界に帰る道はない。
敵対陣営を倒すにあたってより確実なのはサーヴァントよりマスターを狙うことであり、現に美遊もマスター狙いの攻撃をされたことがある。
そして美遊には敵マスターを屠るに足るだけの力がある。それが幸か不幸かサファイアには判じ得ない。



『美遊様、先ほどのことですが』
「何?」
『本当にこれからは美遊様も戦闘に参加するのですか?』



テンカワ・アキトを策に嵌めてから少し後、美遊はこれから先「全員で戦う」ことについての具体案を出してきた。
これまでの一護に戦闘の全てを任せるスタイルを改めてカレイドの魔法少女の力を出していくと。
状況に応じて一護への供給を行いつつ余剰魔力で魔法少女の能力も護身に使う、魔術回路をフル稼働させるスタイル。
それに加えて予め一護の魔力保有量の限度まで魔力を蓄えさせたという前提で、戦闘中の一護への供給をカットし魔法少女の機能を全開にする、普段の戦い方に限りなく近いスタイル。

確かに可能ではあるだろう。
美遊と合流した際も美遊、一護ともに魔力量には余裕があったことを覚えている。
というより、サファイアは当初から気づいてはいたのだ。
そも並行世界からの無限の魔力供給機能を統括しているのはサファイアだ。どこにどの程度魔力が割かれているかなど当然熟知している。
知った上で、魔力運用次第で戦闘に魔力を割く余裕があることを敢えて黙っていた。
全ては美遊が直接戦わずに済めば、という祈り、あるいは願望から来る思いだった。

カレイドの魔法少女の力は元々クラスカード回収、つまり黒化し現象に劣化したとはいえサーヴァントを相手取ることを前提としたものだ。
正規のサーヴァントには及ばないとは言ってもマスター、人間を基準にすれば圧倒的にも程がある性能であることも事実だ。
加えて夢幻召喚は一時的とはいえ英霊の力を借り受ける絶技であり、敵からすればサーヴァントが二体になるようなもの。

そんなマスターが聖杯戦争の序盤から猛威を奮えばどうなる。
恐れられ、警戒され、全方位から攻撃を受けるか常にアサシンによる暗殺を狙われることは目に見えていた。
ならば本来出せる力を眠らせたままにしておき、ただのバーサーカーのマスターと認識してもらう方がまだしも都合が良い、と判断した。

22『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:52:34 ID:y0KF6vnQ0



「うん。バーサーカーの力押しは確かに強いけどそれ一本じゃ簡単には押し切れない。
わたしたちも戦ってバーサーカーを援護しないと勝てるものも勝てない。
それにマスター狙いの攻撃も多いから守りを固めておくのは大事」
『……そう、ですね』



だがそれでどうなった。
まんまとテンカワ・アキトの術中に嵌り敗北したではないか。
あの敗戦にしてもたまたまアキトに美遊を利用する目論見があったから首の皮一枚繋がっただけで本来なら死んでいる。
美遊がさしたる力を持たない子供のように振る舞おうとも聖杯戦争という現実は誤魔化せやしない。
力を見せつけようがそうでなかろうが他の主従は当然のセオリーとしてマスター狙いを実行してくる。

であれば最早能力の出し惜しみなどしていられる状況ではない。
本気を出し惜しんだまま殺されるようならそんな本気は存在しないも同然だ。
畏怖されようと警戒を招こうと持てる力を出し切らねば生き残ることはできない。

(ホシノ・ルリ……私は貴方が恨めしい)

もし、もしもここに至るまでのどこかで美遊を預けるに足る信頼できるマスターがいたならば。
殺し合いに乗らずに月からの脱出、ないしは聖杯戦争の打破を目的とするような善良な誰かと出会えていれば。
美遊が優勝を目指す意志を固めてしまう事態を避けることができたのかもしれない。

だが結果としてそうはならなかった。
美遊の幼稚園児以下の対人折衝能力も要因の一つではあっただろう。
少なくともアンデルセンから早々に逃げ出したことやアキトに令呪を使わされたことに関してはこちらにも明確な非があった。
しかし彼女―――ホシノ・ルリだけは違った。





  ◆   ◆   ◆





―――その可能性は予想できていたことだったが、しかし出来ることなら的中してほしくはなかった。


「出来れば───貴女が知っていることを、話してもらえないでしょうか」


昨日の午後から夕刻に差し掛かるあたりの頃、交戦の意思はないと言いながら美遊の前に現れた警察官らしき女性、ホシノ・ルリ。
彼女との対話には常に緊張感が漂っていた。とりわけ美遊の警戒心は過剰なまでに高まっており、あるいはルリは美遊のそういう態度に思うところがあったのかもしれない。

だがサーヴァントを連れたマスターがマスターとして交渉に臨む以上互いが臨戦態勢を取るのは至極当然の話だろう。
あくまで日常の延長で、表向きでも一人の神父として美遊に関わったアンデルセンの時とは会話をする上での前提が違う。
ましてやあの場所はサーヴァント同士が戦闘を行う上で騒ぎになりにくい絶好のロケーションだった。
これで騙し討ちを警戒されないとでも思っていたのだろうか?

会話をしていても、美遊の警戒心が高まるのも無理はない胡散臭さだった。
聖杯に関してルリも考えるところがあったのだろうが、それにしても脱出するつもりなどと嘯きながらその実具体的なことに関しては何一つ触れようとしなかった。
また話し方も美遊から一方的に情報を引き出そうとカマをかけているのがサファイアから見ても手に取るようにわかった。
もっともルリからすればサファイアが聞いていることなど想定していなかっただろうから当然の話ではあるが。

だからその瞬間にも顔色一つ変えずに対処できた。
美遊が月の聖杯の実在について言及していたその時の出来事だった。
ルリの合図とともにライダーが腰に装備していた銃を美遊目掛けて発砲してきたのだった。
……事前にライダーが一瞬銃に目線を向けたことを念話で美遊に知らせておいて正解だった。
おかげで美遊も取り乱すことなくルリの仕掛けた暗殺に対処することができたのだった。

あるいは、ルリも美遊に何某かの警戒の念を抱いたが故の行動だった可能性もないではない。
実際美遊はあの時点で聖杯を獲る方向に心が傾いていたのでそこを感じ取ったのかもしれない。
だが、だとしてもあの程度のことで会話を放棄しサーヴァントに銃を撃たせるようなマスターではどちらにせよ美遊を預けるに足る人間ではあるまい。
あちらから持ち掛けた会話であればなおさらだ。

23『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:53:20 ID:y0KF6vnQ0



「正直、あそこで撃たれるとは思ってなかった」
「確かにわたしはあの時から聖杯戦争に乗り気になった。でもだからといってあの場でいきなりあの人を殺そうとしたわけじゃない。
第一、まだ彼女からほとんど何の情報も聞けてなかったのにそんなことをする意味がないし論理的に破綻してる。…信じて、サファイア」



ルリとの戦闘を終えたすぐ後、当然サファイアは美遊に真意を問うた。
美遊が他者に過剰なまでの警戒心を抱いていることはわかっていた故に、もしや本当にルリに殺意を向けていたのではないかという疑念もあったからだ。
しかしやはりというべきか、論理を重んじる傾向にある美遊だからこそあの場では警戒心や敵意はあっても行動に移すほど軽率ではなかった。
真に軽率と謗られるべきはやはりあのホシノ・ルリだった。幼子相手に一方的に情報を聞き出して用が済めば即射殺に移るとは。

一応、ルリとの会話から戦闘、そして美遊たちが戦域から離脱するまでの流れはサファイア自身の機能によって動画として録画・保存してある。
これは姉妹機であるマジカルルビーに搭載されているものと同じものだ。
元よりカレイドステッキはクラスカードを回収するために貸し出されたものであり、その記録を得るために有用な機能が同型機のサファイアに搭載されていないはずもない。
とはいえ今となっては戦闘の記録を確認する以外に用途があるとは思えないが。
いや、今の美遊と対話が成立して、かつ記録した映像を見て美遊に同情を示してくれるような都合の良いマスターでもいれば別なのだろうが、そんな者はいないだろう。

ともかく、ホシノ・ルリに関しては脱出を目指しているという言が虚であれ実であれ危険人物であることに疑いを挟む余地はない。
仮に脱出目的だとしてもその過程で他人の命について斟酌するとは到底考えにくい。
加えて彼女は方舟において警察機構に属している人間だ。美遊とサファイアで起こした先ほどの事件についても把握しているかもしれない。
テンカワ・アキトが陥れられた可能性に気づくことも有り得る。十分に注意が必要だ。





  ◆   ◆   ◆




思案しているうちに、新都と深山町を分けるちょうど境目まで出ていた。
今美遊たちがいるのはA-7、冬木市の最北端の上空を飛行して一日ぶりに深山町エリアへと戻ろうとしていた。
何故このような場所を通ることを選んだのか。その理由は冬木大橋にあった。
地理の関係上陸路で深山町と新都を行き来するには必ず大橋を通ることになる。
つまり現在アキトを追っているはずの警察NPCたちも深山町へ逃げ込まれる前に犯人を確保するために大橋で張り込んでいる可能性が高かった。
そこにノコノコと美遊が通りがかればたちまちのうちに補導、あるいは保護されてしまうだろう。どちらにせよ警察のお世話になるわけにはいかない。
さらに大橋が交通の要所であることを考慮すれば、時間帯も相まってアーチャークラスのサーヴァントが待ち伏せをしているであろうことは想像に難くない。
故に美遊は日が昇る前に空路で、冬木市の北端から深山町へと向かうのだ。
美遊自身も転身して空を飛んで、正確には「跳んで」いけば万一敵の狙撃があったとしても一護共々即応することができる。

「攻撃は……来ない?」
『そのようですね。とりあえずは無事に深山町側に入れたようです』

しかし結果としては杞憂に終わった。
少なくとも結果としては美遊たちが敵サーヴァントの狙撃を受けることはなかった。
一つ引っかかるのは一護が大橋の方を注視していたことだ。
こちらの探知では探り切れない距離の敵が彼には見えていたのだろうか?

「とにかく隠れられる場所を探そう」

24『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:53:58 ID:y0KF6vnQ0

深山町に戻ってきたのはあくまで警察の捜索から逃れるためであって、エーデルフェルト邸に戻るつもりはない。
ルヴィアに心配をかけているであろうことは心苦しいが、だからといってNPCである彼女を聖杯戦争に巻き込むわけにはいかない。
そのため深山町で、日が昇りきる前に人目を避けて休息できる一時の拠点を求めていた。
空を飛んで移動するにも明るい時間帯は目立つリスクが増すためそう簡単には使えない。

美遊が降り立った場所はA-3、空路で一気に移動できる美遊の陣営にとって距離の長さは問題とならない。
通行人がいないこともあり、不意の敵襲に備えることを優先して転身は維持したまま周囲の探索を始めた。
何しろこのエリアは本選開始後はもちろん予選時代にも美遊の行動範囲から外れていたため訪れたことがない。警戒するのは当然だった。

「ここ、は……」
『美遊様?』

けれど、美遊はこの周辺の風景に奇妙な既視感を覚えた。
理由はわからない。けれどわたしは此処を知っている。知っている気がする。
知らず、サファイアの制止も無視して駆けだしていた。



「――――――」



そして見つけた。見つけてしまった。
のどかな住宅街の風景から置いていかれたように建つ、寂れた武家屋敷を。
打ち棄てられて時間が経っているのか、外からも朽ちかけているのがわかる。
表札は掲げられていない。誰も住んでいないのだろう。

『美遊様、一体どうしたのですか?』

相棒の声も耳に入ることはなく、そのまま邸内に進入する。
玄関、風呂場、台所、居間、客間……忘れ得ぬ日々の思い出を拾い集めようとするかの如く屋敷を巡っていく。
美遊・エーデルフェルト、いや、朔月美遊にとってこの武家屋敷は人生の多くを過ごした家だった。
美遊には衛宮切嗣に拾われる以前、生家である朔月家で過ごしていた頃の記憶が殆どない。
だから此処は彼女にとってのもう一つの生家だった。

いつしか、庭と土蔵を見渡せる縁側に足を運んでいた。
今でも鮮明に思い出せる。美遊と士郎が本当に兄妹になった夜のことを。
思い出せるのに、目の前にあるのはただの寂れ、朽ちた屋敷だった。隙間風だけが空しく通り過ぎていく。

水滴が落ちた。美遊の頬から零れ落ちた涙だった。
次いで堪えきれず膝から崩れ落ちた。サファイアの声も届かず、ただ嗚咽を漏らす。

この箱庭に兄・衛宮士郎は存在しない。
それは予選時代に学園の高等部に彼らしき生徒を見ないことやルヴィアからも一切話題に出ないことから察してはいた。
だから住人のいないこの寂れた武家屋敷は「衛宮士郎が存在しないifの世界」を再現したのであれば当然あり得る存在だ。頭ではわかっている。

けれど、美遊にとってこの光景はそれ以上の意味を持っていた。
過程こそわからないが、恐らく美遊の兄である士郎は何らかの方法でクラスカードを集めて自分の下まで辿り着いた。
そうしてイリヤのいる並行世界へ送り出してくれた。……けれど兄はその後どうなったのか?

出来るだけ考えないようにしていたことだった。
最愛の兄の願いに応えるためにも今を精一杯に、幸せに生きる。その思いを胸に新たな世界で生きてきた。
けれど、見たくもなかった現実を予想だにしていなかった形で突きつけられた。
恐らくエインズワースの本拠だったであろうあの洞穴に乗り込んで美遊を逃がした兄が無事でいられるだろうか?
そんなわけがない。当然、もう帰ることのない元の世界の武家屋敷だっていずれはこの方舟によって再現されたこの場所のように朽ちていくのだ。

いや、それだけでは済まない。
元より美遊のいた世界は滅びに向かって進んでいた。
命と引き換えに世界を救済するはずだった美遊が消えた以上、いずれは世界全てがこの武家屋敷のように朽ち果てるのみ。
誰かを救うということは他の誰かを救わないということで、美遊が救われたということは他の全てが救われなかったということだ。

25『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:54:38 ID:y0KF6vnQ0



サファイアはただ困惑していた。
美遊がこの屋敷を見るや迷わず中に入っていってしまい、そして理由は不明だが今はこちらの呼びかけも耳に入らずただ泣いていた。
サファイアは美遊の過去を知らない。別段無理に詮索する必要もないと思っていたから。
しかし今の美遊の様子を見ればこの屋敷が美遊の過去と密接に繋がっていることは間違いない。
ただでさえ命の懸かった極限状況だというのにタイミングが悪すぎる。

『美遊様、美遊様!しっかりしてください!』
「あ、サファイア……?ごめん、わたし……」

ようやく返事を返してくれたが酷く憔悴した目をしている。
駄目だ。美遊当人に自覚があるかは定かでないがこの有り様ではとても戦うどころではない。
今他の主従に捕捉されるようなことがあっては不味い。とにかく隠れられる場所が今すぐ必要だ。

『美遊様、向こうに土蔵があります。ひとまずはあそこに隠れて警察の捜索をやり過ごしましょう』

幸いにしてこの屋敷の庭には人一人が隠れるにはうってつけの土蔵がある。
サファイアの提案に美遊は無言で頷き土蔵に移動、戸を閉めて座り込んだ。
もしかするとこの屋敷そのものから離れた方が良いのかもしれないが、サファイアにはこの屋敷と美遊の具体的な関係性がわからないため迂闊なことは言えない。

「…ありがとう、サファイア。ここなら多分大丈夫。
ここに目を向ける人は誰もいないから」



膝を抱えて座り込む。ようやく涙も止まり、思考力が戻ってきた。
霊体化しているが一護の存在も確かに感じられる。気遣ってくれていると思うのは考え過ぎだろうか。
図らずもここは当座の拠点とするにはうってつけだった。食糧や飲料水は十分あるし、他の主従はもちろんNPCもここに目を向けることはない。
唯一サーヴァントの気配を察知される可能性だけが気がかりではあるが、そんなリスクは何処にいようと付きまとうので仕方ない。
警察にしても深山町まで範囲を広げて捜索するのはまだまだ先の話になるはずだ。

一息ついてさらに思考を巡らせる。
やるべきことは明確だ。いや、この場所を訪れたことで明確になった、といった方が近いか。
―――聖杯を獲る。獲らなければならない。
方舟における聖杯が有機物であれ無機物であれ確かに願望器としての機能を有するのであれば真贋は問わない。
聖杯を手に入れ置き去りにしてしまった元の世界を救う。
自分が犠牲にならない限り不可能とされていた奇跡が手を伸ばせば届くところにある。
なら手に入れよう。きっとそれが救われてしまった者の義務であり責任だから。
そうすれば、あるいは兄もどこかで生きてくれていれば、救うことができる。



―――“自分”らしく付き合える人かな。面倒なこと考えず、素のままの“自分”で会える人。
―――そうだな――兄貴みたいな人だったよ、あたしにとってみれば。



「………っ!」

決意を固める。固めようとしているのに先ほど新都で言葉を交わしたあの女性の言葉が頭の中でリフレインする。
誰かは知らない。恐らくNPCだとは思うがそれでもあの女性の言葉が焼き付いて離れない。
聖杯を獲らなければならない以上、当然彼女の言葉だって振り払わなければならなというのに。

彼女はテンカワ・アキトを兄のようだと言った。
冷徹で勝機に貪欲なあの男にそんな一面があるなどとは信じ難い話だったが、女性が嘘をついていたとも思えない。
願いのために誰かを殺すということは、つまり他の誰かにとっての大切な人を奪う行為だ。
もしかするとあのホシノ・ルリにさえ彼女を大切に想う誰かがいるとでもいうのだろうか。
ピンとこないのは自分の人生経験が足りないせいだろうか?

26『ただいま』はまだ言えない ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:55:31 ID:y0KF6vnQ0

(……もしそうだとしても、関係ない)

そうだ。躊躇したところで聖杯戦争のルールが変わることは有り得ない。
何より自分は既に顔も知らない誰かを殺している。
予選でバーサーカーが斃したランサーにアキトに強要された令呪によってB-4へ向かったバーサーカーが討ったサーヴァント。
彼らにもマスターがいて、契約したサーヴァントを失った以上はマスターもとうに死んでいる。
直接顔を見ず、手を下さなかったというだけでわたしは既に殺人者だ。
ここで足踏みをして聖杯を手に入れられないなどということがあっては、自らが出してしまった犠牲が無駄になる。
だから進み続ける。それこそが唯一最良の道だから。
世界と兄の二つと天秤にかけるなら、わたしの個人的な感傷の何と軽いことか。

幸いにして見習うべきマスターがいる。
ホシノ・ルリ。あの女性の氷のような怜悧な眼差しは忘れようとしても忘れられるものではない。
彼女のライダーに撃たれた時は自分でもよくポーカーフェイスを保てたものだと思う。もちろんバーサーカーを信じていたこともあるが。
わたしに会話を持ち掛け必要な情報を得るや即座に始末に移ったあの冷徹さ、残忍さこそ今のわたしに必要なものに違いない。

彼女が善人か悪人かで言えば紛れもなく悪人だろう。しかも警察に属する以上その情報網さえも活用できる強敵だ。
だからこそ見習うべき点が多い。目的のためなら何であれ利用し何であれ切り捨て前に進む柔軟な思考力と意志力こそ重要なのだと彼女が示している。
その一点についてだけは、彼女との邂逅に感謝すべきかもしれない。おかげで進むべき道が定まった。

とはいえやはり危険な存在には違いない。
警察の情報網があるということは、戦いが長引くほど多くの情報が手に入る彼女が有利になることを意味する。
どこかで居場所の手掛かりを掴んで早めに倒したいところだ。
…そうなるとサファイアが言っていた、アキトの独り言の中に出たサナエなるマスターと接触を図るのが得策かもしれない。
アキトはサナエを指して自分のような子供を保護すると言い出してもおかしくないと口にしたという。
当然サファイアの自律行動機能を知らないアキトにとっては正真正銘の独り言だっただろう。だからこそ信じる価値がある。
サナエを利用すれば早期にホシノ・ルリを討伐する目途が立つかもしれない。

ともあれ今は雌伏の時だ。
今からの時間帯は登校、出勤で人通りが多くなるので出歩くのは上手くない。
登校の時間帯を過ぎて人通りが少なくなるまではこの土蔵でやり過ごすことにした。

「聖杯に辿り着く。辿り着かなくちゃ、いけない。誰を犠牲にしても、絶対に」

自身に言い聞かせるように呟き、固く膝を抱いた。
外はもう陽が昇る頃だけれど、この土蔵からはそれも見えなさそうだった。



【A-3 武家屋敷の土蔵/二日目 早朝】
【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]健康、他者に対しての過剰な不信感 、魔法少女に転身中
[令呪]残り二画
[装備]普段着、カレイドステッキ・マジカルサファイア
[道具]バッグ(衣類、非常食一式、クラスカード・セイバー)
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟の聖杯』を求める。
0.登校、出勤の時間帯を過ぎるまで土蔵に潜伏する。
1.全員で戦う。どれだけ傷つこうともう迷わない。
2.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。
3.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
4.ホシノ・ルリは早めに倒す。そのためにサファイアから聞いたサナエというマスターを利用したい。
5. 今後は武家屋敷を拠点にして活動する。
[備考]
※アンデルセン陣営を危険と判断しました。
※ライダー、バーサーカーのパラメータを確認しました。
※搦め手を使った戦い方を学習しました。
また少しだけ思考が柔軟になったようです。
※テンカワ・アキトの本名を把握しました。
※サファイアを通じて「サナエ」という名のアーチャーのマスターがいると認識しています。
※アキトの使う転移の名称が「ボソンジャンプ」であると把握しました。
※ホシノ・ルリを悪人かつ危険人物と認識しています。また出会った際の会話や戦闘をサファイアが動画として撮影・保存しています。

【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態] 健康、不機嫌
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を護る
0.美遊を護る。
1.危険な行動を取った美遊への若干の怒りと強い心配。
[備考]
※エミヤの霊圧を認識しました

27 ◆/D9m1nBjFU:2019/03/15(金) 05:59:07 ID:y0KF6vnQ0
投下終了です
蛇足とは思いますが、避難所で特に反応がなかったので踏み込んだ描写の多い本SSについての私自身の見解をこちらにも記載しておきます

サーヴァントに対する聖杯のバックアップについては、一般人マスターのサーヴァントが描写上かなり動けていることに対する私なりの理由付けです
無論これはリレーを重視したことによって生じたことではありますが、今後も視野に入れてざっくりとでも何か作中における理由付けを行った方が気兼ねなくキャラを動かせるのではないかと考えました

次に上記の聖杯のバックアップに伴う美遊組への恩恵ですが、これは過去のリレーにおける美遊組の魔力消費に関する描写を参考にして描写しました
「サツバツ・ナイト・バイ・ナイト」で美遊がアキトにサファイアを奪われてから令呪で一護をB-4へ差し向けてから「少女時代「Not Alone」」で美遊の下まで帰還するまでの状態表において美遊が魔力消耗(小)のまま変化なし、一護が健康→魔力消耗(中)となっています
本SSにおける美遊の戦闘時における魔力消費の考察全般はこのリレー内容を基に私なりに作中に反映したものです
過去、議論スレで美遊と一護の魔力消費について議論があったことは承知しておりますが、本SSの内容が私なりの解釈となります

またサファイアに動画撮影・保存機能があると描写しましたが、原作ではこの機能はルビーの方にのみ確認されており、サファイアに同じ機能があるか否かは明言されておりません
故に本SSにおける描写は多分に独自解釈が含まれます
ただ私の解釈として、カレイドステッキがクラスカードの回収を目的として貸し出された以上戦闘の記録を保存するためにこうした機能があった方が自然ではないかと判断しました
少なくとも姉のルビーにある以上サファイアにはないと考える方がむしろ不自然ではないかと(ルビーの動画撮影機能も基本ギャグでしか使われていませんが)

最後に美遊、サファイアによるルリへの評価ですが、これは「近似値」において美遊とルリの会話から戦闘を経て美遊と一護が離脱するまでの間が一貫してキリコ視点でのみ描かれていたことを踏まえた上での同シーンでの美遊側の心情描写の補完となります
あくまでも「美遊とサファイアからはルリとキリコがこう見えていた」という程度の意味合いであり彼女たちのバイアスが強くかかったルリ評となります

長文失礼しました
皆様のご意見、感想等をお待ちしております

28 ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:31:27 ID:mzedvCtc0
投下乙です。孤独じゃないとしても、ひとりぼっちはこういう時さびしいな……
聖杯バックアップ説、魔力のないマスターが運用できる理由付けにもなっていいと思います

それではこちらも投下の準備をします

29グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:35:16 ID:mzedvCtc0



「うわっさぶっ」

正門を出たところで、思わぬ北風に身を強張らせる。
山の方は寒くなるとはいうが、この私服で早朝だとやや薄着だったかもしれない。
そういや、今は何月だったか。聖杯戦争の時の為の舞台でも季節は巡るのだろうか。
肌着のみでは寒いが厚着するほどでもない、オシャレのしやすい気候だとするとだいたい春ぐらいだろうか。
などと、どうでもいいことを乙哉は考えてみる。

「お〜お日さまきれーい!」

地平線から覗く曙光に目を細める。
手を広げて全身で受け止めると体も暖まってきた。
日の出とはいかないが中々の景色である。これを見れただけでも寺に来た価値はまあまああったかもしれない。
もちろん本命の目的も忘れてはいない。寺にいるとされるマスターとの接触、それが第一。
珍しい精進料理を食べて、ちょっと豪華なお風呂に入って、畳の上の敷布団で眠って。
総評して、いい気分転換になった。我慢が多く溜まっていたストレスの解消も出来た。
結果は上々。乙哉は階段前で振り返って、見送りに来てくれた尼僧に軽くお辞儀をした。

