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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

2 ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:50:25 ID:uvaupV5I0
予約分投下します

3Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:51:24 ID:uvaupV5I0
 0


やり直しはできません


 4


何がいけなかったのだろうか。

どこで間違ってしまったのだろうか。

どうしてこうなってしまったのだろうか。

人類最悪と行動を共にしてしまったことだろうか。

山を登った先で人類最悪と出遭ってしまったことだろうか。

喫茶店で会った一人か二人に着いていかなかったことだろうか。

あの異常(アブノーマル)な彼女と接触してしまったことだろうか。

最初に出遭ってしまったのが過負荷(マイナス)な彼だったことだろうか。

そもそもこのバトルロワイアルに参加する羽目になってしまったことだろうか。

いや、どれも違う。

日常に嫌気が差し異常を願ったあのときも。

二段ベッドの上で眠りたいと思ったあのときも。

私立上総園学園の時計塔の分針を止めたあのときも。

奇人三人衆の間に割り入り少しずつ狂わせたあのときも。

ふや子さんが僕のことを好きになるよう仕向けたあのときも。

日々音楽室に通ってやがては迷路先輩と将棋を指したあのときも。

それらを積み重ねた結果としてこぐ姉を死なせてしまったあのときも。

その事件を「探偵ごっこ」を申し出た迷路先輩と共に調査したあのときも。

迷路先輩が死んで「犯人」だったふや子さんが崖村先輩に殺されたあのときも。

それら全てを突然僕のもとを訪れたくろね子さんに看破されてしまったあのときも。

きっと僕は間違っていたのだから。

おそらくはもっと前から僕は間違い続けていた。

それが間違いだとわかっていながら訂正しようともせず。

むしろそれを甘受してきた。

甘んじるどころか自ら進んで望んでいた。

異常に臨むために異常を望んだ。

4Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:51:48 ID:uvaupV5I0

結果得られた『非日常』は刹那的なものですぐに『日常』に戻り、『異常』に昇華することはなかった。

だから再び異常を望み、ついにこぐ姉を殺して獲た特大の『非日常』も一ヶ月足らずでまた元通り。

いつまで経っても、どんな手段を用いても囲われた世界から脱することはできなかった。

このバトルロワイアルだって、最初こそ戸惑ったけど実際に12時間以上を過ごしてしまえば異常も異常ではなくなる。

ああ、だからか。

端的に言えば油断していたのか、僕は。

最初こそ警戒していたのに、打ち解けてしまって。

隣にいることを許容してあまつさえ会話もしてしまって。

これは報いなのだろうか。

今までやり過ごしてきたことへの。

それとも罰なのだろうか。

これまで見過ごしてきたことへの。

もしかしたら救いなのかもしれない。

ただ、そうだとしたら随分と優しい救いなんだなと思う。

やっと、やっとだ。

本当は何が欲しいかほんの少しだけわかった気がする。

でも、気付くのが遅すぎた。

きっと早く気付いていたとしてもどうしようもなかったのかもしれないけれど。

やがて痛覚が認識を拒否する程の痛みに抱かれて僕の意識は薄れていく。

今まで出会った人の顔が浮かんでは消え、最後に浮かんだのはこぐ姉の笑顔だった。

――こぐ姉、これより不肖の弟が会いにいきますよ。


【串中弔士@世界シリーズ 死亡】


 1


竹取山を抜けると、そこは平原だった。
狐さんの持つ首輪探知機はエリアの境界線も表示してくれるようになっていたので、僕達が無事に禁止エリアを抜けられたことを確認できた。
……なんであのときも活用しなかったのだろうと思ったけど、時間まで5分しかなかったからそれどころではなかったし。
ポルシェが爆発したし。
山火事も発生したし。

「……ちっ、もたもたしているうちに見失ったか」

狐さんが探知機の画面を見ながら舌打ちする。
どうやら、下山している間に会おうと思ってた人達が探知機の範囲より外に行ってしまったようだ。

5Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:52:26 ID:uvaupV5I0
当然だが探知できる範囲には限界があって、それは探知機を中心とする1エリア分だけらしい。
つまり、エリアの中心にいればそのエリア全域を把握できるけど、例えば東に向かったらそのエリアの西は探知できなくなる。
裏を返せば隣のエリアの東側を探知できるわけだから、そう不便なものでもないけど。

「どうするんですか?せっかくE-7に入ったのに」
「『せっかくE-7に入ったのに』――ふん。俺が会おうと思っていた無桐伊織と櫃内様刻は今から見つけるのは少し骨が折れる。
 点が動く速度もそこまで早いものでもなかったし確かに今から追うことも不可能でもないだろう。
 だが、おそらくは俺とそいつらが近いうちに出会うことはない、そういう運命だ」
「そうですか……」

狐さんには聞こえないように溜め息をつく。
何度聞いても狐さんの話はわからないところがあるし、こうやって流す方が手っ取り早い。
また馬鹿にされたように笑われるよりは賛同するふりでもしておいた方がいいということをいつの間にか学んでいた。
もしくは、慣れていたと言った方が正しいのかもしれない。

「代わりと言ってはなんだが、貝木泥舟とかいうやつに会いに行くぞ」

僕のことも鳳凰さんのことも気にかけず勝手に次の方針を決めていた。
『近いうちに出会うことはない』ってそういうことか。
しかし、大丈夫なんだろうか。
もし、鳳凰さんとは違って見境なく襲ってくるような人だったらどうしようもないんじゃ……
あ、でも今は鳳凰さんがいるんだった。
危険なことには変わりないけど、他の人に狐さんを殺されるくらいなら、みたいな考えはしていてもおかしくないし。
……僕の安全が一切保障されていないんだけど。
うーん、これはまずいことになる前に逃げることも選択肢に入れておいた方がいい気がする。
とは言っても今の僕の装備は武器といったら包丁しかないしこの状況で逃げるなんて行動を取ったらそれこそ死亡フラグだ。
この近くだと不要湖ってとこが地図に載ってる場所だけどそこで何かの収穫があるとは到底思えないし。
それだったら狐さんの残り1つの支給品を――そうだ。

「そういえば鳳凰さんは使えるものはないんですか?」
「支給品のことか?言われてみれば我と虚刀流のものは確認していたが否定姫のものはまだであったな」
「え、3人分もあったんですか」
「おい、その虚刀流ってのはなんだ」

もしかしたらいらない武器を譲ってもらえるかもと思った矢先、狐さんが口を挟んできた。
こうやってすぐに食いつくあたり、狐さんは好奇心旺盛な性格をしているよな……
それに伴う行動力がとんでもないから厄介なんだけど。

「虚刀流を知らぬのか、狐面」
「『虚刀流を知らぬのか、狐面』――ふん。知らねえから聞いているんだろうが。お前の知っていることを教えろ、鳳凰」

……とても教えを乞う態度じゃあない。


 2


「刀を使わない剣士、か。そいつはおもしれえ。是非とも会ってみたいものだ」
「忠告しておくが、其奴は人間でありながら刀のような存在だ。我と違って懐柔できるなどと思わぬ方がいいぞ」
「『我と違って懐柔できるなどと思わぬ方がいいぞ』――ふん。懐柔なんざする必要はねえよ。それ以外の手段はごまんとある」

鳳凰さんから虚刀流について聞いた狐さんは満足げに漏らした。
剣士なのに刀を使わないなんて本末転倒な気もするけど、成り立っているというのなら部外者が口出しをするのは筋違いというものだ。
それよりも、大幅に話が逸れていってる方が僕にとっては問題なんだよなあ。
別に今すぐ支給品が欲しいってわけじゃないけど、また聞くのはがっつくようでやりにくいし。

「ああそうだ鳳凰、お前の持ち物見せてみろよ。お前には扱えなくとも俺なら使えるものがあるかもしれねえぞ」

と思ったら狐さんが聞いてくれた。
もちろん僕のことを察したわけじゃなく、さっきの会話で支給品のことに触れたのを思い出しただけだろうけど。

6Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:53:02 ID:uvaupV5I0

「確かに1つ使い方が不明瞭なものがあったな。それがお主にも使えるとは限らんが」
「ごちゃごちゃ御託並べてねえで出してみろよ、現物を見ねえとどうにもならん」
「む……」

狐さんの言い方に渋々というかやや投げやりな感じで鳳凰さんが取りだしたそれは僕でも普通に扱えるものだった。
そしてそれを見た狐さんは――

「だっはっはっはっは!ノートパソコンの使い方がわからねえたあ現代じゃあやってけねえぜ?弔士だってネットに繋ぐくらいはやってのけるだろうによ」

凄く小馬鹿にするような調子で笑ってのけた。
……鳳凰さんの顔面が心なしか引き攣ってる。
というかさりげなく僕まで巻き込まないで欲しい。
確かに今の時代パソコンを使えないような人なんて極少数の絶滅寸前危惧種だけども。

「ま、お前が持ってても使えないようなら俺が貰ってやるよ。宝の持ち腐れになるよりはマシだろう?」
「渡すこと自体に不満はないが、それでは我に利点がない。見返りがあるというのならばそれ次第では構わないが」
「そんなに言うなら俺の残りの支給品でどうだ?まずはお前のもんと被りがないか見てからだが」
「狐さん、まだ支給品あったんですか?」
「ねえと言った覚えはねえよ」

うわー。
なんでこの人とことん不快にさせるような言い方しかできないんだろう。
というかそうやって手放せるものなら僕にくれたってよかったじゃないか。

「弔士、お前には使えねえ代物だからいくら欲しがってもお前にはやらねえぞ。なんでも使い手を選ぶらしいからな、そういう意味じゃ鳳凰に持たせた方が適任だ」
「………………」

反論することを僕は諦めた。
その間に、鳳凰さんはデイパックから支給品を出していく。
出てきたのは銃が二丁にけん玉、一升瓶に入った日本酒、トランプ、農作業で使いそうな鎌、そして薙刀と真っ白なシュシュと鉄パイプだった。
それを見て鳳凰さんは「ふむ、虚刀流から貰った鎌よりかは薙刀の方が使いやすそうだな」と呟く。
うーん……この中じゃ銃と薙刀くらいしか使えるものはなさそうだけど、譲ってくれるとは思えないなあ。
鎌や鉄パイプも使えないことはないけどそれだったら包丁で十分という感じだし。
肝心の狐さんの最後の支給品ってなんだったんだろう。
それが鳳凰さんの持ってるものと被ってたらおこぼれを与れるかもしれない。

「ふん、被りはないみたいだな。ついでだからその日本酒、悪くはなさそうだしもらってもいいか?」

更にがっついていた……
まあ、狐さんの話しぶりじゃあ武器のようだしそれとパソコンにお酒の交換だったら鳳凰さんに損はないだろうけども。
というかこの人こんなところでお酒飲むつもりなのか。

「……いいだろう。このような場所で酒を飲むほど我は酔狂ではないのでな」
「じゃあ成立だな。物の価値の釣り合いが取れねえと思ったなら過剰分はボディガードの駄賃代わりとでも思え」

刀身は普通だけど、柄や鍔の装飾は日本刀よりも漫画で出てくるようなデザインに近い、そんな刀。
それが狐さんの最後の支給品、蛮勇の刀だった。
ノートパソコンと日本酒を受け取った狐さんはそれらをデイパックに入れると、抜き身のまま、

「ほれ」

とまるで野球のボールでも扱うかのように鳳凰さんに放り投げた。


 3


あ……ありのまま今起こった事を話そう。
狐さんが刀を鳳凰さんに向かって投げたと思ったらいつのまにかそれが狐さんに刺さっていた。

7Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:53:29 ID:uvaupV5I0
な……何を言っているのかわからないと思うけど僕も何があったのかわからなかった……

「え?」

空気を震わせたその音が僕の口から出た声だと気付くのに時間を要した。
狐さんの手から離れた刀は鳳凰さんに向かわず、まるで変な力がかかったようにくるりと回転して狐さんに向かっていった。
そしてそのまま左胸――何があるかは考えるまでもない、心臓だ――に突き刺さり、ゆっくりと狐さんの体が傾いて、どさり、と小さくもないが大きくもない音が響いた。
手が滑ったとか、手から離れる瞬間に変な力がかかったとかの可能性も考えられるには考えられたけど、なんというか、刀自身の意思で狐さんに向かっていったような――
『使い手を選ぶ』ってまさかこういうことだったのか?
確かに持つことすら拒絶するような刀じゃあ僕には到底扱えないものだし鳳凰さんに持たせようとしたのも納得だけども――
そういえば、鳳凰さんは……?
恐る恐る鳳凰さんの方を見ると僕と同じように茫然と――

「…………ふ」

していない。
感情は顔に表れていないけど、それは呆けてる表情じゃない。
なんというか、嵐の前触れのような無表情。

「あ、あの……鳳凰さん?」

堪えかねて思わず声をかけてしまう。
そして、真庭鳳凰は――

「はははははははははははははははははははははははは!」

力の限り、哄笑した。

「なるほどなるほど確かにお主の言う通りであったよ、狐面。こうして己で己を殺めてしまっては我にはどう足掻こうとも殺すことはできぬ。
 我でなくとも、この場にいる誰であろうとこれからお主を殺すことは逆立ちしてもできん。それこそ我がされたように一度生き返らせでもしない限りな――!」

え……?
『我がされたように一度生き返らせでも』?
まるで『死人を生き返らせる技術』が存在しているような言いぶりじゃあないか――
それが本当なら、名簿にいた迷路先輩は、放送で呼ばれた迷路先輩は、主催の仕掛けじゃなくて本物の……?

「どういうことですか……?生き返らせた、って、」
「お主らには話しておらなかったか。だがそれも気にすることはない、これから死ぬお主にはな」
「腕のことを忘れたわけじゃないでしょう……?」
「それがどうした。狐面の言う通りであったならば、今頃この右腕は主を喪ったことで怒り狂っているだろうに」
「ならパソコンはどうするんですか?あれはあなたには使えるものじゃなかったはず……」
「忍法記録辿りを用いれば不可能ではあるまい。残念だったな、これでお主の利用価値はなくなった」

懸念していた通りになった。
狐さんという抑止力がたった今いなくなった以上、僕を守るものは何もない。
かつて上総園学園にいたときとは違う。
出会って3時間経ってるかどうかという短い時間じゃあ『支配』するにはとても足りない。
頼みの綱だったパソコンを使った交渉は撥ね退けられたし、鳳凰さんが忍者である以上ここで容赦してくれるとは思えない。
もちろん、ここで背を向けて逃げ出したところですぐ追いつかれるに決まってるし打つ手なし、だ――

「さらばだ、少女よ」

そして、鳳凰さんは右腕を振りかぶる。
さっきのように突然暴れだすとは思えない。
疑いの余地なく、これから僕は死ぬのだろう。
なら、せめてもの負け惜しみだ。

「言ってませんでしたけど、僕って男だったんですよ」

言い終わった瞬間、右腕が僕の脇腹を文字通り『ぶち抜いて』いった。

8Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:54:15 ID:uvaupV5I0


 5


「言われてみれば腑に落ちるが、よもや少年であったとはな」

物言わぬ二つの死体の側で真庭鳳凰は嗤う。

「やはり戯言だったか。死霊など――どこにも存在せぬ」

西東天が死んでもなお、平静を保っている右腕に気付いた時点で自由に匂宮出夢の右腕を使えるのではないかという発想に至った。
そして実際に串中弔士を殺してのけたことで発想は確信に変わる。

「して、蛮勇の刀、だったか。……なるほど、これは我でも十全に扱えるものではないらしい」

真庭川獺の左腕で、西東天の胸に刺さったままの刀に触れる。
宇宙創世以前から存在する人外の精製した刀剣はかの真庭忍軍の頭領でも自在に振るえるものではないようだった。
かといって放置しておけないのも事実。
万が一使えるものの手に渡ってしまっては確実に障害になる。
口を開けたデイパックを足元に置くと左腕のみを用い、慎重に刀を引き抜き、デイパックに入れる。
その過程で血がどばっと噴き出たが些細なことだ。
他の支給品は精々包丁くらいしか武器になるものがなかったため置いていくか破壊していくか考えたが、いくら詰め込んでも重さが変わらないのも事実。
少しの間悩んだ末、全て持っていくことにした。
行き先はもう決まっている。
首輪探知機に表示された貝木泥舟の文字と共に表示される光点。
単独でいる以上狙いやすいのは言うまでもない。

「では、行くか。……しかし、結局我はあ奴に勝つことはできずじまいか」

こうして、危険な敗北者は狐の嘘より解き放たれた。


【西東天@戯言シリーズ 死亡】

【1日目/午後/E−7】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]精神的疲労(小)、左腕負傷
[装備]炎刀『銃』(弾薬装填済み)、匂宮出夢の右腕(命結びにより)
[道具]支給品一式×4(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、「骨董アパートと展望台で見つけた物」、
   首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、
   薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、
   チョウシのメガネ@オリジナル×13、マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、小型なデジタルカメラ@不明、
   応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:貝木泥舟のもとへ行き、殺す
 2:本当に願いが叶えられるのかの迷い
 3:今後どうしていくかの迷い
 4:見付けたら虚刀流に名簿を渡す
 5:拡声器を使用する?
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません
 ※「」内の内容は後の書き手さんがたにお任せします。
 ※炎刀『銃』の残りの弾数は回転式:5発、自動式9発
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※右腕に対する恐怖心を克服しました。が、今後、何かのきっかけで異常をきたす可能性は残ってます。
 ※ノートパソコンの中身、また記録辿りを用いて操作可能かどうかについては後の書き手さんにお任せします。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

9Let Loose(Red Loser) ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:54:32 ID:uvaupV5I0
 ※探知機の範囲内に貝木泥舟がいるようです

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支給品紹介
【蛮勇の刀@めだかボックス】
西東天に支給。
安心院なじみがスキル見囮刀(ソードルックス)で精製したもの。
使い手を選ぶため、かつて須木奈佐木咲が使用した際はつまずいて球磨川禊の胸に刺してしまった。

【ノートパソコン@現実】
真庭鳳凰に支給。
中にどのようなデータが入っているかは不明。
掲示板にアクセスすることは可能。

【けん玉@人間シリーズ】
真庭鳳凰に支給。
零崎双識の人間試験漫画版に出てくるオリジナルキャラクター花撒小鹿が使用していたもの。
見た目にそぐわず、玉の部分で人間の顎を吹っ飛ばせる威力がある。

【日本酒@物語シリーズ】
鑢七花に支給。
貝木泥舟が北白蛇神社に参拝するときたまに持っていっていたもの。
一升瓶に入った地酒。

【トランプ@めだかボックス】
鑢七花に支給。
赤青黄が(おそらくは)常に持ち歩いている。

【鎌@めだかボックス】
鑢七花に支給。
黒神めだかの婚約者その5、叶野遂が使っていたもの。
夥しく増えることはない。

【薙刀@人間シリーズ】
否定姫に支給。
匂宮の分家、早蕨兄弟の次男、薙真が使用していたもの。

【シュシュ@物語シリーズ】
否定姫に支給。
クチナワさんが変化した姿……ではなく真っ白なただのシュシュ。

【アイアンステッキ@めだかボックス】
否定姫に支給。
与次郎次葉が持つ魔法のステッキ……ですがどう見てもただの鉄パイプです。

10 ◆ARe2lZhvho:2013/06/13(木) 23:55:36 ID:uvaupV5I0
投下終了です
これでやっと参加者半分までいきました

誤字脱字指摘感想その他あればお願いします

11名無しさん:2013/06/14(金) 01:05:29 ID:IJTLNUUEO
投下乙です!

鳳 凰 大 勝 利

やっちゃったよwwwやっちゃったよオイwwwwww
原作でも「二階に上げて梯子を外す性格」とか言われてた狐さんだったけど、ここでもご覧の有様だよ!!
あれだけ思わせぶりな台詞撒き散らしておきながらこの最期・・・・・・結局この人何がしたかったんだよwww
その上ついでみたいに殺される弔士くんが不憫でもう・・・・・・この子もわりとカリスマはあったはずなんだけどなぁw
しかし蛮勇の剣、小説でも大概だったけどやっぱりロクな武器じゃないなコレ・・・・・・ある意味安心院さんの責任やで、この惨状

12名無しさん:2013/06/14(金) 21:43:49 ID:.5/T5oD.0
投下乙です

こ れ は 酷 い
言いたい事は既に上で言われているが酷過ぎるぜ(褒め言葉)
ちなみに俺も安心院さんの責任だと思うがあの人は毛ほども気にしないだろうなw

13名無しさん:2013/06/19(水) 19:33:09 ID:LvEZ2Ddo0
投下乙です
リスタート前と言い今回と言い狐さんはうっかりの呪いにでもかかってんのかwww

14名無しさん:2013/07/15(月) 01:10:34 ID:CncfjVQ60
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
126話(+3) 23/45(-2) 51.1(-4.5)

15 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:27:49 ID:sQIyn4fw0
仮投下が問題なさそうだったので本投下します

16拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:28:29 ID:sQIyn4fw0
「七花、この、馬鹿者がっ!」

ふいに怒鳴られておれは我に返る。
ぼんやりとしていた意識を集中させると目の前にいたのはとがめだった。
いつもと変わらない十二単を二重に着たような豪華絢爛な服。
姉ちゃんに切られたことですっかり短くなってしまった白髪。
……ん、いつも?

「なんだ……とがめか。どうしたんだよ急に」
「そなたのその身なりはどういうことなのだ一体!そんなに傷だらけになってしまって……」
「どうしたもこうしたもないだろう」

また細かいところでいちゃもんをつけてくる。
慣れたものだが、やっぱり一々返すのはめんどうだ。

「わたしが最初にあれほど口を酸っぱくして言ったではないか!『そなた自身を守れ』と」
「それのことか……もう守る必要はなくなったじゃないか。だって、とがめが――」

死んじまったんだから――とは言えなかった。
そうだ。
とがめはもう死んでんだ。
右衛門左衛門に撃たれたときと唐突に巻き込まれた殺し合いとで二回。
この殺し合いで死んだのかどうかは本当のことか確かめる術はないけど、右衛門左衛門に撃たれたときは確実に死んだ。
おれが最期を看取ったんだ。
おれがとがめを埋めたんだ。
なら、おれの目の前にいるとがめは、これは『何』なんだ?

「――――全く、気付くのが遅いぜ、鑢七花くん」

にんまりと浮かべた笑いはいつも見ていたとがめの笑顔とは違っていて。

「僕は安心院なじみ。親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼んでくれたまえ」

目の前のとがめがとがめじゃないことをようやくおれは理解した。


  ■   ■


零崎双識が弟である零崎人識と別れてからの数時間、収穫はあったのかどうか――

横転し、更に扉を蹴破られた軽トラックだったが、動かすことはできた。
日本車の頑丈さに感心しつつ、未だ眠っている鑢七花を助手席に乗せる。
後ろ手で縛っているとはいえ、目覚めたときに暴れられては厄介とシートベルトで固定。
あまりいい体勢とは言えないが、双識には相手のことを考える義理はない。
右側がやけに涼しい状態でまずは喫茶店に向かい、要約してしまえば『黒神めだかは危険』と書かれた貼り紙を目撃。
店内もざっと見回したが、人がいた形跡こそあれど、気配は感じられなかった。
そのまま地図では最西に位置する施設である病院へ。
開始直後のテンションであったなら箱庭学園でそうしたようにナース服などを嬉々としながら集めまわったかもしれないが、今の双識にはそのような余裕はない。
ハンガーに掛かっていた『形梨』と名札のついた白衣をスルーし、治療器具などをかき集めつつ院内を捜索する。
こちらは人がいた形跡すら希薄だった。
それは病院に立ち寄ったのが元忍者だった左右田右衛門左衛門で、持ち去ったのがメスと瓶に入った血液のみだったからかもしれないが。
そして、悪刀のおかげで感覚が鋭敏になっている双識だからこそ気付けたのだろうが。
生理食塩水や栄養点滴、果てはピンセットなども収集しつつ、病室から事務所など全ての部屋を見て回ったが、潜んでいる者はいなかった。
七花と共に回収しておいた右衛門左衛門のデイパックの中にあった携帯食料を頬張りつつ一戸建てへ行ったがこちらも多くを語る必要はないだろう。
部屋の隅に寄せられた画鋲、洗面所のゴミ箱に入っていた髪の毛、点けっぱなしだった砂嵐の画面のテレビ――
痕跡だらけではあったが、やはり人間はいなかった。
ふと時計を見て気付く。
人識が連絡を入れると言っていた時間を大きくオーバーしていた。
車が動いたことで時間にゆとりがあると油断し探索に時間を割いた結果がこれだ。

17拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:28:53 ID:sQIyn4fw0
急いでクラッシュクラシックに戻ったが当然、もぬけの殻だった。
彼らが逃げ込むとすれば周囲から見えにくい場所――建物か山の中だろうと考え、施設が集中している西側が可能性が一番高いと双識は判断した。
確かに、彼らは建物に逃げ込んだがそれはクラッシュクラシックの南側に位置していた学習塾跡の廃墟だったことが一つ目の『不運』。
更に、山火事が広がっている現在、元いた場所には戻らないだろうと西東診療所を捜索の対象から外してしまったことが二つ目の『不運』。

――結果、真庭蝙蝠と水倉りすか、宇練銀閣(と名乗った供犠創貴)を捉えることはできず、家族と再会することも叶わず、収穫はなかったに等しい。

「本当に、何をやっているんだろうな、私は……」

ため息と同時に零れ落ちる言葉。
静まりかえった店内でそれを聞く者はいない。
七花は依然眠ったままなので車内に放置してある。
ピアノの鍵盤に挟まるように隠してあった人識からの書き置きを見つけ、それに伴い携帯電話も曲識の服のポケットから手に入れることはできた。
元々持っていたものとは違っていたため、どこかから入手したのだろうと窺えたが深く考えたところで意味はないと考えるのをやめる。
随分と前から理解するのをやめた弟のことだ、どのような経緯であっても持ち前の気まぐれさで対処したのだろう。
車に戻りながら携帯を開くとそこに表示されていたのは待ち受けではなくシンプルに掲示板とだけ書かれたウェブサイト。
普通に携帯を操作していただけでは気付きにくいだろうと考えた人識からの気遣いだった。
下にスクロールしていくと『零崎曲識』と表示された文字列を目にし、驚愕に目が見開かれる。
いつの間にか足は止まっていた。


  ■   ■


……あれ?いつの間に否定姫が目の前にいるぞ。
安心院なじみと名乗った人物から目を離したつもりはないんだけど。
不思議には思ったが、まあいいか。
よくよく考えてみれば彼我木という前例がいたんだし。

「本来このスキルは君の認識に干渉するから口調も本人のものにできるんだけど、君が混乱しそうだからわざと変えていないだけさ。
 それにしてもここにきてようやくうっすらと目的が見えてきたって感じかな。まあ、君に言ってもわからないだろうけどね」

その通りだ。
別にわからなくていいことはわからないままでいいと思っているし。

「まさか『アイツ』がいるとは思わなかったけども……ま、どっちの結末を迎えるにしても確かにこのバトルロワイアルは悪くない手段だ」

おれ、いる意味あるのか……?
もうそろそろ動きたいところなんだけどなあ。

「つれない顔するなよ、七花くん。さっきまでの独り言だって覚えておけば後々いいことあるかもしれないぜ?」

そう言われても返事に困る、としか言いようがない。
第一、刀であるおれに期待しても意味ないと思うんだけどな。

「そんなことはなかったりするんだよなあ。特に七花くんのような稀少な存在はね」

稀少?おれが?

「そりゃそうだろう。人間にして刀、のような存在がそう易々と見つかるとでも思ってるのかい?」

言われてみればそうか。
だからどうしたってのが正直な気持ちだが。

「感情のない大男と言われるだけはあるねえ。刀集めの旅路で獲得した君の人間らしさはどこへ行ってしまったんだい」

こういうときに一々驚いたりと反応を示すのが人間らしさだとでも言いたいのか?

「おっと、そんなつもりはなかったんだよ。干渉できる人間は限られているみたいだからついからかってみたくなってしまってね。
 他人が出張ってるとこにいけしゃあしゃあと出ていくほど野暮じゃないし、昏睡状態では夢なんか見れないし」

18拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:29:13 ID:sQIyn4fw0

……いい迷惑だ。

「まあまあ。ならお詫び代わりにちょっとサービスしておくからさ」

さーびす?
聞き慣れない単語だ。

「そういえば君達の世界じゃ外来語は通じないんだったっけ。わかりやすく言うなら贈り物ってところかな」

贈り物、ね。

「物質的なものじゃないから些か語弊があるけどね。少なくとも貰っておいて損はないはずだから安心していいぜ(安心院さんだけに)。」

はあ。
しかし、うまい話すぎやしないか?

