したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1名無しさん:2010/05/07(金) 11:07:21
リロッたら既に0さんが!
0さんがいるのはわかってるけど書きたい!
過去にこんなお題が?!うおぉ書きてぇ!!

そんな方はここに投下を。

2「馬鹿だなぁ(頭なでなで)」:2010/05/15(土) 05:19:37 ID:Xaa4.f1.
 三日降り続いた雨が漸く止んだ。
 久しぶりの太陽は目に眩しく、その光に浅い緑がきらきらと光っている。心地のいい風を受けながら、俺は坂道をゆっくりと上って行く。
 海沿いの田舎の街。こんな街は来た事もなかった。あんたが居なけりゃ、これからだって来る事はなかった。
 坂を上りきった所で振り向くと、眼下に海が見えた。坂道だらけの小さな街。あんたが以前話してくれた事があった、その通りの光景だ。
 覚えのある匂いに教えられて、突き当たりを右に曲がった。人のツテを頼って頼って手に入れたメモを見ながら、目的の場所へとたどり着く。

「---久しぶり」
 何を話していいのか分からない。あんたからの返事は無い。
「ここ、すっげ遠いんだな。この間やったバイト代がパァだ」
「場所もさ、あんたの親に聞いても教えてくんねーし。苦労したんだぜ。あんた、俺以外にほとんど友達も居なかったからな、ここ知ってる奴も居なくてさ」
「あぁ、そうだ。あんたの荷物さ、どうすりゃいいの。もう戻って来ねーんなら、あれ、どうにかしてくんない?邪魔で仕方ないんだけど」
 俺の後ろを通り過ぎた家族連れが、怪訝そうな顔で俺を振り返った。
「…………ほら見ろ、変な奴って思われたじゃねーか。早く何か言えよ」
 さわさわと梢の間を風が吹き抜ける。
「なんで黙ってんだよ。あんたいっつもそうだよな。俺が何言っても、我が侭言ってもさ、いっつもニコニコ笑ってさ、嫌とか絶対言わねーの」
「嫌って、言えば良かったんだよ。あん時もさ…徹夜明けだから、眠いから嫌って、言えば良かったんだよ…!」
 黒く綺麗に磨かれた石に、俺はとりとめもなく喋りかけた。馬鹿みたいに。
「嫌だって、そう言って迎えになんか来なけりゃ、事故ったりもしなかったし、こんな狭くて暗い所に入らなくて済んだんだ。今だって、笑って俺の隣に居れたんだ!」
 膝をついて、砂利をかき分けた。土を毟った。
「出てッ…こいよ…!何が永遠の眠りだよ…!狭いとこじゃ寝られないって…俺の隣じゃないと寝られないって、あんた前に言っただろ!…俺のっ、俺の言うこと、何でも聞いてくれたじゃん………なんで…出て来てくんねーんだよ!」
 握りこぶしを地面に叩き付けた。鈍い痛みに気がつけば、爪先が赤く滲んでいる。ぽたぽたと落ちた雫が、泥と赤を溶かして流した。
「なんで、出てきてくんないの……俺の言う事、もう、聞いてくんないの…」
 あんたが、我が侭きいてくれると安心できた。あぁ、まだ愛されてる、大丈夫って。
 俺が言えば無理するの知ってて、でも愛されたくて、沢山無茶を言った。そんな自分が嫌で、それを隠したくて、わざと酷く当たったりもした。そうしては後で酷く落ち込んだ。
 『ごめん』、謝る度、『馬鹿だなぁ』って笑って、あんた、俺の頭をくしゃくしゃと撫でたっけ。不器用だけど優しい、あの大きな手が好きだった。
 謝るからさ、もう一度撫でてよ。我が侭、言っていいんだよって、笑って撫でてよ。前みたいに。

「お願いだから…!」

 明るい日差しの中、何も言わない石の前で、何度も「ごめん」と呟く俺の頭を、初夏の風が優しく撫でて行った。

3「目を覚まさないで」:2010/05/18(火) 01:10:21 ID:3i2kAZAg
目を覚まさないでほしい。
そう思ったのは雪の降るある日のことだった。
可愛い寛和。このまま目を覚まさずに眠り続けてほしい。
そう思って生まれた時から彼が眠り続ける部屋に入って髪を撫でた。

弟の寛和は良く分からない子だ。なにせずっと眠り続けているのだから当たり前だ。
生まれたとき頭を打ったわけでもなく健康そのものだというのにずっと眠り続けている。
けれども他の同じような子供とは違って栄養もほとんど必要とせず、美しく成長し続けて現在に至る。
そして俺はその傍ら、寛和を心配し続ける両親とともにその過程を見続けてきた。
美しく伸びてゆく髪。白い項から覘く、年々すべらかになってゆく肌。その鼻梁。その足その肌その顔その腕その首その唇。すべてすべてすべてすべて。すべて、俺は見続けてきた。
それを不思議がりながら、それならば目を覚ましてくれと祈りながら、両親と俺はずっと過ごしてきたのだ。
決して開かない閉じられた瞳。その瞳が開いたら、どんな色だろう?
決して動かない閉じられた唇。それが動いて揺れたなら、どんな声が降るのだろう?
俺はそれが分からなくてもどかしかった。ずっとそれを祈っていた。

けれどある日、親父が死んだ。寛和に触ろうとして、そして母さんに刺されて死んだ。
母さんは叫んでいた。寛和にこの人は厭らしい事をしようとしたの、と。
そして母さんはいなくなった。刑務所に行った後、実家に帰るといって飛び出していって、後は知らない。
幸い財産は残っていた。それを大切に使いながら、俺は寛和と共にいた。寛和の成長は止まっていたけれど、でも年々美しくなっていった。刻々と美しくなる、その足その肌その顔その腕その首その唇。そのすべてすべて、すべて。俺はずっと眺めていた。寛和の体を拭きながら、寛和にたまの食事を与えながら、寛和を着替えさせながら、ずっとずっと眺めていた。
夏が幾度も過ぎた。蝉が幾度も庭で死んだ。
秋が幾度も過ぎた。紅葉が幾度も庭で朽ちた。
春も幾度も過ぎた。花が幾度も庭で枯れた。
冬だって幾度も過ぎた。鳥が幾度も庭で凍えた。

その間俺はずっと、寛和を眺め続けていた。

たまに話しかける。返事はない。けれど話す。それしかない。
たまに抱きしめる。動きはない。けれど抱きしめる。それしかない。
それを繰り返す。繰り返しては繰り返す。日々ずっと。仕事に出かける前、帰った後、ずっとずっと繰り返したのだ。
そしてある朝、雪が降って、そして思った。寛和の首に手をかけながら。
目を覚まさないでほしい、と。

美しい美しい、可愛い可愛い寛和。その声は、その瞳は、どんなものだろう? どんな色だろう?
それは熱情だった。まるで焦げ付くようなそれは俺を簡単に焼き尽くした。その瞳もその声も俺のものにしたくて、何度も寛和に話しかけて抱きしめた。
でも、寛和は目覚めない。まるで何かを拒むかのように、何かを待っているように目覚めない。
俺はいつまでも熱いのに。熱にやかれてつま先から手のひらの先、視線の前頭の底、全部寛和のものなのに。
俺はいつも熱かった。ずっと内にこもった熱が、それでも答えてくれない寛和が憎かった。

それが弾けて捻じ曲がるには、そう時間はかからなかった。
俺は寛和の声を想像していた。それは鶯よりも美しい声で、到底人のものではなかった。
俺は寛和の瞳を想像していた。それは虹より鮮やかで、到底現のものではなかった。
けれどそれは俺の寛和だった。それこそが俺の寛和だった。
だから。
俺は人であって現である、寛和がこのままでいてほしかった。
寛和がこのまま目をつぶっていればいい。そうしたら寛和の瞳は俺の思う色だ。
寛和がこのまま何もしゃべらなければいい。そうしたら寛和の声は俺の思う響きのままだ。
その考えは俺をひどく甘美に惹きつけた。

だから俺は寛和の髪を撫で、首に手をかけた。このまま目を覚まさずにいればいい。そう思いながら手をかけて、そして少し力を込めた。
寛和は動かない。俺はもっと力を込める。
寛和は動かない。俺はさらに力を込める。すると、

寛和が動いた。

俺は仰け反った。

4「目を覚まさないで」2/2:2010/05/18(火) 01:10:54 ID:3i2kAZAg
その日俺は寛和を殺せなかった。寛和が動いたからだった。その瞳が開くかも知れず、その唇が音を発するかもしれないからだった。
俺は寛和の声を想像していた。それは鶯よりも美しい声で、到底人のものではなかった。
俺は寛和の瞳を想像していた。それは虹より鮮やかで、到底現のものではなかった。
けれども俺は知っていた。寛和の声も瞳も、どんなものでもいいことに、俺は気づいていた。

俺は寛和に目覚めてほしい。
その声と瞳を味あわせてほしいから。
俺は寛和に目覚めてほしくない。
その声と瞳を独り占めする、
哀れな兄を知られたくないから。

目を覚ましてほしい。目を覚ましてほしくない。
俺はただただその狭間で、今日も寛和に少し触れる。寛和はまだ動かない。

その唇に口付けることを、寛和が許してくれるまで、俺も、まだ、動けない。

5バカップルコンテスト 1/2:2010/05/21(金) 23:18:22 ID:Pd9.TPS2
さてそれでは第一回、バカップルコンテストを開催しよう!

