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【オリスタ】Change a gear,Change THE WORLD【SS】

1 ◆gdafg2vSzc:2016/06/22(水) 21:31:44 ID:ZWWtRpvo0
 あるきっかけでスタンドを発現させた不良高校生、汀一勝(みぎわ・かずかつ)

 様々なスタンド使いに出会ううちに、彼は自分の住む街を包まんとする「悪意」に気付き。

 仲間達と共に立ち向かって行く事になる。


 一人一人のできることは些細な事。

 でも、その些細な事が重なり、僅かでも世界を変える事が出来る……かも知れない。

 これは、そんな物語。


【はじめに】

※作者はこれまでちまちま創作はしてましたが、ジョジョものは初めてです。

※ちまちま創作してた割に、文章や表現力は稚拙、語彙や発想が貧弱であろうかと思われます。

※勢い重視で書くために、作者も気付かない矛盾やミスが出てくるかもしれません。

※更新速度や更新量は不規則になるかと思われます(数日で1スレだけ、とか)

※感想などは(話の途中であっても)お好きなタイミングでぶっこんで貰ってもらって構いません。

……以上、異存が無いということでありましたら、よろしくお願いいたします。

31 ◆gdafg2vSzc:2016/07/17(日) 21:16:09 ID:7b/e4lBs0
>>30
【2:雨月涙、その勇気(と誤解):登場オリスタ】

No5901
【スタンド名】ギア・チェンジャー
詳細は>>16参照

No7881
【スタンド名】 パープル・レイン
【本体】 女々しい性格の男:雨月涙
【タイプ】 近距離型
【特徴】 人型。頭部に数本の短い角がある。腕や胴体などに水滴のような模様がある。
【能力】スタンドが触れた(殴った)ものを液状化させる。
液状化したものは本体が能力を解除する事で一瞬で元の形状に戻る。
液状化した物体は元の状態と同様の性質を持つ(液状化した刃物で対象を斬る等)。
能力を調節して部分的に液状化させる事ができる。
生物を液状化した場合、その生物は一時的な仮死状態となる。また、能力を解除して元の状態に戻ると仮死状態が解除される。
本体自身も液状化する事ができる。その場合、仮死状態にならず液状化した状態で行動できる。

破壊力-B スピード-C 射程距離-D
持続力-C 精密動作性-B  成長性-D

最初は「オカルトオタク」な本体を探していたんですが、ちょっとイメージに合わず図鑑を見ていて「女々しい」設定で引かれて使わせて頂きました。
この作品の「もうひとりの主人公」的な。性格的な成長が書けるよう頑張りたいと思います。


ここまで読んでくださった皆様に感謝です。
次回以降も目を通して頂ければ幸いです。
次回はヒロイン(?)枠キャラ登場予定ですが……予定は未定。

32名無しのスタンド使い:2016/07/20(水) 04:10:18 ID:VkjQTOT20
乙でし!
ここまでは正統派な感じで良かったよ
これから変化してくんじゃろか

続き楽しみにしてまーし

33 ◆gdafg2vSzc:2016/07/20(水) 07:56:02 ID:2sOaKrus0
>>32
読んでくださりありがとうございます!

変化して行くかどうか、書いてる自分にも分かりません!(爆)
次も読んで頂けると幸いです。

34 ◆gdafg2vSzc:2016/07/21(木) 23:05:53 ID:1/zWs5xQ0
【3:樹野沙枝、その受難と本心】


 深夜、南風市中心街。

 とあるアパートの『一点を除いて』至って普通な一室。


 照明は壁際に置かれた机の上に置かれたパソコンのモニターの明かりだけの、暗い部屋の中。

「……く、くふふ、くふっ」

 一人の男が、部屋の中央に立って、笑っていた。

 男の腕には、野良らしい、毛並みがボサボサで不細工な面相の猫が抱かれていて。

 男が嫌なのか、抱かれるのが嫌なのか。

 しきりに、ふしゃー、と怒り声をあげ、尻尾を膨らませ、男の腕の中で暴れていた……が。

「大人しく、なるんだな」

 男がいやらしげな笑みを浮かべた刹那。

 男の腕に重なるように、水色の腕が現れ……ざざざぁ……

 猫が、男の腕の中から消え、その足元に何かが流れ落ち、散らばる。

「く、くふっ……素晴らしい、素晴らしいんだな」

 小さく笑い、指先で、右眼の下にある大きく、少し盛り上がったホクロを掻きながら。

 男は、散らばった『もの』を、足で無造作に部屋の隅に寄せる。

「この力があれば……ボクの、ボクの夢が、叶うんだな」

 くふくふと笑いながら、パソコンの置かれた壁の方に目を向ける、男。


 至って普通なアパートの一室の、普通で無い、一点……壁には、市内の中高の制服姿の女子の写真が、無数に貼り付けられていて。

 パソコンの画面には、制服姿の女性があられもない格好をしている姿が映しだされていた。



「待ってるんだな、ボ、ボクの、可愛コチャン達……たくさん集めてあげるから……」

35 ◆gdafg2vSzc:2016/07/23(土) 16:40:52 ID:TXQxenfg0
>>34
 汀とルイが知り合った、数日後の放課後。

「結局、ルイでもよう分からんかった、って事か。スタンドって奴」

「うん……僕も自分なりに調べたりはしてみたんだけど」

 海鳴高校の中庭に備え付けられたベンチに陣取り、会話を交わす汀とルイ。

 その内容は、数日前に汀が聞こうとしたスタンドに関する事なのだが。

「スタンドが何なのか、分からなかった。世界中に特殊な力を持った人間がいるのは確かみたいだけど……胡散臭い例が多くて」

「胡散臭い?」

「磁力体質でスプーンが肌に引っ付いたり、電気が平気だったり、いわゆる超能力者だったり」

「あー、『世界ビックリ人間』的な奴ッスね……なんか昔からあるッスよねー、そういうの」

 ベンチの側で立って控えていた沼田が、頷き相槌を打つ。

「確かに、胡散臭そうだわなぁ……」

 ずちゅー、と手にしていたバナナオ・レの残りを飲み干し、紙パックを握り締めながら。

 ベンチの背に大きくもたれるように、空を仰ぐ汀。

「うん。まぁ、そういう人間の中にスタンドを使える人間がいるのかも知れないけど……」

「ヒントには全くならない、ってワケか」

「うん……ごめん、汀君。役に立たなくて」

「あー、ルイ、全然かまわねぇよ。分からんなら俺達で調べていきゃいいさ」

 少ししゅんとした様子で俯くルイの肩を、慰めるように優しく叩き。

「俺達に妙な事をした『霧吹き男』がこの街に居るのは間違いないし……そいつを探し出してシメるのが一番だろうけど」

 少し離れた場所にある、金属製の丸いゴミ籠に狙いを定め。

「どう探すべきかねぇ……よっと」

 言いながら、紙パックを投げる汀。

 紙パックは……ゴミ籠の縁に当たり、外側に落ちてしまう。

「惜っしいなー。スマン、沼、あれ捨てといて」

「あ、ういッス」

 ベンチに座ったまま、汀が命じ。

 沼田がゴミ籠の方に歩いて行こうとする――


「コラ、なに横着してるのよ」

「おうっ」

 ぺそっ。

 背後から頭を丸めたノートで軽く叩かれ、振り返る汀。


 汀達の背後に居たのは。

 四角いフレームの眼鏡をかけ、腰の辺りまで伸びたロングヘアーの、生真面目そうな女子生徒であった。

「あ、樹野さん」

「お疲れ様ッス、沙枝先輩」

「なんだ、沙枝か……」

 ルイが笑顔で、汀が面倒臭そうに。

 女子生徒……樹野沙枝(いつきの・さえ)に挨拶する。

「いいじゃん別に減るモンでなし」

「良いワケないでしょ。ほら、拾いに行く!」

「へいへい、分かりましたよ……生徒会長殿」

 少しキツめに沙枝に睨まれ。

 しょうがない、という顔で汀は立ちあがり、空パックをゴミ籠に捨てる。

36 ◆gdafg2vSzc:2016/07/24(日) 19:07:49 ID:ehNYeH6A0
>>35
「それにしても、珍しい取り合わせよね。汀君と雨月君って……あ、まさか雨月君に酷い事を……」

「してねぇよ。まぁちょっとあったけど、ダチになったんだし、な? ルイ?」

「あ、う、うん。友達だから」

「ふーん……まぁ、雨月君がそう言うならいいけどさ」

 小さく笑いながら頷くルイを見て、不思議そうに首を傾げつつも。

 納得し、小さく頷く沙枝……だったが。

「汀君、色々やらかしてくれるから。一応気を付けといてよねー」

「酷い言いようだなオイ」

 皮肉っぽく笑う冴に、少しイラッとした様子で答える汀。

「だってねぇ……聞いたわよ。また中央の生徒と喧嘩したんだって?」

「うぐ。けどよ、あれは長濱の奴がうちの生徒にちょっかい出すからさ」

「それでも。他に方法はなかったの? って話よ。それに」

 び、と人差し指を汀の顔に突き付け。

「また遅刻やサボりが増えてるみたいじゃない」

「うぐぐ……」

「先生、言ってたわよ。実技の授業と同じぐらい、一般教科の授業もマジメに、とは言わないけど居るだけ居てくれないか、って」

 正論、しかし汀にとっては「口撃」を告げる沙枝を前に。

「あー、はいはい、分かりましたぁ! 気をつけるって!」

 観念したように大声を出し、うなだれる汀。

「……言うだけじゃなくて本当に気をつけてよね。一応、知り合いが留年とかって嫌だし」

「へーい」

「はぁ……分かってんのかしら」

 反省した様子の微塵も見えない汀の返事に、呆れ溜息の零れる沙枝。

「ま、気をつけてね。じゃあね」

「あれ? 帰るんじゃねぇの?」

「この後、生徒会の用事があるのよ。汀君みたく暇じゃ無いんだから」

「悪かったなぁ、暇で。だったらさっさと行きなって」

「言われなくても! じゃあね」

 邪魔者を追うように手をひらひらと振り、沙枝の背を見送る汀。

「あー……相変わらず言う言う……敵わんわー」

「そうッスね……なんというかその、お疲れ様ッス」

 その姿が校舎に消えたのを確認し、ぐったり、という風にベンチの背に凭れる。

「昔っからああだもんなー」

「昔から……って。そういえば汀君と樹野さんって、親しいの?」

「あー、親しいっつうか」

「幼馴染なんスよね」

「というよりは腐れ縁、かねー。家は離れてるけど、小学校から一緒だったし」

「確か、小4の時に転校してきたんスよね」

「へえぇ……意外。全然知らなかった」

 汀と沼田の会話に、小さく驚き、感心するルイ。

「ま、中学以降はあんまり話もしなくなったし、ここじゃ科も違うしな」

「そうなんだ……でも、凄いよね、沙枝さん。頭も言いし、真面目だし、なんだか頼れる感じだし」

「ま、性格がアレだけどな。きっついのなんの」

(それは、汀君が悪いんでは)

 苦笑混じりに呟かれた汀の言葉に、心の中でツッコミを入れるルイである。

「ま、気が強いと言うか、芯が強いと言うか……そこは凄いと思うぜ」


 喋り続ける汀の目に、ふっ、と。

 哀しげな、寂しげな色が漂う。


「『あんなこと』が、あったにも関わらず、な……」

37 ◆gdafg2vSzc:2016/07/27(水) 21:27:19 ID:fjntc2d.0
>>36
 その日の晩。

「ごめんなさい、先輩。なんか我侭言っちゃって」

「あ、全然気にしないで」

 生徒会の用事が意外に長引き。

 日が暮れ、暗くなった道を、沙枝は生徒会の役員でもある、大人しそうな後輩と一緒に、自転車をつきながら歩いていた。

 その方向は、沙枝の自宅の方向とは少し離れているのだが。

「誰だって怖いもんね、不審者なんて」

「ですよね……樹野先輩は怖くないですか?」

 最近、市内に不審者が現れるという話を聞いていた沙枝達。

 話によれば、その男はカメラを手に、制服姿の女子中高生を執拗に撮影するのだと言う。

 ただ、それ以上の被害が今のところ出ていない事もあってか、その男に対する警察などの動きは鈍い、とも沙枝は噂に聞いていた。

 そして、昨日のこと、この後輩が住んでいる界隈でその不審者が目撃され。

 怖くなった後輩に頼まれ、沙枝は付き添っていたのである。

「怖いけど、今の所撮影だけみたいだけだし……案外、キツめに注意したら止めちゃったりするかもね」

「ええー、注意できるんですか?」

「迷惑だって、言われて分かる場合もあるかも知れないし。まぁ、本当に怖い人なら逃げるけど……もしかしたら、やっつけちゃうかも」

 後輩の不安を和らげるように。

 笑いながら、冗談めかして握った拳で空にパンチを打つ沙枝。

「あははっ、やっぱり樹野先輩、すごいですね! 勉強も出来るし、頼もしいし」

「あはは、まぁねー……っと、マンションそこだよね?」

「あ、はい! ありがとうございました! おやすみなさい!」

「うん、また明日ね」

 自宅のマンションの前まで帰りつき。

 後輩は深々と頭を下げて、中に入っていく。

 その背中を見送って。

「はぁ……」

 苦笑いを浮かべ、小さく溜息をつき。

「頼もしい……ね……」

 自転車をついたまま、自分の家の方に歩いて行く。

(……そうでもないよ。私だって、弱音を吐きたいこともあるよ)

 心の中で愚痴を呟きながら、右手に民家の壁が、左手に水路がある歩道を歩いていく沙枝。

 比較的人通りも多い筈の道なのだが、すれ違う人も、車道を通る車も無く。

(不審者か……やっぱり、怖いなぁ)

 件の不審者の話もあり、いつになく不気味に沙枝には感じられた。

「……やだ、何考えてるの。私は私。しっかりしないと」

 自分に気合を入れるように、自分の頭を軽く叩き。

 目の前の交差点を、壁沿いに曲がる沙枝――


「え……!?」


 闇の中から突き出された、右腕。

 その手に持たれた金属性の小さな『霧吹き』が、沙枝の顔につきつけられ――

38 ◆gdafg2vSzc:2016/07/28(木) 21:44:06 ID:t9pzNp520
>>37
 3日後。

「おい、ちょっといいか、汀?」

「あん? 何ですか、センセー」

 放課後の学校の廊下。

 沼田とルイの2人と一緒に帰ろうとしていた汀に。

 生活指導も担当している、いかつい顔と体つきの体育教師が声をかけた。

「いやな、汀。実は、お前に良い知らせと悪い知らせがある」

 手にしたA4サイズの封筒を丸めて自分の肩を叩きながら、ちょっと意地悪げに笑う体育教師。

「ええっと……そーゆーのは悪い知らせから聞くのが相場ってもんですよね?」

 汀も、この教師の性格は十分知っているので。

「で、何ですか? 悪い知らせってのは」

 にっ、と笑いながら気取った風に学ランを整えて聞く、が。

「お前、こないだ国語の授業サボったろ」

「あっ、はい……」

「はいおめでとう、それで単位落ちたわ」

「え、えええええー!?」

 告げられた事の重大さに、汀は頭を抱える。

「あー、やっちゃったッスね、兄貴……」

「ええ、それは流石に駄目だよ」

「うっせぇ! ルイはともかくお前も同じ様なもんだろがぁ!」

「あう、い、痛いッス!」

 思わず軽いノリで入ってしまった沼田の頭を、軽く平手でしばく汀。

「こら、暴力はいかんぞ。まぁ、沼田、お前も大概だ、気をつけとけよー」

「う、ういッス」

「んで、で、で……俺、どーなるんですか? どーしたらいいんですか?」

「補習とかでなんとかなるんですよね?」

 流石にまずいと自覚してるのか、いつになく緊迫した表情で教師に迫る汀。

 ルイも自分の事の様に心配し、教師に尋ねる。

「そこで、良い知らせって訳だ」

 ニヤニヤ笑いながら。

 体育教師が汀に、手にしていた封筒を差し出す。

「え、なんすか? これ?」

「ああ、実はな、3日ほど前から樹野が学校休んでるんだよ。風邪みたいだけど」

「ええ……知らんかった。そうなのか、ルイ?」

「う、うん」

「へぇー、あの元気とマジメと嫌味の塊の沙枝が風邪とか……大丈夫かよ」

 冗談交じりではあるが、心配げな表情を見せる汀。

「で、それと良い知らせと、どう関係が?」

「汀と樹野って親しいんだってな……で、この3日分のプリントやら生徒会の資料やらを」

 言いながら、教師が汀に封筒を突き出す。

「届けてやってほしいんだ」

「ええ!? やだ、面倒くさいし。沙枝の友達とかに頼めば良いじゃんかー」

「頼もうと思ったが、他に用事もあるみたいだし、家の方向が逆だったりで手間かけさせるし」 

「だからってー、嫌ですよー」

 あからさまに面倒そうに言い、口を尖らせる汀だったが。

「そーかー、残念だなー。頼まれてくれたら、単位の事考えてやる、って話だったのになー」

「あ、是非行かせて頂きます!」

 教師の言葉に態度を即変え、封筒を受け取る。

「これ沙枝んちに届けたらいいんですね?」

「まー、課題のプリント提出ぐらいはやってもらわんといかんが……留年や補習よりマシだろ?」

「全然おっけーです! よし、じゃあいくぞ、沼、ルイ! んじゃ先生さよーならー!」

「あ、兄貴、待ってッスー!」

「え、あれ? 僕も行く事になってる? まぁいいか、樹野さんのお見舞いに行こう」

 嬉々として駆け出す汀を慌て、戸惑いながら追いかける沼田とルイ。

「こらぁ、廊下走るなー。しかしまぁ……雨月とも仲良くやっとるようだし。なんだかんだ言いつつ……良い奴なんだよなぁ、あいつは」
  
 その姿を見送る教師の顔には、優しげな笑みが浮かんでいた。

39 ◆gdafg2vSzc:2016/07/30(土) 21:31:34 ID:dDH3C5s20
>>38
 同じ頃。

 沙枝の自宅、2階の自分の部屋。

「うーん、熱は無いみたいだけど……やっぱりしんどい? 沙枝ちゃん」

 パジャマ姿で、薄手の毛布をかけてベッドで横になる沙枝に。

 世話好きそうな中年女性が、心配そうに声をかけ。

「……うん」

 彼女に答える沙枝の顔は、必要以上に申し訳なさそうである。


 その理由は。

「ごめんなさい、洵子(じゅんこ)おばさん、こんな時まで世話してもらって」

「いいのよぉ、沙枝ちゃんのお母さんには私も世話になったし……気にしないで」

 彼女が―洵子が母親ではない、からであろう。


「困ったときはお互い様、よ。ね」

「……はい、すいません」

「じゃあ、私、ダンナが帰る頃まで下にいるから。なんかあったら声かけてね」

「え、そんな……悪いですよ。晩の支度もあるんじゃ」

「あはは、気にしないで。ダンナにはカップ麺でも食わせときゃいいから。じゃあ」

 けらけらと笑って、部屋のドアを閉める洵子。

 ぱたぱたぱた、と、洵子の立てる足音を聞きながら。

「はぁ……」

 ころん……沙枝はベッドの上で転がり、不安そうに顔を曇らせながら、溜息をつく。



……樹野沙枝、彼女の両親は既にこの世に居ない。

 沙枝は元々、南風市から離れた街で、両親と共に住んでいた。

 大学で知り合い、その後付き合い結婚した……海洋地質学者の父親と海洋生物学者の母親。

 両親の仕事の都合もあり、なかなか家族一緒で旅行などに行く機会は少なかったが。

 両親は沙枝に精一杯の愛情を持って接し、沙枝も両親の愛情を受け、真っ直ぐに育っていった。


 だが。

 沙枝が小学校3年生の時、父親が交通事故で亡くなった。

 悲嘆に暮れる母親の姿を見て、沙枝は、自分がしっかりと母親を支えていかなければらないと、幼いなりに決心し。

 これまで以上に母親の言うことを……時には自分の感情を殺してまで……聞き、手伝うようになった。


 そんな沙枝と母親に、転機が訪れる。

 母親の故郷である南風市に、海洋研究の新たな拠点として大規模な施設が建てられることとなり。

 そこの研究員に、母親が推薦されたのである。

 悩んだ末、母親はその推薦を受け。

 友達と分かれるのは辛いと思いつつも、沙枝なりにそのほうが母親のためにはいいのかもしれないと考え。

 小学校4年の時、沙枝は南風市に引っ越してきた。


 その後も、母親を支えつつ、新たな友達や……腐れ縁となる汀と知り合い。

 傍からは「しっかり者の真面目な優等生」としての評価を受けつつ。

 その期待に応えるように、自分を励まし、また、これまで通り母親を支えつつ。


 それなりに楽しく、沙枝は南風市での学校生活を送っていた。


 1年数ヶ月前……沙枝が高校に入学して間もなく。

 あの『事故』が起き、母親がそれに巻き込まれて、亡くなるまで。

40名無しのスタンド使い:2016/08/01(月) 21:50:50 ID:bYyAAAqs0
>>39
「ふぅ……」

 昔の事、事故の事を思い出しながら、寝返りを打ち、また溜息を吐く沙枝。


 母親の勤めていた研究施設で起きた、大規模火災事故。

 その事故で研究員等を含む10名が死亡し……その中に沙枝の母親も居たのだった。


 母親の死を前に、その胸は張り裂けそうであったたが。

『ここで泣いてはいけない、自分がしっかりしないと。しっかりと、生きていかないと』

 そんな想いが、沙枝の心が悲しみに沈むのを……良くも悪くも食い止めた。

 その後も、心によぎる悲しさや不安を誤魔化し、紛らわせるように。

『しっかり者で真面目な優等生』の自分を、演じてきた……のだが。


「怖いよ……」

 沙枝の口から漏れる、不安の声。

「どうして……変な物が見えるようになったの……?」


 3日前。

 沙枝は、後輩の家からの帰り道で『霧吹き男』に襲われた。

 霧吹きの液体を浴びせられ、これまでに経験した事の無い気持の悪さを味わい、地面に倒れる沙枝の耳に。

 側の水路を流れる水の音と、男の言葉の断片だけが聞こえていた。


 その後、回復した沙枝は。

 当然のように、警察への通報を考え、スマホを取りだし、操作しようとした――だが。

「……ひ!?」

 そのスマホを反対側から掴む、茶色っぽい右手が見え。

 驚きと恐怖のあまり、沙枝はスマホを取り落とした。

(な、なに!? 今のは?)

 それが何であるのか、この時の、そして、今の沙枝にも分からない。


……ただ。


     『コノ事ハ、秘密ニシナケレバイケナイ』


 その手が、そう言っているような気がして。

 沙枝は、警察に知らせる事を止め、家に帰った……のだが。

 その夜から、自分の周りに現れる『人影』に悩まされるようになった。

 時折、沙枝につかず離れずで現れる、おぼろげな姿の人影。

 そこに、何故か大きな恐怖は抱かなかったものの。

 その正体が分からない事に、不安を覚え、怯えつつ。

「幽霊……? でも、そんなの、きっと誰も信じないよ」

 しかし、誰にも相談できないまま。

 その夜の翌日から、沙枝は風邪だと嘘をついて学校を休んでいたのだった。
 

「はあぁ……」

 深い溜息をつき、ぼふ、と枕に顔を埋める沙枝。

 自分のこれまでの人生の理屈に無い現象に、これまで何があっても気丈に振舞ってきた沙枝も、流石に心折れそうになっていた。

「……怖いよ」

 弱音を、吐いた――そのとき。


 ピンポーン……

 玄関のチャイムの音が聞こえ。

「はいはい、今行きますねー」

 ぱたぱたと、洵子が早足で玄関に向かう足音が聞こえ。

(ああ、もうずっと休んでるし)

 心配した友人が様子を見に来てくれたと思いながら、沙枝は身体を起こす――


「ちょ、ちょっと!! 貴方、誰ですか!?」

「……!?」

41 ◆gdafg2vSzc:2016/08/04(木) 15:22:22 ID:EPjEem/Y0
>>40
 洵子のただならぬ様子の声が聞こえ。

 沙枝は、ベッドの横のテーブルに置いてあった眼鏡をかけ。

 部屋を出て、慌てて階段を降りていく。

 階段を下りてすぐ、正面に見える玄関――そこで。

「さ、沙枝ちゃん! 来ちゃダメ!」

 沙枝の姿を見て、大声を上げる洵子、と。


――ビシィ。

「――え!?」

 洵子の身体に、一瞬。

 いびつな格子状に、青白い光が走ったように見えた刹那。

「ひ、ひいぃ!?」

 驚く沙枝の前で、その体が、バラバラになり、崩れ落ちる。

 そして、その後から。

「……くふっ、くふ、邪魔者は消えてもらうんだな」

 野暮ったい長袖の服と、だぼっとしたズボンを身に着けた。

 右目の下に大きな黒子のある男が現れる。

「ひ、あ、あなた……だ、誰!?」

「ボクぅ? あ、ボク、滑川(なめかわ)って言うんだな」

 くふくふ、と、いやらしげな笑いを浮かべながら、足元に散らばった「もの」を蹴飛ばす滑川。

(え……?)

 滑川が蹴飛ばし、足元に散らばった「もの」に沙枝の目が向く。

 それは……幼児向けのジグソーパズルのように、一片が大きなパズルのピースであり。

 バラバラになったピースに、目や口や、洵子が来ていた服の柄が見えていた。

「な、なんなの!? おばさんをどうしたの!?」

「くふっ、怖がる事は無いんだな、樹野、沙枝ちゃぁん」

「な――ど、どうして、私の名前を!?」

 腰を抜かしそうになりながらも、階段を、少しずつ後退りして上り、逃げようとする沙枝。 

「くふっ。だって、ボク、沙枝ちゃんみたいな可愛い子が、好きなんだな」

 笑いながら、土足で廊下に踏み出す滑川。

「でも、ボク、みんなに気持ち悪いって言われるんだ。だからずっと、写真を撮って眺める事しか出来なかったんだな」

「写真って――まさか!」

 沙枝の脳裏に、数日前に聞いた不審者の事がよぎる。

「でもぉ、ボクは……力を得たんだな。その力で、ボクは……くふふ、くふっ」

 指を気味悪くわきわきと動かしながら、また一歩、ずい、と沙枝に迫る滑川。

「沙枝ちゃんみたいな、可愛い子をコレクションして、た、楽しんでやるんだなぁー」

「や、い、嫌ぁ! こ、来ないで!」

 訳の分からない事を交える滑川に背を向け、自分の部屋に駆け込むと。

「くふふっ、逃げても無駄なんだなぁ」

 迫り来る滑川の足音に震えながら、部屋の鍵をかける沙枝。

「開けるんだな、沙枝ちゃぁん!」

 ドンドンドン!

 滑川が乱暴にドアを叩く音を背中に聞きながら。

 テーブルに置いてあったスマホを取り、電話で警察に連絡しようとすが。

「……そんな!?」

 3日前から充電を忘れていたせいで、スマホのバッテリーが切れている事に気付く沙枝。

「だ、誰か!! 誰か助けて!」

 仕方なく、部屋の窓を開け、外に大声で叫ぶ沙枝――


「さーん、にーい、いーちぃ」 

「――!?」

 その背後。
 
 ドア越しに、楽しげにカウントダウンする滑川の声が聞こえ。


「ぜーろぉ」


 沙枝が振り向くのと同時に、カウントが終わり。

「え、ええっ……!?」

――ビシィ。
 
 ドアに、先の洵子の時と同じように。

 格子状……ジグソーパズルの切れ目のように青白い光が走り。

「だから言ったんだな。逃げても無駄だって」

 ぼごぉ。

 ドアの上部に穴が開き、パズルのピースのようにドアの破片が落ち。

「沙ぁ〜枝ぇ〜ちゃぁぁ〜ん」

「ひ、ひいいぃ!」

 その穴に、滑川が顔を突っ込み。

 沙枝に対し、舌を出して舐めるような仕草をしながら、いやらしげな笑いを浮かべる。

42 ◆gdafg2vSzc:2016/08/06(土) 19:52:02 ID:lViV1h.c0
「くふっ、お邪魔するんだな」

 滑川がドアを完全にバラバラに破壊し、部屋に進入する。

「な、なんで? なんなのこれ……ワケ分からない!!」

「沙枝ちゃんはワケわかんなくても、いいんだな」

「い、嫌ぁ! 来ないで!」

 沙枝は咄嗟に、側にあった目覚まし時計を掴み、滑川目がけて投げつける。


「無駄なんだな! 《ピース・オブ・マイ・ソウル》」

(あれは――!?)


 目覚まし時計は、滑川の前に現れた。

 全身が水色で、全身にパズルのピース状の区切りがあり、宇宙人を思わせるように大きな目の人影……スタンドによってキャッチされ。

「あ、ああ……」

(な、なんなの、あれ!? あれがまさか、私に付きまとっていた――ものなの!?)

 その姿を見た沙枝が絶句し、驚きに目を見開く。

「んもぉ、危ないんだな」

 少し怒った様子で滑川が呟き、ピース・オブ・マイ・ソウルが手を握ると。

 目覚まし時計は、パズルのピースと化してバラバラになる。

「さぁ、沙枝ちゃん……ボクのコレクションの、記念すべき第一号に、なるんだな」

「ひ、い、いやぁ……」

 滑川が笑いながら迫り、同時にピース・オブ・マイ・ソウルが、沙枝に向けて手を伸ばす――


(わ、私もおばさんみたいに、ドアみたいに、バラバラにされちゃうの!?)
(い、嫌、怖い! 誰か、誰か、助けて!)

 どうする事もできず、恐怖を感じながら、俯き目を閉じる沙枝……


(いやぁ! バラバラにされたくない! 死にたくない――)


   『ナラ、生キレバイイ。コイツヲ、ブチノメシテッ!』


「……え?」

 突如、頭の中に、聞いた事のあるような声がエコーし。

「なっ、何なんだな……あぼぉ!?」

 続けて聞こえた滑川の驚いた声と悲鳴に、沙枝が顔を上げ。


「え、え……えええええ!?」

 目の前の状況に驚く。


 沙枝の目の前で、滑川が顔を、頬を抑え膝をついていた。

 その側にいるピース・オブ・マイ・ソウルの頬にも、殴られたような跡が付いていて。

 そして、沙枝が驚いた最大の理由は。


   『サァ、反撃開始デスヨ』

 沙枝の側に、立つもの。


 滑川に対して拳を突き出した、全身に茶色っぽい身体を持ち、胸の大きな女性。

 その髪は鮮やかな緑色で、頭頂のやや後では、髪が束ねられ、緑色の小さな「樹」を形成していた。


「あ、あ? 貴女は?」

 戸惑いつつも、この女性が付きまとっていた「もの」の正体なんだろうと何故か確信し。

 現れた女性に話しかける沙枝。

   『私ハ、貴女デスヨ、樹野沙枝』

「え、そんな事言われても、意味が分からない!」

  『意味ハスグ理解デキマスヨ、魂デ。ソンナ事ヨリモ』

 茶色の女性が横目で滑川を見、沙枝も顔を滑川の方に向ける。

「よ、よくも、殴ってくれたんだな……ママにも殴られたこと無いのに」

「ひ……!」

 滑川が切れた唇から血を滲ませながら、沙枝を恐ろしい形相で睨む。

「まさか沙枝ちゃんまでスタンド使いとは、思わなかったんだな……そうと分かったら」

「スタンドって……! これが!?」

 沙枝の記憶に残っていた、霧吹き男の言葉の断片が蘇ると同時に。

「やるんだな! ピース・オブ・マイ・ソウル!」

  『来マスヨ!』

「来るって、きゃあぁ!」

 ピース・オブ・マイ・ソウルが、茶色の女性――沙枝のスタンドに掴みかかる。

「速い!」

 繰り出されたピース・オブ・マイ・ソウルの腕のスピードに、驚き叫ぶ沙枝。

  『確カニ速イ、シカシッ!』

 沙枝のスタンドの腕が掴まれる、直前……バウン!

