したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

オリロワアース

1名無しさん:2015/05/06(水) 16:45:35 ID:pYFZnHTQ0
ここは、パロロワテスト板にてキャラメイクが行われた、
様々な世界(アース)から集められたオリジナルキャラクターによるバトルロワイアル企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。

まとめwiki
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17154/

前スレ(企画スレ)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/

・参加者
参加者はキャラメイクされた150名近い候補キャラクターの中から
書き手枠によって選ばれた50名となります。

また、候補キャラクターの詳細については以下のページでご確認ください。

オリロワアースwiki-キャラクタープロファイリング
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/12.html

企画スレよりキャラメイク部分抜粋
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/13744/1428238404/109-294



地図
ttp://www9.atwiki.jp/origin2015/pages/67.html

100名無しさん:2015/05/12(火) 20:29:53 ID:qdZ03oBI0
投下乙です
終始弱者のフリをする柊のヤツに乾いた笑いが出る…こいつ腹ん中真っ黒だw
ただエンマちゃんとジルドレというチート勢の前には実際このムーブで正解だから困る
虎怪獣を一撃でのすエンマちゃん無邪気強いしそのエンマちゃんを退かせるジルドレの底知れなさが伝わってきた

101名無しさん:2015/05/12(火) 23:30:11 ID:23DB/iEQ0
最初は「あれ?ヒイラギこんな感じなのね」と思ったけどなるほどそういうことか
能力は奪われてる設定らしいからやっぱ多少は弱まってるのかしら

ジルドレみたいな無差別に近いマーダーはこれが初か?これからに期待。

>恥ずかしそうに目線を逸らしたエンマを見て、麗華はキスしたくなるくらい可愛いなと思う。
俺もそう思ったが柊中身30ヒキニートだから合法だけど事案なんだよなあ

102名無しさん:2015/05/14(木) 00:27:00 ID:eADlMe7E0
代理投下します

103探偵は警察署にいる ◇nQH5zEbNKA氏 代理:2015/05/14(木) 00:28:52 ID:eADlMe7E0


A-4、警察署の一室にて。
作ったインスタントコーヒーを口に運び、口に付ける。安物なのか、苦味にしか感じられなかった。
探偵黒田翔琉は、一室の窓際にある来客用のソファに座りながらその苦味のあるコーヒーをややしかめっ面になりながらも一口、一口と飲んでいく。

「…困ったな。まだ『旗』のことすら解決しちゃいないのに」

肩をすくめながら、彼はこの殺し合いに巻き込まれる前の世界情勢について思い出していた。
突如として人々の頭上に旗が見えるようになってしまったという事件が世界各地で発生していた、というものである。
彼は相棒(と言われるのは癪に障るが)である西崎詩織に細かい調査を任せ、やがて集まってきた資料から犯人、もしくは原因を探しあてようとしたというのに、その事を始めようと事務所の机に座ったら、ここにいたのだ。

「関係性が無いわけじゃ無さそうだな」

不可解な事件を調べたということで、自分もいわば巨大な闇の組織に消されてしまうのか、とも黒田は考えたが、そんなことはどうでもよかった。
ただ「旗事件」と今回のこの殺し合いに何処か関連性が見えてきそうな気が彼にはしていた。
自分の目にも旗が見えていたのに、ここにきた瞬間見えなくなったというのもまたおかしな話である。
黒田はまたコーヒーに口をつける。相変わらず苦い。

(…となると、あの旗事件を引き起こした誰かがこの殺し合いに関わってることになるな)

見えていた旗を消せる方法を世界中において見つけた人物は居ない。
よほどの馬鹿でない限り、その『旗』を消せる方法を分かっている上で『旗』を作り出すことだろう。

いま自分の頭上に旗はない。つまり、作った張本人によって消されたということが、さきほど述べた事の可能性が高いと言える。しかし、なぜ消す必要があったのか。

(危険数値を知らせるようなものだったからか…?)

調査の結果、『旗』には三色種類があることを黒田は知っていた。
まず青。この間は旗が立っている人間に大きな怪我はなく、あっても擦り傷程度である。
次に黄。自分の身の回りに危険が迫っていることを示す。
最後に赤。自分に対して命の危機が迫っているということを示す。

こういった『旗』は殺し合うこの場においては予知能力のようなものになりうる。
旗を見てから行動を決めることができるという点から、殺し合いの円滑化は難しいものだろう。

「ならば、なぜわざわざ世界中に『旗』を見えさせるようにしたんだ?」

後に存在が消されるものをなぜわざわざ世界中にばらまいたのだろうか。
または、作り上げた人物が故意に参加者を集めた訳ではなく、そうしなくてはならない理由があったのだろうか。

104探偵は警察署にいる ◇nQH5zEbNKA氏 代理:2015/05/14(木) 00:29:38 ID:eADlMe7E0
(…だめだ。情報が少なすぎる)

黒田は大きなため息をついた。
元々情報収集は西崎詩織の役目であって、黒田は集められた資料から正解を探る半分安楽椅子探偵のような存在だ。
彼が真実にたどり着くためには、資料が足り無さすぎる。

「まだ夜だからな…外を出歩くのは危険だ。明るくなってから行動を開始して、情報を集めるとしようか」

大きなあくびをすると黒田はソファから立ち上がり、『シャワー室』と書かれた部屋へと向かうのであった。
彼の頭脳が動き出すのは、もう少しあとのことである。

【A-4/警察署/1日目/深夜】

【黒田翔琉@アースD】
[状態]:健康、やや眠気
[服装]:トレンチコート
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:この殺し合いと『旗』の関係性を探る
1:とりあえずシャワーを浴びて眠気を覚ます
2:早朝まではここに待機
[備考]

105名無しさん:2015/05/14(木) 00:30:08 ID:eADlMe7E0
以上です。

106 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:42:36 ID:eADlMe7E0
では私も作品投下させていただきます。
夢野綺羅星
石原莞爾
です

107瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:44:49 ID:eADlMe7E0
正義とは、なんなのか。


人を助けることか。
それとも悪を裁くことなのか。
または自分が正義と思えば正義になるのか。

ある少女はそのことを今日ほど感じることはなかった。
夢野綺羅星(ゆめの きらぼし)は正義感溢れる少女である。
学園の生徒会長として日々高校の為に自分ができることならなんでもしてきた。
予算案の作成だって、部活の助っ人だって、それが学園の為であるというのならなんでもやってきたのだ。
困ってる人を見捨ててはおけない、と。そんな彼女の信念に基づいて彼女は常に行動をしてきた。
そんな彼女はまず殺し合いに巻き込まれたと自分が知って強い憤りを感じていた。
いきなり集められて殺し合いをしろ?馬鹿げている、と。
そして彼女の憤りを更に倍増させたのは、ディパックの中に入っていた参加者リストらしきものに自分の妹を初めとする彼女の友人や自分の先輩たちの名前がそこにあったからだ。

高村和花。
たまに狐のコスプレをして現れるほわほわとした雰囲気を醸し出した、可愛らしい少女。
立花道雪。
常にリスのペットを連れ回している、敬語を使う礼儀正しい女の子。
久澄アリア。
自分の高校の先輩で、生徒会でお世話になった、頼れる女性。彼女もまた、クリオネのような得体の生き物を連れ回している。
そして、自分の妹である夢野セレナ。

四人とも、『綺羅星にとっては』自分と同じ戦うことなどを知らない一般人である。




そう。『綺羅星にとっては』なのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

108瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:45:36 ID:eADlMe7E0

夢野綺羅星は和花、道雪、アリアの3人はおろか自分の妹であるセレナが日夜平和を守るため戦う正義の魔法少女であることを知らない。
魔法少女が増えてきている中、お昼のニュースの話題を独占してしまうようなアースMGにおいて、彼女という存在はアースRの平沢茜よろしく、イレギュラーな存在なのである。

魔法少女の世界において、『夢野綺羅星』という名前はあたかも魔法少女ものの主役に相応しい名前である。
しかし彼女は物語の中で変身は出来ないし、主人公格を助ける役目を担うわけでもなく。
ただの『重要人物の一人夢野セレナの姉』としか見られていなかった。
いや、当初は名前すらなかったのだ。「夢野セレナの姉」としか見られていなかった。

彼女の名前をつけたのは、ネット上のその作品のファンたちであった。
『なんか4話でちょっと出てきた美人のセレナ姉の名前が見た目とあってないキラキラネームだったらクソ笑えるよなwwwwww』
『じゃあこの子キラキラネームみたいな名前にしようぜ』
『キラキラネームなら、綺羅星とかで行こうぜ』
『うはwwwwwwクソワロタwwwwww』

やがて姉の名前は「キラボシちゃん」となり、彼女の二次創作が多く作られるようになった。
そしてそれを受けた制作スタッフが、話題に乗るためにその名前を採用としたということである。
親からつけられた名前でもない「夢野綺羅星」は、やがて非公式から現実となった。
そしてそれが更に話題を呼び多くのファンに彼女の存在が熟知されるようになったのだ。

綺羅星の『設定』は更に付け加えられていった。
学園の生徒会長である、とか。
正義感ある女性、だとか。
基本なんでもできる女の子で、だけれども家にあるクマのぬいぐるみを大事にしてる。だとか。

やがて、それらは『公式設定』となり、『夢野綺羅星』は物語の本質には関わらない、『設定』だけで成り立っているキャラとなったのだ。


だから、大事にしているはずのセレナが魔法少女なのを知らないのは当然なのである。アースRの世界におけるアースMGのような魔法少女ものの作品において、綺羅星が『セレナやその友人たちが魔法少女であることを知っている』という描写が無かったから。
何故なら、彼女にそのような描写が施される事はなく、あくまでも敵側の精神描写に徹したために夢野綺羅星はそういった設定に陥ってしまったという訳なのである。

さらにネット上では彼女が『自分の名前』が嫌いなのは、『自分の親』がつけた名前ではないからという設定も付け加えられた。
『自分の親』は前述の通り、彼女たちを作り出した制作スタッフたちのことを暗喩しているのではないかという考察に溢れた。
勿論綺羅星がそのことを知っているはずがないが、そういった経緯がやがてアースMGに住む綺羅星に影響を与え。
成績優秀で完璧である、ヤマトナデシコの女性なのに名前が『綺羅星』で、そんな自分の名前が『嫌い』で、『家』が嫌いだということになってしまったということだ。
どこか彼女のプロフィールがちぐはぐなのは、『公式設定』が付け足されていったからであり、彼女のせいではないのである。



では夢野綺羅星のことについての話を終えた事で先ほどの状況に視点を戻すことにする。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

109瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:46:50 ID:eADlMe7E0

そうやって怒りを感じていた綺羅星の手にやがて握られていたのは、両刃が波打ったようなフォルムが特徴の片手剣、フランベルジェであった。
その波打った両刃が相手の止血を防ぐというドイツに実在した剣であり、剣道をやっていた綺羅星にはありがたいというのが相応しい武器。

これがあの音声が言っていた『支給品』か、と綺羅星は感じた。他の支給品らしきものは古びて錆びてしまっている『南京錠』と、『BR映画館上映作品一覧表』と書かれたパンフレット。おそらく使いどころは無いだろうからディパックの中に戻すことにした。

ふと剣を見る。
竹刀を持つことはあってもこういった真剣を握ることは人生で初めてである。
竹刀のように、面を取られても死なずに、一本を取られる訳ではないのだ。
面を取られる=頭をかち割られて死ぬ。
そのことをひしひしと剣が反射して映る自分が示しているかのようだった。

「…誰だ」

突然綺羅星が「歴史書」と書いてある本棚の方に声を投げかけた。
剣に反射している自分の後ろに、男らしき陰が映ったからだ。
勿論殺し合いの場においてそういった行動は死に直結することすらありうる。
しかし綺羅星はそれを承知で行動に移した。このまま見ているままで奇襲されるよりかは、面と向かって闘う方が割に合っていると考えたからだった。

その声のあとの数秒後。
綺羅星に呼応するかのように、一人の男が本棚の影からのそっ、と出てきた。
頭は丸めていて、目は垂れ目だが、瞳は死んではいない。部屋着であろう甚兵衛を着ており、おおよそ戦闘をする者には思えない。
手には「ナポレオン・ボナパルト」と書かれた漫画本の伝記を手にとっており、綺羅星からいきなり呼ばれたのにも関わらず、驚きもせず、ただ毅然とそこに立っていた。

「テメーこそ誰だ。先に名乗るってのが礼儀だろうが」

現れた甚兵衛の男は、綺羅星に不機嫌そうに言い放つ。
甚兵衛の男は、背中をボリボリとかきながら近くにあった勉強用の机の所の椅子に座り込むと、腕を組んだ。
その姿はまったくもってこの異常な状況にふさわしくないほど堂々としていた。
そのことが、『魔法少女でない』綺羅星にはどうも不気味に見えた。
目を凝らす。男の首輪には『A』の文字。自分の首輪の文字は先程確認した。『MG』───つまり、彼は敵である。
綺羅星は支給されたフランベルジェを持ち直すと、男に言った。

「…貴方のチームはA。私を殺す気か。その時は容赦はしない。私には守らなければならない人たちが居る」

目の前の男に対抗するように、厳しい口調で言い放つ。
勿論、殺すことはないと思うが、剣道をやっていた事もあるし腕には自信がある。また脅されたと勘違いして逃げてくれれば幸いなのだが。と綺羅星は考えていた。
だがその綺羅星の予想を大きく男は裏切ることになる。

「はぁ?何言ってんだテメー、馬鹿だな」

伺える風であったよりも今度ははっきりと不機嫌を表して男は綺羅星に言い放つ。
綺羅星の存在を無視するかのように段々とページを勧めていく手が早くなっているようにも見えた。
突如言われた暴言に対し、綺羅星は彼の態度に怯まぬように、声をやや張って口を開く。

「言っている意味が分からない」
「この殺し合いに素直に乗るやつ、だよ。テメーだよ馬鹿は」
「私は殺し合いに乗ってない!」

綺羅星のフランベルジェを握る力が、自然と強くなる。
あの子たちを守らなくては。あの子たちよりも年上である自分がなんとかしなければ、と。
だから殺し合いなんて馬鹿な事には乗らず、元の生活に戻りたい、と。
そういった決意からだった。
同時になのになぜこの男は唐突に現れるや否や私のことを決めつけるのだろうと疑問に思えてきた。だがその疑問を言葉にすることが少しはばかられたのか、綺羅星は俯く。

110瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:48:16 ID:eADlMe7E0

男は綺羅星のそういった様子を見て、今度は大きく息をついた。
そして持っていたナポレオンの伝記本を相変わらず読み進めながら、今度は先ほどとは打って変わって諭すように、口を発した。

「じゃあ仮にだ。俺がテメーの言う大事なものを捕まえてこれ以上近寄ったらこいつを殺す、と言ったとする。
テメーの手には自動小銃が握られている。弾は六発だ。テメーはそれを撃たないで話し合いだけで大事なもん助けようとすんのか?」
「それは…」

俯いていた綺羅星の顔に動揺が映る。
確かにそういった状況が無いとは言えない。おそらく自分は話し合いに応じなかったら相手を攻撃するだろう。
ただ、それは『殺し合いに乗った』という見方もできてしまう、それならば先ほどの自分の「殺し合いに乗ってない」という言葉が、嘘になってしまうこともありうる。
綺羅星が動揺する中、男は待ってましたというように本を読みながら立ち上がり、綺羅星の方を向かず、黙々と漫画を読みながら呟いていく。

「甘いなぁ。テメー人殺したことねーだろ?生憎だが俺はあるんだ。何万という人を殺してきたと言ってもいい」
「…」
「嘘じゃねえよ、本当さ。いわゆる軍人さんってやつ『だった』んだぜ、こないだまで」

男がパタンと本を閉じて、綺羅星の方をはっきりと向いた。
やがてまた背筋を伸ばしてから立ち上がると、本をディパックの中に入れた。
綺羅星は男の言葉のふしふしに疑問を感じたものの、そのことはどうでもいいと考える対象から外した。
綺羅星の様子を見てから、男は話を続ける。

「…話を戻すぞ。さっきの状況になって撃たねえ奴はいない。扱ったことない素人でも一か八かで
撃ってみるはずだ。そんな状況で撃つ方を選んだ段階でテメーは殺し合いに乗ったことになる。明確な殺意を人に向けるんだからな。
…どうだ。それでもお前は、こんな状況が作り出されるかもしれないと分かった上でも、『自分は殺し合いに乗らん』とほざくのか」

男の目に光が宿る。その瞳は完全に綺羅星への挑戦とも言えるような瞳である。
確かに、綺羅星のように自分の知人全員を誰も殺さずに、自分が汚れないように───殺す手段を用いずに助け出すのはというのはほぼ不可能に厳しいことだ。
しかし、綺羅星は守る必要があった。まだ幼いあの子達を、自分の信頼する先輩を、自分の最大限の力を使って守るという使命が。

「───私には…妹がいるんだ。まだ幼くて、ドジなところもあるが、心が優しい子だ。その子がこの殺し合いに巻き込まれてるかもしれない。いや、その子だけじゃない。妹の知り合いの子や、私の信頼していた先輩もいる。私は確かに貴方の言う通り甘いかもしれない。私はただの人だから。けれど…
私は負けない。こんな意味のわからない、幼い子の未来を奪うような奴らに負けるわけには行かないんだ」

答えにはなっていない、唐突な言葉だった。
男の質問の問いを無視するような内容。しかし、考えるよりも先に言葉が出ていた。
綺羅星も、自分で情けない、みっともなくて子供じみた言葉だとは感じていた。
しかし、それでも、一抹の希望を見出さないと逆に自分が潰れそうになりそうになっていた。
だからこそ、そういう言葉を言ったのだと思われる。自分の弱さを隠すために、そして本当にそうなることを願うために。

111瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:49:40 ID:eADlMe7E0

(………なんだ、コイツの目は。東條のヤローの、濁りきった目とは違う、現実を知らないくせに変な使命感を感じている瞳は)

男は前述の通り軍人であった。
若い時の自身が見てきたまっさきに死ぬ兵士たちこそ、目の前の女のような目をしていた。
「自分が国を守るんだ」と、言って勇敢に戦い、死んでいった者達。
男は軍人の仕事が嫌だった。そういう若者たちを、戦友を多くみてきたからだ。

しかし、男は徐々に階級が上がるにつれて、そういった瞳を持つ人物を見ることは立場上無くなっていきやがて男は兵士を駒として、戦力としてしか見れなくなっていった。

そして『軍略の天才』と呼ばれた男が権力を得た時に、日本とアメリカが戦争を始めた。
結果は日本がロシアの援軍で息を吹き返しての大勝利。国中が歓喜に湧いた。
だがこの男はそれが信じられなかった。ロシアが日本に協力する理由などまるでなかった。まるで『自分たちを駒と扱っている神々が、戦局を変えてしまったから』とも言えるようにも思えた。
男は一人、歓喜の輪から外れ、ひっそりと歴史から姿を消した。自分を戒めるために。自分の狂ってしまった目を、もう使わないようにするために。

男は綺羅星の目をもう一度見た。
透き通った瞳だ。日本人には珍しい黄色の瞳が、その透明度を更に強くしていた。
やがて男は綺羅星から図書館の天井にある窓の向こうに広がる星空を眺めながら、ずかずか、と綺羅星の元に歩き出した。

(…最初はひっそりと死のうと思ってたが…面白そうじゃねえか)

やがて、綺羅星の真正面に来て、口を開いた。

「───気が変わった。名前教えろ…ぼさっとしてんじゃねえ。教えろっつてんだ」
「…夢野綺羅星。神王寺学園3年2組出席番号27番」
「おしキラキラ。テメーに協力してやる」

呆気にとられる綺羅星。当然である。
さっきまでの敵対心のようなものを見せていた男が、突然協力すると言い出したのだから。
更に自分の事を『キラキラ女』と呼んでいる事には少しムッとするがそれを気にしている場合ではなかった。

「何をいきなりそんなことを…」
「気が変わったんだよ、別に好きに殺しあえばと思ってたが面白そうだ。こいつが開かれた理由とやらも知りたいしな」

にんまりとして笑い出す男。綺羅星はこの男を信頼していいか迷ったものの、とりあえずその本題に入る前に、男に聞いておくことがあった。

「…名前を。名前を教えていただきたい。なんと呼べばいいか、私も分からない」
「キラキラ。テメーは『俺の事を知らない』、珍しい奴だから前の役職で、わかりやすーく教えてやる」

そういうと男は、綺羅星の目の前で足を揃えて立ち、右手の手のひらを水平にして、右耳のこめかみあたりにやった。
そして、これまでのだるけが感じられた声から一転し、顔に精悍さを取り戻しながら、仰々しく綺羅星に言うのであった。

112瞳に炎を宿せ ◆/MTtOoYAfo:2015/05/14(木) 00:51:14 ID:eADlMe7E0
元大日本帝国陸軍中将。そして元関東軍作戦参謀。石原莞爾(いしわら かんじ)だ。テメー珍しい見た目だが日本人だろ?俺の事知らないとは言わせないぜ」
「…え?」

綺羅星の顔から緊張が解けて、驚きの表情を見せた。
何故ならば石原莞爾という男の名前は綺羅星は知っていたのだ。
彼女が勉強した日本史の板書ノートの中に書き込まれていた『重要語句』の一つとして。
あの満州事変を起こした関東軍の参謀として。
『設定』で作られた彼女は『事実』として知っていたのだった。


【エリア/図書館/1日目/深夜】

【夢野綺羅星@アースMG】
[状態]:健康
[服装]:神王寺学園制服
[装備]:フランベルジェ@アースF
[道具]:基本支給品、BR映画館上映映画一覧@アースBR、南京錠@?
[思考]
基本:知人たちを助け、この殺し合いを終わらせる。
1:…この人は何を言ってるんだろう。
2:セレナ…
3:石原のことを信頼していいのか…?
[備考]

【石原莞爾@アースA】
[状態]:健康
[服装]:甚兵衛
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナポレオン・ボナパルトの伝記@アースR、不明支給品1~3
[思考]
基本;とりあえずは主催に対抗してみるか
1:キラキラ(綺羅星)に付き合う
2:東條のヤローはいんのか?
[備考]
※名簿を見ていません。

113名無しさん:2015/05/14(木) 00:53:46 ID:eADlMe7E0

投下終了です。
綺羅星の設定を膨らましすぎた感あるので修正点あれば直させていただきます。
あと歴史詳しい人石原こんな感じでいいんですかね。
一応ナポレオン好きだったらしいので伝記読んでたってことで。


感想
「探偵は警察署にいる」
初のアースD参加者クロダ。
うーんやっぱり「旗」との関係性を探しますかあ。乙です!