「それじゃあ、泊めてくれてありがとうございました、白蓮さんっ」

紫と亜麻の鮮やかなグラデーションヘアの住職は柔らかに微笑む。

「こちらこそ。お話を聞かせてくれてありがとう乙哉ちゃん」

僧が髪を染めてもいいのだろうかと疑問を抱かないでもない乙哉だが、楚々とした所作は驚くほど寺に馴染んでいて、そういった違和感を霧散させている。

「えー?学校の話なんて退屈じゃないですかー」
「いいえ。とても充実しましたよ。あまりお寺から出る事もないので、若い子お話を聞くのはとても新鮮ですもの」
「あはは、白蓮さんだって全然若いですよ。制服とか着ても意外とイケますって、きっと!」
「あらやだ、おばあちゃまをからかうものじゃありません」

一夜泊まっただけの短い間とは思えない、慣れ親しんだ会話。
乙哉も社交性は高い方だし、白蓮も柔和な性格だ。夜の会話は予想外に弾み距離はすぐさま縮まった。


乙哉から見ても、白蓮という女性は不思議だった。
妙齢には違いないのだが、ごく普通の仕草や佇まいが時折、青春の色を帯びる少女のようにも見せる。
いま言ったように服装と、肌にぴったりと纏った徳ともいうべき雰囲気さえ取り払えば、大人びた十代にも映るだろう。
―――残念な事に、想像してみても乙哉の性癖に反応はしないが。
乙哉としてはもっと無垢で、世の穢れなど知りもしない幼気な少女性が欲しいのだ。


「ところで……これから学校、へ向かうのですか?」

白蓮からかけられた言葉に、顔を出しかけた本性を引っ込めた。
今はまだ、欲望を曝け出す時じゃない。

「そうですよ。結局休講の知らせ来てないし」
「休む……というわけには、いかないのでしょうか」

うつむき加減での白蓮の言葉は、乙哉の身の上からするとあまりにも魅力的に聴こえた。

30グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:36:46 ID:mzedvCtc0

「やっぱそう思いますよねー!爆発事故とかあって、ガラスとか割れて危ないんだし休んじゃえばいいのに!」

乙哉は割と本音混じりで食いついて同意した。
元々勉学は億劫だ。
ひとつのそう大きくもない部屋に何十人も詰め込めて、座った席から離れることも許さずに。
その上こちらの睡魔を誘う言葉ばかりを五十分間延々と聞かせ続けた挙句、眠ってしまえば怒られる。
これはもう、ひとつの拷問だ。監獄での囚人生活となんら変わりない。

「でも行かなきゃなんですよね。単位ちょっと危ないし、先生達もうるさいし」

それになにより寒河江春紀がいる。
彼女がいるだろう生徒のマスターに、自分の情報を流している可能性を思えば行きたいと思えるはずもない。
しかし行かなければ本当にマスターだと確定してしまう。苦渋の決断だ。
この寺に来たのも、その時の為の保険の一環。

「……そうですか。勉学は大事、ええ、その通りです」

そうして話をした聖白蓮というマスターは、やはり『良い人』だった。
善人。聖職者。そういう想像通りの人。
乙哉が殺人鬼だと言われても疑わず庇ってくれる存在。
自分がマスターだとバレてしまっても、猶予の時ぐらいは与えてくれる関係。
いざという時のセーフティは、あればあるだけあった方がいい。
最悪の可能性が実現した場合には、ここは頼れる駆け込み寺になってくれるだろう。寺だけに。

だが大前提に、マスター同士は殺し合うのがルールだ。
白蓮も最終的には他人を排し聖杯を目指す競争相手。
弱みは、見せないに越したことはない。

「改めて、ありがとうございますっ。今度お礼しますから、また来てもいいですか?」
「お気持ちだけ有り難く戴きます。僧たるもの子供からお布施を受け取るわけにも生きません。
 遊びたいざかりなのもわかるけれど、羽目を外しすぎないようにね?」
「はーい、行ってきまーす!一成君にもありがとうって伝えておいてくださーい!」

まるで家で見送る母親に返事する子供のようなやり取りで。
手を振って階段を足早に降りていく乙哉の姿が、境内から完全に見えなくなるまで遠ざかったところで、白蓮は漸く送る手を降ろした。

肝試しに妙蓮寺に来た少女、武智乙哉。
明るい性格で、魔力妖力の気配も感じない、変哲のない少女。
学校の話。友達の話。
用意させた食事の折に、他愛のない世間話を幾つも聞いた。
どれも平凡であり、愛すべき平穏と暖かさな日常の欠片だった。
だからこそ、そこに紛れた『不純』は拭いきれない異物感となって現実に染みを残す。


「学校……ですか」

夕方に起きた爆発事故。
突如現れた蟲の大群。
行方不明になってる生徒。
明らかな異常事態には、サーヴァントによる戦いが見え隠れしている。
白蓮の、そしてセイバーの知られざる苦悩をよそにして、聖杯戦争は進行している。

月海原学園の様相は、唯一握っている聖杯戦争絡みの情報だ。
いつまでものらりくらりと茶をしばいてる猶予はない。かといって、まさか住職の身で学園の門を叩くわけにもいくまい。
寺での教えと学び舎の教えの種類が違う事くらいは、世に疎い白蓮にもわかっている。
だがもし、あの場で再び戦火が起ころうとした時は。
そこに無辜の生徒、何も知らぬ子供が巻き込まれようというのであれば。
社会の戒律に反してでも、峠を超えねばならなくなるのかもしれない。

31グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:38:20 ID:mzedvCtc0


勇者と魔王の相克。
ロトを尖端にして永遠に回り続ける螺旋を解く答えは未だ見えていない。
白蓮との問答で示された『ロトの勇気』が、どのような道を指すのか定かではない。
だが見えざる運命の糸は蒼穹の勇者の意思に関わらず、魔王の『器』が集う舞台へと誘い、巻き取ろうとしている。

英霊の本懐。
民衆の誰もが希望を灯し、心躍らせる神話の御伽噺の『再現』。
勇者と魔王の物語。
少しずつ、開戦のシナリオはお膳立てされつつある事を、白蓮もロトもまだ知らない。






下界と山門を繋ぐ長い階段の最後に足を着け、念の為に敷地から完全に出たところで、乙哉は潜み続けていたサーヴァントに声をかけた。

「アサシーン、もう出てきていいよー」

肉声で伝えた実体化の許可は、しかし返事は帰ってこなかった。

「あれ?」

怪訝に周りを見渡しても、やはり誰もいない。
早朝で人通りは殆どないとはいえ、ひとり虚空に向かって喋っているのを万が一見られるのは怪しまれる。そうでなくとも恥ずかしい。

『ここにいるさ、マスター』
「わっと」

アサシンの念話が突如として耳元、どころか脳味噌に直に入ってきた。
あまり慣れない念話でのやり取りに切り替える。

『まだ実体化しないの?もうあっちからは見えないと思うけど』
『それの心配もある…………が、今の問題はそういうんじゃないんだ。
 サーヴァントの実体化とはようするに生前の肉体の再構成だ。そうすると当然、霊体の時には感じない『生の実感』というのが戻ってくる。
 食事も睡眠も本来必要ないが、しておかないとなんとなく落ち着かなくなってしまう』
『……うん?』

アサシンからの説明は、今一要領の得られないもので、聞いている乙哉の頭に疑問符がつく。
まるで乙哉にではなく、アサシン自身に向けて言い聞かせているようだった。
それは、乙哉にも身に覚えのある感覚だ。
ちょうど昨日の夕方乙哉がミカサ・アッカーマンと別れた時のそれと相似していて、つまり、


『フフ………………ああ、やはりいい『手』だったな………………白蓮さん…………。
 あの綺麗な手と一緒にドライブしたり指輪を嵌めたり食事を楽しんだりしてみたい。いやあの美しさに余計な装飾はいらないなありのままの美しさこそが一番彼女の』


まあ、こういう状態だ。
念話で他人(マスター以外)に聞かれる心配がないのをいいことに、タガが外れたアサシンの『手』への感想は止まらない。
同業者(シリアルキラー)としてとびっきりの獲物に興奮するのは理解出来るが、聞かされる身からするとたまったものではない。

32グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:39:49 ID:mzedvCtc0


『この目で直接見れなかったのが残念でならないよ。だがそうすれば彼女に私の正体がバレてしまっていた。それはダメだ』
『そうだね、時々アサシンのいる方向見てたりしてたもんね白蓮さん。やっぱお坊さんだとそういうの感づきやすいのかな』

適当に相槌で流して会話には一応乗っておく。他人の性癖に茶々を入れるほど彼女も野暮ではない。
趣味は人それぞれだ。同業者(アサシン)たるもの一定のラインにまで踏み込まない線引きが重要だ。

『私のアサシンとしてのスキルが無ければ危うかったかもしれない。
 『暗殺』はしなくて成功だった。もっと準備が、時と場所を選ぶ事が必要となる』

吐き出すだけ吐き出してクールダウンしたか、幾らか落ち着いた調子で軌道修正するアサシン。

『こんな状態で実体化してしまえば、あまりのストレスに『彼女』に頬ずりしなければ耐えられそうもない。家に戻るまではこのままでいさせてもらうよ』
「あはは、それは見たくないかなー。ん、了解。作戦会議は後にしよっか」

マスターである白蓮が食いつくであろう種は蒔いた。後は芽が出るのを待つとする。
早朝のバス(時刻は携帯で検索した)に乗って自宅に帰り支度をして、再び外に出て学校に行く。
準備はたくさんある。細かい計画は落ち着いた後にしよう。


それに、ここまで捻れた『手』への執着ぶりには我がサーヴァントながら、ちょっと引きたい気分だった。
―――『同じ穴の狢』という格言を、乙哉が思い浮かぶことはなかった。




【B-1-C-1/命蓮寺/二日目 早朝】

【武智乙哉@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:私服、指ぬきグローブ
[道具]:ハサミ一本、携帯電話
[所持金]:普通の学生程度(少なくとも通学には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。
0.家に帰ってから学園に向かう。
2.黒髪の女の子(ミカサ)を殺すのはまだ……
3.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。
4.寒河江春紀を警戒。 最悪の場合は白蓮に頼る。
5.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。
6.可憐な女性を切り刻みたい。
[備考]
※B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。
※バイトと仕送りによって生計を立てています。
※月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
※トオサカトキオミ(衛宮切嗣)の刺客を把握。アサシンが交戦したことも把握。
※暁美ほむらと連絡先を交換しています。
※寒河江春紀をマスターであると認識しました。
※ミカサ・アッカーマンをマスターと確信しました。


【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、聖の手への性的興奮、『手』、霊体化
[装備]:なし
[道具]:レジから盗んだ金の残り(残りごく僅か)
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
0.興奮を抑えたいので暫く霊体化。
1.白蓮さん……また会いたいな……
2.B-4への干渉は避ける。
3.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
※魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
※保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。
※B-6のスーパーのレジから少額ですが現金を抜き取りました。
※スーパーで配送依頼した食品を受け取っています。日持ちする食品を選んだようですが、中身はお任せします。
※切嗣がNPCに暗示をかけ月海原学園に向かわせているのを目撃し、暗示の内容を盗み聞きました。
 そのため切嗣のことをトオサカトキオミという魔術師だと思っています。
※衛宮切嗣&アーチャーと交戦、干将・莫邪の外観及び投影による複数使用を視認しました。
 切嗣は戦闘に参加しなかったため、ひょっとするとまだ正体秘匿スキルは切嗣に機能するかもしれません。
※B-10で発生した『ジナコ=カリギリ』の事件は変装したサーヴァントによる社会的攻撃と推測しました。
 本物のジナコ=カリギリが存在しており、アーカードはそのサーヴァントではないかと予想しています。
※聖白蓮の手に狙いを定めました。
※サーヴァントなので爪が伸びることはありませんが、いつか『手』への欲求が我慢できなくなるかもしれません。
 ですが、今はまだ大丈夫なようです。
※寒河江春紀をマスターであると認識しました。
※アーチャー(アシタカ)が“視る”ことに長けたサーヴァントであることを知りました。
 また早苗がマスターであることも把握しています。

33グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:42:21 ID:mzedvCtc0



【聖白蓮@東方Project】
[状態]全身打撲
[令呪]残り三画
[装備]魔人経巻、独鈷
[道具]聖書
[所持金] 富豪並(ただし本人の生活は質素)
[思考・状況]
基本行動方針:人も妖怪も平等に生きられる世界の実現。
1.学園に対して動くべきか思案。
2.サーベルや弾幕がどれくらい使えるのかを確認。できるだけ人目につかないように。
3.来る者は拒まず。まずは話し合いで相互の理解を。ただし戦う時は>ガンガンいこうぜ。
4.言峰神父とは、また話がしたい。
5.ジナコ(カッツェ)の言葉が気になる。
6.聖杯にどのような神が関係しているのか興味がある。
[備考]
※設定された役割は『命蓮寺の住職』。
※セイバー(オルステッド)、アーチャー(アーカード)のパラメーターを確認済み。
※ジョンス・リーの八極拳を確認。
※言峰陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
※一日目・未明に発生した事件を把握しました。
※ジナコがマスター、アーカードはそのサーヴァントであると判断しています。
※吉良に目をつけられましたが、気づいていません。
※セイバー(ロト)が願いを叶えるために『勇者にあるまじき行い』を行ったことをなんとなく察しています。
 ただし、その行いの内容やそれに関連したセイバー(ロト)の思考は一切把握していません。
※乙哉から学園での事故について聞きました(一般人が知る範囲)


【セイバー(勇者ロト)@DRAGON QUESTⅢ 〜そして伝説へ〜】
[状態]健康
[装備]王者の剣(ソード・オブ・ロト)
[道具]寺院内で物色した品(エッチな本他)
[思考・状況]
基本行動方針:永劫に続く“勇者と魔王”の物語を終結させる。
0.>夜間哨戒。白蓮から指示があればそちらを優先、
1.>白蓮の指示に従う。戦う時は>ガンガンいこうぜ。
2.>「勇者であり魔王である者」のセイバー(オルステッド)に強い興味。
3.>言峰綺礼には若干の警戒。
4.>ジナコ(カッツェ)は対話可能な相手ではないと警戒。
5.>アーチャー(アーカード)とはいずれ再戦を行う。
6.>少なくとも勇者があるかぎり、勇者と魔王の物語は終わらないとするなら……?
[備考]
※命蓮寺内の棚や壺をつい物色してなんらかの品を入手しています。
 怪しい場所を見ると衝動的に手が出てしまうようだ。
※全ての勇者の始祖としての出自から、オルステッドの正体をほぼ把握しました。
※アーカードの名を知りました。
※吉良を目視しましたが、NPCと思っています。 吉良に目をつけられましたが、気づいていません。
※鬼眼王に気づいているのは間違いないようです。
※白蓮からの更なる指示があるまですぐに駆けつけられる範囲で哨戒を行います。
※いくらロトが勇者として恥ずべき行為を行っても、『勇者』のスキルが外れることはまずありません。
 また、セイバーが『勇者ロト』である以上令呪でも外すことは不可能であると考えられます。











 ■

一方、新都街。
B-9地区、一等マンションのリビングにて。

鏡に映るのは、生まれた時からお馴染みの顔。
銀の髪、金の瞳。わたしがわたしを見つめている。
髪を櫛で梳かしてふたつにまとめ、制服に袖を通す。
扉の向こうからは音。テレビから流れる朝のニュース。
開いた隙間からは匂い。淹れたてでくゆるコーヒーの香り。

「おはようございます」 

リビングに出た先は、緩やかに流れる日常の風景。
初めて来たのに、ずっと住んでいた跡だけは残っている奇妙な感覚。
あてがわれた役割(ロール)のルリの家で、新しい同居人に朝の挨拶をする。

34グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:42:47 ID:mzedvCtc0


「おはようございます、ルリ」

先に起きていたシオンは綺麗な姿勢で椅子に座ってコーヒーを口につけていた。
後ろでは「おぅ」と実体化していたアーチャーが焼いたトーストを咥えている。
少し離れた先で、ライダーも実体化していた。恐らくは警戒だろう。


黎明に知り合い、『向かってくる外敵の排除。聖杯戦争に関わる情報の収集。方舟からの脱出の手段の模索』
を目的に協力体制を取ることに同意した二組は、そのままの足でルリの自室になだれ込んだ。
少なからず消耗もあったが、そこからもすぐ休む暇もない。
置かれた状況を説明し、情報の整理、目標の到達点の設定、やることは多かった。
ようやく寝入れる時間になったのは空が白み始める早朝になりかけていた。

とはいえその甲斐はあった―――彼女の世界にある魔術の知識、アークセルとそれに関わるムーンセルの知識。
シオンからは多くのことを教えてもらった。予め準備してきたというのは伊達ではない。
巻き込まれてほぼ着の身着の儘でいたルリにとっては、今後に役立つ情報ばかりだ。概要を知れたというだけでも十分大きい。

「眠れましたか?枕が変わると寝付けなくなるってありますけど」
「問題なく、二時間ほど休息は取れました」
「それだけですか?」
「思考のうち体温管理と危険察知に割く分の負担は減らせましたから。脳の休息には十分です」
「なるほど。便利ですね」

他愛もない会話を続けながら、ルリもポットに残ったコーヒーをカップに注ぐ。
……一人暮らしの設定である以上、用意されていた蓄えも当然一人分の相応でしかない。
加えて仕事柄家を空けている場合も多い。つまりは、食料はあまり入ってない。
金銭が不足してるわけでもないので食い扶持が増える分には構わないが、後で買い込みに行かなければならないだろうか。

「あ、ライダーさんも飲みますか?」
「……もらおうか」

何の気なしに勧めたが、意外にもライダーはカップを受け取って黒い液体を口に含む。
そういえば、昨日の朝も同じく一緒に食事していたのを思い出す。
あの時の相手はルーラーだった。倉庫で騒ぎを察知した監督役と出会い、軽食がてら少しだけ話をした。
彼女はいまどうしてるだろう。この戦争の調停者として街中を駆け回っているだろうか。
食事をしている時の姿は、英霊という大層な肩書には似つかわしくない、普通の少女のようだった。
ほんの少しこの方舟のルールに躊躇いを持ち、けれどそれを振り払える気丈さがあった。
この先きっと、彼女とまた会う機会が訪れる。
出来うる事なら、昨日と同じように穏やかな出会いであって欲しい。そうルリは思った。

二人の性格は不破なく融和している。能力の相性も悪くない。
互いの目的は近似で一致していて、補完し合えば双方が目的を達成させられる可能性が高まる。
いっそ理想的ですらある組み合わせだが、そこですぐに関係を深めることを、二人とも提案しようとはしなかった。
あくまでも寝床と情報の提供。利害の一致。一時の協力。そんなもの。
シオンとルリは冷静にそこを受け止めている。大切なものを尊重するからこそ線引きを作っている。
傷つけ合わないよう程よい距離を取る。優しくて、少しズルい大人の付き合い方だった。

35グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:43:27 ID:mzedvCtc0



「それじゃあ、今日の方針ですけど」

全員食事も終え、一息ついたところでルリが切り出す。
日は昇り、街も本格的に目覚めだす時分だ。ルリも警察署に顔を出さねばならない。
その前の確認作業を済ませる。

「シオンさんは月海原学園に向かい、私とは別行動ということでいいんですか?」

シオンは学園の生徒だ。
ルリよりも年上―――というよりルリの年齢で公職に就いてる方が色々特例なのだが、とにかく生徒である。

「はい。学園へは私一人が向かいます」

予定の通りとシオンは迷いなくはっきりと答える。

「敵がいるって、聞きましたけど」

学園の騒ぎはルリも知っている。
放課後に起きた爆発事故。直接向かってはないが、サーヴァントの戦闘の被害なのは疑うべくもない。
そしてシオンから知らされた様相は、予想より大きく混沌とし、戦慄する状況でいた。
最低でも五人のサーヴァントが睨み合う状況。
二騎揃っただけでも区画が破壊される規模の戦闘が起きる。それが五騎も揃うとなれば、既にあの学園は火の点いた火薬庫も同然だ。

「だからこそ、だぜ。あの場所は危ういバランスで成り立っている。
 誰かが足並みをずらせば、それだけで土台から崩れて全部ぶっ壊れるぐらいギリギリにな」

疑問に答えたのはソファにもたれかかっていたアーチャーだ。

「俺達は上手くそこをコントロールしたい。うちのマスターは学園いまや注目のマトだ。
 なんで逆に利用して美味しいとこだけせしめてやりたいのさ。
 けどそこに外からのマスターなんて計算外がやってきたら、計算が狂って慌てちまうだろ?」

ぶらぶらとだらけた姿勢であるが、その眼は悪戯を思い浮かぶ子供のように煌めきに満ちている。
あるいは巧妙に姿を隠しながら糸を巡らす、神算謀士の眼か。

「そうなりゃ迂闊に暴れる連中も出るかもしれねえ。暴れるにしてもなるべく俺らの想定内で動いてもらわなくっちゃあ困るのよ。
 あれ以上、あそこに戦力が集中するのは俺達にとって逆に不利になる。徒に被害が拡大するかもしれねえしな」

ルリははじめ、てっきり学園の対処を頼りに接触を図ってきたのかと思った。
しかしそうではなかった。彼らは二人だけで、魔窟の攻略を目論んでいる。
引こうと考えたり、臆すれば真っ逆さまに墜落する綱渡り。
踏破に必要なのは進むこと。蛮勇に思えるほど大胆な勇み足こそが活路を開くのだと理解している。

「これは、はじめから私達で対処するつもりの案件です。
 あなたの助力はこの先必要になりますが、外の繋がりが欲しかったのが理由でそれとは別問題。
 敵はひとつではなく、目的にはほど遠い。先は長いのですから。
 私は私の為に、貴方は貴方の為に。
 そうすることが、今は互いに最善になります」

36グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:44:01 ID:mzedvCtc0


補足するシオン。その視点は既に先を見据えていた。
潜む脅威も、まだ見ぬ闇も進むべき道の障害であり、通過点に過ぎないと。
計算機らしく目の前の問題に対処しつつ、目的への最短の出力先を誤らない。

「魔術師っていうのは、みんなシオンさんみたいな人なんですか?」
「どういう人種を想像したのかは気になるところですが、今は留めておきましょう。
 多くの魔術師は求道者です。神秘に触れ、根源を求め、過去に逆行するもの。
 アトラスの錬金術師はやや特殊です。未来の運営と破滅の回避が我らの命題。
 その為に心血を注ぎ、未来にも破滅にも捧ぐ血が足りなくなり、いつか気が狂う。
 ……まあ、今の私はそのどれでもない中途半端なのですが」

そこで、ほんの少しだけ気まずそうに、あるいは気恥ずかしそうに。
頬をかいた緩めた表情を見せたシオンからは、合理的で計算主義の顔で言った目的に隠れた、本当の理由が見えた気がした。

「わかりました。それじゃあそちらはお任せします。
 何かあれば連絡してくださいね。便利な立場ですので、切欠があれば突入できちゃいますし」
「おっ『礼状だッ!』てやつか。いいねえソレ」

そろそろ時間だ。やることが明確になった分大忙しになる。
手早く食器を片付けて、シオン達が先に玄関に向かう。

「じやーなライダー。んなしかめっ面してないで今度は酒でも飲もーぜ」
「俺は酒は飲めん」
「ケッ暗い奴だぜ」
「性分だ。諦めろ」

事あるごとにアーチャーに話を振られるライダーだが、険悪な雰囲気ではない。
因果が死ぬことを許さず、孤独を彷徨う運命にあるキリコだが、理由はどうあれ、傍らに仲間がいた時間はそう短いものではない。
宇宙さえ支配に置ける素質が求めるものは、安らげるただひとつの温もりなのだから。

「ではお先に失礼しまう。放課後にまた連絡を。無事を祈ります」
「シオンさんも。気をつけて行ってください」

畏まった台詞もなく、軽い挨拶を交わしてシオン達は外に出ていった。
扉が閉まって残るのはルリとライダーの二人。

「それじゃあ私達も行きましょうか」

ルリも出立するべく、机の封筒に入った資料を手に取った。
シオンの協力で冬木市各地で起きた事件事故の被害規模をまとめ、ファイリングしたものだ。
活用すれば、警察の役割に縛られていてもスムーズに対処出来るだろう。
それは情報漏洩というやつなのかもしれないがこの際気にしない事にした。
ただ、署に行くのは後回しだ。先に優先する、マスターの立場で動くべき件。

孤児院で見失って以来、ずっとルリが気にしていた宮内れんげの所在。
方舟の秘密に繋がるかも知れない経緯を持った希少なマスターであり……なによりも彼女は子供だ。やはり安否が気になる。
シオンによれば、黎明の頃南東の森で、鎧姿の少女と一緒に歩いていた目撃情報があるという。
ルーラー。裁定者のサーヴァント。何らかの理由があってれんげを保護したのか。それとも彼女のイレギュラーな経緯に気づいて連行したのか。
ならば自ずと向かう先も想定できる。聖杯戦争の監督役が留まる拠点は、ルーラー自身から教えられている。
そこは運営に対し質問も受け付けている場所。ちょうどいい都合だ。

「冬木教会―――お仕事の前に済ましちゃいましょう」

37グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:44:54 ID:mzedvCtc0



[B-9/マンション(ルリ宅)/二日目 朝]