「警戒するのもわからなくもないけどね。特に君は優勝狙いのマーダーなんだ、物語からすれば必要だけど終盤には邪魔になってしまうこともある存在だし。
 まあややこしい話はこの辺にして本題に移ろうか」

やっと本題なのか。
前置きが長すぎる。

「それは僕の管理不行届きだね、謝っておこう。さて、アドバイス――つまり助言だが、君が目を覚まして最初に会うことになる人間とは手を結んでおいた方がいい。
 君一人では知ることができない情報、特に君が最も欲しがっているであろう情報を彼は知ることができる」

おれが最も欲しがっている情報。
つまり……

「そう、とがめ君のことだ。彼女に何があったのかを彼は知ることができるのさ。そして君は彼が最も欲しがっている情報を持っている」

初耳なんだが、それは。

「君は元々持っていて、彼はここに来てから知ったのさ。それだけ言えば察しはつくだろう?」

……ああ、なるほど、そういうことか。

「ご理解いただけたところで僕はそろそろ失礼させてもらおうか。次がつかえてるし」

あ、いってくれるんだな。

「そりゃいつまでも他人の夢に居続けるってのはできないしね、もちろんサービスするのは忘れないけども。××××とはいえめだかちゃんが迷惑かけたようだし」

あれ?また姿が、声が、またとがめのものに変ってる。
おい、なんでおれに近づいてきてるんだ。

「ちゅっ」

……今、口、吸われた、のか?

「七花、わたしはそなたのことを愛していたぞ。――なんちゃってね」

一瞬だけ見せたそれは紛れもないとがめの姿で、声で、表情で、仕草で、本人と言っても問題ないもので。
――そのときおれはどんな顔をしていたのだろう。


  ■   ■


殺しておくべきだった。

19拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:29:32 ID:sQIyn4fw0
動画を再生し終わった双識は二度蝙蝠を逃がしてしまったとき以上に後悔した。
だが、殺さずにすんでよかったのかもしれないと安心感に浸っている自分もいる。
なぜ曲識ほどの男が抵抗の跡すらなく満足したように死んでいたのか、音声がない以上想像で補う余地はあったが理解できた。
『あれ』は人類最強にも匹敵するバケモノだ。
一度完膚なきまでに殺されたにもかかわらず、復活した少女。
音使いである曲識の技術が通用せず圧倒的なまでの蹂躙を見せた女性。
双識だって、対峙すればあっさり白旗を上げてしまうだろう。
だから。
だからこそ。

「どうして逃げなかったんだよ、トキ!」

怒鳴らずにはいられない。
激怒せずにはいられない。
敵対者は老若男女容赦なく皆殺し。
あるときはたまたま目標と同じマンションに住んでいたという理由だけでそこに住む人間どころかペットまで一切合切殲滅したことがあるほどだ。

「お前のかたき討ちをする俺達の身にもなってみろよ!
 あの哀川潤以上かもしれない存在にどうやって太刀打ちすればいいかわかってるのか!
 リルはいないしアスは死んじまったし残ってる家族は人識と俺はよく知らない妹だけなんだぞ!
 それなのにそんなに満たされた顔浮かべて……本当に大馬鹿野郎だ、お前はっ!」

周囲の状況を考慮せず思いの丈を吐き出し続ける。
クラッシュクラシックはピアノバーだから防音設備がしっかりしているので問題ない、といった理屈すら頭から抜けているだろう。
きっと周りが開けたどうぞ狙ってくださいと言わんばかりの場所だったとしても同じように声を上げていただろう。
故に、気付けなかった。

「はいはーい、そこまで。いくら君が『資格』持ちだと言ってもこっちに出るのは疲れるんだよね」
「い……一体どこから」
「僕は安心院なじみ。親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」

突然現れた目の前の存在に。


  ■   ■


「本当は腑罪証明(アリバイブロック)が使えればよかったんだけど、それを使うとさすがに干渉しすぎってことで自重させてもらったよ
「夢の中なら次元を超えるスキルである次元喉果(ハスキーボイスディメンション)と夢のスキルである夢無実(ノットギルティ)
「更に夢を司るスキルである夢人(ビッグチームドリーマー)の重ねがけだけで済んだのにこっちに出たらそうもいかない
「身気楼はただのお遊びさ――なんて君には関係なかったね
「こっちじゃ幻を司るスキルである幻の幻覚(ファンタジーイリュージョン)だけじゃなく
「音を司るスキルである喉響曲不幸和音(グラウンドサウンド)も使わなきゃいけないなんて難儀な話だ
「それもこれも僕の存在を隠すためでもあるんだけどさ
「いや、僕は認知されることはないだろうけど、君の声から突き止められるかもしれないだけで
「戯言遣いくんはもう八九寺ちゃんに話してそうだからあんまり意味はないとは思うけど保険は欲しいからさ
「ついでに話をとっとと進めるために説得のスキルである無知に訴える論証(ジェネラルプロパガンダ)
「抵抗でもされたら面倒だから戦意喪失のスキルである競う本能(ホームシックハウス)も使わせてもらってるんだけど
「ほら、この異常事態をすんなり呑み込めているだろう?
「え?僕が何者かって?
「さっきちゃんと言って……ああ、名乗ったのは名前だけだったっけ
「平等なだけの人外だよ、といつもは言うんだけど今回はちょっと事情が違うから……
「『物語』を整理する存在、とでも言っておこうか
「理解できないならそれでもいいさ、本題に移らせてもらうよ
「正直な話、ここで君と七花くんがいがみ合ってもらうと困るんだよね
「君達を取り巻く人間関係は随分複雑なものになってしまっている
「ここでどちらか、あるいは両方が落ちることは望まれていないということだ
「もちろん、メリットは存分にあるよ
「七花くんは君が喉から手が出るほど欲しがっている情報を持っている、と言えば十分だろう?
「僕がデング熱による倦怠感は取り除いてあげたし七花くんももう目を醒ましているはずだからさ

20拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:30:39 ID:sQIyn4fw0
「まあ、いつまでも僕のことを覚えられていては後々困るかもしれないから記憶に残らないスキルである忘脚(レフトレッグス)を二人のときと同じく使わせてもらうけど
「すぐには忘れないから情報交換は滞りなく進むはずだろうし心配はいらないよ、尤もこれも忘れちゃうんだけどね
「それじゃあ、期待してるよ――家族愛を重んじる殺人鬼くん


  ■   ■


目が醒める。
心なしか体が軽い。
眠っただけの価値はあったようだな。
それにしてもあれは夢……でよかったのか。
夕日が見えたしかなり時間経っちまったようだな。
伸びをしようとして体が拘束されていることに気付いた。
あの夢が本当だとして、助言をするくらいならこうなってることくらい教えてくれてもよかったんじゃ……
そもそもここってどこなんだ?
首を動かして視界に入った建物を見て判断したところどうやらおれは元の場所に戻っていたらしい。
なんだか視点も高くなってるし、これはあのとき凄い速さで走ってたやつか?
つまり、おれをここに縛って運び込んだ人がいて、それがおそらく『手を結ぶ』方がいい相手ってことか。
そうでなくともこの状態で自由に動けなるわけないし、下手に抵抗しない方が賢明だってことくらいはわかる。
あ、建物から誰か出てきたみたいだ。
一人……なのか?
あのとき見たのは小柄なやつだったけど今はいないみたいだ。
まあ、いてもいなくても困らないけど。
あれ、あいつの胸に刺さってるのって――
……悪刀がなんでここに?


  ■   ■


現れたときと同様に忽然と安心院なじみが消えた後、双識は車へ戻りる。
無論、すんなり戻ったわけではない。
とはいえ、一度中断させられたことで昂った感情は落ち着き、曲識には再び来るときは水倉りすかの首と共に戻ると誓ってクラッシュクラシックを後にした。

「言ってた通り、目覚めていたか……」

ドアを開ける必要はなくなっていたため回り込んだだけで七花が起きていたことを確認できた。

「おれをこうしたのはあんたでいいんだよな?」

一方の七花も窓越しにクラッシュクラシックを出る双識を目撃していたので驚いた様子はない。

「理解が早くて助かるよ」
「見ての通りおれはこんなんだし、あんたをどうこうする気はない」
「一つ聞くが、安心院なじみという女に会ったか?」
「安心院さんと呼べと言ったあの女のことで合ってるなら」
「……なるほど」
「その口ぶりだとあんたも会ったようだな……おれはあんたと手を組んだ方がいいと言われたんだけど」
「こっちも似たようなことを言われたよ――なんでも私が喉から手が出るほど欲しい情報を持ってると聞いたが」
「……鑢七実、宇練銀閣、真庭蝙蝠、真庭鳳凰、左右田右衛門左衛門」
「ッ……!」
「まだ放送で呼ばれていない中でおれが知ってる人間だ。この中にいるんだろう?右衛門左衛門はおれがさっき殺しちまったけど」
「――その通りだ。それで、求める対価は?」
「三つ、かな。まずはとがめについて知っていることを教えて欲しい」

開始直後に箱庭学園で出会った蝙蝠が変態した姿を思い返すが、求めているのはそれではないだろう。
最初の放送で呼ばれていたはずと聞いていたし――と考え、思い至る。
掲示板で見た動画データの曲識の名前の下にそんな名前があったはずだ。

21拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:30:55 ID:sQIyn4fw0
「それは実はこちらも確認が終わっていない。後回しにさせてもらってもいいか」
「まあ…いいけど。二つ目はその胸に刺さってる悪刀をどこで手に入れたか、だな。最後は――」



「これ、ほどいてくれないか?」



双識の予想にしていなかった範囲からの要求が飛んできたことでしばし呆気にとられる。

「ああ、済まなかったな」

そして数時間ぶりに双識の頬が少しだけ弛んだ。


  ■   ■


夢のお告げ?の通りにしたのは正解、だったのかな。
おかげでおれは知りたかったことを知ることはできたんだし。
どうやらここは未来の技術が使われているようだな。
建物も木でできてないやたらしっかりとした造りのものだったんだよな、そういえば。
四季崎と会っていたことはおれの現状把握には役立ったらしい。
勝手に動き出す絵にはびっくりしたが。
それにしても……めんどうだ。
とがめを殺したのがおれが壊したはずの日和号だったし、変体刀もどういうわけか普通にあるみたいだし。
こうなってくると残り十本の変体刀もあると思っていいかもしれないな。
双識に欲しがってた真庭忍軍と銀閣、それと一瞬出会っただけの水倉りすかについて話したら黙りっきりだし、正直暇だ。
まあ、これといって困るわけじゃないんだけどな。
おれが一番欲しかった情報は手に入れられたんだし。
しっかし、不要湖に日和号がいるとなると、随分移動しなくちゃいけないんだよな。
話を聞いた限りじゃ、これから東に向かうらしいし、やっぱりここは一緒にいた方が得策みたいだ。
途中で人に会える可能性も上がるってんなら悪くはない手段なんだよな。
もちろん、鳳凰と同じで最後は刃を向けることになるんだろうけども。
なあ、とがめ。
こんなおれでもとがめはおれを愛してくれるのか?


  ■   ■


「してやられた、というわけか……」

双識が呟いた独り言は七花には届かない。
あのとき真庭蝙蝠と一緒にいた少年は宇練銀閣ではなかったという情報を得られただけでもかなりの収穫ではあった。
他の動画も全て見せ、阿良々木暦という参加者が殺された映像が判断する限りでは喫茶店の貼り紙と合わないことに疑問は覚えたが。
いずれにしても掲示板の情報と照らし合わせれば、黒神めだかという参加者が危険であることには変わりはない。
七花から聞いたことと、西東診療所に現れたりすかの発言から、あの少年が供犠創貴である可能性が高いと思われるが確証も持てない。
これ以上この場所に留まっても、人識との合流が遅れるだけとなるともたもたしてはいられない。

「ひとまずは私と共に行くということになるがいいか?」

完全に警戒心を取り除いたわけではないが隣に座る七花に問いかける。

「かまわねえよ。おれにとっても移動手段があるというのはありがたい」
「そうか。多少揺れるかもしれないがそれくらいは我慢してくれ……しかしいざ合流したときその格好では少し困るな」
「?――ああ、そういえばおれ血だらけだったんだっけ」
「タオルの持ち合わせはないが、これを使うといい」

22拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:31:18 ID:sQIyn4fw0
貴重な飲み水を消費するわけにはいかなかったので、代わりに生理食塩水で濡らした体操着を渡す。
それを受け取った七花が顔を拭い始めるのを確認すると車のアクセルを踏み込んだ。

(トキやアスの仇を討つためだ、利用できるものは全て利用させてもらう。昔からそうだったんだ、でなければ氏神と関係を持つこともなかっただろうしな)

これでいいのかと内から湧き上がる声を無理やり抑えつける。
家族のためだと理由をつけて。
隣で息を潜め、刃を研ぎ続ける刀に気づかないまま。

(おそらく携帯などの情報機器を持つ参加者は他にもいるはず。やつらは必ず殺すが、徒党を組まれては厄介だからな)

そして双識は爪痕を残していく。
参加者の半数以上が情報を得ることができる掲示板という場所に。

3:情報交換スレ
 3 名前:名無しさん 投稿日:1日目 夕方 ID:uvaupV5IG
 >>2
 阿良々木暦を殺したのは黒神めだか
 浮義待秋と阿久根高貴を殺したのは宇練銀閣
 零崎曲識を殺したのは水倉りすか
 とがめを殺したのは日和号だ

 不要湖にいる日和号は参加者を襲うロボットなので近付かなければおそらく被害には遭わないだろう

 また、水倉りすかに襲われ、逃げられたが、彼女は真庭蝙蝠と共にいる可能性が高い
 供犠創貴も彼女の仲間のようだ


【一日目/夕方/C-3 クラッシュクラシック前】
【零崎双識@人間シリーズ】
[状態]健康、腹八分目、悪刀・鐚の効果により活性化
[装備]箱庭学園指定のジャージ@めだかボックス、七七七@人間シリーズ、カッターナイフ@りすかシリーズ、軽トラック@現実、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×3(食料二人分、更に食糧の弁当6個、携帯食半分)、体操着他衣類多数、血の着いた着物、カッターの刃の一部、手榴弾×2@人間シリーズ、
   奇野既知の病毒@人間シリーズ、「病院で見つけたもの」
[思考]
基本:家族を守る。
 1:七花と共に診療所へ向かう。
 2:真庭蝙蝠、りすか、供犠創貴並びにその仲間を必ず殺す。
 3:他の零崎一賊を見つけて守る。
 4:蝙蝠と球磨川が組んだ可能性に注意する。
 5:黒神めだか、宇練銀閣には注意する。
[備考]
 ※他の零崎一賊の気配を感じ取っていますが、正確な位置や誰なのかまでははっきりとわかっていません。
 ※掲示板から動画を確認しました。
 ※真庭蝙蝠が零崎人識に変身できると思っています。
 ※鐚の制限は後の書き手さんにお任せします。
 ※軽トラックが横転しました。右側の扉はない状態です。
 ※遠目ですが、Bー6で発生した山火事を目撃しました。
 ※不幸になる血(真偽不明)が手や服に付きました。今後どうなるかは不明です。
 ※安心院さんから見聞きしたことは徐々に忘れていきます。

23拍手喝采歌合 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:31:42 ID:sQIyn4fw0
【鑢七花@刀語】
[状態]疲労(中)、覚悟完了、全身に無数の細かい切り傷、刺し傷(致命傷にはなっていない)
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 1:一先ずはは双識と共に行動する。
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る。
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない。
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい。
[備考]
 ※時系列は本編終了後です。
 ※りすかの血が手、服に付いています。
 ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です。
 ※倦怠感がなくなりました(次で消して構いません)
 ※掲示板の動画を確認しました。
 ※夢の内容は徐々に忘れていきます。


  ■   ■


「さすがに怪我や体力の回復まではできないけど、これくらいはいいだろう?
「ん、なんだいその顔は
「あはは、恥ずかしがっちゃって
「君がそう思っていたことは間違いないんだろう?
「いくら君、いや、君達が××××だからってその想いは紛れもなく本物さ
「誇りに思っていいんだよ
「なに、そうじゃない?
「なーんだ、僕に先に伝えられちゃったってのがそんなに悔しいのか
「だったらちゃんと伝えなきゃあだめだよ
「後から負け惜しみのように言うのはいくらでもできるんだからさ
「さて、そろそろ僕も介入するのは難しくなってきたし潮時かな
「一応まだ何人か『資格』を持っている人はいるんだけど、しょうがない
「玖渚くんみたいに気付き始めてる人もいるみたいだしね
「目的は何か、だって?
「ふふ、僕みたいな平等なだけの人外に勝手に期待されても困るよ、全く

24 ◆ARe2lZhvho:2013/07/27(土) 09:34:17 ID:sQIyn4fw0
投下終了です
安心院さんマジ便利
誤字脱字指摘感想その他あればお願いします

25名無しさん:2013/07/27(土) 11:02:39 ID:irwHYNok0
投下乙です

安心院さんはこの状況を楽しみながら何らかの狙いがあるみたいだが安心院さんらしいわw
対決の可能性もあったが安心院さんのテコ入れもあって今は行動を共にする事になったが…
二人とも情報交換して今後ごう動くかなあ

26名無しさん:2013/07/28(日) 00:59:26 ID:FbDHKeqUO
投下乙です!

この二人のコミュニケーションとか正直想像つかなかったけど、まさかこの人が間に入るとは・・・本当に何でもありだなこの人
戦闘力でいえば最大のコンビだけど互いに目的はまったく違うし、七花は優勝狙いのマーダーだから確実にどこかで亀裂は生じるわけで・・・うーん読めない

それはそうと、双識兄さんが全くふざけてない、だと・・・?

27 ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:12:25 ID:gkHsMIYk0
投下開始します

28かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:13:51 ID:gkHsMIYk0
 まったく、いったい何度俺を走らせれば気が済むのか。
 全国を放浪している身であるとはいえ、移動手段のほとんどが飛行機かタクシー、あるいは電車というこの俺が一日の間にこれほどの距離を自分の足で移動するというのは、実のところ生まれて初めての経験だった。
 いや、生まれて初めてというのは嘘だが。
 どっちにしても、長距離をわざわざ徒歩で移動するというのはどうにも性に合わない。そんなことを言うと俺がまるで虚弱体質のように聞こえるが、俺の場合は正確に言うと「金を使わず移動する」ことが性に合わないのだと思う。
 別に浪費癖があるわけではないが、金は貯めるものでなく使うものだという思想を貫いている俺にとって、金を払えば済むところをそれを惜しんで払わずに済ますというのは金を浪費する以上に無駄な行為であるように思えてしまう。
 節約しようとする意識自体を否定する気はないが、使うべき金を使わなかった結果として代わりに何を消費したのかお前は理解しているのかと、倹約家気取りの連中を見るたび俺は問い質したくなる。
 金は万能だが、至上のものではない。それを理解しない連中が多すぎる。
 まあ実際には俺はそんなこと全く思っていないのかもしれないし、徒歩で移動するのに抵抗があるのは単に疲れるからという理由かもしれないし、自分の足で移動するのも実はそれほど嫌いじゃないのかもしれない。
 そもそもここで金の話をするのが間違っている。いちおう江迎のやつと最初に出会ったときに預かっておいた所持金が今の俺の懐にはあるが、ここから脱出した後でもない限り使う機会はまずないだろう。
 つまりはただ言ってみただけだ。
 俺の言うことを真面目に聞くのは、それこそ時間の浪費でしかない。俺が一人称を務めるパートを読む際には、それを十分に心に留めておくことを強くお勧めする。

 「やれやれ……とでも言うべきところなのか、ここは」

 ランドセルランドを去ってからどれくらい経っただろうか。
 哀川潤と西条玉藻の二人組からまんまと逃げおおせた俺こと貝木泥舟は、ようやくちゃんとした道路がある場所へとたどり着く。
 地図の性質上、名前の付いている場所以外で道路から外れたところを移動していると、自分がどこを歩いているのかわからなくなって不安になる。コンパスを見ながら歩けばいいのだろうが、どうにも面倒だ。
 後ろを振り返ってあの散切り頭の少女が追ってきていないのを確認し、俺はようやく一息つく。近くの壁に背をもたれ、ペットボトルの水を一口飲む。
 一難去ってまた一難とは言うが、こうも立て続けに厄介そうな相手と遭遇していては心休まる暇もない。
 何事に対しても万難を排してから臨む主義の俺だが、今の調子では万難を排したところですぐに次の万難が怒涛のごとく押し寄せてきそうな気さえする。
 万難排してまた万難。嫌がらせのような言葉だ。
 まあ詐欺師という職を営んでいる以上、心休まる暇などあってないようなものだが。
 犯罪者には常に心の不安が付きまとう。俺も詐欺師として生きる道を選択した時点で一生を不安とともに生きる覚悟はしているし、いつでも死ぬ覚悟はできている。善良な市民を食い物にするような生き方をするからには、そのくらいの覚悟は当然のことだ。
 まあそれも嘘だが。

 「さて、次はどこへ向かおうか」

 俺は地図を開く。ランドセルランドから北東にまっすぐ進んできたはずだから、現在地はE-7とF-7の境界付近あたりだろう。道なりに進めば、南東なら図書館、西方向ならまたネットカフェに戻ることになる。
 ネットカフェに戻る意味は今のところないから図書館に向かうのが順当だろうが、俺の目はもうひとつの場所、図書館とは正反対の方向に位置する施設を捉えていた。
 斜道卿壱郎研究施設。
 ネットカフェでパソコン越しに会話を交わした、あの玖渚友とかいう奴がいると言っていた場所だ。
 すでにそこは禁止エリアに指定されている。とうに下山(「登山」の可能性もなくはないが)は終えているだろうが、問題は竹取山をどっち方向へと抜けていったかだ。
 もし玖渚が俺のいる方向へ下山していたとしたら、位置的に見てまだこの周辺をうろついている可能性は、高くはないがありえなくはない。
 一度は無視しておくことに決めたが、もしこちらから玖渚友を探すとしたら今が好機ではないか?

29かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:15:32 ID:gkHsMIYk0
 しかし会ってどうする? わざわざ会いに行くメリットがあるか?
 いや、一応メリットはある。パソコン越しに会話したとき、あいつはすでに普通では手に入らないような情報まで数多く収集している様子だった。あれからおよそ6時間、新たな情報を入手している可能性はかなり高い。
 情報を得るために会うだけでも有益と言える相手ではある。
 話を聞くだけなら掲示板の連絡フォームを使えばいいのだろうが、重要な情報を聞き出すのが目的である以上、相手の用意したフィールドでの会話は望ましくない。できればこちらから不意打ちで会いに行くというのが理想だ。
 俺から渡せる情報はほとんどないが、そこは俺、相手が喜びそうな情報くらい即興ででっちあげる自信はある。
 バレた時が怖いが、その時はまあその時だ。
 問題は、俺が玖渚友の人となりについてほとんど把握できていないということだ。相手を騙すには、相手について最低限の知識は得ておく必要がある。
 俺が言うのも何だが、玖渚という奴はかなりの食わせ者だ。向こうが設えた場での会話だったとはいえ、俺が騙しきれなかった相手なのだから。
 最終的に名乗っていた「玖渚友」という名前が本名だったのかどうかもまた、未だに明確であるとは言えない。さすがにそこまで疑っていたらキリがないだろうが。
 今更だが、ここの参加者には俺との相性が悪い奴が多すぎる。
 球磨川禊にしても、さっき出会った哀川潤にしても、俺が持つ詐欺師としてのテクがまるで役に立たない。どころか会話を交わす前から本能で「こいつは駄目だ」と直感できるような相手ばかりだというのだから空恐ろしい。
 西条玉藻に至っては会話すらろくに成り立たないという始末。マンション付近で追いかけられた時と比べるとある程度まともな様子ではあったが(哀川潤がそばにいたせいだろうか?)、それでも逃げたのは正解だったと思う。
 最初のときはナイフが役に立ったが、今度はメイド服が逃走の役に立ったというのだから、いやはや、人生何がどう役立つかわかったものではない。
 メイド服に救われる経験など、人生で一度あれば十分だろうが。
 唯一俺の手駒として機能していた参加者といえば江迎怒江だが、あれはあれで相性がいいとは言えない。
 球磨川や哀川潤が「騙しにくい」なら、江迎の奴は「一方的に信じてくる」だ。こっちが騙すより先に勝手に信じてくるというのだから、球磨川たちとは真逆の意味で騙すことが難しい。
 それどころか、たとえこちらから「信じるな」と言ってみたところでおそらく毫ほども意に介さない性格をしているというのだから、基本的に制御のしようがない。
 つまりどちらにせよ扱いにくいことに変わりはない。俺のために働いてくれるぶん、江迎のほうがどちらかといえば重宝するだろうが。
 ここには狂人しかいないのかと言いたくなる。
 そんなことを言うと、まるで俺自身がまともな人間であると言っているように聞こえてしまうかもしれないが、そのとおり、俺は自分のことをまともな人間だと思っている。
 詐欺師が何を言うか、などと言う輩がいたとしたら、それは詐欺師に対する誤解だと俺は言い返す。仮に詐欺師が狂人ばかりだったとしたら、そもそも詐欺という犯罪自体成り立っているはずがない。
 まともな思考ができるからこそ人を騙せる。まともな人間にこそ人は騙される。
 つまりはそういうことだ。
 ゆえに俺は、正常な人間らしくこのバトルロワイアルに臨む。狂人に混じって殺し合いを演じる気は始めからない。まともに人を騙し、まともにここから逃げる策略を練る。

 「そう、『騙す』――俺がやるべきことは、それに尽きるはずだ」

 壁から背を離し、道路に沿って歩き始める。
 足は自然と図書館のほうへ向いていた。今の時点で玖渚友と直接対峙するのは、やはりまだ準備が浅い気がする。
 今まではほとんど逃げに徹してきたが、それもいよいよ限界だ。禁止エリアの数が増え、参加者の数が減るごとに状況は煮詰まってくる。殺し合いに乗る人間もここから更に増えるかもしれない。
 そろそろ本格的に、ここから脱出するための策略を練らなければならない。
 すなわち、主催者側と接触を図るための策略。
 より直截的に言うなら、主催を騙すための策略。
 正味な話、俺が自力で生き残るにはそれしかないと思っている。出会う奴出会う奴すべてを騙し続けていったところで、結局のところその場しのぎにしかならない。

30かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:16:18 ID:gkHsMIYk0
 それにさっきも言ったが、ここには俺にとって鬼門となる奴が多すぎる。一切の謙遜を抜きにして、俺が今生き残っていること自体が奇跡以外の何物でもない。
 逃げ場のないこのフィールドの中にいては、遅かれ早かれ行き詰まることは確定している。ならば必然、外側に活路を求める以外にない。
 主催者側に属する人間が何人いるのかはわからない。ただ、そのうち一人でも接触することができたとしたら、その時こそ俺の詐欺師としての本領発揮だ。
 口八丁手八丁、なりふり構わず手段を選ばず、どんな手を使ってでも主催側に取り入ってみせる。
 この殺し合いを止めさせるだとか、別にそこまでやる必要はない。俺に付いているこの首輪、これの外し方さえ聞き出せたらそれでいい。
 この首輪さえ外すことができれば長居は無用だ。どうにか脱出の算段をつけてさっさとおさらばさせてもらう。
 他の参加者たちを置いて俺だけ逃げるというのは良心が痛むが、さすがに全員まとめて救い出すほどの余裕はあるまい。仮にできたとしても、抱えるリスクがでかすぎる。
 まあ当然、良心が痛むというのは嘘だが。そもそも俺に良心など残っていたか?
 俺は阿良々木暦やその妹のような正義の味方ごっこをするつもりは毛頭ない。俺が誰かを助けるとしたら、それに見合った対価を支払ってもらった時だけだ。支払ったとしても助けるとは限らないが。
 しかし実際のところ、主催者の影すらつかめていない現状においてはそいつらを騙して取り入ろうなどという戦略も机上の空論でしかないわけだが。
 どの道、協力者を得ないことにはどうにもならない。
 主催者にアプローチをかけるための協力者となると、また数が限られてきそうではあるが…………

 「……そういや、掲示板はどうなっているんだろうな」

 ポケットからスマートフォンを取り出し、掲示板のページを再び開いてみる。
 参加者の数ももう20人そこそこまで減ってきているというのに、意外に利用している奴が多いものだ。携帯電話を持っている奴が俺以外にも割といるのかもしれない。
 ……まさかすべて玖渚の自演とかいうオチではないよな?
 若干の不安を抱きながら、新しい書き込みがないかチェックしようとする。

 「――おっと」

 そのとき急に足の力が抜け、前のめりに倒れこんでしまう。スマートフォンが壊れないよう庇った形になったせいで、スーツの袖が泥まみれになってしまった。くそ、ここから脱出する前にクリーニング代を請求してやろうか。
 疲労がたまったせいで足がもつれたのだろうか、などと思いながら立ち上がろうとするが、どういうわけか両足ともにうまく力が入らない。それどころか腿のあたりにじわじわとした痛みを感じる。
 まさか肉離れでも起こしたか? だとしたら厄介だな――と右足にそっと触れる。途端、ぬるりとしたものが指先を濡らすのを感じ、反射的にそちらを見る。
 血だった。
 両の太腿と、そこに触れた指先がじっとりと血で湿っている。
 実は道路に血まみれの死体が倒れていて、それに躓いた際に血が付いてしまったのだった――などということはもちろんなく、正真正銘俺自身の血だった。
 その証拠に俺の脚には、直径3ミリほどの小さな穴が空いていた。左右それぞれに一箇所ずつ、後ろから前へ、何かが突き抜けていったかのように。
 ……銃創?