114名無しさん:2015/05/14(木) 00:56:00 ID:eADlMe7E0
あ、すみません状態表修正。
【D-5/図書館「歴史・文化」エリア/1日目/深夜】

115名無しさん:2015/05/14(木) 20:01:51 ID:sXvY6VQs0
お二方投下乙ですー

>探偵は警察署にいる
探偵黒田翔琉きた!そりゃまずは旗事件から疑ってかかるよね……w
さて詩織ちゃんはいないかもだしいても出会えるとは限らぬ、いい相棒が見つかると良いが

>瞳に炎を宿せ
おお、アースRから見た他の世界が創作物だってネタを生かしてて上手い!
モブに設定盛ってたら公式が取り上げる事例って最近だとわりとあるし、魔法少女の輪から外れてたのも設定ならより頷ける
石原莞爾の現実見据えてる感も好きだなあ

116 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:50:29 ID:sXvY6VQs0
投下します

117谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:51:07 ID:sXvY6VQs0
 

 え。
 なにこれ?
 ちょっとまって。ちょっとまってよ。
 待って、待って待って待って待って待って待って待って待って。

  『『───これより、音声プログラムを再生致します。
   よく聞き取れなかったり音声の不具合を感じられた方は───』』

「えっ」
「……エ?」

 いやこれはない。これはないって。本当に待って。
 十秒でいいから、いやあと五秒で良かったからホント、待って欲しかった。
 それだけあればこんなことにはならなかった。

「あの……どちらサマ、デス?」
「えっ何、なにこれ、ちょっと、え、誰? え、ええ? 君だれ、えっ」
「ワタシはスライムちゃんですケド……」
「えっスライム、確かに透けてる、てか君かわいいね、じゃなくて、、、、あ?」

 近くから二重に聞こえる無機質アナウンス音の中、ボク、谷山京子は混乱を極める。
 いやその、ええと百歩、――いや千歩譲って殺し合いに連れてくるのはいいよ、分かったよ。
 それだって後から聞く話な上に、
 ちょっと急な話すぎるしボクの人権どこいったのって感じではあるけど一応分かったよ。

「あ、待って、でる」

 でもさ。さすがに連れてくるタイミングっていうか。プライベートくらい、守られるべきだと思うわけだ。
 だって普通連れてこないでしょ。“オナニー中の女子高生”、そのまま連れてくるとかありえないでしょ?
 しかも、転送場所、“他の参加者の目の前”って、それ、ありえないでしょ?
 ありえないでしょ。どう考えても、イレギュラーでしょ。

「デ?」
「で、でる、ちょ、ああっ、よ、避けてぇ!!」

   『『再生の準備が整いましたらSTARTボタンを――』』

 無機質なガイドの中――自分の部屋のベッドの上で、パジャマはだけて片手で×××いじってたボクは、
 もう片方の手を×××にやって、気持ちいいとこいじって気持ちよくなってて、
 妄想も、もう佳境でさ、階段登りきる一歩手前ってとこで、つまりもうちょっとで×××ってところで、
 そこからいきなり辺りの景色が草原になって、目の前にスライム、
 透けてるけど女の子のカタチしててすごくかわいいスライムちゃん、そんなの目の前に居たらボク、
 ムリじゃん。
 急に動かしてる手を止めるとかまずムリだし、出そうな生理現象止めるのもムリだし、
 一回×××されようとしてる×××、無理やり戻すとか、そんなマンガみたいなこと……。

「あっ」

 ムリでした。

「? ……!?」
「ああ〜っ! あっ! あ……うあ! ……うあああ! あああ、あ……!」

 結局、ボクはやってしまった。
 エロゲなら「どびゅる!…どびゅる!」とか効果音出る感じでやってしまった。
 どびゅるどびゅると。
 ×××が、×××から×××され、スライムちゃんのぷるぷるの身体に掛かっていって。
 スライムちゃんは何が何だか分からないといった様子で、きょとんとしながらただそれを受け止めた。
 うわあすごい純真そうな子だ、きっといい子なんだろうなあ。とボクは思った。

 ところでそんな無垢っぽい子をものすごい勢いで汚してしまったボクとは一体なんなのか。
 女子高生なのに描写と一人称が明らか男子っぽいボクとは一体どういう存在なのか。
 その辺はええと、これからたぶん説明が入ると思うんだけど、その前にちょっと気絶させてね。
 自己防衛っていうか現実逃避なんだけど、さすがにそれくらい許してね。

118谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:52:46 ID:sXvY6VQs0
 
 谷山京子・16歳、
 今の気分は、マジ死にたい。

 ばたんきゅー。


♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


 ――「小文字のi」を考えてみて欲しい。
 大文字ではなく、小文字の「i」だ。
 ここで「iの下の棒」の方を、裂け目、または穴であるとしよう。
 すると「iの上の点」は何になるかというと、豆になる。限りなく簡易的に表すと、これが一般の女性だ。

 しかし、谷山京子の場合は、「iの上の点」が豆ではなく、棒なのである。
 一般的には男子にしかついていないはずのアノ棒になっているのだ。
 それでいて裂け目のほうもちゃんと残っている。つまり、両方「ある」ということだ。

 谷山京子はふたなりなのだ。
 彼女は今宵、くちゅくちゅのほうではなくしこしこの方をしていたというわけなのだ。
 ちなみに、バリエーションとしては玉まで付いているものも存在するが、
 彼女の場合は棒だけだということは念のため、ここに追記しておく。それでは説明を終了する。

 <性転換などに詳しい学者 B・T 様からのコメント>


♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


「ところで玉が無いパターンのときって、×××ってどこから出てるんだろうね……」
「あ、気が付きまシタ?」
「ははは、できれば一生目覚めたくなかったけど目覚めちゃった。ええと、ボクは谷山京子です」
「ワタシはスライムちゃんデス、よろしくデス」

 起きると二人、いやどちらかといえば一人と一匹、でもやっぱ二人かな?
 まあどっちでもいいか。ともかくボクとスライムちゃんは改めて、互いに自己紹介をした。
 スライムちゃんはやっぱりいい子だったようで、気絶したボクをひざまくらしてくれていた。
 ぷにぷに感のある冷やっとした太ももが火照った身体に心地いい。
 スライムなんてファンタジー世界の生き物だと思ってたけど、本当に居たんだなあ。

「じゃなくて」
「?」
「ちょっと待って! 説明を求めます!」

 まてまておかしいぞ。スライムが居るわけないじゃん。
 草原にスライムがいるのはおかしくはないけど人型とかレアすぎるしボクはRPGには縁がないはずだし。
 だいたい、スライムなのにボクよりおっぱい大きいの、どういうことなんだ。
 自在に盛れるからってこんな、ボクの顔に当たりそうじゃないか。舐めるなよ!
 めっちゃ気持ちよさそうだしなんなら舐めたりだってしたいけど、とにかく舐めるなよ!?

 そもそもボクがどうしてこんな身体になったかってなあ。
 ボクがこの、感度だけ良くなって一向に大きく成らない果実に耐えかねて変な薬を飲んだせいであってだな!
 つまり! ……全部おっぱいのせいなんだよ!
 巨乳は……死すべしなんだよ! あ、でも巨乳モノはいいよね。

「――というわけで、どうやら殺し合いに巻き込まれてしまったようデスね」
「なるほど」
「そしてキョーコさんの話からすると、ワタシはまた世界を飛ばされたみたいデス……多分キョーコさんも」
「世界っていっぱいあったんだなあ……(驚愕)」

 本題に戻ろう。
 さて、スライムちゃんはやっぱりいい子だったので、
 混乱しているボクにICプレイヤー(最初のアナウンスはこれから出ていたらしい)を聞かせたあと、
 丁寧に現在の状況を説明してくれた。
 巨乳への怒りで話の詳細は右から左に行きかけてたけど、かいつまむとこういうことらしい。

119谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:54:13 ID:sXvY6VQs0
 
 ・世界はいっぱい並行して存在しているらしい。
 ・スライムちゃんは前にも違う世界に飛ばされた経験があって、今回の感覚はそのときと同じだったとか。
 ・違う世界に居たボクたちは、不思議な力で同じ世界に拉致されて、殺し合いをさせられている。
 ・スライムちゃんは、殺し合いには反対だそうだ。ボクも反対。というか許せん。主催まぢ殺す。
 ・ちなみにボクがパジャマで拉致られたのは偶然だし、辱めに対する埋め合わせも多分ないだろうと。
 ・まあね。そりゃね。

「携帯電話で質問できるらしいですケド、してみマス?」
「“恥ずかしい姿を見られたんですが何か埋め合わせありますか?”って聞くの、羞恥プレイすぎると思うなあ」
「いちおう掛けてみまショウ、いまいち殺し合わされる理由もわかりまセンし……」

 ピポパと馴れた手つきで携帯電話を操作するスライムちゃんであった。
 現代っ子すぎて逆に違和感すらある。
 すぐさま主催に連絡を取りに行く勇気をボクはとても評価したのだけれど、でも結果は芳しくなかった。

「――ただ今、回線が込み合っているらしいデス」
「うーん塩対応……もしかして人手足りないんじゃないの?」

 いや、でもこんな理不尽なイベントのカスタマーサポートが充実してたら逆に引くか。
 とか勝手に納得したりなんかして。
 ともかくこれで、ボクたちが今打てる手は無くなった。

 正確に言えば支給品の確認はあるけど、銃とか入っててもボク扱えないしなあ。
 言っちゃなんだけど、ボクはちょっと胸が大きく……なくて、ちょっと人より性器の数が多くて、
 その副作用で、ちょっとばかし腕力(と性力)に自信ネキなだけの一般人だし……。 



「……というか、その、ごめんねスライムちゃん、さっき」

 と、ここで今さらながら――しかも膝枕してもらいながらという状況ではあるものの、
 ボクはスライムちゃんの透けてる胸越しに彼女の透明(物理)な目を見ながら、先ほどの謝罪を入れた。
 むしろ謝罪が遅すぎたくらいで、ボクは申し分けない気持ちでいっぱいだった。

「その……ひどい痴態を見せた上に、よ、汚してしまって……拭くの大変だったでしょ」
「? 何がデスか?」
「いやその、アレだよアレ……白い……」
「ああ、アノ! 確かにいきなりだったノデ、驚きまシタ。ワタシ、初めて見まシタよ」
「うううう! やっぱ初めてだったんだ、何と言うか、なおさらごめn……」
「はい、始めてでシタ、“あんなに濃いマナの素がヒトから出てくる”のは。いやはやキョーコさん、すごかったデス!」

 そう、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなのに介抱まで……。

「って、え?」
「?」
「え、その……はい?」

 今、なんて?
 マナ? マナって何?

「? あ、もしかしてキョーコさん、マナの存在を知らないのデスか。
 でも、とても良いマナの素でシタよ? ちゃんとワタシ、吸収させていただきまシタから」

 キュウシュウ? 九州?
 おいおいスライムちゃん、九州は動詞じゃないよ。
 ははは、知能があると言ってもやっぱりモンスター、完璧じゃない部分もあるんだなあ。
 いくらなんでも九州を動詞として使ってしまうなんて、そんなさあ、そんな、

120谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:55:35 ID:sXvY6VQs0
 
「えっ吸収しちゃったの?」
「え、ハイ」
「じゃあボクの体液が今、スライムちゃんの身体を構成する成分の中に混じっちゃったってこと?」
「まあ、考え方としてはそうもなりマスね」
「どうしてそんな……もう責任とって結婚するしかないじゃないか……」

 でもスライムちゃんが嫁ってのはアリかもしれないなあ、なんてボクは思った。
 気立て良さそうだし、声とかもすごくキレイだしね。

「ところでスライムちゃんその、マナについて詳しい説明を求めたいんですが――」
『その質問、承ったよぉ』

 と、いい加減真顔に戻ろうとボクがした質問に答えてきたのは、スライムちゃんが持ってた携帯電話だった。
 え、……説明してくれるの、まさかのそっちなの?
 あの、ボクのスキルじゃもう、突っ込む暇、ないんですけど……。
 
 
♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


 はい、というわけで。そこのスライムちゃんが元いた世界のえらーい知識人のご登場さぁね。
 それにしても知性を持ったスライムってのはびっくりだねぇ、
 おまけに観測できてない世界からやってくるとは、ずいぶんイレギュラーだ。
 ま、ぼくはイレギュラーは大好きだから、せいぜい頑張って生き延びて欲しいところだねぇ。うん。

 んじゃまぁ、マナについて説明しようか。
 といっても君も、創作物か何かで言葉のおぼろげな所は聞いたことがあるのではないかね?
 大体はそんなところの理解でいい。
 空気中や人間の体内に存在していて、魔力を媒介する見えない要素。それがマナだよぉ。
 火とか水とか風とか雷とか、まあ色々属性もあったりするねぇ。

 ただし、空気中に存在するそのマナ、普通の人間は“半分”しか使えない。
 マナにはたーくさんある属性の他に、“極性”……「陰」と「陽」もあるから、だ。

 男性は「陰」の極性をその内に宿し、女性は「陽」の極性をその内に宿している。

 魔法――取り込んだマナを体内で励起させて行使するプロセスの中で、
 だから基本的に、男性は「陰」のマナ、女性は「陽」のマナしか行使することができない。

 1つのマナという存在を仮に球体状のものだとするなら、
 それを二つに割った半分しか使わず、他は捨ててるってことになる。もったいない話だねぇ。
 でも“普通”、性別を両方持つ人間なんていないから、ぼくらの間じゃこれは仕方ないこととされてきた。

 さて、ここまで説明すればサルでも分かるねぇ? つまりこう。
 両方の性別を持つ君の内には。人の2倍の濃さを持つマナが、流れているというわけさぁ。
 

♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀


 ちなみに主催の説明ターンは放送ごとに1回だから、いまので使い切ったからねぇ。
 と最後に新事実を言い捨てて、ねっとりした声のおじさんは電話を切った。
 え、ボクもしかして貴重な1回をすごく無駄なことに使ってしまったのではないかボク。

「無駄ではないデスよ。つまり、キョーコさんが希望だってことデス」

 スライムちゃんがボクの頭(いつもはポニテなんだけど、
 寝る前だったから結んでない)をスライムの手で撫でながら妙にはしゃいでいた。

「2倍の濃さのマナが使えレバ、魔法の威力は単純に2倍ってことデス! 強いデス!」
「でもボク、魔法なんて使えないし使ったこともないよ?」
「でもワタシは使えます。
 低級の“氷”と“癒し”の魔法ですが、キョーコさんのマナを使えばきっと上級魔法にも負けまセン」

 スライムちゃんは、ボクのアレによっていつになく力が湧いてきているのを感じているらしい。
 張り切ってるのか嬉しいのか、体をゆさゆさしている。
 おっぱいも揺れる。
 ボクは僭越ながら、また興奮してくる。……このバカ×××! モンむす適性もあったのかよ!

121谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:56:38 ID:sXvY6VQs0
 
「キョーコさん、マナの素はまだ出マスか!」
「出ます!! 出ますがみじめになるので出したくないです!」
「いいえ出してもらいます! そしてワタシと共に、主催へと反抗しまショウ!」

 もはやスライムちゃんは止まらなかった。
 ガバッ! と勢いよく、
 ボクのパジャマのズボンは脱がされ、パンツも脱がされていく。

「ぎゃあああああ(泣)」
「ここを。先ほどキョーコさんは刺激していまシタよね……確かこう……」

 まじまじと見られてるし、しかも手がそこへと伸びようとしている。
 だめ、だめだめ、だめだよスライムちゃん。
 ボク女子が上げちゃいけないトーンの声上げてまで泣いてるじゃん、これに免じてやめてよ、
 もしスライムのぷにつるな手でお×××を×××されて×××してしまった日にはもうボク、
 お嫁に行けなくなりそうな上に自分でやってもイケなくなりそうで怖いんですけど!
 だって絶対気持ちいいじゃん!

「大丈夫です! ワタシ、向こうではアイドルをやってましたから、みなさんの嫁デス!
 それにマッサージも得意なんデス! 決して痛いことにはなりまセンよ!」
「じゃあ余計ダメってことじゃんかああああああああああ!!!!」

 2重3重に重ねられていく禁忌感、
 奪われかけているボクの中にある女子としての何か、
 そういうものをどうにかするためにボクは全力で叫んだけど、スライムちゃんは止まりそうになかった。

 あ。これ止まらないな。
 じゃあもう……もういっか。

 ひとつネジが外れたのか、叫んで清々しい気分になったあと、ボクは無の境地に達した。
 もうしごかれちゃおう。いっそビシバシしごいてもらおう。
 それでボクの魂がどうしようもない位置まで落ちてしまったとしても、命さえあればなんとかなるさ。
 スライムちゃんの手がボクの×××へと触れる直前まで来たとき、ボクはついに、抵抗を放棄した。

 そして。

「……えっ」

 その時、ボクとスライムちゃんの前に、新たな女の子が現れた。

「え」
「あ」
「……あ、あなたたち……な、なにして……え……」


 2秒、全員が硬直したあと。 
 
 
「――――そ、その……お、お邪魔しましたッ!!!! どうぞごゆっくり!!」
 

 女の子は、逃げた。
 膝枕されつつおっぱいを顔に当てられつつ×××に手を当てられているボクと、
 ボクを一生懸命×××させようとわくわく顔でその体勢になっているスライムちゃんと、
 二人の間に実は流れてないんだけど、もうその場見たらそうとしか考えられないよね? な空気を読んで、
 それでも女の子は怒るでもなく、呆れるでもなく、恥ずかしがりながら、非常に優等生な選択を取った。

 うん、正解。
 すごく正解だと思う。
 良い子なら誰だってそうするし、ボクだって多分そうした。
 でもさあ。
 でも……なんでこのタイミング?

122谷山京子の差異難 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:58:00 ID:sXvY6VQs0
 

 なんでよりにもよって、“華ちゃん”??


「あの、キョーコさん、すいまセン……何というかかワタシ、キョーコさんの意思を無視して……」
「いいんだ。いいんだよスライムちゃん」
「……でもキョーコさん、まるで初恋が敗れたかのような泣き顔になってマス」
「いいんだ。いいんだよ。いいんだ。……ただちょっと、今だけ泣かせてね。今だけでいいからね。あは。あはは」

 ボクは泣いた。身に振りかかる災難の連続に、一時的に涙腺が壊れたようだった。
 ……ただ、もしかしたらこれは罰なのかもしれないと、思い始めていた。
 ボクには罰が当たったのだろう。
 いつぞや“これ”が生えてから、女子にも興奮してしまうようになったボクは。
 連れてこられる直前、あろうことかクラスメイトの女子をオカズにしていた。

 たまに学校にやって来てつっけんどんな態度で授業を受けるあの子。
 そんな彼女からはたまに普段嗅いだ事のないニオイがしていて、それがボクはなんだか気になって。
 気になったら、思い浮かんで。思い浮かんだら、意識して。いつからだろう、どきどきして。
 つい出来心で、つい先ほどの夜。パジャマを脱いで、ベッドの上で――だからきっと、罰が当たったんだ。

「あう……うわああああああん! もうやだーッ!!!」

 こうしてボクの初恋は終わりを告げた。
 あとにはただ露出された×××のみが残った。


【D-2/草原/1日目/黎明】

【谷山京子@アースP(パラレル)】
[状態]:悲哀
[服装]:パジャマ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催絶対許さない絶対にだ
1:なんなんだよもう(泣)
※肩斬華のことを意識していましたが…。

【スライムちゃん@アースC(カオス)】
[状態]:マナチャージ(1)
[服装]:とくになし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒しまショウ
1:キョーコさん……ごめんなさい……
2:さっきのヒト、追いかけたほうがいいのデハ?
※氷と癒しの魔法(低級)が使えるらしいです。


【D-2/草原/1日目/黎明】

【片桐花子@アースR(リアル)】
[状態]:健康
[服装]:学生服
[装備]:???
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:???
1:さっきの……何!?
※明確な行動方針は後続の書き手さんにお任せします

123 ◆5Nom8feq1g:2015/05/14(木) 20:59:24 ID:sXvY6VQs0
投下終了です。

124 ◆laf9FMw4wE:2015/05/14(木) 22:21:00 ID:ePr0auf20
投下乙です
ふたなりはこういう場所で魅力を引き出すことが難しい性癖だと思うのですが、そのふたなり設定を上手に使っていることに感涙しました
スライムちゃんもかわいくて、このコンビは見ているだけで癒やされますね。ナニな場面に遭遇してしまった花子ちゃんの今後にも期待

それでは投下します

125灰色の楽園を壊したくて ◆laf9FMw4wE:2015/05/14(木) 22:22:06 ID:ePr0auf20
「殺し合い――だと?」

ICプレイヤーから流れる音声を聞き取り、信じられないとばかりに青年は目を見開いた。
殺し合い――その単語だけで過去に一度だけ強制的に参加させられたことがある、史上最悪の催しを思い出す。

気が狂った友人が、生き残る為に他者を殺害する道を歩んだ。
自分に優しくしてくれた人が、過酷な環境に耐え切れず、自殺して楽になる道を選んだ。
普段ならば頼りになるはずの警察官が、己が命の為に無差別殺人を嬉々として行っていた。
幼馴染の少女が、自分を助ける為に身を挺して不意討ちから守ってくれた。
主催者――平沢茜は安全地帯で待機して、参加者が必死に殺し合う姿を嗤いながら眺めていたらしい。
彼女にとって参加者は道化以外のなにものでもなく。ゆえに最後まで生き抜いた自分を見る目つきや態度も、まるで道化に対するソレであった。

「たしか世界観測管理システムAKANE――と名乗っていたな。やはり、平沢茜の仕業か」

平沢茜――かつて殺し合いを開催した魔女の姿が思い浮かぶ。
優勝した報酬として殺し合いを二度と開催させないことを望んだが、それは却下された。彼女曰く、あの舞台こそが楽園らしい。
だからせめて、自分や身内を二度と巻き込まないことを誓わせたが――強引に無関係の人々を巻き込んだ彼女は、そんな約束を律儀に守る性格だろうか?
彼女からしてみれば駆は道化であり、舞台役者だ。更に優勝者という称号まで有しているのだから、これまで再参加せずに済んだことは奇跡的だとも考えられる。

「優、幸太、あざみ、桃子――――それに会長や副会長まで候補、か。……これはあくまで候補だが、平沢茜のことだ。最低でもここから数人は選ばれているに違いない」

以前の殺し合いもそうだった。
候補者リストではなく、名簿という形で紙切れ一枚に自分の幼馴染や友人、知り合いの名前が並べられていたことは衝撃的で、よく覚えている。
それに自分以外の参加者も大小の違いはあれど、必ず一人は関係者が存在していたらしい。中には愛人を優勝させる為に他者を殺している者までいた。
きっと効率的に殺し合いを促進させる手法はこれが一番なのだろう。更にいえば、平沢茜は親しい者同士を争わせるという行為自体が好きそうだ。

「……しかし一つ疑問が残るな。どうして平沢茜本人まで候補リストに名前が載っているんだ」

自分の知っている平沢茜は、高みの見物をしているだけの主催者だ。
気まぐれで本人が参加している可能性もあるが、あの女が死亡する可能性を孕んでいる危険地帯に自ら赴くだろうか?