【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ〜The prince of darkness】
[状態]:魔力消費(中)、消耗
[令呪]:残り三画
[装備]:警官の制服
[道具]:ペイカード、地図、ゼリー食料・栄養ドリンクを複数、携帯電話、カッツェ・アーカード・ジョンスの人物画コピー 、捜査資料
[所持金]:富豪レベル(カード払いのみ)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟』の調査。
0.教会に向かい、れんげの安否を確かめる。
1.アキトを探す
2.カッツェたちに起こった状況を知りたい
3.『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査
4.シオンと放課後に合流。状況によっては短縮して向かう
5.優勝以外で脱出する方法の調査
6.聖杯戦争の調査
7.B-4にはできるだけ近づかないでおく
[備考]
※ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。寒河江春紀をマスターだと認識しました。
※NPC時代の職は警察官でした。階級は警視。
※ジナコ・カリギリ(ベルク・カッツェの変装)の容姿を確認済み。ただしカッツェの変装を疑っています。
※美遊陣営の容姿、バーサーカーのパラメータを確認し、危険人物と認識しました。
※宮内れんげをマスターだと認識しました。カッツェの変身能力をある程度把握しました。
※寒河江春紀の携帯電話番号を交換しました。
※ジョンス・アーカード・カッツェの外見を宮内れんげの絵によって確認しています。
※アンデルセン・ランサー組と情報交換した上で休戦しました。早苗やアキトのこともある程度聞いています。
※警視としての職務に戻った為、警察からの不信感が和らぎましたが
 再度、不信な行動を取った場合、ルリの警視としての立場が危うくなるかもしれません。
 →評価が少し修正されました。よほど無茶をしない限りは不信が増すことはないでしょう。
※シオンからTYPE-MOON世界の基礎的な魔術の知識、アークセルとそれに関わるムーンセルの知識を聞きました。
 それ以外にも色々聞いているかもしれません。
※シオンと携帯電話番号を交換しました。

【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】
[状態]:負傷回復済
[装備]:アーマーマグナム
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。
1.ホシノ・ルリの護衛。
2.子供、か。
[備考]
※無し。

[共通備考]
※一日目・午後以降に発生した事件をある程度把握しました。
※B-3で発生した事件にはアーチャーのサーヴァントが関与していると推測しています。
※B-4で発生した暴動の渦中にいる野原一家が聖杯戦争に関係あると見て注目しています。
※図書館周辺でサーヴァントによる戦闘が行われたことを把握しました。
※行方不明とされている足立がマスターではないかと推測しています。警察に足立の情報を依頼しています。
※刑事たちを襲撃したのはジナコのサーヴァントであると推測しています。
※ルリの自宅はB-9方目のマンションです。
※電子ドラッグの存在を把握しました。

38グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:45:17 ID:mzedvCtc0



【シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD】
[状態]アーチャーとエーテライトで接続。色替えエーテライトで令呪を隠蔽
[令呪]残り三画
[装備]エーテライト、バレルレプリカ
[道具]ボストンバッグ(学園制服、日用必需品、防災用具)
[所持金]豊富(ただし研究費で大分浪費中)カードと現金で所持
[思考・状況]
基本行動方針:方舟の調査。その可能性/危険性を見極める。並行して吸血鬼化の治療法を模索する。
1.登校し、学園のサーヴァントを打倒する
2.ルリ陣営と協力。情報を提供する。
3.情報整理を継続。コードキャストを完成させる。
4.方舟の内部調査。中枢系との接触手段を探す。
5.街に潜む洗脳能力を持った敵を警戒。
6.学園に潜むサーヴァントたちを警戒。銀"のランサーと"蟲"のキャスター、アンノウンを要警戒。
[備考]
※月見原学園ではエジプトからの留学生という設定。
※アーチャーの単独行動スキルを使用中でも、エーテライトで繋がっていれば情報のやり取りは可能です。
※マップ外は「無限の距離」による概念防壁(404光年)が敷かれています。通常の手段での脱出はまず不可能でしょう。
 シオンは優勝者にのみ許される中枢に通じる通路があると予測しています。
※「サティポロジァビートルの腸三万匹分」を仕入れました。研究目的ということで一応は怪しまれてないようです。
※セイバー(オルステッド)及びキャスター(シアン)、ランサー(セルべリア)、ランサー(杏子)、ライダー(鏡子)のステータスを確認しました。
※キャスター(シアン)に差し込んだエーテライトが気付かれていないことを知りました。
※「サティポロジァビートルの腸」に至り得る情報を可能な限り抹消しました。
※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)の連絡先を入手しました。現時点ではマスターだと考えています。
 これに伴いケイネスへの疑心が僅かながら低下しています。
※キャスター(シアン)とランサー(セルベリア)が同盟を組んでいる可能性が高いと推測しています。
※分割思考を使用し、キャスター(ヴォルデモート)が『真名を秘匿するスキル、ないし宝具』を持っていると知りました。
 それ以上の考察をしようとすると、分割思考に多大な負荷がかかります。
※狭間についての情報は学園での伝聞程度です。
※電子ドラッグの存在を把握しました。


【アーチャー(ジョセフ・ジョースター)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]シオンとエーテライトに接続。
[装備]現代風の服、シオンからのお小遣い
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:「シオンは守る」「方舟を調査する」、「両方」やらなくっちゃあならないってのが「サーヴァント」のつらいところだぜ。
1.学園、行くかねぇ
2.裏で動く連中の牽制に、学園では表だって動く。
3.夜の新都で情報収集。でもちょっとぐらいハメ外しちゃってもイイよね?
4.エーテライトはもう勘弁しちくり〜!
[備考]
※予選日から街中を遊び歩いています。NPC達とも直に交流し情報を得ているようです。
※暁美ほむら(名前は知らない)が校門をくぐる際の不審な動きを目撃しました。
※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。

39グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:46:17 ID:mzedvCtc0






 ■

「おはようございます、ケイネス教諭」
「……ああ、おはよう」

廊下ですれ違ったシオンからの挨拶を、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは憮然に返した。
なるべく普段どおりを意識していたつもりだが、表情に僅かな強張りが出たのは否めない。
目礼してそのまま階段を昇っていくシオンの後ろ姿を見る。
一見すれば、たまたま担任と顔を合わせたので挨拶したというだけの、ただの礼儀正しい優等生という風でしかない。

『主よ、これは』
『うむ』

従僕からの念話にすぐさま応じるキャスターはヴォルデモートだ。今は校内で作業の工程にありケイネスから一時離れている。

『こちらに連絡を寄越さずに登校か……顔に似合わず豪胆だな。無視する気か、あるいは別の陣営についたか』
『おのれ没落貴族の分際で、我が君になんと無礼な……!』

持ち前の気性と服従の術の相乗によって主君の侮辱に激昂しかけるケイネスを、ヴォルデモートは冷静に宥めた。

『逸るな、ケイネス。まだ奴は俺様達に明確な害意を示したわけではない。
 それに貴様がマスターである事は誰にも割れていないのだ。今のはただの探りに過ぎん』

魔法界一とも謳われる開心術でも、杖と実体がなければシオンの思考は読み切れない。
後に改めて協力を受ける可能性もある。血筋に恵まれ、能力も優れた魔術師をヴォルデモートは拒まない。
その優秀さは昨日の邂逅で証明されている。綺礼も含め、軍門に降ればよき参謀として役立ってくれるだろう。
だが狡智と陰謀に長けるヴォルデモートはきな臭いものを感じている。昨夜連絡のなかったのは熟考の末ととれなくもない。
ならば懸念の的は、やはりあのアーチャー。
愛を語り正義を信奉する、かつての宿敵達を彷彿とさせる軽薄な男。
召喚されるサーヴァントは似通った性質を持ったマスターに引き寄せられる場合が多いという。
であればシオンも、同じ性質を宿してる確率は捨てきれない。
予想が的中していた場合、あれらはこちらに傅く姿勢は断じて取れまい。早めに始末する対象に切り替えるべきだ。

『ともかく放課後だな。その時再び図書室に呼び出して、意思を確認させる。答えによっては排除もあり得る。念の為キレイにも声をかけておくか。
 いいなケイネス、それまでくれぐれも迂闊な挑発に乗るなよ』
『ははっ』

念話が途切れて、ケイネスは教職としての業務に戻る。
凡俗に享受する退屈極まりない職務だが、主君が念を押したとあればどのような命令も忠実にこなさねばならない。
これも我が君への奉仕だ。綿密に積み上げられる主の策謀の内に、既にケイネスは当てはめられている。
我が君の軍団を建造し確実な勝利を手にする為の布石だ。ここで無様を晒すわけにはいかない。
だがたとえ戦闘に陥ったとしても自身に負けはない。そうケイネスは自負している。
根拠なき盲信などではない。それはロード・エルメロイの名に相応しい、秘術の粋を凝らした完璧な魔術工房を作成した事からの自信だ。
既にこの校舎は一晩かけて、単なる施設から恐るべき城壁へと改装を施されているのだ。

人通りが少ない通路、職員しか入らないような部屋を中心に、多種多様な結界を数十層。
猟犬代わりの悪霊、魍魎の群れ。空き教室の一部は異界化すらさせている。
更にこれはキャスターとの共同作業だ。構築された術式は製作の時間から精度に至るまで、ケイネス個人が施したものを凌駕している。
結界の強さは遥かに洗練され、召喚術においても同様。失われし幻創種……かつて師が従えし巨人種、狼人間、吸魂鬼すらもが麾下にある。
ただでさえ生まれ持った天禀を遺憾なく発揮したケイネスの備えに、魔術師の英霊直々の薫陶が加わっているのだ。
たとえ対魔力のある三騎士クラスといえど、容易に踏破できるものではないほどだ。

40グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:47:01 ID:mzedvCtc0


偉大なる英霊の闇の魔術の深淵に触れ、その作業に自身の手も加える事を許された。
神秘を尊ぶ魔術師としてこれほどに名誉な事があろうか。
優れた家系と血筋に生まれ、破竹の勢いで昇進を続けてきても、ケイネスは達成感ややりがいを求めた事はない。
全ては当然の結果。自分の才能と成果が他者を遥かに凌いで余りあるというだけでしかない。
約束された成功というレールを走っていたケイネスの人生に、突如として芽生えた感動。遅咲きにやってきた『誰かに尽くす』熱意。
この情動を呼び起こしてくれた主には、財も地位も、命すら、全てを懸けて奉仕する他にない。
まさに我が世の春、今のケイネスはこの上ない絶頂期にあると確信して疑わなかった。
今のケイネスにとって聖杯戦争は、聖杯そのものの入手より、我が主君の威光を知らしめる事こそが至上となっていた。



……それほどまでに敬い、尊ぶ英霊に対し。
陶酔の極みに至るケイネスは、ただの一度としてその真名を教えられてない事への疑問は露程も浮かばないでいた。






ヴォルデモートからの情報はすぐさま綺礼のもとへと伝わった。
忍ばせていた通信手帳の新しい追記には、放課後のシオン・エルトナムへの接触と、排除の可能性。
手を貸せという記述はされてないが、これでは言外に要請しているようなもの。
敵に回るなら討つのに躊躇もないが、顎で使われるのは癪ではある。
あのキャスターが勢力を拡大させるのに、一抹の不安がないでもない。
いずれ敵に回す相手を手がつけられなくなるまで強くしてしまっては元も子もない。
あるいはそれは待ち受ける混沌の期待であるかもしれなかったが、綺礼が気づく事はない。

エルトナムの動向は、今後の趨勢を変える一石になるかもしれない。一人のマスターとしても見過ごしていい話ではなかった。
サーヴァントはアーチャー。姿を見たのはセイバーとキャスターなのでステータスは不明。
遠距離攻撃に長けてる事が多いクラスであり、狙撃などされては厄介だ。
校舎内であれば地の利も働く。セイバーが先に肉薄するのが速いか。

―――いずれにせよ放課後だ。今は先に、済ませておく些事がある。

戦闘に至った場合の構想を練りながら、パンが詰まったダンボールを三箱軽々と抱えて購買部に運んでいく。
綺礼はいま、方舟での役割である月海原学園の購買店員の仕事の最中であった。
代行者であり神に仕える自分が、いったいどういう流れでパンやシャーペンを売る事になったのか。
アークセルの判断はつくづく理解に苦しむ。

だがそんな立場―――学園の内側だからこそ得られた接触があった。
遠坂時臣を騙る人物に魔術的な暗示がかけられていた、食料搬入の業者達。
彼らは特に変わりなく、前日と同じように暗示下にあって行動していた。
綺礼がかけた暗示が解かれているか確認すべきかと思ったが、やめておいた。
そこまで不用意に使うべきではないし、何か仕込まれてる可能性もある。
自分の暗示が破られてる事にも気づかない愚鈍である可能性は捨てている。現にここまで相手につながる手がかりひとつ残していない。
ある意味エルトナムよりも仮想敵としては厄介だ。常に暗殺の危機が忍び寄る。
姿の見えない敵からの驚異は、異端を狩る代行者の時代から理解している。
そちらについてはあのキャスターに任せればいい。神秘はより濃い神秘に倒される。魔術師には魔術師の英霊をぶつけるのが正攻法かつ上策。
暗示下の状況をより詳細に炙り出し、情報を手に入れられるだろう。

41グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:49:36 ID:mzedvCtc0



―――運び終えた売り物を品出しに外に出しているとき、段ボールの中に奇妙な紙片を見つけた。
拾い上げて見れば、どこにでもあるメモの切れ端に、数字の羅列だけが簡素に記されていた。
暗号や謎掛けの類でもない限りは、それは携帯の番号にしか見えはしない。

単なる梱包の不手際だと済ませるほど呑気ではいられる綺礼ではない。これが姿見えぬ何者からの誘いと見るのは明らかだった。
十中八九、綺礼の暗示を見破り接触を図ってきたマスターだが……かといって迂闊にかけるのは憚られる。
まず番号がそのまま本人のものの確証はない。携帯は街中いたる所で住人が使っているし新しく購入するのも楽だ。偽装など幾らでもできる。
聖堂教会の隠蔽スタッフならともかく、綺礼は個人情報を盗めるような専門的な技術を収めていない。
顔も見えぬ相手に声を届ける、というだけの行為にも、直接刃を交わすのと同じだけの緊張感を要求するのだ。

ならばキャスターに持ちかけ、少しでも情報を拾うのが安全かつ確実な手段だ。機械音痴とはいえ綺礼よりは何らかの手がかりは見いだせるはず。
魔術による探知も可能かもしれない。空振りに終わっても浪費にもならない手間でしかない。
……そんな事はわかっているのに、綺礼はどうしてもあの魔術師に教える気になれなかった。

単に信用しきれない相手に頼るのを嫌うというだけではない。
あの蛇の視線に晒されて、心の奥底の虚無を暴かれる恐懼とも違う、言い難い感覚。
この小さな紙切れのどこにそんな引力があるのか、綺礼は食い入るように見続けた。その意味合いの深さと重さを、彼自身自覚しないまま。






[C-3/月海原学園/二日目 朝]

【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero】
[状態]健康、ただし〈服従の呪文〉にかかっている
[令呪]残り3画
[装備]月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)、盾の指輪
[道具]地図、自動筆記四色ボールペン
[所持金]教師としての収入、クラス担任のため他の教師よりは気持ち多め?
[思考・状況]
基本行動方針:我が君の御心のままに
1.他のマスターに疑われるのを防ぐため、引き続き教師として振る舞う
3.教師としての立場を利用し、多くの生徒や教師と接触、情報収集や〈服従の呪文〉による支配を行う
[備考]
※〈服従の呪文〉による洗脳が解ける様子はまだありません。
※C-3、月海原学園歩いて5分ほどの一軒家に住んでいることになっていますが、拠点はD-3の館にするつもりです。変化がないように見せるため登下校先はこの家にするつもりです。
※シオンのクラスを担当しています。
※ジナコ(カッツェ)が起こした暴行事件を把握しました。
※B-4近辺の中華料理店に麻婆豆腐を注文しました。
→配達してきた店員の記憶を覗き、ルーラーがB-4で調査をしていたのを確認。改めて〈服従の呪文〉をかけ、B-4に戻しています。
※マスター候補の個人情報をいくつかメモしました。少なくともジナコ、シオン、美遊のものは写してあります。
※校舎の一部を魔術工房に改造しています。主導はケイネスですが所々ヴォルデモートの手が加わっており大幅に効果が上昇しています。

42グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:49:58 ID:mzedvCtc0


【キャスター(ヴォルデモート)@ハリーポッターシリーズ】
[状態]健康
[装備]イチイの木に不死鳥の尾羽の芯の杖
[道具]盾の指輪(破損)、箒、変幻自在手帳
[所持金]ケイネスの所持金に準拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯をとる
1.綺礼と協力し、アーカードに対処する。
2.綺礼を通じてカレンを利用できないか考える。
3.シオンからの連絡に期待はするが、アーチャーには警戒。
4.〈服従の呪文〉により手駒を増やし勝利を狙う
5.ケイネスの近くにつき、状況に応じて様々な術を行使する。
6.ただし積極的な戦闘をするつもりはなくいざとなったら〈姿くらまし〉で主従共々館に逃げ込む
7.戦況が進んできたら工房に手を加え、もっと排他的なものにしたい
[備考]
※D-3にリドルの館@ハリーポッターシリーズがあり、そこを工房(未完成)にしました。一晩かけて捜査した結果魔術的なアイテムは一切ないことが分かっています。
 また防衛呪文の効果により夕方の時点で何者か(早苗およびアシタカ)が接近したことを把握、警戒しています。
※教会、錯刃大学、病院、図書館、学園内に使い魔の蛇を向かわせました。検索施設は重点的に見張っています。
 この使い魔を通じて錯刃大学での鏡子の行為を視認しました。
 また教会を早苗が訪れたこと、彼女が厭戦的であることを把握しました。
 病院、大学、学園図書室の使い魔は殺されました。そのことを把握しています。
 使い魔との感覚共有可能な距離は月海原学園から大学のあたりまでです。
→現在学園と教会とルーラーの近くに監視を残し、他は図書館と暴動の起きているところを探らせ、アーカードとついでに搬入業者を探しています。
※ジナコ(カッツェ)が起こした暴行事件を把握しました。
※洗脳した教師にここ数日欠席した生徒や職員の情報提供をさせています。
→小当部の出欠状況を把握(美遊、凛含む)、加えてジナコ、白野、狭間の欠席を確認。学園は忙しく、これ以上の情報提供は別の手段を講じる必要があるでしょう。
→新たに真玉橋、間桐桜について調べさせています。上記の欠席者の個人情報も入ってくるでしょう。
※資料室にある生徒名簿を確認、何者かがシオンなどの情報を調べたと推察しています。
※生徒名簿のシオン、および適当に他の数名の個人情報を焼印で焦がし解読不能にしました。
※NPCの教師に〈服従の呪文〉をかけ、さらにスキル:変化により憑りつくことでマスターに見せかけていました。
 この教師がシオンから連絡を受けた場合、他の洗脳しているNPC数人にも連絡がいきヴォルデモートに伝わるようにしています。
※シオンの姿、ジョセフの姿を確認。〈開心術〉により願いとクラスも確認。
※ミカサの姿、セルベリアの姿を確認。〈開心術〉によりクラスとミカサが非魔法族であることも確認。
 ケイネスの名を知っていたこと、暁美ほむらの名に反応を見せたことから蟲(シアン)の協力者と判断。
※言峰の姿、オルステッドの姿を確認。〈開心術〉によりクラスと言峰の本性も確認。
※魔王、山を往く(ブライオン)の外観と効果の一部を確認。スキル:芸術審美により真名看破には至らないが、オルステッドが勇者であると確信。
※ケイネスに真名を教えていません。
※カレンはヴォルデモートの真名を知らないと推察しています。
※図書館に放った蛇を通じてロトとアーカードの戦闘を目撃しました。
 それとジナコの暴行事件から得た情報によりほぼ真名を確信しています。
※言峰陣営と同盟を結びました。
 アーカードへの対処を優先事項とし、マスターやサーヴァントについての情報を共有しています。
 それによりいったん勇者ロトへの対処は後回しにするつもりです

43グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:50:20 ID:mzedvCtc0


【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵
[道具]変幻自在手帳、携帯端末機、???の番号が書かれたメモ
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
0.???
1.キャスター(ヴォルデモート)を利用し、死徒アーカードに対処する。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
3.検索施設を使って、サーヴァントの情報を得る。
4.トオサカトキオミと接触する手段を考える。
5.真玉橋やシオンの住所を突き止め、可能なら夜襲するが、無理はしない。
6.この聖杯戦争に自分が招かれた意味とは、何か―――?
7.憎悪の蟲に対しては慎重に対応。
[備考]
※設定された役割は『月海原学園内の購買部の店員』。
※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(ロト)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。
※『月を望む聖杯戦争』が『冬木の聖杯戦争』を何らかの参考にした可能性を考えています。
※聖陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
 聖側からは霊地や戦力の提供も提示されてるが突っぱねてます。
※学園の校門に設置された蟲がサーヴァントであるという推論を聞きました。
 彼自身は蟲を目視していません。
※トオサカトキオミが暗示を掛けた男達の携帯電話の番号を入手しています。
→彼らに中等部で爆発事故が起こったこと、中等部が休講になったこと、真玉橋という男子生徒が騒ぎの前後に見えなくなったことを伝えました。
※真玉橋がマスターだと認識しました。
※寺の地下に大空洞がある可能性とそこに蟲の主(シアン)がいる可能性を考えています。
※キャスター(ヴォルデモート)陣営と同盟を結びました。
 アーカードへの対処を優先事項とし、マスターやサーヴァントについての情報を共有しています。
※トオサカトキオミ(切嗣)が暗示をかけた運送業者の荷物にまぎれていた電話番号を見つけました。
 意図的に仕込まれたものですが、切嗣に直接連絡が取れる保障はありません。



【セイバー(オルステッド)@LIVEALIVE】
[状態]通常戦闘に支障なし
[装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』
[道具]特になし。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。
1.綺礼の指示に従う。
2.「勇者の典型であり極地の者」のセイバー(ロト)に強い興味。
3.憎悪を抱く蟲(シアン)に強い興味。
[備考]
※半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。
※アキト、シアンの『憎悪』を特定済み。
※勇者にして魔王という出自から、ロトの正体をほぼ把握しています。
※生前に起きた出来事、自身が行った行為は、自身の中で全て決着を付けています。その為、『過去を改修する』『アリシア姫の汚名を雪ぐ』『真実を探求する』『ルクレチアの民を蘇らせる』などの願いを聖杯に望む気はありません。
※B-4におけるルール違反の犯人はキャスターかアサシンだと予想しています。が、単なる予想なので他のクラスの可能性も十分に考えています。
※真玉橋の救われぬ乳への『悲しみ』を感知しました。
※ヴォルデモートの悪意を認識しました。ただし気配遮断している場合捉えるのは難しいです。

44グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:51:02 ID:mzedvCtc0








微睡みから覚めていく中で、今まで見ていたものは夢だったと気づく。
肢と羽の音が耳の中に入り込んでくるのも、体をよくわからないものが這い回るのも、目を覚ませば消えるものだとわかってる。

……ある意味で、あの光景が自分にとって、現実の象徴のようなものだった。
これは悪いユメだ、目を覚ませば姉と一緒に眠る場所に戻ってくるんだって、初めの頃は何度も何度も願い続けた。
そうして目覚めて、当たり前にそっちがユメだと念入りに、刻みつけるように思い知らされてきた。
馴染みきった光景は、もう見たところでどうとも思わない。
痛む箇所はとっくに擦り切れて、今さら騒ぎ立てる事もなくなってしまった。

そういう日々が日常だったから、つい期待してしまったのだ。
あの後起きたら自分は部屋で眠っていて、朝早くに屋敷へ向かって、土蔵で眠りこけてる人を起こして、朝ごはんの準備をする。


唯一価値のある時間。
嘘だけで造られたガラスの幸福。


いつも通りの、待ち遠しい日が待ってるんじゃないかって。




「おはよう、桜」

そんなだから、案の定バチが当たったんだろう。

蟲の羽音が重なり合って出来たような声。
不快ではないが、気分がいいわけでもなかった。
悪意はなくとも、その意志が込められた声を聞くと否応なしに現実に引き戻されてしまうから。
そもそも自分を起こす声なんて、ここ十年ろくに聞いた事もないのだ。

「……おはようございます」

身を起こして、蟲の英霊に挨拶する。
シアン・シンジョーネは―――正確にはシアンの一部は静かに桜を見ていた。
そこに何の非難も込められてないのはわかるが、聖杯戦争を忘れて現実逃避しかけていたのを、咎められてるような気がして居心地が悪かった。

「報告をしよう。昨夜の戦果を伝える」

早速とばかりに集めた情報を開示する。
接触したサーヴァント、夜の学園の交戦、同盟相手との状況……次々と知らされる。
どれも自分たちにとって重要なものだと思うが、街から離れて隠れ住んでいた桜にはいまいちピンと来ない。
シアン自身、戦略的な助言を桜に求める訳ではないのだろう。
ただサーヴァントの義務としてマスターである桜に伝えている。そんな気がした。

45グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:51:34 ID:mzedvCtc0


「まずは一日、生き延びた。
 同盟相手を得て、さしたる損害もないまま一騎を仕留められた。
 強壮とは言い難く、長期戦でこそ戦いになる我々にとっては良い経過だといえるだろう」

自虐的だが、間違ってもいない。
時間をかければかけるだけシアンという群体は数を広げ勢いを増していく。
数が不足すれば魔力が補い再び元の数に増殖する。やがて時間をかけて操作した地脈の魔力を集め、切り札の使用の段階に入る。
桜が目を逸らしてる間にも時は進んでいた。隠遁も戦法の一種だが、こういう面にはどうしても弱くなる。
なんて、皮肉。
関わらないでいる事が、一番の生き残れる手段なんて。



「今日の昼、学校に攻め入る」


小指に棘が刺さったような、痛みがした。
そうした慎重さと打って変わっての大胆な方針に、流石に僅かばかり心臓が早打った。
縋る光のない場所。友人も思い出も生まれなかった伽藍の堂。
ただ通っているというだけの校舎であっても、思うところはあったのか。
溜め込むばかりで、吐き出す先を知らないまま育った身だ。
どうでもいいが、消してしまいたいとは思ってない。
無関心まではいられても、直接牙を立てるとなると抵抗心が疼いた。

