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都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……代理投下スレ

683足音、足音? ◆nBXmJajMvU:2016/12/31(土) 00:08:01 ID:pjJTxBTM
 治療室を出て少し歩いたところで、ゴルディアン・ノットは冷たい空気を感じた
 比喩表現ではなく、本当に空気が冷たい
 まるで、真冬の寒空の下を歩いているかのような冷気
 完全に乾ききっていない布の表面が、ぱきり、凍ったような

 冷気の主はすぐに見つかる
 司祭服を着た髪の長い男その男を中心に、辺りに冷気が広がっている
 戦技披露海が始まってすぐ、その実力を見せつけていた「教会」所属の男だ
 契約者……ではなく、契約者付きの都市伝説。飲まれた存在でもなく、契約者本人は戦技披露会には参加せず、単体で参加したという変わり種だ

 男は、何やら思案している様子だった
 己が強い冷気を発しているのだという自覚もあまりない様子だ
 このように辺りに冷気が漏れているせいか、辺りに他に人影は見えない
 別の通路を通るべきか、とゴルディアン・ノットが考えだした、その時

「あーっ!メルセデス司祭様、駄目っすよ。冷気、思いっきりダダ漏れ状態っす!」

 後方から、そんな声がした
 振り返ると、ぱたぱたと少年が駆け寄ってきていた
 ゴルディアン・ノット……にではなく、レイキの発生源たる男、メルセデスにだ
 少年の姿は見覚えが合った、と言うよりつい先程までいた治療室で見た顔だ
 ぱたぱたと忙しく「先生」の手伝いをしていたうちの一人で、「先生」から「休もう?君がばらまいた羽で十分治療できるから君はもう休もう??」と何度か言われていた……確か、憐とか呼ばれていたか
 憐の背後、もう一人同じ年頃の少年が居て、駆け出した憐のあとを追いかけてきている
 メルセデスは憐に声をかけられた事に気づいたようで、顔を上げ………冷気が、弱まっていく

「もう。考え事してる時に冷気ダダ漏れになるの悪い癖っすよ」
「別に、このふざけた催し物の参加者ならこの程度平気だろ」
「戦闘向きじゃねー人もいるっすし、冷気が弱点な人もいるだろうから、っめ、っす」

 自分より有に頭一つ以上大きい上、正体を隠す必要もないからか悪魔独特の威圧感を放つメルセデス相手に、慣れているのか恐れた様子もなく注意をしている
 …もっとも、憐のような少年の注意等、メルセデスは意に介していないようだが
 その事実は憐も理解しているようで、むぅー、と少し困ったような顔をしてこう続ける

「……カイザー司祭様も、気をつけるように、って言ってたでしょう」
「っち」

 あからさまな舌打ちをして、漏れ出していた冷気が完全に止まった
 契約者の名前なのだろうか。流石にそれを出されると従わざるをえないのだろう
 メルセデスは、ゴルディアン・ノットや憐の後から駆けてきた少年にも気づいたようで、この場を立ち去ろうとし

「あぁ、そうだ、憐」
「何っす?」
「………「見つけた」からな」

 ぴくり、と
 一瞬、憐の表情が強張った様子を、ゴルディアン・ノットは確かに見た

 メルセデスはそのまま、すたすたとどこかへと立ち去っていってしまう

「憐君、どうしたの?急に走り出して……」
「あ、えーっと。なんでもないっすよ、すずっち。問題は解決したんで」

 追いついてきた少年に、へらっ、と笑いながら答える憐
 そうして、ゴルディアン・ノットにも視線を向けて

「んっと、メルセデス司祭の冷気の影響、受けてないっす?凍傷とかの問題なさげっす?」

 と、心配そうに問いかけてきた

「あぁ。特に問題ハない」
「そっか、ならいいんすけど………じゃ、すずっちー、観客席戻る前に、何か屋台で買っていこう。死人の屋台以外で。死人の屋台以外で」
「大事な事だから2回言ったんだね……って、死人の屋台?」

 ぱたぱたと、少年二人は立ち去っていく
 憐の方は少しふらついているようにも見えたが、とりあえずは大丈夫なのだろうか

 ……あのへらりとした笑みに、一瞬強張った瞬間の、感情を一切感じさせない表情の影は、なかった




.

684足音、足音? ◆nBXmJajMvU:2016/12/31(土) 00:09:27 ID:pjJTxBTM
 時刻は、少し遡る

「年頃のレディの身体に何かあっては大変だし、きちんと検査したかったのだが」

 仕方ないねぇ、と退室していくゴルディアン・ノットを見送りながら、「先生」はぽつり、そう呟いた
 ……つぶやきつつ、また服を完成させている

「うむ、こんなところか。フリルをもう少しつけても良かったが、他の者の服も作る必要ある故、これで」
「わぁ、見事にフリルいっぱいのホワイトロリータ」
「白き衣纏いし死神がいても良かろうて」

 はい、と「先生」から渡された、フリル多めのホワイトロリータワンピースを受け取る澪
 恐ろしいことに、サイズを聞いてもいないのにサイズがぴったりだ
 目測で、完全にサイズを把握したというのだろうか

(……「先生」。もちろん、これは本名ではなく通称。所属は「薔薇十字団」。学校町にやってきたのは三年前……)

