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中学生バトルロワイアル part6

1 ◆j1I31zelYA:2013/10/14(月) 19:54:26 ID:rHQuqlGU0
中学生キャラでバトルロワイアルのパロディを行うリレーSS企画です。
企画の性質上版権キャラの死亡、流血、残虐描写が含まれますので御了承の上閲覧ください。

この企画はみんなで創り上げる企画です。書き手初心者でも大歓迎。
何か分からないことがあれば気軽にご質問くださいませ。きっと優しい誰かが答えてくれます!
みんなでワイワイ楽しんでいきましょう!

まとめwiki
ttp://www38.atwiki.jp/jhs-rowa/

したらば避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14963/

前スレ
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1363185933/

参加者名簿

【バトルロワイアル】2/6
○七原秋也/●中川典子/○相馬光子/ ●滝口優一郎 /●桐山和雄/●月岡彰

【テニスの王子様】2/6
○越前リョーマ/ ●手塚国光 /●真田弦一郎/○切原赤也/ ●跡部景吾 /●遠山金太郎

【GTO】2/6
○菊地善人/ ●吉川のぼる /●神崎麗美/●相沢雅/ ●渋谷翔 /○常盤愛

【うえきの法則】3/6
○植木耕助/●佐野清一郎/○宗屋ヒデヨシ/ ●マリリン・キャリー /○バロウ・エシャロット/●ロベルト・ハイドン

【未来日記】3/5
○天野雪輝/○我妻由乃/○秋瀬或/●高坂王子/ ●日野日向

【ゆるゆり】2/5
●赤座あかり/ ●歳納京子 /○船見結衣/●吉川ちなつ/○杉浦綾乃

【ヱヴァンゲリヲン新劇場版】2/5
●碇シンジ/○綾波レイ/○式波・アスカ・ラングレー/ ●真希波・マリ・イラストリアス / ●鈴原トウジ

【とある科学の超電磁砲】2/4
●御坂美琴/○白井黒子/○初春飾利/ ●佐天涙子

【ひぐらしのなく頃に】1/4
●前原圭一/○竜宮レナ/●園崎魅音/ ●園崎詩音

【幽☆遊☆白書】2/4
○浦飯幽助/ ●桑原和真 / ●雪村螢子 /○御手洗清志

男子11/27名 女子10/24名 残り21名

81 ◆Ok1sMSayUQ:2014/02/07(金) 20:34:40 ID:TE2x/vZM0
投下終了です

82名無しさん:2014/02/07(金) 21:02:24 ID:AouEF8P60
投下乙です。

修羅の道を自分で選んで歩いているのに
選んだ本人が一番苦しんでるというのが切々と伝わる
果たして海洋研究所に降るのは、血の雨か涙の雨か…

83名無しさん:2014/02/12(水) 21:59:10 ID:U8T1c3Lw0
投下乙です

ロワだからなあ
蠱毒の中の地獄に曝された結果だわなあ
だがまだ果てではないはず
救いは訪れるのだろうか…

85名無しさん:2014/03/15(土) 00:25:53 ID:z6lJDEn60
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
88話(+2) 21/51(-0) 41.2(-0.0)

86名無しさん:2014/03/22(土) 21:29:52 ID:z20cxyPI0
予約きてるな

87名無しさん:2014/03/22(土) 23:01:21 ID:4SVm960.0
一ヶ月半ぶりだなぁ

88 ◆jN9It4nQEM:2014/03/26(水) 23:36:16 ID:t8Y9JLNo0
予約分、投下します

89最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/26(水) 23:38:33 ID:t8Y9JLNo0
常磐愛と宗屋ヒデヨシの戦いは、膠着していた。
蹴り、掌底とバラエティに富んだ攻撃を繰り出している常磐を、ヒデヨシは嗤って躱す。
見切っているのに、何の反撃もしないといった舐めた姿勢を彼は見せ続ける。
どれだけ踏み込んでも届かない攻撃に歯痒い思いをしながらも、常磐は攻撃を続行した。

「よく見ると、大したことねぇな……オレでも躱せるぜ。ぶっちゃけアンタ、弱いだろ」
「ッ! 舐めるなっ!」

放った蹴りの一撃は全てギリギリの所で躱され続け、徐々に常磐の頭には焦りが生まれていた。
このままだとジリ貧で不利になる。
だが、思いとは裏腹に戦況は悪化していく一方だった。
連続した攻撃を繰り出すことによる疲労、事あるごとに紡がれる口八寸。
一向に閉じることがない彼の口からは挑発、嘲笑といったこちらの心情を逆撫でするものばかりだ。
抱いた決意が揺らぎ、動きが鈍くなる。
彼の言葉によって、冷静さを幾分か失った攻撃は単調になり、相手に付け入る隙を許していた。
ああ、これはやばい兆候だ。緩みかけた綻びを無理矢理に縫い合わせ、常磐は一心不乱に攻め続ける。
誇れる自分でありたい。胸に湧き出る思いを燃料に、常磐は足を前に踏み込んだ。

「負けられない、あんたには絶対!」

ヒデヨシが真正面から戦うタイプではないってことは大体は察知できる。
だからこそ、自分達に対して情報で撹乱するといった戦法を取ってきたのだろう。
身体能力も、積み重ねてきた経験も自分より大したことないはずだ。
そうに決まっている。こんな下種野郎よりも、自分は“かわいそう”なのだから。

「悲劇のヒロインぶってるんじゃねぇよ。そういうの、ぶっちゃけ気持ち悪いぜ?」
「うるさいっ、うるさいっ!」

動いた足は空を蹴り抜くだけで、ヒデヨシには届かない。
それは、誰が見てもわかる当たり前のことだろう。
自分の感情も抑えれない未熟な女子中学生の癇癪が、彼に届くはずもない。
常磐に比べて、ヒデヨシはバラすことが不可能なぐらいに固まっている。決意も、想いも、行く末も!
凝り固まった意志は強く定まっているのだから。

90最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/26(水) 23:42:16 ID:t8Y9JLNo0

「うるさいのは、お前の方だと思うんだけどな」

振り絞られたヒデヨシの拳を知覚するまでもなく、衝撃が常磐の腹部を貫いた。
攻撃の隙間をすり抜けた一撃は重く、身体を大きくのけぞらせる。

――ああ、アンタは弱っちいな。

侮蔑の情を受け、常磐は更なる激情に身を焦がす。
絶対、負けてなるものか。せめて、勢いだけは優勢を取り続けていたい。
口から吐き出された息を無理矢理飲み直し、常磐は反撃の回し蹴りを放つが、軽々と避けられる。

「というか、舐めるなって言うけどさ。ぶっちゃけそれさぁ、こっちのセリフだぜ?
 アンタなんか携帯見ながらでも余裕だっつーの。へへっ、どうしたんだよ、その顔は。ムカついたか、三下?」

こんな下種野郎に遊ばれている。いつでも、殺すことができるのに手心を加えられている。
それに気づいた時、常磐の平常心はもうどこにも残っていなかった。
ふざけるな、黙れ。心中に生まれた燃え滾る激情を蹴りに込める。

「ぶっちゃけ、楽勝だよなぁ」
「ふざ、けんなっ!!!!!」

眼前の敵をぶっ飛ばすことしか頭に入っていない常磐は、ヒデヨシが手に握りしめている“携帯電話”に気づかない。
少し考えればわかるはずだ。今までの不自然な点からして、ヒデヨシが自分と同じく日記所有者だということを。
同じく日記所有者である常磐ならば、気づく可能性は格段に上がるのに、何故気づかないのか。

「何で、当たらないのよッッ!」

理由は簡単だ。今の常磐がそんな些細なことに目を向けられないくらいに感情が揺れ動いているからだ。
焦燥感、怒りといった強い奔流に身を任せている常磐が、未来日記なんて想像するはずもなく。

91最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/26(水) 23:45:15 ID:t8Y9JLNo0

「ははっ、見え見えだっての!」

こうやっていいようにあしらわれ、嘲りと嘘に塗れて、堕ちていく。
弱いが故に、奪われる。力がないから、何にも持っていないから馬鹿にされるのだ。
繰り出した足に嘲りが絡みつく。瞳に浮かぶ落胆が怒りを増幅させる。
僅かなズレ、ほんの少しのざわめき。
常磐に纏わり付く重りが、動きの精細さを奪い取っていく。

「んじゃ、そろそろオレの願いの為に――消えてくれ」
「冗談っ! 絶対、アンタに殺されてなんかやらないんだから」

加えて、もう一つ。これは根本的な問題だ。

――ヒデヨシは、常磐よりも本当に弱いのか?

考えて見れば簡単な疑問だが、突き詰めると答えには苦しむはずだ。
常磐自身、こんな卑怯な戦法でしか戦えない下衆野郎より弱いはずがないと思っているが、果たして実際の所はどうなのだろうか。
宗屋ヒデヨシが常磐愛より地力で弱いと、誰が決めた?
彼の力が彼女の力より劣っていると、誰が思っている?
よくも知らない猿顔野郎と侮っている彼女の方が、本当は劣っているのではないか?
重なる疑問を全部蹴り捨てて、常磐は愚直に蹴撃を繰り返しているが、現状を見ていると一目瞭然である。

常磐愛は、宗屋ヒデヨシよりも弱い。

認めたくないと目を逸らしていた事実が、彼女を蝕んでいく。
常磐はヒデヨシに押され気味なのだから、弱いと認識されても仕方がないのだ。

「……また、躱された!?」

確かにヒデヨシは弱い。強さのランク付けを行っても、下から数える方が早いだろう。
しかし、この世界は何でもありが推奨されている殺し合いだ。ヒデヨシが弱いという事実は、策と道具で簡単に覆せることになる。
加えて、弱いとは言っても、彼は元の世界でも単独でロベルト十団から無傷で逃げおおせるぐらいはできる“弱者”だ。

92最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/26(水) 23:46:56 ID:t8Y9JLNo0

「ぶっちゃけ、全然ッ怖くねぇよ! 悔しいか? なぁ、悔しいかよ!」

あくまで弱いというカテゴリーは元の世界で生まれた能力者の範疇であり、この殺し合いには当てはまらない。
また、今のヒデヨシは殺人、絶命に対して恐怖も迷いもない。
どうせ、汚れてしまった手なのだからと割り切りも覚えてしまった。
ここで自分が死ぬことになったとしても、植木がまだ生きている。
なら、捨て身の突撃といった選択肢も増え、戦術にも幅が広がるのだ。

(ああもうっ! このままだとやられる! どうにか、どうにかしないと!)

追い詰められつつある現状に常磐が頭を回している時。
携帯をちらっと見ていたヒデヨシの顔つきが変わる。
違和感が過った。ただ、携帯を見るだけで? インターネットも繋がらないこの世界で、何を焦る必要がある?

(未来日記……!? そうか、だから!)

そして、その答えに辿り着いた時はもう遅かった。
ヒデヨシは足を翻し、背を向けている。
駄目だ、行かせてはならない。未来日記で何を読み取ったかは知らないが、きっとろくでもないことにきまっている。
気づいてしまったからには、絶対にくい止めなければ。
常磐は、彼に追いすがろうと地面を勢い良く蹴り出した。
脚力はこちらが有利、すぐに追いつけると確信し、前を向くが。

「おいおい、背中を向けたからって安心してんじゃねーよ」

いつの間にか振り返っていたヒデヨシの手にはコルトパイソンが握られ、銃口は常磐に向いていた。

……ヤバイ!

常磐は迫る危機感に動きを止め、横へと跳躍する。
なりふり構わずの急な方向転換だ、当然彼へと追いつけはしない。
常磐が態勢を立て直し、立ち上がる頃にはヒデヨシの姿は遠くに霞み、浦飯達が戦っている方角へと、駆け出していた。



######

93最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/26(水) 23:50:02 ID:t8Y9JLNo0
      

  
「っらあああああっ!」

一方、植木と浦飯の争いは激しさを増していた。
互いに元の世界では死闘を経験した猛者同士、戦況の天秤はどちらにも揺れていない。
浦飯は木々の群れを殴り飛ばしながら、距離を詰めようとするが、それを容易にさせる程、植木は鈍くない。
次々と生み出されていく木々は、浦飯の動きを阻害する。

「畜生っ、邪魔すんじゃねー!」
「邪魔はそっちだろ!」

木々を潜り抜け、拳を繰り出した浦飯に対して、植木もクロスカウンター気味の拳を一発。
吹き飛んでは立ち上がり、再び接敵。
このやり取りを幾度繰り返しただろうか。
互いの身体はもうボロボロで、いつ倒れてもおかしくない状態だった。

「ふざ、けんなッ! アイツはどうしようもねークソ野郎なんだぞ!」
「そんな訳あるか! ヒデヨシは、オレの仲間だ。臆病な所もあるけれど、ここ一番って場面では勇気がある奴なんだ!
 オレの仲間が殴られようとしてるのに、黙って見ている訳がないだろ!」
「いい加減気づけっての! あんな奴護る必要ねーんだよ!」

何度言葉を交わしても、二人の想いは平行線だった。
浦飯が言葉を投げかけても、考えは変わらない。
植木がヒデヨシと浦飯達のどちらを信じるかといったらそれは断然ヒデヨシの方だ。
加えて、植木は浦飯達がヒデヨシに危害を加えている場面をばっちりと目撃してしまっている。
その後の言葉も、売り言葉に買い言葉。
元より、口が上手いとはお世辞にも言えない浦飯が説得を行うのは無理な話だ。
これでは、植木でなくとも浦飯達を信用することは厳しいだろう。

(どうすればいい!? このままだとジリ貧だ! それに、常磐だってヤバイ!
 宗屋がどんな手を使ってくるかわかんねーんだ、早く駆けつけねーと)

そして、植木だけではなく浦飯も焦っていた。
宗屋ヒデヨシは危険だ。身体的能力に関してはそこまで重を置いていないが、精神性、頭脳面では間違いなく自分達よりも異質だ。
殺しに躊躇がなく、平然と嘘も吐く。おまけに頭も回るとなっては厄介だ。
それらを真正面から打ち破れる力を持っている浦飯ならば、特段に注意をする必要はないが、常磐は違う。
彼女は浦飯と違ってあくまで普通の一般人だ。ちょっと、格闘技をかじってるとはいえ、大きなアドバンテージにはならない。

94最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/26(水) 23:54:40 ID:t8Y9JLNo0

(コイツを倒さねーと駄目なんだ。本気でいかなきゃこっちがやられる)

故に、“手加減”はもうできない。
ちょっと気絶させとこう、後々ダメージにならないようにしようといった手心を加えた戦い方では植木を倒せない。
本気で戦う。戸愚呂弟と死闘を演じた時と同じく、後先を考えずに。
しかし、それでいいのか。そんな戦い方をして、最悪の結末は避けれるのだろうか。

(やるしかねーってことはわかってっけどよぉ)

そうしないと切り抜けられないのは、浦飯自身わかっている。戦闘に関して優れた才覚を持っている浦飯だからこそ、気づいているのだ。

――このままだと、宗屋にしてやられたままだ。

常磐一人でヒデヨシを抑え切ることはたぶん難しい。未知数の実力を持つ彼を相手にして、常磐が無事に勝ち残れる可能性は低いだろう。
それに、最初に一撃こそ入れたが、あれは誘導されていたものであって実力ではない。
あまり長い時間を植木に取られてると、常磐はヒデヨシにやられてしまう。
だからこそ、ここで覚悟を決めなければならない。
何を選んで、何を斬り捨てるか。迷っていては遅いのだ。

「届かなかったチャンスを、俺は今度こそ掴みとる。どうしようもなく畜生な諦めを」

あの時は足が竦んで届かなかった。
前原圭一を、ぶん殴ってでも正気に戻すべきだったのに。
大事な仲間が狂っていくのを、ただ見ていただけだった。
後悔、呆然、狂気、崩壊。
全てが終わった後に悩んで苦しんで、後になってこうすればよかったと思い願う。
そんな最低な結末はもうコリゴリだ、ぶん殴って捨てちまえと吐き捨て、浦飯は走り始める。

「ぶっ壊す!!!!!」

ここで植木を撃破して、常磐を助けることに意志を傾けることこそ、最短の道だと信じ抜く。
仲間の為に、この比類なき両腕を本気で振るうことで、後悔を殴り飛ばせるのだと。
愚直に想いを貫けば見える世界が、きっと最良。
その果てに見えるのが――!

「俺のッ、未来なんだ!!!」

怒号と共に、生み出された木々を全力でぶん殴る。
たったそれだけの動作で、木々の群れはへし折れ、宙を舞い、道から排除されていく。
拳を振り上げ、薙ぎ払い、時には足で蹴り倒す。
走る。ただひた走る。
己が望む最良を今度こそ間違えぬように。

「だから、ここで足止めはゴメンだぜ!」

もう、迷わないと誓いを重ね、植木へと視線を向ける。
その先の道に辿り着く為にも、お前は邪魔だ。ここで大人しくぶっ倒れろ――!

95最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/26(水) 23:59:12 ID:t8Y9JLNo0

「霊丸ッッッ!」

そして、彼は甘さを捨てて撃つことを決めた。
霊気を溜め、銃口をかたどった指先から解き放つ原初にて最強の必殺技、霊丸を。
正直、これを撃つのはためらった。
当たれば、死ぬのではないか。尽きない不安は今も脳裏をよぎっている。
それでも、浦飯はもう決めてしまった。
今は何としても常磐を護らなければいけない、と。
幸い、植木のことは戦ってみて大体の力量は知ることが出来た。
身体は頑強で、自分の仲間達とも遜色はない。
ならば、霊丸が当たったとしても早々に死ぬことはないだろう。
そう“思いたいだけ”だということに気づかないまま、浦飯はトリガーを引いた。

「なっ……」

躱せない。植木に迫る霊丸は、レベル2の能力を使う隙さえ与えなかった。
木々を貫きながら疾走する霊丸は寸分の狂いなく植木へと直撃するだろう。

(これで、切り抜けられる!)

