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0さん以外の人が萌えを投下するスレ

1918-959 殺し愛 1/2:2010/06/06(日) 18:54:23 ID:6g9eFhCI
「毎回思うんですけど」
男の腕に包帯を巻きながら、少年は嘆息した。
「本当、楽しそうですよね。あの人とやりあってるとき」
今しがた、男の切り裂かれた腕を縫合し終えたところだ。
まともな医学など学んでもいない自分の治療技術がここまで向上したのも、
目を逸らしたくなるような傷を前にして殆ど動揺しなくなったのも、半分以上この男が原因だと少年は思っている。
「上からの指令、ちゃんと覚えてますよね?」
「わーってるよ。……あーあ、邪魔が入らなけりゃもっと楽しめたんだがなぁ」
「楽しんでないで、殺してください」
「だからわかってるって。うるせえぞ」
ぞんざいな口調とは裏腹に、男はずっと上機嫌だった。利き腕に深い傷を負ったにも関わらず、
鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気だ。きっと二ヶ月ぶりの『最中』を思い出しているのだろう。
ニヤついている男に、少年はわざと聞こえるように大きなため息をつく。
「分かってません。だって殺せてないじゃないですか。また逃げられたじゃないですか」
わざときつい言い方をしたのだが、男は特に怒らなかった。
「逃げられてねえよ。ただアイツを囲ってる連中が、途中でアイツを引き摺っていきやがっただけだ」
「詭弁です」
「アイツは逃げねーよ」
男は楽しそうに笑っている。
「アイツが、俺から逃げるわけがねえ」
言い切るその言葉に、少年はそれ以上言い返さず、小さく「そうですか」とだけ呟いた。

男の腕に傷を負わせた『あの男』のことを、少年は直接は知らない。
だが、彼があの男に執着しているのは、組織内でも有名な話だ。それこそ殺したいほどに。
あの男は彼の元相棒で、組織を抜けた裏切り者だった。
だから、組織の上層部はあの男の抹殺に彼を差し向けた。適任だと考えたのだろう。
(それが間違いだったんだ。この人は、あの人の『抹殺』に一番向いていない)

一度目。あの男が組織を抜けてから、二人が初めて再会したあのとき。
彼は笑っていた。笑いながら、傷を付けて付けられていた。『会いたかった』と嬉しそうに。
二人は、まるで互いの姿しか目に入らないように、ただただ、血みどろになって殺し合いを演じた。
少年が男の下について数年経っていたが、あんな彼を見たのは初めてだった。
あのときは彼に『邪魔をするな』と言いつけられていたが、
そんな言いつけがなくても自分は動けなかっただろう。そう少年は思い返す。

結局、あの最初の殺し合いは、現在あの男が身を寄せているらしいレジスタンスの狙撃によって中断し、
彼はあの男を殺せず、あの男もレジスタンスも彼を殺すことはできなかった。
あれから幾度かの戦闘が起こっているが、未だ決着はついていない。
飽くまであのレジスタンスの狙いは組織に打撃を与えることであり、あの男は重要な戦力ということなのだろう。
その大事な戦力の過去の因縁など、敵の一幹部をおびき出すエサ程度にしか考えていないのかもしれない。

「……はい、出来ました。数日はちゃんと大人しくして、早く治してくださいよ?」 
包帯を巻き終わって、少年は男の腕を軽く叩く。
今回の怪我が、右腕と右耳の裂傷だけで済んだのは幸いだった。
「その間に上から来た他の指令は、可能な限り僕や部下で対処しますから」
「おー。サンキューな」
敵対相手には血も涙もない癖に、こういうときこの男は人懐っこく笑う。


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