「いや――考えるだけ無駄か。相手が何者でも俺には関係ない」

疑問は尽きないが、今は考えるだけ無駄だと切り捨てる。
次いで取り出したものは――見たこともない特殊な武器であった。
ご丁寧に付属された説明書には、持ち主の意思でナイフにも銃にも変形する便利武器だと書いてある。
更に銃も様々な形状に変化するもので、狙撃や近距離射撃のどちらも使える上に、弾切れという概念のない優れものだという。

「ほう」

武器を手に取り、ナイフや銃の形態に変化させる。
成る程。説明書に記されている内容は本当らしい。生まれて初めて見るタイプの武器であるが、なかなかの当たりだ。
ナイフや銃には幼い頃から触れている。性能が良くても慣れない武器を支給されるよりも、自分が得意とする武器に複数変化してくれるものを支給されたことは有り難い。

「それにしても、チーム戦か。生き残りが一人に限られない分、以前よりも厄介なことになりそうだ」

己が首輪の記号を確認して、うんざりとため息を吐いた。
優勝者が一人しか発生しない前回の殺し合いでも、死に怯えて生き残る為に他人を殺す者がいたのだ。
チーム戦で自分以外にも味方が多数いるとなれば、自分が勝ち残る為に他チームを殺す者は以前よりも多いだろう。
なにせ他のチームを全滅させるだけで殺し合いが終わるのだ。一人だけで全滅させる必要があった前回よりも個人の負担が少なく、自チームが勝ち残る可能性も大いに有り得る。

しかも生き残りが一人でないということは、同チームに親しい者がいれば一緒に帰ることが出来る可能性まで存在するのだ。
他人のみならず、自分を犠牲にしてでも特定の者だけを生き残らせると決意することは難しいが、他者を殺すだけで親しい者と一緒に生き残ることが出来るのなら――それを実行する者は意外と多いかもしれない。

126灰色の楽園を壊したくて ◆laf9FMw4wE:2015/05/14(木) 22:23:14 ID:ePr0auf20

「俺のチームはRか。一定法則に分けられているということは、同じ高校の生徒も全員Rだろう。
 カップルの幸太か花巻咲が他の参加者を無差別的に襲わなければ良いが――可能性がないとは、言い切れない。困ったものだ」

山村幸太と花巻咲。
同じ高校に通うこの二人は、非常に仲の良いカップルである。
もしも自分の予想する通り二人が同チームだとすれば、どちらかが――最悪どちらもが、他者を襲う可能性が高い。
冷静に考えれば他の突破口を探すという選択肢もあるのだが、殺し合いという環境は精神を狂わせてしまう。冷静に判断出来ない者も、多いだろう。

「あまりネガティブなことを考えても仕方ないか。俺は今度こそ多くの人々が生き残れる道――主催者を殺す為に行動するだけだ」

あの時は殺人狂の襲撃で自分以外は殺されてしまったが――今回こそは自分以外も生き残ってみせる。

「その為にも、まずはこの首輪を外す必要があるな。前回は偶然にもその手の分野に詳しい参加者がいたが――今回も見つかるだろうか?
 とりあえず首輪の解除に利用出来そうな道具を見つけたら、回収しておくか」

主催者に反逆するには首輪解除が必須だ。これは前回と共通しており、その為に何らかの手段で首輪解除を行える仲間と道具を探す必要がある。

「それに加えて、出来る限り早く知り合い合流する必要があるな。身体能力が優れている会長と幸太は兎も角、他の女子――優はあの膨大な見せ筋で乗り越えられるとしても、やはり放っておくのは危険だ。無論、女子同然のあざみと副会長もここに含めている」

物事には優先順位がある。
あまり優先順位を決めるべきではないと理解しているが、やはり最も心配であるのは自分の知人だ。
戦力として数えられる者は自分の知る限りだと、サッカー部で運動神経が良い山村幸太と様々な伝説を残す会長、大空蓮のみ。
副会長の愛島ツバキも射的の腕が抜群だと聞くし、金本優は男顔負けの膨大な筋肉量を誇る。この二人も戦力として数えて良いかもしれないが――男性陣と違い、どうしても不安が残る。ツバキは接近戦が出来るタイプに見えないし、優は筋肉が凄くとも運動神経が特別良いわけではないのだ。

「麻生叫はあの噂が本当ならば戦力として数えるべきだが――十中八九、ただのガセとしか思えない内容だ。
 ――というより、あれが事実であるならば、俺と殺り合うことになるのがオチか」

口を裂いたケガは地元のヤクザとケンカしたときについたもの程度の噂ならば信じるが――口から出る言葉で人を狂わせるが故の口縫いだとか、喧しいからと空手部を壊滅させただとか、酷いものだと気まぐれで電車をぶっ飛ばしたなんてものまである。
流石に自分と同じ高校にそんな化物が潜んでいるとは思えないが――考えてみれば、不本意とはいえ幼い頃から戦闘訓練を施され、一度殺し合いで優勝を果たしている駆自身も一般的な高校生ではない。
ゆえに微粒子レベル程度には噂が実話だという可能性も存在するが、もしもそうなら厄介極まりない存在である。
何せ噂で聞く麻生叫はこれ以上なく凶悪であり、嬉々として殺し合いを楽しむであろう危険人物だ。殺し合いを打破する突破口を探し、主催の打倒を狙う駆と対立することは、避けられない。

「考えれば考える程、問題は山積みだ。せめて麻生叫の噂がガセであることを信じるか」

ある程度自分の置かれている状況を把握した後、バトルロワイヤル優勝者――東雲駆は動き始めた。
平沢茜が作り出した――――死と絶望で満ち溢れる、灰色の楽園を壊す為に。

【C-3/森/1日目/深夜】
【東雲駆@アースR】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:変幻自在@アースD
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:平沢茜が作り出した灰色の楽園を壊す
1:首輪を解除出来る参加者を探す
2:出来る限り早く知人と合流したい
3:山村幸太、花巻咲、麻生叫を警戒
[備考]
※世界観測管理システムAKANEと平沢茜を同一人物だと思っています。

【変幻自在@アースD】
怪盗乱麻の祖父が作り出した怪盗アイテム。
持ち主の意思で様々な銃やナイフに変形する武器で、弾切れという概念がない。
盗みというよりは戦闘を前提に作られた道具なので怪盗乱麻は使用していない。

127 ◆laf9FMw4wE:2015/05/14(木) 22:23:36 ID:ePr0auf20
投下終了です

128名無しさん:2015/05/15(金) 07:26:23 ID:RFB96dIU0
投下乙です
「探偵は警察署にいる」
ついにアースDから参戦
イントロからあった「旗」についての考察は、これからどんなふうに展開していくか楽しみ

「瞳に炎を宿せ」
こういうおっさんと少女の組み合わせ大好き
莞爾かっこいいなあ、頼りになりそう感がやばい
「設定」についての説明は他キャラでも活用できそうで面白い

「谷山京子の差異難」
ふたなりは陰陽両方使える……なるほど、ロワだと生かしづらい特徴をこう持っていくか
個人的にはスライムちゃんがドストライク、もん娘いいよね

「灰色の楽園を壊したくて」
リピーター登場
アースR出身だけど、やっぱ貫禄を感じるなあ
今回の主催者はAKANEで、茜じゃない(たぶん)ことに気づけるのか

129 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:19:14 ID:XwCt6pEs0
皆さん投下乙です。
では僕も投下させていただきます

130 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:20:24 ID:XwCt6pEs0
燃え盛る真紅の炎。高く高く、暗い夜空を月よりも明るく照らし、
星まで届きそうな程大きな煙が上がる。
建物は崩れ落ち、ガラスも、コンクリートも鉄筋も、乾いた泥のように粉々に
散らばっていた。

ここはF-7飛行場。
いや、「元」F-7飛行場だ。
つい数時間前まで、そこに新品同然の飛行機が並び、眠りにつくかのように
静寂に包まれていたと、誰が想像できようか。


飛行場は完膚なきまでに破壊されていた。
飛行機は一機残らず『踏み潰』され、管制塔を初めとする建築物は粉砕され、
真っ平らだった滑走路には巨大な『足跡』が出来ていた・・・。


そして、飛行場のほぼど真ん中に・・・その「生き物」はいた。

凸凹とした黒い肌、丸太のように太く大きな足とそれとは対照的に細い腕、
50メートル程の大きさで、ほぼ同じ長さの尻尾を持ち、背中には骨がむき出しに
なったかの如き背鰭が存在し、それが尻尾まで伸びている・・・。
その頭部は古代に栄えた肉食恐竜か、伝説に伝わるドラゴンを思わせ、
後頭部にはヤギのような角が生えており、その目は虎や鷲のような全てを射抜く
眼差しをしていた。
その「生き物」は夜空を見上げると、
「グガアァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
勝ち誇るかのように雄叫びをあげたのだった。

131 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:21:12 ID:XwCt6pEs0
ティアマト。
アースMで生まれ育った者で、この名を知らない者は、発展途上国に住んでいる人か、
学校に通えないストリートチルドレンぐらいだろう。
1950年代、突如として日本に出現し、破壊の限りを尽くした
史上初の大型怪獣・・・それが「ティアマト」だ。

もちろん、ティアマト以前からアースMには怪獣が出現していた。
戦前の1930年代には、アメリカのニューヨークに巨大なオランウータンが現れたし、
4世紀の朝鮮半島には「プルガサリ」という怪獣が現れたという記録が残っている。
だがそれらは、どんなに大きくても精々身長10mが関の山で、近代兵器による攻撃で
十分ダメージを与えることが可能な存在だった。
だが、ティアマトは・・・そしてティアマト以降に出現しだした怪獣は違った。
平均的な大きさはおよそ50m。最大で100mを超える個体もいる。
体重1万トンは当たり前、20万トンにもなるギガトン怪獣も存在する。
口から火炎や熱線を吐く等の特殊能力を持ち、その皮膚は近代兵器による攻撃を受け付けない・・・。
一般的な生物の常識からかけ離れた、超常的な存在へと変わったのだ。

1954年、太平洋の海底で静かに眠りについていたティアマトは、
アメリカの行った原水爆実験によって覚醒し、日本に上陸。
東京を火の海に変え、死者・行方不明者1万人を超える被害を生んだ。
しかし、最終的に『平沢明助』という科学者が開発した特殊薬物によってティアマトは撃退され、
以後、出現しだしたティアマトと同サイズの怪獣たちに対抗するために各国は対立関係を捨てて
一致団結し、『地球防衛軍』を結成した・・・。
アースMの歴史の教科書にはこう記されている・・・。


「グルルルル・・・」
飛行場を廃墟へと変えたティアマトは、唸り声を挙げてクルリと回れ右すると移動を開始した。
一歩踏み出すごとに大地が大きく凹み、ズン、ズンという地響きが周囲に響く。
その瞳には、赤い炎が燃えていた。
静かに眠っていた自身を叩き起こしておきながら、その自身を敵として攻撃し、
あまつさえ毒を持って殺そうしただけに飽きたらず、このような場に無理やり連れてきた
『小さい者』・・・『人間』への怒りの炎が。
その炎は静かに、しかし強く、燃え続けていたのだ。


【F-7/飛行場から移動中/1日目/深夜】


【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
[備考]
※飛行場を廃墟に変えました。どこに移動するかは後の書き手さんに任せます。

132 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:22:50 ID:XwCt6pEs0
そして、そこから少し離れた位置にある平原で・・・
「ヌフッ、ヌフッ・・・ヌフフフフフフゥ〜♪」
白衣を着た男性が双眼鏡でティアマトの姿を眺めながら、不気味な笑いを挙げていた。
「フッフッフッフッフッ・・・いきなり殺し合えなんて言われた時は戸惑ったが・・・
まさかあんな大物に御目にかかれるとは・・・不幸中の幸いとはこの事だ・・・フッフッフッフッ」
その男性―鬼小路 君彦は口の端から垂れたヨダレを拭い、まるで動物園のパンダを
見た子供のような笑みを浮かべていた。
「のぉのぉ君彦ぉ〜、妾にも見せておくれ〜」
そこにピンク色の髪に巫女服という出で立ちの少女が、鬼小路の服の袖を引っ張った。
「あぁ良いとも。はい」
鬼小路はその少女―卑弥呼に双眼鏡を手渡した。卑弥呼は先程の鬼小路と同じように
双眼鏡を覗いてティアマトの姿を眺め始めた。
「おぉ〜♪妾も今まで色んなものを見てきたが、本物の怪獣が見られるとは驚きじゃのぉ〜」
卑弥呼は少女らしくない古風な口調で喋っていたが、その言葉には子供らしい好奇心が満ちていた。
「どうじゃ‘ないとおうる’、お主も見ぬかや?」
卑弥呼は自分の横で棒立ち状態になっている仮面とタキシードとマントを身に着けた男性に声をかけた。
「いや・・・遠慮しておきます」
仮面の男性―怪盗ナイトオウルは卑弥呼からの誘いをやんわりと断ると、頭を掻きながら、
「まさかあんな生き物が実在するなんて・・・自分の目が信じられませんねぇ」
タメ息混じりにしみじみと呟いた。
「チッチッチッチッチッ・・・」
ナイトオウルの呟きを耳にした鬼小路は舌打ちをしながら、人差し指を横に振った。
「いかんよぉナイトオウル君・・・卑弥呼君もそうだが、怪獣の存在をフィクションと勘違い
していたとは・・・ちゃんと新聞やニュースに目を通しておきたまえ」
「い・・・一応、新聞は毎日見てるんですが・・・」
「妾はどちらかと言えば、ネットのニュースサイト派じゃからのぉ・・・」
鬼小路の言葉に少々困惑してしまった二人だった。





『Dr.モンスター』の異名を持つ稀代の怪獣マニア・鬼小路 君彦、
秘術によって現代によって現代に蘇った邪馬台国の女王・卑弥呼、
『世界三大怪盗』の一人に数えられる怪盗・ナイトオウル・・・

この三人が出会ったのは、まったくの偶然だった。
たまたま同じエリアに転送された三人は、飛行場からの爆発音に導かれて平原へと移動し、
こうして顔を合わせたのだ。

飛行場の方を向けば、映画に出てくるような巨大怪獣が破壊の限りを尽くしていた。
アースM出身の鬼小路からすれば、地震や台風と同じくらい見慣れた光景だったが、
アースP出身の卑弥呼やアースD出身のナイトオウルからすれば、自分の目が信じられないような光景だった。
怪獣なんて、特撮映画かドラマの中だけの存在だと思っていた。
それが目の前で、自分の眼前で、巨大な体を動かして建物を破壊していた。
鉄筋コンクリートの頑丈そうな建築物が、発泡スチロールか何かの様に、軽々と破壊されていたのだ。
正に映画のような光景だったのだ。

133 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:23:36 ID:XwCt6pEs0
そうこうしている内に飛行場を破壊しつくしたティアマトは移動を開始した。
「おっ!どうやら移動するらしいな・・・こうしちゃいれない!」
ティアマトの移動に気づいた鬼小路は、近くに停車しておいた自分の支給品のジープに駆け寄った。
車体横に白く『MHC』と書かれた黒い車体・・・怪獣が踏んでも壊れない程頑丈といわれる
MHC専用ジープだ。
「二人とも急げ!追いかけるぞ!」
「お、追いかけるって・・・まさか・・・」
「そのまさかさ!アイツを追いかけるのさ!このジープなら余裕で追いつけるぞ!」
「おぉ!面白そうじゃのぉ!」
鬼小路の言葉を聞いた卑弥呼はジープの後部座席に飛び乗った。
続いて鬼小路は助手席に座った。
「ナイトオウル君、運転任せた!」
「えっ?何で私が!?」
「生憎俺は無免許だ!」
「答えになってないんですけど!?」
いきなりの無茶ブリにナイトオウルは困惑した。
「ほれ‘ないとおうる’、速くせんか。逃げられてしまうぞ」
「いや、あの・・・」
卑弥呼にまで急かされ、ナイトオウルは自分に拒否権が無いことを悟った。
(おじいちゃん・・・僕は今スッゴク不幸です)
心の中で今は亡き祖父に呟くと、ジープの運転席に座り、ジープを発進させた。
「お〜し!イケイケぇ!」
「行くのじゃぁ!」
ノリノリな鬼小路と卑弥呼と対照的に・・・
「・・・・・・」
ナイトオウルは唇を噛みしめて涙をこらえたのだった・・・。



【F-6/ジープで平原を疾走/1日目/深夜】

【鬼小路 君彦@アースM】
[状態]:健康、興奮
[服装]:白衣
[装備]:双眼鏡@アースR
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜1
[思考]
基本:あの怪獣(ティアマト)を追いかける
1:かぁ〜いじゅううううううう!!
2:イケイケぇ!
[備考]
※卑弥呼とナイトオウルをただの「世間知らず」だと思っています。
ジープの行き先は後の書き手さんに任せます。

【卑弥呼@アースP】
[状態]:健康、興奮
[服装]:巫女服
[装備]:無
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:怪獣(ティアマト)を追いかける
1:アハハハハ!行け行けぇ!!
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。
ジープの行き先は後の書き手さんに任せます。

【怪盗ナイトオウル@アースD】
[状態]:健康、少し悲哀、ジープを運転中
[服装]:仮面、タキシード、マント
[装備]:MHC専用ジープ@アースM
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム0〜3
[思考]
基本:鬼小路さんと卑弥呼ちゃんと怪獣を(嫌々ながらも)追いかける
1:何故私が運転を・・・
2:トホホ・・・
[備考]
※怪獣が実在することを知りました。
ジープの行き先は後の書き手さんに任せます。

134 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 18:27:02 ID:XwCt6pEs0
以上、投下終了です。
タイトルは「ティアマトの逆襲、または如何にして私は淫乱ピンクと怪盗と共に怪獣を追っかけることになったか」
です。
元ネタは「ゴジラの逆襲」と「博士の異常な愛情」です。

135名無しさん:2015/05/16(土) 19:53:29 ID:huy5S.Ng0
ティアマトがチート過ぎます
このロワそのものを潰す気ですか?

136名無しさん:2015/05/16(土) 20:02:41 ID:F4Bwbrcs0
投下乙です
ひ、飛行場がー!w AKANEさんあんた、何ガチの怪獣呼んでるんですかーッ!?
体長50mは初代ゴジラから続く巨大怪獣のスタンダードだし、最初の怪獣にはふさわしいスペックですな
まあ色んなアースがある以上、怪獣とて強くあれるとも限らないけど…とりあえずはこの怪獣が強さヒエラルキーの頂点かな…w
鬼小路さん以下3名は…物見遊山してたら死ぬんじゃないかな? ナイトオウル君、君だけでも逃げた方がいいと思うぞ

あ、地図見たら飛行場はF-7ではなくA-7のようですので、ナイトオウル君たちも合わせてA-7とA-6ってことにしておきますね

137 ◆pNmyKGcnVU:2015/05/16(土) 20:36:00 ID:XwCt6pEs0
>>135
ご指摘ありがとうございます。
ティアマトの状態表を以下の内容に修正します。

【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
[備考]
※飛行場を廃墟に変えました。どこに移動するかは後の書き手さんに任せます。
皮膚の強度が低下しており、手榴弾でダメージを受けます。

>>136
ご感想ありがとうございます。
ウィキにまとめる際に、修正をお願いします。

138名無しさん:2015/05/16(土) 22:32:09 ID:EJUHo92A0
投下乙です。
ちょっ、怪獣をまさか参戦させるとは…
これ光一じゃないと倒せないんじゃ。逆にどう倒そうか燃えるふしはあるんですが。





一応なんですが、・・・ではなく…の方が見る人にとって読みやすいと思いますよー

139名無しさん:2015/05/17(日) 00:01:24 ID:7xQOJrTA0
投下乙です
うわあ、なんかとんでもないのが出てきちゃったぞ
まあアースMがある以上こういう怪獣は一匹くらいならいてもいいんじゃないでしょうか

強さの上限として機能しそうですし、というかこいつを単体で殺せるようなキャラがいたらそれこそロワになりませんし
まあ目立ちすぎてキルスコアは上げづらそうですが

140名無しさん:2015/05/17(日) 15:33:59 ID:9KHd/oj.0
みなさん投下乙です、

代理投下します

141my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:35:44 ID:9KHd/oj.0
 
───都内、喫茶店 パーフェクトにて───

───あ、居た!やっほー!おひさ!元気してた?…いえーい!はいたっち!
やっぱりウチらの最初のコンタクトっていったらこれだよねー!…忘れてないよ!ホントだよ?もー!
いきなり連絡来て驚いたわー!確か今県外で働いてるんだっけ?偉いなあー。あたしなんて今年就活だよー。だりーなぁ。雇ってくれない…か。無理だよね…はは…。

『いらっしゃいませ喫茶パーフェクトへようこそ。こちら、メニューになります。ご注文お決まりでしたらお手元のベルでお呼び下さいませ。では、ごゆるりと』

あ!ありがとうございます…。
…ね、あれ、ここのマスター?変じゃない?黒い顔が見えないマスクに探偵みたいな帽子で全身黒のロングコートって。あきらかに不審人物っしょ。
え?それがあの人のフツー?そうなのかなあ…ま、いっか。なんか頼むね。

ん?『パーフェクトブレンドコーヒー』?そんなメニューがあるの?自分からハードル上げすぎじゃない?
…そんな美味しいの?…はー。分かった!旧友のよしみだ!飲んであげよう!
じゃあ、さっきの人呼ぶね。ベルベル…あ、これか。

『イエス!アイムパーフェクト』

…これベルの音?あのマスターの声じゃない?
え?これが当たり前?…あ、そうなの。

『ご注文お決まりでしょうか?』

この、「パーフェクトブレンドコーヒー」を。

『ありがとうございます。完璧に作り上げてまいります。では、ごゆるりと』

…うーん。やっぱり何回見ても不審人物にしか見えないなあー。
ま、それは置いておくとして、どしたの?話って。世間話でも全然ウチはおっけーだよ?
いきなり連絡来たからさ、びっくりしたよ。なになに?

…は?平沢悠?誰だっけそれ?…え?高校の時の同級生?
ああ、いたねーそんなやつ。1年の最初の頃しか来てなかったいかにもオタクーって感じの奴でしょ?
キモかったよねー、近寄ると汗臭いし一人でブツブツ言ってるしいつも変な絵書いてるし。先生たちも迷惑してたよね。友だち居たのかなー…居ないよね!あはははは!

で、そいつがどうかしたの?…は?今女になったそいつがあちこちでテロ起こしてる魔法少女の正体ぃ?
いや、いやいやいや。信憑性なさすぎっしょ。性転換なんてそんなのありえるわけないし。ここ漫画の世界じゃあるまいし。
魔法少女がありふれてるからってそれはないっしょー!もーアサミ冗談やめてよね!

…なに、そんな真剣な顔して…え、あぁ。リュウト君のこと?可哀想だよね。通り魔でしょ。死んじゃったて聞いた時驚いたもん。恨み買うようなコトしてなかったし。
ていうかリュウト君にミユキちゃんにミブ先生といいさ、なんか最近身の回りの人が怪我すること多くない?リュウト君は死んじゃったしミユキちゃんは複雑骨折。ミブ先生は片目を失明したって聞いたよ。全部事故だって。怖いよね。
もしかしたら、その平沢って奴の呪いだったりして!
…ちょっと、冗談だって。嘘、やめてよ。アサミ。怖いよ。


…ホントなの?


あは、あはは。やめてよもうー!怖いじゃん。暗い話はあとあと。コーヒーまだかなー。
え?その三人の共通点?なに、まだ続けるの?いいじゃんもう平沢のことは。
…リュウト君?優しかったじゃん。頼りがいがあったし身体能力すごいしイケメンだったし。実は狙ってたんだ!…ま、今更だけど。そんなリュウト君がどしたの?

…は?リュウト君、平沢いじめてたの?マジ?
…まさかミユキちゃんも、ミブ先生も、それに加担してたってこと?


嘘でしょ。ねえ、アサミ。嘘でしょ。やめてよ。怖いってホント。
…アサミ?ねえ。まさか、『アサミも』なの?
やっぱり、平沢いじめてたの?ミユキちゃんよりも、ひどいことしたの?


…トイレに閉じ込めて水かけたり、筆箱捨てたり?人間サンドバッグにもしたりした?…うわ。

…初耳なんだけど、それ。

142my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:36:14 ID:9KHd/oj.0
 

じゃ、もし平沢が復讐してたとしたら、次はアサミなの?
…信じれないよ。リュウト君武道の達人だし、あの運動オンチの平沢がどうやって闘うっていうの。

───リュウト君倒すのは魔法少女化したなら、ありえる?

ちょっと、あの話嘘じゃないの?ねえ、アサミおかしいって。大丈夫だって、偶然だよ!言ってること滅茶苦茶だし、落ち着こう?
あと、警察に言った?…言ったけど、多分平沢は捕まらないって?何を根拠にそんなこと…!?
アサミ、震えてるよ!アサミ!しっかりして!

ちょっと!アサミどこ行くの!アサミ!待って!…もう!