しかし、浦飯の判断には“足りなかった”部分が存在する。
植木耕助が、霊丸を跳ね返すことでもなく。
霊丸が予想だにしない軌道を突然描き、狙いが外れてしまうことでもない。
そう、決定的に足りない部分が一つ。





「あ、ああっ」
「うえ、き……ぶじかよ」





彼を庇う第三者が現れる可能性を、全く度外視していたことだ。

96最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/27(木) 00:02:22 ID:iIJxFi3Q0
           




浦飯達は、宗屋ヒデヨシの目的を“自分以外を殺して回るマーダー”だと誤解したままだった。
彼の方針は全てをチャラにすることであり、殺して回ることはあくまで手段だ。
そして、その願いを託す事ができる仲間がいるなら、ここで自分が礎になっても構わない。

『植木が攻撃を食らって倒れちまう。血反吐を吐いて、今にも死にそうだ!』

無差別日記から読み取った未来を変える為にはこの方法しかなかった。
自分と植木のどちらか一方しか生き残れないならば、ヒデヨシは身体を張って植木を護るしかない。
いつだって前を向いて、願いを叶える強さを持っている植木が生き残る方が願いを叶えるにはベストな選択だろう。
加えて、浦飯達は知らなかった。
本来の彼は仲間思いだという事実も、彼が未来日記により植木の危機を予想したらどのような行動に出るのかも――何にも知りやしない。

「ヒデヨシィィィィィィィィイイイイイイイ!!!!!!!」

決着は、“彼”の願った通り、最良の結末だった。
浦飯の放った霊丸が、ヒデヨシに突き刺さり、血反吐を撒き散らしながらふっ飛ばした。
植木と違い、あくまで肉体的には一般人のヒデヨシに霊丸が直撃したらどうなるか。
想像するまでもないことだ。ヒデヨシの負った傷は、致命傷である。

(違う)

植木の絶叫が、響く。涙を混じらせた声が、自分のやった最良を突きつける。
これが自分が選んだ最良の選択肢。
そうであるはずなのに。

(違うんだ)

何故、こんなにも呆然としているのだろう。
遠くから駆け寄ってくる常磐の姿も、今は霞んで見える。

97最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/27(木) 00:07:05 ID:iIJxFi3Q0

(違うだろうが)

救いようもないゲス野郎が、仲間を護った事実が信じられないから?
もしかすると、致死の傷を負わしてしまったから?
そんな、どうでもいいことではない。
気づいてはならない可能性があるはずだ。
考えろ、考えろ浦飯幽助。

(俺は、俺達は……勘違いをしていたんじゃないのか)

浦飯は知っている。
暗黒武術会時、ドクターイチガキというゲス野郎に操られ、望まぬ戦いを強いられた武闘家達を。
本来の彼らは仲間思いで、高潔な意志を持っていたけれど、イチガキによって思考を操作され、殺人マシーンと化していたのだ。
故に、その経験から彼は思いついてしまった。



宗屋ヒデヨシは、何らかの思考誘導、洗脳をされていただけという可能性に。



無論、あくまで可能性の話だ。
イチガキの時は操られた人間が機械的であったので、今回のケースとは状況が違う。
しかし、裏を返せば可能性が当てはまってしまう。
死の間際に正気を取り戻して仲間を護る。全くありえないと断ずることを浦飯はできなかった。

「お前ら……! 殺すつもりはないなんて嘘じゃねぇか! 少しでも信じようと思ったオレが、間違ってたのかよ!」

ヒデヨシに当てるつもりなんてなかった、そんな言い訳が通じるわけがない。
生き返る可能性があるといった仮定をしても、浦飯がヒデヨシを追いやったという事実は消えやしないのだから。

「どういうことだよ、これは」

そして、最良は更なる最良を呼び寄せる。

「常磐……テメーら、やってくれんじゃねーか。徒党を組んで殺し回ってんのか? よく考えたもんだな。
 あんだけ絞られたのによ、まだ天使の真似事をやってるなんて……ホント、救われねー奴だな」
「ちがっ、違う!」
「今更弁明か? ざけんな。ここにいる植木はオレの友達だ。
 どう見ても、テメーらが襲ってきたとしか思えねーっての。
 つーか、友達を襲っている奴等を信じろってか? 冗談はやめてくれよ、全然笑えねえ」

仲間を助けるべく駆けてきたのだろう、息を切らしたその姿は怒りで包まれていた。
菊地善人が鬼のような形相で睨んでいるのを、浦飯達はただ見つめるしかできない。

「植木、無事か」
「オレは大丈夫だけど、ヒデヨシが!!」
「ああ、わかってる。一旦退くぞ、こいつらから離れて、コイツを治療する。殿は任せとけ」

このまま逃してしまったら駄目だ、対立が決定的になってしまう。
二人は理性がそう告げているにも関わらず、彼らが逃げていくのを追うことはできなかった。
実は操られていた可能性があって間違って殺したかもしれませんと、どんな面で言えばいいのか。

「は、ははっ」

それ以前に、今の状況で反論をしても相手を逆撫でするだけだ。
賽は、もう投げられたのだ。対立はどう振る舞っても埋めきれない溝となって、彼らを分かつ。
彼らの真っ直ぐな思いは、どんな言葉を使っても植木達には受け入れられないだろう。

「俺……どうしようもねぇ人殺し、じゃねーか」

拭っても拭っても取れない罪の汚れが、彼らを地獄へと落としていく。



######

98最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/27(木) 00:08:52 ID:iIJxFi3Q0
    


手遅れだった。菊地の目から見ても、ヒデヨシの状態は重篤だった。
血を口から吹き出し、息も切れ切れ。どう見ても、もう助からない。

「ヒデヨシ、起きろよ、ヒデヨシ……」

何度も何度も植木は声をかけるが、ヒデヨシの反応は血反吐を吐くだけだった。
浦飯達から離れたはいいけれど、治療道具なんてある訳がない。
病院もここからでは遠い。加えて、治療と言っても植木達は医者ではない。
このままヒデヨシの命が消えていくのを見ることしかできないだろう。
冷静な頭脳は、彼らに諦めを囁いていた。

(畜生……ッ! オレがもっと早く駆けつけていたら……!
 碇も、神崎も、コイツも! どいつもこいつも手に届かねぇのかよ!」

唇を噛み締めて、菊地はそっと腰を下ろす。
素人目から見ても、手遅れだ。ならば、最期ぐらいは植木と落ち着いて話させてあげたい。
全身を朱に染めたヒデヨシをそっと地面に横たわらせ、植木は涙を拭う。
拭っても止まらない涙を必死に擦って、無理矢理笑顔を作る。
最後ぐらいは笑ってヒデヨシとお別れをしたい。そして、ありがとうと言いたい。
彼の献身に礼を言わなくては植木は後悔しきれないから。
 
「うえ、きィ……」
「ヒデヨシ! ありがとな、オレ……助けられちまった」
「ぶっちゃけ、オレの方が、植木に……助けられてるっての。今更、だろ」
「オレがっ、オレがヒデヨシの分まで頑張るから! だから、もう……いいんだ……!」

握られた手の感触が、薄い。開けた目の視界は殆どが黒く、植木が何処にいるのかさえわからない。
けれど、まだ生きている。自分の意志は植木に伝えることが出来るのだ。
ならば、最後に頼まなければ。
全部が終わった後、チャラにしてくれ、と。
だけど、悲しいことに口が一言述べる程度の力しか残っていない。
自分の願い事を彼に託すことはできないだろう。

(ま、大丈夫だろ。植木なら、きっと全てをチャラにしてくれる。いつだって前を向いている植木なら……。
 どんな形であれ、元通りにしたいって願うのは間違いなんかじゃねぇんだ。だから、オレはオレのままでこの選択を選んだ。
 ぶっちゃけ、後悔なんかしてねぇんだよ、可能性がまだ残っている限り、オレは生きていける)

それでも、ヒデヨシは信じている。いつか、植木が全てをチャラにできるといった事実に気づく時、きっとまた会える。
だからこそ、ここで言う言葉は一つだけ。
植木に頑張れとエールを送る激励を込めて。

99最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/27(木) 00:12:34 ID:iIJxFi3Q0

「植木。わりィ……後は、任せた」

最後に顔をほころばせ、ヒデヨシは眠るように動かなくなっていった。
そこに残ったのは一人の勇気ある少年の死体。
これこそが、宗屋ヒデヨシが選んだ最良の選択肢。
自分の願いを託すことができる仲間を生かすことで、先の道を切り開く。
きっと、植木ならば――全てをチャラにしてくれる。
だって、自分と植木は“仲間”なのだから。
その想いだけは、誰にも否定させやしない。

「クソッ、クソぉ……! ヒデヨシィ……」
「植木……」

また一人、仲間になれたはずの参加者が死んだ。
植木が仲間の死を悲しんでいる間、菊地はこれからの展望について考える。
最初は植木と杉浦を探して綾波達へと合流する手はずだったが、今では不可能に近い。
これだけ時間が経てば、綾波達も移動しているはずだし、杉浦の居場所は今も不明だ。
南下は無理だ。こちらの戦力が乏しい以上、浦飯達がいる南を闊歩するには心許ない。
幸いのことに、綾波達は複数で行動している。ならば、自分達と違ってそう簡単に撃破されることもないだろう。

(つーことは、オレらが目指す場所は……北か。海洋研究所辺りがいい目星か? 杉浦もそこに逃げ込んでいるとラッキーなんだけどな)

拙い頭脳を総動員して、菊地達は進まなければならない。
いつか、彼らにもリベンジをして、踏み越えてみせる。
最良の選択肢を選び切って、勝ち残るのは――自分達だ。
曇りのない決意を胸に、天高く右手を伸ばす。



だァれもかれもが踊らされていることを知らずに。



見えない観客席に座る誰かが、ニタリと嗤う。



【宗屋ヒデヨシ@うえきの法則 死亡】
【残り 20人】



【E-6/F-6との境界付近/一日目 夕方】

【常盤愛@GTO】
[状態]:右手前腕に打撲 、全身打撲
[装備]:逆ナン日記@未来日記、即席ハルバード(鉈@ひぐらしのなく頃に+現地調達のモップの柄)
[道具]:基本支給品一式、学籍簿@オリジナル、トウガラシ爆弾(残り6個)@GTO、ガムテープ@現地調達
基本行動方針:認めてくれた浦飯に恥じない自分でいる
1:――――。
2:浦飯に救われてほしい
[備考]
※参戦時期は、21巻時点のどこかです。
※幽助とはまだ断片的にしか情報交換をしていません。
※パンツァーファウストIII(0/1)予備カートリッジ×2、
基本支給品一式×5、『無差別日記』契約の電話番号が書かれた紙@未来日記、不明支給品0〜6、風紀委員の盾@とある科学の超電磁砲、警備ロボット@とある科学の超電磁砲、
タバコ×3箱(1本消費)@現地調達、木刀@GTO、赤外線暗視スコープ@テニスの王子様、
ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版 、手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則 が目の前にあります。

100最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/27(木) 00:13:28 ID:iIJxFi3Q0

【浦飯幽助@幽遊白書】
[状態]:精神に深い傷、貧血(大)、左頬に傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、血まみれのナイフ@現実、不明支給品1〜3
基本行動方針: もう、生き返ることを期待しない
1:――――。
2:圭一から聞いた危険人物(金太郎、赤也、リョーマ、レイ)を探す?
3:殺すしかない相手は、殺す……?

【E-6/一日目 夕方】

【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:全身打撲、仲間を殺された怒り
[装備]:探偵日記@未来日記
[道具]:基本支給品一式×3、遠山金太郎のラケット@テニスの王子様、よっちゃんが入っていた着ぐるみ@うえきの法則、目印留@幽☆遊☆白書
    ニューナンブM60@GTO、乾汁セットB@テニスの王子様
基本行動方針:絶対に殺し合いをやめさせる
1:自分自身を含めて、全員を救ってみせる。ヒデヨシを殺したあの二人に対しては……?
2:学校へ向かい、綾波レイを保護する。
3:皆と協力して殺し合いを止める。
4:テンコも探す。
5:浦飯達を許すつもりも信じる気もない。
[備考]
※参戦時期は、第三次選考最終日の、バロウVS佐野戦の直前。
※日野日向から、7月21日(参戦時期)時点で彼女の知っていた情報を、かなり詳しく教わりました。
※碇シンジから、エヴァンゲリオンや使徒について大まかに教わりました。
※レベル2の能力に目覚めました。
※決して破損しない衣服 、無差別日記@未来日記、コルトパイソン(5/6) 予備弾×30、宗屋ヒデヨシの死体を抱いています。

【菊地善人@GTO】
[状態]:健康
[装備]:デリンジャー@バトルロワイアル
[道具]:基本支給品一式×2、ヴァージニア・スリム・メンソール@バトルロワイアル 、図書館の書籍数冊 、カップラーメン一箱(残り17個)@現実 、997万円、ミラクルんコスプレセット@ゆるゆり、草刈り鎌@バトルロワイアル、
クロスボウガン@現実、矢筒(19本)@現実、火山高夫の防弾耐爆スーツと三角帽@未来日記 、メ○コンのコンタクトレンズ+目薬セット(目薬残量4回分)@テニスの王子様 、売店で見つくろった物品@現地調達(※詳細は任せます)、
携帯電話(逃亡日記は解除)、催涙弾×1@現実、死出の羽衣(4時間後に使用可能)@幽遊白書
基本行動方針:生きて帰る
1:北上する? 海洋研究所が近いが、どうするか。
2:常磐達を許すつもりも信じる気もない。
3:落ち着いたら、綾波に碇シンジのことを教える。
4:次に仲間が下手なことをしようとしたら、ちゃんと止める 。
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
※ムルムルの怒りを買ったために、しばらく未来日記の契約ができなくなりました。(いつまで続くかは任せます)

101最良の選択肢 ◆jN9It4nQEM:2014/03/27(木) 00:14:05 ID:iIJxFi3Q0
投下終了です。

102名無しさん:2014/03/27(木) 01:52:08 ID:.tM278r.0
投下乙です

なんて重い展開(愉悦)
対主催は一難さってまた一難か


俺もこういう胸に来るのが書きたい

103名無しさん:2014/03/27(木) 14:41:25 ID:1rAMHyuI0
投下乙です

ヒデヨシのこれは…うわあ、誤解と喰い違いと憎悪がもうねえ…
対主催同士なのに完全に決裂したらもう…
確かにこれはなんて重い展開(褒め言葉)だ

104名無しさん:2014/03/27(木) 16:03:02 ID:CjhUR6nU0
このまま海洋研究所にいったら七原達にヒデヨシの真実告げられる未来が見える

105名無しさん:2014/03/27(木) 18:22:48 ID:D6R7lDAE0
投下乙です
ヒデヨシおま……最後の最後に何て迷惑な事を…

106名無しさん:2014/03/27(木) 20:34:51 ID:6EH7UwkAO
投下乙です。

浦飯達、植木達、そしてヒデヨシすら誤解したまま。
晴れて悪人はいなくなったのに、悪意の残滓が淀む。

107名無しさん:2014/03/28(金) 12:59:05 ID:nTVPj1Xg0
投下乙です

浦飯と植木、対主催最強クラスの戦力の二人に取り返しのつかない溝が……
この溝をどれだけ埋められるかは一部始終を知ってる七原と黒子
頭の切れるレナにかかってるな

108名無しさん:2014/03/28(金) 17:50:12 ID:iZnMYddM0
投下乙です
例え参加者が大人でも、この状況でそう知恵が回るものではないだろうけど
皆中学生だもんなあ…しかも真っ直ぐな性格ゆえにこじれちゃうよなあ

wktkwktk

109名無しさん:2014/03/28(金) 20:31:26 ID:QPvYSHkY0
投下乙です。いやあ後味が悪い…(褒め言葉)

本文でも書かれてるけど、この誤解って
「幽助が植木にむかって、下手したら死ぬ攻撃をしたのは事実」
「ヒデヨシの正体がなんであれ、幽助が植木の仲間を殺したことには違いない」
だからこそ、余計にたちが悪いぞ…

しかし、

> ぶっちゃけ、後悔なんかしてねぇんだよ

あれだけのことをしておきながら、そう言うのか…

110名無しさん:2014/03/28(金) 20:49:58 ID:ELjvmuyg0
投下乙

やるだけやって仲間を庇って死ぬとか…
エグい、エグすぎるぞこいつ
死んだ以上、本人から聞き出して真相を暴く事もできなくなるから
この誤解を解くのは生半可ことじゃ無理だよな

111名無しさん:2014/03/29(土) 10:53:41 ID:TI79rXKc0
ほとんどの対主催がなんらかの火種を抱えてる

もうおしまいだあ

112名無しさん:2014/03/29(土) 13:14:38 ID:.ltBbV5M0
海洋研究所組が最後の希望だな
微かな希望だが…それでも、それでも七原とレナならなんとか……

113名無しさん:2014/03/29(土) 14:04:53 ID:lcVzxUgw0
別に拗れるだけ拗れて誰かが優勝して死まったENDでもそれはそれで味があるけどなw