まず一組目。出席番号1番赤間春木と出席番号30番中井幸人である。
関係性は幼馴染。幼い頃から共にいた二人だが、この前めでたく結ばれた。
なぜ分かるかって? それは見ていたら分かる。
べたべたと以上に仲がいい→いきなりお互い目線も合わせなくなる→ある日なにか言い争っていたかと思えば翌日再びいちゃいちゃ。
こんな完璧なコンボ他にない。他にないぞすばらしい。今もこう、ふと手を触れ合わせては手をお互い引き、そしてそっと再び・・・おおなんということだ、80点!
「はいはい、80点ね。小計はまあ…こんな感じか」


二組目は出席番号10番筧雄二と40番丸居達也。
関係性は優等生と不良。ただいま急接近中である。まだ結ばれるまでいたっていないのでバカップルと定義できるかは曖昧だが、日々見るたび微笑ましい。
初期は俺としたことが見逃してしまったのだが、二人で屋上に行く姿が目撃されている(俺調べ)ことから考えると屋上でおそらく何かあったのだろう。
そして現在二人はと言えば言葉を交わすでもなんでもないが、ふとしたときに筧が丸居を見つめ、丸居も見返して二人が見詰め合うときのあの空気! たまに筧が見つめていないときに丸居が筧をじっと見つめている姿! そして丸居が視線を逸らしたかと思えば今度は筧が!
ああたまらない85点!
「5点の違いがさっぱり分からんのだが。…あーはいはい、好みね。分かった分かった」


三組目は出席番号15番里村要と42番渡辺太郎。
関係性は不思議と気の合う派手めとおとなしめ。多分Aまではいってる。
こちらの初期は見逃さなかったぞ、流石俺! あの二人がゆっくりと…話題を合わせて接近していくさまはたまらなかった!
そしてある日…涙を流す渡辺にそっと里村が寄り添った、あの時! 俺はもう何かたまらんかった!
現在はどうやら渡辺のほうにそれなりに趣味が合う友人ができたりと人間関係イベントが勃発しているようだ。皆の面前での「渡辺は」「里村は」「俺のだ!」と同時に叫んだあの瞬間…人目をはばからないあの瞬間! あれはたまらん! 86点!
「何だその微妙な点数。いやあのな、そんな目で見ても俺なんも思わんし。お前ただひたすら残念なやつなだけやし」


四組目は出席番号25番嘉禄帝と32番西邑剛士。
関係性は捕食者と被捕食者。現在もうなんというかいきつくとこまでいっている。
こちらの初期は誰でも知っている! クラス内リーダー格嘉禄の「お前は俺のものだ」発言に始まる堂々たるあれやこれや! あれや、これや!
忘れもしないあの朝、腰を擦りながら西邑が登校してきたときの興奮は…ああもう忘れようがない!
現在は帝の兄イベント中! だめだ、これこそバカップルにふさわしいだろう! 100点!
「おー、最高点でたな。まーあのふたりはそーだもんなー。帝が堂々としすぎててもう俺もなんもいえんわ」


さて五組目は…ん、もうネタ切れだな。やっぱりクラス内に限定したのはまずかったか。次は先生方で…ん? どうした克也。何か不満げだな?
「んー、まあなんというか、な。俺もそろそろやらないとなあ、と思って」
は? なんだそりゃ。
「なあ竜幸。俺とお前はなんだ?」
友人だな。
「そう。でもな、俺はお前が好きなんだ。それはそれはもう好きで、押し倒して俺のものにしたいしどろどろに甘やかしたい」
…・・・・・・え?
「まあ早い話、」

「お前とバカップルになりたいんだけど、俺はどうすりゃいいと思う?」

6バカップルコンテスト2/2:2010/05/21(金) 23:21:19 ID:Pd9.TPS2
間違えて1/2にしてしまいました。ここにわざわざ書くのもとも思ったのですが、紛らわしくなりますので一応。

718-899 機械音痴:2010/05/24(月) 15:24:22 ID:PeF.j4mY
(本スレではリロミスで大変失礼しました)
機械音痴キャラって萌えるよね。機械といっても、乗り物系からパソコン系から色々ありますが。

例えば、「僕が触ったら壊れるから!」と必要以上に機械を恐れているタイプ。
基本有能なのに、機械というだけで拒否反応が出てそのときだけ情けなくなると更に萌える。

分かり易くおろおろしてもいいし、表面上はなんてことありませんよ?な顔で内心焦っててもいい。
そんなタイプには「大丈夫、大丈夫」な包容力キャラがついてやって欲しい。
(例)「どどどどどどどどうしよう○○君!僕こんなのやったことないよ!」
   「落ち着いて下さい、○○さん。俺が教えますから」
   「だっダメだよ!僕には無理だ、無理無理無理!」

そんな大した操作してないのに、物凄くキラキラと尊敬の眼差しを向けてくるのも良い。
(例)「凄え…!お前すげえな……!魔法使いみたいだ!!かっこいいな!!」
   ↑賞賛の仕方が大袈裟。かつちょっとずれている
---------------------
例えば、「えーと、このボタンかな?」と恐れなくすぐなんかボタン押そうとするタイプ。
パソコン触っててすぐエラー出したり、傍で見てたら逆に恐ろしいことをやったり、
本人は慌ててなくて周囲の方が慌てるパターン。
(例)「○○ー。なんか止まっちゃったよ、これ」
   「おいいいいぃぃぃぃ!」

フィーリングでボタン押そうとしてツッコミ系キャラに全力で止められるのも良い。
(例)「へーこれが最新兵器かー。かっこいー。あ、ボタンがある」
   「ナチュラルに押そうとしてんじゃねえテメエ!」

このタイプだと、機械音痴さんはあまり学習能力が無い方が個人的に萌える。
現実世界だと迷惑だけどな!取説読もうぜ!
---------------------
あと機械音痴とロボット・アンドロイド・人格プログラム、のような組み合わせも萌える。
音痴の対象がそのまま相手なの。
機械の方がしっかりしてて、機械音痴は機械音痴故に相手の仕様とか構成とか仕組みとかわかってなくて
ただ「人間と変わらないじゃないか」と思って接するけど、やっぱり人間と機械の壁は存在して…みたいな

8探偵と助手 殺人事件現場にて1/2:2010/05/24(月) 23:55:48 ID:XjUTR.pc

「若様、若様」
「こら猫介、『館花先生』と呼べと言ったろう」
「若様は僕に先生と呼ばれるほど立派なお方でしたでしょうか」
「……間をとって『若先生』で許してやる」
「では若先生、今日のこれはどういったお遊びなのですか」
「当屋を知っているな」
「勿論ですとも。 若先生ととおぉっても仲のよろしい当屋一馬さまでしょう」
「お前はあいつのことが嫌いだったな……。 まあその当屋がな、
先日推理小説を書いて賞を貰ったのだそうだ。 本を送ってよこしたが
あいつの本なぞ読む気になれなかったからな、とりあえず書店に売っていた
推理小説を一通り読んでみた」
「面白かったのですか」
「猫介は読むなよ。推理小説と言うのは大抵人が死ぬからな、子供が読む物じゃあない」
「そんなことを言ったら新聞も読めませんよ若先生」
「む、確かに。では今度面白かったのを貸してやろう」
「ありがとうございます。で、今日のこれはどういったお遊びなのですか」
「ここまで言っても分からんのか。探偵ごっこだ」
「僕にはよく分かりませんが、探偵と言うのは白い燕尾服を着ているのですか」
「服装は色々だ。しかしどうせなら一目で探偵だと分かる、目立つ格好がいいだろう」
「忌憚のない意見を申し上げさせていただきますと、今の若様は手品師か芸人にしか
見えません」
「私が記憶している限り、お前の言葉に忌憚があったことはないぞ猫介。あと若先生と呼べ。
それでお前は探偵助手だ」
「こんな上等な服を誂えていただいたのはありがたく思いますし、若先生の格好と比べて
ずっとまともなのも嬉しいのですが、探偵助手というものは半ズボンを穿いているのですか」
「子供ならな。本当は私とお揃いにしようと思ったのだが、親父に殴られたからやめた。
せめて対になるように黒を選んだのだ」
「それは旦那様にお礼を言いに行きませんと」
「お前は私のなのだから、親父に礼など言わなくていい」

9探偵と助手 殺人事件現場にて2/2:2010/05/24(月) 23:56:33 ID:XjUTR.pc

「…………」
「…………」
「この死体役の方は名俳優ですね」
「……いや、それは本物だ」
「リアリティを追求なさるのは結構ですが、それは犯罪です」
「新鮮な死体を製造したわけではないぞ」
「運んでくるのも駄目です」
「違う違う。死体を手配したのは私ではない」
「では警察を呼びませんと」
「そうだな。探偵というのも案外つまらないものだ」
「犯人を探すとおっしゃるかと思いましたが」
「もう分かった。とっとと警察に突き出そう」
「……若様の頭脳は館花家の宝ですね」
「持ち腐れだがな。もっと面白い遊びを考えねば」
「お暇なら今度は僕の遊びに付き合ってください、若様」
「珍しいことを言うじゃないか」
「ええ。夜に、ベッドで」
「…………」
「ね、先生。いいでしょう?」

10名無しさん:2010/05/27(木) 11:30:12 ID:vZwr4q3Y
「信じられないな……崎山さんとこうしているなんて」
「それは俺もだよ、そもそも男の子とつきあうことになるとはね」
「ジョシコーセーだったらよかった?これでもピチピチなんだけど」
「誘惑だなぁ、高校生とは清い交際を心がけるつもりだよ、前田さんと約束したしね」
崎山さんは叔父の会社の人だ。
半年前に家族会だとかに無理矢理引っ張り出されて、そこで運命の出会いを果たした。
初恋と気づくまでに一ヶ月、男性相手に悩むことさらに一ヶ月、叔父に相談するまで悩みに悩んでまた一ヶ月。
叔父はさすがにひどく驚いて「何かの勘違いだ」と頭ごなしに決めつけた。
胃を悪くするような思いで、夜もよく眠れなくて、やっと勇気を出して話したのに。
逆上した俺を見て、叔父は考え直してくれたらしい。
それからしばらくたった週末に、叔父は崎山さんとのアポを取ってくれた。
場所は遊園地だった。子供か! おまけに叔父までついてきて、あろうことか男3人で遊園地。
それでも俺は有頂天だった。崎山さんとデート! こぶ付きってとこが残念だけど気にしなかった。