 「見たところさほど手練というわけでもなさそうだが、一度痛い目を見ているのでな――念のため下手な動きができないようにさせてもらった」

 声のするほうを振り返ると、そこには奇矯な衣服をまとった男が立っていた。
 どことなく怪鳥を思わせる風貌と、全身に巻かれた鎖。両手には一丁ずつ拳銃が握られている。
 それぞれの銃口から立ち上る硝煙が、まさに今発砲されたばかりだという事実を示していた。どこへと向けて発砲されたのかは考えるまでもないだろう。

 「貝木泥舟だな。おぬしに恨みはないが、死んでもらう」

 恐ろしく冷たい目をしたその男は、恐ろしく冷たい声でそう言った。

 「…………」

 やれやれ、どうやら早くも次の一難が大手を振ってご登場のようだ。
 しかも今度の一難は、そう簡単に去ってはくれそうにない。

31かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:17:02 ID:gkHsMIYk0
 
   ◆  ◆  ◆



 「足を潰されても取り乱す気配を見せぬというのはなかなかに意外だな。貝木泥舟。どうやら我が思うほど、凡庸な人間というわけでもないらしい」

 片方の拳銃をこちらに向けたまま、男は探るような目で俺を見てくる。
 俺は地面に突っ伏したまま、その視線を受け止める。最初に「死んでもらう」と豪語されているだけに今すぐ頭を撃ち抜かれてもおかしくない状態ではあるが、先んじて足を潰した余裕か、会話を交わす気はとりあえずあるらしい。
 こういう余裕は正直ありがたい。
 俺に取り乱す気配がないとこいつは言ったが、そんなもの混乱が表に出ないよう無理矢理取り繕っているだけに決まっている。心中では、あまりに唐突過ぎる展開と焼けつくような両足の痛みで脳がオーバーフローを起こしかねない勢いだった。
 まず、こいつはいったい誰だ?
 参加者の一人であることは当然として、なぜ俺の名前を知っている?
 いや――名前が知られていることに特段の不思議はないのかもしれない。俺のことを他の誰かに聞いた可能性は十分にあるし(又聞きでなければ江迎か球磨川、あるいは戦場ヶ原あたりか)、ランドセルランドで俺がやったように、名簿の名前から類推した可能性もある。
 いきなり初対面である俺を殺そうとしている理由もあえて考える必要はあるまい。「恨みはないが」と前置きしているところからしても、おおかた腕に自身ありで馬鹿正直に殺し合いに乗っている者のうちの一人だろう。
 あえて他の可能性を考えるとしたら、こいつは他の参加者の誰かから――例えば戦場ヶ原ひたぎあたりから俺のことを抹殺するよう依頼を受けていて、今まで俺のことを探し回っていた――という可能性はどうだろう。
 考えられなくはないが、さすがにそこまで愉快な展開を期待するのは贅沢がすぎるというものだろう。そもそもあの女は、殺意を抱くほど憎い相手なら自分の手で殺さないと気が済まなさそうなタイプだからな。
 …………ん?
 冷静に考えてみるとこの状況、不可解な点などひとつもないんじゃないか?
 たまたま行きがかった殺人者が、たまたまここにいた俺を射殺しようとしている状況。
 文章にしてみれば一行でこと足りる。
 なんだ、ならややこしくあれこれ考える必要などない。やはり足を撃たれたショックで混乱していたようだ。
 実のところ、こいつが何者なのかも服装を見た時点で予想できているしな。

 「……初対面の相手にいきなり銃弾とは、随分なご挨拶じゃないか」

 最大限平静を装いながら俺は言う。足の痛みで額には脂汗が浮かんでいることだろうし、地面に這いつくばった姿勢のままなので、どう取り繕ったところで無様にしか見えないだろうが。

 「いくら殺し合いの場とはいっても、礼儀や作法をおろそかにするのは感心しないぞ。まして俺のように人畜無害な、見てのとおり丸腰の人間に不意討ちでしかも銃とは、外道以下のやり方だな。
 何があったのかは知らんが、ここに来るまでによっぽど怖い目に会ったと見える。お前は素人相手にすら警戒心を抱きながらでないと向き合えない、ただの臆病者だな」

 心にもないことを俺はまくしたてる。精一杯挑発してやったつもりだったが、相手は眉ひとつ動かさず、瞬きひとつすることなく、虫けらでも見るように俺を見下すだけだった。それどころか、

 「ふむ――おぬしもこの刀が『銃』であることを知っているのか。あのときの青年が炎刀の名を口にしたときも少々驚いたが……どうやら我の認識以上に、変体刀に関する知識を持っている人間がこの場には存在しているらしい」

 などと意味不明なことを口走る。
 炎刀? 変体刀? 刀が銃ってどういうことだ。

 「それと貝木泥舟よ、我のやり方に対して外道などと難癖をつけるのは全くの見当違いだ。我らしのびは卑怯卑劣こそが売り。礼儀作法というのであれば手段を一切選ばないことこそが礼儀であり、不意討ち闇討ち騙し討ちこそが作法。それに異を唱えるなど笑止千万」

 俺の適当な挑発に対して真面目に受け答えてくれるのはありがたいが、残念ながら全く興味はなかった。ネットの掲示板にでも書き込んでいてくれ。
 しかしこの男、自分のことをしのびと言ったか? 妙な風体をしているとは思ったが、言われてみれば一風変わったしのび装束に見えないこともない。
 どうやら最近の忍者は平気で拳銃を使うらしい。ドーナツを食う吸血鬼よりはリアリティのある話かもしれないが、まったく末恐ろしい世の中だ。

32かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:17:49 ID:gkHsMIYk0
 
 「さて、死ぬ前にいくつか質問に答えてもらうぞ、貝木泥舟」
 「……さっきから俺のことを貝木と呼んでいるが、残念ながら人違いだ。俺の名前は鈴木と――」

 言いかけたところで、男が一切躊躇する様子なく拳銃の引き金を引く。弾丸は俺の脇腹あたりに命中し、両足の痛みが消し飛ぶほどの痛みを与える。

 「ぐ…………うっ!」

 うめきながら俺は、腹を抱えて上半身だけうずくまるような格好になる。急所は外しているようだが、おそらくわざとだろう。
 さすがは忍者、生かさず殺さずのテクニックにも長けているようだ。

 「我に虚言は通用しないものと思え。これ以上無駄ごとを口にするなら、次は素手で肉を抉り取るぞ」

 そう言ってしのびの男は地面から石をひとつ拾い上げると、それを右手の力だけで粉々に握り潰して見せた。
 ……なるほど、見た目からは想像もつかないが、どうやらとんでもない怪力の持ち主のようだ。俺の身体など、片手だけで易々と解体してしまえるに違いない。

 「ふむ……付け替えた当初と比べてだいぶなじんできたようだな。あのままでは炎刀を握ることすらままならぬ有様であったし、力の加減が利くようになったのはありがたい」

 また何かひとりごとを言っているようだが、こっちは痛みでそれどころじゃない。そのまま一人で喋っていてくれればいいのに。

 「我がおぬしの名を知っている理由を説明してやる気はない。おぬしがそれを知ったところで、我にとってもおぬしにとっても何の意味もないのだからな」

 そりゃそうだ。俺もそんなことを説明してほしいとは思っていない。
 しかしここで黙ってしまったら、こちらから口を挟む余地がいよいよなくなる。そうなればもう俺が助かる可能性はゼロだ。助からないにしても、このまま唯々諾々とこいつの言いなりになって死ぬというのは面白くない。
 ここは小悪党らしく、あがけるだけあがいてみようじゃないか。
 痛みをこらえながら、俺はなんとか口を開く。

 「そうだな、俺がお前の名前を知っていることに何の意味もないようにな、真庭鳳凰」

 ここでようやくしのびの男――真庭鳳凰の表情に、微細だが虚を突かれたような気配が見てとれた。よし、どうやら正解のようだ。間違えていたら最悪だったが。

 「…………どこで我の名を知った」

 自分では意味がないと言っておきながらそんなことを訊いてくる鳳凰。一方的に名前を知っていることで優位に立ったつもりでいたか、馬鹿め。

 「いや、少し前にお前の仲間にたまたま会ってな。そのときにお前のことも聞いた」

 言うまでもないが嘘だ。会ったことは会ったが、どっちもすでに死体だったからな。
 しかしその死体を見たことでこいつの正体を看過するに至ったのだから、全くの嘘とは言えないのかもしれない。
 ネットカフェとランドセルランドで見た「真庭」と同じく、残りの二人もあんな珍妙な格好をしているかどうかは正直微妙なところだと思っていたが、どうやらこいつらは全員が全員、こんな見た目から名前が推測可能であるような装束を身に着けているらしい。
 こいつら本当に忍者なんだろうな? いまひとつ説得力に欠ける。
 相手の顔色を窺いながら、俺はさらに嘘を重ねる。

 「名前は確か狂犬と喰鮫と言ったかな。殺し合いに関してかなり乗り気でいるようだったから、俺が相手をしてやった。ちなみに言うが、挑んできたのは向こうのほうからだぜ。俺は仕方なく応じただけだ」
 「ほう、それでその二人はどうした」
 「殺した。俺が両方ともな」

 ここでこいつが激昂して取り乱すような仲間思いの間抜けであったなら、俺が助かる可能性も0.01%くらいはあったかもしれない。しかし鳳凰は、俺の言葉に何ら動揺の気配を見せることなく、

 「嘘だな」

 と冷たく言い放った。

 「真庭のしのびを甘く見るな。多少度胸は据わっているようだが、おぬしがそこまで腕の立つ人間とは思えん。あの二人はもとより、真庭の里の誰を連れてきたところでおぬしごときが敵うはずがない」
 「は、偏見だな。人は見かけによらないものだぞ。こう見えて案外、武術の心得はある」

 余裕ぶって笑ってみせたが、確実に相手の言うほうが正しいだろう。
 実際の忍者がどんなものなのかなど知る由もないが、俺に勝てる要素があったとしたら精々逃げ足くらいのものだろうし。

33かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:18:37 ID:gkHsMIYk0
 
 「……とはいえ、俺の力だけで殺したわけじゃないのは事実だ。実を言うとその二人は、俺が会ったときにはすでに手負いの状態だったんだよ。他の参加者と戦闘した後だったのだろうな。
 そいつらから聞いた話だと、喰鮫のほうは黒神めだか、狂犬のほうは――江迎怒江とかいう奴とやりあった後だと言っていたな。おかげで俺でも楽に殺すことができたぜ。俺が言うのもなんだが、まあお気の毒さまだな」
 「…………」
 「その証拠に――と言えるほどのものじゃないが、俺の荷物を見てみるといい。お前の仲間から奪い取ったぶん、通常より支給品の数が多いのがわかるはずだ」

 そう言って、俺のすぐ傍に落ちている自分のデイパックを顎でしゃくってみせる。
 こいつの仲間を殺した証拠にはならないにしても、「戦利品」の多さを示してやることで俺の実力について誤解を与えてやることくらいはできるかもしれない。
 誤解は多ければ多いほどいい。

 「…………」

 鳳凰はしばらく疑わしそうな目でこちらを見ていたが、やがて「ふむ」とうなずき、

 「そうだな……おぬしの言うことはどうにもあてにならんようだから、先に『視て』おくとするか」

 などと言い、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
 そのままデイパックを拾うかと思ったそのとき、鳳凰は俺の脇腹あたり、つまり先ほど銃弾を撃ち込んだ部分を、右のかかとで思いきり踏みつけてきた。

 「ぐはぁ…………っ!!」

 せっかく麻痺しかけていた痛みが体内で爆発する。いや、本当に腹の中身が爆発したかと思った。内臓がすべて消し飛んだと言われても今なら信じてしまうかもしれない。
 傷口からさらに血が溢れ出る。頭の中では絶叫しながらのたうち回っているつもりなのだが、実際には完全に息が詰まり、指一本すらも動かせなかった。
 気を失わなかったのは見事だと言う外ない。俺でなく、こいつの技術がだ。

 「重ねて言うが、妙な動きはするな」

 念を押すように言って、鳳凰は左手の拳銃を懐にしまい、今度こそデイパックを拾い上げる。そして動けない俺をそれでも警戒するように、そのまま数歩ほど後ろに下がった。
 すぐに中身を改めるかと思いきやそうはせず、なぜか左手でデイパックをつかんだまま静かに瞑目する。何かを念じているようにも見えるが、いったい何をしている?
 隙だらけに見えるが、俺への警戒は解いていないのだろう。
 未だ呼吸すらできない俺は、それをただ見ていることしかできない。

 「――ほう、鑢七実と会ったか。あの化物と二度も顔を合わせて二度とも逃げおおせるとは大した健脚だな……七実の隣にいる刺青顔の少年は何者だ? まさかあの女に協力者がいるとでもいうのか? 随分な命知らずだな」

 今度は俺のほうが虚を突かれる番だった。
 さっき俺がやったような、断片的な情報から事実を推察するようなテクニックとは違う、事実そのものを知っていないとわからないはずの情報をこいつは今、口にした。

 「なるほど、狂犬と喰鮫の所有物を得たというのは真実のようだ。しかし殺したというのはやはり嘘か。死体の傍らに放置されていたのをいいことに拾っただけのことを、よくもまあ『奪い取った』などと。礼儀作法を学ぶべきは、どうやらおぬしの側のようだな」
 「…………」

 ぐうの音も出ないとはこのことだった。何だこれは? 俺の記憶でも読んでいるのか?
 いや、こいつがデイパックに触れたときから語り始めたことから察するに、俺の記憶というよりは「俺の所有物の記憶」を読み取るような能力をこいつは持っているのかもしれない。
 いわゆるサイコメトリーとかいうやつだ。
 この手の超能力や心霊術の類は、大半がトリックを用いているだけの偽者と相場が決まっているものだが(俺も似たようなものだが)、俺の目の前にいるこいつは、まさか本物だとでも言うのか?

 「……はっ、喰鮫や狂犬はおろか、まだ誰一人として殺してなどいないではないか。女子供にすら逃げの一辺倒とは大したものだ。武術の心得が聞いて呆れる」

 俺は死刑宣告を受けた気分だった。
 間接的にとはいえ俺のこれまでの行動をこれほど明確に読み取れるというのは、安易な嘘をついても逆効果にしかならないと宣告されたようなものだ。自分に虚言が通用しないというあれはハッタリでも何でもなく、ただの事実だったということか。
 俺の処世術である「騙し」は、この時点でほぼこいつに殺されたも同然だった。

34かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:19:15 ID:gkHsMIYk0
 
 「嘘と騙しはしのびの常道。しかし下手な嘘ほど己の首を絞めるものはない。相手を騙しぬいてこそ嘘は嘘として価値を持つ。おぬしのやったことは、己の寿命を無意味に縮めたのと同じこと」

 俺は言い返せない。

 「つい数刻前にも、我を嘘で縛ろうと試みた男がいたな。だがそいつの辿った末路といえば、己の得物で勝手に自滅した上に我にかけた嘘も自ら無に返すという、救いようもないほどに無様な最期だった。
 あの男がもう少し格調の高い嘘吐きであったなら、死した後でもなお、我に呪縛を遺すくらいのことはできたであろうに」

 なるほど、最初にこいつが言っていた「痛い目」というのは多分そのことだろう。
 こいつが他の誰かに騙されたばかりだった、というのも俺にとっては不運だったかもしれない。そうでなければこいつは俺に対してここまで警戒していなかっただろうし、いきなり発砲されるということも多分なかっただろう。
 誰かは知らんが余計なことをしてくれたものだ。どうせ騙すなら最後まで責任を持って騙しきれ。

 「どうやらこのまま尋問を続けても、おぬしの口からまともな真実は聞けぬようだな」

 ひと通り記憶を読み終えたのか、鳳凰はデイパックを放り捨てる。

 「しかし――この状況においてもなお虚言を吐き続けることのできるその精神だけは評価に値するといえよう。このまま殺しても構わんが、興が乗った。おぬしが口を開ける間に、少々試させてもらうとしよう」

 俺に見せ付けるように鳳凰が右腕を構える。ただの人間の腕なのに、俺はそれに肉食獣の牙のような凶々しさを感じた。

 「おぬしがこれ以上、嘘を吐くことを諦めて偽りなく我の質問に答えるというなら、これ以上苦痛を与えず、一思いに殺してやってもよい。
 しかしあくまで嘘を吐き続けることを選ぶというのであれば、我はこの右腕でおぬしを死なぬ程度に喰らい続ける。おぬしの命が尽きるのが先か、はたまた精神が尽きるのが先か、ここで試してみようではないか」

 「…………」

 よくわからんが勝手に何か始めやがった。
 何が「興が乗った」だ。今までの会話のどこに興が乗る要素があったというのか。そんなものに乗せた覚えはないぞ。
 やはりこいつも狂人か。
 しかしまあ、「嘘をつき続ける精神」とは随分と高く買われたものだ。こんなもの評価どころか非難するにも値しない、ただの悪癖だというのに。
 俺は嘘を吐くことに何のこだわりもない。皮膚呼吸をするように嘘を吐く俺だが、もしここで命が助かるというならその皮膚呼吸すら止めることも厭わないつもりだ。
 この男が本物のしのびだというなら、拷問の作法にも精通していることだろう。俺のちっぽけな精神など、ものの数分で崩壊してしまうに違いない。
 俺にはもう、この男を騙すことはできない。悔しいがこいつの言うとおり、騙しきれない嘘に価値などない。そもそも俺は、嘘に価値があるとも思っていないが。
 だから俺が今ここですべきことは、素直に許しを請うことだろう。恥も矜持もすべて捨て去って、質問には正直に答えるから命だけは助けてくれと、あるいは一思いに殺してくれと懇願する。それが俺にできる唯一にして最善のことであるはずだった。
 億にひとつでも助かる可能性があるのなら、俺は迷わずそうすることを選ぶ。
 足を潰され、嘘を封じられ、もはや一般人以下に成りさがった俺にできることは、それくらいしか残されていない。
 少なくとも、この期に及んでなお意固地になって無意味な嘘を重ねるなど、考えうる限り最悪の手段だろう。寿命が少し延びる代わりに、地獄の苦痛を味わわされるだけだ。
 俺が仕事で使うもうひとつの得意技である「偽者の怪異」も、ここではまず役に立たない。
 指で突く隙を与えてくれないのは当然のこと、怪異でこいつに打ち勝つためにはこいつにとって有効な怪異を選んで使用する必要がある。今からそれを即興で用意しろというのは無理な話だ。
 阿良々木暦の妹を刺すのに使った囲い火蜂も、こいつには通用するまい。相手は畏れ多くも、神獣の名を名乗っているような奴だ。
 蜂が鳳凰に効くものか。

 「…………」

 出血で意識が朦朧としてくる。痛みはぼんやりとしか感じないのに、地面の冷たさだけはやたらはっきりと感じることができた。

35かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:19:58 ID:gkHsMIYk0
 かすんだ視界の中、鳳凰が近づいてくるのが見える。一歩一歩、まるでスローモーションのようにゆっくりと。
 命乞いをするなら今のうちだ。ぼやぼやしていると、本当に口も開けない状態にされてしまうかもしれない。

 「……ああ、そういえば」

 繰り返すが、俺は嘘を吐くことに何のこだわりもない。矜持も、思想も、信念も、嘘に対して掲げられるものは何ひとつとして持ち合わせてはいない。
 しかし。
 それでも。
 だからこそ。
 俺はこいつの思惑通りになるのが嫌だった。撃たれたことも踏みつけられたこともどうでもいいし、これから殺されることも仕方がないと思っている。
 ただ、俺の嘘吐きとしての属性をこいつに完全破壊されるのが我慢ならなかった。
 「興が乗った」など、そんな思いつきの暇つぶし程度の理由で俺から嘘を奪おうとしているこいつの傲慢さが許せなかった。
 こいつにはせめて一矢報いてやらないと気が済まない。俺はそんな俺らしくもないことを思った。
 俺にも詐欺師としてのプライドというものが、もしかしたらあったのかもしれない。
 死が眼前にまで迫ってきているというのに、俺はそれが少しだけ愉快だった。

 「――鳳凰というと鳥の怪異として有名だが、元ネタである中国の伝承によると、キメラみたいに何種類かの動物の部位が繋ぎ合わさった姿をしているものらしいな……
 時代によって違ったりもするようだが、元々はたしか嘴が鶏で、顎は燕だったか? 他にも蛇やら亀やら混ざっていたような気がするが、よく覚えてねえな……」

 俺まであと三、四歩ほどの距離で、鳳凰の足がぴたりと止まる。

 「……何の話だ?」
 「いや、別にどうでもいい話さ……ただ、鳳凰ってのはたしかに神の鳥ではあるが、そう聞くと案外、普通のものの寄せ集めでしかないように思えてしまうものだな」

 あまりに脈絡のない俺の言葉に気がそれたのか、鳳凰の注意がほんの一瞬だけおろそかになる。
 その一瞬を俺は見逃さなかった。

 「だから鳳凰、お前に蜂は効かないだろうが――」

 かちり。
 脇腹を撃たれてからずっと身体の下で抱え込むようにしていた手で安全装置を外す。
 そして「それ」を握った右手を勢いよく腹の下から引き抜き、

 「――鶏よりも燕よりも強靭で獰猛な、鷲ならどうかという話だ」

 俺に残されていた唯一の武器、デザートイーグルを鳳凰めがけて発砲した。
 放たれた弾丸は、驚愕に目を見開く鳳凰の顔面、その眉間のど真ん中へと寸分狂わず命中し、そのまま頭部の上半分を木っ端微塵に吹き飛ばした。



   ◆  ◆  ◆



 というのはもちろん嘘で、俺の撃った弾丸は鳳凰にかすりもしなかった。油断はしていてもさすがは忍者、俺が拳銃を取り出した時にはすでに回避行動をとっていた。まあ避けなくとも当たらなかっただろうが。
 非力な者がデザートイーグルを撃つと反動で肩が外れるとか後ろへ吹き飛ばされるとか未だに言われることもあるようだが、実際には撃ち方さえ間違わなければ女子供でも撃つことはできるらしい。
 しかし今の俺の撃ち方は、うつ伏せのまま片手だけで、しかも無理に腕を伸ばした状態で発砲するという大口径拳銃の扱い方としてはおよそ最悪に近い形だったため、発砲の反動は覿面に俺の右腕へとダメージを与えていた。
 肩が外れたかどうかはわからないが、筋くらいは痛めたかもしれない。ついでに耳栓なしで撃ったせいで耳が痛い。
 俺が拳銃を持っていたことがよっぽど意外だったのか、鳳凰は反射的にといった感じで懐から拳銃を取り出し、俺に狙いを定める。
 引き金が引かれる前に俺はせめてもの抵抗にと、もう片方の手で握っていたスマートフォンに拳銃の台尻を思い切り叩き下ろし、粉々に破壊した。
 抵抗というにはあまりに子供じみているが、こいつに使われるくらいならこうしたほうがましだ。右腕に更なる激痛が走ったが、そんなことはもう気にならない。
 ついでにこのデザートイーグルを可能な限り遠くへ放り投げてやろうかと思ったが、さすがにそこまでの猶予を与えてはくれなかった。
 軽い発砲音とともに、鳳凰の拳銃が火を噴く。俺のときとは違って、弾丸は俺の方めがけてまっすぐに飛び、正確に頭部を撃ちぬいた。
 暗転していく意識の中で、俺は何かをやりきったかのような満足感に浸っていた。状況的に言えば悪あがきに失敗してとどめを刺されただけのことだろうが、鳳凰にとっては「思わず殺してしまった」形だろうから、俺としてはしてやったりな気分だった。

36かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:20:42 ID:gkHsMIYk0
 負け惜しみにしか聞こえないだろうが、俺の銃撃がこいつに命中しなかったことも良かったと思っている。
 他人の生き死にに何かを感じるような心が残っている俺ではないが、自分の手で直接誰かを殺すのはなんとなく嫌だった。
 殺人者の肩書きを得るのが。
 詐欺師という汚名を、殺人者というくだらない汚名で上書きするのが嫌だった。
 俺は俺のまま、詐欺師のままで死にたかった。だからこのバトルロワイアルで一人も殺さないまま死ねたことに、俺は誇りすら感じていた。
 こんなつまらないことに誇りを感じる自分の小ささに正直嫌気がさしたが、どうせ死の間際だ。何に誇りを感じてもいいじゃないか。
 やるべきことをやったと言い切ることはできないが、今やりたいことはすべてやった。
 安らかに死ぬにはそれで十分だ。
 最後に走馬燈でも見ようかと思ったが、今までに騙してきた相手の恨み顔しか見える気がしないのでやめた。見ようと思って見れるものでもないだろうが。
 だから代わりに戦場ヶ原ひたぎのことを思い浮かべる。
 あの女が今も無事どうかはわからない。だが、俺はあいつが最後まで生き残れると信じている。俺がいなくても、きっと立派にやっていけるだろう――と、口に出したら歯が浮きそうな嘘を考えている自分がいることに安堵し、俺の意識は今度こそ闇へと落ちる。
 地獄の沙汰も金次第と言う。貯金のない俺だから、江迎のやつから金をいくらかせしめておいて本当によかったと、あの頭のおかしい女に俺は少しだけ感謝した。


【貝木泥舟@物語シリーズ 死亡】


  ◇     ◇


 後日談にもオチにもまだまだ早いが、もう少しだけ俺の一人称を続けさせてもらう。実は生きていたというオチではないから安心していい。
 もう死んだのだからあとはナレーションにでもまかせてさっさと逝けと罵声が飛んできそうだが、残念ながらこの回では俺の行動に関する描写はすべて俺の視点から語ると決めている。たとえ神にもその役割を譲ってやる気はない。
 なに、ほんの少し補足を入れるだけだ。
 すぐに済むから、しばしご清聴願いたい。
 鳳凰に脇腹を撃たれた後、俺がずっと両手で腹を抱えるようにしていたのは言うまでもなくデザートイーグルを取り出すタイミングを窺っていたからだが、実はもうひとつ理由がある。
 俺が最後に銃の台尻で粉々に破壊したスマートフォン、あれを身体の下で操作するためだった。
 俺が動けないがゆえの油断だったのか、それとも俺のことを不必要に警戒しすぎていたからなのか、鳳凰が俺に対して身体検査を一切しようとしなかったのは、俺にとって最大の幸運だったと言える。
 もしされていたら、悪あがきの手段さえ完全に奪われていただろうからな。
 で、スマートフォンを使って何をしていたかというと、玖渚が作ったあの掲示板に書き込みをしようとしていた。
 ある意味ダイイングメッセージのようなものだ。ネット掲示板にダイイングメッセージ、なんとも現代的でいい感じじゃないか。
 ただし身体の下で操作していたわけだから、当然画面もボタンも見えない完全ブラインドタッチだったので、ちゃんと文字が打てていたかどうかわからないし、そもそも書き込みができていたのかどうかも確認できていない。
 これで投稿できていなかったら間抜けすぎる。
 誤字だらけなのは仕方ないとして、最低でも投稿できていると信じたい。
 まあ、あんな書き込みをしたところであいつにとって致命的となるわけでもないし、内容が信用されるとも限らない。むしろ無駄になる確率のほうが高いだろう。
 だからこれもただの悪あがきだ。自己満足と言い換えてもいい。
 何の意味も持たなくとも一向に構わない。
 さてさて、死人があまりでしゃばるのも問題なので、言うことも言ったし今度こそ退場させてもらうとしよう。
 これ以後は正真正銘、金輪際俺の出番が来ることはない――なんて俺がこんなことを言うと、ひょっとしたら嘘になるかもしれないけどな。