『お待たせしました、パーフェクトブレンド…あれ、お客様のお連れ様は?』

…帰りました。お勘定は、私がしときます。

『承知致しました。では、ごゆるりと』

…魔法少女化?
じゃあ平沢は、あの魔法少女たちみたいな可愛い服着てるの?それとも、まさか性別まで変わったってこと?
ありえなさすぎるでしょ。いくらなんでも。信じないよ、わたし。
気になるけど…平沢いじめてない私にもいずれアイツが来るってこと?
…怖っ。

はあ…やめよ。このこと考えるの。
ま、まぁ。なんだかんだでアサミも、大丈夫でしょ。あーなってるけど。あの子ヒスってる部分あったし。
あとで心配してるってライン送っとこうっと。あとツケとくぞってのも送らなきゃ。

そういや来てた、これが、パーフェクトブレンドコーヒー。
…飲んでみよう…あ、おいしい。






それから、数日後。本当にアサミは死んでしまった。全身にたくさんの貫通した穴を作って。
やっぱり、平沢悠の恨みなのだろうか。それとも、本当にただの偶然なんだろうか。
ウチは偶然だと信じたい。信じないと、自分もその餌食になるかもしれないし、その恐怖に怯えるのはいやだ。
だからウチは、認めない。

『魔法少女犯罪ファイルNo.5689 B子氏の証言』より
========

143my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:36:45 ID:9KHd/oj.0
 
「い、いいい加減にしろよおおおお!!!ぼ、僕が、僕がなな何をしたって言うんだっ!」

深夜のB-7の廃工場の一角。
金髪で碧眼の美少女、平沢悠は声をどもらせながら叫んだ。顔からは必死さが伺えており、何かから逃げている様子であった。
その何かとはまた平沢と歳は大して変わらないこれまた少女である。
瞳は紫色で、髪の毛は綺麗にセットされたボブ。赤色のシャツに黒いマントを翻して平沢を追いかける。
両手には刃渡り8センチほどのナイフがそれぞれ握られている。顔つきは獲物を狙うように、かつ無表情であった。
まるで自分の身の回りの家事をするかのように、当たり前の仕事をするかのような顔つき。
そんな少女、雨谷いのりは平沢を間違いなく、殺そうとしていた。

「あなたからは、悪人の『空気』がする。だから殺す。文句は言わないでほしい」

追いかけるこの少女、雨谷いのりの仕事は『ヒーロー』である。
彼女にとっての悪は『排除対象』なのだ。その両手に握られたナイフがそれを証明している。
この殺し合いの場に巻き込まれたからと言って、やることは変わらない。いつも通り、『仕事』をこなすだけ。

「だからやめ────うわぁっ!!」

逃げていた平沢が、足をもつれさせて仰向けになって転んだ。
立ち上がろうとするが、体が追いつかずに尻餅をついたような姿勢になって、いのりの方を見る。
やがて平沢は頭髪を掻き毟りながら、両手を駄々をこねる子どものようにバタバタとして、更に視線を定まらせずに先程よりも強い語気で口を開いた。

「くそっ!くそくそくそくそっ!!そ、そうやって!!僕をい、いつも!いつもきき決めつけるんだ!あ、あいつらみたいに!あのガキどもや学校のあいつらみたいに!!い、いつも、いつも悪いのは僕だっ!!」

平沢は叫ぶ。いのりに対して、くまができたその目を大きく見開きながら。
いのりはそんな平沢を道端で死んでいる野良犬を見るかのように、視線をやる。
慈しみもない、そのような目である。

「…これで最後。死ね」

いのりはそう呟くと持っていた右手の方のナイフを、平沢に向けて走り出す。
狙うはその喉元。血管が集中している人間の急所である。

「や、ややめろ!やめろやめろやめろやめろやめろやめろっっ!!!!!」

平沢は恐怖に震えながら、しかし立ち上がることもできないまま一人叫び続ける。
いのりはだからといって情けを見せるわけもなく、平沢の命を狙う。
平沢は目を瞑る。
しかし、それは諦めたからではなかった。

「ふ、ふふふざけんな…ふ、ふふふふふざけんじゃねえええええぞおおおおおおおお!!!」

恐怖に震えていた少女の姿はそこになく、その表情は目を大きく見開き息も荒く、目の前の女を狩る表情であった。

そう平沢が表情を変えた瞬間、彼女の背中から唐突に巨大な真っ黒な腕のようなものが生えていた。
やがてその手は拳を握るようにすると、向かってくるいのりの方へとその拳を向けた。

「…!」

いのりは長年の戦闘経験から防御の構えを取る。
だが、いのりはここでミスを犯した。
正面から来ると思われたその拳は急に右に方向転換をするといのりの右側の上半身を強く殴りつけたのだ。

鈍い音。

その後にいのりは人形のように殴り飛ばされる。
やがて数秒間宙に浮いたあと、廃工場の積み上げられていた荷物を横からすべて潰すように、それがブレーキのようなものになりやっと止まった。
いのりは動く様子はない。

「ハァ…ハァ…見たか、み、見たかっ!!僕を馬鹿にしたからだぞっ!ば、馬鹿にしたら皆、みんなこうする!に、〈人間〉は信じないぞっ!ど、どんな〈人間〉もだ!」

144my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:38:14 ID:9KHd/oj.0
 

平沢は荒い息を押さえながらも、いのりが動かないのを見ると腕を背中の中に引っ込めて廃工場から飛び出した。
追い討ちしてもよかったが、平沢にはあの相手は少々分が悪い。戦うならもっと自分の丈にあった人物の方がいいだろうと考えていた。

『いいじゃないか平沢、調子抜群だな』

そう低音で唸るような声を言って平沢の服の背中の方から全長だいたい20センチほどの黒いハイエナが顔を出した。
金の瞳が、黒の毛皮ゆえによく目立っている。
ハイエナは平沢の左肩の上に狛犬のようなポーズで座ると、ふわぁ、とあくびをしている。

「な、なんだよアスタ!た、助けるなら、は、早く助けてくれよ!」

平沢は驚いた様子でハイエナに言う。
この黒いハイエナは、平沢悠が魔法少女でいれる証拠の『悪のマスコット』。そして彼女、いやもともと男だった平沢悠の唯一の『話し相手』は、皮肉にも彼を利用して生きているこの悪のマスコットアスタロッテ(平沢からはアスタと呼ばれている)だけである。
平沢の憎悪のエネルギーを元にして精製される魔力。それを使ってアスタは本来居るべきでない人間界に存在することができた。
正義の心を持ったマスコットたちは、マスコット界、いわば魔法がある世界においての政府と呼ばれる存在から支援を受けるので魔法少女候補を探す間ゆっくりと吟味することができるのだが、『悪の家系』に生まれたアスタは、それを受けることができなかった。
なので、人間界に来た時すぐにアスタはただ魔力が強い少女ではなく、憎悪の力が強い、心に闇を背負った人物をすぐに見つけなくてはならなかった。
そこで、平沢と出会った。ビルの上で目にくまを作り世の中に絶望をしきった顔の太った男。
アスタにとって、最高の獲物であった。である。
アスタがいるから、平沢はいのりを撃退することができた。アスタの闇の力によって、先ほどの真っ黒の腕を作り出すことに成功したのだ。

『何を言う。手前の魔力エネルギーが足りなかった。もう少し憎悪を増してもらえればやりやすかったんだがな』

平沢悠には生まれつき魔力がない。
その代わり彼には生まれつき憎悪が人間の何倍もあった。
憎悪といってもそれが向けられる先はわからない。ただ単純に自分を陥れてきた人たちか、この世界に対してか。
なんにせよ矛先は知らずともその憎悪は強大であった。

その憎悪のきっかけは彼の人生にある。

平沢悠のこれまでの人生は散々な物だった。
歩けば容姿をバカにされた。それを気にして人前にはなるべく現れないようにした。
近寄れば臭いと言われた。それを気にして必死に体を洗った。タワシを使って、全身が真っ赤になるほど擦った。
話せばなんて言っているか分からないと言われた。それを気にしてゆっくり喋ろうとしても、言いたいことが出てこなかった。
学校の先生たちは自分の事を忌み嫌っていた。問題を解決しようとせず、1人嫌われ者がいればクラス経営は上手くいくはずだと知っていたからだ。
やがて、平沢悠は居場所をなくしていき、自分の家族からも忌み嫌われるようになっていた。
平沢の存在は彼の家族にとってあってはならない存在であった。まるで外界との接触を断つかのように、彼を狭い六畳間の部屋に閉じ込めるようにして、引きこもらせた。
平沢はそれに対抗せず、受け入れた。もう傷つきたくはなかったからだ。
やがて、平沢は高校に行かなくなった。

引きこもってからある日、彼は自殺しようとした。理由は簡単。この世界に飽きたから。
唐突にそう決意した彼は親の財布を握り締め、外へ飛び出した。
不健康な生活と運動不足から作り上げられたぜい肉で出来た体では酷すぎたか、手に握りしめた金で、自分の住む街より遠い都市部へと向かった。
子供の頃憧れていた都市部。どうせ死ぬなら、いい思い出がある場所でと考えたのだ。

適当なビルを見つけ、その非常階段を登っていった。
息が何度も切れて止まって座り込んだが、なんとか長い時間をかけビルの屋上に登った。
きらきらと高層ビルの部屋の明かりが美しく見えた。
なおさらその美しさが自分の汚さを露呈させているようで辛かった。

遺書はない。自分が死んでも誰も気にしないだろうと考えたからだ。
やがて、彼は未練を残さないように、屋上から飛び立った。はず、だった。

自分が空中に浮いている。一度、幽体離脱でもしたかと考えたが、自分より下に写る裏路地に自分の死体はない。
なんでだろうと焦る中、アスタが現れた。
彼は平沢にこう言った。

───世界を小生と壊そう。お前のための世界にしよう。
と。

「…あー、ぼ、ぼくは、僕は間違ってない、よね?アスタ」

145my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:38:59 ID:9KHd/oj.0
 

平沢が恐る恐る、聞く。
臆病で世の中すべてが敵だと思っていた平沢にとってはそう質問せざるをえなかった。
この殺し合いの場においても、自分らしさを保ってていいのかという疑問だ。

『あぁ。そうだ。それでいい。お前の味方は手前だけだ平沢』

アスタはそんな平沢を見るとくすり、と笑いながら口を開いた。
その顔は優しかった。
平沢はそうアスタに言われるとまた吃りながら視線をあちこちにやりながらアスタに言った。

「あ、アスタ。君が、君が来てくれたから、ぼ、僕は強くなった。人生が広がった。だ、だかだから僕は君と帰るんだ、あの好き放題できる、ぼ僕の為の世界に」

『僕の世界』。
少しでも腹が立つことがあれば、すべて壊すことができる『僕の世界』。
かつていじめてきたあいつらに復讐できる『僕の世界』。
こんな訳のわからない世界に平沢はとどまる必要はないのだ。
平沢は世界が嫌だった。だが、アスタと出会ったあの日、『平沢悠という男』は死んだのだ。
生まれたのは『平沢悠という女』だ。それが彼、いや彼女にとっての事実だった。

『平沢、あの小娘どもはどうする。見つけ次第殺るか?』

『小娘』とは平沢に歯向かう『正義の魔法少女』たちである。
平沢は人のために自分の命とも言える魔力を削る、綺麗事を抜かす彼女たちが嫌いだ。
平沢が破壊行動をしていた時にもよく止められてしまっていた。

平沢が弱いというわけではないが、魔法少女は束になって自分を殺しに来る。
ゆえにいつも平沢ではなく他の魔法少女達に軍配が上がっていた。

「あ、あああ当たり前だろ!ぼ、僕の邪魔をするウザったい奴らだぞ!いい、いつもの仕返しだ。皆、皆ぶ、ぶっ殺すんだ!」
『どういう風に?』
「そ、そりゃあもうむ、無残にさ!跡形も、な、ないくらいさ!ふひっ、ふひひひひひっ」
『…ふふ、相変わらずのボキャブラリーだな、平沢』

その美少女っぷりからはまた不釣り合いに不気味に笑う平沢を見てアスタは自分の子供を見守るような顔で、そして声色で平沢に返事をした。
一方の平沢はムキになるようにして、アスタに言葉を返した。

「な、なんだと!マスコットのくせに!アスタは、ぼ、僕がいないと生きていけないくせに!」
『あぁ、そうだ。小生は平沢、お前が居ないと生きていけない。だが、お前もだろう?』

アスタは平沢と契約を結んでいる。
マスコットにとって、契約を結んだ相手が死ぬこととは、自分の死を意味する。
憎悪をエネルギーにした魔力によって生きているアスタ。彼にとっても平沢の存在は必要不可欠なのだ。
無論平沢もアスタを必要としているわけで。

「…」
『正論言われて、反抗できんか。ふふ。カワイイやつめ。皮肉のつもりだったのか?』
「う、うるさいっ!いくぞ!つ、着いてこい!」

顔を真っ赤にして、バツの悪そうな顔をした平沢はアスタを肩に乗せてその歩みを進み始める。
自分を否定する者達を、殺すために。

(…平沢。無理はするなよ)

そばに、『優しさ』を覚えた『悪役』をひきつれて。
魔法少女は歩き出す。

===========

146my world is not yours(◇aKPs1fzI9A氏:代理):2015/05/17(日) 15:39:38 ID:9KHd/oj.0
 

「…迂闊だった」

平沢が廃工場から立ち去って数分後。
いのりは荷物の中から立ち上がった。頭からは血を流し、口からも出血している。
先ほどの攻撃によってあばらが数本逝ってしまったようにも伺える。脇腹が痛む。
「致命傷には至ってないけど…やばい、かも」

このままでは戦うことも逃げることもできない。先程確認した地図によると病院があるようだがここからではちょっと距離がある。
どこか屋根のある建物の中で体を休める必要があるだろう。

「裏切りのクレア…いる。だからワタシは…死ねない。アイツを殺すまで。師匠の仇を、取らなきゃならないんだ」

名簿を見たら自分が『敵』とみなす様々な人物たちの名前があった。
その中でもいのりの目を引かせたのが『裏切りのクレア』だった。
彼女はかつて、自分の師匠を殺した人物だ。そして、雨谷いのりの正義感を多く変えてしまった人物だ。
いずれ殺すはずだったが、呼ばれているのなら好都合だ。

「人殺しは、悪だ。人を殺すことはいいことにならない。ワタシみたいなのを産む」

自分の正義の心が歪んでしまったのは分かっている。
しかし、いのりはそれを受け入れている。『誰も守れない正義』なんて、いらない。
『自分の手を汚さない正義』なんて、いらない。
そう、決意したから。

「───だから、ワタシが殺す。ワタシももう悪だから。悪を殺せるのは、悪しかいないんだ」

この主催者含め、『人を殺す者達』を、『悪』を倒すために。
いのりはその体を引きずりながら、闇に消えていった。

【B-7/廃工場/1日目/深夜】

【平沢悠@アースMG】
[状態]:高揚
[服装]:スウェット
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:元の世界に帰る
1:他の魔法少女達は皆殺し。歯向かう奴らも!

【雨谷いのり@アースH】
[状態]あばら骨骨折
[装備]:ナイフ×2@アース??
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考]
基本:『悪』を倒す。特にクレア
1:どこかで休む

147名無しさん:2015/05/17(日) 15:50:32 ID:9KHd/oj.0
代理投下終了です
で感想
>喫茶店 パーフェクト
パーフェクトなあの人…MG世界では元気でやってるようでなにより…w
他にもこのパート登場人物の名前にはニヤリとさせられるとこがありましたね、並行世界設定ならではのちょい救済は
こんな風に本編を邪魔しない範囲ならアリかも
>本編パート
人間嫌いの平沢くん。背中から異形の腕を生やす魔法、今まで殴りたくても殴れなかった相手を
殴るための魔法って感じで好きだなー。アスタがそっと見守ってる、ひそかな絆もなんかいいよね
理想の世界に戻りたいと言う理由も世界設定にかかってて上手い
アースHの中心人物のひとり雨谷ちゃんはいきなり大苦戦だったがさてどうなるか…

148名無しさん:2015/05/17(日) 21:48:19 ID:7xQOJrTA0
投下乙です
いのりvs平沢はとりあえず平沢に軍配が上がりましたね
それにしても平沢とアスタの絆いいなあ、こういう関係すき

149 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:50:30 ID:MnKKOztk0
皆さん乙です。
投下します。

150天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:53:43 ID:MnKKOztk0
「…つまり、いま世界で多発している性転換の原因は、医学でもなんでもなく時空間を飛び越える際の微分化された物体が積分化して元の世界に帰還する際に起きてしまったものなのです、これらから私は研究にて…」

───待ちたまえブルックリンくん!

「なんでしょう、ジョーンズ教授?」

───その理論は、まったくもって狂っている!生命倫理の冒涜だ!

「私の理論に医学的な視点は存在しないと発表の初めに述べましたが」

───あれはただの奇病だ!機械工学を持ち出して考えるな!
───まったくだこのクレイジーマッドサイエンティスト!アリゾナ州立大の名を汚す気か!
───SF小説を書くならアイザックアシモフにでも弟子入りするんだな!

HAHAHAHA!!!

「…け、研究の自由は、当大学は保障されていたはずですが」

───理論がメチャクチャだ!こんな内容を世に出したら我々がどうなるか…
───いい加減にしろ!機械工学は調査したデータを集めてそこから考察するだけではない!統計学がやりたいなら経済学部へ転入しろ!
───そうだそうだ!!
───せやでせやで!

「…あ、あのー。私の発表にはまだ付け加えがあるんですが『オッサン』方、き、聞いていただきませんかねぇ…?」

───巷では『美人研究員』として話題になっているようだが、彼女を世に出したのは誰だ?こいつとFU〇Kした三流記者か?
───世も末だな!そもそも微分積分の定義というものから間違っている!微分というものはまずαの世界を仮定すると…
───待てマグワイヤー教授。その理論はおかしい。微分積分というのはだな…
───まさかまだ君たちは微分積分で工学を考えるのか?数学の時代は終わったのだ!
───何を言うかこの三流科学者!!貴様のゼミ生が嘆いてたぞ「あの教授が唯一理論的なのは午後のコーヒーの作り方だけだ」とな!
───糞野郎!許さん!
───こら君たち、やめたまえ!!
───せやで!喧嘩はあきまへん!

ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。

「…そろそろやめていただきませんかね、皆さま」

ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。

「…やめろや」

ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー。

「やめろっつてんだろおがこのpinche(役立たず)どもがあ!!!」

『アカネの音声』

「大体あんたらみたいなエロオヤジどものために!私はわざわざ大ッ嫌いな論文書いてきてやったのよ!それをやれあーだこーだうっさいわ!普段は私のことエロいきったない視線で見るくせにこういう場になったらけなす!ほんっとにもう、なんなのよ!私を評価してくれるのはキャベンディッシュ先生だけなんだからああっ!ぜー…ぜー…あ?」

『』

「Chinga su madre(黙れやクズ)!」

ばき。

「ていうかそもそもあんたらこそ理論が…あれ?ここ、どこ?」

♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

151天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:55:10 ID:MnKKOztk0

H-1の『映画館前』と書かれた無人駅のプラットフォーム。
そこに、一人の少女が立っていた。
黒を基調としたメイド服に白色のフリルにエプロンから、ひと目でメイド服だと分かる。シルク製からか素材は柔らかく、少し動くだけでも服の流動が繊細に読み取れるほどで、彼女がそこらのメイド喫茶で働くアルバイターではない、本物のメイドだと誰が見ても分かった。
茶髪のショートヘアは前髪も毛先も全て綺麗に揃えられており、赤のヒールに真っ白な手袋。真っ白な雪のような肌にぱっちりとした碧眼。さらにその行動一挙一挙から彼女の育ちの良さがうかがえる。
しかし顔立ち全体やその背丈を考えると、まだ幼さを感じさせる。

彼女、サラ・エドワーズはいわずと知れたメイドである。そして同時に、彼女は『探偵』でもある。
かといって彼女が自分から『探偵』と名乗るような痛いことをしているわけではなく、成り行きでそう呼ばれるようになったのだ。

ある冬の日のことである。
主人の屋敷で誕生日パーティーが行なわれた。
その日の夜、招待されていた主人の旧友が死体となって発見されたのだ。

死体は首を絞められたことによる絞殺。彼が宿泊していた部屋の唯一の窓は大きく開けられていた。
さらに被害者の持ち合わせていた金品がすべて盗まれていたこともあり調査が進められた結果、死因は調査に当たったレイ・ジョーンズ警部らの判断による『強盗殺人』となった。

そんな中、サラにはひとつの疑問が浮かんでいた。被害者の一人息子の表情や言葉が、とても親が殺されたとは思えないように思えたからだ。
サラは息子と接する中でその疑問を解消するために様々なことを聞いてみることにした。そしてそれを主人の息子の子守の間に考えをまとめ、ある日ほかのメイド仲間たちとのトランプゲーム中に冗談混じりで喋ってみた。

すると、である。
ほかのメイド仲間たちも、息子のことについては疑問に感じていたというのだ。
やがてサラは仕事の中で息子のことを仕事の中でメイドやさらには主人の協力もあって調べていくようになった。

警部であるレイ・ジョーンズとはたびたび衝突しながらも、日本からの観光客だというクロダとニシザキという人々の力を借りながら、サラは真相にたどり着くのであった。

…というのがベストセラーシリーズの第一巻『メイドは見た!~あるじ様、殺人事件でございます。~サラ・エドワーズの事件簿』の大まかな内容である。
大型ネットワークショッピングサイト「konozama」参照。

「困ってしまいました。まだあるじ様のご夕食を作っていた最中だったのに…」

サラは顎に手を当てて不安そうに考える。
彼女は幼い頃から主人に仕えていた。主人の準備をすることが自分の生活のルーティンのひとつとなっていた。
ICレコーダーの、「アカネ」と名乗る機械音声から告げられた殺し合いをさせられるという事実。
真っ先に彼女は自分の主人が巻き込まれていないか心配になり、与えられたディパックの中にあった『参加者候補リスト』と書いてあった名簿を見たがそこには『主人の名前』はなかった。
よかった、と一息つくとともに彼女は不思議な経験をしていた。

この名簿の中には『自分の主人』は居ないというのは分かるのだが『自分の主人の名前』が何なのかどうも思い出せないのだ。
これは大失態である。主人に失礼であるしあの小うるさいメイド長にバレればどうなることか。

「…あるじ様に帰ったら真っ先に謝らないといけませんね…」

152天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:56:20 ID:MnKKOztk0

ため息ひとつ。
自分の主人はおおらかで優しい、主人というよりもメイド達の父のような存在である。
身寄りのない孤児院の子どもたち、特に親たちが子に向かい入れないような野蛮な子供たちを受け入れ、ストリートチルドレン同様の孤児であった彼女たちに教育や武道、礼儀作法などを一から教え住む場所を与えたのだ。
サラも同様に、身寄りのない孤児であった。
元々サラの家は裕福とはいえないものの仲睦まじく、父と母と祖父母、弟と妹に囲まれて幸せな日々をすごしていた。
だがある日、サラが七歳の時にアイコレクターという殺人鬼が彼女の家を襲った。
本来サラも家に居る予定であったがスクールバスに乗り遅れたために、唯一一人だけ生還したのだ。

その後サラはしばらく親戚にたらい回しにされたあと孤児院へと送られた。
だが凄惨な事件で突如幸せな日常を奪われたサラはその日からまるで死んだも同然に一日を何もせず、外を眺めているだけであった。

その時に、今の主人が自分を引き取った。
最初は反抗をして、モノを壊したり脱走したり、多くの迷惑をかけてしまった。
だが主人やほかのメイド仲間たち、主人を尋ねる仕事仲間たちとの交流を通し、彼女は徐々に人間らしさを取り戻していった。

だからこそ、自分の主人には頭が上がらない。自分に「人と接する」ことを思い出させてくれた主人。
だからこそ名前を忘れるなんて。そんな失礼なことあってはならないのに、とサラは頭を抱え込む。