絶叫マシンにいくつも乗って、観覧車(やっぱり3人で!)乗って、アトラクション見て、居酒屋行って飯食べて……
「前田さん、生おかわりいきますか? それとも酒? 焼酎もいいのありますよ」
でも、俺が叔父を気にしなくても、崎山さんは叔父に気を遣うのだ。
当然か、叔父は会社じゃ崎山さんの先輩だし。
「あ……じゃ、生一杯。しかし今日はすまないね、崎山君。
 こいつがどうしても遊園地に行きたいって言うからさ、ホント参ってたんだ。
 俺ひとりじゃきついよな、遊園地……でも案外楽しかったし……今日は、助かった」
一応そういう設定になっているが、遊園地を決めたのは叔父なのだ。内心面白くない。感謝はするけど。
「いえいえ、俺ももう何年ぶりかなー。楽しかったですよ。鬼の前田さんの弱点がジェットコースターだっていう
 特ダネもつかみましたし」
「わざわざあんなもの、作る奴の気が知れん」
「乗る方じゃなくて作る方がですか!……でも、苦手なら下で待ってれば良かったんじゃないですか?」
「……裕紀が心配だからな」
グシャグシャッと髪の毛をわしづかみにされた。やめてくれよもう。

あの時見てしまったことは一生の秘密だ。
帰るために席を立って、先に靴を履いた俺が何気なく振り返ると、叔父がひとり、まだ席に残っていた。
その手が、座布団におかれている。さっきまで前田さんが座っていた席だった。
「叔父さん!何してるの、早く行くよ!」
俺は何食わぬ顔で叔父に声をかけ……それから数ヶ月、すったもんだの末に前田さんをゲットした。
叔父が悪いのだ。遊園地はデートのつもりだったのか。苦手なジェットコースターも崎山さんとなら乗ったのか。
知ってるけど言わない。勇気を出したのは俺の方だ。
叔父さん、ごめん。……ごめん。ありがとう。本当に……ごめんなさい。

11名無しさん:2010/05/27(木) 11:31:46 ID:vZwr4q3Y
すみません、>>10は 18-929 「甥っ子と、おじさんと、おじさんの後輩と」 でした。

1210:2010/05/27(木) 11:35:15 ID:vZwr4q3Y
おまけに下から6行目の「前田さん」は「崎山さん」の間違いです。
吊ってきます……

13甥っ子とおじさんとおじさんの後輩と 1:2010/05/27(木) 12:01:54 ID:tb0SoL.c
今の10代の男の子ってのは何が欲しいんだろうな」
仕事も終わり駅へとむかう途中、隣を歩く先輩に聞かれた。
急に何を聞いてくるのかと驚いたが、すぐにピンときた。
「甥ごさんにですか?」
「ああ。この歳になるとさっぱり分からなくて困ってる」
先輩が、甥ごさんと一緒に暮らしてから半年が経つ。
先輩の兄である父親と二人暮らしだったそうだが、
そのお兄さんが急に海外へ行くことになり、甥ごさんは先輩と同居することになった。
慌てて部屋の片付けや掃除をする先輩を手伝ったので、俺も良く憶えている。
「俺も先輩と3歳しか違わないので、あまり分かりませんが。
 好きなもの買いなさいって、お小遣いをあげるのはどうですか?」
「何度か渡そうとしたんだ。けれど『お父さんからお小遣い貰っているからいいです』って
どうしても受け取ってくれなくてな……」
「それは随分しっかりしてますね……、じゃあ何か買って渡さないと駄目か」
その時のことを思い出したのか、先輩は何となくしょんぼりとしている。
彼が来てから、先輩は前ほど飲みにも付き合ってくれない。
いそいそと自宅へ帰るので、俺や周りの人達はまるで子供が出来たみたいだと言っている。

142:2010/05/27(木) 12:03:16 ID:tb0SoL.c
じつのところ、俺は新婚みたいだよなーと思っている。
男親と二人暮らしだったせいなのか、甥ごさんは歳に似合わぬ家事の達人だった。
ここ半年、先輩のシャツは下手なクリーニング屋より美しくアイロンがけされ、靴はいつも磨き立てのように光っている。
先輩も社会人として身だしなみを整えていたが、手の掛け具合が違う。
週に何度か、お手製の美味しそうな弁当も持ってくるようになった。一口もらったら実際美味しかった。
弁当にはそのうち、先輩の好きな食材やおかずが必ず入るようになった。
弁当や身なりについて先輩に言うと、照れ笑いしつつ嬉しそうに喋る。帰宅する時は、連絡を入れている。
先輩は、もう彼をとても可愛いく思っていて、あれこれ気にかけているのだろう。
片づけを手伝ったお礼にと鍋に呼ばれた時に会ったが、
大人しくて素直そうで、先輩や俺に気を使ってあれこれ立ち働いていた。
かわいくて良い子だと思ったし、先輩と上手くやれているのは何よりだ。
けれど、少しつまらないし寂しい。
「先輩、今度の休み予定ありますか?
甥ごさんに買ってあげるもの二人で探しに行きましょうよ。」

1514:2010/05/27(木) 14:10:57 ID:tb0SoL.c
14訂正。2/2です

16名無しさん:2010/05/28(金) 11:57:52 ID:PCg6mubE
この掲示板は100行まで投下可能です。分割しなくても大丈夫ですよ。

1718-269 帝王学:2010/06/03(木) 12:51:21 ID:7HM4FhTA
「先日内乱があったそうですね」
「小さいやつだがな。兵をやったらすぐに収まった」
「首謀者の一族郎党、女子供まですべて殺したと聞きました」
「反乱を起こすというのなら、そのくらいの覚悟はもってやっているだろうさ」
「恐怖で人は縛れませんよ」
「恐怖がなければ、やつらは思い上がる」
 彼の手が酒器へ伸びた。彼がめったに飲まない酒を飲む時はたいがい機嫌が悪かった。
「北へ兵を進めようとしているとも聞きました」
「そうだな」
「何故そんなに急ぐのです。あなたが他国に出している兵は駒ではない。
私たちと同じ生を受けている者たちなのですよ」
「俺は玉座の重みは知っている。出来る限り少ない犠牲で済むようにしている。
それはお前には見えないだけだ」
「今以上に国を広げてどうなさるのですか」
「国が豊かになって何が悪い。国を治める者は民の事を考えろ、
国が豊かになることが民の為と教えたのはお前だ」
「他国を虐げて、自国の益ばかりを考える国で、民が幸せだとでも言うのですか。
内なる不満を力でねじ伏せて、それで民は満足だと」
 彼からにらまれて、私は彼の琴線に触れる一言を言ってしまったのだと気がついた。
「酔いが醒めた。無粋なやつだ」
「出過ぎたことを申しました……」
「北に兵はやらぬでも良いが、あの国は数年後こちらを攻めてくるだろう。
先にやらねばこちらがやられる。その時にこちらの兵は百万は失う。
それでもいいならそうしてやるさ」
「戦以外の道もあるのではないのですか」
「お前から渡された書物にはそんなものはなかったな」
 冷たい目でそう言い放たれ、私は次の言葉が出なかった。
腕をとられ寝所に連れて行かれる気配を感じた。私は必死にその腕を振り払おうとした。
「お離し下さい」
「よく言う。閨の事も俺はお前から習ったのに」
「私は…」
「早く世継ぎを作ってもらおうと思ってか?
あいにく俺は俺の血を残そうなどとは思わない。
妻には他の男と世継ぎとやらと作ってもらってもいいくらいだ」
「なんと恐ろしいことをおっしゃるのですか」
「俺の臥房に呼ばれることを誉れと思え。思えぬのなら、俺が眠っている間に俺を殺せ。
それでお前の悩みは消えるだろう。だがお前はそれが出来ない。
お前が育てた男は、今この国で最も玉座にふさわしい男だからだ」
 彼は荒々しく私の口を吸う。髪をつかまれ、乱暴に引き倒された。後はされるがままだった。手加減はまるでない。体がきしむような痛みに私は耐えた。

 あの人見知りで内気な少年はどこに行ってしまったのだろう。
優しすぎて、王宮に迷い込んだ猛獣も殺さないでくれと泣いて頼んだあの少年は。
 王が私を抱くのは復讐なのか。ありとあらゆる帝王学を修めさせ、
こんな道に進ませてしまったことへの。

 彼の苦悩を、彼の涙を、私は見て見ぬふりをした―――これはその報いなのか。

18絶対に知られたくない人:2010/06/05(土) 12:25:30 ID:Q09jxEaM
人里離れたこの学校に、転校生が来た。

噂によると、転校生はジャ●ーズジュニア真っ青なかわいらしい顔立ち、編入試験もほぼ満点。
転校初日に副会長の似非スマイルを見抜き、寮の同室である一匹狼な不良を懐柔。
双子会計を見分け、無口ワンコな書記の言いたいことを理解し、会長に「面白い」と言わしめたらしい。