2:目撃情報スレ
 4 名前:名無しさん 投稿日:1日目 夕方 ID:IJTLNUUEO
 E7で真庭法王という男におそわれた拳銃を持ている。危険
 鳥のよな福をきている、ものの乃記憶を読めるやしい
 黒髪めだかと組んん出いる可能性あり
 付近にいるのは注意されたしい

37かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:21:36 ID:gkHsMIYk0
 
  ◇     ◇


 「…………不愉快だ」

 頭を撃ちぬかれた貝木泥舟の死体を見下ろしながら、鳳凰は憎々しげに呟いた。
 その死に顔がなぜか満足げなものだったことも、鳳凰の苛立ちに拍車をかける。

 「まさかこんな、口先だけの大法螺吹きにまたも一杯食わされるとは、例えようもなく不愉快だ……しかし、我のほうにも慢心があったことは認めざるを得まい。猛省せねばなるまいな」

 鳳凰としては、まさか相手も『銃』を持っているとは思わなかったのだろう。
 鳳凰の世界における『銃』が極めて特殊なものであるがゆえに、相手が同じ武器を所持しているという可能性を予想できなかった。
 さらにその武器がいかに強力なものかを知っているがゆえに冷静さを欠き、急所を外す余裕もなく、反射的に撃ち殺してしまった。
 あえて言うならもうひとつ、鳳凰が拳銃の存在を予想できなかった理由として、貝木の所有物に対する先入観が挙げられる。
 忍法記録辿りによる先入観。
 鳳凰の左手に宿る忍法、記録辿り。それは物に残された残留思念を読み取るものであり、当然のこととして読み取る対象物に関わりの深いものの記録しか読むことができない。
 例えば貝木のデイパックであるなら、それをずっと所有していた貝木自身の行動の記録。あるいは、デイパックから出し入れされた物の記録。
 もしデザートイーグルが貝木のデイパックに入っていた支給品だったとしたら、あるいは一度でもデイパックの中にしまわれていたとしたら、その記録を読み取った時点で十中八九、拳銃の存在には気付けていただろう。
 しかしデザートイーグルが取り出されたのは、真庭狂犬のデイパックの中からだった。
 加えて貝木はそれを自分のデイパックにしまうことなく、スーツの懐に入れて携行していた。
 つまり鳳凰にとって不運なことに、そして貝木にとって幸運なことに、デザートイーグルに関する記録は貝木のデイパックにとって対象外の記録だったのである。
 スマートフォンについても同様の理由だ。ただしこっちは、存在が読めていたところで何に使うものなのか鳳凰にはわからなかっただろうが。
 鳳凰が貝木に対し身体検査をしなかったのは、むしろそれが原因だったのかもしれない。
 なまじ記録を読むことができたことで、「貝木の所有物はすべてデイパックの中に入っている」という先入観を作ってしまったということ。
 そこは完全に、鳳凰の油断であり慢心だった。

 「……まあよい。生き残ったのが我であるという事実に変わりはない――それに、随分な収穫もあったことだしな」

 鳳凰は貝木の死体を足で仰向けに転がすと、右手に握られたままの拳銃を力任せにむしり取る。
 それを確認するようにしばらく眺めてから、近くの壁に向けておもむろに銃を構え、発砲した。
 強烈な銃声とともに、弾丸は決して薄くない壁を優々と貫通する。銃声の残響があたりにこだまする中、鳳凰は彼にしては珍しく感嘆したような声を出した。

 「素晴らしい……炎刀と比べて連射性こそやや劣るが、威力のほうは比べ物にならんな。これが手に入ったというだけで、わざわざこの不吉な男のもとを訪れた甲斐があったというものだ」

 炎刀・銃の上位互換に当たる武器、鳳凰はデザートイーグルをそんなふうに解釈し、それを炎刀とともに懐へしまう。
 その際、記録辿りでデザートイーグルの記録を読むことも忘れなかったが、先ほど貝木が撃った以外ではまだ一度も使われていない、という事実しかわからなかった。
 さらに傍らへ放り捨ててあった貝木のデイパックを改めて拾い上げ、その中身を検分する。
 基本の支給品以外では、日本刀、金槌、巨大な棍棒、予備の弾丸、金属で作られた諸々の道具、そして――

 「これが……誠刀・銓?」

 説明書きを読んだだけでは疑わしかったが、記録辿りでその鍔と柄しかない刀を読んだことで「それ」が「そう」であることを確信する。
 変体刀十二本がうち一振り、「誠実さ」に重きを置いて作られた日本刀、誠刀・銓。
 炎刀の類似品だけでなく、誠刀までここで手に入るとは……。

 「しかしこれは、戦闘に使える代物ではないな……当然、これが本物の完成形変体刀である以上、真庭の里の復興のため所有しておくことに変わりはないがな」

 そう言って、誠刀を自分のデイパックの中へ丁重に納める。
 さらにもうひとつ、鳳凰にとって不可解なものがあった。先端に針のついた透明の容器に入れられた、何かの薬品のような怪しい液体。

38かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:22:28 ID:gkHsMIYk0
 幸いそれも、記録辿りによって用途を確認することに成功した。ただしその内容は、投与しただけで「天才」を「凡人」に改変してしまうという、実に眉唾くさい代物だったが。
 貝木の持ち物のうち、不要と思しきもの(地図や名簿など)を除いたすべて支給品を自分のデイパックへ移し変え、さらに今更ながら貝木の死体を検分する。しかし見つかったのは懐の中に入っていた紙幣と硬貨くらいで、めぼしいものは発見できなかった。
 地面に散らばっているスマートフォンの残骸にも少し目を向けたが、それは無視しておくことに決めた。あの状況で優先して破壊するほどのものだったのかと少し気にはなったが。
 念のため、貝木の身に着けている衣服などに対しても記録辿りを行使してみたが、得られた情報はデイパックを読んだときと大差なかった。
 ただひとつ、少しだけ不可解に思うことがあった。
 あの橙色の怪物と対峙する前、破壊される直前の建物と、その付近にあった自動車の記録を読み取ったときにも感じた違和感。
 と言うよりは、この殺し合いの中において忍法記録辿りを行使するたびに必ず、その違和感はあった。
 この場に用意されている物からは、すべて「新しい記録」しか読み取ることができない。
 デイパックを含めすべての支給品、建物、さらに衣服の類ですら、その性質や用途はおおまかに読み取ることはできるものの、ここ数日以前の記録がまったく存在しない。
 たった今読み取った誠刀・銓にしてもそうだ。それが本物の完成形変体刀であるということは理解できるのに、戦国の時代を渡り歩いたはずのその刀から、何の歴史も辿ることができない。
 まるで。
 まるでここに存在しているすべてのものが、例外なくこの殺し合いのためだけに作り出されたものであるかのように。

 「…………やめておこう。これ以上、余計なことを考えるのは」

 鳳凰はデイパックを静かに地面に置くと、瞑想するかのように両の目を閉じる。

 「いらぬ雑念に囚われているから、こんな口先だけの輩につけこまれるのだ――我はもうこの先、誰の虚言にも踊らされぬ。迷いも油断も慢心も、この場ですべて消して失せよう」

 そう言うと鳳凰は、右腕を天へと向けて高々と振り上げる。
 そして竹取山で匂宮出夢の死体にしたのと同じように、その右腕を貝木の死体めがけて力の限り振りかざした。
 《一喰い》(イーティングワン)。
 破壊というよりは、それは爆砕。
 力の制御が利くようになったはずのその右腕は、しかし出夢の死体のときより荒々しく、そして圧倒的に貝木泥舟の死体を爆砕した。
 血も肉も骨も、すべてを霧散させんばかりの一撃。
 デザートイーグルの威力など、まるで霞んでしまうような人外の破壊力。
 地面深くまでめり込んだ右腕を引き抜き、血振りをするようにぶん、と振るう。
 先ほどまで貝木がいたはずの場所には、千々に弾け飛んだ肉片と、申し訳程度に破壊を免れた貝木の身体、そして重機で掘削されたかのようにざっくりと抉られたアスファルトが残されていた。

 「――これより我に迷いなし。ここに存在する全ての者を皆殺しにし、我の悲願を成就させる。それこそが我の進むべき唯一の道」

 そのためなら我は、奈落にでも堕ちよう。
 そう宣言した鳳凰の目には、もはやこの世のものとは思えないほどの深い覚悟が宿っていた。
 闇のように深く、底知れない覚悟が。

 「随分と時間を食ってしまったな……まあ急ぐ道理もあるまい。ゆっくりと確実に、一人ずつ消していけばよいだけのこと。派手に動いて周りに警戒されるのも好ましくない」

 言いながらデイパックの中に手を差し入れる。
 すでに所持品の数が尋常ではなくなってきているが、それがマイナスになるような真庭鳳凰ではない。もたつく様子もなく、すぐに目的のものを中から取り出す。
 数刻前に西東天から鳳凰の手に渡った支給品、首輪探知機。
 現在の区域であるE-7内に反応はないが、ここからF-7までは目と鼻の先だ。境界をまたげば、また誰かの名前を見つけることができるやも知れぬ。ついでに図書館とかいう場所を探索しておくのもよいか――
 そんなふうに行動の指針を決め、首輪探知機を片手に歩き出そうとする鳳凰。
 が、そこで何かを思い出したようにはたと足を止める。

39かいきバード ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:24:56 ID:gkHsMIYk0
 
 「そういえば、これをまだ調べていなかったな」

 そう言って取り出したのは、鳳凰の元々の支給品であるノートパソコンだった。
 何に使うものかすら不明だったがゆえに調べることすらせず放置していたが、西東天がそれを見た際の発言からかなり利便性の高い道具であることは想像できた。
 使い方さえ把握できれば、これも強力な武器となるかもしれない。

 「どれ、読んでみるとするか……可能な限り、念入りにな」

 もはやルーチンワークのような動作で、鳳凰はノートパソコンを左手でつかみ瞑目する。
 それに残された記録を余すところなく掬い上げようと、左手に意識を集中させる。
 深く、深く、深く。
 記憶の残滓の中へ、己の意識を潜行させる。
 数十秒か、あるいは数分か。それなりに長い時間をかけて、鳳凰はそれの記録を読み取った。

 「…………なるほど」

 しばらくののち、記録を辿り終えた鳳凰は閉じていた目を開き、静かにそう呟く。
 そしてそのままノートパソコンを開くことも起動することもせず、それを自分のデイパックの中へそっとしまいこんだ。

 「さっぱり分からん」


【1日目/夕方/E−7】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、精神的疲労(小)、左腕負傷
[装備]炎刀『銃』(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、匂宮出夢の右腕(命結びにより)
[道具]支給品一式×6(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、
   首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、
   薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、
   マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:F-7へ移動し、他の参加者がいたら殺しに向かう
 2:虚刀流を見つけたら名簿を渡す
 3:余計な迷いは捨て、目的だけに専念する
 4:ノートパソコンや拡声器については保留
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※右腕に対する恐怖心を克服しました。が、今後、何かのきっかけで異常をきたす可能性は残ってます。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

40 ◆wUZst.K6uE:2013/07/30(火) 22:26:18 ID:gkHsMIYk0
投下終了です
指摘などあればよろしくお願いします

41名無しさん:2013/07/31(水) 04:13:15 ID:1D6zbx.UO
投下乙です!
予約の時点であっ(察し)ってなって途中でえっ!?となったけど結局はあー…となった
しかし氏のキャラの再現性は本当に凄い
原作からそのまま抜け出て来たようなクオリティ
死後もdisられる狐さんは不憫という他ないがそれ以上に放送後の江迎ちゃんが怖い

42名無しさん:2013/08/01(木) 19:06:10 ID:b4GX7kSE0
投下乙です

確かに途中で驚いたわw これは凄い
よくここまで書けるなあ…
よかったです

43 ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:06:12 ID:03.Kayr.0
投下します

44×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:07:47 ID:03.Kayr.0


「……」
「……」

沈黙。
勿論、喋る必要もなければ、車を出さない理由もない。
されど双識は車を動かす気配を見せない(まあ七花にはこの鉄の機械がどのように動くか存じてもないが)のを、何と思ったか、問うた。

「……どうしたんだ?」
「ああいや、もしかしたら安心院ちゃんの美しい長髪にモフモフ出来るかと思っていたのだがね。
 ああ見えて意外と彼女は恥ずかしがり屋かな。
 いやあ、彼女の進言通りきみとタッグを組んだというのにご褒美一つないなんてがっかりだよ」

それは半分ぐらい彼の人となりを加味すれば本当なのだろうが、もう半分は違う。
――果たしてこのままでいいのだろうか。
心の中に、ふとした疑問が浮かんでいた。当然の疑問とも言えるが。
――あのまま安心院なじみの言うことに従順してしまっていいのか。
誰かの思い通りになる。という経験自体はないわけではない。竹取山の件なんかがいい例だ。
しかし誰かの計画通りに動くとして、零崎として、復讐行為を達成することが出来るのか。

まあ。
そんな感じにシリアスに考え巡らせていたのだが、とりあえず次の一言で全て吹き飛んだ。

「……髪に埋まる程度がご褒美なのか?」

彼としては昔を懐かしむわけでもなく、ただ昔にあった事実を言ったまでなのだが、
どうだろう、隣に佇む彼が途端こちらを凝視したのは何故だろう。
半端じゃないほどの羨望と嫉妬を含んだその視線の意味を、彼は計りかねる。

「……程度? それが程度だって?」

瞠った目が不気味だ。
確かに今まで言うところの変態、動物学的性的両方の変態を見てきた彼であったが、しかしここまで強烈な変態は初めてかもしれない。
彼は刀。
人間に対しての分別もまだ確かなものにはなっていないが、将来彼はこの男の事を忘れることはないだろう。
いや、忘れるかもしれないが。

「おいおいおいおい! 冗談はよしたまえ。強がりはいけないね。
 さあ、私が納得するようにその出来事について語りたまえ! 遠慮はいらない!」
「え……あ、ああ。別にいいが」

そう言って、如月よりはじめた『とがめと言う人間を認識するための鍛錬』についてよくわからないまま語る。
美しき白髪を首に巻いて噛むのは駄目だが舐めたりもして。
思い返せば大分前になる話を、良く覚えていたな、と珍しく自らの記憶力を褒める。
尤もそれだけ彼にとっては大変な修行だったということかもしれないが。

「……まあ、そんな感じだ」

褒めつつも軽く大雑把に説明を加えた後。
説明を唆した当の本人はと言うと、両手で頭を抱え、何だか嫉妬の念に駆られていた。

「……そんな……まさか……世の中そんなうまい話が……」

ぶつぶつと零す。
妹を欲す(とはいいつつ実はいるらしいが)双識にとっては中々に信じがたい話である。
しかもその姿なりが、蝙蝠の変身していたあの姿だという――これは興奮するなと言う方が、男性として土台無理な相談なのでは。
この時の双識は割合真剣にそう感じていた。

「……でももう、関係ないよ。とがめは死んだんだから」

一人盛り上がる中。
七花は冷水でもかけるかのようにぶっきらぼうに言い放つ。
効き目はそれなりにあったのか、これを境目に双識は静かになる。

「……そうだったね」

七花は双識の言葉が濁った事に対して多少気にかかったが、まあいい、と切り捨てる。
僅かな沈黙が車内を支配し、僅かな逡巡の後双識は口を開いた。

「人が死ぬときには――何らかの『悪』、もしくは類するものが必然だと、私はそのように思うんだ」

彼の弟曰く。
彼はこの言葉を口癖のように唱えるという。

45×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:08:33 ID:03.Kayr.0
そしてこの場、軽トラックの車内で長身な男二人が肩を並べるというなかなかシュールな状態の中、彼は隣の男に唱えた。
状況的な関連も今回あまりなかったが、会話に詰まったからには何か会話を切りださなければ。
別段会話をしなきゃいけないわけでもない。しかし男二人が肩を並べて静かにドライブと洒落こむのはあまりにわびしい。

「へえ、どうだっていいが」

ボサボサ髪の男は、投げ捨てるように返す。
双識の計らいも、七花には通じなかったらしい。
言った方とて、真面目な返答は期待していなかったのか、気にせず話を進める。

「どうだい、きみの中でとがめさんをはじめ、先ほど映像で見た『死』は『悪』いものだったかい?」

先ほどの映像、とは玖渚友が発信した参加者の死に様を撮った動画のことだ。
その説明の時点で、およそ露『悪』的で、『悪』趣味極まる「最『悪』」と断言できるであろう問いに対して

「別に。殺し合うんだから、当然とまでは言わずともしょうがないんじゃないか」
「そうか、きみはそう言う人間か」

興味のなさそうに答えるのを見て、何回か頷いた。
分かりきっていたことだが、七花は『普通』じゃない。
拾った時はただの間抜けだと感じたがとんでもない。
『当たり前』じゃなく、『幸せ』でない、はみ出し者。
そしてそんな自分を『当然』としている――まるで弟のような、そんな、人間。或いは、人間から外れた、人外。

「まあ――いい。ところできみの名は鑢七花でよかったかな」
「ああ、言ってなかったか?」
「安心院ちゃんが言っていたきりできみから直接聞いたことはなかったな。私は零崎双識だ。以後お見知りおきを」
「そうか、覚えれるよう尽力はするが」
「しかし七花、か。……ふーむ、ぱっと思い浮かぶ由来が寡聞にして存じ上げないが、立派な由来をもっているのだろうな」
「名前なんてなんだっていいだろ」
「いやいや。名前とは親から授かる大切なものだ。大事になさい。親は子供を愛しているのだから」
「ふーん」

それまでの興味なさげなものとは、僅かに声の調子が変わる。
なんというか、含みを感じる声だ。
家族内で諸事情が生じるのはしょうがないものだとして、こんな場所。
――殺し合いに参加させられて、なおも家族を恋しく思わないどころか、含みを見せるとならば下手につっつつかない方がいいだろう。
そこまでいくと、他者が何か言ったところで、逆鱗に触れるだろうことは容易に想像ついた。
現状協調的な姿勢は見せている人間の気を、わざわざ『悪』くすることもないだろう。しかもこいつは――かなり強い。
プレイヤーとしての直感が、告げている。
最強を目指す双識は人一倍その感覚が優れているからというのも勿論あるだろう。

「……あー」

と。
言葉を返さなかったのを自分の言葉不足としたのか、相槌から言葉を継ぐ。

「そりゃあ、ちゃんと育ててはくれたけどよ。
 あいつは少なくとも姉ちゃんを愛してなかったんだ。だからおれはそんなの言われたって分かんねえよ」
「子供を愛さない親――か。それは、正真正銘『不合格』だね」
「……?」
「ああいや、独り言だと思ってくれて構わないよ」

大袈裟に肩をすくめながら、彼は踏もうとしたアクセルを踏まず。
身体を前に向けたままに、七花に問うた。

「それで、きみは、親をどうしたのかな」
「殺したが、なんだ」

あまりの即答。
応えるのに迷いなど一欠片も匂わせない。
事実を伝えることは、決して間違っているとは言わないがしかしこの一言は――。

「……」
「……」

再度沈黙。
この二人――とにかく肌が合わないのだろう。
さもありなん、本来であれば仲間に慣れるような間柄ではなかった。
一つの異分子が介入さえしなければ、恐らくは自然と戦闘へと展化していただろう。
とある狐面はこう唱える。時間収斂(バックノズル)と。
過程はどうあれ、最終的には全てが同じ結末に収束していく理論だ。

「なら悪いが、即刻車から降りるか、私に殺されるか。――好きな方を選んだほうがいい」

この場合。
その理論が成立したと言っても過言ではないだろう。
結果的に、間もない間で二人の間に亀裂が生じた。致命的な穴である。
七花は不思議そうに首を傾げるも、双識の態度は一向に変わらない。

46×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:09:07 ID:03.Kayr.0
「私は家族と言うのを何よりも重んじていてね。家族を殺すような人間と行動するってのはどうにも気が進まない。
 ……どころか腸煮え繰り返って思わずバッサリと殺してしまいそうだ」

言われたならば七花とて付き合う理由もないだろう。
情報交換も既に済んでいるし、姿なりの印象で命令を素直に聞いたはいいが、第一安心院なじみはとがめではない。
彼の所有者ではないのだ。
あれこれ指図される義理も、元々ないのである。

「あ……そっ。なら降りてくよ。別にあの――なんだったかに従う必要なんてないしな」

言うが早いや、ドアを蹴破り、のろりと外へ出る。
そこに躊躇いはない。逆に彼に躊躇いを持てというのが酷な話なのかもしれないが。
と、そこで。

「ああ、そうだ」

そして、彼は何かを思い出したように振り返ると――拳を溜め。
車のアクセルが踏まれるよりも前に、拳を放つ。
それは、虚刀流四の奥義「柳緑花紅」。鎧や防具を通じてでさえ攻撃を届かす奥義の一つ。
ならば、車を――同じ金属の壁と見做せば車越しに攻撃するのもわけはない。
斬撃は車を無視し、運転席へと流れ着く。

「どうせ生きてるんだろうが、鳳凰との同盟も守らなきゃいけない。恨みを売った覚えもないが死んでもらう」
「……お前」

切り裂かれた男は、しかしそれでも生きている。
血飛沫を撒き散らしながら、ゆったりと車から降りて体勢を整えた。
車のガラス越しに彼の姿が見える。その目は、まるで命がないかのように――金属の様に冷たく、刃の様に鋭かった。
安心院なじみの目的は今でも計りかねないが、それでも彼との交渉の決裂がものの十分も満たない間に終わりを迎えたことは、
なるほど、『物語』を無理矢理にでも整理する、とはその通り。
どうあってもきっと彼と彼は相容れなかったのだろう。
だからこそ、鎖でしならせた竹が僅かな衝撃で元に戻ってしまうように、わずかな出来事で安心院の行為は無駄と化すに至ったのだ。
尤も、この結末さえも安心院なじみの想定の範囲内だったとしたら、ゾッとする話である。

「お前は何を目的としている……」
「さあな。おれは好きなように生きて朽ちるだけさ」
「そうか……」

なら――と。
ディバックから七七七(アンラッキーセブン)を取り出す。
つまりは戦闘態勢。
まもなく、『虚刀流』と『二十人目の地獄』の対決が、幕をあげようとしている。
安心院なじみの手配とはまったく異なる現実へと、姿を変えようとしていた。

「きみはいずれ家族の敵となるだろう。――だから手間のかかる弟のためにもこの長兄が一肌脱ごうじゃないか」

しゃきん、とシュレッダー鋏を鳴らす。
もう片方の手で眼鏡の位置を正しながら、いつものように宣戦布告。
これが零崎だと言わんばかりに。
さあ――――

「――それでは零崎を始めよう」

うふふ、と車を飛び越し、上空から鋏を突き出す。狙いは、喉元。
流れはまさしく一流のそれ。どこにも無駄のない華麗な動きは、零崎三天王の名に相応しい。
零崎きっての切り込み隊長の一撃に対し、彼は――

「……ただしその頃にはあんたは八つ裂きになっているだろうけどな」

決め台詞を気だるそうに呟いて、鋭き一撃をいなしながら、彼は『刀』で迎えうつ。


「虚刀流――『雛罌粟』から『珍丁花』まで、打撃技混成接続」


お決まりの様に。
そして、宣言通り、相手は八つ裂きと化した。

47×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:09:38 ID:03.Kayr.0



 ◆◇◆◇



零崎双識は敗走していた。
戦闘を仕掛けたはいいが、思わぬほど手痛いしっぺ返しを食らっていた。
全身は切り傷だらけで、『普通』の象徴であった特製スーツから着替え、
これまで一緒に戦った箱庭学園のジャージも無残な姿に先ほどまでなっていた。
とはいっても、替えは(何故だかたくさん)用意しているので、見た目に困ることこそなかったが――。

敗因としてはいくつか挙げられる。
一つに、虚刀流相手に曲がりなりにも『刃物』で立ち向かったことだろう。
二つに、ただでさえ『自殺志願』の時点で弱体化するというのに、より扱いに難がある『七七七』で立ち向かったこと。
三つに、悪刀『鐚』の効用を過信していたこと――よもや相手が既にその刀を完膚までなきまでに叩き折った相手とも知らず。
勿論のこと油断などせず全力で挑んでいったが、幾らか分が悪かったようである。
まだしも徒手空拳で挑んだ方がよかったのかもしれないが、しかしそれも後の祭り。

「……ふむ」

とはいいつつ。
結果彼はまだ生きている。
殺しきらなかった――いや、七花からしてみれば殺せなかったというのが適切だろう。

彼との戦闘の締めは、ずばり手榴弾。
彼は手持ちの手榴弾を相手に向かい投げた。
爆発、そして爆風を致命傷になるほど喰らったわけではなさそうだが、目晦まし程度にはなる。
曰く『不愉快爆弾』と称されるように、邪魔たらしい爆風であり、しかもその熱風も並々ならぬ殺傷力を秘めている。
その隙を狙って、逃げ出した。
軽トラックも惜しいが、つべこべ言ってはいられない。
それこそ悪刀『鐚』があるのだから体力に困ることはなかろうし。

ざっと数えて二百回ほど死んだ後、彼はようやく殺せないことを理解した。
殺すには状況が悪すぎた。
こいつを殺すには、もっと、もっと、軋識の『愚神礼賛(シームレスバイアス)』のようなより暴力的な手段か、
或いは呪い名一同や曲識の『音』のような近接戦をまったくと言っていいほど行わなくてよい戦法が必要だ。
奇しくも双識にはそのような技能などなく、零崎三天王の中では一番組み合わせの悪い相手だったと言えよう。

名誉ある戦略的撤退とはいえ、この敗走は本来あってはならない。
彼はきっと、人識であろうとも容赦なくその『刃』を剥けるだろう。
だが人識は――ナイフを専門とする人識ではきっと、いや確実に分が悪い。
それでも彼にはそうするしか他なかった。
彼が意識的にか無意識的にか、保持している『敵前逃亡をしない』という『誇り』をかなぐり捨てるまでに、その強さは――随一だった。
恐怖の度合いで言ったら、人類最強の彼女とも引けを取らないかもしれない。
だが彼は、『まだ』死ぬわけにはいかない。現状、死んだら彼の代わりは存在しえないのだから。
人識はそんな奴ではないし、伊織に至っては彼からしては、面識さえもない。――故に死ぬわけにはいかない。

「……まったく、あの赤い化物といい、七花くんといい――手間がかかる」

ぼやくは聞いている者は誰もいない。
誰かに聞いてほしくて彼もぼやいたわけではないのだが。

と。
歩を緩める。
というより、止まってしまったという方が適切だ。
歩みが止まって、思考が止まった。

「腐っ……!?」

前方一帯が、ぐじゅりと腐敗していた。
丁度今双識がいる辺りを境目にして、明らかに景色が違う。
街中がさながらゾンビ映画の様に退廃し、見るも無残に変わり果てている。

そしてここで一番異端なのは、『そのこと』自体では、ない。
無論のこと、この光景を単体として見せられても同じように驚愕の念に駆られるだろうが、だがしかし。
この腐敗的にして退廃的景色のなかに、ぽつんと一人――佇んでいるのは気味が悪い。


「……見ぃつぅけたぁ……」


その顔は、口が半分裂け、左目が辺りの肉諸共喪失している。
この光景をゾンビ映画と称したが――どうだろう、ホラー映画でも通用するな。
双識はふと、そんなことに思いを巡らせた。


 ◆◇◆◇

48×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:11:04 ID:03.Kayr.0


「愛を忘れてはならない、と私は思う」

双識は目の前の妖怪のような少女に説いた。
大袈裟に手振り羽振り加えて心底楽しそうに、少女・江迎に接近する。
江迎は驚愕の表情を浮かべて、臨戦態勢をとった。
針金細工のような男が場にそぐわない笑顔で接近してきたら女性としては誰だって警戒するだろうが、
この場合、江迎の警戒の意味は少し事情が違う。

「生きている限り人間は誰かを愛する。私は生きることは愛することだと考えているのだよ。
 その辺りきみはどうだろう。まだまだ未熟な可愛い弟なんかには否定されてしまうそうだけどね」

愛情のこもったその瞳が江迎にとって――拒絶の対象だった。
『愛』と無縁の彼女にとって、
そして信頼できると思った球磨川にさえ裏切られた彼女にとって、有体に言えば嫉妬の対象である。
めらり、と。
燃えるような、やきもち。
ぐじゅり、と。
心が腐っていくような――嫉妬。
負の感情がふつふつと煮えたぎり、燃えあがる。

「愛なくしては人間は語れない。うふふ、そうだね。
 きみは『週刊少年ジャンプ』を知ってるかな。あれが掲げるのは『友情・努力・勝利』の三本柱だ。
 そしてその三本とも――愛を起源に、愛を養分として少しずつ進歩していく」

双識は茜色の空をバックに悠長に歩く。
七七七は先の虚刀流との一戦において損失してしまったが、確かに彼は武器となりうるものを所有している。
だが、逆に言うなれば、それは『ただ武器を持っているだけ』という事実に過ぎない。
この異様な――目の前に映る下半分が腐敗物である光景を前に、
余裕綽々と構えていられるほど、彼はそれらしい凶器を持ち合わせていない。

「いやなに、安心したまえ。私は信頼と言う言葉の美しさをつい先ほど思い知ってね。
 如何にしてこの美しさを伝えようか、悩んで四苦八苦しているのさ」

ふむ、と零す。
構えている彼女――臨戦態勢、といっても肉弾戦も得意でない江迎にとってはただの心の準備の問題だが。
まあそれはさておき、そんな彼女を頭から爪の先まで凝視して、観察して、診察する。

江迎からしたら立場がない。
今更――いや最初から不思議としていたが、これほどまでに時間が経過して、改めて疑問へ昇華する。
何故こいつは、零崎双識は、腐りきらない!
そんな江迎の戸惑いの瞳を意に介さず、むしろ相反するように目を輝かせ――。

「さあ! ポツンと突っ立っているきみ! 自己紹介をしあおうじゃないか!
 私と愛をはぐくみあい、今生きていることを、主催陣どもに見せつけようじゃないか!」

江迎の警戒を無為に返すかのように、
何時の間にやら零崎双識は、江迎の間合いへと這入り込んでいる!