43 ◆gdafg2vSzc:2016/08/07(日) 20:31:01 ID:z3iCSn220
>>42
「ええっ!?」

「な……ほげえぇ!」

 突如、沙枝の部屋のフローリングの床板が、大きくしなりながらめくれ上がり。

 滑川の身体を正面から打ちつけ、その身体を廊下まで吹き飛ばし。

 それに引っ張られるように、ピース・オブ・マイ・ソウルが後退する。

「い、今のは……」

 『私ノ能力デス。植物、及ビ、ソノ加工品ヲ操作スル。コノ部屋ガふろーりんぐデ、良カッタデスネ』

「……そうじゃない」

 『?』

 元に戻っていく床板を見ながら、沙枝は小さく頷くと。

「今、あの男の……スタンド、だっけ。その攻撃からまともには逃げられないと思った」

 鼻を押え悶絶する滑川の側を通り、階段を急いで下りていく。

「そう思った瞬間、貴女が能力を使った……」

 『エエ、ソレガ貴女ノ、ソシテ私ノ意思デスノデ』

「……正直、今の状況は不思議すぎて、信じられないし、心の整理もつかない。訳が分かんない、でも」

『デモ?』

「1つ、間違いなく理解できたわ。貴方が言っていた通り――」


「貴女は、私だって」 
『私ハ、貴女ダッテ』

 互いが同時に告げ。

「そして……貴女の名前は――《リリカル・グラウンド》」
 
 沙枝が、その名を心に、スタンドに刻みつける。


「……でも、どうしよう」

 自分のスタンドを、スタンドと言うものを感覚で理解して、多少落ち着きは取り戻したものの。

「ぐ、こ、このアマぁ……ボクのコレクションの分際で」

 階段の上で、憎悪を剥きだしにして呻き、動き出そうとする滑川の気配を感じ。

「ねぇ、どうしたらいいと」

 思う、とリリカル・グラウンドに尋ねかけ。

 スタンドが自分の一部である以上、結局それは自問自答でしか無いと悟り、言葉を止める沙枝。

 実際、それを自覚して以降、リリカル・グラウンドが喋る事はない。

「ゆ、許さないんだなぁ!」

 鼻血を流し、怒りを露にした滑川が『木製の』階段に足をかけた――瞬間。

「リリカル・グラウンドっ!」

――ジュリイィン!

 リリカル・グラウンドが階段を殴り。

「ほ、ああああぁ!?」

 階段の段が全て斜めに倒れ。

 滑川がバランスを崩し、斜面となった階段を転がり落ちて。

「あがぁ!」

 玄関の横、靴箱に身体を強打する。

「上手くいった……でも」

 痛そうに身体をさすりながらも、まだ動こうとする滑川。

「逃げなきゃ。逃げながら、なんとか助けを呼ぶなりしないと……」

 沙枝は、洵子が履いてきていたサンダルを履き。

「ごめんなさい、おばさん。きっと助けるからね」

 バラバラになった洵子に謝り、滑川から距離を取るべく、家の外に逃げだす。


「うん、あっちへ逃げれば」

 沙枝の家の外、道路の向かい側は緑の多い大き目の公園になっていて。

 迷うことなく、そちらへと逃げていく沙枝。

 公園にいる人に助けを求められるかも知れないし、自分のスタンドの能力なら木々の多いこの場所なら上手く足止めできるかも知れない。

 そう判断しての行動であった。


 そして。

「くっそぉ、何度も馬鹿にして……許さない、絶対、許さないんだなぁ!」
 
 傷まみれになりながらも、滑川がその背中を追い。

 道路を横切り、公園に飛び込んでいく――その姿を。



「あれ、今の、樹野さんじゃなかった?」

「ホントッスか? あれ、何か変な奴も通っていってるッスね」

――ぞっ。

「……なぁ、ルイ、沼。なんか嫌な予感がするんだ。急ぐぜ」

 少し離れた場所から、汀達が見ていた。

44名無しのスタンド使い:2016/08/08(月) 05:00:00 ID:yZZX1aSo0
ピース〜の能力発動の表現が、絵が目に浮かぶようでいいですね
リリカル〜の攻撃手段も、ドリフ風階段落ちとか、王道ながら面白い
さて、物でも人でも3秒でバラバラにできる何気に厄介な能力相手に、
あの3人も合流してどうバトルが展開するのか、期待してます!

45 ◆gdafg2vSzc:2016/08/09(火) 21:20:46 ID:FdWhdQQA0
>>44
読んでくださりありがとうございます。
能力の使い方が王道なのは、変わった使い方が思いつかないだけ……いや、げふげふ。

この後の展開は割とあっさり目になるかもしれませんが、期待に添えるよう頑張りたいと思います。

ただ、今週中は仕事たぼーんでなかなか書けそうもないんだよなぁ(遠い目)
まぁ、のんびり行きます。

46 ◆gdafg2vSzc:2016/08/13(土) 19:22:18 ID:rwjbHvIo0
>>43
「くそぉ! 何処へ逃げたんだなぁ!」

 大声を上げて、公園内の遊歩道を早足で進みながら。

 血眼になって沙枝を探し、周囲を見渡す滑川。


「……」

 その姿を、沙枝は遊歩道から離れた木々の影から窺っていた。

 沙枝にとって都合がいいのは、自分のスタンドの能力に使える木々が多い事。

 都合が悪いのは……こういう時に限って公園内に他に人が居ない事、なのだが。

(でも、普通の人じゃどうしようもないか……そう言う意味では良かった、のかも)

 他人を巻き添えにしたくないと言う想いもあって、こんな事態にも拘らず、少し安堵する沙枝。

「なら、やっぱり私がなんとかしないと」

 そう決意し、小さく拳を握りながら。

 木の陰から顔を出し、再び滑川に目を向け――


「……あっ!」

「あ!!」


 偶然、きょろきょろと首を動かしていた滑川と目が合い。

「見つけたんだな、このクソアマぁ! ピース・オブ・マイ・ソウル!」

 滑川がスタンドを出し、先行させながら、沙枝の元に駆けて行く。

「……近づかれて、掴まれたら終わり。なら!」

――ジュリン!

 リリカル・グラウンドが地面に露出している木の根を叩き……ぬじゅりゅ!
 
「おお!?」

 鞭のように根っこがしなり動き、滑川の右足、膝から下に絡まり、動きを封じ。

「やっぱり……私のリリカル・グラウンドもそうみたいだけど、動かせる限界があるみたいね」

 ピース・オブ・マイ・ソウルがじたばたと腕を振り、足を動かすが。

 見えない壁があるかの如く、沙枝には近づけなくなっていた。

「そして、能力にも限界距離のようなものがあるみたいね」

 心中で、新たに理解していくスタンドの性質に興奮を覚える一方。

 滑川の執念に恐怖を感じながらも。

「あなたのそれが、触らないと発動できないみたいに。なら」

 感情を表に出さないよう装い、少し鼻先にズレた眼鏡を、クールに指で直す沙枝。

「このままの距離を保って、助けを呼ぶのが最善かしらね」

「こんなもの、大した事無いんだなぁ! ピース・オブ・マイ・ソウル!」

 その言葉に鼻で笑って返し、滑川は自身のスタンドを自分の元に呼び寄せ、足に絡まる根っこを掴ませる――

「ま、私でも同じ立場ならそうしたわね……でも! リリカル・グラウンド!」

 ジュリリリリィ!
 
 リリカル・グラウンドが、沙枝の周囲の木々に触れ。

「な、な、なんなんだなあああぁ!?」

 その枝が、無数の鞭となって滑川を襲い。

「ぐ、このぉ!」

 ぐおぉん!

 ピース・オブ・マイ・ソウルの素早い腕の動きで以って、襲いかかる枝を打ち払い、自身の身を守ろうとするが。

「ぐ、がっ……! く、この、クソアマがああああぁ!」

 全方向から仕掛けられる枝に翻弄され、隙を突かれ、攻撃を浮け。

 その一撃一撃は軽いものの、次第に弱っていく滑川。

「ぐ、くぅ……うう……」

 呻きながら俯き、片膝をつく滑川に。

「これ以上酷い目に遭いたくなかったら……おばさんを元に戻して、私の前から消えて! そして、その能力で迷惑かける事を止めて!」

 沙枝が強気に言葉を投げ掛け……枝の動きを、止めさせた――


「く、くふっ……ざけんななんだなぁ! このクソアマがあぁ!」


 その一瞬を突き、ピース・オブ・マイ・ソウルが、両手で枝を束ねるように掴み――ビシィ!

「えっ……!?」

 掴んでいる枝から、ジグソーパズル状の模様が幹に伸び、沙枝の側の木々にも伝播し。

「これで、どうだあぁ!」

 枝が引っ張られる事で、沙枝の周囲の木々が大量のパズルのピースと化し。

「きゃあぁ!」

 雪崩を打って、沙枝の身体に降り注ぐ。

 ピース化した木々が沙枝を傷つける事は無いものの、その視界と、一瞬の判断の機を奪い……がしっ。


「くふふ、つ、掴んだんだなぁ! このクソアマぁ!」

「い、嫌あああぁー!!」


 ピース・オブ・マイ・ソウルが、沙枝の腕を捉えた。

47 ◆gdafg2vSzc:2016/08/15(月) 22:15:48 ID:oiyO949o0
>>46
「いやぁ、離して!」

 沙枝の助けに答えるように、ジュリン!

 リリカル・グラウンドが、ピース・オブ・マイ・ソウルに拳を放つが。

「くふっ、遅いんだな! このヘボスタンドがぁ!」

「あ、ああぁ! 痛い!」

 ピース・オブ・マイ・ソウルが開いた左手で難なく受け止め、捻り上げる。

「くふー、ふー、よ、よくも……やってくれたんだなぁ」

 荒く呼吸をしながら、怒りと興奮の混ざった表情で、沙枝に近寄る滑川。

「ああ……ひいぃ! た、助けてぇ!」

 バラバラにされる、その恐怖に絶叫する沙枝。

「うるさい、このアマぁ! お、お前は、ただパズルにするだけじゃ……くふぅ、ゆ、許さないんだなぁ」

 はぁー、はぁー、と炎天下を歩く犬のように呼吸をし、舌を出し、目の下のホクロをボリボリと掻き。

「ひ――!」

 滑川が、沙枝のパジャマに手をかける。

「お、お前は、裸にひん向いて……は、はぁー……恥ずかしい格好にして、くふふぅ……飾ってやるんだなぁー……」

「い、いやぁ、そんな……や、やめてぇ……」

「くふぅー、ああ、やっぱり柔らかいんだなぁー……くふー……」

 興奮した様子で、パジャマの上から沙枝の身体を弄る滑川……

「じゃ、じゃあ、脱がせちゃうんだな」

「い、嫌あああぁー!!」

 滑川が、両手でパジャマを掴み、開くように引き裂こうとする――


 ブンッ!

「だりゃあぁ!」


――直前、大声が響き、カァン!

「ふおぉ!?」

「……え!?」

 完全に背後の注意を怠っていた滑川の後頭部に、空き缶が命中し。

「ぐうぅ……だ、誰(だ)りなんだぁ!?」

 いいところを邪魔された滑川が振り向き、沙枝もそちらに目を向け。

「大丈夫か、沙枝!」

「み、汀君!?」

「な、なんなんだ、お前はぁ!」

 少し離れた場所で、心配そうに自分を見る汀の姿を確認する沙枝。

「ど、どうして、ここに?」

「センセーに頼まれてさ、沙枝にプリントとか届けに来たんだよ」

「こ、こらぁ! 無視するんじゃないんだな!」

 邪魔をされた上に無視され、苛立たしげに叫ぶ滑川。

「そしたら沙枝がソイツに追われてる姿を見たし、家の玄関にパズルになった人が落ちてるしでよ……只事じゃないって思って後を追ったんだよ」

「――そ、そういえばおばさんは!?」

「今、一応ルイがパズルを『組み立ててる』とこだ。どうなるかはよう分からんけどな」

「……!」

 汀の言葉に、滑川の表情が強ばる。

「お、お前……ボクの邪魔する奴は、皆バラしてやるんだな!」

「きゃあ!」

 掴んでいた沙枝を地面に叩きつけるようにして離し。

「おお、かかって来るのか? 覚悟できてんだろなぁ!?」

「覚悟ぉ? くふ、ボクは誰にも負けないんだなぁ!」

 挑発の言葉を鼻で笑い。

 汀に走りこみながら、ピース・オブ・マイ・ソウルを先行させる滑川。

「み、汀君! ダメ! ソイツ、変な力を、スタンドを持ってる!」

「くふぅ、もう遅いんだなぁ! 掴めぇ!」

 沙枝が悲鳴のような叫びを上げ。

 滑川が勝利を確信し、ピース・オブ・マイ・ソウルが、汀に向けて手を伸ばす――


「ああ、分かってら。見えてるぜ、てめぇのスタンド!」

「……え?」


「ギア・チェンジャー!」

 その腕が汀に届く寸前――ギャアアァン!

「おごおぉ!」
 
 現れたギア・チェンジャーのストレートが、ピース・オブ・マイ・ソウルの顔面を捉え。

 滑川が、鼻血を噴いてその場に崩れる。


 そして。

「え、え? 汀君も、スタンドを? なんで?」

 予想外の事態に、呆然と汀を見る沙枝であった。

48 ◆gdafg2vSzc:2016/08/18(木) 14:09:21 ID:jcywasjc0
>>47
「ああ、俺も驚いたぜ……沙枝までスタンドを身に付けちまってるなんてよ」

 汀もまた、少し驚いたように呟き、苦笑を沙枝に投げ掛けた後。

「さぁて……次はてめぇだが……」

「が、がはぁ……」

 汀は、ピース・オブ・マイ・ソウルの顔面にめり込ませたままのギア・チェンジャーの拳を、ぐりぐりと捻りこませる。

「あ、が、ま、まだ終わってないんだなぁ!」

 怯えつつも、滑川が叫び。

 ピース・オブ・マイ・ソウルが、再び汀の腕を狙う、が。

「だりゃあ!」

「はがぁ!」

 素早く打ち込まれたギア・チェンジャーの拳が、その指を砕き。

 滑川の指も、有り得ない方向に折れ曲がる。

「……沙枝ん家の玄関で、バラバラになった人を見た時、思ったよ。ああ、コイツはスタンドの仕業なんだってな」

 本体共々ダメージを受け、ぐらつくピース・オブ・マイ・ソウルを睨む汀。

 その目前で、ギア・チェンジャーが、腰を落とし、拳を構える。

「そして、こんなヤバい能力を躊躇いなく使ってる奴は、碌な奴じゃないだろうって、な」

「く、くふぅ……」

「大当たりだったな。覚悟しな」

「く、う、うわあああぁー! お前なんかにいぃ!」

 ヤケクソ気味に泣き叫びながら。

 滑川が最後の力を振り絞り、ピース・オブ・マイ・ソウルで汀を攻撃しようとする、が。


「だぁりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあああぁー!」

――ギャギャギャギャギャギャギャ、ギャアアァアアァン!

「ぐふ、ぐふ、ぐふうううううぅ!」 

 ギア・チェンジャーの容赦ないラッシュが、ピース・オブ・マイ・ソウルを捉え。

「りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ、りゃあっ……しゃああぁー!!」

 ギャオォン!!

 とどめの一撃が、ピース・オブ・マイ・ソウルの腹に深く突き刺さり。

「ぐぶうぅぎゃあああぁーす!!」

 傷まみれ、血まみれになった滑川が吹っ飛び、地面を転がり。

 後方の木に激突し、がっくりと気絶する……


「やっと黙ったか。さてと」 

 学ランについた土埃をパンパンとはたき、沙枝に近づく汀。

「大丈夫か?」

「あ、うん……ありがとう」

 礼を言いつつ、滑川の姿をおどおどした様子で窺う沙枝。

「ね、ねぇ。殺しちゃったりとか、してないよね?」

「手加減はしたつもりだけどよ……やり過ぎたかな」

 やり過ぎたかな、とは言いつつも悪びれる様子もなく頭を掻いて笑う汀。

「まぁ、奴もスタンド使うし、スタンド自体丈夫だろうし」

「あ、そ、それで、汀君。スタンドって……」

 沙枝が汀に質問しようとした、その時。


「兄貴ー、沙枝先輩ー! 大丈夫ッスかー?」

「おお、沼。こっちは大丈夫だ」

 
 沼田が、手を振りながら汀達に駆け寄ってくる。

「そっちは?」

「ああ、ルイの予想通りッス。玄関のパズル、組み立てたら、おばさん元に戻ったッス」

「え、本当!?」

 沼田の報告に、小さく驚きの声をあげる沙枝。

「本当ッス。まぁ、ちょっとまだ混乱してるみたいだったんでルイが様子見てくれてるッス。あ、ちゃんと言われた通り警察にも連絡入れて来たッスよ」

「そっか、ありがとな、沼」

「……良かった、洵子おばさん、助かったんだ……」

「ああ。本当、良かったな、沙――えっ!?」

 沙枝の顔に、安堵の表情が浮かぶと同時に。


「よ、よかった……あ、あう、うわああぁーん!」

 
 恐怖と緊張が解けた反動からか。

「うああああん、うう、ぐすぅ、汀君……怖かったよぉ……」

 手で顔を覆い、泣きだしてしまう沙枝。

「え、ええ……ど、どうしたらいい? 沼ぁ」

「そ、そんな事振られても」

 普段見ない沙枝の姿を前にして、戸惑ってしまう汀と沼田の耳に。

 近づいてくるパトカーのサイレンの音が、聞こえてきた――

49 ◆gdafg2vSzc:2016/08/20(土) 21:15:29 ID:1kuS8sBw0
>>48
――その後。

 駆けつけた警官によって、滑川は逮捕された。


 なお、必要以上に痛めつけて居た事もあり……汀も一緒に連行されたのはここだけの秘密である。

 まぁ、滑川が使用しなかったとはいえナイフを携帯していた事や沙枝の証言もあり、軽くお灸を据えられるだけで済んだのだが。


 当の滑川は……汀のスタンドの渾身のラッシュによって重傷を負っている事。

 また、本人に逃走の意思が無さそうであるという事も考慮して。

 市内の病院に入院、回復を待って事情聴取するという事になった……と沙枝達は伝え聞いたのだった。



 沙枝が滑川に襲われた翌日。

 放課後、海鳴高校の中庭。


「……とまぁ、ここまでが俺の、俺達の体験した事だ」

「成程ね。事情は分かったような、分からないような」

 汀のこれまでの体験を聞き終え。

 沙枝が、複雑そうな表情で小さく頷いた。

「とにかく、その……汀君の言う所の『霧吹き男』が全ての原因って事ね」

「ああ。でも、まったく手掛りも無くて困ってる」

 普段は喧嘩ばかりとは言え、身近な人間が巻き込まれたこともあってか。

 答える汀の表情も、いつになく真剣である。

「……目的も謎だが、ソイツにスタンド使いにされた奴がどれだけ居るのかも分からん」

「うん、それに……スタンドを知って、他に使い手が居るって分かった時から、僕が心配してたことが起きちゃったし」

 ルイが不安げな、今にも泣きそうにも見える顔で頭を抱える。

「滑川だっけ? その人みたいにスタンドを自分勝手に使う人も、絶対増えてくるよ」

「厄介ッスよねー……」

「だな……厄介だし、危険だし、何より面倒臭い」

 言葉どおり、面倒くさそうに欠伸をして、背伸びをする汀。

「正直、俺がソイツの正体を暴く必要なんて無い訳だしよ。滑川の奴みたく、好き勝手するためにスタンドを使ってもなんら問題ない訳だ」

「ちょっと……汀君」

 先までの真剣な表情を崩し、へらっと笑う汀を。

 非難するような目で見る沙枝……だったが。


「けどよ……俺はそんなの、嫌だからよ」


 すぐさま、汀に真剣な表情が戻る。

「汀君……!」

「放っておくワケにゃいかないじゃんか。自分の親しい奴や家族が巻き込まれるかもしれないって思うとよ」

 その瞳に宿る光に、沙枝は汀の中の強い意思を感じていた。

「だから、探す。厄介でも、危険でも、面倒でも。この街で何かを企んでやがる、奴をな」

 ぱん、と掌で拳を打ち、不敵に笑う汀に。

「兄貴がやるなら、俺も手伝うッスよ! ま、俺はスタンドないッスけど」

「ぼ、ボクも……正直怖いけど、友達のためなら、頑張れる。きっと」

 沼田とルイも、賛同の意思を示して笑いかける。

「沼田君……雨月君まで……」

 その様子を見ていた沙枝が、小さく頷き。

「ねぇ、汀君……」

「なんだ?」


「私も、手伝わせてくれないかしら? その男を捜すのを」


 意を決して放った沙枝の言葉に。 

「はああぁ!?」

「ちょ、樹野さん! さ、さすがに駄目だよ!」

 汀が目を丸くして驚き、ルイが慌てて止めようとする。

50 ◆gdafg2vSzc:2016/08/21(日) 18:05:25 ID:WSbYYGA60
>>49
「そうは言ってもさ……私も、こうなった以上、当事者なんだよね」

 自分の側にリリカル・グラウンドを出現させて。

「正直言うと……雨月君と同じで、怖い。スタンドを使い、悪いことや、自分勝手な事をしてる人がいる事も」

 不安げに、目を伏せる沙枝だが。

「戦わないといけないって事も。でも、私も皆と同じ。そんな人たちを無視しておけない」

 心中の不安を消そうとするかのように、微笑む。

「だから、手伝わせて。お願い」

「ええぇ……でも、樹野さんに、女子にそんな事させる訳には」

「あー、無駄だぜ、ルイ」
  
「え?」

 困り顔で説得を続けようとするルイに、汀が諦めたような顔で声をかける。

「ソイツ、昔っからさ、一度決めたら中々引かない頑固な性格だからよ……俺達が嫌だって言ったら勝手に行動するぜ」

「ええ……そうなんだ」

「頑固ってのは言い過ぎじゃないかなぁ? まぁ、確かにそうするわよ」

 きっぱりと告げる沙枝の顔を見ながら、はぁー、と溜息を吐く汀。

「……一人で勝手に動かない、危険な目に遭った時は俺かルイにすぐ連絡しろ。これが守れるか?」

「小学生じゃないんだから……まぁ、私を危険に巻き込みたくないっていうのは分かるわ」

 汀の提案に、うんうんと幾度か頷き。

「分かった。約束する」

「よっし、じゃあ……悪いが手伝ってもらうぜ」

 汀が拳を握った右手を突き出し。

「ん、手伝わせてもらうわね」

 沙枝も拳で、汀の拳に軽く合わせて、笑い。

「という訳で、よろしくね。雨月君、沼田君」

「う、うん。よろしく」

「そッスね、頑張ろうッス!」

 ルイと沼田にも握手を求め。

 ルイが少し照れた様子で握手を返す。

「よっし、これで沙枝も俺達の仲間だな!」

 ぱん! と手を打ち、汀が鞄から何かを取りだしながら。

「早速だが、沙枝、手伝ってほしい事がある!」

「え……何?」

 真剣な表情で、手にした物を、驚く沙枝に差し出す。


「これさぁ、単位を貰える代わりに出された課題のプリントなんだわ。手伝って」

「…………」


 沙枝は、差し出されたプリントの束を笑顔で受け取り、丸め。


「自分の課題でしょー!」

「おうっ!」


 すぱーん!

 汀の頭をはたく沙枝であった……


樹野沙枝:
スタンド《リリカル・グラウンド》発現。
汀たちと共に、謎の『霧吹き男』を探すことになる。

汀一勝:
かろうじて(期限ギリギリで)課題提出。


【3:樹野沙枝、その受難と本心……END】
【And……】


滑川:
全治3週間の重傷で入院、怪我の回復を待って警察の事情聴取を受ける……


……はずだった。

 しかし、入院から一週間後の夜。

51名無しのスタンド使い:2016/08/21(日) 23:07:17 ID:nrK35FOc0
乙です!いやぁ今回も面白かったです
とくに、滑川がドアをたたくところなんて狂気がにじみでてましたよ……。
そして滑川の精神力が想像以上にしょぼかったことがストーカーっぽいですねぇ
沙枝の『リリカル・グラウンド』も何気に強い能力ですね。涙のと組み合わせたら
面白そうです。第三話ありがとうございました!
P.S. 滑川のしゃべり方って「裸の大将」を意識してます?

52名無しのスタンド使い:2016/08/22(月) 04:55:58 ID:qx6gD4uE0
やっと女の子がデテキタゾ!
面白かったです〜

53 ◆gdafg2vSzc:2016/08/22(月) 18:27:35 ID:f5a62SpM0
>>51
読んでくださりありがとうございます!

ドアのところはちょっとだけ映画「シャイニング」の扉ぶち破りを意識してます。
滑川はスタンド発現した沙枝の最初の相手として選びましたが、普通に能力手強くて……で、メンタルや頭の回転をやや鈍くしてみたり(汗)
今後仲間が増える(かも)につれ、能力の組み合わせは自分でも考えるのが楽しみです。
今後ともよろしくお願いします。

P.S まさに裸の大将です!(爆)

>>52
読んでくださりありがとうございます!

ようやく華が出てまいりました(汗)
まぁ、これから沙枝の活躍の場も増えると思いますし、他の女子キャラも…出る、よな?(汗)
まぁ、お色気展開があるかどうかは?ですが(汗)
今後ともよろしくお願いします。

54 ◆gdafg2vSzc:2016/08/25(木) 18:26:28 ID:nBENky0o0
【3・5:滑川、その逃走の果て】


 深夜2時過ぎ。

 南風市の南、海岸沿いに走る国道の歩道を。

「はぁ……はぁ、痛い……でも」

 滑川がK市の方に向けて、歩いていた。

「逮捕されて投獄されるなんて、まっぴらなんだな……」

 まだ身体が痛むのか、右手で左腕を服の上から押え。

 ブオオオォン……

「!!」

 時折、背後から走ってくる車のライトから怯えるように顔を背け。

「くっそぉ、こんな事になったのも、あの沙枝とか言うアマの、せいなんだな」

 ぎり……小さく歯軋りするその顔は、憎悪に染まっていた。


 怪我の回復が進み、留置所への移動が翌日に決まった日。

 滑川は、夜になるのを待ち。

 スタンドを使い、人の目を避け、施錠された非常階段のドアを破壊し、病院から逃走したのだった。

「も、もうバレてるかも、知れないんだな」

 背後から迫る車やバイクが……警察の追跡かも知れないと恐怖しつつ。

 滑川は、足を速めて歩き続ける。


「くそぉ、こ、こんな事で、ボクの夢を、終わらせないんだな」

 痛みを紛らわせるように、独り言を呟く滑川。

 可愛い女の子をこの能力でパズルに変えて、コレクションするという……はた迷惑で恐ろしい願望。

「逃げて、逃げて……誰もボクの知らない場所で、夢を叶えるん……だな」

 自分のやったことに反省を欠片も見せず、ガードレールに座るように休憩し。

 前方の『K市 2Km』の標識を見る滑川。


 逃走がばれた後、南風市内の駅などは張り込まれる可能性が高い。

 なら、とりあえず移動手段の豊富なK市まで逃げ、交通機関が動き出すのを待ち、遠くに逃げる。

 それが、滑川の考えた逃走方法であった。

 必要最低限の金は、道端にあった自動販売機をスタンドの能力で部分的にバラし、中に収められた金を奪っていた。


「ボ、ボクは……逃げ切って、夢を果たすんだな」

 立ちあがり、再び歩き出した滑川の背後から……ブオオォン。

 また車の走行音とライトの光が迫り、顔を背け通過を待つ滑川……だったが。


「――!?」

 滑川の側を通過した車は――

 その10mほど先で歩道に車体を寄せて、停止する。


 そして。

「……く、ピース・オブ・マイ・ソウル」

 警戒し、スタンドを出した滑川の目の前で。

 車のドアが開き、何者かが歩道に現れた。

55 ◆gdafg2vSzc:2016/08/29(月) 22:30:16 ID:jDesUABc0
>>54

 車のドアが、ばん! と大きな音を立てる程に乱暴に閉められる。

 闇に慣れた滑川の目が捉えたのは。

 丸縁の眼鏡をかけ、白衣を羽織り、不機嫌そうな顔をした男で。

(なんだあの髪型、ワカメみたいなんだな)

 その髪型に目をやり、失礼なことを思いつつ。

「な、なんなんだな、お前は? 警察、なのか?」

 滑川が、男に質問を投げかける。

「……いやぁー、俺はそんな上等なモンじゃない」

 男は、滑川思うところのワカメのような髪をわしわしと掻きながら……

 ピース・オブ・マイ・ソウルが見えているのかいないのか、ゆっくりと滑川に向けて歩いていく。

「まー、警察の方がナンボか良かったかも知れんがね。ええっと……滑川、だったっけか?」

「なっ……どういう意味なんだな!?」

「俺の名は漁場(いさりば)、お前にスタンドを与えた『霧吹き男』の……一応、仲間だって言っておこうか」

「な!?」

 男……漁場の言葉に、驚きと困惑を覚える滑川。

「な、なんでそんな奴が!? いや、それ以前に、なんでボクが此処を逃げてるって知ってるんだな!?」

「いやぁー、アイツは生真面目な奴でね。自分がスアンド使いにした奴の情報は、人を使って把握してるんだわ」

 アイツ……『霧吹き男』の顔を思い浮かべているのか。

 話しながら、また面倒臭そうに口を尖らせる。

「まー、俺も一応仲間である以上、それに協力してるって訳だ。んで、滑川」

「な、なんなんだ、な?」

 漁場の得体の知れなさと奇妙な気迫に押され。

 相手の歩みに合わせ、逃げ腰で後ずさる滑川。

「アイツから聞いた話だと、女子高生を拉致しようとして、ヘマと怪我をして警察に捕まって、病院から逃げてるとこだったんだって?」

「ぐ……う、うるさい! 偶々失敗しただけなんだな! あ、痛たたた……」

 沙枝との一件を蒸し返され、怪我した腕を興奮気味に振り回す滑川。

「お前の仲間が勝手にスタンドとかいうのを寄越して、好きにしていいって言ったから好きにしたら、このザマなんだな!」

「あー、勝手にって点では俺も同感だ。だからモデルケースとはいえやりすぎんな、増やしすぎんなって注意はしたんだがな……」

「はぁ?」

 滑川の怒りに対して、同情するような苦笑で返す漁場。
 
「その点は滑川、お前にとっては不幸だったとしか言いようがないな」

「まったくなんだな……って言うか、話をするためだけに現れたんなら、通してもらうんだな」

 緊張が和んだのを感じ、滑川も苦笑してまた歩きだそうとする――

「逃げて、次こそボクの夢を叶えないと……」


「いや、お前に次は無い」

「――!!」


 左手で、白衣のポケットからナイフを取り出す漁場の表情が険しくなる。


「アイツの命令だ。お前には死んでもらうよ」

「は、はあああぁー!?」

56 ◆gdafg2vSzc:2016/09/01(木) 10:25:08 ID:ZjFNl4pI0
>>55
 ナイフを手に、ゆっくりと近づいて来る漁場に対し。

「ふ、ふざけんな! な、なんでボクが殺されなきゃいけないんだな!?」

 驚きと怒りをぶつける滑川。

「お前の仲間が好きにしていいっていうから、好きにやったんだな!」

「あー、確かにそう言ってるらしいな」

 他人事のように返し、使い慣れた様子で。

 ナイフを手の中でくるくると弄る漁場。

「だがねぇ、滑川。アイツに言わせればお前は好き勝手し過ぎたんだ」

「い、意味が分からないんだな」

「好き勝手した結果、犯罪に失敗し、警察に捕まった。それが良くないんだと」

 肩を竦めて、面倒臭そうな顔をしてみせる漁場。

「一応聞いとくが……まさか警察にスタンドの事は言ってはないだろう?」

「い、言ってないんだな」

「まぁ、言ったところで信じて貰える訳はないだろうしな。でも、世の中には『スタンドと犯罪』って聞いただけで出張ってくるお節介な連中もいるんだと」

「……っ!」

 漁場が立ち止まり、ナイフを掲げて構えるのに合わせ。

 滑川も、自分のスタンドに臨戦体勢を取らせる。

「そうでなくても、アイツの素性を探ろうとする連中が既に現れてるらしいしな」

「な、なんとなく理解できたんだな……ボクのせいでその邪魔者が動くのを恐れて、ボクを消すって言う事なんだな」

「理解して頂けて結構。というわけで、滑川、死んでく――」


「冗談じゃないんだな! ピース・オブ・マイ・ソウル!」


 漁場が言い終わるより速く、ピース・オブ・マイ・ソウルが漁場に突進していく。

(ふざけるな、なんだな)
(殺されるぐらいなら、こいつをバラして、逃げてやるんだな)
(コイツらが何者か知らないが、ボクの夢を、終わらせるわけには、いかないんだな!)

 滑川の怒りの感情を受けてか、その動きはいつになく素早く、力強く。

「掴めえぇ!」

 ピース・オブ・マイ・ソウルの伸ばした右手が、漁場の右腕に迫る――


「……良かったよ、お前が抵抗してくれて」

「!?」

「お陰で、俺も、躊躇いなくお前を殺せる」

 接近するピース・オブ・マイ・ソウルの姿を、嫌に冷静な目で見ながら――ザシュ。


「……痛ってぇ」

「な!? 何やってるんだなぁ!?」


 漁場がナイフを振り下ろし、自らの右腕を切りつけ、鮮血が地面を濡らし。

 直後、漁場の奇行に動揺しつつも……ピース・オブ・マイ・ソウルが漁場の右腕を掴み。

 ピース・オブ・マイ・ソウルの腕を伝って、血が地面に落ち続ける。

57 ◆gdafg2vSzc:2016/09/04(日) 16:25:06 ID:.oFngwqI0
>>56
「……な、なに考えてるんだな?」

「……」

 滑川の問いかけが聞こえていないかのように。

 滴り落ちる自分の血を、口角を上げ、見つめる漁場。

「ま、まあいいんだな! 3秒だ! これでお前をバラバラにしてやる!」

 その様子に不気味なものを感じ、ピース・オブ・マイ・ソウルの能力を発動しようとする滑川……その目に。


 ざああぁ……

「!?」

 地中から突き出した三角形の物体が、地面を波打たせながら、漁場の背後から迫り、地面に潜るのが見え。

「な、何かまずいんだな! やれ、ピース・オブ・マイ……」

「来い……《アンフェア・グラウンド》」

 ざばああぁ!