 …そのような「先生」の様子をチラ見しながら、三尾は考える
 やはり、きちんと思い出せない
 「先生」に関して、特に天地が何か言っていた気がするのだが、三年前と言えば久々にバタバタしていた時期であったし、そもそもYNoはCNoとさほど親しく付き合いがあるわけでもない
 元々、他のNoからの情報が不足しているとも言うが

 念のため、もうちょっと知っておくべきではないか
 そう感じたのは、黒髭が異常なまでに「先生」を警戒しているせいだ
 灰人の「先生」に対する扱いのぞんざいさ(一応師弟関係らしいのにいいのだろうか)のせいで、「先生」が危険人物とは思えないのだが、あそこまで露骨に警戒していると流石に気になる

「連絡先の交換?」
「あぁ。このところ、「狐」だの人を襲う赤マントの大量発生だの……それに、誘拐事件が相次いでいるとも聞く。私は組織だった集団とはほぼ縁がなく、都市伝説関連の情報源が乏しくてな……少しは情報がほしい」

 なので
 黒髭の契約者たる黒が、「首塚」所属である栄と何やら話している間に、三尾はこっそりと黒髭に近づいた

「あの、ちょっといいですか?」
「あ?……「組織」か。何か用か?」

 三尾に声をかけられ、黒髭は怪訝そうな表情を浮かべた
 少し警戒されている気がしたが、構わず問う
 流石に、小声でだが

「「先生」の事、警戒しているようですが。何故です?」
「……お前、「組織」だろ。あの白衣のことわかっているんじゃないのか」
「立場上……と言うか所属Noの性質上、そういった情報が少し入りにくいものでして」
「…マジか」

 把握していなかったのか、と言うように黒髭が少し頭を抱えたような
 ちらり、と黒髭は「先生」と灰人の様子をうかがってから、三尾に告げる

「あの白衣、元は指名手配犯だぞ」
「え」
「何が原因かまでは知らねぇが、発狂して正気失って、かなり色々やらかした奴だぞ。「組織」「教会」「薔薇十字団」「レジスタンス」、全てを敵に回して戦いきった化物だ」

 ちらり、三尾はまた、「先生」を見る
 ……正気を失っている様子はない

「今は、一応正気に戻ってるらしいぜ。じゃねぇと、指名手配も解除されないし、「薔薇十字団」に所属も出来ねぇだろ」
「でしょうね。天地さんが頭を抱えていたのは、そういう事ですか」

 恐らく、だが
 「先生」が学校町に来たのは、学校町が様々な意味で特殊な場所だからだ
 いくつもの組織の勢力がひしめき合い、しかし全面戦争にはならない場所
 …そこに「先生」を置くことによって、かつて指名手配されていた頃に買った恨みで何かしら起きないように、との処置なのだろう

「しかし、今はもう指名手配されていないのであれば、警戒する必要は…」
「ある。正気戻ったつっても、腹の底では何考えてるかわかりゃしねぇ。今、噂の「狐」絡みじゃないだけマシではあるが」
「そこは断言するんですね?」
「……断言してぇんだよ。あれが「狐」の勢力下に入っていたら、シャレにならねぇ」

 吐き捨てるように、黒髭は言い切った

「いくら俺だって、「賢者の石」と契約したと言われるような奴とは戦争したくねぇよ」





to be … ?

685:2025/01/12(日) 20:57:27 ID:sAaYCGhY
これは入院中に、こんな展開有ったら面白いなーと妄想してたものです。能力が異なる場合があります。
ーーーーーーーーーー
視線の先には、付近一帯を吹き飛ばすための巨大な火の玉がある。
おそらく先ほどから姿を隠していた、ツングースカ大爆発の仕業だろう。
僕たちがここにいる事を相手が認識しているかは知らないが、あれに巻き込まれればひとたまりもない。
どのみち、今から退避するのは、もう無理だろう。
こんな時に仲間と逸れてしまうなんて、本当にツイてない。
右目も能力の使いすぎで、白目と黒目が反転した悪魔模様になっていて、さっきから破壊衝動を囁いている。

「ああもう! リボルバーもマスケットも壊れてる! 全部材料にするか……」

それても、少しでも可能性を広げるために、何もしない訳にはいかない。
黒服Yは自分のバッグをひっくり返して、使える物をかき集めいた。
持っいた護符の類は全て、黒服Oに押し付けてある。
彼女はいま怪我て走れる状態ではないが、治癒の護符や結界の札もあるから、多少はマシになるはずた。

「今創りたせ、あれに対抗出来る魔弾を……!」
「ねぇY! 待ってよ! ねえってば!」

魔弾の自由度はかなり高い。
『弾』のみならず、頑張れは撃ち出すための『銃』も生成出来る。
あとは想像力と材料と気力次第だ。
ガラクタもスクラップも使える物は集めた、やる気も沸騰するぐらい滾ってる、あとは組み立てるだけだ。

「魔弾・生成……」

目を閉じる。
ーーーーーー
 ▶一人で作る

「力を貸せよ悪魔。今から最高のおもちゃを作るんだ」

開いた目は左右とも悪魔模様に染まっている。

「モデルは戦艦の主砲だ、敵を打つ砕け! カスタム・サイズオフ・ラストショット・アンカーで固形!」
「ちょっと聞いてるの! Y!!」
「ロマンを詰め込めっ! しっかり護れよ、古の戦艦!」

