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パラレルワールド・バトルロワイアル part2

1 ◆rNn3lLuznA:2011/09/23(金) 01:17:06 ID:hUjGYcYM
『バトル・ロワイアル』パロディリレーSS企画『パラレルワールド・バトルロワイアル』のスレッドです。
企画上、グロテスクな表現、版権キャラクターの死亡などの要素が含まれております。
これらの要素が苦手な方は、くれぐれもご注意ください。

前スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14757/1309963600/

【外部サイト】
パラレルワールド・バトルロワイアルまとめwiki
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219MEMORIA-黒き騎士の記憶 ◆bbcIbvVI2g:2011/12/08(木) 22:35:47 ID:hyPGLGE6

それが何を意味するのか、セイバーは把握した。
つまりはこの家は平行世界の物なのだろう。おそらく切継とアイリスフィールが聖杯戦争に参加しなかったか、途中で全てを捨てて逃げたか。

「あのアカギとかいう男は第二魔法を使えるということか」

まあセイバーとしてはだからどうしたという話なのだが。
とりあえずあのイリヤスフィールはおそらくこちらの存在なのだろうという推測は立った。
あのイリヤスフィールがあの時のような激しい感情の起伏を表した声をあげたりはしないはずだ。
それにしても――

「……」

この顔を見ていると、自分がどれだけ衛宮切継という男に疎まれていたのかが分かるようだ。

切継がマスターであった日々は英霊の中でも特別な存在である自分には未だに記憶に新しい。
聖杯が何なのかということはあの泥に飲まれこの姿を与えられた時に知った。
だからあの時の切継の判断に今更とやかく思ったりしない。
ただ、もしあの時の切継のサーヴァントが理想を追うアルトリアではなく、全ての絶望を知った今の自分であったなら。
かつてのマスターの中の絶望を理解できたのだろうか?

「………」

これ以上は今の自分には何の関係もない話だ。そう頭を切り替え、もっと建設的なことを考えることにする。
あのイリヤスフィールがこのアルバムに載った彼女であったとしても、アインツベルンそのものが無いわけではないだろう。
それによく分からない魔術も使っていた。魔術の世界とは関わりをなくしたようでも本質は変わっていないはずだ。
一方で、アイリスフィールが己の娘を一般人として生きさせるのに聖杯の器の役割を残すとは思えない。
どうにかしてそれを封印したか、あるいは喪失させたか。どちらにしても何かしらの名残はあるはずだ。
それを探してページをめくっているうちに、気になる存在が現れた。
イリヤスフィールと同じ顔をしながらアーチャーを連想する肌の色をした少女。
友人というには似すぎており、家族というにはその存在が現れたのが唐突すぎる。
名簿を調べる。すると、そこにはアインツベルンの名を持つ者がイリヤスフィールの他にもう一人いた。
クロエ・フォン・アインツベルン。まさか黒いからクロエなどという単調な発想ではないだろうが。
シロウのこともある。イリヤスフィールのことは後回しにしてまずはこのクロエという少女を探すとしよう。

220MEMORIA-黒き騎士の記憶 ◆bbcIbvVI2g:2011/12/08(木) 22:37:24 ID:hyPGLGE6
そんなことを考えているうちにアルバムを読み終わったセイバー。
それを元あった場所へと戻し、今後の動き方を考える。
ここは衛宮邸。そうとしか書かれていない。
つまり、ここを本来(というのもおかしいが)の衛宮邸と勘違いした桜がやってくるかもしれない。
あるいはあのクロエと思しき少女が立ち寄ることもあるかもしれない。
しかしもし来なかったときは時間の無駄となるだろう。
ふと時計を見ると、どうもこの場でかなりの時間を使ってしまったようだ。
ここは早めに出発するべきだと判断する。
目的の人物に関しては周囲をうろついていれば案外見つかることもあるかもしれない。

出るならばどこへ向かうとしようか。
間桐邸に行っている可能性は低いだろう。ここは行かなくてもいいと考える。
柳洞寺。ここも正直気がかりだ。だが距離がある。立ち寄る暇があれば寄るくらいでもいいだろう。
そしてもう一つ気になる施設があった。
アヴァロン。すでに失われた己の聖剣の鞘の名を冠した施設。だがやはり遠く、柳洞寺とは別方向となっている。
ともあれどちらを選んでも北に向かうことには変わりない。それに北に行けばシロウとイリヤスフィールにしばらくは会うこともないだろう。

そうして方針を決めたセイバーは今の主を探すために、別世界の主とその家族の住んでいただろう家を出発した。
その中で感じた過去への思いを、もう思い出すことがないように心の奥に閉じ込めて。

【F-4/衛宮邸付近/一日目 午前】

【セイバー・オルタ@Fate/stay night】
[状態]:健康、黒化、魔力消費(微小)
[装備]:グラム@Fate/stay night
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本:間桐桜のサーヴァントとして、間桐桜を優勝させる
1:人の居そうな場所に向かう。まずは北上する
2:間桐桜を探して、安全を確保する
3:エクスカリバーを探す
4:間桐桜を除く参加者全員の殲滅
5:クロエ・フォン・アインツベルンを探す
6:もし士郎たちに合った時は、イリヤスフィールが聖杯の器かどうかをはっきり確かめる(積極的には探さない
[備考]
※間桐桜とのラインは途切れています
※プリズマ☆イリヤの世界の存在を知りました
 クロエ・フォン・アインツベルンという存在が聖杯の器に関わっていると推測しています

221名無しさん:2011/12/08(木) 22:38:36 ID:hyPGLGE6
投下終了です
「それはないだろ」とか「こんなの絶対おかしいよ!」というところがあれば指摘お願いします

222名無しさん:2011/12/08(木) 22:57:09 ID:sR0JC2io
投下乙です

そっちの士郎の家か
ああ、確かそっちのキリツグは幸せな家庭を築いてたっけ
セイバーから見たら色々と感慨深いよな…
なんかフラグが立った気もするが北は…

223名無しさん:2011/12/09(金) 15:45:21 ID:10nni.g.
投下乙です。
そうか聖杯の正体は知ってるんだなこのセイバーは。キリツグについては…複雑である
「こんなの絶対おかしいよ!」
正しくは衞宮切「嗣」です。間違えやすいので気を付けませう

224 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:31:29 ID:rA5XuZ82
投下します

225少女地獄 序章 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:32:05 ID:rA5XuZ82

 朝日は昇り、朝焼けから青空に移り変わる。
 森を抜け、平原にたどり着いたとき、時間はちょうど六時となった。
 車椅子の少女ナナリー、人類解放軍の象徴とも言える少女真理、ポケモンブリーダーを目指す少年タケシ。
 三人は時間までにポケモンセンターへと辿りつけなかったことを悔いながら、放送に耳を傾ける。
 内容は三人にとって、衝撃的なものだった。
「咲世子さん……? お兄……様……?」
 固まっている三人の中で、最初に反応したのはナナリーだった。
 声は震えて事実の認識を拒んでいた。
 ただ兄が死んだと聞かされただけ。受け入れるには死体がなく、確証などありはしない。
 だけど、アカギが誰かを殺したとき、肉の焼ける匂いを嗅ぎとった。
 それに、あのときもそうだった。兄が行方不明だと聞かされたときも死体と確証がなかった。
 またも理不尽に奪われる。母も、体の自由も、兄も。
 どうしてこんなに奪われてばかりなのか。優しい世界なんて存在しないのではないか。
『咲世子やお兄様を殺した奴が憎いか?』
(やめて!)
 ネモが問いかけ、ナナリーは歯を食いしばりながら抵抗する。
 彼女は自分の負の感情をもらいし者。漏れ出す殺意に身を任せそうになるのを、必至で堪える。
『なにを迷う。殺し合いはここのルールだ。殺す覚悟があるなら、殺される覚悟もあるということだ。
この二人に頼むか、あるいは置いていってお兄様たちの仇を探せばいい。誰にも非難される謂れはない』
(お願い……やめて……)
 シンジュクでは彼女と契約することになった。
 だが今は、悪魔のささやきにも聞こえるおのれの本心に自己嫌悪するだけだ。
 優しい世界を望みつつ、己の本性は優しさから遠い。何もかも投げ出したくなる。
 そんなとき、彼女の車椅子が押された。
「マリさん、ここに長居してもいいことはありません。ひとまずポケモンセンターに向かいましょう」
 冷静な声音でタケシが先を促す。
 真理は心ここにあらずといった様子だったが、呼びかけに答えた。
「う、うん。確かにボーッとしてるよりマシよね。けど、いいの?」
「放送のことですか? 俺はサトシもヒカリも、死んだなんて信じません。
判断材料はアカギさんの放送しかありません。自分達を騙してプラズマ団のボスだった男です。信じる要素がありません。
だからひとまず、放送で呼ばれた相手は死体を見つけるまで無視しておきましょう」
 さすがに禁止領域はそうもいきませんけど、とタケシは最後に付け足した。
 だがナナリーは車椅子を押す彼の腕が震えていることを感じ取り、地面に手のひらからの血が落ちるかすかな音を聞いた。
 きっとやせ我慢なのだろう。
 タケシという少年は聡い。この放送を楽観的な思考で嘘だと断じるような性格ではない。
 あえてそう言ったのは、きっと自分を、真理を気遣っての行動なのだ。
 兄が死んだ自分。啓太郎という仲間を喪った真理。
 彼だって、サトシとヒカリといった仲間を喪った直後なのに。
「さて、ナナリー、マリさん。そろそろ……」
 いきましょう、とタケシが続けようとしたときだ。
 放送に気を取られて、探知機を見る暇もなかったのが仇となる。
 川を飛び越え、三人の眼前に立つ存在があった。
「あれは……ファイズ? 違う……けど誰?!」
 真理が前に立ち、銃を向ける。ファイズに酷似したベルトの相手もブラスターモードの銃を向けた。
「人を殺すために撃とうとする……あなたは悪い人ですか?」
「あ、ごめん。あなた、女の子?」
 真理が銃を下げて謝罪をすると、相手も銃を収めて変身を解いた。
 つややかな長い髪の、理想的なスタイルをもつ、妖しい魅力がある女性だ。
「頭を怪我しているじゃない!」
 真理は頭部の怪我を発見すると、相手の返事も待たず腕を取る。
 フラっとしたためだろう、肩を貸し始めた。
「タケシ、ナナリーちゃんをお願い。私はこの娘に肩を貸すから」
「もちろんです」
 そのままポケモンセンターを目指そうとした一同に、謎の女性は声をかけた。
「私を助けるつもりなんですか……?」
「当たり前じゃない。そんなフラフラで強がんないの。怪我人は黙って助けられておく、いい?」
 いろいろ聞きたいことを抑えて、真理は相手の返事を待たず言い切る。
 ナナリーはサバサバした対応に感心しながら、ポケモンセンターに向かうままに任せた。
 ただ、ネモが苦虫を噛み潰したような顔をしていたのが気にかかった。



226少女地獄 序章 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:32:32 ID:rA5XuZ82
 ポケモンセンターの内部は病院を彷彿させた。
 受付のカウンターと、白い印象の部屋。受付に並ぶいくつもの椅子。奥には診察室があった。
 おまけに食堂、宿泊施設が存在しているらしい。
 タケシが言うには、『ポケモンの病院であり、ポケモントレーナーの支援施設』とのこと。
 ひとまず、治療道具は揃っていたため変身していた女性の手当をした。
「さて、これで楽になったはずです」
「ずいぶん慣れた手つきね。こういうことも得意なの?」
「ええ。ポケモンも人も、怪我を診ることはありましたから。それに、美しい方に傷を残すわけには行きません。
不肖、このタケシにできることがありましたら、なんでもおっしゃってください!」
 真理は見直した自分を殴りたくなった。
 しかし、前と違ってキレがなく、言葉も弱々しい。
 グレッグルがツッコミを入れないのがその証拠だ。
「怪我の治療をありがとうございます。私は間桐桜と申します。
あなた方にお尋ねしたいのですが……センパイ、衛宮士郎という男性にお会いしませんでしたか?」
 衛宮士郎という人物名に、思わずタケシと顔を見合わせる。
 ナナリーは首をひねっているが当然だ。
 衛宮士郎は二人が最初に出会った少女、美遊も探していたからだ。
 別れる際、巧たちの情報と交換したのだ。彼女が探している親友、イリヤの兄というため、話題に上がったのは当然の結果である。
「……先輩に会ったことあるんですか?」
「ごめん、私たちが会ったのは美遊って子なんだ。その子も探していたから……」
「美遊? 先輩の知り合いにそんな人は聞いた覚えがありませんが……」
 桜は顎に人差し指を当てて考え込んだ。頭部の痛みからか、集中できるように見えない。
 そこで、横からタケシが質問する。
「ところで気になっていたのですが、そのベルトは人間にも使えるんですか?」
「うーん、見たこないベルトだけど、基本的にオルフェノクしか変身できないし……あっ、もしかして!」
 真理は勢い良く桜の両肩を使んだ。
「あなた、オルフェノクに会わなかった? 最初の会場で燃やされた怪人みたいなの。
鶴か蛇、狼に似たオルフェノクなら、私たちの味方なんだけど……」
「おるふぇのく? 灰色で人の言葉をしゃべる怪物さんには会いました。けど、その前後はよく覚えていません」
 桜は『味方のオルフェノク』の部分を耳ざとく反応し、嘘を告げた。
 飢餓感があるものの多少マシになったため、手当をした相手を殺したくない、と良心が動いたのだ。
 頭部の怪我で戦闘意欲が薄れていたのと合わせて、誰にとってかわからないが幸いだった。
「うわ……」
「マリさん、どうかしましたか?」
 真理が手のひらを顔に当て、苦い表情を浮かべる。
 何を話そうか迷った末、ゆっくりと落ち着かせるように語り始めた。
「間桐さん、落ち着いて聞いて。あなたはオルフェノクになったかも知れない」
「えっ!? それはどういうことですか、マリさん!?」
 強く反応したのはタケシで、桜はおとなしく聞いていた。
「オルフェノクは自分たちの仲間を増やすことができるの。私の仲間以外の連中に出会ったら襲われるしかない。
だから、ベルトが使える。そう考えたほうがつじつまが合うし……」
「…………そうだったんですか」
 本当は桜は襲われていないし、変身できるのはデルタギアの特異性でしかない。
 彼女にとって都合のいい解釈でもあるため、話を合わせたことにしたのだ。
 そうとも知らず、おずおずといった様子でナナリーが真理に尋ねる。
「あの、オルフェノクになったなら人間に戻ることは……」
「そういう例はなかった。私の仲間も死ぬか、オルフェノクになるしかなかったから。
でも、オルフェノクになっても人とわかり合おうとした仲間だっているよ」
「大丈夫でよ。今のところ、オルフェノクになる様子もありませんし」
 桜がニッコリとしながら答えた。
 真理はどこか生気が感じられない笑顔だと思ったが、気のせいだと結論をつける。
「それじゃあ、少しポケモンセンターを探りましょう。基本、自分が知っているポケモンセンターと変わらないと思いますが、一応念には念を入れて」
「うん、積もる話は後回しにして、ちょっと回ろうか。ナナリーちゃんと間桐さんはここで待っててもらえるかな?」
 構わない、という返事を受けて、タケシを伴って施設を進んだ。
 桜の精神状態がいくぶんか落ち着いており、一行の平穏は少しの間だけ保証された。

227少女地獄 序章 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:32:55 ID:rA5XuZ82



 広い浴槽は音がよく響く。
 タイル貼りの床を、ナナリーを助けながら真理は中の広さに感心した。
 ちょっとした銭湯くらいの広さはある。トレーナーの宿泊施設も兼ねているというのは、伊達ではないということか。
 なぜ今風呂場に訪れているのかというと、理由は単純だった。
 施設の探索中に真理が風呂場を発見したのだ。なかなか広く、十人入ってもまだ余裕があるだろう。
 疲れを癒すにもちょうどいいだろう、と女性陣に提案したのだ。
 ちなみに、タケシがその話にピクピク反応していたのは見逃していない。
 覗きに来る度胸はないだろうし、万が一にはグレッグルがどうにかしてくれる。
 もっとも、別のことで気になることはあるのだが。
 ひとまず、ナナリーの体を洗うため、シャワーの前に座らせた。
「あの、真理さん。いろいろありがとうございます」
「ああ、いいよいいよ。さすがに脱がせたりお風呂に入れたりは、私じゃないとまずいしね」
 怪我人である桜もキツイだろうし、と明るく努めた。
「今までは……放送で呼ばれた咲世子さんがやってくれたのですが……」
「そっか」
 真理は白い背中にそっと手を当てた。
「我慢しなくていいよ」
「ッ!? いえ……真理さんだって、お友達を亡くしたそうじゃないですか。
私も……我慢……しない……と……」
 少しだけ口元が優しく緩む。
 腰まで届く亜麻色の髪の手入れは行き届き、肌は透けるように白い。
 佇まいから育ちの良さが感じられ、こんな荒事に向いていると思えない。
 歳相応の背は狭く、儚いものに見えたが、彼女は今二人の大切な人の死を背負っている。
 そう思った瞬間、啓太郎の温かい笑顔が浮かぶ。いつの間にか、真理は彼女を背中から抱きしめていた。
「あ、あの……」
「放送で死んだ啓太郎は空回りするし、空気は読めないし、すぐ騙される奴だったんだ」
 戸惑っているナナリーのつややかな髪を、施設内で見つけた櫛ですく。
「だけど、いい奴なんだ。今あいつがいたらさ、ナナリーちゃんをほうって置かなかった。
まあ、あいつの構い方はちょっとうざったいけど、でもなんか温かいんだ」
 目を細めて、昔を懐かしむ。まだ洗濯屋があり、巧たちと三人で奇妙な共同生活を送っていた頃を。
「今は無理かも知れないし、まだ実感わかないかも知れないけど、お兄さんやお世話になった人のために泣いてあげて。
私たちにはもう、そうすることしかできないから」
 言い終わる前から、真理もナナリーも声を押し殺して泣いていた。
 死んだものは帰ってこない。悲しいことに、この二人は過去にも実感と経験をしていた。
 だから、傷の舐め合いになろうとも、二人で泣き続けた。