随分とスゴい奴が来たものだ。
既に転校生の親衛隊も作られたとも聞いた。
近いうちに生徒会入りかもな、と生徒会顧問が呟いていた。

そんな面白い奴なら、是非お目にかかりたいと思いながら、タイミングが合わずに早一ヶ月が過ぎていた。


どうやら生徒会入りが本格的に決まったようだ。

それを知ったのは書面だった。
各委員会当てに配られたプリントに、生徒会補佐の承認を求める内容が書かれていた。
時期が時期なため、選挙とはいかなかったらしい。

生徒会役員やその親衛隊からの承認は受けており、あとは各委員長のみとなった時点で、初めて転校生の名前を知った。


……関わりたくない。


額に手を当て、ため息を一つ。
まさか、そんなバカな、あり得ない。

「委員長?」

副委員長が不思議そうな顔でこちらを見る。

「承認はする。これをあっちに持って行ってくれ」

署名はした。わざわざ足を運ぶ気はない。
パシり…ではなく、お使いを頼めば

「いや、顔合わせもあるでしょうし、委員長が行ってください」

バッサリと切りやがった。殴りてぇ。


渋々、本当に渋々と生徒会室まで行き、深呼吸。
いない、絶対いない。信じよう。

「失礼します」

ノックをし、挨拶と共にドアを開ける。

「俺の隣に来い、梓」
「ほら梓、好きなケーキ用意したよ」
「「梓ー、遊んでよー」」
「あずさ、こっち…」

そこには異様な光景が広がっていた。
役員が揃いも揃って一人を求めている。
で、そいつはと言うと

「だから、俺はてめぇらみたいな雑魚相手にしてる暇ねぇんだよ」

顔に似合わない口調で、毒を吐いている。

いたよ……
帰るか、と踵を返そうとしたら

「桜井、書類か」

空気読めないバカ、会長が俺を呼んだ。
転校生がこっち見てるじゃねーか、ボケ。

「承認はする。後は関わらない。じゃあな」

近くの机に奥だけ置いて、さようなら……は出来なかった。

「久しぶりだな。会いたかったぜ?」

俺の右腕、離せや。

「折角会いに来てやったのに、再会に一ヶ月もかかるとは思わなかったぜ」

まさか、人知れず入学したここにまで来るとは。

「まあ、仲良くやろうぜ。風紀委員長さん」

鬼だ。天使の笑顔を持った鬼がここにいる。

多くの人を魅了し、侍らせ、心を乱すのを得意とする友人。
笑顔で『お前が好きだから、絶対貰う』宣言されたときには、嬉しさなんかよりも恐怖を感じて逃げに走った。

それなのに、知られてしまった。
こんな山奥の学校にまで来たのに。
鬼から逃げるための檻の中に、鬼が入ってきてしまった。

「俺から逃げられると思うなよ」

いや、逃げるけど。

1918-959 殺し愛 1/2:2010/06/06(日) 18:54:23 ID:6g9eFhCI
「毎回思うんですけど」
男の腕に包帯を巻きながら、少年は嘆息した。
「本当、楽しそうですよね。あの人とやりあってるとき」
今しがた、男の切り裂かれた腕を縫合し終えたところだ。
まともな医学など学んでもいない自分の治療技術がここまで向上したのも、
目を逸らしたくなるような傷を前にして殆ど動揺しなくなったのも、半分以上この男が原因だと少年は思っている。
「上からの指令、ちゃんと覚えてますよね?」
「わーってるよ。……あーあ、邪魔が入らなけりゃもっと楽しめたんだがなぁ」
「楽しんでないで、殺してください」
「だからわかってるって。うるせえぞ」
ぞんざいな口調とは裏腹に、男はずっと上機嫌だった。利き腕に深い傷を負ったにも関わらず、
鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気だ。きっと二ヶ月ぶりの『最中』を思い出しているのだろう。
ニヤついている男に、少年はわざと聞こえるように大きなため息をつく。
「分かってません。だって殺せてないじゃないですか。また逃げられたじゃないですか」
わざときつい言い方をしたのだが、男は特に怒らなかった。
「逃げられてねえよ。ただアイツを囲ってる連中が、途中でアイツを引き摺っていきやがっただけだ」
「詭弁です」
「アイツは逃げねーよ」
男は楽しそうに笑っている。
「アイツが、俺から逃げるわけがねえ」
言い切るその言葉に、少年はそれ以上言い返さず、小さく「そうですか」とだけ呟いた。

男の腕に傷を負わせた『あの男』のことを、少年は直接は知らない。
だが、彼があの男に執着しているのは、組織内でも有名な話だ。それこそ殺したいほどに。
あの男は彼の元相棒で、組織を抜けた裏切り者だった。
だから、組織の上層部はあの男の抹殺に彼を差し向けた。適任だと考えたのだろう。
(それが間違いだったんだ。この人は、あの人の『抹殺』に一番向いていない)

一度目。あの男が組織を抜けてから、二人が初めて再会したあのとき。
彼は笑っていた。笑いながら、傷を付けて付けられていた。『会いたかった』と嬉しそうに。
二人は、まるで互いの姿しか目に入らないように、ただただ、血みどろになって殺し合いを演じた。
少年が男の下について数年経っていたが、あんな彼を見たのは初めてだった。
あのときは彼に『邪魔をするな』と言いつけられていたが、
そんな言いつけがなくても自分は動けなかっただろう。そう少年は思い返す。

結局、あの最初の殺し合いは、現在あの男が身を寄せているらしいレジスタンスの狙撃によって中断し、
彼はあの男を殺せず、あの男もレジスタンスも彼を殺すことはできなかった。
あれから幾度かの戦闘が起こっているが、未だ決着はついていない。
飽くまであのレジスタンスの狙いは組織に打撃を与えることであり、あの男は重要な戦力ということなのだろう。
その大事な戦力の過去の因縁など、敵の一幹部をおびき出すエサ程度にしか考えていないのかもしれない。

「……はい、出来ました。数日はちゃんと大人しくして、早く治してくださいよ?」 
包帯を巻き終わって、少年は男の腕を軽く叩く。
今回の怪我が、右腕と右耳の裂傷だけで済んだのは幸いだった。
「その間に上から来た他の指令は、可能な限り僕や部下で対処しますから」
「おー。サンキューな」
敵対相手には血も涙もない癖に、こういうときこの男は人懐っこく笑う。

2018-959 殺し愛 2/2:2010/06/06(日) 18:55:45 ID:6g9eFhCI
その反応が嬉しくないこともなかったが、あの最初の殺し合いを見てからは素直に喜べなくなっていた。
(あの人に向けていた笑顔とは、比較にすらならない)
男は、手首をカクカクやりながら、機嫌良さげに包帯の巻かれた右腕を眺めている。
――まるで、大事な相手から貰った大事なプレゼントでも見つめるように。

その様子を見て、少年は無意識のうちに口を開いていた。
「……そんなに気に入っているなら」
「ん?」
「そんなに、あの人が気に入っているのなら。もっと平和的な手段があるんじゃないですか」
「平和的、だぁ?」
男は眉を顰め首を傾げて少年の顔を見る。少年は、そんな男の目を真っ直ぐに見返した。
組織の意向はあの男の『抹殺』だ。それを分かっていながらも、少年は言葉を紡ぐ。
「握手して、ハグして、キスして、どちらかがどちらかに突っ込めばいいんです」
「…………」
男はぽかんと目を丸くして少年の顔を見つめ、数秒後、盛大な笑い声をあげた。
「ぎゃはははは、なに言ってんのお前。俺はお前みたいな変態じゃねえよ」
「言うに事欠いて、僕を変態呼ばわりですか」
「だってそうだろ?突っ込めって、お前。俺はアイツを殺すんだよ、キスしてどうすんだ」
心底可笑しそうに大爆笑する男を前にして、少年は今自分が言ったことを即後悔する。
そして、後悔を誤魔化すように小さく咳払いしてから、素直に頭を下げた。
「血迷いました。つい馬鹿なことを言いました。すいません」
「つい、で言うことがソレかよ。ははは、まあいいって。ちょっとだけ面白かったぜ」
「すいませんでした」
「じゃあ、変態なお前に一つ命令。うん、罰だな、上司をからかった罰」
「……はい。なんなりとどうぞ」
「アイツを囲ってるナントカいう連中な。あれの本隊が今どこに居るのか捜せ」
「え?」
少年は少し驚いて顔をあげ、男を見る。
「いい加減、鬱陶しい。潰すぞ」
そう言った男の表情からは、人懐っこい笑顔は消えていた。
「俺らがあいつら潰せば、上も当分はうるせーこと言ってこなくなる。一石二鳥だろ」

ヘラヘラとしながらも、彼は気付いている。
結果を出さない自分達に組織が痺れを切らして、あの男に別の人間を差し向けるかもしれないことも。
最初の殺し合いであの男の『友軍』がそうしたように、遠方からの狙撃などで決着を図るかもしれないことも。
気付いた上で、極めて冷静に判断し動いている。多少の遠回りも雑用も我慢も厭わない。

「アイツとやり合うはそれからだ」

全ては、あの男を殺すために、または殺されるために――あるいは永遠に、殺し合うために。

(やっぱり、上層部は判断を誤った。あの人の抹殺は、もっと別の人間に命令するべきだったんだ)
(だってこの人は、あの人の事を一番に考えていて、一番に憎んでいて、一番に……)

2119-19 滅びを予感する軍師 1/2:2010/06/07(月) 07:30:37 ID:dAqinqNE
その軍師は、今帝の物心ついた時分より老人であった。
年輪のように刻まれた皺は深く顔に貼り付き、まるで生まれた時から老人であったようでさえある。
その灰色の眼は、今帝、先帝、先々帝と三代に亘る治世を見守ってきた。
実の正体は仙人であると囁かれるのも無理はない。若い姿を知る者は最早この宮廷には居ないのである。

さて幼き頃よりこの軍師に稽古をつけられし帝もちらほらと白髪の混じり始めた初春、
かねてより勢力を増していた西の異国が大陸の向こうより騎馬20万もの大軍で押し寄せてきた。
対する自軍は5万、小国ながら軍師の策により初めは拮抗していたものの、
夏にもなると若き国、若き軍に押され始め、遂に疲弊しきった自軍は僅かに宮廷を守るのみとなってしまった。
かつての美しかった都は焼け、民は南の国へ次々と逃げ落ちた。
今にも帝の玉間に敵軍の蹄の音が聞こえんとする中、軍師は帝と差し向かい話を始めた。

御覚悟は出来ておられますか、帝。
私は貴方の生まれる遥か前より、この国の為に尽力して参りました。
貴方の祖父、先々帝に戦場で初めてお会いしたのがまるで昨日の事の様でございます。
敵国の敗走兵だった私に、先々帝は強くなれと仰いました。
その日から私は、この国の為に、先々帝の為に強くならんとして参りました。
先々帝が亡くなり、先帝の為に働いて参りました。
先帝が亡くなり、帝の為に働いて参りました。
よいですか、帝。
御覚悟は、出来ておられますか。

2219-19 滅びを予感する軍師 2/2:2010/06/07(月) 07:34:05 ID:dAqinqNE

遂に門を破り宮廷を制圧した敵軍の大将は、一番奥の豪奢な扉の前に足を運んだ。
その繊細な装飾にそぐわない、戦の血や土で汚れた手が、重い扉を開く。
光の差し込む広い室内には、たったひとり正式な帝の装束を身にまとい、玉座についた人影があるのみである。

「帝か」

静けさを打ち砕くその声に、人影はゆっくりとその灰色の眼差しを上げた。


「いかにも」


再び閉じた瞼の裏に、先々帝の顔が浮かんだ。

…帝、貴方の子として私はこの国を慈しみ、守り、育てました。
貴方を愛する様に、この国を愛しました。
しかし、帝、貴方の子はこの国そのものではなかった。
貴方の子は、先帝であり、今帝であり、またこの国の民でありました。
子らの有る限り、国は滅びようとまた何度でも興るはずでございましょう。
生き抜く御覚悟を決めた今帝が、きっと道を切り拓くはずでございましょう。

