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変身ロワイアルその6

86180 YEARS AFTER(5) ◆gry038wOvE:2018/03/09(金) 18:46:24 ID:H/vzgqzw0

『――ここは、おそらくかつて殺し合いのオープニングが告げられた場所よ。七十名近くが一気に収容できるような広い場所は、マレブランデスの内部にはここしかなかったわ』
「つまり、数十名の運命を一斉に変えた場所か……」
『ロマンのある言い方をするわね』
「よせ。血なまぐさいロマンは好めない」

 ロマンなどというのは――あまり言いたくはない言葉だが――不謹慎に聞こえた。
 いくら八十年前の出来事であれ、いまはその出来事の渦中にあった少女の曾孫が隣にいる。おれ自身、ロマンチストのつもりはない。現実にここで数十名の運命が纏めて打ち砕かれたのだから、それを言っただけだ。
 とうの花華の顔色は、おれには暗闇で見えなかった。電気のひとつでもあれば良いが、ほとんど暗闇だ。まあ、辛うじてうっすらと何かが見える程度には光があり、真の闇ではないようだった。彼女がただ淡々としているようなのを見ておれは安心した。

 ――ふと、そんな花華がおれに声をかけた。

「探偵さん、あそこ……誰かいます……」

 片腕をゆっくりと上げたのがぼんやりとわかった。花華が指をさしたらしい方を、おれは目を細めて見つめた。
 その先には、気配だけがあった。おれは即座に構えた。
 そこにあるのが――あるいはいるのが、何なのかはわからなかった。
 しかし、前方から物音が立ったのが聞こえた。

「――」

 ……そう、誰かが闇の中で動いている。
 花華が先にそれに気が付いたのは意外だったが、人か獣か、とにかくその闇の中には何か見えない物が声を動いていた。
 こちらに気づいてさえいないのか、敵意も害意も感じる事はない。ただ、その存在が不透明すぎておれは警戒するしかなかった。
 可能性が高いのは、もう一人の“彼”であるか、あるいは、響良牙であるかという事であった。
 そして、そのいずれであっても、おれにとって敵であるのか否かが、即座にはわからなかった。

「――花華、おれの後ろへ」

 おれは、花華を誘導した。
 敵であるのかわからないという事は、敵である事を前提に行動して損はないという事だった。臆病に見えるほどに警戒を怠らない事が、おれにとっては生き方の定石だった。

 それは時に周囲にとって滑稽に見えるだろうが、間違いなく何度もおれの命を救ってきた。
 問答無用で殺されるくらいなら、笑われるくらいの方が良い。
 誘導しても後ろに立ってはくれない花華を退けるように前に立って、彼女の肩を抑えると、おれはちょっとずつ足を後ろへやった。上手い具合に相手の居所を見つめつつ、再び外へのドアを探していく。

「――探偵さん」
「この闇の中だ。光があるなら良いが、闇の中は初対面と挨拶するには向かない」
「……ええ。ただ、ここにいるのは私たちの他に、あとはHARUNAさんが呼んだもう一名と、響良牙さんの二人だけのはずですから……」
「だとするなら前者だが、きみの疑う通りHARUNAがまったくの嘘つきで、この世界の悪魔や魔獣に餌をやりに来たのなら、おれたちに襲ってくるかもしれないな」

 おれは、皮肉めいた言葉を返してしまった。
 すべての情報をHARUNAに依存している以上、そうとも言える。ここが怪物の檻で、おれたちはそこに餌として放り込まれているかもしれない。
 それはわからないし、だとするのなら逃げなければならないだろう。

『失礼ね。――あそこにいるのは、間違いなく“彼”よ』

 すると、HARUNAの声が響いた。彼女は淡々と、ただ少し呆れたように言った。目の前でこう言われて不機嫌にはなったかもしれない。
 おれは不意の言葉に少し心臓を高鳴らせる。

『ねえ、この中を彷徨って迷子にでもなったのかしら。それとも、別世界での父親がいた場所を探索しているの――?』

 今度の言葉は、おれたちではなく、そこに立っている“彼”とやらに向けられた言葉だったようだ。
 ただ、おれたち全員に聞こえるように念話をかけているのは間違いなかった。
 そこにいる者の正体を、彼女は直後に告げてくれた。





『かつての殺し合いの主催者、カイザーベリアルの息子――――朝倉リク』








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