材料は形を崩し、混ざり合い、望み通りに形を成していく。
ロマンを詰め込んだ、唯一無二の最高のおもちゃ。
黒服Yは少しだけ後ろをすり替えって。 

「大丈夫だから、そこに居てよ、O」

轟音と赤い閃光か視界を埋めつくし、何も見えなくなってゆく。



「……ゲホッゲホッ……くっ」

黒服Oが目を覚ました時、周りは瓦礫の山になっていた。

「足は…まだ動く、両手も力は入る。……どうなったのよ、Y……」

ふらつきながら、辺りを探していく。
そして、それを見つけて、その場に座り込んでしまった。

「だから待ってって……言ったじゃない……」

エンド1

686:2025/01/12(日) 20:59:21 ID:sAaYCGhY

ーーーーーー
▶二人で作る


目を閉じたまま、長く息を吐いて。

「O! Oも手伝ってよ」
「……えぇ。……えぇ! 当たり前じゃない!」

黒服Yの目は普通の色に戻っていた。

…………

「できたわ! 名付けて、堕ちた陰陽師・一縷の光と叛逆の矢よ!」
「うわぁ……今冬公開とか言いだしそう名前……」

出来上がったのは弓矢だった、正確に言えばバリスタと鏑矢だ。
渡した護符や、黒服Oの手持ちの布を全て使って、雅な雰囲気が出でいる。
顔を見れば、やり切った満足感が窺える。

完成した魔弾について、説明したくないけど説明しよう。
まず鏑矢、これは破魔矢と同じで悪い物を退けるこうがあり、音をよく鳴らすために何故か高速で回転して飛ぶ。
バリスタは、普通の弓だと威力や反動を支えきれないため、固定式の射出装置になった。
そして魔弾は魔属性、悪属性があるため、そのままだと聖属性、善属性の物は扱えない。
そこを『堕ちた陰陽師』と名付て作成する事で、悪属性を持たせて制限ん回避。
名付の後半部分は、強大な敵に抗う1本の矢という現在な状況を示し、状況を限定することで威力の底上げをしている。

黒服Yは、もしかしたら黒服Oの方が自分よりも魔弾の性質に詳しいんじゃないかと不安に感じた。

「よし。征け!

放たれた鏑矢は、甲高い音を響かせる飛んでいく。
その音は護られている安心感があり、黒服Yはこれなら王蟲もすぐに鎮まりそうだと変な事を考えていた。

発射後のバリスタを壁になるように起こし、2人でそこに隠れた。
黒服Yは黒服Oを守るように胸に抱く、衝撃に備えた。

「きっと、大丈夫だよ」

轟音と赤い閃光か視界を埋めつくし、何も見えなくなってゆく。




「……痛って……どうなった……?」

黒服Yは気を失っている黒服Oをバリスタにもたれかけると周囲を見回した。
自分達を中心にして、ほぼ円形の範囲でほとんど被害が出ていないようだった。
どうやら鏑矢の音その物に護りの力があり、周囲のみを守ったようだ。

「ははっ、すごいな、Oは。まだ矢の原型が残ってる」

黒服Yのみで魔弾を設計すれば、こんな強力な魔弾は作れなかっただろう。
矢を引き抜た黒服Yは、黒服Oを起こすため戻っていった。

エンド2

687コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:29:28 ID:5Br.uEN2
「六本足のコカトリス?」
「そうっす。先輩、知らないんすか?」

 深夜、人々が眠りにつく頃。
 郊外の廃工場に彼らはいた。
 共にフードを被った二人は、物陰に身を隠し『獲物』が来るのを待っていた。

「結構有名なフリーの多重契約者っすよ。あちこちで派手に仕事しているとか」
「生憎、聞いたことねえな。よくわからんが【コカトリス】と契約しているのか?」
「いや、それが違うんすよ」

 どこか得意げに『後輩』は人差し指を振った。
 
「契約しているのは【六本足の鶏】と【姦姦蛇螺】っす。で、鶏と蛇繋がりでコカトリスって呼ばれてるんすよ」
「ああ、それで『六本足のコカトリス』か。で、噂になるってことは強いのか?」
「そりゃもう、一時期は『組織』と敵対していた時期もあるみたいっすから。でも」
「でも?」

 先輩と呼ばれた男は、話に耳を傾けながら外に目を向けた。
 雲一つない空には、煌々と輝く満月が浮かんでいる。
 獲物はまだ来ない。
 
「強いのはあくまで【姦姦蛇螺】本体らしいっすね。何でも特殊個体で大蛇と巫女が分離しているとか」
「へえ、特殊個体か。そりゃ珍しい」
「ええ。大蛇の方は怪獣並のサイズで暴れたら手が付けられなくて、巫女も巫女で即死クラスの弾幕を連発してくるとか」
「……ヤバいな。で、契約者本人と【六本足の鶏】はどうなんだ?」
「ああ、そっちはあんまり大したことないらしいですよ」

 へらへらと後輩は笑った。

「【六本足の鶏】は鉄火場に姿を現さないし、契約者本人は体術が少し使える程度とか。主力はあくまで【姦姦蛇螺】っすね」
「契約者本人を叩けば何とかなるタイプか。分断するか奇襲すればどうにでもなりそうだな」
「そっすね。……元ボスを殺した契約者とは真逆っすね。あいつは白兵戦の鬼でしたから」
「ああ、俺達は運良く生き残れたけどな。……おい、来たぞ」