114名無しさん:2014/03/29(土) 18:01:31 ID:Ar.l74SA0
僕たちは、大人になれない。


 〜ALL DEAD END〜
を思い出した

投下乙

115名無しさん:2014/04/02(水) 14:39:44 ID:Lporsf2U0
こういう悪役も珍しい

116 ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:05:24 ID:hOSo1yps0
できたので投下します。

1177th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:06:34 ID:hOSo1yps0
「ふー、満腹満腹だぜ。ギュードンと比べても遜色ねーな!」
「確かに。美味しく頂きましたわ」
「丸呑みしてた奴が言っても説得力ないなぁ」
「はぁ……メイド服姿の黒子ちゃんもお持ち帰りしたいよぉぉ!」

結衣とレナが作った夕食は黒子達に好評だった。
それなりに量多めで作ったはずが綺麗になくなってしまったことに結衣は笑みを浮かべる。
作った二人からすると、完食されるのは気持ちのいいことだ。
料理人と言えるほど傾倒はしていないが、これぐらいは喜んでもいいだろう。

「七原さんはどうだった?」
「ああ、美味しかったよ。支給されたやつよりは格段に美味いね。
 ま、食べさせてもらってる身なんだ、食べれるだけありがたいよ」

残る一人。七原秋也も軽い言葉でレナ達に賛同の言葉を上げる。
綺麗になくなった皿から察するに、彼の口にはあったようだ。
そして、七原は流れる手捌きで、懐からタバコを取り出して口に咥えようとするが、消えてなくなってしまう。
目を丸くして、もう一本取り出すがまた消える。その繰り返しに顔をしかめていると、横に座っていた黒子がじっと七原を見つめていた。
ふと見ると、タバコは黒子の指に挟まっている。能力を使って、没収したのだろう。

「未成年の喫煙は禁じられてますわ」
「確かに吸ってない奴の前で吸うのはマナー違反だな。悪かったな、喫煙コーナーにでも行って」
「そういう問題じゃなく! 倫理上の問題ですわ!」
「堅いこと言うなって。タバコでも吸わなきゃやってられないっての。この味がわからんのは子供だなぁ」
「私達はまだ子供ですわ! 貴方もです! そもそも、タバコを吸うということは」

尚もぶつぶつと小言を言う黒子を無視し、七原は思考に浸る。
食後に首輪など色々なことについて話すつもりだったが、実際は情報の共有は殆ど済んでいる。
首輪についてはレナと粗方推測し尽くしたし、主催者が何処にいるかなんて考えても仕方がないことだ。
食事の最中、さらっと聞いた空間転移能力については自分の理解が済むように噛み砕いた。
大方の考察材料は出し尽くしたのだ。後は、行動するしか道はない。

(先行きは不安だし、見通しも立ってない。正直、行き止まりなんだよな。
 だからといって、止まれないってのは辛い所だよ。ああもう、前のプログラムよりたちが悪い)

この殺し合いに巻き込まれて半日以上は経過しているが、自分達にはまだ情報が足りな過ぎる。
故に、今話し合うべきことは次の行動方針、何処に行き先を定めるかといったものだけしかなかった。

1187th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:11:40 ID:hOSo1yps0

「アンタらはどうするんだい? 俺は次の放送が終わったらここを出るつもりだけど。
 ま、それまでは休息ってやつだな。落ち着いて考えたいこともあるしな」
「うん、私達も出ようかなって。いつまでもここに留まり続けても何の解決もないしね」

三人を代表してレナが答えるが、大方予想通りのものだった。
いつの間にか意気投合した彼女達はこれからも共に行動をするようだ。
仲良き事は美しき哉、とはよく言うが、こんな状況でもそれが崩れないレナ達は賞賛に値するのだろう。

「そっか。なら、好きに動けばいいさ。
 俺にアンタ達の動きを止める権利はないし、俺は俺で勝手に行動するしな」

レナ達からすると、予想していた一言だった。
七原はあくまで友好的な態度を取っているが、一線を引いている。
それは先程の食事でもわかっていたことだった。
七原ただ一人だけが元いた日常について何も話さなかった。
どんな生活を送っているか、どんな学校生活か。革命家とは名乗っているが、実際は何をやっているのか。
彼は何一つ自分のことを話さなかった。
推測するに、自分の邪魔になりそうなものとは深く関わりを持たないようにしているのだろう。
それが、レナ達には少しだけ悲しかった。

「……行動を同じくした方がいいんじゃないかな? かな? 誰一人欠けることなく、元の日常に帰る為にも」
「元の日常、ねぇ……。ま、そうなるわな。そんなことよりも、今生き延びることを考えとけって。
 というか、俺を誰だと思っているんだ? 世界を変える革命家――七原秋也だぜ?
 そんじゃそこらの奴等に殺られる三下じゃねーんだから、その心配は自分達に全部注いでおけ。
 戦力的にはそっちの方が十全だが、油断するとサクッて逝っちまうぜ?」

七原は軽く肩をすくめ、レナの言葉を跳ね除ける。
考えが合わないことはお互いに承知済みだし、無理に合わせても碌なことが起きないだろう。
故に、別行動を提案したのである。
もっとも、そんなのお構いなしにあちら側はフレンドリーに接してきたが、ここで揺らぐ訳にはいかない。
余計な荷物を背負って死ぬのは、七原は御免なのだ。

「数時間前にも言っただろ? 俺はアンタらを否定しない。
 その綺麗な想いで救えるものもあるってのは、証明してくれたし理解できるよ」

彼女達の掲げる正義も、想いも七原は理解している。
それは自分が過去に通ってきた道だから。
かつて願った理想そのものだから。

1197th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:14:57 ID:hOSo1yps0

「だからこそ、俺はその想いに殉じることが許せない。いいや、許しちゃ駄目なんだよ」

故に、七原は綺麗事に浸ることを拒むのだ。
彼女達を見ていると、思い出してしまう。
キラキラと輝いていた過去を。現実を思い知り、諦めを覚えてしまった自分を。
もっと早く割り切っていれば、救えたはずの友達を。
全部、七原の決断が早ければ乗り越えられたはずの悲劇だから、許せない。

「つーことだ、んじゃ、食後の一服行ってくるんで」

これで話はお終いと手を振り、七原は部屋のドアに手をかけて。
悠々とした足取りで外へと出て行った。
振り返ることもせず、一人何処かへと消えていく。

「はぁ……ちょっと急すぎたかなぁ」
「そんなことないだろ。ただ、アイツが捻くれてるだけだ」
「何か、七原さんについてわかることがあればいいのですけれど。
 彼、結局は何も教えてくれませんでしたもの。せめて、どんな学校生活を送っていたかぐらい教えてもいいと思うんですの」
「そう、だよな。それぐらい教えてもいいのに」

わかっていたことだった。
彼との隔たりが食事一回で消える訳がないことぐらい。
同じ世界で生きているはずなのに、どうしてこんなにも違うのか。

「だけど、私は諦めないよ。今は話してくれなくても、いつか秋也くんの口から聞かせてくれるって」

これから先も、七原とは意見を衝突させるだろう。
何を切り捨てて、何に手を伸ばすか。
お互いに考えをぶつけ、言葉を交わして。

「私達は、『これから』なんだよ」

全員が笑って前を向ける未来が、一番と信じているから。
レナは諦めることを諦めたのだ。

「だから……って、結衣ちゃん、どうしたの? 急にリュックサックを漁ったりして」
「……思い出したんだよ。私に支給された物の中にあったんだ!
 当時の私は、それどころじゃなかったから忘れてたけど!」

レナの言葉を聞いて、突然に結衣は支給されたデイパックを漁り始めた。
いきなりの奇行にレナ達は驚くが、結衣は構わず漁り続けている。
さすがに、止めようと黒子が声をかけようとした時、結衣が取り出したのは――。

「これに、全部示されているんだ! アイツのことが!」

1207th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:17:22 ID:hOSo1yps0



#########



「一緒に日常に帰ろう、ねぇ」

一人、喫煙所でタバコを吹かしながら、七原は噛み締めるようにつぶやいた。

「帰る日常なんてどこにもありやしないのに、俺は何をひよっちまったんだか。
 もし、生きて帰れたとしても待っているのは戦いだけだ。国を相手取った戦争しか俺を歓迎してくれない」

プログラムで友人と帰るべき日常を奪われ、この世界では愛する人を失ってしまった。
中学生という多感な時期に一人で生きていかなければならない絶望は、重い。
世界から爪弾きにされた七原にとって、帰れる場所があるだけで羨望できたのだ。

「帰れる居場所もない、いや、そもそも俺の存在自体、あの国では抹消されてるだろうな。
 『七原秋也』は元の世界ではいてはいけない訳だ。はっ、こいつはなかなかに痛快だぜ」

気づいてしまったからには戻れない。
彼女達と違い、帰れる日常すらない七原にとって、甘さは毒なのだから。

「けれど、今更それがどうしたっていうんだ。俺はもう止まれない、走り続けるしかない。
 後ろを振り返ったって、横を見たって誰もいないんだ……」

クラスメイトの命を糧に生きた自分と、無残に死体になっていったそれ以外。
更に、典子が死んだ今、ここから先はたった一人の戦場だ。
自分を導いてくれる先導者も、支えてくれる大切な人もいない孤独な道をひた走る。
誰かに救いの手を伸ばすことはできるが、七原自身が救いの手を求めることはできない。
誓ったはずじゃないか、強く生きると。願ったじゃないか、一人になっても戦い続けると。
綺麗な理想で人は救えないと身を持って体験したじゃないか。

「引き金が重い訳だよ。俺は思い出しちまったんだな」

あの時、典子の死を聞いて泣かないと決めた覚悟が、嘘になる。
誰にもバレずに『ワイルドセブン』を貫いた意志を解いてはならない。

「竜宮、船見、白井。お前らは『俺』がなりたかった『理想』だったんだ。
 プログラムに巻き込まれる前になりたかった夢みたいなものなんだよ」

彼女達との触れ合いで思い出してしまった。
かつて、自分がいた日常を。
プログラムに巻き込まれる前までは持っていた甘さを。

1217th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:18:46 ID:hOSo1yps0

「だけど、そんなものに意味はない。結果が伴わない想いなんて……捨てちまえ。
 理想で人が救えるなら幾らでも救えたさ。信じたいと願って貫いた結果があの様じゃあ、どうしようもねぇな。
 だから、俺は――ハッピーエンドを信じれない。信じることをやめたんだ」

けれど、ここから先は、そのような甘さは許されない。
必要なのは引き金を躊躇なく引ける覚悟と判断力だ。
全部を救い取るのではなく、成し遂げなければならない目的だけを胸に秘めればいいのだから。

「ったく、アイツらは『七原秋也』を見事に思い出させてくれたよ。
 完敗だ、ここでクールになっていなかったらきっと俺は――――。
 ま、IFを口にした所で何になる訳でもないけど」

なればこそ、もう七原は定まった。
過去を振り返り、現実を再確認し、役割を貼り付ける。
その過程で邪魔なものを削ぎ落としていく。
かつての自分を捨てる決意を込めて、七原は選んだ。

「甘さなんて置き去りにしちまえばいい。それが、一番冴えたやり方だ。
 これで終わりだ、『七原秋也』のアンコールはこれっきりだぜ」

けれど、せめて切り捨てる前にしっかりと吐き出しておきたい。
『七原秋也』が生きていた証を、命を削ってでも護りたかったものを。

「ああ、畜生。どうしてこんなことになっちまったんだろうな。ホント、世界は納得出来ないことばっかりだ。
 こんな血生臭い戦場に慣れちまって。大切な人が死んだのに、俺は冷静で、すぐに切り替えることが、できて……」

そして、せめてもの手向けに。『七原秋也』を出せる最後の瞬間だけは。

「……典子とずっと一緒にいたかった。失ったものは多かったけれど、大切なモノを護れることが出来たと思ったんだ。
 これからも横でアイツが笑ってくれるなら、『七原秋也』を覚えてくれる人がいるなら、俺は笑えるって信じていたのに」

悲しみの涙を流そう。後悔の言葉を呟こう。
思い出の幸せに縋り付こう。

「何で、典子がいないんだよ。俺を見てくれる人は、誰もいないなんてそんなのありかよ。そこまで追い詰めるのかよ」

浸れた幸せは、もうない。
再び巡りあった理不尽に奪われ、彼方へと飛び去ってしまった。

「なぁ、どうしてだよ。もういいじゃないか、十分悲劇も惨劇も味わったじゃねぇか。
 どうしてこれ以上奪われなくちゃいけねぇんだよ。
 俺には帰れる場所も、待ってくれる人もないのに、どうして……っ!」

大切なモノを全部奪われた自分は、誰が為に銃を持てばいい?
自分以外誰も残っていないのに、戦わなくちゃいけないのか?

1227th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:20:53 ID:hOSo1yps0

「返してくれよ……っ! 楽しかった日常を! 友達を! 典子を!」

そんな疑問を無理矢理握り潰して、七原は慟哭する。
身を焦がす苦痛が常に付き纏おうとも、走り続けなければならないし、止まってはならない。
それが、彼らを犠牲にして生き残った自分に課せられたものだと理解しているから。

「幸せだったよ、いつまでも続けばいいのにって思ったさ。
 それに、どいつもこいつもいい友達だった! 死んで当然な奴なんかじゃなかった!
 忘れるなんてできるかよ。今でも、心のどこか願っているさ……っ、取り戻したいって!
 またあいつらと過ごせたらどんなにも幸せかってな!
 宗屋、お前はわかってなかったけど、俺だって同じくらい願っていたんだ!」

けれど。それでも。明日の見えない絶望が、七原を襲っても。
七原は全てをチャラにする願いに傾かない。
取り戻せないからこそ、大切なんだと知っているが故に、傾けないのだ。

「だけど、それは……! それだけは駄目なんだ! あいつらの精一杯をやり直せるなんてできない!
 俺の自己満足で、勝手にチャラにしていい訳がねぇ! 死んじまうからこそ、必死で生きていたんだ! それを背負って俺はここまで来たんだよ!
 アイツらの死を引っくるめて、今の俺がいる。疼く痛みもはっきりと感じるんだ。
 それをなかったことにしたら――俺は、俺でなくなってしまう。そんなことしたら、俺は自分自身を許せない」

元通りにしてしまえば消えてしまう。
慶時を無情に殺された怒りを。
三村達が知らない所で死んだ理不尽を。
川田が自分達を護って死んだ後悔を。
典子を護り切れなかった絶望を。
離すまいと決めたあのぬくもりを奪った世界を。
それら全てが今の『ワイルドセブン』を型どっている大事なものだ、絶対に消してなるものか。

「だから、俺は最後まで進んでやる。これからは絶対に止まらないし、振り返らない。
 どんな手を使ってでも、卑怯と罵られても、冷たいと切り捨てられても――必ず、辿り着いてやる。お前達の所まで」

この感情は七原だけのものであり、誰にも渡せないし汚させない。
もう、これ以上に奪わせてなるものか。手放してなるものか。

「どうせ、どこかで聞いてるんだろ? 宣戦布告だ、クソ野郎」

彼が叫ぶのは好きだった音楽でもなく、革命の咆哮。
取り零した過去を踏み越え、前だけを見続ける不屈の意志。

「俺は竜宮達を切り捨ててでも『プログラム』を終わらせる。誰も彼もがお前達を許しても、手を差し伸べても。
 俺だけは許さないし、伸ばさない。未来永劫、憎み続けてやる。
 あいつらが邪魔をしようとも、俺を切り捨てようとも。これだけは絶対に曲げない」

摩耗したロックンロールも、夢も、全部どこかに置き去りにしてしまった自分には、革命しか残っていない。
残った想いの残骸を拠り所にして、強く生きると決めたのだ。
そして、犠牲に慣れ、妥協を覚え、大人にならざるをえなかった現実が、七原を強くした。
もう、これ以上悲劇が起こらないように。
不条理がまかり通る世界を変える為に――七原は戦う。

1237th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:22:47 ID:hOSo1yps0

(だから――お“願い”だ。竜宮、船見、白井)

故に、これが最後だ。
涙はもう、流さない。
決意はもう、揺らがない。

(もう、俺に手を差し伸べるな)

悲しみの涙を無理矢理に瞳の奥へと押し込めて、今度こそ『七原秋也』を踏み越える。
夢を思い出させてくれた彼女達を振り払う。
かつて、自分がいたひだまりを――――置いていく。



【D−4/海洋研究所前/一日目・午後】

【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康 、頬に傷 、『ワイルドセブン』
[装備]:スモークグレネード×2、レミントンM31RS@バトルロワイアル、グロック29(残弾9)
[道具]:基本支給品一式 、二人引き鋸@現実、園崎詩音の首輪、首輪に関する考察メモ 、タバコ@現地調達
基本行動方針:このプログラムを終わらせる。
1:レナ達を切り捨てる覚悟、レナ達に切り捨てられる覚悟はできた。
2:走り続けないといけない、止まることは許されない。
3:首輪の内部構造を調べるため、病院に行ってみる?
4:プログラムを終わらせるまでは、絶対に死ねない。

【船見結衣@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:The wacther@未来日記、ワルサーP99(残弾11)、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2、裏浦島の釣り竿@幽☆遊☆白書、眠れる果実@うえきの法則、奇美団子(残り2個)、森あいの眼鏡(残り98個)@うえきの法則不明支給品(0〜1)
基本行動方針:レナ(たち?)と一緒に、この殺し合いを打破する。
1:今は、レナ達といっしょにいたい。
[備考]
『The wachter』と契約しました。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:穴掘り用シャベル@テニスの王子様、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、奇美団子(残り2個)
基本行動方針:正しいと思えることをしたい。 みんなを信じたい。
1:できることなら、七原と行動を共にしたい。
[備考]
※少なくても祭囃し編終了後からの参戦です