49×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:11:33 ID:03.Kayr.0

「――――っ!! ――『荒廃した』<ラフライフ――!>」

江迎はそれを排すように、わずかに遅れて過負荷の少女は意識を高め、
己の周囲にそれまで自制していた腐のテリトリーを展開し、『退化』させた。
つまり、ツナギと対峙した時と同レベルの負/腐がそこに顕現している。

「『過腐花』<ラフレシア>――!」

だが。

「ラフレシアか――。ふむ、ラフレシアと愛は少しばかり結びつかないが。
 この世で一番大きい花と言う。それほどまでに成長できる寵愛を、きっとまわりの自然から受けていたんだろう。
 成程、きみの観察眼は中々どうして侮れない。
 私も何度かラフレシアは拝見させてもらっているのだが、若い者の発想は捨てたものじゃない」

だが。
この男はどうしたことか。
まるで腐りきる気配が窺えない。
厳密に言うと、身体の表面はさながら石鹸で洗われたようにぬめりがある。
つまり、身体の表面にはしっかりと江迎の手から空気を媒介に『感染』して、腐ってはいるのだろう。
腐らせることは可能であれ、『感染』が身体の底にまで到達するに至っていないのだ。
『「魔法」使い』をも腐らせたその『過負荷』は確かなもののはずなのに!

「うふふ、しかしきみみたいな女の子から例えラフレシアであろうともお花を頂けるとは嬉しい限りだ。
 ラフレシアの花言葉は確か『夢現』だったかな……いや、ラフレシアは本来贈り物としては不適切だから決まっていなかったかな。
 ならばこの零崎双識。貰ったラフレシアから、きみからの気持ちをくみ取るのに努めるのも吝かじゃない!」

彼女、江迎怒江には知る由もない話だが、双識に差し込まれたくない――否、刀の名は悪刀『鐚』。
活性力に主眼を置いている四季崎記紀が作った完成形変態刀の一振り。
曰く十二本の中で最も凶悪とされるその刀は、刺した者を『活性化』させる。
効用として主に身体能力と治癒能力の向上。言い換えるならば、無理にでも刺した、差したものを生かし続けてしまう、まさに悪の刀!
この刀を差し込んでいる限り、双識の体は常に万全以上の身体に仕立て上げている!
ならば鑢七実の病魔をも抑え込んだように『感染』を打ち消したとておかしい話ではない!
現在双識の身体は腐敗と再生を幾度も繰り返しているのだ。
江迎の全身全霊はものの見事に打ち崩されたのである。

「――なんっ――っで」

苦悶の表情を浮かべ、唸る。
当然だ、絶対ものものと信じたそれが呆気なくも無力化されてしまった。
これほどまでに屈辱的で、敗北的で、絶望的ではないだろう。
過負荷の彼女にとっては、お似合いすぎる。その事実がまた江迎の精神を甚振る。
『貝木と幸せに暮らしたい』――ただ一心で生きて、傷ついて、それでも愛し続けて地面を這いつくばってでも命を紡いできたのに。
またしても邪魔が!
邪魔が! 障害が! 遮蔽が! 何故彼女の前に立ちはだかるのか!
あまりに理不尽なような気がしてならなくて、思わず涙ぐんでしまった。


そんな彼女の手を、双識は握り締めた。


「――えっ」
「私はきみが何故泣くのか、詳しい事情は生憎存じないが、それでもおおよそ察しれるよ。
 きみは愛されることを知らない――。だからきみの愛だって歪んでいる。愛の偉大さを、感じたことがないんだね?」

こうしている間にも、双識の掌は、腐敗と再生を繰り返す。
再生すると言っても痛みは感じるであろうが、それを素面で受け流し、彼は語りはじめる。

「確かに私は『鬼』だがね。きみみたいな『愛されてなかった子』を見ると昔の自分を見ているようでね。
 ついついおせっかいと、老婆心とわかっていながらつい言葉をかけてしまう。
 それもそれが女の子だとしたら声をかけない理由が逆にないね!」
「……っ!」

思い返せば。
双識の記憶は檻の中から始まる。
それ以前のことを彼も覚えていなかったし、周りも当てにならなかった。

50×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:12:10 ID:03.Kayr.0
そんな時に彼はこう思ったとのことだ。
――俺は孤独だ。――俺はどうしようもなく独りなのだと。
世界は自分だけのものだと錯覚した。この世に生きているのは自分だけ。
彼は『それまで』愛を知らずに育ってきた。
だからこそ彼は家族を大事にし、重んじ過ぎるのだが、それも無理のない話。

そんな彼が、愛を知らない江迎に同情――否、家族ではなかれ、仲間意識を多少なかれ抱くのもまたおかしな話でない。
彼は愛がないことの哀しさを知っている。故に、彼は江迎を放っておく真似はしなかった。

「もう一度自己紹介をさせていただこう。私の名前は零崎双識。――きみは?」
「……江迎、怒江……」

半分裂けたその口から、空気が漏れたように細々とした声が漏れた。
聞いて、双識は「わーい」と大人にあるまじきようなとぼけた声をあげ喜んだ。
女の子から名前を聞けたことがそんなに嬉しいことなのか、江迎にはわからないが、何故だかそれが『愛』であるような気がして。
江迎は欠けた口で、笑みを作った。
――こんな私でも生きていていいんだ。
――幸せになれるんだ。幸せにさせてあげられるんだ。
彼女の人生はやっとこれより始まった様な気がして、先ほどまでとは違う輝きを宿した涙が、右目から零れた。
双識はそんな彼女の髪をそっと撫でる。
江迎はただそれだけの行為でも、凄くうれしかった。
――泥舟さんにもこうしてもらいたいな。
僅かな温もりが、その身に宿り……彼女の過負荷は急激な弱体化を迎えたのだ。

「『愛に生きる過腐花』<ラブライブラフレシア>だったかな……うん、今のきみにはぴったしだ」

撫でながら、双識はそう呟いた。
無論のこと彼女の過負荷名は『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>なのだが、
しかし彼女は訂正を加えない。
そうなったらいいのにな、『幸せ』を願う彼女は極々普通に、そう願う。



 ◆◇◆◇



愛されている。
彼女は紛うことなく感じていた。
実際彼女は手を握られながら、座り込んだ双識にもたれる形で抱きしめられて、人肌に温められている。
双識は江迎の髪に頭をうずませ、何かを懸命に吟味していた。これが彼なりの愛し方なのだろうか?
それは今まで誰にも行われなかった行為だ。
人吉善吉も。
球磨川禊も。
貝木泥舟でさえも。
まるで父親から寵愛を受けているような、懸命な愛を訴えられて彼女はその愛に酔う。
初めての経験で、だけども不思議と安心できて。
愛を知らなかった彼女からしてみれば、至上の愛し方だったとも言えよう。
彼女は確かに貝木に忠誠を誓ったし、彼もまた(それが嘘であることを彼女は知らないが)誓っている。
二人は結ばれるべき運命なんだと、彼女は確信している。――妄信している。
だからこそ、仮に私が子供を産んだら、双識みたいなお兄ちゃんが欲しい。いや、そんな風に育てたい。
上の姉と下の妹に挟まれながら愛を説いているミニチュア双識を思い浮かべると、それはそれは和やかな一日だ。
夢見る景色は夢のままで、しかし彼と私なら不可能じゃないはずだと、江迎は抱かれながらに思う。

この温かさを是非とも子供に伝えたかった。
愛そうと思っても、触れたら腐ってしまう彼女だから、今まで碌に誰かを愛せなかった。愛してもらえなかった。
だけどそれは辛いことだから。
今の自分の心のぽかぽかさを知ってしまったから。
自分みたいな惨めな思いを子供にさせたくないな、と思うのはとても普遍的な思考回路。
誰かを愛して、報われることは彼女からしてみればとても難しいこと。なにせ彼女らは『過負荷(マイナス)』である故に。

51×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:12:48 ID:03.Kayr.0

でも。
でも、だ。
――そんなの諦めたく、ない!

「私……幸せになりたかったの」

一人、語り。
愛を知る双識には、何故だろう。
自分の身の内を話すのも悪くない気がした。
彼はとても真摯に――紳士に彼女の言葉を傾聴する。

「でもね、今まで色々な障害が合って、どれも失敗しちゃった」

彼の言う愛は簡単だった。
支え合うこと。ただそれだけ。
誰かが困っていたら、自分が助け。
自分が困っていたら、誰かに助けてもらい。
それだけにして、彼女には今の今までできなかったこと。
貝木泥舟のために彼女は尽力を果たしたつもりであったが――どれも空回りばかり。邪魔ばかり。

だけど、今は隣に双識がいる。
手を握ってくれて、抱きしめてくれた。
できるのだ。
彼女を助けることは、こうも容易くできるのだ。
双識は腐らない理由を「これが愛の成す業だ!」なんだの吠えていたが、しかしそんなの嘘だと分かっている。
どうみたって、彼女の傍で双識に突き刺さっているくないが原因であろう。
でも、いいのだ。
隣に居てくれる、手を握ってくれる――彼女にとって、こんなにぽかぽかなものはない。

「だけど……私、諦めたくない」

心からの叫び。
元より彼女は、過負荷にして、それでも幸せを願っていた少女であった。
球磨川禊とも、蝶ヶ崎蛾々丸とも、志布志飛沫、不知火半袖とも異なる過負荷。
それが彼女の生きる理由。
唯一にして至上の、絶対の! 彼女がいまここに、満身創痍の状態でも立ち続ける理由なのだから!
自分だけが不幸せだなんて――認めない!
それぐらいなら、周りをみんな陥れる。
それでも、彼女でも幸せになれるというのなら――我儘かもしれないが


「私は確かに『過負荷』だけど――幸せに! 貝木さんと幸せになりたい!」


幸せになりたかったのだ!


「そうだね……」

双識は頷く。
立派な目標だと思う。
家族から貰った命を大事にして、幸せを追い続ける姿は間違いなく『合格』だ。


「きみはきっと幸せになれるさ」
「……零崎……さん」


彼は断言する。
彼女の未来に幸せはある、と。
彼女の姿は実に好感が持てる。
拾われる前は――全てに諦めていた自分とは対照的に、彼女は独りでも、前を向く。
いや、彼女の言い分からして彼女は独りではないかもしれないが、しかし婚約を約束した女を捨てて立ち去るなど、『不合格』もいいところだ。


「私も手伝おう。――きみが幸せになれるのを」


双識は、決意する。


「きみを見ていると、私の奥底に眠る気持ちが疼いてしょうがない」
「……零崎……さんっ!」


江迎は、涙をほろほろと流し双識の腹の辺りを抱きしめるように縋る。
力強く、離さないように、もう二度とこんな素敵な人を手放さないように。
貝木泥舟との恋仲を初めて応援してくれた初めての人――




「だからそのまま、零崎一賊の為に死ね」

52×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:13:32 ID:03.Kayr.0

 ◆◇◆◇


首を絞める。
その針金細工のような腕で。
同じくか細い江迎の華奢な首を。

まったく金属製の首輪と言うのは邪魔くさい。
絞首と言う、殺害方法としては至極真っ当な行為だってやり辛い。
双識は独りごちながら、しかし逃さぬようにしっかりと、握りしめる。

「……っゔ、……あ゙、あ゙、……な゙、なんで……っ!」

元々出血多量の為か青白いかった江迎の顔が、より白へと染まりつつあった。
舞妓のような気品さは感じさせない、ただ死人のような顔へと。
首を絞める双識の腕を離そうと、腕を握り、力を込めるが、その腕は腐りもしないし離せもしない。
肝心な時に、使えない能力である。――改めて自分の人生を思い起こせば、ずっとそんな調子の人生だった。

「なんでもなにも、端から私はきみを殺そうとしていた。出遭った時から思ってたんだ。
 きみは――『負完全』球磨川禊と同じ存在だとね。尤も、今思えばきみの場合『奇野師団』だとも感じてきたが……。
 まあどちらにしたって、私たち零崎とこの場に居る以上対立するのは目に見えてるんだ。――抹殺をするのに、それ以上の理由はない」

いやあ、戦わないきみたちの領分に合わせるのも一苦労だ、と。
冷徹に、切り捨てる。
否、もとより繋がった覚えも、彼からしたらなかったかもしれない。
確かに彼は生粋の変態だが――最優先事項として家族に仇なすものには容赦をかけるつもりはない。
老若男女容赦なし、だ。
察しの通り、箱庭学園を巡る一件で球磨川禊をはじめとする『負』は、間違えなく家族の敵と見做されている

「―――――。―――――。―――――。」

対し江迎は、江迎怒江の心情は。
ただならぬ憎悪を、並々ならぬ憤怒を抱えて、行き場のなくなった感情を全力で吠える。


「ゔゔゔあ゙あ゙あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


辺り一帯が、先ほどよりも広範囲で腐敗が始まった。
腐る。腐る。腐る。腐る。腐る。腐る。腐る。腐る。腐る――――。
根こそぎに、根絶やしに、根も葉も残さず、地面だって形を保てないぐらいに、強制的に腐らせる。
それが、今の彼女の『負/腐』のパロメータ。
一旦心を許した分だけ突きつけられる、真っ黒に染まり上がる、絶望感。
――少しでも、心を預けることさえ、私には許されないのか!!
吠える。吠えて、吠えて、もう何が何だか分からなくなる内に、殺意が芽吹く。

――あいつは殺さなきゃ、殺すんだ、殺さなきゃいけない。殺す。殺してやる。殺して解して並べて揃えて腐らせて、踏みにじってやる。レッツキリング☆

そうしている内に、双識は腐る地面に足元を取られて江迎の首から手を離す。
しかし手を離したことに気を取られている場合でもなかった。
さながら地面が底なし沼の様に、柔らかくなる。足掻けば足掻くほど、身体が沈んでしまう。
地面に膝まで埋まる。このままでは不味いのは自明の理。

――ならば。下手な反抗は止め、固くなった泥を粉砕するほど力押しでいけばいい。
悪刀『鐚』の力を借り、彼は足を地面から脱出させて、江迎から距離を取り直し、体勢を整える。
気を抜けば、またも地面に足を取られてしまう。一瞬たりとも気は抜けない。

「――なんで、足掻くの。……大人しく死んでよ」
「やれやれ、全く一筋縄にはいかない連中ばかりでおっさんとしては肩身が狭い」

とぼけながら。
しかし、確実に、今度こそはと、首を狙いに行っている。
目が、そう訴えていた。
江迎は双識の瞳を拒絶するように、自らの過負荷を、今まで一緒に歩んできた過負荷の名前を、叫ぶ。

「っ――『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>――――!!」

茜色に染まる空の下。
しかし世界は黒に染まっている。
取返しがつかないほどドロドロに腐り果てた箱庭の中。
それでも歯止めを知らない『感染』の波は広がっていた。

53×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:14:10 ID:03.Kayr.0

「うふふ、そういや先ほどきみは『幸せになりたい』と言っていたね」

江迎の呻きに反するように、双識は腐りきる様子など一向に見せずに、足を飲まれないように江迎へ近づく。
楽しそうな口調の半面、実に耽々としたその歩調は、人のそれではなく、『鬼』の歩調だった。

「きみは宇野浩二の愛読者では――なさそうだね。
 見たところ本に触れたこともなさそうだが、彼の小説を見てみると、『幸せ』の在り方なんて簡単に見つかるものさ」

言っている間に、双識は江迎の間合いに這入り込んでいた。
江迎はだからといって成す術がない。武器は持っていない……持っていたとしても腐ってしまう。
肉弾戦で勝てるか……勝機は限りなく薄い。ならば、どうするべきなのか。

「『幸せ』とはね、『普通』なことだ。きみは確かに女の子だったが――如何せんその『過負荷(マイナス)』は障害他ならない」

再び、手を伸ばす。
首に向かって、絞め殺すために。

「きみが『幸せ』を願うのは、『普通』が少々役不足だね」

やはり彼女には、もう、どうすることもできないのか。


「いやだ!」


彼女はその手を払いのけ、残った右目で双識を睨む。
少しばかり驚いた様子で、双識は目を瞬かせる。
江迎の鬼よりも鬼気迫る気迫に幾許か圧されてしまったのは、不甲斐ないが事実であった。

「認めない……私はそんなの認めないっ! 『過負荷』だって『幸せ』を『掴む』ことはできるんだっ!!」
「できないから、今があるんだろう?」
「違う、違う、違う、違う、違う、違う!!」

ただ認めたくないだけ。
だけど、それが今までの生きる目的だったから。
否定されたく、なかった。
一瞬でも肯定してくれた人になら、尚更否定されたく、なかったのだ。
江迎の必死の叫びの後、しばしの沈黙を置いて、双識は口を開く。

「……我儘は言うものじゃない。私だって、『幸せ』には憧れるさ。
 だからこそ、私が死んで『零崎』が駆けつけてきてくれない、そんな愛のない死が私は嫌なんだ。
 そう、どうせ死ぬなら、自分の死を悲しんでほしい、私を殺した相手を恨んでほしい。そう思うのは、『普通』なことだろう?」

生憎、人識は敵討に彷徨う鬼じゃない。
胸の内にそっと言葉を閉じ込めて、未だ見ぬ妹に思いを馳せる。
存在の真偽はともかく近くに零崎特有の気配は匂わない。前々から思ってはいたが、どうも気配の読み取りがいつにもまして不明瞭だ。
仮にここで、江迎怒江に殺されたとして、駆けつけてくれる零崎はいない。寂しいこと、この上ない。
誰も零崎双識の遺志を継ぐことなく、命を尽くすなど――彼としては、あってはならない。

「お互い様さ。こんな場所に引き連れられた時点で、誰しも『不幸』なのさ。自分だけが『不幸』だなんて、思わない方がいい」

そこまで言葉を紡いで。
いよいよ彼は殺しにかかる。
何だかんだ言いつつも、七花の言う髪に埋まる行為を堪能させてもらった相手だ。
情が湧かないわけではない。
だが、零崎は殺すことが生き甲斐だ。
瑣末な情で殺さないことなど、あり得ないのである。

54×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:14:54 ID:03.Kayr.0

だから、彼は、江迎の首に手を掛けて。
握りつぶそうと、もうこの際悪刀『鐚』の力任せで握りつぶしてやろう――。


そこまで考えていた時。
ある音が、鳴った。



ぱきん



初めは何の音かと思った。
だけど直ぐに理解した。
砕けた。
双識の胸に差し込まれた刀が。
完成形変態刀が一振り。『活性化』に主眼を置いた悪刀『鐚』が。
双識の胸にぽっかりと一滴の血も流れず――そこは空洞になっていた。
まるで虚無のような。
まるで、暗黒のような。
理解した時、『ソレ』は始まっていた。
身が爛れるような苦痛。
身が捩れるような苦悶。
『感染』だった。
『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>
広がる。
広がる。
広がる。
あらん限りの負を詰め込んだ腐が。
江迎怒江が、裏切られた衝撃で放たれた禍々しき波が。
染める。
染める。
染める。
急速な勢いで、その身は腐っていった。
どうしようもなく、後戻りもできず、成す術がないままに、いつのまにか両手がポトリと落ちた。


「……あ、」


何を言おうとしたかは分からない。
何を伝えようとしたかは分からない。
だけどもう遅かった。
何もかもが遅かった。
服が。
肉が。
骨が。
皮が。
細胞の残滓に至るまで塵も残さず。
されどその身に巻いた首輪と背負った鞄だけを残して。
余韻もなく、彼は死んだ。
そこには何もない。
愛どころか、何もない。
江迎とて理解していなかった、呆気ない襲撃だった。
双識とて予期していなかった、束の間の終劇だった。


死んだ。
そして、死んだ。
二十人目の地獄は、二十一人目を待たずして、この世を去った。



【零崎双識@人間シリーズ 死亡】



 ◆◇◆◇

55×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:17:55 ID:03.Kayr.0



「はーはっはっはっ! ざまぁみろ! ざまぁみろ!!」


結局のところ、それは残量切れ。
悪刀『鐚』が刀内に保有した雷をすべて使い果たし、ただの搾り滓となって、役目を終えたのだ。
やはり悪刀『鐚』の役目がそうそうに終えてしまったのは、鑢七花の猛攻によるものだろう。
彼にざっと数えて二百回ほど殺された。
家鳴将軍家御側人十一人衆がひとり、胡乱が悪刀『鐚』を差し込んだ状態では、二百七十二回の攻撃でその役目を終えた。
忘れがちだが、この十一人衆。本来将軍の御守に就かされるほどの、異常とも言えるほどの力量を有している。
多少見積もったとして零崎双識が死ねる回数としては、三百五十回あたりがいいところだろう。

「裏切るから! ……裏切るから……っ!!」

止めに、江迎怒江の『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>。
あんなものに常時あたっていたら、本来であれば一分に一回は死んでいる。
残りの百五十回の死を経験するのも、造作もないことであった。
確かに悪刀『鐚』――『感染』の被害を最小限にとどめ、腐りきることはさせなかったが、彼の身体は常に再生を繰り返していた。
それだけでも、十分に電力を消費させてしまう。
零崎双識の此度の敗因は、純粋に悪刀『鐚』の知識不足にある。
もともとこれは彼の弟、零崎人識からあくまで譲れ受けたもの。
――彼自身が説明書を見てこの刀を使用したわけではない。
先ほどの鑢七花との凌ぎ合いのときもそうであったが、この事実は『悪』いように作用した。
仮に双識の死に対し、何が悪かったのかを論ずるとするならば、準備が『悪』かった。
言うまでもなく、虚刀流・鑢七花と過負荷・江迎怒江に出会ってしまった運も、『悪』かった。
もしかすると、零崎一賊の切り込み隊長、自殺志願・零崎双識は悪刀『鐚』と巡りあっていた時点で、
針金細工のようなその身体に、『悪』が必然的に付き添っていたのかもしれない。――悪刀だけに。


「…………ははっ! はははははは☆ ……ゴホッ」


残された彼女は、ただ笑い、嗤った。
それしかすることがないかのように、哄笑し、空を仰ぐ。
真っ赤な茜色。
終わりの刻。黄昏時というには丁度いい。
そういえば、本物の、花のラフレシアもあんな色をしている。
綺麗な、あるいは皮肉な偶然だと思う。
『自分の死に時』がまさかラフレシア色の空の下だなんて。

「…………はぁ、はぁ……」

江迎怒江は数歩進んで、小さく息を吸って大きく吐く。
尤も、口が半分以上避けている彼女にとって、それはそれで一苦労だった。
彼女の足は、また止まる。

「………………」

息が切れる。
理由としてはいくつか挙げられるが、一つに『空気の腐敗』が挙げられよう。
これまでだって、掌に触れてきた空気を腐らせてきたことはある。
しかしそれは、腐った空気は、あくまで風に流され彼女自身が吸うことなどまったくと言っていいほどなかった。

56×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:18:25 ID:03.Kayr.0
「なぜ彼女自身は腐敗の影響を受けないのか」という愚問に対する答が詰まる所「慣れ」や「限界へ到達した故」。
ならば慣れていない、限りなく無酸素に近い状態で活動を続けたならば。味わったこともない苦悶を噛みしめたならば。
明白である。
耐えられるわけがない。
顔が顔と呼べないほど心身共に崩落した彼女に、どこにそんな力があるのか。

彼女は新鮮な空気を吸えていない。
次から次へと、どれだけ多く吸ったところで『感染』した『空気』は彼女の周りに漂い続け、量産されていく。
考えるもの億劫になるほど、先が見通せない現状に、終に諦めるしかないのか――と命を投げ捨てた。
あれほどまでに死への拒絶。生を渇望していたにもかかわらず、諦観を帯びるのに時間はかからない。
彼女はそれほどまでに、精神を摩耗させている。

『荒廃する腐花』<ラフラフレシア>から『荒廃する過腐花』<ラフライフラフレシア>への退化は、結果的に本人にまで影響を及ぼした。
それも最悪の状態で。考え得る限り救いなどない状況へと。
強化でなく退化であるのならば、順当な結末とも言えよう。

彼女は納得する。
やはり私は過負荷だ――生きてちゃいけないんだ。
笑えないのに笑えてくる。少しでも幸せを追い求めた私が馬鹿だったんだと。
無意味で、無関係で、無価値で、何より無責任。それが元より彼女たちの教訓だった。

酸欠、及び流血による出血多量からともとれるが、現存する右目の視界さえも朧になっていく。
ピントが合っていない写真のような、そんな光景が目の前に広がる。
命の限界。
察するに難くない。
もっと言えば、顔の大部分が破損し、マトモな処置も受けていなかったのに生き続けた今までがおかしかったのかもしれない。
どちらであれ、彼女の限界は近い。
『感染』し腐ったゲル状の地面へ膝を付け、手をついた。
息をしても呼吸した感覚がない。してもしても解決へとは導かない。

「……あぁあ」

手をついたことで遠くの建物が『感染時』とは比較できないほど急速に成長し、瞬く間に腐る。
一気に開けた泥沼になった。
かっこうの的だが、しかし彼女へ攻撃を加えるのは難しいだろう。
例えそれが銃弾であったところで、排出された銃弾が彼女の元に届くころ、それでも銃弾が形を保てているかは定かでないからだ。
まあ。
仮定の正否はどうであれ、彼女がここから生き残ることさえも難しいのだから、或いは意味のない仮定なのかもしれない。

「…………幸せに、なりたか」

ぐじゅり、と。
とうとう彼女は身体を支えこむ力を喪い――そして飲み込まれるように地面に沈んでいく。
彼女に最期に触れた温かさは人肌とはまるで違う、無機質で、なんの愛もない。哀悼とはかけ離れた無残な死。
最期に球磨川禊、ならんで零崎双識に「このやろう」を。貝木泥舟に「ごめんなさい」を。
「ありがとう」とか、「あいしてる」とか、今まで散々口にした言葉も、もう口にすることはない。
夥しい怨恨も囁かな謝罪も、これ以上言葉にできないで、彼女は静かに息を引き取った。

安らかに、けれど誰よりも残酷に。
最期まで苦しみながら、悪に塗れ腐るように死んでいく。
その死体が腐るまでに、幾許の時間が必要なのだろうか。答えを知る者は誰もいない。


【江迎怒江@めだかボックス 死亡】




 ◆◇◆◇

57×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:18:55 ID:03.Kayr.0

「なんだか逃げられてばっかだな……」

七化はようやくその煙幕から視界を晴らし、辺りを見渡した。
そこには誰もいない。
零崎双識の姿は、置き去りにされた軽トラックの車内を見て回ってもどこにもない。
逃げたのだろう。
きっと罠を仕掛ける余裕もなく。
ただ、そんなことはどうでもいいし、考えるだけ無駄であり、面倒だ。
七花はつい先ほどまでものの数十分組んでいただけの相手を頭から切り捨てる。

「……家族……か」

言葉を洩らす。
先の会話からの影響か、ここのどこかにいよう姉の姿を思い浮かべる。
恐らく姉は、他の人間を何の興味もなく捻り潰しているのだろう。
七花が見てきたビデオの中には七実の犯行そのものは映されていなかったが、七花には弟としての感覚か、確信していた。
だとしたら、どうだ。
七花はまた姉を殺すのか。殺しきることができるのか。
確かに姉を探したい気持ちは高まっているが――それは。

「……いや」

首を振る。
考えても仕方がない。
考えたところで、しょうがないものはしょうがない。
悩むことは、苦手なのだ。
ならば『刀/人(おれ)』らしく――今を生きればいい。

「……」

言葉もなく、彼は進む。
さしあたって何処へ目指そうかなどは考慮していないが、なるようになるだろう。
それこそ安心院がまた出てきて何か指示さえすれば話は別だが――

「――あれ、そういやどうしてあいつと組んでたんだっけ?……あ、あ、じ……まあいいや。忘れた」

――とまあ安心院なじみのことは既に忘れ去っているようではあるが、
ここにはとがめのように指示する者もいなければ、作ろうとも思えない。
彼は好きなように生きるだけ。

「おれは好きなように生きるだけだ」

一先ず彼は、爆風によって被害を受けた火傷ばかりはどうしようもない、と。
とがめが死んだあとになってからは珍しく、まあ彼にとっては水でもぶっかけるか程度の考えしかないにしろ、一応は治療は施そう。
と、手持ちに水がないので目の前のクラッシュクラシックの扉を、開けて閉め、入室した。

見たところ、水と言う水は――あの緑色の瓶の液体か。
一般的に「ワイン」と呼ばれるそれを見つけ、物珍しそうにくるくると瓶を回す。
中に這入っているのは確かに液体だ。
なんとなく、周囲の香りからして水ではなく酒の類であることは理解できたが、如何せん嗅ぎ慣れない匂いであるため多少興味をそそられた。
あくまで興味がわいた程度で、特別酒を口に含みたい気分でもなかったために、躊躇いなく瓶の口を裂き、火傷を負った左手に直接かける。
尤も本来であれば冷水で冷やし続けるのが一番効率的だと世間一般的には言われているが、残念ながら、都合よく七花は蛇口の使い方を知った訳ではない。
そして部屋の片隅――人識が漁っていた冷蔵庫のことも、彼は知らない。
冷蔵庫を漁れば、もしかすると冷えた水の一つや二つ出てくるかもしれぬのに。
だが、それは彼が生きた時代が時代故に、仕方のないことであり、責めるべきことではない。
同時に口を挟んだところで、どうしようもないことである。

そんな時のことだった。

58×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:19:44 ID:03.Kayr.0

――ぐじゅり。

何かが溶けるような、音。
何処から――と七花は首を回し確認するが、厳密な場所が把握できない。
至る場所から、その音は聞こえてくるのだ。
まるで、建物が共鳴を起こしているかのように――――!!