 突如、滑川の目の前で、体長3mほどの鮫が口を開けたまま飛びあがり。


……ぼとっ。


「どうした? バラバラにするんじゃなかったのか?」

「は、あ、あ……ああ」

 鮫がピース・オブ・マイ・ソウルの腕を、漁場を押えていた腕を食いちぎり。

 連動し、滑川の右腕が手首から上腕、肩近くまでがちぎれたように消滅し、滑川の手首が地面に落ち。

「あ、あ、あああああああああああぁー!」

 激痛に叫びをあげる滑川の傷口から、血が噴き出し、さらに地面を赤く染めていく。

 あまりの痛みと絶望に、がっくりと地に膝を突いた滑川が見たのは。

「あああ、ああ、さ、鮫が、鮫が鮫がサメがあああぁー!」

 自分を取り囲むように泳ぐ、鮫の群れであった。

「正確にはイタチザメ、って種類だ。好奇心旺盛で何でも食べる性質を持っている」

 冷静に話しながら、漁場は自分の腕を掴んだままのピース・オブ・マイ・ソウルの手首を引きはがし。

「その性質を引き継いだのが、俺のスタンド、アンフェア・グラウンドだ……返すぜ、これ」

「な、は、ひ、ひいいぃー!」

 滑川に向けて投げ返し、背を向けたのを合図にするかのように。

 鮫……アンフェア・グラウンド達が、滑川に一斉に襲いかかり。

「ひ、ひああぁ、いやだぁ、死にたくない! た、たすけ……」

 助けを求め伸ばした滑川の左手を食いちぎり。

「あぐぅ、が、がは……」

 滑川の脇腹に食いつき、臓物を引きずりだし。

「は、ああ、あ……」

 両脚に、それぞれ別のスタンドが食いつき、ぼりぼりと砕き。

「……あ、あ……」

 意識が落ちる寸前、滑川が見たのは。

 大きく口を開け、鋭い歯で自分の頭に喰らいつこうとするアンフェア・グラウンドの姿、そして。


 ぼき。


 自分の首の骨が砕ける音、それが滑川がこの世で最期に聞いた音であった……

58 ◆gdafg2vSzc:2016/09/08(木) 09:52:48 ID:O3TQ4I9U0
>>57

「……はぁ、やれやれだ」

 背後でアンフェア・グラウンドが滑川だったものを喰らい、砕く音を聞きながら。

 漁場は、自分で切った腕に包帯を巻き、大きく溜息を吐くと。

「夜中に動くのも面倒だし、いちいち血を流さないと呼べないんだからな、俺のスタンドは」

 愚痴を呟きつつ、白衣のポケットからスマホを取りだし。

 彼が言うところの『アイツ』に対して、事が終わった連絡のメールを入れる。

「しかしまぁ、どうするつもりかねぇ」

 メールの送信が終わったのを見届け、背後を振り返る漁場。

 そこには、大量の血と、アンフェア・グラウンドが食い残した肉塊や骨が残っていたが。 

 漁場はそれを放置し、車に乗り込む。

「今後も滑川みたく、暴走する連中も出てくるだろうし……現に、俺達の正体を探ろうとしている奴もいるし」

『アイツ』の顔を思い浮かべ、面倒臭そうに顔を歪めて。

 はあぁ、と漁場はまた大きく溜息をつく。

「……お前さんが思ってる以上に、事は大きくなりそうだぜ? まぁ、俺は俺で言われるままに動くだけだがね。なにしろ」

 シートベルトを締めることなく、車を猛スピードで急発進させる漁場。


「なにしろ、俺の人生の中で、今が一番刺激的で面白いからな」


 そう呟いた顔には、嬉々とした表情が浮かんでいた……


滑川:スタンド《ピース・オブ・マイ・ソウル》……死亡
翌日早朝、散歩中の住人によって血の跡と肉片が見つかり、警察に通報。
その後の調べで、それが滑川のものであると判明する。
警察は逃走中に事故または事件に巻き込まれた者として捜査を開始するが……迷宮入りとなる。


【3・5:滑川、その逃走の果て……END】
【And see you next episode……】

59 ◆gdafg2vSzc:2016/09/08(木) 09:54:04 ID:O3TQ4I9U0
>>58
【3&3・5話:登場オリスタ】

No7084
【スタンド名】 リリカル・グラウンド
【本体】 委員長系メガネ女子:樹野沙枝
【タイプ】 近距離型
【特徴】 人型。頭部に数本の短い角がある。腕や胴体などに水滴のような模様がある。
【能力】 植物とその加工品を操作する。
周囲の草を操って敵を縛ったり、木製品を飛ばして攻撃したりできる。

破壊力-C スピード-C 射程距離-E(能力射程-C)
持続力-C 精密動作性-C 成長性-C

作中のヒロイン枠探し中に、本体がイメージに合ったので採用させて頂きました。能力の汎用性が高いのもいいですねぇ。
作中の沙枝の設定は後々響いて来る、かもしれません。

No5065
【スタンド名】 ピース・オブ・マイ・ソウル
【本体】 ストーカー気質の男:滑川
【タイプ】 近距離型
【特徴】 全身にパズルのピース状の区切りがある人型
【能力】 スタンドの手が連続して3秒間触れたものを、平面のパズルにする。
パズルのピースは決して傷ついたり折れ曲がったりせず、
またパズルにされたものは時間が止まったようにそのままの状態で保存される。
パズルを全て揃えればもとの状態に戻る。
本体はこの能力で好みの女性をパズル化してコレクションしている。
が、完全にパズルを完成させてしまうと元に戻ってしまう為、いつも「完全な作品」として鑑賞できないのが悩み。

破壊力-E スピード-A 射程距離-D
持続力-A 精密動作性-C 成長性-C
※握力のみA

沙枝をスタンド使いとして覚醒させるための敵として、ストーカーキャラを探していて採用させて頂きました。
なお、本作ではコレクションの夢を叶える前に散った模様。
正直強く、沙枝にどう勝たせるか考えた挙句に本体を残念な感じにしてしまいました(汗)すいません(汗)

No2121
【スタンド名】 アンフェア・グラウンド
【本体】 ワカメの様な髪型をした元海洋学者:漁場
【タイプ】 群体・自動操縦型
【特徴】 数匹のサメ
【能力】 本体の血が地面にかかった時、その匂いにつれられ地面から数匹の人食い鮫が現れる。
鮫は獰猛でとにかく生きてる物なら何でも喰らおうとし、地面を泳いでどこまでも追跡してくる。
鮫はジャンプは出来るが地面より高い場所には移れない

破壊力-A スピード-A 射程距離-B
持続力-C 精密動作性-D 成長性-E

本体設定で採用させて頂きました。
この段階でスタンドや本体明かしていいか悩みましたが、オリスタ民なら外見やスタンド特徴で特定しそうなんで開き直って公開。
この設定が意味を持ってくるかもしれないし、こないかもしれないし。書いてる自分にも分かりません!(爆)


ここまで読んでくださった皆様に感謝です。
次回以降も目を通して頂ければ幸いです。
次回は……何も考えてなかったりして(爆)日常回かな?

60 ◆gdafg2vSzc:2016/09/09(金) 19:41:56 ID:DCzRIakI0
>>59
【訂正とお詫び】

【3&3・5話:登場オリスタ】の紹介の「リリカル・グラウンド」の特徴がコピペミスで「パープル・レイン」の物になっていました。

訂正すると共に案、デザインされた方にお詫び致します。すいませんでした。

No7084
【スタンド名】 リリカル・グラウンド
【本体】 委員長系メガネ女子:樹野沙枝
【タイプ】 近距離型
【特徴】 髪の毛が植物になっている女性型
【能力】 植物とその加工品を操作する。
周囲の草を操って敵を縛ったり、木製品を飛ばして攻撃したりできる。

破壊力-C スピード-C 射程距離-E(能力射程-C)
持続力-C 精密動作性-C 成長性-C

61名無しのスタンド使い:2016/09/15(木) 04:42:51 ID:j3v5e1hk0
乙でし!
裸の大将がああああああ
悪役集団がちょっとづつ見えてきたかな?

62 ◆gdafg2vSzc:2016/09/17(土) 19:23:49 ID:.SjN50J60
>>61
読んでくださりありがとうございます。
裸の大将になってしまった(汗)

漁場の仲間に、という展開も考えましたが、あの性癖ゆえ仲間になってもいずれトラブルを起こして始末されそうでしたし、敵の不気味さも出したかったので退場とあいなりました。
能力はステまで含め正直ハンパないと思いますが……
敵に関してはちまちまキーワードが出てきて、それがどう絡むか、と言う感じでしょうかね。

ちなみに第4話、じわじわ考案中です。
次回も宜しければ見てくださると幸いです。

63 ◆gdafg2vSzc:2016/09/18(日) 18:43:17 ID:NbURPeiU0
……滑川が、漁場のスタンドによって殺害された、同じ夜。



「そう言えばさぁ。噂では、ここ、幽霊出るんだってよー」

 周囲を笹薮に囲まれた和風建築の屋敷、そのの縁側から。

「やーん、なんか怖いー」

 土足で足を踏み入れようとする男女の姿があった。

「ははは、大丈夫だって。幽霊なんざいるわけないっつーの」

「きゃー、ブル君かっこいいー」

「それによ、出てきたら俺がやっつけてやるし!」

「あーん、ブルくん頼もしいー」

 先頭に立つ金髪でチャラい格好をした、ブル君と呼ばれた若い男が、懐中電灯を照らしながら、ボロボロになった障子戸を開き。

「それによ、幽霊にも見せつけちゃおうぜ、俺等の愛しあってるトコを、よ!」

「やーん、ブル君えっちー!」

 その背後から背中越しに、軽い感じの女2人が恐る恐といった感じで中の様子を窺う。

「あれー、中は意外と綺麗ー?」

「まー、あんま人も来るようなとこじゃないみたいだしよ……」

 その女たちの更に後で。

 チェーンのアクセサリーを身につけた短髪の男が手にコンビニの袋を持ちながら、片手でスマホを弄っていた。

「いや、先客はいたみたいだな」

 金髪男が懐中電灯を動かし、室内を探る。

 居間、だったらしいその部屋の中。

 埃を被った座卓の周りには、スナック菓子の袋やビールの缶が散らばっていて。

「ねぇ、あれ何だろー?」

「お? 忘れ物か? 点くかな」

 女の1人が、居間の隅に電池式のランタンが置いてあるのを見つけ、金髪の男がスイッチをつけると――

「わー。明るいー」

「おおー、ありがたいねぇ」

 光が灯り、暗かった室内を照らす。

「ははっ。してみると、聞いた話どおりで、同じ事を考えて入ってきてた奴も居たって事かな」

 短髪の男が座卓の上のゴミを払い、ウエットティッシュで埃を吹き、手にしていたコンビニの袋の中身……酎ハイの缶やスナック菓子を取りだす。

「まー、まずは飲もうぜー」

「さんせー」

 座卓を囲むように座り、思い思いに酎ハイを取り、スナック菓子の袋を開く男女。


 彼等のいる場所について、彼等が知っている事。

 ここが『笹屋敷』と呼ばれる、無人の屋敷だと言う事。
 ここの主だった男の幽霊が出る、と噂されている事。

 そして……お盛んな若者たちにラブホ代わりに使われているという事、であった。


「くはぁー」

「あ、ブル君、まだ飲むー?」

「おう、あんがと」

 最初の酎ハイの缶をほぼ一気に飲み干した金髪の男に、女がプルタブを開けた酎ハイの缶を差し出し。

 金髪男が、それを受け取りながら。

(それにしても、思ったより普通じゃんかねぇ)

 ランタンに照らされた室内をゆっくりと見渡す。

 障子や奥に通じる襖はボロボロであり、襖の向こうに見える廊下も汚れていて。

 自分が座っている畳も所々ほつれ、猫やら鳥やらの足跡や抜け毛で汚れてはいるものの。

 想像していたよりはマシだと考えながら、酎ハイの缶を口にし、左手をなにげなく畳に置いた……


――ぼっ。

「痛っ!?」


 鈍い音が聞こえた気がしたのと同時に、左手に痛みが走り、思わず叫び。

「どしたの? ブル君?」

「あ、いや、なんか刺さったか――」

「おいぃ、ブルぅ、何投げてんだ――」

 金髪男が自分の左手を確認すると同時に。

 その左に座っていた短髪の男が、胡坐をかいた自分の膝に飛んできた物を摘まみあげ。


「――え?」
「――え?」
「――え、ブル、君?」
「――え、どうし、たの……?」


 金髪男の人差し指が無くなり、その根元が何かに抉られたような傷になり、だくだくと血が掌を赤く染め。

 短髪男の手には、左手の人差し指が握られていて。


 全員が、一瞬、何が起きたか分からず沈黙する――直後。


「う、うわあああああぁー!!」
「ひ、ひ、ひいいいぃ!?」
「きゃあああぁー! ブル君!?」
「い、いやああああぁー!」

64 ◆gdafg2vSzc:2016/09/22(木) 11:07:55 ID:iZGRtJGY0
>>64

 男女の絶叫が、室内に響き渡るなか――

――ぼっ、ぼっ、ぼっ!

「きゃああああー!」

 女の1人が履いていたスカートが引き裂け。

「ひ、ひいいぃ!」

 机の上に置いていたスナック菓子の袋が破裂し。

「あがぁ、み、み、耳があああぁー!」

 短髪男の右たぶが、つけていた銀のピアスごともぎ取られ。


「う、うわああああぁー、幽霊だああぁー!」

「ま、待ってぇ、ブル君、みんなあぁ!」


 パニックを起こし、足を絡ませて転びそうになりながら。

 男女は慌てて笹屋敷から逃げていく。


 だから、彼等は気付かなかった。


 逃げ去っていく男女を、屋敷の奥で。

 その後姿を、鬱陶しげに見つめるものが、居ることに――



     【4:笹屋敷へようこそ】



 滑川の死亡から、数日後。

 日曜日の昼下がり。


「まったく……何が起きてるって言うんだ。この街で」

 駅前近くのハンバーガーショップの一角のテーブルに陣取る、汀達の姿があった。

 周囲の客が和やかに、また楽しく会話を交わしている中で、汀達の表情は重く。

「本当ね……あの人、滑川、酷い人だったけど、まさか死んじゃうなんて」 

 自分の前に並べられたハンバーガーなどに手をつけることなく、沙枝が溜息を吐く。

「汀君、どう思う? やっぱりスタンドが絡むのかな」

「俺に聞かれてもよう分からんぜ。でも、可能性は高いだろうな」

 不安げに問うルイに対し、険しい表情のままで小さく頷いて答える汀。

「本当、手掛りが少ないよね。霧吹きの男にしても」

 ルイの呟きに、また重苦しい空気が流れる――が。


「あ〜? そんなに深く考えなくてもいいじゃんよぉ〜」


 その空気をぶち壊し、あるいは空気を読めていない様子で。

 同席していた長濱が屑だけになったポテトフライを口に詰め込み。

 ずぞぞぞぞ、と音を立てながらコーラで流し込む。

「……汀君」

「あー、悪りぃ、こういう奴なんだ」

 しかめっ面を見せる沙枝に、苦笑いで答える汀であった。


 滑川の逃走と死亡を知った汀達は。

 今後の事を話し会うために、この日集まっていた。

 スタンド使いと言う接点のある長濱を呼んだのは、何かしら自分達の知らない情報を掴んでいるかもしれない、からだったが。


「さあねぇ〜、少なくとも俺は汀やお前等以外のスタンド使いは知らねぇよ〜」


 目新しい情報はなく、手詰まりになった所で、先の発言となったわけである。

 ちなみに、汀との喧嘩で受けた怪我はまだ完治しておらず、ギプスを着けた左腕を三角巾で吊っているという状態である。

65 ◆gdafg2vSzc:2016/09/25(日) 17:55:27 ID:tnWPm0AY0
>>64
「長濱、お前なぁ……ヤバいとは思わないのかよ?」

「別に〜、その霧吹き男とやらが何者でもいいじゃんかよ〜」

 汀の言葉対し、我関せずという様子で笑い、ハンバーガーを口に運ぶ長濱。

「ちょっと、貴方ねぇ……」

「むぐむぐ……ん、まぁ、沙枝だっけか。アンタが変な奴に襲われたのは、ご愁傷様だと思うぜ〜、でもよぉ」

 その態度や言動に我慢ならなくなった沙枝が、長濱に抗議の声と視線を向ける、が。

「正直、俺にゃあ関係ないしよ〜。せっかく貰った力をよ、好き勝手に使うのもいいんじゃねぇかよ?」

「……ちょっと!」

「ま、待って、落ち着いて、樹野さん」

 自分勝手に聞こえる長濱の言葉に、怒りを見せつつ言い寄ろうとする沙枝を、慌ててルイが制止する。

「それによぉ、今日は情報交換したいって言うから来てやっただけなんだぜ?」

 そのやりとりを面白げに見て笑っていた長濱の視線が、汀に向く。

「前はやられたが、お前をボッコボコにしてやりたいっていう気持ちは微塵もかわらねぇんだぜ、ええ、汀ぁ〜!?」

「てめぇ……ならやるか、今すぐでも? その怪我で」

「忘れたのかよぉ〜? 俺のスタンドは俺のダメージがきついほど強いんだってよぉ〜!」

「ああー、そうだったなぁー、このどM野郎」

 メンチを切りあい、立ちあがり、今にも殴りあいを始めそうな2人の様子に。

「ちょ……やめてよね、汀君! 先生に報告するわよ!」

「な、長濱君も落ち着いて……他の人にも迷惑がかかるから」

 沙枝が強い口調で、ルイがおどおどしながら2人の間に入って諌め。

「……分かってら。こんなとこでやらねぇよ。この馬鹿が煽るから乗ってやっただけだ」

「へっ、今日は勘弁しといてやるよぉ〜、テンションも上がんねぇしよぉ」

 悪態をつきあいつつ、席に座る2人。

「ま〜、安心しろよ。その殺された滑川とかいう奴みたいに、スタンドを犯罪に使う気はねぇからよ〜」

「どうだかな」

「もぉー、2人ともいい加減にしてよね」

「え、えっと、えっとー」

 険悪な空気がテーブルを包み、ルイが困惑し、おろおろする。


 その時。


「あー、ここに居たンスね、兄貴ー、皆さん。探したッスよー……って、長濱まで居るんスか!?」

「悪かったなぁ、居てよぉ」

 直前まで起きていた事を知らない沼田が現れ、笑顔で汀達に駆け寄り。

 長濱の姿を確認し、嫌そうに顔をしかめる。

「沼、お前、なんでここに」

「皆が集まるって話をチラッと聞いて、探してたンスよ。ってか兄貴ー」

 小さく驚く汀をよそに、沼田は恨めしげな顔をしながら汀の側に立つ。

「俺をのけ者にするなんて酷いッスよ、水臭いッスよー!」

「いやぁ……のけ者にする気はないけどよ……」

 沼田の顔を申し訳なさそうに見ながら、後頭部を掻く汀。

「あれだ、スタンドに関わる話だ。この先、スタンドを持たない沼が関わるのは危険かも知れない、そう思って……」

「それが水臭いって言ってるンスよ、兄貴!」

「お、おお!?」

 汀の言葉を遮り、少し起こった様子で、ずいっ、と沼田が迫り。

 その気迫に、汀が思わず気圧され仰け反る。

66 ◆gdafg2vSzc:2016/09/29(木) 17:27:21 ID:1EmG6Hbk0
>>65
「危険なのは分かりきってるッス! だからって、兄貴達が危険に立ち向かってるのに、放っておけるわけないッスよ!」

「いや、けど……なぁ」

「それに! もし兄貴と俺の立場が逆で、兄貴がスタンドを使えないとして同じ事言われて、兄貴はそれで引き下がるッスか?」

「――!!」

 怒気を帯びた沼田の言葉に、はっとした表情を浮かべる汀。

「俺だって兄貴の助けになりたいンス! だから――」

「いや、もういい。分かった、悪かった」

 更なる言葉を告げようとする沼田を手で制し。

 汀は申し訳なさそうに謝り、頭を下げる。

「……すまんかった、沼、仲間外れにするみたいな真似して」

「兄貴……」

「これまで通り、やってもらうぜ……ただし、危険は変わりない。それは肝に銘じとけよ」

「ういッス! 頑張るッス!」

 気合を入れるように、とん、と汀が沼田の胸を拳で軽く叩き。

 沼田が心から、幼い子供のように嬉しそうに笑う、が。

「とはいえよぉ〜、スタンド使えない奴がどうやって役に立つつもりだよぉ〜?」

「……てめぇ」

「え、えっと。ちょっと待ってよ、2人とも」

 長濱が和やかになりつつあった空気に水を指し、汀が長濱を睨みつけ。

 ルイが今にも泣きそうな顔になりつつ、2人を止めようとする。しかし。


「悔しいけどそうなんスよね。直接スタンドに関わって戦ったり、って事に関しては、なーんにも俺はできないッス」


 言われた沼田自身は、平然とした様子で答え頭を掻く。

「で、俺。兄貴達の様子を見たりしながら、馬鹿なりに考えたんス。スタンドやその能力って、要は超能力とかみたいな類……ッスよね、ルイ?」

「え……う、うん。多分科学的に解明とかは難しいんじゃない、かな」

 話題を振られたルイが、首を小さく傾げながら答える。

「ってことはッスよ、スタンドが何か事件を起こした時……それは傍目には超常現象や心霊的な事件に見えたりしないッスかね?」

「可能性はあると思うよ。樹野さんの時の人や物をパズルにするのだって、普通にはありえないし」

「そうッスよね。んで、そういう事件や幽霊の噂話を辿っていけば、スタンドを使う奴のに当たる可能性もあるんじゃないかと思うんス」

「成程。沼田君は情報収集で手伝いたい、って事ね」

「さすが沙枝先輩、分かってくれるッス!」

「確かにそれなら大丈夫そうだな。なんでかよう分からんが沼は地獄耳だし、任せるぜ」

 沼田の意図を察し、信頼した様子で頷く汀。

 ちなみに、これまで汀の元に届けられた海鳴高校と他校とのトラブルの情報は、ほとんどが沼田を通じてのものであった。

「ういッス、任されるッス……で、兄貴、早速妙な噂を耳に挟んだんスけど」

 突如、声のトーンを落とし、汀の方に顔を寄せる沼田。

「おお、早速かよ、やるなぁ……どんな話だ?」


「皆さん、『笹屋敷』って、知ってるッスか?」


 怪談でも始めるかのような喋りと顔をする沼田。

「笹屋敷?」

「なんだそれ、知らねぇぜ〜」

「あれ、なんか、聞いた事があるような……」

 汀達が首を傾げる中、ただ1人。


「あ、沼田君、それって、笹豪地区の幽霊屋敷のこと?」

 ルイだけがすぐさま思い当たり、驚き混じりに声をあげる。

「そうッス。それッス。出る出るって有名なとこッスけど……つい最近、そこで幽霊に襲われた連中が居るみたいなんス」

「襲われた、だと?」

67 ◆gdafg2vSzc:2016/10/03(月) 16:43:15 ID:GK4mX.Fc0
>>66
 眉を潜め、不穏そうな顔をしながら身を乗り出す汀。

「ええ。数日前、そこでちょっと致そうとしたグループがいたみたいなんスけど」

「……? 致すって何を」

「そこは察しろ、ルイ」

「え? え?」

 幽霊屋敷と噂されるとは知っていても、そこがラブホ代わりに使われてる事までは耳に入っていない純粋なルイであった。


 さておき。

「まー、不良やらホームレスやらのたまり場にはなってるらしいッスけどね。ともかく、なんかそいつらが中でくつろいでたら……」

「何……何があったの?」

「聞いた話では、その中の男の指が、突然引きちぎられたそうッスよ」

「えぇ……怖い……」

 沙枝の口から、小さく、恐怖が混ざった声が漏れる。

「さらに、連れの男の耳やら、女の服やらも千切られたり裂かれたりしたようッス。何も居ないはずなのに」

「マジかよ」

「マジッス。で、それでちょっと気になって調べたンすけど。ここ2、3週間ぐらいで、そこで怪我をした奴が何人かいるみたいッス」

「2、3週間前……僕や汀君が霧吹き男に遭った頃だ」

 ぽつりと呟き、深刻そうに顔を曇らせるルイ。

 再び、重苦しい空気が彼等を包むが。

「……そんなもん、只の偶然かも知れないじゃんかよぉ〜」

 長濱の投げ遣りな発言が、その空気を壊しつつ、また新たに微妙な雰囲気を生み出す。

「気にし過ぎだってよぉ〜」

 沙枝やルイの何か言いたげな視線など気にすることなく、右手をひらひらと振って、へらへらと笑う長濱。

「確かに、な。気にし過ぎかも知れない。けどよ」

 長濱と目を合わせないように話しながら、汀が拳を握り。

「そこに霧吹き男や、ソイツの仲間や、危険なスタンド使いが潜んでる可能性があるなら……その可能性は潰してやらないとな」

 ぱん!

 強く音が出るほどに、その拳を自分の掌に打ちつける。

「よし! 早速行ってみようじゃないか」

「ええ!? 今から?」

 汀の提案に、沙枝が慌てた様子で声をあげる。

「ああ。本当は潜んでるだろう夜がいいんだろうが、危険すぎる。幽霊の正体を探るだけなら、今からでも十分だろうと思ってよ」

「そ、そう……ならゴメン、私、無理。この後、生徒会の用事があるの」

「ええー? 日曜なのにかよ」

「うん……前もって分かってたら都合つけてたけど……」

「まぁ、仕方ないわな。俺等でなんとかするさ」

 両手を合わせて申し訳なさそうに謝る沙枝に、苦笑して答える汀。

「そういう訳で、そろそろ行かないと。ごめんね、気をつけてね」

「ああ、気をつける。んじゃ」

「お疲れ様ッスー」

 鞄を手に、ハンバーガーショップから外に出て。

 ガラス越しにもう一度だけ、沙枝は汀達に小さく頭を下げて駆けて行く。

 その背中を見送った後。

「さて……どうする?」

 汀はルイ達に目を向ける。

「俺は当前付き合うッスよ。案内もしないといけないし」

「ぼ、僕も行くよ。正直怖いけど……やらなきゃ」

 沼田とルイが賛同を示すなか。

「まぁ、俺はカンケーねぇしよぉ〜」

 長濱がやる気無さげに言いながら、ニヤニヤと笑う。

「元よりてめぇにゃ期待してねぇよ」

「ご苦労様だぜ、ホントによぉ。ま〜、幽霊だかスタンドだか知らんが、殺されないように気をつけな」

「言われなくても死なねぇよ……行くぜ、沼、ルイ」

 長濱に対して吐いて捨てるように言って立ちあがり、足早に店を出て行く汀。

「あ、待ってくださいッス、兄貴ー」

「待ってよ、汀君……あ、じゃあまた、長濱君」

 その後を沼田とルイが慌てて追って行く……そして。

「ふ……ふぁ〜あぁ〜」

 一人残った長濱が、退屈そうに大きくひとつ欠伸をしながら席を立った。

68 ◆gdafg2vSzc:2016/10/13(木) 09:35:12 ID:KBVsqGWc0
>>67
 10分ほど後。南風市、笹豪地区。


「しっかし、この辺もだいぶ変わったなぁ……俺がちっさい頃はもっと広かった気がしたけどよ」

 周囲に生えた笹を手でどけながら、舗装されていない小さな道を先頭に立って歩く汀が呟き。

「まぁ、この辺も開発が進んでるしね。地区の名前の由来になった笹の自生地も、今ではこの辺りだけみたいだし」

 ルイが額に滲む汗を拭い、最後尾からルイが説明し。

「あと数年すればこの辺も開発されるみたいだしね」

「そういや、近くでまだ工事してたッスね。あ、この先左ッス」

 沼田が分かれ道の先を指差し……


「あれか……笹屋敷」

 汀達の目に、色褪せ、所々漆喰が剥がれ、地の土壁が露出した塀と。

 塀の上から覗く屋根瓦と、屋敷の壁の一部が飛び込む。


「昼間だって言うのに、なんか……不気味だね」

「ああ……いかにも出そうだな」

 ごく、とルイが息を呑む音が、やけに大きく聞こえ。

……さああああぁ。

 一瞬、3人を包んだ沈黙を。

 風が揺らす、笹の葉音が破る。

「……行くぞ」

「う、うん」

 意を決したように告げ、屋敷に向かい足を速める汀達……そして。

 その様子を遠目に見るものの存在が居る事に、汀達は気付いていなかった。


「入口は駄目か。しかし、結構大きいんだな」

「元々、この辺の土地を所有してた地主さんが住んでたみたいだけど、だいぶ前に亡くなったらしいよ」

 ルイの説明を聞き、笹屋敷の塀の周囲を歩きながら、汀が感心した風に呟く。

 本来の入口であった正門は崩れ落ち、梁や門を構成していたらしい木材や瓦、土壁などの瓦礫で塞がれていた為に、中へ入る場所を探す汀達である。

「地主ねぇ。そいつの家族とかは?」

「身寄りはなかった、って聞いてるよ。その直後に取り壊しの話とかも出てたけど、色々あってうやむやになったみたい」

「で、今に至るってわけッスねー……っと」

 沼田が触れた塀の漆喰が、簡単に剥がれ落ちる。

「開発計画も出てるし、そのうち此処も取り壊されるんだろうな……まぁ、そんな悠長な事言ってられないんだけどな」

「そうッスね……っと、兄貴、あれ」

「おお」

 沼田の指差した先。

 土壁が大きく崩れ落ち、人が通れそうな穴が開いていた。 

「よし、行くか、ルイ。沼は危険かも知れんから、ここで待っててくれ。なんかあったらケータイで連絡頼む」

「う、うん」
 
「ういッス……気をつけて、兄貴、ルイ」

「ああ、気をつけら」

 不安そうに見送る沼田に笑顔で返し、敷地の中に侵入していく汀とルイ。

 2人の前に、ボロボロになった障子と縁側が見える。

 障子の一部は大きく開かれ、天上に穴が開いているのだろう、差し込む陽の光が和室を照らし。

「汀君……これ!」

「ああ……」

 そこから点々と、赤黒いシミが2人の居る地面まで続いていた。


 その部屋こそ、数日前に。

 若者達が『幽霊』の襲われた場所であり。


「……行くぞ、ルイ」

「……うん」

 緊張した面持ちで、慎重に。

 縁側に、部屋に近づいていく2人。




(マタ、来タ)

 屋敷の中。

 侵入者の存在を察知した『彼』は。

(マッタク……ナゼ俺ノ棲家ニ、コウモ人ガヤッテクルノカ? マァイイ)

 侵入者達を忌々しげに思う一方で、余裕と自信を持っていた。

(スデニ細工ハ施シタ。アトハイツモ通リ、追イ出セバイイ)


(……俺ニ身ニツイタ、コノ奇妙ナ『チカラ』デナ)

69名無しのスタンド使い:2016/10/14(金) 18:57:16 ID:9YnfDwOg0
しばらく読めてなかったけど、一気に読みました!
ひゃー滑川が!
漁場のスタンドは本体の見た目の描写と自分を傷つけた所でピンときましたね〜
能力が面白くて印象に残ってたので
笹屋敷編、屋敷の主は一体誰なのか!?
続き期待してます!

70 ◆gdafg2vSzc:2016/10/16(日) 15:23:56 ID:H5v9tkZY0
>>69
読んでくださりありがとうございます。
あれ、なんか滑川人気?(汗)
アンフェア・グラウンドは能力や発動条件の特異さ、あとはオリスタカルタのイラストで気に入ってました。
そして今回本体設定が見事にハマって使わせて頂いてます。

笹屋敷の主も次第に、というか図鑑読み込んでる方なら次で何者か気付くやもしれませんです。
期待に添えるよう、ぼちぼいと参ります〜

71 ◆gdafg2vSzc:2016/10/20(木) 08:55:40 ID:y5.tUxuc0
>>68
「……こいつは」

 縁側に片足をかけ、目を細めて慎重に室内を窺う汀。

 屋根に穴が開いているのだろう、室内は天井から差す光で照らされ薄明るく。

 スナック菓子の袋や空き缶が散らかり、血の跡や動物の足跡の泥汚れがはっきりと見えていた。

「ここで襲われたみたいだね。その、沼田君の言ってた人たち」

「みたいだな……気をつけろよ、ルイ」

 表情を険しくしながら、土足で室内に踏み込む汀の後を。

 不安げにきょろきょろと首を動かしながら、ルイが続く。

「ゴミやらで散らかってるが……建物自体はまだ丈夫そうだな」

 空き缶を足で払いつつ、畳を強く踏んだり、柱を押して確かめる汀の横で。

「うん……なんか勿体無いよね……うーん?」

 破れたスナック袋等のゴミを拾い、机の上に置いていくルイ。

「どうしたルイ? 変な声出して」
 
「うん、大した事じゃないと思うけど」

 手にしたスナック菓子の袋を手にして、首を傾げるルイ。

「菓子袋が多い割に、中身はあんまり散らばってないなぁって」

「んんー、野良猫とかが食ってるんじゃないか?」

 ルイに対して背を向け、室内に残る戸棚を調べながら答える汀。

「あるいは……そうか、ここを塒にしてるスタンド使いが食料にしてる可能性も……っ!?」


――ぞっ。


 話しながら、背筋に寒いものが走るのを感じ。

 慌てて、ルイの方に汀が振り返る――と同時に……ぼっ。

「――!」

「ど、どうしたの?」

 目を見開いて驚く汀の表情に戸惑うルイ。

(な、なんだ!?)