 外から聞こえた足音で二人は意識を切り替えた。
 物陰に身を隠しながら、そっと入り口の方を窺う。
 そこから現れた契約者を襲うのが今夜の『彼ら』の任務だった。

「……確か『雇用主』が偽の依頼で呼び出したんですよね」
「ああ、だから相手は交渉のつもりでこの場に来る。その隙を利用して仕留める」

 能力を使う暇も与えずに、屋内へ足を踏み入れた瞬間に襲う。
 それが事前に決めた作戦だった。
 単純極まりない内容だが、彼らには性に合うやり方だった。

「手筈通り、最初に仕掛けるのは『犬達』だ。それで仕留められたら万々歳。例え失敗しても」
「俺達が仕留めればいいっすよね」

 鋭い『牙』を覗かせ、後輩は舌なめずりをした。
 同じく身を潜めている仲間達や『犬』を確認するように工場内を見回す。

「外にも犬を潜ませているから逃げられる心配もない。ここにノコノコ来た時点で向こうの詰みだ」
「袋の鼠ってやつっすか。ところで先輩、相手の能力はわかってるんすか?」
「都市伝説名まではわからないが炎を操る力を持っている。使わせるつもりはないが最悪」
「犬達を盾にすればいい、ですよね?」

 後輩の言葉に男が頷く。

「減ってもまだ増やせばいい。昔のように派手には動けないが欠員を補充する分には問題ない」
「そっすね。ああ、早く昔みたいに派手に暴れたいっすね」
「今は我慢の時だ。仕事をこなして後ろ盾を得るまでな。……と始まるぞ」

 廃工場の入り口前に獲物である契約者は姿を現した。
 ラフな格好をした三十代くらいと思われる男だ。
 彼は警戒した様子もなく、廃工場へと足を踏み入れた。
 その瞬間

「一方的な狩りがな」
 
 物陰から飛び出した複数の【人面犬】が彼に襲いかかった。

688コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:38:40 ID:5Br.uEN2

 この時点で勝敗は決した筈だった。
 後は【人面犬】によって肉塊となった獲物を処分か、弱ったところを嬲るだけ。
 いつもの簡単な任務だと男達は思っていた。
 しかし現実は違った。
 
「せっ、先輩。あれは一体」

 思わず言葉が漏れた後輩の口を男はふさいだ。
 自分も息を潜め、冷や汗を掻きながら入り口の方を見る。
 そこには未だ健在の契約者と横たわる人面犬達の姿があった。
 男は自分の見たものが信じられなかった。
 【人面犬】が獲物である契約者に襲った時、彼は特にこれといったことをしなかった。
 それにも関わらず、人面犬達は突如動きを止めると仰向けになり服従の姿勢を取った。
 自分達が把握していない能力を敵は持っているのか?
 焦りを押さえながら、男は思考を巡らせた。
 次にどう動くか頭を働かせようとしたが

「っ! あのバカ!!」

 それより先に仲間が行動に出てしまった。
 入り口の近くに潜んでいた一人が、隠れるのをやめ契約者に飛びかかる。
 勇ましい咆哮を上げ、刃物より鋭利な『爪』を突き出しながら。
 だがその一撃が届くことはなかった。

「がはっ!?」

 襲いかかった同志は逆に吹き飛ばされた。
 契約者の放った強烈な横蹴りによって。
 返り討ちにあった同志は、受け身も取れず床を転がり蹲(うずくま)る。
 一方、契約者は気にした様子も見せずに男達の潜む方へと歩いてくる。
 すると、他の隠れていた同志達も物陰から姿を現し襲いかかった。
 正体不明の敵に対する恐怖心を隠せないまま、叫びを上げて。
 彼らは皆、フードを脱ぎ頭部を剥き出しにしていた。
 人間とは程遠い、犬にしか見えない顔を。
 【犬面人】。
 【人面犬】とセットで語られる狼男もどきの都市伝説が彼らの正体だった。
 ただ、男と後輩の二人だけは依然姿を隠していた。

689コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:39:38 ID:5Br.uEN2

「せっ、先輩! あいつ一体何なんすか!? 事前の情報と全然違うじゃないですか! 先輩!!」
「黙れ! それより早くずらかるぞ。これ以上、ここにいたら不味い」
「ずらかるって。他の連中は」
「見捨てるしかねえ。わかんねえのか、俺達は」

 二人が言い争う間にも、犬面人達は打ち倒されていった。
 ある者は上段廻し蹴りを食らい、ある者は膝を踏み砕かれ、ある者は腕を取られ頭から床へと叩きつけられた。
 攻撃を食らった者は立ち上がることなく倒れるしかない。
 どこまでも一方的な蹂躙だった。

「嵌められたんだよ!!」

 説得する暇も惜しいとばかりに、男は後輩を促し一刻も早く逃げだそうとする。
 このわずかの間に彼はわかってしまった。
 自分達が『雇用主』に嵌められ、逆に狩られる側になったことを。
 