228少女地獄 序章 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:33:22 ID:rA5XuZ82



 風呂から上がり、ナナリーと自分の着替えを終えた真理は、桜に近寄った。
 声をかけてこちらを向くが、思わず息を呑む色香があった。
 頭を怪我しているため、風呂の中でも刺激しないようにタオルを巻いていた。
 おかげで白いうなじが露わになっているのだが、うっすらと汗が白い肌に浮かび、こちらを圧倒する。
 タレがちな目は遠くを見据えているようで、掴みどころがない。
 こちらの手のひらを余るだろう胸は、この施設で見つけたナース服(タケシいわく、ジョーイさんの衣装らしい)から確かに主張していた。
 ちなみに施設で見つけた服は、真理とナナリーはあっさり解決したものの、桜だけそうは行かなかった。
 主に胸の部分で合うサイズがなかったのだ。ゆえに今の格好である。
 同性なのにこのスペックの差は何だろうか。少し悲しくなるが、ナナリーのことを桜に頼んだ。
 やるべきことがあるのだ。
 彼女は快く引き受けたため、タケシの元へと向かう。
 自分たちが風呂にはいる前に、朝食の用意をすると宣言したきりだ。
 廊下を二回ほど曲がり、食堂らしき部屋の奥へ入ると、厨房でタケシが作り置きしていたスープを温めていた。
 そのついでに見つけた食材を調理したのだろう。焼きたての目玉焼きとハムが食卓に用意されている。
 感心していると、勘づいたのかグレッグルが真理の裾を引っ張った。
 グル〜、と低く鳴いて、あまり可愛くない顔をこちらに向けている。
 言葉は話せないが、何を頼みたいかは検討がついた。無言で頷き、タケシに声をかける。
「こっちのお風呂は終わったよ」
「……あっ! マリさん、こちらの準備も終わりました。自分は少し見まわってから入りますので、三人で先に食べていてください」
 努めて冷静に返答しているが、やはり平常ではないのだろう。
 少し間があった。ふぅ、とため息を内心ついて、どうするか迷った。
 やはり、ここでも啓太郎のことを思い出す。
 あいつはよく泣いた。だが、子どもの前だけはいつも笑顔でいるように、自分で律していた。
 自分の弱さを嘆いていたが、自分より弱い相手に配慮を欠かさない。あいつと、たぶん目の前のタケシはそういう善人なのだ。
 だから、基本は啓太郎に接するのと変らない。
 黙ってタケシの頬を撫でた。
「なっ! マ、マリさんっ!?」
「……やっぱり泣いていたんだ」
「……ッ!? いえ、じ、自分は…………」
「バーカ。無理しないの、年下のくせに」
 笑って優しく小突いた。タケシはしばしの間、呆然としていたものの、だんだん体を震わせていった。
「す、すみません……。自分が……しっかりしないといけないのに……ッ!」
「ううん。むしろいろいろさせちゃってごめんね。本当は私がしなくちゃいけなかったのに。
タケシが辛くないはずないってわかっていた。甘えちゃったね」
「いえ……自分が勝手にや、やったことです、から」
 震えは体だけではなく、声にまで及んだ。
 タケシは立っていられないのか、崩れ落ちる。
「本当はわかっているんです。あんなことをした奴が、アカギさんが、プラズマ団のボスが嘘をつく理由なんてないことを。
だけど、死体を見るまでは信じたくなかった。あの二人ともう会えないなんて思いたくなかった」
 タケシは顔を、火を止めた鍋へと向けた。
「だって、サトシはカントーからずっと一緒にいて、これからも旅を続けるんだと思っていました。
ポケモンマスターになりたいって、ピカチュウと一緒にいろんな強敵を倒して、どんなポケモンとも友だちになれる。
自分はそんなあいつが大好きで、アイツとバトルしてブリーダーの道を目指したのは間違いじゃないって、ちゃんと安心できていたんです。
自分の夢とあいつの夢、どっちが先に叶うかと一緒に語り合ったこともありました。
サトシは本当に強くて、いくつもの大会も上位まで勝ち抜いて、いつかは夢がかなうと思っていました」
 ギリッ、とタケシの奥歯が鳴る。

229少女地獄 序章 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:34:08 ID:rA5XuZ82
「ヒカリはポケモントレーナーになったばかりで、母と同じトップコーディネーターになるんだ、っていつも言っていたんです。
ポッチャマと一緒に演技を磨いて、ポケモンコンテストに頑張る姿に、自分もサトシも勇気づけられました。
パチリスや他のポケモンとだって、あんなに努力していたのに。リボンだって集まって、グランドフェスティバルに出れるかも知れなかったのに。
自分は……俺は、サトシやヒカリのママさんになんと詫びればいいんだ! ここでオーキド博士と会って、なんと言えばいいんだ!
カスミに、ハルカに、マサトに……うっ、ううぅぅ……」
 真理は顔を伏せたタケシの頭を、いつまでも撫で続けた。
 強がっても、男の子していても、やっぱり年下で、少しだけ責任感の強い子どもなのだ。
 彼女自身が元いた世界のように、人や夢が簡単に失われていく。
 そんな現実に腹が立ってしょうがない。
 だから巧に、ファイズにすべての闇を切り裂き、光をもたらせて欲しかった。


「すみません、みっともないところを見せてしまって……」
「タケシ」
 なんでしょう、と返事するタケシをおもいっきりひっぱたいた。
 タケシはこちらを見て細い目を瞬いている。
「友だちのために泣くことは、みっともなくないよ。違う?」
「マリ……さん……」
 頬についたもみじを見て、力を入れすぎたかと反省はする。
「でも強く殴りすぎたかな。そこはあやま……」

「いえ、ありがとうございます!!」

 タケシの大声に、真理は少しだけ腰が砕けた。
「ええ、自分はここで立ち止まれません。サトシも、ヒカリも、あの二人のことを覚えて、ちゃんと伝えられるのは自分とオーキド博士だけです。
絶対生き残って、こんな理不尽な真似を許しません。ですので、そのための気合を入れてくれて、ありがとうございました」
 今度はゆっくりと、落ち着いた様子で答えた。
 きっと完全には立ち直ることは、まだ無理だろう。
 嫌な話だが、真理は『慣れて』しまった。タケシは『まだ』慣れていない。
 だけど、一歩だけは進めた。だから大丈夫だ。
「じゃあ、私はナナリーちゃんたちを呼んでくるね」
「その前にマリさん……」
 なに、と答えを返すと、なぜか全身が輝いたタケシがそこにいた。
「マリさん。自分はあなたの励ましによってどうにか立ち直れました。この御恩、一生かけてお返しします!
ですので、遠慮なく自分をこき使ってください。そう、明日という希望へと脱出するた……へぶっ! し・び・れ・び・れ……」
 いつものパターンでグレッグルがどくづきを放っていた。
 真理は若干呆れつつ、いくらか調子が戻ったことに安心する。
 本当に一歩進んだ証明がこれなら、悪い気はしない。
 少しだけ口元が緩んだまま、ナナリーたちを迎えに行った。



【B-5/ポケモンセンター/一日目 朝】

【園田真理@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:疲労(少)、身体の数カ所に掠り傷
[装備]:Jの光線銃(4/5)@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品一式、支給品0〜2(確認済み)、ファイズアクセル@仮面ライダー555、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:巧とファイズギアを探す
1:とりあえず情報交換から。
2:タケシたちと同行。
3:怪物(バーサーカー)とはできれば二度と遭遇したくない
4:巧以外のオルフェノクと出会った時は……どうしよう?
5:名簿に載っていた『草加雅人』が気になる
6:イリヤと出会えたら美遊のことを伝える
7:並行世界?
[備考]
※参戦時期は巧がファイズブラスターフォームに変身する直前
※タケシと美遊、サファイアに『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えましたが、誰がオルフェノクかまでは教えていません
 しかし機を見て話すつもりです   
※美遊とサファイアから並行世界の情報を手に入れましたが、よくわかっていません

230少女地獄 序章 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:34:51 ID:rA5XuZ82

【タケシ@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:疲労(少)、背中や脇腹に軽い打撲、身体の数カ所に掠り傷
[装備]:グレッグルのモンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:カイザギア@仮面ライダー555、プロテクター@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:ピンプク、ウソッキーを探す
1:しっかりマリたち三人を守る。
2:ピンプクとウソッキーは何処にいるんだ?
3:イリヤと出会えたら美遊のことを伝える
4:『オルフェノク』って奴には気をつけよう
5:万が一の時は、俺がカイザに変身するしかない?
6:サトシ、ヒカリの死を元の世界に伝える。
7:並行世界?
[備考]
※参戦時期はDP編のいずれか。ピンプクがラッキーに進化する前
※真理から『パラダイス・ロスト』の世界とカイザギア、オルフェノクについての簡単な説明を受けました
※真理から『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えてもらいましたが、誰がオルフェノクかまでは教えてもらっていません
※美遊とサファイアから並行世界の情報を手に入れましたが、よくわかっていません

※このあと桜をナンパするか、それともムサシやポケモンハンターJのようにスルーするかどうかは後続にお任せします。

「お兄さんがお亡くなりになったのですか?」
 ナナリーは二人っきりになった桜にそう尋ねられ、頷き返した。
 目は見えないものの、匂いや気配からは不審なものはない。
 血の匂いがするが、本人も怪我しているということだ。
 おかしいところなど、あるはずがなかった。
「私も、姉が死んでいました」
「えっ……それは……」
「だけど、それは放送前にわかってしまいましたよ。だって姉さんの死体を発見しちゃいましたし」
 なのに、どこかおかしいと感じていた。
 ネモが終始睨みつけているのも、警戒する原因だった。
「それは……悲しかったのですか?」
「悲しい。本当は悲しくないって言いたいんですが、どうでしょう?
姉の死体を見たときは泣きましたよ。だけど、安心の涙だって思っていました」
「安心? お姉さんが死んで安心って、どうして……」
「先輩を盗られることがないからです。もう私はなにも失わなくていい。ずっと縛っていた姉さんから解放されたんです。
なのに、わからなくなってしまいました。あなた達がお風呂で泣いているのを見ちゃってからずっと」
 ニッコリと、虚ろな笑顔を桜はナナリーに向けていた。
 見えるはずないのに、ナナリーは危険を感じた。
「ああ、安心してください。ナナリーちゃん。私はあなた達を殺したくないし、今は休みたいんです。
だから、悪い子にはならないでくださいね」
 くすくす、と無邪気に笑っていた。
 ネモは敵だと認識したのか、ナイトメアフレームを召喚しようとする。
 ナナリーは必死に、彼女を止めた。
 やがて桜は離れ、廊下に向かう。
「園田さんを呼んできますね。どうやら、私の手は借りたくないようですし」
 桜の目線はナナリーではなく、別の場所に向けられていた。
 そこでは、ネモが桜を睨めつけている。彼女が見えているのだろうか。
 だが、桜は何も言わず部屋を出て、ナナリーを一人にした。
『……タケシたちを助けたいなら、一刻も早くあいつとわかれるようにするべきだな』
 ネモが忠告するが、頭が回らない。
 いったいどうなってしまうのか。ナナリーに不安が残った。



 桜は廊下を歩きながら、ずっと頭になにかが引っかかっていた。
 デルタの力は素晴らしい。
 虐げられ続けていた桜が、逆の立場になり暴力を振るえる道具だ。
 真理の説明ではオルフェノクしか使えないとのことだが、実際は違うだろう。
 彼女はデルタと似たベルトしか知らない。このベルトについて知っているのは、今は自分だけだ。
 オルフェノクの新しい情報を聞いたのは運が良かった。そういえば、似たことを蛇のオルフェノクが言っていた気がする。
 危ないところだった。下手をすれば蛇のオルフェノクに奪われていただろう。
 これでこの力を持ち続けられる。
 そこまで考えて、ふと思う。なぜ自分は力を求めているのか。
「ああ、先輩」
 あの人を守るためか。はたして、それだけだったのだろうか。
 思い出しそうで、思い出せない。
 何かのピースがずっと、頭の片隅で引っかかっていた。

231少女地獄 序章 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:35:10 ID:rA5XuZ82

【B-5/ポケモンセンター/一日目 朝】

【ナナリー・ランペルージ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康
[装備]:呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、ネモ(憑依中)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
1:桜を警戒する。
2:とにかく情報を集める
3:人が多く集まりそうな場所へ行きたい
4:ルルーシュやスザク、アリスたちと合流したい
5:ロロ・ランペルージ(名前は知らない)ともう一度会い、できたら話をしてみたい
6:自分の情報をどこまで明かすか…?
[備考]
※参戦時期は、三巻のCODE13とCODE14の間(マオ戦後、ナリタ攻防戦前)
※ネモの姿と声はナナリーにしか認識できていませんが、参加者の中にはマオの様に例外的に認識できる者がいる可能性があります


【ネモ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康、ナナリーに憑依中
[思考・状況]
基本:ナナリーの意思に従い、この殺し合いを止める
1:桜を警戒する。
2:とにかく情報を集める
3:参加者名簿の内容に半信半疑。『ロロ・ランペルージ』という名前が気になる
4:ロロ・ランペルージ(名前は知らない)を警戒
5:マオを警戒
6:ポケモンとは何だ?
[備考]
※ロロ・ランペルージの顔は覚えましたが、名前は知りません
※参加者名簿で参加者の名前をを確認しましたが、ナナリーにはルルーシュら一部の者の名前しか教えていません

232少女地獄 序章 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:35:30 ID:rA5XuZ82


【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化(小)、『デモンズスレート』の影響による凶暴化状態、溜めこんだ悪意の噴出、無自覚の喪失感と歓喜、強い饑餓(いずれも小康状態)
    ダメージ(頭部に集中、手当済み)、ジョーイさんの制服
[装備]:デルタギア@仮面ライダー555、コルト ポリスポジティブ(6/6)@DEATH NOTE(漫画)
[道具]:基本支給品×2、最高級シャンパン@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:先輩(衛宮士郎)の代わりに“悪い人”を皆殺し
0:先輩に会いたい
1:あの人(ルヴィア)を惨たらしく殺す
2:先輩(衛宮士郎)の所へ行く
3:先輩(衛宮士郎)を傷つけたり悲しませたりする人は、みんな殺す
4:あの人(ルヴィア)は―――絶対に許さない
5:ナナリーたちは今のところ殺す必要はない。
[備考]
※『デモンズスレート』の影響で、精神の平衡を失っています
※学園に居た人間と出来事は既に頭の隅に追いやられています。平静な時に顔を見れば思い出すかも?
※ルヴィアの名前を把握してません
※「黒い影」は桜の無意識(気絶状態)でのみ発現します。桜から離れた位置には移動できず、現界の時間も僅かです

※桜がネモを認識できたかどうかは後続にお任せします。

233 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/09(金) 20:35:49 ID:rA5XuZ82
投下終了。
何かありましたら指摘をお願いします。

234名無しさん:2011/12/09(金) 20:55:36 ID:10nni.g.
ナース服…だと……イイッ!
しかしあれだ、スタイルの差がひどい。嘘みたいだろ…こいつら同年齢なんだぜ…?
タケシ…両手に華の状態なのにまったく羨ましくない……生きろ!
このチーム先が怖すぎる……投下乙でした。

235名無しさん:2011/12/09(金) 21:29:43 ID:EYx4k93E
投下乙です。そうか、ヤンデルタは無差別じゃなくて奉仕タイプだから相手の出方によっては丸く・・・収まってなくないか?