「難敵がいるからな。少し、派手にやる予定だ。桜にも協力してもらう事になるだろう」

協力。
手の甲に浮かぶ膨大な魔力に意識を向ける。
桜が魔力の供給以外にシアンに、手助け出来る事などひとつしかない。

「心配しなくていい。指示は私が出す。難しいものじゃないし、ここから動かずに出来る事だ。
 NPCへの被害も極力避ける。ルーラーに目をつけられてはたまらないからな。
 フジムラタイガという教師にも、手出しはしないと約束しよう」

それが、シアンなりの誠意の形。
サーヴァントとしての線引きの境界線。目的の為に、マスターと不要な軋轢を生まない手段。

「――――――はい」

桜は頷く。
学校への襲撃を容認する。

NPCの藤村大河は、桜と親しいわけじゃない。
弓道部の顧問であり部員として話す機会はあり、話せば記憶と同じ反応を返してくれるが、
それは彼女が誰にでもそうしてくれる人物であるというだけ。
『予選』からマスターに目覚めたのはあの空白が一番の転機だったけど。
違和感を覚えたのは、彼女との会話がどこか白々しく、芝居じみて感じたのが最初だと思う。

あの屋敷という接点がないだけで、あれだけ親身にしてくれたひとも、自分の特別じゃなくなっている。
恨んでるわけじゃない。そもそも根本的に自分の知る彼女とは別人で、偽の複製だなんて事は理解してる。
むしろそれを自覚しているのが桜しかいないのが、自分で哀れに見えるだけ。

46グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:53:34 ID:mzedvCtc0


だから本当は、あの藤村大河が■■だとしても困る事はない。
求める地獄(ひび)に帰れば待っていてくれる、本当の大事な人に会えればいい。
こんなのは我儘で、錯覚で、地面を這い回る蟲のようにみっともない感傷でしかない。


それを、この女(ひと)は守ってくれると言うのだから。
後はもう、何を望むでもない。それ以外は譲ってあげよう。
街に蟲(あく)を解き放ち、世界を影で覆ってしまっても、構わない。


黴臭い毛布を下げて蜘蛛の巣の張った窓を見上げた。
整備もされていない部屋の隙間からは、陽が差し込んでる。
なんて、眩しい――――――外の光。
輝きに目が眩んで、誘われるまま羽ばたいても、蟲では一生かけても届かない。

ああ。せめて、蟲などではなく。
せめて、この身が小鳥であったのなら――――――もう少しはあそこに近いて羽ばたけるのだろうか。

47グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:54:03 ID:mzedvCtc0






意識の覚醒と共に、ミカサはすばやく身を起こして体の調子を確かめる。
閉じた瞼を開いても、眼の前に広がるのは同じ闇。
地上に降り注ぐ暖かな日は、深い岩盤に遮られて一寸先すら見通せない。
常人なら恐怖で自我も保てない環境で、ミカサは臆さず入念に柔軟をして体をほぐしていく。
闇に溶け込んだ眼光は、獲物が決定的な隙を晒すまでただ待ち伏せる豹の如き鋭さだ。



ミカサがいるのは洞窟だ。
鍾乳洞という、石灰石が雨水の侵食で出来た空洞、らしい。
誰の手も借りず、何の意思もなく、時間と自然だけでこれほど大きな穴が出来る。これもまた、自然の美しさ。
家を捨てたミカサに蟲のキャスターが提供した、隠れ家になりそうな場所。同時に調査の対象でもある場所。
霊脈、と呼ばれる位置に最も近いらしく、ランサーの回復にも適してるという。
敵の奇襲もなく、体調に支障が出なければ何処でもよかったのだが、それで自分に有利が働くなら断る理由もない。

この上に建つ妙蓮寺という施設にはセイバーと思しきサーヴァントとマスターが陣取ってるらしい。
そこで一戦交える気か、と一瞬危惧したが、今は攻める気はないという。
敵もここには気づいておらず、下手に藪蛇をつつく事もないと。
洞窟の調査も今は後回し。目下の標的は学園の闇、ということだ。

寺……宗教の為の施設。
神や仏、世界や生物を産み出したモノを奉り、祈りを込めるという。
宗教は知っている。人類の生存圏を築いている『壁』を崇める一団。
実際見た機会はないので判然とはしない。
それは確かに感謝すべきなのかもしれない。縋りたくなる気持ちも、哀れだとは思わない。
だが神というモノが巨人を産み落とし、人を無慈悲に食らう世界の機構を良しとしているのなら……。

『マスター』

時間だ、というランサーの念話が響く。
無駄に力みが入った思考を戒める意味もあったのかもしれない。届きもしない矛先を振る余裕は、ない。


これから、学校を襲う。
蟲のキャスターと共に、ミカサが過ごしてきた、この街の『日常』を蹂躙する。


校舎はサーヴァントという超常の戦いの舞台となり、生徒は吹き飛ばされる路傍の石と化す。
もしくは、もっと効率的で、残酷に。蟲が蟲を喰らうように。人が鳥を狩るように。
大人と規則と法律の砦に守られた生徒達は、何も知らぬまま巻き込まれる事になる。
まるで、『壁』が壊された街で巨人に喰われるように。
違いはない。サーヴァントとそれを従えるマスターは、人々にとって巨人のように驚異でしかない。
圧倒的な力の差。
死と恐怖の具現。
絶望の象徴。
故に、巨人だ。

48グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:54:29 ID:mzedvCtc0

希望の標となった少年がいた。
エレン・イェーガー。ミカサの光。ミカサの生きる希望。
人のままにエレンが巨人となったあの日、巨人の反攻作戦が成功し、人類は初めて巨人に対して進撃を成し遂げた。
希望となったエレンとは対称に、希望を持ち帰ろうとするミカサは、この街では大勢の巨人のうち一匹に過ぎない。

知性の欠片も見当たらないあの醜悪な顔と、自分が同類だと思うと、途端に怖気が走った。
あまりに屈辱で、恐ろしくて、否定したくて喚きたくなる。
だが違いはない。違いはないのだ。
この世界を壊し、人を殺す。
そう決めてから


霊体化したランサーに先行させ哨戒をさせる。脇道から出られるのを見られては言い訳がきかない。
周囲に人がいないか確認してから外に出る。陰から出た瞬間、思わぬ光量に目を覆った。
今まで暗闇にいたせいか急な光に慣れなかった。迂闊だ。戦場で同じ事が起きれば命取りになる。


「……――――――」

日常を捨てても平等に誰もを照らす光を見て、一瞬、何かを言いかけた。
朝にいつも言う言葉が、喉元までせり上がってきたのをギリギリで止めた。

おはようと言える相手は、日常にいた中では意外なほどにいた。
家で父と母。学校の生徒。道行く通りすがりに声をかけられた事もある。
偽りでも、嘘でも。
ミカサにとって悪趣味に他ならず苦痛をもたらすものであっても。
それはミカサが『日常』に受け入れられていた証だった。

だが日常はもうない。
ミカサがミカサ自身の意思で切り捨てた。
喪ったものは違う形でまた手に入っても、捨てたものは二度と還ってこない。
家族。クラスメイト。全てを捨て身軽になる。
仮初の住人という、街に溶け込む為の装飾を剥がし、本当のミカサ・アッカーマンのみが残る。

『ランサー』
『何だ』

呼びかけに応じる声。
孤独ではない。傍には常にランサーがいる。
負担を抑えようと霊体化してるが、有事になれば何よりも頼もしいミカサの盾となり、槍となる。
ランサー自身が『兵器』として扱うよう望んだように、ミカサも彼女を兵器として扱う他ない。


『行こう。そして勝とう』
『無論だ』


偽りを捨てた本当のミカサには、けれどおはようと言える相手すら残っていなかった。

49グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:54:52 ID:mzedvCtc0


【C-1 山小屋/2日目 朝】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:健康
[令呪]:残り三角
[装備]:学生服
[道具]:懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物、緊急災害用グッズ(食料、水、ラジオ、ライト、ろうそく、マッチなど)
[所持金]:持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
0. ――――――――。
1. キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2. 直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
3. キャスターの誠意には、ある程度答えたいと思っている。
4. 遠坂凛の事は、もう関係ない――――。
[備考]
※間桐家の財産が彼女の所持金として再現されているかは不明です。
※キャスターから強い聖杯への執着と、目的のために手段を選ばない覚悟を感じています。そして、その為に桜に誠意を尽くそうとしていることも理解しました。
 その上で、大切な人について、キャスターにどの程度話すか、もしくは話さないかを検討中です。子細は次の書き手に任せます。
※学校を休んでいますが、一応学校へ連絡しています。
※命蓮寺が霊脈にあること、その地下に洞窟があることを聞きました。
※キャスター(シアン)の蟲を、許可があれば使い魔のようにすることが出来ます。ただし、キャスターの制御可能範囲から離れるほど制御が難しくなります。
※遠坂凛の死に対し、違和感のようなものを覚えていますが、その事を考えないようにしています。


【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]:健康
[装備]:橙衣
[道具]:学生服
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
0.学園に攻め込む準備。
1.学園を中心に暗躍する。
2.桜に対して誠意ある行動を取り、優勝の妨げにならないよう信頼関係を築く。
3.黄金のセイバー(オルステッド)を警戒。
4.発見した洞窟の状態次第では、浮遊城の作成は洞窟内部の霊脈で行う。
5.洞窟を使うのに必要であれば、白蓮と交渉する。
[備考]
※工房をC-1に作成しました。用途は魔力を集めるだけです。
※工房にある程度魔力が溜まったため、蟲の制御可能範囲が広がりました。
※『方舟』の『行き止まり』を確認しました。
※命蓮寺に偵察用の蟲を放ちました。現在は発見した洞窟を調査中です。
 →聖白蓮らが命蓮寺に帰ってきたため、調査を中止しています。不在の機会を伺うか、交渉も視野に入れています。
※命蓮寺周辺の山中に、地下へと通じる洞窟を発見しました。
※学園のマスターとして、ほむら、ミカサ、シオン、ケイネスの情報を得ました。
 また関係するサーヴァントとして、アーチャー?(悪魔ほむら)、ランサー(セルベリア)、シオンのサーヴァント(ジョセフ)、セイバー(オルステッド)、キャスター(ヴォルデモート)を確認しました。
※ミカサとランサー(セルベリア)と同盟を結びました。
※ランサー(セルべリア)の戦いを監視していました。
※アーチャー(雷)とリップヴァーンの戦闘を監視していました。
※間桐桜から、教会に訪れたマスター達の事を聞きました。
※小屋周辺の蟲の一匹に、シオンのエーテライトが刺さっています。その事にシアンは気付いていません。
※【D-5】教会に監視用の蟲が配置されました。
※C-3の学園に潜伏していた十万の蟲の内、九万匹は焼かれ、残りの一万匹は学園から一先ず撤退しています。
 →撤退した蟲はC-1の小屋で合流しました。

50グッドモーニングFUYUKI ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:55:10 ID:mzedvCtc0



[B1〜C1/大空洞/二日目 朝]

【ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人】
[状態]:片腕に銃痕(応急処置済み)
[令呪]:残り三画
[装備]:魔法の聖水
[道具]:シャアのハンカチ身体に仕込んだナイフ
    立体起動装置、スナップブレード、予備のガスボンベ(複数)
[所持金]:普通の学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:いかなる方法を使っても願いを叶える。
0.学園に向かう。
1.日常は切り捨てた。
2.額の広い教師(ケイネス)にも接触する。
3.シャアに対する動揺。調査をしたい。
4.蟲のキャスターと組みつつも警戒。
5.――――
[備考]
※シャア・アズナブルをマスターであると認識しました。
※中等部に在籍しています。
※校門の蟲の一方に気付きました。
※キャスター(シアン)のパラメーターを確認済み。
※蟲のキャスター(シアン)と同盟を結びました。
※シオンの姿、およびジョセフの姿とパラメータを確認。
※杏子の姿とパラメータを確認。
※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。


【ランサー(セルベリア・ブレス)@戦場のヴァルキュリア】
[状態]:魔力充填
[装備]:Ruhm
[道具]:ヴァルキュリアの盾、ヴァルキュリアの槍
[思考・状況]
基本行動方針:『物』としてマスターに扱われる。
1.ミカサ・アッカーマンの護衛。
[備考]
※暁美ほむらを魂喰いしました。短時間ならば問題なくヴァルキュリア人として覚醒できます。
※黒髪の若い教師(NPC、ヴォルデモートが洗脳済み)を確認。現時点ではマスターだと考えています。

51 ◆HOMU.DM5Ns:2019/03/19(火) 22:56:14 ID:mzedvCtc0
以上で投下を終了します
伝え忘れましたが、正純組を予約から消していたのをここで報告します。申し訳ありません

52 ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:13:58 ID:KEpQfa860
期限に遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。
投下を開始します。

53if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:15:28 ID:KEpQfa860


【0】





 我々がある人間を憎む場合、我々はただ彼の姿を借りて、我々の内部にある何者かを憎んでいるのである。


 自分自身の中にないものなんか、我々を興奮させはしないものだ。



                              ――――ヘルマン・ヘッセ

54if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:16:29 ID:KEpQfa860
【1】


 「お前は私じゃないんだ」と。
 狭間は叫んだその途端、空間が水を打ったように静まり返る。
 すすり泣く少年の嗚咽すら聞こえない、彼自身が急に泣き止んだからだ。

「僕を、認めないんだね」

 狭間と同じ格好をした少年が、ぽつりと呟いた。
 それはまるで、狭間の言葉を待っていたかのようで。
 あるいは、彼がそう叫ぶのを知っていたかのようで。

「それなら僕も、みんなと同じ様に君を否定しよう」

 ゆらりと、その少年が立ち上がる。
 泣きはらした彼の顔は、服装と同様に狭間と瓜二つであった。
 けれども、そこには魔神皇の威厳などまるで感じられない。

 少年の表情が体現するのは、「陰鬱」の二文字だ。
 己の未来をひたすらに悲観し、周囲全てを恐れ続ける子供の顔。
 世界の悪意のただ泣きじゃくる事しかできなかった、醜い弱者の姿。
 狭間の心臓が早鐘を打つ。全知全能の魔神皇の額に、焦燥を示す脂汗が滲む。

「我は、影……真なる、我……」

 涙で濡れた頬が、ニィと釣り上がって。
 直後、何者か――"影(シャドウ)"の姿が一変した。
 ただのちっぽけな人間の姿から、見上げる程に巨大な胎児へと変異する。
 胎児の額からは、あのひ弱な"影"がチョウチンアンコウの触手の様に生えていた。 

 マヨナカテレビを訪れた者の前に現れるもう一人の自分、それが"影"。
 歪な怪物へと変貌するそれの正体は、ひた隠しにしてきた本性の具現化だ。

「神様気取りの弱虫を聖杯は求めない。さあ、仮面を捨ててお家に帰る時間だ」

 サーヴァントの霊基ではないものの、"影"の魔力量はそれに匹敵していた。
 ただの魔物の類と一蹴するには、目前の怪物はあまりに強力すぎる。
 本能的に驚異を感じ取ったライダーが、手鏡片手に臨戦態勢へ移行する。

 だがその一方で、マスターである狭間は何をする訳でもなかった。
 先の焦りは何処に行ったのか、小さな笑いを口から漏らすばかりである。
 一体どうしたのと、ライダーが彼に問いかけようとすると、

「は、はは……は、ははははははッ!!
 何かと思えば、とんだこけおどしじゃないかッ!!」

 先程までの焦りは何処へやら、狭間は勢いよく破顔した。
 彼は顔に手をやりながら、未だ見せた事のない程の大声で笑ってみせた。
 それはまるで、焦燥していた先程の自分をも嗤っている様にも見える。
 自分そっくりの影に怯え、不覚にも狼狽した自分の醜態を。

「……大丈夫なの?さっきは随分焦ってたみたいだけど」
「焦った?この私がか?何を馬鹿な。所詮ただの悪魔一匹、慄く方が馬鹿げている」

 事実として、狭間から見ればどんな存在だろうと弱者同然だった。
 なにしろ彼は、かつて奪い取った神霊の力をその身に秘めているのだから。
 ゾロアスター教の最高神"ズルワーン"、サーヴァント如きが何千騎挑もうが返り討ちにできる神霊そのもの。
 今の狭間はその力をセーブしている状態ではあるが、それでも戦うには十分すぎる。
 少なくとも、並みのサーヴァント数騎と互角以上に張り合う程度は容易いだろう。

55if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:18:29 ID:KEpQfa860

 神を取り込んで手にした力を以てして、狭間は"影"を抹殺せんとする。
 例え相手がどれだけの力を持っていようと、難無く滅ぼせる絶対的な自信が彼にはあるからだ。
 皮膚が粟立つような不快感を抱えながら、魔神皇は同じ顔の怪物を排除しにかかる。

「丁度いい。この魔神皇の絶対たる力、その目に焼き付けて置くといい」

 そう言って、狭間は右手の掌を前に翳した。
 そういえばライダーは、まだ魔神皇の力のほんの一端にしか触れていなかった。
 せっかくの機会だ、此処でサーヴァントをも超越する神の脅威を見せてやるとしよう。
 一撃で敵を屠る様を見せつければ、彼女も自分への認識を改めざるを得ない筈だ。

「『マハラギダイン』」

 そのたった一言で、霧まみれの世界が炎の色に染まった。
 狭間の掌から放たれた灼熱が、校庭いっぱいに拡散したからだ。
 標的にされた胎児は、為す術なく火炎の濁流に巻き込まれる。
 焔が過ぎ去った後には、消し炭すら残っていなかった。

 火炎を放射するアギ系呪文、その最上位に位置するマハラギダイン。
 魔神皇の膨大な魔力が合わされば、校庭を火の海にするなど造作もない。
 無論その直撃を受けてしまえば、例えサーヴァントだろうが灰燼に帰す運命だろう。

 「凄いわね」と感嘆するライダーを尻目に、狭間は踵を返す。
 所詮は低俗な悪魔の一匹、取るに足らない相手でしかなかった。
 不愉快な虫けらを滅ぼした以上、此処に居座っても意味がない。
 いや、意味があるどころか不愉快だ。こんな忌々しい場所で屯する必要など――。

「どうして過去を拒絶するんだい?そんな炎じゃ、アルバムは燃やせても記憶は燃やせないよ」

 歩き出そうとしていた狭間の脚が、止まった。
 弾かれた様に振り返ってみれば、そこにはあの胎児がいるではないか。
 外傷らしい外傷はどこにも見当たらない。何らかの呪文を使った形跡さえ見られない。

 「馬鹿な」という困惑した声が、狭間の口から漏れ出た。
 "真なる影"を名乗る不愉快な悪魔は、マハラギダインの火炎で跡形もなく消滅した筈だ。
 奴が業火に喰われて蒸発していく様を、この目ではっきり見たというのに。
 にも関わらず、どうして奴が五体満足で視界に映っている!?

「鏡を見れば鏡像が写る。日の下に出れば影ができる。
 同じことさ。僕は君だったんだから、抱える力も同じもの。その程度の呪文で斃れるわけがないだろう?」
「貴様……ッ」

 胎児の言葉に含まれていた感情は、もう一人の自分に対する憐憫であった。
 その一句一句を耳に入れること自体が、狭間にとってあまりにも不愉快かつ屈辱的で。
 憤怒を孕んだ声色で「メギド」と叫んだのは、半ば反射的な行動だった。

 魔力で形成された核熱の炎が、一斉に胎児を襲う。
 それに対して、彼は動じることなく「マカラカーン」と一言口にする。
 胎児の前方に魔力を反射するバリアが発生し、殺到する魔力を残らず撃ち返した。
 魔神皇が産んだメギドの炎が、勢いを緩めることなく主へ牙を剥く。
 狭間は咄嗟にもう一度メギドを放つ事で、見事それを相殺した。

56if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:20:38 ID:KEpQfa860

「他人から奪った力を、上っ面だけの力を振るうのは楽しいかい?
 どれだけ強い呪文を使えたって、心の脆さだけは変えられないのに」
「知った様な口を……私を魔神皇と知っての狼藉か!?」
「知ってるさ。僕は君の何もかもを知っている。
 君が歩んだ物語を、君が歪んだ過去を、君が欲しかったものだって―――」
「黙れェッ!」

 狭間が叫んだ途端、彼の足元から地面に罅が入った。
 周囲の空間が歪み、近くにいたライダーが危うく転びかける。
 暴力的な量の魔力が滲み出て、周囲に影響を与え始めているのだ。
 常人が彼の身体に触れようとすれば、魔力によって指が千切れ飛んでしまいかねない。
 それ故、性技以外は一般人同然のライダーでは、今の狭間に接触すら叶わなかった。

「どうして君は聖杯を獲りに来た?今の君なら、何だって思い通りだろうに」
「私を侮辱した連中への完璧な復讐を遂行する為だ!それ以上に何があるッ!?」
「違うね。君は力ではどうにもならない物が欲しいんだ。例えば――――」

 その言葉を遮るかの様に、狭間は呪文を乱発した。
 火炎が、電撃が、吹雪が、真空波が、核熱が、一斉に胎児を襲う。
 どれだけ強大なサーヴァントであろうと、直撃すれば死に直結する魔力量だ。
 襲い掛かる魔術の群れに嬲られ、再び胎児の肉体は四散した。

「もう一度言うよ。僕は、"狭間偉出雄"はその程度では滅びない。
 人よりずっと頭が良いのに気付けないなんて、よほど動揺しているんだね」

 けれども、その攻撃さえ徒労に過ぎなかった。
 狭間が瞬き一つした頃には、胎児の肉体はすっかり修復されていたからだ。
 傷など最初から受けていなかったと言わんばかりに、彼はその場に居座っている。
 一方の狭間はというと、こめかみに血管が怒張する程に憤怒を露わにしていた。

「く、下らん戯言をほざくなッ!貴様が、貴様が私な訳がないだろうッ!?」

 天才と謳われた少年らしからぬ、貧相な語彙の罵倒だった。
 目に見えて動揺している証拠であり、狭間は今や目の前の"影"で頭がいっぱいな状態にある。
 ライダーが何度も落ち着くように促すが、それを気に留める素振りすら見せない有様だ。
 傍らにいるライダーの匂いはおろか声さえも届かない程、狭間は乱心しているのだった。

「またそうやって自分を騙すんだ。それなら、僕にも考えがある」

 瞬間、目の前の赤子が急激にその姿を変えていく。
 ごぽごぽと肉を増やしていき、その身体を更なる異形に変えていく。
 今にも砕けそうな張りぼての翼を付けた、宙に浮かぶ芋虫であった。
 けれども、顔だけは泣きはらす人間の赤ん坊そのもので、それが余計に悍ましさを演出していた。

「ふざけるな……こんな醜い芋虫が、私だとでも言うのか……ッ!」

 僕は立派な蝶なんだと、成虫なんだと必死に主張する幼虫。
 自分を嘲笑うかの様な"影"の変化は、狭間の憤怒をより燃え上がらせるガソリンも同然だった。
 近づけないライダーが言葉で何度も呼びかけるが、今の彼にはまるで聞こえていない。

「教えてあげるよ。虚飾の剣では、這い寄る影には打ち勝てない事をね」

 刹那、胎児から影が放射状に広がり、驚くほどの速度で世界を黒色に塗り潰す。
 瞬き一つした瞬間には視界が埋め尽くされる程の勢いだ、呪文を唱える余裕すらない。
 マカラカーンを詠唱するより早く、影は狭間とライダーを飲み込んだ。

57if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:22:50 ID:KEpQfa860
【2】


 視界が開けた時、狭間は人気のない廊下で立ち尽くしていた。
 傍らにライダーの姿はなく、どうやらこの空間に居るのは自分独りだけらしい。
 今自分の身に何が起こったか、聡明な狭間はすぐに察知する事ができた。
 如何なる方法を用いたかは知る由もないが、幻影に引きずり込まれたようだ。

 マヨナカテレビに出現した"影"の中には、相手に幻影を見せる個体もあった。
 例えば、とある少年は「仲間との絆を失う」という幻影を見せられ窮地に陥った事がある。
 狭間と対峙する"影"も、そういった能力を有していたのだった。 

「目を逸らす罪には、相応の罰を与えないといけない」

 どこかからか、あの"影"の声が聞こえてきた。
 自身は姿を見せる事無く、幻影だけで自分を苦しめる魂胆らしい。

「な、何かと思えば、低俗な幻覚で私を陥れるつもりか?」

 そう挑発する様に言い放つ狭間であったが、内心は穏やかでない。
 何しろ、今自分が立っている廊下には、良い思い出が全くと言っていいほど無かったからだ。

 知らない筈がない、記憶に焼き付くほどに目にし続けた光景だ。
 この場所は、忌々しいあの高校の――軽子坂高校の廊下そのものなのだから。

 全身の肌という肌が粟立ち、胃液が喉までこみ上げてくる。
 どうしてこの化物は、自分の忌々しい過去を知っているのか。
 まさか本当に、あれこそが"もう一人の自分"だとでも言いたいのか。
 在り得ない――あんな醜い芋虫が、魔界を統べる魔神皇の分身であっていい訳がない。

『……おい、聞いたか……』

 そんな時、背中越しに聞き覚えのある男の声が耳に入り込んできた。
 あのせせら笑う様な声色を、忘れたことなど一度としてあるものか。
 心臓を掴まれたような息苦しさを伴いながら、ゆっくりと振り返ってみれば、

『ハザマの奴、実は……だってよ』
『……ええっ、ホント!?』
『バカッ、聞こえるじゃねえかよ』

 身の覚えのない噂を囁き合うクラスメイト達の姿が、そこにはあった。
 張本人が近くにいるのも関わらず、彼等は侮蔑同然の噂話を止めようとはしない。
 それどころか、狭間にも聞こえるかのように声量を上げている節すらあった。