「で、でも待って下さい! あいつさえ倒せばまだ」
「駄目だ。どうせ別働隊もいる。外の犬共も今頃やられているかもしれない。それに」

 契約者の男の背後から二人の【犬面人】が攻撃を仕掛ける。
 彼が正面の同志へ対処している隙を狙って。

「あの契約者は普通じゃない」

 攻撃が届くよりも先に、二人の【犬面人】は事切れた。
 契約者の背中から、服を突き破って生えた二本の腕に首を折られて。
 そのまま雑に投げ捨てられる。
 
「……あ、あんなのって」
「わかっただろ。早く逃げるぞ。このままじゃ俺達も――」

 男の言葉はそこで止まった。
 契約者の視線が自分達に向けられている事に気づいたために。
 
「ひっ」

 人間味を感じない、ガラス玉のような目に後輩が悲鳴を上げた。
 崩れ落ち、身動きを取れずにいる。
 先程の人面犬達と同じように。
 怯えた様子こそ見せないが男も同様だった。
 彼は目の前の契約者に、恐怖心を植え付けられたことを自覚せずにいられなかった。
 本能が目の前の化物に逆らうことを拒絶していた。

「……蛇に睨まれた蛙、か」

 これから自分達に待つ末路よりも、目の前の契約者の方が男は怖かった。

690コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:42:22 ID:5Br.uEN2

「仕事が済んだから朝までには帰る。飯も用意しといてくれ」
「わかりました。契約者さんに伝えておきます。でも無理はしないでくださいね?」
「大丈夫だ。特に怪我もしていない。それに」
「それに?」
「カンさん達の顔が早く見たい」
「だから、そういうのは私ではなく彼女に言ってあげてください。……私へは時々だけでいいですから」
「わかった、毎日言う」
「だーかーらー!」

 その後も些細な事を喋り通話を終えた。
 携帯をポケットにしまい、先程出てきたばかりの廃工場を見上げる。

「相変わらず仲がいいですね」

 投げかけられた言葉に振り返ると、案の定【首切れ馬】の黒服がいた。

「家族ですから。それより後処理の方はもういいんですか?」
「ええ、後は捕らえた【人面犬】と【犬面人】を護送するだけなので」

 彼女の視線の先を見ると、他の黒服によって拘束され連れて行かれる犬面人達の姿があった。
 【人面犬】はケージのような物に入れられ運ばれている。 

「あなたのお陰で、こちらへの被害を出さずに制圧出来ました。ありがとうございます」
「いえ、仕事をこなしただけです。外に潜んでいた【人面犬】の対処はそちらに任せましたし」
「このくらいしないと、こちらの面子にも関わります」
「そうですか」
「そうです」

 会話をしている間にも、ケージが到着したトラックの荷台に積み込まれていく。
 犬面人も同様だ。
 拘束されたまま乱暴に床に放り出されている。
 あのトラックも何かしらの都市伝説なのかもしれない。

「今回の件で『山犬』の残党である彼らも再起不可能でしょう。生け捕りにした者から詳細な情報を聞き出せる筈です」
「山犬、ですか」
「ええ、それが彼らの集団の名前。いえ、だったと言うべきでしょうか」

 彼らの首魁はとっくに倒されていますから、【首切れ馬】の黒服は呟いた。

「人面犬に噛まれた人間は人面犬になってしまう、という話はご存じですか?」
「人面犬の有名なエピソードの一つですね」
「ええ、その特性を利用して人々を人面犬に変えて勢力を拡大した集団が彼ら『山犬』です」
「つまり今日襲ってきた人面犬は」
「お察しの通り、元々は何の罪も無い一般人です」

 哀れみを含んだ目を彼女はトラックに向けた。

「『山犬』の構成員である【犬面人】は忠誠の証としてあの姿になりますが【人面犬】については完全な被害者です」
「元の姿に戻すことは」
「出来ません。洗脳を解いて意識を取り戻すことは出来ますが本人達からすれば」
「地獄でしかないかもしれない」
「……はい。ですから彼らについての扱いは組織でも別れています」

 そのために保護をするつもりなのだろう。
 彼女が仕事前に「人面犬は出来れば無傷で捕らえて欲しい」と言った理由がわかった。

691コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:43:47 ID:5Br.uEN2

「けど、そんな派手に活動していれば組織にすぐ潰されそうですが」
「……組織の中に彼らと通じている一派がいたんです。おかげで実態が明らかになるまで時間がかかりました」
「隠蔽していたってことですか」
「ええ。事態が表沙汰になったのは、洗脳を自力で解き『山犬』から脱走した一人の【人面犬】の存在があったからです」

 【首切れ馬】の黒服は語った。
 その後、人面犬が学校町へと辿り着き一人の少年と契約したことを。
 彼らは幾つもの都市伝説と戦った末に、【人面犬】の古巣である『山犬』と決着をつけることになった。

「組織が事態を完全に把握した頃には、『山犬』の首魁は少年達によって倒されていました。脱走者である人面犬の犠牲と引き換えに」
「今日の連中は、その時にうまく逃げおおせた面々ですか」
「はい。当然、組織が征伐に乗り出しましたが緊急だったので漏れがありました。……通じていた黒服の方はすぐに『処理』されましたが」

 ため息を一つ、彼女はした。

「ちなみにその後、少年はどうなったんですか」
「……それが現在消息不明だそうです」
「消息不明?」
「私にも詳しいことはわかりませんが、事件が解決してすぐに学校町から姿を消したようです」