「…ま、まあ最悪謝るのはあとでいいでしょうけども…あるじ様が巻き込まれてなかったのはよかったです…」

安堵と不安が混じったため息をついたサラの右手に握られていたのは、S&W M29。
アメリカのスミス&ウェッソン社が開発した回転式拳銃(リボルバー)。装弾数は6発だ。
どうやらこれが、例の自分に与えられた支給品というものらしい。
一応、サラも幼い頃にメイド長から主人をいざという時に守れるよう使い方は教わったが…使ったことはない。
弾数も少ないしいざという時に使おう、とロングスカートの右ポケットの中にしまう。
ちなみにもう一つは使いどころが分からない、アイドルグループのライブの時に使われていそうな棒であったのでディパックの中にしまっておく。

「…ところでこれ全員の方が参加者じゃないとしても…ちょっと知り合いが多すぎるような…」

先ほど述べたリストの中には、サラの知人が多くいた。
最初に解決した事件の時に協力してくれたクロダ氏とニシザキ氏。
何故か事件先でいつも一緒になるレイ・ジョーンズ刑事。何故か二人分あるがミスだろうか。
それ以外にも屋敷を訪れた人々の名前が多くある。

「知り合いを殺すなんてことはできないですし…うーん…」

主人が居るならば、彼を守るために行動するのが従者としての役目。
それが例え自分の手を汚すことになろうとも、彼の命令が彼女のすべてだからそれに従えばいいのだが、その本人がいない。
ゆえに彼女はどうすればいいか迷っていた。

「…かといえどもあの女性が行っていた通り強い方もいるようですし…」

先ほどの音声案内で言っていたことを思い出す。
腕利きたちが多くいるということは、ただのメイドである自分が生き残るのは難しい。
だからといえども、この首輪がある限り反抗しようとなると爆破されて死んでしまう。
誰か強力な力を持っていれば対抗できるだろうが、そんな仲間は居ないだろうし。
一体どうすれば───

153天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:56:51 ID:MnKKOztk0

「どこよここ!!!ちょっとあんた!そこのメイド!これ一体どういうこと!?誘拐でもしたつもり!?」

その時、唐突にプラットフォームへ登る階段をずかずかと褐色の女性が上がってきた。
黒髪でウェーブがかかっていて、胸元を大胆に開けた赤いシャツに青のジーパン。黒のスニーカーを履いている褐色肌の美人。上からは白衣を着ているが、背も高く、足も長い。顔も小さく、しかし表情には精悍さも感じられる凛とした雰囲気。それゆえに白衣もまるで衣装のように思えた。
おそらく道を歩くと通りすがった男性たちは皆その視線を奪われるほど、立ち姿は映えていた。
しかし、その褐色美人はその美貌にそぐわないようにサラに血走った表情で近寄ると両肩を強く掴み、大声を上げた。

「いきなりこんなクソ田舎の駅に飛ばされるし!私はまだ研究結果の発表なのよは・っ・ぴ・ょ・う!今からあのオヤジ共を論破するのよ私はぁ!」
「あ、あのすみません落ち着いてください!」
「落ち着いてられっかボケぇ!私の身になってみろってんだーーー!!!」

ぶんぶんぶんとサラを強く振り回す褐色の女性。
サラは為すすべもなく、その女性に振り回されるのであった。

♂ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀

「なーんだ!サラも私と同じように呼ばれたって訳ね!ごめんごめん!」

振り回されて五分後、昼に食べた紅茶とケーキを戻しかけたサラを見て褐色の女性は、ようやくその腕を止めた。
サラはその隙を見逃さず真っ先に自分の招待とこれが殺し合いの場であること。そして自分も巻き込まれた方の人間である事を告げた。
目の前のこの女性はブルックリン・トゥルージロと名乗った。アリゾナ州立大の院に通う院生であり、今巷を賑わす科学者の一人、らしい(本人談)。
勿論世界軸が違うサラが知るよしもないのだが、サラが知らないことを伝えるとブルックリンは大きく落ち込んでいた素振りを見せた。
しかしすぐに立ち直りプラットフォームの白線の上をしばらく歩きながらサラと会話していると、唐突にサラの首輪を見てまた近寄りながら、怪訝な表情で口を開いた。

「ところでさーサラ。あんたの主人って趣味悪いねー何その首輪ダッサ!」
「え?」
「ほら文字まで書いてあるじゃん。『P』て。しかも鉄製だし。やるならもっとこうゴシック調の方が私はメイド服にあってるかなーって」
「…あの、ブルックリンさん。あの音声案内は…?」

ブルックリンはそう言われてすぐに「知らないけど」とサラに返す。

「あの、来た時に手に握られていたのICレコーダーから流れていた音声です。ルールとか色々言ってました。多分皆さん聞いてるかと…」
「え?あれそんな大事なもんなの。私壊しちゃったんだけど」
「壊したぁ!?」
「うん。私すっごくいらついてて何かゴニョゴニョ耳障りだったから」

…この方は馬鹿なのかもしれない。
サラはブルックリンの言動からそう伺えた。最近の大学生というのは遊び呆けているからなのだろうか、学力低下がひどいと主人が自分に教えてくれた。
服装も品がないし、どうして彼女のような人が呼ばれたのだろうか。サラはまた頭を抱える。
一方のブルックリンはサラの事を気にせずにプラットフォームのベンチに座る。髪の毛の先をいじり出している。
殺し合いに居るという自覚はまったくないように見えた。
…協力できる人としては他をあたることにしよう。

154天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 02:57:54 ID:MnKKOztk0

「…はぁ。分かりました。私はもう行きます。生き残るように頑張ってください…」

そう告げるとサラはブルックリンが登ってきた階段からプラットフォームを降りようとしてその階段の入口へと歩みを進める。
もっと協力できる人を探そう。
大きく息を吐くと、その階段を降りようと、足を踏み出した。

「あ、待って」
「なんですか」
「そのICレコーダー、貸して。調べるから」

その時、ブルックリンから突然呼び止められた。
『調べる』?不思議に思ったが一応サラはディパックの中にしまっていたレコーダーを取り出し、ブルックリンに渡した。
壊されないか心配であったが、ブルックリンはそれを数秒様々な角度から見るとやがて一言。

「うわ、なにこれ小学生が作ったの?誰でも作れるわこんなもん」
「…え?」
「これ最近のやつね。モーターとギアがなくて容量はたぶん18GBはあるわ。で、遠隔通信によるデータ転送が可能になっている、よくあるレコーダーね。耐久性はあると思う。多分その、殺し合い?の場だからかな。まあいっか。残骸は一応持ってきたし、あとで工具見つけたら直そっかなー。あ、サラ。これ改良していい?どうも音声記録ディバイスと受信ディバイスを繋げている因子が調子悪いみたいね。ノイズから分かるわーだからさ…どうしたの?」

先ほどの馬鹿さとは違う、ペラペラと喋り出したブルックリン。
サラは工学の知識はない。彼女の言動はまるで先ほどの馬鹿大学生とは違う、鋭いものである。
サラはブルックリンに対して、単純な疑問として投げかけた。

「…機械、詳しいんですか?」
「うん」
「…どのくらい?」
「んー。最近は女体化の研究で忙しいしなー。でも、ま、一言だけ言えるのはね」

ブルックリンはサラから貰ったICレコーダーを両手でいじくりながら、また当然のようにサラに質問の答えを返した。

「その悪趣味な首輪を外せるくらいかなー。それ金属製でしょ?で、多分中は色んな回路が複雑に入ってると思う。ま、見たら接続部分溶接されてるしすぐには取れないけど。サラ、あとでどっか溶接取れる場所にでも行って取ってあげよっか?そうだなー工場とか実験室とかあればいいんだけどね」

ブルックリン・トゥルージロは、天才だ。
サラは見誤っていた。
メイドという職業柄、人間観察は得意な筈なのに。
これは天啓かもしれない。
サラは階段前から足を翻すとブルックリンの方を向き直す。

「ブルックリンさん。お願いがあります」
「なに?サインなら受けつけないけど───」
「この首輪を取って、殺し合いを止めてくださいませんか」

そう言われると、深く、サラは頭を下げた。
最大限の敬意を込めて、希望を見つけ出すかのようにして。
それを見て数分後、ブルックリンはレコーダーをベンチに置くと、サラに尋ね返した。

「…ねえサラあんたコーヒー入れるの得意?」

質問の答えになっていないブルックリンの返答。
サラは呆気に取られたような、腑抜けた表情をしてしまうが、すぐにいけないと思い正す。
ブルックリンはベンチからゆっくりと立ち上がると、サラに向かって笑顔を見せながら、こう言葉を続ける。

「私、スターバックスコーヒー好きなんだけどさぁ、最近飽きてきたのよね。だからさ、あんたの煎れたコーヒー飲んでみたくなった。あんた、いいとこのメイドみたいだし?できる?」
「…?…はい」
「chinga(やった)!じゃあお願いね!それが報酬よ。飛びっきりのをお願いね」

ガッツポーズをブルックリンは決めると、サラの手を取って嬉しそうな顔を見せる。
つまり、これは、この言葉は。

「助けてくれるんですか?」
「当たり前よ!私もここに呼ばれてイライラしてたしね!よろしくぅー、サラ!」

ブルックリンはそう明るく言うと右手を高く上げ、手をパーに開いた。
サラはそれを見ると、そのブルックリンの大きな手目がけて、ハイタッチをするのであった。



「…て、はぁ!?なんで私もついてんのこのダッサいの!」
「と、とりあえずルールを一からまた説明しますから…」

サラは相変わらず、大変なのに限りはなさそうではあるのだが。

155天才と馬鹿はなんちゃらかんちゃら。 ◆/MTtOoYAfo:2015/05/18(月) 03:06:49 ID:MnKKOztk0

【H-1/「映画館前」プラットフォーム/一日目/深夜】

【サラ・エドワーズ@アースD】
[状態]:健康
[服装]:メイド服
[装備]:S&W M29(6/6)
[道具]:基本支給品、コスモスティック@アースM
[思考]
基本:首輪を取って、あるじ様の元へ帰る
1:ブルックリンと協力
2:いざというときは応戦しなきゃ…
[備考]
※作中の三人以外にもあったことがある人物、または平行世界の同参加者がいるかもしれません。
少なくともブルックリンのことは知らなかったようです。

【ブルックリン・トゥルージロ@アースP】
[状態]:怒り
[服装]:白衣
[装備]:サラのICレコーダー
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:首輪取って、サラの煎れたコーヒーを飲む
1:研究対象(TS、両性具有など)は保護したい
2:サラと協力
[備考]
※名簿を見てません。

156名無しさん:2015/05/18(月) 03:07:21 ID:MnKKOztk0
以上です
何か指摘ございましたらぜh。

157名無しさん:2015/05/18(月) 08:28:59 ID:M4l/Yzqw0
サラの首輪の文字を間違ってますPじゃなくてDです

158名無しさん:2015/05/18(月) 09:48:54 ID:q6FGQbag0
投下乙です
ブルックリン濃いキャラしてるなww
サラも頼りになりそうだし、この二人のこれからに期待

個人的にブルックリンの大学の教授もキャラ濃そうなのが気に入った

159名無しさん:2015/05/18(月) 16:12:07 ID:.9gbuneY0
>>157
ありがとうございます。
wiki収録のときに直しておきます。
うわ、しかも序盤のアカネの音声がメモのままだ…

色々不具合あってすみません。気をつけます。

160名無しさん:2015/05/18(月) 21:54:12 ID:6qHPz.0s0
投下乙です、ブルックリンさんすげえキレッキレだww
驚いたけど機械工学しつつ性転換研究もするくらいぶっとんでるのはステータスからだもんな
しかし、何気に首輪解除を攻めれるキャラは居なかったのでこの人に頼るしか…ないのかも…w
そんな中メイド探偵サラちゃんの常識人っぷりに安堵する。強く生きて。

161 ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 21:58:04 ID:zHUdCjkE0
投下します

162彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 21:58:49 ID:zHUdCjkE0
 

「ふん、怪獣か」
「……」
 
 空の頂点から無機質な声が発された。
 B-7、灰色に錆びた廃工場の頂点に、二人の男が並んで座っていた。
 もう煙を噴き上げることもない、ただ巨大さだけが残った煙突機構の頂上足場に座るのは、
 灰色の男――早乙女灰色と、口縫いの少年――麻生叫だった。

 彼らはお互いに何をするでもなく、ただ高層の風に髪を揺らしながら、正面を見据えていた。
 二人の正面遠方に広がるのは地図上では飛行場となっている場所であったが、
 今はその場所はただの火の海と施設の残骸となっていた。
 その中心には50m級の巨大怪獣が現れており、なにかの八つ当たりのように火の海を作りながら暴れている。

「見たこと、あるのか?」
「オレの世界にはあんなデカいのは流石にいなかった。だが、ああいう怪物はよく作られる。
 元は動物だったり人間だったりだ。たまに天然ものもどっかから発掘されてくるがな。
 ――だいたいは本人の意思を無視して化けさせられた上、暴れ“させられてる”哀れな生き物だ。
 あいつもそのクチだろうな。その上こんな世界に連れてこられて、可哀想なことだ」
「……あんた、誰かを可哀想だとか、思うのか。驚きだ」
「よく勘違いされるが、オレは感情を消したわけじゃない。
 むしろ、感情的な方だよ、プライベートでは。スポーツ・ゲームの勝敗に一喜一憂したりもする」

 怪獣を前にしつつも、全くトーンを替えずにクレバーに。
 灰色は隣に座る少年に顔を向けて無表情で言った。

「ただ、安全とか、現金とか、地位だとか。そういったものを守るためには、非情になるってだけだ」
「そうか。……無理してるんだな」
「生きたくもない世界で生き続けるには、そのくらいしないとダメなんだよ。……お前もそのクチだろ」
「……」
「見た瞬間に分かったぞ。お前はオレと同じだ、麻生叫。
 生きる意思がないのに、義務感と惰性で生き続けてる。オレと同じ、“灰色の生き物”なんだろう」
「……そう、かもな」
「せっかくだから、酒でも交わそうか」

 灰色が取り出したのは支給品のワインだった。
 グリ・ワイン。白ワインと赤ワインの中間にあるロゼワインよりさらに白ワインに寄った通称:灰色のワインは、
 色の無くなった世界で生き続けていた二人にはお似合いのワインだった。
   
「……俺、まだ未成年……」
「そんな法律なんかないだろ、この世界には」
「……なら、頂く」

 グラスのようなものはないので、コルクごと瓶の口を灰色が手刀で切断したあと、回し飲みする形になる。
 口が切れるかも知れないから注意しろと灰色がどやした、麻生叫は「もう切れてる」と返した。
 二人は無言でワインを飲んだ。
 リアル怪獣映画のワンシーンのような光景を見ながら、空に取り残された場所で呑むワインは、破滅的な味がした。

「……大切な奴がいたんだ」
「そうか。オレもだ」

 そして、どちらともなくぼろぼろと、煙突の中にこぼすようにして。
 鮮やかな世界を灰色へと替えてしまったその理由を、懺悔のトーンで話しはじめる。
 まずは、麻生叫から。


 【麻生叫の場合】


 “――俺の口がこうなったのは、五年前のことだ。五年前、俺はバトルロワイアルに巻き込まれた。
  平和だった俺の世界は、悪魔によって地獄に変えられた。
  林間学校に向かうはずのバスが付いたのは、安全が約束された森の中の体験施設なんかじゃなく、
  廃村を改造して作られた、バトルロワイアルをするための世界だった。”

163彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 21:59:46 ID:zHUdCjkE0
 
「五年前というと、お前、まだガキだろう」

 “ああ、小学5年だった。――引率の先生が殺されて、バスガイドが悪魔の本性を現した。
  ガスで眠らされて、起きてみれば俺はひとりきりで、首には首輪が嵌ってて。
  お菓子と宿泊道具と夢が詰まってたはずのバッグは、銃とナイフが詰まった殺戮道具に変わってた。
  俺は、殺すことにした。俺には、生き残って欲しい人がいたから。”

「恋人でもいたのか? ガキのくせに?」

 “そんなんじゃない。ただの幼なじみだ。でも、聡明で大人びてて、すごいやつだった。
  ピアノが上手くて、コンクールでも賞を貰えるくらいだった。
  林間学校の後、ちょうどその年のコンクールがある予定で。あいつはそれに向けて頑張ってた。
  俺も死にたくなかったけど……生き残るならあいつだ、と俺は即座に思って、行動に移した。”

「殺したんだな、クラスメイトを」

 “ああ。
  仲良く休み時間に遊んでたやつも、特に親しくなかった女子も、平等に殺した。
  小学生の殺し合いに、本人のスペックでの絶対優位なんて存在しない。
  誰だって誰でも殺せる。
  強いて言えば俺は他の奴らより体格が少し良かったし、陸上クラブでスタミナもあった。あといい武器も貰ってた。
  素人だらけの殺し合いなら、当たらない銃より一撃で致命傷を与えられる手斧の方が絶対強いだろ。”

「まあ、そうだな。――それで、お前はなんで生き残ったんだ?
 お前が生き残らせたかったその幼なじみが、知らんところで殺されてたか?」

 “そうじゃない。幼なじみも――あいつも、俺が殺したんだ。”

「何?」

 “あいつと俺が出会った時、
  あいつは気が狂ったクラスメイトに、めちゃくちゃに犯された後だった。”

「……。なるほどな。
 極限状態なら、そして小学校だろうと高学年なら――そういう展開も、在りうるか」

 “俺は気の狂ったクラスメイトのほうに、とりあえず襲いかかった。口を大きく切られたけど、どうにか殺せた。
  そのあとあいつに、手を差し伸べようとした。あいつは首を振った。
  あいつは俺の手を握り返せなかったんだ。
  犯すときに反抗されないように、両腕を、復元できないくらいぐちゃぐちゃにされていたから。”

「……」

 “それでも。あいつは俺の知る、聡明なあいつのままでいてくれた。俺に向かって、あいつは言った。
  【私はもういい。殺してくれ、そして生き延びてくれ。嘘子ちゃんを守ってやれ――】って。”

「嘘子?」

 “妹だ。……だから俺は、あいつを殺した。
  それがあいつの望みなら、叶えなきゃいけないと思ったからだ。
  最終的にクラスの30人のうち16人殺して、俺はその殺し合いを生き残った。
  そして言われた通り、妹のために生きることにした。”

 “……急に転校せざるを得なくなったから、妹には嫌われた。 
  いまも嫌われてるし、利用すらされてる。俺もそんな妹のことはあまり好きじゃない。
  でも、それでいい。たくさんの大事なものを殺した俺が、妹に感謝されるなんて、おかしいから。
  だからこれでいいんだ。……あんまり俺に設定を盛りすぎられるのは、困るけどな。
  もし過去を調べられたりしたら、普通に生きるのが難しくなる。”

「ともかく――それで、灰色のまま生きることになった、か」
「……」
「好きでもない妹のためにでも、生きるしかない人生か……ふん、考えるだけで寒気がするな」

 だが羨ましいな、と灰色は言った。
 そしてぐび、とワインをあおった。

「だが、お前は。大切な人を自分の手で殺せたんだろう。オレは、お前が羨ましい」
「……それは、どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だ」

164彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:00:42 ID:zHUdCjkE0
 
 灰色は空になったワインの瓶を煙突の中に捨てた。
 
「オレはそれができなかったし、それをしてもらうことも出来なくなった。だから惰性で生きている」

 そして早乙女灰色は、
 彼がこの世に縛られることになった事件について、話しはじめた。


 【早乙女灰色の場合】
 
  
 “オレの姉さんは、早乙女鉛麻という。ヒーロー、だった。 
  日常的に悪がはびこるオレの世界にあって、いたって真っ当なヒーロー、だった。
  姉さんを尊敬していたオレが、姉さんの後を追ってヒーロー養成学校に入ったのも、自然な流れだ。
  強くて綺麗で真っ直ぐで……姉さんはオレの理想の人。だった。”

「……だった、ってことは……」

 “ああ。そうだ。姉さんは、もう死んでいる。十七年前の、雨が降る夜だった。
  ヒーロー養成学校の研修として、ヒーローのサイドキック――姉さんのお供になっていたオレは、
  姉さんと一緒にヴィランと戦っていた。”

 “強い敵ではなかったが、妙にしつこいヴィランだった。
  それに何故か、姉さんを狙うそぶりを見せていた。
  怪しいと思ったオレはそいつをふんじばろうとしたが、ミスをして、そいつを姉さんの方に逃がしてしまった。
  姉さんのほうにももう一人ヴィランが押してきていて、いくら姉さんでも限界だったのに。”

 “……オレが辿り着いたときにはもう、姉さんは瀕死だった。
  今にも死にそうな姉さんは、オレを見て悲しそうに言った。
  【ああ、残念だ――殺されるならお前に殺されたかったのに】とな。”

「……?」

 “その言葉の真意を測ることは、その当時のオレにはできなかったが、
  姉を失った悲しみが、オレを自暴自棄にした。
  オレだって、殺されるなら姉さんに殺されたいと思うくらいには、姉さんを愛していたんだ。
  オレは失意のままに、それでも成績だけは優秀に、
  アカデミーを卒業し……給料が良いという理由だけで、日本政府直属のヒーローになった。”

 “いや、まだこのころは。姉さんと同じ職業を選んだという時点では。
  まだオレの世界には、僅かな色が残っていたのかもしれないが……。
  オレはここで、姉さんの言葉の真意を知ってしまった。”

「どういう……?」

 “簡単な話だ。ちょっと考えれば分かることだ。最初に言った通り、
  オレの世界には周期的に、そして恒常的に悪が現れている。
  だがこれは普通に考えたらおかしい。お前もおかしいとは思うだろう?”

「……まぁ」

 “悪は滅びぬ、何度でも蘇る。
  もはやオレの世界の常識であり、
  ヒーロー志望も一般人も、誰も疑問を持たない、無論オレも疑問を持っていなかった事柄だが、
  普通に考えてそんなことが何十年も続くはずがない。”

 “これにはからくりが存在していたんだ。
  簡単に言ってしまえば、すべては日本政府のマッチポンプだ。”

 “オレの世界の日本政府は、ヒーローを擁して悪を討つ裏で、
  ――政府にとって都合の悪い存在を、悪に仕立て上げていたのさ。”

165彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:02:11 ID:zHUdCjkE0
 
 “もちろん政府と関係のない悪の組織や、単発のヴィランも多くある。
  だが、いくつかの悪の組織は、政府の子会社のようなものだ。
  貧民が沢山いる町を扇動して悪の組織化させ、その町ごと潰すこともあれば、
  開発計画の立ち退き命令を拒否する家の両親を怪人化させたりなんかも、日常茶飯事だった。”
  
「……!」 

 “悪は民衆の意思が作るものだ。そしてその民衆を従える政府は、悪を作ることが出来る。
  さらに人体改造や怪人化、洗脳の技術もある以上、やりたい放題ってわけだ。 
  本人の意思を無視して化けさせられた上、暴れさせられてる哀れな生き物。
  オレがこれを可哀想だと感じる意味も、少しは分かっただろう。”

「……ああ。でもそうなると、あんたの姉さんは……」

 “十中八九、オレと同じようにこのからくりに気付いていただろうな。
  そして姉さんは、気付いたことを感づかれて、消された。
  あの夜のヴィランの不可解なそぶりと合わせて、こうとしか考えられない。”

 “姉さんの言葉の意味も、ここまで知れば簡単だ。
  オレが姉さんに憧れてヒーローを目指したから。姉さんがオレをヒーローにしたから。
  ヒーローの裏を知ってしまった姉さんは、罪悪感を感じていて。殺されるならオレにと言ったんだ。”

「……それなら」

 “復讐しないのか、だろ?”