『……だとは思ってたけど……まさか……だとはね……』
『……いや、俺は……じゃないかと思ってたよ……』

 時折こちらの様子を伺いながら、陰口を叩き続ける少年たち。
 狭間に向けられる瞳の中にあるのは、おおよそ人に向けるべきではない嘲笑ばかりであった。
 彼等は分かっているのだ。例え大っぴらに暴言を吐いた所で、あの根暗は反撃などしない事に。
 だから少年達は、あの高校に通う生徒達は、狭間という弱者を嘲笑い続けて――――。

「――――――ッ!!」

 狭間が衝動的に放ったのは、マハラギダインの業火だった。
 少年達は消し炭さえ残さず消え去ったが、廊下には傷ひとつ付いていない。
 牢獄も同然だった軽井坂高校は、変わらず狭間を軟禁し続けていた。

「こ、こんな、こんなものを見せて、動揺を誘う気か……ッ?」

 狭間の顔色には先ほど以上に蒼白であり、呼吸もより荒くなっっている。
 さも気にしていないような言葉を吐いているが、冷静を装えてはいないのは明らかだった。

58if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:25:45 ID:KEpQfa860

「辛いわけがないよね?過去は捨てたんだろう?」
「衆愚の営みなど、わっ、私には悉く汚物に等しいッ!」

 虚空から聞こえてきた"影"の声に、感情的になって言い返す。
 程度の低い罵倒を受けた彼は何に落胆したのか、深いため息をついた。
 案の定憐憫がたっぷり籠った吐息に、狭間のこめかみに静脈が青く浮き出る。

『――――やったじゃんアキコ!』

 背後から聞こえた女性の声に思わず振り返り、そして深く後悔した。
 狭間の視線の先にいたのは、辛苦ばかりの記憶の中で最も深く突き刺さった痛み。
 かつての彼が憧れていた女生徒が、明確に自分を拒絶した瞬間だった。

『ラブレターなんて、やるぅ』
『冗談じゃないわよ。ネクラなハザマの手紙なんて読むわけないじゃない』

 ちっぽけな勇気を振り絞って、意中の人に震えながら渡したラブレター。
 きっと想いが伝わる筈だと信じていた。嗤われる筈がないと思い込んでいた。
 けれど、手紙の形をした願いの結晶は、にやつきながら破り捨てられて、

『あーっ、ヒッドーイ!何も破り捨てなくったっていいじゃ――――』

 言い終わる前に、少女たちはマハラギダインの炎に呑まれていた。
 手書きのラブレター諸共、過去の痛みが灰燼に帰していく。
 狭間は燃え尽きるのを確認すらせずに踵を返し、そのまま逃げるように走り出した。

「人の世界に未練があった、だから神になれなかった。
 それなのに"皇"を名乗って王様気取り、虚しくならないのかい?」

 延々と続く廊下を走り続ける最中も、"影"は語り掛けるのを止めなかった。
 心の底から忌々しいが、彼の言っている事は間違っていない。
 無限の塔に鎮座するズルワーンを打ち倒し、神にも等しい力を得たまでは良かった。
 しかし、人への未練を理由に神に至る事が出来ず、神より劣る"皇"を名乗ったのである。

「人の世界に取り残しがあった。だけど背伸びしたって手に届かなかった。
 だから世界を滅ぼすなんて短絡的な思想に走るし、必要のない聖杯まで求め始めた」
「違うッ!私の未練は怨念だ、復讐を完遂してようやく人間と決別を――――」
「"独りで有る者に非ず"と言われたじゃないか。天才の癖にその意味がまだ解らないのかい?
 ……いや、違うんだろうね。解っていても認めたくないんだ、その言葉が何を指しているのかを」
「下らん事を……それなら貴様が答えてみればいいッ!」

 ズルワーンの力を取り込んだ時、内なる声は自分に「"独りで有る者に非ず"」と忠告した。
 あの頃は馬鹿げた言葉だと鼻で嗤いたい気分だった――この身が他人を必要としているものか、と。
 頂点は常に一人なのだ、そこに他者が介入する余地などある訳がない。

59if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:27:35 ID:KEpQfa860

「いいよ、君の言葉通りにしてあげよう。ほら、君の目の前に、欲しかったものがあるよ」

 瞬間、空間がぐにゃりと捻じ曲がる。
 出口の見えない廊下から、かつて幾度も通った保健室に。
 これから何が起こるのか、聡明な狭間にはものの数秒で理解できてしまった。

『先生、僕は、僕は……もうだめだ……誰も僕なんか愛してくれないんだ……』

 保健室に居たのは、保険医の女性に情けなく縋り付く狭間その人だった。
 情けなく泣きじゃくる少年を、保険医は母親の様に宥めているではないか。
 狭間が小さく「やめろ」と零すが、彼は女性の寛大さに甘えるのを止めなかった。

『せっ、先生!僕を……抱いてくれよ!慰めてくれよ!お願いだ!』
『やっ、やめなさい!!ハザマ君やめて!!』

 そして少年は、狭間が見ているにも関わらず保険医に抱きかかった。
 唯一の理解者だった香山先生なら、自分を受け入れてくれるのではないかと信じて。
 だから自棄を起こしたように彼女に迫って、しかし拒絶されたのである。

『……聞いて、ハザマ君。あなたは生徒、私は教師よ。こんな事しちゃいけないわ……』

 生徒と教師という関係、たったそれだけの理由で、最初で最後の理解者に拒まれた。
 この人ならきっと自分を■してくれると思いこんで、けれどもそれは思い違いでしかなくて。
 欲しかった■にはもう手が届かない事に、そこでようやく気付いてしまって。

「あ――――あぁ――――!!」

 嗚咽しながら再演された過去へ手を翳し、しかし唇は呪文を紡ぐ事が出来ず。
 先程の様に焼き払う事もしないで、狭間はすぐさま保健室を飛び出した。
 けれども、この世界は"影"の作り出した裁きの世界。逃げた先に安息などありはしない。

『……貴方が恐れたのは、私の力ではない』

 保健室を抜けた廊下で待っていたのは、かつて契約していた「アモン」という悪魔だった。
 絶大な力が手に入るという「無限の塔」を訪れた狭間が、最初に出会った存在。
 ズルワーンを倒し神に等しい力を得た後、用済みとして封印していたのだ。

『私が貴方の心を知ってしまった事に怯えているのだ。私が貴方を哀れんだことに』
「お、思い上がるな!貴様らが、あ、足手まといだから、私は、お前たちを……!!」

 言い切る前に、狭間は衝動的に『ザンマ』の呪文でアモンの五体を引き裂いた。
 バラバラになった肉体が血液と共に廊下中に散らばるが、唇は動くのを止めようとしない。

『心を開かなければ、求める物が手に入る事はない……それさえ知らないとは、なんと哀れな……』

 その言葉を最後に、アモンの肉片は消滅する。
 狭間の顔はこれまで以上に蒼白になり、その色は今や死人めいていた。

60if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:30:02 ID:KEpQfa860

「パトラ!パトラッ!パトラッ!!パトラッ!!!パトラッッ!!!!
 ……何故だッ!!何故消えない、こんな状態異常ひとつ、打ち消せない筈が……ッ!?」

 状態異常を治癒する「パトラ」の呪文を唱えても、世界は何も変わりはしない。
 そもそもこの幻覚は"影"の力であり、狭間は現在も健康体そのものだ。
 普段の彼であれば気付ける簡単な事実であるが、動揺しきった今の状態ではそれも叶わない。

「そんな事したって無駄さ。自分の力なら何でも出来ると驕っているのかい?」
「何が……何がしたいんだ……貴様は……ッ!?」
「まだしらばっくれるのかい?正直に言えばいいじゃないか」

 その時、顔は見えないというのに、"影は"ニヤリと嗤った気がした。


「きみはただ、"愛"が欲しいだけなんだろ?」


 "愛"が欲しいと、影は嘯いて。
 その瞬間、狭間の脳裏に覚えのある情景が映し出される。


――――……僕は、この世に一人……。


 フラッシュバックしたのは、自分自身の過去だった。
 人間だった頃の忌まわしい思い出が、蓋をしていた筈の記憶がまざまざと蘇る。
 惨めだった自分、教室で独りぼっちの自分、ただ泣いてばかりいた自分。
 捨て去った日々の残滓が、否応なしに再生される。


――――僕はいつも一人だ……誰も僕を愛さない……僕は誰も愛さない……。


 違う、こんなものは魔神皇ハザマが持つべきものではない。
 こんな記憶はあり得ない、こんな過去はあってはいけない。
 思い出すな、蘇るな、現れるな消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ――――。

「違う――――違う違う違う違う違うッッ!!
 こんなものを私に見せるなッ!魔神皇に、こんな穢れがあるものかッ!」

 怒り狂った狭間が、我武者羅に呪文を乱打する。 
 最早彼自身ですら、どんな術を使っているのか分かっていない有様だった。
 魔神皇が持つあらゆる呪文が、虚像の世界を破壊せんとする。
 けれど、それでも校舎の窓は割れないし、廊下は罅割れすらしない。
 魔法の様な力を手にしたって、現実(せかい)は変わりはしなかった。

61if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:33:13 ID:KEpQfa860

「僕は孤独だった、誰も僕を理解しないどころか、いつも僕を否定していた。
 どう他人に接すれば分からなかったんだ。どうすれば僕は愛されるんだろうって」
「奴等は私を理解しない馬鹿共だったッ!取るに足らない屑共だッ!」

 マハラギダインは最上級の火炎呪文。
 それにより生み出される業火は、あらゆる生命を灰に帰す。
 けれど、そんな力では過去を焼き切る事は出来なくて。

「香山先生は僕を受け入れてくれると信じていた。でもあの人は僕を拒絶した。
 当然だよね、教え子の僕とセックスしてくれなんて、到底受け入れられるものじゃない。
 見栄を張らずにいい子いい子してもらえれば、それだけで十分だったのに」
「これ以上口を開くなッ!貴様如きが、私を知り尽くした様な口を利くなッ!」

 マハブフダインは最上級の凍結呪文。
 それにより生み出される冷気は、あらゆる生命を停止させる。
 けれど、そんな力では過去を凍らせる事は出来なくて。

「お母さんがいれば、僕を愛してくれる人がいれば、僕はそれだけでよかったんだ。
 神様の力があればそれが叶うと信じたかい?そんな都合のいい話があるとでも?
 悪魔達は"魔神皇"の力にひれ伏しただけで、狭間偉出雄になんて見向きもしていないさ」
「愛など不要だッ!神聖なるこの身に、私という真理に!そんなものが必要あるものかッ!」

 ジオダインは上級の電撃呪文。
 それにより生み出される電流は、あらゆる生命を黒焦げにする。
 けれど、そんな力では過去を消し炭にする事は出来なくて。

「君のやるべき事は復讐なんかじゃない。ましてや聖杯なんて無用の長物だ。
 愛に飢えた君は、母に抱かれて眠るべきだったんだ」
「貴様に……貴様に私の何が分かる!?全能たる魔神皇が、そんな子供の様な……ッ!」
「事実子供じゃないか、君は」

 ハマオンは上級の破魔呪文。
 それにより生み出される極光は、あらゆる生命を天に帰す。
 けれど、そんな力では過去を清算する事は出来なくて。

「愛など必要ないッ!!貴様が私である訳がないッ!!」
「ならどうして、君はあのライダーを召喚したんだい?」
「そんなもの私が知るかッ!アークセルの嫌がらせに決まっている!」
「違うよ。君が望んだから彼女は来たんだ。君が彼女を求めたんだ」

 メギドは核熱呪文。
 それにより生み出される灼熱は、あらゆる生命を消滅させる。
 けれど、そんな力では過去を無かった事にすら出来なくて。

「彼女のセックスは正真正銘愛の象徴だ。自分も相手も快楽に溺れる交わり、それを愛と呼ばずに何と言うんだい?」
「都合よく解釈するなッ!あんな誰彼構わず、せ、セックスする女などッ!」
「それなら香山先生に"抱いてくれ"なんて懇願しなければ良かったのに。
 セックスが愛に由来する行為だって、そう知ってたからあんな事言ったんじゃないのかい?」

 どれだけ呪文を撃ち続けたところで、"影"は姿を見せる事はない。
 勿論、廊下の様子も一切変わることはない。全ては徒労に終わっていた。
 魔神皇ハザマの暴力では、精神を揺さぶる"影"にまるで太刀打ちできなかった。

「もういいじゃないのか。駄々をこねた所で何も変わらないよ」
「黙れ……私は……わたしは…………――――」

 その時だった、狭間の付近の虚空から、少女のものと思しき腕が出現したのは。
 腕は狭間の股間にまっすぐ伸びていき、か細い指がズボン越しに男性器へ触れる。
 すると、彼は素っ頓狂な声を挙げて痙攣し、へなへなと跪いたではないか。
 真っ白なズボンは白濁液で濡れている。端的に言うと、射精したのである。

62if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:34:21 ID:KEpQfa860
【3】


 糸の切れた人形めいた状態の狭間に、ライダーが駆け寄ってくる。
 言うまでもなく、彼が射精したのは彼女の仕業である。
 宝具である「ぴちぴちビッチ」で右手を股間に転移させ、一瞬の隙を突いて指で触れる。
 卓越しすぎた性技を持つライダーであれば、それだけで男を絶頂させる事が出来た。

「…………ライダー…………」
「大丈夫……とは流石に言えないわね」

 狭間の表情は、素人目でも一目で判断できる程に憔悴していた。
 ライダーの手で射精されたというのに、嫌悪がまるで見られない。
 そういった感情すら出せない位、彼の精神は損傷しているのだった。

 通常、ライダーによって絶頂した者には「賢者モードver鏡子」という宝具が発動する。
 この宝具の影響を受ければ、脳の処理能力が上がるなどの恩恵を長時間受けられるのだ。
 しかし、それでもなお狭間の意識は混濁したままである。要はそれほどのダメージなのだろう。

「ごめんなさいマスター、もっと早く見つけるべきだったのに……」

 ライダーはへたり込む狭間に肩を貸し、どうにか彼を立ち上がらせる。
 性技ひとつで英霊に至ったこの英霊は、性欲を調整するのも思いのままだ。
 そのため、今は肌を密着させてはいるものの、狭間が絶頂する事はなかった。

――――ごめんね、イデオ。あなた1人、寂しい思いさせて……。

 放心状態の狭間の脳裏に、ライダーのものとは異なる女性の声が響き渡る。
 確か以前にも、同じような言葉を掛けられた覚えがあった筈なのだが。
 それを思い出そうとする暇もなく、"影"による攻撃は再開される。

『ごめんね、イデオ……』

 狭間とライダーの目の前に、またしても幻影が現れた。
 母親と思しき女性が赤子を抱えながら、まだ十歳にも満たないであろう小さな子供を置いていく光景だ。
 少年は泣き叫びながら母の名を呼ぶが、当の母親は振り返りもせずに歩き去っていく。

『かあさん!行っちゃやだ!!なんで、ぼくをおいてくの!!行っちゃやだ!!』

 まだ小さな子供ではあるが、声色や容姿からして幼少期の狭間である事は明らかだった。
 そして、母を追い求めるその光景が何を意味しているのか、ライダーにだって理解できた。
 狭間が幼い頃に母親と別離し、

「マスター、あなた……」

 何かを悟ったライダーが、こちらに視線を向けている。
 彼女はあの泣きじゃくる子供から、自分のマスターが抱える心の傷を知ったのだ。
 それ故に、彼女の瞳には強い同情の念が浮かんでいて、

63if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:35:41 ID:KEpQfa860
.





――――■■■とは久しぶりよね。そうよ、あなたの妹の■■■よ。






 だから、ライダーの瞳が重なった。






――――ずいぶん久しぶりだから、すっかり見違えたでしょう?
――――……■■■、さあ、兄さんに挨拶なさい。






 母との記憶の中にあった、あの少女の瞳が。







「や、やめろ」

 知っている瞳だった。

「そんな目で、私を見るな!」

 いつか見た瞳、子供の頃に目にしたあの瞳。
 母親の隣にいた少女の瞳が、まじまじと自分を見つめる様で。
 その視線が痛くて、辛くて、嫌で、たまらなく怖くて。

「こんなもの違う!私は、魔神皇たる私が、こんな……!!」

 瞬間、狭間は両の腕でライダーを突き飛ばす。
 腕に込められた力はあんまりに非力で、魔神皇とは思えぬほど貧弱だった。
 ただの女子高生程度の筋力しかないライダーとの距離は、ほんの僅かしか開かない。
 だから、彼女の■■■そっくりの瞳はこちらを見つめたままで。

「ちょ、待ってマスター!落ち着いて――――」
「う、うるさいッ!黙れ黙れ黙れッ!」

 狂乱状態の狭間により、二画目の令呪が発動する。
 「黙れ」という命令を強制され、ライダーは閉口せざるを得なくなる。
 それだけでは終わらず、狭間の所持していた最後の令呪が紅い輝きを見せると、

「私の、私のッ!目の前から、消えろォォォォッ!」

 その命令が意味するのは、明確な拒絶の意志であった。
 想定外の言葉に衝撃を受けたライダーが、狭間に向けて手を伸ばす。
 「そんなつもりじゃなかった」と弁明しようにも、口を開く事は出来ず。
 だから今は、彼の手を掴んで意志を伝える事しか方法が無くて。

「――――――触るなッ!」

 その伸ばした手を、狭間は腕を払って弾き飛ばした。
 怯えと恐怖が入り混じった、今にも泣き出しそうな表情をライダーに見せながら。
 彼女の想いを、彼女の優しさを、彼女の愛を、再度拒絶したのだった。

 狭間が最後の命令は正しく行使され、ライダーの姿がその場から掻き消える。
 令呪の強制力により、彼女はこの空間から無理やり弾き飛ばされたのだった。

64if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:37:48 ID:KEpQfa860

 ライダーが行方を晦まし、再現された軽子坂高校には狭間一人だけが残る。
 それを好機と見たのだろうか、荒い呼吸音を立てる彼の前方の空間が歪み始める。
 その歪みから這い出てきたのは、狭間を陥れたあの芋虫、もとい"影"だった。

「どうして拒むんだい?彼女ならきっと、君を受け入れてくれたのに」
「……セックスに耽る女など、此方から願い下げだ」
「そうか。君にはそうとしか見えなかったんだね」

 やはり憐れむ様な口ぶりだったが、もう狭間は何の反応も示さなかった。
 視線を下に向けて座り込む彼は、黙り込んだままで口を開こうともしない。
 ほんの少し前であれば、ムキになって反論していた筈だというのに。

「でも構わない。僕は君を赦してあげる」

 弱り切った狭間を尻目に、"影"の顔つきが変異する。
 まるで粘土を捏ねたみたいに、顔がぐにゃぐにゃと歪んでいき、

「貴方はただ愛してほしかっただけ。抱きしめてほしかっただけなのよ」

 不細工な赤ん坊だった"影"の顔は、顔立ちの整った美人になっていた。
 声色さえ変わってしまっている。当初は狭間と同じだったのに、今では女性のそれだ。
 顔を上げてそれを目にした狭間の瞳が、大きく見開かれる。
 彼が見紛う事はない、その美人の顔とは、保険医の香山そのものだったのだから。

「だからね、イデオ君。もう全てやめてしまいましょう?
 あの時は駄目だったけど、今ならいいわ。貴方を抱いてあげる」

 唯一の理解者と同じ顔と声で、"影"は狭間に諦観を促す。
 疲弊しきった彼を、快楽の道へと引きずり込まんとする。
 きっとこれこそが、"影"の最終目的だったのだろう。
 精神を徹底的に凌辱した末に、抱擁という形でトドメを刺すつもりでいたのだ。

 狭間はしばらくの間、彼女を見つめて。
 そして、小さく口を開いた。

「もういい」

 狭間の口から出てきたのは、先程とは打って変わって底冷えするような声だった。
 この世の一切に対する興味を失ったような、どこか空虚さすら感じさせる声色。
 その声に色を付けるのだとしたら、きっと今の彼の瞳と同じ、光をも飲み込むような黒色なのだろう。

「お前が、私の影を名乗るなら。"狭間偉出雄"の影を名乗るのなら」

 立ち上がった狭間は、虚ろな瞳で再度"影"を見据える。
 じっくりと目の前の怪物を観察していき、やがて彼は一つの結論を出す。
 やはり、あり得ない。こんな醜い姿が本来の自分などと。
 あんなものは所詮、自分を陥れる為に作られた虚偽の産物でしかないのだ。

 ならば証明してやろう。あの芋虫などではなく、"魔神皇"こそが真の自分だという事実を。

「そんな幻想は、この"魔神皇"が破壊する」

 狭間の肉体が変容する。痩せこけた少年から、刺々しい冠を被った聖者の如き姿へと。
 信心無きならず者でさえ畏怖すら覚えるこの姿こそが、本来の魔神皇である。
 ズルワーンの力を解放した、まさしく神の如き権能を振るう形態であった。
 この形態であれば、この聖杯戦争に存在する全てのサーヴァントを相手取る事さえ出来るだろう。
 無論、脆弱な"影"の攻撃如きでは、皇の玉体が傷つく筈もない。

 そうとも知らず、"影"は幾つもの大魔術を敵に向けて撃ち込み始めた。
 それら最上級クラスの魔術の一切を、魔神皇は躱す素振りすらせず受け止めていく。
 無論、脆弱な"影"の攻撃如きでは、皇の玉体が傷つく筈もなかった。
 いや、例え神が造り上げた兵器だろうと、彼に痛みを与えるのは難しいに違いない。

65if - a king of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:40:08 ID:KEpQfa860

 魔神皇はゆっくりと"影"に向けて歩き出す。
 彼にとっては、わざわざ歩まずとも「メギド」と一言唱えれば即死する様な雑魚である。
 しかし、あの敵だけはこの手で直接始末しなければならないと、本能が訴えていたのだ。
 その意志を抱いた理由からは、今もなお目を背け続けながら。

「どうして否定し続けるの?」

 答えない。

「愛されたいと望むのは、悪い事なんかじゃないのよ?」

 答えない。

「聖杯なんかいらないの。独りは嫌だって、そう言ってくれるだけでいいのよ?」

 答えない。

「神様の力なんて捨てて、私とひとつに――――」

 問いかけは、頭部を両手で鷲掴みにされた事で中断される。
 最後まで口を開かないまま、魔神皇は"影"の元に辿り着いたのだった。
 "影"は香山と同じ顔を保ったまま、微笑みながら相手を見つめている。
 魔神皇は眉一つ動かさない。そもそも動かすような部位がない。

「消えろ」

 魔神皇は躊躇う事無く、香山の顔を果実の様に握り潰した。


【3】


 "影"を滅ぼした瞬間、景色は最初の校庭に戻っていた。
 魔神皇の肉体も、本来のものから少年のそれへと戻っている。
 焼け焦げた跡さえ見当たらない校舎を見て、魔神皇は全てを理解した。

「……なるほど、全てが幻影だったという訳か」

 恐らくは、"狭間の影"が最初に変異した時点で幻覚に取り込まれていたのだろう。
 だからこそ、どれだけ攻撃を受けてもすぐさま再生する事が出来たのだ。
 冷静さを失っていたせいでそれに気付けないとは、とんだ失態だと自嘲せざるを得ない。

「悲しいね」

 自分の傍らに"狭間の影"が立っているのに、そこでようやく気付いた。
 ほんの少し前であれば顔を顰めただろうが、今の魔神皇はもう何の反応も示さない。
 顔が同じだけの別人が何を言おうが、単に不愉快なだけでしかなかった。

「貴様がどれだけ何を吐こうと、あんなものは私ではない」

 魔神皇は魔界を統べる皇。下賤な愛を求める理由などあるものか。
 魔界を意のままに支配する神の如き力の前では、愛など所詮塵芥も同然なのだから。
 だから、魔神皇たる今の自分が、そんな感情を欲している訳がなくて。

「お前が、私である訳がない」

 その一言は、まるで自分に言い聞かせるようだった。

「それが君の選択なんだね、"魔神皇"」

 それでもなお、"狭間の影"は相変わらず憐憫を止めなかった。
 魔神皇はやはり答えない。これ以上会話を続ける意味を感じなかった。
 断じて、自分の答えが揺らぐのを恐れている訳ではない。

「だけど、この聖杯戦争は"つがい"を求める闘争だ。
 アークセルは独りで戦う君を決して望まないし、求めもしない」

 魔神皇が"狭間の影"に向けて掌を翳す。
 未だ存在し続ける"影"の息の根を、今度こそ止めるために。
 幻覚の中ではものの数秒で蘇生されてしまったが、現実世界なら話は別だ。
 たった一言呪文を唱えるだけで、狭間そっくりな男はこの世界から消え失せる。

「さようなら孤独の皇。君はもう、永遠に独りだ」

 刹那、"狭間の影"を『マハラギダイン』の火炎が包み込む。
 英霊すら焼き焦がす業火に喰われ、影は痕跡すら残さず消滅した。
 まるで最初からそんなもの存在しなかったかの様に、何一つ残りはしなかった。

 全てが終わり、魔神皇はふと校舎の方へと目を向けた。
 学校に備え付けられた窓に、自分の顔がうっすらと映っている。
 目も鼻も口もあるのに、何故だかのっぺらぼうみたいに見えた。

66if - a fool of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:45:16 ID:KEpQfa860
【4】


 どうやら、令呪の影響でマヨナカテレビの外へ飛ばされてしまったらしい。
 禍津冬木市とは対照的な風景に囲まれ、ライダーは溜息をついた。

「困ったわね」

 早く狭間の元に戻りたい所だが、生憎ライダーの身体能力は極めて低い。
 それこそ一般人同然である彼女の脚力では、移動には相当な時間がかかるだろう。
 第一、ライダー単独では電脳世界に転移することすらままならない。
 出来ることがあるとすれば、自宅でマスターの帰りを待つ事くらいだ。

 とはいえ、ライダーは特に焦燥感を抱いている訳でもなかった。
 マスターがサーヴァント並みの能力を所有している事は、これまでで十分解らされている。
 よほどのハプニングが起こらない限り、彼が斃れる事はないだろう。