 【首切れ馬】の黒服によると、少年は自分の意思で失踪したらしい。
 何でも同居していた家族に書き置きを残していたようだ。
 
「事件を通して何か思うところがあったのかもしれません。元々、優しい少年だったようなので」
「そうですか」

 契約した都市伝説を失ったことは俺にもある。
 だからといって、気持ちがわかるかと言えば答えは否。
 人は人、自分は自分だ。  
 
「ちなみに彼の名前は?」
「珍しいですね。あなたが他人に興味を持つなんて」
「もしかしたら出会うことがあるかもしれないので」
「……その時は一報をお願いします。彼と知己の者が今も捜しているらしいので」

 少し待って下さいと言うと、彼女はポケットから手帳を取り出しめくった。

「ああ、思い出しました。中々、珍しい名字と名前です」
「珍しい名前ですか」
「ええ、彼の名前は」

 一拍置き、【首切れ馬】の黒服は読み上げた。

「空井雀。空に井戸の井と書いて空井、雀はそのまま漢字です」

 知り合いと同じ名字を持つ少年の名を。

692コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:46:01 ID:5Br.uEN2

 最後のトラックが廃工場の敷地内を出て行く。
 飛脚が描かれた車体は、すぐに遠ざかり闇の中へと消えていった。
 俺はそれを、【首切れ馬】の黒服と共に門前から眺めていた。

「……これで依頼は完了です。お疲れ様でした」
「はい。こちらこそ、お疲れ様でした」
「報酬はいつも通り口座に」
「ありがたく」

 区切りを付ける挨拶を交わす。
 長い付き合いなのもあり、わずかに彼女の気が緩むのを感じる。
 
「……しかし、今でも不思議に思います」

 すると、彼女はそんなことを呟いた。

「何がですか?」
「あなたと今もこうして、共に仕事をしていることがですよ」

 【狂骨】に憑依された私が目を覚ました時には、取り返しの付かない事態になっていましたから。
 悔いを隠さず【首切れ馬】の黒服は言った。 

「暴走した今の奥方『達』を止めた上で組織と敵対。彼女らを連れて逃走した、とは。最初は信じられませんでした」
「やりたいことをやっただけです。それに助けもあったので」

 空井の助けもあって森に辿り着いた俺は、【姦姦蛇螺】として暴走した二人を異常を使い正気に戻した。
 そのまま契約を交わしたものの、犠牲が出ている以上組織が黙っているはずもない。
 ゆえに、包囲網を無理矢理こじ開けて脱出。何人かの協力もあって、予定通り駆け落ちした。
 空井やそのパートナー、葛藤しながらも手を貸したヒーロー、黙っていられなかった師匠。
 そして

「……【獣の数字】の契約者が生きていた上で、あなたの逃走に協力したと聞いた時は本当に耳を疑いましたよ」
「協力というか好きなように引っ掻き回しただけですけどね」

 そもそも恋人が呑まれ、カンさん共々正気を失って暴走したのも奴の仕業だった。
 でなければ、あんな特異な変化を遂げるわけがない。
 あの場で手を出したのは、このまま黒服の手によって俺が倒されるのが自分の望んだ結末ではなかったから。
 ただそれだけだ。

「逃亡生活中も何かと絡んできましたから。『決着』はつけましたけど」

 追手の黒服達も、しょっちゅう襲ってきたので中々大変だった。
 特に【忍法】の黒服とは何度もぶつかった。

「……逃亡中に今の体に変えたんですよね?」
「ええ、必要だったので」

 俺の体を眺める彼女に頷く。

「【六本足の鶏】の特徴である遺伝子操作。それを応用して、自分の肉体を戦闘向けに弄りました」 

 地力を上げる必要性は、【スレンダーマン】や【忍法】の黒服との戦闘を通じて痛感していた。
 逃亡生活を続けるなら強化は必須。
 躊躇う理由は無かった。

「師匠には後で怒られましたけど。手っ取り早く、身体能力を上げるのにはこれしかなかったので」
「相応のリスクもあったはずですが」
「成功したので問題なしです」
「……そうですか」

 もちろん、それだけで戦い抜けるほど甘くもなかったので一から技も磨き直した。
 【姦姦蛇螺】と契約したことで得た能力と異常、全てを含めてスタイルも再構成。
 幸いというか不幸にも、新しいやり方を試す機会は幾らでもあった。
 追手の黒服、【獣の数字】の契約者が寄越した刺客、現地の都市伝説や集団。
 今まで以上に実戦を重ねた時期だった。
 そんな日々が終わったのは、【首切れ馬】の黒服のおかげだ。

693コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:47:56 ID:5Br.uEN2

「目を覚ましたあなたが、こちらと組織の間に立って仲介をしてくれなかったら死んでいたかもしれません」
「私は私の仕事をしただけです。【姦姦蛇螺】の暴走が【獣の数字】の契約者による仕業な以上、あなた達と敵対する必要もありませんから」

 彼女はそう話すが、事態はそう簡単ではなかったはずだ。
 暴走により、黒服だけでなく一般人にも犠牲者は出ていた。
 いくら正気に戻ったとはいえ、【姦姦蛇螺】を討伐対象から外す理由に本来はならない。
 【首切れ馬】の黒服の尽力があったのは容易に想像できた。

「……それに元はといえば、私の失態のせいです」

 けれど、彼女はあくまで自分に非があると思っていた。

「私が【狂骨】に憑依され、あなたを撃ったりしなければあんな事態にはならなかった。あなたや、あなたの大切な人達が窮地に陥ることもなかった」
「前にも言いましたけど不可抗力ですよ。あれはどうしようもなかった」