「なっ……!!」


ようやく異変の正体に気付いた時。
『ソレ』は既に目に見える形で、顕現していた。
腐っている。
そんなまさか、とは思いはすれど、しかし確かにこのクラッシュクラシックは腐ろうとしている!
天井が崩れ落ち、半液状と化した天井が、七花の居る床へと降り注ぐ。
その泥の雨とも形容できなくないそれを、逃げ場の見当たらなかった七花は全身で浴びてしまう。
『感染』した、腐の飛礫。
それは、新たな腐の布石。
『荒廃した過腐花』<ラフライフラフレシア>の影響下に、クラッシュクラシックも侵されてしまった!
鑢七花は『不幸』にも――その『感染』の餌食、巻き添えとなってしまったのだ。

ただ、直ぐに腐るようなことはなかった。
強烈な腐敗臭の中、僅かな間に崩壊していくクラッシュクラシックの崩落の一部始終を目に収めることぐらいが出来るぐらいには、まだ七花は七花のままである。
しかし、どこにも心配していい要素などなかった。
以前のツナギがそうだったように、このような『感染』で、皮膚が、『感染』してしまっている。
皮膚が剥がされていくように、痛い。
同時に、胃が直接甚振られているかのように、吐き気を覚える
腐敗臭に晒されているから、だけでは到底理解できない――『何か』が前兆もなく襲来した。

クラッシュクラシックが崩れてしまったお陰と言っていいのか、今七花の視界は広い。だけどどこにも敵の姿は認知できない。
さもありなん、そもそも敵は今頃少し離れたところで裏切られた鬱憤を晴らしているに違いないのだから。
敵が近くに居ないと分かった以上、一度構えを解いて、素早くその場から避難した。
あそこにあのまま居続けるべきではないのは、馬鹿でも何でも、理解はできよう。

どうしたものかと考える。
火傷云々などと言っている場合ではなくなった。
これは非常に、不味い状態だ。
――唯一の幸運とも言うべきか、彼は直接過負荷の余波を受けたわけではない。
戸締りをきちんとしていたからだ。
風邪の防止策として、適度な換気さえしていれば、そもそも家から出ない方がいい、というものがあるように。
直接七花は、過負荷に触れたわけではない。クラッシュクラシックが崩れ、外気に触れた時には素早く移動を開始していた。
故に、即死級の『荒廃』を味わわずに凌ぎきることが可能となっている。

とはいえ、『感染』している事実に揺るぎはない。
ならばどうするべきが一番適切か――尤も、どうするもこうするも、現状彼には無視を決め込む以外に方法はないのだが。


「――――ああ、本当、面倒だ」


ここへ呼び出されてから、何度か口にしているその台詞だが、
その何れよりもこの言葉は苦々しく、辛さを惜しみなく前面に晒している。
感情に乏しい七花でさえも、そうせざるを得ないほどに、江迎怒江の残した置き土産は、傍迷惑(マイナス)なものであった。

一度思い切り、胃液を吐きだした。
口の中が酸いくなる。
黒神めだかと対峙した時に与えられた熱以上に、この『感染』は、彼の神経を貪りつくしていた。

しかし彼は休む暇もなく、再び走りだす。
後ろの方では、ゆっくりではあるが着実に確実に、市街地を浸食している。
彼は走る。
走って、走って、走って――――。

59×××××&×××××――「あ」から始まる愛コトバ  ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:20:24 ID:03.Kayr.0
【一日目/夕方/C-3 クラッシュクラシック跡】
【鑢七花@刀語】
[状態]『感染』、疲労(中)、覚悟完了、全身に無数の細かい切り傷、
    刺し傷(致命傷にはなっていない)、血塗れ、左手火傷(荒療治済み)、吐き気
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 1:放浪する。
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る。
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない。
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい。
[備考]
 ※時系列は本編終了後です。
 ※りすかの血が服に付いています。
 ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です。
 ※掲示板の動画を確認しました。
 ※夢の内容は忘れました。次回以降この項は消していただいて構いません
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします



【死亡者付近の状況】

[放置]

B-3

・江迎怒江の死体
・零崎双識の首輪
・零崎双識のディバック
>支給品一式×3
>食料二人分、更に食糧の弁当6個、携帯食半分
>体操着他衣類多数
>血の着いた着物
>カッターの刃の一部
>手榴弾@人間シリーズ
>奇野既知の病毒@人間シリーズ
>「病院で見つけたもの」

[施設]
クラッシュクラシックが腐り、跡形も残っていません。
また、範囲の都合上、西東診療所、喫茶店も腐っている可能性が十分にあります。

【江迎怒江の『荒廃した過腐花』】
死ぬ直前の江迎怒江の精神状態に依存して、独立して腐敗を『感染』を広げています。
『感染』が広がる範囲は後続の書き手にお任せしますが、現状B-3から周囲一マスは腐っている可能性が高いようです。
なお、既に死んだ遺体に関しても腐敗をしていく可能性もあります。

60 ◆xR8DbSLW.w:2013/08/06(火) 20:21:22 ID:03.Kayr.0
以上で投下終了です。
指摘感想等あればよろしくお願いします

61名無しさん:2013/08/06(火) 20:32:58 ID:QRDuf9320
投下乙です。
これは素晴らしいまでの大惨事。
そして台無し。
双識さんは良い所なしに江迎さんも悪しからず、安心院さんの思惑も何もかも。
ここにきての死者連発も今後の展開に大きな影響が出そうで。
お疲れ様でした

62名無しさん:2013/08/06(火) 20:59:49 ID:RgKn6NGA0
投下乙です!
読みながらずっとおもしろいおもしろいと口をついて出てしまってました
しかし不幸の血大活躍すぎるwwwww
安心院さんがちょっかいかけなければ即バトってもおかしくなかったし別れるのは残当だったんだよなぁ
双識さんは装備と相手が悪かったね…からの江迎ちゃんあっ(察し)からのまさかのデレ江迎ちゃん
あの最凶チート能力の対処法があったことにも目から鱗でしたが綺麗な上げて落とす展開
しかも1エリア近く離れているのに死んでなお残る過負荷が恐ろしすぎる
近くには多分(生きてる人間は)いないだろうけどこれはただじゃすまないこと必至
どうでもいいけど七花はすぐに忘れちゃったのに未だに安心院さんのことを覚えてるいーちゃん何気にすごくね?

63名無しさん:2013/08/06(火) 21:34:08 ID:i2vdkJ8w0
投下乙です
各キャラの心情も細かく書かれていてすごい
だが結果は双識は無残に敗北し
江迎ちゃんは幸せとは言えない幕切れ
七花にも戦いの痕が残った形となって
まさに惨劇と言えるような状態
しかもその惨劇の痕も拡がっていく……まさに絶望的
改めて投下乙でした、こうも上手く書ききるのは流石だと思います

64名無しさん:2013/08/06(火) 21:47:27 ID:tebkU9asO
投下乙です!
七花に呆気なく撃退されたときは「双識兄さんは今回ヘタレ要員か?」と思っていたら、最大級のチートマーダーに対しこの風格
江迎の過負荷を喰らってなお微塵も揺るがずに向かっていくところなんかは、もはや化物じみてすら見えた。悪刀の力を借りてるとはいえ、流石は兄さんやでぇ・・・
絶望的かと思われた江迎ちゃんも救われたし、今回は本当に双識兄さん大活躍の回でしたね!





・・・と途中まで思っていただけに、中盤の手のひら返しにはマジで戦慄しました
「過負荷」(マイナス)と「最悪」が出会った結果としてはある意味当然の帰結というべきなのかもしれないけど、まさかこれほどとは・・・救いはないんですか!?
最初は「意味深なタイトルだなぁ」としか思わなかった今回の題名も、読み終わってみればなんて切ない・・・
兎にも角にも、素晴らしい絶望回でした

65名無しさん:2013/08/07(水) 00:36:54 ID:BlYqKGdQ0
投下乙!
うお、おおう、おおおう
読んでいる時、ずっとそんな感じだった
巻き起こる何度もの衝撃的な手のひら返しに完全に呑まれてた
特に悪刀が切れてからの何も残さないあまりにもあっけない双識の死がすんげえ染みこんできたというか
西尾らしいというかでおおう……
最初ん時の双識と七花のあれそれにはそりゃそうだっていう顛末だったけど
そっからかっこいい変態モード来たかと思ってでもこいつ愛で殺すんだよなと思ったら愛ですらなくて
でもちゃっかり髪の毛に埋もれたり普通が役不足にぞくりときたり悪刀での相殺すげえと思ったらあれで
江迎ちゃんも江迎ちゃんで掌くるーされて過負荷で窒息してしかも死んだ後でさえそれが無関係の七花まで不幸にしてで、あー
過負荷は倖せにならないし誰も幸せにしない、それを思い知らされる話だった……

66名無しさん:2013/08/07(水) 07:36:31 ID:KpGvahXE0
投下乙です!
冒頭の「世の中そんなうまい話が」に噴出し、
「家族」というキーワードが出た瞬間に、ああこりゃ終わったなと確信し、
本気の七花相手に逃げ延びただけでもすげぇと、双識兄さんの無事に安堵し、
「腐るのを止められないならその都度回復すればいい」という悪刀対策に唸り
この江迎ちゃんを幸せにできる人がいたとは……とほっこりしていたら、

いや、違和感はあったんだ。「兄さんって変態だけど他人より家族優先じゃね?」とか……
結果は必然であり、自然。しかし、あっけなく、悲しい……。
そして最後のとどめが


>独立して腐敗を『感染』を広げています。

やだこわい

67 ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:09:10 ID:bpEoVhjI0
投下させて頂きます。

戯言遣い、八九寺真宵、球磨川禊、鑢七実、羽川翼、四季崎記紀
以上の六名

68みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:09:47 ID:bpEoVhjI0


ゆっくりと車は走っている。
別に速度を出し過ぎたら危険だからとかそんな殊勝な理由じゃない。
あんまり速度を出し過ぎて誰かを轢いてしまったら洒落にならないからだ。
それに速いと話に付き合えない。
多少機嫌を取って置かないと面倒臭くなりそうだから仕方なしに。
と言うのも。
ぼく達一行は結局の所決め切れず、しかし時間も無駄には出来ず。
球磨川禊こと人間未満の気まぐれと言う名の温情を甘受して、診療所へとひた走っている。
人間未満の言葉に、ぼくは思わずため息を付いた。

「…………それは前に結論が出ただろ?」
『そうだけどさ、改めて考えると二等辺三角形の方が良いんじゃないかって』

雑談。
むしろ独り言。
どうでも良いような会話を。
ゆらゆらと成しながら。

『正三角形はさ、裸エプロンの股の辺りのデルタゾーンがそうなりそうだなーって思ったからだったんだけど、今考えると二等辺三角形の方がエロいだろ? だから思うに美しい三角形は二等辺三角形の方なんじゃないかってね』
「自重しろ……って言うかそんな理由でぼくの意見を捻じ曲げやがったのか?」
『てへぺろ』
「黙れ。くそ、最終的にこんな奴の意見を採用したのかぼくは」
『おいおい、こんな奴なんて酷いんじゃないかい?』
「酷くないだろ。ぼくみたいな奴だぞ?」
『それもそうか』

へらへらと。
対照的に。
対極的に。
似ても似つかわしくないのに、何処までも似て見えるぼくと僕の会話。
戯言を交えながら。
虚言を混ぜながら。
如何でも良く、進んでいく。

「…………はぁ」

と、ため息が聞こえた。
会話を一旦止めてその主を見る。
今まで。
車に乗り込み走り続けていた間ずっと、沈黙を保っていた七実ちゃん。
憂鬱そうに、ため息を吐いていた。

『どうしたの七実ちゃん? ため息なんてしてたら幸せが逃げるよ?』
「今更一つ二つ逃げた所で変わりませんよ――それより、私はどうにも分からないです」

言いながら前を見続ける。
フロントミラー。
何となく気になって。
その瞬間、僅かに合った。
真っ黒な、全てを見透かしてしまっている風な目と。
目が合った。

「――なにがだい、七実ちゃん」
「なぜあなたがそんなに強いか、です」
「弱いよ?」
「弱いですね。今まで随分雑草を見てきたと自負していますけど、その中でもなかなか居ない位に」

69みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:10:22 ID:bpEoVhjI0
酷い言い様だ。
普通なら抗議の声が上がる筈だった。
しかしそうはしない。
沈黙を持って、諾としか答えない。
だがそれは別に七実ちゃんが恐ろしいからとかじゃない。
いや、恐ろしいは恐ろしいんだけど。
そうではなくぼくはぼく自身が、弱い、と言う事を分かっているからでしかない。
それこそが、彼女なのだろうが。

「なぜあなたはそんなに強いんですか?」
「強くないよ?」
「いいえ、強いです。毟って捨てた所で平然と捨てた場所にまた生えそうなぐらい」
「過剰評価だよ」
「かも知れません。しかし、強い、と言うのは確かです――なのに、それを見取れない」

はぁ、と陰鬱な溜息を吐いた。
合わせて頬に片手を当てる。
人形のような、と言う言葉がよく合う。
そう言えば誰だったかにその手の褒め言葉は褒め言葉じゃないみたいな事を言われたような。
なんだっけ。
えーっと、写真みたい、だっけ。
それとはまた別な気がするけど。
いやはや。
そろそろ思考を元に戻そう。
確か七実ちゃんがぼくの強さについてどうこう言ってた辺りか。

「――七実ちゃん、君は強いだろう。いや間違いなく強いと思う。だけどそれは同時に弱いって事でもある」
「わたしが弱い?」
「あぁ。強いけど弱い」
「どう言う理屈ですか?」
「理屈じゃないのさ。紙一重なんだよ、強いと言う事と弱いと言う事は」

ミラー越しに、黙って目を閉じたのが分かった。
強いと言う事は弱いと言う事。
七実ちゃんにはよく分かるのだろう。
彼女は途轍もなく強いのだから。
しかし、それも違う。
ぼくの言っている事はそれと何処か違う。
理屈ではないのだ。
沈黙している七実ちゃんに気付けば、言葉を紡いでいた。

「……名探偵と殺し屋がいた。
 彼女達はお互いにお互いの弱さを、強さを片方に詰め込まれていた。
 そう言う風に造られたとか言ってたっけ。
 言ってたっけ?
 とりあえず名探偵には弱さが、殺し屋には強さが。
 最弱に、最強に、近付かんばかりに詰め込まれた。
 だからどちらもどちらか片方しか持ち合わせていない、文字通り二人で一人の存在になっていた。
 出来上がっていた。
 だけど強いだけの筈の殺し屋には弱さがあった。
 例えば彼女は死ぬその時まで負けを認められないような往生際の悪さ。
 死ぬ時まで負けを認められない。
 これはどう足掻いたって弱さだろう?
 人間は死ぬために生きている訳じゃないんだから。
 対する名探偵はどうだったかと言うと、彼女は――うん、とんでもなく弱かった。
 小動物か何かかと思えるぐらい弱くて弱くて弱々しかった。
 それこそ人間未満と張り合えるんじゃないかって位。
 だと言うのに彼女は強かった。
 その弱い彼女を他人が殺そうにも殺せない。
 あまりにも無防備と言う弱さ。
 それが、強さに変わっていたんだ。
 殺そうにも殺せない存在。
 生き残るのにこれ以上なく特化した弱さ。
 まさしく彼女は強かった。
 ここまで言えば、何が言いたいか分かると思うけどつまり――――」

70みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:10:53 ID:bpEoVhjI0
不意に、黙っていた。
長々と語っていただけなのに、風を感じた。
窓が閉じられていた筈なのに。
ある筈のない風を。
不審に思う間もなく、気付けば外に引きずり出された。



少し時は戻る。
ある存在の鼻が異臭を感じ取ったその時まで。
その存在は鼻が優れていた。
一人の人間を追い掛けられる程度には。
だから異臭の正体を探るため、行く先を予想して観察する事を思い付いた。
木の中に入れば見付けられないだろうと安直に。
頭の中で響く声を聞き流しながら、少しだけ待った。
少し。
現れたのは車。
異臭の正体は排気ガス。
微かに面白い物じゃないかと期待していた反面、訪れた失望。
だがそれは、その車の運転手を見た瞬間には吹き飛んだ。

「いーさん」

言葉にしている間にも跳んだ。
拳が大きく振りかぶりながら。



ぼくが見た光景は、言葉で言い表せる物ではなかった。
二転三転する天地。
その中で一瞬前まで無事だった筈の車が紙か何かのように折れ曲がり、不意に止まる。

「ぐへぇ」

目が回る。
妙な声が出た。
地面に座っていても安定しない。
回る、廻る、世界だが認識出来た。
見覚えのある真っ白な長髪を。
今更になって鳴らされた警鐘を。

「くそっ、遅ぇよ……」

遅い。
綺麗に折った折り紙を、握り潰すような気軽さで。
車をひしゃげさせた存在。
ころころと表情を変えていた頃とうって変わって無表情。
車上からゆっくりと体を起こして、口が開く。

「いぃぃぃさぁぁあん! よくも騙したにゃぁあぁぁあ!」

金切り声。
共に、歪んだ顔面。
酷く、憎そうに。
酷く、楽しそうに。
酷く、恨めしそうに。
酷く、悲しそうに。
酷く、辛そうに。
全てを一緒にした結果、張り付き、反発し、混ざり合いながら現れたように。
様々な感情が、その顔に浮かんで消えてまた浮かぶ。
見ている間に、降り、走り迫る。
そこそこ空いていたつもりの距離が殆んど一瞬で詰まり、拳が目の前まで迫っていた。
呆気ない。
主人公に、なりたいと思ったのに。
儘ならない。
でも悔いはない。
だけど死にたくは、なかったなぁ。

71みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:11:23 ID:bpEoVhjI0
「!」

走馬灯だろうか。
迫っていた筈の拳が遠退き、羽川さんも遠ざかる。
いや、走馬灯とはどうも違う。
前を横切る五本の白線。

「……七実ちゃん?」
「何です?」
「まさか助けてくれるとは思わなかったよ」

横を向く。
七実ちゃんの右手の爪が異様な長さまで伸び、ぼくの目の前を横切っていたらしい。
軽く礼を言うと、小さく笑った。

「別に。もう少し話をしたいと思っただけです。話せなかったとしてもそれはそれで」

悪そうに。
どうも気まぐれ、と言う訳じゃないみたいだ。
ぼくを羽川さんが殺していれば、その瞬間、七実ちゃんが殺していた。
生き残るため向こうとしては殺さず逃げるしかなかった、と。
二分の一。
いやそれ以下か。
気付けば危ない橋だった。
そして運良く渡り切っていた訳だ。

「わたしとしてはどちらでも良かったのですが……いえ、悪かったのかしら?」

小さく首を傾げながら、右手を振った。
羽川さんが跳ぶ。
一瞬後、更に長大になった爪が走る。
何メートルあるんだよ。
軽く振ってるだけに見えて、どう言う訳か地面を易々と裂き、ひしゃげた車が横に四分割。
鋭いようだけど、だけではとても説明できない。
それにその鋭さ。
全ての方向に発揮してはないようだ。
更にもう一度振るわれた中、空中で回る羽川さんから放たれた踵落としに叩き割られた。
三本ほど地面に刺さる中、軽やかに着地する。

「うわぁ」

などと一応説明らしい事をしてみたものの、本当にそうだったか自信がない。
瞬きすれば見逃していた攻防。
二人とも人間だと思えない行動。
規格外。
この二人のための言葉じゃないだろうか。

「いや、もう二人いたか」

合わせて四人。
多過ぎる。
ぼくの方が規格外であって、彼女達が通常なんじゃないかと思う程。
いやそれこそ、戯言だけど。
更に戦局は、動かない。

「にゃに?」

呟くように何か言った。
それから自問自答しているのか、呟きながら首を数度振り、ため息を付いた。
なおも何かしら呟いていたみたいだけどそれもその内に止まった。
同時に、口だけが歪んだ。

72みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:11:52 ID:bpEoVhjI0
「――――よう、おれの娘」

ちらりと七実ちゃんを見る。
佇んだまま何も言わない。
ならばと気を失ったままの真宵ちゃんを見ようとして、止めた。
明らかに七実ちゃんに対して目が向いている。

「冷たい反応だな、おい」
「わたしの父親は一人しか居ません」

さらりと言いながら割れた爪を撫でる。
それだけで削がれ地面に落ちる。
元の長さにまで戻っていた。
長かった爪が普通の大きさに戻った。
その様を、羽川さんではない何かが笑った。

「そうだ、それでいい。刀が継ぎ足しの紛い物なんぞ使うもんじゃねぇ――使うのは己が身だけだ」
「分かっているような口を聞きますね」
「分かってるから言ってんだよ、おれの娘。随分と錆び付いちゃあいるみたいだがな」

その言葉の意味を、見定めるように目を細める。
時間にすれば十秒にも満たなかっただろう。
納得したように頷いた。
訳が分からない。
説明が欲しいんだけど。
そんな気持ちを込めて七実ちゃんを窺っても反応はない。
無視ですかそうですか。

「――ふむ、一応お名前を聞きたいのですがよろしいですか?」
「四季崎記紀」
「あぁ、やっぱりそうでしたか」
「そんな名前、名簿にあったっけ?」
「ないですよ?」
「ないぜ」
「何で部外者が居るんだよ!」

関係者かよ。
あ、だったら何かしら聞けたりするのか。
こうも堂々と姿晒してる訳だから。
いわゆるお助けキャラとか。

「さぁな。知ってても教える義理はねえよ」
「………………」

言う前に言われてしまった。
だから開けていた閉じる。
これでもポーカーフェイスには自信があったんだけど。
それとも未来が見えるとか。
いや、もちろん戯言だ。
未来が見えるなんてどこぞの島で引き籠ってたのだけで十分過ぎる。
ネタ被りにも程があるだろ。
読心術も、同上。
あの赤色に要素的に勝ってるのなんて猫耳だけだ。
深く突っ込んだら可哀そうだから黙る事にしよう。
だから何処となくホッとした顔つきになったのは気のせいだ。
だよね。

73みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:12:28 ID:bpEoVhjI0
「……閑話休題。おれの存在なんて大した意味はねぇ」
「………………はぁ」
「あ、ぼく? でしたら何故?」
「出て来たかって? 俺の娘」
「ではありません」
「が、居たからな。息子と比べてどうか、なんて思っただけだよ。悪くはなさそうだってだけだが」
「そうですか」

殆ど何となくって理由で出て来たんだ、この人。
そもそも人なのか、こいつ。
まあいいや。
そろそろあいつの出番を作ってやるべきだろう。
ご丁寧に今か今かと指を動かして待ち構えてるし。
時々目で合図してくるのを無視してるせいかすっごく機嫌悪そうになってきてるし。
目付き悪いなぁ。

「ところで、誰か忘れてませんか?」
「あ? ……ん!?」

視線を斜め上に。
前に出してた手を隣の七実ちゃんの眼にやって隠す。
子供の教育に悪い。
大人びた感はあるけど、見積もって身長150cm程度。
どんなに大きく見積もっても高校生が良い所だ。
そんな子に球磨川が、うん。
うん。
あれだよ。
両手で羽川さんの胸元の二つのスイカを云々してる姿を見せるのはちょっと。

「!? 、! っ?! んにゃ!! 死ね!」

強引に背後から組み付いて球磨川を引き剥がし、踵落としが炸裂。
転がって避ける。
あんまりな威力に片足が地面に嵌まり込んでる。
喰らったら挽肉じゃ済まないだろうなぁ。
なんて感想を抱いていると、そのまま転がりながら足元に来た球磨川が、

『くそっ!』

毒づきながら。
全身をどう駆動させればそんな風に起てるのか。
背中を浮かせ、頭だけでブリッジのような体制を取ってから、立ち上がった。
どんな筋肉だ。

『あと二十秒……いや、十秒揉めればサイズが分かったのに!』
「人が折角ぼかしてたのに何言ってやがる!」

人が折角ぼかしてたのに何言ってやがる。
台無しじゃねえか。
そうすると、口が裂けたような笑みを浮かべた。

『馬鹿だねぇ。実に馬鹿だね』
「なんでさ」
『エロの嫌い人なんていません。エロい人にしかそれが分からないんですよ』
「自分の言葉に矛盾を感じない?」
『おいおい、矛盾だらけの人生だ。今更一つ二つ増えて何か変わるかい?』
「それもそうだ」

74みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:13:06 ID:bpEoVhjI0
軽く会話を交わし、七実ちゃんの目元から手を離す。
離して、気付いた。
何やら手の形が可笑しい。
手首が半回転して身体の方を向いてるんですが。

「…………」
「…………」

いや無言で戻されても。
とりあえず手を握ったり開いたり。
全く違和感がない。
違和感がないのに違和感があるぐらい全く違和感がない。
最早幻覚でも見てたのかと疑うレヴェル。
一先ず。
ぼくが七実ちゃんの目を隠す目的は何時の間にか果たせていなかった。
地味にショック。
推定年齢やや強引に言って18歳ぐらいの今後が急激に心配。
あ、ならセーフか。
セーフと言う事にしよう。

「さてさて……」

どうした物か。
さっきまでなら何かしら口を挟んできておかしくない四季崎。
さっきまでならとりあえずぼくを殺しに来るはずの羽川さん
どちらも何もしてこないのはどう言う事だ。

ちらりと目を向ける。
果たして、口元を抑える羽川さんの姿があった。

「…………ッ……」

微かに震えて。
あぁ、そうだった。
球磨川禊。
ぼくは平気だけど。
こいつは、どうしようもなく駄目な奴だった。
それも見る人間によって変わるタイプの。
勝利を約束されているような優秀な人間からは果てしなく気持ち悪く見え。
底辺を這い蹲ってばかりいる駄目な人間ならば底知れず引き寄せるような。
弱い、人間だった。
《人間未満》。
果たして、どう見えているのか。
それは、簡単だ。

『羽川さん……いや、羽川ちゃんの方が親しみを持てていいかな?』
「ッ……く、く」
『おいおいそんなに怯えないでくれよ。傷付くじゃないか』
「か、か、く」
『初めて見た時から分かったんだ。君はどうしようもなく僕達側だって』
「来るにゃ、くるにゃ」
『どうもこんにちははじめましてこれから先も末永くよろしくね羽川ちゃん』
「くるにゃ、くるにゃくるにゃくるにゃっつってんだろ!」
『僕は球磨川禊。箱庭学園の三年生。−十三組でリーダー役を暫定的にだけど勤めてるんだ、親しみを込めてクマ―とでも呼んでくれて構わないよ?』
「くるにゃ! どっかいけ! わたしに寄るなぁ!」
『そんなに嫌がらないでくれよ。君はどう見ても『過負荷』なんだからさ』
「『過負荷』だかなんだか何も知らにゃい! 怪異にゃ! 違うにゃ! 私は! 私は違う!」
『違わないさ』

75みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:13:41 ID:bpEoVhjI0
ゆっくりと。
近付いていた《人間未満》の足が止まった。
既に羽川さんは腰を抜かしたように座り込んでいる。
ひたすら地面をずり下がるようにして逃げていた。
それも限界に近いのだろう。
遠目にも足が震えて言う事を聞かないのがよく分かる。
精々が二歩。
それだけ近付けば。
近付いてしまえば。
羽川さんに残された手段は限られてくる。
分かってるだろ《人間未満》。
それ以上は、『死線』だと。
踏み出せばどうなるかも。

『僕を見て分かるだろう?
 僕を見て安心してるんだろう?
 僕は駄目な奴だ。
 だから分かる。
 きっと君はどうしようもなく優秀な人間だ。
 いや違うか。
 そう自分に強いざるを得なかった人間だ。
 そうなんじゃないかな。
 可哀そうにね。
 だけど今は違う。
 甘えて良いんだよ?
 僕みたいな奴に。
 君は一人じゃない。
 一人にしないであげる。
 一人になんてしてあげない。
 だからこっちにおいで。
 踏み出しておいでよ――――さあ、こっちだ』

口に出さなくとも分かっている。
そう思っていた。
そうだと分かっていた。
だからこそぼくは止めなかった。
何処までも弱い者の味方である《人間未満》を。
止める事は出来なかった。

「来るにゃぁぁぁあぁあああああ!」
『こっちの水は、甘依存?』

一切躊躇う様子もなく。
踏み出した。
両手を広げ、抱きしめんばかりに。
その時、牙を剥く。
逃げる事が出来なければどうするか。
ストレスを与えてくる対象をどうするか。
簡単だ。
実に簡単な回答だった。

「      」

76みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:14:27 ID:bpEoVhjI0
音にもならない悲鳴を上げながら。
何にもならない歓喜を叫びながら。
片腕を振るった。
それだけで、吹き飛んだ。
両手を広げたまま。
迎え入れるようにしたままで。
人間未満の頭が、吹き飛んだ。

「…………」
「――――」

崩れ落ちる事もなく、血を吹き出し続けるだけの肉塊。
ああなってしまえば人間が何で構成されているか嫌と言うほど知れる。
それをぼくは傍観する。
その横で七実ちゃんは絶句した様子で佇んでいた。
本当に。
思った通り。
風が通り過ぎた。
瞬間移動のように動いた七実ちゃん。
浮いた体が回る。

「落花狼藉」

羽川さんを地面ごと、砕いた。
と言う訳には行かず、地面を砕いたのは本当だけど、羽川さんが跳ぶ。
更に数度跳ねるようにして距離を置く。
衝撃でようやく倒れた人間未満の身体を七実ちゃんは支え、ゆっくりと地面に横たえた。
遠目にその姿は、少し寂しそうに見えたのは。
ぼくの気のせいだろう。

「なぜ邪魔をするんですか――四季崎記紀」
「俺も少しばかり予想外なんだよ……まさかこうも簡単に現実逃避してくれると思ってなくてつい、な。乗っ取れたから乗っ取っちまった」
「でしたら」
「だが、関係ねえ」

身体の支配権を手に入れられた。
それも予想外に。
それだけ、思わず手が出た事で生じた結果が心に衝撃を与えたのか。
球磨川禊。
つくづく罪な奴だ。
いや、害悪な奴か。
当然、戯言だ。
害悪なんて一人で足りる。
細菌一匹で十分だ。
さて、四季崎。
今一時かどうか知らないが肉体の支配権を得た。
どう言う理屈でなっているかは知らないけれど。
何を考えているのか。
何を企んでいるのか。
七実ちゃんから距離を保ったままゆっくりと歩いている。

「……四季崎さん」
「なんだ?」
「ぼくを殺すつもりですか?」
「……今は、ない。今はな」

77みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:15:01 ID:bpEoVhjI0
至極如何でも良さそうにそれだけ呟いて、足を止めた。
ぼくと七実ちゃんと四季崎の位置がちょうど正三角形になる形で。
そして片手を地面に伸ばす。
その先にあるのは、爪だった。
まるで刀のように真っ直ぐに伸びた、爪を。
まさか。

「四季ざ」
「おれから! お前に対して掛ける情けはない」
「そうですか」
「そうだ、殺したきゃ殺せ。俺は全力で抵抗するからよ」

止めようとしたぼくの言葉を遮って。
四季崎は、地面に突き刺さっていた爪を拾い上げた。
見ていると、特に何するでもなく持った。
さながら刀でも持つように。
鋭い爪が手の平を傷付けたのだろう。
白い爪を血が流れるのをまるで無視して、構えを取る。

「これはこの時代から――っつうのも変な話だが、ま、未来の天才剣士が編み出した構えだ」
「構え――」
「あん?」
「――るのですか?」
「あぁ。分かってても、避けられねぇぜ? 見極められると思うなよ。見定める暇も与えねえ。だから、全力の切れ味で来い」
「では」

と、軽く言って佇む。
居るか居ないか分からないように。
構えているのかいないのか。
そんな構えを取りながら。
ゆっくりと相対する。

「――流派無視、無所属、鑢七」
「違うだろ鑢七実」

名乗りを四季崎が止める。
唐突に。
構えを解き、手に持った爪で肩を軽く叩く。
その顔は酷く、不機嫌そうに歪めて。

「違うだろ、そうじゃねえだろ? 鑢。鑢七実。鑢七実――お前がどう思っていようがそうじゃぁ、ねえだろ? そうじゃねえと、分かってんだろ?」

答えず、ただ目を閉じた。
構えていない。
構えているようで構えていたような気がする今までとは違って、構えてすらいない。
考え込むように目を閉じる。
しばらくして、薄っすらと開いた。

「わたしは」
「さあ来いよ、虚刀・鑢」
「はぁ――虚刀流、鑢家家長、鑢七実」

陰鬱そうな溜息と言葉を溢し、ぼくを見た。
四季崎も同様に見てくる。
合図でもしろと言うのか。
仕方なく、片手を上げる。
二人が確りと向き合ったのを確認してから、

78みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:15:31 ID:bpEoVhjI0
「――――いざ尋常に」

止めるでもなく流されるまま、

「始め」

下ろす。
下ろし切ったと思う前に、二人が既に肉薄していた。
七実ちゃんが腰を捻った状態で体を固定させ。
四季崎は爪の切先を真っ直ぐ向け腰を捻って。
そう見えた。
確信は持てない。
次の一瞬には、

「七花八裂――改」

七実ちゃんが動いていた。
七つの動作。
それだけが分かった。
しかしそれらを羽川さんが、いや四季崎が対応する。
さばく。
かわす。
うける。
さける。
はじく。
すかす。
からめとる。
一瞬で巻き起こった全てを、対応してみせた。
まるで全て知り抜いていたかのように。
完璧に防御し切って、

「――」

刹那、四季崎が。
構えた切先を。
笑いながら。
そうして。
胸元を。

「――――」
「――――」
「――――」

貫かれた。
痛いほどの沈黙。
終わった。
勝者、

79みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:16:18 ID:bpEoVhjI0
「――良いじゃねえか……」
「――――虚刀流、蒲公英」

鑢七実。



やや強引にやってしまいました。
もちろん殺して、と言う意味です。
爪合わせを使うのが面倒だったので、怪力で。
あ、鑢七実です。
一人語りと言うものは、と言うより独り言と言うのは、何となく気恥ずかしさがありますね。

――無視してんじゃねえ――
「はぁ」
「どうしたの?」
「少し考え事を」

そんなわたしの横にいるのはいっきーさん。
相変わらず素敵なまでに死んだ目をしておられます。
実に良い。
いえ、悪いのかしら。
ちなみに少し離れて八九寺さんが横たえられています。
しかし改めて『見れ』ば、実に見事なまでの散りっぷりですね。
球磨川さん。
ああもあっさりと殺されてしまうのは私としては予想外でした。
分かっていれば止めていたのに。
止めていた。

「あぁ、そう言うこと」
――どうした?――
「どうしました?」
「いえ、別に」

なるほど。
止めていた。
わたしは確実にそうしていた。
だからこそ、いっきーさんは言ってくれなかったのでしょう。
球磨川さんの優しさ。
底知れないまでの生温さ。
悍ましいまでの懐の底深さ。
それらはきっと、弱さだった。
その弱さを持って迎え入れようとした。
そして、わたしは止めようとしたはずだ。
私の強さを持って。
球磨川さんの弱さを持って、何もかも受け入れるその事を止めただろう。
例えそれが死ぬ事になっても。
だから、黙っていた。
その優しさは見ず知らずに他人の『弱さ』まで、許し、受け入れて。
結果がどうなると分かっていても。
死と言う結末が分かっていても、いっきーさんは黙っていた。

「いっきーさん。あなたは優しい人ですね」
「突然どうしたんだい?」
「思った事を言ったまでです」
――おーいおれの娘――反応ぐらいはしてくれ――

80みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:16:50 ID:bpEoVhjI0
《人間未満》。
他人の弱さを許容してしまう。
わたしは。
わたしのこの目は強さしか見取らない。
強さしか受け入れない。
だけれど。
何となく。

「何となく、分かっただけですから」

わたしの弱さは弱さを認められなかった。
紛れもない『弱さ』だった。
球磨川さんの弱さは弱さを受け入れられた。
紛れもなく『強さ』だった。
強いは、弱い。
弱いは、強い。
何となく分かった、気がする。
他人の強さを変換してわたしの弱さにしなければ長く生きていけない脆弱な肉体。
でも、弱さを受け入れられるようになれば何か、変わるかも知れない。

――おーい――
「……………………はぁ」

折角良い感じに終われそうだったのですが。
いえ悪い、なんてことはないでしょう。
良い感じだったのですが。
見なかった事にするのもそろそろ限界と言う事でしょうか。

「なんです?」

いっきーさんには聞こえないよう呟く。
ようやくの反応に嬉しかったのか、あからさまにその顔が綻びましたね。
半透明ですけど。
ようするに幽霊とか亡霊みたいですけど。

――おれは元々残留思念みてぇなもんだったからなぁ――お前の『目』もとい読み取った交霊術との相性が良かった訳だ――
「どうでもいいです」
――歴史の歪みが妙な奴等ばっか生んじまったがまさかこんな事になるとはよぉ――
「聞きなさい」
「ん?」
「いっきーさんには関係ありません」

うっかり声が大きくなっていたようです。
反省反省。
ついでにこの面倒臭いのを消してしまいましょうか。
ちらりと目を向ける。
合わせてその姿がいっきーさんの後ろに隠れてしまった。
さり気なく動くと、合わせて隠れる。
凄く、面倒臭い。

「はぁ」
――どうせそう長くねえんだ――決着位見せてくれよ――
「……はぁ」
――残留思念だぜ残留思念? ――しかも刀経由して怪異経由しての残留の残留の残留――
「…………はぁ」
――見てるだけだから頼むって――
「………………はぁ、仕方ありませんか」

81みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:17:32 ID:bpEoVhjI0
無視してればいいだけですし。
地面ぐらいのつもりで放って置きましょう。
それよりも、さて。
これからどうしましょうか。

――礼に助言の一つぐらいしてやるよ――
「はぁ」
――球磨川の死体から首輪を取っちまいな――

一先ず。
何事もなかったように球磨川さんだった物に近付いて。

――僕が死んでる間――七実ちゃんが心配だなぁ――

至極あっさりと。
首輪を取る。
取れてしまった。
見れば見るほど確りとした首輪のようで。
取ったは良いですけどどうしましょう。
どうすれば悪いんでしょうか。
何処かに投げましょうか。

「記念に持っておきましょうか」
「どうしたんだい?」
「あぁ、聞こえてしまいましたか」
「何度もため息を吐いてたら、嫌でも気になるからね」
「そうですか。いえ、これからどうしようかと」
「どうしたいの?」
「手っ取り早くお二人を引き抜く事から始めましょうか? それが一番いい案――いえ、悪い案なのかしら?」
「人間未満が後で怒るよ?」
「死んだ人間がどうやって怒るんです?」
「……流石に『大嘘憑き』でも死んだ事をなかった事には出来ないのか」
「いえ、出来ます」
「そうなんだ。じゃあ?」
「ばれてしまったので諦めます」
「助かるよ」
「いえいえ」

そう言えば蘇れるんでしたか、球磨川さんは。
つくづく出鱈目な物です。
おーるふぃくしょん。
なかった事にしてしまう過負荷。
もしも。
弱さも強さも見取れるようになれば。
もしも、おーるふぃくしょんが見取れれば。
もしもの話ですけど。
こう言う発想は、

「いいのかしら? それとも、悪いのかしら?」

どちらでもいいのだけど。
どちらでも悪いのだけど。
いっきーさん。
それに、八九寺さん。

「あなた達はどうするつもりなんですか?」
「? ぼくは今しばらくは此処に居るよ。出来れば人間未満に車の損傷をなかった事にしてもらいたいしね。出来るならだけど」
「そうですか」
「それに、真宵ちゃんの記憶をなかった事にして欲しいし」
「結局、そうするんですか?」
「うん。真宵ちゃんには悪いけど、それが一番良いんじゃないかなってね」
「そうですか」

82みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:18:09 ID:bpEoVhjI0
それで。
いっきーさんは八九寺さんの横に座ってしまいました。
残念。
言葉を掛ける機会がなくなって。
流石に聞こえてしまいますから。
今のいっきーさんの決断を聞いてどうするか。
聞いてみたかったのに。
一先ず八九寺さんを間に挟んで座りましょう。
ねえ。
八九寺さん。
いい加減。
寝たふりなんて辞めればいいのに。

「……ふふふ」



【球磨川禊@めだかボックス 死亡】
【羽川翼@化物語シリーズ 死亡】




【一日目/午後/G-5 スーパーマーケット前】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:人間未満の復活を待つ
 1:復活したら真宵ちゃんの記憶を消してもらう
 2:待ってる間に掲示板を確認し、ツナギちゃんからの情報を書き込む
 3:それから零崎に連絡をとり、情報を伝える
 4:早く玖渚と合流する
 5:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 6:展望台付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です。
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました。
 ※夢は徐々に忘れてゆきます。完全に忘れました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です。
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません。
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識のものが登録されています(ツナギの持っていた携帯電話の番号を知りましたがまだ登録されてはいません)。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]寝たふり、ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る
 1:戯言さんと行動
 2:なんでこの二人が
 3:記憶を消すとはどう言う事ですか
 4:こっそり聞きたいけど隣に居て聞けません……
 5:頭が上手く回りません……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です。
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(大)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
 3:気が向いたら骨董アパートにでも。
 4:球磨川さんを待ちましょう。
 5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました。
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました。
 ※弱さを見取れる可能性が生じています
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません

83みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:20:48 ID:bpEoVhjI0










「おお、球磨川禊よ。
 死んでしまうとは、情けない。
 なんて冗談は置いておこう。
 久し振りだね、安心院さんだよ。
 ……無視か、つれないなぁ。
 まぁ相変わらずだからどうでも良いけど。
 僕も僕で忙しいから手短に済ませたいしね」

「おいおい。
 おいおいおいおい。
 無視して出ていこうとするなよ。
 これから伝える事は割と大切な事なんだ。
 そう、まず君の『大嘘憑き』に関する事さ」

「興味は出してくれたみたいだね。
 ま、手っ取り早く言おう。
 制限が掛けられている。
 とっくに知ってるとは思うけどなかった事に出来る物の制限。
 どうせ首輪の存在をなかった事にしようとして失敗してるだろ?
 怪我や死をなかった事にするのにも制限が掛けられている。
 こっちは回数の制限だけどね」

「知っていたのかい?
 知らなかったのかい?
 どっちでも良いけど、具体的に言うよ。
 君自身の怪我や死をなかった事に出来るのはあと一回だ。
 そしてその一回はこれから使われる。
 蘇る事によってね」

「…………君以外に対しては残り二回。
 よく考えて使うんだね。
 さて、早いけど本題に入ろうか。
 君はどうしたいんだい?
 これから鑢七実と一緒に黒神めだかを叩き潰しに行くのかい?
 残念ながら今の君達じゃあ勝てないだろうね。
 分かっているとは思うけど彼女の『完成』と鑢七実の眼は似ているようで全く違う」

「『完成』は他人の異常を己の物にしてしまう異常だ。
 不完全な異常だろうが過負荷だろうが完全に。
 一層昇華させた形で。
 『完成』させた形でね。
 君の『大嘘憑き』すら例外ではない。
 例外になり得ない。
 下手したらぼく並みだぜ?」

「薄い反応だなぁ。
 ま、鑢七実の眼に移ろう。
 彼女の眼は一見すれば、一読すれば、『異常』だろうね。
 どんな強さも見ただけで次々と飲み込んで、更に上の物にする見稽古。
 一度見れば大体は。
 二度も見れば磐石に。
 しかし『完成』とは根本から違う。
 『完成』がより高みに登れる異常なら、鑢七実の眼は真逆。
 降りるための物なんだから」

84みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:21:28 ID:bpEoVhjI0
「やっぱり感付いてはいたみたいだね。
 確信は持てていなかったようだけど。
 鑢七実の弱点に。
 流石は弱さでは他の追随を許さないだけの事はある。
 そう、彼女の弱点は強過ぎる事。
 そしてその強さに体が付いていけない事だ。
 だからこそ生まれた生きるための術とでも言うのかな。
 強過ぎる身をより弱く。
 強過ぎる身をより柔く。
 一瞬一刻でも長く生きるために」

「過負荷だよ正しく。
 あるだけで、いや見るだけでマイナスを継ぎ足していく。
 それは過負荷としか言いようがない。
 だからこそ鑢七実は黒神めだかには勝てない。
 マイナスし続ける物とプラスし続ける物。
 どちらが、だなんて。
 いや、可能性はある。
 鑢七実が今まで大事に大事に積み重ねてきた他人の強さを捨てて純粋な強さをぶつければ。
 なにせ幼女の頃に当時最強と言われた人間と戦うこと半年。
 同時期に繰り広げられていた大戦以上の対戦を繰り広げていたんだ。
 黒神めだかでも五分か、もしかしたらそれ以上か」

「あぁ、もちろんそうなれば死ぬ。
 言った通り体が耐え切れずに。
 自滅だ。
 自壊だ。
 ここまで言えばおおよその予想が付くだろう。
 君が蘇れない状況でもしも先に死んだら。
 そして鑢七実が本当の本気を出してしまったら。
 実に君の願ってもいない展開になるだろうね」

「なんでそんなに鑢七実に肩入れするのか?
 おいおい。
 ぼくは誰にだって平等だぜ?
 もしなんだったらこれから先、平等院さんって呼んでもくれても良い。
 もちろん冗談だけど」

「誰が鳳凰堂さんだ。
 せめて院を付けなさい。
 誰かも分からないだろ」

「え?
 韻は踏んでる?
 …………こやつめ、

『戦踏開祭』『快踏二番』『二踏立て』『踏み立て伏せ』『踏切』『握戦苦踏』『鉄踏鉄火』『踏々到着』『秘踏発見』『踏みん症』
『白刃踏むべし』『踏傾学』『踏の難し』『踏まずの扉』『愛踏の衣』『踏み込み算盤』『踏一番論』『色系踏』『無踏』『爆発踏過』
『足踏の両輪』『不自然踏多』『それを踏まえて』『踏ん反り帰り』『勘を覆うて効踏定める』『雑踏椅子』『踏か不踏か』『浮き足踏む』『圧踏的存在』『十二月の踏蝋流し』
『自由による滑踏』『踏んだり踏んたり』『踏みつき症候群』『火踏み』『踏結砕き』『注文殺踏』『踏鞴吹き』『更刻踏』『病よりも高く踏よりも深い』『硬踏紙問』
『消踏時間・輝床時間』『三尺下がりて二の轍を踏まず』『地中電踏』『土気色の発煙踏』『一踏襲断』『第三勢力の対踏』『持ち持ち踏み』『鑑定家の値踏み』『第四秒踏』『踏み間奏』
『踏みは袋に立ちは鞘』『逆図を踏む』『煮え滾る踏踏』『三転八踏』『禁踏点』『深遠を除いて薄情を踏む思い』『一本道の踏み外し』『青だけ踏み』『幽体高踏』『休養地から身を踏じる』
『舞踏喰い』『唯我踏』『踏ん切りを続ける』『怒り脳震踏に発する』『踏み踏み』『踏々とお説教』『守身に没踏』『常踏苦』『悠々踏生』『思わぬ失踏』
『わずか1センチの踏ん張り』『哨戒乱踏』『雪隠這ったの大踏み回り』『八踏見』『百尺完踏一歩を進む』『踏破』『価格挫踏』『逆立ちしたって無理な芸踏』『踏みのしみじみ』『足し踏み程度』
『踏下の鬼となる』『踏み石を飛ばし』『散踏違い』『踏頂』『蹴踏な準備』『踏開封の封踏』『鬼にも悪魔にも踏まれず』『実行を綾踏む』『拝み倒し踏み倒し』『静踏派』
『足の踏み場もない』『手踏を脱す』『重踏理不尽』『天文地踏』『全人類未踏』『死一踏を滅ずる』『健踏を祈る』『恋踏』『完踏勝利』『揃い踏み』

 ははは。
 なんてねって、あれれー。
 ぼくがスキルを百個ばかり使っていただけなのに何時の間にか球磨川くんがぼくの足の下にいるぞー。
 なんでだろうなー。
 いや、『指折り確認』も含めてだから百一個か。
 まあぼくが使ったのは『踏』系スキルだけど関係ないだろうしなー。
 あ、きっと球磨川くんが変な事を言ったせいだろうなー。
 球磨川くんもそうは思わないかい?」

85みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:22:25 ID:bpEoVhjI0
「……ところで球磨川くん」

「今、君の上にぼくは右足で乗っている。
 右足だけで乗っている。
 当然まだ左足が残っている。
 五体満足だからね。
 別に真っ二つに分かれてる訳じゃないし。
 この意味が、分かるかい?」

「うんうん、分かってくれて嬉しいよ。
 さてと。
 いい加減話を戻そうか、このまま。
 なんで鑢七実に肩入れするのか、だったっけ。
 特にしているつもりはない。
 ないけど、理由があるとすれば彼女もぼくに近いからかな。
 完全に、ってわけじゃないけど。
 彼女はある意味では悪平等と言える。
 彼女の見えるものの大半は雑草ほどの価値しかない。
 価値しか持たない。
 弟や、もしかした球磨川くんは例外に入ってるかも知れないけど。
 大半は公平に、平等に、殺した所で雑草をむしった程度にしか思わない。
 ぼくに近い物がある。
 だから少しばかり気になってるのかもね。
 こんな回答で満足したかい?」

「そうかい。
 さて、随分と寄り道をしたけど聞かせてもらおう。
 きみはどうしたいんだ?
 黒神めだかを破る。
 今は亡き人吉善吉の無念を果たす。
 良いと思うよ?
 考えるだけなら。
 でもどうしてそうしたいんだ?
 勝てる見込みが遥かに小さいと知っていて。
 まして千年に一度いるかいないか位の、勝者であることを約束されているような彼女に対して。
 むしろきみの今までを省みて勝てると思う方がどうかしてる。
 あぁそう言えばきみは少年漫画が好きだったっけ?
 ならなおさらだ。
 あれが教えてくれるのなんて最後に勝つのは結局の所、能力のある奴だけだって知っているはずだ。
 それでもなお黒神めだかを相手取ろうとするのは、一体全体どう言うつもりだい?」

「あー、もしかして生粋の主人公である彼女を敵に回す。
 なら好敵手かい?
 好敵手になって温い友情でも育むつもりかい?」

「……いやいや球磨川くんの事だ。
 彼女が乗り越えるべき壁として志願しようと言うんだろうね。
 バトルロワイヤルと言う催しの中で。
 彼女が彼女であることを貫くための。
 なら正しく最後の敵になってやろうって感じなのかな?」

86みそぎカオス ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:23:00 ID:bpEoVhjI0
「…………いい加減なにか言えよ。
 違うなら違うって。
 そんなんじゃないって。
 言ってみろよ。
 ここには今、ぼくときみしかいない。
 夢とも現とも知れない場所だ。
 遠慮する必要はない。
 恥ずかしがる必要もない。
 言えよ。
 言ってみろよ。
 もうぼくには一生会えないと思ってさ」

「きみの本心を」

「格好つけずに――括弧つけずに」





【一日目/午後/死者スレ】

87 ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:25:00 ID:bpEoVhjI0
以上です。


主人公のノリで好敵手をやってみようと思い至ったら、


◎ いける
孫悟空、コブラ、冴羽、ケンシロウ、桜木花道
越前リョーマ、大空翼、進藤ヒカル、武藤遊戯、前田太尊
剣桃太郎、空条承太郎、浦飯幽助、ダイ、キン肉マン
緋村剣心

△ 何とか
花中島マサル、前田太尊、太公望、星矢

× 無理
弄内洋太、前田慶次


でした。
下二人はどうしようもないね。
好敵手とは違うし。
って感じで途中であきらめましたはい。

何時も通りではありますが、感想や妙な所などがあればお願いします。
特に最後の部分。
続けちゃった方が良いという意見が多いようでしたらお時間頂きますが続けて書かせて頂きますので。

88 ◆mtws1YvfHQ:2013/08/16(金) 16:27:45 ID:bpEoVhjI0
>>82 修正します




それで。
いっきーさんは八九寺さんの横に座ってしまいました。
残念。
言葉を掛ける機会がなくなって。
流石に聞こえてしまいますから。
今のいっきーさんの決断を聞いてどうするか。
聞いてみたかったのに。
一先ず八九寺さんを間に挟んで座りましょう。
ねえ。
八九寺さん。
いい加減。
寝たふりなんて辞めればいいのに。