【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:精神疲労(大)
[装備]:メイド服
[道具]:基本支給品一式 、正義日記@未来日記、不明支給品0〜1(少なくとも鉄釘状の道具ではない)、テンコ@うえきの法則、月島狩人の犬@未来日記
基本行動方針:自分で考え、正義を貫き、殺し合いを止める
1:とりあえず、レナ達と同行する。
2:初春との合流。お姉様は機会があれば……そう思っていた。
[備考]
天界および植木たちの情報を、『テンコの参戦時期(15巻時点)の範囲で』聞きました。
第二回放送の内容を聞き逃しました。

※寝ていたのは10数分程度です。殆ど時間は経過していません

1247th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:25:29 ID:hOSo1yps0





















それでも。それでも。

彼女達が、手を差し伸べることをやめないならば。

まずは、『七原秋也』の根幹を知ることから始めなければならない。

彼が過ごした日常を。彼が味わった地獄を。彼が失ったものを。彼が奪ったものを。彼が到達した世界を。

戦闘実験第六十八番プログラム報告書。

船見結衣が手に取った冊子には七原秋也が『七原秋也』でいられた時を記している。

彼を知る手掛かりとなる欠片が、結衣達は今開こうとしているのだ。

けれど、知ったからといって彼女達のしあわせギフトが『ワイルドセブン』に届くは別問題だ。

彼女達の言葉が『ワイルドセブン』に不都合なものであるならば、容赦なく切り捨てるだろう。

強さを保つ為に。走り続ける為に。

綺麗な想いを信じていた“中学生”は、何処にもいないのだから。





 【戦闘実験第六十八番プログラム報告書】
船見結衣に支給。プログラムに関わる様々な情報を記載した冊子。
どんな目的で行われるか、どのクラスが巻き込まれたか。プログラムに関わる情報が色々とつめ込まれている。
その中には、『七原秋也』がどのような人物か。どんな人生を歩んできたかも当然含まれる。
彼らが奪われた“日常”が事細かに写真付きで記されているのは、何かの皮肉も込められているのだろう。
………もう取り戻せない優しい日々を嘲笑うかのように、写真の中で生きていた彼らは、幸せに生きていた。

1257th Trigger ◆jN9It4nQEM:2014/04/22(火) 00:26:02 ID:hOSo1yps0
投下終了です。

126名無しさん:2014/04/22(火) 10:48:36 ID:lBbxKnQM0
投下乙です
元の日常に戻ろう!がこんなに残酷な台詞だとは思わなかった……
孤高の革命家の知られざる過去が、今明らかに!
1人でも戦い抜く決意を固めた七原だけど、彼もまた同じく中学生
彼の気持ちがどう動くのか楽しみです

長くなったけど、改めて乙!

127名無しさん:2014/04/22(火) 11:01:10 ID:OkR.cZlA0
もしかして七原にとっては元の日常のほうがロワよりもきびしいのか?

そしてこのグループにヒデヨシ、植木、両方を知ってるテンコがいる

思いっきり四面楚歌だな

128名無しさん:2014/04/22(火) 15:43:14 ID:HsFcB5gQ0
投下乙です

きついわあ…
七原はどうなるんだろう…

129 ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:25:59 ID:g6gu0fQk0
投下します

130狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:27:42 ID:g6gu0fQk0
小麦色の肌に、結い上げた薄紫色の頭髪。
同じ色の瞳と、あどけない少女の顔立ち。
異国風の少女のような容姿だったけれど、尻からのびている『先端が矢印の形をした黒いしっぽ』は、まさにテンプレートどおり。
ムルムルという名前の、小悪魔だった。



「一応は、『初めまして』に当たるのかの。我妻由乃」



空間に渦のような歪みが生じるや、飛びだしてきた。



我妻由乃は、レストランのテーブル席に着座ままミニミ機関銃を手に取り、銃口を『そいつ』へと向ける。
ガラス窓の向こうにある夕焼け空を背景にして浮かびながら、そいつは「こ、こわっ……」と後ずさりした。

「やっぱり、お前も『そっち側』にいたのね」
「や、やっぱりとな?」
「面白いゲームが楽しめるなら、何でもいい。
そのためならデウスにだって逆らうし、誰の下にだってつく。
お前は、そういう生き物でしょう?」

自称・不死身であるムルムルを射殺しようとしたところで意味を成さない。
しかしお助けキャラのように歓迎できるほど可愛らしい生き物ではないことは、よく知っている。
一週目の世界では支配下においた従者であり、二週目では敵として立ち対峙したこともある『神』の小間遣い。
たとえデウスを裏切って『新しい神』に迎合したとしても、何ら不思議はなかった。

「な……誰の下にもつくとは失礼なのじゃ。『一週目の儂』は、あくまで主君であるお主に仕えておったではないか」
「目的は何? どうしてこのタイミングで姿を現した?」

131狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:29:09 ID:g6gu0fQk0
天野雪輝を仕留め損ねたのを見て、不甲斐ないとけしかけに来たのだろうか。
そう思いかけて、すぐに否定する。
だとすれば、あの現場から離れた直後にでも姿を見せたはずだ。
補給のために立ち寄ったレストランで夕食を済ませてから現れるのは、タイミングとして遅すぎる。

「それはな、ついさっき天野雪輝が思い出したからなのじゃ。
神になる前の、日記所有者としてサバイバルゲームを戦っていた時代の記憶を、な」
「……どういうこと?」
「ん? お主は、雪輝日記を見ておらんかったのか?」
「三十分ぐらい前に、一度」

最後にチェックした予知があまりにもふざけたものだったので、栄養補給を終えるまでは考えないようにしていた。
『ふざけた予知』呼ばわりされても文句は言えないはずだ。
なにせ、秋瀬或の負傷度合いくらいは確認しておきたいと『雪輝日記』を開けば、あんな予知が表れたのだから。



『ユッキーが病院の運動場をグラウンド100周してるよ!
青春の汗を流すユッキーかっこいいよユッキー』



「………………は?」という声が出た。
何がどうしてそうなった。
あんなに呆気にとられたのは、たぶん秋瀬或からBL性癖の持ち主なんですとカミングアウトされた時以来かもしれない。

機関銃をいったん取り下げ、雪輝日記を確認する。
そこには確かに、天野雪輝が色々なことを思い出したという予知が書き変えられていた。
口にされた決意の言葉までが書かれていて、苛立ちから唇を噛む。

「だからどうしたの? ユッキーが何を思い出したって、それで状況が変わるわけじゃない」
「そうでもないぞ。日記所有者の『1st』だった当時の天野雪輝は、他の所有者よりも優れた力を持っていた。
言うまでもなく、『DEAD END』を回避する奇跡を起こす力のことじゃ。
あの世界のデウスから『優勝候補』と目されたのも、ひとつにはそれがあったからじゃな」

知っている。
だからこそ雪輝は他の所有者たちから危険視されて、由乃は雪輝を守るためという理由でそばにいることができた。

132狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:30:18 ID:g6gu0fQk0

「……当時のモチベーションを取り戻したことで、その力が開放されるとでも言うの?」

ムルムルは大きなスイカほどの球体を中空に出現させると、その上にちょこんと座る。

「少なくとも、さっきまでの雪輝に『奇跡』を起こす気概が無かったことは確かじゃな。
お主は知らんかもしれんが、『神』になってからの雪輝は、因果律をろくに弄ろうともしなかった。
人間だった頃でさえ、『三週目』の世界の因果をまるごと引っくり返すほどの力があったにも関わらず、な。」

知っている。
秋瀬或との戦いのなかで、由乃が知らない時間の雪輝については教えられた。
この殺し合いに呼ばれさえしなければ、由乃はあの雪輝に殺してもらえる未来だったということも。

「もちろん雪輝が何もせんかったのは、能力の問題ではなくて意志の問題に過ぎなかった。
しかし、未来を変える意志を持たない者に、因果律を動かせるかどうかは怪しいと思わんか?
『二週目の秋瀬或』にしたって、『未来を変える意志』を持つまでは、デウスのシナリオから外れることなどできなかったのじゃ」

今度は、知らない言葉が出てきた。
秋瀬或とデウスの間に繋がりがあったなど、由乃にしてみれば初耳だ。
しかし、この時はそれ以上に引っかかることがあった。

「……まるで、ユッキーに未来を変える意志を取り戻して欲しいような言い方ね」

ムルムルは楽しげな表情で、腰かけた球体からパタパタと足を揺らして答える。

「そう。まさにそれこそが、天野雪輝がよりにもよって『神様』として殺し合いに連れてこられた理由じゃよ」


◆  ◇  ◆


「しかし、このガキが軽く十数人は殺してるって言われても、にわかには信じられませんね」

坂持金発は、ジョン・バックスによって持ち出された参考資料のページをゆっくりと繰った。
めくった箇所には、ニット帽をかぶった気弱そうな少年の写真と、履歴書のような書式に羅列された膨大な情報がある。

「と言いますと?」

対面に座る情報の提供者、ジョン・バックスが促す。

「おおかたのプログラムで優勝者があげるスコアよりも多いじゃないですか。
『殺し合いの優勝者』ってのは、もっとこう、分かりやすく頭のネジが外れてるもんですから」

そう思ったのは、何も坂持が長いことプログラム担当官を務めてきたからだけではない。
大東亜共和国では、プログラム優勝者の凱旋映像がローカルニュースとしてお茶の間の皆さんにお披露目される。
そこに映される少年少女たちは、大半が狂ったような笑い声をあげていたり、幽鬼を連想させる目つきをしていたり、つまりは普通の人間から逸脱した生き物となり果てていた。
そんな優勝者たちと比較すれば、『並行世界の優勝者』であるはずの天野雪輝は、ごく穏やかそうな少年に見えた。
一万年の歳月を経たことによる摩耗はあるものの、ごく普通に同年代の子どもと会話して、理性的な思考回路をしている。

133狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:31:21 ID:g6gu0fQk0
「彼の場合は、終盤から『生き返り』を期待して殺し合いに乗りましたからな。
希望を持って殺し合いに参加したケースですから、いちがいに『プログラム』と比較することはできないでしょう。
しかし、油断ならない手合いであることは確かです。
『二週目』の私を実質的に追いこんだのはこの少年でしたし、『三週目』でもたった数時間の行動で、すべての所有者の運命を変えてしまった」

その一件が無ければ、『新たな神』に目を付けられることもなかった、と付け加える。

「あー、それが市長のおっしゃっていた『因果律に干渉する力』ってやつですか?」
「ええ。むろん、未来日記が無ければ成し得なかったことではあります。
しかし、十二人いた所有者でも、あの少年がとりわけ『未来を変える』結果を残していたことは否定しようがありませんでした」

ふむふむと、坂持が相槌を打つ。
実のところ、初めて耳にする話でもない。
『殺し合いから生まれる利益』については、大東亜と桜見市で共有する契約を交わしているのだから。
しかし、実際の天野雪輝を(モニター越しにではあるが)目にした後に、『神様』の心象にも触れながら話を進めてくれるともなれば興味深い。

「星の数ほどある並行世界を行き来し、あらゆる世界の人々と技術を調べ上げる。
そのような術を持つ者にとって、『訪れた世界に干渉する自由』が、どれほど魅力的であり、また脅威ともなるかは分かりますな?」
「そりゃあもう」

坂持はそこにある実利――彼個人にとってではなく一国にとっての――を想像して即答する。
バックスは、同類に対する眼差しを坂持に向けた。

「しかし、だからといって『学園都市』のように天野雪輝のクローンを量産してみようというわけにもいかない。
超能力のようにメカニズムが見えるものではないからこそ、『奇跡を起こす力』としか説明できないのですから」
「しかし『ある』ことは確からしいんでしょう? ……なるほど、だからこそ『神様』を選ぶ必要があったんですか」
「ええ、人の身では『能力』とすら呼べない漠然とした才能だったとしても、『因果律を操る』ことを能力とする神ならば、それを『力』として生かせる。
それに、『神の力』を他者に付与したり取りこめることは、デウスや『2週目の9th』という先例からも明らかです」



◇  ◆  ◇


「……そして、わかたれた二週目との因果をたどってようやく『神の雪輝』を見つけたと思ったら、肝心のあやつは気概をなくしておった。
しかも、力を示していた『一万年前』のことをきれいさっぱりと忘れておる。
『神』としては、もっとも運命を変える力が強かった『二週目』の雪輝を取り込みたかったのに、アテが外れたというわけじゃな」

ムルムルの話は、理解できないものではなかった。
同じ人物でも、世界の環境が違うだけで因果は変わる。
そのことを、並行世界を二週してきた我妻由乃は知っている。
だから『一万年後の雪輝』を見て、『新たな神』とやらが不安にかられたのも分からなくはない。
しかし、理解した上で呆れた。

「ユッキーを吸収するためだけに、ずいぶんと手間をかけるのね」
「そりゃあそうじゃろう。もともと儂らの『サバイバルゲーム』も、中止など有り得ない回避不能のルートだったのじゃから」

134狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:32:17 ID:g6gu0fQk0

まるで、雪輝のことをゲームのパワーアップアイテムか何かのように認識している。
けれど、そう言えば由乃が雪輝を殺そうとしていることも、ベクトルは違えど同じぐらいの扱いの酷さだった。
だから、そういうこともあるかと納得する。

しかし、矛盾している箇所もあった。

「だったら、過去に遡って『神様』になりたてのユッキーに会いにいけば良かったじゃない。
現に、私や秋瀬や他の二人は、『一万年前』から連れてきたんでしょう?」
「それがそうもいかん。過去に飛んで歴史を変えたりすれば、また並行世界に分岐してしまうじゃろう。
かつて雪輝が『三週目』の歴史を変えた時も、二週目との因果は分かたれてしまい、すぐに二つの世界を行き来することはできなくなった。
一般人の高坂王子たちや、限定的にしか『力』を使わないお主を攫ってくるならともかく、腑抜けとはいえ『神』を封印するのはなかなか手間がかかるからの。
もたもたしているうちに、わしらが元の時代に帰れんようになっては困るというわけじゃ」

そう言えばさっきも、『二週目の世界をみつけるのは苦労した』とか言っていた。
自在に並行世界を行き来するという力も、まったく万能というわけでは無いらしい。
移動できる世界は多いようだけれど、任意の世界を指定することはできない……そんなところだろうかと、ムルムルに尋ねてみる。

「まぁ、そんなところじゃよ。
もともとは遠くはなれた世界で使われていた移動法じゃから、説明しようとするとややこしくなる。
そこでは『カケラを渡る』と呼んでいたから、ワシらも区別するためにそう呼んでおるのじゃ」

かつて自身が使った『繰り返し』とも異なる、別の方法による世界移動。
『優勝者への報酬』に対する期待がぐっと大きくなり、それでも今はムルムルへの対処が先だと気を引き締める。

「過去の雪輝を連れてこられない以上、今の――お主にとっては一万年後じゃな。
今の雪輝から『神』だった時期の記憶を奪い、力を封印することで、ただの中学生だった時期に近づける。
本当なら無差別日記も支給したかったのじゃが……『樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)』が別人に支給するように条件を付けたのでな。
その上で殺人ゲームを経験させて、強引にでも『一万年前』の記憶を思い出してもらう。
『神』でありながら、しかし『中学生』だった時代を取り戻してもらうためじゃ」
「そして、ユッキーは『中学生』だった頃のユッキーに戻った。
つまり、全部あなたたちの計算通りだと言いたいの?」

そのためだけに、殺し合いを主催したのだろうか。
いや、それは無いと即座に否定する。
それが目的なら、参加者を十二人にして全員に未来日記を持たせるとか、より『前回の殺し合い』に近い条件でゲームをしたはずだ。
殺し合いの目的はべつにあり、雪輝はあくまで副次効果として期待されたのだろう。
そんな風に推測したことを肯定するように、ムルムルは説明を続けた。

135狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:33:50 ID:g6gu0fQk0

「思い出せなかったらその時は仕方ない……ぐらいの試みじゃったがの。
たとえ殺し合いの最中に死んでも、デウスのように『核』だけを残して取り込むことはできる」
「だったら、もう『神様』はユッキーを始末すばいいじゃない。
『神様』がたった中学生四人に返り討ちに遭うはずもないでしょう?」

そうしてくれた方が手間がはぶけると、言ってみた。
しかしムルムルは球体にねそべりながら、つまらなそうに否定する。

「そうは言うが、ゲーム会場に入るためには、いったんATフィールド……会場の封鎖を解かなければならんからの。よっぽどの非常事態でなければできんことじゃ。
それに使い魔の中でもワシだけは会場に潜り込んでおるが、連絡役以上の役目は与えられておらんのでな。」

それに、運営から直接にゲームの進行に関わってはならんというお達しもある、と付け加えた。
先ほどは雪輝ならば奇跡を起こすかもしれないと言っていた割に、その雪輝を泳がせてまでも、殺し合いのルールを優先するらしい。
よほど殺し合いが破綻しないことに自信でもあるのか……それとも、『参加者同士』で殺し合わせることに重要な意味があるのか。
どちらにせよ大事なのは、その意向を利用して由乃自身がどう立ち回るかだ。

「なら、お前は何をしにきたの?
私に『核を回収したいからユッキーを殺してくれ』とでも頼むつもり?」
「それは『馬に蹴られる』というものじゃろう。そもそもお主が『雪輝日記』を持っておる以上、対決は避けられんはずじゃ」