違いないと、頷いて下さいますか、帝。


旅人のなりをした一団が南の国に到着したと同じ頃、ある一国の帝が首を落とされ、その長い歴史の幕を閉じた。

2319-69 24時間:2010/06/12(土) 15:00:03 ID:yfv0RATU
「今から86400秒後に貴方の心臓は停止します。」
自ら天使と名乗った男が言った。
イカレてやがる。
病院逃げて。
俺はこみあげる緊張に、寒気を感じながらごくりと派手な音を立てて唾液を飲み込んだ。
いつもなら聞く耳すらもたない、金目当てか、宗教か、はたまたキメちゃってるのか分からない男の言動に俺が狼狽しているのは、突如グレーのスーツから生えた鳥の羽根のせいに他ならない。
羽根だけならまだしも足元がちょっと浮いちゃってる。
悪ふざけにも程がある。
「聞いているのか」
世界の均衡がどうの御名がどうのとしゃべりつづけていた
天使?はもともと短気なのかビキビキと青筋を立てながら迫ってきた。
「聞いてないようなので要約するとお前は明日、死ぬ。」
マニュアルでもあったのだろうか、ですます口調が消えている男が真剣な顔で言葉を伝えた。
俺はなんとか、へたりこみそうになる体を壁でささえた。
「俺が病院行ってくるか」
「行ってもいいが、何もでない。
 お前は健康だ。」
「じゃあ、アタマ?」
「正常だ。知能は低そうだがまともだろう。」
「いやあんたの方」
天使はほんとに短気なのか本域で両手で首を締め上げた。絶句してタップすると乱暴に手を離された。
「なんでもいい。信じろ。
 信じさせて、残りの寿命を本人にとって有意義な時間として使用させるのが僕の役目だ。」
「お前を信じろって?」
「そうだ。僕を信じろ。」
「信じたら、死ぬじゃねえか。」
ぐっと天使の眉根が寄った。
最初の取り澄ました顔からは想像つかないほど人間くさい。
こいつなりに苦悩してるのかと思うと、なんとも場違いなことにどきりとした。
・・・・・・。
どきりって俺バカすぎるだろう。俺の人生今日までっていう発狂しそうなシチュエーションなのに
気分少女マンガってバカすぎるだろう。
とりあえず気持ちをシリアスに戻したくて、なんでもいいから口を開いた。
「・・・リミットは、明日のこの時間か」
「そうだ。85921秒後だ。」
「俺が死なない方法なんて」
「ない。あれば、僕は一番最初に提示している。」
「なんで、なんで、俺なんだ。」
こいつが本物の天使なら、おそらくは何十回と聞いているのだろう。
なんともいえない顔で押し黙った天使に、やっぱり場違いになんともいえない気分になった俺は頭を抱えてしゃがみこんだ。
男は状況に絶望したと勘違いしたのか、その一見とっつきにくい風体をおろおろさせて俺の顔を覗き込む。
「会いたい人、願望があれば、条理に反しない程度でサポートする。
 僕はそのためにここに居る。何でも言え。」
じゃああんたとちゅーしたいんだけど。
ふと浮かんだ願望に絶望しながら顔を上げると、外見上は道でさっき会ったばっかりのただのリーマン過ぎた。
だがリーマン天使は気難しい表情のまま本人より真剣な目で俺の為にいるという。
「・・・旅行とか、できる?行きたいところとか、どこでも。」
「大丈夫だ。」
少し前向きになった俺に、なんだそんなことかと天使は少し笑った。
ああなんだ。
本当に天使っぽい。
なんだかどうも輝いて見える。
明日、俺の為に泣いてくれないだろうか。
得体の知れない天使グッツとやらをジュラルミンケースから取り出し始めた天使の後頭部をぐりぐり撫で回したい衝動を抑えながら、俺は天を仰いだ。

2419-59 ひぎぃ:2010/06/12(土) 18:04:43 ID:ZZZMp79s
「『ひぎぃぃぃぃぃらめぇええええこわれちゃうぅぅぅぅぅぅっつ』ってどうやって発音するのかな」
「なんですか?」
「エロマンガのセリフです」
「今読んだ通りに発音するんじゃないんですか?」
「最後の『っつ』はやっぱりちゃんと『つ』も言うんですよね、きっと」
「知りません」
「試してみませんか」
「誰が」
「あなたが」
「誰と」
「私が」
「嫌です」
「どうしてですか」
「どうしてもです」
「試してみないとわからないじゃないですか」
「僕はわからなくても困りません」
「私はわからないとこの好奇心が収まりません」
「収まらなくてもいいじゃないですか」
「いいですけど、納得するまであなたで妄想しますがいいですか」
「それは嫌です」
「あなたの顔を見る度に、どんな声を出すのかなとか、妄想で頭がパンクするかもしれません」
「だいたい、本当にそんな風に最中に言う人いるんですか。聞いたこと無いですけど」
「誰かとそういう風になったことあるんですか」
「そりゃあ僕だってそれなりに経験はありますから」
「それじゃあ、最中に『だめ』が『らめ』になるかも試してみましょうよ」
「だから嫌ですって」
「堂々巡りですね」
「ですね」
「キスならいいんじゃないですか」
「え」
「そこからなら大丈夫ですよね」
「んー」
「ね?」
「まあ、キスなら」
「じゃあ目をつぶってくださいね」
「はい」
「ん」
「…ん」
「………」
「………ん、」
「………」
「…ん……」
「キスが上手ですね」
「んん」
「この先もいいですね?」
「…ン」
「試すだけですから」
「………あ」



「結局、『ひぎぃ』も『らめぇ』もなかったですね」
「当たり前じゃないでしょうか」
「『こわれちゃう』はありましたね」
「大きすぎるんです!」
「残念ながら、発音の仕方は結局わかりませんでした」
「マンガみたいには普通喘ぎませんから」
「でもおかげで好奇心が満たされました」
「そうですか」
「身も心もすっきりです」
「それはよかったですね」
「何か怒ってますか?」
「僕はこう言う身体だけの関係は嫌いなんです」
「ごめんなさい、順番が逆でした。私はあなたが好きなんです」
「知りませんでした」
「知らなかったんですか」
「僕はそれほど察しがよくありませんから」
「それはごめんなさい。私はずっと口説いてたつもりでした」
「口説かれてたとは思いもしませんでした」
「そうですか、それでは今度は恋人同士の行為に移りましょうか」
「いえ、壊れちゃうので」
「まだ恋人同士としては試してないですよ」
「……たしかにそうですけど」
「ね」
「…はい」
「それでは」
「あ」
「いただきます」
「…あ……らめぇ…」

2519-59 ひぎぃ(ry:2010/06/13(日) 20:10:11 ID:tB.aE5ms
「…暇だぁー」
「銀也、お前今朝からそれしか言ってないぞ」
「いや、そう言われてもね。マジ暇なんだって」
「いい加減、聞き飽きた。そんなに暇なら勉強でもしたらどうだ?次の試験、赤点だと単位ヤバいんだろう?」
「嫌だ。つまんねーもん」
「嫌って…お前な…。春休みに補習したいのか?」
「いや…そういうワケじゃ…ってか、そっちのが嫌だ。そーだ、お前勉強みてくれよ。どーせ、もうお前はカンペキだろ、首席サマ?」
「来週までにお前のそのポンコツ頭に知識詰めこむ自信はないな」
「眼鏡のくせにエラソーに。ポンコツって何だよ、殴るぞ?」
「偉そうって何さ。というか、眼鏡関係ないだろっ。まったく…そもそも、それが勉強教えてもらう奴の態度か?まあ、教えなくて良いなら…」
「えーっ」
「えー、じゃない」
「…。…。…。えーん」
「えーんって、ガキかお前。というか、嘘泣きって。何才だよ。やっぱりお前馬鹿だろ」
「困ったら嘘泣きしとけばどうにかなる、って昔言ってたじゃん」
「わぁ…。何、それいつの話?幼稚園とか、そんくらいの時に僕やってた記憶はあるけど、お前に言ったっけ。というか、17にもなって嘘泣きはない」
「玲史…お前、オレを騙したのかぁ!」
「小さい頃の話じゃないか!いつまで信じてんだよ…。そういうのは可愛いから通用するに決まってるだろ。こんな可愛げのない奴が嘘泣きしたって気持ち悪いだけだって」
「や、今でもイケるかも…って、誰が気持ち悪いだ、てめぇ。つーか、何。お前、昔は自分カワイーって思ってたわけ?」
「うん。そうだけど?実際、可愛かっただろ?初対面でお前が女と間違えるくらい」
「ぅわー!言うな!それはもう言うな!忘れろ!今すぐ忘れろ!」
「うーん…そう言われてもねえ?僕としては人生最大の事件だったわけで。男だって気づかれないまま、告白までされたっけね?」
「うわっ!何でそんなことまで覚えてんだ!頼むから忘れてくれ!」
「うん?嫌に決まってるじゃないか。お前をからかう最高のネタ、忘れるなんて勿体ない」
「うるせー。もう黙れお前。あー、もう。昔のオレ殴りてぇ…何でこんな性格悪いヤツに…」
「うるさいのはお前の方だと思うんだけど。…で、話戻すけど。勉強、今日から教えてやる。今楽しんだ分はキッチリみてやるから安心しろ」
「…って、今日から?マジ?」
「机の上、片付けとけよ。どうせ、物置きになってるんだろ。いいな?じゃ、席戻れ。予鈴なる」


 + + +

一応、注釈?
「お題…?」な人は平仮名に変換して頭の文字だけ拾えば疑問が解消されるかも。文字の大小はスルーの方向で。
い・え・うのターンは死にそうだった。一部、トンでもなく苦しいことになってるのは見逃して…。意外につなげるの難しくて。

2619-89 共犯者 1/2:2010/06/17(木) 00:41:20 ID:swA1qkbU
…えェ、ですから私は共犯者なんです。
藤野が?全て罪を認めると?
いいですか…イイエ、毛布なんぞ要りませんよ。飴玉?子供扱いしないで下さいよ。
水?そんなら一杯頂きます…