「……ふふふ」



【球磨川禊@めだかボックス 死亡】
【羽川翼@化物語シリーズ 死亡】




【一日目/午後/F-4】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:人間未満の復活を待つ
 1:復活したら真宵ちゃんの記憶を消してもらう
 2:待ってる間に掲示板を確認し、ツナギちゃんからの情報を書き込む
 3:それから零崎に連絡をとり、情報を伝える
 4:早く玖渚と合流する
 5:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 6:展望台付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です。
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました。
 ※夢は徐々に忘れてゆきます。完全に忘れました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です。
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません。
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識のものが登録されています(ツナギの持っていた携帯電話の番号を知りましたがまだ登録されてはいません)。
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました。


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]寝たふり、ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る
 1:戯言さんと行動
 2:なんでこの二人が
 3:記憶を消すとはどう言う事ですか
 4:こっそり聞きたいけど隣に居て聞けません……
 5:頭が上手く回りません……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です。
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(大)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
 3:気が向いたら骨董アパートにでも。
 4:球磨川さんを待ちましょう。
 5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました。
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました。
 ※弱さを見取れる可能性が生じています
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません

89名無しさん:2013/08/16(金) 19:29:18 ID:Wde5iXAc0
投下お疲れ様です!
いやーここに来てバンバン人が死んでいって放送後も楽しみですね!
予約に羽川がいた時点であまりいい気はしなかったが、クマーが見事にやらかしたなあ……w
そうだよなあ、ストレスを請け負うストレスの権化ってまんまぬるい友情とかその類なんだよね。
弱さを受け入れてしまう、弱さ。どこか似ているからこそ黒羽川も怖かっただろうに……。
今回の主役とも言えた七実もまた、そういう西尾的な強い弱いの感覚に悩まされて今後どう転んでいくかも楽しみなところ。
前回受けた問いに対する答えも決まり、いーちゃんはそちらに傾いたのかあ。
しかし八九寺が聞いてるし、素直に聞き入れるとも思えないし……あーもう次回が楽しみで仕方がない!w
そしてまあ安心院さんの暗躍が続くなあw
今回の場合は原作通りですが、彼女の立ち位置は一体何なんだろうなあ。


球磨川安心院パートの続きですが、
今回の話としてはこれで区切りとして、
例外的に球磨川と安心院に関しては自己リレーも有りと言う形で予約を受け付け、次話に回す。
なんていう体裁でいいんじゃないでしょうか。
もしかしたら繋ぎたいという人がいるかもしれませんし、
みんなが繋ぐの厳しそうだな、とmt氏が感じたならばその時に改めて氏が予約して繋いでいけばいいと思います。


改めて投下乙です。
全体的にキャラクターや強い弱いの概念の解釈が凄く面白く、ついつい「成程なあ」と呟きながら読んでました!
めだかちゃんと七実の違いは、そうだよなあ。そうなんだよな。似ているようで真逆なんだよなあ。

90名無しさん:2013/08/16(金) 22:02:21 ID:PhorsfBYO
投下乙です!
「曲者揃い」こういうものだと言わんばかりのこの面子で嵐が吹き荒れないはずもなく。とりあえず球磨川は毎度ながら自重しろ。
今回やったことといえばJKにセクハラして口説き落とそうとしたあげくに頭吹き飛ばされて死んだだけだというのに、この存在感の強さは流石というべきなのかどうか・・・
死者二名とはいえ、球磨川次第では両名とも次には生き返ってる可能性が十分にあるからなぁ・・・安心院さんから能力の制限について聞いたことがどう影響するのか。
そして球磨川および戯言遣いに対して確実にデレてきてる七実姉さん。
戯言遣いを「強い」と断言したのにはなるほどなぁと思いました。まあ原作のこいつは不死身みたいなものだから、生き損ないの姉さんが一目置くのも無理からぬ話ですが。
ていうかこれ、首輪解除成功しちゃった・・・?
「首輪が外せないなら、首ごと外せばいいじゃない」いやそれはそうだろうけどもwww
あと今回、カオスメンバーのせいで埋もれに埋もれた真宵ちゃん。彼女は自分の「記憶」に対してどういった解答を出すのでしょうか。
一段落ついたようで、いまだ嵐は去っていないという・・・次回こそ彼らは纏まるのか、それとも再び荒れ狂うのか、非常に楽しみです。

安心院さんのパートに関しては概ね>>89の方と同意見ですが、軽いネタ程度であればこの話に追加する形にしたほうがメリハリ的にはいいかと思います

91 ◆ARe2lZhvho:2013/08/17(土) 08:17:07 ID:RDKGzAoc0
あえてトリつきで

投下乙です!
予約の時点で嫌な予感しかしなかったけどこうくるとは…
いーちゃん見て羽川が怒り狂うってのは当然でしかなかったけど、球磨川に対してああいう反応するのはいざ見せられたら納得する他ありませんでした
善吉も原作であんなだったしそもそもクマーにまともな反応できる方がおかしいんだよなぁw
強さ弱さの対比は「本当にお前ら弱いのかよwwwww」ってやつらばっかりだからその観点は目から鱗でした
八九寺も起きちゃってるし続きもまた一波乱ありそうだなぁ…

安心院さんパートですが自分でも続きを書けないことはないと思うので>>89でいいと思いますが、蘇生の問題などもあるので個人的には氏が書いた方が揉めずに済むかとは思います

92 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:47:35 ID:e153NETs0
予約分投下します

93 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:48:56 ID:e153NETs0
<<<<<人生は
      ゼロゲーム
       なんです。>>>>>心当たりがあるかもしれません


どっきりもんだい編
1 図書館/一階受付付近

僕こと櫃内様刻は同行者である無桐伊織さんと共に図書館へ辿り着いた。
伊織さんが玖渚さんとの通話を終えてからはこれといった会話は特にしていない。
未だに繰想術の影響下にある僕を気遣ってくれたのか、あるいは――
不要湖を抜けた後は地面はなだらかになっていたし、見通しもよかったのでそれらしい建物を見つけるのは簡単だった。
もちろん、周囲や建物の中に危険かそうでないかは関係なく人間がいる可能性は十分にあったので警戒を怠ったつもりはないけれど。
それらしい気配は僕も伊織さんも感じなかったので中に入ったはいいが、

「様刻さん、ここって美術館ですかね?」
「いや、図書館だろう。地図の通り来たんだし」
「じゃあその地図が間違っていたんでしょうか」
「信用問題に関わるから間違った地図を配布するなんてことは主催はしないと思うが」
「ならちょっと質問の趣旨を変えますが、ぱっと見でここが図書館だとわかりますか?」
「正直……疑うかな」
「でしょう?」
「でもまあ、本いっぱいあるし閲覧スペースもあるししばらく見ればわかると思う」
「それもそうですね」

入って早々議論になったのも無理はない。
僕達が想像していた一般的な図書館とは随分と違う内装だったからだ。
例えるならば、某アニメ制作会社がデザインしたような。
本棚の配置は個性的だし螺旋階段が複数、しかもお互い近い位置にあるし(せめて場所を離せと思う)、胸像が置いてあるし……美術館と見紛うてもおかしくはない。
伊織さんも半分はネタで言ってたんだろう。
というかそうでないと引く。

「で、どうします?」
「どうすると言っても普通に探索するしかないんじゃ?」
「その通りなんですけど様刻さんはどこから探すのかなって」
「そりゃあ、DVDがあるだろう映像フロアからだけど……って『様刻さんは』?」
「なら私は普通に一階の開架から探しますかねえ……ってどうしたんですか?」
「あのさ、さっきの僕の話聞いてた?」
「ああ、DVDが自動的に記録されてるかもしれないって話でしたっけ」
「いや、その前なんだけど……」
「……あ、思い出しました思い出しました。誰か主催側の人間が潜伏してるかもって話でしたね」
「そこまで思い出したなら僕の言いたいこともわかってくれるよな?」
「確かに可能性が低いとはいえ手分けして探すのは愚策でしたね。伊織ちゃんうっかりしてました」
「ま、気付いてくれたらいいんだけどさ」

外観と中身のギャップに最初は驚きこそしたけれどやっぱり隠れられる場所はそこかしこにあるからな。
僕達以外の人間がいない可能性も決して高くはないだろうし用心しておくに越したことはない。
後ろに伊織さんがいることをちゃんと確認してから僕は映像フロアがある三階を目指して螺旋階段を登りだした。

94 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:49:26 ID:e153NETs0

2 エリアF-7/北部

ふらふらと、ぶらぶらと、ゆらゆらと、彷徨うように、遷ろうように、漂うように、存在した。
西条玉藻という名の『現象』は。
かの人間失格にもひけを取らない気まぐれさを持つ彼女であるが、人類最強の言に従うという気まぐれをおこしたらしい。
現象に気まぐれという単語をあてるのもふさわしくないかもしれないが。
そして、彼女から一定の距離を置いたある地点。
例えば、樹上。
例えば、塀の側。
例えば、屋根の上。
同じところには一分と佇むことなく、常に移動し続ける影があった。
影の正体は滅びかけた、否、滅んでしまった忍の里の十二頭領が一人。
更にその中でも実質的な束ね役を担い、二つ名に神を冠した男。
『神の鳳凰』真庭鳳凰の姿がそこにあった。
彼は首輪探知機に表示された光点をかなり前から発見し、尾けているが未だに手を出せないでいる。
一つ目の理由としては、彼女が真庭狂犬を葬ったからだと言えよう。
どういうわけか、毒刀はおろか武器らしい武器も持っていないようだが。
貝木泥舟から奪ったデイパックの中に入っていた江迎怒江のデイパックの更に中、真庭狂犬のデイパックから記録辿りで読み取った情報なのでまず間違いない。
また、貝木のデイパックにも彼女の情報が記録されていた。
二つ目の理由に繋がるが、見かけからは想像もできぬ速度で走る身体能力や察知能力を見て迂闊には手を出すべきではないと判断したのだ。
その二つ目の理由とは、

「……ふむ。やはりこの距離からでも感付かれるか」

懐から取り出しかけたデザートイーグルを戻す。
構えてすらいなかったのに彼女の首がぐるり、と回り鳳凰の方向を見据えたのだ。
目の焦点は定まっておらず、鳳凰の存在には気付いてないだろうが、それ故に恐ろしい。
彼女はおそらくは「なんとなく」で振り向いただろうことから戦闘能力の高さが窺える。

「我の目的は殺戮ではなく優勝。今無理をして殺す必要もないが……」

建物の陰へと移動しつつ探知機を取り出す。
移動したことで端に現れた光点を見て鳳凰の口角がつり上がった。

「あやつに協調性などあるとも思えぬし、仮に徒党を組まれても狙撃という手段もある。つぶし合いを期待するのも手か」

先程より少しだけ玉藻から距離をおきつつも鳳凰の尾行は続く。

95 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:51:25 ID:e153NETs0
3 図書館/三階映像フロア

特徴的な内装に多少は戸惑ったが見取り図はちゃんとしたものだったので迷うことはなかった。
うん、やはり建物というのはこうでなくっちゃな。
尤も、到着してからが問題なんだけども。
あのDVDは参加者でも発見できるとはいえ、そう易々と見つけられるとは思えなかったからだ。
だって、決して狭くない範囲にそのDVDだけがぽつんと置いてあったら警戒する。
逆に罠だと思って触れることすらしないかもしれない。
ただまあ、宗像さんの話だと見つけたのは火憐さんだったらしいし彼女はそんなこと気にする性格には思えなかったけど。
そしてここまで並べ立てておいてなんだが、僕の懸念は杞憂だったようで目的のDVDはあっさり見つかった。

「実物を見せてもらっておけばよかったとか思う暇もなかったな」
「あっさり見つかりましたもんね」
「これも火憐さんが事前に訪れていたおかげ、かな」

ぎっしり、とまではいかずともそれなりに並べられた棚の中、大きい隙間があれば嫌でも目につく。
それに、この棚だけ何故か最下部に映像資料は並んでおらず、真っ黒な板で覆われていたのだから尚更だ。

「でもこれ、放送ごとに追加されると思ってましたけどどうやらリアルタイムで作られてるようですねえ」
「みたいだな。確か第二放送で死んだのが7人、今ここにあるのが14本か……」
「相変わらず積極的な人はいるようで」
「僕達の近くにいないことを願うばかりだよ」
「私としては双識さんが人を殺して回ってないかも心配なんですけどね。人識くんや私と違って何かあったら容赦はしない人ですし」
「忘れかけてたけど殺人鬼だったんだっけ」

よくよく考えなくても恐ろしい状況だった。
殺人鬼とバトルロワイアルについて呑気に会話するって。
普通なら僕真っ先に殺されててもおかしくないぜ?

「で、持ち出すのは当然としまして内訳はどうします?」
「この本数なら半々にすればいいんじゃないのか?僕は番号が若い方にするけど」
「第二放送はそちら側でしょうしね。じゃあ残りを……」

言いかけた伊織さんの動きが言葉と共に止まるが無理はない。
前触れもなくDVDが下から『せり出て』きたのだ。
驚きだとか様々な感情や思考が僕の中で渦巻いてはいたが、とりあえず疑問の一つは氷解した。
なるほど、下の部分は編集機械とでも考えておけばいいのか。
DVDが置かれる場所に対して棚の覆われている部分が大きすぎるし、全て録画してあったとしてもおかしくはないかもしれない。
そう考えることを見越してカムフラージュされてるだけかもしれないが。
さすがに死んだかどうかの判断までは自動でできないと思うからそこについては人間が遠隔で操作してるとは思うけど。

「……ともかく、これで人間が手動で動かしてる可能性ってのは消えたかな」
「ですかねえ。あれ、何かおかしくありません?」

今しがた出てきた8本目のDVDをデイパックに放り込みながら伊織さんが何かに気付いたみたいだ。
僕には不審な点は見当たらないけど……

「そうか?そもそも言ってしまえばこんなDVDが存在するってことがおかしいんだし」
「いや、もうその辺のことには目を瞑っていただくとしまして、ほら、DVDが置いてあった場所に線が見えるじゃないですか」
「本当だ。さっきまでの僕達の立ち位置とDVDで影になって見えなかったのか」

少し考えればわかることだが、金属の板を通り抜けて物が出てくるわけがないのだ。
取り出し口のようなものがあって当たり前である。
そこを利用して下の部分を覗き見れるか試してみたがこちらからはどうにもできなさそうだった。

「それでですね、私気付いちゃったんですよ。左側がなーんか狭いなーって」
「言われてみれば確かに。えっと、一番新しい番号が25だったから……端に出るのは40本目?」
「でも参加者は全部で45人でしょう?最後に残る人は死なないとしても4本足りないじゃないですか」
「40本までしか作れない、なんて技術的な問題じゃあなさそうだし……つまり、何らかの目的があるってことか?」
「恐らくはそうでしょうね。ただ、残りが5人になったときに意味があるのか、あくまでも目安に過ぎないのかどうかすらわかりませんが」

96 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:52:31 ID:e153NETs0
「手がかりが少なすぎるんだよな……かと思えばネットワークは一般人からすれば不自由なく使えるし、主催からすれば意味のないだろうDVDは置いてあるし」
「案外答えがもう出ていたりして。そういえば最初の場所でお爺さんが言ってたじゃないですか『この『実験』で遂に悲願を果たせる』とかなんとか」
「『実験』――確かに言ってた。……待てよ、その直前にも何か言ってたはず。なんだったっけ……」
「あのときどうにも眠くなっていましたからねー。今無理して思い出さなくてもいいんじゃないですか?まだ探索してない場所はありますしそれが終わってからでも」
「その通りなんだけど、一度気になってしまうと、な」

このもやもやとした気分、くろね子さんの気持ちが少しだけわかった気がする。
さすがに自殺したくなったりはしないけれど。


4 図書館/一階閲覧スペース

開架、閉架問わず館内を隈無く探索した僕達だったけれど、DVD以外に成果は得られず、参加者に出会うこともなかった。
参加者が潜んでいたところで、危険人物の可能性は大いにあったんだしプラスマイナスは零ってとこだろう。
宗像さんの話から聞き及んでいた感じじゃあ図書館内でDVDの視聴はできなさそうだったけど、時間が経っていたしあるいは、と思ったが無駄だった。
全部で13台あったうち12台は電源すら入らず残りの一台はディスプレイが破壊されていたとかさあ……
宗像さんがやったとは思えないし火憐さんの仕業だろう、きっと。
どうせ僕達はこれから玖渚さんと再び合流するんだし今確認することの必要性は薄かったんだし、と自分に言い聞かせる。
これだけ時間が進み、死人も増えた現状時宮時刻を殺したやつが死んでいないとも限らない。
なんにせよ、今焦っても仕方がないのだ。
それに、今まで精神的なショックやら歩き詰めになっていて休息をほとんど取っていなかったこともある。
いざ座ってみれば疲労が一気に襲ってきたので伊織さんが休憩を提案してくれたのは素直に嬉しかった。

「食べ物って一人一人違ってたんだな」
「私はまだリハビリ中の身ですからお箸は十全に扱えませんからね、様刻さんが交換に応じてくださって助かりました」
「別にお礼を言われる程のものじゃないよ」

僕の食料がバランス栄養食品、いわゆるカ○リーメイトだったのに対し、伊織さんの食料はいかにもコンビニで売ってそうな弁当だった。
味気ない栄養食より様々な味が楽しめる弁当の方がよかったのでこの交換は僕にとっても利があるのだ。
口に出すことは憚られるけど。
しかし、咎める人がいないからと堂々と広げているがこれが結構気持ちいい。
禁忌を破るってこういう感覚なのだろうか。
いや、もちろん、殺人なんかと一緒くたにするつもりは全くない。
あんなもの、一度だって経験しなくていいものだ。
ああ、嫌なことを思い出してしまったよ、もう。
僕が背負うべきものなのだから忘れることは一生できないけれど。

「様刻さん、どうしました?顔色が優れないようですが」

それでも、今はちょっとだけ離れさせて欲しいんだ。

「そうか?考えてみればまともに休むのって今が初めてだったから」

でないと重みで潰れてしまいそうで。

「私が言うのもなんですけど、無理はしないでくださいよう」

逃げたくなってしまう。

「大丈夫だって。長居はできないしそろそろ出発しようか」
「あ、じゃあトイレ行ってからにしましょう。研究所出てからまだ行ってないですので」
「僕もそうしようか。どこにあったっけ」
「確か男子が三階、女子が二階ですね」
「一階にはないのか……」
「文句を言ってもしょうがありません。入口で待ち合わせましょうか」
「ま、別行動しても問題なさそうだしそれでいいよ」
「では」

97 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:52:54 ID:e153NETs0

空き箱や食べかすなどを綺麗に集めてデイパックに突っ込んで伊織さんは足早に離れていく。
我慢していたのだろうか、気づけなかったのが恥ずかしい。
それでいて、後始末を忘れないあたりはさすがと言う他ない。
誰かがいた痕跡を残すのはどう考えても得策ではないし。
僕も同じように片付けて席を後にする。
さっきとは違う螺旋階段を登りながらふと思い出したことがあった。
それはさっきまで必死に思い出そうと努力していたことではなく、ほんの少ししか会話をしなかった阿良々木火憐さんのことだった。


5 図書館/三階開架

『こう言っちゃなんだけどさ、あんたはあたしの兄ちゃんに似てるよ。そういう過保護なところとかさ』

彼女との口論は基本的に高圧的な物言いを僕がいかに受け流すかだったように思う。
その中で僕が強固に反応したときにムキになった火憐さんが返したのがこれだったはずだ。
僕が溺愛する妹である夜月とは性別くらいしか共通点がなさそうな彼女だったけど、彼女から見るにお兄さんと僕には共通点はあったらしい。
普通妹ってのは大事な存在なんだ、過保護にならない方がおかしい。
だからといって夜月をいじめっ子から助けるために骨を折って入院させたのはやりすぎだったと思うけど。
というかあれはさすがにやる前に気づけよ、僕。
翻って伊織さんはどうだろう。
彼女の本当の母親は死んだらしい。
彼女の本当の父親も死んだらしい。
彼女の本当の姉も死んだそうだし、彼女の本当の兄も死んだそうだ。
代わりにその直後に新しい家族ができて、兄も二人できたけれど上の方の兄はすぐ死んだらしい。
一緒に過ごした時間は一日にも満たなかったけれど、それでも大きなものを得ることができたと話していた。
ただ、年の近い兄である零崎人識についてはそれほど詳しく聞かせてくれなかったように思う。

――気まぐれで『兄貴以外を家族と思っちゃいない』とか言っておきながらちゃんと私のことを気にかけてくれる人なんですよう。

後は、精々『競争相手なんです』と言っていたくらいか。
何の競争相手なのかは聞かない方がいいと思ったので聞かなかった。
言われてみれば、僕のとっさの申し出にも付き合ってくれたいいやつだった反面、あのときあっさり僕から離れて行ってしまったっけ。
それについては僕に全面的に非があるので零崎の行動について非難するつもりはこれっぽっちもないが。
むしろ途中までとはいえついてきてくれたことにお礼を述べるべきなのだ。
話を戻すが、伊織さんと零崎の間には兄妹らしさはあまり感じられなかったように思う。
兄と妹、という関係ではなく弟同士妹同士とでも言えばいいのか。
一言で片付けてしまうならば『対等』な関係。
一般的な兄妹関係ではないのだから多少は複雑なのもうなずけるが、それでも本来あるべき姿からはかけ離れていたように感じた。
おそらくは伊織さんではなく零崎に起因するものだと思うが……
尤も、僅かな時間しか共に過ごしていない僕が邪推するのも身の程知らずというものだろう。
そこまで考えて、トイレからの帰り道で唐突にあることに気づく。

「ん、ここ通ることになるのか」

さっきは探索しながらですぐ奥に行っていたため気づかなかったが、トイレとの最短距離だとDVDを見つけた棚を通ることになるらしい。
それがどうしたという話だが、棚にぽつんとDVDが置いてあれば話は別だ。
やれやれ、僕達がここを後にした短い時間の間にもまた死人が出たらしい。
僕達の知る人じゃないことを祈りつつ慣れた手つきでデイパックに放り込むと伊織さんが待ってるだろう入口へ向かった。


『時宮時刻』が『時宮時刻』を殺していた。

98 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:53:25 ID:e153NETs0
6 図書館/一階入口付近

久しぶりに嗅ぐ匂い。
だけど嗅ぎ慣れた匂い。
なぜこの匂いを僕は知っているのだろう。
違う、なぜこの匂いに気づけなかったのだろう。
だってそれは僕がずっと放っていたじゃないか。

落ち着け。
落ち着け。
興奮するな。
昂奮するな。
静まれ。
鎮まれ。
あの二人は時宮時刻じゃない。
同じ人間が二人いるわけない。
時宮時刻は死んだはずだ。

「■■■■■■……?」

大鋏を銜えた『時宮時刻』が、僕に顔を向ける。
いや、『時宮時刻』じゃない。

あれは――無桐伊織さんだ。

これが、彼女の言っていたことだったのか……?
この溢れる殺気をずっと抑えてきていたのか……?
僕に向けられたわけでもないのに立ち竦んでしまう。
しかし、現状の把握が精一杯で思考が追いついていない僕に現実はそう待ってくれるわけがなかった。

伊織さんが跳ねる。
『時宮時刻』、いや、少女の死体がびくんと動く。
遅れて、ぱん、と音がする。
銃声だ。
大鋏を銜えたまま伊織さんが飛び出していく。
けたたましい音が響く。
防犯ゲートからだろう。

僕はそれらを呆然とただ見ることしかできなかった。


【1日目/夕方/F−7 図書館】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]暴走
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ、バトルロワイアル死亡者DVD(18〜25)@不明
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:? ? ?
 1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
 2:そろそろ玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。

99 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:53:43 ID:e153NETs0
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康 、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備] スマートフォン@現実
[道具]支給品一式、影谷蛇之のダーツ×10@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜17、26)@不明
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う。
 0:…………え?
 1:玖渚さん達と合流するためランドセルランドへ向かう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰か知りたい。
 3:玖渚さんと宗像さんは大丈夫かな……。
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※黒神めだかについて詳しい情報を知りません。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、次以降の書き手さんに任せます。

【1日目/夕方/F−7 図書館付近】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、精神的疲労(小)、左腕負傷
[装備]炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、匂宮出夢の右腕(命結びにより)
[道具]支給品一式×6(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、
   首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、
   薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、
   マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:逃げるか?迎え撃つか?
 2:虚刀流を見つけたら名簿を渡す
 3:余計な迷いは捨て、目的だけに専念する
 4:ノートパソコンや拡声器については保留
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※右腕に対する恐怖心を克服しました。が、今後、何かのきっかけで異常をきたす可能性は残ってます。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

 ※辺りに防犯ゲートのブザー音が鳴り響きました。
 ※西条玉藻の支給品一式は彼女の死体の側に放置してあります。

100 ◆ARe2lZhvho:2013/08/30(金) 20:54:11 ID:e153NETs0
ねたばらし編
7 ???/???

なぜ僕が変わらず語り部をやっているかについては特に理由はない。
このあとあっさり死んでしまっていわゆる死後の世界から全てを知った、
運良く生き延びて事の顛末を聞いた、
いわゆる神が僕の口調を借りている、だとかそんなものでいい。
肝心なのは図書館で立ち尽くしている僕はその事実を知らないということさえわかっていてくれればいいということだ。
どうしてこんな曖昧な形になってしまうかというと、一部始終を全て見ていたとしてもそれらの事象を説明するにはどうしても推論が入ってしまわざるを得ないからだ。
それらに無理矢理にでも納得していただいたところで答え合わせにすらならないドッキリのねたばらしを始めよう。
始めたところで、終わりが来るとは思えないけれども。

そもそも、無桐伊織さんの殺人衝動は限界まではまだ余裕があったはずだった。
少なくとも、本来辿るべき未来から鑑みるにまだ2ヶ月は耐えられるだけの。
その閾値が下がった原因としては、まず第一にこのバトルロワイアルで間違いないだろう。
いくら会場が広くても閉鎖空間ということに変わりはなく、ましてや行われているのは殺し合い。
更には、僕という存在と6時間以上同行していたことも悪手だった。
正確に言うなら『病院坂黒猫の返り血をたっぷりと浴びた』僕という存在が、だ。
『血の匂い』というのは『死の匂い』に結びつく。
僕の側にいたことで彼女の殺人衝動は加速度的に溜まっていった。
そして不要湖での日和号との邂逅を経て、ついに限界を迎えてしまったのだろう。
おっと、これだけではまだ側面を語ったに過ぎない。
僕からすれば名前すら知らない二人――西条玉藻と真庭鳳凰――についても述べなければならないだろう。
ただ、真庭鳳凰については多くを述べる必要はない。
西条玉藻を尾行し、図書館の入口が見えるところで待ち構え、伊織さんが隙を見せた瞬間を狙って狙撃しただけのこと。
『殺気を感じ取る』という零崎一賊の特性からか、彼女に銃弾は当たることなくむしろ自身の居場所を教えてしまう結果に終わったが。
一方の西条玉藻、こちらは簡単に済ますわけにはいかない。
僕より早く席を立った伊織さんは当然ながら僕より早く入口に着いていた。
そこで訪れたのが一般人ならあの惨状にはならなかっただろう。
例え殺し合いに乗った者であったとしてもだ。
だが、伊織さんのコンディションを考えるなら現時点で生き残っている参加者の中ではほぼ最悪に近いカードを引いてしまっていた。
毒は抜けても狂戦士。
何もしていなくても溢れ出る狂気は伊織さんの精神を昂ぶらせるには十分だった。
加えて、彼女は武器を持っておらず身を守るすべが体術しかなかったというのもあるだろうが、それでも無抵抗で殺されるようなタマではない。
彼女は『動かなかった』のではなく『動けなかった』のだ。
例え狂戦士であれど格というものは存在する。
格上の狂戦士を相手にしたとき怯んでしまったように、伊織さんが放った圧倒的な殺気は彼女の動きを止めるのには十分だった。
後は説明する必要もないだろう。
硬直している彼女の頸動脈を自殺志願の刃が切り裂いただけのこと。
彼女が伊織さんを見た直後に呟いた『あなた、ひとしきくんの――』という響きは誰にも届くことはなく。


【西条玉藻@戯言シリーズ 死亡】


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