少し違う、と由乃は思った。
その言葉は、深く愛し合っている男女に対して使う言葉のはずだ。

「先にも言ったように、儂は選択肢を与えるだけで、自ら未来を動かすことはない。
しかし、たとえばの話じゃが、雪輝がすべてを思い出したタイミングで、お主がこの『ツインタワー』にやってきた。
支給されたパンより栄養価の高い食事を求めてレストランを目指したのかもしれんし、
休息するなら地の利がある場所がいいと思ったのかもしれん。
もしかしたら、見慣れたビルが会場にあることに興味を示し、軽く探索するぐらいのことはするかもしれん。
順番は前後するじゃろうが、『雪輝日記』をチェックしてあやつの決意を知ったお主は、それがどんな感情であれ、苦々しく思うかもしれん。
ここまでくれば、お主が自力で『新たな力』を探り当てたとしても、何ら不思議はないということじゃ」

読めた。
相応の見返りを、用意してあるということか。

136狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:37:30 ID:g6gu0fQk0
「そして、『宝の地図』……ヒントはやったのに広がらないまま燻って、このままでは死蔵まっしぐらの隠しアイテムがあったとする。
その『隠しアイテム』の鍵を開けられる参加者が、隠し場所の近くまで来ていたとする。
あまりにももったいない……とは思わんかの?」

理解した。
我妻由乃が、鍵となる場所。
そうなれば、候補はひとつしか挙がらない。
しかし。
狙いは分かったけれど、疑問は残る。
我妻由乃は、それを尋ねた。

「そこまでして、私に肩入れする理由は何?
もう何人も殺してるから? 雪輝日記を持っているから?」
「それもあるが、それだけではないぞ」

むくりと起き上がり、ムルムルは我妻由乃にむかって身を乗り出した。
無邪気そうに笑っているのにちっとも感情がうかがえない、そんな笑顔で。



「おぬしならば、『ALL DEAD END』の未来を知っても……その上で、勝ち残ることを目指すだろうからじゃ」



そしてムルムルは、語り始めた。
新たな神について、全ての終わりについて。

137狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:38:11 ID:g6gu0fQk0
◇  ◆  ◇


我妻由乃だけが開けられる、魔法の扉。

桜見市ツインタワービルの、北塔32階。
エレベーターを使えば、あっという間に運んでくれる。
経営破綻したばかりの銀行が、その階層をテナントとして埋めていた。
貸金庫ロビーへと歩みを進めれば、ほどなくして見えてくる。

我妻銀行の大金庫。
必要なものは、カードキーと暗証番号。そして『網膜認証』。
カードキーが建物のどこに保管されたかは知っているし、暗証番号は記憶している。
網膜認証は……『我妻家の人間』ならば開かれる。

『隠しアイテム』をこの金庫の中に保管するなんて、なんて公平な殺し合いなんだろう。
我妻家の人間以外には『難攻不落の扉を破壊して手に入れろ』ということらしい。

網膜認証式のロックをのぞきこみ、しっかりと視線を合わせる。
手の中にある『雪輝日記』を、ぎゅっと握り締めた。

『神』の思惑に乗っかった自覚はある。
その上で、最後に笑ってみせる未来もある。

そして、潰さなければいけない未来がある。



『ユッキーが「もう0にはしない。1からやり直す」って言ってるよ!』



――あなたが、『すべてを0(チャラ)にする』と決めた私に、それを言うか。



そう言えば、過去に殺した『恋人たち』の男の方が言っていたっけ。
天野雪輝は、自分が恋人に汚れ役を押し付けておきながら、恋人が人を殺したら叱りつけるようなろくでなしだと。



――私を幸せにするためにすべてを0(チャラ)にすると言った、あなたが。



我妻由乃は、扉を開けた。


【F-5 ツインタワービル/一日目・夕方】

138狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:40:02 ID:g6gu0fQk0
【我妻由乃@未来日記】
[状態]:健康、見敵必殺状態、
[装備]:雪輝日記@未来日記
来栖圭吾の拳銃(残弾0)@未来日記、詩音の改造スタンガン@ひぐらしのなく頃に、真田の日本刀@テニスの王子様、霊透眼鏡@幽☆遊☆白書
[道具]:基本支給品一式×5(携帯電話は雪輝日記を含めて3機)、会場の詳細見取り図@オリジナル、催涙弾×1@現実、ミニミ軽機関銃(残弾100)@現実
逆玉手箱濃度10分の1(残り2箱)@幽☆遊☆白書、鉛製ラケット@現実、不明支給品0〜1 、滝口優一郎の不明支給品0〜1 、???@現地調達
基本行動方針:真の「HAPPY END」に到る為に、優勝してデウスを超えた神の力を手にする。
1:すべてを0に。
2:秋瀬或は絶対に殺す。
3:他の人間はただの駒だ。
※54話終了後からの参戦
※秋瀬或によって、雪輝の参戦時期及び神になった経緯について知りました。
※ムルムルから主催者に関することを聞かされました。その内容がどんなものか、また真実であるかどうかは一切不明です。

139狂気沈殿  ◆j1I31zelYA:2014/04/25(金) 00:40:29 ID:g6gu0fQk0
投下終了です

140名無しさん:2014/04/25(金) 01:54:39 ID:fXNPNONc0
投下乙です

で、でたー!ムルムルの露骨なエコヒイキ!
こいつが進行役の時点でどうせろくでもないことをしてくると思ったけど本当にろくでもない!

原作がロワ系の話の主催者キャラのなかでも屈指の公平じゃなさ!マーボーも上回るノリノリのゲームへの介入!これは原作のムルムルに限りなく近いと言っていいと思います。

そしてこの参戦作品だと主催者側に勝てる気がしない。強力な主人公同士が対立しているいま、新たな火種が一気に場を動かしそう(そしてムルムルが両方に肩入れしそう)

141名無しさん:2014/04/25(金) 18:43:31 ID:xIAebVOc0
投下乙です

ムルムルなら仕方ないw しかも贔屓する相手は今の由乃だからなあ
このえこひいきのせいで状況は大きく動きそうなのは確かだが

ちなみにロワの最後が必ずしも対主催らが主催者側に勝てなくてもいいけどなあ
簡単にどちらかがどちらかを打破する事がパロロワの醍醐味でもないし

142名無しさん:2014/04/25(金) 19:09:10 ID:AWGH6Za.0
投下乙
原作でも一周目ラスボス(らしい)の4thを中ボスにしたり
雪輝に事の真相を明かしたと思ったら由乃の側について雪輝殺す気満々だったり
色々暴れまわってたからな、納得のえこひいきだ

ところで神様で一万歳のやつが中学生扱いなのはおかしかったって今気づいた
他のメンツが濃かったからかな…

143名無しさん:2014/04/25(金) 20:52:23 ID:FKvS.2iA0
そういえばユッキーは主人公だったな

144名無しさん:2014/04/25(金) 21:55:01 ID:oah3sTww0
投下乙。

裏で整えられつつある舞台に、ユッキーはどうするのか。
正攻法でユノを止めるには足りないし、色々と策をねって戦わなければならないけれど。
まだ残っているマーダーからして楽には行かないが果たして。

146 ◆7VvSZc3DiQ:2014/05/07(水) 18:44:10 ID:Gm9F.Mq60
投下します
予約後の見直しの結果、相馬光子と御手洗清志の登場シーンがなくなってしまいましたので二名は登場しません
不要な予約失礼しました

147 ◆7VvSZc3DiQ:2014/05/07(水) 18:44:48 ID:Gm9F.Mq60
窓から差し込んでくる陽光が、いつの間にか白から赤へと変わってきている。
それに気が付いた杉浦綾乃は、少し眩しそうに目を細めながら、沈もうとしている夕日を見ていた。
あと一時間もしないうちに太陽は完全にその姿を消してしまって、代わりに真っ暗な夜が訪れるだろう。
昨日まで当たり前過ぎて気にも留めていなかったその事象が、綾乃の心に一抹の不安をもたらしていた。

「暗い」は、「怖い」だ。
やがて綾乃たちを包むであろう暗闇のことを考えるだけで、ぶるりと身体が震えてくる。
浮かんできた恐怖の感情は、綾乃の中で大きく膨らんでいく。
同時に思い出すのは、相馬光子と御手洗清志の二人に殺されかけたときのことだ。
あのときは、怖いと感じる暇すらなかった。だが、ようやく落ち着いた今ごろになって、遅れて恐怖がやってきた。

両肩を抱きしめるように身を縮こまらせながら、綾乃は二人から向けられた視線を――そして感情を、反芻していた。
向けられたのは、殺意だった。
誰も殺したくないと訴えた綾乃を嘲笑うかのように、二人は綾乃を殺そうとした。

(……初めてだった)

誰かに殺意を向けられるのは、綾乃にとって今までに経験のないことだ。
思えば、この殺し合いが始まってからも、ずっと殺意から距離を置いていた。
正確に言えば――綾乃が受けるはずだった殺意は、他の誰かが肩代わりしてくれていた。
戦えない自分たちの代わりに戦ってくれていた植木耕助や、自らの命と引き換えに植木を救った碇シンジ。
彼らが感じていた恐怖を、ようやく綾乃は実感することが出来た。

そして――揺らいでいた。
誰も殺さないで済む方法を見つけ、実行するという言葉が、大言壮語の類であると気付いてしまったのだ。
いや、薄々気付いていたのだ。ただ、それの困難さから目を背けていただけだ。

(私には……殺し合いを止める力なんて、なかった)

そもそも。今さら、殺し合いを止めようとしても――全てが、遅すぎるのではないか?
既に数十人の命が無惨に奪われてしまっているのだから。
彼らの命は、もう戻ってはこないのだから――

「ちょっとアンタ。何ぼーっとしてんのよ」

思索に耽っていた綾乃の意識を現実に引き戻したのは、式波・アスカ・ラングレーの一声だった。
顔をしかめながら綾乃を責め付けるような視線を飛ばしている。

148 ◆7VvSZc3DiQ:2014/05/07(水) 18:45:17 ID:Gm9F.Mq60
「アンタバカぁ? それとも今の状況が分かってないの?
 アタシと、アンタと、コイツと。この中の誰かがちょっとでもミスをすればそのまま全員死ぬことだってあるのよ。
 アンタのおっちょこちょいのせいでこっちまで巻き添えをくらうなんてたまったもんじゃないっちゅーの」

吐き捨てるように、アスカは綾乃へと告げた。
あまりにも強い語調に気を揉んだのか、初春飾利が二人の間に入る形でフォローに回る。

「式波さん。杉浦さんはさっきまで襲われかけてたんだから……少しは」
「アタシが気を使えって? ジョーダンはやめなさいよ、カザリ。
 こっちはね、慈善事業でアンタたちを助けようとしてるんじゃないの。
 アタシは、何があっても生きて帰ってやる。アンタたちを助けるのはそのついでみたいなもんだから」

だが綾乃は、アスカのその言葉に不信を抱いた。
越前リョーマと綾波レイの二人と情報交換をしたときに、式波・アスカ・ラングレーは殺し合いに乗った人物だと聞いていたからだ。
実際にリョーマとレイの二人はアスカに襲撃され、一歩間違えていれば殺されていてもおかしくなかったらしい。
そのアスカが、ついでとはいえ自分たちを助けるというのは――少し、いや、かなり不自然ではないか?

「……あの、式波さんって……越前くんと綾波さんと、一度会ってますよね……?」

『殺し合いに乗っていましたよね』と直接聞く勇気はなかったから、少し婉曲的な表現になってしまった。
だが、綾乃が聞かんとしていたことが何だったのかはアスカも察したらしい。
先ほどまでの刺々しい態度が、少し弱くなったような――そんな変化があったことに、綾乃は気付いた。

「……ええ、会ったわね。なに、アンタもエコヒイキたちに会ったの?」
「そうです。一緒に行動してたわけじゃなくて、少し情報交換をしてそのまま別れたんですけど……そのときに、式波さんのことも、聞きました」

ハァーと大きく息を吐くと、綾乃が聞きたくても聞けなかったことを、アスカは言った。

「そうよ。アタシは、殺し合いに乗ってたわ。ほんの数時間前までね」
「あ……」

聞いてから気付いたが、綾乃はアスカからこの言葉を引き出して、それからどうするのかということをまったく考えていなかった。
故に、アスカの言葉に対して返す言葉を持たない綾乃は、沈黙を続けてしまった。
そんな綾乃を見たアスカは、少々の苛立ちを声に滲ませながら、

「ほーらすぐ黙る。日本人はそういうとこあるわよね。
 あー、言っとくけど、アタシは殺し合いに乗ってたけど誰も殺してないから」

アスカはそこで話題を打ち切ろうとした。この話をいくら続けたところで今の自分達にとって有用性はないと判断したからだ。
殺し合いに乗っていた式波・アスカ・ラングレーと初春飾利はもういないのだと、
そう結論づけて終わりにしようとしたアスカに、綾乃は――何か、閃きを受けた気がした。

「教えてくださいっ! 二人が……どうして、殺すことをやめたのか。
 きっとそれがっ……! 私が、知りたかったことなんです!」

149 ◆7VvSZc3DiQ:2014/05/07(水) 18:45:52 ID:Gm9F.Mq60
必死な綾乃の訴えに、アスカと初春の二人は顔を見合わせて――そして、話し始めた。
吉川ちなつと御坂美琴という二人の少女が、アスカたちを救った物語を。

「ま、そんなわけでアタシはアンタたちを救けるって決めたわけだから。
 だからつべこべ言わずに救われときなさいよ」
「私も……御坂さんに救われたこの命を、みんなのために使いたいと、そう思ったんです。
 人間は汚くて醜いだけの存在じゃない……こんな殺し合いに負けない強さを持ってるって、御坂さんが教えてくれたから……」

二人の話を聞いて、綾乃は――揺れていた決意が、再び固まっていくのを感じていた。
殺さずにすむ方法は、やっぱりあるはずだ。
目の前の二人が、その証拠だ。

「私は……殺し合いを、止めたいんです。殺そうとしている人たちを、止めたいんです」

吉川ちなつと御坂美琴は、それをやってみせた。
彼女たちが出来たことを……綾乃もまた、出来るだろうか。

「私は、吉川さんみたいな勇気や、御坂さんみたいな力は持ってないかもしれないけど……ッ!」

「――それでも、出来ますよ」

肯定してくれたのは、初春だった。

「御坂さんは――言ってくれました。力を持ってるから強いんじゃないって。
 最弱でも、最強に勝てるんだって……私も、そう思うんです。
 人間の力って数字で表せるような単純なものじゃないと思うんです。
 御坂さんはきっと、第三位の能力を持ってなくても、私を救ってくれた――」

だから。

「杉浦さんも、きっと誰かを救えるはずなんです」

「同感ね。はっきり言って、チナツはアタシにとってただの足手まといだったわ。
 力も無いし頭もいいわけじゃない。なのにヘンなところで意地っ張りで、アタシの邪魔ばかりする」

「そんなチナツでも、アタシを救けたんだから――アヤノだって、やろうと思えば出来るんじゃない?」

「……出来るんでしょうか、私に」

「チナツやミコトはね、そんなこといちいち確かめたりせずに、身体のほうが先に動いてたわよ。
 アンタも少しは頭だけじゃなくて、もっと別のところを頼りに生きてみたらどう?」

じんと、綾乃の胸が熱くなった。
そして、思い出す。植木やシンジも、頭じゃなく心で動いていたことを。

150 ◆7VvSZc3DiQ:2014/05/07(水) 18:46:25 ID:Gm9F.Mq60
「あ……そうだ、式波さんに、聞いて欲しいことがあるんです!」

綾乃はシンジが自分たちを救ってくれたときのことを懸命に話した。
最初はそんなこと聞いたところで時間の無駄だと言っていたアスカも、綾乃が話し終えるころには神妙な顔をして、黙って話を聞いていた。

「バカシンジ……自分がどれだけ重要な人間なのかやっぱり分かってなかったみたいね。
 なんでエヴァパイロットがこんなバカみたいなことで死ななくちゃならないんだか……ほんっと、バカなんだから」

ため息を一つだけこぼしたアスカは、

「……それじゃ、いいかげん動き始めるわよ。時間を使い過ぎだわ」

綾乃と初春に向かって、アスカは考えた作戦を話し始めた。

「まず一つ。アタシたちが真正面からアイツらに立ち向かったところで、ほぼ勝ち目はないわ。
 あの水のバケモノはかなり厄介だし、アタシたちの手持ちの武器だけじゃ対応しきれない。
 逃走――あるいは、誰かが援護に来てくれるのを待つしかないんだけど」
「もしかしたら、植木くんたちが助けに来てくれるかも……でも、私の携帯電話は壊れちゃったから植木くんたちがどうしてるか確認出来ないし……」

水に濡れてさえいなければ友情日記を使い、植木たちがこちらへ向かってきているかどうかの確認が出来たのだが、今の綾乃たちには植木たちの現在位置を確認する手立てがない。

「なら期待は出来ないわね。最悪の場合、アタシたちだけでここを乗り切らなきゃいけない。
 でも、もしものときのための保険は打っておくわ。カザリ、確かアンタのケータイには、アンタが近い未来何をするのか分かる予知機能があるのよね? で、それを二台持ってる」
「あ……はい。交換日記っていうんですけど……本当は二人で契約して、お互いの未来を予知する能力みたいなんです。
 式波さん、片方の契約を更新して使ってもらうことも出来るみたいですけど……どうしますか?」