 しかし、問題は彼が元の世界に帰還した後である。
 怪物と対峙していた時のマスターは、見るからに多大な精神ダメージを受けていた。
 あの様子から察するに、戦闘後もしばらく引き摺るのは間違いないだろう。
 それこそ、今後の立ち回りに影響を及ぼすおそれさえある。

(……悪い事しちゃったわね、拒むのも無理ないわ)

 狭間がどうしてセックスを拒んでいたのか、今のライダーには理解できた。
 あの反応からして、自分の前に現れた子供は過去の彼自身で間違いないのだろう。
 幼少期に母親と別離したという経験から、彼は心のどこかで愛情に飢えていたのだ。

 実を言うと、狭間を探している最中に目撃してしまったのだ。
 彼が"影"の見せる幻影に怯える姿を、「ぴちぴちビッチ」越しに見つけてしまったのだ。
 勿論、彼の過去も知ってしまったし、愛を嫌悪する理由も概ね察しがついた。

 狭間がそれを知ったら、烈火の如く怒り狂うのは容易に想像できる。
 最悪の場合狂乱した彼に殺されかねないし、恐らくそうなるだろう。
 だから、この事実はライダーの胸中に秘蔵されてそれっきりだ。

 けれども、ライダーは解っている。
 狭間偉出雄は、深層心理では愛を求めている。
 愛を求め、愛に裏切られ、愛を憎み、愛を嫌悪し。
 だがそれでも、今もなお心の何処かで愛を欲しているのだ。

 そうと決まれば、今後の立ち振る舞いも考えなければならない。
 狭間は恐ろしく強いのだから、自分が下手を打たない限り敗退はあり得ないだろう。
 時間はたっぷりあるのだ。ゆっくり手間暇かけて彼の心を氷解させればいい。
 セックスは本番だけが重要ではない。しっかり濡らす為の前戯だって同じ位大切なのだから。

67if - a fool of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:45:57 ID:KEpQfa860

「それじゃ、早く帰らないと……」

 そういえば、この街並みは「ぴちぴちビッチ」越しに見た事があったか。
 錯刃大学――以前ライダーは、この大学の生徒を何人か絶頂に導いた事がある。
 あの大学の付近が現在位置という事は、マスターの住居とそれほど離れていないだろう。
 この程度の距離なら移動にさして時間はかからないだろうと、ライダーは家の方向に振り返って、












 そこでライダーは、はっきりと視た。
 こちらを見据える、暗殺者の英霊を。











 咄嗟に手鏡を手にして、自分の力を行使する。
 「ぴちぴちビッチ」を介した性技の前では、大抵の英霊は無力だ。
 なにせケルトの大英雄すら屈する程なのだから、こと性に関してライダーは無敵だろう。
 性技それ自体を無力化する力を持つ――そのたった1つのケースを除けば。

 手鏡に触れようとした瞬間、ライダーは自分の性欲がかつてなく昂ぶるのを感じた。
 覚えのある感覚だった。最初に行動を起こした時、大学で感じたものと同一のもの。
 つまりそれは、自分の性技自体が反射されているということであり。

「――――ッ!?」

 全てを悟った瞬間、手鏡を持つ腕が宙を舞った。
 こちらへ肉薄したアサシンに、忍者刀で腕を刎ねられたのである。
 残された片腕でどうにか相手に触れようとするが、彼の刃はそれより速い。
 ライダーの胸に一文字の傷が走り、血飛沫が吹き上がった。

 地面に立つ力を喪い、ライダーは膝から崩れ落ちる。
 白む空に血しぶきが上がり、自分の身体はおろか刺客の服すら赤く濡らしていく。
 致死量の血液が流れ出ているのは、誰の目から見ても明らかだった。

「見事な性技、だからこそ生かす訳にはいかぬ」

 血濡れの刺客が、再度忍者刀を構える。
 次の一太刀を以て、ライダーの首を撥ね飛ばす気でいるのだ。
 目下の脅威を決して仕損じる事なく、確実に息の根を止めるために。

 死が確定したこの瞬間になって、ライダーは思い出す。
 あらゆる技を反射するあの魔眼は、以前自分を撃退したアサシンのものではないか。
 彼のスキルか宝具の影響だろう。この瞬間に至るまで、その能力はおろか外見すら忘却してしまっていた。

 『ピロートークもせずに本番だけで帰っていく謎めいた男』。
 以前アサシンをそう評したが、こうして直接対峙すると言い得て妙だと自画自賛したくなる。
 己を殺し、常に影の中に潜む忍者の様であり、嗚呼、こういう男は本当に――――。

「相変わらず、クサい男ね」

 刃が振り下ろされ、舞台は鮮血に染まる。
 一瞬の果し合いは、こうして幕を閉じた。

68if - a fool of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:49:28 ID:KEpQfa860

 ■ □ ■



 まさか、二度目の生でも首を刎ねられるとは思わなかった。
 忍者刀が振り下ろされるその瞬間、鏡子は過去を振り返って自嘲した。
 一度目の死の時は知覚する時間さえなかったのだから、それよりかはまだマシなのだろうが。

 「死の瞬間は周囲の景色がスローモーションになる」という噂を聞いたが、あれはどうやら本当らしい。
 事実として、自分の首元に迫る日本刀の速度が酷くゆっくりに感じられるのだ。
 最期にこれまでを振り返る位は許してやろうという、神様の傍迷惑な思いやりなのかもしれない。

 後悔があると言えば、それはもう山ほどある。
 何しろほとんどセックスをし足りないのだ、欲求不満が全く解消されていない。
 "本番"は最初のランサー戦だけで後は前戯だけとは。"魔人"の名も涙を流すというものだ。

 けれど、中でも一番の後悔は。
 狭間偉出雄という少年を、あの世界に独りにさせてしまう事だった。

 本当の彼は孤独を恐れていて、誰よりも愛を求めていて。
 それなのに、恐怖から愛を遠ざけてしまっていて、そのせいで誰も近寄る事ができなくて。
 追いすがる誰かがいないと、きっと彼は本当に独りになってしまう。
 この聖杯戦争の舞台で、それが出来るのはきっと自分だけだったのに。

(ごめんなさい、マスター――――)

 無意識の内に、残された方の腕を伸ばす。性を貪る為でなく、孤独の皇の手を掴むために。
 一人だけではセックスはできない。"つがい"でなければ不可能な愛の証明だ。
 だから、孤独なあの手を掴んであげたくて、愛してあげたくて、

(――――抱いて、あげたかったのに)

 首元に冷たい感触が刺さり、そこで視界は暗転する。
 宙に伸ばした腕は、空を切るだけに終わる。

69if - a fool of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:50:22 ID:KEpQfa860
【5】


 首を刎ねられたライダーの消滅を確認し、アサシンは忍者刀を鞘へと収める。
 周囲に殺気は感じられず、どうやらこの場にいたのは彼女独りだけだったようだ。
 いや、そもそも人の気配を感じていれば、こんな大胆な行動には出ていない。

 マスターであるHALからの情報で、性技を扱うサーヴァントの特徴は把握していた。
 眼鏡を掛けた平凡な女子高生で、一見すれば性に卓越したとは到底思えぬ少女。
 だが実物を目にすると、瞬時に察知する事ができた。あれは紛れもなく毒婦であると。

 性に関する技――つまりは房中術の脅威を、アサシンは十分すぎる程に知っていた。
 彼が率いた甲賀の忍の中には、発情する事で猛毒を分泌する女忍者がいる位だ。
 人間の三大欲求に訴えかける戦術は決して侮れない。事実として、その女忍者が猛毒を以て敵を仕留めた場面もある。

 故に、卓越した性技を持つライダーは確実に始末しなければならなかった。
 しかし、彼女のマスターがサーヴァントを超える超人であるのが問題だった。
 あの魔神の如き力を持つ少年を相手にするのは、アサシンの魔眼を以てしても困難を極めただろう。
 だがどういう事情があってか、ライダーはマスターを伴わずアサシンの視界に姿を現した。
 周囲を注意深く確認したが、罠の気配もない。これを好機と見ずに何と言うのか。
 こうした判断の元、アサシンはライダーを襲撃し、呆気なく打ち取ったのであった。

 しばし周囲に気を配るが、それでもなおマスターが姿を見せようとしない。
 これは一体どういう事かと疑問が浮かぶが、程なくして理由を推測できた。
 恐らく彼女は、マスターに一方的に縁を切られてしまったのだろう。
 あの魔神の如き少年の事だ、複数のサーヴァントを従える魔力量を有していても不思議ではない。
 何らかの事情でライダーを不要と見なしたマスターは、彼女との縁を切って追放したのだ。

(哀れな)

 片手で合掌の形を取り、今しがた葬ったサーヴァントを弔う。
 偽善ではある事は承知の上だが、しかし憐れまずにはいられなかった。

 それにしても。
 あの女が最期に向けた腕は、果たして自分へと向けられたものだったのだろうか。
 何らかの攻撃ではないかと一瞬肝を冷やしたが、どうやらそういう訳でもないようだった。
 もしや、彼女の差し伸べた先には、そこにはいない何かの影があったのではないか。

「……いや、知る必要もあるまい」

 これ以上他者の感情に踏み入る事は、無意味というものだろう。
 第一、女を殺したのは他ならぬ自分なのだから、それを知ろうなどとはおこがましい話だ。

 ただ、ひとつだけ言える事があるとすれば。
 伸ばした手は、もう何も掴めはしないという事だ。


【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク 〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:健康
[装備]:忍者刀
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:勝利し、聖杯を得る。
 1.HALの戦略に従う。
 2.自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。
 3.狂想のバーサーカー(デッドプール)への警戒。
 4.戦争を起こす者への嫌悪感と怒り。
 5.魔神皇には引き続き警戒。
[備考]
※紅のランサーたち(岸波白野、エリザベート)と赤黒のアサシンたち(足立透、ニンジャスレイヤー)の戦いの前半戦を確認しました。
※狂想のバーサーカー(デッドプール)と交戦し、その能力を確認しました。またそれにより、狂想のバーサーカーを自身の天敵であると判断しました。
※アーチャー(エミヤ)の外見、戦闘を確認済み。

70if - a fool of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:52:43 ID:KEpQfa860
【6】


 比喩でもなんでもなく、全てが終わっていた。
 禍津冬木市の一角で、魔神皇はぼんやりと立ち尽くしていた。

 いつからは解らないが、ライダーとの魔力パスは既に消えていた。
 激情で正気を失っていた手前、その異変に気付けなかったのだ。
 この事実が何を意味していたかなど、最早説明する必要すらないだろう。

 手の甲に目を向けると、使用した令呪の痕跡が跡形もなく消えていくのが分かる。
 どうやら、令呪の所有数によって消滅までの速度が変わっていく仕組みになっているらしい。
 三画しっかり温存していればある程度の猶予があるだろうが、生憎自分は令呪を全て消費してしまっている。
 このままでは、ものの数分程度で自分の肉体は消滅してしまうだろう。

 他のサーヴァントと再契約するという選択肢もあったが、不可能だろうとすぐに切り捨てた。
 ほんの数分ではぐれサーヴァントを見つけるなど非現実的だし、第一令呪を全て失っているマスターに誰が従うというのか。
 別のマスターを殺すという手もあるが、これがより困難な道である事は言うまでもない。

 例え魔神皇であっても、聖杯戦争のルールには逆らえない。
 これまで脱落したマスター達と同じように電脳死するのは、確定事項だった。

(だから、なんだ)

 霧の世界を見つめるのは、どこまでも空虚な瞳。
 表情が削ぎ落された今の魔神皇の顔には、焦りも恐怖も示されなかった。

 自分でも驚く程に、何も感じなかった。
 まるで心臓にぽっかりと穴が開いたようで、そこからびゅうびゅう風が吹いているようだった。
 
(下らん。此処で消えようが消えまいが、最早どうでもいい話だ)

 未練こそあるが、今更悪あがきする気にもならない。
 元より、この世界の全てを消し去りたいと願っていたのだ。
 誰もいないこの電脳空間で消えるのは、望むところではあった。

 けれども、無言を貫いて消え失せるのはあまりに味気ない。
 例え消滅する運命だろうと、この身は神の力を宿した魔神皇である。
 この世界から消え去る間際、せめて何か一言遺しておくのも悪くない。

 そうだ、この聖杯戦争で戦い続けるマスター達にこう言い残そう。
 お前たちがどれだけ足掻こうが、この魔神皇の足元にも及ばないと。
 ここで消えるのを幸運に思うがいい――こんな台詞を、最期に尊大に吐き出そうとして、

71if - a fool of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:53:54 ID:KEpQfa860

「………………嫌だ」

 吐き出して、嘲笑おうとした、筈だったのに。
 口から出てきたのは、魔神皇の意思とは正反対のひ弱な言葉。
 消え入りそうな程小さなそれは、まだ弱かった頃の自分の声色で。
 まだこんな感情が残っているのかと戦慄するのを尻目に、唇は勝手に動き始める。

「こんなの、嫌だ。独りぼっちで消えるなんて、嫌だ」

 どれだけ止まれと理性(まじんのう)が望もうとも、本心(はざまいでお)は唇を動かし続ける。
 現状への絶望を、迫る死への恐怖、孤独への嘆きを紡いで止まらない。
 瞳からは涙がとめどなく溢れ、鼻からは鼻水が垂れ流され続けている。

「こんなの望んでない。僕は、愛されたかっただけなのに」

 違う、こんな言葉は大嘘だ。そう叫ぶ"魔神皇"の言葉はもう届かない。
 恐怖する本心が拒絶する理性を圧し潰し、"狭間偉出雄"は独りで泣き叫ぶ。

 聖杯戦争からの脱落という事実は、狭間が纏っていた魔神皇の鎧に風穴を開けた。
 その穴から本来の弱い自分が溢れ出し、精神が決壊を起こしているのである。
 鎧を修復する術を持たない今の狭間は、ただ泣きはらす以外にやれる事など無かった。

 "真なる影"を決して認めるようとせず、力づくで拒絶したとしても意味がない。
 どこまで行っても"影"とはもう一人の自分であり、消え去る事などあり得ない。
 それは神の如き魔神皇とて同じこと。彼の中には、相も変わらず狭間偉出雄が生きていた。

「嫌だ……嫌だよぉ……!誰か、誰かいないの……!」

 辺りを駆けずり回っても、人間どころか生物の気配さえ感じない。
 今の禍津冬木市に生命など、狭間一人を除いて存在するものか。
 マヨナカテレビの世界で、彼は独りぼっちだった。

「誰か、だれか、だれか…………!!」

 走っていた最中に小石に躓き、無様に地面に倒れこむ。
 狭間は立ち上がろうともせず、そのまますすり泣きを始めた。
 そうしている間にも、死へのタイムリミットは迫ってきているというのに。

 神の力という強固な鎧を纏う事で、狭間はどうにか冬木の街を歩く事が出来た。
 それを取り上げられた以上、最早両の足で地面に立つ事さえままならない。
 鎧の中にいたのは、愛を求め、しかし愛に怯えて涙する赤ん坊だった。

72if - a fool of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:57:23 ID:KEpQfa860

「みんなどうしていないの……どうしてぼくをおいていくんだよ……」

 肉体が崩壊していく、精神が霧散していく。
 たった独りの世界で、誰にも看取られる事なく消えていく。
 不気味がる者も、嘲笑する者も、罵倒する者も、呆れる者も存在しない。
 かつて拒絶した繋がりの外側で、鳥や虫にさえ気付かれずに生涯を終えようとしている。

「いやだ……いやだよぉ…………」

 誰でもいいから、自分の傍にいてほしい。
 そう願ったその途端、思い浮かべたのは自分が召喚した少女の面影で。
 そこに来てようやく気付いた。あの少女は、一度たりとも自分を否定しなかった事に。

「ぼくを…………あいしてよぉ……いやだ……ぼくを…………」

 消滅の間際、虚空に向けて右手を伸ばす。
 こうすれば、ライダーが自分の手を掴んでくれるんじゃないかと思えて。
 けれど、霧の中に伸ばした手は、なんにも掴めなくて――――。 





「ひとりに、しないで――――――――」




 霧の中で、少年の慟哭が木霊して、消えた。



【狭間偉出夫@真・女神転生if... 消去】
【ライダー(鏡子)@戦闘破壊学園ダンゲロス 消滅】
※サーヴァント消滅からマスター死亡までの時間は令呪の数に影響します。
 3画所有していた場合は1,2時間ほど猶予がありますが、全て使用済みの場合は即座に消滅が開始します。

73if - a fool of loneliness ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:58:15 ID:KEpQfa860

【0】


 自分の名を呼ぶ少女の声で、少年は夢から醒める。

「大丈夫?すごく苦しそうだったけど……」

 彼女の言う通り、少年は寝ている間ずっとうなされていた。
 しかし、少女の柔らかな視線を受けた途端、彼はみるみるうちに落ち着きを取り戻したのである。
 寝汗で濡れた額を手で拭いながら、少年は恐る恐る口を開く。

「怖い夢を見たんだ。僕が何もかも拒んで、独りぼっちで消えていくんだ」

 その夢は、きっと少年がこれまで見た中でも一番の悪夢だった。
 自分の願いを知らないまま戦って、ありもしない尊大な人格を組み立てて。
 身に纏う鎧を護る為に全てを喪って、鎧の中で泣きじゃくりながら死んでいく。
 それはきっと、あり得たかもしれない少年の未来だった。

「ねえ、レイコは此処にいてくれるよね?僕を独りにしないよね?
 怖い、怖いよ。眠っている内に、またいなくなっちゃうかもしれないって……!」

 少年の声色はおろか、痩せた身体さえも小刻みに震えていた。
 彼の体格は高校生のそれだったが、これではまるで小学生の様である。
 しかし、少女は何を言うまでもなく、少年の背中に手を回して、

「……大丈夫、私はずっと此処にいるわ。貴方を独りになんてさせない」

 少女はそう言って、少年を優しく抱きしめた。
 何も知らない者がその光景を見れば、彼女を母親だと見紛うことだろう。
 少年を宥める少女の声と仕草は、それくらい温和で母性的だった。
 彼女の容貌は、それこそ抱きしめている少年とさほど変わらない位若々しいというのに。

「悪い夢だったのよ。そんなの、"もしも"の話でしかないわ」

 少女の愛を受け入れて、少年の震えが止まる。
 それから少しして、彼女の腕の中から小さな寝息が聞こえてきた。
 酷く疲れていたようで、再び眠り込んでしまったらしい。

「……おやすみなさい、イデオ」

 少女は眠りに就いた少年を、ずっと抱きしめていた。
 彼氏を抱きしめる恋人の様に、赤子を抱える母親の様に。

 "if(もしも)"なんてありえない、永久に変わらぬ殻の中。
 少年と少女の"つがい"は、今日も幸せな夢を見続ける。

74 ◆WRYYYsmO4Y:2019/06/11(火) 00:58:36 ID:KEpQfa860
投下終了です。

75名無しさん:2019/06/11(火) 01:46:08 ID:2cbrWQ6E0
投下お疲れ様でした
脳がしびれる……。ああ、とか、うむ、とかしか言えない
孤独なりかな魔神皇。たとえ鎧を纏おうとも、心の弱さは隠せない
かつてないほど、二次二次聖杯だからこその、つがいというものに踏み込んでいて、だからこそ狭間も辛いし、鏡子さえも物悲しい
シリアスなんてしちまったから……。今で言えば人類悪を思わせるけど、紛れもなく愛だったんだな、お前は……
だからこそアモンの前振りからの知ってしまったからこその拒絶が当然であり、きつい
自分を受け入れられなかったからこそ最後に思い知ってしまった自分の本音
突きつけられた後の目覚め。if。おやすみ狭間偉出夫、せめて良い夢を

76 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/11(火) 15:28:06 ID:cN.6/MQA0
お二人とも投下乙です!

◆HOMU.DM5Ns氏
一夜明け、再びそれぞれの戦いに身を投じていくマスターたち
火薬庫となった学園の導火線に火がつくのももう間もなく、というところでしょうか
二日目の学園にどれだけの主従が集まり、どれほどの戦禍が齎されるのか、先が気になります
それから感想を書くのが遅れてしまい申し訳ありませんでした

◆WRYYYsmO4Y氏
何というか、◆Ee.E0P6Y2U氏が投下された「うまくはいかない『聖杯戦争』」、「君の思い出に『さよなら』」に通じるようでいて決定的に趣の異なる力作であると感じました
鎧を纏っても心の弱さまでは守れないのは狭間も同じでしたが、アキトとの決定的な違いは天運のなさと最後まで自分の本音を認められなかったことでしょうか
もしかすると狭間と鏡子は方舟において最良のつがいになり得たかもしれない、そんなifをも考えさせられました

77名無しさん:2019/06/11(火) 21:34:47 ID:9WBHGpkM0
投下乙です!
鏡子と狭間の最期は切なくて、互いに相手を思い出しながら消えていく光景がなんとも寂しかったです……

78名無しさん:2019/06/18(火) 15:30:18 ID:Ow5OhIXw0
いつの間にか新作が!投下乙です!
神の如き魔神皇、英霊だろうと寄せ付けない絶対的存在であるという自信に満ち溢れていたのだが
まさかの内に秘めた、過去に捨て去ったはずの感情に否応なく向き合わされて破滅の道に向かうとは
それはまるでインド異聞帯の王のように、完璧な超越者が自身の不完全性を認識して敗れたのだと、今ではそんな風に思う

ちょっとメタい話だが、特殊でピーキーなコンビの脱落で一つ楽しみが減ってしまったものの
逆にロワ企画を進めづらそうな設定が消えた事で今後の聖杯戦争がどうなるのかが楽しみです

79名無しさん:2019/06/19(水) 22:07:39 ID:YR3mmkAM0
何で読み手如きがデカい顔で企画云々をほざいてるんだ

80 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:51:28 ID:qhlV.xww0
ゲリラですが投下します

81発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:53:02 ID:qhlV.xww0


―――全くもって情けないことに。



―――俺という人間はこうなる事態を毛ほども想像していなかったらしい。





  ◆   ◆   ◆




チクタクチクタク、と時計が秒針を刻む音が聞こえてくる。
朝陽が昇りはじめ、誰もが今日の仕事の、学生であれば登校の準備をしはじめてもおかしくない時間帯だ。
もっともテンカワ・アキトにとってはそういった喧騒は指名手配となった今もそれ以前も関係のないことだった。
NPC時代は食堂を休業にしていたし、犯罪者として追われる身となった今は言うまでもない。

そしてこれからは過去の思い出に浸るようなこともない。
そのために方舟におけるアキトの過去の象徴とも言える少女、東風谷早苗を殺す。
そうして初めて己は失うもののない一匹の修羅として聖杯戦争を勝ち抜く資格を得る。言わば通過儀礼だ。

アキトを保護している同盟者、HALの情報網を通じて早苗の居場所は既に掴んでいる。
コンディションには些かの不安もあるが、テロリストであるアキトは常に万全の態勢でのみ臨めるほど戦争というものが甘くないことを知っている。
武装。もとよりヤクザの事務所から盗んできた銃があったがここにきてHALから予想外の武器の供給があった。
サブマシンガン・MAC10にアサルトライフル・AK47がそれぞれ予備弾倉つきで一丁ずつ、それに手榴弾が三つ。配下と思われるNPCを介して届けられていた。
HALにメールで尋ねると、どうやら奴は予選の頃から来るべき時に備えて銃火器の密輸を配下にさせていたらしく、アキトがヤクザから盗んだ銃も元々はHALが仕入れたものだった。
手付金のつもりかは知らないが寄越すというのなら有難く使わせてもらうまでの話だ。



―――と、ここまで来たところで極めて現実的な問題がアキトの前に立ち塞がっていた。



『続いてのニュースです。昨夜未明、B-9で美遊・エーデルフェルトさんと思われる十歳の女の子が銃撃された事件について、警視庁はテンカワ・アキト容疑者を指名手配とする方針を明らかにしました。
テンカワ容疑者は現在も逃走を続けており、警察が今も厳戒態勢を敷いて捜査にあたると同時に、近隣住民へ不用意な外出を控えるよう呼び掛けております』

テレビから流れるニュース番組では新都エリアを厳重に捜査する刑事たちの雄姿が映されている。
これこそがアキトの障害として在る警察NPCという存在だった。
HALの調べでは早苗は現在C-9にあるマンション、つまり彼女の自宅にいるという。住人の中にマンションに戻る早苗を目撃したHALの配下がいたのだ。
マンションというだけでも即座に突入するのは躊躇われる場所だが問題はそれだけに留まらない。
C-9と言えば事件の起きたB-9にほど近いエリアであり、それ故警察NPCたちが多数動員され血眼になってアキトの行方を追っている。
アキトの現在地は新都中心部の喧騒からやや離れたD-8、物理的な距離はさほどでもないがやはり指名手配という身分が大幅に動きを制限してくる。
はっきりと言って警察が大勢いる状況を何とかしない限り早苗に接近するのはおよそ不可能に近い。

82発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:53:48 ID:qhlV.xww0

……が、HALにはこの状況を打破する用意があるのだという。
しかしそのためには今少し時間がかかるらしく、故にアキトはこの家の家主が使っているパソコンを通してHALとメールで会話することになっていた。


『何の用だ?走狗になる気はないと言ったはずだが?』
『そう構える必要はない。君の邪魔をするつもりもね。
今のうちに同盟者として情報交換をしておきたいと思ったまでだ』


情報交換。確かに同盟を結んだはいいがそういったことはまだしていない。
確かに期せずして待ちに徹するしかない時間が生じた以上情報交換に使うのも一つの手ではあるか。
もっともHALをどこまで信用するかという問題は付随するが。