「……」

 “無理だな。
  一人で国に刃向かうことなど出来はしない。
  それに、日本政府をぶち壊したところで、政府に関わりのない悪の組織が国を支配するだけだ。
  どのみちオレの世界には、悪が生まれる土壌が整ってしまっている。
  もっというなら、ヒーローに希望を抱き、悪を憎むことで、世界が上手く回ってしまっている。”

 “その風潮こそが悪だとオレには思えたが――もはやどうしようもない。
  オレ一人の復讐心だけでそれを全て白紙にして、それで何になるのか――何にもならない。
  オレは政府に屈することにした。知ったことを明かした上で、歯車になることを申し出た。”
 
「そして……灰色に」
 
 “ああ。自分で死のうかとも思ったこともあったがが、
  姉を殺してあげられなかったオレに、自分で死ぬような資格はない。
  それに政府に関係のない多数の悪の組織がこのサイクルを壊さぬよう、政府のヒーローは必要だ。
  オレはヒーローをただの仕事として、やることにした。灰色の生活の始まりというわけだ。”

「……」
「ハッ、話してみればこんなものだ。オレもお前も。死者と世界に呪われて今を生きてる。
 自分より大きなものに刃向かうことができずに、クソみたいな結果と理由だけを胸に、歩き続けてるんだ。
 いやそれも、もう過去形か。オレもお前も、この世界に呼ばれちまったんだからな……」
「……」
「それよりほら、見ろよ。お前が言ったとおり、
 あの怪獣もこの世界に“馴染まされて”きてるみたいだぞ」
「……あー……すごいな。ああなるのか」

 話を終えた灰色が、こちらへゆっくりと歩いてきている怪獣を指差して、自嘲気味に笑った。
 麻生叫と早乙女灰色が、
 怪獣の姿を確認しながらもその場から逃げずに会話や酒盛りを続けた理由がそこにはあった。
 
 50mはある怪獣の身体は、こちらへ進んできてるにも関わらずその見かけの大きさが変わっていない。
 つまり怪獣の身体は、縮んできていた。
 それと同時に怪獣の身体は、怪獣とはかけ離れたものへと変わってきていた。


 さらに言うならば――“ヒト化”してきていた。

166彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:03:03 ID:zHUdCjkE0
 

 【ティアマトの場合】


 平沢茜という悪魔は、バトルロワイアルが好きだ。
 怪獣映画でもパニックホラーでもない、バトルロワイアルが好きなのだ。
 バトルロワイアルを構成するにあたって大事なのは、
 知人がいることと、極限状態であることと、そして何より誰が勝つのか読めないということ。
 そして前提条件として、“人間”が争わなければ何の意味もない。

 だから、バトルロワイアルのために造られたこの世界では、怪獣は“人間の枠”へと押し込められる。
 人間が勝てるレベルへと。首輪の力によって、強制的に姿を“替えられる”。

 麻生叫にはそれが分かっていた。
 彼は優勝者として、平沢茜のことをよく知っていたし、
 どうやらこの殺し合いが平沢茜よりさらに力をもった“平沢茜ではない平沢茜”
 によって開かれたであろうことも、当の本人から聞いていたからだ。

 怒りとヒトへの憎しみに囚われたティアマトの身体が、首輪の力で変化していく。
 原初の怪獣としてティアマトが首輪の力に抗えたのも、最初の一時間が限度だった。
 ティアマトはその50mの身体を徐々に縮めはじめ――それとともに外見も、
 ティアマトが最も憎むそれへと、変化させられていく。

 後頭部のヤギ角はそのままに、
 血の赤と本来の体色である黒が混じった長髪が頭部からバサバサと生える。
 身体を覆う体皮装甲は……胸部と股部そして腕・足の先の爪部のみを残して後退し、
 その他は褐色の人間の肌へと変わった。
 唯一立派な尻尾だけが、アースBRへの最適化前とほぼ同じ状態で残る。

 縮尺は10分の1。怪獣はいまや体長5mの“怪人”へと変貌した。
 ――無論脅威であることに変わりはないだろう。
 50mだったときのパワーがおそらくそのまま、あの小さな体に凝縮されたのだから。

 それでも、差し当たってすぐ逃げるというほどの話ではなくなった。
 突然縮小した身体に怪獣は気付くことなく、今までと同じペースで地面を踏みしめながら歩いている。
 あれではこの廃工場エリアにたどり着くのでさえ、もう数十分はかかってしまうだろう。

「さてどうする、少年。オレと一緒に、あいつを討伐するヒーローごっこでもしてみるか」
「……そもそも自分ですらする気がないものに、俺を誘わないでくれ」
「ハッ、ジョークだよジョーク」

 二人はティアマトが小さくされたのを確認し、ひとまず満足した。
 ゆるやかに立ち上がると、怪獣に背を向けて歩き出した。
 煙突を下りるための鉄製の階段を、カンカンと小気味よく降りていく。

「にしても……やれやれだ。まったくやれやれだ。
 エンマはまだ教育が完全ではない。本来ならもっと悪を断罪するだけの存在へと昇華させたのち、
 オレが悪と認められることで、オレを殺してもらうつもりだったんだが……計画を早めなければいけないとはな」
「首尾よくいけば……その辺は俺が説得する」
「ああ、頼んだぞ、少年。お互い乗った者同士、恨みっこなしで頑張ろうか」

 そもそも。
 見晴らしがよい場所から全体を俯瞰する、と言う目的でこの煙突の上で出会った二人は、
 すぐにお互いが“殺しに乗った者”であると見抜き、意気投合して雑談と呑みを交わしていたのだった。

 かたや、妹を死ぬまで守ると言う、自らに課した呪いを実行するために。
 かたや、姉の名を冠した弟子に殺されるまで死なないという、自らに課した呪いを実行するために。

 麻生叫は妹のために殺すことをすでに決意しており。
 早乙女灰色は弟子に悪と判断されるだけの所業を行うことを決意していた。
 幸いにもこの場合最後に生き残るのは麻生妹一人だけでいいため、同盟を組むに問題は無かったのだ。

 参加者名簿はあくまで候補のようだが、仮に彼らの求める二人がこの場に居なかったとしても関係はない。
 どのみち麻生叫は妹を守るために他全員を殺さなければいけないし、
 早乙女灰色もまたエンマに殺されるために他全員に殺されない――つまり他全員を殺すしかない。
 せいぜい二人が最後に殺し合わなければいけなくなるくらいだ。そして参加者が不明瞭な限りそれはあり得ない。

167彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:04:34 ID:zHUdCjkE0
 
「……俺は北に行くよ。
 エンマちゃんって子に会ったら上手く誘導しておく。妹に会ったら、頼む」
「ならオレは東だ。
 お前の妹の特徴は聞いたし、おそらく保護は出来るだろう。もしエンマを見つけたら、“使って”いいぞ」

 別々の方向に行くことも、示し合わせたわけでもないのに確定していた。
 あの怪獣はともかくとして――麻生叫も灰色も、おそらくこの殺し合いに呼ばれた中ではそう強い方ではない。
 ならば無駄に固まるより、手分けして強者である早乙女エンマや保護目的である麻生妹を探した方が、
 双方の目的にとって有益だということが試算できたからだ。

 なにより、もとより自らの死すら試算に入れた二人である。
 一か所に固まって強者に襲撃されて全滅という流れよりは、別れたほうがなにかと都合がいい。

「それじゃあな。互いに目的が叶うといいな」
「……ああ」

 こうして灰色の男たちは、自らの呪いを終わらせるための殺し合いを開始した。
 彼らは世界に抗わない。あくまで世界の枠内で、自らのためだけに動く。
 そう、それは、世界に抗うだけの意思を、この世界に来る前から捨てていたがゆえに。


【B-7/廃工場/1日目/黎明】

【麻生叫@アースR(リアル)】
[状態]:ほろ酔い
[服装]:学生服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:妹を守るために殺す
1:早乙女エンマに会ったら“利用”した上で、早乙女灰色を殺させるよう仕向ける
2:死んだらそれはそのときだ。
3:廃工場から「北」へ。

【早乙女灰色@アースH(ヒーロー)】
[状態]:灰色
[服装]:ヒーロースーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本:エンマに殺されるため、悪を行う
1:麻生嘘子だけは保護しておく
2:死んだらそれはそのときだ。
3:廃工場から「東」へ。

168彼らは幾ら叫べども、灰色世界に抗えない ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:05:08 ID:zHUdCjkE0
 


 夜の草原を空に向かって叫びながら。
 怪人と化した怪獣は、未だその事実を知らぬことなく、怒りに任せて歩き続ける。
 もし仮に自らが憎むヒトになってしまったことに気付くときがあったとすれば、怪獣はより怒るであろう。

 ただ、ヒト化したことによってひとつ、明らかになったことがあった。
 ――胸部装甲、そして長い髪。
 なによりヒト化した際のシルエットは、どちらかといえばそれを外から見れば、巨大な“女性”に見える。
 そう、ティアマトは、メスだったのである。
 そもそもティアマトは女神の名前だし、メスのほうが違和感はない。
 しかしこうなると、彼女がアメリカの原水爆実験によって、
 静かに眠っていた自身を叩き起こされたことで怒っているという説に、新たな仮説を加えることが出来よう。

「グルウル……グルウル……!!」

 彼女は深海で、果たして“一人”だったのだろうか?
 彼女が怒っているのは、果たして自らに対する仕打ちだけに対する怒りなのだろうか?
 ……怪獣の言葉を理解できぬ我々に、この疑問を解決するだけの技術はまだない。
 しかしもしかしたら、彼女もまた灰色の二人と同様に。
 大切なものを世界に奪われた、犠牲者なのかもしれないことだけは、ここに記しておこう。


【A-7/草原/1日目/黎明】

【ティアマト@アースM】
[状態]:無傷、怒り心頭
[服装]:裸
[装備]:無
[道具]:無
[思考]
基本:人間が憎い
1:邪魔な物は壊す
2:攻撃する奴は潰す
3:廃工場の方へ向かって破壊する
[備考]
※メスでした。
※首輪の制限によってヒトに近い姿になりました。
 身長およそ5m、ただしパワーと防御力は本来のものが凝縮された可能性があります。


※AKANE謹製首輪には、彼女の望むバトルロワイアルを成立させるための制限力が付加されています。
 人間が自らの意思で殺し合うのが見たいという平沢茜の嗜好の影響が強いようです。
 といってもよほどヒトから逸脱しない限りは発動しないし、もちろん精神に干渉することもありません。

169 ◆5Nom8feq1g:2015/05/18(月) 22:10:02 ID:zHUdCjkE0
投下終了です。
ちなみに私はヒグマロワみたいな怪物大合戦もそれはそれで好きです。
次はもう少しさくっと書いてさくっと読める感じにしたいなー

170名無しさん:2015/05/18(月) 22:33:28 ID:q6FGQbag0
投下乙です!
灰色も麻生アニも哀愁漂ってるなあ
ティアマトはでかさは消えたけど、戦闘力は変わってないのかな、まだまだ脅威だ

171名無しさん:2015/05/19(火) 01:33:35 ID:mYC4iSDQ0
うおおお!なんだこれすげえ…乙です!
この二人が殺しあい乗るってのが意外だ。乗る理由も二人ならではで雰囲気もすごくて…!
二人どうなるのかなあ…


そしてティアマト女だったのか
これはスライムちゃんに続くもんむす枠かな?(歓喜)

172 ◆8I7heVl7bs:2015/05/19(火) 19:46:07 ID:ZWnU06LA0
裏切りのクレア 真白 投下します

173裏切り同盟 ◆8I7heVl7bs:2015/05/19(火) 19:49:34 ID:ZWnU06LA0
「僥倖です。まさか『真白ソード』をこんなに早くゲットできるとは」
刀身に映る自分の顔を見ながら私はそう言いました。その顔は、口角が上がってるし、目もいつもより輝いています。
どうも野盗や暴徒の間で私は無表情な奴として認識されているみたいですが、私だって感情はありますし、表情も豊かなほうだと思っています。
ただ、笑う機会など滅多にないだけです。笑うという行為は精神が緩んだ際に発生するものですが、そんな自殺行為はしようとは思えません。精神を緩ませるなんて、何もメリットがないこと。
ん?ということは私は今、精神が緩んでいるんでしょうか。いえいえ、真白ソードを手に入れたのですから、多少安心することは仕方のないことでしょう。
刀身に映る顔も徐々に仏頂面に戻ります。

「なんだ、嬉しそうな顔もできるじゃないか」

そう言って興味深そうにクレアさんがこっちを見ています。外見だけなら気さくなおばさん、いえお姉さんといった感じですが、この人の場合、名前の前に『裏切りの』が入るらしいので、信用してはいけません。
何でも元ヒーローだそうです。ヒーローという言葉を私は初めて耳にしましたが、弱者を助け、悪を挫き、皆の笑顔のために戦う存在だそうです。頭おかしいですね。

クレアさんは元ヒーロー。今はヴィラン、悪党をしているそうです。ええ、こっちなら理解できます。しかしわざわざ悪党を名乗るとは、クレアさんは変わった人です。私は人間ですと言ってるようなものじゃないですか、それ。

とまあなんだかクレアさんを馬鹿にしたような説明になりましたが、私だって10年以上生きてる身。彼我の戦力差は理解しています。はい、クレアさんやばいです。おそらく真白ソードを使った私でも勝てないです。まあ最強を名乗るわけでもないので、そこは対して気になりませんが。別に無敵になりたいわけじゃないですし、ただ無敗でいればいいんです。

クレアさんがやばいなと思うのはどちらかというとその思想でしょうか。
私の世界では文明がほとんど滅び、人々は残された資源を求めて、あるいは刹那の快楽を求めて、日々殺し合いをしています。
私の家には色んな本、それこそ人類が衰退する前の本がたくさん置いてありましたから、私は他の人間より過去について知っています。そして、どうやらクレアさんはその過去、人類衰退前の人間だそうです。
私は正直にクレアさんに話しました。あなたの世界はいつか滅びると。何故滅びるかは私にもわかりませんが、とにかく滅びると伝えました。

最初、クレアさんは驚いたように目を見開きました。無理もありません、豊かな(きっと私の想像以上に豊かなんでしょう)生活をしている者にそういえば、誰だって驚きます。
しかし、クレアさんは目を閉じ、穏やかな顔つきになりました。
そして。

「ああ、安心した」

そう言ったのです。
意味が分かりません。過去の人間は私とは価値観が違うのでしょうか。

174裏切り同盟 ◆8I7heVl7bs:2015/05/19(火) 19:50:20 ID:ZWnU06LA0
私は何故安心したのか理由を尋ね、クレアさんは正直に話してくれました。

何でも、彼女の目標は人類を滅亡させることだそうです。

まったく意味がわかりません。クレアさんは悪党といっていましたが、なるほど、確かにこの意味不明さは悪党です。

私はもう一度、滅亡させる理由を尋ねました。クレアさんはひらひらと手を振りながら笑顔で、

「人間が嫌いなんだ、私は」

こう言いました。なんで人間が嫌いなのかは聞きませんでした。クレアさんが私とは価値観がまったく異なる生物であると分かったからです。

私の時代と比べると比較するのも馬鹿らしくなるくらい資源に恵まれ、餓死する者など滅多にいない、おじいちゃんが言っていた天国のような世界で、クレアさんは人類を滅亡させようと悪党に協力をしています。私の理解を超えた考えです。ですからもう考えません、そういうものだと受け入れましょう。

え?なぜそんな奴と一緒に話したり、行動を共にしているか、ですか?決まってます、一人より二人のほうが優勝しやすいからです。

不運にも首輪は別チームでしたが、ならばEZチームとHチーム以外のチームを皆殺した後で、2チームで決着をつければいいのです。チームが違うからといって組まない理由にはなりません、今はまだ。

ええ、私は他人を信用しません。しかし彼女は裏切りのクレア。最初から裏切ると分かっているのならば、組むことに何も躊躇いはありません。むしろ彼女が誠実のクレアだったり、潔白のクレアだったりしたら、絶対に組んでいないと重いますが。

脱出?AKANE打倒?無理です。私は私なりに一生懸命生き抜いてきましたが、気づかぬ間に拉致されて首輪を嵌められたのは初めてです。この時点でAKANEを倒すのは絶望的だと分かります。今の段階では、優勝を狙う方が生存率が高いです。
脱出できるのでしたら脱出しますが。たぶん無理でしょう。

ちなみに真白ソードはクレアさんに支給されていました。うん、何か作為めいたものを感じますが、今はあえてそれに乗りましょう。別に誰の掌の上だろうが、関係ない。生き残ればいいのですから。

というわけでクレアさんと私は今採掘場を調査しています。とりあえず別チームは見敵必殺でいくとのこと。特に異論はありません。優秀そうなら仲間にするのもありかもしませんが、二人の方が動きやすいですし、よっぽどのことがなければ殺します。

ではバトル・ロワイヤルを始めますか。スタートはずいぶんと恵まれていたので。このまま簡単に優勝できるといのですが。まあ、そうは簡単にいかないでしょう。



【A-1/採掘場/1日目/深夜】


【真白@アースEZ】
[状態]:健康
[服装]: 私服、汚れているが、それがそこはかとなくえろい
[装備]:真白ソード
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:優勝する
1:裏切りのクレアと同行。アースEZとアースH以外のチームを皆殺し
2:採掘場を調べる、基本的に見敵必殺

【裏切りのクレア@アースH】
[状態]:健康
[服装]:スーツ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:優勝する
1:真白と行動。 アースEZとアースH以外のチームを皆殺し。
 2:採掘場を調べる、基本的に見敵必殺
[備考]
※詳細な行動動機は他の書き手さんにお任せします

【真白ソード】
真白の祖父、真銀がかつての文明の残骸から作った真白専用武器。これを使うことで真白の戦闘力は飛躍的に上昇するらしい。具体的な効果は未だ不明。

175 ◆8I7heVl7bs:2015/05/19(火) 19:57:58 ID:ZWnU06LA0
短いですが、投下を終了します
予約時とトリが変わっていますが、代理投下ではありません
恥ずかしい話ですが、予約時のトリップを忘れてしまって……

176: ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:22:14 ID:HJdquDQE0
皆様投下乙です。
では私も

177現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:24:06 ID:HJdquDQE0

ひやりとした風が吹く深夜の住宅街。
そこに一人の少女が、手に握られたICレコーダーに耳を傾けていた。
頭に被ったカウボーイハットから飛び出るようにして真っ黒な髪が外側にはねており、耳には金色のピアスが開けてある。
首にはスカーフが巻かれていてノースリーブのレザーの革ジャンの下は黒いビキニ一枚という姿が、彼女の露出度を大きく上げていた。
スカートは膝上10cm近く短い、これもまたレザーで出来たもので、靴はやはりレザーのブーツ。
腰のところにはホルスターがつけられており、これだけで彼女はまるでカウガールのように思われた。

「いいじゃないいいじゃないこういうのっ!アタシが待ち望んでたことじゃない!」

そんなカウガール少女、不死原霧人はICレコーダーの音声を聞き終わると喜びを隠せないような素振りを見せ、その場で飛び跳ねた。
彼女はあの有名ヒーローの登竜門である国立ヒーロー養成所の2年生首席である。
そんな優等生である彼女にとって、もはや養成所の座学や実践練習は予習をせずとも簡単な物であった。
先ほど見た参加者候補の名簿の中には自分の家の居候、柳生十兵衛を除くと雨谷いのりや裏切りのクレア、更には早乙女親子(本人はグレービッチと呼んでいる)らが名を連ねている。
いつか捕まえてみたいと思っていた危険人物だ。普段の鍛錬の成果を今こそ見せるときであろう、と彼女は強く決意をしていた。
自分が普段よく使っている二丁のリボルバーが無くなってはいるものの、運良く捕縛に使えるロープは入っていた。これさえあれば、並大抵の敵ならば捕まえることができるだろう。

「んふふ、お姉さま。ご機嫌のようですわね」

そんな機嫌をよくしていた霧人の前に、いつの間にか一人の少女が立っていた。
黒のボンテージに白のマント。髪の毛はピンク色で、唇もラメを含んだ口紅で明るく見える。
顔立ちは幼いが、雰囲気からはそれを一切感じれず、むしろ見た目とは反した淫らな雰囲気を醸し出しており、そのギャップがなおさらその雰囲気を強くさせた。

「ん?誰よアンタ」
「私(わたくし)は闇ツ葉はららと申します。お姉さまは?」

エロティックな少女、はららは会釈をすると、霧人に大して聞き返す。
霧人は手に握ったロープをぶんぶんと振り回しながら、その答えを返す。

「アタシは不死原霧人。早速だけどアンタ、アタシとチーム別じゃん。殺る気?」

霧人が指していたのは、お互いにつけられた首輪の文字のことであった。
霧人の文字は先程確認していて《H》、だが目の前のはららの首輪には《MG》と書いてある。おらくあの音声案内に従うとなるとはららと霧人は敵どうしということになりうる。

霧人はそれを危惧しており、実際に闘うという場合であるならば、やられるだけではいられない。
きちんと応戦する必要があるのだ。
霧人はそれを言い終わると腰を据えて、一旦はららと距離を置く。養成所で習った臨戦態勢の実践だ。

「んふふふふ…♪殺しはしませんわ、ただ───あなたのような気の強いお姉さまを跪かせるのが、私の趣味なのですわっ!」

はららは言い終わる前に、自分の両手の掌からそれぞれ五本はあるだろうと思われる触手を出し、霧人へと向けた。
霧人は距離を置いて、回避行動が可能であったためかそれを横への緊急回避で避ける。
当たらなかったのを確認するように触手がはららの元へと、また戻っていく。

それを見ていた霧人は、余裕の表情ではららに向けて言い放つ。

「へー!いいわねえーそれ!やっぱヴィランの攻撃手段としては映えるわね触手って」
「ヴィラン…?んふ、巷では私のことをそう呼ぶのですわね…」
「そーよ、アンタらはヴィラン、そして私がヒーローなの!」

そして霧人ははららの距離を縮めながら持っていたロープを輪っかにして、それをまるで投げ輪のようにしてはららに投げる。
その速度は早く、はららもよけず、その輪の中に入ってしまう。

そしてそこから霧人が手に残っていたロープを引っ張るとはららは自身の腰のあたりから手の上を通って強く縛りつけられた。

178現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:25:00 ID:HJdquDQE0

「観念なさいヴィラン闇ツ葉はらら!この殺し合い終わらせたらアンタを刑務所にぶち込んでやるから!」

霧人は自分が憧れたヒーローのように、声高らかに声を挙げる。
これでやっと、自分も幼い頃から憧れていたヒーローに近づける。
《闇ツ葉はらら》というヴィランは有名ではないが、別にいい。実戦経験0の霧人にとってはこの結果は最高の物だろう。

そう、彼女は思った。いや、思ってしまった。

「お姉さま、油断大敵ですことよ」

はららがニヤリと笑うと縛られていた右手から五本の触手をまとめ合わせたような、太い触手が飛び出した。
霧人は手を封じなかったのはしまった、と考えたものの避けることができる速度だ。先程のような緊急回避もいらない。横に飛ぶように避ければいい。
そう思い、行動に移そうとした。だが───

(動かない!?)