…フゥ。

いいですか、藤野が何と言ったかは知りませんが、私は藤野の共犯者なんです。
えェ、私は四宮の長男です…そして藤野は我が家に出入りしていた庭師です…
坊っちゃんと呼ぶのは止めて下さい。幼く見えましょうが私はもう十八です。
そうです。来月祝言を挙げる事になっていました。そしてゆくゆくは四宮商事を継がされる…
結構じゃあありませんよ。冗談じゃない。毎日ゝゝ息が詰まりそうでした。

藤野とは良く話をしました。口を利いている所を見つかりますと叱られましたので、こっそりと障子越しに話を。
イエなにという事もない話です。しかし私の知らない世界の話でした。
年もそう変わらないのに、私は世間を知らないものですから、とても興味深かった。
故郷の話も良く聞きました。山があって川があって、空の高く青い…

そんな話をしているうちにぽろりと溢してしまったのです。藤野の故郷へ行きたい、と。
丁度初めて婚約者の写真が送られて来た日でした。いや、お可愛らしいお方でしたよ。
しかしはっきりと悟ってしまったのです。
私はこの方の事を何とも思っていない、この結婚はお互いに哀れになるだけだ、と。
…いえ、もしかしたら私ははなから時機を待っていたのかも知れません。
どうした訳か、私はその時藤野も同じ事を考えていると確信していました。同じ気持ちでいると。
そして障子を開けたのです。
果たして藤野は、私と同じ目をしていました。
行きましょう、と言ってくれたのです。

家中のお金をかき集め、車を一台失敬して家を飛び出しました。
あれ程大きく見えた我が家の門が遠ざかる程に、私の心は晴れやかになっていきました。
私は腹の底から愉快でした。藤野と目が合うだけで笑いが込み上げて来ました。
藤野も見た事もない顔で笑っていました。何しろ真面目に仕事をする姿しか見た事がないのですから。
…そうです、其れが十五日…そして北へ北へと向かいました。藤野の美しい故郷へと…

2719-89 共犯者 2/2:2010/06/17(木) 00:44:33 ID:swA1qkbU
何もかも初めて見るものばかりでした。
東京を離れて行くにつれて田畑が増え、あれは何の畑、其れは何の畑と藤野が教えてくれました。
何も食料を持って出ませんでしたので、昼過ぎでしょうか、車を停め、
青々と実っていた胡瓜を少しばかり失敬してそのままかじりつきました。小川の水を掬ってごくごくと飲みました。
とても美味しかった。こんなに胡瓜と水を美味しいと思った事はありませんでした。
あァそうだ、此れも罪状に付け加えておいて下さいね。あくまでも共犯ですよ。

そして温泉街に出たのでその日は宿をとりました。…はた屋?はァ、そこまで調べがついているのですね。
…何です?下世話な興味は控え…いい加減にして下さい。訴えますよ。
兎も角、一泊して朝には発ちました。野を越え山を越え、暗くなる前には藤野の故郷に着きました。
本当に綺麗な所でした。空は真っ赤に染まり、山も赤々と照らされ、まるでそこかしこが燃えているようでした。
何故だか私はとても懐かしいような、泣きたいような気持ちに捕らわれました。
ふと藤野を見ると、藤野も私と同じ、泣き笑いのような顔をしていました。

…そこからはご存知の通りです。藤野の実家には家から既に連絡がいっており、私達は貴方がたに捕らえられました。
一瞬だけ見かけた藤野のお母様の目は哀しそうで、瞬間とても申し訳ない気持ちになりました。
えェ、この様な次第ですから、藤野が罪に問われるというなら私はその共犯者なのです。
被害者?とんでもない。誘拐?そんな馬鹿な!
おおかた私の家の者が力をかけているのでしょうが…一寸待って下さい。何、何を書いているんです?
まるで違うではありませんか!私は藤野に脅されてなどいない!心神を衰弱など!私はまともだ!
聞いて下さい、ねェ、私は家の金を盗み、車を盗み逃げたんです…私は共犯です…!いえ、私こそが主犯です!
藤野はただ私を、あの家から逃そうとしてくれたんです…あの監獄から…あァ、藤野…
藤野は何処にいるんです?話を、話をさせては貰えませんか?お願いします…
何処か近くの部屋にいるのでしょう?お願いです、後生ですから…藤野…!
何ですか、迎え?嫌だ、私は家に戻るつもりなどない…!
聞いて下さい!聞いて下さい、私の話を…!

私の、私達のした事が一体何の罪になるというのか…!

2819-99 クマのぬいぐるみだと思ってたらサルだった:2010/06/18(金) 02:54:35 ID:d/TNxojU
「いや、お前はクマじゃなくてサルだよ」
「…へ?」
突然言われた衝撃的な一言に、俺の思考回路が一瞬止まる。
「だから、お前はクマじゃなくてサルのぬいぐるみ」
…えーと…俺が、クマじゃなくて、サル?
「いやいや!お前何言ってんの!俺はクマだろ!?」
「…お前、自分の姿見たことないのか」
目の前のクマのぬいぐるみがため息をつきながらそう言う。
「…え…だって工場からUFOキャッチャーまで段ボール箱の中だったし……マジで?」
「…手見てみろ。同じ茶色だけど俺のとちょっと違うだろ」
そう言われて自分の手をまじまじと見てみる。
茶色だ。薄茶色で…指がついている。
「ほら、俺のは指までついてない。もっと丸いんだ」
隣のこいつの手と比べれば、その違いは一目瞭然だった。
「…知らなかった…」
俺はてっきり、クマだとばかり。
可愛くて一番人気なクマのぬいぐるみだとばかり思ってたんだ。
「…お前サル嫌なの?」
ショックすぎて暗い表情になった俺に、隣の奴が話しかけてくる。
「…そりゃ嫌だろ。一番人気ないって工場でも言われてたもん…」
まさか自分がその不人気なサルだなんて思ってもみなかった。
この気持ち、人気のあるこいつには分からないんだろう。
「ふうん。でもお前、自分の顔見たことないんだろ」
「ないけど…でも人気ないんだから相当なブサイクなんだろ」
「別にそんなことないと思うけど」
「…そりゃ慰めをどうも」
なんだよ、人気者は話しかけてくんな。みじめじゃないか。
―嫌いだ。こいつなんてとっとと取られてどっかに行っちまえ。

そんな俺の思いとは裏腹に、数日経っても隣のクマはなかなかキャッチされなかった。
狙われたことは何度かあったが、どいつも下手っぴで腕をかすめていくだけ。
他のクマのぬいぐるみはどんどん取られていってるのに。
多分人間から見て取りづらい位置にいるのだろう。
対して俺はというと、当たり前のように狙われることすらなかった。
「あれ、端っこの方にサルもいるじゃん」
「えー!やだ、クマがいい!」
こんな会話が外側の世界で繰り広げられるのを何回か聞いて
その度に、やっぱりサルなんて人気ないんだなと改めて落ち込んだ。
…あ、また隣の奴の足にアームが引っ掛かる。
今度こそお別れかな…そう思ったけど、やっぱりアームはするりと抜けた。
「お前、人気あるくせに運悪いね」
ぼそりとそう言うと、奴は少し笑って「むしろいいだろ」と呟いた。
むかつく奴だと思ったけど、一番人気なだけあって笑った顔は魅力的で
もう少しこいつに隣にいてほしいなんて思ったのは絶対に内緒だ。

次の日、いつものように「クマあそこだ」という声が聞こえた。
「ほらあれ!クマだよ、かわいいだろ?」
「いや別に…ていうか隣のとなんか違うの?」
「ええ?隣はサルだよ!全然違うじゃん!」
「ああそう…。もうなんでもいいから早く取って帰ろうぜ」
いつものようにラブラブなカップルでも来るのかと思ったら野郎二人組かよ…。
まあどうせ可愛い女の子が来たところで俺には目もくれないわけだけど。
ていうか…クマをかわいいと言ったあいつ、何回か見たことがある。
よくUFOキャッチャーをやりに来ていて、結構上手かったはずだ。
この前も大きいヒヨコのぬいぐるみをゲットして喜んでたんじゃなかったっけ。
隣をちらりと見ると、クマのぬいぐるみと目が合った。
「…お前、今度こそ取られるかもな」
人気者がいなくなったらせいせいする。
「そうかもな」
だって、こんな奴がすぐ隣にいたら自分がみじめだ。
「…もう会えなくなるな」
だから早くいなくなれ。
「…そうかもな」
アームがこちらに向かって近づいてくる。
このアームが次に開いた時は、こいつはずっと遠いところに行ってしまう。
「…行かないで」
「…え?」
―いなくなれなんて、本当は思ってない。
「お前が行っちゃったら、クマいなくなっちゃうだろ!
 クマがいなかったら誰もやろうとしなくなるから!」
一気にまくしたてると、アームがクマに向かって降りてくる。
「だったら一緒に行けばいいだろ」
次の瞬間、引きずられるように俺の体も上へと持ち上げられていった。


「…お前、なんであんなことしたんだよ!」
アームで捕獲されたクマとそのクマに捕獲された俺は、今二人仲良く紙袋に押し込められていた。
「なんでって、分かんねえの?」
呆れたように言う口調にやっぱりこいつむかつく!と思ったけど
かなり近い紙袋の中のこの距離に俺の心臓はドキドキしっぱなし。
「あー早く離れてえ!」
そう憎まれ口をたたいたが、俺の心の中の望み通り数分後俺たちは並んでベッドの脇に置かれることになる。