 実際、【獣の数字】の契約者が刺客として差し向けた【狂骨】は強大な力を持っていた。
 あれに抗うのは、カンさんのように浄化の能力でも持っていないと不可能だった。

「そもそも【獣の数字】の契約者に狙われていたのは俺です。あなたは巻き込まれただけだ」
「ですが」
「それに」

 彼女の言葉を遮るように言う。

「今もこうして、定期的に依頼を寄越してくれている。感謝はしても恨む筋はありません」
「……監視の意図もあることはわかっていますよね?」
「同時に敵意がないことを証明する手段でもある」

 俺の返答に彼女は小さく笑った。

「こういうことには頭が回りますよね、あなたは」
「出なければとっくに屍になっていたので」
「ええ、では」

 初めて会った時からは想像のつかない、柔らかい表情がそこにはあった。 

「これからも末永く、お付き合いが続くことを祈ります」

694コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:49:35 ID:5Br.uEN2


 【首切れ馬】の黒服と別れた俺は、工場を出て最寄りの駅へと向かい歩いていた。
 「本当に送っていかなくていいですか?」と彼女は言ったが俺は丁重に断った。
 歩きたい気分なんです、という言葉に向こうは少し首を傾げていたが。
 丑三つ時を過ぎた暗い田舎道を通り過ぎていく。
 車通りはなく、僅かな電灯だけが辺りを照らしている。虫と梟の鳴き声だけが耳に響く。
 しばらく歩いた後、開けた野原を見つけた俺は足を止めた。
 この辺でいいだろ。

「そろそろ出てきたらどうだ?」

 呟きに返答はない。
 ただ、反応はあった。

「ほう」

 今まで闇しかなかった空間に、突如霧が出始めた。
 それも血を思わせる緋色の霧が。
 瞬時に辺りを包み込んだそれは、こちらの視界を奪った。

「毒ではないか」

 肉体は特に問題ない。
 しかし、俺の異常である【野生】は「ここは危険だ」と訴えていた。
 それを事実だと示したのは、後ろ斜め前から飛んできた数本のナイフだった。

「やるな」

 躱しながら敵がいると思われる方向に突っ込む。
 気配を感じた場所に前蹴りを叩き込むが感触はない。
 同時に空中から殺気を感じた。

「なるほど、そういう能力か」
「っ!?」

 背中から腕を生やし、敵の足を掴み地面に叩きつける。

「変則的な結界か。霧によって空間を支配して瞬間移動等を可能にする」

 ダメージを与えたはずの相手は既に、俺の手から逃れていた。
 代わりに、今度は四方八方から狂気を含んだ殺意を感じる。
 まるで複数人の殺人鬼に囲まれているようだ。
 どうやら敵は、霧が出てきた時点で予測した都市伝説そのものらしい。
 だが。

「何か混じっているな」

 俺に向かって、それらは襲いかかってきた。
 正体は大小様々なナイフ。まるで悪霊に取り憑かれたかのように俺を殺そうと飛んで来る。
 先程の投げナイフと違い、縦横無尽に悪意を持って刺突と斬撃を繰り返してくる。
 手っ取り早く息の根を止めようと首を狙ったかと思えば、機動力を奪おうと足に襲いかかってくる。
 お次は心臓、脇の下、顔面と中々の節操無しだ。それらを躱し、捌き、砕いていると痺れを切らしたのか大きな気配が迫ってきた。
 おそらく先程の本体だ。かなりの俊敏さで距離を詰めたそいつは、白いマスクを着け赤いコートを身に纏っていた。
 それで答え合わせは済んだ。なるほど、【口裂け女】が混ざっていたか。
 こちらの内心とは関係なく、敵は二振りのナイフを手に突貫してきた。それだけで手慣れなことはわかった。
 先程の瞬間移動や他のナイフによる攻撃、それらを複合させるとかなり厄介だろう。だから俺は

「やれ、真紅」 

 熱き烈風で全てを吹き飛ばすことにした。

695コカトリスVS:2025/06/28(土) 22:54:26 ID:5Br.uEN2

 血の霧が晴れた野原に、光り輝く翼を持つ六本足のガルダは舞い降りた。

「やれやれ、主様や。手札を出来るだけ切りたくなかったのはわかるが」

 そう苦言を呈しながら、いつもの姿へと変化していく。
 褐色の肌、銀色に輝く髪、そして真紅の瞳を持つ少女へと。

「さすがにギリギリすぎじゃろ。あんまり悠長なのは問題じゃぞ。昔と比べればマシじゃが」
「ああ、悪い。観察に回りすぎた」

 【六本足の鶏】、俺の契約都市伝説である真紅に謝る。
 彼女には仕事の際、姿を隠して貰いながら状況によって支援するよう頼んでいた。
 伏兵として重要な働きをする場面もあるので、安易に頼らないようにしているが今回はさすがに判断が遅いと思ったのだろう。

「少し気になる相手だった」
「ふむ。まあ確かに」

 二人、襲ってきた敵に視線を向ける。
 強烈な熱風に霧ごと吹き飛ばされた【■■■■■■■■】と【口裂け女】の混じりは、膝をつきながらもこちらを睨んでいた。
 手には変わらずナイフ。体は傷ついても、闘争心は衰えていないようだ。

「異なる都市伝説が混じっているタイプは稀に見るが、ここまで強力なのは中々いないのじゃ」
「そうだな。それに、もう一人がどう仕掛けてくるか気になった」
「もう一人? ……ああ、契約者がいたのか。じゃが、それらしい人影は上からは見えなかった――」