 その背後に、現れたもの。


 それは、針金のように細く黒く、金属のような光沢を持つ。

 しかし、金属にしては滑らかに動く……言うなれば『触手』のようなものであった。

 その先端は指のように三本に分かれ、爪のように先端は鋭く。

 そいつは、ルイの首筋目がけて掴みかかろうとしていた――


「危ねぇ、ルイ! ギア・チェンジャー!」

「!?」

 ギャアァァン!

 驚くルイの頭の横を、ギア・チェンジャーの腕が通過し。

「だりゃあぁ!」

 触手を掴み、そのまま引き抜く。

「えっ、汀君、それは!?」

 そこで初めて、触手の存在に気付くルイ。

「ああ、こいつが幽霊の正体って訳か」

 抜かれた触手は、ギア・チェンジャーの手の中で。

 刺激を受け苦しむミミズのようにのたうち、ギア・チェンジャーの手に絡みついていたが。

 やがて、空気に溶けるように消えていく。

「……成程、こいつがスタンドってワケか。だが、大した事はなかったな」

 安堵し、笑顔をルイに向ける汀。


――だが。


「汀君!!」

 ルイが叫ぶと同時に。

……ぼっ!

「な、ぐぁ!?」

 汀の背後に現れた触手が、汀の右肩を襲い、学ラン越しに肉を少し抉り。

「く、っそぉ! だりゃあ!」

 ギア・チェンジャーの放った怒りの一撃が、触手を捉えるが。


……ぼっ、ぼっ、ぼっ。

「汀君……これって」

 自分のスタンド、パープル・レインを出しながら呆然とするルイ。

「ああ。なんなんだ、こいつは……こいつがスタンドじゃ、ないって言うのか?」

 厄介そうに顔を曇らせる汀の前で。

 部屋の奥へ向かう廊下を守るように、複数の触手が室内に現れ。

 汀達を挑発するように、あるいは追い返すかのように、ゆやゆやと揺れる――そして。


……トッ、トットッ。


「……何だ?」

 その奥で、何かが動くような小さな音が、汀には聞こえた気がした。

72 ◆gdafg2vSzc:2016/10/27(木) 14:19:12 ID:zY4hiSus0
>>71
「だ、大丈夫? 汀君」

「ああ、大したこたぁねぇ……が」

 数歩下がって距離をとり、新たに現れた触手を睨みながら。

 汀が足元に落ちていた大き目の瓦礫を、触手に向けて投げると。

……ごっ。

 触手がそれに飛びつき、握り締め、砕く。

「見た目より、力はあるか……それに、相当素早い」 

「けど、あまり複雑な動きはできなさそうだね。あ、汀君、良かったらこれ使って」

「おぉ、悪ぃ」

 ルイの差し出したポケットティッシュを受け取り、傷を押さえ。

 ゆらゆら動き続ける触手を観察する2人。

「さて、どうしたもんか」

 困り顔で呟く汀、と、その横で。

 パープル・レインが、ゆっくりと拳を握る。

「汀君、ちょっと試してみたいことがあるんだけど、いい?」

「お? おぉ」

「やれっ……パープル・レイン!」

 ヌオン!

 パープル・レインの拳が触手の生えている畳を撃ち、ぬるぅ、と畳が液状化する……と同時に。

「やった、うまくいった」

「おお……」

 畳の液状化に伴い、花が枯れる様を早回しの映像で流すように。

 触手が勢いを失い、畳に落ち、崩れていく。

「触手が生えてるものが液状化したらどうなるかって思ったんだけど」

「やるじゃんか、ルイ」

「う、うん。こんな上手くいくとは思わなかったけど。それに、この建物全体を崩せるほどパープル・レインの力は強くないけど」

「充分だぜ。まとめてなんとかできる、って分かっただけでも。よくやった」

「わ、ちょっと、やめてよ、汀君」

 褒めつつ、ルイの頭をわしわしと撫で。

「さぁて、幽霊退治といくぜ!」

「う、うん!」

 奥に続く襖を、タァン、と、勢い良く開く汀……だが。


「おいおい、マジかよ」

「……うわぁ」

 奥に続く廊下一面に現れ、蠢き、威嚇するように身を振るう触手を前に。

「……敵はマジってワケだな。気合入れてくぜ、ルイ」

「う、うん」

 ガチャ。

 触手のパワーとスピードに対抗すべく、ギア・チェンジャーの右腕に「6速」のギアをセットする汀。

 そして、緊張気味に息を呑みながら、身構えるルイ。

(やれやれだ、厄介な相手だぜ)

「だりゃあぁ!」

 触手を薙ぎ払う、ギア・チェンジャーの手刀と掛け声と共に。

 汀達と謎の敵との第2ラウンドが開幕した――



――一方。

(ナンダ? コイツラ? 俺ト同ジヨウナ能力ヲ!?)

 汀達の様子を隠れ見ていた『彼』は、現れたスタンドに。

(コイツラ……普通ノ人間ト違ウノカ……ソシテ、目的ハ俺自身カ?)

 そして、自分が召喚した触手が次々とやられていく様に驚いていた。


 だが。


(マァ、イイ。ナラバ……罠ヲシカケルカ)

 それでも冷静に『彼』は状況を整理していく。

(間ニ合エバイイガ)

 汀達の目指す部屋の先、慎重に、しかし急ぎつつ。

 畳を踏みつつ、待ち構える『彼』……


「よっし、いけそうだ!」

 汀の声がし、その気配がすぐ近くに迫りつつあった。

73 ◆gdafg2vSzc:2016/11/03(木) 10:36:54 ID:RSNm1vZo0
>>72
(……ク)

 迫り来る汀達に焦りを覚えつつ、『彼』は仕掛けを施していき。

(間ニ合ッタ、後ハ……!)

 全てを終え、急いでその部屋から撤収した……直後。

「だぁありゃああぁ!」

「ちょ、ちょっと、汀君!?」

 ばきっ、ばりいっ!

 文字通り、汀が襖を足で蹴破り、室内を窺う。

「あー、壊しちゃった……」

「大丈夫だって、ルイ。どうせ廃墟なんだし、襖の一枚ぐらい破ったところで」

「そうかもしれないけど……」

 汀が少し苛立ったような表情と声になっているのは。

 触手の攻撃によって所々学ランが破れ、かすり傷程度とはいえダメージを受けているせいかもしれない。

 後からついてくるルイの頬にも、小さく傷がついていた。

「っと、ここが笹屋敷の真ん中か?」

「どうだろうね……でも」

 侵入した部屋は、穴の開いた襖や障子で囲われた小学校の教室ほどの広さの大部屋で。

「思ったより、ボロボロみたいだね」

「ああ」

 部屋の中央辺りの屋根が大きく抜け落ち、畳の上に瓦や瓦礫が散らばり、畳が汚れていて。

 そこ以外にも天井に穴が開いているようで、薄暗い部屋の数箇所にまっすぐに光が差し込んでいた。

「ここにはあの変なうねうねは居ないみたいだな」

「うん。でも、気をつけないと」

 慎重に、部屋の中に足を踏み入れる2人、と。


 どんっ!


「えっ!?」

「奥か!」

 唐突に、汀達の正面の襖の向こうから、何かが倒れるような大きな音がして。

 トットットット……続けざまに、何かが跳ねるような小さな音が聞こえ。

「野郎……本体か!?」

「あ、待って、汀君!」

 ルイの制止も聞かず、汀がギア・チェンジャーを前方に展開しながら、真っ直ぐに襖に向かい。

 穴の開いた下、汚れた畳に足をかけ――ずぼぉ!

「ん、な!?」

「汀君!?」

 突然、畳が大きく沈んで穴が開き、汀の体が腰の辺りまで床に沈み。


(今ダ!)


 その様子を窺っていた『彼』が念じると同時に……ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!

「なあぁ!?」

 汀を取り囲むように、触手が一斉に現れる。

「み、汀く……ああっ!?」

 すぐさま助けに行こうとするルイだったが、ぼっぼっぼっ!

 背後の障子の裏から、障子紙を突き破り現れた触手の攻撃が、ルイに襲いかかる。



……笹屋敷を棲家にする『彼』は知っていた。

 穴の開いた場所の真下の畳と、その下の敷板が太陽の光と風に晒され。 

 その上に人間が乗れば、容易く壊れるであろうと思われるぐらいに痛んでいる事を。

 その周囲に触手の『発生源』を張り巡らし、罠をはり。

 わざと大きな音を立てて、罠に相手を引きこむ。

 予想通りに穴が開くとも限らないし、敵が慎重に畳を回避する可能性もある。

 そういう意味では、『彼』にとっては賭けとも言える罠であったが。 

 
「ぐぅ! く、くそおぉ!」

 全ての触手に対応できず、少しずつだがダメージを受けていく汀。

「くうぅ、パープル・レイン!」

 救援に向かいたいが、背後からの攻撃に窮するルイ。


(ウマクイッタ)

 2人が苦しむ様子を物影から見守りながら。

(能力ヲ持ッテイルノハ焦ッタガ、所詮、コンナモノ……並ノ人間ト変ワリナイ)

 優越感を『彼』は感じていた。

(マァ、コレデシバラクハ馬鹿ナ人間モコナクナルダロウ)

 自分の勝ちを確信し、『彼』は屋敷の中にある自分の『寝室』に引き返そうとした……


「おいおい、な〜にダサいことやってんだよぉ〜」

74 ◆gdafg2vSzc:2016/11/10(木) 09:55:36 ID:tEi0/yEg0
>>74
(!?)

『彼』の耳に、別の人間の声が飛び込んでくる。そして。


「うらぁ! チェンジ・イン・パワー!」


「あ、長濱君!?」

 汀の様子を見てヘラヘラと笑う長濱が現れ。

「てめぇ、なんでここに居るんだよ!?」

 ビュゴォ!

 汀の問いに答える代わりに。

 チェンジ・イン・パワーが流れるような動きで、ルイを、汀を襲っていた触手を次々と薙ぎ払っていく。

「なんだこりゃあ? コイツが幽霊の正体ってコトかよぉ〜?」

「……す、凄い」

 驚くルイを尻目に、チェンジ・イン・パワーの手の中で最後の抵抗、とばかりに蠢く触手を握りつぶし。

「何しに来たんだ、てめぇ」

「おいおい、助けてやったってのに、その態度はねぇんじゃないかよぉ〜?」

 穴から這い出す汀を見下ろしながら、小馬鹿にするような笑みを浮かべる長濱。

「いやぁ〜、ひょっとしたら幽霊とやらに襲われてくたばってる汀を見て笑ってやろうと思ったんだけどよぉ」

「……てめぇ!」

「待って、汀君! 長濱君も言いすぎだよ!」

 怒りを露にし、長濱に掴みかかろうとする汀を、ルイが必死で止め。

「ははは、悪ぃなぁ〜、半分は冗談だ。そんな怒るなよぉ〜、みぃぎぃわぁ〜」

「……半分は冗談、な。じゃあその半分はなんなんだ、ええ?」

 ギア・チェンジャーを背後に控えさせたまま、長濱を睨みつける汀、だったが。


「幽霊だかスタンドだか知らねぇけどよぉ、他の奴に汀をブチのめされたく、ねぇんだよ」


「……は!? なんだそれ」

 予想外の言葉に、思わず頓狂な声をあげる汀。

「汀ぁ、てめぇをブチのめすのは、この俺だって決めてんだよぉ。だから、他の奴にてめぇがやられるのが嫌なんだよ」

「……長濱」

「だからよぉ〜、その、なんだ……ある程度カタがつくまで手伝ってやるって言ってんだよ……」

 言い終えた後、少し照れくさそうに顔を汀から逸らす長濱。

「……まぁ、助けてもらった礼は言っとくぜ、ありがとよ」

「やめろよぉ、てめぇに礼なんて言われたらテンション下がるわー」

 言いあった後、互いに、に、と笑う2人。

(うーん、僕にはよく分からないけど、これが「男の友情」って奴なのかなぁ)

 その様子を傍目で見ながら、小さく頷くルイであった。

「しかしよぉ、これからどうすんだよぉ〜、汀ぁ」

「ああ、どうしたもんか。そのへろへろはどうもスタンドじゃないみたいだし」

「でも、触手の出方とかから考えたら……本体がこっちの動きを見てる可能性はあると思うけど」

「となると、本体を叩くしかないが……どうしたもんか」

 呟きながら、部屋の中央でぐるりと周囲を見回す汀……

「なぁ、ルイ、長濱。辛気臭いと思わないか?」

「え? 何が?」

 急に問われ、首を傾げるルイ。

「この屋敷さ。暗いし、なんか空気も淀んでる感じだし。そりゃ幽霊屋敷って言われてもおかしくないよな」

「おいおい、何言ってんだよ〜? 汀ぁ」

「いやぁ、ちょっと風通ししてやったら良いかなって思ったんだよ」

「風通しぃ〜?」

「ああ、それも、ここの主が次の手を打つ暇も無いぐらいに盛大に、な」

 言いながら。

 汀がギア・チェンジャーを前にしながら、襖に近づき、拳を握り。

「え? え?」

「――! な〜るほどぉ」

 困惑するルイの横で長濱が納得した様子で頷き。

 チェンジ・イン・パワーを汀と反対側の障子の前に立たせる……そして。


「だりゃああぁ!」

「うらああぁー!」

「ちょ、ちょ!?」

(ナ、何ダ!?)


 驚くルイと『彼』の目前で……ばりばりばきばきばき!

 目の前の襖を、障子を破壊していく2人。

75 ◆gdafg2vSzc:2016/11/17(木) 14:45:07 ID:lr2t/RzU0
>>74
「な、な、何やってるの、2人ともぉ!?」

 思わず叫ぶルイを尻目に、さも楽しげに障子を、襖を破壊し続ける汀と長濱。

「見ての通りだぜ、ルイ。視界を塞ぐ仕切りを無くして本体が隠れる場所を無くして、あぶりだす」

「やっべぇ、これ楽しいぜ〜、テンション上がってきたわ〜」

「だからって、壊すことは」

「どうせ廃墟なんだ、ぶっ壊しちまってもいいじゃんよぉ〜」

「そういうこった、ルイ、お前も手伝え」

「え、ええー……」

 屋敷の奥に向けて、破壊を繰り返しながら進撃する2人を呆れた目で見つつ。

「ほ、本当に幽霊さん居たら、ごめんなさーい……パープル・レイン」

 ヌオォン。

 少しでも後で原状回復が出来るように、と言う気配りから。

 ルイは外部に面した障子を、パープル・レインの能力で液状化させていく。


(グ、ナ、ナンナンダ、コイツラ!? マサカココマデスルトハ!?)

 その様子を窺っていた『彼』は、汀達の行動に驚いていた。

(マズイ……ダガ、ドウスル?)
 
 困惑しつつ、自分の隠れ場で汀達の動向を見守る『彼』……その心中に。

(アア……マタ俺ハ棲家ヲ失ウノカ?)



(コイツラ……『人間』如キノ勝手ノセイデ!!)

 悲しみと、苛立ちが渦巻いていた。



 数分後。

「だりゃあ! って、これで全部か?」

「ああ、そうみたいだけどよぉ〜」

 屋敷内の障子や襖が取り払われ、屋敷のどこからでも外の風景が見えるようになっていた。

 だが。

「誰も居ないぜ〜? 俺達以外」

 探していた本体の姿は、影も形も無く。

「逃げられたんじゃ……ま、まさか、本当に幽霊!?」

 自分で言っておいて、怯えた顔になるルイ。

「なぁ〜、汀ぁ、どういう事なんだよぉ〜」

 長濱も困惑したように眉を潜める、が。

「悪い、ちょっと静かにしててくれ。試したい事があるからよ」

 目を閉じ、両耳に手を当てて耳を澄ませる汀。

 その右耳の根元には、ギア・チェンジャーの指ガ添えられ、ギアが埋め込まれていた。

「何やってんだよ〜?」

「耳にギアを埋めて、ちょっとでも聴覚を高めようとしてる」

「凄い、そんな事も出来るの? 汀君?」

「いんや、正直効いてるかどうかイマイチようわからん。が」


……ガサッ。


 聞き逃しかねないほどの小さな音を捉え。

 汀が目を開き、ギア・チェンジャーが耳から指を離し、拳を構える。

「屋敷に突入してから、時折小さな物音が聞こえてたんだ」

「えっ」

「俺達は、思い込んでた。スタンド使いが、人間だってな」

 言いながら、音のした方、ルイの頭上の天井を睨む汀。

「ルイ、そこをどけ! ギア・チェンジャー!」

「え、わ!? ひゃあぁ!」

 ルイが慌てて後ずさると同時に……ギャアァン!

「だりゃあぁ!!」

 ギア・チェンジャーの拳が天井を破壊し。

(グァ……バレタ!?)

 どざああぁ!

 破壊された天井の板が畳の上に落ち、屋根が壊れているのだろうか、光が差し込み。

「お、おおお〜!?」

「これって……!?」

 一緒に、細い枝や針金を集めて作った巣と黒い塊が落下し。

 巣の中に入っていたガラス片やビー球、ピンバッヂやピアス等の光物が散らばり。

「……こいつが、スタンド使いだったんだ……っ!?」

 落下した黒いモノを指差した汀の表情が、驚きに代わる。


 それは。 


「カ、カラス!?」

「え、でも待って、コノカラス、なんか変だ!」

76 ◆gdafg2vSzc:2016/11/24(木) 15:16:00 ID:PNt.HgVw0
>>75
 長濱達の叫ぶ通り、一羽のカラスであった。

 だが、本来生えている足の間に、もう1本足が生えて居て、トッ。

「――!」

 真ん中の足が畳につくと同時に、ぼっ!

 汀達を苦しめていた触手が展開され、汀を襲うが。

「うらぁ!」

 チェンジ・イン・パワーが攻撃を阻止し、触手を引き千切る。

 その様子に、自分の能力では叶わないと思ったのか。

(ク……ココハ、コレマデカ!)

「マズい、逃げるぞ!」

 ばさっ、カラスが翼を広げ、屋敷の外に向けて飛んでいく。

「マジかよぉ〜!」

「やべぇ、早い! 逃げられる!」

 焦る汀と長濱が、後を追おうとするが。

「大丈夫だよ、汀君、長濱君」

「お、おお?」

 カラスが逃げる方向を見ながら、ルイが余裕を持った笑みを見せ。

「パープル・レイン! 能力を『解除』だ!」

 ルイと共にパープル・レインが前進しながら指を弾く仕草を見せると同時に――

(ナ!?)

 ばっ。

 液状化されていた障子が元に戻り、カラスの進路を塞ぎ。

 激突を避けようとカラスが羽ばたき、動きが緩やかになった、一瞬。


「行けぇ! パープル・レイン!」

(――! シマッ……!)


 ヌドォ!

 パープル・レインの拳が、カラスを捉え……ずるん。

 液状化し、黒いスライムのような塊になったカラスが畳の上に落ちる。

「よし、うまくいった!」

 思わず拳を握り、小さく叫ぶルイ。

「うおぉ、コイツのスタンド、相等ヤベぇぜ〜」

「まぁな、俺でも苦戦したしな。それにしても用意周到だったな、ルイ」

「え?」

「敵が逃げる事を考えて、道を塞げるように障子を液状化しといたんだろ?」

 本当は違うのだが。

「え、あ、あー、うん。まぁね」

 褒められるのはそう悪くないので、そういう事にしておくルイであった。


「それにしてもよぉ〜」

「ああ、とんでもないカラスだな、コイツ。なんだ、この脚がスタンドなのか?」

 パープル・レインの手の中で弄られる液状化したカラスを見ながら、驚いたように声をあげる長濱と汀。

「ううん、スタンドって多分気絶とかしてたら出せないだろうから、違うと思う」

 告げながらルイが見る先は、身体の真ん中に生える3本目の脚であった。

「スタンドの影響でこうなったのか、生まれつきなのかは分からないけど」

「成程なぁ、しかしなんだってこんなカラスが住み突いてたんだ」

「多分、だけど。この辺りの開発で棲家を追われてここに居付いちゃったのかもしれない」

 笹屋敷の外を見ながら首を傾げ、自分の考えを告げるルイ。

「スタンド使いになった理由は分からないけどね」

「成程な」

「んふわぁ〜……んでよぉ、汀ぁ、ルイ。コイツ、どうすんだよぉ〜?」
 
 2人の会話を着ていた長濱が、欠伸交じりに言った言葉に。

「えっ」

「あー、確かに。どうするかねぇ」

 困ったように顔を見合わせるルイと汀。

「一番手っ取り早いのはよぉ〜、やっちまうことだと俺は思うけどよぉ」

「確かにな。コイツのせいで迷惑を被った連中も居るんだからな」

 カラスを見ながら、各々のスタンドに拳を握らせる汀と長濱に。

「ちょ、ちょっと待ってよ! いくらなんでも酷くない!?」

 ルイが慌てて制止の声をかける。

77 ◆gdafg2vSzc:2016/12/08(木) 09:52:45 ID:RQgVQkag0
「あ〜? 何言ってんだよ〜?」

「う……た、確かに迷惑を被った相手もいるだろうけど、このカラスも自分の棲家を荒らされて仕方なくやったことなんだろうし」

 呆れたように言いながら睨みつけてくる長濱に怯みつつ、ルイが懸命に説得する。

「その、殺すのは酷すぎるって思うんだ」

「けどな、ルイ。元々カラスは賢いって言うが……スタンド能力のせいなのか生来のもんなのかよう分からんが、コイツは相等賢いと思うぜ」

 ルイの言葉を聞きながら、液状化したカラスを指でつつく汀。

 眉間に皺を寄せたその顔からは「これ以上関わりあいたくない」という意思がありありと見てとれる。

「その知恵と能力で悪さをしないとも限らん。このまま逃して、また同じ事が繰り返されたらどうすんだ、ルイ?」

「う……」

 汀の言葉に、言葉に詰まりかけるルイだったが。

「で、でも! 逆にそれだけ賢いなら、なんとか手懐けたりできないかな!?」

 咄嗟に思いついた事を口走る。

「手懐けるって……ま、まぁ、出来んことは無いかも知れんけど」

「おいおいルイよぉ〜。じゃあお前がコイツ、飼うって言うのかよぉ〜?」

 呆れつつもルイの懸命さに絆される汀、その横で皮肉交じりに言いながら長濱が笑う……が。


「飼う……か。うん、そうだね。それでもいいかも」

「ふぁ!?」


 あっさりとルイが頷いたのを見て、驚きの声を上げる長濱。

「おいおいおい、そんな簡単に言ってくれるけどよぉ〜。どうすんだよ、場所とかよぉ〜?」

「うん、ずっと思っってたんだけど。この辺の植生ってボクの家の庭に近いから、ひょっとしたらこの子も馴染んでくれるんじゃないかなって」

 既に飼うつもりなのか。

 自分達を襲っていたカラスを「この子」扱いして撫でながら周囲の林を眺めるルイ。

「それに、ボクの家の庭なら結構広いし、気に入ってくれるかもしれないし……まぁ、母さんを説得しないといけないけど」

「広いって……なぁ、汀ぁ、ちゃんと聞いてなかったけどよぉ、コイツ何者なんだよぉ?」

「ああ……西通りの旧市外に雨月家ってぇでっかくて古い家あるだろ。そこのボンボンだ」

「ふへえぇ、なんだそれ……あ、でも金持ちってことは」

「借りるだけ、って名目のカツアゲはすんなよ」

「……先に言うなよぉ、汀ぁ。あー、テンション下がるわ」

「ま、やったら俺がお前をボコるだけだしな。さてと、ルイ」

 優しく微笑みながら、ルイの肩に手を置く汀。

「お前がそこまで言うなら、分かった。そいつの面倒はお前に任せる」

「本当!? ありがとう、汀君!」

「ただし、だ。ソイツが何かやらかした時は、ちゃんと責任を取れよ」

 言いながら、肩にかけていた手を握り、ルイの胸に当て。

「男の、約束だぜ」

「……うん!」

 に、と笑う汀に対し、力強く頷くと同時に。

(男の約束……かぁ)

 その言葉に、心に熱いものが込み上げるのを感じるルイであった。




――一週間後の日曜日、昼、雨月家の庭。


「カンタロー、ご飯よー」

(……ヤレヤレ)

 聞こえてきた女性の声を聞き。

「カンタロー」と名づけられたカラスは庭の樹に作った巣から声の方に降りていく。

「あー、来た来た。今日も元気そうねぇー」

 縁側で楽しそうに笑う和服を着た年配の女性……ルイの母親であり、カンタローの名付け親である……の声を聞きながら、地面に置かれた皿の前に向かうカンタロー。

 今日の昼ご飯は鶏肉のささみである。

(マッタク、変ナ名前ヲツケヤガッテ……)

 生のささみ肉を喰らいつつ、心中では悪態をつくカンタローである。

78 ◆gdafg2vSzc:2017/01/03(火) 09:27:47 ID:WMZAajq20
 パープル・レインに殴られ、死を覚悟したカンタローが目を覚ました時。

 カンタローは即座に自分が違う場所に連れてこられた事に気づき。

 自分がルイという人間に捕えられた事を悟った。

 その後、最初は庭の隅に作られた鳥小屋に(カンタロー的には)閉じ込められたが。

(フザケルナ)

 狭いのが嫌なカンタローはスタンド能力で容易く小屋を破壊する……しかし。

(……逃ゲテモイインダガナ)

 逃走することなく、庭の樹の上に巣を作り、居付いてしまったのである。


 その理由は2つ。

 1つは、ルイのような自分と同じような能力を持つ人間を目の当たりにし。

 逃げた先で同じ様な人間と遭遇し、危険な目に遭うかも知れないという「野生の勘」であった。


――スタンド使いはスタンド使いに惹かれあう。


 後に汀達も知る事となるその法則を、カンタローは直感的に感じ取っていたのである。

 それならば、能力を持ちつつ自分に(カンタロー的には)献身的なルイを利用して身を守りつつ、安全な場所に居るのがいいという判断を下したのである。


 そして、もう1つの理由は。

「あらあら、全部食べちゃった。美味しかった?」

(美味イ)

 この場に居れば、常に食事に、それも上等の物にありつけるという事が分かったからである。

(マァ……「ぽてち」トカイウ物ガ食ベレナイノハ残念ダガ)

 自身の名前と、スナック菓子が食べられない事以外は現状におおむね満足なカンタローであった。




 同じ頃、 駅前近くのハンバーガーショップ。

「……って訳で、今の所大人しいもんだよ、カンタロー。特に母さんに懐いてるみたいだし」

 捕らえたカンタローの様子を汀達に報告するルイの姿があった。

「へえ……まぁ、不安はあるけども、悪さしないなら大丈夫かねぇ」

「烏は賢いって言うし、餌と棲家があるなら充分って思ってるのかも知れないわね」

 ルイの報告に対し、安心した様子で頷く汀と沙枝。

「しかしよぉ〜、なんだそのカンタローって名前はよぉ〜」

 その横でバニラ味のシェイクを飲みつつ、怪訝そうに首を傾げる長濱。

 ちなみに、腕につけられていかギプスはつい昨日外れたばかりである。

「ああ、それ、母さんがつけた名前。漢字だと『汗太郎』って書くみたい」

「なんだそれ、ますますワケわかんねぇよぉ」

「うん、昔のドラマだかなんだかの登場人物の名前みたいだけど」

「ふ〜ん……なんにせよ変わったネーミングセンスだぜ」

「あはは、まぁ、母さんのセンスについては……ねぇ。ルイだし」

 自分の名前を挙げつつ、長濱の言葉に苦笑するルイである。

「あ、名前と言えばさ。カンタローのスタンド、一応名前つけてみたんだ」

79 ◆gdafg2vSzc:2017/01/09(月) 17:34:02 ID:Yofqd1b60
>>78
「へぇ、あれに名前ねぇ……」

 笹屋敷で遭遇した触手を思い出し、渋い顔を浮かべる汀。

「ま、いいんじゃねぇの?」

「どんなんッスか?」

「教えて、雨月君」

 沼田と沙枝が興味深げにルイに問い。

「……」

 その横で無関心そうに顔を横に向けつつも、長濱が聞き耳を立てる。

「え、そんなに注目されるとなんか恥ずかしいんだけど」

「まーまー、いいから言ってみな、ルイ。なんて名前だ?」

 思った以上に期待され、恥ずかしげに小さく俯いた後。


「《トゥ・トラップ・ア・キッドナッパー(誘拐報道)》だよ」


 顔を上げ、笑顔でその名を口にするルイ。

「ど、どうかな……? 変じゃないかな?」

 その感想を問われ。
 
「あ、ああ。いい名前だと思うぜ」 

「格好、いいッスよねー」

「そうね、雨月君っぽくていいんじゃないかしら」

 各々、賛辞の言葉を送りつつも。

「そ、そう? ありがとう」

 嬉しそうに照れ笑いを浮かべるルイを前にして。


(ああ、やっぱり親子なんだなぁ……)


 同じ思いが頭によぎる汀達であった。


「と、ところで兄貴。あそこで集めたこれ、どうするんスか?」

 場が微妙な空気になりそうなのを察してか否か。

 沼田が話題を変えつつ、鞄からビニール袋を取り出す。

80 ◆gdafg2vSzc:2017/01/09(月) 17:34:31 ID:Yofqd1b60
>>79
「ああー、アレか。すまん、すっかり忘れてたわ」

「ええー、そりゃ無いッスよー、兄貴ぃ。一応汚れてたのとか洗ったのにー」

「え、何それ?」

 その日、笹屋敷に行ってなかった沙枝だけが、まじまじとビニール袋の中身……一見してゴミを集めたようなもの、を見つめる。

「ああ、カンタローが巣に集めてた物を拾い集めてもらってたんだ」

「ちょっと失礼するッスね」

 ルイが沙枝に説明する側で。

 沼田がテーブルの上のトレイの乗っていたハンバーガーと紙コップをどかし。

 トレイの上にビニール袋の中身をばら撒くように出す。

「もしかしたら、『霧吹き男』に繋がる物でもないかと思ってな、でも」

「ハズレなんじゃねぇの〜?」

 ビニール袋の中に入っていたもの、その殆どがガラス片やビー玉のようなカラス好みのガラクタであった。

「いや、宝石とか混ざってたらめっけもんかなー、とか思ったりしてよ」

「それって一応拾得物だからね、警察に届けないとダメだよ」

「分かってるって、沙枝。冗談だ。しかしそうなると……」

 ガラス片などを選り分け残ったものは。

 銀製のピアスやピンバッヂ、服のボタンなど数点。

 汀にはどれも怪しいようであり、無関係そうであり。

「あー、集めたけどやっぱダメだわこりゃ。よう分からん」

「ええー……」

 匙を投げ、天を仰ぐ汀の様子に呆れ顔のルイ。

「こういうのの持ち主を追跡できるスタンドとか居れば話は別だけどな。すまん、沼、ガラスとかは捨てて、こっちを一応預かっといてくれ」

「ういッス……あ」

 汀に言われ、ピアスやピンバッヂを袋に戻そうとする沼田。

 その手からピンバッヂが零れ、床に落ち。

「あ、すいませんッス、沙枝先輩」

「はい、沼田く――」

 それを拾い上げた沙枝の手が……止まり。

 驚きと戸惑いが混ざったような表情が浮かぶ。

「ど、どうした、沙枝?」

「樹野さん!?」

 白・水色・青色の3色が波型に重なり、その中央に小さく星のデザインの施されたピンバッヂ。

 それを見つめる沙枝の手が、微かに震えていた――そして。


「私……これと同じ物を、見た事が、あるかもしれない」


「――!」

「ええ!?」

 小さな声で放たれた沙枝の言葉に、汀達にも驚きが伝染する。

「ど、何処だ!? 何処で見た!? 誰の物だ!?」

「分からない、思いだせない、でも……確かに見た事がある、そして」

 ぎゅ、とピンバッヂを強く握り締める沙枝。


「これが、『霧吹き男』に繋がる、そんな気がする……」



 それは。

 何の確証の無い言葉であると、言った沙枝自身も思っていた――しかし。

 沙枝が感じた通り、ピンバッヂは確かに『霧吹き男』に繋がっていた。


『運命』によって……彼等と汀達は緩やかに、しかし確実に近づき始める。


カンタロー(ルイ母命名):
スタンド《トゥ・トラップ・ア・キッドナッパー(誘拐報道)》(ルイ命名)
ルイの家の庭で(今の所)悠々自適の生活を送っている。

樹野沙枝:
ピンバッヂの記憶、現時点では思いだせず。


【4:笹屋敷へようこそ……END】
【And see you next episode……】

81 ◆gdafg2vSzc:2017/01/09(月) 17:35:32 ID:Yofqd1b60
>>80
【4話:初登場オリスタ】

No7058
【スタンド名】  トゥ・トラップ・ア・キッドナッパー(誘拐報道)
【本体】 八咫烏よろしく足が3本あるカラス:カンタロー
非常に高い知能を持っており、人語すら理解する
【タイプ】 同化・自動操縦型
【特徴】 カラスに生えた三本目の足。 足が三本あるのは生まれつきだが、 それが才能としてチューンアップされたようだ。 また、そこから、自動操縦型の触手を生み出す。
【能力】 三本目の足で足跡をつけたところから三本指の触手が生え、活動する。
触手は破壊されない限り、活動を終えることもなく、また、本体の細かい操作も受け付けない。
ただし、なんとなく本体と意思を同じくする。 たとえば、本体が巣の材料がほしいなら触手は糸とか枝とかを襲撃するし、光物がほしいなら指輪とか宝石とかに襲い掛かる。
生み出せる触手の数に制限はない。

破壊力-B スピード-B 射程距離-B(能力射程-B)
持続力-E 精密動作性-D 成長性-C

まずは案師様に謝罪。ルイの名付けの所で名前を弄るような話の流れになってしまい申し訳ありません。
作者自身は格好良い名前だと思っております。名前の由来となったと思われる映画は非常に興味ありますが、近所探しても見つからない……おのれド田舎ェ……

さておき。
今回の話を日常回的にしようと思って図鑑を見ていた時に能力やビジュアルが良いと思って採用させて頂きました。
結果、日常回ではなくなった気もしますが(汗)
しかし、カラスを本体としたお陰で光物(ピンバッヂ)回収からの沙枝の記憶フィードバック、という流れを作れました。

再登場は難しいかもしれませんが、機があればまた出してやりたいです。


ここまで読んでくださった皆様に感謝です。ありがとうございました。

次回は……黒幕サイドのお話をちょこっとやってまた日常(?)回の予定です。

次回以降も目を通して頂ければ幸いです。

82名無しのスタンド使い:2017/01/09(月) 21:20:27 ID:RPtO67fU0
乙ー!