正確に言うと、動かないのではない。
本来霧人の反射神経があるならば簡単によける事ができた。
判断も間に合っているはず。しかし、足が動かない。

はららの方に目をやる。片眼が紫色になり彼女から禍々しい気が発せられている。
おそらく魔術か何かを使われたのだろう。霧人はそう判断する。

そして霧人がそう判断した瞬間に、今度ははららの触手が霧人へと襲いかかる。
触手は霧人の手足を縛りつけると、キリストが磔にされたような格好にして、宙ぶらりんにした。

「さぁ、形勢逆転ですわよ、お姉さま?」

はららが縛られていたロープを触手に切らせると、ニコニコと笑って霧人を眺める。
その表情は間違いなく加虐を企もうとするものである。
霧人は失態を犯したと感じていながらも、触手をなんとか離そうともがくが、自分ひとりの力では離すことができない。それほどまでの強い力であった。

「何を…!こんなもんで私を押さえつけたつもり?舐めんじゃないわよ!」
「んふ、いつまで耐えきれるか見ものですわね♪」

霧人が絞り出すように言った言葉を待ってましたというように、はららは残っていた左手の触手を霧人へと向けた。
しかし、その行き先は霧人の首や腹といった急所ではなく、その薄着で大きく主張された、豊満な乳房であった。

「な、やめ───んあっ…!」
「んふふ、薄着で助かりましたわ、破く必要もないんですもの」

179現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:25:34 ID:HJdquDQE0

触手は霧人の乳房を縛るように、かつ揉みしだくように絡みつく。
前述の通り霧人はレザージャケットの下は黒いビキニ一枚だ。剥ぎ取らずとも、触手による《攻撃》によって快感を与えることははららにとって簡単である。
ここで、快楽を倍増させる魔法を触手にかけた。触手の表面に滑り(ぬめり)ができて、尚更その《攻撃》は加速していく。

「ん、んんんんっ!!あっ…!あっあああっ!!」
「快楽には、人間は逆らえないのですわ。男だろうと女だろうと。赤ん坊でも老人でも。誰だろうと逆らえないのですわ」

くすり、と笑うはらら。
やがてそのまま触手が胸だけでなく霧人の体の様々なところを《攻撃》していると、2、3回ほど霧人は跳ねて、やがて全身の気が抜けたようになっていた。
全身からは汗が吹き出ており、目も虚ろになっていた。

「…ふぅーん。早いのですわね♪」
「…はぁ、はぁ…くっ…」

荒い息を押さえながら、霧人を楽しそうに眺めるはららを、霧人は睨みつける。
はららはそれを見て興奮しているのか更に息を荒らげながら、その触手の力を強くする。
やがて触手の一本が霧人の口の中へと入れられる。
霧人は抗う事も出来ずそれを受け容れる。やがて触手が自らの先端部分を霧人の口内で上下させる。
霧人は喉奥まで入れられて何度も吐きそうになるものの耐える。

やがて、口から触手が引き抜かれたのを確認すると、霧人は咳き込みながらも、はららに言い放つ。

「…げほっ!げほっ…はぁ、はぁ…はぁ…アタシは…負けない!アンタなんかに…負けない!」

息苦しさからか、恐怖からか霧人の目には涙が貯まる。
しかしなんとかしてそれを流すまいと彼女は変わらずに霧人は睨みつける。
はららからすれば、ここまで快楽を倍増させる触手に《攻撃》されて耐えきれる人物はろくに居ないというのに、よくぞ耐えているという印象。
だが、はららとしては早く彼女を自分の方へと堕ちてほしい。それにはまず、彼女の尊厳を、自尊心を更に打ち砕く必要がある。

「んふふ…♪震えてるわよお姉さま♪ただいつまで言ってられるかしら?」

はららの言うとおり、霧人は震えていた。
霧人に実戦経験はない。ゆえに、いつもヴィラン達を倒す事前提で勝負を仮定していた。
しかし、今自分は体の自由を奪われ、こうやって凌辱を受けている。

しかし、誇り高き不死原一族の代表として、ヒーロー養成所首席としてここで屈してはいけない、と。
襲い来る快感と、恐怖に耐えながらも、最後にわずかながら残っていた《勇気》から、霧人はなんとか屈せずに済んだ。

だが、はららはここで容赦をするようなこともしない。はららが舌なめずりをした瞬間、霧人の口内で《攻撃》していた触手の一本が、霧人の股関節へと這い寄った。
ゆっくりと、太ももを伝っていき触手特有の滑りで霧人へ更なる快楽を与えながら、やがて触手が迫ったのは、霧人の短いスカートの下に履かれていた真っ黒の紐下着。

「!?やめっ、そこはっ!」
「あらあ〜?男性経験無いのですわねぇ。そんな格好にしては意外ですわぁ」

霧人が今度こそ我慢が出来なくなり、両目から涙を流しながら、必死に触手の侵入を防ごうと足を組もうとする。
だがが、はららは嬉しそうに触手に命令を出すと、それを防ぐように体を磔の状態から大の字にする。
やがて、触手は霧人の下着の薄い布をどけるように、彼女の《ナカ》に侵入していこうと、徐々に迫っていく。
霧人は声にならない声を出しながら、必死に体をじたばたさせて、少しでも挿入を防ごうとするが、押さえつけられている触手が強くてピクリとも動かない。
そして、ついに霧人の《入り口》近くに、触手の先端が触れた。

「やめ、やめて!やめ…やめてえええええええっっ!」





───パンっ
唐突な銃声だった。その音がした方を見ると、一人のリクルートスーツを着た短髪の女性が高級そうな車の運転席の窓から体を出して、こちらに拳銃を構えていた。
恐らく向けられたのははららだったのだろう。縛りつけていた右手の触手の一本が狙撃されたことに驚き、すべての触手の力が緩む。
それを女性は見逃さない。霧人の近くへと車を走らせると、窓から叫ぶ。

「早く乗って!いいから早く!」

霧人は落ちていた自分のディパックを持ち、後方座席に飛び乗った。
それを確認するやいなや、車は大きな音を立てて走り出すのであった。

-----------------------------------------------------------

180現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:26:05 ID:HJdquDQE0

「あらぁ、逃がしちゃったぁ」

一人、残されたはららは自分の加虐を邪魔されたに関わらず、妙にご機嫌であった。
彼女の持つ力は大きく分けて三つ。
一つは触手を操ること。もう一つは相手の身体能力を下げる魔法。そしてもう一つは死者の怨念や恨みを元にしてアクのマスコットを作り上げることである。
それをするには彼女の唾を死者に飲ませること、つまりキスをすることが必要になる。

能力の点で、はららはひとつ疑問があった。
夢野セレナや高村和花。久澄アリアに立花道雪といった正義の魔法少女たちの闘いではもっと多くの触手を出せていたはずであるし、なにより身体能力を下げる魔法も、かけてしまえば無力化させれるほどの効果があるはずだが、先程の霧人の行動を見ると永続していない。
更に普段はない体力の消耗も感じられる。
この様子だとあの主催に制限でもされてしまったのだろう。マスコットを作る際にも何か制限があるかもしれない。

「んふ、まあいいですわぁ。楽しみですわこのイベント。殺し合う気はさらさら無いけれど、私は私の好きなようにやらせてもらうこと致しましょう♪」

しかし、彼女はそんなこと気にはしない。快楽と堕落を愛する彼女が求めるのは多くの人間が快楽に溺れ、堕ちていく姿。
強く正義の心を持った人々が自分のところへ堕ちていく姿をただ見たいだけだ。
あの魔法少女たちも多く参加しているようであるし、先程の霧人のようにまだ見ない《加虐対象》がいるはずだ。

「んふ、んふふふふ♪んふふふふふっ♪………はぁぁぁんっ♪♪♪」

悪の魔法少女は、高らかに、淫らに夜にて笑う。


---------------------------------------------------

打って変わって先程の車内。
スーツを着た巨乳の女性、西崎詩織は慣れない左ハンドルに苦戦しながらも夜道を駆け抜ける。
まさか自分に支給されたのが自動小銃と車だとは思わず驚いたが、先程の状況を考えて大当たりであったなと考えていた。

ルームミラーを見て、後部座席の少女に目をやる。
右端に小さく縮こまるようにして、虚ろな瞳で一点を見つめている。

(無理もないか…あんなことされてたんだものね…)

見たところ触手?のようなもので色々淫らなことをされていたようであったし、まだ年端もない若い女の子があんな目にあえばそうなるに決まっている。
警察という職業柄、そういう場面は多く見てきてはいるが、そのたびに同じ女性として怒りを感じている。
ただまずはその怒りをぶつけるよりも、この女の子の精神的ケアが必要だ。

(どこか休める場所を探さないと…)

181現実の壁は破れない ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:26:43 ID:HJdquDQE0

助手席に置いてある地図を見る。すぐ近くには運良く病院がある。
ここに出向いて薬や包帯などの医療品を回収するがてら、この少女の話を聞くのが今の段階ではいいだろう。
車の走らせている方向も会っているし、丁度いい。

「…ほんとにどうなってんのよ…旗も消えてるし…何が起きてるの?」

自分のいた日常に突如発生した《旗》。あの胡散臭い探偵黒田翔琉に頼まれ情報をネットで集めていたところを、呼び寄せられた。
迷惑な話であるが、いま自分にできることはこれを開いた主催を捕まえること。そして、《旗》との関連性を探ることだ。
もし、この場所に黒田翔琉が呼ばれているならば、彼も同じように《旗》との関連性を調べるはず。
普段は迷惑ごとばかり押しつけてくる男だが、こういう窮地では頼りになる、はずの男だ。
夜道の運転は慣れないが、今ばかりは仕方ない。あの男と合流を目指そう。

「…助けて、助けてサムライ…」

一方の霧人は初めての《支配される恐怖》に怯えながら、絞り出されるように、居候の柳生十兵衛の呼び名を呼んだ。
名簿の中に乗っていた、彼女にとって唯一実際の面識がある人物。
普段は喧嘩してばかりで面倒事を押し付けて、それでよく叱られて面倒くさい存在と思っていた。が、恐怖心を植えつけられた霧人にとって、今は無性に、彼に会いたかった。

───おい霧人!お前さんまたてぃっしゅをポケットに入れたまま洗濯しただろ!
───うるさいわね!アンタこそ着物何着持ってんのよスーツとか着なさいよ!

いつも通り喧嘩して。

───今日はお前さんの好きな《おむらいす》だぞっと…おい!先に手洗ってきやがれ!
───いいじゃない早く食べるわよ。つかアンタこれ誰に習ったの?

いつも通りアイツの作ったご飯を食べて。

───まーた灰色女(グレービッチ)!イライラするわアイツら!でしょ!サムライ!
───あー、そうたなぁー。それよりイライラするのは分かるが俺を殴るのはやめてくんねぇかな?

いつも通り有名なヒーローの悪口を聞いてもらえれば。
少しでもこの恐怖心を薄めてもらえるはずだ、と信じたくて。

「…早く、助けて…!」

そんな小さな霧人の言葉に気づいたものの、詩織は何も触れずにアクセルを踏み直す。
やがて夜の道を、一台の真っ黒な車が走り抜けていった。
【F-2/町/1日目/深夜】

【闇ツ葉はらら@アースMG】
[状態]:快感、疲労(極少)
[服装]:ボンテージとマント
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考]
基本:《強い存在》を快楽や様々な方法を使い堕落させる
1:霧人お姉さまはまた次の機会ですわね♪
2:魔法少女達を狙う
3:
[備考]
※魔法の効果が大きくダウンしており、使用には体力をやや消耗します。
また触手の数は右手左手それぞれ五本ずつまでです。

【不死原霧人@アースH】
[状態]:ショック、恐怖
[服装]:カウガール、やや乱れ
[装備]:ロープ@アースR
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考]
基本:この殺し合いを終わらせる
1:サムライ(柳生十兵衛)に会いたい
2:闇ツ葉はららへの恐怖
[備考]
※名簿は確認しています。

【西崎詩織@アースD】
[状態]:やや動揺
[服装]:リクルートスーツ
[装備]:ジェリコ941(16 /16)@アースR、ジェリコ941の弾《32/32》スパイダー・コルサ@アースA
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:困ってる人を助ける
1:黒田翔琉との合流を目指す
2:病院へ行く
[備考]



【スパイダー・コルサ】
イタリアの車会社、アルファロメオ社のスパイダーコルサ。
ムッソリーニの愛車。
【ジェリコ941】
イタリアのタンフォリオ社の技術を供与されたイスラエルのIMI社が開発した自動拳銃。警察機関の装備として有名。デザートイーグルに似てるので《ベビーイーグル》と呼ばれてる。
【ロープ】
ただのロープ。

182 ◆nQH5zEbNKA:2015/05/20(水) 00:29:06 ID:HJdquDQE0
以上です
なるべく直接的な表現は避けたつもりです。あと遅れてすみませんでした。

感想
>>175
うわあ、なんか強い二人が組んじゃった。
近くにいるのは光秀とルーズベルト…これはバトルになりそう。
ていうか、あれ嘘子ちゃんこれやばくね?

トリのことはお気になさらずー

183名無しさん:2015/05/20(水) 08:34:42 ID:JHe5XPkE0
投下乙です!
……ふぅ
詩織ナイスプレー、なんとか乙女の純潔は守れました

やっぱり触手責めできる女の子は大事ですね、女の子が多いこのロワだからこそ、夢が広がります
気に入ったシーンは触手責めの描写と、気が強かった霧人ちゃんがすっかり弱気になっているところですね
まあ、序盤のノリだと強マーダーにやられそうな感じなので、今のほうが生き残りやすくなったのかな?

184名無しさん:2015/05/21(木) 21:45:58 ID:SjBLuJM.0
乙です
>裏切り同盟
真白ちゃんかわええ。かわええ
汚れているが、それがそこはかとなくえろい私服もいいよね
裏切りのクレアもなかなかぶっ飛んだ思想だけど潔くてアリだな…!

>現実の壁は破れない
し、深夜アニメどころかエロアニメの世界からやってきただろこの魔法少女っ…!?
……たいへん楽しませて頂きました。やったぜ。やはり触手は正義
ミストちゃんを颯爽と助け出す詩織ちゃんかっけえ

185 ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:23:52 ID:W.Ry2hDY0
投下します

186世界の座標軸からみえるのは ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:24:29 ID:W.Ry2hDY0

(…なんだこれは)

『参加者候補リスト』を眺めてから俺、レイ・ジョーンズはそう考えた。
最後の記憶は誰もいない廃屋で1人寝たところまでで途切れている。おそらくそのあとに連れてこられたのだろう。
まったくただでさえ少ない人類で殺し合うだなんて馬鹿げている。それより俺以外に人類が生き残っていたことにも驚きではあるが、どうもこのリストはおかしい。
ルーズベルト大統領にムッソリーニ、ヒトラーという偉人たちが名を連ねている。おそらく追い込まれた状況でよく現れるサイコパスだろうが、それよりも気になるのが一人、いた。

(マグワイヤー巡査…?彼は俺が殺したハズじゃ…)

心優しかった小太りの警官、マグワイヤーさん。彼の勇気にはたびたび救ってもらえたし、彼がいたからこそ俺は生きている。
だが、彼は死んだはずだ。自分の娘を俺に託し、アンデッドと化して、死んだはず。

「…まさか2回目のアンデッド化か?」

マグワイヤーさんが死んだあと、彼はパーフェクトウイルスというウイルスをある製薬会社に打ち込まれ、モンスターと化した。
彼の力は強大なもので、化物に相応しかった。だが優しい心は消えてはいなかった。
「わたしを、ころせ、じょーんず、くん」
そう聞こえた。いや幻聴かもしれないがそう聞こえたんだ。
俺は一発だけあったRPG-7をマグワイヤーさんに撃って、彼だったモノは、死んでいった。はずだ。

「…クレイジーだ」

マグワイヤーさんを2回生き返らせて何になる。彼はもう苦しんだはずだ。もういいじゃないか。
もしこの名簿が事実であるならば俺は、あのAKANEを許さない。いや、許せない。
運悪く俺に与えられた武器はスペツナズナイフ。まあ当たりか。もう一つは小説と…仮死薬。使えるかもしれないが、とりあえずは奥にしまおう。

あぁそれとマグワイヤーさん以外にも知り合いが多くいた。中でも気をつけるべきは「マシロ」という少女だ。
実際に会ってないがマグワイヤーさん曰く最高にヤバイ奴らしく、生きるためならば人を殺すのも躊躇しないというサイコパス野郎だ。
もしこいつが居たらヤバそうだ。参加してないことを祈る。

話を戻す。
俺が居るのは地図によるとG-7。坂道だ。
普通の人間ならへばるだろうが、あのアウトブレイクを今日まで生き残った俺からしたらランニング程度で登れる。
やがて登ると、目の前に女が立っていた。東洋人のようだ。チャイニーズかジャパニーズかコリアンか?またはヴァイタミンか?まったくあのへんの顔は見分けがつかないぜ。

「hold!」

俺は大きく、ゆっくりとスペツナズナイフを構えながら女に言った。
もし逃げられてもスペツナズナイフていうのは優秀で、刃の部分を噴出できるようになっているから、それで足止めをすればいいだけの話だ。
アンデッドどもには足止めも糞もなかったが、人間相手なら好都合。

187世界の座標軸からみえるのは ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:24:54 ID:W.Ry2hDY0

「手を挙げてくれ。君に敵意がないかどうかを確認させてほしい」

一般人ならこんなこと申し訳ないから、敵意がないことを伝えておく。
通過儀式のようなものである、ということを付け足しておいた。
だがどうも目の前の女は俺を見ても何も思わない。普通は状況が状況だし、アウトブレイク発生当初の不良たちのように反撃でもするものかと思っていたが違うようだ。

「きゃー。初対面の人にナイフ向けるなんてこわーい」

向けられるとは思わないような声色。ケラケラと笑いながら女は俺から視線をそらす。
こういうのに慣れているのだろうか、いや慣れるはずだろうが普通は慌てる。俺でも逆の立場なら慌てる。
なぜ彼女は慌てないのだろう。いや、ここはそれを置いておこう。

「すまない、だが君もあんな地獄を見てきたなら分かるだろうが…俺も約一年ぶりに会った人間だ。もしかしたらアンデッドかもしれない」
「アンデッド?…あぁ。あなた『私と違う』のか」
「殺し合う気がないというならこっちに来るんだ。あの主催は俺が倒す。君は何処か安全な場所に案内をしよう」

地図によると、この近くには…道場?というところがある。そこにでも向かい他の対抗する者たちに彼女を保護してもらおう。
そして仲間を集め、主催を倒す。そういったシナリオは出来ている。大丈夫だ。計画通り行くはずだ。

「一応聞くけどさ、あなた名前は?」
「レイ・ジョーンズだ。SWAT隊員なんだがなんせSWATは壊滅してしまってね。元、と言った方がいいかもしれないな」
「ふーん。私は平沢茜。よろしくねー。ジョーンズさん。あなたに色々聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「…まあこういう場だしな、大丈夫だ」

女、いや茜は小柄な体の背伸びを伸ばしながら、まるで普通のように、息抜きをするように俺に疑問を投げかける。

「私日本人なんだけどさ、なんで言葉通じるの?」
「…!?そ、そういえば…」

…だった。彼女は日本人、らしいのだがそれは、どうでもいい。
なんで、茜と俺は喋れてるんだ?日本が学校で英語を習っているというとは知っているが、俺の西海岸訛りの英語を聞き取れて、簡単にすらすらと会話できる日本人なんてなかなかいないぞ。

「おかしいと思ったのよねー。私、大学生だけど日本の英語教育はスピーキングとリスニングに力入れてないから外人来た時焦ったけど流暢な日本語話し始めるから驚いちゃった」

…共用語はお互い違うし、日本人とも行動を共にしたが言語が通じず苦労した思い出がある。
いったいどうなっている?茜は考える俺を差し置いて言葉を続けていく。

「私の予想なんだけどさ、多分変換機みたいなのが勝手に作動されてるかなんなのかなと」
「だ、だがそれならばまず君と会話した時に気づくだろう?」
「誰も気づくわけないよ。皆そう思わないようになってるから」

…なっている?
茜はあたかも分かりきっているかのように口を開いた。この短時間でそこまで考察をしたのか?いやそれは無理だ。情報が足りていないようであるし、茜もおそらく最初にあった人間は俺のはずだ。
茜の口は止まる兆しがない。次にゆっくりと、俺の首を指さした。

188世界の座標軸からみえるのは ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:25:25 ID:W.Ry2hDY0

…なっている?
茜はあたかも分かりきっているかのように口を開いた。この短時間でそこまで考察をしたのか?いやそれは無理だ。情報が足りていないようであるし、茜もおそらく最初にあった人間は俺のはずだ。
茜の口は止まる兆しがない。次にゆっくりと、俺の首を指さした。

放送でも言っていた『首輪』。これがあるから自由を奪われてしまっていて、更にいくつかのチームに分けられている。という。
悪趣味なもんだが、これがどうしたのだろう。俺は茜の言葉に耳を傾ける。

「首輪。なんでジョーンズさんの爆発しないの?」
「…!」
「反抗したら殺すって言ってたしねー」

思い出した。俺は「主催を倒す」と口走ったはずだ。
もしあの音声通りであるなら俺は主催に反抗され首輪を爆発されたはず。一体、どうやって俺たちが反抗すると見破るのだろう。首輪に盗聴機能かなにかがついてるのかもしれないが、それならば殺されているはず。

「…じゃあ、なぜ俺は死なない」
「主催の見落としか気まぐれかまたは───私達じゃ勝てない戦力を持っているか」
「娯楽目的か?」
「さぁね。もしかしたらそういう一面もあるだろうけど、どうもそれだけじゃないみたいねー」

…不思議な子だ。
まるで体験したかのように、主催者側のようにスラスラと答えている。
そういえばあの音声のアカネと茜は名前が同じだ。
何か関係があるのか?主催者側から送り込まれた存在か?ならばこうやって質問に答えず俺を殺しにかかるだろう。
更に茜の肉体は貧弱で、腕も足も細い。俺を殺すほどの力はないだろう。
そんな細い体の茜は顔に苛立ちを見せながら、崖の向こうの海を振り向いて見ながら、言葉をもらした。

「…完全に私のやり方じゃないの」

何処かちらりと写った表情からは苦虫を噛み潰したような顔に思われた。
そんな茜の言葉も気になるが、今はそれよりも。茜に聞きたいことか多すぎる。
まとめる暇もない。思った事を頭の中の検閲を通さず聞きまくる。

「私の…?あのアカネと君に何か関係が?名前も一緒だ。君はこの殺し合いの真意を知っているのか?」
「すとーっぷ。いきなりたくさん聞かれても困るなぁ。おねーさん困っちゃう」

…君よりも俺のが年上なんだが。
と言いかけるが堪える。茜はまた最初のようにケラケラと笑い、俺へと思い出したような素振りを見せた。
読めないが、この少女の話を聞く必要がある。彼女は非力であるかもしれないが、『弱者』ではなさそうだ。

「大丈夫、何もないから。あ、質問の答えだけど。私は乗る気なんてないから」
「…話をもっと聞きたい。俺に着いてきてくれないか」

茜は俺の言葉に対し、また唐突に黙りこむ。
やがて数秒の間。俺はどこか変な間が気になり、茜を尋ねた。

「…どうした?」
「なんでもない。じゃ、行こうよー」

そう茜は言うと、今度は俺を置いていくかのように俺の右隣を通りすぎていく。
イマイチついていけてない俺を差し置いて。彼女は歩みを進めていく。怖いものなど何もないように。

「…彼女が真相を掴む鍵かもしれないな」

俺は後ろから、歩みをすたすたとはやめる彼女に追いつくために、駆け出すのだった。
─────────────

「やっぱりそういうことするか、『私』」

…私だって腹が立つことはある。
よりにもよって選ばれたのが私だなんて。存在は認識していた『もうひとりの私』。こんなことまでするとは思ってなかたなあー。
予想はなんとなくついていた。なんでって?分かってよ。
私は『悪魔(イレギュラー)』。本来あんな平凡な世界に居る人じゃないんだって。