236名無しさん:2011/12/09(金) 22:45:11 ID:jT3.cCUo
>>221
投下乙ですー。
あー、そういえばそっちのキリツグはかなり幸せそうな家庭でしたねーw
そりゃまあ複雑な気持ちにもなるかー。

>>233
投下乙ですー。
うーむ、桜はどこにどんな地雷が埋まっているか不明なだけで話そのものは出来るのだのぅ。
割と安定傾向かと思った集団がどう転ぶやら。

237名無しさん:2011/12/10(土) 00:41:31 ID:PcCcwRso
投下乙です
これは予想外、まさか普通に合流するとはw
だが桜がどう動くか…。タケシ生きろ!
一つ指摘が
アカギが組織していたのはプラズマ団ではなくギンガ団です

238 ◆qbc1IKAIXA:2011/12/10(土) 01:10:19 ID:DA0gjBdo
おっと、普通にうっかりしていました。
wiki収録時に直します

239名無しさん:2011/12/10(土) 15:32:55 ID:JqzMNjgE
乙でやんす

>「でも強く殴りすぎたかな。そこはあやま……」

>「いえ、ありがとうございます!!」
この台詞の後に「我々の業界ではご褒美ですから!」と続くと思った俺を誰か罵ってくれ

240名無しさん:2011/12/11(日) 13:54:06 ID:CSEbY7ic
投下乙です

俺も普通に合流するとは思わなかったよ
これ、爆発を先延ばししてるだけ、しかもタケシ組も危険人物に見られる可能性ありとかw

241 ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:27:17 ID:ifjirkO6
美国織莉子、サカキ、セイバー分を投下します

242私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:27:53 ID:ifjirkO6
「千歳ゆまが死んだ……か」
 ぽつり――と一言呟いて、名簿の名前を塗り潰す。
 ただそれだけのことでありながら、少女・美国織莉子の所作からは、隠しようのない気品が見て取れた。
「知り合いか?」
「いえ。ですが私にとって、意味のある存在ではありました」
 同行者サカキの問いに対し、答える。
 自らがかのキュゥべえに存在を示唆し、契約へと導いた千歳ゆま。
 元々は鹿目まどか捜索の時間を稼ぐため、撒き餌に利用した娘だ。
 少し前まではいざ知らず、既に契約を終えた彼女には、とりたてて用も役目もなかった。
 もっとも、自分の目的のために彼女を巻き込んだこと、そんな彼女を救えなかったという事実には、少し良心が痛んだが。
(残る魔法少女のうち、警戒すべき人間は2人……巴マミと、暁美ほむら)
 とはいえ、そこで思考を止めるわけにはいかない。
 再び名簿へ視点を落とし、記された名前を見定める。
 この中で問題とすべき相手は、心中で名前を挙げた2名だ。
 魔法少女狩りの犯人・呉キリカと、自分が協力関係にあることを知っている魔法少女、巴マミ。
 倒すべき最悪の魔法少女・まどかを保護している魔法少女、暁美ほむら。
 この2名と対峙することになれば、戦闘は免れないだろう。積極的に殺したいとは思えないが、障害となるのなら、消すしかない。
「ふむ……では、これからどうする? どうやら君の友人とやらは、まだここには来ていないようだが」
 ここ、とサカキが言ったのは、現在地である見滝原中学校だ。
 一通り探りを入れてはみたが、ここにはまだ人の気配がない。織莉子の未来視の力にも、キリカとの再会のビジョンは映らなかった。
「そうですね……それでは、これから私の家に行くとして、それからもう一度ここに戻ってくるというのはどうでしょう?」
「まぁいいだろう。君の力のおかげで、捜索にも時間はかからないわけだからな」
 織莉子の提案を、サカキが承諾する。
 人捜しといっても、実際にやるべきことは、ただ廊下を歩くだけのことだ。
 通りがかった部屋の中に、誰かがいたとするならば、それは織莉子の能力が察知する。
 これだけの余裕を持ったスケジュールも、その能力の賜物だ。
 もっとも実際にやるまでは、もう少し時間がかかるのでは、と思っていたのだが。
「ありがとうございます」
「では行くとするか。君の家の方には、何かあるかもしれんからな」
 言いながら、サカキは教室を後にした。
 織莉子も名簿をデイパックへしまい、彼に続いて廊下へと出る。
 ポケモン城という手掛かりを得たのは、収穫と言えば収穫だった。
 しかしながら、ここに至るまで、彼女はまだ誰とも会えていない。それ故に彼女の力は及ばず、多くの犠牲が出てしまった。
(人の命に、取り返しなんてものはつかないけれど……)
 出来ることなら、より多くの人を救いたい。
 犠牲を対価に得るものは、多いものであった方がいい。
 それを叶えるためにもと、改めて胸中の決意を固めた。



 校舎を出て、正門前。
 オートバジンを停めておいたこの場所に、織莉子とサカキの2人が現れる。
 既に陽の昇った今となっては、懐中電灯の類は不要だ。太陽の光は十分に地上へと行き渡り、手にした地図を明るく照らす。
「こちらは南側ですから、こう、ですね」
「少し回り込むことになるか」
 指先で地図をなぞりながら、我が家への道筋を織莉子が示した。
 このまま北上していけば、川に行き当たることになるはずだ。
 そうしたら後は目印として、橋を探していけばいい。その先は平原になっているから、家の位置も分かりやすいだろう。
「では、行くとしよう」
 言いながら、サカキが銀色の車体へと跨る。
 ここまで来たのと同じように、タンデムで走らせれば、すぐの場所だ。
 もし向こうに尋ね人がいなかったとしても、こちらに戻ってくる頃には、姿を現しているかもしれない。
 ひとまず善は急げということで、サカキはバイクのエンジンをかけたのだが、

243私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:28:33 ID:ifjirkO6
「………」
 返ってきたものは、沈黙と静止だ。
 地図を胸の高さから下ろした織莉子は、しかし彼の声に応えず、静かにその場に立ち尽くしていた。
「どうした?」
 問いかけるも、返らず。
 南東の方をじっと見つめ、少女は微動だにせず沈黙する。
 そこからアクションを起こしたのは、数瞬の間を置いた後だ。
「!」
 刹那、発光。
 織莉子の身体が閃光を放ち、サカキの視界を白一色に染める。
 光輝の粒子を振りまいて、顕現したのは魔術師の姿だ。
 魔法少女への変身――学生服を掻き消して、純白のドレスが織莉子を包んだ。
 右の腕をしなやかに振り上げ、白魚の指先で虚空を指す。
 素早い腕の動作に合わせ、ぎゅん、と空を割く音が響いた。
 背後に出現した数個の宝珠が、ビルの影目掛けて発射されたのだ。
 きん、と。
 闇より響くのは金属音。
 時間差で2個目、3個目と飛来し、またそれに合わせて音が鳴る。おまけにその音量は、繰り返す度にボリュームを増していた。
「――ッ」
 埒が開かないと判断したのか、次いで具現化した数は、8つ。
 合計8個の球体を、一点に密集させて円形に並べる。
 ビルの合間から何かが飛び出し、サカキの視界に映った瞬間。
 スクラムを組んだ宝石群が、左手を突き出す動作に合わせて発射された。
 接近。
 反応。
 激突。
 炸裂。
 轟――と音を伴い爆発。
 燃え盛る爆炎と吹き荒れる爆煙が、市街地の風景を覆い隠す。
「来ます! そこから離れて!」
 ようやく織莉子の口が開いた頃には、サカキも状況を把握していた。
 無言でそれに頷くと、オートバジンのエンジンを再始動させる。
 熱を伴う加速の開始と、襲撃者の殺到は同時だった。
 灰色の煙を引き裂いて、鈍く輝く剣が迫る。
 爆音を立てる銀色の車体が、その場を離れてそれをかわす。
 回避に成功したと見るや、ブレーキをかけ車体を止め、バイクを降りてその姿を見た。
「………」
 サカキの前に現れたのは、漆黒のドレスをまとった少女だった。
 織莉子のそれとは大きく異なり、黒の中に赤が混ざっている。煌々と脈動するラインは、まるで人体の血管のようだ。
 線は細く、背も低い。戦闘向きの体躯とは思えない。
 しかし、手にした黄金の剣の壮観さが、その印象を覆す。見た目通りの相手ではないと、サカキの考えを改めさせる。
 恐らくは美国織莉子同様、単純な身体スペックに頼らぬ超能力の使い手――彼女の言葉を借りるならば、
「彼女も、魔法少女というやつか?」
「いえ……あのような邪悪な魔力を発する者は、今までに見たことがありません」
 同行者から発せられた一言を、織莉子はにべもなく否定する。
 あの暗黒の鎧甲から発せられる、刺々しいまでに暗いオーラは、むしろ瘴気とでも呼ぶべき代物だ。
 どちらかと言えば、魔法少女の成れの果て――魔女に近い力と呼べるだろう。
 しかし魔女と同一視するには、あれは人型を保ち過ぎている。あの異形の怪物とは、明らかに印象を異にしている。
 であれば、サカキのポケモン同様、織莉子にとっては未知の人種だ。

244私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:29:13 ID:ifjirkO6
「驚いたな。よもや、勘付かれるとは思わなかった」
 凛とした、少女の声色で。
 豪胆な武将のごとく、重く。
 相反する2つの印象を内包した、襲撃者の声が響き渡る。
 ガラスのごとき眼球からは、感情が読めない。フラットな発音と相まって、無感情な印象を与える少女だ。
 意志のある魔法少女にも、心ない魔女にも見える存在だった。
「特技のようなものね……生憎と、私に不意打ちは通用しないのよ」
 にこり、と笑みを湛え、織莉子が告げた。
 この鎧の少女が物陰から迫り、サカキを両断する未来――彼女は数十秒前に、それを見たのだ。
 故にそれを迎撃せんと、変身し宝石を放って先手を打った。
 故にそれからサカキを守らんと、稼いだ時間で回避を取らせた。
 未来視の力を持つ美国織莉子には、あらゆる不意打ちが意味をなさない。
「だが、それだけだ。斯様に軽い攻撃では、私の身には届かぬぞ」
 ぶん、と剣を唸らせ、襲撃者が告げた。
 やはり、相当な手練だ。下段に取ったその構えからは、微塵の隙も感じ取れない。
 ほとばしる魔力は濃霧と化し、より深き暗黒へとドレスを染める。
「では、これならばどうかな」
 にぃ、と口元を歪めたのは、サカキだ。
 白い三日月を浮かべる男が、両者の会話に割って入った。
 手にしたモンスターボールを放り投げ、彼もまた臨戦態勢を取る。
 白光から姿を現したのは、紫の怪獣・ニドキング。
 かのポケモン城での戦闘においても、リザードンを撃退した強力な相棒だ。
 ダメージの回復が済んでいない上に、相手は見たところ人間だが、そうも言ってはいられない。
「ほう、見たこともない魔物だ」
「今度は怪物呼ばわりか」
 女の声に、苦笑した。
 どうやらこの黒ドレスの少女も、ポケモンというものを知らないらしい。
 どころか、魔物とまで呼んでいる。そんなものと日常的に触れ合っているとするならば、もはや完全なファンタジーの住人だ。
 やはり彼女も、そして織莉子も、伝説のポケモンが持つ力――空間を超える力により、異界から招かれた存在なのだろうか。
「いずれにせよ、ここで立ち止まるわけにはいかない……」
 黒に対峙するのは、白。
 魔法少女のドレスから湧き上がり、その場を満たしたものは重圧。
 細められた織莉子の藍眼が、莫大なプレッシャーをもって敵を威圧する。
 全てを飲み込み、熱を奪い。
 さながら極寒の吹雪のごとく、見る者の四肢の自由を奪う。
 どう――と鼓膜が揺れた気がした。
 無風のはずの正門前に、突風が吹き荒れたかのような錯覚を覚えた。
 かつてのロケット団総帥が、ほう、と賞賛の声を漏らす。
 気高き令嬢・美国織莉子が、生来備えていた最強の武器は、優雅さでもましてや美貌でもない。
 あらゆる外敵を物ともせず、毅然と、悠然と相対する、この圧倒的なプレッシャーだ。
 その気迫は、魔法少女としての経験で遥かに勝る、あの巴マミですらも沈黙させる。
「貴女が立ちはだかるというのなら、全力で排除させてもらうわ」
 漆黒の騎士を睨みつけ、純白の姫君が宣告した。

245私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:29:47 ID:ifjirkO6


(どうにも、解せん……)
 びゅん、と音を立てながら。
 魔剣グラムを振り回し、漆黒のセイバーが思考する。
 敵の戦力は合計2体。
 浮遊する球体を操る、魔術師と思しき白い女と、コートの男が操る紫の魔物だ。
「ニドキング! だいちのちから、続けてシャドークローをぶつけろ!」
 厳つい男の声に応じて、紫の魔物が叫びを上げる。
 刹那、ニドキングなるそれの雄叫びに呼応し、足元を鋭い衝撃が襲った。
 轟、と伝わるのは地震――否、文字通り大地から迫る衝撃波だ。
 振動、波動、そして瓦礫。
 灰色のアスファルトを粉砕しながら、下方から炸裂する衝撃がセイバーを煽る。
「チッ!」
 ここに来て彼女は、彼が下した、追撃の命令の意図を察知した。
 舞い上がる瓦礫を掻き分けて、ニドキングが突撃を仕掛けてきたのだ。
 漆黒のオーラを纏った爪撃を、黄金の剣を振り上げ、迎撃。
 足場が安定しない。姿勢がままならず、力が入らない。
 なるほど、パワーやスピードだけでなく、心的余裕すら奪い取る有用なコンボだ。
 故に英霊アーサー王は、らしからぬ強引な回避手段を取る。
 切っ先からこちらも暗黒を発し、裂音と共に相手を吹き飛ばす。
 ゆらゆらと金髪をはためかせながら、セイバーは着地するニドキングを見据えた。
(パワーではこちらが勝っている……手数は豊富なようだが、決して押しきれない相手ではない)
 魔物に下した評価が、それだ。
 小柄な割に獰猛な容姿を持った紫の魔獣は、その外見特徴同様、非常に攻撃的な性質を有している。
 コンクリートをも粉砕する技の威力、見かけによらぬ俊敏な身のこなし、どちらもなかなかに強力だ。
 しかしそのどちらもが、一兵卒からの観点によるものである。
 元より己も鈍重なスピードはともかく、パワーではセイバーが上回っていた。
 故に相手の攻撃を恐れず、積極的に踏み込めば圧倒できる――
「――させないわ」
 という目論見を潰すのが、もう一方の存在だ。
 冷やかな女の声と共に、5つの影が飛来する。
 反射的にそれを見定め、バックステップで回避を取った。
 先ほどまで具足のあった場所が、銀の球体によって破砕された。
(そうだな……警戒すべきは、こちらの敵だ)
 崩れた構えを立て直し、その双眸で敵を見据える。
 宝石のごとき球体を操る、全身白一色の魔術師――先ほど相対を宣言した、白い少女だ。
 こちらもニドキング同様、セイバーの剣を退けるにはパワーに欠ける。
 どころか、魔物の背後に立ったまま、前に切りこんでこないということは、耐久力もさほどではないのだろう。
 しかし、こちらが攻めあぐねている原因は、むしろこの女の方にあった。
(こちらの動きを予測しているのか?)
 思考と共に、剣を振るう。
 ニドキングが黒の剣先をかわし、その影から球体が襲いかかる。
 これをグラムをもって弾き返せば、死角から攻め込んでくるのはニドキングの爪だ。
 そして攻撃のタイミングも角度も、男に女が告げ口していた。
 こちらが攻められて困る箇所を、正確に察知し、指摘したのだ。
(……違うな。単純な計算では、ここまで偶然が続くはずもない)
 影を纏う剛腕の一撃を、身を反らしてかわしながら、否定した。
 既にこのように対処された回数は、悠に10回を超えている。
 単純に相手の考えを推測していただけでは、これほどの的中率には至らない。
 こちらの考える最善手と、相手が推測する最善手が、必ずしも一致するとは限らないのだ。
 相手が読み違えるか、あるいは、こちらが悪手を打ちでもしたら、予測は真実との乖離を起こす。

246私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:30:29 ID:ifjirkO6
(ならば、読心の能力を有しているのか?)
 故に想定すべきはそれではなく、それとはまた別の可能性だ。
 考え得るもう1つの可能性へと、推理の対象をシフトした。
 ぐっ、と大地を踏み締め、疾駆。
 弓から矢を解き放つかのように、自らの身体にロケットスタートをかける。
 進むべきは正面ではなく、側面。
 目の前のニドキングを一度無視し、回り込むようにして魔術師を狙った。
「!」
 刹那、目の前に展開されたのは弾幕。
 合計7つの炸裂弾が、瞬時に連続発射される。
 数は多い。しかし、見切れない速さではない。
 足元を狙う石を跳躍して回避。顔面を狙う石をグラムで切断。胴体を狙う石を身をよじって回避。
 巻き起こる灰色の爆風を掻き分け、その先の白い少女へ切りかかる。
 初撃は喉元を狙っての突き――複数の球体を盾にされ、阻まれた。
 追撃は胴体を狙っての薙ぎ――タイミングを読まれ、飛び退かれた。
(やはり、違う。心を読める程度では、こうはならない)
 援護に出たニドキングを振り払いながら、またもセイバーは仮説を否定した。
 今の強襲で試した手は、2つだ。
 初撃では一度に10通りの攻撃パターンを考案し、ギリギリでその中の1つを選び放った。
 追撃は逆に思考回路を全カットし、完全な直感に任せての攻撃を仕掛けた。
 己の攻撃を全てかわされ、猛スピードで突っ込んでくるというプレッシャー下での、この二撃である。
 前者なら限られた時間のうちに、10の攻め手に対応できるはずがない。
 後者ならそもそも思考が存在しないから、攻撃を読み取れるはずがない。
 しかし、彼女はやってのけた。
 読心の限界と穴を突いた、双方の戦術をくぐり抜けたのだ。
(そうなると)
 奴は過程を見てはいない。
 こちらが攻撃に至るまでに、どのような考えを展開しているのかを、覗き見ているわけではない。
 この敵が見据えているのは結果だ。
 意識下、ないし無意識下を問わず、思考の果てに辿り着いた、その結果だけを読み取っているのだ。
 心理ではなく、現象を見ている。
 事実を構築する論理ではなく、論理の後に付随する事実を見ている。
 すなわち、
「未来を読める、ということか」
 考えられるのは、それだけだった。
 白い魔術師は相手の行動判断ではなく、自分の身に起こる未来を予知していたのだ。
 であれば、これまでの行動にも納得がいく。
 こちらの正体すら定かではなかった、最初の闇討ちに対処したことすらも、その一言で証明できる。

247私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:31:03 ID:ifjirkO6
「その通りよ」
 ふわり、とドレスの裾が揺れる。
 たんっ、と着地の音が鳴る。
 緩慢な動作で地に足をつけ、柔らかな銀髪を虚空に揺らした。
 回避運動を終えた末、白き魔術師が着陸したのは、車道のど真ん中だった。
「私は現在だけでなく、未来に起こる事実をも見ている」
 ビルの間から、光が漏れる。
 開けた大通りの真ん中には、遮られることなく陽光が差す。
 純白一色のドレスが、黄金の煌めきに彩られた。
 後光を浴びた装束が、荘厳な銀色に輝いた。
「全てを炙り出す光の前では、あらゆる企みが意味をなさない」
 静かに、波風を立たせぬ声で。
 厳然と、有無を言わさぬ声で。
 日輪の光に照らされて、1人の少女が言葉を紡ぐ。
 そこに宿された威圧感は、さながら戦場の武士のそれだ。
 無双の英霊に対峙してなお、これほどの気配を保てるとは。
 しかもこれほどの濃密な気迫が、年端もゆかぬ小娘のものだとは。
「貴女が何を為そうとも、私の光が全てを照らすわ」
 それは聖女か、教皇か。
 この世全ての善を従え、暗黒を祓うかのように。
 白銀に煌めく未来視の魔女が、堕ちた騎士王へと告げた。