まさかの動物スタンドとは
でも飼い主(?)の事も気に入ってるし場合によっちゃ自分のテリトリーを守る為に
活躍…なんて事を想像しちゃったりします
次回更新楽しみにしてます!

83 ◆gdafg2vSzc:2017/01/10(火) 21:33:09 ID:vwcq6dro0
>>82
読んでくださりありがとうございます。

動物スタンド使いは本家ジョジョでも登場してたのでどこかで使いたいと言うのもありました。
ただ動物そのまま出るよりは正体が見えないようにして幽霊っぽく、という感じでから今回の話の流れになりました。

侵入者を撃退する為に闘う、アリですね!
一考させていただきますね。

84 ◆gdafg2vSzc:2017/01/26(木) 10:44:19 ID:uNU4pi4E0
「……ん」

 南風市内、ある屋敷の寝室。

 ダブルベッドで寝ていた上半身裸の男は、小さな気配を感じ、身を起こすと。

 サイドテーブルに置かれていた、少し型の古いガラケーに手を伸ばす。


 男の身体は痩せ気味ではあるが、引き締まっていて。

 顔つきからしてまだ若い……20〜30代だと思われるが、どことなく大物のような風格を漂わせていた。

 折りたたみ式のガラケーを開き、操作し、メールを確認する男。

 画面を見つめる右目は十分に開かず、また、画面の光に対して小さく瞼が震えていて……右目を悪くしている事が窺える。

 やがて。

「……よし。ご苦労だった」

 満足げに微笑むと、ガラケーをサイドテーブルに小さく投げるようにして戻す。


【幕間:黒幕は……】


 届いていたメール……それは、漁場が滑川を始末した旨を知らせるものであり。
   
 この男こそが、汀達の探す『霧吹き男』であった――と。


「……ん、どぉしたの、大澱(おおおり)さん」

 男――大澱の名を呼びながら、細身ながら均整の取れた綺麗なボディラインが透けて見える、黒い薄手のネグリジェを身につけていた女が。

 眠そうに目を擦りながら、同じように上体を起こす。

 その問いかけに対して、大澱は。

「ああ……漁場からの連絡さ。滑川、始末したとね」

「あららぁ、それはご苦労様ねぇ」

 包み隠すことなく女に話し。

「それにしても、可哀想ねぇ、滑川とかいう男も……やりすぎちゃったばっかりに、ねぇ」

 女も、可哀想と言いつつ、くすくすと笑う。


 大澱と女……この2人は知っている。

 互いが……経緯はどうあれ『スタンド』を使える事を。

 そして、そのお互いの能力を。


 そのうえで、互いの利害に一致の上で、協力をしているのだった。

 その協力が、どちらかの思惑次第で崩れかねない危うい物と、お互いに知りつつ……


【幕間:黒幕は、2人いる】

85 ◆gdafg2vSzc:2017/02/02(木) 09:56:24 ID:T/7WK/x.0
>>84
「とはいえ……やり過ぎよねぇ……大澱さぁん」

 大澱の胸から腹に指を這わせ、妖しく笑う女。

「貴方の実験のため、とはいえ、スタンド使い、増やしすぎたんじゃぁなぁい?」

「……未知の力を得た者が何を考えどう動くか、それを観測するには」

 女の言葉に不満げに顔をしかめつつ、大澱は女の手を腹からどかす。

「被験者の数は多い方が良い」

「まぁねぇ……お互いの事には干渉しない約束だしぃ……大澱さんのお陰で私も『商売』させてもらってるから文句は言わないけれどぉ」

 首筋辺りまで伸びた髪をかきあげ、女もまた不満……というよりは心配そうな表情を浮かべる。

「もぉ既に嗅ぎ回ってる人もいるんでしょぉ? その、被験者っていう人の中に」

「ああ。そう報告を受けてる。真実を探求したいという欲求は当前発生を予測し得るからね。ある程度までは泳がせるさ」

「でもぉ、正体を晒す気はないんでしょ?」

「当然だ……が、もしかしたらもう正体は割れてるかも知れないな」

「えっ」

「笹屋敷、とかいう場所に不良やホームレスが集まると言うから赴いて見たんだが」

「あぁ、あの幽霊屋敷ねぇ」

「そこで烏にしつこく襲われてね。思わず『あれ』を噴きつけて逃げたんだが」

 その時の事を思い出しながら、大澱は己の胸を指先で掻く。

「その時に、昔の『組織』のピンバッヂを落としたようだ」

「探したり後で拾いに行ったりはしてないのぉ?」

「夜で暗かったしね。それに、面倒だったし」

「んもぉ……男って皆そういうトコいい加減なんだからぁ」

 母親のように大澱を諭しながら、その頬を軽くつねる女。

「……前も言ったでしょ? あんまり目立つとお節介な連中が首を突っ込んでくるって」

「そうだったな。SPW財団……とか言ってたな」

「そぉ。私の知り合いも財団のスタンド使いに潰されてるわぁ」

「しかし、だ。レディ・リィ」

 女をレディ・リィと呼びながら、サイドテーブルに置いてあった煙草を手にし、口に咥える大澱。

「あんたの商売の方がよっぽど奴等の目に留まると思うがねぇ」

「……うふふ、そうかも知れないわねぇ」

 大澱の反撃に苦笑しながら。

 身体を大澱に寄せるレディ・リィ。

「まぁ……探りを入れてる連中については引き込めるなら仲間にするさ。こちらの意に介さないなら」

「……始末、ね」

「ああ。始末すればいいだけだ。財団とかいう連中であっても」

 大澱の顔に自分の顔を近づけて、くすくすと笑うレディ・リィ。

 始末……殺害を意味する単語を使いつつ、2人に罪悪の意識は皆無なように見える。

「とはいえ……こちらの動員できる数が少ないのは問題だな」

86 ◆gdafg2vSzc:2017/02/09(木) 10:15:35 ID:lwpQjUGU0
>>85
 紫煙をくゆらせながら、眉を潜めて苦笑する大澱。

「まぁ……俺とあんたのスタンドの能力なら、問題はないだろうが」

「かもねぇ。でも、私は自分自身が闘うような状況はお断り。だからぁ」

 ウインクし、悪戯っぽい笑みを浮かべるレディ・リィ。

「私、ちょっと独断で動かせて貰ったわぁ」

「ほぉ?」

「昔のツテを頼りにぃ、何人か腕の立つのを呼び寄せたのよぉ。皆、お金のためなら何でもする使い勝手のいい連中よぉ」

「……用心棒、と言うわけか。しかし、だ。レディ・リィ」

 自分の関与しない人間が自分の計画の内混ざる、その点に不安と苛立ちを覚えつつ。

 大澱は手にしていた煙草を、灰皿に強く押しつけて火を消す。

「そいつらは手練で、相手は高校生のような素人かもしれん。だが、スタンド使いだ。正直、頼りになるのか?」

「うふふぅ、大丈夫よぉ」

 大澱の中の不満を見透かし、また、溶かすかのように。

 妖艶な笑みを浮かべるレディ・リィ。

「呼び寄せた人間のうち、少なくとも1人はスタンド使いよぉ」

「なっ……」

「それに……スタンド使いでないなら、しちゃえばいいじゃなぁい? 例の『魔法の水』でぇ」

「――!」


 レディ・リィが笑みを浮かべたまま。

 大澱が、驚きの表情を浮かべ。

 同じ物を――ベッドの頭元に設えられた小さな棚に置かれていた、金属製の霧吹きを見る。

87 ◆gdafg2vSzc:2017/02/16(木) 15:49:34 ID:7DpWKIEo0
>>86
「レディ・リィ、知っているだろう? もし選ばれざる者があれを吸ったら」

「勿論知ってるわぁ……身体がぐずぐずに解けて死んじゃう。でもぉ、そんなの些細な事よぉ」

 言いながらベッドから起き上がると、レディ・リィは窓際まで歩き、窓を開け。

 波の音と、涼しい風がカーテンを微かに揺らし、部屋の中に入り込む。

「その程度で終わるなら、その人もその程度、って事よぉ。それに、代わりは幾らでもいるんだしぃ」

 金で動くような相手とは言え、人間を道具か何かのように扱う台詞を放つレディ・リィ。

「ね?」

 振り返ったその笑みは大澱には無邪気に見え。

「……は、は、ははははっ」

 乾いた笑いを上げながら、大澱がベッドに身を倒す。

「ん? 何が可笑しいのかしら?」

「いやぁ、やっぱりあんたは恐ろしい人だ、そう思ったのさ。レディ・リィ」

「やだぁ、恐ろしいなんてぇ。酷いわぁ」

 わざとらしく頬を膨らませてみながら、再び大澱の、ベッドの側に歩み寄るレディ・リィ。

「俺はあんたの掌の上で転がされてるのかも知れないな」

「さぁ、どぉかしらねぇ。案外、玩ばされてるのは私の方かも知れないわねぇ」

「はは、言ってく……」

 何かを言おうとした大澱の口を。

 レディ・リィの唇が塞ぐ。

「もう終わりにしましょ、この話は。無駄な事は、無駄な言い合いは大嫌い」

 大澱に身体を押し付け、押し倒すようにしながら、自らもその身体の上に覆いかぶさる。

「レディ・リィ……」

 レディ・リィにされるがままにされつつ。

(あんたは、本当に恐ろしい人だよ)

 大澱は、その妖艶な顔の奥に隠れる闇の大きさを感じ取っていた。


 だが。

(だが、最後に利用しきるのは俺だ)

 大澱の心中にもまた、野心めいた炎が宿っていた。


(スタンドという力、スタンドを使うものを増やす術、そして……あんたの持つものを奪って――俺は、俺の思うがままに生き抜いてみせる)


【幕間:黒幕は、2人いる……End】
【And see you next episode……】


大澱とレディ・リィ、2名のスタンドについてはこの時点では伏せさせて頂きます。

ここまで読んでくださった皆様に感謝です。ありがとうございました。

次回こそ日常回、になるといいなぁ(汗)

次回以降も目を通して頂ければ幸いです。

88 ◆gdafg2vSzc:2017/02/20(月) 19:19:04 ID:eKRER34.0
【5:炎の?短期留学生】

 笹屋敷での騒動から数日後の放課後。


「失礼します」

「あ、樹野さん。ごめんなさいね。急に呼びだして」

 職員室の一角。

 沙枝は、自分のクラスの担任でもある女性英語教師の呼び出しを受けていた。

「いえ、特に用事もありませんでしたし」

「そう。樹野さんは本当に真面目で助かるわ。それに引き換え貴方のお友達は……」

「ああ、汀君……また何かやったんですか?」

「居眠り。何時もの事なんだけど」

「あはは……後で厳しく言っておきます」

 英語教師の苦笑につられ、沙枝も苦笑を浮かべつつ。

「ええっと、それで、どういった用件なんでしょうか」

 自分が呼ばれた理由を英語教師に問う。

「あ、それなんだけどね……」

「?」

 英語教師が納得のいかない様子で首を傾げながら机に置かれた書類を手にする。

「それがね、今度。うちの学校、うちのクラスで海外からの短期留学生を引き受ける事になったのよ」

「えっ……短期、留学生ですか。珍しいですね、こんな時期に」

「そうなのよね。それも短期も短期……で1、2ヶ月の予定みたいだし」

 言いながら書類を机の上にそっと置き、英語教師は小さく溜息を吐く。

「なんか変わってますね」

「そうなのよ……なんでも学校のお偉いさんの関係とか何とかでやむを得ず受け入れたみたいなんだけど」

「あ、それで、用件っていうのは」

「あ、そうそう」

 沙枝の言葉で話が脱線していたのに気付き、小さく手を打ち微笑む英語教師。

「一応学校の中とか寮とかの説明はその子にしたんだけど、良ければ詳しく案内してもらおうと思って」

「ああ……成程」

「お願いしていいかしら?」

「はい、大丈夫ですけど……」

 快く承諾しながら、職員室内をきょろきょろと見回す沙枝。

「その人は、どちらに」

「ちょっとトイレ行って来るって言ってたけど……あ、戻って来た」

 英語教師が職員室の入口に視線を向け。

 沙枝もそれに合わせて振り向き……『彼』の姿を確認する。

89 ◆gdafg2vSzc:2017/02/23(木) 10:49:23 ID:G/mKdHTA0
>>88
 目が合い、小さくお辞儀する『彼』に対して。

(なんだろう、ちょっと影がありそうな感じ? って、傷?)

 沙枝も一礼して返しながら、その見た目からそんなことを考えてしまう。


 銀髪で額を目元近くまで隠し、少し俯き加減な様子の青年。

 髪から時折覗く額には、傷跡のようなものが見え。

(触れちゃいけない、よね)

 心中で気遣いつつも、どう反応していいものか。

 少し困惑している沙枝の元に、青年は近づき……

「お待たせシマシタ、センセー。あ、こちらが先程仰られてイタ生徒会長さまデスカ?」

 沙枝が抱いた第一印象とは裏腹に、にぱ、と屈託のなさそうな笑顔を浮かべる。

「そう。改めて紹介するわね。こちらが短期留学生のネルソン君」

「ドーモ、ネルソン・P・海原(ねるそん・ふぃりっぷす・かいばら)デス。ええっと」

「あ、初めまして。私が生徒会長の樹野沙枝です」

 握手しようと差し出した沙枝の手を。
 
「Okay! 宜しくオネガイされますデスよ、沙枝!」

 両手で握り、少し強いぐらいの勢いで何度も振るネルソン。

「あ、う、うん。よろしくね、海原君」

「あぁ、ボクの事はネルソン、て呼んでもらってOKデス」

「わ、分かったわ。ネルソン君」

 初対面の相手にどこまでもフレンドリーに接してくるネルソンに。

(うわぁ……ぐいぐい来るなぁ。これが外国のフレンドシップなのかな)

 流石の沙枝も多少の戸惑いを覚えるのであった。

「と、ところで日本語上手なんですね。海原って苗字だし、ハーフだから?」

「Yes! マミィがイングランド出身です。デモ日本語は日本のアニメやボーカロイド好きで、動画見て自分でベンキョーしました!」

「そうなんだ。凄い」

「でもまだ上手クないデスよ」

「いやぁ……それだけ喋れたら十分だと思うよ」

「そ、そデスか? アリガトです」

 沙枝の言葉に恥ずかしそうに頭を掻きながらも、嬉しそうに微笑むネルソン。

「ふふっ、海原君、すっかり馴染んじゃって」
 
 打ち解ける2人の様子に英語教師もまた満足そうに微笑む。

「それじゃあ、樹野さん、お願いね」

「あ、分かりました。じゃあ行こうか、ネルソン君」

「Yes! ヨロシクお願いしますデス!」

 大袈裟なぐらいに沙枝に対して頭を下げるネルソン。

(……なんか悪かったな。影がありそうなんて思って)

 心の中で反省しつつ、沙枝はネルソンと共に職員室を後にする。

90 ◆gdafg2vSzc:2017/03/02(木) 09:36:27 ID:NKPGgjUQ0
>>89
 少し後。

 陽が傾き、薄暗くなり始めた南風市の歩道。

「本当アリガトです。沙枝のお陰でワカリ易かったデス」

「そう、ありがとう」

 沙枝とネルソンは学校を出て、学校から少し離れた場所にある男子寮に向かって歩いていた。

「デモ本当申し訳ないデス、mapもあるから場所分かるデシタが」

「ううん、どうせ私の家もこっちの方だし」

「Oh、そうでしたカ。何から何まで、感謝感激アメアラレ、デス」

「あはは、そう言ってもらえるとありがたいわ」

 笑顔を見せ、大袈裟に頭を下げて感謝の意を告げるネルソンにつられ、沙枝も笑顔を返す。 

「さ、もうちょっとで着くから」

「OK、参りまショー」

 会話を弾ませながら、寮へ向かう2人……と。


「うぇーい、そこのお2人さーん」

「ちょっといいかなー」


 通り過ぎようとしたビルの路地から、4人の男が現れ、沙枝とネルソンの行く手を塞ぐ。

 男たちは沙枝達と同じか、少し上の年齢のようであったが。

 いずれもが耳にピアスをつけていたり、髪を染めていたり、いわゆるチャラい格好をしていたりで。

(ああ……)

 私服であるため学校は特定できないものの、沙枝は彼等がどこかの高校の不良である、と確信していた。


「Why? ナンデスカ? これは?」

「……何の用ですか?」

 戸惑う様子を見せるネルソンを庇うように立ち、あからさまに嫌な顔をして不良達を睨む沙枝。

「あらららら、怖い顔〜」

「いやぁ〜、君等みたいな幸せそうなカップルから幸せ恵んで欲しくてさ〜」

 軽いノリと口調で話しながら、沙枝達を取り囲む不良。

「生憎ですけどカップルじゃありません。それに、幸せなんて恵めませんから」

 毅然とした態度と口調で沙枝が答えるも。

「あー、そうなん? でも幸せは恵んでちょーだいよぉ」

「お財布の中の諭吉さん、おひとりさまでおっけーなんだけどねぇ」

 不良達は意に介する様子も無く。

 リーダー格らしい、少し体格の良い、髪を赤く染めた男が指をボキボキと鳴らす。

「要するに、たかりなんですか? 払う気はないですけど」

「……随分と強気じゃないか、ええ?」

 沙枝の態度に、リーダー格の男の声に苛立ちが混ざり始める。

(……仕方ない、か)

 周囲を観察し、街路樹の位置を確認し。


(――リリカル・グラウンド)

 
 自身のスタンドで街路樹を操り、不良達を撃退しようと。

 沙枝がリリカル・グラウンドを背後に発現させた、刹那。


「Oh、yes! I’m understand!」

「ひゅい!?」

「な、なんだ!?」


 突如ネルソンが大声を上げ。

 沙枝が驚き、思わずスタンドを引っ込め。

 不良達もネルソンの方を注目する。


「You達の欲するコト、ワカッタデスよ」

「ちょ、ちょっと、ネルソン君?」

「な、なんだこいつ……外人か?」

 何度も頷きながら、沙枝と赤髪の不良の間に割って入るネルソン。そして。

「これでカンベン、って事デスヨネ? OK?」

「――ちょっと! ネルソン君!?」

「お、おお?」

 俯き加減でズボンのポケットから財布を取り出し。

 その中から、一万円札を取りだして赤髪不良に差し出した。

91 ◆gdafg2vSzc:2017/03/11(土) 21:04:38 ID:fgai4DCo0
>>90
「ネルソン君、ダメだって! ちょっと、聞いてる!?」

 慌てて制止しようとする沙枝だが、当のネルソンは意に介する様子もなく。

「さささ、Here you go」

「お、おう……ありがたく頂いておくぜ」

 一万円札を押し付けるように渡そうとするネルソンに戸惑いながらも。

 赤髪不良がそれを受け取る。

「ワケわかんねぇが……痛い目水に済んだな、お前等」

「Yes、暴力ヨロシクないです」

「ははっ、愉快な野郎だぜ。また困ったら頼むわ。おう、お前等、ゲーセン行くぜ」

「うぇーい」

 屈託の無い笑顔を浮かべ続けるネルソンを小馬鹿にするように小さく笑い。

 赤髪不良は仲間を引き連れ、沙枝達の進行方向と逆に去っていく。

 彼等がビルの角を曲がり、姿が消えたのを確認して。

「Fuu……良かったデスね、沙、枝……?」

 笑顔のまま沙枝の方に向き直るネルソンだったが。

 沙枝が険しい表情をしているのに気付き、言葉を失い、そして。

「良くないよ! ネルソン君!」

「Why? ナゼ怒るデスか?」

 沙枝の強い叱責に、困ったような顔で答える。

「当たり前じゃない。あんな奴等にお金渡すこと無いわよ」

「……しかし、あのままでは沙枝もボクも酷い目に遭ったかもデスよ?」

「それでも、他に遣り様はあったと思うよ。それに、あんな奴等ぐらいなら、私でもなんとかなったかもしれないし」

「Oh! マヂですか!?」

「えっ?」

 なんとかなったかもしれない、という沙枝の発言に、ネルソンは目を見開いて驚いた様子を見せた後。

「沙枝、カラテマスターなのデスか? あるいは、ニンジャ? ニンジャなのですか?」

「え、えええ……!?」

「そういったワザマエがあるから、沙枝はなんとでもなったと言われてる、違いマスカ?」

 子供のように無邪気に問いかけて来るネルソンに当惑し。

 その様子に先まで覚えていた怒りが薄れていく沙枝。

「あー、ま、まぁ、そんな感じ?」

「Wow! 素晴らしいデス!」

「でも内緒ね? 私がそんな技を持ってるのは」

 スタンドの説明も難しいと思い、適当に誤魔化す沙枝であった。

「……yes、秘密がバレたらハラキリ、デスね」

 口元に指を当て、内緒のジェスチャーをして笑うネルソン、しかし。

「But、それでもダメです」

「え?」

「沙枝が暴力振るう、それも良く無いデス……例え相手が悪者であっても、デス」

「あ……」

 哀しそうな顔で俯き、うなだれた様子を見せるネルソンを前に。

 今度は沙枝が言葉を失う。

(……優しい人なんだ、ネルソン君。ちょっと言い過ぎたかな)

 どう言葉をかけていいか分からず、暫し黙ったままの2人――だったが。


「Ooooops!!」

「ひゅい!?」


 突如、ネルソンが頭を抱え大声を上げ、思わず裏返った声を出して驚く沙枝。

「Oh、ボクとしたことが大事なモノを学校に忘れてきたデス!」

「え、ええ?」

「取りに帰るデス!」

「ちょ、ちょっと?」

 世界の終わりのような絶望した表情を沙枝に見せ、学校の方に――不良達が去って行ったのと同じ方向に走り出そうとするネルソン。

「私も行こうか?」

「No、ダイジョブデス、沙枝。今日はいろいろアリガトです! じゃまた明日デス! See you!」

 心配げに声をかける沙枝に振り返ることなく答え、走り去っていくネルソン……その姿を見送りつつ。

「……ネルソン君、なんかいろんな意味で凄いなぁ。それとも、外国ではああいうのが普通なのかな? まぁ……大変かもしれないなぁ、明日から」

 翌日からの学校生活に思いを馳せつつ、帰路につく沙枝であった。



 このとき。

 薄暗がりであったが故に、沙枝は『気付かなかった』

 そして、直に受け取ったにも関わらず、不良達には『見えていなかった』


 ネルソンが渡した一万円札。

 その全体にびっしりと、とある『文字』が刻まれていたことに。

92 ◆gdafg2vSzc:2017/03/16(木) 18:19:43 ID:E7s622Yg0
>>91

 少しのち。


「いやー、しっかし。変なヤローでしたねー」

「ガイジンさんに感謝だなー」

 赤髪不良たちはネルソンからもらった一万円札を手に、街中のゲームセンターに立ち寄っていた。

「まー、これも一種の国際交流、ってかぁ?」

「あはははは、そっすねー」

 悪びれる様子もなく、店内の両替機に一万円札を突っ込む赤髪不良……と。

「ん……」

 一万円札は、両替されることなく両替機から排出される。

「あーあー、よくあるヤツですねー」

「だな」

 一万円札に目立った折り目はついていなかったが。

 赤髪不良は両端を持ち、ぴんと張りなおし。

「こーゆーのはこうすると案外通るのな」

 裏返しにして再度両替機に投入する、が。

「あらららら……」

 再度、一万円札が返却される。

「んもぉ、ご機嫌斜めだねぇ」

 冗談交じりに笑いながら、再び札を引っ張り、投入する……が。

「チ、おいおい、なんだよ」

 何度投入口に入れ直しても、一万円札は戻ってきてしまい。

 赤髪不良の機嫌が、目に見えて悪くなっていく。

「あ、もうあっちで両替してもらいましょうよ」

 その様子を察し、取り巻きの1人がカウンターを指差し。

「そうだな……めんどくせぇが仕方ないか。すんません、これ両替してくんねぇ?」

 頭を掻きながら赤髪不良がカウンターに近づき、そこにいた『店長』と書かれた名札を胸に付けた男に一万円札を差し出す。

「あ、はい。分かりまし……」

 笑顔で札を受け取り、確認した店長の言葉が詰まる。

「おう、どうしたよ?」

「……すいません、こちら、両替できません」

「はあああぁ!? そらどういうこった!?」

 申し訳なさそうに答え一万円札を返す店長に対し。

 赤髪不良が怒りと苛立ちを露にして叫ぶ。

「どう見ても普通の札だろうがよぉ! あぁ!?」

「そ、そう言われましても……なんというか、両替できないんですよ、このお札」

「はあぁ!? 意味わかんねぇよ!」

 今にも掴みかかり、殴らんばかりの勢いで身を乗り出す赤髪不良。

 その大声に、店内の客の注目が集まり、他のスタッフが慌てて駆けつける。 

「そうなんです、私も意味が分かりません。でも……使ってはいけないと言うか、使えないと言うか」

 言葉を返す店長の表情には、赤髪不良に対する怯えがあった、が。

「だからぁ! それが意味ワカンネって言ってんだ!」

 それ以上に。

「私だって分からないんですよ!!」

「お、おぉ!?」

 この一万円札を両替『できない』、という確信はあった。

 だが、何故自分でもできないと思ったのか。その答えが分からず。

 思わず、赤髪不良に怒鳴りつけてしまう。

「……あ、す、すいません」

「チ……もういいよ、返してもらわぁ。帰るぜ」

 慌てて頭を下げる店長の手から一万円札を乱暴に奪い。

「おら、見せモンじゃねぇぞ」

 赤髪不良は、自分達を見る客やスタッフにガンを飛ばしながら、ゲーセンの外に出ていき。

 取り巻きたちがその後を金魚の糞のように着いていく……


 さらに少しのち。

「まったく、なんだってんだ」

 赤髪不良は解せない様子で一万円札を睨みながら。

 すっかり暗くなった路上を歩いていた。


 ゲーセンを出た後、コンビニ等で使おうと試みたのだが。 

 どこでもゲーセンの店長と同じ扱いを……すなわち『この一万円は使えない』と言われたのだった。


「まさか、偽札とかですかね」

「……だとしてもよ、すぐにニセモノって分かるかよ? ええ?」

 街頭の明かりに一万円札を透かして見る赤髪不良。

「透かしも入ってる、どう見ても本物っぺえが……気味悪ぃな」

 ぼやきながら、ズボンのポケットに一万円札をしわくちゃにして押し込む赤髪不良――と。


「言うとおり、ソイツは本物さ。ただ、ちょっと『細工』させてもらったけどね」

「――!?」

 背後から声をかけられ、振り返った赤髪不良達の前に現れたのは。

「随分探したよ。ねぇ、それ返してくれないかな?」

「て、てめぇ……さっきの外人野郎!」

 先に紗枝と居たときとは違い、鋭い眼光で赤髪不良を睨みつけるネルソン。

「細工だとてめぇ……よくも妙な真似をしやがって」

「仕方ないさ。ああでもしないと女の子の前で、君達みたいなクズを殴り倒さなきゃいけなくなる」

「な、な……!? こンの外人がぁ……」

 怒りに駆られた赤髪不良達は、ネルソンが『流暢な日本語』を話すことに誰一人気づいていなかった。

93 ◆gdafg2vSzc:2017/03/30(木) 10:08:38 ID:vgtuAbuk0
>>92

「ま、あの場では彼女にも何事もなかったし、うまく取り繕えたしさ。さっきの返してくれたらこの話は終わりにしといたげるよ」

「ふ、ふっざけんな! おう、お前ら!」

「うぃ〜す」

 赤髪不良の号令を受けて。

 取り巻きの不良がネルソンを囲み、睨みつける。

「あらら……大人しく返してはくれないワケね」

「たりめーだ! 変な札掴まされて馬鹿にされて、気が済むワケないだろうが! やれ!」

 怒号と共に。

 取り巻きの一人が背後から殴りかかる……が。

「おっと」

「えっ……うわあああぁ!?」

「わああぁ!」

 身を低くし、攻撃を肩の上で回避しつつ、その腕を手に取ると。

 前に居た相手にぶつけるように、背後から攻撃した不良を背負い投げるネルソン。そして。

「こ、このっ……ぐぶっ!」

 残りの取り巻き達を容易く殴り、蹴り倒していく。

「……なんだ、全然弱いじゃないか」

「て、てめぇ……」

「で、どうするんだい、君は? 下っ端に命じてやらすだけの口だけのクズかい?」

「……野郎、言わせとけば!」

 歯をむき出しにして怒りを露にしながら。

 赤髪不良が学ランの内ポケットから、バタフライナイフを取り出し。

 器用に手の中で数度回転させた後、刃をネルソンの顔に向けて突き出した。

「へ、へへっ、出た、兄貴のナイフテク(ナイフノテクニック)だ」

 地面に這い蹲る取り巻きがつぶやき、不敵に笑う、が。

「わぁーお、物騒なもの取り出してきたねぇ」

 ナイフの先端を見るネルソンには、余裕の笑みが浮かんでいる。

 それがまた赤髪不良の怒りを誘い。

「うっせぇ。笑ってられんのも今のうちだぜ、外人野郎! 刺されたくなかったら、有り金全部置いていきやがれ! 細工とやら無しのをよぉ!」

 ナイフの先をぐ、と更にネルソンの顔に近づける――

「駄目だなぁ、そういうの」

「うるせぇ! 本気にさせたてめぇが悪いんだよ」

「あー、違う違う、そうじゃなくて、さ」

「?」


――ズォン。

 ネルソンの言葉に首を傾げる赤髪不良には、見えていない。

 ネルソンの右肩から現れた、灰色と薄紫色の腕が。

 そして、その指先が、バタフライナイフを刃を挟むようにつまんだ、瞬間。


「やるんなら、そういう口上を言わずにサクっとやるもんだよ。でないと」

(やれ…… 『403―Forbidden(ヨンマルサン・フォービドゥン)』)