交換日記――今は初春に支給された携帯電話と桑原和真の支給された携帯電話の両方を使い初春が二重契約をすることで、初春の未来を完全に予知する日記となっている。
この片方をアスカか綾乃に契約してもらうことで予知の対象が二倍になるのではないかと初春は考え、契約の更新を提案したのだが――

「説明書を読ませてもらったけど、相手を観察することで相手の未来が予知される――って機能なんでしょ?
 これから先、やむなく別行動を取らなきゃいけなくなることがあるかもしれない。それでなくたって相手のことをじっくり観察する暇があるか分からない。
 予知が不完全になるより、カザリ、アンタだけでも完璧な予知が使えるようにしておきなさい。そして、逐一アタシたちに報告すること。分かった?」

二台の携帯電話を握りしめながら、初春はアスカの命令に頷いた。
初春の手に握られた携帯電話――それを見て、アスカは荷物の中から何かメモのようなものを取り出した。

「カザリ、それよりアンタの携帯電話、ちょっと貸しなさい。二台とも」

151 ◆7VvSZc3DiQ:2014/05/07(水) 18:47:02 ID:Gm9F.Mq60
アスカが取り出したのは、『天使メール』に関するメモだった。
初春から携帯電話を受け取ると、アスカは慣れた手つきで送信先アドレスとメールの本文を打ち込んでいく。

「……よし、どのくらい届いてくれるかわかんないけど、三台分送れば一つくらいは近くの奴にも届くでしょ」

アスカが言っていた保険とは、天使メールによる救援要請だった。
デパートで相馬光子と御手洗清志の二人に襲われている、助けて欲しいという簡素な内容のもの。
差出人は殺し合いに乗っているという情報が回っているアスカや初春ではなく、綾乃の名前を使った。

「もうすぐ放送が始まるわ。放送が終わり次第、このメールは会場の参加者のところに届く。
 来てくれるかどうかわからないけど、何もしないよりはマシでしょ」

おそらく、相馬光子と御手洗清志の二人も放送が終わるまでは動かないだろう。
放送という重要な情報源を聞き逃すことは、かなりの痛手になる。
少しの時間とはいえ光子と手を組んだアスカには、光子ならこの時間帯にリスクを負ってまで手を出してこないだろうという予想が出来た。
ある種の紳士協定――暗黙の了解だ。
初春の持つ日記にも変化がないことから、それは間違いないだろう。

「勝負は放送が終わってから。きっとそこで、ミツコたちも仕掛けてくる」

アスカはそこで、綾乃のほうを見た。

「殺し合いを止める――アンタの覚悟がどんなもんか知らないけど、せいぜいアタシの邪魔をしないでよね」

それはつまり、アスカの邪魔をしないならば、綾乃の覚悟――誰も殺さない、殺させないという覚悟を、容認するという意味の言葉だ。
綾乃は、こくりと頷いた。

――もう間もなく、三回目の放送が始まる。

152 ◆7VvSZc3DiQ:2014/05/07(水) 18:47:23 ID:Gm9F.Mq60
【F-5/デパート/一日目 夕方】

【杉浦綾乃@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]: エンジェルモートの制服@ひぐらしのなく頃に、壊れた携帯電話
[道具]:基本支給品一式、AK-47@現実、図書館の書籍数冊、加地リョウジのスイカ(残り半玉)@エヴァンゲリオン新劇場版、ハリセン@ゆるゆり、七森中学の制服(びしょ濡れ)
基本行動方針:みんなと協力して生きて帰る
1:式波さんたちと協力して、菊地さんのところに戻る。
2:式波さんに、碇くんのことを伝えたい。
3:誰も殺さずにみんなで生き残る方法を見つけたい。手遅れかもしれないけど、続けたい。
[備考]
※植木耕助から能力者バトルについて大まかに教わりました。
※携帯電話が水没して友情日記ごとダメになりました。支給品はディパックに入れていたので無事です。

【式波・アスカ・ラングレー@エヴァンゲリオン新劇場版】
[状態]:左腕に亀裂骨折(処置済み)、腹部に打撲
[装備]:ナイフ、青酸カリ付き特殊警棒(青酸カリは残り少量)@バトルロワイアル、
   『天使メール』に関するメモ@GTO、トランシーバー(片方)@現実 、ブローニング・ハイパワー(残弾0、損壊)、スリングショット&小石のつまった袋@テニスの王子様
[道具]:基本支給品一式×4、フレンダのツールナイフとテープ式導火線@とある科学の超電磁砲
風紀委員の救急箱@とある科学の超電磁砲、釘バット@GTO、スタンガン、ゲームセンターのコイン×10@現地調達
基本行動方針:エヴァンゲリオンパイロットとして、どんな手を使っても生還する。
1:ミツコたちをどうにかする。
2:スタンスは変わらないけど、救けられた借りは返す。

[備考]
参戦時期は、第7使徒との交戦以降、海洋研究施設に社会見学に行くより以前。
※イングラムM10サブマシンガン(残弾わずか)@バトルロワイアルは燃え尽きました。
※光子を捕獲する際に使ったのは、デパートの警備員室からもちだした包丁@現地調達です。現在はデパートの床に落ちています。

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:交換日記(初春飾利の携帯)@未来日記、交換日記(桑原和真の携帯)@未来日記、小さな核晶@未来日記?、宝の地図@その他
[道具]:秋瀬或からの書置き@現地調達、吉川ちなつのディパック
基本行動方針:生きて、償う
1:杉浦さんを助ける。
2:辛くても、前を向く。
3:白井さんに、会いたい。
[備考]
初春飾利の携帯と桑原和真の携帯を交換日記にし、二つの未来日記の所有者となりました。
そのため自分の予知が携帯に表示されています。
交換日記のどちらかが破壊されるとどうなるかは後の書き手さんにお任せします。
ロベルト、御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。御手洗、佐野に関する簡単な情報を聞きました。


※杉浦綾乃名義で、『デパートで相馬光子と御手洗清志の二人に襲われている』という天使メールが三台分送信されています。
 第三回放送終了後にランダムで各参加者の携帯電話へ送信されることになっています。

153 ◆7VvSZc3DiQ:2014/05/07(水) 18:48:13 ID:Gm9F.Mq60
以上で投下終了です
タイトルはwiki収録時につけておきます
矛盾点など見つけられましたら御指摘お願いします

154名無しさん:2014/05/07(水) 19:18:11 ID:mdjABNn60
投下乙です

初春もアスカも本当にスタンスが変わったなあ
そして綾乃も怯えつつも殺し合いを止める事を諦めていない、か
このトリオもトリオでいいわあ
三人のやり取りがよく書けててよかったです

155 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:05:23 ID:XjUx8H9c0
投下乙です。
かつては殺し合いに乗っていた二人が、殺し合いに乗ることを止めたのだと綾乃に伝える…
たったそれだけの、しかし綾乃にとっては確かに救いとなる話の流れがいいなぁ…
このトリオをすごく応援したくなりました

そして天使メールがここでこう使われるとは…!
これは放送後にデパート周りが大騒ぎになりそうだ。


では、自分もキリのいいところまで書けましたのでゲリラ投下します。

すみません、こちらも切原赤也の登場しないSSとなってしまいました。
不必要なキャラの拘束、申し訳ありません

156革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:07:30 ID:XjUx8H9c0
テンコと『飼育日記』の犬は、白井黒子から頼まれた『探し物』を抱えて、意気揚々と食卓のある部屋に帰還した。

「クロコー。ちゃんと見つけてき……って、どうしたんだ? 七原は?」

しかし扉をくぐって室内へと入るなり、深刻そうな面持ちでテーブルを囲んだ少女三人を目の当たりにする。
卓上には細かな文字で埋められたA4サイズコピー用紙がたくさん広げられていた。
そして、『肉じゃが』の感想を言って談笑していた時はちゃんといた少年が、その場にはいない。

困惑するテンコに気づき、まず白井黒子がはっと顔をあげる。

「ああ、テンコさん。ありがとうございますの」

食後に探し物を頼んでいた張本人は、礼を言ってテンコが抱えていたものを受け取りにきた。
なぜテンコと犬が頼まれたかと言えば、首輪をつけていないが故に『探し物をするときの声や音』を主催者に盗聴されることがなく、リスクが低いとみこまれてのことだ。

「幾つかあった中で一番新しそうなのが『これ』だったんだが、良かったか?」
「充分すぎるほどですの。もちろん、中身を調べてみないことには希望は持てませんが……」

受け取ったのは、テンコが所内のデスクから見繕ってきた黒いノートパソコンだった。
きっかけは、ホテルでの一件が起こる直前に、桐山和雄が使っていた『コピー日記』にあった。
『ウェブログ』というインターネットの日記帳は、七原やレナがいた世界ではまだ浸透していない、らしい。
しかし黒子のいた世界にはとうに普及していて、だからこそ『ブログが使えるということは、レンタル元のサーバーに繋がっていなければおかしい』という気づきを持つことができた。
そして、レンタル元のサーバーとは……すなわち、主催者が管理する情報の発信基地にほかならない。
それが罠かもしれないにせよ、情報があるとは限らないにせよ、『回線』そのものは存在している。
ならば同じ世界から来た仲間であり、電脳戦を得意分野とする『御坂美琴』か『初春飾利』の意見を仰ぎつつ、該当するサーバーに対して探りを入れようというのが黒子の試みだった。

「それから研究所を探すうちに色んな部屋を見つけたんだが……さきにそっちの話を聞いてもいいか?」

ソファに座るレナと結衣の暗そうな雰囲気をみれば、何かが起こったことは察することができた。
探し物に出発した時には、みんなが寛いでいて、七原がタバコを吸おうとして黒子に止められたりしていたのに。

「そうですわね。先に私たちの話をしましょう。
……お犬さんには申し訳ないですが、扉の前にいてくださいますか?
七原さんが戻ってきたら教えてくださいな」

157革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:09:09 ID:XjUx8H9c0
ワン、と返事をしてマスクをつけた犬は廊下へと出て行った。
ホテルで一緒にいた時からそうだったけれど、『飼育日記』の犬たちはとてつもなく訓練されている。

「簡単に言ってしまえば」

テンコがソファへと着地すると、黒子は卓上にあった紙束の表紙を見せた。

「――わたくしたちは、七原さんの知られたくなかった過去を、
七原さんが知らぬところから知ってしまいました」

『戦闘実験第六十八番プログラム報告書』と書かれた、それを。





全てを説明すれば長くなるからか。
あるいは、知ってしまった事実をさらに暴露することに、罪悪感があったからか。
そして、その紙束には読むにたえないほど凄惨なことが書かれていたのか。
黒子は、テンコに対してその資料を読ませることはしなかった。

「信じがたい話ですが……七原さんは以前にも『殺し合い』を経験したことになります。
それも、仲が良かったクラスメイト同士で。」

ただ、口頭で淡々と説明した。
中学生が、国家によって殺し合いを強制される世界があったこと。
つい昨日まで仲間と笑い合っていた『日常』がたやすく破壊されて、
絶望の行き止まりを押し付けられる中学生たちが、そこに記録されていること。
自殺する者がいて、狂う者がいて、疑心暗鬼になる者がいて、殺す者と、殺される者がいたこと。
殺し合いは完遂されたけれど、たった二人の『行方不明者』が政府から指名手配されていること。
その二人のうちの一人が、『七原秋也』という名前だったこと。

「最初は、有り得ないって思ったけど……だって、現実に起こるようなことじゃないよ」
「でも、きっとこれが真実なんだよね。作り話で、こんな真に迫った記録が書けるわけない」

具体的に七原秋也がどうしたと書かれていたのか、少女たちは語らない。
しかし、だからこそテンコにも分かってしまった。
七原秋也は、積み上げられた屍の上にいる。
生きるためにクラスメイトと殺し合い、そしておそらくは『行方不明者』として脱出するために、『主催者』の大人たちを殺している。

「じゃあ何かよ。……アイツはここに連れてこられる前から、
もういいじゃねぇかってぐらい可哀想な目に遭ってきたってことかよ」

テンコのいた世界にも、中学生の『バトルロイヤル』はあった。
しかし、だからこそ、理解してしまう。
七原だけ、住んでいる世界が違いすぎるということを。
未来ある子どもたちから何もかもを奪い取り、絶望する姿を見せ物にして楽しもうというのだから。
世界ぜんぶが狂っていなければ、実現するはずがない。

「そんなの、ひどすぎるだろ……」

ひどい話だ。
誰だってひどいと言うはずだ。
しかし少女たちがうつむいて黙っているのは、とっくに『ひどい』と言い尽くしたからだろう。
ひどいとしか、言えない話だ。
だから、『ひどい』と言い尽くしてしまえば、言葉をうしなってしまう。無力になってしまう。

知った上で、どうするのか。
七原秋也という少年をどう理解して、これからどう接していくのか。

158革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:10:17 ID:XjUx8H9c0

「あの人は……」

口火を切ったのは、船見結衣だった。

「クラスメイト同士が殺し合うところを見てきて、だから私たちのことを信じられないのかな?」

辛そうな顔で、レナと黒子、そしてテンコを見回す。

「だって、私だったら……絶対にキレると思うんだ。
『中川典子』さんって、七原さんのパートナーだったんだろ?
少なくとも、一緒に力を合わせて生き延びたんだから、きっと信頼してた人で……。
そんな人が放送で名前を呼ばれたのに、すぐそばにみっともなく泣いてるヤツがいてさ、
そいつを黙らせようとしたのに、『お前なんかに気持ちが分かるもんか』とか言われたら……私だったら、キレてるよ。傷つくよ」

その『泣いてるヤツ』が誰を指すのかは、すぐに分かった。
テンコと黒子は現場にいなかったけれど、船見結衣が七原秋也にむかってそう言ったらしいことを、辛そうな表情から知らされる。

「私のことを怒って、自分なんか一番大切な人が死んだんだぞって言い返してるよ。
それなのに、抑えて自分のことを話さなかった。
それって、そこまで我慢しても知られたくないってことだよね?
たとえば、知られたら『仲間殺し』扱いされるかもって疑ってるとか。
それか、アマちゃんの私たちなんかには分からないって思ってるとか――」

衝撃がすぎた真実は、傷つけてしまった罪悪感は、良くない憶測を膨らませていく。
しかし、レナが遮った。

「それは違うと思うよ。
秋也くんは何度も『私たちのことを否定しない』って言ったし、『殺さないに越したことはない』って認めてくれてる。
そのときの目は、心にもないことをいってる目じゃなかったと思う」

竜宮レナは、紙に書かれた事実だけに先入観を持ったりしない。
自分の目で見たの七原秋也のことも、ちゃんと覚えている。

「……私はね、隠し事をするのは、別にいいって思うの」

ぽつりと呟くように、レナは言葉を続けた。
黒子と結衣が、意外そうに注目する。

「さっきは七原くんにも自分のことを話してほしいって言ったけど。
友達のみぃちゃんだったら、『言いたくないことを打ち明けなきゃ仲間と呼べないなら、そんな仲間はいらないね』って言うと思う。
昔にしたことがどうであれ、自分を判断するために隠し事を詮索してくるような人なんか、私だって一緒にいたくないから」

両膝の上に両の手をのせた姿勢で、喪った友人のことを思い返すように目を細めて、

「だから、これはきっとワガママでお節介なことだよ。
言い争いもしたけど、私は七原君と『仲間』として一緒にいたい。
だから、一人になろうとする理由が、この秘密にあるなら――」

――私はそこに踏み込んででも、七原くんとお話がしたい。

言い切られた宣言に対して、結衣と黒子はほっとしたような笑みを浮かべた。
それはまるで、自分たちの立ち位置を、再確認するかのように。
輪の中に七原秋也を加えることを、まだ三人は諦めていない。

159革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:11:41 ID:XjUx8H9c0

「とはいえ――むしろ、心を開いてもらうハードルは上がったと言えますの。
たまたま知ってしまったとはいえ、私たちが勝手に秘密を探ったとなれば、七原さんもいい感情は持たないどころかますます警戒されること必至ですのよ」

白井黒子が、苦い顔でその厳しさを指摘する。

「それに、これからは下手に『歩み寄ってください』とも言い出せなくなりました。
だって、七原さんはとっくに切り捨てる道を選んでいるのですもの。
そして、元の世界に戻っても、それを続けようとしていますもの」

レナたちは顔をうつむかせて、卓上の『報告書』を見つめた。
資料からは、プログラムを生き延びた後の七原については分からない。
けれど彼は、己のことを『革命家』だと称していた。
だからきっと、少年は『日常』には戻らない。
これからも、決して無血革命には終わらない戦いを続けようとしている。

船見結衣が、口を開いた。
独白するように。

「あの人は……『世界を変える』って言ってた。
どんな世界にするつもりなのかな。
その変わった後の世界に、あの人の『帰る』場所はあるのかな」

誰も、それに答えられなかった。
あるはずだと答えるには、七原の瞳は、言葉は、諦観に満ちている。

「そうだな。それに、誰にも話さなかったってことは、
逆に人から何を言われようとも、聞き入れないし決意を曲げないってことだもんな」

テンコの口からも、そんな言葉がもれていた。
友達の植木耕助だって何人もの中学生を救ってきたけれど、
そいつらは自分たちの側から救いを求めるか、あるいは欲しがっていることを自覚していないだけだった。
七原秋也は違う。己に何かを与えようとする者さえ、願い下げだと拒絶している。