(相変わらずの、ふざけた素質だ)
 苦笑を浮かべ、サカキが心中で呟いた。
 目の前に展開された攻防に、軽い衝撃を覚えつつも、冷静にニドキングを前へと出させる。
 戦闘で目の当たりにしたのは2度目だが、織莉子の未来予知というものは、何度見ても凄まじいものだ。
 もちろん、万能の力ではない。
 そこには数秒先の未来しか見えないという限定条件と、本人の肉体的限界という問題がつきまとう。
 現に先ほどの薙ぎ払いは、完全に回避しきることができず、僅かにドレスの表面を切り裂かれていた。
 恐らくあの漆黒の女剣士と、単独で相対していたのであれば、こうまで凌ぎ切ることはできなかっただろう。
(だが、それを可能としたのがニドキングだ)
 つくづくポケモントレーナー向けの女だ、と。
 自らのパートナーに視点を落とし、次いで織莉子の姿を見据える。
 自分を卑下するつもりはない。現に自己の判断で、あの剣士を退けたケースも存在する。
 しかしこれまでのやり取りの中で、何度かは織莉子のお膳立てによって、よい結果をもぎ取れたケースがあるのも事実なのだ。
 魔法少女とやらのスタンダードが、どれほどの能力であるのかは知らない。
 しかし目の前の敵に比べれば、織莉子の単独での戦闘能力は劣る。
 それを覆したのは知略であり、未来予知であり、そしてニドキングという護衛の存在。
 恐らくこの美国織莉子という少女は、単独での一騎打ちではなく、他者を指揮しての組織戦に長けている。
 そういう資質なのだ、この娘は。

248私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:31:54 ID:ifjirkO6
(だが、だとしてもこれからどうする?)
 後ろ向きな感想を振り払い、敵を見つめて目を細めた。
 そうだ。うっかり失念しかけていたが、今は戦闘中なのだ。
 妙な気の迷いを抱いている暇などない。そんなことを考えるよりも、現状の打開策を考えなくては。
(美国織莉子、そしてニドキング……悔しいが、単体のスペックでは、どちらもあの敵には及ばないようだ)
 実際に戦ってみて分かる。黒いドレスを着た少女は、当初の想像以上の難敵だった。
 妙な影をまとう剣捌きは、ニドキング渾身のシャドークローをも、容易く切り返すほどの破壊力を誇る。
 今は織莉子の先読みによって、何とか持ちこたえている状態だが、それもあくまで互角に過ぎない。
 こちらの損傷が軽微であるように、向こうの損傷もほとんどない。互角同士の戦いでは、ケリがつかないままジリ貧だ。
(そうなると、先の戦闘でのダメージが響いてくるな……この勝負、有利に見えて不利なのはこちらか)
 ちら、とニドキングを見やって、判断した。
 先ほどのリザードンとの戦いで、ニドキングはダメージを負っている。
 無論、現状では軽微なものではあるが、長期戦ともなれば、そうはいかない。
 蓄積された疲労と相まって、どんな影響を及ぼすか、知れたものではない。
 そしてニドキングが倒れた瞬間、こちらの敗北は確定する。織莉子の移動速度では、敵の攻撃を避け続けるのは困難だからだ。
「……なるほど。であれば、これ以上の読み合いは無意味か」
 黄金の剣が持ち上げられる。
 これまで下段に構えられていた、剣士の刃が天へと向かう。
 刹那、ほとばしったのは暗い光だ。
 陽光を覆い隠すかのように、漆黒のオーラが剣へと集った。
 びりびりと大気が震動する。空気が針となったかのように、ちくちくと肌へ突き刺さる。
 この世全ての暗黒を、一点に集束させたかのような。
 膨大な瘴気の結晶体が、少女の手元へと形成された。
(! まずいな、これは……)
「飽和攻撃が来ます、逃げて!」
 どうやら敵は言葉通り、小競り合いには飽きたようだ。
 相手がいくら予知をしても、避け切るだけの余地のない攻撃――強力な広範囲攻撃を放って、一網打尽にする気なのだろう。
「言われずとも……!」
 そしてそれは、わざわざ未来予知に頼らずとも、一目見ただけで誰でも分かる。
 あれ程強大なエネルギーの塊だ。それ以上の使い方など、見当たらなかった。
「ニドキング、最大パワーでだいちのちからを放て!」
 オートバジンに跨りながら、命令を下した。
 ニドキングは即座にそれを実行し、周辺一帯に衝撃を走らせる。
 波動は敵の足元を襲い、瓦礫は織莉子達を覆い隠した。
 爆音はバイクのエンジン音をも掻き消し、サカキを不可視の存在へと変える。
「きゃっ!」
 そのまますれ違いざまに、強引に織莉子の手を引いた。
 荒っぽく2人乗りの形を作ると、モンスターボールのレーザー光を、ニドキングに当てて回収する。
 後はとんずらを決め込むだけだ。あんなものにまともに付き合っていては、いくら命があっても足りない。
「ォオオオオオオオッ!!」
 雄叫びと共に闇が弾けたのは、サカキのバイクがその場を離れ、ビルの影に入り込んだのと同時だった。

249私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:32:38 ID:ifjirkO6


「……またしても、取り逃がすとはな」
 黒と灰色の靄の中、セイバーは静かに独りごちた。
 あのニドキングの使い手の目測は、見事に的を得たらしい。
 足場を崩されたことで安定を失い、瓦礫に阻まれたことで視野を失い、轟音によって聴覚すらも失った。
 そこに放ったあの波動は、ただでさえ低下した索敵能力を、更に削る羽目になってしまった。
 未来が見える向こうからすれば、逃げ出すことなど容易だっただろう。
「どうにも、雑把な戦い方では上手くいかんらしい」
 己の不甲斐なさを恥じ、思い出したようにヘルムを再生成した。
 これまでに経験した戦いは3度。
 一度は衛宮士郎および、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとの戦闘。
 一度は、あの英霊というものを嘗め切った、背の高い女の魔術師との戦闘。
 そして最後の一度が、先の白い魔術師と、紫の魔物との戦闘だった。
 このうち敵を逃したのは、二度。これまでに撃破した敵は、ゼロ。
 最優のサーヴァントなどとおだてられていながら、あまりにも不甲斐ない戦績だった。
「過小評価が過ぎたようだな」
 認めよう。
 この儀式とやらの空間に、油断すべき場所などないのだと。
 適当にあしらって勝てるような、簡単な相手ばかりなのではないのだと。
 であれば、今度は逃さない。
 次なる戦闘の機会があれば、誰であろうと確実に殺す。
 衛宮切嗣の感傷を断ち切り、慢心さえも切り捨てて、セイバーは再び歩を進めた。


【E-7/見滝原中学校前/一日目 午前】

【セイバー・オルタ@Fate/stay night】
[状態]:健康、疲労(小)、黒化、魔力消費(中)
[装備]:グラム@Fate/stay night
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本:間桐桜のサーヴァントとして、間桐桜を優勝させる
1:人の居そうな場所に向かう
2:間桐桜を探して、安全を確保する
3:エクスカリバーを探す
4:間桐桜を除く参加者全員の殲滅
5:クロエ・フォン・アインツベルンを探す
6:もし士郎たちに合った時は、イリヤスフィールが聖杯の器かどうかをはっきり確かめる(積極的には探さない)
[備考]
※間桐桜とのラインは途切れています
※プリズマ☆イリヤの世界の存在を知りました
 クロエ・フォン・アインツベルンという存在が聖杯の器に関わっていると推測しています

250私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:33:08 ID:ifjirkO6


「……大丈夫ですか、サカキさん?」
「気にすることはない。かすり傷だ」
 オートバジンを操るサカキへ、気遣うように織莉子が言う。
 どうやら先の爆発の際、コンクリートの破片が掠めたようだ。
 さほど深くはないものの、黒い左袖が引き裂かれ、赤い血の色が覗いている。
「まぁ、あれほどの脅威から逃れられたのだから、これくらいで済んだのは御の字だろう」
 言いながら、サカキの両手がハンドルを切った。
 角を曲がり、方向を修正して、地図にあった美国邸へと向かう。
 周知の通り、織莉子とサカキは、あの場を危険と判断し、標的をその場に残して撤退した。
 殺し合いを望んでいたであろう者を放置し、おまけにサカキに怪我を負わせてしまった。
 その事実は自責という名の鎖となって、織莉子の心を深く沈める。
「しかし、美国織莉子……本当にあの娘の力には、特に覚えはないんだな?」
「ええ……かなりの強敵であることは、間違いないと思うのですが」
 言いながら、先ほどの戦闘を回想した。
 あの漆黒の戦士の戦闘能力は、並の魔法少女を上回るものだ。
 最後に放った大技の威力は、かの巴マミがキリカを仕留めた際の、あの炸裂弾すらも凌駕している。
 恐らく彼女を倒すには、今以上の戦力と、今以上の連携が必要だろう。
 サカキという第三者を介した、ニドキングとの連携は、あまり勝手の利くものではない。
 それこそあのキリカのように、直接の意思疎通が可能なパートナーの確保が、何よりの必須条件と言えた。
(……キリカ……)
 ふと。
 黒き騎士との戦闘分析から、親友の姿が連想される。
 あの場にもしもキリカがいたら――そんな無責任な仮定が、否応なしに想起されてしまう。
 戦力などと、とんでもない。傷つき苦しんでいるはずの友に、そんな役目を押しつけられるものか。
 彼女は無事でいるだろうか。
 我が最愛の友人は、無事で生きているだろうか。
(私が必ず助けに行くわ)
 今度は私がキリカを助ける。
 己の人格を破壊してまで、私を救ってくれた愛に、今度は私が報いてみせる。
 固く胸に誓いながら、織莉子は行く先を見据えていた。


【F-7北部/一日目 午前】

【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:健康、疲労(小)、ソウルジェムの穢れ(3割)、白女の制服姿、オートバジン騎乗中
[装備]:
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす
1:鹿目まどかを抹殺する。ただし、不用意に他の参加者にそれを伝えることはしない
2:キリカを探し、合流する。
3:積極的に殺し合いに乗るつもりはない。ただし、邪魔をする者は排除する
4:サカキと行動を共にする
5:美国邸へ行く。調査が終わった後、再び見滝原中学校を調べに行き、その後鹿目邸へ行くことを進言する
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモンについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※アカギに協力している者がいる可能性を聞きました。キュゥべえが協力していることはないと考えています。

251私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:33:38 ID:ifjirkO6
【サカキ@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:左腕に裂傷(軽度)、オートバジン騎乗中
[装備]:オートバジン@仮面ライダー555、高性能デバイス、ニドキングのモンスターボール(ダメージ(小)疲労(中))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式 、技マシン×2(サカキ確認済)
[思考・状況]
基本:どのような手段を使ってでも生き残る。ただし、殺し合いに乗るつもりは今のところない
1:『使えそうな者』を探し、生き残るために利用する
2:織莉子に同行する
3:美国邸へ行き、その後見滝原中学校へ戻る。可能ならばフレンドリーショップやポケモンセンターにも寄りたい
4:力を蓄えた後ポケモン城に戻る(少なくともニドキングとサイドンはどうにかする)
5:『強さ』とは……何だ?
6:織莉子に対して苦い感情。
[備考]
※『ハートゴールド・ソウルシルバー』のセレビィイベント発生直前の時間からの参戦です
※服装は黒のスーツ、その上に黒のコートを羽織り、黒い帽子を頭に被っています
※魔法少女について少し知りました。 織莉子の予知能力について断片的に理解しました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※サイドンについてはパラレルワールドのものではなく、修行中に進化し後に手放した自身のサイドンのコピーだと思っています。
※アカギに協力している者がいると考察しています。

【オートバジン(バトルモード)@仮面ライダー555】
現在の護衛対象:美国織莉子
現在の順護衛対象:サカキ
[備考]
※『バトルモード』時は、護衛対象の半径15メートルまでしか行動できません
※『ビークルモード』への自律変形はできません
※順護衛対象はオートバジンのAIが独自に判断します

252私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc:2011/12/24(土) 20:33:55 ID:ifjirkO6
投下は以上です。問題などありましたら、指摘お願いします

253名無しさん:2011/12/24(土) 21:14:14 ID:6yY52fdI
投下乙でした
サカキと織莉子の見事なコンビネーション、そしてそれと互角以上のセイバー。
結果は撤退となりましたが怖い状況でした。必ず何らかの痛手を与えるとこは厄介だな…
ところでセイバー、君のマスターは全員一般人とはいえ現在トップマーダーだぞ。

254名無しさん:2011/12/24(土) 22:17:23 ID:uv7j3wXg
乙っす
いい戦いでした
それにしても、もしキリカがこの戦いについて知ったらきっと自分を責めるんだろうなあw
あの時きちんとセイバーをブッ殺しておけば織莉子を消耗させることはなかったのにって

255名無しさん:2011/12/25(日) 06:10:29 ID:ahFlHmGc
投下乙です。
セイバー、というかサーヴァントはやっぱり凶悪ですけど、まだ誰も殺せてませんねw
いつかその威力を存分に振るう時が来るのだろうか。

それはそうと、セイバーの魔力消費についてちょっと指摘です。
これまで二回の闘いを経ても消費した量はまだ微小だったのに、この戦いだけで中まで減るのはちょっと消費し過ぎではないかと思います。
大量に魔力を消費する様な戦闘には見えませんでしたし。

256 ◆Vj6e1anjAc:2011/12/25(日) 12:18:35 ID:wPyVq776
そういえば、似たような大放出系のオーラ攻撃は、今までにやってましたね……
了解しました。では、微小→小に変更とさせていただきます。

……正直、スタミナ馬鹿高すぎね?と思うけど、原作からしてそんなんなのかしら?

257名無しさん:2011/12/25(日) 13:45:33 ID:keVFwJ.M
まあカリバーならまだしも黒版風王結界ですし

258名無しさん:2011/12/25(日) 15:12:48 ID:Gjb.fRk.
受肉して格段に魔力消耗が減ってますからね。桜からの供給は切れてるけども

259名無しさん:2011/12/26(月) 00:15:16 ID:lV4vSmWw
そういや魔力の回復手段て、あるの?

もしスタミナ高すぎと思うのでしたら、回復に制限つけるって方針はいかがでしょうか?

260名無しさん:2011/12/26(月) 00:27:44 ID:7YBKtCdE
>>259
いや、いらねえw
そんな細かいことまで干渉されるのも気分悪いよ

261名無しさん:2011/12/26(月) 16:38:01 ID:ZQLV.W4s
たしかセイバーは竜の因子を持ってるから、呼吸するだけで魔力が回復していくというチート能力があったはず
ついでに肉体の再生能力も半端じゃない(胴体かっさばかれて内臓ぶちまけても数分で復活可能)

士郎と契約していた時も、その能力のおかげで消滅せずにすんだとか

262名無しさん:2011/12/26(月) 20:58:56 ID:wY850yts
バーサーカーにの宝具についても七面倒な設定がありますし、そのあたりはフィーリングでいいと思います
過度に落とし込むことをせず細かく描写する必要はない、という程度で

ちなみに魔力回復で一番手っ取り早い手段は魂食い、生者を食べることです
食べるについては色々な意味があります。ええ色々と

263名無しさん:2011/12/27(火) 18:08:05 ID:IQQacykg
過去ログ読むとハンバーガー食っても魔力は回復しなかったみたいだな

まどマギ系魔法少女がSGの浄化が極めて困難だから、
そっちとバランスとるためにも魔力は自然回復しない方がよさそう

264 ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 01:52:52 ID:HTyC8c2U
夜も遅い時間帯ですが
完成しましたので投下します

265Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 01:57:37 ID:HTyC8c2U
道を行く二人の元に、定時放送が流れる。
その内容は、道を行く一人と一匹にも少なからぬ影響を与えていた。

「そんな…、遠坂さん…」

呼ばれた名は己の教え子の一人、そして士郎の友人であった遠坂凛。
その名が呼ばれた意味、それが分からぬほど彼女は鈍くはない。
なぜ彼女が死ななければならないのか。
大河の頭の中は疑問だらけであった。

「プクゥ…」
「プクちゃん?もしかしてあなたの知り合いも…?」

ピンプクの仲間も呼ばれたのか、悲しそうに大河の胸に顔をうずめる。
桜の謎の行動、そして呼ばれた教え子。
大河にはもはや何が何だか分からなかった。

そんな疑問を持ったまま、やがて目的地である教会の近くへとたどり着いた。
やはり想像通りだったのか、すでにそこは焼け落ちた後だった。
真っ黒になった、かつて教会をなしていたであろう木材が見えるのみだった。もはや誰もいないだろう。
と、立ち去ろうとしたとき、焼け跡の下に人間の手を見た気がした。

「!プクちゃん、お願い!!」
「プ、プク!」

ピンプクもそれに気付いたのか、その怪力で次々と木材をどけていく。

「ッ?! プクちゃん!見ちゃダメ!!」

そして、その下から現れたのは男の人の死体だった。
大河は怯えるピンプクをその胸に抱くことでそれが見えることを防いだ。
死体の有様は大河ですら正視に耐えられるようなものではなかった。これは火事に巻き込まれた死体ではない。
右腕はなくなり両脚は折れ、胸の辺りは潰れていて、挙句首の向きがおかしかった。
漫画でしか見たことの無いような、だが確かに現実としてそこにある惨殺死体。

この人もさっきの放送で名前を呼ばれた一人なのだろうか。
大河は、改めてこの異常な状況というものをはっきりと理解した。

「こんな所で落ち込んでいてどうするのよ私…!しっかりしなさい!!」

顔を叩いて喝を入れる。
そうだ。まだ士郎や桜ちゃんも生きているんだ。こんなところでグジグジやっている場合ではない。
目の前の死体には、せめて人目につかないように焼け焦げてボロボロになっているが布を被せる。

「どうか安らかに眠ることができるよう祈っています…。遠坂さん…、力になれなくてごめんね…」
「プクゥ…」

やることは山積みだが、まずは桜ちゃんを追わなければならない。
だがあの様子では一人で追うのは危険だろう。
桜ちゃんを助けるためなら危険だろうと行く覚悟はある。だが今の彼女はそれだけでどうにかできる状態ではないだろう。
まず誰か協力してくれる人を探したい。こんな危険なことに付き合ってくれる人がいるかどうか分からないが。
ここからあまり離れていないところに何かの店のような施設があるようだ。まずはそこに行く。

266Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 01:59:21 ID:HTyC8c2U
「じゃ、気を取り直して!行こう、プクちゃん!」
「プ、プク!!」