 赤い閃光が真紅の首元を襲ったのはその直後だった。

「なっ!?」

 咄嗟に真紅を蹴り飛ばし、契約者の顔面目がけ突きを放つ。
 完璧なタイミングの一撃。昔と違い、拳打の技も身につけた今なら確実に仕留められるはずだった。
 しかし。

「主様っ!?」

 突きを放った左腕は、肘から下を切り落とされた。
 神速の斬術。そうとしか形容できない、相手のナイフによる一撃によって。
 すれ違いざまの神業だった。更に相手は、手を緩める事無くこちらへ再び襲いかかる。
 圧倒的な俊敏性、それに接近戦に特化した歩法が厄介だ。
 今もそれで拳打を躱され腕を斬られた。この距離での戦いなら、あの【忍法】の黒服をも上回るかもしれない。
 目に捕らえきれない程のスピードを前に俺は

「……はっ?」

 切り飛ばされた左腕を右手で掴み、相手に向かい横薙ぎに思いっきり振った。
 溢れ出す血液諸共に。
 目潰しを兼ねた殴打に対して、【口裂け女】と同じく赤いコートを着た契約者の反応は悪くなかった。
 飛び散る血液を意に介さず、左腕を骨ごと切り払い、俺の首を狙ってきた。
 迷いのない行動だ。実力も申し分ない。だが

「甘いな」
「っ!」

 これが囮だということには気づかなかった。
 左腕による攻撃に注意を引きつけ、契約者の右足の甲を踏みつける。
 確かに骨を砕いた感触がした。だが、相手はこちらが追撃を仕掛ける前に飛び退いた。
 やはり判断が早い。苦痛を顔に出さないのも見事だ。

「主様、また滅茶苦茶な戦法を」
「あの場面だとこれがベストだった」
「だとしても絵面がヤバすぎるじゃろ!」

 呆れ顔の真紅と軽口を交わしながら左腕を生やす。
 左腕のストックはあと二本。両腕合わせれば五本。
 どうせ時間が経てば回復するので出し惜しみする必要もない。
 【姦姦蛇螺】と契約して得た能力で重宝していた。
 カンさんは「どうしてそう毎回、後ろ斜め上なんですか」と頭を抱えていたが。

696コカトリスVS:2025/06/28(土) 23:00:58 ID:5Br.uEN2

「しかし主様。あの相手は一体」

 真紅が【口裂け女】と契約者に視線を向ける。
 向こうも距離を保ちながら、こちらを観察していた。
 【口裂け女】の方は、ある程度ダメージが回復したのか立ち上がり戦闘体勢を取っている。
 契約者の方も同様。マスクを着けていない以外は、【口裂け女】と変わらない服装と髪型をしているので姉妹のように見えた。

「かなりの手慣れじゃが何者じゃ。襲われる心辺りは……山ほどあるな、うん」
「ああ」

 ただ、契約者の顔には見覚えがあった。
 真紅は気づいてないようだが。

「なんじゃ。心辺りでもあるのか?」
「まあな。今はそれよりも」

 真紅を後ろに下がらせ前に出る。
 向こうも同じ、契約者が歩き出す。

「決着を着けるのが先だ」

 野原の真ん中で相対する。
 こうして見ると、やはり契約者の顔は知人二人と似ていた。
 幼さを残しながら整った顔立ち。強い意志を感じる大きな瞳。
 それぞれの特徴を兼ね備えている。

「六本足の契約者。あなたを『世界の敵』として斬る」

 口火を切ったのは向こうだった。

「世界の敵、か」

 昔、二人がそう呼ばれたことを思い出す。
 目の前の契約者の顔。【首切れ馬】の黒服が話していた内容。それらが結びついていく。
 真相はわからないが、俺の知らないところで何かの思惑が働いているのはわかった。

「かつて、あなたの契約都市伝説である【姦姦蛇螺】が引き起こした惨劇は決して許されるものではない」
「それは【獣の数字】の契約者のせいで――」
「だとしてもです。罪は裁かれねばならない」

 真紅の反論に、契約者はきっぱりと言い切る。
 『彼』は長い黒髪を揺らすと、今度は俺に矛先を向けた。

「そして、何よりあなた自身だ。六本足の契約者。あなたの存在はそれだけで世界を乱す」
「ああ、そうかもしれないな」

 覚えないがない。とは言えるわけがなかった。
 否定できない程度には、様々な相手と戦い事件に関わってきた。
 少なくとも、俺がいなければ【獣の数字】の契約者が暗躍することはなかっただろう。
 二人が【姦姦蛇螺】に呑まれ暴走することもなかった。
 正体がわかった今ならそう断言できる。
 だが 

「だからといって大人しく斬られるつもりはない」

 かつて貫くと決めたエゴを捨てる理由にはならない。

「俺は最期の瞬間まで家族と生きていく」
「……ならば」

 契約者の雰囲気が変わった、人から都市伝説へ近いものへと。
 昔、聞いたことがある。都市伝説に呑まれるギリギリの境界線に立つ事で力を発揮する体質があると。
 目の前の相手がそうかもしれなかった。 

「『ボク』はその覚悟ごとあなたを切り捨てる」
「やってみろ」

 月の下、本当の戦いが始まった。
   
「おわり」


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