 ずぞぞぞぞぞ……

 ネルソンのスタンド、403―Forbiddenの指先から。

 「403―Forbidden」の文字がナイフに流れ込み。

 ミミズのようにのたうちながらナイフを包み込み。

「でないと、さっきみたく細工する時間を相手に与えちゃうから、さ」

「な!?」

 やがて整列し、ナイフにその身を刻み込み、動かなくなる。

「さ、細工だと、なにをし……って、おいいいぃ!?」

 赤髪不良がその意味を問う、それより早く。

 ネルソンが、ナイフの刃を右手で握り、力任せに奪い取ろうとする。

「なにしてんだ、てめええぇ!?」

「見てのとおり、ナイフを奪おうとしてるんだけど?」

「ば、馬鹿かおめぇ、そんな事したら指が」

 突然の行動に狼狽する赤髪不良に。

「キレテナーイ」

「へ? ええ!?」

 無傷の掌を見せて、おどけて笑ってみせるネルソン。

 赤髪不良が驚き、動きを止めた、直後――

「ほぶうぅ!」

 ネルソンの左の拳が、赤髪不良の顔面に飛んだ。

94 ◆gdafg2vSzc:2017/04/06(木) 22:20:33 ID:pLG1SAmc0
>>93
「お、おぐうううぅ……」

 拳を受け、地面に膝から崩れ落ち。

 鼻血で濡れる顔を押さえ、赤髪不良は地面に転がる。

「ね? さっさと刺せばよかったのに。ま、もっとも」

 笑って――というより嘲笑するような目つきで話しながら。

 ネルソンは奪い取ったバタフライナイフを、自分の手の中で赤髪不良より起用に、素早く回転させ。

「刺して来てたら、殺(や)っちゃったかもしれないけどねー」

 赤髪不良の頭元にしゃがみ、髪の毛を左手で掴んで顔を無理矢理上げると。

「――ひ」

 ナイフの刃先を、赤髪不良の目に近づける。

「や、やめてくれ! 悪かった、悪かったからぁ!」

「じゃあ返してよ、さっきの一万円」

「わ、分かった。返す、返すからぁ、やめてくれってぇ!」

 先までの威勢は何処へやら……半ベソをかきながら何度も頷き。

 ポケットからしわくちゃになった一万円札を差し出す赤髪不良。

「あーあ、こんなにしちゃってさ。まぁいいか。使えるしさ」

「……あ、あああ」

 シワシワになった一万円札を引っ張りながら苦笑するネルソンを。

 怯えた表情で見る不良達。

「お、おまえ、なんなんだ。何者なんだ」

「ボクぅ? 唯の外人デース」 

 赤髪不良の問いに、沙枝と一緒に居たときのようにカタコトで話して、おどけ笑うネルソン。

「そ、そんなワケが」

「世の中にはね、知らなくていい事もあるんだよ。OK?」

「……う、うぅ」

 その言動と態度の中に見え隠れする『凄み』に気圧され。

 不良達は萎縮し、言葉に詰まる。

「ま、用がなければこれで帰らせてもらうね」

 無言の不良達に背を向けて、立ち去ろうとするネルソン――

「あ、そうそう、忘れてた。これ返すよ」

 振り返りざまに、刃の収納されきっていないバタフライナイフを。

 赤髪不良に軽く投げて返す……瞬間。

(解除だ)

 刻まれていた「403―Forbidden」の文字が消失し。

「え、あっ……」

 何が投げられたか見えなかった赤髪不良が反射的に差し出した掌に、刃が向き――



「ぎゃあああぁあす!」

「あ、兄貴ぃー!」



(あーあ、運が悪かったね。思いっきり握ってなきゃいいけど)

 赤髪不良の悲鳴を背中で聞きながら、気味良さげに小さく笑うネルソン。

(スタンドを使うまでもなかったけど……まぁいいか。これから嫌でも使う機会は増えるし)

 足早に寮の近く……先に沙枝と別れた辺りまで戻ってくると。

(ウォーミングアップさ。それにしても……)

 ネルソンは沙枝の姿を探し、周囲を窺う。

(流石にもう帰ってる、か。しかし驚いたね。彼女もスタンド使いとは、ね) 


 ネルソンには、沙枝のリリカル・グラウンドが見えていた。

 だからこそ、あの場で事態を収束させる為に一万円を差し出した訳だが。


(沙枝はボクがスタンド使いだって気付いた、かな? 事によっては……)

 一瞬、深刻そうに眉を潜めるネルソン。しかし。

 すぐにひゅう、と楽しげに口笛を鳴らす。


(まぁいいさ。それはそれで楽しくなりそうだし……ね。それに、まずは『目的』を果たさないと)


 心の中に己の本性と目的を隠し、現れた留学生、ネルソン。

 彼の登場によって、汀達を包む運命も加速していく――


ネルソン・P・海原:
スタンド名《403―Forbidden(ヨンマルサン・フォービドゥン)》
翌日より海鳴高校に通学。本人言うところの「目的」は現在不明。
なお、沙枝にはスタンドはバレていない模様。


【5:炎の?短期留学生……END】
【And see you next episode……】

95 ◆gdafg2vSzc:2017/04/06(木) 22:21:45 ID:pLG1SAmc0
>>94
【5話:初登場オリスタ】

No4375
【スタンド名】  403-Forbidden(ヨンマルサン・フォービドゥン)
【本体】 人体実験の末、スタンドを得た青年:ネルソン・P・海原
高校生になった現在もその研究所に情報を提供している
【タイプ】 近距離型
【特徴】 403が体中に書かれた人型
【能力】 触れたものを『使用不可』に出来る
・拳銃に触れれば使用禁止となり発砲できず、椅子に触れれば座ることができなくなる
・使用禁止となった対象には「403 - Forbidden」と刻まれる

破壊力-A スピード-A 射程距離-E
持続力-B 精密動作性-B 成長性-B

人体実験の末、という点から「ある組織」との関連づけて使えるかな、と思って採用させていただきました。
ここんとこ、多少設定変わるかもしれませんですが(汗)
この作中での能力解釈として使用不可にできるのは1度に1つ、とさせていただきます。
一万円札は使用不能になったがゆえに貨幣として両替や買い物に使えなくなったという認識でしたが……今にして思えば拡大解釈過ぎたか?

さて、彼が汀たちとどう関わるのか。考えては居ますが予定は未定です。

ここまで読んでくださった皆様に感謝です。ありがとうございました。
次回以降も目を通して頂ければ幸いです。
そろそろ剣呑に……なっていくんだろうか(汗)

96 ◆gdafg2vSzc:2017/04/27(木) 17:13:04 ID:skJ7OSfE0
――ネルソンが、沙枝と出会ったその日の深夜。

 市内、ある屋敷の広間。


「彼等が、君が呼んだ腕の立つ者達、と言うわけか。レディ・リィ」

「ええ、その通りよぉ」


 細長い部屋に合わせて誂えられたテーブルを挟み、大澱とレディ・リィと向かい合う者達の人影。

 年齢・性別はさまざまであり、彼等同士は初対面の相手も多かったのだが。

 皆がレディ・リィの号令によって呼ばれた裏世界の住人達であり――その全員がスタンドを得ていた。


 その数は6人。


……実際に呼ばれたのは8人だったのだが、レディ・リィ言うところの『魔法の水』に適さず死んだ者が2人いた。

 彼等は現在、南風港で魚の餌になっている筈である。


「なるほどな……」

 レディ・リィの仲間達の顔をゆっくり、順番に眺めていく大澱――と。

「……ねぇ、リィさん。横にいるその男は誰?」

 大澱と目が合った仲間の一人が、軽い口調でレディ・リィに問う。

「うふふ、今のパートナーよぉ、仕事の上での、ね」

「ふーん」

「余計な詮索は無駄よぉ」

「ははっ、そうだね」

 レディ・リィ自身は、この時点で大澱の事については名前すら仲間には語っていなかった。

 それは、彼等が大澱の素性を知り良からぬ事を企まない様にする為であり。

 また、彼等の口から大澱との接点を知られない様にする為でもあった。

「ま、ともかく……せっかく呼んだ上に一部の人には勝手にスタンドなんか与えちゃって悪いけどぉ」

 悪びれる様子もなく、仲間達に微笑むレディ・リィ。

「説明した通り、皆には基本的に私とパートナーの護衛をお願いするわぁ。まぁ、個別に動いてもらうこともあるかもだけどぉ」

「……心得た」

 先にレディ・リィに質問した者と別の者が小さく頷き。

 他の者達も賛同の意を言葉や態度に出していく……が。


「悪いが、気に入らないなぁ。レディ・リィよぉ……!」


 仲間の一人、壁にもたれ掛かっていた男が声を荒げ。

 不機嫌そうな表情ですぐ傍の椅子を蹴り倒し。

 全員の注目が男に向いた。

「あらぁ、何が気に入らないのかしらぁ?」

「スタンド、って言ったかぁ? こんなステキな力を貰っといて護衛とかやってらんねぇって言ってんだよ」

 反発する男に対して、余裕を伺わせつつ妖艶に笑うレディ・リィ。

「そぉねぇ……確か貴方は、激しいのが好きだものねぇ。じゃあ」

 くすくすと笑いながら、レディ・リィが大澱に寄り添い。

「ごめんなさいねぇ、これ、ちょっと借りるわぁ」

「お、おい?」

 戸惑う大澱の耳元で小さく囁き、息を吹きかけながら。

 大澱の服の内ポケットから、数枚の写真を取り出した。

97名無しのスタンド使い:2017/05/07(日) 22:47:11 ID:8DlL5YlI0
コンスタント更新乙です
どんどん話が広がってきましたね!
正統派な学園ヒーローっぽいノリがすてき

今後も期待してまっす

98 ◆gdafg2vSzc:2017/05/08(月) 17:35:15 ID:Sr60QdRE0
>>97
呼んでくださりありがとうございます。

大風呂敷にならない様に気をつけたいとは思います(汗)
第4部のノリが好きなのでヤバくなりつつもどこか緩い日常も書きたいと思います。
今後もよろしくお願いします。

99 ◆gdafg2vSzc:2017/05/08(月) 18:28:39 ID:Sr60QdRE0
>>96
 写真に写っているのは『通学路を歩く汀、ルイ、沙枝』といった顔ぶれを含む男女たち。

 汀達の様に一枚に複数の人物が写っているものもあれば、一人だけが写るものもあるが。

 共通して、被写体となった人物達は、撮影者の存在に気付いていない様子であった。

 そして、写真の右角にはそれぞれ赤、黄、青色の小さく丸いシールが貼ってあり。

 レディ・リィはその中から赤と黄のシールが貼ってある写真を男に差し出した。

「はぁい、これどうぞ」

「……こいつらは?」

 片手で乱暴に写真をレディ・リィから受け取り、まじまじと見つめる男。

「んふっ。そこに写ってる人たちはね、私達にとって邪魔になる、またはなるかもしれない人達なのよ〜」

「ほぉ……」

「赤いシールが貼ってるのは敵と看做していい人達、黄色は要注意ってところかしらねぇ。素性についてはまだ調査中の人もいるけど」

「なるほどな。分かったぜ、レディ・リィ」

 写真を懐に収めながら、楽しそうに、いやらしい笑みを浮かべる男。

 汀達の写真には……赤いシールが貼ってあった。

「こいつらを『好きにして』いいってこったな」

「その通りよぉ。できれば、隠密にがいいけどぉ……そこはお任せするわぁ。あと、そいつらみんなスタンド使いだからぁ、気をつけてねぇ」 

「ははははは! 面白ぇ! 危険は多いほど面白いってもんだぁ!」

 心から満足そうに笑い、手を強く打ち。

「そうでなくっちゃな。じゃあ、俺は早速動かせてもらうぜ!」

「ええ、頑張ってねぇ」

 レディ・リィの言葉を聞き終える間もなく、部屋を飛び出していく。そして。

「さぁ、他のみんなも一旦解散よぉ。お疲れでしょうし、今日はゆっくり寛いでねぇ」

「……御意」

「わかった。Thanx、レディ・リィ」

 他の面々も、レディ・リィの言葉を受けて各々部屋を後にする。



 2人だけが残った部屋の中。

「……なぁ、レディ・リィ。何者なんだ、あいつは」

 渋い表情で問う大澱に対し。

「あんたの仲間だ。どうせ碌な連中じゃないとは思うが」

「そういう詮索はぁ、裏(こっち)の世界ではタブーよぉ」

 子供を諌めるようにその頭を撫で、人指し指の腹で大澱の口を塞ぎ、耳元で小声で囁くレディ・リィ。

「ま、大澱さんは仲間だしぃ。今回は特別に教えてあげるわぁ。彼はねぇ――」

「――!」

 レディ・リィの説明を聞いた大澱の表情が強張っていく。

「……大丈夫なのか? そんな『危険すぎる』奴を」

「大丈夫よぉ。万が一の時は私が責任を負うわぁ」

「そうか、なら大丈夫だな」

(どうだかな)

 苦笑しつつ、大澱は考える。

 レディ・リィが呼んだ者達が、いつ自分に対する『刺客』になるかもしれない、と。

 そして、彼女のコネ次第ではその数はいくらでも増えうると。

(こちらにも俺だけの部下はいるが……やはり仲間にできそうな者を引き込むべきか)

「どうしたのぉ、大澱さん。難しい顔してぇ」

「……ああ、考え事さ。済まない、少し疲れてるんで休ませてもらう」

「あらそぉ……じゃ、おやすみなさい」

「ああ」

 妖艶に笑って手を振るレディ・リィに笑って返し、部屋を出る大澱……

「ふふっ……」

 その背を見送り、また楽しそうに微笑むレディ・リィ……



 裏舞台でも、静かに事が加速しつつあった……だが。

100 ◆gdafg2vSzc:2017/05/25(木) 17:07:33 ID:Yfvuf9OE0
【6 夜回りに行こう】

 数日後、昼。

 海鳴高校、食堂。


「くわああぁ〜」

 食事を終えた汀が大欠伸をかまし。

「こら、みっともないでしょ」

 沙枝が呆れ顔でたしなる。


……裏舞台での事の加速など、自分達が狙われている事も知る由もなく。

 汀達は、一応普通の高校生活を送っていた。


「聞いたわよ、また授業中に居眠りしてたって?」

「仕方ないじゃんかよー」

 沙枝の言葉に悪びれる様子もなく、頭を掻き毟る汀。

「昨日の夜の火事、ウチの近くでよ……」

「あ、そうだったんだ。じゃあ大変だったんじゃない?」

「そーそーそー、分かってくれるか、ルイ。消防車のサイレンで目ぇ覚めるし明け方までうるさくてよぉ。寝れないっての」

「ああー、それじゃ仕方ないよ」

 同情するように頷いて、沙枝の方に目を向けるルイだが。

「まぁ昨日は仕方ないにしても、普段から夜更かししてるみたいじゃない」

「ぎく」

「え……」

 沙枝の冷たい視線と指摘に、笑いつつも顔をこわばらせる汀。

「し、仕方ないんだよ。だって買ったばかりの『オリスタ★オールスターズ』の新作が面白すぎて」

「結局ゲームやってんじゃない……まったく。ちょっとは早く寝なさいよ?」

「ま、まぁ……あんまりやりすぎも良くないよ。それにしても……最近多いよね、火事」

「ああ……」

 ルイがぽつりと呟いた言葉に、汀と沙枝が頷きつつ、顔を曇らせる。


……10日ほど前から。

 南風市内で、相次いで火災が発生していた。

 夜であること以外にその時間帯は決まっておらず。

 火災の対象となっているのは一戸建ての家屋やアパート、駐車場に停められた車など様々であったが。

 消防の、そして汀達の聞き及ぶ話ではいずれも『放火』の可能性が高く。

 恐らくは同一人物の犯行であろう、という事であった。


「放火か……物騒だよな」

「うん。僕の家でも母さんとか怖がってるし」

 これまでの火災において、まだ死者が出ていないのがせめてもの救いではあるが。

「なんか腹立つよな、こういうの」

 ぱん、と自らの左の掌を拳で打ち、怒りを見せる汀。

「……汀君、雨月君。まさかとは思うけど、その犯人……『スタンド使い』って事はないよね?」

「あ? ああ、どうなんだろうな」

「確証はないよね……」

 不安げに言った沙枝の言葉に反応するものの、確かめる手段はなく。 

 首を傾げるしかない汀とルイ。

「けれど、放ってはおけないよね」

「まー、捕まえるなりして確かめるしか手はないだろうけどなぁ……」

 飲みかけのバナナオ・レの紙パックに手を伸ばし、残りを一気に飲み干し。

「夜中だろ……俺はともかくルイや沙枝は流石に派手に出歩き回るのもなぁ」

 くしゃ、と手の中で握り潰しながら、苦笑する。

「ああ、確かにね」
 
「私は洵子おばさんに気付かれなければ大丈夫かもしれないけど……」

「僕もなんか理由付けがあれば、まだいけるかも知れないけど……抜け出しちゃおうかな」

 良いアイデアもなく、困り顔で向き合う3人、と。


「ふふふふふ、話は聞かせてもらった! ッスよー」

「うわ!? ああ、沼か」

 汀の背後から、沼田が笑みを浮かべて現れた。

101 ◆gdafg2vSzc:2017/06/04(日) 16:58:53 ID:XIUptxrU0
>>100
「聞かせてもらった、っていつから聞いてたんだよ、オメー」

「火事が多いってルイが言ってたとこからッス」

 笑いながら汀とルイの間に割って入る沼田。

「んで、夜中に動きが取れないって話だったッスよねー」

「うん……なんか上手い口実が無いかなって……」

「ふふふ、その口実、なんとかできる方法があるかもしれないッスよ」

 困り顔のルイの肩を小さく叩きな。

 少し大げさに笑って見せながら、自身ありげに沼田が告げる。

「え……」

「マジかよ、沼」

「本当に?」

 藁にも縋る、そんな思いと目つきで汀達が沼田を見る。

「なんなんだ、沼、その方法って」

「んー、いや、そんなに期待されても困るんスけども……」

 と言いつつも期待されているのがまんざらでもない様子で照れ笑いを浮かべ。

 沼田が制服のポケットから、折りたたんだプリントを取り出しテーブルに拡げる。

「職員室の前に置いてあったヤツ、貰ってきただけなんスけどね」

「これって……」

 その文面を確認した汀達が、互いに顔を見合わせた……




 翌日の夜。

 汀の住む地域の町内会の集会所。


「あら〜、カズくん、似合ってるわよ〜」

「本当ねぇ〜」

「あ、ああ、ども」

 汀を小さい頃から知る近所のおばちゃん達に声をかけられ、照れ臭そうに会釈する汀。

「……くっそ、弄られるの忘れてたわ。ちょっと恥ずかしくなってきたぞ、これ」

「私も言われたわ……まぁ、仕方ないわね、こればっかりは」

「仕方ねぇ、か。ま、これでスタンド使いを探せるし、評価にも影響するし」

「けど本当似合ってるよ、汀君。かっこいいよ」

 おばちゃん達のフレンドリー口撃に苦笑しあう汀達。

 その身には、同じ町内の消防団の法被が羽織られていた。



 連日の火事ということもあり。

 周辺の町内会では消防団などによる自主的な巡回……いわゆる「夜回り」が行われていたのだが。

「……ボランティアとして、参加協力ねぇ」

 南風市内の高校各所で、ボランティア活動の一環として夜回りに協力する生徒を募集していたのである。

「成程ね、これならいい理由付けになるわね」

「うん。いいと思うよ。沼田君、よく見つけて気付いてくれたよね」

「いやー、それほどでもないッスよー。ね、これならいいっしょ、兄貴」

「……ああ。そうだな。学校公認だし、それに」

「それに?」

 汀は。

 プリントの最後の方に書かれている一文に注目していた。

「ボランティア参加だから単位や内申書にも影響するみたいだしな! お得じゃんか!」

 ぐ、と拳を握り満面の笑みを浮かべる汀を。

「……普段から真面目にしなさいよ、って話よね」

「……まぁ、汀君らしいよね」

 呆れ、溜息を吐きながら見る沙枝であった。



 さておき。

「まぁ……犯人が見つかればいいんだけどな」

「そうッスね……」

「……ところで」

 沼田と話をしながら、かしましく話を続けるおばちゃん達のグループを横目で見る汀。

「沙枝、アイツが参加するって聞いてたか?」

「ううん、全然。何時の間に応募してたのかしら」

 ルイ達も汀の視線の先に顔を向ける。


 そこには。

「あららぁ、外人さんに法被って結構似合うわね〜」

「クール、ってやつかしら」

「Oh、マジですか? 法被でHappyデスね!」

「やだぁ、英語のシャレ〜」

 法被を羽織り、嬉しそうに笑うネルソンの姿があった。

 その顔が汀達の方を向き。

「Oh! 沙枝! 皆サマ! コンバンハです!」

「こ、こんばんは」

 沙枝の存在に気付いたネルソンが、小走りに駆け寄ってくる。

102 ◆gdafg2vSzc:2017/06/17(土) 18:49:35 ID:A5OOEJfg0
>>101
「改めてコンバンハです! 皆様!」

「お、おう」

「相変わらず元気て言うか、明るいッスねー」

 ネルソンの勢いに気圧され、思わず引く汀と沼田……

 ネルソンが沙枝と出会った翌日、沙枝を介して汀達とは顔を合わせ。

 普通に会話する程度には面識は出来ていたのである。

「と、ところで。ネルソン君、なんでここに?」

 一同の疑問を、沙枝が代表して問いかけ。

「それはデスね、学校の先生様に日本のtraditionalな文化を体験したい、言ったら紹介してくれたデスよ」

「成程ねぇ」

「この衣装もcoolで良いデス」

「あはは、良かったね、ネルソン君」

 法被の両側の袖を指で掴み、腕を伸ばして嬉しそうに、子供のように跳ねるネルソン。

 その様子に、沙枝やルイの顔に笑みが零れる、が。

「見回り、一緒のgroupになったらヨロシクですよ、皆様」

「ああ……よろしくな」

 一人、微妙な表情でネルソンを見る汀。

 その背後で、デジカメや携帯を手にしたおばちゃん達がネルソンを手招きし。

「はい、ヨロシクです! っと、呼ばれてるデスね。一旦オサラバですー」

 おばちゃん達の方に笑顔で駆けていくネルソン。

「いやー、本当フレンドリーッスねぇ」

「本当だね……裏表なさそうだし」

 おばちゃん達のリクエストに応えポーズを取るネルソンを遠めに見ながら話すルイと沼田。

 その会話を聞きながら。

「……どうだろうな」
(よう分からんが……なんか気になるぜ)

 汀がぽつりと呟いた言葉は、幸か不幸か、ルイ達には聞こえていなかった。



 少しのち、午後8時を少し過ぎた頃。

「はい、それでは皆さん、よろしくお願いしますー」

「はーい」

 グループ分けが終わり、各々が夜の街へと繰り出していく。

 巡回だけでなく、通行人等への声かけや防災意識の向上を目的をしたチラシの配布も目的であり。

「結構量あるのな……」

 汀が渡されたチラシを面倒くさそうに数え。

「もぉ、そんな顔しないの……まぁ、配れるだけでいいみたいだし。頑張りましょ」

 同じグループになった沙枝が苦笑する。

 そして。

「んじゃ、そっちはそっちで頼んだぞ」

「ういッス」

「何かあったらすぐ連絡するね」

 ルイと沼田が別のグループとして行動する事となった……

「あ、あと……アレの面倒もな」 

「う、うん……」

「だ、大丈夫と思うッスけどね」

「What? 何のハナシしてるデスか?」

 ちなみに……ネルソンもルイ達と一緒である。

「あー、いや、がんばれって話よ」

「Thanx、カズ! 頑張るデス! さー、みなさん、Let’s Go!」

「お、おー」

 拳を掲げ声を上げるネルソンのテンションにやや引きつつ、合わせて手を上げるルイ。

「じゃ、お先にデス!」

「やれやれ……賑やかなこって」

 ネルソン達のグループが先に集会所を出て行くのを見送り。

「んじゃ、俺達も行きますかね」

「そうね……みなさん、よろしくお願いします」

 沙枝が同じグループになった他の者達に一礼し、他の者もそれに応え会釈し。


 汀達の夜回りが始まった。

103 ◆gdafg2vSzc:2017/06/29(木) 15:25:58 ID:rN858cLk0
>>102
「すいませーん、火の用心の巡回でーす、どうぞー」

「……ん」

 眼鏡をかけた女子からチラシを差し出され。

 角刈りの若者……油谷(あぶらだに)は女子……沙枝の顔をろくに見ずに手だけ差し出してチラシを受け取る。

 チラシには最近不審火が相次いでいること、防火・防災の意識を高める手書きのメッセージが、子供の描いたイラストと共に書かれて居て。

「あーい、巡回ですよっと」

「汀君、もっと真面目にやりなさいよ」

 油谷は手にしたチラシと、それを渡してくれた沙枝の姿を交互に見、その姿が遠ざかったのを確認した後。

(……くだらねぇ)

 ぐしゃ、とチラシを手の中で握り締める。

(凡人にゃわかんねぇんだろぉな、炎の素晴らしさが……よ)



 油谷が初めて炎の素晴らしさを知ったのは、物事も良く分からないぐらいに幼い頃。

 両親がテレビで見ていたアメリカの映画である。

 人々の思惑や欲望の愚かさや、懸命に火災に挑む人間のドラマが主題であったその映画だったが……

 
 幼い油谷は、ビルを焼き、人間達の襲い掛かる紅蓮の魔物――炎を。

 恐ろしくも、力強く、そして、美しいと思った。


 以来、油谷は魔物に――炎に魅了された。

 父親のライターを勝手に持ち出しては紙袋、枯れた草、蝶の死骸……色々な物に火をつけて、その様を楽しんだ。

 もちろん、幼い子供のやる事ゆえ、すぐにばれてこっぴどく怒られたりもしたのだが。

 怒られ、ダメと言われれば言われるほど、炎に対する愛着は激しい物となった。


 そして。

 油谷は出来るだけばれないよう、自分の仕業と分からぬように火付けを続けた。

 成長するに従い、その頻度は落ちて言ったものの。

 その規模は……廃屋や空き地の草むら全体だったりと、大きなものに変わっていった。

 どれだけストレスを溜めていても、激しく燃え盛る炎を見れば、心が晴れた。

 自分がダメな事をやっている、そう思ってはいても、いや、思っているからこそ。

 炎を自らの手でつける快感、炎がいろんな物を焼き喰らう様を眺める恍惚感は、言い様の無いものであった。


 できれば、もっともっと自分の手で作り上げた炎で自分の心を満たしたい。毎日のように。

 そうは思っていても、そんな事は出来るはずもないと、油谷は思っていた。


 数日前、妙な男に顔に霧吹きで妙に甘い匂いのする液体を吹きかけられるまで。


(夜回りか、面白いじゃあないか)

 ククク、と小さく肩を震わせて笑う油谷。

(大勢の目を欺いて、大勢の目の前で派手に炎を上げるとか、最高じゃん?)

 自身に与えられた力を過信してか、気は大きくなっていた。

(やってやらぁな。今日は大物をよぉ!)


「……ククク、ク、クハハハッ」


 笑う油谷の手の中で。

 火種も無いのに、チラシが燃え始める――

104 ◆gdafg2vSzc:2017/07/13(木) 21:22:28 ID:Q01YaxCk0
>>103
 巡回開始から1時間程後、時計の針が午後9時を過ぎた頃。

 汀と沙枝は2人で巡回を続けていた、のだが。


「……ええ、知らんかった。取り壊すのかよ、ここ」


 中心街から少し離れた住宅街の中にある小学校の前で、汀は足を止めていた。

 この小学校は汀達が通っていた、思い出の学校であり。

「だいぶ前から新聞にも書いてたよ?」

「新聞はテレビ欄と4コマしか見てねぇから」

「もぉ……汀君らしいけどさ」

「それによ、卒業してからはあんまこっち来なかったし……」

 2人が見ているのは、老朽化に伴う木造校舎部分の解体取り壊しのお知らせの看板であった。
 
「懐かしいよな、よくイタズラとかしてたっけな」

「そう言えばよく先生に怒られてたよねー、昔っから悪かったよねー」

「沙枝も昔っからクッソ真面目だったよなー」

 少し嫌味っぽくニヤニヤ笑う沙枝に、笑い返す汀。

「ま、いいや。見回り続けようぜ」

「うん」

 そのまま小学校を通り過ぎようとした2人……だったが。

「……ん?」

「沙枝、どうした?」

「ん、いや、なんかあっちに誰か居るみたい」

 沙枝が足を止め、闇の向こう、木造校舎のほうに目を凝らす――と。


 ぽぉっ。

「――!」

「おいおいおい……」

 木造校舎の傍で、小さく明かりが灯る。

 その光源は懐中電灯等の様な明らかに人工的なものでなく。

 そして、光源は人の手によって握られていて。

「ちょっと! 何してるんですか!?」

「お、おい、沙枝!」

 正義感と怒りで大きな声を上げながら、汀より先に人影に駆け寄っていく沙枝。

「……ッチ」

 沙枝の接近に気付いた人影は、小さく舌打ちをすると……

 手にしていたガスライターを地面に投げ捨て、木造校舎の裏に逃げていく。

「あ、ちょっと! 待ちなさい!」

「おい、沙枝! ちょっと待てって……」

 沙枝が走るスピードを速め、汀がその後ろを追いかけ。


 沙枝が火のついたままのライターを一瞥し、その横を通過する瞬間――ぞっ。

(!?)

 汀の背筋を、嫌な予感が走り。

「沙枝ぇ! なんかやばい! ライターから離れろぉ!」

「え!?」

 叫んだ瞬間。


(くらえぇ! 《アーケイド・ファイア》ぁー!)


 校舎の影から様子を伺っていた人影――油谷が念じた瞬間。


 ごおおおおぉ!!

「きゃああああぁー!」

「沙枝ぇ!?」

 ライターの炎が大きく燃え上がり。

 そこから現れた全身を紅く、炎のような鱗で包まれた魚が、炎を身に纏ったまま沙枝に襲い掛かる――

105 ◆gdafg2vSzc:2017/07/27(木) 12:13:10 ID:3snE0vJo0
>>104
――直前。

「《リリカル・グラウンド》!」

 ジュリィン!

 沙枝のスタンド、リリカル・グラウンドが炎の魚と沙枝の間に現れ。

 裏拳で炎の魚を迎撃し、地面に叩きつける。

『うおぉ!?』

 ダメージがあったのか、炎の魚から声が聞こえ。

 地面に炎を広げながら、陸に打ち上げられた普通の魚のように跳ねる、が。

「――熱ッ!」

「沙枝、大丈夫か!?」

「う、うん……大丈夫。でも」

 熱気によって、赤くなった右手の甲を駆け寄る汀に見せる沙枝。

 沙枝も、スタンド越しに魚の纏った炎の熱気を受けていた。

「スタンド……しかも普通の火じゃなく、スタンドにもダメージが与えられる」

「厄介だな……」

 少し離れた場所で、炎の魚を観察する2人。

 汀も自らのスタンド、ギア・チェンジャーを展開する……と。

『な、なんだよぉ。貴様らも、その、スタンド、だっけか? 使うのかよ』

 炎の魚が、汀達を見ながら……喋る。

「ああ……てめぇ、放火魔だな?」

 指をポキポキ鳴らしつつ、炎の魚に慎重に近づいていく汀。

『だったら、どうする?』

「決まってら……ブチのめす!」

「気をつけて! 汀君!」

 先の沙枝を襲った動きから、体当たりしか攻撃の手がないと思い。

 一気に走り出し、炎の魚との間合いをつめる汀……だが。

『《アーケイド・ファイア》ぁ!』

「!?」

 炎の魚――アーケイド・ファイアの口から。

 水鉄砲のように液体がギア・チェンジャーに向けて吐き出された。そう汀が認識した瞬間。

「うあああぁ!?」

「汀君!?」

 ごおおおぉ……

 液体――スタンド油を伝い、空中を炎が走り。

 ギア・チェンジャーを、そして本体である汀の体を炎が包む。

 その炎自体は小さいものであったが。

「くっそぉ! あ、あっぢぃ!」

「汀君!」

 慌てて地面を転がり、体の炎を消す汀とギア・チェンジャー。

 羽織っていた法被が焦げ、繊維の燃える嫌な臭いが汀の鼻をつく。

「こ、この野郎っ!」

『はは、ざまぁだ! 放火の邪魔をするからだよ!』

 アーケイド・ファイアを通し様子を見ていた油谷が、小気味よさげな笑いを上げ。

『邪魔するんなら追ってきな! 楽しくなってきたぜぇ!』

 地面に油を吐き、出来上がった燃える炎の道を素早く泳ぎながら。

「く、野郎! 待て!」

 木造校舎の入り口の方に泳いでいき、その中に姿を消す。

「だ、大丈夫?」

「ああ……」

「どうするの? 汀君?」

「当然、ブチのめす。ほっといたら野郎、この校舎燃やす気だろうしな」

 木造校舎の入り口を睨みつつ、汀はズボンのポケットから、少し世代の古い黒いガラケーを取り出し。

「ルイは呼んどく。だが、先に突入はする。ああ、ルイか?」

 ガラケーを耳にあてながら、早足で校舎に向かっていく。その後を。

「炎……私のリリカル・グラウンドの能力とは相性が悪いかも、でも、やるしかないわね」

 不安を覚えつつ、沙枝が追っていく――



 少し離れた街中。

「え!? 本当に!? 分かった! できるだけ急ぐよ! 気をつけてね!」

 汀からの連絡を受けたルイが、最新の型のスマホをポケットに押し込む。

 ルイのグループは巡回を終え、集会場まで戻っていた。

「すいません、皆さん。僕、これで失礼します!」

「あら〜? 涙君、お茶用意したのに?」

「ごめんなさい、ちょっと急用です」

「仕方ないわね〜、気をつけて帰ってね〜」

「はい、ありがとうございます!」

 巡回を終えた人達にお茶や茶菓子を配るおばちゃん達にそこそこに挨拶をして。

 ルイは急いで小学校へと向かう。

 その姿を見ながら。

(……何かあったみたいだね)

 ネルソンが手にしていた一口饅頭を口に押し込むと。

(どうやら、彼や彼の仲間、たとえば沙枝もスタンド使いのようだし)
 
 誰にも声をかけることなく、そっと集会場を出て……ルイの後を追う。

(さぁて。どんな事になるのやら)

106 ◆gdafg2vSzc:2017/08/17(木) 10:41:12 ID:4w7p/tBk0
>>105
「さぁて、と」

 ルイへの連絡を終えた後。

 木造校舎の入口、木製の靴箱に身を隠しつつ奥を覗き込みながら。

「大丈夫そうだ、沙枝」

「うん……」

 汀と沙枝は慎重に、校舎内へ侵入していく。

 靴箱の陰から頭を出し、消していた懐中電灯の光を廊下に照らし。

 放火魔……油谷の姿が無いのを確認する。

「上に行ったのか、1階のどっかに潜んでるのか……っと」

 ぎしっ――汀が踏み出した先の廊下の床板が大きく軋み、沈む。

 その音は、静寂に包まれた校舎内で、妙に大きく感じられた。

「厄介だな。音で接近が気付かれるかも知れん」

「でも、相手も下手に動けないかもしれないわね」

「だな……さて」

 自分達以外の人の気配を1階に感じず。

 汀は懐中電灯で廊下の先――昇降口から見て南北に伸びている――を照らし。

「階段は両側にあったが……どうしたもんかね」

 思案するように首を傾げ、頭を掻く。



 その頃。

「ククク、上がって来いよ」

 油谷は2階の教室の一室、入口に近い場所に身を潜め、予備のライターを握り締め。

 時折、頭を出して廊下の様子を伺いながら、汀達を待っていた。

 2階の廊下にはアーケイド・ファイアによって吐き出されたスタンド油が導線のように張り巡らされていて。

 自分の居る場所から、即時に攻撃を仕掛けられるように細工していた。

「それとも、ビビって逃げたか? 応援でも呼びに? まぁ、それでもいいさ」

 それならそれで、人が離れた間に校舎に火を着けれる。

「ああ、堪らんだろなぁ……」

 燃え盛る校舎の姿を想像し、少し興奮を覚える油谷……その耳に。


 ぎしっ、ぎいいっ。


(……来たか!?)