彼女は知らない。その死骸を作ったのは、先ほど出会った少女、間桐桜だということを。



「やっぱり回復アイテムの数は少ないな…」

フレンドリーショップにて、ポケモンを回復させるための道具を探しにきたNとそれに同行する海堂、ルヴィア。
瀕死のリザードンの回復にはげんきのかけら、あるいはかたまりが必要であり、フレンドリーショップであればかけらぐらいはあるはずだった。
そう思っていたのだが、どうやら予想は外れたようだ。
先ほどここに来たときからおかしいとは思っていたのだ。このショップ、回復アイテムの棚が随分奥のほうにある。
そして実際行ってみると、傷薬はある程度あったが、いい傷薬は数個、すごい傷薬に至っては一個しかなかった。げんきのかけらなど影も形もない。
そのくせ、ボール類やスプレー系など、この場においては必要なさそうなものに限ってしっかりと並んでいる。
リザードンをボールから早めに出してやりたいと思っていたが、それまでしばらく時間がかかりそうだ。

「話が途中ですわよ」
「ああそうだったね。どこまで話したか…」

ルヴィアと海堂も一応探してはいたが、どれがどういう道具なのか分からないため探し物はほとんどN任せだった。
それでも時間も惜しい。Nからは質問の答えを聞きながら一応道具を見て回っていた

「僕達はね、ポケモンと人間が本当に共に歩める世界を作ろうと思っているんだ」
「その為に彼らを人間から引き離す、と?」
「そう。もし彼らから本当の信頼を得られているならこんなものが無くたって一緒にいられるだろう?」
「ちゅーかよく分かんねーんだけどよ、ポケモンってつまりどういうやつなんだよ?ペットみたいなもんじゃねえの?」
「ペット、というのも少し違うね。
 人間は彼らを共存と称して戦わせ、ポケモンを傷つけていながら競うことでお互いを伸ばしあうと言っている。
 それはおかしいんだ。彼らと人間は対等の存在でなければならない」
「ピカ、ピカピ!!」
「ああ、違うんだよ。君達のように信頼し合っている者を引き離そうってわけじゃないんだ。
 ただ君達のような関係を持ったトレーナーとポケモンってわけでもないんだよ」
「んー、よく分っかんねえなぁ」

確かに海堂が分からないのも仕方がないだろう、とルヴィアは思う。自分でもよく分からない。
つい数時間前に知った存在が元の世界でどのようなものであるかなど分かろうはずもない。
判断材料はN、そして先ほどのゲーチスの言葉ぐらいである。が、これから判断しても偏った答えしか得られそうにない。
まあこれ以上は彼らの問題だろう。自分達がどうこう言うようなことではない。
ただ、どうも胡散臭い印象はあるが。

「どうもここには目当てのものは無いみたいだ。そこまで遠くもないしポケモンセンターまで行こうと思うんだけど、君達はどうするんだい?」
「どうしましょうかしら…?あの女はこちらには来ていないみたいですし…」
「ショージキ俺は結花のことも気になるんだよなー。でも、そのキツネは……っと」

元々あの女を追ってここまで来たのだ。いないとなれば移動したほうがよい。
それにあのゾロアークは言っていたらしい。喋る杖を持った少女と戦わされた、と。
詳しい特徴を聞くと、それは美遊の特徴に当てはまる。戦ったということもありやはり気がかりだ。
だが、そっちに行くにしてもゾロアークの案内を受けるのは難しいだろう。
Nはポケモンセンターとやらに行くと言っている上、ゾロアークは彼にしか心を開いていないようだ。
今でも露骨な警戒心が発せられているのが分かる。

と、唐突にゾロアークが何か物音を捕らえたのか、耳を立てて警戒の様子を見せる。

「ゾロアーク、どうしたんだい?…誰か近付いてくるって?」

ガチャッ
と、その直後、フレンドリーショップの扉が開く。

267Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:00:37 ID:HTyC8c2U

「あの〜、誰かいらっしゃいますでしょうかー?」
「プ?プク!」
「ピカピカ?!」
「プクゥ〜!」
「あ、プクちゃん!」

現れたのは虎縞の長袖と緑のワンピースを纏った女性とピンクの丸い、ポケモンと思わしき生き物だった。

「このピンプクは君の仲間かい?」
「ピカ!」
「プク〜」
「よしよし、ここは大丈夫だよ。僕は君の味方だからね」

ピンプクは知り合いと会えた喜びと安心感からだろうか、泣き出してしまった。
やはり仲間の死がよっぽど堪えていたのだろう。

「あなたは?」
「私は藤村大河、穂群原学園の英語教師よ。よろしくね」
「ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと申します。以後お見知りおきを」
「海堂直也っちゅーんだ。こっちのクソ生意気なガキはNってんだとよ」
「こら、そんな言葉遣いじゃ駄目でしょ!よろしくね、N君」

「よろしく」

簡潔に自己紹介を済ませる3人。ピンプクの仲間がいたこと、大河の警戒心の無さ(というより雰囲気)からお互いに安全であることが確信できていた。
やはりというか、ゾロアークのみ警戒を解かなかったが。
と、全員の自己紹介が終わったところで、ルヴィアは一つの聞き覚えのある名前に気がつく。

「…一つ伺いたいのですが、穂群原学園と言いました?」
「え?そうだけど、あなたももしかしてうちの生徒?」
「ええ、少し前に留学した者ですわ」
「ちょっと待って、留学した子なんてうちの学校にはいなかったと思うんだけど?」

何かがずれているような気がする。藤村大河という教師が英語教員ではなかったはずだ。

「ミスフジムラでしたわね。あなたの知り合いはこの場に呼ばれていらして?」
「私の知り合いは、士郎…衛宮士郎と間桐桜ちゃんと、遠坂凛さんとセイバーちゃんね。
 遠坂さんは残念だったけど…。誰かと会ったりしてない?」
「え?」

聞き間違いだろうか。
今の答えの中に明らかにおかしな者がいた。

「あなたシェロの知り合いの方ですの?」
「う〜ん、まあ知り合いっていうよりは保護者かなぁ。ルヴィアゼリッタさんって士郎のこと知ってるのよね?
 ほら、あの子って切嗣さん、父親が亡くなってから家に一人じゃない?だからやっぱりちゃんと面倒を見る人必要じゃない」
「……一つ伺いたいのですが、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという少女をご存知かしら?」
「聞いたことないなぁ。士郎の知り合いか誰か?」

違和感が膨れ上がる。
士郎の知り合いというならイリヤのことは知っていなければおかしい。
それにイリヤの父親は家にはいないと聞いていたが、まだ存命だったはずだ。
さらに、セイバーという存在も気にかかる。それはあの時自分達を追い詰めたクラスカードの名前のはず。それと士郎にどんな関係があるというのか。

268Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:02:47 ID:HTyC8c2U
だがそれを問おうとしたとき、先に大河の口から質問が発せられた。

「それで一つ聞きたいんだけど、私の知り合いの誰かと会ったりしていないかな〜って」
「いえ、ワタクシの知る限りではあなたのお知り合いとは会っていないと思いますわね」
「そいや、あのベルト使った女が暴れたあの学校には結構色んなやつ集まってたけど、あん中にいたかもな。
 俺にゃー分かんねーが」

ルヴィアにはNやゲーチスが演説をした場所という印象が強いが、海堂はさっきまで戦っていたあの女の方が記憶に残っているのだろう。
だが、ここで海堂がそれを言った直後、大河の顔色が変わった。


「ベルト…?もしかしてその女の子って、紫の髪をした子じゃなかった?!」
「え、ええ、たしか紫の長髪に赤いリボンをして――」
「桜ちゃんだ!ねえ海堂君、暴れてたってどういうことなの?!!」
「うわ…!ちょ、落ち着けって!な?」
「その人ってあのアッシュフォードって所で人を殺したあの子だよね?」
「おいコラァ!!!」

ただでさえややこしくなっているところに発せられたNの言葉。
当然大河の耳にも届く。

「何でおめぇはいちいち余計なこと言うんだよオイ!ちったあ空気読めや!」
「余計なことって。かなり重要なことだと思うんだけど?」
「ああもう、テメェは向こうであいつらの面倒でも見てろ!!」

余計なことを喋られるとややこしくなると考えた海堂はNを追い払う。
言葉に従いNはピンプクやゾロアークの面倒を見始めた。

「…ねえルヴィアちゃん、今のって、本当?」

誤魔化せそうにはなかった。
しかし先延ばしにしても辛い事実だろう。ルヴィアは口を開く。

「ええ、本当ですわ。それに加えて、私達も彼女に襲われましたわ」

間桐桜がしたであろうことを知っている限りで、魔術については伏せた上で全て話した。


「そんな…!だって桜ちゃんは、とってもいい子で、士郎の手伝いもしてくれるいい子なのに…!!」
「その間桐桜とは、どのような子でしたの?」

空気を読んだ問いではなかったかもしれないが、ルヴィアとしては会話をさせることである程度気を紛らわせることもできると思い、大河に問いかけた。
それに、あの遠坂凛の妹という存在がどのように生きてきたのか、それを聞きたかったのだ。

大河は桜のことを知りうる限り話し始めた。
自分の学園で受け持っている弓道部に所属していて、士郎の家によく手伝いに来ること。
おとなしいいい子で料理やマッサージができること。
話し方もちぐはぐで内容もそれ以上のことを言おうとしていたのだろうが、やはり動揺は収まっていないのか、分かりづらいところも多かった。
説明の大半は皆が聞きたいことからはかなり外れていたが、逆にそれが大河という人間をよく表していた。

また、この会話から確信する。藤村大河は魔術とは何の関わりも持っていないものだということを。
そしてもう一つ、あの女が言っていた先輩とは―――衛宮士郎のことなのだと。

269Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:05:49 ID:HTyC8c2U
「どうして…、そんな…」
「あ〜、そのだな、ちょっくら俺のほうに心当たりがあったりするかなーって」

あまりにも悲しそうな様子を見ていられなかったのか、海堂がフォローを入れ始めた。
考えながら言っているのか説明はあまりスムーズではなかったが。

「あのベルトみたいなやつあったろ?
 あれな、似たようなやつがいくつかあるんだけどよ。
 大体俺達みたいなオルフェノクにしか使えないんだよな。
 一つは人間が使うと変身できずに弾かれちまうんだよな。
 で、もう一つは人間でも変身できるけどその後で灰になっちまうんだよな
 んで、ここまで言やぁ俺が何て言いたいのか、分かるか?」
「…つまりあなたは彼女があのベルトで変身したことで何かしらの異常を引き起こしたと?
 例えば精神汚染や幻覚などの」
「まあ、かもしれねぇってことだけどよ」
「そ、そうよね、桜ちゃんそのなんとかってベルトを使ってちょっとおかしくなっただけなんだよね?」

フォローとしては割と苦しいものでもあったが、それでも少しは大河の気持ちを落ち着かせるのには役立ったようだ。
実際はそのフォローも外れではないのだが、それを知っているものはこの場にはいなかった。

「それで、あなたは彼女に会ったのですわね?」
「え?うん、私を見た途端、何だかよく分からないことを呟きながら逃げていったの。なんか魔術師がどうとかなんにも知らないだとか自分は汚いとか。
 確か北の山道を降りたところを東に向かっていったと思う」
「分かりましたわ。ワタクシがそのマトウサクラを追いましょう。危険ですから貴方はここで待っていてくださいな」
「え?行ってくれるの…?って、私も行くわよ!あの子が苦しんでるなら私だってちゃんと助けてあげたいもの!!」

ルヴィアとしてはついてこられるのには気が進まなかった。
危険なのもあるが、おそらく彼女を追えば自分もあの女も魔術を使うことになるだろうから。
一般人に魔術の存在を知られるのは避けたい。自分と同じ(かもしれない)世界の人間となればなおさらだ。
それにもし海堂のフォローの言葉が当たっていたとして、彼女がああなった原因はそれだけとも思えなかった。
相対したときの叫びは、間桐桜の中に何かしらの歪みを抱えているとしか思えなかった。
それを知らせるのは、大河のためになることではないだろうと思う。

一方で大河も譲らなかった。
大河にとって桜は生徒であり、それ以上にもはや家族のようなものなのだ。
仮にあのベルトのせいで道を間違えてしまったのであれば、ちゃんと元に戻して支えてやるべきだと考えていたのだ。
何の異能的なものの無い、一般人であるからこその思いであるともいえる。

結局折れたのはルヴィアのほうだった。

(全く…、仕方ありませんわね。まあこんな場所でもありますし…。
 魔術を見られても少しぐらいなら誤魔化せますわよね…?)

向こうが魔術を使ってきたときは全てをあのベルトのせいにすれば誤魔化せるだろうか。
探し人の居場所が分かった今、こんなやり取りで時間を取られたくはない。

「でもおい、おめぇの妹はどうすんだよ?そっち追ってたら多分見つけられなくなるんじゃね?」
「確かそっちにはあなたの探し人もいらっしゃるんでしたわね?ならそちらはあなたに任せますわ」
「おいおめぇ、妹のこと心配じゃねえのかよ」
「もちろん心配ですわ。だからあなたに任せると言っているのです。
 N、あなたはどうしますの?」

海堂に追い払われて話にあまり混じってこなかったNにも一応聞いてみるルヴィア。

「僕はポケモンセンターに行きたいな。リザードンを早く回復してあげたいんだ」
「まあ、そうでしょうね」

270Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:07:54 ID:HTyC8c2U

ポケモンセンターは間桐桜の向かった方向の近くにある。Nとはもうしばらく共にいることになるだろう。
と考えているとNはピカチュウの傍で佇むピンクのポケモンに話しかけていた。

「ピンプク、君はどうするんだい?」
「プ?プク!!」
「なるほど、彼女と一緒に行くということでいいんだね?」
「? N君、君もしかしてプクちゃんの言葉が分かるの?」
「…ああ」
「へぇー、すごーい!!ねえねえ、プクちゃんは何て言ってるの?」
「あなたはポケモンを知る人間じゃないのなら、あまり彼らについて詮索するべきではない」
「むー…?別にそこまで言うことないと思うんだけどなー。もう少しオープンになってくれてもいいと思うんだけどなー」
「あまり彼らに関わってほしくないんだ。ポケモンについて余計なことを知ってしまえば強引に引き離すことになりかねないからね。
 アナタがこの子のトレーナーでないのならなおさらだ」
「えっと…、N君?」
「確かにこのピンプクは本来のトレーナーでもないあなたであっても気を許しているようだ。
 でもそれに甘えて何をしてもいいということにはならない。むしろそうだからこそその辺りの分別は必要だ」

何故か大河をピンプクと引き離そうとするN。
大河は何か気に障るようなことを言ってしまったか考え込む。


(何か気に障るようなこと言っちゃったかな…。それにしてもN君、私のこと嫌ってるのかな?…………N?)
「どうかなさいまして?」
「…そういえばNっていえば……もしかして」

何かぶつぶつ言っているが、ルヴィアにははっきり聞き取れない。


「ねえ、ルヴィアゼリッタさん、ちょっと待っててもらってもいい?」
「構いませんけど、どうかなさいまして?」
「5分くらいでいいの。N君と二人で話をしたいの」
「え?」

突然の大河の申し出に、Nは困惑するかのような声を出す。

「いきなりどうしたの?」
「いいから。ちょっと二人っきりにしてほしいの。もちろん、このピカちゃんや黒キツネさんも抜きでね」

そう言うと、ゾロアークは大河に噛み付くかのように警戒心を剥き出しにして威嚇を始める。
余りにも危険なその様に、しかし大河は全く怯む様子を見せない。
海堂がオルフェノクに変身してゾロアークを抑えようかと動く直前、Nが宥めた。

「大丈夫だよ、危険なことなんてないから。少しここで待っていてくれればいいから」

そう言って、Nは大河と共に奥の事務室か何かに入っていった。
納得がいかないのか、ゾロアークは唸り声を上げ続けている。

「フシュルルルルル」
「ピカ、ピカピ!」
「何ですの?あれは」
「さぁ?もしかしたらあのガキにガツンと言ってくれると俺は期待してるんだが」
「?…まあいいですけど」
「で、お前は待―ってうおっと」

271Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:08:43 ID:HTyC8c2U
そう言いながら、ルヴィアから海堂の元に一枚のカードが投げられた。
書かれているのは中世の戦車のような物を繰る戦士の姿。

「何だこれ?」
「おそらくあなたの探しているユカという人の近くには美遊がいるはずですわ。
 そのカードはこの場において使いこなせるのはおそらく二人、その一人が――」
「おめーの妹ってわけか?」
「ここまで言えば分かりますわね」
「おう、つまりこいつをその美遊ってやつに渡せばいいんだな?
 しゃーねえ、それぐらいのことはしてやんよ」
「お願いしますわ。もう行ってもよろしくてよ。
 大切な人なのでしょう?」
「べ、別にそんなんじゃねえよ、ただの仲間だ、ただの。
 …あーくそ!じゃああとのことは任せたかんな!!」

そうして海堂直也は走っていった。
途中でオルフェノクに変身したのだろうかと思うほどのスピードで足音は遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。

色々と頼りないところもあるが、何だかんだであの男に助けられたのも事実だ。
それにこんな考えを持つなど笑われそうな話でもあるが、あの男なら何かやってくれそうな、そんな気がしてくるのだ。
自分の目に間違いがなければ、きっと美遊の力にもなってくれるだろう。

「妹を頼みますわよ、カイドウ」

そんな願いをこめて、おそらく声が聞こえることがないと分かっていながらもその男の名前を、おそらく初めて呼んだ。



【C-4/森林/一日目 黎明】

【海堂直也@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:怪人態、体力消耗
[装備]:クラスカード(ライダー)@プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:人間を守る。オルフェノクも人間に危害を加えない限り殺さない
1:結花の元へ急ぐ。ついでにルヴィアの妹も探す。
2:パラロス世界での仲間と合流する(草加含む人間解放軍、オルフェノク二人)
3:プラズマ団の言葉が心の底でほんの少し引っかかってる
4:村上とはなるべく会いたくない
5:結花……!
[備考]
※草加死亡後〜巧登場前の参戦です
※並行世界の認識をしたが、たぶん『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』の世界説明は忘れている。
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました……がプラズマ団の以外はどこまで覚えているか不明。



272Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:11:40 ID:HTyC8c2U
フレンドリィショップ。
そこは様々な物品を取り扱う店舗であり、当然客の入れない場所には事務室もある。
本来であれば関係者以外立ち入り禁止であるその空間も、関係者の存在しないこの空間においては立ち入ることは容易い。

「こんなところで何の話があるんです?」

その空間、Nは大河の前に二人っきりで立っていた。
そもそもなぜ友達であるピカチュウやゾロアークまで排してこのような場所にいさせられているのか、Nには分からなかった。

「うん、まあ少しね。大したことじゃないの。
 ただね、ちょっと藤村先生、N君とお話したいなーって」
「…分からないな。何がしたいんだい?」
「だからただお話がしたいだけだって。少しでいいの」

全く意図が掴めないNに対して大河は言葉を続ける。

「N君ってさ、夢とかある?」

夢。無論持っている。
ポケモンを人間から解放し、本来の意味で人とポケモンが共存できる世界を作ること。
それが夢、己の存在意義だ。
多くのトレーナー、人間は反対するだろう。でも決して否定はさせない。
それを許すのは、――だけだ。

その夢、理想の全てを話すN。

「あなたも僕を間違っているというのかな?」
「……ううん、私は間違ってはいないと思うな」
「?」

だが予想外なことに、全てを話し終えた後大河から発せられた言葉は肯定だった。
なぜポケモンのことも知らないはずの彼女が僕の理想を肯定できるのか、理解できなかった。

「でもね、その夢を叶えるのに君は一つだけやらないといけないことがあるの、分かる?」

やるべきこと?それは伝説のドラゴンポケモンを従え、僕の理想と対等に渡り合えるようになった彼を倒し――

「人というものを理解すること、それがN君がやらなきゃいけないこと」
「え…?」



「遅いですわよ」
「ごめんごめん、あれ?海堂君は?」
「もう出発させましたわ。向かう場所が違うのなら待たせていても仕方ありませんでしょう?」

5分を若干過ぎた頃、ようやく戻ってきたNと大河。
別にそれをとやかくいうほどルヴィアは狭い心をしてはいないが。
待ちくたびれたのか、ゾロアークはNの元に飛びついていく。
そんなゾロアークの頭を撫でるN。

273Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:13:08 ID:HTyC8c2U


「一体何の話をなされていましたの?」
「うん、ちょっとね。ちょっとした面談みたいなもの。でももう終わったからいいの。
 それじゃ、早く桜ちゃんを追いかけに行こう!!」

好奇心から問うが、返ってきたのは要領を得ない返事。なんだか誤魔化された気がしたが、これ以上聞いても答えは出ないだろう。
だからあの女、間桐桜のことを考える。

あのにっくき遠坂凛の妹、そして――自分の恋敵。
どうもあの女との因縁は彼女が死んで終わったわけでもなさそうだった。
美遊との合流を前にしても、その因縁は無視できるものではなかった。
それに美遊にはサファイアもついている様子。ちょっとやそっとのことで遅れは取らないだろう。なにしろこのルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの妹なのだから。

あの女には遠坂凛の妹であること、そして衛宮士郎に好意を持つことがどういう意味をもつのか叩き込んでやらなければ気がすまない。
無論、藤村大河の言葉でもどうにもならないことが分かればそのときは――殺すだけだ。

それに大河からはまだ聞かなければならないことがある。
彼女の知る衛宮士郎、そしてセイバーとは何者なのかという事を。

「ええ、では参りましょうか」

彼に妹を託したことを間違いではないと信じて、ルヴィアは因縁を清算する戦いに向けて出発した。

(そういえば、結局助けてもらったお礼、言えませんでしたわね…)



あまりに混じり気のない、純粋というものは得てして染まりやすいものだ。
白という色に、少量でも別の色を混ぜるとそれは白ではなくなる。白という色はR、B、Gが均質であるが故、そのバランスを少しでも崩すと白とはいえなくなるだろう。

Nに平穏を与えていたという平和の女神は、彼の心をあまりにもピュアでイノセントと称した。
その心に不純物ともいえるだろうものが混じったのはおそらくあるトレーナーとの出会い。これまで人間に傷つけられたポケモンのみを見て過ごしてきたNにとっては大きな衝撃となった。
そして今、新たな不純物がその心に混じりつつあった。

『N君ってさ、人に対して凄い偏見を持ってると思うのよね』
『君はそのポケモンっていう子達のことは理解してるみたいだけどさ、片方だけ理解していても共存なんて無理だと思うの』
『だってそれを目指すN君も、人間じゃない?』

今まで人間というものはポケモンとは決して相容れないものと、そう考えて生きてきた。
だが、彼女はそんな人間を理解していなければならないと言った。

今までこの理想を理解できず非難する多くのトレーナーの声も聞いてきたが、そのことごとくを人間の勝手と自分の中で切り捨ててきた。
だが、大河の言葉はそう言って切り捨てるには、Nは純粋すぎた。故にその内に小さくも確実に疑問を作りつつあった。
すなわち、『人間とは何なのか』、と。

274Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:14:54 ID:HTyC8c2U
(…うーん、やっぱちょっといきなりすぎたかな?)

やはり大河にとってはあまり自信がなかった。なにしろ自分はあくまで教師でありカウンセラーではないのだから。

Nの夢を聞いたとき、正直外れていて欲しかった嫌な予感が事実であることに気付いてしまった。
もしあの部屋を見ていなかったら、大河とてNの違和感に気付けなかっただろう。

Nの城。つまりさっきまでいたあの場所は彼が住んでいた場所なのだろう。

あの猛獣が暴れたかのような傷痕――彼の連れていた黒いキツネを見てわかった。きっとあのような生き物とずっと過ごさせられたのだろう。
おかしな遊ばれ方をしたおもちゃ、テレビも本もない部屋――それは人と隔離され、ずっと一人で過ごしていたということ。
プクちゃんの言葉が分かるというのもそれが原因かもしれない。何かの本で、狼に育てられた子供の話を読んだことがある。
全ては憶測でしかない。だがNが見ているものを知ってしまった時、それらの憶測が糸のように繋がったのだ。

今にして思えばぞっとする話だ。
虐待どころではない。あそこまでくると親にとって何か都合のいい人形か何かとして育てられたのではないかとさえ思えてくる。

きっと、Nは人とまともに付き合ったことはないのではないか、と大河は感じた。
長い間、そのポケモンという生き物だけと共に過ごし、人というものを知らないで育ったのではないか。そして、自分が人間であることすら知らずに育ったのではないか、と。
そこまで行くと考えすぎかもしれないし、できればそうであってほしいが。

自分には彼の夢は分からない。だから否定することはできない。
人間とそのポケモンという生き物の共存できる世界。よく分からない大河には大きく、立派な夢に思える。
だが、彼は人間を知らない。そしておそらく、自分も人間であるということも知らないのかもしれない。
だからせめてNに人間がどういうものなのかということを、いいところも悪いところも色々と教えてあげたかった。

桜のことも心配だが、だからといってNを放っておくことなど大河にはできなかった。
こういうことは時間が必要だ。慌てても何も変わらない。それでも、きっかけぐらいは作ってあげたかった。

間桐桜、N。
保護者として、教師として、そして一人の大人として助けなければいけない者達。
大河の戦いは始まったばかりだ。


【C-4/フレンドリーショップ/一日目 黎明】

【ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:魔力消耗(大)
[装備]:澤田亜希のマッチ@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品、ゼロの装飾剣@コードギアス 反逆のルルーシュ
[思考・状況]
基本:殺し合いからの脱出
1:間桐桜を探し、どうにもならないなら引導を渡す
2:元の世界の仲間と合流する。特にシェロ(士郎)との合流は最優先!
3:プラズマ団の言葉が少し引っかかってる
4:オルフェノクには気をつける
5:あの女(桜)から色々事情を聞きたい
6:美遊のことは海堂に任せる
7:大河から詳しい話を聞く
[備考]
※参戦時期はツヴァイ三巻
※並行世界の認識。 『パラダイス・ロスト』の世界観を把握。
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)

275Nの心/人間っていいな ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:16:03 ID:HTyC8c2U

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:健康
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:満タン、精神不安定、ゾロアークを牽制)サトシのリザードン(戦闘不能、深い悲しみ)
    ゾロアーク(体力:満タン、海堂と大河を警戒)、傷薬×6、いい傷薬×2、すごい傷薬×1
[道具]:基本支給品、カイザポインター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ポケモンセンターに向かう
2:タイガの言葉が気になる。
3:世界の秘密を解くための仲間を集める
4:人を傷付けはしない。なるべくポケモンを戦わせたくはない。
5:ミュウツーとは出来ればまた会いたい。
6:シロナ、サカキとは会って話がしてみたいな。
7:人間って、何なの?
[備考]
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※並行世界の認識をしたが、他の世界の話は知らない。

【藤村大河@Fate/stay night】
[状態]:額に大きなこぶ、顔面強打
[装備]:タケシのピンプク@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品、変身一発@仮面ライダー555(パラダイスロスト)、不明支給品0〜1(未確認)
[思考・状況]
基本:出来ることをする
1:桜ちゃんを助ける
2:Nをちゃんとした人にしてあげたい
3:士郎と桜を探す
4:セイバーも探す
[備考]
※桜ルート2月6日以降の時期より参加
※ミュウツーからサトシ、タケシ、サカキの名を聞きました
※Nの部屋から『何か』を感じました。(それ以外の城の内部は、ほとんど確認していません)
※間桐桜の状態がデルタギアの影響であると思っています

※フレンドリィショップでは回復アイテムしか探していません。それ以外の物で使える道具があるかもしれません。

276 ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 02:17:55 ID:HTyC8c2U
投下終了です
矛盾などありましたら指摘お願いします
そして予約が長期間にわたってしまい申し訳ありません

277名無しさん:2011/12/28(水) 02:37:31 ID:MOLipgEQ
投下乙です

最初は指摘から
海堂さんはカイザの呪いを知りません
劇場版の啓太郎も知らなかったわけですし、本編だと流星塾組、真理、巧以外はカイザの呪いを目撃していないand説明を聞いていません
草加登場時も、啓太郎は呪いを目撃or説明されるようなじたいには遭遇しませんでしたし、そのあとカイザの呪いに触れているのは草加と花形社長くらいです

そして感想
二組にわかれましたか
地味にルヴィア、Nが危機に直面しているw 特にルヴィアさん……そのセリフは……w
大河いい感じにNに影響与えるようなこと言っているなぁ。胸が暖かくなった。タイガーの胸ないけど
投下乙!

278名無しさん:2011/12/28(水) 05:12:11 ID:8/6j8tOU
投下乙
Nはゲームでは救われないから、彼をいい方向に導けられるかも知れない人と出会ってよかったな

流石先生、Nの心を癒し和らげてくれ 大河の胸は和らいでないけど

279名無しさん:2011/12/28(水) 11:50:22 ID:5SaYG656
>>277については
「で、もう一つは人間でも変身できるけどその後で灰になっちまうんだよな」
の一文さえなければ丸く収まる話でしょうか。
その辺り(海堂がカイザの呪いを認知してるか)は少しあいまいなところがあるので。

それはともかく投下乙。
さすがタイガー!俺たちに出来ないことをあっさりとやってのけるッ
Nに必要なのは良き大人だよね。普段はあんなでも教育者だぜタイガー……
さりげなくポケモン4匹の過多戦力だけど……奪われることを考慮に入れると決して安全とはいえないんだよなぁ

280 ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 12:07:13 ID:HTyC8c2U
指摘ありがとうございます
そういえばそうでしたね。その辺りは修正しておきます

281名無しさん:2011/12/28(水) 12:26:57 ID:MOLipgEQ
>>279>>280
それで問題ないと思います
修正お待ちします

282名無しさん:2011/12/28(水) 13:03:58 ID:ED8LgzfA
投下乙です

別れたのか
ルヴィアさんはヤバいなあ。Nもヤバそうだが大河さんがいてくれて助かったよ
でも大河さんは大河さんでやること多いしな…
先が気になるなあ

283 ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/28(水) 14:57:14 ID:HTyC8c2U
修正したものを一時投下スレに投下しておきました
確認お願いします

284名無しさん:2011/12/28(水) 16:38:19 ID:MOLipgEQ
>>283
修正乙です。問題ないと思います

285名無しさん:2011/12/30(金) 18:33:35 ID:P9.Wcx1I
◆Z9iNYeY9a2氏より
今更ですが、「Nの心/人間っていいな」の時刻表記が【黎明】でした。
【朝】か【昼】か【午前】か、指定をお願いします

286 ◆Z9iNYeY9a2:2011/12/30(金) 19:18:31 ID:e6rt8qAk
【朝】でお願いします

287名無しさん:2011/12/30(金) 19:45:26 ID:P9.Wcx1I
対応しました

288 ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 18:55:00 ID:MUYBXhzA
お待たせしました
これより投下始めます

289独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 18:57:58 ID:MUYBXhzA
走る美樹さやか。
しかし今の彼女は焦りによって冷静さを失っていた。

ゲーチスを襲った襲撃者。それを探して街の中を走っていた。
あの時のニャースのボロボロになった姿。相手はきっと何かしらの力を持っているに違いない。
だが、今自分には魔法少女としての、人を守るための力があるのだ。戦えない人達を守るために、絶対に襲撃者は逃がしてはいけない。

そんな、何かに急き立てられるかのように走り続けた結果、

「……ゲーチスさん?」

気付くと、守ると決めたはずのゲーチスの姿が見えなくなっていた。
魔法少女の全力疾走に、(身体能力的には)人間でしかないゲーチスがついてこれるはずもない。
探しに戻るか、あるいは襲撃者を追うか、その二つが頭の中で渦巻く。
が、考える時間がもったいないとして、即座に襲撃者追跡に向かう選択肢を選んだ。
時間勝負なのだ。早く片付けて彼の元に戻ればいいと、そう自分に言い聞かせて。

もし、ここで彼女に(利用されているとはいえ)ゲーチスを探すという選択肢が取れるほどの冷静さがあったなら。
その結果ゲーチスに弄ばれることになったとしても。
あのような結果を生むことはなかったかもしれない。



そんな美樹さやかのいる場所からそう遠くもない道路の車道。
政庁に向かう救急車の中での出来事。

「……う…ん?」
「やっと起きたのか、マミ」

政庁も近くまで迫った辺りで、巴マミは目を覚ました。
それを確認した杏子は巴マミに話しかける。

「佐倉…さん…?」
「そうだよ、あたしだ。しっかりしろよ」

まだはっきりと目が覚めているわけではないようだ。詳しい話を聞くのはもう少し待ってからのほうがよいだろうか。

「…?……たっくんは?」
「は?たっくん?……ああ、乾巧のことか。
 なんだよその呼び方。一瞬誰のことか分からなかったじゃねえか」

まさかあの巴マミが他人にそんな呼び方をするとは思わなかったので突如出た呼び名に戸惑ってしまった。
話を聞いた限りでは自分から置いていったという話だったような。言うべきだろうか。

290独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:01:00 ID:MUYBXhzA
「その巴マミって人目を覚ましたの?」
「ん、ああ。まだ半分寝ぼけているみたいだけどな」
「……暁美さん?」

話しかけていると、前に座っているクロが話しかけてきた。
はっきりと目が覚めていないせいか、どうやらその声を自分の知る魔法少女のものと勘違いしているようだった。

(そういやどことなく声似てるよな?)
「マミ、こいつはな、」
「…ひっ!!!?」

前の助手席から顔を覗かせる、自分達とは違う魔法少女についての説明をしようとしたとき、その少女の顔を見たマミの顔が驚愕に包まれる。
それはまるで幽霊でも見たかのような顔、少なくとも杏子はマミのそんな顔を見たことはなかった。

「おい、どうした?!」
「嫌…、来ないで!」

なぜかクロの顔に怯えながら、よりにもよって魔力で作り出したマスケット銃を向け始めた。

「え、何?」
「おい止めろマミ!」

パンッ

状況が掴めなかったクロは反応が遅れてしまうが、慌ててその腕に飛びついた杏子のおかげで銃弾がクロを貫くことはなかった。
しかし、放たれた銃弾はフロントガラスの中央を突きぬけ、前面の視界を遮るほどのヒビを作った。
運転者、夜神総一郎はあまりに突然の出来事にとっさに急ブレーキを踏む。
大きな音をたてながら急ブレーキの衝撃で揺れる車内。。
そんな中、巴マミは後部のドアを体当たりで強引に開いて飛び出して行った。

「マミ!!」
「一体何があった?!」
「知らねえよ!何かいきなり錯乱しやがったんだ。
 お前ら先に行ってろ、あたしはすぐマミ連れて追っかけるから!」
「佐倉くん!」

そう言い残し、マミを追うために救急車から飛び出した杏子。

「私の顔見た途端、いきなり怯えだしたのよ。何が何だか…」
「…彼女のことは佐倉くんに任せて大丈夫なのか?」
「どうもあの反応だと私も行くとややこしくなりそうなのよね。一体何なのよ…?」

あまりにも急な出来事。
ゆえにクロエは一つの可能性を失念していた。
巴マミが自分と同じ顔をした存在――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと遭遇したという可能性を。
まあもしその考えに至ったとしても、一見巴マミとも相性のよさそうに見えた彼女とその行動につながりを求めることなどできないだろうが。



291独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:03:43 ID:MUYBXhzA

走る巴マミの精神状態はかなり不安定だった。
救急車を飛び出すときにドアに体当たりしたことでその体には若干の打撲を負っていた。
しかし、そんな痛みも今の彼女には気にする余裕がなかった。

さっきの少女の顔。それはあの時ルルーシュの前で戦ったあの少女と同じものだった。
そしてそれは、その少女との戦いの中の記憶を掘り起こされるには充分な刺激となってしまったのだ。

あの戦いで私は何をした?
ルルーシュに撃たれた。だから危険と判断して彼を拘束しようとして。
そしてその少女が現れ、戦い――
その先の記憶が断片的にしか思い出せない。

金色のロボット。
吹き飛ぶルルーシュの腕。
そして、炎に包まれる周囲。

(私が…、ルルーシュを…、あの少女を、殺した…?)