『良いだろう、付き合ってやる。
俺が見たマスターとサーヴァントの特徴を送るから少し待て』


覚えている限りの参加者たちの情報をまとめてHALに送信する。
奴の飼い犬同然の立場である現状、慣れていることとはいえ思うこともある。
とはいえ既に隠れ家に情報、武器を提供されている以上こちらも情報程度は送らなければ同盟の体裁を保てない。
当然アンデルセンや早苗の情報も送ってある。こうなった以上彼らとの同盟など消えたも同然だからだ。


『キレイなるマスターとそのサーヴァント、セイバーは厄介ではあるがサーヴァント間の相性で優位に立てるのならば彼らの相手は君に頼みたい。
私はキレイを君に近付けないよう最大限バックアップさせてもらう』


最初に遭遇した主従、キレイとセイバー。
サーヴァント同士の戦闘であればまず負けはないがマスターの戦闘力が厄介極まる。
銃弾を平然と避ける身体能力はアキトに対処できるものではない。
HALから新たに送られた装備を使ってもアキト単独ではまず勝ち目がないだろう。
そうなるとHALの言う通り奴からの支援を受けてキレイをアキトに接近させないよう立ち回る他ない。


『そして美遊・エーデルフェルトと高い再生能力を持つバーサーカー。
優先的に対策すべきは君を陥れた彼女たちだろう。能力や行動にも不可解な点がある』


やはりと言うべきか、HALも美遊主従を危険視しているようだった。アキトにとってもそれは同じだ。
早苗を決着を着けるべき相手とするなら美遊は対策を講じておくべき相手だ。
一度は奪い、そして奪還されたステッキが関わっていると思しき魔力供給能力とそれに支えられたバーサーカーの再生能力に任せた正攻法。
さらには先ほどアキトを罠にかけた際に見せた銃弾の直撃をものともしないふざけた衣装にバーサーカーだけでなく美遊自身も持っていた飛行能力、そしてアキトの居場所を的確に突き止めた探知術。
美遊の攻撃面での性能は不明だが、何かしらはあると想定しておいた方が良い。
アキトには結局何なのかわからなかった、剣士が描かれたカードにしても持ち主である美遊なら十全に扱えるのだろう。

認めるのは少々苦々しいが、美遊とバーサーカーというコンビはおよそアキトとガッツの上位互換と言えた。
サーヴァント戦では美遊のバーサーカーに対して決め手を欠く上に自分では美遊ほどのバックアップができない。
昨日の戦いではその地力の差を埋め合わせるべく隙を突いてボソンジャンプを使い美遊を取り押さえた。
そこまでは良かったが取り押さえた後の対処を致命的に誤った結果、後に逆襲に転じた美遊に嵌められ追われる身になった。
仮に手元にチューリップクリスタルが残っていたとしても二度と美遊には通用しまい。実際アキトを陥れた時の美遊はボソンジャンプへの対策を打っていた。
おまけに最低でも拳銃弾ならば確実に防げるボディアーマーめいた衣装を纏っているときた。
対策もなくもう一度彼女らと相対すれば確実にアキトとガッツは殺されるだろう。


『美遊の行方は追えていないのか?お前のサーヴァントはアサシンあたりだろう?
そうでなければバーサーカーを従える俺に同盟を打診するはずがない』
『流石にその程度は察しがついていたか。隠し立てしようと思っていたわけではないが確かに私のサーヴァントのクラスはアサシンだ。
そして残念ながら美遊・エーデルフェルトの行方に関してはまだ掴めていない。主従揃って空を自在に飛ばれてはこちらの情報網でも追いきれない』


仕方ないことではある。何が起きても不思議ではない聖杯戦争といえども、まさかマスターとサーヴァントが揃って空を飛ぶなど予め念頭に入れておけるものではない。

83発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:55:16 ID:qhlV.xww0


『所在が分からない以上詰めるべきは他の部分だ。
君は彼女について探知能力を持っていると言ったが、私はこの可能性は低いと見ている』
『何故だ?』
『あくまで君が齎した情報を基にした判断だが、ただ君の位置を探ったにしては行動が的確すぎる。
君の不在の隙を突いて天河食堂に侵入し、恐らくは内部を物色して身分証を探し出し、そこにあることを知っていたかのように君が置いていったステッキとカードを奪い返した。
君の銃撃を敢えて誘ったかのような行動も然り。彼女は君が銃器を補充し残弾が十分にあることを予め知っていたのではないか?』
『つまり美遊と別れてからの俺の行動が全て筒抜けになっていたとでも?』
『可能性の一つとしては考慮しておくべきだろう。
恐らく彼女は魔術側の人間。どのような手管を使うか推し量ることは難しい。
だがそれを差し引いても彼女の行動には不可解な点がある』


不可解な点、とは何か。アキトには咄嗟に思いつかなかった。
考えているうちにHALから矢継ぎ早に新たなメールが届いた。


『最初は堂々と正攻法で戦いを挑み、敗れた後は徹底した搦め手で君を社会的に抹殺しようとした。
私はこの心理的な動きに違和感を覚えた』
『それほど不自然なのか?正面から戦って負けたから戦略を切り替えただけだろう』
『年齢の割に切り替えが上手すぎる。それに君の不在の間にステッキとカードを取り戻していたのならもう一度決戦を挑む手もあったはずだ。
実際に彼女は全力を投じれば最低でも銃で武装した君とも渡り合えるだけの力を持っていたにも関わらず策の完遂にのみ専念した。
思考様式が別人のそれに切り替わったかのような印象を受ける。あるいは何者かの指示を受けたか』
『彼女が他のマスターの指示を受けて行動したということか?』
『いや、その可能性は低い。サーヴァントが離れた状況下で他のマスターと接触していたなら殺されている可能性の方が高い。
私が憂慮するのは美遊・エーデルフェルトが方舟外部との通信手段を持っている可能性だ』


果たしてそんなことが可能なのか、アキトとしては首を傾げざるを得ない。
何しろ今のアキトはラピスとの接続を絶たれている。
魔術師といえど方舟のセキュリティを掻い潜って外部と通信するなど可能なのか?


『後でデータを送るがこちらでは既に外部から演算装置のバックアップを受けているマスターを特定している。
魔術的なアプローチによって同等ないし準じるバックアップを得た可能性は否定できるものではない。
とはいえ全ては可能性だ。今は頭に置いておくだけで構わない。
それに、今しがた準備が終わったところだ。これで警察の目に留まるリスクは下がるはずだ』




  ◆   ◆   ◆




空が白んでくる時間帯になっても警察官の仕事に終わりはない。
銃器を所持したまま逃走を続ける凶悪犯、テンカワ・アキトを追う刑事たちは強い使命感を胸に捜査を続けていた。
署の方針としては本来ならテンカワ・アキトの追跡に人員をフルに割きたかったのだがそうもいかない事情があった。
深夜の住宅街に突然響いた少女の悲鳴と銃声は近隣住民の不安を煽るには十分過ぎた。
それ故現場検証に加えて、住民の不安を抑えつつ聞き込みを行うため少なからぬ数の刑事が事件現場である天河食堂とその周辺に駆り出されていた。

「天河食堂の主人とはそれなりに付き合いがありますが、とてもあんなことをする人だとは思えませんでした。
奥さんを亡くして自分も障害を負って、それでも店を開けるためにリハビリを頑張ってきた真面目な人ですよ」
「なるほど…わかりました。ご協力感謝します」

84発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:56:03 ID:qhlV.xww0

現在キッチン・タムラのオーナーシェフに聞き込みを行っている刑事も聞き込みに動員された者の一人だった。
事件発生の報せを受け、何故痛むのか心当たりのない後頭部をさすりながら現場にやって来ていた。

小学生女児に性的暴行を働いたと見られ、さらに拳銃を持って逃走している凶悪犯は近所では好青年として通っていたようだった。
とはいえ検挙された犯罪者が普段は良い人として通っている事例など刑事はこれまで何件も見てきているのだが。
しかし気になるのがこのタムラのシェフを含めた複数の人間からテンカワ・アキトが五感に障害を負って通院していたという証言があることだ。
まだ病院に裏は取れていないが、事実だとすればそんな人間がどうやって女児誘拐に加え銃器を手に入れさらに今なお警察の捜査から逃げ果せているのだ?

「そういえば…昨日の夕方に警察の服を着た銀髪の綺麗な子が春紀ちゃんたちと一緒にうちに来ましたね。
他にも春紀ちゃんより少し年下っぽい中学生ぐらいの赤毛の女の子や怖そうなお兄さん、小学校低学年くらいの小さい子も一緒だったかなあ……。
それで、料理を作ってたんで直接見たわけじゃありませんが、その子の声でテンカワさんについて春紀ちゃんに尋ねてたのを覚えてますよ。
ああ、春紀ちゃんっていうのは近所に住んでる子のことなんですけどね」
(ホシノ警視か……事件の前からテンカワをマークしてたってことか?流石だな)

店主の証言をNPCらしい大雑把さで解釈しながら刑事は次の聞き込み先へ向かった。
裁定者サイドの意識操作もあってホシノ・ルリは顔に見合わず現場主義、気まぐれに事件を追っては立ち去る、文字通りの妖精警視と専らの評判であった。



数件の聞き込みを終えて刑事は一息ついていた。
もっとも休憩する暇などないので本当に一息ついただけなのだが。
やはりテンカワ・アキトについては近隣住民の中では概ね「真面目な好青年で、妻を亡くして身体に障害を負っている」という評価だったようだ。
また直接関係はない話だが天河食堂にほど近い位置にある喫茶店の店主からホシノ・ルリらしき人物が薄紫色の頭髪の幼女と共に20時半から約三時間滞在していたという証言があった。
その幼女について刑事には一つ思い当たる節があった。
恐らくルリが警察署の方に調査を依頼していたという身元不明の子どもだろう。
署や近場の交番に預けなかったことが気にならないでもなかったが、まあ他の人員の誰よりも年齢の近いルリの方が接しやすかったということだろう。
NPCらしく、さして気に留めず仕事を続けようとしていた刑事のところへテンションの低い別の刑事が現れた。

「悪い堂島さん、遅くなった」
「どうした笹塚?現場に遅れるなんてお前らしくもない」
「……署から出ようとしたところにエーデルフェルトの当主が怒鳴り込んできたもんでその対応に時間を取られた」
「ああ、あのお嬢さんか……。そいつは災難だったな」

堂島と呼ばれた刑事は地元の名士として良くも悪くも有名な、エーデルフェルトの当主の対応を押しつけられた同僚に心底から同情した。
住民の目撃情報からテンカワ・アキトに銃撃された女児は昨日の朝方から行方不明になっていた美遊・エーデルフェルトと見られており、その家の当主も独自に美遊を捜索していたらしい。
美遊は事件当初は生存を絶望視されていたが、現場から彼女の血痕が見つからなかったこと、住民から「銃撃された美遊が立ち上がって逃げた」という目撃情報が寄せられたこともあって今は懸命の捜索態勢が敷かれていた。
恐らくテンカワ・アキトの撃った銃弾が運良く命中しなかったのだろう、というのが警察の見解だった。
とはいえ当主の怒りももっともだろう。警察の威信にかけても犯人を逮捕し行方不明の少女を保護しなければ。

「で、その前に金庫持ってうろついてた藤村組の連中を見つけて職質しようとしたら逃げようとしたんで捕まえた。
取り調べで全部吐いたよ。奴らCZ75Bにデザートイーグルを盗まれたんだと」
「CZ75Bか……現場から出た線条痕と一致するな。
となると銃の出どころは藤村組ってことか」
「ただ気にかかるのが盗まれた銃が入ってたっていう金庫が有り得ない壊され方をしてたことだ。
道具を使ったにしてもあんな壊れ方は有り得ない」
「共犯者がいたのかもしれないな……。
近所の住民の話じゃテンカワは身体を悪くしていて通院もしていたらしい。
カルテの確認はこれからだが複数の証言がある以上ほぼ間違いはないだろう。
障害のある料理店の店主がエーデルフェルトの養子を誘拐してヤクザの事務所から銃を盗み出すなんて単独でできるもんじゃない」

85発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:56:50 ID:qhlV.xww0

堂島は考える。
美遊・エーデルフェルトに発砲し現場から逃走したのは目撃情報やテンカワ・アキトが一人暮らしであることを踏まえればほぼ確実にアキトで間違いない。
しかしそこに至るまでには共犯者の存在があったように思えてならない。
警察学校での訓練を潜り抜けたはずの警察官数名が殺傷されたことも含めると共犯者は意外な大物かもしれない。

「警視はここまで予期して予め店の前に張り込んでたのかもな」
「ん?警視が何だって?」
「?…藤村組の連中を見つけたのも警視の指示なんじゃないのか?」
「いや、この件に関して警視からは何の指示も受けてないが……どうしてそんなことを?」
「………何だって?」



同僚の発言によって、流れが変わった。
ホシノ・ルリ警視は事件が起こる可能性を予期して天河食堂近辺に張り込んでいたのではないのか?
藤村組事務所からの銃の窃盗と事件に使われた事実をルリが今も把握していないとすれば、彼女の輝かしい経歴に似合わぬ失態だ。
……もしや彼女の行動には何か違う意図や理由があったとでもいうのだろうか?

「……笹塚、お前さっきまで署にいたんだよな?
警視か誰かが例の身元不明の少女を預けに来なかったか?もしくは親御さんが見つかったとか」
「いや、そんな話は全く。……そういえば樋口のやつがそのことでぼやいてたな。
調べさせるだけ調べさせておいて一言も進展の報告がないのはいくら階級が高いからってどうなんだーとか」
「何だと!?」

ルリからは件の身元不明の少女について、堂島たち現場の刑事たちに何の報告もない。
そもそも彼女が夜も遅い時間帯に件の少女と共に喫茶店にいたということ自体アキトが起こした事件の聞き込みで偶然わかったことだ。
やむを得ない事情があって一時的に一緒にいたのだとばかり思っていたが、日を跨いでも署や交番に預けず両親が見つかったかどうかの報告さえないとなれば話は変わってくる。
警察機構に属する人間の取る行動としては、NPCといえど流せないほどに不審だった。

「堂島さん、さっきからどうした?」
「ああ、実はな……」

同僚、笹塚の問いに歯切れ悪く先ほどの聞き込みで得た情報を話す堂島。
話を聞くうちに普段あまり表情の変わらない笹塚も些か深刻に考え込む素振りを見せた。

「警視がそんなことを、ね……。
確かに臭うな。少なくともテンカワが事件を起こすことを予期してたって線は薄そうだ」
「ああ、恐らく警視の行動とテンカワの事件は直接は繋がってない。
だとしたら何だって子供連れでこんなところをうろつきながら、テンカワについて住人に聞いてたのかって話だ」

つい今しがたまでは信じきっていたホシノ・ルリ警視。
その評価が二人の刑事の中で少しずつ揺らぎ始めていた。
そこへ別の刑事がおずおずといった様子で堂島と笹塚に近付いてきた。

「あのー……実はさっき孤児院から署の方に目撃情報が寄せられたそうなんですが……。
何でも深夜の少し前にホシノ警視らしき人物が六歳前後の女の子を連れて現れ、『ここを襲撃すると犯行予告がありました。子供たちとこの子を連れて避難してください』と言われたそうです。
それから孤児院に入っていくジナコ・カリギリの姿を見たとも話しているらしく、正直信憑性に欠ける話だとは思ったのですが一応堂島さんの耳に入れておこうかと……」
「……その話、本当か?」

刑事が持ってきた話は堂島と笹塚にとって初耳だった。
恐らくそれ単体ではあまりにも突拍子がないため信憑性に欠けると判断され、今までこちらに入ってこなかったのだろう。
実際先ほどまでの堂島なら信用しなかっただろう。だが今は違う。
何の意図で行動していたのか些か不透明になってきた警視に関わる市民の目撃情報だ。最早聞き逃すべきではない。

「はい、ただその預けられた子供というのがいつの間にか抜け出してしまい行方がわからなくなったそうで……。
大きな物音がした後警視と孤児院の院長であるアンデルセンという神父が未だに戻ってこないらしく、かなり困惑しているそうです」
「何だそりゃ、どういうことだ?」

何もかもが寝耳に水だった。
その話が事実ならルリは何らかの事件性を確信して孤児院に向かったのだろうが、犯行予告とやらが自分たちに一切知らされていないのは何故だ。
事件性があるとわかっていながら署や現場への報告もなく、警官を連れて行くこともせず代わりに件の少女を連れて行く?
常識的に考えて、せめて少女だけでも警察署なり交番なりの安全な場所に預けてから行くべきであるにも関わらず?
その上現場に現れたというジナコのことすらこちらに何も伝えないだと?
有り得ない、警察機構に属する者としてそのような行為は断じて有り得ないことだ。

86発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:57:34 ID:qhlV.xww0



「少なくとも警視に俺たちに何かを隠したいって意図があったのは間違いなさそうだ。
これだけの独断行動があって報告がない以上、故意でないってことはない」
「……おい笹塚、お前自分が何言ってるのかわかってんのか?」

煙草を燻らせながら不穏な言葉を放つ笹塚を堂島が窘める。
確かに気持ちはわかる。多くの捜査情報を隠蔽し、年端もいかない少女を危険が予測される場所に連れ回すなどルリには不審な行動が多すぎる。
だがそれでも彼女はこちら側の、警察組織の一員だ。身内を疑うような発言はさすがに聞き逃せない。
堂島に睨まれた笹塚はと言うと、普段通りの気怠げな顔のままだった。

「堂島さんこそわかってるはずだ。
確かに彼女はいくつもの事件を解決に導いた天才なんだろう。
その実績を疑うわけじゃないが……逆に言えば俺たちは彼女についてその輝かしい経歴しか知らないってことだ。
昔からここで一緒にやってきた仲間ってわけじゃない」

笹塚の反論に堂島は咄嗟に言葉を紡げない。
確かにそうなのだ。自分たちが知るホシノ・ルリ警視とは経歴に載っていることが全てだ。
その人となりについて確信を持って述べられることなど何一つとしてない。

「加えて昨日警視が着任したのとタイミングを同じくして事件に次ぐ事件ときた。
もちろんその全てに彼女が関与しているなんて馬鹿なことは考えちゃいないが、少なくとも昨日の時点で彼女は現場から上がった情報の全てを知り得る立場にいた。
その上で様々な指示を飛ばし、自分は不都合な情報を隠蔽しようとした。まずこれは事実だろ?」

これだけ怪しい情報が上がれば少なからずルリへの見方も変わる。
彼女の下に現場からのあらゆる情報が集まるということは、その気になれば都合の良いように指示を送ることも可能だったとも言える。
無論そんな証拠はどこにもない。だが実際にルリが一部の情報を隠蔽していたことがわかった以上可能性の一つとして疑わないわけにはいかない。
疑うことこそが刑事の仕事であり本分だからだ。

「……引っかかってたことはあったんだ」

バツが悪そうに黙っていた堂島が重苦しく口を開いた。
言ってしまえば取り返しのつかない領域に足を踏み入れてしまうのではないか。そう自問自答しながら絞り出した言葉だった。

「D-6の洋館で起きた火事に警視がいち早く気づいて消防に通報したらしいってことなんだが……。
あそこは地図にも載ってない幽霊屋敷で昔からここに住んでる土地勘のある人間でもない限りまず見つけられないはずだ。
最初に聞いた時はてっきり警視がこの町に赴任するにあたって相当念入りに下調べしてきたんだろうとばかり思ってたが………」
「今となってはその下調べとやらにも別の意味があったのかもな」
「それにさっきはああ言ったが、テンカワの件にも奴単独の犯行とするには腑に落ちない点が多い。
奴は車も持ってないし、身体に障害を抱えてるって証言がある。美遊・エーデルフェルトに悲鳴を出されるまで住民に目撃されないほど緻密な犯行が可能だったとは思えん。
そこの問題を解消したとしても、だ。養子とはいえ名家のエーデルフェルトの令嬢なんて容易く誘拐できる相手じゃない。
身代金目的の誘拐をやるにしたってさすがに相手が悪い。
だがもし……もし警察内部の人間が共犯者であるとすれば、美遊・エーデルフェルトの拉致・監禁も不可能じゃなくなる」



ホシノ・ルリとテンカワ・アキトの二人には接点らしい接点はない。それが堂島の考える一つの前提だったが、もしそうでないとすれば。
二人が堂島たちや地元住人ですら知らないところで何らかの接点を持っていたとすれば、アキトの犯行は不可能事ではなくなるし、ルリの不審な行動のいくつかにも説明がつく。
サイバー犯罪の専門家であるルリなら直接・間接を問わずアキトに対して様々な支援を行えただろう。
実際ルリが出した指示によって捜査員たちは誰一人アキトをマークすることなく、犯行の予兆や痕跡を事件発生まで見出すことができなかったのだから。

87発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:58:20 ID:qhlV.xww0

……堂島としてはあまり考えたくないことだが、ルリは警視の階級にあるエリートとはいえ年齢的にはまだまだ多感な年頃の未成年の少女だ。
この町に赴任する前にアキトに誑かされた可能性さえ事ここに至っては完全には否定しきれない。
洋館炎上の件にしても、第一発見者がルリというのは何とも怪しいものだ。
この町を襲う一連の事件の数々と何の関係もない幽霊屋敷に何の用があったというのか。火事ということは何らかの物的証拠の隠蔽を試みたのではないか?

「身内を疑うなんてやってられんが、こうなると昨日の警視の足取りを徹底的に洗う必要があるな」
「捜査本部に報告しないとな。銃を持ってるテンカワの追跡ももちろん大事だが内側に犯人に通じてる人間がいるかもしれないんじゃ捜査が立ち行かない。
幸いと言っちゃ失礼だが警視はここじゃ外様で明確な支持基盤はない。上の方の政治とやらで疑惑を握り潰すなんて可能性は低いだろ」




  ◆   ◆   ◆




こうして「警視の妖精」と呼ばれたホシノ・ルリは一転、一部警察NPCの間で疑惑の人となった。
裁定者サイドによるNPCへの意識操作があったにも関わらず何故こうも急に事態が変化したのか。
その要因を大雑把に、一言で言ってしまえば「間が悪かった」のだ。


刑事たちが疑念を抱いたようにホシノ・ルリが宮内れんげを連れたまま行動し続けたことは確かに警察の一員として問題があった。
普通の役職(ロール)を割り当てられたマスターであれば問題ない行為であっても、警察の制服を着ている以上その人間の行動には普通以上の規範が求められる。
とはいえ本来ならルリとれんげの行動の足跡は警察NPCに露見しないはずだった。
そんなことがあったとしてもせいぜい断片的な情報が上がる程度で、「信憑性に欠ける」の一言とともに切り捨てられ埋もれていくはずだった。
そうはならなかった原因はルリの行動に起因するものではなく、ある不幸な偶然にあった。

ルリがれんげを伴って孤児院に出向いてから少し経った頃、ルリがマークしていた天河食堂で事件が起こった。
言うまでもなくマジカルサファイアと合流した美遊がアキトを陥れるために起こした事件だ。
ただの通り魔程度ならまだしも銃を使った凶悪犯罪となれば事件現場とその付近に多数の警官が動員されるのは自明の理。
そしてある程度時間が経ち、近隣住民の動揺が落ち着いてくれば警察による聞き込みが行われることもまた自明だった。
これにより天河食堂付近で行動していたルリの足跡が警察NPCに拾われることとなり、さらに本来無関係であるはずのアキトを探すルリの行動とアキトが陥れられた事件が一本の線で結ばれてしまった。

さらに悪いことにルリは予選を経験しておらず、その辻褄合わせとして「本選開始と同日に赴任した警視」の役割(ロール)を割り振られた。
つまり日常を過ごすと同時に培われるNPCたちとの交流や絆が存在しないということ。
故に一度でも強く疑われればそれで終わりという脆さも孕んでいた。



  ◆   ◆   ◆




「戻ったぞ、ますたあ」

錯刃大学にある研究室に男の声が一つ。
アサシンのサーヴァント、甲賀弦之介が性技のライダーを仕留め主の下に戻って来ていた。

「ライダーは仕留めた。だが彼奴のますたあの姿が見えぬ。
恐らくあのライダーに見切りをつけ別の英霊と契約を結んだのであろう」

己がサーヴァントの報告を受け、弦之介のマスター、電人HALは即座に裏の空間―――禍津冬木市へとアクセスし情報を精査する。
あの空間を認識し、この研究室の工房を形成した時点で何時でも禍津冬木市の情報を調べられる仕組みを作り上げていたのだ。
その手腕によってHALは禍津冬木市で起きた破壊の痕跡を数秒と経たずに見つけた。
とある巨大な情報圧、霊基の消滅をも。

「いや……そうではないな。
彼のライダーのマスターである魔神皇はサーヴァントの消滅に従ってアークセルに消去されたようだ。
あの空間からの退去ではなく電脳死だ。ログから閲覧できる情報からしてもそれは間違いない。
どのような経過を経てそうなったかまでは確認できない以上推測する他ないが」
「ライダーがこちら側に戻って来ていたこともそうだが、何とも面妖なことだ」
「………そういえば」

88発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:59:13 ID:qhlV.xww0

またも思い出す。
テンカワ・アキトが口にしていた「もう一人の自分」なる存在。
あの魔神皇ももう一人の彼に出くわし、恐らくは戦闘行為を含めた過程を経て電脳死を遂げたのだろうか。
もう一人の魔神皇などという存在があったのであれば、彼ほどのマスターが斃れるのも無理からぬ話ではあるが。
しかし、もしそうであれば。HALのような例外存在でない限りマスターが禍津冬木市に踏み入れば「もう一人の自分」とやらが出現するということになるのか?
データの不足した仮説に過ぎないが、機会があれば他のマスターを禍津冬木市に誘い込み経過を観察するすべきかもしれない。

「………いや」

と、そこまで考えたところでHALは一度ここまでの思考を凍結することにした。
どうあれ魔神皇と性技のライダーは脱落した。であれば彼らについて長々と考え時間を費やすのは得策ではない。
今は生きている強敵たちへの対処こそを第一とするべき時だ。