 床板の軋む音が聞こえてきて。

 油谷はそっと頭を教室の外に出す。

(ククク、丸分かりだぜ……)

 南側の階段、その下側から照らし出す懐中電灯の明かりが見え。

 ぎしぃ……ぎし……

 慎重に1段1段、階段を上っているのであろう。軋む音は断続的に響く。

(それにしても、人間を燃やすのは初めてだなぁ)

 人間を燃やす、という究極に背徳的な行為を想像し。

 ぎし、軋む音が聞こえ、懐中電灯の照らす範囲が広がるにつれ、更に興奮を怯える油谷。

 興奮のせいか、静寂のせいか――

 油谷の耳には、やけに軋む音が大きく聞こえていた。そして。

(来たぁ!)

 階段の影から、人影のようなものが見えた、瞬間。

「アーケイド・ファイアあぁ!」

 油谷の手から現れたアーケイド・ファイアが、床の油に炎を走らせ、その中を泳ぎ。

 人影に向けて油を放ちながら、突進し……ごおおぉ! 人影を炎に包む。

「やったか!?」

 嬉々として教室から廊下に飛び出し、燃え崩れる「もの」に走って近づこうとする油谷――と。


――ダッ。

「だりゃああぁ!」

「な、え!? ぐあぁ!」


 その背後、北側の階段から現れた汀が油谷に一気に駆け寄り。

 顔面に、拳を叩きこんだ。

107 ◆gdafg2vSzc:2017/09/14(木) 10:27:52 ID:s3c4TBVg0
>>106
「ぐおおおぉ!? くそ、アーケイド・ファイア!」

 突然の事態に混乱しながらも、油谷は自らのスタンドを傍まで戻し。

「……ち、一撃でブチのめせなかったか」

 身を守りつつ、ギア・チェンジャーを展開する汀を睨む。

「ぐうぅ、畜生……挟み撃ちかぁ」

 顔を押さえる油谷の手の下から、鼻血が流れ落ち。

 アーケイド・ファイアの炎に触れ、じゅ、と嫌な臭いと煙を残し蒸発する。

「だが、貴様の仲間の女は……燃やして」

「生憎だな、沙枝なら無傷だ」

「!?」

 驚く油谷の耳に。

「大丈夫、汀君!?」

 南側の階段の方から、心配そうに問いかける沙枝の声が聞こえてくる。

「ああ、大丈夫だ。だが、まだ終わってない。下で待ってろぉ」

「分かった、でも、気をつけてよね」

「おおー」

 視線を油谷から階段の方に向け、大声で返事をしたのち。

「ば、馬鹿な!? じゃあ今のは」

 納得いかなそうに唸る油谷に対して、汀は不敵に笑いかける。

「此処が木造で良かったぜ。沙枝のスタンドは植物やその加工品を操る……」

「……!」

「分かったみたいだな。階段をわざと大きな音で軋ませて気を引く。懐中電灯は壁側の木の板を操って、蔦の様に絡ませて動かして、階段を上がってくるように見せた」

「じゃあ、俺が焼いたのも」

「床板を引っぺがすように跳ね上げて、そう見せただけさ。まぁ、沙枝自身もあまり離れられないから、多少の危険はあったが……うまくいったよ。さて」

 汀の顔から笑みが消え、代わりに怒りが満ち満ちていき。

 ぎゅ、とギア・チェンジャーが拳を握る。

「覚悟はいいな? この放火魔野郎」

「……覚悟、な。ああ」

「へぇ……? なら」

 顔から手を離し、先に汀がしていたように、不敵に微笑む油谷。

 その態度に、嫌な予感を感じつつ。

「ぶっ飛ばされろぉ! ギア・チェンジャー!」

 ギャオン!

 ギア・チェンジャーの拳が、油谷に向けて放たれ――

「って、出来るわけねぇだろがぁ! 馬鹿が! アーケイド・ファイアぁ!」

「っ!?」

 拳が命中する直前、ごおぉ!

 2人の間に、激しい炎の壁が展開され。

「あはは、貴様が話したり余所見してる間に、油を垂れ流してたんだよ!」

 油の流れに乗って、炎の壁が汀を取り囲むように迫り。

「ぐあああああぁ!」

「はははは! ざまぁ見ろだ! しかし」

 油谷に背を向け、法被を被るようにして頭を抱え屈む汀を、猛火が包み込む……

「ああ、人間を焼くのも、良いかも知れないなぁ」

 その様に、油谷が一瞬見とれた――直後。


 ギャオォン!

「だりゃああぁ!」

「ぐべっ!?」

 同じように身を屈めていたギア・チェンジャーが突如起き上がり、油谷の頬を殴り。

「……っつ、やっぱあぢいいぃ!」

 燃え盛る法被を脱ぎ捨て、汀が立ち上がる。

108 ◆gdafg2vSzc:2017/10/12(木) 11:02:27 ID:kQukjbTM0
>>107
「……な、な?」

 再び噴出した鼻血に顔を押さえ、困惑しながら、油谷は起き上がる汀を見る。

「な、なんでだ? なんで無事でいられる?」

 露出している腕や顔が熱で少し赤くはなっていたものの。

 あれだけの炎に包まれていたにも関わらず、汀の体や法被の下の衣服は無傷であった。

「ギア・チェンジャーの能力だ」

 熱かったのは確かなようで、汀は苛立たしげに油谷を睨みつつ、脱ぎ捨てた法被を指差す。

 その袖には、数字を『6』に設定されたギアが埋め込まれていた。

「羽織ってた法被にギアを仕込んで『耐燃性』を強化しておいた。てめぇが炎を扱うのは知れてたしな」

「な、なんだそれ、そんなインチキみたいな能力が」

「ああ、俺も正直上手くいくかよう分からんかったが、俺が望む事はある程度できるみたいだな、もっとも」

 ぐ、と己の、ギア・チェンジャーの拳を強く握る汀。その表情が険しくなる。

「熱を止める、とまではいかなくてな。めっちゃ熱かったぜ。それに、思い出の校舎に火までつけやがってよ」

 元々汀狙いの攻撃だったこともあってか、勢いは弱いとはいえ。

 床や窓際の壁が延焼し続けていた。

「ひ……っ」

 油谷の顔が引きつる。

「改めて、覚悟はいいなぁ! この放火魔がああぁ!」

 汀の叫びと共に、ギア・チェンジャーが、拳を叩きこもうとした、瞬間。

「くそがぁ! 殴られるくらいならぁ!」

「な!?」

 油谷が窓際に走り――

「うおおおおぉ!」

 ばぎいっ!

 腕で顔を庇いながら、窓を突き破って、飛び降りた。

 慌てて後を追い、窓から外を覗き込もうとする汀の前に、ごおぉ……

「こ、この野郎……っ!?」

 油谷が最後に残した炎が立ちはだかり、姿を確認する事を妨げる。

「何があったの!? 汀君、って、火事! 危ないよ!」

「危ないのは分かってる、沙枝! だが、放火魔が逃げた!」

「ええ!?」

「追うぞ! 畜生!」

「あ、待って!」

 様子を見に来て驚く沙枝をよそに、階段を飛ぶように駆け下り、校庭に出る汀――しかし。

「……くっそ」

 既に、そこに油谷の姿は無かった。

 悔しげに唇を噛む汀の耳に、近づいてくる消防車のサイレンの音が聞こえてきた――



「ぜぇ、ぜぇ……」

 逃走した油谷は、すぐ近くの路地に逃げ込んでいた。

「くそぉ、何で俺が、こんな目に……っつ、痛ぇ」

 殴られた顔を、そして、飛び降りたときに捻った足を押さえ、へたりこむ油谷。

 逃げる事に必死で感じていなかった痛みが、急速に襲ってくる。

「あいつらに、顔を見られたか? くそぉ……せっかくスタンドが、いい玩具が出来たってのに、よぉ」

 聞こえてくる消防車のサイレンの音に不快そうに顔をしかめながら。

 少しでも逃げようと、立ち上がり、前に進もうとする、油谷。


「待ってよ、その玩具――スタンドについて、話してくれないかな?」

「!?」


 その背後から。

 ニヤニヤ笑いながら、ネルソンが声をかけた――そして。

109 ◆gdafg2vSzc:2017/10/19(木) 19:20:12 ID:mavfRUkA0
>>108
 少しのち。

 小学校の校庭に集まってきた消防車や救急車、警察等の特殊車両。

 油谷によって起こされた炎は、大きな被害を与えることなく鎮火されていた。 

 そのサイレンや騒動に釣られ、近隣の住人達が野次馬として集まってきて、更なる喧騒が夜の住宅街を包む中。


「はあああぁ!? 捕まった、てか、捕まえたぁ!?」


 騒ぎの中心から離れた校庭の隅で、汀が頓狂な叫びを上げ。

「ネルソンのヤツが!?」

「う、うん。僕も詳しく状況は分からないんだけど。捕まえたみたい」

 報告をしたルイが、その剣幕に驚き、身を引く。

「マジかよ、一体どうやって……てか、なんでネルソンはそいつが放火魔だって知ってたんだ?」
 
「ええ、そんなの分からないよ」

 納得いかない様子で髪を掻き毟り、首を傾げる汀……と。

「なら、本人に聞くのが一番じゃない?」

「え……お、おう」

 沙枝が汀の背後を指し、振り返った汀の視線の先に。

「Oh、皆サマ、お揃いですネ!」

 手を振りながらにこやかな表情で近づいてくるネルソンの姿があった。

「ネルソン君! 放火魔捕まえたって聞いたけど!?」

「Oh、Yes! ビックリしたデスけどね」

「本当、聞いた私達もびっくりしたわよ」

 肩をすくめて、ルイにおどけた笑いで応えるネルソンに。

「……なぁ、捕まえた、って言ってたが、どういう状況だったんだ?」

「え、ちょっと、汀君……?」

 解せない、という自分の感情を顔や声に隠すこと無く、少し睨みを利かせつつ汀が問う。

「Ah〜、それがですね、偶然……happeningでして」

「偶然だぁ?」

「Yes、なんか消防車が騒がしいンデ、こっちに来てたらデスね……Graaaaaaaaaar!!」

「ひぇ!?」

「うお!?」

 突然ネルソンが大声で叫び、両手を振り上げたせいで、びっくりして転びそうになるルイ。

 汀も驚き、思わず拳を振り上げそうになる。

「何すんだ、この野郎」

「Oh、sorry! デモそんな感じで叫びながら、細い路地から変な男が飛び出して襲って来たデス。それで」

 空中に向かって、しゅ、とパンチを撃つネルソン。

「思わず手が出てしまったデス、暴力良くないデスケドね」

 舌を出して苦笑し、握った拳を開き、またおどけるように笑う。

「正当防衛、ってわけか。しかし、なんで放火魔って分かった?」

「ああ、それはデスね。なんか既に怪我しててconfusionしてたようで」

「こ、こんふゆ……してた?」

「混乱してた、よ。勉強しなさい」

 ネルソンの英語を聞き取れず首を傾げた汀に、すかさず沙枝の突っ込みが入り。

「ち、ちげぇよ、ど忘れしてただけだし! そんな事より、それで!?」

 無知を誤魔化すように、ネルソンに話を促す。

「倒れた後、妙な事を言ってたんで近くの人に頼んでpolicemanに連絡してもらったデス」

「妙な?」

「Yes。何でもスタンドで放火がどうとか……」

「……」

「やっぱ……おっと」

 ネルソンの口から出た「スタンド」という言葉に、顔を見合わせる汀と沙枝。

 やっぱりスタンド使い、と言いそうになるのを堪えるのはルイである。

「気絶しかけだったんではっきり分からないデスが、放火、とは聞こえマシタので」


 3人とも、ネルソンがスタンド使いである事を知らないが故に。

 この事をこれ以上突っ込むべきではない、そう直感的に感じた。なので。


「あー、そうだったか。お手柄だったな、ネルソン」

「そうよ、凄いじゃない」

「そ、そうデスか? 照れますネ」

 適当に言葉を濁し、話を終わらせる事にする汀達であった。

 無論、油谷がこの先悪さをする可能性はあるが……

(これ以上は手出しできんし、な。悔しいが)

 スタンド使いとは言え、一介の高校生である自分には裁きようがない。

(まぁ、暴れたらまたブン殴るだけだ)

 そんな事を考えながら。

「で、そいつ、どうなったんだ?」

「聞いた話では、怪我もしてましたしHospitalで治してpoliceの出番のようデス」

「そうか……」

(アイツの、滑川の時と同じ、か……っ!?)

 そう考えた瞬間、ぞ、と。

 汀の中を不吉な予感が駆け抜けた……

110 ◆gdafg2vSzc:2017/11/02(木) 22:20:17 ID:twyMinXE0
>>109
 少しのち。

(う、ぐ、く、くそぅ……)

 負傷した油谷は、救急車の中で寝たままの状態で応急手当を受けていた。

 手当てと受け入れ先の病院探しで、救急車は停車した状態で路上に止められていて。

 少し朦朧とする油谷の耳に、外の喧騒が嫌でも響いてくる。
 
(なんだってんだ……あのガキも、外人も)

 喋る気も、身体を動かす気力も失せている油谷の頭の中を。

 先までの出来事が否が応にも巡っていく。


(まさか、俺の他にもスタンド使いがいた、なんてな……)

 迫る汀の、ギア・チェンジャーの拳を思いながら、大きく溜息を吐く油谷。

(それに、あの外人も……ボコボコにしてくれやがってよぉ)

 その後出会ってしまったネルソンからも、攻撃を試みてあえなく返され。

 逃亡しようとした所、背後から背中や頭を殴られ。

(妙な事言ってたな。レディ・リィ? 知らねぇよ、そんなん)

 その後、ネルソンの質問に正直に応え、自分がスタンド使いになった顛末を語ったところで。

 ネルソンは表を通る者に、助けを……油谷を介抱するよう求めたのだった。 


(……まぁいいや)

 恐らく、警察沙汰になっている。自分も罪に問われる事になるだろう。

 そう分かっていたが、油谷の心中に焦りは無かった。

(スタンドがあれば、脱走のチャンスもあるさ。いや、刑務所の中で放火ってのも面白いだろうなぁ……)

 自分の手当てをする救急隊員をぼんやり見ながら、自分勝手な事を思う油谷。

(ま、まずはゆっくりと怪我を治してから……)


「見つけたぜぇ」

(!?)


 不意に、油谷の耳元で。

 楽しげな、ねっとりとした男の声が聞こえた、瞬間。


 ず。

111 ◆gdafg2vSzc:2017/11/02(木) 22:20:56 ID:twyMinXE0
>>110
「……ぐぶぅ!?」

 脇腹に鈍い衝撃が走ると同時に、吐き気がこみ上げ。

(な、は、があぁ!?)

 油谷の口から、ごぶ、と、血が吐き出され。

 同時に、腹から全身を耐えがたい痛みが駆け巡る。

「な、なんだ!? どうした!?」

「分かりませ……ああ、これ!」

 救急隊員の一人が、油谷の脇腹に深々と刺さっていたナイフを指差す。

「ナイフ持ってます!」

「自殺か!? 馬鹿な事を!」

(ち、違う、俺は自殺なんか……)

 救急隊員の言葉に、刺された油谷自身が驚愕し、当惑する。

 その目の前に。

(!?)

 全身を靄のようなもので包まれた、額にバンダナを巻いた、逆立った髪の毛の男が現れる。

 その背後には、やけに手足の細く、頭部のない人型が立っていた。

 油谷を見下すその目は、虚ろなようであり、恍惚としているようであり。

 その目つきは、炎を見ている自分と同じように油谷は感じた。

(……お、れの、同類、なのか? いや、それより、だれ、か)

 助けを求め、動かない手を必死で上げて男を指差す油谷。だが。


「早く、輸血を!」

「大丈夫ですか!? しっかり!」

 救急隊員達は……すぐ傍に男が居るにも拘らず。

 誰一人、その存在に気付いて居なかった。 


(な、なんで……だ)

 再び、ごぶ、と血を吐き出す油谷の前で。

 男の姿が靄に囲まれるようにして消えていき。

 それと同時に、油谷の意識も、薄れていく。


(なんで、なん、で……)


 何故自分が刺されないといけないのか。

 何故自分はこんな力を得てしまったのか。

 何故霧吹きの男は自分に好き勝手しろと言ったのか。

 何故、俺を指した男に誰も気付かなかったのか。


(な……ん……でだ……)


 幾つもの『何故』を抱えたまま。


 油谷の意識は途絶え――二度と戻る事は無かった。


油谷:スタンド《アーケイド・ファイア》……死亡
警察は逮捕された事で余罪の追及を恐れ、隠し持っていたナイフで自殺したと推測される、と発表。



【6:夜回りに行こう……END】
【And see you next episode……】

112 ◆gdafg2vSzc:2017/11/02(木) 22:28:55 ID:twyMinXE0
>>111
【6話:初登場オリスタ】

No.5964
【スタンド名】 アーケイド・ファイア
【本体】 イカれた放火魔:油谷
【タイプ】 遠隔操作型
【特徴】 炎のような鱗に包まれた魚の姿。
【能力】 炎の中を泳ぐ能力。
炎の中でのみ、目にも止まらぬスピードで移動することが出来る。
また、テッポウウオのように油を噴出することで火を浴びせかけることも出来る。

破壊力-C スピード-A 射程距離-B
持続力-B 精密動作性-C 成長性-C

避難所で敵役として推薦いただいた案を使わせていただきました。
遠隔型なのにそれを生かしきれてなかったのは……油谷がスタンド使いとしての経験が浅かったからでしょう。
あと、燃える様は間近で見たい派(爆)

メタ的には作者の描写力やイメージ不足……いや、げふげふ(汗)
もっと精進します(汗)


ここまで読んでくださった皆様に感謝です。ありがとうございました。

次回から、いよいよ事が大きく動き出す……はずです!(爆)予定は未定。


次回以降も目を通して頂ければ幸いです。

113 ◆aqwlZlIVlQ:2018/01/18(木) 09:34:10 ID:vJVBLtk60
【7:………】


 油谷の『自殺』から数日後、夕刻。


「……」

 兎橋近く、美良川の河川敷。

 近々行われる河川敷の舗装、改修工事のために運びこまれた資材に。

 汀は腰をかけ「ある人物」の到着を待っていた。


 待ち合わせに指定した時間まではまだ少し間があり。

(そういや、初めてギア・チェンジャー……スタンドを出したのもここだっけな)

 汀は、これまでに起きた出来事を思い返していた。

 その上でどうしても引っかかる、滑川の死、そして、油谷の自殺。

 油谷の死は、当人を殴り倒した翌日のニュースで知った汀であるが。

(あれが、あの野郎が自殺するようなヤツか?)

 自殺という報道をどうしても信じられずにいる汀である。

(よう分からんが……色々と俺達の思い及ばない事は起きてるみたいだな。まぁ、どうしようもないか)


 真偽は知りようも無いし、今の自分では調べようもない。

 もどかしくはあったが、その点は割り切ろうとする汀である。


 それよりも。

「来たか。時間通りだな」

 手を振りながら駆け寄ってくる「人物」を確認し、立ち上がる汀。

 今日、その人物を呼び出したのは……その者に対する疑念を確認するためである。

「悪いな、呼び出して」

「イイエ、no problemデスよ……but」

 現れた人物……ネルソンに対して真顔で応える汀。

「顔が怖いデスよ、どういう用事デスか?」

 事情が知れない様子でにこやかに笑うネルソンに対し。

「ああ……俺は難しい話はできんから、単刀直入に聞くわ」

「OK、何デスか?」

 汀は真顔のまま。


「ネルソン、お前……スタンド使いだろ?」

「……!」


 言葉を、投げつけた。



【7:誤解と衝突と……汀VSネルソン】

114第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/01/18(木) 09:34:58 ID:vJVBLtk60
【あ、トリップ間違えましたが間違いなく作者です、失礼】

115第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/02/08(木) 13:48:12 ID:GVxGpz8k0
>>113
(……何で急に? バレるような事はしてない、はずだけど)

 汀の問いかけに心中で戸惑いつつも。

 ネルソンは、ぽかんとした表情を作って見せた後。

「What? スタンド使い? 何デスか、それ?」

 首を傾げながら笑い、誤魔化そうと試みる。

「……油谷、だったっけかな。お前が捕まえた例の放火魔」

「アア、suicide……自殺シタってテレビで言ってましタね

「俺な、昔っからワルでよ。ちょくちょく病院やらお巡りの世話になってんだわ」

「Oh……デモ、それが何カ?」

「気になってな。その世話になった連中に聞いてみたんだよ」

「……」

「最初は守秘義務とか言ってたけど、俺も油谷と関わったって言って、ちょっとだけ知った事がある」

「な、何デスか? 怖いデスよ?」

 言いながら、汀はネルソンを指差し。


「俺は油谷のツラを2回、いや¥、3回だっけか? ともかく殴った。だが、油谷が救急車に運ばれた時の怪我な。俺が殴った以外にも『他人から暴行を受けた形跡』があったらしい」

「――!」


「それをやったのは、ネルソン、お前じゃないのか?」
 
 話しながら、様子を探るように睨みつける。

「Why? た、確かにボクもソイツを殴ったデスから、形跡はあってもおかしく無いデスよ」

「ああ、確か襲い掛かってきたのを殴った、って言ってたよな? だが、怪我は背中側、背後にもあったって言うぜ?」

「それは……逆上シテたし、別のヒトに襲われたからでは? それに」

 狼狽する『演技』をしてみせながら。

「それと、その……スタンド使いとどう関係がアルんですか?」

(その程度の認識からのカマかけか。なら、大丈夫かな?)
 
 汀の疑念の切欠が大した理由で無い事に安堵していた。

「ボクは全く心当たり無いデスよ?」

「そうか」

 ネルソンの訴えに対しあっさりと頷き、突きつけていた指を、腕を下ろす汀。 

 だが。

「じゃあ違う話をしようか」

「What?」

 表情を更に険しくしながら、汀が、一歩、ネルソンに近づく。

「俺のダチ……じゃあないか。腐れ縁に長濱、って馬鹿がいるんだが」

「それは初めて聞きマシタ」

「その長濱から聞いた話さ。ソイツの知り合いに赤髪のシゲって奴が居るんだが、ちょっと前に絡んだ外人相手にやり返されたらしい」

(……赤髪、まさか)

「なんか妙な事をされたってな。その外人の人相が……お前そっくりだったんだよ。ネルソン」

「……!」

 汀が、再びネルソンに指を突きつける。

116第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/02/22(木) 08:45:33 ID:BiuVvZ660
>>115
(まいったね……やりすぎたか)

「Ah……」

 心の中で苦笑いしつつ、思い出すような仕草を見せ。

「Yes、思い出しまシタ。お金取られたんで取り返しただけデス」

「ほぉ?」

(ここは嘘は吐かないでおこうか)

 笑顔を見せながら、正直に返す。

「ハイ、絡まれてしまったんでその場はお金渡シテ、後で取り返しに行ったデスよ。絡まれた時は沙枝サンも一緒でシタ」

「沙枝も!? そんな話聞いて無いぞ?」

「Ah、心配かけるとイケナイからsecretにしたのカモです」

「ああ、沙枝ならそうかもなぁ……言ってくれりゃ俺がブチのめしたのによ。だが」

 少し安堵した様子で溜息をつきながらも。

「妙なマネってのが腑に落ちない。ナイフを掴んでなんで平気だった?」

「Oh、ちょっとしたmagic、手品です。少しバカリ心得が有りまシテ」

「手品、なぁ……」

「そうデスよ。手品」

 納得いかなげな顔で頬を掻く汀に。

 ダメ押し、とばかりに屈託の無い笑顔を『作って』見せるネルソン。

「……」

 悩むように眉を寄せて、まじまじとその笑顔を見ていた汀、だったが。

「そっか。悪かったな。変な事聞いてな」

「イエイエ、no problemデスよ」

 汀が笑みを見せ、ネルソンの緊張が緩んだ――

「もう、帰っていいぜ……」

「OK――」


 瞬間。


「ギア・チェンジャー!」

 ギャアアアァン!


 汀がギア・チェンジャーを発現させ。

 間髪を入れず、右の拳をネルソンに向けて振るう。

 その拳の勢いは早いが、本気でネルソンを殴るつもりは無く。

 それで相手が何の反応も見せなければ、それでいい、汀はそう思っていた。



――自信は、あった。

 自分がスタンドを得て、スタンド使いとして『組織』で戦ってきた経験は、決して短いとは言えない。

 そして、潜入調査を主目的とする上で。

 できるだけスタンド使いである事を伏せ……とはいえ、今回のように若さゆえに調子に乗ってしまう事はあるが。

 他人のスタンドを見ても、急にスタンドを出されても動揺しない訓練もして来た、つもりだった。


 だが。

 放たれた汀の『本気』に。


「――!」

「ネルソン、てめぇ! やっぱりか!」

 ネルソンは反射的に403-Forbiddenを展開させ、拳を防御してしまっていた。

117第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/03/11(日) 20:46:35 ID:SKiFFOdI0
>>116
 ギア・チェンジャーと共に数歩下がり、間合いを取る汀をじっと見ながら。

「……やれやれ、参ったね。上手く猫被れてると思ったんだけど」

「……! 喋りも演技だったのかよ!」

「あー、まぁ、ね。カタコトの方が警戒はされないか、変な奴で済む、デスカラねー」

 舌を出し、苦笑し……頭を掻くネルソン。

 自分が隠し事をしていた事を悪びれる様子は無く。

 その態度が、汀の気に触り。

「スタンド使いな上に、演技までして……ネルソン! 何を企んでやがる!?」

 汀は、ネルソンを睨みつけながらギア・チェンジャーに拳を構えさせ、臨戦態勢を取る。

「ぶっちゃけ、君達に関する事じゃないさ……ふああぁ」

 敵意を剥き出しにする汀に対し、余裕有りげに欠伸をしてみせるネルソン。

「と言っても、信じて貰えないんだろうね。この状況じゃ」

「たりめーだ! 俺やルイ、沙枝が他のスタンド使いに襲われてんだ。てめぇが敵でないって分かるかよ!?」

「他のスタンド使い、ね。その話も興味あるけど……OK。なら、君の流儀に従おうか」

「ああ?」

 パン、とネルソンが拳で掌を打ち。

 それを合図、とばかりにネルソンのスタンド、403-Forbiddenが。

 両手を掲げるように広げ、正面も向いてギア・チェンジャーに相対する。

「拳で語る、ってヤツさ。悪いけど、ブン殴られて冷静になってもらうよ」

「それはこっちのセリフだ! 行け! ギア・チェンジャー!」

 ギャアン!

 ネルソンの言葉が終わるや否や。

 ギア・チェンジャーが踏み込み、拳を403-Forbiddenの胸に叩きこむ――

「403-Forbidden!」

 ビュフォオォン!

「なっ!?」
(早い!?)

 その腕に向けて、403-Forbiddenが手刀を振り下ろし。

 ギア・チェンジャーの攻撃を払い、同時に反対の腕でギア・チェンジャーの脇腹に手刀を叩きこみ。

「がっ、がふっ!!」
(しかも、重い、っ……しまった)

 強烈な痛みに、思わず脇腹を押さえ、足元をふらつかせる汀。

 ギア・チェンジャーの構えが崩れ、隙ができる……が。 

「ふぅん、なかなか早いね。でも、まだまだスタンド慣れはしてないみたいだね」

 ネルソンは攻撃の手を止め、ギア・チェンジャーと汀を興味深げに観察していた。

「ぐぅ、うっせぇ……ナメてんのかよ。なんで攻撃して来ない? まだ終わってないぞ」

「あー、いや。ひとつ良い事を教えとこうと思ってさ」

「良い事、だぁ?」

 眉間に皺を寄せ、胡散臭そうに汀が見つめる前で。

「ああ。汀。君がスタンド使いとして経験が浅いだろうからのLesson、さ」

 ネルソンが人差し指を立て、不敵に笑いながら告げる。


「スタンド使いたる者、スタンドに頼りすぎるな、ってね」

118第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/03/21(水) 20:51:45 ID:kpzC3IUo0
>>117
「ああ? どういう意味だ?」

「スタンド、って奴はとにかく強力な力だ。だから、スタンドに慣れてない奴は……いや、慣れた奴ですらその力を時として過信しちまう」

 ギア・チェンジャーに身構えさせ、戦闘態勢を取る汀の周りを。

 ネルソンは教師のように、立てた人差し指を小さく振りながら歩く。

「スタンドが、その能力が強力であればあるほど尚更その傾向は強くなる。結果、本人が持つ身体能力やスキルを疎かにしてしまいがちなんだ」

「……そんな事を俺に教えて、どうするって言うんだ?」

「理由は2つ。1つは、君が今後スタンド使いとしてやっていくためのアドバイス」

 警戒はしていたものの、ネルソンの話に納得できる部分もあり。

「そして、2つめは」

 汀が、ほんの少しだけ気を緩め……ギア・チェンジャーの腕が、ガードが下がる。

「こうやって話すことで、気を逸らすため、さ!」

 その僅かな隙を狙い。

「……っ!」

 ビュフォオ!

 403-Forbiddenの両腕が、手刀が。

 ギア・チェンジャーの首を挟むように、同時に放たれ、命中する――

「く、そう簡単に!」

「!!」

 寸前でギア・チェンジャーが403-Forbiddenの手首を押さえ込み、無理やり腕を広げ。

「だりゃぁ!」

 ゴッ!

「ううっ!?」

 403-Forbiddenの額にギア・チェンジャーが頭突きを放ち、ネルソンが頭を押さえふらつき。

 逆に、403-Forbiddenの防御が疎かになる。

「うお、痛ぇ……! 存外石頭だったか、だが! ギア・チェンジャー!」

 ギャアアァン!