それだけの記憶からマミはそれが何を意味するのかに気付く。
つまり、あの時ゆまを見捨てたように、今度はこの手で人を殺してしまったというのか。

もしあの行動が、自分で最良と思い下した判断であればここまで混乱し、不安定にはならなかっただろう。
だが、マミにはそれに至るまでの記憶がなかった。生きろと命じられたギアスは、己の意思とは無関係に彼女を生かすためだけに最良の判断を取らせる。
それが自分というものに対する認識を分からなくさせ、マミの心に得体のしれない恐怖を煽る。
それに加えてティロ・フィナーレを人を殺すために使ったという事実もまたマミの精神を追い詰める。

(違う…、あれは…あんなの私じゃ…)

イリヤスフィールの名を知らず、放送を聞き逃したマミの中では、あの少女は自分が殺したと思い込んでいた。
だからこそクロエの顔を見てそれまでの記憶がフラッシュバックしてきたとき、その少女が自分を責めるために現れたとしか考えられなかった。
そして、今の彼女にはその責めを受けることができる勇気などあろうはずもない。

転びそうになりながらも走るマミの頭の中には、一刻も早くその得体のしれない何かから逃げることしかなかった。



「…どこに行ったっていうのよ…?!」

もうかなり走り回ったにも関わらず襲撃者は見つからない。
その存在が虚実の中にしか存在しないということに、未だ気付いていない。

さやかの中にはゲーチスに嘘を付かれているという発想はない。
元々彼女自身そういった人間の負の部分とは無縁に生きてきたのだ。
弥海砂という、嘘をついて人をおびき寄せたという存在を知ったところで、ゲーチスの黒い部分に気付くはずもない。

彼女の中の焦りが大きくなる。もし見つけられなければ危険にさらされるのはゲーチスなのだから。

そして走り続けるさやかは小さな物音を聞く。
ほんの小さな音。しかし今、何の手がかりもないさやかには、その音は手がかりになりうる唯一の存在だった。

その音がした場所でさやかは、

「…何やってんのよ、あんた」

鎖状に変化させた槍で縛った巴マミの腹を殴り気絶させる佐倉杏子の姿を見た。

292独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:04:50 ID:MUYBXhzA



夜神総一郎が難しい顔をしているのを見て、ふと気になったクロエが話しかける。


「やっぱり心配?」
「当たり前だろう。あんな子供達だけを残して行くなど…」

夜神総一郎は魔法少女が実際に戦っているところを見たわけではない。
だが、そこに自分が行っても何かできることがあるとは思えなかった。
巴マミという少女のことは佐倉杏子に任せるしかない。

「ま、大丈夫だと思うけどね。あの子結構経験積んでるみたいだし」
「何?」
「多分1年かそれ以上は。でもあのマミって方はそれ以上みたいなのが気になるけど」
「……」

ふと思い出す。
確か彼女には家族はいないと言っていた。だがあの少女がどこかの保護施設にいたとは思えない。
ならばそれまでどうやって生きていったというのか。


「どうかした?」
「クロエ君、確かにあの子達はそういう戦いには慣れているかもしれないしそれに手を貸してやることはできないだろう。
 しかしな、だからといって人間というものは一人で生きていくことはできない。導いてやる存在も必要なんだ」
「え?」


かつて弥海砂という、殺人犯に家族を殺された者がいた。
犯人は捕まったにも関わらず司法において裁きを下されることはなかった。
そうして大きく傷ついた彼女は、キラの裁きに救われ、彼に心酔し多くの人を殺す殺人者となった。

無論裁きと称されたそれを肯定するつもりはない。それは例え息子の言葉であっても動かされるものではない。
だが、もしそのときにその犯人に相応の裁きが法によって与えられていれば、あるいは彼女の心の傷を癒す存在があれば。
彼女があそこまで道を外してしまうことはなかったのではないか。
そして法による裁きを与えるのも、当時少女だった彼女の心を癒すのも、それらは我々のような大人がするべきことではないのか。

人間というのは一人で生きるものではないのだ。
特に子供にはそれを導いてやる大人の存在が不可欠だ。
確かに彼女達の戦いというものには力を貸すことはできない。
だがそれでも、彼女達が間違ってしまったときなど、正し、支える存在は必要なのだ。

脳裏に、ずっと共にいたにも関わらず彼の持つ歪みに気付いてやれなかった、息子の姿が浮かぶ。

こんな場所だが出会ったのも何かの縁だ。
あの二人と合流したらその辺りをきちんと教えてやるべきだろう。
特に佐倉杏子とは色々と慌しかったせいで共にいた時間の割にあまり話していない。
少し落ち着いたらそういった話もしてやるべきだろう。
全てを自分ひとりで背負い込もうとせず、もっと周りの人間のことも頼るべきだ、と。

293独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:06:39 ID:MUYBXhzA
「もうそろそろか?」
「あ、うん。だいぶ近付いてきてるわね」

時間は8時になろうかとする今、二人を乗せた車は政庁へ向けて走る。
到着は近い。


【D-2/市街地/一日目 朝】

【クロエ・フォン・アインツベルン @Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(小)
[装備]:
[道具]:基本支給品、グリーフシード×1(濁り:満タン)@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜2
[思考・状況]
基本:みんなと共に殺し合いの脱出
1:みんなを探す。お兄ちゃん優先
2:お兄ちゃんに危害を及ぼす可能性のある者は倒しておきたい
3:どうしてサーヴァントが?
4:9時に政庁に集合する
[備考]
※3巻以降からの参戦です
※通常時の魔力消費は減っていますが投影などの魔術による消耗は激しくなっています(消耗率は宝具の強さに比例)
※C.C.に対して畏敬の念を抱いています


【夜神総一郎@DEATH NOTE(映画)】
[状態]:健康
[装備]:救急車(運転中)、羊羹(2/3)羊羹切り
[道具]:天保十二年のシェイクスピア [DVD]、不明支給品1(本人未確認)
[思考・状況]
基本:休んでいる暇はない。警察官として行動する。
1:政庁に行き、月の嘘についてを説明する。
2:警察官として民間人の保護。
3:真理を見つけ、保護する。
4:約束の時間に草加たちと合流する。
5:月には犯罪者として対処する。だができればもう一度きちんと話したい。
6:二人が気がかりだが…
[備考]
※参戦時期は後編終了後です
※平行世界についてある程度把握、夜神月がメロの世界の夜神月で間違いないだろうと考えています。




「…はぁ…はぁ、佐倉さん来ないで!!」
「おい、どうしたってんだよ、何で逃げるんだ?!」

佐倉杏子が巴マミを見つけるのにそこまで時間は掛からなかった。
逃げるマミの魔力を追っていけばすぐに見つけることはできるのだ。
加えて今のマミは走り方すらおぼつかないようだ。やがて足を縺れさせ転んだ所で槍を多節棍に変化させて身動きを封じたのだ。
今のマミを落ち着かせるにはそれしか思いつかなかった。それに下手に銃を撃たれても困る。

294独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:07:46 ID:MUYBXhzA
「離して!あれは私じゃないの、私じゃないのよ!!」
「あーもう、少し落ち着けよ!何があったんだよ?!」
「あ、あの子は私が殺したの…!でもあれは私じゃない…!あんな私知らないの!」
「はぁ?何言ってんだよマミ。あいつは死んじゃいないだろうが。じゃなきゃあそこにいるわけないじゃねえか」

杏子にはマミが何を言っているのかが分からなかった。
先ほど会ったときにはこんな様子ではなかったはずだ。この数時間のうちに一体なにがあったというのか。

拘束されてなお、マミは必死で足を動かし逃げようとしている。
放っておくわけにはいかないが、このまま連れて戻るにはあまりにも危ない。

「ああくそ、仕方ねえ!」
「あぐっ!」

止むをえない。
余りの取り乱しように落ち着かせることを諦めた杏子は、マミの腹に力いっぱいの拳を打ちつけた。
息を吐き出すような音を出してマミは意識を失った。

「はぁ、目が覚めるまでには落ち着くか?」

鎖でぐるぐる巻きにしたまま、抱えあげようと近付く杏子。
荒療治ではあるが、マミの精神状態からするとまあ間違ったやり方とはいえないだろう。
もしこのままの状態で放置しておくと何をしでかすかわからない。

ただ、この場合。

「…何やってんのよ、あんた」

少し間が悪かった。

「え?」

杏子は聞き覚えのある声にふと振り向く。
頭の中が真っ白になった。

青い髪、白いマント、剣を構えるその少女の顔は怒りに彩られている。
それはかつて救えなかった、自分と同じ道を歩みかけ、違う末路をたどった少女。
美樹さやかが立っていた。

「何でマミさんを…」

その言葉を受けてはっと今の状況に気付く。
マミはさやかの憧れの魔法少女である。そんな人を縛り上げ、あげく殴って気絶させる。
そんな行為がさやかにはどう映っただろうか?


弁解しようとするも焦りから言葉が出てこない。
そもそも彼女は鹿目まどかの家に向かったのではないのか?どうしてここにいるのだ?
もし会ったら色々と言いたいこともあった。もし変な方向に行こうとしているならちゃんと言って聞かせないといけないから。
しかし、一時的にだがさやかのことを頭から外してマミのことに意識が行っていた杏子は唐突すぎる邂逅に何を話すべきかをすっかり忘れてしまった。

295独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:09:48 ID:MUYBXhzA
故に、さやかの問いかけには沈黙をもってしか答えられなかった。
今のさやかにそれはまずかったというのに。

「…やっぱり、あんたもそうなんだ?」
「い、いや、さやか、これはだな――」

ガキン!!

混乱する頭を回転させて話そうとした杏子の元にさやかは一瞬で詰め寄り、その剣を振りかざした。
反射神経がかろうじて反応し、その手に新しく槍を作り出して受け止める。

「あんたは!私はあんたならこんなところで殺し合いに乗ったりしないって信じてたのに!!
 よりにもよって!マミさんを!!!」
「ま、待て!少し話を――」
「うるさい!そうやってまた私を惑わそうっていうの?!
 私は違う!あんたみたいに自分のために生きたりなんかしない!」

さやかと杏子の剣戟。それはいつか、初めて二人が会ったときと同じ構図。
元々さやかと杏子の能力、才能自体にはそこまで差はない。初めての戦いにおいては経験の差が決定打となってさやかを追い詰めていた。
しかし、今の戦いでは明らかに杏子が押されていた。
さやかは己の憧れの先輩を守るためにおそらく己の限界を超えるのではないかというほどの動きを見せている。
しかし杏子はさやかと戦う意志はなく、むしろこの状況に戸惑っている。さらに戦いのなかでは己の思考が纏まらず、どうするべきなのかすらはっきり分かっていない。
ゆえに伸縮自在のリーチを持った攻撃も多節棍を用いた拘束技も使用できず、たださやかの攻撃を受けるのみという有様だった。
そして、杏子と全力でぶつかったことのあるさやかだからこそ、そのような動きをする杏子には舐められているとしか考えられず、更なる怒り、苛立ちから剣の一閃をより激しくさせる。

さやかの剣の一閃を、槍で弾く。だがそのあとが続かない。
大振りになって隙だらけの胴体を見せる。だが迷いが攻撃の機会を逃させる。
今の杏子にはかつてのように軽くあしらうような余裕はなかった。

だが杏子自身、そんな自分とあまりに聞き分けのないさやか、こんな現状に少しずつ苛立ってきた。

「ああくそ、いい加減にしやがれ!!」

と、その苛立ちをぶつけるかのようにさやかの剣を力いっぱい弾き飛ばす。体が隙だらけになるのも構わず。

(―あ)

296独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:11:15 ID:MUYBXhzA

そして気付く。
さやかが剣を弾かれた無茶苦茶な体勢から、また新たに作り出した剣をこちらに振りかざしていることに。
本来ならばとれるはずのない姿勢。それができるのは魔法少女故だろう。
それが体に掛かる負荷を度外視してのその一閃。この体勢からそれを避けるのは無理だ。

(――畜生)

それが体に触れるまでの間、まるで時間がゆっくりと進むかのような錯覚にとらわれる。
その中で、ふと脳裏に浮かんでくる光景。これが走馬灯というものなのだろうか。
あの日魔女の結界から出たとき、偶然父親に見られてしまった。
それさえなければ家族が崩壊することはなかったはずだ。
あの時さやかをようやく探し出したとき、すでに手遅れだった。
もう少し早く見つけられていれば。
そして今回。
またさやかを救うことはできなかった。

(なあ神様、なんであたしっていつもこんな――)

そうして弾いた剣が地面に突き刺さったと同時。
さやかの剣は杏子の体を斬り裂いた。



「はぁ、はぁ…」

無茶な体勢から斬りつけた一撃。
それはさやかの肩と背筋に大きな負荷をかけ、筋肉の断裂、捻挫を引き起こしていた。
無論さやか自身そんなことは承知の上だ。これぐらいの犠牲がなくては勝てる相手ではないと思っていたから。
そのはずだった。

「…何でよ?」

痛みも気にすることなく問いかける。
納得がいかなかった。
かつて戦ったときはこんなやつだっただろうか。
今の一撃など、避けられないまでもダメージを最小限に抑えるくらいはできたはずだ。
そもそもそれまででもずっとこんな調子だった。手を抜かれているのかと思っていた。
だから本気で戦っていたのだ。ともすれば死に繋がるかもしれないほどに。
なのに。

「あんたこんなものじゃなかったでしょ!!」

血塗れた剣を振りかざして叫ぶ。
しかし返事などない。
地に伏せた佐倉杏子の体は魔法少女の衣装ではなくいつもの普段着に戻っている。
傷が回復する様子もなければその顔には生気などない。
未だ目覚めぬ先輩の体を縛る鎖も消えていた。

そう、最後の彼女の一撃。
それははっきりと杏子の胸部を裂き、ソウルジェムを破壊していたのだ。

「あのときみたいにもっと攻めてくればいいじゃない!!
 何でよ!私がそんなにおかしいの?!」

その事実を否定したいのか、あるいはそれまでの過程を否定したいのか。
さやかはもの言わぬ骸となった杏子に叫び続ける。
彼女には佐倉杏子に手加減されるような覚えはなかった。せいぜいあの教会での会話だが、この場で巴マミを襲っている彼女がこうなることには繋がらない。
認めたくなかった。自分よりも強かったあの佐倉杏子がこんなに、驚くほどあっさり死んでしまったことを。
だがどれだけ叫んでも現実は変わらない。

297独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:13:21 ID:MUYBXhzA
そして、

「…佐倉、さん?」

その声が一人の魔法少女の意識を覚まさせた。
さやかの意識はその声の主に向かう。

「マ、マミさん、大丈夫ですか?」
「あなたは…誰…?」
「え?」
「あ…佐倉さん!!」

血塗れになって倒れている杏子に気付き駆け寄るマミ。
己の制服が血塗れになるのにも構わずに杏子に呼びかける。

「佐倉さん!しっかりして!佐倉さん!!」

その叫ぶ声は襲われた相手に向かってかけるようなものではなかった。


どうしてマミさんは自分に襲い掛かった相手をこんなに心配しているのだろうか?
もしかしてマミさんと佐倉杏子って何処かで何か関わりがあったのだろうか?

だとしたらちゃんと殺してしまったことについて話さなければいけないだろう。
マミさんならきっと分かってくれるはずだ。

シュルッ

「え?」

そのはずなのに。
何で今この体にはマミさんのリボンが巻きついているの?
何でその銃をこっちに向けているの?
何でマミさんは私のことを、まるで仇を見るような目で見てるの?

「マ…マミさ―」
「何でよ!どうして佐倉さんを!!この子が何をしたっていうの!!」

大声でまくし立てる巴マミ。そこにはかつてさやかが憧れた魔法少女の姿はなかった。
今のさやかは体を縛られており、身動きをとることができない。
だが、もしその拘束がなくとも今のさやかは動くことはできなかっただろう。
例えマミがその手に持つマスケット銃の引き金に指をかけていたとしても。

どうして?ねえ、マミさん、私ですよ?美樹さやかですよ?
私、マミさんみたいにみんなを守れるようになりたくて魔法少女になったんですよ?
これから一緒に戦えるんですよ?
なのにどうして?どうしてそんな目で私を見るの?