2919-99 クマのぬいぐるみだと思っていたらサルだった:2010/06/18(金) 09:42:35 ID:MPxMks/Q
ショータが放課後、女子と一緒に何かしてたのは何となく知ってたけど、まさかフェルトでぬいぐるみを作っているとは思わなかった。
「ソウマ、これやるよ。お前もエナメルに付けとけ」
「おー、なにコレ、作ったん?」
「おうよ」
「すげー。さんきゅ、かわいいじゃん」
「サッカー部で貰えてないのはお前だけだからなあ、かわいそうで見てられね」
関東大会出場が決まってから、部の連中のエナメルバッグにはお守り代わりの手作りぬいぐるみがぶら下がるようになった。
いる奴は彼女とか、ファンの子とかがくれるのだが、俺は全部断っていて、ショータもそれはよくわかっていた。
多い奴は10個ぐらいぶら下がってるが、俺のはシンプルに飾りは無い。
ショータがくれたものをまじまじと見る。
手が込んでるのかどうなのか俺にはよくわからないけど、目がちんまいビーズだ。
手のひらより小さくて、俺はとてもこんなものを作ろうとは思わない。
「すげぇな、よく出来てるじゃん、このぬいぐるみ。ちゃんとクマに見える」
「はぁ?」
「何?」
「ぬいぐるみじゃなくてマスコットだし」
「どう違うのよ」
「平べったいし。ぬいぐるみったら立体だろ」
「うーん?」
俺にはその違いが全くわからない。
「それにクマじゃなくてサルだし」
「あー? クマじゃねぇの?」
「サ・ル! よく見ろよ、ちゃんと違うフェルトで顔の色も変えてんだろ」
「でも、サルったら耳がもうちょっと横にねぇ?」
「それは、縫ってるうちに移動しちまったの! ちっちゃいからすげぇ苦労したんだからな」
「へえ…そういうもん」
「そういうもん」
「しっぽとか」
「縫ってるうちに抜けちった。ちっちゃいから苦労したの」
「…なるほどな。ところでなんでサルよ」
「そりゃあ…俺が猿渡ショータだから?」
「おー…」
なんかわからないが感動する。俺はショータのこう言うところが本当に好きだ。
「俺もお前と一緒にサッカーしてる気になっだろ」
「おお」
「次はクマ作っから。熊野ソウマの」
「うん」
部活が忙しくてなかなか一緒に帰れないし、土日も部活でつぶれて、こうやってショータと一緒にいられる時間が激減していた。
クラスも違うから、休み時間の廊下で、ほんの5分くらいの立ち話しか出来ないけど、顔を見てるだけで力が湧いてくる気がする。
「ありがとな。大事にする」
にこっと笑って、「んじゃな。次俺移動だから」と手を振ってショータはクラスに戻った。
次の大会は絶対に絶対にショータのためにゴールする。
手の中のクマにしか見えないサルに俺は固く誓った。

3019-109 ウザカワ受け:2010/06/18(金) 16:45:12 ID:PIL2bO6w
幼馴染でクラスメイトの巧は相手の迷惑というものをまず考えない
今日も突然家に訪ねてきたと思ったら、シャツを2着突きだして聴いてきた
「将志はどっちがいいと思う?」
「は?」
俺は勉強の手を休めて巧が持ってきたシャツを見比べた。どちらがいいと聞かれたって
俺にはファッションの知識もセンスも全くない。
普段着ている服だって、マネキンが着てるやつを丸ごと買ってるからそれなりになってる
だけであって、趣味もこだわりも何も無いのだ。それは巧もよく知っている筈なのだが…
「どちらでも同じじゃねーの?」
「全然違うよ!どこに目を付けてるのかなぁ?」
巧はさも信じられない!と言いたげに語気を強めたが、俺にはどちらもヒラヒラしていて
女が着るような服だとしか思えない。
だがそんな服でも巧は似合ってしまうのだ。
小柄で細身、睫毛の長い大きな目、ふんわりした栗色の髪etc…どれをとっても可愛らしい
この性格さえなければ…と俺は何度思ったかしれない

「じゃあ他の奴に聞けよ…俺がそういうの疎いの知ってんだろ?」
ブランドがどうとかレースがどうとか、尚もうるさく喚き続ける巧にそう言ってやると漸く黙った。
何故かうっすらと頬が赤くなっている。
「だって…今日は好きな人と出かけるんだもん。だから将志に聞きたくて…」
好きな人!?その言葉に俺は愕然となった。
巧に好きな奴がいるなんて全然知らなかった。こいつはいつも何だかんだ言いながらもチョロチョロしているから
まさかそんな相手がいたとは…なぜか胸が締め付けられるような気持ちになった俺は、思わず適当にシャツを指差した。
「…こっち、こっちがいいと思う」
「ホント?そっかー将志はこっちの方が好きなんだー」
嬉しそうにそう言うと、巧はおもむろに服を脱ぎ出した。白い肌がいともあっさり露わになる。
「ここで着替えるなー!」
「なんで慌てるの?体育の時間に毎回見てるじゃん」
見てねえよ!お前が脱ぐと女が脱いでるみたいだから、クラスの男どもは俺を含めて全員目を反らしてるんだよ!
あの気まずい空気に気付いてないのかお前は!
「と、とにかく着替えるなら廊下でやれ!」
「えー」
ふくれる巧を廊下に押し出して数分、戻ってきた奴はすっかり支度を整えていた。
「ね?可愛い?」
「あー…うん」
「ちゃんと見てよ!」
お前はどれ着てたって可愛いよ。そんな言葉を俺は飲み込んだ。どうせ、可愛い姿も何もかも、他の奴の為なんだろ?

「もう、しょうがないなーじゃあ、そろそろ行かないと」
「はいはい、行ってらっしゃい」
俺は巧の方を見ようともせずにシャープペンを握りなおした。巧はどこかで誰かとデート、俺は一人で勉強。
寂しいにもほどがある。
だが、そんな俺に巧が抗議の声を上げた。
「何他人事みたいに言ってるの?将志も早く用意して!」
「は?何で俺まで」
まさかデートについて来いっていうのか?いくらなんでもそんな惨めな役はごめんだぞ?
「相手がいなかったらデートにならないじゃない」
「相手…?だって、お前さっき好きな人と出かけるって…」
混乱する。だってそれじゃあ俺がお前の…
「だから…将志が好きなんだよ」
「…知らなかった」
「なにそれ!俺はもう将志と付き合ってるつもりだったよ!」
しらねぇよそんなこと…と、思ったけど、巧が泣きそうな顔をしているので何も言えなくなった。
目を真っ赤に潤ませているのがなんだか妙に胸を騒がせる。
その頭をポンポンと叩くと俺はあやすように言った。
「わかった、デート行こうか」
「…俺のこと好きじゃないんでしょ?」
「好きだよ」
「ホント?」
巧の顔が途端に巧るくなる。
ホントだって、子どもの頃からずっと好きだったよ
「俺のこと一番好き?」
「勿論」
「クレーンゲームで俺の好きなもの取ってくれて、ファミレスでパフェ奢ってくれる?」
「も、勿論」
バイト代出る前なんだけど、まぁ何とかなるか…
「じゃあ行こう」
にっこり笑う巧の顔につられて、つい俺も笑顔になってしまう。
なんだかよく分からないうちに告白して初デートになったけど、なんか幸せだからまあいいか

「あ、俺がナンパされたりスカウトされそうになったりしたらちゃんとかばってね!」
やっぱりこの性格には苦労させられそうだけど

3119-119 「ん?」:2010/06/20(日) 00:45:54 ID:qAaC4tb2
「なーなー、聞いてんのかよ」
「ん?」
「だから!明日の最終の夜行列車!発車時刻はわかってるよな?」
「ん」
「なにその適当な返事。ホントにわかってる?」
「最終」
「そうだよ最終列車だよ!でもなんか今の言い方ですげー不安が増した!逆に!」
「ん?」
「今の、耳に入ってきた単語を適当に繰り返しただけだろ?アンタやる気あんの!?」
「ああ」
「その『ああ』はどっちへの『ああ』だよ!」
「後者」
「本から目ぇ離さずに言われても、全然説得力ねーんですけど!?」
「ああ」
「だから『ああ…』じゃねえっつーの!自覚してるんなら改善しようぜ改善!」
「ん」
「心こもってねえ……いいやもう。とにかく!明日の最終の夜行列車だからな!」
「ん」
「発車時刻は二十二時、五十三分!脳髄に刻み込めよ!?」
「ん」
「あーもー…知ってるけどな!アンタの性格が万事柳に風だって!くそー。……その本、面白いかよ」
「ああ」
「ほんっと、いつもいつでも、動じねえよな。……ったく」
「……」
「……なあ。アンタが三度の飯より何より本が好きなの、よーく知ってるけどさ」
「ん」
「そうやって、でもちゃんと俺の話聞いてくれてるのも、わかってるけどさ」
「……ん?」
「わかってるけど、やっぱ不安になるんだよ……なってもいいだろ、こればっかりは」
「……」
「明日の、最終の夜行列車」
「……」
「一度きりなんだ。失敗したら次は無い。わかってるのかよ」
「……ああ」
「やっと顔上げやがった。おせえよ、バカ」
「分かってる」
「本当にわかってんの?捕まったらアンタもタダじゃ済まない」
「分かっている」
「風に逆らうどころか立ち向かう柳の木なんて、聞いたことねえよ」
「そうだな」
「……。ここの本、全部置いてって平気なのかよ……本の虫の癖に……」
「構わない」
「本当に?」
「ああ。明日の最終の夜行列車、二十二時五十三分発」
「うん」
「必ず駅で待っているから」
「……ん」
「大丈夫、私達はずっと一緒だ」

3219-139 好きな人に似た人:2010/06/24(木) 00:23:22 ID:DkkA6jjw
「そういえばさー」
ようやく書き終わったレポートやその他諸々をバッグに入れて席を立とうとしたとき、
向かい側に座っていた雪也が口を開いた。
「ここのところ、先輩に似た人をよく見かけるんだよね」
『マックにでも寄って帰るか。レポートの面倒みてもらったし、今日は奢ってやるよ』
そう声をかけるつもりでいた俺は、不意をつかれて眉を寄せた。
「なんだよ、急に」
「最近、近藤先輩に似た人を見かけるって話」
雪也から『近藤先輩』の名前を聞くのは久しぶりだった。
久しぶりと言っても、雪也がその名前を口にすることを避けていたわけではない。
単に、俺が聞くのを避けていただけだ。
「……先輩に似た人?なんだそりゃ」
「なにって、まんまだよ。先輩によく似た人」
あの先輩のことを話す雪也はいつも嬉しそうで楽しそうで、俺はその度に複雑な気持ちになっていた。
今も、雪也は機嫌良さそうに喋っている。
「先月、一緒に先輩の試合の応援に行ったろ。その帰りに見かけたんだ」
確かあの日はスタジアム前のバス停で雪也と別れたんだっけと思い出しながら、俺は口を開いた。
「それって、場所と時間的に考えて本人じゃねーの?」
「違うよー。俺が先輩を見間違えるわけないじゃん」
そう言って、雪也は笑う。
「だって、ユニフォーム着てなかったもん」
「お前の中では近藤先輩=ユニフォーム姿なのかよ」
「でも背格好は凄く似てたかなぁ……かっこよかったよ。先輩に似て」