「ううん……そうとも言い切れないよ」



しかし、否定の声はあがった。
竜宮レナだった。

「『誰にも話さなかった』って言ったよね。
でも、実際のところはそうじゃないんだよ」

重々しい表情の中に、青い炎のような瞳が燃えている。
料理の時に見せていたぽやぽやとした顔が、怜悧なものへと変貌していた。
その視界には、テンコたちには見えない真実が見えているかのように。
そして視線は――白井黒子へと向いた。

「私は――そこに踏みこめるとしたら、黒子ちゃんだと思う」

160革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:13:48 ID:XjUx8H9c0




喫煙所の灰皿に、タバコの吸い殻が三本。

指にはさんだ四本目を、灰皿にぐしゃりと押し付けて潰した。
ぽつりと、七原秋也は独白をする。

「……このまま離れるか」

もとより、研究所に留まり続ける理由はなかった。
このまま食卓に戻ったとしても、また『別行動をさせてもらう』と『行動を同じくしよう』の堂々巡りになることは見えている。
ならば、手間をはぶこう。自分から距離をあけてしまおう。
レナたちは後々に再会でもすれば間違いなく怒るだろうが……それを疑心暗鬼として七原を殺しにかかるほど愚かな少女たちでもない。
そんな損得計算をしながら、七原秋也はゆっくりと研究所を出口にむかって歩き、階段を降り、ゆっくりと歩いて、自動ドアをくぐった。



「まったく。わたくしもアホなら、あなたもアホですのね」



そして、止められた。
夕刻の風にツインテールをそよりと揺らし、両手を腰にあてて立ちはだかる少女に。
右手には、筒状に丸めた紙切れを握っている。

「……行動を読んでたのか?」
「放送後には別行動をすると言っていた人が、いつまで経っても戻ってこなければ、
早まって出て行ったのかと危惧するに決まってますの」

それは計算違いだった。
七原としては、それほど長い時間をぼんやりとしていた自覚はなかったのに。

「そう言われても、俺としては話すことは何もないんだがな。
そっちが『やっぱり七原さんと同じように容赦なくやる覚悟を決めました』ってなら別だが」

後半は挑発だった。
そんなことが起きるとは思っていないし、白井たちは甘い思想のままでいればいい。
七原の見ていないところでやってくれるなら。

「そうですわね。七原さんの望む言葉は言えないでしょうが
――それでもわたくしには、なあなあにしておけないことがあります」

――ふと、気になった。
自分がこの『容赦なくやる』という言葉を飲み込んだのは、いつの頃からだろう。
川田に『容赦なくやれるか』と問われて『やらざるを得ないだろ』と認めたのは――まだプログラムでも、中盤にさえ差しかかっていない時期だったはずだ。
とある二人の女子生徒が、『拡声器』を使った一件がきっかけになった。
それに比べれば、大きな乱戦をくぐり抜けても、生存者が半数を割り込んでも、なお変わらずにいる彼女たちはやはり強い。
今は亡き『七原秋也』とは違う。

「まずは謝罪をしなければなりません。七原さんにとって、知られたくないことを知りました」

強い少女はそう切り出すと、丸めていた紙きれを広げて掲げた。
七原は視力がいい。
そこに印字された『戦闘実験第六十八番プログラム報告書』の文字をしっかり読み取って、顔をひきつらせる。

「おいおい。なんだって『そんなもの』がここにあるんだよ」
「支給品にも、色々とバリエーションがあるようですの。
プライバシーの侵害については謝りますが、肖像権の侵害については主催者の方々におっしゃってくださいな」

161革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:14:31 ID:XjUx8H9c0

許さないと決めていた主催者に、さらなる憎悪を上乗せする。
これだから知られたくなかったんだ、と。
知られてしまえば、踏み込まれる。
知ったふうなことを言われて、伸ばされたくもない手を伸ばされる。

「動揺を見る限り、この資料がでっち上げというわけでは無いようですのね」
「ああ。確かに、そこに書いてある『プログラム』とかいうイベントに招待された覚えがあるな。
けど、そいつは大切な『中学生活の思い出』ってやつだ。他人と共有して浸るようなもんじゃないね」

『革命家』は過去を背負い、しかし振り返らない。
だから、何人たりともに背負った荷をほどかせはしない。

「だから七原さんは、ずっと黙っていたんですの?
『身元のしれない不審人物』扱いを覚悟の上で?」
「打ち明けたところでどうなる?
会ったばかりの他人からお涙ちょうだいの昔話で同情を買うほど、『革命家』は落ちぶれちゃいないんでね」

『他人』の部分を強調すると、黒子は分かりやすくカチンときた顔をした。
ここで怒りの反論がくるところを遮って、会話を打ち切らせる。
そういう算段をしていた七原だったが、しかし黒子は黙る。
七原のペースで、ことを運ばせまいとするように。

すぅ、と息を吸い込み、言った。



「――ならどうして、佐天さんにはお話してくださいましたの?」

162革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:15:50 ID:XjUx8H9c0
名前と、記憶を結びつけることにしばらくかかった。
佐天。
なぜ、ここにきてその名前が出る。
もう半日以上も前に死体となっている少女のことだ。
そう、思えば宗屋ヒデヨシがおかしくなり始めたのも、あの少女が死んだことがきっかけで――

――もしもあの部屋から最初に出てたのがオレだったら……きっと、死んでたのはオレだ。
――もしオレが死んでたとしても……お前は、仕方ないって言っちまうのか……?

――言っただろ、俺はこんなクソッタレな幸せゲームは、一度クリア済みだってな。
――あのとき生き残ったのは、俺を含めて二人だけだった。俺のクラス42人のうち、40人が死んだんだ。

そう、たしかに『プログラム』のことを打ち明けていた。
七原にとって、会話とは情報をもらうための交渉だったはずで。
余計なことはいっさい口外しないようにしたはずだったのに。
いつからだ、と慌てて記憶を顧みる。

――七原や佐天とは住んでる世界がどう考えても違ってる……学園都市、大東亜共和国。
――俺には初耳だぜ、そんな国も場所も聞いたことがねえ。

――でも、実際にこうしてあたし達は出会っているし、それは確かな証拠だと思うんです。

本当に最初の最初だった。
二度目の殺し合いが始まって、最初に出会った二人と最初に交わした会話。
たった一日でいろいろなことがありすぎて、すっかり忘却していた過去。
佐天涙子はもう死んでいるし、ヒデヨシだってあんなことがあったからには忘れているはず。
それを、なぜ白井黒子が知っている?
大東亜共和国のことはおろか、佐天涙子についても『死んだ』と最小限のことしか話していなかったのに。

「おい、今度はどんなカラクリだ?
『未来日記』じゃなくて『過去が見られる日記』でも持ってるのか?」
「そんなものに頼らなくても……過去のことだったとしても、相手を知ることはできますの!」

研究棟で囲まれた中庭に、白井黒子の凛とした声が響いた。
風が吹き抜けて、ざわざわと建物脇の植木を揺らしていく。
それが収まった頃に、白井は付け加えた。

「もっとも……気がついたのはわたくしではなく竜宮さんですけれど」

あいつか、と思い出す。
船見結衣を止めようとしていた時の、あるいは首輪のことについて筆談をしていたときの、見透かしたような鋭い眼差しのこと。

「考えてみれば、簡単なことでしたのね。
七原さんはどうして出会った時から『わたくしたちは大東亜共和国の無い世界から来た』ことを知っていたのか」

163革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:17:00 ID:XjUx8H9c0

ああ、そうだった、と内心で歯噛みをした。
単に『異なる世界から人が集められた』ことを知るだけならばたやすい。
『並行世界』というSF小説のような発想にたどりつくにはハードルが高いけれど、それだけだ。
たとえば、宗屋ヒデヨシの世界にある『能力者バトル』や、佐天涙子の世界にある『学園都市』。
相手が『俺はこういう戦いに参加していて……』とか『私は学園都市に住んでいます』と言い出すだけで、すぐにおかしいと理解できる。
しかし、『私は日本という国に住んでいます』などということを、わざわざ説明するだろうか。

「たとえば、『大東亜共和国には学園都市なんてない』と発言して、『大東亜共和国ってなんですか?』と答えが返ってくる。
そして、それに対して七原さんが『大東亜とは何か』を説明する。
そんな流れがあって初めて、祖国の違いを認識できますの。
ましてや、わたくしたちの国が全体主義国家ではないことも、国家に抹殺される危険もなく平和に暮らしていることも、『プログラム』という殺し合いが開かれないことも。
……そこまで追及をかさねたら、どうしたって『七原さんの祖国はそうではない』ことぐらい知られてしまいます」

一方的に『プログラムというものを知っているか』と尋ねて『知りません』と返事をもらうことぐらいはできるだろう。
しかし、そんな単調な会話だけで『生まれ育った国の何もかもが違う』と確証を得られるものではない。
ましてや『大東亜共和国が生まれなかった代わりに、アメリカにも似た民主主義国家が成立している』なんて、七原秋也からしてみれば理想の世界でもあり、同時に悪夢のような話なのだから。



だから。



「たとえ、情報交換するためにやむを得ずしたことだったとしても。
七原さんは、佐天さんと宗屋さんに自分から話したことになりますの。
打ち明けるには、とても勇気がいるようなことを。
佐天さんたちを信じようとしなければできないことを、してくださったんじゃありませんの」

そうだ。
確かに、そういう会話があった。
もちろん、プログラムでどんな犠牲を払ったのか、本心のデリケートなところは伏せたけれど。
そういう催しを経験したのだと、しぶしぶながら、それでも誇らしげに語ることになった。

「――つまり、何が言いたいんだ?
『どうして話したんだ』って聞かれたら、アンタらの推測したとおり、
『やむを得ずのことだったし、こっちも混乱してた』以外に理由は無いんだがな」
「本当に、理由はそれだけですの?
なら、佐天さんは――わたくしの大切な友人は、そのお話を聞いて、なんと仰っていました?
七原さんを恐れたんですの? 信じられなかったんですの?」

そういうことか、と理解する。
だから白井黒子は、一人でやってきたのか。
船見結衣ではなく、竜宮レナでもなく、白井黒子が踏み込んできたのか。

『佐天涙子の友人だから』という、理由を得て。

164革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:18:05 ID:XjUx8H9c0
「そりゃあ……あの子はいい子だったさ。
『プログラム』のことを話しても、ショックは受けた風だったけど、変わらずに接してくれたな」

嘘は言っていない。
けれど、全てでもなかった。
佐天涙子が示した反応の中には、七原を喜ばせた言葉があった。
たとえ佐天の友人から”願い”であっても、その言葉を、自分の口から声にしたくなかった。

そのまま引用するならば、こうだ。



――そんなの、許せませんよ! 必死に生きてきた人を、こんなゲームにまた参加させるなんて!



許せないと、言ってくれた。
眉をつりあげて、両の拳を振りかざして。
七原秋也が、決して許すことはないと誓った『神様』に対して、そう言ってくれた。

「もし、佐天さんが七原さんを傷つけなかったのなら。
七原さんが佐天さんたちに、そうあってほしいと期待して、“願って”打ち明けたのなら」

――じゃあ、生きてまた。
――ああ。七原も。全員生きて脱出しようぜ!
――あはは……みんな無事で帰りたいね。
――何言ってるんだよ、必ず……必ずみんなで帰るんだ。

気がつけば、そんなやり取りをしていた。
『必ずみんなで帰ろう』なんて、ハッピーエンドを信望するかのような言葉を口にして。
ここから反撃を始めるのだと、気取ることなく笑えていた。



「打ち明けることができたのは…………七原さんだって『仲間』になれると、信じていたからではありませんの?」

165革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:18:58 ID:XjUx8H9c0
探り当てられた。
白井黒子は、救いの手をのばす『七原秋也』を、見つけ出した。
もう隠せない。繕えない。
肩からどっと力が抜ける。



「ああ、そうだな。
確かに俺は、欲しかったのかもしれない。
一緒に走ってくれる『仲間』ってやつが」

その瞬間、白井黒子の顔に、確かな希望が射した。

「だったら――」

ごくごく自然体で、七原秋也は続く言葉を口にする。



「……で、その結果、『仲間』だった宗屋は何をした?」



だが、全ては過去のこと。
救いの手をのばしていた『七原秋也』は、もういない。

「それは――!」

強い語調で反論しようとした声を、冷え切った語調で遮る。

「佐天も宗屋も、もういない。
いや、片方は生きてるけど、とうてい『仲間』とは言えないな。
むしろ次に会ったら、問答無用で蜂の巣にしてるところさ。
アンタらがどんなに庇い立てしても、赤座あかりがそんなこと望んでないとしても」

見事だ、と感嘆する。
もし、さきほど決意を固めていなかったら。
『七原秋也を亡きものにする』と決めていなかったら。
高望みをしていたかもしれない。揺らいでいたかもしれない。

「確かに、あのときの俺は、アイツらにカケラでも仲間意識を持ってたかもしれない。
けど、それが何を生んだ?
俺は、桐山の敵意からアイツを助けた。一人でも多くを救うためにな。
ところが救けられたそいつは、間接的にロベルトと佐野と桐山を殺したよ。
そして、少なくとも赤座あかりをその手で殺してる。
テンコが言ってたホテルでの惨状を聞くに、もっと多くが犠牲になったかもしれないな。
勘違いするなよ、俺はそいつを恨んでるわけじゃない。
アンタらと違って、俺は『それでもハッピーエンドを目指す』って言えるほど夢見がちじゃないんだ」

違う。
あの時あの場所にいたのは、今ここにいる『革命家』ではない。
あの時はまだ死にきれていなかった、『七原秋也』の残り滓だ。
中川典子がまだ生きていた頃の、七原秋也だ。
『世界が違う』と頭では理解していても、それが意味するところを知らなかった七原秋也だ。

166革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:19:39 ID:XjUx8H9c0

「だからさ、頼むよ。白井黒子」

お”願い”だとは、敢えて言葉にしない。
それは、他人に弱さをみせることに他ならないから。
誰にも理解されなくていいし、理解されたくもないから。

「ここで、お別れにしよう」

だからこそ、携えたレミントンの銃口を向けることだってしない。
単純な戦闘力ではどちらが上なのか判断するぐらいの頭はあるつもりだし、
ここでケンカを売れば、取り押さえられてレナたちの元に強制送還される口実を作るだけだろう。
それに、”船見結衣や竜宮レナならばともかくとして”、白井黒子を殺傷するのはちょっとマズイ。
桐山和雄が身を呈してかばって意味がなくなってしまうし、首輪を解除するアテがまるで無いというのに白井黒子の能力をうしなってしまうのは、いくら何でも愚策すぎる。
”敵になり得る”と理解しているからこそ、愚かにも戦端を切るような真似はしない。



「――お前らは、俺を敵に回したくはないんだろ?」



俺はお前らを敵に回したくないんだ、とは言わない。

決然とした顔の白井黒子に相対して、
七原秋也は、おかしくもないのに笑みを浮かべていた。

【D−4/海洋研究所前/一日目・午後】

【七原秋也@バトルロワイアル】
[状態]:健康 、頬に傷 、『ワイルドセブン』
[装備]:スモークグレネード×2、レミントンM31RS@バトルロワイアル、グロック29(残弾9)
[道具]:基本支給品一式 、二人引き鋸@現実、園崎詩音の首輪、首輪に関する考察メモ 、タバコ@現地調達
基本行動方針:このプログラムを終わらせる。
1:???
2:レナ達を切り捨てる覚悟、レナ達に切り捨てられる覚悟はできた。
3:走り続けないといけない、止まることは許されない。
4:首輪の内部構造を調べるため、病院に行ってみる?
5:プログラムを終わらせるまでは、絶対に死ねない。


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:精神疲労(大)
[装備]:メイド服
[道具]:基本支給品一式 、正義日記@未来日記、不明支給品0〜1(少なくとも鉄釘状の道具ではない)、テンコ@うえきの法則、月島狩人の犬@未来日記、第六十八プログラム報告書(表紙)
基本行動方針:自分で考え、正義を貫き、殺し合いを止める
1:???
2:とりあえず、レナ達と同行する。
3:初春との合流。お姉様は機会があれば……そう思っていた。
[備考]
天界および植木たちの情報を、『テンコの参戦時期(15巻時点)の範囲で』聞きました。
第二回放送の内容を聞き逃しました。

【船見結衣@ゆるゆり】
[状態]:健康
[装備]:The wacther@未来日記、ワルサーP99(残弾11)、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式×2、裏浦島の釣り竿@幽☆遊☆白書、眠れる果実@うえきの法則、奇美団子(残り2個)、森あいの眼鏡(残り98個)@うえきの法則、ノートパソコン@現地調達、第六十八プログラム報告書(中身)@バトルロワイアル
基本行動方針:レナたちと一緒に、この殺し合いを打破する。
1:白井黒子が七原秋也を呼んでくるのを待つ。
2:今は、レナ達といっしょにいたい。
[備考]
『The wachter』と契約しました。

【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:穴掘り用シャベル@テニスの王子様、森あいの眼鏡@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、奇美団子(残り2個)
基本行動方針:正しいと思えることをしたい。 みんなを信じたい。
1:白井黒子が七原秋也を呼んでくるのを待つ。
2:できることなら、七原と行動を共にしたい。
[備考]
※少なくても祭囃し編終了後からの参戦です

167革命未明 ◆j1I31zelYA:2014/05/07(水) 23:20:00 ID:XjUx8H9c0
投下終了です

168名無しさん:2014/05/08(木) 13:44:22 ID:CwnvfJ66O
投下乙です。

元マーダー二人の話を聞き、決意を固めた綾乃。
手遅れはあっても、遅過ぎなんて事は無い!