それじゃあ、まるで私―――――

298独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:14:57 ID:MUYBXhzA


巴マミにとっての佐倉杏子とはどういう存在なのか。
一言でいえば共に戦ったこともある仲間ということになるだろう。
しかし、両親を失い、ずっと一人孤独に戦ってきたマミにとっては、たとえ仲違いしてしまった後でも大切な、そして唯一の存在であったのだ。
この巴マミにとっては暁美ほむらは利害次第で協力し合える魔法少女ではあるが決して親しい仲ではない。美国織莉子、呉キリカはむしろ敵対する存在である。
千歳ゆまとは関わりこそ薄いものの友達と言えるくらいの関係はあった。だが彼女はもうこの世にはいない。
そして――美樹さやかに至っては存在すら知らない。

だからこそ、その唯一の仲間だったといえる佐倉杏子を殺した相手を目の当たりにして、激情に任せてその手のマスケット銃で相手の頭を吹き飛ばしてしまっても。
それ自体は仕方のないことなのかもしれない。

頭を吹き飛ばされたその魔法少女の死体は目から上を喪失させて倒れていた。
その死体を前に、巴マミは己の行動に大きく後悔していた。

「佐倉さん…!ごめんな…さい…!」

もしあの時自分がしたこととちゃんと向き合えていればこんなことにはならなかったはずだ。
あそこで罪の幻影から逃げ出したりしなければこの魔法少女に襲われて死ぬことなどなかっただろう。
千歳ゆまが死んだときと同じ。全ては自分のせいだ。

仲間を失ったという大きな喪失感がマミの心を絶望で覆う。
もう仲間が誰もいない一人ぼっちという今への絶望感。
それはマミの目には届かないもののソウルジェムの濁りとして表れていく。
だが、そんな中でも一つの希望があったことを思い出す。

「…たっくん?」

もしもの時、お互いの命を預けあった存在、乾巧。
だが今この場にはいない。
さっき飛び出したときにおいていってしまったのだろうか。その辺りの記憶は寝起きの上色々とショックも大きなことがあったためよく覚えていない。
もしそうなら今すぐにでも追わなければいけない。
だがそっちに向かうとまたあの魔法少女の亡霊に会ってしまうかもしれない。

299独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:16:05 ID:MUYBXhzA
今更何だというのだ。
もうこの魔法少女を、殺人者とはいえ殺してしまったのだ。
もはや逃げるだけではなく受け入れなければならないのだろう。

そして最後に杏子の骸をせめて人目につかない通りに隠し、マミは歩き出した。
大きな絶望を、唯一の小さな希望で誤魔化しながら。

【D-3/市街地/一日目 朝】
【巴マミ@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:ソウルジェム(汚染率:中)、絶対遵守のギアス発動中(命令:生きろ)、大きな罪悪感、精神不安定
[装備]:魔法少女服
[道具]:共通支給品一式×2、遠坂凛の魔術宝石×10@Fate/stay night、ランダム支給品0〜2(本人確認済み)、不明支給品0〜2(未確認)、グリーフシード(未確認)
[思考・状況]
基本:魔法少女として戦い、他人を守る。だけど…
0:たっくんに会いたい
1:さっきの救急車を追う
2:自分が怖い
3:佐倉さん…
[備考]
※参加時期は第4話終了時
※ロロのヴィンセントに攻撃されてから以降の記憶は断片的に覚えていますが抜けている場所も多いです
※見滝原中学校の制服は血塗れになっています  
[情報]
※ロロ・ヴィ・ブリタニアをルルーシュ・ランペルージと認識
※金色のロボット=ロロとは認識していない
※銀髪の魔法少女(イリヤスフィール)は死亡しており自分が殺したものと認識
それと同じ顔をした少女(クロエ)はそれゆえに見える幻影と認識
※蒼い魔法少女(美樹さやか)は死亡したと認識




そうしてその場に残った美樹さやかだったもの。
だがそれは少しずつではあるが元の形に戻りつつあった。

300独りの戦い ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:17:08 ID:MUYBXhzA
もし、巴マミが頭を吹き飛ばされていたらまず死んでいたと思われる。
ソウルジェムが頭についているからという話ではない。
彼女はソウルジェムの秘密を知らない。ゆえに多少頑丈であっても心臓や脳など急所を撃たれれば死ぬと考えている。
先に撃たれたのは心臓であったが、脳に働きかける生の呪縛が彼女を生かした。
だがその脳を破壊されれば呪縛は働きかけなくなるだろう。そしてその再生より早く死への絶望がソウルジェムを汚し尽くす。

しかし美樹さやかはその秘密を知っていた。
魔法少女の体などただの抜け殻にすぎないことを。ソウルジェムさえ無事なら死ぬことはないことを。
だからこそ彼女は未だ絶望してはいない。
さらに彼女固有の能力、癒しの力によりその頭部は少しずつ形を戻しつつある。
そして完全に形を取り戻してしばらく後には再び意識を取り戻すことだろう。

だが、それが果たして彼女にとって幸せなことなのか、あるいはこの場で絶望に身を任せてその魂を消滅させてしまったほうが幸せだったのではないか。
それはまだ分からない。

【D-3/市街地/一日目 朝】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:頭部欠損(回復中)、意識なし
[装備]:ソウルジェム(濁り中)
[道具]:
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない。主催者を倒す
1:????
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】

※D-3、美樹さやかの近くに基本支給品、羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4、不明支給品1が放置されています。

301 ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/02(木) 19:19:34 ID:MUYBXhzA
投下終了します
おかしなところがあれば指摘お願いします

あと、雑談スレでも言われていましたが
もしゲーチスも書いたほうがよければそこのパートを追加しようと思います
なのでそれについての意見もお願いします

302名無しさん:2012/02/02(木) 19:34:17 ID:iEUJ7OnY
投下おつ
杏子……あんあんされず死亡確認!
さやかさんもマミさんもやばい状況だw
余裕ない人たちだな、ほんとに

ゲーチスはどちらでもいいですかねw
なくても問題なさそうですし

303名無しさん:2012/02/02(木) 22:11:59 ID:mWk6FunE
投下乙
あれ……なんか十話でこんな感じの話を見たような……
原作キャラ同士なのにこうも擦れ違うとは。おまいらちょっとは仲良くせいよwいや無理な状態なのはわかるけど
あんこちゃん……斬られて撃たれてホントご苦労さまです(泣

ゲーチスは……微妙なところですが、先に行けとかでほんの少しだけ出すぐらいは…?
氏の負担にならない程度の追加ならあった方がいいかもしれません
実はこっそりとナズェミデルンディス!しててもいいしねw

304名無しさん:2012/02/02(木) 23:30:58 ID:wyR2ZuYU
投下乙っす。
マミを助けようとしたら、誤解されて一番助けたかったさやかに殺されて絶望する杏子。信頼してた杏子を殺されて、自分を助けようとしたさやかを拒絶し、絶望の中ただ一人さ迷い続けるマミ。信じようとした杏子に裏切られたと思い、憎悪の果てに凶行に走り、その結果信頼してたマミの怒りを買い、わけがわからないまま絶望してゆくさやか。この3人の物語の果てにあるのは絶望しかない。…これなんて昼ドラ?

305名無しさん:2012/02/03(金) 18:03:28 ID:OOExkc6E
投下乙です

これは酷い(褒め言葉)
確かに原作でも微妙な関係だったけどそれがこういう形で火種にするとは…
悲劇だわ…

306名無しさん:2012/02/03(金) 18:12:00 ID:IT6S.cQw
投下乙です。
さやか熱くなりすぎだろ・・・
それにしてもマミさんは運が悪いww
勘違い魔法少女マーダーとか新しすぎる
そしてさやかは月の誤報とゲーチスの説法でアウトかな
これはW発狂マーダー化かな?

307名無しさん:2012/02/03(金) 19:41:20 ID:V8Yl7nhM
投下乙です。
やっぱりやりやがったな豆腐メンタルコンビwwwもうやだこの魔法少女www

おりこマミさんからした安定のさやかあちゃんは冷静な状態ならほむほむの友人の一人、程度のはずがまあものの見事にw

308 ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/04(土) 00:24:01 ID:y6tIZUo6
ご意見、感想ありがとうございます
ゲーチスの件ですが書いたほうがいいという意見も見受けられますので若干の描写を追加させてもらっても構わないでしょうか?
おそらく土日中には投下できると思うので

309名無しさん:2012/02/04(土) 01:04:29 ID:M31pzWW.
投下乙です
うわぁ…ドロドロだな…この魔法少女達…
マミさんはこれでたっくんまで死んだら…アァァ…

310名無しさん:2012/02/04(土) 15:20:20 ID:IW0e6gx.
>>308
構わん、やれ
冗談ですお願いしますオールオッケーです待ってます

311名無しさん:2012/02/04(土) 16:26:26 ID:UHqxnhUI
いいんじゃないの
矛盾が無ければいいですよ

312 ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/05(日) 01:26:47 ID:WftRh.go
こちらでよろしいですかね?
ゲーチス加筆したものを以下のように差し替えさせてください
まず>>293の状態表前の部分を次のように
////
「もうそろそろか?」
「あ、うん。だいぶ近付いてきてるわね……ん?」
「どうした?」
「いや、今何か…」

ふと、クロエの目に一瞬黒い影がよぎった。
おそらく隣で運転中の総一郎には見えていないはず。
アーチャーとしての能力を持つクロエの視力だからこそ、それを視認できたのだ。
その黒い影は六枚の羽と三つの首を持った何かに見えた。
そのような生き物は自然界にはいなかったはずだ。もしかしたらシロナの連れていたガブリアスの仲間のようなものなのだろうか。
それは普通の人間なら見落としてしまいそうなほどの高度を飛び、やがて視界から外れていった。

「…、何だったんだろ?」

何故なのか分からないが、それがクロエにはとても不吉なものに見えた。

約束の時間も一時間と半刻という時間となる今、二人を乗せた車は政庁へ向けて走る。
到着は近い。
/////

313 ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/05(日) 01:30:12 ID:WftRh.go
>>299>>300のマミさんの状態表以降を次のように
///

「なるほど、なかなか面白いものではありましたね」

魔法少女三人によるこの出来事、その一部始終をゲーチスは見ていた。
正確にはさやかと赤い魔法少女が斬り結んでいるところからとなるが。

あの速さで走る美樹さやかにゲーチスが追いつけるはずもない。
だからサザンドラに上空からさやかの探索をさせておいたのだ。
当然、己の安全も第一であるため、怪しい人物を発見した際はさやかの追跡は諦めて戻ってくるように指示しておいたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだった。
すぐにさやかを発見したためすぐにここへ来ることができた。

どうやらこの惨状は美樹さやかの先走りによるものらしい。まあ間接的には煽った自分のせいにもなるのだろうか。

ただ、一つ気になることもある。
あの金髪の少女―外見的特長からおそらく巴マミだろう―はさやかの知り合いと聞いていたが、あの反応はおかしい。
そもそもいくら仲間が殺されたといっても殺す行為にあまりに躊躇いがなかった。少なくとも知り合いにする態度ではない。
その関係自体に興味はないが、あの学園でのNのこともあり少し気になってしまう。

「どうも結論を出すには早いですか。
 さて、どうしたものか…」

近くに寄ってみても、やはり確実に彼女は死んでいる。
頭を吹き飛ばされたのだ。これで生きていたら人間、いや、生き物ではないだろう。

さやかの、あの巴マミに銃口を向けられたときのあの顔。あれは中々のものだった。
それだけに今ここで失ってしまうのも惜しい。だがこうなってしまった以上仕方あるまい。
そうなるとあの巴マミという少女。彼女を駒とするのもいいかもしれない。
だが彼女の向かう方向は政庁だ。行動するなら早く行かなければ。



さやかから視線をそらしているゲーチスはまだ気付いていない。
その、かつて美樹さやかであった骸の異変に。
撃たれた頭部が少しずつではあるが元の形に戻りつつあることに。

もし、巴マミが頭を吹き飛ばされていたらまず死んでいたと思われる。
ソウルジェムが頭についているからという話ではない。
彼女はソウルジェムの秘密を知らない。ゆえに多少頑丈であっても心臓や脳など急所を撃たれれば死ぬと考えている。
先に撃たれたのは心臓であったが、脳に働きかける生の呪縛が彼女を生かした。
だがその脳を破壊されれば呪縛は働きかけなくなるだろう。そしてその再生より早く死への絶望がソウルジェムを汚し尽くす。

しかし美樹さやかはその秘密を知っていた。
魔法少女の体などただの抜け殻にすぎないことを。ソウルジェムさえ無事なら死ぬことはないことを。
だからこそ彼女は未だ絶望してはいない。
さらに彼女固有の能力、癒しの力によりその頭部は少しずつ形を戻しつつある。
そして完全に形を取り戻してしばらく後には再び意識を取り戻すことだろう。

もし、ここでゲーチスが彼女の体に再び視線を戻せば、その異変に気付くだろう。
そうでなければ、異変に気付くことなく、おそらくは巴マミを追ってこの場を去っていくことだろう。

だが、どちらになったとしてもそれが果たして彼女にとって幸せなことなのか、あるいはこの場で絶望に身を任せてその魂を消滅させてしまったほうが幸せだったのではないか。
それはまだ分からない。

【D-3/市街地/一日目 朝】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:頭部欠損(回復中)、意識なし
[装備]:ソウルジェム(濁り中)
[道具]:
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない。主催者を倒す
1:????
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)

314 ◆Z9iNYeY9a2:2012/02/05(日) 01:32:54 ID:WftRh.go
【ゲーチス@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:左腕に軽度の火傷(処置済)
[装備]:普段着、きんのたま@ポケットモンスター(ゲーム)、ベレッタM92F@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、モンスターボール(サザンドラ(ダメージ小))@ポケットモンスター(ゲーム)、病院で集めた道具
[思考・状況]
基本:組織の再建の為、優勝を狙う
1:表向きは「善良な人間」として行動する
2:理屈は知らないがNが手駒と確信。
3:切り札(サザンドラ)の存在は出来るだけ隠蔽する
4:美樹さやかは惜しいが仕方ない。次の手として巴マミを駒としようか
5:政庁からはなるべく離れる
※本編終了後からの参戦
※「DEATH NOTE」からの参加者に関する偏向された情報を月から聞きました
※「まどか☆マギカ」の世界の情報を、美樹さやかの知っている範囲でさらに詳しく聞きだしました。
(ただし、魔法少女の魂がソウルジェムにされていることなど、さやかが話したくないと思ったことは聞かされていません)
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※どの方向に向かったかは後続の書き手さんにお任せします
※さやかがまだ生きていることには気付いていませんが、もしここでもう一度さやかを見ることがあれば異変に気付くでしょう。

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】

※D-2、美樹さやかの近くに基本支給品、羊羹(1/4)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入 印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4、不明支給品1が放置されています。
////

これでお願いします

315名無しさん:2012/02/05(日) 18:34:42 ID:ObjH2jc6
乙した。これで大丈夫かと思います

316名無しさん:2012/02/05(日) 18:51:30 ID:r1P8nXjQ
投下乙!
これまでどのロワでもマギカのメイン5人は生き延びてきたが、遂にここで死者が出たか
しかもこんな最悪な形で…
マミさんもさやかも、もろにパラロワというこのロワの特性に絡め取られちまったなあ。
これからいったいどうなるんだー!

317 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/09(木) 20:26:15 ID:eSEoQ3Xs
村上峡児、オーキド博士、マオ投下します

318接触 ◆qbc1IKAIXA:2012/02/09(木) 20:27:09 ID:eSEoQ3Xs


「ここがしばらく禁止領域にならない。なら今は動かなくても構わないってことね」
 片目を隠している少女は自分に確認するようにつぶやいた。
 日は昇っているもの、廊下の窓は西側にあるため校内は暗い。
 彼女、マオはショーヘアの銀髪をかきあげながら、いまだ目を覚まさないオーキド博士を見下ろした。
 彼女のギアスは相手の目を見なければ発動しない。
 かつ、意識を失っている相手の思考を探るなど不可能だ。
 殺すにしても情報を探ってから始末したいものである。
 先ほどのやり取りと荷物を見たところ、抵抗する手段はないのだろう。彼に関してはこのままでいい。
 確認後、ひと通りゼロの行方の手がかりがないか探ってみたが、それらしきものはない。
 単純に方角から責めるべきか。もしくはゼロに勝てないため、逃げるか。迷ったが、結論は出ない。
 そのため、マオは思考を切り替える。
 死者の名に知っているものがいた。
 ルルーシュ・ランペルージ。接触を望む相手、ナナリー・ランペルージの兄だ。
 事情は知らないが、より自分のギアスが効果的になる好材料と判断した。今のナナリーは感情的になり、付け入る隙はいくらでもあるだろうから。
 もっとも、ゼロとウィッチ・ザ・ブリタニアがわかれている以上、会いに行くべきかは疑問だ。
 もしかしたら魔導器が分離している可能性がある。
 そのため、ゼロと魔女の二人にわかれたのではないか。
 だが、そんなことが起こりうるのか疑問でもある。
 たとえナナリーと魔導器が分離しても、ゼロやウィッチ・ザ・ブリタニアのどちらかと同等の存在ができるとは思えない。
 生き延びるため、魔導器を求めるマオとしては判断を誤るわけにはいかない。
 ナナリーか、魔女か。どちらを追うか思考を続ける。
 答えのでない苛立ちか、床で眠るオーキド博士を軽く蹴った。
 瞬間、靴が床を叩く音が聞こえる。
「正直に答えていただきたい」
 落ち着いた男の声が廊下に低く響く。
「あなたの蹴った男性は生きていますか? そして、危害を加えたのはあなたですか?」
 高級スーツを包まれた、歳の割には若々しそうな男がマオを睨んでいた。


 マオの不運は一つ。
 寝ているオーキドを放って移動しなかったこと。ただそれだけに尽きる。
 まだそのことに気づかず、距離をとって精悍な目を覗き見た。
 シナプスサーキットを通し、相手の思考を認識できるのは、ギアス・リフレインの副次的なものだ。
 だが、副産物は副産物でも強力な代物である。今までこの能力で生き延びてきた。
 今もまた、相手の思考を読み取り、こちらの優位に進める。
 そのつもりだった。
「…………まいったな。あなた、アカギに殺されたオルフェノクの仲間ね」
「ほう? どこかでお会いしましたか?」
「いいえ。ただ、ボクには隠しごとは……」
 マオはすぐさま前方に転がった。薔薇の花びらがいつの間にか待っている。
 一瞬遅れて、先ほどまでマオが立っていた場所が粉砕される。
 粉塵を巻き上げ、片手でコンクリートを破壊しているのは白いスマートな怪人だ。
 村上の姿はとっくにない。
「せっかちねぇ」
「申し訳ありません。あなたの能力を確かめさせてもらいました」
 悪びれもせず、本心を語る相手にマオは顔をしかめた。
「さて、確かに隠しごとは無理そうですね。差し支えなければ、あなたの能力を教えていただけないでしょうか?」
「嫌味ね。だいたい当たりはついているのでしょう?」
「ということは、私の推測で間違いないわけですね」
「『ならば人の思考を読むことが出来るか。この能力を持ったままオルフェノクになれるのなら、上の上にふさわしい』。これでいいの?」
「ええ、証明としては充分です。ついでに、あなたなら続きも読めるでしょう?」
 自信満々な相手で不快になる。
 この村上峡児という男は『ここまで能力を明かすということは、別の本命の力があるということだ』と考えていた。
 事実ではあるが、敵の言いようにされるのは好きじゃない。
「喋りすぎちゃった?」
「しかたありません。心を読める以上、駆け引きの経験は自然と浅くなります。それはこれから学んでいけばいい。
お嬢さん、そろそろお名前を教えていただけないでしょうか? そして我々と共に行きませんか?」
「そうねえ、それもいいわね」


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