雪也の近藤先輩への想いは、最初から真っ直ぐだった。
真っ直ぐで無邪気で、好きだという気持ちを恥じることも隠すこともしなかったし、
先輩も『そう』だと知る前も知った後も、こいつは何も変わらなかった。

「だってけっこう遠かったのに『あれっ先輩?』って、俺センサーにひっかかったくらいだから」
「ああそう。それはそれは」
「その次の週も隣町で見かけたし、駅前の地下街でも見かけたし。ね、凄い偶然だろ?」
俺は心の中で渦巻く暗い感情を押し殺して、呆れ顔を作ってやった。
「お前、先輩が好きすぎて『誰でも近藤先輩に見える病』にかかってんじゃねぇ?」
「なんだよそれー。もう、本当によく似てるんだって。浩介も見たら絶対に似てるって言うよ」
「だったらやっぱ本人とか。先輩に直接訊いてみろよ」
そう言ってやると、雪也は苦笑した。
「うーん…『あなたに似た人を見ました』なんて言われて、浩介だったらどう思う?」
「まあ、『で?』って感じではあるかもな」
「だろー?……それに、一緒に居るときは、もっと他にたくさん、話したいことあるしさ」
「あーハイハイ。ごちそうさん」
照れたように笑う雪也から目を逸らして、俺は今度こそ立ち上がった。
「そろそろ行こうぜ。閉館時間になっちまうぞ」
「あ、そっか」
言われて気づいたようで、雪也は慌てて机の上を片付け始める。

「でね、先週も見かけたんだ」
「へえ」
相槌を打ちながらも、俺はもうその話題に興味がなくなっている。
「今日みたいに図書館で課題やっててさ。参考書探してたとき、向こうの資料室に姿がちらっと見えて」
雪也の言葉につられて、俺はなんとなく資料室の方を見やった。
「先輩に似た人ねぇ…」
「うん。先輩じゃない、よく似た人。だってその人、本棚の陰で誰かとキスしてたから」
「……え?」
俺は雪也の方を振り返る。
雪也は筆記用具を片付けて終わって、リュックを肩にかけ、立ち上がっていた。
「先輩が俺以外とそんなことするわけないし。なーんて」
冗談めかしてそんなことを言って、笑っている。
「さすがに出歯亀はイカン!と思って、すぐ退散したけどねー」
「……。先週の、いつ見たって?」
「んー?木曜」
「お前、バイトは」
「金曜のヤツにシフト交代してくれって頼まれちゃって」
さー帰ろーと言いながら、雪也は歩き出そうとして……ふと、こちらを見た。
「そういえば――」
こちらに向けられる表情に、暗さは感じられない。
真っ直ぐで無邪気で人懐っこい、いつもの雪也の笑顔。
「キスをしてた相手、浩介に似た人だったよ」
ただ、その眼差しは半分どこか別の場所に向けられているように、俺には見えた。

3319-149 俺の方が好きだよ!:2010/06/24(木) 22:30:34 ID:8JBlPm6g
「あ、猫!」
 俺の隣を歩いていたツレが、突然足を止めて声を上げた。
 振り返ると、道の隅に丸くなってまどろむキジトラの猫。
 ツレは猫から1m程離れたところにしゃがみこむと、猫に向かって手を伸ばし、ちちち、と舌を鳴らした。
 それに気付いた猫が目を開け、億劫そうにツレを見上げる。
「エサもねぇのに、野良猫が寄ってくるわけ……」
 言いかけた俺の言葉が、途中で切れた。
 のっそりと起き上がった猫がツレに歩み寄り、ふんふんと手の匂いを嗅いだ後、その掌に顔を擦り寄せる。
「うわー、かわいい。人に慣れてるんだね」
 満面の笑みを浮かべるツレと、その手に撫でられて満足そうに目を閉じている猫を見て、ただ呆然。
 いやいやいや、ねぇから。
 学校の行き帰りに何度も見かけたその猫を、俺が何回撫でようとしてシカトこかれたと思ってんだよ。
 最後の手段と煮干を用意した時ですら、煮干だけ食って一度も触らせてくんなかったっつーの!!
 畜生、俺が嫌われてただけかよ。
「……お前、猫に好かれるんだな」
「うん。動物には懐かれるんだよね。人間には全然好かれないのに」
 さりげなく言われた台詞に、なんかムカついた。
 なんだそれ、どういう意味だよ。
「僕も、動物に生まれればよかったかもね。……ん? お前も僕のこと好き? 僕もお前のこと、好きだよ」

「ざけんなよ! そんな猫より、俺の方がお前のこと好きだよ!!」

「え?」
「……え?」
 自分で言った台詞に、自分で驚いた。
 ツレも、驚いた顔で俺を見上げてる。
 え? 俺今、なんかとんでもねぇこと言わなかったか?
 互いに顔を見合わせて、数秒。
 ツレが猫へと視線を戻す。
「……ふぅん」
 そしてまた、止まっていた手を動かして猫を撫で始める。
 撫でられた猫は、ゴロゴロと喉を鳴らした。
 おい、それだけかよ。
 無意識とは言え、一世一代の告白だぞ。
 つーか、言うつもりなんてなかったのに。
 猫に焼餅焼いて告白なんて、すっげぇかっこわりぃ。
 そのまま何も言わないツレに腹が立ってきて、このまま置いて帰ろうかと思ってふと見ると、髪から覗く耳が赤くなっているのに気付いた。
「……そうなんだ。……ありがと」
 小さく呟かれた言葉に、そっとツレの顔を覗き込む。
 慌てたように逆の方を向いたけど、しっかり見えた。
 赤い顔で、嬉しそうに笑うお前の顔。
 なんだよ、もしかしてお前も俺のこと好きなのかよ。
 段々と、俺の顔も赤くなっていくのが自分でわかった。

 あー、なんかすっげぇ情けねぇ。
 こんな道端で、勢いで告白なんかしちまって。
 でもまぁ、なんか上手くいきそうだし、結果オーライってヤツ?
 なぁ、お前もいつまでも猫なんか構ってないで、俺の方を向いてくれよ。

3419-159 優しい手:2010/06/26(土) 14:31:07 ID:N2tkwXMc
「ちょっと二人で話がしたいので席を外してくれないか?」
久しぶりに遊びにきた友人が彼に言った。ドアのしまる音がする。彼の気配がなくなる。

「最近誰もこの館に来ない理由を知っているかい?」
「忙しいんじゃないのかな」
「違うな。君に愛想を尽かしたんだ」
「そりゃあ、僕といてもつまらないだろうね」
「君が事故で視力を失ってもう10年経つ。いい加減ある程度のことは自分でできるようになっているはずだ。なのに君は未だに彼がいないと何もできない」
「彼の仕事は僕の世話をすることだ。彼は僕の目になってくれる」
「食事くらい一人でできるだろう? 階段を下りるくらい抱えられなくてもできるだろう? シャワーを浴びる時でさえ彼はそばにいるらしいじゃないか」
「君は目が見えるからそう言えるんだ」
「彼がわざと皆と君を遠ざけているという話も聞く。僕は友人のひとりとして心配しているんだ」
「ご忠告ありがとう。でも彼はそんな人間じゃあないよ」
見えないけれど、彼がため息をついたのが分かった。そして苛立つような靴音、大きな音を立てて閉まるドア。

しばらくして静かに誰かが部屋に入ってきた。
「お友達の方が帰られましたよ。睨まれてしまいました」
「うん。多分彼はもう来ないと思う。疲れたからもう寝るよ」
僕は椅子から抱えられ、すぐ横のベッドに腰掛ける。当たり前のように細い指が首元からボタンを外していく。
自分でできないわけじゃない。最初は一人でするように努力はした。けれどその度に彼が手を差し伸べる。
だからもう諦めた。それだけのことだ。
「怒られてしまったよ」
「気にすることはない。お節介はどこにでもいるものです」
彼に全てをゆだねることがそんなに悪いことなんだろうか?
目が見えない分、感覚は研ぎすまされていく。だから分かるんだ。
彼は僕から離れることはない。そして僕も彼から離れられない。

3519-159 優しい手:2010/06/26(土) 19:46:13 ID:ZBeskgY.
◆優しい手
手「お帰り。お疲れさま、頑張ったね。え?……いや、お世辞じゃなく、本心からそう思っているよ。
  君は本当によく頑張った。ん?子供扱いなんてしてないさ。たまには大人しく、俺に撫でられなさい」

◆乱暴な足
足「まだ落ち込んでやがんのか。いつまで経ってもウジウジウジウジ……オマエ男だろ。
  いーかげん鬱陶しいんだよ、蹴るぞコラ。失敗がなんだってんだ。何度でも立ち上がれよ」

◆自惚れ屋な胸
胸「ハッハッハ。さあ、飛び込んでくるがいい!この私が偉大な包容力で受け止めてやろう!
  なに?…違う。それは君の方だ。私はドキドキなどしていない。していないったらしていない!」

◆口下手な口
口「え、えーと…、あの、……あの。……どうしよう、何て言えばいいか、ぐるぐるしてしまって…
  僕は言葉でしか、あなたに伝えられないのに……えっと、だから…あの…っ…、うわああああ」

◆一途な目
目「俺はアンタをずっと見てきた。アンタのことだけをずっと。俺には、アンタしか映らない。
  なのにどうして、アンタは俺を見てくれない?どうして応えてくれないんだ。どうして……!」

◆甘え上手な耳
耳「何で知ってるかって?へっへっへー。すげーだろ、これこそまさに地獄耳、ってね。
  お前の声なら地球の反対側に居ても聞きわけられるぜー。だから、ね。もっとオレのこと呼んで?」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板