秋也の決意も固いな。
元仲間のヒデヨシは、仲間を庇って自己満死してますよ。

169名無しさん:2014/05/08(木) 21:21:02 ID:JyXrja2Q0
投下乙です

秋也の決意が今後どう転ぶのか気になる
しかしこのロワは中学生の純粋だが脆さもある心理がよく書けてるなあ
そしてこのロワの売りだわ

170名無しさん:2014/05/08(木) 22:01:03 ID:IONvM.aI0
投下乙です

2話続けてハッピーエンドを目指す少女たちが頑張っているからこそ、『ワイルドセブン』の悲壮な覚悟が映えますね
殺し合いを止めるという理想が叶う時は果たしていつになるのか……

171名無しさん:2014/05/08(木) 22:29:49 ID:M/j2Xz3A0
アスカと初春と綾乃のチーム、一見それなりの結束があるように見えるんだけど
実のところまだ全員が本心を隠しているというか、まだ躊躇があるように見える。
そこにまだ危うさを感じるのだけれど、どうなるかね。

もう一つの戦いは救うか救えないかでなく、信じるか信じられないかに焦点が当たっていると思う
どんなに論理を重ねても結局自分を信じられるか、というところに行き着く。
まあそれは置いておいて個人的にはこの七原、すっごい殴り飛ばしたいんだよなあ……
言いたいことは分かるが、というやつ

172 ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:07:37 ID:aJI1bJfw0
予約していた分の投下を始めます。

今回、分量もかなり長いので二回にわけての投下をさせていただきます。
まずは前編部分の投下となります。

1737th Direction 〜怒りの日〜  ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:10:38 ID:aJI1bJfw0

出題:あなたは、そこにいますか?




――新しい明日はまだなのね。



そういえば、と振り返る。

今より以前に、私の『日常』が変わったのはいつの頃だったろうか。
『むかし』はいまと、そこそこ違っていたと、それはハッキリと憶えている。

今とは違うむかしの話。あれはまだ小学生だった時期のこと。
あの頃はまだ、京子は今とは違っていた。
怖がりで、オドオドとしていて、よく泣く子だった。

だけど、私の方だって今とは違っていた。
むかしのわたしは、ごらく部での京子にも似た立場で。
戦隊ごっこの赤いリーダー役をやりたがるような、わんぱくな女の子だった。
きっかけも、理由も、今はもう、よく思い出せないけれど。



――君は、君がここに存在する意味についてどう思う?



京子が今の……違う、今はもういないのか。
とにかく誰もが知る歳納京子へと変わっていったのと同じ時期。
私もまた、今の船見結衣へと変わっていった。
『船見さんはクールだね』とか『落ち着いた子だね』とか言われるようになっていった。
それは単純に、ヤンチャ盛りだった子ども時代を卒業しただけのことかもしれない。
もしかすると、明るく騒がしいリーダー役になっていった相方との釣り合いを取るために、性格を合わせたのかもしれない。
……いや、それはないか。いくらなんでも、友達のためにそこまでするなんて重すぎる。
そこまでは否定したいけれど、あれで京子の成長に釣られたところはあるかも、なんて。
私はどうにも、肝心なところで他人に合わせるというか、基準にするところがあるから。
たとえば、小学校にあがったばかりの頃に、長かったツインテールをばっさりと切ったこと。
あれも、京子がまだ泣き虫だった頃で、幼いなりに自分がしっかりしなきゃと意気ごんでのことで。

1747th Direction 〜怒りの日〜  ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:14:11 ID:aJI1bJfw0
たとえば、もしもの話。
もしもレナのような子が幼なじみだったとしたら、私はその子に合わせて『かあいい』髪型のままでいたんだろうか。
あるいは、まれにレナがかいま見せる、かっこいい『青い炎』のような姿に惹かれて。
彼女と釣り合いを取るために、『赤い炎』のような熱血やんちゃを目指したのだろうか。

考えても、栓のないことだけど。
私の幼なじみは歳納京子と、そして赤座あかりでしかないのだし。
私は昔も今もひっくるめて、ああいう性格のアイツが好きだったし。
レナのことはレナとして、ちゃんと…………うん、好きだし。



――君だけが持っている特別なこと
――出来ること、やるべきこと
――君をここに呼んだ人は、きっとそれが見たいのだから、ね



特別、と言われたら。
あかりの果たした仕事は、まさに特別だった。
そんな仕事をするよりも、無事でいてくれたらどんなに良かったかというのが本音なんだけど。
仲間になってくれるか分からない人にも、自分を殺そうとする人にも。
なんでもお話し聞かせて、どんなことでもしてあげる。
言葉と心で、直接に間接に幾人かを救った。
RPGに出てくるような世界を救った勇者にだって、きっと引けを取らないはずだ。
いい子なのは分かっていたけど、あの妹分みたいだった子が、勇気を振り絞ってそこまでのことをするなんて。
嬉しくて、悲しくて、あかりらしい。
誰が好きかと聞かれてみんな大好きと答える、赤座あかりらしい。

私の場合は、少し違うんだろうな。
もちろん、あかりほど誰にでも優しくできるわけじゃないけれど。
それでも、ごらく部のことは好きで、大切だ。
ただ、殺し合いが始まって最初に心配したのは。
いつもと変わらない『日常』が消えること。そして、みんなに会いたいってこと。
これがあかりなら、まず私たちが危ない目に遭っていないかどうか心配しただろう。
ちなつちゃんも、私たちの無事を案じてくれたと思う。
京子のヤツは想像力がたくましいから、最悪は私たちの誰かが殺人者になってしまうことも想定したかもしれない。
綾乃は……しっかりしてるし、逆に私たちが殺すはずないって信じてくれてるかもな。

こうやって挙げていくと、まるで私だけが想像力貧困で、危機感の足りてない奴みたいだ。
いや、本当にあの頃はさっぱり実感なんて湧いていなかったし、
真希波さんの死体を見てからは、それも無くなったけれど。
でも、きっとそれだけじゃない。

1757th Direction 〜怒りの日〜  ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:15:50 ID:aJI1bJfw0

私はきっと、『居場所』としてのみんなを失うことが怖かった。
恐れていたのは、七原からも指摘された『仮に赤座あかりたちが生きていても普通とかけ離れて』しまうようなこと。
京子とちなつちゃんとあかりが部室で待っていて、綾乃や千歳が押しかけてきて。
そこにいればほっとする、『それまでどおり』のごらく部に、しがみついていたかったんだ。
きっと、それが私の『みんな大好き』のカタチ。
安心させてほしいという、甘え。
京子に言わせれば、私はぜんぜん寂しがり屋で、甘えんぼなんだろうな。



――僕から見れば君は十分に、普通の人とは違う存在かも、と感じるけどね



だとすれば、神様が私なんかを舞台に招いたのも納得がいく。
みんなそれぞれ、違う世界から来て、戦って、喪って。
誰もが自発的に、もしくは必要に迫られて変わっていく、そんな場所で。
変わっていくことを拒否する私は、さも滑稽に見えただろうから。

いや、願っただけじゃなくて、行動に移そうとした。
失われた者を取り戻すために、殺し合いに乗ろうとした。
そこまでするのは、きっと5人のなかでも私ぐらい……とまで言い切るのは独りよがりだな。
でも、そうであってほしい。

あの日々を取り戻すために、殺し合いに乗る。
そんな役割を選び取れば、神様も応援してくれただろう。
それもまた『新しい私』の、有り得た姿だったはずで。



でも私は、『新しい私たち』を選んでしまった。



――どれだけ他のものが元通りになったって、結衣ちゃんだけは、別なんだよ。



喪いたくないなら、まず自分が変わってしまっては駄目なのだと。
新しい友達と歩いていけるような、そんな変わり方もあるのだということを。
変わらないままで、変わっていくことを教えてくれた。
相変わらず行く先は暗すぎて、一瞬先はどうなるか分からなくて、
京子たちへの未練よりも、新しい友達の示したことを優先してしまった自分が、ちょっとだけ嫌で、

それでも、別の道を選んでいたら得られなかった、ぽかぽかとしたものがそこにはあって。
だからわたしは、居心地のいいごゆるりワールドが欠けてしまったことを理解して。

1767th Direction 〜怒りの日〜  ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:17:35 ID:aJI1bJfw0
それでも、そこに『帰ろう』とする道を選んだ。

戻ってこなくても、喪われてしまっても、
『■』ぐらいは、見られるかもしれないと思った。





「黒子、遅いな……」
「そうだな……もしかして、七原が逃げちまったんじゃねぇのか?」
「それなら一旦は、私たちのところに知らせに戻るよ。
黒子だって、独断専行して七原を追っかけるほどバカじゃないはずだし」
「それもそうか」

七原秋也を止めるために白井黒子が一人で飛びだしたのは、佐天涙子のこと以外にも理由がある。
屋外を殺し合いに乗った参加者がうろついていて、それも七原と言い合いをしている真っ最中に遭遇したりすれば、黒子一人だけの力で三人を守りきれる保証がないからだ。
黒子のテレポートを用いて逃がすことのできる人数は、一度に二人か、多くても三人なのだから。
黒子からは、もし飼育日記の犬が不審な匂いを嗅ぎつけたりすればさっさと逃げるように言い含められているし、結衣たちもそうなったら仕方がないと頷いた。
しかし……待つ時間があまりにも焦れったいものだということを、その時は考慮していなかった。

心配しながら待つ時間は、長い。

あてどころのない視線は、自然と卓上へ向いてしまう。
怖い。
怖いことが書かれた、たくさんの紙切れが散らばっている。

40人の少年少女の、死に様を克明に記録した書類だ。

目にしたときは、ひどいという言葉が出た。
よく考えて、想像をすれば、『ひどい』は『こわい』になった。
同じ教室で、机をならべて勉強していた同士で殺し合う。
休み時間に、一つの机に集まってだらだら雑談していた者同士で殺し合う。
まさに船見結衣だって、殺し合いの真っ只中にいるけれど。
それは、ただの知らない他者から殺されるという恐怖でしかなかった。

たとえば、いつも仲が良かった同じ部活動の女の子たちが、お互いにお互いを殺そうとしていると思い込んで、憎しみの弾丸をぶつけ合う。
いとも簡単に、強い恐怖が『みんな大好き』を忘れさせてしまう。
クラスメイトが――それも歳納京子や杉浦綾乃たちがそうなってしまったら――船見結衣はきっと、心が壊れてしまうだろう。

1777th Direction 〜怒りの日〜  ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:19:41 ID:aJI1bJfw0
それはもう悲劇とさえ言えない。『惨劇』だ。

きっと竜宮レナも、同じ想いを抱いたはずだ。
『部活動』という仲間たちのことを、本当に楽しそうに話していたのだから。
たとえば、竜宮レナが園崎魅音という少女を殺そうとしたり、
前原圭一という少年が、竜宮レナを殺すようなことが、起こるわけないと信じているはず――

「――レナ?」

竜宮レナは、報告書の一枚を拾いあげて、じっと考えこんでいた。
天井からの明かりが紙の裏面を透かして、どのページを読んでいるかがうっすらと分かる。

『大木立道』という名前が読めた。
覚えている。ちょっとだけ見た遺体の写真があまりにもグロテスクで、夢に出そうな思いをしたから。
ナタのようなもので顔を叩き割られて殺されたらしいことは分かった。

レナは右手で持ち上げたその報告用紙をじっと凝視する。
左手は五指を広げたまま顔にあてて、額から顔の左半分にかけてを隠すように覆っている。
まるで、『自分も写真に写っている顔と同じ部分を、斬られるか叩き潰されるかして殺されかけたことがある』みたいに。

結衣たちの視線に気がつくと、「えっとね……」と言いよどんだ。
困ったような顔で、言いたいことがありそうなのに沈黙している。それはレナらしからぬ姿だった。
意を決したように「結衣ちゃん」と名前を呼んできた。

「前に、結衣ちゃんは信じてくれたよね。
レナたちが、『神様に心当たりがある』っていうお話のこと」
「うん、信じたよ」
「じゃあさ、もっと漫画みたいなお話。
『実は私には前世の記憶があるんだよ』って言ったら……信じてくれる?」

前世。

突拍子もない。
占いでしか聞いたことがないような言葉だ。

しかし、レナはごく真剣そのものだった。
時間をかけて感情の波が強くなるように、瞳に潤んだものが貯まり始めている。
彼女にとってはただならぬことだと、それだけは間違いなく信じられたから。
詳しく聞かせてと、返事をしようとして。



ズズン、と。



地震でも起こったかのような轟音と振動が、室内を大きく揺さぶっていた。





1787th Direction 〜怒りの日〜  ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:20:55 ID:aJI1bJfw0


「――お前らは、俺を敵に回したくはないんだろ?」


そう言われ、反駁しようとした黒子の口を塞いだのは、七原ではなかった。
音だった。

最初はびりびりと細かな振動が。
そして、ある臨海点を境として轟音が。

研究所といっても、趣は大学のキャンパスのそれと近い。
一面に芝をしいたゆとりのある敷地に、大きさも形もばらばらな研究棟が5、6戸ばかり林立している。
そのひとつが、ガラガラと積み木を崩すように倒壊を始めていた。

「…………なぁ、この会場には怪獣でも棲息してるのか?」

張りつめていた七原でさえ、その急変にはたじろいだ声をあげる。
幸いにしてレナたちがいる建物とは別のそれだったけれど、だからといって『ああよかった』と胸をなでおろせる光景でもない。

破壊の意志を持った強大な力の持ち主が、そこに迫っているということだ。

「あの壊れ方から察するに、ビルの支柱を威力のある刃物か鈍器かで潰していったのでしょう。
以前に、同じやり方で解体したビルを見たことがありますの」

黒子としては、過去に自身も似たような能力でビルひとつを潰した経験があったので、方法に心当たりをつけるぐらいのことはできた。
殺し合いに乗っている人物ならば、その破壊はとても効率的な方法なのだろう。
建物のひとつひとつを探し回る手間をはぶいて、施設ごと人間を圧死させることができるのだから。
……もっとも、その手段を効率的なものだと冷静に判断して、そして実行してしまうような人間は、間違いなく色々な意味でぶっ壊れている。

1797th Direction 〜怒りの日〜  ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:22:35 ID:aJI1bJfw0



「なるほどな。じゃあ、さよならだ」



緊張が抜けるほど、あっさりと。
黒子の言葉を聞き終えるや、くるりと七原は踵を返した。

「なっ……!」

脱兎のように走り出す後ろ姿に黒子はあっけにとられ、そして手をのばし、
――そして、苦い顔でやめた。

七原秋也は、黒子たちと別行動をとりたがっていた。
そして七原秋也はリアリストであり、他者を救うために自らの命を危険に晒したりはしない。
つまり七原にとって、この場にとどまる理由など何一つないのだろう。

しかし、白井黒子はこの場にとどまるしかない。
七原を追いかけて捕まえようにも、危険人物は依然としてここにいるのだから。
七原秋也を確保することか、船見結衣と竜宮レナの安全を確保することか。
失敗したら取り返しがつかないのはどちらか……考えるまでもない。

(……また会ったら、覚えていらっしゃい!)

毒づいて、急ぎテレポート。
テンコに教えられた近場の資材置き場から、持てるだけの釣り針をひっつかんで元の中庭へと戻る。
さすがは『海洋研究所』というべきか、いつもの鉄矢の代わりとなる漁具が入手できたのはありがたかった。

釣り針を指の間にはさんで構え、黒子は倒壊跡から広がってくる土煙のむこうを見据える。

変わらない心と、変えていく勇気を奮いおこす。
油断をするな。
恐怖に縛られるな。
もう、『最悪は起こらない』なんて思い上がるな。
それでも助けるために、『正義』を成すために、戦え。

1807th Direction 〜怒りの日〜  ◆j1I31zelYA:2014/05/14(水) 00:24:09 ID:aJI1bJfw0
そして食い止めるべき対象は、煙の中を歩いて現れた。
まるでテニスコートの端と端のような、そんな距離をおいて中庭の芝生で対峙する。



「『人間』。やっと見ーつけた」



現れたのは、朱に染まりだした西日を背負った、赤色の悪魔。

血塗られた色の肌に、白い海藻のようにちぢれた髪の上から真っ黒い帽子をかぶり。
眼球までもが赤く濁りきった異様な外見は、テンコが目撃したという男に一致していた。
ホテルの跡地で、狂ったように皆殺しにしてやると叫んでいた少年だった。
裂けるような笑みを浮かべる悪鬼じみた姿は、こちらを『殺し合う相手』ですらなく『獲物』として見ているかのごとき眼光を向ける。

「伺います。どうして貴方は、殺そうとなさいますの?」

右手には、真円の形をした巨大な刀剣。左手には、何故だかテニスラケット。
威圧しようとして威圧されている、そんなただならぬ対峙に、黒子は思わず問いを放っていた。

「簡単じゃねーか。みんな殺して、欲しいものだけ生き返らせて、ハッピーエンドだ」

言い切ると同時、右腕が大きく振り抜かれるや、円刀が正面から『投げつけられ』た。

「くっ……!」

等身大ほどの直径はあるリングが軽々と投擲されて、丸鋸でえぐるように空気を裂く。
黒子は左へと走って回避し、丸鋸は黒子のすぐ右脇を抜けた。
それは回転による風圧をうみながらそのまま飛び、十メートルばかり後ろにあった電柱に『食いこんで』止まる。

「これは……」

電柱がすっぱりと切断されて倒れゆく。その光景を見て、黒子は倒壊を起こした原因を理解した。
投げつける腕力の問題だけではない。
あの円刀は、明らかにただの鉄ではない材質からできている。


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