 ギア・チェンジャーの掌が403-Forbiddenの胸を捕らえ……ガチャ。

「よし!」

『ギア』を右胸に埋め込み、すかさず指で設定を「1」にずらす。

 直後、403-Forbiddenが手刀を振り下ろすが。

「く……っ!?」

 自分のスタンドの動きの重さをネルソンが即座に感じると同時に。

「だりゃぁあ!」

 ギア・チェンジャーが手刀を弾き、反撃の拳を叩きこみ。

「ぐ、ぐうぅ! まずいか?」

 ネルソンが初めて汀に対して焦るような表情を浮かべ。

 403-Forbidden共々身を引きながら防御体制を取る。

「ち、ギアで落としてなおそれでもそこそこ早いか。お前が言うとこのスタンド慣れの差か? 厄介だな」

「……ボクのスタンドに、何をしたんだい?」

「言う必要は無いと思うがな」

 汀も一度呼吸を整えるべく、間合いを取って身構えつつ。

 403-Forbiddenに埋め込んだギアを見据える。

「Good。能力をペラペラ喋らないのは正しいよ……っと」

 403-Forbiddenの手がギアに触れられ。

「成程。コイツの仕業か」

 ネルソンが納得したように頷く……



 そんな河原での2人の戦いを。

(ほおぉ。見つけたと思ったら、面白い事をしてるじゃねぇかよ)

 頭にバンダナを巻いた……油谷を殺した男が、にたにた笑いながら眺めていた。

 その指には、汀達の写った写真がつままれていて。

(もう1人の外人は知らん相手だが、まぁいい。1人殺すも2人殺すも同じさ)

 男が、写真を握り潰しながらズボンのポケットに突っ込み。

 代わりに、片刃のナイフを取りだす。

「始めるぜぇ……」

 男の背後に現れる、頭部の無い、手足がひょろっとした姿の不気味な亜人型のスタンド。

 蛸の吸盤を思わせる胴体の模様が、本物の蛸のようにひくひく震え。

 首の部分から現れた煙が、男を包んでいく――

119第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/04/12(木) 21:42:35 ID:8nsYT4sc0
>>118
 そんな傍観者の存在に気付く様子も無く。

「まぁいい。ともかく、俺のギア・チェンジャーのギアをお前のスタンドに埋め込んだ」

 汀が、403-Forbiddenの胸を指差す。

「OK。理解したよ。このギアのせいでボクのスタンド……403-Forbiddenの能力自体が落ちてるってワケね」

「ああ、そういうこった。これで」

 403-Forbiddenと、その背後で苦笑するネルソンを見据えながら。

 汀が、ギア・チェンジャーが、拳を握り。

「俺が有利だ! だりゃああぁ!」

 ギア・チェンジャーが踏み込み、拳を振り上げ、403-Forbiddenに殴りかかる……


「あーあー、言ったばかりじゃないか。頼りすぎるなって」

「なっ!?」


――ビュフォオン。

 驚く汀の目の前で、403-Forbiddenが。

『先までと変わらない』速さとパワーで、ギア・チェンジャーの拳を防御して、その腕を捕らえ。

「せやっ!」

 一本背負いの要領でギア・チェンジャーの身を担ぎ、投げ飛ばし。

「うおおおぉ……っ!」

 汀も宙を舞い、背中から地面に落下する……

「ぐ、ば、馬鹿な!? なんで、ギアが利かない?」

 困惑した様子で立ち上がる汀の傍で、ギア・チェンジャーが防御の構えを取る。

「ボクの403-Forbiddenもスタンド、すなわち、能力があるって事さ」

「能力……よう分からんが」

 再び、403-Forbiddenの胸を指差す汀。

「その、妙な文字がそうか?」

 埋め込まれたギアに、「403-Forbidden」の文字が浮かび上がっていた。

 それはあたかも、ギアの回転を止めるかのようにギア全体に絡みついていて。

 表示されているはずギアの強さを示す数字も消失していた。

「BINGO。ボクのスタンドの能力さ。触れた物を使用不可にする……それがボクのスタンド、403-Forbidden」

「使用不可、だと……く、解除だ!」

 解除を命じる汀、しかし。

「無駄だよ。使用「不可」ってことは……」

 絡みついた文字が、汀を嘲笑うように鈍く青く光る。

「解除と言う『目的』も『できない』って事だからね!」

「なっ……!」

「そして!」


 解除のための僅かな時間。

 ネルソンの宣告による動揺。

 それらは数秒の隙、であったが。


 ビュフォオオオオォン!

「がはぁ!」
(し、まった……)

 その隙をついて、403-Forbiddenの拳がギア・チェンジャーの頬を捉え。

 重い一撃の痛みと、口内を切った感覚を覚えつつ。

 汀が数歩後退し、尻餅をつくように座り込む。

「ぐ、う、くそぉ……」

  口の中に少し溜まった血を吐き出しながら。

「……闘争心は凄いね。喧嘩慣れはしてるみたいだね」

「うるせぇ、この野郎」

 ギア・チェンジャーを先に立たせながら。

 感心した様子で呟くネルソンを睨み据える汀。



「しょうがないね……もう少し痛い目に」

 遭って貰う、そう、ネルソンが言いかけたのと。


――ぞ。

(!?)

 汀の背に、これまでにない悪寒が走ったのと。


「見つけたぜぇ」

 汀の耳元で、ねっとりとした男の声が響いたのとが。


 同時に起こった。

120名無しのスタンド使い:2018/04/26(木) 13:34:59 ID:a/d0o7hE0
>>119
「な……!?」

 何か不味いと感じた汀が、素早く立ち上がり身構えた直後。

「え?」

「お、うおおおぉ!?」

 何かが何かが振り下ろされるような気配も、音も、汀には感じられなかった。

 だが、鋭い痛みと衝撃が右肩に走り。

 汀の制服の肩が刃物で切られたように裂け、血が飛び散る。

「くそおおおぉ! ギア・チェンジャー!」

 すぐさまギア・チェンジャーに自分の周り、声が聞こえた方向を殴らせるが手応えは無く。 

「……っち」

 舌打ちしながら、汀がネルソンを怒りの形相で睨み。

「……ネルソン、てめぇ! ハメやがったな! 2人がかりで俺を殺すつもりか!」

 ずかずかと、ネルソンに大股で近づく。

「ま、待って! 違う! ボクにも分からない!」

「ざけんなぁ!」

 困惑し、否定するネルソンの声は汀の耳に入らず。

 ぐお、とギア・チェンジャーが403-Forbiddenに向けて拳を振り上げる――


 ぎらり。

(……あれは!?)

 汀の背後に、一瞬。 

 靄の包まれた人間の手と、その手に握られた片刃の、少し血で濡れたナイフが見え。

「だりゃあ、ああ!?」

「く、うおおおおぉ!」

 突然、ネルソンが叫びながら汀に向け突進し

 その様子に戸惑い怯む汀、その隙をついて403-Forbiddenがギア・チェンジャーの腕を押さえ。

「おおおおぉ!」

「ぐ!」

 ネルソンに突き飛ばされ、汀が再び尻餅をつくように倒れる。

「野郎、何をしやが……!?」

 起き上がる汀の目に飛び込んできたのは。

「ぐうぅ!」

 左腕を切られるネルソンと。

 切りつけた後、何も無い空間に消えていくナイフだった。

「う……痛っ、まいったね。こんなガチの怪我する予定は無かったのにさ」

「ネルソン!?」

 傷を押さえながら、痛みを押し殺すように汀に苦笑してみせるネルソン。

「どういうこった、こりゃあ」

「ボクの方が聞きたいよ。だが」


 403-Forbiddenに埋められていたギアに絡みついていた文字が消え。

 再び、ゆるゆるとギアが回転を再開し『1』の数字が浮かび上がる。


「少なくとも、ボクは君をハメるつもりは無い」

「……」

「その意思を示す為に能力を解除した。もっとも、これも演技だと思われたら仕方ないけどね」

 周囲を警戒しつつも、汀の目をじっと見ながら説得するネルソン。


「信じて欲しい。ボク達は、敵に襲われている」


 2人の間を、沈黙と緊張した空気が包む。

「……聞きたい事、言いたい事はたくさんある、が」

 言いながらネルソンに近づき。

「まずはその敵をボコるか。なぁ、ネルソン」

 ネルソンと背中合わせに並びながら、ギア・チェンジャーを前方に構え。

 403-Forbiddenの身体からギアを解除する。

「ありがとう、汀。力を貸してくれ」

「ああ……それによう考えたら、この敵がグルなら『見つけたぜ』なんてセリフは吐かねぇだろうしな」

 自分を笑うかのように、ふぅ、と小さく息を吐き微笑む汀。

「やってやろうぜ、ネルソン」

「Yes、同感だね」

 ネルソンも笑い返し、汀に背中を預ける。


【7.1:和解と劇特と……汀&ネルソンVS見えない敵】

121第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/04/26(木) 13:36:47 ID:a/d0o7hE0
サブタイトル間違えた

【7.1:和解と激突と……汀&ネルソンVS見えない敵】です。

あとトリップ忘れてましたわw

122第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/05/13(日) 18:33:13 ID:dHci6o7A0
>>120

「それにしても……見つけたぞ、って行ったんだよね」

「ああ」

「つまり、明らかに汀を狙ってるって事だね」

 背中合わせで構えたまま、小声で会話を続ける2人。

「みたいだな、けど」

「狙われる心当たりは無い、と」

「ああ。さっぱり見当つかねぇよ。まぁ、スタンドを得てから厄介事続きだから今更いいけどよ」

 汀が首を傾げつつ、苛立たしげに返しつつ。

 周囲の様子を慎重に観察し続ける汀。しかし。

「……静かだな」

「仕掛けてこないね。流石に敵も警戒してるって事か」

 先までの仕掛けが嘘のように、何も起きない時間が過ぎていく……


 一方。

(やれやれ、流石に簡単にはいかねーか。だが)

 2人の周囲を回りながら、隙を伺うバンダナ男。

 その距離は僅か数mだが、汀達は男の存在を認知できないでいる。

(すげぇな。俺の『スタンド』はよぉ!)

 汀の鼻先に指をつき出し、からかうように小刻みに振る男。

 心中の自画自賛に反応して、男の……《スウィート・ライフ》と名づけられたスタンドが、ふしゅふしゅとその身を震わせる。


 その能力は、スタンドの放つガスに触れた物の何かを『薄くする』と言うものであり。

 男は、ガスを身に纏う事でその『存在』を薄くし、認知されないようにしていたのである。

 もっとも、男自身がスタンドを得たのが最近で慣れてないこともあり、殺気を放ちナイフを振るう一瞬、稀に手元が見えてしまっているのだが。


(さて、どうしてくれようかぁ?)

 このままナイフを片方に突き刺すのは容易である。しかし、相手が2人である以上片方の反撃を受ける事は必死であり。

(殴られるってか。それは嫌だね)

 また、ガスを使い2人の『意識』を薄くして気絶させてから始末する手も無くは無い、が。

(ガスが人に効くまで時間がかかるようだしよぉ。それに悶え苦しんで死ぬ姿を見るのが、いいんじゃねぇかよ! な!)

 手に持ったナイフの輝きを見て、男がほくそ笑む。


 人を殺したり傷つけるのはいいが自分が少しでも傷つくのは嫌、という身勝手な思考。

 そして、人が少しでも苦しみ死ぬ様が見たいと言う、倒錯した嗜好。

 人としては最低なのであろう、だが、男のその身勝手さゆえに、汀達は現状襲われなくて済んでいた。


(とはいえ……どう料理してやろうかぁ?)

 2人から少し距離を置き、周囲を観察するバンダナ男だったが。

(……アレが使えるか?)

 2人から見て十数メートルほど先、なだらかに上り坂になっている橋脚の元にゆっくり歩いていく男。

 そこには、舗装・改修工事の為に様々な資材が置かれていた……


 ごどん。


「!?」

「なんだ?」

 唐突に響いた何かが倒れる大きな音に、2人は周囲を見回す。

 直後、ごどんごどんごどんごどん……!

 何か重く大きなモノが転がるような音が2人に近づきながら響き。


「な!?」

「まずい!」


 突如。

 2人の側面に迫り転がってくる、ペンキの満載されたドラム缶が現れる。

123第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/05/28(月) 22:34:57 ID:1KLCQn1c0
>>122
「危ない!」

 ネルソンがすぐさま横に飛びのき。

「く、だりゃあ!」

 汀は咄嗟にギア・チェンジャーでドラム缶を殴りつけ、衝撃でドラム缶の蓋が弾け。

 黄色のペンキをぶちまけながら、汀の横を少し転がり、停止する……が。


(今だぜ、おらああぁ!)

 ヒュッ。


「ぐ――!」

「汀っ!?」

 ドラム缶に気を取られ、注意が逸れた隙をつき。

「くっそ……!」

 既に間近まで接近していたバンダナ男がナイフで切りつけ。

 汀の制服の左袖が裂け、傷口を押さえて汀が片膝をつく。

 続けざまに。
 
 ネルソンの目に、鈍く輝くナイフとそれが握られた手が見え、その軌跡が次に自分を狙うのが見え――

「させるか! 403-Forbidden!」

 ビュフォン!

 手の位置から相手の身体を予測し、403-Forbiddenで突きを放つネルソン……


「ぐっ……!」


 ナイフは403-Forbiddenの腕の横を通り、ネルソンの頬を薄く切る、が。

 クロスカウンター気味に放たれた403-Forbiddenの拳が、何も無い空間に手応えを感じ。

「がっ……っ!」 

「!」

 一瞬。

 ガスが晴れ、バンダナ男の顔とその背後に控えるスウィート・ライフの姿がネルソンと汀の目に入るが。

「ざけんなぁ、ガキ共ぉ!」

 バンダナ男が顔の前でナイフを構え直し、バックステップで退きながら。

 スウィート・ライフの放つガスに身を包み、再びその姿を消していく。

 そして。

(あの男は……まさか)

 ネルソンは、直接在った事は無かったものの……男の招待に心当たりがあったが。

(だが……)

「見えたか、汀!? 姿を消していてもこっちの攻撃は通じる」

 まずはこの場を切り抜けるべく、汀に声をかける。

「厄介だが、なんとか守りきって……?」

「……この野郎」

 立ち上がる汀の顔には、怒りがありありと浮かんでいて。


「ふっざけんなああぁ! クソがああぁ!」

「汀!?」

 
 突然の叫びと共に、自らのスタンドに『6』のギアを埋め込み。

「どこに居やがる! この卑怯者がぁ!」

 ごぉん、鈍い音が響く。

 忌々しげな様子で、ギア・チェンジャーに転がっていたペンキ入りのドラム缶を、何度も蹴とばさせ。

 ドラム缶が変形しながら、周囲にペンキを撒き散らしていく。

「汀! 落ち着くんだ!」

「うるせえ! どこだ! どこだぁ!」

 ネルソンの言葉も聞こえない、逆上した様子の汀。

 ギア・チェンジャーばかりでなく、自身も周囲の空間を拳で殴り続ける。

「そっちか!? そっちなんだな! そっちから転がってきたからよぉ!」

 やがて、手応えが無い事に苛立った様子で、ドラム缶の転がってきた資材置き場に走っていく汀を。

「待つんだ! 汀! いい加減にしろ!」

 ネルソンが慌てて追いかけ、制止する……


……その一連の様子を。

(ははは、愉快なこって)

 巻き添えを食わないよう、少し離れた場所で眺めていたバンダナ男である。

(まだやってやがるしよ)

 目前では、背後からの制止を受けた汀がネルソンに対し胸倉を掴み、顔を近づけて何か文句を言っているようであった。

(ま、チャンスだな。ここはまず、あの冷静そうな銀髪を狙うか)

 ナイフを握りなおし、ターゲットのネルソンに定め。

 ゆっくりと歩を進めていくバンダナ男……その距離が数メートルになっても、汀とネルソンは睨み合っていた。

(よっし、いくぜぇ!)
 
 バンダナ男がネルソンに向かい、足を速める――



「ネルソン、言ってた通りだな。『スタンド使いたる者、スタンドに頼りすぎるな』ってな」

「Yes、exactly(そのとおりだね)」

124第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/06/10(日) 21:12:16 ID:lc9ZWWuk0
>>123
(ああん? 何言ってんだ?)

 2人の言葉に首を傾げつつも、バンダナ男がネルソンに接近し、ナイフを振り上げ――


「そこかぁ! くらえ、403-Forbidden」

(なっ――!?)


 403-Forbiddenの拳が、ネルソンの目からしたら何も無い空間に放たれ……どすぅ!

「がはぁ!」

「BINGO……手応えあり、だ!」

 拳は、バンダナ男の腹を捕らえ。

「HOOOOOOO!」

 ネルソンの声と共に拳がそのまま振り抜かれ……ぶわぁ!

「ば、馬鹿なぁ!?」

 拳の当たった腹からを中心に、煙が突風で払われるかのようにして。

 ナイフを取り落としながら後方に吹き飛び、スゥイート・ライフと共に地面を転がるバンダナ男の姿が現れる。

「やったな、ネルソン」

「Year、汀のお陰さ」

 不敵に笑う汀に、サムズアップで応えたのち。

 ネルソンは、バンダナ男の落としたナイフを403-Forbiddenに拾わせ、その手の中で器用に弄ってみせる。


「ぐふ……クソがぁ」

 バンダナ男が殴られた腹を押さえながら、よろよろと立ち上がり……

「なんでだ、なんで俺の位置が分かった!?」

 2人を睨みつけながら指差す、が。

「いやぁ、ここまでうまくいくとは思わなかったぜ」

「全くさ。最初暴れ出したときは本気で心配したけどね。大した演技だったよ」

 バンダナ男の言葉を無視して愉快げに笑う2人。

 その態度に。 

「てめぇらぁ! 無視すんなぁ! なんで分かったって」

 ダメージを残しつつも怒りが先立ち、バンダナ男が一歩前に出て……


 パチャ。

「――!」

 水音を聞いたバンダン男が、驚きの表情を浮かべながら、足元を、周囲を見やり。


「……て、てめぇらぁ!」

「ようやく気付いたみたいだな」

「気配や姿は消せても、そこにいる痕跡まではけせなかったみたいだね」

 足元に流れるペンキと、それによって作られた自身の足跡に気がつくバンダナ男……

「こんな単純な事に気付かないなんてよ」

「スタンドが便利すぎて、気付かなかったようだね」

 煽るように言葉を放つ汀達に対し。

「ぐ、く、この、ガキ共がああぁ!」

 バンダナ男は顔を真っ赤にし、怒りを露にする――が。


「……で、何処でそのスタンドを手に入れたんだい? レディ・リィは何処に居る?」 


「な――!?」

「おいネルソン、誰だそれ?」

 聞き慣れない名前に首を傾げる汀、そして。

 怒りから驚きへと表情を変えていく、バンダナ男。

「なんで、その名前を」

「反応してるって事は、間違い無いね。洪……洪峰尖(ホン・フォンジェン)だな」

「……っ」

「え、ええ……」

 何が起きているか分からず、困惑しながら2人を見比べる汀の前で。

 バンダナ男……洪が唇を噛み、表情を曇らせていく。

125第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/06/28(木) 10:17:14 ID:USW70HCQ0
>>124
「……なんで、てめぇみたいなガキが、俺を知ってやがる?」

「おい、ネルソン……知り合いなのか?」

 絞り出すように声を漏らす洪と、困惑した顔のままの汀が、同時にネルソンに質問を投げかけ。

「直接面識があるわけじゃないさ。写真や映像で見て知ってるだけでね」

 ネルソンが、2人の疑問に同時に答える――その言葉に呆気にとられた顔をしていた洪だったが。

「写真、だと……は、ははっ、ははははは!」

 突如笑い出し、ネルソンを指差す。 

「そうか。ガキぃ、貴様も『あの連中』の仲間ってワケか」

「……まぁ、そうだね」

「え? 仲間? え?」

 2人のやりとりに着いて行けない汀が、さらに混乱したように2人を見比べ。

「なんなんだよ、ネルソン。コイツは、いや、そもそもお前も何者なんだ!?」

 苛立たしげに声を荒げ、ネルソンに追求する。

「Sorry、汀。ちゃんと説明するよ。でもその前に」

 洪のナイフを403-Forbiddenから受け取り、自らも器用に掌の中で回転させた後。


「洪……これまでさ。諦めて降伏しろ。そうすれば、命だけは助けるよう交渉する」


 ナイフの刃先を、洪に突きつる。

 その真剣な表情と、多くの喧嘩を経験して来た自分ですら寒気を感じる言葉の冷たさに。

(ネルソン……こいつ?)

 汀は、改めてネルソンという男の底知れなさを感じていた。


 そして。

「降伏……くくく、降伏ねぇ」

 洪は俯き、肩を小さく揺らし、声を押し殺し笑い――

「あはははぁ! 誰がするかよぉ、馬鹿がぁ! スウィート・ライフ」

 顔を上げてネルソンを嘲笑うと、スウィート・ライフのガスに己を包ませて――

「野郎っ!」

「逃がさないよ!」

 ネルソンが洪に向け、手にしていたナイフを投げつけるが……

「おっとぉ」

「くっ……」

 スウィート・ライフが器用にナイフを受け止め、洪に渡し……その姿が再び、かき消えていく。

「く、だが足元にはペンキがまだ……!?」

 そう告げる汀の目の前で。

「洪も馬鹿じゃない、って事だね」

 地面にもガスが広がり、ぶちまけられたペンキの存在が薄くなり、目に見えなくなっていく。

「まずいな……ボク達の存在やスタンドをレディ・リィに報告されたら」

「逃げられる、ってのか?」

 危惧を声に出しながら、汀の方を不安げに見るネルソン。


 しかし。

(ざけんなぁ、誰が逃げるかよ)

 洪は、ナイフの刃を舐めながら、ゆっくりと汀の背後に迫っていた。

126第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/07/16(月) 22:15:49 ID:JFE2VKdA0
>>125
 ネルソンの言う通り、逃げてレディ・リィに未知のスタンド使いの存在を知らせる……自分がダメージを受けている以上それは悪い手では無い。

 しかし。

(散々コケにしてくれやがってよぉ、ガキ共がぁ)

 正体を察したネルソンはともかく、自分より格下であると思っていた汀の策にハマった事が、洪のプライドを傷つけていた。

「くそ、野郎、どうする気だ?」

 身構えつつ、周囲をきょろきょろと見渡す汀に、一歩、また一歩と……念のためペンキの流れる地面を避けて迫る、洪。

 これまでにない集中が、スウィート・ライフの力を無意識に高め、その存在を完全に包み隠す。そして。

(この、クソガキがぁ)

 汀のすぐ後、数十cmまで接近した洪が……

「とったああぁ!」

「――!?」

 左手で汀の顔を押さえながらその身を引き寄せ。

 右手のナイフを刃を地面と水平に構え、素早く振り、汀の脇腹に――突き立てる。


「いっでええええぇ!」

 汀の口から溢れる、絶叫。


 しかし。

(な……!?)

 洪の手に伝わる、ナイフが肉を切り裂きめり込んでいく、馴染みの感触――ではなく。

 棒切れで突いたような、鈍い感触であった。

(なんだぁ!?)

 疑問に思った洪がナイフに目をやり、目を丸くする。

 ナイフの刃先は、汀の脇腹で止まっていて。

「やっぱり、気付かなかったね。403-Forbidden……ボクのスタンドがナイフに触れた際に、既に使用不能にしておいた」

 ナイフの刃には『403-Forbidden』の文字が、刃を包みこむように巻き突いていた。

(……やばい!)

 洪が咄嗟に汀の体から身を引く、より早く。

「そこかぁ!」

「!!」

 自らの身体に『6』のギアを仕込んだギア・チェンジャーが、見えないながら洪の腕を掴み。


「だりゃああぁ!」

「ごぶぅ!」

 ギア・チェンジャーの拳が洪の腹を捕らえ、洪の姿が再び露になり。

「殺されそうになったんだ。構わねぇよな……ネルソン!」

「OK。But、殺さない程度にね」

「おお! 覚悟しろ!」

「ひっ――」

 恐怖に怯える顔の洪に。


「だあぁりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああぁーっ!!」

―ギャギャギャギャアアァアアァン!

「ひ、ひう、お、おぶううううぅ!」

 怒りのこもったギア・チェンジャーの拳が迫り、洪を、スウィート・ライフをめった打ちにし。

「りゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあぁっ……しゃあぁーっ!!」

 ギャ……オン!

「ぶふううぅ!」

 振りぬかれた止めの一撃に、洪が宙を舞い。

 身体を土とペンキ、そして自らの血反吐で汚しながら数度地面を転がり、川に落ちる手前で止まる……

127第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/07/26(木) 21:11:37 ID:OvvpYmq60
>>126
「Good。もういいだろう」

「ああ……けどよぉ、ネルソン」

「何?」

 汀は脇腹を擦りながら、不服そうな顔でネルソンの方を振り返る。

「お前のスタンド能力、触れたモノを使用不能にするだっけ? 痛いんだけどよ」

「はは、それは仕方ないさ。あくまで『ナイフ』としての使用を不能にしただけだからね。『鉄の棒』で突かれた訳だから、そりゃ痛い」

「なんだそりゃ……ぐ、痛ぁ、こらアバラ逝ってるかも知らんわ」

「ま、ナイフで刺されるよりはマシさ」

「確かにな……でだ、ネルソン」

 苦笑を浮かべつつ、脇腹を擦り続けつつ。

「ぐ、うぐぅ……」

「コイツ、どうるすんだ?」

「ああ、no problem。すぐ連絡する、一応見張っててくれ……ああ、ボクだ」

「おお。まぁ」

 ネルソンが誰かと会話をする声を背に聞きながら。

 苦しそうに息を漏らす洪を見下ろす、汀。

「これだけ痛めつけてりゃ――」

――もう動けないだろう、汀がそう言おうとした、直後。


「あは、は……はははははははぁ!」

「な……!?」

 洪が寝転んだまま大声で笑い出し。

 その傍らに、ボロボロに傷付いてはいるもののスウィート・ライフが現れ。

「汀! 気をつけろ!」

「おお!」

 汀が下がりながら、ギア・チェンジャーに臨戦態勢を取らせる――と同時に、スウィート・ライフの腕が動き、側に落ちていたガラスの破片を拾い上げ。


「はははは……がふうぅ!」

「――な!?」

 
 鋭いガラス片が、数度。洪の腹に目掛け振り下ろされ。

 洪が口から血を吐き、腹からは血がどくどくと溢れ出す。

「馬鹿野郎、なんてマネを!」

 ギア・チェンジャーが止めるより早く、洪の精魂が尽きたのか、スウィート・ライフの姿が消え、ガラス片が地面に落ち。

「しまった! Suicideか!」

 ネルソンが血相を変えて洪に駆け寄る。

「はは、はぁ、ざまぁ……みろ、だ……思い通りに、させるかって、よぉ……」

 苦しそうに息をしつつも、洪の顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「答えろ! レディ・リィは何処に居る!?」

「誰が、喋ってやるもんかぁ……」

 ネルソンの詰問に対しても、笑みを浮かべたままの洪。

「なんなんだよ、オイ……」

 自分の知らない事情が多すぎる苛立ちも手伝ってか。

「そんなにそのレディ・リィって奴が大事なのかよ!? 自分の命以上に!?」

 怒号混じりに洪に問う汀……


「ああ、大事だ……ともさ」

「……っ」

 そう答える洪の顔から笑みが消えた。

128第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/08/06(月) 22:35:05 ID:osCORyEc0
>>127
「15、いや、16の時だったか……ぐっ……クソだった親父をぶっ殺して、クソ田舎の故郷(くに)を飛び出して……」

 時折苦しそうにしつつ、血を吐きつつ。

「生きる為に、汚い事に手を出して、殺しにも手を出して、よ……それこそ、色んな奴を色んな目的で、殺ってきたさ……」

 自分の過去を絞り出すように、その言葉自体を走馬灯とするかのように。

「わかった、もういい。喋るな!」

「クク……なんでだろうな? 親父のときもそうだったが、殺すのに躊躇も、なぁんも感じなかったな……げふっ」

 ネルソンの制止も無視して、喋り続ける、洪。

「そんな、世の中から言やぁクズみたいな俺をよ……レディ・リィは、拾ってくれて……大事にしてくれた」

「……っ」

 その顔に、穏やかな笑みが浮かび。

「オマケに、スタンド、だっけか……こんな楽しい玩具まで、げふっ……くれた、んだ」

「洪っ!」

「裏切れる、訳ぁ……ねぇよ……なぁ?」

 声が、どんどん弱々しくなっていく。そして。

「……ははっ、お先に失礼、ってな……」

「洪! 洪っ!」

 一言、そう告げると同時に、静かに目を閉じる洪。

 ネルソンが喉に……頚動脈に触れ、洪の死を確認した後。

「……Shit!! 手がかりを失った!」

 悔しげに叫びながら、バリバリと頭を掻き毟り、地面を蹴る。

 その背後から。

「なぁ……ネルソン。こんな時に悪いんだが、どうするんだ、これ?」

 汀が遠慮がちに問いかける。

「警察に連絡したほうがいいのか?」

「……ゴメン、ちょっと取り乱したよ。洪の死体、っていうなら問題ない」

 言いながら、ネルソンが土手の方を向き。

 汀がつられて同じ方向を向く、と。

「少し遅かったね」

「な、なんだ?」

 土手の上の道路から汀達に向かってくる、黒いワゴンカー。

 それはネルソンの前で急停止すると、後部座席から黒づくめの服装の男が現れ。

「ご苦労様」

「いえ、海原様。それで洪は?」
 
 そのうちの1人、老齢ながら老獪そうな男がネルソンに対して頭を下げる。

129第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/08/16(木) 09:07:16 ID:50pgziWg0
>>128

「ああ……自殺した。悪いが『処置』を頼む」

「そうですか……心得ました」

 老齢の男が背後の男達を顎で使い。

「え? え?」

 当惑する汀を他所に。

 男達が手馴れた様子で車からブルーシートやスプレー缶を取り出し、洪の死体を巻き。

 血の跡など『ヤバイ事』があったという痕跡を消していく。

「それで、こちらの方は?」

「う……」

 老齢の男がぎろり、と鋭い眼光で汀を睨みつける、が。

「ああ。汀は……彼は関係者だ。スタンド使いでもある。詳細はボクから話すよ」

「左様ですか。他に目撃者などは」

「居ないと思う、がカバーリングは」

「心得ております」

「ああ、頼んだよ」

 ネルソンに対して一礼した後、老齢の男は他の男達に近づき作業を見守る。

 その様子を唖然とした顔で見ていた汀だったが。

「……ネルソン、お前、本当に、何者なんだ?」

 わずかばかりの恐怖を感じながら、真顔で黙り込むネルソンに問いかける。

「こうなった以上、仕方ないね。ボクの目的や正体を話さないと行けない。だたし」

「ただし?」

「汀、他にも君の知るスタンド使いが居るなら、教えて欲しい……っと」

 会話の途中で老齢の男がネルソンに、数枚の写真を差し出す。

 それは、洪がレディ・リィから受け取っていた写真であり。

「沙枝とルイ、2人もスタンド使いと言う事かな?」

「――それは!」

 ネルソンがそのうちの1枚を見せ、自分達の映る写真に驚く汀。

「更に、だ」

「……油谷!?」

 新たに見せられた写真には、街中を猫背で歩く油谷が映されていた。

「洪が、油谷を殺して、君達を狙おうとした……目的は分からないが」

「つまり、沙枝やルイが狙われる可能性もあったって事か?」

「ああ……残念ながらね」

「……教えろ、ネルソン。何が起きている? お前は、レディ・リィって奴は何者だ!?」

 やり場の無い怒りに、語気を荒げながらネルソンに迫る汀。

「当然、話すさ……でも、当事者となった以上、沙枝やルイにも話を聞いて欲しい。いいかな?」

「あ、ああ……」


 沙枝達に連絡をとるべく、ガラケーを取り出しながら。

(……覚悟はしていた、が)

 自分達が大きな事件の渦に巻き込まれていくのを、汀は感じていた。


洪:スタンド《スウィート・ライフ》……死亡
洪の死はネルソンの仲間(?)によって隠蔽された。
普通の人間である限り、隠蔽の看破は不可能であろう。


【7:和解と激突と……END】
【And see you next episode……】

130第7話 ◆gdafg2vSzc:2018/08/16(木) 09:11:09 ID:50pgziWg0
>>129
【7話:初登場オリスタ】

No7581
【スタンド名】 スウィート・ライフ
【本体 】 街に潜むサイコキラー:洪峰尖(こう・ほうせん/ホン・フォンジェン)
【タイプ】 近距離型・亜人型
【特徴】 不気味な亜人型
【能力】 このスタンドが放出するガスに触れた対象の何かを『薄くする』能力。
厚みを薄くする・存在感を薄くする・意識を薄くするなど薄くすることができる事象は多岐にわたる。
このスタンドガスは無生物とこのスタンドの本体に対しては即座に大きな効果が現れる即効性であるが、それ以外の生物に対してはじわじわと効果が進行する遅効性のモノと化す。
また、同時に同一の対象に対して薄くすることができる事象は1つだけであり、直接スタンドで触れることによって薄くするスピードを急上昇させることができる。

破壊力-D スピード-D 射程距離-D
持続力-D 精密動作性-A 成長性-D
※能力射程-数十m

避難所で敵役として推薦いただいた案を使わせていただきました。
能力が強力な分、どう勝たせるか、どう能力の行使に理由付するか、悩みました。
それで思いついたのがネルソン言うところの「スタンド慣れ」です。

この話から、いよいよ敵との戦いが激化していく、予定です。
でも日常会もやりたいし……まぁゆるゆる書いてまいります。

ここまで読んでくださった皆様に感謝です。ありがとうございました。

次回、ネルソンの正体と目的が明らかになります。
そしてネルソンの汀達に対するスタンド講座……この辺りはジョジョラーなら知ってるとこなんで読み飛ばしてもええですよ(爆)

次回以降も目を通して頂ければ幸いです。


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