「アサシン、ホシノ・ルリの地盤を切り崩す目途が立った。
戻ってきて早々すまないが新たな仕事を頼むことになるだろう」

そう言ってHALはB-9で捜査をしていた刑事たちがルリに疑念を抱いたことを語った。
何故それをHALが知っているのか?問うまでもない。天河食堂周辺の聞き込みに当たっていた刑事たちの中にHALの配下がいたからだ。



「―――つまり、ホシノ・ルリはマスターとしての活動に傾倒しすぎた。
その結果として日常における立ち回りに隙が生じた、ということだ」

警察NPCの動向を一通り弦之介へ説明し強敵ホシノ・ルリをそう評した。
聖杯戦争である以上現実逃避し自らの役割(ロール)にのみ没頭するのは論外だが、さりとて日常を度外視しすぎても綻びが生じ破滅に繋がり得る。
違反行為を犯したB-4のキャスターのマスターがそうであったように。

「彼女はマスターとしては強敵だが、警察に属する者としては少々迂闊だったと言える。
恐らく元の世界でも日本で言うところの飛び級制度のようなシステムで何らかの公職、それも高い地位にいたのだろう。
しかしそういった若き天才は得てして得意分野に特化する分社会的な経験が不足しやすい。年齢からすれば彼女もそういった手合いなのだろう」



結論から先に述べれば、警察NPCのルリへの急速な嫌疑の浸透・拡大にはHALも一枚噛んでいた。
電子ドラッグで洗脳した刑事からある程度の捜査情報は送られていたし、そもそもがルリを孤児院に誘導したのはHAL自身だ。
タイミングを見計らって配下の刑事を孤児院に派遣しルリがそこにれんげと共に来ていたという証言を取っておいたのだ。
聖杯戦争とは情報戦。警察官として不適切な行動の記録・証言を取っておけばいずれ有用に使えると判断してのことだ。

とはいえこうも早く有効活用できたのは幸運が味方した部分が大きい。
ルリがB-9の喫茶店を離れてから少し遅れて美遊・エーデルフェルトが起こした冤罪事件によって天河食堂周辺に警察の手が入った。
さらに電子ドラッグに支配されていない、正常なNPCが現場周辺の聞き込み捜査という正当な手段によってルリへの疑念を抱いた。
HALの見立てではルリの不審な行動に気づいた刑事は警察NPC全体でも比較的に能力が高かったのだろう。NPCといえど個性や性能は全て均一というわけではなく、能力に劣る者もいれば優れた者もいる。
HALといえどこれだけの幸運が重ならなければルーラーにNPCを支配している事実を察知させないという制約下でルリを社会的に追い込むことは無理だった。
確かにルリは警察として不審を抱かれるに足る行動を取ってはいたが、HALが知る他の多くのマスターと比べて極端に迂闊な行動を取っていたわけではないのだから。
HALはルリに疑念を抱き始めた警察NPCの背中をほんの少し押しただけに過ぎない。

89発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 06:59:56 ID:qhlV.xww0

そしてこの後ルリが取るであろう行動についてHALは予測を立てていた。最初から注目していただけに彼女に関するデータは揃っているからだ。
まず第一に彼女は宮内れんげと行動を共にしていた。警察として不審な行動を取ってでもれんげを手元に置いていたのはそこに利益や有用性を見出したためであろう。
第二に彼女は自身に与えられた権限を利用することに積極的だ。市内の情報の多くを集められる役職にいるのだからこれは当然ではある。
つまり彼女は警視という立場に価値を見出している。突くべきはそこだ。

既に電子ドラッグの支配下にある警察NPCをホシノ・ルリの自宅付近、検問が設置された冬木大橋の両側に固めさせている。
恐らく次にルリが取る行動は宮内れんげの所在を確認することだ。
その上で最も確実性が高くリスクが小さいのはルーラー、監督役が拠点にしているD-5の教会を訪ねることだ。
彼女は可能な限り戦闘を避けようとする傾向にあるため最初に向かう先はそこだと見て間違いない。
故に教会に辿り着く前に彼女の自宅近辺か交通の要所である大橋の検問で彼女を捕らえる。
堂々と警察の制服を着て行動する彼女のことだ。大橋を避けて別の移動手段で川を渡ったり変装をするという線は薄い。

そして警察官に警察署までの同行を求められた場合ルリがどう動くかを予想することは難しくない。
警察NPCへの殺傷行為は直ちに監督役の沙汰が及ぶ可能性がある以上暴力による排除はまず有り得ない。
また彼女にしてみればれんげの件はともかくアキトと共謀したという嫌疑など事実無根の疑いだ。
キッチンタムラでアキトのことを調べていた件にしても大方独自の情報網で早期にアキトがマスターだと知っていただけの話だろう。
であれば彼女は自身の手腕によって、正攻法で捜査員たちの矛盾を突き自らの冤罪を証明しようと考える。実際それが可能なだけの頭脳の持ち主だ。
警察から逃亡することにより社会的地位を失うことと天秤にかければ、自ら疑いを晴らすため敢えて警察署に同行する可能性が高い。
その時こそが最大の好機だ。それにこの手段であれば確実にシオンとも分断できる。

「警察署という公的なスペースではホシノ・ルリは自身のサーヴァントを常時実体化させておくような真似はできない。疑われている状況ならば尚更だ。
加えて、彼女は女性でサーヴァントは男性。一般心理としてどこにでも侍らせておく、とはいかない。霊体化させるとしても、だ。
サーヴァントが霊体化を解き実体化するには僅かながら確実なタイムラグがあることはわかっている。
つまり、屋内という限られたスペースにあって実体化を保ったまま気配を消せる君の独壇場ということだ」
「なるほどな。つまりホシノ・ルリを暗殺せよ、と?」
「そうだ。既に彼女を泳がせる段階は過ぎた。
現時点では彼女たちの持つ情報では我々が持つ優位性を崩すには足りない……が、近い未来に崩される可能性を否定することもまたできない。
ホシノ・ルリとシオン・エルトナムは共に聖杯戦争からの脱出を目論んでいる、ということだったな?」
「然り。確かにこの耳で聞き届けた」

弦之介は超高ランクの気配遮断を持つ熟練のアサシンだ。
周囲に張り巡らされた糸によって強襲を仕掛けることは叶わずとも彼女らの会話に聞き耳を立てられる位置を確保する程度のことは出来ていた。
そうでなければルリとシオンが同盟を組んだと確信を持ってHALに報告することなどできはしない。

「聖杯戦争への反抗を掲げる本多・正純。脱出を目的とするホシノ・ルリとシオン・エルトナム。
加え、つい先ほどテンカワ・アキトから東風谷早苗もまた聖杯戦争を否定するスタンスであるという情報もあった。
どうやら私が想定していた以上に聖杯戦争のルールに従わない参加者は多いらしい。
これ以上見に徹していては彼女らの合流、ひいては聖杯戦争そのものの瓦解を目的とした一大勢力の結成という事態を招く恐れがある。
故にこそ、彼女らが結びつく前に、こちらの情報アドバンテージが機能しているうちに各個撃破しなければならない」

90発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 07:02:40 ID:qhlV.xww0

本多・正純だけならさしたる脅威ではなかった。
だがそこに聖杯戦争に対して否定的な陣営が三組も加わるなどということになればその影響は甚大だ。
四組以上もの大同盟などを組まれ、聖杯戦争の打破を喧伝でもされようものなら聖杯獲得を狙うマスターたちであっても考えを変えないと断言することは難しい。
明らかに勝ち目のない集団に挑むぐらいならその集団の軍門に下り元の世界への帰還を優先する思考に至るマスターは必ず出てくる。
そうなれば如何に電脳世界で強力無比な力を誇るHALでも手がつけられない。
そんな最悪の状況に陥る前にこれまで手に入れた情報をフルに活用し、積極策を以ってホシノ・ルリらを早期に撃滅しなければならない。
幸いアキトは早苗を排除するつもりのようだ。支援しつつこのまま好きにやらせるのが得策だろう。

「君には先に警察署に向かい、そこで網を張りホシノ・ルリを暗殺してもらいたい」
「それは構わぬが、少々ばかり皮算用が過ぎるのではないか?
如何に我らに地の利があると言えどあちらの英霊次第では失敗に終わるやもしれぬ」

弦之介が懸念するのはルリのサーヴァントの能力だ。
無論、サーヴァント戦に移行する前に一撃でルリを暗殺してみせるという自負はあるが、それとは別に戦争には相手がいるもの。
思わぬスキルないし宝具によって目論見が外れないとも限らない。

「確かに君の言う通り、どれほど事前に策を整えようと不測の事態は常に起こり得る。
しかし今回に関しては失敗したとしても容易にリカバリーできる。
そもそも彼女は現在事件の容疑者になりつつある。これまでならばいざ知らず、警察から不審を抱かれた状況で謎の襲撃事件が起こればまず彼女の方が注目される。
まして君のスキルならば最悪ホシノ・ルリを取り逃がし目撃者が出たとしてもその記憶は一切残らない。
後は社会的に彼女を追い詰めていく方策に切り替えれば良い」

それに、HALと弦之介の力でルリを暗殺するにあたって今以上に良い条件を揃える機会は来ない可能性が高い。
何しろルリとシオンは既に電子ドラッグによりNPCを支配する存在を把握している。
時間が経てばHALの手が警察内部にまで伸びていることにも必ず気づく。
そこまで考え至る前に警察に嫌疑を掛けられた事実を突きつけ彼女の思考を電子ドラッグから逸らし、かつ警察署で暗殺する必要がある。

そしてホシノ・ルリに関する情報は今しがたアキトに送信した。
これからHALが行う暗殺計画を除いた、HALが知り得る限りのルリの能力やサーヴァントの特徴、ルリの住所とシオンとルリの同盟についても知らせている。
弦之介が懸念する通り、万全を期してもルリの暗殺に失敗する可能性はある。そうなればアキトと合力して改めてルリを仕留めなければならない。
故にHAL、アキトの同盟間の駆け引きを抜きにしてこの情報共有は必須と言えた。

「ともあれ準備は整った。人員の再配置とホシノ・ルリの捜査のためにB-9周辺の警察はその数を減じている。
これならば彼も警察の目を掻い潜って動けるだろう。
成功は確実とは言えないまでも、打てる限りの手は打った。後は成功させるのみだ」

気づけば弦之介は既にいなくなっていた。警察署へと向かったのだろう。
ここまで手筈を進めた以上後は弦之介とアキトがそれぞれ首尾よくルリと早苗を仕留めることを期待するのみだ。
となれば思考するべきは他のまだ見ぬマスターについてだ。

アキトから聞いた美遊・エーデルフェルトについては、現状では対策を用意する必要はあるが積極的に敵対する必要もその余裕もない。
確かに高い戦闘力を持つバーサーカーに潤沢な魔力提供が出来るマスターの組み合わせは戦力的に見て厄介だ。
また通常なら致命傷になるダメージからも再生するという異能は、弦之介の瞳術と比較的に相性が悪いと言える。
加えてサーヴァントのみならずマスター自身も飛行能力を有し、行動パターンも不明瞭な点がある。
アキトにも伝えたことだがもし彼女が方舟の外の何者かの指示を受けているとしたら、ホシノ・ルリとはまた違うベクトルの脅威になり得る。
だが現時点で明確にHALと敵対しているわけでもない以上、わざわざこちらから仕掛ける必要性はない。
今はホシノ・ルリや本多・正純など聖杯戦争に対し否定的な勢力を各個撃破することが至上命題でこの上美遊まで敵に回しているほど余裕はない。

91発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 07:03:23 ID:qhlV.xww0

「…とはいえ出来ることがないというわけでもない、か」

如何なる理由か美遊は小学生という役割(ロール)を放棄して単独行動を取っている。昨日エーデルフェルト家から警察に捜索願いが出されていたことからも明らかだ。
だがアキトとは意味合いが違うがテレビで素顔が晒された女子小学生が目立たず動き続けることは難しいと思われる。空を飛べるといっても限界はあるはずだ。
その上で現在目撃情報が入ってこないということは人目につかない場所に潜伏していると考えられる。
潜伏場所を探るのであればHALにもある程度の検討がつけられる。
比較的警察が少ない深山町、大きな森があるD-1、命蓮寺があるC-1周辺、あとは田園地帯や廃屋が多いA-1からA-4までの北部エリアあたりが有力候補か。
配下のNPCに探らせつつ、独自に美遊を探しているらしいエーデルフェルトの当主にもリークしておくか。
もっとも釣り出して位置を捕捉できれば御の字程度のささやかな策だ。別段期待はしない。

次に同じくアキトから聞いたキレイなるマスターとセイバーのサーヴァント。
戦力として特筆するほどの情報はないが、気になるのは調べたところ月海原学園に「言峰綺礼」という青年が勤務しているという情報だ。
男性で「キレイ」などという名前がそうあるとも思えない。
あの火薬庫と化した学園にいるマスターとなればそれだけで注意が必要だ。

「……ほう」

ちょうどシオン・エルトナムについて思考を巡らせた瞬間、配下からシオンの目撃情報が入ってきた。
ホシノ・ルリと同盟を組んだ、糸を操るサーヴァントを従える才女にして電子ドラッグに気づいた強敵。
その彼女が一人で大橋を渡って深山町へと入っていったという。恐らく普通の学生を装い学園に登校するためだ。
好都合だ。まさかこちらが何をするでもなく勝手にホシノ・ルリと別行動を取ってくれるとは。
とはいえその分学園の状況に気を配る必要性が増したともいえる。どうあれ油断は厳禁だ。



―――けれど、油断はしていないという思考そのものが油断である可能性に、電人HALはまだ気づいていなかったのだ。




  ◆   ◆   ◆






HALは知らなかった。
同盟を組んだテンカワ・アキトと今まさに抹殺せんとしているホシノ・ルリ、両者の関係を知らなかった。
同じ世界から方舟に招かれた家族に等しい間柄であるとは知らなかったのだ。

HALは元の世界における職業がある程度方舟における身分と関連していると考察していた。
例えば大学教授である春川の身分がHALの役割(ロール)としてそのまま割り振られていたこと。
元の世界で名前を春川とHALが名前を認知していた一部の人物がそのままの職業でNPCとして過ごしていたことも判断材料となっていた。
だからこそ異例の若さで警視の職にいるルリと小さな料理店の店長であるアキトに接点を見出さなかった。
ルリが天河食堂周辺を嗅ぎまわっていたことも、彼女がいち早くアキトをマスターと特定したとしか判断できなかった。

あるいはアキトの動向にもっと注意を払っていれば、それこそ弦之介を派遣してアキトを探らせていれば。
HALからルリに関する情報を送られてきた時のアキトの表情を確認できたであろうに。

92発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 07:04:05 ID:qhlV.xww0




  ◆   ◆   ◆





聖杯戦争とはある意味非常に公平な殺し合いだ。テンカワ・アキトはそう考えてきた。
確かにゴフェルの木片を手にしただけで無作為にマスターとして選出されるその経緯は理不尽であるかもしれない。
しかし逆に言えば全てのマスターが同じ方法で方舟に呼ばれているのは公平、平等と取れなくもない。悪平等とも言うのだろうが。
サーヴァントと令呪にしてもそうだ。性能やクラス等個性に違いはあっても全てのマスターに令呪とサーヴァントが配されるという点では最低限の公平性は確保されている。
だからこそアキトは聖杯戦争という殺し合いにも納得していた。少なくともマスターの誰にとってもスタートラインは同じなのだから。

聖杯戦争には戦いの結果としての死はあっても無人兵器による一方的な虐殺も悪辣なテロ行為もない。
虐殺同然に殺されるマスターがいたとしても、言っては何だがそれは与えられた武器を満足に扱えなかった当人の不備でしかない。
願いがある、あるいは死ねない理由があるのは誰でも同じ。早苗のような戦いを止めるという願いでさえある種のエゴに過ぎない。
誰もがマスターの一人としてサーヴァントと共に最後の一組を目指して戦い抜く。火星の後継者相手に暗闘を繰り返していた頃よりよほど上等な戦いだった。
……ここまでの経緯こそは情けない限りではあったが。

勝ち残り、ユリカを救う。そして火星の後継者を殲滅する。
願いを叶えたいという一点については一度もブレたことはないと自認している。
もう一人の自分。復讐に身を窶しても残り続けていた「自分らしさ」さえも切り捨てて、ただ一つの地点へと走り続けようとしていた。



だからだろうか。敢えて置き去りにした大切なものが、己の願いと反対側の天秤に載せられていたことに気づかなかったのは。



その文字列の羅列と顔写真の画像を見た時の自分は一体どんな顔をしていたかわからない。少なくとも人に見せられるような顔ではなかっただろう。
HALの配下らしいNPCが同じ部屋にいないタイミングで助かった。

ホシノ・ルリ。彼女がアキトと同じくマスターになっていたなど悪辣な偶然にもほどがある。
しかも裏の空間では無敵に近い力を持つHALから随分と警戒されているようだった。やけに詳しくルリの危険性を説くHALのメールからそれは容易に読み取れる。
つまり彼女は今HALに命を狙われている。ハンマーで頭を横殴りにされた気分だ。

大切なものを取り戻したいと願った。相手が火星の後継者どもから自分以外のマスターに代わっただけだと思っていた。
だがそうではなかった、なかったのだ。
最後に生き残るのはただ一組。他のマスターとサーヴァント全てを殺さなければ聖杯に辿り着くことも生還することもない。
アキトとルリが同時に生き残ることは、ない。

聖杯戦争に勝ってユリカを救うということはルリを殺すということで。
ルリを助けるということはユリカの救出と火星の後継者への復讐、己の命を諦めるということ。
吐き気がするような二者択一。これが聖杯戦争を良しとした報いだというのならこんなに効果的な罰もない。



―――嗚呼、全くもって情けないことに。



―――俺という人間はこうなる事態を毛ほども想像していなかったらしい。

93発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 07:04:54 ID:qhlV.xww0




【C-6/錯刃大学・春川研究室/二日目・早朝】


【電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]『コードキャスト:電子ドラッグ』
[道具] 研究室のパソコン、洗脳済みの人間が多数(主に大学の人間)
[所持金] 豊富
[思考・状況]
基本:勝利し、聖杯を得る。
 1.ホシノ・ルリを警察署に向かわせ排除する。
 2.潜伏しつつ情報収集。この禍津冬木市は特に調べ上げる
 3.ルーラーを含む、他の参加者の情報の収集。特にB-4、B-10。
 4.他者との同盟,あるいはサーヴァントの同時契約を視野に入れる。
 5.テンカワ・アキトを利用して 東風谷早苗を排除させる。
 6. 聖杯戦争に対し否定的な主従を各個撃破し一大勢力の形成を阻止する。
[備考]
※洗脳した大学の人間を、不自然で無い程度の数、外部に出して偵察させています。
※大学の人間の他に、一部外部の人間も洗脳しています。(例:C-6の病院に洗脳済みの人間が多数潜伏中)
※ジナコの住所、プロフィール、容姿などを入手済み。別垢や他串を使い、情報を流布しています。
※他人になりすます能力の使い手(ベルク・カッツェ)を警戒しており、現在数人のNPCを通じて監視しています。
 また、彼はルーラーによって行動を制限されているのではないかと推察しています。
※サーヴァントに電子ドラッグを使ったら、どのようになるのかを他人になりすます者(カッツェ)を通じて観察しています。
 →カッツェの性質から、彼は電子ドラックによる変化は起こらないと判断しました。
  一応NPCを同行させていますが、場合によっては切り捨てる事を視野に入れています。
※ヤクザを利用して武器の密輸入を行っています。テンカワ・アキトが強奪したのはそれの一部です。
※コトダマ空間において、HALは“電霊”(援護プログラム)を使えます
※自分の研究室を"工房"に改造しました。この空間内なら限定的にコトダマ空間内での法則を使えます。
※テンカワ・アキトと協力関係を結びました。適当な配下のNPCの家に匿っています。また密輸した銃火器を供与しました。
※テンカワ・アキトとホシノ・ルリが知り合いであることに気づいていません。
※アキトから美遊、早苗、言峰、アンデルセンの情報を聞きました。
※D-1、C-1、A-1からA-4を配下のNPCに探らせていますがあまり力を入れていません。またエーデルフェルト家に目撃情報と称してリークしました。

【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク 〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:健康
[装備]:忍者刀
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:勝利し、聖杯を得る。
 0.警察署に赴きホシノ・ルリを待ち伏せする。
 1.HALの戦略に従う。
 2.自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。
 3.狂想のバーサーカー(デッドプール)への警戒。
 4.戦争を起こす者への嫌悪感と怒り。
[備考]
※紅のランサーたち(岸波白野、エリザベート)と赤黒のアサシンたち(足立透、ニンジャスレイヤー)の戦いの前半戦を確認しました。
※狂想のバーサーカー(デッドプール)と交戦し、その能力を確認しました。またそれにより、狂想のバーサーカーを自身の天敵であると判断しました。
※アーチャー(エミヤ)の外見、戦闘を確認済み。

94発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 07:06:11 ID:qhlV.xww0


[共通備考]
※『ルーラーの能力』『聖杯戦争のルール』に関して情報を集め、ルーラーを排除することを選択肢の一つとして考えています。
 囮や欺瞞の可能性を考慮しつつも、ルーラーは監視役としては能力不足だと分析しています。
※ルーラーの排除は一旦保留していますが、情報収集は継続しています。
 また、ルーラーに関して以下の三つの可能性を挙げています。
 1.ルーラーは各陣営が所持している令呪の数を把握している。
 2.ルーラーの持つ令呪は通常の令呪よりも強固なものである 。
 3.方舟は聖杯戦争の行く末を全て知っており、あえてルーラーに余計な行動をさせないよう縛っている。
※ビルが崩壊するほどの戦闘があり、それにルーラーが介入したことを知っています。ルーラー以外の戦闘の当事者が誰なのかは把握していません。
※性行為を攻撃としてくるサーヴァントが存在することを認識しました。房中術や性技に長けた英霊だと考えています。
※鏡子により洗脳が解かれたNPCが数人外部に出ています。洗脳時の記憶はありませんが、『洗脳時の記憶が無い』ことはわかります。
※ヴォルデモートが大学、病院に放った蛇の使い魔を始末しました。スキル:情報抹消があるので、弦之介の情報を得るのは困難でしょう。
※B-10のジナコ宅の周辺に刑事のNPCを三人ほど設置しており、彼等の報告によりジナコとランサー(ヴラド3世)が交わした内容を把握しました。
※ランサー(ヴラド3世)が『宗教』『風評被害』『アーカード』に関連する英霊であると推測しています。
※ランサー(ヴラド3世)の情報により『アーカード』の存在に確証を持ちました。彼のパラメータとスキル、生前の伝承を把握済みです。
※検索機能を利用する事で『他人になりすます能力のサーヴァント』の真名(ベルク・カッツェ)を入手しました。



【D-8/(HAL配下の家)二日目・早朝】


【テンカワ・アキト@劇場版機動戦艦ナデシコ-Theprinceofdarkness-】
[状態]疲労(中)魔力消費(大)、左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲
[令呪]残り二画
[装備]CZ75B(銃弾残り5発)、CZ75B(銃弾残り16発)、バイザー、マント
[道具]背負い袋(デザートイーグル(銃弾残り8発))、MAC10(マガジン2つ分の残弾)、AK47(マガジン2つ分の残弾)、手榴弾×3
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.ルリちゃんを――――――?
1.早苗を―――――― ?
2.五感の異常及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
3.利用されてると分かっていてもHALに協力する――――――?
[備考]
※セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
※演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
※ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
※割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
※寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
※D-9墓地にミスマル・ユリカの墓があります。
※アンデルセン、早苗陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。
※美遊が優れた探知能力の使い手であると認識しました。
→HALとの情報交換でいくらか認識を改めました。
※児童誘拐、銃刀法違反、殺人、公務執行妨害等の容疑で警察に追われています。
 今後指名手配に発展する可能性もあります。
※HALと協力関係を結びました。適当な配下のNPCの家に匿われています。またHALが密輸した銃火器を供与されました。
※HALからホシノ・ルリとライダー(キリコ)に関する情報を得ました。
少なくともルリの住所の情報は含まれています。

95発覚 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 07:06:44 ID:qhlV.xww0

【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]ダメージ(中)
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
※警官NPCを殺害した際、姿を他のNPCもしくは参加者に目撃されたかもしれません。


[全体備考]
※冬木大橋の両側に検問が設置されています。
警察にマークされている人物は呼び止められます。
※天河食堂周辺の聞き込み捜査とHALの介入により一部の警察NPCがホシノ・ルリに対し疑念を抱きました。
その場にルリが居合わせなかったため疑惑の払拭判定に失敗、ルリの足跡の捜査が行われ自宅付近に警察NPCが派遣されます。
この疑惑は払拭が為されるまで時間の経過とともに拡大し続けます。
※B-9の厳戒態勢は維持されていますが、美遊・エーデルフェルトの捜索とルリの捜査のために人員の再配置が行われたため一時的にこのエリア周辺の捜査員の数が減少しています。

96 ◆/D9m1nBjFU:2019/06/22(土) 07:07:18 ID:qhlV.xww0
投下を終了します

97名無しさん:2019/06/23(日) 20:28:24 ID:U2gHJOos0
投下おつです。HALの情報戦の旨さ、ルリを上手いこと網にかけられたと思ったら最後に一番アウトなボールを投げてしまった!
このアキトにとって最大の爆弾が起動したが今後の動きが激変しそうだ……

98名無しさん:2021/02/14(日) 17:49:38 ID:kNSdgPBg0
オワオワリ

99名無しさん:2021/02/16(火) 23:32:10 ID:qL3KWGOA0
>>98
ついでに君も自分の人生を終わらせてみたらどうだい?

100名無しさん:2021/02/16(火) 23:32:40 ID:qL3KWGOA0
なんちゃって

101名無しさん:2021/09/12(日) 23:06:48 ID:./To9Euk0
まってる


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