189世界の座標軸からみえるのは ◆8w1Dkva65Y:2015/05/22(金) 00:26:03 ID:W.Ry2hDY0
だからさあ、なんとなくだけど分かる。他の世界軸の存在が。こういうと、他の同級生たちはドン引きするだろうから言わないんだけど。

「私を殺すのは私。人を見下すのも私。『私じゃない私』は黙ってろって話」

名簿には駆君と叫君がいた。あと叫君の妹も。まあ、叫君呼ぶなら呼ぶよね。その方が楽しそうだし。ほんとはそういうことしたかったけどさ。叫君の頼みもあるし出来なかった。
まるでそういう、私の本質も見破ってるかのような参加者候補。

…舐めてる。

「…私は、あなたの椅子に座ってみせる。どんな殺し合いの場でも頂点は私だ。そこんところ分かっておいてよ───AKANE」

【H-7/崖/一日目/深夜】

【平沢茜@アースR】
[状態]:強気
[服装]:普通の服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考]
基本:主催を倒し、自らがこの殺し合いの主催になる
1:AKANEの元へ行く
2:ジョーンズには守ってもらいたい
3:叫、駆、嘘子の動向が気になる
[備考]※名簿は見てます

【レイ・ジョーンズ@アースEZ】
[状態]:困惑
[服装]:ボロボロのスワット隊員服
[装備]:スペツナズナイフ×4@アースEZ、小説『黒田翔流は動かない』@アースR、仮死薬@アースR
[道具]:基本支給品
[思考]
基本:主催を倒す
1:一般人は保護
2:茜の話を尋ねる
3:マシロ、マグワイヤーが気になる
[備考]

以上です。遅れて申し訳ありません。

190名無しさん:2015/05/22(金) 09:44:22 ID:o2QOZ58o0
投下乙です

レイと茜が合流しましたか
レイさん殺し合いに巻き込まれる前から苦労してるなあ……
でも序盤から真白を危険人物と認識できてるのは利点ですね

茜を『悪魔(イレギュラー)』と定義したのは上手いなあと思います
確かに彼女の存在アースRで異彩を放ってますしね

191 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:25:12 ID:K0GQ/Tn60
投下します

192日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:25:50 ID:K0GQ/Tn60
「――――なんつーか、現実味のないリストだな」

学校の生徒会室。
優美な黒髪を腰まで伸ばし、女子制服を着た男の娘――愛島ツバキはデイパックから取り出した参加者候補リストを手にして苦笑する。
自分の幼馴染である大空蓮をはじめとする同じ学校の生徒は、ICプレイヤーから説明を受けた際、リストに載っているだろうと予想していた。
これはチーム戦だ。何らかの関連性がある者がいても可笑しくない――というよりも一定の法則に従ってチームを振り分けているのなら、最低一人は知り合いが居て当然だと思う。

問題は他の参加者である。

「この偉人の数々――歴史の教科書か何かかよっ」

戦国時代の織田信長、徳川家康、豊臣秀吉からナチスのアドルフ・ヒトラーやラインハルト・ハイドリヒまで。
リストには様々な偉人の名前が書き連ねられているのだから、これはもう苦笑するしかない。
しかもフランクリン・ルーズベルトに至っては元大統領である。武将やナチスはギリギリ理解出来るとして、大統領まで巻き込もうとしている意味が解らない。

「それにどうして、架空の存在――ヒーローやその関係者が載ってるんだよ。俺様、可笑しすぎて笑っちまうぜ」

リストに載っている名前があまりにも可笑しくて、くははっ!と大袈裟に笑う。
超刃セイバーZなど有名キャラからビリー・ザ・キッド、ツタンカーメンなどマニアックなものから、更には打ち切り作品の主人公、結城陽太まで。
主催者は余程の特撮好きなのか、それとも偶然にも同姓同名の人物が多かったのか。
いや――冷静に考えて後者は有り得ないだろう。色々とおかしいリスト内でも一際目立つ、超刃セイバーZ(城島リョウ)の字がそれを示している。
城島リョウだけなら兎も角として、超刃セイバーZ(城島リョウ)なんてご丁寧に書いている時点で同姓同名の別人という線は消えるハズだ。

「まあでも――俺様的には、なかなか面白いリストだと思うよん。こんな状況じゃなけりゃ、今すぐ会って握手でもしてやりたいモンだが――」

本当にヒーローたちが実在して、会うことが出来るのならその手の番組が大好きなツバキにとっては楽園である。
歴史上の人物やヒーローの名前を大袈裟に笑い飛ばして――大空蓮の名前を再度確認。

「――やっぱりお前が一番気になっちまう辺り、俺様もまだまだってか。なあ蓮、お前ならこんな時、どんな風に動くよ」

果たして彼は本当に参加しているのだろうか?
もしも彼が参加しているなら、どのように行動しているのだろうか?
なんて一瞬だけ疑問が思い浮かんだが――。

「いや――そんなこと考える必要もなかったな。あいつは現代のヒーローだ。たとえ誰が反対しても、嘲笑ってもっ! ―――少なくとも俺様はそう信じてる。
 だから、ま――学校の生徒や俺様の為に、ヒーローらしく世界観測管理システムAKANEと戦うことを選ぶんだろうな」

どうしようもなくバカで、学校でも体育以外の成績が悪くて、だけど誰よりも頼れる幼馴染。
虐められていたツバキを助けて、様々な楽しみを教えてくれた大切な友人。
そしてどんな相手にも果敢に挑み、被害者生徒に手を伸ばす優しい生徒会長。

ツバキが好意を寄せる男、大空蓮はそんな人物だ。

「てことで、俺様が蓮の心配をする必要なんてなっしんっ!
 あいつはあいつのやり方で、俺様は俺様のやり方で――これまでもそうやって、トラブル解決してきたんだ。だから俺はいつも通りお前を信じてやるよ、蓮。
 そんなこんなでツバキちゃんは方針やら覚悟やらなんやら決めたワケなんだけどよ――――そこでコソコソしてるあんたはどうなんだ?」

左手の指を銃のように折り曲げて、大きめの植木鉢へ向ける。
それは一見、何の牽制にもならないただのお遊びのようだが、同時に相手の存在を察知したと伝えるジェスチャーでもあった。
背後から感じる気配については、この部屋についた頃から気付いている。相手から勝手に出てくると踏んでいつでもデイパックの銃を早撃ち出来る準備はしていたのだが――それでも出てこないのだから、こうして合図を送るしかない。
無論、こうしている今も右手はいつでも銃を取り出せるように万全の準備はしてある。これでも警戒心は強い方だ。

「あ――すまねえ、悪気はなかったんだ。ただ何かキミの言ってることが気になって……って、そんなに驚いた顔してどうしたんだ?」
「気配がしたから誰かと思ってみれば――まさかあの結城陽太がお出ましだなんてな。俺様驚いちまって軽くちびりそうだぜ、うひゃひゃっ」
「へ? 俺ってもしかして有名人?」
「序章で打ち切られた伝説の特撮として有名だぜっ、打ち切りマン!」
「ん? 序章で打ち切られたって、なんのことだ?」
「サンライト」

193日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:26:15 ID:K0GQ/Tn60
「それは俺が師匠から貰った名前だ。今はまだ変身出来ないけど、いつか変身出来た時はそう名乗れとか――ってそれはいいや。
 そんなことより、いったいなにがどうなってんだ? 伝説の特撮なんて言われても――あっ、一つ心当たりがあったな」
「心当たり?」
「実は俺、一度だけ世界を移動してんだ。いや、本当は移動というか勝手に連れ去られたんだけど――その時に、似たようなことを言ってる人がいたんだ。
 言われた自分でもよくわかんねェけど、俺はヒーロー番組の主役で一部から人気だから是非アイドルになってくれって――たしか名刺にプロデュース仮面とか書いてあったな」
「ハッ、よりによってあの不審者かよっ!
 あいつは何を考えてあんな変態丸出しのカッコしてるのか理解不能だけど、よく不審者だとか変人としてネットに目撃情報のってるよん」

プロデュース仮面――ヒーローとはまた違う、如何にも怪しげな仮面を被ったスーツ姿の男は、ツバキの世界でもある意味では有名人だ。
神出鬼没でその素性すら知られていないが、第一線で活躍している人気アイドルは実は彼がプロデュースしているだとか、彼にプロデュースされたアイドルは必ず成功するだとか――様々な噂が飛び交う謎の人物である。
何故かある日を境に全く姿を見掛けなくなり、一種のネットアイドルと化していた彼を多くの者が捜索しているが――それでも未だに見つかっていない謎の多い存在である。

(陽太はいつの間にか別の世界に連れ去られて、何故かそこにはプロデュース仮面が存在した。
 そしてプロデュース仮面がいた世界――つまり俺様の世界でサンライトが放送していても、陽太が居た世界ではそんな番組は存在しなかった――ねえ)

俄には信じ難い事象だが、こうして自分もいつの間にか見知らぬ場所に連れ去られているのだから、有り得ないと断定することは出来ない。
試しにじっくりと陽太の瞳を覗きこむが――成る程、彼に嘘を吐いている様子ではない。何せ目の前に佇む陽太の瞳は、ツバキの信ずるヒーロー達と何ら変わらないのだ。これはもう、納得するしかないだろう。

「それで世界を移動? 連れ去られた? まーそんな言い方なんてどーでもいいけど、その世界はどうなってた?」
「見たこともねェ施設や建物の中に、俺の知ってる場所が移されたみたいな感じだった。
 いや自分でも何を言ってるのかわかんねェけど、兎に角本当にそういう場所だとしか言い様がねェんだっ!」

「はぁん。そりゃ流石の俺様でもお手上げだぜ。とりあえず病院行ってこいビョーイン」
「なにおう」
「ま――でも参考にはなったよん。なあ、その世界に住んでいたお前の知り合いとかリストに載ってるか?」
「風祭はやて、織田信長、スライムちゃん、プロデュース仮面――ってはやてと信長はともかくスライムちゃんやプロデュース仮面まで巻き込まれてる可能性があるのか!?」
「今更初めてリスト見たのかよっ! 俺様がくる前はナニしてたんだっ!?」
「スタート地点がこの植木鉢だったんだ、仕方ねェだろっ!」
「完全にナメられてんな、打ち切りくん」
「なにおう!」
「はい、本日二回目のなにおういただきましたー。ぱちぱちぱちぱち、はい拍手〜」

ぱちぱちぱち――大袈裟に盛大な拍手で陽太を罵倒する。
学校では猫を被ることもあったが、実際のツバキはそこまで優等生タイプというワケでもない。
というよりも蓮や少年漫画、その他諸々の影響。そしていつまでも蓮に頼りっぱなしになりたくはない、蓮の力になりたいという精神が、元いじめられっ子の彼をこんな性格にしてしまったのだ。

「それで、どうする? 俺様はAKANEとかいうビッチをぶっ潰して帰るけど、なんならここで俺様と殺り合ってもいいんだぜ」

こんこん――Rの文字が刻まれた首輪を叩いてツバキは挑発する。
もっとも答えは解りきっているのだが、ツバキ的にこういう場面は雰囲気が大切なのである。
何よりこの手の挑発は相手の覚悟を試す最高の手段に成り得る。ここで自分の提示したAKANEを斃すという案に乗らないのなら、それまでだ。

194日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:26:49 ID:K0GQ/Tn60

「俺も戦う。リストにはいのりやラモサちゃんの名前も載ってたし――何より、他の誰かを殺して自分のチームだけ生き残るなんて、俺の師匠が許さねェ!
 これまでずっと皆を護る為に鍛えてきたんだ。師匠は俺を信じて、弟子にしてくれたんだっ!
 だから俺も、AKANEと戦う。――――無関係の人々を巻き込んで好き勝手しやがって、こんな殺し合い許せねェってんだよ!」

グッと拳を固く握り締めるその姿。
それは正しくヒーローのソレであり、ゆえにツバキは陽太を笑ってやった。

「――――上等だ。くははっ、やっぱりお前は俺様の知ってる陽太だぜ。
 ちなみに俺様の名前は愛島ツバキ。未来のヒーローの嫁候補だけど、ま――気軽にツバキ様やツバキちゃんって呼んでもいいよん」
「ツバキか。俺のコトは――もう知ってるんだよな。一方的に知られてるなんて、何か複雑な気分だぜ」
「おいおい。学園で大人気の男の娘に知られてるんだから、胸を張ってもいいんだぜ?」
「男の娘?」
「おう。俺様はおとこのむすめって書いて男の娘だぜ、おにーさん?」
「そっか。はやてといい自称元男の信長といい、何か俺の周りはそういうのばっかり集まるなぁ。俺はもう慣れてるし、性別とか気にしないから別にいいけどさ」

陽太と同じく異世界に連れ去られた風祭はやてと織田信長。
前者は魔法少女タイプの男の娘で、後者は紛れも無い美少女でありながら織田信長――つまり元は男だったと主張している変わった子だ。
ツバキは舌を出してドヤ顔で男の娘宣言したが、陽太にとって男の娘やTSとは身近な存在であり、然程驚くようなことでもないのである。

「はぁん。ま――とりあえずAKANEをぶっ潰す準備しながら、平行世界について調べるとするか。
 もし本当に平行世界なんてモンが存在して、俺様とお前が違う世界だとするなら――そこに鍵があるのがテンプレってな」
「平行世界について調べるって、どうやって?」
「参加者に聞き回るだとか、施設を見学するだとか――色々あるだろ、頭回せよ打ち切りくん。
 それに道具一つでも、案外そういうヒントは隠れてるかもしれないぜ? だって俺様、こんな銃見たことないモンな。くははっ」

ひゅんひゅんひゅん――器用に人差し指で回している銃を一瞥する。
きっとこれはツバキの住んでいる世界に存在しない銃だろう。説明書に対ヴィラン・怪人用なんて書いてあるようなブツが存在するような世界ではない――ハズだ。

「てことでまずは学校探索でもするか。打ち切りくんも俺様と同じ学生だろ?
 もしかしたらこの学校――俺様かお前の学校の可能性もあるぜ、くははっ」

【D-7/学校/1日目/深夜】

【愛島ツバキ@アースR】
[状態]:健康
[服装]:女子制服
[装備]:日輪照らせし蒼穹の銃(日光の充電50%)@アースH
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本:AKANEをぶっ潰す。
1:陽太と一緒に学校を探索する。
2:平行世界について調べる。

【結城陽太@アースC】
[状態]:健康
[服装]:制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3
[思考]
基本:AKANEと戦う。
1:ツバキと一緒に学校を探索する。

【日輪照らせし蒼穹の銃(フィルマメント・ゲヴェーア・ゾンネ)@アースH】
アースHのヒーロー、大空仮面が所持していた対怪人・ヴィラン用の特製銃。
風を弾丸として発射出来る他、太陽の光を充電することでソレを撃ち出すことも可能。
初期の日光充電は50%程度。出力は自分で操作することが出来るが、高出力だとそれに応じて発射までの時間を要する。


                           †

バキリ――何かが壊れる音が響く。
右掌に残ったICプレイヤーの破片を投げ捨て、金髪碧眼の少女が吼えた。

「人間風情がこのライリー様を捕まえて殺し合いしろだなんて、いい度胸じゃねえかクソッタレがッ!」

その瞳に宿されているものは――愛と憎しみ。
相反する二つの感情を有する少女――されど彼女は元♂のオーク最後の生き残りであり。
今では女勇者の肉体を乗っ取ることで、強大な力を得たが――昔は人間に虐げられるだけの弱者であった。
処刑と称して様々な手法で殺されてきた同族の姿も、嫌というほど見てきた。

195日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:27:08 ID:K0GQ/Tn60

されど昔の彼は逆らえなかった。
自分が弱いから。弱者だから、逆らえば死んでしまうと理解していた。
そうしているうちに肉親も、友人も、親戚も――――自分以外のオークは総て討伐という名目で聖十字教会を始めとする人間共に惨殺され、自分だけが残ってしまった。

「聖十字教会のビッチ共を参加者候補にしたことだけは評価してやる。
 けどな――アリシアとボーンマンを巻き込んだ時点で、お前もあいつらと同等の屑だ。覚悟は出来てるんだろうなァ、アカネ!」

かつて孤独だった彼は、仲間意識が強い。
どれほど醜い容姿の骨でも、可憐で弱そうなエルフでも――己が理想の為に共に戦う仲間である。
時には酒を飲み交わし、くだらないことで笑い合い――かけがえのない時間を過ごしている、親友である。

「アリシア、ボーンマン――お前らは必ず、俺様が救ってみせる。だからそれまで、ライリー様を待ってやがれ。
 ……二人が弱いなんて言うつもりはねえけど、絶対に無理だけはするんじゃねェぞ。この俺様が護ってやるから、俺様を――ライリー様を信じろ」

この世は弱肉強食で、弱者が虐げられてしまう理不尽な世界だけれど。
それでもアリシアやボーンマンの存在が、ライリーを力強く支えてくれた。
ライリーは強者となり、人間に復讐をすること力を得た。無力な弱者を救う為に、手を差し伸べることが可能になった。

しかし――取り零してきた命も、両手では数え切れない程に多くて。
強者となったのに、それでも処刑を止められなかった時――ライリーは哀しみに耐え切れず、つい涙を流してしまった。
抵抗することもなく死んでいった弱者の死骸を眺めて、醜い顔を歪ませて嘲笑う人間共――それが堪らなく憎かった。

「はっはっは! やはりバケモノには串刺しが似合う」

人間は嘲笑う。
死体は笑わない。一度死んでしまったものは、もう二度と笑えねえ――。
そして俺様も――――笑えねえよ。あまりにもバカバカしくて、呆れて目から変な汁が出ちまう。

「このバケモノが!」

処刑を止めることには間に合わなかったが――それでも仇を取ることは出来る。
バケモノと罵りながらも逃げ惑う人間共。弱者を散々に虐め抜いて、自分は安全圏で助かるとでも思ってたのかよ――気に入らねえ。
こんな奴らのせいで――何も罪のない命が何百、何千、何万も殺されてるっていうのかよ。
ハッ、やっぱこの世界、どうかしてるぜ――!

「ああそうだ。俺様は――――ライリー様はテメェらの勝手で生み出された化け物だッ!
 バケモノだって罵るなら勝手にしやがれ。でもなァ――俺様にとってはお前ら人間こそがバケモノだぜ。
 こいつは難病で苦しんでる奴らの為に、薬草を届けにきたってのに――それを勝手にバケモノ呼ばわりして処刑だなんて、全く笑えねえ話だよなァ!」

だから俺様は、この醜い劣等共を真っ二つに斬り裂いた。
こいつらみたく悪趣味な処刑をしてもいいが――そんなモンは俺様の魂を穢すだけで、何の得にもなりゃしねえ。
俺様にはアリシアやボーンマンがいるんだ。こいつらのような劣等に成り下がってたまるかっ!
血に塗れた俺様に石ころを投げるクソガキやバケモノだとか、狂人って喚き散らす奴らもいるけど――勝手にしろ。やれやれ、別に無差別的に襲ってるワケじゃねえのに、自分勝手な奴らだぜ。

それにしても、俺様が直々に処刑されたヤツの仇をとってやったってのに――。

「どうしてまだ流れてやがるんだよ、クソが」

一度流れ出した雨は、最悪なことに止む気配がない。
ああ――鬱陶しい。俺様は人間共を殺してスカッとするべき場面だってのに、どうして洪水なんだよ、おかしいだろっ!

「ありがとう、ライリー様」

俺を迎えに来たアリシアが、帰り道でいきなり頭を下げやがった。

「ハッ、何もありがたくないだろうがよ。結局のところ、俺様はあいつを……!」
「あの子は死んじゃったけど――でも、心は救われたと思うんだ。だって、自分が死んだ時に誰も涙を流してくれなかったら、すごく悲しいでしょ?」

涙を流す――だと?

「いやいや! 俺様は泣いてなんてねえから、勘違いスンナ!」
「おやおや、私が死んだ時に号泣して下さったライリー様が怒ってますね。
 あれだけ骨がバラバラになっても平気といったのに、あんなに大泣きしてるライリー様を見て、私は――」「うわバカ、いきなり変なコト言うのやめろバカ!」

ボーンマンのヤツ、あれは内緒って言ったのに……!

196日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:27:31 ID:K0GQ/Tn60

「ライリー様。涙を流すことって、そんなに悪いことじゃないよ。
 ボクはボーンマンみたいに死ぬ死ぬ詐欺が出来ないけど――やっぱり死ぬ時は、ライリー様に泣いてほしいもん。――って、ちょっとわがままか……にゃ?」

びよーん、びよーん。
相変わらずアリシアの頬はよく伸びやがる。

「ハッ、くだらねぇ……」
「ふぇ!? ライリー様、ボクが死んでも泣いてくれ――」
「お前たちはこのライリー様が生きてる限り、死なせてやるかよ。だから俺様を泣かせたいなら、もっと違う方法で泣かせてみやがれっ!」
「う――うん! ボク、ライリー様の為ならなんでもするから、絶対にがんばるよ!」
「あーあ、またアリシアが惚れ直しちまったか? まったく俺様って罪な美少女だぜっ」
「ほ――掘れてなんてないよ!? ほんとだよ!?」


――俺様はあの時、たしかに言ったよな、アリシア。ボーンマン。
だから今は――あの時の言葉を思い出して、俺様を信じてくれ。
弱者だった頃は親族も友人も全員殺されちまったけど――今度こそ絶対に護ってみせる。あいつらだけは、失ってたまるかよッ!

【H-2/森/1日目/深夜】

【ライリー@アースF】
[状態]:健康
[服装]:勇者服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:アリシアとボーンマンを探し、護る
1:AKANEと聖十字教会を殺す
2:上記以外であれば自分から襲うつもりはないが、襲ってくるなら容赦しない


そうして同時刻、二人の元いじめられっ子は行動を開始した。
一人は幼馴染は生き残ると信じ、殺し合いを打破する為に。
一人は今度こそ奪われるだけの弱者ではなく、他者に手を伸ばせる強者として仲間を護り抜く為に――。

197 ◆laf9FMw4wE:2015/05/22(金) 20:28:12 ID:K0GQ/Tn60
投下終了です
投下が遅れてしまい誠に申し訳ございません

198名無しさん:2015/05/22(金) 22:16:45 ID:tSSzEIIM0
投下乙です。
お、ガチ男の娘きた。性転換多いけど男の娘はツバキが初だな。
君の相方の蓮は不参加なんだと伝えてあげたい。
そして結城くん。他のアースH面子とのかかわりがきになるなあ

ライリーは意外だったなあー。
対主催にカテゴリ分布していいのか迷うなあー


あとあと。
仮投下スレでもありましたが、予約スレに面子変えたときは一報を入れた方がいいですよー

199名無しさん:2015/05/23(土) 21:06:56 ID:US4FZGcU0
投下乙です

>世界の座標軸からみえるのは
主催系女子〜!茜おねーさんはかわいいなあ。何気に言語変換に言及してくれたのも適役って感じで嬉しい配慮
自分を参戦させる自分には、そりゃあキレるよね…!
いっぱいいたレイ・ジョーンズはEZジョーンズが参戦。元SWAT隊員はこのロワだと強キャラの部類かも?
ある意味世界をよく知る二人が組んでどう物語を動かすか

>日輪纏いしヒーローと二人の元いじめられっ子
俺様系男の娘、いいよね…!にしても性別が迷子なキャラが多いぜ!
アースC出身の陽太くんがもはやそのへんに慣れちゃってるというのは確かにそうなんだけど吹いた
世界移動したことでアースRだと打ち切りになったってのも面白い。熱いコンビなので頑張ってほしいね
変わってライリーも予想外に正義っぽい過去をお持ちだった。こりゃあ仲間も集まるわ


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板